番外個体「雨は止むし日はまたのぼる」

2011-02-03 (木) 12:17  禁書目録SS   9コメント  
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とある魔術の禁書目録外伝 とある科学の超電磁砲(6) (電撃コミックス)

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 15:47:52.67 ID:T1BUuY/y0
この間かいた、禁書「恋も2度目なら、って思うんだよ」の続き
というか別視点っぽいものを、スレがたったらまったりかく

――

 日が沈み、入れ変わるようにして、
 繁華街のネオンの光が学園都市を照らす夜の時刻。

 ここは、とあるホテルの一室。
 ベットに横になったは良いが中々寝付けない女が、ため息をついた。

「……頭いたい」

 ガンガンと鈍器で殴打されるような痛み。
 無意識に眉間に皺が寄る。
 せっかく愛らしい自慢の顔が台無しだわ、と舌打ちすらしたくなった。



「ああ、畜生。水さえ飲みにいけないってどうなのよー…」

 頭痛の他にも、吐き気、眩暈、発汗。
 身体全身がだるくて、上手い具合に力が入らないため、
 部屋に付属しているミニキッチンまでいくことも憚られる。
 
「……仕方ないとは言え、こりゃあ、想像以上だ」

 ミサカの読みは少し甘かったみたいだぞ、と番外個体は苦笑した。



2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 16:04:49.31 ID:T1BUuY/y0
 物語は終結を迎えた。
 ハッピーエンドと呼ぶにふさわしい感動のフィナーレ。
 少女漫画やトレンディドラマならば「良い話だった」で終れるのに。

「現実はそうはいかない。
 だからこそ面倒くさいったらありゃしない」

 物語の登場人物ってのはヒーローとヒロインだけじゃない。
 その二人を囲うようにして老若男女、さまざまな役の人間がいる。
 名前も持つ重要人物から設定すらないエキストラまで。
 何十、何百、何千、――何万。
 物語を紡いだ者たちの数はそれこそ数多。
 
「第三者―――、否、只の観客だったミサカは言うのもなんだけど」

 番外個体は、観客、またはただの裏方担当。
 直接的に関わりをもつ訳でもないから、一々、口を挟むのはお門違いかもしれない。
 
 けれども、
 全ての役柄にとって、
 この物語の終結は喜びばかりでなかったのは確かなのだから。

「―――最高で、最悪のシナリオだったよ」

 と、裏方としての愚痴くらい吐いたっていいだろ、とも思うのであった。



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 16:19:32.65 ID:T1BUuY/y0
 簡潔に言おう。
 幻想殺しと超電磁砲が恋仲になった、まる。
 
 言ってしまえばただそれだけのこと。
 それだけなのに、それだけじゃすまない衝撃的なこと――だったらしいね。
 
 らしい、というのはミサカが当事者ではなくただの見物人だから。
 見聞き感じる情報を元に、結論付けただけのこと。

「幻想殺しも、やっかいなことしてくれちゃってさぁ」

 人様にどんだけ迷惑かけてんのか。
 あのツンツン頭は、多分、てか絶対わかっていない。
 
 「無知は罪」とも言うけど「鈍感も罪」ですよね?
  誰でもいいから同意してほしいくらいだ、本当。

「ミサカにしたらいい迷惑だってのぉ!!」

 頭痛はひどくなる一方で。
 積もる痛みとイライラを少しでも発散させようと、番外個体は天井を睨みつけて大声をあげた。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 16:35:57.88 ID:T1BUuY/y0
 悲しいかな。
 これも己に課せられた宿命なのだ。
 どうやったって番外個体が逃れられる術はゼロ。
 ただ、ただ、過ぎ去っていくのを待つよりほかない。

「今にして思えば、第一位への殺意なんて、可愛いもんだった訳だ……」

 憎くて憎くて憎くて。
 絶対に殺してやらないと気が済まないとまで感じていた、かつての宿敵への殺意。

 心の内側が髑髏を巻いて、息をするような感覚の居心地は最悪だった。
 しかし、本当に、いまにして思えば可愛らしいものだった。

 妹達が抱く『負の感情』を誰よりも享受しやすい番外個体には、
 現在進行形で、『失恋した悲しみ』に涙する妹達の激情が雪崩れ込んでくる。

「負の感情を拾い上げやすいってのは、マジで損だわ……」

 こんな風に設計しやがった研究者共を、頭の中で八つ裂きにする。
 少しばかりスッキリした。



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 16:56:39.69 ID:T1BUuY/y0
 頭が割れるように痛い。
 喉がひび割れそうなほど乾く。
 ズキリズキリと心臓をわしづかみにされるほどの悲壮。

 それら全て。
 全部が全部―――、

「――――気持ち悪い」



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:03:48.32 ID:T1BUuY/y0

「どうして、……ミサカはでは駄目だったのでしょうか」

 そう、とあるミサカは声を殺して泣いていた。

「―――良かった、これでミサカは報われない恋から解放される!」

 そう、とあるミサカは歓喜しながら泣いていた。

「叶わないのならせめて、……お姉さま以外の人を選んでほしかった」

 そう、とあるミサカは己の顔を鏡で見ながら泣いていた。

 皆、皆。
 血まみれの悪夢から救いだしてくれた人を想い、泣いていた。

 悲しい辛い痛い空しい切ないやりきれない。
 なのに、それ以上に、愛おしい。

 そんな、沢山の妹達の嘆きが、番外個体の脳裏に流れこんでくる。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:12:59.93 ID:T1BUuY/y0
 一万の負の感情が、番外個体の身体にのしかかる。

「―――ミサカ、幻想殺しのこと嫌になりそう」

 ていうか、ぶっちゃけ、もうキライだ。
 悲しみの堂々巡りをするミサカネットワークを作りだした元凶なのだから。
 行き場所を失った恋の残骸を、うんざりするほど拾い集める作業を課せられる身にもなってほしい。

 恋の残骸を拾って、拾って、拾って。
 数々の嘆きを聞いて、感じて、同調して。
 
 これほどまでに負の感情が集まるということは、
 それほどまでに一人一人の妹達が、幻想殺しの少年に思いをはせていたということ。

「どんだけ、ミサカの姉たちをなかせれば気が済むんだっつの」

 やっぱり嫌いだ、と番外個体は結論付けた。 



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:24:00.23 ID:T1BUuY/y0
 妹達ばかりじゃないだろう。
 ミサカネットワークから仕入れた情報から推測したって、
 かの少年に思いを寄せていた女なんて山のようにいるはずだ。

「ぎゃは! どんだけ罪な男だよ、アイツ!」

 ズルイ男もいたもんだ。
 どれほどの好意を、人から与えらているのだろうか。
 欲しいと足掻いても手に入れられない人間なんて、
 捨てるほどいるというのに。

 どうしたって、手に入れられなかった人も居るのに。
 
 それは、悲しみにくれる妹達。
 それは、上条当麻に思いを寄せていた女達。
 
 そうして、それは、上条当麻の女に思いを寄せた野郎たちも当てはまる。

「ったく。恋ってのは、面倒だね」

 正の感情をあまり持ち合わせない番外個体は、いまだ『恋』を理解をしない。
 表面の憎さや悲しみは分かっても、本質の部分は分からない。

 それでも、ミサカネットワークを介して感じる情の重さを考えれば、
 あまり、簡単に馬鹿に出来るものでもないのかもしれない、と目を細めた。

 分かりたいとも思わないけども。



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:38:31.28 ID:T1BUuY/y0
「―――さてさて、ミサカがこの痛みから解放さるのはいつなのかにゃーん…?」

 10032のミサカから20000のミサカまで。
 彼女たちの悲しみがはれるのは、いったいいつだろうか。
 
 幻想殺しと超電磁砲が結ばれて三日。
 妹達が失恋して三日。 

 今晩も、世界中の何処かのミサカが涙に暮れ、眠れぬ夜を過ごす。

「…………はぁ」

 再び、ため息が漏れる。
 当分、番外個体がこの気だるい状態から抜け出すことはできそうになかった。



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:44:58.61 ID:T1BUuY/y0
――

ミサカネットワーク内はどんよりとした雨模様。
上位個体である打ち止めも、少しばかりその影響をうけてしょんぼり気分。

それでも、打ち止めにとって最優先にすべきことは、

自分の気分転換をすることでもなく、
番外個体のように妹達の悲しみの負担を肩代わりすることでもなく、

ソファーに身を沈めながら不貞寝している青年を、どう元気づけるかであった。



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:52:49.02 ID:T1BUuY/y0
 たったの三日で、打ち止めの周囲は劇的に変化した。

 緩やかな移り変わりは体験したことはあるが、
 ここまで全てがいっそ面白いほどに変化したのは初めてだったように思う。

《―――恋をするって、大変なのね》

 ついつい、ミサカネットワーク内でそんな本音をポツリと呟けば、

《同意。ミサカには『理解』できないわ》

 と、唯一、番外個体だけが返事をしてくれた。



14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 17:59:30.94 ID:T1BUuY/y0
《体調大丈夫なの? 
 ってミサカはミサカはあなたの心配をしてみたり 
 ミサカネットワークの接続きったって良いんだよ?》

 雨模様の中を傘一つ持たずにふらつくような行為なんて、
 わざわざしなくてもいいの。と

 打ち止めがそう続けると、
 番外個体がなんとも気だるそうに、
 それでいて、わざとらしい返事をした。 

《……他人の不幸は蜜の味っていうでしょー?
 こんな面白い展開を、見ないなんて損だと思うんだよねー》

《―――相変わらず、素直じゃないのね、ってミサカはミサカは嘆息してみる》

《―――ウルサイ》



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 18:04:26.57 ID:T1BUuY/y0
 ブチリ、とそこで番外個体との回線は途切れた。

(やっぱり、素直じゃないよね)

 番外個体が接続を切らないということは、
 ミサカネットワーク内に溢れかえる負の感情を拾い上げているという事で。

(それはつまり、番外個体が、妹達の悲しみの負担を
 少しでも和らげようとしてることだよね、ってミサカはミサカは考察してみる)

 もっと素直になってもいいのにと思う。

(番外個体も、――――あの人も)

 天邪鬼すぎるのもいただけない、と打ち止めは考える。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 18:14:34.48 ID:T1BUuY/y0
 打ち止め達を助けてくれた人と
 打ち止め達の素体であるお姉さまが結ばれた。
 物語のハッピーエンドが訪れたのが、いまから三日前の出来事。

 真実を知った時、打ち止めは素直に嬉しかった。
 打ち止めはお姉さまのことは好きだし、幻想殺しの少年も好きだった。
 大好きな人たちが仲良しになることは素敵なことだ、と思った。

 けれども、そんな感想を抱いたのは打ち止めだけでのようで。

 妹達は、ずっとずっと泣いている。
 あの人は、ずっとずっと不貞寝をしている。

 まだまだお子様な打ち止めからは

(恋って大変なんだなぁ)

 と、中身があるようなないような、そんな意見しか出てないのだ。 



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 18:21:52.57 ID:T1BUuY/y0
 打ち止めは困惑するばかりだ。
 どうして皆、恋をしたのに、悲しんでいるんだろう。
 漫画やアニメ、ドラマで語られる恋愛は常に素敵なものばかりなのに。

 人を好きになるって、もっと幸せなことのように思っていた。
 
 それはただの幻想なのだろうか。
 ただの夢物語なのだろうか。

 絵本に出てくるお姫さまのように、
 幸せな結末を迎えられるものじゃないのだろうか。
 
 もし、全てが夢幻ならば、それはあまりにも―――、

(あまりにも、悲しいよってミサカはミサカはしょんぼりしてみたり)

 

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 18:27:20.72 ID:T1BUuY/y0
 幼い打ち止めには理解できないことばかりで、
 一人、ポツンと取り残されたような気分だ。

 黄泉川が居て、
 芳川が居て、
 一方通行が居て、
 誰も欠けることなく四人で暮らせたら、望むことはない。
 打ち止めにとってソレが全てで、それ以上を望むことすらない。

 恋とか好きとわからなくても、『家族』の誰かが悲しい表情をしているのは放っておけなくて。

 三日間。
 ずっとずっと不貞寝している一方通行を元気づけるには、いったいどうすればいいのか。

 打ち止めは、先ほどからうんうんと考えこんでいるのだが、答えは全然見つからないまま。



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 18:40:13.61 ID:T1BUuY/y0
 回りくどい聞き方をしたってはぐらかされるだけだろう。
 結局、本人に直接尋ねる他なかった。
 
「――ねぇ、アナタはどうしたら元気になるのかな? ってミサカはミサカは率直に聞いてみる」

「……」

 返事は返ってこない。

「――返事がない。ただの屍のようだってミサカはミサカは某RPGの台詞をまねてみたり」

「……」

やっぱり、返事は返ってこない。



29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:11:06.16 ID:T1BUuY/y0
「あのね、ミサカはわからないの、ってミサカはミサカは正直に告白してみたり」

 ソファーの背む顔を向けて寝そべっている彼の顔は、
 打ち止めからは見ることは出来ない。
 
 彼は、どんな顔をしているのだろうか。

「好きってどういうことはわからないから、どうやってアナタを励ましたらいいのかわからないよ、ってミサカはミサカは続けてみる」

 いつも守ってくれるのに。
 いつも助けてくれるのに。

 こんな、大事な場面でなにも出来ない自分が、
 兄のように大切なあの人の力になれない自分が、悔しい。

 悔しい。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:16:28.19 ID:T1BUuY/y0
「……ミサカは分からないけど、妹達がね、泣きながら言うの」

 どうして、このミサカじゃ駄目だったのですかって。
 
 時に叫びながら。
 時に絶望しながら。

「―――貴方も、そう思ってるの?」

 どうして、俺じゃ、駄目なのかって。

「そう、思っているの? ってミサカはミサカは―――、」



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:22:23.35 ID:T1BUuY/y0
「…………違ェよ」

 打ち止めの問いを遮るようにして、
 ようやく、一方通行が口を開いた。
 
 むくりと、気だるそうにソファーから起き上がる。

「……違う?」

「『違う』から、余計な心配すンな」

 くしゃりと、いつものように、細くけれどゴツゴツとした手で頭を撫でられる。
 せっかく整えた髪が少し乱れたが、打ち止めは気にも留めなかった。



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:26:58.74 ID:T1BUuY/y0
「―――そォいうことじゃねェンだ、俺は」

 一人ごとのように言う言葉は、あまりにも曖昧で。
 打ち止めは一方通行の言わんとしていることがいまいち察することができず、
 首をかしげ、ちょとんとした瞳を彼に向けた。

「そういうことって、どういうこと?」

「……俺は、はなから期待なンてしてないってことだ」



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:36:55.01 ID:T1BUuY/y0
「……期待してない?」

「あァ。そォいうことだ」

「―――ゴメン、やっぱりミサカには分からないよ
 ってミサカはミサカは一人だけお子様な事を思い知らされてショボーン……」

 目の前の少年は、わけのわからない事ばかり言う。
 
 一方通行も妹たちも。
 ずっとずっと大人な世界に居て、
 自分一人だけ違う世界に居るみたいだ、と打ち止めは思った。



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:43:10.95 ID:T1BUuY/y0
「別に、無理に背伸びする必要もねェさ。
 お前はお前の速さで大人になっていけばいい」

 また、くしゃくしゃと撫でられる。
 いつも通りの無表情なのに、やけに赤い瞳だけが揺れている。

 ……黙って置いた方が、いいのかもしれない。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:49:09.16 ID:T1BUuY/y0
「……あのね」

「ン?」

「―――聞いても、怒らない?」

「……さァ? どォだろうな」

 あなたが赤い瞳を揺らすのは、
 ミサカネットワーク内で飛び交う、
 感情とと同じなのかもしれない。
 もしかしたら、違うかもしれないけど。
 
 あなただって本当は―――、

「お姉さまのこと、『欲しかった』んじゃないのって、ミサカはミサカは核心に迫ってみる」

 『欲しい』と具体的に指す気持ちは、
 打ち止めにはわからないけど。

 妹達は『手に入らなかった』とさめざめと泣いているから、
 もしかしてと思ったのだ。 



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 22:55:05.33 ID:T1BUuY/y0
 いつも一緒にいるから。
 いつも一緒にいてくれるから。
 打ち止めは一方通行のことを本人より理解している事がある。

 街中を歩く時、いつも視線がキョロキョロと動いていたこと。
 お姉さまと偶然出会った時、必ず口げんかを吹っかけていたこと。
 ミサカと居る時はお兄さん風をふかしているのに、
 お姉さまと居る時は時に子どものように目を細めること。

 それから、それから。
 もっとたくさんあるけど。

 『欲しかった』から、そういう行動を自然としていたんじゃないの?



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:04:11.31 ID:T1BUuY/y0
「―――欲しい、か」

「うん。……皆、そんなこと言ってるから」

「ミサカネットワークか?」

「そう」

「………………そうだな。欲しいと思ったな」

 不相応な癖してな、と一方通行は口元を歪ませた。



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:10:22.53 ID:T1BUuY/y0
 打ち止めは抱くのは疑問ばかりだ。
 ふさわしくないなんて、どうして言うのだろうか。
 けれど、打ち止めが口を挟むことはできず。
 
 一方通行は淡々と事実を話す。
 適当な事をいって誤魔化さないあたり、
 彼はとても不器用でとても実直な青年であると言えるだろう。

「欲しいとおもったンだよな。
 はじめて。
 諦めることすら出来ないほど、絶対に欲しいと思った訳だ」



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:15:21.71 ID:T1BUuY/y0
「………………アイツもまた、俺と違う人種だからな」

 幻想殺しも超電磁砲も。
 一方通行とはあまりにも異なる生き方をする人間で。
 だから、嫌でも目を引くし、嫌でも意識してまう。

 幻想殺しには憧れを。
 超電磁砲には恋心を。

「―――馬鹿みてェだと、思うだろ?」

 己はその女の一万の妹を殺し
 女すら殺そうとしたこともある。

 今更何をいうかと思うだろう?
 だが、今更だからこそ、思ってしまうのだ。



44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:27:05.30 ID:T1BUuY/y0
 惹かれないほうがおかしいとすら、思ってしまう。
 
 8月末日の夜。
 最強と最弱がぶつかりあったあの日。
 あの女は、こう言ったのだ。

『わたしの、妹だから』

 それだけで十分だと言いたげな瞳で、コインをこちらに向けた女。

「……あれは、俺にはない強さだからなァ…」

 ひどく、心の奥底に刻まれたことを強烈に覚えてる。



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:32:45.92 ID:T1BUuY/y0
「……『欲しかった』さ」

 あの光輝く雷撃のような女が。
 自分にはない、本当の意味での強さを持った女が。

「……それでも、俺は『欲しい』なンて、言える立場じゃねェし」

 最初から、女の中の選択肢に入る余地すらないのだから。

「はなから……手に入る、なんて期待してねェンだよ、俺は」

 少しでも、
 もしかしたらと期待していた片思いをしていた妹達とは違うのは、

「―――――最初から、諦めてたっことだ」



47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:39:45.50 ID:T1BUuY/y0
 打ち止めは、そこまで聞くと、ふとこぼしてしまった。

「……それでいいの?」

 打ち止めの中の恋愛というものは、
 少女マンガやドラマのようにありがちな
 暖かくて、甘くて、ちょっぴり苦いけど、それでいて幸せになる魔法のようなもので。

 それなのに、妹達は泣いていて。
 それなのに、この人の瞳は揺れていて。

「幸せな恋を、しなくていいの……?」

 わからない。
 打ち止めは子供だからわからない。
 
 けれど、
 やっぱり、

「恋って、幸せになるためにするものじゃないのって、ミサカはミサカは……っ!」

 そう、あってほしいと思うのだ。

 でなければ、あまりにも………悲しいではないか。



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:45:25.18 ID:T1BUuY/y0
「―――いいンだ、コレだ」

 そう思っても、
 不貞寝しちまうくらいには俺もまだまだガキなんだけどさ、と。

 一方通行は自虐的な笑みを浮かべて。

「そうだな……。確かに『幸せ』になるのが一番かもしンねェけど―――、」

 そんな幸運を手にれられるのは、一かけらの奴だ、と。
 幻想殺しや超電磁砲が結ばれたのだって、奇跡的なことなのだ、と。

 一方通行は、諭すように、打ち止めに教える。

「……お前は、そンな恋愛が出来るといいな」

 そう言って、一方通行はまた、くしゃりと打ち止めの頭を撫でるのだった。



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:54:20.99 ID:T1BUuY/y0
――

 眠れぬ夜が続いた。
 汗のせいで夜着はべったりと水分を吸っていて、気味が悪い。

「悲しいよー、悲しいよーってウルサイわねぇ、本当に」

 愚痴っても、愚痴っても。
 身体のだるさがとれるはずもないが、それでも愚痴らずにはいられない。



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:55:46.44 ID:T1BUuY/y0
カーテンの間から日の光が洩れる。
 気がつけば、朝だ。
 チュンチュンチュンと雀の声も聞こえてくる。
 
「あーぁ、本当にいつまで続くんだろうね、この生活」

 妹達はいつまで泣き続けるのだろうか
 妹達ははたしていつ気がつくのだろうか。

「雨はいつか止む」

 悲しみは永遠ではないし、絶望もやがてははれる。
 『失恋の悲しみ』はやがて大きな糧となり、
 妹達は、一歩、人間へと近づいていく。

「太陽だってまた昇る」

 そうして、いつか、また誰かに恋をするのだから。
 
 ―――けれど、その時までは


「好きなだけは泣けば良いよ」

 ミサカか、少しくらい肩代わりしてやるからさ。 


――
 終り



53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01 /31(月) 23:58:07.90 ID:T1BUuY/y0
ごめん! 眠たくて最後はしょった!



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/31(月) 23:57:20.30 ID:h8RXpsjD0

皆切ねぇな…




55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02 /01(火) 00:07:04.24 ID:cZY29J/u0
乙乙
美琴が上条さんに似てる事が一方さんを惹きつけるって設定に正直目からウロコ




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02 /01(火) 00:35:28.96 ID:QmauHZOa0

妹達の失恋で番外個体にも影響が出るとか考えたことも無かったわ
>>55と合わせて設定が良いな








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禁書目録SS   コメント:9   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
3012. 名前 : 名無しさん@ニュース2ちゃん◆- 投稿日 : 2011/02/03(木) 14:31 ▼このコメントに返信する
はしょらないでくれよおおおw
3020. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/03(木) 20:54 ▼このコメントに返信する
やるなこの作者は・・・・
3027. 名前 : 名無しだよん◆befsDD6. 投稿日 : 2011/02/03(木) 23:14 ▼このコメントに返信する
>>7の鏡見て泣く御坂妹が、ナンというか、切ないけどイイな

普段無表情な彼女が、薄暗い洗面所の鏡の中の自分をやるせない顔で睨み付けながら泣いてるイメージ
3248. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/09(水) 19:05 ▼このコメントに返信する
No.3027
禿同
なまじDNAまで一緒だからやりきれなさも1万倍だな…
鏡を見つめて泣くってシチュエーションが象徴的過ぎ、素敵過ぎ

一方→美琴 の解釈が素晴らしいな

この作者さんマジレベル6
3538. 名前 : 名無し@SS好き◆XnESHXvQ 投稿日 : 2011/02/16(水) 03:50 ▼このコメントに返信する
量産能力者計画の関係者は責任とって上条さん1万人複製しろよ
3636. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/19(土) 00:01 ▼このコメントに返信する
こいつぁ素晴らしいSSだ 短いのによくまとまってる
原作への愛を感じるぜ
6365. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/04/28(木) 03:02 ▼このコメントに返信する
ワーストたんマジ末妹、作者GJ

実際、昨今のラノベに出て来る様な鈍感モテモテ主人公って死んだ方が良いよな
他人と関わって互恵関係(って言うと言い過ぎだが)を築く事を
前提にしてる現代日本の社会に生きる上で、他人の心の機微に疎いってのは
人間として致命的な欠点だと思うんだ
47095. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2016/05/12(木) 08:29 ▼このコメントに返信する
確かに妹達は失恋したわけだから相当落ち込むだろうけど
それでも他の誰かと結ばれるよりは
自分たちのために一番必死になって命かけてくれたお姉様の方がよかったんじゃないの?
もちろん全員が全員同じ意見にはならないだろうけどさ

幸せになって欲しい人同士が結ばれたわけだし
他の誰かだったらそれこそ納得しないし、諦めつかないでしょ


って、SSに突っ込んでる自分バカみたいだなwww
47246. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2016/07/06(水) 03:42 ▼このコメントに返信する
※47095
自分はきっとお姉さまじゃなかったら「せめてお姉さまだったら……」となりそうだなぁ……と思った。
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