ダンテ「学園都市か」【MISSION 43】

2012-10-26 (金) 23:01  禁書目録SS   1コメント  
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148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:15:06.23 ID:swV6Vgfco

―――


たった一つ、この決壊から逃れていた一欠けらの現実があった。


アイゼン『―――何だこれは?!』

ベヨネッタ『!!』


神儀の間である。

双子の激突に備えて、
ベヨネッタが張っておいた世界の目を要とした結界。
それがこの領域とここにいる五人の魔女達の存在を維持したのである。

ただし、この結界が防壁となって濁流を防いだのではない。
結界に内包するという形で世界の目―――『闇の左目』の影響下においていたことが、
ここが飲み込まれるのを『後回し』にしてくれたのだ。


『闇の左目』は、分類上は創造や破壊よりも上位に位置する、
創世主の力に一番近いどころか『オリジナル』の片割れだ。

ゆえにもっとも存在が『重い』のである。
現実の外にあるダンテよりも、だ。

そのために現実を一通り飲み干した濁流は、次はダンテへと向かった。
もちろん彼が飲みこまれれば―――次の番こそベヨネッタだ。



149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:15:36.13 ID:swV6Vgfco

神儀の間の外は何も無くなっていた。
くらく蠢く空も、影の海も消えさり完全なる闇、いいや、闇とすら認識できない。
現実がないために認識が外に届かないのだ。


禁書『だめ!とうまもベオウルフも繋がらない!!』

ジャンヌ『こっちもだ!契約者達の存在が消えた!』


ベヨネッタ『……ッ!』

二人に同じく、彼女もその異常の中にいた。

これまで契約してきた悪魔達の存在が感じられない。
主契約者たるマダム=バタフライすらも消え去ってしまっている。


アイゼン『―――何が起こった?!』


何が起こったのか。


禁書『ね、ネロが…………―――』


この異常事態がはじまる瞬間は、
インデックスが上条の目を通して直に見ていた。


ネロを襲った現象、いや、ネロの姿の『変容』の瞬間である。

変化した姿は、
ダンテ、バージル、ネロに『非常によく似ている』も『別人』であり、
息子や孫達に見受けられる、母から遺伝した人間的おもかげは微塵もない―――『純魔』。

そうした変化した特徴をインデックスから告げられて、
実際に『彼』と面識のあったアイゼンは絶句。
そんな彼女を見て、他四名も確信した。


現れたのは―――スパーダだ、と。



150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:17:26.93 ID:swV6Vgfco

アイゼン『―――どういうことだ?!蘇ったのか?!』


厳密には『蘇った』わけではなかった。


ベヨネッタ『いえ―――』


原因と状況を把握するべく、観測者たる瞳で見通していくベヨネッタ。
見えてくるのは、筋書きという操舵主が消えてしまったことによる流れの暴走だ。

筋書きの目的は、望む未来を作り出すことにあった。
そのためには展開を誘導しつつ、過去と未来が正常に繋がっていくように現実を維持せねばならない。
手を加えていくことから常に流れにストレスが生じるため、それを抑え込む必要もある。

筋書きとはいわば『理性』だったのである。

だが今や消え去った。


―――残ったのはただの『衝動』のみ。

管理者の喪失により箍がはずれ、
抑え込まれ蓄積されてきたストレスが噴出、そうして現実が『壊れた』―――流れが『決壊』したのである。


暴走した理性なき衝動は、いかなる理をも無視する。
過去と未来、生と死、有と無、それらを区別する境界すらも消滅する。


そして衝動たる濁流が宿す唯一の『意味』は、
この衝動の旗印、筋書きの核であった――――――スパーダであり。


こうして決壊した際、最初に粉砕する現実こそ、その核を破壊した―――ネロである。



151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:19:16.71 ID:swV6Vgfco

ベヨネッタ『―――違うわ。生き返ったんじゃない』

スパーダは蘇ったのではない。
死から生へと、過去から未来へと舞い戻ったのではない。
過去も未来も、生と死の境界も全て無視した濁流によって、


―――ネロの存在に『上書き』されたのだ。


これは反動だ。

流れを誘導するにあたり、
筋書きという『理性』が太古から押さえつけてきたストレス、
そして此度の戦いによる圧迫から、

極端な原点回帰とも言えるか、解き放たれた『衝動』はスパーダただそれだけに集中する。

ただし、『それだけ』では現実は存在できない。
律する『理性』がなければ、世は存続しない。


結果、現実は『壊れた』。


ネロがスパーダへと変じた瞬間―――過去も未来も、生と死も、有と無の区別も消え去り、全てが無かったことに。


そして濁流はすべてを舐め尽した。


ここ神儀の間は、ベヨネッタの闇の左目という理に守られているおかげで、
いまだに現実として存在を維持できている。
しかしそれも絶対的ではない。


ベヨネッタ『―――ダンテ……』


さらに深く、もっと先へと濁流を見通していくと、見えてくるのは―――スパーダと相対しているダンテ。

彼が濁流に飲み込まれることがあれば、次は―――ベヨネッタである。

闇の左目が消え去るという事象に含まれるのは、
現実の『飛び地』である神儀の間が消滅するという意味だけではない。

創世主の力という『始点』が『無かったこと』になるのだ。

つまり、創世主によって生み出されたこの世すべてが『無かったこと』になる。



152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:20:30.11 ID:swV6Vgfco

ベヨネッタ『―――チッ!』

これほどの危険になぜ事前に気付けなかったのか。


ベヨネッタは自責の念に駆られかけたも、それは仕方のないことだった。

創世主たる目でも、中身は創世主たる存在ではない。
見えていても、認識が及ばずに気づくことが出来ない。
筋書きを認識できても、その中身まではわかりようがないのだ。

そして状況的にも、彼女には自身を責めている暇など無かった。
ジャンヌもローラも、愛する存在を喪失したインデックスも、
ただ絶望に打ちひしがれていることはなかった。

彼女らはアンブラの魔女。
いついかなる時も美しく、堂々とし、図太く、狡猾で、強く逞しい、最悪にして最高の『アバズレ』。

死してもなお怨念となって敵を貪ろうとする、死んでも敗北を認めない者達である。


口早にアイゼン達へとわかった範囲の事柄を告げるベヨネッタ、
それらを踏まえ、それぞれがいま成すべきことについて思考を展開していく。


最重要目的は世界を元に戻すことだ。
それについてまず考えなければならないのは、それが可能かどうか。


アイゼン『どうだセレッサ?!』

ベヨネッタ『大丈夫!!なんとかなりそう!!』


それについては、良好な答えを見出すことが出来た。

濁流を止めることができれば、流れはまた正常になり全てが元通りだ。

この現象自体には時間軸がないために『中途過程』というものも無い。
(こうして現象として観測できるのは、闇の左目の独立した時間軸を通しているからだ)

ゆえに結果は1か0であり、何とか防ぐことが出来れば0、現象自体を無かったことに。
現象が『はじまる直前の状態』に世界を戻すことが出来る。

ただしそれにも条件がある。


―――『ネロ』に上書きされた『スパーダ』を倒さなければならないのだ。



153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:21:56.17 ID:swV6Vgfco

確かにダンテが敗れてもすぐには終らない。
濁流は次にこちらを飲み込む必要があるため、
ベヨネッタにも応戦のチャンスはある。

ただし、そうなった段階では勝てる望みは皆無としていい。


ダンテが倒れれば、濁流は更に勢いを増して強くなる。
逆に彼女は、マダム=バタフライの力が消えて大きく弱体化。

ベヨネッタ『―――……』

どう足掻いても無理だ。
ここにいる他四人の力を加えても不可能なのは目に見えている。

そのように考えると、ダンテが倒すしか世界を取り戻す道はないのである。


彼が『何』と戦っているのかも含め一通り告げると、
アイゼンが思案気に頷いては、仮面の下で目を細めて問うてきた。

アイゼン『……それでどうなっておる?戦況は?』

ベヨネッタ『…………』

返すは沈黙。
これだけでも充分に答えになっていた。

声にするまでもない。
誰もがわかるはずだ、きわめて厳しい戦いであると。
単純に今ある戦力でも、そしてダンテという男にとって心理的にも。

なぜなら相手はスパーダなのだから。



154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:23:38.44 ID:swV6Vgfco

どう見ても厳しい。

続けての戦いで疲労困憊のダンテに対して、
スパーダは時間軸を無視しているために常に全盛という状態。

しかも戦うにつれダンテの消耗が色濃くなっていくであろうから、
さらに差が広がっていくのも確実。


ジャンヌ『どうにかして向こうにいけないか?私とセレッサが加勢すれば―――』


となれば加勢すべきであろう。
かの戦いは一対一が条件というわけではない、スパーダを葬ればそれでいいのだ。
だがそれについては。


ベヨネッタ『無理よ―――』


アイゼン『あの者共が戦っておる領域は、ダンテの内なる世界。
      外から部外者が乗りこむことは出来ぬ』

理由は、顎先に手を当てたアイゼンがすばやく続けてくれた。
そして。


アイゼン『存在と魂が互換せねば入れぬ。その点、「アレ」はスパーダの形であるために入ることができた、……とな』


そう告げた最後に、『何か』を仄めかせた。



155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:25:03.15 ID:swV6Vgfco

ベヨネッタ『―――ッ……』

ジャンヌ『……なっ……』


その含ませられたところに、二人はすぐに気づいた。

直後、アイゼン含む三者の視線が向かう先は―――インデックス、そしてローラ。

それぞれ訝しげな表情を浮べるその『姉妹』をよそに、
三者は再び視線を交差させては、声無き議論を交わしはじめた。

ジャンヌ『いや……しかし……』

ベヨネッタとジャンヌは眉をしかめ、
一方アイゼンは説得するように頷いて。

そのようにして5秒ばかり立った頃、ここでインデックスとローラも悟った。
先ほど己達に視線が向けられた理由も、この三者の議題についても。


そしてインデックスも、ベヨネッタとジャンヌと同じようにアイゼンへと視線を投げて。


一筋の希望を見たと同時に―――表情を『悲しげ』に陰らせた。


彼女達の議題、それはダンテへと加勢を送り込むための、
あるアンブラ魔女の技についてだった。


このインデックスとローラにまつわる―――とある『禁術』について、だ。



156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:27:38.32 ID:swV6Vgfco

他の者達が表情を曇らせる中、
アイゼンだけはその術の使用について淡々と話を進めていく。

アイゼン『セレッサ。力は残っておるか?』

ベヨネッタ『……ええ。ギリギリだけど足りるわ』

ジャンヌ『私の力も使えるだろう』

その禁術の稼動には莫大な力が必要になるが、
人間界保持の任から解き放たれた今なら、集中すればなんとかなりそうだ。
ただし一発勝負、そしてこの一回で、しばらく歩けないほどに消耗するだろうが。

アイゼンはふむと頷くと、矢継ぎ早に次なる確認を向けてきた。


アイゼン『―――「あやつ」を「引き戻す」ことは可能だな?』


ベヨネッタ『それは……』

確かに『彼』の痕跡は残っている。

人間界の力場を経由して、ダンテの『中』にも移されているため、
『彼』の存在は消え去ってはいない。
そこから引き戻すことは可能だ。


ベヨネッタ『でも器が……』

しかし『彼』の身はもう消失してしまった。
引き戻すことができても、存在を繋ぎ止める依り代がない。


アイゼン『材料ならばここにあるだろう?―――我が血肉ならばなんとか条件に合う。
      少し遠いが、一応血は繋がっておるからな』


だがそこでアイゼンは、
何をわかりきったことを、といった口調で答えた。


そう、皆わかっていた。
わかっていたから眉を顰め、表情を曇らせていたのだ。


この禁術の『受け皿』はアイゼンしかいない。
術を行使すれば、この偉大なる魔女王は――――――死ぬのだと。



157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:28:27.85 ID:swV6Vgfco

誰もこの策を拒絶することはできなかった。
感情面では拒否反応が沸いても、
現実的な思考面ではその逆、これこそ状況を打開し得ると賛成の声。

世界を、未来を取り戻すには他に選択肢はないのである。


アイゼン『――――――それでは準備を』


ぱん、と手を叩いたアイゼンの言葉に、皆従わざるを得なかった。

重い心、暗い沈黙の中でも。
体と思考は優秀な魔女たる技能と力を示し、準備を手際よく進めていく。
アイゼンの死に関することは一切口にしないままに。


アイゼンを中心として、
周囲四人の間に浮かび上がっていく色鮮やかな光の文様。

それらが皆を接続し、
まずインデックスの中から禁術が展開され、
実際に稼動させた経験のあるローラが調整し、

そしてベヨネッタとジャンヌの圧倒的な力が注がれて胎動を始めていく。


ある存在を『召喚』するべく。


―――



158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:28:56.68 ID:swV6Vgfco

―――


内なる世界の戦場、
そこはただ戦うために、『空間』と『足場』が整えられただけの領域。
目にうつる眺望は灰色の虚空に、黒く平らな地面のみ。

だが退屈な場所というわけでもない。
ここで今、最後の決戦が始まろうとしていたのだから。



息子が、その懐かしきモノクル姿を眺めていられてたのも、僅かな間だった。

父は親子の再会を果すべく現れたのではない。
ダンテという障害物をただ壊しに現れただけだ。

成長した息子を前にしても、表情もかえなければ声を発することもなく。
一切の間も置かずに、その目的を遂行しようと動き出す。


瞬間、『父の姿』は噴出した赤黒い光の中に消え。

現れるのは湾曲した大きな角に、
爬虫類、もとい昆虫類を思わせる漆黒の外殻に翼。

そしてフルフェイスの兜のごとき顔に、
まばゆい魔の光を湛えている切れ込み状の目。


史上最強と謳われる魔剣士―――悪魔たるスパーダの姿である。


ダンテ『Hum―――!』

この存在を前に力を出し惜しむ必要などない。

ダンテも再会に浸ることはせず、すぐに今ある全力を解放、真魔人へと変じていく。

バージルとの戦いで酷く消耗はしているも、
なんとか真魔人化できる程度の力が残っていたのは幸いだった。

真魔人状態でなければ、次の瞬間にはリベリオンごと切り捨てられていただろう。



直後―――父子の刃は正面から激突していた。



159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:30:10.42 ID:swV6Vgfco

ダンテ『―――ッ!!』


―――なんという圧力か。

閃光を散らしての刃の押し合い、
刃越しの父から猛烈なプレッシャーが襲い掛かってくる。

それも単に力が強大というだけではない。
焼け付くような感覚の他にも覚えるのは、
背筋がぞくりとし、胸が収縮していく悪寒だ。

ダンテ『ハッ―――』


刃を弾きあう中で彼は嘲り笑い、心の中で呟いた。


――――――ビビッてやがる、と。


ダンテと言う男が『心理的』に圧迫されているのだ。
身を強張らせるほどに―――『恐怖』しているのである。

戦いにおいて恐怖は重要な要素、
緊張と集中を保ってくれる刺激剤であるが、度を越せば重荷にしかならない。

この時ダンテの中に生じた恐怖心の規模は、
まさにその領域に触れつつあった。



160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:31:22.96 ID:swV6Vgfco

互いに一歩も引かぬまま、返した刃による次なる一合。
振り下しが再び交差し、光と力の嵐を迸らせていく。

ダンテ『Si !!』

ここまでの二合で、ダンテはほぼ互いの力関係を把握した。

刃は互角、膂力もほぼ互角といったところ、いや、こちらの方が僅かに上か。
猛烈ではあるも少しも押し負けてはいない。
かなり疲弊していながらもこの腕は十分に渡り合っている。


はっきり言ってしまえば、潜在的にはあらゆる面における出力はこちらが上だった。


先ほどの真魔人化状態のバージルが相手だったら、こうはいかないはずだ。
また己もその時の状態ならば、父の刃を難なく押し退けることができたであろう。


そう、息子の力は―――父を超えている。

消耗している今でも、充分に戦えているのだ。


―――そのはずなのに、息子の精神は極限状態に置かれていた。


ダンテ『―――Hu!!』


落ち着かない緊張が胸の中で騒ぎ、挙動にいちいち影を投げかけ。
刃をぶつけ合うたびに、ひやりと走っていく嫌な感覚―――『恐怖』。



161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:32:49.10 ID:swV6Vgfco

ダンテは今一度、認識させられることとなった。

どれだけの戦いを勝ち、どれだけの苦難を乗り越え、どこまで強くなろうとも、
己は永遠に『スパーダの息子』であるということを。


息子にとって父は道しるべであり生涯の目標であった。
父のように強く、父のように正しく、そして父のように愛と善を守る、
そのようにして常に魂に掲げて息子は戦ってきたのだ。

そうした存在に刃を向けなければならなくなった心境は、
信仰篤い者が神に抗わざるを得なくなった時のものに似ているだろう。


この上なく尊敬し、こよなく愛するがゆえに、いざ相対すると絶対的な巨壁に感じてしまう。


ダンテ『―――Huh-HA!!』

まるで昔に戻っているような感覚だった。
幼い息子と厳格な父という関係からもたらされる、実に懐かしい恐怖心。

まさかまたあの頃のような感覚を体感するとは思っていなかった。
そもそも体感したくも無かった。


しかも目的が、あの日々のような鍛錬ではなく―――相手を殺すという戦いで。


因果を無視した、本物か否かは考えるだけ無駄である存在であっても。
目の前の存在は、ダンテにとっては間違いなく『家族』だった。



162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:33:19.17 ID:swV6Vgfco

だが、この戦いは必要だった。
父をここで殺さなければならないのだ。

バージルとの戦いを終えた際、これでもう血が流される必要は無いと思ったが、
今となっては考えがまた異なっていた。

生と死の狭間、『現実の外』に立つことで見えてくる事実もある。

筋書きを壊しただけでは足りないのだと。

この『スパーダ』という『宿命』が残っている限り、
これを核に、いつか第二の筋書きが形成される可能性がきわめて高いからだ。


ダンテ『Yeeeeah!!!』


やはり宿命の原点と向き合い、粉砕しなければならない―――


―――父を打ち倒してこそ、全ての戦いが完遂されるのだ。


過酷なのは当然、恐怖を覚えるのも当然のこと。
むしろそうだからこそ、この戦いに意味が宿る。

身が恐怖に支配されかけている際の中であっても、
ダンテは自らを律し、負けじと闘志を滾らせていく―――


―――勝てるのだ、そして勝たなければならないのだと。



163:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:34:41.25 ID:swV6Vgfco

渾身の力をこめて、ダンテは刃をうち掃った。

すると1mほどであるが、スパーダを押し退けさせることができた。


やはり出力はこちらの方が上なのだ。

となれば何を臆する、攻勢に出るのみである。
ダンテは恐怖を踏み潰すようにして前へと出で、一気に身を押し込んでいく。

ダンテ『―――Ha!!Hu!!』

 ドレッドノート
『 装 甲 』もなんとか健在であるため、多少強引でも大丈夫だ。

目にも止まらぬ連撃をダンテは叩き込んでいく。
円を基調とした流れるような剣捌きで、同時にとてつもなくパワフルに。

まさに『鞭のようなハンマー』を手にしているかのごとき。


ほら親父、俺も強くなっただろう、
バージルはもっと強い俺を相手に勝ったんだぜ、と刃に言霊のおまけを携えて、
猛攻を加えていく。


次第に戦いは、明らかにダンテが攻勢に見えるようになっていた。
スパーダが後に下がりながら刃を受けているのを見たら誰でもそう思うだろう。


だが―――実際はそうとも言い切れない。



164:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:36:08.84 ID:swV6Vgfco

父に抱いた恐怖は所詮、子供の視点からのもの。


―――なんてことは、こうして刃を重ねつつあると絶対に思えなくなっていく。

それどころかダンテは得体の知れない強さを父に見始めていた。

派手に火花を散らし激音を奏でていても、まるで手応えがないのだ。
出力は互角以上なのに、油の塊に刃を滑らせているような触感。

事実、傍目に見れば派手に打ち合っているようでも、
実際はダンテの刃が全て撃ち流されている。


そこに示されている事実は、父が息子の剣筋を完全に見切りはじめているということだ。


もちろんダンテだって、単調にリベリオンを振るっているだけではない。

剣撃の中で、身の内のあらゆる力を展開している。

手先に拳銃を出現させては魔弾を放ち、
指の間に爆発性を帯びた小剣を出現させては、退路を断つべく周囲に撒いて起爆。

足には『衝撃鋼』の装具を出現させ、かつ炎獄の王たる業火を纏わせて、
剣を振るいながら足で地を叩き、爆炎を噴き上がらせていく。

単調どころか、これほど飽きさせない戦い方はないだろう。


だがそうした戦いであっても、スパーダは的確にダンテの呼吸を捉えつつあったのだ。


そして待っていた。
その凶刃で、確実な一撃を叩き込める瞬間を。



165:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:37:19.27 ID:swV6Vgfco

スパーダの動きに『間』が生じた瞬間を逃さず。
ダンテは瞬時に脇へ飛び込み、すれ違いざまにリベリオンを引いての斬り払い。

その一振りが切り裂いたのは、
すばやく身を落としたスパーダの頭上の空間のみだ。

そんな父へと続けて二撃目。
すれ違い、振り向きざまに、素早く返した刃を振るうダンテ。

しかし。
その一刀をも、身の上に魔剣をかざして打ち流すスパーダ。


そしてこの瞬間、ついにスパーダの凶刃が牙を向く。


ダンテはここで初めて、魔剣士スパーダの『本物の強さ』というものを体感した。


息子の刃を撃ち流す瞬間、父は起用に手首を返しては刃を滑らせ、
カウンターとして同時に斬り上げてきたのである。

こうして言葉で形容すれば、確かに高度な技ではあるも
特筆するほどのことには聞えないだろう。

だが問題はこの点ではなかった。


スパーダはこれを、今の真魔人状態のダンテの刃を相手にこなしたのである。



166:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:38:36.83 ID:swV6Vgfco

ダンテ『―――』

信じられない動きだった。

間一髪のところで身を仰け反らせ、鼻先の外殻が掠り飛ばされていく中、
ダンテは衝撃に包まれていた。

真魔人ではなかったら、目を丸くしている頭部が飛んでいただろう。


この速度とパワーの刃には、己やバージルですらも、
来るとわかっていてもこうした『クロスカウンター』は無理だ。

それも直に刃を重ね、撃ち流すと同時に振るうなんて。
加えてこちらの剣圧で勢いが殺されるどころか、さらに刃を加速させてだ。

まるでリベリオンが、カタパルトの役割を果したのではないかというくらいに。


一体どれだけの技術なのか、どんな力の使い方をしているのか。


ダンテはこの瞬間、父と己の間にある『差』を認識した。


さすがと言うべきなのか。
ダンテ、バージル、ネロの始祖たるスパーダは、やはりとんでもない戦闘センスの塊だ。
だがこれら四者の中では、センスについて差はほとんど無いとダンテは考える。

そう、問題はセンスじゃない。


スパーダが他三者を大きく突き放している要素は―――経験と技能である。



167:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:40:04.57 ID:swV6Vgfco

ダンテとバージルは40前、ネロは20そこそこ。
対してスパーダの生きた年月といえば天文学的数字になる。

しかもただ長いだけではない、生き様の濃さも凄まじいものだ。
遥か遥か太古の昔、ジュベレウス陣営との空前の超大戦の中でのし上がり、
力をつけてこの主神を下し、その後は魔帝の腹心としてあらゆる世界を侵略しては滅ぼし。

その果てに人間界を知り、反旗を翻し、魔界の軍団を相手にして魔帝を、次いで覇王を打ち負かす。

まさに伝説、まさに筋書きの核になるに相応しき存在。


そうした中で練り上げられた技術は、
もはや何人の追従をも許さぬ境地に達していたのだ。

例えば―――この剣技。


ダンテ『―――Hu!!』

怯んではいられぬと、刃を返しては再び振るうも―――


ダンテ『―――ッ!』


―――またもや刃重ねてのカウンター。


攻撃した間一髪のところでなんとか回避し、
魔弾で牽制し、三度刃を振るうも―――それにもカウンター。



168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:41:24.19 ID:swV6Vgfco

ダンテ『ッ―――おいおいこんなのアリかよ!!』


あまりのことにダンテは思わずそう叫び、
一時撤退とばかりに後方に飛び退いてしまった。

攻撃すれば確実にカウンターを合わせられてくるなんて、
それではもはや自らに刃を振るっているのと変わりない。

そんな相手と一体どうやって戦えば良いのか。

力の出力は互角以上、総合的な『強さ』としても互角と言える。
それなのにこの有様である。


ダンテ『ハッ―――マジで強え』

半ば呆れながら呟くしかないか。
肉を切らせて骨を断つという常套戦法もどう考えても通用しない。

ここまで呼吸を読みきられているのだ。
すぐに読まれて完璧に対応されるのがオチだ。

ではどうするのか、どうやって戦うのか。

もうろくな手が無い、小細工で騙すしかないか、
だがここでダンテは一つ。


彼ならでは、彼のような男でなければ不可能な戦法を思いついた。


技術の差は別の要素で『補う』のではなく―――足りない分を『学んで』埋めてしまえば良い、と。



―――『教師』は目の前にいるのだから。



169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:42:27.40 ID:swV6Vgfco

己と同じ名の魔剣を手に、じわりじわりと近づいてくる魔剣士。

猛烈なプレッシャーだ。
直に剣を交えたからこそ、より彼の恐ろしさと強さが身に染みる。

魔界中の名だたる存在たちの尊敬を集め、
そしてその反動で恐怖され狂気的に憎まれたのも、これでは仕方が無いくらいだ。


ダンテ『ハッ。全くよ。もう少し前に来てくれてたらこんな苦労はしねえのに』

疲弊さえしていなかったら、体力体調が万全ならばもっと堂々と戦えていただろう。
もしかすると難なく勝てていたかもしれない。

だがそんな『もし』なんか考えるだけ無駄だ。


今はこのぼろきれのごとき体で戦うしかない。


だが果たしてそんな体で、首が飛ばされる前に学ぶことができるのか。
そこまで技術を盗めるのか。

そう問われたらダンテはこう返していただろう。


俺を誰だと思ってる?―――誰の息子だと思ってる?


―――できるに決まってるだろ、と。


なあに、これはそんな大それたことじゃあない、
とダンテは自らに心の中で笑いかけた。

小さい頃にさんざんやってきたこと、その日々の続きじゃないか、と。


ダンテ『よし―――ご教示頼むぜ。親父』


―――ただし唯一の違いは、刃に殺意が宿されている点のみである。



170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:43:49.17 ID:swV6Vgfco

ダンテはまず構えから入った。

腰を落ち着かせ、顔の横で手首を返しては、
まっすぐに切っ先を相手へ。

スパーダの構えをそのまま真似て向きあった。


父は特に反応を見せることなく、同じ構えのまま徐々に近づいて来て。
互いに5mほどの位置で停止。


ダンテ『……来いってか。OK』

強烈な圧を放つ『教師』を前に、
ダンテはかるく息を吐いては、意を決して―――前へと踏み出した。

踏み込みは一歩で充分、軽く跳ねればすぐに間合いを詰められる。
ただし即座に機動展開できるよう、
地を削るように足をできるだけ擦り付けたままに。


そのように昔に父から教わった基礎を今一度復習しつつ、ダンテは刃を振るった。

柄を握る手はかるく、それでいながら肉体の延長であるようにしっかりと固定し。
切っ先から腕、そして体軸を一繋がりとして完璧な曲線を描き、

鞭のようにしならせては、集束させた力をインパクトの瞬間に放ち。
そして引き際は濡れた麻布のように重く―――



171:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:44:34.57 ID:swV6Vgfco

こうしたイメージは、肉体の制御以上に力の状態に大きく影響する。
力と魂の在り方が、自らを形作っていく神の領域の存在にとっては特にだ。


認識が研ぎ澄まされていくほど、
力の速度、密度、剛性、弾性がより洗練され、はじき出される能力は大きく飛躍するのだ。

時に力の出力が同じ、もしくはそれ以下であっても、
瞬間的な優劣を逆転させてしまうほどにだ。


例えば―――今この瞬間のように。


振るわれた刃。
ダンテにとっては完璧な一太刀も、スパーダにとっては隙だらけ。

袈裟に振り下ろされたリベリオンを、
またもやレールのようにして駆け上がってくるスパーダの刃。


ダンテ『―――Hu!!』

紙一重の回避、と言うには少し至らない。

仰け反ってはなんとか直撃を免れたも、首筋を僅かに削り取られてしまったからだ。

 ドレッドノート
『 装 甲 』が削られる耳障りな音が、体内を響き走っていく。

だが掠った程度ならば大丈夫だ。
バージルの刃のように時の腕輪の作用もなく、
時間はそれなりにかかるも修復が可能だ。

それに技をさらけ出させて盗みとるためには、無茶を押し通すことも必要である。
相手が相手だ、腕一本くらい軽くくれてやる気概で挑まなければならない―――



172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:46:20.42 ID:swV6Vgfco

ダンテ『Ha!!』

首の皮が数枚切り裂かれたところで、ダンテはもう怯みはしない。

直前にバージルの走馬灯で、
かつての日々を鮮明に見てしまったせいでもあるだろう。


今や、この恐怖には逆に懐かしさを抱き、
思い出に浸るように楽しみはじめていた。


もちろん、世界と未来を取り戻すという使命を忘れたわけではない。
そしてこの父を殺さなければならない、という過酷な仕事であることもわかっている。

だがそれ以上に。

どのような状況・状態であれ、
もう二度とないと思っていた『父との時間』というものは、ダンテを虜にしてしまっていた。


彼は夢中になって父から学ぼうとした。
30年の父なき時間を埋めるかのように。


リベリオンを返しての再びの一刀。
父はまたカウンターを重ね、猛烈な刃を放ってくる。
なんとか深手を負うことを避け、攻撃してもカウンター。

父はあらゆる方向、あらゆる形の一振りに合わせて来た。
全て完璧にだ。

そのためにダンテが攻勢であるにもかかわらず、
彼の状況は、火花と激音の中で回避で精一杯というもの―――



173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:46:56.72 ID:swV6Vgfco

だがそれでもただ回避し続けているわけじゃない。

力の速度、固め方、そこからの刃の作り方、
息子は一刀ごとに的確に分析を重ね、
技術として少しずつ吸収しつつあった。

ダンテ『Huh!!』

そして徐々に戦いの表層にも―――その成長が現れてくる。


とあるリベリオンの一刀。
これまで通りならば、そこにまたスパーダの刃が重ねられて、
ダンテの方が回避に死力を尽くさねばならかったのだが、この時は違った。

技術盗み、作り上げた認識で、ダンテは的確にタイミングを読み。
リベリオンとスパーダの刃が触れた瞬間、手首を捻り、父の刃を跳ねさせようとしたのだ。


それは成功した。
弾かれた魔剣スパーダの刃は、回避行動がいらぬほどに大きく剃れたのだ。

ただし完璧ともいえなかった。


―――手首を返すタイミングが僅かに遅かったようだ。

跳ね上がった魔剣スパーダの切っ先が、リベリオンの鍔にぶち当たり。
その際にダンテの右手人差し指も飛ばされてしまっていた。



174:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:47:55.87 ID:swV6Vgfco

しかしそれでも得たものに比べれば安いものだ。

瞬間、ダンテは自らの認識が正しいことを確信する。
そうして飛ばされた指が地に落ちるよりも早く―――次なる一振りを繰り出す。

父はまたもや刃を重ねてきたも、
息子の見極めたタイミングは今度こそ完璧だった。

リベリオンの刃は見事に―――魔剣スパーダを撃ち払い、
そのまま相手へと向かったのだ。

今度こそスパーダが回避する番だった。
一歩後方に飛びさがる父、それを追い同じく一歩踏み込み、
やっと本物の攻勢をしかけていくダンテ。

そのようにして、戦いは新たな局面へと向かっていく。


的確に状況を見たのか、
今度はスパーダも攻撃の手を出してくるようになり、
戦いは正真正銘、互いの刃の応酬となった。


ダンテ『Si―――Ha!!』


しかし足りない。
まだ技能は『対等』ではない。

この速度・力の領域におけるカウンターへの防御は身に着けたも、
カウンターを仕掛ける技術については、今だに我が物にしきれてはいないからだ。



175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:48:48.59 ID:swV6Vgfco

さらなる教えを乞うべく、
息子は刃を振り続けていく。

スパーダと戦うにあたり、
警戒しなければならないのはカウンターだけではない、『全て』だ。

あらゆる戦闘技術、特に剣技が徹底的に練り上げられているのだ。

カウンターのみならず、繰り出されてくる刃すべてが猛烈だった。
とにかく『嫌な』タイミングで、
とことん受けにくい線に刃を叩き込んでくるのだ。

ダンテ『―――Hu!!』

ここまでで、一体何度死にかけたことか。
強烈な刃が首を、脇を、胸を掠っていく。

そのたびにひやりとし、
決して慣れることが出来ない恐怖に背筋を凍らせる。

精神的困窮だけではない、
刃をぶつけているだけで、手から全身に疲労が蓄積。
それに真魔人状態の燃費の悪さもあいまって、力の消耗はさらに加速していく。



しかし消耗に負け意識が緩んでしまったら、一瞬にして終る。

スパーダ相手に慣れが生じることはない。
剣一本とはいえその動きは実にバリエーション豊かで、
常に危険な『新鮮度』に満ちた刃だからだ。



176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:50:09.10 ID:swV6Vgfco

ダンテ『―――』

スパーダから繰り出されてくる突き攻撃。
そこをこれまでのように打ち弾こうとした瞬間―――魔剣スパーダが『伸びた』。

刃が分離、いや―――もともと二枚刃であり、
先側が押し出される形で槍状になるのだ。


そのようにして、射程の拡大とさらなる勢いが上乗せされた強烈な突き。


ダンテ『―――ッ!』

ダンテは間一髪のところで、それを退けることに成功した。
とはいえ完璧な体捌きとはとても言えない、
動きの流れを完全に崩してしまった動作だった。

これには父もきっと大きな『減点』をするだろう。


脇へ飛び退き、大きく姿勢を崩した『生徒』へと、
容赦のない『教師』の追い討ち。

これも『指導』か。

スパーダの刃の嵐という過酷な中、なんとか姿勢の回復を試みるダンテ。

足の位置、体軸、重心、
外れてしまったそれらの繋がりを再び構築しなおす傍ら、
応戦するリベリオンの刃にも意識を渡らせねばならない。

やたらに振り回してはいけない。
切っ先まで集中していなければ、
すぐに『レール』にされて強烈なカウンターがやって来るのだ。



177:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:50:59.11 ID:swV6Vgfco

そうした難題をダンテは見事にクリアする。
体勢を回復させ、自身戦闘に立ち直ることに成功。

ダンテ『―――Ha!!』

短く笑いながら、どうだ、と息子は刃に魂の言霊をのせていく。
クリアだ、お次はなんだ、と。

父からは声は返ってこず、刃にもいかなる思念ものってはいない。
しかし返答は確かにあった。
少なくともダンテにはそう感じられた。

スパーダの攻撃パターンがさらに激しくなったからだ。

戦いがさらに加速していく。


ダンテ『YeaH―――Ha!!』


一気に踏み込んでの突き攻撃。
それを弾き上げられても、まるで予め決めていたかのような完璧な体捌きで、
刃を返しては振り下ろす息子。

そんな強烈な斬り下ろしを受け流しつつ、
息子の刃に刃重ねてはレールにして斬り上げてくる父。

それを息子は難なく弾き、また刃を返しては斬り込む―――


超高速の刃の応酬。
しかも『目的』がもはや入れ替わっていそうな―――


―――相手の殺害よりも、互いの速度、反応、技術を競い合うことが目的であるごとき剣舞だ。



178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:52:01.71 ID:swV6Vgfco

事実、ダンテにとってはそれはあながち間違いでもなかった。
目的が入れ替わりはしていないも、それらが並び立ちはしていた。

いいや、むしろ『同一』と呼ぶべきだろう。


父から学び、父を超える―――それこそ、息子にとって宿命を倒すのと同義であると。


父の最期の手ほどきを受けて、ダンテは戦った。
そして学び、成長していった。

一刀ごとに、父から技術の種を盗み―――授かり。
一刀ごとに、それを精査調整しては自らの戦闘体系に組み込み。

そして一刀ごとに正常かどうかを確認していき。


ダンテ『Break!!』


―――我が物にする。


これが授業ならば、ダンテはきわめて優良な生徒だった。
課題を全てクリアし、教示された事柄を全て飲み込み、
そしてそれらを昇華させ、完全に自らのものとしたのだから。



179:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:52:56.50 ID:swV6Vgfco

ついにその瞬間が訪れる。


互いに弾き合った刃。
一際強い衝撃のために、両者と数歩分おし退けられてしまう。

その瞬間、二人とも―――そこに生じた間を逃さなかった。


そして双方、相手の次の手が突き攻撃だと読み取るもそのまま―――突き攻撃を繰り出すべく踏み込んだ。


突き攻撃の同時応酬、そう言ってしまえば簡単だろう。
しかしその中身は、正確に形容するならば多くの言葉が必要なほどに複雑だった。
それでも簡単に言うならば、どちらが相手の刃を利用して―――カウンターを決められるか、だ。

ダンテはここに勝負にでた。
今だ手中に収めていない新技能を、やり直しのきかない本番に投じたのだ。



そうして―――この『一戦』は決した。


ダンテ『―――Yeeeeeeah!!』

接触し、重なる魔剣。
互いに火花散らしては擦れ合い、押し合い、すれ違っていく刃。

どちらが相手の刃をレールにして刃を『走らせる』ことに成功したのか。
それは双方の切っ先が何を捕えたかが答えだ。


                                  ドレッドノート
抜けた魔剣スパーダ、その切っ先は―――ダンテの『 装 甲 』を貫き、肉を抉っていく。


ただし、突き刺さったのは彼の肩上に過ぎなかった。




一方、リベリオンの切っ先は―――――――――スパーダの胸を貫通した。





息子が『全て』において――――――――――――父を超えた瞬間だった。



180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:54:34.56 ID:swV6Vgfco

      オールカウンター      スタイル
あらゆる攻撃に反撃を重ねる戦闘術という、父の鉄壁の剣術を会得、
さらにこれを父相手に父よりも上手く扱い、技能においても上回ったことを証明した一刀。

その衝撃がこの内なる世界を震わせていく。


父の胸を貫く―――銀の刃。


ダンテ『―――ッ』

柄からの手応えは完璧。
切っ先は確実に魂を捉え―――その存在を打ち砕いていく。

勝利の感覚、魅惑的な破壊の味。
普段ならばダンテにとっての最高の好物たちである。

しかしこの時ばかりは快感には浸れなかった。

何度こなそうとこの触感だけは慣れない。
そして絶対に好きにもなれない。


―――家族を殺める触感だけは。



あまりの衝撃に、ダンテが制動しても、
リベリオンから抜けて前へと吹っ飛んでいくスパーダの身。

そのように血を撒き散らして、無様に跳ね転がっていく父の姿は、
息子にとってはとても見ていられるものではなかった。



181:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:55:05.29 ID:swV6Vgfco

ダンテ『…………』

ダンテの消耗はもう限界点に達していた。

最後の一突きでほぼ全力を搾り出してしまったために、
直に魔人化もとけ、それどころか歩くこともできなくなってしまうだろう。

だがそれでも―――30mほど離れた場所で、
地に打ちつけられて転がっている父に比べたら、まだまだ充分に活力が溢れている。

ぎこちなく手をついて起き上がろうとするもかなわぬ父
近くに突き刺さっている魔剣を取ろうにも、体が動かずに手が届かず。


ダンテ『…………』

スパーダを尊敬するものとして、
その意志を受け継ぐものとして、そして息子として。

この姿には心が痛んでしまう。


たとえ濁流が作り上げた産物であっても、
こんな姿は晒したままにさせるわけにはいかない。


とどめを刺さなくては。
安寧を与えなければ。

それが息子としての最後の義務だ。



182:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:56:32.31 ID:swV6Vgfco

ダンテは左手をかざしては、その手先に黒き拳銃―――エボニーを出現させて。


ダンテ『もういいだろう、親父』


疲労を滲ませながらも、
穏やかな声でそう呟き、銃口を父へと向けた。


その瞬間、父の赤い目と合い―――ダンテは『見た』。


これは恐らく気のせいだったのだろう。
濁流の産物にそんな思念があるわけはないし、
ここまで刃受けてきても、一度もそういった類の欠片を感じることは無かった。

だがそうだとしても、例え疲労の際の幻想だったとしても、
この時ダンテにとっては確かにそう見えた。
スパーダの異形の顔、人間とは似ても似つかぬも、


そこに―――満足そうな微笑が浮かんでいた、と。


とても懐かしい感覚だった。
むかしむかし、あのような笑みは何度も見た。


父から教わったことをうまくこなすと、よくあんな風に笑って―――褒めてくれたものだ。



ダンテ『―――お疲れさん。休んでくれ』


ダンテもまたあの頃と同じように笑った。
そして心地良さそうに穏やかに言葉を手向けて。


魔弾を解き放った。



183:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:57:31.77 ID:swV6Vgfco

しかし―――そんなダンテの最期となるはずだった夢想も、すぐに台無しとなってしまった。



ダンテ『―――おいおい―――なんだってんだ!』


次の瞬間。
放った魔弾、その行く先で起こった事象を目にしては、
うんざりとした声を挙げるしかなかった。


父が『リセット』されつつあったのだ。


ダンテが放った魔弾は―――突然手にされた魔剣スパーダによって弾かれて。

そして父は、さっきまでは身を転がすことも叶わなかったのに、
今や力強くスパーダを手に、地響きを轟かせて立ち上がる始末。



ダンテ『待て待て待てそんなのアリかよ!』


先の一突きは確かに手応えがあった。
確実に殺すことができた一撃だ。

そう、これが父が『普通の状態』ならば倒せていたはずだ。
息子は確かに父を超え、堂々の勝利を収めたのだ。

だが今は普通ではない。


このスパーダは―――濁流の産物である。



184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:58:46.74 ID:swV6Vgfco

ダンテ『―――笑えねえ冗談だぜ!!』

このスパーダは不死身というわけではない。
先の手応えからも、倒すことは可能である。

ただかなり頑丈、回復が異常に速いということ。


回復の速度から、ダンテは素早く倒すに必要な条件を大まかに割り出した。

倒すには連続で二、三回殺すような勢いで攻めなければならないか。
とにかく動かなくなるまで攻撃を加え続ける必要があるようだ、と。


ダンテ『ハハッ!………………ヤバいな……こいつはどうしたもんか……』


どう見繕っても力が足りなかった。

この消耗しきっている身には、そこまでの力はもう残ってはいない。

一体どうするか、だが策を考えている暇も無い。
回復半ばながらも早々に、父がこちらへと向かってきたからだ。


ダンテ『―――!』


体が重い。
そして受けるスパーダの刃はさらに重い。
まだ全快しきっていないのになんという刃か、まさかパワーアップでもしているのか。

否、そうではなかった。

ダンテはすぐに自覚した。
疲労のあまり、己が弱くなっているのだと。



185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 01:59:13.66 ID:swV6Vgfco

ダンテ『―――Ha!』

後ろに下がりながら、何とか父の刃を打ち流していく。
できるのはそれだけだ。
攻勢に出るなんてもう夢の話しでしかない。

猛攻につぐ猛攻。
スパーダの刃がこれまで以上に凶悪に響き、
空間を断ち切っていく。

もはや止められない。


どうすれば勝てるのか、と思考を巡らせても徒労に終わり。
有効な戦法がこんなところでうまく見つかるわけもなく、
また剣技を昇華させるほどの体力と集中力も、もうない。

そのようにしてついに、諦めぬ奮闘もむなしく―――彼は追い詰められしまう。


ダンテ『―――ッ』

弾かれるリベリオン、
そして―――腹部を蹴りこまれ、倒されてしまうダンテ。

この時もまた、スパーダの体捌きは一切の無駄がなかった。
相手にとどめの一撃を与える瞬間になっても、彼の動きはまるで変わらない。

背を地に打ちつけた衝撃を覚えると同時に、ダンテは目にした。



最期の光景であろう―――己に突き立てられるであろう、魔剣スパーダの切っ先を。



186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:01:29.12 ID:swV6Vgfco

―――だが最期にはならなかった。


続けてある輝きがダンテの目に入ってきたのだから。


それはもう二度と見られることがないであろうと、
つい先ほど受け入れたばかりの―――『蒼い』光跡だった。


そんな光の筋が、涼やかな金属音を響かせては飛来して来。
魔剣スパーダを横から撃ち弾く。


ダンテ『―――ハッ』

耳を劈く激突音、飛び散る光の粒子の中にて、彼は瞬時に確信した。
見間違えるはずもない、一目で何なのかは判別できる光刃だ。


―――『次元斬』である。


そしてあれほどの代物を放てるのも一人しかいない。


次元斬に続き、ダンテの前に飛び込んでくる大きな影―――


さらなる蒼き刃を振るい、父を押し飛ばしては、悠然と立つ―――蒼き『魔騎士』。



ダンテ『よう……まさか、俺が「二度」もぶっ殺したから化けて出てきたのか?』


その異形の背へと、声を向けるダンテ。
散々な有様ながらも、嬉しさとからかいに満ちた笑みを浮べながら。

対し魔騎士は前を向きながら冷ややかに、『弟』へとこう言った。



『―――違う。無様な弟の醜態に耐えられなかったからだ』



さらりと相変わらずの毒を吐いて。


             死ぬ
『さっさと立て―――寝るにはまだ早い』



―――



187:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:02:03.71 ID:swV6Vgfco

―――


遡ること少し。


神儀の間に重く響く、禁術の稼動音。
それがその場にいた全員の心を強く締めつけていた。

ベヨネッタとジャンヌは顔を厳しく引き締め、
ローラは感情を表に出さぬように堪えているせいでぎこちない表情。

そしてインデックスはもはや抑えることができず、身を震わせていた。


アイゼン『ふふ―――このみすぼらしい老体がここで役に立つとはな』

そんな四名とは逆に、飄々と愉快気に笑うアイゼン。


アイゼン『さあて、よいな。それでは始めろ』


何食わぬ声でそう命じた。
これからの己の運命などまるで知らぬかのように。
だがそれは表面的にそう見えただけ。

虚空から出現したベヨネッタの黒髪が彼女を包む瞬間。
穏やかながらも、アイゼンは『最期』に相応しい律された佇まいをとり。


アイゼン『―――我が愛しきアンブラの子たちよ―――』


そして良く響く声を紡いだ。


禁書「あッ―――アイゼン様っ―――」

堪えずに声をあげるインデックスには、
魔女王は仮面を脱ぎはらい微笑んだ。


アンブラの母としての優しき眼差しで。
それが、彼女達が見た最期の魔女王の姿。

次の瞬間、黒髪の中にその姿が埋もれ、『材料』とされるべく砕かれて。



ベヨネッタによる『召喚』が始まった。



188:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:03:07.42 ID:swV6Vgfco

『彼』の『生』を再構築するには充分な材料が揃っていた。

心と魂は、ダンテの中に移されていた分をそっくり喚び出せばいい、
そしてそれらを繋ぎ止める器は―――血の繋がっているとある魔女の血肉で形成できる。


インデックスという存在を生み出した死を覆す禁術に、
アンブラ式の妖しき演舞と艶やかな歌声。


 NOROMI-AMMA PON
『忌まわしき破壊の申し子よ』 


 LONDOH CNILA MONASCI CRO-OD-D! 
『  かの血命の下に  三度 生れ落ち!  』



そこから紡がれた言霊が、遥か虚空の彼方まで届いていき。



OI PON OD OVOF!
『 砕き、滅せよ! 』



永久の眠りから彼を引き上げ、
構築された器へと、魔女の有無を言わせぬ鎖で繋ぎ止め。



ZILODARP DO-O-A-IP-ELO LONDOH!
『       始祖たる王を制せ!      』



そしてついに、
契約者たるベヨネッタの喚び声に応じて、蒼き魔騎士が帰還する―――



189:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:06:40.39 ID:swV6Vgfco

虚空から噴出す、契約者の黒髪の中から―――彼は肉体を有して再顕現を果たした。


今の状況は完全に把握していた。
彼の再構築のもととなったのは、ダンテの中にあった心であるために、
弟の目を通して全てを見、感じていたのだ。

ゆえに行動には一縷の迷いもなかった。
出現した瞬間に抜刀、即座に次元斬を放っては―――弟に迫っていた魔剣を撃ち弾き。

次いで飛び込み、今度は閻魔刀で直に斬りつけては体ごと押し退けては、
弟の前に降り立ち家族と再会。


そうして背後の弟と軽口と皮肉を交じらせながら、じっと父を見据えた。


再会した父の姿に心を震わせているわけではない。
それら息子としての感情はもう充分に浸り終えていた。

弟の中から全てを見ていたのだから、もはや言うことはないのだ。
父への恐怖も、愛情も、心の痛みも、そして最後の手ほどきも、
全てダンテがこなしてくれた。


強さも、意志も――そして家族の愛も、思いでも、充分過ぎるくらいに貰った。


ゆえにもう―――父に用はなかった。


この時の兄の瞳に宿っていたのは、
終止符を打つための純粋な殺意だった。

今こそスパーダの名から離れ、決別し、巣立つときだ。
父をこのクソッタレな鎖から―――解放するときだ。


―――父を眠らせるときだ、と。


剣を突き、ヘラヘラしながら立ち上がる弟へと兄――――――バージルは、鋭く声を飛ばした。


バージル『―――馬鹿笑いは止めろ目障りだ。さっさとケリをつけるぞ』


ダンテ『OK. Bros』


そうして。
ふん、と生意気に含み笑う弟とともに、前へと踏み切り。
父へと向かっていった。



190:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:07:59.93 ID:swV6Vgfco

片や消耗しきって動けなくなる一歩手前。
片や急ごしらえの肉体に繋がれ、顕現したばかりの『病み上がり』。

兄弟はそうした惨憺たる状態ではあったが、
そんなものは障害にはならなかった。

わだかまりが一切消えた二人は、
そんな不利など吹き飛ばしてしまうほどに―――連携は完璧だったからだ。

幼き頃の純粋な兄弟の距離。



それを取り戻した二人には、もう敵はいない。



並び、そして別れ、ダンテが右に、バージルが左に飛び、
両側から父へと向かっていく。

ダンテ『Ho―――HuhhHa!!』

袈裟の一振り。
それを父に撃ち流されても、即座にくるりと返してはまた同じ機動で袈裟斬り。

父の魔剣を砕かんとばかりにハンマーのように打ちすえていく。
もちろん刃を走らせてのカウンターもさせぬよう、切っ先まで意識を集中させて。

同時に逆方向からも、バージルが閻魔刀を振り抜いていく。

抜刀して斬り掃い、手首返して今度は逆からの切り上げ。

それを父は、一振り目は精密な体捌きで交わし。
二合目は、ダンテに打ちすえられた勢いを利用して魔剣をまわしては、
紙一重で弾く―――


だがその直後のバージルからの凶悪な三撃目には、対応が追いつかなかった。


閻魔刀を掃うと同時に、兄は父の膝を蹴ったのだ。


がくんと落ち込むスパーダの身―――


―――その父の『動き』の切れ目を息子達は見逃さない。

兄は下から斬り上げて、弟は上から振り下ろした。
一本の刃では防げない挟撃である。



191:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:09:23.68 ID:swV6Vgfco

だがそれは二本ともが、スパーダへと向けられていたらの話だ。

父はこの瞬間、刃を止めるのではなく、そんな状況を壊す方を選んだ。


ダンテ『ッ―――』

振り下ろしかけたというところで、
腹部を蹴りこまれてしまうダンテ。

蹴りの威力自体はそうではなかったも、
後方に押し下げられたためにリベリオンは無様に空を切ってしまう。

そんな弟の醜態を見て兄が一言。


バージル『鈍い!』


ダンテ『うるせえ!―――』


この時、スパーダからは絶好の隙に見えたであろう。
リズムと体勢を崩した弟、しかも消耗しきっているとなれば尚更だ。


しかし―――その逆境をダンテは好機に作り変えた。


ここぞとばかりに振るわれてきた魔剣スパーダに―――



ダンテ『―――これでチャラだろ!』


―――刃を重ねて、走らせてのカウンターを放ったのだ。


火花散らして擦れ合い。
放たれたリベリオンの刃が、父の魔剣持つ前腕から肩先まで
外殻を裂き一筋の溝を刻んでいく。


―――確かに傷は浅かった。

右腕を使用不能にするまでにも至らない。
だが動きを鈍らせるには充分すぎたほどだ。


この瞬間を起点に、スパーダの鉄壁の剣技はついに――――――瓦解した。



192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:10:55.86 ID:swV6Vgfco

刃を重ねていく二人。

加速して激しくなっていく猛撃に、
地を蹴り、一端その場から距離を置こうと跳躍するスパーダ。

だが逃しはしない。


バージル『This may be fun!! For you!! Father!!』


ダンテ『Hey! Take it! Dad!!―――Drive!!』


素早く低く構えた兄弟。
並び立って放つは、刃抜き掃っての―――蒼き次元斬と赤き斬撃の猛射。


その砲撃により、体勢を整える間を与えず。

兄弟は一気に距離を詰め、畳み掛けていく。


再びスパーダを挟んでの挟撃。

渾身の力をこめて振るわれた刃たちが、
閃光を散らして魔剣スパーダを打ち弾き―――その主の動き、リズムを完全に砕き。


そしてとうとう―――父の魂を捕える。



193:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:11:38.24 ID:swV6Vgfco

躊躇いも容赦の欠片もなく。
体勢崩され、無防備をさらけ出した父へと叩きこまれる二つの刃。


バージル『―――Haaaaa!!』


ダンテ『―――Yeeeeah!!』


リベリオンが、後ろから左腕を―――


―――閻魔刀が、前から右腕を斬り飛ばしていく。


さらにそれだけでは止まらずに、
刃返されては、今度はスパーダの胴へと振るわれ。



二つの刃がそれぞれ―――スパーダの胸と背を―――袈裟に斬り裂いた。



194:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:12:35.82 ID:swV6Vgfco

外殻を割り、肉を裂き、骨を砕いていく息子の魔剣たち。


ただそのまま上半身を切り落とすことはできなかった。

前からの閻魔刀、後ろから切り込まれたリベリオンが、
父の胸の中央にてぶつかってしまったからだ。

ダンテ『ハッ!!』


完璧な連携も、最後の最後に凡なるミスか。
しかしこれが勝利を汚すことはない。


むしろいかにもこの二人らしい『スパイス』へと変じる。


ダンテは短い笑い声をあげると、魔剣を父に刺したまま足を振るい。
まるで地の表面を擦り蹴るような仕草をとった。



すると瞬間―――足先の光から飛び出す―――白い拳銃。



その魔銃が宙を抜け―――バージルの左手に収まったころには、



―――ダンテの左手にも黒い拳銃が出現していた。



195:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:13:24.94 ID:swV6Vgfco

お互いに何をすればいいのかはもうわかりきっていた。
言葉どころか目を合わせる必要もない。


二人の『合言葉』―――もとい、『決め言葉』は一つだ。


ここからはもう『様式美』である。
これがダンテとバージル、この兄弟の流儀であり幕の引き方。

兄弟は姿勢を低く落とし、
握る柄にそれぞれ圧力をかけては―――父に銃口を向け。


ダンテ『あばよ、最期に会えてよかったぜ―――』



バージル『―――悪いな、親父―――』



まるでそうとは聞えない、
日常の他愛もない会話のごときこ声色で、最期の言葉を手向けて。



―――溜めた圧を解き放っては刃を引き、思いっきり斬り抜いて―――




バージル『――――――俺の息子を返してもらう』



196:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:14:07.33 ID:swV6Vgfco

『『―――――――――Jack pot―――!!』』



197:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:14:57.24 ID:swV6Vgfco

戦いは終った。



消滅する一つの宿命。


核を失い霧散する濁流。



『二人』の勝者を乗せたまま、虚無の果てにて『消え去る』――――――『内なる』戦場。







――――――――そして世界は再び、何事もなかったように動き出した。



198:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:17:37.08 ID:swV6Vgfco

生と死、有と無、それら領域の外で行われた、とある父と息子達の決闘。
その戦いは、現実の中に住まう者達にとっては存在しないも等しいものだ。

現実の再稼動の折でも、何が起こったのかを悟る者はいない。
何かが起こっていたということにすら気づかない。

誰一人だ。


しかし―――すでに『知っていた』者ならば、幾人かは存在していた。


神儀の間にいた者たちは当然すべてを見ていたし、
そこにいたインデックスと繋がっている―――上条当麻も。


そしてスパーダが上書きされていた―――ネロも。


上条「……」

ネロ「……」


だが二人は、その周辺については何も言わなかった。

始祖たる英雄への弔いの言葉も。
世界が存続した祝いの声も。


虚無の果てで戦い抜いた、とある兄弟の行方についてもだ。


遺された二人は、学園都市の瓦礫の中に並び立ち。
ただ遠くの空を見つめていた。


上条「…………やっと、か」


ネロ「ああ―――…………」



―――白む東の空、



ネロ「――――――……夜明けだ」



闇が明けるこの世界を。



―――



199:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:18:39.03 ID:swV6Vgfco

これにて全ての戦いは終了しました。
次回は金曜に。
あと二回で完結予定です。



201:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:20:04.08 ID:aKKIH4bGo


ついに終わりか…



203:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2012/05/30(水) 02:25:01.90 ID:jRXtNG9P0

乙ー
え、二人が消えたなんて嘘だろ・・・



204:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 02:54:34.94 ID:CfXrdLIDO

あと二回……リアルタイムで最初から読んでたからスゲー寂しいぜ……



205:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/05/30(水) 02:58:39.19 ID:xI+49zqb0

あと2回しかない…だと…?



207:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 04:31:17.85 ID:kWc4fKyDO

英雄は死なず、ただ去りゆくのみ、偉大なる親子に乙。
あと二回、最後まで付き合いますよ。



208:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 06:54:59.04 ID:RaB9PnmD0

乙mokin’ 乙ick 乙tyle!!!

いよいよか!
最後まで突っ走ってくれ!



210:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/05/30(水) 09:52:46.94 ID:XY+al7iFo

お疲れ様です。素晴らしいおやこ劇場をありがとう、ありがとう!



212:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 14:17:08.78 ID:QW/+k6EDO

ベヨ姉に召喚されるバージルはこの時の伏線だったのか…



215:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/30(水) 20:14:07.94 ID:CfXrdLIDO

ベヨとダンテ達って親戚同士?



217:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/05/30(水) 22:45:09.09 ID:XY+al7iFo

ネロ←バージル←スパーダ
     ダンテ  ←エヴァ  ←アイゼン
                     ↓
    ベヨネッタ←ベヨ母  ←アンブラ一族
           バルドル
ズレてるだろうから補完よろ。まぁ母親の親戚の親戚の親戚みたいな程度。



218:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/05/30(水) 23:06:01.11 ID:rZYInQ0X0

決め台詞までマジで鳥肌立ちまくりだった・・・・



220:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/05/31(木) 02:22:07.01 ID:x1NwJgUIo

vipの時から2年超か 短いようで長かった
最後の最後になって湧き出したお前らにもびっくり



221:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/31(木) 20:05:41.50 ID:1qsKBxh80

ずっといたけど
内容が凄すぎて話す事がない



222:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:25:29.29 ID:R60HiyJBo

投下前に一つ。
残りは二回としていましたが、予定を変えあと四回としました。
最後まで変更ばかりですみません。



223:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:27:00.17 ID:R60HiyJBo

―――


能力の源が、『生きている』。


『墓所』と呼ばれていた領域が、
力強い鼓動を刻んでは、熱き血を絶え間なく送り込み
この世界を新鮮な生気で満たしている。

そうした人間界の姿は、
これまでが生命維持装置に繋がれていた植物状態に思えてしまうほどだ。


この世界は目覚めたのだ。

人間界はついに長きにわたる外部管理から脱し、
『一つの世界』として自立したのである。

こたびの戦いで散った人間達の魂、
天への道が消えたことで彷徨っていた彼らに安住の地を与え、そして新たな生として送り出す。


『少年』は、この魂と力の流れがすぐに気にいってしまった。

手を浸すと、天界に囚われていた魂とは逆に、
ここからは弾けるような生の声が聞えてくる。

騒々しくも心地よく、柔らかくも力強い、そんな歌声だ。

彼はすっかり魅せられてしまい、
いつまでもここに居たいという衝動に駆られてしまっていた。



224:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:29:17.63 ID:R60HiyJBo

しかし生憎、彼は死者ではなかった。
この階層に立つべき存在ではなかった。

むしろ生者世界の頂点に立ち、彼らを率い、守る立場の存在だ。

彼もわかっていた。
それにこの点もわかっていた。

確かにここは心地よい。

だがそれ以上に生者世界が素晴らしいということを。

あの世界では家族が、友が己を待ってくれているのだ―――




一方「…………」

目を覚ますとそこは何の変哲もない、
日本全国どこにでもありそうな、誰でも既視感を覚えるであろう病室だった。

だが見慣れていそうに見えて、実は初めて見る部屋だ。


ゆっくりと上半身を起こしながら室内を見回す一方通行。

いつも世話になっていた病院とは別なようだ。
少しばかり趣が違う。

とそこまで至ったところで、彼は思い出した。
普段使っていたあの病院は、あの戦いで瓦礫の山になってしまったのだと。

そこから彼の関心はさらに移り変わり、
「そういえば」ともう一度視線を巡らせては、
ベッド脇の机の上にあった時計に落ちつかせた。

探していた情報は時計の画面に表示されていた。


日付は、あの戦いから八日過ぎていた。



225:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:31:46.85 ID:R60HiyJBo

一方「……チッ」

随分と寝過ごしてしまったようだ。
あの戦いが終った直後、疲れで意識を失うかのごとく眠りこけてしまったのだが、
まさか一週間以上も寝てしまうとは。

一方「……」

もっとも半分は自業自得だ。
人間界深層の、『生』の魂と力の流れの中に長居してしまったせいだ。

ただし、あの体験は時間を無駄にしたとも思ってはいない。
アレイスターが言っていたように『新王』、『神』として君臨するつもりは毛頭無いが、
力ある者としての責務は果すつもりであり、
それにはこの人間界深層の認識が不可欠だと思っているからだ。

他にもあの流れの中で、今後己がやるべき様々なことを考えたし、
そのための心構えを整えることも出来。

消耗しきっていた力もすっかり回復、
今からもう一度四元徳と戦えと言われても問題はないくらいだ。


とはいえこの一週間の欠席はやはり大きい。

戦いが終ったからといって、仕事が無くなったわけではない。
途方もない量の事後処理案件が待ち構えているはずだ。
それも中には急を要するものも数多く。

そうした時期に席を外してしまったとなると、
周囲に多大な迷惑をかけてしまったはずだろう。



226:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:35:05.46 ID:R60HiyJBo

とそこで。

一方「…………カカッ」

ふと、今の己が妙に面白く感じた。
仲間に迷惑をかけないように、と当たり前のように思っているのだ

一昔前ならば面倒事は全て他にぶん投げて、
他の者が過労死しようが失敗しようが知ったことではないというスタンスだったはずだ。

いつ頃から、こんなに協調性を重んじる考え方になったのだろうか。
その理由は一々考えるまでもない。

きっかけが何なのかはわかっているし、
どうしてこうなったのかもわかっている。
そしてこうして変わった己に、今や満足であることも自覚している―――



上半身を起こし、足をベッドから降ろしては腰掛けた姿勢をとった。
そうすると大きな窓がちょうど正面になり、差し込む光を全身にうける形となった。

一方「……」

こちらを目覚めさせるためか、誰かが毎朝カーテンを開けにきていたのだろうか。
ただし、その計らいは逆効果になりかねないものだった。

差し込む春の陽光が暖かくて、
今にも二度寝してしまいそうなくらいに心地よいからだ。



227:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:37:31.34 ID:R60HiyJBo

そのようにして寝起きの悪い身をゆっくりと暖めていると。
突然、ぶつ、っと意識内に走る電気的な感覚。

これは静かな一時が今すぐ崩壊するという警告音だ。

直後、ミサカネットワークが接続し、
すぐに伸びてくる『オーナー』の解析の手。

一方「……」

すぐに逆算してみると、向こうの状態もある程度把握できた。
どうやら隣の部屋にて朝食中だったようだ。

ひとまず彼女の安全が確認できて安心である。
ただし見たところ、やや元気すぎるようだが。

寝起きには辛い強烈な歓迎に見舞われると悟ったときには遅かった。
どたどたと騒々しい音が聞こえ、次いでこの病室のドアが勢い良く開かれ。

口元にご飯粒つけた打ち止めが飛び込んできた。
文字通り『飛んで』。


打ち止め「おはよー!!おかえりなさい!!帰ってくるの遅かったね!!
       あのまま『向こう』にいたままなんじゃないか、って少し心配しちゃったよ!!
       ってミサカはミサカはあなたをぶち抜く勢いで突撃ーっ!!」


一気に背中に激突してきて、しがみつく小さな体。


一方「…………ネットワーク越しで話してくれねェか?……大声とそのうざってェ語尾は寝起きにはツレェ」


最大音量のスピーカーを背負っている気分だ。

今までだったら二言三言暴言吐いて振り落としているところを、
できるだけやんわりとそう声を放つ一方通行。
そのように『オーナー』へ可能な限り優しく接したつもりなであったのだが、
彼女はこれでもご不満だったようだ。


打ち止め「ひどい!ミサカがどれだけ健気に看病したのかわかってるの?!
       ってミサカはミサカはヘッドロックしてみたり!!おらおら!!」


一方「…………それでオマエはなンだ?」

13577号「どうも。先日、あなたの臨時『秘書』にさせられたミサカ13577号です、とミサカはびしっと敬礼」

打ち止め「早速ミサカは無視ですかぁー!」



228:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:41:08.75 ID:R60HiyJBo

打ち止めの後に続き、病室に入ってきたその妹達の一人は、
スーツ姿にPDAを小脇に抱え、なにやら妙に姿勢良く立ち、
さらに奇妙なことに黒縁のメガネもかけていた。

妹達はかなり精密に調整されているために視力は良好なはずだ。

そうとなると今回の戦いの影響か、だがそれにしては特に外傷の跡は見当たらないし、
神たる知覚で内部をくまなく分析しても問題はない。

一方「…………秘書ォ?」

13577号「秘書です、とミサカは秘書らしくきびきび応答します」

納得した。
秘書のつもりなのである。
そのイメージが正しいかどうかはともかくとして。

そしてこの時には、なぜ秘書なんてものが己に付けられたのかも大方予想がついていた。
やはり仕事が山積みなのである。

母猿に纏わりつく小猿のように忙しない打ち止めはひとまず好きにさせて、
一方通行は彼女の方へと向いた。

13577号「あなたがぐーすかぴーしている間にいろいろありました。どうしますか?ネットワーク上で閲覧しますか?
      それとも今、主だった事柄について軽く説明したほうがいいですか?とミサカはてきぱきと業務を開始します」

一方「そォだな。軽く聞かせろ」

ちっと小さな舌打ちが聞えた。
秘書の真似事は楽しいようだが、実際の業務については実に面倒に感じているようだ。


一方「聞かせろ」

ニタリと微笑みかけながら、もう一度催促してやった。



229:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:44:08.64 ID:R60HiyJBo

13577号「……わかりました。まずは一般的なニュースからいきましょう」

あからさまに嫌そうな表情を浮べるのはともかく、
文句は一言も言わずに従うだけまだマシであろう。
妹達の中ではまだ出来ている方だ。

彼女はPDAの画面を操作しながら、おずおずと読みはじめた。

13577号「一昨日、各国首脳が停戦条約に調印、本大戦は正式に終結しました。
      また、今回の戦闘は、『地球外生命体による異世界からの侵略行為』であると発表。
      そして人類はその脅威を退け、勝利したと宣言しました」

一方「……」

ひとまず復興のため、各国民の歩調をあわせるために、
怒りと憎しみを向けられる存在を早々に定めたのだろう。
そして人類が勝利者だというのも、連帯感を生み出すだけではなく、
気力と希望を抱きやすくする。

つまりこの発表内容は、真実よりも社会安定を最優先にしたものであるということだ。

その性質は特に、
天使とも悪魔とも言わずに『地球外生命体』、
天界とも魔界とも言わずに『異世界』、とする点に現れている。

この発表内容を決定する際、どのような話し合いが行われたのかは大方予想が付く。


『天界』と『魔界』の存在や、それらに纏わる事柄を公式に発表したら、
この人類社会を形作っていた価値観は全て覆り、世界は大混乱に陥るだろう。
復興どころではなくなるはずだ。


そう考えると、『地球外生命体』という言葉は実にこの状況に適している。

霊的イメージは常に拒絶反応が生じるも、
科学的イメージは、能力の例もあるとおりすぐに世間に浸透するものだ。

『地球外生命体』という言葉でも様々な宗教観に影響を及ぼしてしまうだろうが、
『天界』や『魔界』よりはずっと穏やかに馴染むだろう。


またもう一つ、大きな利点がある。
何かを問われても、『詳細不明』で押し通すことができるのだ。



230:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:52:46.22 ID:R60HiyJBo

13577号の読み上げの声が続いていく。


13577号「次。この地球外生命体に乗っ取られたと『される』ウロボロスグループについては、
      本社は米国の管理下に、欧州支社は合併前のイザウェルグループに名を戻し、
      EUの管理下に置かれることが決定しました」

ウロボロス社。
欧州やロシアが戦火に包まれた元凶である。

13577号「ただし凍結されるのは一部の部門のみで、95%以上の業務はそのまま継続する予定。
      まあ、今後の復興においても大きな基盤になりますからね」

一方「……」

妥当だ。
復興支援のほかにも、大勢の従業員とその家族を難民に加えるわけにもいかない。
むしろ戦災者の雇用を増やしてさらに巨大化するだろう。


13577号「では次。英国女王エリザードの容態が回復、意識も戻り、はやくも今月中には、ある程度の実務も執り行えるだろうとのことです。
      また女王襲撃について、当初英国政府はローマ正教に手引きされた者による犯行としていましたが、先日その声明を撤回、
      各国間の対立を企てた『地球外生命体』の工作であるとし、ローマ正教に正式に謝罪しました」

13577号「ロンドンにて、ローマ教皇に第一王女リメリアが謝罪の言葉を述べ、教皇も快く受け入れました。
      またローマ教皇側も、ヴァチカン襲撃も同様に『地球外生命体』の工作であったとし正式に謝罪、
      英国側もこれを受け入れ、正式に和解が成立、手を取り合い復興に尽力すると共同声明を発しました」


13577号「英王室についてもう一つ。明るいニュースです。
      第二王女キャーリサが婚約を発表しました。お相手の実名については、
      彼がまだ任務中だとして公表されていません。有力貴族出身の政府高官とのことで、なかなかの美男子らしいです。
      英国民に希望を与えるニュースですね」



231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:55:23.51 ID:R60HiyJBo

13577号「続いてはオフレコニュースです。ここからは墓まで持っていくつもりで聞いてください、とミサカはメガネくいっ」

13577号「各国首脳及び各魔術勢力代表の会合において、いくつかの取り決めがなされました。
      一つ目。外界からの脅威に対する、地球規模の防衛システム構築について」

13577号「異界の力に関係する様々な業務を執り行うにあたり、暫定実施機構が設置されました。
      国際情勢を鑑みて、運営は中立のフォルトゥナ騎士団に一任され、
      最高責任者にはネロさんが指名されました」


一方「カカッ。ご愁傷様だな」

とんでもなく難儀な仕事なはずだ。
単に防衛システムを整備するだけではなく、
各国各勢力の調和を保つためにも、きわめて微秒な政治的問題にも対処せねばならないだろう。

13577号「ちなみにネロさんは就任後、早速人事権を用い、幹部職として30人を指名。半数はフォルトゥナ騎士団から、
      その他は外部の各分野に精通している者で、中にはレディさんが含まれています」

一方「道づれだな」

13577号「道づれですね」

魔術に精通してなくてよかったと心から思えた瞬間だ。


13577号「そしてあなたも含まれています、とミサカはザマぁと思いながらも笑いを堪え……ぷふっ……なんでもありません」


一方「……」

そしてそんな考えが甘かったと思った瞬間でもある。



232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 01:59:11.47 ID:R60HiyJBo

打ち止め「拒否権は無いよ!これは『オーナー』命令だからね!ってミサカはミサカは早速権限を振りかざしてみる!!」

一方「…………チッ」

13577号「でも大丈夫」

一方「何がだ」

13577号「幹部ではありませんが、要員として土御門元春に加えななななんと!あのお方!われらが上条当麻も指名されてます!」

一方「それが?」

13577号「これで寂しくないですね、とミサカはにっこり天使の微笑」

一方「死ね」

13577号「うわーん」

打ち止め「乱暴な言葉はダメだよ!!ってミサカはミサカは『オーナー』として叱ってちょっと優越感に浸ってみたり!」

一方「……」

いちいち突っ込むと相手の思う壺だ。
好きなように言わせるのが一番である。

13577号「さて、茶番はその程度にしてさっさと続けましょう、とミサカはちゃっちゃと進めます」


13577号「暫定実施機構はこの他にも、今回の戦いで生じた界域の『ひずみ』の修復、人間界に流入した莫大な力の処理、
      各国魔術機関の情報網及び連携環境の整備、そのための対魔戦術及び使用魔術の統一と体系化、指揮系統の明確化…………。
      はあ、長いよ。とにかくいっぱい仕事があるということです。詳細はあとで目を通してください、とミサカは面倒なので打ち切ります」

13577号「これらに主だった国、及び各公的魔術機関は合意しました。さすが我ら人類、巨大な敵ができれば結束は早いったらありゃしない」

一方「……」

この点については、
彼女の何の捻りもない皮肉を褒めるわけではないが、言わんとしていることには同意である。

この合意は所詮ひとまずのもので、各国各勢力ともに腹の中には様々な考えがあるだろう。
ただし例え表面的なものだけであっても、人類社会が大きく前進したことには違いない。

それに決定的な裏切り行為はまず派生しないだろう。

戦火に包まれていない地域でも、今にも押しつぶしてきそうな闇に包まれていた。
そのようにして全人類の深層意識に植えつけられた絶対的な恐怖、
それが人々に無比の団結力を与えることとなったのだ。


ただしこのような負の要素を根底にしている以上、きわめて危険な欠点もある。
恐怖のあまり、服従心が芽生えて魔界に傾倒する者達が現れることが充分に考えられるのだ。
その点は今後、特に警戒していかなければならないだろう。



233:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:04:07.54 ID:R60HiyJBo

13577号「ただし民間の魔術結社についてはまだかなりの数、合意が得られてません。まあこれからでしょう。では次」

13577号「天界および魔界に関する具体的な情報は全て、一般には秘匿すること。例外は認められない。
      関係者への緘口令ですね。真実は葬られる! とミサカは使い古された表現を使ってみます。
      まあ完全に締め切るのは難しいでしょう。これだけの騒ぎですから、ちょろちょろ情報は漏れるかと」

一方「……」

ただし漏れたとしてもオカルトゴシップとして世間に流されるはずだ。
悪魔や天使よりも、大多数の人々は地球外生命体という言葉を信じるであろうからだ。

13577号「次。魔術界における抜本的改革も検討されています。
      内容については、非人道的・非道徳的行為の廃止、実利を阻害する慣習の撤廃、組織の透明化・近代化などなど」

13577号「ただし、いくつかの必要不可欠な部分については、ある程度の範囲で除外される予定。
      例えば、未成年の過酷な育成教育など。
      魔術師の質の維持のために現状では不可欠なので、代替策が構築されるまで除外される見通しです。
      もちろん、厳しい審査をした上で」

一方「……」

厳しい審査とはいえ、恐らく各組織の裁量で行われるのだからアテにはならないだろう。
ただし、それでもそういった意識が闇世界の底まで届くということだけでも大きな進歩かもしれない。

と、そこで一方通行はとある点が気になった。

一方「それには学園都市の能力開発は含まれてンのか?」

13577号「はいはい。そこはちょうどミサカも言おうとしてました」

13577号「公式発表はまだですが親船統括理事長は昨日、学園都市における能力開発は随時、状況をみて規模を縮小、
      能力者の『生産』は最終的に廃止すると決定しました」


一方「……つゥことは、いずれは能力者の街って看板を下ろすってことか?」


13577号「ところがどっこい、実はそうも問屋が卸さなくてですね。廃止するのは『生産』であり、
      『育成』については今後、さらに規模を拡大する必要が出てきています」


一方「どォしてだ?」


13577号「えー、それがですね。実は滝壺理后の計測によると、
      この八日間で新規確認された原石は、現在三万二千人に昇っているのです」


一方「……ンだと?」



234:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:07:00.04 ID:R60HiyJBo

一瞬耳を疑ってしまったも、
少し考えてみると、いくつか思い当たる節があった。

一方「……」

原因は、あの人間界の深層の変化。
能力の源でもあった力場が『生』に転換したことであろう。
急激に活発化したために、力の申し子たる原石の出現率が一気に増えたのだ。

13577号「90%が16歳以下ですが中には成人の方もおり、最高齢はなんと54歳。
      性別はほぼ半々、出生地は様々、世界中満遍なくです。
      また、すでにレベル4の行使域に達している方もいるほか、
      潜在的にレベル5相当の数値を秘めている方も3名確認」

13577号「こうした急激な能力発現で痛ましい事故も発生しています。
      能力が暴走してしまい、治安部隊に射殺されるという事案がすでに三件報告されています」

13577号「そこで現在、能力者へのネガティブイメージがついてしまうのを防ぐためにも、
      各機関の協力のもと、各地のミサカなどによる保護作戦が展開中です」


一方「……なるほど、それで今、そィつらを受け入れているわけだな?」

13577号「はい。大抵の方は既に差別され始めておりますので、基本的にすぐに学園都市行きを希望なされます。
      また、希望があれば家族も受け入れていますし、
      学園都市の整った生活環境、及び生活資金援助も保障していますので、混乱はほとんどありません」

一方「ほとんど、か」

13577号「はい。残念ながら能力を悪意によって用いる方などもおられ、
      話し合いが不可能と判断された場合は、強行的手段で処理しています」

そこで彼女はともかく、と話の筋を変えた。


13577号「長期的にはまだわかりませんが、学園都市はしばらくは人口増加傾向になるとされています。
      また、これら能力者たちの保護管理にかかわる必要性からも、今後も学園都市は大きな役割を担うことになるとも」



235:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:10:43.74 ID:R60HiyJBo

一方「……」

確かにそうだ。
まず能力の制御法を身に着けなければならないし、
その他にも一般的な教育環境なども必要だ。

そしてこのあと続いた13577号の言葉によると、
統括理事長の親船最中の頭の中にはさらに飛躍的な青写真が存在しているようだ。


13577号「また、統括理事会は、将来的な『能力産業』の拡大を掲げ、異界への対抗戦力としてだけではなく、
      様々な民間分野においても能力者の力が役立てられるような環境の構築を考えています。
      つまりは、能力者の能力者としての外部雇用促進ですね。外でも生きていけるように」

一方「……」

これには興味が湧いた。
能力者が隣に座っていても誰一人何も思わない、
そんな世界を作り上げようということである。

成功すれば、あらゆるところに能力者が立つことになるだろう。
それも魔術のように裏世界だけではない、表世界においてもあちこちにだ。

面白くないわけがない。
可能性はまさに無限大だ。

世界は一変する。
既存の人類社会の枠組みはそのままに、
そこにこれまで無かった彩が加えられるということだ。


そのように、一気に溢れた未来図に思考を巡らせていると。
注意を引くように13577号が咳払いして、丁寧な口調でこう続けた。

13577号「そこでですね、統括理事会は、能力者世代自身の手による、
      能力者の保護管理業務を執り行う『統括委員会』の設置を検討していまして」


13577号「その委員の一人にあなたを指名しました」



236:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:14:27.43 ID:R60HiyJBo

一方「そォか」

そう言われた瞬間にも意思は決まっていた。
断る理由は無い。
指名されなかったら、こっちから押しかけていたくらいだ。

打ち止めがこちらの思考をネットワークに広めでもしているのか、
13577号も返事を聞かずに、一度ニヤリと笑みを浮べては先を続けた。

13577号「他に指名されたのは、土御門元春、滝壺理后、結標淡希……」

読み上げられていった名は20人ほど。
そのほとんどが知っている者の名だった。

暗部の有名どころから、アレイスターの下で『ブレイン』として動いていた者、
風紀委員の上層部まで、多種多様な所属・身分の者で攻勢されている。

また風紀委員のトップも加わっているとなると事実上、
風紀委員の指揮権も組み込まれることになるだろう。

再び、親船の引いた青写真がぼんやりと見えてきた。


親船最中は以前、未成年にも選挙権を与えるつもりでいた。

そんな彼女のことだ、これを機に能力者世代の権利を強め、
統括理事会、アンチスキルとの対等な交互監視体制を築くつもりなのだ。
さらには統括理事会やアンチスキルを担う人材の育成機関としても機能させ、
将来的には、監視体制を維持しつつも共同体として一本化する狙いもあるようだ。

しばらくは、構成員の大半が未成年ということもあって社会的力はどうしても劣るだろう、
だがそれも時間が解決してくれる。

そしていつかは正真正銘、能力者自身が統治する能力者の街になるのだ。


13577号「こんなところですね。では最後に親船統括理事長から、あなた宛の言葉を」

そして13577号は、PDAをまわ小脇に抱えて、
姿勢を正しては仰々しく締め括った。



13577号「『この街を収容所ではなく、楽園にするために力を貸して欲しい』」



238:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:16:41.78 ID:R60HiyJBo

一方「……」

秘書気取りの13577号が、いかにもやりとげたという表情で退室してから、
彼はしばらく考えを纏めにかかった。

情報を一通り整理し、そして再確認しては組み上げていく。
そうして自らの青写真をも引いていく一方通行

やるべきことは多い。
対処しなければならない問題も山積みだ。
これからはまさに大忙し。

普通の人間の生身だったら、過労死してもおかしくない作業量が待っているだろう。
だがそうした先の苦労を考えても、特に憂鬱な気持ちにはならなかった。


退屈したのだろう、それに心配疲れもあるのだろう。
脇ではいつのまにか、打ち止めが寝息を立てていた。

その寝顔を見、彼は再確認した。

この少女を守ると誓った。
この少女の生きる世界を守ると誓ったのだ。

そして己自身もそう望み、そしてそうした日々を『生きること』を望んでいる。

ゆえにこの先、どれだけの苦労と困難が待ち構えていようが、
憂鬱に思うわけが無い。



一方「……」

それにもう一つ、とある約束があった。


この街をかならず守る、という―――麦野との約束が。



239:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:18:06.87 ID:R60HiyJBo

その時、ドアが軽くノックされた。

一方「入れ」

打ち止めを起こさぬように抑えて告げると、
ドアの向こうから姿を現したのは、茶髪の同年代辺りの少年。

この人物が誰かは知っていた。


一方「……浜面仕上、だったな?」


浜面「……アクセラレータ、だな?」


挨拶と自己紹介代わりの互いの身元確認。
このやりとりからもぎこちない空気が流れると見た一方通行は、
先手を打ちすばやく問い返した。

一方「何の用だ?」

浜面「あんたへの伝言を預かってきた」

効果はあったようだ。
あれこれ考えさせる時間を与えずに、
さっさと浜面から用件を引き出すことができた。

一方「誰から?」


浜面「麦野沈利からだ」


一方「……」



240:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:19:54.93 ID:R60HiyJBo

この名を聞いた瞬間、
自分では反応を隠していたつもりだったのだが、
やはり少し顔に出てしまったのだろう。

こちらを見ていた浜面が、
何かに気づいたかのように一瞬はっとした表情を浮べた。

一方「…………続けろ」


浜面「あんたへ伝えろって、死に際にこう言った」



浜面「『お前はやっぱり生きろ』」


一方「………………」

言葉が出なかった。
先ほどは反応を抑えるのに苦労したが、
今度は全く反応を返すことが出来なかった。

言われなくても今は生きるつもりであったし、
実は麦野には『その後』に密かに会っている。
その際の彼女の様子を見て、己の意志に肯定的であることもわかっていた。

だがそれでも、どこかで確かな証拠を求めていた節もあった。
あの麦野の笑顔の意味が、己が望んだ幻ではないと確実に言える証拠を。


一方「……そォか」


麦野がこの生を肯定してくれたという『証言』。
信頼性は申し分ないだろう。
彼女の言葉を口にする浜面仕上の様子を見ていても、それは充分にわかった。


そうして一方通行は、この浜面から確かに麦野沈利の言葉を受け取り、
自らの胸の中に丁寧に包み込んだ。


浜面「それとこうも言った。『もっとマシな女を誘え』」


ただしこれは残念ながら、今のところは無理な話だったが。
麦野の遺言であってもだ。



241:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:23:08.49 ID:R60HiyJBo

浜面「……まあ、こんなところだ」

特に親しくない、
『赤の他人』というラインから僅かに下がった者同士という、ぎこちない空気の中。
彼は恐る恐る「聞いて良いか?」、と確認してこう問うて来た。

浜面「あいつとは……どんな関係だったんだ?」

一方「……言うほどの関係でもねェ」

個人的にはかなり思うところもあるが、一応これは事実だった。
特筆するべき点があるような関係ではない。

答えになっていない答えを、彼は「探るな」と受け取ったようだ。
軽く頷くと、当たり障りのない別れの挨拶を述べ、ドアの方へと踵を返す浜面。

その去り際の背へと、一方通行は唐突に声を投げた。


一方「よォ―――」


麦野との関係は、己でもはっきりわからかったから明言できなかったのだが、
やはりある程度は示しておくべきだと思ったのだ。

こちらにとっての麦野という人物の立ち位置を。


一方「―――『互い』に、惜しい奴を亡くしたな」


浜面「……ああ。本当に残念だよ。本当に」


どうやら、その意思は伝わったようだった。

足止め軽く振り向いた彼の顔には、
ぎこちなさの抜けた自然な笑みが浮かんでいた。



242:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:25:53.53 ID:R60HiyJBo

とそこで。
一方通行はさらにあることを思いつき、言葉を続けた。

一方「―――待て。俺からも話がある。今後のことは決めたか?」

浜面は肩を竦めただけだった。
こちらの問いの真意を測りかねているのだ。

一方「いつまでも滝壺の付き人をやるつもりか?」

浜面「……そのつもりはない。落ち着いたらちゃんと働くよ」

今度は薄々勘付き始めたようだ。
そこで一方通行は単刀直入に告げた。


一方「俺の下で働かねェか? 正式に公務員としてだ。
    たった今、デカイ仕事が入ってきてな。
    安っぽい言い方になっちまゥが、学園都市の未来を作る仕事だ」

恐らく例の委員会設置の話は滝壺から聞いているだろう。


浜面「…………ありがとう。でもな、気持ちは嬉しいが仕事は自分で探すよ」


一方「勘違いするな。麦野への義理でオマエを助けよゥって訳じゃねェ。
    オマエの才能を買ってスカウトしよォってンだ」

これは本当だ。
この男が信頼できるとわかって、その価値を見出したのだ。


浜面「才能なんて俺にはねえよ。無能力者だし、頭も悪いし……」

一方「そォか?聞いたところによると、一週間以上生き延びたアイテムの世話係はオマエが初めてらしィじゃねェか」

浜面「単に運が良かっただけだ。それになんだかんだ言いながらも、
    アイテムのみんなが俺を受け入れてくれたからな」

一方「その運の良さと適応力を買ってるンだが。それと行動力とゴキブリ並みのしぶとさもだ」

言わなかったが、麦野達を変えてしまうその影響力もだ。



243:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:28:51.49 ID:R60HiyJBo

浜面「……」

ゆっくりと自らの頭に手を当てる浜面。
返事に困っている風ではなく、
誘いを受けるか否かを真剣に考えている様子だ。

一方「心配すんな。学が無ェのは後からどォにでもなる。頭の回転は速ェみてェだしな。
    やりながら色々学ンでいけば良い」

浜面「少し時間をくれないか?」

一方「いいぜ」

浜面「どこに連絡したらいい?」

一方「俺の『秘書』が接触するからオマエは待ってれば良い」

浜面「そうか。わかった」

そう手早く会話を済ませると、
用ができたのか、彼は足早に去っていった。

何の用かは予想がついた。
まず最初に滝壺に伝えるつもりなのだろう。


打ち止め「あのひと、OKするかな?ってミサカはミサカはさりげなく寝たふり解除してみる」


一方「あァ。必ずな」


一方通行の下で働く、と。



244:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:31:41.29 ID:R60HiyJBo

一方「ところで、オマエも今後のことを考えなきゃなァ。まずは学校に行かねェと」

打ち止め「ぎくっ ミ、ミサカなら、すぐ大学入って飛び級でスポポーンって卒業しちゃうから意味無いよ!お金の無駄使いだよ!って―――」

一方「大学?何寝ぼけてやがる。幼稚園からやらせてェくらいだが、まァ仕方ねえ。小学四年辺りからだ」

打ち止め「えー!ミサカの知能・知識レベルはご存知ですか?!ってミサカはミサカは―――」

一方「精神年齢が低い。社会で生活して行く上での常識と、人付き合いの経験も決定的に足らねェからな」

打ち止め「ええ!それあなたが言うの?!ってミサカはミサカはちょっと本気でびっくり!!」

一方「その耳障りな語尾も直さなきゃなァ。いじめられンぞ」

打ち止め「ぐっっ……!ミサカはミサカは……」

一方「それ、止めろ」

打ち止め「む、無理だよっ……!ってミサカはミサカは個性の固守を試みてみたり……ぐぐ……」

一方「たまに言うの忘れてるだろォが。無理じゃねェ」


そんな風に押し問答を繰り返していると、
ふと打ち止めが起き上がって。


打ち止め「そういえば、あんな顔してるあなたって初めて見たよ、ってミサカはミサカはさりげなく話を変えてみたり」


一方「あ?あンな顔?」


打ち止め「そう。女の人の話で、あなたがあんな顔になるの、ってミサカはミサカは乙女レーダーに敏感に反応してみたり」



245:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:33:15.51 ID:R60HiyJBo

一方「……」

そこまで顔に出ていたのだろうか。
浜面に読まれても特にどうとも思わないが、
この少女には見られたくなかった。

あの戦いの際、思念が全て筒抜けであったために、
こちらが麦野のことをどう思っていたのかは、
未熟な心ながらも彼女もわかっていただろう。

だがそれを知られるのと、ふとした心の隙を目撃されるのは似ているようで少し違う。


打ち止め「うふふふふ。あなたもあんな顔するんだねえ、ってミサカはミサカは良いネタ見つけてからかってみたり」


こうなるからだ。

子供はなんと残酷なのだろうか。
こちらはその想い人を永遠に失ったばかりだというのに、平気で茶化してくる。

と、そう思いきや。


打ち止め「ミサカにも、いつかああいう顔してくれることはある?ってミサカはミサカは真剣に聞いてみる」


この少女は時たま実にませた表情を見せ、
大人顔負けのどストレートな言葉を平然と口走るのだ。



246:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:34:27.44 ID:R60HiyJBo

こういった感情を向けられるのは嫌な気分ではないも、
実に面倒にも思えてしまう。

特にこの歳頃の恋愛的な好き嫌いなど、『ゆらぎ』のようなものだろう。

まともに相手にすることはない。
さりげなく流してしまえばそれでいい。
時が過ぎ、彼女の精神も成長するにつれ、この未熟な想いも忘れてしまうだろう。
夢を見ていたような感覚しか残らないはずだ。

一方「10年早ェよ」

打ち止め「じゃあ10年経ったらいいの?ってミサカはミサカは―――」

一方「その語尾をなんとかして、学校もちゃンと行ったらな。そォしたら話を聞いてやる」

打ち止め「わかった!」

一方「……やればできるじゃねェか」

すぐに語尾を抑制したその気迫に、
もしかして彼女の感情は『ゆらぎ』程度のものではないのかもしれない、と一瞬頭を過ぎった。
10年後もこの感情を抱いている可能性も、僅かながらもあるのだろうか、と。

ただ、それは今から考えることではないだろう。
その時はその時だ。

それに求愛されたとして、応じるとは一言も言っていない。


話を聞いてやる、と言っただけだ。


こんなところを見落とすとは、やはりまだまだ甘いものである。



247:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:36:47.67 ID:R60HiyJBo

とにかく、彼女が幸せに生きてくれればそれで良い。

誰を好こうがかまわないから、
誰かを愛することで幸福感に満たされてくれれば、と願う。


己が―――麦野を想ったように。



いや、誰でもいいというわけではないか。
欲を言えば、将来的にはネロのような男と結ばれて欲しいものだ。
考え方はバランス良く公正、判断の仕方も実に常識的かつ柔軟。
人格も真面目で清く正しく、懐の広さもある男だ。

そしてさすがにネロほどとは言わないも、できればある程度の実際的な強さもあってほしい。
万一の時、あらゆる脅威から打ち止めを守れるような逞しい男だ。



また一つ、将来に向け考えねばならない事柄が一つ増えてしまった。


気合を入れているつもりなのか、妙な屈伸運動をしている打ち止めを見ながら、
一方通行は笑ってしまった。

彼女の真面目くさった顔とその動きが可笑しかったこともあったが、
それと同時にこんなことを真剣に考えている己も可笑しく思えたのだ。

いや、それらも含めた今の己の境遇、
周りの世界丸ごとがどうにも面白く感じてしまったのだ。

だがこの程度でいちいち笑っていては、
この先は思いやられることだろう。

覚悟しなければ。



先に待ち構えている未来はきっと――――――もっと笑わせてくるのだろうから。



―――



248:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 02:37:29.75 ID:R60HiyJBo

今日はここまでです。
あと三回、次は日曜か月曜に。



249:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県):2012/06/02(土) 02:39:20.36 ID:h2ItbbO/o


残り回数が増えるのはこっちとしては嬉しい誤算



251:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/06/02(土) 02:43:37.60 ID:yHq7pAjwo

お疲れ様でした。



253:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/06/02(土) 14:58:53.24 ID:IurajNng0

乙です!!

一通さんがお父さんに見えてきた
エピローグが長くなるなら嬉しい限り
色んな人のその後が気になるしねえ…



255:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/06/02(土) 21:42:57.68 ID:F5bX5y6x0

乙tylish
残り回もっと増えてもいいのよ?



256:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/06/02(土) 23:04:48.75 ID:/WJemZ2I0

なんなら俺の魂を捧げてゴールドオーブにしてやんよ



257:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/06/03(日) 00:25:56.64 ID:ce/o9XFwo

じゃあ俺の魂捧げてアンタッチャブル!



258:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/06/03(日) 02:48:52.28 ID:TAERQTsdo

お前らの魂じゃ質も量も足らん



次→ダンテ「学園都市か」【MISSION FINAL】

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禁書目録SS   コメント:1   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
28149. 名前 : ngoknok◆- 投稿日 : 2012/10/27(土) 21:38 ▼このコメントに返信する
スパーダがここまで強いなんて背筋が凍ったけど、ダンテが強すぎでその後背骨が砕けた・・
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