神と奴隷の誕生構文(シンタックス) (電撃文庫) 6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:32:48.82
ID:0vUqFmHU0 まるでいつの間にか違う世界に来たみたいだなあ。
歩道の淵からモノクロじみたアスファルトに色が漏れたように顔を出す雑草。
細くて枝の多い木の先にぽつぽつと見える桃色。
「これが桜かぁ、まだちょっとショボいけど」
満開とは言い難い、まだ芽が出始めの段階だが、それでも初めて実物を目にする少女の瞳に焼きつく。
「ねえ、桜っていつになったら、こう、パァーってなるの?」
「…」
なんとなく、ボーっとしてしまう。
少年は生まれてもう何度も春を迎えているし、桜なんて珍しくもないものなのだけど
彼もまた、自分がいる世界ではないような感覚をどこか思っていた。
「ねえってば」
「…あァ?悪ィあんまりウゼェもンだからうっかり音反射してたわ」
「…いやずっとチョーカー切ってたよね?」
たたみもせずぶら下げた蛙プリントのエコバックを片手に、もう片手には少し変わった杖。
家を出て以来両手は塞がったままだった。
「帰りはテメェがバック持てよ」
「えーじゃあジャンケンでミサカに5回連続で勝ったらね☆」
土曜日の午後、ロシアの真っ白は別にそれほど遠い出来事ではないはずなのに
今は見る影もなく穏やかな日差し、でもちょっと首元を冷やす風
なんだかミサカ普通の人みたい
人間みてェだな俺
2人ともこの平和な生活とそれに馴染んでいる自分が何故か気恥ずかしく感じている。
まだどこか予防線を張っている。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:35:19.88
ID:0vUqFmHU0 ただいま、帰ったよ。
「おかえりー!ってミサカはミサカは笑顔で2人を出迎えてみたりっ」
「廊下走ってンじゃねェクソガキ」
大量の缶コーヒーと卵パックやパプリカに鶏肉などでふっくらとしたエコバックがフローリングにおろされる。重そう。
「本当に5回連続勝つなんて、あなたしょうもない運も第一位なんだね死ねばいいのに」
「あー何も聞こえねェ音反射してるから静かだわホント静かだわァ」
「アホさも第一位なんだねっていうかちょっとミサワっぽい言い方きんもーっ☆」
「今日から番外個体略してミサワって呼ぶわァ」
「死ねモヤシ」
ミサカネットワークで流行りの漫画ネタを使ってみるもあっさり反射をくらう。
ムカつくけどこういうやりとりは嫌いじゃない、と少女は思う
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:37:49.84
ID:0vUqFmHU0 「おそかったじゃん。天気もいいし寄り道でもしてきたじゃんよ?」
「コイツ歩くのやたら遅ェんだよ」
「杖ついてる人に言われたくないな」
「番外個体!今のはもしかしたら歩行が不自由な人たちに失礼な発言なんじゃないかなってミサカはミサ」
「あ、クソガキの言ってた変なクマの菓子買うの忘れたわ。…ラリックマだったかァ?」
「もうっもうっ違うっ!ひどいってミサカはミサカはそんな危ないクマさん知らない!」
「でもあれって中身おっさn」
「違うもん!ってミサカはミサカは番外個体の幻想をぶち〈ピー〉してみる」
「ほらみんなちゃっちゃっと手あらって手伝うじゃん!」
炊飯器料理で手伝うことなんてたかが知れてるのだが、打ち止めは素直に台所へ向かう。
一方通行はとりあえず買ってきたスチール缶達をせっせと冷蔵庫に押し込む。
番外個体はソファーで芳川が寝ていたため、パソコン机の椅子に座ってテレビを見る。
ブルーシート
家族連れ
何故かスーツ姿のサラリーマンたち
どこにでもいそうなカップル
バカボンみたいな酔っ払いのオヤジ
背景は桃色の木
『去年は全国的に開花が早かったのでみなさん少し肌寒い中での―』
「学園都市でもお花見ってあるのかな?」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:42:28.63
ID:0vUqFmHU0 カーテンの付いていない小窓から月が見える。
布団の中で今日の事を振り返る。
8時過ぎ位にトイレ行ってもっかい寝て、朝昼兼用のごはんを食べて、
あいつのコーヒーにスティック砂糖たくさん入れて楽しかったな。
ちびっ子は昼寝して
誰かさんのお使いに仕方なく付いていってやって疲れたな
―もう少ししたら、もっと綺麗に咲くんだろうな
コンクリートや金属ばかりの薄暗い場所
出たところは寒くてどこか濁った白の景色
そこで見た憎くて仕方のなかった紅い瞳
暖かくてみんなと過ごす明るい場所
曇ったり晴れたり雪が降ったり、雨も降った街並み
毎日見る愛しくて嫌いなウサギみたいな瞳
不思議なもんだな、生きてるのって常に何かが変化していくような気がする
桜なんてただの植物なのに、いつの間にかそれに心奪われた自分になっている。
好奇心は膨らむ。
もっとも、シーズンにはまだちょっとかかるみたいだけど
みんなでお花見したいなあ
あいつも仕方ないからつれてってやろうかな
あ、もう寝そう…
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:46:01.82
ID:0vUqFmHU0 「人が多いし、そもそも研究しかしてこなかったから子どもの頃以来かしら」
「実はミサカもやってみたかったってミサカはミサカは今からもう楽しみ!」
「今年は結構暖かいから早めに見れそうじゃん」
みんな結構乗り気になってくれてる。良かった。
ふと硬質で軽い足音が廊下から聞こえてくる。
そしてガチャリ、と。
「何だお前ら今日早ェな日曜なのに」
「ミサカ達じゃなくて自分が起きるの遅すぎるって自覚は無いわけ?」
カフェイン求め冷蔵庫へ直行する一方通行。
「今ね、番外個体がみんなでお花見行ってみたいって言ってくれたからあなたも行こう!ってミサカはミサカはさりげなくあなたに抱きついてみたり」
「あっち行けクソガキ」
…なあにいつもの事だ。ただ子どもが甘えてるだけだ。そもそも嫉妬とかする理由もないし。イラついたりなんかする訳もない。
「まあ1人はぶられる学園都市第一位とか惨め過ぎて腹よじれてミサカ死んじゃうかもしれないし、仕っ方ないからあなたも」
「お花見ィ?人多そうだし行くならテメェらで行って来い」
えっ…
「またまたホントは行きたいくせにわかってるんだよってミサカはミサカはそんなクールぶってるあなたをほほえましく感じたり!」
「テメェは俺の保護者ですかァ!?つーか別にそういう」
「私も人ごみは苦手な方だけどみんなで行ったらきっと楽しいわ。久しぶりに外に出たい気もするし」
「じゃあ今すぐそこの窓から外の世界に飛び出せよクソ二―ト」
「打ち止めも番外個体もあんたに来てほしいって言ってんじゃんよ。恥ずかしがっちゃって」
「あ、えっいや別にミサ「そうだよ、みんなでいこうよーってミサカはミサカは上目づかいであなたの袖を軽く引っ張りながら頼んでみたり!」
「あーハイハイわかりましたァー行きますゥ。でも余酔っ払いの面倒はゼッテェ見ねェ」
あーもう死ねよロリコン。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:49:28.75
ID:0vUqFmHU0 《というわけで今度上位個体たち+ロリコンとお花見行くんだけど良い場所ない?》
《お花見とは羨ましいです。ミサカ達も行きたいのですがさすがに同じ外見の個体がたくさんいる所を一般人に見られては困るので断念します。クソっ》
《学園都市内ならば第6学区のあの噴水の周りの桜が絶景でスポットになっているようですよ、とミサカは丁度今読んでいる雑誌の特集を参考に伝えます。ちなみにミサカは他の個体より明らかにスタイルが良いので特に見られても問題ありませんが》
《一方通行はオワコン》
《そういえば常盤台中学の校庭の桜が春には絶景らしいですよ》
《お姉さまとお花見したいなあ》
《お姉さまにはもれなくアレも一緒でしょうけどね。こわい》
《さりげなく19090号がうざいですね》
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:51:13.60
ID:0vUqFmHU0 《第6学区かあ。ありがとう。他にどこかある?》
《雑誌を見ると、他にも第五学区にもお花見スポットの公園があるみたいですが
何せ大学生ばかりでしょうね。19学区にもあるみたいです。》
《学園都市には昔から生きている桜の木は少なそうですね。開発され過ぎて》
《みんなありがとう!一応ネットワークで中継するから楽しみにしてて!》
《一方通行さんとお花見なんて羨ましいです痛っゴーグル引っ張りすぎた》
《この17600号の出番ですね、と静かに意気込みます》
《セロリたん!セロリたん!セロリたんぅううぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカk(ry》
《中継楽しみにしてます。ロシアにも桜があればいいのに》
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 11:55:45.76
ID:0vUqFmHU0 花見なんて柄にもないことをすると決定してしまったのは何日前だったっだろうか。
わざわざ深夜にコーヒーを買いに歩いた帰り道。桜の木が並ぶ通りで、少しずつ花も開き始めていることに気づく。
外灯の弱弱しい明りを受けて仄かなピンクを暗闇に浮かばせている。
まさか自分がこんなものを美しく感じる日が来るなんて思ってもいなかった。
実験に次ぐ実験、世の中が馬鹿げたものばかりだと思い込んでいたあの時よりは健全な感性になりつつあるのだろうか。
まあでも今更”普通”になんてなれないのは知っているつもりだが。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:00:49.97
ID:0vUqFmHU0 楽しみじゃない、訳では無いと思う。多分。でもやっぱりどこか気恥ずかしいのと、なにより一万人以上の命を奪い去ってきた自分が、
こんな呑気に心地よい生活を送っていることへの罪悪感はぬぐえない。
打ち止めや10032号には、その命たちも、守ると決めた妹達も自分に対して恨みはもう無いと言われる。
だけどそういう問題ではないと彼は考えているのだ。
この幸せの裏には後ろめたさが付きまとう。きっとこれは一生付き合っていくしかないのだろう。
やるせなさから逃れようと、ふと見上げてみる。
「今日はやけに星が多いなァ」
涼しい真夜中のそよ風。
もう学園都市は完全に春を迎えつつあった。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:04:18.40
ID:0vUqFmHU0 「…夜中にコーヒーなんて、あなた受験生ってやつ?けけけ」
いちおう足音のベクトル操作で起こさないように気を使ったつもりだったのだが、何でコイツが起きているのか。
ビニール袋のガサガサ音はそのままだったからそれか?油断した。
「悪ィな、起こしたか?あと何で俺の部屋の前にいるんですかァ」
「ううん。なんとなく眠れなかったからあなたの寝顔をネットワークに配信してやろうかとでも思ってさ☆」
「コラ」
もうこいつは憎悪の感情はミサカネットワークから拾っていないはず。
なのに何なんだこの俺限定の嫌がらせ好きは。それでも俺がしたことに比べれば可愛いものだが。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:06:21.90
ID:0vUqFmHU0 「嫌がらせは正面から正々堂々ヤるもンだろうが」
「いやケンカと同列にされてもミサカ意味わかんないし」
確かに今のは失言だったのかもしれない。ちょっと恥ずかしい
「コーヒーばっかり飲んでるから夜更かし人間になるんだよ。仕方ないからミサカも半分飲むよ」
「いやこれブラックですけど飲めるンですかァ?」
「わかんないけどあなたの好きなものはミサカも好きになりた…いわけないから!ふざけんな!」
よくわかんないけどいきなり切れた。ちょっとびっくりした。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:07:55.47
ID:0vUqFmHU0 「あなたの好きなものはミサカも好きになりた…いわけないから!ふざけんな!」
あれ…。なんでミサカ切れてるんだろう。ていうか何を言いそうになったのだろう。
なんでこんな必死になってるんだろう。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:09:40.42
ID:0vUqFmHU0 ベッドの上。
カーテンの無い小窓から見えた夜空には星がたくさん光っていて、
なんだかしばらく見ていて飽きなかった。
いつもならもう寝てる時間なのに。
お花見楽しみだなあ、その日はどんな1日になるんだろう、あの人はお花見楽しんでくれるのかな、
なんて考えてたら、一方通行の顔が見たくなった。どうしてだろう。
気づいたら部屋の前にいた。わかんないけど夢遊病ってやつ?
でもなんかやっぱり恥ずかしくなって踵を返そうとしたら
コンビニ袋を持った一方通行と目があってしまった。
足音全く聞こえなかったんだもん。気づくかハゲ!
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:11:14.41
ID:0vUqFmHU0 「良く分かんねェけどコーヒー飲みてェならやるよホラ。
でも眠れなくなるから寝て起きてから飲め」
2缶くらいぽいっと渡された。
「俺はともかくオマエは長生きしてェなら健康に気ィつけろ。早く寝ろよ」
部屋に戻ろうとする一方通行。急に心臓あたりがキュっとなる。
やっぱり身体に負担がかかってるのかな。早く寝なきゃ。
でも、やっぱり
「一方通行」
「あン?どうした」
「…ちょっとミサカの話相手になってよ。どうしても眠れる気がしないからさ」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:15:36.00
ID:0vUqFmHU0 「苦っ!うへぇー…」
こんな夜中になぜか一方通行の部屋でコーヒーを飲む番外個体。
ベッド脇にあるスタンド式のオレンジの明りをつけているだけだが結構明るい。
「お子様はおとなしくジョージアオリジナルでも飲んでろ」
「ミサカが子どもならあなたも子どもだよ!外見的には」
あくまで”外見的には”であって番外個体の実年齢はまだ1歳ですらないのだが。
一方通行は大人を自負しているのでそんなところには突っ込まないでおく。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:18:12.28
ID:0vUqFmHU0 「にしても珍しいなァこの状況」
「…最近ミサカは寂しいってことを感じるようになったんだよ」
「寂しい…ねェ」
「あなたも寂しいとか、たまには感じることあるでしょ?」
かつて自分が命を狙おうともした上位個体。
彼は彼女と離れ離れになったあの時位はこの感情に似たものも抱いていたのではないだろうか。
「…俺がどう思っていたところでそんなの口に出せる性格じゃねェ」
訊くまでもなかった。上位個体にぞっこんのロリコンめ。
でも、でも、羨ましいな。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:21:53.26
ID:0vUqFmHU0 「じゃあさ…」
「おォ?」
「もしミサカがいなくなったら、あなたは少しでも寂しがってくれる?」
なにを言っているんだこのミサカは。
恥ずかしくてたまらない。でも不思議と後悔はしない。
この人ならどう思っているかわかっている気がするから。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:27:57.52
ID:0vUqFmHU0 「なんでこんな花見の名所なのにわざわざ殆ど桜の無い場所にいなきゃならないんですか!
場所取りもろくに出来ないとかさすが超浜面ですね!」
「これでも早起きして急いだんだよ!ていうかなんだ今年の人の数は!」
「もっと早くに並ばないと超良い場所なんかとれるわけないです!ねえ麦野」
「まあ何故か今年は雑誌でもやたらと特集されてたしね。
それよりシャケ弁早くシャケ弁」
「ああそうですか麦野は超花より団子なんですね…」
「俺が言うのもなんだけど花見にシャケ弁ってどうなの…」
「何よ文句あんの?」
「大丈夫。私はウイスキーにシャケ弁の組み合わせなむぎのを応援してる」
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:31:19.18
ID:0vUqFmHU0 「~ってミサカはミサカは―
(御坂…?)
「どうしたの?むぎの」
「…いや何でもないわ、ってか絶対酒足りないって!」
「いや俺とお前しかのまねーしそんなにあっても…」
「とにかく一緒に買いにいくわよ。ほら」
「え?いや、ちょ…」
「むぎの、だめ、ぜったい」
ここは第6学区、大櫻林の園。
今年はまた例年にも増して絶賛満開中である。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:33:48.68
ID:0vUqFmHU0 「すごーい!すごーい!見わたすかぎりピンク色だよって
ミサカはミサカはすごく感動!」
「すごいわね…たまには外の空気も悪くないわ」
「しっかしこりゃすごい人じゃんよ…
こんな場所取れるなんて一方通行もなんだかんだ張り切ってたじゃんか」
「別にィ。つゥかお前らすごいしか言えねェのかよ」
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:41:13.51
ID:0vUqFmHU0 びっくりした。
思ってたよりずっと鮮やかで言葉を失う。
この前のテレビの歌番組の春の歌特集、
”さくら”だの”桜”だの”SAKURA”だのという曲の多さにかなり笑えたが、
やっぱり理由があったんだなと思う。
そして周りにはそれを見ながら楽しそうに語らう、
名前も知らない人たちの笑い声。
ずっと学園都市は汚くて氷みたいに冷え冷えとした凍てつくイメージが強かった。
でも、柔らかい日差しに逞しく大地に根を張る樹、
はらはらと舞う薄紅色の雪は冷たくない。
むしろ―
「春って、あったかいんだね」
何かが少し、融けた気がした。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:47:11.84
ID:0vUqFmHU0 まァ寒かったら雪は融けねェしな
なんてつっこみをするのはさすがにちょっと言わないでおく。
とは言え一方通行も番外個体と似たような感情を抱いている。
この学園都市の裏で生き抜いてきた人間としては、
憧れていた表の世界の一部を少しでも感じることができるのは素直にうれしかった。
打ち止めも番外個体も、他の妹達も、
これからは出来るだけこの陽の当たる場所で生きていて欲しい。
もっとも、自分なんかがそう願う資格があるのかはわからないが。
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:51:19.07
ID:0vUqFmHU0 『もしミサカがいなくなったら、あなたは少しでも寂しがってくれる?』
いつかはいなくなるんだって、認めたくはないけどわかっているつもりだ。
番外個体は他の妹達に比べても急速な成長をさせられたため、
いくら調整を受けたところでとても人並みの寿命を得るのは難しいと冥土返しが言っていた。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:52:59.35
ID:0vUqFmHU0 もともと生まれた時は自分に殺されるか、
自爆するかの2つしか選択肢がないとされていた人間だ。
長生き出来ないというのは本人が1番わかっているはず。
しかし今やそんな誕生の背景など関係ないし、
現に楽しそうに暮らしている。
せっかく幸せになれそうなのだから、いっそ出来るだけ長く生きていて欲しい。
いやそれ以前にやはり、自分の大事な人には幸せでいて欲しい。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 12:54:33.65
ID:0vUqFmHU0 また似合わねェこと考えてンなァ
いい加減目の前のおにぎりを食べようと手をのばす。
その手の先の方を見わたす。
「この焼きおにぎりすごくおいしいよってミサカはミサカは食が進む!」
「この焼きおにぎりは私がスイッチ押したのよ」
「やっぱり炊飯器は最強じゃん!あっそこの竜田揚げも自信作じゃんよ」
「ちょっとみんな食べてばっかりじゃなくて桜も見ようよ!花を見てるのミサカだけっておかしいでしょ」
そこには彼の大事な人たちの幸せそうな笑顔があった。
…いや焼きおにぎり炊飯器っておかしいだろォ…
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 13:00:05.99
ID:0vUqFmHU0 「あんなにきれいだったのにもう散っちゃうんだね」
夕方、つい最近まであんなに咲き誇っていたコンビニまでの道の桜。
昨日の多雨が影響したのか、花びらはもう殆ど地に落ちている。
たまに通る自動車のタイヤが雨水で汚れた桜を踏みつぶしていく。
見る影もない姿になった花びらを見て思い出すのは、
あの視界を淡く染め上げた生命力あふれる光。
存在していた証を果てしない時を経て、
小さな窓から自分にその光を伝えていた星。
星空。
自分は死ぬまでに、何か生きていた証を残せるのだろうか、と考える。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 13:02:29.12
ID:0vUqFmHU0 「桜は一瞬だから輝くことが出来るって、黄泉川のヤロォが言ってた」
「他人の受け売りりしても似合わない言葉吐くね。
ミサカ鳥肌やばいんだけど」
「黙れ」
ひどい。
ミサカは鳥肌まで立たせられたのにあんまりの仕打ちだ。
でも、あのときミサカに言ってくれたこと、うれしかったなあー
それだけでもうずっと、幸せでいられる気がしたんだ。
もしミサカがいなくなったら、あなたは少しでも寂しがってくれる?
―…アッタリマエだろォが。お前は俺の守るべき人間だから―
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 13:05:04.22
ID:0vUqFmHU0 以上で終わり
拙い文ですまなかった
新約のネタバレスレをみて我慢できなくて書いた
新約をきっかけに番外通行ファンが増えて欲しいと説に願う
最後にもあいは俺の嫁
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 13:18:23.87 ID:12Q1hG/e0
乙40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 13:03:51.05 ID:U06Nq4OE0
百合厨の俺がこんなSSにひきつけられるなんて……ビクンビクン43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03 /09(水) 13:20:42.94 ID:PwIj7H8Z0
乙
追いついたら終わってるなんて…
番外通行大好物また書いてくれ
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