ダンテ「学園都市か」【MISSION 38】

2012-10-03 (水) 23:17  禁書目録SS   3コメント  
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まとめ→ダンテ「学園都市か」 まとめ





591:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:32:48.72 ID:v9X8Zlsio

―――

巨大な地底湖、そして碧い洞窟をぬけた先にあったその劇場は、
酷く荒んだ―――『こうもり』でも住んでそうな陰湿な様相だった。

一行はテメンニグルの地下深くの洞窟、
掘りぬかれた空洞をそのまま利用した劇場に落ち着いていた。

浜面「……」

舞台の段の淵にはかた膝立てて屈んでいる浜面と、その横に座りこんでいる滝壺。
彼女は彼にしがみつくように寄り添い、能力過負荷に汗にじむ顔をその脇に埋めていた。

絹旗はその二人に背をむけ盾となる位置で仁王立ちし、周囲には他の滝壺の護衛メンバー、
さらにその周りには合流した天草式の一団が結界をしき警戒姿勢をとっており。

そして外へと通じている扉は、
一際強力な結界―――土御門によって『墨汁で描いたような紋』が印されていた。


土御門は絹旗の少し前、この劇場のちょうど中央あたりに立ち、
魔術による立体映像を見つめていた。
今は消えてしまった窓のないビルの『本陣』にあった地図と同じものである。

その青白い光で形成された地図をはさんで建宮、
となりには魔馬を背に控えさせている五和が立っており、
土御門と同じように立体映像を見つめながら黙していた。



592:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:33:42.86 ID:v9X8Zlsio

聞えるのは、ここにいる仲間たちの緊張した息遣いと、魔馬が荒々しくならす鼻の音。
そして地上、魔塔の周りで繰り広げられている戦いの地響きである。

土御門「……」

ただその恐ろしげな轟音とは対照的に、
土御門には状況はひとまず落ち着いていたように思えた。

滝壺による作業も完了し、学園都市とこの魔塔間の界域は完全に隔絶、
学園都市への悪魔達の侵入を防ぐことに成功。

そこからの土御門達の仕事は、滝壺を守護し状態を維持することであるが、
その件についてもある程度の安定が確立されていた。

魔塔の外の防御にキャーリサ達に名だたる天使たちが加わり、さらにそこへネロの増援だ。

依然悪魔達の攻撃は苛烈ながらも、彼の参戦がここの戦況を一変させた。
その戦いっぷりはまさに鬼神、怪物である。

土御門「…………」

表示されている立体映像、
そこに描かれていく外の戦いの様相に、土御門は希望とともに『寒気』を覚えていた。

大悪魔が次々と屠られていくその様は、
彼が絶対的な味方であることがわかっていてもなお本能的に背筋が凍ってしまうもの。
次々と砕け散っていく赤い光点、その一つ一つが人知が及ばぬ神たる存在だと知っていると尚更にだ。



593:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:35:14.39 ID:v9X8Zlsio

そうして誰も一言も発さず、外の激戦の行く末を見守っていたところ、
この劇場の扉が不意に開かれた。

ただし土御門にとっては不意ではなかった。
扉には彼の結界が敷かれているため、
そこを通るということは前もって彼の任意が必要なのである。

そのようにして今入ってきた者は、堂々屹然とした一人のある女だった。

真紅の甲冑にマントを纏い、
触れがたい鋭利な美しさに、獅子のごとき荒々しさをあわせ持つ王女、
英国女王エリザードの次女キャーリサだ。

彼女は土御門達を認めると悠然と向かってきた。

そうしてすれ違っていくそのキャーリサへと、
天草式の者達は頷くように軽く頭を下げ、戦時における簡略された礼をしていく。

また能力者たちも、話こそしないも横目で彼女の姿を追っていた。
クーデター事件の際に大々的に報道されていたために記憶に新しいのだろう、
それでなくとも目に留まるはずだ。

良くも悪くもこの第二王女はカリスマの塊である。

力強くも品に満ちた柔らかい佇まい。
そこには王室育ちという要素の他にも、彼女自身の気質から来るものがある。

その姿を目にして抱くのは、荒々しさへの警戒心か、
それとも高潔な勇ましさへの追従心かは人によって異なる。

しかしどちらにせよ、この女が持つ格はそう簡単に無視できるものでもなければ、
単に王室の権威によるものとも捨て置けないものである。



594:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:37:10.68 ID:v9X8Zlsio

そんな彼女特有の存在感は今、一際強くなっていた。
聖人どころではない、神の右席をも上回る『聖』の因子をかね備えて。

土御門「……」

その理由については、慈母から授かった『瞳』によって土御門にははっきりと見えていた。
彼女の全身に宿る―――『主』の力が。

腰に下げているカーテナがアンテナの役割を果して、
そこからの主の力によって彼女の持つ要素が底上げ。

そうしてキャーリサは、神の領域とも刃を交えられるほどの武力を手にしているのだ。

だがだからといって文句なしに喜べるほど都合の良いものではない。
何事にも当然、相応のリスクが伴うものだ。

現に土御門自身、つい少し前にこの身をもって味わったことだ。

聖人でもなければ魔神と称されるような魔術師でもない、
そんな者がこの水準の力を手にしてしまったら、よっぽど上手く―――運良く立ち回らない限り、

その先にあるのは―――破滅だ。

慈母や主がどれだけ傷つけまいと気を回してくれていても、
象がその巨足で小さな子供に点滴針を刺そうとする、そんな関係となんら変わらない。

そしてそんな状態で、神たる存在と戦い―――その一撃を受けてしまうなんて。

土御門「…………」

土御門だけには見えていた。
この悠然として苦痛の欠片も滲ませないキャーリサ。
だがそんな彼女を確かに蝕む、脇への一撃による『内なる損傷』を。



595:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:40:44.01 ID:v9X8Zlsio

キャーリサ『問題ないか?』

自分の目で確かめに来たのだろう。

この第二王女は昔から下々の働く現場によく顔を出すことがある。
時には汚らしく危険な場にまで赴き、自らの五感で直接確認しようとするのだ。

前触れもなくふらりと現れ、厳しくも父のように最前線の者達に接する、
そこがまた軍や騎士派の忠誠心を滾らせていくのである。

ながらく犬猿の仲でありクーデター時に実際に激突した清教派でさえ、
この数ヶ月間の対魔共同線でおおきく彼女への見方を変えた。

上層部の老人達は依然警戒の色を強くしているも、
シェリーをはじめ愛国心・忠心・大義を胸にする実働部隊の者達はみな、偽りのない忠誠を捧げるようになった。
行動指針の根底がきわめて私的な理由であったステイルすらも、
ある程度の本心からの敬意を払っていたほどである。


「キャーリサ様……!お怪我が……!」

そうした者達が、彼女の甲冑のわき腹に空いた穴を見て慌てふためくのは当然の事だった。
一人がそう声を挙げた途端、天草式の皆が知るところなりざわめきが伝播していく。

キャーリサ『見た目ほどじゃない。ほら、このとーりピンピンしてるだろ』

しかし一方で節度もわきまえている。
キャーリサが甲冑の胸板を叩きそう声を張ると、ざわめきはすぐに収束していった。


土御門「…………」

その通り、彼女の傷は見た目ほどじゃない。
見た目ほど―――『軽く』は無い。

他の者達が『見るからに』元気なキャーリサの姿にひとまず安心する傍ら、
土御門だけはそう正確に捉えていた。



596:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:43:06.82 ID:v9X8Zlsio

一通り近場の面々、能力者も天草式の者区別なく声をかけたのち、
キャーリサは土御門達のそばまでやって来た。

キャーリサ『どうだ?』

建宮「ここは今のところは安定しております」

キャーリサ『あの娘が例の能力者?』

視線で奥の滝壺を指したキャーリサ、
建宮が頷き、土御門がそこにさっと言葉を加えて、簡潔な説明を行った。

そのあいだ彼女は堂々とした佇まいを保持していたものの、
やはり土御門の目には色濃く疲労の色が見えていた。

彼女にはわずかでも休息が必要だ。
五和も気が気でない表情を浮べている事もあって、土御門は進言することにした。
姿勢正しく完璧な所作で、厳かに頭を下げながら「ところで」と申し出た。

土御門「少し、ここでお休みになられては?」

しかしキャーリサはこの物言いが気に食わなかったようだ。
彼女は隠そうともせずに眉間に皺を寄せて。

キャーリサ『お前が礼節をわきまえるのは似合わねーな』

土御門「そんなこと仰られましても。これでも英国にも忠誠を誓った身ですよ」

キャーリサ『やめろ気色悪い。その口で忠誠と言われると虫唾が走る』

そして一蹴されてしまった。

無論、これは本気ではなく一種の軽口だ。
この手厳しい言葉に、土御門は普段どおりの薄い笑みを返し、
キャーリサはふんと鼻を鳴らした。



597:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 20:51:53.54 ID:v9X8Zlsio

NOと言えばNOである、この女が一度断言した事は、
そうせざるを得ない場合を除きまず覆らないものだ。
それは性格からくるのはもちろん、頂点に立つものに揺らぎは許されないという、
その身に刻まれた帝王学によるものでもあるだろう。

これ以上休息を勧めるのは無意味と判断し、土御門は「では」と話を切り替えた。

土御門「お出でになられた用件はこれだけで?外の状態はどうです?」

キャーリサ『ネロがあの調子で、敵は私のところまではこない。それで手持ち無沙汰でシェリーがうるさくって。
       だから怠けてないか暇つぶしがてらにここまで来た』

土御門「それは心外です。ご覧の通り、みな全身全霊で励んでおりますよ」

キャーリサ『それは知ってる。建宮達は確認する必要は無い。だけどお前はそーとは限らねーからな』

土御門「ははあ、それもごもっともですにゃー」

ここでキャーリサは再び不機嫌そうに目を細めた。
礼節をわきまえようが普段通り無礼に接しようが、どちらにせよ彼女は気に入らないのである。

有能か・信頼に足るか否かという実利的な面は別として、
彼女のような大義・忠誠に生きる者は、土御門のような人格を大概嫌っているものだ。

キャーリサ『それでこれはいつ終る?まさか、悪魔を殺し尽くし絶滅させるまで続くわけじゃないだろーな?
       まああのネロの調子なら、それもあながち不可能でも無さそうだけど』

声を鋭くした彼女の問い、
それが指しているのは悪魔達の侵入の事だ。

土御門「いえ。レディが開門の首謀者を排除すれば止まるはずです」

キャーリサ『その排除の進行状況は?』

否定的な意味を篭めて肩を竦める土御門を見て、
キャーリサはまたもや不機嫌そうに目を細めた。



598:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 21:00:26.04 ID:v9X8Zlsio

これまでの立場上、きわめて拒絶的な視線に毎度晒されてきた土御門にとっては、
この程度の彼女の態度など気にもならない。

同じく、長らく『副官』、いわゆる現場実働部と指揮統率部の板ばさみの立場であった建宮も、
このような上の『嵐』を受け流す術をもっている。

しかし真っ当で至極善良な五和は、そうはいかなかったようだった。

忠誠対象にはいかなる苦労も抱かせてはならないと刻み込まれているのだろう。
彼女は少し思案気な表情を浮べたのち、『空気を読まず』に申し出た。

五和「……では私が見てきましょうか?」

そんな五和の進言を耳にした瞬間、
土御門にはあることがひらめいた。

キャーリサもこの五和の言葉から向かうある結論に勘付いたのだろう、
ニヤけた土御門へと、これまた苛立たしげに一瞬横目を向けた。

土御門「ああ、そう頼みたい所なんだが、しかしそうするとここの防備が手薄になる……」

そんなプレッシャーもなんのそのと、土御門はわざとらしくそう言葉を発した。
ごほんと気まずそうに咳払いする建宮を見て、
ようやく五和も己の言葉がどういう結果を招いたか気付いたようだった。
はっとした表情を浮べているも後の祭りである。


キャーリサ『……あー……まあいい。仕方ない。私がここに残る』

そうするに足る合理的理由があれば、この第二王女の言だって覆ることもある。
そのようにして、キャーリサはここに残らざるを得なくなった。

五和「で、では行ってきます!」

不本意ながら前線から引き摺り下ろされるなんて、キャーリサにとってどれだけのストレスか。
それを知っている五和は槍を手に蒼炎の魔馬ゲリュオンに飛び乗ると、
逃げるように駆け、扉を蹴り開け出でていった。



599:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 21:04:30.49 ID:v9X8Zlsio

土御門「ではごゆっくり。キャーリサ様」

これでもかというくらいに礼を保ち、丁寧に声を向ける土御門。
対しキャーリサは一言も返さずにむすっとし、かかとを打ち鳴らしながら歩み、
奥の舞台の段にどかりと腰を落ち着けた。

浜面「……」

遠くもなければそれほど近くも無い、浜面から2mほどの距離のところだ。

異様な圧とカリスマ性を纏った英国王女、普通は気になるものだ。
この時浜面もその例に漏れず、横目でこの気高き女を見やっていた。

キャーリサ『なんだ?』

浜面「い、いやっ……なんでもないです……すんません……」

だがそのささやかな関心も、不機嫌な彼女に気圧され一蹴。
浜面は正面へとすぐに目を逸らした。

キャーリサはますます不機嫌そうに舌を鳴らし、
カーテナを手に取ると切っ先で床を小刻みに叩きはじめた。

みなの戦いは続いているというのに、そこに加われないどころか前線から下ろされた、
それが彼女にとってどうしようもなく苛立たしかった。
己は戦いに来た、子羊たちのあらゆるものを背負ってこの刃を振るいに来た、
行動不能になっていないにもかかわらずぬくぬくと腰を下ろすために来たのではない、と。


だがそんな彼女の苛立ちも、そう長くは続かなかった。
そのストレスは彼女にとってはもちろん、皆にとっても『最悪の形』で解消されることとなったのだ。


しばらく後に―――まさにここが『戦場』になることで。



600:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/03/27(火) 21:06:17.32 ID:v9X8Zlsio

土御門「これは―――」

事態は再び新たな変化を迎えた。

立体映像上には突然、新たな光点の大群が表示された。

天の門から虚数学区上に突如落下してきた一団である。

先頭にはこちらの仲間たち、それを追うのはとんでもない天の存在とその軍勢。
それらを示す光の粒子が滝のように虚数学区へと雪崩落ちてくる。

そしてそれだけじゃない。
彼らが落下していく先、その着地点には、ほぼ同時にどこからともなく突然現れた―――『未知の怪物』。


この瞬間、土御門は二つの点に驚愕した。
一つ目はこの怪物が、スパーダの一族と見紛うほどの力を有していたこと。



土御門「―――か、かみやん?」


二つ目は、天から雪崩落ちてきた先頭、
そこにいた仲間の内の一人が―――上条当麻であったことだ。

―――



615:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:00:17.27 ID:fTqt1u+3o

―――

準備はすぐに整った。

もともとベヨネッタは、気乗りしないながらもレディ・アーカムの件に対処するために
人間界に降りようとしていた。

その時ちょうど現れたダンテとバージルの邂逅、
これによって計画にいくばくかの変更が加えられ、ベヨネッタに課せられる仕事内容も変わることとなった。

いや元通りに修正されたと形容するのが相応しいだろう。

本来アーカムの対処などは想定外の事案だ。
元々彼女が次に行う予定だったのは、人間界に入りこんだ敵性因子の排除―――『大掃除』である。


インデックスが上条の代理となることで打ち合わせも即完了、
そのようにして人間界に降り、虚数学区へと侵入したベヨネッタは彼らを出迎えた。

廃墟とかした陽炎の街の中、目のまえに降りたった上条当麻と風斬、
この人界の天使の翼に守られている一方通行とカマエル。


そして『お馴染みの敵』を。


ベヨネッタ『―――んふっ』

見あげると、真上はるか先には大勢の上級三隊の天使たちと。

―――率いる四元徳が一柱、テンパランチアが雪崩落ちてきていた。



616:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:02:10.63 ID:fTqt1u+3o

その姿を一目捉えるや、
彼女は至福の熱っぽい息を漏らし、
身をしならせては艶やかな黒髪を解きはなち。


ベヨネッタ『―――この時を待ってたのよ』

妖しく笑みを浮べて一気に跳躍、
落下してくる一群の先頭にいる―――テンパランチアへと向かった。


対するテンパランチアは彼女を認識するや即。


テンパランチア『――――――ベェェヨネタァァァァァァァァ―――!!!!』


放つは烈火のごとき咆哮。

常に節度をたもち慎み深い、そんな天の『節制』を体現するこの存在でさえも、
ここでの彼女の出現には憤怒が限界点を越えたのだ。

以前のような事前に仕組んだ戦いではなく、
正真正銘の邪魔者にして最大の障害、そしてなによりも―――主神ジュベレウスの仇。

宿敵どころではない、まさしく天の失墜の象徴にして怒りの原因である。

怒りに燃えるテンパランチアは、
勢いを緩めることなく巨体を彼女に突貫させていった。



617:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:04:16.15 ID:fTqt1u+3o

ベヨネッタ『んまあ嬉しい―――私も会いたかったわダーリン!!!!』


ベヨネッタはこの熱烈な呼びかけに熱い息で応じ、そして彼の熱烈な『ハグ』には、
両足に物々しい『ロケットランチャー』を出現させて―――


ベヨネッタ『これでやっとアンタ達を――――――イカせられるッ!!!!』


―――『蹴り上げて』受けた。


巨顔の中央、ちょうど眉間へと叩き込まれる『かかと』。
そして足に添えられているロケットランチャーから同時に発射される弾頭。
さらに連動する特大のウィケッドウィーブ。

ここまでの一セットで一蹴りだ。


テンパランチア『――――――おおおおおおお!!!!』

閃光と激音を迸らせて、
この『一撃』は100mはあろうテンパランチアの巨体を大きく打ちあげ返した。

節制は爆炎の尾をひいて、顔面から外皮の破片をまき散らしながら上昇、
降りてきた軌跡を猛烈な勢いでもどり、後続の天使達をひきとばしていく。

そこへベヨネッタはすかさず『光の鞭』―――クルセドラを振るいはなち、
節制のひび割れた鼻先に引っ掛けては、一気に身を引き寄せ。

そしてもう一度、巨顔へと追い討ちの踏みつけ。

この『二連撃』により、
テンパランチアの巨体は更に上へと押し戻されていった。



618:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:06:37.90 ID:fTqt1u+3o

そうしてテンパランチアの胴に『逆さ』に降りたったベヨネッタ。

上下が反転したその場にて、
彼女は身をくねらせては大股開き、熱い息を交わらせて。


ベヨネッタ『―――Heeey!! Come on booooys!!』


その挑発に、周囲の天使達は即座に応じる。
おなじく上下逆に節制の胴に降りたち、彼女へと向けて一斉に襲いかかった。

まず先陣を切ってきたのは、二体一組の双天使―――グラシアス&グロリアス。

上級三隊の中でもっとも攻撃的な、四元徳直属の『殲滅要員』である。

体躯は4m近くと人間と比べればかなり大きいも、
その行動速度は上級三隊でも屈指のもの。

くり出されるは、人間の腕ほどもある爪による目にもとまらぬ攻撃。
そして一切死角のない二体の完璧なコンビネーションだ。

だがそれほどの彼らの刃でも、相対するのがこの魔女というのは相手が悪すぎた。
完全に力を解き放ってる彼女ならなおさらだ。

彼らは肉を裂くどころか、その間合いにすら踏み込めなかった。


ベヨネッタ『―――Yeeeeah-Ha!!』

真下、『地』から突き上がってきた『巨大な足』―――
最高出力のウィケッドウィーブが、双天使の腹もとを蹴り上げたからだ。



619:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:09:33.99 ID:fTqt1u+3o

装具と血をまきながら仲良く宙に吹っ飛ぶ双天使。
挙動が一糸乱れないのと同様にやられっぷりまでまるで同じか。

ベヨネッタ『―――YeeHA!!』

次いでベヨネッタはすかさずその場で回し蹴りを放った。

双天使への距離は10m以上、
もちろん彼女の生身が届くわけが無い。

双子を蹴り掃うのは、そんな距離などものともしない特大のウィケッドウィーブである。

瞬間、虚空から現れた巨大な足が双子をまとめて薙ぎ―――粉砕した。


ベヨネッタ『―――Bang! Bang! Booom!!』


足から放たれるロケットランチャーの連弾も重ねて。


とこの時、別のグラシアス&グロリアスの一組が彼女の背後へと迫っていた。
仲間の犠牲を無駄にはしないと、ほぼ同時にベヨネッタの死角を突こうとしたのだ。

だが彼らもまた、彼女に触れることはできなかった。
起動された『世界の目』を有するベヨネッタにはもはや死角など存在しない。


ベヨネッタ『―――がっつき過ぎよボーヤ!!順番を待ちなさい!!』


ベヨネッタがくるりと身を翻して、闘牛士のように回避。
そして双天使が突っ込んだ先に待ち構えていたのは、パックリ蓋を開けた拷問具―――『鉄の処女』。

血錆びおぞましい棺おけへ、哀れな双子は自ら飛び込んでしまうこととなった。



620:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:12:39.28 ID:fTqt1u+3o

髪をとき放ち絶頂の腕飾りも装着している今、彼女の力は極限に達していた。
グラシアス&グロリアスという高位の天使でさえ一瞬にして貪ってしまうほどに。

次の瞬間、隙間から悲鳴と共に鮮血を噴出させる二つの棺おけ。
その壮絶な断末魔と末路には、周囲の上級三隊ですら明らかに怯んでいた。

一瞬動きが止まる天使たち。

そんな彼らを見、ベヨネッタは鉄の処女の一つに寄りかかりながらふと、
思い出したよう冷めた声を放った。

ベヨネッタ『あら、そう遠慮しないで。悪い子たちの分はみんな予約済みなんだから―――』

そしてニコリと微笑みさらりと告げて。


ベヨネッタ『――――――すっきりさっぱり皆殺しにしてあげる』


鉄の処女を二つとも、軽やかに蹴り飛ばした。


ベヨネッタ『―――それと予約キャンセルは受け付けないわ!!』


弾き出された鉄の処女は砲弾のように吹っ飛んでいくと、
それぞれ滞空していた蛇の如き天使―――インスパイアドの頭を叩き潰した。



621:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:15:51.25 ID:fTqt1u+3o

この二撃により空気の凍結も打ち砕かれたか。

天使達は、己が背水の陣にいることを今一度覚悟したようだ。
次の瞬間堰を切って動きだした彼らからは、半ばやけくそ染みた戦意が放たれていた。

そんな彼らを見、ベヨネッタは「そうでなくちゃ」とほくそ笑む。

徹頭徹尾意志を貫く敵、
その鉄のごとき覚悟を―――無残に砕くのは最高に楽しいものだ。

そうして彼女は意気揚々と、嵐のように押し寄せてくる天使たちへと飛び込み。
自らがそれ以上の殺戮の『嵐』を巻き起こした。


ベヨネッタ『―――Ho-hu-Ha!!』

両手に出現した魔具―――ドゥルガーの三又の爪が、天使達を切り裂き。
解放状態のウィケッドウィーブが一纏めに薙ぎ払っていき、
『地面』―――テンパランチアの腹の上にも溝を刻んでいく。

ベヨネッタ『―――YeeYA!!』

次いでかけ声で魔方陣から飛びだす巨大な足、
『マダムバタフライ』の鋭いかかとが複数体をまとめて圧砕。

轟くのは凄まじい激音と天使たちの断末魔、
そして腹の外皮を剥がされた節制の呻き声だ。

それらが眩い閃光とともに盛大に飛び散っていき、この殺戮の嵐に彩を添えていく。



622:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:18:35.55 ID:fTqt1u+3o

刹那、ベヨネッタの腕に絡む『鞭』―――艶やかな女性型の天使、ジョイの一振り。

ベヨネッタ『―――っふん!』

その縛に彼女は動じるどころか、勇み踏ん張り―――強引に引っぱり返した。
今のベヨネッタには、この程度など縛の役割など果さないのだ。

ベヨネッタ『―――Ha!』

そして一閃。
引き寄せたジョイの身を、その手に出現させた魔刀―――修羅刃により腰元を破断。

ベヨネッタ『―――ha! hu!』

上下分断された天使が己の死に気付くよりもはやく、ついで彼女はすばやく踏み込み、
動きを止めることなく他の天使たちも斬り倒しいく。

それもウィケッドウィーブの応用術、10m近くのも巨大な光刃を伸ばし、
一振りで複数纏めてだ。

そんな斬り乱れる彼女を止めるべく、立ち塞がり猛然と十字槍を薙いでくるブレイブス。

だが当然その程度では止まりはしない。
いや、修羅刃の使用という限定的な意味では成功したと呼べるかもしれない。

彼女はブレイブスの刃を跳んで回避すると、巨躯の天使の頭上まで舞い。


ベヨネッタ『―――Ya-Yeh!!』

修羅刃を振り下ろし―――兜割り。

―――脳天をかち割り華麗にフィニッシュを決めた。



623:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:23:40.93 ID:fTqt1u+3o

絶命し倒れるブレイブス、
その巨体の背を優雅に滑り降りたベヨネッタ。

天使から噴き上がる鮮血が舞台装置のように花を添え、、こうして修羅刃の舞は一連の区切り。

しかし彼女の狂乱そのものがとどまることはない。

彼女が地に足をつけた途端、爪先に魔方陣がうかび。
息つく間もなく現れる『凶器』は―――『三角木馬』である。

その背にある見るからに痛々しい刃、そこにこびりついている天使の血には
覚悟を決めた上級三隊であっても戦々恐々もの。

これの突然の登場に、周囲の天使たちの動きが一瞬とまってしまう。

そんな者達の中へと、「決めた」とばかりに伸びる鞭クルセドラ。
一体のジョイがすかさず囚われ、公開処刑の憂き目にあうこととなった。


ベヨネッタ『Hi-YA!』

きわめて軽快なかけ声とともに、哀れな彼女は一気に引っ張り寄せられ。
この木馬の上に激しく据え付けられ、鎖で固定。

そして瞬時に締め上げられていった。
放つは歓喜とも悲鳴とも(状況的には間違いなく悲鳴なのだろうが)聞える叫び声。


ベヨネッタ『あら嬉しい!そんなに喜んでくれるなんて!』

木馬の頭部に立つベヨネッタは、そんな彼女の反応に心のそこから嬉しそうに微笑むと、
両腕を宙にかざし次なる凶器を召喚した。

その腕に現れるは―――見るからに歪で恐ろしげな『チェーンソー』。
魔女はそれを旗印のように掲げ、戦慄的な駆動音を轟かせて。


ベヨネッタ『―――これは特別サービスよ!!』



624:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:26:01.74 ID:fTqt1u+3o

―――その時だった。

屈辱的な茶番に耐えられぬとばかりに、
一体のブレイブスが雄たけびとともに突貫してきたのは。

それによって、この哀れなジョイはチェーンソーの凶歯から辛うじて逃れることができた。
ただし次の瞬間、ブレイブスの一振りで木馬もろとも叩き潰されてしまったが。

その一撃は哀れな仲間の命を奪っただけ。

標的だった当のベヨネッタは―――くるりと跳躍して、
ちょうど振り下ろされた十字槍の切っ先前に降り立っていた。


ベヨネッタ『―――アンタも試したいの?!いいわ!!』

そしてニッと笑い返すとチェーンソーを手にしたまま、
ブレイブスへと即座に踏み切った。

かの天使もすぐに槍をひき抜き、迎え撃とうとしたも―――間に合うわけがない。

次の瞬間には、この巨躯の天使の股ぐらをベヨネッタは滑り抜けていた。

両膝をつき身を仰け反らす、リンボーダンスのような姿勢で、
股に添えたチェーンソーを『男性の象徴』のように立たせたまま。

彼女のが抜けて一拍ののち―――ブレイブスの股から噴き毀れるおびただしい量の鮮血。


ベヨネッタ『―――これで少しは足が長くなるかしら!!そぉらっ!』


天使の苦悶に満ちたうめき声が発されかけたのも束の間、
彼には更なる苦痛の追い討ちが訪れる。

滑りながら立ち上がり、振り向き片目を瞑るベヨネッタ。

彼女が爪先で地を叩くと、巨躯の天使の直下から、
ブレイブスの身の丈にあわせた特大の三角木馬が現れ―――彼を突き上げてその背に乗せた。



625:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:27:52.71 ID:fTqt1u+3o

ジョイのものとは違い、それはそれは猛々しい咆哮だ。
だが滲んでいるのは同じ極なる苦痛。

ベヨネッタ『―――Humm』

そしてそれが中断され―――彼が『楽にさせられた』のも、さっきと同じ。
ベヨネッタ謹製の『悲鳴放つオブジェ』、それをぶち壊しにしたのはテンパランチアだった。

振るわれてきた超級の拳が、この哀れなブレイブスを木馬ごと叩き潰した。
周囲にいた多くの者達を全員巻き添えにして。

ただし即座に駆け抜けた『黒豹』―――ベヨネッタを除いて。


黒豹は目にもとまらぬ速さで節制の胴から肩、そして背面へと疾駆しては跳びあがり。
身を翻して人型へと戻ると、振りむきテンパランチアの巨大な背を見おろして。


ベヨネッタ『まだよ、まだこれからよ―――アンタ達のツケはこの程度なんかではチャラにならない―――』


ぎゅんと足を振るっては、弓の弦を張るようにひき締め。



ベヨネッタ『―――――――――楽に死ねると思うなよ』


そして笑みの消えた顔で鋭くそう告げると、
溜めに溜めた『蹴り』を解放した。


ベヨネッタ『―――YeeeeeeeeeYAAA!!』


その一蹴りと連動して放たれるのは、通常の脛のみならず―――


―――マダムバタフライの『ふともも』までも引き出した特大のウィケッドウィーブ。


極限の一撃だ。

それを受けて一転直下、
テンパランチアの巨体は今度こそ『正式な下』へと落下していった。



626:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:30:19.56 ID:fTqt1u+3o

そのテンパランチアの転落を、
上条達は500mほど離れた場所から見ていた―――どころか『巻き込まれた』。

節制の巨体が虚数学区の廃墟に激突し、
大地には一瞬にして亀裂がはしり、そして宙にまう地殻のかけら。

それぞれが巨大なビルほどの大きさがあるか、
その一つの上で、上条達は粉塵混じりの爆風に晒されることとなった。

上条「―――っ!!」

虚数学区が割れてしまうかのような衝撃だ。
だが上条と風斬は、圧倒される暇もおしいとばかりにすぐ次の行動に移ろうとした。

この大破壊をわざわざ観戦する必要は無い。
むしろこんな危険領域に長居は無用である。

今の最重要課題は一方通行の安全の確保であり、それは人間界に降りさえすればひとまず達せられるのだ。

大小無数の瓦礫の雨のなか、
一方通行とカマエルを翼に包み背負った風斬と上条は、
そうして人間界に降りるべく―――移動用の陣を出現させようとしたのだが。


このようなあと一歩という状況に限って、しばしば執拗な妨害が入るものだ。


風斬『危ない!!』

移動用の陣の構築、その作業はすぐに中断させられてしまう。

咄嗟に叫んだ風斬の声で、彼女とともに上条が跳躍すると、
今まで立っていたビルほどの『地殻の欠片』が、裏側から一瞬にして砕かれた。

飛び散る瓦礫の向こうから姿を現したのは―――ブレイブスだ。



627:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:33:02.36 ID:fTqt1u+3o

もともとこの天使の位階は中級三隊だが、
三体が合体した今の巨大化状態ならば、上級三隊のに属するほどのものになる。

―――だがそれでも一対一においては、風斬ほどの存在には及ばない。

風斬『―――はぁ!!』

瞬く間の出来事だった。

飛び退きざまに風斬が光剣で一閃。
その刃が一気に伸び―――ブレイブスの大きな首を飛ばして勝負は決された。

ただその勝利も、あくまで局所的なものに過ぎない。

上条「来たぞ!!」

節制の墜落で巻き上がった大小様々な瓦礫の雨のなか、
その隙間を縫い方々から、大勢の天使達が向かってきていた。

こちらを数で圧倒するべく。


風斬『―――!』

天から降りて絶望的な場を脱したものの、状況は依然きわめて切迫していた。

上級三隊が相手となれば、一度に相手に出来るのはせいぜい5、6体か。
だが今この時、瞬間的に認識できるだけでも周囲には30体以上もおり、
もはや人間界への移動を試みる以前の問題か。

一方通行の命の保持すらも危ういのが明らかだった。



628:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:34:31.30 ID:fTqt1u+3o

そうと判断すると、上条当麻もすぐに力を解き放った。

白銀の光を纏っては、左手と両足は獣的な造形へとなり鋭い爪を携え。
そして盲目の瞳は赤く煌々とし、髪はたてがみのように伸びては黒から白銀に変じていく。

そうした上条の姿を見、風斬の背から一方通行がぼそりと。

一方「ハッ……俺みてェだな」

上条『うるせえ黙ってろ!!』

風斬『怪我人は黙ってて!!』

二人はこの緊張感のない声を同時に一蹴しつつ、
別の大きな地殻片の上に降り立ち。

上条『―――俺の後ろに!!』

二人のけが人を持つ風斬の盾となる位置で、
上条は上級三隊の天使たちを迎え撃った。


まず飛びかかってきたのは―――グラシアス&グロリアス。

雷光放つ金と白のグラシアスが左から、業火噴く金と黒のグロリアスが右から、
それぞれ一糸乱れぬ動きで襲いかかってきた。



629:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:36:39.93 ID:fTqt1u+3o

上条『―――ッく!!』

凄まじい速さで乱れ振るわれる三又の巨大な爪たち、
その壮烈な攻撃はまさに嵐のよう。

上条も負けじと回避しては弾いていくも、やはり左手一本では捌ききれるものではないか。
後に退きざるを得ないほどの猛攻、しかし背後にもあまり余裕も無かった。

背後の風斬にも別の天使が向かい、
彼女の方でもはやくも手一杯の状態となっていたのだ。

上条『くそッ!!』

左腕と天使の爪が激突し、火花閃光をちらしていくも防戦一方。
弾く左腕には痺れが蓄積していき、爪が重なるたびに感覚が欠落。

修復よりも速いペースで左腕に傷が生じていく。

そんな形勢を打開するべく上条はもう一つ、
この悪魔の力とはまた別のある手を使うことにした。

以前まではとても出来なかったことだ。


彼は素早く『幻想殺し』を腰に回し―――黒き拳銃を抜いた。



630:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:38:58.27 ID:fTqt1u+3o

以前ならば、弾薬精製・自動装填などの術式を破壊してしまうため、
この銃を右手では持つことができなかったも、
『幻想殺し』の制御が可能な今なら問題なかった。

今の召喚された上条当麻は、インデックスが知る最新の形、竜王に統合される直前の状態だ。

ゆえにこれまで通りの『幻想殺し』としての運用はもちろん可能であり、
さらに『竜王の顎』としても稼動状態であるために、制御が可能になっていた。

またこれこそが、今の竜王が全能には達しえない理由でもあった。

顎を上条が持ち去ってしまったため、現在の竜王は『喰らう』ということが出来ない。
すでに飲み込んである創造・具現・破壊は、完全稼動している『行使の手』によって使用できるも、
その三つを統合させること―――『再咀嚼』はできないのである。


そして上条の方もまた、
『胃袋』は竜王が有しているため、
『竜王の顎』の主たる力―――際限なく喰らうという行為は行えない。

それでも幻想殺しが制御可能であることは、今の状況の中でも非常に役立つ。
ダンテから授かった銃が右手で扱える、ただそれだけでも大きな力である。



631:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:43:21.49 ID:fTqt1u+3o

上条『―――シッ!』

素早く拳銃をひき抜いた上条。
天使の爪を外に弾きざまに、開いたグラシアスの胸元へと放つは銀の魔弾。

形勢を覆すには充分な一発だった。

装具の欠片と鮮血を散らせて仰け反るグラシアス。

そこに生じた双天使のコンビネーションの遅延は、
上条にとっては一気に畳み掛けるに充分な隙だ。

直後、すかさず踏み込んできた相方のグロリアス。
これまでは、ここにまたグラシアスの攻撃がすぐに重なるために上条は防戦一方であったが、
この時はもう違っていた。

グロリアスの薙ぎ払いを、身を落として左腕で撃ち流すと同時に、
低くした右手からグロリアスの膝元へと発砲。

そして体勢を崩したその瞬間を逃さずに、すばやく喉もとへと蹴り上げを叩き込んだ。

グロリアスの仮面の下部が砕け散り、覗くはこの衝撃で歪んでいる異形の口。
次の瞬間には、その軋む牙達がこの圧力から解放―――される、
この上条の一撃が『通常の蹴り』だったのならばそうなっていただろう。

だがこの時は違っていた。

上条は蹴り『飛ばす』ことはせず、
異形の爪先でこの天使の喉を『鷲掴み』にしていたのだ。

そうして彼は、そのまま引いては地に叩き伏せ。
―――踏みつけて―――すかさず頭部に止めの魔弾を撃ち込んだ。



632:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:46:17.84 ID:fTqt1u+3o

一瞬の出来事だった。

胸に魔弾を受けたグラシアスがようやく体勢を立て直した頃には、
彼の相棒は躯と化していた。
そして彼もすぐに相棒の後を追うことになった。


グラシアスが反撃に転じてくる暇すらも与えずに、
上条はすばやく踏み込んでは天使の腕を蹴り弾いた。

瞬間、金属的破砕音とともに根元からへし折れ、宙を舞う一本の天使の爪。

その剣のごとき爪を、たんと跳ねた上条が『爪先』で『掴み』取り。
もう一度身を翻して―――回し蹴りの動きでグラシアスの顔面に突き刺し―――葬り去った。


―――と、このように一瞬の隙をついて双天使を倒したのも束の間。

上条『―――っ』

次の瞬間、上条は後ろから勢い良く弾かれてしまった。

しかしそれに対して彼は特に抗おうとはせず、
押されるがままに身を委ね、それどころか自らも地を蹴った。

背を押したのは風斬の翼だったからだ。

そうして一気に跳躍した直後。
二体のブレイブスの突貫により、今しがた立っていた地殻の欠片が粉砕された。



633:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:48:49.27 ID:fTqt1u+3o

双天使の一組を屠ったも、
それだけではこの戦いの状況はほぼ変わらなかった。

むしろあそこで押しとどめられていた間に、より天使たちの包囲が強くなってしまっていたか。

飛び散る瓦礫の雨の中を縫い、ようやく大地に降り立った上条と風斬。
だが息つく間もない、二人への上級三隊の攻撃はさらに勢いを増していく。


上条『ッ!』

まずは離れたところを滞空していた蛇のごとき天使、
インスパイアド達からの火弾の雨が押し寄せてきた。

一斉砲撃によるとんでもない密度の弾幕だ。

風斬『―――伏せて!』

回避する余地がない、そう悟った刹那に背からひびく風斬の声。
上条は半ば反射的にそれに従い伏せるように身を落とすと、入れ違いに上方に風斬の翼が展開。

盾の傘となり、この火弾の雨を防いだ。

また上条もただサポートされてばかりではない。
この時ほぼ同時に手首だけを返して後方に発砲。
風斬の前に降り立ったブレイブスの膝を的確に撃ち抜いていた。

そうして支援を交差させた直後。
翼の傘が消えた先、上条の真上に女性型の天使―――ジョイが姿を現した。


そして上条が反応する間もなく彼の脳天へと、そのしなやかな足による蹴り下ろしが放たれた。



634:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:50:57.27 ID:fTqt1u+3o

上条『―――がっっぐ!!』

―――明滅する意識。

鮮烈な衝撃のあとに浸み込んでくる鈍痛。
したたかかつ額が割れそうなほどに鋭い一撃だ。

そんな衝撃の中、意識の端にて上条はあることに気付いた。

いや『思い出した』。

上条『っ―――』


今の一撃を放ってきた『この個体』―――『彼女』を覚えていると。


人間などには個体の区別などつかないであろうが、
それはジュベレウス派の者達が人間の個を認識しないのと同じだ。

上条にはそれぞれが当たり前のように識別でき、懐かしく―――覚えのある者もいた。
皆それぞれ個があり、感情もあり、誇りと固き信念もある者達。

中には派閥の垣根を越えて笑いあった者すらも。


―――だが今この瞬間の再会には―――穏やかさなど微塵もなかった。



635:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:53:06.48 ID:fTqt1u+3o

前世の同族であろうが、顔見知りであろうが今は『敵』である。
それ以外の何ものでもない。

相手が『旧友』だろうが『女』だろうが、
どちらも意志が覆ることがない以上、そこには容赦が割り込む隙は無い。


殺しに向かってくる強者に対する手段はただ一つ、こちらも無比の殺意をもって対することだ。


上条『っく!』

上条はなんとか踏ん張り姿勢を保つと、一切の躊躇いなく反撃に出た。

低い姿勢から一気に手を伸ばし、
彼女の頭から伸びている髪にも見える―――『翼』のひと房を掴み。

千切れんばかりの勢いで引っ張り寄せては、
ジョイの頬に半ばぶつけるように銃口を押し当てて―――すぐに引き金を絞った。


耳を劈く発砲音と同時に、女天使の頭部が消滅した。


また一つ、それが自然の摂理のように灯火が消えていく。
今の上条当麻にとっては人間のそれと等価値である魂が。

だが彼には、その手に掴んでいた亡骸を無造作に投げ捨てることしかできなかった。

死者への礼節を手向ける暇など与えられない。
戦いはまだまだ続いていくのだから。



636:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:54:33.47 ID:fTqt1u+3o

ブレイブスの10m以上もあろう十字槍が、握る主の肘先をぶら下げたまま宙を舞った。

風斬が斬り飛ばしたそれが、ヘリコプターの分離したローターのように暴れ回り、
地に激音を奏でて突き刺さり。

そして本体は残ったもう片方の腕を振るい、
風斬とその背後にいる上条もろとも叩き潰そうと一気に突進。

だがその捨て身の攻撃は空振りに終る。

跳躍した風斬によって踏み倒され、
倒れながら振り下ろされた拳は、上条の僅か30cm前の地を穿ったのみ。

このブレイブスが最後に目にしたのは、
低く振り向きざまに銃口を向けてくる上条当麻、そして禍々しい悪魔の銀光である。

次の瞬間、その彫像のごとき顔の額が撃ち抜かれた。


上条『―――!』

とその時―――ブレイブスの巨体を踏み潰す『更なる巨体』が突如現れた。
圧倒的な力を有す存在だ。

ただし敵ではなく―――喜ばしいことに上条の『肉親』であった。

飛びあがっていた風斬のすぐそばを突き抜けるようにして、
豪快に着地してきたのは白銀の魔獣。


ベオウルフ『―――小僧!!難儀しておるようだな!!』


上条『ベオウルフ!!』



637:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:57:58.12 ID:fTqt1u+3o

ベオウルフが加わったことにより、戦いは一気に好転していった。

依然天使たちの猛攻が続き、移動用の光陣を布く隙はなかったが、
それでも戦いながらも移動できる程度の余裕は生じ。

風斬『―――テメンニグルの塔に!!』

どこに向かうかもすぐに決定した。


かの魔塔の界域はここよりは防備が調ってる。
天使たちを引き連れ戦場ごと移動するにせよ、この天門直下で戦い続けるよりはずっとマシだ。

それにベヨネッタとテンパランチアの戦いからも遠ざかりたい。
巻き込まれるのを回避するのはもちろん、彼女の邪魔にもなってしまいかねないから―――なのだが。

その点についてはもう遅かった。

すでに彼女の戦いに水を差してしまっていたのだ。


上条『―――』

これは前世からの天使としての知覚によるものだろう。
最上の意志にはきわめて敏感なのも当然だ。

瞬間、上条は己の方にまっすぐに向けられている意識にすぐに気付いた。


瓦礫の雨の向こうのかの存在―――テンパランチアが、こちらを見据えていたのだ。


相対しているベヨネッタを脇に置いて。



638:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/03(火) 23:59:03.54 ID:fTqt1u+3o

ベヨネッタから意識を逸らしてまでこちらを注視する、
そのテンパランチアの狙いは、上条にとっては考える間もなくわかることだった。

竜王がこの虚数学区のシステムを四元徳に流したのは、
上条も自分の行いとして『見ていた』。

人間界を守るこの目障りな虚数学区の壊し方、
それを知っているテンパランチアは、今こそそれを達すべきだと考えたのだ。

一方通行の排除により虚数学区を破壊、戦いの場を学園都市―――人間界に移そう、と。


理由は簡単だ。

学園都市を守る者達とベヨネッタが仲間であることは、テンパランチアの目からも明白。
そこで人間界に戦禍に及ぶことで、
ベヨネッタに対する大きなアドバンテージが生じると考えたのだ。

周囲への損害が気になって全力を使うことを躊躇い、戦いに完全に集中できないだろう、と。

かたや四元徳としては、
セフィロトの樹も切断された今、現行の人類世界を滅ぼすことを躊躇う必要も無い。
そもそも人間界の『浄化』も、最初から選択肢の一つにあったのだから。



639:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/04(水) 00:01:19.10 ID:DxrDg9bpo

かの史上最強の魔女とまともに戦えば敗北は確実、
その点を考えれば、テンパランチアの選択はきわめて道理に適っていた。

もはやジュベレウス派の立場は絶望的、
これも苦し紛れに近いとはいえ、節制はまだ勝負に諦めてはいないのだ。
その『名』に反するほどに怒りに震えながらも決して自暴自棄にはならず、
僅かな可能性に賭けて勝ちに行こうとしてる。


大木のごとき両腕を打ちつけて身構えているテンパランチア、
そのひび割れた巨顔はまっすぐに上条達の方に向いていた。


上条『くそっ―――くそったれが!』


上条はその敵ながらに天晴れな姿勢に称賛―――悪態を捧げた。


上条『行くぞ!!早く!!』

そして上条は踵を返すと、仲間とともに地を踏み切った。


状況はまたもや一転、これは悪化と言えるだろう。
結果としてテンパランチアを魔塔まで引き寄せてしまうことになろうが、とにかく進むしかない。
追いつかれれば一貫の終わりだ。

ベヨネッタが上級三隊の邪魔を退けて、
テンパランチアを引き留めてくれることを祈るばかりである。

そうして押し寄せてくる天使たちの猛攻をなんとか退けながら、
上条達はテメンニグルの塔へと向かっていった。
文字通り『逃げるよう』に。



640:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/04(水) 00:04:20.15 ID:DxrDg9bpo

そして上条の考えている通り。


ベヨネッタ『―――――――――あっヤバっ―――』


テンパランチアは猛烈な嵐を纏い、
巨体に似合わぬ速度で飛びあがった。

もちろんベヨネッタにではなく―――上条達の方へ。

そうして入れ違いに彼女の前に次々と降り立つ天使たち。
その目的もまた当然、このベヨネッタを留める時間稼ぎのためだ。


上級三隊程度では、この史上最強の魔女を釘付けにすることなど決してできない。
だが無視できるほど弱くも無い。

一体が生じさせられる時間は僅か、しかしその積もり積もっていく屍が、
確実にテンパランチアとベヨネッタの差を広げていくのだ。


ベヨネッタ『―――待てこの腑抜け!木偶の坊!!』


ベヨネッタもまたすぐさま駆け出した。

あらゆる魔導器・魔具を使い、
先々に塞がる天使立ちを片っ端から屠り、テンパランチアを追い―――テメンニグルの塔へ。



こうして天と魔、そして人の戦場は一つに集束していくこととなった。
大いなる結末へと向けより加速して。

―――



641:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/04(水) 00:05:00.11 ID:DxrDg9bpo

今日はここまでです。
次は金曜に。



642:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/04(水) 00:07:34.99 ID:AmJQ3e6Ko

お疲れ様でした。
ブレイブスの股ぐらは犠牲になったのだ・・・放置プレイのご褒美、その犠牲にな・・・



643:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/04(水) 01:33:33.81 ID:BjoSJtfdo

上条さん、やっぱ風斬とかに比べると弱いなぁ……



645:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/04/04(水) 01:35:28.76 ID:g/JnKVYmo

お疲れ様でした。



649:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:10:18.13 ID:QFFbkzNdo

―――

テメンニグルの塔、その中層から上層にかけての周囲にて。

押しよせてくる悪魔を前に、
ある『魔剣騎士』―――『最強の人間』が壮絶な戦いをくり広げていた。

ネロ「―――おおおお!!」

爆炎ひく大剣―――レッドクイーンを手に、魔塔の壁を駆けあがっていくネロ。
対するはベルゼブブ配下の大悪魔たちだ。

彼らは降臨するやすぐに憎悪と功名心、
そして強き力に魅せらせ次々とネロに向かっていった。

まず先陣を切ったのは巨大な獅子のような大悪魔だ。
とはいえ足は八本、目は四つあり、顔もトカゲのそれに似ていたが。

そのような、牙をむき出しに壁を駆け下りてくる獣神へとネロは真っ向から激突。
駆動する大剣を叩き込んだ。

ネロ「―――Die!」

前面を一掃するべく薙ぎふるわれた刃、
それがこの大悪魔の上顎を切断―――業火を交えて斬り飛ばす―――

―――だがそれでも大悪魔、差は歴然とはいえ一撃で滅びはしない。



650:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:11:57.66 ID:QFFbkzNdo

『獅子』は頭部を欠損させられてもなお動きを止めず、
勢いを緩めることなくネロへと突貫、巨体による体当たりを仕掛けた。

その闘争心は天晴れなものだ。
やはり大悪魔、力と武を誇る生き様は徹底しているか。

そんな『気高き闘志』は、続くネロの二撃目で容赦なく粉砕されたが。


青き光で形成された大きな―――『魔騎士の頭突き』によって。


デビルブリンガーと呼んでいた力は健在だ。

それどころかネロは完全に我が物とさせ進化、
今や右手のみならず全身から顕現させることが出来る。

アリウス戦で行ったように巨大な青き足で蹴りとばすのはもちろん―――『頭突き』なんかだって可能だ。

直後、獅子の体を巨大な魔騎士の角が切り裂き、
そのまま跡形もなく叩き潰した。

ネロ「―――Ha! Bastard!!」

鋭くはき捨てると、ネロは獅子の躯をそのままぶち抜き前進。
さらなる戦いへ向けて飛び込んでいった。

叔父に横取りされた『百柱斬り』を今度こそ果す、
という一族特有の負けず嫌いの気も彼を滾らせていたかもしれない。


向かってくる何体もの大悪魔達へと、
一見すると力任せ―――それでいながら実は練り上げられた技術上にある身のこなしで、
レッドクイーンの刃を叩き込んだ。



651:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:12:58.19 ID:QFFbkzNdo

その様相は肉切り包丁、もしくは斧か。
大悪魔の固き外皮どころか、その爪や剣がもろとも圧倒的パワーで破断されていく。

ネロ「Si―――!」

大剣を振りぬいた合い間、それを隙と見て突撃してくるは、
牛頭の巨躯、ミノタウロスのごとき大悪魔。

だが当のネロにとっては隙なんて存在してなかった。

大悪魔の動きをすぐに察知するや、
ネロはすぐさま壁から跳躍。

そして回避と同時に出現させた、巨大な光足で『ミノタウロス』をけり弾き、魔塔に叩き込む―――

凄まじい轟音を響かせて魔塔に激突、
一面の壁を崩落させ、奥深くまでめり込む『ミノタウロス』の体。

そこへネロは蹴りぬきざまに右手に持つ拳銃―――ブルーローズを向けた。


すると連動して脇に―――同じく縦に砲口が二つ並んだ『青光の大砲』が出現。


ネロ「―――Get down! Sucker!」

そうして放たれた火力も、堂々とした外観に相応しく圧倒的なものだった。

青き閃光の柱が二つ連なってミノタウロスに直撃。
その身を貫くどころか、魔塔の一区画ごと木っ端微塵に吹っ飛ばしてしまった。



652:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:14:12.83 ID:QFFbkzNdo

ネロ「―――はは!こいつぁダンテも羨むぜ!」

この威力には、ネロ自身ですらも興奮に満ちた声をあげてしまった。
己の力は完全に掌握、こうして放つ魔弾にどれだけの威力があるかも把握しきってはいるも、
それでも直に効果を目にすると気が盛るものだ。

得意げに口笛を吹きながら、ふたたび魔塔の壁に着地したネロ。
コートをなびかせ彼は勢いを増して悪魔の中を突っ切っていった。


彼の『背後』、正確には『下方』の魔塔中層部まわりでは、
後衛のイフリートとサンダルフォンがネロが討ちもらした大悪魔を掃討していた。

これほどの存在を二者同時に相手にするなど、
いくら名だたる大悪魔でも手負いの状態では到底無理だ。

下に向かった者達はことごとく彼らに討ち取られているため、
ネロが応援に駆けつけて以来、
地表には一体の大悪魔も到達できなくなってしまった。


そもそも、いまやベルゼブブ軍団は人間界への侵攻ではなく、
ネロを打ち倒すことが至上目的と化しているようである。

自らに集中するこの狂気とも呼べる戦意を、ネロは明らかに感じ取っていた。
全ての大悪魔達が、己の首級を死に物狂いで求めているのだと。



653:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:15:30.63 ID:QFFbkzNdo

イフリート達のもとにまで達する大悪魔も、正確には自ら降りたのではなく、
正確にはネロの凶刃に遭い叩きおとされたもの。

一柱たりとも自らネロとの戦いから抜けようとする存在はいなかった。


魔界史上『最悪』の『反逆者』、その血族への変わらぬ憎しみと、
そして圧倒的な強者の力。
それらが闇の中の灯火のように機能し、魔界の猛者達をひき寄せているのだ。


ネロの側からすればこれは非常に好都合だった。

この莫大な戦力をネロが一手に引き受けることで、
人間側に大きな余裕が生じるのだ。

将たちがネロに執心で、その恐怖による服従から脱した下等悪魔たちが好き勝手動いてはいるも、
それも魔塔の門を守るラジエルたちの敵ではない。

そしてこのネロの戦いにしても流れは順調、好ましい結果が先に見えていた。
驕りでも過信でもない、ただ正確無比にネロは『事実』を把握しているのだ。


これらベルゼブブ以下全将が相手であっても―――己は勝てる、と。


それだけじゃない、もし他の十強が大挙して押し寄せてきても、
この戦場が存続する限りならいくらでも戦うことができ、勝ち続けられると。


―――そう、『この戦場』が保っている限り、だ。


それはつまり、この言葉を反転すれば悪魔側にとっての『突破口』になるということであるが。
具体的には―――滝壺と一方通行、そのどちらかの死である。



654:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:17:02.20 ID:QFFbkzNdo

この時、誰しもがこのある『問題』を悟ることは出来なかった。

アーカムの存在は竜王の力によって支えられ、そのアーカムがこの悪魔達を手引きしている、
そしてアーカム自身は人間界が魔に染まることを望んでいる、

その関係性を『完璧』に把握していた上条当麻でさえ、
彼の置かれている状況的にここまで意識は回らなかったはずだ。


だが次なる展開で、この『問題』が誰の目からも明らかになる。

人間界への侵入を遮る障壁、
その壊し方を、四元徳のみならず――――――ベルゼブブもまた知らされていたのだと。


そのとき空気が変わった。


ネロ「―――やっとお出ましか」


空の上、渦巻く闇の置くから差し込んでくる圧にネロはすぐに確信した。
ベルゼブブがついに前線に現れると。

そうしてもう一つ。

特上の強者の出現にネロの力が歓喜したのも束の間、
それに気付いた彼の顔にはすぐに忌々しげな色が滲んだ。

殺意は向いている。
狂気に満ちた戦意が、変わりなく己に差し向けられていたのだが。

それとは別に、
陰険で悪意に満ちた『関心』が己を『突き抜けて』――――――遥か『下方』に伸びていたのである。



655:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:18:44.78 ID:QFFbkzNdo

それが意味することは明らかだ。
ベルゼブブは、己と真っ向から戦う他に『何か』を企てているということである。

ネロにはこの企てに思い当たる節があった。
ステイルの記憶を覗いていたため、滝壺や一方通行の重要性は知っている―――

直感的にネロは確信する。


―――ベルゼブブの下への関心は恐らく『それら』に向けられているのだと。


そうして次の瞬間。
まわりの大悪魔達の動きが一瞬止まると同時にベルゼブブがついに現れた。


ネロ「―――」

下等悪魔にも同じ名を冠する者達が存在しているが、
あれらはこの存在の名を借りた別物である。

そのためネロも、本物のベルゼブブも『蝿』のような姿だとは限らないとはわかっていたも―――

ここで目にしたその姿は少し意外だった。

空にぽっかりあいた闇色の門、その先から出現したのは――――――黒い『靄』だった。

一見するとただの暗雲のようにも。
しかしそこに宿る力は間違えようが無い、この場にいる侵略者達の中でも桁違いに巨大、
これが紛れも無くベルゼブブなのだ。

この捉えどころ姿を一目見たとき、ネロは瞬間的に嫌な予感を覚えた。
それはもちろん気のせいなんかではなく、またしても確かな感覚で。

このベルゼブブは『曲者』だと。



656:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:20:27.66 ID:QFFbkzNdo

刹那、一斉に動き出しネロに向かってくる黒い『靄』。


考える間もない、彼は反射的にレッドクイーンのアクセルを絞り、
爆炎を迸らせてこの靄を斬り掃った。


ネロ「―――Blast!」

手加減は一切なしの本気の一振りだ。

そこにみなぎる力に相応しく、ネロの刃は巨大な靄を完全に分断、
ついで噴出す業火でひとまとめに焼き掃っていく。

そうして実に9割以上の『靄』を、ベルゼブブの巨大な力ごと抹消したも。


ごくわずかな分だけが、この一振りを逃れて下方へとすりぬけていった。

ネロ「―――!」

本来ならば、この程度の力の残滓を討ち漏らしたことは特に問題じゃない。
イフリート達の手にかかれば一瞬でかき消されてしまうような程度である。

だが『あれ』はかの十強である。

魔帝やスパーダの領域にはまだまだ達していないものの、
魔界において覇の頂点に立つその力量や機知は見くびってはならない。

覇王に匹敵するとも充分に考えられる存在達なのだ。


そしてこのとき、ネロのそんな懸念が的中した。
すり抜けた靄の欠片、それを横目で追ったさきに彼は目にする。

今しがた確かに斬り掃った莫大な力が、なぜかあの靄の欠片にふたたび宿り。

次の瞬間、この靄を処理しようとむかったイフリートが逆に―――靄から飛び出した『鎌』のような『何か』で、
彼方へ吹っ飛ばされてしまったのを。



657:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:23:07.83 ID:QFFbkzNdo

嫌な予感は見事的中した。

ネロ「―――やっぱりそう来たかクソッタレ!」

明らかに手応えはあった。
レッドクイーンの渾身の一振りが、確かにあの靄の大半の力を剥ぎ取った。

それなのになぜ―――またあの靄に力が戻っている?

だがその理由よりも、まず先に対処せねばならない点があった。

結果的にほぼ無傷のまま靄が下に抜けてしまったことだ。

それに対するネロの責務はただ一つ、あの靄を追って下に向かわねばならない。
他に対処できる者がいない以上そうするしかない。


だがそうすると、またしてもある大きな問題が生じる―――ここにいる多数の大悪魔達を留める存在がいなくなってしまうことだ。

イフリートが戦闘可能だとしても、サンダルフォンと彼だけではこの数を相手にするのは無理だ。
袋叩きにされすぐに殺されてしまうのが目に見えている。

つまりは、自ずと主戦場を共に下に移さざるを得ない。
もちろんそれはあまりにも危険すぎた。


魔塔の門前付近で戦うと、大悪魔の魔塔進入を許してしまう可能性が格段に上昇してしまう。

その者達を倒すべくこちらも中に入ったとしても、
他の者達がいる中で―――ましてや普通の人間達がそばにいる場で、
複数の大悪魔相手に、ここでやっていたようにフルパワーで大立ち回りを強行するなんてできるわけがない。

己の余波で、滝壺などが死んでしまいかねない。
そして門前の防御も薄くなってさらなる進入を許してしまい、情勢は急激に悪化していくであろう。



658:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:25:29.73 ID:QFFbkzNdo

ネロ「チッ!!」


しかし追わねば状況はもっと悪化するのは明白だった。

己がベルゼブブを止めなければ、どのみち滝壺は殺されることになる。

そして魔塔の隔離が解け、多数の大悪魔と大軍勢が一気に人間界に流入。
それもまずは人口密集地の学園都市、関東圏に。

それだけじゃない、様子見していた他の十強も確実に動き出し、
戦火は一気に全世界に拡大、
全十強配下の千体の悪しき神々がこの世界を瞬く間に蹂躙するだろう。

ここまで達してしまったら、もうネロという個人の勝ち負けは別として、
人間界を守りきることは不可能だ。


―――そのような最悪の結果だけは、なんとしてでも避けねばならない。


ネロはすぐに決断する。
多くの懸念をふりはらうと魔塔の壁をけって一転、『靄』の後を追った。

一斉に降下してくる大悪魔たちを引き連れて。



659:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:27:08.28 ID:QFFbkzNdo

靄は次いでサンダルフォンに向かっていた。
サンダルフォンの方も避けるつもりは無かったようだ。

彼も状況を的確に理解しているのだろう、
身を挺してでも時間を稼ぎネロに追いつかせようとしているのである。

そうしてこのサンダルフォンと接敵する瞬間、またしても靄の中から何かが飛び出し。

この時はネロにもはっきりと見えた。
ベルゼブブの『真の姿』が。

やはりと言うべきか。
『靄』の状態はかりそめ―――移動用か回避のための姿だったようだ。

よく『蝿』の表現を使われるだけあって、
その姿は『虫』と呼べるに相応しいものだった。


ただしネロの率直な感想では、蝿よりも―――黒い『カマキリ』に見えた。


頭から尻まで5mほど。
大きな角のある頭部は蝿のそれにそっくりか、
だが腹と上半身はすらりとのび、同じく長い四枚の翼。

そしてよりカマキリたらしめているのは、見るからに凶悪な大きな『鎌』である。


しかもその数は一対ではなく―――三対もあった。



660:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:29:27.04 ID:QFFbkzNdo

そうしてその一本が、
サンダルフォンの蹴り上げなどものともせずに彼の身を吹っ飛ばす瞬間。

かの天使の身を挺した行動は、
時間稼ぎ以上の収穫をネロに与えてくれることとなった。


ネロはここで一つ、かなりの確信をもって推測できたのである。

少なくとも攻撃するには、
ベルゼブブはあの『カマキリ』状でいなければならないのだろう、そうとなれば。


恐らくカマキリ状の時に切り倒せば―――今度はしっかりと殺せる可能性が高い、と。


とその直後。
ネロはまたもやこの場に生じた大きな波紋を目にした。


ネロ「―――ッ?!」


もはや姿を隠していない『カマキリ』を追う先、
はるか下の地表に見えるのは、どこからともなく魔塔に向かってくる三つの『光点』。

その正体はすぐに判別できた。
まずはベオウルフの巨体、
そして人間界の天使―――風斬と銀光纏った上条当麻である。



661:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:31:53.70 ID:QFFbkzNdo

三者は一目散にこの魔塔のふもとに向かってきていた。
後ろに敵と思われる天使達の光点をぞろぞろ引き連れて。

さらにその向こうには山のごとき『天の存在』と、例の魔女の圧も感じるか。

この一連の状況、何が起こっていたのかは正確には判断がつかなかったも、
さらなるあるものを見出して、ネロは大まかに悟ることが出来た。


風斬の背、巻かれている二枚の翼のうちその片方に―――人界神の新王、一方通行がいたのだ。


そして。


やはりベルゼブブもまた―――滝壺や一方通行のことを詳しく把握しているようだった。


鍵を握る少年を認めた途端、
さらに下降を速め―――彼へと真っ直ぐに向かい始める『カマキリ』。


ネロ「―――Hooooly―――fuuuck!!!!」


その存在を追い魔塔の壁を駆け下りていくネロ。
思わず口から漏れるは、
二重三重に問題が連なる展開への悪態である。

ただしここまで状況が転じようとも、幸いなことにネロの責務は特に変わらなかった。
彼の目下の最重要課題は、
ベルゼブブを含め―――滝壺と一方通行を狙う存在を皆殺しにすることであり。


変更点は単純にしてたったひとつ、その殺害リストに天の存在も加わっただけである。


―――



662:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:33:13.27 ID:QFFbkzNdo

―――

その上方からの脅威に気付いたのはただベオウルフのみ。

テメンニグルの塔の麓、門前の広場を目前に飛び込んできた上条たち、
彼らを迎え入れようとするシェリーとヴェント、
そしてラジエル、ザドキエル、ハニエルら名だたる天使たちは、
その全員が全く反応できなかった。

また唯一察知できたベオウルフでさえも、初撃を退けるだけで限界だった。


突然停止し、風斬と上条を叩きふせる魔獣。
その瞬間、己が倒されたと二人が認識するよりも早く。


倒されなければ一瞬後に上条達がいたであろう位置にて―――ベオウルフが『押し潰された』。


上から砲弾のように降って来た『何か』に。


上条『―――っ』

何が起こったのかまるで理解が追いつかない。
だが大まかな出来事は、親切なことに状況の方が自ら教えてくれた。
そこに提示された状況は『最悪』のものだったが。


目の前には、地にめり込むベオウルフの上に―――『カマキリ』のような姿をした存在。


その異形の『巨虫』から発せられる圧を認識した瞬間、
ここでようやくみなが本能的に悟り、到来した新たな『災い』に戦慄することとなった。


魔界十強に名を連ねる存在、その圧倒的な力を前に。



663:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:35:06.30 ID:QFFbkzNdo

上条『っぁ―――!』

アスタロトを前にした時と似た感覚だ。

絶対に抗うことの出来ない圧倒的な敵意と悪意。

己とは天と地ほどの差があり、
何をどうやっても傷一つつけられないのは試すまでもなく明白。

無力な人間がはじめて大悪魔、神域を目にした際の衝撃と同じように、
逆らえぬ畏怖とともに本能的に悟るのだ、この存在はもはや次元が違うと。

ただしこの存在はアスタロトとは違った。
あの恐怖大公のように獲物を弄ぶ気は欠片もない、上条は瞬間的にそう受け取った。

目的は『殺す』、ただそれだけだと。
もちろんそれは『良いこと』ではない。


相手の狙い、次なる動きがわかっていても、
これほどの存在の速度にはついていけるわけがなかった。
それも手加減なしの必殺の攻撃ならばなおさら―――

地に伏せったまま、上条も風斬も何もできなかった。

あまりにも速すぎて何が起きたのかも、リアルタイムでは認識できなかった。
カマキリが、ベオウルフから鎌を引き抜く動きも認識できなければ、
ついで放たれた一振りさえも―――


―――そして鎌の切っ先が風斬を貫く寸前、真上から伸びてきた『青光の巨足』が―――カマキリを横へ蹴り飛ばし。


―――己たちが間一髪で救われたということも。



664:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:36:33.32 ID:QFFbkzNdo

上条『うぉぉっ―――?!』

よくやく彼が何らかのアクションを示せたのは、
目の前にコートはためくネロの後姿が降り立った頃だった。

上条『―――ベオウ―――!』

ベオウルフはまだ生きていた。
ネロの前にて、酷い傷を負いながらもなんとか起き上がろうとしている。

だがこの魔獣に手を貸す暇もまたなかった。
一難去ってまた一難だ。

上条が魔獣の名を口にしながら立ち上がりかけた時、
今度は背後上方から覚える猛烈なプレッシャー。

こちらの源の正体は明らかである。


―――四元徳、テンパランチアだ。


風斬『!』

そしてこれまた上条と風斬は如何なる対応もできなければ。
同じくまた『救われた』。



665:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:38:14.13 ID:QFFbkzNdo

ネロなどお構いなしに一気に降下してくる節制―――


―――その巨体に押しつぶされる―――という直前。


上条達の頭上まであと3mと迫ったところで突然テンパランチアが『制止』した。

後方から現れた『大きな黒い腕』に、肩の基部を掴まれて止められたのだ。

さらに次の瞬間、
その腕によって一気に後方にひき倒され―――節制は猛烈な勢いで地に叩きつけられた。


そうしてテンパランチアが引き退けられていくのと入れ違いに、
この巨体の上をとび越えて上条達の前に降りたつ女が一人。


ベヨネッタ『―――やぁっと追いついたわ!』


節制をひき倒した巨腕の召喚主、ベヨネッタだ。
こうして上条達は二度連続、最強の人間たちに間一髪のところを救われることとなった。

ただ礼を言う暇もないほどに切迫していたのは変わらなかったが。


ベヨネッタ『―――ほらほらほらさっさと失せなさい!!』

それはようやく生じた余裕だった。

ネロ「―――行くなら早くしろ!!」

退避を促す声を連ねる、上条達を挟んで背中合わせの二人の最強―――
―――まさにこの場は噴火直前の火口といった状況だった。



666:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:40:57.92 ID:QFFbkzNdo

全貌は掴めぬもひとまずやるべき事はわかったのだろう。
押し寄せてきた上級三隊へと、武器を手に猛然と飛び込んでいくラジエルら三天使。

上方からは悪意に満ちた多数の大悪魔―――

―――そして起き上がるテンパランチアと、
遥か吹っ飛ばされたの『カマキリ』の再鼓動を示す、遠くで巻き上がる粉塵。


―――今にもここで、三つ巴の桁違いの決戦が始まるだろう。


声を交わす時間すらも惜しかった。
上条と風斬はすぐに移動用の光陣の構築に取りかかかり、
今度こそやっと最前線から離脱を果した。

直前に起き上がり手を伸ばしてきたベオウルフと共に上条、風斬、
カマエルと一方通行はすばやく人間界へと降りていった。



そのようにして。

ベルゼブブとテンパランチア。
上級三隊とベルゼブブ配下の将たち、
彼らの第一の勝利条件は滝壺の殺害に一本化することとなった。

一方でネロとベヨネッタ、人間界を守る者たちの勝利条件には変更は特に無い。
変わらず『敵』を排除することだ。


ネロ「足手まといになるんじゃねえぞバアさん―――!」


ベヨネッタ『―――そっちこそせいぜいチビらないようにねクソガキ!』


二人には『終わり』が薄っすらと見えていた。
ひとまずこの局面で勝利を収めれば―――天魔人の三つ巴の戦いはある程度の決着へと至る、と。


そしてその先、『次』に待ち構えている―――ただただ不穏な『最終局面』の存在も。


―――



667:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/06(金) 23:41:39.52 ID:QFFbkzNdo

今日はここまでです。
次は月曜に。



668:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/07(土) 00:56:20.22 ID:IkxBTCkx0

スタイリッシュ・クライマックス乙



669:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/04/07(土) 02:58:33.34 ID:BYgHYJzUo

クールダウンする暇が全くない



670:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県):2012/04/07(土) 03:32:50.01 ID:QBlSSHoN0

ベルゼブブとテンパランチアとその他終了のお知らせ



671:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/07(土) 09:38:28.56 ID:RAIGc59t0

滝壺さんがここまで天使やら悪魔に狙われるSSが今まであっただろうか



673:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2012/04/07(土) 16:15:15.67 ID:DgTOlDKF0

もしかしてベルゼブブのモデルってゴッドハンドの礼儀正しいあいつ?



674:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/07(土) 20:13:54.06 ID:5Q8sXyxd0

>>673
ああ真面目だけど四天王の中で一番地味で目立たない…ww
この戦いにジーンまでやってきたらとんでもないことになるなww



675:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/09(月) 19:39:16.22 ID:qjRiDJGi0

むしろ>>1は何の作品の悪魔像をモチーフにしているんだ?
DMCやらベヨに出てるのはともかく、アスタロトとかベルゼブブとか
やっぱメガテン?



676:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/09(月) 20:22:48.30 ID:uUB1eGKIo

>>675
大体は一般的な伝承を元ネタにしてますが、それ以外の要素を挙げますと、

ねこキングは、>>1のトラウマがシャドウなのでいつか凶悪なボスにしたかった、
トリグラフは、ブリッツが好きだったから似たような姿の狂戦士的なボス、
アスタロトとネビロスはメガテン(アスタロトの変態趣向もメガテンの全裸から)、
ベルゼブブのベースは>>673さんの通りゴッドハンドのベルーゼと、+ベルセルクの使途もどきなどです。

ただしあくまで基礎モデルにしているだけで、元ネタ作品とリンクさせているなどの要素は特にありません。
似て非なるキャラとしていただければ。

投下は日付が変わる頃に。



677:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:09:21.34 ID:fsSBYkS5o

―――

準備の一貫として、22口径の小さな銃弾を飲み込んでおいた。
もちろんただの銃弾ではない。

こちらの意思次第すぐに魔術起動し炸裂するようになっており、
炸裂すると劇毒が解き放たれ、『自決』を果すという寸法だ。

毒物は多種多様の悪魔から抽出混合したものであり、
『普通の人間』ならば体内で解き放たれた瞬間、痛みを覚える暇もなく即死する。

確実にだ。
小さな弾頭に含まれるわずか滴ほどでも、実に致死量の10万倍なのだから。

それが『彼女』の『保険』にして『最終手段』である。


―――『父だった悪魔』をあの世に送り返すための。


しかし最終手段ではあるが、確実な手段とは断言できなかった。

己がこの手でアーカムを殺せば、そのまま葬れることは確信できる。
だが『決着』をつけぬままただ自死しただけで、
果たしてアーカムもそのまま消え去ってくれるのだろうか。

存在構築の源を失うために不死状態は解かれるだろう。
だがその後は?

潜在意識がアーカムを『再現』させてしまっている以上、
何らかの形でもう一度決着をつけねば完全に消え去ってはくれない、そんな可能性も捨てきれなかった。

ゆえに彼女は、まず第一に『彼』との戦いに挑んだのだ。


彼女にとってもっとも―――残酷な結果が待ち受けているとも知らずに。


テメンニグルの塔の中層。
バルコニー状に突きでたとある広間にて。

壮絶な戦場の眺望を前に、『父だった悪魔』は待っていた。



678:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:13:16.29 ID:fsSBYkS5o

レディ「……」

元聖職者らしく背筋の通った昔と変わらぬ後姿。

ある頃までは飛びついてじゃれ付くこともあって。
だがある頃から疎遠になって、ただそれでも厳かで頼もしく見えて。

そしてある頃を境に―――憎悪と殺意の象徴と化した背中。


アーカム「……見ろ。この混沌の戦火を。今に人間界を包み、全てを貪り尽くすのだ」


声もだった。
書斎にて書物を捲りながら淡々と叱責する、そんな在りし日のものと変わらなければ。
母を殺したあの日、血染めの顔でこちらの名を呼んだ声とも同一。

何一つ変わらない。


レディ「……そうはならない。今はバージルも人間の側についてるし、ネロもいる」


だが世界は変わった。
あれから流れた月日は20年以上、その間に世界は大きく変わった。


レディ「そして三人とも―――もうスパーダを超えているわ」



679:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:15:05.52 ID:fsSBYkS5o

アーカム「…………スパーダを越えた、本当にそう思ってるのか。確たる証拠は存在しているのか」

まるで片手間のような淡々とした口調。
認めたくないくらいに懐かしく、同時に―――殺意を覚えるおぞましい声。

アーカム「それとも『願望』か。そう願い、自らもその不確かな栄光にあずかりたいだけなのでは?」

レディ「……」

アーカム「己も『偉大な父』を越えられる、と信じたいがためでは?」

その問答の仮面を被った挑発に、レディは最初は静かに答えた。


レディ「…………一つ確実な証拠がある。ネロは魔剣スパーダを破壊した」


静かながらも弦を張るかのように張り詰めさせ。


レディ「そしてもう二つ訂正してやる。お前は『偉大』でもなければ――――」


そして―――溜めた怒気を解き放つ。


レディ「―――――『父』でもない!!」


張りに張った闘争心とともに。

彼女は素早く戦闘姿勢をとるや、
5mという近距離でも躊躇わずに―――その後姿めがけロケットランチャーを放った。



680:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:16:26.19 ID:fsSBYkS5o

―――炸裂する弾頭。


ただし爆発域にはアーカムはもういなかった。
彼は一瞬にして離脱したのだ。

レディ「―――」

ただの人間の知覚ではとても追えない―――レディにとっても認識できない速度で。

アーカムは人間ではない、
妻を捧げた瞬間から正真正銘の―――悪魔である。

しかもその力は下手をするとそこらの大悪魔よりも上だ。

一時的ながらもフォースエッジを取り込み
かのスパーダの力を引き出せるという事実が現すとおりの領域だ。

そのような存在と。

己の魂から力を精製できない、外部からの力に頼るしかない人間の魔術師との間には、
やはり超えがたい潜在的な差が存在する。

―――それこそがデビルハンターの『真の敵』としても過言ではないだろう。


この差は『埋められない』。
だからデビルハンターはもちうる全ての技で『誤魔化し』、この差が発揮される前に勝負を決めねばならない。

攻撃は常に相手の意表をつき、相手に対応する時間を与えず、
手のうちを読まれる前に短期決戦を成すこと。

それが人の身のままで戦う狩人の最も重要な心得である。



681:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:17:40.90 ID:fsSBYkS5o

レディの初撃、そのロケット弾は、そもそも最初からアーカムにダメージを与えるためのものではなかった。
爆発からは炎の類も生じなければ、衝撃波も破片も放たれない。


周囲に飛び散るのは『粉塵』―――悪魔の『骨』を砕いた粉末である。


もちろん煙幕なんかではない。
これら骨粉にも魔術が施されており、その目的は―――『こちらの土俵』を作るため。
知覚の精度と速度、それらを一時的に補うための『フィールド』を形成するためだ。

シャックスに襲撃されたときとは違いこれら準備は完璧だ。

一気に拡散した骨粉は、粒ごとにリンクし魔術回路を形成。
周囲全体に『網』を張ったようなものだ。


レディ「―――ふっ」

そして漂う骨粉を軽く吸うことでその『網』と接続完了。
このバルコニー状の広間、20m四方が死角のない『彼女のフィールド』へと化し。

ここからようやく―――技術の粋を集めたあらゆる武器、
銀弾とロケット弾、手榴弾と銀杭等の出番である。


瞬間、レディは目で追えぬアーカムの位置を特定。

すかさず腰のサブマシンガンを右手にし―――振り向きざまに一連射、
魔弾を撃ち放った。



682:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:19:44.23 ID:fsSBYkS5o

ただ弾を撒き散らしたわけではない。
対象の動きを読んであらゆる予測位置へと弾を置き、回避先を同時に潰す『精密射撃』である。
しかもそんな複雑な作業を、彼女は思考せずに直感的にこなしていくのだ。

ただしこれは、彼女にとっては最良の戦闘状態でもなければ、
好きこのんでそうしているわけでもなかった。
そうせざるを得なかったのだ。

特に大悪魔級を相手にするときに、いちいち悠長に思考などしている暇などあるわけがない。
悪魔のように、戦いの最中で何かを得て『進化する』なんてことはできない。

血の滲む鍛錬と数多の死線を越えた経験、それら積み上げてきたもの『だけ』を頼りに、
闘争本能にすべてを委ねるしかまともに戦えないのだ。

ただしそんな不利な戦闘状況の中でも、一つだけレディにとって好都合な点があった。


―――『余計なこと』を考えないで済むのだ。


―――それこそ―――『この男』が相手であれば尚更。


彼女はそのまま引き金を絞ったまま、後方に飛び退き全弾発砲。
転がりながらすばやく弾倉を取り替え、
立ち上がりざまにロケットランチャーをもう一発。

サブマシンガンの『精密な弾幕』の中へ、
今度こそ殺傷能力のある大きな一撃を放った。


もちろんこれも直感的な精密射撃で。



683:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:30:59.57 ID:fsSBYkS5o

壁にめり込んでいく弾丸、
そして一足遅れに空中炸裂するロケット弾。

いくら小型ロケットとはいえ、たかが20m四方の空間で爆発すれば、
人間にとってはきわめて危険なものである。

しかし彼女がそんな単純なことでダメージを負うわけも無い。
飛び散る破片も全て術式によって自動制御されており、
特にこのフィールドの中では最大の効果を発揮する。

レディ「―――」

アーカムの姿はいまだ目視できずも、
しかしその位置はフィールドの中にいる限りははっきりと『見え』。

炸裂によって生じた破片は、指向性のそれとなって―――この標的の方向一面に注がれる。


レディ「―――っ」

そしてフィールドの『網』を介して覚える手応え―――しかしこの程度でアーカムが倒れるわけが無い。
彼女は手を休めなかった。

半ば自動操縦とも言えるか、闘争本能に従い鍛え上げられた体が動いていく。

腰を落としもう一発、爆煙の中へと放たれるロケット弾。
さらに人差し指で安全ピンを抜かれすばやく放られる手榴弾。
それら連鎖し重なる爆発。


―――相手に対応する時間を与えない。

その悪魔に対する重要な心得の一つを、彼女はここに的確にこなしていく―――



684:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:35:25.16 ID:fsSBYkS5o

とその瞬間。

当然のことだが、アーカムも攻撃されてばかりではなかった。

レディ「―――」

これは彼女の天性によるところも大きいか。

古からの戦巫女の血を引いているため、
寿命など物理的身体特徴は現生人類と同一ながらも、
精神体はどちらかというと魔女や賢者といった原初人類に近いものがあるのだ。

『加護』とも呼べるか、先祖代々の直感能力は、
普通の人間なら到底悟れるものではない『危険』を検知する。

ただし思考を挟むことなく反射的に的確な回避行動に移れるのは、
やはり天性ではなく修練の賜物であろう。


瞬時に横に跳び転がるレディ―――直後、
ついさきほどまでいた位置に出現するのは―――『青い光の球』。

レディ「っ」

直感的にわかる。
あれに触れてしまえば、この人間の身などひとたまりも無いと。



685:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:37:48.83 ID:fsSBYkS5o

アーカムはこちらを殺せない―――その前提がはたして本当に正しいのか、
そう疑問を抱いてしまうほどに殺戮的な力が漲っている青い球。

この男は本当にこちらを殺す気なのだろうか―――

ここで少し、そのように彼女の中に思考が生じてしまった。
だがこの程度ならば特に問題は無い。
思考と闘争本能は完全分離されているため、動きを阻害することはないのだ。

それにこの思考が闘争本能に割り込むことはない。

アーカムがこちらを殺す気であろうとなかろうと、
戦い方に変化を加える必要はないのである。


体は止まることなく動いていく。

横に飛び転がり、立ち上がると同時にすかさず―――背後に現れていたアーカムへと、
ロケットランチャー先の刃を振るった。

突然の彼の出現にも、思考が及んでいないため彼女が怯むこともない。

レディの体は機械のように正確無比に対応、
その振り向きざまの右手にあるは―――銃口が二つ並ぶソードオフショットガンだ。

顔よりも先にその銃口をアーカムに向け、
目視などせずに―――散弾を撃ち放つ。


彼女がアーカムの姿をようやく目視したのは、彼の顔が至近距離からの散弾で歪になった後だった。



686:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:39:10.22 ID:fsSBYkS5o

レディ「っ―――」

手応えはある。

この男のオッドアイからは相変わらず涼しげであるも、
確実にダメージを与えている。

今の散弾だけじゃない、これまでの一連の攻撃のダメージも明らかに蓄積されている。
レディはやっとここで確信に近い感覚を手に入れた。


やはり己の手ならば倒せる―――この男を『完全に殺せる』、と。


次いですばやく左手でランチャーのトリガーを絞り、
ロケット弾ではなく―――今度は特大の『杭』を放つレディ。

この至近距離ならば外すわけがない。
射出された黒金の杭は見事―――アーカムの胸部に突き刺さり、
彼の身を後方の壁際まで吹っ飛ばし―――磔に。


とてつもない因縁が紡がれている相手となれば、ここで一つや二つ言葉を向けるべきかもしれない。
ダンテならきっとそうしただろう。

だがレディはそうしなかった。
たとえアーカムを固定させようとも、彼女は決して攻撃の手を緩めなかった。

その理由はデビルハンターとしての心得に忠実に従ったため、そしてもう一つ。


もう何も言葉を向ける必要は無かったからだ。
なぜなら―――アーカムは20年前に『死んでいる』―――これはもう『終っている戦い』なのだから。



687:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:40:51.86 ID:fsSBYkS5o

レディはスパーダの一族に劣らずの負けず嫌い、
さらにそこに独特のプライドも上乗せされているが、『これだけ』は彼女も認める。

アーカムは―――己にとっての『究極の悪夢』。


―――『恐怖と憎悪の象徴』であると。


だが今更、それで心の何かが揺れ動くことはない。

確かにあの頃は手も足も出ず、
結局この男を無力化したのはダンテとバージルだ。

だが最期にこの男の命を奪ったのは―――この『人差し指』―――己の意志である。

あの瞬間、この戦いは決着したのだ。
ゆえにアーカムという存在は『悪夢』であっても―――今や『呪縛』にはなり得ない。


アーカムを磔にするとほぼ同時に。
宙に放り投げたソードオフショットガンに、叩き付けるように弾を装填。
そして素早く手にすると間髪入れずに再び放った。

今度は散弾ではない、スラッグ弾だ。

ダブルバレルから同時に放った二発。
術式刻まれた銀と鉛の塊が、アーカムの首の根元に大きな穴を穿っていく―――

傍ら、もう片方の腕ですばやくランチャーを後ろに回しつつ―――その手でサブマシンガンを抜き取り、
立て続けに弾を叩き込んだ。



688:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:41:52.07 ID:fsSBYkS5o

レディのその動きには、一欠けらの躊躇いも怯みも無かった。


憎悪と恐怖が心の中に渦を巻くも、
その憎悪は記憶が蘇らせる幻像。
魂に纏わりつく恐怖も過去の産物だ。

そしてこの目の前にいるアーカムの姿そのものも―――『悪夢の残滓』にしか過ぎず。

今のレディにはもはや通用しない。
彼女はもうあの頃の『小娘』ではない―――


アーカム「―――強くなったな。メアリ」


―――弾幕の奥から響くそんな称賛の言葉。
けたたましい銃声が間にあるにもかかわらず、やけに明瞭な異質な声。

レディ「―――っ」

それとほぼ同時に、彼女は『網』を介して知覚した。
アーカムの体を貫く魔弾、その術式による『毒性』が―――瞬時に中和されていくのを。



689:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:43:32.29 ID:fsSBYkS5o

通常ならばこれはありえないことだ。
上条当麻の幻想殺しでも無い限り、
術式を即座に解体して無力化するなんてまず不可能―――

だがそれは『通常』の場合だ。

このアーカムという男に限っては、とても通常の範疇には入らないだろう。

アーカムは神域の力を支配下におさめるのではなく、
自ら神になることを選んだ狂気の天才。


―――『魔神級の魔術の技を持つ大悪魔』だ。


その形容だけで、この男の異常な脅威性は明らか。

レディ「―――」

特にレディにとっては、そこにもう一つの問題が付随する。

この男から直接指導を受けたことは無いも、
彼女の技術はその礎の全てが彼が残した大量の研究資料、記録、そして魔導書によるもの―――だという点だ。


すなわち己の魔術は―――アーカムと非常に良く似ている―――『解読しやすい』。


アーカム「―――強くなったな」


アーカムはもう一度口にした。
決して父が娘に向けるような声色ではない、
淡々として、どうしようもなく冷え切っていて―――僅かな感情も篭っていない『死声』で。

無力化した魔弾の一つを『つまみ』ながら。



690:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:47:45.76 ID:fsSBYkS5o

ただしこれは、別段レディにとって意外では無かった。

アーカムがとんでもない魔術の技をもっていたことは、
誰よりもレディが理解していたからだ。

ゆえに気構えは確実に勝つ気でも、
現実的には勝率は100%ではないことは理解しており。

そのためにあらゆる状況に対応できる準備を整えて―――さらには胃袋の中にも『保険』を仕込んでいるのだ。


だが―――アーカムはさらに一枚上手だった。


これは決して彼女の油断に突け込まれたわけではない。

それは仕方の無いことだった。
彼女が友から『レディ』と呼ばれる人物である限り、決して埋めることができない差。

どれだけ鍛錬しようが、追及しようが、
絶対に―――彼女が彼女である限り『知りえない隙間』からアーカムは手を打った。
これはアーカムをそこまで追い詰めたということでもあったのだが、
だからといってとても喜べるものではなかった。

絶対に。



レディ「ッ」

アーカムの二度目の『称賛』が聞えた―――直後だった。

身の底から覚える奇妙な感覚。
高揚感とも焦燥感とも似ているが、これまで経験した事の無い異質な『熱』だ。

すかさず弾幕を張りながら後ろに飛び退くレディ。
そして己が身を専用の術式で精密検査しようとしたも、
その必要は無かった。

変化はすぐに訪れた。
きわめて明らかな形で。


レディ「―――?!」


ここで彼女の鋼の精神がついに―――大きく揺れ動く。
『己の魂』から突如湧き出てくる―――『魔の力』に気付いて。


身の内から魔の力が生じることなんて有り得ないはずなのに―――


―――『人間』である限り、絶対に。



691:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:52:04.35 ID:fsSBYkS5o

レディ「ッ―――ッぁッッぐッ!!」

凄まじい衝撃に身も心も叩かれ、
彼女はその場に膝をついてしまった。

全身を覆う燃えるような激痛。
生まれて初めて味わう―――魂の『痛み』。

アーカム「―――『あの女』は悲鳴をあげ続けたが、お前は耐えるか。メアリ、本当に感服ものだ」


レディ「―――……何を―――したッ―――?!」

燃えるような熱を滲ませ、
喘ぎながらも問い返すレディ。


アーカム「何事も、『現物』を目の当たりにせねば決して知り得ぬ側面が存在する」


そんな『娘』に、『残酷な父』は胸の杭をひき抜きながら告げた。



アーカム「お前は知らないだろう。私の『転生術』の『完成形』は―――」


自由の身となり、こともなげに身にまとわりつく埃を掃いながら。
そう、在りし日の様に―――片手間に淡々とこちらを叱責してくるような声色で。


アーカム「―――当然だ。これについては一切記録に残していない。
      そして愚かな正義心が障害となり、お前は『人体実験』を行うこともできないからな」



692:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:55:57.86 ID:fsSBYkS5o

それは彼女がダンテと同じ側にいる以上、
絶対に探求できない領域。


レディ「―――ッあぁ゛!」


転生術―――つまり己は―――『悪魔』になるというのか?


アーカム「お前は代価を支払わなくても良い。私の中を流れている『あの女』の血を捧げたからな」


しかもこの男と『同じく』―――母親の血を捧げて。


アーカム「どうした?悪魔にはなりなくないか?」

なりたいわけがない。
人間であることを誇りにしているのになぜ―――

アーカム「―――違う。正確には、お前は悪魔に成ることを恐れているのではない。
      悪魔に成ることで、私との相違点が無くなってしまうからだ」

いいや断じて違う。
そんなわけが無い。


アーカム「お前が人間側に甘んじているのは、単に復讐者が『こちら側』だったに過ぎない」


戯言だ。
人間世界を愛しているし、
スパーダの一族の信念に自らも身を捧げる覚悟だ。

アーカム「闘争に覚える喜びも偽りと言うか?至上の快楽に浸っていながら」


あれは―――そんなのじゃない。
決してそんなのじゃない――――――はずだ。


アーカム「人間という入れ物を失った時、お前は一体何者であろうか」


レディ「だま――――――」



アーカム「ただし不変の事実が一つある――――――お前は私の娘だ」



693:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 01:58:18.88 ID:fsSBYkS5o

アーカムはそこで笑った。
偽りではない、『残虐きわまりない父性』をうっすらと覗かせて。


そしてその声、
類まれなる魔術の技と大悪魔の力、それらが組み合わされた『言霊』はとてつもなく強烈なものだった。

苦痛の中でも一語一句逃さずに明瞭に聞え、聞き流すこともできない。
すべての言葉が精神の奥底に突き刺さってくる。

偽りと悪意に満ちた虚言に過ぎないのに、
まるでこれが―――ある一定の説得力を有しているように聞えてしまう。

普通は負けてすぐに事実だとして飲み込んでしまうだろう。


だが鋼の精神を有す彼女は徹底的に抗った。
絶対に楽になろうとはしなかった。

うめき声を漏らしながらも手を上げ、この憎悪の象徴へとサブマシンガンを放った。
微々たるダメージしか与えられなくとも、震える手で弾倉を入れ替えて撃ち続けた。

ただしその気合だけで、この男を止められるわけもなかった。
アーカムは突然興味を失ったかのように踵を返すと、足早にこの場から離れていった。


アーカム「お前もこれはわかっているだろうが―――」


最後にこう。
レディも知っている、そして今の彼女にとってもっとも残酷な―――『事実』を言い添えて。



アーカム「悪魔の力は、本人が『求めなければ』手に入らない。『望まなければ』―――悪魔には転生し得ない」



そしてアーカムは消えた。
『悪魔へと変じつつある』レディを残して。



694:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 02:02:31.63 ID:fsSBYkS5o

レディ「ッあ゛ッッ―――」


すぐに躊躇うことなく―――『保険』を胃袋の中で炸裂させるも、
単に苦痛を上乗せしただけ。

死ねなかった。

更にアーカムはご親切にも―――あらゆる魔術耐性を有する術式も付加して行ってくれたようである。

次いでこめかみを撃ちぬいても、魔弾は身に触れた瞬間に対魔性を喪失。
ただの銃弾となって反対側から抜け出るだけ。


『この身』はもう自決さえも許してはくれない。


レディ「――――――ちが……そんなはず―――」


こんなはずあるわけない。
己が魔の力を求めている―――悪魔になることを望んでいるなんて―――


―――アーカムと同じように―――『混沌』と『闘争』に狂っているなんて。


だが現実は現実だった。
彼女がどれだけ否定しようが―――その身は『悪魔』になってしまっていた。

記憶から呼び覚まされた『悪夢』はこうして、
想像し得なかったほどに残酷な形で現実化した。



695:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 02:04:19.07 ID:fsSBYkS5o

彼女がここで敗北した最大の原因はアーカムではない。
彼女自身の奥底にある『何か』だった。

いや彼女の最大の武器である―――鍛え上げられた『闘争本能』そのものだ。

己の最大のアイデンティティの喪失による絶望、
自身の本質への疑念、そしてアーカムと『同じ』になる恐怖と―――


レディ『―――――――――あああああああああああああ!!』


もはや過去の産物ではない、今この瞬間に生み出された底無しの『憎悪』。
それらが折り重なった凄まじい咆哮が響き渡った。

―――『悪魔の力』を帯びて。

ただしそれでも、彼女が『自我』を失うことは無かった。
むしろ逆に―――そのむき出しの自我がより強靭になっていた。

残酷に証明されてしまった血塗れた『潜在欲求』は、
一方で彼女を『人間的な生存本能』から解放してしまったのである。

今の彼女は気迷うことはない。
レディの意識の全ては現在、たった一つのことに集束されている。

こうも言えるか。

この瞬間、彼女の潜在意識は人間として死ぬよりも、
悪魔になり身を滅ぼしてでも―――アーカムをもう一度殺すことを選択したと。


その証拠にこの咆哮には、
より鋭く凶暴な―――もはや自滅的とも言える―――殺意が溢れていた。



そんな強烈な『殺意宣言』はアーカムにも聞えていた。

『道化』に姿変えた彼は、呼応するかのように狂気の笑い声を漏らすと、
一目散にある場所へと向かっていった。

能力者、天草式、そして―――英王室第二王女のいる地下劇場へと。


ジェスター「―――Hello! Your Majesty!」


目的はもちろん―――この目障りな魔塔の隔離を解除するために。


一人のある少女を殺すために。


―――



696:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 02:05:40.99 ID:fsSBYkS5o

今日はここまでです。
次は木曜に。



697:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/04/10(火) 07:44:30.03 ID:9jBUQz/k0


レディが悪魔化したらどんな見た目なんかな
あとHD版やってるけどバグがひどいよ・・・



703:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 23:54:19.25 ID:fsSBYkS5o

>>697
人間が転生した場合は基本的には姿も人間のまま、としております。



698:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/10(火) 07:50:52.24 ID:Ty8LB9Os0

乙乙乙

展開がマッハでやばい



699:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/10(火) 14:17:53.67 ID:WpV+D3p+o

お疲れ様です。今回で一つ気になったことが。このSS的にアーカムの魂はどうなったんでしょう?
「悪魔」なら生まれた界の力場に還り、「人間」なら天界の餌箱逝きですが
『悪魔に転生した人間』の魂は何処逝きなんでしょう?



703:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/10(火) 23:54:19.25 ID:fsSBYkS5o

>>699
『悪魔に転生した人間』は、例え心が人間であっても存在そのものは完璧『悪魔』なので魔界逝きです。
ステイルと神裂も死ねば魔界逝き、
これが魔に転生したものを待ち受ける末路であり、最期は必ず魔界に『堕ちる』わけです。
またこれがあったからこそ、力に貪欲なアンブラでさえも魔への転生だけは基本的に禁忌だった、ともしております。

「では存在が半分人間のダンテとバージルはどうなのか」、という点についてはのちに。

ちなみにセフィロトの樹が切断された以降の人間の死者は、
今のところは逝き場を失って人間界の中を漂ってる状態です。



次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 39】

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禁書目録SS   コメント:3   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
27236. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/04(木) 02:12 ▼このコメントに返信する
三角木馬…惨いw
27246. 名前 : 名無し◆- 投稿日 : 2012/10/04(木) 12:46 ▼このコメントに返信する
更新待ってました!
次回も楽しみにしてます
27259. 名前 : あ◆- 投稿日 : 2012/10/04(木) 16:51 ▼このコメントに返信する
作者天才すぎる
さらに原作者には悪いが、原作よりずっとキャラへの愛が感じられる
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