ライトノベルを書きたい人の本前→
五条「ククク… ここが学園都市ですか」その27まとめ→
五条「ククク… ここが学園都市ですか」 まとめ243 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01 /12(水) 02:35:43.68
ID:oLzgKNIOo ──操車場は、先刻までの静寂がまるで幻想であったかの如く、さながら戦場の様相を呈していた。
深雪の色を湛える肌と髪を持つ少年、一方通行が狂笑いをあげながら右足で地を蹴ると、轟音と共に地響きを伴い地表が爆ぜ飛び、衝撃の波が幻想殺しの少年、上条当麻に向かい襲い掛かる。
寸でのところで横方向へと跳躍した上条が着地するのを待たず、一方通行の脇で隆起していた線路を形成する鉄骨が突然ねじ切れ、一本、また一本と空中で無防備な体勢になっている彼のもとへ殺到した。
次いで響く、鈍くも激しい打鉄音。
上条と一方通行の間に割って入った五条が、致死の速度を以って飛来する鉄骨を、次々とその赤熱する足先で蹴りとめる。
ベクトルを相殺された鉄骨が重力に引かれ、その質量を思い出したかの様に地面へと落下し、地を揺らしながら周囲に砂埃を舞い上げる。
その砂埃を盾にする様に、一足早く着地した上条が駆けた。
硬く握られた右手を振りかぶるその様は、一方通行からは砂煙に隠れ視認出来ない。
数歩の距離を駆けた上条の右手が、砂煙の中より一方通行に向かい突き出される。
奇襲に反応出来なかった一方通行の身体が、再び宙を舞い地に転がった。
倒れ伏せる一方通行へ追撃を行わんと足を進める上条に向かい、五条が口を開いた。
五条「追撃はやめておきなさい!!ダウンしている奴が足に触れる危険性がある!!」
その言葉を聴いた上条が、はっとした表情を浮かべ停止する。
止められたその足元へと、倒れたままの一方通行が持つ即死の毒手が伸びる。
再びギリギリのタイミングで上条が後方へと飛び退いた。
チッ、という舌打ちが聞こえ、ゆっくりと一方通行が起き上がる。
元来身体的に貧弱な彼が、トラブル体質故喧嘩に慣れている上条渾身の一撃を二度も顔面に受けたせいだろうか。
彼の膝は、立ち上がった後もがくがくと笑っていた。
244 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01 /12(水) 02:39:34.41
ID:oLzgKNIOo 一方通行「ハッ……なンだよその右手……なンなんだよその両足……面白ェ!!愉快に素敵にキマっちまったぜオイ!!」
言い放ち、尚狂った笑い声を上げ続ける一方通行に向かい、上条の口が開かれる。
上条「……おまえ、誰かと対等な喧嘩した事ねぇだろ」
一方通行「あァン!?」
上条「……単調なんだよ、攻め方が。まぁそんな反則みたいな能力もってりゃ、真っ当な喧嘩慣れなんてするわけねぇけどよ。こっちゃあそれなりに修羅場潜って来たんだぜ?そんな先の読めた攻撃、当たるわけねぇだろうが」
上条がこつこつと足音を響かせながら、一方通行へと歩を進める。
一方通行「ッ!!吼えてンじゃねェぞ三下ァァアアア!!!!」
一方通行が再び地を蹴ると、彼を中心に高い砂利の津波が巻き起こった。
テレビノイズの様な音を上げて押し寄せる砂利の津波へゆっくりと歩を進める上条の前に五条が飛び出し、右足を振り上げる。
五条「──────Volcano Cut.(簒奪の噴炎)」
その足が振り下ろされると同時、一陣の真空波が走り、地面を揺らした。
次第に迫り来る砂利の津波を前に、地面へと到達した真空の波が大地に亀裂を生じさせ、その亀裂から激しい炎が吹き上がり、厚い炎熱の壁が形成された。
一方通行「なッ……!?」
燃え盛るその壁面に到達した砂利の津波が、まるで防波堤に当たった波頭の様に姿を変え、その真円の軌道に一縷の空白が生み出される。
五条「そして、次は全方位攻撃と……オマエはもう少し戦略を考えてサッカーバトルに望んだほうが良い……今ですッ!!」
五条の叫び声と同じくして、その吹き上がる炎の壁がまるでガラスの様に砕け散り、呆けにとられている一方通行へと再度上条の右手が炸裂した。
一方通行「クソ。クソォ!クソオオオオオオオ!!」
今度は踏みとどまった一方通行が、その両の手を広げ上条に向けて振り回す。
何らかのベクトル操作を行っているのだろうか、振られる両手の速度こそ常人のそれと比べて早いものの、何ら相手に命中させる為の段を経ていないその両手は、上条に触れることは無い。
近距離の攻撃は上条に当たる事はなく、逆に上条の右手が、次々と一方通行にダメージを蓄積させていく。
遠距離の攻撃は五条によって阻まれ、上条に接近の糸口を掴まれる。
学園都市最強の座から彼の姿が引き摺り下ろされるのは、最早時間の問題だった。
────────────
245 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/12(水) 02:41:35.40
ID:oLzgKNIOo 上条当麻が幻想を殺す右手を握りながら歩を進めてくる最中。
その背後に控える五条勝がその足先から炎を迸らせる最中。
敗北を知りかけた彼は、初めて相手に勝つことを"考えた"。
接近した状態では、自身の攻撃が髪を逆立てた男に届く事は無い。
かと言って、距離を置いた攻撃は全てあのメガネの男に阻まれる。
どうすれば、どうすればこの布陣を破りうるのか。
そこで彼は思い出す。
先に反射したメガネの男のボールが、ほかでもないメガネの男に対し、ダメージを与えていた事を。
──つまり、"あの男が防ぎきれない程の攻撃を放つ事が出来れば、現状を打破する事が可能。"
しかし、自身の手により生み出せる運動量は、あの男に有効打を与える事は出来なかった。
ならばどうすれば。
あの男に有効打を与え得る程の力の流れを、一体どこから引き寄せれば。
不意に吹き抜けた風が、彼の真っ白な前髪を揺らした。
風。
一方通行「く……くかか……」
先刻まで憔悴に歪んでいた彼の顔が破顔し、一転して嗜虐の狂笑へと切り替わる。
妙な気配を察知した上条と五条の二人が、足を止めて身構えた。
一方通行「くけカカカカかこきくきかけきかかけけくこけかここ────!!」
その様を見た一方通行が、自身の頭上に両手を掲げる。
轟、と激しい音と共に、彼の頭上に周囲の風が巻き込まれていく。
次第に加速し、その勢いを増す風に従い操車場の砂利が、舞い、その両手の間に生み出された大気の渦に次々と巻き込まれていった。
五条(……!?周囲の風を一点に!?)
危険を察知した五条の身体が飛び上がり、再び地面に向かい真空の刃を放つ。
246 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/12(水) 02:46:44.83
ID:oLzgKNIOo 一方通行「遅ェ遅ェ遅ェ遅ェエエエエエエエ!!!」
その真空の刃が地面へと到達する間際、一方通行の両手で逆巻く暴風がそのベクトルを上条と五条の二人に向け変換され、風速百二十メートルを超える烈風の槍となり飛来する。
竜巻と同じほどの風速を持つその巨大な風の槍に。真空波は掻き消え、上条の身体が激しく後方へと吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた上条の身体が、風六発電のプロペラの支柱へと激突し、鈍い音を立てる。
辛うじて踏み止まった五条に向けて、一方通行の右手が掲げられた。
吹きすさぶ突風に耐えながら五条が視線を投げたその先、一方通行が取っているその右手の形は、どこかで見たことのある形だった。
五条(……あれは……お姉さまの……!?)
しかし、その指先に置かれた物体はコインでも何でもない。
直径一センチにも満たない程の、小さな、本当に小さな砂利の一粒だった。
瞬いた後に、その指先に置かれた砂利が消失しており、何をしたのだろうと五条は若干の疑問を覚える。
次いで、自身の腹部が、妙に熱いこと気がついた。
視線を落とし、その腹部を眺めてみる。
それは、小さな赤い染みだった。
外套により守られているはずの左腹部にいつの間にか小さな赤いシミが出来ている。
その染みは、徐々に広がり始め
一方通行「よォ小僧、オレ達が今立ってる場所って、物凄い速度と質量で動いてるって知ってたか?」
五条(……まさか…………)
身体から完全に力が抜け、彼の姿がその場に崩れ落ちる。
一方通行「ほンの少しだ。ほンの少し自転の力を借りただけで、こンな事だって出来ンだぜェ!?」
次いで響く狂笑。
その声を聞きながら、五条勝の意識は闇の彼方へと滑落して行った。
────────────
247 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01 /12(水) 02:48:21.82
ID:oLzgKNIOo 『く……何だ何だよ何ですかァ、二人がかりでそのザマは!!結局デカイ口叩くだけで大したことねェなァ!!おら、もう一発かましてやるからカッコ良く敗者復活でもしてみろっつの!!』
吼え猛り、笑い声を上げる一方通行。
その前方、二十メートル程向こうで風力発電のプロペラの支柱に背中を打ちつけ、その場に崩れている上条と、それよりも手前、10メートル程の位置ででうつ伏せに倒れている五条に向かい、一方通行が歩を進める。
近づくにつれ鮮明になる、うつ伏せに倒れた五条の姿。
その身体の下から流れ出ては徐々に広がる血液が、彼の出血量の多さを物語っている。
そう長くはと待たないだろうと踏んだ彼が、退屈そうな表情で言葉を吐き捨てた。
一方通工「はン、脆いもんだなァ……テメェは終わりだヒーロー、万一意識が戻ったらゆっくり嬲ってやるから楽しみにしとけよォ……!」
うつ伏せに倒れるその姿を跨ぎ、そのまま上条へと歩を進める一方通行。
「空気を圧縮、圧縮、圧縮ねェ……はン、そうか。愉快なこと思いついた。おら、立てよ三下ァ。おまえにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割りに合わねェンだっての!!」
ざりざりと音を立てながら、一歩、また一歩と上条に近づく一方通行。
その言葉に対して、上条は何も答えない。
『止まりなさい、一方通行』
唐突に操車場内に響き渡った声に、一方通行の足が止まる。
先に一方通行が立っていた地点、五条勝を挟んで反対側の位置に、いつの間にか学園都市第三位、超電磁砲御坂美琴の姿があった。
握られたその親指には既にコインが乗せられており、彼女の栗色の前髪からバチバチと青白い火花が飛び散っている。
足を止めたまま、振り向こうとしない一方通行に向けられた御坂の右手が、僅かに震え始めた。
248 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/12(水) 02:50:32.81
ID:oLzgKNIOo 御坂美琴は、この指を弾いた先にある結果を既に知っている。
数日前、奇しくも同じ操車場のこの場所で彼に向かって放たれた超電磁砲が辿った末路を、彼女は既に知っている。
そしてあの時自身を護った少年が、今は眼前で倒れ伏している事も。
自分が、自分の覚悟と決断がもう少し早ければ、彼はこんなことにはならなかったかもしれない。
ぎしり、と美琴の奥歯が音を立てて一層強く噛み締められる。
最早、眼前の少年の伴侶である自身の大切な後輩へと合わせられる顔も無い。
このままでは、上条当麻と五条勝の生命すら危うい。
ならばこれが、自身の命を投げ打ってでも研究を終結させる事こそが、この悲劇の起因となった自身に対するけじめであり、残された最後の選択肢。
美琴の眉間に皺が寄り、一方通行と自身の間に磁界のレールが形成される。
そして親指を、強くはじk「……めろ、みさか」
その時、自分を呼ぶ声に気がついた。
上条「……やめろ御坂!!」
美琴の視界の前方。一方通行の向こうで支柱に背を投げた上条当麻が、悲痛な叫び声を上げた。
その声を聞いた美琴の指が止まり、放電も止まったのか前髪からの火花も同時に停止した。
操車場を包み込む暫しの静寂の中、美琴が顔を伏せる。
美琴「……ごめん」
呟いた美琴が顔を上げた。
その表情は、普段の彼女が見せているそのままの笑顔。
自身の死を前にして、尚の笑顔。
その瞳の隅に微かに光の粒が見えた事に気付ける人間は、この場には居なかった。
美琴「──それでも私は、きっとアンタに、アンタ達に生きて欲しいんだと思う」
最後に一層強く微笑んだ美琴が、磁界の組成を開始する。
徐々に彼女の全身が帯電を始め、バチバチと音を立てながら周囲に火花を漂わせ始めた。
形成されていく磁場のレールに合わせる様に、周囲の砂鉄が舞い上がり始める。
上条「やめろぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」
──────三日月が放つ冴えた明かりの中浮かぶ操車場に、上条当麻の絶叫が一際高く木霊した。
──────to be continued──────
251 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01 /12(水) 02:53:50.35
ID:oLzgKNIOo 以上本日投下分となります
ご支援頂きました皆様、関係各位の皆様、本日もありがとうございました
もう少し早い時間に投下したかったのですが、自身の遅筆が悔やまれます
少々文量が少なかったので、可能ならば明日また投下させて頂きます
お時間がございましたら、またお付き合い頂ければ幸いです
254 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 08:18:31.08 ID:tIaAT2DDO
乙さま
相変わらず焦らすなあ
続きが気になってしょうがねえよ・・・256 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 11:43:36.82 ID:ToLAifmXo
五条さんがここからどう立ちあがるのか
先が読めんからハラハラするわ258 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 13:31:21.35 ID:J4o1jvlDO
続きが気になりすぎる…
ラノベなら半年~一年以上待たされる所を二日三日で読ませてくれるんだぜ
遅筆どころかありがたい260 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 15:19:06.61 ID:0idX+W6io
>>258がいいことを言った
一回の投下が短いからこそ限られた時間で読め
待つ時間が月単位にまでいかない五条ファン氏の筆の速さを含めた技量の妙かもしれない上に本当にありがたいこと
結果的に待つ時間が短くなるのがここのいいところでもある261 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 15:22:45.27 ID:bo2g6M4n0
自転のベクトル操作とかヤバすぎんだろwwwwww
その気になればいつでも地球破壊できるってことだろこれ263 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:39:19.38 ID:h72WXhpx0
>>261
一方さんて原作の中で既に地球滅亡レベルに自転パワー使っちゃってるらしいぜ
空想科学読本でネタにされてたわwwww267 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/12(水) 23:35:31.85
ID:oLzgKNIOo 本日もご支援を頂き、ありがとうございます
誠に申し訳ございませんが筆が捗らず区切りが付かない為、本日の投下予定は延期させて頂きます
節目となる一方通行編の大詰め故、ノらない筆を執りたくないという我侭をご容赦下さい
明晩は私事が詰っておりますので、次回投下は金曜夜に行わせて頂こうかと存じます
ご期待頂きました皆様には申し訳ありませんが、お時間がございましたら再度お付き合い頂ければ幸いです
273 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 00:32:09.85 ID:DNOv6PSGo
大丈夫、納得いくように楽しんで書いてくれ
五条さんのおかげでゲーム気になってるけど、これって最新作から買っていいの?
それとも引き継ぎあり?274 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 00:37:32.00 ID:UyGbXk5Mo
1 は何も無いけど2→3は引継ぎあるよ
3もスパーク・ボンバー→ジオーガで引継ぎあり
引継ぎといっても能力的な引継ぎじゃなくて、キャラを連れて行けるって意味だけど279 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:29:44.45 ID:Rv+9QTdGo
>>273
引き継ぎないけどストーリー把握できないから全部買うべき
特に五条さんのセリフはストーリーだと1しかないから必須275 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 01:18:51.33 ID:SwoLqxhDO
ここの>>1は生真面目だなwwwwww276 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 02:51:24.89 ID:TZ5e0a4g0
やたら言葉遣いが丁寧だよね278 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 11:46:27.38 ID:Q38i8N9Wo
五条さんが紳士だからな
書き手にも読み手にも影響を与える五条さんマジ紳士
293 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:22:08.68
ID:xMhp6vroo 大変お待たせ致しました
本日もご支援の程を頂きまして、誠にありがとうございます
それでは本日分の投下を開始させて頂きます
294 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:25:41.88
ID:xMhp6vroo どこか遠くで、親しい友人の叫び声と共に風の音が聞こえた気がした。
次いで、妙に明るくなった視界が、自身が瞼を閉じていたという事を僅かに思い起こさせてくれる。
もしかすると自分はもうとっくに死んでいて、この明るさの原因は魂が天国にでも辿りついたのではないだろうか等という邪推が浮かぶ。
その考えは、徐々に熱を帯び始めた周囲の空気と吹き荒ぶ風の流れを肌に感じて、すぐに誤ったものだという事がわかった。
力を込めて、異様に重くなった瞼を開く。
視界に入ってくる光景は十メートル程離れた位置、風力発電のプロペラの支柱にぐったりと背を預ける上条当麻と、対面する形で両手を空へと突き出したまま狂った様な笑い声を上げる一方通行。
そんな様子を見て、徐々に自身が置かれていた状況が意識の隅から溢れ出してくる。
同時に、脇腹に残る激しい痛みまでもが思い起こされ、押し寄せる激痛に思わずうめき声が漏れた。
霞む視界の中、先刻まで闇に沈んでいたはずの操車場がまるで日中の様な明るさになっている事に気が付き、視界を光源へと走らせる。
視界に入ったソレは、さながら夏の夜空に浮かび上がる青白い太陽。
一方通行の頭上、おおよそ数十メートルの箇所で大気が渦を巻き、青白い光の玉が形成されていた。
……プラズマの類だろうか。
圧縮された空気が熱を帯びるというのは学校の授業で習ったが、プラズマが出現する程の空気の圧縮率とは、いったいどの程度のものなのか。
次第に肥大化するプラズマと共に、どんどん周囲の空気が熱を帯びて行くのがわかった。。
対面している所から察するに、一方通行はそのプラズマを上条当麻へ叩き付けんとしている。
そしてあんなものが爆ぜたのならば、この操車場一帯は見るも無残な焦土と化すだろう。
今の一方通行は、"明確な殺意を以って上条当麻に刃を向けている"。
295 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:28:47.94
ID:xMhp6vroo ふと先日この操車場で潰えた少女の姿がフラッシュバックし、ぐったりとうな垂れている上条と重なった。
落ちそうになる意識に抗う様、右手に力を込める。
……動く。
こちらに気付いた様子の無い一方通行を見据え、辛うじて動く手をメガネの淵にかけて強く引き剥がす。
かつっと小気味の良い音が響き、自身の視界からガラスの膜が消失する。
そのまま瞳に力を込め、一方通行を強く見据えた。
──── 刹那。
──────今までは他者に向ける事しかなかった認識阻害の力が、自身を襲ったのが理解できた。
────────────
両手を掲げていた一方通行の笑みが消え、唐突にその腕が降ろされた。
頭上に浮かぶプラズマの塊は、消失するでも肥大化するでもなく、そのままの形を保って浮かび続けている。
眉間に深く皺を刻んだ一方通行が背後に向き直り、呆然とした表情で自分に目線を投げている五条と向かい合う。
一方通行「小僧ォ……オマエなンかしやがったな……?」
五条「……」
切り札を隠し持っていた少年、五条勝の瞳は一方通行と交差している。
にも関わらず、その表情はどこか空虚な様相を呈しており、ぶつぶつと小声でうわ言の様なものを口にしていた。
五条「……そうか……これが……蹴球……」
一方通行「なンだそりゃ?……精神操作の類かなンかですかァ?どちらにしろ、"反射されちまった" みたいだなァ……クカカカカカカカカカカカカ!!!」
呆けた表情で呟き続ける五条と、対照的に大きく哂い声を上げる一方通行。
次第に上空に輝いていたプラズマが霧散していくが、嬌声を上げている彼はそれに気が付いていない。
一方通行「カカカカ!!ザマァねェなァオイ!!!ンじゃあオマエから死ンどくか!!」
296 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:31:44.04
ID:xMhp6vroo 叫んだ彼の足が地を叩くと、轟という音を上げながらその身体が一気に加速した。
振り上げられた死を呼ぶ両手が、呆けた表情の五条へと向けられる。
『やめなさいッッッ!!!』
その行動を遮る様、五条の後方に立った美琴が叫び、コインを掲げたままの右手に力を込める。
その様を見た一方通行が瞳を見開き、思わず足を止めた。
即座に空間を電磁波が満たし、組み上げられた磁界が周囲の砂鉄を引き寄せ始める。
── せめて一時でも、一時でも自分の大切な者たちが延命出来るというのならば、もう身命等要りはしない。
美琴「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッッ!!!!」
決意の咆哮と共に、音速を超える速度を伴いながら、彼女自身の破滅へと向かう超電子砲が射出された。
────────────
反射された認識阻害が自身を襲い、生まれてより常に持ち続けていた能力が影を潜めた。
途端、脳漿の中にまるで閃光の様に様々なイメージが到来する。
────── 炎、狼神、企鵝。
次から次へとサッカーに関するイメージが溢れ出し、危機的な状況に置かれている自身の思考を埋め尽くして行く。
────── 宇宙、魔界、未来、帝国。
あまりの情報量に、だんだんと意識が希薄になっていくのが理解出来た。
『やめなさいッッッ!!!』
響いた美琴の声に、飛びかけた意識が繋ぎ止められる。
次いで冷たい何かがコツリと額に辺り、溢れていた情報に消え入りかけていた意識が、一気に現実へと引き戻された。
──────超精査、天国の時、殺人滑走、天使、神のみぞ知る。
相も変わらず意識をイメージに引っ張られたまま、自身の額を叩きに地面へと落ちた"何か"へ視線を落とす。
297 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:33:42.15
ID:xMhp6vroo ── それは、一体どれ程の確立だというのだろうか
視界に入ったのは、笑みを浮かべるカエルが描かれた小さな金属片
あの日この場所で散った少女が、愛しそうに胸に抱えていた小さな金属片
妹達に回収されていたら。今日の実験がこの操車場でなかったら。自身が今、この場に倒れていなかったら。美琴が今、超電子砲を放つ為磁界を形成していなかったら。
あらゆる"もしも"を乗り越え、自身の額を叩くという奇跡を起こしたバッジに作為めいたものを感じたその瞬間
──────五条勝、護浄の魔去、認識阻害。
───" 超次元蹴球闘技"───
頭の中を駆け巡っていたイメージが、終着点を迎えた──────
────────────
298 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:37:26.37
ID:xMhp6vroo 眼前に展開された不可思議な状況に、一方通行は狼狽していた。
離れた所に立っていた御坂美琴(オリジナル)より射出された超電子砲を自身が反射して、御坂が死亡する。
そんな状況になっているはずだった彼の視界を埋めていたのは、冥府を思わせる程に深い暗黒と、数多に煌く星々。
不意に突きつけられた、自身が宇宙空間に放り出されたかの様な状況に狼狽する彼の足元に、うっすらと発光する緑色の線が多数出現する。
一方通行(能力……!?幻覚の類かァ……!?)
『ヒヒヒッ……幻覚ですって?お前が見ているのは現実そのものですよ』
咄嗟に響いた声の元に目線を投げる。
見据えたその先には輝く星屑に埋め尽くされた空間をバックに、笑みを浮かべたまま一人の少年、五条勝が立ち尽くしていた。
先に倒れ伏していたハズの少年が放つ妙な気配に、思わず一方通行の足が後ずさる。
五条「……間違いありませんね……サッカーバトルの到達点にして、始発点……」
五条「 総 和 領 域 (シグマゾーン)」
説明する様に言葉を吐く五条に向かい、一方通行が走った。
その様を見ても動じない五条の首に、即死の魔手が伸び、触れる。
一方通行「ゴチャゴチャうるせェンだよ!!弾けろ小僧オオオオオォォォォ!!!」
触れた首からベクトルを観測し、操作……出来ない。
────── 否、"ベクトルそのものが観測出来ない"。
五条「ここにはありとあらゆる無限の和が存在し、観測するオレ次第で全ての事象が収束する…… 当然ながら、オマエが能力を持っていないという和も存在しますよ……クックックック……アーッハッハッハッハ!!」
いつの間にか首を掴んでいたはずの五条の姿が消失し、背後から声を投げられた。
慌てて振り返った一方通行の視線の先で、五条が小さなバッジを中空に放り投げる。
放り投げられたバッジは一際眩く煌くと、甲高い音と共に弾け、虚空へと消失して行った。
五条「礼を言いましょう……オマエのお陰で……認識阻害が頭から消えて初めてオレは、"超次元蹴球闘技の本質"を理解出来た……さて、あまり長くはもちません……一撃で終わらせて頂きます……」
言葉を吐いた五条の身体から二体の分身が出現し、正三角形を描く様に一方通行を包囲する。
五条「……終わりです、最強」
呟くと共に駆け出した三つの影が一方通行を蹴り飛ばし、交差する。
激しい衝撃を受けた一方通行が意識を手放す直前に見たものは、高笑いを上げる五条勝の姿と、バッジが消えた箇所に集まり始める光の欠片達だった──────
299 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:39:08.19
ID:xMhp6vroo ────────────
『…… おい小僧』
満天の星空に浮かぶ月を眺めながら、大の字に倒れている一方通行が口を開く。
『ククク……何でしょうか……』
一方通行から数メートルの距離をおいた場所に、同様に大の字に倒れている五条勝が言葉を返した。
一方通行「……俺ァ負けたのか」
五条「……ええ、オレの勝ちですね……」
一方通行「……そォかよ……」
随分と遠くから、救急車のサイレンが聞こえる。
倒れている五条の左手を、傍にしゃがみ込んだ美琴が強く握り締めた。
美琴「直に救急車来るから、しっかりしなさい……!絶対死んだりするんじゃないわよ!」
五条「……ええ、今は未だ死ねません……」
五条の言葉を聞いた美琴が、優しく微笑むのが判った。
上条の姿は近くに無さそうだが、恐らくは救急車を呼びに行ったのだろう。
一方通行「クカカカ……今なら殺れるぜェ……とどめ刺さねェのかよ……」
首を動かし、二人の様に目線を投げた一方通行が再度の問いを投げる。
五条「……そんな事しませんよ……今更何にもなりません……」
一方通行「……あァそォかよ……オマエら甘ェなァ……ここで見逃したらまた殺しに行くかもしれねェぞ……?」
五条「……いえ、それも可能性は低そうだ……」
一方通行「……あ?」
五条「……今度は逆に質問させてもらいます…………」
301 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01 /15(土) 02:40:10.30
ID:xMhp6vroo 五条「オマエはあの晩……超電磁砲を反射した時……お姉さまを殺す気は無かったでしょう?」
美琴「……え?」
一方通行「…………」
美琴の表情が驚愕に染まり、対照的に一方通行の表情が冷めた色を浮かべる。
五条「対峙してみてわかりましたよ……オマエが普通に反射を行っていたら……きっちりとベクトルを操作してあの超電磁砲を反射していたら……今頃、オレが死んでいたでしょうね……」
一方通行「……」
五条「咄嗟に身体が動いたとはいえ、そもそもお姉さまの超電磁砲はオレがまともに蹴り返すには荷が過ぎる……つまり」
五条「オマエはあの時、威力を殺した上で超電磁砲を反射していた……違いますか?」
一方通行「……さァなァ」
302 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:42:26.45
ID:xMhp6vroo 五条「ククク……オマエも変な奴ですね……」
次第に救急車の音が強くなり、美琴が顔を上げる。
同時に自分の意識が薄れていくのを感じた五条が、ゆっくりと瞳を閉じた。
五条「……お姉さま、黒子には見舞いに来過ぎるなと伝えておいて下さい……あいつにはあまり心配をかけたくない……」
美琴「わかった、伝えとくわ」
五条「それから一方通行……」
一方通行「……なンだよ」
五条「……サッカーに興味はありませんか……?」
一方通行「……はァ?」
五条「……自分の力に悩んでいた少年が、サッカーと出会って人生を変えたという話を聞いた事がありましてね……興味があったらオレに声をかけて下さい……」
次第に薄れていく意識の中、五条が言葉を吐く。
一方通行「……」
残った一縷の意識が消失する直前に一方通行が何かを呟いた気がしたが、その言葉を理解する間もなく五条の意識は闇の中へと落ちていった。
最強では足らず無敵を目指した少年と、運命に翻弄されながらも懸命に戦った少女と、小さな生命を護るために奮闘した少年。
その三人の影へと、遠くからもう一人の、理屈すら無く火中に身を投げた少年の影が駆けて行く。
静寂に染まった操車場に、やがて赤い色合いを帯びた光を放つ救急車が入り込み、長い一夜の幕が静かに下ろされていった。
迫る夏の終わりを彩る頼りない月明かりが、酷く疲れた顔をした四人を優しく包んでいた──────
──────to be continued──────
307 :
五条ファン ◆APKLrJzDFw :2011/01/15(土) 02:46:15.46
ID:xMhp6vroo 以上本日投下分となります
本日もご支援頂きました皆様、関係各位の皆様、誠にありがとうございました
さて、レディオノイズ編最終話となる次回投下に関してですが、日曜夜(深夜になるかと思われます)を予定しております
お時間がございましたら、またお付き合い頂ければ幸いです
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 03:00:51.94 ID:i0JnM6aLo
まさか認識阻害の反射が好転するとは予想外やった304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 02:43:42.85 ID:6trWHVtmo
今日も乙です。
認識阻害反射されて今後の影響が気になる。317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 22:41:24.99 ID:cRdD+0E+0
認識阻害が五条にかかって、認識阻害のマイナス部分が消えたってこと?316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 15:19:30.53 ID:PQGZlLKfo
ググってみてゲームの中でシグマゾーンがどんだけチート級の技かはなんとなく理解できたんだが
これ一人でやる技じゃねえよなwwww五条△305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 02:45:38.93 ID:8vgNzfUno
皆で仲良くなってサッカーに興じる一方通行を想像したら一気にワロタ314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 10:10:49.47 ID:TJqGIbsAO
乙。やっぱり認識阻害も反射されちゃうのか…しかしまさかそれが好転するとはなあ
次回後日談って事は、共に約束をしている初春と黒子による修羅場を期待せざるを得ない次→
五条「ククク… ここが学園都市ですか」その29
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