ダンテ「学園都市か」【MISSION 15】

2010-10-24 (日) 00:20  禁書目録SS   0コメント  
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とある魔術の禁書目録より─麦野沈利


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3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:04:02.99 ID:3iWVRjAo
―――


窓の無いビル。


アレイスター「…………」



学園都市を覆う高濃度の『AIM拡散力場』。

その原因は、ヒューズ=カザキリではない。

エイワスでもない。



一方通行だ。



学園都市中のAIMを掻き集めた存在と同じ規模・濃度のAIMを、

今の一方通行はたった一人で放散しているのだ。
その原因は当然、先の『戦い』だ。


あの場で、一方通行は更に進化した。

遂に『人間界の天使』の領域へ、
『生きている身』・『魂と器』を持つ者として足を踏み入れたのだ。

この 『生きている身』・『魂と器』を持っている という点が、
一方通行がヒューズ=カザキリやエイワスと最も違う部分だ。


今の一方通行とヒューズ=カザキリの『力』自体は拮抗しつつあるも、
その『性質』と『構造』は全く別物だ。




4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:05:45.02 ID:3iWVRjAo

ヒューズ=カザキリとは、
『学園都市中の能力者』という小さな蛇口から僅かに染み出た、

『AIM拡散力場』を寄せ集めた結晶だ。


古の滅びし、人間界の神々の『力』の『集合体』であり、『タダの力の塊』に過ぎない。

『風斬 氷華』という人格は操作しやすいようにアレイスターが組み込んだものであり、
厳密に言うと『生命』ではない。

『器』も『魂』も持っていないのだ。

当然、ヒューズ=カザキリの上位体であるエイワスもだ。
この二体は、大勢の能力者がいないと存在を維持できない。

封印されている『力場』から力を引き出す、『大量の蛇口』がないと だ。

この供給が止められたら、ヒューズ=カザキリやエイワスはいずれ完全に消滅する。

器と魂が完全に破壊された、悪魔や天使が復活できないのと同じく だ。

『器』と『魂』が無ければ、力を『修復・成長』させることどころか、
現状を維持する事もできずに、時間と共に崩壊して霧散していくのだ。


『器と魂』が無い『タダの力の塊』はつまるところ、
『生ある存在』としては完全に死んでいる状態だ。


つまり、ヒューズ=カザキリとエイワスは古の神々の『亡霊』だ。


『死んでいる力』のみで形成されているのだ。




5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:08:23.37 ID:3iWVRjAo
対する『一方通行』。

彼は『生きている』。

『器と魂』を持ち、そして力の『修復・成長』も可能だ。


その力は『生きている』のだ。

数千年の時を越えて、遂に『生きている状態』の『人間界の力』が誕生した。


『人間界の天使』の領域へと踏み込んだ彼は、
最早ヒューズ=カザキリらのような外部からの供給はもう必要としていない。

封印されし『力場』からの供給を だ。


もう一般の能力者のように、その『力場』から『死んでいる力』、

『古の神々の残骸』を借りなくてもいいのだ。


何せ彼の魂と器の中で力は『生きている』。

彼の内部で力は胎動し、成長を始めている。


『力場』から大勢の能力者へ。
その能力者達から供給を受ける。

というヒューズ=カザキリらの行程を、


今の一方通行は己の『内部』のみで完結し、今尚更なる高みへと進化し続けているのだ。




6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:10:40.23 ID:3iWVRjAo

本物の悪魔や天使と同じく、己の『器と魂』を力の供給源とし、
『力場』に頼らない存在へと。

魔女達と同じような、『別次元の人間』へと昇華するのだ。

(その力の属性は魔界と人間界で全く別物だが)


もう、ただ一方的に力場から供給を受ける立場ではなくなる。


逆に、一方通行『側』から『力場』へと力を供給することも可能だ。

つまり、一方通行『側』からの『力場』への干渉も可能なのだ。


ヒューズ=カザキリやエイワスを形成した、
この巨大なAIM拡散力場を統べれるようになれるのももうすぐ。

全能力者の『力』を統制するのも可能になる。

それだけじゃない。



封印されていた『力場』の、その莫大なエネルギーを手中に収めるのも可能になる。



これこそが、アレイスターが一方通行に求めていたモノなのだ。




7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:12:29.56 ID:3iWVRjAo

天界に封印されて数千年。

その時を越えて、遂に『人間界の力』と『人間の魂』が直接繋がり、そして融合した。


長き時を越えて、『力場』に生ある者の『意志』が流れ込むのだ。


アレイスター「…………」


この状況下での、『通常の天界魔術』はまともに起動しない というのはアレイスターにとってただのオマケだ。

天界の干渉を避ける為に一方通行を育てたわけでは無い。


『封印されし力場に直接干渉できる個体』が欲しかったのだ。


『セフィロトの樹』から完全に外れ、『力場』に『直接』繋がる個体が。




『力場』へと、こちらの『意志』を流し込める巨大な『パイプ』が。



とはいえ、一方通行にはもう少し手を加える必要があるが。

欲しいのは力場に直接干渉できる『魂と器』。

彼の『精神』ではない。




8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:14:35.78 ID:3iWVRjAo

その精神、つまり『意志』を排除する必要がある。


『未元物質』とミサカネットワークがその『最後の調整』の為のパーツだ。

その調整が終われば、プランのゴールはもう数歩先。

目前だ。

調整が終わった後。

次にエイワスとヒューズ=カザキリ、この二つの存在を形成する、大勢の能力者によって支えられている巨大なAIM拡散力場、

これらで『幻想殺し』を洗浄し『初期化』する。


いや、幻想殺しとしてではなく、あらゆる情報と力を飲み込むことが出来る『竜王の顎』を だ。

『完全起動』させ『生きている力』として だ。


その後、その『浄化』された『竜王の顎』と『一方通行』を結合し。

そして最後にアレイスターの『意志』を、
このアレイスターが『入っている肉体』の『能力』を使用して結合させる。


『セフィロトの樹』の構造を完全に『理解』した、アレイスターの『意志』を だ。


それで彼の最終目的が遂げられる。

それでプランが遂に成就する。


アレイスター念願の、とある『二つ』の事象が起こるのだ。



それは天界の完全滅亡と―――――――――。



9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:15:18.16 ID:3iWVRjAo
――― と、そうやって思考を巡らせていた時。


アレイスター「…………」


とある複数の気配に気付き、アレイスターはゆっくりと目を開けた。

すると、水槽の前5m程の所に三人の少年と二人の少女が立っていた。

いや、その内の一人は座っていたが。


土御門、ステイル、結標。


そしてボロボロのワンピースコートを着、アラストルを右手に持っている麦野と。

同じくボロボロの服を着て、床に座っている一方通行。


アレイスター「…………待っていたよ」


ステイル「話がある」


土御門「同じく」


―――




10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:16:48.43 ID:3iWVRjAo
―――

とある深い森。

太陽が高く昇っているにも関らずその一帯は薄暗く、そして湿った冷たい空気が覆っていた。

そんな森の奥深くにポツンと佇んでいる古い廃屋。

人の手が入っていた頃はそれはそれは立派だったであろう洋館。

人々の記憶から捨て去られた今は、
正に『化物屋敷』という表現が相応しすぎるほどにおどろおどろしい姿をしている。

ある意味その『姿』は『正しい』。


なにせ今は、本物の魔女達と最強の悪魔のアジトなのだから。



廃屋の一階。

広め部屋の中央に置かれている、大きな薄型テレビとソファー。


そのソファーに、シャワー上がりのベヨネッタは寝そべっていた。
缶ビールを片手に。


格好は、普段の黒縁メガネに大き目の白いTシャツ、下はいろいろな意味で際どい黒のパンツ一枚。
当然ノーブラ。

ちょうど太ももの付け目辺りまで覆っているTシャツ、
そのギリギリの裾から黒のパンツがちらりちらりと見え隠れしていた。




11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:20:02.38 ID:3iWVRjAo

普段の黒いピチピチボディースーツは、ベヨネッタの髪が変異してたもの。
つまり厳密に言えば、あのスタイルのベヨネッタは常に『全裸』という事になる。

そしてシャワー上がりの今、一応ようやく全裸では無くなっているというわけだ。

そんな彼女の周りの床には、空になったビールの缶や、ウイスキーやワインのボトル、
スナック菓子の袋等が散乱していた。

これらはたった今、シャワーから上がった彼女が一気に消費したもの。


ベヨネッタ「………………………………げぇぇぇっっふっ……」


だらしなくソファーに寝そべりながら、胃からこみ上げてきた空気を下品に吐く。

完全OFF時間のだらしなさは、どこかの某デビルハンターと良く似ているかもしれない。

ON状態のぶっ飛び具合も良く似ているが。


と、そうしてソファーの上で伸びていたところ、
部屋のドアが開け放たれジャンヌがツカツカと入ってきた。


ベヨネッタと彼女の周囲の有様を見、
あからさまに呆れた表情を浮かべて。


ベヨネッタ「ん~んお先。ほらどうぞ」


そんなジャンヌに対し、ベヨネッタはもう片方の手で別の缶ビールを持ち、
ジャンヌの方へと放り投げた。




13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:23:11.30 ID:3iWVRjAo

ジャンヌ「……全くお前って奴は……」

その缶ビールをキャッチし、ソファーの背もたれに軽く腰掛けるジャンヌ。


ジャンヌ「……バージルはまだか?」

ベヨネッタ「戻ってないわよ。学園都市はもう静かになったらしいけど」


ベヨネッタ「というか『右方』の『ドラゴンちゃん』どーすんのよ。アレ生きてんの?」


ジャンヌ「それもバージルと話しなければな」


ベヨネッタ「どこをほっつき歩いてるんだか」

ベヨネッタ「というか勝手に学園都市行くとか」


ジャンヌ「『右方』が学園都市に来るのを察知してたんだろ」


ベヨネッタ「あーあーわかってたなら教えろってのよ」


ベヨネッタ「『協調性』が無いから結局ミスするのよ」

ベヨネッタ「こっちはしっかりきっかり仕事済ませたのに」


ジャンヌ「…………まあ仕方ないさ。まさかダンテが来るとはバージルも思っては無かっただろうよ」

一瞬ジャンヌは どの口で協調性って と突っ込みたくなったが、そこは心の奥底に静かに仕舞いこんだ。




14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:28:56.18 ID:3iWVRjAo

ベヨネッタ「こっちだって『不測の事態』があったけどちゃんとこなしたでしょ」

ジャンヌ「仕事が済んだ後だっただろ。それにローラとダンテを比べるわけにもいかないさ」


ベヨネッタ「…………ローラ……」


ベヨネッタ「…………あれ、『メアリー』じゃないの?私見たのよ『ローラ』が死んでるの」


ジャンヌ「いや、それは無いよ。あのすっ呆けたノリはローラだ。メアリーはもっとお淑やかだった」

ジャンヌ「私はメアリーとはあまり話したことも無かったしな。ああやって接してくる事はまずないさ」


ジャンヌ「少なくとも私らが話してた『相手』はローラだと思うよ?」


ベヨネッタ「…………でも『バレットアーツ』使おうとしてたわよ?」


ジャンヌ「……」


ベヨネッタ「そもそもアレ、『おてんばローラ』の装備じゃないでしょ?」


ベヨネッタ「あの子、バレットアーツを習う歳ですら無かったと思うけど」




15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:34:59.54 ID:3iWVRjAo

『バレットアーツ』とは、武器を取り付けた四肢による魔女の超高速体術だ。

『バレット』とあるが、武器は銃だけではなく剣や槌・鞭等などありとあらゆる物を扱う総合的なもので、
戦闘員には必須の技術だ。

更に単純な戦闘能力強化だけではなく、

力の統制の仕方・己の内にある『魔』の強化・様々な術式を体と魂に『染み込ませる』等、
全体的な強化の面もある。

アンブラの『戦士』の基本中の基本だ。
これを習得していなければ、アンブラ内では戦力として数えられない。


アンブラの魔女の戦闘スタイルの基本は、至近距離下での超高速肉弾戦。

彼女達の戦闘の根底には必ず『バレットアーツ』がある。
アンブラの魔女の戦闘能力は、『バレットアーツ』をどれだけ扱えるか に直結している。


ベヨネッタとジャンヌがアンブラ最強と謳われているのも、
『最強のバレットアーツ使い』という前提があるからこそだ。

魔女達が扱う魔術も、基本的には『バレットアーツ』と併用すること前提として、
長い歴史の中で熟成されてきたものだ。

当然、奥義の一つでもある『ウィケッドウィーブ』もだ。

それらの魔女の術は、『バレットアーツ』と組み合わせる事により本当の威力を発揮する。

その組み合わせの相性によっては、単体時の数千倍もの火力を発揮することもあるほどだ。



と、ここまで言えば、お手軽な万能ツールのようにも聞こえるがそれは違う。

『バレットアーツ』をマスターするにはかなりの時間を要する。

魔女の修練の内、バレットアーツ習得の為に裂かれる時間は8割以上。

そして一人前として認められるには、最低でも50年はかかるのだ。



16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:39:25.57 ID:3iWVRjAo
一人前になるだけでそれだ。

『一人前』とは決して『達人』というわけではない。

ようやく『戦力』として認められる最低ラインだ。

かつてメアリーが在籍していた、近衛等の精鋭になるには、
更に過酷かつ長きに渡る修練が必要だ。


そして当時のローラの年齢は10歳前後。

魔女の世界では正に赤子同然。

彼女がバレットアーツを習得していたはずはない。


(『書記官』とは文官であり戦士では無いため、就任にはバレットアーツ技術は必要としていない)


更に、素質さえあれば習得できる『ウィケッドウィーブ』とは違い、
『バレットアーツ』を本格的に教わるのは肉体がある程度成熟してからだ。

当時のローラは修練が始まってさえいなかったはずだ。


都が滅んだ後の500年間で独学で習得したとも考えられない。

数千年に渡り、無数の魔女達が人生を捧げて練り上げてきた技術の結晶だ。


『世界の目』という反則的な力を持っているベヨネッタはともかく、

こればかりはジャンヌでも無理だ。


たった一人、たった500年で『ゼロ』から習得するなど。




17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:43:17.90 ID:3iWVRjAo
だが、ヴァチカンのローラは確かにバレットアーツを習得していた。

ただ装備を持っていただけではない。


立ち振る舞いや、醸し出す空気でわかる。


ジャンヌ「…………あの装備…………メアリーのか?」


ベヨネッタ「ただ、姉の『形見』を持っているってわけでも無さそうね」


ジャンヌ「じゃあこうか。私らが話していたのは『ローラ』だが……」


ベヨネッタ「戦おうとしていたのは『メアリー』」


ジャンヌ「あの金髪の体はローラ、話していた精神もローラ、でも魂はメアリー……」


ベヨネッタ「……な~んか腑に落ちないわね。どこかが間違ってる気がする」


ジャンヌ「『観測者』さんよ、その『世界の目』で何か見えないかい?」


ベヨネッタ「ん~はぁ、そう都合良く動くもんじゃないのよ『この目』は」


ジャンヌ「まあ、そりゃそうだ」


ベヨネッタ「…………心配?おてんばローラの事」




18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:44:31.53 ID:3iWVRjAo
ジャンヌ「…………」


『心配じゃない』と言えばそれは嘘になる。

現に、ヴァチカンで彼女に会った時は心の底から嬉しかった。
生き延びていた『家族』が自分達だけではなかった と。

そして当然、『あの子』が心配だ。

天界傘下に入っていたという大罪を背負ってはいるが、

かけがえの無い家族なのは真実。

かけがえの無い同族なのは事実。


彼女が『こちら』に来なかった理由も気になるし、
何よりも絶対に死なせたくない。


これ以上、『姉妹』が死ぬのは見たくない。


だが。


ジャンヌ「………………ま、アイツの件はまた今度だ」


『今』は『今』の仕事を優先すべきだ。




19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:46:30.50 ID:3iWVRjAo

ベヨネッタ「…………そうね」

缶ビールを一口飲み、小さく呟くベヨネッタ。


彼女も内心はジャンヌと同じだった。

ここで今ジャンヌが ローラを救う と言ったとしたら、彼女も共に立ち上がっただろう。

今の仕事を放棄してでも、だ。

だがそんな事など許されない。

そんな事をすれば、『人間界を救う』チャンスは二度と来ない。

魔女も広義では『人間』に属している。

『魔界の理』で生きているが、生まれた地は人間界。


その故郷である人間界と魔女一人の命。

天秤にかけるまでもなかった。

優先すべきなのはどちらなのか、それは明白だった。


ベヨネッタ「今は『コレ』やらなきゃね」


ジャンヌ「ダンテが動く以上、バージル一人に任せてられないしな」


ベヨネッタ「ねぇ~。ダディってなんだかんだで弟に『甘い』みたいだし」




20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:48:40.21 ID:3iWVRjAo

ジャンヌ「…………」


ベヨネッタ「で、話し変わるけどどう?あのイギリス清教の子は?」


ジャンヌ「ほら」

ジャンヌが指を軽く弾き音を鳴らすと、
先程彼女が通ってきたドアが一人でに大きく開き。

その向こうの、小部屋の角にいる五和がベヨネッタからも見えた。


五和は七天七刀の鞘を固く抱き、
頭を伏せて小さく蹲っていた。


ジャンヌ「ご覧の通りだ」


ベヨネッタ「あら、萎れちゃってかわいそーねぇ」


ベヨネッタ「どーすんのあの子。私がバージルに説明するのはイヤよ」


ジャンヌ「『勝手にしろ』の一言で終わるさ」


ベヨネッタ「でもさ、『アレ』の『転生』が失敗してたらさすがにさ」

ベヨネッタ「『置いておく意味は無い』ってバッサリやられちゃいそうだけど」


ジャンヌ「失敗してたらお前の責任だからな」




21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 01:53:03.15 ID:3iWVRjAo

ベヨネッタ「んん……あの『刀』はバージルの『子』なんだから、一番はバージルじゃない?」


ベヨネッタ「あ……もしかして、バージル直で『煉獄』に行ったんじゃない?」


ジャンヌ「……今か?早すぎると思うがな……」


ベヨネッタ「アイツがただ様子見に行くとかはまず有り得ないから、今『連れて来る』気ね多分」


ジャンヌ「…………」


ベヨネッタ「ん~、『センセー』は心配性ねぇ。しかめっ面はやめなって。大丈夫だって。多分」

ベヨネッタ「私の一張羅をぶった切ったくらい、気合入ってたエンジェルちゃんだったし」


ジャンヌ「……」

ベヨネッタ「……」

ジャンヌ「……」

ベヨネッタ「……」


ベヨネッタ「…………ボヨヨーーーンッッッ!!!!!!!!」


ジャンヌ「うるさい」


ベヨネッタ「少しは笑いなよ。せめて呆れ笑いくらい。私が惨めでしょノリ悪いわね」


ジャンヌ「断る。バカがうつるからな」


―――




26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/11(水) 10:12:38.31 ID:HllDkZU0
ちょwwwwwwおヨネさんwwwwwwwwww



27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 16:33:28.61 ID:rYRLKKE0
ベヨ姐が可哀想なくらい浮いてしまうパーティだなwwwwwwwwww



29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/12(木) 03:32:50.30 ID:pY5xnDE0
・・・話の展開が加速するに従って陣営が込み入ってきたけど

①アリウス/フィアンマ陣営
②デビルメイクライ組(ベオ条&ビリビリ含)
③ おヨネさん&お兄様+ジャンヌ
④エゲレス
⑤ローマ
⑥学園都市(アレイスター)
⑦反アレイスター派
⑧フォルトナ(含ネロ坊)

・・・であってる?




31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/12(木) 19:21:28.34 ID:ldCVOdco
>>29
今の情勢は大体そんな感じです。
もう少し修正とこんな風に。

①アリウス&フィアンマ
②デビルメイクライ&フォルトゥナ(ネロ&ベオ条含)
③学園都市(アレイスター)
④反アレイスター派
⑤バージル&ベヨ・ジャンヌ
⑥イギリス清教
⑦ローマ正教(イギリス省くEU)・ロシア盛教
⑧ジュベレウス派率いる天界勢


ダンテ組とネロ(フォルトゥナ)組は別行動ですが、その根の行動指針は同一なので同じ陣営と言えます。

ただ、これは大まかな分け方なので、細部はこの限りとは言えません。

いくつかの例を箇条書きで上げると、

・④の一方やむぎのんは②に属している面もある。
・⑥と⑦は完全に敵対しているが、そのバックは同じ十字教で⑧の傘下。
・③と④は共闘せざるを得ない状況になりつつある。

・フィアンマはジュベレウス派と結託しているが、魔界の肩を持つ形になるアリウスは天界の敵。
 そして二人とも、後にお互いを裏切る気マンマン。
・フィアンマも結局はジュベレウス派を良いように利用しているだけ。

・⑧内でも、ジュベレウス派とその他十字教等との間には摩擦がある。

などなどです。


複雑な情勢になってしまいすみません。




32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/12(木) 19:39:28.56 ID:hh0JKsg0
もはやSSとは思えぬ深さだ…そして伏線の数々をキチンと消化して、あぁなるほど!って納得できるのもすごい。



36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 19:35:35.98 ID:4oC5YEDO
>>32
ああ、もうLong novelの領域だな




38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:33:30.17 ID:Arjuuw.o
―――


窓の無いビル。


アレイスター「―――これが大まかな状況だ」


ステイル「―――…………そうか……」


土御門「…………」


アレイスターの口から告げられた、全体の状況。

ヴァチカン、フォルトゥナ、学園都市、そしてイギリスで起こった事。

だが教えたのはそれだけだ。

『全て』を教えたわけでは無い。


バックグラウンドや、それぞれの人物間の繋がりなどは一切教えていない。

アレイスターにとって教える必要などないし、
土御門達もその裏の、核心部分を聞き出せるとは元々思っていない。



ステイル「それで、僕達を引き渡す意思は無いという事だが……」


アレイスター「思う存分この街にいてくれてもかまわん。フォルトゥナもあの惨状だ」

アレイスター「君達が安心して休めるのはこの地くらいしかないだろう」




39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:34:26.24 ID:Arjuuw.o

ステイル「…………僕等を匿う理由は?」


アレイスター「理由は『能力と魔術』の歴史が証明しているではないか」


ステイル「…………つまり……『能力迫害』も天界の意思だったということか?」

アレイスター「当然だろう」

ステイル「ふん、敵の敵は味方か……」


土御門「(………………学園都市は天界の……敵か……?)」


アレイスター「『味方』かどうかは任せるが、少なくとも今は敵対すべきではないと思うがな」


ステイル「…………もう一つ聞きたい事がある」


アレイスター「何かな?」


ステイル「今のフォルトゥナが危険なのはわかる」


ステイル「だがなぜ学園都市が『安全地帯』なんだ?」


アレイスター「…………」




40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:36:16.63 ID:Arjuuw.o

フォルトゥナは天界の影響を全く受けない地の一つ。
襲撃され結界・防壁が破壊されていなかったら、ステイルとインデックスにとって最も安全な場所と呼べただろう。

だが今は違う。

結界・防壁が無い今は更に魔が強くなっている。
魔窟となりかけているのだ。

天界からの脅威が無いのは確かだが、
それとは桁違いの強大さを誇る魔界の手がいつ伸びてきてもおかしくない地なのだ。

さすがにステイルも、そんな地にインデックスを連れて行く気にはなれない。
それならば天界の脅威に晒されていたほうがマシだ。

ステイルは天界と直接交戦したことは無いが、どちらの『世界』の連中が恐ろしいかは承知している。

『天界が魔界を心底恐れている』という事実がそれを物語っているではないか。



だがフォルトゥナがそうだからといって、『じゃあ学園都市は安全だ』 とはならない。


ステイル「僕が納得しうる説明をしてもらおうか」


ステイル「お前の話を聞く限り、この街『そのもの』にも天界の敵意が向いているという事になるが?」


ステイル「……もしそうだとしたら、僕達にとってはそこらの荒野にいた方が安全だと思うが」


アレイスター「…………」




41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:38:25.58 ID:Arjuuw.o

そのステイルの問い。

これに土御門達もそれぞれの反応を示した。


―――この街『そのもの』にも天界の敵意が向いている。


土御門「―――」


『天界に敵意を向けられる』。


『学園都市』が。


天界等、そういう世界関係や歴史を知らない一方通行や麦野、
結標は怪訝な表情を浮かべただけだったが、

その危険性を知っている土御門は表情を凍らせた。


土御門「…………」


ステイル「答えろ」


アレイスター「……一部の例外を省き、人間界は天界の強い影響下にある」


アレイスター「その例外が、魔界の影響下にあるフォルトゥナ等」



アレイスター「そして今の学園都市だ」




42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:40:13.66 ID:Arjuuw.o

アレイスター「この街の中では今、『セフィロトの樹』に障害が起きている」


アレイスター「天界が人間達に嵌めた、『セフィロトの樹』という『首輪』の管理機構が機能していないのだよ」


と、簡単すぎる説明を受けたが、当然ステイルと土御門は理解しきれない。

『セフィロトの樹』という存在自体は知ってはいるが、
その範囲は十字教や魔術関係で教わった『程度』のみなのだから。


土御門「……管理機構?何の事を言っている?」


ステイル「それがどう関係……一体何を言っているんだ?」


アレイスター「知らぬのも当然、か」

アレイスター「まあ、『魔』に接した君達は、少しくらいは違和感を持っていたと思っていたのだが」


ステイル「……『セフィロトの樹』とは、ただの『界の繋がり』のことだろう?」




アレイスター「―――良く考えろ。『誰』が『セフィロトの樹』についてそう言った?」




アレイスター「―――その概要は『どこから』、『どうやって』学んだ?」




43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:42:04.28 ID:Arjuuw.o

そのアレイスターの言葉で、二人の魔術師は凍った。


誰がそう言った?

どこから学んだ?

どうやって学んだ?


それは『天界魔術』から。


『天界』から―――。



ステイル「……な、な…………」


土御門「………………」


二人の中で、『魔術サイドの常識』が音を立てて崩壊していく。


今のこの状況下でなければ、
アレイスターの言葉など『嘘』として全く気にも留めなかっただろう。



今のこの状況下でなければ だ。




44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:43:22.71 ID:Arjuuw.o

アレイスター「全ての真実を話すには少し時間がかかる」

アレイスター「知りたくばまた後にするか、トリッシュに聞くがいい。」


アレイスター「私程では無いが彼女も良い線をいっている」



アレイスター「天界がここまでして隠そうとした、その真実を知る『勇気』があるのならばな」



ステイル「……」


土御門「……」


知る『勇気』。


なぜアレイスターがその表現を使ったのかはわかる。


天界が隠そうとした真実。

『隠し続けてきた』真実。


それを知れば、どんな状況に陥ってしまうかなど―――。




45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:44:32.46 ID:Arjuuw.o
土御門「……」


土御門は迷っていた。
果たして知ってしまってもいいのだろうか と。

天界が隠し続けてきたのだ。

言い換えれば、知ってしまった者は皆消されてきたということだ。


ステイル「……」

だがそんな土御門とは違い、ステイルは知りたかった。
天界にはもう既に睨まれている。

知ってしまったところで状況には大差が無い。


そして何よりも。


その『真実』が、インデックスを『救うカギ』になるような気がしたのだ。


確証は無い。
その理由を具体的に説明しろ と言われても無理だ。


だが悪魔としての『勘』が妙に反応しているのだ。



その真実の向こうに『カギ』がある と―――。




46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:46:28.22 ID:Arjuuw.o

そんなステイルの思考を見透かしていたかのように、アレイスターは口を開いた。


アレイスター「それとだ、禁書目録について一つだけ言っておこう―――」




アレイスター「―――彼女は学園都市から出たら死ぬ」




ステイル「―――……な、に!!!!??」



アレイスター「『御使堕し』の時を見る通り、彼女は『セフィロトの樹』と固く繋がっている」


アレイスター「その『セフィロトの樹』から障害が取り除かれた瞬間、天界は彼女の『魂』を操作するだろう」


アレイスター「普段は連中もこんな手は中々使わんが、何せ標的が標的だからな」


アレイスター「『魔女』が制御下にあるのならば、少々強引でも手を打つはずだ」



ステイル「……だ、黙れ!!!!!!」


アレイスター「嘘と思うか?ならば試すが良い。後悔するぞ」




47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:49:29.91 ID:Arjuuw.o
ステイル「……く、クソ!!!!!!!」

ステイルはその場で歯を食いしばるしか出来なかった。

試すなどもっての他。
アレイスターの言う通りに学園都市に留まるしかない。

彼にある選択肢はそれだけだった。



土御門「……とりあえずそれは置いておく。で、学園都市が天界の敵とはどういうことだ?」


そう、今の土御門にとって、『セフィロトの樹』だのなんだのよりもそっちの方が重大だ。
アンブラの滅亡が事実だった以上、そこだけははっきりさせておきたいのだ。


アレイスター「その言葉の通りだ」


土御門「それは、例の『真実』を知っているお前に対しての敵意か?それとも学園都市そのものへの敵意か?」


アレイスター「全てだ。私も。学園都市も。そしてここに住まう能力者達もだ」


と、そこで話についていけなかった二人がようやく口を開いた。


一方「…………なンだ?今度は『天使』さンとも戦えってのか?敵には事欠かねェな」

結標「というか、私達にもわかりやすく説明してくれない?」

結標「魔界も天界も名前だけは知ってるけど、具体的にはわかんないんだから」



麦野「つーか、そもそもテンカイだのマカイだの何の話してるのよアンタら」


そして最後に、この場で最も濃い『魔界』力をその手の中に有していながら、
この件に関する知識がゼロの麦野も。




48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:52:07.22 ID:Arjuuw.o

土御門「悪いがお前らは黙っててくれ。後でわかりやすく説明する」


一方「……そォしてくれ。こっちは頭が回ンねェからよ」

麦野「…………チッ」


先程の激戦の最前線にいたこの二人、当然疲労は限界のところまで来ている。

麦野はアラストルを肩に乗せ、
そのまま一方通行の隣に乱暴に座り込んでしまった。


と、そんな彼らに向け。


アレイスター「いや、ここからは君達にも聞いてもらおう」



アレイスター「先に言っておく。君達を呼んだのは、状況説明の為でも『反逆行為』を弾劾する為でもない」



その言葉に、ステイル以外の四人がピクリと眉を顰めた。




アレイスター「ここからの話をする為に君等を呼んだのだ」




49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 17:57:37.17 ID:Arjuuw.o

アレイスター「ステイル」


ステイル「……」


アレイスター「ここからは土御門達との『ビジネス』の話だ。君には退出してもらう」

アレイスター「気になるならば、後で土御門に問うがいい」


ステイル「……わかった。おい、ムスジメ……だったか?頼む」


そのステイルの声に、結標は無言のまま手に持っていた軍用ライトとクルリと回し、
即座にステイルを外に飛ばした。

実はステイルや一方通行、麦野のような特殊な力を持ってたりする異質な者は、
座標移動で飛ばすのが結構楽なのだ。

もし失敗してコンクリ等の中に飛ばしてしまったとしても、こういう連中ならいとも簡単に抜け出せるだろうし、
100mの高さに飛ばしても無傷で着地するだろう。


まあ、逆に抵抗されたら飛ばすことが困難なのだが。

まず一方通行には『座標移動』の能力そのものが反射されるし、
ステイルや今の麦野のような研ぎ澄まされた悪魔的勘を持つ者は、
飛ばす寸前にその座標位置から難なく離脱してしまうだろう。


そして二ヵ月半前の経験上、
例え座標を捉えられたとしても悪魔は『飛ばせる時』と『飛ばせない時』があるようだった。

相手が結標を意識し戦闘態勢となった瞬間、どういう訳かその悪魔の体には干渉できなくなるのだ。
『放出されている悪魔の力』とでも言うか、どうやらそれが障害となっていたらしかった。


(結標は知らないが、黒子でもダンテを飛ばせた例もある通り、
 『戦闘態勢』でなければどれ程強大な存在でも一応飛ばせることが出来る)




50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:00:17.18 ID:Arjuuw.o

アレイスター「―――……さて、では聞いてくれ」


アレイスター「イギリス清教、ローマ正教とロシア正教、そしてこの学園都市」

アレイスター「禁書目録らを匿った以上、こちらとイギリスの同盟は破棄」


アレイスター「その三つ巴の第三次世界大戦が勃発するのは、君達も承知だろう?」


アレイスター「そして本当の問題はこの『程度』の戦いでは無いのも、だ」


土御門「ああ」

一方「もったいぶってねェでさっさと要点を言え」


アレイスター「その前にもう一つ言っておこう」



アレイスター「君達の用意した『交渉のテーブル』につく用意はできている」


土御門「…………なに?」


一方「…………あァ?」


結標「…………え?」


麦野「…………はぁああああ?」


アレイスターの突然の申し出。

その言葉を聞き、腑抜けたそれぞれの声を漏らす反逆の首謀者達。




51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:05:03.54 ID:Arjuuw.o
アレイスター「聞こえなかったか?君達の要望を聞こうということだ」

土御門「…………は、ははは……」

正に拍子抜けだった。

こうもあっさりとアレイスターが『降りてくる』とは。
この『反逆作戦』の主要目的が早々に達成されてしまったのだ。

土御門「…………はは、いいぜい。俺達が具体的に何を望んでるかは知ってるな?」

アレイスター「もちろん。だからこうしよう」



アレイスター「事が済み次第私は全権を放棄し、統括理事長の座を『親船 最中』に譲る」



アレイスター「これで充分だと思うが」

一方「ハッ……」


『親船 最中』。

理事会の中で最も子供達のことを気にかけている者だ。
何せ、『学生達にも選挙権を』 と訴えている程。

彼女が学園都市のトップとなれば、
学園都市の闇の部分がいずれ解決されるに違いない。

非人道的な実験は全て中止され、能力者達への扱いも改善されるはずだ。
子供達の人権が保障されるのだ。

能力者にとって、学園都市が本当の意味で『安寧の地』となる。

打ち止めと妹達も全うな人生を歩めるだろうし、

囚われの身である結標の仲間達の安全も保障され、

麦野の体も治療され、彼女の『元部下達』も平和の中で生きることが許され、

土御門の義妹も、このまま学園都市で平穏な日々を過すことができるだろう。




53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:06:14.83 ID:Arjuuw.o


一方「で、当然『タダ』と言うわけじゃァねェだろ?」


結標「そっちの提示条件は?」



アレイスター「君達の『思惑通り』、学園都市には『危機』が迫っててな」


アレイスター「そこで君達の手が借りたい」



アレイスター「まず、一週間前後の内に『人造悪魔兵器』がこの戦争に投入される」


表情を曇らせる、麦野以外の四人。
麦野は相変わらず頭の上にクエスチョンマークを浮かばせていた。


アレイスター「大規模な悪魔の介入だと思ってくれ」


アレイスター「これもこれで大きな問題だが、その他にもあってな」


アレイスター「天界がこの悪魔を自らの手で排除しようとしている」


アレイスター「つまり、かの者達は500年振りにこの世界に『直接降臨』する気だ」




54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:09:08.66 ID:Arjuuw.o

土御門「―――500年振りに…………だと…………?!!!!」


500年振り。

500年前に何があったか。


アンブラの都の滅亡だ。

その事を知っている土御門の顔から、一気に血の気が引いていく。


そんな事を知らぬ一方通行は。


一方「ゴキブリ共を退治してくれンのか?じゃァいいじゃねェか。せィぜィ化物同士戦わせておけや」


と、半笑いを浮かべながら口を開いたが。


アレイスター「いや、『彼ら』の目的はもう一つある」



アレイスター「それは全能力者の『殲滅』」



アレイスター「学園都市を人間界から『完全』に消す気だ」


一方「―――あンだって??」



アレイスター「跡形も無くな」




55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:11:08.39 ID:Arjuuw.o

土御門「…………ッッッッ!!!!!!!」

最早、土御門は言葉が出なかった。


第三次世界大戦自体はほぼ全く脅威では無く、
その後ろに控えている『モノ』が問題なのは感付いていた。


だがこれ程までの『モノ』とは思ってもいなかったのだ。



一方「…………おィ!??」


麦野「つまり……どーいう事よ???」


その只ならぬ空気を感じ、未だ具体的に把握していない二人のレベル5も勢い良く立ち上がった。

一方通行は義手の両拳を床に突き、杖無しで足を震わせながらも身を起こし。
麦野はアラストルを一度大きく振りながら。


アレイスターは表情を一切変えぬまま、土御門の方へと視線だけを動かし。



アレイスター「君はわかるだろう?この街はアンブラの都と同じ『運命』を辿るという事だ」



その言葉を受け、今にも砕けそうなくらい強く歯を食いしばり、拳を握りこむ土御門。




56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:13:50.76 ID:Arjuuw.o

一方「つまりどォいうことだってンだよ!!!具体的に言ェ!!」


アレイスター「二ヵ月半前の争乱の際、ダンテ達が『いなかった』場合を想像してくれ」


アレイスター「背後関係は全く別物だが、学園都市が見舞われる事態はそれと良く似ている」


結標「―――ッ……」


二ヵ月半前の争乱からダンテ達を省けば?

その結果、学園都市はどうなっていたかはバカでもわかる。


一方「…………で、オマェの要望はそのカス共と戦えってことか?」


アレイスター「いや。そうではない。君達『程度』では、かの軍勢と直接交戦したら10分ももたん」


一方「あァ!?」


アレイスター「降臨する天使の数は百や千ではない」




アレイスター「数百万の単位だ」



アレイスター「学園都市の空を完全に覆い尽くすだろうな」




57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:16:40.83 ID:Arjuuw.o
アレイスター「その軍勢の核となっているのが、上級三隊、『熾天使・智天使・座天使』」

アレイスター「この『大悪魔クラスと並ぶ』者達が少なく見積もっても『500』体」


一方「………………!!??」


結標「…………なッッ…………!!!?」


大悪魔クラスという『わかりやすい例え』を聞き、ようやく土御門と同じく愕然とする一方通行ら。


大悪魔クラスという区分自体については詳しくは知らないものの、
そう呼ばれる連中がどれ程のレベルなのかは身をもって知っている。



土御門「…………熾……天使……」

そして土御門らは、その天使の階位の高さに愕然としていた。
魔術サイドならば常識中の常識だ。

だがアレイスターの指している対象は、呼び名は同じでも全く『別物』。

土御門の頭に浮かんでいる天使ではない。


アレイスター「勘違いするな土御門」


アレイスター「私が言っているのは『十字教の天使』ではない」


アレイスター「言ってもわからんだろうが、『主神ジュベレウスに直接仕えてた天使』だ」


アレイスター「かつて太古の昔、強大な魔界に対抗する為に組織された集団だ」




58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 18:18:40.49 ID:Arjuuw.o
アレイスター「十字教の四人の大天使達は、個々の力は上級三隊をそれなりに上回っているが、絶対的な差があるとはいえん」

アレイスター「上級三隊所属の10人にでも囲まれたら、ミカエルだろうとガブリエルだろうと『一方的』に殺される」


土御門「…………!!!!!!!!」

実際に『御使堕し』事件の際、その領域の力の片鱗を垣間見た。


そんな存在ですら、『一方的』に殺される。


何か『悪い夢』を見ているとでも思いたかった程だ。

『悪夢』としか言いようがない。



アレイスター「更にその上級三隊を統べるのが、天界の現最上位『四元徳』」


アレイスター「この『四元徳』の力は、少なくともトリッシュよりは強大だ」



アレイスター「十字教の神も彼らには遠く及ばん」



アレイスター「そして500年前と同じく、この『四元徳』も直接降臨してくるだろう」




64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:31:57.92 ID:Arjuuw.o

一方「………………おィ……前にも同じことがあったみてェな口ぶりだが?」


アレイスター「知りたいか?絶望が深まるだけだと思うがな」


一方「実例があンなら知っといて損はねェだろォが」


アレイスター「……『アンブラの魔女』と呼ばれていた集団がかつて存在していた」




アレイスター「その者らの頂点は……そうだな、スパーダの一族に匹敵しうる者もいたが、」



アレイスター「それでも敗北した。この天の軍勢の前にな」



一方「………………」


アレイスター「まあ、それは彼女達の本当の力が発揮できない、彼女達にとって最悪の状況だったせいもあるがな」



一応、魔女も大悪魔と同じく『力の拡散攻撃』もできる。

大悪魔クラス相当、上級三隊以上に対しては全く意味を成さないが、
それで雑魚天使の群れは一掃できる。


だがそんな攻撃手段をとったら、守るべき都も破壊される事になる。




65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:36:21.27 ID:Arjuuw.o
魔女の中で、上級三隊を越える力を有していたのは一部の精鋭。

ジャンヌやベヨネッタのような上級三隊をも軽く圧倒でき、
『四元徳』にも匹敵しうる者も両手で数える程度だが存在していた。


だが逆に、その彼女達の強大すぎる力『それ自体』が『防衛』の枷にもなったのだ。


フォルトゥナの都の『中』で、

最大出力の魔弾をばら撒き、フルパワーのウィケッドウィーブを振るい、
挙句に『魔界の諸王』や『大魔獣』を召喚してしまったらどうなるか。

そんな事をしたら自滅だ。

守るべき都は破壊され、
仲間の魔女達にも多数の巻き添えが出てしまう。


『少し』本気になっただけであのヴァチカンの有様だ。

ジャンヌやベヨネッタクラスの者達が複数人、同時に『全て』の力を解放してしまったら、
それだけで都は崩壊する。


一対一において最大戦力を発揮できるその戦闘スタイル。

『超』攻撃特化し、それを極めてしまった魔女。

その戦闘スタイルと大きすぎる力が、
皮肉な事に『アンブラの都』の陥落を決定付けてしまったのだ。




66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:38:12.02 ID:Arjuuw.o
その状況下では、個々の戦闘能力が突出していても何も意味を成さない。

ジャンヌ達がどんなに強大でも、フルパワーを使えなかったら意味が無い。

彼女達は『組織』へのダメージを懸念するあまり、『大火力』で一掃することはできなかった。

押さえ込み凝縮した攻撃で少しずつ削っていくしかなかった。


そしてそれは正に『焼け石に水』だった。

その間に、彼女達がいなかった区画は次々と制圧され破壊されていき、仲間は次々と斃れていった。


もし天界の軍勢が全員でジャンヌら最精鋭に殺到していたら、
時間はかかるだろうが彼女達は最終的に天使達を皆殺しに出来ただろう。


だが、天界の最大の目的はアンブラの魔女という『組織の破壊』だ。

『個人の殺害』ではない。


ジャンヌを倒すのは難しいと判断した天使達は、
彼女の事は後回しにして他の魔女の殺害に向かった。

殺せぬ1人よりも、殺せる100人を優先するのは当然。


結果、ジャンヌは生き延びたが組織は滅んだ。

優先リスト筆頭『ジャンヌ』殺害の任務を帯びた天使達は失敗したが、
その他の天使達は任務を成功させたのだ。

ジャンヌは『勝ち』続けて生き延びたが、アンブラの魔女は『敗北』して滅亡した。


個々の戦闘能力では勝っていたものの、結局『数の暴力』の前には彼女達も屈するしかなかった。




67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:41:03.17 ID:Arjuuw.o

先日のベヨネッタによるジュベレウス滅亡も、天界側から言わせれば『戦争』ではなく、
首脳達とのピンポイントでの『決闘』だ。


このやり方は、2000年前のスパーダの戦法にも似ている。

かつての人間界へ対する魔界の侵略も、魔帝というトップが敗北したからこそ防がれたのであって、
侵略軍『そのもの』が滅ぼされたわけでは無い。


魔界の兵力は正に無尽蔵だった。
天界でさえ比べ物にならない。


スパーダが前線に立ち一振りで千単位の悪魔を薙ぎ払おうと、
その損失以上の兵力が次から次へと補充されてくるのだ。

大規模破壊による人間界へのダメージもある以上、スパーダにとってそんな戦法を取ることはそもそも不可能だった。


幹部クラスをピンポイントで次々と倒していき、そして魔帝を打ち倒す。

『頭』だけを排除していく。

それが勝利への最短ルートであり、
総兵力では劣る人間界側にあった唯一の選択肢だった。


500年前、魔女側も同様の戦法を取れていれば結果はまた違っていただろう。

ベヨネッタやジャンヌ等の最強最精鋭達が先手を取って殴りこみをかけ、四元徳を打ち倒していたら だ。

だが当時はそれが許されなかった。
天界の降臨は完璧な奇襲だったのだ。

気付いた時には遅かった。

アンブラの『心臓部』には既に天界の手がかかり、無数の軍勢によって包囲されていたのだ。
その時点で、既に『組織対組織』としての勝敗は決していた。




68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:45:02.86 ID:Arjuuw.o
また、『天界と人間界は直接繋がっていない』というのもその『殴りこみ』が難しい要因の一つでもある。


この間のジュベレウスに纏わる件は、

『四元徳』全員が僅かな手勢のみを率いて、
『プルガトリオ(狭間の世界)』にいたベヨネッタに会う為に自らやってきたからこその戦果。

首脳総出で雁首そろえて、わざわざベヨネッタの手が届く場所へと『来てくれた』に過ぎない。


直接繋がっていない天界の奥深くに居座られていたら、さすがの魔女達も手が出せないのだ。

そして天界の口が開くのは降臨する瞬間。
口が開いた瞬間に軍勢が解き放たれる。

殴りこみをかける時間など無い。



まあ、学園都市側としては、例え殴りこみが可能な状況でもどうしようもないが。

一方通行やアラストル所持状態の麦野『程度』で天界に殴りこむのは、それこそただの自殺行為。

エイワスでさえ、『四元徳』に届く前に100を越える上級三隊からの
一方的な袋叩きにあって消滅するだろう。

(そもそもエイワスは学園都市内及びその周辺での限定的な存在であり、天界へと派遣すること自体が不可能だが)



アレイスター「―――スパーダの一族に匹敵する者でも、この『数の暴力』を退けることは出来なかった」


アレイスター「結果、それ程の強者がいた都もたった一日で陥落した」

アレイスター「この戦火の中から『個々』が『逃げ延びる』事は不可能では無いだろう」

アレイスター「現に、500年前の戦火から生き延びた者も少数だがいるしな」


アレイスター「だが学園都市『そのもの』を防衛するのは不可能だ」


アレイスター「学園都市の全兵力をもってしても、無論私が直に打って出ても20分ももたん」




69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:46:51.92 ID:Arjuuw.o


土御門「…………正に『審判の日』ってやつか……」


アレイスター「『審判の日』?そんな畏まった言葉で表すな」


アレイスター「実質は、君達が今まで暗部として行ってきた事と同じだ」


アレイスター「敵対者・障害と成り得る者の排除」


アレイスター「それだけだ」



結標「……ダンテ……ダンテ達はどうなのよ?あいつらなら……」



アレイスター「……彼らなら食い止められるだろうな」



アレイスター「それと引き換えに、結局は学園都市は無くなるだろうが」




70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:50:06.28 ID:Arjuuw.o
土御門「…………」


学園都市に群がる百万単位の軍勢、500を越える大悪魔クラス。

その『塊』をダンテやネロのような更に『規格外の巨大な爆弾』で吹き飛ばせばどうなるか。


天界の軍勢は壊滅するだろう。


だが学園都市も消滅だ。


二ヵ月半前、ダンテ達と魔帝は隔絶された異界で衝突したが、
今度はその戦いが『隔絶無し』で行われるようなものだ。


アレイスター「ダンテがその軍勢と正面から戦うという事はだ。『学園都市を守る』という事ではなく、」


アレイスター「天界の軍勢もろとも『学園都市を道連れ』にするという事だ」


アレイスター「天界の軍勢が現れたその時点で既に『手遅れ』なのだよ」


アレイスター「この件に関しては彼らの救いは期待できん」


結標「…………」



アレイスター「わかったかな?これが具体的な『学園都市の危機』だ」




71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:52:10.27 ID:Arjuuw.o

一方「―――…………その天使さンとやらの軍勢には、どォやっても勝ち目がねェのはわかった」


一方「俺達は当然、オマェも学園都市が無くなったら困る」


アレイスター「…………」


土御門「だが、その軍勢が『降臨』した時点で何をしても結局は学園都市は終わり」


一方「…………猶予は一週間強。そうだな?」


アレイスター「そうだ」




一方「……つーことはだ、どォにかして『降臨』とやらを『未然に防ぐ』しかねェ。違うか?」




アレイスター「話が早いな」



一方「……『ソレ』がオマェの『条件』か?」



アレイスター「ご名答。君等の『最後の仕事』だ」




72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:53:52.49 ID:Arjuuw.o
土御門「……で、その内容は?」

その土御門の声に合わせ、麦野がアラストルを見せ付けるように大きく振り上げて肩に乗せ、
一方通行が両手の拳を軽くぶつけ合わせた。


麦野「よくわかんないけど『最後の仕事』。最っっ高の響きね」


一方「最後だ。色々『サービス』してやってもいいぜェ?」


アレイスター「乗り気になってくれて助かるよ」


アレイスター「ちなみに言っておくが、『裏』を疑う必要は無い。私も全力を尽くさせてもらう」


アレイスターの本音は『学園都市を守る』ことではなく、
その先にある『プランの成就』の為に全力を尽くすという事だが。


アレイスター「では簡潔に話そうか。少し長くなってしまったからな」


アレイスター「かの軍勢が降臨するには、『口』を開く必要がある」


アレイスター「それは人間界側からの作業も必要だ」


一方「その『コッチ側』のクソ野郎を潰せば、カス共は降りてこれねェってことか」


アレイスター「そうだ」




73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:56:03.58 ID:Arjuuw.o


アレイスター「その男の名は『アリウス』」


アレイスターの水槽の表面に、壮年の男の画像が浮かび上がった。


土御門「……こいつは……!!!」

その場にいる全員が目を見開いた。
科学サイドでは超有名人だ。


アレイスター「ウロボロス社CEOだ。デュマーリ島が本拠だ」



学園都市と共同関係にあり、そして双璧をなす巨大多国籍企業ウロボロス社。

つい最近、テロによって首脳が死亡した巨大複合企業体「イザヴェルグループ」を吸収し、
更に巨大化した勢力だ。
(この『テロ』は、実はベヨネッタの戦いによるものなのだが)


その大企業のCEOが標的。


アレイスターとは違い、メディアにも良く顔を出している著名人だ。

主に軍需産業に力を尽くしており、そのイメージは決してクリーンではないが。




74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:57:39.51 ID:Arjuuw.o
一方「そォと決まったンならさっさと潰すぞ」


アレイスター「そう簡単に排除できるのならば苦労しない」

アレイスター「この男は多数の悪魔を使役し、大悪魔すらも傘下においている」


一方「チッ……」


土御門「…………」


世界中に拡散しつつある人造悪魔兵器もウロボロス社製。

ウロボロス社のトップが悪魔サイドにドップリと浸かっているのならば簡単に説明がつく。



それだけじゃない―――。



土御門「(なるほどな……)」



その人造悪魔兵器の『精製技術』。


これは別の事件とも繋がってる。



土御門「(そうか)」



―――ウィンザー事件の『黒幕』だ。



―――覇王を復活させようとしていた許されざる者だ。




75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 19:59:18.00 ID:Arjuuw.o
と、そこまで御門は考えたが、ここでふと疑問が浮かんだ。

土御門「待て……悪魔を使役してるのに天界を支援するのか?」


アレイスター「目的は知らん。あの男が何を企んでるかはな」


だがアレイスターはここでさりげなく誤魔化した。
下手に情報を与えると、色々と厄介な事になるのが目に見えているのだ。


アレイスター「質問は後にしてくれ」


土御門「……」



アレイスター「このアリウス、先も言った通りかなりの兵力を有している」


アレイスター「そして彼自身の戦闘能力も相当なものだ」



アレイスター「先程の『右方のフィアンマ』と同等クラスと考えてくれ」



一方「……………………クソ……どいつもこいつも……」




76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:01:42.25 ID:Arjuuw.o
アレイスター「確実に殺せとは言わん」

アレイスター「殺害はあくまでも『副次目的』だ」


麦野「……」


アレイスター「『主要目的』は、この男の障害となり、その行動の妨害に成功する事」



アレイスター「最悪でも時間稼ぎを、だ」



一方「時間稼ぎだァ?確実に潰さなきゃアウトなンだろ?」


アレイスター「いや。時間稼ぎの間、私が学園都市にて『策』を講じる」


アレイスター「それが成功すれば、天界からの脅威は完全に消失する」


アレイスター「まあ、アリウスを殺してくれれば最適なのだがな」


アレイスター「お互いが全力を尽くすことで乗り切れる」


一方「…………ハッ……『最後の仕事』が、本当の意味での『最初の共同作業』とはなァ」


アレイスター「不満か?ウェディングドレスでも着たいか?」


一方「おォ、オマェも随分と言うじゃねェか」




77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:03:20.94 ID:Arjuuw.o

一方「なンなら早く行こうじゃねェか。その島へよォ」

麦野「さっさと済ませたいんだけど」

土御門「……」


アレイスター「いや。それなりに準備をする必要がある」


アレイスター「それにアクセラレータ。君は学園都市での『策』に必要だ。君は残ってもらう」


一方「あァ?」


アレイスター「君の『力』が必要なのだよ。断れないと思うが」


一方「……カッ……」


アレイスター「その他三名」


麦野「あ?」


アレイスター「君等に能力者の『部隊』を率いてもらい、デュマーリ島を強襲してもらう」


結標「……『部隊』?」




78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:05:52.26 ID:Arjuuw.o
アレイスター「人選は済ませてある。暗部所属をメインとした、レベル4以上」


アレイスター「君達を省くと101人だ」


麦野「…………待て……」

暗部所属。

レベル4以上。

その言葉に真っ先に反応したのが麦野だった。


アレイスター「何かな?」


麦野「そのメンバー……の中に…………」

左目を見開き、右目眼窩から閃光を迸らせる麦野。



そんな彼女のとある『懸念』を即座に察したアレイスターは。


アレイスター「絹旗 最愛と滝壺 理后も入っている」


麦野の思いを知りつつも、それを気にも留めずに淡々と応えた。


それに対して声を荒げる―――。



麦野「―――ふッ…………ふざけんなッッッ!!!!!!!!!外せ!!!!!そいつ等を外せ!!!!!!!」



―――アイテムの元リーダー麦野 沈利。




79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:08:14.15 ID:Arjuuw.o
アレイスター「何か問題か?」

それでも淡々と言葉を続けるアレイスター。


麦野「―――テッ……テメェ!!!!!!ッッッッざっけんじゃねええええええ外せ!!!!!!!!!!!!」


アレイスター「それは無理だ。絹旗 最愛はともかく、滝壺 理后は重要な『要』だ」


アレイスター「外したせいで任務が遂げられず、学園都市が無くなれば元も子も無いと思うが」


麦野「…………!!!!!!!」


アレイスターの言葉は正論だ。

それに倣うかのように、
土御門・結標が麦野へと冷たい視線を向けた。


ただ、一方通行は顔を曇らせてそっぽを向いていたが。



アレイスター「君自身の手で守ればいいではないか。それとも『私の手』に預けておきたいか?」



麦野「………… がッッ……!!!」




80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:10:25.92 ID:Arjuuw.o

アレイスター「私が君の立場なら『全員』連れて行くが。『公認下』で学園都市から『脱出』できるのだぞ?」


そう、学園都市が滅ぶという最悪の事態が起こったとしても、
少なくともその瞬間に道連れとはならない。


麦野「…………!!!!!」


戦えば生き延びれる可能性のある『地獄、デュマーリ島』か、
戦っても生き延びれる可能性がゼロの『地獄、滅亡の日の学園都市』か。



麦野「………………クソッタレがッッ!!!!上等だっつーの!!!『全員』守ってやるってーよ!!!!!!」



麦野は前者を選んだ。

少なくとも己の腕次第で何とかなる方が良い と彼女は判断したのだ。


アレイスター「承諾と受け取る。『全員』を君の直下に編成しといてあげよう」


とこの時、熱くなっていた麦野は気付いていなかった。

アレイスターとの会話が、いつのまにか『全員』を指して進んでいた事に。




81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:11:44.85 ID:Arjuuw.o

土御門「―――……ところでだ、俺は戦力にならんぜよ?」


アレイスター「君は戦闘員ではなくアドバイザーだ」

アレイスター「エツァリはあのザマだ。君ぐらいしか私の直命で動ける『五体満足』な魔術師はいなくてね」


土御門「……」


アレイスター「君には後ほど、『口』を開く術式の構造を暗記してもらう」

アレイスター「どのような方法で行使するかまではわからんが、」

アレイスター「術式の媒体を物質的な物で賄っているのならば、それを破壊すればいいしな」

アレイスター「それを見つけ判断するのが君の役目だ。無論、その他の悪魔関連の知識サポートもしてもらう」


こればかりは経験豊富な魔術師でないと不可能だろう。

術式は何気ない風景、何気ない物体の配置にも混ざっていることがある。
それを見出すには、一夜付けの知識では到底無理だ。


アレイスター「それと結標 淡希」




アレイスター「君は『四日』で『レベル5第八位』になってもらう」




結標「……………………………………………………………は?」




82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:13:17.94 ID:Arjuuw.o

結標「……………………………………私が………………………レベル5…………?」

突然の宣告。

その内容に結標は耳を疑った。

目を見開き口が半開きのまま呆然。


だがそんな結標の様子など気にも留めず、アレイスターは淡々と言葉を続けていく。


アレイスター「先程言ったとおりアリウスは強大だ。いくらアラストルを保持しているとはいえレベル5が一人だけでは心もとない」


アレイスター「だから君も戦力の『要』となってもらう」


結標「…………ど…………どうやって…………?」


アレイスター「君には少し手を加えるだけでいい」



アレイスター『学習装置』で演算方程式を最適化し、そしてミサカネットワークに接続してもらう」



一方「―――おィ!!!!!待て!!!!!ミサカネットワークだァ!!!!?」


当然、一方通行はその単語が出ては黙っていられない。




83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:17:20.88 ID:Arjuuw.o
アレイスター「心配するな。ミサカネットワークは君が思っているよりも性能が高い」

アレイスター「タダの『レベル3が一万人集ったモノ』ではない」

アレイスター「最適化し、極限まで演算効率を高めた代物だ」

アレイスター「それぞれの相互作用により、その性能は『加算』ではなく『乗算』的に跳ね上がっている」

アレイスター「能力演算だけに限って言えば、その処理速度は『ツリーダイアグラム』と互角だ」


アレイスター「あのネットワークを『使い潰し』、クラッシュ寸前にまで追い込める『人間』は今の君くらいだろう」


アレイスター「『原子崩し』や『超電磁砲』程度なら80人分を難なく同時演算できる」


麦野「……あぁ?」


アレイスター「今更レベル5が『二人』接続されたところでどうってことは無い」


結標「(……二人?)」


一方「ッ…………!!!!」


何せヒューズ=カザキリやエイワスをも統制できる代物。
普通のレベル5を『複数人』演算補助したところで全く負荷にはならない。

だが一方通行の懸念は、ネットワークへの『負荷』だけではない。

一方「そ、そォじゃねェ!!!!!…………またあのガキに…………!!!!」

そもそも、これ以上打ち止めに手が加えられたくはない。

だが。

アレイスター「ではどうしろと?」


一方「…………!!!!」


どうしろと?

その問いに答える言葉を一方通行は持っていなかった。




84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:19:52.50 ID:Arjuuw.o

学園都市を守る。

その為には妥協は許されない。


打ち止めが生きているこの世界を何としてでも守らねばならない。


一方「…………!!!!!!!!!!!」


だがそれには。


アレイスター「状況が状況だ。『全員』にそれなりの仕事をしてもらわんと乗り切れんぞ?」


打ち止めの力も必要だという事。


アレイスター「何も命を頂こうという訳では無い。『自由と安寧』への少しばかりの奉仕をラストオーダーにもしてもらう」




一方「―――クソ!!!!!クソがッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」




選択の余地は無い。



アレイスター「先程言った通り、君がその『力』を使うよりはかなり安全だ」


アレイスター「保障しよう」




85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:21:38.91 ID:Arjuuw.o

一方「あァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」



一方「わかったぜ!!!!!!!わかったぜこンチクショウが!!!!!!!!」


一方「だが条件がある!!!!!!!!!」


アレイスター「…………」


一方「あのガキに書き込むプログラムを芳川にチェックさせる!!!!!!!!」


一方「それで俺と芳川の立会いの下で作業してもらうからなァ!!!!!!!!!!!」



アレイスター「かまわんよ」



一方「もしなンか妙ォな事しやがったら全部ぶつ壊してやる!!!!!!!!全部叩き潰してやっからよォ!!!!!!!」



一方「―――オマェの大事な大事な『俺の体』を『蒸発』させてやっからなクソが!!!!!!!!!!」



アレイスター「うむ。決まりだな」




86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:24:14.44 ID:Arjuuw.o
一方「カッ!!!!!!!!オァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」

苛立ちが押さえきれずに、声を荒げて落ち着き無く体を揺らす一方通行。

そんな彼の精神状態が影響を及ぼしているのか、
両手に義手に僅かにだが薄く黒い靄のようなものが纏わりつき、屋内を不気味な空気で覆っていた。


結標「……ちょっと待って」


アレイスター「何だ?」


結標「『二人』って?私ともう一人は?」



アレイスター「滝壺 理后。彼女が『レベル5第九位』候補だ」



麦野「…………!!!!」


再び鋭い目でアレイスターを見据える麦野。


アレイスター「おっと、先言わせて貰うぞ」

そんな彼女の心中を察し、『先手』を取ったアレイスター。


アレイスター「まず体晶による『侵食』は全て治癒処置させる」


アレイスター「その後、結標と同じく演算方程式を最適化、そしてネットワークに接続させる」


アレイスター「彼女自身への負荷は無い」



アレイスター「質問は?」




87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:29:03.91 ID:Arjuuw.o

麦野「…………そもそもなんでアイツを連れてくのよ?」

結標がレベル5候補になるのはわかる。
彼女の力が強化されたら、それはそれは凄まじい物となるだろう。

だが滝壺は?

彼女はそんな戦闘向けではない。



アレイスター「現地の能力者の『管理と統制』」


アレイスター「そして能力の『強化支援』」


麦野「……管理……強化……?」



アレイスター「『能力追跡』が対象のAIM拡散力場に干渉し、」

アレイスター「理論上は完全な支配化に置ける事が可能。これは知っているな?」


麦野「…………『乗っ取り』、か」



アレイスター「ミサカネットワークの演算補助があればそれが可能だ。それも大々的にな」

アレイスター「少なくとも同行する100の能力者を支配下に置くことができ、」


アレイスター「滝壺 理后を核としたAIM拡散力場のネットワークを構築できる」


麦野「……!!」



88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:30:22.13 ID:Arjuuw.o

アレイスター「対象の能力を遠隔で操ることが可能だ」


アレイスター「AIM拡散力場を乗っ取るという事は、対象の『演算域』にも接続するという事、そこから知覚情報も共有できる」


アレイスター「そしてあくまで擬似的にだが、滝壺 理后を介して、個々へのミサカネットワーク代理演算支援も可能になる」


アレイスター「それが『強化支援』だ」



土御門「待て…………対象のAIM拡散力場、能力を完全に支配下に置けるという事は……」



アレイスター「滝壺 理后『が』対象の能力を使用することも可能だ」



アレイスター「『多才能力』と呼べるな」



アレイスター「それも個々の能力をレベル5相当に強化して行使できる」



アレイスター「その間、能力の『本当の持ち主』はその力を行使できなくなり、負荷で昏倒するがな」




89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:33:13.24 ID:Arjuuw.o

滝壺 理后のバックには『超電磁砲』80人分に匹敵する演算補助がある。

それを使えば、ただ乗っ取って能力を奪い取るだけには留まらない。


例えば、彼女が絹旗の『窒素装甲』を乗っ取り、
そしてレベル5並に強化して行使できることも可能なのだ。

だがその間、能力を奪われている絹旗は無能力者となり意識を失う、という事だ。



アレイスター「その『多才能力』を使うことは考えるな」



アレイスター「『一時的』に優位になる『だけ』で、最終的に全滅する」



理論上は100人種類のレベル5相当の力を同時に行使できるが、
かわりに『部隊』としての戦力は『ゼロ』となるのだ。

当然、昏倒した者達は無力であり悪魔達に易々と狩られていく。
そうすると、滝壺もその能力を使えなくなっていく。


『多才能力』となった滝壺『自体』はそうそう負けはしないだろうが、
基盤である100の能力者が死ねば最終的に完全に無力化だ。



アレイスター「彼女の派遣目的は、あくまで部隊の統制と個々の能力強化支援、及び知覚サポートだ」




90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:35:17.34 ID:Arjuuw.o

アレイスター「さて、彼女が『要』という理由もこれでわかっただろう?」


麦野「………………………………」


アレイスター「ここまでで質問は?」


土御門「こっちが出撃するのはいつだ?」


アレイスター「予定は五日後だ。色々と作業が多くてな」


アレイスター「では……とりあえず今はこんなところにしておこう」


アレイスター「君達も疲れているだろう?しっかり休息を取るんだ」


アレイスター「明日の朝、それぞれに詳細を通達する」


そのアレイスターの言葉に皆無言で同意し、
結標の『座標移動』で去っていった。


麦野だけは無言ではなく、最後にもう一度クソッタレと吐き捨てていったが。


また、一方通行は無言だったが凄まじい形相でアレイスターを睨みながら。




91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:36:59.64 ID:Arjuuw.o

一人となったアレイスターは、水槽の中で一度目を瞑った。


いや、厳密に言うと『一人』では無いのだが。


いつ侵入してきたかはわからないが、先程からこの広い室内の天井の角に気配を感じていた。

ただでさえ薄暗い。
角なんかは完全に漆黒だ。


だが、その『空気』で相手が誰なのかはすぐにわかった。


アレイスター「さて…………君はいつからそこにいた?」


アレイスターは目を閉じたまま声を飛ばした。

その侵入者に対し。


すると。



「あ~、『セフィロトの樹』と魔術がどうのこうのって辺りからだ」



バサリとコートをはためかせながら、上の漆黒の中から降りてきた銀髪の大男。


ダンテ。




92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:39:13.89 ID:Arjuuw.o

アレイスター「ほぼ最初から聞いていた訳か……」


ダンテ「まあな」


ダンテは肩を竦め、ニヤニヤと笑いながらだらしなく歩を進める。


アレイスター「それで君は何が聞きたい?」


そこでアレイスターはようやく目を開き、彼を見据えた。

『今まで以上』の威圧感をこの男から感じながら。

いつも通り笑ってはいるが、その纏っていた空気はかなり張り詰めていた。


ダンテ「半分は立ち聞きで済んじまったからな、いくつか質問があるだけだ」



ダンテ「右方のフィアンマって野郎と―――」



ダンテ「―――そのアリウスって野郎についてもうちっと詳しく聞きてえ」



アレイスター「…………なるほどな」


―――




93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:40:18.20 ID:Arjuuw.o
今日はここまでです。
次は月曜か火曜の夜中に。




94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 20:41:32.46 ID:aRFQ5owo
乙なんだよ!



95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 21:21:52.67 ID:EPkq0dco
さあ、下手をぶっこくとここで終了だぞアレイスターww



96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/14(土) 22:39:43.44 ID:6M/Y7uso
軽くデコピンするくらいで☆の居るビーカー割る位出来るだろうしなwwww

(`・ω・´)ゞ 乙であります!




97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/15(日) 13:24:21.96 ID:/JlAJeAo
本格的にスフィンクスが心配になってきたな・・・
巻き込まれて消し飛ばなきゃいいけど




98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/15(日) 15:33:53.12 ID:yfFC5pY0
スフィンクスめちゃくちゃ忘れてたwwwwwwwwww



106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:41:05.94 ID:UkUD4f2o
―――

とある病棟の一室。


御坂の病室。

その部屋の窓枠に御坂は腰かけ、佐天はベッド脇の小さな丸椅子に。

そしてベッドには少し焦げ臭い黒子が座っていた。


佐天「本当に……どこも怪我してませんか?」


御坂「え?あ、うん、私は無傷よ」


黒子「はぁ…………お姉さま。あれ程寮にいて下さいましと……」


御坂「いやぁ~、だってこれが今の私の『仕事』だし」


特に緊張感も無く、軽く笑みを浮かべながらあっけらかんと応える御坂。

黒子「むむ……」




107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:43:53.14 ID:UkUD4f2o
佐天「何があったんですか?」

御坂「あ~っと……喋ってもいいのかなこれ」

御坂「……とね……どっかの馬鹿が、私の『大事な人』の『大事な人』を襲ったみたいなの」


佐天「あ、あのツンツン頭の人ですか?」


御坂「ん、そいつの大事な人」


黒子「…………」


御坂「でさ、結構ギリギリでねー。それなりにやばかったんだけど」


御坂「何とか皆でその馬鹿を『ぶっ殺した』 と」


御坂「こんな感じかな」


これまた平然と告げる御坂。
さも当たり前の事かのように。


佐天「こ、『殺した』んですか……??」


御坂「うん。当然でしょ」


佐天「うひゃあ」




108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:46:19.96 ID:UkUD4f2o

黒子「……」

そんな、あれ程の戦いの事を淡々と普通に喋る御坂を見て、
黒子は改めて再認識させられる。

もう、こういう戦いは御坂にとっての『普通』であるのだと。
これが彼女の殺し殺されの『日常』だ と。


彼女はその事についてはもう何も迷いが無い と。


距離感を実感する。


別世界に生きるその距離を。


黒子は『闇の最深部』に『関っているだけ』。
だが御坂は完全にその最深部の『住人』となっている。

そして御坂はそこから脱出する気も一切無い。

上条当麻という男が更に深い底にいる以上、彼女は絶対に戻ってこない。
彼女は先の見えない苛烈な戦いに身を投じ続ける事になる。


それに対し、黒子の立ち位置では『何』もできない。


最愛のお姉さまには決して手が届かない。


ただ傍観しているだけしかできないのだ。




109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:49:33.52 ID:UkUD4f2o
それが黒子にとって最も苦痛だった。

確かに、御坂が手が届かない世界へといってしまった事も苦痛だ。

だがそれ以上に、その戦いの渦の中にいる御坂をただ見ているだけしかできない事が耐え難い。


黒子「(……)」

黒子はふと思った。


己も『闇の最深部』に身を投じれば、最愛の人の傍で戦えるのだろうか と。

御坂が行ってしまうのなら。
己が置いていかれるのなら。

こっちからついて行けば良いでは無いか と。
こっちが飛び込んでいけば、ずっと傍にいれる と。


そんな事をすれば、御坂はそれはそれは怒るだろう。
だが上条の為に戦う御坂のように、己も御坂の為に戦いたい。


大切な人の傍で。

大切な人と同じ痛みを。

大切な人の盾となり。


大切な人の為に―――。


黒子はもう耐えられないのだ。

自分だけがこうして表の日常にいることが。


その影で、己の知らぬ場所で御坂が命の『駆け引き』をやっているなど―――。




110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:50:35.05 ID:UkUD4f2o

佐天「……白井さん?どうしたんですか?」


と、思索に耽っていた黒子を現実へと呼び戻す友の声。


御坂「?」


黒子「は……い、いえ。別に何でもありませんの」


御坂「……あっそうそう!」

御坂「黒子。お願いあるんだけどっ良いかな??」


黒子「?」


御坂「私の荷物さ、後でここに持ってきてくれない?」


黒子「へ?『向こう』にもう戻られるんですの??」




111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:52:05.89 ID:UkUD4f2o
御坂「う~ん、それは今のところはまだ何とも」

御坂「でも学園都市にいるとしても、多分しばらくこの病院にいそうだし」

黒子「?」

御坂「当麻達がいるからね。離れられないでしょ」

御坂「パッと見ただけだからわからないけど、多分当麻の家も壊れているだろうし、」

御坂「もし戻らないんだったら当麻達もここに寝泊りすると思うの」


黒子「…………ええ、わかりましたの」



佐天「御坂さん。ところでアレ……」


と、その時佐天が病室の角を指で指しながら口を開いた。


                   バット
佐天「何ですか?あの棍棒みたいの」


その指の先には、壁に立てかけられている『黒い大きな金属の棒状』の物体。



御坂「―――!!!!あ~!!そうそうこれね~!!」


御坂の『大砲』だ。




112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:53:53.92 ID:UkUD4f2o

ぱぁっと笑みを浮かべ、能力で大砲を右手に引き寄せる御坂。


御坂「いひひ~!これは秘密兵器!!私の大砲よ!!」

そして佐天に見せ付けるように、これ見よがしに弄り始めた。
年相応のはしゃぐ中学生の笑みを浮かべながら。

その手に持っているのは、とても中学生には似つかないモノだったが。


佐天「たいほー……う?」


御坂「そうそう!ダンテに作ってもらってさ!!!!」


佐天「だんて?」


黒子「ネロ殿の叔父さまですの」


佐天「―――へぇ!!へぇええええ!!!!で!!それで!?」

黒子の捕捉でネロの名を聞いた途端、瞳を輝かせる佐天。




113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:56:28.33 ID:UkUD4f2o

御坂「これで私のレールガンが最大出力でボンボン打てるんだけど、」

御坂「それだけじゃなくてタマがすごいのよタマが!!!」


佐天「タマ?ですか?」


御坂「そうそう!!!」

御坂は手馴れた動作でフィードカバーを開き、そこから一発の弾丸を取り出し。

御坂「これ!!!」

そしてポンとサテンの方へと投げ渡した。


佐天「こ、これが…… お、おっきいですね!!!…………って、なんか変な模様ありますけど?」


渡された、奇妙な模様がある12.7mm弾。
本物の弾薬など手に持つどころか見るのも初めてだが、
そんな佐天でも、この弾の表面に刻まれた紋様には妙な違和感を感じとった。


御坂「それ!!その模様がスゴイのよ!!!良くわかんないけど、それのおかげで威力が馬鹿みたいに上がってるの!!!」


佐天「へえあ、はぁ」




114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 00:59:42.44 ID:UkUD4f2o

御坂「ダンテの友達の、レディさんって人にこのタマ作ってもらったんだけどさ、それがもう凄くって!」


佐天「へぁ」


御坂「あー……んーっとね……黒子!!!」

黒子「は、はい!!!?」

御坂「路地裏で前に羊みたいな悪魔と戦ったでしょ!?」

黒子「……ええ、覚えておりますの」



御坂「レールガンでこのタマ撃てば、アレとかでも三体くらい一度に吹っ飛ばせるんだって!!!!」



黒子「―――!!!!そ、そんなにですの!?」


御坂「そのレディさんも凄くってさ~、能力者でもない普通の人間なんだけど、当麻がボッコボコにされてたし」


佐天「む、無能力でですか!?」


御坂「そうそう。ヤッバイ強いわよ。それでまたスッゴクかっこよくてさーレディさん」




115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:02:18.17 ID:UkUD4f2o
佐天「す、すごいですね~、無能力者でもそういう人いるんだ…………」

御坂「クールでさ~そこもまた痺れるのよね」

御坂「このタマも貰ったんじゃなくて買ったんだけど、『値は品質の保障・証明なのよ』って。仕事人よ仕事人!!」

佐天「か、買ったんですか?いくらで?」


御坂「え~っと、一発が××××ドルで300発だから……日本円だと××××万円くらいかな」



黒子「ぶふッッッッ!!!!!!!!!!」

佐天「ちょっとぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!家建てれるじゃないですか家えええ!!!!!!」

御坂「これで全部貯金使っちゃった。それでも三分の一までしか払えなかったから、あとは出世払いって」

御坂「だから今の私って実は借金まみれなのよねー」


黒子「お、お、お、…………」

ゴートリングを簡単に殺せるくらいの弾にそれ程の値がつくのはわかるが、
その御坂の余りの使いっぷりに、最早黒子は言葉が出なかった。

それに、黒子自身はそのレディとは面識が無いが、話を聞く限りかなりヤバそうな人物というのはわかる。
そんな相手にそれ程の借金をするとは。

そこが心配で心配でたまらなかった。


まあ、その黒子の懸念はあながち間違ってはいない。
レディに借金をするということはどういう事か。

デビルハンター界隈では、ある意味もっともやってはいけない事の一つとされている。




116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:09:32.92 ID:UkUD4f2o
と、黒子はそう懸念している一方で、その弾薬に妙に興味をそそられていた。

先程から、御坂と同じ世界に飛び込むか否かも考えていたが、
今のままでは足を引っ張るだけなのも自覚している。

だがたった今おおまかな概要を聞かされた、あの山羊の悪魔をも簡単に蹴散らせる威力の弾。

それを聞いて、黒子は瞬間的にこう思った。


あれがあれば、己も戦力となりうるかもしれない と。


御坂の戦闘能力が爆発的に上がったのは、あの弾による恩恵が全てでは無い、というのは黒子はわかっている。

彼女の力を最大限発揮できる環境が整った というのが最大の要因であり、
あの弾『だけ』で強くなった訳では無いのだ。

あの弾が真の威力を発揮できるのも、御坂のレベル5としての能力があってこそのもの。
御坂の強大な能力、そしてそれに耐え得る頑丈な『砲身』、それらがあってこその破壊力だ。

レベル5として、超能力者としての力が大前提となっているのだ。


黒子があの弾の類の強力なモノを持ったとしても、爆発的には戦闘能力は上がるとは限らない。
それどころか、持て余して身を滅ぼす結果になるかもしれない。

それは黒子もわかっている。


だがそれでも。


それでも。

試してみたい。
僅かな恩恵でも良い。

その小さな恩恵の為なら、体を蝕まれても良い。
とにかく戦闘能力を向上したかった。
何を代償にしてでも。

御坂の隣で戦えるようになりたかった。




117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:11:32.85 ID:UkUD4f2o

幸か不幸か、黒子はダンテとそれなりに面識がある。


そこからレディという人物に接触できれば―――。


そう考えながら、黒子はいつのまにか脳内で己の貯蓄金額を確認していた。


黒子「(…………)」


だが財力はあまりにも寂しいものだった。

御坂が持っている、あの弾のレベルの物を一つ買えるかどうかも怪しい。



黒子「…………はぁ……」


思わず、大きく溜息を付いてしまう黒子。


当然、他の二人はそれに反応する。


佐天「……あ、あの白井さん?」




118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:12:44.88 ID:UkUD4f2o
御坂「……黒子?も、もしかしてさっきの私の電撃が……」


黒子「い、いえ!!!!少し疲れているだけですの!!!」


御坂「そう……」



黒子「……さて!!!わたくしはこれからまだお仕事がありますし、お姉さまもお疲れでしょうし、この辺りで」


佐天「あ、はい!そうですね!」


御坂「……あ、うん、そうね」


黒子「お仕事が終わり次第、お姉さまの荷物を持ってきますの」


御坂「お願いね~」


佐天「あ、それとまた明日来ますね。どうせしばらく休校になりそうですし」


御坂「はいは~い待ってるわよ」




119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:15:47.96 ID:UkUD4f2o
そうやって一応の挨拶した後、二人は御坂の病室を後にし、
また来た時と同じく長い廊下を歩み進んでいった。


佐天「御坂さん、元気そうでよかったですね」

黒子「ええ……まあ」

佐天「……」

黒子「……さて、わたくしは先程言ったとおり、仕事がありますので」

佐天「あ、テレポートで行っちゃうんですか?」

黒子「はいですの。あなたはどうしますの?送ってさしあげても……」


佐天「う~ん、戻っても初春いないしなー、他の皆も今は避難所で寮はスッカラカンかもしれないし……」


佐天「それで一人きりだと心細いんで……」


佐天「もう少しこの病院にいようかなって感じです。ここなら色々と安全ですよね」




120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:17:01.66 ID:UkUD4f2o
黒子「わかりましたの。では、さっきも言ったとおり(ry」


佐天「変なのに頭突っ込むな でしょ?わかってますって~」


黒子「……では、わたくしはこの辺でお暇させて頂きますの」


佐天「はいはーい。お勤め頑張ってください」


にこやかに手を振る佐天に対し、
黒子は軽く会釈した後にテレポートして姿を消した。



佐天「……さて、どーしよっかな」

一人残った佐天。
先程黒子に伝えたとおりなんとなくこの病院に残ったものの、特にやることがない。

先程一応の別れの挨拶をした建前上、また御坂の所にすぐに行くのも少し憚れる。


佐天「あ……」

と、そこで佐天は思い出した。

一階の広い談話フロアに大きなテレビが置いてあった事に。




121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:18:43.22 ID:UkUD4f2o
佐天「……」

暇つぶしには最適ではないか。
それに今回の件を何と報道しているかもかなり気になる。


佐天「…………うん、いいね」


そうと決めた佐天は、長い廊下を歩み始めた。

その談話フロアで『ちょっとした』、いや、『運命的』な出会いが待っているのも知らずに。


力は無い。

武器は無い。

戦う術は知らない。

そんな普通過ぎる中学一年生の少女が、
その『出会い』によって『主要キャスト』に名を連ねてしまう事になる。

この大きな世界のうねりの中に引き摺り込まれていく。


数週間前、ネロと出会った事によりどこかに作り出されてしまった運命の歯車。

それが遂に回り出す。


そして彼女を運んでいく。

様々な意思と多くの生と死が集約する、激震地の『中心』へ。

以前彼女が体験した、デパートでの騒動でさえ生易しく感じる壮絶な戦場へ。


彼女も遂に立ち上がり、己の意思で行動し戦わねばならない『地獄』へと―――。




122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:20:00.42 ID:UkUD4f2o
エレベーターから降り。
一階の廊下を進み。

ソファーが多く並んでいる、広い談話室に着いた佐天。

そんな彼女の目にとまる、壁際に置いてある自動販売機の前に立っている―――。



―――褐色の肌に赤毛の幼い少女。



容姿から見て歳はちょうど10前後だろうか、佐天よりも二周りほど下のような。
白い短めのマントを羽織り、赤毛の長い髪を後ろで一つに結っている端正な顔立ちの子だ。

佐天「?」

その少女は、何やら不思議そうに首を傾げては
背伸びをして自動販売機を恐る恐る軽く叩き。

(スイッチのところではなく、ディスプレイが飾っているところを だ)

そして小さな手に持っている硬貨をボーっと眺め、また不思議そうに首を傾げて を繰り返していた。


佐天「(…………わからないのかな??)」

何となくだが、見た感じだと自動販売機での飲み物の買い方がわからないように見える。

今時そんな人はいないと普通は思うが世界は広い。
あれ程ではなかったが、実際にネロも生きていた世界が違うせいか『こっち側』の常識にはかなり疎かった。


佐天「(よし……人助け人助けっと!涙子って良い人~!)」

佐天は根っからの親切心で、その少女の方へと歩を進めていく。


この出会いから始まる運命など露とも知らずに。


―――




124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:21:38.70 ID:UkUD4f2o
―――

黒子は夜空の下、宙を連続テレポートで移動していた。

黒子「(少し……時間過ぎてますの)」

休憩と言って、強引に持ち場を離れてきたのだ。

ちゃんとした許可も取らず、そして時間も超過。

同僚や上司に色々と文句を言われるのは目に見えている。

と、そう思っていた矢先。


黒子「(…………む。早速ですの)」


鳴り響く携帯。

状況から見て、恐らく同僚からだろう。

黒子は一旦地上の道路に降り、
そして携帯を取り出して着信表示に目を向けた。


黒子「…………?」




125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:22:56.59 ID:UkUD4f2o

その表示は御坂からだった。


黒子「(お姉さま?)」


黒子「はいですの」

だが実際に出てみると。


『白井黒子か?』


聞こえてきたのは低い男の声。


黒子「――― なっっ??!!!」


『白井黒子か?』


予想外だった声に驚き言葉を失う黒子に対し、
相手は淡々と同じ質問を繰り返してきた。




126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:24:11.92 ID:UkUD4f2o
黒子「そ、そうですの!!!!それで(ry!!!!!」


『慌てるな。回線を借りているだけだ』


黒子「なッ??!!はぃ???!!!」


黒子「ちょっと!!!!どちら様ですの???!!!」


『黙って聞け。「悪魔関係」だ。これでわかるだろう?』


黒子「―――!!!!!!」



『白井黒子。君に理事長命令が下った』



そして男は淡々と言葉を連ねていく。

明日の午前11時に第一学区のとある施設に出頭しろ。


学園都市そのものに関る重要事項だ。


この事は如何なる者にも一切他言するな と。




127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:25:41.09 ID:UkUD4f2o
黒子「一体……!!!!!!」


『君に拒否権は無い』


『学園都市が消え、友人や「ルームメイト」の「生きる場所」が無くなっても構わない、というのなら別だが』


黒子「―――!!!!!!!!」


『詳細は明日説明する』


と、そこで男は一方的に通話を切った。



黒子「…………一体……なんですの……?」


携帯を握り締め、一人呆然としながら呟く黒子。



『レベル4』大能力者。

暗部所属ではないが、悪魔との実戦経験多数。

大悪魔を前にしても意識を保つことができる程の『慣れ』。



『切符』はそんな白井黒子にも配られてきたのだ。


決して拒否できない『切符』が―――。



地獄に等しい、壮絶な戦場への『切符』が ―――。



―――




130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:37:46.52 ID:1qeNnFEo
大変だ、初春だけ置いてけぼりだww



131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 01:50:08.55 ID:z9ph//.o
そりゃあ「温度を一定に保つ」って能力じゃどうしようもねぇしな・・・



132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 02:31:55.85 ID:.Wd.jdU0
レベルが上がって「周囲の環境を固定する」くらいになれば・・・いや、無理だなぁ



133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 02:35:33.45 ID:GByulqYo
初春「てめぇらの恥ずかしい画像ネットに流すぞ」



137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 21:42:38.11 ID:o2P1wioo
>>122
二周りってどゆこと?
年齢で二周り下だと、24歳下になっちゃうけど…




138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 23:08:55.50 ID:UkUD4f2o
>>137
使い方間違ってました。
すみません。




139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 23:15:43.75 ID:UkUD4f2o
[ピザ]と[ピザ] のケツの間に頭挟むロックは拷問
[ピザ]とキスしそうになるくらい猛烈合体するプロップも拷問




140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 23:16:11.57 ID:UkUD4f2o
誤爆です



141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 23:22:34.66 ID:odn7PTUo
クソワロタwwwwwwwwwwww
>>1どこのスレ見てんだwwww




143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/17(火) 23:31:03.06 ID:UkUD4f2o
VIP に珍しく建ってたラグビースレを見てました。



144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/18(水) 00:26:10.73 ID:x3YU4l2o
職人気質な>>1の意外な一面発見ってやつか



145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/18(水) 02:02:20.43 ID:WE0TWCI0
∑(;゚ Д゚)wwwwwwwwww



152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:21:22.77 ID:G8ixZ96o
―――

とある病棟の一室。


カエル「君にとっては今の時代、学園都市の最先端医療施設で、こうしたアナログ作業は無駄に思えるだろうがね」

机に向かい、目にもとまらぬ速さでカルテに記入していくカエル顔の医者。

カエル「でもね、たまにはこうしたアナログ作業も重要なんだ」

何枚も何枚も捲っては記入。

カエル「字の形をなぞる事で二重記憶し、そして同時に再確認・再チェックもできる」

その手を休めぬまま、声を飛ばしていく。

カエル「僕は元々アナログ世代だからね。この方が慣れているという事もあるんだけどね」

壁際の椅子に座っている一方通行へと。


一方「それとこれとは別だろォが」


苛立たしげにそれに言葉を返す一方通行。
彼の隣には、金属製の杖が立てかけられていた。

取っ手の部分が大きく歪んでいる杖が。


一方「『アナログ』だと潰しちまうっつってンだろォが」


カエル「まあね。さて、君の要望を纏めるとだ」


カエル「『脳信号で能力起動できるようにして欲しい』 ということかい?」


一方「そォだ」




153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:22:39.60 ID:G8ixZ96o

今の一方通行の手。

この『黒い義手』。

その力加減は、能力非使用時だとかなり難しい。
この金属製の杖も、ちょっとした拍子に取っ手を握り潰してしまったのだ。


このままだと、チョーカーを握り壊してしまう事も目に見えている。

かと言って、いちいち口で咥えて歯と舌でスイッチを入れるのも難しい。


カエル「…………」


一方「何が言いたいかはわかる。だがよ、これだけは俺じゃァどォにもなンねェんだよ」


カエル「…………なるほどね」


一方「金ならいくらでも積む。だから新しいの作ってくンねェか?」



カエル「…………」


一方「…………」


カエル「一つだけ条件がある」




154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:24:24.58 ID:G8ixZ96o

一方「あァ?」


カエル「いや、条件では無く『要望と忠告』と言うべきかな」

カエル顔の医者は相変わらず作業しながら、声だけを一方通行に飛ばす。


カエル「それを聞いてくれて、心に留めておいてくれたらお金もいらないよ」


一方「……なンだ?」


カエル「先程の戦い、あの『力』の使い方はもう止めた方がいい」


カエル「あの『強引な制御』はね」


一方「……」

『強引な制御』。

その言葉だけで、このカエル顔の医者が何を指しているのかがわかった。

あの黒い噴射物を、能力を使って力ずくで杭状に纏め上げて操る事だ。




155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:29:08.60 ID:G8ixZ96o
カエル「まあ、このチョーカーの件が無くとも今日中に伝えておこうと思っていたんだけどね」

カエル「ついさっき、君の頭にもミサカネットワークにも、そして『彼女達』自身にも何も障害は残って無いとは言ったが」


カエル「そろそろ限界だよ」


一方「……」


カエル「君の通常の能力使用時における、ミサカネットワークの占有率は50%程度だ」

カエル「だが、『あの力の使い方』をしている時の占有率は異常なんだよ」


カエル「先日のデパートでの戦闘の際、占有率の瞬間最大値は 90.8%」


カエル「今日の瞬間最大値は99.4%まで達した」


カエル「ミサカネットワークはね、維持統制と相互通信の為に最低0.1%の『遊び』が必要なんだ」

カエル「つまりだね、君が今日あと0.5%以上占有していたら、ミサカネットワークは負荷によって完全停止していたんだよ」


一方「………………」

カエル「プログラムが連鎖的に崩壊していき、再起不能になる」

カエル「そうなれば、『彼女達』の中から脳死状態に陥る個体も大勢出てくるだろうね」



一方「―――……ッッ……!!!!!!」




156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:31:33.25 ID:G8ixZ96o

カエル「君が好んであの力の使い方をしている訳では無いのはわかる」

カエル「そうせざるを得ない、ギリギリの状況だったのもわかる」

カエル「だから絶対に使うなとは言わない」


カエル「だけどね、そろそろ『別の戦い方』を見つけた方がいい」


一方「…………なッ…………………」


カエル「…………『幸い』とは言わないが、今の君には『その手』がある」

ここでようやくカエル顔の医者は一方通行の方へと視線を移し、
ペンを持っている手で軽く彼の義手を指した。

演算を必要としない、黒い杭以上の力を秘めた漆黒の義手を。


カエル「君ならそれを上手く利用して、あの力の使い方をせずとも戦えるはずだ」


一方「……………………」


カエル「……とまあ、僕が言いたいのはこんなところだ」


一方「…………………… そォか」


カエル「じゃあ明日の夜八時辺りに来てくれ。それまでに新しいのを用意しておくよ」


一方「…… あァ……悪ィな。頼んだぜ」


一方通行は杖に手をかけ、ぎこちなく立ち上がり覚束無い足取りで退室していった。
杖の取っ手の部分から、金属の軋む音を響かせながら。


―――




157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:33:28.41 ID:G8ixZ96o
―――


窓の無いビル。

ここは今、凄まじい密度の大気が立ち込めていた。

肌が焼け付き、徐々に削り取られていくような熱すぎる重圧。
それでいて体の芯までが凍り付いてしまいそうな悪寒。


何もしていなくとも、体力と精神が見る見る磨り減っていく。


アレイスター「…………」


彼が今日、この『威圧』を味わうのは二度目だ。


『あの目』に見据えられるのは二度目だ。


なんという災難か。

なんという不運か。


一度目は最強である兄。


バージル。


そして今の二度目は最強である弟。


ダンテ―――。




158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:35:07.96 ID:G8ixZ96o

アレイスター「さて…………」

水槽の中から真っ直ぐと怪物を見据え。

アレイスター「…………具体的に……あの二人の何が聞きたいのかな?」

ゆっくりと言葉を選びながら口を開くアレイスター。


ダンテ「まあそう固くなんな。気楽に行こうぜ」


それに対し、相変わらずの薄ら笑いを浮かべ肩を竦めるダンテ。


『気楽に』。


その言葉と表情とは裏腹に、凄まじいオーラをアレイスターに向けながら。


アレイスター「…………」


一目見てわかる。

いや肌で感じる。

外面は相変わらずだが、その内面は凄まじい程に煮えたぎり、
今にも噴火しそうなくらいに張り詰めている事に。




159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:36:06.80 ID:G8ixZ96o

ダンテ「お前もお前の立場で色々あると思うけどよ」

ダンテ「こっちも結構困っててな」


ダンテ「バカ兄貴がアレでよ。そこでお前の『助言』が欲しいんだ」


アレイスター「…………」



ダンテ「……まず…………そうだな、フィアンマって野郎の目的は?」



アレイスター「…………ふむ」

アレイスターは脳内で呟く。


『いきなりそれか』 と。


一発目から『核心』に迫るストレートな問いだ。




160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:37:15.30 ID:G8ixZ96o
アレイスター「…………あの男はな。天界への口を開けようとしていた」

アレイスターは答える。
まずは当たり障りの無い部分から。

プランの根幹にも係わってくる『核心』、そこから最も離れている場所から。


その時、ダンテはいきなり背中のリベリオンの柄へと手を伸ばし。


ダンテ「それはアリウスって野郎じゃねえのか?」


揚場の無い声で言葉を返しながら、その魔剣を一度軽く振るい。


アレイスター「いいや。元々はフィアンマが行うはずだったらしい」


ダンテ「へぇ」

今度は柄の先を鼻先に当てるように、リベリオンを水平に持ち上げ片目を瞑った。
そしてもう一方の手の指で刃面をゆっくりとなぞり始めた。

一見すると刃面のチェックでもしているかのように見える。

いや、実際にそうなのだろうが。



アレイスター「…………」


だがアレイスターにはそのダンテの仕草が、
獲物を殺そうと舌舐めずりしながら、歯を研いでいるようにも見えてしまった。


哀れな『獲物』を殺そうと、だ。




161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:38:45.59 ID:G8ixZ96o

ダンテ「で?何で天界の口を開く?」

ダンテはリベリオンの刃面をチェックしながら、声だけをアレイスターに飛ばす。


アレイスター「…………人造悪魔兵器と能力者を滅ぼす為だ」


ダンテ「ほぉ」


アレイスター「…………」


ダンテ「で、本当の目的は?」



アレイスター「…………………………………………本当の目的だと?」



ダンテ「知ってんだろ?隠すなよ水臭え」




162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:40:38.61 ID:G8ixZ96o

アレイスター「…………」

フィアンマの本当の目的。

そこを言ってしまえば、アレイスターのプランにも大きく係わってくる。
何せ、アレイスターもフィアンマも最終目的の核は上条当麻。

そして上条当麻はダンテと深く繋がっている。


必然的に、ダンテがアレイスターの真の目的に迫る事になるのだ。


アレイスター「…………」


この時期に、これ以上ダンテが割り込んでくるのは何としてでも避けたい。
この怪物がアレイスターの目的に迫り、そして何かを感付いた時、一体どんな行動をするのか。

完全放置か。

それとも叩き潰しに来るか。

どうなるかはわからない。
予想がつかない。


だが、ただ一つ確かな事がある。


この怪物が本腰を入れて動き出せば、最早アレイスターには到底止められない。


どんなに足掻こうが無駄なのだ。




163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:41:44.58 ID:G8ixZ96o

ダンテ達を利用して上条当麻の『器』の強化を目論んだ際、
この『関係』が及ぼす危険性も考えてはいた。

だがこんな形で迫ってくるとは思ってもいなかったのだ。



まさかバージルに関る形で、とは。



アレイスター「……」


声が出ない。

なんと言えば、核心を誤魔化しつつダンテを納得させられるのか。

どの言葉を使えば、ここを乗り切れるのだろうか。

フィアンマの目的の核心は言いたくない。


だが言わなければ―――。


そう、言わざるを得ない状況に追い込まれている。


アレイスター「…………」


思考だけが虚しく空回りしていく。




164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:44:49.07 ID:G8ixZ96o

ダンテ「…………コレな」

と、その時。

相変わらず刃面をなぞりながら、ダンテは独り言のように呟き始めた。

ダンテ「バージルと魔人化してやり合うとよ、さすがに少し刃毀れすんだ」

ダンテ「ま、少しすれば元通りになるけどな」


ダンテ「だが―――」


そしてダンテは再び大きくリベリオンを振り。

ダンテ「滾っちまった『コイツ』はそうそう大人しくなんねえんだな」


ダンテ「大抵はな、それなりに強え奴を叩き切りゃあ『コイツ』も満足すんだが」


ダンテ「今回はんな『エサ』が無くてよ」


肩に乱暴に乗せ。


ダンテ「そもそも俺が『不完全燃焼』ときたもんだ」


ようやくアレイスターに目を戻した。
仄かに赤く光っている瞳を。


ダンテ「生殺しの寸止めだぜ?ひでぇと思わねえか?男にとっては拷問ものだろ?」


そして再度薄ら笑いを浮かべる。
掴みどころの無い、不気味な笑みを。




165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:46:59.97 ID:G8ixZ96o
ダンテはただ、普通に愚痴を言っているつもりなのか。
それとも何か裏を見て、アレイスターを弄び揺さぶっているのか。

アレイスターは判断がつかなかった。


あの笑み。

今までどおりの笑みだ。


だが、あの『マスク』の下から心中を見透かされているような気もする。


ダンテ「で、お前は『どうする』?」


アレイスター「…………」

そしてそんな困窮しているアレイスターへの更なる追い討ち。
なんでもないような言葉。
だが、その裏に渦巻く得体の知れない『威圧』。



ダンテ「お前も俺を『生殺し』にするつもりか?」



そして。



ダンテ「まあ俺は『どっち』でも『構わねえ』けどよ」



アレイスターは遂に陥落する。



アレイスター「…………………………わかった。全て言う」




166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:49:15.94 ID:G8ixZ96o

ダンテ「ン~ハッハァ、いいねぇ。話のわかる奴は好きだぜ。『平和的解決』が一番だ」

指を弾き鳴らし、そのまま人差し指をアレイスターに向け微笑むダンテ。


アレイスター「……………………フィアンマはな……」


アレイスターはフィアンマについて知っていることを全て吐いた。

あの男が古の人間界の神に転生しようとしていた事。
その為には幻想殺しが必要な事。

天界はそれを承諾しておらず、フィアンマは天界の目を逸らす為に戦争を引き起こそうとしていた事。

天界の軍勢を導き入れ、人造悪魔と戦わせるのがその隠れ蓑である事を。



ダンテ「―――……へえ」


アレイスター「それともう一つ言っておこうか。バージルに関してだが、先程彼は幻想殺しをも殺そうとした」

アレイスター「バージルは影でフィアンマを利用しているようだが、竜王の復活自体はどうでも良いようだ」


先にこれを言っていれば、フィアンマの真の目的を言う必要は無かった、という訳ではない。

フィアンマの真の目的を言った上で、この説明がようやく意味を持つのだ。

先にこれを言っていたとしても『どうして?なぜ?』と問われ、
どの道フィアンマの真の目的を言うハメになっているだろう。




167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:52:50.85 ID:G8ixZ96o

アレイスター「あくまで私が思うにだが、バージル達は天界への口を開く事自体が目的に思える」

アレイスター「いや、ジュベレウス派を首脳もろとも誘き出そうとしているのかもな」

アレイスター「何の為にそんな事をしようとしているのかはわからんがな」

ジュベレウス派を皆殺しにしようとしているのか、それとも直に開いた穴から天界に殴りこもうとしているのか。
ただこんな回りくどいやり方をしている以上、これらが目的の中にあるとしてもそれだけではないのは確かだ。



ダンテ「………………セフィロトの樹って何と何が繋がってんだ?」

と、その時。
ダンテが顎を摩りながら、今度は別の質問を繰り出してきた。


アレイスター「人間と天界の者達だよ」

話が繋がっていないように感じながらもアレイスターは答える。


ダンテ「どんな風に?」


アレイスター「人間を支配し統制するという役割もあるが、最大の目的は人間の魂を搾取することだ」

アレイスター「力を吸い取り、それを天界の様々な強化に使っている訳だ」


アレイスター「例えば、君ら悪魔は魂と器が完全に破壊されたら復活が不可能になるが、」

アレイスター「天界の者達は、人間界からの力の供給を受けて魂も器も修復することができる」

アレイスター「復活のサイクルも早く、その為完全抹殺も難しい」


アレイスター「強大な魔界に立ち向かう為に編み出されたシステムだよ」




168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 23:57:06.78 ID:G8ixZ96o
ダンテ「…………人間を奴隷にしてんのか?」

アレイスター「私から言わせれば『養殖』だな」


ダンテ「…… へぇ……………………そのセフィロトの樹ってよ、お前は『見える』のか?」


アレイスター「……存在をはっきりと知覚して『認識』できるのは天使達だけだ」

またも意図がよくわからない、ダンテの思考がどこに向かおうとしているのか見当もつかない質問。
それにもアレイスターはしっかりと答えるが。

アレイスター「人間も悪魔も、セフィロトの樹が起こす現象は認識でき存在を知る事はできるものの、『直接』見ることはできない」

ダンテ「どうすれば『見える』?」

アレイスター「…………『見える』ようにする方法は、少なくとも私は知らない。『見えていた』であろう人物は知っているが」

ダンテ「誰だ?」


アレイスター「『右方のフィアンマ』と…………『竜王の顎』が覚醒した状態の『上条当麻』」


ダンテ「ほぉ……」

アレイスター「それとこれは推測なのだが……」



アレイスター「イギリス清教に所属していた『天使』も知覚できていたかもしれない」



アレイスター「あくまで推測だ。見えていなくとも、知覚できる土台はあったはずだ。本物の『天使』だからな」


ダンテ「……あのサムライガールか?」


アレイスター「そうだ」




169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:00:52.20 ID:B6X/zMAo
ダンテ「へぇ……あのお嬢ちゃんは今どこにいるか知ってるか?」


アレイスター「死んだよ。ヴァチカンで魔女に襲撃されてな」


ダンテ「魔女……ねぇ」


ダンテ「『死に様』はどうだ?『どうやって』死んだ?」


アレイスター「……そこまではわからんな。ステイルに聞くがいい。彼は直に見たからな」


ダンテ「Humm.....OK」



アレイスター「……」

ここまでくれば、ダンテが何に興味を示しているのかは薄々気付く。
このダンテの一連の質問で、アレイスターもそのとある『部分』に気付いたのだ。


アレイスター「…………魔女がヴァチカンを襲撃したのは……」


ヴァチカンの件、もしかしたらあれは戦争を誘発させる為だけではなく。


アレイスター「彼女も目的の一つだったと君は考えているのか?」


セフィロトの樹を知覚できる、もしくはそれの『土台』がある神裂火織をも狙っていたのだろうか と。




170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:03:40.48 ID:B6X/zMAo

それに対し、ダンテは無言のまま小さく肩を竦めた。
『わからん』と意思表示しているのか、それとも適当に誤魔化しているのか。

アレイスターは見定めることができなかった。


ダンテ「あ~、もうちょっと聞きてえ。その右方とイマジンブレイカー、あのお嬢ちゃんはセフィロトの樹と『繋がって』いるのか?」


アレイスター「右方とイマジンブレイカーは繋がってはいないが、彼女は繋がっていたよ」


ダンテ「……『天使』として、か?」


アレイスター「そうだ。死ぬ間際の彼女は『天使』だった。人間ではなく、天使として繋がっていた」


アレイスター「つまり、『上』の『力を吸い取る側』だ。セフィロトの樹に『干渉できる』立場だよ」


アレイスター「ただ所属は『十字教』であり、権限はそれほどでもないがな」


アレイスター「人間の生死すらをも操れるのは、ジュベレウス派のトップ集団のみの権限だ」


ダンテ「『生死』、ねぇ…………」




171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:05:27.05 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

ダンテの『思考』は巡っていく。
いや、『悪魔の勘』と言うべきか。


普通の者からすれば、それはそれは奇妙な思考回路だろう。

様々な事柄を並べては、『悪魔の勘』に嗅ぎ分けさせ選別していくのだ。

特に理由が無くとも、『なんか違う気がする』と思ったらそれは却下。
『これじゃねえの』と思ったらそれを持ち上げて更に調べていく。


ダンテの行動を最終的に決定するのは、この『なんとなく』の『気まぐれ』なのだ。

もしアレイスターが、このダンテの脳内を見ることができたら驚愕してしまうだろう。

そんなに簡単に、そんなテキトーに重要事項を決めていくのかと。

究極の馬鹿なのか常軌を逸した天才なのか、
それともその両方か、その両方でもない別の何かなのか。


だがダンテは今までもこうしてきた。
そして、少なくとも結果は全て成功してきたのだ。
ここにダンテは絶対的な自信を持っている。

いや、『自信』としてではなく、『当たり前の何でもない事』と彼は認識している。


頭ではなく魂で動く。


脳ではなくハートで動く。


驕りも躊躇いも無い。
ただ素直に気の向くままに。

それがダンテのやり方だ。




172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:06:58.21 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

バージル達は『セフィロトの樹』を知覚できる素材を求めている?
『セフィロトの樹』に干渉できる素材を求めている?


アレイスターならば、ここで『いや、ならば神裂でなくとも別の天使を狙えばいいだけだ』 としてこの論は却下してしまうだろうが。


ダンテ「(匂うな)」

ダンテの『気まぐれ』は、そんな論を越えた『何か』を捉えた。


ダンテ「(バージル……魔女……バージル……魔女…………閻魔刀……閻魔刀……閻魔刀……か?)」


そこで更にダンテの『気まぐれ』が反応する。


『閻魔刀』。


あの魔剣が神裂の件に何か関係しているような『気がする』。

そう、『そんな気がした』だけなのだが。


ダンテ「(Ha-ha,BINGO)」


ダンテが動くにはその『なんとなく』だけで充分だ。
彼は確信する。


神裂と閻魔刀は必ず何らかの関係があると。




173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:09:07.58 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

バージル達は魔界の口を開かせようとしている。
バージル達は天界の口を開かせようとしている。

ここまでは確実だ。


バージル達は、セフィロトの樹を知覚し干渉しうる『土台』がある神裂を狙った。
目的は閻魔刀と関係している何か。

アレイスターは神裂は死んだと言ったが、ダンテの勘はその真逆を示していた。
その勘はステイルの証言を聞けば確たるものとなるだろう。



大方、どデカイ『魔』が宿った剣かなんかに『魂』を突きたてられて――――――といったところなはずだ。



この件もほぼ確実だ。

『気まぐれ』がそう告げている。




では、なぜ魔界の口を開かせようとしているか?

では、なぜ天界の口を開かせようとしているか?




174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:12:07.93 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

『天界の口を開けて軍勢を降臨させる』

『魔女はその連中をぶち殺したい』

これは当たっているだろうが間違いでもあるだろう。


ダンテ「…………」

『それだけ』ではないのは確実。

先程話に出た『四元徳』。

特に詳しくは無いが、つい最近魔女に完膚無きにまで叩きのめされて、
煉獄に落とされたのは風の噂で聞いた事がある。

だがアレイスターの口ぶりを聞く限り、その連中はもう既に復活しているようだった。
これも説明があったとおり、セフィロトの樹からの力の供給作用か。

魔女は四元徳を筆頭としたジュベレウス派首脳部をぶち殺したい。
だが、いくら叩きのめしてもセフィロトの樹で素早く復活。

つまり。


ジュベレウス派を再起不能に追い込むには、『人間界』の破壊、

もしくは『人類の根絶』、


それか―――


ダンテ「…………ハーハァ」


―――『セフィロトの樹』の完全破壊が必要だ。




175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:16:37.92 ID:B6X/zMAo
バージルは『義務』と言っていた。

スパーダの一族としてその言葉を口にするのならば、人間にとっての不利益はまずない。
(小規模の不利益はあるだろうが、それも更に大きな利益の為だ)

つまり、人間界の破壊でも人類の根絶でもなく。

狙いの一つは『セフィロトの樹』の完全破壊。

そしてこれも別の大きな『何か』をする為の一つの『手順』。




その『何か』は―――。




『そこ』に到達した瞬間。

ダンテはバージル達の目的の全貌をようやく捉えることができた。


間の思考や行程を飛ばし、その一応の答えまで一気に飛んだのだ。
人間には到底できないやり方だ。


魔界の口。

天界の口。

神裂と閻魔刀。


まだ足りないピースはそれなりの数あるだろうが、
ダンテの中でそれらの因子が猛烈な速度でどんどん組みあがっていき。


ダンテ「ハッハー」

彼は、遥か先に先行していたバージルの背中をようやく捉えた。

まだその距離は遠い。

だが、見えるのならば必ず―――。


――― いつか必ず追いつける。




176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:18:00.60 ID:B6X/zMAo
ダンテ「OK」

ダンテはリベリオンを背中に差し戻し、軽く微笑んだ。
相変わらずの掴みどころの無い不敵な笑みだが。


ダンテ「聞きてえことは全部聞いた」


アレイスター「……………………そうか。それは良かった」

アレイスターからすれば、この纏まりの無い一連の質問で
彼が何を見出したのかなどまったくわからなかったが。


ダンテ「あ~そうだ、わかってると思うが、ネロもそのアリウスって野郎の件で動くぜ」


アレイスター「……だろうね。だが期待はしとらんよ。君達の事を想定すると、どうしても計画が纏まらなくなるからな」

アレイスター「君等の『気まぐれ』までは計算できんよ」



ダンテ「計算できねえから『気まぐれ』なのさ」



ダンテ「ま、向こうでネロやフォルトゥナ騎士団と鉢合わせすっかもしれねえからよ、それだけは用心しときな」


ダンテ「殺りあっちまったら『無駄』だろ?」


アレイスター「………… うむ」




177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:20:40.77 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………で、お前はアリウスを何としてでも邪魔するか、殺したいんだな?」

アレイスター「そうだ」

ダンテ「…………(少し面倒だな……)」

ネロはアリウスを殺そうとしている。
キリエの術が解けるまでは手を出せないが、それが解けた途端ネロは即座に殺しに行くだろう。

アレイスターはそんな事関係無しにアリウスに危害を加えようとしている。
キリエの術が解ける前に、能力者の部隊がアリウスに届けばどうなるか?

万が一にでもアリウスが死んだら?
キリエと共に。



その危険性に気付いた時、ネロはどうする?



とりあえず、キリエの件はアレイスターに知られてはならない。

キリエを殺せばアリウスにも大きなダメージを与えられるとなれば。

ダンテが見るところ、アレイスターはもう後の事を考えてないようにも思える。
人間は腹を括ったら、どれ程の困難でも立ち向かう事をダンテはよく知っている。

キリエの事を知ったアレイスターは、指を咥えて見ているだけでは留まらないだろう。
必ず行動を起こす。


ダンテ「…………」

ダンテは心の中で溜息交じりで呟く。


こいつはマジで厄介な事になってきやがった と。




178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:22:42.86 ID:B6X/zMAo

それとは別に、あの『バージル親子』の問題もある。


このままでは、ネロとバージルが対立しうる可能性がかなり『高い』。


アリウスは魔界の口と共に、フィアンマの代わりに天界の口も開けようとしている。
それが完了するまでは、バージル達はアリウスを守ろうとするだろう。


逆に、ネロは魔界の口が開くのをなんとしてでも避けようとしている。


ダンテ「……」


ダンテも人の事は言えないが、あの親子は二人共とことん頑固だ。

そして自分の『仕事』には何人も立ち入らせようとはしない。


説明も何も無しで、いきなり親子で刃を交え殺し合いをする可能性だってある。


ダンテ「…………………………………………面倒臭ぇ…………」


いやはやどうにもこうにも。


どいつもこいつも。


本当に面倒臭い事態だ。




179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:25:12.07 ID:B6X/zMAo
幸か不幸か、ダンテは今その輪の中から一歩外にいる。

ダンテのような、全体を把握できている第三者がいることは『幸運』だろう。

血を減らす為の『調整役』として立ち回れる事ができる。


ダンテにとっては『不運』だが。

彼にとってはこんな面倒な調整役なんざクソ喰らえだ。


ダンテ「………………マジでツイてねえな」


今更己の置かれている立ち位置に気付いても手遅れだ。
そして投げ出す訳にもいかない。



アレイスター「…………どうかしたのかな?」


そんな頭を掻き毟っているダンテに対し、アレイスターが口を開いた。


そしてダンテは言葉を返す。



ダンテ「いんやあ、何かお前の気持ちもわかった気がしたぜ」



アレイスター「………………?」


ダンテ「気にすんな。なんでもねえ」




180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:27:45.05 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………あ~、そうだ」


アレイスター「……まだ何かあるのか?」



ダンテ「ピザとワイン届けてくんねえか?銘柄は何でも良い」



アレイスター「………………………………………………構わんよ」


ダンテ「ハッハァー!!!助かんぜ!!!トリッシュの部屋に届けてくれ!!!!」

ダンテ「じゃあな!邪魔したな!!」

そう言い残し、ダンテはひらりと踵を返すと真上へと跳躍していき、
薄闇の中へと消えていった。

アレイスター「…………」


どうやらダンテ、今回は天井に穴を開けていたようだ。



アレイスター「……………………やはり出入り口を作るべきだったか……」



―――


勃発・瓦解編      おわり




181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:28:18.48 ID:B6X/zMAo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。




182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 00:37:34.09 ID:/7EPHO2P
乙!

アレイスターさんカワイソス




185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 01:12:54.97 ID:uJNFEy6o
アレイスター、生き残れてよかったなww



188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/20(金) 02:10:15.14 ID:LtYnquU0
ダンテが現象把握と調整に廻るとは意外ww

(´ω`)ゝそして今夜も乙っした!




191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/20(金) 18:33:30.28 ID:pEy2ZIDO
そういや この世界で21巻に出てきたガブリエルって 強さ的にはどれくらいのポジションなんだ?
地球と月と太陽の位置関係すら手中に収めるってかなりすごい方だよな?
そもそも ガブリエルとかミカエルとかって天使の中でどれぐらいの強さなんだ?
WIKI見てもよく分からんかったから誰か教えて




200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 22:35:31.64 ID:B6X/zMAo
かなり長文ですが失礼します。

>>191
当 SS内ではどうかというと、

ガブリエル達は第一位階『熾天使』と同等以上としております。
力の大きさでの『天使クラス』という区分としてでは、ガブリエル達が最強クラスとなります。
(『熾天使』より上は『神クラス』に区分してますので)

ただSS内で言ったとおり、他の『熾天使』達と絶対的な差がある訳ではなく、
一対一ならば余裕で勝てますが数の暴力でこられるとヤバイ、といったレベルです。


『かなり』大まかですが、具体的にガブリエル達がこのSS内でどのへんのランクかと言うと


魔人化したバージルとある程度打ち合えるトリッシュには到底敵わず、
(ファントム等の魔帝軍の幹部・ヘカトンケイル等の魔界の諸王クラス)

魔人化無しダンテに完封されるベリアルとなら互角に戦える といった感じです。
(エキドナ等の魔界の領主クラス)

決して最強クラスではありませんが、かなり強い部類です。


これまた大まかですが、当SSにおける天界内の力の順位は

四元徳>>>>>『十字教の神』等の様々な派閥の最高指導者>>>>ガブリエルら四体≧上級三隊の『熾天使』>上級三隊の『智天使』.......

としております。


ちなみに四元徳さん達は一応『天使』と呼ばれてはいますが、
『主神ジュベレウスに仕える者』という意味合いの『名ばかり天使』であり、
ジュベレウス亡き今は実質『天界の最上神』です。

ジュベレウスを頂点としたヒエラルキー内の『役職・位』として『天使』と冠していただけであり、格は余裕で『神』です。


これは余談ですが、ガブリエル達ら四体を第八位階『大天使』クラスに設定する案もありました。
しかしそうすると、とてつもないインフレを起こしてしまうので却下しました。

今以上の凄まじ過ぎるインフレです。

ベヨネッタ内での第八位階は雑魚中の雑魚ですので。




203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/21(土) 01:08:16.14 ID:uJ1Y/8co
俺の中でバージルたちの化け物っぷりが際立った



226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:26:23.82 ID:LRi8jbso

準備と休息編

―――

デュマーリ島。

この名は、新大陸の外れにあるとある二つ島の事を指す。

南北20km東西15kmの北島『デュマーリ=セプテントリオ』。

その南東、幅4kmの海峡を挟んで寄り添っている南島『デュマーリ=メリディエス』。
南北40km、東西17km。


この南島が、近世になってデュマーリ島の名を世界に知らしめる引き金となった。

40年前、この二つの島の権利を手に入れたウロボロス社が、
南島の地下に莫大な規模のレアメタル鉱脈を発見。

今のような精密電子機器が一般に行き渡っていない当時から、
ウロボロス社は先を見てこの島の開発に専念する。


その結果、 2000年以上もほとんど変化が無かったこの島の風景画一変する。

以前のデュマーリ島の面影を残すのは、
南島の南端にある寂れた廃村周辺のみ。


北島には高層ビルが連なる近代都市が広がり。
更にその下には、地上の規模を遥かに凌ぐ研究・開発の為の地下都市。

そして南島には、採掘施設と直結する形でその上に工場施設が立ち並ぶ。


島の人口は50万人。
その98%は北島に集中している。
ウロボロス社社員、技術者、工員、そしてその家族等だ。




227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:30:49.55 ID:LRi8jbso
ウロボロス社の本社は別にあるが、
この島が実質的な心臓部と言っても過言ではない。


世界的軍事大企業ウロボロス社。


その心臓部であるデュマーリ島の名が知れ渡るのも当然。

だが、この島の実像は全くといって言い程に知られていない。

学園都市にも引けを取らない、厳重な情報・渡航規制が敷かれているのだ。
いや、学園都市よりも厳重だ。


地理的観点から見ると、この島は隣接する某超大国の領土ではあるが、
ここも学園都市と同じく完全自治権を有する『独立国家』だ。

周囲の海域には重武装の警戒艇やヘリが行きかい、
海底には最新の聴音・ソナー網が隙間無く張り巡らされ、
島の周囲にはあらゆるセンサーが取り付けられている物々しい堤防が連なっている。

防空網も強固であり、最新のレーダーや衛星とリンクした監視網、
高出力マイクロ波攻撃を行える無人機から、様々な迎撃用レーザー兵器等々、
正に難攻不落の要塞島である。


この内側で、ウロボロス社は人知れず様々な研究開発を行っているのである。
それも最先端技術を出し渋る学園都市とは違い、実際に大量生産し輸出される為のモノを だ。


『技術のデモンストレーション』ではなく、実際に戦場で使われる為の兵器を だ。




228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:32:48.18 ID:LRi8jbso

これ程の厳重さ。
一見すると度を越していると感じるかもしれない。

だが決して過剰ではない。

実際にこの島を標的にしたテロが後を絶たないのだ。

以前には、小型の核兵器が持ちこまれそうになった事件なんかもある。
当然全て未然に防がれたのだが。


こういう背景もあり、『まああの島ならばそれも仕方無いだろう』 というのが世間の認識である。

危険な火種となりうる施設を一箇所に集める事が、
テロに巻き込まれる一般被害を未然に防ぐ形にもなっている、と一部からは賞賛もされている。


禍の種である闇を一箇所に集めている と。


だが外の人々はデュマーリ島の真の姿を知らない。
いや、この島に住んでいる者達のほとんども知らない。


この島の深淵にある『本物の闇』の事は。




229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:35:37.46 ID:LRi8jbso

ウロボロス社、その創始者でありCEOであるアリウスがなぜこの島に目をつけたのか。
それはレアメタルの大鉱脈なんかでは無い。

そんな『小さなモノ』の為ではない。


ここに彼が真に求めるモノの『手がかり』があったからだ。


魔界魔術を極め、そして強大な力に魅了されたアリウスが望むモノへの。



デュマーリ島。

そこはスパーダと覇王の最後の戦いの場。

この地で覇王は敗れ、そして『虚無の底』に封印された。



その際に作られたのが『アルカナ』と呼ばれる『鍵』であり、
長きに渡って南島の地下深くに隠されていた。

つまり、このレアメタルの鉱脈そのものが隠れ蓑でもあったのだ。


この『鍵』を掘り出す為の。




230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:38:00.07 ID:LRi8jbso

開発が進む中、アリウスは裏でアルカナの発掘作業を進めた。

それと同時にデュマーリ島の闇の底では、様々な悪魔関連の実験が繰り返される事になる。
実験体となる悪魔はもちろん、島内には『人間』も腐る程いる。

それらを使った、非人道的実験も数え切れないほど行われてきた。
住民の失踪に関しては、洗脳魔術でもかけておけば何も問題は無い。

つまり背景や取り扱っている力は違うものの、
裏でやっている事は学園都市もウロボロス社も似ているのだ。

それどころか学園都市における御坂のような、闇に抵抗する者すら出てこない以上、
ウロボロス社の方がかなり徹底していたと言えるだろう。


これはトップの性格の違いでもあるだろうが。

一方のアレイスターは『偶然』を誘発させ、それらの因子を利用してプランを急速に進めていく。
強い刺激を与えて育てていくといった、ギャンブル性の強いやり方だ。


かたやもう一方のアリウスは当初の計画通り慎重に、
段階を確実に踏んでいきながら手堅く進んでいくやり方だ。

だが、慎重だからといって臆病という訳では無い。

計画通りに少しずつ進めるのだが、その計画内容は大胆極まりないのだ。




231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:39:30.13 ID:LRi8jbso
そんな『計画通り』を第一にしているアリウス。
彼は今、その貫いてきた理念を曲げざるを得ないのを感じていた。


北島『デュマーリ=セプテントリオ』を覆う大都市。
その中でも一際高く聳え立っている、地上580mにも達するビル。

そこの最上階のホールにアリウスはいた。

上質な椅子に深く腰かけ、葉巻を燻らせ、左手には水晶型の通信霊装を持ちながら。
彼の横には奇妙な古めかしい杖が宙に浮いていた。

『アルカナ』だ。


アリウス「…………」

覇王の封印を解く為の『鍵』は全て揃った。

あとは自分と融合できるよう少し調整するだけであり、
アリウスの『方』では三日もあれば準備が整う。


アリウスの『方』は だ。

今の問題は別の『方』。
彼を不機嫌にさせているのもそれだ。


フィアンマの『方』だ。




232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:40:23.65 ID:LRi8jbso

アリウス「…………ふん…………それでだ…………」


アリウスは苛立ちを隠さぬままを開く。


アリウス「―――随分と無様な結果だな。小僧」


通信霊装の向こうの―――。






フィアンマ『―――そう言わないでくれ』





―――学園都市にいる共謀者に対し。





フィアンマ『俺様とて好き好んで「ここ」にいる訳じゃあない』




233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:44:40.11 ID:LRi8jbso

アリウス「ハッ。そのザマになったのも自惚れるからだ」

フィアンマ『それは否定しないが、お前もわかるだろう?不測な事態が立て続けに起こったんだ』

アリウス「それは単にお前の判断ミスが積み重なっただけだ。己の経験不足を呪うんだな」

アリウス「悪魔と戦うのは初めてだったのだろう?言った筈だ」


アリウス「お前のそのチャチな『幸運』とやらは『魔』に通じんとな」


フィアンマ『はは、随分と言ってくれるな……』

アリウス「……それで用件は?」


フィアンマ『……俺様はこの通り、「肉体が無い」んでな。お前に天界の口も開けてもらいたい』


アリウス「……それはお前に言われなくともやる」

アリウス「『戦争』は必要だからな」


フィアンマ『天界の「鍵」は一週間もあれば複製できるだろう?どうせお前の事だ。影で情報を抜いていただろう?』


アリウス「お前があえて俺に流したのだろう?気付かないとでも思ったか」


フィアンマ『ははは、そうだろうな』


アリウス「生意気な口を叩くな小僧。俺はここでお前を切っても良いのだぞ?」


フィアンマ「……だろうな。だが俺様を切ったら『創造』は手に入らない。違うか?」

フィアンマ「『創造』の力が無いと『完全体』にはなれんと思うが?」




234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:46:30.66 ID:LRi8jbso
アリウス「…………」

ピクリと眉を動かすアリウス。

そう、『創造』が無いとアリウスが望む『全能』にはなれない。

覇王と、封印の底にあるスパーダの力。
それだけでもかなりの存在にはなれる。

だが、それだけじゃあダメだ。


覇王とスパーダ。

その強大な礎の上で創造の力を行使し、そして己を新たな唯一無比の存在へと創り変える。
スパーダの一族やジュベレウスすら敵ではない、想像を絶する力を持った『人間』へと。


『人間』として、だ。


勘違いされがちだが、彼は強大な力に魅了されているだけであり、
決して『悪魔になろう』としている訳では無い。

逆に人間としての誇りを持っている。
それは一般からすればかなり歪んでいるようにも見えるが。

いや、その誇りが強すぎるのだ。

アレイスターにかつて放った、『最期に勝つのは人間だ』という言葉は嘘ではない。
悪魔も天使も何もかもを越えた、頂点に君臨する『全能の人間』となるのが彼の野望だ。


そして『創造』が無いとその境地にはたどり着けない。


覇王とスパーダを手に入れただけでは、
悪魔に転生したままで終わる。


これでは意味がないのだ。




235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:49:50.34 ID:LRi8jbso
魔帝の死で一時は諦めかけた夢。

アリウス「……」

これも人間の性か、彼は二度目の諦めはどうしてもできなかった。
この恵みともいえるチャンスを逃す『勇気』は無かった。


その『高み』を見定めてしまった以上、今更妥協などできない。

もう覇王とスパーダだけでは納得できない。


アリウス「……いいだろう」


フィアンマ『はは、良かったよ。さすがに拒否されたら俺様もどうしようもないからな』


アリウス「…………それでだ。当然、お前は『戻る方法』は既に見つけているんだろうな?」


フィアンマ『心配しなくても良い』


フィアンマ『俺様はただ時期を待つだけで良い』




フィアンマ『アレイスターが全てやってくれる―――』




フィアンマ『―――何も知らずにあの男は俺を「復活」させてしまうのさ』




236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:54:05.85 ID:LRi8jbso
フィアンマ『器に使うであろう能力者のガキもな、ちょうど俺様の目の前で進化した』

フィアンマ『殺さなくてよかったよ全く』


フィアンマ『アレイスター風に言えば「ホルス」の世代の「種」か』


アリウス「そのガキは『界』を超えたのか?」


フィアンマ『腕だけな。まあ、一旦変化が始まったらすぐだ』


フィアンマ『で、俺様の「復活」もすぐ、と』


アリウス「ふん」


フィアンマ『この点ではアレイスターに感謝すべきだな』

フィアンマ『「手」の「結合」の手間も大きく省けるしな』


アリウス「それにしてもだ。お前は良くそんな所に潜り込んだな。中々やるな。まるでゴキブリだ」


フィアンマ『……賞賛の意もあるのだろうが、全く嬉しくないなその言葉は』


フィアンマ『まあ、アレイスターがこの「手」の事を詳しく知らなかったのも幸いだ』

フィアンマ『右方の前任者がこの「力」を使わなかった事にも感謝しなければな』




237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 16:56:11.08 ID:LRi8jbso
アリウス「お前もその力を使うのは初めてだったのだろう?」

フィアンマ『そうだ。一か八かで使ってしまったよ。恐らく本当に使った右方は俺様が初だろうな』

アリウス「それにしても厄介な技だ」


フィアンマ『だがまあ、今の学園都市でなくては意味を成さないからな。この状況があってこその結果だ』


アリウス「ハッ」


フィアンマ『そうだ。そいういえばな、面白い話を聞いた』

アリウス「なんだ?」


フィアンマ『アレイスター、どうやらお前が天界の口を開けるのを察知しててな』

フィアンマ『お前のところに能力者の部隊を送る気だ』


アリウス「ほぉ……」




238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 17:00:37.55 ID:LRi8jbso
フィアンマ『油断はしない方がいい。お前にとってはゴミ同然だろうが、一人注意するべき人物がいる』

フィアンマ『覚醒してるアラストルを所持した女だ。バージルともある程度やり合ったようだ』

フィアンマ『そこにフォルトゥナ騎士団やスパーダの孫の行動が重なれば、色々と面倒な事になるだろうな』

フィアンマ『ダンテもどう動くかはわからん』

フィアンマ『しっかり頼むよ?お前が潰されたら俺様も終わりだからな』


アリウス「ふん……」


フィアンマ『それと「エサ」がこっちにいるのだが。マーキングは完了してるのか?』

アリウス「まあな。ちょっとした『オマケ』も一緒だ。アレでスパーダの孫は一週間は俺に手を出せんだろうよ」

フィアンマ『はは、「あれ」か……お前も随分とセコイ手を使うな』


アリウス「貴様に言われたくは無いな」


フィアンマ『ま、お互い様だ。人間らしく存分に足掻こうじゃないか』


アリウス「ハッ…………それでだ……『連中』はどうなんだ?」



フィアンマ『…………バージルと魔女……か』




239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 17:03:31.99 ID:LRi8jbso

アリウス「なぜバージルがそこにいた?奴は何を企んでいる?」


フィアンマ『知っていたらこんな苦労はしない』


アリウス「……」


フィアンマ『今更情報収集に専念する事はできない』

フィアンマ『あんな連中の事を懸念していたら一歩も進めなくなるだろう?』

フィアンマ『とにかく、今は出来るだけ事を速く進めるべきだ』


フィアンマ『幕は上がったのだからな。歩みを緩める訳にはいかない』


アリウス「……」


フィアンマ『お前はさっさと口を開けて、覇王とスパーダ、ついでにスパーダの孫の力も手に入れろ』

フィアンマ『そうすれば連中にも正面から対抗できる』


アリウス「黙れ小僧。貴様に指図されずともやるわ」


フィアンマ『はは、それはそれは頼もしい』


―――




246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:24:53.20 ID:LRi8jbso
―――

とある病棟の一階。

複数の長椅子と薄型テレビが設置されている大きなフロア。
つけっ放しのテレビから響く、緊急放送の機械的な声。


その大きなフロアの片隅で、とある二人の少女が向かい合って硬直していた。
お互いの距離は5m。


一方は瞳を見開き、瞬きもせずに無表情の赤毛の幼い少女。

警戒心の篭められた鋭い眼差しのルシア。
警察犬が吠えも唸りもせずに、耳を立ててジッと見据えているように。



もう一方はその強烈な目に囚われて、
金縛りにあったかのように固まっている佐天。


佐天「………………ッ…………!!!」

全身から冷や汗を噴き出し、一歩も動けない。


どうしてこうなったのか。




247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:29:25.06 ID:LRi8jbso
自動販売機で苦戦しているルシアを助けようと、親切心から彼女に近付いていった佐天。
当然、ルシアは未確認人物の急な接近に反応する。

佐天が彼女まであと5mというところまで来た時。

ルシアは突如振り返り、佐天をその強烈な視線で押し留めたのだ。

まだ人間との交流経験が少ないルシアは、
佐天は何が目的で近付いてきたのかがよくわからないのだ。


そこに警戒心が生まれるのもまた当然。

確かに相手はどっからどう見ても、『匂い』もただの人間であり、
ルシアやトリッシュといるキリエにどうこうできるとは思えない。

だがルシアは決して油断はしない。


一方の佐天は。


佐天「…………………… (ちょ、ちょっと…………これ……)」


久しぶりのこの『悪寒』。
デパートでの悪夢が脳裏を過ぎる。

この体の芯が急激に凍り付いていくような、
それでいてジリジリと焼き焦がされていく感覚。

佐天はその前回の経験から本能的に感じ取る。

この子は人間じゃない、と。




248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:31:09.24 ID:LRi8jbso
と、感じてはいたが。

佐天の心はあまり焦燥してはいなかった。

佐天「…………」

というのも何となくだが、あの瞳がネロに似ているような気がしたのだ。
全体の雰囲気もだ。

というか服装の系統もどことなく似ているような。

かなり一方的なのだが、佐天はこの目の前の赤毛の少女に対し、
勝手に親近感を持ってしまっていたのだ。

そして幸いな事に。


ルシアの側でも、似たような事が起きていた。


ルシア「……」

彼女はふと佐天の髪飾りに気付いた。
極僅かにだが、ネロの匂いがする髪飾りに。

そしてこう判断していく。

『この女はネロと何らかの面識があるかもしれない』

『人間の子供であるから、敵対関係とは考えにくい』

『こちらを欺こうと、何らかの術式で姿を変えている痕跡もない』、と。




249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:32:55.72 ID:LRi8jbso

警戒心を解いていったルシアの眼差しから威圧が消えていく。

と同時に、今度は佐天の事など一切気にする風なく、
ルシアは再び自販機の方へと目を戻した。

そしてまた同じく、自動販売機を軽く叩いては首を傾げて、と。


佐天「………………………………え、えーっと…………」


強烈な威圧から解放された佐天がようやく口を開き、そして一歩前に進む。

と同時にルシアはまたまた佐天のほうへと振り向く。
今度は威圧的な無表情ではなく、どことなくキョトンとした顔で。
何か用ですか?とでも言いたげにだ。


佐天「……ハ、ハロー……アーっと…………ジャパニーズ……アンダスタンド?」



ルシア「あ……に、日本語わかります」


佐天のたどたどしい英語に対し、
少し戸惑いつつも流暢な日本語で言葉を返すルシア。




250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:36:16.27 ID:LRi8jbso

佐天「あ、そ、そう!!えーっと…………飲み物買いたいのかな?」

お互いの距離は開いたままで、少しよそよそしい会話が続く。


ルシア「……はい」


佐天「…………買い方、わからないのかな?」


ルシア「はい」


佐天「じゃあ……お姉さんが教えてあげよっか?」


ルシア「…………………………………………」

その佐天の言葉を聞き、自販機と佐天の顔を交互に見るルシア。

そして視線を4往復させた後。


ルシア「……お願いします」

ペコリと頭を下げるルシア。


佐天「よっしきたぁ!!!!!!」

佐天はあっけらかんとした笑みを浮かべ駆け寄り、
ようやくその中途半端だった距離を詰めた。




251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:38:10.06 ID:LRi8jbso

佐天「じゃぁ……それ貸して!」

佐天に促され、ルシアは右手に持っていた硬貨を佐天に手渡し。

佐天「一番最初にね、お金はここに入れるの」

佐天はその硬貨を専用の口へと入れた。

次の瞬間自販機のボタンのランプが付き、
それを見たルシアは驚いたのか、僅かに体を小さく揺らした。

佐天「よしっと、これで欲しいとこのボタンを押せば買えるよ」

少し誇らしげに笑いながら、傍らの赤毛の少女の顔を見る佐天。


ルシア「……水は……どれですか?」

佐天「えっと水?水ならここはタダで貰えると思うけど……」


ルシア「…………ではワインはありますか?」


佐天「ワ……さ、さすがにそれは無いなあ」


ルシア「……では……お茶はありますか?」




252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:43:11.91 ID:LRi8jbso

佐天「お茶……」

自販機に目を戻す佐天。

お茶、と言っても色々な種類がある。

パパイヤ風味、焼肉風味等々。

学園都市住みの佐天にとっては普通なのだが、
学園都市の外ではこれらがかなりのキワモノとして扱われてる位は知っている。


佐天「(……無難なのでいった方がイイよねやっぱり)」

ここは普通のを選んだ方が良いのは当然。


佐天「OKOK、お茶ね♪」


普通の冷たい緑茶のボタンを押す佐天。


ガタンと取り出し口にペットボトルが落ちる音。
そこでまたルシアはビクッと体を小さく揺らし怪訝な表情を浮かべた。




253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:45:32.74 ID:LRi8jbso

そんな彼女が見守る中、佐天はペットボトルを取り出し。

佐天「はいどうぞ♪」

にっこり微笑みながらルシアに手渡した。


ルシア「…………?????????」

ルシアはそのペットボトルを両手で恐る恐る受け取ると、
角度を変えながらまじまじと観察し始めた。

『お茶』と言えば、『カップに入ってる暖かい紅茶』というのがルシアの中での小さな常識。

だが今手の中にあるのは、母マティエがいつも作ってくれた『お茶』とは似ても似つかない。

『妙な容器に入っている冷たい液体』だ。
どこからどうやって飲むのかもわからない。

香りもしてこない。

というかこの容器のままで出てくるとは思ってもいなかったのだ。

あのディスプレイのところに置いてあるのはタンクか何かで、
そこからカップに注がれるとルシアは思っていたのだ。




254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:49:31.53 ID:LRi8jbso
佐天「……(ペットボトルも……知らないのかな?)」

そのルシアの仕草を見て、佐天も何となく彼女の困惑に気付いた。
さながら、時代を飛び越えてきた100年前の女の子、といった感じだろうか。

佐天「っとね、そこの先っちょの部分をこう、クイッと軽く回せば蓋が開くよ」

ジェスチャーを交えて、ルシアに優しく促す佐天。

ルシア「?」

佐天の仕草を真似て、ペットボトルの蓋の部分を握るルシア。

佐天「クイッと、ほら、こうクイッと」

ルシア「…………くいっ……と?」

メキンと『バリ』が裂ける音がし、蓋が一回転。
そこでまたルシアが驚き手を止める。

容器を壊してしまったとでも思ったのだろう。

佐天「ううん、そのままでいいんだよ。そのままクルクルッてまわして」

ルシア「…………?」

佐天に促されるまま、恐る恐る蓋を回し。

佐天「ほ~ら!そこから飲めるよ!」


ルシア「!!」

ようやくルシアはお茶にありつく事ができた。
『冷たい奇妙なお茶』だが。




255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:51:20.80 ID:LRi8jbso
ペットボトルを両手で握り締めたたまま、
その場で口をつけゆっくりと一口飲むルシア。

佐天「……どう?おいしい?」

その佐天の言葉に、ルシアは嬉しそうに微笑み返し小さく頷いた。

佐天「よしよし!よくできました!!」



ルシアの笑みは、ただ飲み物を手に入れたという事だけに対してでは無い。

本当の意味で『生』を知って未だ数週間。
こうした小さくささやかな出来事も、ルシアにとっては大きな大きな宝物なのだ。

人間との関わりが何よりも嬉しい。
人間の優しさと温もりが何よりも彼女の心を充実させていく。


この世界と人類へ向けた少女の淡い『初恋』。


人造悪魔という忌まわしき存在である以上、どんなに近付いてもその恋は決して実らないだろう。
少なくとも彼女自身は幼いながらもそう思っている。


だが彼女は幸せだった。


こういう、小さな小さな人間世界との繋がり。
それが何よりもルシアにとってはかけがえの無いものだった。




256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:53:34.69 ID:LRi8jbso

佐天「♪」

この出来事がルシアにとってどれ程のモノかは露とも知らずに、
佐天は赤毛の少女を穏やかな目で眺めていた。


とその時。


ルシア「―――」

突如目を見開き、ピタリと硬直するルシア。


佐天「?」


ルシア「(帰ってきた!)」

ダンテが帰ってきたのを感じたのだ。


ルシア「あ、あの!!!ありがとう御座いました!!!」

今度はハッとしたかのように、慌てて佐天に頭を下げるルシア。


佐天「え?あ、いーってことよ!!あははははあは!!!」




257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/22(日) 23:54:45.17 ID:LRi8jbso
ルシア「で、では……あ、あの失礼します!」

再度ぺこりと頭を下げ、ルシアは踵を返してパタパタとフロアの出口へと向かう。

佐天「―――あ、ちょ、ちょっと待って!!!!!」

とその時、佐天はそんなルシアの小さな背中に慌てて声を飛ばした。

ルシア「はい!?」

落ち着き無く、これまた慌てて振り返るルシア。


佐天「名前教えて!!私は佐天涙子!!!」


ルシア「え……あ!!る、ルシアです!!」


佐天「この病院にしばらくいるの?!」


ルシア「は、はい!!!」


佐天「じゃあ……ね、ねえ!また今度話さない!!!!??」


ルシア「…………は、はい!!お願いします!!」


三度ルシアは頭を下げると、パタパタと廊下の方へと消えていった。

佐天「……ルシアちゃんかぁ……」

その少女の背中が見えなくなって尚、
佐天は廊下の方を見つめていた。

穏やかな笑みを浮かべながら。

―――




275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/24(火) 23:55:11.54 ID:hmyUMVAo
―――

とある病棟の廊下の突き当たりにある、小さな談話フロア。
そこのソファーに患者衣を纏った麦野はだらしなく座り、背もたれに頭を預けて天井をボンヤリと仰いでいた。

さすがにあのボロボロの、胸の下着が見えてしまう服を着ている訳にもいかず、
とりあえず病室にあった患者衣に着替えたのだ。

左肩から伸びるアームは今は消している為、患者衣の左手の部分は一応残っている。
僅かに漏れている閃光で肩口のあたりが少し焦げていたが。


麦野「……ふぅぅぅ……ぁぁ……」

チリチリっと小さな閃光を右目眼窩から漏らしながら、
麦野は気の抜けた息を吐く。


アラストル『何しているんだ?マスターに会いに来たんじゃないのか?』

そんな彼女に対し、右脇に立てかけられている銀色の大剣が声が飛んできた。
ややナルシストっぽい、妙なエコーのかかかった脳内に直接響いてくるような声色。


麦野「……うっせえ」


アラストル『全く。人間の思考回路は理解しかねるよ。先程の威勢はどこにいった?』


麦野「……つーかさ、アンタだってアイツの前じゃコロッて態度変わるじゃん。口調も声の高さも」


麦野「なんかこう、“Yes, My Master.” とかって妙にかしこまっちゃってよ」

英語の部分だけを、ダンテを前にしているアラストルに真似て低い声で言う麦野。


アラストル『当然だ。マスターの前だ。無礼は許される訳がないだろう?』




276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/24(火) 23:58:40.21 ID:hmyUMVAo
麦野「……」

麦野はそういうのでは無く、裏表がある点に対して言及したつもりなのだが。

だがそんな事は別にどうでも良い。
この妙なガラクタの『性格』など別に興味無い。

聞きたい事は別にある。


麦野「つーか聞くけど、アンタ達って一体何?」

そう、麦野は未だに知らないのだ。
神と呼べる程の存在をダンテに預けられていながら、だ。


アラストル『悪魔だ』


麦野「…………それは何となく聞いてたけどさ、具体的にどんなのよ?」


アラストル『別世界の住人だ』

アラストル『この世界にお前ら人間が存在しているのと同じく、魔界には我々悪魔が存在している』


麦野「……っつーこと事は、アンタも私達と同じ『生き物』って事?」


アラストル『表現上は同じくそう呼べるな。ただ理も法則も全く異なっているが』




277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:02:07.20 ID:rn7q9i.o

アラストル『そうだな……一番わかり安い違いはだ、この世界の生命は物質的な面で縛られている』

アラストル『だが魔界は違う。魔界の生命は「力」に縛られてる』

麦野「……はぁ?」

アラストル『お前らには肉体の物理的限界がある。例えば寿命とかな。「魂と器」が無傷でも、肉体の損壊で簡単に死ぬ』

麦野「…………はぁ」

アラストル『だが我々魔界の存在は違う。我々は力、魂、器が破壊されれば、肉体が無傷でも命を落とす』

アラストル『逆に言えば、「単なる」肉体の損壊では死なない。ダメージすら無い』


麦野「……つまり今アンタをへし折って砕いても死なないって事?」


アラストル『いや。俺を折れる程の攻撃ならば俺は死ぬかもしれん』


麦野「はぁぁぁ?」


アラストル『これはまた別の事でな。お前ら人間の肉体の強度は決まっているだろう?』

アラストル『お前のような能力者でも、肉体はただの生肉だ。どんなに鍛えようとこの世界の物理的限界は超えられないはずだ』




278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:08:25.83 ID:rn7q9i.o

アラストル『だが我々にはその物理的限界が存在しない。有する力に比例して、肉体も強化する事ができる』

アラストル『いくら肉体の損壊が問題なくとも、いちいち手や足が千切れていたらまともに戦えないだろう?』


麦野「……そりゃあ……」


アラストル『だから悪魔は戦う時は常に肉体の強度を最高に保つ』

アラストル『例外はあるがな。マスターや兄上殿のような、』

アラストル『あまりにも超越している存在は、相手の力量や状況に合わせて強度を決めている』

アラストル『そもそもマスターは娯楽も兼ねているからな』

アラストル『二ヶ月半前や先程の兄上殿との時のような事態でも無い限り、最高強度にはそうそうしない』


麦野「…………その最高強度状態の肉体を壊せば……』

アラストル『そうだ。それは悪魔にとって死に直結する』

アラストル『ただ「力」で強化された肉体には、「力」で強化された攻撃を叩き込まねばほとんど効果は無い』

アラストル『どれだけ物理的破壊力が高くともな』


アラストル『特に我々のような高位の存在にはな』


アラストル『下等な者達ならば物理的破壊でもそれなりに通じるが、俺のような高位の存在には一切ダメージにならん』

麦野「じゃあ……例えば核兵器が使われてもアンタは無傷って事?」

アラストル『ふん。笑わせる。その程度の「単なる」花火など、例え一万発貰ってもサビにすらならないさ』

麦野「……それじゃあ逆に言えば、物理的破壊力が針で指す程度でも、その『力』が莫大だったら殺せるって事?」

アラストル『そうだ。まあ、大体は力に比例して物理的破壊力も増すがな』




279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:12:03.23 ID:rn7q9i.o

麦野「…………へえ…………あ~……」


アラストル『難しく考えるな。存在する界が違う。根本的に格が違うんだ』

アラストル『紙の上の二次元世界で何をされようと、三次元の書き手と筆には何も影響は無いだろう?』


麦野「……………………まあ……」


アラストル『それと似たような概念だと思えば良い』

麦野「(何言ってんだよコレ。ますますわかんねーよ)」


アラストル『とりあえずそこは深く考えない方が良い。別次元・別の界の事をこの程度で、お前らの思念で理解できる訳も無いからな』

アラストル『そもそも、お前は頭で理解する必要は無いだろう?実際に俺と同化したのだ。本能的に感じることができるはずだが』


麦野「…………さっきの?」


アラストル『そうだ。兄上殿との戦いの際だ。あの時お前は俺と同化して、お前の「理」は魔界のモノとなった』

アラストル『その上での俺の力による強化が無ければ、兄上殿の刃の直撃を受けずとも「圧」だけでお前の肉体が消失していただろうな』


麦野「…………ちょっと待て。確か、前にアクセラレータもバージルと戦ったらしいけど、その時アイツも悪魔の力を使ってたって事?」


アラストル『…………あの白髪の小僧か?俺はその時の戦いを見ていないから確かな事は言えんが……』



アラストル『あの小僧は恐らく、「自分の力」で肉体の強度を上げているぞ』




280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:16:44.15 ID:rn7q9i.o
麦野「はぁ……??じゃあ何??能力者でもできんのその『強化』って??」

アラストル『能力もどうやら「力」の一種だからな。可能と言えば可能だろうな。ただお前は無理だが』

麦野「何??どういう事??」


アラストル『少し見た程度だから断言はできんが、あの小僧は界を越えかけている』

アラストル『「既存」の人間界の理から外れかかっている』

アラストル『それで可能なのだろう。本人は気付いていないかもしれんが、生存本能で無意識下の内に強化されることもある』


麦野「…………」


アラストル『それにだ、あの小僧は自分自身の「力」を使ってるようだ。二ヵ月半前の時点で既にそうだったらしい』

アラストル『俺の感覚だと、お前らも含め他の能力者の「力」は借り物に過ぎん』

アラストル『同じ能力者という枠内であるだろうが、あの小僧とお前らが使っている力は根本的に「格」が違う』

アラストル『あの小僧は特別だ』


麦野「……」

そう言われればそんな気もする。
あの一方通行の黒い腕。
かなり異質だ。

そもそも、普通に考えてあのバージルの刃を生身で受けて生きている訳が無いのだ。
実際に打ち据えた麦野だからわかる。

二ヵ月半前、一方通行はバージルによって瀕死の重傷を負ったと聞いたが、
あんな刃で切り裂かれて『その程度』で済むはずが無いのだ。

そう考えると、『一方通行が特別』というのも納得できる。




281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:19:31.03 ID:rn7q9i.o

麦野「じゃあさ、アクセラレータはアンタとかとも普通に戦える訳?」


アラストル『はは、それはまた話が別だ』

アラストル『あの小僧程度の者など、魔界には腐る程いる』

アラストル『俺のような列神・諸王の存在にはどう転んでも勝てんよ』

アラストル『良くて地方の田舎領主程度だろうな』


麦野「……は?そっちの魔界とやらにも『領主』とかってあんの?」


アラストル『こっちの言語だとこれが一番意味合いが近いと思うが』


アラストル『魔界のgakillahha語だと laoatyighh、kajahgga語だとkjhggaeuueだな。kahagff語だと……』

次々と、様々な魔界の言語の該当する単語を口にしていくアラストル。


麦野「はぁ?」

だが当然、『界』が違う麦野には妙なノイズにしか聞こえない。




282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:24:12.63 ID:rn7q9i.o

アラストル『―――jhslia、ytarwiil語だと(ry』


麦野「あー!!!わかったからもう良い!!!普通に話せ!!!」

麦野「で、こっちみたいにそういう、行政システムみたいのあんの?」

アラストル『……行政、ではないな。その地域地域、「界」でトップの奴の事を指す』


アラストル『魔界は「力」の強弱が全てだ。単純に強い者が上に立ち生き永らえる権利を持ち、弱い者は殺されるか奴隷となる』

アラストル『力を強くするには、戦い続けるか他者を喰らい続ける』

アラストル『そして強くなれば強くなるほど、別の強者が戦いを挑んでくる』

アラストル『殺さねば殺される。力の高みに昇る為に他者を殺し喰らい続け、強くなり続ける』

アラストル『敗者は死ぬか、取り込まれて勝者の力の一部となるか、それとも永遠の奴隷となるか、だ』


アラストル『これが魔界の一番のルールだ。お前ら人間界の者には忌まわしく聞こえるかもしれんが、』


アラストル『我々にとってこれが当たり前なのだ。これが魔界の理だ』


アラストル『お前らが当たり前のように呼吸するのと同じく、我々は戦い殺し合う』


アラストル『お前らが本能的に生の保全を図るように、我々は本能的に力を求める』



麦野「……随ッッッ分殺伐としてるわね………………ちょっと面白そうだけど。いいわねそういう力至上主義って」




283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:35:17.59 ID:rn7q9i.o

アラストル『その戦いを這い上がり、億を越える悪魔を支配しその界を征服した者は「領主」と呼ばれる』

アラストル『この辺りから俗に言う「大悪魔」だな』


麦野「……………………億…………って……!!!」


アラストル『魔界は広いからな。人口も面積も人間界とは比べ物にならんぞ』

アラストル『魔界がこの世界の大洋規模とするなら、人間界の規模は浜の一粒の砂に過ぎん』

アラストル『領主の人数は大体5万だな。ただ広い分、名が知られていない者もいるだろうから、実数はこの1.5倍はあるかもしれん』


麦野「………………………………」


スケールの違いに最早言葉が出ない麦野。
あの一方通行と同等、もしくはそれ以上の奴が5 万、場合によってはその1.5倍とかおかしい位にぶっ飛びすぎだろ、と。

先程の『面白そうね』という言葉を発した、自分の『世間知らず』っぷりがアホらしく感じる。


アラストル『そして50以上の領主を支配しうる力を有する者は、人間界の単語で現すと「王」や「神」と呼ばれる』

アラストル『俺やトリッシュがこの位置だ』


麦野「……………………じゃあ……アンタも『王』って事は国とか持ってんの?」

アラストル『これは行政的な意味ではなく「格」の表現だ。皆がみな国や領地を持っている訳では無いさ』

アラストル『悪魔にもそれぞれ個性がある。上の者ほど個性的になりがちだ。力が強くなれば強くなるほど自我の部分が大きくなるからな』

アラストル『国を持ち兵を率いる者もいれば、一人でより強い相手を求めて放浪する者もいる。俗世を捨てひっそりと暮らしている者、』

アラストル『より強い存在の下で、主の為に戦う道を選ぶ俺のような者も。様々さ』




284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:37:23.56 ID:rn7q9i.o

麦野「へえ……つーかさ、アンタも結構スゴイのね」


アラストル『小娘、俺を誰だと思ってる。雷刃魔神「アラストル」だ』


アラストル『お前は今や、自らを遥かに超越した神を手にしているのだ。しっかりと自覚してくれ』


麦野「わかったって。喋る古臭い剣にしか見えないけど、アンタが凄いのはわかるって」

アラストル『ふん、俺の解放された真の姿を見たらそんな減らず口など叩けないさ」

麦野「じゃあ見せなよ。両手合わせて拝んでやるから」

アラストル『……それにはマスターの許可が必要でな…………で、俺は今謹慎中の身だ……』

麦野「なんでよ?」

アラストル『…………少し前に無断で外出してな…………いや、お前にこれを喋る筋合いなど無い』


麦野「あ、そう」


アラストル『それでだ、その「王」と「神」は俺が知る限りじゃ、今の人数は大体 800前後だ』


麦野「……………………ちょ、ちょっと待て……アンタとかトリッシュみたいなのが800もいるの?」


アラストル『これでも「2000年前の対人間界戦時」以前に比べれば「三分の一」にまで減ったんだがな』


アラストル『それに俺やトリッシュのような、と言うのは少し間違ってる』

アラストル『同じ「王」や「神」の領域でも、上と下は天と地ほどの差がある』

アラストル『俺やトリッシュはこの位の中では「中の上」だ』

アラストル『俺達よりも強大な存在は200以上はいるだろうな』




285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:41:14.35 ID:rn7q9i.o
麦野「…………なんつーか、もう呆れるしかないわね」

アラストル『お前らが先程話してた天界と比較するとだ』

アラストル『天界にいる、魔界の「領主」と同等の連中は多くても800、魔界の「神」や「王」に比する者は30程度だ』

アラストル『天界の現最高位の四元徳だが、魔界にはそいつらと同等の者が今も100以上はいる』

アラストル『中には遥かに凌ぐ者もな』


麦野「…………は…………ぁ…………」

いきなり言われても具体的にはわからないが、
とにかく魔界という世界のスケールの規格外さはわかる。

もしステイルや土御門が聞いていたらこう思うだろう。
『そりゃあ天界ですら恐れるわけだ』、と。

数も強さも桁違い。

この規格外の規模、そしてその熾烈な競争の中から頭角を現す規格外の『怪物』達。
魔界の『力のピラミッド』は、その裾野の幅に比例して頂点も凄まじい高さなのだ。

これが魔界の強大さの根源だ。


麦野「てかさ、天界と魔界って仲悪いんでしょ?良く言うわよね天使と悪魔は敵だって」


アラストル『まあな。一応今も戦争状態だ』


麦野「じゃあなんでとっとと潰さねーのよ?戦力の差は圧倒的なんでしょ?」

アラストル『今の魔界内ではな、諸王・諸神らが勢力争いしていてな、凄まじい内戦状態なんだ』

麦野「……………………へえ」


アラストル『「外」に構っている余裕など無い』

アラストル『天界のような小勢力の事など、今や誰の眼中にも無いのさ』




286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:47:11.49 ID:rn7q9i.o

麦野「ところで…………アイツ……ダンテってどの位強いの?」

麦野「アンタ達よりも強いのはわかるけど、その魔界の基準とやらじゃどの辺よ?」


アラストル『最強だ』


麦野「…………!」


アラストル『頂点さ。マスターと兄上殿、一対一の決闘でこの二方に勝てる者は今の魔界にはいない』

アラストル『どの王も神も勝てん』


麦野「………………………………………!!!!!」


アラストル『単体で強いのなら「魔帝」がいたが、マスターと兄上殿、そして兄上殿の息子の三人に破れた』

アラストル『そもそも距離を詰めた接近戦に限定すれば、マスター達は一人でも魔帝を圧倒できるしな』


麦野「良くわかんないけど…………じゃあアイツらより強いのは今どこにもいないって事?』


アラストル『いや……魔帝よりも強いジュベレウスを屠った例の魔女ならば…………』

アラストル『…………いや待て。そもそも魔女は魔を召喚して力を借りている…………』


麦野「……………………は?」




287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:50:36.06 ID:rn7q9i.o

アラストル『ジュベレウスの際は確か……「クイーン=シバ」を召喚したと聞いたが……』

アラストル『いや、そもそも「クイーン=シバ」は単一の悪魔ではなく「魔界そのもの」の「力場」の……』

アラストル『そうだな……アレは完全に反則だな……』


アラストル『アレがOKならばマスター達も……いや……それは無理か……?』


麦野「…………何ブツブツ一人で言ってんのよ?」


アラストル『いやすまん…………「単体」で強い者は俺の知る限り、存在しないな。「互角」はいくらかいるが』

アラストル『まあマスター達や例の魔女、魔帝やジュベレウスの領域になると、相性の問題がより強く絡むから一概には言えないな』

アラストル『魔帝のような、力の強弱が関係無い反則的な力を持っている場合もあるしな』

アラストル『そもそもどんな状況で戦うかでかなり変わる』


アラストル『俺が断言できるような事では無い』


麦野「…………ねえ、マテイとかジュベ何とかって誰よ。それに魔女って」




288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:53:37.71 ID:rn7q9i.o

アラストル『魔帝はかつて魔界に君臨していた統一王だ』

麦野「統一?さっき魔界は内戦中って言わなかった?」


アラストル『そうだ。だが魔帝は2000年前に玉座から引き摺り下ろされ、そして二ヵ月半前にマスター達の手で滅んだ』

麦野「!!!」

アラストル『だから実質、マスター達が今の魔界の基準では最強なのさ』

アラストル『更に言うとな、魔界のルールからしたらマスター達が魔界の頂点の座に付くべきなのだがな、』

アラストル『あの通り本人達はその玉座には一切興味が無い』


アラストル『だから今、その空座を巡って内戦が激化しているのさ』


麦野「そう……で、ジュベ何とかって?」

アラストル『主神ジュベレウス』


アラストル『約1500万年前、魔帝・覇王そしてスパーダの三人によって敗れた、全ての世界を統べていた最上主神だ』

アラストル『そのスパーダがマスターと兄上殿の父君だ』


麦野「父…………はおうってのは?」


アラストル『当時の魔界の三番手だ』

麦野「……じゃあ、アイツらのおやっさんは?」




289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:55:55.80 ID:rn7q9i.o

アラストル『スパーダの地位は二番手だったな。「単純」な力量は魔帝をも凌いでいたが』

麦野「じゃあ何で二番手なのよ?」

アラストル『父君は支配欲はなかったからな。それに魔帝の無二の友でもあった』

アラストル『そもそも、この二人が戦っても「完全」な決着はつかん』


麦野「何でよ?おやっさんの方が強かったんでしょ?」


アラストル『単純な戦闘能力はな。だが魔帝にはそれとは別に特殊な力があってな』

アラストル『覇王も同じく特殊な力を持っていてな』

麦野「?」

アラストル『まあ色々あるという事だ。先程言ったとおり、この領域は誰が誰よりも強いなどとそう断言できんのさ』

麦野「……あ、そう」

アラストル『それと、覇王についてはお前らにも関係あるぞ?』


麦野「何で?」




290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 00:57:57.87 ID:rn7q9i.o

アラストル『お前らの標的のアリウスという男はな、この覇王を復活させようとしている』

麦野「っ……!!!」

アラストル『まあ、その方面ではマスター達が何らかの手を撃つと思うがな』

アラストル『一応言っておこう。もし鉢合わせたら逃げるぞ。俺でもどうしようもないからな』


麦野「……アンタより強いの?」


アラストル『当たり前だ。魔帝と父君がいなくなった後、あの魔界をたった二ヶ月で三分の二まで掌握した者だぞ?』

アラストル『俺があの「怪物」に敵う訳が無いだろうが』

アラストル『マスター達か、例の魔女じゃないと相手にできんよ』


麦野「………………その魔女って?」


アラストル『アンブラの魔女。一応人間なのだが、生まれながらにして「魔」でもある者達だ』

アラストル『お前ら普通の人間とは全く別の「界」にいる者だ』


麦野「…………?」




291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:01:32.77 ID:rn7q9i.o

アラストル『この者達は、我等から言わせてもかなり異質でな』

アラストル『彼女達自身の力も強大だが、それ以上なのが「召喚技術」だ』

麦野「召喚?」

アラストル『原理は詳しくは知らんがな、それを極めた者は魔界の諸王・諸神と同化でき、その強大な力を自由に扱えるらしい』

アラストル『強者となれば、一人で何体もの王や神の力を使う事も可能だと』

麦野「……それってスッゴク強くなれるんじゃ……」

アラストル『そうなるな』


アラストル『中には「魔界そのもの」、我等が「クイーン=シバ」と呼んでいる存在の召喚に成功した者もいるらしい』

アラストル『その瞬間火力はマスター達をも上回るだろうな』

アラストル『ただ瞬間火力は、だ。どちらが強いかはまた別の話になる』

アラストル『そもそも「クイーン=シバ」の「性質上」、これをマスター達相手に使えるかどうかはわからんしな……』

麦野「…………はい?」


アラストル『いや……最後の部分は気にするな』

アラストル『でな、この魔女の生き残りがつい最近ジュベレウスに止めを刺した』

アラストル『「クイーン=シバ」を使ってな』


麦野「……へえ……なんつーか、色々と凄いわね色々と……」


麦野「頭がこんがらってきたけど」




292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:04:59.26 ID:rn7q9i.o

アラストル『無理して覚えるな。人間の思考力など所詮高が知れている。雰囲気だけを掴め』


麦野「あ?私の事バカだっつってんの?」


アラストル『なに、そう悔しがる事ではないさ。人間と高位の悪魔じゃデキが違うからな』

麦野「……舐めてんじゃねーぞガラクタ。テメェで生ゴミ箱引っ掻き回すぞ」

麦野「ぐっちゃぐっちゃのゲチョゲチョになりてーの?」

麦野「それともお花付けたり模様書いたりして、カッッワイイデコレーションしてあっげようかにゃーん?」


アラストル『…………口を慎めよ小娘。俺を誰だと思ってる?』

麦野「テメェこそ。『今の主』は誰だと思ってんだよ」

麦野「私がアイツからお前を預かった。こっちはアイツのお墨付きなんだっつーの」

アラストル『…………』


麦野「じゃあじゃあそれを踏まえて聞きましょーねぇん。テメェの今の主は?」


アラストル『…………』


麦野「さっさと言えよコラ。落描きすっぞ」


アラストル『………………………………お前だ』


麦野「よろっっっすい」




293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:08:23.40 ID:rn7q9i.o
とその時。

廊下の先からパタパタと走ってくる赤毛の少女の姿。
ルシアだ。

麦野「……」

ルシアはそのまま走ってきて、ソファーに座っている麦野の前で立ち止まった。

麦野「何?」

ルシア「あ、あの……暇潰してないで来いって……」

ルシア「ダンテさんとトリッシュさんが……」

麦野「!」

ダンテの名を聞き、ビクッと一瞬身を硬直させる麦野。


アラストル『ほら。さっさと行けよ。マスター代理』


麦野「……!」


アラストル『立てよ。行かないのか?マスター代理。ほれ。行くぞ?おら。何をして(ry』


麦野「う、うっせぇ!!!!!!!」


―――




294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:12:21.53 ID:rn7q9i.o

―――


何も見えない。

感じるのはズキン、ズキンと鼓動のような『胸の鈍痛』だけ。

それ以外には何も感じない。

触覚も。
気配も。
温度も。
匂いも。

それでいながら意識だけは妙にはっきりとしている。

「………………」

その明瞭な意識の中にあるもの。


それは罪悪感。

それは嫌悪感。

形容しがたいほどに凄まじい後悔の念。




295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:14:53.97 ID:rn7q9i.o

聖人。

天使。

その存在の真実が、守ろうとしていた者達をどれ程までに傷つけていたことか。
どれ程の人間の犠牲の上にあったのだろうか。

何も疑問を抱かずに使ってきたこの力。

その力は一体何人の人間の『命』だったのだろうか。

千か。万か。いや、高位の天使に匹敵する力を使った以上、『億』に届くかもしれない。


彼女は心優しい。
高潔でそして清い心の持ち主。

そんな彼女だからこそ、この真実には耐えがたかった。
とてつもない自責の念に押し潰されてしまった。

「………… あぁぁ…………」

彼女にとって、これが何よりも苦痛だった。


何よりも。


肉体の痛みよりも。
肉体の陵辱よりも。


素晴らしいほどに清い精神から来る、この自責の念が何よりも耐え難かった。


これが彼女に与えられた罰。

これが彼女に課された地獄。

彼女の『芯』を折り、叩き潰し続ける苦痛。



296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:16:42.61 ID:rn7q9i.o

気が狂えばどんなに楽か。

精神が消失してしまったらどんなに楽か。

だが意識は以前明瞭としたまま。


「…………」


時を刻んでいるかのような胸の鈍痛。

それが否応無く彼女を向き合わせる。

己の存在の罪に。


目を背ける事ができない。


「…………」


『完全な死』という許しは与えられないのだろうか。


永遠の時をこのまま過すのだろうか。


―――と思ったのも束の間。




297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:19:23.57 ID:rn7q9i.o
ふと気が付くと。

「………………………?」

彼女は古めかしい白亜の大きなホールの中央に立っていた。
つまり、視覚が戻っていたのだ。

自分の体をぼんやりと見る。

そして目に入る己の胸を貫いている『愛刀』。

「………………」

彼女はおぼろげに自分の身に起こったことを思い出した。

そう、己は敗北しこの愛刀で胸を貫かれたのだ。


そして彼女はゆっくりと顔を上げ、周囲へと目を向けた。

そこは球天井の、列柱に囲まれた円形のホール。

「…………」

その列柱のところに沿って、彼女を取り囲むように並んでいる奇妙な女性達。


人数は25人。


皆、彫像のように白い無表情で彼女を見つめていた。
いや、本当に彫像なのかもしれない と思える程に血の気の無い顔で。

異常な程に整った顔立ちや、非の打ち所の無いスタイルがその感をより一層際立たせていた。


袖口や裾は大きく開いているが、体の部分は肌に密着している豪華な衣服を纏っている。
全体の雰囲気は修道服に似ているだろうか、だがその荘厳な装飾はまるで王族や貴族のようだ。

彼女達は手に皆それぞれ違う武器を持っていた。
古代ローマのグラディウス風の剣、クレイモアのような長剣、クロスボウ、ハルバード、等その種類は様々。
中には日本刀らしき物を持っている者も。

どうやら時計回り順に、武器の類が近代的になっていっているようだった。

11時方向を越えた女性は、フリントロック式の拳銃を両手に一丁ずつ持っていた。




298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:20:52.66 ID:rn7q9i.o
「…………」

そして彼女達の頭上には、赤い光の紋章と奇妙な文字が浮かび上がっていた。

その奇妙な文字。
見たことは無い。

だがなぜか一目で意味がわかった。

あれは『エノク語の数字』だと。

武器の系統が古い所から『1』、一番最後のフリントロック式の拳銃を持っている者の上の数字は『26』。


25人で『26』。


そう、一つ数字が欠けていた。

その数字は『10』。


「…………」


と、彼女がその点に気付いた時。



『さて、気分はいかがかな?』



突如背後から聞こえてきた、透き通りつつも湿っぽい妖艶な女性の声。
口調は威厳のあるモノだがその声色が妙に色っぽい。




299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:25:04.31 ID:rn7q9i.o
「!」

彼女が慌てて振り返ると。

3m程の所に一人の女がいつのまにか立っていた。

周囲に立っている女性等と同じく豪奢な衣服を身に纏ってはいたが、
それだけではなかった。

その上に羽織っている、カラスの羽のような飾りが付いた黒いマント。
そして顔の上半分を隠している、鳥の頭蓋骨のような不気味な仮面。

手には武器のような物は持っていなかったが、手首には大量の腕輪。


周囲の女性達とは何かが違う。

仮面の下から見える口も、周りの者とは違い薄い笑みを浮かべていた。

鳥の頭蓋骨状、その仮面の眼窩の向こうに見える瞳も生気が宿っていた。

少なくとも感情の色が見える。


『驚かしたか?まあまず自己紹介せねばな』

仮面の女が薄く笑いながら、呆然としている彼女に対し言葉を続ける。




『我は「第10 代」アンブラが長―――』





『―――魔女王アイゼン』




300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:26:08.36 ID:rn7q9i.o

魔女王アイゼン。
そう、女は両手を広げ少し顎を上げて誇らしげに名乗った。


「…………魔女王…………?」

だが彼女は魔女の事など何も知らない。
名乗りから王族、長なのはわかるがそれ以上の事は何も。


そんな彼女の様子に気付いたアイゼン。

アイゼン『ほれ、「クイーン=シバ」の召喚式を完成させ、初めて召喚に成功した者と言えば……………………わからぬか』


「……?」


アイゼン『22の魔界の王・神にアンブラへの専属契約を結ばせ、下々の者でもウィケッドウィーブを扱えるようにした……』

「…………?………… いえ……」

アイゼン『これでもわからぬか。仕方無い。大ヒントだ。『長の証』の腕輪を作ったのが我だ』


「………………………?………………… あのう……」


アイゼン『…………』

「…………」



アイゼン『――――――――― 貴様ァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!』



「ひっ…………!!!」




302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:28:31.84 ID:rn7q9i.o

アイゼン『もしや魔女については何も知らぬ身で―――!!!』



アイゼン『―――ここに来たというのではあるまいなァッッッ??!!!ハァンン!!!!』


大きく身を捻らせ、腕を振るってその片方の指先で彼女を指すアイゼン。


アイゼン『アアァァァァァァァハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアンンンッッッッッ!!!!!!!????』


そのオーバーな、かつしなやかな動き。
激しくもしっとりと捻られた腰。


「…………あ……!!!す、すみません!!!!!!すみません!!!!!!」


それに凄まじい既視感を感じながらも、
彼女は勢いに押されて平謝りしてしまった。

なんだがついさっき似たような挙動を見た気がするのだ。


この胸に愛刀が突きつけられる直前に、だ。


彼女がアンブラの魔女についてそれなりに知っていたらこう思っただろう。

この連中は、大昔からこういうノリが共通だったのだか と。




303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:30:41.35 ID:rn7q9i.o

アイゼン『ハッッッッ!!!!!!もしやのもしやだが……まさか……なぜこの今の状況なのかも理解しておらぬのか!?』


「はい…………すみません……」


アイゼン『………………全く。何も教えとらぬとは……「表」の者共は何を考えておるのだ』

アイゼン『スパーダの息子といい我が子孫らといい……最近の若い連中はどうにも真剣身が足らん』


「……………………わ、私は……」

真剣身が足らない。
そう言われて、礼を重んじる彼女は反射的に反応した。

名乗られたのならば名乗り返す。
それが礼儀だ。

礼が染み付いている彼女は咄嗟に名乗り返そうとしたが。



「―――…………ッ……」


なぜか己の名前が出ない。
己の名前がわからないのだ。

言葉が出せず、金魚のように口をパクパクさせる彼女。

アイゼン『あ~名乗らなくとも良い。そもそも名乗ることが「できぬ」だろう?』

そんな彼女を見てクスリと口の端を上げる魔女王アイゼン。


アイゼン『そなたの名は今は「奪われておる」からな』


アイゼン『その胸の魔剣にな』




304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/25(水) 01:32:46.92 ID:rn7q9i.o

アイゼン『それとこの者達はな、我も含めて―――』

仮面の女が腕を広げ、ぐるりと回転して周囲を見るように促しながら。

アイゼン『―――3万4千年のアンブラの歴史そのものだ』

そして告げる。

アイゼン『かつての長達だ』

彼女達はアンブラの歴代の長だと。

アイゼン『皆死んでいる。いわば亡霊だ。魔に完全転生した我を省いてな』

アイゼン『さて、改めて歓迎しよう』

そして再び彼女の方へと向き直り、手を一度叩き歓迎の言葉を述べた。


アイゼン『ようこそ。煉獄最下層、「アンブラ列長の墓場」へ』

アイゼン『ここでそなたを見定めよう。「表」に戻すか否か』


『天の者』に対する裁きの始まりと。


アイゼン『永遠の地獄へ幽閉するか否か、をな』



アイゼン『―――神裂火織よ』



神裂「―――」


彼女の名を。


―――




314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:08:21.75 ID:rHThjHko

―――

無能力者の元スキルアウト。
替えの利く駒として暗部に回された『タダ』のチンピラ。

ある時は撒き餌に。
ある時は切り捨てられ。
ある時は上位組織の雑用に。
ある時は幹部達のストレスのはけ口に殺され。
そしてある時は利用価値無しとされ処分される。

人権など笑止千万。
名すら呼ばれぬモブ。

泥にまみれ道端で無様にのたれ死に、墓も作られずに死体は焼却処分される。

学園都市の『闇の底』に積もっていく、小さな小さな塵の粒子の一つ。

『カス』が死のうと、姿を消そうと誰も気にも留めない。

誰の記憶にも残らない。
誰も彼らを探そうとしない。
誰も彼らの死を嘆き悲しまない。

そんな最底辺のゴミクズ。
部屋の隅に溜まるようなクズボコリ。


彼もまた、その中の塵の一つであったはずだった。


浜面仕上は。




315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:12:18.14 ID:rHThjHko

この少年。

アレイスターのプラン上では、彼は暗部組織同士の抗争の中で
既に死んでいなければならなかった。

なのに生きている。
それどころかレベル5に打ち勝ってまでだ。

これはアレイスターにとって異常事態であった。


格の違う悪魔達や天使達、魔界や天界の力に強く影響されている一部の人間を省き、
全ての人類の行動とそこから来る結果をアレイスターは予測できる。

いや、厳密に言うと『予測』ではなく、『知っている』のだ。

とある力を使うことで、今のアレイスターは短時間ながらも人間達の『未来を見る』事ができる。

限界が無いとは言えないが、
それでも学園都市内の人間達の未来を把握するのは簡単だ。

学園都市内の人間達の未来は完全に把握していたのだ。


だからこそ。


だからこそ、浜面仕上の生存が異常事態だったのだ。




316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:25:32.84 ID:rHThjHko

『知っている未来』から、ずれ始める分岐点となった二ヵ月半前の事態。

その『後』に起こった事ならばまだアレイスターは納得がいく。
そうならば説明はいくらでもできる。

事実、二ヵ月半前を発端とする悪魔達との関わりで、
浜面仕上のように『レール』から脱線しだした者が続出した。

だが浜面仕上は、悪魔達の介入以前に脱線したのだ。
それも前触れ無く突然。

理由を把握していれば、一方通行や上条のように『進路』を修正していく事もできる。

だが理由がわからなければ―――。


果たしてプランを根底から破壊するような『爆弾』なのか、
それとも僅かなズレから生じた、小さな小さなタダのバグなのか。
それすらも判断がつかない。

いや、現状では何も影響の無い小さなバグとは言い切れない。
第23学区の一連の騒動だって、それの大元の原因は浜面仕上だ。

一体因果はどこから繋がっているのか、この男が作り出した小さな渦が、
巡り巡ってアラストルが原子崩しの手に渡る要因にもなっている。

悪魔サイドの関わりが源となっている二ヵ月半前の件とは違う。
第23学区からの一連の件は、浜面仕上から始まっている。

彼は大きな流れに飲み込まれたのではなく、
逆に自ら一つの流れを作り出したのだ。

アレイスターの方が浜面仕上が作り出した渦に巻き込まれた、と言っても過言では無い。


これぞ正に『イレギュラー』。




317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:28:16.07 ID:rHThjHko

ある意味アレイスターは、浜面仕上という存在に恐怖したのだ。

この不穏な、ダンテ達とはまた別の意味で未知である存在に。


唯一の解決策は排除する事。

経緯は違えど、そしてタイミングは違えど、
アレイスターが見た未来と同じ『死』という結果を与えること。

だがイレギュラーはイレギュラー。

何を引き起こすか全くわからないこそイレギュラー。
何がどうなり、どんな事態になるかがわからないからこそイレギュラー。


結局、浜面仕上の殺害は失敗した。

それも最悪の形で。
浜面仕上の物語は、別の巨大な物語と合流してしまったのだ。

ダンテの物語に。

浜面仕上の協力者である、絹旗最愛に差し向けた部隊はダンテに一蹴され。
それを見てアリウスに協力を求めたがそれも失敗。

更にアリウスが召喚した悪魔達のせいで、麦野はダンテに救われ懐柔されて改心。


あげくに浜面仕上もダンテに救われた。


これでアレイスターは最早手が出せなくなってしまった。


『浜面仕上の命はダンテに救われた』


この正にイレギュラーすぎる結果のせいで。




318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:31:47.12 ID:rHThjHko
ダンテが守った命である以上、そう易々と手を出すわけにもいかない。
今はアレイスターにとって非常にデリケートな時期。

ダンテを刺激してしまうような因子は、どれだけ小さくとも避けたかった。
その為、浜面仕上の殺害の件については完全に保留状態となったのだ。


そういう事もあり、
この数週間浜面達は束の間の平穏の中へ。




その浜面仕上は今、第五学区にあるとあるビルの階段を昇っていた。


浜面「……」

携帯でテレビ放送を見ながら。


浜面「…………」


案の定、放送では何が起きたかなどという詳細は全く伝えていない。

絹旗に『情報収集してきてください』言われ、
外に出て辺りを行きかう人々にも話を聞いたが、皆言っている事がバラバラだった。

タンクローリーが爆発しただのテロが起きただの、
高位の能力者同士の戦いだの、ローマ正教側が和平協定を破って攻撃してきただの。

どれもこれも確かな証拠無く、誰が見たという訳でも無く。
人伝いに回ってきた噂に尾ひれが付いたようなものだった。




319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:36:17.10 ID:rHThjHko

このどれかに真実が紛れ込んでいる可能性もあるだろう。

だが浜面そうは思えなかった。
絹旗や滝壺もこれには同意していた。

少なくとも、この『程度』の騒動ではない と。

遂先程、突如感じた強烈な悪寒。
近くにいた絹旗や滝壺も感じた、あの意識がすり潰されてしまいそうな威圧感。

彼ら三人はこれには覚えがあった。

数週間前の、第23学区に纏わる一連の騒動で味わったのと同種の感覚だ。

絹旗曰く、『私はあの日、もっと強烈なのを味わって超トラウマですよ』、

滝壺曰く、『あの時とおなじ。信号が強すぎて何もみえなくなっちゃった』との事だ。


あの日味わった今まで経験したことの無い、
今までの暗部生活が生易しく感じてしまうような『本物の狂気と闇』。

それと今日のは同じだった。

あの日の後、レベル5第三位に紹介してもらったカエル顔の医者。
滝壺の容態を安定させてくれた、浜面にとっては救世主的な人物だ。
(実はこのビルのアジトも、彼が手配してくれた)

彼はこの異質すぎる『何か』について良く知っているらしかったが、
浜面達には何も教えてくれなかった。

『これ以上踏み込んじゃいけないよ。一度深く関ったら二度と戻れなくなるよ』と。




320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:38:35.26 ID:rHThjHko

浜面「どおなってんだよ…………」


だが知るなと言われれば、より興味が沸いてしまうのも人間の性。
というか、ここまで派手にされれば注意を向けざるを得ない。

今回は第七学区の中央辺りが騒動の中心地らしかった。

その規模は凄まじく、10km 以上は離れているここにも、
例の悪寒や大地震のような揺れが到達し、
遠くの雷鳴のような凄まじい爆音が大気を大きく震わせ。

ここからでもはっきりと見えた、空を照らす様々な異質な光達。


そしてその光の中に、ビルの七階の窓から浜面は見覚えのある閃光を目にした。


それは青白いビーム。


見えたのは一瞬。
だが決して見間違えることは無い。

浜面は瞬時に確信した。


あれは麦野の力だと。


この距離からもはっきり見えるくらい、その太さも長さも光の強さも、
今までとは比べ物にならないサイズだったが。

それも一本だけではなく数え切れないくらいに大量に。




321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:40:51.18 ID:rHThjHko

浜面「……」

麦野沈利。
あの第23学区での再開のシーンが、浜面の中でフラッシュバックする。


『は~まずらぁ』


地下駐機場の闇の中から、青白い閃光を迸らせながら現れた麦野。
残った左目を大きく見開き、口を大きく引き裂いて笑うあの姿。

浜面にとって、狂気・死そのものに見えたあの女。


彼女があの後、どうなったのかがかなり気になっていた。
死んだのか、それとも生きて再び己達の前に立ち塞がる時が来るのだろうか と。

だが先程見たとおり、麦野は生き延びていたらしかった。
それどころか、今まで見たこと無いくらいの強大な力を行使していたようだった。

これは黙ってはいられない。
あの女が生きているとなると、非常に危険だ。


浜面「……………………」


だがその一方で、浜面はなぜだか彼女が生きていた事に安堵をも感じていた。
なぜなのだろうか。

相手は自分達をただ殺すだけでなく、
最悪の苦痛を味合わせようとしていた天敵なはずなのに。

なぜ憎み切れないのか。
なぜ完全な敵意を向けられないのか。

浜面自身でさえ、なぜそう思うのかがわからなかった。




322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:42:35.00 ID:rHThjHko

あの第23学区での彼女の雰囲気。

何となくだが、今思えばどことなく悲しげなオーラがあった。

自暴自棄のヤケクソになり、泣き喚きながらとにかく暴れているような。

こんな事を直で言ったら殺されるだろうが、
浜面は彼女に恐怖する一方でこういう妙な感情をも抱いていた。


一体なぜ麦野はああなってしまったのか。


どうしてこうなってしまったのか。


アイテムとして過した日々。
お互い達の間にはそれなりの距離があり、とてもじゃないが友情と呼べる暖かい繋がりはなかったものの、
それとはまた別の仲間意識、いわば『戦友』と言えるような、
殺伐としながらも決して弱くは無い繋がりを浜面はメンバー間に見ていた。

浜面は人の心理を読むのに長けている訳では無い。
むしろ鈍感かもしれない。

だがスキルアウト時代の経験から、そういう組織内での空気というのには敏感だ。

駒場達との繋がりも感じたし、
自分がリーダーとなった時に、他の仲間達が己をどんな目で見ているかもはっきりと感じていた。


メンバーが女性であるアイテムはそういう男社会とはま別だろうが、
浜面は何となくその空気も読んでいた。


滝壺、フレンダ、絹旗達の関係は当然、
口や態度では突き放すような麦野も、根にはその繋がりがあったのでは? と。

彼女もまた、あのファミレスでのくだらない時間潰しの日々が楽しかったのではないか? と。




323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:45:12.38 ID:rHThjHko

浜面「(…………何考えてんだよ俺……)」

と、そこで浜面は溜息を混じらせて小さく頭を振った。

そう、今更麦野の事を考えたって無駄だ。
何かが変わる訳でもない。

例えそういう繋がりを麦野が持っていたとしても、フレンダを手にかけた時点で彼女は一線を越えた。
これもまた、こういう世界で生きてきた浜面だからこそわかる。

何かとんでもない事が無い限り、こういう人物はとことん暴虐に手を染め決して戻らない と。
己の立ち位置にさえ気付かずに、とことん底に堕ちていく と。


何かこう、規格外の『大きさ』の救いの手が無い限り決して這い上がれないと。



浜面「…………」

そもそも浜面は、こう麦野の事を気にかけている余裕すらないのだ。
彼は今、どうしても守らなければならない人物、滝壺理后がいる。


それだけで一杯一杯だ。


滝壺が全てなのだ。

絹旗と共に彼女を守る。


それが今の浜面の『全世界』だ。




324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:47:00.43 ID:rHThjHko

そう、あれやこれや考えながら、
浜面は階段を上がりそして七階の廊下へと。


浜面「―――!!!!!!!!!!!!」


と、その廊下の先を見た時だった。

浜面の目に入る、黒服の屈強な男達。
その者達は滝壺と絹旗がいる部屋のドアの前に立っていた。


経験上、ああいう連中はほぼ100%上層部の手の者。


浜面「(―――クッソッッッッ!!!!!!!!!!!!)」


最悪の事態が浜面の脳裏に浮かぶ。
手に持っていた携帯を放り投げ、即座に腰に差し込まれている拳銃に手を伸ばし―――。


――― そうとした瞬間。


真後ろから別の男に一瞬で組み伏せられてしまった。




325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:49:47.15 ID:rHThjHko

数々の修羅場を越え、そして腕っ節にもそれなりの自信がある浜面だが所詮はチンピラ上がり。

一回りも二回りも体が大きい、正規の訓練を受けた屈強なプロには到底敵わない。
浜面は腕を捻り上げられ、足を掃われてあっさり床にうつ伏せに叩きつけられる。


浜面「―――がぁっっっ!!!!!!!」


「落ち着け」

黒服の男からの低い声。
だが熱くなった浜面は聞く耳を持たず、無駄にもがいては廊下の先を見据えて叫ぶ。


浜面「滝壺ぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!絹旗ぁぁぁぁああああ!!!!!!」


とその時。

廊下の先の扉が開き。


絹旗「超うるさいです。少しは空気を読んでください。相変わらず猿並に頭の中まで超筋肉状態ですね浜面は」

何事もなかったかのように姿を現した絹旗。

そしてその背後からヒョコッと顔だけを出す。


滝壺「はまづら、あわてないで。だいじょうぶ」


滝壺。




326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:52:19.39 ID:rHThjHko

浜面「―――な…………??」


二人の様子を見ると、拘束されたどころか特に何もされていないように見える。
てっきり襲撃されたと思っていた為に拍子抜け。

そんな呆然としている浜面を見て、
押さえつけていた黒服の男がゆっくりと彼を解放した。


浜面「何なんだよ……?何が……?」

強く捻られた腕を軽く摩りながら、眉を顰めて立ち上がる浜面。


絹旗「話は後です。とりあえず超早く入って(ry」


「いや、君達からゆっくり話してくれ」

とその時。

絹旗の後ろ、部屋から出てきたこれまた屈強な男。


「我々はこの辺でお暇させてもらうよ」

立ち振る舞いから、ここにいる黒服連中のトップに見える。




327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:54:04.19 ID:rHThjHko

絹旗「……」

滝壺「……」

それに対し何も言わずに鋭い視線を返す絹旗と、
相変わらずボーっとしている滝壺。

浜面「……?」

とりあえず『敵』というわけではなさそうだが、
滝壺はともかく絹旗の様子を見る限りでは友好的でもないらしい。

その頭であろう男はあからさまな作り笑いを浮かべながら、そのまま浜面の方へと廊下を進んできた。
それに他の男達も続く。

「忘れないでくれ。『彼』もだからな」

そして男は浜面とすれ違うかという時。
彼の肩へ軽く手を乗せ、絹旗の方へ半身振り返って。


「『三人』で来い。『全員』でだ」

「明日の午前11時だ。遅れるな」

それだけ言うと再び視線を前に戻し、浜面の肩から手を離すと階段の方へと消えていった。
他の男達もそれに続いていった。


浜面「…………おい……何なんだよ……?」

状況が掴めず、腑抜けた声色で口を開く浜面。


絹旗「…………仕事ですよ。『最後』の『引退試合』です」


浜面「し、仕事?……最後のって…………はぁ?」




328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 00:55:21.52 ID:rHThjHko

絹旗「…………ッッッだあ゛ぁ゛ー!!!超ヤバそうです!!!!これは超超ヤバそうな気がします!!!!」

絹旗「ぎーぃぃぃぃぃ超ォォァァァァアアア!!!!!!!」

そんな浜面の返しなど聞こえていないかのように、突如うなりイラつきながら声を張り上げる絹旗。
小さい両手で、これまた小さい自分の頭を掻き毟る。

滝壺「でも、しょうがないよ。こればっかりはやらなきゃ」

絹旗「確かに!!!確かに超そうですがッッッ!!!!!って何でそう超落ち着いてるんですか滝壺さんは!!!!!」

滝壺「だいじょうぶ。皆で力を合わせればきっとうまくいくよ」

絹旗「こういう『最後』の大仕事に限って超最悪な事になるんです!!!!」

絹旗「大体にして、私達みたいなはぐれ者まで召集する必要がある程なんて、超超超超ォ~ヤッッバイ事に決まってます!!!」

絹旗「条件も条件で!!!!!どうせ超死ぬから大盤振る舞いしとけって感じじゃないですか!!!」

絹旗「死亡フラグが超ビンビンですよ!!!!!!万年発情期の浜面よりも超ギンギンにおッ勃ッてますよコレは!!!!!!」

滝壺「??……きぬはた、何言ってるかちょっとわからないよ?」

浜面「………………なあ……」

絹旗「浜面!!!!!!!!」

浜面「お、おう!?」

絹旗「いつまで超アホ面してんですか!?さっさと入ってください!!!!」

絹旗「滝壺さんも!!!!」


滝壺「きぬはた、おちついて。深呼吸(ry」


絹旗「だぁぁッッッッきぁああああああ!!!!!!!!!!!」


滝壺「う、うん。わかった」

―――




329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:00:22.99 ID:rHThjHko
―――

とある深い森の中にある洋館。


ベヨネッタ「―――Hahahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!!!!!!!!!」


ソファーに寝そべり、テレビを見て馬鹿笑いを上げているベヨネッタ。

ベロンベロンに酔っ払い赤くなっている頬。
全身で爆笑して身をよじる為、着ていたTシャツが捲り上がり、
パンツとしなやかな腹部が露になり、乳房の下方が見え隠れしていた。

更に事あるごとに、手に持っているビール缶から中の液体が零れ落ちる。
周囲には山積みになった空のビール缶。


ジャンヌ「……………………」

ジャンヌはそんな相棒の有様を冷たい視線で眺めていた。
部屋の片隅にある椅子に軽く腰かけ、優雅に足を組みながら。


ベヨネッタが見ているもの。
それは映画のDVD。

どこから持ってきたのか、いつのまにかかなりの本数がこのアジトに集められていた。

テレビの下に散乱しているパッケージ。
そのタイトルは、『オー○ティン=パワーズ』だの『ほぼスリー○ンドレッド』だの『ホッ○ショット』だの。


ジャンヌ「………………………………………………………………」




330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:03:02.59 ID:rHThjHko

ベヨネッタ「んふ、んふふ、あははははははははははははははははは!!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

確かに、アンブラの魔女は色々とトンでいる。
それは否定しない。


超近距離下での肉弾戦を好む、猛々しいアマゾネス的気質。
『魔女』という、色欲も重んじている淫魔的気質。
禁制などクソ喰らえとそれ以外の欲も否定しない、天界から言わせたら罰当たりな気質。

これらが組み合わさり、アンブラの魔女は一風変わった文化と気質を持つ集団となっている。

端から見ればハイテンションクレイジー集団に見えるだろう。


ベヨネッタ「ひっひ、へぁあははははははははははははは!!!!ちょっと!!!!こ~れへあははっははは!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが、そうだからといっていつもいつもクレイジーではない。
アンブラの魔女にも法と礼がある。

いや、むしろその部分を特に重んじている。

アンブラの魔女たる者、高潔にそして美しく、『品』の高き色魔であるべきである と。


ジャンヌもヒートすればぶっ飛ぶ事もある。
だが決して礼と品を保った威厳のある姿勢を崩さない。




331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:05:22.74 ID:rHThjHko

ジャンヌ「…………」

ベヨネッタもベヨネッタで普段はそうだ。
バカな行動に見えるモノも、必ず一定の品と風格を保っている。
色情的でありながらも下品ではないのだ。


ベヨネッタ「あははははっはははっっっっ……!!!……げぇっふ…………ははははっははは!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが今はどうだ。

馬鹿笑いし衣服をはだけさせ、
ベロンベロンに酔っ払ってビチャビチャとビールを零しているこの姿。

どこに品がある?

どこに魔女の高潔さがある?

ジャンヌ「…………」

この姿を見たら、偉大なる祖先達は一体何を思うのだろうか。
これが一介の魔女であるのならばまだ良い。


だがベヨネッタは特別だ。

『世界の目』を持ち、そしてジュベレウスをも倒した歴代最強の魔女だ。

アンブラ史上最高の戦士だ。

そんなアンブラの究極の境地である存在が、こんな有様とは。




332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:07:00.95 ID:rHThjHko


だが。


ジャンヌ「…………」

これもまたいいのかもしれない。


確かに、アンブラの基準に沿っても『普通』とは言いがたいが、
普通じゃないからこそ、ベヨネッタは今まで誰も出来なかったことを成し遂げ、
そして前人未到の境地へと到達したのだ。


そして何よりも。

ジャンヌはこのベヨネッタの一面を否定するつもりはない。

これもまた大事な友の人柄の一面だ。

ジャンヌの大切な宝の一つだ。


ジャンヌ「…………」

と、しばらくすると。
いつの間にかベヨネッタの笑い声は止んでいた。


ソファーの上から聞こえてくる小さな寝息。




333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:09:30.73 ID:rHThjHko

ジャンヌ「(……まるで子供だな)」

小さく笑いながらジャンヌはゆっくりと立ち上がると、ベヨネッタの傍へと向かった。

ベヨネッタは見ていたその姿勢のまま、口を小さく開けたままスースーと寝息を立てていた。
メガネが微妙にズレているのはご愛嬌だ。

ジャンヌはそのベヨネッタの手からビールを静かに取り、そしてはだけている彼女のTシャツを元に戻す。

とその時。

ベヨネッタ「Hummmmm............................」

寝ぼけているのか、薄目を開けていきなり唸り始めたベヨネッタ。
そしてふわりと手を伸ばし。

ベヨネッタ「.......Yeah.......」

ジャンヌの胸を鷲掴みにした。

ジャンヌ「…………………………………………」


ベヨネッタ「....Yes..........middle size......Wow...........Yeeaaha-ha-ha...........」.


ジャンヌ「―――HA!!!!!!!!!」

次の瞬間、ベヨネッタの顔面に叩き降ろされた拳。
メガネが景気良く割れる音が聞こえ、
いや、ソファーが潰れ下の床板が砕ける音に、その小さな破砕音はかき消された。


ジャンヌ「黙って寝てなホルスタイン野郎」


そしてジャンヌは表情を一切変えずに口を開いた。

上半身が床下までめり込み、
足が床から生えているように見える体勢のベヨネッタに。


―――




334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:10:35.11 ID:rHThjHko
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。




335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 01:23:53.72 ID:O5esJl6o
乙!
いやあ丈夫なカラダってイイよね!




337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/27(金) 04:34:15.33 ID:wRYMfco0
(;゚ Д゚)おヨネさんグダグタですな乙♪



338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 05:18:32.89 ID:klN0EIUo
上条さんはまだかー



339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 06:23:11.57 ID:wjOvTwDO
ベヨネッタwwwwwwクッソワロタwwwwww
確かに上条さんとインデックスが気になるところ






次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 16】



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