ダンテ「学園都市か」【MISSION 37】

2012-10-03 (水) 23:17  禁書目録SS   2コメント  
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まとめ→ダンテ「学園都市か」 まとめ





449:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 00:56:07.24 ID:q5TFD8qDo

―――

遡ること少し、
プルガトリオの天界近層、出陣の野にて。

禁書『……』

竜王とミカエルの同一思念が分化し、
再構築されていく『上条当麻』と『フィアンマ』という全く別の精神体。

その過程が滞りなく進むのを『見』、
インデックスの胸中は一気に期待感に満ちていった。
極度の緊張と喜びが絡み合い、祈り手が震えてしまうほど。
衝動を抑えるのに精一杯、武者震いにも似た感覚だ。

だがその期待感も一転、
直後に急激に冷めていくことになる。

やはり相手が相手、そうするりと成功させてくれる訳が無かった。

上条当麻を繋ぎとめている最後の一つにして最大の鎖を認識して、
インデックスは凍りついてしまう。

そしてこの上条当麻という存在が、
己が知っていた以上に―――この戦いの中でどれほど重要な立場にいたかを知って。

竜王や全能といったこの戦いの火種の一つにして、
結果を左右する中心的存在、という『だけ』では無かったのだ。

彼は約束された―――指名された『役』の一つだった。


本来は、何人も存在すら認知できない大いなる世界の流れ―――竜王が『筋書き』と呼んでいた存在によって。



450:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 00:58:43.59 ID:q5TFD8qDo

上条当麻という思念はすでに完全に分離しているのに、
この鎖が彼を竜の中に留め続けているのだ。

禁書『―――っ』

これには、インデックスはどうしようもできなかった。
ベオウルフの『上位権限』をもってしてもこの縛を解くことはできない。

そしてこの時、上条の側のみならず、
彼女側においても時間が尽きようとしていた。


湧き出した衝動にようものだろう、その時突如ガブリエルが翼を広げ、
光が迸る疾風を巻き起こした。
そして何事かと顔を向けたインデックス・ベオウルフへと。

ガブリエル『もう―――ここはもちません!』

その言葉が終る頃にはもう、彼女は戦士の顔に戻っていたも、
インデックスは見逃さなかった。

ガブリエルの表情に一瞬、悲壮に満ちた陰が滲んでいたのを。

彼女の言葉とその表情、それらが物語っている事は明白だった。
テンパランチアに対する『時間稼ぎ』が終ったのである。

そしてガブリエルの声の直後、
それを裏付けるかのように、この領域が砕かれゆく轟音が一気に激しくなった。



451:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:02:24.39 ID:q5TFD8qDo

禁書『―――!』

インデックスの目には明らかだった。
今や崩壊は目前。
すぐにでもここから脱出しなければ、虚無の中に落ち込み二度と出られなくなるだろう。

しかし、だからとすぐに離れられるわけも無い。

確かにこの場が必要だった理由、記憶の起点はすでに過ぎたものの、
複雑な召喚式はここに敷いているのだ。

竜の内なる世界で『上条当麻』という状態を維持できているのは、この召喚式があるからこそ、
つまり作業途中で式を断ち切ってしまったら、
上条当麻とフィアンマは再び融合し『竜王』となってしまう可能性が高いのだ。

それに相手が相手、二度目の機会もまず無いと考えられるため、
この機になんとしてでも成さねばならなかった。


ガブリエル『すぐに離脱を!』

だが、打開案を模索するインデックスを嘲笑うかのように、
変化はすぐに訪れた。

風景が『落ち込み』、跡形もなく消え去っていく。
影に次々と沈んでいき、この世の外―――『無』となり虚空の果てに。



452:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:04:01.29 ID:q5TFD8qDo

ベオウルフ『行くぞ小娘』

拳を地に打ち付けて、有無を言わせぬ声を放つベオウルフ。
スフィンクスも急かすように彼女の回りをうろつき、鼻先でその背を突いた。

禁書『待つんだよ!あと少し―――!』

二頭の『獣』に急かされる中、
インデックスは最後の一手をなんとか済まそうとしていた。

『筋書き』には、己との絆もベオウルフの親としての上位権限も通用しない。
だがそれ以外にもう一つ―――もう一人、彼女には『契約者』がいた。

『筋書き』にも対抗しうる存在が。

彼女は素早く専用の術式を組み上げていき、
その者に作業の『締めくくり』を任すべく準備を整えていく。


『彼』に上条当麻を召喚させるのだ。


『彼』は魔術については疎いも、その心配は無い。
そのための準備を彼女はいま突貫で行っているのだ。
構築できた術式を彼に送り、そして起動さえすれば。


あとは彼がただ一声、『喚び』さえすればいい。


そうすれば―――上条当麻は彼の下に現れる。



453:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:05:59.76 ID:q5TFD8qDo

ガブリエル『早く!』

禁書『待って!―――今―――!』

目前に迫る消失の波。

風景を飲み込んだ『無』が、
この召喚魔方陣の淵に虚無が達しかけた時。
陣が破壊される直前に、その『契約者』へ繋がりを利用して召喚術式を送った。

一縷の希望と共に。

禁書『(お願い―――!)』


ベオウルフがインデックスを掴み上げたのはそれとほぼ同時だった。
少女の身を巨腕が鷲掴み、その魔獣の肩に白虎―――スフィンクスも飛び乗り、

そして魔獣によって形成された光の陣に、三者の身は沈んでいった。

行き先はひとまず人間界だ。
学園都市のどこかに降り立ち、そしてそこから神儀の間に飛べばいい。
もし万事上手く運べば、到着は上条当麻の帰還の一足遅れになるだろう。



454:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:07:20.82 ID:q5TFD8qDo

―――と、この時。

インデックスは目にしてしまう。
ガブリエルもまた移動用の光陣を形成し、姿を消しつつあったが、
『禁書目録の目』は、その光陣の『内容』を理解してしまった。

その行き先は―――ついさっきここを離れていったラファエル達と『同じ』だと。


彼女は―――兄弟達を『取り戻し』に行こうとしていたのだ。

彼らの『生死』は関係なく、そう―――きっと上条当麻もそうしたように。


禁書『だめ―――だめだよ―――!』


その最後の呼びかけが届いていたか否かはわからなかった。
もっとも届いていたにしろ、結果は同じだっただろう。

互いに姿を消す際、ガブリエルは小さく微笑み返しただけだった。
彼によろしく、と。


―――



455:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:10:20.47 ID:q5TFD8qDo

―――

ダンテ「―――そろそろ『王子様』のお目覚めタイムなんだ」

手にある黒き拳銃に注がれる、「なんだそれは」と言いたげな兄の視線。
兄よりも認識の優位に立っているというささやかな優越感に浸りながら、
ダンテはそっけなく答えた。


ダンテ「ネロと同じだ。『筋書き』には無かったはずの――――――人間の『未来』さ」


ベヨネッタはそれなりに興味がありそうに喉を鳴らしたも、
バージルは僅かに眉を細めただけだった。

反応がいまいちな兄にダンテは「見てろよ」と声を投げながら、
石畳に突き刺さっているリベリオンに寄りかかると。

その瞬間、白銀の刃面に浮かび上がる光の文様。

今度は本心から興味深そうに声を漏らすベヨネッタ。
彼女の関心を引くのも当然か、浮かび上がったのは魔女の術式だったのだ。

術式の輝きが増し、起動した直後。
ダンテはバージルとベヨネッタにこれみよがしにニコリとすると、
軽く摘み上げていた拳銃を手放した。


すると拳銃は落下し、
固い石畳にぶち当たって甲高い音を鳴らす―――はずだったが、
そうはならなずに。

虚空から出現した少年―――上条当麻の手の中に納まった。

そして響いたのは、
少年の身が石畳に落ちた鈍い音だった。



456:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:13:09.37 ID:q5TFD8qDo

上条「…………わりい。いつも世話ばかりかけちまって」

               シゴト
ダンテ「なあに。これも『契約』の内さ。つっても俺は特に何もしてねえんだけどな。礼はお前の『お姫様』に言いな」

だからノーギャラでいい、というダンテの言葉が終るのを待たずに、
上条当麻はすぐに跳ね起きた。


彼は『お姫様』、その言葉が指す彼女から送られてきたある情報に、
黙っていられなくなったのだ。

上条「―――」

上条はまずは、インデックスに会い彼女に触れたかった。
繋がっているため常に存在や認識を共有してはいるも、
やはり人間、肌で直接体温を感じたいものだ。

しかし―――今はゆっくり再会を喜んでいる暇は無かったのである。

至急やらなければならないことがある、と。


それはもちろん―――ガブリエルとラファエル達だ。


手遅れになるのかもしれない、いや、その可能性が極めて高い。
もはや絶望的と形容してもいいだろう。
しかし生憎、上条当麻は『その程度』で止まるような男ではないのだ。

彼はそこまで―――物分りが良い方ではない。



457:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:16:11.19 ID:q5TFD8qDo

上条「―――『フィアンマ』についてだが全能化はしていない!俺がいなきゃ完全体になれないんだ!
    でも創造・具現・破壊は完璧に機能してるからヤバイぜ!」

上条は立ち上がると、その場にいた他の者達への挨拶も抜きにして、
拳銃を素早く点検しながら一気に言葉を連ねた。

上条「―――悪い!詳しい事はインデックスに聞いてくれ!今来る!」

そして彼の足元に魔女の魔方陣が出現、そこから銀髪が溢れ、
一気に上条の体を包んでは飲み込み引き摺り込んでいった。

顔を見合わせ肩を竦め合うダンテとベヨネッタ、
まるで何事も無かったかのように微動だにしないバージル。

上条当麻の怒涛の帰還と出陣の締め括ったのは、入れ違いで戻ってきた少女、
彼を飲み込んだのと同じ魔方陣からの、白虎に跨ったインデックスの登場だった。




上条当麻はインデックスの魔女の技で一気に界の壁を越えて人間界、
学園都市上の虚数学区に到達した。

ベオウルフ『―――小僧、戻ったか』

幾多の激戦による廃墟のただ中に待ち受けていたのは、
『第三』の父たるベオウルフだ。

上条は魔獣に向け頷くと、
前もって打ち合わせていたかのように彼の大きな右腕に飛び乗った。
両者は言葉解さなくとも意志疎通できるため、話し合わせる必要は無いのである。


上条「―――手加減無しで一気にやってくれ!」


魔獣は速やかに上条の望みを叶えた。
一度、全身から上位の大悪魔たる圧倒的な力を放出すると、少年が乗っている右腕に集束させ。

そして彼の身を―――空高く投げ飛ばした。

第二の『天の門』めがけて。



458:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:19:24.45 ID:q5TFD8qDo

上条の前世は高位の天使だ。
ゆえに天の門の構造は当然把握しており、
その状態も『一目』で判断が可能だ。

第一の門はどういうわけは機能を完全に停止していたが、
第二の門は酷く損傷してはいるも、どうやら己程度なら通過できそうだった。

ベオウルフの凄まじい力で打ち出された砲弾となり、
上条は一気に第二の門の回廊を突き抜けていく。

天界の内域に入ってしまえばあとはこっちのもの。
内部の地勢ももちろん覚えているため、
テンパランチアの宮まで最短で乗り込むことが出来るはずだ。

回廊の中を打ちあがっていく上条当麻。
興味深いことに、その間一度も妨害を受けることが無かった。

機能していながらも、今は何らかの理由で通行禁止となっているのか、
それとも―――出口でこちらを待ち受けているのだろうか。

そんな事態に備えて、上条は左手の拳銃を今一度意識し、
ベオウルフから受け継いだ力も再点検し一層研ぎ澄ませてゆく。

だが幸いなことに、その『罠』に飛び込むような事態にはならなかった。

第二の門の出口に到達した瞬間、
大勢の天の者達が現れたが―――彼らに受けたのは歓迎だった。



459:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:22:33.35 ID:q5TFD8qDo

上条「―――!」

古代日本のものに似たその装束からすると、どうやら天津族の者達か。
みなこちらの姿を一目見るや、剣や槍を空に突き立てて歓声を上げている。

『凱旋』したような気分だ。
上条は頭の端で、むず痒い戸惑いと共にそう感じた。
このような視線と声に晒されるのは苦手であり、
また性格上、無下にしてしまうのも後ろめたさを覚えてしまう。


しかしこの時、『喜ばしいこと』に、
歓声に丁寧に応えていくような暇は当然なかった。

上条「―――悪い!!またあとで!!」

広大な空を跳躍して、近くの『浮遊城塞』の一つに降り立つと、
上条はすぐに足元に移動用の光陣を出現させた。

と、その光の中に消える際、
ここを取り仕切る将らしき者が何かを伝えようと叫びかけていたが、
すでに時遅し、その言霊を聞き取ることはできなかった。



そうして到達したテンパランチアの宮は、不気味なほどに静まり返っていた。
警衛の天使すらもおらず、一切の気配が無い果てしなく巨大な列柱廊。

潜入を試みるのならば、これは好都合だったであろうか。
しかし今の上条当麻にとっては、どうしようもなく凶兆でしかなかった。
最悪の結果を示す、ただただ残酷な印でしか。



460:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:25:52.37 ID:q5TFD8qDo

上条はこみ上げる絶望感に抗いながら、
長い長い回廊を疾駆した。

周囲は静か、静か過ぎるくらいだ。
響くのは自身の足が石畳を打つ音だけ。

延々と続く先からも、『戦いの音』なんかは一切聞えてこなかった。

この先にいるはずの、
ガブリエルやラファエル達兄弟の『生』の音も。


上条「―――っはっ!」

焦燥と絶望の中、脳裏を過ぎたのは、
つい先ほど思い出したばかりの鮮明な情景、
かの出陣の時にラファエルとに交わした最後の会話だった。


己はあの時、初めて他者に自身の人間への認識を告げた。


己と他の者達の間にあった、人間達への認識と理解の違い。
その『危険思想』に返されてくる反応はわかっていた。

天の誰もが―――こよなく人間を愛していた『父上』でさえ、
後に知った時は、あの時のラファエルのように顔を曇らせたはずだろう。



461:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:28:31.70 ID:q5TFD8qDo

しかし上条は確信していた。
いや、『願っていた』と形容するのが相応しいか。

きっと他の天の者達も己に追いついて、己と同じ視点で人間を理解し、
人間達の心の中にしかない唯一の存在を認めるであろうと願ったことだ。


そしてあれから幾万年の月日が経った。
人間界と天界の間には数多の出来事があり、世の在り方は大きく変動してきた。
その変化が齎した結果は、決して上条が期待したものではなかったものの、
それでも今、上条当麻は在りし日の願いが叶っていると信じたかった。


天の全ての者とはいかなくとも、それでも。
古巣の一族達や、人間界に慈しみを抱いていた派閥の者達の、
人間への認識と理解が己に追いついている、と。

知りたかった、聞きたかった。
彼らが今、どういった視点で人間達を見ているのか、
いつか直接聞いて回りたかった。


まずは兄弟達に、そしてその中でも最初に聞くべきなのは―――最初に告げたラファエルだ。


上条「――――――――――――っ…………」


だがこの時、その機会はもう永遠に失われていた。



462:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:31:57.82 ID:q5TFD8qDo

ようやく辿り着いたテンパランチアの玉座の間。
この四元徳の体格に相応しく、『広間』ではなくもはや『広場』呼ぶに相応しい広大で壮麗な空間。

かの巨腕が叩き砕いた跡が生々しく残るその場には、
動いている存在は一つも無かったも、


生存者は一応、一人だけそこにいた。


ただ『彼女』の存在は、
その身が無事だった喜びよりも、ここで繰り広げられた惨劇と、
それによる大いなる悲しみをより引き立たせていた。


上条「―――ガブリエル!!」

『広場』の中央にて、こちらに背を向け、
座り込み、彫像のように佇んでいる彼女へと
喉がはちきれんばかりに叫び、駆け行く上条当麻。


彼女は泣いていた。

柔らかく光る翼を静かに揺らして、
そこでただただ悲しみに打ちひしがれていた。



463:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:33:56.28 ID:q5TFD8qDo

ガブリエルが瓦礫の中から拾い集めたのだろう。
彼女の前には、並べられている『十五』の武器。

剣、槍、斧、その種類や形状はさまざまだが、
どれもこれも―――完全に壊れきっていた。

砕け、ひん曲がり、折れ、潰れて、
もう二度と使えないと一瞬で確信できるくらいに。

そして使い手たちの身を襲った破壊が、
一体どれだけのものだったのかをも明確に示していた。


誰がどれを使っていたかは、
上条は今でもはっきりと覚えている。

インデックスを介して『見た』、ここへ乗り込んだ十五の天使、
その全員分がそこにあった。

もちろん、刃半ばで折れ、柄もひどく捻じ曲がっている―――ラファエルの剣も。


上条「―――あああああああああああああああ!!」


次の瞬間。
ガブリエルの横に立ちすくむ上条の口からは、叫びが噴出した。
静かなガブリエルの分も、というくらいに猛烈に。



464:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:36:21.60 ID:q5TFD8qDo

わかっていた。
この結果はわかっていたとも。
彼らがここに踏み込み、かの存在に戦いを挑んだ時点ですでにその『生』は潰えていたと。

だが頭ではそう理解が出来ても、
心というものはそう簡単に物事を飲み込んではくれない。

上条「―――てめえら―――なんで死んじまうんだよ!!」

膝を地に打ち付けた少年は、
その拳を放るかのように、目の前の武器へと叩きつけた。

上条「戻ってきたっつーのによっ!!すれ違いで逝きやがってよおおおおお!!」

彼らが死んだ理由は、頭ではわかっていた。
インデックスの作業のため、つまり己の復活の時間稼ぎのためだ。

だがどうしても心では飲み込めない。
あんなに躊躇無く行って―――死ぬなんて。
無感情の人形でもないのに、そしてこの世をこよなく愛しているくせに。

なんて『愚か』な者達か、まるで―――


上条「―――なんでそんなに―――『俺みてえ』に馬鹿な……―――」


―――『己』みたいだ。



465:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:40:44.75 ID:q5TFD8qDo

『俺みたい』に。
上条は自らが発したその言葉で、
心の内に大きな波紋を起こされてしまった。

ここに至るまでの彼らの行動は自分そっくり。
インデックスが己を見ているような、まさにそんな感覚だった。


上条「………………馬鹿野郎どもが……ちくしょう……」

上条はもう一度、悪態をつき直した。

そして彼らの永久の安寧を祈り、
己に重なる彼らの姿に想い馳せて―――かつての願いが叶っていたことを、とより強く胸に願った。

己とここまで同じ『馬鹿』なら、きっと、
きっと認識も理解も己に追いついていたのだろう、と。


己と同じような視点で―――人間を愛し、人間だけが持つものの尊さを知っただろう、と。



ガブリエル『………………早く…あなたのご友人が危険です……』

露っぽくも澄み渡る声。
今や悲壮も含まれ、一際儚く美しい言霊
それで告げられたのは、ある同志の少年の危機だった。

ガブリエル『テンパランチア公閣下は、フォルティトゥード公閣下の加勢にお向かいに。
        人界神の「新王」をお討ちになるべく……』


死した友らへと、悲しみに暮れている暇は無かった。
上条当麻は戦わねばならない。

『理由』はラファエル達と同じ。

生きている友らために、愛する全ての者達のために。
そしてその未来のためにだ。

―――



466:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/12(月) 01:41:57.60 ID:q5TFD8qDo

今日はここまでです。
次は水曜に。



467:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2012/03/12(月) 01:48:15.58 ID:pVmS5kmho

乙です



468:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/12(月) 02:10:22.22 ID:s7lviGbV0

乙乙乙!!!

勇気・節制vs上条・一方のタッグマッチか



469:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/12(月) 09:51:44.45 ID:V+uA0jmPo

乙!!

再び禁書の二大ヒーローが並び立つのか!!



470:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/03/12(月) 14:03:41.55 ID:0WLefYi9o


>>469
浜面ェ…



471:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/03/12(月) 14:29:38.20 ID:lpS4M69C0

いいじゃないか浜面はデュマーリ島でがんばったんだから



473:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/13(火) 06:47:57.75 ID:GtWaT5Xl0

なに、浜面ならそのうちVFXパワーを身につけるさ



475:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:20:29.89 ID:oQVrDKK6o

―――

遡ること少し。
ラファエルら十五の天使達が、かの『節制』の宮に乗り込んだ頃。

第一の天門の上では、
四元徳が一柱『勇気』と人界神の『新王』の決戦が繰り広げられていた。


開幕の一撃は『新王』、一方通行による鮮烈にして躊躇の無いものだった。


この『新王』に相対したフォルティトゥードは、
最高位同士の決戦に相応しき言霊を続けようとしたも、
猛烈な憤怒に塗れた少年は、そんな冗長な声など待ちはしなかった。


『勇気』がその逆さの巨顔の口を開きかけたのも束の間。
ぐんっと姿勢を落とし、翼を弓の弦のようにしならせ張る一方通行。

足場である巨大な『蓋』の、黒き表面に片手を打ちつけ、
黄昏色の光を宿す瞳で、天の『勇気』を司る双頭のドラゴンを睨みあげ。

その身を一気に『射出』した。

次の瞬間、その跳躍の衝撃が黒き地盤を歪めるよりも速く。
黒き手による極なる一撃が、フォルティトゥードの眉間に叩き込まれた。


迸る光の爆轟、地盤が震え、歪む空間。

そして巨顔の眉間に走る―――亀裂。


仰々しく言霊を紡ごうとした逆さの口から漏れたのは、
海の底から響いてくるようなうめき声だった。



476:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:23:23.88 ID:oQVrDKK6o

巨顔に『降り立って』一方通行は、
改めてこの『勇気』の大きさに圧倒された。

巨顔の幅は10m以上、目尻から目頭までの間は人がすっぽり入るほど、
双頭の牙も人ひとり分の大きさ、雁首部も太さ3mはあるだろうか。

更にそんな物理的な大きさに相応しい、尋常ではない力の量。

一方『―――ッ』

石のごとき外皮に突き刺さっている黒き腕、
そこに生じた血を湧き出させている亀裂。

その奥、腕の先に覚える熱圧に、一方通行は思わず顔を歪ませてしまった。

直に触れることでより強く感じる、このフォルティトゥードの果てしない力、
そして―――その糧と成る人間達の魂。

彼らの声がよりはっきりと聞える。
その悲痛な叫びが、耳にさらに深く突き刺さってくる。

この『勇気』の中で彼らは渦を巻き、貪られ、
その力へと変じ、消費されていくのだ。

弾倉に押し込められ、次々と放たれていく弾丸のように。

その事実が一方通行の形相をより変じさせていく。

ひたすらにただ人間としての―――憤怒を覚えて。



477:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:26:09.80 ID:oQVrDKK6o

そんな少年の怒りを悟ったのだろう。

フォルティトゥードは巨大な口を震わせて笑い声を発した。
眉間への強烈な一撃に呻きながらも、滑稽さと嘲りを含んだ声を。

そして頭上の双頭は、対照的に殺意に満ちた咆哮を上げ、
片方が一気に一方通行へと襲い掛かった。


牙を向いて彼の上に覆いかぶさるように向かってくる、
自動車を丸呑みできるほどの顎。

即座に察知しては腕を引き抜き、巨願の額から跳ね飛ぶ一方通行。
一瞬の差だった。
少年の身と入れ違いに顎は巨顔に激突、
獲物を逃すばかりか、自らの額に牙立てる結果となってしまった。


だがフォルティトゥードは、それも想定済みだとばかりに一切怯まず、
すぐに次の手へと転じた。
前フリ抜きの一方通行による開戦に、
『勇気』の側ももう一拍の余地も与えないつもりになっていたのだ。


一方『―――』


斜め上方に飛びあがった一方通行、瞬間彼の瞳に映ったのは、
もう一方の双頭から放たれた―――『火流』だった。



478:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:28:57.59 ID:oQVrDKK6o

凄まじい速度で迫ってくる業火の濁流。
これを目にしたのは二度目だ。

つい少し前に同じ場所で、初めて遭遇した瞬間にこの『勇気』が放ってきたのだ。

ただし何もかもが同じではない。
その時とは上下の位置が逆であったし、
何よりももう一つ、一方通行の側に違う点があった。
今の彼は酷く消耗してはいない、ほぼ全快している近い点である。

先のようにただ耐え忍ぶ必要は無い。
今や回避も可能であり、そして―――そのまま攻勢に転じる余裕だってある。

一方『―――カッ』

短く息を切って力を躍動させ、先と同じように翼を張り。
そして身を射出、一方通行は一気に滑降した。

それもこの『火流』目掛けてすれ違い、業火に触れるか触れないかという線を。

その光景は炎の坂を滑り降りているようにも見えたか。
もっともそうと認識できるほどの存在はそういないであろうが。


すれ違う互いの圧で削り取られた力片たちが、火の粉の渦となって散っていく。

そうして一気に滑降した一方通行は、今度は爪先に力を集束させ、
火流射出もとの直下、あの巨願の眉間へと再び『突貫』。

一方『―――ッアァァッ!!』

先ほど穿ったあの亀裂へと、渾身の飛び蹴りを重ね叩き込んだ。



479:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:31:35.09 ID:oQVrDKK6o

再び噴き荒れる二度目の光の爆轟。
一方通行の蹴りは見事、一撃目が穿った亀裂に直撃し、
更にその傷を巨大化させた。

そしてフォルティトゥードの中に叩き込まれた集束した力が、その魂に破壊を刻んでいく。

一方『―――チッ!』

しかし。

明らかに決定力に欠けていた。

ここまでの二撃で判明したのは、このフォルティトゥードの頑強さだ。
この図体の見た目の印象通り、勇気はとんでもなく硬くタフだ。

肉体損傷度は0.1%にも満たないか、
魂の損傷具合もそこまで小さくは無いものの、これではとても埒が明かない。

より効果的な攻撃方法を見出さなければ、
もしくは単純に攻撃力を増強しなければ、勝利を引き寄せるのは困難である。

ただし単純に攻撃力を増強するのは、
他の要素と引き換えにするという博打的戦法になってしまうため、
まず一方通行の思考が向こうとしたのは効果的な攻撃方法の模索であった―――のだが。

集中して思考するなど、この『勇気』が中々許してくれなかった。



480:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:33:57.82 ID:oQVrDKK6o

滑降による飛び蹴り。
その衝撃でフォルティトゥードの巨体が大きく後方に傾き、
転げ倒れる―――と思いきや。

『勇気』は即座に体勢を掌握し、そのまま身を回して―――翼を薙ぎ振るってきた。

巨躯に似合わぬ猛烈な速度で、
20m以上はあろうかという片翼が空間を切り裂いていく。

一方『―――ッ』

速やかな反撃に、一方通行は紙一重のところで身を下降させた。

フォルティトゥードの翼は少年の幾本かの髪先を切り裂き、
逃げ遅れた黒き翼の一本を中ほどからへし折って、彼の上方を突き抜けていく。

回避は成功、だがこれで一拍置けるかというとそうではない。
次いで間髪入れぬ二撃目が彼を襲ったのだ。

下降し黒き地盤に乱暴に着地した一方通行、その目に次に映るは、
回転する『勇気』から伸びてくる―――太さ5m以上はあろうかという長大な尾。


その尾に集束している力―――圧倒的な威力は、一目にして判断できるものだった。


もらってしまったら、一撃で致命傷になってもおかしくない―――

回避に転じる猶予は無かった。
半端に動いて、間に合わずに備えのない体勢で受けてしまうよりも、
一方通行はその場での防御に即断した。



481:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:35:39.46 ID:oQVrDKK6o

腰を落としつつ両腕に力を集中、
その腕を頭の前で交差させては突き出し。

そうして一方通行は、強大な一撃を受け止めた。

一方『―――ぐッッ!!』

それは金属の塊同士の激突に似ていたか。

尾を覆っている装具と最硬度の黒腕の衝突、
そこからは莫大な量の火花が飛び散り、
そして響くはいかにも金属的な激音。

衝撃で一方通行の身が後方に押し込められ、
彼の足裏が黒き地盤と擦れたことで、その騒々しいしらべはさらに尾を引いていった。


耳鳴りに似た残響と鈍痛が身を軋ませる中、一方通行は痛感していた。

意識を思索に裂く余裕は無い、と。

全身全霊をもってこのフォルティトゥードの動きに集中させねば、
あの攻撃を捌ききれないのは明白だ。

つまりここでの戦い方は、自ずと一方に絞られることになった。



482:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:37:38.20 ID:oQVrDKK6o

攻撃力を増強しなければならない。
だがこの方法はそう易々と行っていいものではない。

一方通行の攻撃、その出力は現段階でもすでに全力である。
そこから更に増強するとなれば、
今度は他の要素から力を裂かなければならないのだ。

ステータスで形容するとすれば、
『持久力』はもちろん『防御力』などといった面からだ。

それはすなわち、攻撃力を得るのと引き換えに短所・弱点を生み出すことになる、
きわめて危険で不安定な戦い方である。

特に攻撃防御速度の三拍子のバランスが見事な、
このフォルティトゥードのような相手なら尚更だ。

だからこそこの戦い方は『博打』なのである。

一方『(クソッ―――)』

思索に集中さえできれば、より効率的な戦術を見出せただろう。
今でもヒントがそこら中にあるのはわかる。
しかしそれらを精査する余裕は無い。

選択の余地は無かった。



483:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:39:13.64 ID:oQVrDKK6o

一方通行は己が身に意識を集中させ、
許す限りの力を手足の先端に集束させていく。

その身は超攻撃特化型に変貌。

一方『―――ッ』

身を劈くのは、耐久度を上回る力による鋭い痛み。
その強烈な衝撃が騒音を伴って意識を揺さぶり、知覚を鈍らせようとしてくる。

巨大な竜巻に飲まれ、針山の中にその身を叩き込まれるような感覚だ。


しかしこのような事は、一方通行にとっては今に始まったことではない。

程度の差こそあれ、暗部に身を置く能力者は大体経験しているもの、
彼にとってはこうした過負荷の苦痛は昔からの馴染みである。

ゆえに限度というものも正確に把握している。

どのラインから意識が遠くのか、手足が再起不能になるのか、
そして自身の命が危うくなるのかも。
状況が許しさえすればそのラインを越える選択もあったかもしれないが、
今は『残念』なことに―――『生きて』勝たなければならない。

博打的戦い方に挑むとはいえ、
その命を賭けることは許されないのだ。



484:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:41:01.79 ID:oQVrDKK6o

一方通行は『馴染みの作業』を一瞬にして済まし、
超攻撃特化型の状態を構築した。
知覚を全て鋭敏の極に保ちつつ、肘と膝から先の強度は自身最高。

その代償は防御力と持久力であるが、
防御については、この極限にまで力が集束している手足で防げば良い。

最大の問題は持久力だ。
この点についてのカバーはただ一つ、短期決戦しかない。


先の尾の一撃で、いまだに後方に押し退けられている最中、
一方通行は拳を打ち鳴らすと、黒き地盤を強く蹴り。

フォルティトゥードに向け地を這うほどの低姿勢で突貫した。

振り向き直った『勇気』は依然、嘲笑的な呻き笑いを漏らしながら、
今度は双頭の両方の顎を開き。

先ほど以上の業火の濁流を吐き出した。
今度は柱状ではなく、一面一帯を飲み込むべく扇状に。


こればかりは回避できるものではなかった。
一方通行はより背を落とし、前方に手を翳し盾としながらそのまま飛び込んでいく。

拡散されているせいか先までの『火流』より威力は低いも、
それでも強度が下がっている手足以外の部位には強烈なものだった。

業火に炙られ悲鳴を放つ体。
自らの肉が焼ける香で鼻腔を満たす中、少年は一気に灼熱の壁を抜けては、
『勇気』巨躯の直前で斜め上方に踏み切り。

聳える巨大な顔面に、超強化された拳を叩き込んだ。



485:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:42:46.78 ID:oQVrDKK6o

今度こそは圧倒的な手応えがあった。

光の爆轟の中、大きく軋み歪む巨顔。
響くは金属的な破砕音、煌びやかに飛び散る装具の欠片。

そしてそんな幻想的な一幕に混じる、
『勇気』の身から零れ落ちた人間達の『叫び』。


一方『―――』


鈴なりに似た音の中のその悲鳴に、一方通行の心はさらに強く揺さぶられる。


フォルティトゥードにダメージを与えるたびに、
この悲壮な言霊に塗れることを彼は覚悟しなければならなかった。
こみ上げる憤怒に気を乗っ取られぬように。

この強烈な一撃でもフォルティトゥードの身を転げ倒すことはできなかった。
だが与えたダメージは一目瞭然。
割れた装具や外皮の間から鮮血が迸り、そして―――あの笑い声はもう消えていた。


深海から轟くような呻きに混じっていたのは、忌々しげな声だった。


そして繰り出されるは、一際勢いの激しい翼の薙ぎ払い。
だが今度もわずかな差で翼は獲物をとり逃した。

一方通行は間髪入れずに巨顔を駆け上がり跳躍、
その勢いのまま―――双頭の一方の顎を、下から蹴り上げたのだ。



486:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:45:23.46 ID:oQVrDKK6o

仰け反るドラゴンの頭部、今にも千切れそうなほどに張り詰める雁首。
装具の欠片が再び舞い散り、牙も幾本かが折れ、煌きながら吹っ飛んでいく。

だがフォルティトゥードの側もやられてばかりではなかった。

一方『―――』

蹴り上げた直後、一方通行へと襲い掛かかるもう一方の首。
彼は間一髪のところで、黒き翼で脇へ飛び牙を回避したも、
完全に避けることはできなかった。

続く、太さ3m以上はあろう首が彼に激突したのである。


一方『―――ッぐッ!』

今度は一方通行の翼から、砕かれた黒き破片が飛び散っていく。

彼は叩き落とされつつも、
なんとか体勢を立て直し地に強行着陸。
手足と地の影同士の激突で、金属的な激音と共に火花が散っていく。

なんとか身を制動しつつ面をあげる一方通行、次の瞬間彼は見た―――のではなく、
『見えなかった』。

前方にあったはずのフォルティトゥードの巨体が消えていたのだ。
ただ、その状況を理解するに時間を要することは無かった。

上方から『聖なる光』が指してきたのだから。
強烈な圧と共に。

光源たる『勇気』は斜め上方に跳躍していた。
今にも滑降攻撃をしかけるべく。



487:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:46:33.33 ID:oQVrDKK6o

視覚で確認しなくとも、彼は瞬時に場を把握した。

翼を広げ、巨大な鉤爪のある両足をこちらに向け、
一気に急降下してくるフォルティトゥード。

一方通行は見上げもせずに、手でも地を叩き後方に飛びのいた。
まさに紙一重だった。

一瞬前まで彼の身があった空間が、
僅かな差でフォルティトゥードの巨体によって叩き潰されていく。

黒き地盤に食い込む二本の巨足。
天門の蓋を一気に軋ませ、火花散らし、轟くは鼓膜を貫く金属の悲鳴。

だがその声に傾けている間は無かった。
足による踏みつけは回避したも、
一拍遅れで、双頭が回避先の一方通行むけて振り落とされたのだ。


一方『―――カッ!』

回避の猶予は無かった。
がちりと歯をかみ締め、彼は腕をかざしてその場に身を固めた。
次の瞬間、これまで以上の衝撃が両前腕を襲った。



488:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:48:19.93 ID:oQVrDKK6o

一方『―――ッッァアッ!!』

瞬く閃光に散弾となって飛ぶ火花、
そして舞い吹く火の粉。

とんでもない膂力の『二撃』だった。
強化状態の肘から先はびくともしなかったも、
それを支える身が今にも砕けそうに軋んでいく。

身の内から組織が断絶する音が聞え、
吹き上がってくるはあの重傷を追った際特有の苛烈な『熱』。

一方『クソッ―――』

両腕で双頭の顎裂きをがっちりと受け止めた一方通行は、
すかさず負けじと悪態を飛ばし。

一方『―――がァ!!』

足を踏み切り、身を一気に捻って―――ドラゴンの頭の一方を横から蹴り飛ばした。

玉突きのように吹っ飛ぶ双頭たち、
錘のついた紐のようにばちんと張り伸びる雁首、
そしてまたしても飛び散る装具の破片と。

心を打ち震わせる―――毀れた魂達の悲鳴。



489:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:49:57.84 ID:oQVrDKK6o

一方『(―――…………―――)』

何度耳にしても、どれだけ聞いても、この言霊には慣れなかった。
そもそも慣れてはいけないものなのかもしれない。

一方通行はもはや、ここに使命感に似た衝動を覚えていた。

この悲鳴を引き出し、耳を傾けることも己が成すべき仕事の一つではと。
『彼ら』はもう終った物語、してあげられるのは、正式な幕引きを与えることだけ。
ならば一刻も早く、そして全員をそうしてやらなければならないと。


彼らの最期の言霊を残らず聞き。


そして安らかな終幕へと『導いて』やらねば。


一方通行はその場に、さながら地盤を割り砕かんとばかりに足を置いた。


人間を虫のように見る『勇気』へのただ純粋な憤怒と―――
―――無意識のうちに『人間の王』としての責務にかき立てられ、
目的を果すまでは、勇気の前から退かぬという意志をもって。

そうしてフォルティトゥードと向かい合い、
彼は更なる攻防へと身を投じていった。



490:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:52:51.31 ID:oQVrDKK6o

息付く間もなかった。

振るわれる超大な尾の上を飛び越え、逆さの巨顔に拳を叩き込む一方通行。
漆黒の細腕が、巨躯を軋ませ押し退けていき、
石のごとき外皮が砕け散っていく。

『悲鳴』と共に。

しかしその直後、毀れた悲鳴は一瞬にしてかき消されてしまう。
巨大な翼が少年を横から叩き飛ばしたのだ。

一方通行の身は、遥か彼方へと吹っ飛んでいった。


一方『―――かッッはッ!!』


めきりと不快な音が響き、強烈な衝撃が身を揺さぶる。
思わず漏れた息に、赤き飛沫が混ざり飛んでいく。


その苦悶を断ち切るかのように歯を打つと、
彼は宙で身を切り返し―――翼を使い矢の様に飛翔、
フォルティトゥードへ向かって再突貫。

対する『勇気』も体勢をすぐに立て直し、
その漆黒の『砲弾』を正面から向かい撃った。



491:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:54:26.45 ID:oQVrDKK6o

放たれるは火流。
勇気は対空砲火のように、二つのドラゴンの顎から交互に業火を乱れ放つ。

その灼熱の弾幕は、被弾無しで抜けるには到底不可能なほどに苛烈だった。

縫い飛んでいく一方通行、
一翼が被弾し吹き飛び安定を一時的に失うも、すぐに体勢を立て直し、
向かってきた火弾の一つを脇に蹴り弾き、更に空間を切り裂いていく。

強化された手足はまだびくともしなかった。
過負荷による酷い消耗はともかくとして、
外域からの『勇気』の攻撃には見事に持ちこたえていた。

ただそれも時間の問題であることを、
誰よりも一方通行自身わかっていたが。


『まだ大丈夫』だ。


そして『今のうち』に勝負を決めなければならない


常に必殺の一撃を。


一方通行は一際強く、限界近くまで力を集束させ、
フォルティトゥードの鼻先に突撃、渾身の膝蹴りを叩き込んだ。



492:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:57:02.69 ID:oQVrDKK6o

もはや呻きと言うよりは怒号か。
フォルティトゥードの苦痛に喘ぐ声は、おそらくその物理的な大気振動だけで、
人間界の山脈を砕きかねないものだ。

一方通行はその怒号を最高の席、勇気の『鼻の中』で耳にした。

膝のみならず彼の全身が弾丸の様に貫き、
フォルティトゥードの顔の中にまでめり込んだのだ。

そしてこの特等席で聞える声がもう一つ。
いいや、『無数』の声だ。

一方『―――』

渦を巻く大量の死者の言霊。

あまりのざわめき、その衝動に、
一方通行の憤怒は一瞬振り切れてしまう。

怒りに染まった彼は『勇気』の顔の中を、
上へと向けて引き裂いていき口から外に飛び出し。

更に勢いそのまま、雁首の一方を駆け上がり顎に腕を突き立て―――


一方『―――オオオオアァァァァァ!!!』


―――そして一気に引き寄せて―――力と怒り任せに『背負い投げた』。



493:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 01:59:01.72 ID:oQVrDKK6o

それは遠くから見ると、少し奇妙な光景だったであろう。
一方通行の身が小さすぎて、
フォルティトゥードが透明な相手に投げ飛ばされたようにも見えたはずだ。


巨躯が一瞬にして浮き上がり、加速しながら一方通行の上方を突き抜けていき。
そして彼の前方の地盤に叩きつけられた。

文字通りの地響きが轟いた。
猛烈な衝撃を全身に受け、軋み歪む巨躯。
漏れる声には一際濃く苦悶の色が滲む。

だが一方通行の怒りはそれだけでは収まらなかった

叩き落したのも束の間、
少年は、巨大な顎に手を刺したまま地に降り立ち、
全ての翼を展開してフォルティトゥードの身を押さえつけて。


一方『―――ッ―――ッオオオオオオオ!!』


そして腕に『限界のライン』を越えた力を集束させ――――――双頭の片方を引き千切った。


次に響いたのは、ドラゴンの悲痛な咆哮だった。

放り投げられ蛇のようにのた打ち回る首、
そこから雨のように飛び散っていく鮮血。

そして本体の口から迸る怒号―――



494:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 02:00:54.62 ID:oQVrDKK6o

一方『カカッ―――!』

無様な勇気の姿を身、
普段通りの『邪悪な笑み』を零す一方通行。

心なしか、今のであふれ出た魂達の言霊にも少し『喜び』が滲んでいたようにも感じた。
おそらくただの気のせいであろう。
彼らは終った『物語』、今更何かの感情を抱くことなんてないはず。


憤怒に身を任せ、発散させた快楽で少し麻痺しかかっているのだろう。
現に今の一連の行動で、一方通行自身が大きな過負荷に蝕まれていた。

一瞬怒りに耐えかねて、力の限界のラインを超えてしまったのだ。

手の肉にもそこに宿る力にも、
今や一方通行は酷い痺れを覚えていた。


しかし手を休める理由にはならない。

むしろ徹底的に追い込めば、
このまま一気に勝負を決することができるかもしれない―――


―――そう、すぐさま次の手を放とうとした矢先だった。



495:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 02:04:26.93 ID:oQVrDKK6o

一方通行は聞き、そして見てしまう。

まず聞えたのは更に増える『声』。
『勇気』の身の内に囚われている魂の言霊が、急激に数を増したのだ。

次いで見えるのは、『補充』されていくその力。

それらが示す事実は明確だった。

フォルティトゥード自身の強化容量は上限に達していたも、
貯蔵している『燃料』はまだ残っていたということだ。


一方『―――なッ』


首をもぎ取った。
こちらの身を蝕むのを引き換えにとんでもないダメージを与えた。
フォルティトゥードを酷く損傷させた。

それが無意味だったとは言わない。

しかし今、一方通行の目の前で。
彼が穿った穴がみるみる埋められていた。
どこかに貯蔵している人間達の魂をどんどん流し込んで。


束の間の隙を見逃さず、翼羽ばたかせて飛び上がるフォルティトゥード。

片首を失ったその姿を見上げながら、
一方通行は更なる怒りで打ち震えると同時に。
突然『終わり』が見えなくなった戦いに、強烈な焦燥を覚えつつあった。


この場に集う声達が、いっそう悲壮な色を強めて渦を巻いていく。
終幕という名の救いへと、『誘導』しなければならない魂達が。



496:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/15(木) 02:05:09.68 ID:oQVrDKK6o

ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は土曜に。



498:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/03/15(木) 17:52:51.99 ID:963HoWGEo

乙乙。
改めてフォルティトゥード見ると超デケェのな。強化状態だから更に・・・?
経験が足りない神方通行さんは強化勇気に苦戦。となると維持アスタロトと超強化&復活勇気で対等くらいか。ブーストパネェ。



499:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/16(金) 02:15:54.07 ID:VE3V3OAL0

>>498
対等でも戦ったら途中で強化勇気が息切れしそう。
維持アスタロトは痛みを我慢できればノーダメージっぽいけど、強化勇気は制限あるし。
しかも強化状態だと完全に殺されたら復活できないんだっけ。



500:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北):2012/03/16(金) 02:29:50.83 ID:WXKyEd8AO

マゾ大公を泣かして維持切らせるにはベヨ級の拷問じゃないと無理そう
最初は互角でもそのうち勇気がガス欠してマゾ大公の圧勝だろう



501:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/03/16(金) 02:37:02.01 ID:HsipD7pNo

やっぱジュベの力の一片でも持ってるとかなり優勢だな



502:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/03/18(日) 00:15:42.77 ID:j924+hhKo

まぁ実際戦うとなると維持でチートだけど、力の格的にはどっこいまで行きそうだ。
そういや悪魔サイドも、トリグラフみたく配下悪魔をドレインしてブーストできるのかな。それとも血袋が限界か。



505:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:34:17.10 ID:Y70RMztfo

一方通行が思い描いていた勝利条件、それが根底から瓦解した。


明らかになる、
己の立ち位置が想像以上に劣勢だったという点。

想定外の問題が湧き出てくるということ自体には、一方通行は特に驚きを感じなかった。
初めての強敵との戦いとは大概そういうもの、
かなりの率で未知の要素が絡んでくることは覚悟していた。

だがその内容が、
それまでの大前提を叩き壊すほどのものとなれば、
覚悟していたとしても心折れかねないものだ。


一方『―――ックソッッタレがッ!!』


こういうことならば、もう短期決戦を狙うのは厳しい。
このペース・この戦い方では勇気よりも己が先に消耗してしまうのが明らかだ。
別の打開策を早く打ち出さねばならない。


しかし思考はむなしく空回り、焦燥感と抑え難い憤怒がより強まるだけ。

もはやまともな思考を行える状態ではなかった。
打開策を模索する以前の問題だ。

こめかみを破城槌で突かれたかのような衝撃と、
よりざわめく死者の悲鳴によって乱されたその心を、
まず鎮めるところから始めなければならない。

だが当然、そんな余裕などこの戦いには無かった。



506:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:36:02.96 ID:Y70RMztfo

形勢は一気に逆転した。
いや、単に一方通行が優勢だと思い込んでいただけであって、
実は何一つ変わっていなかったかもしれないか。


フォルティトゥードは待ってはくれなかった。

飛びあがったのも束の間、一気に急降下してくる勇気。
集中が乱された一方通行は回避に精一杯だった。

二足の鉤爪に今や一つとなったドラゴンの顎は、獲物を取り逃して地に激突した。
一方通行は踏み潰される瞬間、前に飛び込むようにして足の隙間を抜け、
勇気の後方になんとか抜けていたのだ。

だがもはや彼は後手後手、
最悪の事態に集中が薄れ、守勢にまわってしまっていた。

一方『―――』

気付いたときにはもう遅かった。

フォルティトゥードは降り立ったのとほぼ同時に、
彼の行動を予期していたかのようにその場で振り向き―――翼で薙ぎ払いをしかけてきていたのだ。

大型旅客機のような翼が、
火花と激音を散らして黒き地盤を削り行き―――そして受身が間に合わなかった少年に襲い掛かった。



507:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:38:12.26 ID:Y70RMztfo

一方『―――ッァァァッ!!』

タンカーの舳先に轢かれる、そんな比喩が相応しい。
全身まるごと強く打ち付けられ、吹っ飛ばされてしまう一方通行。

すぐに翼と手足で制動したも、300mほども地と擦れて筋を穿ってしまう。

しかも止まりきらぬ前に、そして彼が今の一撃に喘ぐことすらも許さずに、
次の一手が容赦なく襲い掛かった。

前向く一方通行、その前方の視界を覆っていたのは、
僅か50m前に迫っていたフォルティトゥードだ。

その巨体に不釣合いなほどの爆発的な加速と踏み込みで、
吹っ飛んだこちらを間髪いれずに追いかけてきていたのだ。


勇気はその勢いのまま地に腰つけ―――滑り込んでの体当たりを敢行してきた。

まさしく超巨大ブルドーザーのよう。
地とその巨体の隙間に飲み込まれればどうなってしまうことか。

横に回避する猶予はもう無かった。

咄嗟の判断で一方通行は『前』、勇気目掛けて踏み出し―――その巨顔の額部分を蹴り込み、
その反動を利用して飛び退き。

そのまま更に後方へ―――距離を開けようとしたが、そこにも勇気による一手が立ち塞がった。


飛びかけた直後の一方通行に、待ち構えていたかのように振り下ろされるドラゴンの顎。

一方『―――ッカッ!!』

回避できないとなれば、攻勢に転じて防御とする。
今の額への一蹴りと同じく、一方通行はこの顎に対しても拳で迎え撃った。

自動車を丸呑みにできるほどの顎、その先と激突する黒き腕。
煌く装具がひび割れ、またもや魂達の悲鳴とともに飛び散っていく。


一方『―――!?』


そしてそれらとともに―――腕からも、黒き破片が散っていった。



508:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:40:02.88 ID:Y70RMztfo

ひび割れは僅かだった。
小石程度の粒が数個飛んだだけ。

だが『ひび割れた』、それ自体が一方通行にとっては衝撃だった。

この光景が示す事実に、思考する必要は無かった。
見たとおりそのまま―――腕の硬度が低下してきているということ。

勇気に唯一勝っていた点である瞬間的な出力すらも、
今や互角近くにまで低下しつつあるということだ。

無理を押し通しての手足の強化、それによる消耗は想定していたとはいえ、やはりきわめて早かった。
しかも、今度はこちらの番だとばかりに畳み掛けてきた勇気、
その猛攻が消耗をより加速させている。


そんな更なる状況悪化の兆しに一方通行が衝撃を受けた瞬間にも、
フォルティトゥードは親切に待ってはくれない。


彼の腕が受け止める顎から、即座に火流が放出されたのだ。


一方『―――ぐッッッあァ!』

一方通行には今度こそ、攻勢に転じて防ぐ術さえもなかった。
至近距離から放たれた業火に呑まれ、
そのまま直下の地に叩き落されてしまった。



509:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:43:09.72 ID:Y70RMztfo

まともに着地すら出来なかった。

纏わり付く『ゲル状』の炎とともに、彼は肩から黒き地盤に激突、
全身を強く打ち付けて更なるダメージを負ってしまう。

しかも起き上がる暇すら与えられない。
地に激突した直後、彼の無防備な身を横から叩き飛ばす超大な尾。

そうして弾き飛んだ先にて彼は、
ここまで浴びた一連の衝撃と、それによる痛みをようやく『味わう』ことができた。


一方『―――ッァァァァァ!!ガッ……ぐァ……!!』


先の首をもぎ取った流れの仕返しか、猛烈な追い込みだ。
勇気には『遊ぶつもり』は一欠けらも無い。

早急にこちらを殺す気なのだ。

殺意のみが宿った傷が、そんな相手の意図を明確に示していた。

全身が痺れながらも感覚は明確で、
この焼かれ溶かされる悪夢のような刺激をしっかりと堪能させてくれる。

手を付き起き上がるも、どろりと口から毀れいでる熱き体液、
そしてまた一つ、ぴしりとひびが入る黒き腕―――『時間切れ』が迫っていることを示す兆し。



510:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:45:01.72 ID:Y70RMztfo

一方『―――ッ……!』

戦わなければならない。

こうして受身に甘んじていてはならない。
こちらも攻勢に出て、この勇気を追い込まねばならないのだ。

可能だ、今からでもフォルティトゥードに対して攻勢に立つことは可能だ。
瞬間的な攻撃力はこちらの方が『今のところ』は上なのだから。


だが―――その先は?


そのままでは末路は明白、こちらが先に消耗してしまい―――敗北を喫する、ただそれだけだ。

ではどうする、体勢を持ち直すため一度退くか。

否、それは許されない。
何があっても、この勇気をインデックスの方へと向かわせるわけにはいかない、
ここで釘付けにしなければならない。

では考える必要も無い策、
その命と引き換えに、爆発的に出力を上げて一気に叩き潰すか。

否、これも許されない。

己が滅んでしまうと、防壁たる虚数学区も消え去り、学園都市―――そして人間界が丸裸になってしまう。

滝壺によるテメンニグルの塔の隔離にも、虚数学区の一部が引き伸ばされて使われているため、
己の消失は、多数の大悪魔たちをも学園都市に招き入れてしまうことを意味する。



511:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:47:32.34 ID:Y70RMztfo

この場で新たな打開策はもちろん、一つの選択肢も見出せなかった。

代わりに鮮明になっていくのは、
死亡願望ではなく『生存願望による闘争』、それがどれだけ過酷で困難かということ。


そして『生きるための戦い』の中で、より痛烈に突きつけられる―――己の『弱さ』だった。


死者達の叫びが、そんな己を責め立てるようにさらに耳に集まってくる。

少年は自ら思った。
戦闘能力ではない、それを使う『人格』の問題だ。
ここまで強大な力を手に入れていても、一方通行という人物はどうしようもなく弱い、と。

もはやまともに打開策を模索することなんてできなかった。
一方通行にはただただ、この自らの不甲斐なさに苛まれるしか。



羽ばたき飛んでは、再び滑降してくるフォルティトゥード。
その踏み付けをなんとか脇に転がり回避し、次ぐ尾の薙ぎ払いに間一髪のところで受身を取る。

超大な尾の重みを受け止める黒き腕、そこからまたしても散る―――破片。
時間と手数のたびに少しづつ脆く砕けていく力。

そう、脆かった。


一方『―――ぐッ!』


力は強くとも、それを扱う者が弱ければこのザマだった。



512:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:49:40.42 ID:Y70RMztfo

弱い。
どうしてこうも己は弱いのか。

経験や力以前の問題だ。
決定的に要たるが人格弱く、存在性そのものに負け犬の印が刻まれている。


死者の悲鳴、フォルティトゥードの強さとこの劣勢に心が乱され。
どうしても悲観的に傾き、意志が挫きかけてしまう。

以前の己ならば、最期には完全に気圧されて戦意喪失するか、
全てを投げうって自暴自棄になってしまっていたか。

そこに至らぬだけ、自覚があるだけ進歩したのかもしれないが、
まだ決定的に『何か』が足らないのだ。


一方『―――チクショウがッ!!』

尾を弾きあげながら、一方通行は自らに悪態を叩き付けた。
勇気にもひけを取らぬ膂力はいまだ健在、だがこれもいつまでもつか。

しかし打開策は何も見つからない。
爆発一歩手前にまで感情が滾り、焦燥感で心臓が潰れてしまいそうになるだけ。
死者達の悲鳴で、その重さで、精神が砕けてしまいそうになるだけ。

そして具体的な案が見出せない意識は、
いつしか縋るように―――『逃避』するかのように、ある人物達の姿を思い描く。



513:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:52:11.40 ID:Y70RMztfo

それは彼がこよなく心酔し憧れる、夢にまで見た本物の英雄達。

どんな苦境でも絶対に諦めず、自暴自棄にもならずに、
揺ぎ無い芯でとことん邁進し続ける『大馬鹿者』―――上条当麻。


そして心身力全てが絶対的な、まるで映画の中から飛び出してきたかのようなヒーロー、ダンテ。


どうすれば―――彼らのようになれるのだろうか。


困窮の果てに、少年は漠然とそう考えてしまう。

具体的な戦い方や勝利のコツが知りたいのではなく、
『勝者の立ち位置』への付き方が知りたいのだ。

己はそんな身分じゃないと格好つけたりも、罪びとだと卑下もしない。
もう昔とは違う、今の一方通行は純朴な幼い少年のように想いを馳せた。


―――彼らと『同じ』―――正真正銘の本物のヒーローになりたい、と。


己の生存願望を認め、素直に受け入れた。

『生きる』、ということを初めて理解し、受け入れた。
だがそれだけじゃ足らない、決定的に何かが足らないのだ。
彼らと己の残る違いは一体何なのだろうか。

しかし問いかけても無駄だった。
自問しても、自らから答えが返って来るわけも無いし、
そもそもこれは、誰かに聞いて教わるものではない。


―――自ら気付かなければならないこと。



514:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:54:34.91 ID:Y70RMztfo

一方『―――オオオオオオ!!』


我武者羅に戦うしかない、彼は自らにそう鞭打った。
答えを考えることは無駄、もう眼前の戦闘に全身全霊で集中するしかない。

余計に思考を残していれば、この死者達の悲鳴に押し負け、
憤怒に乗っ取られてしまうだけだ。

この劣勢を覆す策も見つからず、選択肢も見出せないのならば、
あのヒーロー達のように諦めないこと、戦い続けること、それだけをただ模倣するしかない。

例え末路がわかっていても。

今の『何か』が欠けたままでは、
『本物のヒーロー』にはなれないとわかっていても。


少年は怒号を放っては、巨大な尾に腕を突き刺し。
一気に持ち上げて振い―――勇気の巨体を地に叩き付けた。

だがそのまま引き千切るまでにはいかなかった。
即座に勇気の翼で、全身を強く叩き潰されたからだ。

一方『―――がッ―――!』

意識が明滅し、鈍くなってくる思考。
死者の叫びが耳鳴りのように、身の内に響いてくる。
奮い立たせようとしているのか、それとも死の世界へ誘おうとしているのか。

『眠り』に導く子守唄のようでもあれば、励ましの声にも聞えるその合唱に、
フォルティトゥードによる衝撃が戦鼓のように轟き混じった。



515:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:56:34.88 ID:Y70RMztfo

翼の一撃に続き、尾が彼の上に叩き落された。
黒き地盤と尾の間、うめき声すら漏らせないその中で少年は、
またもや身の内から組織が砕ける音を聞いた。

今や、肉体の損壊が直接的に命に関わることは無い。
しかしその逆は当たり前に起こること。

最高出力状態における肉体の崩壊は、
力が実体の保護に及ばなくなってきている証拠。
間接的に魂の損傷度合いを示していることになる。


一方通行がこの時聞いた音は、文字通り―――近づく『死』の足音だった。


聞える無数の死者の声、己もそんな彼らの仲間になりかけているという兆し。


そう認識した少年は戦慄した。


もう無駄だとして閉じていた思考が、
勝手にまた再稼動してしまう。

『生きたい』と願ってから初めてわかる―――目前に迫った『死』への『真の恐怖』に。

『生きること』を受け入れた上で初めて理解できる、本物の『死の重さ』。



516:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:58:10.34 ID:Y70RMztfo

己は今まで、『これ』を無数の人間達に軽々しく与え続けてきていたなんて。

『これ』と常に肩並べながら、上条当麻やダンテはあんな風に戦い続けてきたのか。



そして今聞えるこの声達もみな―――『これ』を体験してきた成れの果てだというのか。



一方『―――ぐッがァァァァァアアアアアア!!』


魂たちを、こんな『死』を経ても尚苦しめるフォルティトゥード。
そして大勢に死を与え、快楽に浸ってきた己。
更に燃え盛る憤怒に、加わる途方も無い死の恐怖。

一方通行は勇気の尾を拳で叩きあげ、この抑えがたい衝動を放った。

もう意識は真っ白、いや、灼熱の赤に染まってしまっていた。


この戦いが、この勇気が憎くて、そしてとにかく―――怖くてたまらなかった。


死ぬわけにはいかない、死にたくない。
脳裏に蘇るのはこれまで目にしてきた人間世界、これまでは蔑んで恨んできたその光景達が、
今や懐かしくてたまらない。

こんな自分を認めてくれて、同志としてくれた者達が恋しくてたまらなかった。
黄泉川、芳川、土御門、結標、海原や。


本物のヒーロー、上条、ネロ、ダンテ。


そしてもっとも大切な家族―――打ち止めと。


この心に刻み込まれた一輪の花――――――麦野沈利。



517:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 17:59:36.48 ID:Y70RMztfo

一方『―――ッァ!!』

自信に溢れた、あの狡猾そうな薄笑み。
だがいつかの酒の席でふと見せた―――弱さを湛えた儚げな顔。

彼女のその顔が目に焼きついている。
今でも鮮明に残っている。

だが記憶だけじゃだめだ。
それだけじゃ気が済まない。

もう一度見たかった。


もう一度彼女に―――会いたい。


だが彼女は『死んだ』。
そう、この恐怖の源たる『これ』が彼女を連れ去ってしまった。


―――己は遺されたのだ。


こうして一方通行はようやく、極なる戦いの真っ只中にて完全に『受け入れた』。


『死ぬ』、ということを。


死者たちの声の中、己の死の淵にて、
ある女性の死にようやく心の底から打ちひしがれることで、その本当の意味を知り。

これこそが彼に足りなかった『何か』であった。
生きることと死ぬこと、その両方を受け入れたことにより、
彼は『あらゆる条件』を満たすことになる。



次の瞬間、一方通行の『見る世界』は変わり――――――――――――彼は本物の『英雄』になる。



一方『―――』


今や彼の瞳には、はっきりと死者たちの魂が『見えていた』。
声を聞いてその存在を認めるのではない、

勇気の体内で蠢く『魂そのもの』を『一つ一つ』―――正確に認識できるようになっていた。



518:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:01:10.39 ID:Y70RMztfo

生と死の両方を理解したことによるその認識昇華は、
偶然ではなく必然だった。

アレイスターがそう設定しておいたのだから。

かの魔術師は人間界の力場、すなわち人間の魂が還りゆく領域を統べる存在として、
この一方通行の『器』を育て上げた。

彼の力のベースになぜ、アレイスターはハデスを設定したか。
その理由はかの存在が俗になんと形容されるかが、実に正確に現している。

一般的な俗説の中にも時には真実が隠れ潜んでいるものだ。


ハデス、その通称は『冥府の王』、もしくは――――――『死者の王』である。


アレイスターの目論み通り、その力はこの通称に相応しい形へとついに昇華したわけである。
だがただ一つ、彼の唯一にして最大のミスがあった。

この消去するはずだった未熟な人格が、『王』たる基準を満たしたことだ。


一方『―――』

尾を叩き上げた拳、その表面に纏わり付く、勇気の身から毀れ落ちた人間達の魂。
それらの『触感』に、一方通行は馴染みのある感覚を覚えた。


死者の王たる権限によって―――その『流れの向き』を操作できたのだ。


すなわち、これまでの―――『ベクトル操作』と同じ要領で。


一気に空が晴れ渡るような感覚だった。
嘆きの果てに一縷の希望を取り戻した少年の思考は、すぐにこの状況を把握、
そして唯一にして最高の打開策を見出した。

直に触れさえすれば―――フォルティトゥードの体内で渦巻く無数の魂の塊、
それと己のAIMをリンクさえ出来れば。



その莫大な力を――――――『支配下』に置ける、と。



519:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:02:22.57 ID:Y70RMztfo

消耗限界はすでに目前、傷もあまりにも酷く、
いつ動けなくなってしまってもおかしくはない。

一方通行はすぐに動いた。

触れさえすればいいのだ。
もう一度この腕を巨顔に叩き込み、外皮を割り、その下の魂達に触れさえすれば。

一方『―――ハァァァァァァ!!』

そう前に踏み出し、勇気にへと猛然と飛びかかった少年。

だが相手が相手、望み通り事が運ぶわけがなかった。
その拳を叩き込む前、巨顔の額に5mのところまで差し掛かったとき―――少年の身は、
上方からのドラゴンの顎で叩き落された。


一方『―――ッぐ!!』

幸いなんとか受身はできた。
足で地に着き、振り下ろされた顎を腕で支える一方通行。

かざす黒腕からは、ガラスのような破砕音と共に一際大きな破片が落下、
それが示しているのは―――時間が無いことだ。

しかももう全く余裕が無い。
『秒読み』段階だった。



520:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:04:31.09 ID:Y70RMztfo

もうある程度のダメージは覚悟の上で畳み掛けねばならない。

一方『らァァァ!!』

一方通行は瞬時に顎を弾きあげ、
今度こそ拳を叩き込もうと前に踏み出した。


しかし―――ここに来てだった。
ここに来てフォルティトゥードは突然戦い方を変えた。


一方『―――!?』

一方通行の体当たりとも呼べる一撃はむなしく空を切っただけだった。
勇気は直前に上方へと飛びあがったのだ。
しかもこれまで通りならすぐに滑降攻撃を仕掛けてきたはずなのに、
この時は上へ上へと、距離置くように飛びあがっていく。

なぜ―――何が目的なのか。

こちらの目的を悟ったのか?その危険性を敏感に検知したのか?
それともこちらの消耗限界が目前であることを知って?そのための時間稼ぎか?

脳裏に様々な憶測が湧き上がるも、
それらを検分している暇など無い。

一方通行も翼をしならせ瞬時に飛翔、勇気を猛然と追った。



521:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:05:52.94 ID:Y70RMztfo

そんなこちらを認め、すかさず上方から火流の弾幕を張る勇気。
距離を置こうとしているのは明らかだった。

一方『おおおおおォォォォォォォォ!!』

もうなりふり構ってはいられない。
一方通行は被弾するのも省みず、無我夢中で業火の滝を昇って行く。
だが勇気もまた猛烈な速度で飛翔を続け、この弾幕もせいもあって中々距離が縮まなかった。

一方『クソッタレがァ!!』

埒が明かないと、
一方通行は翼を振るい―――その先端を砲弾のように撃ち放つ。

放ったのは4発―――猛烈な勢いで飛翔し、弾幕を抜け、うち2発が勇気の巨顔に命中。

しかしやはり無駄だった。

この状況で、穿った傷穴に命中させることはもとより困難、
固い外皮に当たった2発は僅かなヒビを刻んだだけ。

かの存在の力を貫くには、やはりこの強化した手足による一撃でなければ。


一方『―――クソッ!!待ちやがれッ!!』


だがそんな彼の事情を嘲笑うかのように距離は縮まなかった。
減少するのは残り時間だけ、逆に増大していくのはダメージだ。


一方『―――逃げンじゃねェ!!それでも天のアタマかクソッタレ!!腰抜けがァァァァ!!』


一方通行は叫んだ。
挑発し、罵り、戦意を誘う言霊を腹の底から放った。
だが勇気は一切反応しない―――



522:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:07:06.82 ID:Y70RMztfo

そうだ。
最初から徹底してそうだった。

あの存在は、『人の声』など虫の鳴き声のようにしか認識しない。
どれだけ意志を乗せようが、四元徳は耳を傾けようとはしない。

最後の最後までこのフォルティトゥードという存在は、人間の全てを軽視し続けた。


一方『―――来ィよ!!来やがれってンだよクソがァァァァァァァァァ―――!!!!』


打開策、それも決定的な策が見出せたというのに、
ここで潰えるわけにはいかない。


絶対に勝たねば、そして生きて還らなければならないのだ。


手足から、ぱきり、ぱきりと大きな力の破片が落ちていく。
六本ある翼もじわじわと砕け、残るはもう3本。
こんな『追いかけっこ』はもうやってはいられない―――もっと大胆な手に出なければ。


次の手に移る際、一方通行にはもう迷いはなかった。

身の硬度、つまりは防御を全て―――己の速度に耐えられるだけ残し、その他の力を『速度』に集束。
手足を強化していた分も、右手だけを残し自らの加速へと向け。


そうして生み出された最速にして最後の右拳に、彼は全てを委ねた。



523:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:08:35.19 ID:Y70RMztfo

必要最低限以外の全ての力を注がれ、
彼の身は爆発的に加速した。

そして一撃貰えば死ぬ、今やそんな脆くなってしまった身で、
弾幕の中を縫い飛んでいく。

あと1000m。

全知覚を前方に集中させ、数多の火弾を紙一重のところで避け。

あと500m。

翼の一本が焼かれ、砕かれながらも怯みはせず。
炎の滴が脆くなった肩を焦がしても、一切意識を向けたりはせず。


そしてついに―――追いつく。


少年は振るわれた最後の一撃たる、巨大なドラゴンの牙を潜り抜け―――



一方『オオオオオオォォォォォォォ!!!!』



―――逆さの巨顔、その眉間に右拳を叩き込んだ。



524:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:09:49.13 ID:Y70RMztfo

聞えるフォルティトゥードのうめき声に、
腕から全身に伝わってくる衝撃と触感は、全てが彼の期待通りだった。

砕ける外皮、穿たれ引き裂かれる肉、そして―――その下にある人間達の魂。


だが魂達の量はあまりにも莫大なものだった。
今の彼でもすぐに全掌握とはいかないほどに。
とは言ってもそれは僅かなもので、さほど問題は無かった。


―――あと一秒、一方通行が追いつくのが早ければの話であったが。


一方『―――』


一秒、遅かった。
なんというタイミングだろうか、ここで時間切れが訪れたのだ。


ついに消耗限界、スタミナ切れた彼の力は一気に崩壊していった。

一瞬にして砕け散る翼、髪色は黒から白に戻り、
その他の部位も全ての戦闘態勢が解けていく。

もちろん―――右手も。

黒き破片が飛び散り、現れるはもとの華奢な細腕。
そんな状態ではもはや、フォルティトゥードの体内に留めてはいられない。


―――その右手は成すすべなく―――勇気の肉に押し出されてしまい。


完全掌握を目前にして、接続が切られてしまった―――――――――のだが。



一方通行が理解する間もなく、その接続は即座に復旧する。



―――とある『死者』が、離れかけた彼の右手を握り返したことで。



525:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:12:15.76 ID:Y70RMztfo

フォルティトゥードにはもちろん、他の何人であれその姿は見えなかっただろう。
唯一、今の状態の一方通行を除いて。


それは死者の王たる彼にしか見えない、触れられない『幻』。


死者の王たる彼にだけ見えるその腕を―――その『相手』を前に、
彼は二重の意味で驚愕し、二重の意味で心が震えた。


接続がなんとか保たれ、勝利が確定したことと――――――この思いがけぬ『再会』に。


もう二度と目にすることも声聞くこともできなければ、
一度も触れられることさえできなかった、そう思っていたのに。


『彼女』は目の前にいた。


『彼女』はここにいて、見てくれていた。


フォルティトゥードの傷口から腕を伸ばし、しっかり握ってくれている手。
しなやかな指にきめ細かい肌はこれ以上無いくらいに暖かくて、柔らかくて。


緩やかにウェーブがかかった『栗色』の髪からは、心地の良い香りがして。


その相変わらずの狡猾そうな微笑が、最高に愛おしかった。


一方『―――――――――』

この刹那の一幕、彼は返すべき言霊が思いつかなかった。
どうしようもなく潤んだ瞳で、不慣れで無様な笑みを返すしかなかった。



526:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:14:21.81 ID:Y70RMztfo

この時にはもう完全掌握は完了していた。


フォルティトゥード『―――ッお―――おおおお―――?!』


勇気は今や、反旗を翻した魂たちによって内から縛され硬直、
処刑の号令を待っている段階だ。

あとは『引き金』を絞るだけ―――それでこの戦いが決する。


ただそれは同時に―――彼女の完全なる消失も意味している。


わかっている、一方通行はわかっていた。
どうにかなるものではない、これは必然だ。
生者と死者、それは絶対に交わることのない出来ない領域。


生と死、そこには『一方通行の流れ』しか存在していない。


―――だがこのまま―――何も告げずに彼女の手を放してしまえるわけがない。


何か言葉を向けなければ―――そうして彼は、この戦いの中、
心の奥に常ありつづけたある感情を声にした。


一方『―――オマエが好きだ』


もっと気の利いた事を言いたかったのに、
口から飛び出したのは、陳腐で単純すぎる言葉だった。


だが彼女は、今度は文句なしの笑みを浮べてくれた。

驚きと恥ずかしさ、
そして目を細めては冗談交じりに見下げるような、冷やかしを交えながらも―――柔らかく穏やかに。



527:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:16:52.11 ID:Y70RMztfo

一方通行はその笑顔に完全に目を奪われた。
打ち止めの笑顔が太陽ならば、彼女はその光の下に揺れる最高の『一輪』だ。

ここまで心惹かれ、目が逸らせない存在は他にありやしない。

絶対に忘れはしない、少年は誓った。
いや、自らそう望んだ。
未来永劫、意識が存続する限り、この麦野沈利の笑顔は目に残り続ける。
彼女が他の何よりも美しかったことを、この魂が記憶し続ける、と。



―――別れの時が来た。

今度こそ永遠の別れだ。
フォルティトゥードを滅ぼし、
そして無数の死者たちと彼女を―――ここから解放し―――安寧に導く。


―――それが己が望みにして、果たさなければならない使命。

一方通行は最後にもう一度、穏やかに告げた。
今度は不器用ではない、自然な素直な笑みと共に。


一方『―――――――――好きだ。麦野―――』



解き放たれ、消え去るその瞬間まで、麦野沈利はこちらを見、微笑み続けていてくれた。
もちろん一方通行も同じく、最期まで見届けた。
彼女の姿が完全に消え去り、そして彼女含む莫大な数の魂たちが、
フォルティトゥードを内から葬り去るその瞬間まで。



フォルティトゥード『―――我らが主神ジュベレウスよ!!栄光あれ!!永久の栄光をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


それが四元徳が一柱、勇気の最期の言葉だった。

次の瞬間。
一方通行の操作によって、その巨体は木っ端微塵に砕け散った。

―――



528:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/18(日) 18:17:18.99 ID:Y70RMztfo

今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。



530:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 18:29:12.99 ID:tPTjS3hu0

カッコ良すぎだろ白モヤシ…




531:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/03/18(日) 19:20:50.60 ID:v0HlPOJ0o

お疲れ様でした。



532:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 20:38:22.89 ID:k0mIfxUDO

一方さん報われて良かったな



535:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 01:55:08.93 ID:pzEwEZJw0

禁書の次巻表紙に銀髪赤コートが載っていてももう驚かないレベル



536:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/03/19(月) 14:23:27.45 ID:lYpWgz5U0

DMC5に白もやしが出てきてももう驚かないレベル
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00439HA3Y/




538:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 22:55:18.78 ID:GRmyA/X5o

たまんないなもう。乙!



539:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/03/20(火) 13:14:25.47 ID:cxaR+YJm0

来たな
来たな
なんか晴れ間が出来たみたいだ



542:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県):2012/03/20(火) 22:16:27.32 ID:59rV9rtTo

今回は今までで一番感動したわ



545:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:04:47.62 ID:mXbgQFH4o

―――

風斬『―――いた!』

そのすぐ後、十秒も経っていない頃。
第一の天門の領域に到達した風斬は、勇気を打ち破ったばかりの一方通行を発見した。

果てしなく続くこの空を自由落下していた彼は満身創痍、
一目でほぼ全ての力を使い果たしているとわかるほどに疲弊しきっていた。

そんな彼を見、風斬はカマエルを後ろに従えて全速で一方通行に向かい、
紫電の翼で掬うようにして回収。
そしてひとまずと近場の浮遊城塞の広場に降り立ち、
より状態を調べるために彼の身を降ろした。

風斬『……っ!』

一目見た瞬間から覚悟はしていたが、それでもあまりの彼の状態に彼女は言葉を失ってしまった。
肉体の外見のみなら、出血はしているもそこまでではない。
だが内面の魂、力、器、どれもがボロボロ、もはや自力で立つこともできないだろう。


―――と、ここでもう一つ、彼女を驚かせる要素があった。

この状態を見たような衝撃的なものではなく、
どちらかと言えばふと首を傾げたくなるような驚きだ。


彼の表情は、その身の状態とは逆に―――穏やかなものだったのだ。



546:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:05:54.50 ID:mXbgQFH4o

風斬『……っ』

打ち止めを介して、つい先ほど彼が四元徳に勝ったとは知っていたが、
とてもその勝利の喜びによるものとは思えない。
もしその歓喜もあったとしても、それとは別の情感を含んでいたのは間違いなかった。

悲しげながらも朗らか、憂いを湛えながらも充実している、そんな表情だ。


風斬『……大丈夫、ですか?』

一方「あァ」

どことなく眠たげにも見える彼は、落ち着いた声を返してきた。
夢と現実の狭間、うたた寝していたところを静かに起こされたような調子でもある。
一体何が彼の精神をここまで『清めた』のだろうか。

風斬『……』

とはいえ、風斬はひとまず彼の様子に安心した。

苦痛に喘ぐこともなく、酷い消耗も幸いなことに命には別状は無い。
しっかり休養すれば後遺症もなく回復するだろう。



547:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:07:51.29 ID:mXbgQFH4o

胸を撫で下ろしながら、風斬はそっと彼の胸に手を当てて、
彼の調子に合わせるようにして穏やかに促した。

風斬『じゃあ……帰りましょう』


戦いはまだ終ってはいない。

しかしこんな状態である以上、彼が天界に留まっている理由はもう無いのである。
それは一方通行も自覚しているようだった。
特に抗する様子もなく、「あァ」とまた同じような調子で頷いた。

彼に頷き返した風斬は、傍にいた重装の赤き天使へと目配せ。
すると天使はすぐに石畳に大剣を突き立て、
二人を第二の門の領域へと送り届けるべく移動用の陣を構築し、

この場から皆を連れて離脱―――しようとしたのだが。


風斬『―――』

カマエルの様子を見ていただけで風斬は、彼がこの時抱いた不審の念を敏感に悟った。
なにやら重大な問題が発生したのだと。
そして一拍あと、その原因が目に見えて顕在化した。

彼の移動用の光陣が正常に稼動しなかったのだ。

起動はしていたのだが、門が開いていなかった。



548:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:09:29.56 ID:mXbgQFH4o

だた、風斬にわかるのはそこまでだった。
門が開かない原因は皆目見当もつかない。

そこで彼女はすぐさま問い放った。


風斬『―――どうして開かないんですか?!』

一方通行とネットワーク上で繋がっているため、
ある程度の情報がフィードバックされてきているおかげでもあるだろう。

一方通行のように情感豊かに聞き取れるまでにはいかないにしろ、
今の彼女もある程度、天使の声を『言葉』として認識できるようになっていた。

風斬には機械的に聞える声で、赤き天使は告げた。


カマエル『この階層は「封鎖されていた」』


風斬『―――封鎖されていた?』


カマエル『四公閣下によって行われた。侵入は可能だが、離脱は困難だ』


明確にして簡潔。
その言葉で風斬はすぐに己達の置かれている状況を認識した。

一方通行はここからフォルティトゥードを逃がす気はなかったが、
勇気の側も同じつもりだったのだ。

ここで人界神の新王を確実に葬り去るため、決して外に出られないようにしたのだ。
そして進入路を封鎖しなかった理由はもちろん―――

―――必要と有れば『増援』が来れる様に、だ。


直後。
三者はこの大空の方々から、天の進軍ラッパが鳴り響いたのを耳にした。



549:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:10:55.10 ID:mXbgQFH4o

風斬『―――!』

目を向けるまでもなかった。
その瞬間全方位から覚えるは、夥しい数の存在―――出現した天使の軍勢。

彼方に『金色の雲』となって無数の軍団が次々と現れていく。
しかも雑魚天使だけではない、かなり高位の存在もおそらく総動員されているのだろう、
あちこちに強大な力の存在が見える。

四元徳の親衛隊である上級三隊と思われるものも多数。

風斬『っ―――』

下位の天使だけならば、どれだけの数が押し寄せてきても、己やカマエルが倒されることはまずない。
しかし上級三隊といった高位の存在達となれば話は別だ。

一対一なら圧倒できるも、数に任せて押しかけて来られれば―――多勢に無勢である。


風斬『―――別の方法は?!何とかしてここから出られないんですか?!』


返って来たのは絶望的な無言の答えだった。

大剣を引き抜き戦闘態勢に入るカマエル。
それだけで意図は明確だ。


離脱する方法は無い―――戦うしかないのだと。



550:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:13:34.92 ID:mXbgQFH4o

他に策は無いかと思考を巡らせていく風斬。

しかしどう見繕っても有効性は乏しいものばかり。
唯一具体性があるように思えた案、ここの下にある第一の門を抜けるということも、
考慮の余地なくすぐに却下されてしまう。

あの黒き蓋をなんとか通り抜けられないか、その問いへ一方通行はこう返してきた。

一方「悪ィ……無理だ」

彼は、この第一の門を二度と使用できないように封鎖した。
再び解除することはもともと念頭に入れてはいない。

それでも万全状態の彼ならば、なんとか制御して解除できたかもしれなかったも、
自力で立つことすらできない今では無理だ。

そして力ずくで突破するなんて到底不可能。
強化状態のフォルティトゥードと一方通行、その激戦の足場として完全に耐えている程なのだ。

己やカマエル程度では軋ませることすらできない。

風斬『―――』

風斬自身には、この問題に対処する力はなかった。

彼女の今にできること、及び義務は二つ。
一つ目はこの情報をネットワークの向こうに拡散させ、外部の助力を求めること。

そして二つ目は、その支援の手が届いてくるまで―――この少年を守ることだ。



551:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:15:04.19 ID:mXbgQFH4o

フォルティトゥードが倒されているだけ望みはまだあると喜ぶべきか。
敵方の予定ではかの勇気が自らこれらを指揮し、
こちらを圧倒するつもりだったのだろう。

その予定が崩れ去ったことで、少しばかり天使達の間に動揺が広がっているのか、
攻撃はすぐには始まらなかった。

これは風斬達にとっては良い兆しだった。
時間が延びるだけ外部の者が手を講じる余裕が生じ、こちらの生存確率が上がるのだ。


風斬は一翼で再び一方通行の身を包み、他の翼の付け根に挟み込むようにして背負い。
そして間に彼を挟む形で、風斬りと背中合わせにカマエルが立ち、
この膨大な数の天使達を見据えた。


そうして数秒ののち、ようやく敵勢も動き出す。

一斉に向かってくるその光景は、
金色の壁が全方位から迫ってきているようだ。


無論、接触まで待つ必要は無い。
風斬もカマエルもすかさず刃を振るい、盛大に力を放った。



552:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:19:26.74 ID:mXbgQFH4o

拡散して放出された光の衝撃波が、天使の一群丸ごと吹き飛ばしていく。
金色の雲を薙ぎ払い、あとに残るの高位の存在達のみ―――のはずなのだが、

向かってきた群れの中には高位の天使達は含まれてはいなかった。
どうやら下位の天使達のみを向かわせてきているようだ。

これも勇気の死による影響か―――だがこの時点では、
あの軍勢にはもう動揺の色は見えなかった。

彼らは怖気付いているのではない、計算した上でこうしているということ。

時間稼ぎでもしているのか、
勇気が死したことで狂った作戦の修正を試みているらしい。

そしてその修正は、風斬達にとっては不運なことにすぐに完了してしまった。

風斬『―――っ』

その時、突然向かってくるのをやめ一定の距離を置き始める天の軍勢。
一体何が起こったのか、その答えはすぐにはわからぬも、
きわめて悪いことであると彼女は悟った。


―――背後にいるカマエルが凍りつくのを感じて。


次の瞬間、この歴戦の戦士すらをも強張らせてしまった存在が現れる。


天の軍勢による歓待の音色の中、
凄まじい暴風を纏い出現するは―――四元徳が一柱、『節制』を司る―――テンパランチアだった。



553:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:21:51.60 ID:mXbgQFH4o

1000mほど上空に現れた城の如き姿はまさに圧倒的、
その力は見た目以上に強大。

風斬『―――』

あまりの強大さに、思わず風斬も息を呑んでしまった。
とても己やカマエル程度では相手にならないのは明白だ。

あの巨大な腕にかかれば、己程度なんで一撃で跡形もなく叩き潰されてしまうだろう。

と、そのように圧倒されている中、
彼女は背のカマエルにはまた別の感情が滲んでいたのを感じた。

己と同じく圧倒されつつ、天の者としてのであろう畏怖と畏敬も覚える中。


この赤き天使は、深い『悲しみ』と猛烈な『怒り』に打ち震えている、と。


その理由についても、風斬は敏感に悟った。
原因は恐らく、テンパランチアの管のような指先にところどころある、『赤い染み』である。

虚数学区に降りてきていたカマエル達と非常に似た力の『香り』が、
そこに見て取れたのだ。

これだけで彼が身を震わせている理由は大方想像が付く。
そして一方通行にも、同じく何か思うところがあったのだろう。


彼が静かにため息を漏らしたのを、風斬は背中越しに聞いた。



554:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:24:20.02 ID:mXbgQFH4o

一方でテンパランチアは、こちらの心情など気にも留めなかった。

名乗りすらもしない、要職にいるであろうでカマエルにすら一声も投じることなく、
すぐに手を下してきた。


節制はその巨腕をことらに向け降ろすと、
管のような指先から―――『ミサイルのようなもの』を放った。

それも連続で雨あられとばかりに。


風斬『―――!』

極度の緊張に面していたとはいえ、
身は戦士としての機能を喪失してはいなかった。

風斬とカマエルは即座に回避行動に転じた。

彼女はさらに翼で一方通行を覆い固め、カマエルが彼女を守る体勢で、
二人は爆発の嵐の隙間を一気に抜けていく。

ミサイルにはある程度追尾機能もあるらしく、すべてを回避しきるのは不可能、
それら直撃してくるものは、カマエルが的確に大盾で防いでいく。

しかし両者が完璧な連携を果しても尚、節制の砲撃を潜り抜けるのは至難だった。



555:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:26:37.82 ID:mXbgQFH4o

風斬『―――あッくッ―――!』

浮遊城塞を覆う無数の爆轟、その衝撃と炎の威力は直撃を免れたとしても猛烈。
余波で翼の表面がはぎ飛ばされ、皮膚には焼ける痛みが一面に走っていく。

そして直撃してくるミサイルによって、カマエルの大盾の表面がみるみる砕け、焼き溶けていく。
虚数学区上の激戦でもびくともしなかったあの大盾がである。


爆発の嵐を抜け、より下にあった別の浮遊城塞に降り立ったころには、
彼の大盾は原型を留めていなかった。

四隅は溶解して丸くなってしまい、厚さも半分以下、
盾の前面にあった荘厳な文様も跡形もなくなり、いまや歪な表面を晒しているだけ。

盾のみならず身を覆う甲冑も酷く損傷し、彼自身もかなりのダメージを負っているのも確実。


―――だがどうしようもできなかった。

風斬が彼の身を案じる表情を浮べたも、
カマエルはそんな気遣いは無用とばかりに、彼女の背を押しては逃げ続けるように急かした。


そう、反撃などできるわけがない、ただ逃げるしかなかった。

圧倒的劣勢下でも攻撃が防御になる場合もあるが、
ここまで力の差があれば無駄な行為でしかない。

これはもう『戦い』ですらない、一方的な『狩り』だった。



556:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:28:31.34 ID:mXbgQFH4o

頭では無意味だとわかっていたも、
一方通行の手によるものがあるという点に、漠然と縋る心理的要素によるものだろう。

風斬達は下にある、あの『黒き蓋』へと向かった。


いくつもの浮遊城塞を経由し、
これら『浮き島』をできるだけ盾にしつつ最大速にて降下していく。


だがテンパランチアの追撃もまた苛烈なものだった。

ミサイルの雨は止むことなく降り落ちてきて、先々の浮遊城塞に叩き込まれていく。
そのたびに構造物が吹っ飛び、区画ごと割れ落ち、そして『浮き島』全体が崩落。

テンパランチア自身もまた、猛烈な勢いで降下してきていた。
戦車が自動車を踏み潰すように、浮遊城塞を軽々と砕き散らしながら。


風斬達よりもずっと速く。


風斬『(―――追いつかれる!!)』


迫り来る危機に圧倒された刹那、
追いつかれる前に『狩り』の終わりが訪れた。

ミサイルの猛撃によりついにカマエルの大盾が、盾持つ左腕ごと砕け―――『蒸発』した。



557:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:30:33.40 ID:mXbgQFH4o

風斬『―――ああッ!!』

次の瞬間には彼の左腕は肩から消え去り、
胴鎧も左半身が砕け、翼の幾本かも根こそぎ焼き飛ばされていた。

糸が切れた人形のようにぐったりとするカマエル。

風斬はそんな彼を何とか掴み、半ば落下するように降下、
そして―――『黒き蓋』の上に強行着陸した。


風斬『―――しっかり!!しっかりしてください!!』


長き付き合いの友に対するようにカマエルに寄り添う風斬。
カマエルの方もまた、親しき戦友に抱かれているように彼女の腕に身を委ねているその様子は、
つい先ほどまで二人が殺し合っていたようにはとても見えないだろう。

カマエルは生粋の武人らしくいまだに大剣を握り締めてはいたも、
もはや戦える状態ではなかった。

風斬『―――……』


そしてもう一つ、この状況にて明確な点があった。

もう逃げることさえもできなかったことである。

先回りでもしていたのだろう。
上級三隊と思しき強大な者達によって、周囲をぐるりと取り囲まれていたのだから。



558:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:31:49.58 ID:mXbgQFH4o

巨大な鉤爪を有した黒と金の天使、艶かしい雰囲気のある女性型の天使、
そして虚数学区でも見た十字槍を持つ巨大な天使などがずらりと100体以上、
100mほどの距離をおいてこの黒き地に立っていた。

そして上空にも、同じく虚数学区上で見たあの蛇のような天使が何体も泳いでおり。


その上には、テンパランチアが滞空してこちらを見下ろしていた。


風斬『……』


包囲は完璧なもの、突破は不可能だった。


風斬は翼を開くと、一方通行を身を起こしているカマエルの前に横たえた。
赤き天使は屈んだままながらも、大剣握る隻腕を突き出し、
力尽きるまで少年を守る意志を明確に示した。

風斬は両手に光剣を出現させ、周囲の天使たちを見回しては戦意を放ち。
徹底的に抵抗する意志を突きつけた。


さあ来い、最期の最期まで戦ってやる、と。



559:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:33:19.47 ID:mXbgQFH4o

風斬『……』

しかしそう無言の啖呵を切る一方で、彼女は恐怖と未練に苛まれていた。
眼前に迫る死と、使命を果せなかった後悔、この現実世界との別れ、そして――――――

風斬『…………あの、すみません、一つ聞かせて下さい』

耐えかね、彼女は構えたままふと口を開いた。
後方に横たわっている一方通行へ向けて。


風斬『私は―――「人間」になれたんでしょうか?』


何の脈絡も無い、唐突にも聞える問いだ。
だが一方通行の側はなぜ彼女がそんな事を口にしたのかは、
しっかりと理解している様子だった。

彼は弱弱しくもハッと笑い飛ばしながら、こう返してきた。


一方「…………なれたも何も……オマエは最初から人間だろォが」


何を当たり前のことをとでも続けたそうな声色で。
だがそんな『当たり前』のことこそ、風斬が求めていた最高の答えだった。


風斬『…………ありがとう』



560:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:35:32.28 ID:mXbgQFH4o

その直後。
テンパランチアの一声により、周囲の上級三隊の者達が一斉に動き、
三者に飛びかかる―――ところだったのだが。

彼らの足は、踏み切る寸前で再び停止してしまった。




「―――待てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



節制の号令に重ねられた―――ある少年の怒号によって。

そして次の瞬間、
風斬の目の前に―――以前にも見たことがある背が降り立った。


その『黒髪の少年』の登場に風斬はもちろん、
周囲の天使達たちも驚愕に包まれていた。

単に第三者が割り込んできたというだけではない、もっと別の『何か』―――

そしてその『何か』に対してカマエルは豪胆な笑い声を放ち、
歓喜に満ちてこう続けた。


カマエル『――――――我らが「不埒者」が帰ってきたぞ!!』


風斬『―――』


その通り、『彼』が帰って来た。
上条当麻が帰って来たのだ。



561:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:38:24.47 ID:mXbgQFH4o

かのテンパランチアさえも、彼の帰還にはいささか驚いている様子。
そこに生じた僅かな隙を見逃さず、上条当麻はすぐに動いた。


上条「―――みんな固まれ!!早く!!」

再会を喜ぶ暇など無い。
風斬もすぐにその声に従ってカマエルと一方通行の傍に行き、二人を翼で掴み。


当の上条は彼らのすぐ前に屈み―――『右手』を黒き地盤に当てていた。




一方「―――まだ……使えるのか?その右手」

上条「俺を誰だと思ってんだ」


一方「――――――クソ野郎だ」


そして互いにニヤリと笑みを浮べた次の瞬間。


『幻想殺し』が発動した。


独立稼動している黒き蓋、その基幹の『プログラム』を破壊し、
莫大な力による―――自己崩壊を引き起こす。



562:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:40:41.20 ID:mXbgQFH4o

凄まじい激音と共にヒビが走り、
蓋全体が爆風に割れるガラスの様に砕け飛んだ。

それとほぼ同時に風斬が皆を引っ張り、
黒き破片の雨に混じりながら―――第一の門へと飛び込んでいく。

そうして光の回廊に身を投じて数秒後、上方、天から響いてくるのは。


テンパランチア『―――おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


節制の怒りに満ちた咆哮だ。

そしてかの存在もこちらの後を追い猛然と下降、この回廊に飛び込んできた。
上級三隊の者達もそれに続き、この黒き破片の雨の間を抜けて向かってくる。


上条「―――止まるな!行け!下まで降りるんだ!!」


カマエル『だがどこまでも追ってくるぞ!どうするつもりだ兄弟?!』


風斬『―――!』


そのカマエルの懸念は風斬も抱いていた。

下ではみな悪魔達にかかりきりだ。
ネロならばテンパランチアを倒すことが出来るが、
彼が魔塔の戦線から抜ければあそこは確実に圧倒されてしまう。

そして他の者では節制には到底及ばない。
虚数学区にまで到達したとしても、どうやってこの存在に抗うのか。



563:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:45:37.02 ID:mXbgQFH4o

上条「―――心配するな!!大丈夫だ!!」


だが上条は自信たっぷりにそう叫んだ。

彼がそう断言するのならば、
何か有用な『策』が整えられているのだろう。

風斬は彼を信じ、背後に迫る圧倒的なプレッシャーを覚えながらも、
皆を連れて全力で降下。


ついに―――この回廊を抜け切り、虚数学区の空にまで到達したとき。


彼女が目にしたのは『有用な策』どころではない、
文字通りの『怪物』だった。


風斬『―――』


虚数学区の街に降り立った一行の目の前に、いつの間にか一人の女が立っていた。


黒縁のメガネにボディスーツを纏った、黒髪で抜群のスタイルの妖艶な女だ。
テンパランチアなど敵ではないと一目でわかるほどの圧を醸して。


『はぁ~いボクちゃん達。あとはそこら辺で良い子にしてなさい』


スーパーモデルのように完璧な立ち姿で、女はにっこりと―――わざとらしく微笑んだ。
手にある銃の先でメガネの端を上げながら。



『ここからはお姉さんの――――――ディープなオシオキタイムよ』



―――



564:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/22(木) 03:46:16.08 ID:mXbgQFH4o

今日はここまでです。
次は日曜に。



566:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県):2012/03/22(木) 04:01:42.63 ID:rWcyDAiUo

上条ちゃん全世『界』で人気者だなww
そういや目って触れてないけどそのまま?復活?



567:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/22(木) 06:49:24.62 ID:VY+zNIwDO

>>566
いや、触れてるから。復活してないから



569:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/03/22(木) 08:47:28.95 ID:CqQ2KYdC0

乙 

ダンテと言いベヨネッタと言いコイツがいればっていう安心感があるな



570:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/03/22(木) 09:14:36.16 ID:RcGG3bTl0

スタイリッシュ痴女による
貯金箱フルボッコタイム始まるよー!



575:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県):2012/03/22(木) 13:29:56.58 ID:FudcjfU10

ここまで来たらせっかくだからアマ公にも一つデカい見せ場が欲しいと思うのは贅沢だろうか



578:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/23(金) 02:11:30.20 ID:3A8LmrOz0

乙!
ベヨ姉さん来たあああああ!!



579:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/23(金) 03:16:52.39 ID:n0xQNI+Ro

いいぞおおおお!乙!



582:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/24(土) 00:49:01.22 ID:Fx/EDyuD0

お前らベヨ姐が出た途端に勢い増しやがってwwwwww



583:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/03/24(土) 16:25:16.10 ID:cQ53cNDx0

スタイリッシュBBA登場でおっきした



587:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2012/03/25(日) 12:11:37.13 ID:sFJR17g80

このスレ、いつもは静かなのにベヨ姐さんが出た途端騒がしくなったなwwww



次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 38】

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禁書目録SS   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
27234. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/04(木) 01:22 ▼このコメントに返信する
きたあああああああ
27237. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/04(木) 02:16 ▼このコメントに返信する
麦のんマジ女神
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