上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」その3

2011-10-27 (木) 19:38  禁書目録SS   2コメント  
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314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 21:49:29.93 ID:QzdXcszD0


大学に入ってそろそろ一年が経とうとしていた。

御坂とは相変わらず俺のアパートと自分のマンションの往復生活を送っている。

週末は泊まっていくにしても、アイツの学校はそうそう半同棲しながら通えるレベルではない。

アイツはそこで、自分の夢を叶える為の研究をしているという。筋ジストロフィーの治療についての研究だそうだ。

細かい話は聞かされて1分で挫折した。

そういえば、一方通行も今大学で研究してるって言ってたな。妹達の寿命を正常な人間と同様の長さに変えるための研究だそうだ。

御坂に言わせれば、『人に説明する能力が決定的に欠けてる上に、同等の思考能力が居ないから、一人で閉じこもって研究みたい』と呆れた口調だ。

あの悪人面が白衣を着て、薄暗い研究室で一人研究に明け暮れている……どう考えても世界を滅ぼす算段をしてる方がイメージしやすい。

そんなこと勿論言おうものならベクトルパンチだろうけど。

御坂と付き合って一番俺が救われていると思ったのは、誰かが側にいてくれるという事を実感できること。

呼びかけて返事があることは、驚くほど心が安らぐ。

温もりが側にある、それだけでどれだけ頑張れるのだろうか。俺は思っていたよりもずっとそういうものに依存していたのかもしれない。



315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 21:51:09.42 ID:QzdXcszD0


夕食も週の半分は御坂の手料理だ。

御坂の料理の腕はアイツよりもずっと上なんだろう。

同じ食材を使っても俺では絶対につくれない、というか作ったことの無い料理を作る。

これが常盤台の実力よ、と胸を張る御坂は恋人の贔屓目を除いても可愛いと思った。

勝負だと言ってはいつも追い掛け回されていた頃には思いもしなかったけど、御坂は凄く気の付くヤツだ。

課題で徹夜になってしまうときは熱くて濃いめのコーヒーを淹れてくれる。

ついついサボりがちにしていた洗濯物を気付いたら綺麗に畳んでおいてくれることもざらだ。

土御門や青ピに言わせると「良妻スキル完備のスーパー女子高生」なのだそうだ。




『お姫ちゃんは(お姫ちゃんというのは土御門が付けたあだ名だ)カミやんには勿体無さ過ぎるぜい』




土御門は会う度にそう言って笑う。

御坂への同情のようにも、俺に対する忠告のようにも聞こえる声色で。



実際俺もそう思う。




316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 21:52:50.42 ID:QzdXcszD0


御坂ほどの女の子だったらよりどりみどりだろう。



俺よりもカッコいいヤツ。

俺よりも頭の良いヤツ。

俺よりも気配りの出来るヤツ。

俺よりも優しいヤツ。






……俺よりもアイツを想ってくれるヤツ。


そんな選択肢はゴロゴロしてるし、それに気付かないようなヤツじゃない。

それでも、アイツは俺を選んで、俺を見てくれている。

喪失感に打ちのめされてる俺の側にずっといてくれたことを俺は言葉に言い尽くせないないくらい感謝してる。

こんな幸運なことは無い。ああ、きっとコレが幸せっていうのだろう。

笑っちまう。俺が幸福を噛み締めるなんて。




ああ、そうだ。


俺達は上手くやっている。



317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 21:56:31.79 ID:QzdXcszD0





ただ、時々俺は思い出す。


野菜が歪で、ニンジンが生煮えの、ダマの目立つあのカレーを。




アイツの作ってくれるものの味が不意に疲れた時に恋しく感じる。

部屋にいる時に、舌足らずの声が聞こえた気がして思わず「何か言ったか?」等と聞いてしまう。

御坂はきょとんとするばかりで、俺は空耳だったと慌てて誤魔化す。



アイツの手紙は大事に取ってある。

御坂に見つからないようにと隠し場所に腐心した挙句に肌身離さず持っている。

大学に慣れ、バイトに自分のリズムが合ってくるにつれて、自分の時間を捻出できるようになるにつれて、一人の時間が増えた。

御坂だってそういつもいつも泊まりにくるわけじゃないのだから。

一人でぼんやりと過ごす夜、俺は一人ぼっちの夜っていうのを今の記憶を持ってからの三年間殆ど経験していない。

常に何かに巻き込まれてそれどころじゃないか、夜を味わう前にぶっ倒れているか。

そうじゃない場合はアイツが一緒にいた。今では御坂か。

だから、いざ優雅な夜の時間を手にしたとしても、案外何をすればいいのかわからなくなってしまう。




そんな夜、一人の夜に俺はその手紙を読む。




一人でぼんやりと過ごす自分への慰みに、なんてつもりはない。

ただ、あまり興味の持てない本を読むよりも、ずっと俺にとって有意義に思えるから。

真っ白な便箋は何度も何度も丁寧に指で押さえて折り畳んでは、カバンにしまいこんでるせいで、手垢で薄汚れ、よれよれにしおれている。

破ってしまわぬように、その手紙を開く時が、俺は好きだった。




318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 21:57:23.52 ID:QzdXcszD0




佐天さん達から「御坂さんってば彼氏さんが出来てから付き合い悪いですよ~」とからかい混じりの不平不満をぶつけられることに私は半ば心地良さを覚えていた。

大切な親友達を蔑ろにしてしまっているという罪悪感だって勿論ある。

言っておくが、まったく遊んでいないわけじゃない。大切な親友たちだもの、友達の少ない私は、自分に出来る限り彼女達を大切にしているつもりだ。

長天の友達は、何処かドライで、一線を互いに踏み込ませないという空気に満ちている。

それはそれで、楽だけど、過剰なスキンシップを取ってくる後輩やら、トンデモ事件を潜り抜けるという経験を共にした友人がいると物足りないというのが大きい。

それって凄く贅沢な悩みかもしれないとわかっていても、ついつい比べてしまっては、黒子や佐天さん、初春さんを優先してしまう。

でも、そんな親友達よりも、当麻を優先させてしまっているのは、やはり惚れた弱みだろうか。

切欠はどうであっても、三年越しの片想いが実ったのだから、大目に見てもらいたい。

そして、私はそんな不満をぶつけられる度に何処かで喜んでいた。正確には酔っていたのかもしれない。

ゴメンね、当麻のご飯作りに行かなきゃいけないの、なんて言ってお茶の後のカラオケをパスする瞬間に、そんなやり取りをしてる自分に酔ってるのかもしれない。

少し困ったように、仕方が無いからと、当麻とのことをそんな当たり前の“日常”として口に出来る日々を、私はずっと夢に見ていたのだから。

当麻ったら、私がいないと何も出来ないんだから困ったものだわ、何て亭主の愚痴を言うように友達に語れる日を、中学二年の夏からずっと妄想していた。

夢に見ては、朝起きて落胆することも何度もあった。



319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:01:08.99 ID:QzdXcszD0

そんな日が現実になっているのだ。浮かれるなという方が無理じゃないだろうか?





でも、私だってただ、ただ恋に浮かれているというわけじゃない。



当麻が私に惚れているとは思わない。


あの娘がいなくなったから、じゃあ私に、などとスイッチを切り換えるように惚れてくれるような男だったら苦労はない。


そもそもそんな男に惚れたりはしない。


私に惚れていないからと言っても、好意は抱かれてると思える程度の自信はある。


他の女の子よりもずっと大切に想ってくれているというのはわかっているし、これは私の思い込みじゃないと思う。


ただ、アイツが好きなのは―――― 惚れているのは“あの娘”だけ。遠い海の向こうへと当麻を置いて行ってしまったあの娘だけ。



悔しくないと言えば嘘になる。

正直、あの子を恨んだことも一度や二度じゃない。

アイツが時折切なげに遠くを見ている時なんて、多分あの子のことを考えてるのだろう。

そう思うと、遣り切れない怒りと、自分が無性に惨めに、滑稽に思えてきて、あの娘を恨めしく思う。



320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:02:29.09 ID:QzdXcszD0


でも、それでも私は概ね今に充実していた。



アイツが全力で私を好きになろうとしてくれているのがわかるから。

アイツが自分の中に私のいる世界を広げていってくれていると思えて、それが嬉しかった。

それだけで私は喜びに満たされたし、幸せだった。

アイツをどうやって私に釘付けにしてやろうかと毎日あれこれ考えるのだって楽しかった。



もっとアイツの中の私の居場所は大きくなってくれればいいのに。その分あの娘の場所が減ってくれればいいのにとも思っていた。

私を思う機会が増えることで、あの娘を想う時間が減ってしまえば、無くなってしまえばいいのにとも思った。

嫌な子だと、自分でも思うけど、それは否定しようがない自分の中の事実だった。

私達は上手くやっている、やっていける。これからもっとそうなる。


今日よりも明日はもっと近づけると、一年が経とうとする頃には私の中でそれは、期待から確信へと変わって行った。



321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:03:22.12 ID:QzdXcszD0








でも、そんなものは幻想だと思い知らされた。







322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:04:58.92 ID:QzdXcszD0

アイツが風邪を引いた。

滅多に体調を崩さない代わりに、一度体調を崩すと徹底的に酷くなるという難儀な体質。

私は、部屋を温かくして、アイス枕で頭を冷やしてあげて、薬を飲ませてあげて、寝やすいようにしてあげた。

タオルで身体を拭いてやり、何度も清潔な下着に着替えさせてあげた。

おかゆを作り、玉子酒も作って、それから、アイツの側にずっと付いてた。

恩を着せたいからなんてわけじゃなくて、恋人として当然のことだからだ。

そして、アイツの側にいる口実にも良いと少し思っていた。

アイツは、熱い息を吐きながら、上気した顔で手をふらふらと伸ばす。

つとてを伸ばすと、無意識の行為なのだろう、私の手を握ってきた。

普段のアイツからは信じられないくらい弱い力だけど、しっかりと握ろうとするその手を私は握り返してやる。

握り返す感触に気付いたのか、当麻はうっすらと瞳を開ける。

焦点の合わない瞳が私を見つめる。




「ああ……そこに、いてくれたのか……――― 」




ほっとしたような顔でアイツが笑う。

とくんと、心音が跳ね上がる。


















「―――― インデックス」



323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:10:22.80 ID:QzdXcszD0



跳ね上がった心音が、一気に止まった気がした。




私は勘違いをしていた。

確かにアイツの中の私の場所は広がっていっていたのだと思う。

けれど、それは決して私が“望んだ場所”じゃなかった。

残酷なまでの棲み分け。

減らしていく、縮めていく、そんなつもりは無かったのだ。

自分の中の『あの娘の住む世界』を隔離して、大切な宝物として奥底にしまっていたのだ。


溢れるような花に囲まれたお花畑から切り離された寂寥とした平原を手に入れて私は喜んでいただけだったのだ。



324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:11:17.33 ID:QzdXcszD0





病み上がりの身体は若干まだ気だるいものの、御坂がずっと看病してくれたおかげだろう、すっかり回復していた。

御坂は看病疲れか、言葉もそこそこにマンションに帰っていった。

送っていくと言うと「病み上がりが何言ってるのよこの馬鹿。私は天下の『超電磁砲』御坂美琴様なのよ?」と不敵に笑う。

徹夜と看病疲れのせいか、赤く腫れた目元が少し痛々しかった。

大学は自主的休講にして、俺は平日の午前中をベッドに転がって過ごすことにした。

何もやる事が無い以上に、やる気が起こらない。

あれだけ寝たせいか、眠気も襲ってこない。

俺は天井を、この一年でようやく見慣れた天井を見つめながらふと思い出した。

以前もこうやって風邪を引いたことがあったな。

高校の頃だ。

まだアイツがいた頃。

おかゆも作れなくて、どうすれば良いのかわからなくて、アイツは泣きそうな顔をしてた。

小さな白いシルエットが落ち着き無くふわふわ、ふらふらと歩き回っていたのを朦朧とする意識で眺めながら可愛らしいと思った。

慣れない手つきで小萌先生や姫神に電話して、看病仕方を教えてもらって、それを見よう見真似でしてきた。

濡らしたタオルは十分に絞られてなかったし、入れてくれた卵酒はお酒の割合が凄まじいことになっていたし。

姫神が来なかったら病気は長引いていただろう。ホント、どうしようもないダメシスターだ。



325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:12:29.27 ID:QzdXcszD0



笑いがこみ上げた。

あの時、熱が少し沈静化して、目を覚ますとアイツは俺の手を握りながら、小声で何かを歌っていた。

結局あの時に聞けなかった歌を、俺は二年経ってから知った。





あれは子守唄だった。




柔らかくて甘い声で、アイツは瞳を閉じて、優しく歌っていた。

俺は眠ったフリをして、その歌と、手の温もりを味わっていた。

熱で霞の幕が掛かったような俺の頭は、その時、はっきりと確信していた。

コレが幸せなのだと。

例え、これが一瞬で崩れてしまっても、それでも、微塵も疑うことのないくらいの確信。






この一瞬が永遠に続けば良いのに、そう強く願っていた。





326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:12:56.71 ID:QzdXcszD0




― ―― ―

―― ――――   ―

―――   ――――― ―― ―――

―――――    ――――    ――――――


チャイムの音がする。

いつの間にか眠っていたらしい。

あまりに寝覚めが良かったから、もう夕方かと慌てて時計を見ると、まだ二時間も経っていなかった。

チャイムはまごついている間にも、何度となく鳴る。

居留守を使おうかという目論見を見透かしているようなしつこさに根負けしたのは俺の方だった。

ベッドから起き上がると、一瞬ふらつくものの、すぐに身体が普段の調子を思い出そうと機能し始める。

はいはい、今行きますよ~とダラケた声が思わず口から出てしまう。

新聞の勧誘だったら即座にお引取り願おう。

扉を開けて、そんな決意は霧散した。


「お久しぶりですね、上条当麻」


目の前にいるヤツに、俺は呆けた顔を向けるばかりで、言葉が出てこない。

余程俺はマヌケそのものの顔だったんだろう、ソイツは不審げに首を傾げる。


「あの……上条当麻?」


首を傾げると、腰まで伸ばした黒髪がさらさらと滑らかに揺れる。

相変わらずの奇妙なウエスタンスタイルに、長い得物の包み。

以前に会ったのは二年、いや、もう三年前になるのだろうか。

だとすれば、変わらない外見にようやく年齢が追いつき始めたのかもしれない。



「神裂……?」



俺は、ようやく回転を始めたポンコツ脳みそから、ソイツの名前を引っ張り出した。







327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:14:56.03 ID:QzdXcszD0
以上で投下終了です。
終わりが見えてきました。
当初の予定では100レスそこそこで終わると思っていたのですが…gdgdになってしまったようです。
インちゃんが歌っていたのは多分マリアの子守唄とかだと思います。
それではまた。



329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:16:48.54 ID:ZHJ7adMvo




330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:21:37.56 ID:NcsFKgNAo
大人になんかなりたくないんだお…



331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/23(水) 22:27:50.83 ID:UN75v+Yuo
ばっちゃが言ってた。
誰も悪くない悲劇が一番切ないって




337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/24(木) 01:57:15.83 ID:zSoaJc9W0
上条が風邪で苦しんでいて、何も出来ないと悟ったインデックスが自分に出来ること。
それはせめて安らかにと歌った子守唄か。




338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 14:44:56.05 ID:4Af2cDxq0
献身的な子羊



344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:20:46.39 ID:kC5971VI0


神裂を部屋に上げる。

じりじりする。

俺はじりじりする気持ちを堪えながらお茶の準備をする。

お茶葉が切れていたので、コーヒーを淹れる。

雰囲気的にお茶を出した方が良いかとも思うが、「お構いなく」と神裂が言ってくれたので甘えることにする。

いや、何か魔術的な云々で和風にしておいた方がいいかなって思ってよ、そう言って笑ってみる。

笑い声は返ってこなかった。

……ま、まぁ昔から真面目なヤツだったからな。

二年ぶりに会う神裂は一言で言うと変わっていなかった。

元々の外見が老けが…大人びていたので違和感がなくなってきているというべきなんだろう。

コーヒーを飲もうとして、熱かったのか小さく悲鳴を上げる。

神裂は咳払いをする。

「お久しぶりですね、上条当麻突然の訪問を許してください」

ぺこりとお辞儀。律儀だ。つられてぺこり。

今日は突然どうしたんだ?

戦友とも言えるヤツが会いにきてくれたことを嬉しくないわけじゃない。

けどイギリスからわざわざ俺に会いに来たとは思わない。

それほど自惚れてはいないし、コイツラの立場上そんな気安い行動が出来るものじゃないことぐらいわかっている。



345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:22:14.94 ID:kC5971VI0
「護衛です。こちらの理事がイギリスにいらしていたので」

親船統括理事か?

「ええ、イギリスに訪英されていたので」

新聞でやってたな、そういえば。それで何でお前が?

「ちょっとしたパフォーマンスです。魔術サイド側の切り札を自分の身から遠ざけて守るというイギリス清教の」

神裂はようやくコーヒーの熱さに慣れてきたのか、ちょびちょびと口にする。

「そして、同時にそんな核兵器を身の回りに近づけるという統括理事のアピールでもありますが」

うわ、両方とも何だか黒いな。

つうか、王室じゃなくてイギリス清教なのな。

と言っても、日本の一都市の代表っていう建前だからそんなもんか。

「全ては最大主教のご指示ですが」

かちゃんとソーサーにカップを置くと、神裂が何でも無い事のように言う。




最大主教という言葉が他所事のように響く。




じりじりする。

さっきからずっと。

神裂は知っていて焦らしているのだろうか。

俺がずっと聞きたいのはそんなことじゃなくて。




最大主教という呼び名が、咄嗟にアイツと結びついてくれない。



346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:23:43.53 ID:kC5971VI0

神裂がアイツの名を口にしないことで、俺は聞きだすとっかかりを失ったように寸止めを食らう。

焦れた俺の気持ちが伝わったのか、涼しい顔で神裂は首を傾げる。

「どうかしましたか?上条当麻」

嗤うような響き。

確信する。

コイツ知ってて黙ってやがる。

コーヒーを啜る音しか部屋にしない。

俺はどうやって切り出せば良いのかいよいよわからなくなる。

「あの子なら…頑張っていますよ」

呼吸にタイミングがあるとすれば、完全に虚を突かれた。

あ、とマヌケな声を漏らす俺を、弄るように神裂が笑う。

口も声も笑ってるのに、どこか、ぞっとする冷たい瞳。

「あの子というのはこの場合ふさわしくありませんね。もう16になりますし」

そうか、アイツがもう…

正直想像が付かないわけじゃない。

一緒にくらしていた二年半の間に目に見えてわかるくらいアイツは成長していった。

精神的な意味だけじゃなくて、単純に身体的に。

というか、女らしい体つきになっていくのが目の毒で、理性を抑えるのが日に日に辛くなっていった。

今だともう胸なんか五和くらいあるんじゃないだろうか……なんて不埒なことを考える。



ただ、純粋にアイツが今どうなっているのか見たいと思う。



どんな顔で毎日を過ごしているんだろうか。



347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:25:05.09 ID:kC5971VI0

「若くして最大主教に祭り上げられて、世界から懐疑と憎悪の眼差しを浴びながら健気に我々を導いてくれています」

神裂の言葉に、血の気が引いた。

祭り上げられて?

憎悪?

「何を驚いているのですか?」

神裂は何を今更と言うように眉を顰める。

いや、だって何でアイツがそんな?




「当然でしょう。アレイスター・クロウリーの娘なのですから。世界の仇の娘と言っても良いでしょう」




言葉が出なかった。

初めて知ることじゃなかった。

そのことを今まで忘れていただけ。

アイツを見て、それであんなヤツのことを思い出すなんてこと今までなかったから。

俺も、一方通行も、誰もがアイツ、普通の一人の女の子だという認識を当たり前のように持っていたから。

喉が渇く。

冷めたコーヒーを一気に飲む干すと、深呼吸をする。一つ、二つ、三つと。

だったら何でそんなヤツの娘をわざわざイギリス清教のトップに?

神裂は苦虫を噛み潰したように顔を顰める。



348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:27:11.22 ID:kC5971VI0


「一つは能力的にあの子が一番の適任者だからです。魔術的に聖人に劣る者が聖人の上に立つ事は無い。少なくともイギリス清教ではね」


「嘗ては私が候補に上がったこともありました」と神裂は零す。「本当はそれで収まるならそれで良かったのに…」瞳を伏せてぽつっと呟く。


「二つ目はあの子をアレイスターに恨みを持つ者から守るには結局イギリス清教で保護するのが一番早いからです。特に科学サイドから」


たとえ、脳内の魔道書を狙う魔術師がいたとしても、科学の中枢に置いておくよりはずっとマシだと判断したのだろう。

或いは、俺一人に任せておくことに不安があるのかもしれない。




「そして……三つめ。イギリス清教のトップに置くことで、イギリスは誇示出来るのです。

 魔術側には世紀の魔術師アレイスター・クロウリーの娘を抱えているという強みを。

 科学側には、旧統括理事の娘を握っているという ―――― 人質として」





カップがガチャンと音を立てて転がる。テーブルに膝をぶつけたからだ。

俺は気付いたら立ち上がっていた。

それでも、自分にしてはまだ冷静だった。

神裂の胸倉を掴まなかったことを寧ろ褒めたいくらいだ。

ステイルや土御門相手だったら殴ってたかもしれない。

ふざけるなよ。人質だと?アイツは…そんなもんになる為にいったってのかよ。

それがアイツの望みだって、本当にそう言うのかよ。



349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:29:45.49 ID:kC5971VI0


「ええ、彼女が望み、自分で決めたことです」

ちらりと冷めた目で見上げてくる神裂が癇に障る。

お前知ってたろ?アイツ此処でどんな風に暮らしてたか。どんだけみんなに好かれてたのか。

「ええ」

アイツはさ、記憶をずっと消されてて、ようやくそれから解放されて、ニコニコニコニコずっと笑ってたんだぞ。

「ええ」

幸せだって、楽しいね、ってずっと…お前だって聞いたことあるだろ。


「ええ…」


ようやく人並みに暮らせるようになって、それで…それで…どうしてソイツを捨ててまで人質になりに行くんだよ。憎まれに行かないといけないんだよ!



「………」



アイツは……インデックスが人に憎まれなきゃいけないなんておかしいだろ!!




「…――― せぇ…」




そんなもん、絶対に間違ってる。





「…―― せぇんだよ…」





今すぐ、俺が―――







「うるせぇんだよ!!ド素人が!!」




350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:31:20.27 ID:kC5971VI0

とんでもなく強い力に胸倉を掴まれ、一気に引き寄せられた。

捩れた襟が首を締め付ける。

神裂の真っ赤になった顔が真正面、数センチ先に迫る。

「今更言われなくてもわかってんだよ!!あの子は何も悪くないってことなんて、私も、ステイルも、誰だって、あの子を知ってる者なら皆なぁ!!!

 でもな、他に方法が無いんだよ!!聖人だって言っても私には何も出来ないんだよ!!!そうじゃなかったら、どうして私があの子を……」

ドンと突き飛ばすように掴んでいた胸倉から手を離す。

俺は踏みとどまることも出来ずにふらふらとしりもちをつく。

背中が本棚にぶつかって、本がバラバラと落ちてくる。

神裂はジージャンの袖で乱暴に目元を拭う。

ようやく、俺は神裂が泣いてることに気付いた。

荒くなった息を整えると、神裂はすっかり落ち着きを取り戻したように、頭を下げる。



「……すみません。取り乱してしまって」

まだ頬は上気したままだが、声は普段通りの神裂だ。普段どおりって…そこまで俺は神裂を知ってるわけじゃないけど、と突っ込みを入れる。

俺の方こそ悪い。

そうだ、俺には何も神裂達を非難する資格なんて無いのに。

少なくとも、この一年、美琴に支えられて、呑気に暮らしていた今の俺には無い。

気まずい沈黙が生じる。

言葉が出てこない。

昔だったら、もっと色んな言葉が出てきた気がする。

屁理屈だろうと、思い込みだろうと、とにかく言葉が出てきた気がする。

自分の中のもやもやしたもんを全部吐き出すように、拙い言葉をぶつけていた気がする。

それが今の俺には無い。何も生じない。

どうしてだろう。



351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:34:28.08 ID:kC5971VI0

「本当は……貴方には、ただ、あの子が頑張っているとだけ伝えるつもりだったんです」



どうにもならないことをグルグルと考えている俺の思考を遮るように神裂がぽつりと零す。

乾いた声、疲れきった声だ。

「だからこれは八つ当たりです。貴方には何の関係も無いのに……私は…」

唇を噛み締めて、神裂が俯く。

神裂…

「はい」

アイツは……インデックスは今どんな顔してる?正直に言って欲しい。

「……」

口ごもる神裂。

それだけで、アイツが今どんだけ辛い思いをしているのかわかる気がする。

けれども、はっきりと教えて欲しい。

頼む、教えて欲しいんだ。




「…教えてどうなるというのですか?」

するりと刺すような低い声。

神裂が発したのかと、俺は一瞬自分の耳を疑う。

俺を咎めるように見つめる神裂。

期待なんて何もしていないと、これ以上踏み込むなと、そう言ってるような目。

こんな目をされるのは、多分初めてだ。

少なくとも、記憶の中にある限り、神裂にこんな目で見られたことはない。

「聞いて、それで貴方はどうするのですか?何が出来るのですか?ただ、可哀想だな、なんて言葉で片付けて終わらせるくらいならば、

 貴方に伝える言葉は何もありません」

そんなわけないだろ!!俺はアイツが苦しんでるんじゃないのか、知りたいんだどうしても。頼む!

「………我々聖人が常にあの子の側で守っています。あの子に傷一つ付かぬように…けれども、悪意から守ることは出来ない。
 
 守るべき人々の悪意に曝されて、泣き伏せるあの子を抱きしめて、頭を撫でてやることしか私には出来ない…それ以外何も出来ない」



352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:36:49.78 ID:kC5971VI0

何も出来ないなんて決め付けるなよ。

「あの子は孤独です。誰からも支えられているのに、誰にも支えられていない……寄り添う者を失ったあの子は、歯を食い縛ることしか出来ない

 ……私では役者不足です…」

何か俺に出来る事は無いのかよ。

「ありません。勘違いしないで下さい」

視線が刃のように、鋭利な気迫となって真っ直ぐに貫く。

「今のあの子は守るべきか弱いシスターではなく、イギリス清教のトップ。貴方は取るに足らない大学生」

カチンと来る。

大学生だからって守っちゃいけないのかよ。

「守る?それ以前の問題です。近づくことすら出来ません。貴方はどうやら根本的に勘違いしています。確かに貴方は世界を救いました」

いや、それは流石に俺一人の力じゃねぇし。

「そうですね。謙遜は貴方らしいですが、事実でもあります。我々から協力を求めた、或いは、陰謀に巻き込まれた。
 
 貴方はあくまでも外的要因によって、強引にその役割の場を作り出してきた」

だから一介の高校生がイギリス王室に面識も出来ましたと、神裂は静かに、冷めた声で続ける。

「けれど、今は無理でしょう。貴方を巻き込む陰謀を練る者は既に存在しません。そして、我々が貴方に協力を求めることもありません。

 “幻想殺し”という魔術、科学双方における切り札によって世界は救われました。

 けれども、その右手に頼らねば回らぬほど世界は…いつまでも脆弱ではありません。

 世界は緩やかに、そして穏やかに変わりつつあります。故に、異端の力に頼る事は最早無いでしょう」

言葉が無かった。

そんな事はない、そんなふざけた幻想なんて認めない。

などと言えるわけが無かった。

だって、それはふざけてるけど…でも現実だった。



353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:39:41.02 ID:kC5971VI0

「私の八つ当たりについては謝ります。ですが、もうここまでです。貴方がこちら側に飛び込むことを一番望まないのは………あの子です」

俺は求められて、必要に迫られて、いつだってそういう理由があって飛び込んで行っていた。

けれど、今は違う。

誰も求めちゃいない ――――― インデックスさえも。

誰かの手引きが無けりゃ、今の俺にはアイツに近づくことすら出来ない。



「あの子は言っていました。貴方に貰った思い出があるから大丈夫だと。貴方にもらった掛け替えのない宝物さえあれば、それだけで、自分は十分だと」


だから、そう言って仕方が無いなんて笑えるのか?


「去年、あの子に久しぶりに会ったとき私は驚きました。甘えん坊で幼かったあの子が信じられないくらい強くなっていた。

 それはきっと貴方がいたからでしょう。あの子が頑張れるのは、貴方のおかげです」


けど、それで納得なんて出来るわけがない。


「ですから、お礼を……私からもお礼を言わせてください」


それで、引き下がれるわけがない。


「ありがとうございます、上条当麻。どうか、貴方はこちら側の世界で……今まで散々我々のせいで傷ついてきた分も幸せに、穏やかに生きて下さい」



354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:41:19.77 ID:kC5971VI0










アイツが泣いてるってわかっててて、諦められる奴はきっと上条当麻じゃない。









355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:43:00.95 ID:kC5971VI0



神裂。


「はい」


最後に…最後にもう一回聞く。

本当にアイツの為に俺に出来ることはないのか?

いや、違うな。こんな聞き方じゃないな。



                、、、、、
俺がアイツの側にいる為に……俺のすべきことを教えてくれ。




「何を…」


どんなことでも構わない。

どんな苦しいことでも構わない、どんな辛いことでも構わないんだ。


「ですから……何も…」


神裂!!


「…………」


俺は、此処で知ることが出来なかったら、きっと一生後悔する。


「上条当麻………」


神裂は暫く黙って俯く。

重苦しい空気なんて、気にならない。

ジリジリと焦れる気持ちが、吐き気のようにこみ上げる。

何でも良いから、そう言った言葉に今更後悔するつもりはない。

ただ、アイツが今、どんな苦しいのか、神裂を通して感じただけでいてもたってもいられない。


「一つ……あります」


一つ?



356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:44:39.35 ID:kC5971VI0

「ただ…私は絶対これを貴方にして欲しくは無い。誰も幸せになんてなれません。貴方も、貴方の周りの人も。

 そして、きっとあの子は泣くでしょう………誰もが泣いて俯くバッドエンドになるかもしれません」


確信に満ちた言葉に、気圧されるように冷たい汗が流れる。


「それでも構いませんか?」


構わない。

迷うより先に言葉が出た。

アイツが泣くと言われて、それでも俺は悩むよりも先に結論を口に出した。


「あの子と……地獄に落ちることになるのですよ?」


構わないさ。

だったら、アイツを引き上げてやる。


「あの子といることが地獄そのものなのかもしれないのですよ?」


構わない。

アイツとなら……アイツの側に居ることが地獄だってんなら、俺は天国なんていらねーよ。



357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:48:13.80 ID:kC5971VI0


「あの子は絶対泣きます。貴方を巻き込んだ自分を責めるでしょう」

それでも、構わない。

泣いて、アイツに散々罵倒されてもいい。

アイツが自分を責めるってんなら、俺がそれを止めさせてやる。

幸せを否定されて、それがアイツさえも泣かしてしまうと聞いても。




だって、これは結局は、単なる俺の我が侭だから。



そう、アイツの涙を止める為、なんてカッコ付けてるだけだ。

アイツの願いを酌んでこちら側の世界で幸せに暮らすことよりも、俺はアイツにすら泣かれてもアイツの側に居たいのだ。


「……はぁ…本当に、変わりませんね…」

力尽きたように神裂が溜息を吐く。

気のせいだろうか。

少し、口元が笑ってる。

「私が貴方があの子を支えて欲しいというのは……単なる友人としてではなく、その……つ、つまり…伴侶としてです」

伴侶?

「確かにあの子はシスター…それも最大主教です。つまり……神に身を捧げた立場にあります。だから、貴方と夫婦になることは出来ません」

知ってる。

「逆にいえば、神に等しい、或いは近しい存在という名目があれば、あの子の伴侶になれるということです」

…?

言ってる意味が……

「聖人……いえ、この場合、そんなものではないですね。神の子として……つまり……神上…と呼ばれる存在……」

神上……?

………俺がそれになればいいのか?でもどうやって?修行とかそういうことをするのか?

「いえ、その必要はありません。必要なのは強さではなく、資格。貴方にその資格があるのは、既に知っています。アレイスターを倒した時に」

ああ…

「貴方がすることはたった一つ。シンプルで……そして残酷なことです……」

………



358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 21:54:27.41 ID:kC5971VI0








「捨ててください。親も、家族も、友人も、恋人も、責任も、しがらみも、誇りも、過去も、未来も。

 上条当麻としての何もかもを捨ててください。そして、二度と拾わないで下さい。

 上条当麻の全てを捨てて、学園都市に住む上条当麻ではなく、イギリス清教の…最大主教の影となって寄り添うだけの存在になって下さい。

 誰もを救うヒーローを捨ててください。あの子ただ一人のヒーローになって下さい。

 聖人ではなく、神上になるというのはそういうことです。

 神の子をなぞるように、人としての生を……擬似的にですが、全て終わりにしてもらうことになります。

 それが、貴方のすべきこと。貴方があの子の側に居続ける為にしなければならないこと」





359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 22:01:23.13 ID:kC5971VI0

「私は一週間程コチラに滞在する予定です。ですから、ゆっくり考えてください。簡単に決められることではないはずです。

一週間でもきっと短過ぎるのでしょうが……

 出来る事なら、貴方にそんな真似をして欲しくはありません。一人の友人としては…」


それでも、インデックスのダチとしてはどう思ってるんだ?

意地の悪い質問だと、口にしてから思った。

アイツは口ごもる。

でもさっきの神裂の浮かべた笑みがすなわち全てを物語ってる。

そういうことなんだろう。

神裂は来週もう一度来ると行って去って行った。

俺よりも、インデックスの幸せを優先的に考えたことへの不満なんてない。

寧ろ、嬉しい。アイツの友人である、神裂に認めてもらえた気がして。

少なくとも、コイツは俺がアイツの側に居ることで、アイツの涙が止まると思ってくれているのだから。


一週間なんて必要ない。

俺の答えは既に決まっているのだから。








360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 22:03:23.94 ID:kC5971VI0
以上で投下を終わります。
神上とか、聖人とか、アレイ☆の娘とか、妄想誤解設定満載で済みません。
お気に入りの14歳を連れまわすローラさんよりもインちゃんは遥かに不自由な立場だと思って下さい。
それではまた ノシ



362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/27(日) 22:10:03.16 ID:otvl8bF4o
ええい決断が遅いんだよこの妖怪フラグウニ
もう続きが気になって気になってしょうが無いじゃないか




371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/28(月) 07:41:59.03 ID:IrmGWbLAO
男は女との思い出を個別保存するけど
女は上書き保存する
とはよく言ったもんだよな
だから呼び間違えるのがたいてい男なんだよ




379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/28(月) 16:21:57.12 ID:koHuxAa70
自分の心、言い換えれば魂に誓った自分自身の約束と
他人に頼まれた約束なら
まぁ守るべきなのは決まってるよな




389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/28(月) 23:54:19.30 ID:sBT1sc470

どれくらい走ったのだろう。

何処に向かって走っていたのだろう。

ようやく立ち止まって、顎を伝う汗を拭って辺りを見回す。

目の前には見慣れたアーケードが広がる。

少し拍子抜けする。

こういう時って気付いたら来た事もない場所に走ってるものだと思ってた。

ドラマやマンガではそうだった。

街路灯にもたれて、座り込む。

行儀が悪いって黒子が見ていたら言うんだろうな。

そんな事を思いながら、気付けば1時間以上が経っていた。

今まで読んできたマンガや映画だとこういう時ってヒロインは迷子になってたりするものだ。







ヒロインと主人公は些細な擦れ違いから、口論が過熱してきて、遂にはお互いに普段抑圧してる不満までぶつけてしまう。

主人公の言葉に傷ついたヒロインは、主人公の部屋を飛び出す。夢中で駆け出し、気付けばヒロインは見慣れない場所に来ている。

どうやって帰ればいいのかわからなくて、途方に暮れていると、必死の形相で探し回っていた主人公が見つけてくれる。

そして、少し言い争いをした後に、わだかまりが解けた二人は恥ずかしそうに手を繋いで家路につく。







けれども…

……

………見回しても、そんな事はない。



390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/28(月) 23:56:19.77 ID:sBT1sc470

やっぱりね…

そんな呟きが自然と転がり落ちる。

声に出してみると、それは強がりなのだと自分でもわかるくらいに震えていた。

自分の気持ちでさえも誤魔化せてないでやんの。

はははと、笑おうとして、乾いた声が出る。

好奇の視線が気にならないと言えば嘘だ。

中には、何となく察したのか、興味半分、同情半分という視線を投げてくる奴もいる。

打ち返してやろうかしら?なんて思う。





本当は、頭の片隅で期待していた。アイツが来るのを。

汗だくになりながら走ってくるアイツの姿を想像していた。

汗だくになって走ってきて、それで、『ゴメン、御坂!!俺どうかしてた。くだらねぇこと言って、それでお前を傷つけちまった』なんて真剣な顔してアイツは言う。

私は泣きながらアイツを一発…いや、二発くらい引っ叩いてやって、それからアイツの胸に飛び込む。

走り回ってたせいで汗臭くなったアイツの匂いを感じながら、思い切り泣いてやるのだ。

それから、少し落ち着いて、私はとっておきの笑顔で許してやる。

ドラマのように、ちょっと照れくさい顔でアイツの差し伸べてくれる手を取って、アイツのアパートへ戻るのだ。

そこでエンディング曲なんて流れれば完璧なくらいの仲直り。





けれども、そんなもの私の妄想だ。

期待してる以上に諦めてる。

いくら待ってもあのツンツン頭は一向に視界に入らない。

アイツの姿は一向に見えない。

見えるはずがないのだ。



391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/28(月) 23:58:46.44 ID:sBT1sc470

いつものように学校が終わって、アイツのアパートに行った。

アイツの部屋で、喧嘩になった。

私は泣きながら飛び出した。

そこまでは一緒。

でも、決定的に違うのはドラマのように、想い合う二人が些細な擦れ違いや誤解で喧嘩をしたというわけじゃないということ。

「話があるんだ…御坂」と、いつになく真剣な顔でアイツが話したのは簡単なことだった。




――― 別れ話 ―――




言葉にすると、たったこれだけの実にあっけないことだ。

私のこと嫌いになったの?

嫌なところがあれば直していくよ?

泣かないように、声が震えてしまわないように、出来るだけ見っとも無くないように気を張って訴えた。

カッコ悪い姿を見せたくなかったから。

見っとも無くて、見苦しくて、そんな姿を見せて幻滅されたくなかった。

それでも言葉は自ずと険のあるものになり、責めるものになってしまった。

自分でも鬱陶しいと唇を噛み締めたくなる。

映画やドラマを見るたびに、「みっともないわね」なんて他人事のように別れ話を切り出す男に縋る女を軽蔑していた。

あんな姿だけは見せたくない、別れ話が出た時点で終わりなのだから。 ――― なんて、恋愛経験もないくせにわかった気になっていた。

切れてしまいそうな絆を必死に手繰り寄せようとするのは本能に近いものだと、無駄だと理性が思うより先に必死にもがくのだと、そんなこと当たり前のことなのに。



自分の立場になるまでそんなことわからなかった。


でも、私はそんな立場になどなりたくなかった。


切れてしまう絆を手繰り寄せようと足掻く気持ちなんて知らなくても良かった。



392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:00:31.00 ID:LNMR/TdA0


イギリスに帰ったあの子を追いかけて行く。

そのまま向こうに永住するつもりだ。

こっちにはもう帰らない。





それくらいしかアイツは言わなかった。





結局そうなのか。

結局アンタの一番はいつだってあの子なのか。

いつだって……そして、いつまでも。

いてもいなくても、アンタの心を縛るのはあの子なのか。



此処にはいない女への憎悪で眩暈がする。



ふざけんじゃないわよ!

私のことはどうでも良かったのか!

私と過ごした時間はアンタにとって何の価値も無かったのか!



山ほど浮かんだ罵声は、喉で絡まる。

アイツの瞳が真っ直ぐ私を見ていたから。

完全に、勝手に、一人で何もかも決めてしまったあの目だ。

周りの意見も、気持ちも全部無視して、自分の決めた自分の道を自分の思うままに突き進むことを決意した目。




誰に何を言われようとも、決して止めることのない覚悟をした“いつもの”アイツの目だった。




その言葉が私から完全に言葉を奪い去る。

身体から力が抜け、罵声の変わりに口から出たのは嘲笑だった。

軽蔑を思い切り籠めた嘲笑。

見る目の無い男だと、馬鹿にするように。

無計画で無謀な奴だと侮蔑するように。

私は顔中を嘲笑で必死に塗り固めた。



393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:05:03.27 ID:LNMR/TdA0


他の女の手紙をいつまでも大切にしまっておいて、何度もこっそり読み返す女々しい男なんてこちらからお断りだ。



強気を取り繕って、震えそうな声でアイツの心を出来るだけ抉るような言葉を浴びせてやった。

嫌な女だと、そう思われてもいい。

それでもアイツの中に爪痕のように残ることが出来るなら、それでいい。

それは、つまり負け犬の発想……私は諦めることを既に選んでいた。


――――

――――――

―――――――――



半ば眠りかけていたんだ私。

気が付けば辺りは暗くなってた。

ずっとこうして家出少女みたいに座り込んでいたのか。



何て滑稽なんだろう。


じゃりとレンガを踏みしめる音がすぐ側でする。

西日を背に座り込んでいた私の目の前のレンガ造の床に影が長細く映る。

誰だろう。

またナンパだろうか。だったら適当に料理してやろう。

気分的に、今日はやりすぎるかもしれないけど。

捨て鉢な気持ちで俯いた顔を上げようとするより先によく知る声が耳朶を震わせた。





「…お前…何やってンだ」






はははは……

何で私っていつもこうなんだろう。

一番会いたいヤツは来ないっていうのに。

誰よりも弱みを見せたくなくて、誰よりも許せないって思ってて。

誰よりも嫌いで、憎いはずなのに、何でか感謝もしてるわけのわからないヤツ。

誰よりも気に入らないヤツ。



394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:06:26.93 ID:LNMR/TdA0





「お前…泣いてンのか?」




一番会いたくないヤツが目の前に立っていた。





395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:07:40.44 ID:LNMR/TdA0




アイツの出て行った部屋で俺はずっと天井を見上げて寝転がっていた。

どれくらいそうしてただろう。

口の中いっぱいに鉄の味が広がる。

顔の辺りを手で触ってみると、また風邪でも引いたのかっていうくらい熱くて、ぬるっとした感触がする。

拭った手をかざして見ると、ぬるりとした赤黒い汚泥のようなものが指先に絡む。

乾いてぱさぱさになった赤黒い血が顔に砂のように掛かる。

頭がぼうっとするのは、しこたま殴られたのと、顔が腫れて熱を持ち始めたことの両方だろう。

少しでも口を動かすと、鋭い痛みが走る。

遠慮なく、本当に遠慮なんて少しもしないで殴ってくれたのだ。

下手に優しく、健気にされるよりも余程気持ちが救われる。

アイツはそれを知ってたから、俺をぶん殴ったんだろうか。

それは自分に都合の良い考えかもしれないけど、でも、その通りだとも思える。

少なくとも、俺の知ってるアイツは……御坂美琴はそういう不器用な優しさを持った子だから。

そして、俺はその優しさに付け込んだんだ。



396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:08:30.54 ID:LNMR/TdA0

「他の女の手紙をいつまでも大切にしまっておいて、何度もこっそり読み返す女々しい男なんてこちらからお断りだってのよ!!!」

そう言って思い切り殴りつけてきた御坂。

「いい加減私も惰性で付き合っていたんだもの…アンタみたいなボンクラときっぱり切れた方が清々するわよ!!」

そう言って泣きながら殴ってきた御坂。

行かないでくれと、行かせやしないと、そう言って泣いて縋り付かないだろうと、俺はアイツの自尊心の強さと、優しさを利用したのだ。

ずっと、この一年の時を共に過ごし、支えてくれた子を、そうやって俺は




切り捨てたんだ。




最低のクズ野郎だ。

けれど、じゃあ、御坂を追いかけて行って、取り消すのかと聞かれれば、それは出来ない。

どれだけ、最低と、屑だと、罵られても譲れないものがある。

俺らしさを捻じ曲げてでも、側にいたいと、ようやくはっきり言えるんだ。

だから、罪悪感はあっても、後悔は不思議としていない。



397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:08:57.38 ID:LNMR/TdA0

暗い部屋に、ドアを開ける音が不意に届く。

御坂だろうか。

いや、違う。

確信めいた思いが、すぐさまその可能性を消す。

ドアを開け、ソイツはゆっくりとした足取りで部屋に入る。

コツコツコツと、杖を突く音。

薄暗い部屋に、そこだけ仄かに月明かりが差し込むように、くっきりと白いシルエットが浮かび上がる。

よぉ、やっぱりお前か。

冷たく見下ろすそいつに寝転がったまま声を掛ける。

座ることもせずに、見下ろしたままのソイツから小さく歯軋りの音がする。

夕日を束ねたような紅の瞳が僅かに歪む。



398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/01(火) 00:10:53.45 ID:LNMR/TdA0




「よォ……クソ野郎」



よぉ、一方通行。



「話せ。洗い浚い全部だ。言わなきゃ殺す。誤魔化しても殺す。言葉を尽くして、納得できるまで全部吐き出せ……


 ぶち殺されたくなかったらなァ……」








杖がフローリングを強く打つ。

まるで、裁判長が判決を下そうとしてるみたいだ。



428 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:04:06.90 ID:PCuqn5Hg0


鈍い音に、俺は目を覚ます。



何度目なんだろう。

口の中がじゃりじゃりする。

時計を見ようとしても、真っ暗で見えない。

でも明るくても見えたかどうか。



「何でだ」



ゴツン。

また鈍い音がする。

毛布越しに固いものを叩いたような薄ぼやけた音。

目の前を、白いものが過ぎるのが微かに映る。



ごっ。



そんな音が耳の奥からする。

鉄の味ばかりする。

顔中が熱い。



429 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:05:12.36 ID:PCuqn5Hg0

掴まれた胸倉が苦しい。

息をするのがやっとだ。



「何でだよ」



音が止む。

耳元で荒い息遣い。

珈琲と僅かなシャンプーの匂い。

視界の端に、白い髪が映る。

カーテンから差し込む月明かりを浴びて、銀色に見える。

少しアイツに似てる。



「何で笑ってンだ」



笑ってたのか。

悪い。感覚無くてわかんなかった。

今何時なんだろうな。

いつからこうしてたんだろうな。

腹の上に微かな重み。硬い感触。

馬乗りになった一方通行の赤い瞳が俺を見下ろしてくる。



430 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:09:27.11 ID:PCuqn5Hg0



「クソ野郎」



掴んだ胸倉を引き寄せ、無理矢理起こされる。



「何でやり返さねェ」



やり返す?

何のことだよ。



「じゃがいもみてェに不細工な面にされて、どォして無抵抗なンだって聞いてンだよ。悪い事をやらかしてるって自覚があるってことなのかよ」




ああ、そのことか。

やり返す意味がないからだよ。

そう言おうとして言葉が出なかった。

ねっとり口の中に溜まった血が、糊みたいに舌に絡み付いて上手くしゃべられない。

口の中にじゃらじゃら転がる歯が、裂けた口の中を皿に刺激する。

喋るのを諦めて、俺は笑う。



 ――――― また殴られた。




431 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:10:16.56 ID:PCuqn5Hg0


フローリングに後頭部を強かに打つ。

正直、完全に目が覚めた。

俺に馬乗りになっていた一方通行が降りる。

それでも視線はずっと俺を見ているのがわかる。

瞼が腫れたせいで、よく見えないけど。

ただ、笑ったのに深い意味なんて無い。

少し安心しただけだから。


やっぱお前優しいわ。



「………あァ…?」



だって、俺ホントはビビッてたんだ。

お前みてェな屑野郎に殴る価値もねェ、そんな風に言われるんじゃないかって。

そうなるよりも、こうやってぶん殴られてる方がずっとマシだった。

そう思うと何だかホッとして。



432 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:11:16.35 ID:PCuqn5Hg0



「馬鹿野郎…」



舌打ち。

この部屋に入って来て何度目だろう。

一方通行が座り込む。

イライラしてるのが、見なくても空気で伝わってくるってスゲェな。

殴られ過ぎて、正直顔はあまり痛くない。

寧ろ口の中の欠けた歯の感触や、血の味の方が辛い。

俺は天井を見上げたまま、力なく寝転がったまま。

一方通行がどんな顔してるのかなんてわかるはずもない。

沈黙。


「………聞かなきゃ良かった……」



溜息。

吐いたのは一方通行。



「話なンざ聞かずに一方的にぶち殺しておけばよかったぜ」




鈍い音。

殴られたわけじゃない。

多分だけど、拳で床を叩いたな。



433 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:12:32.27 ID:PCuqn5Hg0


「何でだよ……」


ゴツン。

フローリングを殴る音。

力の入らない身体で、のそのそと視線を向ける。


「違ェだろォが……」


どうしてお前の方が苦しそうなんだよ。


「泣かすのはお前の役割じゃねェはずだろォがよ……」


お前の方が殴られたみたいな声だぞ?

一方通行に声をかけようとして、喉がざらついて声が出ない。


「お前は皆を笑顔にしてやれる……最っ高にクソッタレなヒーロー ――――― アイツのヒーローのはずだろォが……」


歯軋りする音。

沈黙。

沈黙。

舌打ち。


「それなのに……テメェは…アイツを置いて行くのか?切捨てて ――― 」


行くぜ。ああ、そうする。



「テメェ…」



だって、インデックスに俺は会いたいから。


「 ―――― ッ」



434 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:13:20.40 ID:PCuqn5Hg0

会ってアイツの涙を拭ってやりたいんだ。

それさえ出来ればもう、それでいい。

「それは……お前に縋ってる奴等を振りほどいてまでする価値があンのかよ……アイツの涙に…」

多分な。

「多分だァ?」

俺じゃない、『前』の上条当麻もきっとそうだったんだよ。

直接聞いたわけじゃないけど、ずっと前からそうだったんだ。

わかるんだよ。

何となくだけど、俺のココが教えてくれるんだ。

名残…いや、燻ってるものがあって。

消えきらない気持ちみたいなのが、ずっと熱を持ってるんだ。

それは多分、前の『俺』がアイツを好きだったっていう証なんだろ。



「…………」




前の上条当麻は……俺と違って、15年間生きてきた上条当麻は……

アイツの為にその15年を擲っても良いって思ったんだ。

だから俺は、『俺』に負けたくない。

アイツへの気持ちで、『俺』に負けたくない。



435 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:14:53.98 ID:PCuqn5Hg0



「その為に、ヒーローを辞めるってか」



違ぇよ。

辞めるも何も、元々そうじゃねぇし。

俺は最初から皆のヒーローなんかじゃなかったんだよ。

自分でやろうって思ったことが偶々、色んなヤツを助ける手伝いになってただけで。




ああ、でも……

多分、アイツのヒーローにはなりたかったんだろうな、俺は。





息を呑む音。

呆れたんだろうか。

沈黙が重い。

「………どォして……もっと早く気付かねェンだよ……」

一方通行?

「テメェら見てりゃ即バレだろォが。互いをどォ想ってるかなンてよ。あのチビがどンだけテメェに惚れてたかなンてわかりやすすぎてたンだよ」

そう言われると何だか恥ずかしいな。


「くだらねェ嫉妬するくせに、どォしてさっさとアイツの気持ちに応えてやンなかった……アイツがテメェだけ…テメェだけしか見てなかったってのに……

 あンなに一緒にいやがった癖に……さっさと受け入れてやってりゃ…こンなことにならなかっただろォが。御坂のヤツだって……」


……そっか……

クリスマスの夜、アイツの言葉は……アイツの最後の勇気だったんだ。



436 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:15:54.22 ID:PCuqn5Hg0

今更気付く。

俺はそれから逃げたんだ。

アイツとの心地良い生活が崩れるんじゃないかって、そんな事考えたら、怖くて、真正面から向き合うなんて出来なかった。

そんでもって、アイツがいなくなってから、想いを告げておけば良かった、なんて都合の良い後悔をしてる。

御坂の好意に付け込んで、甘えて、忘れたフリなんてして。

俺は ――――



「テメェは最低のゲス野郎だ」



………ああ……そうだよな。



「愚図で鈍感でなカス野郎だ」



返す言葉も無いな。



「卑怯で臆病者のクズ野郎だ……」



痛い程わかってるつもりだよ……



「だから、テメェはもうヒーローじゃねェ、ただの下らねェ三下だ」


一方通行が立ち上がる。


「だから、さっさと消えろ。この街から。目障りなンだよ」


一方通行………



「俺が代わりに背負う」



こつんと杖を突く音がする。

空気がピンと張り詰めた。



437 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:17:14.48 ID:PCuqn5Hg0



「テメェが捨てて行くモン、全部、全部、俺が背負ってやンよ。勝手に好きなだけ捨て行けよ」


思わず起き上がる。

その言葉の意味がわからないほど俺だって馬鹿じゃない。

暗闇にすぐにでも溶けて無くなりそうな華奢な背中が、立ち止まる。

薄く、細いというのに、鋭い空気を纏っている。



「野良犬が残飯漁るみてェなモンだ。卑しい野良犬根性だとでも思ってくれりゃいい」



その代わり、と一方通行が首だけ振り向く。



438 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:22:30.59 ID:PCuqn5Hg0










「テメェは死んでもあのチビ………インデックスの笑顔を守れ。ヘタ打って泣かせてみろ、すぐに出向いて縊り殺す」









439 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:23:50.52 ID:PCuqn5Hg0


そう言い残して一方通行は部屋を去った。

お前の背負ってるもんは誰が支えてやるんだ。

お前だって重たいもん背負ってるのに、それでこれからも背負っていけるのかよ。

何でお前がそこまで抱えるんだよ。

言いたい事は山ほどあったのに、俺は何も言えずに立ち竦んでいた。

アイツなら安心だと、心の何処かで無責任な安堵を抱きながら。

アイツに掛けようと思った言葉、今までの俺だったら絶対に掛けていた言葉を呑み込む。

きっと、これが“捨てる”ってことなんだろう。

上条当麻のすべてを捨てるっていうことなんだ。

捨てる俺には、もう何かを言う資格は無い。

殴られてズタズタに切れた唇を噛み締める。

こんな痛みでうろたえてる場合じゃない。

俺は俺で選んだんだ。



アイツは背負い続ける選択をして。

俺は捨て去る選択をした。




ただ、それだけなんだ。




442 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:41:57.35 ID:PCuqn5Hg0





時計に目をやる。

19時半。

思ったよりもずっと時間は過ぎていた。

クソガキに黄泉川ン家に呼ばれてンのは21時。

時間としちゃ十分に間に合う。

出来れば遅刻してクソガキ一号、二号に絡まれるのは回避しておきたい。

あと90分。

20分もあれば黄泉川の家だ。

つまり、70分以内に用事を済ませれば良い訳だ。






なァ?海原。



443 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:42:40.70 ID:PCuqn5Hg0


「正直理解に苦しみますね」


あァ?


「何で、あんな男を庇うのですか?」


あンな……けけけけ。その“あンな男”に大切なお姫様まかせっきりでよく言えるなァ。


「ええ…仰る通りですよ」


海原は普段のニヤニヤした笑いを引っ込める。


「あんな男に御坂さんを任せたことは、一生の過ちでした」


それで?物騒な黒曜石まで持ち出して三下の暗殺ですかグループは。


「いえ、勘違いしないで下さい。コレは僕の独断です」



くきゃははははッ。

最っ高に見っとも無くていいですねェ海原くゥゥン。

テメェは単に八つ当たりしてェだけだろォが。

自分はストーカーになることしか出来ねェってのに、ホイホイ恋人になったあの野郎に。

その挙句に他の女に走ったことが許せねェ……だから嫉妬してるだけだろォが。

テメェからじゃ何も出来ねェ腰抜けの癖によォ。




「………何とでも言えよ……」


あン?



「悪いかよ……惚れた人を悲しませる男を許せないって思うのが……そんなに悪いことなんですか?」



444 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:46:16.74 ID:PCuqn5Hg0

……

………

…………

……………

………………悪かねェさ。

惚れた女の気持ちが蔑ろにされてりゃ、いい気はしねェ…

その気持ちを返せって、叫びたくなる。


「一方通行」



けどよォ…

テメェの気持ちを全部押し殺すって決めてンだったら、ハンパな真似してンじゃねェよ。醜い嫉妬も、手前勝手な独占欲も、全部しまっとけよ……

あの馬鹿は決めたンだよ。一人の女の側にいてやるって。誰に恨まれよォとも構わないってなァ……

影から見守るだなンて、耳障りの良い言葉に酔ってるテメェや俺みてェなチキン野郎なンざ比べモンにならねェだろォが。


「………」



コイツを殺さねェよォにブチのめすのは少し厄介かもしれねェ。

だが、此処で引くわけにはいかねェ。

上条を行かせてやるって決めたばかりだからな。

アイツだけなんだよ……あのチビの涙を拭ってやれンのは。

それに、あの三下に何かあればテメェの愛しの姫様も悲しむだろォよ。



「…そうですか。ようやくわかりましたよ、貴方が彼を行かせようとしている理由……貴方は……」




下らねェおしゃべりはここらで終わりだ海原。


こちとらクソメンドクセェ食事会が後に控えてンだよ。





445 : ◆d85emWeMgI:2011/03/05(土) 02:47:21.04 ID:PCuqn5Hg0
以上で本日の投下を終えます。それではまた。



448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/05(土) 02:52:13.56 ID:lo1YIwxd0
いやなんか一通さんカッコイイとかいう次元じゃねえよアンタレベル6だよ。
んで顔腫れ上がってるクズ野郎はさっさと向かえに行け馬鹿。
怪我はちゃんと治してからな




449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/05(土) 02:52:45.78 ID:Xx1fjaKt0

海原かわいそう




450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/05(土) 02:55:22.87 ID:iqVnWdB+0
乙!!
前半一通さん熱いなとか思ってたが後半で一気に切なくなってしまった
毎回1の作る作品は引き込まれすぎてやばい




454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/05(土) 11:57:56.92 ID:hBvxkFA8o
一方通行と海原は鏡写しで、こいつらと上条は両極で。
背負い続けたり荷が増えるのは大きな問題じゃなくて。
欲しいものを望むものを自分の手で掬えるかどうかなんだよなあ。




467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/06(日) 03:23:09.72 ID:jr94vigr0
ゲスじゃないってかちゃんとゲスになったっていうか。
ただズルズルと駄目条さんじゃなく。




469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/06(日) 16:31:06.31 ID:DdGD8GCAO
ゲスとかクズとかダメとかいうけど
自分が上条の立場だったらと思うと
俺はなんとも言えないな…




470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/06(日) 17:01:26.16 ID:m/XQDOpDO
>>469
お前そんなモテないだろ
俺もだけど(´;ω;`)ブワッ




475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/07(月) 01:35:46.30 ID:GcL1PZhA0
一方さんが男前すぎてヤバイ
海原の「何とでも言えよ・・・悪いかよ・・・」ってのがよかった グッときた




485 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:07:40.77 ID:VHoWt+tE0


『アクセラレータといるの私凄く好きなんだよ』



『一緒にいるとホッとする』



『とーまに似てるかも』



『でもね、最近は少し違うの』



『んとね、とーまと一緒にいるとそわそわするんだよ』



『胸が痛かったり、苦しくなったり、不安になったり』



『とーまの顔見てるとね、泣きたくなるときがあるんだよ』



『でもね、何となくそれが厭じゃないかも……』



『ぽかぽかして、ちょっとドキドキしたりすんだよ』



『えへへへ、何か変なこと言ってるね、私』










『ねぇ、あくせられーたはそうなったことある?』






486 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:08:31.14 ID:VHoWt+tE0








さァな









487 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:11:18.09 ID:VHoWt+tE0



気づけば空には鉛色に重苦しくなった雲。

ナメクジが蠢くみてェに重く鬱陶しい。もうすぐ降りそうだ。

思ったよりも手間取っちまった。

魔術ってのはつくづく鬱陶しいモンだな。

以前のバッテリーだったら正直ヤバかった。

オイ、生きてるだろ。

瓦礫の山の中央に大の字になって横になっている海原がヒラヒラと手を振ってくる。


「ええ、貴方が全力で手加減してくださったおかげで特に問題ありませんよ。死ぬほど身体が痛いだけで」


そォか、そォか、そンだけ減らず口が叩けりゃ問題ねェな。

人が来ねェ内にズラかるか。


「僕は…」


海原が空を見上げたまま話しかけてくる。

そのツラは半分はがれて、本来の黒い肌が覗いてる。

ンだよ、面倒くせェ。


「まだ納得はしていません。御坂さんを傷つけた彼を許すことなんて出来ません」


許す許さないっつー話じゃねェだろ。

そンなモンそもそもアイツ等の問題だろォが。



「わかってますよ、理解しています。ですが、僕とて感情で動いてるんです。納得できないものは納得できません」



厄介な奴だな、マジで。



「お互い様ですよ。貴方こそ納得出来るんですか?僕が言えた義理じゃありませんが、彼に任せて、自分はそれを遠くから願うだけ…」



488 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:13:55.89 ID:VHoWt+tE0


チッ…何か勘違いしてやがンな。

別に構わねェンだよ。

端から勝負にだってなりゃしねェし、勝負自体する気もねェ。

上条しかダメなら、上条が笑顔にしてやりゃいいだけの話だろォが。



「……悔しくありませんか?……僕は悔しくて仕方がありません。僕だったらあの人を絶対に悲しませたりしない…

 誰にも目移りなんてしない。ただあの人だけを見て、あの人だけの為に生きて…」



ハッ。

それこそテメェが言うなよ。

誰かの側だとしても、馬鹿みてェにニコニコしてくれりゃそれで良かったンだろ?

決めておいて、今更未練がましくしてンじゃねェよクソが。



「これは手厳しい……」



それでも未練タラタラだっつーなら、いっそ後釜でも狙ったらどォだ。

鬱陶しい皮はひっぺがしてぬけぬけとよ…ケケケケケ。

口には出さなかったが、コイツくれェ想ってくれるンなら幸せになれンじゃねェか、アイツも。

もう言ってやる言葉もねェから、俺はさっさとこの場を離れることにする。

警備員が来たらクソ面倒くせぇ。

空模様もやべぇしな。






「報われませんね…お互い」






俺は振り返らなかった。



489 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:15:39.64 ID:VHoWt+tE0

足元が少しふらつく。

クソが…久しぶりにやり合うとやっぱりうまく反射出来ねェ。

魔術が厄介なだけじゃねェ。

単純な話俺が府抜けてたって話だ。

その上今度は雨が降っきやがった。

つくづく上手くいかねェよォに出来てるみてェだ。

脇腹を押さえていた手はべっとりと血がこびりついてる。

あのクソにやけ顔マジに殺りに来やがって……この服まだ三回しか着てねェンだぞ。

弁償させてやる。利子込みで10倍だ。


ったく……


目に付いた店先に飛び込むと、電話を掛ける。

二回のコールで通話状態になった。



490 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:17:16.83 ID:VHoWt+tE0



朝から立て続けにあった手術が終わってようやく人心地…というところで思わぬ着信。

「レッチリとか、相変わらず似合わない着信ですね、とミサカはドクターの趣味に未だに違和感を拭えぬことを吐露します」

メタリカとかもおススメなのだがね。女の子には少々キツイかな。

着信の表示に少々驚く。

おやおや、君から掛けてくるなんて珍しいこともあるもんだね


『悪ィかよ……』


いや、患者からのコールを断る理由など、何時如何なるときであっても医者には無いよ。


『用件だけ手短に話す。アンタ今日中に傷の縫合出来るか?』


伺うように聞くとは、君らしくないね。

口ぶりから察するに中々深いようだ。それに私にわざわざ尋ねるということは完璧に処置しろということだね。

馬鹿を言っちゃいけないよ。



『………まァ、我ながら無茶なこと抜かしてンなとは思ってる』



ふむ。

君は何か勘違いしているようだが、私がいつ出来ないと言ったかね?



『あァ?』



491 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:19:52.06 ID:VHoWt+tE0

今日中などとは随分見くびられたものだ。

今すぐ来るなら、今日のディナーには間に合うよ。



『 ――― 何でもお見通しって訳か……チッ……ウゼェ……』



先週からあの子がずっと同じことを他の妹達にも話していてね。



『クソガキが…ぺらぺらと……』



それだけ楽しみにしているということさ。たまには帰ってあげなさい。

バックアップが切れたからといって、絆まで断ち切る必要はないだろう?



『………考えておく』



電話はそこで切れてしまった。

まったく、随分この子も丸くなったものだ。

昔だったら『うるせェテメェには関係ねェ』なんてセリフが飛んできただろうに。



「ドクター?何か嬉しいことでもあったのですか?とミサカは電話が終わったらやたらにこやかになったゲコ太先生に好奇心から質問してみます」


何、これから常連さんが来るのでね。

困った子だよ。

さて、手術が終わったばかりですまないのだが、また準備をしてくれるかな。

特に清潔なガーゼをたっぷり用意しておくれ。

急ピッチで終わらせて王子様を送ってあげなくては、お姫様達に怒られてしまうからね。




492 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:24:53.23 ID:VHoWt+tE0


この前はあの人が黄泉川のお家に来てくれて、番外個体と、黄泉川と芳川とミサカであの人をおもてなし。

芳川の昇進祝いなんだよ。

ニートだった三年前から比べると恐竜もビックリの進化だねって言ったら笑顔で芳川にグリグリされた。

番外個体は相変わらずあの人を怒らせるようなことばかり言ってたけど、お料理の準備を一番頑張ってたのはあの子。

ミサカも負けずに頑張ったけどね。

随分角が取れたあの人は、憎まれ口や馬鹿にしたような返事をするけど、キチンと芳川や黄泉川のお話にも相槌を打ってるし、番外個体の相手だってしてる。

勿論ミサカのお話も聞いてくれているし、根が真面目というか、律儀なんだね。


「学校は楽しいか?」


なんて、お父さんみたいなことまで言ってくる。来年はもう中学に上がるのに、ちょっと子供扱いし過ぎじゃない?

なんて言うと、決まって「いつまでたってもクソガキはクソガキだ」なんて言葉が返ってくる。

この人の最近のスタンスは正直ミサカとしては嫌だ。嫌だっていうのは嫌いというわけじゃないの。

だけど、こんなお父さんらしさみたいなものをミサカは求めてない。

ミサカだけじゃない、番外個体も、他の妹達も。

守ってくれるのには感謝してるし、大切にしてくれるのも嬉しい。

だけどね、ミサカ達は貴方にお父さん役なんてして欲しいわけじゃないんだよ?なんて言えないけどね。



493 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:27:22.82 ID:VHoWt+tE0

それに、今のあの人にそんな事言えない。

昨日また遊びに来てくれたあの人はそのまま泊まっていってくれたけど、今はソファーで寝転んでボーっとしてる。

どうしたのかな?研究が上手くいってないのかな?

何だか元気がない。

物思いに耽ってるように、じっと天井を見て。

あと、何処か具合が悪いのかな?顔色も良くない。

って言っても元々顔色の良い人なんてお世辞にも言えないんだけどね、てミサカはミサカはちょっぴり毒を吐いてみる。

ねーねー、何かあったの?一方通行。

ソファーに駆け寄って、ちょっと小首を傾げてみる。あの人におねだりする時のミサカの必殺ポージング。

あの人は、のろのろと身体を起こすと、ポンポンと頭を撫でる。


「ガキが気にするようなことじゃねェよ」


意地の悪い笑み。また子供扱い。

むぅって膨れるけど、そんな事しても余計子供扱いされるだけなんだよね。

あの人はまたソファーに寝転がる。

ミサカがもっと大人で……例えばお姉さまくらい大きかったら話してくれたのかな?

あの人の側でしゃがんでると、黄泉川のお手伝いをしてた番外個体がやってきて、いきなりあの人のお腹の上に座った。



494 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:35:10.17 ID:VHoWt+tE0

「よっこいしょっと」

「ぐふゥ!!」

「あっれ~~?下敷きにしちゃった~~?ゴメンゴメン、気付いててわざとやっちゃった、ぎゃははは」

「テメェ…どォいうつもりだ」

「だってさぁ。ただでさえ気持ち悪い第一位が何もしないでゴロゴロしてやがるだけでも殺したくなるくらいムカつくってのに、

 その面が辛気臭さが此処まで臭ってくるくらいなんだもん。おぇ~~臭ぇ~~」


なんて言いながらあの人のお腹にお尻をグリグリする番外個体。

オイ、テメェ、何羨ましいことしてやがる………なんてちょっぴりミサカはミサカは殺意を抱いてみたりしたけど、それはこの際些細な問題。

当然、もやしなあの人が不意討ちでお腹に乗られればひとたまりも無い。


「………重てェ……」

「…………」

「ぐェェ…ッ」


最もな事を言ったあの人のお腹の上にのった番外個体は更にお尻をぐりぐりとする。

っていうか、いつまで乗ってるの!


「つーか、アンタどうせ暇してるんだったらさ~ミサカ達を楽しませるために何処かに行こうっていう発想も無いわけ?
 
 第一位なんて言っても大したことないよね~」

あの人に乗っかったまま、番外個体が更にあの人の上に寝そべるように身体をくっつける。

胸なんてもろにあの人の薄い胸板にぐにゅって押し付けられてたりする。




そろそろコイツ殺してもいいかな?

ってちょっぴりミサカはミサカは苛立つ気持ちのまま黒いことを思ったりなんかしちゃったけど、それは些細な問題だよね?



495 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:37:39.70 ID:VHoWt+tE0

「クソ重てェンだよ…いいからさっさと降りろってンだよクソガキ二号」

「出来もしねぇくせに吠えるにゃーんクソもやしってば。ツンツン」

「突くなウゼェ」

「親父面するんだったらきっちり家族サービスくらいしてくんなきゃさ、

 そっちのちっこいのなんてアンタの辛気臭さが移っちゃってさっきからきのこ生やしそうなウザさなんだけど?」


ちょ、いきなり振らないでよ。

あ、べ、別にミサカ全然平気だからね?もう昔みたいにどっか連れてってなんて駄々こねたりしないんだから。


「………」


ただ、貴方の元気が無いのが少し心配で…

でも無理に貴方から事情を聞きだしてやろうなんてそんなことは思ってないんだからね、ってミサカはミサカは尋問の意思が無いことを表明してみたり。


「………」


あの人はじっとミサカの事を見てから、髪を掻き毟る。

番外個体を無理矢理押しのけると、のそのそと立ち上がる。


「チッ…ガキに気遣わせちまうとはな……情けねェ……」

「情けないのは今に始まったことじゃないじゃん、親御さ~ん」


そう言いながら、番外個体が一瞬ホッとしたような顔をした。

そっか……この子、この人に元気出して欲しくて気晴らしに誘ったんだ。

すっごくわかりづらいデレだけど。


「うるせェ、喋れなくなるように歯全部圧し折るぞ。……ったく……10分だ」

へ?

「何よ?」



「10分で仕度しろクソガキども。腐りそうに暇してンのは確かだからな。出かけるぞ」





496 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:44:51.31 ID:VHoWt+tE0


ご飯は喉を通らなくなって。

学校には行く気力も無く。

毎日毎日ベッドでシーツに包まって泣き明かしてばかり。

頭の中はアイツと重ねてきたアイツとの楽しい日々ばかりで、私はそれに浸り続ける。

部屋の外では黒子や佐天さんが私に出てくるように呼びかけている。

本当に良い友達を持ったな、なんて嬉しいくせに、私の身体は半分死んでしまったように、動いてくれない。

アイツを失ったことで本当に私の半分は死んでしまったのかもしれない。

それくらい、アイツとの日々は私にとって掛け替えの無い日々だったのだ ――――











497 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:46:51.12 ID:VHoWt+tE0










―――― なんていう可愛げのある女だったらどれ程良かったんだろう。



498 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:51:53.73 ID:VHoWt+tE0

ショックだったのは確かで、部屋に帰ると私はお風呂場で思い切り泣き喚いた。

本当に、シャワーを全開にして、浴室にわんわん響くくらいに泣いた。

枯れることなんて無いんじゃないかって思うくらい泣いて泣いて泣き明かして。

それでもお風呂から上がって時計を見てみれば、一時間も経っていなかった。

散々泣いたからお腹は空いていて、あり合わせの物を炒めてパスタにして食べた。

グルグルと当麻の言葉を思い出して眠れないなんてことはなく、ぐっすり眠って次の日は午後から学校に行って研究室に直行。

いつもの研究の続きをして、論文の骨子を見直して、教授と意見を交わした。

不思議なくらいいつもどおりだった。

アイツに恋する為に生まれて来た、なんて中学生の頃は本気で思ってた。

ロシアにもアイツを追いかけて乗り込んで行ったこともある。

本気でアイツの高校に行こうかとも考えたこともある。

でも、そういうのは一過性のものだった。

恋が冷めたとかじゃなくて、視野が通常に戻ったっていう意味。



499 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:53:24.02 ID:VHoWt+tE0


私は案外とそれを別のフォルダに入れて、しまっておくことが出来るようになっていた。

アイツのことを自分が思っていた以上に好きというわけではなかったというのではない。

好きなのは変わらないし、ショックだって思ってる。気を抜けば泣いてしまいそうなのも確かだ。

でも、私は現にこうしている。

歯を食い縛って、やせ我慢してるけど、案外いつもどおりの御坂美琴でいられている。


理由は二つ。


一つ目。

多分、それは私が何処かで覚悟していたからだと思う。

ずっと覚悟を決めていたからだ。

歯を食いしばっていたから、強い衝撃が来ても踏み留まれた。



500 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:55:09.36 ID:VHoWt+tE0


そして、もう一つの理由は、意地。

あの子を選んだアイツへの。

捨てられたからって、それで何もかも手が付かなくなって、泣き崩れて寝込んでしまうなんてのが許せなかったから。

アイツへの恋心以外の御坂美琴としての日々まで、アイツに振り回されたくなかったから。

アイツに何から何まで支配されているようで。

多分、アイツをぶん殴って、泣き喚かずに、縋りつかずに飛び出した時、私の中の秤ははっきりと傾いたんだろう。

私の中の比重はアイツへの恋心よりも、自分自身の、御坂美琴という女のプライドが優先されたんだと思う。

だから、みっともない別れ方、捨てられ方なんてしたくないと、意地を張ったんだ。




馬鹿みたいな意地だってわかってる。


つまらないプライドだってわかってる。


でも、そうすることくらいしか、私はアイツにやり返す術を知らなかった。



501 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:56:15.46 ID:VHoWt+tE0



気晴らしに今日は買い物。

黒子達は誘わなかった。

一人で。

洋服でも買いまくってやろうかな。

なんていうかそいう気分。

学校でいつもどおりに振舞おうとしてた反動みたいに、誰とも話したくなかったから。

一人で部屋に閉じこもってるのも悔しい。

色々可愛い服があって目移りしちゃう。

鏡で合わせてみて、気に入ったものを籠に放り込んでいく。




けど、正直効果はイマイチ。

そうやって、楽しそうに買い物してる、っていう行為を必死に自分がやろうとしているのがわかる。

感情が何もかも上滑りして行く。

アイツと回った場所が目に付くたびにメモリが自動的に再生してしまう。

何でいつも私はタイミングが遅いんだろう。

自分の感情も、それに気付くのも。

いつだって遅い。




ようやく今になって、悲しくなってきてるんだから。



泣きそうだ。



でも泣き崩れるわけじゃない。



歯を食いしばって、これくらい堪えてみせる。



502 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 22:59:11.47 ID:VHoWt+tE0


アイツに別れを告げられた日、私は一番見っとも無い姿を見られた。

よりにもよって、一番見られたくないヤツに。

泣いて、しょぼくれて、落ち込んでる姿を見られたのだ。



「三下の野郎と何かあったのか?」


何ていう察しの良さだろうクソ野郎。

そうだ、コイツは当麻と仲が良かったんだって思いだす。

あの傲岸不遜な悪魔みたいな一方通行が気遣うような目を向けてきたのが癇に障った。

可哀想って哀れまれていると思った瞬間に血が頭に上っていた。




煩い!

アンタには関係ないでしょ!

私の前に現れないでよ!

アンタなんかに心配されるなんて怖気が走るのよ!

さっさと消えてよ!



大声を上げたら涙がぼろぼろ零れた。

怒鳴り返されると思ってたけど結局アイツは何も言わずに黙って私の前から立ち去った。

ホッとするのと同時に、私は激しい自己嫌悪に吐き気がした。


何処かで思ってたのだ。

アイツになら何を言ってもいい。言う権利があるのだと。

完全にそれが八つ当たりだとしても。

そして、一方通行への罪悪感なんてやっぱり私の中には今も無い。




……無いのに。

そんなもの抱く筋合いなんて無いはずなのに。


それなのに、私の胸の中にはずっと何かドロドロしたものがへばりついている。


コールタールのように執拗に。




503 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 23:01:00.06 ID:VHoWt+tE0


「ねーねーこっちだよ」
「引っ張るンじゃねェ、クソガキ!」



聞き覚えのある声が、するりと私の中に入った。

思わず振り返る。




「これって良くね?ねーねー、どう思う第一位?」
「馬鹿野郎。テメェは何処の露出魔だ!!水着じゃねェかそれ!!」
「げひゃひゃ、何かエロい想像でもした?しちゃったぁ?ミサカのエロい姿想像しておっ勃てちゃったぁん?」



私の目に映ったのは一方通行の手を引っ張る打ち止めと、もう片方の腕に自分の腕を絡めた番外通行の姿。

困ったようで、でも何処か嬉しそうな、慈しむような目で二人を見つめる一方通行の顔。

そして、強烈に焼きついたのは二人の笑顔。

一方通行の手を握って心の底から楽しそうに笑う打ち止め。

一方通行をからかいながら、それでも喜びが隠しきれてない番外個体。

私にはすぐにわかった。

大好きな人と、同じ時間、同じ場所、同じ思い出を共有出来ているという笑顔。

心の底から恋することの幸せを噛み締めている笑顔。

そんな笑顔をあの二人は浮かべていた。









私と同じ顔をしたあの二人が。



504 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 23:01:51.04 ID:VHoWt+tE0



同じ顔なのに。


あの二人の側には、大好きな人がずっといてくれるのだ。


私は隣を見る。

誰もいない。

どうして?

どうしていないの?

同じあの子達の側にはアイツがいるのに。

同じ私の側にはどうして“アイツ”がいないの?



同じはずなのに。


知らず知らずの内に私はコインを握り締めていた。

こみ上げてくる感情が何なのか私にはわからなかった。





505 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 23:09:29.43 ID:VHoWt+tE0



「うふふ…すっかり眠っちゃったみたいね」

芳川が覗き込むのは、ホットカーペットで仲良く眠りこけてる番外個体と打ち止め。

ったく、見た目は大学生と中学生だってのに、中身は一緒か。

「それだけ楽しかったんじゃん」

「家族サービスお疲れ様、お父さん」

にやにやとビール缶片手の黄泉川がウゼェ。

樽にならねェよォに程ほどにしとけよ。

それから、お父さンじゃねェし。

「今日は泊まっていくじゃん?」

黄泉川はプルタブを開けながら聞いてくる……てオイ、何本目だ。

「愛穂ってば飲みすぎよ。私の分も残しておいてってば」

止めろよ。つーか、女二人で酒盛りかよ…

「何言ってるじゃん?」

「当然貴方も付き合うのよ?」

何で俺の意思無視して決定事項みてェに言ってンだよ!!

しかし、コイツらだけにすると最悪ガキ共を起こして付きあわせかねねェ。

せっかく間抜け面曝して眠ってやがンのを起こすのもウゼェ。腹を括るしかねェか……


「およ?一方通行、携帯鳴ってるじゃん」


黄泉川がテーブルに置きっぱなしにしていた携帯を投げて寄越す。

誰だ?

表示を見て、一瞬頭が真っ白になっちまった。




【御坂 美琴】




506 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 23:12:18.61 ID:VHoWt+tE0




『……やっほー、一方通行』


超電磁砲……


『あのさ、今って空いてる?』


何だ?




『っていうか…空いてるよね?』



背筋が寒くなった。

コイツ何があった?

こんなからっからの声を出す女じゃなかったはずだ。

言葉に詰まってる俺に構わずに、受話器から、調子っ外れに軽い声が聞こえる。

上滑りしているような、乾いた声だ。


神経を鑢で撫でられたみてェに怖気を覚える。





『今からちょろ~っと会えないかな?場所はさ……―――― 』








507 : ◆d85emWeMgI:2011/03/08(火) 23:13:21.12 ID:VHoWt+tE0
以上で投下終了します。多分あと二、三回くらいで終了するはずです。それでは。



508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/08(火) 23:14:58.50 ID:dY4+20XDO

辛い




509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/08(火) 23:16:57.86 ID:sMXAvVcAO
乙乙乙!!!失恋した時、人間が頭悪くなる経過がリアルで我が事のようにわかる



513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/08(火) 23:46:44.02 ID:aO3YT2rIO
こういう時女って本当に強いと思う
美琴のはただの強がりと感じなくもないけど




514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/09(水) 00:06:48.40 ID:YzBFNbhE0
男だと引きこもっちゃうよな



次→上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」その4

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コメント一覧
16093. 名前 : UnB9UnD◆h/JJPQk. 投稿日 : 2012/01/03(火) 23:30 ▼このコメントに返信する
なんか読んでいくうちに、御がかわいそうにおもえてくる。。。。
上条ひどいぜ!
34385. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2013/05/18(土) 00:33 ▼このコメントに返信する
実際に御坂さんが失恋したらこんなかんじで危うくなりそうな気がするね。上条さんに心を寄せるキャラのなかでは一番依存度が高そうなイメージがある。
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