1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:02:55.06
ID:BPhGW6f80
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:04:02.17
ID:BPhGW6f80
人類が宇宙に進出し、
地球が寝物語の中で語られるようになった頃。
銀河は、大規模な艦隊戦によって国境が引かれていった。
最高の版図を誇るのは、帝政国家『リューザキ』。
その広大さは、観測可能な領域の50%を占める
次点が『Новый советский(新ソビエト連邦)』。
領域の35%。
最も小さいのは経済同盟体の櫻井クラスタ。
さらに、母星が他の2国に
挟みこまれるように位置している。
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:04:54.16
ID:BPhGW6f80
一見神に見放されているとしか思えない環境だが、
こと経済力に限って言えば、
クラスタはリューザキすら凌いでいた。
15%の中に主要な鉱山惑星や、資源衛星があり、
極め付けは、銀河に存在する企業の
80%がクラスタの関係企業なのである。
この中には無論軍事企業もあり、
リューザキと連邦が戦争になった時には
両国が櫻井製の戦艦を用いていて、
最終的な勝者はクラスタであった、という実話も数多い。
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:05:26.20
ID:BPhGW6f80
とはいえ、現在は一応のデタント期。
大規模な艦隊戦は“表面上は”行われず、
なにかしら利益の衝突があった際には、
協議か、シミュレーションによる
宇宙戦によって合意がなされた。
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:06:14.28
ID:BPhGW6f80
ある時、竜骨座矮小銀河内において、
多数の鉱山惑星が確認された。
発見したのは、リューザキの観測船だった。
この惑星群は、まさに名前の通り、
「龍の骨」となるだろう。
乗員達は喜び勇んで、惑星に上陸した。
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:06:59.51
ID:BPhGW6f80
しかし、資材を搬入したところ、
朽ち果てた宇宙船を発見した。
どうやら、銀河を彷徨った果てに墜落したようだ。
乗員が外装を調べると、
クラスタの関係企業の探索船だった。
一同は、嫌な予感を覚えた。
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:07:31.80
ID:BPhGW6f80
とはいえ、宇宙船は数世紀も前のもの。
黙っていれば問題ない。
乗員達は何も見なかったことにして、
採掘を行なった。
そして、乗員達に勲章の授与が決定された頃。
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:08:00.10
ID:BPhGW6f80
不法採掘の抗議が届いた。
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:08:50.40
ID:BPhGW6f80
どこから情報が漏れたのか、それは誰にもわからない。
だが、クラスタの探索船が
あったことは明らかになった。
結局、鉱山惑星の所有権は、
模擬戦によって決められることとなった。
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:09:33.23
ID:BPhGW6f80
模擬戦は、互いに1人ずつ司令官を選抜して行う。
過去には大人数で計画されたこともあったが、
スパイやメンバーの買収などが横行したので、
規模が縮小された。
両者はあらかじめ決められた予算内で
艦隊を組織する。
さらに、資金を投じてデータバンクから
優秀な指揮官やパイロットのAIを導入できる。
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:10:11.68
ID:BPhGW6f80
制限時間は8時間。
指揮艦を落とすか、相手の戦力を6割方削れば即時の勝利となる。
もし時間内に決着がつかなければ、
残存戦力の多寡で勝敗が決まる。
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:11:41.80
ID:BPhGW6f80
財前時子は、自身の執務室で相手の情報を眺めていた。
紅色にもみえる、光沢のある栗色の髪。
資料に穴があくのでは、
と思わせるほどの刺々しい印象を与える瞳。
顔立ちは整っているが、
近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
今年21歳で、階級は中尉。
17歳の頃に士官学校を卒業して少尉であったから、
昇進のペースは少し遅いと言える。
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:12:33.67
ID:BPhGW6f80
それは時子が無能だからではない。
彼女はむしろ才能に満ち溢れていた。
首席で卒業し、宇宙海賊相手に華々しい勝利を量産。
連邦との小競り合いで、相手の艦隊を
圧倒的な損害比で撤退させたこともある。
高速強襲艦による電撃戦を得意とし、
短時間で相手に致命傷を与える。
あだ名は『血紅の鞭(ブラッドウィップ)』。
嗜虐的な性格と容赦ない攻撃で、
敵艦隊に深刻な出血をさせることから、
その名がついた。
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:13:19.34
ID:BPhGW6f80
しかし、彼女はその才気と性格ゆえに、
無能な上官に対しては、決して頭を下げない。
命令も無視する。効率が悪いと判断するからだ。
そのせいでいくら功を挙げても、
命令と規律の無視によって、昇進が遅れた。
戦勝祝いの最中、営倉にいたことも少なくない。
15:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:14:11.11
ID:BPhGW6f80
今回の模擬戦は、時子にとっては最高の機会である。
彼女は、司令官として選抜された。
事態が事態ゆえ、上層部は好き嫌いに
こだわっていられなかったのだ。
模擬戦に勝利すれば、すくなくとも准将、
運が良ければ中将まで昇進できる。
有名無実の豚どもの、
薄汚い尻を蹴り上げてやることも夢ではない。
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:14:53.04
ID:BPhGW6f80
時子はいつも以上に神経質になって、
相手について調査を重ねた。
彼女はプライドが高い。
ゆえに、自身のプライドを
満足させるための努力は怠らない。
「法子、双葉杏の性格は分かるかしら」
平時より、1ミクロンほど穏やかな声で、
時子は尋ねた。
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:15:34.33
ID:BPhGW6f80
相手は椎名法子。
時子の副官で、年齢はまだ13歳。
豊かな赤毛をポニーテールにまとめ、
瞳はくりくりとまあるい。
表情はいつも柔和で、性格は極めて温和。
時子とは対極の性格である。
なぜうまくいっているのか周りはよく噂するが、
逆に法子ほどの器がなければ、時子の副官はつとまらない。
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:16:24.01
ID:BPhGW6f80
年齢にそぐわない地位にいるのは、
実は、彼女が時子を凌ぐ才覚の持ち主だからである。
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:17:15.25
ID:BPhGW6f80
時子は士官学校の中等コースで、
三回ほど講義を行なったことがある。
彼女にはどの生徒も間抜け面に見えて、苛々していた。
そして生徒の中で一番間抜けに見えたのが、法子であった。
授業中にこっそりドーナツを食べて叱られているし、
居眠りはしゅっちゅう。
口周りは菓子の滓で、少し汚れていた。
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:18:12.66
ID:BPhGW6f80
だが、法子は時子がストレスの発散のために
ぶつけた質問に全て正解した。
その中には、中等クラスでは到達していないものも
あったが、法子は自身の直感と解釈で、正答を導き出した。
それが生意気で、時子は模擬戦を申し込んだ。
結果は時子の全勝。
大人気ないと周りから呆れられた。
21:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:19:09.72
ID:BPhGW6f80
時子は、その周囲にこそ苛立った。
たしかに彼女は法子の指揮艦を短時間で墜とした。
艦隊の物理的な被害は少ない。
しかし、兵站の側面から言えば、壊滅状態だった。
法子は徹底的に補給船を破壊、補給網を分断した。
戦闘が長引けば、時子の方が音を上げていた。
さらに言えば、これが事実の戦闘であった場合、
戦略的には時子の敗北である。
法子の軍は、母艦を移せばすぐにでも戦闘が行える状態。
一方の時子は、撤退して戦力の立て直しが必要。
だからこそ、彼女は周囲に苛立ったのだ。
大局を見れない無能ども。
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:19:39.23
ID:BPhGW6f80
そしてその無能どもが、法子の才能を
腐らせるのに我慢がならなかった。
時子は生まれて初めて他者のために尽くした。
丁寧に書状をしたため、
法的機関に不本意ながら頭を下げ、
親族を忍耐強く説得し、
士官学校から法子を引き抜いた。
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:23:09.43
ID:BPhGW6f80
そのせいで妙な噂が立ったが、
時子は全て無視した。
下等な虫ケラの羽音には、
苛立つことさえ時間とエネルギーの無駄だ。
24:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:24:53.10
ID:BPhGW6f80
「戦局を判断できるほどの情報はありませんね〜。
“人がいやがることを進んでやる”とか」
法子が答えた。
双葉杏は17歳。
階級は准尉相当。
今年士官学校を卒業したばかりだ。
成績は中の上。
それだけ見れば、なぜ選抜されたのかわからない。
実戦経験もないので、どのような戦術を用いるのかも不明。
あるいは、この情報の不明瞭こそが、クラスタの計略か。
「不幸な役回りを押し付けられたのかしらね」
時子は、つまらなそうに資料を弾いた。
クラスタは経済的な成功をおさめているが、
戦略的な勝利は、いまのところ全くない。
『戦う状況にさせないこと』がモットーなのだという。
士官学校も創立から一世紀も経っていない。
教育ノウハウの蓄積が、まったくなされていないのだ。
それでいて、模擬戦を申し込んできたのはクラスタ側。
負けが予想されるとはいえ、
協議に無駄な時間を割くのを嫌ったのだろうか。
「“時は金なり”ということでしょうかね〜」
法子は、かすかに妙な予感を覚えながらも、そう言った。
25:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:25:55.27
ID:BPhGW6f80
模擬戦の会場で時子達は、双葉杏と顔を合わせた。
身長は139cm。時子どころか、法子よりも低い。
さらさらとした絹のような金髪を、
ぼさぼさにして、軍帽で抑え込んでいた。
だらしなさが皮をかぶっているような表情をしていて、
5分に一回はあくびが出る。
悪人には見えないが、生真面目にも到底見えなかった。
「今日は、お手柔らかに」
言葉では礼儀正しく、時子が言った。
だがその表情は苛立ちを隠せていなかった。
この財前時子を相手に、
こんな奴を差し向けてきたのか、と。
「ん〜、こひらこそ」
口調が妙だと思ったら、杏は飴を舐め転がしていた。
人と話している時に。
時子の右手がゆらりと上に上がるのを、
法子が抑えた。
26:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:26:49.05
ID:BPhGW6f80
シミュレーションが起動。戦端が開かれる。
電子の銀河を、深紅の電撃が斬り裂く。
『血紅の鞭』。
時子のあだ名と同名の艦隊だ。
「短時間で這いつくばせてやるわ」
獰猛で、ひきつった笑みを浮かべながら
時子は言った。
そして、交戦を開始した数十分後。
27:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:27:20.70
ID:BPhGW6f80
時子の艦隊の4割が沈黙した。
28:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:28:47.54
ID:BPhGW6f80
「〜〜ッ!!」
時子は声にならない叫びを上げて、
コンソールの一部を破壊した。
自身の艦隊が接触したのは、相手の艦隊ではなかった。
空間を埋め尽くす、500億を超える砲台。
杏は戦艦に一切資金を投じず、この砲台軍を配置したのだ。
しかも一斉に発射されたのが、プラズマ粒子。
物理的な破壊力が低い代わりに、戦艦の機器や
レーダーに致命的な障害を与える。
これによって先陣の艦隊は沈黙。
続く第二陣も、あまりの高速で移動するあまり、
停止した艦隊に衝突、大破。
第三陣は、前線で起こった事態を把握できずに
宙域に到達し、以下は同じことが繰り返された。
運用速度の高さが仇となり、対応が遅れてしまった。
30:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:29:27.81
ID:BPhGW6f80
時子は奥歯を砕けるのではというほど
噛み締め、艦隊を退却させた。
そして遠距離から、星のような数の砲台を攻撃する。
ちまちまとした、単純作業。
時子が最も嫌うものだ。
結局、5時間かけて砲台網を突破した。
そして、杏の指揮艦を発見した。
31:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:30:06.71
ID:BPhGW6f80
それは夜空に融けていくような、
漆黒の戦闘機であった。
時子は素早く、模擬戦の要項を思い返した。
『指揮艦は、指揮官が搭乗するものとする』
戦艦にしろとは一言も書かれていないし、
戦闘機が駄目だとも記されていなかった。
32:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:30:59.24
ID:BPhGW6f80
機体データは、前川製の『マンチカン』。
複座式の戦闘機としては非常に小型で、
武装が乏しい代わりに、運動性能、機動力で他を圧倒する。
主に偵察などに用いられている現役機だ。
さらに操縦者は、双葉杏ではなかった。
『岡崎泰葉』。
伝説のエースパイロットのAIが、ダウンロードされていた。
ここで、時子は杏の戦術を悟った。
そして今度は、コンソールの半分を破壊してしまった。
33:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:31:44.82
ID:BPhGW6f80
結果は杏の勝利。
タイムリミットまで、超高速で宙域を逃げ続けた。
最後、時子は砲台を攻撃し、
戦力を削るように試みたが、
数があまりにも膨大であったため、間に合わなかった。
34:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:32:20.18
ID:BPhGW6f80
「これは…艦隊戦ではありません」
全壊したコンソールに突っ伏した時子に、
法子が言った。
「いいえ…私は、負けた。完膚なきまでに」
時子は、忌々しく思いながらも杏を称賛した。
敗北を敗北と認めずに喚くのは、彼女の矜持に反する。
35:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:33:41.50
ID:BPhGW6f80
模造のブリッジから出ると、外では非難の嵐だった。
敗者の時子に対してではない。
むしろ軍の関係者や、一般の観戦者などは、
彼女に同情的ですらあった。
だが、それに喜ぶ時子ではない。
無能がいくら味方になったところで、敵よりも厄介だからだ。
時折かけられるエールの声に
耳を塞ぎならがら、時子達は会場を後にした。
36:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:34:27.74
ID:BPhGW6f80
かくして、竜骨座矮小銀河内の
領有権はクラスタのものとなった。
その宙域に駐留する艦隊は、
『アプリコッツ』と称され、
その指揮官はいつも昼寝をしているそうである。
37:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:34:57.52
ID:BPhGW6f80
おしまい。
38:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:35:01.17 ID:QnImSj4hO
ヤン提督かってのwww
39:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 00:35:42.90
ID:BPhGW6f80
>>38
正直意識してた。
あと、『タイタニア』のヒューリックも。
45:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/16(金) 08:04:54.54
ID:BPhGW6f80
読み返したら表現吹っ飛んでますねえ
「手を上に上げる」とか「さらさらの〜ぼさぼさにして」とか
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497538974/
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