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ステイル「第六位、『魔女狩り(ファイアハンター)』だよ」【中編】最初から→
ステイル「第六位、『魔女狩り(ファイアハンター)』だよ」
390 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/21(木) 23:12:47.61 ID:MQq2mYoSO
少し時間を溯る
ステイルが去った『幻想猛獣』の被害現場
そこに警備員が駆け付け、この被害の原因であり、『幻想御手』の黒幕の木山を逮捕した
木山は何も抵抗せず警備員に連行される
だが美琴と初春は確かにきいた
この騒動をおこした理由である
とある子供達を救う、という目的を諦めたわけではないと
ということで『幻想御手』の事件は一件落着
だからなのか、美琴は最後に一つの疑問が湧いた
その勢いでトラックに乗せられる直前にも関わらず、木山に質問した
美琴「よくあんな方法を思いついたわね」
391 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/21(木) 23:17:55.81 ID:MQq2mYoSO
木山「……」
木山は何を思ったのか少し間を置いた
そして僅かに息を吐き、質問に答える
木山「このアイデアは『君』と『ある男』の二人をヒントに得たものだ」
美琴「……はあ?私!?」
美琴は自分がヒントになったという返答に気をとられて、頭に刻まなかった
共に口から出た、もう一人のヒントとなった存在を
後に、ステイル=マグヌスにとって最大の敵となる存在を
397 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:08:28.31 ID:hszRIDJSO
学園都市の図書館
そこそこ資料と人が集まっているその場所で
一人のツンツン頭の少年が唸っていた
上条「…………く」
上条は体をのけ反らせる
彼は一日中この場で本と睨めっこ
今日だけではなく、二十一日から今日までの三日間、ずっと
上条「…………」
頭を少し休め、再び本を読むのに集中する
398 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:09:49.64 ID:hszRIDJSO
上条が見ているのは脳に関する分厚い本だ
上条(……今度こそあってくれよ…)
上条は小さい文字がたくさん書かれた本のページを素早く捲っていく
別に速読の天才というわけではない
そもそも上条は脳の勉強をしているわけではなく
知りたい情報を探しているだけである
だから知りたい情報が書かれている範囲を急いで探している
上条(…………ここだ)
手を止めたページに書かれていたこと
『脳の記憶容量』
399 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:10:46.65 ID:hszRIDJSO
上条「…………」
『脳とは、一四〇年分の記憶を溜めることが可能である――――………』
上条(だーっ!だからそれは分かってんだよ!知りたいのはそこじゃなくてだなぁ!!)
上条が唸る訳
それは四日前に戦った一人の能力者が呟いた言葉にある
『だったら完全記憶能力者は全員五、六歳で死んでしまうんだね』
それは上条が救いたい一人の少女の記憶の問題について
疑問を投げかけるような言葉
上条(人間が一四〇年分の記憶を溜めることができるのは分かった)
だがインデックスは完全記憶能力者であった
そして事情により、脳の八五%を魔道書の記憶(ほかん)に使っているため
残り十五%の記憶(おもいで)は一年ごとに消去しなければ生きていけない
400 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:12:23.01 ID:hszRIDJSO
だからこそ脳について調べ始めた
そうしているうちに小さな引っかかりが
大きな疑念へと発展していった
上条「……一四〇年分の一五%が、一年ってのは計算がおかしいだろ」
単純な計算でいけば、約二一年くらい
しかし、まだ確信には至らない
科学と魔術だ
必要悪の教会の『一〇〇』と、この本の『一〇〇』は基準が違うのかもしれない
だから更に調べているわけだが
上条「…………くそ、どういうことだよ」
本だけでは限界がある
脳の研究者に訊いてみるかとも思ったが
上条は許可を得ているとはいえ、密約みたいなもので正式な許可はない
IDも持たない侵入者なのだ
401 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:13:41.36 ID:hszRIDJSO
上条(…………アイツ、に……訊く、か……)
あの疑問を投げた本人に訊く
一番手っ取り早い方法だが躊躇っていた
彼もまたインデックスを救いたいと思っていた一人
しかしなにかに絶望し、諦めてどこかへ消えた
上条としては協力してほしかった
色々と優れていたし、アイツだって本当は救いたかったはずだ
そしてなにより、途中で投げ出すなんてマネは許せなかった
だが
上条(アイツを探す時間はもう無い、インデックスは“俺が”救うんだ)
以前の彼なら無理やり引きずってでも、ステイルを連れ戻しただろう
だが上条は以前の失敗から何かがズレた
上条(もう二度と、負けねぇって決めた…消えたヤツに構ってて、負けるわけにはいかねえんだよ…)
リミットまで後二日
時間がないからこそ弱音ははけない
402 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:15:30.95 ID:hszRIDJSO
上条「くそ…」
叫びたいが、図書館ということで声を抑える
上条「明日は、パソコンが使える所にいってみるかな…」
口に出しながら考えをめぐらせていると
神裂「上条当麻…」
上条「……神裂…って、もうこんな時間か」
時間がたつのが早い
学校に行っていたころには感じられなかったこと
上条「くそ………」
再び我慢の副作用から出る言葉呟く
何の収穫もない一日が、また終わった
403 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:19:40.10 ID:hszRIDJSO
神裂「閉館まで後二十分程度ですね」
神裂は毎日入口で見ている情報を伝える
上条「だったら…」
神裂「では残り時間、私はいつものように完全記憶能力者についての資料をあたってみます」
神裂がギリギリにしか来ないのは、この調査が教会にバレないための保険
上条も協力を受け入れている
上条「ああ」
インデックスが助かれば、誰が助けようが関係ない
ステイルのように消えた人物はほっておくが
学園都市に進入する前、インデックスのパートナーを受け入れようとしたように、彼女のためになる人は受け入れる
それは
404 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:23:58.16 ID:hszRIDJSO
上条と神裂はアパートに帰り、姫神のつくった夕食を食べていた
この部屋には四人の人間がいる
しかし誰もしゃべらない
上条「……」
神裂「……」
上条と神裂はずっと怖い顔をして、考え事をしている
インデックスはベッドで寝かされているため、やはり喋らない
最後の一人
姫神秋沙は
405 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:25:11.71 ID:hszRIDJSO
姫神(……。うん)
何かを決意するため黙っていたが、やがて場の沈黙を破る
姫神「あの」
上条「……ん」
もぐもぐ、と米を噛みながら返事する
姫神「……。その」
だが躊躇うように口籠る
早く考え事を再開したい上条と神裂はそれを急かす
上条「遠慮すんなよ、言いたいことがあるなら言ってくれ」
神裂「この食事のことですか?ならばおいしいですよ」
姫神「いや」
いつもハキハキしない口調がより一層ハッキリしない
病気なのか?と心配する二人
すると、姫神はついに口を開いた
姫神「分かったことが。ある」
406 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:26:52.79 ID:hszRIDJSO
上条「……分かったって何が?」
姫神「その。そこのシスターの脳について」
ガタン!と立ち上がる上条
神裂も思わず手に持っていた味噌汁の器をひっくり返しそうになった
上条「なっ、なにがっ!?」
叫ぶ
近所の迷惑など考えずはち切れんばかりに
その声に驚きながらも、姫神はゆっくりと話す
姫神「実は。私も上条君たちの力になりたくて。脳について調べたの」
神裂(……)
神裂は姫神が買い出しに随分時間をかけていたことを知っている
神裂「なるほど…その時調べていたのですか」
姫神「うん」
姫神は答える
感謝しながらも、何が分かったのかを早く知りたい上条は追及する
上条「……で、なにが分かったんだ?」
407 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:27:37.77 ID:hszRIDJSO
上条「……分かったって何が?」
姫神「その。そこのシスターの脳について」
ガタン!と立ち上がる上条
神裂も思わず手に持っていた味噌汁の器をひっくり返しそうになった
上条「なっ、なにがっ!?」
叫ぶ
近所の迷惑など考えずはち切れんばかりに
その声に驚きながらも、姫神はゆっくりと話す
姫神「実は。私も上条君たちの力になりたくて。脳について調べたの」
神裂(……)
神裂は姫神が買い出しに随分時間をかけていたことを知っている
神裂「なるほど…その時調べていたのですか」
姫神「うん」
姫神は答える
感謝しながらも、何が分かったのかを早く知りたい上条は追及する
上条「……で、なにが分かったんだ?」
408 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:28:03.14 ID:hszRIDJSO
姫神「うん」
姫神は含みあるように一区切りし、言葉を続ける
姫神「あの。インデックスの脳の問題は嘘」
神裂「……」
姫神「その本を。買ってきたから」
そう言って姫神は巫女服の中にしまっていた薄い脳の本を取り出して
その証拠のページを見せる
『脳は一四〇年分の記憶が可能―――――………』
409 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:29:05.22 ID:hszRIDJSO
しかしその事実に上条と神裂は驚かない
それどころか少し拍子抜けした様子で
上条「悪い姫神…それはもう分かってんだ」
姫神「え」
上条は静かに座り、続けて語る
上条「それは分かっているんだけど、インデックスにはその事実が通用しないかもしれないんだよ」
神裂「ええ、それはあくまで一般的な人間から導き出した事実」
インデックスは一〇万三〇〇〇冊もの魔道書を一字一句記憶しているおそるべき少女なのだから
姫神「……。そうだったの…。だったらこれも?」
410 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:29:44.67 ID:hszRIDJSO
姫神も残念そうな声は
その上条と神裂を揺るがす
まだ何か…あの残酷な事実を否定する材料が?
姫神「これ」
上条達が覗いてきたので、姫神二つ目の事実があるページを開く
そこは同じく記憶の容れ物についてのページだった
上条「………………」
上条の顔が変わる
そこに書かれている事実
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:30:28.89 ID:hszRIDJSO
『人間の記憶は一つだけではない
意味記憶…言葉や知識を司る
手続き記憶…運動の慣れを司る
エピソード記憶…思い出を司る
などと、それぞれ独立しているのだ』
上条「これ……」
『何かのショックで記憶喪失になった時、記憶を失っても歩き方まで忘れたりしない』
神裂「…………」
『エピソード記憶に衝撃がきても手続き記憶にまで影響はない』
『完全に容れ物が違うから』
姫神「各々独立しているのなら。インデックスの魔道書の意味記憶で。エピソード記憶が圧迫されることは。ないのでは」
412 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:31:14.46 ID:hszRIDJSO
『魔道書の記憶八五%に圧迫され、残り一五%では一年しか生きられない』
それは
嘘
だとしたら今まで教えられたこと全て
疑わしい
嘘だったのだ
413 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:32:09.56 ID:hszRIDJSO
上条「…………はは」
笑った
神裂も同じく笑う
そしてある人物の顔を思い浮かべて、拳を強く握る
上条「馬鹿だな、俺らは」
記憶容量『しか』見ていなかったからこそ、見落とした
必要悪の教会の言い分を一つも信じなければ
調査初日から気づいたかもしれないだろうこと
―――鎖をつけた
絶対魔神(インデックス)が裏切れないように
上条「……よく考えれば、インデックスみたいな危険な一〇万三〇〇〇冊を…野放しにするはずがないよな」
414 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:33:23.55 ID:hszRIDJSO
上条「ありがとう、姫神…」
ストレートな言葉に姫神は誰にも分からないくらいに薄く、顔を赤く染める
姫神「ううん。いいの」
返したが、遅かった
上条は、夕食もほったらかしにして神裂と会議をしていた
上条「でもインデックスが記憶で苦しんでいるのは本当ぽいよな」
神裂「……だとしたら、簡単でしょう、可能性は一つ」
神裂は脳に関しては疎いが、魔術の知識は上条以上にはある
神裂「……記憶を何かで圧迫させているのですよ」
必要悪の教会にとってのインデックスの脅威というものも
そしてあの狐がどういう人物なのかも
415 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:34:05.68 ID:hszRIDJSO
上条「でもそんな小細工、インデックスなら気づくんじゃ…」
神裂「はい、ですが仕掛けられていることがわからなかったとしたら」
インデックスの気付かない所に隠されているとしたら
上条「…………といったら頭の中……かな?」
上条「だとしたら、壊せねーぞ、右手で触れない」
神裂「その可能性は低いです、しかし記憶に干渉するのなら頭付近でしょう」
確信はないが、必死に話し合う
でも時間もない
必死に仮説にすがるのだ
416 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:34:50.28 ID:hszRIDJSO
そして
インデックスの頭の近くをくまなく探っていたら
見つけた
辿り着いた
それらしいものが口の中にあった
上条はそれに触れる
417 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/23(土) 21:35:22.43 ID:hszRIDJSO
バキン
423 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:46:06.74 ID:bm7BOa4SO
上条は衝撃で吹き飛ばされ壁に激突する
上条「…………!」
神裂「な……ッ!!」
インデックス「―――警告、第三章第二節。禁書目録の『首輪』第一から第三まで全結界の貫通を確認」
上条「姫神…逃げろ……」
口の中に感じる血を、飲み込み
インデックス「再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状」
機械のような言葉は続く
インデックス「一〇万三〇〇〇冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」
424 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:47:17.24 ID:bm7BOa4SO
インデックスの両目の真紅の魔法陣が拡大する
インデックス「 。 、」
そしてその二つの魔法陣が輝いて、爆発した
真っ黒な雷のようなものが飛び散ったように、空間に亀裂が入る
神裂「…………」
それは部屋の隅々にまで行き渡る
まるでインデックスに近付けまいとするように
姫神「…………」
亀裂の内側から何かが膨らんでいく
開いた漆黒の隙間から流れでる獣の匂い
上条「は」
上条「あははははははははははははははは!!」
425 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:48:18.95 ID:bm7BOa4SO
上条は馬鹿のように笑った
奥にある『それ』さえ倒せば
助けることができる
終われる
決意と共に、上条は強く硬く拳を握る
426 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:49:04.81 ID:bm7BOa4SO
それと同時に、ベギリ、と亀裂が一気に広がり、開いた
その亀裂から光の柱が襲いかかる
上条の決意を呆気なく引き裂かんとする一撃が
上条「!」
427 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:50:15.12 ID:bm7BOa4SO
レーザー兵器に近い、純白の光の攻撃を上条は右手で受け止める
上条「………………………ッッ!」
右手に当たると、『幻想殺し』により光は四方八方に飛び散るが
上条(消えない……!しかも押され…て……ッ!!)
神裂「……な、彼女が魔術を……し、しかも『竜王の殺息』!?」
刀を構えていた神裂が驚愕している
428 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:51:01.90 ID:bm7BOa4SO
呆気にとられる神裂に上条は叫ぶ
上条「……ぐ、神裂!それより…なにか弱点とかはないのか!?」
その声に神裂は目覚める
そして先程の上条と同じく、決意を固める為に目をつむり息を吐き
神裂「Salvare000!!」
自身の『魔法名』を名乗る
同時に『七閃』を上条を助けるためにインデックスに放った
429 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:52:01.44 ID:bm7BOa4SO
勿論、インデックスを傷つけるつもりも毛頭ない
放った先はインデックスの『足元』
すると襲われた床が薄く、面に対して平行に削りとられる
その破壊でインデックスは後ろに倒れこみ、連動して『竜王の殺息』もインデックスと同じ軌道を描いて
屋根を貫き、雲を引き裂いた
上条「…か、は………っ」
神裂「あの魔法陣はインデックスの眼球と連動しているのでしょう」
痛む右手をブラブラさせながらインデックスを警戒する上条に告げる
神裂「……今ここに、あれに対抗できる術はありません」
上条「だったら…」
神裂は頬を伝う汗にも気づかず、緊張した声で返す
神裂「私が時間を稼ぎますので、貴方がその間に亀裂の先にあるものを!」
430 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:52:46.94 ID:bm7BOa4SO
上条「な…………っ!」
文句を言おうとしたが、インデックスが起き上がる
神裂「なにも犬死しようと言うのではありません」
インデックスと連動し、魔法陣も、『竜王の殺息』も再び上条を狙う
神裂「インデックスを助けると同時に私も助かるのです」
神裂の言いたいことを察知し、上条は何も言わずインデックスの方へ走りだす
神裂「ついでに私も救っていただけたら、助かります」
そうして上条を迎撃しようとする光の柱と、神裂の『必殺』が激突する
431 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:53:13.88 ID:bm7BOa4SO
上条は走る
命をかけて、体を張る人のため
頼んでもないのに、インデックス救出のため脳について調べてくれていた人のため
そして
残酷な物語のヒロインを救うため
この物語をぶち殺すため
自分のため
432 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:54:01.08 ID:bm7BOa4SO
インデックスが冷たく、機械のような声で何かを呟いている
神裂に対してか、はたまた自分に対してか
だがもう遅い
インデックスとの距離は一メートルもない
神様、この世界がアンタの作った奇跡(システム)通りに動いているってんなら
上条「まずは―――」
――その幻想をぶち殺す
433 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:55:12.19 ID:bm7BOa4SO
「インデックスよ―――」
「気絶せよ」
434 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:56:10.92 ID:bm7BOa4SO
その言葉で
上条が右手で触れる前にインデックスはカクン、と倒れこみ
意識が切れたことにより
光の柱も、亀裂も、魔法陣も綺麗に消え去った
上条「…………………………………………………………………は?」
神裂も同じく呆然としている
このあまりに予想外で呆気のない決着に
原因の声が聞こえてきた場所
上条と神裂が振り向くと、そこには
435 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 18:56:46.22 ID:bm7BOa4SO
「当然、疑問は湧いて出るだろうが、答える義務なし」
二人が捉えた人物
長身でオールバックにした緑の髪
イタリア製の純白のスーツに高価な靴
その者の名を言ったのは上条でも神裂でもなく
外で立ち尽くしていた姫神秋沙
姫神「アウレオルス=イザード。……」
440 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:27:51.03 ID:bm7BOa4SO
アウレオルスは玄関を跨ぎ、歩く
余裕の笑みを浮かべながら
かつて『誘拐』するほど固執していた姫神の方を見もせず
上条「……お前、なんでここに…てかインデックスに何をした!」
アウレオルス「答える義務なしと言ったはずだが」
歩くアウレオルスに、再び後ろから姫神が声をかけた
姫神「……。あなた。まさか」
姫神は先程のインデックスに使った『なにか』について勘づいているようだ
しかしアウレオルスは語らない
理由は何度も語った
アウレオルス「久しいな、とだけ言おう」
441 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:29:21.80 ID:bm7BOa4SO
アウレオルス、上条当麻、神裂火織、姫神秋沙
この四人は以前も邂逅した
かつて己が目的のため、姫神秋沙を誘拐した魔術師
それがアウレオルス
だが姫神を救いにきた上条と神裂に破れた
それだけの出来事だった
だが、それだけの仲ではないのだ
上条「インデックスになにを……」
あまりの出来事の連続に上条は同じことしか言えない
逆に神裂は冷静に
神裂「……『グレゴリオの聖歌隊』だけで彼女を止められるとは思えません、一体」
アウレオルス「釈然としないか」
アウレオルスは一言だけ残し、聖人を横切る
アウレオルス「答える義務なし」
442 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:30:26.48 ID:bm7BOa4SO
やはり言うのはそれだけ
上条はもうわけが分からなくなってきた
少し前までは、右手でインデックスを救おうとしていたはずだ
しかし突然この男が現れ、何かをしてインデックスを沈めた
そして彼は今、“インデックスに歩みを進めている”
アウレオルス「……」
上条は思わずインデックスへの通路を塞いでいた
息を荒げて、必死になってアウレオルスを止めようとしていた
上条「……何をしたか、って言ってんだよ!!」
何をしたかは分からない
だが、連れ去り何をしようとするかは予想がついた
443 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:31:28.38 ID:bm7BOa4SO
アウレオルスは息を吐く
そして、鍼を取り出して自分の首に刺し
アウレオルス「退け」
そうアウレオルスに呟かれると、上条は軽いピンのように横に退かされる
上条「ご…ぅ………っふァァァァァァァァあああああッ!!」
壁に激突した所で動きが止まった
何もない所から、横腹を鋼鉄で殴られたような感触に絶叫した
神裂「な……先程といい…以前の貴方にそんな力はなかったはず…」
アウレオルスの言う現象が、そのまま起こる
その様子に神裂の中に徒ならぬ懸念が生まれていた
アウレオルス「聖人、貴様の言う通り、『これ』は貴様らに屈辱を味あわされてから完成させたものだからな」
444 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:32:15.63 ID:bm7BOa4SO
そう言い、アウレオルスはインデックスを抱える
上条「が……」
それによりアウレオルスの目標はほぼ達成された、と上条達は思った
以前の出会いでアウレオルスの目的も『インデックスを救うこと』と知ったから
そして、彼がかつてインデックスのパートナーだったことも
だからこそ、彼は勘違いしていることがあることも知っている
445 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:33:06.62 ID:bm7BOa4SO
上条「待て!」
上条は吠える
それに対してアウレオルスは上条を睨む
上条も真っ向から挑み
上条「お前は…姫神の能力を使い、吸血鬼をおびき寄せて…インデックスを吸血鬼にするつもりなんだろ?」
アウレオルスがかつて姫神を誘拐したのもそのため
横腹の痛みを堪えながら
上条「……記憶の問題を解決するには…人ならざる身にすれば、とかまだ思っているんだろ!!」
かつて対立した時に、彼から聞いたことを復習するように
上条「だけど、よ…」
上条「脳の八五%が魔道書に占められていて、一年ごとに記憶を忘れなければいけないってのは嘘だったんだよ!」
彼もまた、あのカラクリに引っかかったパートナー
事実を告げ、彼の目的を阻止しようとする
これは、戦わなくても済む問題だ
そう思っていたから
446 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:34:02.25 ID:bm7BOa4SO
だがそんな希望をアウレオルスは打ち砕く
アウレオルス「当然、そんなことは知っている」
上条「は?」
驚きの言葉に黙っていた神裂も声を出した
神裂「……な、」
上条「……」
アウレオルス「そして先程の禁書目録を見て、全て把握した」
謎の力
そして、真の答を知っていた
あの時の彼とズレが多い
月日が経ち、彼も色々と変わっていた
447 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:35:16.99 ID:bm7BOa4SO
上条「じゃあ…」
上条「なんでインデックスにこんなことをしたんだ」
アウレオルスはインデックスを手中に収めたからか、饒舌になる
アウレオルス「分からんか?」
アウレオルス「当然、インデックスを救うため」
アウレオルス「そして、貴様らの言い分は全くの見当外れだ」
アウレオルスは目を細めて、上条達を見下しながら
アウレオルス「記憶についての事実が、ああだった以上吸血鬼にする気など全然ない」
448 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:35:59.24 ID:bm7BOa4SO
上条は動く
アウレオルスからインデックスを取り戻すため
しかしやはり
アウレオルス「これ以上、貴様はこちらにくるな」
アウレオルスの言葉により、その通り上条は一歩も動けなくなる
上条(……な、んなんだ、だからこれは…右手が効かない)
以前は『偽・聖歌隊』という
大量の人を操り、その者達に魔術を使わせて、攻撃する
そんな戦法をとっていた
しかし今は全く違う魔術で闘っている
449 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:37:22.75 ID:bm7BOa4SO
神裂「……やはり…?いや…」
不意に神裂が何か呟いた
それに賛同するように、姫神も
姫神「その。やはり」
姫神「あれは」
それを遮るように
インデックスを抱えるアウレオルスは、決着をつける言葉を出す
450 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:38:12.05 ID:bm7BOa4SO
アウレオルス「当然、インデックスは私が救う」
アウレオルス「必然、貴様らはいらないのだよ」
アウレオルス「この場の邪魔者達よ―――」
アウレオルス「全て忘れろ」
451 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 21:42:04.81 ID:bm7BOa4SO
ここまでです
中々話が進みませんが…
がんばります
では読んでくれた方はありがとうございました
454 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/04/24(日) 22:26:31.47 ID:6QvMlINBo
おつおつ
まさかの空そげぶ
主役不在のまま進んでくww 439 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 20:35:43.21 ID:b7XsKbNG0
ステイルさん…なにしてるんだよ…457 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:49:09.11 ID:3zdRv1oSO
アウレオルス「呆気ないものだったな」
敵、とも言えない程脆すぎる者達を粉砕し
その場からインデックスを手にいれ去る
アウレオルス「しかし少々、遊びがすぎたかな」
本当はインデックスの『首輪』について知った時点で
『首輪』を消してインデックスを救えた
しかし上条達にも屈辱を味あわせたかった
目の前で救えるという確信をうばわれる屈辱を
どうせ記憶操作もあの右手で破れるだろう
アウレオルス「必然、その頃には私は見つからない所にいるだろうがな」
458 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:49:53.84 ID:3zdRv1oSO
アウレオルス「フハハ」
笑う
アウレオルス(……知ってしまえば、陳腐な仕組みだったな)
それはインデックスの記憶のカラクリについて
アウレオルスはそれに気付くことができた
アウレオルス(今まで禁書目録は膨大な情報量のせいで、一年ごとに記憶を消去せねはならん)
アウレオルス(これは必定であり、抗えん宿命……と、思っていた)
しかしそれは自分一人で辿り着いた答えではなかった
アウレオルス(感謝しよう。木山春生)
459 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:50:53.47 ID:3zdRv1oSO
学園都市の拘留場
木山「……」
少し前を思い出す
それは幻想御手のヒントを掴んだ日
『樹形図の設計者』の申請を断られ続け
統括理事会すら敵と気付き、絶望して
現実逃避として学園都市を出た
460 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:51:48.72 ID:3zdRv1oSO
木山「……」
車を走らせていた
何も考えず、目的地も定めず
直線をはしり、曲がり道を曲がり
下り坂を下り、上り坂を上り
行き止まりで止まった
森の入口のような所だった
木山「……」
エンジンを止めた
戻る気力も今はない
461 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:52:26.61 ID:3zdRv1oSO
木山「……このまま身投げするか」
木山「いや……そんなことをしたら、子供達は」
そこで木山の言葉は止まった
誰かが森の中から歩いてくる
緑髪のオールバックで、白いスーツとあまりに風景に馴染まない人物が
木山「……」
何か言われるか、と警戒していると
「悄然、としているな」
462 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:54:00.13 ID:3zdRv1oSO
話しかけられた
一応相手に合わせる
木山「そう見えますかね」
木山は、初対面ということで敬語を使う
しかし相手はそんな礼儀を弁えず
「当然、私と同じに見える」
「私の名はアウレオルス=イザード、という」
きいてもいないことまで話しかけてくる
怪しさしかないが、希望や正の光がない木山春生は、乗ってしまう
自棄というヤツだ
木山「そうですか、私の名は、木山春生という」
アウレオルス「木山、か」
463 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:55:40.04 ID:3zdRv1oSO
アウレオルスは目をつむり、高価そうなスーツが汚れることも気にせず土の上に座る
木山「ところで、同じというのは」
ドアを開けて、相手の声を聞こえやすくする
アウレオルス「ふむ」
アウレオルスは少し言葉を区切った、そして語る
アウレオルス「必然、救いたいと思う者が救えないと いう」
木山「!」
胸にその言葉が刺さる
本当に見透かされたらしい
言う通り、自分と同じだからか
木山「……」
ハンドルの上に顔をのせ、俯せる
見知らぬ人物と落ち込みあう
この訳が分からない状況を失笑する元気もない
464 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:57:03.49 ID:3zdRv1oSO
木山「私のせいで昏睡している子供達がいてね」
傷の舐め合いがしたくなった
木山「……救えそうな手立てはあるんだ」
アウレオルス「……」
木山「だが、そこまでが遠い…」
木山は顔も見せず言う
そうしていると、男からの返事が耳に入ってきた
アウレオルス「私もだ」
アウレオルスの声が続く
アウレオルス「手立てはある、その計画も立案も済み…」
アウレオルス「だが……私が救えない、と心のどこかで思ってしまっている。それがどうしようもない壁を作り上げてしまっている…!」
言葉の意味は分からないが、とりあえず木山は聞いていた
465 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:57:56.40 ID:3zdRv1oSO
アウレオルスも木山と同じく舐めあいがしたいのか、再び語り出した
アウレオルス「その者は、膨大な情報量により、脳の八五%を使用してしまっている」
木山「はあ」
アウレオルス「……残りの一五%では一年ごとに記憶を消さねばならぬ運命なのだ」
木山は無気力に聞いていたが、その理論の違和感を奇跡的に捉えた
木山「……そんなことは、ありえないはずだが」
アウレオルス「当然、常人ならばそうかもしれないが、その者は一度見たものを忘れない完全記憶能力者なのだ」
木山「……いやね」
脳の仕組みを知らない男に木山は詳しく説明する
466 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 00:58:45.48 ID:3zdRv1oSO
それを聞いた男は呆然として
アウレオルス「まさか…それは本当なのか……」
木山「ああ」
アウレオルス「ではなぜあの時、苦しんでいたのだ…あれは縁起だったと言うのか!」
木山「そこまでは分からないが…完全記憶能力者が本を一〇万三〇〇〇冊覚えたとしても…パンクするなどありえないよ…」
アウレオルスは黙る
木山が顔をあげ、男の表情を見ると僅かに希望に満ちていた
467 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:01:03.92 ID:3zdRv1oSO
木山(……)
それより木山は魔道書というのが気にかかる
だが、無気力さがそれを長続きさせなかった
その代わりに
木山「……昏睡した子供を目覚めさせる答えを弾き出す機械が欲しい」
アウレオルス「……?」
木山「しかしその機械は、一つしかない、そして二つも作れないだろう偶然できたスーパーコンピュータ」
アウレオルスは笑った
アウレオルス「ふむ。私に似ているな」
アウレオルス「それならば、その頭脳に自分が近付けば良い」
木山「……人間の頭ではとても到達できないさ、出来たとしても私にはそれほどの…」
木山の言葉を遮り、アウレオルスは断言した
アウレオルス「だとしたら」
468 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:01:51.97 ID:3zdRv1oSO
木山「……」
その男の根底
アウレオルス「他人を糧にすればよい」
469 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:03:32.35 ID:3zdRv1oSO
木山「……」
アウレオルス「私の到達点も、とても人間一人では成し遂げられないモノなのだ」
アウレオルス「しかし、他人を操り、利用することで可能とする」
木山「……他人を?」
利用して成し遂げられるものなら苦労などしていない
そんな仲良しこよしと会議してくれる仲間も良心も
あの暗部にはない
470 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:06:24.70 ID:3zdRv1oSO
そんな木山の様子をみて、アウレオルスは言葉を選んで説明する
アウレオルス「必然、人間一人では到達できぬ、そんな頭脳を目指すのならば」
木山「……」
アウレオルス「他人を、その機械並の頭脳になるために利用すれば良いと言うのだ」
木山「……」
自分の脳を弄ってもらえというのか
境遇が似ているとはいえ、所詮は全く違う問題
彼からはヒントは得られない
そう思い始めた、その時
471 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:07:50.54 ID:3zdRv1oSO
唐突に何かが閃いた
木山「あ」
―――他人に、樹形図の設計者並の頭脳になる手伝いを…
木山(頭脳、脳、あの…)
噂で聞いたことがある
脳波をリンクさせ、一つの巨大な脳を形成していると言われるクローン達
それをうまく応用すれば…
自分の演算能力を底上げできないか?
木山「…」
木山は考えるために黙る
何かが、繋がった
472 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:11:24.08 ID:3zdRv1oSO
こうして、挫折という堤防を決壊させた木山は
ダムの水のように思考を流すことができた
―――
それこそ『幻想御手』
アウレオルスが何を元にヒントを与えたのかは今でも不明だが
木山(……まあ、失敗したがね)
木山(……アウレオルス、といったかな)
どこにいるか分からない男に語りかける
473 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/27(水) 01:12:41.18 ID:3zdRv1oSO
木山(やはり、他人を利用するなんて方法をとる人間には神様は微笑まないらしい)
木山(君、も…必ず失敗するだろう)
そう
アウレオルスは知らない
もう一人
インデックスを想い行動してる少年がいることを
481 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:07:41.25 ID:AzTJHNaSO
アウレオルス=イザードは人知れぬ場所にいた
この時間帯では誰もよりつかないだろう廃ビル
アウレオルス「我慢してくれ」
と、眠るインデックスに語りかけて、固く冷たい地面に寝かす
アウレオルス(当然、インデックスは私が救う、それは必然、故に大丈夫だ、救うのは可能、当然)
自分にそう言い聞かせ、開戦の狼煙をあげる
アウレオルス「インデックスよ、目覚めよ」
482 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:08:38.67 ID:AzTJHNaSO
するとインデックスはまるで中身がゼリーのように、グニャリと起き上がる
そして気絶前の風景を再現し
インデックス「警告、謎の術式により意識を奪われていた模様、逆算し術式を割り出し、対抗策を組み立てます」
と、機械のように呟き出す
アウレオルス「ふん。遅い」
アウレオルス「『首輪』よ、消えよ」
そう現実を歪めて、全ては終わるはずだった
インデックス「警告、敵兵が行使した術式は金色の黄金錬成と思われます、早急に対抗策を……」
アウレオルス「な!?」
消えなかった
まだ機械的な『自動書記』は続いている
483 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:09:41.85 ID:AzTJHNaSO
それにアウレオルスは不安を隠せない
アウレオルス(馬鹿な。ありえん、確かにインデックスを苦しめる『首輪』が消えるよう命じた)
アウレオルス(それは絶対なのだ、インデックスが救われるのは必然、そのはずだ!)
アウレオルス(! いかん。私はインデックスの救世主だ、これは当然、私はインデックスを救える、絶対、必然必然必然!)
心で叫び、湧きでる不安を押し止める
そこまでしてアウレオルスが焦るわけ
それはアウレオルスの力、『黄金錬成(アルスマグナ)』は『思い通り』に現実を歪める
インデックスを救えると思えば、救えるよう現実は歪む
しかし救えないと思ってしまったら、救えなくなってしまう諸刃の剣なのだ
484 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:11:14.19 ID:AzTJHNaSO
救える
そう思っているはずなのに、首輪は消えない
アウレオルスは動揺する
そんな彼にインデックスは無慈悲にも
インデックス「……対抗策の」
その言葉にハッとしてアウレオルスは薬品の匂いがする鍼を取り出し、首に刺す
そして
インデックス「準備が」
アウレオルス「眠れ!」
インデックス「…………」
対抗策はまだ完成前だったのか、インデックスは素直に言葉に従い『竜王の殺息』の亀裂も消えた
アウレオルス「ふぅ…」
アウレオルスも安心し、思わず座りこんでしまう
アウレオルス(黄金錬成が、崩れたわけではない…)
だとすれば『首輪』が消えないのは何故なのか
485 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:12:28.21 ID:AzTJHNaSO
アウレオルス(……『首輪』を理解しきれていないのか)
黄金錬成の弱点の一つ
アウレオルスが『イメージできない』、『信じきれない』ものを歪めることは不可能
アウレオルスの予想ではあの『首輪』は
インデックスの記憶を圧迫して、『自動書記』を呼び出すだけの霊装、と推測した
実際それ以上はないはず
アウレオルス(まさか…)
アウレオルス(脳や記憶について理解しきれていないからなのか…?)
魔道書により八五%が占められ、一五%では一年周期で記憶を消さねばいけない
それはデタラメ
“そう”としかアウレオルスは理解していなかった
頭が悪いわけでなく、救えるという事実に浮かれ、それ以上理解しようとはしなかったのだ
487 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:13:33.60 ID:AzTJHNaSO
アウレオルス(記憶の圧迫の仕組みを理解しきれていないから、か?)
その無知が、『首輪』消去を妨げている
アウレオルスは考える
そして頭に浮かんだ策はひとつ
アウレオルス(学園都市、だったか)
アウレオルス(必然、木山春生に会いにいく)
アウレオルスが知る、脳について理解ある人物
しかしこの時彼は、素直に近くの図書館にでも忍びこむべきだった
これこそが彼の失策
木山春生の思うように、まるで神様がアウレオルスを失敗へ誘っているようだった
488 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:15:42.51 ID:AzTJHNaSO
インデックスを抱えながらアウレオルスは、学園都市に向かう
学園都市への道は街ゆく人間に教えてもらった
アウレオルス(ここか…)
高さ五メートル、厚さ二メートルの壁に囲まれた学生の街の前で足を止める
普通なら学園都市にはゲートを通り入るのだが
アウレオルス「開け」
そう命じると、壁が開いた
入口でもないただの壁である所が、扉のように無理やり開かされて、人が通れる程の小道をつくりだした
それにより全体がメキメキと押し潰され、綺麗な枠を描いていた壁はグシャグシャに歪む
その犯人、アウレオルスは無言無表情で作られた小道を通る
489 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:19:41.27 ID:AzTJHNaSO
アウレオルスは堂々と敵地を歩く
学園都市の治安部隊など恐れる相手ではない
壁を壊したのは、目測では正確な厚さが分からなかったから
便利だが便利すぎる故に慎重にならなければいけない
学園都市より自分の能力の暴走の方が怖い
アウレオルス(しかし目的は木山春生のみ、必要以上に科学と魔術の溝は深めないでおくか)
時刻はすでに深夜
学生の街ということで人影は全くない
アウレオルス(ふむ。情報収集ができぬ)
木山が学園都市にいることは知っているが、それだけ
詳しい住居までは知らない
アウレオルス(ならば、必然、学園都市の役所にでも行く)
そうしてアウレオルスは前を見据えた
490 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:21:06.76 ID:AzTJHNaSO
すると、その目には静寂が包む闇に染められたビルが立ち並ぶ学園都市の風景が入ってくる
そしてその中に少年が一人
夜の暗闇より黒い服を纏い、それでいてその闇を拒絶するかのような赤い髪をたなびかせ
弱々しく立っているのに、何故か巨大な大木のような圧倒的存在感、威圧感
それを肌で感じながら、アウレオルスはその少年に問いかける
アウレオルス「何者だ?」
明らかに、ただの通行人とは思えない
鷹のように、鋭く突き刺す視線を放ちながら赤髪の少年は答えた
「ステイル=マグヌス」
491 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:23:33.41 ID:AzTJHNaSO
時間は溯り、アウレオルスが学園都市に行くと決めた頃
ステイル=マグヌスは学園都市を歩いていた
重傷の体を引きずるように、ただひたすら
ステイル(……やはりもう学園都市にはいないだろうね…)
体中に走る激痛を我慢しながら、杖がわりにしている鉄棒を持つ手に力をこめ
ステイル(インデックス…)
歩く
492 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:24:29.13 ID:AzTJHNaSO
不意にガクンと膝が曲がる
足に力が入らず、倒れこんでしまった
無理もない
本来ならば立つ力など、もうないのだ
ステイル(……く)
ステイルはとある一件に巻き込まれていき、そこで重傷を負った
その時から今まで休憩もなしで歩き続けている
立ち止まったらそこで沈む
二度とインデックスに会えない気がする
だから二度と動けなくなってもいいから、止まらない
493 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:25:25.15 ID:AzTJHNaSO
ステイル(もうすぐ…ゲートだ)
鉄棒を支えにして、立ち上がり再び歩きだす
彼は今、学園都市から出るゲートに向かっていた
もう学園都市にはいないと判断した彼は外出を申請してもらっていた
ステイル(無闇に歩き回るだけでは、駄目だ…今の状況を冷静に)
そうして歩いている間、インデックスは学園都市の外のどこに行ったかを模索する
ステイル(まあ……イギリスだろうね…)
霧のように薄れゆく意識を保とうと努力する頭でアレコレ考えていると
494 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:27:00.71 ID:AzTJHNaSO
突然、学園都市中に響きわたりそうな轟音が鳴った
ステイル「!」
それにステイルの意識は気付けられるように、ハッキリ目覚める
そして目の前の、目的地であったゲートの壁を見て絶句する
グシャグシャに歪んでいた
まるで横からの圧力に押され、形を崩してしまっている
それなのに、形が歪んだだけで崩れた所が全くない
粘土ではあるまいし、そんなことがあるのか
ステイル(なんだ…アレは)
学園都市の能力でもあれほど物理法則を無視したような芸当はできない
だとすると
ステイル(オカルト、かな)
科学の街に、魔術がやってくる
その理由は彼女絡み以外に考えられなかった
495 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:27:54.84 ID:AzTJHNaSO
ステイルは方向を転換し、犯人を探そうとする
そこに犯人はすでにいないだろうが、そこから通りそうなルートを塞ぐように歩けば鉢合わせできるだろう
そして手元の地図を見て、そのルートを割り出す自信もある
痛みも忘れて歩き出した
活力を得て、松葉杖に引きずられていた体は、松葉杖をお荷物に思っていた
ステイル「はっ…はっ…」
息苦しくなり、体が悲鳴をあげる
だが止まる選択肢はやはりない
そしてステイルは異質を放つ人物を見つける
ステイル(……いた)
それは知った顔の魔術師達ではなかった
496 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 01:32:30.36 ID:AzTJHNaSO
緑髪をオールバックにした、白いスーツの男
そして彼の腕には、ステイルの探し求めていた純白のシスター
インデックスがいた
再会できた歓喜に、自然と力が籠っていた
顔が緩む一方で、決意がより一層固まっていく感覚に支配される
するとインデックスを抱える相手の男は、険しい表情で問いかけてきた
「何者だ」
ステイル「ステイル=マグヌス」
そう、相手に負けないくらいの覇気を纏い答えた
502 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:10:06.09 ID:Ka9BL3pSO
ステイル=マグヌスとアウレオルス=イザード
二人は対峙する
相手を警戒しているため黙るステイルに対して
アウレオルスの沈黙は余裕の現れ
アウレオルス「貴様は」
アウレオルス「インデックスのなんだ?」
ステイル「……」
ステイルは答えられない
どう答えればいいか迷った
503 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:11:34.67 ID:Ka9BL3pSO
彼は一度、インデックスを見捨てている
だから彼女の味方と名乗る資格はあるのか
ステイル(しかし)
しかし、救いたい
もう一度心に言い聞かせる
そして導き出した答えを口に出した
ステイル「インデックスを助けたいと思っているヤツさ」
アウレオルス「ほう」
やはりすでにパートナーがいたか、と変わらぬ魅力を放つインデックスにアウレオルスは感心する
アウレオルス「私はアウレオルス=イザードと言う」
そう自己紹介するステイルは、アウレオルスの今の心に気付いた
それは同情
ステイル「まさか…お前もインデックスの…」
アウレオルス「いかにも」
504 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:13:02.83 ID:Ka9BL3pSO
ニヤリ、とアウレオルスは笑う
『同情』
その意味は
『当然、インデックスは私が救う
―――無駄な努力をご苦労』
そんな言葉が言わずとも、自信満々の表情から漏れている
だがアウレオルスは『同情』からそれを口にしない
アウレオルス「必然、貴様は禁書目録に心惹かれた今年のパートナーという認識でいいのだな」
ステイル「……そんな大それた存在じゃないさ」
ステイル「彼女からの好意は関係ない、ただ自分の自己満足のためさ」
その言葉を訊いてアウレオルスの鉄の表情がピクリと歪む
505 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:15:28.61 ID:Ka9BL3pSO
アウレオルス(彼女の好意は関係ないだと)
彼はその言葉に憤然とした
自己満足、という所はいい
自分もそういう所があるから
だが口振りからすれば必然的に彼は今年のパートナー
それ即ち、インデックスに好意を向けられている存在ともいえる
それでありながらインデックスの好意は関係ない?つまりどうでもいい?
彼の身勝手さ
そして何よりインデックスをないがしろにするステイルにアウレオルスは激しく憤った
ステイルは、一度見捨てた自分にパートナーを名乗る資格はない、好意を向けられようがなかろうがインデックスを救うため動く
という意味で言ったのだが言葉足らず
正確には伝わらなかった
アウレオルス「倒れ伏せ!」
506 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:17:09.45 ID:Ka9BL3pSO
その言葉で、『黄金錬成』が発動してそれが現実となる
つまりステイルは否応無く倒れ伏せられる
アウレオルス「……」
はずなのに
ステイル「……?」
ステイルは『黄金錬成』発動前と同じ態勢で
一ミリも傾くことなく立っていた
アウレオルス(……は、なに……?…ありえん。あ奴に劣等感は抱いていない、むしろ憤然とし当然倒す、と強く心に抱いているはず)
汗が顔を伝う
こんなこと絶対にありえない
あの男はおそらくこの学園都市の人間
科学サイドが魔術に、ましてや『黄金錬成』に対応できるはずがない
実際相手も訳が分からない顔をしていた
アウレオルス(禁書目録の『首輪』といい…先程から くそ 何故 ……)
507 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:18:37.26 ID:Ka9BL3pSO
ステイルは、「倒れ伏せ」の言葉以来何もしてこず、本気で焦る相手を見て
経験から、相手は非常事態に陥り、今や打手なしと判断した
疲労と激痛によりおぼつかない、それでいて余裕に悠々とした歩みをステイルは進める
アウレオルス「く!こちらに来るな!!」
と、まるでプライドが捨てられない情けない人のようなことをいう相手
しかしそれにステイルは従うわけもなく
従わされることもなく
二人の距離は、残り二メートル
508 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:21:51.18 ID:Ka9BL3pSO
アウレオルス「感電死!」
感電しない
アウレオルス「窒息死、圧死!!」
窒息も、潰れる様子もない
アウレオルス「……く、銃を…」
銃を顕現させ、撃つ
狙うは心臓と額
貫かれれば、確実に死に至る急所
発射され、弾はステイルにあたる
しかし彼の体の硬さに負けたように貫けず、零れ落ちた
つまり、死なない
アウレオルス「な な 馬鹿な」
ステイルは突然、銃が現れて撃たれたことに僅かに驚いただけ
しかし、彼の歩みは止まらない
アウレオルス「………!」
509 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:24:47.73 ID:Ka9BL3pSO
アウレオルス「くそ!………『死ね』!!」
それはあの右手以外では、決して回避することができない必殺
アウレオルス「!」
ステイル「悪いが」
残り一メートル
そしてステイルは指差す
その指先は、誰からも愛される聖女(ヒロイン)
ステイル「……その子を救うまで、死ねない」
アウレオルス「く…………………………ッ!!」
ついに耐えられなくなり発狂した
アウレオルス「何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!!貴様になど負けるはずがない!!」
アウレオルスは思い通り歪まない現実を受け入れられない
アウレオルス「こんな少年に負けるはずがない!加えて相手は全身傷塗れ、必然敗北の思念など微塵も流れぬ!!」
アウレオルス「私が!インデックスを救うのだ!!もう一歩、だから貴様等に横取りされてたまるか!!!この時のために……!」
どれだけの
人間を
犠牲にしてきたか
アウレオルス「 あ 」
510 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:25:54.01 ID:Ka9BL3pSO
ステイルとアウレオルスの距離は一メートルもない
しかしそれ以上距離は縮まらなかった
理由はアウレオルスが距離を広げたわけではなく
ステイルが立ち止まったから
ステイル「……」
彼のインデックスを救おうとする執念を見て、立ちどまらされた
彼はあの時の自分に似ている
しかし違うのは、インデックスを救うために努力し、ゴールまであと一歩にいるということ
ステイルは誰が救おうが関係ないという信念とインデックスを救いたいという感情の元、再び立ち上がった
しかし
ならば
今の状況は、アイツに譲るべきなのではないか
ステイル「……」
アウレオルス「く………」
511 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:27:39.39 ID:Ka9BL3pSO
ハッとして前を見ると、アウレオルスはインデックスを地面に優しく置いていた
アウレオルス「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そして走る
先程のように、ただ言葉を出すだけでなく真直ぐ走る
この男は学園都市の外周部にある壁をとんでもない形にしたと思われる人物
警戒すべきだが、インデックスの譲歩がステイルの全身の力を抜けさせてしまっていた
ステイル「……あ」
だがアウレオルスの突進は今の自分以上に弱々しかった
自分と同じく、自ら敗北するためと言いたげなほどに
512 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:28:21.15 ID:Ka9BL3pSO
ステイルはそんな男を殴った
能力の炎も使わず殴った
いや、殴った、とも言えないだろう
そんな、相手を押し返す気もないような一打
見事にうまく、アウレオルスの顔面に激突した
相手の緑髪の男はグラリと態勢を崩し倒れだす
ステイル「…………」
513 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:32:11.53 ID:Ka9BL3pSO
ゆっくり倒れこみながらアウレオルスは
アウレオルス(この結果は、必然)
思う
ステイルに『黄金錬成』が通用しなかったのは、『黄金錬成』がしっかり発動していたから
アウレオルスは、心で考えてしまっていたのだ
こんな、誰かのために誰かを平然と犠牲にする人間に、インデックスを救う資格はない
だから『今回』のパートナーに救ってもらうべきだ
彼には手を危害を加えず、インデックスを譲ろうと、そう心の奥底で思っていた
アウレオルス(おそらく、『首輪』を消せなかったのも同じ…だろう)
激昂した時に乱した表情を戻し、目をつむり直し
アウレオルス(……では、頼んだ)
気持ちよく諦めがついた彼は静かに倒れた
そんな彼は、とても穏やかに笑っていた
514 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:34:08.87 ID:Ka9BL3pSO
ステイル「……」
勝負は呆気ない幕切れだったが、想いを受け継いだ
疲れきった体に喝をいれ、息を吐いてから呟く
ステイル「……インデックスを」
―――救うんだ
そうして地面で仰向けに寝ているインデックスを迎えにゆく
515 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:37:00.78 ID:Ka9BL3pSO
しかし神様はこの物語を平坦に終わらせてはくれなかった
アウレオルスは意識の断絶前に、インデックスを頼んだ、といった
それが、インデックスの眠りを
インデックス「警告。――――――――――」
インデックスを抱き抱えよう、腰をおとし無防備な格好で彼女に向かい合っていたステイルは
―――ザシュッ
ステイル「………………………あ………?」
インデックス「一〇万三〇〇〇冊保護のため、侵入者を迎撃しました」
空に、鮮血が舞う
暗い夜空を、さらに黒く塗りつぶす視界
少女の無慈悲な声と、少年の倒れた音が響いた
物語の残酷性を伝えるために、恐ろしいほど明確に
516 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:40:26.84 ID:Ka9BL3pSO
皆さんレスありがとうございます
アウレオルス戦が凄くあっさりと終わってしまいました
構想段階ではもっと盛り上げるはずだったのに…
しかし力の限り頑張りますので
読んでくれた方ありがとうございました
518 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/05/04(水) 23:34:10.19 ID:aikKTk2O0
乙
黄金錬成もなかなか危うい能力だよな
鍼刺してハイにならなきゃ使えないなんてマトモじゃない
そしてペンデックス! 期待! 519 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/05(木) 14:01:28.76 ID:QGPKmvtJ0
乙!
ヘタ錬が格好良くて安心した。
しかし冷静に考えれば、魔神状態の危険なインデックスを、情報も伝えずにステイルに渡してしまったということに。
ヘタ錬ェ…… 522 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 00:56:55.31 ID:AwS1vSoSO
ステイル=マグヌスは暗く汚れた地面に倒れた
そのアスファルトには、無数の血が飛び散っていた
綺麗好きのはずのステイルは、そんな汚い場に倒れたことに嫌悪感を感じない、感じる暇もない
いや、それ以前に『汚れている』ことすら気付けていないだろう
ステイル(……あ)
深く抉られた傷口が、黒の服を赤く塗りつぶす
その彩色は、倒れる地面にまで及び、勢いを止めない
ステイルの視界は暗い
夜の暗闇なのか、それとも瞼が光を遮断し見えないのか何が原因かも理解できないまま、ただ起き上がろうと努力する
ステイル(あれは、インデックス…ではない、おそらく……真実に近付いた者の口封じのための、魔術結社の策…)
と、頭のどこかでそう感じ、理解した
確証はないが、ステイルを問答無用で消そうとした所から間違いではないと思う
523 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 00:57:32.45 ID:AwS1vSoSO
ステイルは、動かない体で歓喜していた
瞼一つ動かせないのに、まともに思考もできないのに、本能のどこかが震えていた
ステイルの予測の通りならば、誰かが真実に辿り着いたということ
記憶のカラクリを看破し、インデックスを苦しめる真実の原因を取り除こうとした結果が
あのようにインデックスを殺人マシーンに変貌させた
だからアレをなんとかしてしまえば
インデックスは救われる
そのはずだ
ステイル「……」
しかし
ステイル「……」
動くのは心だけ
体は何一つ動かない
脳が送る命令信号の回線が切れてしまったかのごとく
『動け』
というのに
動かない
524 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 00:59:07.10 ID:AwS1vSoSO
インデックス「警告。『書庫』を狙うと思われる敵兵は未だ生存しています、早急に止めとなる魔術を構築します」
こうして、インデックスは無表情に機械的に思案しはじめる
手負いだったとはいえ、学園都市の超能力者を簡単にノックダウンさせた成果に目もくれず、彼女はただ頭の中の魔道書を守護する
インデックスがステイルを攻撃した魔術
それは『自動的に宙を舞い、確実に敵の息の根を止めてくれる武具』
そして『死ぬ』『敗北』する歴史が一度もない、攻略法が見つからない負け知らずの武器を再現したもの
その名を『豊穣神の剣』
一〇万三〇〇〇冊を狙うと思われる相手に“手を触れられていた”
よって速攻かつ即効の戦法で攻めた
『豊穣神の剣』ならば、確実に排除が可能であり、最低距離を開くことができる
結果、相手は倒れた
動く様子もない、感じるに生命力(マナ)も僅か
だがインデックスという少女の持つ慈悲、慈愛はない『自動書記』は相手が天に召されるまで仕事に徹する
インデックス「―――追撃のための準備が整いました」
525 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:01:55.09 ID:AwS1vSoSO
ステイル「……!」
ステイルは聞いた
『自動書記』の無慈悲な声を
どんな攻撃がくるかは知らないが、とりあえず構えなければ
ステイル(死ぬ)
ステイルは体を動かそうとする
腕を動かそう、などという精密な行動ではなく、体を跳ねさせたり、転がろうとする単純な大雑把な回避行動を
だが、ステイルの体は我が儘な子供のように、それら拒否をした
ステイル(クソ………………!動けぇぇぇぇぇぇ!!!)
運命とは、ただ懇願するだけでは助け舟を流さない
インデックス「!」
その瞬間、ステイルを抹殺しようとしていたはずのインデックスが、右に高速で移動した
その目的は、攻撃の命中率をあげるための移動などではなく
上条「大丈夫か!」
一人の少年の放った攻撃を回避するため
ステイル「……」
運命の神様は、懇願するだけでは助け舟を流さない
しかし自分で乗り越えるための、チャンスは与えてくれる
526 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:06:23.34 ID:AwS1vSoSO
上条達はアウレオルスに記憶を消された
しかし、すぐさま上条が右手で頭を触り取り戻した
そして神裂がアウレオルスの魔力の流れを探査して、ここ学園都市にいることを割り出す
上条「……」
そして聖人の超人的な脚力を駆使して、脇目も降らず駆け付けた
そこに今代のパートナーがいるとは思わなかったが
このマラソンの功労者である神裂は倒れているステイルを救うため、動く
近くにアウレオルスもいた
意識がないとはいえ野放しにするのは危険だが、彼女的には重傷のステイルを選んだ
そして看病に関しては何もできない上条は
527 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:07:15.24 ID:AwS1vSoSO
上条はステイルを『自動書記』から庇うように立つ
そしてそれを瀕死の少年は見つめる
ステイル「…」
言葉を出そうとした
だがやはり声を出す力もない
自分のていたらくに歯がみしていると、突然目の前に影がかかった
意識が切れたわけでない
神裂「酷い怪我です…とりあえず応急処置を」
目の前で自分を庇っている少年と共にいた魔術師
長身の女性が覆いかぶさるように立っていた
529 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:08:18.44 ID:AwS1vSoSO
その女性は、ステイルの周りに何か作業を行っている
応急処置をしてくれる感じではない
だから構わず、鉄のように重く感じる唇をパクパクと動かす
言いたいことを伝えるため
その様子は我ながら情けない行為に見えるが、それが精一杯
ステイル(僕はインデックスを、救う)
それを上条は聞かずとも察したのだろう
ステイルの言いたいことに対しての返答を
上条「遅いんだよヘタレ超能力者、待ってはなかったけどな」
ステイル「……」
神裂「……?」
神裂はステイルの表情が僅かに歪んだように見えた
それは痛みからか
いや
530 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:11:55.32 ID:AwS1vSoSO
ステイルは萎えきった体に強力な何かが、爆発的に漲っていくのが分かった
ステイル「ふ」
声も出た
ついさっきまでは、二度とできないような気までした技術を成し遂げた
『遅いんだよヘタレ超能力者、待ってはなかったけどな』
この言葉、信頼などが隠れる正の感情をこめた類のものではない、全く違う
本当に言葉の通り、待ってもいなかったヘタレを蔑んだ言葉
ステイル「は、は」
確かにその通り
あの時の自分は蔑まれるべきヘタレだった
だが今は違う
もう諦めないのだ、言われっ放しではいられない
ステイル「はははははははははははははっ!!」
531 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:12:54.28 ID:AwS1vSoSO
上条「……」
ステイルに侮蔑の言葉を送った直後
上条は目の前の『自動書記』を見据える
インデックス「警告。『首輪』の結界を貫通させた人物、上条当麻の存在を確認」
インデックス「 、 。 」
あの時と同じように、魔法陣が拡大し、空間に亀裂が入る
『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』がくる
上条「……シッ!!」
あれには幻想殺しは不利
だから、やられる前にやる
瞬時に息を吸い、地面を砕く勢いで飛び出し、駆ける
だが
カッ、と
光の柱が恐るべきスピードで発射された
努力虚しく、上条がインデックスに到達する前に『竜王の殺息』が立ちふさがる
上条「おぐ……っ!」
532 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:14:07.45 ID:AwS1vSoSO
上半身を前に突き出す様に、突進していた上条は咄嗟に右手を出す
上条「……くぅっ!」
しかし体勢が悪い
こんな下半身に力が入らない状態で『竜王の殺息』を受けたらあっという間に負ける
上条「くそぉ………っ!!」
悪足掻きでもいい
なんとか立ち止まり、全く腰が入っていないが、足に力を入れて踏ん張ろうとする
そして『竜王の殺息』との真っ向勝負―――
ステイル「はははははははははははははっ!!」
と、雰囲気を壊す馬鹿笑いが後ろから聞こえた
しかし上条にはそれに反応する余裕はない
そんな、ただ前を見続けるしかない上条の視界に
『炎の塊』が現れた
533 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:17:40.86 ID:AwS1vSoSO
轟!!
と燃え盛る炎は見事に『竜王の殺息』と拮抗する
上条「ッッッ!?」
突然の出来事に上条は思わず右手で炎を触ってしまう
しかしそれは、打ち消されなかった
上条(……消えない?それなのに、右手が火傷しなかった)
上条(打ち消せなかったが、火傷しないための時間は稼げた…つまり異能なのに消えない!)
そんな炎
上条は記憶に覚えがある
上条「!」
534 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:18:29.26 ID:AwS1vSoSO
振り向くと、やはりあの炎の超能力者が何かをしていた
神裂の制止を無視し、顔を歪ませている
その歪みはおそらく上条への侮蔑
ステイル(情けないね、この程度の攻撃に苦労しているようでは)
その挑発を正確に読み取った上条は血管を爆発させかけた
頭に血を上らせて、叫ぶ
上条「ああああああああああああああああああああッッ!!」
ステイルに対する怒りと、自分に対する気付け
535 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:20:03.00 ID:AwS1vSoSO
インデックスは『竜王の殺息』と拮抗している『炎の塊』の仕組みを看破できずにいた
その理由は簡単
ステイルのこの炎は、一〇万三〇〇〇冊にも記載されていない『超能力』だからである
インデックス「警告。『竜王の殺息』を妨害している炎は再生を繰り返して、崩壊を防止していると思われます」
だがさすがの魔道書図書館
知識だけではなく、未知なる物に対しての対応力も驚異的
それに比べてステイルは、やはり火事場の馬鹿力だけではなんとかならない
ステイル「……ハァ、ハ…」
息を吐くことすら辛く、今にも消え入りそうにステイルは耐えている
インデックスはこちらに向かってくる少年の気配を感じる
上条を迎撃したいが、『竜王の殺息』は上手いこと固定されてしまっている
その証拠に『竜王の殺息』と連動している顔が全く動かせない
インデックス「警告。上条当麻撃破のため、早急にあの炎を対応します」
こうして『竜王の殺息』を切った
536 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:21:55.90 ID:AwS1vSoSO
インデックスは既に炎の対策を見つけていたようだ
感情のない言葉を流す
インデックス「対応策は、炎の核である術者の生命を絶つことと判断しました」
その言葉に上条は、僅かにステイルを庇うような態勢を取ってしまう
神裂もステイルへの即興回復魔術をかけつづけることを中断し、ステイルを守る
だがそれらの行動は無駄に終わる
二人の障害など予想の範囲内と言わんばかりにインデックスは
インデックス「状況から、距離を無視して絶命させることが可能な魔術が得策と判断しました」
ステイル「……」
ステイルは、ただ意識と超能力を保つことが精一杯で何もできなかった
だから、ビキビキビキ!!と、足の指から足首、脛、膝へと来る強烈な激痛の侵入を許してしまった
ステイル「がああああああああああああぁぁぁぁぁッ!!」
神裂「な!」
上条「くそっ!!」
インデックス「警告。『ペクスヂャルヴァの真紅石』―――発動」
537 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:23:53.37 ID:AwS1vSoSO
上条は急転換し、ステイルの元へ急いだ
ステイル「あああああああああぁぁ、がああああああ!!」
慌てて辿り着いて、ステイルが痛みを感じていると思われる足から腰にかけて右手で触る
ステイル「くぅ……」
痛みは打ち消されたのか、ステイルは静まる
その姿はまるで全身に力が入っていない『屍』のようだ
上条「ッ、神裂!!」
神裂「……まだ死んではいません…しかし」
上条「クソッ!!」
歯がみして、『自動書記』を睨み付けると、間髪を入れず再び『竜王の殺息』を発動させて襲いかかってきていた
防壁を成していた『炎の塊』は、ただの炎に成り果てて、ただずむだけになっている
上条「うおおおぉぉああああああああ!!」
右手で対応しジリジリと押されながらも、押し返そうとする上条
神裂は、動かないステイルを回復させようと必死だ
そしてステイルは
538 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:25:31.60 ID:AwS1vSoSO
意識は現実と夢の間にあった
もしかして命も、あの世との間にあるかもしれない
先程の上条の救済のおかげか、激痛だけでなく『体晶』の負担も共に消えていた
だが負担が消えた程度で復活できる程、今のステイルは軽傷ではない
今度こそ心すら働かなくなっていた
足の骨は関節ごとに、外されるように折られ、筋肉は引きちぎられた
ステイルは痛みの塊が、足の代わりに体に引っ付いているとしか思えなかった
視界は
暗い画面から、小さい頃に親に捨てられた時の記憶の映像に切り替わっていた
始まった
ステイルの走馬灯という名の映画が
539 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:26:19.96 ID:AwS1vSoSO
捨てられ、一人で部屋に籠り親の迎えを待っていた
心で信じては、いた
だが突然、謎の白衣の人物達に誘拐され、部屋より暗い暗い密室に閉じ込められた
謎の粉を服用させられ、それを見て悪魔の歓喜を浮かべる研究者たち
訳がわからなかったがそれ以降、今までより優遇されるようになった
それからの人生は同じことの繰り返し
ただ研究者の思惑通りに弄られ弄られ、利用された
―――こんな人生しか
「おなかへった」
540 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:27:35.03 ID:AwS1vSoSO
「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」
「私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
…………。
「もっとジャパニーズ特有のごはんが食べたいかも!」
インデックス。
「かわいいなぁ、あんな柔らかそうなスカートはいてみたいんだよ」
インデックス…!
初春「無茶ですよ!」
美琴「そうよせめて病院で…」
―――悪いが、聞けない
ステイル(インデックスに、もう一度、会いたい)
541 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:29:06.83 ID:AwS1vSoSO
ステイル『!!』
ステイルは意識を現実に戻し、命をこの世に戻す努力をする
自分を覚醒させる努力をする
会いたい、だけじゃないだろう
助ける、のだろう
もう投げ出さない
どんな理由があろうが、どんなに体が動いてくれなかろうが
だが、今のままでは自分は死ぬ
気合いではどうにもならない現実
インデックスを、助けられない
だから
542 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:29:49.64 ID:AwS1vSoSO
『可能と不可能を再設定しろ』
『目の前の壁を取り払え』
543 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:34:38.20 ID:AwS1vSoSO
ステイルの、動かないはずの手が上を向いた
それにギョッとする神裂は目の前で起こる現象に、さらに驚愕する
ステイルの手からは、火が噴射されている
あんな状態で能力を使えるという事実も驚きだが、そのことは眼中にない
神裂が見るは、その周囲
まるで鉄が熱されて熱を持った時のような
“赤く染まっている謎の物質”が炎の周囲に出現していた
それは炎でも煙などでもない
確実に質量を持つように感じる『物質』だ
それはどんどん増加していき、最終的には巨大な『紅い棍棒』と化していた
神裂「な」
544 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:36:54.61 ID:AwS1vSoSO
それは、ステイルの元へ落下していき、一部はステイルの体に吸い込まれていく
残った部分を、ステイルは掴む
パラパラと零れ落ちている所があるが、そんな雑さからはとてつもない威圧感があった
そして、赤い少年は絶対使用不可能なはずの足を使い、立った
神裂「……」
上条「は…?」
上条も『竜王の殺息』と闘うことを忘れて、『紅い棍棒』を持ち立ち上がったステイルを見た
ステイル「……」
545 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:37:48.78 ID:AwS1vSoSO
上条達は知る由もないが、この謎の現象
その実体は
ステイルは
AIM拡散力場を溶接した
その溶接されたAIM拡散力場の塊こそが、あの『紅い棍棒』
その圧倒的異質に『自動書記』も警戒した
インデックス「警告…」
546 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/11(水) 01:40:10.30 ID:AwS1vSoSO
だが遅すぎる
ステイル「iszt救ymt」
ステイルはその細い腕ではとても振れないと思われるあまりに大きな『紅い棍棒』を振った
そしてその攻撃が『竜王の殺息』を散して
インデックスの魔法陣ごと、その先にある『首輪』を破壊した
554 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:14:53.42 ID:Zmqj8Y6SO
「警こ、……『首輪』に致命……」
終焉の声が
「修正………不……う」
禁書目録の少女の悲劇の幕が
「…………」
閉じる
「………」
555 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:16:15.03 ID:Zmqj8Y6SO
幕を下ろす役目を担った『紅い棍棒』は霧散して消滅する
それに合わせて、糸が切れたようにステイルも傾く
「 」
「 」
誰かが叫びながら駆け寄ってくる
「…………」
目の前に倒れている少女が見える
抱きしめたいのに、駆け寄れない
「……」
556 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:17:18.22 ID:Zmqj8Y6SO
思う
口に出す気も、気力もないため、心で思う
自分は、果たしてインデックスを助けた主人公(ヒーロー)なのか
『首輪』には辿り着かなかった
謎の魔術師から手柄を横取りした
今もインデックスの方へ向えない
そんなヤツが果たして―――
でも今はいい
インデックスは助かったのだから
あれこれ考えるのは、起きてからにしよう
557 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:18:24.02 ID:Zmqj8Y6SO
だがこの少年が、そのことに思い悩む日は二度と来なかった
558 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:19:30.42 ID:Zmqj8Y6SO
第七学区にある病院
そこに、重傷の少年は担ぎこまれた
死にかけていた
死ぬ寸前だった
誰もが助からないと思わずにはいられなかった
しかしこの病院のとある医者は諦めない
死なない限りは助けることを諦めない信念の元に治療をする
そして患者を救う
運ばれてから、どれだけの時間が経ったのだろうか
医者はポツリと呟いた
カエル医者「……なんとか一命はとりとめたね?」
赤い髪の手術衣を着せられ眠っている少年を見つめながら
559 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:20:35.45 ID:Zmqj8Y6SO
手術室の扉が開いた
その付近に置かれているイスに腰をかけていた異能者と魔術師は、一斉に立ち上がる
そして出てきたカエルに似た顔の医者に詰め寄った
神裂「どうなったのですか…」
カエル医者「うん正直危なかったが、なんとか一命はとりとめたね?」
神裂「……ほっ」
神裂達はあの後、救急車を呼んだ
そして救急車が駆けつけてくる間に魔術で応急処置をしていた
神裂「私はそのようなことしか出来ませんでした…」
神裂は己の無力さを噛み締める
これも彼女の人柄
神裂「ですがこれで…一段落ですね」
と負の感情を振りはらい、声を出して話しかけた
同じく炎の能力者の身を案じていた、自身のパートナーともいえる人物に
560 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:21:39.75 ID:Zmqj8Y6SO
――――‐‐‐・・・
神裂「…………あれ…?」
返事がない
不思議におもいパートナーが立っているはずの方向を向く
そこにあったのは、ただの病院の壁や扉
人物など存在せず、病院という風景が広がるだけ
神裂は眠気や疲労で位置を掴み間違えたと思い、頭と一緒に視線を様々な方向に向ける
しかし、一向に自分と医者以外の人間は、この場に見当たらない
神裂「……」
カエル医者「あの少年なら僕の報告を聞いてから、すぐに去っていったよ?」
神裂「え」
561 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:22:55.77 ID:Zmqj8Y6SO
この日『幻想殺し』の少年は皆の前から消えてしまった
それこそまるで、幻想のように
562 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:27:45.72 ID:Zmqj8Y6SO
それから数時間後
深夜という闇も晴れ、朝日が昇り光が差しはじめ地上を照らす時間
インデックスという少女は病室の扉の前で右往左往している
扉を開けようとしたり、この場から去ろうとしている
インデックス「ステイル…」
インデックスは、軽い検査を受けて療養しただけで病院から解放された
そして
インデックス「ステイル」
涙ぐむ
あの魔術師達から事の顛末を手紙で知らされた
563 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:30:04.06 ID:Zmqj8Y6SO
インデックス「ステイル…」
手紙を読んでから、彼の名前を呟くことしかできない
『あの後』のステイルについて知ったから
―――あの後
それは追われていた魔術師が襲撃された日
そして、ステイルに捨てられたと思われた時
捨てられたことに対して、インデックスは正直傷ついた
やっと心を許せた人物に捨てられたのだから
でも仕方がない
彼に自分を守る義務はないし
自分には縛りつける権利もない
なにより彼が傷つくなら、関わらない方がいい
そう思ったから諦めがついた
彼を前にした時にも笑える自信を、持てた
564 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 16:34:47.82 ID:Zmqj8Y6SO
インデックス「……すている」
涙が自然と溢れだす
ステイルはあの後も頑張ってくれていた
入院するほど傷ついてまで自分のために
だからあの諦めは、彼にとって失礼なことだ
捨てたのは自分の方だったのかもしれない
だから自己嫌悪に苛まれる
インデックス「ステイル…」
グッ、と拳を握る
反省しなおしたら勇気がわいた
情けない気持ちも消えてなくなった、もう甘えない
目に浮かぶ雫も拭う
今は自己嫌悪の時間ではない
ステイルのために何かをしなければ
インデックス「……」
ゴクリと喉を鳴らして、入室した
彼のいる場所へ
570 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:34:27.26 ID:Bu0DKe7SO
インデックスは扉を閉め、歩みを進める
周囲は静かだった
自分と彼以外いないのだから当たり前だが
例えすぐ真横で騒がれていてもインデックスの耳はそれを受け付けないだろう
心臓の音しか聞えない
何も見えない、考えられない
そして、ついに
ステイル「……」
インデックス「……」
571 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:35:22.05 ID:Bu0DKe7SO
神裂火織
彼女は病院を出て、街の中を歩いていた
自分の仲間を探すため
消えてしまった『幻想殺し』の少年を見つけるため
神裂(……いったいどこへ)
せっかくインデックスは助かったのに
なによりも彼が望んでいたことなのに
神裂(せっかく、ハッピーエンドとなりましたのに…)
そう流れるような神裂の思考は一旦止まる
神裂(いや…)
そしてただ一つの、ハッピーエンドとは言い難い結末を口にした
神裂「ステイル=マグヌスは…」
572 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:36:37.18 ID:Bu0DKe7SO
病院の一室
二人の人物がいた
手術衣を着たベッドに座る赤い髪の少年と
その側に立つ銀髪で純白のシスター
二人の間には沈黙が居座っていた
それは、少年が発した一言が原因
ステイル「誰、だい?」
573 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:38:17.44 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「……っ」
インデックスは萎縮した
まるで自分の体に氷の剣を突き刺された感覚だった
そのダメージは甚大であり、彼女の頭にある一〇万三〇〇〇冊を集約しても治療は不可能だった
しかし治せなくても、我慢はできる
インデックス「…………っ、覚えてない?」
ステイル「……」
インデックス「初めて会った時、パンをいっぱい食べさせてくれたよね」
謝るはずだったのに、彼のためになにかをしようと入ってきたはずなのに
しているのは、自分への慰め
自分のための行為
574 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:39:17.37 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「買い物もいったよね?」
ステイル「悪いけど、覚えがないな」
インデックス「私のために服を買ってもくれたんだよ?」
ステイル「……その修道服をかい?」
インデックス「……」
インデックスの顔に影が宿り、表情がみえなくなる
少年はなにかを悟った顔をした
そして少年にとっては好意
彼女にとっては凶器の真実を言った
ステイル「……君が、知り合いというのは分かったよ、でも…生憎僕は記憶喪失なんだ」
インデックス「―――」
ステイル「医者によると今入院している原因でもある、この重傷のせいで記憶が失われたらしい」
575 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:40:58.17 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「……」
彼女の白い肌が、白さの限界を通りこして真っ青になっていく
唇も乾ききり、小刻みに震える
彼女が絶望するわけ
“重傷”が原因で記憶喪失
つまり、自分のせい
―――自分の
記憶喪失になったことは、神裂から伝えられていた
でもそれなら魔術でなんとかなるかもしれない
そんな楽観が、記憶喪失という問題をどこか遠くにおいてしまっていた
でも今は違う
自分が原因で記憶を失った
改めて突きつけられることで、インデックスは現実に正面から向かい合わされた
インデックス「……ぁ」
576 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:42:40.22 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「ぅ…」
改めて思う
自分は最低だなと
分かっていたはずなのに
神裂という魔術師は気をつかってか記憶喪失の原因をボカしていたが考えれば思いつく
思いついた
しかし自分を優先し、目を背けた
なにが彼のために何かしようだ
ステイル「……」
黙りこむのに見兼ねた赤髪の少年はいう
ステイル「すまない…」
インデックス「……ううん…」
577 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:43:40.08 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「……知ってたよ、でも…信じたくなかっただけで…」
勇気を出して
インデックス「あなたは…」
涙を堪えきれず
インデックス「記憶喪失の…」
強い言葉で
インデックス「原因は…」
今にも崩れ落ちてしまいそうなくらい弱々しく
矛盾に満ちながら、言った
インデックス「わたしの」
ステイル「インデックス」
578 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:46:03.21 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「うん、わたしの名前は…」
インデックス「……」
インデックス「え?」
予想外の少年からの呼びかけに思わず、すっ頓狂な声を出してしまう
ステイル「泣かないで」
インデックス「………え」
目の前の少年
ステイル=マグヌスは記憶喪失だ
それは魔術師が医者から告げられたと言っていたし、なにより本人もそう言った
ならば何故、自分が自己紹介をする前に自分の名前を知っている?
ステイル「……すまないね」
答はステイルから帰ってきた
ステイル「記憶喪失なんて、嘘さ」
579 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:46:46.87 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「え?」
ステイル「いや、確かに先程までは失っていた」
ステイルは、人差し指を頭に突きたてながらいう
ステイル「しかし一時的なものだったんだよ、記憶喪失と判断された深夜から君が来る間に、記憶はポンと戻った」
インデックス「……そ、そんなことあるの?」
ステイル「あるよ?脳医学では常識さ」
インデックス「………………………なんだぁ……」
インデックスは、ガチガチに固めていた全身をドロドロに溶かして、座り込んでしまう
580 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:47:54.34 ID:Bu0DKe7SO
インデックス「……だったら……なんであんなことしたのかな?」
ドロドロに溶けた水は、怒りと交わりどす黒い何かになったようだ
彼女にしては珍しく、本気の殺意に近い遠慮をしない感情を備えて訪ねる
ステイルはその様子に、少しだけ汗を流し、おそるおそる答えた
ステイル「アメリカンジョーク、ってヤツさ」
インデックス「私はイギリス育ちなんだよっ!!」
光る牙が赤い髪をさらに赤く染めんと、襲いかかった
581 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:49:32.46 ID:Bu0DKe7SO
壊れるのではないかというくらい勢いよく扉が閉められた
インデックスという少女が退室した音
少女は、目に涙をためていた
しかし先程までのような負からわきでるものではなく
インデックス(よかった)
ステイルの無事を、喜ぶものである
彼女はそんな風に思えた自分に安堵していた
ステイルが記憶喪失から回復したと聞かされた時も泣きそうになった
その涙は、『自分のせいでステイルが傷ついた』という罪が消えたという感情から来たものではないかと不安だった
しかし泣いてみたら、そんなことはなかった
心はステイルの無事を喜ぶ感情で埋めつくされていた
インデックス(ステイル…)
582 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:52:33.11 ID:Bu0DKe7SO
一人取り残されたステイルは、遠慮なしに噛み付かれた頭を擦りながら思う
ステイル(これで、いいんだろう?)
と、自分に語りかける
なにが“いい”のか、この少年には分からない
なぜなら
少年は記憶喪失なのだから
ステイル(……語りかけてくる)
ステイル(彼女を悲しませないでくれと)
ステイル(……守れ、と)
ステイル(―――『心』から)
583 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 01:56:02.40 ID:Bu0DKe7SO
ステイル=マグヌス
彼は主人公(ヒーロー)とはいえない、お話を進んできたと思う
しかし彼は今、一人の少女の世界を救った
嘘をつきづけることで
挫折もするだろう
いつかこの幻想が糾弾され、壊れる日も来るだろう
でも彼は、これからもずっと彼女の世界を守りつづけるだろう
おしまい
584 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 02:04:22.10 ID:Bu0DKe7SO
窓の無いビル
その中に君臨し静かに笑う『人間』がいた
585 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 02:12:16.07 ID:Bu0DKe7SO
禁書目録(インデックス)のIDを作り登録させ、学園都市に入れるようにすることで
第六位(オールスペア)が一歩進化した
木山春生も、オールスペア進化の土台提供を感謝しよう
586 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 02:13:13.03 ID:Bu0DKe7SO
そして『幻想殺し』
幻想殺しが学園都市に乱入することでヒューズ=カザキリが生まれる
そして今、幻想殺しは第一位のいる実験場へ知らず知らず進んでいる
生気を失ってはいるが、おそらく目の前の理不尽に憤り、実験を停止させるであろう
それで妹達がばらまかれ、虚数学区が世界に展開される
588 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 02:21:26.04 ID:Bu0DKe7SO
おしまいです
シリアスはやはりハードル高かったです
何回挫折と息切れしたことか
こんな稚拙なのに付き合ってくれた方々は本当にありがとうございます
ではさようなら
589 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/05/30(月) 02:56:02.48 ID:zHrk1CLAO
乙。最高にかっこいいステイルでした。 592 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/30(月) 08:41:32.38 ID:JLzuQpbg0
とうとう終わったか……
面白かったしステイルメインは燃えるのよな
今まで乙! 593 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/30(月) 12:19:41.70 ID:uiOHHJ/Zo
うおお、乙
この先も読みたいがよりしんどそうだし難しいか
気が向いたら書いて欲しいぜ
ギャグでもシリアスでもいいからまた何か書いてくれください
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