ダンテ「学園都市か」【MISSION 16】

2010-10-25 (月) 20:06  禁書目録SS   3コメント  
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デビルメイクライ(Devil May Cry)より─ネロとキリエ


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343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:11:56.82 ID:6uASVZQo
―――

とある病室。

トリッシュ「へぇ…………なるほどね」

頭の中を整理しつつ小さく呟く、シーツに包まりベッドに座っているトリッシュ。
首から上だけを出しており、全身は完全に白いシーツで覆われている。

彼女の隣に横たわっているキリエは以前意識を失ったまま。
まあ単に気を失っているだけであり、明朝にもなれば目を覚ますのはほぼ確実だろう。


ダンテ「まだわかんねえ所が結構あるがな」

そして部屋の隅にあるソファーに寝そべりながら、
軽く手を挙げてトリッシュに言葉を返すダンテ。

アレイスターからの証言により、二人共一応の見解は纏め上げた。
とりあえず、バージルらはセフィロトの樹を破壊しようとしているらしい と。

だが『とりあえず』だ。

まだ謎は多い。
天界の軍勢を誘き出すのはわかるが、アリウスの方面はなぜ支援しているのか。
何となく思いつく事はあるものの、具体的な答えが未だに出てこない。

セフィロトの樹を破壊するにしても、具体的な方法は見当もつかない。

しかもそれはあくまで『過程』であり、真の目的はその向こうにあるようにも思える。




344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:16:34.30 ID:6uASVZQo

ダンテ「……後で事務所に戻る。そのついでにロダンの所にも行って来る」

ダンテ「アイツなら色々知ってるだろうからな」

トリッシュ「よろしく。あ、あと私の銃もね」


シーツの下で突き出された左手により、ピンと張る純白の柔らかい布地。
その『頂点』は、ベッドの隅に置いてある二丁の大きな拳銃を指していた。

ルーチェ&オンブラだ。


右手がバージルに切り落とされた際、その莫大な力が流れ込んだのか、
その手に持っていた方の『内部構造』が破壊されていたのだ。

自動装填の術式はもちろん、
トリッシュが自作し刻み込んだ様々なシステムが悉く崩壊したのだ。


一応今の状態でも発砲はできるが、
悪魔的な力が全て削ぎ落とされている以上、最早『タダの大きめの拳銃』だ。


時間をかければトリッシュでも修復できるが、ロダンに頼んだ方がかなり早い。

二丁共持って行けば、無傷な方の一丁を参考にして
一日二日程度で完全修復してくれるだろう。




345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:18:56.16 ID:6uASVZQo

ダンテ「おー」

トリッシュ「まあでも、これが直ったとしても私が治らなきゃほとんど意味が無いけど」

ダンテ「ハッハ、お前は『一回休み』だ」

ダンテ「黙ってここで寝てな」


         ソ イ ツ ラ
ダンテ「ルーチェ&オンブラは俺が可愛がってやるさ」

トリッシュ「あら、それは嬉しいけど。どうやって『四丁』使うのよ?」


ダンテ「…………さぁな。足にでもつけっか?」


トリッシュ「ふふ、いいかも知れないわねソレ」


ダンテ「(…………ギルガメスに同化させりゃいけるかもな)」


トリッシュ「……ってちょっと。本気で考えてんの?」

ダンテ「あ?面白そうじゃねえか」


トリッシュ「(まーた変な遊び方思いついたみたいね)」




346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:20:58.53 ID:6uASVZQo

ダンテ「なあ、面白そうだと思わねえか?」

そうダンテは寝そべりながら頭だけを動かし、



麦野「…………っ!」



部屋の隅の椅子に座っている麦野へと言葉を飛ばした。
ここだけ日本語で。

突如話を振られ、えっとでも言いたげに目を少し見開く麦野。
というか、それ以前の会話が早口の砕けた英語だった為、
ほとんど聞き取れなかった。

銃を持って行ってどうのこうのっと、それぐらいしかわからない。

麦野「あー…………私は……良いと思う……かな?」

とりあえず良く分からないが、
ダンテに肯定的に答える。


それを聞きダンテはニヤリと笑い、
トリッシュは小さく頭を振りながら、呆れたように溜息。

麦野「…………あれ…………(ちょっと、私何かミスした?言葉の選択誤った?)」




347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:23:43.42 ID:6uASVZQo

トリッシュ「あーところでアナタ。アラストルと結構仲良くなったみたいね?」

麦野「っ……!!!」

トリッシュ「さっき廊下で色々話し込んでたみたいだけど」

麦野「あーっと…………ま、まあ……(おい、なんか喋りなさいよ。聞こえてるんでしょ?)」

苦笑いしながら、頭の中でアラストルへ向けて言葉を放つ麦野。

アラストル『…………』

麦野「(何黙ってんだよ)」

アラストル『(俺はマスターの前ではヘラヘラと余計な事は喋らない。臣下たる者、寡黙であるべきなのさ)』

麦野「(寡黙だぁ?テメェこの野郎………………)」


トリッシュ「…………アラストル。どうなの?」

アラストル『問題はありません。我が主の命を忠実に果たしております』

アラストル『マスター代理の為、命を賭して戦い支援していくつもりです』

トリッシュ「あ、そう」

麦野「(………………………………言った傍からペッラペラかよクソッタレ)」

アラストル『(なあに、場合によりけり、だ。優秀な臣下たる者、場の空気を読み柔軟に(ry)』

麦野「(うっせえ)」




348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:25:54.59 ID:6uASVZQo

トリッシュ「だってさ~」

トリッシュが視線をダンテの方に戻し、続けて彼の方へと言葉を飛ばした。
それに対し、ダンテは特に興味無さそうに手を軽く振った。

トリッシュ「あ、そうそう、アナタさ」

そこでまたトリッシュは麦野の方へと視線を向け。


トリッシュ「少し手入れた方いいわね」


麦野「…………………………………へ?」


トリッシュ「カッコ」


麦野「……かっこ?」


トリッシュ「服よ服。もっとちゃんとしなきゃ。女の子なんだから」




349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:28:41.19 ID:6uASVZQo
麦野「服……」

トリッシュ「今日着てたの破れちゃったみたいだけど、その前からボロボロだったわよね」

麦野「…………」

そう、バージルに切り裂かれる前から既に服はボロボロだった。
更に季節はずれの秋物で、そしてあちこちが破れススだらけ。

以前は身なりにかなり気を使っていたが、
左手と右目を失って以降全くと言って良い程に気にしなくなってしまった。

いくら気を使ったところで、こんな化物染みた姿じゃ意味が無い、と。

右目は無くなり、眼窩から光が漏れ出し周囲はケロイド状。
こんな顔じゃ、例え左手が残っていたとしても化物だ。

今までかなり気にしていたその反動か、
この自慢でもあった顔が、悲惨な状態になった事でプッツリと関心を失ってしまったのだ。

今はただ、『着れればいい』という考えしかなかった。


アラストル『(そうだな。この俺を持つ以上、お前には身なりを整えてもらうぞ)』

アラストル『(よしてくれよ?仮にも「主」がみすぼらしい姿じゃ、俺の名にも傷が付く)』

麦野「(うるせーっつってんだよ黙って『寡黙』になってろやボケ)」

麦野「今更……どんなカッコしたって同じよ。こんなナリじゃ」

内心ではアラストルにツバを吐き、
外面では小さく鼻で笑いながら、己を卑下して吐き捨てる麦野。


トリッシュ「そう?そう悪くないと私は思うけど」


だがトリッシュはそんな麦野の表情など一切気にすることも無く、
相変わらず淡々と言葉を続けた。




350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:30:27.18 ID:6uASVZQo


麦野「……ハッ……どこがよ……」

トリッシュ「ダンテだってアナタの事ホットだって言ってたわよ。ねえ」

その言葉に合わせダンテが軽く手を挙げ。

ダンテ「スカーフェイスがクールになんのは男だけとは限らねえってな」

トリッシュ「傷が付いたのなら、それをカバーできるカッコにすればいいのよ」

麦野「………………??」

トリッシュ「さっき見た感じだと、今までのアナタの服装の系統じゃカバーするの難しいわね」

そう独り言のように呟きながら、トリッシュは包まっているシーツの下から左手を出し、
その指を軽く鳴らした。

すると小さな金の電撃が一瞬迸りその閃光が止むと、
どこから現れたのか小さな紙がトリッシュの前に浮いていた。

更に、これまたいつのまにか左手には万年筆。


トリッシュ「あー…………っと」

そして麦野の方をチラチラ見ながら、
なにやらその宙に浮いている紙に書き込んでいった。




352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:32:14.98 ID:6uASVZQo

麦野「………………何してるのよ?」

トリッシュ「アナタのサイズ見てるの」

麦野「はぁ?」

トリッシュ「……85……。股下は…………」

怪訝な表情の麦野を尻目に、
トリッシュはブツブツ呟きながら手を動かしていく。

トリッシュ「ダンテ」

ダンテ「あ?」

トリッシュ「ダークグレーでいいと思う?」

ダンテ「知るか。俺に聞くんじゃねえ」

麦野「ちょっと……何の話してるのよ?」

トリッシュ「あ、ちょっといい?」

麦野「何?」

トリッシュ「アナタのその光、最高温度はどれくらい?」

麦野「…………最大出力で射出すれば……多分4万度とかまではいくかも」

トリッシュ「……射出じゃなくて……じゃあ今の『右目』内の温度は?」

麦野「?わかんないけどそんなに高くは無いと思うわよ」

麦野「……あんまり高かったら私が焼けるし」




353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:36:41.78 ID:6uASVZQo

トリッシュ「そう…………ま、少し余裕あった方がいいわね……」

ダンテ「あ~、タングステンの合金とかでいいんじゃねえの?目からビーム出さなきゃ充分だと思うが」

トリッシュ「ええ。それにこの街にはもっとすごい耐熱材あると思うわよ多分」

ダンテ「まあな。つーか最初からアラストルに強化させればいいじゃねえか」

トリッシュ「そうね。それで充分ね」


麦野「?????????」


トリッシュ「……こんな所ね」

と、一通りの記述を終えたのか、トリッシュは紙を軽く指に挟み。

トリッシュ「ルシア」

窓枠に座っていた少女の名を呼びながら、ピッと軽く上げた。
それとほぼ同時に、即座にトリッシュの傍へと駆け寄るルシア。

トリッシュ「これ、ある人に届けてきて欲しいんだけど?」

ルシア「?」

トリッシュ「さっきダンテが言ったところ、『匂い』で位置はわかるわよね?」

ルシア「は、はい」

トリッシュ「そこのビルの中に、逆さまに水槽の中に入ってる変な人いるから、そいつにコレ渡してきて」




354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:41:11.85 ID:6uASVZQo

ルシア「?…………はい」

トリッシュの説明に首を傾げながらも、紙を手にするルシア。
まあ、実際に行って見ればトリッシュの言葉通りだという事がわかるのだが。

それはそれでまたルシアの純粋な疑問となるだろう。

あの人はなんで服を着たまま、逆さまにお風呂に入っているのだろう?と。


ダンテ「あー待て。ワインとピザはまだかって伝えてくんねえか?」

ルシア「あ、はい」

小さく頷くと、ルシアは即座に円に沈んでいった。



麦野「……ちょ、ちょっと……一体何よ?」


トリッシュ「ん?ああ、近い内に大仕事があるんでしょ?デュマーリ島で」


麦野「何でそれを……!?」


トリッシュ「それで、よ。大仕事だからこそビシッと決めなさい」


麦野「……もしかして…………私に服をって事?」




355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/28(土) 23:41:31.78 ID:BXQp3WI0
>逆さまに水槽の中に入ってる変な人

…(;´Д`)実もフタもねぇなwwwwwwwwww




356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:42:44.21 ID:6uASVZQo

トリッシュ「スーツとコートと……あといくつか小物ね。ホルダーとか。アラストルだって四六時中手に持ってる訳にはいかないでしょ?」

トリッシュ「その右目だって丸出しにしとく訳にもいかないし」

麦野「んな…………」

トリッシュ「文句言わないで受け取りなさい」

トリッシュ「これはアラストルの士気にも影響する事でもあるし」

アラストル『(正にその通り。みすぼらしい「使い手」など願い下げだ)』

アラストル『(「力と容姿」、そして立場に「見合った」服装をしてもらわなきゃな。「麦野沈利」よ)』

麦野「……」

トリッシュ「あ、でも着こなしは任せるわよ。アナタ結構センス良さそうだし」

トリッシュ「多分、明日の朝とかにでもアナタのところに届くと思うから」


麦野「……わかった。じゃあ有難くもらうわ」



トリッシュ「気張りなさい。そして堂々と。アナタは誰にも負けないわよ」



麦野「…………………………あ……ありがと」


―――




357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:45:58.73 ID:6uASVZQo
―――

少女は長い長い、そして奇妙な夢を見ていた。

はっきりとした映像ではない。
おぼろげな、断片的な光景。

見た次の瞬間、何を見たかを忘れてしまう。
いや、走馬灯のように次々と流れていくせいで、頭の処理が追いつかないのかもしれない。

だが何を見たのかを忘れても、何を思ったのかははっきりと胸の中に残っていく。


妙に懐かしい、遠い昔のような感覚。

心が温まる穏やかな感覚。

気高き戦士達。尊敬する『英雄』。

そして『家族』がいたあの遠い日々。


それは彼女の魂の中にあった記憶の断片。
先程『拘束』が外れた際に漏れ出した、彼女自身の『過去の物語』の一部。


彼女が見てきた、そして経験してきた『歴史』。


彼女はとある理由で、脳内のエピソード記憶は一年おきに完全削除されてきた。

だが、魂に刻まれていく記憶は決して消えない。
魂が経験してきた歴史は決して消えない。

それは彼女自身のモノ。
彼女だけの、彼女たる存在を示す証。




358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:48:18.24 ID:6uASVZQo
その断片的な淡い物語。
穏やかな日々は突如終焉を迎える。

それは彼女がその日の勤めを追え、
近衛にいる『――――』の帰りを待ちながら自宅の庭の椅子に座り、日向ぼっこをしていた時だった。

突如脳内に響く、緊急の通信魔術。

そしてその瞬間、周囲の状況は一変した。


「―――うう…………」

突如現れた、空を覆い尽くす『白金の軍勢』。
凄まじい地響き。
飛び交う怒号。
響き渡る掛け声。

耳を劈く様々な破砕音。
飛び散る瓦礫と倒壊していく建物。

辺りを照らす赤や青、濃い紫の光。
それを一瞬でかき消していく白金の閃光。

そして斃れてく気高き戦士達。


少女は走った。
恐怖を感じ。

この空の下で今も激闘を繰り広げているであろう『――――』を探すべく。

古いホールを抜け。

崩れ落ちた噴水のある、
大量の天使の死骸と、多勢に無勢で斃れた戦士たちの亡骸が散らばっている庭を横断し。

列柱廊を駆け抜け。

そして少女は遂に探し人を見つけた。
『――――』は血にまみれ、傷を負いながらも生きていた。


青い髪の最愛の―――。




359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:51:21.64 ID:6uASVZQo

『夢を見ている側の彼女』は、その人物の名が思い出せなかった。
顔はわかる。
いつも傍にいたのもわかる。

だが、なぜだが思い出せなかった。



その相手は彼女を見た瞬間、顔色を変えて駆け寄ってくる。

彼女も走り出―――。


――― そうとした瞬間。



「―――…………あ……………………」



胸からいきなり『生えてきた』、豪華な装飾の白金の槍。
背後から放たれた槍は、彼女の胸をいとも簡単に貫通していた。

次の瞬間、『――――』が上げるとてつもない咆哮。
いや、それは正に絶叫だった。
今まで彼女が聞いた事の無い程の悲痛な叫びだった。

そして放たれる魔弾と、青髪のウィケッドウィーブ。

彼女はゆっくりと地面に倒れ意識が薄れる中、
鬼神の如く奮戦する『――――』をぼんやりと眺め。


そこで『夢』は途絶える。




360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:53:11.41 ID:6uASVZQo


ゆっくりと暗転したのではない。

真っ暗になった訳でもない。
ノイズ・砂嵐のようなモノに夢が消されたのだ。

まるで何者かによって『塗り潰された』かのように。


そして『夢を見ていた側の彼女』は、具体的に何を見ていたのかを再び忘れる。

残ったのは『心の震え』のみ。


そこからまた夢は飛ぶ。

今度はうって変わって近代的な風景。

さっきの夢とは、何だか己の感覚がどこと無く違う。
確かに同一人物なのだが。
別人のような気もする。

例えるならば、先程の夢が『前世』といったところか。


そしてそこから、また短くも穏やかな日々が始まった。




361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:54:17.70 ID:6uASVZQo
彼女の『護衛』である、『――――』・『――』と共に過す日々。

『護衛』と言っても役職上のモノだけではなく、三人の中にはもっと強い繋がりが生まれていった。
まるで家族、兄弟のような。

だがそれも突如終焉を迎えた。


『最後の日』。


怯える彼女に対し、『――――』・『――』は言った。

「いつまでも友達だから。ずっと。ずっと」と。

それに対し、彼女は泣きじゃくりながらこう言葉を返した。

「絶対に忘れない。絶対に忘れないから」 と。


そしてこの『夢』も終わる。
見終わった瞬間、彼女は何を見たのかを忘れた。

何かに遮られ『記憶』できない。

だが心には響く。
揺れ動く魂は止まらない。


そして再び。


別の夢が始まる。


いや、ここからは『思い出』だ。

ここからは彼女の『頭』の中にも記録されている。
そして何よりも。

彼女の魂に、今までで最も深く刻み込まれた記憶だ。

もし彼女が今脳内をリセットされたとしても、
ここからの物語は決して忘れないだろう。

決して。




362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:56:43.62 ID:6uASVZQo
彼女の思い出。

誰に出会い、そして何を見て、彼女がどうなったのか。
説明は不要だろう。


彼女の為に、そして彼女の為だけではなく、出会う人全ての為に戦おうとする少年。
決して諦めず、決して立ち止まらず、ただ人の為に突き進んでいく少年。


彼女はそんな少年の姿を傍で見続けてきた。
そして何度も救われ、いつもいつも守られてきた。

そんな日々の中、彼女の中で今までとは違う妙な感情が生まれた。
彼女自身は気付いていなかったが。

当初は『守られている恩』、『保護に対する』感情と区別が付かなかったのだ。
そもそも、そういう自己分析なども彼女はしない。

だが膨れ上がっていくその感情は、
いつしか無視出来ないほどにまで巨大化していった。


二ヵ月半前、その強烈な『胸の痛み』をようやく彼女は認識し。

デパート事件までの日々の中でその正体に思い悩み。

デパート事件の後、正体がわからぬままも彼女は惚けて。


そして今日。


彼に抱かれ、彼の顔を見た瞬間彼女は遂に知る。

遂に完全に認識する。

己のこの感情が何なのかを。



「――― とうま―――」




363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/28(土) 23:59:28.42 ID:6uASVZQo

彼女は聞いていた。
先程の戦いの中の上条とステイルの会話を。

それを聞き、すぐにピンと来た。

思えば、おかしなことは多々あった。
出会った頃の話をすると彼はなぜだか相槌だけになり、話を広げようとはしなかったのだ。

上条は隠していたのだ。

記憶を失った事を。


だが、彼女はそれを確信しても何も思わなかった。

いや何も思わなかった訳では無い。
怒りも失望も、裏切られたというそういう負の念は何も思わなかったのだ。

出会った頃の、そこまでお互いを知っていなかった頃は怒ったかも知れなかったが、
強い絆で結ばれている今はそんな事など思わなかった。


ただ嬉しかった。


そして愛おしかった。


早く彼に触れたくなった。


再び彼の笑顔が見たくなった。




364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/29(日) 00:03:19.68 ID:RJQ8j0go
「………… とうま」

彼女は最早立ち止まれなくなった。
この感情に全てを委ねたくなった。

これは拘束が外れ、『生来の気質』が一部沸き出したせいでもある。

彼女の脈々と受け継がれてきた『血』に刻まれた『本能』だ。
この感情を知り、そして相手を見定めてしまったこの『魂』は止まらない。

この一年間の『彼女』も。
そして深淵に眠っていた、別の『彼女自身』も。

『二人』とも、上条当麻という少年に心を囚われてしまった。


―――『恋する魔女』は強い。


―――『恋する魔女』の気持ちは永遠のモノ。


魔女が本当に恋するという事は、ある意味『呪い』でもある。

何としてでも成就させるか、それとも死か。
それだけしかこの『呪い』から脱する術は無い。


そしてそのような『恋』は、必ず巨大な『うねり』を作り出す。


宿敵であるルーベンの賢者の長に恋し、
後にアンブラの運命を変える子を産み落とした、あの黒髪の魔女のように。

魔女王アイゼンの孫であり後に長の座に付くと言われていながらも、
愛する者の為に都から離れ、全ての力を捨て一介の人間の身に落ちてまで


『最強の魔剣士』を追い、種族の壁を越えて結ばれたあの金髪の魔女のように。




365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/29(日) 00:03:55.66 ID:RJQ8j0go

「………… う…………ん……」

そして少女はベッドの上で目を覚ます。
手から伝わってくる、温もりを感じながら。

「…………」

寝ぼけ眼のまま、ぼんやりとその手の先を見ると。
上条が彼女の手を固く握り締めたまま、ベッドに顔を突っ伏して寝息を立てていた。

「………… えへへ…………とうま~♪……」

少女は穏やかに笑い、今の歓びに浸る。

「…………」

話したい事はたくさんある。
伝えたい事もたくさんある。
先程見た、『忘れてしまった夢』もかなり気になる。

だが今はこのまま、穏やかな温もりの中に浸っててもいいだろう。
この気持ちをもっとかみ締め、そして包まれたい。

彼女はもぞもぞと上条を起こさぬように体の位置を少し変え。

そして彼の頭に己の頭を寄り合わせるようにして、
手を優しくそれでいながら強く握り締めながら、ゆっくりと目を閉じた。


彼の空気と。
彼の体温と。
彼の存在を全身で感じながら。


インデックスは再びまどろみの中に落ちていった。


―――




367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/29(日) 00:06:15.93 ID:zJf9L5Ao
イチャイチャしやがって



370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/29(日) 00:23:13.13 ID:vPgNqsAO
実際問題、眼帯だけでもしてりゃ
元がいい麦のんならかっこよさそうだな

あぁ麦のんに罵られたい




375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/29(日) 03:51:22.92 ID:JVlZcRY0
ベヨネッタがリンクした事で話(と設定)の纏まりが飛躍的に面白くなったよね




380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 20:45:23.50 ID:yeP4fM6o
―――

神裂「………………裁き……」

神裂「それは……私が「天の者」となったからでしょうか?」

アイゼン『まあな』

神裂「…………」


アイゼン『勘違いはするな。これは我等の「復讐」ではない』

アイゼンがゆっくりと、神裂を中心に円を描くように歩き始めた。


アイゼン『確かに、確かに我等は怒っておる。この者達は天界を憎み、恨みながら死んでいった』

アイゼン『そして成仏を許されず、今だにその怨念に縛られ続けている』


アイゼン『だがな、この行いはその怒りを晴らすためでは無い』


アイゼン『これは「裁き」だ』


アイゼン『「誓い」を破った者達への―――』



アイゼン『我等を「裏切り」、そして策略に嵌めた天界へのな』



アイゼン『そして我等の「贖罪」だ』



アイゼン『「過ち」を正す為のな』




381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 20:46:33.65 ID:yeP4fM6o

神裂「う、裏切り…………ですか?」


誓いと裏切り。
この言葉が出てくるとは思ってもいなかった。

天界と魔女が協力していた時代があった、とでも言うのか と。

だが、時に真実は物語よりも奇である。


アイゼン『500年前にかの者達は我等を裏切りおった』


神裂「…………」

500年前。
神裂も聞いた事はある。
500 年前に魔女が天界の手によって滅んだと。

数ある『伝説』の一つとしてだが。

アイゼン『まあ、今思えば2000年前の「あの時」から既に予兆はあったのだがな』


アイゼン『向こうはそれの二万年前からその気だったらしいが』


神裂「…………」

2000年前。
その時に何があったか。

魔界の人間界侵略と、スパーダの反逆だ。

神裂「…………裏切ったとは……どういう事ですか?」




382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 20:48:29.82 ID:yeP4fM6o

アイゼン『知らぬか……』

アイゼン『本来はここに来る前に知っておいて貰う予定だったのだがな』


アイゼン『真の歴史背景を知った上で、そなたの答えが聞きたいのだ』


アイゼン『それが「この場」の判断材料となるのでな』


神裂「?」


アイゼン『どれ、一通り話してやろう…………立ち話もあれだな』

と、アイゼンが呟いたと思った次の瞬間。

神裂「……!」

突如、アイゼンの後ろに出現した古めかしい石造りの椅子。
そこにアイゼンは、手首の大量の腕輪をジャラジャラ鳴らしながら腰を降ろし、
長い美脚を見せ付けるように優雅に足を組んだ。

そして。

アイゼン『座れ』

顎で神裂の背後を軽く指しながら一言。

神裂が振り向くと、彼女の背後にはいつのまにか
『背もたれの無い』椅子が出現していた。

背もたれが無いのは、神裂の胸を貫通している七天七刀が引っ掛らないよう配慮したのか。
それとも、立場の違いを暗に示す為なのか。

そんな事をふと考えながら恐る恐る座り、アイゼンと再び向かい合う神裂。




383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 20:51:58.57 ID:yeP4fM6o

そんな神裂の心中を察したのか、アイゼンが思い出したように。

アイゼン『あ~、既に何となく気付いておると思うが、その刀は抜かぬようにな。それは後でだ』

神裂「……?はい」


アイゼン『さて……まず話の前に一つ言っておく』

アイゼン『これから我が言う事は、我等の「視点」からだ。我等の考えからの「表現」を使って言葉を選んでいく』


アイゼン『ここからは「アンブラの魔女」の側からの語りだ』


アイゼン『「天界」や「魔界」、そして「一般の人間」の視点からならばまた違った語りになるだろう』


アイゼン『真実は常に多面的な性質を持つ。片方の側からだけで全てを物語ることは不可能』


アイゼン『全てを纏め綺麗な1本筋にする事もまた不可能だ』

アイゼン『真実の反対は虚構だが、真実の反対はまた別の真実である場合も存在する』


アイゼン『そこを踏まえ、そなたには我の言葉を客観的に聞いて欲しい』

アイゼン『納得するのも、疑念を抱くのもそなたの自由だ』

アイゼン『そこから導き出された、そなたなりの答えを知りたいのだ』


アイゼン『あ~それとだ、我は嘘を言うつもりという事では無いからな。我は我の方で出来るだけ客観性を保つようにする』


神裂「…………わかりました」




384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 20:55:32.70 ID:yeP4fM6o
アイゼン『うんぬ……では話そうか』


アイゼン『2000年前のあの時まで、我等と天界は「建前上」は同盟を結んでいたのだ』

アイゼン『そして約520年前までは、表向きは敵対関係でもなかった』



アイゼン『それとな、天界による人間の魂の管理、「セフィロトの樹」も元々は我等の承諾の上だった』



アイゼン『つまり、「我等」もこの今の「人間界の体制」を作った者の一部、だという事だ』



神裂「なっ……………………はぃぃッッ…………??!!!!!」


アイゼン『その体制が作られた当時は、そうせざるを得なかったのだ』

アイゼン『人間界を守る為、いや―――』


アイゼン『―――少しでも滅びの日までの時間を稼ぐ為にな』


神裂「っっ……!!!……魔界の侵略……ですね」

アイゼン『そうだ。今の短命な世代の人間達からすれば「長き時」だが、当時の者達にとっては最早秒読み段階だった』

アイゼン『本来ならば人間界は人間界で団結して立ち向かうべきだったのだがな、肝心の「人間界の神々」が腑抜けでな』

アイゼン『どいつもこいつも危機感無く、いつまでも自分勝手だった』

アイゼン『人間界を心の底から守ろうとしているものなど片手で数える程度だけだった』


神裂「……?『人間界の神々』……ですか?」




385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 20:57:59.38 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ん?ああ、そこから知らぬのか』


神裂「……」


アイゼン『当時の人間界には本物の神々と天使が君臨していた。「竜王」と呼ばれた者を一応の頂点としてな』

アイゼン『「人間の神族」だ。魔界に諸神、そして魔帝が君臨するのと同じく、「人間界生まれ」の神々が存在していた』

アイゼン『これがまた強欲で我侭、自己中心的でとてつもなく優柔不断な連中ばかりでな』

アイゼン『まあ、ある意味「人間界らしい」といえばそうなのだがな』

アイゼン『だが連中は度を越していた。魔界による人間界の滅亡が目前に迫ろうとも、連中はいつまでも呆けて好き勝手戯れていた』


アイゼン『我等「下位の人間」の方が「大人」だったのだよ。全く笑い話だなこれは』



神裂「…………」



アイゼン『そして我等「下位の人間」は立ち上がった。とは言っても、時間の猶予はない。じっくりと各々の力を成長させる余裕など無い』

アイゼン『だから我等が取った行動。それは別の世界から力を授かることだった』


アイゼン『半分の者は天界へと支援を求めた。これが「ルーベンの賢者」の祖だ』



アイゼン『そしてもう半分は魔界へと支援を求めた。これが我等「アンブラの魔女」や、フォルトゥナ等の祖だ』




387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:00:50.54 ID:yeP4fM6o

神裂「………………はい?それって……」

そう、今の部分は矛盾している。
天界へ支援を求めるのは良いとして、
魔界の侵略に立ち向かう為に、魔界の者に支援を求める とは。

話が合わない。

アイゼン『ハハン』

そんな神裂の心中に気付いたのか、アイゼンは軽く笑い。


アイゼン『聞いた事は無いか?2000年前にスパーダと共に戦った人間の戦士がいたと。そして彼らは魔の力を使っていたと』


アイゼン『普通に考えて分かるだろう?彼らが魔の力を使えたのは、魔界にも協力者がいたからだ と』

アイゼン『そもそも、昔も今も人間達が「なぜ魔界魔術を使えるのか」を考えたことが無かったのか?』


神裂「…………確かに……で、ですが……どうして魔界が人間に協力を……?」


アイゼン『ん?ああ、まあ厳密に言うと、「影で魔帝を憎んでいた諸王・諸神」だ』


神裂「…………あの、当時の魔界って魔帝に完全統一されてたんじゃ……?」


アイゼン『まあな。表向きはだ。だが魔界の理を考えてみろ』

アイゼン『確かにより強き存在に完全服従するのは道理。だが力によって抑圧され、強引に奴隷化されるのを嫌うのも道理』

アイゼン『力こそすべてだ。誰もが力のヒエラルキーの頂点を本能的に目指しておる』

アイゼン『機会さえあれば、下克上を狙うのもまた道理だ』


神裂「……」




388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:04:59.79 ID:yeP4fM6o

アイゼン『確かに魔帝、そしてその横にいるスパーダと覇王の存在はとてつもなかった』

アイゼン『大半が彼らの力に心酔し、そして完全な奴隷と化した』

アイゼン『だが全員が全員そうでは無い。中には表向きは服従しつつも裏では激しく憎んでいた者もいた』


アイゼン『そして我等は、水面下でその「反逆者」達と結託したのだ。利害が一致してな』

アイゼン『我等は魔帝軍に対抗する為、できるだけ早くより強大な力を持たねばならなかった』

アイゼン『そして反逆者達は、魔帝の勢力が少しでも削れる事を目論んだ』

アイゼン『彼らは人間界は結局滅ぶと思っていたようだがな。とにかく魔帝勢力に傷を負わせたかったのだろう』


神裂「……」

アイゼン『フォルトゥナの祖も然り、各地のデビルハンターも然り、「魔に属す人間」の元を辿れば全てここに行き着く』

アイゼン『彼らの扱う魔界魔術は全てこの「対魔帝反逆一派」の力だ』

アイゼン『当然我等「アンブラの魔女」が扱う力も、そして召喚する存在も大抵はこの反逆者の一派だ』

アイゼン『ちなみに、そなたをつい先程叩き潰したヘカトンケイルもその諸神の一人だ』

アイゼン『悪魔という存在の全部が全部、人間を憎んでいるわけでは無いぞ』


アイゼン『そもそも「人間を憎む」というのも、そして「スパーダの一族」を憎むのも、』

アイゼン『「魔帝の侵略」が失敗した事を発端としているしな』


アイゼン『反逆者達は基本的にスパーダを憎んではおらぬ。人間を憎んでもおらぬ』



アイゼン『彼らからすれば、今やスパーダは「英雄」であり、そして「魔に属す人間」は共闘した「気高き戦士」だからな』




389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:08:16.26 ID:yeP4fM6o

神裂「………………」

確かに。
アイゼンの言葉は道理にかなってる。

「全ての悪魔が人間を憎んでいる」という、今までの一般常識が正しかったのならば、
アイゼンの言うとおり人間は魔界魔術など扱えない。

魔界の存在から力を借りるなど到底不可能だ。


アイゼン『……まあ、そういう事で我等は力を手にした』

アイゼン『ある一派は天界の力を、ある一派は魔界の力を、とな』

アイゼン『行動を起こし始めたのは大体5万年前、力が高まり組織としてそれぞれが纏まったのが約3万4千年前だ』

アイゼン『そこからアンブラの「正史」も始まった』


神裂「あの……少し聞いてもいいですか?」

アイゼン『何だ?』

神裂「魔に属すということは……あなた方魔女もデビルハンターもフォルトゥナの方々も、」

神裂「『人間でありながら私達とは違う人間』という事ですか?」

神裂「あなた方魔女は、魔界の理で生きる『魔界の人間』、という事ですか?」

アイゼン『まあ……そうなるがな。だが一つだけ捕捉しておくぞ』


神裂「?」


アイゼン『我等の方が本物の「純粋な人間」だからな』

アイゼン『「ルーベンの賢者」もだ。彼らは今や絶滅したがな』


アイゼン『そなたらの世代の人間は「純血」とは呼べぬ』




390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:10:09.63 ID:yeP4fM6o

神裂「………………?!」

アイゼン『確かに我等の理は魔界のモノ。だが本質、存在自体は正真正銘の「純粋な人間」だ』

アイゼン『だがそなたらの、今の世代の大半の人間は違う』

アイゼン『いわばそなたらの魂は「改造済み」だ』

アイゼン『生まれ着いた時からセフィロトの樹によって管理され、天界の手が入っておる』

神裂「……!」

アイゼン『この人間界の法則も、天界の手で大きく変えられた』

アイゼン『セフィロトの樹に繋がっていなくとも、この変化の影響は出てくる』

アイゼン『フォルトゥナの者も各地のデビルハンターも、いくらか影響を受けており我等ほど純粋ではない』


アイゼン『肉体の「老化」という現象に制限される命、「寿命」がその一番わかり安い例だ』


アイゼン『言い方を変えればな、深く魔に入り込んだおかげで我等は「本物の人間」の「純血」を保ち続けたのだ』

アイゼン『より強い異界の力が「人間界の変化」を跳ね付けてな』



神裂「……じゃあ……太古の人々は不老だった……と?」



アイゼン『精神の成熟度に左右されるが「基本的」にはな』


アイゼン『肉体の老化には左右されん。というかそなたらのように急速な老化は無い』


アイゼン『我等魔女のように、生粋の真人間は「魂と器」が存続する限り「不老」だ』




391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:12:03.18 ID:yeP4fM6o

アイゼン『これも疑問に思わなかったか?』

アイゼン『スパーダは2000年前、魔界の侵略を退けた直ぐ後に「一人の純粋な人間」の女と結ばれた』

アイゼン『この「女」はスパーダと共に侵略軍に立ち向かい、そして「魔界の口」の封印にも立ち会った』

アイゼン『そしてその「女」が息子達を生んだのはつい30数年ほど前だ』


神裂「…………」


アイゼン『客観的に考えてみればわかるだろう?この事実が何を意味してるか』

神裂「…………そ、そう……ですね」

アイゼン『では話を戻してもいいか?」

神裂「……はい」


アイゼン『さて………………………………ん?…………どこまで話したか?』


神裂「あなた方が魔界の反逆者達と手を結び、力を手に入れたところまでです」


アイゼン『おお、そうだった』

アイゼン『すまんな、ゆっくりとまともに会話できる者が来たのは久しぶりだからな』

アイゼン『中々口が止まらずに話があちらこちらに飛んでしまう』


神裂「……」




392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:16:56.32 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それでな、我等がそうして力を手に入れたのだがな、そうしたら今度は人間界の神々が難癖をつけてきた』

アイゼン『「貴様等如きが何を勝手な事をしている?立場をわきまえろ」とな。それはこっちの台詞だ全く』

アイゼン『我等の成長に危機感を抱いたのだろうな。魔界ではなく我等に矛先を向けるとは愚かな連中だ』

アイゼン『現に、我等は人間界の神々を超える勢いで力をつけていったからな』


神裂「…………」


アイゼン『そうして、今度は人間界の内部がキナ臭くなってきた。誰もが内戦が始まると思っていた』

アイゼン『そしてちょうどその時だ。天界の者達が直接やって来たのは』


神裂「…………」


アイゼン『当時は天界のかの者達も、今程「狂って」はなくてな』

アイゼン『今とは違い、当時の彼らは尊敬に値する高潔な者達だった』

アイゼン『信じられぬかもしれんが、かの者達が人間界にやってきた理由も当初は「救う」為だった』


神裂「…………っ!!!?」


アイゼン『近場である人間界の勢力基盤を固め、前哨とする思惑もあったかもしれぬ』

アイゼン『界の位置関係、順序で言えば魔界の侵略は人間界から天界へと繋がっていくからな』

アイゼン『だがそれ以上に彼らの当時の第一目的は人間界の住民を守ることだった』




393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:18:50.23 ID:yeP4fM6o

アイゼン『当時の彼らはな、本物の「慈愛」と高潔な使命感で溢れていた』

アイゼン『ジュベレウスが立ち上げた、魔界への対抗の旗印。天界はその本拠の一つだ』

アイゼン『当時の天界の者達は、今のように「読み違える」ことなくその主の命に従っていたのだ』

アイゼン『ジュベレウスが敗北し眠りについても尚、彼らは魔と抗おうとし続けたのだ』

アイゼン『そしてそういう純粋な、高潔な者達から見たらどうなる?』

アイゼン『人間界に君臨していた自分勝手な神々は?』


神裂「………………それは……」


アイゼン『天界の者達が、人間界の神を排除しようと決意するのには時間はかからなかった』

アイゼン『人間界内で、神々と魔の者達の間で内戦が勃発するのは秒読み状態だったからな』


アイゼン『まあその天界の行動は、我等にすれば結構な時間を有したが』

アイゼン『これも天界の気質だな。かの者達は人間界の神々に丁寧に呼びかけ、そして団結するよう何度も説得した』

アイゼン『だが当然、それは逆効果だった。神々は逆鱗し、中には魔帝側に付こうと言い出す者まで現れたのだ』


アイゼン『ここまで来れば、基本的に争いを嫌う天界の者達も動かざるを得なかった』


アイゼン『我等と天界は協力し、そして神々を策略に陥れた。これで連中は滅んだのだ。一人残らずな』


神裂「…………全員死んだのですか?」


アイゼン『ああそうだ。己の力に喰われ、そして共食いをしてな』




394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:20:40.97 ID:yeP4fM6o

アイゼン『その亡骸、残った大量の力は一塊にされ、そして固く封印された』

アイゼン『同時に人間界の力場も封印され、これによって人間界生まれの「神」は誕生しなくなった』

神裂「……?なぜそこまでしたんです?死んだのならほっといても消えますし……それにわざわざ『誕生』を遮ってまで……」


アイゼン『死した者がどうなるかは知っているか?』


神裂「………………いえ……確実な事は……」

魔術関係で色々と教わったこともあるが、
それらの信憑性がなくなってしまった以上、最早己の既存の知識に頼ることができない。

現にセフィロトの樹の真実を知り、
今までの認識の多くの部分が崩壊していた。


アイゼン『魂と器が砕けた者の力は、「故郷の力場」へと還る。そこでゆっくり「浄化」、』

アイゼン『つまり個人的感情や記憶・人格が消え、溶け込んでいく』

アイゼン『そして、新たに生まれる者の糧となる』


アイゼン『例えば、炎獄生まれの悪魔は死せば、その亡骸の力は炎獄の力場へと還る』

アイゼン『そして長い時間をかけて溶け込んでいき、その力場から新たな炎獄の悪魔が誕生する』


アイゼン『炎獄生まれ特有の特徴と性質を持ちながらな』


アイゼン『つまりこうも言える』

アイゼン『個人の人格や性格が消えようとも、力に刻み込まれている本能的な部分はしっかりと受け継がれていく、とな』




395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:22:29.52 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ではだ。人間界の神々が一度に死んだ。その莫大な量の力や、「強くなった本質」が力場に還るとする』

アイゼン『どうなる?』

神裂「………………新たな神が誕生しますね。人格や記憶は違えど、その本質を受け継いで」

アイゼン『そうだ。連中の自己勝手な気質はな、全ての人間に共通する本質的な部分だ』


アイゼン『ここまでくればわかるだろう?』


神裂「………………ええ。防ごうとしたんですね?自己勝手な神がまた現れるのを』


アイゼン『そうだ。まあ、かなり強引だったがな、時期が時期だ。手早くこうするしか方法が無かった』

アイゼン『ただまあ、その力場の封印も不完全でな。時たま神の因子を持った人間が出現したが、それは然したる問題でも無い』

アイゼン『コレに関しては天界が処理してきたからな』


神裂「…………」


アイゼン『と、こうしたところで今度はまた別の問題が出てくる』

アイゼン『人間達は「力場」を失ったのだ。その日、人間界は「白紙」となったのだ』

アイゼン『我等や賢者のような他世界に「間借り」している者は問題は無かったが、そういう者は極一部』

アイゼン『大半の人間達が「拠り所」と「還る場所」、そして「存在の基盤」と「理」を喪失した』



アイゼン『全ての「法則」を失った「本物の混沌」。「虚無」だ』



アイゼン『曲がりなりにも魔術に精通しているそなたなら、その恐ろしさはわかるだろう?』


神裂「……………………はい……」


アイゼン『そしてその解決策こそがセフィロトの樹だった』




396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:24:30.07 ID:yeP4fM6o

アイゼン『別の力場、つまり応急処置的に「天界の力場」と接続し、新たな「理」で人間達の存在を保つ。そして人間界を安定させる』

アイゼン『セフィロトの樹が作られた本来の目的はそれだ』

アイゼン『後世の者達から見れば「天界による支配体制」と捉えることもできるが、』

アイゼン『少なくとも当時の我等はこれが人々の為だと思っていた』


神裂「…………では……いつから今のように……?」

神裂「人間の魂を操作し、搾取して吸い取るようになったのですか?』

神裂「確かに当時はそうだったとしても、今や『奴隷』じゃないですか」

神裂「『今の私』が言えた口ではありませんが…………やっている事の本質は正に『虐殺』です」


アイゼン『ふふん、「虐殺」か。その表現を使うか……』


アイゼン『いつから、か。それは我等も確実な事はわからぬ』


アイゼン『愚かな事だが、我等は天界を信じきって全権を委ねてしまっていたからな』


アイゼン『言い訳するつもりは無いが、当時の天界の者達は非の打ち所が無い程に高潔だったのだ』


アイゼン『それにだ。例え疑念を抱けたとしても、状況が状況なだけに荒波を立てる訳にはいかなかった』


アイゼン『魔界の脅威が何よりも大きかったからな』

アイゼン『とにかく手を結んで共闘せざるを得なかった』


アイゼン『異界に「間借り中」の我等には、人々に新たな力場を与える方法も無かったしな』


神裂「…………」




397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:26:14.48 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ただまあ、何が原因で天界の者達が変わってしまったかはわかっている』

神裂「…………何です?」


アイゼン『闇の左目と光の右目、二つ合わせて「世界の目」。これらの存在だ』



アイゼン『天界の者達は、人間界の中にこれらの存在を見つけてしまったのだ』

神裂「……世界の目?」


アイゼン『主神ジュベレウスのrjjalaoa…………うん?……』

アイゼンが何か言おうとしたところで、妙なノイズで言葉が潰れた。

神裂「……?」

アイゼンのその言葉はエノク語ではないのは確かだ。
天の者となっている神裂は、今はエノク語がわかる。

                 コッチ
アイゼン『すまぬな。魔界に慣れすぎてしまったようだ』

アイゼン『魔界のgakillahha語はわからんだろう?』


神裂「……はい」


アイゼン『うん……さて、どうしたものか、当てはまる言葉が中々思い出せん』




398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:27:58.75 ID:yeP4fM6o

アイゼン『世界の目は過去を認識し、観測者となることでkhayhwp…………ぐ……」

神裂「……」

アイゼン『いや、時空をopikqall…………うん……」

神裂「……」

アイゼン『wolkjaqk…………ぎ……』

神裂「……………」


アイゼン『……っ……』


神裂「…………」


アイゼン『―――ンハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』


神裂「……ひっっ!!!??」


アイゼン『…………ええいもう面倒だ。あれだ、要するにだ、それを使えば主神ジュベレウスを復活させる事ができたのだ』


アイゼン『ジュベレウス復活の為のカギだ』


アイゼン『原理は聞くな。とにかくそういうモノだ』

アイゼン『いいか?世界の目の概要に関してはここで終わりだ。わかったか?ハン?』


神裂「……は、はい!」




399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:29:19.88 ID:yeP4fM6o

アイゼン『でな、片方の「闇の左目」は魔女、片方の「光の右目」は賢者が有していた』

アイゼン『いつ、どこからこのジュベレウスの rjjalaoa……ん、いや「世界の目」が人間界に落ちてきたのかは我等も知らん』

アイゼン『魔帝・スパーダ・覇王に敗れた際の激闘の中で零れ落ち、時空を越えて人間界に落下してきたか』

アイゼン『それともジュベレウス自らがpoaalqoの保全を図る為に、この辺境の目立たぬ人間界に隠したか』

アイゼン『どういう経緯かは今や誰もわからぬ。いつの間にかあったのだよ』

アイゼン『500 年前まで、我等はこれがジュベレウスのrjjalaoaとは知らなかった』

アイゼン『真の正体を知らぬまま、強大な力を持つ最上級の秘宝の一つとして所有していたのだよ』


神裂「……」


アイゼン『まあそれでだ。これらの存在を知った天界がどうなったかは想像が付くだろう?』

アイゼン『彼らの行動指針の優先順位が変わったのだ』


アイゼン『最早、人間達の守護は重要な事では無い。その世界の目を手に入れることが最優先事項となった』

神裂「…………」

アイゼン『光の右目はルーベンの賢者、つまり間接的に天界の手中』

アイゼン『残るは魔女の所有する闇の左目、だ』




400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:33:08.51 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そしてかの者達は、セフィロトの樹を利用し、我等の知らぬ所で人間界の支配を着々と強めていった』

アイゼン『世界の目を手に入れるまでは人間界を手放す訳にもいかぬからな』

アイゼン『そして人間界が魔界に滅ぼされる瞬間、どさくさに紛れて奪い取っていくつもりだったのだろう』


アイゼン『その時の為に、更にジュベレウスの復活の時に向けて天界内の強化も始めた』

アイゼン『人間の魂を吸い取ってな』

アイゼン『ジュベレウスの為に強い軍勢を、とな。上手い具合にセフィロトの樹の利用方法を見出したのだよ』


アイゼン『正に一石二鳥。全く、こういうところは抜け目が無いな天界は』


神裂「……あなた方は気付かなかったんですか?」


アイゼン『死した魂が力場に還るのは当然の事。我等は、人間の魂が天界に流れていく事を何も疑問に思っていなかった』

アイゼン『実はその先は力場ではなく、天界の者達の「腹の中」とは知らずにな』


アイゼン『まあ…………そこが我等の落ち度だな』


神裂「…………いえ……仕方ない事だと思います。巧みに隠されて来たのでしょうから……」

神裂「あなた方が気付けなかったのならば、誰にとっても不可能だったでしょうし……」

アイゼン『仕方ない…………か。当事者である我等はそのような軽い言葉では済まんがな』


神裂「い、いえ……あの……すみません」

アイゼン『気にするな。少なくともそなたが謝る道理は無い』

神裂「……」




401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:35:19.01 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そうしてだ。しばしの時の後、遂にかの運命の時がやってきた』

アイゼン『人間界への魔界の侵攻が始まったのだ』


神裂「……」


アイゼン『我等魔女や戦巫女、それらの魔の戦士達はその侵略軍に立ち向かう為に動き』

アイゼン『そして天界も表向きは共闘の為、実はどさくさに紛れて背後から魔女を叩き潰し、闇の左目を奪取する為、』

アイゼン『人間界の直ぐ「外」に軍勢を集め待機した』

アイゼン『ルーベンの賢者は、当時はその真意は知らされてなかっただろうが、天界と共に戦闘態勢を取り待機していた』


神裂「……」


アイゼン『このまま事が進んでいたら、我等は挟み撃ちにされ全滅し、人間界は滅んでいただろうな』


アイゼン『だがこの時、誰しもが予想し得なかったことが起きた』



神裂「……スパーダの反逆ですね?」



アイゼン『そうだ』




402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:37:09.86 ID:yeP4fM6o

アイゼン『突如、スパーダが魔帝に反旗を翻したのだ』

アイゼン『魔帝の右腕・魔帝の友、唯一魔帝と対等に振舞え、魔帝もそれを許していた存在』

アイゼン『魔帝を頂点とする支配体制の中核の一つ』


アイゼン『そんな存在が人間界側に付くなど誰が予想できた?』


アイゼン『我等についている魔界の諸神も、そして天界の者も混乱した』


アイゼン『あまりの事に我等でさえ混乱し、組織としての機能は完全に停止してしまった』


アイゼン『まあ、一番混乱したのは魔帝勢力だろうがな。正にパニックだ』


神裂「……」


アイゼン『誰しもが混乱している中スパーダは魔界にとんぼ返りし、』

アイゼン『瞬く間に魔帝配下の諸神・諸王達を片っ端から切り捨てていった』


アイゼン『そして頭を次々と失っていった魔帝軍は見る間に崩壊していった』




403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:41:30.76 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等魔女の中には瞬間的にならば、火力のみならばスパーダを上回る規模を 発揮しうる事が可能な者もいた』

アイゼン『我もその一人だ』

アイゼン『ちなみにそなたを屠った者もだ』

神裂「…………!」

アイゼン『だがあくまで一瞬だ。時間にすればもって十数秒がいいところだ』

アイゼン『そしてそんな事をすれば力はスッカラカンになり、下手すれば命を落としかねん』


アイゼン『だがスパーダは違う。そんな時間制限などない。スタミナという概念など存在しないに等しい』


アイゼン『彼は正に鬼神の如く、休む暇なく立て続けに魔帝傘下の強者を屠っていった』

アイゼン『人間界の時間にしてたった三日で、魔界の全諸神・諸王の人数を半分にまで減らした程だ』


神裂「…………なっ……!」


アイゼン『「魔界最強の矛」、「主神の首を裂きし刃」、「究極の破壊」』


アイゼン『その名で呼ばれた力が、完全に解き放たれた瞬間だ』


アイゼン『一体どれ程の王や神達が切り捨てられたか、一体どれ程の力が放出されたか』


アイゼン『たった三日間でのこの大記録は、未来永劫破られることは無いだろうな』


アイゼン『「アンブラの魔女」という我等も大概だが、スパーダの血も我等に負けん程に「ふざけておる」存在だな全く』



404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:44:03.76 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そんなこんなでだ。我等がようやく状況を把握し始めた時には、既に魔帝軍は崩壊していた』

アイゼン『一部では、統率が残って進軍を続けていた一群もいたが、全体としては最早壊滅だ』

アイゼン『だが依然としてな、我等は組織としては今だ混乱していて動けなくてな』


アイゼン『それを見かねた者達が、組織を離脱しスパーダと並び「個人的」に戦い始めた』


アイゼン『組織という構造は戦力としては強みだが、やはり即応性が低いのが難点だな』

アイゼン『想定外の事態を前にすると足が止まってしまう』

神裂「…………ええ……わかります」


アイゼン『そういう事でだ。アンブラの魔女という組織自体は動けぬまま、戦いは終わりへと近付いていった』


アイゼン『その締めこそがスパーダと魔帝の決闘だ』

アイゼン『そしてそれこそが最大の難関であった』

アイゼン『スパーダにとってでさえ困難な、だ』

アイゼン『魔帝がどのような力を持っていたかはわかるだろう?』



神裂「ええ……聞いただけですが『創造』だと」




405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:48:19.95 ID:yeP4fM6o
アイゼン『そうだ。それでな。スパーダもその点を懸念していた』

アイゼン『魔帝は創造がある限り「殺しきる」事ができんからな。そう簡単に戦いに決着はつかん』

神裂「…………でも確か……打ち勝って封印に成功したのでは?」


アイゼン『……まあな。スパーダは激戦の末、「一人」で打ち勝った。「封印」は彼一人ではできんかったが』

神裂「?」

アイゼン『そもそもだ。封印するには、相手が止まっていてくれなければならん。そしてそうするには、大きなダメージを与えなければならん』

アイゼン『だがな、魔帝は素早く己を「創り直し」、そしてリセットだ』

アイゼン『封印を施す隙が無かったのだ』

アイゼン『スパーダがいくらダメージを負わせようが、封印できるレベルまで落ち込む前に魔帝は元通りだ』


神裂「…………ですが二ヵ月半前は……」


アイゼン『二ヵ月半前あの「人間の少年」が創造を壊せたのは、』

アイゼン『スパーダの息子達と孫の三人で、力ずくで一気に押し切ってできた隙のおかげだ』


アイゼン『スパーダと並ぶ二人、そしてそこに匹敵しうる一人』

アイゼン『その三人を相手にしたら、さすがに「完全体の創造」もその作業が追いつかんかったのだろう』

アイゼン『だが2000年前の当時、スパーダ一人ではそこまで圧倒して押し切ることはできんかった』

アイゼン『封印する隙を作れなかったのだ』


神裂「……ではどうやって?前から懸念していたのなら何か策があったのですよね?」


アイゼン『そうだ。その問題を解決する為に、「時の腕輪」という魔導器が創られた』



アイゼン『スパーダと「契約」した、とある一人の強大な魔女の手でな』

アイゼン『彼女の全ての力と引き換えにな』




406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:50:47.45 ID:yeP4fM6o

神裂「…………契約……スパーダと……」

アイゼン『彼女は先程言った、組織を離れ個人的に戦い始めた者の一人だ』

アイゼン『後々の長の座が約束されていながらも、彼女は掟を破り離反しスパーダの傍に付いた』

神裂「離反……」

アイゼン『掟は掟だ。例外は決して認められん』

アイゼン『誰しもがその行動を内心で褒め称えながらも、事実上彼女はアンブラへの「反逆者」となった』


神裂「……」


アイゼン『……でな、その彼女が最も得意としていたことはな、「時空魔術」だ。その分野の第一人者だった』

神裂「時空魔術?」

アイゼン『ウィッチタイムは知ってるか?』

神裂「……いえ」


アイゼン『周囲の空間の時間軸を切り離し、擬似的に過減速する技術だ』

アイゼン『ウィケッドウィーブと並ぶ、魔女の秘技の一つだ』

アイゼン『これにより、強大な存在との超高速下の戦闘を可能としている』

アイゼン『諸神・諸王以上と刃を交えるならば、こうでもしないとついて行けんからな』

アイゼン『まあウィケッドウィーブと同じく、境地に達すれば諸王すら圧倒できるが』




407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:53:26.66 ID:yeP4fM6o

神裂「……」

時空魔術。
概念だけは聞いた事があるが、実現していたとは今まで聞いた事が無い。

身体の感応速度を加速させる魔術は神裂も知っているが、それは身体強化の延長線。

時間軸を捻じ曲げるのとは原理が全く違う。


アイゼン『現にそなたも先程、これで圧倒されておったではないか』


神裂「…………あ……」

そう、今思えば、先程の魔女も突如スピードが上がったりしていた。
力を解放し、感応速度が爆発的に高まっていた神裂ですら認識できない程に速く。

アイゼン『この技術はな、魔界の力の特性を再現した物だ』

アイゼン『魔の力というのはな、大きければ大きいほど「界」に負荷をかけ、空間を捻じ曲げていく』

アイゼン『あげくに、周囲の空間の「理」をも変えていく』


アイゼン『力こそが唯一のルール。その前には時間軸ですら捻じ曲げられていく』

アイゼン『境地に達した力は、外界とは隔絶した独自の時間軸を保有する、といったところか』


神裂「…………?」


アイゼン『ん……まあ簡単に要点を言えばだ。力が強い程、そして解放すればするほど、悪魔は動きが加速していく』

アイゼン『まあ、その加減は個人個人の気質や性格、そして戦闘スタイルにかなり影響されるがな』

アイゼン『スパーダの一族のような超肉体派の連中は、それはそれは凄まじい速度になるぞ』




408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:55:18.99 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ん……また話が逸れたな。まあとにかくだ。その分野に精通した魔女がスパーダに付いたのだ』

神裂「…………」

アイゼン『そして、彼女はスパーダの力を元に究極の時空魔術が刻み込まれている魔導器、』


アイゼン『「時の腕輪」を創りだした』


アイゼン『ちなみに彼女は、それと引き換えに魔女としての全ての力を失ったがな』


神裂「で、その『時の腕輪』というのが魔帝を封印する切り札だったのですか?」


アイゼン『まあな。封印できる「役」はやはりスパーダだけだったが。元々彼の力を動力源としているからな』

アイゼン『その莫大な力が必要なのだよ』


アイゼン『本来の性能は「彼の血」にしか引き出せん』


アイゼン『この方法を使えるのはスパーダのみだった』




409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:56:52.14 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ま、使い方はこうだったらしい。まず「時の腕輪」を閻魔刀と結合』

アイゼン『魔剣スパーダでできるところまで魔帝にダメージを負わせ、そこにこの閻魔刀を叩き込む』

アイゼン『そして、「魔帝という空間」に時の腕輪の効力を刻み込んでいく』


アイゼン『それを何度も繰り返す。いくらスパーダの力を受けた時の腕輪でも、魔帝相手では、一発二発では全く効果が出てこないからな』

神裂「魔帝の動きを緩める為にですか?」

アイゼン『いや……少し違うな』

アイゼン『魔帝の戦闘速度自体は変わらん』

神裂「?」



アイゼン『狙いは「創造」だ』


アイゼン『魔帝の力はスパーダと並ぶ。格が同じだ。いくらスパーダでもその力自体の時間軸は支配できん』

アイゼン『だが創造はまた別だ。あれはある意味、「方程式の塊」だからな』

アイゼン『魔帝自身が戦闘に使う力とは分離している、また別の機構だ』

アイゼン『ダメージを負わせれば、「創造」が損壊部分を創り直そうと稼動する』

アイゼン『そこに閻魔刀で空間を裂き、「時の腕輪」の効果を少しずつ刻み込んでいく』


アイゼン『これでどうなっていくかはわかるな』


神裂「…………最終的に『創造の時間軸』、つまり『稼動速度』が極端に落ち込む……という事ですね』




410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 21:59:28.64 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そうだ』

アイゼン『これで結果的に隙が生まれる。封印を施す充分な隙だ』


アイゼン『傷を負った魔帝を、スパーダは余裕を持って封印した』

アイゼン『そして更にスパーダは閻魔刀と時の腕輪を使い、』

アイゼン『魔界の大穴からの「侵食速度」を緩め、己の魂の多くの部分を礎としてその口を封印した』

アイゼン『その後、覇王をも封印』


アイゼン『これでかの大戦は終結した』


アイゼン『人間界にはほとんど被害なく、まさに完全な勝利…………だったはずなのだがな』


神裂「……?」


アイゼン『綺麗さっぱり解決とはいかなかった。色々とまた別の問題が残ってな』




411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:01:27.14 ID:yeP4fM6o

アイゼン『まず、魔帝の存在。生きて存在している以上、復活の時がいつか訪れるのは必然だ』

アイゼン『覇王も、だ』

アイゼン『そして「魔界の口」も問題だった』


神裂「……それは閉ざされたのでは?」


アイゼン『……ああ、閉ざされただけだ。「穴自体」は今も存在している』


アイゼン『そしてその封印も不完全でな』


神裂「―――……!!!つまり、また開く時が来ると?!」


アイゼン『…………まあな。まず、スパーダでさえ、この口を完全に消すことは出来なかった』

アイゼン『魔帝軍と魔帝の戦いで、底なしの力を誇るさすがのスパーダも疲弊してな、封印も不完全』

アイゼン『かといって魂の大部分を使ってしまった為、再封印を施す力も無い』


アイゼン『いつか復活する魔帝を再び封印するのも困難だった』


アイゼン『魔帝は馬鹿では無いからな。同じ手で負けることはまず有り得ん』


アイゼン『時間をかければスパーダの力も癒えただろうが、人間界でそうするには少なくとも数万年はかかる』

アイゼン『魔界ならば治癒速度も速いのだがな』

アイゼン『そして魔界の口の封印は、それよりも速くに崩壊するのは確実だった』


アイゼン『更にだ。実は今な、二ヵ月半前の戦いの負荷でその封印がかなり揺らぎ始めておる』




412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:03:27.71 ID:yeP4fM6o

神裂「!!!!!」


アイゼン『だがまあ、スパーダはこの事態を見越していた』


アイゼン『そして後に、その解決を委ねる事になる。「次の世代」にな』



神裂「…………それって……つまり……!!」


アイゼン『皮肉な事だな。最愛の息子達に困難な宿命を背負わせるとは』



アイゼン『それこそ、血の滲む思いだっただろうなスパーダは』

アイゼン『できれば自分で全てを成し遂げたかったはずだ』

アイゼン『せめて家族達はそういう連鎖の外におきたかったはずだ』


アイゼン『だがそれは許されなかった』


アイゼン『彼はこうせざるを得なかったのだ』


神裂「…………」




413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:05:00.33 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それでだ。スパーダの願いどおり、まず魔帝の件は息子達、そして更に次の世代の手によって解決した』

アイゼン『二ヵ月半前にな』

アイゼン『残るは覇王と魔界の口』

神裂「そ、それは……どうするんですか?」

アイゼン『ん~ハッハァ。心配には及ばん。もう解決の目星は付いておる』


神裂「―――!!!本当ですか!!!!!」


アイゼン『これは我も意外だったな。てっきり先に動くのは「弟」の方だと思っていたのだが』


神裂「……!!!??じゃあ……つまり……!!!」


アイゼン『今、「兄」が主導して動いておる。バージルがな』


神裂「!!!!!!!」


アイゼン『まあ、閻魔刀をバージルに授けた時点でスパーダは予見してたのかもな』


アイゼン『性格もバージルの方が父に似ておるしな』

アイゼン『力を追求してきたが、ある日を境に何かを守る為に戦い始める、という境遇も似ておる』

アイゼン『背景は全く違うが、まるで父の半生をなぞっておるようだ』

アイゼン『逆にダンテの方は母似だな。というか母の「生まれの気質」が見事に受け継がれておる』

アイゼン『まあ、母はあそこまでトンではいなかったが。息子二人とも両極端だな全く』

神裂「……?」




414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:08:15.63 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ま、そういう事でバージルが動いておる。魔界関係の事は心配ない』

アイゼン『困難すぎる事なのは違いないが、スパーダの血は必ずやり遂げる』

神裂「……そう……ですね」



アイゼン『それどころかな。彼は「人間界そのもの」の問題も「己の身と引き換え」に解決しようとしておる」


アイゼン『我等「魔女の義務」をも、あの男は引き受けた』


アイゼン『いやはや、その度量には驚かされるな全く』


神裂「……また別に何か問題が?」


アイゼン『2000年前の大戦の後、魔界に纏わる問題も残ったか、人間界の問題も同じく残ってな』

アイゼン『セフィロトの樹だ。依然、人間達の魂は天界の手の中にあった』

アイゼン『天界は大戦の際に一気に動くつもりだったが、スパーダの介入でその機会が無くなってしまったからな』

アイゼン『そしてスパーダが人間界に残った以上、天界も天界で容易に手が出せなくなってしまった』


神裂「……スパーダはセフィロトの樹について何も言わなかったのですか?」


アイゼン『ん?ああ、まあ彼も最初は驚いていたな。だがな、我等と同じく彼も天界の真意までは気付けなかった』

アイゼン『我等からすれば、力場を失った一般の人間達を天界は懐で守ってくれている、といった認識だったからな』


神裂「…………」



アイゼン『そういうことでスパーダも容認したのだ。セフィロトの樹の存続をな』




415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:10:58.05 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それにな、当時はセフィロトの樹が起動してから既に二万年以上経っていてな』

アイゼン『人間達はその中で既に安定しつつあったのだ』

アイゼン『「この人間達」は確かに弱い。寿命に縛られ容易に死ぬ』


アイゼン『だがな…………その分、極端な「変動」はおきなかった』

神裂「……」


アイゼン『全体的に穏やかだったのだよ』

アイゼン『まあ、人間同士の戦いはいつの世もあったが、』

アイゼン『それでも古き神々が君臨していた時代よりは遥かに秩序が保たれていた』

アイゼン『人間達は次々と。我等からすれば、かなり早いサイクルで死に、そして世代を連ねていった』

アイゼン『そしてその中で紡がれる無数の物語』

アイゼン『短命だからこそ、一瞬に全てをかけて燃え上がる美しい灯火』


アイゼン『短命だからこそ、限りある寿命だからこそ、彼らは勇気と誇りを持ちその一瞬に全てをかけていく』



アイゼン『敵意も。愛も。喜びも。悲しみも。短命な分、全てが濃密であり、まるで芸術品だ』



神裂「……………………………………………………」




416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:12:23.70 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等もな、そしてスパーダも。この「人間界の姿」に愛着をもってしまったのだよ』



アイゼン『そもそも、スパーダは「この人間界の姿」を見て、「この人間界の為」に立ち上がったのだ』


アイゼン『彼が心奪われ、そして愛してしまったのは「この状態」の人間界なのだからな』



アイゼン『更にそれ以前に、「この人間界」の体制を壊す訳にはいかない』

アイゼン『セフィロトの樹をいきなり全て取っ払ってしまえば、大半の者達は「力場」を失う』

アイゼン『それは正に最悪だ。滅ぶに等しい事だ』


神裂「…………」


アイゼン『だから誰も変化を望まなかったのだよ』

アイゼン『我等はこの人間界を守る為、そして愛してしまった為』

アイゼン『そして天界はいずれ闇の左目を手に入れる為、そして力を拡大させる為にな』

アイゼン『これまた皮肉な事にな、双方の望みが一致した訳だ』




417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:13:19.54 ID:yeP4fM6o

アイゼン『だが人間界には天界とルーベンの賢者、魔界の諸神に支援されている我等、そしてスパーダ』

アイゼン『この三勢力が半永久的に留まる事になる』

アイゼン『それはそれで、また様々な問題の火種となり得る。そもそも天界と魔界は完全には相容れないからな』


アイゼン『そこでそれぞれの権利の領分を取り決め、誓いを立てた』


アイゼン『天界は人間達のこの世界を管理させ安定させる事。大きく動けるのは人間界の為である事のみ』

アイゼン『我等魔女は天界とルーベンの賢者を監視』

アイゼン『ルーベンの賢者は我等魔女を監視』

アイゼン『スパーダの役目は、魔界からの脅威を退ける事とそれぞれの力関係を監視する事』



アイゼン『そして人間界の保全が最優先になるように行動する事、だ』



アイゼン『こうして相互監視、それぞれの領分に取り入らないよう、バランスが保たれた』


アイゼン『今から約520年前まではな』


神裂「…………確か、アンブラが滅亡する頃ですね?」



アイゼン『…………正しくな。このバランスが崩壊したのだ』


アイゼン『天界の策略でな』




418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:14:29.15 ID:yeP4fM6o

神裂「何があったんです?」

アイゼン『色々と複雑でな……』

アイゼン『まず当時のルーベンの長、「バルドル」。光の右目を所有していた男だ』


アイゼン『この男は天界と深く繋がっていてな。彼もまた、天界の意志に沿いアンブラの魔女から闇の左目を奪取しようとしていたのだ』


アイゼン『そして奴は、アンブラを陥れた』


アイゼン『奴の光の右目は、既に天界の協力で本来の姿で覚醒していてな、その目を使ってlkoiagffda、いや……』

アイゼン『うん…………「観測者として因果律を見定めた」…………これは何か違うな』


神裂「……あの、正確でなくとも大体で良いですよ?』


アイゼン『……………まああれだ。かなり簡潔に言うと未来を見たようなものだ』


アイゼン『とにかくだ。奴は「後に闇の左目が継承されるであろう者」を特定し、その者が「生まれる前」に手を加えたのだ』


アイゼン『まあ、闇の左目は特殊な体質と血筋の者しか継承できんからな。そこまで大変な作業ではなかっただろう』


アイゼン『そしてバルドルは「その者を生む予定」の母を誑かし、そして子を儲け、「後の闇の目の継承者」を「自分の娘」としたのだ』

アイゼン『いわば未来を変えたのだな』

アイゼン『その娘は順当に成長していれば、若き戦士として後にアンブラに君臨し、長の座さえ狙えた者となっていただろう』

アイゼン『アンブラの核の一つとなり、そして民を守る者となっていたはずだろう』


アイゼン『だが彼女の未来は書き換えられた』


アイゼン『賢者一族と魔女一族の禁忌の子』


アイゼン『アンブラの運命を変えた子となった』




419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:15:51.02 ID:yeP4fM6o

神裂「…………」

アイゼン『互いに距離を置き、お互いに干渉せずにバランスを保っていた我等と賢者』

アイゼン『この二者間が繋がり、子を儲けたとなっては大問題だ』

アイゼン『更にだ。その子は闇の左目を継承してきていた血筋』


アイゼン『この事で一気に緊張が増した』


アイゼン『これは一部の上位の者達にしか知らされていなかったが、我等はその子の父がバルドルである事を突き止めた』

アイゼン『そして光の右目も覚醒している事をもな』

アイゼン『当時の我等は、この目がジュベレウス復活のカギである事は知らなかったが、それでも相手の狙いが闇の目である事はわかる』


アイゼン『「闇の目を狙った戦争行為」。我等はそう捉えた』


アイゼン『賢者も賢者で、裏を知っているバルドルを省き、上層部は魔女が光の目を狙って動いたと捉えたようだ』

アイゼン『バルドルがそう煽ったんだろうな。戦争を起こす為に』


神裂「…………」


アイゼン『そして魔女と賢者は衝突し、100年に渡る戦いの後、賢者が絶滅するという形で決着が着いた』



アイゼン『魔女が勝利したのだ』


アイゼン『だがな。それがまた問題となった』




420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:17:54.49 ID:yeP4fM6o

アイゼン『どちらが先を手に出したか、どちらに非があったかなどは最早どうでも良かった』


アイゼン『問題はパワーバランス』

アイゼン『ルーベンの賢者の絶滅。それにより大きく傾いた人間界のパワーバランスだ』

アイゼン『更に、その戦争から消すことの出来ない巨大な火種が誕生した』


アイゼン『賢者と天界は繋がっている』

アイゼン『当然、我等魔女は天界に対しても疑念を抱き、そして敵意を抱く』

アイゼン『魔女の怒りは爆発したのだ。こちらは裏切られたと認識しているのだからな』

アイゼン『あちこちで天使と魔女の戦いが散発的に起こり、更に我等は他の人間の天界勢力、』

アイゼン『十字教徒達にも敵意を向けるようになった』


神裂「…………!!!!」


アイゼン『当然、天界はそれ相応の行動をとる』



アイゼン『その結果がこのザマよ』



アイゼン『そなたが知っている伝説通りの「結末」だ』


神裂「ちょ、ちょっと待ってください!スパーダは結局介入しなかったのですか?!」




421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:21:27.33 ID:yeP4fM6o

アイゼン『介入できなかったからな。状況的に』

アイゼン『まず魔女と賢者、どちらに非があるかは、第三者のスパーダからは確かめようが無い』

アイゼン『というかだ、彼が話を聞く前にに戦火が開いたからな』

アイゼン『そしてその後の天界の総攻撃による「魔女狩り」』

アイゼン『これも彼は動けなかった』


アイゼン『彼の最も重要な理念は「人間界の為」』


神裂「…………」


アイゼン『では、その天界が動く直前の状況を見てみると?』

神裂「…………そ、それは……魔女の方が……」


アイゼン『そうだ。我等こそが人間界への脅威となりつつあった』


アイゼン『大勢の一般の人間達へ敵意を向け、そしてあちらこちらで無差別に天使を狩る』


アイゼン『スパーダにとって、双方が掲げる「正義」のどちらが正しいかは二の次だった』



アイゼン『より大勢の命が救われる方を選ぶしかなかった』



アイゼン『だからこそ、スパーダは天界の動きを黙認した』




422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:23:05.00 ID:yeP4fM6o

アイゼン『彼もその時、これは天界が太古から張り巡らせてきた罠だと感付いたかもしれない』

アイゼン『だがな、そこに気付いたとしても当時の彼にできる事は無かった』

アイゼン『状況的に見て人間達は人質。その魂は天界に握られていた』

アイゼン『閻魔刀を使えば、セフィロトの樹を切断する事は出来たかも知れぬ』

アイゼン『だがな、それには莫大な力が必要だ。それこそ全力の一振りを必要とする』

アイゼン『当然人間界内でそんな力を行使すれば、被害は莫大な規模になる』

アイゼン『最悪、人間界が崩壊する恐れがある』


アイゼン『これも天界の「保険」だろうな、セフィロトの樹の強度は人間界の器の強度を遥かに上回っていたのだ』


アイゼン『そして天界の軍勢と正面から戦うのも被害が伴う』

アイゼン『そもそもどうにかして天界を退けたとしても、あるいはセフィロトの樹を破壊できたとしても、』

アイゼン『それと引き換えに「この人間の世界」は理を失い崩壊する』



アイゼン『これは見方を変えれば、スパーダの生涯でたった一度の「敗北」と言えるだろうな』


神裂「…………」


アイゼン『彼は戦わずして、戦うことすら出来ずに「負けた」』



神裂「…………」


アイゼン『そしてスパーダは我等を見捨てた。見殺しにした』


アイゼン『より大勢の人間の世界と命を守る為にな』




423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:24:46.45 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それにだ。スパーダが天界を当初信頼してしまった理由は、』


アイゼン『彼が直に会った者が十字教の神であった事が原因でもある』


神裂「…………?」

アイゼン『四元徳率いるジュベレウス派、十字教はその下部派閥だ』

アイゼン『この十字教の者はな、どちらかというと人間を慕っていてな』

アイゼン『できるだけ人間達を守りたがっていた連中だ』

アイゼン『天界内の穏健派とでも言うか』

神裂「……」

アイゼン『ジュベレウス派はそこを上手く利用したのだろう。人間界の実質的管理をこの十字教に任せ、』

アイゼン『2000年前の大戦後の誓いの場でも、スパーダと十字教の神を面会させた』

アイゼン『そしてスパーダは「彼」を見て信頼してしまったのだ』

アイゼン『彼には人間に対する「本物の愛」もあったからな』


神裂「……そう……なんですか……」


アイゼン『……少しほっとしたか?そなたの慕う神が穏健派で』

神裂「あ、いえ…………」


アイゼン『これは忘れるな。天界は天界。どれだけ穏健派だろうと、セフィロトの樹を創った張本人の一人だからな』


神裂「…………はい」




425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:25:48.46 ID:yeP4fM6o

神裂「…………ところで……あなた方は憎んでいますか?スパーダを?」


アイゼン『ん?いや。我等は全く憎んでおらん』

アイゼン『確かに哀しい結末だが、我がスパーダと同じ立場なら確実に同じ選択をとっていた』


アイゼン『誰も彼を責める事が出来ん』


アイゼン『我等が彼を責める事は絶対に許されん』


アイゼン『そして、この件について彼を責める者は我等は絶対に許さぬ』


アイゼン『絶対にだ』


アイゼン『これは、天界の目的を知りえる機会があったのにも関らず、見過ごしてきた我等の自己責任だ』

アイゼン『スパーダにセフィロトの樹の事を伝え、心配ないと教えたのも我等だ』



アイゼン『全てが我等アンブラの魔女の責任だ』



神裂「…………」




426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:28:14.61 ID:yeP4fM6o

アイゼン『…………まあ、そんなこんなでな』

アイゼン『この問題は我等がケリをつけねばならん事』

アイゼン『セフィロトの樹も、今の状況も、我等が創ったようなモノ』


アイゼン『我等が清算するべきなのだ』


アイゼン『これが今の「魔女の義務」だ』



神裂「……それで、バージルさんはそれをも引き受けたのですか?」


アイゼン『まあな。彼は彼で、父の行動に色々責任を感じておるらしい』

アイゼン『彼が思い悩む事ではないのだがな。まあ、彼が共闘してくれるのならば百人力』

アイゼン『拒む理由も余裕も無い』



アイゼン『ようやく本格的に動けるのだ』



アイゼン『ただ、全てを彼に押し付ける訳では無い』


アイゼン『我が子孫の二名にも身を粉にして動いて貰っておるし、』


アイゼン『我も可能な限りサポートする』




427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:30:15.11 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そしてそれが今だ』


アイゼン『そなたの先程の戦いと死も、この始まりの一部に過ぎん』


神裂「じゃあ私が戦った魔女は……」


アイゼン『彼女もバージルと共闘している』


アイゼン『もう一方は会っておらんだろうが、二人の魔女とバージルは共に動いておる』

アイゼン『この二人共、我に並ぶ、いや我以上のアンブラ史上きっての強者だ』

アイゼン『決してバージルには引けをとらん』


神裂「…………」


アイゼン『こう思えば、少しは誇りになるのではないか?』

アイゼン『バージルと同等の者に一切り加えることができた と』


神裂「……ま、まあ……」


アイゼン『ま、本気の本気、全力でやっていたとしたら掠りもせんだろうがな。そなたは一撃で即死だ』


神裂「…………………………… でしょうね(ここで上げて落とすんですか)」




428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:32:15.76 ID:yeP4fM6o

神裂「……あの、清算……ってつまりすべてを解決することですよね?」


アイゼン『そうだ』

神裂「スパーダでさえ動けなかった問題を解決できるんですか?」

アイゼン『あの時と今は状況が違っていてな』

アイゼン『まずバージルは全盛期、つまり一連の大戦で疲弊する前のスパーダと同等の力を有しておる』

アイゼン『傷の癒えていなかったスパーダには出来ずとも、今のバージルにはできうる事がある』


アイゼン『そして主神ジュベレウスの死。これにより、天界内も混乱がおき始めている』


神裂「ジュベレウスって……さっき言ってた……」

アイゼン『そうだ。つい数年前、生き残っていたバルドルと天界は光の右目と闇の左目の両方を手に入れてな』

アイゼン『ジュベレウスを復活させた』

アイゼン『だがその直後に、そなたを屠った者が打ち倒した』

神裂「!!!!!」


アイゼン『これにより、天界は人間界を手中に収めておく最大の目的を失い、そして天界内でも火種が生まれ始めた』

アイゼン『ジュベレウスの為に今まで耐え忍んできたのだ。その最大目的が消失した今、』

アイゼン『ジュベレウス派の四元徳を筆頭とした、天界の体制に揺らぎが生じ始めておる』


神裂「……」


アイゼン『そして魔帝の脅威も失せ、覇王の件の解決も秒読み段階』


アイゼン『正に好機。今こそ「時代の変わり目」だ』



アイゼン『今こそ動く時だ』




429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:33:54.66 ID:yeP4fM6o

神裂「…………では具体的に何を?」


アイゼン『まあ、「まず」はセフィロトの樹を破壊する。いや「一発で切断」する、か』

アイゼン『覇王の排除・魔界の口の件を平行しつつ―――』



アイゼン『―――そして「利用」しつつ、な』



神裂「―――破壊って……!!!!??」


セフィロトの樹の破壊。それが状況的にできないからこそ、スパーダは動けなかったのではないのか?
先の話の通りだと、それは人間にとって最悪の結末を引き寄せるのではないのか?

さっきまでとは食い違う、矛盾している言葉に神裂は興奮して立ち上がろうとした。

だがそんな彼女を、アイゼンは軽く左手を挙げて制止し。



アイゼン『ただ切る訳がないだろうが』



アイゼン『だから「まず」と言っておるだろうが』



アイゼン『全ての問題を解決する算段は既に出来ておる』




430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:37:12.26 ID:yeP4fM6o

アイゼン『魔界の口や覇王の件はもちろん』


アイゼン『セフィロトの樹の破壊と、それに纏わる被害の件、』

アイゼン『それと力場の件も全て入念に練っておる』

アイゼン『「全ての問題」を今の一度で解決させる』



神裂「…………で、ですが……さすがに一度にそんな……!!!!」


アイゼン『いいか、これだけは我が魂に賭けてやる』


アイゼン『「闇の目を覚醒させた魔女」と「列長を越えた魔女」、』


アイゼン『そして完全なる成長を遂げた、「全盛期のスパーダの血」に不可能は無い』



アイゼン『それぞれが己の力を信じ、道を歩み通せば必ず成就する』




アイゼン『必ずな』




神裂「………………ッ!!!!」




431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:38:22.45 ID:yeP4fM6o

アイゼン『………………と、はいったもののだ』

と、アイゼンは瞳を光らせキメた次の瞬間、今度は力が抜けたようにヘラヘラ笑いながら、
息を吐き背もたれにだらしなくよりかかった。


アイゼン『重要な「パーツ」、「駒」が依然足らなくてな』

アイゼン『ハッハー、まだ準備が整っておらんのだなこれが』

アイゼン『このままでは計画がオジャンだ』


神裂「――― じゃ、じゃあダメじゃないですか!!!!!???」


その呆れ笑いのように口の端を上げているアイゼンに対し、
声を張り上げて立ち上がる神裂。


アイゼン『ハァン待て待て。あるにはある。どの道手に入れる』

アイゼン『だがな、その「候補」がいくつかあってな』



アイゼン『どれを選ぶか、迷っておるのだ』




432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:40:07.86 ID:yeP4fM6o

アイゼン『まあ、第一候補は「今」手中に収めているのだがな』

興奮する神裂とは対象的に、
アイゼンは落ち着いたままニヤニヤ笑い、顎の下を摩りながら彼女をジロジロと眺め始めた。

アイゼン『これは相手側の意志も関係しておってな』

アイゼン『相手の答えを聞き、その心を確かねばならん』


神裂「で、では!!!さっさと決めてください!!!!!もう計画は始まってるんですよね!!!!」


神裂「なんでそう悠長に構えているんですか!!!!!!!???」

アイゼン『なぜそなたがそんなに興奮する?』




神裂「――――――な、なな、―――」




神裂「――――なぜって当然だろうが!!!!!!!!!皆の命がかかってんだっつうううんだよ!!!!」




アイゼン『ほぉう?そなたは「天の者」。立場的には我等の敵だぞ?』




433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:42:48.06 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等の計画に不備があるのを喜ぶべきでは無いか?」



神裂「―――ふ、ふざけんじゃねーぞアバズレが!!!!!!!!!!違う!!!!!!!!!!!」



アイゼン『何がどう違う?言って見ろ。「天使」よ―――』



アイゼン『―――天の手先よ』


今にも跳びかかってきそうなくらい興奮している神裂に対し、
相変わらず平然と言葉を返すアイゼン。


神裂「私は……!!!!!!!私は!!!!!!!!」



神裂「確かに身は天の者!!!!!!」



神裂「だけど―――!!!!!!!!!」



                  
神裂「―――――――『私自身』は『人間』だッッッッ――――――――!!!!!!!!!!!!!!」




神裂「――――――舐めてんじゃねーぞコンチクショォォオォォォォォォオ!!!!!!!!!!」




434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:44:32.50 ID:yeP4fM6o

その激昂した神裂の言葉。

アイゼンはそれを聞き、小さく笑った。

そして一回だけ手を叩き。


アイゼン『ハァ~ハン。これで決まったな』



神裂「…………………………………………………………ハァ??」



アイゼン『合格だ』


アイゼン『神裂火織』




アイゼン『我等はそなたに決めた』




神裂「――――――……………??????」




435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:46:13.37 ID:yeP4fM6o

突如放たれたアイゼンの言葉。

神裂は口をぽっかりと開け、呆然として立ち尽くしていた。
何を言われたのか、そしてその意味は。

それらを理解するまでにいくらか時間が必要だった。

そんな彼女に対し、アイゼンは淡々と言葉を続けた・


アイゼン『いいか、よく聞け。裁きを下す』


アイゼン『そなたに科せられる「刑」は―――』



アイゼン『我等の「駒」となり、我等と「共に」戦い―――』




アイゼン『―――人間達を救う為に死力を尽くす事だ』




アイゼン『―――この戦いに身を捧げろ』




神裂「―――」


そして完全に思考が停止する。

一体この魔女は何を言っているのか。




437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:49:12.17 ID:yeP4fM6o

固まって15秒後。


神裂「………………………………い、いいんですか……?……『私』で……………?」


それが、この判決を聞いた彼女の第一声だった。
停止しそうな思考の中、彼女がどうにかして吐き出した一言だ。

『いいんですか?私で?』


これは彼女の今の純粋な気持ちだったのだ。


知らずとはいえ、天界の手足となった身。
その罪は重い。


そんな自分なんかがバージル達と並び。

そして人間を救う為の大仕事を担うなど。


アイゼン『そう思えるからこそ、そなたが良いのだ』


そんな神裂の心の中を察したようなアイゼンの言葉。



アイゼン『答えは聞かぬ。そなたのことだ。聞いたところでそれは「無駄」な事だ』



神裂「………………………………………………………あ、ありがとうございます…………」

そして神裂はその場で、アイゼンに深く頭を下げた。

瞳から大粒の雫を落としながら。




438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:50:59.52 ID:yeP4fM6o

それは嬉し泣きだった。

己の「存在の過ち」を償う機会に対しての。


この突如舞い降りてきた、二度目のチャンスに対しての。


『本当の意味』で人間達の為、そして友の為に戦える機会を与えられて。

彼女はその場に泣き崩れた。
両手で目を擦り、言葉にならない声を上げながら。


激昂していた分その興奮の反動で、彼女の心が一気に溶け落ちていった。


数十秒後、黙って見ていたアイゼンは椅子から立ち上がり進むと、
そんな神裂の前に屈み、彼女の顎を右手で軽く上げた。

そして神裂の鼻先と仮面の先端が触れそうな距離から、彼女の顔を覗き込み。


アイゼン『神裂火織』


神裂「うぅ゛…………はぃ゛………」


アイゼン『立て』


神裂「―――………………」




439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:53:08.36 ID:yeP4fM6o

アイゼンの言葉に促され、そして顎に優しく添えられている手に従い、
神裂は依然泣きながらゆっくりと立ち上がった。

アイゼン『さて、決まったならさっさと事を進めようか』

アイゼン『具体的な計画内容は後だ。まずはそなたの身を「清め」ばならん』


アイゼン『「絶大なる魔」でな』


アイゼンは手を神裂の顎から頬へと優しく伝わせ。
もう片方の手で己のマントの端を掴み、一度大きく広げて仰がせた。


アイゼン『少し痛むが、しばしの辛抱だ』


神裂「………………?」


その瞬間。

仰がれたマントの向こうから姿を現す。



バージル。



神裂「!!!!!!!!」

そして次の瞬間。


神裂「―――――――――ぐがァッッッッ!!!!!!!!」


バージルは左手に持っていた閻魔刀、その鞘の先で彼女の首へと強烈な突きを放った。




440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:54:28.10 ID:yeP4fM6o

一気に後方に吹っ飛ばされ、柱列の一本に叩きつけられる神裂。
背中から突き出ていた七天七刀の刃が柱に突き刺さり、磔状態となった。


神裂「が…………ぁ……!!??」

両手で喉を押さえ、もがく神裂。
そんな彼女の元へとバージルは進み、そして彼女の胸から突き出ている七天七刀の柄を握った。


その瞬間。


神裂「―――!!!!!!!!!!」


七天七刀から流れ込んでくる思念。


神裂はこの瞬間に知った。
七天七刀が魔剣化したのはバージルによってだと。


神裂「――――――…………あ、あなたが―――」



バージル「黙れ」




441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:56:15.84 ID:yeP4fM6o

神裂「―――」

そしてこれから何が起こるかも。
己がどうなるかも、この七天七刀を介して彼女は理解した。


――― 己は悪魔に完全転生する、と。


バージルの力によって。

バージルに影響された、バージルの系統の悪魔へと。


バージル、そして閻魔刀の『子』である七天七刀を核とした悪魔へと。


神裂にとって、バージルは『主』となる。
神裂にとって、バージルは『師』となる。
神裂にとって、バージルは唯一の『神』となる。



バージル「―――『名』を『与える』。『名』を『返す』」


凍て付くような無表情、鋭い突き刺さるような眼差しのまま、
『主』は『子』に言霊を刻み込む。




バージル「『神裂火織』」





バージル「―――『俺』の為に戦え」





神裂「―――」




442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:57:37.26 ID:yeP4fM6o

バージルの思念、その信念の強さを感じ一瞬にして彼女は思った。

この男なら確実にやり遂げる。

この男についていこうと。

この男が望む『世界』の礎となろうと。

そして神裂は即答する。



神裂「――――――はい。あなたの為に ―――」



その神裂の答えを聞き、バージルは七天七刀を一気に引き抜いた。
次の瞬間、神裂体から溢れる青い光。


そして響く咆哮。


そして響く雄叫び。



それは『産声』。


二度目の『チャンス』と。


『真の戦い』を始めるべく生れ落ちた―――。




―――魔剣士 『神裂火織』の。




―――




443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:59:10.76 ID:yeP4fM6o
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。




444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/31(火) 22:59:40.47 ID:VYSEecQo
これで大先輩の仲間入りか、しかしパワーバランスの調整とはいえみんな悪魔になってくな



446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/31(火) 23:05:37.49 ID:mkqxeHs0
読み応えガッツリでした。乙!!



448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/31(火) 23:31:22.01 ID:2duu47Yo
まさかバージルさんじきじきに魔人式成人式をされるとはなwwwwww



455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/01(水) 17:10:05.75 ID:bhnlBmA0
ねーちんが永遠の18歳になったのかwwwwwwwwww



457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 18:32:43.26 ID:V0ZVFKso
永遠の神裂火織さんじゅうはっさい・・・ゴクリ・・・



458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/01(水) 18:55:35.06 ID:YLlgPMDO
>>457
刀持ったポニーテールのババァがそっちに行ったぞォ




467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:38:39.76 ID:Y9sHpogo
―――

翌日。

日本標準時間で午前3時頃。

この時、人間世界の大局が大きく変わった。

ローマ正教は、ヴァチカンの破壊は学園都市とイギリスの共謀によるテロと発表。
これにより、『聖地』を破壊されたローマ正教諸国は激怒する。
一気にイギリスと学園都市に対する敵意が爆発した。

それに対し、ほぼ同時刻にイギリスはその『テロ』の関与を完全否定。
全ては学園都市の単独行動と発表。

更に、バッキンガム宮殿がローマ正教によるいわれの無い『報復テロ攻撃』を受け、
女王エリザードが重傷を負ったと発表。


これによって全イギリス中が逆鱗。


逆に学園都市は『テロ』はイギリス単独によるもの、
そしてこちらもいわれの無い言いがかりで、ローマ正教の『報復テロ攻撃』を受けたと発表。


ロシア、ロシア成教は当然の如くローマ正教を最大限支持する事を表明。

更に国内の学園都市系列企業が、国家乗っ取りを目論んだと発表。




468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:41:53.68 ID:Y9sHpogo

イスラエルを省く中東諸国と中国・インドは中立を表明。


北欧諸国はプロテスタント色が強いものの、カトリックの影響も強く正に板ばさみ。

魔術的方面では北欧神話系統が最大派閥である事もあり、どちらに付くかをはっきりと決めるとのは困難を極めた。
そこでドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド等はとりあえず中立的立場を表明。


十字教徒が中枢を占めるアメリカ、カナダ、オーストラリア等も混乱したが、
魔術サイドが直接国家の根幹に関ってはいない、ある意味『科学サイド的』な政治体制である為、
『物理的な利益』をも鑑みてイギリスよりの意志を表明。

アメリカ等にとって、ローマ正教諸国よりも
兄弟・家族国家であるイギリスの方が信頼できるのは当然だ。


イギリスが無くなれば事実上、大西洋の覇権の半分がアメリカの手の中から離れる事になる。


更にアメリカは、学園都市(というよりはその母体の日本)を支持する意志も示した。

これはロシアによる太平洋進出を懸念して、
更に不気味に沈黙し、虎視眈々と漁夫の利を狙っているであろう中国を牽制する目的もある。


十字教内の危機的な対立はアメリカにとっても大問題だが、

それ以上に物理的な『太平洋と大西洋の覇権』維持が、
この超大国の最優先事項となったのだ。




469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:43:10.46 ID:Y9sHpogo
そして当の日本は確たる意志を表明せず、いわば中立的立ち位置を望んだが。

学園都市がある以上、そして様々な恩恵を受け深く繋がっている以上、

更に何としてでも太平洋覇権を維持しようとする、形振り構わないアメリカの意志が関ってきたことにより、
第三者的位置に付くのは当然不可能だった。

少なくとも、学園都市・日本をセットとして敵意を向けているロシアに対して、断固たる対応を迫られた。


こうしてそれぞれの勢力の、『表向き』の見解が出揃った。

どの勢力の言葉も真っ向から食い違っていた。
どれが正しいのか、それが真実なのか、どれが嘘なのか。

一般の人々には知る由がなかった。

だが、極一部の人々は何となく気付いていた。


この『世界』のとある『違和感』に。


何かがおかしいのだ。
何かが狂ってるのだ。
何かが病んでいるのだ。


中立を表明した国はそれなりにあるものの、なぜか開戦を防ごうという意志を表明する国は一つも無かったのである。
どの国も、戦争勃発自体を拒否しようという姿勢を見せなかったのだ。

各国の配置は、なぜか上手い具合に『二分』。
そして各国の声明はどれも対立を仰ぐようなものばかり。

ローマ正教諸国もロシアも、アメリカ・イギリス等のアングロ=サクソン諸国も、
皆あまりにも挑発的・攻撃的すぎる声明を出している。

中立を表明した国も、戦争自体には否定的ではない。
いずれ参戦していくのが目に見えている。


これでは、まるで『世界そのもの』が大戦を『やりたがっている』ような―――。


皆が口裏合わせて、世界大戦が泥沼と化すように動いているような―――。




470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:44:44.88 ID:Y9sHpogo

しかし、極一部の冴えてる者でも気付けるのはここまで。

ここから先は『物語』の『中心人物達』しか知る事が出来ない。


この『違和感』と『狂気』の正体は深い深い影の底。


その闇の底からの『意志』で、世界各国は踊らされているのだ。
どの国も、人知を超えた巨大すぎる『うねり』に流されているのだ。


フィアンマに影から扇動されている十字教も然り。
ウロボロス社と軍需産業で深く繋がっているせいで、踊らされるアングロ=サクソン諸国も然り。


当の国々はそんな事には全く気付いていない。
己の行動は、全て己達の意志だと認識している。


だが違う。


全て『茶番』だ。

より大きな火種が形成されるよう、
より大勢の命が失われ、大きな戦火が起きるように巧妙に誘導されていただけ。


彼らは『道化』。

彼らは『生贄』なのだ。




471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:45:53.20 ID:Y9sHpogo

これらは全て『表向き』に過ぎない。

これらの『虚構』の下にある、『巨大な爆弾』。


これこそが本物の『危機』。


第三次世界大戦など、ただの『小さな火花』だ。


魔界と天界の全面衝突という巨大な爆弾を点火する為の。

更に、その破滅的な衝突でさえ、極一部の者が超越した存在になろうと企んだ『隠れ蓑』。



ここからとある『変革』が始まる。

そしてこの争乱が終わった時。

そこからは誰にとっても『新たな時代』となる。

一般の人々が気付かないような『些細な変化のみ』で留まるか。
それとも全人類が認識する劇的な変化か。

それは想像を絶する苦難の時代か、逆に希望に溢れた時代か。


それとも『終末の最期の時代』か。


『誰の目的』が遂げられるかで、未来は千差万別。

変化の度合いも様々。




472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:47:43.72 ID:Y9sHpogo

この『うねり』の主人公・中心人物達。

『荒波』の中、懸命にもがきながらも、望む未来を手に入れようとする『少年少女達』。

『全て』を統べる力を手に入れようと、野心に溢れる『挑戦者達』。

そして己自身の強大な力と宿命に縛られつつも、その義務を全うしようとする『怪物達』。


皆が皆、己の信念を貫くべく突き進む。


激突し、絡み合う信念と運命。

その紡がれる物語は今、ついに佳境を迎える。


ついに始まる。


ここがこの物語の『終わりの始まり』。


姿を現す『戦いの終点』。



その『ゲート』の向こうにあるのは『清算』と『成就』―――。


―――そして『終末』。


どれが誰の手に渡るか。


誰がどれを掴み取るのか―――。


―――




473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:48:18.56 ID:Y9sHpogo
―――

午前9時半。

学園都市、第一学区のとあるビル5階の薄暗い一室。

会議室として使われていたのか、部屋の壁の一面には巨大なスクリーン。
そのスタンバイ中の白い光が薄暗い室内を淡く照らしていた。

部屋の中央には、金属製の無骨な大きな机。
20 人くらいが一同に会することが出来るくらいの大きさだ。

そんな机の周囲に、ぽつぽつと互いに距離を開けながら座っている三人の少年少女。

一方通行、結標、土御門。
三人の前の机の上には、それぞれ分厚い冊子とPDAが無造作に置かれていた。

部屋の片隅には医療用のベッドが置かれており、その上には包帯とギプスに覆われた褐色の肌の少年が横たわっていた。


『海原光輝』、いや。


化けの皮が剥げたアステカの魔術師、『エツァリ』だ。


この部屋の中にいるのは彼らだけではない。

壁際に並んだ椅子に、スーツを着た男や制服のままの高校生程の女、常盤台の制服を着た見るからに高慢そうな少女、
白衣を着た初老の男など、計10人ほどがそれぞれ足を組んだりしながら座っていた。

どれもこれも、暗部や学園都市の根幹に関っている者達だ。




474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:49:47.30 ID:Y9sHpogo

この集まりの目的は?

それは当然、デュマーリ島の件に関する具体的な話をする為だ。

この後、11時に二階の大きなフロアにて、集められた能力者達への説明がある。
その前に幹部級の見解を一致させておく必要があるのだ。

そして直接的には関らない一方通行やエツァリも、立場的には知っておく必要がある。

彼らグループを核とした反逆派は完全にアレイスター側に組した訳ではなく、
一応今も厳密に言えば敵対関係なのだ。

土御門・結標・麦野等の中核である幹部の身を出す以上、
残る二人も同じように状況を把握しておかねばならない。

そうして集ったものの。


結標「……遅いわね」


一方「チッ……」


肝心の麦野がまだ来ていないのである。
そもそも9時集合だったはず。

彼女はもう30分も遅刻していた。




475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:51:06.22 ID:Y9sHpogo

一方「カッ!……あのクソアマ何してやがンだァ?」

苛立ちを隠せず、義手の指先で机をガリガリと削る一方通行。

彼自身は軽く指先で叩いている感覚なのだろうが、いかんせん力加減難しく、
更に不機嫌な無意識下の行動ということも合間って、黒い指先は金属製の机の表面を見る見る抉っていった。


エツァリ「……落ち……着いて……待ちましょう……」


そんな一方通行を、ベッドの上から途切れ途切れの言葉で宥めようとするエツァリ。


一方「あァ?喋ンじゃねェよ半死人が。黙って寝てろや」


エツァリ「がッッ…………ぐふッ……!!!」

そんな一方通行の言葉が終わる前に、咳き込むエツァリ。

一方通行はそれを聞き、
そォら言わンこっちゃねェ とでも言いたげに軽く肩を竦めた。


と、そうしていた時。


会議室のドアが勢い良く開け放たれ。



麦野「悪いわね。遅れたわ」




476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:52:17.40 ID:Y9sHpogo

やっと姿を現した麦野沈利。


土御門「…………」

一方「…………」

結標「…………」

エツァリ「…………」

四人ともその麦野の、昨日までとは全く系統が違う格好を見て固まってしまった。


麦野の非の打ち所の無いスタイルを上手い具居合いに強調している、
くびれ、ヒップ、そして太ももにかけての曲線が素晴らしい、
完全オーダーメイドのダークグレーのスーツ。

ジャケットの下には純白のワイシャツ。
タイはなく襟元は大きく開けられており、これまた美しい鎖骨の一部が見えていた。

肩には大きめの黒いコートを腕を通さずに引っ掛けている。
歩くたびにコートの袖と、スーツの『空』の左袖がスカーフのようになびきアクセントにもなっている。

腰には濃い茶色の皮製のような大きなベルト。
その腰の右側にアラストルを吊るしており、麦野は右手をその柄に乗せていた。


そして右目を覆う、大きめの黒い金属製の眼帯。
隙間から青白い光が少し漏れていた。




477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:54:05.31 ID:Y9sHpogo

麦野「……何ジロジロ見てんのよ」


土御門「…………イメチェンしたんだな」


麦野「……………………で?」


土御門「はっは、なんつーか、どっかの女軍人っつーか女将軍っつーか」

結標「なんか威厳あるわね。『大佐』とか『少佐』って呼びたくなるわ」


麦野「あ?何それ。文句あんの?」


土御門「いいやあ、褒めてるんだぜよ。バッチリ決まってるぜよ」

結標「前の格好も良かったけど、そういうのもスゴイ似合うわね」

土御門「俺もこの際だからビシッと決めようかにゃー。結標、お前もそろそろその格好どうにかしろよ」

結標「うるさい。私はいーのこれで」


一方「…………ハッ、少しは貫禄つけたなァ。良いンじゃねェのか?」


一方「少なくとも『今の仕事の間』はそっちのカッコゥのほォがいいかも知ンねェ」


麦野「あ、そう、それはそれはどうも」




478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:56:15.18 ID:Y9sHpogo

そっけなくも、まんざらでもなさそうに麦野は一言返すとコートと左袖、
そして栗色の美しい髪を靡かせながら指定の座に着いた。


それを見て、壁際に座っていた一人のスーツの男が立ち上がり。

「全員揃ったな。では始める」

スクリーンの横に付き、机を囲んでいる四名を見据えた。

「いや、その前にいつくか新情報を伝えておこう」

「ここにいた君達は知らんだろうからな」


「今から26分前、イギリス国内の軍事施設へ向けて、フランス原潜によるミサイル攻撃が行われた」

「今回の件において初めての、通常軍による軍事行動だ」


「三分の一は通常軍が迎撃、もう三分の一はイギリス清教と騎士が撃墜」

「残る三分の一は着弾した」



土御門「……………………被害は?」


「被害は軍属の死者が23名、一般人が2名、そして迎撃の際に魔術師4名が戦死」


土御門「…………」




479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:58:40.34 ID:Y9sHpogo

「それに対しイギリスは報復として、17分前にビスケー湾にてフランス海軍の駆逐艦二隻を撃沈した」

「一隻は空軍機の攻撃により、もう一隻は騎士の攻撃によってだ」

「そして現在、双方とも正規軍・魔術師達をドーバー周辺に集結させている。海軍はビスケー湾にも展開しつつある」

「お互いとも今だ相手の動きを監視していている段階であり、攻撃は散発的・小規模なものだが、全面衝突は三日以内に確実だ」

土御門「…………」

「それと平行してな、これはまだ公表されていないが、」

「24分前にロシアは、学園都市及び自衛隊・在日米軍の主要基地へ向けてミサイル攻撃を行った」

麦野「……!」

「それらは学園都市が全弾撃墜した」

一方「ハッ…………なンだ、アンチスキル共のひ弱な『エセ軍』もやりゃァできるじゃねか」

「いいや、アンチスキルはまだ動員されていない。これから召集する段階だ」

「今動いているのは別の部隊だ」

一方「はァ?」

「常識的に考えてみろ。本当に学園都市は純軍事組織を持っていないと思っていたのか?」

一方「……アビニョンに行った連中か?」


「そうだ。アビニョンに動員されたのはこれの極一部だがな」




480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:01:09.08 ID:yoYeaoYo
「まあ、それでな、16分前にその学園都市の『軍』と在日米軍、自衛隊によって日本海及び東シナ海の制空権は完全に掌握された」

結標「じゃあ、ロシアはもうこっちに手を出せないって事?」

「いいや。ロシアはまだ本格的にこっちには動いてきていない。今のところ、国内の学園都市系列施設を制圧している段階だ」

一方「おィ、その系列企業はどォすんだ?」


「当然、切り捨てる。状況的に見てロシア国内へ軍を展開するのは危険だ」


一方「自慢のトンデモ軍でもロシアと正面からやり合うのは不可能ってか?」

「いいや、『通常軍』相手なら圧倒できる。だが、君達は忘れていないか?」


「ローマ正教もロシアも、大量の人造悪魔兵器を保有している」


土御門「……」


「それらが大規模に使われ始めたら、学園都市の軍といえどもかなりの苦戦を強いられるだろう」

「ましてやロシア国内にまで手を広げていたら、包囲され殲滅されるのは確実だ」


「いいか、人造悪魔兵器が大規模動員されれば、この日本海・東シナ海のラインを守るので限界だ」

「いや、いずれ確実に突破される。学園都市の軍も自衛隊も、そして米軍も最終的には粉砕される」

「そもそも、アメリカはウロボロス社と深い繋がりがある為信用できん」


「そしてそれだけではない。時間が経てば今度は『天界』がやってくる」


一方「……」


「だからこそ君達に、その前に動いてもらう必要があるのだ」




481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:03:13.26 ID:yoYeaoYo

「さて、前置きはこのくらいにしてだ、本題に入ろう」

男が手に持っていた小さな端末を操作すると、スクリーンの画面が変わり、
とある二つの島の衛星画像に切り替わった。


「これが俗に言うデュマーリ島だ。北の島が『デュマーリ=セプテントリオ』」

その男の言葉にあわせ、さまざまな情報が衛星画像の上に表示されていく。

「この北島に広がっている都市が『メガス=デュマーリ』」

「人口は現時点で約49万4000人と思われる」

「ウロボロス社の中枢であり心臓部だ」

「そしてこの都市の地下には、地上の規模を上回る研究施設群がある」


「主に地上は経営・管理関係と住居、地下は研究開発だな」



「次にだ、南の島が『デュマーリ=メリディエス』」

「地下には採掘施設が広がり、地上は工場施設となっている」

「南島の人口は一万人弱だろう」




482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:05:10.24 ID:yoYeaoYo

「それでだ。今回、君達の最優先目標である、『天界の口を開く術式』はだ」

男の言葉にあわせ、北島がズームされる。


「ここ、『メガス=デュマーリ』内のどこかにあると思われる」

「ただ、どのような形で存在しているかは不明だ」

「都市全体を覆う規模なのか、それとも手に収まるサイズなのかはわからない」


一方「……使えねェ連中だなオマェらは」


「…… この件に関しては反論の余地が無いな」


土御門「大体の位置の目安は付いてないのか?結構な面積もある。一から探してたら一ヶ月はかかるぜよ?」


「ああ。だがまあ、大きさはわからんが術者であるアリウスを『中心としている』のは確実だ」


麦野「居場所は?」


「ここだ」

男の声にあわせ、スクリーンに表示される巨大なビルの画像。
摩天楼の中でも一際高く聳え立っている。

大通りを挟んで二本の棟が聳え立ち、地上500メートルの上空で繋がっている、
凹をひっくり返したような構造の、頂点の高さは580mにも達する巨大建造物。




483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:06:53.57 ID:yoYeaoYo

「ここの最上階がアリウスの住居部分となっている」

土御門「……待て。術式の発動時もそこにいるとは限らないだろう?」

「それはもちろん。これ以上は現地での君達の行動が頼りだ」

「ここにいるのならばここを強襲し、別の場にいるのならば見つけ出す」

「確実なのは、『メガス=デュマーリ』内という事だけだ」


「ただまあ、これだけではさすがに君達でも難しいだろう」


「だからいくつかの、アリウスが使うであろう可能性の高い地点をリストアップしてある。大半が地下の研究施設だ」

「それらは後で各々確認してくれ。配られているPDAの中に情報がある」


「それとだ、土御門。後で君には拡大した衛星画像を一通り見てもらい、該当する魔術的因子がないか確認してもらう」


土御門「……ああ。わかった」


「できれば、君の『友人』に頼んで禁書目録の『目』も借りたいがな」


土御門「……一応話しておくぜよ」




484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:08:37.58 ID:yoYeaoYo

「ただ、それはあくまでも確認だ。アリウスがそう簡単に尻尾を出すとは思えない」

「最悪、最後の時まで術式を発見できない可能性も高いだろう」


麦野「そのジュツシキが見つかんない場合は?」


「術式の捜索と平行し、君達には『メガス=デュマーリ』を完全に破壊してもらう」


結標「…………街を壊すの?」


「そうだ。地上の構造物は当然、地下施設まで全てを徹底的にだ」

「術式があるかもしれない以上、とにかく破壊してもらう」

「できれば島ごと消し去ってもらいたいが、『君達程度』では無理だろう」


麦野「…………どうして?少なくとも『今の私』には不可能とは思えないけど?」


「物理的にではなく、『魔』的にあの島は要塞化している。恐らく、地球上で最も『固い』地の一つだ」

「単純に火力で消し飛ばせるような『存在』ではない」

「あそこは人間界でありながら人間界では無くなっているからな」

「『外側』からダメージを与えるのは難しい」


麦野「…………あ、そう。じゃあとことん『内側』で暴れてぶっ壊せばいいわけね」


「そういう事だ」




485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:10:51.36 ID:yoYeaoYo

一方「ちょっと待て。50万の住人はどォする?」

一方「どうせアリウスの片棒を担いでる連中は極一部で、9割以上は『カタギ』の一般人ってパターンだろォが?」


「気にするな」


結標「…………じゃあ何よ、50万人ごと吹っ飛ばせって言うの?」


「そういう意味ではない。君達が行く頃には、住人は皆居なくなっているのだ」


結標「?」


「これを見てくれ」

その男の言葉と同時に、スクリーンが切り替わった。

表示されたのは、『恐らく』衛星画像。

恐らく、というのも、画像の上端や下端に海面が少し見えているだけで、
大部分が黒い靄のようなモノで覆われていたからだ。


一方「…………?」




「10 分前に捉えたデュマーリ島の姿だ」




486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:13:12.39 ID:yoYeaoYo

結標「―――!?」


土御門「………………何が起こってる?」


「アリウスが魔を召喚したのだ」

「人造悪魔ではない、本物の悪魔達を『降ろした』のだ」

「防御を固める為か、より大きな力を必要としているのか」

「それかアリウスも本格的に動き始めたのか、それとも我々がまだ気付いていない別の目的があるのか」

「それらは置いておくとして。とにかくこれにより、デュマーリ島の『存在』は更に異質なモノへと変わった」


「今や魔窟だよ」


「一般人は今頃、悪魔達によって貪られているだろうな」


「アリウスは50万の命を差し出して悪魔達を手なずけたのかもしれん」


「向こうは今正に阿鼻叫喚の地獄絵図だろう」


一方「……………………………………………………チッ……」




487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:15:06.03 ID:yoYeaoYo

「まあ逆に言えばだ。この悪魔達の暴虐の後に『形を保って残っている』構造物は、術式の一部である可能性もある」

「人気がない分、いくらか捜索しやすくなるだろうな」


麦野「…………で、それでもジュツシキとやらがぶっ壊せなかったら?」


「………… その場合はアリウスに対して全戦力を投入してもらう」


「出来る限りあの男を妨害しろ」

「殺せずともいい。時間を稼いでくれれば、学園都市側で別の手を打てる」


一方「……俺が必要ってやつか?」


「そうだ。ただ、今日はまだその事は話さない。概要は後日だ」

一方「ンだと?」


「俺も何も聞かされていない。俺に詰め寄ったところで何も得る物は無いぞ」


一方「…………あァそォですか」




488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:16:27.00 ID:yoYeaoYo

土御門「OK、向こうでやる事は大体分かったぜよ」

土御門「それでだ、これからの日程は?」


「まず今日11時から行われる説明が終わった後、」

「原子崩しと座標移動は、他の能力者達と共に別の施設で『調整』を受けてもらう」

「原子崩しは知識面の『書き込み』だけだが、その他の座標移動達は能力そのものをも調整する」

「その後、二日から四日間をもって『慣れて』もらう」


「それが完了次第、HsB-02七機によって君達をデュマーリ島へ『投下』する」

                                   シ ェ ル
「投下の仕方は、原子崩し以外は専用の『砲弾型カプセル』に入ってもらい、それらを超音速で撃ち込む形になる」


麦野「私は?」


「今の君なら『そのまま』降下できるだろう?」


麦野「…………」


「それと君には編隊の防御も兼ねて貰う」




489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:18:56.47 ID:yoYeaoYo

「『デコイ』も兼ねて護衛機をそれなりの数同行させるが、デュマーリ島の防御は鉄壁だ」

「本物の悪魔達が迎撃してくる可能性もある以上、既存の通常兵器のみでの突破は難しいからな」


「降下が完了次第、後は君等の判断に委ねられる。ミサカネットワークや衛星通信を介してこちらもバックアップするが、」

「最終的な判断を下すのは現地の君達だ」


「わかっていると思うが、降下してからが本番だ。悪魔達は必ず君達に群がってくる」

「死人は確実に出る。負傷者も出る。だが実質的な支援はこちらからは行えない」


「全て自力で行ってもらう」


「全滅してでも任務を全うしろ」


「もし君達が失敗したら、例え生き残れていたとしても、君達が帰る場所は最早『存在していない』」



「君達の『生きる場所』は地球上から消滅している」



「生きたければ、そして守りたい者がいるのならば命を引き換えにして戦え」



「君達は我々の『希望』だ」




490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:20:04.74 ID:yoYeaoYo

土御門「…………」

そのスーツの男の言葉。
最後辺りは何やら私情が入っているようにも聞こえた。

大体予想が付く。

この男も妻か恋人か、それとも子供か、とにかく大事な者が学園都市にいるのだろう。

ここの集っている者も大半がそうであるはずだ。
これは学園都市の者全員にとっての、決して引けない戦いだ。

机を囲んでいる四人とも、沈黙のまま鋭い目つきで男を見据えた。

何も言葉を返さずに。


「………………ここまでで質問は?」

一度小さく咳払いした後に男が小さく、それでいて良く響き渡る声を発した。


土御門「……デュマーリ島に行くのは『俺達』だけじゃあないだろ?」


土御門「そこら辺の『動き』はどうなってる?」


「それは君達の方から『直接』聞いた方が良いんじゃないか?」


「君達の『友人』だろう?少なくとも我々側からは近付きたくはないからな」


土御門「…………まあな」




491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:21:33.86 ID:yoYeaoYo

「さて、他には?」

一方「……今日から能力者達の『調整』を始めンだろ?」

一方「クソガキの頭を弄るのはいつだ?」


「…… 書き込むプログラムがまだ完成していないからな、確実な事は言えないが……」

「まあ、明日の夕方までには準備が整うだろう」


一方「で、わかってンだろォな?」


「ああ。もちろん君と芳川桔梗に立ち会ってもらう。当然プログラムのチェックもな」


一方「…………」


「他には?」

男が軽く手を広げ、小さく眉を上げてそれぞれの顔を見る。
逸れに対し、皆小さく頷いた。


「……さて、じゃあ今はこの辺にしておこう」




492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:23:17.08 ID:yoYeaoYo


「出撃前にもう一度集ってもらい、更なる詳細説明と確認を行う」

「それまでに、その手元にある資料に目を通し覚えておいてくれ」

「あー、原子崩しと座標移動。後でついでにその資料も『書き込む』か?」


麦野「……いや。あんまり頭弄られたくないから結構」

結標「……私も遠慮しとくわ」


「よし……ああそれとだ、部隊内の人員編成も君達に任せる。48時間以内に報告してくれ」

「一応、こちらとしては原子崩しが指揮官、座標移動が副指揮官、土御門がアドバイザーと考えているが、」

「そこも好きなように役割分担してくれて構わない」

                                      オ ニ モ ツ
土御門「俺は『アドバイザー』役だけでいい。『部下・護衛』はつけなくていいぜよ」

土御門が薄ら笑いを浮かべながら、麦野の方へ軽く首を傾けながら声を飛ばした。


土御門「『一人身』が好きなんでな」


麦野「はッ、だれがお前なんざに『分ける』かよ。『部下』は『部下』。全部『私のモノ』よ」




493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:25:18.15 ID:yoYeaoYo

土御門「ほぉ~言うぜよ。さすが『女帝』だな」

結標「あー、ちょっと、私には少し『分けて』よね。そこの『アホグラサン』みたいに『雑用』まで全部やりたくないし」


土御門「ヒュ~こっちもこっちで言うぜよ。なあ、何か言ってくれよ『女王サマ』」

土御門は軽く口笛を吹きながら今度は、
壁際の椅子に座っている常盤台の制服を着ている女に視線を移した。


「話しかけないでくれない?私、アンタみたいなバカ男ってキライなの」

それに対し、鼻で笑いながら言葉を返す常盤台の『女王サマ』。

                 ココ
土御門「おーおー、『暗部』にはこういう女しかいねえのかよ全く」

土御門「もうちょっとこう、メイドみたくおしとやかな子はいねえのかにゃー」


「死ねば?冥土にいけば会えるんじゃない?」

「あ、死ぬのなら向こうで任務全うしてからね」


土御門「…………はぁ~、俺、任務が終わったら絶対お前らとは会わない生き方するぜよ」

「あら、すっごく嬉しいわねそれ」

結標「そうね。良い心構えよ」

麦野「雑草は雑草らしく、せいぜい目立たないように生きてな」




494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 00:26:49.07 ID:yoYeaoYo

土御門「…………お前ら…………外見は整ってるけど中身は本当に荒んでるぜよ……」

「アンタみたいなのにはコレで充分」


そんな他愛も無いくだらない会話の中、先程まで説明していた男はやれやれと言いたげに退室し、
一方通行は相変わらずイラつきながら机を指で『削り』。

その一方通行をエツァリはベッドの上から、苦笑いを浮かべながら見ていた。

エツァリ「…………」

一方「……………………こォいう時に一番思う。『脳』を無くす前ならチャッチャと音を排除できただろうってなァ」

エツァリ「…………」


一方「………………………………あァクソ……今のは忘れろ」


エツァリ「…………わかりました」


一方「つゥかおィ、何見てやがンだァ?何が可笑しい?」


エツァリ「……いえ……ははは」


一方「笑ってンじゃねェすり潰すぞミイラ野郎」


エツァリ「…………すみません」


―――




499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 01:25:23.00 ID:JZR40oAO
こんなわざわざメンバー導入するより
ダンテの魔具達を派遣したらドゥマーリ島壊滅しそうだけどな。
統率力0ぽいけど




500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 10:47:25.62 ID:di3yqUDO
ダンテは元から頭数に入ってないしアラストルみたいに全て無力化される可能性もある



501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 18:31:05.40 ID:yoYeaoYo
>>499
ダンテ達はダンテ達で別の方向から動いてます。


それを抜きにして、
一方通行や麦野達はこれが自分達が戦うべき事であるとして、出来る事を最大限やろうとしています。

ダンテ達はダンテ達で動くだろう、こっちはこっちで判断して全力を尽くす と。
ある意味、ダンテ達を信じている訳です。


そしてアレイスターはダンテ達、というかスパーダの血を全く信頼していません。

彼からすれば、ダンテ達がデュマーリ島に関与すること自体をも実は好ましく思っていません。
アレイスターは計算上、この麦野らの戦力で『時間稼ぎ』できると踏んでいますが、

そこにダンテ達が割り込んでくるとこの計算が根底から崩れますから。

良い方向に変わる『かも』しれませんが、
今まで悉くプランを滅茶苦茶にされてきたアレイスターにとっては経験上、悪い方向に変わる確率が高い訳です。


更に言うと、今回の学園都市の危機が500年前のアンブラ滅亡時の状況と被ってる事、
500年前、スパーダは大を救う為に小を切り捨て見殺しにした事、
更に彼は天界による能力者迫害を黙認し続けた揺ぎ無い事実等があり、

アレイスターは今回の件で、必ずしもダンテ達が学園都市を救ってくれるとは考えていません。

上条や一方通行のように人柄を見て『心』で信頼してはいません。
全て計算で物事を判断していくアレイスターは、そういう感情が欠落してますから。


という事で>>500が言う通り、アレイスター・一方通行側からはダンテ勢は最初から除外されています。


例え助力を求めたとしても、ダンテ勢はそう簡単に動きません。
ダンテ勢はバージルやキリエの件があり、デュマーリ島に関してはかなりピリピリして慎重になってますから。




502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 21:13:20.42 ID:Icc.yoDO
このストーリーの内容、そして>>501の説明…よう考えとるのう>>1さんはwwwwww



503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:14:13.42 ID:f3EDqsDO
こんだけ禁書勢がランクアップしている中でもし垣根くんがいたらどんなになってたんだろうか



505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:29:05.87 ID:OBjJj2o0
この話での帝督ってどうなってんだっけ?



507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/04(土) 22:25:30.99 ID:pgMbbl60
>>505
一通さん強化のために脳をMNWに繋げられた上に、酷使されたせいで脳が死にかけ




509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:30:37.54 ID:fKIUncwo
―――

イギリス。

とある沿岸部にある、打ち捨てられた小さな小屋。
この屋内、床の上で、一人の女が横たわり小さな寝息を立てていた。

女の『下』には、長い長い金髪が広がっていた。
まるで金色の『ござ』が敷いてあるようにも見える。

ただその『ござ』の中央、女の腰の下辺りは真っ赤に染まっていたが。
そして女のベージュの修道服も、その腹部が同じく真っ赤に染まっていた。


彼女の名はローラ=スチュアート。


『元』イギリス清教最大主教にしてアンブラの魔女。

彼女は今、『逃亡の身』だ。

警察・正規軍は当然、必要悪の教会・騎士達からも追われている。


その罪は、『表向き』はイギリス女王の殺害を謀った事。
そして真の罪状は『魔女』であった事。

そのどちらの『罪状』も、彼女と女王エリザードにとっては作戦の内であり、
こうしてローラが追われているという事は成功した訳である。


まあ、その成功の『代償』は小さくなかったが。




510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:32:54.96 ID:fKIUncwo
エリザードはローラの魔女の力によって左手を失い、更に胸部にも大きな傷を負い瀕死の重傷。
ローラは、エリザードによるカーテナ=セカンドの最大出力の攻撃によって、
腹部に大きな『穴』を穿たれた。

双方とも手負い。

ローラは逃げ。
エリザードは追跡できず。

これによってどちらかが死ぬ事無く、天界を信用させる事に成功した。
この『作戦』はこの二人しか知らない。

重傷を負ったエリザードの代理として実権を握るキャーリサも。
次の正式な最大主教が決定するまで、その代理の座に着いた者も。
そしてローラに続き神裂・ステイルが抜けた事により、実質的な指揮権が集中するシェリーも。

今やエリザード以外の者は皆、心の底からローラが敵だと思い込んでいる。
反旗を翻したのが人望の厚かった神裂ならばまた別だったろうが、ローラでは誰も庇おうとはしないのは当然。

それどころか、『ああ、そうか。そういう感じが前からあったな』と納得する声がちらほら出てきている事だろう。


ただまあ、普通ならローラ捜索に全力が注がれるだろうが、
今は状況的にそれどころではない。

たった一日。

それだけで世界の空気は変わった。
街中には開戦を告げる号外が溢れ。
テレビやラジオ、そしてネット上も戦争の話題で一色。

非常に嘆かわしいことだが、少なくとも『今』の逃亡中のローラにとっては好都合だった。

いくらアンブラの魔女といえでもこう手負いでは、
魔術師や騎士の実働部隊に徹底的に追い込まれたらどうしようもない。

実は言うと、彼女は『寝た』という訳ではなく、
半ば意識を失いかけ倒れ込んだのだ。

こんな状態では一介の平の魔術師相手ですら少々厳しい。




511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:35:33.65 ID:fKIUncwo

そんなローラ。

彼女は今、とある夢を見ていた。
冷や汗が滲み出ている顔、その瞼が少しだけ動き、
『夢の中』で視線をせわしなく動かしている。

彼女が見ている映像。


それは『500年前の記憶』。


力を解き放ったと同時に、その力に刻み込まれていた『思念』も
一気に彼女の中で湧き上がってきたのだ。

そしてそれは、決して『良い夢』では無い。


『悪夢』だ。

しかも『二つの視点』からの。


片方は姉を前にして、命を散らす『妹からの視点』。
もう一つは、それを目の当たりにして絶望の底に叩き落された『姉の視点』。

その『両者からの視点』と『両者の思念』。

それらを『同時』に見て、そして感じる。



『両方』が『自分』―――。



『自分』が『二人』―――。




512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:37:31.47 ID:fKIUncwo

ローラ「…………う…………ん……」

悪夢にうなされ、熱い息を吐きながら身をよじるローラ。
何も知らぬ男がこの光景とローラの仕草を見れば、それはそれは刺激的に映るだろう。

しなやかな体つきの美しい顔立ちの娘が、顔を火照らせて息を吐きながらゆっくりと身をしならせる。
魔女の独特のオーラもあり、腹部の血が不気味な官能さを際立たせている。

当のローラはそれどころではないのだが。


彼女の眉を顰ませている悪夢は、クライマックスへと向かっていく。

一見すると平和な穏やかな日々。
だがその裏で、張り詰めた糸は着々とその緊張を増し。

そして遂にはち切れる。

入り乱れる天の兵と同胞達。
一つ一つの粒子が天の兵である、都を覆う金色の『雲』。

そこから大量の死が降り注いでくる。

どこを見ても死、死、死。


最後に『彼女自身』が遂に『死ぬ』。

最後に彼女は『自分自身』の『死』を目の当たりにする。


『二つ』の視点。

片方は途切れ。

もう片方は思考が崩壊し、爆発する。




513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:39:02.04 ID:fKIUncwo

そして彼女は跳ね起きた。


ローラ「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」


瞬時に両手に『青い』装飾のフリントロック式拳銃を出現させ、構えながら。

ローラ「…………ぐ……………………」

そして一気に炸裂し、染み渡ってくる腹部の鋭い痛み。

その痛みはローラの顔を歪ませると同時に、
彼女が今見ていた映像が過去の『夢』であったことを告げる。

ローラ「…………ふ……は……」

彼女は少し肩を震わせつつも再び上半身をゆっくりと倒した。
血の気が引き、冷や汗が噴き出してる額に片手を乗せながら。


ローラ「…………」

焦点の定まらない目で小屋の天井を仰ぎ見る。
屋根板が所々割れ、その穴から夜空に輝いている星が見えていた。


その星々を見つめながら、ローラはボンヤリと考えていた。
今の状況。
これからどうするか。

学園都市にいる、姉であり妹でもあり―――。



――― そして『もう一人の自分』でもある少女に関する事を。




514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:43:23.85 ID:fKIUncwo

あの少女の身分が天界にバレているのは確実。
学園都市にそう長く置いておく事もできない。

ベヨネッタやジャンヌのような、『余りにも強大すぎて狩れない』という訳では無いため、
天界が本気を出せばいとも簡単に仕留められてしまうだろう。

セフィロトの樹経由で全て特定されている以上、
今までのように身分を偽装して身を隠す事も最早不可能だろう。


ローラ「(……潮時……でありけるか……)」

そう、そろそろ限界だ。


これ以上『こっち側』の力が回復するのは待ってられない。


500 年前、中途半端にしか出来なかった『とある仕事』をやり遂げるべき時期だ。


あの時『姉』は、主席書記官の『妹』の頭の中にあったとある『禁術』を使った。

それはアンブラでは使用は禁止されていた技。
どんな事態であろうとどんな者であろうと、例え『長』でも使った者は処刑、だ。

なぜなら、この禁術は同胞を『喰らう』モノ。
なぜなら、この禁術は祖先達を侮辱するモノ。
なぜなら、この禁術はアンブラの3万4千年の歴史を冒涜しうるモノ。


安らかな眠りについている、偉大なる祖先達の魂を引きずり出しそして『喰らう』禁術。

いわば『共食い』だ。


歴史、伝統、礼を重んじるアンブラにおいては究極の忌まわしき技、だ。




515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:45:43.03 ID:fKIUncwo

だが。

当時の『姉』には、この禁術を完全起動させる程の力は到底無かった。

禁術中の禁術。

その謂れが匂わす通り、使用にも莫大な力が必要だ。

英雄でも長でもなかった、
精鋭といえども一介の兵にしか過ぎなかった姉にはそんな力は無かった。



『妹の魂』が喰らった魂はただ一つ。


『姉の魂』だけ。


それも『消化』しきれずじまい。

本来ならば『姉』は『妹』に溶け込んで『消滅』するはずだったのだが、

そのせいで二つの別人の力はうまく同化せず、
結果、『彼女』は姉と妹の『両方』の記憶と意志を『同時』に持ってしまった奇妙な存在に。

中途半端に溶け合ってしまったのだ。

『思念』が無秩序に絡み合ってしまい不安定。
そして今度は内部崩壊の危険性。

そこで『彼女』は、応急措置的に己を分離させた。


『力の核』と『思念』に。


『人形』と『感情』に。


『禁書目録』と『最大主教ローラ』に。




516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:48:35.82 ID:fKIUncwo


ローラ「…………」

そして感情と思念を有する『最大主教ローラ』は身を隠し、力を蓄え続けた。

もう一度あの禁術を起動させ、今度こそ『妹』を完全に蘇生させる為に。

今も溶け合わずに残っている『姉』の部分を完全に『消化』し、
更に英霊の魂をも喰らって『燃料』とし、完璧に成功させる為に。


成功すれば。


あの『人形』とこっちの『思念』が完全に融合し。


そしてそこから『主席書記官ローラ』が再び生れ落ちる。


それは『魔女の再興』を可能にする。


禁書目録側の魂の奥底には、アンブラの魔女のありとあらゆる知識と情報が眠っている。

完全記憶能力を有した主席書記官、その存在自体がアンブラの新たな核と成り得るのだ。




517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:49:35.19 ID:fKIUncwo


ただ、そのアンブラ再興は『姉』にとっては実は建前。


『姉』の本当の願いは。


『妹』を蘇生させる事それ自体。


言わば私益の為に禁術を勝手に使い、

祖先や家族、英霊達の魂を喰らおうとしている、
正にアンブラの法に乗っ取れば愚かしい冒涜行為だ。


だが姉はそんな事など最早どうでも良い。
妹を完全蘇生できるのならば、反逆者となっても良い。

誇りも何もかもを捨てても良い。


『姉』は『妹』を蘇らせたい。
『妹』は蘇りたい。

その二つの強い思念が、今の『元最大主教ローラ』の核となっているのだ。




518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:51:52.12 ID:fKIUncwo

その目的の前では、今の『人形』の中に宿っている『インデックス』という人格などどうでも良い。
あれはこちら側から言わせればタダの『幻影』。


『インデックス』という人格はアンブラの魔女ローラでもメアリー『本人』でもない。
この二者の記憶がベースとなった、タダの『疑似人格』。

『力の核』を隠蔽する為の『偽装人格』。


『思念』である側の元最大主教ローラの人格が『本物』なのだ。


つまり、少し可哀そうだがあの『疑似人格』は最終的に『消えて』もらわねばならない。

『思念』である元最大主教ローラにとって、正に自分の生き写し。
その姿が姉にも妹にも重なる。


だが幻影は幻影。


幻想は幻想。


『本物』は元最大主教ローラ側に。


『人形』に『思念』が戻った時、彼女の目的が達成された時、
あの『偽装人格』は用済みとなる。


ローラ「……………………」


『インデックス』という一人の少女の『夢物語』は終わってもらわねばならない。



『消滅』してもらわねば。



そう、『死んで』もらわねば―――。




519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:54:41.16 ID:fKIUncwo

だがこの時、彼女はまだ知らなかった。


あの『インデックス』という『疑似人格』が魔女の部分と固く結合し―――。



――― 『本物』になりつつあったことを。



決してまがい物ではない。


決して幻影などではない。


『本物の人格』として、一人の少年を愛し始めていた事を。


『インデックス』という『本物』の魔女の人格は、
上条当麻という人物を愛している。


かつて姉が妹を愛したように―――。


かつて妹が姉を慕ったように―――、だ。



果たしてどちらがより『本物』なのか。


果たしてどちらが『幻影』なのか。


元最大主教ローラはしばし後に、その『究極』の判断を迫られる事になる。


―――




520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:55:40.76 ID:fKIUncwo
―――

禁書「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」

冷や汗を滲ませながら、
『本物の人格』を手に入れ始めた『人形』は跳ね起きた。

当然、その悲痛なインデックスの叫び声を聞き、
傍で寝ていた上条も飛び上がるように身を起こし。


上条「―――ッ!!!!!!ど、どうした!!??」


禁書「う…………なんだか……よくわからないけど………………ひっ……えぐ……」

そんな上条の顔を見てインデックスは体を震わせながら、
瞳から大粒の雫を滴らせ始めた。

上条「………… 大丈夫だ。大丈夫」

上条は握っていた彼女の手を優しく引き、そして抱き寄せ。
インデックスは上条の服の胸の部分を固く握り締め、顔を埋めた。


上条「…………怖い夢でも見たか?」

胸の中でうずくまり、静かな泣き声を上げるインデックスの頭を左手でゆっくりと撫でながら、
優しく囁きかける上条。


禁書「……えぐ…………覚えてない……覚えて……ないんだけど……」


禁書「何だか……ひっ……すごく……悲しいんだよ……」




521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:57:44.76 ID:fKIUncwo

ステイル「―――どうしたッッッ!!!!?」

とその時。
病室の扉が勢い良く放たれ、赤毛の大男が凄まじい形相で乗り込んできたが。

ステイル「―――…………悪い…………どうしたんだい?」

二人の姿、主に泣きじゃくっているインデックスの姿を見て、
瞬時に穏やかな口調に切り替えた。


上条「…………何かの夢を見たらしい」


そんなステイルに向け、小さな声だけを飛ばす上条。

ステイル「……………………そうか……」


禁書「…………う……………………もう大丈夫なんだよ…………」


その時、インデックスは両手で目を擦りながらも、
上条の顔を見上げてにっこりと微笑んだ。

己のせいで、いらぬ心配をかけてしまっていると思ったのだろう。
少し無理をして堪えているのを、上条とステイルも瞬時に感じ取っていた。




522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 23:59:13.15 ID:fKIUncwo

上条「…………本当に大丈夫か?」

禁書「……うん」



ステイル「いらぬ助言かもしれんが、『泣ける時』は泣いた方が良いと思うがな」


ステイル「何で泣いているかは知らないがね」


禁書「……うん、ありがとう。でもね」


禁書「『笑える時』は笑った方が良いとも思うんだよ」

禁書「…………少なくとも……みんなとこうしていられる時は私は笑いたいんだよ」

ステイル「…………そうか。それならば何も問題は無いな」

上条「……」


ステイル「さて、じゃあ僕は君達の朝食を取って来よう」

上条「ん?いや、俺が取ってくるよ」

ステイル「余計な遠慮はしないでくれ」


ステイル「君は彼女の傍にいてくれよな」


上条「……おう……じゃあ甘えさせてもらうぜ」




523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:01:14.95 ID:.W.mGWEo

ステイルがいそいそと病室から出て行った後。

上条「……本当に大丈夫か?」

腕の中で目を擦っているインデックスを覗き込みながら、心配そうに話しかける上条。

それに対し、インデックスは背筋をいきなりピンと伸ばし

禁書「もう大丈夫なんだよ!!私は笑うの!!」

ぱあっと太陽のような笑顔を浮かべながら上条の顔を見つめた。



と、その二人の体勢。


上条「……………………」


禁書「……………………」


ベッドの上で、上条に抱えられる形のまま背筋を伸ばしたらどうなるか。


当然、二人の顔は至近距離。
鼻先が触れ合うくらいに。


時間が一瞬止まり、極僅かな時間の間だけ二人は硬直する。

そして次の瞬間。


両者の顔が一気に赤くなる。




524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:02:33.57 ID:.W.mGWEo

上条「―――お、おおおおお、おおおお俺おおおおおおおぉおぉおお!!!」

禁書「―――わ、わたたたたあわわわわわわひゃ!!!!

動転し、言葉にならない声を漏らす二人。

混乱のあまりそこまで思考が回らないのか、その体勢を崩そうともしないのはご愛嬌だ。
密着する体、相手の体温、そして香り。

それらが更に二人を動転させる。

もし二人に恋愛経験があれば、向かい合ったときにそのまま『甘い一歩』を踏み出していただろうが、
経験ゼロの彼らにそれは難しい。


そうやってしばし、時間にして15秒ほど経った頃。
ようやく二人は自分達の体勢に思考が向けることが出来た。



上条「―――ちょ、ちょっと!!!!タンマ!!!!!タンマ!!!!!」

禁書「―――えっあっっっっ!!!!!う、うん!!!!!!」


何を『タンマ』なのかはさておき、上条はバッ手を広げ立ち上がり彼女から離れた。
そして壁際へと向かって駆け出し、両手を壁についてうな垂れた。


上条「(……落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け(ry)」

頭の中で、興奮している己に言い聞かせながら。




525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:03:42.76 ID:.W.mGWEo

禁書「…………………………………………」

インデックスはそんな上条の背中をチラチラと恥ずかしげに見やり。

禁書「………………えへへ……」

下唇を軽く噛みながら小さく笑った。

当然、頬を赤らめさせて。



そんな最中、病室のドアが開き。

トレイを両手に一枚ずつ持ったステイルが姿を現した。
両手が塞がっていた為、足で起用にドアを開けたようだ。


ステイル「待たせ―――…………」


当然、この室内に立ち込めている妙な空気を彼は感じ取った。
ベッドの上で、頬を赤らめて俯いているインデックス。
そして壁際で何やらブツブツ言いながらうな垂れている上条。



ステイル「…………………………………………おい。朝食を持ってきたが」



ステイル「おい」




526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:04:50.89 ID:.W.mGWEo

上条「んぉ!!?お、おお!!!そ、そうかッッ!!!!」

そのステイルの二度目の言葉でようやく気付いたのか、
妙に焦りながら言葉を返す上条。

ステイル「…………」

そんな上条と、相変わらず何かに惚けているいるようなインデックスを怪訝な目で見ながら、
ステイルは持ってきたトレイをベッド脇の小さな机の上に載せた。


上条「……あ、あのよ!!!お、俺!!ちょっとトイレいって来る!!!!!」

とその時、微妙に腰が引けている、
少しばかり前傾姿勢ぎこちない動作で上条がそそくさとドアの方へと向かっていった。

上条「ステイル!!!!少し頼む!!!!」

ステイル「………………ちょっと待て!」

そんな上条の後を追い、ステイルも駆け出した。
そして廊下に出て、インデックスに直ぐ済むからと軽く促した後、扉を閉めた。

ステイル「………………」


上条「な……なんだよ……急いでるんだ」

もぞもぞと、ぎこちない上条。
そんな彼を怪訝な目つきでジロジロと見ながら、ステイルはゆっくりと口を開く。




527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:06:53.49 ID:.W.mGWEo

ステイル「……トイレに行くって?」

上条「あ、ああ、そうだって言ったろ!」

ステイル「……」

そこでステイルは一際鋭く睨むような薄目をし。
そしてゆっくりとその視線を上条のちょうど股間の辺り、


妙に『盛り上がっている』部分に降ろした。


そして一言。

ステイル「…………『抜き』にか?」


上条「ばッ……!!!!!『抜かねえ』よ!!!!!」


上条「ちょっと押さえて沈めて来るだけだって!!!!!!」

ステイル「…………」

上条「………………しまっ…………」


ステイル「…………何を抜かないだ?何を押さえて沈めるって?ええ?おい?」


上条「……!!!!い、いや…………!!!!」




528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:08:35.62 ID:.W.mGWEo

ステイル「おいおいおいおいおいおい待て待て待て待てちょっといいか?何をした?何を彼女にした?おい言え」


上条「な、何もしてねえよ!!!!!何も!!!!!」

ステイル「本当にか!?本当に何もしてないのか!!?誓えるか!!!??」

上条「誓う!!!!誓って何もしてねえ!!!!」

ステイル「では『それ』は何だ!!!?随分元気だな!!?ええコラ!!!??」

上条「ち、違え……!!!!こ、これは…………!!!!」



上条「―――あ、朝立ちだッッッ!!!!!!!」



ステイル「ほぉ!!君はあんな状況でも普通に朝立ちするのか!!!??彼女が涙している時もか!!!??」

ステイル「なんという男だ!!!せめてこう言ってくれないか!!!?彼女に対してそうなってしまったと!!!」


上条「ああわかった!!!そうだ!!!!正直に言うとそうだこんちきしょう!!!!」



ステイル「……………………………やはりな……」


上条「…………………あっ…………」




529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 00:11:20.44 ID:.W.mGWEo

上条「…………す、すまん……」

ステイル「…………まあ謝る事はない……………………僕もその気持ちはわかるさ」

上条「おう………………………………え?」

ステイル「後ろの方は忘れろ。と、とにかくだ。あまり気を緩めないでくれ」

上条「ああ、もう二度とこんな事は無いようにするよ。気を引き締めなきゃな」

ステイル「いや…………だが、それが彼女の望みだというのならば……」

ステイル「それが彼女が求めることならば、僕からは君たちについては何も言わ…………」

上条「………………はい?何の事言ってんだ?」

ステイル「…………い、いや全て忘れろ」

ステイル「トイレに行くならさっさと行け。いや、もう収まったか?」

上条「あ~、そっちの方は収まったが今度はマジで小便が……」

ステイル「じゃあさっさと行け。早く行け」

上条「お、おう」

上条は途中からどことなくおかしくなったステイルに対し、
少し首を傾げながらも足早に廊下を進んでいった。


ステイル「全く…………僕は何言ってるんだ」


そんな上条の遠のく背中を見つめ、
半ば呆れがちに小さく笑いながら溜息を付くステイル。


ステイル「(…………これじゃあ、まるで僕は『父親』だな…………)」


ステイル「(はは、『お前なんぞにあの子はやらん』とでも怒鳴れば良かったか……………)」


ステイル「(…………………………………僕も変わったな。こんな事で笑うとは)」


―――




536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:38:02.30 ID:hqGGq5Mo
―――

第一学区。

とあるビルの中の大きなフロア。

壁の一面を覆っている大きなスクリーン、その脇に置かれている演壇を正面にし、
大量のパイプ椅子が無造作に並べられていた。

そしてそれらの椅子に座っていく、少年少女達。
ほとんど会話せず、皆一様に警戒心を示しながら。

室内は異様な緊張感で張り詰めていた。


そして常盤台の制服を纏ったツインテールの少女、
黒子もその椅子の一つに座りながら周囲をさりげなく観察していた。

黒子「(なんか……社会不適合者達の集会みたいですの……)」

一見すると普通の中高生達だが、良く見ると皆やけに目が据わっており、
異様なオーラを醸し出している。

それこそ、一人や二人は平気で殺しているような。
黒子はまだ知らないが、実際に周りの者達は当たり前のように人を殺してきたのであるのだが。


と、その黒子だが、彼女自身は気付いていないが、
実際に今の彼女も端から見れば目が据わっていた。


暗部の者達から見ても、コイツは相応の修羅場経験あるな と納得させる程の空気を纏いながら。




537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:39:00.87 ID:hqGGq5Mo

そしてまた別の一画には、同じように鋭い目つきで座っている三名。
いや、真ん中の一人は普段どおりの少し眠そうな目をしていたが。

絹旗「…………」

絹旗は小さな両手を膝の上で軽く擦り、『窒素装甲』の調子を確認しながら。

滝壺「…………」

隣の滝壺は、周囲の大量の『信号』を受信し、少し頭をゆらゆらさせながら。

浜面「…………」

その隣の浜面は鋭い目つきで周囲を見据え、
万が一に備えて腰にある拳銃を強く意識しながら。


浜面「……おい……あいつも確か……」

小さな声で隣へと声を飛ばす浜面。

滝壺「うん、あの人はレベル4の(ry」

絹旗「ええ…………わかってますから超静かにして下さいっっ」

絹旗も同じように小さな声を返す。




538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:40:21.63 ID:hqGGq5Mo

元アイテムの彼らにしてみれば、ここに集ってきている面子の中には
かなりの知っている顔がある。
どれも暗部だ。

とある任務の時に共同で動いた事がある者、
同じ獲物を狙って鉢合わせになり、一触即発になった者等々。
中には、このフロアに入ってきて彼らの顔を見つけた途端、軽く会釈してきた者もいた。

そういう連中がオールスターとなれば、他の知らぬ顔も恐らく暗部。
共通しているのは皆高位の能力者、それも戦闘向きの者ばかりだ。

つまり、暗部の能力者戦力が集められているという事だろう。

浜面「……」

そんな事からすれば、浜面にとっては己がとんでもなく場違いな者に思えてしまう。
なにせ無能力者だ。

ここにいる連中は能力者の中でもレベル4。
それも一般のレベル4とは違い、戦闘に長けている者達ばかり。

浜面「(…………くっそ………………)」

浜面のチキンレーダーがビンビンと反応する。
これはかなりヤバそうだ、と。




539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:43:01.01 ID:hqGGq5Mo

そうやってそれぞれが一通り座した。
ちょうど100人程度だろうか。

それを見てか、壁際に立っていた一人のスーツの男が演壇に立ち。

「おはよう。諸君」

「さて、簡単に説明を始めよう」


「君達には最後の任務に就いてもらう」


「報酬は既に聞いているだろうが、望む物全てをあげよう」

「金が欲しいのなら金を。10億でも100億でもくれてやる」

「体に何らかの異常があるのならば治療を」

「暗部から抜けたいのなら好きなようにするがいい」

「自由が欲しいのなら自由をやる」

「戦いそのものが好きならば、この任務自体が報酬にも成り得るし、」

「その後も暗部に留まれば良い。好きなだけこき使ってやろう」


「君達の望みを叶えてやる」


「ただし条件は」


「任務に全力を尽くし、各々の仕事を完遂させる事、だ」


「物理的な報酬ならば、いくらか『前払い』もしてやる」

「だが、最終的な支払いは任務が完遂されてからだ」




540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:44:59.03 ID:hqGGq5Mo

集っている少年少女達は誰も、一言も口を開かなかった。
皆鋭い目つきで演壇の男を見据えていた。


「さて……ここまでで気に食わないのならば、退出してもらってもいい」

「学園都市が無くなってもかまわない、というのならばな」


「こちらから頼もう。戦う意志の無い者は出て行ってくれ」


「ここから『先』の話を聞けば後戻りはできんからな」

それでも誰も動かなかった。
皆表情を変えず沈黙。


「良いだろう。全員承諾したと受け取る」


「では具体的に話そうか」


そして男の声にあわせて、巨大なスクリーンに複数の画像が表示された。
それを見た瞬間、少年少女達は皆一様に反応を示した。

声は相変わらず上がらなかったが、皆目を見開き息を飲み込んでいた。

その画像。


それは悪魔達の写真。

二ヵ月半前、そして第23学区の件で捉えられたモノだ。




541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:46:28.54 ID:hqGGq5Mo

「ここにいる者は皆、それぞれこのような人外の存在を『認識』しているはずだ」

「まず君達の大半は二ヵ月半前の動員の際に交戦したことがあるだろう」

「その他の者も、その後に様々な理由で関っただろう」


「君達の今回の任務はこれに大きく関係している」

「今までの概念と常識を捨ててくれ」


「相手は常識の外、全く異なる世界の存在だからな」


そして男は細かく作戦の内容を口にしていった。
麦野や一方通行達と同じ知識レベルまで。

当然、天界だの『口を開く術式』だの言われれば、大半の者はチンプンカンプンだ。
というか大半が、この場で初めて『魔術』という存在を認識したほどだ。

徐々に少年少女達の顔が曇っていく。
こいつは何を言ってるんだ? とでも言いたげに。


だがそれが『デタラメ』『嘘っぱち』と疑う者は誰一人いなかった。

皆、現に悪魔と言う存在と直接関わり、
常識では説明が付かない現象を実際に目の当たりにしているのだ。

理解不能でも、最初から突っぱねるのではなく皆わかろうと懸命に思考を巡らせていた。




542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:47:58.75 ID:hqGGq5Mo

「………… わからないか。まあ、仕方無いだろうな」

「今は簡単にこれだけ覚えておいてくれ」

「学園都市を守る為、時間稼ぎをする為にデュマーリ島に行く」

「そして向こうで悪魔達と戦いつつ都市を破壊、そして状況によってはこのアリウスへと戦力を投入する」

「こんな所だな」

「さっき言った通り、様々な情報を『学習装置』で君達の中に書き込む。そうすれば詳細も理解できるだろう」


「さて、そろそろ紹介しておくか……」

一通り皆の顔を見渡した後、軽く両手を叩いて呟く男。



滝壺「―――!!!!!!!」

とその時だった。
浜面と絹旗の間にいた滝壺が、突如ビクンと体を揺らし、そして目を見開いた。

浜面「…………お、おい?」

絹旗「…………どうしたんです?」

小声で、滝壺に両側から囁きかける二人。


滝壺「………………む…………む……む……」


浜面「む?」


滝壺「六時方向から…………信号が……」




543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:49:39.35 ID:hqGGq5Mo

六時方向。

その言葉を聞き、軽く身を捩って後ろに視線を向けようとする絹旗と浜面。
同時に、タイミング良く響く。



「お、来たな。では後ろを見てくれ。君達のリーダーだ」



演壇の男の、フロアの後方へと視線を向けるよう促す声。

そして絹旗と浜面と同じく、皆も一斉に後方に振り返った。



そして目に入る。


二人の女の姿。

スーツを纏い眼帯をしている女はパイプ椅子の一つに足を組んで座っており。

その隣には、長い髪を二つに結っている、サラシを巻いているような奇妙な格好の女。
近くの壁によりかかり軍用ライトをクルクルとまわしていた。



絹旗「―――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


浜面「―――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



その片方の女の顔を見て、二人は硬直した。
特に浜面は、まるで世界の終わりを見ているかのような悲壮すぎる表情で。


一方とある一画では、もう一人の方を見て驚愕の表情を浮かべている少女が一人。


黒子「(…………あの女はッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!)」




544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:51:46.81 ID:hqGGq5Mo

「右側が今作戦の副指揮官」


「レベル5第八位昇格予定、『座標移動』 結標淡希」


黒子「!!!!!!!」


「左側の眼帯をしている方が総指揮官」


「レベル5第四位、『原子崩し』。麦野沈利」


絹旗&浜面「!!!!!!!!!!!」


「それと……おい、彼はどこだ?」



結標「ああ、アイツはトイレだって。もう来ると思うけど」

とその時。

フロアの扉が開き。


土御門「ひゃー、スマンスマン、遅れたぜよ」

ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、姿を現す金髪にサングラスの少年。


「ああ、彼が土御門元春。今作戦のアドバイザーであり『頭脳』だ」


「君達はこの三名の命令に従って行動してもらう」

「『原子崩し』と『座標移動』はその必要はないだろうが、土御門については全力で守護してくれ」


土御門「はは、せいぜい俺の邪魔しねえように頼むぜよ」


黒子「(あの殿方は確か……………………)」




546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:57:07.45 ID:hqGGq5Mo

男の声が響く中、一人の無能力者は冷や汗を垂らして体を震わせていた。

浜面「(やべえ!!!!!!マジでやべえ!!!!!!こ、こ、こ、 ―――)」


浜面「(―――殺される!!!!!!!!本当にやべえ!!!!!)」


麦野沈利。

正に浜面にとって死神。


彼女については色々思うこともあるものの、
やはり現に目にしたらそんな事など頭の中からすっ飛んでしまう。


目を合わせないように意識しながらも、麦野の方をチラチラと見てしまう。
ダークグレーのスーツを身に纏っている麦野は無表情。
いや、少し目を薄めて気だるそうにしているか。

長い足を優雅に組み、首を少し傾けやや流し目で
演壇の男の方を真っ直ぐに見ている。

その醸し出しているオーラ。
異様な威圧感。
不気味なほどの落ち着きっぷり。


浜面「(……………………??)」


そう、今の麦野は不気味な程に『安定』している。
今までのような、全身から狂気を噴き出してはいない。


浜面はそこでようやく気付いた。

麦野の何かが違う、と。

あのフレンダの上半身を引き摺って現れた時のような。
あの第23学区で見た時のような、狂気と殺意が今の麦野からはまったく出ていない。

それどころか、麦野が豹変する『前』よりも妙に安定しているような。




547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:59:10.64 ID:hqGGq5Mo

絹旗「ちょっと浜面ッッ!!!何超ジロジロ見てんですかッッ!!!!」

小さくも、張り詰めた声を浜面に飛ばす絹旗。
浜面と同じく、彼女も冷や汗を滲ませていた。

浜面「お、おう……」

そう言われても見てしまうのが人というもの。

これが最後だと、もう一度チラリと麦野の方へ視線を向けた浜面。


浜面「―――」


すると。



目が会う。


麦野も真っ直ぐと浜面の方を見ていた。
無表情のまま。

鋭く凍て付くような左目。

そして。

一瞬だけ。


一瞬だけ、その左瞳が赤く光ったような―――。


浜面「――― うぉぉぉッッッッッ!!!!!!!!!!」


思わず彼は大きな声を上げてしまった。
全身の毛穴が開くのを感じ、その強烈な悪寒に耐えかねて。




548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:01:20.11 ID:SX9yjlMo

絹旗「―――バッッ!!!!超バカ浜面ッッ!!!!!!」

そして同じく大きな声を上げる絹旗。
当然、皆の視線が一気に彼らの所へと集中する。

「どうした?何か問題でもあるか?」

その男の声に対し、
浜面は口を固く結びながら無言で首を左右に振った。

絹旗も同じく、小刻みに首を振った。


「……そうか。ああ、それとだ」

男が小さく頷いた後、思い出したように呟きながら浜面と絹旗の『間』へと視線を動かし。



「滝壺理后」



滝壺「…………?」


「君の事も皆に紹介しておかねばな」



「レベル5第九位昇格予定、『能力追跡』。滝壺理后」



浜面「―――レベル5…………!!!!???」

絹旗「!!?はぃぃぃぃッッ!!!!?」



滝壺「………………………………………………??????」




549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:04:47.66 ID:SX9yjlMo

驚く両脇。

そして状況を掴めず、相変わらずポカーンとしている滝壺。
そんな三名を気にも留めず、男は皆に説明する。


「彼女は今作戦における、皆の管理・統率を担う」

「運用面における『核』だ」

「彼女の守護にも全力を尽くしてくれ」



「さて、ここまでで何か質問は?」

「何もなければ、この後直ぐに能力調整と知識面の書き込み作業に入ってもらうが」


「ちょっと待て」

とその時。
浜面達から見て3列前にいた、高校の学生服を着ている一人の茶髪の少年が立ち上がった。


「要は戦えば良いんだろ?なんなら一人でやらせてくんね?」

「チームとかに入りたくねえんだけど」

「つーか部隊とかウゼエ。全部俺の下っつうなら別にいいけどよ」



「大体にして『あのアマ』が頭なんざ気に食わねえ」


そして少年は半身振り返り、麦野と結標を鼻で小さく笑いながら見やった。




550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:06:21.82 ID:SX9yjlMo

「それとも何?レベル5ってだけで頭になれるくらいのバカしかいねえの?」

「強けりゃ階級も上ってか?なんだよそれ。組織として最悪じゃねえか」

少年の言葉に同意し、少し笑みを浮かべている者も幾人かいた。
まあ、端から見ればそうだろう。


土御門が総指揮官、となればまた違った風になるかもしれないが、
少なくともレベル5(予定)の麦野と結標がトップとなれば、
能力重視で命令系統を決めたようにも捉えられてしまうだろう。

浜面や絹旗等は、麦野の指揮能力の高さを良く知っているが、
それを知らない者にしてみればそう思ってしまうのも当然。


「いや。指揮系統の人選はしっかりと指揮能力を考慮して行ったが」

男が少年に対して返答するも。


「俺はんな事知らねえ。信用できねえよ。第四位に関して聞いたことと言やあ、」



「部下をも機嫌の良し悪しでぶっ殺す『虐殺女帝』ってだけだが」



「『血に狂ってるバケモノ』ってな」


それは明らかに挑発だった。
一瞬にして室内の空気が張り詰める。




551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:10:40.33 ID:SX9yjlMo

その沈黙の中。
不気味に響く小さな笑い声。


麦野「はは、あははは」


麦野は眼帯の隙間から青白い光を漏らしながら、乾いた笑い声を発した。

そしてゆっくりと立ち上がり、少年をまっすぐと見据え。


麦野「ま、それは間違ってないわね」

麦野「私は殺しまくった。アンタら全員が殺した分よりも恐らく多く、ね」

麦野「昨日も『散歩がてら』に、潮岸と奴の部隊350人をシェルターごと『蒸発』させたし」


麦野「そして部下も殺した事があるわ。下っ端じゃない幹部をね」


浜面「…………」

絹旗「…………」

滝壺「…………(むぎの……)」



麦野「でも、そこだけを見て『バケモノ』って呼ぶのは間違えてるわよ」


麦野「その評判が出回った頃の私は、『まだ』本物のバケモノじゃ無かったんだから―――」




552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:13:23.71 ID:SX9yjlMo

次の瞬間。

皆が麦野の姿を見失った。
フロアの後方のパイプ椅子の前に立っていた麦野。

その姿が、小さな空気を裂く音と共に一瞬にして掻き消えたのだ。

だが誰も探そうとはしなかった。


なぜなら、再び姿を現した麦野はあまりにも『目立ち』過ぎていたからだ。
視覚的にも。
そして感覚的にも。


茶髪の少年。
そのすぐ背後に、麦野は瞬時に移動していた。

左瞳を眩いほどに赤く光らせ、
背中から青白い光に包まれている紫の翼を出現させ。

周囲の者達が驚き、その威圧に押されてパイプ椅子から転げ落ちたり、
咄嗟に立ち上がって後ずさりし、麦野と少年から離れた。


「―――ッ…………………………………………!!!」

少年は動けなかった。
直ぐ背後の凄まじい存在を本能的に感じ。

そんな少年の耳元に軽く麦野は顔を寄せ。



麦野『バケモノってはね。今の私を見てから言いな』

麦野は囁くように、そして少しエコーのかかった声を発した。



麦野『―――今の私は「本物」だから』



麦野『覚えとけ。「バケモノ」ってのはこういうのだ』




553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:17:03.66 ID:SX9yjlMo

結標と土御門以外、少年少女達は皆硬直し息を呑んだ。

レベル5というのは、能力者達の中でもかけ離れている存在とは常識的に知っていたが。

これはあまりにも異質すぎた。
最早人間とは呼べない。
皆が皆、本能的に感じ取った。


正に『バケモノ』、と。


絹旗「(あ、あの目は…………!!!!!!!!)」

一人の少女は、以前とある白人男に直視されたトラウマ的記憶を思い起こしながら。

黒子「(あのお方も…………悪魔……ですの!!!??)」

また、周りの者よりも『アレ』が何なのかを良く知っている別の少女は、知識を元に麦野の存在を確認しながら。
皆が皆、麦野を見つめていた。


麦野『私の事は信用しなくて良い。だがこの「私の力」は「信用すべき」だと思うけど」


麦野『勘違いすんなよ。今はもう、テメェらの命は私のモノ』


麦野は少年の耳元に顔を寄せたまま。


麦野『ここにこうして残っている時点で、テメェらは承諾したはず』


フロアにいる全員へ向け言葉を発した。


麦野『私は「私のモノ」をもう誰にも「壊させない」』


少年越しに、3m先で固まっている浜面を見つめながら。




554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:20:11.28 ID:SX9yjlMo

浜面「…………!!!!」


麦野『約束はできないけど一応の最善は尽くしてあげる』


麦野『任務の成功の次に、テメェら「私の所有物」共の保全を優先してやる』

麦野『「おりこう」にしてくれたら、「この私」がテメェらの為に戦ってあげる』


麦野『テメェらが生きて帰れるよう、それなりの努力はしてやる』



麦野『それと「コレ」は「約束」するわ』



麦野『私のモノになりたくないってーのなら、今ここで壊してあげる』



麦野『私に従わないっていうのなら―――』




麦野『―――今ここでブチ殺してあげる』




555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:21:16.65 ID:SX9yjlMo

誰も言葉を発しなかった。
ここにいた少年少女達、皆が麦野に飲み込まれていた。


選択の余地は無い。


麦野の下につくか、それとも全てを水の泡にして死ぬか。

ここにいる者は皆 生きる為、もしくは生きて何かを欲している為に集っているのだ。
今ここで死ねば元も子もない。

もう、麦野に対して反旗を掲げる者はいなかった。

茶髪の少年は小さく頷き、
麦野に目を合わせないように自分のパイプ椅子に座った。


土御門「ひゅ~」


そんな異様な沈黙を容易くぶち割る、
ニヤニヤ笑っている土御門の口笛とテキトーな拍手。

同じく、結標も小さく笑っていた。




556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:23:43.40 ID:SX9yjlMo

土御門「さっすがだぜよ~」

抗いようの無い恐怖を一気に与えた後、
今度はその『圧倒的な力』が自分を守ってくれると認識させ。


最後に死か服従かを叩きつけ、
圧倒的『異常な存在への畏怖』を、絶対的な『主従関係の畏敬』にすり返る。


これぞ正に帝王学。


ここだけを見ても麦野は上に立つ素養を充分に秘めている。
それが良いか悪いかを別として、だが。


軽口を叩く土御門を、赤い瞳のまま睨み返す麦野。

土御門「ひゃー、おっかねえおっかねえ」

それを見て、左手をひらひら振りながら相変わらず笑う土御門。

皆が一様に顔を引きつらせている中での、土御門と結標の小馬鹿にしたような、
半ば呆れがちな笑顔はかなり異質なモノに見えた。


そして、これも他の少年少女達の中に無意識の内に刷り込まれていく。
この土御門と結標は麦野と『同等』であり、自分達の『上司』である、と。

つまり土御門と結標は、麦野のばら撒いた恐怖を利用して、
自分達の『格』をも示して刷り込ませたのだ。




557 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:25:34.50 ID:SX9yjlMo

グループのメンバーは皆キワモノだ。

それぞれが、別のところでは一組織を纏め上げてしょって立つような素養を持っている。
そこが他の暗部組織との大きな違いだ。

一方通行と土御門は言わずもがな。
エツァリは、アステカ魔術師の中から選抜され学園都市に送り込まれた最エリート。
向こうにいた頃は、組織内では幹部級の立ち位置。

結標は、グループに入る以前までとある一つの組織を率い、
学園都市に対して計画的な反抗を目論んでいた策士。

そして言わずと知れた麦野はアイテムの元リーダー。

学園都市にとって、一歩扱いを間違えると爆弾となりうる者達が集められているのがグループなのだ。
危険物の掃き溜めとも言えるし、頭が『飛んでいる』者達が集められた最精鋭とも言える。

上に立つ素養は麦野だけではなく、
グループの現メンバー五人ともそれぞれが有しているのだ。

皆が皆、それぞれかなりの切れ者だ。



そうやって、一応の認識が全員に染み渡ったところで。


「…… さて、そろそろいいかな?」

男が演壇に寄りかかりながら、タイミングを見計らって口を開いた。


「原子崩し。他に言いたい事は?」


その男の言葉に対し、麦野は背を向けたまま左手を軽く振り、
何もいう事は無いあまを示しながらツカツカとフロアの後ろの方へと戻っていった。

男は続けて視線を土御門と結標に移し。
二人は麦野と同じように、先を続けてくれと軽く眉を動かして意思表示した。




559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:27:38.44 ID:SX9yjlMo

「では、これから調整に入ってもらう」

「一階に降りてくれ。そこで別れ、それぞれの施設へと向かってもらう」


その男の言葉を合図に、皆が無言のまま立ち上がりドアの方へと歩き進んでいく。


そんな中、常盤台の制服を着た少女はふと足を止め。

黒子「…………」

結標の方へと視線を向けていた。
相手も彼女の方を見ていた。

そして結標は軽く微笑んだまま、小さく顎を揺らす。
何かの意思表示か。

挨拶のようなものか。

黒子「…………」

それに対し黒子は小さく眉を顰めただけで、
再び前に向き直るとそのまま人の流れに乗ってフロアを後にした。




560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:29:29.78 ID:SX9yjlMo

土御門「…………そういえば、お前ら前に殺し合ったんだっけか」

そんな二人のテレポーターの一瞬のやり取りを見ていた土御門が、
相変わらず不敵な笑みを浮かべながら結標の方へと言葉を飛ばす。

結標「…………まあね」

土御門「はは、お前の方に配属したらどうだ?『息が合う』んじゃないか?」

結標「うっさい。私よりも濃い因縁持ちはココにいるでしょ」

からかうような土御門の言葉を一蹴しながら、結標は顎で横にいる麦野を指した。

麦野「……」

土御門「おお、そうだったぜよ」



ちょうどと言うべきか。


そんな麦野を、座っていたパイプ椅子のところから見ている一人の無能力者の少年。

浜面「…………」

絹旗「ちょ、ちょっと浜面!!!!滝壺さんも!!何超見てんですか!!!さっさと行きますよ!!!」

滝壺「……むぎの…………なんか違う……あの時と……」

浜面「…………ああ」

絹旗「滝壺さんも何言ってるんですか!!?超意味不明ですが!!!??」




561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:30:56.47 ID:SX9yjlMo
浜面「……お前ら先行っててくれ。俺…………ちょっと確かめるわ」

絹旗「はぁ?!浜づッッ…………!!!!!」

そんな絹旗の声など気にも留めず、早歩きで浜面は歩き進んでいった。
ドアの方ではなく。

麦野の方へ。

彼は麦野の前、一メートルのとこまで迫った。

そんな浜面を、軽く咳払いし足を組み替え、
無表情のまま鋭い視線で見る麦野。



浜面「…………………………………………よ、よう……ひ、久しぶりだな」



それが、異常な程にぎこちない苦笑いを浮かべている浜面の第一声。


麦野「……………………何か用?」

それに対し、相変わらず冷めた調子で淡々と言葉を返す麦野。


麦野「何か質問ならあの男に聞け」


浜面「……い、いや…………そうじゃなくてな……」




562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:31:40.14 ID:SX9yjlMo


麦野「……じゃあ何?さっさと言えよ」

浜面「……………………………あのよ…………」

麦野「…………」

浜面「…………」

麦野「…………何?」


浜面「あ……あのよ!!!―――」



浜面「―――俺を殺さねえのか!!!!!???」


浜面「―――こんなに近くにいるんだぜ!!!!!???」


浜面「―――今更無能力者の一人や二人なんかどうってこと(ry」


麦野「おい」


浜面「…………ッ!!!!あ、ああ何だっ!!!!??」


麦野「…………言いたい事はそれだけ?」


浜面「…………お前は…………何か無いのか?俺達に……?」

麦野「…………………………………それだけならさっさと行け」




563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:33:37.86 ID:SX9yjlMo

浜面「…………麦野…………お前どうしちまったんだ?」

麦野「…………」

浜面「おい…………」

その浜面の問いかけはそれはそれは奇妙なものだっただろう。
まるで死にたがっているような。

当然、浜面は生きたい。

それなのに、『俺を殺したかがってるはずじゃなかったのかよ!?』と聞くとは。
むしろ『俺を殺す約束じゃなかったのかよ!?』と怒っているかのように。


麦野が自分達への殺意を見せない事に対し、『失望』しているかのような。


明らかに浜面の行動は矛盾している。


だが、この時の浜面の『お前どうしちまったんだ?』という問いには、別の意味も篭められていた。
浜面自身認識していなかった、別の『感情』が。

浜面は心のどこかで麦野を心配していたのだ。
彼女が豹変したのは二度目。
そのどちらも劇的に。


この今の二度目は確かに狂気も薄れて、客観的に見れば好ましい変化かもしれない。

しかし浜面はどうしても気になってしまっていた。

浜面は、この麦野がますます自分の知る『リーダー』の姿からかけ離れて行くのを感じていた。


殺意を見せないのは好ましいことなのに。
自分達の最大の脅威が無くなっているのは手を叩いて喜ぶべきなのに。


それでいて、数少ない『友人』が消えていってしまうような ―――。


更に遠くに行ってしまうような―――。




564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:35:16.05 ID:SX9yjlMo

そんな、得体の知れない感情を同じく滝壺も感じていたのか、
見るからにハラハラしている絹旗の隣で、彼女は哀しげな目で麦野と浜面を見ていた。


浜面「…………なあ……一体どうしちまったんだ?」

浜面「おい…………」


麦野「うるせえ」

だが麦野は表情を全く変えない。
そして相変わらず淡々とした口調で。


麦野「さっさと行け。『命令』だ」


命令を下す。


浜面「…………」

在りし日の頃のように。


浜面「………………ああ、了解」

そして浜面もスッと踵を返し、
絹旗と滝壺に目で合図をしてドアの方へと向かう。




565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:36:59.60 ID:SX9yjlMo

とその時。





麦野「――――――浜面―――」





浜面がドアから出るかどうかのところで、麦野の声。


浜面「……お、おう??!!!!」

少し焦りながら慌てて振り向く浜面。



麦野「……………………………………………………………………………………」


そんな浜面の顔を、そしてその向こうの少し悲しげな目の滝壺と、
警戒心むき出しの絹旗の顔を麦野はしばらく見つめ。


何かを言いたげに口を少し開いたが。


麦野「……………………………………………………………………………………何でもない。さっさと行け」



再び閉じ、最後に目をそらしながらポツリと呟いた。
これまた淡々と。

感情が一切読み取れない、揚場の無い声色で。


浜面「……………………あ、ああ」




566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:39:22.67 ID:SX9yjlMo

浜面達が退室し、フロアには説明していた男と、三人の『幹部』だけが残った。

麦野「…………」

土御門「……麦野」

麦野「何?」

土御門「言いたいことがあるなら、言える内に伝えておいた方がいいぜよ」

麦野「……ほっとけ。余計なお世話だ」

土御門「…………それともう一つ」

土御門「任務の完遂が最優先だからな」



土御門「―――『あいつら』を優先するなよ?」



麦野「…………んなもんわかってる…………」

アラストル『(心配するな。俺がいる)』

麦野「(…………)」

アラストル『(お前なら出来る。俺の名に賭けてやる)』

アラストル『(そもそもだ。お前が満足いくまでやり遂げてくれなきゃ、俺がマスターに会わせる顔が無くなるし、)』

アラストル『(お前を選んだマスターの顔にも泥を塗ってしまう)』

アラストル『(マスターの名を汚す事態だけは全力で避けさせてもらうからな)』

麦野「(…………ええ……わかってるって)」


―――




567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:40:06.61 ID:SX9yjlMo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。




568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 00:40:31.48 ID:WZbe8wYo
乙乙


ああ、むぎのんかっこかわいいわ・・・!




571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 01:12:56.86 ID:omGfg2AO
乙!

上司3人がかっこよすぎて寝ようとしてたのにテンション上がって寝れなくなったぜwwwwww




580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 16:40:43.89 ID:bsJbAkDO
そういえば、結構前の話だが上条さんって☆からいくらくらい貰ったんだろ
一躍金持ちになった、その日何度も0の数を数えたってあるし
まぁご想像にお任せしますって奴だろうけど




581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 18:40:36.30 ID:uyU7dow0
>>580上条ちゃんはバカなので五つ以上の桁は数えられませんよ?



582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/09(木) 20:36:02.21 ID:KHQYyEg0
>>581 メッサウケたwwwwwwありえそうで困るwwwwwwwwwwww



584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:17:24.82 ID:HjU1p5.o
―――

とある病棟の廊下を歩く、一人の成人女と一人の幼い少女。

一人はシャレたサングラスをかけ、胸元が大きくはだけたジャケットにホットパンツ。
背中に巨大なロケットランチャーを背負い、腰や太ももに大量の銃器や弾倉をぶら下げている、
美しくもかなり危険な香りを漂わせている白人女性。

人間界最高峰のデビルハンター、レディ。


そして足長なレディの歩行ペースにあわせ、
やや早歩きでヒョコヒョコとその隣についている褐色の肌に赤毛の少女、ルシア。

少女は背中に、彼女の体の1.5倍はあろうかという巨大なバッグを二つ背負っていた。
端から見ればなんとバランスの悪い光景か。

このバッグには、ルシアから話を聞いたレディが選んだ一式の道具が入っている。
様々な魔導器、魔導書等、その分野は魔界関係だけではなく天界関係にまで及んでいる。

当然それらの大量の物資など、筋力は一介の人間と同レベルしかないレディは運ぶことが出来ない。

戦闘時に時々使う肉体強化魔術を使用すればまた別だが。
しかしそれは切り札の一つであり、物を運ぶ為だけに使う訳には行かない。

それに彼女の肉体強化魔術は、
パワー等の身体能力面では無く感応速度を爆発的に高める仕様であり、力仕事には全く向いていない。

そもそもパワー面は様々な武器で十二分に補強している為、特に必要としていないのだ。

とまあ、そういう事もあり荷物はルシアに運んでもらっているという訳だ。
実際、少女が背負っているバッグの一つは重量が約200kgだ。




585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:20:36.33 ID:HjU1p5.o

レディ「…………」

廊下を進みながら、さりげなく周囲を観察するレディ。
彼女が学園都市に来るのは初めてだ。

実は二ヵ月半前の『パーティ』にもかなり参加したかったが、まあそれは置いておくとして、
実際に来て見ると、レディが聞いた話だけで思い描いていた学園都市像とは少し違っていた。

もっとこう、近未来的な姿を思い描いていたのだが、それ程ではなかった。


病院の中を多くのロボットが行きかい、様々な情報端末はホログラム化し、
どこにいても手をかざすだけでその立体映像の端末が出現するような、そんな未来都市がレディの想像だったが。


現に来て見ると、ヨーロッパの先進的な病院とほとんど変わりが無い。
ちらほらと清掃用のロボットを見るが、未来要素を醸し出しているのはそれだけだ。

まあ、まだ病院しか見ていないから、それで学園都市全体を判断するのは早計だろうが。


レディ「…………(ま、後でゆっくり出来るようになったら観光しようかしら)」


レディ「…………(でも日本語できないのよね~)」


そう、実は彼女、日本語が喋れない。
何でもかんでも直感的に把握し、『覚える』のではなく『知っている』状態に持ちこめる悪魔とは違う。

人間である以上、頭を使ってコツコツ記憶していかねばならないのだ。
ヨーロッパの主な言語は堪能だが、今まで日本に関ることは無かった為習得していないのも当然。


レディ「…………(誰かついて来てくれれば良いけど)」




586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:23:54.39 ID:HjU1p5.o

と、そうやって適当な事を考えながら廊下の突き当りを曲がると。

レディ「……あそこ?」

ルシア「はい」

廊下の先、とあるドアの直ぐ前で、
ダンテがシーツでぐるぐる巻きになっている
トリッシュを抱きかかえながら突っ立っていた。

ダンテは立ちながら器用に眠っているのか、目を瞑って頭をだらしなく傾けており。

そんな彼にお姫様抱っこされているトリッシュは、何か思考を巡らせているのか、
焦点の定まってない目でボーっと天井を眺めていた。


レディ「(……何やってんのアイツラは)」


ルシア「……?」

それは何とも奇妙な光景だった。

ただ見ただけでは、
何であんな事になっているのか、なぜああしてるのかその意図が全くわからない。


レディは呆れたような表情で、ルシアは不思議そうに頭を傾けながら、
その奇妙な二人の下へと進んでいった。




587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:27:17.75 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「あら、来たわね」

そんな二人の接近に気付き。
ふとトリッシュが視線を降ろし、レディ達に向け口を開いた。

レディ「………………何してんの?」

レディ「とうとう『教会』に行くつもり?それがウェディングドレス?」

小馬鹿にするように笑いながら、二人の姿をまじまじと眺め、
そしてトリッシュの体に巻かれているシーツを指すレディ。

ちなみにダンテは相変わらず、立ちながら器用に眠っていた。


トリッシュ「……………………笑えないわねその冗談は」


トリッシュ「違うわよ。フォルトゥナの『お姫様』が目を覚ましたの」

トリッシュ「それで今、中で『王子様』と二人っきり」

トリッシュ「そんなとこに部外者がいるのは野暮でしょ」


レディ「あ~……そう。で、気使ったのはわかるけど、それなのに何でドアの直ぐ傍にいんのよ?」


トリッシュ「そりゃあ、『聞きたい』から。面白いじゃないの。『人間式の交尾』の音って」

レディ「…………」

トリッシュ「でも中々始まんないのよね~ボソボソ喋ってるばっかで。時々キスの音は聞こえてたんだけど」

トリッシュ「ダンテなんか待ちくたびれてこのまま寝ちゃったし」

レディ「……………………(コイツ等本当にアホね)」



588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:30:47.77 ID:HjU1p5.o

ルシア「?な、何か始まるんですか?」

レディ「何も始まらない。アンタはまだ知らなくて良い事だから。忘れろ」

トリッシュ「あ、勘違いしないでね。ダンテは違うけど私は学術的な意味で(ry」

とその時。

ドアが勢い良く開け放たれ。


ネロ「うっせーな、丸聞こえなんだよ」


見るからに不機嫌そうなネロが姿を現した。
その奥のベッドの上には、少し恥ずかしそうな表情のキリエ。


トリッシュ「あら、もう『済ませた』の?」


ネロ「んな訳ねえだろうが」

ネロ「くだらねえ期待してねえでさっさと入れよアホ共」

トリッシュ「ふふふ、じゃ、ほら起きなさい」

トリッシュがダンテの腕の上で軽く足を跳ね上げ、大男の大きく揺さぶった。


ダンテ「………………あぁ…………?何だ?もう『終わった』のか?随分『早え』な」

ボンヤリと目を開き、腑抜けた声を発しながらネロの方へと目を向けるダンテ。


ネロ「何をだ?何をだよバカ野郎?それと俺はんな『早く』ねえからな。舐めんなよ」


ダンテ「…………へっへ……ああそうかい」




589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:32:59.94 ID:HjU1p5.o

ネロもネロの方でストレートな言い様。

ベッドの上で恥ずかしそうにしているキリエを尻目に、
飄々とダンテは病室に入り、トリッシュをキリエの横に降ろし。
それに続いて入室するレディと大きなバッグを背負ったルシア。

そして依然不機嫌なままのネロが、最後にやや乱暴にドアを閉め。

ダンテはトリッシュを降ろした後、壁際のソファーへと向かい腰を乱暴に降ろし。
ネロはベッド脇でやや眉を顰めながら腕組をし、

ルシアはベッドの近くにバッグを下ろして、定位置の窓枠にピョンと乗り。


レディはその大きなバッグの上に腰を降ろす。


トリッシュ「気分はどう?」

何事も無かったかのように、隣のやや俯き気味のキリエへ声をかけるトリッシュ。


キリエ「あ……もう大丈夫です。すみません……色々とご心配をおかけしてしまい……」


トリッシュ「気にしないで。それと無理もしないでね。まだ少しめまいとかだるさがあるでしょ」

キリエ「……………………はい」




590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:34:50.49 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「さてと…………レディ」

レディ「一応使えそうなのは一通り持ってきたけど」

トリッシュ「ええ、確かに大荷物ね。じゃあ早速見てちょうだい」

トリッシュ「彼女の右手首よ」

その声に合わせ、キリエがスッと右腕をレディの方へと差し出した。
レディも立ち上がり、サングラスを外し胸元に引っ掛けながら、

もう片方の手でキリエの腕を軽く掴んで顔を近付け。


レディ「……………………………………コレ…………随っっっっ分厄介ね……」

そして軽く舌打ちしながら、溜息混じりに呟いた。


レディ「『アイツ』のやり方に似てるけど…………もっと洗練されてるみたいね」


ダンテ「『親父さん』にか?」

トリッシュ「……『アーカム』?」


レディ「………………………………その名は言わないで」


トリッシュ「あらゴメン」




591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:38:29.83 ID:HjU1p5.o

レディ「ちょっと我慢して」

レディはそう小さくキリエに良いながら、腰に大量にぶら下がっているポーチの一つから小さな黒い針を取り出し、
数ミリほど彼女のアザの中心に突き刺した。

キリエ「…………」

そしてスッと引き抜き、今度は指した周辺をやや強めに指圧し、血を数滴分染み出させ。
その血を人差し指で撫でるように掬い取ると。

一旦キリエから離れてバッグの方へと向かい、もう片方の手で起用に荷物のゴツイ拘束具を外し、何やら漁り始めた。


ネロ「…………『構成』を見んのか?」

レディ「ええ」

ネロ「禁書目録もここにいる。アイツに見てもらった方早くねえか?」

レディ「…………術式構造はともかく、その力の根源が神クラスだったらどうするのよ」

そんなネロの素朴な疑問に対し、レディは荷物を漁りながら淡々と答える。


レディ「そしてそれで精神汚染するようなトラップがあったら?」

レディ「禁書目録がどんだけの『器』持ってるか知らないけど、用心に越したことは無いでしょ」

レディ「表面見た感じだと、『コレ』作った奴は本当に化物染みた頭しているみたいだし、」

レディ「何が仕掛けてあるかわからないわよ」


ダンテ「お前の『親父さん』よりもか?」


レディ「…………多分。少なくとも私よりは頭がぶっ飛んでる」




592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:41:09.99 ID:HjU1p5.o

レディ「…………っと……」

と話している間に、レディは目当てのとある魔導書を探し当てた。

表紙が黒ずんでいて古めかしく、
その姿を見ただけでこれがどれ程おぞましい存在かがわかるくらいに、
不気味な空気を漂わせていた


レディは再びバッグの上に腰を降ろし、その魔導書を膝の上に乗せると、
片方の手で再びサングラスをかけ。

レディ「キリエ」

上目遣いで、サングラスの上辺からオッドアイを覗かせながら
キリエの方をチラリと見やった。

その意図を察し、

ネロ「キリエ。目瞑ってろ」

ネロの声も受けて、キリエは目を瞑ってレディから目を背けた。

ネロ「俺が良いって言うまでそうしててくれ」

キリエ「……うん」


レディ「じゃ、始めるわね」

キリエの状態を再度目で確認した後、レディはそっと魔導書を開き。
そっとページを捲り始めた。

その瞬間、明るかった病室が一気に暗くなり、
凄まじい重圧が充満していった。




593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:43:07.19 ID:HjU1p5.o

魔導書の中身。

そのページは『白紙』だった。
何も書かれていない。

だが。

レディ「…………」

先ほど指先でとったキリエの血をそのページに擦り付けると。


黒い染みのようなモノが一気にページ全体に染み出し、
そして様々な魔法陣や奇妙な紋章を浮かび上がらせた。


レディ「………………………はッ……」


それを見た瞬間、レディは短い笑い声をあげた。
本当に呆れてしまっているかのように。


トリッシュ「…………どう?」



レディ「…………術式の系統は様々ね……古代ギリシャのグノーシス式がメインだけど…………」

レディ「歴代のフォルトゥナ式も混ざってるし、天界魔術の構造も見えるわね……エノク語の式もあるし、最近のアレイスター式もあるわ」

レディ「ごちゃ混ぜ……っていうか、本当に良いとこ取りしてるわ。こんなの見たこと無いわ」


レディ「なんちゅー応用の仕方よ…………コレ作った奴イカれてるわ本当に」




594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:45:33.32 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「…………力の根源は?『誰』の力?」

レディ「……………………大量の高等悪魔の魂ね…………待って。大物がいたわ」


レディ「『トリグラフ』、それと恐怖公『アスタロト』」


トリッシュ「………………随分デカイのが釣れたわね」


ダンテ「?誰だそいつら?強えのか?」


トリッシュ「ええ。私よりも強いかしら。覇王の直属だった『神』よ」

レディ「『アスタロト』の方は確か今、魔界の内戦で10強に入ってるって聞いたけど」

トリッシュ「2000年前、覇王と一緒に別の世界へ侵略に行ってたから、スパーダにやられずに済んだ連中よ」

トリッシュ「レディの言うとおり、今は覇権争いで『頑張ってる』みたい」

レディ「ま、そういう連中が覇王復活の支援するのも理にかなってるって所ね」


ダンテ「…………へぇ…………そいつは面白えじゃねえか」


ネロ「待て……こいつらは俺の獲物だからな」




595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:46:50.66 ID:HjU1p5.o

ダンテ「おいおいつれねえな。お前は覇王があんだろ?一体くらい寄越せよ」

ネロ「うるせーな、アンタはアンタの方で取り分があるだろ」


トリッシュ「……ダンテ。ネロの言う通り、この連中は彼の領分よ」


ダンテ「…………………あ~」

ネロ「そういう事だ。ま、気が向いたら一体くらいやっても良いけどな」

ダンテ「本当だな?」

ネロ「気が向いたらな」

トリッシュ「あ、そうそうダンテ、向こうに行ったらこの二人の事もロダンに聞いといて」

トリッシュ「彼なら魔界の『近況』知ってると思うから」

ダンテ「へーへー」




596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:49:36.90 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「で、どう?外せそう?」

レディ「…………多分ね。慎重に行けば」

レディ「私の監督で一層一層しっかりと見てけば大丈夫だと思うから、禁書目録の目も借りたいわね」

レディ「禁書目録ってどの程度まで『受け止められる』の?」


トリッシュ「…………少なくとも、二ヵ月半前には私が直接力流し込んでも平然としてたわね」


レディ「じゃあ一応大丈夫ね」

レディ「この『二人』の力は精神系特化型でもないし、トラップの方も多分問題ないわ」

ダンテ「ソイツら、直接攻撃型か?」

レディ「まあね。記録が正しければ」


ダンテ「ヒューッッハッハァ、ますます面白そうだな」

ネロ「だからアンタのじゃねえって。俺のだ」

ダンテ「わぁってるって」




597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:54:33.21 ID:HjU1p5.o

レディ「それともちろん幻想殺しも借りたいわね」

トリッシュ「大丈夫なの?あの子の手って加減できないで、一気に全構造ぶっ壊しちゃうみたいだけど」

                                                               アンタ達
レディ「……それは様子を見ながらね。幻想殺しが使えない場合も考えて、『スパーダ』の血もちょうだい」


レディ「この大物二人の力を打ち消せると思うから」


ダンテ「………………………………どんくれえだ?」

レディ「数滴で充分だから。何ビビッてんのよ」

ダンテ「…………お前が血寄越せとか言うとシャレになんねえんだよ」

ネロ「………… はは……」


レディ「ちょっと。アンタ達私を何だと思ってんの?こんな『か弱い』人間の『乙女』を捕まえておいて」

ネロ「………………乙女……ね。笑えるぜ……」


レディ「あ?どこが笑えるって?」


ネロ「…………………… いや、すまん。笑えねえな……悪い……」




598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/09(木) 23:55:52.14 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「じゃ、そういう事でなんとかなりそうね。時間はどのくらいかかる?」

レディ「まだ何とも言えないけど…………四日あればいけるかも。遅くても一週間あれば」

ネロ「OK、早くて四日な」

ネロ「術が解け次第、俺とフォルトゥナの選抜部隊がデュマーリ島に乗り込む」

ネロ「それまでは監視に留めておいてくれ。絶対に『直接的』に手を出すなよ」


そこでネロはダンテの方へと振り向き。


ネロ「―――な。その事を頭に刻んでおいてくれ」


破天荒な叔父に対して念を押す。

そんなネロの言葉を受け、ダンテは苦笑いを浮かべた。
正にその点についてとある問題があると言いたげに。

当然、ネロもそのダンテの表情をすぐに読み取った。


ネロ「………………何かあんのか?」


ダンテ「…………ん~……まあな」




599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:01:46.29 ID:Z1S.LJco
ダンテ「手を出すなって事だが…………」

トリッシュ「…………」

ダンテ「実はな、学園都市側でもデュマーリ島強襲をするらしくてな」

ダンテ「アリウスに対する妨害作戦らしい」

ネロ「…………どういう事だ?」

ダンテ「何でも、天界の口が開く件にもアイツが絡んでるらしくてな」

ダンテ「で、その天界の軍勢は学園都市を潰したがってるらしい」


ネロ「………………………俺らの事について、アレイスターは何か知ってるのか?」


ダンテ「いいや。知ってたら、そこの『お姫様』をどうにかしようとなんか仕掛けてくるだろうよ」

ダンテ「今のアレイスターは形振り構わない感じだったからな」

ダンテ「目的の為なら、俺らを敵に回す事をも厭わないだろうよ」

ネロ「…………そうか……」


ダンテ「どうする?」



ネロ「………………俺は『俺のやり方』を貫くだけだ」



ネロ「さっき言っただろ。キリエの術が解けるまでは『絶対』に手を出させねえ」



ネロ「如何なる理由があろうとな」



600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:03:58.42 ID:Z1S.LJco

ネロ「…………アラストル持ちもそれに絡んでるのか?」

ダンテ「まあな」

ネロ「じゃあアンタがそっちからなんとかしろ」

ネロ「こっちから先に手を出すつもりは無い」

ネロ「術が解けた後なら自由にしてもらって構わない」

ネロ「応援は喜んで受け入れる」


ネロ「だがその前に、先に勝手に動いたらそれ相応の『手段』をとるからな」


ダンテ「……………………あーへいへい。了解だ」


レディ「……ところで、ココに天界の軍勢が来るのよね?私達が間に合わなかったら?」

ネロ「ルシア。その時はキリエをフォルトゥナに運べ」

ルシア「は、はい」

レディ「フォルトゥナの結界は全部ぶっ壊れてるんじゃ?」

ネロ「今ウチの連中が再構築してる。一週間で元通りだ」

レディ「…………そう……」

小さく頷きながら、レディは魔導書をゆっくりと閉じた。
それと同時に、ネロはキリエの肩に手を置いてもう良いぞと小さく声をかけた。


トリッシュ「…………じゃ、今はこんな所ね」

トリッシュ「またなんかあったらルシアに迎えに行かせるから」

ネロ「ああ」




601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:07:21.43 ID:Z1S.LJco

そしてネロは軽くキリエに挨拶した後、ルシアと共にフォルトゥナへと向かっていった。

レディ「…………それにしても随分と厄介な事になってるじゃないのよ」

トリッシュ「そうね。私はこのザマだから、ここはダンテに頑張ってもらわなきゃ」

ダンテ「……………… あ~……」

トリッシュ「頼むわよ?ルシア戻ってきたらすぐ向こうに行って」

ダンテ「…………おー」

レディ「あ、その後でもいいから、あの子に禁書目録と幻想殺しも呼んできて貰って。早速始めたいから」

トリッシュ「ええ」

キリエ「あの、私は何をすれば……?」

レディ「右手を出してくれていればそれで充分よ。ただ、術式を弄る際はいくらか負荷が掛かるかも知れないから、」

レディ「ま、そこは様子を見ながら休み休み、ね。私もかなり疲れそうだし」

トリッシュ「禁書目録もそうだけど、人間には無理させないようにね。代わりに幻想殺しはいくらでも使って良いから」


レディ「当然でしょ。あんのクッッッッッッッッッソガキは死ぬまでこき使ってやる」


レディ「ていうか普通に殺したいんだけど。今日はしっかりフル装備で来たわよ?」


レディ「私としては、そろそろ殺しておかないとさ」


レディ「人間に戻ったら戻ったでつまんないし。今が旬の殺し時だと思うんだけど」


トリッシュ「それはさすがにダメ。半殺しなら別にOKだけど」


ダンテ「(へっへ、マジでご愁傷様だな坊や…………同情すんぜ)」

―――




602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:09:20.06 ID:Z1S.LJco
―――

一方その頃。
別の病室。


上条「うぉぅッッッッッ!!!!!!!!!!」

悪魔の感で、その強烈な殺意を感じ取った上条。
体を一気に駆け巡った冷気に溜まらず声を上げてしまった。

禁書「?どうしたのかな?」


上条「い、いや…………何か一瞬だけ…………」

この感覚は前にも一度経験がある。


レディを怒らせてしまった時だ。
あれ程おっかない『人間』はそうそうお目にかかれない。

悪魔ならまだしも、ただの人間でありながら上条にトラウマを刻み込んでしまう、正にある種の『怪物』だ。

力としての問題ではなく、もうなんだか本能的に『あの女には勝てない』と思い込んでしまう程だ。

上条「(………………まさか……学園都市にいるわけねえよなあ……気のせいだよな……)」


禁書「とうま?」

そんな上条を、軽く首を傾げながら不思議そうに見るインデックス。


上条「ん……あぁ……はは……なんでもねえぜ」




603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:12:32.86 ID:Z1S.LJco


上条「あ~、それにしてもなあ……。こうゆっくりしてると色々思い出しちまったぜ」

禁書「?」

上条「まず、ウチの窓とベランダぶっ壊れちまっただろ?」

禁書「あ…………」

上条「…………金はそれなりにあるし修理はできるんだけどなぁ……」


上条「なんかそろそろ追い出されちまいそうな気がするぜ」

禁書「?あそこって学園都市側から借りてるんじゃないのかな?」

上条「そうだけど、こうも色々あるとご近所さんがさすがに怒るだろ?」

禁書「そう?つちみかどは怒らないと思うんだよ!」

上条「その反対側とか上とか下とかもいんだろ」

禁書「…………う……じゃ、じゃあいつかお引っ越しするの?」

上条「うーん…………まあ……考えてる」




604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:14:16.26 ID:Z1S.LJco

上条「寮じゃなくて一軒屋みたいなところとか。良く考えると、今回だって巻き添え出てたかも知れねえしな」

上条「できるだけ、他の人が近くに住んでいないような状況がいいかなってよ」


上条「それにお前もいるとなるとな~。さすがに『二人で暮らす』には少し狭いだろ今のまま…………じゃっっっ……!!!」


自分が何気なしに口にした言葉で自爆する上条。

上条「い、いやっ………… ま、まあそんな感じでな……!!」

禁書「…………ふ、ふ、ふ、ふふ『二人』でっ……ねっ………!!」

そして同じく、飛び火して少し恥ずかしそうに俯くインデックス。


上条「そ、そうっ!!!そういう事でな!!!引っ越すのを考えてる訳だ!!」

禁書「う、うん!!!ちゃ、ちゃんと選ぶんだよっっ!!」

上条「お、おう!!!」

その時、病室のドア向こうに門番よろしく立っている、
赤毛の大男の舌打ちが小さく響いた。

惚けている二人の耳には当然入らなかったが。




605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:16:06.37 ID:Z1S.LJco

禁書「……あ、でもね。こもえとかあいさの家が遠くなるのはイヤなんだよ」

上条「あ~、そこら辺も考えておかなきゃな。学校までの距離もだな」

上条「別に遠くても今の俺なら問題ねえけど、人間に戻ったら通学大変だしな」

禁書「とうま、もう学校いかなくていいんじゃない?」

上条「え?いやいやいや、それはさすがにマズイですよ~インデックスさん」

上条「確かに学校とか言えるような『世間』から、俺はもうだいぶかけ離れちまったけどよ…………」

上条「やっぱり、一応高校ぐらいまではしっかり出ておきたい訳ですよ、上条さんとしては」

禁書「…………ふーん……そういうものなのかな」

上条「友達もいるしな。あいつらとも一緒に過したいしなやっぱり」

禁書「あっ!!!!じゃあ行かなきゃダメなんだよ!!!ともだちは大切にするんだよ!!!!」


上条「おう。ははは、そうだな」


上条「まあ、大学まで行きたかったけどな。だがさすがに『ココ』までくりゃあ、そういう『普通の世界』にはもう戻れないだろ」

上条「だからせめて高校くらいはって感じだな」




606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:17:59.08 ID:Z1S.LJco

禁書「…………………………とうま、後悔してる?『ココ』まで来て……」

上条「ん?ま、少し残念って感じかな」


禁書「……」


上条「あ~、でもな。後悔はしてねえ」


上条「色々大変だが、今は『不幸』とも思わねえ」


禁書「………………ぇ?」



上条「お前がいりゃあ充分だ」



禁書「―――」



上条「お前に会えたんだ」



上条「それなのに『不幸だ』なんて言ってりゃあ、それこそバチが当たっちまうじゃねえか」




607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:19:57.23 ID:Z1S.LJco

禁書「……と、とうまっ…………」


上条「それにな、確かに大変だったが、それこそ一度死んじまったぐらいだけどな、」

上条「それ以上に色々な事を知る事が出来たし、色々な人にも会えた」

上条「例えば一方通行があんな風に、誰かの為に戦ってくれる事も知れたし」

上条「ステイルとか神裂がどれだけ『友達』の事を思ってたのかももっとわかったし」

上条「御坂が……そのなんつーか、アイツの想いもわかって、俺はちゃんと向き合う覚悟ができたし」

上条「悪魔とかも、こっちから見ればとんでもねえ連中だけど、向こうの立場から見れば人間達が憎いのも仕方ねえことだし」

上条「そんな悪魔の中でも人の為に戦ってくれる人がいて、そいつらの方が俺ら自身よりもよっぽど人間らしかったり」


上条「本当にたくさんな。今挙げたのは極一部だ」


上条「これらもな、元を辿れば全部お前がくれた『贈り物』だ」


禁書「…………」


上条「だから後悔なんざしてねえ」


上条「もし、これを『不幸だ』なんて言いやがる『俺』がいたら、思いっきりぶん殴ってやる」


上条「『今の俺』は『幸福』だよ。本当に恵まれてるさ」




608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:22:12.41 ID:Z1S.LJco

上条「…………っって……おいぃ?」

と、そうやって一通り言い終わったところで。
上条はようやく、インデックスが瞳を潤ませて
今にも泣きそうな顔をしているのに気付いた。

上条「…………ど、どうした?」

禁書「ううん!なんでもないんだよ!」

心配そうに覗き込む上条に対し、インデックスは今まで以上の笑みを浮かべた。
頬に水晶のような雫を伝わせながら。

上条「そ、そうか?」

禁書「うん!」

上条「い、いや…………俺がなんか悪いこと言ったのなら……」


禁書「ううん。でも…………まだまだ……」


禁書「…………………かん…………!」


上条「……へ?」


禁書「―――鈍感なんだよっっっとうまはっっっ!!!!」




609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:23:37.30 ID:Z1S.LJco

泣きながら、そして笑いながら、一気に上条に飛びついたインデックス。
彼の胸に飛び込み、そしてギュッと抱きついた。

上条「うぉぉ!!!ちょ、ちょ!!!!!!」

上条「い、インデックス!!!!!い、いいいいいいいいいいいいきなり何をッッッッッ……!!!!!!!」


禁書「……ねえ、とうま」


慌て焦る上条など全く気にせずに、
インデックスは彼の胸の中で目を瞑りながら小さく呟いた。

上条「……お、おうぅっ!!!?」

禁書「お引越しする前に、何回かあの家に戻るの?」

上条「ま、まままままあな!!荷物も運ばなきゃだしな!!!飛び散ったガラスとかも掃除しなきゃ(ry」

禁書「私も行きたいんだよ」

上条「……へ?」


禁書「だって、あそこはとうまと出会った場所」

禁書「とうまの思い出がたくさんある場所」



禁書「―――私の『聖地』だもん」




上条「―――…………」




610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:25:09.56 ID:Z1S.LJco

その言葉で上条の体から緊張が一気に引いていった。
そして彼はようやく。

ようやく静かにインデックスを抱きしめた。

上条「ああ。一緒に行こう」


禁書「…………でもね、本当はね、私はあそこで暮らしたいんだよ」


上条「…… じゃあ、こういうのはどうだ?」

上条「あそこは別荘にする」

上条「普段の家は別に買って、休みの日とかにあそこに行く」

上条「いつでも好きなときに」

禁書「…………好きなときに……二人で?」

上条「もちろん。『俺達の聖地』だ。一緒に、な」

禁書「…………うん……それなら…………良い…………んだよ…………」

上条「………………?」

急にテンポが遅くなったインデックスの声。
上条は首を傾げながら、少し頭を傾けて腕の中を覗き込むと。

上条「(はは……寝ちまったのか。早業だな…………)」


上条「(ま、昨日の今日だしな。疲れてんだろうな…………)」


インデックスは、上条の胸の中で小さな寝息を立てて蹲っていた。

心地よさそうに。

まだ少し目の辺りを濡らしながら。

―――




611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 00:25:44.67 ID:Z1S.LJco
今日派ここまでです。
次は土曜か日曜に。




615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:36:47.87 ID:fwXvLWQo
乙!甘くて砂糖吐いた



617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 13:53:34.88 ID:GfDP7kDO
嵐の前の静けさってやつだな、ずっとこのままでもいいくらいだ



618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 16:18:33.16 ID:WztcsUDO
甘すぎてヤバイ。舌打ちするステイル良い
レディさんマジこええ






次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 17】



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禁書目録SS   コメント:3   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
617. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/10/26(火) 09:37 ▼このコメントに返信する
追いつかないことを祈る
6336. 名前 : 名無しさん◆- 投稿日 : 2011/04/27(水) 06:43 ▼このコメントに返信する
>その腰の右側にアラストルを吊るしており、麦野は右手をその柄に乗せていた。

>その男の言葉に対し、麦野は背を向けたまま左手を軽く振り、

どっちの腕がないんだっけ?
33611. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2013/04/25(木) 02:13 ▼このコメントに返信する
あまり細かいことを気にしないのがssを楽しく見る為の秘訣なんだよ!!
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