1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 12:55:35.29
ID:1yBFooTu0
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 12:56:29.82
ID:1yBFooTu0
※ロリと綺麗な東郷さん。 別世界。
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 12:57:10.83
ID:1yBFooTu0
メアリー・コクランは忠義を知らぬ。
それは彼女が異邦人だからではない。
そもそも人の情を知らないのだ。
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 12:57:50.77
ID:1yBFooTu0
メアリーの両親は傭兵で、かつての南北戦争では
戦況が変わるたびに参加する陣営を変えたとう。
彼女達はメアリーが生まれた時も大して喜ばなかった。
初めて歩いた時も、初めて両親の名前を呼んだ時も、
軽くメアリーを一瞥するだけだった。
そんな両親が喜んだのは、メアリーが初仕事で
家に金を入れた時だった。
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 12:58:34.82
ID:1yBFooTu0
両親がそのようであったから、
メアリーは人を信じていない。
信じるのは金である。
1人で金を稼ぎ、1人で使う。
そうやって、1人で生きる。
それが神も信じぬメアリーの教義であって、信念でもある。
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 12:59:04.59
ID:1yBFooTu0
そんなメアリーは今、江戸にいる。
倒幕開明派の人間の
警護をすることになったのだ。
メアリーは『黄金の国』に
期待をしていたので、がっかりした。
屋敷は木と紙でできているし、
町の空気は殺伐としている。
人々はメアリーのことをじろじろ、
面白くもなさそうな顔で見る。
金でも貰わなければ、2度と来たくない。
入国初日で、メアリーはそう思った。
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:00:06.48
ID:1yBFooTu0
警護の対象は、東郷あいという女。
“少々”皮肉屋なのと、それを隠せない実直さのせいで
武家社会から孤立したらしい。
それと能を隠せない鷹でもあったから、
倒幕派の中でも人が寄り付かないという。
自分がみじめになるからだ。
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:01:11.36
ID:1yBFooTu0
「アナタ、世渡りが下手っぴネ」
メアリーは、初対面で東郷に言った。
20を過ぎて友達が1人もおらず、
命の危険から守ってくれる仲間もいない。
運が悪ければ、メアリーと出会う前に
とっくに野垂れ死んでいただろう。
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:02:32.81
ID:1yBFooTu0
「お嬢さん。
生憎だが世渡り上手じゃ、幕府は倒せないよ。
倒そうとも思わないだろうね」
特に機嫌を損ねた様子でもなく、東郷はそう返した。
「お嬢さん…?
失礼ネ。アタシは一人前のレディ。」
それにアナタ、アタシより弱イんだから、偉そうにしないでクレル?」
メアリはーは不機嫌になった。
彼女は1人で生きていけない人間が大嫌いだった。
そういうやつほど、一人前の人間のふりをして、
メアリーのことを馬鹿にする。
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:03:16.73
ID:1yBFooTu0
だが東郷は、「それもそうだね」と笑って、
それ以上何も言い返さなかった。
不思議な女。メアリーはそう思った。
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:03:57.08
ID:1yBFooTu0
倒幕派の隠れ家があるわけでもなく、
メアリーは東郷の住む長屋に同居した。
部屋は片付いているし、清潔だったが、とにかく狭い。
メアリーの生家とは大違いだった。
それに隣の音がやかましく、静かに昼寝もできやしない。
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:04:40.98
ID:1yBFooTu0
「アナタ達って、マゾヒストなの?」
「マゾ…嗜虐趣味のことかい?
ああ、そうかもしれない」
東郷は、メアリーの質問に頷いた。
「口じゃあ文句を言うがね、
実は“苦痛に耐える自分”が、皆大好きなのさ。
だから何も変えようとしない」
こういうことを素直に言うから、一人ぼっちなんだろうな。
メアリーはそう考えた。
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:05:07.90
ID:1yBFooTu0
「あいもマゾなノ?」
サーベルの鞘で東郷をつんつん
突きながら、またメアリーは尋ねた。
ちょっとした意地悪のつもりだった。
自分は周りとはちがう、そんな風に生きている女が、
実のところ、とても寂しそうに見えたのだ。
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:05:37.53
ID:1yBFooTu0
東郷は、少し微笑んで答えた。
「まあ、この状況に
ワクワクしてるくらいだから、マゾに違いないね」
メアリーは「ぐさあ」と呟いて、鞘を東郷に突き出した。
東郷は「ぐああ」と言って、ぱたりと倒れるふりをした。
15:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:06:07.86
ID:1yBFooTu0
江戸の食事はメアリーの口に合わなかったで、
2人は亜墨利加の大使館で
食事をすることになった。
「メアリー君はひょっとして、結構偉い人なのかい」
「アタシっていうか、一族がネ。
仕事で大統領を何回か交代させタワ」
東郷は初めて大使館を訪れたのだが、割に落ち着いていた。
さすがに年の功はあるのか、とメアリーは思った。
しかしその後、フォークを逆さに持った東郷には吹き出した。
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:06:41.25
ID:1yBFooTu0
「牛の肉もなかなか美味いものだね」
「アッチじゃ、みんな四六時中牛の面倒見てるワ」
微妙に噛み合わない会話をしながら
帰途につくメアリーと東郷。
彼女達を、取り囲む3人組がいた。
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:07:28.48
ID:1yBFooTu0
「倒幕派の東郷あいだな」
護国派達の人間であった。
皆刀を抜いて、東郷の方を見ている。
「貴様個人に恨みはないが、命をもらうぞ」
「人を斬って国を護る。大した信条だね」
命を狙われているのにも関わらず、東郷は相手を皮肉った。
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:07:59.35
ID:1yBFooTu0
「ふん。よく回る口だ!!」
1人が、東郷に斬りかかった。
この女は鹿島神道流の使い手で、
護国派の中では5本の指に入る。
3人の中では、1番の手練れだった。
「言い返せナイからって手が出ルのは、大人としてどうなのカシラ」
その女を、メアリーが斬り捨てた。
ほんの、まばたきする間の早業だった。
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:08:40.99
ID:1yBFooTu0
「さあいらっシャイ、“お嬢さんタチ”」
メアリーは手招きをして、残りの2人を挑発した。
2人は、じっと構えて相手を見た。
武器はサーベル。
長さは太刀より少し短く、幅が広い。
それでいて刃が鋭く、重く、殺傷力に優れる。
細い日本刀では受け止めることができぬ。
そして構え。右足を下げ、左足が前に出る。
そして、サーベルの切っ先が地面に下がっている。
一見、とても無防備に見えた。
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:09:31.96
ID:1yBFooTu0
2人はメアリーを挟むように囲む。
1人が斬りかかって、相手の様子を見る。
それで敵わぬなら、もう1人が加勢する。
そういう算段であった。
「えいやぁっ!!」
メアリーの左半に回り、初手は
中段からの振り下ろすような突き。
メアリーはため息をついて、少し身動いで躱した。
「そこは袈裟斬りデショ」
メアリーは逆袈裟で相手の首を刎ねた。
21:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:10:12.63
ID:1yBFooTu0
「貴様!」
残った1人が斬りかかろうとしたが、
東郷が彼女を刀で刺した。
「東郷…お前…なぜ」
「まさか、卑怯だと言うんじゃないだろうね。
3人でやってきておいて」
東郷は冷たい顔で刃を抜き、さらに相手の心臓を突いた。
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:10:48.32
ID:1yBFooTu0
「フーン、これからは1人で行動スル?」
その動きを見たメアリーが、
面白そうな顔で言った。
実際、東郷の腕前は高かった。
一撃目は不意打ちだったが、二度目の突きは、
正確無比に相手の急所を貫いている。
メアリーより弱いというのが、
かなりの謙遜のように見えた。
「いやいや、君がいないと困るんだ。
私は寂しがり屋だからね」
東郷は手をひらひら振って、微笑んだ。
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:11:19.01
ID:1yBFooTu0
ある時、2人は外でひどい土砂降りにあった。
メアリーは雨ぐらいなんてことはなかったが、自分が濡れるのもかまわずに、
東郷が傘をさしてくれた。
「アリガト」
まるで、親みたい。
一瞬そう思った後、メアリーは笑い出した。
「どうしたんだい?」
「なんでもナイ」
自分の親に、ここまで優しくされたことはなかった。
24:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:11:54.60
ID:1yBFooTu0
それから長屋に戻ると、
東郷は火鉢を焚いて、メアリーの服を乾かしてくれた。
そして代わりに、隣の家族から着物を借りてきた。
「ナンデ、服を貸してくれるノ?」
メアリーには不思議だった。
自分が濡れたことと、隣の家族には何の関係もない。
それなのに何故、服を貸してくれるのか。
「メアリーが可愛いからだよ」
東郷は自分が金を払ったことは伝えなかった。
メアリーは、それもソウネ、と笑った。
彼女は長屋暮らしに染まりつつあった。
25:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:12:35.92
ID:1yBFooTu0
玩具屋などが通ると、
東郷はメアリーに玩具を買ってくれた。
「一人前のレディは、こんなもので遊ばないワ」
初めはそっぽを向いていたが、東郷が目を離すと、
メアリーは食い入るような目で玩具を見つめていた。
それに気づいた東郷が、すこし外に出ると、
メアリーはきょろきょろした後、吹き戻しを手に取った。
26:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:13:05.42
ID:1yBFooTu0
吹くと、ぴゅろーぴゅろーと間の抜けた音がした。
それが面白くて夢中で遊んでいると、
障子の隙間から覗いている東郷と目が合った。
「これって、パイプじゃなかったのネ。気づかなかったワ!」
メアリーはそう言って、吹き戻しを放り投げた。
しかし数日もすると、東郷がいる時も吹いて遊んでいた。
27:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:13:46.89
ID:1yBFooTu0
異国の凄腕の剣士。
この話が護国派の人間の間で広まるのは、
すぐのことであった。
すでに倒幕派の幹部なりを何人も斬り捨てているなかで、
東郷あいだけが、どうしても倒せない。
そばには、いつも吹き戻しを吹いている剣士がいて、
ぴゅろーと言う音が響くたび、
護国派の人間の命が消えるという。
冗談のような話だが、笑い事ではなかった。
28:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:14:13.74
ID:1yBFooTu0
来る日も来る日もやってくる刺客に辟易としながら、
メアリーは東郷に尋ねた。
「忠義ってナニ?」
護国派の人間がいつも叫ぶ言葉。
言葉の意味合いはメアリーにもわかるが、
命を懸けられるほどのものとは思えなかった。
29:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:14:41.91
ID:1yBFooTu0
「便利な言葉だよ。
それがあれば、
自分にとって住み心地のいい世界だけを守れるし、
他人に守らせることだってできる」
大して怒った様子もなく、東郷は淡々と答えた。
ただそういう事実がある。そんな話し方だった。
30:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:15:41.53
ID:1yBFooTu0
「東郷は、忠義アル?」
メアリーはまた意地悪で、そう尋ねた。
東郷は、「君にだったら跪いてもいいかな」と答えた。
彼女の方が一枚上手であった。
悔しくなったメアリーが「靴をお舐め」と、
細くて美しい足を出すと、
東郷は「ありがたや」と言って、ぺろりと舐めた。
そして、しばらく2人で笑いあった。
31:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:16:13.19
ID:1yBFooTu0
護国派の人間らにとって、いままでさして
重要でなかった東郷の価値が高まっていた。
東郷は倒幕派のなかでは大した地位ではないが、
今まで差し向けた剣客を全て退けた。
つまるところ、彼女は護国派の
面目を叩き潰したというわけだった。
護国派は東郷を始末するために、
陣営の五本の指、残る四本すべてを投下した
32:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:17:00.68
ID:1yBFooTu0
メアリーは夜、焦げ臭い匂いで目を覚ました。
長屋が家事が焼けていた。
一緒の布団で眠っていた東郷を、
彼女は特に焦らず起こした。
「グッモーニンッ♪今日も頑張っていくワヨ~!」
33:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:17:26.29
ID:1yBFooTu0
「護国派の連中か」
「ここまでスる、相手も本気ということカシラ」
「いや、ずっと本気だったさ。
実力が伴っていなかっただけで」
東郷の言葉に肩をすくめながら、メアリーは戸を開いた。
彼女の頭上を、刃が通過した。
34:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:19:21.96
ID:1yBFooTu0
「情報が間違っとるであります…」
剣を振るった相手は大和亜季。
彼女は亜墨利加人と聞いて、相手を長身だと思っていた。
しかしメアリーの身長は五寸ほどであるから、
江戸の人々とあまり変わらない。
メアリーはさっとサーベルを抜き、大和の胴を斬り払った。
重く鋭い頭身が、臓物を通りに撒き散らした。
それが長屋の火に炙られ、
なんとも言えない臭いが周囲に広がった。
35:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:19:47.85
ID:1yBFooTu0
「可哀ソウなコト、したカシラ」
「いや、死んだら一緒だよ」
メアリーに答えたのは、敵方の剣士であった。
護国派斬り込み隊長、木場真奈美。
彼女の側には、また2人の剣士がいた。
36:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:20:44.94
ID:1yBFooTu0
「おめでとう。その子が私達の中で一番強かった」
「じゃア、モウ帰ってくレル?」
「そうはいかない、我が忠義のために」
忠義。メアリーは目を細めた。
遅れて、東郷が長屋からでてくる。
「腕利き3人か、メアリー君も分が悪いかな」
彼女はメアリーを信じているからこそ、
こういう冗談が言えるようになった。
「2人頼んダワ」
「この給料泥棒さんめ」
37:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:21:58.83
ID:1yBFooTu0
護国派の2人が、東郷とメアリーを挟むように立った。
「キャシーは餓鬼の方を頼む」
「りょーかい」
木場に答えたのは、夕暮れのような髪と碧眼、
亜墨利加人の女だった。
「まさか、手を緩めると思っているのカナ」
「かもね。馬鹿みたい」
キャシーと呼ばれた女は、癖のある髪をくしゃっと撫でた。
38:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:22:44.52
ID:1yBFooTu0
「流派と名前を名乗りなよ。互いの名誉のために」
「独逸流剣術、メアリー・コクラン」
「鹿島神道流、キャシー・グラハム。
いざ尋常に、参る!!」
キャシーは刀を抜いた。それはまさしく、侍の姿だった。
構えは下段。小柄な相手を、無駄なく攻めるつもりのようだ。
メアリーは、剣を顔の横に寄せ、切っ先を相手に向けた。
お互いに、相手の攻めを待つ。
燃え盛る炎が、2人の顔をジリジリと焦がした。
39:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:23:12.97
ID:1yBFooTu0
「さて、こちらも始めるとしようじゃないか」
木場は鞘を逆さにして、刀を落とすように抜刀した。
「君とは、なんだか気が合いそうな気がするんだがな」
東郷は肩をすくめながら、刀を構えた。
「嬉しいな。地獄で待っていてくれるかい!」
「生きて友人になりたいが、そうもいかないようだね!」
40:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:23:42.01
ID:1yBFooTu0
冗談をかけあいながら、2人は打ち合った。
ぶつかる刃から、新たな火花が散る。
残念ながら、相手の力量が上だな。
鍔競りをしながら、東郷は悟った。
木場の方が、一瞬だけ彼女よりも速く動いていた。
一瞬が一生になる。戦いとは、そういう世界である。
41:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:24:29.62
ID:1yBFooTu0
東郷は相手から一旦離れて、
刀を鞘に納め、居合の構えを取った。
「速さで劣る相手に居合…どこの流派だったかな、東郷」
「中村流だよ」
「そいつは踊りだ」
木場が東郷と距離を詰める。
居合の速度を見積もると、誘い、
躱してからの反撃が望ましいように思われた。
42:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:25:01.72
ID:1yBFooTu0
知らぬ相手に先手を狙うのは、
剣士の頂点のような存在か、あるいは愚の骨頂。
木場はどちらか。彼女は先に仕掛けた。
大上段で、そのまま叩き斬る。相手が刀を振る前に。
そのつもりだった。
しかし、東郷は木場が間合いに入る前に、手をさっと振った。
刀は抜かれていなかった。
43:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:25:31.41
ID:1yBFooTu0
「何を、」
木場の喉に、小柄が突き刺さっていた。
「自分より強い相手に、居合なんて使うわけないだろう?
読本じゃあるまいし」
卑怯、と言おうとした木場に東郷が迫った。
「人様の家に火を放っておいて、
まさか卑怯とか無礼とか言うんじゃないだろうね」
呼吸を封じられ、動けなくなった木場は、
あっけなく首を刎ねられた。
45:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:26:57.96
ID:1yBFooTu0
膠着を破ったのは、キャシーの方だった。
初手は逆袈裟。それを、メアリーはサーベルで受ける。
キャシーの腕は、冷や汗が出るほど冴えていた。
加え、彼女は手をひねり峰打ちに切り替えていた。
受けであるので、メアリーの剣が刀を折ることはない。
しかしぶつかれば、刃が毀れる。
だから峰で防ぐ。
そう考えて、即座にキャシーは実行した。
46:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:28:21.10
ID:1yBFooTu0
なんたる早業。
見た目だけで選ばれたわけでないのは、明白であった。
「アナタ、もっと自信を持った方がいいワ!」
「お前を斬ったら、そうしよう!」
互いの刃が上に弾かれる。
キャシーは、そのまま上段から振り下ろした。
腕力で勝る彼女の方が一手速い。
メアリーは側転でそれを躱す。
47:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:29:27.48
ID:1yBFooTu0
「それも“どいっちゅ”の動きか!」
「発音がグッドネ!」
メアリーを追うように、キャシーが動く。
それを待ち構えて、メアリーは突きを放つ。
キャシーは横蹴りで攻撃を、
そしてサーベルを弾き飛ばした。
ここでも彼女が一枚上手だった。
少なくとも、剣術の範疇では。
48:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:30:06.22
ID:1yBFooTu0
「勝ッタ、とでモ?」
次の瞬間にメアリーの右拳が、
キャシーの顔面にめり込んでいた。
武器を失えば、柔軟に切り換える。
傭兵であった両親からの習いである。
49:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:31:51.67
ID:1yBFooTu0
しかしあくまで童の拳、
致命傷にはいたらなかった。
なので、メアリーは怯んだキャシーを、
さらに拾った石で殴りつけた。
さらにメアリーは、昏倒した相手に馬乗りになり、
絶命するまで顔面を石で殴打し続けた。
にぶい肉の音が、ながらく周囲に響き渡った。
50:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:32:32.14
ID:1yBFooTu0
「さて…」
相手を片付けたメアリーと東郷は、残る1人を見た。
「アナタはどのくらい強いのカシラ」
残った1人は、まったく怯えきった顔をして、答えた。
「私は、5番だ・・・」
だが彼女は、刀を抜いて2人の方へ向かってきた。
それをメアリーは、危なげなく斬り捨てた。
51:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:33:01.22
ID:1yBFooTu0
「忠義ゆえに、か」
倒れた女を見て、東郷が言った。
悲しそうな表情であった。
52:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:33:56.46
ID:1yBFooTu0
それを見たメアリーが尋ねた。
「アタシがアイを守りたいと思うのも、
忠義というやつなのカシラ…」
東郷は悩ましげな顔をして、
しばらく考えた後に返事をした。
53:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:34:46.33
ID:1yBFooTu0
「申し訳ないが、友情ということにしてくれないか。
そちらの方が…その、なんだ…うれしい」
珍しく歯切れの悪い東郷を見て、
メアリーはふっと吹き出した。
54:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 13:35:14.94
ID:1yBFooTu0
おしまい
55:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/06(火) 15:09:16.61 ID:x4wBK/6cO
乙
強いロリは大好物です
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496721334/
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