ダンテ「学園都市か」【MISSION 17】

2010-10-28 (木) 18:02  禁書目録SS   1コメント  
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とある魔術の禁書目録より─ステイル=マグヌス



前→ダンテ「学園都市か」【MISSION 16】
最初から→ダンテ「学園都市か」



624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:06:36.35 ID:lj6gqawo
―――

魔界、煉獄の深淵。

暗く淀んだ『怨念の海』の上に佇む、白亜の大きな列柱廊円形ホール。

上も下も漆黒の闇である為、
その白き建造物とのコントラストが異様に際立っていた。

そのホールの中。

そこに今、一人の古の魔女と。

一人の最強の悪魔が立っており。


その前で、一人の『生れ落ちたばかり』の悪魔が床に四つんばいになり、
肩を大きく揺らしながら激しく呼吸していた。


アイゼン『…………それでこの者、使えそうか?』

第10代目アンブラの長、『魔女王』と称えられたアイゼンが、神裂を見下ろしながら
隣のバージルへ向けて口を開いた。


バージル「…………まだだ。少し『足りん』」

バージルはそれに対しそっけなく答えた。
全く感情の読めない冷たい眼差しを神裂に向けながら。



神裂「……はぁっっ…………ふっ…………?」




625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:08:49.00 ID:lj6gqawo

アイゼン『調整できるか?』

バージル「ああ」

アイゼン『間に合うか?』

バージル「間に合わなかったら別の候補を使えば良い」

アイゼン『そうか…………一つ言っておくぞ。この者はそなたの力から生れ落ちた、いわば「子」だからな』

アイゼン『粗末にするのではないぞ?例え本命に使えずとも、別の使命を与えるのだぞ?』

アイゼン『意志を全うさせてやれ』


バージル「黙れ。口を出すな」


神裂「………………はぁっ…………っ…………!!」

と、その時。

息を切らしながら、神裂はゆっくりと顔を上げバージルの目を真っ直ぐと見つめ。


神裂「……誓って……失望…………は絶対にさせません……如何なる事であろうと……必ずやり遂げます……」


途切れ途切れながらも、
己の心の内をバージルへ向けて宣誓した。


バージル「…………」

その言葉を聞き、バージルは表情を変えぬまま、
右手に持っていた抜き身の七天七刀を神裂の前へと放り投げた。



626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:09:57.71 ID:lj6gqawo

鋭い金属音を響かせながら神裂の直ぐ前、
白亜の床の上に落ちる七天七刀。

神裂「…………っ……!?」

バージル「さっさと拾え」

神裂「は、はい…………!!!」

その七天七刀の柄を握り締め、
神裂は震えながらぎこちなく立ち上がった。


アイゼン『もう始めるのか?』

そんな神裂の様子を見つつ、
アイゼンが小さく笑いながらバージルへと言葉だけを飛ばす。


アイゼン『まだ誕生したばかりだぞ?安定もしておらん。もうしばし時間を……』


バージル「不安定な今だからこそだ」


バージル「今が一番作り変えやすい」


アイゼン『ふ…………何とも……容赦の無い男よ』




627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:12:56.57 ID:lj6gqawo

神裂「…………まず……私は………何をすれば良いのでしょうか?」

息を切らし肩を揺らしながらも、神裂はしっかりとした目と声色で、
力強く主に対して問うたが。



バージル「…………二時間で『俺の全力の次元斬り』を使える様になれ」



神裂「…………!!?」



バージル「自由に扱える程とは言わん」



バージル「一発だ。一発使える様になれば充分だ」


目を丸くしている神裂を尻目に、
淡々と言葉を続けるバージル。


バージル「お前はその『一発の為』に生かされている」


そんな彼の瞳が徐々に赤い光を増していき―――。




628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:13:52.75 ID:lj6gqawo

バージル「もし使えぬのなら。そこまで到達できぬのなら―――」


次いで全身から青い光を放出し―――。


バージル『所詮その程度だったのならば―――』


バージル『その力を持つに足らぬ存在ならば―――』





バージル『―――さっさと死ね。邪魔だ』





―――そして魔人化する。



神裂「―――」

次の瞬間。

閻魔刀の鞘の先端が神裂の腹部に食い込こんだ。

湿った、不気味な破砕音を響かせながら。




629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:16:04.83 ID:lj6gqawo

先程とは桁違いの威力の突き。

例え真剣ではなくとも、魔人化したバージルの突きはそれはそれは凄まじいモノだった。


神裂「―――」

一瞬にして神裂は突き飛ばされ、
ホールの外の漆黒の海の上を1km以上も跳ねながらぶっ飛んでいった。

巨大な黒い飛沫をいくつもぶち上げ、凄まじい地響きを響かせて。

                                       ココ
アイゼン『…………あまり暴れるなよ?確かに「煉獄」が崩壊することは無いが、さすがに大きく軋むからな』

アイゼン『他の界の連中にそなたの匂いが気付かれて、下手すると諸神達が軍勢を引き連れて群がってくるぞ?』


バージル『ならばその連中も殺せば良い』


アイゼン『はは、うむ、確かにそうだな。そなたには要らぬ心配だったか」


バージル『…………「時の腕輪」は?』

アイゼン『ああ~、「あやつら」、「この間」かなり酷使しおったようだな。それはそれは修復が大変だったぞ』

アイゼン『ま、ジュベレウスを廃したのだ。この程度の損傷で済んでいた事に喜ぶべきだがな』

バージル『御託は良い。済んだのか?』


アイゼン『おおスマン。もう修復は完了した。使えるぞ』




630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:20:30.90 ID:lj6gqawo

アイゼンはゴソゴソと、袖口から一つの奇妙な腕輪を取り出した。

骨をモチーフにしたような、銀色の不気味な腕輪だ。
琥珀色の奇妙な時計盤が、張り出している鉤爪で固定されていた。

アイゼン『ほれ』

とその時。


『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!』


エコーのかかった凄まじい『女』の咆哮が、煉獄中に響き渡り、
周囲を大きく奮わせた。


そして神裂が吹っ飛んで行った方角で瞬く、青い閃光。

アイゼン『ほぉう。中々素養があるようだなあの者も』

バージル『…………腕輪は後で良い』

その光を見ながら、バージルは呟いた。

バージル『コレが済んでから受け取る』

アイゼン『……そうか…………しつこいようだが、くれぐれも力加減には気をつけるのだぞ?』

アイゼン『このやり方は危険だ。そなたであろうとミスはあるだろう?』

アイゼン『その小さなミスであの者は簡単に死にかねんからな。例え鞘でも、な』


バージル『…………言ったはずだ。口を出すなと』

念を押してくるアイゼンに対し、そう吐き捨てたと同時にバージルは一気に床を蹴り、
もう一つの『青い光』の方へと爆進していった。


アイゼン『…………………ふふは、スパーダの血は相変わらずだな』




631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:22:16.22 ID:lj6gqawo


煉獄を覆っている漆黒の海。

ただ、海と言ってもその水深は10cm程しかない。
底はまるで肉を踏んでいるかのように少し軟質だ。

更に、海を形成しているのは液体とは断言しづらい、得体の知れないモノだ。
液体のように波打ちながらも、霧のようにもやもやとして重量感がほとんど感じられない。


しかし、今の神裂にはそんな事に首を傾げている余裕など無かった。


神裂『ガァッッ…………ァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!!!!!!』

漆黒の海の上、神裂は全身から青い光を放ち瞳を赤く輝かせながら、
苦痛に顔を歪めて咆哮していた。

あの突きの一撃で、肋骨は粉砕。
複数の臓物も一瞬にして破裂した。

と同時に、内部の『何か』が『点火』されたようだった。

全身から噴き上がる、今まで感じたことの無いような莫大な力。
その力のおかげで損傷した腹部は一瞬にして再生したが、

今度はその凄まじい量の力で体中、内部をも全てをとんでもない激痛が襲い始めた。

七天七刀を握る手も焼かれていくような感覚。




632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:24:44.62 ID:lj6gqawo

神裂『ぐゥ…………!!!!!ァ゛ァッッ!!!!!!!!』

激痛の中、先程のバージルの言葉を思い出す。


「『俺の全力の次元斬り』を使える様になれ」


そして今のこの状況。

何の為にこうしているのかは、一目瞭然。
バージルクラスの次元斬りを放てる水準まで、神裂は到達しなければならないのだ。
それも二時間以内に。

今すぐに、だ。

このやり方はかなり強引だ。

例えるならば、身長を伸ばす為に体を力ずくで引き伸ばすような。

一歩間違えると、体が引き裂かれて命を落とす。

だがもう後には引けない。
既に始まっている。

バージルの力から生まれた七天七刀が、ついに神裂に対して全ての力を傾け始めた。

バージルの力から生れ落ちた彼女自身の力が、彼の突きで『点火』され最大出力で暴れ始めた。

これらを抑え込み、我が物とできるかどうかは彼女次第。
もしそれが出来なければ力との序列が覆り、彼女は飲み込まれて消滅する。

そして完全制御ができるようになったとしても、
今度はその水準がバージルの求める値まで到達していなければ、

用無しとしてあっけなく『処理』される。




633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:26:18.96 ID:lj6gqawo

これらは、一見すると不条理・理不尽な仕打ちに見えるだろう。

神裂『ぐッッッ…………!!!!!!』

だが、巨大な力がそう易々と手に入る訳が無い。

ましてやスパーダの血の系統の力。


この程度の苦痛など、かなり『割引』されている方だ。

そして何よりも、神裂がまず求めたのだ。

本当の意味で人々の為に戦いたい。

本当の意味で、『友』を救いたい。

そしてその為の『資格』が欲しい。

その為の『力』が欲しい。

なんとしてでも。

これは神裂自身の試練なのだ。

本当の意味での『彼女自身』の戦いの始まりだ。




神裂『(―――良いでしょう―――!!!!!!)』



神裂は苦痛を全身で味わい、そして受け止めながら心する。


必ずこの試練を乗り切る事を。

好機を与えてくれた『師』、彼女の『神』であるバージルを
決して失望させない事を。




634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:30:39.07 ID:lj6gqawo

神裂『―――』

ふと気付くと。

20m程正面に、いつのまにか『師』が悠然と立っていた。
魔人化し、周囲の空間を界ごと大きく歪めながら。

そして、鞘に入ったままの閻魔刀を軽く振り。


バージル『殺すつもりで行く。それしか見せ方は知らん』


バージル『直に見て、直に身に受けて「知れ」』


神裂『…………』

それに対し、神裂は固く口を結び、
全身を這い回る激痛を気にも留めずに独特の構えを取った。

七天七刀を体の前に突き出し、
己の中心線に重ねるように、手首を捻って垂直に刃の先を真下に向け。

そしてもう一方の手を軽く刀身に添え。


神裂『―――わかりました。始めましょう』


その神裂の言葉と構えを見、
バージルも閻魔刀を腰にあてがい構えを取った。


鞘での『お遊び』はもう終わり、だ。


ここからは『真剣』勝負。


日本刀をこよなく愛する一人の武人が、
史上最高最強の日本刀使いに認められる為に。


今、その最強の刃を前にする―――。


―――




635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:31:42.41 ID:lj6gqawo
―――

一方その頃。

とある深い森の中にある、古びた洋館。

時刻は深夜。
昼間でも薄暗いこの地は、今や異様な程に濃い闇のカーテンに覆われ、
風も吹かず音一つ、虫の鳴き声さえなかった。


そんな洋館の中、大き目の広間。
片側が大きくブッ潰れ、床下まで突き抜けているソファーの上で、
大きく股をおっぴろげて寝ていた妖艶な黒髪の女がもぞもぞと動き出し、目覚めの時を迎えた。


ベヨネッタ「……………………痛ッ…………」


と、起き上がろうとした瞬間、額から鼻先にかけて響く鈍痛。
軽く片手をあてがい、寝ぼけ眼、いや、寝起きの不機嫌そうな薄目で周囲をジロジロ見渡しながら
起き上がるベヨネッタ。


ベヨネッタ「…………ん……?……あ?……どーなってんのこれ?」


当然、周囲の惨状が目に入る。


と、そうやってボーっとしているベヨネッタへ向け。

ジャンヌ「おはよ」

壁際の椅子に座り、優雅に足を組みながら小難しい本を読んでいるジャンヌが、
そっけなく声だけを飛ばした。




636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:33:08.67 ID:lj6gqawo

ベヨネッタ「…………………これ……何?」

相変わらず思考が完全に覚めていないベヨネッタが、
やや呂律の回っていない声で呟いた。

ジャンヌ「あー、それか…………」


ジャンヌ「…………お前が寝ぼけて、一人でヘッドバッドかましたんだ」


ベヨネッタ「あ、そう…………」

ジャンヌの即興の嘘。
普通ならこれで誤魔化せないだろうが、相手はベヨネッタだ。

ベヨネッタは普通に納得した。
たまにだが、寝ぼけて周囲をぶっ壊すこともある。

ベヨネッタ「…………あ~、私のメガネ知らない?」

ジャンヌ「普通に木っ端微塵だろ」


ベヨネッタ「…………………………そう……」

ベヨネッタがぼーっとしながら呟き、軽く手を振った。
するとパチン、という音と共に、その指先にお馴染みの黒縁メガネが出現する。


そしてそのメガネを、依然のろのろと気だるそうな仕草でかけた次の瞬間。


ベヨネッタ「―――ッッッッハフェェェェェェェッッッッッッッ ――――――ッッッッッキシッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」


今度は全身を大きく躍らせながら、豪快なくしゃみを轟かせた。




637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:35:27.75 ID:lj6gqawo

ベヨネッタ「……ウ゛ゥ゛ー……」

ジャンヌ「…………んな格好で寝るからだろ」

鼻をズズっと鳴らし唸っているベヨネッタに向け、
ジャンヌは呆れたように吐き捨てた。


ベヨネッタ「……もっかいシャワー浴びる……」

そんなジャンヌの言葉など聞こえていないかのように、
ベヨネッタは歩きながら服を脱ぎ捨てて、浴室の方へとフラフラと向かい始めた。

歩いているにも関らず、起用にパンツをも脱いでいく。

ジャンヌ「セレッサ」

その時、ジャンヌは瞬く間に全裸になっていたベヨネッタを呼び止めた。


ベヨネッタ「んあ?」


ジャンヌ「ロダンのとこ行くんだろ?早めにメンテ済ませてきな」


ベヨネッタ「あー……」

そう、これから大仕事がいくつも控えている。
様々な銃器をしっかりと手入れしておく必要がある。

ベヨネッタ「…………浴びたら行くわ……アンタは?」

ジャンヌ「私はもう済ませてきた」

ベヨネッタ「あ……そう……」


―――




638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:37:17.84 ID:lj6gqawo
―――

とある病室。

そこで今、上条当麻は冷や汗を垂らしながら硬直していた。
つい先程まで浸っていた『素晴らしい時間』。

今はそれとは真逆だった。

何もせず、こうして部屋の片隅の椅子に座っているだけだが、
それだけでも上条の精神はみるみる疲弊していった。


人生とは良い事もあれば、悪いこともある。

良い思いをすれば、悪い思いもする。

何事もバランスだ。
今の上条の『苦行』も、先ほどの甘い時間の分の『支払い』のようなモノ。

あくまで中立である『運』は、『なぁにいっちょ前に惚けてんだクソッタレ』 と上条を叩きのめしたのだ。


先程、彼はこう言った。

『俺は幸福だ』、と。


だが、今はとてもそんな風には言えなかった。
これぞ正に『不幸だ』という台詞が相応しい。

まさか学園都市にあの女が来ていたとは ―――。




639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:39:25.68 ID:lj6gqawo

上条「…………」

部屋の片隅で縮こまっている上条を尻目に、
キリエの手首を調べ、何やら彼にはわからない単語を並べて話している三人。

レディとトリッシュ、そしてインデックス。

その表情、喋りからも、三人はかなり集中しておりピリピリしているのがわかる。
だが上条にとっては、更に別の緊張感があった。

レディだ。

別に今何かされた訳ではない。

赤毛の褐色肌の少女に連れられ、この病室へやって来た上条とインデックス。

そんな二人を、レディは素晴らしい笑みで迎えた。
これでもかというくらい最高ににこやかに。

インデックスは普通に挨拶していたものの、
以前色々と関わりを持った上条にとっては、その笑みはまるで死神の微笑だった。

その瞬間から彼は生気を失い顔面蒼白となった。

上条はしっかりと感じ取っていた。

レディの笑みの下にある、己に対して真っ直ぐに向けられていたどす黒い狂気を。


猛獣が、最高のご馳走を前にしたようなあのオーラを。




640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:41:26.68 ID:lj6gqawo

上条「…………」

三人は上条などいないかのように集中して作業を行っている。
レディはちょうど彼に背を向けて。

だが、その小さな動作一つ一つが、
どことなく背後で縮こまっている上条を意識しているかのようだ。


本人にその気があるのかどうかはわからなかったが、少なくとも上条は潰されかけていた。


レディの放つ無言、無視、沈黙の威圧によって。


そんな上条の恐怖を、定位置の窓枠に座っていたルシアは敏感に感じ取っていた。
彼が『何』に怯えてるのかまではわからず、不思議そうな表情を浮かべながら。


そして赤毛の少女はひょいっと窓枠から飛び降り、
硬直して妙に姿勢の良い上条の方へと近づいて行き。


ルシア「……あ、あの……どうしたんですか?」

心配する親切心から、彼女は上条に向けて口を開いた。


上条「!!!!!!あっ…………い、いや!!!!!」

そして思わぬ方向からの思わぬ声に、これでもかと言う程に焦る上条。




641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:42:59.81 ID:lj6gqawo

トリッシュ「あ~、ルシア」

とその時、一旦作業を止めて隅の二人の方へと向きながら、少女の名を呼ぶトリッシュ。

ルシア「はい」

トリッシュ「そこのお兄さんを連れて少し散歩してきなさい」

ルシア「?」

トリッシュ「そのままだと窒息死しそうな感じだから」

ルシア「…………具合が悪いんですか?」

禁書「とうま、どうしたの?」

上条「い、いや…………!!!!!!」

トリッシュ「良いから行きなさい。そこでガタガタされてると気散るの」

とその時。


レディ「は?何で?別に大丈夫でしょ?何か問題でも?」


いかにもわざとらしく、あっけらかんとした声色で口を開くレディ。
だがそんな彼女に対し、

トリッシュ「レーディ。『遊ぶ』のは後にして。今は集中して」

目を細めて叱るように言葉を放つトリッシュ。


レディ「……………………………………………………チッ」


上条「すんませんっっ!!!すんませんっ!!!!!じゃ、じゃあ…………あ、あの少し外の空気を吸ってきます…………」

すかさず椅子から立ち上がり、トリッシュの助け舟にしがみ付いた上条は、
レディに目を合わせぬようにそそくさとドアの方へと向かった。




642 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:45:27.68 ID:lj6gqawo

禁書「とうま?大丈夫?」

上条「いいいいい、いやだだだっだだ大丈夫だ」

上条「なななんかあったらドドドドドドアの直ぐそそそそそ外にステイルがいるから」

禁書「??」

トリッシュ「良いからさっさと行きなさい」

上条「はははい!!!!ありがとうございます!!!!!」

そう最後に礼をトリッシュに言い、相変わらず不思議そうな表情を浮かべているルシアと共に
上条は素早く退室していった。


トリッシュ「…………相当アナタが怖いみたいね」

レディ「ねえ、アンタどっちの味方?」

トリッシュ「どっちの味方でもないわよ。ただ死なれたら業務上困るの。ウチの失態だから」

レディ「…………その契約、私に売らない?『悪いよう』にはしないから」

トリッシュ「売らない」

レディ「借金全部チャラでどう?」

トリッシュ「…………………………………………うーん…………それは…………少し考え(ry」

禁書「ちょ、ちょっと何の話してるのかな!!??」

禁書「その契約って、『私の』のような気がするんだよ!!!!」




643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:49:32.72 ID:lj6gqawo

レディ「あ、アンタがクライアント?あのクソガキを人間に戻すってやつの」

禁書「そ、そうなんだよ!!!ってクソガキってっっっっ!!!!!!」

禁書「その言葉撤回して欲しいかも!!!!!!」

トリッシュ「まあまあ、いい?確かのあの坊やは立派な面もあるけれど」

トリッシュ「レディに言ってはいけない事を言っちゃったのよ」

禁書「…………ほぇ?」

トリッシュ「たまーに物凄くデリカシーの無い事言うからねあの子は。しかもヘラヘラ笑いながら」

トリッシュ「更に、相手に怒られても何がいけなかったのか気付かず仕舞いとか」

トリッシュ「アナタならわかるでしょ?」

禁書「う…………」

トリッシュ「今までアナタもそれで怒ったこと無い?」

禁書「…………い、いっぱいあるんだよ…………」

レディ「アンタってずっと一緒にいたらしいけど、私は会った次の日でいきなり言われたんだから」

トリッシュ「だから、レディの怒りもあの坊やの自業自得ね」

レディ「そう、だから私はクソガキって言っていいのよ」

トリッシュ「そうそう」

禁書「そ、そうなのかも………………そうなのかな…………?」

レディ「そしてついでに殺して良いの」

トリッシュ「そうそ………………いやそれは無しだってば」

禁書「えっ?えっ?ええ、えっ!!!!??」

トリッシュ「気にしないで。イカれ頭の戯言だから」

レディ「私のどこがイカれてるってのよ?」

トリッシュ「……………………全て」

―――




652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:06:37.13 ID:Qej0s4Qo
上条ざまぁww



653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:08:55.87 ID:q9VmuQYo
流石にレディさんにはフラグ建たないよね?



654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:17:38.81 ID:lj6gqawo
>>653
DMC 側への恋愛系のフラグは有り得ません。
代わりに、上条さん自身の死亡フラグならばバーゲンセール状態ですが。




656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/12(日) 03:06:50.84 ID:DRgKfpo0
DMC組ではトリ姐が一番の常識人なのか・・・ボーダー超低いなww



644 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:50:51.54 ID:lj6gqawo
―――

事務所、デビルメイクライ。

シャワーから上がったばかりのダンテは、

片手で頭にタオルを押し当て乱暴に拭い、
もう片方の手でワインボトルをラッパ飲みしながら階段を上がり。

そして廊下を進み、己の作業部屋の扉を足で蹴り開け。
持っていたタオルを無造作に放り投げ。

様々な部品や工具で散らばっている机の上に、ワインボトルを叩きつけるように起き。

着替えが入っている古いクローゼットへと向かい、これまた乱暴に開けた。


ダンテ「…………」


とその時。
開けた拍子でクローゼットの上の棚から、黒い小さな何かが『二枚』。

ひらりと舞い落ちた。




645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:58:03.72 ID:lj6gqawo

ダンテ「…………」

それは黒い皮製の指無しグローブ。

二枚とも、手の平の部分に鋭い筋。
注意しないと見落としてしまいそうな程に細い裂け目。

だがダンテが見落とすはずが無かった。
それは彼の超人的な感覚からの事では無い。

『見なくても』。

『意識しなくても』。

その裂け目は彼は絶対に見落とさない。


何せ、二つとも『兄』が引き裂いたのだから。


閻魔刀の切っ先で。



一枚は手放してしまった方。

『二度目』のもう一枚は、しっかりと捕えた方 だ。


決して手放さなかった―――。


―――兄を『繋ぎとめた』方だ。




646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:59:01.92 ID:lj6gqawo

ダンテはクローゼットの扉に手をかけたまま、
静かにその足元に落ちているグローブを見下ろしていた。

この作業部屋には、例の『おしゃべり』な双子の魔具も居座っている。

だが彼らは一言も話さなかった。
彼らでも空気を読み、思索に耽っている主の邪魔はしなかった。


一分ほど経ったころだろうか。
ようやくダンテは動き出した。

無表情のままクローゼットの中から上着を取り、手早く着込み。
ベストに腕を通し、胸の中央のバックルをきつく締め。

真紅の、トレードマークであるお馴染みのコートをバサリと羽織り。


そして。


屈み、足元の指無しグローブを手に取り。


片方を手に嵌めた。


兄を繋ぎとめた方を―――。




647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:00:32.73 ID:lj6gqawo

『掴めなかった方』をクローゼットの棚の上へと放り上げ、
新品を一つ取り出してもう片方の手へと嵌めた。


こういう『思い出の品』、というのは、
衣服に限って言えばダンテは二度と身に着けない。

だが彼はこの時、再びこの品を手に嵌めた。


なぜか、その理由を聞けばダンテはこう答えるだろう。

『気まぐれだ』、と。

それは決してごまかしている訳では無い。
本当に『気まぐれ』なのだ。

だが、その『気まぐれ』こそが彼自身の強固な芯。

他の者ならば『信念』、もしくは『覚悟』と呼べる部分。


今の彼は『本気』だった。


ダンテ「…………」


スパーダの息子。バージルの弟、ダンテ。

彼は再びこのグローブを手にする。


その手で再び兄を『掴むべく』。

今度は『刃』ではなく。


あの大きな『背中』を。


先を進み、そのまま遠くへと突き抜けてしまいそうな兄の『背』を繋ぎとめるべく―――。




648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:02:02.44 ID:lj6gqawo

アグニ『主よ、「戦の猛気」の匂いがするぞ』

ルドラ『主よ、我等も馳せ参じる「機」があるか?』

タイミングを見計らい、
机の傍に立てかけられていた双子の魔具が口を開いた。


ダンテ「……おー、準備しておけ」


ダンテ「まだわかんねえが、お前らを『総動員』するかもしれねえ」


ダンテ「―――『全員』、な」


背中にリベリオンを背負い、
トリッシュの分をも足した四つの拳銃を腰に差していくダンテ。


アグニ『おお、戦。戦だ。愛おしき戦』

ルドラ『ああ、戦。戦だ。この芳しい香り』


アグニ&ルドラ『かの大戦と同じ香りよ―――』



アグニ&ルドラ『―――これ程の戦気は2000年振りよ』



ダンテ「ハッハ~、今までで一番でけえパーティかもな」


ダンテ「楽しみにしてな」




649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:03:03.69 ID:lj6gqawo

ダンテ。

多くの大悪魔や、諸神を従えている最強の男。
その規模は、魔界の基準から見ても一大派閥だ。

言葉を変えれば、
ダンテはとんでもない魔の軍事力を率いている頭領なのだ。


普段使っている魔具はほんの極一部。

大半がエンツォ等への質に回され、狩ったっきり会ってない大悪魔達。
一度も魔具として使ったことの無い連中がほとんどだ。


だがダンテがひとたびその名を呼び、
号令をかければ皆が一気に集結するだろう。

それだけの『権限』が今のダンテにはある。

それこそ、『全て』のパワーバランスを覆してしまう程の。

ダンテは今までそんな権力になど全く関心が無かった。
そんな『派閥』など一切興味が無かったし、それどころか意識した事も無かった。


だが、今のダンテは違った。


彼は今、場合によってはその『権力』を使う事も考えていた。




650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 01:04:39.21 ID:lj6gqawo

確かに気に喰わない。
己のポリシーに反する事だ。

しかし、バージルの事だけで一杯一杯になってしまう可能性がある以上、
他の者の手が必要な場合だって当然考えられる。

いや、彼は確信していた。

どういう形かはまだわからないが、手段を選んではいられない事態が必ず訪れる と。

一人の最強は、遂にその力の『玉座』を使う事を意識し始めた。

そして胎動をし始め、徐々にその姿を形成していく―――。


スパーダの血に集い、
その力に心酔し、


―――心奪われた強者達の『一大派閥』。


『最強の首領』に率いられた、悪魔の『一大軍団』―――。



アグニ『戦だ』

ルドラ『戦ぞ』

アグニ『我等が双剣の刃を』

ルドラ『我等が双刀を牙を』


アグニ&ルドラ『今こそ解き放(ry』


ダンテ「黙ってろ。いちいちキメてんじゃねえ。声揃えんな」


アグニ『ふむ、我等は主を見習い』

ルドラ『うむ、主の流儀に沿(ry』

ダンテ「うるせえわぁったから喋んな」

―――




658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:59:30.56 ID:d3ywZcAO
アグルドがコンってされてるのが目に浮かぶなww




660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:16:33.92 ID:rnKXC16o
―――

イギリス。

カンタベリー大聖堂の地下2000m。
百を越える強固な結界に守られている、地下宝物庫の最下層。

聖遺物や霊装、歴史的遺産、
そして、かつて実際に使われた魔女狩り用の魔導器などが大量に眠っている。

イギリスが誇る、魔術物資の最大最古の集積場だ。

いや、『封印庫』と言った方が良いか。

ここに収蔵される物は全て、今後一切使われる事は無い。
用途も名前も封印が完了次第、全て抹消される。

それがこの封印庫の『掟』。

収蔵に関与した者は、一部の者を省いて作業が完了次第、
関係する記憶をも抹消される。


破壊する事が出来ない物、もしくは使ってはならないが破壊する事もいけない物、
用途は無いが魔術的遺産として残すべき物、
そして破壊して良いのかどうかすら『わからない』物、

破壊の仕方が全くわからない物がここに集められる。


中には建設が始まった紀元597年よりも『前』から収蔵されている物、
収蔵されるよりも『前』から用途不明・由来不明、名すら判明していない、完全に正体不明な物まで存在している。




661 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:19:46.77 ID:rnKXC16o

ローマ正教がバチカンの地下深くに、巨大な宝物庫を持っているように。
フランスがルーブル美術館の真下に、厳重なシェルター倉庫を有しているように。
アメリカがエリア51の地下に、様々な『手のつけられない』極秘物を集積しているように。

それと同じく、ここがイギリスの決して表に出してはいけない、
表には知られてはいけない、それでいて隠滅が不可能な物の『終点』だ。


そんな、イギリスの闇の闇の底。
地下2000mの薄暗い廊下を、
先程『必要悪の教会』の実働指揮権を委任されたシェリー=クロムウェルと、
彼女の補佐の地位に就いたアニェーゼが歩いていた。

この『封印庫』の管理人である、フードを深く被った一人の魔術師を伴いながら。



今現在。

最大主教ローラ=スチュアートは、その忌まわしき正体を明かし、女王殺害を企てて『反逆』。

神裂が『死亡』、ステイルはローラと共に『離反』。


この様に、立て続けにイギリス清教と『必要悪の教会』の実働指揮官が消え去り。


残った経験豊富な最高幹部は、シェリーただ1人。


最大主教の座を始めとし、空いた位にも代理の者が就いたが、
やはり皆が頼っているのは実際に指揮をとってきた英雄シェリーだ。

挙句に上司である最大主教の代理の者が、シェリーに全実働指揮権を委任し、

実質的に彼女が今、『必要悪の教会』のトップであり、イギリス清教の代表代理だ。




662 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:23:20.33 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」


シェリーはたった二ヵ月半で、中間管理職的立場から一気に組織のトップへと、
軍隊の階級で言えば尉官から将官へといった風に、凄まじい飛び級昇進を成し遂げた。

元から優秀だったとはいえ、彼女は様々な騒動を起こしてきた問題児。
上からは煙たがられ、キャリア組みから外されていた。

というか彼女が優秀でなければ、もしくは上層部がその点に利用価値を見出さなければ、
今頃過去の大逆罪によって死刑か終身刑が科せられていただろう。

それほどまでの厄介者だったのだ。

そこを鑑みれば、この昇進劇は正にミラクルだろう。


だが、実際はそうも喜んで入られない。
彼女の目覚しい昇進劇の背後には、組織の人材不足・戦力不足という大きな問題があるのだ。

『たかがシェリー程度』が重要な心臓部となってしまう程に、
今のイギリス清教、そして『必要悪の教会』は力を失っているのだ。

実質的な戦力だけではなく、最大主教が反逆した事による信頼性の失墜も大きなダメージだ。
騎士派・王室派の高官の中には、イギリス清教という組織を一時凍結するよう提言している者も。


シェリー「…………」

今のイギリス清教、そして『必要悪の教会』に必要なのは『力』だ。
崩れてしまったバランスを持ち直せるほどの大きな『力』が必要だ。

実質的な戦力も、そして信頼性と人脈を確たるモノにする力も。

確かにこの戦争の危機を乗り越え、イギリスを守るという事にも必要だ。


更にその一方で。

イギリス清教と『必要悪の教会』、
シェリーにとっての戦友・同志達の居場所を守る為にも必要だ。




663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:26:02.32 ID:rnKXC16o

現時点では、一応シェリーは正規軍への権限も有しているが、
このままだといつか全ての権限を凍結され、
『必要悪の教会』そのものが一度解体されてしまう可能性もある。

純イギリスの魔術師達は再びどこかに配属されるだろうが、
ローラの一存で吸収された、天草式十字凄教やアニェーゼ隊等がどんな処遇を受けるかはわからない。

確かに彼らは今やイギリスに心から忠誠を誓った者達だが、そんな彼らを未だに忌み嫌っている者も多い。
上層部には、いくらでも消耗して良い傭兵部隊的見方をしている者もいる。


確かに、敵対組織を吸収するのは今までの歴史の中で珍しいことでは無いが。


問題はそこでは無い。


女王殺害を目論んだ、魔女ローラの一存で所属したという事が問題なのだ。
ローラが作った体制も集めた人材も、その全てが今疑われつつあるのだ。



今はまだ大っぴらでは無いが、その疑惑の目はシェリーにさえ向けられて来ている。


挙句にこういう声すらある。

ネロを雇いデビルハンターを育成しようとしたのも、
後にその魔界魔術を使う軍勢を率いて、イギリスを乗っ取る気だったのではないか、と。

そしてそれを否定できる証拠は無い。

魔界魔術の浸透も、全てローラが中心となって推し進めたからだ。




664 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:27:42.42 ID:rnKXC16o

シェリーはその危機感を感じていた。


基本的に、十字教国家であるイギリスは魔とは相容れない。

スパーダ一族、特にネロの献身的な姿勢を見て、ここ最近はその姿勢も軟化しつつあったが、
魔女であったローラの反逆は、それらを全てひっくり返すには充分過ぎた。

上層部はこれで再認識し、その決意を固めただろう。
魔に対する絶対的な敵意を抱いたはずだ。


それなりに魔という存在を身を持って知っているシェリーとは違い、
上層部は聞いた話のみで認識している。

その『老害』共は、『魔』を全て一括りにして毛嫌いし始めたのだ。

過剰反応とも言えるが、
上層部にとってはそれを認識する判断材料が無く、これも仕方のないことだろうが。


この戦争を乗り越え、平和がやってきた時。

このままだと、イギリスの魔術世界では歴史的な大粛清が行われるかもしれない。

天草式十字凄教やアニェーゼ隊はもちろん、
魔界魔術を習得した魔術師、そして騎士達も。


魔に関与しその力の恩恵を受けた者は、全て抹殺されるかもしれない。


それどころか、今大戦において捨て駒として使用され、
困難な任務に送り出される可能性も高い。




665 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:30:53.58 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」

だからこそ、決定的な『何か』が必要なのだ。

彼女の肩にはイギリスを守るという使命の他にも、
数千に達する同志・戦友達の命もかかっている。


彼女の敵は、イギリスを陥れようとする者全て。


そして良く調べもせずに鼻っから毛嫌いし、ゴミのように切り捨てる上層部の老害共。

そんな死にぞこない共の、理不尽な感情的一声で消え去っていく。

国家の為、民の為、家族の為、友の為、そして愛する者の為に忠誠を誓い身を捧げた戦士達が。


確かに。


確かに、状況的に切り捨てねばならない事態もあるだろう。

そうせざるを得ないのならば、シェリーも他の戦士達も進んで身を捧げ、そして喜んで死ぬ。
それもまた、忠誠を誓った戦士の義務の一つなのだから。


だが救えるのに、切り捨てる必要の無い命まで切り捨てるなど到底許せない。

臆病な老害共の、頑固な思い込みで高潔な者達が犠牲になるのはもう見たくない。



そう。



『エリス』のように―――。




666 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:32:24.23 ID:rnKXC16o

「こちらです」

シェリーを案内していた魔術師が、とある一つの扉の前で止まった。
黒い金属製の、いかにも頑丈そうな扉だ。

アニェーゼ「……すげえ嫌な空気ですね…………」

シェリー「…………記録は?」

シェリーの声を聞き、案内人の魔術師がその扉に軽く手を当て、
目を瞑り閲覧用の術式を起動する。

案内人の手には元の肌が見えないくらい、難解な術式の刺青が刻まれていた。
閲覧専用の術式だろう。

「はい、1522年6月7日に封印、その後ウィンザー事件の翌日に一度開かれ、再封印なされてます」


シェリー「封印した者の名は?」


「…………一度目の名は抹消されております。二度目は、先代最大主教ローラ=スチュアートでございます」


シェリー「…………中身は?」

「それはご自分の目で確認なさって下さい。記録はありません」

シェリー「……」

アニェーゼ「開けて見てからのお楽しみってやつですかね」




667 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:35:49.35 ID:rnKXC16o

実は、今この二人が封印庫に来ているのは極秘事項だ。

重傷を負い床についているエリザードから、
直々にこの扉の番号と『行って来い』とだけ言われたのだ。

そしてキャーリサの許可と命を受け、二人はここに来ている。


あの第二王女は他の上層部とは違い、シェリーら魔の力を手に入れた者を特に嫌ってはいない。
というかその力の根源がなんだろうと、『戦力』と成りうるのならばキャーリサは全く構わないのだ。

ある意味、超現実主義者と言うべきか。

イギリスを守り得る力ならば、例え魔でも彼女は大歓迎、
イギリスに危害を与えうる力ならば、『天の意志』に逆らってでも拒否するだろう。

そしてキャーリサはシェリーに向けこう言った。

『母上の思惑は知らんが、使えそうな物は全て使うの。どんな力でも構わない。「武器」は「全て」持って来い』、と。


「ではごゆっくり」

案内人の魔術師は深々と頭を下げ、踵を返して元来た方向へと進み始めた。

アニェーゼ「…………ちょ、ちょっと待ってください!鍵は?!」

そんなアニェーゼの声など聞こえぬかのように、そそくさと魔術師は去っていった。

シェリー「慌てなくてもいいわよ。ここ封印庫の扉には鍵はかかってねえ」

アニェーゼ「……はい?」

シェリー「扉が入室者を『選ぶ』から」




668 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:37:16.40 ID:rnKXC16o

アニェーゼ「…………もしかして……そのパターンって……」

アニェーゼ「入室者として認められなかったら死んじまうとかそういう……」

シェリー「そう」

アニェーゼ「……………………お先にどうぞ行きやがってください」

シェリー「…………順番は関係ないわよ。死ぬときゃどの道死ぬ」

シェリー「グダグダ抜かして無いで、良いからついて来い」

アニェーゼ「………… うーぁー…………」


心底嫌そうな表情を浮かべ杖を握り締めるアニェーゼと、
目を細め怪訝な顔のシェリーは、ゆっくりと扉を押し開けた。

一見すると非常に重そうな扉だったが特に抵抗無く、
いや、異常な程に重量感を感じさせずにすんなりと開いた。

扉の奥は完全な闇だった。
廊下のろうそくの光が全く届いていない。
その闇の奥からもわりと、冷たく古い空気が漂ってくる。

そしてシェリーは物怖じせずにズカズカとその扉の向こうへと進み。

その背後を、アニェーゼが杖を構えながら忍び足で付いて行った。




669 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:38:35.60 ID:rnKXC16o

と、 3m程進んだその時。


アニェーゼ「―――ッッ!!!!!!!!!!!」

シェリー「!!!」


突如響く耳鳴りのような音。

いや、音とも耳鳴りとも言い難いかもしれない。

一瞬だけの、頭が割れそうになる程の金属音のような『何か』。
暗闇の中二人は食いしばり、その異質な激痛に堪えながら咄嗟に身構えた。


シェリー「…………」

アニェーゼ「…………」

その異常な音はほんの一瞬で鳴り止んだ。

だが。

シェリー「…………アニェーゼ」

アニェーゼ「…………はい……」

シェリー「…………『コレ』が何かわかるか?」

アニェーゼ「…………わかんねーですよ」


二人共、今度は別の違和感を感じていた。
なんと表現すれば良いのか、それはそれは奇妙な感覚。

自分が自分ではないような―――。


あの耳鳴り以前の己と、今の己は何かが違うような―――。




670 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:40:17.92 ID:rnKXC16o

シェリー「…………明りを点けろ」

アニェーゼ「はいはい」

アニェーゼは暗闇の中、杖で一度床を叩いたが。

アニェーゼ「…………ありゃりゃ?」

シェリー「どうした?」

アニェーゼ「ちょっと待ちやがってください…………『こっち』は……」

そしてアニェーゼはもう一度床を叩いた。
すると。

杖の頂点に赤い光が灯り、周囲を赤々と照らした。
周囲とはいえ、壁らしき者は一切見えなかった。

室内はかなり広いのか、そして妙に闇が濃く、
その光はアニェーゼのまわり半径3mを照らしただけ。

アニェーゼ「っと……」

シェリー「『そっち』の明りを使ったのか?」

アニェーゼ「ええ、魔界魔術は問題ねえですが……天界魔術はウンともスンとも言いませんね」


アニェーゼ「この部屋の中じゃ、なぜだが『天界魔術が使えねえ』みたいです」

シェリー「…………」

今この二人は知る由は無いが、実はこの部屋で天界魔術が使えない、という訳では無い。
厳密に言うと彼女達自身が、『未来永劫』既存の天界魔術を使えなくなったのだ。



この部屋に入ると同時に、セフィロトの樹が切断された事によって。




671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:41:59.88 ID:rnKXC16o

アニェーゼ「―――っておおおおぅううわッ!!!!!!!」


とその時。

シェリーの姿を見たアニェーゼが跳ね上がるように驚き、シェリーに対して杖を向けた。

まあそれも当然。

シェリーはあの耳鳴りの瞬間、咄嗟に魔像の一部を引き出したのだろう。

今の彼女の体は、黒い魔像の『スーツ』に覆われていた。
どっからどう見ても『人型の黒い悪魔』だ。

シェリー「おいおいおい待て!!待ちな!!!私だって!!!!」


アニェーゼ「……………………っくっはぁ……心臓にすごく悪いですね…………その格好はやめてやがって下さい」

何度か見たことがあるとはいえ、さすがに暗闇が明けた中から
ヌッとその禍々しい姿を露にされると反射的に驚いてしまう。

シェリー「…………あ?この『芸術』がわかんねえのかよ」

シェリーは魔像の形を身に纏ったまま、己を見せ付けるように手を広げた。

アニェーゼ「…………はいはい凡人の私にゃあわかんねーですよ。良いからさっさと脱ぎやがってください」

シェリー「…………ったく……」

ブツブツと呟きながら、術を解除し脱ぎ捨てていくシェリー。
ボロボロと彼女を覆っていた黒い装甲が剥げ落ち、床に落ちては砂となり掻き消えていく。




672 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:44:07.05 ID:rnKXC16o

シェリー「じゃあ…………もっと光強めて」

アニェーゼ「アイアイ」

シェリーに促され、もう一度杖を床に叩きつけるアニェーゼ。
その赤い光が一気に強まり、今度こそ室内全体を照らし出した。


そして。


姿を現す、その部屋の異質な光景。

シェリー「……………………なんだよコレは…………?」


アニェーゼ「………………………………っ?!」


その光景。
『倉庫』とはとても言い難かった。

二人はてっきり、さまざまな物が山済みにされている宝物庫のような光景を思い描いていたのだが。

全く違っていた。


そこは広大なホール。
いや、大聖堂と行った方が言いか。

奥行きは300m以上、横幅もそれぐらいはあろうか。
高さも50mはある。

大量の柱が立ち並び、上は荘厳な装飾と絵が描かれている球天井。
正に地下に埋もれた古代の遺跡のようだ。




673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:46:25.32 ID:rnKXC16o
アニェーゼ「…………ほぁああ……」

二人は上下左右キョロキョロと見渡しながら、
そのホールの中央辺りへ向けて歩き進んでいく。

巨大なホール、その構造に沿い何本も円形に立ち並んでいる巨大な柱。
100本以上はあるだろうか。

それらの柱の前、1本につき一体ずつ、これまた巨大な彫刻が並んでいた。
普通の人間女性に見える物から、どうみても人外の異質な物まである。

そして柱にも得体の知れない彫刻。
何かの戦いの様子や、長か貴族かと思われる者達の姿が描かれていた。


シェリー「…………」

芸術の観点からそれらを見ていくシェリーだが。
彼女でさえ、その壁画や彫刻の文化や年代を割り出せなかった。

色々な文化が混ざっているようでありながら、根本的なところがなんだか違う。
はっきり言うと、こういう芸術文化はいままで見たことが無い。

少なくとも、彼女氏自身が初めて目にする物だ。


そして他にもう三つ。
彼女が気付いたとある点。


一つ目。

刻まれている文字。

それらを見る限りこの場を築いた者、もしくはここを何らかの目的で使っていた者達は、
少なくとも『普通の人間』ではなかったらしい。
いや、人間ですらなかった可能性が高い。

刻まれている言語の一部はエノク語。
人間には到底扱えない、天界の公用語だ。
シェリーでもさすがに解読は出来ない。
それにもし解読できたとしても、その意味を理解した途端精神汚染される可能性が高い。

他にも別の言語が刻まれているらしかったが、どれも人間世界では使われていない物だ。
以前書物でチラリとしか見た事が無いが、中には魔界で使われている言語らしき物も。




674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:47:49.51 ID:rnKXC16o

二つ目。


所々にある、人外の怪物のような彫像。

それらの中には、現に直接関った事があるシェリーから言わせると、
確実に『悪魔』だと断定できる像がいくつかあった。

像の土台に刻まれているのは魔界の言語。
紋章の系統もどう見ても魔界由来。

ここまで正確な悪魔像を描いている文化は、
シェリーの知る限りだとフォルトゥナしかなった。

つまり、実際にこの建造物を作った文化は悪魔達と直接深く関っていたか、
もしくは悪魔達自身がここにいたかもしれない。


これだけは言える。

これ程の再現度と、実際に使われている異界の言語。

この聖堂を築いた者は『伝承』や『神話』を元に、これらの芸術品を生み出したのではない。

『現実』を元にしたのだ。

眉唾の物語ではなく、事実として記したのだ。


現代の人々が、古文書を解析して当時の様子を『間接的に推測』するのではなく、
テレビや写真等、もしくは実際に目で見て触れて認識するように、『直接的な現物』がその時に存在していたのだ。


実際に。


現実に、だ。




675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:49:36.53 ID:rnKXC16o

そして三つ目。

人外の彫刻は『悪魔』だけでは無かった。



『天の者』の像もあったのだ。



シェリー「―――………………ッ……」


それらの彫像の前で、シェリーは足を止めた。


彼女は悪魔は見た事があるが、『天の存在』は見た事が無い。
土台に刻まれているエノク語の碑文は読めないが、だが目立つように大きく刻まれているその『紋章』。

それらの中にはシェリーが見た事がある、
いや、魔術師界隈では常識中の常識であるモノもあった。


先ほどの二つ目の事実を踏まえて、この三つ目の点を考えると。


本物の悪魔を知っていた者達が築いたこの聖堂で、
その忠実な悪魔像と同じく並べられている天の者の像。


この状況が何を意味しているのかは、最早自明の理。



シェリー「……………………嘘…………でしょ…………?」



そこから導き出された、当然の帰結を認識したシェリー。
彼女はあまりの事に、半ば放心して思わず呟いてしまった。


天の者の『御姿』を前にして―――。




676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:51:05.05 ID:rnKXC16o

半分はわからない。
だがわかる方の紋章。

その印が示す、彫像の元となった存在の身分。


シェリー「……………………………な…………」


それらを見ていたシェリー、彼女の体は武者震いを起こしていた。
これらの彫像が一体『誰』なのかを認識した瞬間、押し寄せる凄まじい畏敬の念。

彼女はその震える手で十字を切り、胸元で手を合わせていた。

それなりに精通した十字教徒の魔術師なら、
いや、アステカやイスラム、ユダヤ等の魔術師も皆、シェリーと同じ反応を示しただろう。


彼女は思った。


己はもしかして、とんでもない所に今立っているのではないか、と。
己はもしかして、神や天使達の本当の姿を見ているのではないか、と。

そして。

いつの時代かはわからないが、遥か太古の昔に、
今己が立っている場所に、本物の神や天使達が立っていたのかもしれない、と。




677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:52:51.31 ID:rnKXC16o

とある一つの像。

甲冑のような物を纏い兜を深く被り、
右手に持っている細身の長剣を高く掲げている、巨大な翼を背から伸ばして広げている男性像。

背後の柱には何かの戦いの様子が刻まれていた。

その内容はこの『像』の人物が、『竜』の頭部と鱗をした巨人と絡み合って奮戦しているもの。

今にもその像の人物を『丸飲み』にせんとしているかのように、『竜の顎』が大きく開かれていた。


そして。



その土台の紋章は十字教の天使、ミカエルの物。



他にも名だたる宗教の天使や神の像が立ち並んでいた。


大勢。


大勢―――。


恐らく『事実』を元にした彫刻が刻まれた、
背後の巨大な柱とワンセットになって。




678 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:54:28.27 ID:rnKXC16o

更にシェリーは目にした。

遂にその『御姿』を見てしまう。



他よりも豪華な装飾が施されていた像の。

その土台の紋章を。

土台の上に立っていた―――。



十字教――――――の―――。



シェリー「――――――」



―――その御姿を。



シェリーはその場で崩れ落ちるように膝を付き、再び十字を切り、
そして無心で祈りを捧げた。




679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:57:10.30 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」

としばらくの後。

祈りを終え、顔を恐る恐る上げたシェリーの、
視野の端に入る巨大な像。

それは今正面にある十字教の神像よりも更に豪華に飾られ、そして巨大だった。

シェリーはふと違和感を覚え、立ち上がりながらその隣の像へと近付いた。



『巨大な頭を胴にして』、そこから蛇の頭部に似た触手のような物と巨大な翼を伸ばし、
猛禽類の物に似ている鉤爪のついた足を生やした奇妙な像。


その頭上には『天使の輪』のような、エノク語の奇妙な陣の彫刻が取り付けられていた。

土台の紋章は今まで見たことが無いものだったが、
系統的に『天の者』なのは確かだ。


更にその配置。


十字教の神の横に、豪奢で目立つように置かれているこの像。


どこからどう見ても、こう示しているように見える。


『――― 十字教の神がこの像の存在よりも下位である』、と。


こういう並びは、人間世界の遺跡でも良く見られる。
豪奢な像の隣に、あえて更に豪奢な像を置き、
どちらが偉大か、どちらがより高位なのかを意図的に表すやり方だ。

権力誇示のスタンダードなやり方の一つだ。




680 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:58:35.19 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」

そのような、一際大きく豪奢な像は計『四体』。

どれも奇妙な格好だ。

どこかの天才芸術家が狂って彫ったような、アンバランスでありながら妙に洗練され、
神々しくもどことなく不気味なデザイン。

他の天の者とは一線を画す、凄まじい存在感。


天の者達の間に等間隔で、それぞれがかなり目立つように配置されていた。

両側にはそれぞれ別の宗教の神を侍らせ、
くどいほどにその優位性を誇示する形で。


シェリー「…………………………」


名の知らぬ、存在すら知らなかったその『神』。


シェリーは再認識する。
己はもしや、今とんでもない所に立っているのではないか、と。

ここにあるのは、恐らく『真実』。


ここは、人間界では全く知られていない事実の宝庫、だ。




681 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:00:03.82 ID:lbsjmzAo

例えば、この十字教の神よりも高位である存在。
(あくまで配置から見た、状況証拠からの観点だが)

これら四体の存在が周知になるだけで、既存の人間社会の宗教文化は大きく混乱するだろう。

十字教も然りどの宗教においても、一般ではあまり意識されていないが、
裏の魔術世界では、己の掲げる神こそが天の最上の存在だと長年に渡って強く主張してきた。

それで何度も大きな戦争も起こってきた。

魔術師達は、見たことは無いが天界の存在自体は知っている。
彼らにとってこれは概念上の優劣ではなく、現実の序列問題だったのだ。


だが。


ここにある状況証拠はそれらの全てを大きく覆している。


どの存在が最上なのかという議論は無意味だったようだ。

その上には、別の存在がいるらしいのだから。

既存の宗教のどの神よりも、高位の存在が天界には四体も存在している、
と、この聖堂は告げているのだ。

これだけでもとんでもない事実だ。


シェリー「…………………」


エノク語や魔界の言語を読めれば、
更に大量の事実が浮き彫りになってくるだろう。

人間の歴史からは抹消された真実達がゴロゴロと。




682 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:01:47.97 ID:lbsjmzAo

昂ぶる鼓動を押さえ、深呼吸した後、
シェリーは再び歩き始め、像達を眺めながら進んでいく。


どうやらこの聖堂の円形ホール、西側の半分は天の者、
東側の半分は魔の者で纏められているらしかった。

アニェーゼはシェリーと平行して魔の方を見て回っている。

彼女もこっちを見て回っていたら、シェリーと同じように震えながら十字を切っていただろう。


シェリー「…………」

と、しばらく進んだところで。

ちょうど北の頂点でシェリーは足を止めた。

彼女の前には、高さ5mはあろう大きな彫像。

柱や壁、他の像は全て白亜にもかかわず、

その彫像だけが黒曜石のような黒い材質で作られていた。
そして瞳の部分にはめ込まれている、ルビーか何かの赤い宝石。




683 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:03:04.01 ID:lbsjmzAo

シェリー「…………」

その配置も、作られ方も他の物とは違う。

例の『天の四体』でさえ、並びにはしっかり沿っていたのに、
この像だけは2m程前へ、つまりホールの中心側へと張り出す形で配置されていた。


正に『特別』、だ。


更にその姿。

シェリーは見覚えがあった。

フォルトゥナの書物の挿絵にて。

背中から伸びる巨大な漆黒の翼。
頭から伸びる一対の湾曲した角。


そして。


地面に突き立てられ、柄を胸元で握り済める形で置かれている不気味な大剣。


シェリーは己の知識を元に、小さく呟いた。



シェリー「………………………………………………………………スパーダ…………」



像の元になったであろう存在の名を。




684 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:04:37.23 ID:lbsjmzAo

とその時。


アニェーゼ「シェリー!!!!!ちょっとこれを!!!!!!!!!!」

シェリー「?」

ちょうど背後から聞こえてきたアニェーゼの声。
振り返ると150m程後方だろうか、この円形ホールのちょうど反対側、南端に建っている大きな彫像の前で、
アニェーゼがシェリーに向かって杖を大きく振っていた。

シェリー「……」

そのアニェーゼの前にある女性の彫像。
大きさはこのスパーダ像と同じくらい、
ホールの中心点を挟んでちょうど向かい合っているようだ。


アニェーゼ「なにボーっとしてやがるんですか!!!!早く!!!!」

シェリー「わかったから喚くな!!」

アニェーゼの声に引っ張られるように、シェリーはボロボロのゴシックドレスの端を掴み上げ、
小走りで彼女の方へと向かった。

シェリー「何?」

アニェーゼ「この像!!!この像の顔!!!見てください!!!」

そしてアニェーゼは、例のスパーダ像と向かい合っている彫像の顔を指差した。

シェリー「……………………………………え?」




685 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:06:46.30 ID:lbsjmzAo

シェリー「この顔ッ…………!!!!」

アニェーゼ「そう!!!あの顔!!!!」

その女性像。
良く見ると、かなり『見慣れた顔』だった。

忘れるわけが無い。
見間違えるわけが無い。



アニェーゼ「―――トトト…………!!!!!



アニェーゼ「―――トリッシュさんですよコレ!!!!!!!」




シェリー「…………トリッシュ…………!」


アニェーゼ「絶対そうです!!!まちがいねーですよ!!!!!」




686 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:08:01.05 ID:lbsjmzAo

異様な緊張感と、
次から次へとやってくる謎と衝撃。

驚き、鼓動が高まるたびに精神疲労が募ってくる。


シェリー「…………一体…………どういう……」


ここでシェリーは困り果てた表情を浮かべ、
獅子のようなボサボサの金髪を掻き毟りながら、

背後のスパーダ像と、このどっからどう見てもトリッシュの顔をした像を交互に見やった。


女王エリザードの意図が全くわからない。

これらを見せる為に、ここに向かわせたのか。

それともこれは関係の無い、
女王からすれば別段意味のない事なのか。
女王は別の目的でシェリーをここに向かわせたのか。


シェリー「…………どうしろっていうのよ畜生」

一体ここで何をどうすればいいのか。




687 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:09:54.13 ID:lbsjmzAo

ただ、ここに来たのが無意味という訳では無いだろう。

必ず何らかの意味がある。
そしてそれは、少なくともシェリーの推測だと大きな力に成りうる何かだ。
というか、このまま手ぶらで帰ったらあの殺気だっている第二王女キャーリサに何をされるかわからない。

何としてでも何かを手に入れ、持ち帰らねばならない。


シェリー「…………」

シェリーはふと、近くの柱に刻まれているエノク語を見た。

もしかすると、これらをどうにかして解読しなければならないのかもしれない、
真の歴史の中に何らかの武器があるかもしれない、

と思いながら。


とその時。


アニェーゼ「あ!!!向こうにもなんかありやがりますよ!!!!!」

再び何かを見つけ大声を上げ、
その方向へと駆け出していくアニェーゼ。

柱の向こう、大聖堂の外、この大洞窟そのものの壁際に何かがあったようだ。

シェリー「おい!!ちょっと待て!!!」

その後ろを、先程と同じくドレスの端を掴み上げて走ってついて行くシェリー。




688 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:10:41.65 ID:lbsjmzAo

アニェーゼ「―――…………ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そして。

アニェーゼはその『何か』の全貌を見た瞬間、顔を引きつらせ。
両足でブレーキをかけ急停止し、咄嗟に杖を構えた。

更に、半ば転びそうになりながら慌てて後ずさりした。


シェリー「…………いや……!!!!待て!!!!」

そんなアニェーゼの背中を押さえ制止するシェリー。


シェリー「…………『コイツ』、多分死んでるわ。大丈夫だ」


アニェーゼ「本当にですか!!!?また『コイツ』と戦うのはゴメンですよ!!!!」


シェリー「大丈夫だって。死んでやがる」


その二人の前にある何か。

それは岩肌に巨大な『金』色の杭で磔にされている―――。



―――タルタルシアン。




689 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:12:37.49 ID:lbsjmzAo

悪魔の死体は時間と共に風化し、最終的に跡形も無くなるのが常識。

だがこのタルタルシアンの死体は、何らかの方法で消滅が防がれているようだ。

とはいえ、半分ほどが砕けて見るも無残な姿だったが。

シェリー「これか……」

案内人の話によれば、ウィンザー事件の直ぐ後にここの封印が再び開かれたらしい。
その時に収蔵されたのだろう。

そしてシェリーはピンと来た。


この大悪魔の死体と、イギリス最高峰のゴーレム使いシェリー=クロムウェル。


シェリー「…………なるほどね。これは良い土産だ」


どうやら、キャーリサに怒鳴られずに済むようだ。

ウィンザー事件の後にネロに聞いた話によると、
この大悪魔は昔はかなり高位の者だったらしい。

魔帝に楯突いた為にその自我を破壊され、
厳重な拘束具で力を抑制、そして人形へと変えられてしまったらしい。




690 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:15:59.25 ID:lbsjmzAo

拘束具が解けた状態の力は、それはそれは凄まじいものだった。
シェリーは完全に圧倒され、あのままネロがこなければあっけなくやられていただろう。

そしてその力は、残骸とはいえ今のシェリーにとってはかなりの足しになる。

寄せ集めの下等悪魔の力だけで、今まで騙し騙し頑張ってきたが、
やっと大悪魔の力の片鱗が手に入れられるようだ。


アニェーゼ「…………陛下はこれをシェリーに渡すつもりでしたんですかね?」

シェリー「…………恐らく」

アニェーゼ「なんだ。じゃあ私には何も無いわけですか」

シェリー「そりゃ、陛下は私に対して仰ったからな」

アニェーゼ「…………全く…………驚き損ですね」

シェリー「探せば他に何かあるかもね。そこら辺見て回りな」

シェリー「私は今から、コイツを取り込む術式を作るから、邪魔すんなよ?」

アニェーゼ「へいへい」


地面にオイルパステルで、陣や術式を描き始めたシェリー。

そんな彼女から離れ、
アニェーゼは足を投げ出すような歩き方で、プラプラとホールの方へと戻っていった。




691 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:17:04.95 ID:lbsjmzAo

アニェーゼ「…………」

ブラブラと、ホールの中を見て回るアニェーゼ。

アニェーゼ「まだですか!!!??」

そして一分おきくらいの感覚で声を張り上げ。

シェリー「うるせえ!!!!まだだ!!!話しかけんな!!!!!」

シェリーのイラつきの混じった声で一蹴される。


アニェーゼ「…………チッ」

軽く舌打ちをしながら、ヒマを持て余し歩きながら像を指でなぞったり、
あちこちを杖の先でコンコンと叩くアニェーゼ。

アニェーゼ「何も無し……ですかそうですか」

ブツブツと呟きながら。




692 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:18:35.74 ID:lbsjmzAo

アニェーゼ「…………」

そして何となしに、とある一つの彫像の前で立ち止まった。



鳥の頭蓋骨のような、奇妙な仮面を被っている女性像の前で。



アニェーゼ「……それにしても……なんでこう、どいつもコイツもボインボインのバルンバルンなんですかね」

アニェーゼ「嫌味ですかこれ。エロ過ぎですよ。これ掘ったのは相当なスケベ野郎だったんですかね」


ブツブツと相変わらず呟きながら。
彼女は杖の先で、その彫像を突っつく。

足元、太もも、腹部、そして。


胸の乳首辺りをツンツンと。


と、その瞬間。


『―――何をしおる小娘』


アニェーゼ「…………………………………へ?」




693 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:20:23.78 ID:lbsjmzAo

そしてタイミングよく、ちょうど登場するシェリー。

シェリー「こっちは終わったわよ。何か見つけたか?」

アニェーゼ「…………シェリー。今何か喋りやがりましたか?」

シェリー「…………は?」

アニェーゼ「い、いや……あのですね。さっき妙な声が……」


『うん?誰だそなたらは?』


アニェーゼ「ほ、ほら!!!!!!!!!!」



シェリー「―――!!??」


オイルパステルをスッと指先に出し、周囲を見渡すシェリー。
同じく杖を構えるアニェーゼ。

だが周囲には人影は無い。

気配も無い。




694 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:21:34.37 ID:lbsjmzAo

そして二人はようやく気付く。


『どこだ?そこはどこだ?どこから我に触れておる?』


その声の源に。


アニェーゼ「…………まさか……」

シェリー「…………」


二人は再び、目の前の奇妙な仮面を被っている彫像に眼を戻した。
その瞬間。


『答えろ。そこはどこだ?』


例の謎の声と共に、像の口が動く。

アニェーゼ「!!!!」


シェリー「―――下がれッッッ!!!!!!!」




695 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:24:10.18 ID:lbsjmzAo

響くシェリーの怒号。
それを聞き、慌てて離れるアニェーゼ。

そしてシェリーはすかさずオイルパステルで宙を切り、
まず魔像の一部分を引き出す。

一瞬にして彼女の全身が、黒く蠢く肉のような粘土のようなモノで覆われ。
身長3m程の、ごつい黒い人型の『悪魔』へと姿を変えた。

瞳の部分には赤い光が宿り、全身から禍々しいオーラを噴き出して。


シェリー『―――何者だ?』


そして、シェリーはエコーのかかった声を彫像に向け飛ばす。



『先に答えるのだ。そこはどこだ?場所は?どこの世界か?』


『周りはどうなっておる?』




696 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:25:13.51 ID:lbsjmzAo

シェリー『…………』

どうやら、この現象は通信魔術のような物の一種か。
相手は別の場所から、音のみを拾っているようだ。
少なくともこちらの映像は見ていないらしい。


シェリー『…………は、そんなに知りたいのなら見にきやがれ。姿を現せ』



『………… うん?……そうしたいところは山々なのだが、今こちらは色々忙しくてな…………』



『…………しばし待て。ちょいと聞いて来る』



シェリー『………………』

アニェーゼ「……………………なんか……緊張感の欠片もねえ奴ですね」

シェリー『黙って。罠かもしれねえ』




697 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:26:39.71 ID:lbsjmzAo

そして約20秒後。

『すまぬ。待たせたな、今行く』

アニェーゼ「―――」

シェリー『―――』

そんな一言が突然聞こえたと思いきや。

彫像の直ぐ前の空間に黒い靄のような物が一気に立ちこめ、
猛烈な速度で滅茶苦茶な渦を巻き始めた。

何本もの、回転方向が違う竜巻が合体しているかのように、その靄の流れが全くわからない。


シェリー『アニェーゼ!!!!もっと下がれ!!!!』

その異常な光景に警戒し、
連れに声を張り上げながら己自身も数歩後ずさりするシェリー。



その次の瞬間。


今度は靄が一気に晴れ、その中心から姿を現す一人の女。

その格好は真後ろにある彫像と瓜二つ。

鳥の頭蓋骨のような仮面を深く被り、襟元には黒い羽飾りがついたマントを羽織っている、
妙に妖艶な空気を醸し出していた。




698 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:27:42.48 ID:lbsjmzAo

シェリー『…………!!!!』

アニェーゼ「…………!!!」

更に一段と気を張り詰めさせ集中する二人。

だが、現れた女はそんな二人の闘気など全く気にもせず、
周囲をキョロキョロと見渡し始め。



『……………………………… これは………………驚いたな…………』



ぽつりと。
誰が聞いてもわかる、あっけに取られた声を小さく発した。



『……………… 既に「現出」していたとは……………………』



そしてようやく。

『そなたら。ここはどこだ?どこの世界だ?』

仮面の女は、
ジッと身構えている二人の戦士へ向けて言葉を発した。




699 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:29:05.64 ID:lbsjmzAo

シェリー『黙れ。まず名乗れ。何者だ?』

『ああ、そうだな。我が名は―――』



アイゼン『―――第十代アンブラが長、魔女王アイゼン』



魔女。

その単語を聞き、二人の顔が一気に引きつった。
そんな二人に対し、アイゼンは手首の大量の腕輪をジャラジャラ鳴らしながら腕を広げ。


アイゼン『待て待て。そなたらと戦うつもりは無い』


アイゼン『少し話を聞ききたいだけだ』

アイゼン『そこの小娘。そなたも来い』

そして、50m程離れているアニェーゼに向け手招き。

それを見て、アニェーゼは杖を構えながら恐る恐る近付いていき、
シェリーの少し後ろについた。


アイゼン『さてと。もう一度問う。ここはどこだ?』


シェリー『…………イギリス……カンタベリー大聖堂の地下』

戦闘態勢を崩さぬまま、その問いに答えるシェリー。


アイゼン『ほぉう…………人間界か。これは真に驚いたな』




700 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:30:19.82 ID:lbsjmzAo

アイゼン『それで、いつからこの「神儀の間」がここに現出しておる?』

シェリー『…………神儀の間?』

アイゼン『何だ?そなたらコレが何か知らぬのにここにいるのか?』

アニェーゼ「………………どれの事を言ってやがるんですか?」

アイゼン『ここ。全て』

アイゼンがもう一度大きく手を広げ、周囲をみるように促す仕草を取った。



アイゼン『この聖堂全体が「神儀の間」だ』


シェリー『…………何かの儀式場か?』


アイゼン『「全て」の、だ。魔界の口の封印も、セフィロトの樹の構築も、人間界の器もその土台も』

アイゼン『更に封印されし人間界の力場も。その「全て」の主だった「儀」がここで行われた』


アイゼン『「今」の人間界の歴史は全てここから始まっている』


シェリー『………………????」

アイゼン『……まあいい。わからぬのなら。話せば長くなるしな。それよりもだ。いつからコレがここに?』

シェリー『…………記録によれば……1522年にここに封印されたらしい』

アニェーゼ『詳しい記録は残ってねえんですよ。それだけです』


アイゼン『…………誰がここにコレを?』


アニェーゼ『その名も残ってねえです』


アイゼン『………………ふむ……なるほど…………』




701 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:31:36.00 ID:lbsjmzAo

シェリー『魔女…………』

とその時。
ポツリとその単語を呟くシェリー。


アイゼン『ん?』

シェリー『お前「も」魔女か?』

アイゼン『そう、我はアンブラの魔女。それで。「も」というのはどういう事かな?』


アニェーゼ「しぇ、シェリー!!!!」

シェリー『落ち着け』


アイゼン『ふむ。何か魔女について思うところがあるようだな?』

アイゼン『我が同族に会ったことが?』

シェリー『お仲間かどうかは知らないけど、会った事はある』

アイゼン『ふむ……それはあれか?黒髪に黒縁メガネをかけていた者か?』

アイゼン『それとも銀髪で派手な赤い服を纏っていたか?』

アイゼン『どちらだ?』


シェリー『どっちでもないわよ。金髪だ』



アイゼン『………………………………………………うん?』



アイゼン『………………………今何と言った?』




702 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:33:23.75 ID:lbsjmzAo

シェリー『金髪だ』

アイゼン『金…………髪………………………』

金髪。
その単語を聞き、片手を顎にあて大げさな仕草で唸り始めるアイゼン。

アイゼン『……うん…………』

アイゼン『…………本当に驚いたな。まさか生き残りが他にいたとは』


アイゼン『名はわかるか?』


シェリー『…………ローラ=スチュアート』


アイゼン『……ローラ……金髪……ローラ……ローラ…………金髪……』

ローラの名を何度も呟き、再び大げさな仕草で思索に耽るアイゼン。
そして10数秒後。



アイゼン『わからぬ。誰だそやつは一体』



アイゼン『我が治世よりも大分後の者か、それとも名が残らぬ下位の者か?』



シェリー『…………は?』

アイゼン『いやすまぬ。そなたらに聞いてもわからぬだろうな』

アイゼン『まあいい。後で別の者に聞く』




703 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:35:03.67 ID:lbsjmzAo

アイゼン『……それで、そなたらはどうやってその者に会った?』

シェリー『上司だった』

アイゼン『ん?というと?』

シェリー『12時間前までイギリス清教最大主教だった』



アイゼン『なんと………………………………ハァァアアアアンッッッ!?』


アイゼン『そのような話は聞いておらんッッ…………聞いておらぬぞ!!!!!!!』


アイゼンは突如声を荒げ、シェリー達から目を背けるように己の彫像の方へと向き、
その前の空間へと軽く片手を翳した。

すると次の瞬間。
空間が裂けるように影が現れ、先程と同じような靄の塊が出現し。

アイゼンはその靄の中へ頭だけを突っ込み。


アイゼン『おい!!!!!!!!!少し手を休めろ!!!!!!!聞け!!!!!!』


アイゼン『そなたは知っておったのか!!!!!??イギリス清教の頭が我が眷属だったという事を!!!!!??』


そして『こちら側』、シェリー達がいるホールにまでガンガン響く大声で、
靄の向こうの誰かへと叫び始めた。




704 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:36:49.69 ID:lbsjmzAo

アイゼン『おい!!!!??ええい無視するな!!!!!!』

アイゼン『ハン!!??喋れ!!!!こんな時まで無口になるでない!!!!』

アイゼン『何?!!!今なんと言った??!!!!』


シェリー『…………』

アニェーゼ「…………」


アイゼン『「黙れババア」と聞こえたが!!!!!!???ハァアアアアアアン??!!!!!!』


アイゼン『答えろこの小童!!!!!いくらスパーダの息子であろうと許さんぞ!!!!我を誰だと知ってのその暴言―――』



アイゼン『―――ううううンンンッッッ!!!!!!???』

そして今度は、いきなり身を仰け反って、
その靄の中から頭を引き抜くアイゼン。
と同時に、凄まじい金属音と共に靄が一瞬大きく縦に歪んだ。


そして一瞬だけ。

一瞬だけ『青い光』が溢れ、その余波のごく一部が『こちら側』にも漏れ出し。


シェリー『―――後ろに!!!!!!』

アニェーゼ「―――やばッッ!!!!!!!」

莫大な魔の衝撃波がホール内に吹き荒れた。
シェリーは反射的に全面の魔像の装甲を強化し、
アニェーゼはその背中に飛びつきしがみ付いた為難を逃れた。




705 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:39:22.00 ID:lbsjmzAo

アイゼンは再び、すかさず靄の中に頭を突っ込み。

アイゼン『ふ、ふ、ふ、ふざけるな馬鹿者!!!!!!バーカバーカ!!!!アホたれ!!!!』

アイゼン『んな代物をこっちに放つなでないわ!!!!何を考えておるのだ!!!!!!』

再び向こうの誰かに向かって怒鳴り始めたが。

アイゼン『―――ま、待て!!!!わかった!!!わかった!!!一段落してからで良い!!!』

アイゼン『一段落してからで良いから後で顔を出せい!!!待て待て待て待て待て構えるな構えるな!!!!!!』

何かの『形勢』がまずくなったのか、
今度は相手をたしなめる様な口調で叫び始め。

アイゼン『待て待て待てその「量」は止せ!!!!溜めるな!!!溜めるでない!!!』


アイゼン『落ちt』


そして彼女が何か言いかけたところで再び、
先程よりも大きな金属音が響き渡った。

が、今度はアイゼンの体が『栓』の役割をしたおかげか、
その莫大な量の力はホール内には漏れ出てこなかった。

シェリー『…………』

アニェーゼ「…………」


その代わりと言ってはアレだが、
頭を突っ込んだままのアイゼンの体は力なくダラリと下がり、時折ピクピクと。


そう、死後痙攣のような動作をしていた。

アニェーゼ「…………何がしたかったんでしょうかね?」

シェリー『……知るか』




706 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:39:53.93 ID:lbsjmzAo
とりあえず今日はここまでです。
続きは明日に。




707 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/15(水) 00:40:36.11 ID:BswE4N6o
くっそわろた



708 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:41:51.07 ID:CCcFrAAO
アイゼンなんか可愛いなww
乙~




709 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:41:59.38 ID:bqBHdO.o

汚い流石兄貴汚い




710 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:49:22.53 ID:Ye1z8pMo
痴女王のキャラが完全にギャグキャラだなwwww



713 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 02:31:06.20 ID:h2Yfxko0
次元斬→大量の幻影剣ということか…?
魔女王ェ…




725 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:42:41.60 ID:lbsjmzAo

と、二人は首を傾げ、互いに目を合わせていたところ。

靄の向こう側から、蹴り出されるようにアイゼンの体が軽く吹っ飛び床に落ちた。

そのアイゼンの体。

顎から上が、綺麗さっぱり『無くなって』いた。
鋭利な、まるでレーザーにでも切り落とされたかのように滑らかに。


だが、シェリー達はそんな事になど注意を留める事ができなかった。

原因は、その黒い靄の中から突如姿を現した第三者。



その人物とは二人共面識は無い。



面識は無いのだが、この目の前の存在が誰かは一目でわかった。

ダンテと瓜二つの顔。
それでいて、弟とはかけ離れている冷徹な表情。
そして青いコートと長い日本刀。

これだけで充分だ。


シェリー『…………ッ…………!!!!!』

アニェーゼ「…………………な、なッ……!!!!??」




この目の前の男がバージルだと断定するには。




726 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:45:41.12 ID:lbsjmzAo

バージルは左手に鞘に納まった閻魔刀を持ち、その靄の中から半身出現させ。
シェリー達など完全に無視して、
ホールの中を軽く、その鋭く冷たい目で見回した。


次いでゆっくりと、残りの体の部分を靄の中からこちらへと移動させてきた。


シェリー『―――』

アニェーゼ「―――」

そして二人は見た。


バージルが右手で引き摺っていた『モノ』を。

彼は長い黒髪を握り締めていた。
その髪の束の先には。

全身に完全に致命傷である深い傷が刻まれている、
いや、刻まれていると言うよりは、半ば体ごと裂けかけている血まみれの女。

その女体が誰なのかも、二人は一目で判別した。

真っ赤に染め上がりながらも一応残っている白いTシャツ。

右腕『らしき』先に、包帯のような物で括りつけられている長い日本刀。


アニェーゼ「―――…………か…………!!!!!!!!!!



シェリー『―――……………………神裂ッッッッ!!!!!!!!!!』



それは見るも無残な姿の神裂火織『らしきモノ』。




727 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:48:17.10 ID:lbsjmzAo

どっからどう見ても死んでいる。

そしてその『遺体』を乱暴に、ゴミのように引き摺っているバージル。

彼は右手を開き、その髪の束を手放し。
血まみれの頭部らしき部分が、
湿った重い音を響かせながら床に落ちた。

明らかに。

明らかに、どう考えても友好的とは言い難い。

シェリーら二人は、体の底から噴き上がるどす黒い感情に突き動かされ、
鋭く睨みながら構え直すも。

シェリー『…………!!!!!!!!』

その場から一歩も動けなかった。
バージルを前にしているだけで。

その姿を見ているだけで、彼女達は完全に押し負けてしまった。

アニェーゼに至っては、顔中から冷や汗を滲ませ、
息を切らせてその場にへたり込んでしまった。


だがそんな二人など全く気にも留めずにバージルは。


バージル「一段落ついたが」


ポツリと。

少し離れた場所に横たわっているアイゼンの方へと言葉を飛ばした。

すると。

アイゼン『…………そなた…………覚えておけ……この小童めが……』

ムクリと起き上がるアイゼン。
欠けていた顎から上の部分は、いつのまにか元に戻っていた。




728 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:50:31.95 ID:lbsjmzAo

アイゼン『我が魔に転生しておらねば死んでおったところだぞ?』

アイゼン『覚えておけ。いつか必ず、必ずこの魔女王と称された我が力を (ry』

バージル「黙れ。無駄口を叩くな」

バージル「要点だけを言え」


アイゼン『―――…………う……ぐ……」


バージル「なぜ『神儀の間』が既に現出している?ここの位置は?」


アイゼン『…………現出している理由はわからぬ。ここの場所はブリタニ……』


アイゼン『いや今はイギリスか、カンタベリー大聖堂の地下だそうだ』

アイゼン『あの者らの記録によれば、1522年からここにあったらしいが』

バージル「…………」


その言葉で、バージルはアイゼンと軽く目を合わせた。

1522年。

それはアンブラの都が滅亡してからちょうど一年後。




729 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:51:50.89 ID:lbsjmzAo

アイゼン『どうやら、見たところだとココは外と剥離されているようだ。恐らくあの者らのセフィロトの樹も切断されておる』

アイゼン『完全に外界と切り離されておるココは。しかもこの封印式はどうやら魔に由来しておるな』

アイゼン『器用なものだ。物質的な干渉は通しつつ、力の干渉は全て切り離しておるとは』

アイゼン『これを行った者は相当の知識と応用力を有しておっただろう』

アイゼン『これならば、我等も天界も気付かぬのは当然だな』


バージル「現出させたのは天界の者では無い」

アイゼン『…………そうだ。実はな、イギリス清教の最大主教が我が眷属であったらしい』


バージル「…………」

アイゼン『そなたはその点について気付いておったか?』

バージル「いや」

アイゼン『ふむ…………まあ大方、生き延びた魔女の一人が、何らかの理由でここに現出させたといったところか』


アイゼン『とりあえずだ。我等が現出させる手間が省けたな』


バージル「…………その魔女、知っている者か?」




730 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:53:17.40 ID:lbsjmzAo

アイゼン『いや。だがそのような事ができる者は極僅か、調べれば直ぐに身元が割れるだろう』

アイゼン『諸長に聞けばすぐだ』

アイゼン『お、それとセレッサ達にも聞いておいてくれ。あの者らは何も報告してこんからな』

アイゼン『何か知っておるかもしれん』

バージル「…………その魔女はどうする?」

アイゼン『うん…………どの道捕えねばなば』

アイゼン『「神義の間」を現出させるには諸長の10以上の許可が要る。その者は明らかに掟に反しておる』

アイゼン『それにだ、状況が状況だけに勝手に動かれることがあれば困るからな』

バージル「殺すか?」

アイゼン『……ま、それは見つけ話を聞いてからだな。今のところは、掟に沿うと処刑が妥当だが』

アイゼン『なぜそのような事をしたのか、何の目的で現出させたかが気になるからな』

アイゼン『もしかしたら、一族の為良かれと思ってやった事かもしれぬ』

アイゼン『現出した時期も時期だしな。何かあるだろう』

アイゼン『見つけても直ぐに殺すな。我等の元に送ってくれ』

アイゼン『身内の問題は身内で処理する』


バージル「…………」




731 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:54:37.31 ID:lbsjmzAo

アイゼン『さてと…………そのローラとやら、今どこにいるかはわかるか?』

一度手を叩きながらアイゼンは、
シェリー達の方へと向き言葉を飛ばした。


シェリー『知らねえわよ………………おい……』

アイゼン『うん?』



シェリー『彼女を…………返せ』




シェリー『…………神裂をこっちに引き渡してもらう』



アイゼン『お、そういえばこの者もイギリス清教だったか』


バージル「……」


アイゼン『おおう、そうだそうだ。一段落ついたという事だがその者はどうなったのだ?』


アイゼン『結局死んだか?』




732 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:57:09.73 ID:lbsjmzAo

シェリー『…………!!!!』

飄々としたアイゼンの調子と、その言葉で魔像の拳を握り締めるシェリー。
その体は、芯から煮えたぎってくる熱く猛々しい思いで震えていた。

そんなシェリーの憤怒など全く気にもせず、

バージル「さっさと起きろ」

足元に横たわっていた肉塊に言葉を放つバージル。


いや。


シェリー『―――!!!!!!!!!!』

アニェーゼ「―――!!!!!!!!!!!』


ソレは、今やもう肉塊とは呼べなかった。

一体、いつの間に。

ほんの一瞬。
ほんの一瞬の隙に。

肉塊だったソレは、綺麗な神裂の姿に戻っていた。

今にも分離しそうな程の傷も、
全身に纏わりついていた血も跡形もなく消えていた。

この今の瞬間の映像だけを切り取れば、
ただ寝ているだけのようにも見える。




733 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 23:58:09.47 ID:lbsjmzAo

アイゼン『ほぉう。やりおったかこの者は。さすがはそなたが目を付けただけあるな』

バージル「…………」


シェリー『………………か……神裂……?』

傷が治っている、という事は。

まだ神裂は生きている。
生きているのだ。


バージル「コイツを運べ」

アイゼン『うん?』


バージル「俺は『神儀の間』を『向こう』に移動させる」


アイゼン『おお、ん、頼んだぞ』

バージルの声に促され、神裂を意図も簡単にヒョイッと持ち上げて肩に乗せるアイゼン。
そして踵を返し、再び例の黒い靄を出現させた。




734 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:00:07.62 ID:FwvNhDco

シェリー『―――…………!!!!!』

三度目の今はもうわかる。
あの靄は『門』、悪魔が使う移動術のようなモノ。

神裂がどこかに連れて行かれる―――。


遺体だけでも回収したかった。
彼女を帰したかった。


それが生きているのなら尚更だ。


このまま見過ごす事など決して―――。


そう思ったシェリーは、先ほど取り込んだばかりのタルタルシアンを解放―――。


『エェェェェェリ――――――!!!!!!!!!!!!!!』


――― しようとした瞬間だった。


「―――やめ―――」


耳に入る、聞きなれた女の声と。


喉元に伝わる、冷たい金属の感触―――。




735 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:02:01.09 ID:FwvNhDco

気付くと。

シェリー『―――……ッス……ッ…………!!!!!!』

正面には抜き身の閻魔刀を構え、
その切っ先をシェリーの喉元に突き立てているバージル。

凶悪なその刃は、彼女の体を覆っていた黒い装甲を意図も簡単に、
まるで存在すらしていなかったかのように貫通し、生身の肌に軽く触れるところで静止していた。

シェリーは動いてはいない。

バージルが一瞬で距離を詰めてきたのだ。
彼女は一切目視できなかった。
その動きが全くわからなかった。


彼女は呼吸すらままならない程に、
その狂気の刃を前にして固まっていた。

一ミリも体を動かすことが出来なかった。

そんな中。


神裂「…………お願い…………します…………手を…………お引きになって…………下さい……」


アイゼンの肩の上からバージルへ向けて放たれる、
今にも途切れそうなか細い声。




736 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:03:06.92 ID:FwvNhDco

シェリー『…………』

先ほど一瞬聞こえた声も、恐らく神裂のモノ。

バージルへ向けて、殺さないでくれという意味で放ったのか。
それともシェリーへ向けて、バージルに楯突くなという意味で放ったのか。


どちらにせよ、その一声がシェリーの命を辛うじて繋ぎとめたのは確かだ。


神裂「…………お願い…………します…………」


バージル「…………」

その言葉が届いたのか。

それとも単なる気まぐれか。

バージルはスッと閻魔刀を引き、
依然固まっているシェリーの横をすれ違いザマに。


バージル「二分以内にここから失せろ」


それだけ言葉を放ち、ホールの中心へと足早に進んでいった。




737 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:05:38.88 ID:FwvNhDco

シェリー『か、神裂…………お前……一体…………』

神裂「事情はまだ話せませんが…………これは私自身の選択です…………」

アイゼン『話なら手早く済ませろ。ああ、そうだ、そなたら、今宵の事は決して他言する出ないぞ?』

アイゼン『己の命を縮める事になるからな』


神裂「あ…………信じてください…………これだけは約束します…………」


神裂「私は…………全身全霊をかけ…………私自身の戦いを成し遂げます…………」


アイゼン『そろそろ行くぞ。ほれ、そなたらも行かぬと死ぬぞ?』


アイゼンが少し急かしながら、靄の中へと消えていく。
肩に乗っている神裂も。




738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:07:18.72 ID:FwvNhDco

神裂「必ず…………あなた方を守り抜いて見せます…………!!!!!誓います…………!!!!」


そして。


神裂「どうか……!!!!……絶対に死なないでk―――!!!!!!」


シェリー『待―――!!!!!!!』


言葉を言い切る前に、神裂とアイゼンは靄の中へと姿を消し。
数秒後にその靄も消失した。

跡形も無く。


そして響く。


バージル「後30秒だ」


小さいながらも、突き刺さるように響くバージルの冷たい声。

次いでホール全体に、耳を覆いたくなる程の異質な耳鳴りが響き。
凄まじい量の青い光がホール内を満たし始めた。




739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:09:13.52 ID:FwvNhDco
シェリー『―――神裂ッ!!!!!!神裂ィ!!!!!!!!!』

例の黒い靄が消失しても尚、異常な耳鳴りの中その空間へと呼び続けるシェリー。

アニェーゼ「さっさと行きましょう!!!!!このままじゃこっちがやばいですよ!!!!!」

そんな彼女の、黒い装甲に覆われた手にぶら下がるようにしがみ付き声を張り上げるアニェーゼ。

シェリー『待て……!!!!神裂が…………!!!!』

アニェーゼ「彼女は強い!!!!!!!信じるべきじゃねえーですか!!!!!!!!!」


シェリー『だ、だが…………!!!!!!!』


アニェーゼ「こんな所で死んじまったら!!!!神裂にどの面下げりゃあいいんですかッッ!!!!!!!???」


アニェーゼ「シェリーィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!」



シェリー『―――』

そのアニェーゼの言葉と。
叫ばれた己の名で、シェリーはようやく動く。

腕にしがみ付いているアニェーゼを瞬時に抱え込み、
魔像の力で床を一気に蹴り、100m以上先にある扉の方へと跳躍する。

砲弾のように射出されたシェリー達は、そのままドアをブチ破って廊下の壁へとめり込んだ。


それとほぼ同時に。


部屋の中から凄まじい金属音と光が溢れ出し。
封印庫全体を大きく震わせた。




740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 00:13:04.66 ID:FwvNhDco

数十秒後。

シェリー「………………」

アニェーゼ「………………」

魔像化を解いたシェリーとアニェーゼは、
大きく凹んだ廊下の壁に寄りかかり床に座り込みながら、

反対側の破壊された扉の向こうを眺めていた。

視線の先の闇。

その向こうには先ほどまでの異質な空気も、重苦しい闇も消え失せていた。
廊下の仄かなろうそくのあかりが、さっきとは違い部屋の中にまで良く差し込んでおり。

奥には何も無かった。


何も。


あの巨大なホールは跡形も無くなっていた。

アニェーゼ「………………大丈夫ですよ。神裂なら…………きっと…………」

シェリー「………………」


そして二人はゆっくりと立ち上がり。

アニェーゼ「…………………………行きましょうか。こっちにはこっちで仕事が山積みですからね」

シェリー「…………………………ああ」

二人は一度、壊れた扉の奥へと目をやった後、
正面を向いて力強い足取りで廊下を進んで行った。

アニェーゼ「…………で、どうします?キャーリサ様への報告は?」

シェリー「…………タルタルシアンを手に入れたってだけ言えば充分よ。後は知らぬ存ぜぬで」

アニェーゼ「アイアイ」

―――




743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 08:45:00.32 ID:8R/7/IDO
最近魔女パートばっかりだったから忘れかけてた
バージルめちゃくちゃ恐い




764 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:04:03.69 ID:lizh526o
―――

学園都市。
午後5時過ぎ。

季節は冬、外は既に薄暗くなり乾き冷たい風が吹く中、
第七学区ではあちこちに巨大な作業灯が聳え立ち、
瓦礫除去作業を行う多くの重機を煌々と照らし上げていた。

第七学区に刻まれた、先日の凄まじい戦闘の傷跡。
今現在、24時間体制で作業が行われている。

そんな第七学区の端、被害を免れたとある病棟一階の大きなフロア、
そこの長椅子の一つで、上条とルシアは並んで座っていた。

フロアの端にある、大きなテレビから流れてくる報道を見ながら。

先日の戦闘による、一般人の被害は負傷者は約8000人(魔の力による意識昏倒も含め)、
死者は3人、行方不明者は8人(生存は絶望的とされている)。

負傷者の数・都市の破壊規模からすれば奇跡的な程に犠牲者は少ない。
少ないのだが。


上条「…………」


やはり、上条当麻にとってはかなり心が痛む事実だった。
自分達の戦いで犠牲者が出た、それも一般の学生。

上条「クッソ…………」

こみ上げてくるやり場の無い怒り。




765 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:06:45.68 ID:lizh526o

だが、報道の仕方や世間の反応を見ると、この件はさほど重大視されていないようだった。
『平時』ならば、学園都市にてこれ程の規模の『テロ』が起こったとなれば、世界的な話題となるだろう。

だが今は違う。

世界はもうそれどころではない。
世間では、この程度の事など最早小さな因子に過ぎない。

WW3の中の小さな戦闘の一つとしてしか認識されていない。

学園都市の件も今やさらりとしか報道されず、メインは世界各地の戦闘状況。

上条「…………」

それがまた、上条にとってもどかしい怒りとなる。

彼は今の状況の全貌を掴んでいるわけでは無い。

だが、己がこの戦争の『本当の核』の場所に立っていることぐらいはわかる。
この戦争がタダの『人間同士の戦い』ではなく、もっと巨大な別の姿を持っていることも。

ステイルからも、午前中にいくらか話は聞いた。
ウロボロス社とローマ正教側に纏わる人造悪魔兵器の件、そして己達が戦っているちょうどその時、
ヴァチカン・フォルトゥナにても異界の力・存在による大規模な戦闘があった事を。

まだまだ全貌は掴めないが、上条ははっきりと認識していた。
己もこの戦争の『要因』の一つである、と。
この忌まわしい物語の主要登場人物の一人だと。


これは己の戦いでもある、と。




766 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:08:33.00 ID:lizh526o

上条「…………」

トリッシュからも話を聞くべきだろう。
きっと何かを知っているはず。
事実を知っていなくても、彼女の人間とは格の違う頭脳から導き出された推測や助言はかなり役に立つ。

あの『良くわからない作業が』一段落でもしたら、今日にでも上条は聞くつもりだ。
(何かの術式を解く、という話らしいが上条にとってはチンプンカンプンだった)

上条「…………」

そんな事を上条は考えながら、
横にいる赤毛の少女の方へさりげなく目を向けた。

ルシアはちょこんと座りながら、ジッとテレビの報道を見ていた。
その大きなクリッとした目を開き、報道の内容に集中しているのではなくテレビそのものを珍しそうに。

その瞳は一欠けらの濁りも無く純粋そのもの。
かといって、ウィンザー事件の時のように無感情ではない。

宿っているのは純粋な感情だ。
清すぎる心。

上条「…………」

上条はふと思う。
面白いもんだな、と。

悪魔が天使のような心を有しているとは。
(ここの天使と言う表現は、種族を指したものではなく概念的な例えだ)

インデックスの瞳にも少し似ている。




767 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:10:06.12 ID:lizh526o

こういう瞳の悪魔は、上条はこの二ヵ月半の間見た事が無かった。

ダンテやトリッシュ・ネロのような人間側に立っている悪魔、
更にステイル等の元人間の者でさえ、
その瞳のどこかには悪魔特有の影の部分が見え隠れしていた。

上条自身、己の瞳を鏡で見た時に感じる。

恐怖、絶望、力の渇望、底無しの闘争欲、そして人間には到底理解できない凄まじい狂気、
それらが不気味な光を放っている事を。
人間にとっては災厄そのもの、悪魔にとっては『真理』であるその影の面。

上条自身でさえこうなってしまった以降、戦闘を楽しんでいる自分がどこかにいる事を感じていた。
昨日の戦闘の時でさえ、上条は言いようの無い昂ぶりを感じていた。

フィアンマに魔弾を撃ち込み、彼の体が爆散する瞬間、
上条は不気味な快楽に浸っていた己をも認識した。


上条「…………」

だがこの隣の少女は、そんな感情など一切無いのだろう。
悪魔特有の気質が全く感じられない。

上条自身がこう思う。
元人間の俺よりも人間っぽいな、と。

なんという皮肉か。

忌まわしき人造悪魔として生み出された存在が、人間よりも遥かに高潔な心の持ち主だとは。

人々が当たり前のように感じ、その美しさや愛おしさを忘れかけているこの人間世界、
その姿を彼女は瞳一杯に捉え、そして本当の価値をしっかりと認識しているとは。

上条「…………」




768 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:12:25.85 ID:lizh526o

ルシア「?」

そう上条が考えていた最中。
ルシアが上条の視線に気付き、その愛くるしい瞳を彼の方へと向けた。

それに対し、上条は眉を軽く上げて笑い、
肩を小さく竦めて「なんでもない」と意思表示。

ルシアは軽く首をかしげながらも再びテレビの方へと目を戻した。

とその時。

ピクリと背筋を伸ばし、テレビではなくフロアの入り口の方をジッと見つめ始めたルシア。

上条「……?」

数分間、彼女はそんな調子で固まっていた。
不思議に思った上条が声をかけようと思ったその時。

上条「……ん?」

彼も廊下の方から近付いてくる、二つの人間の気配を察知した。
片方は上条が慣れ親しんだ気配。

上条「(御坂?)」

そして徐々に聞こえて来た軽い足音の後。


フロアに姿を現す、


御坂「あれ?」

佐天「あ!!」


二人の中学生。




769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:14:06.46 ID:lizh526o

上条「おーっす」

ソファーに座りながら、御坂とその友達らしき人物へ向けて軽く手を振る上条。
その御坂の隣の子を以前見たことあるような気がしていたが、この時はまだ思い出せていなかった。

御坂「おー……ってアンタ、ここで何してるの?インデックスちゃんはどうしたのよ?」

御坂「っていうかその子は?まさか『また』…………」

どことなく不審げな表情をしながら上条達の方へと向かう御坂。

上条「な、なんだよっ……あー、この子はな……」

なぜかやや不機嫌になった御坂に戸惑いながらも、
上条は説明しようとしたその時。

佐天「ルシアちゃん!!!」

満面の笑みでルシアの方へと駆け寄っていく佐天と。

ルシア「さ、佐天さん!!!」

上条の隣で更にピンと背筋を伸ばし、笑顔を浮かべるルシア。



上条&御坂「…………はい?」




770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:18:59.38 ID:lizh526o
~~~~~

数分後。

首を傾げていた二人に、出会った時の状況を佐天は一通り説明し終えた。

佐天「…………って事で、昨日ここで知り合ったんですよ」

ルシア「そ、そうなんです」

その佐天の言葉に合わせ、すこし恥ずかしそうにも相槌を打つルシア。

上条「へぇ~…………で…………その、御坂の友達か?」

御坂「うん、佐天さん。黒子繋がりで」

佐天「あ、佐天涙子です。どうも。お話は色々と御坂さんから……」

上条「俺の話?どんな?」

佐天「そりゃぁ、めちゃくちゃかっこ良くt」

御坂「え゛へェ゛ンッッ!!!!!」

その時、突如響く御坂の大きな咳払い。

佐天「あ…………そ、その~とにかく強いって」

上条「?」

御坂「い、良いから、その子の事も紹介してくれない?」

上条「おおう、この子はルシアだ」

ルシア「は、はじめましてっ。る、ルシアです」

立ち上がり、ペコリと御坂に対して頭を下げるルシア。

御坂「(い……良い…………持って帰りたい……)」

上条「ダンテの同業者だ。この子もあk……え~っと…………」

傍らのルシアを御坂に対して紹介する上条。
だが何かを言いかけたところで少し言葉を濁した。




771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:21:16.83 ID:lizh526o

佐天「?」

上条「佐天さんもここにいるって事は、一応『関係者』だよな?」

御坂「え?あ、うん。普通に喋っても言いと思うわよ。佐天さん、セキュリティレベル満たしてるわよね?」

佐天「あ、はい(セキュリティ?良くわかんないけど多分OKっしょ)」

上条「おお、それなら良いか。この子は悪魔だ」

御坂「へぇ~!」

佐天「(やっぱり……)」

上条「ステイルとか神裂よりも強いらしいぜ」

御坂「へぇ~すっごいわね。アンタより強いの?」

上条「うーん、そこはやってみないとわからないなー。な?な?」


とその時。


ルシア「私の方がだいぶ強いです」


ルシアは疑問に対して事実を素直に答えた。


上条「……………………だそうです……」

その言葉を聞き、わかってはいたがどストレートではっきりと言われ、
少し肩を落とす上条。




772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:23:03.30 ID:lizh526o

御坂「へぇ~!具体的にどんくらい差があるの?!」

ルシア「わ、私はステイルさん・神裂さん二人を相手にしてちょうど互角でした」

御坂「なるほど……ステイルさんと神裂さんってルシアちゃんの見立てだとどのくらい?」

ルシア「えっと……ウィンザー事件時のステイルさんよりも、今の上条さんはやや劣ります」

上条「…………う……」

ルシア「ですがその差は極僅かなので、戦闘内容によってはどちらは勝つかはわかりません」

上条「だ、だよな!?つまり互角っていうk」

御坂「アンタはちょっと黙ってて。で、神裂さんの方は?」

ルシア「か、神裂さんはもっと遥かに強かったので、上条さんが勝つ事はまず不可能だと思います」

上条「………………う……ま、まあ神裂にはどう転んでも勝てないかな……」


御坂「まあまあ、そう気を落とさないでって!ねえねえ、ところで私ってどのくらい?!」


ルシア「…………そ、そうですね……確かレディさんから魔弾を貰ったんですよね?」

御坂「そうそう!」




773 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:28:37.32 ID:lizh526o

ルシア「その魔弾を一発でも直撃させられれば、上条さんに勝利する展開も望まれますが、」

ルシア「レディさんのような豊富な経験と鍛え上げられた感覚か、高度な術式による照準補正が無いと、」

ルシア「上条さんの今の身体能力ならば射線を読まれて簡単に避けられてしまいます」

御坂「…………」

ルシア「そ、そして一気に距離を詰められてすぐに決着がつきます」

ルシア「中近距離戦に持ちこまれた場合は、御坂さんでは上条さんの速度に全くついていくことができません」

ルシア「現状の御坂さんレベルが4人いれば上条さんを弾幕で圧倒できますが、一対一ではかなり厳しいです」


御坂「………………うう」


上条「ま、現実はそういうもんだ!な!御坂!落ち込むな!!!ははは!!!」


佐天「じゃあじゃあ私は?!」


上条「……」

御坂「……」

ルシア「…………あ、あの……」

佐天「……って、じ、冗談!!冗談ですよ~もう!!」

御坂「だ、だよね~!」

上条「ま、まあそうだよな!」

佐天「私は皆の友達ってだけで、か弱い非戦闘員ですもん!!」


ルシア「(友達…………友達……私の……友達……)」




774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:31:31.36 ID:lizh526o

上条「あ、そうだ御坂」

御坂「何よ?」

上条「レディが来てるぜ」

御坂「うっそ!!?どこ!?」

上条「トリッシュの部屋に。今よくわかんない作業しているから、俺締め出されたんだけどな」

上条「インデックスも今その仕事やってる。でもそろそろ終わるんじゃねえかな?夜には今日の分は終わるって言ってたしな」

御坂「じゃ、じゃあ、会いに行っても良いのかな!?」

上条「お、俺じゃなくてルシアに……」

御坂「良い?!」

ルシア「あ、は、はい。良いと思います」

佐天「あ、あの~…………私は……?」

御坂「佐天さんもおいでよ!レディさん紹介してあげる!」

上条「トリッシュにも紹介すると良いぜ?な?ルシア。『友達』だって」

ルシア「は、はい!!」

佐天「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しちゃおっかな~!」

上条「じゃあ、ルシア、二人を連れて行ってくれ」




775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:34:31.05 ID:lizh526o

御坂「へ?アンタは?」

上条「お、俺はもうしばらくここにいるかな」

御坂「何で?」

上条「な、なんとなく」

やや顔を引き釣らせて笑う上条。
だがそんな彼に対し、鋭い声色で言葉を放つ御坂。

御坂「ダメ。大体にしてアンタがインデックスちゃんと別行動してる時点で問題ありなんだから」

上条「い、いや、護衛については問題ないだろ?ステイルとレディ、そこにルシアが加われば俺なんかよりも……」

御坂「そういう問題じゃないでしょーが。アンタはあの子の傍から離れちゃ(ry」

上条「あ、あのな!!!……じ、実はこ、これから別の約束があってな!!」

ルシア「?わ、私は聞いてませんが予定があったんですか?」

上条「(純粋で素直すぎですよルシアさん!!!)」

御坂「ですって。あ!!!アンタもしかして…………」

上条「ち、違うぞ!!!!良くまた女かって何だか言われるけど違うぞ!!!」

御坂「いや、そうじゃなくて……もしかしてレディさんが怖いとか?」

上条「―――!!!!!!!!」




776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:35:52.25 ID:lizh526o

御坂「全く……や~っぱり……」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいや」

御坂「大丈夫だって。冗談だってあの人なりの。レディさんって結構優しいわよ?」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいやあれはマジです」

御坂「……ルシアちゃん。当麻をさ、あの良く悪魔が使う魔法陣みたいので運べる?」

ルシア「あ、はい、できます」

上条「ちょっと待って待ってちょっと」

御坂「じゃあ、当麻を押さえつけて、それで(ry」

とその時。
ルシアと上条は、再び別の気配の接近に気付いた。

そしてその存在。

それは正に上条にとって助け舟だった。


フロアの入り口に姿を現す―――。



一方「あァ?」


一方通行。




777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:38:54.56 ID:lizh526o

上条「おおおおおおおおおおおう!!!!!!!!!!!」

その場から一気に跳躍し、一方通行の脇に飛び込むように移動する上条。

上条「ま、待ってたぜアクセラレータ!!!さ、さあ行こうぜ!!!」

一方「アァ?!!!なン―――」

見るからに嫌悪感むき出しの表情で、
杖をつきよろめきながらも身を仰け反らせる一方通行。

上条「良いから調子を合わせてくれ頼む頼むマジで頼むお願いします」

上条はそんな彼に対し、高速で小さな小さな声の言葉を一気に並べた。

御坂「ちょっとアンタ達」

上条「い、いや、俺はアクセラレータと約束しててな!な?!な?!」

一方「…………」

御坂「……いや、当麻は黙ってて。本当?」

一方「まァ…………用事があるってンのは嘘じゃねェ」

上条「(おっけーおっけー!!!!!!!)」

御坂「へぇ……どんな?」

一方「俺がオマェにベラベラ話すと思ってンのか?」




778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:41:01.38 ID:lizh526o

御坂「………………………そう。まあいいわ」

御坂「とにかく、できるだけ早く戻ってきなさいよ?」

上条「お、おう!!!わかった!!」

疑惑の目をしながらも、御坂はそのままルシア・佐天と共にフロアを後にしていった。
そんな三人の姿が消えた後。

上条「ふぅ~~~~~~~!!!!いやぁ~助かったぜ!!!」

一方「…………オィ、オマェあのガキの傍にいなきゃなンねェンじゃねェのかよ?」

上条「……ま、そうなんだけどよ。今だけは別だ今だけは……」

一方「アァ?オマェあンな事がつい昨日あったくせにまだンな事を(ry」

上条「ああ、そっち方面なら別に問題ないぜ。御坂とステイルがいるし、」

上条「更にもう二人、俺なんかじゃ手も足も出なさそうな強い奴がいる」

上条「今インデックスを狙うよりかは、俺かお前が一人で護衛している時を狙った方が楽な状況だぜ?」

一方「…………ハッ……つー事は、その二人はダンテのお仲間か同業者って所かァ?」

上条「そうだけど……なんでわかった?」

一方「こっち側につくそォいう連中ってのは大体そっち方面だろォがよ。別勢力にもンな野郎がいるンじゃたまンねェよ」

上条「あ~、まあ確かにな。それにしても助かったぜ!お前が話し合わせてくれてな!」

一方「ちょォど良かっただけだ」

上条「…………はい?」

一方「オマェの右手を借りようってよォ、これから探そォとしてたところだ」

そこで一方通行は右手を顔の前当たりに挙げ、上条に見せ付けるように握っては開きながら、
不敵な笑みを浮かべた。


上条「…………な、なんの用でせう?」


一方「ちょっとした『実験』だ。付き合えや。なァに、すぐ終わるぜェ」


―――




779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:43:06.94 ID:lizh526o
―――

窓の無いビル。

アレイスターは、己の直ぐ前に浮かび上がっているホログラム画面を閲覧していた。

浮かび上がっている画面は三つ。

一つは、今行われている能力者部隊の調整作業の経過報告。
一つは、現在の世界情勢の様々な情報。

そしてもう一つは。

一方通行の進化により大きく変化した、学園都市全体のAIM拡散力場のデータ。


アレイスター「…………」

封印された力場から引き出しているのではなく、己自身の魂から力を放出し始め、
『生きたAIM拡散力場』の核へと変化しつつある一方通行。


『生きているこの力』を実際に見るのは、アレイスター自身も始めての事だ。
数千年振りに生れ落ちた、『人間界の天使の卵』。


彼の類稀なる頭脳は、間接的なデータだけで確実性の高いモデルを構築できていたが、
現物を実際に調べてみると少々誤差が見られる。

やはり計算上の理論だけでは、いくらアレイスターでも完璧なモデルは構築できなかったようだ。
まあ、それも当然。

ここからは人知を超えた、未知の領域なのだ。
それなりに確実性の高いモデルを構築できたのはアレイスターだからこそ。

それに、その誤差もどうってことは無い。

どれも少しの修正で事足りる。


しかし一つだけ。


一つだけ、とある懸念事項がある。


それは、この『誤差の原因』が調べられない事だ。




780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:46:27.53 ID:lizh526o

想定モデルと、一方通行の『現物』との微妙なAIM拡散力場のズレ。
既存の、学園都市が有するAIM拡散力場への、一方通行の力場から来る影響。

そして『幻想殺し』、いや『竜王の顎』への小さな干渉。

全体に極僅かずつ見られる、このアレイスターの想定モデルとは一致しない微妙な誤差。

アレイスターならば、一ヶ月かければ全てを調べ上げられるのだが、
この通りその時間的余裕は全く無い。


アレイスター「…………」


状況的に、この点は見過ごすしかないだろう。
修正は簡単だ。
プランの障害とはまず成り得ない。

この小さな問題の原因はわからなくても、プラン成功の確率はほぼ全く変動しない。


『計算上』は全く問題ない。
この点は目を瞑るべき。

いや、残された時間的余裕を見ると、目を瞑るという選択肢しかない。


そうアレイスターの頭脳は答えを導き出し、そして判断を下した。
迷い無く。


しかし。


この判断が、後にアレイスターにとって最悪の事態を招く。




781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:48:32.38 ID:lizh526o

勘や感情を一切信頼せず、己の類稀なる頭脳の、
正確な計算に絶大な信頼を寄せているアレイスター。

心があったからこそ彼は一度大敗北をし、
心を捨て頭で動くようになってからこそ、彼は勝ち続け再起を果たし、
そして今のこの局面にまで到達した。


二ヵ月半前からその『戦い』は苦しくなったが、
それでも彼は様々な手を冷静に講じて己の道を勝ち続けた。


悪魔、そしてスパーダ一族と言う、規格外の存在に揺さぶられながらも、彼は決して道を外さなかった。

確かに辛く苦しい『峠』だったが、
その一方で彼自身はそ、こを乗り越えつつある己のやり方に絶大な信頼を寄せていた。

あのスパーダ一族の介入があったにも関らず、プランの芯は瓦解せずにここまでやってきたのだ、と。

感情には一切左右されない、
この完璧な頭脳が彼の最大最強の強みなのだ。


だがアレイスターはまだ自覚していなかった。


この点が究極の弱点ともなり。


たった今、最大級のミスを犯してしまった事に。




782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:50:22.96 ID:lizh526o

とその時。


「一方通行、彼はやはり興味深い」


どこからともなく、いや、彼の脳内に直接飛び込んでくる声。
それはアレイスターの守護天使、『エイワス』の言葉。

アレイスター「君か。彼がどうした?」



エイワス「系統はやはりハデスに似ているな。それとあの危うさと戦気はクラトス、アレスにも類似している」


エイワス「懐かしいな。在りし日の彼らの顔があの少年と重なる」


アレイスター「……君が『懐かしい』という表現を使うとはな」

エイワス「私にも一応は、君達で言う『感情』に比する意識反応はある」

エイワス「例え壊れた思念と記憶の集合体であっても、その残滓は在りし日のような反応を見せる事もある」

エイワス「それにだ。『生の力』は少なからず私にも影響を及ぼしているな」

エイワス「意思に反する終焉を迎えた死者は、どこの世界でも生者を羨むものだ」

エイワス「意味の無い『記号の集合体』であってもな」




783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:52:23.26 ID:lizh526o

アレイスター「…………わざわざ私に対してその『表現』を使う必要は無い」

エイワス「そうか。まあそれはどうでも良い。表現の仕方など腐る程あるしな」

エイワス「話を戻すか」


エイワス「やはりあの少年がガイアの血族に似るのは、君がグノーシス式をベースに現出理論を構築した影響だな」


アレイスター「…………」

エイワス「グノーシス式は汎用性が高いからな」

エイワス「天の検閲を免れた因子が多々ある、数少ない理論の一つだしな。そのおかげで魔にも天にも応用が利く」

エイワス「扱いにくさと天の意志による十字教への同化によって、魔術世界一般では本来の姿を失ったがな」

エイワス「確か、君の『旧友』もグノーシス式をベースにしてたなかったか?」


アレイスター「君は何が言いたい?ガイアの血族に似た事への指摘か?」


エイワス「いや、批判するつもりは無い」

エイワス「それに心配には及ばない。かつての者達に似ることは合っても、本質は別物」

エイワス「あの少年は誰とも血の繋がっていない、新世界の『現初神』の卵だ」

エイワス「おめでとう。君は人間界の、新たな神族世代の第一子を、遥かな時を越えて誕生させた」


エイワス「やはり君は最も興味深い。私を楽しませてくれるな」


アレイスター「…………」




784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:55:53.59 ID:lizh526o

エイワス「それとこれは私の戯言だが、あの少年はアキレウスとも重なる部分が多い」

エイワス「一体いくつの『偶像』をあの少年に重ねていたのだ?」

エイワス「君との関係性を見れば、ヘラクレスとも重なる」

エイワス「その場合、君はプロメテウスだな。君がこの『偶像』を重ねたのか?」


アレイスター「いいや。ヘラクレスの像とは重ねていない。勝手に現出しただけだ」


エイワス「なるほど……ヘラクレスは偶然であり、一方で必然か。君をこの闘争から『解き放つ』者だな」

アレイスター「…………」

エイワス「『君』は人間に『火と文字と知恵』を与え、つまり新世界へと導き、」

エイワス「そして『親』の怒りに触れ、磔にされ半永久的に肝臓を喰われ続けた」

アレイスター「厳密には『私』の相手は天だったがな。それに永遠に奪われたのは『全ての肉』だ」

エイワス「そうだったな。その苦痛の終焉を、この若き『ヘラクレス』は君に届けに来る」


エイワス「そして最期は。『皆』が『竜』に飲み込まれる」


エイワス「同じだな。君達は『歴史は繰り返す』と言ったが、正にその通りだ」

アレイスター「…………」

エイワス「人間界そのものが過去の『偶像』に囚われ、その歴史を再現しようとしている」


エイワス「古の人間界の『像』が、今の人間界へ重なり映し出されている」




785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 23:58:53.77 ID:lizh526o

エイワス「君はやはり天才だな。人間界そのものに『偶像の理論』を照らし合わせ、」

エイワス「その虚像の力を利用して、望む方向へと局面を運んでいくとは」

アレイスター「元の技術自体は2700年前にホメロスが確立させてある。私はそれを実用段階まで完成させただけだ」

アレイスター「それに『私如き』ができたのだ。魔界にはこの程度など、居眠りしながら構築できる者もいるだろうな」

エイワス「いや、『実像』とは別物の、『作られ与えられた世界』だからこそ、」

エイワス「『偶像』に仕立て上げることが可能だ」

エイワス「魔界や天界では、決して考えられぬやり方だ」

アレイスター「それは必要性が無いからだろう?この方式が通じるのは『今の人間界』だけだからな」

アレイスター「それにだ。偶像の理論自体、力なき人間界独自のやり方だ」

アレイスター「オリジナルの力が手に入らないからこそ劣化コピーで賄う、付け焼刃な子供だましだ」


エイワス「確かに、『偶像の理論』から生み出されるのは複製」


エイワス「あくまで再現。オリジナルとは別物。100%完全同一体ではない」


エイワス「だが、君は逆にそこを逆手にとったではないか」


アレイスター「……」


エイワス「再現度を抑え、己の手を加え、似ているようで全く別の帰結へと方向修正」

エイワス「全体像は似ていても、『竜』に今回飲まれる対象は別物」

エイワス「結末も違う。大いなる破壊により、大いなる時代を誕生させる」


エイワス「こういう君の発想が私は好きなのだよ」




786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:01:35.11 ID:NgSVEzIo
エイワス「その『偶像』に重ねる事のできない、『幻想殺し』の手綱取りも見事だった」

アレイスター「周囲を固めれば、自ずと所定の位置に嵌り込んでくれる」

アレイスター「あの少年自身の思考回路は単純だからな。誘導は簡単な事だ」


アレイスター「ただ、この二ヵ月半の間はかなり厳しかったがな。半世紀振りに精神疲弊した事もあったよ」


エイワス「確かに。君があんな精神状態に陥ったのを見るのは久しぶりだったよ」

エイワス「だが君は着実に成し遂げてきた。数々の最大級のイレギュラーをも利用してな」

エイワス「そして過去の『偶像』にはもう囚われない、全ての因果と理を消去した新たな人間世界、」


エイワス「『ホルスの劫』の始点が、つい先日構築された」


エイワス「古の神々の『偶像』へと仕立て上げられた、あの少年の昇華でな」


エイワス「あと一歩だな。『エドワード』。君が思い描く未来まで」


アレイスター「『思い描く』、ではない。私が『見て知っている未来』を、だ」


エイワス「表現の違いに一々突っ込むな。言葉は違えど、私の認識は君と同一だ」

エイワス「まあ、やはり君は最高だ。よく縛された人の身でここまでやったな」

エイワス「君が舞台を整え、脚本を書いたこの『劇』ほど楽しいものは無い」

エイワス「過去の事実因子を組み込みながらも大幅加筆し編纂、全く新しい『神話体系の始まり』を君は書き上げた」

エイワス「君の目論見が成功すれば、後世の者達は君の名と共に、『今』というこの瞬間から始まっている『神話』を詠うだろう」

エイワス「ホメロスを越える偉業だな。あの『者達』は結局世界を変える事はできんかったからな」

エイワス「まあ、時期が悪かったという事も原因だが」




787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:04:33.34 ID:NgSVEzIo

エイワス「それに君の守護天使となったおかげで、かのスパーダ一族の戦いも間近で見れた」

エイワス「見ていて楽しいよ。ここから更に私を楽しませてくれ」


エイワス「私にすら見えぬ、私ですら認識できぬこの大渦」


エイワス「その中央で、不測の事態に陥った君がどう動くかが見たい」


エイワス「非常に興味がある」


アレイスター「……その言い方、今後も何かあるように、何かある事を期待しているように聞こえるが?」

エイワス「何が起こるかはわからない。だが何かを期待しているのは否定しない」

エイワス「それにだ。状況的に見て何かが起こるのは確実だろう?」

アレイスター「……わかっている。ところでエイワス」

エイワス「何だ?」

アレイスター「……私の許可無しで勝手に現出するのは止めてくれないか?」

エイワス「声だけでもか?良いでは無いか。今くらい大目に見てくれ」

エイワス「私だって話し相手が欲しくなる時がある」

アレイスター「ヒューズ=カザキリで我慢してくれ。君が勝手に動くと様々な方面に影響が出てくる」

アレイスター「それにだ。もう少し我慢すれば『自由』だぞ?」

エイワス「ああ、あの『少年』との件か。いつだ?」

アレイスター「どうせ盗み聞き盗み見しているだろう?一週間以内だ」

エイワス「楽しみだ。それにあの少年の目に早く入ってみたいよ」

エイワス「私を『知った』彼がどんな反応するか、非常に興味深い」




788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:06:00.81 ID:NgSVEzIo

アレイスター「一方通行には数日中に会わせてあげよう。彼も『ドラゴン』には会いたがっていたようだしな」

エイワス「楽しみだ」

アレイスター「だから(ry」

エイワス「わかったわかった。現出するなと言いたいんだろう?わかったよ」

アレイスター「そうか」

エイワス「ではここらでお暇させてもらおう。ちょうど君の『旧友』が通話したがっているようだしな」

アレイスター「…………」

とその時。
エイワスの声が途絶えたと同時に、
ホログラムに表示される、通信が届いてきたと知らせる通知。

その相手は。

通話元の場所は。


アレイスター「…………」


ウロボロス社、デュマーリ島の。


アリウスの専用回線。


アレイスター「………………」

無言のまま、脳信号で回線を開くアレイスター。

そして画面に表示される、豪華な椅子にふんぞり返りながら、

葉巻の煙を燻らせているアリウス―――。




789 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:08:15.22 ID:NgSVEzIo

二人の天才魔術師。

彼らはかつて若かりし頃、同じ魔術結社に属していたライバルであり学友であった。
お互いを切磋琢磨し合い、共に高みを目指していた。

だがある時。

この天才達の道は大きく分かれた。

一人は魔術世界からも姿を消し、
影で魔の力を追求し人知を超える究極の存在を目指し始めた。

もう一人は天の力を追求しその名を魔術世界に轟かせたが、
掘り当ててはならない『真実』を我が物にしてしまい、天の怒りに触れ。

そして途方も無い戦いの道を決意した。



そんな二人が今。


『最期の会話』として言葉を交わす。

半世紀以上昔、時に罵りあい、時に殴りあい、
そして時に笑いながら肩を組み合った男達が。


当時の感じに似た口調で。
半ば懐かしみながらも。


お互いの『死相』を見、そしてほくそ笑む。


相手の死を望みながら。




790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:10:46.48 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………アレイスター』


アレイスター「……………………意外だな。何の用かな?」

アリウス『いやなに、挨拶でもしておこうとな』

アレイスター「それはそれは。遺言でも伝えておきたいのか?」

アリウス『はッ、生憎死ぬつもりは無い。お前こそ身辺整理を始めた方が良いんじゃないか?』

アレイスター「………………整理する程の私物は無いんでな。まあ、するとしたらお前が死んでからにしよう」

アリウス『相変わらず寂しい男だな』



アリウス『―――エドワードよ』



アレイスター「…………君には言われたくないな。『ジョン』」


アレイスター「少なくとも私は一度伴侶を得ている」


アリウス『ふん…………そうだ、エド。どうやら俺に、今週中にでもプレゼントを贈ってくれるらしいな』

アレイスター「まあな。香典代わりだ。返送は受け付けんからな」

アリウス『…………はッ、ありがたく受け取っておこう。精一杯可愛がってやる』




791 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:12:18.23 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………それでだ…………そちらは順調か?」

アリウス『万事良し。問題は何も無い。お前は?」

アレイスター「こっちもだ。ただ、君という大きな問題があるがな」

アリウス『それはスマンな。同じ時代に生を受け、同じ時代を生きた事を呪え』

アレイスター「全くだ。ただな、一応君にも感謝している」

アレイスター「君がいなければ、学園都市はこんな短時間でここまで発展しなかっただろうしな」

アリウス『まあ、それは俺も同じだ。おかげで我が社はここまで大きくなれた』

アリウス『俺が設計した人造悪魔もな、その生産ラインはお前から貰った技術を一部使わせてもらってるしな』

アレイスター「それを言うならば、学園都市の初期の設備代も全て君からの資金提供だからな」

アレイスター「このビルの初期設計も、確か君のところからのモノだと記憶している」

アレイスター「私の延命措置技術開発の資金も、君が出してくれたしな」

アリウス『正にお互い様だな』

アレイスター「そうだな」




792 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:14:33.01 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………』

アレイスター「…………」

アリウス『…………こうは思った事は無いか?俺とお前が「同じ側」に立っていたら、と』

アレイスター「…………」

アリウス『俺とお前。二人で共に歩んでいたら、正に不可能は無かっただろうな』

アレイスター「…………確かに、『目的』は即遂げられていただろうな」



アリウス『お前が俺と共にこちらの道を歩んでいたら、』

アリウス『そんな小細工をし、「展示ケース」に入らぬとも1000年の命は約束されていただろうに』


アレイスター「生憎、欲しかったのは寿命ではない。君のように力に渇望もしていない」


アリウス『それでは何だ?その「原石」とやらの「体」が欲しかったのか?』


アレイスター「……止してくれ……」


アリウス『名は何と言ったか?そこまでしてその女と一緒に―――』


アレイスター「―――黙れ」




793 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:16:36.51 ID:NgSVEzIo

アリウス『ふん…………お前はいつもそうだった。そこは昔から変わっとらん』

アレイスター「……何がだ?」

アリウス『常に冷静沈着、感情には一切左右されぬ、完全無欠の思考』

アリウス『心を捨て、神の視点から世界を見る達観者』

アリウス『意識体が人の領域から離れた超越者』

アリウス『―――そう思っているようだが、所詮お前も人間だ』

アリウス『どうした?その「肉体の能力」で「未来を視て」いる内に、己が他の人間とは存在が違うと思い込み始めたのか?』


アレイスター「…………何が言いたい?」


アリウス『そのままだ。所詮お前も俺と同じ。そこらの愚民共と同じ「タダの人間」だ』


アレイスター「…………」

                                      セ レ マ イ ト
アリウス『欲望、欲求、感情と完全に剥離し、「真の意志」に従っているだと?』


アリウス『お前はそう己に言い聞かせているだけだ』



アリウス『心の痛みに怯え、目を背け、鍵をかけて震えている負け犬に過ぎん』




794 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:19:22.99 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………」

アリウス『人間の俗世を忌み、その存在から目を背けた者が、』

アリウス『その人間達を全て理解して昇華させるなど笑止千万』


アリウス『お前は全てを理解していると自負しているだろうが、何もわかってはいない』

アリウス『お前の、人は個々の不可侵の「真の意志」を有しているという自論はある意味正しい』

アリウス『だがな、その「真の意志」が欲求・欲望とは隔絶すべき存在と言うのは間違いだ』

アリウス『常に揺らぎ続ける欲求・欲望・感情こそが人間の核。この人間界に生まれし者の真理』


アリウス『人間の「真の意志」とは、それらの混沌の中で構築される「願望」だ』


アリウス『「真の意志」とは、欲求・欲望・感情のまた別の姿。これらは完全に同一。剥離など不可能」


アレイスター「…………」


アリウス『お前は人間を舐めているのか?』


アリウス『―――貴様如き負け犬が、愚か者が「先導者」とは成り得ない』


アリウス『そして俺は違う』

アリウス『俺は「俺の全て」受け入れた』

アリウス『怒りも。憎しみも。喜びも快楽もその全てを』


アリウス『その上で俺は己の「真の意志」に従う』


アリウス『「人の身」で「全能」を』


アリウス『―――必ず「全能の人間」になって見せよう』




795 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:22:11.93 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………」

アリウス『お前の「夢物語」は終わる』

アリウス『確かに新たな時代がやってくるだろう』

アリウス『だがお前の言う、「ホルスの劫」などという時代は来ない』


アリウス『それは「亡霊共」の戯言に過ぎん』


アリウス『死した愚かな神々の、壊れた記憶と思念の混ざり合った残骸が吐き出した、ただの「幻想」だ』

アリウス『お前はそれらの「記号」を掬い取り、事実から目を背け、都合よく解釈したに過ぎん』


アリウス『お前の「視た」未来は到来し得ない。存在しない「幻」だ』

アリウス『現代の人間共が、お前の描く「神の領域」に昇華することはできぬ』


アリウス『更に言わせて貰うとな、お前のやろうとしている事は「人類の昇華」ではない』


アリウス『根拠の無い自己解釈に沿い、人間を異質な存在へと作り変えようとしているだけだ』


アリウス『人間ではない「ゴミ」へとな』

アリウス『人類の95%を生贄にしてな』



アリウス『そしてそれすらも建前』



アリウス『お前の真の目的は「復讐」だ』


アレイスター「…………」



アリウス『―――天界へのな』




796 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:24:09.40 ID:NgSVEzIo

アリウス『……とな、まあこれが―――』

画面の向こうでアリウスは葉巻を咥えながら、
己の前の机の上へ何冊も魔導書を乱暴に積み上げた。

それらはアレイスターが記した魔導書の写本。

『法の書』や『嘘の書』など。
様々な魔術結社や、ローマ正教・イギリス清教等が理解に多大なる労力を費やしてきたものの、
未だに一ページも正しく解読されていない代物だ。

アリウス『お前が書いたコレらの魔導書を読み―――』

そんな物らをアリウスは、まるで読み終わった週刊誌を投げ捨てるように、
無造作に積み上げ。


アリウス『―――お前の人生を見てきた俺の「一個人として」の感想だ』

葉巻の煙を燻らせながら、片方の眉を上げて小さく笑った。

アリウス『まあ、読み物としては中々であったな。それに面白い見方や概念もあった。術式の参考書としてもそれなりに役に立ったぞ』

少し小馬鹿にするように。

アリウス『倫理書、歴史書、思想書としては紙クズだがな』


アレイスター「……それは手厳しい評価だな」

アリウス『どうせ最後だからな。言いたい事は一応言わせて貰ったぞ?』

アリウス『少しでもお前の「アドバイス」になればな』


アレイスター「…………なるほど。それは嬉しいな。腐っても友情は残っていたという訳か」

アリウス『俺達の仲だ。死に行く友には花くらい贈っても良いだろう?』


アレイスター「ならば、私からも一応言わせてもらおうか」




797 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:28:46.42 ID:NgSVEzIo

アレイスター「私から見ればな、君のやっている事は『真の意志』ではない」

アレイスター「ただの『猿真似』だ」

アレイスター「愚かな猿が、樹の上の実をどうやって手に入れようか足りない頭を使って悩んでいるようにしか見えん」

アリウス『ほぉ…………』


アレイスター「私は私自身の理論を正しいと認識している。君に何と言われようが、私からすれば君の言葉が戯言だ」

アレイスター「ありふれた欲求・欲望・感情に『だけ』支配された存在はタダの『獣』だ」

アレイスター「君は獣、猿に過ぎん」

アリウス『…………』

アレイスター「確かに、『真の意志』の始まりが、人としての欲求・欲望・感情と密接に繋がっているという君の理論は面白い」

アレイスター「だが、『真の意志』に従い動くには欲求・欲望・感情は障害にしかならん」

アレイスター「それは陳腐な衝動にしか過ぎん」


アリウス『…………』


アレイスター「君はな、獣染みた低俗な欲求に従い、過去の遺物を奪い取ろうとしている『盗人』だ」

アレイスター「己自身の手では何も作り出せない」

アレイスター「過去の存在達が生み出した力を、その器を横取りし、そこに居座ろうとする『賊』に過ぎない」

アレイスター「そんな者が『全能』になどなれるか?答えは否だ」

アレイスター「奪い借りる事しか出来ぬ者は、『生みの親』を越えることは出来ない」

アレイスター「君がどんなに強大な力を手に入れようとも、その力の元の主を超えることはできない」

アレイスター「単純な力量ならば一時だけでも上回れるかも知れんが、格は越えられない」


アレイスター「覇王、スパーダ、魔帝、君が彼らの力に憧れ欲している限り、彼らを越えることは不可能だ」


アレイスター「はっきり言おう。君に全能になる資質は無い」




798 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:31:29.81 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………ふむ』

アレイスター「君は先ほど、私に『事実から目を背けている』と言ったな?」

アレイスター「だが私から言わせれば盲目になっているのは君の方だ」

アレイスター「『オリジナルのスパーダの血』を目の当たりにし、その刃を身に受けてまでわからないのか?」

アレイスター「彼らが今まで、彼らの血がどれだけ『理』を容易く曲げてきたのかがわからないのか?」

アレイスター「君は、あれ程の存在に対して何かできると思っているのか?」

アレイスター「確かに、私の目的も困難な物だ。だが、達成の確率を示すデータによって裏打ちされている」

アレイスター「そして目的の達成の為には何が必要か、何をすればいいのかを私は考える」

アレイスター「目的の次に方法をな」

アレイスター「私はそれに従い歩んで来た。これからもそうしていく」


アリウス『…………』


アレイスター「だが君はどうだ?論理的思考から打ち出された答えよりも、感情・欲求を優先する」

アレイスター「この手法で目的を達成したい、この道を通ってあの場所に到達したい、とな」

アレイスター「目的と方法を同時に考え、しかもどちらも好ましい方向に捻じ曲げようとな」

アレイスター「わからないのか?その行動倫理の行き着く先は自滅だ。そのやり方は『スパーダの一族』にしかできん」

アレイスター「彼らのような、無意識の思念が世界の運命を変える程の存在であってこそ、初めて通じるやり方だ」

アレイスター「君は私を卑下し、己自身が人間のあるべき姿と自負している」


アレイスター「だが私から言わせれば、君の方が人間と言う存在を見誤っている」


アレイスター「愚かな過信だよ。身の程を知った方が良い」


アレイスター「君こそが思い込みと根拠の無い自信で、己の論理を固めているのではないか?」




799 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:33:26.84 ID:NgSVEzIo

アリウス『ハッ…………ハハハハハハ!!!!!!!』

アレイスターの話が終わった直後、アリウスは画面の向こうで豪快な笑い声を挙げた。

アレイスター「…………ふっ」

それにつられ、アレイスターも少しだけ口の端を細める。

アレイスター「ついでにもう一つ言わせるとだ、私のやり方では確かに人類の95%は死ぬが、」

アレイスター「君のやり方ではそれがほぼ100%ではないか。この点では五十歩百歩だと思うが」

アレイスター「いや、私はその95%の犠牲と引き換えに、残りの5%を超越者へと昇華させ『救う』が、君の場合は正に絶滅だ」

アリウス『ハハハ……いや確かに。それはご尤もだな……それにしても懐かしいなエド。あの頃のようだ』

アレイスター「…………確かにな。よくこう議論を交わしていたものだ』

アレイスター「何年ぶりかな、ジョン。君とこうして『罵り合う』のは」

アリウス『さあな。一世紀近くは経っていると思うがな。それにしても、やはりお前と議論を交わせば終わりが見えんな』

アレイスター「当時でも意見の一致はそうそう無かったんだ」

アレイスター「今更言い合っても、お互い納得し合う事など到底不可能だ」

アリウス『徐々に喧嘩腰になり、仕舞いにはお互いの論理の真っ向否定だ。あの頃と正に同じだな』

アレイスター「そしてそのまま殴り合いか」

アリウス『確かに。だが、あの頃とは一つだけ違う』

アレイスター「…………そうだな」


アリウス『あの頃は殴り合い。だが今は殺し合い、だ』




800 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:34:58.27 ID:NgSVEzIo

アレイスター「皮肉なものだな」

アリウス『人生とは面白いものだ』

アリウス『これぞ人間の世だ』

アレイスター「…………」

アリウス『一応最期に言っておくが、俺はお前を憎んでいる訳では無い。むしろ感謝している』

アレイスター「わかっているよ。私も同じだ。君はどう思っているかはわからないが、」


アレイスター「私は今でも君の事を友人だと思っている」


アリウス『ハッ、お互い共数少ない友人だな』


アレイスター「…………」


アリウス『…………ではせめてもの手向けだ』

アリウス『お前ができるだけ楽に死ねるよう、祈っておいてやる』


アレイスター「それは嬉しいな。私も君の死を称えてあげよう」




801 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:36:58.33 ID:NgSVEzIo

アリウス『さて、もう二度と生きて顔を合わせる事は無いだろう』


アレイスター「ああ」



アリウス『さらばだ。エドワード=アレグザンダー=クロウリー』



アリウス『汝の上に速やかな、そして慈悲のある「死の祝福」があらんことを』



アレイスター「ああ。『達者』でな。ジョン=バトラー=イェイツ」



アレイスター「汝の上に、早急なる『穏やかな死の救い』があらんことを」


そして画面は消え、通信は途絶えた。

ここで終わった。
お互いの死を望む、旧友同士の最期の談義が。

アレイスター「……………………」

その漆黒となった画面を、アレイスターはそのまましばらく見つめていた。
表情を一切変えずに。

静かに。

沈黙したまま。



―――




802 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 00:37:42.82 ID:NgSVEzIo
今日はここまでです。
次は金曜の夜に。




807 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 12:41:05.27 ID:HLkHiwAO
喧嘩するほどってやつか…いいねぇ



808 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/23(木) 23:29:39.33 ID:8yy4CMAO
こいつらの会話聞いてなんだか微笑ましいと同時に哀しくなった。



804 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 02:12:08.65 ID:J8T5GBU0
禁書&DMCの「設定の縛り」が邪魔に感じる位>>1の文章がチリチリする。
原作の制約全部取っ払って>>1が全力で突き抜けたらすげぇの書けるんじゃないだろうか。

今回も良かったです乙!!(`・ω・´)ゞ




811 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:21:55.93 ID:GQakPlQo
―――

学園都市。

午後5時過ぎ。

第一八学区。
とある研究施設の地下。

広大な空間の中ズラリと並ぶ、
様々な電子機器が取り付けられているリクライニングチェア風の椅子。

それらにデュマーリ島強襲作戦に選抜された能力者達が、
戦闘機パイロットのヘルメットのようなモノを被り座っていた。

夢を見ているかのように、皆が体を小さく動かしたり、指先を小刻みにピクリピクリと動かしながら。

それらの間を、端末を操作したりPDAに目を通しながらせわしなく行きかう白衣を着た者達。


今ここで行われている作業は、学習装置による能力の最適化・必要知識と技術の『インストール』だ。

ちなみにレベル5昇格予定の結標・滝壺は、更に特別な作業が必要な為別施設で調整が行われている。


そんあ地下空間の北側、管制室のような一室。

そこの大きな窓から、麦野は右手を腰のアラストルの柄に軽く乗せながら、
その隣で土御門は腕を組みながら、この広大な地下空間を見下ろしていた。

二人の後ろには大量の端末が並び、
数人の白衣の者達が業務的な言葉を発しながら淡々と操作している。




812 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:25:51.12 ID:GQakPlQo

土御門「壮観だな」

100を越える能力者達のインストール作業を眺めながら、ぽつりと呟く土御門。

土御門「毎度毎度思うが、良くやるぜよこの街は」

麦野「…………たった100ちょいよ?連中は2万体以上にもこういう事したんだからどうってことないわよ」

土御門「……まあな………………」


作業が始まってから3時間。
そろそろ終わる時刻。

ちらほらとインストールが終わり、
白衣の者達に促されて起き上がる能力者が見える。


土御門「…………そろそろだな」

麦野「…………」

土御門「この後は?」

麦野「コイツらは今日このまま、あの病院に叩き込む。そして明日の朝6時から、第二学区で能力測定及び演習」

土御門「…………へえ。ダンテ達と同じ病棟か?」

麦野「んなわけないでしょ。別病棟」

麦野「結標と滝壺は同じ病棟だけど」




813 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:27:39.62 ID:GQakPlQo

土御門「そうか……」

麦野「あ、そうそう、アクセラレータに伝えておいてくれない?」

麦野「ラストオーダーの書き込み作業、今日の26時から行うって通達があったわよ」

土御門「おう。じゃあアレか?結標と滝壺理后は明日からもうレベル5か?」

麦野「ミサカネットーワークに接続されればね」

土御門「ひょー、そいつはすげえぜよ」

麦野「で、アンタのこの後の予定は?」

土御門「あ~、結標達の方を確認して……今日はそれで終わりだぜよ」

麦野「衛星写真の鑑定も終わったの?」

土御門「ああ。俺は何も見つけられなかった。明日にでもインデックスに見せる」

麦野「じゃあ今日の夜はヒマ?」

土御門「おう……ってもしや、俺を誘ってるのかにゃー?」


麦野「そうそう。一晩付き合ってくれない?」


土御門「ほっほーう…………いやぁ、俺には女がいるんだが、お前がどうしてもと言うのなら一晩だけ相手してやってもいいぜぃ」

土御門「で、俺とナニをしたいのかにゃー?まさか女王様プレイならぬ女帝様プr」


麦野「コイツらのデータ確認して配置決める作業と、その報告書の作成」

麦野「明朝までには仕上げるから」


土御門「………………………………ま、そんなもんだと思ってたぜよ」




814 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:30:14.66 ID:GQakPlQo

麦野「一つ言っておくけど、アンタとヤるくらいならアラストルとヤッた方がマシだから」

アラストル『だそうだ。小僧。残念だったな』

土御門「…………」

麦野「今日の……夜9時くらいに私の病室に来い」

土御門「へいへい……」

麦野「結標にも伝えておいて」

土御門「あいよあいよっと」

苦笑いし頭を掻きながら、部屋を後にしていった土御門。
その姿が消えた後。

アラストル『で、この俺と寝たいのか?ちょうど良い。俺も人間の女とそれなりにs』


麦野「勘違いすんな。土御門よりはアンタの方がマシ、」


麦野「で、アンタとヤるくらいなら死んだ方がマシって事」


アラストル『………………………………お前、女の方が好きなタチか?』


麦野「んな訳ねえだろうが」




815 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:34:57.16 ID:GQakPlQo

ぽつぽつとインストール・調整作業を終え、起き上がる能力者。
その中に常盤台の制服を着たツインテールの少女、白井黒子もいた。

黒子「…………っ……」

ゆっくりと身を起こし、台の上に座りながら体と頭の調子を確認する。

黒子「…………」

頭の中。

不思議な感覚だ。

今まで知らなかったあらゆる知識が、既に普通に頭の中にある。

より高度な応急処置の仕方、様々な兵器の扱い方や構造、
その威力やどれ程の遮蔽物があれば遮れるか、

戦闘時における動き方、デュマーリ島の位置関係やその全体図、
そして複数の悪魔の種類や弱点と戦い方、アリウスの顔まで。

黒子「…………」

更に能力についても感覚がかなり違っている。

目で見た瞬間、対象の座標位置が瞬時に認識できる。
計算で割り出すのではなく、視界に捉えた瞬間に正確に頭の中に浮かぶのだ。

しかも複数を同時に。
数値化せずともその位置や質量、体積をも即座に手に取るように完全に把握できる。




816 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:36:27.14 ID:GQakPlQo

今まで彼女が能力を使う際、
11次元上の座標、飛ばす物体の質量・体積、
それらを正確に割り出さなければならなかった。

そしてその作業には1、2秒ほどのラグが常に伴っており、また冷静な思考を必要とする為
精神的な面でもかなり慎重にならねばならなかった。

黒子「…………」

だが今は少し違うようだ。
まだ能力を試してはいないが、まずそのラグがかなり短くなっている事は確実だ。
手に触れたとほぼ同時に、即その物体を飛ばせるだろう。

恐らく同時に飛ばせる個数、その質量制限の上限も大幅に伸びている。

己自身のテレポートなら、超高速で何度も連続してできそうだ。

さらに緻密な思考を意識することなくとも即必要なデータを認識できる為、
精神が少し不安定な状況でもそれなりに使えるだろう。



また別の一画では。

絹旗「……」

絹旗が同じように台に座りながら、己の手を眺めていた。




817 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:38:33.71 ID:GQakPlQo
調子を確かめるように、手のひらを開いては握ってをゆっくりと繰り返す。

絹旗「…………」

窒素装甲。
体の表面数センチの範囲だけだが、大気中の窒素を自在に操り、
圧縮し装甲代わりにしたり、大質量の物体を持ち上げたり等もできる彼女の能力。

それらの特性が、全体的に大幅グレードアップしたようだ。

操作範囲は体表から20cm程にまで広がり、
掌握できる窒素量は、簡単な見立てだと約200倍にまで増加していた。
当然、圧縮密度も以前とは桁違い。

絹旗「…………」

『暗闇の五月計画』という、一方通行の演算パターンを参考にした、
最適化開発の被験者でもある絹旗。

その下地があったおかげか、かなりの能力強化が可能となったのかもしれない。

絹旗「…………」

ふと顔をあげると。
何やら複雑な表情で、頭を掻きながら近付いてくる浜面が目に入った。

絹旗はそんな彼に、小さな右手の平をおもむろに向け。

浜面「絹旗、お前も終わったk―――」

その次の瞬間。

浜面「―――んぐッッッッ!!!!!!!ごぁッ!!!!」

突如喉を押さえ、その場で苦悶の声を挙げながらもがき始める浜面。




818 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:40:44.75 ID:GQakPlQo

絹旗「(……圧縮した窒素の撃ち出しも可能、集中すれば射出後のある程度の操作も可能、距離は少なくとも5mは有効、ですか)」

絹旗はちょっとした人体実験で、別の新たな使い方を確認、
その数秒後、哀れな無能力者を窒素の縛から解放した。

浜面「げほぁッ!!!!がはッ!!!!…………クッソ!!!な、なんだってんだよ!!!?」

その場の床に膝を付き、むせ返りながらも言葉を吐く浜面。
そんな彼に向け、絹旗は台からピョンと飛び降りながら。

絹旗「超おおげさですね。大丈夫ですよ。超優しくしましたから」

浜面「お、お前か!!!何だよ!!!俺で人体実験しやがったのか!!?」

絹旗「ぎゃあぎゃあ喚かないで下さい。超みっとも無いですよ。ところで気分はどうですか?」

浜面「ん?あ…………まあ何か不思議だよな……知らない事をちゃんと知っているってのは……」

喉を軽く摩りながらも立ち上がり、言葉を返す浜面。

浜面「なんつーか、すっげえ違和感が……お前はどうだ?能力者だとやっぱもっとアレだろ?」

絹旗「私は過去に何度も経験してますから、超どうってことありません」

浜面「そうか……それにしても……何で無能力者の俺がこんな所にいるんだろうな」

絹旗「……知りません。でも超良かったじゃないですか。とにかく滝壺さんの傍にいれますので」

絹旗「まあ、私達の足を引っ張らないよう、せいぜい超頑張ってください」

浜面「……おう」

―――




819 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:42:35.51 ID:GQakPlQo
―――

とある病棟。

廊下を進む、二人の高校生。
片や右手に不気味な篭手を付けている、
健康的でありながらもどことなく不気味なオーラを纏っているツンツン頭の少年。
もう一方は杖を激しく軋ませながら歩く、白髪の華奢な少年。

上条当麻と一方通行。

上条「……」

一方「……」

上条「……」

一方「……」

上条「なあ」

一方「あァ?」

上条「お前とこうして、平時に一緒にいるってのは初めてじゃねえか?」

一方「それがどォした?」

上条「いや……なんて言うかさ、お前の事良く知ってる気がしたんだが、よくよく考えてみるとほとんど関わり無かったなって」

上条「なんかな、なんで俺はお前の事こんなに信頼してるか、俺自身不思議なんだ」

一方「こンな殺人鬼野郎に、なンで大事なガキ預けちまったンかってか?」




820 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:43:42.78 ID:GQakPlQo

上条「殺人k……!!い、いや……!お前はそんな奴じゃあ……!!」

一方「変に気ィ使ってンじゃねェよ。気持ち悪ィなおィ」

上条「お、俺はな!!もうお前の事をんな風には……!!!」

一方「うぜェ。オマェがどォ思ってるかなンざ知ったこっちゃねェ」

一方「黙ってろクソが」

上条「…………」

一方「……」

上条「…………なあ」

一方「……今度はなンだ?」


上条「…………ありがとな。インデックスの事」


一方「………………………………………… チッ」

上条「……」

一方「……」




821 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:44:53.83 ID:GQakPlQo

二人は無言のまま、廊下を進み。
エレベーターに乗り込み。

そして地下4階に降り、再び長い廊下を進んでいく。
地上階の患者用のエリアとは違い、壁はコンクリートむき出し、
天井は様々な配管が走り、所々にあるドアも大きな金属製の無機質なモノ。

上条「ところでよ、何するつもりなんだ?」

一方「黙って来ィ」

そして一方通行はとあるドアの前で止まり、片手で押し開けた。


上条「……」


長袖の手首の先から出ているその漆黒の手。
光も反射せず、漆黒な為当然陰影も無い為、
質感が全く感じられない奇妙な手だ。

正に影自体が立体的になって動いている感じだ。

上条「そういえば、お前その手どうしたんだ?」

一方「どォなってンのかは俺が聞きてェよ」

上条「?」

不思議そうな顔をする上条を気にする風も無く、
一方通行は室内へと入って行き上条もその後に続いた。




822 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:47:08.54 ID:GQakPlQo
ドアの向こう。

そこは少し広めの、恐らく器材置き場として使われていた場所のようだった。
今は何も置かれてなく、ガランとしていたが。

その部屋の中央まで一方通行は歩き進んだところで立ち止まり。
手首で起用にチョーカーのスイッチ部分を押し上げ、咥えて能力を起動させ、
杖を部屋の壁際へと放り投げた。

上条「…………?」

一方「よし…………握れ」

そして上条の方へ向けて右手を差し出した。
握手を求めているように。

上条「……お、おう」

戸惑いつつも、上条は彼に促されて恐る恐る右手で握り返した。

その次の瞬間。

上条「―――!!!」

響く特徴的な、耳鳴りに似た金属音。
そして上条の右手に伝わってくる、幻想殺しが発動した時の感触。

だが。

一方「…………」

一方通行の漆黒の手は、まったく変わっていなかった。
通常の手と同じように、上条の右手をしっかりと握っていた。


一方「………………なるほどなァ」




823 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:48:44.92 ID:GQakPlQo

上条「…………お、おい…………これ一体……??」

一方「良いから離せ。いつまで握ってやがンだ」

上条「お、おうスマン……」

パッと手放す上条。
その開放された己の右手を、一方通行はまじまじと見つめた。

背中から噴出する黒い『影』、そしてその『影』で形成された杭は、
多少のラグがあったが以前上条の右手であっさり消されていた。

一方「……」

だが、同じように『影』で形成されているこの義手には全く変化が無い。
表面のちょっとした靄がかき消されただけで、腕自体には全く影響が無かった。

一方「……おィ」

上条「……な、なんだ?」

一方「オマェの右手、能力とかを消す際の条件とかあンのか?」

上条「あーっと……そうだな、俺もはっきりとは知らねえけどよ、経験上だと、まずデカ過ぎる力は消せない、」

上条「ただ、力の量が大きすぎてもそれが方程式とか何かで形を保っている存在ならば、」

上条「その方程式とかをぶっ壊して分解できる、ってらしいのと……」

上条「あ、そうだ、大前提が『生命体そのものには一切効果が無い』って事だ」

上条「生き物の『肉体そのもの』、またその生き物の『本来の性質』とかには全く効かないって感じだ」




824 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:52:05.85 ID:GQakPlQo

一方「…………」

大きすぎる力は消せない。
まずこれに該当するわけがない。

一方通行は上条の右手が処理できない程、
そこまで己の力が大きくない事は重々認識している。

上条が消せないというのは、それこそダンテやバージル、ネロの本気の斬撃や、
魔帝が放ったような赤い光の大剣等の、
この世界が簡単に壊れてしまう程の規格外クラスの代物に当たる。

それらと比べれば、この義手などオモチャに過ぎない。
力の総量では、余裕で上条の右手の許容範囲内なはずだ。

次に方程式の破壊。

一方「…………」

このやり方ならば、力の大小に関係なく作用するのだろう。
一方通行は詳しくは知らないが、恐らく魔帝の『創造』とかいう力が破壊されたのもこの作用だろうと推測した。

だが、上条の右手に握られた義手は変化なし。
何らかの方程式等や『能力による制御』等で、この形が形成されてはいる訳ではないようだ。

つまり、残るは。


一方「(肉体……ねェ……)」




825 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:55:26.92 ID:GQakPlQo

一方「…………」

この漆黒の腕の正体を解き明かそうと、上条の協力を得た今。
その謎の一部の答えが浮き彫りとなった。

消去法で導き出された結果。


一方「…………(『義手』じゃねェ…………)」


一方「(『俺自身』の……新しい『生身の腕』…………か?)」


少し信じ難い。
だが、こうして漆黒の腕がある時点で既に信じ難いこと。
最早彼は驚きはしなかった。

というか、薄々どこかで気付いていたかもしれない。

見た目や腕力は全く別物だが、感覚自体は生身の時とは何一つ違いが無いのだ。
それに黒い杭とは違い、能力のONOFF関係なく普通に存在している。
カエル顔の医師によれば、ミサカネットワークとも関係ないとの事。

それらの状況証拠がこう示しているように聞こえる。

一方「チッ…………」


これはお前自身の腕だ、お前自身の肉体そのものだ、と。




826 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:56:52.03 ID:GQakPlQo

一方「(……俺はどォなっちまうンだ?マジでバケモノになろォとしてンのかよ……)」

一方通行は己の状況に、彼らしくもなく少しだけ戦慄した。

こうしている時も感じる。
己が少しずつ。

少しずつ。

穏やかに、緩やかに。

この影に侵食され、徐々に肉体が『入れ替わって』きていることを。


一方「(…………チッ………………)」


そして彼は少し焦りを感じ、顔を顰めた。

もしかしたら、己に残された時間はもう僅かしかないのではないか、と。


果たして己は持ちこたえてくれるのだろうか?


打ち止め達を『解放』するまで、と。




827 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 17:59:15.87 ID:GQakPlQo

一方「……おォ、悪かったな。もォ済ンだぜ」

ベクトル操作で杖を引き寄せた後、
能力をOFFにしながらそっけなく言葉を飛ばす一方通行。

そのまま、杖を軋ませながら足早にドアの方へと向かって行った。

上条「…………待て…………あのよ……」

そんな彼の背中を、上条は呼び止めた。
何かを言いたげに恐る恐る。
上条もまた、一方通行の漆黒の腕を握った瞬間、とある異質な感覚を覚えていたのだ。

一方「あァ?」

半身だけ振り返り、横顔を上条の方へと向ける一方通行。

上条「良くわらんねえけどよ……お前のその手握った時な……」


上条「あいつの……フィアンマのデカイ手を触った時と同じ『感触』だったんだが……」


一方「…………それは正しいかもしれねェな……」

一方「あのクズ野郎曰く、『アレ』は俺の力の『上位互換』つゥ事らしィぜ」

上条「?……それってどういう……」

一方「俺が聞きてェよ」

それだけ吐き捨て、一方通行はそそくさと退室していった。

そんな彼の後姿を上条は怪訝な表情で見つめながら。

上条「…………上位……互換…………」

ぽつりと、その言葉を確認するかのように呟いた。

己が、その『上位互換』の『片割れ』を有していることなど露とも知らずに。

―――




833 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 19:56:27.81 ID:GQakPlQo
―――

某大陸沿岸部の都市の一画に広がる、
広大なスラム街。

時刻は、あと数時間で日が昇る頃。
辺りはまだ深い闇に覆われ、点滅する街頭の淡い光が、
その犯罪都市の陰湿な姿をおぼろげに照らし上げていた。

その埃っぽく薄暗い街並みの一角に佇む、
一際不気味な空気を漂わせてあるバー。


ゲイツ・オブ・ヘル。


さまざまな犯罪組織・凶悪犯罪者が大勢潜んでいるこのスラム街の中でも、
この店にだけは手を出してはいけないという暗黙のルールがある。

やってくる客の大半が札付きの無法者。
それだけではない。

『普通では無い人間』、『人間ではない者』もやってくる。




834 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 19:57:46.66 ID:GQakPlQo

そんな店に今、常連の中でも特に規格外な客の一人が来店する。
そのドアを乱暴に開けた銀髪の白人男。

真紅のコートを靡かせ、分厚いブーツの靴底を打ち鳴らし、
ニヤニヤと掴みどころの無い笑みを浮かべかったるそうにカウンターへと向かう、
背中に背負っている大剣をもう隠す気ゼロの大男。

ダンテ。

ダンテ「よぉ」


そんな彼を、ワイングラスを磨きながらカウンター越しに一瞥する、
ダンテにも引けを取らない体躯の黒人の大男。


「……久々だな」


地の底から響いてくるような低い声。
タトゥーが掘り込まれているスキンヘッドにサングラス。
ワニ皮の分厚く重厚なコート。


この店のマスター、ロダン。



ロダン「ダンテェ……」




835 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:01:13.33 ID:GQakPlQo

ダンテ「悪ぃな。最近は予定が埋まっててな。顔出す機会が無くてよ」

薄ら笑いを浮かべたまま、ダンテはカウンターに片肘を乗せ、
これまた乱暴に椅子に座り込んだ。

ロダン「だろうな。お前さんの話は色々と聞いてるぜ」

ロダン「最近は随分と派手に動き回ってるらしいじゃねえか」

ダンテ「ハッハ~、まぁな。とりあえず退屈はしてねえな」

ロダン「とりあえずだ……一杯いくか?それともストロベリーサンデーか?」

ダンテ「あ~……まずはワインくれ。銘柄は任せる」

ロダン「よし……」

棚から一つ、赤ワインの1500mlボトルを取り出したロダン。

ロダン「こいつはどうだ?シャトー・ペトリュス 1947年もの。結構な上物だぜ?」

ダンテ「…………上物はよしてくんねえか?高えんだろ?」

ロダン「なぁに、一杯くらいは奢ってやる。久々だしな」

ダンテ「ハハッ。それじゃあ貰うぜ」

ロダン「どうせ毎度の如く、今日の分もツケにするつもりだったんだろう?」

ダンテ「まあな」

ロダン「だと思ったぜ」




836 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:04:43.47 ID:GQakPlQo

ロダン「OK……」

ロダンはそのボトルをカウンターに置き、ワイングラスを出そうと。

したその時。

ダンテは普通にそのボトルを手に取り、片手で弾くように手際よく栓を飛ばし。


豪快に『ラッパ飲み』し始めた。


ガブガブと。

ダンテ「…………っは…………結構旨えなコレ」

ロダン「……………………」

ダンテ「いやぁ、ありがとな。いいもん貰ったぜコイツぁ」

ロダン「……………………」

ダンテ「どうした?」

ロダン「…………ツケとくぜ。5万ドルだ」

ダンテ「んあ?じゃあ返すぜ。まだ一杯分しか飲んでねえから大丈b」

ロダン「お゛ぉ゛ッ??聞こえねぇな。今何て抜かしやがったお前さんよ?」

ダンテ「………………………………OK……ツケといてくれ」




837 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:08:32.58 ID:GQakPlQo

ロダン「…………ところでだ。今日は何の用で来やがった?」

ロダン「どうせお前さんの事だ。ただ飲みに来たわけじゃねえだろう?」

ダンテ「へっへ…………」

そこでダンテは腰に手を回し、
二丁の大きな拳銃をカウンターの上に乗せた。

その白と黒の拳銃が置かれた瞬間、
確かに大きめだが、そのサイズとは余りにもかけ離れた重い音が響いた。

ロダン「…………トリッシュのか?」

ダンテ「そうだ」

ロダン「相手はバージルだな?」

ダンテ「もう知ってんのか?速えな」

ロダン「当然だ。片やスパーダの息子、片やもう一人のスパーダの息子の相棒、かつての魔帝軍の重鎮」

ロダン「その激突は魔界でも噂されてるぜ?」

ロダン「ここからお前さん達兄弟の殺し合いに発展しねえかってよ、そう望んでる声が多い」

ダンテ「……へぇ……」




838 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:11:05.66 ID:GQakPlQo

ロダン「で、だ。コイツを直せって?こりゃあまた派手にやったみてぇだな」

ダンテ「そうだ。できそうか?」

ロダン「俺を誰だと思ってる。そうだな、15分もありゃあ作業は終わる」

ダンテ「何だ?随分速えな」

ロダン「こういう事もあろうかとよ、お前らの銃のパーツは一通りスペアを揃えてる」

ロダン「それにだ。『片割れ』が残ってるからな。術式構造もコピーするだけで良い」

ダンテ「そうか。そいつは良かった。でよ、他にも聞きてえ事があんだが」

ロダン「…………魔界の動きか?」

ダンテ「おう。アスタロトってのとトリグラフって野郎の事で、何か知らねえか?」

ロダン「…………お前さん達も連中の関与に気付いたか」

ロダン「二人共、覇王の元直下の幹部だった野郎だ。特にアスタロト」

ロダン「コイツ自身の力もデカイが、有する兵力も魔界きっての規模だ」

ダンテ「確かよ、今の内戦で良い線までいってるって聞いたが?」

ロダン「そうだ。現時点で魔界の10強の勢力の一つだ。更にその10強の内、四つの勢力がコイツに靡き始めてる」

ロダン「例の人間、名はアリウスだったか、その野郎が提示している覇王復活という餌が魅力的なんだろうよ」

ロダン「覇王の旗印の下、再び集おうとしてやがる」

ダンテ「…………」




839 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:12:21.71 ID:GQakPlQo

ロダン「そうなっちまえば、覇王シンパ共による魔界の統一も時間の問題だ」

ロダン「そうならなくとも、この10強の内の一勢力だけでも人間界に向かい始めれば、かなり危険だがな」

ロダン「そして少なくともアスタロトは、覇王復活のため軍勢を人間界に放とうとしている」

ロダン「もちろん奴自身が直接率いてな。どうやってその大軍勢を一度に送り込むかは知らんが、既に待機状態になっている」

ダンテ「………… 軍勢を送り込む方法、俺は知ってるぜ」

ロダン「ほう?」

ダンテ「アリウスはな、親父が封じた魔界の大穴をも開けようとしてやがる」

ロダン「…………そいつはマズイな。そうなると一勢力どころじゃないぜ?

ロダン「魔界中のクズ共がそこを通って一気に押し寄せてくるぞ?」

ロダン「更に覇王復活とほぼ同時だろう?群がってきた連中は覇王の下で一気に統一軍に変貌するかもな」

ロダン「いくらお前さんでも、人間界にいる限りその物量を押し切ることは不可能だろうぜ」

ロダン「お前さんが人間界への負荷を気にしないのならば別だが」

ダンテ「……」

ロダン「随分とデカイパーティだな。バージルも動いてんだろ?こいつは面白いモンが見れそうだ」

ダンテ「まぁな…………まあ魔界の事はそんぐらいでいい」

ロダン「次はなんだ?」



ダンテ「天界の事でなんかねえか?」



ダンテ「『ファーザー=ロダン』さんよ」




840 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:13:48.57 ID:GQakPlQo

ロダン「………………………………参ったぜ。お前さんの口からその名が出てくるとはな」

ダンテ「ま、詳しい事は俺も知らねえけどよ。お前が『どこ生まれ』なのかぐらいは知ってるぜ?」

ダンテ「800万年前に魔界に来るまで、その『故郷』で『ふんぞり返ってた』のもな」

ロダン「……誰から聞いた?」

ダンテ「勘と風の噂だ」

ロダン「…………なるほどな。本当に油断ならねえ奴だなお前さんは」

ダンテ「で、『古巣』の事情はそれなりに知ってんだろ?」

ロダン「……ある程度はな。お前さんが最近顔出してる学園都市を……」

ダンテ「知ってるぜ。天界はあそこを潰す気なんだろ?」

ロダン「そうだ。四元徳が自ら軍勢を率いてな」

ダンテ「四元徳って野郎については?」

ロダン「少し前な、俺の知り合いに四人とも魔界送りされたんだが、二人がそこから脱出して復活してる」

ロダン「更に今、天界で『大食い』して力をかなり増強してるらしい」

ダンテ「大食い?」

ロダン「セフィロトの樹経由で吸い出された人間の魂、本来は天界の者達全員に平等分配されるんだがな、」

ロダン「今はこの二人が占有してるらしいぜ。たった一人の魔女に敗れた事がよっぽど悔しかったんだろうよ」

ダンテ「へぇ……」




841 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:16:11.68 ID:GQakPlQo

ダンテ「そうだ、後もう一つ聞きてえ」

ロダン「何だ?」


ダンテ「魔女」


ロダン「……」

ダンテ「お前の事だ、知ってるんだろ?バージルと魔女が一緒に動いてる事ぐれえ」

ダンテ「その四元徳ってのとジュベレウスをぶっ倒した例の女、ここの常連なんだろ?」

ロダン「……さぁて。どうだかな」

ダンテ「おいおいおい教えてくれよ」

ロダン「……OK、教えてやるが後だ。先にコイツを直してくるぜ?壊れたままの銃を見てると落ちつかねえ」

カウンターの上に置いてあったトリッシュの二丁の銃を掴み挙げ、薄く笑うロダン。

ダンテ「……OK、さっさと済ませてくれ」




842 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:17:36.58 ID:GQakPlQo

トリッシュの銃を手に、ロダンはカウンター後ろの部屋の方へと消えて行き。
ダンテは一人、カウンターにてワインボトルをラッパ飲みしていた。

そうして5分程経ったころか。

ダンテ「…………」

ピタリと動きを止め、少しだけ目を細めるダンテ。
その次の瞬間。

バーのドアが、来客を知らせる鈴の音と共に大きく開き。
そして入ってくる一つの足音。

ダンテ「……」

ダンテは振り向かずに、そのまま背後の足音を聞いていた。
その優雅な足音からして、スタイルのいい高身長の女、と即判別しながら。

ダンテ「…………」

そして足音の主は、
カウンターのダンテの右三席ほど離れたところに着いた。

それと同時に、ダンテは小さく笑いながら横目を向け。

ダンテ「ヒュー」

足音の主の、予想以上の『どストライク』な姿を見て、
思わず軽く口笛を吹いた。




843 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:19:20.06 ID:GQakPlQo

ダンテの右側、少し離れた所のカウンターに着いた女。

肌にフィットしている黒いボディスーツが、その抜群のスタイルを更に強調している。
端正な顔立ちに黒縁のメガネ、高く結っている長い長い黒髪、そして口元のホクロ。

咥えてる棒つきキャンディーを、愛撫するかのように口で弄んでいる。

全身から凄まじい妖艶なオーラを醸し出している。

ダンテ「(ン~ン。最高だ)」

軽く口の端を上げ、斜めに顔を傾けながら、
その女の全身を舐めるように見回すダンテ。

恐らく最初から意識してたのか、
相手の女も艶やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとダンテの方へと顔を向けた。


ダンテ「Hello Beautiful」


薄く笑いながら、軽く挨拶をするダンテ。
それに対し女も棒つきキャンディーを含みながら軽く唇を舐め。


「Hey.Baby」


艶やかな声色で言葉を返す。
同じく小さく微笑みながら、誘うような妖艶な目つきで。




844 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:21:58.68 ID:GQakPlQo

ダンテ「…………」

「…………」

ダンテ「…………」

「…………」

小さく微笑みながら、
お互いの全身を舐めるように見る女と男。

「ねえ」


ダンテ「何だい?子ネコちゃん」

「ン~、ロダンは?」


ダンテ「アイツなら席を外してるぜ」

ダンテ「今ここにいるのは俺とお前だけだ」

「ふふ……二人っきりって訳」




845 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:23:13.72 ID:GQakPlQo

「そう、とりあえずロダンはいないのね。は~ん、喉乾いちゃった」

そこで女はそう呟きながら、
ダンテの手にあるワインボトルを流し目で見つめた。

意図を察したダンテは、スッとそのボトルを差し出すも。
当然、三席分も離れている為、手渡す事ができる訳が無い。
それどころか、ダンテは手を伸ばそうとせずに軽く突き出しただけ。

それでありながら、小さくボトルを振りほらどうぞと言いたげな表情。


女はそれを見て、小さく笑いながら椅子から降り。
キャンディーを艶かしく口に含みながら、ゆっくりとダンテの方へと歩き進み。

ダンテの隣の席に、身を寄せるようにして座りながら、
差し出されているボトルを彼の大きな手ごと握り締め。

ダンテの顔を見つめながら、そのままゆっくりと口に運び一飲み。

その時、ダンテはさりげなく女の馨しい香りを鼻に含んだ。

ダンテ「(ン~ン…………こいつぁ『大当たり』だ)」


女は少し名残惜しそうに、ボトル口から唇を離し。

「ンハん…………結構な上物ねこれ。美味しい」

熱い吐息を交じらせながら、小さく笑った。


ダンテ「……ああそうだな。『旨い』ぜ」




846 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:24:25.40 ID:GQakPlQo

「それにしても……セクシーねアンタ。完璧」

ダンテ「お前もな。最高だぜ」

「でも私って、完璧すぎる男はあんまり好きじゃないのよねぇ」

ダンテ「へぇ、そうかぃ?」

「そう、だって完璧だったら『攻める』隙が無いじゃない?可愛げが無いし」

ダンテ「成る程な。だが難攻不落を『攻め落とす』のも面白いと思わねえか?」

「んは、それもそうね。でもアンタ、かなり『攻め落とす』の難しそう」

ダンテ「そうか?試してみなきゃわかんねえぜ?」


ダンテ「案外簡単に落ちるかも知れねえ。特にお前相手ならな」


「へぇ。どうすれば落ちるかしら?」


ダンテ「なぁに、難しい事は必要ねえ」

ダンテ「ちょっとばかし『運動』をするだけだ」

「ン~ホットな『エクササイズ』、ね。二人っきりの」

ダンテ「ああ、二人っきりでじっくりな」




847 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:25:37.90 ID:GQakPlQo

「それで、アンタの事は置いとくとして、私を『攻め落とす』自信はあるのかしら?」

ダンテ「そいつも試してみねえとな」

「自信あるのねぇ?」

ダンテ「お前もそうだろう?俺の『動き』を『感じたい』んだろう?全身で、な」

「アナタも私を『感じたい』んでしょ?そして私の事が『隅々』まで『知りたい』んでしょう?」

ダンテ「まぁな。隅々まで、包み隠さず『全て』をな」

キャンディーをほお張りながら、グッとダンテに身を寄せる女。
ダンテも、手に持っていたボトルをカウンター脇に寄せ、彼女の腰に手をあてがう。
二人の顔の距離はわずか10cm。

相手の唇と瞳を交互にゆっくりと見ながら、
熱い吐息を交じらせる。

「ン~欲張りね。そういうボーヤはオシオキしたくなっちゃう」

ダンテ「ヘッハァ、舐めてると痛い目見るぜ。火傷しても知らねえぜ?」

「大丈夫、熱いのダイスキだから」

ダンテ「OK、それなら火ィつけてやる。今までお前が味わった事のねえ火をな」

ベヨネッタ「一生かけても忘れられない火を。それで朝まで私を熱してちょうだい」

と、その時響き渡る。


ロダン「おい……お前ら」


地の底から聞こえくるかのような低い声。

カウンターの後ろのドアからロダンが顔だけ出し、
今にもそこで絡み合いを始めそうな二人を睨んでいた。




848 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:26:35.14 ID:GQakPlQo

「は~い、ロダン。お邪魔してるわよ」

ロダン「ベヨネッタ…………お前さん達よ、場所をわきまえやがれ」

ダンテ「よお、見物しててもいいが、混ぜはしねえぜ?」

ロダン「馬鹿野郎。俺の店でヤルんじゃねえ。どっか他所に行きやがれ」

ベヨネッタ「だってさ」

ダンテ「仕方ねえ。ちょっとばかし移動するか」

ベヨネッタ「そうね」

二人はひらりと椅子から降り、

ダンテ「ロダン、朝までには戻る」

ベヨネッタ「私も」

そして並びながら、優雅に店内から出て行った。


ロダン「全く、本当にイカれてる連中だぜ」


ロダンはそんな二人の後姿を見送った後、
小さく頭を振りながら呆れがちに笑った。




849 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:27:14.12 ID:GQakPlQo

ゲイツ・オブ・ヘルのすぐ前。
街頭が照らす、薄暗く小汚い路地。

二人はそこに並び立っていた。

ダンテ「ふー……」

星が瞬く空を見上げながら、
真冬の大気中に白い息を吐くダンテ。

ベヨネッタ「…………冷えるわね」

ダンテ「だな。さっそく『暖める』か?」

ベヨネッタ「もちろん」

ダンテ「ヘッヘ…………そうか……」

ベヨネッタ「ふふ……」

小さく笑い、ふとお互いから目を逸らす二人。



その次の瞬間。



瞬時に。
神速でダンテは背中からリベリオンを引き抜き―――。



同時にベヨネッタは両手に派手な拳銃を出現させ ―――。




850 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:29:53.07 ID:GQakPlQo

ぶわりと、路地の中を吹き抜けていく疾風。
それは衝撃波。

ダンテが振るったリベリオンの剣風。

ベヨネッタが身を翻した爆風。


その猛烈な風が止んだ時。


ベヨネッタの喉元にはリベリオンの銀の刃が突きつけられており。
その大剣と交差するように、ベヨネッタの二丁の拳銃がダンテの顔面へ向けられていた。

そして二人はニヤリと。
武器を向けたまま不敵な笑みを浮かべ。



ダンテ「ヘッハァ…………ビンゴ。たまんねえぜ」



ベヨネッタ「ン~ンアンタも。『お兄ちゃん』よりもタイプ」



そして顔で笑いつつも凄まじい殺気を漲らせ、軽く言葉を交わす。



ダンテ「そいつは嬉しいぜベイビー。お前に会いたかったんだ」



ベヨネッタ「私もね。一度会いたかったの」




851 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:31:39.61 ID:GQakPlQo

ダンテ「知りたい事がある」

ベヨネッタ「何が知りたいの?」

ダンテ「全部だ。当然お前の事もな。『全て』、赤裸々に、だベイビーちゃん」

ベヨネッタ「はぁん初対面なのに積極的ねぇもう……」

ベヨネッタ「じゃあ私を『楽しませ』て。満足させてくれたら、欲しいモノをアゲル」

ダンテ「ヒュー、OK、そういうのは得意だ。忘れられねえ夜にしてやるぜ」

ダンテ「最高の夜にな」

ベヨネッタ「それはン~、また火照ってきちゃった。早速クールダウン、頼めるかしら?」

ダンテ「生憎俺は熱することしかできねえんだ。悪いな」


ベヨネッタ「じゃあ暖めて。『蒸発』しちゃうくらいに」


ダンテ「ン~ンお安い御用だぜ」


ベヨネッタ「さて……ここでヤるとロダンに怒られるから、場所移しましょ」

ダンテ「ああ。人気の無い所にな」

ベヨネッタ「そう、二人っきりになれるバショに」

ダンテ「早く行こうぜ。俺はさっきからギンギンなんだベイビー」

ベヨネッタ「ハァン慌てないで。前戯は丁寧に。ガツガツしてると見っとも無いわよ」

ベヨネッタ「ついて来て」




852 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:33:21.53 ID:GQakPlQo

ダンテ「ヘッヘ、どこに連れてってくれるのかな。『ウサちゃん』」


ベヨネッタ「『魅惑の夢の世界』よ」


ベヨネッタ「つかまえてごらん、『アリスボーイ』」


そしてベヨネッタは天高く跳躍し、スラム街の屋根の上を一瞬で駆け抜けていった。


ダンテ「ハッハァ、まずは追いかけっこか。ン~、良いねえ」


ヘラヘラと笑い、独り言を言った後。
ダンテも同じく跳躍し、彼女の後を猛烈な速度で追いかけていった。


星が瞬く中、スラム街の屋根を凄まじい速度で駆け抜けていく黒と赤の『魔』。


二人の顔には笑み。

だが、その放つオーラは凄まじい殺気に満ちていた。



朝まではまだまだ時間がある。


二人の怪物の、激しい激しい『デート』は始まったばかりだ。


―――




853 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:33:47.48 ID:GQakPlQo
今日はここまでです。
次は月曜の夜に。




854 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 20:35:43.62 ID:GoGy0bo0
遂に出逢ってしまったよ・・・

もうたまらんですよ乙!!!!!




857 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 10:54:45.28 ID:Qz1YpAAO
sexy 過ぎるぜ、この二人
興奮してきた




860 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 17:33:04.00 ID:VipToQDO
敵がギューンって来たらブレイクダァゥンして、ダンテェーィとか言ってる隙にホォーゥしてバババババってする。
そのままシュバっと跳んだ瞬間にヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!
でスウィート!ベイベーッになったらゴーマリソーンになる前にバヒョッで周りの相手にカムヒヤッミ。
けどそれだけやってもまだ敵がベリカッベリカッベリカッならイィィィャッでホゥホゥホゥホゥホゥをキャンセルしてカマーンで打ち上げ、
最後にデュデュデュヒッ!デュデュデュヒッ!してれば大抵の敵は倒せる




861 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/27(月) 12:39:58.79 ID:Gcll68M0
>>860
何処からツッコめばいいのかわからんように見えてあながち間違ってないんだよねww




863 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:21:53.31 ID:rq3cNgDO
そう見せかけて実はおかしいぞwwwwww

ヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!

エネステキラビして、兜割りの直後にジャムセッション、という3つ装備になってるのでここだけは不可能




866 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:17:27.17 ID:RzOmPFQo
―――

遡ること数分前。

同じ病棟のとある廊下。
そこを歩く、三人の少女。

ルシア、御坂、そして佐天。

御坂「あーっと、インデックスちゃんもいるんだっけ?」

ルシア「は、はい」

佐天「い、インデックスちゃんって…………あ、あのシスターっ娘のですか?」

御坂「そうそう、青い髪の。ってあれ、佐天さん会った事あるの?」

佐天「あ……はい。あの……デパートの事件の時に……」

御坂「あ~…………なるほど……それでさ、三人で何やってるの?」

御坂「当麻の話だとなんかの作業してるみたいだけど?」

ルシア「み、皆さんでキリエさんの術式の解析作業を行ってます」

御坂「きりえさん?」

ルシア「え、えっと……フォルトゥナの方です」

御坂「?なんかの重要人物?」



ルシア「……あ…っと……ね、ネロさんの婚約者です」



佐天「―――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




867 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:22:32.82 ID:RzOmPFQo

御坂「へぇ~、ネロさんって婚約者いたんだ」

特に驚きもせず、普通の反応を示す御坂。
だが彼女の横にいた黒髪の少女、佐天は。


佐天「――――――」


その場で歩みを止め完全に硬直していた。
目を見開き、口を半開きにし。
さながら時間停止の魔法でもかけられてしまったように。

御坂「……佐天さん?」

佐天「―――はッッッ!!!!!!!!はい!!!!!!!!!!」

御坂「どうしたの?」

佐天「い、いえええええいえいえええだッッだだだだだだだだっだだ大丈夫ででででです」

佐天「(どうしようどうしようどうしよう何何何何何何よくわかんなくなってきた)」

ルシア「あ、あの?佐天さん?」

佐天「あは、あははははあはははああああさささささあ行こ行こ行こ行こ!!!!」

佐天「(ねねねねねネロさんののののののここここあばばばばあああ)」




868 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:27:00.89 ID:RzOmPFQo

複雑すぎるこの感情。
まだまだ佐天には、自分自身でも理解しがたいものだった。

そんな挙動不審な彼女に対し、不思議そうな顔をしながらも御坂とルシアは歩き進み。

そしてひとつのドアの前で止まった。

佐天「(こ、こここここここここの向こうに…………)」

ごくりと喉を鳴らす佐天。

そして、ルシアによって開かれるドア。

佐天「―――」

広めの病室。
くっ付けられてその部屋の中央に置かれている大きなベッド。

そこの上に座っている二人の女性。
片方はシーツに包まっている、気が強そうなシャープな顔立ちの金髪の女。
もう片方は、栗色の髪で穏やかそうな清楚な女。

そんなベッドの脇に座っている、短めの黒髪・白いジャケットにホットパンツという出で立ちの女と。
ちょこんと小さな椅子に座っている、修道服を纏った青髪の佐天が見知っている少女。

白人四人のそれぞれ整いすぎているかと言う程の端正な顔が、ドアの方へと一気に向いた。

それらの視線を浴び固まった佐天は、一瞬こう思ってしまった。

ここは本当に日本なのか? と。

そして思う。

頭が割れそうなくらいに、思っては思っては更に思い、考える。

シスターを省く、この三人のどれかがネロの婚約者なんだ、と。




869 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:29:04.25 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「あら」

レディ「あ」

禁書「あッ!!」

御坂「どうもどうも!」

入って来た三人に対し、相変わらずのクールな反応を示すレディとトリッシュ。
御坂と佐天の姿を見た瞬間、ぱあっと笑みを浮かべるインデックス。

そして御坂達に向け、スッと小さく上品に会釈するキリエ。

御坂「(わっ……これまたすごい美人さん。この人がねえ……うん、お似合い)」

禁書「短髪!!」

御坂「やっほー。具合はどう?」

禁書「うん!!良いんだよ!!」

御坂「そう、それは良かったわ」

禁書「るいこ!!ひさしぶりなんだよ!!」

佐天「あ…………う、うん!!」




870 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:33:05.10 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「お友達?」

御坂「あ、うん!佐天さん!」

佐天「あ……は、始めまして!!!」

佐天「佐天涙子です!御坂さんとルシアちゃんのお友達をやらせていただいてます!!!」

トリッシュ「ルシアの……?」

そこでトリッシュは少し意外そうに、目を少し見開いた。

佐天「はい!!昨日お会いしまして!!」

トリッシュ「あ~、じゃあアナタが自販機の」

佐天「はい!!そ、そうです!」

トリッシュ「少しだけだけど話は聞いてるわよ。ルシアが嬉しそうに話してたから」

先日、ルシアがニコニコとして病室に戻ってきたのだ。
ペットボトルを大事そうに抱きかかえながら。

佐天は、ルシア自身による初めての『普通の友達』だ。

佐天「…………!!!」

トリッシュ「お友達ねえ。大事にしなさい。ルシア」


ルシア「は、はい!!!!!!」




871 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:34:45.16 ID:RzOmPFQo

レディ「何?何だって?」

そこで、キョトンとしながら英語でトリッシュの方へと声を飛ばすレディ。
ここまでは全て日本語で会話が行われていた為、当然彼女は話についていけない。

キリエ「?」

同じくキリエも。

トリッシュ「ルシアに友達ができたの。この黒髪の子」

レディ「へぇ~」

キリエ「良かったねえルシアちゃん」

ルシア「はい!」

レディ「あ、そういえばミコトちゃん、私の弾結構使ったみたいね」

御坂「はい。も~う凄かった!」

レディ「思いっきりどっかんどっかん撃ちまくると気持ちいいでしょ?」

御坂「か・な・り」

レディ「アンタもわかるコね。中々素質があるわ」

御坂「えへへへへ……」

トリッシュ「…………」

なぜそこでレディは素質があると言うのか。
そしてなぜそれで御坂が喜んでいるのか。

いつかこの日本人の少女が、イカれたデビルハンター『レディ二号』に
なる姿が一瞬トリッシュの脳裏を過ぎったが。

彼女は最早突っ込む気にもならなかった。




872 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:36:16.27 ID:RzOmPFQo

佐天「え~……っと?」

次は英語の会話。
当然、佐天が置いてきぼり。

トリッシュ「あ、一応紹介しといた方が良いわね」

そんな佐天に気付き、トリッシュが今度は日本語で口を開いた。

トリッシュ「私はトリッシュ」

トリッシュ「そっちがレディ」

レディ「今はサイン受け付けてないから」

佐天「…………」

トリッシュ「………… で、この子が……」

ポンと隣のキリエの肩に手を乗せ。

トリッシュ「レールガンも初対面ね」


トリッシュ「キリエ。フォルトゥナの『お姫様』よ」


キリエ「Hello」


そしてにこりと、穏やかな笑みと透き通っている優しい声で挨拶をするキリエ。



佐天「―――!!!!!!!!!!!!!!」




873 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:38:09.88 ID:RzOmPFQo

『キリエ』。

その名を聞いた途端。
佐天は彼女を見つめたまま硬直した。
先ほど、ルシアの口からその名を聞いている。

佐天は遂に『捕捉』した。

この女性がネロの婚約者だ、と。


御坂「―――お、お姫様ぁ!!??」

トリッシュ「そう」

御坂「へぇええええ!!!!!!すごいすごい!!」

『お姫様』という単語を聞き、瞳を輝かせる御坂。
彼女の頭の中では、このキリエが豪奢なドレスを纏い、
メルヘンな城に住んでいる光景が瞬時に浮かび上がっていた。

キリエの品に溢れる佇まいからしても、全く違和感が無い。


ただ実際の住まいは、ネロと営む事務所と自宅を兼ねた小さな一軒屋であり、
その生活もかなり質素なものなのだが。




874 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:39:52.26 ID:RzOmPFQo

キリエ「???」

なぜ御坂が突然はしゃぎ始めたかがわからないキリエ。
自分の事らしいのはわかるが、いかんせん日本語が全くできない為話の内容も全然わからない。

彼女は、御坂のキラキラ光る『夢見る少女』の瞳にただただ苦笑いを返すしかなかった。


トリッシュ「あ~、本当の意味での王家とかの『princess』じゃなくて、何ていうのかしら」

そんな御坂が何を思い描いているか、
即座に察知したトリッシュが軽く補足する。

トリッシュ「皆の憧れのアイドルみたいな?まあ血筋は由緒あるモノだし、いわば貴族の系列なのは間違いないけど」

レディ「そりゃ~もう結構な血筋よね。             私に負けないくらいの」

禁書「そしてこの若さであのフォルトゥナの修道女長なんだよ!」


御坂「じゃあ本物のお姫様じゃん!!!きゃー!!!!!」


補足も空しく、御坂の妙な誤解は解けなかったらしく。
レディのさりげない自己主張とインデックスの追加情報も見事にスルーされた。

トリッシュ「…………」

レディ「…………まあいいわ」

禁書「…………むう」




875 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:45:04.90 ID:RzOmPFQo

キリエ「……???」

と、そうしていた所、キリエはもう一つの熱烈な視線に気付いた。
未だに目をまん丸にし、彼女をジッと見つめている佐天の眼差し。


佐天「(こ、ここここここの人が……………………綺麗…………)」


禁書「あれ、そういえばとうまは?ルシアと一緒じゃなかったのかな?」

御坂「え?なんかアクセラレータとどっか行っちゃったわよ。すぐ戻るって言ってたけど……」

禁書「…………あ……」

御坂「……よし、アイツを探しに行こっか?」

禁書「うん!」

トリッシュ「じゃあさっさと連れて来なさい。今日の作業はもう終わったって伝えて」

御坂「はいはいよっと」

レディ「さっさと、ね。早く、ね早く」

御坂「了解了解~」

御坂とインデックス、二人は姉妹のように並びながら病室から出て行った。

インデックスの移動を察知し、どこからともなく即座に現れたのか、
ステイルらしき男の声が少し聞こえ。

そして彼らの足音が離れていった。




876 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:47:17.44 ID:RzOmPFQo

病室に残ったのはトリッシュ、レディ、ルシア。


と、カチコチに固まっている佐天。


トリッシュ「……知り合い?」

そんな佐天の、キリエへの『熱烈』な視線に気付いたトリッシュ。

佐天「え……あ、いや……!!!」

慌てながらも顔を勢い良く何度も横に振るう佐天。
そんな時。

ルシア「さ、佐天さんはネロさんと面識があるんですよね?」

純粋すぎるルシアがご親切に補足をした。

佐天「―――えッ!!!!!ええええッ!!!!!!!」

トリッシュ「へぇ~……」

レディ「なぁに?何だって?」

キリエ「ネロ?」

ネロという部分だけを聞き取れた二人。
キリエは不思議そうに首を傾げてたが、レディは佐天の反応の意味を即読み取り、
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。

トリッシュ「あ~、この子、ネロと面識があるみたい」

トリッシュはそんな彼女達に英語で補足。




877 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:51:21.51 ID:RzOmPFQo

レディ「経緯は?ねえ経緯は?どうやってどこで知り合ったの?お姉さん知りたいなあ」

トリッシュ「このイカれ女がどこでどう会ったのか知りたいって」

佐天「あ…………二、三週間前に………」

トリッシュ「あ~、ウィンザー事件の直後にここに滞在した時みたい」

レディ「へぇ…………なぁるほどなるほど」

キリエ「……そういえば、ネロがその時の学園都市のお土産でブレスレットくれたんだけど……」

キリエ「それ選んでくれたのが現地の女の子って。もしかしてあなたかな?」

トリッシュ「ブレスレット選んだのかって?」

佐天「は、はい!!!!」

キリエ「やっぱり!ありがとう!!!」

キリエ「ゴメンね、今はつけてないんだけど、すごく可愛いので素敵だったよ」


トリッシュ「可愛いのをありがとうだって」


佐天「いえいえいえいえいえいえいえこここここちらこそ!!!」




878 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:54:57.30 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「って、通訳面倒ね」

トリッシュ「ルシア。あなたが佐天ちゃんに通訳してあげなさい」

ルシア「は、はい!」


レディ「それにしてもあのボーヤが赤の他人と仲良くなるなんて」

トリッシュ「あら、イギリスでも結構ハッちゃけてたわよ」

キリエ「……………………」

トリッシュ「あ、男特有のバカ騒ぎね。女関係ってわけじゃなく」

レディ「でもそれってアレでしょ、なんていうか、脳筋猿共の土人的な宴みたいな」

レディ「このコみたいな一般人の、しかも一回りくらい年が下っぽい女の子と仲良くなるなんて」

レディ「イメージとしては、どっか消えなとか言ってそっぽ向くと思ってたんだけど」

トリッシュ「まあ、大人になってある程度丸くなってきたんでしょ」

キリエ「あ、元々ネロは子供には優しいですよ?」

キリエ「昔からよく孤児院に顔出したりして、皆の面倒見たりしてましたし」

トリッシュ「へぇ~」

トリッシュ「でもこういう、プライベートの事には一切他人を関らせないでしょ?」

トリッシュ「イギリスでも、一介の騎士とか魔術師達ととは、やっぱり上の立場としての一線を引いてたし」

キリエ「あ……そう……ですね。最初、ネロからあのブレスレットの話聞いたときは驚きました……」




879 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:57:10.74 ID:RzOmPFQo

レディ「ていうかさ、自分の女へのプレゼントを別の女に選んでもらったって、普通言うの?」

レディ「それもこんな、まだ毛さえ生えてないような子に選んでもらったなんて。なんか見っとも無いじゃないの」

佐天「…………」

トリッシュ「正直で良いんじゃない?ネロらしいって言えばネロらしいし」

トリッシュ「そんくらいキリエにゾッコンなんでしょ」

レディ「へぇ~」

キリエ「……あははは…………」

佐天「…………」

レディ「それにしてもネロがデレデレするのってなんか想像つかないわね。そこのところどうなの?」

キリエ「ええ?!……どう…………なんでしょうね…………??」


レディ「最近みたいに忙しくなる前は、週何回くらいヤッてたの?」


キリエ「えええええ!!!!!!!!!!!!!!」

レディのあまりにもどストレートな問いに、顔を真っ赤にして声を挙げてしまったキリエ。


そして、隣のルシアの一語一句間違い正確な訳を聞いていた佐天も。

佐天「―――!!!!!!」

身を硬直させた。




880 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:58:19.82 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「何回?」

キリエ「し、知りません!!!!!!!」

レディ「あ~、覚えてられないくらい、普通に回数多くって事ね」

キリエ「ち、ちちちち違います!!!!!!!!!!!!!!!」

トリッシュ「やっぱり、出張から返ってきた久しぶりの晩には燃えるの?」

レディ「いや、昼から始めるんじゃない?で、晩も、と」

キリエ「わわわっわわあわわわわかりません!!!!!!!!!!!!!」

レディ「ネロってリード上手いの?」

トリッシュ「どうかしらね。どっちも相手が初めてみたいだったから。二人一緒に成長してんじゃないの?」

レディ「あ~なるほど」

トリッシュ「で、二人とも同じくらいのテク、と。ね、そうでしょ?」


キリエ「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


佐天「(きぃぃぃぃぃぃいあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!)」


もしこの場にダンテがいたら、ニヤニヤしながらこう思っていた事だろう。


全く女というやつは、と。

複数集ったらロクな事にならねえ、と。


―――




882 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:00:33.47 ID:msuwctQo
―――

とある深い森の中にある、大きな寂れた洋館。

その一画にある、小さな薄暗い小部屋の片隅。

そこに七天七刀の鞘を抱きかかえながら、五和が蹲って座っていた。

髪はボサボサ。
服はところどころ黒ずみ小さく破け。
その破れた服の隙間から、小さな擦り傷等の固まった血が見えている。

だが、五和は今やもうそんな己の身なりの事など全く気にしてはいなかった。
いや、そんな小さな事など考える気にもなれなかった、と言った方がいいか。

頭の中は真っ白。
もうどうでもいい。

己の置かれているこの状況ももう興味が無かった。


目の当たりにした、神裂の最期。
心の底から敬愛していた女教皇の死に様。


それが彼女の心を空っぽにしてしまった。
もう涙も枯れたようだった。

鞘を抱きしめる腕に顔を埋め。
外界からの気配も音も全て興味なく聞き流し。


彼女はただ一人、この『無の殻』の中に閉じこまっていた。




883 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:03:06.77 ID:msuwctQo

五和「…………」

ふと気付くと、扉の向こうの大部屋にて複数の足音が聞こえた。
二人、いや、三人か。

なにやらボソボソ話をしている。

だが五和にとってはそれだけ。
ただの『音』。

ぼんやりしているこの頭では、
その足音と声が女のものなのか男のものなのかすらわからない。
そして、五和はそれすらをも確認しようとはしなかった。

どうでもいい。
ただ聞き流す。


と、その時。


今度はこの小部屋の扉が開いた。


五和「…………」


だが五和はそれでもピクリとも動かず、
一切の興味を持たなかった。

入って来た人物の正体など露とも知らずに。




884 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:04:05.64 ID:msuwctQo

その『衝撃』はすぐに彼女を覚醒させる。

五和「―――…………」

何者かが入ってきたと思ったその瞬間。
抱きかかえている鞘に走る、あの『感触』。

スルリと。

鞘に刃が納められていくこの触感―――。


そして。


五和「―――」

鞘に伝わるやや大きめな振動と共にチンッっと響く、小さな金属音。

そう。

それは。



鞘の口と鍔が『完璧』にかみ合った音色―――。



五和「――――――ッ」




885 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:05:29.86 ID:msuwctQo

その音色でようやく五和の心が反応し。
そして一気に躍動する。

五和が目を見開き、顔を勢い良くあげたその瞬間。


彼女の瞳に映る―――。



「五和」


小さな微笑を浮かべ、穏やかな瞳で五和を見下ろしている―――。



五和「―――…………あ―――」


「何たる醜態ですか。髪ぐらい梳かしなさい」


五和「―――………… あぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!!!」


「『我ら』天草式十字凄教たる者、その身なりは常に整えておきなさい」



―――女教皇、神裂火織。




886 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:07:35.74 ID:msuwctQo


その姿と見、声を耳にした五和の瞳から、
一気に透き通った雫が溢れ出し。

五和「うぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛う゛ぅ゛う゛あ゛あ゛あ゛う゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

彼女は言葉にならない声を挙げながら、
七天七刀の納まった鞘を抱えながら神裂の足にしがみ付いた。

幼児のように泣きじゃくり。


神裂「…………ふふ」

神裂はそんな五和の頭に軽く手を乗せ。

神裂「大丈夫。大丈夫です……」

ゆっくりと、彼女の髪の毛を梳くように美しい指先で撫でた。
母親が小さな娘を安心させようとするかのように。

優しく。

優しく。

慈愛に溢れたその美しい指先で。




887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:09:43.56 ID:msuwctQo

そんな二人の姿を開かれたドア越しに、大部屋の方から眺めていた二人がいた。

腕を組み、口の端をあげ薄っすらと笑みを浮かべているジャンヌと。
相変わらずの無表情であるバージル。

ジャンヌ「……それでだ。うまくいったみたいだな?使えるんだな?あの元天使は」

バージル「一応はな」

ジャンヌ「そうか。そいつは良かったよ」

バージル「……」

ジャンヌ「……」


バージル「………………あれは何のつもりだ?」


ジャンヌ「ん?」

バージル「あの人間の女だ」

ジャンヌ「あ~……」

バージル「……」

ジャンヌ「そうあからさまに嫌悪感出すな。小間使いにでも何にでもすればいいさ」

ジャンヌ「こっちは少し頭数が足りなかったしな。雑用が一人くらい欲しかったところだろ?」

バージル「……」

ジャンヌ「心配するな。忠誠心も折り紙つきだ。あの元天使がお前に与した以上、あのコも従うさ」

ジャンヌ「それにもし邪魔になるようだったら、私が責任持って『処理』する」




888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:11:15.68 ID:msuwctQo

バージル「……………………勝手にしろ」

ジャンヌ「OKって事だな」

バージル「どうでも良い。それよりも貴様等に話がある」

バージル「…………待て、もう『一匹』はどこだ?」

ジャンヌ「ああ、セレッサはロダンの所に行った」

バージル「そうか。まあ良い。貴様に聞く」


バージル「イギリス清教最大主教。知ってる事を全て吐け」


ジャンヌ「…… あ~…………」

バージル「貴様等の同族だと聞いたが?」

ジャンヌ「それか……アイゼン様は何て?」

バージル「『発見次第、捕縛し連れて来い。話ができる程度に生きてれば良し』」

ジャンヌ「…………あ~」

バージル「恐らくその魔女、『神儀の間』をイギリスに現出させた張本人だ」


ジャンヌ「―――…………は……………はぁぁッッ?!!!!!」


バージル「知らないのか?」


ジャンヌ「ちょ、ちょっと待ちな!!!!!『神儀の間』がどうしたって!!!!??」




889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:13:56.01 ID:msuwctQo

イギリス清教、ローラ、それらの単語。
さらに突如声を荒げたジャンヌに対し、小部屋の方の神裂も二人の方へと顔を向けた。

五和は相変わらず彼女の足にしがみ付き泣きじゃくっていたが。

それに気付いたジャンヌがさりげなく手を振り、魔術で扉を閉めて神裂の視線を遮った。

バージル「カンタベリーの地下に現出してた。現出の時期は貴様等の都が滅んだ直後だ」

バージル「先ほど、俺が煉獄に移動させた」

ジャンヌ「…………なッ……!!!??……はぁ!!!!??あのコが!!!!!??」

バージル「身分を知ってるのならさっさと言え」


ジャンヌ「ッ…………私等の世代の、そして最後の『主席書記官』だ。恐らく、な」

バージル「…………恐らく、だと?」

ジャンヌ「そこがまだ良くわからん。ただ、主席書記官の『頭』を有しているのは確実だ」

バージル「…………まあいい。それでだ、その女は『神儀の間』を現出させる事が可能だったか?」

ジャンヌ「……力はとても足りない」

ジャンヌ「……だが、主席書記官は禁術も記憶してある。個人のオリジナル技以外は全ての術を網羅してる」

ジャンヌ「更にそれらの術を組み合わせ、新しい術式を作る事も可能」

ジャンヌ「つまり力が無くとも、どうにかして騙し騙し禁術を起動させることも理論上可能だ」

バージル「…………」




890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:16:01.87 ID:msuwctQo

ジャンヌ「んな事をすれば、通常は即座に近衛か執行部隊に捕えられ、」

ジャンヌ「即決裁判でその場で極刑に科せられるが……」

ジャンヌ「時期が『あの時』だとするとどさくさに紛れて起動したか、それとも滅亡後に悠々と行ったか」

バージル「禁術の種類は?何に『神儀の間』を使った?」

ジャンヌ「それはなんとも言えない。現物を綿密に調べればある程度はわかるだろうが……結局は本人に直接聞くしかないな」

バージル「そうか」

ジャンヌ「……………………で、狩れって?」

バージル「そうだ。最優先ではないが」

ジャンヌ「……………………」

バージル「幸い、こちらに時間的余裕は二日、三日程ある」

そう口にしながら、バージルは軽く閻魔刀の柄に手を添えた。

ジャンヌ「…………」

それを見てジャンヌは思った。
バージルにローラ追跡を任せてしまったら。


ローラ確保の条件は『話ができる程度に生きてれば良し』。

その条件内ならば、確実にバージルは容赦なく刃を振るう。
手足を全て切り落とすくらい普通にやるだろう。

それどころか、何かがあれば独断で殺しかねない。




891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:19:22.73 ID:msuwctQo

そして、バージルが勝手な判断をしてもジャンヌ達は何も言えない。
こちら側の要はバージル。
彼が全ての核であり、最終的な権限は全て彼が有している。


表向きは利害の一致による共闘だが、
バージルの方は彼単独でも、多少難しくなるがやり様によっては目的を遂げることも可能なのだ。

だが一方で、ジャンヌ達はバージルがいないと目的を達することは絶対に不可能。
アイゼン、ベヨネッタ、ジャンヌにとって、バージルと彼の有する閻魔刀が必要不可欠なのだ。


ジャンヌ「……私に任せな。身内の事だ。私がやる」

そこを踏まえ、ジャンヌは自らその任を担うことを名乗り出た。
バージルにやらせてしまったら、ローラがどうなるかはわからない。
そしてそれを防ぐ事もできない。

どんな者でも、これ以上『家族』を傷つけたくないジャンヌはこうするしかなかった。


バージル「…………」

そんな彼女の思惑を見透かしているのか、
バージルは彼女の方を横目で見ながら小さく鼻で笑い。


バージル「下手な真似はするな」

それだけ言い残し、外へと繋がっている扉の方へと歩を進めていった。




892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:20:30.71 ID:msuwctQo

ジャンヌ「…………わかってる」


そんなバージルの背中へ言葉を飛ばすジャンヌ。


ジャンヌ「ローラの事も私が責任を持つ」


その言葉が聞こえたのかどうか。
バージルは一切反応を示さず、そのまま室外に姿を消していった。


その開かれたままの扉をジャンヌはぼんやりと見つめながら。


ジャンヌ「(…………ローラ……………………)」


あの金髪の。
『少女』の顔を思い浮かべていた。


ジャンヌ「(お前………………このままじゃ……)」


―――




897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:31:49.93 ID:msuwctQo
―――

とある街の郊外、森の近くの開けた原地。
今だ闇の深い時刻、この人気が無い地。
草の原からは虫の鳴き声、近くの森からはフクロウらしき鳥の鳴き声が聞こえていたが。

突然、全ての音が止む。
草の海を撫でていた風も止み。
鳥と虫の声も止み。

森の葉の音も止み。


シンッと不気味な静寂。


そして。


その原のど真ん中にふわりと降り立つ―――。


黒髪・黒いボディスーツのグラマラスな女。


ベヨネッタ。


その格好は黒ずくめでありながら、
なぜかこの光の無い闇の中でもはっきりと浮かび上がっていた。
異質すぎる程に。

まるで『黒い光』が照らし上げているかのように。




898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:33:27.56 ID:msuwctQo

彼女は片足に体重をかけて腰をしならせ、
薄く笑いながら星が瞬く夜空を見上げた。

その瞬間。

彼女の視線の先、天の彼方に赤い光が瞬き。


『落下』してくる真紅のコートを纏った男。


ダンテ。


彼はベヨネッタの正面20m程の所に降り立った。

先に降り立ったベヨネッタとは対照的に、
凄まじい地響きを打ち鳴らしながら。

地面が割れ、彼の着地点を中心に円形に10cmほど窪む。
深さはそれだけだが、範囲は半径10mも。


ダンテ「さて………… へっへっへ…………」

ダンテはリベリオンを肩に乗せ、
もう片方の手でコートについた土ぼこりを掃う。

ベヨネッタ「ン~~~ン」

銃を持つ右手で、
己の腹部から胸をなぞりながら喉を鳴らすベヨネッタ。


交わり絡み合う色気タップリの二人の視線。




899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:36:23.32 ID:msuwctQo

お互い、無言のままほくそ笑む程数十秒。

先に動いたのは。


ベヨネッタ「―――mm―――HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ベヨネッタ。

掛け声と共に体を激しく素早く、キレよく躍動的に捻り。
両手を大きく振るい。


一拍置いた後、足を大きく開き胸張り、腰をくねらせ。
持っている銃をクルクルと回しながら両手を頭上で交差し。

軽く舌で唇を舐めながら、その二の腕に己の顔を摺り寄せ。


ベヨネッタ「―――huuuuuuuuuum.......Yesyesyeeeeeeeees.......」


誘うような横目でダンテを見ながら熱い息を吐き。


ベヨネッタ「HmmmHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


最後にもう一度掛け声をし、再び勢い良く両手を広げ彼女はキメた。

完璧に。

最後の掛け声の瞬間、
彼女のバックで鮮やかな(主にピンクを基調とした)光が溢れ出した。


ベヨネッタ「(…………んふん…………)」

そして彼女は得意げに勝ち誇った笑みを浮かべた。


完全に勝った、と。




900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:38:55.33 ID:msuwctQo

それを見て目を見開くダンテ。

ダンテ「(―――……………………なッ……ん……だと……?)」

だが、この程度では彼は負けない。
逆に彼のハートに火がつき。

ダンテ「(へっ………………中々……いや、かなり…………だがよッ ―――!!!!!!!!!!!!!)」

『応戦』。


ダンテ「Hooooooouuuuha!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

リベリオン、続けて腰に差していたエボニー&アイボリーを華麗に天高く放り投げ。

ベヨネッタに負けないくらい激しく、かつキレ良くステップを刻み。

ダンテ「Yeah―――HA!!!!!!!!!!HA!!!!!!!HA!!!!!!!!!」

重力に従い落ちてきた二丁の拳銃を指に引っ掛けキャッチし、そのまま西部劇のようにクルクルまわし。
放り投げて己の腰へとスッポリト差し込ませ。

左手指を顔のとなりで鳴らしながら、右手を天にかざし。

そしてどこからともなく出現したバラを咥え、
右手で同時にリベリオンをキャッチし、正面を一刀両断するかのように振り下ろし。


ダンテ「Sweet....Baby......」


ベヨネッタに半身を向け、大剣の切っ先を地面に向けながら。
左手で口のバラを取り彼女の方へとスッと差出し、そして軽く指で弾きながら手放した。




901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:40:29.81 ID:msuwctQo

ダンテの余裕タップリな笑みと、ふわりと地面に落ちるバラ。

ベヨネッタ「(―――……………………なッ……んですって………………??)」

今度はベヨネッタが目を丸くした。

思わぬハイレベルな応戦。

その凄まじい『威力』。

ベヨネッタ「(―――…………チッ……中々…………まさかここまでとはね……少し甘く見てたわこのボーヤの事……)」

まさかこの『分野』で己に正面から対抗できる者がいたとは。
彼女は夢にも思っていなかった。

ダンテ「(…………これでも互角……か。…………こいつは手強いぜ……)」

ダンテも同じく。


ダンテ「Yeah-Ha-Ha-Ha-Ha...............」

ベヨネッタ「Ya-haha-hahahaha-ha...................」


そしてわざとらしく笑い、お互いから一旦目を背ける二人。

ダンテは『いやあまいったぜ』と言いたげに軽く右手を振り。
ベヨネッタは、それに対し『ええそうね』と返事しているかのように、
咥えてるキャンディーの棒を軽く指で弄びながら。


その次の瞬間。


ダンテ「―――Yeeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ベヨネッタ「―――HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:41:10.15 ID:vPfZHb2o
まさにセクシーコマンドーだな



903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:43:58.27 ID:u8Y4KO2o
何勝負なんだww



904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:45:59.65 ID:msuwctQo

二人は雄叫びをあげながら同時に地面を蹴り。

ダンテはリベリオンの切っ先を向けスティンガー。

ベヨネッタは即座に出現させたウィケッドウィーブと連動した右足の蹴り。

凄まじい衝撃波と余波で周囲の地面を抉りながら、二人は激突した。

第一撃から容赦なく、ノーマル状態最大戦速の
音速の数十倍もの速度で。

ウィケッドウィーブとスティンガー。

とてつもない金属音と共にお互いが弾かれたが。

だが二人共、後方に吹っ飛ばされること無くその場で難なく持ちこたえ、即座に次の動きへと移る。

ダンテ「―――Hu!!!!!!!!」

ダンテは即座に腰から、左手でエボニーを引き抜き。
弾かれた反動を利用して身を捻り、その銃口をベヨネッタの顔面へ。
そして躊躇い無く、超高速で引き金を何度も引く。

ベヨネッタ「―――YA!!!!!!!!!」

同じくベヨネッタも反動を使って素早く身を捻り、回し蹴り。
更にその足首についている銃口から大量の魔弾を放つ。


お互いへ至近距離で放った、両者の大量の魔弾。


ダンテは闘牛士のようにコートを靡かせて半身を捩り。
ベヨネッタは仰け反り。

そして両者とも、軽々とそれらの魔弾の雨を回避。




905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:49:05.89 ID:msuwctQo

そのまま、二人は至近距離で撃ち合う。
神速で振りぬかれる刃。
同じく神速で放たれるウィケッドウィーブ。

そして飛び交う大量の魔弾と二人の掛け声。

余波と流れ弾により、
周囲の地形が見る見る、そして目まぐるしく変わっていく。

地響きと凄まじい光の明滅を伴って。

ダンテ「ヘッヘ!!!刺激的で良いぜ!!!」

リベリオンを振るい、引き金を絞りながらダンテは心底楽しそうに声を挙げた。

ベヨネッタ「最ッッッッ高!!!!痺れちゃうわッッ!!!!」

同じくベヨネッタも。

ベヨネッタ「でもまだ足りないわ!!!!もっと―――もっと―――!!」

白銀の刃がベヨネッタの頬をかすり。


ベヨネッタ「―――もっと感じさせて!!!」


宙から出現した巨大な足や拳が、ダンテの周囲を突き抜けていく。


ダンテ「OK!!!果てまで連れてってやるぜベイビー!!!」


それはあまりにも。

あまりにも常軌を逸している、そして禍々しく殺気に満ちた舞い。


正に狂気のダンス。




906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:50:35.99 ID:msuwctQo

そんな最中。

ベヨネッタが後ろに跳ね、宙で身を捩り。


ベヨネッタ「ホットに痺れて―――!!!!!!」


ベヨネッタ「―――ドゥルガーッ!!!!!!」


その瞬間、ベヨネッタの手足に金を基調とした大きな装具が出現。

魔導器、魔具ドゥルガー。

両手先端のポータルからは稲妻が迸り。
両足先端のポータルからは業火が噴き出す。

着地した瞬間、足元の地面を溶かしそして抉っていく。


ダンテ「―――ホットかつクールにな!!!!!!」


ダンテ「―――アグニ!!!!ルドラ!!!!」


同じく、ダンテの左手には柄が繋がった双戟状態のアグニ&ルドラ。
二つの刃から業火の渦が巻き上がり、
周囲の地面を溶かしては、その灼熱の液体と火の粉を天高く舞い上げさせる。


ベヨネッタ「YA- HAHAHA!!!!!!!!!!!!!YEAAAAAAAAAAAAAAhummmmm-HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダンテ「HAHAHAHAHA!!!!!!!!!!!!!YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEESBABY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


この場に更に加わった、強大な魔の『雷』・『風』と二つの『炎』。


狂乱は更にヒートしていく。

熱く熱く。

全てを燃え尽くさんばかりに。




907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:52:29.31 ID:msuwctQo

右手にリベリオン、左手には結合した双戟状のアグニ&ルドラを握り、
ダンテは一気にベヨネッタに突進する。

ベヨネッタ「―――YAA!!!!!!!!!!!!!!」

それを見、左手で一気に前面を凪ぐように振るうベヨネッタ

その瞬間。

青白く、巨大な鍵爪状の雷性を帯びたウィケッドウィーブが出現。
突進するダンテを地面ごと真横から抉り取ろうかと、一気に横に振るわれた。

ダンテ「―――Hum―――」

鉤爪は三本。水平に、そして縦に積みあがっているように並んでいる。
それらの隙間は訳50cm。

数千分の数秒という極僅か一瞬で、横目でその巨大な鍵爪らを即座に認識したダンテ。

彼は軽く地面を蹴り、僅かに跳ね。

そして身を翻しながら、仰向けに。
空に横たわるような姿勢に。

それと同時に『すり抜けていく』巨大な鉤爪。

ダンテ「―――Ha!!!!!!!!!!!!」

いや、ダンテがすり抜けたのだ。
爪と爪の間の極僅かな隙間に飛び込み、身を滑り込ませ。

文字通りダンテ『本体』にはかすることも無く、鉤爪は一体を凪ぎ、
地面を抉り飛ばしていった。

彼の翻ったコートの一部を削いでいったが。


それらの凶爪の通過後、
即座に体勢を直し、勢いを殺すことなくそのままベヨネッタに向かうダンテ。




908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:57:10.45 ID:msuwctQo

ベヨネッタ「Huuum―――HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

小さく笑いながらベヨネッタは続けて体を回転させ、今度は右足で回し蹴りを放つ。
前方に迫っているダンテ目がけて。

すると今度出現したのは、炎に包まれた同じく巨大なウィケッドウィーブの蹴り。
さながら、いや正に火柱が『横向き』に噴き出すかのように、凄まじい爆発を伴って。

ダンテ「Ha- Ha!!!!!!!!!!!!!!」

それを見たダンテ。
今度は両足で即座にブレーキをかけ―――。

そして左手に持っていたアグニ&ルドラを放たれた巨大な『業火の蹴り』に向け。

バトンのように素早く回す。



『―――ASH to ASH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



                                                         Twister
次の瞬間、この魔具の掛け声と共に、『横向き』に巻き上がる灼熱の『 竜 巻 』。


真正面から激突する、業火のウィケッドウィーブと業火を纏った爆風の渦。
その激突点から、二人を軽く飲み込む程の直径50mに及ぶ火球が形成され。

そして破裂する。

周囲へと吹き荒れる、近くの森の木々をも焼き払い薙ぎ倒す爆炎―――。




909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 23:59:27.97 ID:msuwctQo

その中でダンテは一瞬ベヨネッタの姿を見失った。

だが見失っただけ。
視界の外に逃れられただけ。

彼女の気配は手に取るようにわかる。


ダンテ「Hey,don't Hide.C'mon―――」

ダンテは即座に相手の位置を把握し。


ダンテ「―――BABY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


振り向きながら横一線に右手のリベリオンを背後に振るった。

剣風で爆炎が一気に掃われ、周囲が晴れ渡る。

そしてダンテの斬撃を仰け反り、鼻先で華麗に回避したベヨネッタの姿も露に。

ベヨネッタ「You want to touch me? Humhuhu―――」

爆炎の布を剥がされた彼女は薄く笑い。


ベヨネッタ「―――Badboy!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


仰け反り、そのままバック転しながら、今度は両足の二連撃。
ダンテの顎を下から蹴り上げようと、再び出現する業火のウィケッドウィーブ。




910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:00:41.13 ID:vetDFyAo


その一撃目をダンテは、左手のアグニ&ルドラで華麗にいなし。

そして。


ふわりと跳ね、彼は二撃目の上に『乗った』。


ウィケッドウィーブをジャンプ台代わりにし、一気に天に跳ね上がるダンテ。
更にその直後に、真下のベヨネッタへ向けて。


ダンテ「DRIVE!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


リベリオンから特大の赤い斬撃を放つ。

それを見て小さく笑うベヨネッタ。
彼女は小さく笑いながら、先ほどのバック転蹴り上げの動作からそのまま逆立ちし。

蹴り上げた両足を大きく広げ、先端のドゥルガーから炎を噴き上げながら、
ヘリのローターのように高速で一回転。


ベヨネッタ「YA-----HA!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダンテの放った斬撃を、
その業火のローターで難なく叩き割り霧散させた。




911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:02:24.51 ID:vetDFyAo

ベヨネッタ「―――YeeeeeeeeYA!!!!!!HA!!!HU!!!!HA!!!!!!!!―――」

次いで放つ、四肢のウィケッドウィーブの連発。
真上のダンテ目がけ繰り出される、ブレイクダンスのように踊りながら次々と破壊的過ぎる攻撃。

ダンテ「―――Yeah-HA!!!!HA!!!!HA!!!!HU-HA!!!!!!―――」

それらをダンテは左手のアグニ&ルドラで弾きいなし、

ダンテ「ONE!!!!!!!TWO!!!!!!」

負けずにリベリオンで赤い斬撃をぶっ放す。

弾いては避け、避けては相手の急所に打ち込み。
そしてお互いが再びその攻撃を弾いては避け。

身を捻り、ステップし、掛け声と圧倒的過ぎる『破壊』の応酬。

空に大量の光が瞬き、地面は削れ。



ベヨネッタ「――――――Get out!!!!!!!!!!!!」


そしてベヨネッタは真上に渾身の蹴りを放ち。



ダンテ「――――――Blast!!!!!!!!!!!!!」



ダンテはリベリオンとアグニ&ルドラを交差させ一気に振り下ろし、
地面のベヨネッタの元へと突き進み。


激突。

二度目の、そして先ほどよりも凄まじい『破壊』。
空間が歪み、あまりにもド派手すぎる『衝撃』―――。




912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:04:13.55 ID:vetDFyAo

数十秒後。

迸った爆炎が晴れ、そして舞い上がった粉塵が納まり。

15m程の距離を開け、荒地と化した地のど真ん中に二人は向き合いながら立っていた。
先ほどのお互いへ向けられた攻撃。

両者とも直撃した。

大悪魔ですら、それこそ致命的な傷を負ってしまう程の強大な攻撃。

それが直撃したのだが。


二人は完全に無傷。

衝撃を受けた肌が赤くすら、それどころか衣服の乱れさえない。


そしてダメージなど一切感じさせない表情。
素晴らしい程にうれしそうな笑み。


ダンテ「たまんねえ……たまんねえぜッッ!!!!!!ハッハーァッッ!!!!!!!最高の女だぜお前は!!!!」


ベヨネッタ「はぁあああああああああああああんもうダメ!!!!!もう我慢できないッッッ!!!!!!!」


二人はもう限界に達していた。

これ以上、力が抑えきれない。

ダンテの瞳が眩く赤く輝き始め、全身からも赤い光が溢れ出し。

ベヨネッタは身を情熱的にくねらせ、両手を後頭部に。
髪留めの所に手を当て。




913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:06:51.01 ID:vetDFyAo

ベヨネッタ「……そろそろ『本気』で…………『愛でて』いいかしら……?」


ダンテ「良いぜ……『前戯』は終わりだ……『本番』を始めようぜ子ネコちゃん……」


そして二人は力を解き放つ。


ダンテは魔人化し―――。


ベヨネッタは『髪』を全て開放し―――。




―――そうしようとした時だった。



「まああああああああああああああああああああてえええええええええええええええええい!!!!!!!!!!!!!!!」



地響きを伴程の低い声が周囲を揺るがし。

二人の間、ちょうど中間の地面から突如赤い光が迸り。


その光の中から姿を現す―――。



ロダン「―――もう終わりだ!!!!!いい加減にしろ!!!!お開きだ!!!!!!!!!!!」


ロダン。




914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:09:50.97 ID:vetDFyAo

ダンテ「……………………あぁ?」

ベヨネッタ「……………………はぁぁ?」


ロダン「こんな所でバカ騒ぎするんじゃねえ!!!」


あからさまに煙たそうな表情を浮かべる二人に対し、
青筋を立てながら声を荒げるロダン。


ロダン「目立ち過ぎだ!!天界からも魔界からも思いっきり注目されてるぜ!!!!」

ロダン「このままじゃ『ココ』が『崩壊』しちまう!!!イギリスみてぇな『界の穴』をもう一つ作る気かお前さん達よ!!!」

ロダン「これ以上続けたいなら魔界にでも行け馬鹿野郎共!!!」


ダンテ「……」

ベヨネッタ「……」


ロダン「おいおいおい何だその目は!?俺は間違ってねえぞ!!!!」

ロダン「このままヤリ合ったら一番困るのはお前さん達だろう?!!!!」

ロダン「いい加減少しは大人になりやがれアホ共!!!!発情期の猿か!!!!!」


ロダン「ここは猿山じゃねえぞ!!!!!」




915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:11:51.70 ID:vetDFyAo

ダンテ「…………あ~……こりゃあヒデェ生殺しだ……空気読めねえな」

ベヨネッタ「……チッ……………………この『ゴリラ天使』め」

二人はブツブツ愚痴りながらもロダンの言葉に従い、
武器を名残惜しそうに納めて行く。

ロダン「(こんの野郎共…………)」

ロダン「ダンテェ」

ダンテ「あ?」

ロダン「ほれ。直ったぞ。だから今日はさっさと失せやがれ。少しは頭冷やして来い」

そう言葉を発しながらロダンはコートの下から二丁の拳銃、
トリッシュのルーチェ&オンブラを取り出し、ダンテの方へと放り投げた。

ダンテ「ハッハー、頭じゃなく『セガレ』が火照ってんだがな」

それらをキャッチしながらヘラヘラと笑うダンテ。


ベヨネッタ「私も疼いちゃってるのよね。Gスポt」


ロダン「うるせえ黙ってろ」


それに同調し卑猥な言葉を口に仕掛けたベヨネッタだが、
ロダンの一声で一蹴された。




916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:14:39.16 ID:vetDFyAo

そしてロダンは一歩ずつ、大地を響かせながらベヨネッタの方へと向かう。
それと同じように、ベヨネッタはさりげなくロダンから離れようとするが。

                                コ
ロダン「俺に用があるんだろう?俺の『銃』達を診てほしんだろう?」

ベヨネッタ「あははうふふ。もういいわ。大丈夫みたい」

ロダン「ダメだ。お前は良くとも俺は良くねえ」

あえなく彼女は、その黒髪をムンズと鷲掴みに髪にされ。

ベヨネッタ「いやあーーーーー」

ズルズルと引き摺られていく。

ダンテ「ヘッヘ、乱暴にしないでくれよな?また今度その子ネコちゃんとイチャつきてえからよ」

そんなベヨネッタの姿を見、面白げに手を叩きながら言葉を飛ばすダンテ。

ロダン「お前さん達を会わせると碌な事になりゃしねえ。良いからお前はさっさと帰れ。『金髪美女』が待ち焦がれてるぜ?」

ダンテ「ハッハー、止してくれ。お袋の顔した女とじゃれあう気にはなれねえよ」

ロダン「フン」

ロダンと、彼に掴まれているベヨネッタの周囲に赤い光が溢れ出す。

ベヨネッタ「バーイ。またね」

ダンテ「あばよ。子ネコちゃん」

そして二人の姿が光に包まれ、消えていった。




917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:19:14.13 ID:vetDFyAo

残ったダンテは一人、何となく手にあるトリッシュの愛銃を眺めていた。

ダンテ「…………」

そうしてたところ。
ふと、先ほどのベヨネッタの戦い振りを思い出した。

あの動き。
四肢に取り付けた銃の連動した戦法。

ダンテ「Hum...............」

『何か』を思いついたダンテは一度喉を鳴らした後。


ダンテ「―――ギルガメス!!!!!!!!」


一つの魔具の名を高々と叫んだ。
次の瞬間、両手両足に出現する、銀色の『魔導金属生命体』。
ギチギチと機械的な音を響かせ、彼の手足の先端を包み込む。


ダンテ「Ha!!!!!!!!」


次いでダンテは、手に持っているルーチェ&オンブラを頭上に放り投げ。

まずは右足を大きく蹴り上げるように真上に振るった。

その右足先端のギルガメスにルーチェが当たり。
次の瞬間、金属生命体がダンテの意思に沿い、ギチギチと音を響かせながら変形し―――。


――― ルーチェのグリップ部分を掴み、そのまま同化。




918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:22:12.55 ID:vetDFyAo

ダンテ「Hooooha!!!!!!!!!!!!」

続けてダンテは跳ね上がるように、今度は左足を大きく天に振るい。

同じように、次はオンブラを左足先端のギルガメスと同化させ。

そして宙で一回転しながら、腰からエボニー&アイボリーを引き抜き。



ダンテ「Yeaaaaaaaaaaaaahhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


先ほどのベヨネッタの動きを真似て、空中で手足を鮮やかに振るい、


ダンテ「Ha!!!! Hu!!!!! Ha!!!!!YeeeeeeeeaaaaaaaaaHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


四つの銃口から華麗に魔弾を放つ。
ギルガメスの歯車で火花を散らしながら蹴りとパンチ。
それと連動して絞られる引き金。

放たれる、赤い光を帯びた魔弾。


一通り動作を宙で確認した後、彼はコートを靡かせながらふわりと着地し。

低く腰を落とし両手を広げながら、そこでポツリと。


ダンテ「So Sweet」


ニヤリと笑みを浮かべながら歓喜の一声。

彼はここに新たな『スタイル』を手に入れた。


アンブラの魔女の近接格闘術、『バレットアーツ』。


史上最高の使い手からコピーする形で。




919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:23:52.47 ID:vetDFyAo

ダンテ「ハッハ~、こいつぁいい」

エボニー&アイボリーをクルクルと回しながら腰に差し込み、
次いで軽く蹴り飛ばすように足先のルーチェ&オンブラを解放して放り投げ、手に取った。

そしてギルガメスを戻し小さく笑った。

ダンテ「燃えてきたぜ。ロマンがある」

これを応用すれば、例えば別の魔具をギルガメスに同化させ、
四肢の刃で『踊る』事も可能だ。

ベヨネッタからは、結局バージルの事については聞き出せなかったが、
それでも彼にとってはこの『プレゼント』が素晴らしいものだった。

ダンテ「本当にいい女だぜ」


ダンテ「喜べトリッシュ。『お前』も戦えるぜ」


ダンテが小さく笑いながら、手の中にある銃に言葉を飛ばしたその時。


トリッシュ『何その口ぶりは?私はまだ死んでないんだけど』


直った銃を通じて、即座に彼女の声が聞こえてきた。




920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:26:06.76 ID:vetDFyAo

ダンテ「あ~そうだったな」

そんな、銃を介して脳内にリンクしてきたトリッシュに向け、笑いかけるダンテ。

トリッシュ『というか、結局何も聞けなかった訳?』

ダンテ「まあな。でも良いじゃねえか。お前も『戦える』方法が見つかったぜ?」

トリッシュ『……まあ。悪くは無いわね。というか案外楽しそう。「眺め」が最高だし。足蹴にされてるのが少し癪だけど』

ダンテ「動けねえお前の代わりに俺が連れて行ってやる」

ダンテ「どこに行きてえ?」

トリッシュ『……そうね。とりあえず私の所に戻ってきて。…………いえ、それは「最期」でいいわ』

ダンテ「……」

トリッシュ『……どこでもいいわよ。アナタの行きたい所に連れてって』

トリッシュ『あ、そうそう。「楽しい所」にして。これだけは外せないわ』

ダンテ「OK、しっかり見てな『そこ』でよ」

トリッシュ『すぐ傍で見てるわよ。片時も目を離さずに。勝手されちゃ困るもの』

ダンテ「おっと、変なところは見せられねえな」

トリッシュ『何を今更。んなもん見慣れてるわよ』

トリッシュ『いつからアナタを見続けてると思ってるのよ』

ダンテ「ハッハー、確かにな。  『相棒』」

―――




921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 00:28:23.25 ID:vetDFyAo
今日はここまでです。

今週末は投下できませんので、次は可能ならば明日か明後日の夜に投下するつもりです。
無理だった場合は月曜の夜となります。




925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 07:10:08.54 ID:.KS5tUAO
ギルガメスさんようやく日の光を浴びたか・・・しかも将来を感じさせる出方だな・・・
乙乙




926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/29(水) 09:37:28.63 ID:vhbNOEDO
ギルガメスで『バレットアーツ』かぁ…考えたな~、素ですげえよ



933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 12:28:59.95 ID:ny1HXQDO
ダンテは母親を母さんと呼ぶ筈だが



938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 18:23:23.11 ID:EOdieX60
ここのダンテは1の10年以上後、40目前だから口調が10代20代の時と同じとは限らない、と考えてもOK
それと1後のアニメ版では「頼むからお袋みたいな口を聞かないでくれ」って言ってるから、
シリアスとテキトーな時の違いって事でも良いんじゃね?

まあ、どうとでも解釈できるって事で、細かい事は気にするなってこった




939 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/02(土) 01:30:04.16 ID:Qf2PMAI0
ところで ダンテとベヨネッタって会った事あるんじゃないの?おまけその2で
気にしたら負け? もしやあれがポージング合戦か……




940 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/02(土) 02:15:39.22 ID:mxQuWHEo
あれはパラレル的なモノと認識して流した



941 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/02(土) 02:20:04.09 ID:Ekp5tpAo
本編後のおまけは完全パラレルで現行の話とは無関係だぜ



952 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/04(月) 23:42:21.17 ID:zP2YhGwo
―――

学園都市。

午後6時過ぎ。

とある病棟の一室では。
壁際に並んでいる電子機器に囲まれ、その中央のベッドに一方通行は横たわっていた。
半裸の彼の足から腰、背中にかけて、テーピングのように白い布状の物が巻かれていた。

そんな彼のベッドの傍らにはカエル顔の医師。

一方「……………………終わったか?」

一方通行は、薄めで天井を眺めながら小さく口を開いた。

カエル「終わったよ。気分はどうだい?」

一方「…………最悪だ」

カエル「薬が抜けるまであと20分はかかる。新しい電極を確かめながらでもいいから、しばらくはそのままにしてなさい」

一方「…………」

カエル顔の医師の言葉を聞き、彼は頭の中で能力の起動を意識した。
すると。

一方「(…………へェ)」

彼の要望どおりの物をカエル顔の医師はたった一日で仕上げたようだ。
脳信号によって能力が即座に起動。

彼は漆黒の右手をゆっくりと掲げ、手のひらを開いたり閉じたりして、
能力の状態を確認していった。

このとんでもない『暴れ者』の手の握る、開くという動作。
そこから生じるベクトル。

それらを正確に検知し、そして向きを変えては自由に動かしていく。


一方「(…………問題はねェな)」

正に完璧。
一方通行の希望通りの品だ。




953 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/04(月) 23:50:11.94 ID:zP2YhGwo

一方「…………おィ」

と、そうした後に。
一方通行は目が覚めた先ほどから、疑問に思っていた事を口にした。

一方「コレはなンだ?」

軽く頭を上げ、寝ながら顎で己の下半身に巻かれている妙な物を指す。

カエル「ああ、それはだね。君の歩行支援の機器だよ」

一方「あァ?」

カエル「発条包帯に少し手を加えた物でね。電極を通して君の運動信号を直接送り込み、筋肉に刺激を与えて動かす」

カエル「通常の歩行は杖無しでも容易に行えるよ。全力疾走はさすがに厳しいと思うが」

一方「……こンなもンまかねェで演算補助だけでどォにかできねェのかよ?」

カエル「君自身の伝達神経にも損傷があるからね。そこを直すならば、本格的な手術が必要だよ」

カエル「そして今の君には、そんな時間的余裕は無いだろう?」

一方「……………………そォか。まあアリガトよ」

軽くそっけない礼を述べながら、一方通行はゆっくりと上半身を起こした。

カエル「まだ安静にして ―――」

一方「薬は今分解した」

カエル「…………そうかい。それなら良いね」




954 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/04(月) 23:54:11.58 ID:zP2YhGwo

一方通行は起き上がった後、
ゆっくりとベッド脇にある己の衣服を着始めた。

カエル「…………ああ、それとだね……」

そんな彼の背中に向け、
手元にあるPDAに目を落としながら言葉を放つカエル顔の医者。

カエル「君の『その手』、いや、その『黒い物質』が君の体細胞と入れ替わっていく速度がね、」

カエル「やはり少しずつ加速してきているね」

一方「…………全部入れ替わっちまうのはいつだ?」

カエル「…………この速度だとね、96時間以内に……」

一方「…………」

カエル「……すまない。その方面では、僕はどうしようもない」

一方「…………ハッ、さすがの冥土帰しサマでもお手上げってか」

カエル「…………」

一方「……そんなに自分の患者に手ェだせねェのが辛いのか?大した『聖人』さンだなァ全くよォ」

カエル「……………………君は良く耐えているね。その激痛に。顔には全く出さないが、データにはしっかりと出てるよ」

一方「…………」

カエル「せめて、痛み止めだけでも処方させてくれ。少しは痛みが和らぐだろう」

一方「ンなもんいらねェ。元々オマェに『こィつ』どうこうしてもらうつもりはねェよ」

一方「『こィつ』は俺の自業自得だ」

一方「俺に課された『刑罰』みたィなもンだろ」

一方「『死刑なンざ生温ィ、テメェは苦痛の中で化物に成り果てろ』、ってよ」


一方「しっかりタップリ骨の髄まで味わってやンよ」


カエル「…………」




955 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/04(月) 23:57:06.81 ID:zP2YhGwo

カエル「…………いや。その痛みはね、元を辿れば君のせいではない」

一方「ハァ?俺が自分でやった事だ。俺のもンだ。どォせ記録だの映像だの見てンだろ?オマェの目は節穴ですかァ?」

カエル「いや………………………………一つ、とある昔話を聞いてくれないか?」

一方「あァ?ジジイのボケ話なンざ聞きたくねェよ」

カエル「そう言わないでくれ。すぐ済む」


とその時。

病室のドアが勢い良く開け放たれ、姿を現すアホ毛が特徴的な少女。

一方「―――」

打ち止め「あなた元気ー!?、ってミサカはミサカは通い妻よろしくまたあなたの所に来てみたり!!」

一方「……なンでオマェがここに(ry」

打ち止め「ミサカの情報網を舐めちゃだめだよ!!、ってミサカはミサカは、本当はネットワークで拾っただけなのを隠していばってみたり!」

あからさまに眉を顰め、カエル顔の医者を睨む一方通行。
それに対し、彼は僕じゃあないと言いたげに肩を少し竦めた。

そんな彼等などお構い無しに、打ち止めは一方通行の近くの小さな椅子にピョンと乗り。
今だ着替えの最中の一方通行をニコニコしながら眺め始めた。

カエル「…………」

一方「…………」

カエル「…………」

一方「…………何見てやがる?」

カエル「……いや。特に何でも無いよ」

一方「オマェじゃねェ。ガキの方だ」

打ち止め「あなたの事、見てちゃだめ?、ってミサカはミサカは少し上目使いで(ry」

一方「ぶっ飛ばすぞクソガキ」




956 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/04(月) 23:59:47.05 ID:zP2YhGwo

一方「チッ…………調子が狂うぜ…………話を続けろ。手早くな」

カエル「…………昔の話だ。僕はかつて若い頃、一人の患者を助けて『しまった』」

カエル「僕は知っていた。彼が何者かを。そして僕は理解していた。彼の存在が、後に多くの命を奪うことを」

カエル「だが僕は助けた」

一方「…………なンでンな野郎を助けた?」

カエル「彼に『夢』を見たからだよ」

カエル「彼の中に、若かった僕は『救世主』の姿を見たのだよ」

一方「カッ。随分なアマちゃんだなァ」

カエル「まあね。それにその時の僕は若くてね。彼にすがりたかったのさ」


カエル「僕には彼が『孤高のヒーロー』に見えたのさ」


遠くを見ているような眼差しをしていたカエル顔の医者だが、
そこで一方通行をジッと見据え。


カエル「全ての罪をたった一人で背負い、命と引き換えに己の正義を貫こうとした、ね」


一方「………………………………」




957 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:02:59.93 ID:qhpTqigo

カエル「…………彼に会うまで、僕は常々思っていた。そして怒りを覚えていた」

一方「…………」

カエル「処置は完璧、容態は安定していたはずなのに。どこにも以上が無いはずなのに」

カエル「それなのに命を落としていく者が大勢いる、不条理さに」

カエル「人は『そういう運命だった』という。だが僕はそれが納得できなかった」

カエル「偶然ならば。偶然の『事故』等ならばわかる。だが『何も』異常が無いのに、『不自然』に命を落とすのは」

カエル「僕はいつしか、『何か』の存在を意識し始めた。人々の生死を決定している『何か』をね」

カエル「憎くて憎くてたまらなかった。その『何か』を打ち負かすことができるのならば、僕は何でもやるつもりだった」

一方「…………」


カエル「そして彼はその『正体』を知っていたのだよ。『打ち勝つ』方法も」


カエル「更に二度と虐げられることの無い、二度と『他』から『干渉』を受けない、」


カエル「『強固』で『隔絶』された世界へ人々を『押し上げる』方法も」


一方「……」




958 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:07:17.47 ID:qhpTqigo

カエル「僕等が意識していたその相手の正体、今の君ならピンと来るだろう?」

一方「……………………なンとなくはな……」

カエル「いや、むしろ『君達』の方が、僕よりもそういう存在には詳しいかもしれない」


カエル「『天』に立っている存在だ。今も昔も、常に人間達を監視し、その運命を手中にし」

カエル「そして今、この学園都市を消そうとしている者達だ」


一方「…………」


カエル「それでね、彼は治療の際に僕にこう言った」

カエル「『私を生かせば、私は君によって救われたその命で大勢の命を奪うだろう』、と」

カエル「『だが約束する。誓う。私は必ず、必ず目的を遂げてみせる。それらの命を無駄にはしない』、とね」


一方「…………」


カエル「そして僕は彼を救った。彼の魂を『あの肉体』に繋ぎとめた」


カエル「僕は目が眩んでしまったのさ。怒りに。若き僕は、人々の命よりも『報復』を優先してしまった」

カエル「凄まじい数の命が失われるのも省みず、僕は彼の掲げた『旗』を再び建て直したしまったのさ」

一方「…………」




959 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:09:59.33 ID:qhpTqigo

一方「………………で、いつになったら俺と関係がある話になンだ?」

カエル「…………彼はその後、言った通り多くの命を奪った。目的の為にな」

一方「…………」

カエル「……そして『君』のような『駒』を、『被害者』を生み出し続けた」


一方「…………………………何ィ?」


カエル「君は己の事を『加害者』と思っているだろうが」


一方「――― あァ?」


カエル「僕から言わせれば、君も被害者の一人だ」



カエル「彼によって、君は人としての大事な部分を全て『破壊』され―――」


カエル「―――哀れな少女を一万も殺させるよう、『仕向けられた』」


一方「―――」


カエル「それも彼の計画の一部に過ぎない」

カエル「彼は今、天を滅ぼし、人間達を二度と虐げられることの無い強き存在へと押し上げようとしている」


カエル「この街の、大勢の子供達の今までの人生も。無論、君が歩んで来た道も ―――」


カエル「―――その全てがこの目的の為だ」




961 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:16:17.76 ID:qhpTqigo

一方「―――」

カエル顔の医者が言っている『彼』が一体誰なのか。

ここまで来れば誰だってわかる。

その人物を確信した一方通行の顔に、一気に憎悪の色が滲みあがってきた。
そしてその瞳を、矛のような視線をカエル顔の医者の顔に『突き刺す』。

あの男が何をするかを知りつつ救った男に。


アレイスター=クロウリーを救った男の顔に。


一方「――――――オマェ―――………………!!!!」

話を聞いた一方通行。
彼は今、それだけしか言葉が出せなかった。
一方通行自身はここまで言われても、妹達を殺めた罪は自分自身のモノだと思っている。

そして、その引き金を引いたアレイスターをも自分と同じく呪っている。
決して許せない、己と同じく悲惨な結末を迎えるべきだと。

だが。

この『聖人』すぎるカエル顔の医者は―――。

一方通行は知っている。
この男は、患者を救うことに命を賭けている。
昔がどうだろうが今はとにかくそうだ。

まさに善人、上条と同じような『光の住人』。
妹達はもちろん、上条や一方通行達にとっても、決して足を向けられない恩人。


しかしその『恩人』は独白した。

過去の行いを。

そしてその過去の行いが今、巡りめぐってこの街の子供達を酷な世界に縛り付けているとは―――。




962 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:21:25.83 ID:qhpTqigo
カエル「僕を憎んでくれてもかまわない。いや、僕はそうされるべきだ」

カエル「僕の行いが、結果的に君の手をも血で染め上げてしまった」

カエル「君を含む、多くの子供達を闇の底に突き落としてしまった」


カエル「『僕等』の罪を背負わないでくれ」


カエル「君はもう充分苦しんだ。充分苦痛を味わった」


カエル「『僕等』が撒いた罪でこれ以上、己を貶めないでくれ」


カエル「それは僕等のものだ」


カエル「アレイスターと僕の、だ」


一方「―――ッ!!!ざけンじゃねェぞクソがッ!!!!!!!!!!」

一方通行はこの男を『どう見れば』良いのかがわからず、たまらず苛立ち声を荒げた。

何が悪か。
何が善なのか。

誰が悪人で。
誰が善人なのか。

その線引きが、ラインが、境界が、彼の中であやふやになっていく。


話を聞けば、カエル顔の医者は悪人にもなり得る。

だがその一方で、アレイスターは善人にもなり得る。


皆が悪人であり、それでいて善人でもあるのか―――。

その視点で、『客観的』に己を見てしまったら―――。

そして『罪』の根源がカエル顔の医者の言う通りだとしたら―――。


一方「―――」


こんな己ですら―――。




963 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:24:32.47 ID:qhpTqigo

一方「――――――ふッッッざけンじゃねェッッッ!!!!!!!!!!!!」


一方「―――俺は認めねェ!!!!!!!絶対に認めねェッッ!!!!!!!!!!」


彼の頭脳は、客観的にその答えを導き出してしまった。

だが一方通行は絶対に認めたくない。
死んでも認めることができない。


カエル「本当にすまない。本当に―――」


一方「オマェに謝られる筋合いなンざねェッッッ!!!!!!」


一方「『コレ』は俺ンだ!!!!!俺のもンだッッッ!!!!!!!!」


そんなふざけた事。
理解できない。
理解したくも無い。


確かに、

確かに昨日のフィアンマとの戦いの中でも彼は感じた。
もう、悪人などヒーローなどどうのこうのはどうでもいい、守りたいから守る。

ただその為に戦う、と。

しかし。

それとこれとは別だ。


全く別すぎる。




964 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:27:15.96 ID:qhpTqigo

何かを守る為に、無我夢中で戦う事は出来ても―――。


カエル「違う。もし君に罪があったとしても、君はもう充分やった。振り返るな」

カエル「君は自分自身の為、そして愛する者の為だけに、前だけを見るべきだ」

カエル「死に場所を求めるような戦い方はもう止すんだ」

一方「―――」


自分を『認め』、自分の為に戦う事など―――。


カエル「妹達は。もちろんラストオーダーも。彼女達は君が生きる事を望んでいる」

カエル「罪を背負い、悔やみながら生きろという事では無い」

カエル「それとは別に、彼女達は君にただ純粋に生きて欲しいと願っている」

カエル「もう良いだろう?素直に応えてあげてk―――」


そんな事など―――。


一方「―――ッッッるせェェェェェェェェェッッッッッッ!!!!!!!!!」


彼が受け入れることなど到底不可能だった。


ある意味、『純粋すぎる』一方通行には―――。


一万の血に染まった己の手から、目を逸らす事など不可能だった。




965 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:30:50.98 ID:qhpTqigo

肩を震わせ。
目を充血させ、顔を火照らせている一方通行。

今にもカエル顔の医者に飛びかからんとばかりに。

一方「二度とだ!!!!二度とンな口を聞くんじゃねェ!!!!!」

一方「次はそのクソ頭叩き潰してやる!!!!!!!!」

カエル「…………じゃあやってくれ。君が僕をやるべきだ。その権利がある」


一方「うるせェってンだよクソが!!!!!!!!黙れ!!!!!」



一方通行の隣で、黙って話を聞いていた打ち止め。

声を荒げた一方通行に体を一瞬ビクっとさせながらも、彼女は椅子から降り、
心配そうな表情で彼の背後に行き。


そして優しく握り締めようと、彼の漆黒の手に触れたが。



一方「――――――触ンじゃねェェェェッッッ!!!!!!!!!!!!!」




966 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:33:05.32 ID:qhpTqigo

手を振りほどき、凄まじい剣幕を今度は打ち止めに向ける一方通行。

打ち止めはビクリと再び体を震わせたが、彼の瞳から目を離そうとはしなかった。
泣きそうな顔をしながらもジッと。

そんな彼女の大きな瞳を見た一方通行、少しずつ興奮が和らいできたのか、
深く息を吐き。

一方「……二度とだ……」

顔から感情の一切を消し去り、
少女から顔を背けドアの方へと向かいながら。

一方「……二度と俺に会いに来るんじゃねェ」

告げていく。


一方「―――二度と俺に近づくンじゃねェ」


そしてはっきりと示していく。


一方「二度と―――」


打ち止め「―――」



一方「――――――俺に触るンじゃねェ」



己が何たるかを。




967 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:35:04.92 ID:qhpTqigo

そして。

打ち止めの方を一切見ず、カエル顔の医者にも一瞥もせず、
一方通行は病室を後にした。


その時後ろからは。


幼い少女の小さな泣き声が聞こえてきていた。
己の名を弱弱しくも何度も呼ぶ声も。

だがその声は彼の心には届かなかった。


いや、届いてはいた。

あの少女の声は、他の誰よりも彼の心を揺さぶる。


だからこそ。
だからこそ、彼は絶対に応えなかった。


彼は振り返らず。


足を止めずに、表情を一切変えずに廊下を進んでいった。


徐々に遠ざかり、
小さくなっていく少女の泣き声を聞きながら。




968 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:37:11.32 ID:qhpTqigo

一方「…………」

先ほど激昂した瞬間。

カエル顔の医者の言葉を聞いた瞬間。

彼は一瞬だけ思い描いてしまった。


己が打ち止めと共に生きていく未来を。


己が、彼女と共に『普通』の生活をしている未来を。


一方「…………」

状況的にそれどころではないのに。

命と引き換えに、彼女と彼女の世界を守るだけで精一杯なのに。

己自身が彼女を傷つけてしまうのに。


己自身が、彼女達にとっての『最大の傷』であり『痛み』でもあるのに。




969 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 00:37:57.56 ID:qhpTqigo

一方「……………………クソが…………」

彼は吐き捨てる。
そんな『生ぬるい夢』を描いてしまった己に対し。


彼は今一度、己の淡い『幻想』を叩き壊し。
この『願望』を一切認めずに。


己の背中にある『重り』を背負い直す。


あいつらを何が何でも守る『だけ』、『それだけ』だ、と。



近づく事など許されない、触れる事など許されない。



用が済んだらさっさと死ぬべきだ、と。



―――『救い』などクソ食らえ、と。


―――




983 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:38:44.26 ID:qhpTqigo
―――

学園都市。

午後九時。
とある病棟の一室。

病室の中央のベッドには、
患者衣を着たインデックスが蹲りながら小さな寝息を立てていた。

日中の、集中して行った解析作業により彼女はかなり疲たらしく、
この部屋に戻り夕食、シャワーに入った後すぐに眠りについた。
(ちなみに彼女の白い修道服その他は、先日の件でかなり汚れていた為、病院の洗濯に出されている)

もともと昨日の今日。
その時の疲労もまだ抜けきってなかったのだろう。

彼女は深い深い眠りについていた。

ベッドの傍らの椅子に座り、
彼女を見守っている上条の右手をぎゅっと握り締めながら。


上条「…………」


長く美しい青い髪を広げ、スヤスヤと心地よさそうに眠っているインデックス。
そんな『天使』の寝顔を、上条はボンヤリと眺めていた。

穏やかでありながら、どことなく影のある表情で。




984 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:41:12.14 ID:qhpTqigo

上条「…………」

この青い髪。
改めて見ると、あの時の事を思い出す。

フィアンマとの攻防の終盤。

彼女の前に浮いていた魔法陣を破壊した直後、
上条・一方通行・ステイルを一瞬にしてねじ伏せたこの青い髪。

それまでのインデックスもかなり凄まじい力を行使していたが、
この青い髪が動き出したときは正に規格外だった。

手負いとはいえ、大悪魔に匹敵しうる三人をあっという間に制圧するとは。

一瞬だけの出来事であり『アレ』が全力なのか、
それとも極一部の片鱗に過ぎないのかはわからないが、これだけは確実だ。

あの時のインデックスは、明らかにあの場にいた三人よりも遥かに強かった。

もしかしたらフィアンマをもすら上回っていたかもしれない。

上条「…………」




985 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:43:21.85 ID:qhpTqigo

インデックスが『タダ』の魔道図書館ではない、というのは上条も前から知っていた。

『今の彼』にはその時の記憶が無いが、
どうやら周囲の話を聞くと彼女は以前にも凄まじい力を行使したらしい。

先日の件でもステイルの反応を見る限り、
あの魔方陣が出現していた状態が当時と同一のようであるらしかった。

そこまでは良い。
その辺まではある程度は認識していた。

だが。

あの巨大な鞭のように伸びてはしなる青い髪は、想像を遥かに超えていた。
最早『人間レベル』ではない。

上条の経験から言わせれば、二ヵ月半前のベリアルやボルヴェルグと同等にも思える。

当時のステイルや神裂は、魔具等の力を受けた身を滅ぼしかねないドーピング状態であったからこそ、
かの大悪魔達とやり合えたのであって、現在の人外となっている二人でも再戦は不可能だ。
(当然上条は、現在の神裂が魔に転生し凄まじくパワーアップしているのは知らない)

上条「…………」

少し、いやかなりインデックスの事について考えを改めねばならない。




986 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:45:21.26 ID:qhpTqigo

彼女は想像を遥かに超える、とんでもない『何か』を奥底に宿している。
今の上条では到底手に負えない『何か』を。

上条は、二ヵ月半前にこの凄まじい『世界』に飛び込んだ訳ではなかったのだ。


『最初』からだ。


最初から、この少女と出会ったその瞬間から、彼は既に飛び込んでいてしまったのだ。

そして知らぬまま過ごして来たのだ。

己の隣にいたこの少女が、『本物』の神に匹敵するレベルの力を秘めていた事を。

上条「…………」

上条は何も知らなかったのだ。

こんなに近くにいて。

彼女にもっとも慕われる者であったにも関わらず。


彼女の本質を何も。




987 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:48:21.36 ID:qhpTqigo

上条「…………」

今思えば、奇妙な事もいくつかあった。
なぜ今まで疑問を抱かなかったのか。

まず、彼女が魔導書を際限なく記憶できること。
そういう体質・能力だと言われれば『ああそうか』、と今までは返してきたが。

今ここではこう思う。

『何で』そういう体質なのか、と。
『どうやってるのか』、その『メカニズムは?』、と。

更に、これは二ヵ月半前にわかった事だが、
彼女の記録の中には悪魔関係のかなり危険な術式もあるようだ。

触りしか聞いていないが、それらは『魔剣の精製』等の規格外の代物らしい。
使い方によっては容易くこの世界を破壊できる術式達だ。

そして上条は続けてこう思う。

インデックスが学園都市に留まり、
己が保護者・護衛、そして『暴走』を止める『首輪』代わりとして預けられたらしいが。


当時の右腕一本しか武器がなかった『己程度』が、そんな大役などどう考えても担える訳がない、と。


イギリスの判断は明らかにおかしい。


どう考えても。




988 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:50:55.27 ID:qhpTqigo

バージルのような者ですら、彼女の頭の中にある代物を必要としていた。
そうならば、普通に考えて他の悪魔達が襲撃してくる可能性だって当然あったはずだ。

上条の右手が全く意味が成さない、『本物』の悪魔が。

今でこそフロストレベル等ならば瞬殺できるが、当時の上条だったら逆に瞬殺されている。

悪魔でなくとも、聖人のような者がインデックスを狙って来ていたら、
上条ではどうしようも無かったはずだ。


そしてインデックスの武器化したあの青い髪。

あれに右手が利くかどうかはわからないが、そんなことを試すのは不可能。
今の悪魔化してる上条ですら反応できない速度なのだから。

昔の上条なら、文字通り『何が起こったかわからないまま』木っ端微塵だ。


だから彼は思う。


護衛であり『暴走』を止める『首輪』の役、というのはおかしい、と。




989 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:53:13.45 ID:qhpTqigo

またこれは以前から思っていたことだが、インデックスがイギリス清教の最重要の存在なのに、
彼女が何か危機・もしくは事件に巻き込まれても
当のイギリス清教はあまり動かない、という事だ。

いつも小規模の人員、しかもギリギリの分しか派遣してこない。

上条の認識ならば、それこそ大部隊を送り込んで大規模な保護作戦を行いそうなものであるが。
というか、本当に彼女に『保護と護衛』が必要ならば、そもそも学園都市になどに置いたりはしないはずなのだ。


そこから一つだけ確かな事がわかる。
イギリス清教の上層部、もしくはトップの最大主教はこう思っていたはずだ。


インデックスには護衛も保護も必要無い、と。


さすがに二ヵ月半の前のような事態では、
ダンテ側と共同で動き本気でインデックスを回収しようとしたらしいが。

あのレベルでもない限り、インデックスは基本的に『単独』でも切り抜けられる、と。


恐らく追い詰められた最後の最後には、
先日見た究極の防御機構のような何かが発動するのだろう。

そして圧倒的な力を持って、彼女に危害を加えようとした『愚か者』を叩き潰すのだ。

一方的に、だ。




990 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 23:56:44.40 ID:qhpTqigo

上条「…………」

上条はそんな事を考えながら、
とてもそんな力を秘めているようには見えない、この可愛らしい少女の寝顔を見つめていた。

ステイルとの会話が思い出される。
彼は言った。

『彼女を救ってくれ』、と。

上条は改めて認識し直す。
彼女を固く縛っている、その『鎖』のとてつもない頑丈さを。

どうすれば良いのか。

己程度で彼女を解き放てるのか。

上条「…………」

だが彼は、この目の前の困難に打ちひしがれてはいたが、
決して諦める事は無い。
そんな選択肢など元々彼の中には存在していない。


少年は改めて決意する。

己自身は絶対に人間には戻らない。

彼女を戦火の『中心』から救い上げる『まで』は。

戦いの連鎖から解き放つ『まで』は。

魔に完全に食われてでも、必要な限り使える力は使い続ける。

例え命を落としても。


それで彼女が救われるのならば何も『問題』は無い、と。




991 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:01:23.76 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

と、そうしていた時だった。
病室のドアがゆっくりと静かに開き、
ステイルが指先で小さな炎を弄びながら室内に入ってきた。

ステイル「君もシャワーに行くといい。その間は僕が見てる」

そしてインデックスを起こさぬよう、小声で上条に向けて口を開いた。

ステイル「少し匂うしな。君は」

上条「はは……悪いな。俺はまだいくらか人間の部分が残ってるからよ。あれだけ動けば汗臭くもなるんだ」

ステイル「まあ、僕の鼻が効き過ぎてる事もあるがな。どうにも人間の時よりも敏感になりすぎてる」

ステイル「君の体臭を鼻いっぱいに吸い込み、否応無く『堪能』してしまう僕の気持ちがわかるか?」

上条「ははは、悪い悪い」

上条は軽く笑いながら、ゆっくりとインデックスの手を解いて椅子から立ち上がり。
ステイルとすれ違うようにドアの方へと向かったその時。

ステイル「…………………待て」

ステイルはその瞬間ある匂いを捕らえ、やや強めの口調で上条を留めた。

何の匂いか。

それは『血』。

生温い、『鮮度』の良い血と肉の香り。




992 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:03:13.38 ID:Ip2Ds8co

上条「ん?」

そしてステイルはその匂いの元を捕らえ。

ステイル「…………篭手。外してけ」

覆いかぶさり、『源』を隠している金属生命体製の篭手を外すよう上条に促した。
やや強めの口調で。

上条「…………ここでか?」

ステイル「ああ」

上条「いや、脱衣所で外すから(ry」

ステイル「良いから今外せ」

上条「…………………………わかったよ」

強く押してくるステイルに負け、
上条はその場で右手を覆っている篭手を手際よく外し始めた。

上条「…………ッ…………」

少し顔を歪ませながら。

そしてステイルは見た。

魔界製の金属生命体の篭手が引き剥がされていく瞬間を。

それはただ包んでいただけではなかった。
無数の針が伸びており、上条の右腕に深く食い込んでいた。

がっちり固く肉に食いつき。




993 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:04:57.47 ID:Ip2Ds8co

あまりにも痛々しい光景なのだが、上条は軽く眉を顰めただけで、
手馴れた動作で針を引き抜いては、ぶちぶちと引き剥がしていった。

そして露になった『生身』の右手。


ステイル「……………………」


普通なら目を背けたくなるほどに生傷だらけ。

生々しい打撲跡、裂けた皮膚。
血はまだ乾かず、その傷口の中の『肉』は未だに湿っていた。

それらの下には、大量の直りかけの傷や古傷。

更にそれだけではない。

腫れ具合から見てもまず確実に筋繊維のかなりの断裂、
それどころか、骨が折れているか少なくとも骨にヒビが入っているように見える。


ステイル「………………」

上条「…………まあ…………こんな感じだ……」

ステイル「………………右手は……人間のままか?」

上条「ああ。手首から上は『純正』だ」

上条「その下も、肘の辺りまではかなり人間の割合が大きい」

上条「二の腕から肘までは完全に悪魔化してるんだけどな。肘から先がやっぱり中々……」




994 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:07:49.48 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………新しい傷は昨日のか?」

上条「…………多分な」

ステイル「多分だと?」

上条「いや、なんというか…………わかんないんだよな。デビルメイクライの時の傷がまだ全部治り切ってないしな」

ステイル「…………」

傷が治っていないからわからない。
それはつまり。

常に激痛に襲われているという事だ。
新しく傷を負っても分からない程の。

ステイル「……手当てを…………する必要があるな」

上条「いやいや、別にいいぜ」

そんな事など一切表に出さず、上条はいつもの笑顔を浮かべる。

上条「見た目ほどじゃねえんだ。骨がいっちまってもこの篭手が補強してくれるし」

ステイル「(…………骨…………)」

上条「どういう原理かはわかんねえけど、食い込んでる針が血を止めてくれるし、消毒もしてくれてるらしい」

上条「この篭手をつけてれば、そこらの手当てよりも全然効果があるんだ。治りもそこそこ早いしな」




995 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:12:38.98 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………」

さらりと、上条は別になんでもないように言葉を続けた。
ステイルに心配させないよう、明るく振舞いながら。

実際に、彼本人は本当にそれほど重要には思っていないのだろう。

ステイルからすれば、どう見てもそうは思えないのだが。

まあ、普通に考えて『この有様』でなければおかしい。

先日のフィアンマとの戦いの際も上条は、魔の物である両足左手に比べればかなり劣るが、
それでもこの右手も凄まじい速度で振るっていた。

1mに満たない距離の中で、『悪魔化してる二の腕まで』の力で音速近くにまで押し出す凄まじい加速度。
更にその速度での激突による衝撃。

いくら周りを強固に補強していたとしても、
やはり『それ自体』は『無強化』である、生身の人間の肉や骨が耐えられるわけが無い。

篭手があるからこそこの程度で済んでいるのであって、
篭手が無ければその加速度で一瞬にして、熟れたトマトのように弾け押し潰されてしまうだろう。

まあこの程度、と言っても、見ればわかるとおりとんでもない損傷具合だが。

悪魔と人間の痛みの『感度』は、経験者のステイルから言わせれば基本的に同一だか、
その痛みの『捕らえ方』が全く違う。

悪魔は痛みに慣れ、最終的には全く気にしない事もできる。
『苦痛』ではなく、タダの『肉体の損壊信号』として捕らえられるようになれる。

だが人間は違う。
小さな傷はまだしも、こういう大きな傷に慣れる事はまず無い。
意識と痛みを『分離』することは不可能に近い。

人間なのに痛みを意識しなくなってしまったら、それは慣れたのではなく『麻痺』・かなりの興奮下の『トランス状態』であり、
判断力の低下等々重大な障害が起こっている可能性が高い。

更に悪魔は短時間にして治癒する為、
その痛みもすぐに消え去るが、人間はそうもいかないのだ。




996 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:15:18.90 ID:Ip2Ds8co

上条「はは……気味悪いもん見しちまって悪いな」

その痛みが今も猛威を振るっているにも関わらず、
相変わらずのノリで笑う上条。

上条は袖を下ろして右手を隠しつつ、苦笑しながら再度ドアの方へと半身を向け。

ステイル「いや…………」

上条「じゃ、行って来るぜ。インデックスを頼む」

ステイル「…………待て。先に話しておきたいことがある」

上条「?」

ステイル「…………後にしようと思っていたが気が変わったよ。今話す」

上条「へ?」

ステイル「インデックスの事についてだ。君も知っておくべき事だ」


上条「…………」


ステイル「僕らが見た、あの『青い髪』の攻撃に関する事だ」


上条「…………」




997 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:17:25.16 ID:Ip2Ds8co

ステイルは一度小さく咳払いした後、ゆっくりと口を開き始めた。

一語ずつ確認しながら。

ステイル「まず最初に結論を言う。確実ではないが、状況証拠的にもう否定しようが無い」

上条「…………何だ?」



ステイル「インデックスはアンブラの魔女だ」



上条「あんぶら…………魔女?」


ステイル「…………まずはそこからか」

首を傾げてる上条へ向け、
ステイルは己の持っている知識と経験の範囲内で簡単に説明した。

かつて人間界に、アンブラの魔女と言う勢力が存在していたこと、
その勢力の者達は魔の力を使い、上位の者になれば普通に大悪魔クラスの力を行使すること、
ある時、天界の総攻撃によって文明としては滅んだが、一握りの頂点クラスの強者が生き延びていたこと、

ステイル自身の経験では、ヴァチカンに現れた魔女達はそれこそスパーダ一族のような規格外の力を有していたこと、
その際に見た攻撃の仕方が、インデックスのあの髪を使った攻撃にかなり類似、いや、完璧に同一だったこと。

そして。

イギリスの最大主教ローラも魔女であった事と。

インデックスと彼女の異常な程の『何か』の繋がりを。

誰も『気づかなかった』、『意識できなかった』二人の瓜二つの顔について。




998 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:20:14.68 ID:Ip2Ds8co

上条「………………ッ…………!!!!………………なッ…………はぁ!?」

いきなり、しかも一気に言われ、
頭がついていかない上条は言葉が出なかった。

上条「ま、待て……!!」

己の額に軽く左手を当てながら、
ステイルの言葉を脳内で反芻し、確認していく。

上条「…………は…………えっとよ…………あーっと……あの最大主教とインデックスが……?」


上条「確かに結構似てる気もするが……そこまでか?」

ステイル「……君でもってしても完全に『破れ』てなかったのか」

『結構似てる』という印象を持っている以上、
少なくとも以前のステイルよりも認識は強いようだが。

やはりあの二人の関係性に覆いかぶされている『ベール』からは、
上条ですら完全に逃れられていないらしかった。


ステイル「…………」

ステイルの推測だと、このベールは恐らく視覚から進入し脳に影響を及ぼす術式。

光に乗せられているような感じだろう。

そしてその光を捉えた者の脳、
二人の容姿に関する認識には永続的に術式がかかり続ける、といった形だろう。




999 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/06(水) 00:23:24.63 ID:Ip2Ds8co
空間そのものに直接かかる術式ならば、
ヴァチカンにてステイルは魔女モードのローラの姿を見ても、
この容姿の類似を認識できなかったはずだ。

ステイルが認識できたのは、『ベールに包まれていない』光を捉えたことによる『矛盾』で、
彼の認識を縛っていた術式が破綻をきたし崩壊した為だ。

それに空間そのものに直接かかる術式ならば、
上条は気づかぬ内に右手で周囲の空間を浄化し、術式を打ち破ってるはず。

つまり上条の今の状態も、この術式が光に乗せられている事を裏付けている。

上条の右手は、何らかの物理現象に付加されて形を伴っている術式は、
直接触れないと打ち消すことができないのだ。


ステイル「…………」

そうなれば。

上条がこの術式から逃れるには頭に触れれば良い。
それが駄目だったら頭をかち割り、直接脳に右手を突っ込む。


普通の人間なら死ぬが、今の上条ならばできる。
『多少』苦しいだろうが。




7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:31:06.82 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………いいか、僕が今言った事、強く意識しつつ右手を頭に当ててみろ」

ステイル「できるだけ強く意識しながらな」

上条「お、おう……」

怪訝な表情をしながらも、傷まみれで震えている右手を額に軽く当てる上条。

その瞬間。


上条「―――う、嘘だろ…………!!?」


ようやく完全にこのベールを打ち破り。
上条はやっと認識する。

二人の顔の類似を。


ステイル「…………」


上条「―――似てるってもんじゃねえぞ…………親子……姉妹レベルじゃねえか…………」


上条「い、いや、双子ってくらい激似だぞこれ…………」


ステイル「…………」

どうやら上条は、
直接脳に右手を突っ込む展開は避けられたようだ。




8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:33:50.56 ID:Ip2Ds8co

上条「ど、どういう事だよ……!まさか本当に最大主教の妹とか娘かなんかか?!」

ステイル「いや……そこは確実な事は何も……」

ステイル「確かなのは二人ともアンブラの魔女、という事だ。だから何らかの血の繋がりがあってもおかしくない」

上条「…………」

ステイル「……いいか、僕らは彼女の『力』に対する考えを、根本から改める必要がある」

ステイル「彼女は『後天的』に、完全記憶能力やあのような力を身に宿した訳ではないかもしれない」

ステイル「『禁書目録』になる為に『人体改造』された者ではないのかもしれない」


ステイル「それらは全て、彼女自身の『生まれながら』の部分に起因しているかもしれない」


ステイル「あれは彼女自身の『本当の力』かもな」


ステイル「僕らが見てきた今までの姿の方が、『偽り』だったという訳なのかもな」




9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:36:12.51 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

そう、この事実はインデックスの認識が根本から崩れていく。

そして。


『彼女を救う』、という事を更に困難にしていく。


インデックス彼女自身がその力。
今やっと、その本当の姿が見え始めてきた。

ステイルの言葉通り、
インデックスの存在そのものが上条の考えていた『諸悪の根源』だったら。


『本当のインデックス』自身が、彼女の身に降りかかる災いの源だったら―――。


どうやって『彼女』を『解き放て』と―――。


どうしろと―――。




10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:40:03.81 ID:Ip2Ds8co

ステイル「……………………」

上条「……………………」

ステイル「…………他にも伝えることはある。実はな、ローラ=スチュアートと僕、そしてインデックスは―――」


ステイル「―――反逆の徒として、イギリスから国家の敵と認定された」


上条「―――…………は?」


ステイル「僕らはもう帰る場所が無いんだ」

ステイル「残された居場所はこの忌々しい街だけだ」


ステイル「いまや、イギリスは僕らの敵だ」

ステイル「全軍にこう命じられている。『ローラ=スチュアートとステイル=マグヌスは発見次第殺せ、』」


ステイル「『禁書目録は四肢を落とし、舌をそぎ落とした後に回収しろ』、とね」


上条「な、なんでだよ!!!!!どうしてそんな―――!!!!!!??」


ステイル「『魔女』だからさ」


上条「―――…………ッ…………!!!!!」




11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:43:16.46 ID:Ip2Ds8co

ステイル「つまり僕は魔女の『使い魔』」

ステイル「インデックスも、話によるとローラ=スチュアートがどこからともなく連れて来て擁立したらしいしな」

ステイル「彼女の本当の身分はローラ=スチュアートしか知らない、」

ステイル「そしてローラ=スチュアートは魔女だった」

ステイル「後はわかるな?イギリスがどう思うかが」

上条「だ、だがよ……!!!そんな…………!!!?」

ステイル「もう一つ言うとだ。十字教国家は基本的に天界の強い影響下にある」

ステイル「使用魔術も、天界の力を借りているものばかりだ」

ステイル「イギリスは最近になって魔界魔術も使うようになったが、」

ステイル「それでも直接国を纏めている基盤は天界魔術」

ステイル「カーテナ等も全て天界の支援の元にある産物だ」


ステイル「そして天界とアンブラの魔女は仇同士だ。決して相容れない」


ステイル「決して、だ」


上条「…………」




12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:45:43.13 ID:Ip2Ds8co

ステイル「イギリス清教、いや天界に起因する魔術サイドの者は、基本的に全員敵と思え」

ステイル「君が親しい天草式も。無論、土御門もだ」

上条「……………………………………………………」

ステイル「それと…………これも言っておこう。今日からのトリッシュ達に協力する作業あるな、」

上条「ああ…………」

ステイル「君は席を外していたから聞いていないだろうが……いや、聞いていたとしてもわからないだろうが」

ステイル「あれはフォルトゥナの、ネロの恋人にかけられた術式を外す為のものだという所まではわかるな?」

上条「そこまでは……聞いたぜ」

ステイル「その術式というのがな、首謀者に傷を付けると彼女も傷を負ってしまう、という代物だ」

上条「…………」

ステイル「その首謀者が、今の大戦を引き起こした張本人の一人でもある」

上条「…………!!」

ステイル「更に現在は『まだ』人間同士の戦争だが、その者の手によって近い内に魔が割り込んでくる。魔が人間界を席巻する事になる」

上条「なッ…………!!!!!!」

ステイル「それで、トリッシュ達は彼女にかけられた術式を剥がそうとしている。そうしないとネロが動けないからな」

上条「…………な、なるほど……」




13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:48:15.83 ID:Ip2Ds8co

ステイル「その一方でだ」

上条「……………………まだ何か……あるのか?」

ステイル「その首謀者は、天界の口を開こうとしている」

上条「…………天界……」

ステイル「天界と魔を激突させ、恐らくそこから更なる戦火を招こうとしているのだろう」


上条「!!!!!!!」


ステイル「なぜそうするかの理由は想像も付かないがな。知りたくも無い」

ステイル「そして更にだ。天界は―――」


ステイル「―――この学園都市をも潰そうとしている」


上条「―――…………」

ステイル「能力者の殲滅のためにな。詳しくは知らないが、魔女と同じく能力者も天界にとっては究極の敵として見なされている」

ステイル「いいか、『あの魔女』達が大勢いたアンブラの都を、天界は一夜で滅ぼしたんだ」

ステイル「それと同規模の総攻撃が行われれば、学園都市など一時間もしない内に人間界から完全に消えるだろうさ」

ステイル「この街の全ての能力者と共にな」


上条「……………………」




14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:51:12.84 ID:Ip2Ds8co

ステイル「君はわかるだろう?実際にガブリエルの力を目の当たりにしたらしいからな」

上条「ああ…………夏にな…………」

ステイル「そのレベルの連中が大勢、『本体』をもって『直接』人間界に降臨する」

ステイル「『本当の力』をもって、だ。君や神裂が相対した時よりも強大だろうよ」

ステイル「更にその十字教の四大天使を遥かに上回る、規格外の存在もいるらしい」

ステイル「その軍勢に学園都市が対抗できると思うか?」

上条「…………む、無理だな…………で、でもよ!!!!それだけの事ならダンテ達が動くんじゃねえのか!?」

ステイル「確かにダンテ達なら、その軍勢を簡単に蹴散らす事ができるだろう」


ステイル「だがその『戦場』が学園都市だ」


上条「…………ッ……」

ステイル「…………聞いた話だがな、かつて魔女の中にも、天界の誰にも負けぬ強者が何人かいたらしい」

ステイル「だがな。天界の軍勢は奇襲をかけ、都に直接降りてきたらしい」

上条「…………つまり…………その魔女達は全ての力を解放できなかった…………と?」

ステイル「そうだ。あまりにも強大すぎる力は、周囲の守るべき存在をも巻き添えにして滅ぼしてしまう」

上条「じゃ、じゃあよ、二ヵ月半前みたいに別の世界で戦ったら……」

ステイル「…………あれは魔帝自身が己も全力になる為に招いたのだろう?今回、こちらが用意しても天界側が素直に来ると思うか?」

ステイル「この奇襲・相手方の力の制限が、彼らにとっての最大の武器でもあるのにだ」




15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:53:22.03 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

ステイル「大体にして、僕達には新しく『戦場』を作る力も方法も無い」

ステイル「あれは魔帝の底無しの力と『創造』があったからこそ、可能だった事だろ」

ステイル「ダンテ達もそれは不可能だろうよ」

ステイル「もしできるのならば、もしその分野に干渉できるのならば、」

ステイル「わざわざああやって人間界への負荷を警戒するような戦い方はしないだろ」

上条「……」

ステイル「それ以前にだ」

ステイル「スパーダの一族は、天界の件については動かない可能性も考えられる」

上条「……は?」

ステイル「アンブラが滅亡した時、天界の大攻勢をスパーダは黙認してたらしいからな」

上条「…………」




16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:54:34.16 ID:Ip2Ds8co

ステイル「今の学園都市の置かれている状況は、アンブラ滅亡時とかなり酷似してるらしい」

ステイル「有史以前から長きに渡って続けられてきた、天界の力の支援による能力者狩も、スパーダは黙認し続けたらしい」

ステイル「それに今回の天界の目的には、人間界に蔓延し牙を向いている魔の廃絶もある」

上条「…………」

ステイル「要するにだ、人類という『種全体』の保護を掲げているスパーダの一族にとって、」


ステイル「必ずしも天界が敵とは限らない場合も充分考えられる」


ステイル「少なくとも。少なくとも天界側は、彼らは今回も手を出して来ないと思ってるんだろう」


ステイル「今まで『通り』にな。過去という『現実』がそれを『証明』している」


ステイル「むしろ魔の廃絶に関しては、自分達をスパーダ一族への『援軍』と思っているかもな」


上条「…………」




17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:56:41.83 ID:Ip2Ds8co

上条「…………じゃ、じゃあどうするんだよ…………始まっちまったら、インデックスをここには置いておけえねえぞ……」

上条「天界は魔女も目の仇にしてんだろ…………『ミーシャ』みたいな連中が大勢来たら、俺らだけじゃ手の打ちようがねえぞ……」

上条「どこか遠くに逃げるしか…………この街の皆もどこかに…………」

ステイル「230万もの『忌まわしき避難民』をどこが受け入れる?天界によって監視されているこの人間界の中で」

ステイル「どこに逃げても一緒だ。散り散りになっても結局は追い詰められて殲滅される。それこそ魔界にでも逃げない限りな」

ステイル「そして、魔界ははっきり言って『どこよりも』危険だ。獣がひしめく檻に裸で入っていくようなものだ」


上条「………………………………」


ステイル「……永久の安寧の地など、今のインデックスにとってはどこにも存在しないんだ」




上条「………………………………」


ステイル「…………だがな、学園都市側もただ怯え縮こまっている訳ではない」

上条「…………?」

ステイル「アレイスターが天界の口が開く前に、決着をつけようとしているんだがな…………」

上条「アレイスター……って……?」

ステイル「君程の者がまだ会ったことが無いのか?この街の最高権力者に」

上条「名前だけは聞いていたがまだ……」




18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:58:29.89 ID:Ip2Ds8co

ステイル「まあいい。そこは後だ」

ステイル「アレイスターは、その天界の口を開こうとしてている者をどうにかしようとしている」

ステイル「どうやるか等の詳細は聞いていないが、土御門やアクセラレータ達と共同でな」

ステイル「恐らく、主要戦力を総動員してその首謀者を強襲する、といった感じだろう」

上条「ほんとか!!?………………ってちょっと待て…………」

上条「た、確かその天界の口を開く奴には手が出せないんじゃ…………ネロの恋人の件が片付くまで…………」


ステイル「……………………………そうだ」

上条「………………それって……かなりマズイんじゃないか?」

ステイル「……………………さっき立ち聞きした限りじゃ、トリッシュ達は恐らく知っている」

ステイル「学園都市側は知らないだろうがな。そもそも知ってたら、まず先にあのネロの恋人をどうにかしようとしてくるだろう」

ステイル「今の学園都市はな、天界の口の開放を防ぐ為ならば手段を選ばない状況だからな」

ステイル「大戦が始まっているのにも関わらず、そしてここから更に過酷な戦況になるとわかりつつ、」

ステイル「主要な戦力を学園都市の防備ではなく、そちらに裂くぐらいだからな」

上条「…………………………」

ステイル「………………」




19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:59:32.85 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………と、まあな。僕が知っている範囲内での今の状況はこんなところだ」

上条「…………」

一通りの状況説明を聞いた上条。
その表情は曇り、まるでどん底に叩き落されて絶望しているかのようだった。

状況はかなり複雑。
その上、どれも頭を悩ます重すぎる事柄ばかり。

いつもならば、パッと己が進むべき道が見えるのに。
今までは、迷い無くストレートに決断できたのに。

今は全く考えが纏まらない。
その道が『見えない』。

何をすればいいのか、どうすればいいのか。

どの行動が良くて、どの行動が悪いのか。

どれが正解で、どれが間違いなのか。


そして。

誰が味方なのか、どこの側につけばいいのかが。




20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:00:46.12 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

手をこまねいて待っているのはもちろん駄目だ。
そんな事などできない。

しかし。


何も決断できない。


何も判断できない。


答えが導き出せない。


己の考えに疑問を持ってしまう。


それでいいのか、と。


己を信じ切る事ができない。




21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:03:39.57 ID:Ip2Ds8co

さながら地球に落下する超巨大隕石を、人々がぼんやりと見ているかのように。
その迫り来る終末の時を呆然と見つめているかのように。

どうしようもなかった。

何も思いつかない。


何も。



上条「…………」

夕方にニュースをぼんやりと見ていた時、この騒乱は始まりに過ぎないと思っていた。
ここから更なる問題が出現するすると確信していた。

だがその『壁』は、想像を遥かに超える代物だった。

手の付けられないあまりにも巨大な、だ。


己の小ささを、矮小さを改めて思い知る。


己とインデックスの置かれていた状況は、想像を絶する崖っぷちだったのだ。


そんな上条の心の内を悟ったステイル。

ステイル「…………僕もだ……」

深く息を吐きながら彼の苦悩に同調する。

ステイル「僕もわからないんだ…………どうすればいいのかがな…………」

上条「……………………………クッソ…………」




22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:07:12.50 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………一応、これだけは意識しててくれ」

上条「…………」


ステイル「バージルはどうやら魔女と繋がっているらしい」

ステイル「その一方で、彼はフィアンマを守ろうとしていた」

ステイル「インデックスをフィアンマに攫わせようとしていたのかもしれない」

ステイル「そしてこれは僕の個人的な解釈だが、ダンテやネロ達の側は天界の大侵攻をあまり重要視していないようにも思える」

上条「…………」


ステイル「もう誰が『どちら側』なのか、『敵』か『味方』なのか、というのは考えるだけ無駄だ」


ステイル「―――誰も信じるな」


ステイル「―――例外は無い。もちろん僕をもだ」


ステイル「常に疑いを持て。己以外を頭っから信用するな」


ステイル「君は己だけを信じ、インデックスの事だけに意識を集中しろ」


上条「……………………………………………………」




23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:09:06.73 ID:Ip2Ds8co

無言のまま口を引き締める上条。

ステイル「そして、今一度約束してくれ」

そんな彼の瞳を見つめステイルは言葉を続けた。


ステイル「決して―――」


ステイル「―――決してインデックスの事だけは何があっても諦めない、と」

すがりつくような願いの意思を篭めて。


上条「…………………………当然だろ」


上条「…………俺は絶対に諦めねえ」


上条「今は何もわかんねえ。わかんねえけど―――」


上条「―――諦めてたまるか」


上条「学園都市の事も。皆の事も―――」



上条「―――そしてインデックスも」



上条「―――絶対に諦めねえ」




24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:11:15.91 ID:Ip2Ds8co
ステイル「…………フン…………」

こんな絶望的状況を聞かされた直後に。
そして頭の中も絶望に満ちているはずなのに。

それでも潰えない上条の奥底の炎。

それを垣間見たステイルは小さく笑った。
今度は安堵の気持ちを篭めて。

ステイル「………………今はここまでにしておこう」

ステイル「やや長くなってしまったな。君はシャワーを浴びて来るんだ。少しは頭もすっきりするだろう」

上条「…………ああ」

ステイル「いや…………」

上条「………………?」

ステイル「最後にもう一つだけ良いかい?君自身について聞きたい事がある」

上条「……何だ?」



ステイル「いつからだ?どこまでだ?」



ステイル「『覚えていない』のは」



上条「―――…………ッ…………」




25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:13:41.71 ID:Ip2Ds8co

上条「……………………………俺が覚えている一番古い記憶は…………」


上条「…………七月二十八日の病院だ」


ステイル「……………………となるとだ。彼女に会った時の事は何も覚えていないんだな?」

ステイル「彼女を初めて守った時の事も」

上条「…………ああ。七月二十八日以前は何も」

ステイル「………………」

上条「………………」

ステイル「……彼女は知っているのか?」

上条「…………俺からは何も言ってないが……」

上条「…………今は……わからない」

ステイル「……………………チッ…………君には本当に呆れるよ……」

上条「……………………すまん……」


ステイル「………………まあ今は………………君を思いっきりぶん殴るのは保留しておこう」

ステイル「ここで騒ぐ訳にもいかないしな。その話は後だ……さっさと行って来い」


上条「……………………ああ」




26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 01:15:49.08 ID:Ip2Ds8co

上条は小さく返事をした後、ドアを抜けて病室から出て行った。

ステイル「…………」

彼が抜けていった後も、
そのドアをしばらく見つめていたステイル。

その後、深く息を吐き呆れながら赤髪を一度掻き揚げ。

ステイル「…………君は本当に馬鹿野郎だな……」

小さく呟いた。


上条が何で隠していたのかは容易にに想像付く。
それに対し言いたい事がたくさんある。
一気に罵り捲くし立てたかった。

君はインデックスを舐めてるのか、と。

君はインデックスを馬鹿にしてるのか、と。

なぜ彼女が、君をここまで慕っているのかわからないのか、と。

ステイル「……本当に…………馬鹿だ。大馬鹿野郎だ……馬鹿めが…………」

ドアに向けて彼は何度も呟いた。

何度も。

何度も。



背後のベッドの上に横たわっているインデックスの目が。

己が入って来た時から、薄く開いていた事に気づかずに。

そしてゆっくりとその目を閉じ、再びまどろみの底へと戻っていった事に。

―――




27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 01:16:35.65 ID:Ip2Ds8co
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜に。




33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 22:49:04.32 ID:65dbJBMo
ふと思ったけど明らかになってる中では多分、本編時のていとくんリンク一通さんがいまだに禁書側最強か
非魔人化とはいえバージルと互角にやりあって、血をも流させたし
トリッシュと感覚共有してた麦ストルでさえ赤子同然に圧倒されてたのに

現在の堕天使神裂さんが未知数ながらも超強くなってるっぽくて、
上条さんも色々フラグ立ってるから今後はどうなるかわからんけど

それと神裂さん、やっと正真正銘本物の「堕天使」になれたんだな
胸が熱くなってきた




34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/07(木) 02:35:59.24 ID:xCD3j6.0
ちょっと分からないんだが
985-986の所だが
『大悪魔』に匹敵しうる三人(上条・一方通行・ステイル)をあっという間に制圧したインデックスの力が、『大悪魔』のベリアルやボルヴェルグと同等ってどういうことだ?
上条さんたちはベリアルたちと同じ『大悪魔』ってことになるよな?
それとも 同じ『大悪魔』でも天と地ほどの差があるってことか?
一度説明済みだったら申し訳ないが誰か教えてほしい




36 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/07(木) 07:32:20.59 ID:myRDrGEo
>>34
『大悪魔』の中でもピンキリ
諸神・諸王クラスのトリッシュと、領主クラスのベリアルとはかなりの力の差があるし、
同じ諸神・諸王クラスの中でも、現在魔界で頂点を競ってる10強とその他でもかなりの差があるっぽいし

それこそ、ダンテ達もベリアルも同じ『大悪魔』

あるラインを超えた存在が全部『大悪魔』って言われてるんだと思う
そのラインの数値が例えば100とすると、101も100000も大悪魔ですよ的な




37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/07(木) 10:02:03.39 ID:Ysa31EDO [1/2]
大悪魔って分けられても実力はピンからキリまであるって、麦野とアラストルの会話であったじゃねーか



38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/07(木) 16:56:51.71 ID:bkuR9FA0
>>36 分かりやすい解説サンクス

>>37 完全に忘れてたスマソ




39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/07(木) 17:23:34.71 ID:Ysa31EDO
つか、作者さんはそれぞれの強さをちゃんと提示してるだろ。読者が○○は△△だから強いとか考えるのは無意味だよ



40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/08(金) 23:50:52.27 ID:Qbbz9oYo
とりあえずバージルが全世界最強ってことで大丈夫か?



41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/09(土) 00:41:33.01 ID:gKJgzB6o
アラストルが言っている
変態級の連中は強すぎるし相性と状況もあるから誰が一番なんぞわかるわきゃねーよ、と






次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 18】



とある魔術の禁書目録(インデックス) 6 (ガンガンコミックス)とある魔術の禁書目録(インデックス) 6 (ガンガンコミックス)
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禁書目録SS   コメント:1   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
636. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/10/28(木) 20:54 ▼このコメントに返信する
あー、大分追い付いちまったな~…
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