ダンテ「学園都市か」【MISSION 40】

2012-10-09 (火) 23:45  禁書目録SS   5コメント  
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まとめ→ダンテ「学園都市か」 まとめ





805:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:31:15.18 ID:1J5YsII6o

―――

ベヨネッタ『……』

インデックス、そしてジャンヌから瞬時に伝達されてくる情報によると、
上条当麻はきわめて忙しい身ようだ。

こちらの命令が届く一瞬前に、別口から呼び出されて魔塔地下に行き、
すんでのところで例の能力者の安全を確保したらしい。

もっとも上条だけの手柄ではなく、むしろ彼は最後の一押しでしかないも、
一方で彼が欠けていたらこれまた成せなかった可能性が高い状況だったとも。

そうした諸々の情報を分析統合してみると、
筋書きに空いた『大きな穴』が実に明確に浮き彫りになってくる。

筋書きに沿うならば、新たな人界神―――一方通行は、
フォルティトゥードを破るも次いだテンパランチアにより殺されたはず。
だがそれは阻止された。

その狂いを修正するための例の能力者―――滝壺の殺害をも、結果は阻止。

魔塔の隔離と虚数学区が崩壊し人間界が神域の戦火に包まれるという、
『至高の英雄を生み出すための究極の災厄』のシナリオはこうして回避されたのだ。

そそもそも、筋書きにとってはこの虚数学区諸々の存在もイレギュラーなはず。
これら人間界を守る殻など本来は存在せず、
最初から人間世界が天魔入り乱れる大戦の舞台となっていたはずだ。



806:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:33:15.20 ID:1J5YsII6o

この『誤差』の発端は、己とバージルが早期開戦を促したことである。

以降、ボディブローのように徐々に浸み込んでいた誤差、
それが決定的に表面化したのは、
デュマーリ島における魔剣スパーダを破壊した上でのネロの勝利。

かの青年の選択が、ついに何もかもをぶち壊しにしたのだ。

次いでバージルの選択、彼の生まれて初めての『妥協』が更に強烈な一撃となり。


そして上条当麻の帰還である。

彼の帰還は、竜王全能化の阻止、
『至高の英雄に対する最悪の敵』というシナリオをぶち壊しただけではない。

虚数学区の破壊という、もう一つの重要な修正点が、
『本来はいないはず』の彼の介入により叩き潰されてしまったのだ。


ではこの次、具体的に筋書きはどのような手で修正を試みてくるか。


ベヨネッタ『Humm……』

ブレイブスの大きな尻を鞭で引っぱたき、
ギロチンの刃を落としつつ、ベヨネッタはこう結論した。

次なる修正のかけ方はやはり予想していた通り。
先に覚えた直感通り、ここで上条当麻を殺すことだろう、と。



807:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:34:23.94 ID:1J5YsII6o

いてはならないはずの彼を殺し、
さらに周りの悲劇性を強めるというという一石二鳥の修正方だ。

筋書きを認識している者達の中でも特に『弱くて』殺しやすいため、
上条が狙われるのは当然の成り行きだろう。

ベヨネッタ『……ふふ』

飛びかかってきたグロリアスを、サッカーよろしく拷問用の『万力』に蹴りこみながら、
筋書きのこの『馬鹿っぷり』に魔女はほくそ笑んだ。

この世界の不可侵の流れ、その影響力は絶大ではあるも、
動きは実にわかりやすいものだ、と。
水が低きに流れるのと同じ、
筋書きが書き換えようとするシナリオ案はなんとも安易で単純なもの。

そして安易で単純な策とは、
封じられてしまえば『どん詰まり』に落ちてしまうものである。


そうすると、今まで嫌な予感として捉えていた上条当麻の危機が、
ベヨネッタには一転して好機に見えた。
この修正を真っ向から叩き潰してしまえば、筋書きをより追い込むことが可能だ。


では具体的にどのようにして叩き潰すか―――



808:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:36:28.97 ID:1J5YsII6o

安易で単純な策に対する手段は、それもまた同じく簡単なもの。

挑戦を受けて文字通り真っ向から潰してしまえばいい。

筋書きは、この場において己とネロが上条を守りきるのは
困難だとしここで上条当麻を殺そうとしているのだ。

となれば、こちらはあえて彼をここに寄越し、
真正面から彼を守りきり。

天使と悪魔が入り乱れるこの戦いを一気に片付けてしまい、
人間界の勝利とともに『上条は死なない』という事実を突きつける。

これぞ戦いを終息へと加速させ、
かつ筋書きにもカウンターをぶちかます一石二鳥の最高の一手である。


ベヨネッタ『Ahh……』

ただしこの策は、ベヨネッタにとっては個人的に、
少し残念に思えてしまうものだった。
修羅刃でインスパイアドを三枚下ろしにしつつ、彼女はいかにも惜しむため息を漏らした。

この作戦はあまりにも味気ないと。

彼女としてはもっと『じっくり』天使達と楽しみたかったのだが、
これはそんなお楽しみ要素に欠けている。

―――『必殺技』を使うにしても、前振りもなくいきなりぶっ放すのは、面白みが乏しいものである。



809:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:38:50.33 ID:1J5YsII6o

ただしいくら快楽至上主義のベヨネッタとはいえ、
個人的趣向と大義の成就のどちらを優先するかは考えるまでもなかった。

彼女はすぐにこのプランをジャンヌ、
インデックスを介して上条へと伝えた。

上条には申し訳ないが、『彼ら』に『餌』になってもらうべく。


ネロにはこちらから伝えておかなくてもいいだろう。

グラシャラボラスからある程度のことは伝わるであろうし、
もし作戦全容を把握できなくとも、彼ならばアドリブで完璧にこなしてくれるはずである。

グラシアスからもぎ取った腕をブレイブスの尻に突っ込みつつ、
ネロへとむけにっこりと微笑みかけるベヨネッタ。

返って来るのは、胡散臭げな鋭い視線。
予想通りの『良い反応』だ。
あれならばこちらの挙動を逐一観察し、
次に起こることがわからなくとも的確に合わせてきてくれるだろう。

そうして彼女は彼に艶かしく片目を瞑った。
こちらが色々と『企んでいる』からよろしく、と。

ベヨネッタ『Shut up! Bad boy!』

悲鳴をあげる巨人天使の背を踏みつけながら。

―――



810:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:39:59.75 ID:1J5YsII6o

―――

上条『―――?!』

インデックスを介してのベヨネッタの『命令』。
その内容は簡潔ながら無茶苦茶なものだった。

言ってしまえば、死が大口開けて待っている中へ飛び込めというものだ。

ただしそんな耳を疑いかねない命令でも、
そこに含まれる裏の意味を考えれば、仕方ないかもしれない。

上条にもわかる、
これは筋書きとの勝負の一つであることは。

その勝負の主題はずばり『上条当麻の死』である。

いずれは決着をつけねばならないことだ。
筋書き通りならば、インデックスが愛した『上条当麻』はもういないことになっている。
これはそこへ修正するための筋書きからの挑戦である。

いま魔塔から出でずに人間界に戻れば、それで一応は回避できる。
しかしそれではただ逃げただけで、
決着をつけぬ限り永劫つきまとってくるであろう。

伸びてくる筋書きの手を真っ向からへし折り、
修正は不可能だとつき示さなければならないのである。



811:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:41:41.20 ID:1J5YsII6o

そして今、ベヨネッタとネロがいる。
勝負に打ち勝つにこれ以上の好機があるか。

しかも魔塔前で繰り広げられている激戦の膠着状態が崩れ、
趨勢は一気に人間側に転がり『消化試合』に化すという『オマケ』付。
もはや一石二鳥どころではないものだ。

判断に時間は要さなかった。
上条は迷わずこのサディスティックな魔女の作戦に乗ることにした。


上条『……』

ふと上条は自覚した。

インデックスによる再構築の際、
『ある男』による因子がより色濃く浮き上がってきたのかもしれない。
なにせあれほど自己主張の激しい男のものだ。

身の内で湧くクレイジーな息吹に、彼は思わずニヤけてしまっていた。
こんなにも常軌を逸した無謀な作戦であるにもかかわらずだ。


プランの具体的な内容は、そのイカれ具合には不釣合いなくらいにシンプルである。

魔塔の門から飛び出しそのまま直進する。
右手を前にかざし、幻想殺しを機能させながら。

ただそれだけだ。



812:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:43:42.00 ID:1J5YsII6o

流れを駆け上がってギガピートの巣である回廊、
彷徨える禽獣の間に達した頃、上条は魔狼の腹を足で軽く叩き。

上条『―――門からそのまま外に出てくれ!!そして全速力で真っ直ぐに突っ走ってくれ!!』

魔狼からは了解の意を篭めた一唸りが返ってきた。
訳を問わずに快諾してくれるとは、じつに協力的で頼もしいものだ。

いや、どのような事であるかはわかっていたのだろう。
こちらがここまで湧き立っていれば、股下の大悪魔も当然把握するはずだ。
そして基本的に悪魔は、危険には喜んで飛び込んでいくタチ。
大悪魔とは武による叩き上げの神々としてもいい、そんな者がこの誘惑を拒否するわけもない。

上条『……』

そして同じく勘付かれた視線を、背後から続くもう一頭の狼―――土御門からも覚えた。
股下の魔狼のものとは違い、こちらは不安気なものだ。

彼もまた、ことらが何かを企んでいることに気付いたのだ。
それも大方『よからぬこと』では、と。

上条『はっ―――!』

さすがは狼、いや、土御門か。
鼻が良く効くものだ、彼のその直感は的中している。

彼も、そして彼の背の上にいる二人も、
悪いが道連れになってもらう必要があったのだ。

仕方無い、これもベヨネッタの指示である。


戦いのカタを一気につけるには、彼らもまた餌になってもらわなければならない。


無論、彼らにとっても悪い話ではない。
筋書きがかけてきているこの大勝負に正面から勝てば、
己と同じく彼らの『生存』も現実として刻まれ、もはや筋書きには手出しできなくなってしまうのだから。



813:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:45:06.11 ID:1J5YsII6o

ただしその込み入った理由を、上条は今ここで告げるつもりはなかった。
そんな時間なんて無かったし、そもそも言っても言わなくてもかわりはしないのだ。

リスクを理解した上でも、土御門は足は緩めはしないとわかっていたから。


―――最高の親友として。


上条は半身振り返り横顔を向けると、
有無を言わせぬ声を放った。


上条『―――そのままついて来い土御門!!俺が止まるまで!!』


もしくは死ぬまでか、
これは言わなかったがわかったはずだろう。

白狼は息を詰まらせたような空気を発した。
こちらが薄く笑っていたのがさらに不安を上乗せしたのだろう、
警戒の色をより強めて。

しかしそれでも考えていた通り、土御門は歩を緩めなかった。
今度は諦め混じりに唸ると、彼はそのまま着いてきてくれた。

やはり持つべきものは友である。
こちらの言葉に絶対的な信頼を寄せてくれる、その一方で盲信はせずに一定の警戒を常に持つ、
そんな公平で厳正な親友ほど頼もしいものはない。

上条は魔狼の腹を叩き、さらに足並みを加速させた。
後方に少年と少女を乗せた白狼を従えて。



814:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:47:02.73 ID:1J5YsII6o

黒き魔の影と白き天の光の尾を引いて、二頭の狼は駆けに駆けていった。

彷徨える禽獣の間を抜け、いくつかの部屋と回廊を通り、
吹き抜けの空間、邂逅せし災いの広間へと達する。

出でた場所はその広間の中層であり、
手すりを跳び越えて降りればもう外へと出る魔塔の門だ。

そこへ向けて躊躇わずに飛び降りる魔狼。


土御門『―――カミやん!本当に大丈夫なんだよな?!』

そしてそう吠えながらも同じく跳び続く白狼。

親友の最後の足掻きとも言える確認の声に、
上条は肯定も否定もしなかった。

もう一度半身振り返ってはただニヤリと笑い。


上条『―――祈ってろ!』


叫び、すばやく前に向きなおして右手を掲げ、幻想殺しを稼動。


あとは魔狼の勢いに任せて―――門へと突貫。


そうして大きな門扉が叩き開けられる衝撃に震え、
壮烈な激戦地帯に飛び出した上条当麻と魔狼。

凄まじい勢いで彼らの身が、そのまま―――
魔塔の門前に広がっていた『靄』の中に突っ込んだのは、決して偶然ではない。


その右手が向かう先で『靄』が急に晴れ、巨大なカマキリが姿を現したのも。


―――



815:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:48:51.40 ID:1J5YsII6o

―――


ネロ『―――』

あの魔女は一体何を企んでいるのだ―――そう思った矢先のことだった。

しつこく突破しようとしてくる靄を相手にしていたところ。
突如背後、門の向こうから急接近してくる気配―――そして開け放たれる扉。

自分の使い魔を見紛うはずもない、
誰が誰を背負って飛び出してきたのかはすぐに把握できた。

そしてこの状況が意味することにも瞬時に気付き、
彼は胸の内で悪態をつき罵った。


『ハメられた』、勝手になにしやがるあのババア、と。


確かにあの少年をこの戦場に呼び寄せる以外に選択肢は無さそうであったも、
それにもやり方というものがある。

こんな乱暴で危険極まりないやり方なんて―――ただしある点に置いては、
ネロもこれは上手いと納得せざるをえなかった。

意表を突かれたのは、ベルゼブブも同じだったことである。



816:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:51:43.42 ID:1J5YsII6o

叩き開かれた扉、そこから飛び出してた―――上条当麻を載せた魔狼。
ネロの脇を突きぬけ、そのまま前方の靄の中に突貫。


―――そして晴れる『靄』に、暴かれる―――ベルゼブブの姿。


その異形の顔からでも充分にわかる。
実に愉快で素晴らしい、最高の表情を浮べていた。

もちろんベルゼブブ本人にとっては間逆、唖然としたものであったろう。


ネロはその光景を前に今一度ベヨネッタを罵り、次いで称賛した。

あんたほどのイカれババアが、
至高の快楽よりも至上の大義を優先したその心意気を評価しよう、と。

これほどの相手との戦いをあっさり終らすのはもったいないも、
やはり戦乱の早期終結には代えがたいものだ。


そうしてネロもこのベヨネッタの無茶な要求に応じ、急展開にアドリブながらも完璧に対応した。

靄に触れた上条・グラシャラボラスが、
ベルゼブブの脇をすれ違うかという刹那。

すぐさまデビルブリンガーでカマキリの細長い胸を鷲掴みにし。


ネロ「―――Good to see you!! Fucker!!」


火を吐くレッドクイーンをもう片手で振り構えながら、
ようやく面と向かっての挨拶を行った。

同時に『別れ』の意も丁寧に篭めて。
そして刃には『一撃必殺』の力を篭めて。



817:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:53:27.43 ID:1J5YsII6o

上条『―――ッ!!』

門から飛び出した後は、
もう何が何だかわからなかった。

周囲に溢れるとんでもない力の塊、それらの衝突によって生じる衝撃。
天魔入り乱れる苛烈な戦場は、
とても即座に全容を把握できるような空間ではなかった。

『靄』に触れた瞬間、幻想殺しが解析し、
瞬時に構造を破壊したことだけははっきりしていたものの、
あとはまともに考えてはいられなかった。

ぱっと目の前に巨大なカマキリが出現したと思ったのも束の間、
そのそばを通り過ぎるよりも速く青光の巨腕が鷲掴み。


そうしてすれ違う瞬間、上条は視覚無くともあらゆる知覚の端で捉えた。

ベルゼブブを飲み込むように迸る閃光を―――

―――やっと獲物に喰らいついたことで、
それまでの鬱憤を晴らすかのように爆発するスパーダの孫の力を。


そして全ての知覚が消えた―――のは錯覚だ。


次いだネロの力の圧倒的な衝撃によって、何もかもが塗り潰されたのである。


そんな凄まじい噴火を後ろに、
上条をのせた魔狼と滝壺たちをのせた土御門は真っ直ぐと突っ走っていった。



818:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:55:31.21 ID:1J5YsII6o

前方にいるのは、ベルゼブブ配下の大悪魔達だ。
まともに激突すればグラシャラボラスといえども多勢に無勢である

だがこのときばかりは、彼らは親切に道を空けてくれた。
もちろん本当に上条達を通そうとしたつもりではない。

主たるベルゼブブの力が突然解除され、その張本人が大悪魔に乗って激走してくるのだ。
そんな未知なる相手を認識した瞬間、
考えるよりもまず反射的な回避が先に行われるものである。


だがジュベレウス派の者達は違った。

上条当麻には相応の力をもって向かえば恐れるに足らずと知っており、
そして彼の背後、土御門の背にいる少女のことも完全に把握していた。


ゆえに親切に道をあけてくれるどころか、その逆の行動をとる。

それこそがベヨネッタの『ついで』のもう一つの狙いであり、
滝壺達にも餌になってもらった理由であった。


―――魔塔の門から一直線、戦場を貫きゆく上条達。


その中の滝壺という餌を見て。
のらりくらりと様子を伺っていた天の大物がついに前に出てきてしまう。

息つく暇もない一瞬の間に魔塔の門を出で、
ベルゼブブの横を抜け、大悪魔達の間を通り―――そして次に上条達が前方に対面したのは―――『拳』。


振り下ろされてくる―――四元徳の巨大な拳である。


―――次の瞬間、節制による鉄槌が炸裂した。



819:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 01:58:19.32 ID:1J5YsII6o

―――その瞬間は、さすがのベヨネッタでさえもヒヤリとくるものがあった。

この作戦はかなりの無理があるということは、
立案した本人として重々承知であったも、それでもゾクリと来てしまうものだ。

ただし彼女にとってそれは不快な感覚であるとは限らない。
スリルもまた刺激的なスパイスになり得るからである。


特にこのように――――――間一髪のところで『大成功』となった際は。


ベヨネッタ『―――Huuuuh!!』


身を走るヘビー級の衝撃とスリルが魅せた快感に、
魔女は溜まらずに声を放った。


―――両腕を交差させ―――テンパランチアの拳を受け支える下で。


これにて上条達の激走劇は終点を迎えた。
ベヨネッタの背後で魔狼と白狼が、それぞれ四肢を踏ん張って急制動。

魔女が支える拳を見上げる形で停止した。


ベヨネッタとテンパランチアの動き、その差はほんの僅かだった。
上条が認識した節制の拳との最接近距離は実に10m少しにまで縮んでいたのだ。

ほんの一瞬、あともう少しベヨネッタが遅れていれば、
上条も魔狼も土御門も、その背の滝壺と浜面も皆が叩き潰されていたに違いない―――


筋書きの挑戦を受けた極限の勝負―――その危険な一戦に、
皆が真っ向から力ずくで勝った瞬間だった。



820:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 02:02:14.07 ID:1J5YsII6o

直後、テンパランチアもこれは罠だったと気付いたようだ。
だが遅かった。

彼の判断よりも―――ネロの『アドリブ』の方が遥かに早かったのだ。

滝壺をしとめ損ねたとわかるや、
即座に嵐を纏い後方に離脱しようとするテンパランチア、しかし果せなかった。

いや、結果的にはベヨネッタから距離を置くことを達成できたも、
それは彼が全く意図していなかった形によるものであった。

刹那。


遥か後方から砲弾のように飛んで来た―――デビルブリンガーの巨拳が、節制の巨顔を叩き潰した。


―――僅かなうめき声すらも許さない、完全に顔面を陥没させる一撃だ。


激音ながらも鈍く痛々しい激突音が轟く中、
城のごとき巨体が転げ飛んでいく。

しかもただ殴り飛ばされただけではない。

ネロのデビルブリンガーはそのまま伸びて、
テンパランチアの肩の基部をがっしりと掴んでいた。


つまり節制は完全に捕縛されたわけである。
もう距離を置き様子見を行うなんてことはできない。

ベヨネッタが告げた『彼の番』がついに訪れた瞬間だった。



821:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 02:04:27.22 ID:1J5YsII6o

大悪魔達は突然のベルゼブブの突然の死に震撼し、
上級三隊はその爆発したネロの力とベヨネッタにただただ圧倒されるばかり。

そのようにしてこの瞬間、一切の邪魔が入らない時間が生じた。


        新月の闇にて死を貪る王よ
ベヨネッタ『TELOCVOVIM AGRAM ORS!!』


少しばかり手のかかる召喚だって充分にこなせるくらいに。


        汝の名の下に 断罪の鉄槌を
ベヨネッタ『ADNA OVOF BALTIM GIZYAX!!』


ネロが押さえつけている間にすかさず舞い踊り、
『ある存在』の召喚式を組み上げていくベヨネッタ。


纏っていた黒きボディスーツが黒髪の束へと変じ、広がり伸びて―――遥か天空に特大の魔方陣を形成させる。


その規模は、なんとテメンニグルの塔よりも『太い』ほど。


          コンパクトに
ベヨネッタ『―――OBZA!!』


そうしてかかとが打ち鳴らされたのを合図に召喚式は稼動、
『それ』が魔界の深淵から引き出された。


魔界の力場が形を成した―――『クイーン=シバ』が―――『コンパクト』に『腕一本』だけ。


ただし『コンパクト』とはいえ、
その右肘までというだけでも、テメンニグルの塔とほぼ同じ大きさがあった。



822:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 02:06:50.00 ID:1J5YsII6o

魔界の力場を引き出すという常軌を逸した大技を前にしては、
上級三隊たちはもちろん、
名だたる武人である大悪魔でさえもただ唖然と見ているしかなかった。

そしてテンパランチアにできることは、
潰れた顔面からなんとか―――この超級の拳を見上げて、己の死を覚悟するだけ。

顔面を潰されただけで、その身はまだなんとか戦うことはできたであろうも、
この魔界の力場に捕捉された時点でもはや無意味だ。


敗死はここに確定されたのである。


ただし、その自身の終末をじっくり味う猶予なんかは与えられなかった。

ベヨネッタは愉悦を求める様式よりも合理性を優先して、
溜めも前振りもなしに必殺技をぶっ放すのだ。
そこまで我慢しているのだから、彼女が親切に最期の『祈りの時間』を与えるはずもなかった。


テンパランチア『―――我らが主神ジュベレ―――』



           コイツをぶっ潰せ
ベヨネッタ『―――IA-IAL IADPIL!!』



主神の栄光を称える最期の言葉すらも、魔女は最後まで待ちはしなかった。

節制の声に重ねられた号令により、
即座に振り下ろされた超級の拳。


四元徳の巨体は虫のように叩き潰された。


―――



823:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/23(月) 02:07:20.92 ID:1J5YsII6o

今日はここまでです。
次は水曜に。



824:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/23(月) 04:55:51.29 ID:ETCekoKF0

乙乙乙

ベルゼブブとテンパランチア…
噛ませ犬かと思いきや噛ませてすらもらえなかった…



825:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/23(月) 08:48:34.02 ID:8YOSynmyo

ふおお、たまらんな。乙!!



826:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/23(月) 10:00:33.87 ID:9r6G8mcKo

お疲れ様です。なにこのスーパー魔界大戦Z・・・
そして滝壺さんはともかく、この嵐の中、浜★面は正気を保てるんだろうか・・・



827:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/23(月) 11:12:12.32 ID:q/DNZ64IO

天界勢終わり過ぎw



828:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/04/23(月) 11:20:59.29 ID:EJb6rSin0



浜面さんは絶賛ポルナレフ状態だろうな



829:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:47:53.56 ID:D9XCEycfo

―――

テメンニグルの塔の遥か地下、
悪魔さえもほとんど足を踏み入れたことがないであろう闇の最深部。

いや、『生きた悪魔さえ』と訂正するべきだろう。


そこは広大な『墓穴』だった。


底を覆うは腐りきった悪魔の死骸の原である。
通常、悪魔の肉体は魂の消滅と共にしばらくしたら消えてしまうものなのだが、
この永劫の監獄としても使われた塔の底では、
死してもなお醜態な姿を晒され続けるのだ。

もっとも古き亡骸は魔女が魔塔を建立した万年前に遡るが、
その最古のものを含めて『全て』がいまだに『腐り続けている』。

そして墓穴の空気を満たすはしめった強烈な腐臭。
死した悪魔達の怨念と狂気だ。

それら渦を巻き、道連れの者を求めて蠢きうめく腐肉の海、
そのただ中にはある孤島、ちょっとした舞台とも言える円形の台があり。

そこに、またしても魔塔の悪しき運命に囚われ堕ちた者が二人―――
―――アーカムとレディが折り重なるようにして、落下してきた。



830:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:49:27.39 ID:D9XCEycfo

アーカムの胸を貫いたままのロケットランチャーの刃が、
そのまま台の石畳に突き刺さり、彼の身を磔に。

レディはその彼を砕かんばかりに踏みつけ、灼熱の視線を差し向けた。

すると彼はレディの瞳を、そして身を眺めてこう言った。


アーカム「……そうか―――」


これまでのように狡猾に相手を苛むためではない、
ただ純粋に納得した独り言のように。


アーカム「―――お前は……私の娘だな」


歪み濁りきっていながらも、心から『父』としての声で。

レディ『……』

その言葉については同感だった。

こちらだって同じように納得させられていた。
これほどまでの魔の適性、
そして秘められた暴力的な深層意識は間違いなくアーカムからのものだと。

己の悪魔の身が証明している。

この男は間違いなく父親だ、己はこの男からはじまったのだ、と。



831:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:51:21.02 ID:D9XCEycfo

アーカムの方もいまや同じ考えだったようだ。

かつてアーカムの目に映っていた敵はダンテとバージルであり、
レディという小娘は単に『鍵』にしか過ぎなかっただろう。

単純に血縁は認めてはいたも、そこに一切意味を見出してはいなかった。

だが今はもう違っていた。

レディを見上げる瞳に宿っているのは悪魔の暴力性に人間の暗黒面である欲望、
だがそれらが乗せられている眼差しは、間違いなく父親としてのものだった。

20年以上もの時を経て父親は娘を、娘は父親をここに認めたのである。


ただし『絆』が復活されたからといって、それが親愛なものだとは限らない。


彼らの繋がりにあるのは、
遠い昔に愛したがゆえの灼熱の憎悪。
幸せな日々だったがゆえの底なき悪夢―――


アーカム「やはり血は争えないな」


―――そして明確な殺意。


改めての『宣戦布告』は、レディの腹部に叩き込まれた凄まじい蹴りによって行われた。



832:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:52:46.86 ID:D9XCEycfo

レディ『―――ッ』

ランチャーを手放すことなく勢いに任せては引き抜き、
宙を翻って10mほどの場所に降り立つレディ。

立ち上がるアーカムの姿、そしてその瞳をすばやく見返して彼女は確信した。

アーカムはもはや自身が消失することを厭わない。
『野望』よりも『家族』を優先し―――父親として娘を殺す気だと。


かつてここは幽閉墓所としてだけではなく、
処刑場・闘技場としての側面も兼ねていたようだった。

魔女たちにより、罪人を死ぬまで戦わせるという催しが行われていたのだろう。

腐肉の海に浮かぶ直径20mばかりの処刑台は、
闘争と憎悪の血で結ばれた家族にはまさに相応しい場所か。

勝負は短時間のうちに終るとレディはわかっていた。
アーカムは胸に強烈な一撃を受けているし、
こちらの身はアーカムの手による転生で、しかもいまだ完全に安定はしきっていない。

すでに双方とも非常に不安定な状態であったのだ。



833:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:54:46.08 ID:D9XCEycfo

父と娘の殺し合いが始まった。


低く身構えたのち、人の領域を超越した瞬発力を解き放つレディ。
左手のサブマシンガンで弾幕を張りつつ、
その弾に追いつくかという速度で一瞬で距離を詰め。

アーカムめがけ、片腕で小枝のようにランチャーを振るった。
図太い銃身が棍棒となって、石畳を大いにうち砕く。

だがそこにアーカムの姿はない。

彼の身があるのは2mほどのすぐ頭上。
そしてレディの顔面へと、長き足の蹴りを風車のように放つ。

対し、すかさずランチャーの手元を浮かせつつ身を低く捻り落とすレディ。
この大砲を『背負い盾』として蹴りを防ぎ、
ほぼ同時にもう片手のサブマシンガンを発砲、容赦なく魔弾を叩き込む。

しかしこのカウンターとも言える一連射も、
ランチャーを足場にされ、ひらりと後方に翻られて回避されてしまった。

だがレディの反応も早かった。

術式による補佐など必要ない、
ただ純粋な反射神経でアーカムの動きに対応していく。


彼女も即座に前に踏みだし、
後方へと翻ったアーカムとの距離が一定に保たれるほどの速さで駆け。

そして彼が降り立ったと同時に・
その腹部にランチャーの突きを先頭に、『悪魔の身』ならではの至近戦を挑んでいった。



834:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:56:14.24 ID:D9XCEycfo

両者は、呼吸すらも忘れたかのように僅かな声すらも漏らさず。
ただ殺意にのみ身委ねて手数を重ねていった。

ランチャーを棍として凄まじい速度で振りぬいていくレディ。
かたわら直感的に魔弾を放ち、
相手の行動を予測した未来位置に弾頭を『置いていき』、
動きの選択肢を封じていく。

対しアーカムも力を集束させた手刀によって魔弾をはじき、
目にも留まらぬ体術で応戦。

跳弾や衝撃で石畳に亀裂が走り、
平らだった処刑台を歪な岩場へと変じさせていく中、
両者かわしては激突し合い、魂の闘争を繰り広げていった。

父子の絆を確認し、その繋がりで相手を『縊り殺す』べく。


ただしその戦いは、傍目には互角に見えようとも、
実際は確かな差が生じつつあった。



835:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:57:38.05 ID:D9XCEycfo

一方は大悪魔の力を手に入れた、人類トップクラスともしても過言ではない魔術師。

だがもう一方は『それ以上』だった。

業界内では人類最強のデビルハンターと称されるほどの、
20年間以上にわたる無数の死線の経験と、過酷な修練によって磨き上げられた技術。

人の身のままそれらを用い、時には大悪魔にも相対するほどの戦士である。

そんな者が悪魔の力を手に入れたとなっては、
例えそれが与えられたもので不安定とはいえ、示される戦闘能力は計り知れないものだ。


現にここに浮き彫りになりつつあった。


確かに娘は、これまで父には勝てなかった。

しかし同じ女性―――カリーナの血を捧げての悪魔化という、
同一の条件のもとに殺意を交えたとき。

関係は明らかに逆転した。

特定の分野に置いてはそうとは限らないも、
総合的な見方をすれば今や堂々とこう断言できるものだった。


―――娘は父を超えていた、と。


戦いの中、ついに決定的な瞬間が訪れた。

研ぎ澄まされた技術による直感的な計算、
それによって放たれた魔弾の一つが、ついにアーカムの首元を貫いたことで。



836:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 00:59:03.74 ID:D9XCEycfo

超至近距離からの一発、
その一瞬の怯みが、勝敗を確定的なものにする。

アーカムに生じた僅かな反応遅延。
次いだレディの一手目、飛来してきた魔弾は手刀で弾けたも、
続く二手目への対応は追いつかなかった。

レディの動きを察知し、すかさず飛び退こうとしたアーカム。
しかし間に合わず。

彼のわき腹に、振るわれてきた『棍棒』―――ランチャーの銃身が直撃。
その骨をうち砕き、身を捻じ曲げ、さらなる反応遅延へと連鎖。

その瞬間、表面的な拮抗すらも完全に崩れ去り、
戦いは終幕へと一気に転がっていく。

横後方へと吹っ飛ばされるアーカム。
倒れることなく足を踏ん張り、5mほど押し込まれたところでなんとか留まるも、
もはや攻勢には転じれず。

絶え間なく放たれてきたサブマシンガンの魔弾を、
避けるどころか弾くことすらもままならず、
盾として腕を犠牲にするしかなかった。


そしてその肉の盾すらも―――続けざまに飛来してきた『刃』によって貫かれた。



837:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:01:19.49 ID:D9XCEycfo

腕を貫通し胸、傷穴に重ねられて深く突きささる刃。
それはランチャーから射出された、鎖つきの刀身だった。

繋がれたと気付いたときには遅かった。

アーカム「―――」

鎖には術式に加え強烈な魔の力が宿っているため断ち切ることは出来ず、
また腕をも貫いているため、すぐに引き抜くことも不可能。

そうして成す術もなくぐんと引かれた先、
鎖が巻かれきり、刃が射出元に再び納まる機械的な音が響き。

アーカムは、自らの胸に突きつけられている図太いロケットランチャーを見た。

その向こうにある娘の顔も。



瞬間、何かしらの言葉が交わされることもなければ、
感慨の間も生じはしなかった。

互いに相手の表情を読み取ろうともしなかった。

そこに含まれていたのが家族間の血塗れた憎悪であっても、
戦いの内容、特に終わりは、機械的とも形容できるほどに淡々としていた。


父を引き寄せランチャーを突きつけた娘は、一切間を置かずに引き金を絞り。


『悪夢』に幕を引いた。



838:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:02:42.82 ID:D9XCEycfo

迸る爆炎、轟く爆轟、木っ端となるアーカムの上半身と。
残されレディの足元に転がる下半身。

レディ『―――……』

凄まじい至近距離の炸裂は、
レディのジャケットの表面をも焼き、いくらか破き飛ばしてしまっていた。

そしてそこから落ちる―――小さなコインが一枚。

ダンテから預かった1セント硬貨である。

それがアーカムの下半身の傍へと落ち、鈴に似た音を奏でた。
前の持ち主に似て妙に軽々しく、茶化すように景気良く。

レディ『……』

彼女は咄嗟に拾い上げようとしたも、
そんな風に転がっていく様子を見て手を止めた。
まさに前の持ち主の意思が宿っているように見えたのだ。

彼女は屈みかけたところを、また立ちなおして。



レディ『それ……ダンテからよ。驕りだって』


そうして言い切ると同時に、
アーカムの残骸は蒸発するように掻き消えて行った。



839:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:04:53.08 ID:D9XCEycfo

こうしてアーカムという過去の影は消え去った。

あの男が敷いた術式は全て、彼の消失と共に瓦解していくはずだ。
強引に開かれていた魔界の門も閉じ、悪魔の流入も停止。

人間界はまた一つ大いなる脅威を退けることができるだろう。


そして彼女自身も―――『悪夢』から覚めるときが訪れた。


レディ『―――……」


始まりは悪魔の力の減衰。
それからの変化は急激なものだった。

力の喪失と入れ違いにずっしりと重くなる肉体に、
鈍化していく知覚。
そして強弱は変わらずとも、明らかに意識の中の占有率が増えていく節々の痛み。

間違いなかった。

いまやその身が人間に戻りつつあったのだ。



840:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:06:43.04 ID:D9XCEycfo

理由は単純だった。
アーカムというもはや存在しない男が、存在しないカリーナの血を使って行った転生術。

例えそれらが厳密には過去からの幻想であれ、
まがりなりにも現実として存在していた間は効力は存続する。

しかし現実ではなくなり、本来の『すでに存在しないもの』となってしまえば途端に消え去ってゆく。
『現実世界』の自己修復能力とも言えるか。

魔界の門をこじ開けた術式と同じく、
レディの身に叩き込まれた転生術式も消え去り、その効力も消滅したのだ。


レディ「……ぐッ……う……!!」


しかし一方、その人間への回帰も『半端』なものだった。

これも理由は単純なもの。

アーカムに手引きされたとはいえ、
レディの魂が魔に呼応したのは正真正銘の『現実』なのだから。


そしてその魂から生じた―――魔の力も。


例えアーカムが夢幻として消え去ろうとも、これだけは消えやしない。



841:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:11:42.33 ID:D9XCEycfo

レディ「がッ……ぁ……」

この凄まじい痛みは、
先に胃袋で炸裂された『保険』の毒の残りカスによるものだろう。

『人間ならば即死する』苦痛の中で、彼女はイヤというほどに実感させられた。


この『悪夢』から完全に覚めることは、死ぬ以外に叶わないのだと。


アーカムの娘であるという事実、
あの男の存在を『悪夢』として押し込んでいたことへの、
彼なりの『父としての報復』にも思えてくる。

現に、片足を『悪夢』に踏み込みながら生き続けねばならないのだ。
これから死ぬまで永劫、寝ても覚めても、そして戦いの中でさえも、
アーカムという父親の影を引き続けるのだと。

レディ「……は……あは……」

ただし『罰』とも言えるとはいえ、もはやレディにとってはあまり苦痛でもなかった。
『凶悪なアーカム』が『父親』と同一人物だということはもう受け入れきっている以上、
なんの精神的ストレスにもならない。

それどころか妙に滑稽に思えもした。

同じじゃないか、と。
もうかれこれ20年間つき合ってきたあのデビルハンターと。


―――『父親』の影に囚われ続けている『半人半魔』だ、と。


唯一の相違点は、父親は『英雄』ではないことか。
ただしそれも見方によっては『同じ』とも言える。


スパーダは魔界から、アーカムは人間界から見れば両者とも同じく―――『反逆者』であるのだから。



842:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:14:32.11 ID:D9XCEycfo

そのように毒の傷みに苛まれ、
屈みこみながら自らの境遇を笑っていると。

ケルベロス『―――……ふむ。半魔の身か』

ぼそりと響く声。
この大悪魔が余りにも弱っていたこともあってか、
バックパックに彼を閉まっていたことをしばらく忘れてしまっていた。

レディ「……ああ……そういえばいたんだっけ」

ケルベロス『すまぬな。手を貸せなくて』

レディ「……いいわよ」

そもそも誰にも手出しさせないつもりだったのは、
この氷結の魔狼もわかりきっていることだろう。
謝罪は一応のものというわけだ。

ケルベロス『支援は呼んでおいた。その状態では、しばらく一人では動くことはできまい』

そして仕事が終われば、いくらでもお節介を焼くつもりというわけか。

無論、こちらも今さら意地は張らない。
確かに誰にだって、絶対に他者には踏み込ませない領域というものがあるも、
この世界はそれだけでは生きてはいけない。

レディ「……」

この際だ、このまま墓所に突っ伏していても仕方ないから充分に甘えさせてもらおう。
ただしそれでも誰でもいいというわけではないが。

この時、降り立ってきたのが―――魔馬に跨ったこの少女で本当に良かったところだ。


五和「レディさん!!大丈夫ですか―――?!」


もしダンテなんかが来ていたら、
かなり悔しい思いをしなければならなかっただろう。


あの男にはもう二度と、情けない姿は見られたくはなかった。
理由はどうであれ。

―――



843:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/26(木) 01:15:54.76 ID:D9XCEycfo

今日はここまで。
次の土曜投下予定の分で第二章は終ります。



846:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/26(木) 11:44:46.36 ID:LM0pIg6yo

乙!楽しみに待ってる!



847:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/26(木) 18:56:31.44 ID:HVFvTXd2o

お疲れ様です。五和ちゃんマジスーパーサブ。
それにしても後1章+αで終わっちゃうのか・・・寂しい限りだ。とは言えまだまだ楽しめそうだ。



849:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:39:33.89 ID:DZ+Ys0t5o

―――

勝利を喜ぶ暇もなく、
上条達はすぐに魔塔へととんぼ返りしなければならかなった。

ベルゼブブとテンパランチアは倒れたも、
いまだ相当数のこれらの配下が魔塔の周囲にいたからである。

上級三隊は中には戦意を喪失して撤退する者がいるなど、
その勢力は瓦解しつつあったも、大悪魔達はそうもいかない。

ネロとベヨネッタの圧倒的な力を目の当たりに驚愕、
そうして一時硬直することはあっても、恐怖で戦意喪失などはしない。
むしろ主が討ち取られたことへの怒りが上乗せされ、
いっそう激しく戦いを挑んでくるのである。

ネロとベヨネッタとラジエルら天使たち、
そこに負傷の身ながらもサンダルフォンとイフリートが戦線復帰したとはいえ、
上条達の保護に手を回すには厳しいものがある状況だった。

ただし、そのゆく末はいまや明るかった。
少なくとも土御門にはそう思えた。

流れが確定したのだ、と。


土御門『―――……』


上条を乗せた魔狼に続き魔塔に飛び込む直前、
天空の魔界の門が閉じるのを見て、彼はそう確信した。



850:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:42:02.61 ID:DZ+Ys0t5o

上条『……』

また上条も、視覚で捉えはせずともすぐに把握できていた。

上級三隊はもはや撤退しつつあり、
あとは残った大悪魔達を倒せば、
ようやくこの天魔人の戦争に―――『勝った』と言えるかもしれない。

複数の大悪魔との戦いは確かに激しいものになろうも、
ネロとベヨネッタがいればあまり時間もかからずに殲滅させられるであろう。
特に、彼らが戦いの内容よりも短期終結を優先している今ならより早く。


土御門『……ひゃー、とりあえず……ってところか』

魔塔の中、門前の吹き抜けに再び戻ったところで、
土御門はためにためていた緊張の息を解き放った。

床に腹つけて座りこみ舌を出すその姿、
印象については狼よりも『犬』らしいか。


上条『……』

その『大きな犬』に乗っている滝壺理后は、
白い毛皮の背に胸と腹すべてと頬をつけ、しっかりとしがみ付いていた。



851:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:43:13.98 ID:DZ+Ys0t5o

上条は対象を映像としては認識できなくとも、
その造形などは魔の知覚で充分に把握できる。

それにより、このときも滝壺の表情を把握することが出来た。

実に眠そうに思える彼女の顔を。
柔らかな白狼の毛に頬を埋めているその様子だと、余計にそう感じてしまう。

だがそれは表面的なものであり、
彼女は彼女なりに今の一連の出来事に衝撃を受けていたようだ。

上条『……』

圧迫感や混乱などの気の乱れ、それによる鼓動の加速や緊張などが、
滝壺の気配にはっきりと滲んでいたのである。

ただしそんな彼女の『恐怖』も、
背後のもう一人が放つ空気に比べればずっと堪えているものである。


浜面「お、お……お……終ったのか?」


滝壺の背に覆いかぶさる形でしがみついていた少年、
浜面仕上が半ば裏返っている声を発した。



852:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:45:47.56 ID:DZ+Ys0t5o

上条『……』

上条にとっては今や、
その声を『以前どこで』聞いたのかを思い出すのは容易なことだった。

すぐに気付いた。
この少年は、前に右手でぶっ飛ばしたことがある、と。

ただし相手は気付いていないよう。

それも仕方ないかもしれない。
ここまで超高密度の力の大気の中を超高速で突っ切って来たのだ、
土御門の力で保護されていようと常人には厳しいものがある。

そんないまにも失神してしまいそうな状態で、すぐに気づけというのが無理がある。

上条はここでは特に言及はしなかった。
相手のほうも無理に掘り出してほしくはないだろう。
こちらが右手で殴ったという点が示す、初めての出合った際の状況もあって。


上条『ああ。大方はな。でもまだ終わりきってはないから気をつけてくれ』

上条は魔狼の背から降りながら、
戦々恐々としている少年へと声を返した。

ただしこの返答についても、『何』が終ったのかは理解していないだろう。
滝壺の方はこの領域を能力化においているのだから、
リアルタイムでなくとも状況把握は充分にできるであろうも。



853:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:47:05.24 ID:DZ+Ys0t5o

浜面「そ、そうか」

土御門『まだ降りるな。警戒しておけ』

そう起き上がりかけた少年へとすぐに向けられた土御門の言葉。
彼は鞭で叩かれたようにまたしがみ付きなおした。

滝壺「はまづら、苦しい」

浜面「……っとと、すまん」

やや強すぎた勢いで。


それからしばらく、みはな一言も交わさなかった。

上条『……』

土御門『……』

時間にして十数秒程度だろうか。
それはようやくの状況分析と理解、
精神の安定化のために必要な間だった。

扉向こう、外から轟いてくる凄まじい地響きの中、
それぞれが己の頭の中を整理していった。

土御門はその冴えわたる『嗅覚』で魔塔内部の仲間たちの無事を確認し、
滝壺は自身の能力と虚数学区、そして戦線の全体状況をくまなくチェック。
その彼女に覆いかぶさる形の浜面はなんとか呼吸を落ち着かせ。


そして上条当麻は、ついに―――自分の『使命』を果すときが訪れたのを悟った。


魔塔の外が静かになったのを聞いて。



854:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:49:08.59 ID:DZ+Ys0t5o

土御門『終ったようだな』

くんと鼻先を動かして呟く白狼。
彼の言うとおり外の戦闘は終了したか。

上条もまた、視覚を省くあらゆる知覚で同じく結論つけることができた。
味方以外の大悪魔の気配は感じられず、
それまで渦を巻いていた濃密な力の大気も、いまや大きく退きつつある。


上条『……ああ』

そうして胸に湧くのはようやくの実感。
天界のジュベレウス派は事実上の崩壊、魔界からの侵入も停止。


とうとうこの『戦争』に人間界は勝ったのだと。


単に脅威が掃われたという以外にも、上条にはそこに様々な意味があった。
この争乱の原因の一端は古の自らの行いでもあり、
またインデックスを含む魔女と天界との因縁をある程度の形で清算するものにもなり、
そして人間界をとりまく環境、天界とのかかわりも一変したのである。

天界の主導権はジュベレウス派から穏健派である反乱勢力に移るであろうから、
人間界との関係もこれから大きく改善されるに違いない。

長きに渡って硬直しきっていた諸問題がようやく、ようやく前進したということだ。


それも筋書きが狙っていたような破滅的な形ではなく、
こうして大多数の命と人間世界を保持したまま。

ただしその筋書きに関してはもう一つ、
最後にもう一つの戦いを越えなければならなかった。


今度は人間界の戦いではなく―――上条自身の戦いだ。



筋書きがもつ最後の駒、『キング』の―――竜王を討ち倒さねばならない。



855:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:52:01.24 ID:DZ+Ys0t5o

上条は黙ったまま、手際よく銃の確認、
そして体と力の点検調査を始めた。

相手は創造・破壊・具現を有する存在。
いまやスパーダの一族と同じ領域にある怪物である。
そんな存在に比べてしまえば、確かに己の力など塵に等しい。


しかしこちらには―――幻想殺しがある。


またこの右手が例え無くたって、上条は迷わずいくつもりだった。

どうであれ戦わねばならないのである。

そうしなければ『宿命』は変えられない。
本来は『もういないはず』の役者である己が、その極限の舞台に立つ。
それ自体が大いなる意味を持ち、それこそが上条当麻が自らに見た使命である。

そして何よりも、ごくごく個人的に、


上条『……』


竜王の、いや、あのフィアンマの高慢な顔を―――もう一度ぶっ飛ばさないとどうにも気が済まない。

一回負かしただけでは足りない。
決して許しはしない。

一時的であれ、インデックスを傀儡とし兵器として扱い、
彼女を死ぬまで使い潰そうとしていたあの男だけは絶対に、何があっても。



856:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:54:43.93 ID:DZ+Ys0t5o

がこん、と重々しい音を響かせて開かれる扉。
姿を現したのはネロだった。

彼は扉に手をかけたまま、
今まで壮絶な戦いを繰り広げていたとは思えないくらいに、
冷めた視線を向けてくると。

ネロ「『上』に行く。来るか?―――」

上条『―――ああ、もちろん』

即答だった。

またネロも、この筋書きまわりの状況を良く理解していたよう。
特に話し合わせる必要は無かった。

ネロ「ついて来い」

そうしてネロはコートを翻すと、
入ってきたのと同じくまた淡々と外に出でていった。

その後を上条も同じ調子で追い外に向かった。


上条『じゃあ土御門、またな』

土御門『―――ああ。またな』

去り際、背後の親友とかるく言葉を交わして。
普段どおり、まるで下校の別れ際のように。

筋書きが認識できなくとも、ある程度この親友はわかってくれているのだろう。
彼と交わした挨拶の言葉には特に他意はない。

文字通りそのままの意味である。


『また会おう』、と。



857:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:57:29.31 ID:DZ+Ys0t5o

外に出でた上条は、ネロに続き魔塔の外壁を駆け上がっていった。

上条『……』

こうして彼の背を追いかけていると、在りし日のことを思い出す。
かつて学園都市における争乱の際も、
同じようにして彼の背についていったものだ。

と、そう思う出したところでふと上条は気付いた。


類似点はネロの背を追うだけではなかった。
似ている過去の事象も、学園都市の争乱のみだけではなかった。

上条はミカエル、ベオウルフの記憶を辿り、
そしてインデックスからの魔女が記した歴史を引き出して確信した。


竜王との決戦にはダンテとバージルも来るだろう、すると『こう』なる。


かつてスパーダが魔帝ムンドゥスの創造を破ったときと同じく、
魔女の時空間魔術を携えたスパーダの息子が現れ。

かつて学園都市にて行われたように、
終結したスパーダの血族に上条当麻の右手が加わり、圧倒的存在を討ち砕く。


そのようにただ重なるどころではない、『二重』の意味で過去をなぞり―――


―――誰しもが望む、完璧な形による大団円を迎える、と。


上条『―――』

信じたくはなかったも、
思考がここまで行き着いてしまった以上もう否定の余地はなかった。

今や己達は、逃れようがない罠に飛び込もうとしていたのだと。


竜王という駒を中心とした、筋書きの最後にして最大の挑戦。
再び流れの主導権を握ることが出来る、これぞ一発逆転を目論んだ切り札だった。



858:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 22:59:17.94 ID:DZ+Ys0t5o

これを覆すには、これまで以上の行動が必要だった。
『絶対に有り得ない』ような、そんな行動が。

しかし果たしてそんな対抗策などあるのだろうか。

あることにはあるだろう。
大団円なんて、その中心になる人物のちょっとした選択で覆るものだ。

そして『大団円が覆る』ということは誰もが『望まない』、
何よりも中心人物たるダンテとバージル本人達が『望まない』、そんな選択となる。


上条『―――』

そこまで思考が至った時、上条は心が締め潰されるような感覚を覚えた。
ここにきてのあまりの『残酷』さに。

だが筋書き―――宿命にとどめを刺すには、『彼ら』にはその方法しかない。


ネロの方もちょうど同じくして気付いたのだろうか。
魔塔の頂上に降り立った頃には、彼の顔にも陰りが滲んでいた。

そんな彼へと、上条は問うた。


上条『…………なあ、ダンテとバージルは……』


いや、もはや問いですらない、それはただの確認だった。
事実聞くまでも無かった。


その時、神儀の間で『起こったあること』は、インデックスを通じではっきりと『見えていた』のだから。


そして『残念』なことにネロも即答した。
すべてをわかった上で。


ネロ「ああ、来ない―――」


これまで以上に冷ややかに。
それでいながら、語気には重く力を篭めて。


ネロ「―――二人は来ない」


―――



859:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:01:09.01 ID:DZ+Ys0t5o

―――

魔界の深淵、煉獄の闇に浮かぶ神儀の間。

そこでは今、大掃除を終らせてきたばかりのベヨネッタとバージルの間で
仕事の引継ぎ作業が行われていた。

ベヨネッタ「人間界の標準時間で五分半よ。それ以上は無理」

バージルと時の腕輪による人間界基盤の時間軸抑制、
その役目を一時的にベヨネッタが担うのである。

ここまでで彼らの計画の消化率はほぼ99%に達していたも、
人間界の力場の再起動だけはまだ成されていなかった。

その前にやらなければならないことがあるのだ。
バージルが一時的にここから離れるのもそれが理由だ。


人間界の再覚醒よりも先に、竜王の排除を行うのである。

あの古竜はかつて人間界を支配していた存在だ。
残したままだとどのような影響を及ぼすことか。
またそれ以上に三神の力も有しているため、
ここまでの作業が最後の最後にぶち壊しにもされかねないのだ。



860:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:05:46.99 ID:DZ+Ys0t5o

バージルからベヨネッタへの引継ぎはすぐに終った。
魔女が同じように床に修羅刃を突き刺し、
青き魔剣士が閻魔刀をひき抜き鞘に納める。

アイゼン「わかっておるな。しつこいが五分半だ。ま、そなたらには充分な時間であろうが」

そうして魔女王の言葉に送られ、
二人のスパーダの息子たちは竜の討伐に戦いに赴く―――予定だったのだが。



ダンテ「―――……」

弟は気付いた。
いや、気付いていた。

ネロとバージルに続き、とうとう己が『選択』する番がまわってきたと。


ダンテ「……」

筋書きにとどめを刺す己の選択、
その内容は非常に成し難いことになるとわかってはいた。

しかし覚悟はしていても、実際に直面してみると、
やはりかなり堪えるもの。

ダンテの頭に浮かんでいた選択の内容は、最悪なものだったのである。
もはや思い浮かべているだけで腹立たしく、そして許し難い。


絶対に譲れない信念を、
この胸の中で守り続けてきた『人の心』を――――――『裏切る』必要があるなんて。


『人間の強さ』というものは時として―――『最大の弱さ』にもなってしまうことがある。
最強の魔剣士でさえも払拭できない『弱さ』へと。

この選択はまさにそこを突いて来ていたのだ。



861:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:09:01.11 ID:DZ+Ys0t5o

だがそうでなければならないのだ。
究極の苦痛であり屈辱であり、どうにも成し難い条件でなければならない。

それだからこそ、筋書きへの究極の一撃になるのだ。

ダンテ「……」

しかし―――ダンテはここで迷った。


僅かな一瞬とはいえ、ダンテという男が―――ここで迷ってしまった。


『誘惑』に負けそうになってしまった。
筋書きに顔があったとしたら、それが脳裏に浮かんできそうだった。

―――どうだ?お前には不可能だろう?、とほくそ笑む顔が。

その通り、当然こんな選択なんてできるわけがなかった。
普段ならば例え死んでも思いつきもしない。

兄の後姿を見ていると瞬間、こう思ってしまう。


こんな選択など捨てて、『このまま』でも良いのではないか―――筋書きの望みどおり大団円を迎えても、と。


例え仕組まれたもの、
更なる大乱が再び訪れることが必然になろうとも。

それが今度こそ人類が絶滅に追い込まれるほどであろうとも、
それまで安寧を享受出来れば良いのではないか、と。


だがその微かな迷いも、当の兄によって叩き飛ばされた。
このまま黙ってやり過ごすことなんて到底出来なかった。

兄もすでに気付いていたのだから。



862:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:13:31.93 ID:DZ+Ys0t5o

こちらに背を向け、
移動用の魔法陣を浮べようと手を床にかざしたまま。
そこでバージルは動きを止めていた。


その空気の突然の異変には、周りの者達も気付いていた。
アイゼンは身を硬直させ、ジャンヌは得体の知れない緊張に警戒を示し、
ローラもインデックスを守る位置に動き。

筋書きを認識しているインデックスは、祈るようにゆっくりと目を閉じて。

ベヨネッタもまた、大きく息を吸うと目を閉じた。
これから起こることを理解し、とても見ていられないとばかりに。


ダンテ「……」

そしてバージルは動かなかった。
振り向きもせずただ悠然と立っている。

だが弟にとっては、それだけで兄からの意思表示は充分だった。


兄は告げていた。


お前の番だ、選択を果せ、と。



それがどれだけ頼もしくて、確かなものだったか。

その言霊で弟は―――すぐに決意した。


ああ、その通りだ、と。


兄と同じく『妥協』し―――命にかえてでも譲れなかった一線を放棄することを。


そうでもして筋書きを潰さなければ、本物の安寧は決して訪れないのだから。
更なる災厄と悲劇が未来に確定するのだから、必ず果さねばならないのだと。



863:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:15:51.22 ID:DZ+Ys0t5o

『ダンテ』が『ダンテ』である以上絶対に出来なかったこと。


それは―――『悪』になること。


      ヴィラン
すなわち悪役に徹し。


      ヒーロー
善を担う英雄を討ち砕くことだ。



ダンテ「Ha―――」


変わらぬ調子で、
いや、悪役であるためには変えてはならない調子のまま、ダンテは小さく笑い。


背の『反逆』を意味する名の魔剣に手をかけた。


あの竜王から究極の敵という役を奪うために。
全てを上回る負の因果を一手に担うために―――


唯一の救いは、『全て』をぶち壊しにする必要まではないであろうこと。
この『たった一つの選択』、『一時の悪役』は、それほどの影響力を有しているという点だ。


一人の父であり人間界の救世主でもある『英雄』を―――


―――不条理、不合理、狂気的とも言えるタイミングで滅ぼし。


栄えある一族の『英雄伝説』に―――『家族の血』で最大の『汚点』を記し、ここで幕を引く。


たった『それだけ』で、筋書きを完全敗北させるに充分な威力を持つのだ。

ただし『それだけで』とはいえ、
ダンテにとっては血の涙を流さねばならないほどの『悪夢』であるが。



864:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:19:49.18 ID:DZ+Ys0t5o

―――さあ、それではその悪夢の時間である。

何もかもをぶち壊しにしてしまえ。

この一戦には『人の心』は不要だ。
狂気に満ちた悪役に、残虐な悪魔に徹しろ。


父を、母を、甥を。

そして両親の忘れ形見である最愛の兄を――――――『裏切る』のだ。



―――――――――『反逆者』へと成れ。


バージル「―――ダンテ」


ゆっくりと振り返り。
閻魔刀の柄に手をかけ、呼びかけてくるバージル。

その兄の姿に、
若き頃ならば、噴火する心に耐えかねて咆哮したかもしれない。
兄に向けた次の声も怒号になっていたかもしれない。

しかしもう今は、そんなことなどない。

愛を知る人の心なんか完全に押さえ込み、押し潰し。
荒れ狂う身の内はひとかけらも表には出さず、ダンテは笑った。
普段のまま軽薄に、不敵に。


ダンテ「ああ、さっさと抜け―――」


そして先日の学園都市における衝突とは全く違う、本物の―――『殺意』を篭めて宣告した。


ダンテ「バージル、お前をもう一度―――」


ついさきほど、決して譲れなかった一線を『妥協』し、
家族と共に『生きること』を選択した兄へと向けて。


―――誰よりも救いたかった家族へと向けて―――



ダンテ「―――――――――――――――殺してやるからよ」



―――『死ね』と。


―――



865:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/04/28(土) 23:21:12.75 ID:DZ+Ys0t5o

これにて第二章終了です。
第三章は一週間開いて来月の五日からとなります。



869:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/29(日) 04:20:19.09 ID:fX3LPLJ2o

ネロがいたたまれないな・・・



870:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/29(日) 11:24:05.73 ID:iZgtMky/o


本当に>>1はすごいな



871:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/29(日) 12:28:00.09 ID:0YcpqsVU0

筋書き「やっぱり右方君じゃラスボスとしてちょっとねー」ニヤリ
夜神月ばりのドヤ顔してる筋書きさんが見える・・・!



872:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/04/29(日) 17:43:58.15 ID:7v9xHE1Lo

違う違う。筋書きさんは「竜王THE右方くんマジラスボス!」でドヤりたかった。
で、ダンテが「おめーにラスボスの席やらねーから」でドヤった。



874:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/29(日) 23:53:02.90 ID:oTOKnPHDO

ある程度ガチンコでやり合わなきゃ筋書き変えられないだろうからミ上条さん一瞬でぼろ雑巾の悪寒。
更にうっかり時間オーバーしたら虚数学区瞬時に消滅、更に学園都市中心に日本真っ二つになるだろうし。
ダンテさんマジマストダイモード突入だな。



876:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/01(火) 13:15:56.75 ID:j2rhitIDO

初期はDMC4の荒ぶる中年ダンテ、今はだんだんDMC2の寡黙なダンテに近づきつつあるような印象。
JudgementDeathNo!!Yeah!!と二の腕掴んでポーズ決めてたのが懐かしいww
トリプルJack Pod!!!は鳥肌立ったな。



877:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/05/01(火) 20:42:48.95 ID:e948RJwU0


トリプルJack Podで思い出したけど相変わらずブルーローズの出番が来ないなwww



878:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/02(水) 01:05:48.75 ID:lBo8LqKDO

>>877
アリウスにとどめさしたのはブルーローズだからいいじゃないっすか



889:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:09:58.48 ID:JfmDtynuo

―――

人間の世界はいまだ、星一つない夜空に覆われていた。

ただの漆黒ではない。
今にも地上を押しつぶすかのような黒鉄の天蓋だ。

戦火に見舞われた人々は、廃墟と荒野の中からただ呆然と見上げるか、
恐れ戦き祈るしかない。
戦火に包まれていない地域の人々ですらも、
この世の終わりを予感させる闇の下で成す術もなく震えることしかできなかった。


人間は己の身に究極的な危機・圧迫的な恐怖を覚えたとき、
たびたび必要以上に暴力的な行動をとってしまう。

ただ生きるために手段を選ばず暴動、略奪から、超強行的な集団の形成。
戦争や災害が起こる度に常に見られてきた人間社会の一つの行動原理だ。

だが今は、地球上のどこにもそんな光景は見られなかった。
この世界を覆う底無しの終末感が、
彼らからパニックを起こす気力すらも奪っていたからだ。


どこの場所でも静かだった。
黙々と動いているのは、この非常事態下でただ義務を果そうとする軍や警察、政府機関のみ。

その他の大多数の人々はみな息を潜めていた。
イギリス北部に逃れた民も、イギリスへと逃れた地中海諸国の数千万の難民も。
欧州各地とロシアで生活の全てを失った者達も。
ロシアから進出してくる悪魔達と激しく戦火を交えたアジアも。
直接的な被害は免れた、聖地を省く中央アジア、アフリカ、南北アメリカも。

そしてアメリカ西海岸のとある大都市圏も。
その都市の中でも特に治安の悪いあるスラム街も。


トリッシュ「……」

今はしんと静まり返っていた。



890:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:10:51.06 ID:JfmDtynuo

スラム街の片隅。
デビルメイクライの看板を掲げる事務所にて、トリッシュは静かに見守っていた。

広間にあるソファーに座し、
首から下をすっぽり隠すようにシーツを羽織った彼女、
その意識が向かうは繋がりの先のパートナー。

トリッシュ「……」


遥か繋がりの向こうに見えるはパートナーの『裏切り』。


同時に流れ込んでくるのは、パートナーの内で渦を巻くあらゆる感情だ。


この熱き魂を、トリッシュはまるで自分自身のことのように体感していた。

鮮烈に浮かび上がってくるのは彼の奥底で燃え盛る衝動。
人間界を、人類を、家族を慈しみ愛するがゆえの憤怒と悲壮。

ここまで内側が乱れたダンテなど、トリッシュは一度も見た事がなかった。
かつて己のために涙を流してくれた時のダンテでさえ、
これほど魂が震えてはいなかった。


当然である。

血の宿命に立ち向かうということ、
そして最後の役者になるということは『そういうこと』だ。

これまでの総決算、紡がれてきたスパーダ一族の伝説をまるごと覆す、
究極にしてとどめの一手。
それを成すには相応の代償と苦しみが伴うものである。



891:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:14:36.90 ID:JfmDtynuo

トリッシュ「……っ」

渦を巻くダンテの心に、
彼女は思わずシーツの胸元をぎゅっと握り締めた。

とにかく痛かった。
彼から流れ込んでくる魂の咆哮が耐え難かった。

それは魔界の理に生きる者はまず理解することが出来ない、
人間の強さであり弱さでもある心だ。

これに触れるのは初めてではない。
ダンテに救われて以来、彼を通して人の心というものを学び続けてきた。

しかし見て触れるのと、内から体感するのは全く別だ。
この時トリッシュはようやく、
人の心というものを『真の意味』で理解することが出来たのである。

頭ではなく魂で人間の精神の在り方を。


トリッシュ「……………………」

ダンテという『人間』の、愛情の深さと心の豊かさを。
彼にとってそれがどれだけ大切なものだったのかも。

父と母の思い出、兄との絆が、
アイデンティティの根幹における比重をどれだけ占めていたのかも。


そしてそれゆえに―――彼が今、どれだけの苦痛に耐えているのかも。



892:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:16:47.94 ID:JfmDtynuo

ネヴァン『あなたは理解できるのね』

向かいの壁に寄りかかっていたネヴァンがぼそりと口を開いた。
普段の妖しく見透かしたような口調ではなく、どことなく寂しげに。

ネヴァン『私はできなかった。結局わからなかったわぁ。彼の心の奥底は』

無言のまま視線だけを返したトリッシュへと、ぼんやりとした調子で続けた。

ネヴァン『どうしてなのかしら。彼と何度も溶け合って、何度も奏でてもらった私でもわからないのに、
      一度も溶け合ったことのないあなたが理解できちゃうなんて』

トリッシュ「…………」

そんな問いかけ。
だだ口ぶりからは、ネヴァン自身は答えを知っている風に見えた。
彼女から滲む寂しさは、疑念ではなくその覆りようのない答えによるものであると。

答えは今のトリッシュにとっても即答できるものだった。

己とネヴァンは同じく生粋の悪魔。
また今の己とダンテの繋がりには、特別な細工を施したわけではない。
ネヴァンたちが魔具として使用される際の繋がりともなんら変わりないものである。

だがダンテとの関係の上で決定的な違いが一つある。

彼の周りに集う悪魔達の中で、
唯一トリッシュだけはその絶大な力に魅せられたわけではない。

ダンテの側に付いたきっかけは、純粋に彼の人格に惹かれたからである。



893:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:22:04.50 ID:JfmDtynuo

ネヴァン達がダンテに心酔する理由は、
まず第一に超越的な力を誇るからである。
それがあってはじめて彼の性格や考え方に同調しようとするのだ。

言ってしまえば、ダンテとネヴァン達を繋ぎとめているのは魔界式の絆である。
ダンテがここまで強くなければ決して生じ得ない絆だ。

だがトリッシュは違う。
もちろん魔帝から救ってくれるにはその超越的な強さが必要ではあったが、
魔帝への反逆心を植えつける上では必ずしも必要ではなかった。

トリッシュにはこう断言できた。
ダンテが己と互角程度だったとしても、己は魔帝に反逆し彼の側に立っただろうと。



トリッシュ「…………」

ネヴァンの問いの直接的な答えは単純だったも、
そこから派生した思索は思わぬ疑問を生み出した。

ダンテ自身と『同じく』心うち震えるかたわら、
トリッシュはこれまで考えた事のないことを思ってしまった。


ネヴァン達とダンテの関係が魔界式ならば、己は一体『何式』なのだろうか、と。


ただしその答えも、改めて考える必要もなかった。
いや、今やトリッシュにとってはそんな定義などどうでも良かった。

魔界式か―――それとも『人界式』か、
明確に線引きできるものでもなければ、そうする意味も無い。

もともとダンテ自身が、愛を知る心に悪魔も人間も関係ないというスタンスなのだから。



894:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:27:32.29 ID:JfmDtynuo

恐らくその点までもネヴァンは気付いていたのだろう。
真の意味でダンテの心を理解できなくとも、考えは表面的にも一応は把握できる。
ネヴァンはトリッシュの返答を別に求めてはいなかったよう。
つまりはただの『女のボヤキ』である。

彼女は壁に寄り掛けていた体を億劫そうに起こしては、魔性の吐息を漏らして体を伸ばした。


トリッシュ「そう…………あなたも行くのね」


その仕草が何の前振りなのか、トリッシュにはすぐにわかった。

力が絆の根幹の魔界式であろうと、愛は愛である。
魔界式の愛と忠誠には、魔界流の尽くし方がある。

ネヴァンは彼女なりに、ダンテへの愛と忠誠を果そうとしているのである。
たとえ主従関係が解かれようと、彼女を含む元使い魔たちの崇拝は潰えやしない。


ネヴァン『私は―――「闘争」でしか彼に尽くせないから』


ネヴァンはそう妖艶に微笑むと、トリッシュの方へと歩き進み、
彼女の前で軽く屈むと。


ネヴァン『「これ」が私とあなたの違いね―――』


頬を撫で、そこを伝っていた―――『露』を一滴。
指に絡め取って笑った。


ネヴァン『私にこれは―――「流せない」もの』



895:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:33:18.93 ID:JfmDtynuo

ネヴァン『―――あなたのそういうところが妬ましかったけど、まあ別に嫌いではなかったわ』

そう告げると、今度はすっと立ち踵を返すネヴァン。
彼女は少し離れて広間の中央に立ち。

足元に魔方陣を浮べながら、こう最後に言霊を紡いだ。

ネヴァン『とにかくあなたにしか出来ないことだから、忘れないようにね』

トリッシュ「……」

その通りだ。
『これ』こそ己がやらなければならないこと。
己にしかできないこと。

ダンテがその役ゆえに心を発露してはならないのならば。



ネヴァン『彼のために――――――泣いてあげて』



彼の代わりに心の血を流さなくては。
人の心、愛ゆえの慟哭に身を委ねるままに。
それが『トリッシュ』という、もっとも親しきパートナーの義務、

ダンテのためにできる最大にして唯一のこと。



ネヴァン『―――さようなら。トリッシュ』

不吉な色気を交えながら微笑むと、
ネヴァンは光の中に姿を消した。


トリッシュ「……ええ。さようなら。ネヴァン」


自身の愛と忠誠を果しにゆくべく。

―――



896:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:39:01.34 ID:JfmDtynuo

―――

スパーダの息子、ダンテ。
彼の決戦へと向かう闘気に応えたのはネヴァンだけではなかった。

イフリート『……』

アグニ『……ふむ』

魔塔の麓の戦いを終えた彼らも。
魔塔の中、一人のデビルハンターを救助し終えたばかりの魔馬も。

その他、魔具として方々に預けられていた者も。
彼に魔界に帰っていた者も。

すでに主従関係を解かれた者も、今だ仕えている者も区別無く。


彼の力に魅せられ、彼に魂から絶対忠誠を誓った存在全てが、
爆発したダンテの闘争心に呼応する。

悪魔式の本能的にも、そして悪魔式の心情的にも。

超越的な力と共にし、極限の闘争の中で仕え果てることこそ、
彼らにとって至上の喜びなのだから。



897:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:40:47.89 ID:JfmDtynuo

煉獄における決戦はすぐに始まった。

もはや兄弟は声を交える必要はない。
彼らは互いを完全に理解し、受けれていたからだ。

長らく間に刻まれていた溝もすっかり消失し、
母が死する以前の関係―――理念の確執も無い、『ただの兄と弟』に戻っていたからだ。

父と母も黄泉から望んでいたであろう、
兄弟の完全和解がついに成立していたのである。


ゆえに声を交わす必要はない、
予め決めていたことかのように阿吽の呼吸で両者は動く。


それぞれが柄を握り、相手を斬り殺すべく―――刃を振り放つ。


抜刀され振るわれる閻魔刀と、
背から、天頂を切り裂き下ろされたリベリオン。

殺意の一振りは十字に交差した。



898:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:43:18.95 ID:JfmDtynuo

耳を劈く金属音、飛び散る火花。
それらを生じさせた初撃の激突は、まずはバージルの勝利だった。
閻魔刀はリベリオンごとダンテの身を押し弾き、神儀の間から叩き出したのである。


ベヨネッタ『―――ジャンヌ!結界を!―――』

遠のく彼女の叫びを後にダンテは宙を突き抜け、
300mほど離れたところで身を翻し、煉獄を覆う『影の海』に降り立った。

海とは言ってもくるぶしまでの深さしかなかったが、
ダンテの身の勢いもあって盛大に巻き上がる飛沫。
また飛沫とは言え、炎のように熱くゆらめき、溶けた鉛のように重い噴出であった。


そんな重い『礫』が降り注ぐ中、ダンテは低き姿勢のまま遠くのバージルを見据え、
一切の心情的要素を破棄して『敵』の状態を分析する。

今の初撃で弾き飛ばされた理由は、
単純にバージルの方が膂力があるというわけではない。

閻魔刀に制限無き力を与える『破壊』、
そして彼自身の規格外の器で稼動する時の腕輪。


かつて父が、実質『一人』で魔帝を倒した時と同じ状態だということ、それが今のバージルの『強さ』だ。



899:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:45:00.63 ID:JfmDtynuo

その異常なまでの強さは、今の軽い一合だけでもダンテに痕を刻んでいた。
リベリオンの刃が軽く欠け、
そこに力の流れの停滞という障害が生じていたのである。

ダンテ「Humm―――」

時の腕輪の作用は当然、創世主のものに対してのみではない、
閻魔刀とバージルと力が組み合えば、
斬り付けた対象全ての時間軸に干渉する事が出来るのだ。

つまり刃を重ねれば重ねるほど、
こちらの刃は激突による消耗以上の速度で衰えていくというわけだ。


通常の状態でさえ拮抗しているのだ、
バージル相手に刃を合わせずに戦うことなんて不可能だということは、
ダンテ自身が誰よりもわかっていた。


ではどうするか、どう戦うか―――と常道ならば思考が続いたであろうが、

ダンテの場合はその先は必要は無かった。
新たな戦い方を見出す必要そのものが無かったのだから。


彼の場合、『これまで通り』の戦い方を貫けば充分だったのだ。


『それ』はダンテが求めたわけではない。
ダンテの意識に呼応し、『彼ら』の方から馳せ参じて来たのである。



その瞬間、ダンテの周囲に―――百を超える大悪魔達が現れた。


『永久の主』にどこまでも追従するという意志を―――魔具の姿で現れることで示して。



900:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:49:30.19 ID:JfmDtynuo

一本の刃では勝てぬのならば―――百の刃を使えばいい。


ダンテの周囲、虚空から出現し海に刺さり立つ百を超える魔具。
その様はさながら荒涼とした戦場の墓地のよう。


これこそがダンテの生き様、戦いの歴史、その全ての証明であり。


―――ダンテという魔剣士の『真の全力』である。


この『軍団』を『使い潰す』ことにダンテは抵抗はしなかった。


バージルはスパーダと同じ状態だということからも、
彼の肩には一族の『伝説』の全てが付加されているわけだ。

ならばこちらも―――『己の生き様』、『戦いの歴史』の全てを用いるのも当然である、と。


それにこれで釣り合いが取れ、より戦いの意味が色濃くなる。
この身に一族の『永遠の敵』の役をも付加することができるからだ。


バージルが担う『スパーダ』の役と対を成す―――『軍団を従えるムンドゥス』の役を。



901:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:52:00.08 ID:JfmDtynuo

ルドラ『おお!我が同志達よ!―――共に魔道の果てに朽ちようぞ!!』

声を放つ背の魔剣をはじめ、魔具たちの声が意識の中に聞えてくる。

それらは全て悪魔的な歓喜に満ちていた。
ダンテの仕えるにあたりこれまで封じてきた魔の本能、
その純なる暴力の欲望を剥き出しに、闘争のみをただ純粋に求めゆく。

これぞ魔界の理が刻む悪魔のあるべき姿、彼らの真の本性。
力と血に飢えた魔窟の獣共へと回帰してゆくのだ。

彼らの第一人者であり『王』である―――『悪魔たるダンテ』の先導によって。



『弟たるダンテ』は兄が勝つことを、すなわち己が倒されることを望んでいる。
この戦いが始まった以上バージルが勝っても、
筋書きの破壊という目的は成就するのだ。


しかし―――ダンテがそのように手引きすることは許されない。


筋書きを完全に砕くにあたって、勝敗の結果は重要ではない。
重要なのは真の殺意を貫いて戦い抜くことなのだ。


兄を殺すこと、ただそれだけを求めて戦わねばならない―――



902:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 22:55:17.63 ID:JfmDtynuo

ダンテはまず背にあるルドラを左手にし、
右手のリベリオンと共に大きく広げ、低く構えた。

真正面に、影の水面を駆けてくるバージルを捉えて。


ダンテ「Ha-Ha!」

魔剣を携える手にはもはや『人たる心』は宿ってはいない。
満たすは首輪を外された悪魔たる闘争衝動だ。


そうして向かってくる兄へと、自らも水面を踏み切る瞬間。
ダンテは消えゆく人の心の中、『最後』に―――『懐かしい恐怖』を覚えた。

それは小さい頃、母が死に兄が姿を消した孤独の中で芽吹いたも、
兄に再会する前にはすでに克服していたはずの恐怖。


抑えがたい闘争心と殺戮願望に、かつて幼い少年は恐怖したものだ。


己はやはり悪魔―――『母を殺した者達』と同じなのではないか、と。



903:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 23:02:20.10 ID:JfmDtynuo

ただし。
そんなかつての恐怖も、
ここでは消え行く心の中に垣間見えた残滓に過ぎない。

もはや恐怖する必要は無かった。
母から受け継いだ人間性の喪失とその消滅を恐れることも。

この身から消え失せようとも、存在自体は消えやしないのである。

父から受け継いだ信念と、母から受け継いだ愛、
そして兄と共にある家族の思い出と安らぎ。


ダンテ「―――C'mon Bros! It's a good day!―――」


それら『人の心』は全て―――トリッシュに託すことができたのだから。


―――


 創世と終焉編


 第三章 『過去と未来が交差するとき』


―――


スパーダとエヴァの息子でありバージルの弟であるダンテ。
その名の男が、人間の愛と優しさを知っていたことは完全なる事実だ。

こうしている今もトリッシュの頬を流れている―――



ダンテ「―――To die!」



―――涙こそが何よりの証拠である。


―――



904:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/05(土) 23:03:14.30 ID:JfmDtynuo

今日はここまでです。
次は火曜日に。



907:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/05/06(日) 01:40:53.13 ID:SqMv1FiZo



何で……何で……



908:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/05/06(日) 01:56:27.95 ID:xrv5OqSBo

血涙出そう



909:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県):2012/05/06(日) 04:12:20.16 ID:g7WxPfTe0

だれか解説を



913:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/06(日) 13:12:47.93 ID:um6AFzT50

>>909
>>805や>>872の通り、
『大混乱の人間界で、天vs魔vs人間という最悪な状況を作る。
 そして「全」を手に入れた竜王フィアンマをラスボスに仕立てあげ、
 それをスパーダ一族の誰かしらが倒して英雄となる』
という感じで話を進めていた。

しかし、それだと人間界はほぼ滅亡してしまうため
ファッキン筋書マジバッボーイとぶち壊そうとしたのが
ダンテやベヨネッタのような規格外の方々である。

実際にアリウスやアレイスターはおそらく本人たちの自覚のないままで、
四元徳の勇気と貯金箱もジュベレウス復活しか見えてなかったため、
まんまと乗せられ筋書き通りの演出をしてしまい、
竜王の復活を許してしまう。
魔帝も覇王も前座でしかなかった。

がしかし、一方神行さんなどの人間勢の予想外の活躍や
ベヨ姐達の介入で筋書きが少しづつねじ曲がっていった。
そして「人間は雑魚」「人間界なんて滅ぼされてなんぼだろ」という前提に基づく筋書きだったが、
ネロが魔剣スパーダを「人間なめんなよコラ」と言わんばかりに『最強の人間』としてへし折ったため、
「人間もやればできる」ということを示しちゃったため、
ものすごい乱れる。

どこぞの誰か様も流石に焦り、
アーカムやテメンニグルの塔の力で修正しようとするも、
我らがミカ条さんが復活したことで、直すどころか筋書きの後半がごっそり消えちゃった。

そしてここぞとばかりに、もうクソッタレな筋書きなんて書かせるわけにはいかねぇぜ!と考えたダンテは
「悪魔な兄を、人間の力で倒す弟」という従来のパターンを覆し、
「世界を救う礎になろうとする英雄(バージル)を、本気で邪魔する悪魔(ダンテ)」という
今までにないストーリーを書こうとしている。



これであっていますか>>1さん
違っていたらごめん



915:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県):2012/05/06(日) 14:34:03.84 ID:yfJ38CKPo

>>913
問題ありません。

そこにもう少し付け加えるとすれば、
ダンテにとっては変わらず人間界を守るための戦いですが、
今回はもう一つ、『バージルを死なせない』という至上目的があったという点でしょうか。

これが筋書き、もといスパーダ一族の宿命を断ち切ろうと決意した最大の理由であり、
従来の『人類種の守護』という大義と同時に、
家族を守ろうとする『弟』としての私的な戦いでもあったわけです。

しかしこの通り、そんなダンテであるがゆえの心が筋書きの要でもあったことで、
選択肢はたった一つになってしまいました。

筋書きが破壊でき、なおかつ兄が生き延びる可能性を含むとなれば、
自身の心を裏切って最悪の敵となる道しか残されていなかったわけです。
ただし描写したとおり、自らが負けるように仕組んでは意味がありませんから、
ダンテは本気で[ピーーー]べく挑み、勝利と生存権はバージル自身の手で掴んで貰わねばなりません。



919:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県):2012/05/08(火) 02:31:34.09 ID:UDcAv3q30

まさかここまで分かりやすく解説していただけるとは…
完全に把握できました
ありがとうございます



918:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/08(火) 01:42:39.37 ID:6bshYZrq0

とある三界の筋書目録

いってみたかっただけ



次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 41】

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コメント一覧
27473. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/09(火) 23:51 ▼このコメントに返信する
最高だ
27478. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/10(水) 04:32 ▼このコメントに返信する
It's a good day to die.とはまた良い台詞を持ってくる
27482. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/10(水) 09:03 ▼このコメントに返信する
禁書本編より面白い
27492. 名前 : あ◆- 投稿日 : 2012/10/10(水) 18:51 ▼このコメントに返信する
管理人いつもお疲れさまです。
大変だとは思いますが、是非この神SSをラストまでまとめてください。
27649. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/14(日) 10:50 ▼このコメントに返信する
このSS読むと原作の上条さんがクズにみえる
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