ダンテ「学園都市か」【MISSION 39】

2012-10-05 (金) 23:42  禁書目録SS   1コメント  
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706:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:35:43.85 ID:qVVseLHTo

―――


御坂「―――当麻!大丈夫?!本当に大丈夫?!本当に?!怪我してない?!」


人間界におり、第二の本陣に辿りついた一行を出迎えたのは、
目元を真っ赤にした御坂の怒涛の声だった。

もちろん大半を占めるは、上条の身を心配しての言葉である。

ベオウルフはグラシャラボラスと同じく外に。
カマエルも、その3m以上もの体躯(それに物理的にも大型トラック並みの体重があった)もあって、
大悪魔たちと共に外にいてもらうことに。

そうして上条と風斬りは、御坂の慌しい先導を受けながら、
一方通行に肩を貸して施設の中に入っていった。

『穴』とも呼べる、大砲でも撃ち込まれたかのような入り口を潜り、長い廊下を抜け。
非常用のエレベーターで地下に降りては、また長い廊下を通り。

そのように目的の部屋の前まで達すると、
一行の意識が向くのは、まずは廊下の壁際にある二つの医療ベッドだ。

上条「……」

一つには神裂が死んだように眠っていた。
ただし『死んだよう』にとはもちろん比喩表現で、実際は大丈夫だ。
かなり衰弱してはいるが、いまは回復に向かっていた。



707:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:37:36.78 ID:qVVseLHTo

そしてもう一つには、グループの一人―――結標淡希が横たわっていた。

白井黒子が看る下、点滴をはじめあらゆる医療機器につながれたその体、
それが示すとおり彼女も酷く消耗していたも、
それでも神裂よりは容態も良好でしっかり覚醒していた。

一方「よォ……また死にぞこなったな」

彼女はその皮肉にも、顔色悪くもハッと笑い返すと、

結標「私はね」

そう告げて、目である方向を指し示した。

視線の先、廊下の奥にはもう一人。
今度は床に横たわっていた。


―――シーツが爪先から頭まで覆いかけられて。


一方「……そォか」


上条「……」

上条には、視覚情報として捉えられなくともわかることだった。
『彼』にかぶせられているシーツは、大量の朱で染まりあがっており。
しかももう一部は乾き始めていると。

悪魔の知覚をもってしても、『彼』の鼓動は聞えてこなかった。
そして魂の息吹も。



708:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:39:59.67 ID:qVVseLHTo

一方「海原だ」

盲目の瞳が『彼』に向いてるのを見て告げる一方通行、
それだけじゃ誤解を招くと思ったのか。

結標「…………一応言っておくけど、本物の海原光貴じゃないわよ。彼の皮をかぶったアステカの魔術師で……」

志を友にした死者へのそれなりの礼儀だろう、
結標が簡潔に加えてくれた。

ただしこのささやなか親切が必要なかったというわけではないも、
上条はそれについてはわかっていた。

悪魔としての直感力によるものか、それとも天使としてのそれか。
こうして今、動かぬ彼を前にしてすぐに気付いたのだ。

上条「…………ああ、知ってる」

彼のことは知っている。
覚えているとも、と。

とある建築現場における彼との戦い、
そしてそこで彼と交わした―――約束もはっきりと。

もちろん彼が『誰のため』にそうしていたのかまで。



709:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:44:45.57 ID:qVVseLHTo

上条「…………」

では、その彼の戦いの象徴だった御坂はどこまで知っているのだろうか。

ふとそう気にはなったも、
次の瞬間にはそれを明らかにする必要はないように思えた。

今そんなことを聞くなんて無粋は真似はできないし、それ以前にある程度は予想できるものだ。

場の空気が『彼』に向いた途端、思わずといった動きでこちらの肘あたりを掴み。
何かを堪えるように口を結ぶ、そんな御坂の様子から。

彼女は『彼』のために目元を真っ赤にさせていたのだと。


今この場では、それ以上『彼』のことを話題にする必要も暇もないか。
ふっと向き直った御坂に続き、一行は無言のまま部屋の中に入った。


まず最初に目につくのは、中央にあるいかにもな機器の類で固められているベッド、
その上の打ち止めの姿と、その真横に浮かび上がっている立体映像による地図。

次いでベッドの傍にいる、ラフな部屋着の上に白衣を羽織った女性と、
立体映像に向いているアニェーゼだ。
彼女はあの大きな杖を肘に通す形で腕を組み、
疲れ滲ませながらも鋭い目で、地図上の光点の動きを追っていた。

上条「……」

そして御坂の友人の佐天という少女に、もう一人、
壁際に並べられたモニターに向かっていた、幼い風貌の少女である。
ジャッジメントの腕章と、上着の下から覗くスカートからしてどうやら中学生か。

頭の花飾りとなで肩が印象的な少女だった。



710:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:48:40.38 ID:qVVseLHTo

御坂「初春さんよ」

そう紹介された少女は振り向き軽く会釈するや、
こちらの反応を待たずにすぐにモニターに向き直ったが、
上条は別段不快には思わなかった。

手を離せないというのはその様子から明らかだ。
むしろ一瞬でも邪魔してしまったというのが申し訳ないくらいだ。


芳川「私は芳川桔梗。ラストオーダーの世話係りってところよ。あなたが例の子ね」

次に白衣の女性がそう軽く自己紹介。
例の子、と呼ばれるに理由については心当たりがありすぎて特定できないも、
人違いであることはまず無いだろう。

上条「上条当麻です」

と、軽く会釈しかけたところ。
肩を貸していた一方通行がのそりと動き出し。
半ば転び倒れるようにして床にあぐらをかき、ベッドの足に背をもたれかかった。

芳川「大丈夫?」

一方「……あァ」

そして芳川の言葉にはそっけない反応。

打ち止めとも、彼は軽く目を合わせただけだった。
とはいえ特にもよそよそしいものではない。
芳川とは、これだけでも慣れた付き合いであることがわかったし、打ち止めはそれ以上のもの―――

―――己とインデックスのように阿吽の状態なのだろうか、
二人の間では『会話』はそれで充分だったよう。

打ち止めの笑顔からもそれは明らかだった。



711:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:51:07.61 ID:qVVseLHTo

ともかくこれでひとまず、安全域への一方通行の退避は完了となり。
上条はアニェーゼに向き、引継ぎも兼ねて確認のため言葉を交わらせた。

上条「じゃあアニェーゼ。アクセラレータを頼む」

アニェーゼ「わかりました。でもまあ、防衛の要は私じゃねーです。グラシャラボラスですよ」

かの悪魔の名前をこうして口にしていることがおかしいのだろうか、
ぎこちない苦笑いを含ませるアニェーゼ。

そんな表情を浮べてしまう気持ちは上条にも理解できた。

上条だって同じだ。

今はこうして己の過去を知りそのすべてを受け入れたも。

一方でこれまで『普通の高校生』として生きてきた自分は、
悪魔やらに関わってもう半年にもなろうのに、
いまだにふと夢物語の中にいるような浮遊感を覚えるものだ。


ただしそれは『気のせい』でもない。

後世に伝承として語り継がれ、もしかすると魔術偶像の源となるかもしれない
大いなる流れの中―――『伝説的物語』の中に身を置いているのだから。

しかもそれを綴っているのは、影響力に大小の差が有れど―――ここにいる『全員』だ。

もちろんアニェーゼも例外ではない―――御坂も白井黒子も佐天も、
そして初春というそこの少女だって。



712:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:52:59.76 ID:qVVseLHTo

そう水面下でアニェーゼの表情に同調しつつ、
上条は言葉を進めていった。

上条「とりあえずベオウルフもここに残ってもらうよ」

この状況、防衛戦力が充分なんてことは有りえず、
要の一つとも言えるここの戦力を増強しておくにこしたことはない。

それに大悪魔が二柱いる事で、
一方通行たちの生存確率は大きくはね上がると上条には考えられた。

万が一ベオウルフとグラシャラボラスが抗し切れない敵が現れようとも、
ベオウルフが盾になっている間にグラシャラボラスが皆を連れて退避、ということも可能だからだ。

と、その「魔獣は残ってもらう」というこちらの口ぶりに、
続くであろう言葉に気付いたのか、御坂の不安げな表情。

それを代弁するかのようにすぐさまアニェーゼが問うた。

アニェーゼ「わかりました。それであなた達はどうするんですか?」

風斬『私はネロさん達の応援に』

これにまず答えたのは風斬だった。
かたや上条の方は数秒間、意味深に黙して。


上条「……俺は……」


そう発しかけて。

この部屋の隅にいたもう一人の人物―――アレイスターの方へと顔を向けた。



713:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:55:00.96 ID:qVVseLHTo

アレイスター=クロウリーは暗がりにうつむき座り込んでいた。
その美しくも儚げな妻の肉体のせいで、より一層濃くみえる悲壮感を纏って。

上条「……」

そんな哀れで途方もなく罪深い『敗者』の前に立った上条当麻。
その瞬間、様々な感情が渦をまき、すぐに放ちたい様々な言葉が湧きあがってくる。

もちろんその大多数は、とても聞いていられないような―――過激な憤怒の言葉だ。

しかし数秒の沈黙ののちの第一声。
そこで彼が選んだ言葉は。


上条「…………すまない」


謝罪だった。

その瞬間。

例え見えなくとも、後ろにいた御坂の顔色が変わったのがわかったも。
上条はそのまま続けた。


上条「―――俺のせいだ。お前の罪の全ては―――俺の罪でもある」



714:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 01:58:09.65 ID:qVVseLHTo

御坂「―――ちょ―――ねえちょっと!!そいつは―――!」


驚愕と失念と、そして疑問が入り混じった複雑な表情を浮べてのものだろう、
耐えかねて飛び出してくるのは御坂の声。

だが上条は素早く手を後ろにむけ、その声を制止させた。

聞く必要がなかったからだ。


彼女の言いたいことは理解していた。
そして上条も文句なしにそれに同意しているからだ。


続いたであろう御坂の言葉はすべて正論、彼女の怒りは被害者としてのきわめて正当なもの。
紛れもない事実、覆りようの無いこの男の『悪行』の数々、
人類の敵としてもいいほどの大罪人。


アレイスター=クロウリーは決して許されることはない、地獄に堕ちて永遠の苦痛を味わって然るべき男だ。


だが上条はこれも理解していた。

アレイスター本人も、その己の罪を全て理解し引き受けた上で―――

―――その手法は歪んでいたとはいえ、
ミカエルの真意を理解しその意志を受け継ごうとした、という点を。


己の行いが大罪と認識される―――『そんな世界』を守り、完全なる存在に成そうとしたのだと。


それらを踏まえれば、この謝罪の言葉は、
上条当麻という人物の思考回路に照らせば当然の答えだった。

直接的な責任の有無は関係ない、
その結果がミカエルの残した『幻想』に起因しているのなら―――背負わなければならない、と。



715:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:00:16.02 ID:qVVseLHTo

ただしこれは、御坂には到底飲み込めないことだろう。

上条も自覚していた。
御坂が向けてくる瞳には、親友へのもの・想い人へのもの以外に、

―――『崇拝』の光まで強く宿っていることには。


そんな彼女が今の光景を見てどんな思いをしているのかは想像に易い。

己にすれば、ダンテがムンドゥスに頭を下げる様を見るかのような、
とんでもない驚愕と耐え難い失念に苛まれているに違いない。


上条「……」

だが上条は、御坂には弁明する気もなく、
別に納得してもらおうとも思わなかった。

彼女が考えを変える必要はない、そもそも正しいのは御坂の方だからだ。

アレイスターは、己の断罪は世界の流れと新世界の人々の意志に委ねようとした。
上条もまた同じく、己は彼女ら「本来の人間」たちの理解の仕方に、
あれこれ口を出す立場ではないと考えていた。

御坂が己を慕ってくれているからって、
それに甘えて強引に人間としての倫理観を捻じ曲げてもらうわけにはいかない。


絶対に―――アレイスターには罪がないと『錯覚』してはならない。


上条当麻がアレイスターに謝罪、その責任も上条当麻にあるからと、
だからといってこの魔術師の罪を見直し、御坂の中の『善カテゴリ』に入れるのは間違いである。


上条当麻という人物を、アレイスターと同じ―――悪のカテゴリに放り込むことが正しいのだ。



716:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:03:16.32 ID:qVVseLHTo

上条の言葉にゆらりと顔を上げ。
儚げな『女』は薄く笑った。


アレイスター「………………私と共に……この罪を背負うというのか?」


虚ろながらも、その瞳はこちらの真意をしっかりと読み取ったものだ。
さすがはといったところか、話が速い。

上条「それだけじゃない」

対し上条は肯定した上で否定し、単刀直入にこう続けた。


上条「……俺の力なんてちっぽけなもんだ、どこまでやれるかはわからねえ。でも……」


己が遺した理想からアレイスターが引き継いできた、多くの犠牲が注がれて血塗れた『バトン』。
それをいまさら罪の塊としてただ処理するわけにはいかない、と。

背負うからには―――最後までやり遂げねばならない、と。


上条「約束する。俺はお前の分も戦い続ける―――」


ミカエルだった頃から上条当麻である今の今まで、
己のすべてと向き合い芯を貫こうとする少年はここに宣言した。

筋書きが求める英雄じゃない。
この筋書きに潰された敗者が描く―――英雄を。



上条「お前が抱いた幻想を―――――――――現実にするために」



アレイスターが夢に見た―――英雄になってやる、と。


それが上条当麻による―――『筋書き』への宣戦布告の形だった。



717:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:06:20.95 ID:qVVseLHTo

御坂は部屋から飛び出していくこともなければ、大声で割り込んでくることもなく。
あらゆる激情に肩を震わせながらも、辛抱強く堪えていてくれた。

上条「……」

彼女はじっと俯き、顔を真っ赤にさせ、
目にはぎらぎらと苦悩の光。

そして無言のままこちらの上着の袖を掴み、
やや、乱暴なやけっぱちのような仕草で引っ張って揺さぶってくる。

上条「……」

今この少女の心中では、壮絶な葛藤がくり広げられているだろう。
善悪の定義を上条当麻のために安易に覆してしまったら―――妹達の犠牲にはどう向き合えばいいのか、と。

だがこれは、実は彼女が受け入れるための『葛藤の形』をした準備作業に過ぎない。

上条当麻は知っている。
御坂美琴は、この程度で易々と倫理観を覆すような者ではないことを。

最終的には、上条当麻に見た失念は失念のまま。
上条当麻に覚えた怒りは怒りのまましっかりと受け入れ。


そして上条当麻という少年は、自身が思っていたような『完全無欠の正義』ではない、と気付いてくれるはずだと。


ただ別に弁明する気はなくとも、ここで一言二言彼女に言葉を捧げるべきだったかもしれない。
彼女の心の整理を邪魔しないことも大事だが、無反応というのもまた礼儀に欠けている行為だ。

だが、そう上条がふと思ったのも束の間、御坂へ捧げる言霊を精査する前に。

アニェーゼ「―――上条さん!」

アニェーゼの張り詰めた声が響いた。


アニェーゼ「土御門からです!至急こっちに来やがれと!」


瞬間、御坂美琴は袖から手を放した。
無言のまま静かに。

―――



718:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:08:14.40 ID:qVVseLHTo

―――

遡ることわずか。
魔塔地下深くの劇場にて。

土御門「―――」

厳重な結界を敷き目を光らせていたにもかかわらず、
土御門はその『狂気』の侵入を防ぐどころか、それが現れるまで存在に気付くこともなかった。

刹那、滝壺へと牙を向いた容赦のない殺意。
振るわれた凶悪な『ステッキ』を防いだのは―――キャーリサだった。

キャーリサ『っ』

ぞわりと身を走る悪寒。
それは主の力による警告だ。

瞬間、彼女はほぼ反射的にカーテナを手にすると、
すばやく滝壺と浜面の前に身を置き。

そうしてこの狂撃を間一髪のところで受け止めたところ。
ようやくキャーリサもこの狂気の姿を意識して目にすることが出来た。

カーテナと歪な『ステッキ』が火花散らす向こう、そこにあったのは。


「―――Hello! Your Majesty!」


おぞましくゆがむ―――狂気に満ちた『道化』の顔。
人型ながら一切血の気がない蒼白な肌に、
鋭く尖った鼻に大きく裂けた口という異質な存在だった。

しかも姿のみならず存在もまた異質―――大悪魔だった。



719:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:10:09.87 ID:qVVseLHTo

そのようにして、彼女が道化の姿を一通り認識できた一拍ののち。

ここで滝壺と浜面がやっと目の前の光景に反応を示すことができた。

浜面「―――うぉおっ?!」

とはいっても認識できたのは光の瞬き、何が何だかわからない衝撃、
突然目の前に現れたキャーリサの背。
そしてその向こうの不気味な道化という、コマ落ちした断片的情報のみだ。

ただしそれだけでも判断するには十分だった。


これは『敵襲』だと。


驚愕と動揺に震わせながらも、芯に刻まれた大切な者を守るという意志は揺らがない、
彼の体は実にすばやく明確に動いた。

咄嗟に滝壺を―――やや乱暴でもやむをえない―――後ろに押し倒し、
背で覆いかぶさるように彼女の盾になった少年。


キャーリサ『―――下がれ!!』


そしてキャーリサの声と同時に、
そこへ絹旗が応援に飛び込んですばやく二人を回収。

土御門の先導の下、他の者達に守られながら即座に劇場を脱していった。



720:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:14:35.47 ID:qVVseLHTo

しかし道化は動かず。
その初撃からして目的は滝壺であろうに、
すぐに彼女達を追おうとはしなかった。

キャーリサ『っ』

それどころかまるで見向きもせずに、
刃越しにキャーリサにぐいと顔を近づけて。


「ほ~イギリスのじゃじゃ馬姫がン~まご立派になっちゃって!」


耳障りな高笑いとともに恐ろしく下劣な声を吹きかけてきた。

「テレビで見た時はまだまだワンパクおチビさんだったのにだねェ!すっかりイイ女に~おいしソー!」

キャーリサ『……!』

キャーリサはこれまで一癖も二癖もある連中を従えてきたため、
多少の無礼などはまったく気にしない。
面と向かって罵声を浴びせられようが、それで怒りに震えることなどまずない。

猛々しくも彼女は決して短気ではない、
むしろ鋼の辛抱強さを持ち合わせていると言ってもいい。


「それなのに独り身なんてモッタイナイ!もちろん人並みに遊んでるんだろゥ?いんやそれ以上だなきっと!」


だがこの道化の言葉は―――耐え難かった。


「キンッキンのロイヤルだもんねェ一人や二人お相手をカコッたりしてるのかなぁ?!気になるぜそこら辺のお事情!!」


ただの言葉ならばどうってことはない。
だがそこに大悪魔たる力がのると、ひとたび聞き流せぬ言霊となるのだ。

この道化の声には、あらゆる不快な要素が詰まっていた。
耳障りでこの上なく忌々しく―――それがあきらかな挑発だとわかっていても、
自然に柄を握る手に力が入ってしまう。



721:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:17:24.53 ID:qVVseLHTo

「―――おンやあ?どうしたンだいダマっちゃって?もしかして図星?!」

より逆撫でしてくる道化。
その笑みがどうしようもなく憎たらしい、憎たらしくてたまらない。
侮辱の言葉にはより過激な言葉を返すことを『モットー』としているキャーリサであっても、
この道化の声にはもう真っ向から対抗することはできなかった。

「こりゃたまげた!と~ンでもない王室スキャンダル掴んじゃったオレ?!英国第二王女のあそこはユルイって―――」


キャーリサ『―――黙れ!!』

もう聞いてなどいられない。
滾る怒りに身を任せ、キャーリサはそのまま刃を押し込み―――道化を斬り潰そうとした。

しかしカーテナの刃が断じたのはただの大気と床のみ。
一瞬の間に道化の姿は消失、
次の瞬間には、5m先の天井に逆さまに立ちまたあの高笑い―――


キャーリサ『―――べらべら抜かしやがってこの腐れピエロが!!』


「ヒョーベラベラベラベラベラベラベラベラ!!」

そうさらに低俗に茶化してくる道化へと、
次いでカーテナを振り上げざまに光刃を放ったも―――今度はステッキで弾かれてしまった。


キャーリサ『―――チッ!』

濃い青紫の光を伴って霧散する光刃。
ここまでの一連の流れで、この道化の力は明らかだった。

とことんこちらをコケにするその姿勢、溢れ出る余裕。
その上―――実力も伴っているなんて―――なんと凶悪な敵か―――



722:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:18:58.73 ID:qVVseLHTo

と、その時だった。
一撃で通らぬなら更に続けて、と彼女が光刃を放とうとすると。


「―――カーテナ=セカンド」


キャーリサ『―――っ』

悪魔の口からこの霊装の名が出てくるとは誰が予想しえたか。

「『剣』については昔から色々知る機会があってねぇ!カーテナも一通り調べたんだぜ!
 その現物をまさかここで拝められるとはねえ!」

しかもその口ぶり。
なんなのだろう、瞬間に覚えるこの妙な親近感・慣れた感覚は。


「でもさぁ、それ、そこまでスゴイモノじゃないよねジッサイ―――」


その謎の感覚の正体はすぐに判明した。
一定の親近感を覚えるのも当然だったのだ。

もちろんその親近感は、個として『親しみ』を覚えるという意味ではなく、
良くも悪くも『同属』という類のものだが。

次なる言葉で、キャーリサは確信する。
この道化は―――


「―――こうして見ててもさあ、オレから言わせると『術式』がチョー雑なのよ」


―――『魔術師』だ、と。



723:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:22:06.73 ID:qVVseLHTo

悪魔なのに『魔術師』とは―――

そのとき脳裏を過ぎるは特別講師であったネロの言葉、
『魔術』は人間特有の技術であり、悪魔が使うことはまずないのだと。

たしかに神裂やステイルといった例外があるも、
二人は元は人間のきわめて優秀な魔術師だ。

ここでキャーリサも瞬時に思い至る。


まさかこの道化も―――元人間なのか、と。


そしてもう一つ。
この瞬間、キャーリサの頭に引っかかるある言葉があった。

確かに今、あの道化はカーテナを指して―――『雑』と言った。

いまや事実上イギリス最大の霊装であるこの剣をまるで―――劣悪な『贋物』として見るような声色で。


キャーリサ『ッ!』


ただそれ以上、思考を巡らすことは出来なかった。
天井に立っていた道化が一瞬にして目の前に現れたのだ。

そしてすばやく振るわれてくるステッキ。

しかし確かにこの道化は相当の力を有してはいたが、
キャーリサにはついていけない程でもなかった。

圧倒的に強いわけではない、充分に戦える―――
ただしそれは道化の悪魔として側面からのみ見た話だった。


ステッキをカーテナで打ち弾いた瞬間。


キャーリサはこの道化のもう一つの側面、魔術師である可能性を無視できなくなった。



724:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:24:48.86 ID:qVVseLHTo

キャーリサ『―――なッ?!』

それは弾いた瞬間、
すぐにわかるほどに強烈な違和感だった。


カーテナからの衝撃がやけに『ぎこちない』。


再度振るわれてくるステッキ、それと一撃、二撃、そして三撃。
打ち結ぶたびに増大していく違和感、
そうしてついにその不穏な感覚が明確になった。

カーテナを介して送られて来る主の力、それが急に弱まりはじめたのだ。
いや違う―――カーテナの機能が急に低下しだしたのだ。

キャーリサ『―――!』

原理はわからぬとも原因はあきらか。


道化のステッキと打ち合ったからだ。


もう間違いなかった―――キャーリサはすぐに悟った。
あの刃が激突する瞬間、このカーテナに何らかの魔術を仕込まれたのだと。


動揺を隠し切れないキャーリサに、道化は聞きもしていない概略を答えてくれた。
ステッキをくるくると回し得意げに。


「この程度の霊装ジャ、『主』の力なんて普通は許容できないんだけどサ、そこはほら、『主』が強引にゴマかしてるのよね」


もちろんそれは親切心によるものではないはず、
何が起こったかを明らかにさせ―――絶望を確信させるためであろう。


「そこをオレがチョォーット書き換えて―――ゴマかせなくしたダケ。わーかるゥ?」



725:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:27:07.23 ID:qVVseLHTo

この道化はただ魔術師というだけじゃない。
その技術はとんでもない水準、完全に常軌を逸している。

まさに超級の魔術師、
少なくともここまで高度な技を持っている者はイギリスにはいない―――


キャーリサ『―――かッ―――!』

力が抜けていく。
主の加護がみるみる薄れていく。

そして一方で荒々しく増大してくるのは―――これまで蓄積されてきたあらゆるダメージ。

―――わき腹に穿たれた穴からの耐え難い衝撃。

カーテナの機能停止が目前なのは確実。
主の加護が消え去って戦力を喪失し、後に残るは酷く消耗した『生肉』だけ。

いいや、生肉どころか『死肉』かもしれない。
もうキャーリサ自身、
この加護を解いてまで己が生きていられるかはわからない―――


―――だがこの女にとっては、もはや死という概念はいかなる枷にもなりやしなかった。
死から目を背けているのではない、
それを全て飲み込み承知の上でここに―――この戦場に参じたのだ。

彼女は決して戦うことを止めなかった。

カーテナの柄を握る手は緩めず。
戦意も一切弛ませず。


「ヤメといた方がイイんじゃな~い?!無茶すると今にもカーテナがボーンってぶっ飛んじゃうぜ!!
 せめてキレイに死にたいジャン?!ロイヤルレディとしてさァ~!」


これまで以上に癪に障る声でせせら笑う道化へと。
かまわずカーテナを振り構え、床を蹴った。


キャーリサ『―――うるせーっつってんだよ腐れピエロが―――!!』



―――



726:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:29:29.44 ID:qVVseLHTo

―――

劇場をあとにし、碧い洞窟を抜けいく中。
土御門はあの道化についてすばやく思考を巡らせていた。

土御門「……」

まず第一に浮かび上がった疑問は、なぜあの道化の侵入に気付けなかったか、だ。
結界を突破する以上、必ず検知できるはず。

それなのにああして目の前にするまでその存在に気付くことができなかった。
そして目にした後でも、不思議な事に結界からは何の異常も知らされてこなかった。

ここから一つ、あの道化について推測できる事柄が浮かび上がる。

『突破』したのではない、結界を『無効化』したのだ。

そして器用な真似をできるのは土御門が知る限り『幻想殺し』か、もしくは―――魔術師だ。
それももちろん己よりもずっと高度な技術を有している―――それこそ『魔神』級の。

土御門「―――」

そのように自ら導いた推理に、土御門は辟易としてしまった。

まさかアリウスほどか、それともオッレルスクラスか。
ただしオッレルス程度の水準であったにせよ、己よりも魔術技能は遥かに上だ。

しかもそれだけじゃない。
この慈母の残してくれた瞳で一目でわかる、あの存在は正真正銘の『大悪魔―――。



727:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:31:42.26 ID:qVVseLHTo

土御門「クソッ……」

細部は違えど、重なり蘇ってくるのはあの圧倒的なアリウスの姿。

またしても規格外の魔術師と対峙せねばならないのか。
またここではやくも、後ろを任せてきたキャーリサの身が非常に心配だ。

慈母の目で見るかぎり彼女はたしかに主の力で守られてはいたも、
繋がりの要たるカーテナは人の手による霊装だ。

相手が普通の大悪魔ならばまだ良い。
戦いは純粋に力のぶつかり合いに終始し、それならばキャーリサだって充分に戦える。

しかし魔神と呼べるほどの魔術師の前に『霊装』を持ち出すのは、
まさに『術式を破壊してください』と差し出しているようなものだ。

『術式を自作維持できぬものでもその魔術を行使できる』ように現物化させたもの、
という側面も持つ『実体霊装』は、
魔神の高みに属すほどの者からすれば、言ってしまえば―――無防備を晒す『ガラクタ』に過ぎない。

これについては、霊装を使ってないとはいえ土御門だって他人事ではなかった。

己への慈母の力だって術式でもっている面もあるため、
このような超級の魔術師は天敵とも呼べる存在なのだ。



728:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:34:20.35 ID:qVVseLHTo

―――ただし、何もかもが八方塞と言うわけでもなかった。

このような存在にも抗う術、
絶対的な希望が今は存在している。

『彼』が復活した報せはリアルタイムで来ていた。
魔術に対して圧倒的な有効性を誇る『ジョーカー』。


人間側には『魔術の天敵』―――


―――上条当麻がいるのだ。


彼の手が空いているか、なんて考慮する余裕はなかった。
これは『頼み』ではなく『命令』だ。
表現が乱暴かもしれないが、上条の事情など知ったことではないのだ。

彼の手がなければ、何もかもが崩壊しかねない状況なのだから当然だ。


そうして上条を呼び寄せるため、
エツァリに代わって本陣についたアニェーゼへと回線を開こうとしたとき。

広大な地底湖に達した一行の足は急停止せざるを得なかった。


進路上にあの―――道化が立っていたのだから。


いかにも喜劇的な、それでいてちっとも笑えない狂気と悪意に満ちた佇まいで。


そしてこの最悪の再会による衝撃だけじゃない、
道化が右手にしていた『あるもの』を見、みなはさらなる衝撃に震撼した。

道化が右手に持ち、うちわのようにして扇いでいたもの。
それは半ばから折れた刃だった。


―――べっとりと―――赤く染まったカーテナの。


―――



729:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/13(金) 02:34:56.04 ID:qVVseLHTo

今日はここまでです。
次は日曜に。



730:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/04/13(金) 02:57:24.13 ID:5O7Y3Dc3o





731:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/13(金) 08:09:03.03 ID:IrHEbIQH0

乙乙乙

ジェスター無双だと…?



733:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/13(金) 09:41:58.60 ID:kuG2BfsXo

ダンテやバージル、ネロと比べたら三下でも普通の人間からすればなぁ……



734:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/13(金) 12:52:09.82 ID:mB0K3FbIO

あんなんでも一時的にパパーダの力取り込む実力だし



735:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/13(金) 18:54:47.88 ID:0HaL8mXDO

1のジェスターなら、BBAのトーチャーにも耐えそうだなwwwwwwwwww



736:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2012/04/13(金) 22:44:39.27 ID:O9fF8NkCo

まぁあれでも準ラスボスですし…



739:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/14(土) 15:23:02.68 ID:Gb7cq77z0

ジェスターは単純な強さではなくトリッキーに戦うから強いんじゃね



742:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:29:34.30 ID:89YzOhTFo

―――

五和「どう、どうどう!」

状況の変化には、魔塔内部を駆け巡っていた五和もすぐに気づいた。
土御門ら下の陣との魔術回線が突然切れたのだ。

何かがあったのは間違いないと、
とある入り組んだ廊下にて魔馬を制止させ、すばやく回線の復旧をこころみるも。

五和「……」

土御門には繋がらなかった。

何らかの術式で妨害されている気配はないため、こうなれば考えられることは二つ。
通信先が死亡したか、簡単な通信術式に応答できないほどに困窮しているかだ。

次いで建宮に通信を試みるも結果は同じ。

五和「……」

やはり状況はまた一つ転じたようだ。
それも確実に悪い方向へと。

このままレディの捜索を続けるか否か、それについてははっきりしていた。
彼女の件も捨てがたいが、やはり土御門たちの件が優先だ。
一秒でも早く彼らのもとへ駆けつけ、安全を確認し、問題があれば対処せねばならない。

五和「―――」

と、そのように来た道を戻ろうとした矢先。


ゲリュオンが突然大きくいなないた。


この魔馬と共にしてからまだ僅かとはいえ、とても平常のものには聞えない鳴き方だ。
聞えるとしたらかなり興奮した威嚇か、警告か、それか―――『嘆き』か。

五和にその真意を知る術はなかったも、
その原因についてはすぐに明らかになった。

そのとき、廊下の先から足早に向かってくる人影が一つ。
警戒するまでもなく誰なのかはわかった。


レディが歩いてきていたのである。



743:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:32:56.42 ID:89YzOhTFo

探していた人物が現れたのだ、
これは運が良かったとも言えるかもしれないか。

五和「レディさん!」

そうして彼女を認めるや、すばやく魔馬の背から降り、
傍へと駆け寄る―――五和はそうしたはずだろう。


このときレディからの本能的な悪寒を覚えていなければ。


一気に緊張した本能が、
理解するよりもはやく彼女の身を安全地帯―――魔馬の背中に留めたのだ。

五和「……レディさん?―――」

次いで二度、漏れた今度の呼びかけは上ずった疑問系。
そして声はそれ以上は続かなかった。

悪寒の正体をようやく理解し言葉を失ってしまったのである。


レディのオッドアイに―――魔の光が灯っているのを見て。


数秒間、5m程の距離を置いての沈黙。
不気味なくらいに静かだった。

ゲリュオンは息をしていないのではというくらいに静か。
聞えるのは己の嫌に速くなる鼓動と、緊張によって徐々に勢いが強くなる呼吸音。

五和「……」

レディはこちらをじっと見つめたまま何も言わなかった。
いや、『見つめていた』とは言い難い。

『道端で小石を見る』ほどまでには希薄ではないも、
見えてはいるも特に意識下には留めていない、そんな様子だ。

ぼうっとしてはおらず意識は明瞭、思考はせわしく稼動してはいるが、
それが今瞳に映っている存在には一切向いていないといった風。


五和「……レディさん?」

そして三度声をかけても反応はなかった。

聞えていないかのように、ではない。
明らかに聞えていながらに一切反応を返してくれなかった。



744:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:36:16.58 ID:89YzOhTFo

それ以上、五和は声をかけられなかった。
レディであることには間違いないし、別に敵意を感じるわけでもない。
魔の瞳に威圧されてしまったわけでもない。

レディなのだが、先ほど会っていたときの『レディ』から―――何かが『抜け落ちて』しまっているような。

いいや、逆にその『何か』が爆発して彼女を『喰らってしまった』をかのような。

ついさきほどまで一緒にいた女性とは思えなかったからだ。


アスタロトがやってくる直前、
罠をしき終わったあとの会話の中で、ふと『あんな』表情を見せたものと同一人物とは―――


五和「―――っ……」


そこで五和ははっと気付いた。
このレディの何が変容してしまったのかが。
それは一体いかなる因子が、彼女に『あんな表情』で父を語らせたかが答えだ。


―――変容したのは『弱さ』である。


消えてしまったのか、それとも何かの拍子に『極端な強さ』に転じてしまったのか。
どちらにせよ、レディから『弱さ』というものの全てが消え失せていたのだ。

そしてこれこそが、五和が彼女の様子から意識的に受け取ってしまった不安の正体だった。
弱さの喪失は、良いこととは限らないのだ。


特に『人間』にとっては。


あらゆる弱さを喪失するということは―――結果的にあらゆる『恐怖』を感じなくなってしまうのだから。

レディは終始こちらを完全に無視、いや、捉えていながら無関心だった。
恩人の変容っぷりにショックを受けている五和をよそに、
彼女は何事も無かったかのようにふっと前を向くと。


風に霧散するかのように姿を消した。


明らかに人間のものではない業で。


―――



745:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:38:06.04 ID:89YzOhTFo

―――

四元徳が一柱テンパランチアと上級三隊。
巨大なカマキリ、もといベルゼブブと配下の将たち。

そしてネロとベヨネッタ、人間側についた天使たち。

この三勢力の凄まじい戦力が、テメンニグルの塔のふもとにて真っ向から激突していた。


ネロ「野郎―――」


―――とはいうものの、中には幾分かの例外があった。

『靄』に姿を変えたベルゼブブである。

ベオウルフを踏み潰し、ついで風斬もろとも一方通行を貫こうとしたベルゼブブは、
その直後にネロに蹴り飛ばされて以降、『靄』のままなのだ。

靄にはいくら攻撃しても無意味だった。


ネロ「……クソ虫が……」


おかげでネロは、門の直前から動けなくなってしまっていた。
この靄を魔塔の中に入れぬにはそうせざるを得なかったのである。

まわりにはラジエルたちもいたが、彼らに門番の任は無理だった。
ラジエルたちの程度では、カマキリはすぐに実体化して彼らなどものともせずに突破するだろう。

このベルゼブブ相手に門の守れるのはネロとベヨネッタのみ。
そしてネロがその役となったのは、ベルゼブブは彼の獲物という暗黙の了解のためだった。



746:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:41:28.93 ID:89YzOhTFo

ネロ「……」

迫る靄へと向け、ブルーローズに連動する『青い光の大砲』をぶっ放すも、
ダメージは乏しい―――どころか皆無。

ただ何もかもすり抜けていくという訳ではない、
ダメージは与えられぬも、振るう刃の圧と業火で押し戻せるか。
だがそれでも完全に防げるとは言い切れない、悲観的に言ってしまえば時間稼ぎに過ぎないか。

現に、上での初コンタクトの際は見事に突破されているではないか。


そしてもし魔塔の中へと突破された場合は、四の五の言わずに後を追うしかない。
そうなればここを守るのはベヨネッタとラジエルたちとなるも、
彼女達だけではここの戦線は崩壊してしまうだろう。

ベヨネッタの存在で戦力は足りていても、この場の『頭数』が足りないのだ。


ネロ「(……まずいなこいつは……)」

やはりこの状況のままではダメだ。
ベルゼブブもあの手この手で門の突破を試みてくるであろうし、
早急にかの存在の『靄』状態を破らなければ―――


そのようにして、向かってくる大悪魔に刃ふるう傍ら思索するネロ。
そんな彼と同じく。


ベヨネッタ『(あれは……―――)』

ベヨネッタもまた、四方から向かってくる天使と悪魔を蹴散らしつつ、
冷めた思考の一画ではベルゼブブの『靄』に関心を向けていた。

あれは他人の獲物であるため本来ならば意に介さないものなのだが、
この時はさすがにそうはできなかった。


なにせ少し前に―――あの『靄』と同じ『類』の『力』を、ジャンヌとともに『潰してきた』ところなのだから。


基本的に身を変じたり、特定の事象に制限をつけたりする特殊能力は、
対する者が力で圧倒的に勝っていれば問答無用で突破してしまうことが可能だ。

それこそ魔剣スパーダを切り落としたほどのネロの刃の前には、いかなる『細工』も無意味である。


だがその特殊能力も―――ジュベレウスの因子となると話は大きく変わってくる。



747:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:45:07.44 ID:89YzOhTFo

やはり十強、どいつもこいつも一筋縄にはいかない。
さすがは魔界の統一玉座を狙うだけあるものだ。


―――ただしどうやらベルゼブブの『それ』は、
創造、破壊、具現、維持といった名称を与えるまでにはいかないようだった。

『世界の目』でベヨネッタはその力を見極めた。


魔帝や覇王のそれのように完成しきったものでもなければ、
アスタロトみたくある程度の形になったものですらない、まだまだ未熟なものだ。

ただしそれでも最低限、創世主由来のものと定義するに相応しい水準には達している。

魔剣スパーダを切り落としたネロの刃をもってしても突破できないという事実が、
そのことを明確に示していた。


創世主の領域の力は、ただ巨大な力をぶつけるだけでは破れはしない。

創世主由来の能力は文字通り『創世主の力』、
真理とも呼べる根幹への『究極の干渉権』であり、力ずくで捻じ伏せることは不可能なのだ。


ただそれでも完全無欠というわけではない。
過去の実例があるとおり破る手段はいくつか存在している。

アスタロトに行ったように使用者本人に機能を停止させることや、
かつての魔界の三神とジュベレウスの戦いのように、同じ創世主の力をぶつけたりなどだ。

ただしこれは限定的な相性によるところも大きく、
また三神の力はこちら側には揃っていないため、当然のことだが倣うことは無理だった。



748:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:46:51.23 ID:89YzOhTFo

となれば、現実的な手段の一つ目は。

スパーダがかつて魔帝にとった戦法、
完全稼動状態の時の腕輪で創造のはたらきを遅延させ、
その間に『破壊』を叩き込むことだ。

この戦法ならば理論上、創造のみならずあらゆる因子に対しても有効なはずであり、
また実現も充分可能である―――どころか、もう現時点でその準備が整っている。


ただし準備は整っているのだが、
『彼』が―――バージルが『神儀の間』を離れられないため、『今』は使えなかった。


一応ベヨネッタも数分間は彼の役目を代わりに引き受けられるも、
それにはまず彼女が神儀の間に戻る必要があるため、これもまた無理な話だ。
ここはとても中途離席できるような状況ではない。


となると、残す有用な手段は一つ。

四つ目、これは当時の『あの日』まで誰も想像できなかったであろう。
『竜王』自身ですら、自らの力が創造に通用するとは夢にも思っていなかったはずだ。


そう―――『幻想殺し』である。



749:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:53:27.26 ID:89YzOhTFo

テンパランチア『―――何が滑稽か。忌まわしき魔女めが』

ベヨネッタ『あら、私笑ってた?』

地響き轟かせて地に立つ節制、その巨顔からの指摘で彼女はようやく気付いた。
もちろん見るものからすれば、悪事を企んでいるような類の笑みだが、
どうやら気付かぬうちに笑みが毀れてしまっていたようだった。

滑稽といえば確かに滑稽なのかもしれないが、
その傍ら―――彼女は少し苛立ちも覚えていた。


幻想殺し、すなわち竜王を元とする力は創世主の領域のものではない。
『その他』と分類される『凡庸』な『特殊能力』と同じ、言ってしまえばただの『小細工』に過ぎない。

ただし時の腕輪の例があるように、魔女の『小細工』で機能不全に陥ることもあるし、
幻想殺しが創世主の力に効果があることは『特別』ではあっても『異質』ではない。

しかしそれでも―――時空間魔術で干渉するにはスパーダ一族のように莫大な力が必要になってくるが、
幻想殺しの場合は実質―――干渉するに力の消費はない。

触れて認識さえすればそれだけで機能するのだ。


これこそ『異質』と呼ぶことができ、ベヨネッタが妙に滑稽に思えてしまっている点だろう。


竜王は上位の大悪魔程度、
上条当麻にいたっては大悪魔かそうでないかという境界上にいる程度の力量にかかわらず、
彼らの力は創世主の領域に絶大な影響力を有しているのである。

まさに幻想殺しこそ、たった一つの『真の弱点』としても良いくらいに。


そしてここがもう一つの感情、ベヨネッタの苛立ちの原因でもあった。
気に喰わなかったのだ。


この状況にこうも都合よく―――幻想殺しが当てはまるということが。


ベヨネッタ『……』


―――くだらない『筋書き』の匂いがプンプンする、と。



750:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 01:59:43.64 ID:89YzOhTFo

ベヨネッタ『……』

上条当麻という少年はもはやこの戦いには欠かせない存在、
趨勢を大きく左右する重要な鍵だ。

竜王の創造・具現・破壊という、『なんでもアリ』の布陣を破れるのは、
今のところは時の腕輪を装備したバージルと―――上条当麻しかいないのだから。


ただしそれゆえに、ここにまた大きな懸念が頭を過ぎってしまう。

ここで上条当麻を使うリスクへの。
果たして筋書きが誘うとおりにしていいのかと。

これは『作られた英雄性』をより高めるための『悲劇のお膳立て』になるのではないか、と。



バージルは強い。
敵なんかいないくらいに強い。

だが上条当麻は違う。
確かに大悪魔の領域に足を踏み入れてはいるも、『生まれたばかり』。
この戦場においては上級三隊より頭一つ分出ている程度で、
相対的には決して『強者』とは呼べない。

大悪魔の将たちを相手にすればひとたまりも無いだろう。


ベルゼブブを破るために彼を呼び寄せたはいいも、
それは視点を換えれば、『希少な勝利への鍵』という守護対象が増えてしまうことにもなる。

守るべきものを身近にした状態での戦いは、
ベヨネッタのように超攻撃型の戦い方をする者にとってはとても実力を発揮しきれるものではない。

それにまた、幻想殺しを作用させるには触れなければならないというのも問題だった。
上条当麻が触れようとしてきた瞬間に、鎌でカウンターでも放たれればそれで一貫の終わりだ。

上条程度の動きを読んで合わせるなど、ベルゼブブからすれば造作も無いこと。

そして彼の死はあらゆるところへと影響を及ぼす。
彼を慕う大勢の者達が悲観に包まれ、声は高まり、
スパーダの一族の戦いには―――その仇を討つという、『いかにもな』因果を新たに付け足してしまうことになるだろう。



751:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:08:32.90 ID:89YzOhTFo

ベヨネッタ『……』

この瞬間にはもう、ネロもここまでは思考は至っていただろう。
こちらよりも上条達と関わりが深いため早くたどり着いたはずだ。

しかしそれでも目新しい動きはせず、機嫌悪そうに目を細めているところからすれば、
同じくこのリスクに直面しているに違いない。

ただしそれでも他に具体的な手段は見当たらず。

ベヨネッタには、やはり上条を使わざるをえないように思えた。
万が一筋書きが彼に手を出そうものなら、その時はその時だろう。

少なくとも己とネロ、上条本人は筋書きを認識しているため、
罠に嵌りきる前に気づくことができ対応が可能なはずである。


だからネロには悪いが、ベヨネッタはさっさと決断してしまうことにした。
生意気なスパーダの孫が「ばあさん」と呼んだ『あてつけ』ということにしてもいい。
『年寄り』は気が短いものだから、と。

こっそり頭の中でジャンヌに向けて通信回線を開き、
同じ神儀の間にいるインデックスへと言伝を頼んだ。

少女に伝われば、瞬時に上条当麻に届くだろう。


『こっち来なボーヤ』という有無を言わせぬ命令は。



テンパランチア『戦いの中に気を他所に向けるとは―――』

ベヨネッタ『あら、心配してくれてるのね』

と、節制の口から戦いという言葉が出てはくるも、
実質この四元徳はほとんど参加してはいなかった。

離れた位置から指先からの砲撃を行ってくるだけ。
上級三隊の攻撃の間を縫ってたまに拳をふるってくるも、一撃だけで即離脱。

もっぱら戦いの主役は上級三隊の者達に任せきりだった。



752:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:11:58.82 ID:89YzOhTFo

ベヨネッタ『……』

ただし、テンパランチアが臆病風に吹かれたわけではない。
節制はベルゼブブが門を突破し能力者を殺害するのを待っているのだ。

悪魔を野放しにさせるのは天の者として許せず、
また『悪魔と共闘』なんて主神の意志に反することは思いつきもしないが、
悪魔を『利用』するということに関してはそれなりに考えられるようだ。

上級三隊をこちらに差し向けて相手にさせているのも、
それまでの時間稼ぎと、最強の魔女にベルゼブブを邪魔させないための支援とも言えるだろう。

ただし。
それもいつまでも続くものではない。

ベヨネッタ『アンタも他人の心配はしてられないと思うけど』

当然のことだが、
上級三隊が全滅した折にはテンパランチアは嫌でも戦わなければならなくなる。


ベヨネッタ『アンタがそうしてのらりくらり逃げるせいでほーらほら』


着実に増えつつある上級三隊の屍の中へもう一体。
足元に引き倒したジョイの頭をかかとで『撃ち潰して』加えつつ、彼女は微笑んだ。


ベヨネッタ『―――かわいそ~なジュベレウスのイヌ共が減ってく減ってく』


ここにお前が加わるのも時間の問題だと。


ベヨネッタ『―――アンタの番ももうすぐよ』


―――



753:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:13:49.74 ID:89YzOhTFo

―――


正義を掲げ人類を守るという大義に生きたとはいえ、
戦巫女を祖とする者としての宿命なのかもしれない。

レディ『……』

魔の手から人界を守るという信念の深淵にて、
実は己が潜在的に力と闘争を求めていたということ、
それを否定するのはもはや不可能。

そして拒絶する気も無かった。

この身が魔に喰われたのではない、
自ら魔となることを受け入れたのだ。

自我を保ったまま悪魔化している時点で、それはもう覆しようも無い事実である。

ただし今思い返してみれば、
それは別段意外なことでもなかったかもしれない。

戦いの中に至上の喜びと快感を求めていたことは昔から自覚していたし、
より『強くなること』を生涯の至上目標としてもいた。

それらの程度が、普通の人間の視点からすると狂気染みていたほどであったことも。
人々はそんな自らを指し、口をそろえてこう言ったものだ。


イカれてる、と。



754:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:15:29.77 ID:89YzOhTFo

そこを踏まえると、レディはこう感じた。


悪魔になっても、己は大して変わってないじゃないか、と。


喪失したのは―――元から希薄だった『人間性』だけだ。
人間としてはもうずっと前から―――『壊れていた』のだから、何を今更―――と。

一瞬前までその最後の人間性が足掻いてはいたも、
峠を越えてしまったら軽いものだ。

僅かな人間性の喪失への絶望と悲壮も、
それが潰されてしまったためにもう抱きもしない。

なぜ魂にそこまで響かないのか、
今だからわかるが、それら表向きの人間性は、
『人間であるため』に身に着けた殻であり、魂の本質からのものではないからだ。


アーカムの言うとおりこうして人間ではなくなることで、
『種族性』による殻を取り払った先に、レディは己の本質を始めて知ることが出来た。

果たして悪魔か人間か、その魂は、その心は、
なんて定義はもうどうでもよかった。

重要なのはたった一つ。


こうして唯一残り、露となった己の本質。


それは生粋の戦いの亡者―――『デビルハンター』だということ。


―――悪魔を狩るために生きているということだ。



755:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:17:51.13 ID:89YzOhTFo

レディ『……』

レディはそっと。
ジャケットのポケットから、小さなあるものを取り出した。

さきほどダンテから『返済』された、いや『奢られた』1セント硬貨である。

この小さな硬貨、『アーカムの冥土の渡し賃』にレディは、
集約されている己の生き様を見ることができた。

ここに実にコンパクトに、明確に記されている。


これに至る『経緯』だけでアイデンティティは充分なほどに。


レディ『…………』


今一度認めよう。
己は確かに『アーカムの娘』である。

だがもう二つ、絶対に覆せない不変の事実がある。


『私』はカリーナの娘の『メアリ』であり。



スパーダの息子、ダンテが認め絶対の信頼を寄せる悪魔狩人―――『レディ』であることだ。



756:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:20:59.25 ID:89YzOhTFo

アーカムは恐らく、こちらが小一時間ばかり悶え苦しむとでも予想して、
転生術を仕込んできたのだろう。

無意味に人間性が抵抗を続けるため、転生しきるまで時間がかかり動けないはずだと。

だがおあいにくさまだ。
アーカム本人もここまでとは思っていなかったようだ。


レディが―――これほどにまで『魔への適性』が高かったとは。


まさかこんなにも―――『娘』が『父』に『似ている』どころか、それ以上の『素養』を秘めていたとは。



レディ『……』

彼女はすっとコインをポケットにしまい、
背負っているロケットランチャーの位置を直すと、
迷わず―――魔の力をフルに使って魔塔の内を進んでいった。

人間性を失い悪魔になったとしても、彼女がやるべきこと・欲する行いは変わらない。
彼女が武器を再び手に取り、歩みだす理由も普段と同じ。
これまでとの唯一の相違点は―――『それ』しか見えていないという点。


―――なぜ母の名をロケットランチャーに冠しているか。


その理由は『復讐』のため――――――すなわちアーカムを殺すただそれだけのため。


レディ『……』

そして早速のことだ。
魔術と悪魔の知覚の混成による索敵網が、アーカムの位置を検知し。


―――『狩り』の時間だ。


―――



757:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/16(月) 02:22:03.82 ID:89YzOhTFo

今日はここまでです。
次は水曜に。



758:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県):2012/04/16(月) 03:02:37.56 ID:7ts3Xbcbo





759:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/16(月) 07:05:15.03 ID:E3xmrK9q0

乙乙乙
緊迫してきたなあ

でも、今の幻想殺しってどんな状態なんだ?
竜王とのリンクが切れたってのはわかるんだが



760:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/16(月) 14:21:46.82 ID:KZWXhxRHo

乙です。レディさんがハイパーモードに・・・
>>759
基本的に竜王に合体する前の状態。つまりベオ条さんと同じ。
ただしナニカサレタカラ幻想殺しを制御できる状態に。普通の右手と同じように幻想殺さない事も可能。
でも戦力としてはネロさんとベヨ姐の言う通りゴニョゴニョ・・・



762:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/04/16(月) 15:58:18.60 ID:OuGQshTs0

onoff切り替え可って何気に便利だな
不用意に術式を破壊したりせずに済むし右手にも悪魔の力の補正がかかるし



763:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/16(月) 18:43:43.94 ID:ogDqiS1xo

制御可能って事は、もしかしたら右手で掻き消してた為だったと噂のある不幸属性も消えるのだろうか。
消しきれなかった幸運の恩寵がラッキースケベって形に表れてたのだとしたら…ゴクリ



766:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/17(火) 10:29:06.65 ID:O31hSn/DO

>>763
学園都市に入るまでの不幸は☆の手引きだから、それ以降だな。つか本当に右手は運を消してるのかね。右手関係なく単純に上条自身運が悪いだけとか



764:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/04/16(月) 20:09:07.04 ID:RVf+2aZD0

レディさんマジ悪魔



765:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/17(火) 06:41:04.59 ID:udp+US2DO

乙乙乙
蠅王のモヤりにゲリュオンのクイックシルバーじゃ対応不能なんですかね?
クイックシルバー+ネロかベヨのフルパワーでごり押しじゃ突破不能?



771:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:04:16.93 ID:R3bKf4zdo

>>765
同じ時間操作系とは括れても、ゲリュオン(クイックシルバー)と魔女の時空間魔術は
成り立ちから作用原理まで全く異なるものであり、
その性質上ゲリュオンの力では創世主のものには通用しない、とこのSSでは考えております。

長くなりますが詳しくは、
時の腕輪は、使用者の力量が許す限り・認識できる限りのあらゆる時間軸に直接作用し、
『あらゆる変化が一切生じない』レベルまでの遅延、完全な『時間停止』としても良い状態を作りあげることも可能です。

ゆえにバージルが行っているような人間界基盤の凍結という荒業も可能であり、
そして周囲世界とは隔絶している創世主の因子に対しても、
効果を直接埋め込むことで『因子そのもの』の時間軸に干渉し、内部から破壊して機能不全に陥れることが可能となります。
(内部から破壊するという点については幻想殺しと同じです)

一方でゲリュオンのものは、神域の存在の資格とも言える自身の世界改変力の延長線上で、
作用原理は『自らを加速させる』という限定的なもので、言ってしまえば『悪魔の力によるごり押し加速』とも。

ですから相手の肉体行動は相対的に遅延させることができても、
創世主の因子の独自の時間軸はそのままなので、機能不全に陥れることはできません。



767:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/18(水) 12:56:35.22 ID:7p925yTIO

幸運は全部フラグ建築に回してるから±0だろ



768:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/18(水) 13:00:54.52 ID:SCnmabPFo

つまり右手で本当に幸運を掻き消してたとしたら今まで以上にモゲれば良いのにって状況になるんですね



770:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県):2012/04/18(水) 20:00:04.46 ID:ruJ1wZqDo

OFF状態だと性別・種族に関係なくフラグ建築しますってか
セロリにはもう建ってるけど



772:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:06:31.79 ID:R3bKf4zdo

―――

魔塔地下深くにある大地底湖。
その東側の岸は石造りの構造物で固められ、
港の岸壁のようなちょっとした広場になっていた。

北、滝を割った先には歌劇場へと続く碧い洞穴、南には『双児橋』へと向かう水路。

そして西、地底湖に降りて流れをさかのぼればギガピートの巣へとたどり着き、
魔塔の地上層に上がることが可能でなる。

土御門達がここに降りてきたのもこの西からであり、
魔塔の正門からの最短ルートだった。

また、これが非常時の際の逃走ルートでもあったのだが。


土御門「―――」

この時、彼らはそのルートを使えなかった。
洞穴を抜けた瞬間、すぐに前方に―――あの『道化』が立ち塞がったからだ。

湖は道化の背後すぐ。
土御門をはじめみなの脳裏に一瞬、この道化の脇を突破するという策が浮かんだも。

すぐに道化の手にある―――折れたカーテナの刃を認め、
そんな策など危険すぎると判断せざるをえず、その場に立ち止まるしかなかった。



773:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:08:07.69 ID:R3bKf4zdo

ただ、彼らは呆然と衝撃に打ちひしがれてるだけじゃなかった。
滝壺と浜面を抱える絹旗を中心として、能力者たちが後ろへとはね下がり、
入れ違いに天草式が前に飛びだし布陣。

そして土御門もまたすばやく作業を行った。


土御門『―――かみやんを!!』


魔術による回線を開き、アニェーゼへと叫びながら、
慈母が残してくれた力を解き放ち―――『一筆』。

『断神、一閃』

陰の王たる黒豹相手に使っていたもの比べれば、
ずっと出力は小さくも、それでも間違いなく慈母の『筆しらべ』。

破壊力は申し分ないものだ。
しかしどれだけ威力が高かろうと、当たらなければ意味がない。

土御門『ッ』

放った瞬間の手応えのなさが、
この攻撃が避けられたことを物語っていた。

一瞬ののち、目にうつるのは筆しらべが鋭利な溝を刻んだ岸壁のみ―――


そして姿消した道化は次の瞬間。
一行の背後、洞穴の方に現れていた。



774:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:12:30.59 ID:R3bKf4zdo

土御門『―――ッ!』

道化の動きを検知できたのは土御門だけだった。
建宮をはじめとするその他の者達には、とても認識が追いつかぬ速度だ。

まばたきすらも許さぬ一幕。

土御門だけはすばやく振り向き、
絹旗・浜面・滝壺のすぐ後ろ、僅か3mのところに現れた道化の姿を視認―――するも。

続けざまに次の手に移ることはできなかった。
道化への射線に、滝壺たちを含め何人も重なっていたのである。

筆しらべによる『断神』は、前方の何もかもを破断するきわめて攻撃的な力。
何人もの肩や首元をすり抜けて放つには危険過ぎるのだ。


―――と、そこで土御門には一瞬の判断の迷いと、
そして精密射撃へ集中するためのラグが生じてしまう。


その瞬間にも依然、己以外は誰も背後にうつった脅威を認識できずに前を向いたまま。
慈母の力で精神速度が加速している土御門からすれば、
まるで時間が止まったかのように硬直して見えていた。

ただし。

道化の動きだけは、『時間が止まっている』どころか『早送り』だった。

ステッキをくるりと回し、たんっと跳ねて背後から滝壺へと―――


―――その動きに土御門は間に合わなかった。



775:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:14:25.63 ID:R3bKf4zdo

遅かった。
筆しらべを放てなかった。

判断と精密射撃のために費やしたわずかな時間が、
決定的な差になってしまったのだ。

しかしそんな不覚に悔恨を抱くにはまだ『早かった』。

刹那、ある人物の『再』介入で、
滝壺の死という最悪の結果が間一髪で回避されたのである。

道化がステッキをかざし跳んだと思ったのも束の間、彼が1mと距離を詰める前に―――


背後から道化を―――幾本もの『金色の光刃』が貫いてきて。


土御門『―――ッ』


道化の胸や腹から『突き生えてきた』金色の光刃、
それらがいかなる力なのかは、土御門には慈母の瞳で一目でわかった。

そして彼は瞬間、思わず笑みをこぼしてしまった。
ついさきほど、あの『衝撃』を受けた後のこの『再会』だ。

これが喜ばすにいられるか。
光刃を形作っている力は、『十字教の主』のものだったのだから。



776:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:17:06.93 ID:R3bKf4zdo

直後、背後からの強襲に道化は地に叩き伏せられ。

その背の上に獣のように降り立つ『彼女』。
壮絶なその姿を土御門は視認した。

しっかりと結われていた金髪は乱れ、
纏っていた胸甲は脱ぎ捨てられ、上は破れた鎧下姿。
下の腰巻も破れに破れ、あちこちに深い傷があり全身が血塗れ。


こうして再会したキャーリサは、まさに『血に狂った獅子』という様相だった。


そして一際衝撃なのは胸や胴、
肘や膝などにいくつも突き刺さっている光を放つ『金属片』。

一瞥しただけで土御門にはわかった。
それらは『カーテナの欠片』だと。

指の間にも欠片をいくつも挟みこみ、そこから熊手のように光刃が伸び、
彼女はその片方の腕で、道化を貫き押さえつけていた。


『―――おンやまぁ。ま~だ生きておらっしゃったとは―――』


キャーリサの足の下からの声。
空気が混じり泡が立った血を吐きながらも、
道化は苦痛を一切見せずに笑った。

対し彼女は今にも喰らいつかんとばかりに歯をむき出しにし。


                  ワタシ
キャーリサ『覚えておけ!「獅子」の息の根を止めたくば―――首を落とすんだな!』


そしてもう片方の『熊手』を振り下ろし。
掃うようにして、道化の頭をなます切りにした。



777:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:18:25.93 ID:R3bKf4zdo

―――と、普通ならばこれで勝負が決したところだろう。

だがこの相手は、魔術師でも人間でも悪魔でもいかなるものさしを当てはめようが、
決して普通ではなかった。

斬り捨てた余韻すらも許さず。


『―――じゃあこっちも教えちゃウ!』


どこからともなく響いてくる、調子の変わらぬ声。


『実は今のオレ――――――何をされても死なないんだなコレが』


足元の道化の『死体』は、酸に溶けるようにしてすぐに消えていったも、
声は平然と続き。
周囲を満たす異様な気配もそのまま、薄れることは無かった。

キャリーサの強襲が成功したにもかかわらず、
状況はほとんど変わらなかったということだ。

ゆえに再会と無事を喜ぶ言葉なんて交わしている暇など無かった。



778:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:21:32.67 ID:R3bKf4zdo

建宮「キャーリサ様!」

ようやく振り向いたほかの者達、
そしてキャーリサの姿を見て天草式の者達からもれる息。

生還の安堵と重傷の身を目にしての衝撃が入り混じった奇妙な声だ。

土御門はそのような声を漏らさなかったも、気持ちは同じだった。
慈母の目からすれば、その酷い見た目だけじゃない、
『中身』も滅茶苦茶だ。

カーテナはもう保護機能も何も無い、もはや単なる『力の爆弾』と化している。

彼女の魂は、今にも砕けつぶれそうな状態、安定している箇所が一つもない。
とにかく濁流のように力を注ぎ込んでは強引に押さえつけて、
なんとか形を保っているだけだ。


キャーリサ『―――行けェッ!!!!』

しかしそのようにて一瞬生じた空気も、
彼女自身からの怒号によってかき消され。
そして有無を言わせずに全員の背を叩き押した。

               ラビリンス
『ムダだぜ―――ここは「迷宮」さ!』

からかうように空間に響く道化の声など無視し、
土御門はすばやく前に向き直ると、すかさず筆しらべ。


『凍神、吹雪』


瞬時に凍結する地底湖の端。
一行はその上に飛び降り駆けていった。



779:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:23:09.88 ID:R3bKf4zdo

もちろんたどるは西の流れを沿う、魔塔地上部へと向かうルートだ。

今一行にはこのルートの選択肢しかなかった。
魔塔の内部を把握しているのはゲリュオンと共にいる五和だけで、
土御門含め他の者はこの通ってきたルートしか知らないのである。

そのようにして暗き洞穴の中、凍結した流れを遡っていると、
前方から駆けおりてくる姿が二つ。

魔像に身を固めたシェリーと、天の光を纏う半天使のヴェントだ。
回線が切断されたのを受けてすぐに向かってきたのだろう。


シェリー『―――大丈夫か?!キャーリサ様は?!』

まず最初に声を放ったのはシェリーだった。
滝壺の姿を見て生きていることを確認し、次に己の主君の居場所を問う。

ただそれに土御門たちが声を返す必要は無かった。
背後、流れの下方から轟いてくる戦いの地響きが代わりに答えてくれたからだ。

シェリーはヴェントと一瞬目配せしたのち、流れを猛烈な勢いで駆けおり、
その地響きの源へと直行。

ヴェント『行くぞ!!』

残ったヴェントが土御門たちの護衛に加わり、
そして一行はまた流れを遡っていった。



780:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:24:20.72 ID:R3bKf4zdo

延々と続く巨大な洞穴の流れ。
その闇の深さで果てしなく続くようにも思えてしまうが、
実際のところはそれほどの距離もない。

この速度でさかのぼれば、
すぐにギガピートの巣の列柱回廊が横に見えてくるはず―――なのだが。

その異常には、皆はすぐに勘付きはじめていた。
いつまで進んでも列柱回廊は見えず、そして徐々に―――流れの傾斜がゆるくなっていき。

ついに水平を通り越して―――今度は『下り』傾斜に。

あきらかに記憶とも食い違っているこの道なりに、
皆の違和感は確信に変わっていく。


―――『地形が変わっている』と。


だが、ことはそんな単純なものではなかった。

とにかく前に進んだ一行、その先で彼らをまず迎えたのは、
後ろから聞えてくるものと―――『同じ地響き』だった。


そう。
『前』からも『後ろ』からも。
キャーリサとシェリーによる戦いの轟音が響いてきたのである。



781:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:26:36.45 ID:R3bKf4zdo

土御門「―――!」

これが幻聴であればどんなに良かったか。
しかし前方からの衝撃もまぎれもなく本物だった。

前、洞穴の流れの先には―――『地底湖』が見え。

そしてキャーリサのものと思われる、金色の光の波が覗いていたのだから。


ヴェント『―――なんだこれは―――どうなって―――』


たった今通って来たばかりのヴェントにはより衝撃だろう。
土御門自身も信じがたい。

己たちは戻ってきたのだ。
ではなぜ。

もともとこの洞穴は一本道なために迷いようは無いし、円を描いて戻ったと理由付けしても、
同じ方向どころか同じ入り口から地底湖にたどり着くわけがない。

引き戻さない限りこうはならないのだ。
そしてもちろん―――方向転換などしてはいない。


まるで狐につままれた気分だ。
だがこれは幻覚じゃない。
どれだけ巧妙な錯覚だとしても、慈母の目は誤魔化せるはずが無い。

土御門はすぐに理解した。
変わったのは地形じゃない。
ましてや、操られてでもして気付かぬうちに方向転換したわけでもない。


手が加えられているのは―――『空間』そのものだ、と。


先ほど響いた道化の声、そこにあった『迷宮』という言葉。
あれはご親切にも、実に状況を的確に表現していたものだったようだ。


恐らくあの道化の魔術だろう―――ここは『ループ構造』になっていた。



782:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:28:28.73 ID:R3bKf4zdo

ヴェント『―――他に道は?!』

少なくともこの流れがループ構造だとなった以上、これ以上ここを進むのは無駄だ。
他の道を探さねば成らない。

土御門『地底湖の南側にも別の水路に向かう扉があるが、その先がどこに続いているかはわからない!』

ただし道と呼べるものについては、土御門はこの西のルートしかわからなかった。
南は双児橋という場所へと続いているとは五和から聞いたも、
それ以上はわからないのだ。

だが他に具体的な策は無さそうだった。


事実、二人はすでに互いに認めていた。
このような話をしている時点で、このループ構造の魔術を破るのは困難だと。

土御門『―――……!』

慈母の目でこれが魔術であることは明らかなのだが、
認識できるのと手を出せるか否かはまた別の話だ。

慈母は『魔術師』ではない。
魔術に対応するには、己自身の技術のみが頼りなのだ。

そして少なくとも己よりもずっと技術が上のヴェントですらも
魔術で抗うことを諦めたということは、もう『そういうこと』である。



783:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:30:24.50 ID:R3bKf4zdo

―――では上条を待つか。


それが一番安全だろう。
彼の右手さえあれば、
魔術と呼べるものはほぼ無条件で破壊できるのだ。

だが問題は―――上条がやってくるまでの時間、
あの道化から逃げ切れるかどうかだ。


ヴェント『―――チッ』

次の瞬間、ヴェントと土御門はほぼ同時に気付いた。
洞穴の『天井』に『立っていた』道化の姿に。

次いだヴェントの迎撃行動は素早く、
かつ壮烈なものだった。

彼女の手から伸びる眩い光剣、それにより切り上げ一閃。

洞穴の天井ごと道化を縦に切り裂き、
さらにもう片方の手からは光剣を『投擲』。

道化の体を貫き、そのまま天井に磔に―――



784:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:32:28.47 ID:R3bKf4zdo

そして続く一連の行動もまた速やかなもの。


ヴェント『―――行け!行くんだ!!』

土御門『―――!』

どこに、と聞き返すのはもはや愚問だ。
今はとにかく離れるしかない。

それも早急に。

建宮「―――俺たちはいいのよな!行け土御門!!」

大人数で動くには遅すぎると判断してか、
さっととび退きそう促す建宮。
彼に続き他の天草式の者たちや能力者も一気に散開。


そして土御門は即座に―――『白狼』に姿を変え。


土御門『―――乗れ!!』


目の前の様々な光景に驚愕しながらも、
言われるがままに跨ってきた浜面と滝壺を乗せ、地底湖の方へと駆け下りていった。

前方から流れを駆け上がってくるは、道化の方へと急行するキャーリサとシェリー。
どうやら目を合わせただけでこちらが『土御門』だとわかってくれたらしく、
彼らは特に足並みを緩ませもせずにすれ違い、ヴェントに加勢。

そうして土御門の側は、今度は南の水路を目指した。

状況的に考えて南の先もループ構造であろうが、
それでも、少しでも今の道化の位置から距離を稼ごうと。



785:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:34:23.63 ID:R3bKf4zdo

シェリー『―――おおおおおおお!!』

天井に磔にされている道化へと叩き込まれるは、
魔像の巨拳による強烈な『アッパー』。

しかしそれで道化が完全に滅ぶことは無い。
例え『一回死んでも』だ。

魔像の拳が洞穴の天井を穿ったのも束の間、けたたましく響く狂ったような高笑い。


『だから~オレを殺そうたってムダだって!あれっまさか今のオレってチョーォモテモテ?!』


そして間抜けな、喜劇に使われるような効果音つきであさっての方向にひょいと現れ、
元気たっぷりに徹底的にふざけた調子で踊る道化。


キャーリサ『チッ―――』

もう二度も殺しているが、この道化はまったく消耗してくれない。
まさに正真正銘の不死身か。

ただ、だからといってこの戦いが無駄だというわけではない。
少なくとも―――滝壺を殺すというこの道化の目的を、
現時点まで妨害し続けることに成功しているのだから。



786:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:36:28.18 ID:R3bKf4zdo

『でもサー美人サンばかりとはいえ、ここまでつき纏われちゃさすがにちょォーっとウザイねぇ―――』


それについては、道化の側もそれなりに苛立っていたらしい。
これはキャーリサ達にとっては非常に好ましい点である。
少しとはいえ、追い詰めることが出来ている証だ。

だが、そんなささやかな勝気をひっくり返してやるとばかりに。


『―――それジャ仕方ないね。オレだってイタイのはきらいだからこうはしたくなかったンだけどサ』


道化の顔に狡猾な悪意が覗く。

彼はそうわざとらしくぼやくと突然、
一切躊躇わずにステッキを―――自らの首に突き刺し。

キャーリサ『―――』

そのまま頭を捻じ切ってしまった。


そう―――『自殺』したのである。


そのとき。キャーリサは『あること』に気付いた。
この場で自ら命を絶ったということが大きなヒントとなって―――道化がなぜこの行動に移ったのか、その目的に。

一度目、背後から殺した時は、死体は消え、次に姿を現したのは少し離れたところ。
この洞穴の位置に突然道化が現れたのも、シェリーとともに地底湖で二度目の死を与えた直後。

つまり考えられるは、『再生する場所』は『死んだ場所』ではない。
ある程度の範囲で―――好きな位置に出現することができるという点。


キャーリサ『(しまった―――!)』

これらを踏まえれば、あとはもう明白だろう。
道化が次に出現するところは―――滝壺達のすぐ近くだということ。

土御門が稼いだ分だけ―――己たちから遠いということに。

アーカムの死体はこれまでの例に漏れず、
その場で酸に溶けるようにして無くなっていった。



787:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:38:56.72 ID:R3bKf4zdo

浜面「うぉッおおお!!」

じっとしがみつく滝壺と、対照的に騒がしく声をあげる浜面を背にして、
白狼―――土御門は凄まじい速度で駆けていった。

地底湖の水面の上を走り、岸壁に飛びあがると南の扉を頭突きで開け放ち、
続く水路をも一気にぬけていく。

そしてたどり着くは『双児橋』。

そこは碧い筒状の空間だった。
巨大な円筒タンクの中のような場所だ。
ただし床が無く、下は底が見えないくらいに深い。

そんな空間を、壁から壁へと二本の橋が並んで渡っていた。

細い橋を前にして背の少年の声が一段と大きくなるが、
白狼は気にも留めずに駆け、そして橋の反対側の扉をまた頭突きで開け放ち、その先へ―――


―――としたかったのだが。

やはりこちら側もだった。
土御門はこれ以上進むのは無駄と判断し、足を止めた。
扉の先には、『今通ってきた水路』が伸びていたからだ―――

ここがこのループ構造の迷宮の最南端だということ。
これ以上の逃げ場は無いのである。



788:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:42:07.12 ID:R3bKf4zdo

土御門『―――』

そのとき。

白狼は、背後に突如現れた圧力に気付いた。

すぐに飛び跳ねるようにして振り向くと。
橋のちょうど中ほどに立っている、しっかりとした神父服に身を包んだ―――スキンヘッドの男。

初めて見る姿の男であったも、
土御門はすぐに正体に気付いた。

一目瞭然だ。
特徴的な瞳―――『オッドアイ』で、あの道化だと。


そのようにして逃避もここまでかと、相手とのコンタクトを覚悟し、
土御門は牙と爪を剥き出し―――と、そこでまた―――状況に変化が生じた。


それも今度こそ、今度こそ―――喜ばしいことが。


土御門から見て、スキンヘッドの男挟んでちょうど端の先、
その上方の空間が目に見えて歪み。
限界点を超えて割れ、ガラスように砕け散る空間の欠片―――

それはこの場を迷宮化していた術式が破壊された瞬間だった。


そして空間の裂け目から『破壊者』が姿を現す。


巨大な『魔狼』の背に乗った―――上条当麻が。



789:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:43:58.60 ID:R3bKf4zdo

これにはスキンヘッドの男も驚きだったに違いない。
少なくともこうなることは想定していなかったはずだ。

瞬間。

一度弾かれたように振り向き上条を見やると、
再びこちらに向き直り、そして身を落として今にも向かってくる体勢の男。

だが同時に上条を乗せた魔狼も橋に降り立ち、男へと背後から跳びかかろうという姿勢。

大丈夫だ、この状況ならば負けはしない。
この一瞬の中で土御門はそう判断した。
まぎれも無い大悪魔に上条当麻、これほどの増援がいれば滝壺を守りきることは可能だと。


しかしそうした状況分析も、次の瞬間にはまたやり直さざるをえなくなった。


この場に生じた大波紋は、上条の登場だけには終らなかったのだ。


スキンヘッドの男と上条を乗せた魔狼が同時に踏み切ろうとしたその瞬間。
この場へと、文字通りの『第三者』が飛び込んできた。


ちょうどスキンヘッドの男の真上に現れるは―、
ロケットランチャーを掲げ、その先端にある刃を男に向けている―――


レディ『―――アァァァァァァァカァァァァム!!』


―――『同じオッドアイ』のデビルハンターだった。



790:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:46:03.89 ID:R3bKf4zdo

この凄まじい強襲には、
スキンヘッドの男も一切反応ができなかったようだ。

強烈な語気を発しながら男に―――真上から凄まじい勢いで刃を突き刺すレディ。

その勢いはとてつもなかった。
男を突き刺したまま、彼女は橋をもぶち抜き―――そして男とともに深淵まで一気に落ちていったのである。

猛烈な地響きは断続的に轟いてはくるも、
彼女自体の姿は下にすぐに見えなくなってしまった。

土御門『―――』

そのようにして彼女の姿を視認できたのは一瞬であったも、土御門は見逃さなかった。
確かにレディだったのだが、『存在』が明らかに人間ではなくなっていたのを。


ただしそれを考えるには、今はいささか余裕がない。
彼はすぐに頭を切り替えると、折れた橋を飛び越えて上条の前に降り立った。

土御門『―――遅い!!遅すぎるぜぃ!!』

これに返って来た上条の反応は一泊要したものだった。
こちらと同じようにレディに違和感を覚え、
加えてこの『白狼』姿に驚いているのだろう。


上条『―――つっ土御門か?!一体どうなっ―――?!その「香り」はアマテ―――』


土御門『説明は後だかみやん!!まずは上に行く!!』

だが詳しく話している暇はない。

己を指して『その香りはアマテラス』と言いかけた上条。
一瞬、なぜ彼が本物のアマテラスを知っているのか、
そしてなぜ―――『その姿』ではなく『その香り』と言ったのかが土御門も気になったが、好奇心の我慢はお互いさまである。


二頭の狼は、それぞれの者を乗せて駆けて行った。
ようやく迷宮では無くなった水路を、地上部へと向けて。

―――



791:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/19(木) 02:46:31.66 ID:R3bKf4zdo

今日はここまでです。
次は土曜に。



792:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県):2012/04/19(木) 02:48:24.78 ID:6sB6BET+o


スパーダ一族&魔女の絡んでいないシーンが全部『クソッタレな筋書き』に見えてしまってうーんってなる



793:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/19(木) 03:16:17.80 ID:pyqJrt9AO

乙乙乙

>>792
上条復活で筋書きさんが決定的に狂っちゃったし今は筋書きにない方向に向かってるんじゃないか
筋書きどおりじゃないからあの手この手で修正しようとテンパってるわけだし



796:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/19(木) 19:55:01.47 ID:GBKSym1M0

大天使ミカ上さんなめんなよ

天界時代にアマ公にもフラグ立ててたんだろたぶん



799:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2012/04/20(金) 02:45:15.10 ID:NrXSHJyz0

>>796
アマ公さん、一応女神らしいからな
モフモフしたい



797:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/19(木) 20:46:01.36 ID:1imFk5bB0

天界スキャンダルわろた



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禁書目録SS   コメント:1   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
27309. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/06(土) 01:05 ▼このコメントに返信する
遂に出たか、アマ公名物の一つ、頭突きが…!
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