1:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:17:12.23
ID:3tnS2gIH0
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:17:33.37
ID:3tnS2gIH0
神谷家は裕福ではなかった。
貧困の極み、というほどでもないが、
奈緒が温かい飯を食えた回数は少なかった。
その苦しみをばねにして、彼女は懸命に
勉学と剣術に打ち込んだ。
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:18:31.63
ID:3tnS2gIH0
元からの才気もあったのだろう。
藩士の花形、馬廻に勤めることが叶った。
ここで、奈緒は少々天狗になった。
彼女のほどの境遇から、馬廻になった者は
いなかったからだ。
周りを見渡せば、家柄がよく、
はじめから成功が約束されたような輩ばかり。
自分は違う。この身1つで成り上がったのだ。
近所では奈緒の名前を知らぬ者がいない。
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:19:16.81
ID:3tnS2gIH0
しかし、勤めに出て数ヶ月した頃。
奈緒は強大な壁にぶつかった。
渋谷凛。
千川家につらなる家柄の生まれで、
文武両道。
同性の心もくすぐる怜悧な面は、
一見冷たい表情を浮かべているが、
思いやり深く、とても気がきく。
奈緒は凛のことが気に食わなかった。
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:20:26.26 ID:9i+yqaiD0
憎悪剣の前日譚?
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:21:15.22
ID:3tnS2gIH0
>>5
そう。
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:20:32.19
ID:3tnS2gIH0
奈緒は凛のことが嫌いだった。
ある時、馬廻内で
「誰が一番強いのか、はっきりさせようぜ!!」
と誰かが言った。
奈緒は自分だ、と叫びたかった。
ぼんぼんが習っている新陰流のような、にわか剣術とはちがう。
奈緒は実戦式の稽古が基本の、一刀流の名手だ。
家柄で自分を見下してきた連中を見返す、よい機会だった。
奈緒は、一回戦目で凛とあたった。
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:22:03.44
ID:3tnS2gIH0
もとからいけすかない相手だった。
吠え面かかしてやる。
ちょっとした広場に、枝木で円陣を描いただけの
舞台で、奈緒は凛と対峙した。
まずは両者一礼。剣士の習いである。
そこから構え。
奈緒は大上段に構える。
誰から見ても、振り下ろすのだとわかる。
躱すのは容易だろうか。
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:22:37.77
ID:3tnS2gIH0
否。
奈緒の振り下ろしは、“伸びる”。
足運びの迅速さで、すぐさま相手を間合いに
引き摺り込み、一撃を加えるのだ。
そして、このこの技を防いだ者は、
その時までは誰もいなかった。
凛の構えは八相。
突きか、それとも柔軟に
手首をかえし、水平斬りでくるか。
奈緒には分からぬ。
分からぬから、相手が動くより早く仕留める。
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:23:31.65
ID:3tnS2gIH0
「ええいッ!!」
奈緒が踏み出した。周囲は驚嘆した。
歩法というよりは、もはや縮地の領域。
あまりにも速い。
だが、それを全く危なげなく
受けた凛には、さらに驚愕した。
「速さと力を追うあまり、体が乱れてる」
迫る木刀を、一寸の震えもなく止めながら、凛は言った。
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:24:18.01
ID:3tnS2gIH0
「凛殿の慧眼には恐れ入ります…なあ!!」
奈緒は相手の腹を蹴り上げた。
上品な武家様には、防げない攻撃。
凛は身体をくの字に曲げて、後ろへ下がった。
周囲は面白くなってきたと、盛り上がった。
元々剣術だけで食っていきたいと
思うような連中であるから、
多少の外法も歓迎する。
体勢を崩した凛に、奈緒は容赦なく迫り、
彼女の木刀を打ち払った。
そして、私の勝ちだと宣言しようとした時。
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:24:45.82
ID:3tnS2gIH0
奈緒の意識が、ぷっつり途切れた。
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:25:17.56
ID:3tnS2gIH0
井戸の水をぶっかけられ目を冷ました時には、
勝負は決していた。
油断した奈緒の水月と烏兎に、
凛が拳を叩き込んだのだという。
刀の勝負を拳で決するとは。
自分が先に蹴っておきながら、奈緒は憤った。
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:25:49.23
ID:3tnS2gIH0
転機が訪れたのは、
山に現れる賊を討伐した時だった。
凛に負けてなるものか、と奈緒は
仲間の制止を振り切って敵陣に踏み込んだ。
そこで、賊を1人で皆殺しにした。
だが、皆と合流する時、
かすかに息があった者によって、毒の吹き矢を当てられた。
それが胸に刺さった。
15:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:26:20.75
ID:3tnS2gIH0
まっすぐに駆け寄ったのは、凛であった。
奈緒は、服を脱がされるのを嫌がった。
傷のあたりに小さな黒子があって、
それを人に見せたくないのだ。
だが凛は、引き裂くように衣を剥ぎ取ると、
矢を引き抜き、傷口に唇を当てた。
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:27:22.24
ID:3tnS2gIH0
ひゃっと、奈緒はくすぐったい声を出した。
凛のやわらかくて、ふにふにとした唇が、
肌に吸い付いて毒を吸い出す。
ちろちろと、かすかに舌があたって、それが
奈緒の背筋に電流を走らせた。彼女の陰部から、少し尿が漏れた。
そして、手当てが終わった頃、凛が倒れた。
聞くところによれば、隠していた虫歯があって、
そこから毒が入ってしまったのだという。
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:28:21.67
ID:3tnS2gIH0
奈緒は悟った。
凛は承知していただろう。
つまり、彼女は身を呈して自分を救ってくれたのだ。
奈緒は床に伏せる凛のもとへ見舞いに行った。
そこで彼女に詫びた。
自分の勝手のせいで、このようなことになってしまったと。
凛は少し身体を起こして、
奈緒の髪をくしゃっと撫でて、微笑んだ。
その時から、奈緒は凛に心酔した。
だから、向井拓海らと袂を分かち、千川派についた。
東郷派の人間を何人も斬った。
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:28:50.40
ID:3tnS2gIH0
だが、ただ1人、凛を守ることはできなかった。
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:29:35.00
ID:3tnS2gIH0
北条加蓮は病弱であった。
しかし、彼女の母は厳しかった。
精神が弱いから身体も弱いのだと、
頭ごなしに加蓮を叱りつけた。
腰がうまく立たない彼女を、
新陰流の道場に叩き込み、稽古に従事させた。
木刀を握るには、あまりにも弱々しい腕。
体を維持するには、細すぎる足腰。
加蓮は稽古から置いていかれた。
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:30:51.28
ID:3tnS2gIH0
はやく帰ると母から叱られるので、
彼女は最後まで道場に残って、修錬に励むようになった。
ある時、ふらふらになるまで木刀を振っていると、
髪の長い、怜悧な少女が加蓮に声をかけた。
渋谷凛。
道場、いや美城藩きっての天才剣士。
21:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:31:27.42
ID:3tnS2gIH0
「あ、う…」
加蓮は口ごもった。
自分の情けない姿を見られるのが、ひどく恥ずかしかった。
顔を赤くしてうつむく彼女の手を、凛はそっと握った。
「加蓮は弱くないよ。
膂力だとか段位じゃなくて、
強くなろうって思うことが大事なんだから」
「で、でもアタシ、構えもうまく取れないし…」
加蓮がそう言うと、凛は彼女の身体にぴったりと寄り添った。
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:31:58.35
ID:3tnS2gIH0
「そのまま、足を、そう。それで、腕を前に伸ばして…」
凛が言うままに、身体を動かした。
心臓がものすごい速さで高鳴っていた。
凛の身体には、加蓮と違って、
ほどよく筋肉と脂肪がついている。
かすかにふくらんだ胸、なやましいくびれが、
この時間だけは、加蓮1人のものだった。
「そう、これで完璧」
きちんとした構えが取れた直後、
加蓮はきゅう、と倒れてしまった。
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:32:30.56
ID:3tnS2gIH0
彼女が自慰を覚えたのは、この数日後のことであった。
24:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:33:18.95
ID:3tnS2gIH0
【デレマス近未来】南条光「二足歩行の幽霊」
25:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:34:54.25
ID:3tnS2gIH0
平和な世が遠い過去になり、
地球の大気が汚染し尽くされた頃。
人々は生身の身体を捨てる代わりに、楽園を手に入れた。
意識を電子空間に転送し、そこで享楽の限りを尽くす。
喜び、楽しみ、気持ちいい。
それが際限なくリピートされる、歪な幸福。
程度の差こそあれ、
誰しもがそれにあやかることができた。
皆があまねく快楽を手にし、
老い、病 怪我そして死からも解放されたように見えた。。
「人類は、楽園への復帰を果たした」
メディアなどはそう囃し立てた。
しかし神は、人間を許してなどいなかった。
26:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:35:23.38
ID:3tnS2gIH0
電子空間は、容量の限界を迎えた。
新たな技術を生み出すような、気骨のある人間は、
数世紀前に絶滅していた。
研究者の教育カリキュラムも形骸化していた。
それならば、どうする?
27:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:37:58.03
ID:3tnS2gIH0
南条光は、高性能フィルターのついたガスマスクを付けた。
さらに、特殊繊維で編まれた、
厚手のレインコートを羽織る。
部屋から出る準備だ。
彼女は、現実空間に生身で存在している、
極めて珍しい人間だった。
空は吐き気がするような真っ黄色。
雲はまるで泥のようだ。
降る雨は、数時間で石畳に小さなくぼみを作る。
最悪の環境。
いくら上品に表現しても、
地獄という以上にふさわしい言葉が見つからない。
それでも光が現実世界にとどまるのには、理由がある。
28:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:38:54.03
ID:3tnS2gIH0
彼女はA級ロケーター、電子の世界の掃除人である。
違法に作られた電子空間(チャネル)を消し、
中にいる人間も根こそぎ抹消する。
こうしなければ、あっという間に容量の限界がきてしまう。
“掃除”は必要悪なのだ。
だが、死にたくないと泣き叫ぶ人間を
シャットダウンするのは、深刻な精神的苦痛を伴う。
なので光や、他のロケーター達も、
あえて現実世界で生きる。
“あれは、モニターの中の虚像に過ぎない”
そう考えるために。
29:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:39:36.43
ID:3tnS2gIH0
『CRISIS』とペンキで
雑に書かれた5階建てのビル。
これがロケーター達の拠点であった。
外観はどこにでもある雑居ビルだが、
中は高度な空気清浄システムが作動しており、
さらに蛇口をひねれば綺麗な水が出る。
また、地下にある巨大な発電機で、
屋内の電気を全てまかなっている。
人々が電子世界にいるおかげで、
食料を除けば、資源にあまり困らない。
ロケーター達は、拠点でそこそこの
暮らしができるようになっていた。
30:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:40:18.23
ID:3tnS2gIH0
モニタールームの扉の前。
光は室内で、猛烈な音量のパンク音楽が
流れていることに気づいた。
犯人は分かっている。
部屋に入ると、燻んだ金髪をトサカのように
逆立てて、ソファーでくつろいでいる女を見つけた。
音源はコンパクトプレイヤーと、
彼女のつけているヘッドフォンだった。
どんな耳してるんだ。
光は、プレイヤーの電源を落とした。
31:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:40:57.87
ID:3tnS2gIH0
「………斬新な演奏法だな。聞いたこともない」
木村夏樹は、ヘッドフォンを外して光を見た。
別に怒った様子はない。
「よお、光。今日も生きてるな」
夏樹が尋ねる。
彼女がこんな質問をするのは、現在ロケーターが
相次いで殺されているためであった。
犯人は不明。証拠もあがらない。
死体だけが、足跡として残っている。
ロケーター達は、相手と自分達を皮肉って、
犯人を『二足歩行の幽霊』と呼んでいた。
32:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:41:52.97
ID:3tnS2gIH0
「まだ捕まってないんだな」
光は呟いた。
恨まれる仕事だ。犯人の当ては膨大。
地道に捜索していたら、おそらく天から…
いや、奈落の底からお迎えが来てしまう。
「逆にぶっ殺すしかないわけだ!」
夏樹はからからと笑った。
物騒なセリフだが、まったくそうは感じさせない。
どこか達観した様子のある女だった。
33:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:45:00.02
ID:3tnS2gIH0
「今日の掃除は、誰と組むんだ」
「アタシと、例の“漫才師(コメディアン)”」
「難波さんか…」
仲間内でも、悪名高い女だった。
しかし上の決定だ。文句は言えない。
「ダイブはきっかり15分後、
それまでまあ、リラックスしてな」
虐殺をする覚悟を決めておけ。
光にはそう聞こえた。
「やあやあ、お2人さん!!」
馬鹿でかい声で挨拶をする女がいた。
鳶色の髪にゆるいパーマをかけて、おでこを出す髪型。
表情は、ロケーターの中で浮くほどの笑顔。
そして、この時世では珍しいスーツ、それも男性物。
極め付けに、それはピンク色であった。
「今日はウチの“公演”に付き合ってくれて、ありがとうな!」
笑美の言葉に
光は眉をひそめ、夏樹は苦笑した。
34:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:45:33.87
ID:3tnS2gIH0
ロケーターは誰しもがなれるわけではない。
特殊な才能が必要だった。
生身の身体を、そのまま電子空間にダイブさせる才能だ。
特殊な薬剤を用いるのが、A級“ウィザード/ウィッチ”。
単身でダイブできるのが、S級“タイタン”
さらに、自分以外も潜らせるのが、SS級“アルティメット”だった。
この中では、夏樹がSSで、笑美がSである。
35:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:46:57.77
ID:3tnS2gIH0
3人は手をつないだ。
効率的なダイブを行うためである。
夏樹はまたヘッドフォンからパンクを垂れ流していた。
かなり集中力を要するはずだが、
彼女にとっては音楽こそがトリガーのようだ。
「1,2…1234」
独特のリズムで夏樹がカウントをした後、
光の身体は頭が痛くなるような、
文字化けした言葉が羅列された滝を
落ちていった。
36:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:48:21.94
ID:3tnS2gIH0
光が降り立ったのは、
なぜか現実世界と同じように汚らしい空間だった。
打ち壊されたビル、濁った水たまり…歪む大気。
これも人々の趣向だろうか。
3人は、肩に下げた機関銃を構えながら、
電子の町を歩く。
探すのはプロパイダー。
チャネルの開設を行う能力者だ。
それを抹殺すれば、この空間は消滅する。
とはいえ、顔に書かれているわけでもないので、
3人がやるのは片っ端から住民を撃つことである。
音も反動もなく、銃弾がばらまかれる。
人々がばったばったと倒れていく。
弾丸にはウィルスコードが仕込まれており、
当たった人間の意識構造体は、
ただの数字となるまで破壊される。
37:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:48:53.48
ID:3tnS2gIH0
「待ってくれ! 投降する!!」
そう言って、人々がぞろぞろと出てきた。
一応、3人は銃を下げた。
「話を聞いてやろう」
木村が音楽に合わせて身体を揺らした。
周囲の音は聞こえていない。
「プロパイダーは差し出すから……!」
ぼろぼろになった男が、
縛られた状態で突き出された。
これまで住民のために空間を維持してきたのに。
そんな、悲しげな目をしていた。
光は、さっと彼から顔を背けた。
38:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:49:23.30
ID:3tnS2gIH0
「まあまあ、みんな!
落ち着いてくれや!!」
笑美が両手を振りながら、人々の前にでた。
「ちょい、ウチの話を聞いてくれ。
ウチの父ちゃんと母ちゃんな、最近な、猫飼い始めて。
あー……知っとる? 猫わかる?」
笑美は笑顔で、再び銃を上げた。
「……猫、わかるよなあ?」
問いかけに、人々はすくみながらも頷いた。
39:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:50:18.61
ID:3tnS2gIH0
「でな、ウチは両親と別居してるから、
ときど〜き、メールくるねん。
猫の写真付きでな。
それでな、この前は、母ちゃんが猫だっこした
写真が送られて来て」
笑美はべらべらと話した。
“住民とは極力コミュニケーションは避けろ”
それがロケーターの鉄則であるにも関わらず。
「ウチ聞いたんよ。“今何ヶ月なんや”って。
したらな、父ちゃんから“555ヶ月や”って。
それ、それ…母ちゃんの年齢やないかーいっ!!」
ぎゃははははと、笑美は笑った。
住民達の中からも、小さく、くすくすと聞こえた。
40:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:51:19.33
ID:3tnS2gIH0
「それでな…」
笑美が話を続けようとうすると、住民の中から、
1人の女が現れた。
「私には幼い息子がいるんです!
どうか、どうか……」
同情的なロケーターだと思ったのか、
その女は笑美に懇願した。
「息子…?」
笑美が、呟いた。
「そうです、まだ5歳の息子が」
41:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:51:47.58
ID:3tnS2gIH0
言葉を続けようとした女の頭が、弾け飛んだ。
「いま、ウチが話しとったやろ?
なあ自分、耳ついとらんのか。
耳……頭ごとないやんけ!!」
笑美はぎゃはははと笑いながら、機関銃で住民達を撃った。
同時に、夏樹がプロパイダーの男を始末した。
42:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:52:53.63
ID:3tnS2gIH0
3人が戻ると、モニタールームの
機器が血まみれだった。
チャネルを消去した際に起こる
怪奇現象の1つだったが、
今では皆が慣れてしまった。
「それじゃあ…解散」
伸びをしながら、けだるそうに夏樹が言う。
笑美は興奮がさめやらないのか、
スーツをがりがり掻きむしっていた。
43:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:53:59.00
ID:3tnS2gIH0
一応ここまで。 続きは昼頃。
作品自体はもう書き終わってるから、心配nothing!!
44:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 02:23:37.54 ID:MpjPVm8Mo
なつきちは何時の時代でも強いな…
45:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 02:28:09.33 ID:kx3iJQEk0
一口サイズのいいSSたち
46:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:07:21.46
ID:3tnS2gIH0
気分が悪い。
仕事の後、光はすぐに自宅に戻った。
あんな殺し方があるか。あんな…。
顔をミネラルウォーターで洗いながら、光は鏡を見た。
死人のような目。
真っ白い肌に蒙古斑がいくつか。
身体全体も、骨が浮き出るほどやせている。
ダイブ中毒。薬の副作用だ。
今日は夏樹が転送してくれたが、
いつもは一度に錠剤を
半ダース分摂取している。
まるでアタシが幽霊みたいだ。
光は苦笑しながら、寝室に向かった。
「おかえり」
そこには少女がいる。
少なくとも、光には“そう見える”。
「ただいま、麗奈」
光は幻像に向かって話しかけた。
これも薬の影響だと、彼女は考えている。
麗奈は、光が初めて消去した
電子空間の住民だった。
そして、そこのプロパイダーの娘だった。
両親の死に呆然とする彼女をよそに、
光は電子空間から脱出した。
そういう風に記憶している。
ある日から、ぼんやりと部屋に
麗奈が現れるようになった。
症状が悪化した今は、ずいぶんくっきりとしている。
47:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:08:20.01
ID:3tnS2gIH0
「今日は何人殺したんですか?」
「アタシが直接撃ったのは、8人だ」
光の答えに対して、麗奈は笑った。
「いいえ、貴女が見殺しにした人も、
しっかり数えなくちゃ」
子どものような、純粋な笑顔で、
幻はゆらゆら揺れる。
光の精神は、彼女によって圧迫されているのか。
それとも限界の近い精神が、幻覚を見せるのか。
光は麗奈に、ミネラルウォーターの
ペットボトルを投げつけた。
すると、ふっと彼女が消えた。
48:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:08:45.42
ID:3tnS2gIH0
光は浴びるほど酒を飲んだ。
未成年であったが、殺人を犯すことに比べれば、
ささいなことである。
そして、ばくんと、自分の右肩の関節を脱臼させた。
以前任務で外れてから、光の関節は緩くなっている。
自殺をする度胸はない。
リストカットをするほどハイになることもない。
これは光なりの自傷、あるいは自罰行為であった。
49:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:09:16.20
ID:3tnS2gIH0
南条光は、いまは封鎖された阿波で生まれた。
生まれてすぐにロケート適正を調べられ、
10歳までに決断を出すように迫られた。
両親はより上位の楽園へ至るために、
光に徹底的な“正義心”を
植え付けた。
いや、厳密には悪への憎悪を。
その教育は功をそうし、
光は迷うことなくロケーターの道を選んだ。
全て順調だった。
初任務の、その時までは。
50:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:09:58.75
ID:3tnS2gIH0
翌朝、二日酔いで頭痛を覚えながら、
受話器を取った時点で、相手がわかった。
ごちゃごちゃしたドラムとエレキギターの音が、漏れている。
「こちら、南条」
『どうしてお前が出るんだ』
「…ここはアタシの部屋です」
向こうから、小さく笑う声が聞こえた。
『良いニュースと悪いニュースがあるんだ。
どっちから聞きたい?』
夏樹はもったいぶって言った。
「悪い方から」
『幽霊がまた現れた。
そんで良いニュースは、難波が死んだことだ』
これには光も、くは、と声を漏らした。
『…難波はS級だった』
音楽が止み、真剣な声が受話器から響いた。
『アイツを殺るってことは、少なくともS級
下手をすればSS級だ。
光、お前はしばらく引きこもっていた方がいい。
上に話はつけておく』
51:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:10:33.92
ID:3tnS2gIH0
「謝りたいけど、相手に許してもらえないとき、
どうすればいい?」
受話器に耳を当てながら、
おぼつかない口調で、光は尋ねた。
夏樹は、しばらく考えてから答えた。
『……謝る姿勢にもよるな。
許してほしいからなのか
謝りたいからなのか。
それで相手の受け止め方も変わるだろ』
光の視界の端で、血まみれの麗奈が笑った。
電話が切れた。
「アタシは正義の味方になりたかった」
吐瀉物にまみれたシーツの匂いを嗅ぎながら、
光は呟いた。
麗奈達がくすくすと笑った。
「悪い奴は、コテンパンにして、皆を助けたかった」
ロケーターがやっているのは、
どんなに飾っても弱者の虐殺。
だが、誰かがやらねば、電子空間は
全てシャットダウンされてしまう。
こんなとき、家族に相談するのが10代の少女らしかった。
しかし、光はそうしなかった。
彼女は最近になって、
自分が両親に売り飛ばされたことに、
気づいてしまったから。
52:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:11:05.25
ID:3tnS2gIH0
安斎都は、電子空間の海を泳いでいた。
特定のチャネルには入らず、文字化けした0と1の間を
するすると進んで行く。
彼女は今、失踪ロケーターの捜索を行なっていた。
最近職務の酷薄さに耐えかねて、電子空間に逃げ込む輩が増えている。
都も気持ちはわかる。
はじめは世界を守る仕事だと誇りを持っていたが、
数ヶ月もせずに辞職届を五枚も出した。
すべて却下された。
都が甘美な楽園に足を踏み入れるためには、
契約を取り消すだけの手柄を立てる必要がある。
周りは全くあてにならない。
先輩の木村夏樹は、
「10代なんてただの荒野だ」
などと、からから笑うだけだった。
失踪したロケーター達は、
特定のチャネルには留まらず、
海を泳いでいる時間の方が長い。
都も、同じようにして探す。
53:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:11:49.90
ID:3tnS2gIH0
数列の残滓が身体をすりぬけて、またどこかへいく。
海水はデリートされた空間の破片でできている。
なので、それをすくってスキャンすると、過去に存在した
チャネルの情報が残っていることがある。
なにやら近頃は、現実空間を
汚れた景色をそっくり模倣したチャネルが増えているらしい。
楽園の中に、地獄を創造しているのだ。
都は苦笑した。
持続する快楽すらも窮屈になって、逃れたはずの現実を
電子空間の中に持ち込むとは、本末転倒ではないか。
54:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:12:56.56
ID:3tnS2gIH0
南条光は、すでに化石になりつつある
ビデオテープを、デッキに入れた。
内容は特撮もの。光の趣味だ。
「レッドマ〜ン、レッドマ〜ン、ンフフフ」
昔は難解なものを好んだが、この頃はシンプルな勧善懲悪
いや、正義による一方的な蹂躙に偏っている。
理由は、言うまでもない。
「そうよ、正義はこうでなくっちゃ!!」
光が振り返ると、ソファに麗奈が座っていた。
「御託を並べて自己弁護をするのは、ただの臆病者。
正義も悪も、ただ、“そうある”だけでいい!!」
「その通りだ」
光は同意して、彼女の横に腰掛けた。
紙コップにコーラを注ぐ。
すると、それを麗奈が取って、
ぐびぐびと飲み干してしまった。
「…これは、アタシが飲んだことになるのか」
まあいいや、と南条はもう1つ紙コップを出した。
55:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:14:56.24
ID:3tnS2gIH0
「アーう、あ゛ーあー」
バッドトリップ。
視界が、世界が、おぼつかない。
気分が悪い、いや気分がいい時なんてあったか。
正義の話、そうアタシは、世界が中心の、
そう、まっすぐ、アタシなんだ。
その顔は何だ!?その眼は何だ!?その涙は何だ!?
自分自身の力で光になれるんだ。
ヒーローが必要なんだ・・・。ヒーローが・・・。
だってやるしかないだろ?
テレビジョンが砂嵐に変わる。
光は嘔吐しながら、ベッドに横たわった。
「ざまあみろ」
麗奈が言う。
「アンタなんて名前?」
麗奈が尋ねる。
「アタシは…南条、光」
「「通りすがりの、仮面ライダー」」「キャハハハ!! 馬っ鹿みたい!!」
「人殺し!」「ピーマン嫌い?」「お肉ゥ!!」
「滅びゆく弱者に、涙など要らぬわ…」
「白いお部屋に子供が1人、まっくろい犬が2匹。
でも首輪はひとつしかないの」
麗奈がいっぱいだ。麗奈がいっぱいて、
寝室を埋め尽くしている。
光はうずくまって、耳を塞いだ。
しかし声は聞こえ続ける。
「許して…」
そう呟くと、麗奈の1人が、光の頭を撫でた。
「__________?」
声が聞こえなかった。
彼女は、優しく微笑んでいた。
56:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:15:23.25
ID:3tnS2gIH0
光が目を覚ますと、部屋は滅茶苦茶になっていた。
テレビは壊れ、ビデオはテープが千切られている。
フィギュアの大半が、五体が不満足になっている。
身体中が汗でびっしょりだった。
シャワーを浴びよう、そう思って寝室から出ると、
玄関の鍵が開いている。
まさか、この雨の中、
自分は外に出たのだろうか。
光は、バスタブにpH調節薬と
たっぷりのお湯を注ぎ、身を沈めた。
57:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:15:52.27
ID:3tnS2gIH0
木村夏樹は単身でダイブを行なっていた。
掃除ではなく、幽霊探しのためだ。
彼女は犯人の目処をつけはじめていた。
現在、生身電子にかわからず、
人々の大半は識別用のチップを埋め込まれている。
例外は、違法な空間で“産まれた”子ども。
どこぞの変態技術者によるものか、
電子空間での生殖によって、
擬似的な精神プログラムが発生するような
チャネルが最近見つかっている。
仮にそのプログラムが、ロケート能力を持ち、
現実空間での身体を構築できるとしたら?
識別コードにも反応せず、ロケーターの殺害後は、
再び電子の海に消える。
奇々怪々な仮説だが、いかんせん自分達の能力や
機器からの流血を考えると、不可能とも言い切れない。
これが正解だとすると、かなり厄介だ。
特に、増殖などされた時には手に負えない。
わらわらと現実空間に這い出してきた日には、
ロケーターは1人残らず殲滅されるだろう。
58:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:16:28.06
ID:3tnS2gIH0
南条光は、部屋の片付けを始めた。
壊れたものを全て窓の外に放り投げる。
テレビも、ビデオも、フィギュアも、汚れたシーツも。
一度誤って、自分が落ちそうになった。
その時は、麗奈の1人が身体を支えてくれた。
他の麗奈は舌打ちをした。
それから光は、PCの前に立った。
ラムネのような錠剤をばりばり噛み砕きながら、
モニターに手を当てる。
「光の…オーロラ…身に纏い〜」
光が口ずさむのに合わせて、
彼女の身体が青い粒子に変わっていった。
ダイブ。
59:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:17:11.12
ID:3tnS2gIH0
光は膨大なチャネルが、パルスの紐帯によって
蟻の巣のように連なっている風景を幻視した。
その中では、皆だらしない顔をして、
快楽を享受している。
ひどく退廃的だった。
ただ生きているだけ。
こんなやつらの生活を担保するために、ロケーターは……。
光の中に、ふつふつと昏い怒りが込み上がってきた。
「アンタは、この愚民どもの犬なの?」
麗奈がふよふよと、そばを漂っていた。
「ちがう…とは言えないな」
光は肩を落として、返した。
大義はある。しかし、それは自分で掲げたものではない。
「アンタの正義は、どこにある?」
光はすぐに答えることができなかった。
正義とは、悪の相対によって生じるもの。
逆もまた然り。
ゆえに価値観、
厳密には“決定的な悲しみや痛み”を
共有できない世界では、正義も悪も存在しない。
全てが他人事で、虚像に過ぎないからだ。
60:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:17:56.45
ID:3tnS2gIH0
「…この世の悪の前にある」
光は皮肉った。そんなものはどこにもない。
電気信号に対する反射装置と化した人類に、
難解すぎる概念だ。
「それじゃあやっぱり、光は正義の味方になれるわ!!」
麗奈はけらけら笑って、電子空間の星々に手をかざした。
そして、手をぎゅっと握ると、
指の間から光の粒子がはらはらと散った。
「麗奈…?」
光は呆然とした。これも幻覚か。
A級ロケーターに、こんな真似はできない。
いやSS級でさえも。
「今アタシは、けちなロケーター殺しから、
人類の天敵になった…。
ねえ光、これでアンタは戦える?」
麗奈はまた笑った。
こんな、悲しそうに笑う少女を、
光は知らなかった。
61:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:18:29.25
ID:3tnS2gIH0
現実空間に戻ると、部屋が血と錆にまみれていた。
外に出ると、アパート、いや区画そのものが、
赤黒く染まっていた。
まぼろし、光が言いかけた時、夏樹が現れた。
「無事だったか」
そう言う彼女に、光はぺたぺたふれた。
「本物の夏樹さん?」
「アタシ以外アタシじゃねえよ。
偽物でも見たか?」
夏樹はからからと笑った。
「正規のチャネルが複数、まとめて消滅した。
上はカンカンを通り越して、便器に向かって懺悔してる」
あの風景は幻覚ではなかったのか。
光は両手を差し出した。
「アタシがやったんだ」
「嘘つけ。お前にそんなことする力はねえし、
あっても絶対やらないだろ」
夏樹は光の手を、ぶっきらぼうに払った。
62:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:19:51.46
ID:3tnS2gIH0
CRISISの会議室で、光は幽霊について報告した。
ある者は眉をひそめ、ある者は愕然とした。
前代未聞のSSS級ロケーター。
電子世界を自由に移動するだけでなく、
チャネルを丸ごと握りつぶしてしまう。
光の話が真実だとすれば、人類の危機である。
「これで皆、“目が覚めた”かな」
夏樹の言葉にロケーター達が苦笑した。
幽霊による虐殺さえも、楽園の住民達には
ちょっとしたスリルの追加でしかなかった。
こわいね、と一言、言ったきり
また快楽に耽っている。
もしかすると、彼、彼女達にとっては
生も死も、すでに曖昧なものなのかもしれない。
63:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:20:20.30
ID:3tnS2gIH0
これからは、チャネル整理はしばらく休みだ。
各自、全力で幽霊の抹殺にあたってくれ」
統括部の東郷あいの言葉に、一同は曖昧に頷いた。
光は会議室の中にいる麗奈を、そっと一瞥した。
今ここにいる麗奈は、誰にも見えていないようだ。
したがって、彼女は幽霊ではない。
光は、麗奈が複数見えていることを口にしていなかった
なんとなく、話すのが面倒だった。
話したところで、混乱を生むだけ。
そんな自己弁護をしながら、光は部屋を出た。
64:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:20:48.21
ID:3tnS2gIH0
家に帰って、ビデオの続きを見るのだ。
もう考えるのはやめた。
相手がSSS級のロケーターなら、
電子空間をジャンプして、
PCからPCへ移動ができるという。
いままさにCRISISにやってきて、
ロケーターを皆殺しにすることなど造作もない。
A級の光など一捻りだ。
かすかに緑色をした雨に、
建物のネオン灯が散って、
外の風景はひどく幻想的だった。
65:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:21:46.89
ID:3tnS2gIH0
木村夏樹は尾行相手を見た。
薬の副作用のせいか、ふらふらだった。
譫言のようになにかぶつぶつ言っている。
もう長くないな。
夏樹はため息をついた。
A級ロケーターは、S級やSS級の負担を
減らすための消耗品だ。
ロクな治療も手術も受けられず、雑草のように死ぬ。
光は、水たまりにすべてすっ転んだ。
そして倒れたっきり、起き上がらない。
どうした…!?
夏樹が物陰から足を出すと、
世界が一変した。
パネルを裏返すように、ぱたぱたと
景色が入れ替わっていく。
電子世界に引き摺り込まれた。
夏樹はホルスターから拳銃を抜いた。
「…はあ?」
風景は一面灰色の、採石場だった。
特撮か。
夏樹が苦笑する前に、地平線から大量に、
おでこの広い少女が押し寄せてきた。
皆、黒一色の戦闘服を着ている。
66:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:23:18.65
ID:3tnS2gIH0
拳銃で撃っていたら間に合わない。
夏樹は左手の指をこめかみに当て、右手を前にかざした。
「デリート」
彼女の声に合わせて空間が抉り取られ、
相手が12名ほど消滅した。
空間展開能力を逆用した、空間の強制封鎖。
SS級ロケーターのみ許される能力。
しかし、その負荷は重い。
彼女の瞳から、血が一筋流れた。
「ザコはザコらしくしてなさい」
「雑魚戦闘兵が何言ってやがる」
1人の言葉に、夏樹が返す。
強がってはいるが、デリートは何度も使えない。
「アタシと光の邪魔をしないでよ!!」
「ちょっと、光様はアタシのヒーローなのに!!」
「やろう、ぶっろしてやる」
「きゃあ、じぶんごろし」
肩で息をする夏樹をよそに、彼女達はお互いを攻撃し始めた。
皆、光に対する執着心が強すぎる。
正体のわからない相手に、夏樹は困惑した。
「「「この気持ちは何なのかしら!?」」」」
少女達がぐると一斉に、夏樹の方を見た。
夏樹は肩をすくめながら答えた。
「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」
67:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:24:31.87
ID:3tnS2gIH0
光が、ロボット配達人からピザを
受け取っていた時、麗奈は現れた。
右肩から流血していた。
「アタシ、光のこと愛してるんだってさ」
「他人事みたいに 」
「今のアタシ達は、まだ他人だったの!
これからもっとお互いのことを知らなくちゃ!」
アパートの玄関で、
麗奈はしゅるしゅると服を脱いだ。
光は息を飲んだ。
光のやせ細った身体とは違い、つくべきところに
肉と脂肪がついている。
少女と女性のアンビバレンス。
ふくらみかけでも、強い自己主張をする胸。
きゅっとしなやかにくびれた腰。
つるりと卵のように艶のあるお尻。
肩口の傷にあって、そこから流れる血河が、
なめらかな肌の上をゆっくり流れて、陰部から地面に垂れる。
途方もなく、どうしようもなく、美しかった。
68:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:25:27.71
ID:3tnS2gIH0
「キッスをしましょ!」
ドアを閉じて、麗奈は光に近づいた。
光は抵抗せず、身を任せた。
「あ…駄目。
キッスしたら、好きになっちゃう」
唇がふれあう直前で、麗奈が身を引いた。
その代わり光のズボンのベルトに手をかけた。
「君みたいな女の子が、こんなことしちゃ…」
そこでようやく、光は麗奈を止めた。
だが実際は、両親を殺められた少女が、その犯人に対して
跪いて媚びるというシチュエーションに背筋がぞくぞくしていた。
背徳感、罪悪感、自己陶酔、怒り。
それらの感情が光の中をせめぎあって、ちくちくと
瞼の裏を刺激する。
「光だってまだ女の子のくせに、
人をたくさん殺しているじゃない!
それに、アタシはもう“女の子”じゃないわ!!」
光の手を振りほどいて、麗奈は手際よく
パンティを下ろした。
69:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:26:26.30
ID:3tnS2gIH0
「ひゃっ…」
麗奈の舌が、中に入ってくる。
こんなことをされたのは、久しぶりだった。
「あっ、あ」
光のお尻から背筋にかけて、電流が走った。
さらに失禁。そこで二度目の絶頂を迎えた。
その尿すら麗奈はごくごくと飲んで、愛撫を続ける。
「光、ねえ、気持ち…んんぐ!」
話そうとした麗奈の顔を、光は自身の陰部へ押し付ける。
舌が、さらに激しく暴れまわった。
70:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:27:05.46
ID:3tnS2gIH0
そこから2人はベッドに入って、ナメクジのように交わった。
光は中毒と快楽でぐったりしていて、
その身体に麗奈がまとわりついていた。
震える舌で、光は麗奈の傷口をちゅうちゅうと吸った。
「光、んぅ!! アタシの赤ちゃん…」
麗奈も震えながら、何度も達した。
お互いの汗と愛液で、シーツがぐっしょり濡れた。
「アタシは、正義の味方に…なりたかった」
絶頂して力がふっと抜けると、光は譫言のように呟いた。
そのたびに麗奈は、光の顔を両手で優しく包んで、言い聞かせた。
「このレイナサマが、光を皆のヒーローにしてあげる」
光はぼんやり、これって自慰になるのかなあと考えていた。
部屋では、他の麗奈達が2人を食い入るように見つめていた。
71:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:27:43.07
ID:3tnS2gIH0
安斎都は、奇妙なチャネルを発見した。
CH555。
数年前、新人ロケーター達が
デリートしたはずのチャネルだ。
報告よりも好奇心が優って、都は侵入した。
構造物は、高層マンションと、
そこに併設されたショッピングモールと遊園地。
きわめて世俗的かつクラシカルな幸せ空間。
メリーゴーランドに向かう足を引きずりながら、
都はマンション内に入った。
警備AIやセキリュティボットもいない。
というか、人気が全くない。
都はエレベータで最上階に向かった。
そこらから階段を下り、
一階ごと全部屋を確認していく。
大半は何もない、空っぽの部屋だったが、
二階の23号室は、他と様子が違っていた。
部屋の前で、都は女の子が泣く声を聞いた。
ドアを開けると、中から黒い犬が二匹、
都に襲いかかってきた。
よだれを垂らし、目の焦点が合っていない。
まるで狂犬病にかかっているようだった。
躊躇わず発砲し、デリートした。
泣き声は止んでいた。
72:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:28:16.88
ID:3tnS2gIH0
玄関から正面すぐに、子供部屋があった。
いや、配置を鑑みるに、23号室はすべて子供部屋で占められていた。
その中を開けると、やはり他と同じで真っ白な空間。
しかし、都は振り返った時戦慄した。
内側のドアは、血塗れで、
無数の引っかき傷があった。
そして『ME』と、記されていた。
そのドアを開けると、また別の空間が広がっていた。
そこには都の後輩ロケーターの死体があった。
73:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:28:51.66
ID:3tnS2gIH0
光は、容赦のない暴力によって目を覚ました。
まず顔面を一発殴られ、次は横腹を蹴飛ばされ、
ベッドから落とされた。
卑怯な、悪の組織の襲撃か。
光がよろよろと立ち上がって、相手を見ると、
それは同僚の松永涼だった。
「涼さん…一体何が」
「何がだと?
アタシが聞きてえよ、てめえっ!!
夏樹を殺しやがって!!」
鷲色の髪を逆立たせて、涼は激昂していた。
しかし、光にはなんのことだかわからない。
自分が? 夏樹さんを?
74:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:29:22.43
ID:3tnS2gIH0
「今すぐにぶっ殺してやりてえけど、
“現実空間に連れてこい”、って命令だからな!!
半殺しで勘弁してやる。
処分が決定したら、残り半分を殺してやる!!」
涼は銃弾で、光の両脚を撃ち抜いた。
痛みはなかった。薬のせいだろうか。
ただ、身体がどうしようもなく寒い。
「頼む、涼さん。止血を…」
懇願する光に対して、涼は刺すような視線をぶつけた。
「人間のふりしてんじゃねえ!!」
どういう意味だ、と尋ねる前に、光の意識は暗転した。
75:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:29:54.70
ID:3tnS2gIH0
松永涼は、ずたぼろにした光を、
いや厳密には、“光を完全に模した電子生命体らしき物体”を
抱えて、空間内をジャンプした。
安斎都はCH555で、生身の南条光の死体を見つけた。
彼女は初任務から帰って来ず、入れ替わっていたのだ。
さらに、木村夏樹が尾行していた光も、
死体としてCRISISに収容されている。
情報的には、どの死体も全くの同一人物。
2人目の南条光は、ダイブ中毒者のバイタルまで
完全に模倣していた。
おそらくこの光を調べても、全く同じ結果が出るだろう。
時折、「麗奈…麗奈」と呟いている。
涼は首をかしげた。
知らない名前だった。
76:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:30:45.59
ID:3tnS2gIH0
使われなくなった会議室で、
光はテーブルに縛り付けられていた。
光は麗奈に問いかけた。
「アタシは、南条光じゃないのか」
安斎都から、状況について簡単な説明を受けた。
その最中、彼女はずっと怪物を見るような目をしていた。
「いいえ!
アンタは紛れもなく南条光!!」
「情報的には、か」
悲しい思いはしなかった。
空っぽだった。
「一号はどうなったんだ」
「1人目のアンタは、初任務で自分に絶望してしまったの!
せっかくアタシを助けてくれたのに!!
ああでも心配しないで、今の光は、
自殺をしなかった分岐の1つであって、
偽物なんかじゃない!!」
77:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:31:44.90
ID:3tnS2gIH0
「自分にとって都合のいいアタシを作ろうとしたのか」
「ちがうわ、光。
これは1人目も、17番目のアンタも、全ての光が願った結果。
ずっと言っていたでしょ」
正義の味方になりたい。
弱者を守り、悪者を倒す。南条光の原風景。
しかし荒廃した楽園には、殺すべき弱者しかいなかった。
「アタシが見ていた麗奈達も、複製なのか?」
「アタシ何度か、アタシ達に殺されかけたわ!!」
けらけらと、麗奈が笑う。光は苦笑した。
「光は、アタシとおんなじ
SSS級ロケーターになれるようにしてあるわ。
あるキーワードを呟くとね。
弱くっちゃ、ヒーローは務まらないもの!!」
それを早く教えてくれれば、自分はダイブ中毒に苦しむことは
なかったのでは。
光は半笑いで、麗奈に言った。
「光なら、すぐにキーワードに気づくと思ったの!!」
麗奈はまたけらけら笑いながら、答えた。
光にとってありふれた、当たり前の言葉であるという。
「でも教えてあげない!!
自分で道を切り拓いてこそ、アタシのヒーローだもん」
かすかに温かくなる胸をおさえながら、光は動かない肩をすくめた。
78:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:32:17.88
ID:3tnS2gIH0
光がCRISIS内に捕らわれてから数日後、
『幽霊殺し』が計画された。
違法チャネルに、新たなウィルスコードをばらまき、
住民を歩くモニターとして使う。
その段階で意識は死ぬが、元々消去するつもりの
チャネルだったので、誰も気は咎めなかった。
さらに生け捕りにしたプロパイダーの
脳髄を利用して、トラップを製作した。
特定の空間を幽霊が通った際、
強制閉鎖して彼女を抹消する。
全国にいるロケーターもクラス問わずかき集めれ、
皆が日夜、血眼になって幽霊を探した。
楽園の住民達はCRISISと幽霊の攻防を楽しみ、
それに飽きるとまた別の快楽に耽った。
79:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:33:00.81
ID:3tnS2gIH0
縛り上げられたところで血流がとまって、光の身体は
ひどく痛んだ。
キーワードはわからない。
わかったところで、どうすればいいのかも。
自分は南条光の幽霊、それも偽物の幽霊だ。
想いも、願いも、意志も贋作。
光は自身の記憶の海をロケートした。
どこからが“南条光”の記憶なのか、判別ができない。
あるいは、全ては麗奈の作った幻か。
それとも、実は南条光はロケーターなどになっていなくて、
これは楽園の住民が見る1つの夢に過ぎないのか。
過ぎ去った幻想(ヒーロー)に
憧れる少女が見る、悲しすぎる夢。
光は、自分がどうしようもなく空っぽに感じた。
しかし、空っぽの心のすみに、麗奈がぽつんとしていた。
光は気づいた。
1人目の南条光と小関麗奈が創造した地獄の中で、
17番目の南条光として。
「そうだ、アタシが、本当に…」
分かっていた。
世界を守るようなヒーローは、自分には無理だと。
南条光は弱くて、不器用で、小さい。
だから、せめて、誰か1人だけでもいい。
その1人の笑顔のために、
立ち上がれるような“南条光”でありたかった。
「本当に謝りたかったのは、麗奈をまっすぐに見なかったことだ」
ばくんと、彼女の身体の中で音がした。
80:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:33:32.51
ID:3tnS2gIH0
幽霊は、CH555で観測された。
トラップは全て解除されたが、
モニター上は動いていない。
CRISISのロケーター全員が、CH555へダイブした。
そこは安斎都が発見した時とは一変し、全てが
灰色の採石場だった。
小関麗奈は、1人で佇んでいた。
「アタシは、光以外に殺されるつもりはないわ!!」
彼女は叫んだ。
しかし、ロケーターの数はあまりにも多い。
一人一人であれば、麗奈に瞬殺されるような者でも、
寄り集まれば厄介だった。
逃げようにも、空間を外から閉じている者がいる。
麗奈は手を、ロケーター達にかざした。
デリート。
夏樹のものとは、精度も規模も段違いの一撃。
しかし相殺された。
出力を上げてもう一発打つと、ぶしゅと、肩の傷が開いた。
相手には、それ以上の打撃を与えた。
81:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:34:23.52
ID:3tnS2gIH0
小関麗奈は、血を吐きながらデリートを繰り返した。
脳味噌がすべて口から出てしまったのではないかというほど、
頭が軽くなっている。
視界はもう真っ赤で、ほとんど何も見えない。
身体中の筋肉がちぎれそうなくらい痛い。
こんなに痛くて、寂しくて、ひとりぼっちだった記憶が
蘇ってきて、気持ちが悪い。
だが、ロケーターはまだ何十人も残っていた。
「しぶとい女だ!」
鷲色の髪を揺らめかせて、松永涼が麗奈に迫った。
短距離の空間跳躍。
そして、頭上からの踵落とし。
麗奈はすんでのところで動いた。
しかし、右腕が小枝のようにへし折られた。
「がっ…!」
痛覚信号を遮断した。
再生をする行うためのメモリは、
トラップによって削りきられた。
82:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:34:54.92
ID:3tnS2gIH0
倒れたところに、安斎都の蹴りが肋に入った。
サッカーボールのように、ぽてぽてと、
石の上を転がった。
立ち上がれない麗奈をロケーター達が取り囲んだ。
武器の弾はすでに使い果たしてしまったので、
彼女達は極めて原始的な手段に訴えて、麗奈を消去することにした。
それは、まるで鳥葬のような風景だった。
麗奈の端正な顔は、ぐしゃぐしゃにされた。
目は潰され、髪は引き抜かれ、鼻は折られ、
頰は原型をとどめぬほど腫れ上がった。
もう身体のどこから血が流れているのか、
麗奈自身にもわからない。
このままじゃ、光を正義の味方にしてあげられない。
麗奈は暴力の海嵐の中で、ぼんやりそう思った。
光、ひかる。
声を出す場所も、もう壊れている。
83:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:35:30.01
ID:3tnS2gIH0
だが、名前を呼ぶ声がどんなにか細くても、
ヒーローは、必ず現れる。
84:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:36:04.38
ID:3tnS2gIH0
麗奈を取り囲んでいたロケーターが、ばたばたと倒れた。
ウィルスコードの弾丸を受けていた。
「光、てめえっ!!」
涼は叫んだ。
光は、両手に機関銃を抱えて、ロケーター達を見ている。
どろりとした瞳。ダイブ中毒の末期患者の特徴。
彼女は、A級ジャンパーのまま、ここへやってきた。
「1人の女の子を大勢で嬲る。
お前達は、悪だ」
ぽつりと呟いて、また機関銃を乱射した。
涼は空間跳躍で躱し、光の背後に移動した。
「くたばれ!」
頭部に向けての回し蹴り。
光はそれを銃身で防いだ。
しかし、機関銃の方が粉々になった。
涼は間髪入れず光に襲い掛かり、押し倒した。
馬乗りになり、顔面に拳を振り下ろす。
光の顔がみるみる腫れ上がっていく。
85:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:36:31.91
ID:3tnS2gIH0
だが、涼の動きは次第に緩慢になっていた。
倒した時に、光のベルトが火を吹いていた。
バックル型拳銃。
CRISISの武器庫に保管されていたものだ。
「光、…てめえ…夏樹…」
涼の身体が、光の胸に突っ伏した。
SS級も、S級のジャンパーも全滅した。
光が残りのロケーターを見ると、彼女達は
ふっと空間の外へ退避した。
このままチャネルごと強制封鎖する気なのだろう。
しかし光は逃げなかった。
てくてくと、ゆっくりした足取りで、
麗奈のそばに行った。
86:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:37:08.35
ID:3tnS2gIH0
数分後、光のPCは咳き込むように、二人分の血液を吐き出した。
87:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:40:45.56
ID:3tnS2gIH0
おしまい
89:
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 12:50:59.13
ID:3tnS2gIH0
読みたい人は読めばいいし、そうじゃない人はエロだけ楽しめるように書いた。
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1497712631/
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