ダンテ「学園都市か」【MISSION 26】

2011-08-12 (金) 08:02  禁書目録SS   4コメント  
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まとめ→ダンテ「学園都市か」 まとめ



267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:43:49.90 ID:mbYW1UyQo
―――

学園都市第七学区。
とある無人の大通りにて。

神裂「………………」

ステイル「………………」

二人は無言のまま、思案気に顔を曇らせてその場に立っていた。
彼等の周囲の地面には、アスファルトが捲れ上がっている大きな穴が二つ。

一つは中央分離帯に沿うようにして続く、地面とほぼ水平に激しく削り掃ったと見える縦長のもの。
もう一つはまるでスプーンで一掬いしたかのような、断面の滑らかな円形の穴。

神裂「…………」

一つ目の縦長の穴は、
残留している力からもはっきりとわかる通り上条当麻のものだ。
その位置や地面の削れ方から見て、高速で動いていたところを急停止したものであろう。

そして二つ目。

ステイル「…………」

これも同じく、力の残り香からはっきりと識別できた。
特にステイルにとっては間違えようも無い。


この穴を形成したのは紛れも無くインデックスの力。


ステイル「……………………」

一体何がここであったのか。
それを知るには情報が少なすぎるが、
ただ一つ、ステイルには断言できることがあった。

それはインデックスが今、非常に危険な立場に立たされているという点だ。



268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:44:54.31 ID:mbYW1UyQo

ステイルは他にローラ=スチュアートの、
神裂はジャンヌと五和の残り香をそれぞれ認識していた。

その混ざり具合、特にジャンヌの残り香の質が、
ここで何らかの力の衝突があったことを物語っており、
『あの』インデックスの力も解放されたという状況証拠。

何か重大な事があった、いや、今もなお彼女の身に何かが起こり続けているのは確実だ。

そして今、そこに付随する大きな問題がもう一つ。

ステイル「……………………それでどうするんだ?」


インデックスを追跡する技術が無いことである。


神裂「…………今考えています」


ステイルが飛べるのはイギリスの中だけ、
神裂は魔女に人間界内での基礎的な飛び方を教わっただけ。

二人とも界を超える技術は持ち合わせてはいない。
当然、残滓を解析して追跡などできるわけがない。



269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:46:40.18 ID:mbYW1UyQo

神裂「……ローラ=スチュアートはインデックスが目的でここに現れた、で確かなんですね?」

ステイル「そうだ。僕の記憶を確認したろう?あれの通りだ」

神裂「………………そうですが、やはり言葉でも確認したいので」

ステイル「…………。ジャンヌと言ったか、あの魔女はまだローラを捕らえていないのか?」

神裂「まだでしょう。捕らえたのならば、ジャンヌさんか五和がすぐにインデックスをこちらに連れて来ますので」

ステイル「五和は飛べるのか?」

神裂「非常用にと、私も五和も人間界への戻り方だけは教わっていますので」

ステイル「………………他の魔女の協力は得られないのか?」

神裂「今何とか助言を仰いでいますので黙っててください」

自身のこめかみを指差しては、そう突き刺すような声色で言い放つ神裂、
彼女は明らかに苛立っていた。

ステイルと同じくインデックスの身が心配な上、バージル達から託された仕事が滞っているからであろう。
もちろん思考は冷静な一方、感情はこの状況と自身の不手際に激しく憤っているのだ。

そして当然、その苛立ちはステイルにも伝播していた。
使い魔は主に強く影響されるのだから。

神裂「…………はぁ……厳しいようです。魔女の追跡術は、素人が指示を受けながら扱えるような代物では無いと」

ステイル「…………では、他の魔女にここに来てもらうのは?」

神裂「それも難しいですね。今は皆、各々の仕事に取り掛かっていますので。人手が不足しているんですよ」

バージルさんがあなたの蘇生を許可してくださった理由の一つですかもね、
と投槍に神裂がボヤいたその時。

ステイル「―――……?」

二人はふと、一つの気配がこちらに向かってくるのを察知した。
この大通りに沿って、先ほど自身達が戦っていた地の方角から。



270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:49:10.65 ID:mbYW1UyQo

そして高排気量のけたたましい音と共に、
バイクに跨った非常に物騒な格好をした白人女が現れた。

ステイルが知っている一人の女が。

ステイル「―――」

ダンテやトリッシュの同業者、デビルハンターのレディだ。
初対面は病院にて先日、会話は数語交わらせる程度しかしていないが、
上条からは『魔界魔術に関してはとにかく超一流で、トリッシュを上回る技術と知識を有している』聞いていた。

そして今、そんな彼女がここに現れるということはなんと幸運であろうか。

そんなステイルの思考はすかさず神裂にも伝播していく。

神裂「―――……」

気持ち良いくらいにかっ飛ばして来、
焦げ臭い白煙を噴き上がらせながら二人の横に乱暴にバイクを止めたレディ。

そしてバイクに跨ったまま、
サングラス越しにぶっきらぼうに口を開いた。


レディ「―――ステイル=マグヌスだっけ。そっちは確かイギリスの。向こうで暴れたのアンタ達?」


神裂「はい。突然ですがレディさん、実はあなたのお手を借りたいと思っていまして」

レディ「ん?……あれ、前に会ったことあるかしら?」

神裂「いえ、ですがステイルからあなたの事は『聞いて』おります」

―――



271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:50:37.35 ID:mbYW1UyQo
―――

一方「…………」

一方通行は今、第七学区の真ん中に突如現れていた更地に立っていた。

広がるのは不気味な光沢を帯びた、くすんだ固い地面。
凄まじい熱に晒され一気に溶け、
そしてこれまた既存の物理法則ではありえない速度で一気に冷え固まった大地。

その熱源が何だったのかは把握している。

あのいけ好かない赤毛の悪魔、ステイルだ。

彼はつい先ほどまで、
ここで何者かと衝突していたようだ。

ただそこまではわかるが、果たしてその戦いの結果がどうなったのか、
その後に何があったのかは一方通行は判断しかねていた。

一方「……」

悪魔が力を解放すれば、
場の歪みや放たれてくる強烈な悪寒によって、感覚的にその位置がわかる。
ただそれは力を解放している状態、殺意や戦意に満ちている時のみの話だ。

一方「……………………チッ」

逆に気配を消されてしまっては、
悪魔はそう簡単には見つけられない。

今や能力の壁を越えてAIM拡散力場そのもの、
『力』の存在を肌で認識できるようになってきてはいるが、それでも何も拾えなかった。



272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:52:08.14 ID:mbYW1UyQo

またこの時、研ぎ済まされた彼の感覚を邪魔する別の要因もあった。

先ほど目覚めてから彼は、くぐもった耳鳴りに似た、
淀んだ液体の中にいるような感覚を覚えていたのだ。

一方「……」

カエル顔の医師からも聞いた通り、
こうしている今も自身の体は変質を続けているということだが、それが関係しているのだろうか。

それとも。


―――垣根帝督に会った事が原因か。


一方「クソ……ほンッッと余計なことばっかしやがってあンの野郎……」

と、そう苛立ち一人悪態をついていた時であった。


一方「―――」


彼は微弱な力の存在を確認した。

厳密には、莫大な力を持つ存在から漏れ出した『力の雫』か。
ここから伸びる大通りに沿ってやや離れた所だ。

彼はすぐに立ち上がっては、
その方向へと駆け飛んでいった。
察知されぬよう能力の使用を限界まで抑えつつ、それでいて最高の速度で。

―――



273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:55:09.17 ID:mbYW1UyQo
―――

がり、がりっと。

ナイフでアスファルトを削り取って、
レディが地面に術式を刻み込んで行く。

直径2m程の魔界魔術の魔方陣だ。

レディ「OK、ちょっと力流してみて」

ある程度刻んでは神裂が陣の中に立って魔の力を流し。
その動作を確認しては再び式を刻んでいくの繰り返しだ。

そしてその作業で手を動かしながら。

レディ「階層は特定したけど、その先でかなり高度な結界布いてるみたいね」

ふとレディがそう口にした。

神裂「結界も解けますか?」

レディ「不可能じゃないけど私アンブラの技知らないから、構造解析も0からやらなくちゃで5時間くらいかかるわよ」

神裂「…………では……同じ階層には一応行けるんですよね?」

レディ「どの道飛んだ先で結界に阻まれるけど」

ステイル「ここでモタモタしているよりはマシだ。それで頼む」

レディ「OK」



274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 00:56:45.53 ID:mbYW1UyQo
ステイル「結界か……上条がいてくれたら一瞬なんだがな……」

神裂「ええ…………」

レディ「ん、これでどうかしら。お願い」

そして再び、レディは神裂へ力を流してみるよう促した。

とその時。

ステイル「…………」

ステイルはふと疑問に思った。
なぜレディは自らが起動しないのか、と。

それだけならば特に引っかからなかっただろうが、
しかし神裂から先ほど、『五和も一応使える』と聞いたことによって強く違和感を覚えてしまったのだ。

五和が使えるのに、なぜこの最高峰の魔界魔術師は自らの手で起動させるのを避けているのか、と。

その思考が伝播して、ステイルも神裂と同じような表情を浮べて。

神裂「あの、聞いて良いですか?」

レディ「何」

神裂「なぜ、あなたが起動しないのです?」

レディ「ん?教わらなかった?これ常識なんだけど」

何のためにイギリスに雇われたのよ、とネロへ向けて呟いた後、
レディはまるで何でもないように答えた。


レディ「『普通の人間』が使うと、かっっっっなり危ないのよ―――天界の干渉が酷くって」


ステイル「―――て、天界の干渉?」


レディ「詳しくは知らないけど、『魔女狩り』の時の『検問』がまだ機能してるとかで、『連れて行かれる』場合もあるみたい」


神裂「―――」

魔女狩り、その言葉を聞いて神裂の表情が変わった。



275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:01:00.89 ID:mbYW1UyQo

レディ「普通に考えて、天界には魔女の力使う奴等を通してあげる道理も無いしね。
     連中は『魔女の全て』の根絶掲げてるし」

神裂「―――……」

『天界』に『魔女狩り』。

そして魔女の槍を持ち、魔女の技で飛ぶ五和。
この組み合わせで嫌な予感を覚えない訳がない。

その神裂とステイルの空気に気付いて、
レディが口を開きかけたが。


レディ「あー、…………もしかして誰k」


その時だった。


突如、三人から10mほど離れたところにて、
『別』の移動用魔方陣が出現した。
三者は即座に慣れた動作で身構え、その謎の来訪者を―――。


ステイル「―――!」


迎えた。



神裂「――――――五和!!!!」



276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:02:49.67 ID:mbYW1UyQo

現れたのは五和だった。
彼女は魔方陣の上に座り込み、
みるからに憔悴しきっって顔色も酷かった。

いや、酷いなんてものではない。
体力的・精神的、その上なにやら感情的にも荒んでいるようで、
それはそれはとにかく形容しがたい酷い表情をしていた。


神裂「五和!!一体何が―――!!」

そんな彼女を一目見てすぐに神裂が駆け寄ったが、
五和は別のことに強く意識を向けているようで、
しきりに周囲を何度も何度も見回して。

そしてまるで懇願するかのように、神裂にしがみついては。


五和「……上条さん?上条さん?!上条さんは??!!」


神裂「ッ?!ど、どうしたんですか五和?!」

五和「上条さんは?!来ていないのですか?!!」

ステイル「どういうことだ?上条は来ていないが」


五和「一緒に……はず……今まで一緒に……!!一緒に飛んだんです!!一緒に……!!!!」


レディ「………………………………」



277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:04:44.74 ID:mbYW1UyQo



神裂「―――つまり、上条当麻は天界の手に」


レディ「そう考えられるわね。あとこればかりは追跡もできないから。飛んでる最中に横から掻っ攫うなんて解析は無理」

ステイル「つまり、僕達はどうやっても彼に手が出せないということか」

ある程度五和を落ち着かせた暫しの後、
三人はそう確認し合っていた。

ステイル「しかしこれほどの危険を隠しておくとはな。魔女とはやはり随分と不親切なんだな」

レディ「アンブラの魔女って人間は人間でも普通の人間じゃないし、問題があるとは知らなかったんでしょ」

神裂「とにかく、上条当麻に関しては彼自身に任せるしか有りませんね」

ステイル「幻想殺しと悪魔の体、それにあのゴキブリ並みのしぶとさがあればまず死にはしないだろう」

神裂「ええ。私達も私達で行きましょうか」

表面上だけならばこの会話は冷たくも聞えるが、
だが根の部分は決してそうではない。


心配する必要が無い、つまり上条当麻を信頼しているのだ。


こんな時こそあの男の真価が―――。


―――無様で泥臭くとも、最終的に確かに成し遂げる『安定感』が発揮されるのだから、と。



278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:06:14.42 ID:mbYW1UyQo

そして二人はレディが完成させた陣の上に立ち。

神裂「五和、あなたは残りますか?」

五和「…………いえ……あの……」

しばし黙って落ち着いたのか、
五和は疲れを滲ませながらも、槍を手に力強く立ち上がって。


五和「……私もお供します」


そう神裂に言葉を返しては、
彼女の方へと駆け寄った。

彼女もまた、上条という男の『安定感』を自身の中で再確認して、
そして己の義務へと再び向き合ったのだ。


レディ「クソガキがここに来たらそっちに向かわせるから」

神裂「お願いします」

ステイル「すぐに頼む」

そんな言葉を交わした後、神裂の力によって魔方陣は起動、
三人は光の中に沈みプルガトリオの一画へと飛んでいった。



279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:08:02.11 ID:mbYW1UyQo

レディ「…………」

三人が消えた後。

レディはその場に佇みながらふと考えていた。
一つ、さっきから気になる事があった。


なぜ天界は上条当麻を、と。


俗に言われる魔女狩りのための検問に引っかかったのならば、
魔女の杖を持ち魔女の技を使った五和がまず連れて行かれるはず。


上条当麻には、魔女の全ての根絶よりも優先する何かがあるのか。

目的は幻想殺しか。


ただこの『魔女狩りのための検問』もデビルハンター間での所謂『噂』であるため、
これを元にしたら不確かな思考遊びの域を出ないが。

そもそもデビルハンターは、天界関係には特に興味が無いのだ。
いや、こういった方が良いか。

天界は面倒くさい、天界はネチネチしててウザイ、
だから皆関わるのを避けている、と。


レディ「…………あ」


とその時であった。

ふと気付くと、
いや実は、『彼』がこちらに近づいていたある時から気付いてはいたが。


レディが振り返った先に、白髪に赤目の少年が立っていた。



280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:11:20.32 ID:mbYW1UyQo

レディ「Hello」

レディはニコリと。
あまりに整いすぎて、
逆に警戒を扇いでしまうくらいの笑みと共に、彼にそう一言放った。

だが10m先の彼はピクリともしない。
ジッとレディを見据え、ありありとわかる警戒の色を全身から滲ませていた。

そう彼、

一方「…………」

一方通行は、レディの纏う只者ではない雰囲気を敏感に感じ取っていたのだ。
普通の人間であるのは確かなようだが。

その一方で覚える、この研ぎ澄まされた刃を突きつけられているような緊張感。

いや、むしろ相手が普通の人間であるせいで、
その力量を測りかねていた。

悪魔等ならば、相対した存在感でその力の格が大体予想が付く。
能力者だってそのAIMの濃度である程度の力の規模がわかる。


だが『ただの人間』となると。


ただの人間ならば、普通は脅威ではないと考えて良いのだが、
この女の場合はそうはさせてくれない。

その身から醸す強烈な緊張感が。


と意識するものの、別に彼が怖気づいていたわけではない。
必要があれば容赦なく全力で、一切の油断もせずに戦う準備はできていた。

ただその一方。

レディ「あ、もしかして」

一方通行の特徴的な容姿を一通り確認して、放たれたレディの言葉、


レディ「第一位のボーヤでしょ。ダンテから聞いたわよ」


それで少し安堵したのも嘘ではなかったが。



281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:13:23.02 ID:mbYW1UyQo

その言葉を受けて、
彼は体の緊張を解くように息を吐いて。


一方「………………まァまァ『その方面』のお方ですか」


ダンテ繋がりとなれば、この女の異質な『危うさ』もそれなりに納得がいく。
あの男の周りではただの人間でさえまともではないのだな、と。
まあそれも特に不思議では無いだろう。

レディ「レディ。ダンテの同業者兼パトロン」

一方「アクセラレータだ」

そして二人はその距離を開けたまま、
そう粗末な自己紹介を交わして―――だが。


お互いのことについての会話はそこで終わらざるを得なかった。

レディ「―――あ、」

一方「―――」

その瞬間、先ほど『五和が出現した点を中心』として周囲一帯に。


大量の悪魔が出現したからだ。


一方「チッ―――話すら聞かせてくれねェのか」



282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:14:17.65 ID:mbYW1UyQo

レディはその悪魔達の魔方陣を一目見て、
その性質を判別。

レディ「(追跡用、―――あの子の後を追って、か)」

どうやらこの大量の悪魔達は五和を追跡してここまで来たらしい。
ただそのような事情は後回しだ。

彼女は太ももからサブマシンガンを引き抜いては、
見るからに嬉しそうな笑みを浮かべ。


レディ「―――ねえボーヤ、こいつら全部お姉さんに『くれない』?」


それに対し一方通行は笑った。
歯をむき出しにして、これまたおかしくてかつ楽しくてたまらないように。

そしてこう返して。


一方「いいねェ、ンなノリは嫌いじゃねェ。だけどよ―――」



一方「―――悪ィが早ェもン勝ちだ」



一足先に悪魔達の中へと飛び込んでいった。


―――



283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:15:25.35 ID:mbYW1UyQo
―――
数日前から退避命令が出、現在立ち入り禁止となっている第七学区。

だがその一画にある『風紀委員活動第一七七支部』に今、
一人の少女が命令を無視して残っていた。



初春「………………」


頭には大きな花飾りに動きやすい私服とジャッジメントの腕章、
という格好の彼女は今、とある事情で机の下に隠れていた。

第七学区内に爆撃でも行われたのか、
先ほど凄まじい爆音が轟いては全てが激しく揺れ動いたからだ。

夕焼けを100倍にしたかのような熱気で、
しかも言い知れぬ強烈な不安感がを覚える光がブラインド越しから差し込み、
強化ガラスが数枚割れてしまうほどの荒れ様に。

彼女は椅子から転げ落ちるようにして机の下に潜り込んだのだ。


初春「………………」


ただこの凄まじい現象はそう長くは続かず、数十秒で収まった。
恐ろしく長く感じた数十秒であったが。

彼女は恐る恐る鼻から上を机の淵から出し、周囲の状況を確認した。

聞えるのはガラスの破片が散る音と、
割れた窓からの風で揺れる歪んだブラインドの音だけ。

それ以外は全く気配が無い、
先ほどの爆轟が嘘のようにシンと静まり返っていた。

ただ吹き込んでくる生温く焦げ臭い風が、
先ほどの爆轟が現実であったことを示していたが。



284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:17:49.88 ID:mbYW1UyQo

周囲のある程度の落ち着きを確認した彼女は、
もう少し身を上げて膝立ちし、
次に机の上のパソコンでシステムの確認。

初春「……よ、よし……大丈夫」

今の爆轟での障害は幸いなことに無かったようだ。

そして彼女はすぐに画面を切り替えて、
先ほどまで行っていた作業に戻った。

当然だが、爆轟に恐怖して机の下に隠れる『ため』にここにいた訳ではない。


大切な友人―――佐天涙子を見つけるためだ。


都市全体の保安システムのメインサーバーにアクセスし、
路上監視カメラの映像記録に顔識別で検索をかけ、彼女の携帯電話の電波から行動を辿る。

初春「…………」

本来彼女にはここまでの権限は無く、
平時であったら即アンチスキルが飛んできて捕らえられているだろう。
だが今は、この物騒な情勢が彼女に味方してくれていた。

そして数十秒後。

検索を急かすように机を指で叩いた彼女は、
その時形相を変えては画面に飛びつくように立ち上がり。


初春「―――いたッッ!!」


求めていた情報―――最も最近の佐天の足取りを手に入れた。



285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:20:17.89 ID:mbYW1UyQo

佐天涙子は第七学区のとある大きな病院に行っていた。
一般人は立ち入り禁止となっている『例の病棟』へと。

初春「…………」

この病棟についてはジャッジメントにも通達が来ており、
同僚達の間でもいくらか話題になったほど。

理事長権限による個別許可を必要とする最高度のセキュリティ、となれば当然異常なものだ。

更に去年からの一連の大規模な事件とも何らかの関係があるのではないか、とも、
アンチスキルやジャッジメント内では噂されていた。

なにせ同じセキュリティレベルの情報規制が布かれているのだから。


そしてそんな、いわくつきのセキュリティレベルの病棟に佐天が。


初春「―――ッ」


画面には今、この病棟入り口の監視カメラ映像が映し出されていた。

屈強な黒服の男が何人もいる厳重な正面ゲート。
そこに佐天がやって来、慣れた動作で身分証、指紋、網膜のチェックの受け。

彼女はそれらを全てクリアして。

これまた何度も訪れているのがわかる、
慣れた歩みで病棟に入っていった。



286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:22:33.24 ID:mbYW1UyQo

初春「―――さ、佐天さん―――…………?」

その一瞬、彼女は頭が真っ白になってしまった。

はっきり映っている、最高度のセキュリティのエリアに普通に入っていく佐天涙子。
データに手を加えた後も無い、疑う余地の無い映像。

信じざるを得ない証拠がそろっているのだが、それでも―――。

―――とその時。

『良くも悪く』も、その彼女の放心を解いてくれる出来事が起こった。


初春「―――?」

突然覚える妙な胸騒ぎ、悪寒と圧迫感。
まるで空気が鉛にでもなったかのよう。

そして急に騒がしくなり始めた外。
獣の鳴き声とも金属の摩擦音とも似た、恐ろしく不快な音が響き始めたのだ。

言い知れぬ恐怖を覚えながらも彼女は立ち上がり、
引き寄せられるように窓の方へと進んでいった。
さながら火に近づく夏の虫の如く。

そしてブラインドの隙間から外を覗いて。


初春「――――――――――え?」


彼女は見てしまう。


初春「――――――――――なに―――アレ―――」


道路を駆けビルの壁面を伝う、この世の者ではない大量の異形達を。
そしてその人間の視線を感じ取ったのか、異形達は動きを止めて皆一斉に。


振り向いた。


―――



287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:23:21.72 ID:mbYW1UyQo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。



288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/10(日) 01:42:14.31 ID:o4iD5/zV0
乙です。



290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県):2011/07/10(日) 11:03:55.61 ID:fKc9z3Vdo
過去にvipで読んだがまだ続いてるのか
>>1凄すぎる、書き手の鑑だな




294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/11(月) 17:25:28.14 ID:cmqrXVvIO
投下頻度と量が落ちない>>1は間違いなく悪魔



295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:16:10.52 ID:nlgopuJ+o

―――

まただった。
視界に映る光景が、想定していたものとは全く違っていたのは。

上条「―――…………!」

次に立っていたその場は、
先ほどまでいた魔界とは正反対と言えるような空間であった。

大気は柔らかい光に満ち溢れて空は澄み渡り、
豊かな草木と花に覆われた原。

光の粒がふわりふわりと宙を漂っており、
まさに『天国』、『楽園』という表現がしっくりくる幻想的な場所であった


上条「(…………今度はなんだってんだよ……五和は……?)」


しかしその居心地の良さに易々と身を委ねはせず、
警戒を強めたまま周囲を見回したが。

五和の姿を見つけることはできなかった。

上条「(……ッ……五和……)」

気配の欠片も感じず、
この身の全ての知覚がこう告げていた。

五和はここにはいないと。



296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:18:24.22 ID:nlgopuJ+o

一体何が起こったのかまるでわからない。

目的地であった人間界とは別の場所に来てしまっていた、
という点だけは確からしいが。

上条「…………」

魔を一切感じないことから少なくとも魔界ではないことは明らかか、
そして居心地具合からここは天界か、もしくはそれに類する場所であろうか。

いや。

ここに天界の力が及んでいるのは間違いないなかった。
上条は力の僅かな香りを敏感に捉え、記憶と照らし合わせてそう断じた。

天使となっていた神裂と同じ系統の香りがするのだ。

上条「…………」

ただその点については、とりあえず思考の隅に除けておくべきであろう。
今の第一は五和を見つけることなのだから。

まず五和がいないと人間界に戻れないであろうし、
そしてなによりも彼女自身のことが心配で仕方無い。

そんな焦燥に駆られながらも上条は冷静を保ち、
感覚を研ぎ澄ませて静かに歩を進めていく。

だがやはり、五和の姿は見えず感じず。

全ての感覚がむなしく彼女の不在を告げ続けていく。



297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:19:50.99 ID:nlgopuJ+o

そして更に強まる焦燥、その一方で。

上条「(…………なんだ……これ……?)」

上条はふと自身のおかしな感情に気付いた。
まるで当たり前のように心の一角にあるが、よくよく考えればここで抱くはずが無い感情を。


それは―――『懐かしさ』。


遠い昔にこの光景を見たような、
ここに立っていたことがある気がするのだ。

それもベオウルフの記憶繋がりではなく『上条当麻』自身としての、だ。

そもそも去年の夏以前の記憶は失っているのだから、
『遠い昔』と感じてしまうこと自体がおかしいのだが。

上条「―――」


―――と、その時。


彼の前方10m程のところ、
野の上の宙に金色の魔方陣が浮かび上がった。

そして左手を腰の拳銃に添え瞬時に身構える上条、
そんな彼が見据える先。


魔方陣の中から一体の―――天使が出現した。


初めて『本物』を『直』に目にする彼でさえ、
一瞬でそう断じてしまうほどのオーラを携えて。

―――いいや、本当に『初めて』なのだろうか。

その瞬間、上条は天使を目にした驚きの一方、
あの『懐かしさ』が更に強まるのを覚えていた。


まるで、古い『―――』に再会したかのよう―――に。



298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:21:33.10 ID:nlgopuJ+o

その天使は身長2m程で、鼻、目、口、耳のみならず全身の形状が人間と非常に良く似ていた。
ただ、『良く似ていた』のであって『同一』ではないが。

まずその体色が大きく異なっていた。
石灰岩の彫刻のように全身が白亜だったのだ。

まさしく彫像に魂が吹き込まれたかのよう。

そして金色の葉脈に似たベルト状の飾りが体を走っており。

また一見すると、袖が広がったフード付きローブを羽織っているようにも見えたが、
良く観察するとそれぞれが、体表面からそのまま布状に伸びた体の『一部位』であった。

上条「―――ッ」

現れた天使はふわりと野に降り立って、
その淡く金に光る『白亜の目』で彼を見つめた。

一言も発さぬまま、瞬きもせず。


上条「…………」


この時、上条はただ警戒するしかなかった。


天界側が自分をここに飛ばしたのか、
それともこちらが乗り込んでしまったのか。

この天使は出迎えか、それとも侵入者を見つけた番人か。

それらの思考が頭の中を目まぐるしく飛び交うが、
上条はあまり深く考えはしなかった。

必要ないのだから。
なぜならそれらの答えは、上条ではなくこの天使が示すのであろうから。


天使の次の動きが自身の置かれているこの状況を、
全貌とは言わずとも少なからずはっきり明示してくれるのだろうから。

そしてその上条の読み通り。

天使が次にとった行動が、この不可解な状況に一石投じるものであった。
その行動自体は上条の予想外のものであったが。



299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:23:10.68 ID:nlgopuJ+o

上条「―――?!」

次の瞬間、天使の体が急に縮み始めた。
そして形状も大きく変わってき。

透けたワンピースに厳しいベルト状の拘束具。
大きな外套にリード付きの首輪。

それらを身に着けた、小柄な少女の姿へとなった。
体色は変わらず白亜のままであったが。

上条「!」

その『シルエット』に上条は見覚えがあった。
『アレ』を忘れるわけが無い。


去年の夏、『御使堕し』事件によって人間の体に堕ろされた―――。


上条「―――ミ、ミーシャ??!!」


―――大天使『ガブリエル』。


あの夏の日に、地球表面の半分を焼き掃おうとした大天使だ。

すかさず警戒の色を強める上条、
一歩後ずさりしては、腰の拳銃のグリップを握り瞬時に引き抜こう―――としたところ。

『ミーシャ』は片手を挙げて首を小さく横に振った。
敵意は無い、意思表示しているかのように。



300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:25:09.39 ID:nlgopuJ+o

上条「…………」

それを見て、上条はとりあえず拳銃を引き抜くのを止めた。
相変わらずグリップは握ったまま、いつでも引き抜ける状態ではあったが。


そして次の動きを待つも、再びミーシャはこちらを見つめて沈黙。


上条「…………」

敵意は無いとすると、
律儀に次はこちらの動きを待っているのだろうか。

そう上条は推測しては、言葉を慎重に選び。

上条「…………俺の他にもう一人、女の子がいたはずだが?」

まずそう問いかけた。
『御使堕し』の際も会話はできていたのだから一応人語は通じるのだろう、
ミーシャは小さく一度頷いて。


上条「……どこだ?」



ミーシャ『人間界。無事』



301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:26:27.92 ID:nlgopuJ+o

上条「―――」

その瞬間、少し意表を突かれてしまった。
このミーシャが何事も無くさらりと、あの夏の時と同じ声で返答してくるとは。


それもはっきりとした『言葉』で、いいや―――。


上条が『それ』に気付いたのは一瞬後であった。
今ミーシャが発した言語は、人界のものではなく―――天界のものであった点に。

上条「(…………え?)」

なぜ、自分は天界の言語を―――理解できるのか。

魂を構成するベオウルフの部分によって、
魔界の言語が理解できたように―――なぜ?

上条「(どうなって…………これは……)」

懐かしいどころか、
まるで『故郷の言葉』のように天界の言語を理解してしまう自分。
そんな自身に対して上条は酷く混乱してしまった。

上条「そ、そうか……五和は大丈夫なんだな……」

動揺を悟られないよう、場を繋ぐように口を開くも。


上条「……あッ……そ、それにしても……ひ、久しぶりだな」


その言葉は全く隠しきれていない唐突なものであった。
そしてそれに対するミーシャの返答もまた。


ミーシャ『否―――』


上条の予想外のものだった。


ミーシャ『―――「今のあなた」と対面。初めて』



302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:31:23.26 ID:nlgopuJ+o

上条「?」

『初めて』。
会ったのは初めて、そうミーシャは告げた。

「今のあなた」としたところから、
人間の頃と悪魔となってからの自分を区別しているのだろうか。

だがこの解釈も異なっていた。

ミーシャ『「御使堕し」は不完全。意識は天界に残留』

ミーシャ『あなたと対面。私の力のみ』

上条「……」

言葉通りだとミーシャ、つまりガブリエルは、
「御使堕し」の術式が不完全だったために分離してしまい、
その力だけが人界に堕ちてしまった、ということか。

ミーシャ『「私」は天界にいた』

そしてガブリエルの人格に相当する意識本体は天界に取り残されていた、と。


上条「…………」

確かにそうとなれば、あの時のミーシャの行動もある程度説明つく。

最近になって聞いた天界の実像からすると、
ガブリエルがただ天界に戻るためだけにあんな暴挙に出るとは思えない。

だが力に宿る最低限の思念のみで動いていた、となれば、あの行動も充分説明がつくだろう。
いわばパイロットが突如消えてしまい、自動操縦に切り替わったロボットだ。



303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:33:54.63 ID:nlgopuJ+o

と、そんな過去まで遡って納得できたものの、
ミーシャが口にした「今のあなた」という表現だけは、
しっくりくる意図が見出せなかった。

上条「…………」

ただこれは今あまり関係ない話だ。
とりあえずこの疑問は思考の隅に置いて、上条は次の今重要な問いを放った。

上条「なぜ…………俺をここに?」


そしてその答えは三度。


ミーシャ『否―――私、否』


またもっとも予想外のものであった



ミーシャ『―――あなたが自分でここに』



上条「…………………何?」



ミーシャ『あなたが私を。―――呼んだ』



304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:35:08.80 ID:nlgopuJ+o


上条「―――は、はぁ?!」


ミーシャ『界境の「網」。それを利用した。あなたが』


上条「??!」


自分が『界境の網』を利用して―――ここに来た?
何かをした覚えなど無いし、そもそも『界境の網』自体が何なのか知らない。


上条「ま、待てっ……!そんなはずが……!!そもそもここはどこなんだ?!」


ミーシャ『プルガトリオ。天界の境の近層。「出陣の野」』


上条「プルガトリオ……」

瞬時にベオウルフの記憶から『プルガトリオ』の意味が浮かび上がってくるが。
しかし「出陣の野」なんて階層は覚えが無―――。


―――いや―――。


上条「…………出陣の……野……」


『知っている』。

はっきりと認識は出来ない。
濁った水槽越に見ているように、存在はわかるもイメージは全くまとまらない。

だが確かに記憶の中に『存在』している。


―――覚えているのだ。


そう意識した瞬間、
今まで覚えていた不思議な『懐かしさ』が一気に連結していき。



上条「『俺』は………………昔…………ここに立っていた……?」



305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:38:09.78 ID:nlgopuJ+o

ぼそりと。
そんな上条の独り言に、ミーシャはこくりと小さく頷いて。

ミーシャ『「昔のあなた」が』


ミーシャ『私達はここで。あなたを「見送った」』


ミーシャ『それが。あなたを見た最後』


上条「―――な、……何がっ……!待て!!これは……!!」


この時のミーシャの言葉はまさに、
先ほどの「今のあなた」という表現と対を成すものであろう。

だがそこが明らかになったといって、状況理解の役に立つわけではない。
むしろより一層、謎が深まり複雑に―――。


一体どういうことなのか。


上条当麻、ベオウルフから派生した悪魔、それらとは別にもう一つ、
己の内に今だ気付かぬ魂が存在しているのか。

そしてその『別の存在』に、ちょうど思い当たるものがあった。


そう、自身の右手の―――。


上条「―――……」


―――『幻想殺し』。



306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:39:49.49 ID:nlgopuJ+o

上条は自身の右手に目を落とした。
魔界金属生命体で形成された篭手、その下にある幻想殺しを。

そしてその右手をミーシャの方へと突き出して。

上条「ここにいたのは……お前が会っていたのは………『これ』……か?」

何が『これ』なのか、その理解が固まってはいなかったが、そう問うた。
だがこれにまた、ミーシャは横に首を振るう。


ミーシャ『否。ここにいたのは「あなた」』


上条「ちょっと待て……この『右手』ではなく、『俺』か?」


ミーシャ『そう。あなた』

上条「…………」

まるで意味がわからない。
もしや会話がかみ合っていないのかと思い、上条は自分の胸に左手を当てて。

上条「…………い、いいか、こっちにいるのが『上条当麻』」

次に右手を指差して。

上条「この右手にあるのが『幻想殺し』、またはその『源の何か』だ、いいな?」

そう丁寧に示して、ミーシャが頷くのを確認した後。
悪魔のベオウルフに会った事は無いな、と念には念を入れて。

そして満を持して問うと。


上条「どっちの『俺』がここにいたんだ?」



ミーシャ『―――上条当麻。「あなた」がここにいた』


上条「―――……」



307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:47:34.32 ID:nlgopuJ+o

はっきりと言われてしまったその言葉。
状況的にも、また悪魔の勘からしても、嘘を言っているようではなさそうだ。

ミーシャ『今は。この話はするべきじゃない』

とその時、ミーシャが『なぜか』この話を終わらせるべきだと告げた。
だがここまできてしまっては当然、上条は留まれない。



ミーシャ『―――あなたは今。やるべき事があるはず』



上条「―――いや……いや…………ちょっと待て!!」


極度の混乱に陥った上条に、ミーシャの制止も届かず。


上条「(『俺』が―――『上条当麻』が―――ここに?)」

正真正銘のこの『上条当麻』がここに来たことがあるのか、
だがいくら記憶を遡っても、具体的な情景が蘇って来ない。


異界の存在から関わるようなってから来た事は無い。
インデックスと『ベランダで出会って』、今に続くさまざまな経験の間も。

学園都市に『来る前』、地元にいた頃なんて当然―――と、そこまで記憶を遡って彼はようやく。



上条「―――――――――――――――――――――……ッ……え?」



そのとんでもない点に気付いた。



なぜ―――――――――覚えているのか、と。



特に何かの変化があったわけでも、前兆も無かった。

あまりにも唐突に、いつの間にかに。

昨日を思い出すのと同じように一年前、三年前、五年前を。


そこに当たり前のようにあった―――失ったはずの記憶が。


ミーシャ『だめ。だめ―――だめ』



308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:49:21.73 ID:nlgopuJ+o

衝撃があまりにも強すぎて、
それが『驚き』なのかどうなのかさえ判別できず。

上条の全感が一時的に機能を止めてしまう。

上条「あ゛ッ―――」

呼吸ができず。
鼓動も脈の流れも全てがとまるような感覚。

更に音も何もかもの知覚がぶつりと途切れて。


その無の中で、どくりと大きな鼓動が一回―――右手で響く。


上条はほぼ無意識のまま、反射的に右手を左手で押さえ込んだ。
その場に膝を付き、屈みこむようにして懸命に。
まるで何かの『出現』を遮ろうかと。

まさか―――ここでまた『暴走』か、そう、
僅かに保たれている意識の中で彼は思ったが。

そうでは無かった。

一気に悪魔の力が全身から引いていったのだ。

自身の身体能力が人間レベルにまで低下していくのを覚えて、
彼は確信した。


あれだ、あれがまた―――出る。




あれが―――――――――――――――『竜の頭』が、と。



その瞬間、上条ははっきりと存在を認識した。
発現は三度目だが、初めて『意識が正常』だった時だからであろう。


上条ここにはっきりと認識した。


自身の中に宿る『幻想殺し』―――その『源の何か』を。


その存在が、『上条当麻』の意志に反すように体内で蠢き―――表に噴出すのを。



309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:52:23.37 ID:nlgopuJ+o

だが。

『暴虐な竜』は出現しなかった。

上条「―――」

気付くと、暖かい小さな手が右手に添えられていた。

上条「…………」

顔を上げると、すぐ目の前にはミーシャが。

その顔は―――とにかく心が落ち着くものであった。

先ほどまで彫像のように無機質に見えていた顔が、
なぜだか非常に感情豊かに感じるのだ。

更に気付くと、まるで嘘のように『竜』は鎮まっていた。
魔の力も戻り体の調子も回復していく。

上条「…………」

そして大天使は、見上げている上条の頬にもう一方の手を添えて。



ガブリエル『―――焦ってはだめ、今は過去を振り返る時ではありません』



心が満ちた声色でそう告げた。
『なぜか』―――こうして触れているからなのか―――先ほどまでの無機質な声・ぎこちない喋り方とはまるで違って。



ガブリエル『―――見るべきは「今」―――重要なのは「未来」なのですから』



310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:56:54.18 ID:nlgopuJ+o

上条「………………あ……」

その言霊が体の芯に染みわたり、
竜によって汚された心を浄化していく。

上条の心はほぼ無、頭も何も考えず。
彼は跪き、ただただこの安寧に浸る。


ガブリエル『あなたの魂が必要とすれば、自然に記憶は戻るでしょう』


ガブリエル『そして必要の無き記憶はそのまま忘却の彼方へ。無用の苦悩しか産み落としませんから』


そしてガブリエルはまるで子守唄を口にするかのように。
安らかで美しい声で。


ガブリエル『それにしてもあなたが……「本当」にここに戻ってくるなんて』

ガブリエル『父も兄弟も皆、あなたの「お戻り」をお喜びになるでしょう』


と、そこで上条の右手から手を放しては、
今度は挟み込むように彼の頬に両手を添えて。


ガブリエル『―――しかし。ここはもうあなたの「家」ではありません』

ガブリエル『そして今―――あなたは立ち止まっていてはいけない』


戒めるように声を強くしてこう問う。



ガブリエル『忘れないで―――今のあなたの使命は何?』



無心となっていた上条は答えた。
無心だからこその嘘偽りの無い、魂が発する答えを。



上条「―――……あいつを…………インデックスを守るんだ……」



311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:58:30.78 ID:nlgopuJ+o

その答えを聞いて、心底嬉しそうにガブリエルは微笑んだ。

『インデックス』という少女がいかなる存在なのかは今や天界中に知れ渡っており、
当然ガブリエル自身も知っているにも関わらず、だ。


そしてこの美しい天使は上条の頬を愛おしそうに―――。


―――まるで、長い時を経て再会した『恋人』に触れるかのような手付きで撫でて。


ガブリエル『―――あなたはまるで変わらないのですね』


ガブリエル『噛み砕かれ飲み込まれ、溶かされ混ざり合って。
      1000代の人の生を越えてきたにも関わらず……あの頃そのまま』


ガブリエル『…………天界は……すっかりと変わってしまいました……』


と、その彼女の声がやや悲しみを帯びたその時。


けたたましい『鐘の音』が鳴り響いた。


それは天界の警鐘。
天の支配領域に、敵が侵入したことを告げる音―――。



312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 21:59:45.47 ID:nlgopuJ+o

上条「―――」

この耳障りな音は、安らかになり過ぎつつあった上条の意識を覚醒させ。
彼は跳ねるように立ち上がっては身構えて、周囲からの襲撃に備えた。

ガブリエル『―――』

ガブリエルはその音が響いた瞬間すばやく天を仰ぎ、
そして周囲に感覚を巡らせているのか、一回り見渡した。

上条「ッ!もしかして今の俺の言葉が……!!」

今や魔女を指すであろう『インデックス』という言霊が、
何らかの網に引っかかってしまったのか。


ガブリエル『いいえ、これは私達を指したものでは……』


ガブリエルはそう言うものの、
やはりここに長居するのは危険だと判断したのか。

ガブリエル『ここから離れた方が。私が門を開けますので』

その瞬間上条を中心として、
その足元にガブリエルが構築した金の魔方陣が浮かび上がった。

ガブリエル『行き先は、自然とあなたが望む場所へと繋がります』

上条「悪いな、助かるよ」

ガブリエル『一つ……伺っても?』

と、魔方陣の光が増して今にも飛ぼうという時、
ガブリエルがやや躊躇いがちに。


上条「……?」


ガブリエル『……本当に「私」を……―――「ここで会った私」を覚えておりませんか?』



313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/14(木) 22:00:31.85 ID:nlgopuJ+o

上条「―――……………………ああ、悪い。何も」

その答えを聞いたガブリエルは。
あの日宿った人の姿をかたどった天使は、明らかに悲しげに俯いた。

だがそこで上条はぽん、と、そのガブリエルの頭に右手を乗せて。


上条「でもよ、『俺が必要とすれば』自然に思い出せるんだよな?」



上条「だったら―――『時間の問題』さ」


そう、少しからかうように笑いかけた。

その言葉を受けて一転、再び明るくなるガブリエルの顔。
大天使は顔を挙げて、その非常に嬉しげな笑みを上条に向けて。


ガブリエル『さあ、あの頃と同じく、「あの日」と同じく、求めの声に―――祈りの声に応じて』


そして陣を起動して。



ガブリエル『行きなさい――――――愛する存在を救うために』



上条「―――ああ、救ってみせる」



彼を『再び』見送った。


―――



325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/17(日) 23:57:14.28 ID:kM5YHuUEo
―――

魔界の淵、延々と続く鉛色の荒野にて。

ネロ「…………」

とある岩場の上にネロが座していた。

辺りには『熱気』とでも言えるか、身を焦がすような戦いの残り香が立ち込め、
地面には巨大な溝が幾本も穿たれている。

ネロの見下ろす前方には、『巨狼の首』が無造作に転がっていた。
かろうじてまだ生きてはいるも死は時間の問題。

アスタロト配下のネビロス、その僕である大悪魔グラシャ=ラボラスは今、
その生涯を『緩やか』に閉じようとしていた。


グラ『―――さすがはスパーダの孫。強いな。最強たる刃が我が最期とは、豪勢なものだ』


ネロ「アスタロトを呼べ」

そんなグラシャラボラスの呟きなど無視して、
ネロはブルーローズの銃口を向けて今までと同じように要求した。

そしてこれまた同じように拒否するだろうと見越して、引き金を軽く絞りかけたところ。


グラ『―――良いだろう』



326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/17(日) 23:58:23.22 ID:kM5YHuUEo

グラ『しばし待て』

巨狼の生首はネロの要求を二つ返事で受け入れて、
通信を試みるためかその目を閉じた。

ネロ「………………へえ」

これは予想していなかった答えであった。
この殴り込みで狩った大悪魔は、グラシャラボラスで11体目。
前の10体と同じようにこの大悪魔もまた、
要求拒否すると思っていたのだが。


ただ、当然要求を受け入れただけで全て良しとするわけでは無い。

グラ『…………むん、声が届かんな。無理だな』

ネロ「そうか」

そして再び引き金を絞り始めるネロ。
と、そこでグラシャラボラスがやや早口でこう続けた。


グラ『行き先はわかる。魔女を喰らうために人間のメスを追いかけている』


ネロ「…………ああ?魔女?」



327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:00:04.38 ID:4j8u6dRPo

そこでネロは簡単な説明をこの生首から聞いた。

魔女の匂いを纏った幻想殺しと人間のメスが現れ、
アスタロトは一部の部下を率いてその後を追っていったと。

ネロ「(…………上条か……)」

興味のない『タダの人間』の容姿など全て同じに見えるのだろうか、
グラシャラボラスの『人間のメス』についての説明は要領を得なかったものの、

ベオウルフの力を持つ幻想殺し、
つまり上条当麻が現れたことは把握するできた。

そしてネロは続けて問う。

ネロ「それでどこに行った?」

グラ『わからない』

ネロ「わかるって言わなかったか?」

グラ『強いて言うならば、行き先はあのメスと幻想殺しのいる場所だ』


ネロ「……ああ、そういう事か」


つまりここから先はこちらの作業、
アスタロトを追跡するのはご自分でというわけだ。

ただ、ここまでのように当てずっぽうに暴れまわっているよりは、
随分とマシだろうが。

そうして、
用済みとなったグラシャラボラスの息の根を止めようと三度引き金を絞りかけた時。

ネロ「…………」

ネロはふと、とあることを思いついてまたその手を止めた。

その思いつきは、グラシャラボラスの『姿』からの安易なイメージではあったが、
悪魔の形状はその本質に強く影響されるもの。

あながち間違ってもいないであろう。


ネロ「―――お前、鼻が利くか?」



328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:02:37.95 ID:4j8u6dRPo

そのネロの意図を悟ったのだろう。

グラ『…………望むのならば喜んで』

『数手』先の答えを返すグラシャラボラス。

ネロ「…………いや待て、自分で言ってアレなんだが、悪いが信用できねえ」


グラ『我はお前の力に屈した。それで充分では?』


ネロ「ハッ……」

悪魔にとって力が全て。
力こそ最も確かで信頼に足る指標。

そう、確かにそれで。


ネロ「―――充分だな。ああ」


そしてネロがそう意識で認め、求めた瞬間。
グラシャラボラスの消失していた首から下が、『赤黒い光』と友にみるみる再生していく。

ネロ「…………」

ネロはブルーローズを腰に戻しては、
その己の力を受けて再生する『使い魔』を眺めた。
思えば悪魔を使いにするのはこれが初めてだ。

前から、ダンテから便利だとは聞いてはいたが、
今まで何だかんだで悪魔を従属させることは無かった。

ただ、別に拒否していた訳ではなく、特に機会が無かっただけ。

そしてまさにこれはいい機会であろう。
グラシャラボラスもその力は申し分の無い存在だ。



329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:03:53.49 ID:4j8u6dRPo

ネロの力で再び体を手に入れた巨狼は一度、
まるで犬が水を掃くように体を大きく揺さぶった後。

グラ『魔具か?それともこの姿のままか?』

ネロ「あー、魔具だ」

すると瞬間、巨狼の姿が光となりネロの体へと向かい、
そしてネロの意向に従った魔具となった。

その形状はネロの両足、黒く光沢のある厳めしい『脛当て』。
ネロはふんと鼻を鳴らし岩場から飛び降りた。

そしてレッドクイーンを肩に乗せて。

ネロ「ところでだ、なぜ俺にここまで協力的に?」



グラ『お前はスパーダに似て「良い香り」がする―――「女狼」とはいえ惚れても仕方無いだろう?』



ネロ「(……ああ、こいつ……『メス』かよ……)」


グラ『さあて、外道の我が「元」主を追跡しよう』


―――



330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:08:34.77 ID:4j8u6dRPo
―――

どうやら下等な連中ばかりらしく、ベクトル操作のみで充分だった。

一方通行は通りの真ん中に悠然と立ちながら、
その能力で悪魔の10体20体を纏めて吹き飛ばしては、肉塊に変えていた。

一方「…………」

先ほど、ノリの良いダンテの同業者との掛け合いののちに
意気揚々と飛び出したは良いものの、実際はあまりにも拍子抜けであった。
まさに雑魚が集まった烏合の衆だ。

こちらから手を出すまでも無く、
反射された自分の攻撃で勝手に死んで行くほど。

一方「…………」


それにまた、どういうことか随分と悪魔達が消極的だった。

大半が威嚇してくるのみで、実際に攻撃してくるのはごく一部。

去年、初めて悪魔と接触したあの騒乱の時とはまるで違う。
あの時の悪魔達は、こちらの姿を見ては見境無く群がってきていたというのに、
今対峙している悪魔達は逆にこちらを避けているよう。



331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:09:42.61 ID:4j8u6dRPo

一方「…………」

この様子の違いの理由などわからない。
推測はいくらでもできるが、確実性を付加できる程の知識は持ち合わせていない。


ただ、それ以前に悪魔達の事情など知ったことではないのだが。


消極的であろうがこちらに攻撃の意志を示して、
そしてこの街に侵入している時点で明らかな『敵』だ。

目に付くのを片っ端から全て排除していく理由はそれで充分だ。

一方通行は容赦なく悪魔を殺しつつ、
『ちょうど良い機会だ』とばかりに意識を更に自身の感覚へと集中させていく。


一方「―――………………」


実はもう一つ、先日から試したかったことがあるのだ。

去年からの一連の中で手に入れた、
既存の能力を越えた『知覚』―――その『力そのもの』を認識する感覚を使って、

『対象の存在』そのものを直に知ることができるのではないかと。

簡単に言えば、力の圧を感じることが出来るこの両手の機能を、
更に拡大させようということだ。


そしてその新たな『知覚』に集中していくと、
狙い通りに一帯の状況が『見えてくる』。

近くで暴れているダンテの同業者と悪魔達の数・その分布、
さらにその外側、封鎖されている第七学区外の大量の人間までも。


それらの―――『魂』と言えるか、そうした存在がはっきりと。


能力者達と悪魔達が形成するそれぞれの力の『フィールド』も。



332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:11:20.59 ID:4j8u6dRPo

一方「…………あァ?」

と、その時だった。

彼は『それ』を見つけた。


この第七学区にぽつりと、『単独』でいる人間の存在を。


『例の病院』の関係者を省けばこの学区に人は入れないはず。
それにこの人間は病院とは正反対の地域におり、単独という事もあって関係者には思えない。
AIMの濃さからすると、能力者ではあるがレベルは1程度の無いようなもの。


となると、普通に考えて『一般人』だろう。


一方「…………」

そしてその人間の置かれている状況は、悪魔達のど真ん中というまさに絶体絶命。
いくらこの悪魔達は消極的とはいえ、攻撃を一切仕掛けてこないという訳ではない。
襲ってくる個体が10割であろうが1割であろうが、一般人からすればとてつもなく脅威なのは変わらない。

では、どうする。

一方「…………」

一方通行はそう長々と考えなかった。
そう、このような状況で「どうするか」など愚問だ。


ダンテや上条ならどうするか。


―――決まってる。


一方通行は能力を使い一気に跳躍し、その人間の下へと向かっていった。

置き土産でもしていくかのように、
行きがけにとりあえず目に入る悪魔達を潰しながら。

―――



333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:13:09.00 ID:4j8u6dRPo
―――

その時、街が大きく振動した。
まるで水面に映る像が波紋で乱されるように、景色が『波打って』いく。

レディ「(……へえ)」

レディはそんな人間界の歪みをはっきりと感じ取っていた。
バイクをかっ飛ばしては、サブマシンガンで魔弾をばら撒きながら。

レディ「(裏側でもデカいドンパチしてるのね)」

ついさっき送り出したステイル達なのかはわからないが。
プルガトリオの人間界に近い階層にて強力な力が激突し合い、
そして今、一際大きな力が放たれたようであった。

まるで『巨大な槌』で叩きつけられたかのような重い衝撃が、
この人間界にまでこうして伝わってきている。

ただレディとしては、
そちらよりも気を向けなければならない目下の問題があった。


突如出現した下等悪魔達だ。


レディ「(……)」

前方に飛び出してきた勇敢な悪魔を轢き殺して、
彼女は頭を切り替えて再びこの問題に意識を向けた。



334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:14:57.68 ID:4j8u6dRPo

この悪魔達の行動を見る限りまず確かなのは、
『今』は人間界を襲うためにやってきたわけではなさそうだ。

レディの姿を見た瞬間は一時の衝動に駆られるように襲い掛かってくるも、
過ぎ去った後は追っては来ない。

いや、それどころか実際に攻撃してくるのは一部で、大半が威嚇行動のみ。

レディ「(…………これは『軍』ね)」

その秩序だった群れを見てレディは確信した。
この群れは上位の意志の完全統制下にある、そう、まさしく『軍』だ。

レディ「(……)」

では、この軍の目的は。

バックにいるであろう絶大な力を有す大悪魔は何を狙っている?

レディはさらに集中して悪魔達を観察し、
群れを統率する意識、その『糸』をたぐり目的を見定めていく。


レディ「(…………何か……)」

すると悪魔達の中にちらほら見える、
威嚇どころかこちらを完全無視してなにやら不振な行動をとる個体。

力の残滓をだろうか、あちこち嗅ぎ回っており何かを探しているようだ。



335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:16:50.62 ID:4j8u6dRPo

『攻撃してくる一部』に該当する、
跳びかかって来た悪魔の頭部を切り詰めたショットガンで吹き飛ばしながら。

そこでレディはあることを思い出した。

この悪魔達が現れた時、
その魔方陣はそろって追跡型のものであったことを。

そしてもう一つ、五和というあの魔術師が現れた点を正確に中心として、悪魔達が到来したのを。

レディ「(あの子か)」

バイクで跳ねて悪魔を飛び越え、
後輪で叩き潰しながらレディは思考を繋げていく。

五和を追って悪魔達はここに来た、
だが悪魔達はすぐに五和を追おうとせず、ここで何かを探している。

つまり五和を追ってはいるが目的は五和ではない。

となると『五和が行く先』にあるであろう何か、もしくは何者かに用があるということだ。
そしてここに目的のものが無いとすれば当然―――。

レディ「(…………)」

そこまでレディの思考が帰結したとほぼ同時に、
ちらほらと悪魔達が『次の場所』へと飛び始めて行く。

同じく追跡用の魔方陣で。


レディ「……ま、がんばって」


通りすがりに悪魔を跳ね飛ばしながらレディはそう小さく呟いた。
プルガトリオの一画に先ほど飛ばしてやった、あの三人の若き戦士達へ向けて。

―――



336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:19:25.14 ID:4j8u6dRPo
―――

『槌打たれた』ような人間界への衝撃をレディが覚える前、
遡ること『数十秒』、プルガトリオの人界近層にて。





禁書『…………』

相手は強大、総合的に見れば明らかに上。
それは分身である彼女自身がはっきりと自覚している。

しかし。

それでも退いてはならぬ時がある。

いいや、退くことができない時がある。

納得できぬのならば、目を背けて耐え忍ぶこともできぬのならば、選択は一つ。
この少女も遂に、武力を手に抗うことを決意した。

己の姉妹、己の分身―――そして『過去』を含む『己の全て』をここで清算し、己の望む未来を手にするために。


この戦いは果て無く厳しいもの。
しかし幸いにも、今の彼女は一人ではなかった。


禁書『…………』


またがる体の下にいる友―――この白虎。
そしてその力の根源、『主契約悪魔』―――上条当麻がついていてくれる。

彼女は白虎の背に身を預け、その柔らかい体毛越しの温もり、
そして己が身の内にある上条当麻との繋がりを再確認して。


禁書『行くよ―――スフィンクス』



              前に!
禁書『―――ZACARE!』



337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:21:05.05 ID:4j8u6dRPo

その詠唱の一声で、周囲の宙空から出現する大量の『青』のウィケッドウィーブ。
大通りもろともを覆い尽くす勢いで一気にローラへと伸びていく。

インデックスの狙いは至極単純、足りぬ技術の差は力の量で埋め、
そのパワーで一気に圧倒してローラを取り押さえることだ。

ローラを殺すことはまず避けなければならない。
殺してしまうと『分身』であるために様々な弊害が生じることが予想されるのだ。

二人はもともと絶妙なバランスの上に存在しており、
その均衡が崩れてしまうと死ぬ事は無くとも『精神体』が破壊されてしまう可能性が高い。

己が精神ではなく『プログラム』に従っているローラからすれば、
それは大した問題ではないかもしれないが。

インデックスとしては大問題だ。


なにせ彼女にとってこれは、『インデックス』という人格のまま『生きるため』の戦いなのだから。


と。
殺してはならない、というわけだが、状況的にはそんな事を気にする余裕など無かった。

殺してはならないが、殺す気で向かわないと―――いいや、
『こうして』殺す気で本気で向かっていても実際は足りなかった。



338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:22:31.62 ID:4j8u6dRPo

逃れる術など無いようにも思えたその青髪の包囲は、
ローラに一蹴されてしまっていたのだから。


先日、三人の少年を瞬時に押さえ込んだインデックスのウィケッドウィーブ。

最小限の力と最速の動きによって手足を繰り出しては、
ローラはそれを次々と束ごと弾き飛ばしていく。

それも余裕に満ち溢れて、舞っているかのように美しく妖艶に。

そして更に。

これもまた、アンブラの戦闘術の大きな特徴の一つ―――防御と同時に攻撃も繰り出す。

禁書『(―――)』

放たれてくる魔弾。
林立する青髪の中を抜けて、インデックスめがけて真っ直ぐに。

瞬時にスフィンクスが姿勢を低くして横に飛んだため、
魔弾は彼女の頬わずか数センチのところを掠め飛んでいった。


禁書『(―――)』


それは紛れも無く、彼女の頭を吹き飛ばそうとした一発。

わかってはいたものの、
彼女はローラの意志を再確認させられてしまった。

                                コワス
ローラは本当に―――こちらを一度『殺す』つもりなのだと。



339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:24:07.55 ID:4j8u6dRPo

インデックスを乗せ、猛烈な勢いで横へと回避行動をとるスフィンクス。
大通りやビルの壁面と屋上を跳び駆け抜けていく。

その後を追って、紙一重のところを突き抜けていく大量の魔弾。

これではどちらが攻勢なのかまるでわからない。

絶え間なく大量のウィケッドウィーブが伸びてローラの姿すら見えなくなっているのに、
同じように絶え間なく、青髪の間をすり抜けて魔弾が放たれてくるのだ。

いや、もはや『すり抜け』すらしていない。

林立するウィケッドウィーブをまるごと貫通してくるのだ。

禁書『―――』

力の量は多くとも、一点の一点の力の密度は到底及ばない。
アンブラの精鋭が放つ超密度の魔弾の前に、素人の『スカスカ』のウィケッドウィーブが盾になるわけもなく。

青い髪の束は次々と、まるで鉄筋ワイヤーのような音と動きで弾け切れていく。

しかもその狙いも徐々に正確に、スフィンクスの動きを完全に予測しつつあった。

禁書『―――ッあ!!!!』

そして遂に、修道服に接触してその二の腕あたりを引き裂いていく魔弾。
体には直接触れなかったも、
力の圧によって体ごと引っ張られ―――スフィンクスの背から落とされそうになってしまった。

そこで、思わずスフィンクスが足を緩めかけたが、
彼女は懸命にしがみ付いて。

禁書『―――とまっちゃダメ!!!!』

その声に鞭打たれてスフィンクスが逆に加速した直後。


三発の魔弾がここぞとばかりに同時に放たれてきた。


スフィンクスの頭部とその腹、そしインデックスの胸。
あのまま『速度を緩めてしまっていた先』にある、それらの『未来位置』へと正確に。

今しがたスフィンクスが加速したために、その三発の命中は避けられたものの。
一発がこの白虎の右脇、そこの肉の一塊を抉っていった。



340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:28:51.31 ID:4j8u6dRPo

禁書『―――!!!!』

一瞬で白虎の胸から腹が真っ赤に染まり、
溢れた大量の鮮血が航跡のように地面に尾を描いていく。

唸り身を激しく震わせるスフィンクス。

禁書『スフィ―――!!』

しかし傷を看るどころか心配する暇すら許されず。

瞬間、彼女は『検知』した。
ウィケッドウィーブを集中させているところからローラが『消えていた』のを。

そして次の瞬間、真後ろに突如覚える強烈な圧。

思わず振り返るとそこには。


禁書『―――』


僅か3mの至近距離に、ローラ=スチュアートがいた。


アンブラの戦闘装束に包まれた体をしならせて―――その美しい足を天高く掲げて―――。


―――かかと落しで今にもインデックスの頭をかち割らんと。


だがその一振りは紙一重のところで避けることが出来た。
刹那に、スフィンクスが瞬時に後ろ足を踏み切り回避したからだ。


ローラ『―――YeeeYA!!!!』

アンブラ式の掛け声と共に放たれるかかと落し。

ウィケッドウィーブと魔弾がセットの一振りにして三撃の凶悪な足、
それが一瞬前までスフィンクスが立っていた場を切り裂き破壊。

一瞬にして大地が陥没し、更に周囲のビルをも巻き込んで沈めていく。



341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:30:28.14 ID:4j8u6dRPo

だが当然、ローラの攻撃はここで留まらない。

魔女の技は常に連動する。

一つの攻撃を放つとき、それは次の攻撃の『溜め』の動作であり、
そして更に次の攻撃の準備動作、それがアンブラの戦闘術。


すかさずローラは前へと踏み込み―――放つは逆の足による正面蹴り。


そしてそれと同時にスフィンクスも動いた。
咆哮を上げてローラの方へと振り向きながら、白虎は薙ぐように前足を振りぬく。

瞬間、その前足に出現する銀の光で形成された『篭手』、そう、上条当麻―――ベオウルフの力と瓜二つの。
そんな光り輝く白銀の前足は、ローラが放った蹴りを横から叩き弾いた。


力と力の摩擦により、凄まじい衝撃と共に火花状に飛び散る光の粒。


禁書『―――』

衝撃は凄まじく、スフィンクスの背にいるインデックスの体、
筋肉、骨、力、魂までもが大きく振るえ軋む。

禁書『―――ッ!!!!』

そして痛烈に響く痛み。

思わず顔を歪めたインデックス以上に、
直に受けたスフィンクスは悲痛な咆哮を挙げるも、この体は一切怯む事無く。

続けて繰り出されたこれまた凄まじい回し蹴りを、
白虎は再び前足で弾く―――。



342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:32:24.64 ID:4j8u6dRPo

それはそれは凄まじい激突であった。

白虎たる姿のスフィンクス、その鋭い爪はインデックスの有り余る魔の力と上条―――ベオウルフの力を性質をベースとした、
とてつもなくパワフルなもの。

だが正式な戦士、それもアンブラ最精鋭たる近衛魔女の攻撃はとてつもなく重い。
瞬間的なパワーはこのスフィンクスをも優に上回り、一撃一撃がまるでさながら破城槌のよう。

一撃ずつ弾いたスフィンクスの両前足は、はやくも共に真っ赤に染まり上がっていた。

禁書『―――!!』

続くローラの打撃をスフィンクスは下がりつつは回避して弾くも、
既に限界が見えている。


そう、インデックス達は今や追い込まれていたのだ。


何度も重なっていく激突と衝撃。
それにつれて、徐々に勢いが弱まっていくスフィンクス。

このままではいずれスフィンクスの前足はもぎ取られてしまう。
そして最終的に二人ともローラに狩られてしまう結果に。

まさにこの時、状況を打開する一手が必要であったのだが。
今以上の使える『魔女の技』のなど無かった。

使用できる『魔女の技の中』でもっとも協力なのが―――ウィケッドウィーブだったから。
そう、もはや既に破られている技であったのだから。


―――だが、『魔女の技の中』では、だ。


実は彼女には別の裏技があった。

アンブラの叡智を秘めた主席書記官である上に、
イギリス清教が保有する魔術図書館であったが故に可能な裏技が。



343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:36:42.86 ID:4j8u6dRPo

魔の力は有り余っているのに、
アンブラの戦闘術式は非戦士が使えないものばかり。


また天界魔術も当然使えない。
今やもう『魔女』であるために力の供給は受けられないのだから。

だが、これを言い換えれば次のようになる。


アンブラの戦闘術式は使えられぬも―――『使える』魔の力は有り余っている。
天界魔術は力の供給は受けられぬも―――術式自体は『使える』。


そう、彼女の考えるところとはつまり、
魔と天、双方の『使える点』を組み合わせてしまえというものだ。

魔の力で天界魔術を起動させる、
それはもちろんかなり強引で難しいことではあるが、何もしないよりは万倍もマシだ。

それに今となっては理論上、
本来は使用が許されていない規格外の術式だって使える。

普通の人間では耐えられなくとも、この―――魔女の強固な魂なら容易に耐えられる。

インデックスはすぐさま、頭の中の書庫を検索し―――『とっておき』の術式を選ぶ。

一撃で最大級の威力を誇り、確実にローラ=スチュアートを行動不能にできる一手、
本来、人間程度では到底扱えない技を。


そしてアンブラの技術で魔の力で機能するよう、やや強引に修正して―――使える限り全ての、ありったけの力を注いで起動した。


すると次の瞬間、インデックスが掲げた右手に、迸る『稲妻』と共に出現する―――。



―――『片手用のハンマー』。



344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:39:33.72 ID:4j8u6dRPo

そのハンマーの柄の長さは20㎝ほど、頭部は非常に肉厚の長方形型で幅30㎝程度。
特に装飾が施されていない、鉛色の無骨なものであったが。

放たれる圧はとてつもなく。

否応無くローラの視線もそのハンマーに向かう。

ローラの『目』もインデックスと同じだったのであれば、一目見てこのハンマーの正体を判別できたであろう。
そしてすぐに『対処するため』の手をとっていた筈だ。

だが、そうでなくともローラは非常に知識が豊富。
ローラの目に触れる時間が長ければ長いほど、見破られる可能性も増す―――いや、最終的には必ず見破られる。

つまりこれより、ローラの目に一瞬たりとも多く触れさせてはならない。
ハンマーの正体に気付かれないこと、それが成功の条件なのだ。


そこですぐにインデックスは白虎の背中から。


禁書『―――やァッ!!!!』


ハンマーを至近距離のローラ目掛けて『放り投げた』。

ただ放たれたその勢いは、お世辞にも『凄まじい』とは言えなかった。
確かに普通の人間からすれば目視できない速度ではあったが、ローラからすれば明らかに『遅い』。

戦士としての教育を受けていないインデックスの投擲は、
到底アンブラ戦士に『正面から』通用するものではなかった。

ローラは小首を掲げるようにひょいと。

その力は強烈でも『鈍速』なハンマーを余裕たっぷりにやり過ごし。


続けてスフィンクスへ継続して打撃を叩き込もうとしたその時―――。


ローラ『―――……ッ』


―――ローラの顔色が変わった。

彼女は感じたのだ。

背後から『戻ってくる』強烈な圧を。
それもみるみる、恐ろしい勢いで爆発的に『加速』して―――。



345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:42:07.02 ID:4j8u6dRPo

スフィンクスの前足をひときわ強い打撃で弾いて、後方へ半身振り返るローラ。
その目に映るは、『巨大な稲妻』を伴って戻ってくる凄まじい力を有するハンマー。


禁書『(――――気付かれ―――?!)』


一方のインデックスははっきり見てしまった。

ハンマーの『特徴的』な姿を見て、驚きから―――『確信』へと変わるローラの横顔を。

間違いなくローラはハンマーの正体に気づいたのだ。


とその時。


失敗の二文字がインデックスの頭を過ぎったその直後だった。

インデックスの腹部に突然スフィンクスの尾が巻きつき。
そのまま持ち上げて―――彼女を脇へと放り投げた。

禁書『?!』

突然のスフィンクスの行動に、当然彼女は驚いたも、
その理由もすぐに悟ってしまった。


禁書『――――――だm!!!!』


そして今だ宙を舞う中、彼女が制止を命じかけるも遅かった。



スフィンクスは既に―――ローラに飛び掛っていた。



346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/18(月) 00:44:22.95 ID:4j8u6dRPo


ローラ『―――!!!!』

当然ローラは容赦なく攻撃を放った。
この獣の相手をしている場合ではないのだ。


こんな獣に組み付かれたままでは―――。


だが白虎は決して離れなかった。

魔弾で腹部や足を飛ばされても。

そしてその一瞬の時間稼ぎの間に、ハンマーは『戻ってきた』。



その槌の名は―――『ミョルニル』。



『オリジナル』は、北欧神話最強の一柱―――アース神族の『トール』が使ったもの。

ローラ『このッ―――!!!!』

ヨルムンガンド以外の敵全てを『一撃』の下に屠ってきた圧倒的な威力を持ち。



一度放られれば『必ず』標的へと―――命中する。



そして魔の力によって形成されたこの偶像もまた、
そのオリジナルの謂れ通りの性能を発揮した。


禁書『―――あァああ゛ァッ―――!!』


無骨なハンマーはローラのわき腹にめり込み、
その骨と臓物を粉砕して。


そのまま吹っ飛ばしていった。


スフィンクスもろとも。

―――



365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:01:23.58 ID:nkf7uOmVo
―――

三人が見ていたのは、先いた場と同じ学園都市第七学区の街並み。
だが全て同じというわけでもなく、いや、同じどころか実はかなり違う。

街並みの像はぼんやりとし、
まるで水の中にいるように実体感無く揺らめいている。
場の空気もまた同じく虚ろ気なもの。

ステイル「…………」

五和「……」

実際に訪れたのは初めてであったものの三人は確信した。
ここがプルガトリオだと。

神裂「……」

そしてレディは正確に、
インデックスがいるであろう階層に送り届けてくれたようだ。

彼女の存在をはっきり感じるのだ。
同じく相手のローラ=スチュアートのそれも。

両者とも莫大な力を放っていることから、
激しい戦闘状態にあるということも知れた。

ただ。

そんな状況を把握しても三人はその場から動かず、
それぞれ難しい顔をして押し黙っていた。

レディが言っていた『結界』、それのおかげで、
インデックス達を『直接認識』することができなかったのだから。



366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:04:04.73 ID:nkf7uOmVo

インデックスとローラの力をはっきりと感じる。
しかしその存在を明確に認識できない。

いるのはわかっているのに『どこにいるのかわからない』
あるのはわかっているのに『見えない』し『触れない』。

ステイル「…………」

閉鎖的な空間でも設けているのか、
それとも『人払い魔術』に似たものでこちらの認識に干渉でもしているのか。

どちらにせよ、結界を結界だと認識できない三人には、
この障害を越える手立てを簡単には見つけられない。

神裂「……………………」

そしてこの難題に思考を費やす時間も無かった。
状況は刻々と変化していく。


その瞬間、インデックス周辺に超高圧の莫大な力の塊が出現。


ステイル「―――なっ」

続けて三者がそれを覚えてすぐ、間髪入れずにその力の塊は炸裂。
圧でこの階層の風景が目に見えて歪み、
物理的な衝撃が建物を『真上』へと粉みじんに吹き飛ばしていく。


さながら地面の『裏側』から巨大な『ハンマー』で打ちつけられたかのよう。

すさかず神裂が五和に寄り添って、その体からの光で包んで守っため彼女に怪我は無かったが、
この階層の街並みは一瞬で破壊一色となってしまった。



368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:06:51.38 ID:nkf7uOmVo

やはり人間界に似ていても根は別世界、
壊されたこの階層は奇妙な様相を見せていた。

落ちることなくその場に浮遊し続ける瓦礫や、
ゆっくりと割れてはふわふわと上昇する地殻の欠片などなど。

しかし当然、三者にとってはその光景に気を留めている場合ではない。

ステイル「ッ!!―――今のは!?」

場が大きくかき乱されていて、
インデックスの力もローラのそれも認識できなくなっていた。


神裂「―――……うっ……!!」


そしてここで更に。


状況はこれでもかとばかりに次々と畳み掛けてくる。

その時三人の周囲を取り囲み大量に、
この奇天烈な荒野中に魔方陣が浮かび上がり。

神裂『―――ああぁあ次から次へと本当に!!本当にッ!!本ッ当にィィッッ―――!!』


うんざりの極みに達した神裂の声と同時に、大量の悪魔達が出現した。



神裂『―――こんのタイミングで来てんじゃねぇぇーッッよドブネズミ共がッッ!!!!』



ステイル『まったく困るね!!僕の主をキレさせてくれるとは!!!!』


すかさず全身に紅蓮の業火と光を纏うステイル。
同じく七天七刀の柄に手をかけて戦闘態勢となる、ついに積もり積もった鬱憤が爆発してしまった神裂。


神裂『五和ァッ!!私の後ろにいろァッ!!ぜっってー離れるなよ巻き込むぞオラァッ!!』


五和「―――はッ!!はいッ!!はいぃッ!!」


そして彼女の背後に槍を握り締める五和が続いた。
その恐ろしい声に半ば鞭打たれるようにして。


―――



369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:09:33.40 ID:nkf7uOmVo
―――

学園都市、窓の無いビル。

アレイスター「……」

水槽の中にて、
アレイスター=クロウリーはこの状況を見極めようとしていた。

予想はしていたが、やはり始まった流れの速度は凄まじいものであった。
各勢力各陣営それぞれがこの状況の主導権を握るべく動き出し、今や混沌としつつある。

アレイスター「……」

だがこの大荒れの渦に惑わされて、目的を見失ってはならない。
自身にとって最も重要な部分、『プラン』にかかわる部分を的確に見出し取捨選択しなくてはならない。


まず一方通行に関しては、今のところ問題は無いとできる。
悪魔達と接触しているが学園都市におり、状態も安定している。


問題は幻想殺しだ。


禁書目録、神裂火織、ローラ=スチュアート、そして更に別の魔女の登場、
それらの立て続けの出来事の中であっという間に幻想殺しを見失ってしまった。

人間界から抜け出てしまったのだ。
更に悪いことにその行き先がまるでわからないときたものだ。

アレイスター「………………」

プランの最終段階が始まっているのにその核が手元に無い、
まさにアレイスターにとって最悪の事態だ。


今はとにもかくにも、何とかして幻想殺しを取り戻さなければならない。


時間的余裕はほぼ無いためもちろん手段を選ばずに。
もちうる全ての力を使って、だ。



370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:12:33.70 ID:nkf7uOmVo



水槽の中、アレイスター手元に一本の杖が出現した。

銀色でねじくれた杖―――『衝撃の杖』。

アレイスターはその柄をゆるやかに握り、力を『完全稼動』させるための術式調整を始めた。
ただ、『術式』といっても使う力は天でも魔のものでも無い。


その根源は人界のもの、つまり―――『能力』だ。


アレイスターは今、60年ぶりに『この体』の『能力』を完全稼動させようとしていた。

「あと一回、能力を起動してしまえばもう『その体』はもたない。
 次に力が切れたとき、そこで君は終わりとなるよ」

それは『この体』を生かしてくれて、この『水槽』で状態の維持を確立してくれた友の言葉。
アレイスターももちろん重々承知している。
しっかりとしたデータに裏打ちされた確かなことだ。

だからこそ、あれから今日ここまで一度も使わなかった。
プランのためにその『最期の一回』をこうして温存してきたのだ。

アレイスターは徐々に全身に湧き上がってくる力、それと共に、
60年間閉じ込め続けてきた『感情』も仄かにこみ上げてくるのを覚えた、


アレイスター「―――…………」


そしてふと導かれて。


この体の『前の持ち主』に想いを馳せた。


かつて――――――したあの女性を―――。


彼はふと目を閉じると、
その脳裏に過ぎるかつての姿に向けて小さく声を投げかけた。


アレイスター「―――もうすぐで終る…………もうすぐだ」


一人静かに、そっと。


―――



372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:15:51.87 ID:nkf7uOmVo
―――

一斉にこちらを向いた、夜の街に蠢く異形の群れ。

初春「ひっ―――」

そのおぞましい視線に耐えかねて、
初春は窓の傍で尻餅をついてしまった。

初春「―――な―――ひっ」

真っ白に、いいや、『真っ黒』になってしまう頭の中。

何も考えられない。

体がすくみ小刻みに震え、額からは冷たい汗がにじみこぼれる。
割れたガラス片の上に手を着いてしまったことすら気付かず、
初春はただただこの異様な『恐怖』に縛られていた。

そして動けない一方でやけに感覚が冴え渡っていく。

まるでこの恐怖を『もっと味わえ』とでも言うかのように。

聞えるのは鼻腔と口腔・気道を空気が通っていく音と、
早馬の如く打ち鳴らされる鼓動。

そして外からの―――。


初春「―――ッ」


重い何かが地面を打っているような音。
それも複数、徐々に近づいてきて。



373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:16:59.38 ID:nkf7uOmVo

その正体が何なのか、
もし彼女が確かめたいと思ったとしてもそれは出来なかった。

座り込んでいる小柄な彼女からでは窓の外は見えず、
そして立ち上がることもできないのだから。

ただ。

それは彼女が自分から確かめるまでも無かった。

ずしん、と重い何かがぶつかってきたかのか、この支部が揺れ。
複数の重い響きが続き。

そして。


初春「―――ッひぁ…………!!」


窓のすぐ外まで、『それ』が壁を登ってきた。
歪んだブラインド越しに見える、大きな怪物。

夜のせいなのかそれとも元からそうなのか、影のように黒く。
そのシルエットはゴリラを3倍にしたように巨大で威圧的。


そして焼き殺すかというほどに強烈な視線を放つ―――赤い瞳。



374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:18:45.15 ID:nkf7uOmVo

それも一体だけではなかった。
横から別の赤い瞳の怪物も這い上がって、同じように初春を見つめてくる。

もとより動けなかった彼女にはもう成す術がなかった。
ただただその視線に怯えその場で固まっているしか。

怪物達はまるで品定めをしているかのように、しばらくジッと初春を眺めていた。

実際は10秒になるかならない程度であったが、彼女にとっては一生のごとく感じる間。
生きた心地がしないとはまさにこの事だ。


―――とその時だった。

唐突に何の前触れも無く、その現象が起こった。


その瞬間、何もかもが『吹き飛んだ』。


壁も天井も、この支部の上階ごと粉微塵。
周囲の何もかもがぶっ飛んでは砕け滅茶苦茶に四散。


―――怪物もろとも。



375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:20:12.69 ID:nkf7uOmVo

それは不思議な『爆発』だった。

初春「―――…………え―――?」

辺りは何もかもが砕け散り、激しくその欠片が舞っていたにもかかわらず、
自身は破片を浴びるどころか、『衝撃波』すら当たっていない。
頬を撫でる微風すらない。

この破壊の一切が伝わってきてはいなかった。

そのため、これほどの破壊にもかかわらず『音』は聞えなかった。

そしてそれがまた、
これが悪い夢にも思えてしまう、そんな非現実的な居心地を強めていく。

それこそこれが夢であったらどれだけ良かったであろうか。
悪夢は悪夢でも、目覚めてしまえばそこで終らせることができたであろうに。


初春「…………」

だが目覚めは来ない。
自身と外界を分け隔てていた『何か』が無くなったのか、
途絶していた空気感や音が徐々に戻り、これが現実であると突きつけてくる。

粉っぽい空気、焦げたような香り、崩れる瓦礫や欠片の音。

だが悪いことばかりでもなかった。


「―――立てるかァ?」


その時、この状況では懐かしくも思えてしまう日本語が前方から放たれてきた。
『前』に聞いた覚えのある声で。


彼女が今だ震える身のまま見上げると。


初春「―――」


すると、ひしゃげた窓枠の上に一人の少年が立っていた。


背後の闇とのコントラストで際立つ白い髪に白い肌。
この状況でのその姿はまさに、初春にとって救世主にも思えてしまうほど。


ただ、その両腕は底なしに濃い『黒』であったが。


―――



376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:21:44.74 ID:nkf7uOmVo
―――


ロダン『連中も乗り気だ。何あるのなら可能な範囲内で手を貸そう、だとよ』

天界の天津族・アース神族のトップとの『会合』内容の報告。

ダンテ「へぇ……」

宙の球からのそのロダンの声をダンテは聞いていた。
いや、聞き流していたと表現するべきか、
転寝しているかのように目を閉じては、関心が無さそうな相槌を打っていた。

相変わらず朽ちて倒れている柱に寝そべりながら。

ロダン『ただ状況的に、むしろ連中の方がお前さんの手を借りたいだろうがな』


ロダン『それでどうするんだ?』


ダンテ「…………ん?何が?」

ロダン『何がってよ、まず話してからその後を決めるって事だったろ?お前さんから連中に対して何か無いのか?』

ダンテ「挨拶の言葉でも述べればいいのか?」

ロダン『違う。協力とか今後の段取りとかの「何か」だよ』

ダンテ「あー、そこはロダン、お前に任せるって言ったろ」

ロダン『……ああ、そうか。なるほど……』

ダンテ「はっきり言って俺は、天界の内輪揉め自体には興味無えし、予定組んでよそ様と歩調合わせんのも苦手だからな」

ロダン『ふっ、確かにな。わかった。ならばこちらは俺の好きにやらせて貰うぞ』

ダンテ「ああ勝手にやってもらってて構わない。『興味』があったらこっちから動くからよ」



377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:24:04.83 ID:nkf7uOmVo

ロダン『おお、そうだ。一つ気になる事をこっちで聞いた』

そのように一連の話を終えた後、
ロダンが思い出したように別の話を切り出した。


ロダン『プルガトリオの人界近層で、アンブラ魔女を二体検知したとよ』

ロダン『どうやら魔女同士でやりあってるらしい』

ダンテ「Hum...」

それを聞いてダンテはぱちりと目を開いては、
興味深そうに声を漏らして。

ダンテ「『あいつ』か?」


ロダン「いいや、俺の『知り合い』共では無え。聞く限りじゃ、『あいつ』らにしては力の大きさも密度も低すぎる」

ロダン「それにしてもアンブラ魔女が他に二人も生き残っていたとはな」

ダンテ「へえ……」

生き残っていた別の魔女、
といえば、ダンテには思い当たる人物が一人いる。


―――インデックスだ。


となれば、これは聞き流しておける事ではない。

依頼主であり友人であり、
そして今は『バージルの目的の一つ』、ともダンテは考えているのだから。



378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:27:13.48 ID:nkf7uOmVo


ダンテは不敵な笑みを浮べてはむくりと起き上がり。

ダンテ「ロダン、その場所はわかるか?」

ロダン『いいや、又聞きしたもんだからな、そこまでの詳細は伝わっては来ない』


ダンテ「へえ…………そうか」

柱から飛び降りて、
立て掛けていたリベリオンを背にかけた。

元使い魔達は今、魔具の形となって周囲の地面に刺さっていた。
本体のままだと『色々』と目障りなため、ダンテの『頼み』でそのようにしたのだ。

柱から降りたダンテは、その足元の彼等をしばらく思案気に眺めた後。
パチンと指を鳴らしては、まずは『氷のヌンチャク』を指差して。


ダンテ「ケルベロス、禁書目録の嬢チャンの匂い覚えてるか?」


ケルベロス『あの小娘を追うのか、ならば一度人間界のあの街に降りねば』

ダンテ「OK、見つけたら……そうだな、アグルドに連絡してくれ」

ダンテ「そういうことだアグルド、後で送ってくれ」

アグニ『む、む……?』

ルドラ『ぬ、ぬ……?』

とそのように。
ダンテが当たり前に言った、『送る』という事に一瞬アグルドが戸惑いの声を挙げた。

なぜなら使い魔が主の存在に干渉することは不可能、
つまり『運ぶこと』ができなかったのだから。

ただその主従関係が消えてしまっている今、『友』を運ぶことに何の障害があろうか。

アグニ『……うぬ、おかしくはない』

ルドラ『……うむ、おかしくない』

染み付いた『癖』に惑わされながらも、
アグルドはついさっき解放されたことを再確認してそう口を揃えた。

そして同じくケロベロスも。

ケルベロス『了解した。我があr…………友よ』



379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:29:40.17 ID:nkf7uOmVo

ダンテ「それとネヴァン、ケロベロスと一緒に人間界に行って、そのまま学園都市に残って状況を見張ってろ」

ネヴァン『あらぁ、私はあなたと一緒が良いのだけれど』

それはまた今度だ、
とネヴァンの不満を受け流したところで、ダンテは一度言葉を区切って。

ダンテ「基本的に状況ごとの判断はお前らに任せるぜ。好きなやり方でやってくれ」

そのダンテの言葉を受けて、
ケルベロスとネヴァンその場から姿を消した。

と、その直後。

銀の具足、ベオウルフの周囲に移動のための魔方陣が現れた。


イフリート『―――貴様。勝手に―――』

それを察知しすかさず声を挙げる篭手。
だがベオウルフもすぐに言葉を返し。

ベオウルフ『我が身は既に解放されている。一々「元主」の言葉を仰がねば動けぬのか貴様は』


ベオウルフ『聞けスパーダの息子、我は我の意志のまま赴く。貴様の言は受けぬ』


立て続けにダンテへと声を放った。
それを受けてダンテは相変わらずの調子で肩を竦めて。

ダンテ「構わないぜ。好きしてくれ」

あっさりと了承。
直後、すぐにベオウルフは姿を消した。



380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:32:34.70 ID:nkf7uOmVo

それを見送った後、
ダンテは朽ちた柱に寄りかかって。

ダンテ「というわけでだ、お前らはとりあえず俺とここにいてくれ」

残ったイフリートとアグニ&ルドラに告げた。

ダンテ「気にすんな。なるようになるさ」

そして不機嫌そうに沈黙する『炎』の篭手、
そこからの視線にそんな風に返したのち。

腰からエボニー&アイボリーを引き抜いては足元に『落として』、
同時にとある一つの魔具を呼び寄せた。


ダンテ「―――ギルガメス」


するとその瞬間、ダンテの両手両足に銀の装具が出現。
両足に出現したそれは、ちょうど落ちてきた銃をキャッチして、

歯車と軋む金属音を響かせながら二丁を『飲み込んで』包んでいく。

続けてダンテが腰からもう二丁。
トリッシュから預かっているルーチェ&オンブラを手にすると、
両足と同じように装具が銃を包み込んだ。


一見すると、前腕部に備え付けた仕込み銃のようにも見える配置だ。
ルーチェ&オンブラ自体は隠せる大きさでは無いが。

ダンテ「Humm...」

そのギルガメスの動きと銃の馴染む様子を見て、
ダンテは満足そうに鼻を鳴らして頷いた。



382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:35:38.53 ID:nkf7uOmVo

と、そんな風にダンテが子供のようにニヤニヤしていると。

ロダン『そろそろお前さんも動くのか?』

ここでの会話を聞いていたであろう彼の声がそこに響いた。

ダンテ「あー、まだわからねえな、とりあえずは禁書目録周辺の状況を確認してからだ」

ロダン『そうか。ところで今、新しい情報が入ったぞ』

ダンテ「ん?」

ロダン『アスタロトの軍勢が突然妙な動きをし始めたらしい』

ロダン『ネロがかき回してるってのあるだろうが、それだけじゃ説明つかねえ動きだ』

ロダン『他にも何かあると思うぜ。一部は唐突に学園都市にも降りたようだ』

ダンテ「…………へえ」

そこでダンテは感じた。
自身の直感が反応したのを。

この悪魔達の動きも『繋がっている』と。

常に、騒乱は別の騒乱を引き寄せて巨大化していくものだ。
今もまた、インデックス周辺を中心にあらゆる『モノ』が集約しつつあるのだ。

ロダン『あともう一つ、』

そしてそこに続いたロダンの言葉が、
このダンテの直感を更に確たるものへとした。


ロダン『ジュベレウス派の一軍が、例の魔女の件で出動したらしい』



ロダン『率いているのは四元徳の一柱―――「テンパランチア」だ』



383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/21(木) 23:39:21.97 ID:nkf7uOmVo


ダンテ「Hum...」

四元徳。

現在の天界における最上位の存在。
それが動いたとなればやはり―――。


『このような』物事には、その流れの中に必ずとある『山場』がいくつか形成される。
それは様々な意志と因果が集中したタイミング。

ダンテは昔からよく、そのポイントを狙って利用する。

何をどうすればいいのか、具体的な目処が立たない場合は、
とりあえずそこに飛び込めばいいのだ。

物事の本質が浮き彫りになるその『心臓部』たる瞬間に割り込んでしまえば、
部外者が『主役』になってしまうことも可能となり、流れに干渉できる権利が手に入る。


そして今もまた、ダンテははっきりと見定めた。


『今回』の『一つ目の山場』を。

アスタロト、四元徳、魔女、そしてバージルの意志。
更に今だ把握していない主な陣営・役者も顔を並べるであろう、
全てがが集束しぶつかる瞬間を。


ダンテ「―――ハッハ~!ロダン!今ので決まったぜ!」


ロダン『あん?何がだ?』


ダンテ「イフリート!アグニ!ルドラ!準備しておけ―――場所を特定できたらすぐ飛ぶ」


                     パーティ
ダンテ「そろそろ―――『出番』だ」


―――



397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:23:15.72 ID:gzXVTJRMo

―――

そこは柔らかい光に満たされた空間。

上条「(…………)」

上条は三度そのような意図しない場にいた。
ただ今回は、なぜここにいるかは把握していたが。

入り口は開いたが『出口』がまだ開いていないのだ。

ガブリエルは『望む場に繋がる』と言っていたが。
何らかの理由でその上条が行きたい場所、
つまり『インデックスの傍』に繋がらなくなってしまっている。

上条「(…………)」

更に細かく言うと、インデックスの位置を特定する『最後のピース』が手に入らないのだ。
あと一歩というところまで判明しているのだが、
最後の最後で『何か』によって妨害されてしまっている。

ガブリエルの用意してくれたこの『門』は今、
機能が完全に滞ってしまっていた。

上条「(…………くそッ!!)」

一体どうすればいいのだろうか。
このまま留まっているわけには行かない。

こうしている今もこの身の奥底からはインデックスの存在を、
そして彼女の身に危険が迫っているのを強く感じているのに。

こちらのベオウルフの力を強く引っ張って、
明らかに今までないくらいの闘争状態に陥っているのに。


―――と、そこで。


上条「―――…………ッ!これで!!」


上条は気付いた。
彼女の位置を特定する、『最後のピース』の代わりとなるかもしれないものを見つけたのだ。

そう、まさしく『コレ』が代わりになるのではないか、と。


この『インデックスとの繋がり』が。



398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:24:55.63 ID:gzXVTJRMo

ただ問題は他にもあった。

上条「(でもどうやって……!!どうする?!)」

どのようにして、このガブリエルの門にそれを『入力』するかだ。

この門がどのような原理で動いているかもわからない彼にとって、
余りにも難き問題。

魔術知識なんてからっきしなのだから、書き換えるなんて事はもちろん不可能。
そもそもどうやって書き換えるのかもすらわからない。

ではベオウルフの力を無理やり流し込んでみるか、いいや、
そんな事をしてこの門を壊してしまったら取り返しが付かない。

例え壊れなかったとしても、まともに動くわけが無いのが目に見えている。

上条「(考えろ、何かあるはずだ、何か―――)」

だが諦めるのは許されない。
とにかく何でもいいから可能性のあるものを捻り出そうと上条は頭を絞り続け、
今持ちうるありとあらゆる知識・記憶を洗っていく。

そしてその中で、彼はある記憶に気を留めた。


それはついさっき、ガブリエルと話したこと。


あの『出陣の野』に行ってしまった原因は、ガブリエルではなく―――己自身だった、と。



399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:25:40.38 ID:gzXVTJRMo

上条「(―――)」

それはつまり、己も門を開けることが出来るのではないのか。

だが―――どうやって?

ただその方法に関しては、わざわざまた頭を絞る必要は無かった。
目覚めつつあった自身の本質が自然と導いてくれたのだから。


視線は自ずと自身の右手へと向かい。

そして上条はその次の瞬間、
結論を『知る』のではなく『すでに知っていた』。

上条「(―――)」


―――求めるのならば記憶は蘇る―――。


そのガブリエルの言葉通り、上条が求めた『幻想殺し』の本質が既に意識内にあった。


幻想殺し―――その作用は。


ただ単に対象を『消す』のではなく『相殺』する。
つまり、対象と非常に似た力を正確に『放出』している。

またただ単にぶっ壊すのではなく、
『構造』の基部をピンポイントで破壊して崩壊を引き起こすこともできる。

つまり、対象の構造を正確に分析している。

そしてこの作用を応用すれば次のように―――いいや、むしろここからが幻想殺しと呼ばれるこの力の『本命』。



一度触れて構造を理解した対象を―――新たに『再構築』することが可能である。



400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:27:24.68 ID:gzXVTJRMo

では、幻想殺しとは一体何なのか―――と、平時ならそのまま意識は続いていっただろう。

しかし状況的に上条はそこより先の記憶を求めはしなかった。
今はこれで充分だ。


そして幻想殺しの作用の本質、
それを『知っている状態』へとなった瞬間、


その右手が仄かに―――『オレンジ色』の光を放ち始めた。


上条当麻は特に驚きもせず、その輝きを帯びた右手を伸ばして。


この場を満たす光に触れた。


光は消えなかった。
ガブリエルの門が崩壊することも無い。

書き換えと再構築ののち、最後のピースを上条から与えられて。

門は再起動。


上条「OK」


問題なく動作していった。

これぞ、今まで無制御状態であった幻想殺しが、
上条当麻の確たる意識の制御下に入った瞬間であった。

これは彼にとって大いに、大切な人を守るための力となりうる。
だが一方でとてつもない危険も孕んでいた。

上条が自身の『魂のルーツ』を知って本質に目覚めること、それはすなわち。
『同化』している太古の暴虐な『竜』の覚醒も避けられないのだから。


また、この門の先、インデックスがいる場所には。


彼にとって、今までで最大の―――『試練』が待ち受けていた。


―――



401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:27:57.54 ID:gzXVTJRMo
―――

どう考えても、人間界への影響も免れない強烈な衝撃であった。
階層全体が大きくきしみ、風景が『波うち』何もかもが崩壊していく。

そんな破壊の中にて、
インデックスは地面に叩きつけられるように落ちた。

禁書『ぐっ…………』

割れたアスファルトに強く後頭部を打ちつけて、
いや、それ以上に今の『ミョルニル』に力を使いすぎたのだろう、
恐ろしく重い倦怠感を帯びて朦朧とする意識。

だがその状態でも彼女は懸命に頭を働かせて、
状況を把握しようと全ての知覚に集中する。

禁書『…………うぅっ……』

這いずりながら顔をあげ、
ローラとスフィンクスが吹っ飛んでいった方向を見やった。

しかし両者の姿を捉えることは出来ず。

かなり吹っ飛ばされたのか、崩壊した街の向こうにそれらしきものは見えず、
また階層が大きく歪みかき乱されているせいで力も認識できない。



402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:28:40.56 ID:gzXVTJRMo

と、その時。

禁書『―――…………』

彼女は一つ、こちらに急速に向かってくる確かな存在が感じ取った。
それはすぐに判別できた。

先ほど放り投げたハンマー、『ミョルニル』だ。

一度放られれば必ず標的へと命中し、そして『使い手の元へと戻ってくる』。
そのいわれの通り舞い戻ってきたのだ。

轟音を立てて目の前の地面に突き刺さる無骨なハンマー。
その頭の部分はベットリと真っ赤に染まっていて、そして―――。


―――巻きついている、いまだ生きている『金髪の束』。


その束の続く先は、わざわざ顔を上げて確認するまでも無かった。
このハンマーに引かれて直後、彼女の前に着地したのだから。

禁書『―――』

滝のように腹から血を滴らせ、
その戦闘装束を紅に染め上げて膝を突きながらも。


こちらを真っ直ぐと見る―――ローラ=スチュアートがそこにいた。



403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:30:20.47 ID:gzXVTJRMo

目が合った瞬間、インデックスは硬直してしまった。

首、顎、そして額の辺りまで飛び散っている赤い液体。
脂汗が滲んでいる凄まじい形相の顔と。

血走った瞳―――。


―――『様々な感情』が入り乱れている目。


目が合ってしまった一瞬、
インデックスはその瞳からローラの内面を垣間見てしまって、意識を奪われてしまった。

そしてこの一瞬の意識の隙が命取りにもなってしまった。
もっとも、この状況ではどのみちろくに抵抗はできなかったであろうが。

刹那―――ローラは素早く踏み込んできて。

インデックスの修道服、その首元を掴み上げては、
彼女の胸に左手の拳銃を押し付けて―――。


―――即座にその引き金を絞った。


禁書『―――えっ…………ッッ…………』

その一連の出来事はあまりにも早く。
何が起きたのか、それに彼女が気付いたのは―――胸を貫く強烈な痛みを覚えてからであった。


禁書『―――あ゛ッッ!!あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!』

鳴り響いた銃声の一拍後。

気道と通り噴き上げて、口から吐き出される鮮血。

まるで胸の中に火の塊を投げ込まれたような感覚。
熱と焼き焦がされるような刺激が一気に体を蝕んでいく。

そしてそれと同時に―――最後に残った力が消失していく。

魔弾にそのような作用が篭められていたのだろう。
インデックスの知識の中にも該当する術式が多くある。


ただその詳細を判別できたところで、彼女は何もできやしなかったが。



404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:33:14.89 ID:gzXVTJRMo

胸から止め処なく流れ出て行く血。
その返り血で真っ赤に染まった銃、それが、今度は顎の下へとむけられ押し付けられた。

放たれたばかりの銃口の熱を覚える中。

インデックスは血に咽ながらローラの顔を再度見つめた。
その『様々な感情』が入り乱れている―――瞳を。

怒りと混乱。

悲壮と困惑。

絶望と希望。

それらが複雑に絡み合ってしまっていて―――。

禁書『―――…………』

ローラ『…………』

そんな混沌としている内面が否応無くわかってしまう。
いや、わかってしまうのではなく、まるで自分の事のように体感してしまう。

それも当然。

何せ二人は『同じ』。

二人は『一つ』なのだから。

インデックスはローラの内面を、
同じようにローラもまたインデックスの内面を体感し、
そしてお互いの立場を再確認させられ。


これでもかと突きつけられる、同じ二人なのにある『大きな違い』。


自分の『存在意味』を『己』とするか、それとも―――『人格』を『己』とするか。


―――インデックス、それは『人格』を『己』と『認めた自分』。


―――ローラ、それは『人格』を『己』と『認められなかった自分』。



405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:35:36.79 ID:gzXVTJRMo

お互い、目的を果すために構築された『人形』なのに。

元は同じなはずなのになぜ。
元は同じだったはずなのに、どうしてこんな違いが生まれてしまったのだろうか。

ローラ『―――』

いや、厳密には完全に同一ではなかった。
作られた経緯に起因する差異があった。



ローラはこの500年間、出会うことは無かった。
彼女を理解し、彼女を慕い、彼女と同じ痛みを知り、そして彼女を『救おう』とした者には。

いや、『救おう』とさせなかったのは彼女の方だ。

彼女は強すぎたのだ。

『姉』をベースとした、目的の中核としての『人形』であるが故に、
とてつもなく強くそして完璧に構築されていたのだ。

そのため、何人も『彼女を救おう』などという上位には立てず、
彼女の強さは唯一の心を許せる友、エリザードをもすら寄せ付けなかった。


一方で『妹』をベースとした『インデックス』は、ただ管理制御を行うための存在。
そのため、余計な機能や力は排除され最低限の部分のみで作られていた。

つまり強くも無く完璧でも無かった。


だからこそ『インデックス』は―――孤独ではなくなった。


だからこそ彼女は『救われた』。


不完全で弱かったが故に。



406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:38:38.22 ID:gzXVTJRMo

これは皮肉なのだろうか。

弱者は弱者であるが故に救われる。
強者は強者であるが故に救われない。


インデックスにとって『他者がこの人格を守ってくれた』、
ということが大きな『自信』となり『根拠』となり。


―――『私は存在して良いのだ』、『私は存在しなければならない』、『私は―――存在し続けたい』


存在意味と根底にあるプログラムを拒絶し、『人格』を『己』とすることができた。
そしてそれは、アンブラの契約術の起動によって『本物』だとここに証明もされた。

そう、インデックスは『本物』と証明された。
妹をベースとした存在が『本物』になったのだ。

そしてそれはこうも言えるのではないか。


―――『本物の妹』がここにいる、と。


だが。

ローラはそれを許容することなどできなかった。
彼女は強くそして『完璧』すぎた。

『あの日死んだ妹を計画通りに蘇らせる』、その鉄の意志―――プログラムはねじ曲がりなどしなかった。

ただただ正確に計画通りに成し遂げる事、それが全て。
だからイレギュラーなこの『結果』を認めはしなかった。


どうしても認められなかった。


ただ、ローラがこの今前にしている『妹』に対して何も思わぬわけでは無かった。
むしろこの妹の排除にとてつもない拒否感を抱く。

妹は妹、変わらぬ最愛の存在なのだから。

しかしローラにはどうしても、
そんな感情と人格をプログラムよりも優先するなどできなかった。
単独で拒絶するには『構造上』不可能であり。

インデックスのように、他者から『自信』と『根拠』を与えてもらうこともなく。

他者によってその人格を認めてもらうことも、慕われ愛されることも無く。

背負い続けてきたものを他者に理解されることもなく。


彼女を『救える』ほど上位の他者などいないのだから。


強すぎて完璧だったが故に『ローラ』は―――孤独だった。



407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:40:33.32 ID:gzXVTJRMo

インデックスは震える右手をそっと上げて。
添えるようにしてローラの頬に触れた。

懇願したわけでも、哀れみを抱いていたわけでもない。
ただ触れたかった。
触れなければならないと思ったのだ。

この『己と同じ存在』でありながら―――『己と違う存在』を。

更にお互いの意識、内面を知り体感し同化して行く。

だが、どこまで行っても結局は―――『完全に同じ』にはなれない。

今ここの現実として、二人は『別人』なのだから。

『インデックス』と『ローラ』なのだから。


両者の間にはいまや、どうやっても埋めやしない『違い』が深く刻まれていた。


インデックスが頬に触れた瞬間、ローラはピクリと目を細めた。
そして僅かに震える拳銃を持つ手。
それは彼女の感情の激しい乱れによるもの。

だがそんな乱れでも、
その体を支配しているプログラムを遮れるほどではない。

インデックスの喉元へと押し付ける銃口がぶれることは無く。

そして引き金が絞られていき―――。


―――とその時。



408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:41:20.60 ID:gzXVTJRMo

禁書『―――』

インデックスは朦朧とする中で感じた。
この魂から伸びる『繋がり』が一気に強力になったのを。

繋がりの先の者が―――『ここ』にやって来たのを。

もちろん、ほぼ同時にローラも。
インデックスと意識が同化状態にあったために、インデックスの思念ごとその存在を知り体感した。



そしてそれは逆も然りであった。

ここに今やってきた『彼』もまた―――インデックスとの繋がりを介して瞬間的に、
この二人の魔女の思念を知り体感することとなる。

ただ、それらを知り得たとしても、
彼がローラに向けられる言葉は増えやしなかった。

『彼』は、ローラに『自信』や『根拠』を与えられるほどの強者ではなかった。
彼女をプログラムから引き離せる力を持ってはいなかった。

インデックスですら戦うしか出来なかったのだから、
同族ですらない彼はただただその銃口を向けることしか出来ない。


『―――インデックスを放せ』


そしてただこれだけの鋭い言葉を突きつけるしか。

ローラから見て左方10m程のところから、
上条当麻は矢のような声を放ち、そして繰り返した。


上条『―――放せ!!放せっつってんだよ!!』


その左手の黒い拳銃を、真っ直ぐとローラの即頭部へ向けて。
銃身部に力を集約させて銀に輝かせながら。



409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:42:45.80 ID:gzXVTJRMo

胸を撃ち抜かれているインデックス、そんな状況が上条当麻を圧迫していく。
だが、心は滾っても思考は常にクールに、彼は懸命にそう己を押しとどめていた。

それにインデックスと繋がっているというのも、
彼がここで留まることへの助けとなっていた。

ここに来たことによって『繋がり』に障害が無くなり、
はっきりと思念を疎通しているから把握できる。

彼女は酷い傷を負ってはいるが、すぐに死に直結するものでもないということが。



ただその『繋がり』は、他の思念もこちらに運んできた。
インデックス、そして彼女を介して―――ローラのを。

上条『…………』

インデックスを傷つけたローラ、
そんなあの女へのこれ以上無いくらいの憤りも確かに覚えている。

だがその一方で―――。

上条『(―――くそッ…………!!)』


―――これはどうしたものか。


インデックス経由で、
まるで自分自身のように『ローラ』を体感してしまうのだ。

ついさっき。

五和を殺そうとしたローラに銃口を突きつけた時は、
インデックスと同一に感じてしまって危害を与えることに拒絶感を覚えてしまっていたが、『これ』はそんなものではない。

危害を与えるか否かどころか、こうして銃口を向けておくことも。
引き金にかけている指をそこに留めて置くこともすら厳しい。



410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:45:34.81 ID:gzXVTJRMo


そして更に。

どうしようもなく心が震え乱れてしまう。
ローラからの、更にそこにインデックスものが混じったありとあらゆる感情、
それが無秩序に絡み合って増幅して、別の方向から上条を圧迫していく。

急速に蝕んでいく。
上条は揺さぶられ、精神が急速に不安定になっていく。

上条『(ッ……くッ―――!!)』

戦うしか術が無いのに、こうして銃口を向けるしかできないのに、
それすらをも心のどこかでは止めようとし始めている。

だがそれでも、上条は拒否できない。

この繋がりを介されて送られてくる『贈り物』を拒否できない。

何があってもインデックスを拒否できないのと同じく―――ローラの思念を拒否できない。


そんな彼へ向けて。

ローラがインデックスの方を向いたままぼそりと呟いた。


ローラ『―――撃てるのか?』


ついさっきと並べた語は同じでも、その顔は笑みなく無表情で―――声は凍て付くくらいに冷ややかに。

言葉に含まれる意味は何重にもなっていた。
上条と同じように、
インデックス経由で彼の内面を見ているが故に。

そして同じくローラを知る上条が返したのは。


上条『―――……………………撃ちたくはねえ……撃ちたくねえんだよッッ!!』


そんな吐き出すような精一杯の言葉であった。
そしてその声と同時に、ローラへと繋がりを介して彼の意志が伝わっていく。


どうしても撃ちたくは無い、だがそれでも―――それでも必要ならば―――。


―――インデックスのために必要ならば―――。



411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:47:07.60 ID:gzXVTJRMo

それは『強さ』だった。
こんな思念を取り込んでもなお垣間見せる、そんな強さ。

ローラ『―――』

そう、これこそ。


インデックスを『守った強さ』。


インデックスを『本物とさせた強さ』。


それを身をもって体感した瞬間、
ローラの奥底からどうしようもない怒りが噴き上げて。

彼女の顔はみるみる、凄まじい形相へとなっていく。


そして一方でプログラムはこう結論する。

幻想殺しをここに残していた場合、
のちの作業に支障が生じる可能性が高いため―――排除せよ、と。


禁書『―――ッあ゛!』

直後、インデックスを持っていた手が無造作に開かれた。
倒れ込むように地に落ちる少女。


それを見た上条、その瞬間にここぞとばかりに叫んだ。


上条『―――行けスフィンクス!!』


すると彼の斜め背後の空間が突如白い光に満たされ。
そしてその中から猛烈な勢いで大きな白虎が飛び出してきた。

上条から分けられた力で、傷を応急的に癒したスフィンクスだ。

そして白虎は一気にインデックスに駆けていき、
ぐったりとしている彼女を尻尾で拾い上げては背に乗せて。

とてつもない速さでこの場から離れていった。



413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:52:06.27 ID:gzXVTJRMo

だがローラは見向きもしなかった。
横を白虎が過ぎ、インデックスを連れ去ってもまるで見えて無いかのように反応せず。

ずっと上条を睨み続けていた。

上条『…………』

そのローラの意図はもちろん、上条は繋がりから把握していた。

結界が破れない限り、この階層からは何人も脱出できない。
そのため、インデックスをどこまで遠ざけようと常にローラの意の中にある。

ローラ自信が結界の恒常的な核であるため幻想殺しは効かず、
彼女が自ら解除するか殺すしか術は無い。

また、インデックスによるスフィンクス強化は、
主契約悪魔である上条があってこそのもの。

つまりローラからすれば今、対応すべき存在は上条のみ。
上条を排除すれば状況は丸く収まるのだ。


そしてそれは上条当麻にとっても好ましいことであった。


上条『…………』


ローラとのこの一戦に全てを集中できるのだから。



414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/25(月) 23:57:57.25 ID:gzXVTJRMo

しかし、そう好ましいと言える立場でありながら、
上条はかなりの焦燥に駆られていた。

なぜなら。

どうやって戦えばいいのか。
どのようにして、どんな結果を求めて戦えばいいのか。


それがわからないのだ。


これまでで初めて―――戦いの結果を見定められなかった。


今までの戦いでは、
どれだけ困難なものでも常に求める『結果』の形が、上条の中に具体的にあった。

バージルに立ち向かった時でも、
『生きて抜けられたら勝ち』という結果が具体的にイメージできていた。


でも今はそれができない。


上条『―――』


上条にとってこの戦いは、
単にインデックスをローラの殺意から守るだけではなくなっていた。

こうして繋がりから全てを理解してしまっている今、
この戦いはそれ以上の意味を持っている。


これはインデックスを『解き放つ』戦いだ、と。


これは彼女を―――『全て』から『救い上げる』戦いなのだと。



415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/26(火) 00:00:44.33 ID:V3vwALNVo

先日、ステイルと交わした誓いがこんなに早くに試されるとは思ってもいなかった。
だが心の準備が出来ていなかったわけではない。
むしろ常に覚悟は決まっていた。

しかしそれでも。


その課題に対する答えなんかは用意できてはいなかった。


ローラを倒せばインデックスを救えるのか?
倒すといってもどんな形で?

状況はもう、戦う・殺し合うしか選択肢が無いのだが。


ローラを殺すのか?


―――『姉』を殺してしまうのか?


唯一の―――血の繋がった家族を―――インデックスから奪うのか?


『インデックス』と―――『同一』である存在を殺してしまうのか?


インデックスがあんな顔して―――あんな瞳をして―――頬に触れる相手を殺してしまうのか?


そんな結果で果たして―――『インデックス』を『救える』のか?


上条『―――』

答えはいまだ出ず。
求めるべき具体的な結果は依然、まるでイメージできず。



416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/26(火) 00:03:04.94 ID:V3vwALNVo


ローラ『お前を殺してやる』


それを『知りながらお構い無し』のローラよって、
そんな『最悪』の状態のまま、上条はついに戦いの中へと身を投じざるを得なくなる。


ローラ『―――お前が―――お前のせいで全部―――』


上条にとって前代未聞、今まで身を投じたことの無い、
目指すべき方向が定められない『未知の戦い』へと。


上条『(―――インデックス、教えてくれ―――俺はどうすれば良いんだ)』


どんな状況でも常に真っ直ぐに、ブレずに進み続けた少年は今。

初めて『迷っていた』。


上条『(―――土御門、お前ならこういう時、どうするんだ?)』


初めて―――芯が揺れてしまっていた。


胸の内で声を放っても、返って来る言葉は無し。

わかっているとも。
こんな厳重の結界の中から誰かに声が届くわけが無いのも。


ただそれでも、上条は声を発し続けた。


上条『(なあ、頼む―――あんたならどうするんだ?)』


一体どうすれば、どうすれば救い出せるのか。



上条『(教えてくれ―――ダンテ)』



―――どうすれば『彼女達』を―――。


ローラ『―――殺す―――殺してやる―――殺してやるクソガキ』


上条『(誰か教えてくれ―――お願いだ)』



426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:28:29.10 ID:3j+zrRtio

初撃は強烈なウィケッドウィーブ。

ローラの前方、そこの宙空から出現した金の巨大な足は、
凄まじい勢いで上条へと放たれた。

上条『―――』

切迫していた彼にとってはまさに不意の攻撃であった。

ただ意識が追いつかぬとも。
身に染み付いた闘争本能は正確に反応する。

反射的に上条が横にはねた瞬間、
金色のウィケッドウィーブが、一瞬前まで彼が立っていた空間を突き抜けていく。

だがさすがの彼の闘争本能も、次の攻撃までは予測できていなかった。

彼が横にはねた直後、
その両足が地面に付く前―――初撃のウィケッドウィーブが到達するかというところで、二撃目は既に放たれていた。

刹那、上条が前方に見たのは、
高く掲げていた足をその場に振り下ろしているローラ。


上条『―――』

瞬間、真上に『圧』を覚え、
確認するよりも先に左手をかざす上条。


直後、彼の両足が地に着くのと同時に―――彼は真上からウィケッドウィーブに『踏みつけられた』。



427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:29:51.98 ID:3j+zrRtio

巨大なヒール型の足先、
その尖った踵が左手に激突する。


上条『―――ッ゛!!』


その重さはまさに『強烈』の一言。

衝撃でその場が一瞬ですり鉢状に窪み、
両足も脛までが地面に沈み込み。

そして光の衣どころか、
その力で形成されている篭手が砕きはがされていく。


上条『―――ッッがぁ゛ぁ゛ッ―――!!!!』


想像を絶する苦痛。
これが魔女の攻撃。

単なる力も強力ながら、更に無数の超攻撃的な術で強化された一撃。

一気に衝撃が魂まで達し、
あまりの振動に意識が切れかけた電球のように明滅。

だがそんな中で上条は何とか、否、上条の意識ではなく、
これまた彼の鍛えられた身が反射的にこの窮地を脱する。

彼はその左手を逆に押し上げるようにして、
自らの身をこの死地から横へと弾き飛ばした。



428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:31:56.80 ID:3j+zrRtio

上条と言う『支え』を無くした金の巨大な足が、
すり鉢上の地面に突き刺さり更に破壊する。

それとほぼ同時にその右方、
道路脇の崩れたビルの中に上条は吹っ飛び、更にそのまま数棟を貫通。

テーブルであったであろう残骸を転がり潰しながら、とある廃墟の中でようやく彼の体は制止した。

上条『―――……ごぁぁぁあッッ……!!』

瓦礫の中で膝を付く彼の下には、
身から銀の光の欠片がぼろぼろと割れ落ちいていく。

そして左手から滴る大量の紅の体液。

その彼の左手は、肘から手首にかけて外側の肉がごっそりと削ぎ取られていて。
再生する気配がまるで無かった。

それどころか、ゆっくり肉が溶かされていくかのように徐々に悪化しつつある。

感覚は早くも無く、指先は硬直しきっていて、
握っている拳銃の引き金を絞るどころか手放すこともできない。


上条『ぐッ…………おぉぉおおあああ…………!!』


そんな苦痛に苛まれる中、彼は否応無く確信させられた。

攻撃の瞬間、繋がりを介して伝わってきたローラの意図、
更に実際のその攻撃を受けては確信せざるを得ない。


ローラ=スチュアートは、こちらを本気で―――確実に殺しに来ている、と。


いいや、殺すどころではない。

インデックスを相手にしていた時とは比べ物にならない。
まさに、こちらを『跡形も無く』、『肉片一つ残さず消滅』させる勢いだ、と。


そしてそんなローラの攻撃はまさしく―――。



これでは―――死んでしまう―――。



たったの一撃でも、まともに受けてしまったら―――死ぬ。



429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:35:01.17 ID:3j+zrRtio

だが。

彼は怖気づきはしなかった。
むしろ今突きつけられた『死』の確信でやっと、この迷いの中に一つの確かな芯を見出せた。

まずは、とにかく戦うべきだと。

結果が見えなくても、前に出て戦うべきだと。


今、ここで死んでしまうわけにはいかないのだから。


絶対に死んではならない。


―――死にたく無い。


―――ここで殺されてたまるか、ここまで来て終ってたまるか。


上条『―――がぁッ!!クソ!!クソッ!!』


『今の彼』にとっては、今日この瞬間のためにこれまでがあったも同然なのに。


インデックスを全てから『救う』。

そのために生きているようなものなのに。
そのために存在しているようなものなのに。


更に『今』はそれだけじゃない。
今この時、死を突きつけられた瞬間、彼の中でとある願望が噴出した。

ただ単純に『生きたい』、と。

『皆』と、『全て』と、共にこれからをただ『生きたい』、と。


なぜなら―――やっと。


やっと、全てを『取り戻すこと』ができそうだったのだから。



430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:37:44.82 ID:3j+zrRtio

土御門、青ピ、吹寄、友達、友達。

父、母、従姉妹、家族。

皆、皆、皆と積み上げた大切な日々を『取り戻せた』のだから。

それらの価値を本当の意味で―――知ることが出来たのだから。

取り戻した自分とこの一年の自分が同じ―――記憶無くとも、魂は同一だったとわかったのだから。


―――己は確かに本物の『上条当麻』だと。


これで、過去の自分を今の自分が剥離しているのでは、
という大きな不安からやっと解放されたのに。


やっと。
やっと。

自分の心に気付いて―――インデックスに伝えられたのに。


そしてその心が―――偽りではない、本物の『上条当麻』のものだと確信できたのに。


この状況でこんな想いを抱くのは、
主観的、個人的、独善的で身勝手な願望なのかもしれない。

それは彼も自覚している。
充分自覚している。

その上で否定もしなかった。

今はもう否定しない、自分自身を偽りはしない。
今まではこんな感情をそのまま受け入れなどしなかったが、これからは違う。

もう記憶喪失の『誰かわからない少年』ではない、本物の『上条当麻』だ。


この自分の持ち物を失いたくない気持ちも。
生きたい、という個人的な願望も全て喜んで受け入れる。


『上条当麻』の欲求を受け入れて何が悪い―――俺は『上条当麻』だ、と。



431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:39:10.91 ID:3j+zrRtio

だからこそ。

上条『―――クソッ!!』

こんなローラの一撃、その破壊力を身をもって突きつけられても、彼は怖気づくことは無かった。
困惑し困窮していても、退くことだけは頭に無かった。

迷ったからといって、そこに留まってはいけない。
『ここ』では誰かが助けに来てくれる事は無い。

迷いから脱するには、前に進まなければならないのだ。
泥まみれ血まみれでも、地べたを這いずってでも。


上条『―――チッックショォォォォがァァァァァアアアアア!!!!』


故に彼は戦う。

戦いたくなくても戦う。
戦い方がわからなくとも、前に歩み出て戦う道を選ぶ。


表面的には今までと同じでも、『本質』は全く別の衝動で。


上条『―――ここで死んでたまるかってんだよォォォォォアアアアアア!!!!』


大切な人を救い、取り戻した人生を守り―――そして自身が生きるために―――『上条当麻』いち個人として。



―――だが。


この戦いの果てが、上条にとって好ましいものになるかどうかはまた別の話だ。

少なくとも彼は結果をイメージできず。

そしてローラは途方も無く強かった。


とにかく強すぎた。



432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:41:25.37 ID:3j+zrRtio

彼が怒号を放ち立ち上がった瞬間、
何発もの魔弾がビルを貫通して放たれてきた。

上条『―――ッ゛ア゛!!』

その弾幕を紙一重のところで横にはねてかわし。
壊れかけた左手でも何とか拳銃を操り、魔弾を魔弾で撃ち落す。

だがそれでも到底全てを回避できるわけも無く。

頬を掠めていく魔弾。
魔女の技による、小さな擦り傷でも強烈な刺激。

そして直撃すれば。


上条『―――ッッぐッ!!!!』


その苦痛はまさに気が遠のくほど。

わき腹にめり込んだ魔弾はその体内で砕け散り、
魔女の技である『毒』が一気に全身へと拡散していく。

そんな彼の動きが滞った瞬間に、
ここぞとばかりに放たれるウィケッドウィーブ。

上条『ッ!!』

一撃目は全てを横薙ぎにする巨大な蹴り。

足を地面に押し付けて滑らせながら即座に屈む上条、
その僅か数センチ上を抜けて、廃墟ビル数棟をまるごと斬り砕く金色の足。


続けて、またもや間髪入れずの二撃目。

これまた先と同じような『踏みつけ』が、宙に『舞い始めていた』ビル上方をぶち抜き放たれてきた。
ただこれは上条も予測していた。

このために、彼は地面に足を押し付けていたのだ。
そしてそのまま屈めば、自然と『踏ん張る』姿勢へ。

一撃目を避けると同時に、先を見越して次の行動の溜めを行っていたのだ。

彼は上方を確認するまでも無く、一気に前へと蹴り出した。
ほぼ同時に、その体と入れ替わるように地面に叩き込まれる『踏み付け』。

彼はその破壊を背に、猛烈な速度で前へ前へと向かっていった。


上条『―――おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


目指すは当然―――ローラ。



433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:42:43.12 ID:3j+zrRtio

と、そのように前へと突き進んでいた時。

ちょうど通りに再び出て、
ローラの姿を目で確認したところであった。

瞬間、彼は針が突き刺さるような痛みを体の方々で覚えた。

その痛みの一つへと目を向けると。
まさに文字通り、針状の細い金髪が突き刺さっていた。

それも何本も、あちこちの地面から出現して、上条をその場に縫い付ける勢いで。


上条『(―――や―――ば―――)』


止まってしまったら最期。
ウィケッドウィーブの直撃を貰って終わりだ。

それは唐突な『死』の確信。


―――否、唐突なんかではない、今ここでは常に隣り合わせになっていたものだ。


前方5mのところに出現するウィケッドウィーブの魔方陣―――。


そして、金色の巨大な足が放たれて。


上条『―――』


―――刹那。


確定的な死に直面して、彼は直感的に。


―――『本能的』に『それ』を解き放った。



―――『竜の頭』を。



434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:45:22.24 ID:3j+zrRtio

右腕に重なるようにして出現する、
『オレンジ色』の光を帯びた、半透明の大きな『竜の頭』。

一瞬で魔が退き、全てが普通の人間水準になる上条の体。

そして、彼の身とその周りの空間の全ての術式が破壊されていく。


『ただの毛』となる金髪たち。

上条の体を縫いこんでた金髪は一瞬でその固さを失い、
放たれかけていたウィケッドウィーブは瞬時にバラけて一気に失速。

大量の髪はそのまま、上条に柔らかくぶつかるだけであった。


ただ、これはあまりにも危険な回避方法であった。

上条「―――ぁ―――」

人の身へとなってしまっために、
あまりの肉体の損壊度で彼はショック死に陥りかけたのだ。

だが寸でのところで、竜の頭を引っ込めては魔を再起動。
そして再び面をあげてローラを見据えようとしたところ。

目当ての人物は、予想よりも遥かに近いところにいた。


上条『―――』


彼はローラを目の前に見た。
そしてこちらの即頭部を蹴り飛ばす直前の、長くしなやかな足も。


次の瞬間。


上条の意識は、凄まじい衝撃を受けて一瞬途切れた。



435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:47:08.83 ID:3j+zrRtio

今の『竜の頭』で、ローラが使っていた魔女の技の一部に障害が生じてしまっているらしい。
今の彼女はウィケッドウィーブも、魔女の技で強化されている魔弾も使えない。

と、筒抜けの繋がりを介してそれらを把握するも、
今の上条にとっては特に役に立つ情報でもなかった。


とりあえずわかったのは、ただ、一撃では死なない、というだけ。


上条『―――……あ……ぐッ……―――』


魔女の技の障害はすぐに修復できるも、
ローラはそんな時間すら待てないらしかった。

その上、もっと痛めつけて殺したいという衝動もあるのか。


虚ろな目でよろめく上条、
そこにまた、彼の頭部へすかさず放たれるローラの回し蹴り。

重くも耳を劈くような響きと同時に。
放られた人形のように、地面をはねては吹っ飛ばされていく上条の体。

大きな穴を穿っては、
粉塵がぶちあがる中ようやく止まったその刹那。

うつ伏せに倒れ込んでいる彼は、自ら起き上がる必要は無かった。

今の二蹴りの痛みを『痛み』と認識する暇さえなく。
顔面をサッカーボールのように蹴り上げられたのだから。

一瞬で後を追ってきたローラによって。


上条『―――』


海老反り状になって、強引に身を起こされた上条。
ここですかさず、その張り出された腹部に向けて放たれるローラの蹴り。

それも連撃。

当然、彼の体は一瞬で逆の『く』の字状へとひん曲がる。
だがその衝撃で吹っ飛ばされることは無かった。

額を鷲掴みにされていたのだから、吹っ飛ぼうにも吹っ飛べなかったのだ。


ただ、ずっとそのままというわけでもなく。
彼はすぐに解放されることとなった。


その掴まれている顔面へ向けての―――強烈な膝蹴りで。



436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:49:07.17 ID:3j+zrRtio

鼻から下が完全に破壊。


上条『ごぁ―――』

漏れる声はごぼごぼと露っぽい音が混じり、
そして彼が見たのは、飛沫と共に飛び散っていく『白い小石』のようなもの。

それが自身の歯だと彼が気付くのは、もうしばらく後になってからだった。


ローラの攻撃はまさに電光石火。


インデックスとの戦いで酷く消耗しているにもかかわらず―――それでも強すぎる。


これがアンブラ魔女のエリート中のエリート、最精鋭の戦士。

元来から有する驚異的な身体能力と、壮絶な修練によって鍛え抜かれた身。
その体から繰り出される肉弾戦は、ウィケッドウィーブや魔弾が無くても圧倒的。


あまりにも壮烈で速すぎて、上条の意識はリアルタイムでついけなかった。


顔の下半分が潰されたこの瞬間でようやく、
自身が殴打されているのだと途切れ途切れの意識の中で『気付いた』ところであった。

またそこに気付いても、彼には特に何かができるわけもなかった。

仰け反り吹っ飛ばされかけたところで、
首に引っ掛けられたローラの爪先で引き戻されて。

再び蹴りと掌底の連撃を叩き込まれる。

体はいまやぼろ雑巾の如き様相。
外界から聞える音はもうたった二種類しかなかった。

動きの節目節目に聞える、ローラの『ふっ』という短い息使い。
続けて、その直後に衝撃をともなって響く、鈍くも爆発染みた激しい打撃音。

そして見えるのは。


血塗れながらも美しく、狂おしいくらいに愛おしく―――身を焦がすほどの激情に染まっている魔女だけ。



437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:50:34.81 ID:3j+zrRtio

上条『(―――戦うんだ)』


このままではダメだ―――このままだと―――死ぬ。

上条『(―――抵抗しろ―――防ぐ……んだ)』

受け続けてはダメだ。
こちらも動き、攻撃を防がなければ―――と。

薄れ明滅する意識の中でも懸命に戦意だけを保ち、
闇雲でもとにかく、そのぼろぼろの左手を前に出すも。

その左手首を強くつかまれては引っ張られて、
同時に肩口を踏みつけられては引き千切られて。


一瞬でどこかへと放られて、吹っ飛んでいく左腕。


そして続けざまにかかと落しを受けて、
彼の体は地面に仰向けに叩き込まれてしまう。

上条『(―――……戦う……んだ―――…………戦え)』

それでも彼は前へと進もうと。
人並みの性能しかなくとも、その右手を伸ばした。

だがそれは、ローラからすれば『ささやかな抵抗』にすらならなかった。
右手は完全に無視されていた。

その右手は、
放たれた蹴りの起動にちょうど割り込んでしまって、篭手ごと『切断』。



上条『(―――…………たた…………か……え……)』



左腕と同じように、右手首から先が彼方へと千切れ飛んでいった。



438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/29(金) 23:53:21.98 ID:3j+zrRtio

と、その時―――ローラががくりとその場に膝を付いた。

やはりインデックスに受けた傷がかなり酷いのだろう、
彼女は何度も咳き込んでは、地面に血を吐き散らして喘いでいた。


上条『(―――…………)』


そう、これぞまさに、千載一遇のチャンスではないのか。

―――今なら。

今こちらから打って出れば、なんとかなるのかもしれない。
この迷いから抜け出す、道の先を見出せるのかもしれない。


とにかくここで動けば、程度はわからずともこちらに状況が傾くのは確実。


ただそれは。


上条『(―――……………………今…………な…………ら……)』


彼に動く力が残っていたら、の話であったが。


咽ながらもローラは再び上条を睨みなおし。
両手に持っていたフリントロック式の銃をその場で手放して。

のそりと立ち上がって、ふらつく足取りで地面に転がっている上条のもとへと歩んで。


その体の上に半ば倒れ込むように馬乗りになって、ゆっくりと握りこんだ右手を振り上げる。


今の上条には、そんな一部始終を見ているしかできなかった。
意識がとうとう本格的に消えていく中で、顔面に振り下ろされるその右拳を。


上条『(―――…………………………………………や……………………)』


続けて左、右、交互に、大降りに、振り下ろされてくる血まみれの拳を。


そして。

返り血でみるみる赤く染まっていきながらも、
瞬き一つせず黙々と拳を落としてくるローラを。


―――そのインデックスと同じ顔を。



444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:16:11.31 ID:uQ3IzjQho

そんな『外界』の光景と同じく。

内側、消えかかっていく意識の中でも、
最後まで映っていたのはインデックスの姿であった。

彼女の姿を、声を、温もりを。

と、そのように彼女の存在に浸り沈みつつあった時。


上条『(……………………)』


ふと感じる、この意識の内面だけではなく―――『外界』の彼女の存在。
それがひとしずくの刺激剤となり、彼の意識を繋ぎ止める。

いつの間にか、インデックスがこの場のすぐ近くにいたのだ。

視覚でもその姿を捉えようと焦点を合わせると。
インデックスはローラのすぐ後ろに立っていた。

同じく気付いて、その手を止めてゆっくりと振り返るローラ。
上条はその魔女越しに少女の姿をはっきりと捉えた。

修道服はすす汚れて、
打ち抜かれた胸を中心として、胴全体が真っ赤に染まっていて。

胸の傷を応急的に塞いで補強しているのか、
修道服の上から編みこまれている青い髪。


そしてその胸の前に―――子猫の姿へと戻っているスフィンクスを抱いていた。



上条『(―――………………)』


上条はこの光景、
インデックスとスフィンクスの状態がまるで理解できなかった。


どうして。


なぜスフィンクスを元に戻している?


―――その上なぜ。


わざわざ―――なぜここに戻ってきた?、と。



445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:16:54.88 ID:uQ3IzjQho


ローラが生ける屍の如くのそりと立ち上がり、
一歩、また一歩とインデックスの元へと進んでいく。

上条『(…………)』

地面を伝わってか、その足音がやけに強調されて聞える。
いいや、確かに感じ取ってるからだ。


その足に篭められるローラの意図を。


上条『(…………)』

逃げろ、離れろ、そう叫びたくとも、
声を発する器官は既に原型を留めてはいない。

だがそれでも繋がりを介して、内側の声は通じているはず。


届いているはずなのに―――インデックスは返事どころかまるで聞えていないかのよう。


その時、唐突にある記憶が鮮明に蘇った。
それはついさっき、インデックスとベランダで交わした会話。


―――俺とお前は一緒だ。『ここ』から抜けるのも一緒だ―――


―――どこまでも一緒。『救われる』時も。『堕ちる』時も―――


なぜ今思い出す、
なぜこれを思い出してしまったのか。



446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:17:58.98 ID:uQ3IzjQho

インデックスの前に達したローラが、ゆっくりと左手を上げて。
少女の頬を撫でるように手を伝わせた後、その白く細い首にやや強く添えた。


押さえて固定するかのように。


上条『(…………)』

これから何が起こるのか。
ローラが何をしようとしているのか、それは明らかであった。

だがインデックスは一切抵抗の意思を見せない。
傷のせいか息は荒く肩が大きく上下しているも、表情は穏やかな様子のまま。
胸のスフィンクスまでも同じく。

上条『(…………)』

これではまるで、まるで―――処刑を覚悟して悟った死刑囚のようではないか。

インデックス、どういうつもりなんだ―――?

上条は声にならない声を胸の内で発し続ける。


やめてくれ。

失いたくない。

やめてくれ

死なせたくない。

お願いだ。

インデックス、お前が消えてしまうこことだけは―――。


しかし当然ローラは聞く耳を持たず、インデックスはなぜか反応せず。
そして他の誰かには届くこともなかった。


―――否。


―――その声は確かに届いていた。


ただ、『第三者』ではない。
『外側』の誰でもない。

『内側』だ。


上条の内側―――固く押さえ込まれていた『内なる存在』へと。



447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:19:15.97 ID:uQ3IzjQho

瞬間。

上条『―――』

ずくりと蠢く、己が身の深淵。
そして全身を這う悪寒、このおぞましい感覚。

それに覚える非常に強い既視感。
否、そんな漠然としたものではない―――上条は『コレ』を、『前回』をはっきりと覚えていた。

間違うわけが無い。


『コレ』は以前、『デパート』の時に起こった現象と同じ―――『暴走』。


―――『怪物』の表面化だ。


フィアンマの時は出てこなかったし、
特に抑えこむことに意識を向けることも無かった。

デビルメイクライでの修練、そしてトリッシュが『拘束』によって、
この怪物はその存在すら欠片も匂わせなかったのだ。

だか今は違う。


トリッシュの拘束は―――『竜の頭』で壊されてしまっていた。



448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:21:18.40 ID:uQ3IzjQho

凄まじい勢いで膨張しては蠢き、
みるみるこの身の中を這い上がってくる。

上条『(―――なっ―――!!!!)』

決壊した檻から噴出して、全身に浸透していくどす黒く濃密な力。

体の感覚はすぐに回復、意識も急激に明瞭になる一方で。
その意識が肉体から剥離していく。


そう、あのデパートの時と同じく『主導権』を奪われるのだ。


確かにこの暴走は、前回と同じく上条を命を繋ぎとめて、
そして比較にならない規模の力を発揮する。

だが、上条は決して歓迎なんかしない。
この状況でも絶対に喜びなどしない。


なにせ、『コレ』はただの怪物。


―――御坂をも―――躊躇わずに殺そうとしたバケモノ。


大切なものを救うために、守るための戦いの場にいてはならない存在。
上条の意志など無視して、見境無くとことん破壊と殺戮を撒き散らす暴虐の塊。


彼自身が最も嫌悪し、そして最も恐れる存在なのだ。


だからこんな状況下にあっても、この『暴走』は助っ人なんかではなかった。
このような『デリケートな状況』で、こんな『無差別の壊し屋』など歓迎できるわけも無い。


彼にとっては、全てをぶちこわしに乗り込んできた『最悪の敵』であった。



449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:22:15.26 ID:uQ3IzjQho

怪物は上条の制止などまるで聞かず、
更にその身を蝕み肥大化していく。

上条『(―――やめ―――!!)』

拒否しても、怪物の声は止まない。


―――殺せ、殺せ、皆殺しにしろ。


上条『(―――くるな!!出てくるんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)』


それどころか、拒絶すればするほど、
反動とばかりに更に勢いを増す。


―――憎い奴を殺せ、苦しみの元となる奴を殺せ、皆殺せ。


右肘から先以外、その身は悪魔となり、
そして同時に魂も魔として成熟しつつあったからであろうか。

湧き上がる力は、デパートの時よりも更に色濃く遥かに大きかった。
そして伴うどす黒い感情、衝動の禍々しさも。


それ故に今回、彼の身に起こった変化は、前回よりも大きいものとなる。




450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:22:50.29 ID:uQ3IzjQho

一瞬にして再生する彼の顔面。

だが全て元通りというわけではなく、
口には鋭い牙、そして色が抜けながら急速に伸びて―――『銀』となる髪。

再生した左手はうろこに覆われていて灰色であり、図太くて隆々、指先には大きな鉤爪。
両足も同じような鉤爪のある獣脚となり。


その一瞬の変化に気付き、ローラが再び彼の方を振り返ったとき、
同時に上条は飛び上がるほどの勢いで立ち上がった。


―――いや、起き上がらされたのだ。


背中から突き上がるように生えた―――二対四枚の翼によって。


右腕は再生しなかたったもの、
そこ以外の様相はやはり『親』たるベオウルフと非常に良く似ていた。

手足と同じくうろこに覆われた羽からは、そのうろこの隙間から銀の光が強く放たれていて。
また全身にもその輝きを纏っていた。


そして瞳は燃えるように赤く。


そんな姿を目にしてローラは思わず、半歩後に下がってしまった。
その多くの感情が入り乱れている顔を、一気に驚きに染め上げて。

なにせこの変貌した上条の力、その規模は。


間違いなく―――大悪魔のそれだったのだから。



451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:24:43.30 ID:uQ3IzjQho

傍から見ればこの光景は、
ローラが、上条からインデックスを庇っているようにしか映らなかったであろう。

そこでまた、上条が潰れた声で搾り出した言葉もそのようなものであった。


上条『―――…………逃げろ゛……………………』


続く直後の上条の行動も―――ローラの行動も。

その言葉が放たれたとほぼ同時に、上条はローラに跳びかかった。
そしてローラがそこで反射的にとった行動は。

インデックスの胸元を瞬時に掴み、その体を横に放り投げたこと。

つまり彼女を遠ざけたのだ。

そしてローラ自身は『間に合わなかった』。

直後、彼女の腹部。




ちょうどへその辺りを―――上条の左手が貫通した。



もしこの時、上条の自我が喉と口に影響を及ぼせていたら、
彼の悲痛な咆哮が響き渡っていただろう。

主導権は無くとも、上条の意識は状況をはっきりと認識していた。

この左手の感触。
ずるりと、そのまま体を預けるようにこちらにもたれかかってくるローラ。
そのインデックスと同じ温もり、同じ香り。

そして繋がりを介して伝わってくるローラの内面。


上条『(あああああああああああああああああああ―――)』


それはそれは耐え難い光景、耐え切れない状況―――。



452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:27:03.84 ID:uQ3IzjQho

だがそんな彼の意識になど一切左右されず、怪物は淡々と動き続ける。

まずは左手を揺さぶって、ローラの体を引き抜こうとし、次は大きく一振り。
ローラの体はすっぽ抜けて5m程前方へと落ち、弱々しい声を漏らしながら転がった。

そしてそんな彼女の下へと、怪物は歩み進んでいく。

最期のとどめを刺すべく。

上条『(やめろ!!―――やめてくれ!!)』

上条の声に怪物はまるで聞く耳をもたない。
その無慈悲な足を進ませていく。

上条『(―――頼む!!お願いだ!!やめてくれ!!)』


仰向けに横たわっているローラ。
上下するその胸のリズムは不規則で目は虚ろ。

そんな彼女を見下ろして、左手を振り上げる怪物。


上条『(…………お願いだ…………頼む……)』


ローラを殺すのか。
やはり、己はそんな結果にしか辿りつけないのか。


―――『救えない』のか。


しかもこんな形で殺すのか。



こんな怪物の手で―――『最も禍々しいバケモノ』の手で。



と、その時であった。


『(―――だめ、とうま)』


意識の中に声が響いた。



『(―――目を背けちゃだめ)』



それは、今までずっと沈黙し続けていた彼女の言霊。



禁書『(―――拒絶しちゃだめなんだよ)』



インデックスの透き通る声であった。



453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:27:54.63 ID:uQ3IzjQho

その声が一筋の閃光となって、
上条の意識内で瞬いていく。


禁書『(―――よく、もっとよく見てみて)』


まさに彼にとって『救い』の声。


上条『(―――)』


彼女は声と共に、
繋がりを介して思念で指し示してくれた。




禁書『(それは決して―――怪物なんかじゃないんだよ)』




上条が『怪物』と呼ぶ存在。
その本質を、今一度よく見てみろ、と。

怪物、それを形成したのは急速に成長していった『魔』だ。
それがデパートのあの時に一気に覚醒したのだ。


ではそのデパートの時、覚醒の種となったものは何か。



それはインデックスを救うという衝動だ。



そして覚醒した存在はただ『それだけ』のために行動した。



454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:31:19.93 ID:uQ3IzjQho

そう。

これは同じなのではないか。


上条『(―――)』


つまりは『根』は同じなのだ。


全く同種なのだ。

これは何ら変わらない、上条自身の願い、欲求だ。

これぞ主観的、個人的、独善的で身勝手な願望だ。



禁書『(受け入れるんだよ―――とうまはとうまなんだから)』



―――そう、『拒否』する必要があるのか?



上条『(―――)』


『今まで』の上条当麻は、
『不完全』であったために気付くこともなく、不安で弱かったが故に受け入れられなかのか。


だが今はもう違う。


もう記憶喪失の『誰かわからない少年』ではない、本物の『上条当麻』だ。

『上条当麻』の欲求を受け入れて何が悪い―――俺は『上条当麻』だ、と。

この存在は『怪物』なんかではない、これもまた、失ってしまっていた己の一ピース。
置き去りにして来てしまった上条当麻の『欠片』なのだ。


拒絶する必要は無い。
追いやる必要も押さえつける必要も無いのだ。

あるがままに受け入れるのみ。


そのようにして、『怪物』が上条の意志に重なり沿った瞬間。

怪物は母体へと戻り、『上条当麻』は一つとなり。


―――『暴走』は『暴走』ではなくなる。



455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:32:39.03 ID:uQ3IzjQho


こうして。


上条当麻はインデックスを窮地から『救い』。

そして最終的にはインデックスに『救われた』。


だが―――『それだけ』であった。


それ以外は何も、何もかもが不確かでわからなかった。

ここで『インデックスを守った』というのが、ステイルとの誓いが成し遂げられた程のものなか、
それともただ一時的な、この場で完結してしまう程度のものなのか。


それどころか、本当に上条が『救った側』であったのかもすら。


いや、もう一つだけ、わかることはあった。

このまま、ここから続く先にある結果は、
絶対にベストなものにはなり得ない、ということ。


そう、上条当麻は―――『完全』に救うことなどできなかった。


数十秒後。

上条当麻はそこに立っていた。
黒い髪に『右手』を含む五体満足の人の身で。

隣には、彼の右腕に捕まって寄りそっているインデックスがいた。
その胸にはスフィンクス。


そして二人の前の地面には、腹に大きな穴が空いているローラが横たわっていた。
仰向けのその姿勢のまま、虚ろ気な瞳で二人を見上げて。



456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:33:46.23 ID:uQ3IzjQho

上条『……』

禁書『……』

腹を貫いた上条の一撃によってか。
ローラとの繋がりはいまやぷっつりと途絶えていた。


だが繋がりは無くとも、その瞳を見れば彼女の意志がはっきりとわかる。


私に近づくな、触れるな、と。


処置を施さなければ、もうすぐにローラは手遅れとなる。
だが彼女はそれを真っ向から拒否していた。

彼女はもう疲れきっていた。
何もかにもに。

蠢く感情と、それを構造的に認められない存在意味。
それらの不和にもう耐え切れなくなっていたのだ

そしてそれがはっきりわかってしまう上条とインデックスはどうしても、
どうしても彼女に触れることが出来なかった。

普段の上条ならば、いつもインデックスならば、
ローラの意志など押しのけて強引に手当てを試みるであろうが。


今は、二人は何も出来なかった。


『知りすぎて』しまっていたのだ。
今までローラが一人で背負ってきた苦痛も苦悩もその全てを知り、
そして壊れていく彼女の内面をまるで自分のように体感した。


だからこそ―――『軽々しく』手を差し伸べることなどできなかった。



457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:35:02.12 ID:uQ3IzjQho

ローラ『……………………言ってみろ……』

そんな二人へ、特に上条に向けて、ローラがぼつりと口を開いた。
挑発的に、そしてやり場のない怒りに満ち満ちた声。

それは上条の内面を、記憶を垣間見た上での言葉。


ローラ『…………今までお前がやってきたように……言ってみろ……』


上条『―――』


今まで通りに―――シェリー、アニェーゼ、ヴェントなどにしたように『言ってみろ』。


上条『…………』

上条は何もいえなかった。
ただの一言も。

時として痛みを知らないからこそ、
わかりっこないからこそ、他人事だからこそ言える言葉があるものなのだ。


一方、同じ痛みを知っているからといって、
手を差し伸べられるとも限らない。


むしろ全て知ってしまっているからこそ、何もできなくなってしまうこともある。



458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:36:06.69 ID:uQ3IzjQho

声を発する前に、その言葉には相手の中に届くほどの力が無いとわかってしまうのだから。
己の小ささ、不足がはっきりとわかってしまうのだから。

そしてそれをわかっていて『試みる』なんて、残酷なことができるわけがない。

全て知ったその上で手を差し伸べるには、
絶対的な確信とさらなる強さが必要とされるのだ。

上条『……』

禁書『……』

そして二人は、そこまでの強者なんかではなかった。
こうしてお互いを守るだけで精一杯。

それだけでギリギリなのだから。


ローラを救えるほどの強さなんかなかった。



『ローラ』、その人格を彼女自身が認められるほどの―――



ローラ『―――言ってみろ!!―――言え!!!!』



―――『自信』と『根拠』を与えられる力なんか。


上条『……………………』


二人『には』無かった。


そう―――この二人には、だ。

その時。



「―――ああ、私が言ってやる」



ここに『それ』を有する第三者の声が、どこからともなく響いた。



459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:37:24.44 ID:uQ3IzjQho

それは力強く張りのある女の声。
発信源はローラの横上の空間、そこに突如浮かび上がった魔方陣。

続けて即。

上条とインデックス、そしてローラがそちらに視線を合わせたと同時に、
その魔方陣がガラスのように砕け散って。

割れた破片の向こうから現れる―――。


「私が言ってやるよ、―――」


―――短い銀髪に、真紅のボディスーツに身を包んだ『魔女』。

魔女は襟と袖の羽飾りを優雅になびかせながら、
かかとで地面を打つように力強く着地して。


そして。

上条とインデックスがどうしても言えなかった言葉を―――。



「―――『認めちまえ』」



あっさりと彼女に捧げた。

たったそれだけ。

それが上条もインデックスも持ち合わせていなかった言葉。

たった一言。

彼女に必要だったのはそれだけであり、
彼女を救えるのはそれだけであり。

そして、彼女にこの言葉を与えられるのは―――。


ジャンヌ「―――さあ、ローラ」


―――ジャンヌしかいなかったであろう。



460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:38:33.78 ID:uQ3IzjQho

そこからのローラはまさに、
文字通り毒気が抜けていく様であった。

ローラ「―――」

顔を曇らせていた激情、影はみるみる退いていき。

血走っていた瞳からはその圧が退いていき、
代わりに暖かな熱を帯びて湿っぽくなって。


横に屈んだジャンヌに向け、自ら―――ヴァチカンの時とは逆に自ら手を伸ばして。


ローラ「―――………………ジャンヌさま……ジャンヌさま……」


子が母親を呼ぶかのように、そう何度もジャンヌの名を口にした。
まるで小さな女の子のごとく、純真無垢な瞳からぽろぽろと涙を零して。

ジャンヌはそんな彼女の背に手を伸ばして、上半身を起こし上げてはそっと抱きしめた。

と、そこで。


上条『―――……』


上条の横にいたインデックスも駆け出して、そのジャンヌの胸に飛び込んだ。
ローラと同じように、言葉にならない声を漏らして泣きじゃくりながら。

その光景はまさに母親が姉妹、
いいや、双子をその胸であやしているようであった。



461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:41:40.01 ID:uQ3IzjQho

そんな三者の姿を眺めていて、ふと。

上条の脳裏には、ベオウルフから受け継いだかつての記憶が蘇った。
それはダンテがいつぞやに口にした言葉。


『―――こいつは家族の問題だ。他人が口を挟むんじゃねえ』


上条「…………」

これはまさにその通りだったのだろう。
そう上条は、ダンテの言葉に納得した。


アンブラ魔女の鎖は、アンブラ魔女にしか解けなかったのだ。


魔女の痛みに苦しむ者は、魔女にしか救えなかったのだ。


ローラが救われることとインデックスが救われることは同義、
二人が自由となるのは二人が共に解放されてこそのもの、

そしてそれができたのは、魔女の中の魔女、ジャンヌ。

上条だけでは、インデックスの命を守るだけで精一杯であり。
そしてローラは救われず命を落とし、インデックスもまた、
永劫に痛みに苛まれ続けていたことだろう。

上条「…………」

客観的に見れば、インデックスの主契約悪魔として『協力』しただけなのだ。
そう、自身がインデックスを『救った』なんて言うのはおこがましい。

己がインデックスを救い上げたわけではないのだ。

結局誰が勝者だったのか。


それは強いて言えば―――やっと自由になれたローラであろうか。


上条当麻は、盛り立て役とジャンヌが来るまでの時間稼ぎ役でしかなかったわけだ。

上条「…………」

と、今回の自身の立場を再確認するも。

今となっては、彼はそんな誰が勝者だ誰の手柄などといったことなど、もうどうでも良くなっていた。
どうでもいいではないか。

困りがちながらまんざらでもなさそうなジャンヌ、
そして喜びと安堵で泣きじゃくる二人の魔女。

あの三人の姿をこうして見れたのならば、そんな『些細』なことなど。


『本物の上条当麻』の身となって、その目で―――『家族』と一緒で―――



―――あんなに幸せそうなインデックスを見ることが出来たのならば。



これぞ―――『最高の結果』ではないか。



462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 00:43:06.64 ID:uQ3IzjQho


こうして、ここに『二人の魔女』の清算は終る。


ジャンヌはある程度ののち、二人を落ち着かせてはその彼女達の傷の手当を行った。

応急的なものであるらしかったが、
インデックスは特に無理をしなければある程度の行動は問題はなく、
ローラも絶対安静ながら、命に別状の無い段階まで処置できたとのことであった。

そして四者、特にジャンヌと上条の間で簡単な確認の会話ののち、
それぞれの置かれている状況把握する。

ジャンヌからの神裂に協力して欲しい、という頼みに、
詳しい説明を聞く前にインデックスは快く了承。

ジャンヌはローラにこの場を閉ざしている結界を解くように命じた。


そうして、ここでの一つの戦いが完結する。

だがこれは前座に過ぎない。
ようやく一つ目の演目が終っただけだ。

舞台はここから更に続いていく。


もっと加速して、飛躍的に巨大化していく。


インデックスの清算は終ったが―――『上条当麻』自身の清算はこれからである。


上条「―――」


ジャンヌが構えてろ、と告げた直後。



結界が解けた先、そこには―――更に大きな『戦場』があった。



―――無数の『天使と悪魔』が入り乱れる『戦場』が。



休息など与えられない。
次の戦いは既に始まっていた。


―――



463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 00:43:34.80 ID:uQ3IzjQho
今日はここまでです。
次は水曜か木曜に。



464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/08/01(月) 00:44:18.98 ID:Mw9byFj3o
お疲れ様でした。



466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 01:05:52.64 ID:iZLAYrsDO
ベオ条さんがスーパーベオ条になったか
インデックスとローラが救われてなによりだ




467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸):2011/08/01(月) 04:26:23.53 ID:KwobJFpAO
ついに大悪魔クラス到達か
乙カレー




468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 09:15:38.77 ID:iZLAYrsDO
上条さんジャンヌのこと知ってんのかと思ったが、インデックスとローラと意識共有してたからそこで知ったのか



475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 23:59:47.02 ID:qnNjRMHEo
天使と悪魔の名がここ最近ごろごろ出てきましたので、
それらの整理も兼ねて、ここに大悪魔以上の格の序列を置いていきます。

特上
 アスタロト、魔界十強、マダムバタフライ(ベヨの主契約魔)


 ねこキング、ネビロス、サルガタナス、マダムステュクス(ジャンヌの主契約魔)、
 四元徳、全盛アマ公、スサノオ、トール


 トリグラフ、アラストル、イフリート、トリッシュ、メタトロン


 グラシャラボラス、レラージュ、ベリアル、ケルベロス、アグルド、
 ベオウルフ、ネヴァン、ミカエル省く四大天使、カマエル


※各序列内は順不同です。
※毎度ながらこの序列は大雑把で、また『ある程度』の強さの指標にもなりますが、全てがその限りではありません。



476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 00:32:22.06 ID:0zsR6SaDO
マダムバタフライは特上かー。まぁ当然か
つかマダムさん手足召喚であれくらいデカイと全長どんだけだよと思う





477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2011/08/05(金) 01:29:01.79 ID:2gcTmhzCo
イーノッk……メタトロンはアラストル達と同じレベルなのなー。



479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:10:03.73 ID:vd+ibBego
―――

レディ「…………」

薄闇の街の中で、
レディはバイクに跨ったまま佇んでいた。

周りには動くものの気配は無い。

道路にはちらほらと、
通りすがりに殺してきた悪魔達の死体。

目に見える魔界の痕跡はそれだけで、
それすらも今、風化して散り消えつつある。

聞えるのはその小さな破砕音と冬の風が抜ける音、
そして股下のエンジンの鼓動のみ。

あの悪魔達の探し物は、やはりここには無かったようだ。

そのように一応の収拾と考えて、
トリッシュがいる病院へと戻―――ろうとしたその時。


レディ「―――しまった」


彼女は一つ、
自身がとてつもない『判断ミス』を犯してしまったことに気付た。


それは今まさに意識を向けた先、そう、病院にいる彼女―――トリッシュの危機に。



480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:12:21.15 ID:vd+ibBego

どうして気付かなかったのか、
そこに思い至らなかったのか。

普通に考えていれば容易にその危険性を想定できたはずだ。

確かにあの悪魔達にとっての『探し物』はトリッシュではない別の存在であろう。

そもそも五和を追ってきただけで、
学園都市に来るつもりでも無かったのだろうから。

しかし。

だからと言って見過ごすはずが無い。

魔界にとって宿敵中の宿敵のダンテ、その彼に最も近しい存在。
それが今、歩行すら満足にできない手負いの状態。

これを好機と呼ばずして何と呼ぶ。

そしてあそこまで統制の取れた『軍』、組織ならば、
トリッシュほどの『大物』にむやみに下等悪魔など差し向けない。

大物には当然、大物を―――。


レディ「―――」


―――トリッシュと並んでも見劣りしないような、強大な『大悪魔』が直にやってくるはずだ。

直後。

彼女はとてつもない圧迫感を覚えた。
もちろん視線の先、街向こうの病院から。

それはもちろん、経験上間違いなく―――。


レディ「やばい―――」


神の領域の存在、大悪魔が人界に出現した印であった。



レディ「―――トリッシュ!!!!」


―――



481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:13:06.36 ID:vd+ibBego
―――

ステイルであろう力の放出から始まって、
今は次々と消えていく悪魔の気配。

一体何が起こっているのか。

トリッシュ「……」

それを把握する術は、今のトリッシュには無かった。
立って歩くことすら厳しい彼女が、この流れに加われるわけも無い。

だが、だからといって何もすることがないという訳でもない。
わかる範囲の状況だけを見ても、やっておくべき事は山ほどでてくる。

体を包むようにシーツを羽織って彼女はゆっくりと、あちこちに手を付きながら立ち上がり。
壁伝いに体を支えながら、ドアの方へと向かい。


トリッシュ「ねえちょっと」


開け放っては頭だけを出して、
廊下の先にいた黒服の男に声をかけた。

「何か?」

そして近づいてくる男に向けてこう続けた。


トリッシュ「あなた達、ここから離れた方が良いわよ」



482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:14:20.15 ID:vd+ibBego

「なに?」

トリッシュ「はやく離れて」

「…………いや……」

トリッシュ「命令を受けてるのはわかるけど、ここはもう安全地帯じゃないわよ」

トリッシュ「あなた達の手に負える状況じゃないから」

続けざまのトリッシュの言葉に、
黒服の男は明らかに対応しかねているようであった。

そこで更にと彼女は畳み掛けていく。

トリッシュ「とりあえず上と話をさせて」

「待て、いや……」

トリッシュ「早くしなさい。ほら。ほら早く」

ここまで衰弱していてもやはり大悪魔、
ちょっと語気を強めると、人間であるこの男は簡単に陥落した。

急かされ、慌てた手付きで通信機を差し出してくる黒服の男。
彼女はそれを近くに持っていき、そして呼びかけた。


トリッシュ「指揮系統、ちゃんと機能してる?あなたの上はどう?」

『…………な…………何?』

開口一番から、単刀直入に本題に切り込んで。



483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:15:31.60 ID:vd+ibBego

トリッシュ「今、外で何が起こってるのかわかってる?」

『か、確認中だ』

トリッシュ「どこに?だから指揮系統機能してる?上とちゃんと話できる?」

『…………どこも混乱状態だ。まともに機能しているとは言い難い。だがそれとこれは別だ。我々は命令を受けている』

トリッシュ「じゃあこう言えばいいかしら。もしここで戦闘が始まったら、あなた達は邪魔になるの」

『………………』


トリッシュ「私が何者なのかは大体わかってるでしょ?ねえ?悪いことは言わないわよホント」


『…………良いだろう』

トリッシュ「この病棟、私以外にいる者は?」

『他の患者は3名、医療関係者15名と我々が90名』

トリッシュ「……そう、急いで。とにかく早く」

『了解』



484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:17:58.05 ID:vd+ibBego

そのようにして、
ひとまずこの病棟の人間達を災厄から遠ざけるようにして。

トリッシュは部屋の中へと戻り、
再びベッドに腰掛けては窓の外へと目を向けた。

トリッシュ「……」

闇に包まれている第七学区の街並み。
さっきまでの騒乱が嘘だったかのように、今や静けさが戻りつつある。

だがこれは嵐の前の静けさ、いいや、台風の目に入ったようなものだろう。
この街が置かれている状況を考えると、この静けさが再び壊されるのは目に見えている。

今これは、ほんの僅かな一時の休憩でしかないのだ。

そして。


その『休憩』は、やはり唐突に。


トリッシュ「―――」


それでいながら非常に『静か』に終った。


ふと気付くといつの間にか。
この病室内、ベッドの前に『白い鳥』が立っていた。



485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:19:57.43 ID:vd+ibBego

頭の高さは1.5m程度、
そのスリムで首が長い体型は、人間界で言えばコウノトリに似ているか。

ただ似ているのは全体的なシルエットだけであり、
細部はかなり異なっていたが。

体表は羽毛ではなく白亜の鱗、長いくちばしにはノコギリのような牙が連なり。
目の周りの赤い縁取りによって、より強く強調されている赤く輝く瞳。

そしてトリッシュももちろん、
これがただの『大きなコウノトリ』なんかではない、というのはわかっていた。

それどころか、これが『誰』なのかをも知っていた。


なにせ以前。


トリッシュ「……………………懐かしい顔ね」


かつて魔帝に仕えていた頃に、何度か顔を合わせたことがあるのだから。
ぽつりと呟いたトリッシュ、対してそこに『コウノトリ』がこう返して来た。

魔界の言語で。


『―――以前会ったのは最近の事だというのに「懐かしい」、ですかな』


かすれしわがれながらも、これまた魂までよく響く声で。


『すっかり人間の時間感覚に染まっておりますな―――トリッシュ殿』



トリッシュ「何の用かしら。―――『シャックス』」



シャックス『そうですな、ひとまずは我が大公―――アスタロト様のもとにご同行を』



486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:21:52.58 ID:vd+ibBego

アスタロト配下の大悪魔の一柱、
シャックスはそう丁寧に告げてきた。

だが丁寧なのは表向きだけ、その実は拉致目的の脅迫だ。


『拉致』―――そう、スパーダの息子ダンテに対する『人質』とするために。


トリッシュ「…………」

随分と卑怯姑息な考えだが、トリッシュ自身だって、もしこの連中の立場ならこうする。
あの最強たる男を排除するためならば、手段を選んでなど入られないのだから。

そもそもトリッシュ自身がかつて、
似たような魔帝の策略の中でのその『実行役』であったのだから。

ただ、その事情がわかるのと、それに従うのはまた別の話だ。


トリッシュ「悪いけど、お断りするわ」


彼女はさらりと即答。
またその答えを予期していたのだろう、シャックスも同じくすぐに声を返して。


シャックス『ですな。では―――』


そして次の瞬間。
この魔鳥は、トリッシュを踏みつけて押さえ込んだ。

トリッシュ「―――ッ!!」

今や、彼女にはそのシャックスの動きが全く見えなかった。

魔鳥はその力の片鱗もまだ出していないにもかかわらず、
彼女は成す術も無く胸を踏みつけられて。

潰れてひしゃげたベッドと共に、床にめり込ませられてしまった。

トリッシュ「―――あ゛ッ!!ぐッ!!」

それでももがき、何とかして抜け出そうとするも。


シャックス『ネビロス殿からも、出来るかぎり丁重にと仰せつかっておりましてな』


シャックス『無用な抵抗は止めて頂きたい』


もう一方の鳥足で彼女の顎を掴み、そう告げるシャックスの言葉通り。
無駄な抵抗でしかなかった。



487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:23:15.12 ID:vd+ibBego

とその時。

この騒ぎの音を聞いたのか、
武装した黒服の男が二人、ドアを蹴破って飛び込んできた。

「―――ッ…………」

しかし何かをできるわけもなく。

トリッシュ「―――行って!!離れなさい!!」

大悪魔の姿を目にしてその場に硬直してしまった。
トリッシュの声に従うどころか、銃を向けることすらままならず放心状態に陥り。

耐えかねて、ぶっつりと魂の糸が弾け切れて。

二人ともどさりとその場に『斃れた』。

シャックス『なんともまたすぐに息絶える命。まことながら、人界とはまさに弱者の世ですな』

それをシャックスはあざ笑った。
目を細め、不気味に瞳の輝きを揺らがせて。

トリッシュ「―――ッ!!ああッ!!!!」


シャックス『何を憤っておられる?まさか人ごときの死に?』


そして相変わらずの丁寧な声色でありながら、
挑発的にそう言い放った―――その時。


この魔鳥が口にした『弱者の世』という言葉に『反論』するかのように。

窓の向こうから飛び込んできたロケットランチャーの弾頭が、
このシャックスの胴体に食い込んだ。



488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:24:31.55 ID:vd+ibBego

この弾頭の飛翔速度は、
大悪魔であるシャックスにとってはまさに『止まっている』といえる程度のものだろう。

しかしこの時、シャックスは回避どころか直撃するまでその弾頭に気付いていなかった。

弾頭に施されていた非常に高度な術式、そして使用者の技術によって、
魔鳥はその破魔弾の飛来を感知できなかったのだ。

これぞ人間のデビルハンター、その最高峰の技だ。

シャックス『―――』

横から弾頭を叩き込まれたシャックス。

その魔鳥の体は、ドアを突き破り廊下の反対側まで吹っ飛ばされ。
続けざまにその向こうで弾頭が起爆。
轟音が轟き、病棟全体が大きく振動。


そしてその爆轟の最中、窓の外から―――


レディ『―――トリッシュッ!!生きてるッ!?』


―――レディが飛び込んできた。

砲口から煙を引くランチャーを手に。
倒れている二人の黒服の男の首に指をあて、
手遅れだということを確認したのち、トリッシュの元へと駆け寄って。

レディ「―――行くわよ!!ほら!!」

彼女の返答など聞く間もなく、
そのシーツに包まれた体を乱暴に持ち上げて左肩に載せ。

入ってきた時と同じく、
5階の高さをものともせずそのまま一気に窓に走り飛び降りた。

ランチャーの先端についている大きな刃を病棟の外壁に突き立て、
ブレーキをかけて地面へと降り立つレディ。


レディ「ッッッシァ!!少しダイエットしたらッ!!」


トリッシュ「うるさい!もう腕一本削ってるわよ!!」


そんな風にようやくの言葉を交わしたのち、
道路に止めてあったバイクに飛び乗って。
トリッシュを背に、アクセルを噴かしてはバイクを闇夜の街に放った。



489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:27:04.12 ID:vd+ibBego

どこへ行けばいいのかはわからないが、
とにかく離れるべきだった。

あの大悪魔の意識外に離れることさえできれば、
後は悪魔祓いなり結界なり張ってひとまず隠れれば良い。

大悪魔相手に、戦うことはまず考えないことだ。

レディ「あれはシャックスね!?」

トリッシュ「そうよ!」

レディ「チッ!!」

それにシャックス、となればかなり高位の大悪魔。
諸王にも数えられるアスタロト配下の大公爵。


トリッシュを守りながらどうにかできるような存在ではない。

先ほどの渾身の一撃も、その手ごたえはかなり鈍かった。

確かにあの時、レディは完全な不意をついた。

だがその上で、
着弾の直後にシャックスは何らかの対応をしていたようであった。

炸裂の衝撃によるダメージは追わせられたものの、
その後の継続的な力の障害、つまり本命の作用である対魔の『毒』は浸透はしなかったのだ。



490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:29:10.94 ID:vd+ibBego

レディ「ねえ奴の!!シャックスの戦い方は!?」

トリッシュ「わからない!でも扱える力の規模は大体知ってるわよ!」

レディ「どんくらいよ!?」


トリッシュ「―――私と同じくらい!もちろんバージルにやられる前の!」


そうトリッシュが告げた直後、後方の病院の方角から。
耳を劈くような、この世のものではない『鳥の咆哮』が轟き。

トリッシュの言葉を裏付けるかのように放たれてくる、諸王たる圧倒的な力。


レディ「―――あはッ!!」


レディは笑い声をあげた。
デビルハンターとしての狂気染みた高揚と、
一介の人間としての恐怖が入り混じった笑みを浮べて。

後方の大悪魔によって、この界が軋み捻じ曲がっていくのを肌で覚えながら。


レディ「―――やっっっっばいわねッッ!!」


そしてその時、通りの先に更にもう『一つ』。


レディ「―――」


『それ』がいた。


新たなる別の―――『二体目』の大悪魔が。


レディ「………………………………はっ。畜生が」

バイクを横滑りさせて強引に止まり、そうレディが吐き捨てた通りの向こう。
闇の中、50m程先にて、赤い瞳の異形が悠然と立ちふさがっていた。



491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:30:36.42 ID:vd+ibBego

鼻先から尾の先まで5mほどの巨躯。
その体は、翼を生やしている獅子の上半身に鳥の下半身を繋げたような、
人間界の視点からすれば奇妙な造形。

獅子の『たてがみ』に見える部位は、
よく見ると硬質な角上の者が連なって形成されており、うねり揺れては不気味な音を断続的に響かせていた。

その姿を見て一言。


トリッシュ「……『イポス』、ね」


トリッシュがレディの後ろでそう、この大悪魔の名を呟いた。
これまたアスタロト配下、ネビロスの僕である強大な一柱。

レディ「チッ……さーて、どうしようかしらね」


まぎれも無い『大悪魔』。


トリッシュ「気をつけて。奴は真正面から来る『戦闘狂』よ」


レディ「…………」

真正面からくる戦闘狂、
しかけ無しの純粋なパワー型、真っ向肉弾戦タイプとなれば、
こちらにとってまさに『戦闘の相性』は最悪。



492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:32:29.95 ID:vd+ibBego

レディ「………………トリッシュってば随分と人気者ね。さすがにイヤになっちゃうくらい」

前方には、まるでこちらの出方を伺っているかのように闇に潜む大悪魔。
後方彼方からは、憤怒の叫びを挙げて力を解き放つ、更に強大な大悪魔―――。


トリッシュ「―――ゴメンなさい」


―――いや、『彼方』なんかではなかった。


トリッシュが唐突にそう謝罪の言葉を口にして。
同時にレディの体を後ろから突き飛ばした。

レディ「―――!!」

残っていた全ての力を使って彼女を押したのだろう、
不意をつかれたレディの体はバ、イクの上から弾き出され15m以上も吹っ飛ばされた。


レディ「―――ッ?!」


すかさず反射的に姿勢を整えて、着地して即座に振り返ると。

バイクの『前半分』が、ピンポイントで『消失』していた。
ちょうどレディが跨っていた所から先が。


そして残った後ろ半分にはトリッシュと。
あの魔鳥―――シャックスが、彼女を押さえつけるようにその背に立っていた。

その光景を一目見れば、今の状況は容易に把握できる。

トリッシュが突き飛ばしていなければ、
己もあのバイクの前半分と一緒に消えていたのだ。



493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:34:21.13 ID:vd+ibBego

レディ「……―――トリッシュッ!!!!」


瞬時に足を踏ん張り、
ランチャーの砲口を魔鳥へ向けるレディ。

そんな彼女に対してシャックスは、
トリッシュの首の後ろを足で掴みこれ見よがしに持ち上げた。
見せつけ、かつ盾にでもするかのように。


レディ「ッ…………!!」


彼女には今、できることは何も無かった。

シャックスがトリッシュを捕縛し、
かつ真正面から一切の隙無くこちらを見据えている。

どうしろというのか。

一応、まだ切り札はいくつかある。
かつて若き頃にダンテ相手に使った『肉体強化』、特に知覚の爆発的加速と鋭敏化を促す術などがある。

だがそれでも、相手にできるのは下位の大悪魔一体が限界。
それも相手の戦法にもよる相性にも大きく左右されるし、まずこちらに戦いの主導権があることが前提だ。


一方、今は二体。

それも片方は大悪魔中でもかなり上位の存在。
更に人質がおり主導権は相手側。


レディ「(…………これはもう、ホントどん詰まりってやつね)」


まさしくこれほどの窮地は、
テメンニグルの塔以来の事になるだろうか。
ここに今、彼女は完全に追い込まれていた。



494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:36:20.78 ID:vd+ibBego

しかしそれでも。

それでも。

レディ「―――はんっ、クソッタレ」

手に負えないとわかっていても、
このままタダで殺されるわけにも、ましてや見過ごして逃げるわけにもいかない。


レディは『デビルハンター』だ。

大悪魔二体の強大な圧に挟まれても『残念なことに』、
この鍛え抜かれた精神は正常に機能していた。

それゆえにこの状況でも彼女の芯は折れずに、
『人界に仇なす存在を命にかけて排除する』、『父』の裏切りの末にそう誓った信念を貫き通そうとする。

だがその時、痛みに顔を歪めながらもトリッシュが目を細めて示した。
ランチャーの引き金にかけるレディの指、それが徐々に絞られていくのを見て。

やめろ、と。


レディ「―――…………!」


じゃあどうしろと?

まさか見過ごせと?

レディが顔を顰めて目で返すも、
それでもトリッシュは目で止めるよう示す。

そうしている間に、シャックスの足元に浮かび上がる移動用の魔方陣。


それを見て指に力を入れるも、トリッシュも更に強く目で示す。
そしてシャックスに捕まれたままついにその光に沈み始めた瞬間。


レディ「―――」


トリッシュは一言、声を出さずに口だけを動かして『発した』。

「come」、と。



495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:37:35.48 ID:vd+ibBego

この一言に篭められた意味とは。

消え行くトリッシュの姿を目にしながら、レディは思考を瞬時に巡らせた。
彼女は今、何か考えがあってあの言葉を残したのだ。

そこで思い当たる解釈は二つ。

恐らくこちら側の助けがここに『来る』、
もしくは後を追って『来い』、だ。

だが今この瞬間は、そればかりを考えているわけにもいかなかった。
なにせ後方には『イポス』。

その大悪魔から放たれてくる殺意を覚え、彼女は振り向きランチャーを構えた。

目当てであるトリッシュを手に入れも尚、
こうして残り、そしてその場を動かずこちらに殺意を向けているイポス。

シャックスに攻撃を当て、一時ながらもあの存在を足止めしたその影響力によって、
『排除すべき脅威』と見なされたのだろうか。

イポスがここに残った理由はまさしく―――


レディ「(………………やる気か)」


―――こちらの抹殺だった。


ただレディが、このイポスと戦火を交えることは無かった。
そして彼女は知る。

トリッシュが残した言葉についての二つの解釈、
正しかったのはそのどちらかではなく、『両方』であったことを。


直後。


レディの前に、彼女の盾になるように―――。


魂をも凍らせる、『絶対零度の魔狼』が空から降ってきた。



496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:40:19.50 ID:vd+ibBego

レディ「―――」

強烈な冷気を放って、豪快に目の前に着地する三頭の大悪魔―――その名はケルベロス。

魔狼は着地したのとほぼ同時にレディに背を向けたまま。


ケルベロス『―――ネヴァン、予定変更だ』


ネヴァン『―――仕方ないわねぇ』


それに言葉を返す、
レディの横に優雅に降り立つ、紫の電撃を纏う妖艶な大悪魔。


レディ「ッ―――遅いのよ!!」


ケルベロス『すまぬ。ネヴァンに協力してくれ』

ケルベロス『ネヴァン、彼女の協力の下トリッシュを追跡し、そこにダンテを導け』

ネヴァン『あらぁ、あなたは?』

そのネヴァンの返しに、ケルベロスは少し押し黙り。

正面のイポスを見据えながら静かにこう告げた。



ケルベロス『―――…………奴は古い馴染みでな』



497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:41:56.34 ID:vd+ibBego

ネヴァン『……あらそう』

そんなケルベロスの様子を見て、ネヴァンもまた特に詮索せず。
安堵の一方、相手を奪われた悔しさ混じりの奇妙な表情を浮べるレディを連れ、
その場を素早く離れていった。


そして残る、静かににらみ合う巨躯の魔の獣達。
かつて『同じ主君』に仕えていた大悪魔同士。


そんな静かなる空気の中、ぼそりとイポスが声を発した。



イポス『―――「ナベルス」』



それはこの魔狼が『ネビロスの僕』であった時代の名。
対し魔狼はこう。改めて名乗り返した。


ケルベロス『否―――』



ケルベロス『―――ケルベロス。それが現在の我が真名だ』



スパーダの息子、ダンテの僕としての名を。


―――



498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:43:08.01 ID:vd+ibBego
―――

そこはどうやらジャッジメントの支部であるようだった。
揃っている設備を見るとわかる。

今はもう見るも無残な様になってはいたが。

一方通行は今、そんな『上半分』が吹き飛んだジャッジメント支部、
壊れた窓枠の上に立っていた。

一方「…………」

眼下には、床に座り込んでいる一人の少女。
大きな花飾りが印象的な、小学生にも思えてしまう幼い風貌の子だ。


一方「立てるかァ?」


かなりぶっきら棒ながらもそう、
彼なりの気遣いの言葉を投げかけるが少女は特に反応せず。

瞬き一つせず身を震わせながら見上げ続けるばかり。

どうやら放心状態に陥っているようだが、それも無理も無い。

こんな状況に突然放り出されれば、
日頃からよっぽど『場慣れ』して図太くないと『普通』はこうなるものだ。



499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:43:44.14 ID:vd+ibBego

だがそんな少女の状態など関係無しに、
少女自身を助けるために、この状況下では強引にでも連れ去っていくべきなのだろう。

しかし一方通行は、すぐにその行動には移らなかった。

その状況が大きく変化しつつあったのだから。

どうやら付近の悪魔達がこぞって、
あの光の魔方陣でどこかへと消え去っていっているのだ。

周囲を見回したが、今や悪魔の姿はどこにも無く。
力の『感知範囲』からも次々と反応が消えていく。


一方「(……もォ終わりか?)」

学園都市への脅威は去ったのだろうか、
と思いかけたその時。


状況は更に大きく変わっていった。


それも明らかに―――悪い方向に。


一方「―――――――ッ!!」


『それ』は突然現れた。
とんでもない大きさの反応を、『力の知覚』がはっきりと捉えたのだ。


それも―――あの病院に。



500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:46:14.28 ID:vd+ibBego

彼は瞬時に病院の方へと振り返った。

暗い街並みの向こうに小さく見える病棟。

すでに何らかの騒乱が起きているのか、
病棟の一画から粉塵が巻き上がっているのが見える。

間違いなくあの病院に今、とてつもない存在が出現している。

そして続けざまに響き渡る、鳥の鳴き声に似た強烈な音。
身の毛がよだつ、悪寒の塊のような『叫び』だ。

その発信源から覚える圧は、まさに凄まじいの一言に尽きる。
とにかく強烈で巨大。

一方「………………!!!!」


その力の規模の全貌を把握する前に―――己の手に負える存在ではないとわかってしまうくらいに。


だが。

だからといってそんな存在を放っておけるわけがない。

どこの勢力で何者なのかは判断付かないが、
こうしてその圧を解き放っている時点で、少なくとも人間のことなどまるで考えていないとわかる。


行かねばならない。

そして脅威となれば何としてでも排除しなければならない。


『留守の間、学園都市は守る』


デュマーリ島に向かった連中にそう―――約束したのだから。



501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:47:39.98 ID:vd+ibBego

ただ、あそこに急行するにも問題があった。
この眼下の少女だ。

彼女もまた、ここに放っておくわけにもいかないだろう。
だが一方で、彼女を安全地帯に送り届ける時間も惜しい。

あのような超越した力というのは、
一瞬の行動の遅れで取り返しのつかない事になってしまう。


一方「チッ…………」

そこで彼は一つ。
自らに課した戒めを例外的に破ることにした。

彼は声を荒げた。
これが、こちらからかける『最期の声』だと心に決めて。


一方「―――ラストオーダー!!聞こえてンだろ!!!!」


どうせモニターしているのだろう、あの少女へ向けて。

それに。

それに先ほどからこそこそと、こちらの様子でも伺っているのだろう―――。


一方「ここにシスターズを寄越せ!!!!」


―――この第七学区内をうろついている妹達のAIMの反応も感知している。


一方「…………」

その近場の反応のいくつかが、
一気にこちらへ向けて動き出したのを把握したのち。

一方通行は小さく屈み、こう告げた。

いまだ縮み上がっている花飾りの少女へ―――



一方「―――あばよ。死ぬンじゃねェぞ」



―――バカな『クズ仲間』に守ると誓った、この学園都市の『1ピース』へ向けて。


そして次の瞬間。
彼の姿は、現れた時と同じく音も無く消えた。


―――



506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:16:20.27 ID:rcOslE3Bo
―――

プルガトリオ、とある人界近層にて。

神裂、ステイル、五和の三人の歩みは今、
ローラが敷いたであろう結界に直面して止まってしまっていた。

瞳が赤く輝く神裂は七天七刀の柄に手をかけ、
そんな神裂と背中合わせに、同じく魔の光を仄かに滾らせて熱を纏っていくステイル。
彼ら二人の間にて、魔界魔術を起動させ槍を構える五和。

そして周囲の虚ろに淀む街並み、
ビル壁面・屋上を埋め尽くしていく大量の悪魔達。

ステイル『(…………統率が取れてるな)』

異形の者達の動きを、ステイルはそう見てとった。

悪魔はここに現れた瞬間、迷うことなくすぐに皆こちらを見据えて、
整然と完全なる包囲の陣形を組んだのだ。

その様子は、ここ数ヶ月間イギリスに出没していた悪魔とは全く別物。

かつて学園都市における魔帝の騒乱、
あの時に現れた悪魔達と同じく完璧な統制の下にあるのだ。

個々が無闇やたらに動くことは無く、
一つの生き物のごとく集団が動く様はまさしく『軍』。



507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:17:45.43 ID:rcOslE3Bo

そしてこの領域は本来、天界の勢力化にあり悪魔達は存在しない。
つまり、わざわざここまで『何か』を求めてやってきたのだ。

ステイル『……』

こちらと同じくインデックスが狙いか、まず最初にそう思い当たるも、
現れた瞬間の悪魔の行動から見てその可能性は低いと言える。

彼らはここに現れた瞬間、
こちらを即見定めてのあの包囲行動をとったのだ。

ステイル『(となると狙いは…………僕たちか?)』

と、そのような結論に向かいつつあったところ。

ステイル『(いいや………………)』

ステイルは悪魔らの様子の中に、更なる有益な情報を見出した。

それは彼等の意識の矛先だ。

悪魔の戦意は、こちら三人に等しく向けられているも、
本命たる意識の集中点は自身と神裂からは外れていると。

そこにたどり着いた時ほぼ同じくして、
ステイルは背後にいる彼女―――その悪魔が意識を集中させている―――五和の空気が変わるのも覚えた。

ステイル『(……)』

彼女の異常な緊張と困惑を、悪魔の感覚ではっきりと感じ取れる。
そして当然、同じく―――神裂もまたはっきりと感じ取っていたのだろう。


神裂『―――五和』



508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:18:51.66 ID:rcOslE3Bo

神裂が五和の名を呼んだ。

表面的には涼やかでありながら強烈な圧迫感と鋭さが滲む、
近しき者達にはわかる非常に『不機嫌』な際の声で。


五和「―――は、はい!」


神裂『―――心当たり、ありますか?』

五和「……ッ!……あり……ます」

神裂『何か?』

五和「…………あ、アスタロトが…………」

神裂『……アスタロトに遭遇したのですか?』

五和「はい……魔女を食すとかなんとかと……それで……あの……………………」

そこで声を僅かに震わせて、五和は言い淀んでしまった。

その震え、そして彼女の醸す空気からステイルと神裂ははっきりと覚える。
五和の身にわきあがる怒りと嫌悪感、そして耐え難い恐怖を。


―――みしっと。

ステイル『…………』

その瞬間、ステイルは神裂の中からそんな『軋む音』を聞いた気がした。
この不機嫌な彼女の中で、滾る激情が更に肥大した音を。

神裂の中でますます怒りがこみ上げているのだ。
己が部下が侮辱され辱めを受けたことに対しての、ごくごく『個人的』な、神裂という『人間的』な怒りを。



509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:21:28.48 ID:rcOslE3Bo

ステイル『―――……』

そして怒りはリンクしている使い魔ステイルにも伝播していき、
彼もまたその心を滾らせる。

だがその一方で、彼はこれが―――『楽しくて嬉しかった』。

最も近しき友と感情を共有し、そして共に歩み進めるのだ。

楽しくない訳がない。
嬉しくない訳がない。

他人と距離を置き、孤独な修羅の人生を歩んできたステイル。

唯一、インデックスの内面だけは知ろうとしてきたも、
自身の内面を知られることは例外なく何人からも避け続けてきた少年。

彼は今、『初めて』味わう他者との『繋がり』を強く実感して、気分を躍らせていた。

まるで『小さな子供』のように。


神裂『ひとまずは―――眼前の障害の排除に徹します』


ステイルにとっては『愛おしい怒り』に煮えたぎる神裂が、
悪魔達を見据えたまま口を開いた。


神裂『ステイル』


そして熱気を帯びた語気で彼の名を呼び。



神裂『―――――――――このゲス共を焼き掃えェッ!!!!』



奥底からの激情をまたしても覗かせて命を下す。
次の瞬間、小さく笑うステイルが指を鳴らすと。


ステイル『―――喜んで、僕の主よ』



周囲は灼熱の嵐に包まれた。



510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:22:42.56 ID:rcOslE3Bo

火山の噴火の如く、地面から噴き上がる炎獄の業火。
炎が瞬く間に周囲の悪魔たちを飲み込み、
このおぼろげな街並みもろとも消し去っていく。

断末魔をも許さずに一瞬で。

だが、悪魔達の数はこの程度ですべて排除できる程度ではなかった。
文字通り『無数』。

消滅したのは包囲の最も内側だけ、
背後はまだまだ悪魔に覆われた街並みが続いている。

そして彼等もまた、この業火の洗礼を開戦の印と見て動き出す。
炎の壁を力任せに抜け、雪崩のように押し寄せてくる後続。

だが炎の壁を抜けた先には、次の障壁が存在していた。
それは青い光の糸で形成されている網。

神裂が柄を軽く叩くと、周囲の空間に巨大な光の網が出現。

そこに悪魔たちは自ら飛び込む形となり、
次々とサイコロ状に切断されていく。

所詮は下等悪魔、
ステイルの業火と神裂の七閃、その二重の防壁を突破できたものは一体もいなかった。

また神裂達はそこから動く必要も無かった。

用があるのは向こう、
敵意は全てこちらに向いており、ここに集まってきてくれるのだから。

五和「…………」

この過程の中では、五和の仕事はなかった。

彼女は神裂とステイルの背の間で、
この無数の悪魔達の壮大な『殺処分』をただただ見ていた。



511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:23:50.64 ID:rcOslE3Bo

と、その時。

神裂『―――』

ステイル『―――』

二人の悪魔は敏感に感じ取った。
この階層、この戦いの場に加わってきた新たなる『勢力』を。

五和「!」

それは五和の目にも見えた。
悪魔達の群れの中、空中、いたる所に突然浮かび上がる『金色』の魔方陣。
その文様は明らかに魔のものとは違い、輝きも禍々しいものではない。

そしてそこから現れた存在もまた―――聖なるオーラを纏う者達であった。

ただ『聖なる』とはしても、その姿は手放しに『美しい』とは言いがたく、
また『平和主義者』でも無かったが。

頭にはどことなく『虚ろ』な仮面を被り、トカゲの如く鉤爪がついた手足。
頭上の光の輪、翼、その色合いや造形は神々しくも『清い』とするには程遠く、
狂気に満ちた退廃的な空気を覚えさせ。


手には恐ろしげな形をした―――金色の槍や剣。


これが、人々が思い描いてきた像とは違う、『本物の天使』の姿。
血肉で形成された器を有す、『生きている天使』の真の姿。

五和「―――」

そんな天の者達の姿を目にした瞬間。

五和はどくり、と。

手に握る槍から―――アンブラ製のフリウリスピアから『鼓動』を覚えた。

魔女の手で作られた槍が静かに熱を帯びていく。
まるで―――『目覚めた』かのように。



512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:24:50.90 ID:rcOslE3Bo

この天使達の出現に、悪魔達も一瞬動きを止めた。
しかしそれは動揺でも驚きでもなく、新たな敵を見定めるための制止。

故に、流れが止まったのは僅か数秒間。

またそれは天使達も同じだった。
一拍の間ののち、戦いは新たな勢力を交えて何事もなく再開する。
天使と悪魔との間でも、問答無用とばかりに衝突が始まった。

瞬く間に戦場は完全な乱戦状態へ。
しかも全勢力が敵同士、三つ巴だった。

神裂達のところにも刃を向け進んでくる天使の一団。

ステイル『……』

ただここまで状況が一変しようとも、
ステイル達がやるべき事に変わりはなかった。

その意思を示すかのように神裂は躊躇いも無く、
迫ってきた天使達をすぐさま七閃でぶつ切りに。

続きステイルもその場から動かずに、変わらぬ手さばきで天魔まとめて滅していく。

だがこの後すぐ。

また一つ状況に新たな変化が起こり、
それが彼等の行動にも変化をもたらすこととなる。


神裂『―――!』


その瞬間。
はるか彼方にて、白銀の光が強烈な圧と共に煌いた。



513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:27:25.50 ID:rcOslE3Bo

その光と圧は一つではなく、
複数の存在のものが重なっていたもの。

神裂『(―――ジャンヌさん!)』

ステイル『(―――上条か!)』

そこから、まずよく知っている力を見分け認識する二人。
そして更に感覚を集中させて、上条とジャンヌの傍にあるもう二つの気配も―――。


神裂『―――インデックス!!』


ステイル『―――インデックス!!』


二人は声を揃えてかの少女の名を叫んだ。

間違いない、結界が解かれたのだ。
具体的な過程はとわからずとも四者が問題なく生きているところから、
現在はジャンヌがローラを掌握、インデックスの安全は上条が確保していると判断できる。

そうとなれば、神裂達にとってここに留まっている理由はもう無い。
現状やるべき事柄の優先順位も大きく変わる。


神裂『―――ステイル!!』


神裂は名を呼ぶと同時に、リンクを介して自身の意図を使い魔に送り込む。
すると使い魔は返答する間も惜しんで、
すぐにその地を蹴って、とてつもない速度であの白銀の光の方へと向かっていった。

神裂『五和!!』

次いで五和に手を差し出すが。


五和「(―――…………)」


五和はその手を掴もうとはしなかった。
彼女はこの時、自分の立場をはっきりと悟ってしまったのだ。


自分は現状、この敬愛する主にとって―――『荷物』でしかないのだと。



514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:29:34.11 ID:rcOslE3Bo

神裂もステイルと同じように、
人の領域を遥かに超えた速度でインデックスの下へといけるのに、それをしなかった。

なぜか、それは五和のために。

五和がここにいる『せい』で、神裂は五和の体を持ち、
彼女が耐えられる程度の速度でわざわざ移動しなければならない。

もちろん、心優しき神裂は『五和のせい』なんて認識などしていない。

しかし五和は、神裂をこよなく慕う優しき心を有しているからこそ―――そう思ってしまう。

何せ、この悪魔達をここに導いてしまったのも―――自分だ、と。


五和「―――結構です!!」

五和はその手から目を背けるように、
横を向いては槍を周囲の異形へと構えた。

一瞬、戸惑いの表情を浮べる神裂、
だが構わず五和は言葉を放っていく。


五和「行って下さい!!早く!!」


半ば叫ぶようにして。



五和「―――私は『自力で』どうにかします!!」



515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:30:57.06 ID:rcOslE3Bo

学園都市におけるアックアとの戦いの際、やっと五和たち、天草式十字凄教は神裂火織と並ぶことが出来た。
女教皇と同じ領域で、彼女の傍で共に戦えた。

しかし追いつけたのも束の間。

それからまた、神裂は更なる領域に行ってしまった。
今までよりも遥かに遠い彼方へ。


人と人ではない存在の絶対的な距離の先へ。


ただ五和はこの時、別にその現実に『打ちひしがれていた』訳ではなかった。


五和『プリエステス―――さあ』


神裂『…………』


魔界魔術の赤い光を帯び、エコーがかかる声。
その彼女には微塵の気負いも無く、己に対する自信に満ちている。

そう、確かに今や、同じ領域では並んで戦えない。

でもそれは一番重要なことではない。

最も重要なのは―――意志が共にあるかだ。

アックア戦以前はまるで他人のような隔たりがあった。
しかしそれ以降は違う。


今は常に共に。


こうして神裂が人の領域を遥かに超えても、意志は共にあるのだから。



516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:32:06.83 ID:rcOslE3Bo

そんな五和の様子を見て、神裂はすぐさま彼女の意志を悟った。
この情に厚い主にとって、可愛い部下の内面など今や手に取るようにわかるのだろう。

彼女は静かに、それでいて良く響く声で。

神裂『「残り時間」はわかりますね?』


五和『わかります』


アイゼンが示した残りの人間界時間を確認して。



神裂『では、それまでに―――「私の横」へ「帰還」しなさい』


簡潔明瞭な命令を下した。

多くの言葉を並び立てる必要は無い。
二人の間ならばこれだけで全てが伝わる。


五和『―――はい!!』


五和は強く、そして確かな声を返した。
神裂はその声と意志をしっかりと受け取って。

軽く彼女の背中を叩いた後、人の領域を超えた速度でその場を離れていった。



517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:33:26.40 ID:rcOslE3Bo


周囲の悪魔達と天使達もまた、
あの彼方の白銀の光に一斉に反応していた。

悪魔たちはけたたましく吼え、そして天使たちはノイズが混じって聞える声で何やら喚いている。

両勢力ともあの上条とジャンヌ、力の大きさから言って主にジャンヌか、
その強大な魔女の出現にかなり興奮しているようであった。

だがこの戦場がそれで静まるわけも無く。
むしろより一層、乱れ交じり混沌と化していく。


そんな状況こそ、今の五和にとってはかなり好都合であった。


一斉にこちらに向かってこられたら、とても対応できない。
しかしここまで乱戦と化していたら別だ。

神裂やステイルほど力が目立たないという事もあって、
五和に狙いを定めてくる者はまばらにしかいなかった。

本物の魔女の出現をもって皆、五和への関心を失っていたのだろう。
すぐ脇を走り抜けても、悪魔も天使も皆眼前の敵に夢中で気付かないのだ。


五和『―――ふッ!』

あちこちから飛び散ってくる肉片と血飛沫、何重にも重なって響く咆哮と断末魔。
全方位からの刃の衝突による金属音。

その中をひたすら、五和は姿勢を低くして駆けていく。
魔界魔術によって強化された肉体を駆使して、目にも留まらぬ速度で。



518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:35:40.89 ID:rcOslE3Bo

彼女の今の目的は、
神裂の命令を果すこと―――人間界に戻り『生きて』主に合流することだ。

そのためには、移動の魔方陣を再び構築しなければならない。
そしてこの作業に必要なのはある程度の時間、つまり敵の手が一定時間伸びてこない、『そこそこ穏やかな空間』だ。


そんな空間を探して五和は、この異形の地獄絵図の中を突っ切っていった。


時たま走り抜ける五和に気付く個体もいた。
しかし彼らが彼女に刃を向ける頃には、すでに『事が終っていた』。

そんな個体を見定めた瞬間、彼女は更に駆ける速度を上げ、槍を携えて突進。

五和『―――ッやァァッッ!!』

相手に構えを取らせる間も与えずに、飛び込むようにその顔面に一突き。

天使の面をぶち砕き、その下の異形の頭部を貫き倒す。
飛び散る破片の下から覗くは、人間の認識からはとても『天使』と呼べないおぞましい顔。

五和はそんな怪物の頭部を踏みつけて、
駆けざまに槍を引き抜きそのまま進んでいく。

そのようにして幾体もの天魔を屠って。

五和『(…………)』

だがいくら進んでも、
目当ての『そこそこ穏やかな空間』はどこにも見出せなかった。

戦場はどこまでも続き、
建物の中までもが天使と悪魔の戦いの場と化していたのだ。



519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:36:53.32 ID:rcOslE3Bo

五和『!』

色合いから見て天使だろうか、
空から巨大な屍が降って来、すんでのところで彼女は脇にそれて避けていく。

今や地上のみならず空中も、この階層の全域で天と魔が衝突しているようであった。

しかもこれは、恐らくまだ『前哨戦』であろう。

悪魔達は皆下等、そしてそれと殺し殺されの天使達も恐らく下位の存在、どちらも『雑兵』だ。
そこから普通に考えれば、この後ろには、
双方とも更に強大な力を有する『精鋭』がいると見て間違いない。


となれば。


五和『(―――急がないと!)』


いずれ、戦火が今とは比べ物にならないほどに激しくなるのは必至。
その前に何としてでも『そこそこ穏やかな空間』を発見しなければ―――と、その時であった。


五和『―――』


五和はあろうことか、突然ある場所で足を止めてしまった。
『それ』を目にしては、止まらざるを得なかったのだ。


五和『(……あれは……―――)』



無造作に通りに落ちていた―――『黒い大きな拳銃』を見つけてしまっては。



五和『―――上条さんの……)』


―――



520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:38:30.65 ID:rcOslE3Bo
―――


気付くと。

黒い戦闘服に身を包み、アサルトライフルで武装した二人が窓枠に立っていた。
あの天使のような少年が立っていた場所に。

初春「…………」

体格からして若い女だろうか。
ごわついた戦闘服の上からでも、その女性的な体の曲線がわかるし、
何よりも、顔は厳しいマスクで隠れているもその茶髪の髪が―――。

初春「―――」

と、そこで初春は気付いた。
この体格とあの茶髪の髪型、それが『ある友人』に非常に良く似ていると。


そして発された声で。


「―――救助に来ました」


初春「!!」

彼女は確信した。

マスク越しでくぐもってはいるも、間違いなく―――御坂美琴―――

―――と、思いたかったのだが。

大きな矛盾がそこにあった。
何せ目の前には今、『二人』いたのだから。



521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:39:44.67 ID:rcOslE3Bo


初春「―――みさ―――」

思わず名を叫びかけたと同時に、
初春はその大きな矛盾を再認識して、声を止めてしまった。

だがその呼びかけは通じていたようで。

まず右側の一人がマスクを脱いでは、ぷはっと息継ぎをしたのち。


「いえ、ミサカはミサカ10032号です。話は後に、今は移動することが最優先です、
 と、ミサカは面倒くさいからどさくさに紛れてごまかしちゃおう」


初春「―――」


御坂とは別人であると、御坂美琴と同じ顔で訂正した。
まるで意味がわからなかったが。

と、そこでまたしても、
別の形で混乱に陥ってしまった彼女に向け、更なる追い討ちが。


「同じくミサカはミサカ19090号です―――」


次いで左側もマスクを脱いで。


初春「―――へ?!え?!……みッッ御坂さんが……み、みみ……え?!」


「―――と、ミサカはわざわざこんな状況で顔を出す必要があったのか疑問に思いますが、
 お姉さまのご友人にアピールアピールでまあ良しとしますか」


これまた、御坂美琴と同じ顔でそんなことを言って。
最後に「にっ」と声に出して、わざとらしい笑みを浮べた。


―――



522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 23:41:02.11 ID:rcOslE3Bo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。



523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県):2011/08/10(水) 23:43:37.58 ID:cEr5V25a0
乙です!ミサカ妹あっさりしすぎだろwwwwww



526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2011/08/11(木) 00:26:34.28 ID:HnFzRDUNo
お疲れ様です。五和、人間代表で頑張ってくれ・・・



次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 27】

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禁書目録SS   コメント:4   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
10556. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/08/12(金) 14:02 ▼このコメントに返信する
430
姫神ェ…
10562. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/08/12(金) 17:40 ▼このコメントに返信する
↑お前も同じ事を思ったか・・・  

>土御門、青ピ、吹寄、友達、友達。  

ひでぇよ・・・■■だけ仲間はずれとかよぉ!
10569. 名前 : 名無し@SS好き◆OLTKRoIA 投稿日 : 2011/08/12(金) 22:04 ▼このコメントに返信する
このSSのパワーと投下スピード、そして>>430の容赦の無さ
間違いなく>>1は大悪魔
10595. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/08/13(土) 16:41 ▼このコメントに返信する
それをいうなら>>1はジュベレウスだな

投下速度がとんでもねーな

毎日チェックせねば!
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