1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:00:47.21
ID:zOwcRhlF0
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:01:46.69
ID:zOwcRhlF0
美城の名にふさわしい、豪奢な城郭。
その主は現将軍の長子、三村かな子に決まった。
彼女は特段優れた能はないが、
初代将軍に生き写しのようにそっくりで、
周りからの支持を集めていた。
ゆくゆくは母を継ぎ、
天下の支配者になる、そう言われていた。
だが、それを快く思わない者達がいた。
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:02:50.57
ID:zOwcRhlF0
「荒木の連中が…そうか」
かな子の家臣の1人が呟いた。
現在、美城に向けて出立の準備をしている最中だったが、
そこへ、荒木の忍達が差し向けられた、という知らせが届いた。
荒木家は将軍家の分家で、その長子の荒木比奈も
次期将軍候補として目されている。
無論三村側は対策が必要だったが、並の武士では忍に勝てぬ。
さらに三村の忍、浜口家はすでに断絶している。
かつての美城における、浜口あやめの死によって。
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:03:25.40
ID:zOwcRhlF0
「どうされますか」
報告にやってきた部下はそう尋ねながらも、
どうすればよいかは理解していた。
荒木の忍に勝てるだけの、
腕の立つ剣客を雇い入れるほかあるまい。
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:06:02.85
ID:zOwcRhlF0
「するってえと、
アタシらはその“かな子様”とやらの
子守をすればいいわけだ」
向井家の屋敷に、4人の女が集まっていた。
柳生新陰流、向井拓海。
同じく新陰流、双葉杏。
拳法、諸星きらり。
我流捕縛術、安斎都。
木村屋における、上位の実力者達である。
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:07:02.34
ID:zOwcRhlF0
「お相手が少し可哀想ですね、
向井さんと双葉さんがいるなんて!」
安斎都は、底の知れない笑顔で言った。
一同は、未だこの女の
実力を把握しきれていないところがある。
ただ、あの高垣楓を捕縛した、という事実を知るのみである。
「それにしたって、杏。
お前が出張るなんて珍しいじゃないか」
向井が双葉を指差して、尋ねた。
放っておけば飯も食わないような不精者が、藩外で仕事をするとは。
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:08:18.69
ID:zOwcRhlF0
「んー、給金がいいからねえ」
双葉の言葉は事実であった。
此度の護衛には、尋常でない報酬が支払われる。
その出どころは複数あった。
「三村家、かな子様を支持する桐生屋…あと1つは、不明だったな」
木村屋は仕事柄、客と顔を合わせずに剣客を派遣することもあった。
暗殺や襲撃などの場合は、特にそのような傾向があったが、
護衛で顔を伏せるとは珍しい。
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:09:15.76
ID:zOwcRhlF0
「ひょっとしたら、荒木派の人かもしれないにぃ」
諸星がそう言った。ありえる話だ。
一家の長に対する忠誠と、
将軍に対する畏怖が別々な人間は多い。
「杏は別に行きたくなかったんだけど…」
双葉が面倒そうに答えた。
一同がくすりと笑う。
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:10:01.72
ID:zOwcRhlF0
「まあ、権力とお金以外に取り柄のない人達が、
金に飽かして上位を引き抜いたわけですから、
しょうがないですね!
せめて未央さんがいれば、もっと楽ができたんでしょうけど!」
「そーだね」
双葉が安斎の言葉に頷いた。
しかし未央は別件で隠岐に向かっている。
「いや、いなくてもよかったかも分からねえ。
木村の野郎と財前屋のせいで、村上があっちにいるからな」
向井の言葉に、一同はまた苦笑しながら頷いた。
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:10:58.61
ID:zOwcRhlF0
村上巴は、財前屋の借り切った料理屋で
荒木の忍達3名と会うことになった。
しかし姿が見えるのは2人。
その2人もずいぶん奇妙であった。
安部菜々。本名かどうかは分からない。
人参のような髪の色をしていて、表情は穏やかに笑っている。
しかし目は笑っていない。
年は若く見えるが、奇妙な圧迫感を感じる。
服装は蘭国の給仕のような、洋服と前掛け。
そしてなぜか、頭に兎のような耳が生えている。
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:11:44.89
ID:zOwcRhlF0
佐々木千枝。こちらも偽名かもしれぬ。
すりたての墨のよういに艶めいた、黒の短髪。
小さな子どものような丸顔で、背も低い。
こちらも薄く微笑んでいるが、
先ほどから一向に村上と目を合わせない。
服装は縁日のような、明るい水色に金魚模様の着物。
大きさがだぶだぶで、身体に全く合っていない。
手や足が外にでるのだろうか?
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:12:39.77
ID:zOwcRhlF0
両者ともあまりに目立つ格好。
世俗離れ、あるいは、“忍者離れ”した風体である。
「服部さんとやらは…?」
沈黙と忍者達の異様さに耐えかねて、村上は尋ねた。
服部瞳子の姿は見えない。
「もう“お見えになって”いますよ! キャハっ!」
菜奈が馬鹿に陽気な声で言う。
村上はもう一度辺りを見回したが、服部の姿はない。
忍術か。
村上は、そんなものは信じていなかったが、
実際“目の当たり”にしているのだから、そう納得するほかない。
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:13:23.39
ID:zOwcRhlF0
「そいじゃあ話を始めようかのう」
背中にひりりとした感触を覚えながらも、村上は会合を始めた。
「三村側についている護衛は、皆化け物じゃ」
彼女は端的にそう言った。
抽象的な表現であるが、事実である。
「戦い方がどう、と言うことはできん。
それで勝てるような奴らじゃないからのう」
率直な感想と、仲間としての情を
うまく噛み合わせて、村上は説明した。
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:14:12.93
ID:zOwcRhlF0
「それじゃあ村上さんは、どうして荒木に?」
千枝が、少女の声で村上に質問した。
なんとない一言であったが、
返答次第では殺す、そういう意味があるのやもしれぬ。
「財前屋から声がかかったのと、うちが戦いたかったから」
そう村上は答えた。
彼女は、平和な日々を仲間と楽しんだが、同時に退屈していた。
侠客として全国を流浪していて時のような、
じりじりと灼きつく緊張感がない。
片桐と戦った時のような、恐怖と興奮がないまぜになった、
複雑な悦楽に溺れる機会もない。
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:14:47.50
ID:zOwcRhlF0
「うちは戦うのが好きで、好きで、しょうがないんじゃ!」
とても純真な、童女のような笑顔で村上は言った。
荒木の忍達よりも、あるいは彼女の方が
螺子が多めに外れているのかもしれない。
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:16:07.88
ID:zOwcRhlF0
向井達は美城の外、三村家の本家に招かれた。
かな子に謁見するためである。
しかし一同が入室を許されたのは、
少々広い程度の茶室であった。
とても次期将軍にふさわしい部屋には思えぬ。
かな子自身の風体も、
まったく将軍家の後継とは見えなかった。
薄い鷲色の髪や、体格こそ立派だが、覇気がない。
向井達が入室したときも、畳に寝そべりながら、
片手に読本、片手に小倉饅頭という格好だった。
服は麻でできた質素なもので、涼しげだが侘しい。
町でせせっこましく三文そばなど食っていても、
将軍家の娘と気づかれないだろう。
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:16:40.71
ID:zOwcRhlF0
「そちらが、護衛の者かえ?」
口調もなんだかだらしがなく、気が抜けている。
しかも口周りには、饅頭のかすがついている。
「…はい、左様で御座います」
なぜか急に静かになった双葉の代わりに、向井が答えた。
「家臣達が集めてきてくれた者達じゃ。期待しておるぞ」
本当にそう思っているのか、読本から目を外さずに、
かな子が言った。
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:18:07.59
ID:zOwcRhlF0
「「「「は」」」」
向井一同が頭を下げた。
それから互いに言葉が続かず、
間の悪い沈黙が広がった。
だがそそくさと退出すれば、
任務ひいては、
次期将軍をおろそかにしていると判断されかねない。
向井達は、じわりと嫌な緊張感を覚えた。
かな子は気にせず読本をぺらぺら捲っていたが、
突然それを閉じて、双葉の前に立った。
「お前」
「はっ!」
双葉が恐縮したように縮こまった。
普段落ち着いた彼女にしては珍しい反応であった。
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:18:35.82
ID:zOwcRhlF0
「随分貧相な身体をしておるのう。饅頭を食うか?」
「はっ! 殿の御好意、臓腑の隅まで染み渡りまする!」
饅頭を急いで食べながら、双葉が言う。
どうした…?
一同が、彼女を怪訝な目で見た。
21:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:19:26.13
ID:zOwcRhlF0
茶室から退室し、
向井達は城下の旅館に泊まることになった。
そこで、安斎がにやにやしながら双葉に尋ねた。
「次期将軍にビビってました?
杏さんらしくもないですね!!」
双葉の表情は、先ほどから青ざめている。
「杏ちゃん、本当にどうかしたのぉ…?」
きらりがとても心配そうに言った。
「いや、どうかしたっていうか…うーん…」
双葉はしどろもどろになりながら、答えた。
「かな子様の読んでた本、どろどろの女色ものだった……」
そこで、安斎も含めて、皆の顔もさあっと青ざめた。
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:21:05.86
ID:zOwcRhlF0
2週間後、三村家と向井一同の旅路は、
美城へと続く山道にさしかかっていた。
荒木派からの襲撃は、
この山道において来ると予想されている。
さて、どう仕掛けてくるか。
向井はかな子の籠の横で考えた。
矢や手裏剣ぐらいなら、他の従者達が壁になって防げる。
また、向井達ならはたき落とすことが可能だ。
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:22:07.95
ID:zOwcRhlF0
一番厄介なのは山道に火を放たれることだが、
その可能性については双葉が否定した。
確実に将軍を葬るのであれば、
死体の判別がつかなくなるような殺し方はしない。
そんなことをすれば、
「実は…」という形で、影武者なりが本物と入れ替わろうとも、
荒木側にはそれを確かめる術がない。
彼女達には、本物のかな子の首が必要なのだ。
24:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:22:39.48
ID:zOwcRhlF0
忍術とやらが気にかかるが…。
向井がそう思った矢先、正面の茂みがごそごそ音を立てた。
一同が、そちらを注視する。
しかし、現れたのは鹿であった。
怯えたような顔をして、踵をかえし森へ隠れた。
驚かせやがって。
向井が振り返ると、籠の反対側で異変が起こっていた。
25:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:23:35.52
ID:zOwcRhlF0
宙から刃が突き出し、諸星きらりに突き刺さっていた。
「きらり!!」
向井が叫ぶ。
諸星が宙に向かって拳を振るう。
すると、肉の鈍い音がした。
透明になる術か!?
向井がそう理解した時に、安斎は既に動いていた。
籠の真上に向かって、自身の小太刀を投擲する。
すると、それは宙に突き刺さり、籠を越え、
森へ消えた。
26:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:24:36.74
ID:zOwcRhlF0
服部瞳子は、思いがけない反撃に驚いた。
まさか動きを見切って、透明になっていた
服部に攻撃を仕掛けてくるとは。
彼女は、安部菜々と佐々木千枝、村上巴の3人に合流した。
「派手にやられましたね!」
苦痛にあえぐ服部を気にせず、菜々は小太刀を
傷口から抜いた。
「だから言うたじゃろうが」
村上が肩をすくめた。表情は嬉しそうだった。
27:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:25:35.50
ID:zOwcRhlF0
「ナナさん、治療を…」
服部は懇願した。
しかし、菜奈は人指し指を横に振った。
「治してもらえる、そう思っているから負傷するんですよ!
キャハっ!!」
千枝もにこにこ笑っている。
“最年少の”服部は、何も言い返すことができない。
28:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:26:12.15
ID:zOwcRhlF0
菜々さんの字がまちがっとるー!!!
29:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:27:26.61
ID:zOwcRhlF0
「ところで……うちら、今日の夕餉はどうするんじゃ?」
村上は尋ねた。
忍者の社会構造よりも、夕食のことが気にかかる。
村上はすでに顔が割れているから、付近の茶屋などで
軽食を済ますこともできない。
忍達の方は、どうなのだろうか。
30:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:28:19.88
ID:zOwcRhlF0
「ナナ達は…蛇でも食べましょうか…金欠ですから…」
菜々の表情が、一気に暗くなった。
「…忍者って、貧乏なんか?」
「まあ、目立った生活はできませんからね…
今回の仕事も、別に報酬とかありませんし…
荒木の家臣達は“忠義だ”、“大義だ”って…。
それでお腹は膨れないのに…」
非常に物悲しそうな表情で、菜々が言った。
村上は、忍者生活の苦労を忍んだ。
31:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:29:19.50
ID:zOwcRhlF0
向井が倒れた諸星に手を貸そうとすると、
かな子の従者達が止めた。
「諸星殿は、我らが運ぶであります!」
向井は困惑した。
たかが一介の護衛に、何故。
「かな子様の命ですっ! 押忍!」
向井と双葉は、はっとかな子の籠を見た。
そして、両者は深々と一礼した。
32:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:29:55.53
ID:zOwcRhlF0
荒木比奈は、自身の書室で頭を悩ませていた。
将軍になどなる気はないのに、家臣達が勝手に動いた。
そして、親友のかな子を暗殺するという。
比奈は家臣達が、自分ではなく
“荒木という権力”に仕えていることに、
前々から気づいていた。
比奈の意見には、毎度「しかし」を付けて、
自分たちのいいように捻じ曲げる。
我らにお任せ下さい、と言って報告を怠る。
失態をすれば、身内で卑しく庇い合い、
罰する側の比奈が悪いように責める。
33:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:30:39.71
ID:zOwcRhlF0
できることなら全員打ち首にしてやりたいが、
別に家臣達は比奈に悪意を持っているわけではない。
領民達への手前もあり、簡単には処罰できないのだ。
そして頼れる忍、安部菜々と佐々木千枝は
尖兵として出立してしまった。彼女達を使うことはできない。
比奈は、かつてない無力感に打ちひしがれた。
34:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:31:36.13
ID:zOwcRhlF0
3日後。
三村一同は山道を抜け、美城領の一歩手前にたどり着いた。
物静かな郊外を好む、奇特な武士達が築いた屋敷群。
時刻は夕暮れ。
諸星きらりは離脱。どうやら、敵の刃に毒があったらしい。
かな子の医師が手を尽くしてくれているが、
未だ意識は戻っていない。
向井、安斎、双葉の3名で、かな子を守らねばならないのだ。
35:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:32:20.92
ID:zOwcRhlF0
向井拓海、安斎都はかな子のいる屋敷の外に立った。
双葉は中で、かな子と諸星を守っている。
「透明になる忍者、どうやって倒しますか?」
安斎は向井に尋ねた。
術は単純明快、ゆえに厄介。
おおまかな場所をつかんで攻撃しても、
仕留めることができない。
急所がわからないからだ。
36:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:32:53.90
ID:zOwcRhlF0
「掴んで死ぬまで殴る」
向井は獰猛な顔で言った。
完全に頭に血が上ってしまっている。
これじゃあ、双葉さんの方がかえって落ち着いてますね…。
安斎は肩をすくめた。
そんな2人の前に、刺客達は正面から現れた。
37:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:33:25.18
ID:zOwcRhlF0
「一応聞いてやる。何者だ」
「ウサミン星からやってきました、
安部菜々17歳です! キャハっ!!」
「はは、面白いやつだ」
向井の蹴りで、相手の頭が身体を残して、
どこかへすっ飛んでいった。
「安斎、餓鬼の方を頼む」
「了解です!!」
だぶだぶの着物を着た娘を、安斎が弾き飛ばした。
そして、彼女は向井から離れていった。
38:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:35:54.45
ID:zOwcRhlF0
双葉杏は座敷で瞑目していた。
諸星が負傷、いまは生死をさまよっている。
さらに相手方には村上がいる。
三村側にとっては苦しい状況だ。
木村夏樹は多額の報酬を貰っておきながら、
なぜ護衛を4人に限定したのだろうか。
双葉らが腕利きなのは間違いがないが、
次期将軍をお守りするとなれば、
もう2人か3人欲しいところだ。
それだけでなく、情報を持った村上を荒木側に送るとは。
まるで、意図的に三村側が
不利になるように仕向けているようだ。
双葉にはそう感じられた。
39:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:36:41.65
ID:zOwcRhlF0
金に目が眩んでいるのか、最近の木村は妙な采配が目立つ。
新城の材木集めにしても、一歩間違えば桐生屋と財前屋
両者を敵に回していた。
彼女の頭が切れることには間違いがないが、
『木村屋』はしょせんごろつきの集まりだ。
背伸びはあまりしすぎない方がいい。面倒なことになる。
双葉はざらついた畳を撫でた。
武家社会からはぐれた自分達に、誇るべき功も名誉もありはしない。
木村屋の仲間、互いを守ること。
それだけが双葉達に残された、唯一の矜持だ。
40:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:38:10.49
ID:zOwcRhlF0
「これで2人っきりだ、巴」
向井拓海は、村上巴を見た。
「お前を殺さないために、刀を持ってこなかったんだ。
感謝しろよ!」
「そいつは有難いのう」
残された菜奈の身体を見ながら、村上が苦笑した。
「拓海さん、うちはな。
木村屋の中で、アンタと一番戦いたかったんじゃ。
仕事のことは正直どうでもええ」
村上が小太刀を抜いた。
その表情は、本気で向井を殺すつもりだった。
41:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:38:50.40
ID:zOwcRhlF0
「アンタ、片桐さんより強いんか」
「あん?」
久しぶりに出た名前に、向井は眉をひそめた。
今は亡き片桐早苗。旧東郷派の中で、
木場と並んで最高戦力と目された女。
個としての破壊力は、美城内でも随一だった。
「わかんねーな」
向井は、その片桐より強くなったかと
言われると少々自信がない。
「まあでも、アタシはお前よりは強い。
断言してやるし、証明してやるよ!!」
向井が構えた。
その表情も、仲間に向けるものではなかった。
42:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:40:17.69
ID:zOwcRhlF0
安斎は、相手を観察した。
だぶついた着物は、間合いをごまかすための工夫。
それによって、袖から伸びた刀の長さは分からない。
しかし太刀筋さえ大きく避ければ、攻撃は当たらない。
つまらないですね…。
そう思い、安斎は勝負を決める算段をつけた。
十手で武器を破壊し、その表情を楽しんでから、
体術で首をへし折る。
43:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:40:58.47
ID:zOwcRhlF0
相手が、苦しげな顔で
太刀を振り続け消耗している。
頃合いか。
安斎は、突きを十手で抑えた。
それで刃が止まるかと思われた。
しかし、刃はそこからさらに、にゅっと伸びて、
安斎の喉を貫いた。
彼女が驚いて相手を見ると、だぶついていた筈の着物から、
手足が見えていた。
「千枝、ちょっと…背伸びしちゃいましたっ!」
人外の忍、佐々木千枝は純真な笑顔で言った。
44:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:41:51.17
ID:zOwcRhlF0
向井が振るった腕を、村上が片手で掴む。
関節を破壊するつもりであった。
しかし、向井は腕に村上をぶら下げ、
彼女を壁に叩きつけた。
「楽しいか、村上!!
楽しいですって言ってみろよ!!」
「はははは!
やっぱりアンタは面白いのう!」
45:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:42:22.71
ID:zOwcRhlF0
向井は小太刀によって、身体中を切り刻まれている。
血も大量に失い、顔は青ざめている。
しかし表情は楽しくてしょうがない、
という風に笑っている。
村上は肋骨五本と右腕をへし折られ、
本当は立っていること自体が奇跡である。
彼女は顔を真っ白くしながらも
悪鬼のように口を大きく横に裂く。
46:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:42:59.45
ID:zOwcRhlF0
「このまま死んだってええ!」
血のあぶくを吐きながら、村上が言う。
凄まじい充実感。望外の幸福。
平和な日常の中では味わえない、
苦痛と快楽の無間地獄。
本当は、このまま永遠に向井と戦い続けたい。
しかし、身体が限界だった。
脚ががっくりと、地面についた。
終いか。
そう思った時には、村上の顎に
向井の拳がめり込んでいた。
47:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:43:37.77
ID:zOwcRhlF0
屋敷の壁の上にいた服部瞳子は、
向井拓海と村上巴の戦いを見ていた。
そして戦いの最後、自分の位置まで
飛ばされてくる村上と目が合った。
彼女は恐怖を覚えた。
村上は最後の最後まで、笑っていた。
48:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:44:31.54
ID:zOwcRhlF0
ひゅるりと落ちていく彼女を、下で向井が受け止めた。
村上はすでに痛みで気を失っていた。
ここが頃合いか。
服部は弱った向井に攻撃すべく、
その背後に音もなく降り立った。
むろん身体は透明化している。
気づかれるはずがない。
ないはずだった。
49:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:45:05.74
ID:zOwcRhlF0
「見物料払えよ、てめえ!!」
向井の回し蹴りが、服部のこめかみに衝撃を与えた。
頭蓋に罅が入り、視界が乱れる。
慌てて向井から離れながら、服部は自身の位置が
ばれた理由を探った。
隠し持っていた手鏡で自身の顔を見ると、
村上の血が顔にかかっていた。
先ほどは動揺のあまり、気づかなかったようだ。
向井は追ってこない。彼女も村上と同じく、限界のようだ。
服部は顔を拭って、ふらつき、嘔吐しながらも
かな子のいる屋敷に向かった。
50:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:45:54.07
ID:zOwcRhlF0
安斎都は、かろうじて生きていた。
しかし声帯が潰され呼吸が苦しい。
「惨めで、無様で、本当に素敵なお姿ですね…尊敬しちゃいます!」
佐々木千枝はとどめを刺さず、安斎の方を嬉しそうにみた。
彼女は、安斎と同質の人間だった。
「ああ…でも千枝、一応お仕事の途中でした」
千枝はかなり長い間安斎を見つめていたが、
ふと思い出したように、かな子の屋敷に向かった。
杏さん!
安斎の叫びは、声にならなかった。
51:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:46:47.68
ID:zOwcRhlF0
服部瞳子は、
佐々木千枝よりも先に屋敷に侵入していた。
先ほどの反省を生かし、透明化。
さらに天井の裏を移動した。
見張りには、まったく気づかれなかった。
そして、かな子のいる寝間の前までたどり着いた。
その部屋には双葉杏がいた。
なぜか五体を畳に投げ出して、脱力している。
さらに瞳も閉じていた。
まさか仲間が死力を尽くしている間、
眠っていたのだろうか。
服部は、諸星や向井から受けた傷の復讐のために、
そっと双葉のそばへ降りた。
52:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:47:23.57
ID:zOwcRhlF0
すると、ふあっと何かが舞い上がった。
埃……いや、これは灰!!
気づいた時には、服部の両脚はぐにゃりとしていた。
まるで、酒に酔ってしまったように。
「あーあ…姿が見えないから、外しちゃった…」
双葉は刀を手に、立ち上がっていた。
彼女は服部の両脚の腱を、正確に斬っていた。
53:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:47:49.94
ID:zOwcRhlF0
「どこが急所だかわかんないや」
刃を宙で振りながら、双葉は考えるふりをした。
灰で“くっきり浮かび上がる”服部を見つめながら。
「とりあえず、“脚から一寸ずつ”輪切りにしていこう。
そうすれば、心臓なり首なり…どっかに当たるよね」
その表情は、笑っていた。
あまりにも、凄絶な笑みだった。
54:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:48:52.35
ID:zOwcRhlF0
屋敷に踏み入った佐々木千枝は、
異様な光景を目にした。
一寸ほど薄さの、赤黒い肉が入り口に落ちている。
それがまた点々と、奥の部屋まで続いている。
辿っていくと、そこには双葉杏がいた。
55:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:49:23.96
ID:zOwcRhlF0
「子どもがくるところじゃないよ」
「子どもって…あなたも」
そう言いかけた千枝の顔に、何かが被さった。
慌てて剥がすと、栗色の毛が生えた、血まみれの皮。
服部瞳子の頭皮だった。
56:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:49:51.86
ID:zOwcRhlF0
「うわああああああっ!」
千枝は恐慌してそれを放り投げた。
べしゃり、と湿った音を立てて地面に落ちた。
「ねえ、杏と戦う?」
双葉が千枝に尋ねた。
まったく、面倒臭そうな顔をしていた。
57:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:50:23.68
ID:zOwcRhlF0
「わ、私だって荒木の忍です!!」
千枝はそう叫んで、刃を振るった。
術も使った。
関節を自身で外し、さらに皮膚も伸ばして、
間合いを延長した。
それを双葉は初見で見切り、躱した。
千枝が、あきらかに離れた間合いから剣を振るったため
技の正体に気づかれてしまったのだ。
服部と同じく、動揺が仇になった。
58:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:50:59.46
ID:zOwcRhlF0
「もう一度聞くよ…杏と戦う?」
まったくつまらなそうに、双葉が再び尋ねる。
千枝は手裏剣を五枚、投げた。
技を活かし、様々な角度から。
一枚目。回避。
二枚目と三枚目。切断。
五枚目と四枚目は、左手でつままれた。
59:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:51:30.64
ID:zOwcRhlF0
「…悪い子だね」
双葉が刀を振るうと、千枝はがつんと転倒した。
両脚が切断されていた。
間合いの外なのに。
そう思って顔をあげた千枝が目にしたのは、
右腕の関節をはめ直す相手だった。
「身体があったまってきたから、そろそろ始めるよ」
すでに身動きがとれない千枝に、双葉はそう言った。
60:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:52:03.46
ID:zOwcRhlF0
向井達は幕領地美城まで、
かな子を安全に送り届けた。
命がけで戦った彼女らに、
追加の恩賞が賜れることになり、
向井一同は城郭に招かれた。
61:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:52:33.85
ID:zOwcRhlF0
「此度の護衛、ご苦労であったぞ」
かな子は相変わらず、小倉饅頭を食べ、
読本を流し読みしていた。
「いえ、こちらもかな子様の
御厚意によって、諸星の命が助かりました。
感謝の表しようも御座いません」
双葉が深々と頭を下げた。
形式ではなく、心からかな子に感謝していた。
62:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:53:05.74
ID:zOwcRhlF0
「向井は、木村屋の仲間である村上と、
死力を尽くして戦ってくれた」
「は…」
「いえ、ただの内輪揉めにございますゆえ、心遣いは無用にございます」
向井拓海の言葉を、双葉が遮った。
向井は苦笑した。まったく言い返す言葉もない。
63:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:53:35.25
ID:zOwcRhlF0
「安斎も、よくやってくれた。
治療代は追加で渡すゆえな、養生せい」
安斎都はうなずいた。
負傷によって声が出せなくなったせいか、
ずいぶんしおらしくなっていた。
64:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:54:10.84
ID:zOwcRhlF0
「それで提案なのじゃが…」
かな子は饅頭と読本を置き、
向井達の方をまっすぐに見た。
「これからも、我が側にいてくれぬか」
その言葉に一同は、素直に頷けなかった。
“側”の意味を測りかねていた。
双葉は青ざめていた。
65:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:54:37.95
ID:zOwcRhlF0
「遠慮は無用じゃぞ。
村上とやらも処罰はせぬし。
“島流しにあった罪人がいようと”、気にすることはない」
続くかな子の言葉に、向井達は顔を見合わせた。
どこかで、木村のからから笑う声が聞こえた。
66:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:55:12.51
ID:zOwcRhlF0
荒木城。書室。
「おかえりなさいッス」
荒木比奈は、安部菜々と佐々木千枝を迎えた。
「服部サンは?」
「つまらないことにこだわって失敗したので、不合格です!
まあ、“荒木家からの”任務は、私も失敗したんですけど!!
キャハっ!!」
安部菜々の首は元どおりになっていた。
傷跡すらも残っていない。
67:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:55:57.77
ID:zOwcRhlF0
「千枝チャンおつかれまッス」
比奈は千枝をねぎらったが、口を開かなかった。
「かな子様の方に、ちょっと恐ろしい剣士がいまして!
千枝さんの蘇生にちょっと手間取っちゃいました!
キャハっ!!」
「そりゃあ…ナナさんもおつかれさまッス」
菜々は、荒木家の“初代当主の代から”仕えている。
忍としての役割は、敵の陽動。
したがっていつも、目立った格好をしていた。
68:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:56:32.38
ID:zOwcRhlF0
「ナナさん達は、死んだことになってるッス」
「一応、荒木家への義理は立てたことになりますね!
これでまた、比奈様のために働けます!!」
菜々と千枝は荒木家ではなく、
比奈個人に対して忠誠を誓っている。
服部は荒木家側の忍だったが、“まったく不運なことに”、
命を落としてしまった。
「私も落ち着いて、執筆を進めることができるッス」
「女色についてなら、ナナが手取り足取り教えてあげますよ!
キャハっ!!」
安部菜々はそう言って笑った。
この1週間後、荒木家の家臣達は謎の死を遂げた。
70:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:58:06.87
ID:zOwcRhlF0
一方その頃、本州から離れた孤島。
71:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 12:59:35.44
ID:zOwcRhlF0
島村卯月は家老殺害の罪で、
もとは死罪となるはずであった。
しかし、千川ちひろの度を越した享遊ぶり、
そして派閥争いに腐心して
領民を虐げたことなどが考慮され、
流罪に留められた。
現在卯月は、幽閉生活を送っている。
その身体はやせ細っていた。
しかも、もう何日も眠っていない。
72:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:00:27.48
ID:zOwcRhlF0
数日前、卯月が気まぐれで夕食を鼠に与えると、
泡を吹いて死んだ。
毒を盛られていたのである。
その時、卯月は大笑いした。
彼女は、千川ちひろの死に様を思い出していた。
すぐに憎悪も湧き上がって、笑いはすぐに止まった。
73:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:01:16.97
ID:zOwcRhlF0
今の卯月に心理的な余裕はない。
孤独な幽閉生活と、神経を擦り減らす旧千川派への警戒。
加え、どうしようもない空腹感が、彼女の心を蝕んでいく。
ここで自分は死ぬのか。
卯月はそう思った。
たとい旧千川派の手にかからなくとも、このままでは餓死する。
牢を破るような力も、策も湧き上がってこない。
74:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:01:46.79
ID:zOwcRhlF0
「未央ちゃん…」
卯月は、本田未央の名を呼んだ。
彼女がここに現れれば、樫の格子など簡単に破壊して、
卯月を助けてくれるかもしれない。
75:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:02:18.94
ID:zOwcRhlF0
「呼んだ?」
実際は、鍵を普通に開けて入ってきた。
76:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:02:59.45
ID:zOwcRhlF0
「ええぇっ!?」
卯月は仰天した。
自分は幻覚を見ているのか。
とにかく信じられなかった。
「ほっぺを抓ってください」
卯月は、未央にそう頼んだ。
「いいよ。ていうか、私名前教えたっけ?」
未央は首をかしげながら、
卯月の両頬を思い切り引っ張った。
77:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:03:59.42
ID:zOwcRhlF0
「凄く(ふごふ)痛い(いひゃい)です…」
「だろうね。離していい?」
「いえ、しばらくこのままでお願いします…このまま…」
卯月は、ぽろぽろと涙を流した。
78:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:04:42.04
ID:zOwcRhlF0
一体、この島村卯月という女は何者なのか。
未央は不思議に思った。
腕に巻かれた編み紐が、卯月の涙で、しっとりと濡れた。
79:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/08(木) 13:05:37.15
ID:zOwcRhlF0
おしまい
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