前→
上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:11:13.88 ID:4+0lHM3x0
クリスマスを過ぎ、俺とインデックスは変わらず一緒に居る。
大事な家族として。
年末、実家に帰る際にインデックスを小萌先生に預けるか迷ったが、結局俺はインデックスを連れて行った。
記憶にはないけれど、父さんと母さんはお人好しだってことはよくわかっている。
息子が預かっている異国の女の子、それも素性も知れない子を受け入れてくれるんだから。
白くて小さくてふわふわとしたインデックスを特に気に入ったのは母さんだ。
母さんは息子の俺から見てもお嬢様のようで、インデックスと二人でいると何だか和んだ。
父さんはインデックスに「ぱぱさん」と言われた瞬間に陥落。チョロ過ぎるぞ親父ェ…
寮に戻り、学校が始まり、そしてあっという間の一月を越え、二月に入った。
既に三年生進級が決まっている俺は、気が抜けていた。
小萌先生に呼ばれたのはそんなある日の放課後。
補習かと身構えたが、先生が呼び出したのは生徒指導室。
「放課後の夕暮れ時に女教師に生徒指導室に呼び出される……カミやんばっかりずる過ぎるで!!」と騒ぎ立てる青ピをスマッシュで沈めると、俺は向かった。
先生から切り出されたのは大学進学についてだった。
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:11:56.35 ID:y2e9mxCN0
へ?大学?
あっはっはっはっは~上条さんじゃあ無理無理~無理ですよ。入れても三流大学でしょうし。
じゃあもう働こうかな~って……先生?
先生は真面目な顔で、俺を真っ直ぐに見つめてくる。気のせいじゃなければ、若干怒っているようにも見える。
「卒業したらシスターちゃんをどうするつもりですか?」
え?インデックス?イギリスに帰すのかって?いや、俺にそんなつもりはない。出来れば、ずっと卒業してからでも一緒にいたい。
守るって約束だってしてるし、何よりも俺がアイツの側にいてやりたい。
本当は働こうとしてるのも、インデックスを養うため。
イギリスからの援助金と両親からの仕送りで、インデックスを養うこと自体は前のように特に大変というわけじゃない。
けど、インデックスと一緒にいるのも、守ると決めたのも、全部俺の意思であり、独断だ。
だから、両親にインデックスの分まで金を出させたくはない。
それに、イギリスの、インデックスをずっと縛り続けていた場所からの援助に頼りたくないというのがどこかにあった。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:12:46.78 ID:y2e9mxCN0
俺は、俺だけの力でしっかりアイツを背負っていきたいんだ。
こういうのってアレかな、娘を自分ひとりで立派に育ててみせる、みたいなもんかな。
照れくさくてそんなことは言えないけどさ。
先生は呆れたように、そして失望したように眉を顰めた。
こんな顔、テストで補習の補習を受けた時でもなかった。
「守る?上条ちゃんがですか?」
先生の声に、何処か怒りと苛立ちが浮かんでいた。
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:15:06.91 ID:y2e9mxCN0
「上条ちゃん。上条ちゃんはお友達に常盤台の子がいましたよね。そうです、超電磁砲ちゃんです。
だから聞いたことがあると思うのですが、常盤台の教育レベルはとても高いのです。
アレを教育レベルが高いという言葉で安易に片付けてしまっても良いのか疑問ですけどね。
ですが、意外に知られて居ないのは、その進学率です。一体幾つだと思いますか?
100%?違うのです。もっと低いのですよ。
70?いえいえ、もっとです。
ええ、今、まさかという顔をしましたけど、常盤台の進学率は50%、ないしそれを下回る年もあるのです。
勿論、あそこに通っている子達は頑張り屋さんのいい子ちゃん達なので、働かずにぶらぶらするなんてわけはありません。
ただ、彼女達は、高校で学ぶべきものがないと見切りを付けてしまうのです。
というよりも、高校や大学での勉強を既に終了させてしまっているというべきでしょうか。
そうです、聞いたことがありますよね。
理由は沢山あります。経済的な事情というのも悲しいことですがあります。
しかし、基本的には彼女達の意思によるものです。
常盤台の子達を即戦力として迎え入れたい研究室や企業は沢山あります。
常盤台卒の社員を雇っているというだけで箔が付くくらいなのですから当然ですね。
彼女達の多くは明確な目的意識を持って社会に飛び込んでいきます。
いくら常盤台といっても15歳の女の子達が社会で生きていくのはとても大変なことです。
そして、それを想像できないような子達でもありません。それでも、彼女達の半分はその中に飛び込んでいくのです。
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:16:27.55 ID:y2e9mxCN0
進学したくでも出来ない子達は沢山います。
才能を持った子が、自分の才能の使い道をしっかりと認識している子が、家の経済事情の為にその道を諦めた姿を先生はいっぱい見てきました。
力になれたこともありますし、なれずに悔しい思いをしたことも沢山あるのです。
勿論、大学に進学するのではなく就職をすることは悪いことではありません。
大学に行けなさそうだ、難しそうだ、じゃあ就職でいいや。そんな理由で選ぶことが悪いことなのです。
上条ちゃん、今話した常盤台の子と、上条ちゃんが社会で出会ったとします。
同じ18歳。
向こうは大学院までの知識と技術を身につけ、明確な目的意識を持って仕事に就き、上条ちゃんよりも社会人として3年もキャリアの差があります。
上条ちゃんはそんな子達と同じ『社会』という場所で戦えますか?対等に向き合えますか?
――――― シスターちゃんをちゃんと守っていけるんですか?」
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:18:32.62 ID:y2e9mxCN0
色々言いたいことはあるはずなのに、俺には何も言えなかった。
先生の言ってることが痛い程よくわかったってのもある。
自分が実際のところ社会に出てやっていけるなんて自信がないのも確かだ。
でもそれよりも、先生の言葉の最後に隠された続き、きっと先生は『守っていけるわけないです』と言おうとしていたんだろう。
それがわかって、俺は何も言えなかったんだ。はっきりと断言出来ないから。守っていけると。
だって、本当は無謀だってわかってるんだから。俺の下らない意地が、見栄が、全部見透かされたみたいで。
「上条ちゃん、上条ちゃんはさっき、勉強が出来ないからいけるわけないって言ってましたけど、それは違うのですよ」
先生は、厳しい顔を一転させて、いつもの優しい笑顔で言った。
「上条ちゃんのこの一年間の頑張り先生はずっと見てました。だから断言できます。上条ちゃんは大丈夫です。頑張れます」
先生は、少し困ったように目尻を下げる。
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:20:02.98 ID:y2e9mxCN0
「それにですね、この学校は常盤台と違って、単なる平凡な学校です。
良い子ちゃんばかりですが、そんなこと社会は知りません。知ろうともしてくれません、悲しいですが。
だから、当然世間はこう上条ちゃん達を判断します。
『勉強も大して出来ないから就職したのだ』と。そういう先入観で見るのです。
大学にとりあえず行っておけというのは、先生嫌いです。
でも、そんなレッテルを一つ剥がすことで、どれだけ楽になるのか。
そのレッテル一つでどれだけ苦労するのか、先生は見てきました。
だから、行ける子達には先生はいつも言うようにしてます。
頑張って、大学を目指して下さい、って。
やりたいこともないのに大学に行くのだったら行っても行かなくても同じなんていう人がいますが、それは大嘘なのです。
行くことで、負う必要の無い苦労があるのなら、行くべきです」
先生は、ぎゅっと俺の手を握る。小さくて柔らかい手なのに、どうしてか俺の手よりもずっと頼り甲斐のある手。
何でか安心してしまう手。インデックスに握られる時とは違う、落ち着く温かい手。
「もう一度聞きます。上条ちゃんは ―――― 」
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:26:32.10 ID:y2e9mxCN0
家に帰ると、甘い香りがする。
甘い香りはキッチンから部屋中に満ちている。
「おかえり~とーま」
インデックスがニコニコと笑って出迎えてくれた。
いつものように駆け寄ってくるインデックスの頭をなでてやる。
さらさらとした髪をなでてやると、それだけで疲れが吹き飛ぶ。
インデックスが、カップを持ってきた。
一瞬コーヒーを淹れてくれたのかと思ったが、口に近づけてから甘い香りがした。
どろりとした黒い液体。
一口、とろみを帯びた液体を飲む。
温かく、喉をゆっくりと滑り落ちていくソレは甘く、優しく口の中に広がる。
コーヒーではなく、それはチョコレートだった。
寒さと疲労に強張っていた身体が甘さと温かさでゆっくりとほぐされていくようだ。
固く絡まっていた糸が解かれていくように、身体にチョコレートと、ミルクの柔らかい甘さが身体中に染み渡る。
ああ、と思わず声が漏れた。インデックスがちょこんと隣に座ってそれを見てくる。何だか照れくさいな。
インデックスは、悪戯が成功したように、嬉しそうに笑う。
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:27:32.33 ID:y2e9mxCN0
「今日はバレンタインデーなんだよ」
それでこれか。そういえば、今日は学校でチョコレートを山ほど貰った。
くれた子達に理由を聞く前に、追い掛け回されて気付かなかった。
そっか、バレンタインデーか。
へへへ、嬉しいな。正直、スッゲー嬉しい。
あのインデックスがくれたってのが嬉しい。
親愛のチョコレートだとわかっているのに。
それでも、ついつい顔がにやけちまう。
「とーま、美味しい?」
心配そうに聞いてくるインデックスに、俺は飲み干したカップを差し出す。
おかわり。
そう言ってやると、インデックスは満面の笑みを浮かべる。
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:28:17.56 ID:y2e9mxCN0
白い雪のような頬を赤く染めて、はにかむように笑う。
この笑顔を一番側で見ていたい。一番側で守りたい。
そう願う。心から強く願う。
願い過ぎて俺は焦ってたんだ。
コイツの側にいたい。誰の力も借りずに、俺の力でコイツを守り抜きたい。
そうだ、俺の力だけで……って俺何でこんなにムキになってるんだか。ホント、意地張っても仕方が無いってのになぁ…
俺はその夜、外に出ると言って両親に電話をかけた。用件は一つだけ。
大学に通いたいという意思表示。
いや、そんなアバウトなもんじゃねぇ、これは所信表明だ。
それから、コレは完全な俺の自分勝手。我が侭。
インデックスといたいから、大学に通うことになっても仕送りをお願いできないかということ。
無理ならバイトでも何でもしてやる。最大教主ってのを失ってバタバタしてるらしいイギリスにいつまでインデックスの生活費やら諸々の援助を期待できるのかもわかんねぇ。
最悪、それを縦にインデックスを返せだとか言ってくるのかもしれない。
そんなことはさせない。アイツを物扱いするあんなところに渡してなるものか。
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:28:44.61 ID:y2e9mxCN0
けど、俺の心配は完全な杞憂に終わった。両親は二つ返事で承諾してくれた。母さんに至っては、最悪インデックスだけでもウチで預かっても良いのよだとか言い出す始末。
それじゃあ意味ねぇよ!!上条さんが頑張る理由なくなっちゃうから!!
けど、懸念材料はこれで無くなっ………
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
あった!あったよ!!ありました!!!
先生が進めてくれた大学のランクを見る。
中の上という扱いだ。中の上………上条さんは下の下の上ってところだよな……
最大の懸念材料がこんなところにあるとはな……
くそぅ……それこそが難関中の難関じゃねぇか……
ハァ……
俺は携帯を開くと、電話をかけることにする。
一番頼りになるヤツだ。
おそらく力になってくれるだろう。
また借りが出来るんだけどさ……
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:29:36.51 ID:y2e9mxCN0
とーまはお外で電話をしてるみたい。
丁度良かったんだよ。私も電話したかったから。
とーまは多分しいなにかけてるんだと思う。お金のことだろうけど、そんな心配いらないんだよ。
とーまはお馬鹿さんだけど、頑張り屋さんだからきっと大丈夫。
この一年、家事以外にも機械の使い方を少しだけ身に着けた私には最早携帯電話の通話なんて朝飯前なんだよ!!
ぷるぷる~って音の後に繋がる。
『シスターちゃん、こんばんはです』
こんばんはなんだよこもえ。それからありがとう。とーまに言ってくれたんだね。
『いえいえ、先生も上条ちゃんの為には大学に行って欲しかったですから』
そうだよね。私もこもえに教えてもらったんだもん。とーまが働くつもりだって。
この国の社会通念。慣習。それを知るようになった私には、それがとーまを更に苦労させちゃうことだってわかってた。
だから、ゾッとしたんだよ。
とーまがまた背負い込んじゃうって。また、私のせいで。
だから、お願いした。こもえに。私のせいでとーまが苦しむのは嫌だから。
とーまの人生を歩いて欲しいから。
とーまが私の為にそうしようとしてくれているのは、正直……凄く嬉しいんだよ。
だけど、それととーまが自分の人生を私の為に損なうのは違うかも。
それに、私は………
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:31:19.13 ID:y2e9mxCN0
わたくし、上条当麻は今とてもシュールな光景を目の当たりにしているのかと思いますです。
「チッ……ボッタくりやがって。この程度の内容量で2000円も取ってンじゃねェよ」
あの…別にわざわざ買わなくても…高いし…
「あァ?テメェ受験する気ないンですかァ?落ちる気マンマンですかァ?死にますかァ?」
酷い!!そこまで言いますか!?
だってよ、お前学園都市最高の頭脳だろ?だったら、歩く参考書みたいなものじゃないのでせうか?
と言った瞬間に、ベクトルでこピンくらいました。吹っ飛びました。本棚崩れました。
一方さん……ツッコミキツイッスよ……
本屋さんに謝り倒し、本棚を戻し、お詫びに1万円相当参考書を購入。
向かう先は上条さんの寮。
紙の束は鬼のように重く、当然の如く買い溜めした一方通行の缶コーヒーの袋も何故か上条さん持ち。
寮に着いた時にはもう腕が限界寸前。
インデックスが心配して入れてくれたお茶を飲みながら、恨みの視線をぶつけるも、当の学園都市の白い悪魔はぺらぺらと参考書を捲ってこっちはスルー。
「いいか、確かに俺は学園都市最高の頭脳だ。
この程度の内容なンざ小学生の頃に終わらせてる。まァ小学校通ってなかったけどなァ。
だが、俺は教え方まで学園都市第一位じゃねェ
テメェにわかりやすい指導なンざ出来ねェし、するつもりもねェ」
指導放棄ですか!!せっかく見つけた家庭教師が勉強開始前に指導放棄ですか!?
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:32:46.45 ID:y2e9mxCN0
「最後まで聞け。だがな、この参考書に沿って、効率の良い勉強法を提示してやることは出来る。
わかりやすく言やァ、何処を狙ってくるかのパターンを特定できるってことだァ
受験は知能よりもテクニックと要領だって言ってたしなァ」
誰が?
「芳川だ」
ああ、あのアンニュイな美人お姉さんですね。てか、お前らそんな会話するの?
「ピロートークなンざ大体くだらねェ内容だったりするもンなンだよ」
そういうものですか。で、インデックスは何読んでるんだ?
「英語なんだよ」暇つぶしにね、と笑う。
本の虫だな、手当たりしだいにですか。でもお前英語の本なんか今更読んでて面白いの?
「うん、何だかね、無理に英語を分解して解説してるのが変で面白いんだよ。
例文もシュールだったりユーモアたっぷりだし。
『あれは冷蔵庫ですか?』なんておかしいかも」
「いいえ、あれはていとくンですゥってかァ?………あァ、そうだな。オイ、インデックス」
「どうしたの?あくせられーた?」
「お前完全記憶能力だったよな。だったら、その英語…つーか受験英語を覚えてやれ。あと歴史もついでにな」
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:33:53.96 ID:y2e9mxCN0
「そっか、そうすればとーまの役に私も立てるね」
「理系は俺に任せとけ。内容も大体把握した」
上条さんの目の前で持つ者同志の会話が展開していく。
本人を差し置いて、立てられて行く勉強スケジュール。
って、ええェ?睡眠時間が4時間って……
追い込む時期に急に徹夜じゃ保たないから徐々に?
………
…………減る?そこから減っていくのですか!?
いや、何で二人してにっこり笑うのですか?
一方さんの笑顔怖いのですが………
その日から白い悪魔が二人に増えた。
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:34:44.50 ID:y2e9mxCN0
中途半端に書き溜めてる分も投下しちゃいたいので、一時間後に残りも投下しちゃいます。
というわけで、ちょっと一区切り。
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 20:23:48.07 ID:syEC77wIo
小萌ちゃん、いい先生だな。
でも、その言葉が通じる上条も並みじゃねえよ。
説教するのはいい大人、それが通じるのはいい子供。134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 19:54:02.55 ID:XUYFV5rAO
乙。続きも期待して待ってる
だがちょっと待って欲しい
>>131
>「ピロトークなンざ大体くだらねェ内容だったりするもンなンだよ」
…え?
>ピロー‐トーク【pillow talk】
>夫婦・愛人どうしが寝室で交わす会話。睦言(むつごと)。
…え? 137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 20:45:11.14 ID:xhQ//ZhDO
ピロートーク…だと…
何なんですかァ?
ベクトル愛撫とかしたゃうンですかァ? 138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 20:57:39.73 ID:IlfkW4rC0
一時間なんて嘘吐いてました。
一方さんは別にニートさんと恋人じゃありません。
投下開始します。
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:02:29.62 ID:IlfkW4rC0
珍しい顔があるものだ。
ゲコ太の絵本があるという噂を聞きつけて図書館に来てみれば、あり得ないヤツがいた。
ツンツン頭のあんにゃろうだ。
ゲコ太の絵本探してる姿なんて知り合いに見られたら死ねると思ってたのに、よりにもよってアイツだ。
高校生にもなって、子供趣味が抜けないことを黒子はとやかく言ってくるけど、いいじゃない好きなんだから。
私が高校生になって、最初の夏が来た。
一人暮らしって最高だと高校に入ってから思った。
友達とか妹を気軽に呼んでお泊り会とか出来るし、恥ずかしくて飾れなかった小物(ゲコ太)や、ぬいぐるみ(主にゲコ太)を部屋に好きなだけ飾れる。
だって一目を気にしなくてもいいわけだし。
友達は彼氏とかを呼ぶ時の為に部屋に置くものには常に注意を払っているみたいだけど生憎私にそんな相手はいない。
そりゃあ、カッコいいヤツは結構多い。
彼氏に相応しいだの、お似合いだの冷やかしてくるような男は事欠かない、高校が高校だけにね。
デートにも何回か行ってみた。友達がセッティングしただけなんだけどさ。
でも、結局感情が伴ってないわけなのよね。
だから、強引にセッティングされたデートなんかじゃ全然その気になれない。
私の気持ちはいつまでもあの馬鹿に向いたまま。
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:03:52.41 ID:IlfkW4rC0
いっそ離れてしまえば、この気持ちもほろ苦い初恋の思い出になってくれるんだろうけど、そうも行かない。
私の通う高校、長点上機学園は学園都市内に当然あるし、アイツは高校二年から三年に上がっただけ。
黒子は私が長点に入ったことにビックリしてた。
アイツの通う高校に入るって思ってたみたい。馬鹿ね、流石にそこまでしないわよ。
自分の夢、将来と恋愛をごっちゃになんてするほど馬鹿じゃないわよ。
私は自分ひとりで勝手に中学に通って、教育を受けていたわけじゃない。
色々な人の勝手なものもあるけど、期待を背負ってきた。
勝手に背負わされただけだったら無視するけどさ、そこから来る恩恵に甘えちゃったりしてたところも確かにあるんだもの。
それを全部反故にして恋に突っ走るなんて、そんなものケータイ小説だけに任せておけばいいのよ。
何より私には夢がある。筋ジストロフィーの研究。
本来私のDNAマップが使われる予定だった研究。
その研究をする為の環境としてはやっぱり長点しかない。布束さんの推薦もあったしね。
アイツへの恋も大事だけど、その為に蔑ろにしても良い程度の夢じゃない。
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:04:55.20 ID:IlfkW4rC0
それに、アイツとは結構あってる。無理矢理買い物にも付き合わせたこともあるし、ご飯を食べに行ったこともある。
街中でばったりってことなんてしょっちゅうあるし、姿を見かけちゃうとパブロフの犬みたいに条件反射で追いかけちゃう。
明確に告白もしないまま、結局私とアイツはズルズルと二年前と変わらない距離感を引きずったままだ。
会うたびに喧嘩を吹っ掛けることは無くなったけど、言う事は相変わらず可愛げがない。
こんな自分がどうしようもなく嫌で仕方が無い。
結局あの子とはそういう関係じゃないと、以前言っていた。
本当かしらとも思ったけど、私に嘘を吐いて意味のあることでもない。
ていうか、家族って……家族ねぇ~~ふぅ~ん……
まぁ、いいけどさ。
アイツに声をかけようか迷っている間に、アイツは目ざとく私を見つけて声をかけてくる。
アイツからスルーされることは激減した。
進展って言うのかしらこういうのも。
というよりも、理由は凄く簡単。私がビリビリしなくなったというだけの話。
そりゃそうよね。スタンガン持って怒りながら追いかけてくる女の子なんて、誰だって会ったら「ゲッ」ってなるわよ。
もっと早くそういうことに………例えば私が中二の頃とか、に気付いていれば、もっと変わったのかな。
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:06:11.80 ID:IlfkW4rC0
アイツは図書館で涼みがてら勉強に来たらしい。
アンタが図書館で勉強とかマジでありえないんだけど……ああ、アンタ今年受験生だもんね。
っていうか、大学行く気あったんだ。意外~え?何が意外かって?そんなもの決まってるじゃない。
アンタの学力で大学目指そうというつもりになったことよ。
エアコンが壊れてしまったって。何よその目。
言っておくけど別に私のせいでなったわけじゃないわよ。アンタいつまで中学生の頃の私のイメージ引きずってるのよ。
それにしても結構勉強してる感じよね。付箋だらけじゃないこの参考書。
え?怖い先生がいて、チェックテストが毎日あるって?
あのちびっ子先生ってそんなに怖いの?違う?じゃあ誰よ?
………
…………一方通行?
あ、ああ、あんた等仲良いものね。私としては複雑だけどさ。
でも、あんた等似たところ結構あって、気が合うかもね。
へぇ~……アイツが………
ね、ねぇ…アンタの勉強ちょっと見てあげようか?
アンタがやってるところくらいわかるわよ。
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:07:33.43 ID:IlfkW4rC0
図書館で御坂に会った。
そして今勉強を見てもらってた。
二歳年下の少女に勉強を教えてもらって……ってインデックスにも教えてもらってるなそういや…
泣きたくなって来た…
で、御坂先生の個人レッスンの感想ですが、率直に申し上げます。
わかりやすいです。ええ、とっても。
教え方だけで言えば一方通行やインデックスよりも上手い。
多分、元から天才だった二人と違って、積み重ねてきた結果高みに登り詰めたのがこの御坂美琴という少女だからだろう。
俺はお礼に、少し奮発してクレープを奢ることにする。
御坂は、奮発してクレープかよこの甲斐性なしという目で見てくるけど、うう……今はこれが精一杯なんですよぉぉ…
御坂は、憎まれ口を叩いたのは最初だけ、にっこりと笑うと「ありがと」と照れくさそうに言った。
インデックスの笑顔が綿菓子のようなふわふわとした甘い笑顔だとすれば、コイツは全く違う。
例えるなら、爽やかで華やかっていうのか?柑橘系っぽいっていうか……う~ん…とにかく違う。
ただ、共通してるのはスッゲー魅力的な笑顔ってことだろう。
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:08:15.57 ID:IlfkW4rC0
髪が伸びたんだな。横顔を見ながらぼんやりと思う。
御坂は高校生になって、なんていうか綺麗になったと感じる。
中二から高一ってそんなに変化するもんなのか、俺には未だにわからないけどさ。
でも、御坂はスッゲー綺麗になったと思う。
「え?ちょ、ちょと、あ、ああああ、アンタ何言ってるのよ!!」
あ、口に出してた。
ま、いいや。
うん、スッゲー綺麗になったな。前はお前可愛いって感じだったけど、最近は何か綺麗っていう方がウェイトでかいな。
って、お前顔真っ赤だなぁ。
免疫相変わらずねーな。何がって?いや、前聞いたんだよ白井に。
『お姉さまはシャイな方ですので褒め言葉に弱いのですわ。決して貴方如き類人猿に言われたから照れるわけではございませんのよ。
えー、そんなわけねーですの!!きゃおらぁ!!』ってな。
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:09:10.42 ID:IlfkW4rC0
「最後の『きゃおらぁ!!』て何なのよ……?」
え?膝蹴りですよ?
ええ、あのツインテールってば能力に頼ったドロップキックから、純粋な身体能力だけで上条さんを一撃で仕留めることが出来るようになっていらっしゃるようで。
「何か……ゴメン……」
いえいえ、上条さんは慣れてますのことよ、ウチには噛み付きシスターもおりますので。
いや、そんな目を向けないで下さい。別にインデックスとそんな色っぽい関係とかじゃないので。
告白?前にも言っただろ。アイツは家族。妹みたいなもんだって。
え?じゃあ他に彼女はいないのか?
ええ、残念ながら上条さんには彼女なんていないのですわよ。よよよよよよ……「じゃ、じゃあさ……」……よよよよって、ん?どした?
御坂は何故か真っ赤な顔のままで俯いている。身体の具合でも悪いのか?
何て聞くと「馬鹿」と即座に返されました何故にWHY?
「えっと…つまり、アンタは今…その、ふ、ふふふふ…フリーってことでいいのよね?」
まぁ、そうなるな。
彼女なんていねぇし。
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:10:15.91 ID:IlfkW4rC0
好きな女の子なんて……
…………いねぇしな。
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:12:48.32 ID:IlfkW4rC0
この嘘つき野郎。
このクソ嘘つき馬鹿野郎。
喉から出そうになる言葉を呑み込む。
コイツが誰を思っているのか何て顔を見てればわかる。
あの子の事を言葉にするときの優しい瞳。
アンタそれ、あの子専用になってるって知ってる?
どんだけ特別扱いなのよっていう話。だけど、私は今、それを知ってて言おうと決めつつある。
私は、多分人生最大の博打に出ようとしてる。博打とは言っても、負けることがわかっている博打。負けるための博打。
何でって聞かれたらわからないけど。
ただ、こうやって二人で肩を並べて、クレープを食べてるこの瞬間、私はふと、自分が場違いな落ち着き……
というか開き直りに至っていることに気付いた。
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:14:08.24 ID:IlfkW4rC0
まるでずっと探していたものが、ようやくではなくて、ふと見つかったような感じ。
あちこちの引き出しを抜いて、家具の隙間とかを覗き込んでも見つからなかった探し物が、
忘れた頃に何ともあっけなく見つかった時のようだ。
私自身が自分の中に、今存在する覚悟に戸惑っている。
ただ、私は今、この瞬間じゃなきゃ多分無理だ。
言えない。コイツに。
そう、これはきっとケジメなのだ。
このままズルズル行ってしまうことの限界に、私自身気付いてなかった限界に、先に反応したのは私の臆病さと勇気。
私は、胸の鼓動をどうにか鎮めながら、ずっと言いたかった言葉を口にする。
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:14:57.84 ID:IlfkW4rC0
「 」
夢の中では何千回と言ってきた言葉。
妄想の中でも言ってきた。
お風呂場で口に出しては反響する自分の言葉に赤面して。
枕に向かって練習してみては自己嫌悪にベッドの上を転がって。
自分には本当に言えるのかと、半ば疑っていた言葉は、するりと、舌に乗せるとあっけなく滑り落ちた。
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:15:43.79 ID:IlfkW4rC0
ただいま、と言うとインデックスが出迎えてくれる。
いつもどおりのインデックス。
いつもどおりの家族。
だけど俺はインデックスの顔が見られない。
テーブルを見ると、A4サイズの紙になにやら書きかけの英文。
インデックスは手作りの英語のテストを俺の為に作ってくれていたのだ。
ありがとうと言ってからインデックスの頭をなでる。今日は俺が食事当番だったなと、キッチンに向かう。
食事の用意をして、夕食に移る。
図書館で勉強してたら遅くなったというと、インデックスは「お疲れ様なんだよ、とーま」と可愛い声で労いの言葉を掛けてくれた。
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:16:14.01 ID:IlfkW4rC0
今日は御坂に勉強を見てもらったんだと言うと、「そうなんだ。短髪優しいんだね」と何でも無い事のように言う。
むかっ。
……むかっ?
何でイラついたんだ。そう思うものの、何でもない話題のようにインデックスは食事を続ける。
平静としている。いたって普通だ。
それがどうしてか面白くない。
少し前だったら、俺もああそうだったんだ、御坂っていいヤツだよな、と返して済んでいたのに。
俺は、平静ではないコイツを見たかったのだろうか。
どうして。
今日御坂とあったことが頭にずっと焼き付いてるせいか?
なぁ、インデックス…俺さ……
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:16:40.16 ID:IlfkW4rC0
御坂と付き合うことにしたんだ。
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:23:19.11 ID:4+0lHM3x0
夏が終わり、秋を経て、冬へと移る。
こう言うと、あっという間のことみたいだけど、事実あっという間のことだった。
一方通行とインデックスに加えて御坂を迎えた強力な講師陣による牽引作戦によって、わたくし上条当麻の成績はグングンと上昇!!
………等という事は無かった。
すぐに学力に反映されるということは無く、目を見張る成果を求め焦りながら、それでも俺は腐ることなく勉強に打ち込んでいた。
と言うよりも、ある意味それしかなかった。
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:24:46.04 ID:4+0lHM3x0
御坂と付き合うことにした。
インデックスにそう言ったのは半年も前のことだ。
インデックスは、少し寂しそうに笑うと、「おめでとう、とーま」と言ってくれた。
それから、腰に手を当ててお姉さんぶってこう付け加えた。
「でもね、短髪との交際にうつつを抜かして勉強を疎かにするようだったら、あくせられーたにおしおきしてもらうんだからね」
インデックスは、俺の言葉をそう言って、するっと受け入れた。
家族が、妹が兄の交際を素直に受け止めて祝福するように。
俺は、力が抜けそうになるのを覚えた。
何故だろうか。
どうして、俺はこんなにもどうしようもない喪失感を抱いてるんだろうかと、自分自身に問い掛けた。
しかし、いくら問い掛けてもわからない。
ただ、後悔だけが残った。
どうしてあんな事を言ってしまったのだろうか。
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:25:50.73 ID:4+0lHM3x0
俺は喪失感を打ち消そうと、それまで以上に勉強に打ち込んだ。
一方通行は御坂と付き合うことにしたという俺の嘘を信じたのか信じてないのか、無表情に受け止めた。
ただ一言「そォか…それでいいのか」とだけ呟いた。
俺は何も言えなかった。
そして、結果になって現れたのが、12月終わりの模擬試験。
判定はC判定。
E判定だった五ヶ月から比べると雲泥の差だ。
それを素直に喜んでくれたのはインデックス。
B判定に達することがなかったのが不満だったのか、不機嫌だったのが一方通行。
ただ、息抜きも兼ねて、俺とインデックス、一方通行と打ち止めや番外個体。
姫神や青ピ、土御門兄妹まで巻き込んでのクリスマスパーティーを開いた。
番外個体は一方通行の料理の腕を初めて知ったのか愕然としていた。
舞夏はインデックスの料理を、弟子の成長を喜ぶ師匠のように褒め讃えていた。
御坂は呼ばなくて良かったのか、と聞いてくるインデックス。
アイツは友達とクリスマスパーティーだ。
158 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:26:41.47 ID:4+0lHM3x0
インデックスに御坂の話題を振られるのは何故か辛かった。
何でも無い世間話の延長のようにされればされるほど、切り刻まれるような痛みが胸に走った。
俺は、その痛みを覚えるたびに、蓋をして、見てみぬフリをすることにしていた。
多分、その痛みの正体にいくら鈍い俺であっても気付き始めていたからだと思う。
だけど、気付いたらそこまでだとわかっているから、だから俺は目を逸らしていた。
「去年、とーまと一緒にクリスマスに出かけてから一年が経ったんだね」
インデックスが星空を見上げながら言う。
白い息が夜空に溶けて行く。
俺とインデックスは、二人でベランダの柵にもたれ掛かりながら空を眺めていた。
ベランダとはいえ、外は寒い。
中では途中から土御門の持ち込んだ酒によって死屍累々の山となっている。
159 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:29:18.15 ID:4+0lHM3x0
午前三時。
部屋の明かりを消して、誰もが寝静まっている時間。
二人だけの世界のようだ。
そう思うと、急に顔が熱くなってくる。
ふと、インデックスの髪に目が行った。
俺のプレゼントしたヘアピンだった。
青い羽のヘアピン。
家族であることを再確認した日。
「うん。これは私の二番目に大切なとーまからの宝物だから」
そっと、溶けてしまいそうな笑みを浮かべる。
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:30:24.82 ID:4+0lHM3x0
まるで雪のようにふんわりとしているのに、何処か儚い。
抱きしめてやりたいとどうしようもなく思っちまうのに、一方で抱きしめたら消えてしまいそうで俺は怖くなる。
ただ、どうしても聞きたいことがあった。一番の宝物ってのは何なのかと。
インデックスは、はにかむと、俺の耳に口を近づける。
背伸びをしても届かないインデックスに、俺は少しかがむようにして耳を近づける。
耳元にインデックスの吐息が触れる。
甘い香りが鼻腔を擽る。
胸の鼓動が早くなる。
「一番の宝物はとーまと過ごしてきた今日までの思い出……って言うとちょっと照れちゃうんだよ」
だから、毎日一番の宝物は更新されてるんだよ。
そう言って笑う少女が堪らなく愛しいと思った。
今日がクリスマスでよかった。
寒い夜でよかった。
雪が降ってくれて良かった。
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:32:15.84 ID:4+0lHM3x0
「わぁ……ホワイトクリスマスなんだよ……」
雪が顔に降り注いでくれるおかげで、インデックスにバレばれずに済んだ。
泣いてるなんて、恥ずかしくて見られたくない。
寒さで麻痺してくれればいいのに。
この胸の痛みが。
雪で隠してくれればいいのに。
この涙も。それから……
俺が吐いた嘘も。
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:34:37.20 ID:4+0lHM3x0
年が明けて、追い込みの時期を経て。
俺の大学受験が始まった。
御坂が持たせてくれたお守り。
インデックスがお弁当を作ってくれた。
一方通行が激励の電話を入れてくれたのが何気にびっくりだった。
なぁ、インデックス。
弁当を受け取りながら、俺はインデックスを真っ直ぐに見つめる。
「なぁに?とーま?」
こてんと首を傾げるインデックス。
俺は、緊張に震える足に力を込めると、痺れたように硬直している舌を懸命に動かす。
馬鹿な半年前の俺が吐いた嘘を撤回する為に。
もし、大学に合格したら。その時は聞いて欲しいんだ。
「……とーま?」
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:35:46.36 ID:4+0lHM3x0
俺のきもちを。
インデックスは、一瞬驚きに目を見開くと、少しの間をおいてゆっくりと頷いた。
「うん。聞かせてほしいな。とーまの……きもち」
――― きもち ―――
そこに、一体どんな意味が含まれているのか。
俺もインデックスも互いに問い沙汰そうとはしなかった。
まだ、その時じゃないと、多分俺たちは言わずともわかっていたんだ。
一月後、俺は合格の報せを聞いた。
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:36:55.01 ID:4+0lHM3x0
俺は喜ぶよりも先に、早く帰ってインデックスに知らせたいと思った。
誰よりも、まずアイツに知らせたかった。
アイツを守るための、アイツと一緒にいるための第一歩。
合格したら色々と決めていることがあった。
正直に嘘を吐いていたことを話すこと。
ずっと抱えていた俺の胸の痛みのこと。
一緒にいたい、守り続けたいという思い。
そして、俺のアイツへの気持ちを。
だけど、今は何よりもまずアイツの喜ぶ顔が見たかった。
「やぁ、お帰り上条当麻」
そこには会いたかった女の子じゃなくて、憎ったらしい赤毛の神父。
その手には一通の封筒。裏には『INDEX』の文字。
そして俺は聞かされた。
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:39:08.78 ID:4+0lHM3x0
インデックスがイギリスに帰ったことを。
二度とインデックスに会えないことを。
二年の猶予だったのだと、俺は二年ぶりに会う赤い髪の神父に教えられた。
二年の猶予を望んだのは、インデックス。
それも、相当の無理をステイルに頼んだらしい。
思考を拒否するように、俺の頭は真っ白になっていた。
がらんどうになった脳裏に、アイツの言葉が過ぎった。
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:40:04.19 ID:4+0lHM3x0
『一番の宝物はとーまと過ごしてきた今日までの思い出……って言うとちょっと照れちゃうんだよ』
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:42:56.73 ID:IlfkW4rC0
なぁ、インデックス。
お前はあの時どんな気持ちで言ったんだ?
俺をどんな目で見つめていたんだ?
あの日、受験のあの朝。
お前はどんなつもりで笑ったんだ?
答えてくれるはずの少女はいない。
二人では狭かった部屋には途方も無く広い空間だけが広がる。
雪のようだと、あの夜感じた少女は、その通り、溶けてしまうように消えてしまった。
三月、春はすぐそこまで来ていた。
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:44:48.66 ID:IlfkW4rC0
投下は以上です。次回からはダメ条編。後半戦です。それでは。
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:53:41.84 ID:YQ21hhTVo
乙
こんなに胸が締めつけられるのは久しぶりだ… 172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 21:56:03.00 ID:bhMzqg430
乙
上条とインデックスには幸せになってもらいたいなぁ
何気に一方さんがいい奴過ぎて惚れそうだ 174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 23:41:49.88 ID:BZ4WF6sSO
乙!
すれ違いっぷりに胸が締め付けられそうになった
嘘ついた上条さんも辛いだろうけどインデックスの心はきっとズタズタだぞオイ
泣きそうなのこらえてお姉さんぶってたんだよ…影で泣いてたよ絶対 178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:10:12.96 ID:Fe9d2dbe0
ぼんやりと俺はベッドに寝転んでいた。
あれからどれほどの時間が経ったのかはわからないし、どうでもいい。
部屋が暗くなり始めたことからようやく五時を回ったのかと、ぼんやりと思う。
ベッドにはインデックスの香りがまだ強く残っている。まるで変態だな。
暗くなった部屋で、スフィンクスが腹の上に乗ってしきりに鳴く。まるで母親を探してる子供みたいだ。
だったらさしずめ俺は父親で、女房に逃げられたダメな親父に息子が文句を言ってるみたいな構図になるわけだ。
笑おうとして、上手く笑えなかった。
俺はあの気に食わないニコチン神父の言葉を思い出していた。
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:13:21.06 ID:Fe9d2dbe0
『イギリス清教は最大教主を失って久しい。
彼女がしようとしていたこと、してきたこと、それを考えれば彼女の結末は因果応報だったのかもしれない。
あの雌狐を、善か悪かの二元論、本来僕は嫌いなのだがねこのような言い方は、しかし、それで語るとすれば間違いなく悪にあたっただろう。
しかし、同時に我々が存在の寄る辺とする名と同様に、彼女の存在そのものが必要悪だったのも事実だ。
彼女とシンボルがいて、初めて我等は機能することが出来た。本来、孤立し、拒絶されるだけの魔術士に生きる価値と意義と場を与えた。
彼女というシンボルが、そして彼女が存在する必要悪の教会だったからこそ、魔術に身を置くもの達に意味が付加されていたのだ。
それが、今や崩壊しようとしている。ははは、全員まとめて迷える子羊というヤツだ。
勝手なもので、散々魔術士を利用してきた連中も、最大教主という存在を失い纏まりを欠き始めた途端に我々に対して露骨な警戒心を抱き始めたよ。
まるで、檻から放たれたケダモノの集団を見るような目でね。何だ、早く結論を言えって?ふん、相変わらず余裕のない男だな君は。
ならばはっきりと言ってやろう。我等……そう魔術士と呼ばれる異端の者達はシンボルを求めている。
自分達の身に着けた力が異常なの暴力ではなく、大儀ある才能だと、世界に証明してくれるシンボルを。
そう、そうだよ。頭の回りの悪い君でもわかったようだね、我等が選んだ新たなるシンボル。
次代の最大教主はあの子さ。
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:14:56.11 ID:Fe9d2dbe0
出自不明の修道女。
十万三千冊の魔道書をその中に封じ込め、そして操ることの出来る存在。
聖人でも魔神でも辿り着けない極地に存在する現人神
『ローラ・スチュアート』を引き継ぐ者としてうってつけなのさ。
―――― ッ!
痛…ッ…いきなり殴るとはね……
何?彼女を犠牲にした…だと?………チッ……少しはマシになったかと思えば……
言っておくが僕は強制したわけじゃない。
彼女が引き受けるかどうかは彼女の意思に委ねる、これは僕だけではなく、彼女と、そして君と接してきた全ての者達の総意だ。
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:16:40.79 ID:Fe9d2dbe0
ああ、例え世界の鼻つまみ者になろうとも、僕らは彼女の意思を踏みにじるつもりはない。気に食わないが、そういう風にさせたのは貴様だ。
……僕が嬉しそうに見えるかい?君から彼女を引き離せて、だと?
付け上がるなよ?上条当麻。
僕が君からあの子を引き離すためにこんな手の込んだことをするものか。
もし、彼女がそれを必要としているのなら、僕は何もかも捨てて、すぐにでも君を消し炭にしてでも彼女を連れ去っているさ。
ああ、そうだ。君如きにそんな回りくどいことなんてするものか……
これは彼女が望んだことだ。
あの二年前の夏の日に。
最大教主となることを。
インデックスという名も、彼女の本当の名も、全てを捨てて、ローラ・スチュアートとなることも。
そして、同時に彼女は懇願した。
君が、自分という存在を気にせずに、自分の人生を歩き出す時、そう、今日という日が来るまでせめて待って欲しいと。
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:18:05.28 ID:Fe9d2dbe0
上条当麻。彼女はね、ローラ・スチュアートとなった瞬間から、それまでの彼女としての人生を切り捨てることになる。
友とも会う事はなくなる。当然、君にも二度と会う事はないだろう。
彼女の手に残るのは………君と過ごしたこの三年の思い出だけだよ。
腹立たしい……
腹立たしいが……感謝する。
正直、君がいたからこそ、あの子は最後まで笑っていられたんだ。
そうそう、これは彼女からの手紙だ。
しっかり噛み締めて読むことだね。あの子の万感の思いが篭ってるだろうから。
それじゃあ、さようならだ上条当麻。
二度と会うこともないだろうね ―――――
――――――― 科学の街の、僕の友人よ。
183 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:19:07.32 ID:Fe9d2dbe0
いがみ合っていたし、実際気が合わなかった。
それまでの人生も、価値観も何もかも違っていたから。
ただ、インデックスを守りたい。アイツの涙を見たくない。いつも笑っていて欲しい。
この点に限り、俺とアイツは多分ライバルであり、最大の理解者だった。
だから、わかる。魔術の世界の俺のダチは、インデックスのことで、下らない、浅ましい嘘なんて吐かないと。
そして、アイツの誠実さがすなわち俺に伝える。
インデックスはもういないんだと。
俺は何度目かになるアイツの手紙を開く。
暗い部屋では、アイツの字ははっきりと見えないけど、何十と読んでいた手紙の内容は、既に記憶されている。
184 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:19:40.00 ID:Fe9d2dbe0
綺麗なアルファベットを書く手が書いたとは思えないくらいの汚い字で書かれた漢字。
そういえば、俺の勉強を手伝う傍ら、分厚い漢字辞典を読んでいたっけ。
『ん?どうしたのかな、とーま。ああ、これ?何だか面白いんだよ。漢字って。ひらがなは書けるんだけど、漢字ってまだ読めるだけなんだよ。
だから、書けるようになったらお手紙書いてみるね。その時はとーま、読んでくれる?』
俺は、多分軽い気持ちで返事をしたんだと思う。
勉強で余裕なんてなかったし、何より、インデックスが照れた顔が可愛くて、反射的に頷いてた。
アイツは、あの時には既にコレを書く事を決めてたんだ………
185 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:20:51.01 ID:Fe9d2dbe0
当麻へ。
こうしてお手紙を書くのって初めてかもしれないね。
何だか恥ずかしいかも。
まず、最初に、大学合格おめでとう。実は小萌に聞いてたんだよ。ちょっとズルイね。だって、当麻ってば昨日散々緊張して眠れてなかったものね。
でもね、私は当麻が合格するって信じてたよ?一方通行や小萌に秋沙、それに舞夏や元春、色んな人が協力してくれたんだもん。
それを当麻は無駄にしないって、わかってるから。
それと、もう一つ。
黙って出て行ってゴメンなさい。
でも、後悔はしてないんだよ。だって、当麻の顔を見たらきっと私は残ってしまうと思ってたから。
当麻を振り切ってまでイギリスに行けるほど私は強い女の子じゃないんだよ。
当麻が帰ってきて、いつもみたいに『ただいまインデックス』って言われたら、それだけで私はステイルや火織との約束を破ってしまうから。
私にとって、当麻との毎日はそれくらい重くて、大切なものなのだから。
だから、黙って何も言わずに出て行きます。ステイルに言伝は頼んでおきました。
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:22:15.68 ID:Fe9d2dbe0
当麻は納得が行かないと思うけど、これは私が悩んで悩んで、それから決めたことです。
私が私の意志で、初めて自由を与えられて決めることが出来たことです。
だから、当麻に怒られても、恨まれても、悲しまれてもいいけれど、否定だけはさせません。
当麻が自分の力で頑張って大学に行くことを決めたように、私は私の出来ることをするためにイギリスに行きます。
ねぇ、当麻。
今、当麻はどんな顔をしてますか?
怒ってますか?それとも呆れてますか?
もしかして、泣いてますか?
もし、泣いてるのだとしたら………ゴメンなさい。少し嬉しいかも。
私のことで、当麻が心を痛めてくれることに、嬉しいなんて最低の人間と思われるかもしれないけれど、嬉しいものは嬉しいんだよ。
だけど、泣くのは今日だけにして、明日からは笑って下さい。
情けなくて、でも温かくて優しい当麻の笑顔が、インデックスは大好きなんだよ。
大丈夫。当麻の側には美琴がいるから。だから、大丈夫。
いつもの当麻にすぐに戻れるんだよ。
187 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:23:42.43 ID:Fe9d2dbe0
私は当麻と出会うまで記憶のないままでした。
気付いたら周りが知らない人ばかり。わかっているのは自分の中の魔道書。
出会う人は、皆私のことを物扱いするか、目も眩むような宝物の入った宝箱という器を見るような目で見てきました。
命もいっぱい狙われてきました。
当麻は覚えていないかもしれないけれど、地獄のそこまでついてきてくれると聞いた私に、貴方は……言わない。
ゴメンね。これは私の宝物の一つだから。
前の上条当麻との大切な思い出だから、当麻にも秘密なんだよ。
ただ、当麻の言葉に私はとても救われました。そして、実際に命も救われました。
そのせいで当麻は色んなものを失くしちゃったけど……それでも言わせてください。
当麻、本当にありがとう。
私は当麻の家族になれて幸せでした。
188 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:24:45.18 ID:Fe9d2dbe0
記憶を繋ぐことが初めて出来て、何もかもが新鮮で、毎日がとても楽しかった。
いつでも守ってくれる当麻に、ついつい私は何処までも甘えて、我が侭ばかり言って困らせてしまいました。
それでも、当麻が妹のように、娘のように大切にしてくれていることがとても嬉しかったです。
とても嬉しくて、本当は、とても辛かったです。
だって、私は当麻が大好きだから。
家族としても、一人の男の子としても。
私は、上条当麻をずっと愛しています。
これからも、ずっとずっと、ずーっと、愛しています。
どうか、幸せになってください。
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:25:25.45 ID:Fe9d2dbe0
大好きな当麻へ。
INDEX
190 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:26:17.14 ID:Fe9d2dbe0
俺もお前が大好きだよ。
呟く。
ああ、大好きだ。本当に大好きだよ。
何でこれを言ってやれなかったんだ俺は。
どうして、どうして後一歩が踏み出せなかったんだろう。
もし、もし踏み出せていたら何か変わっていたのかもしれないのに。
でも、これは俺が招いたことなんだ。
失くしてから初めて気付く、なんて使い古した言葉だけど俺はずっと前から気付いていた。
ただ、失くしてしまわなければ、そのことを認められないくらい弱くて情けないだけだったのだ。
時間の感覚が麻痺し続けるなか、ドアのチャイムが鳴った。
191 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:27:04.02 ID:Fe9d2dbe0
今日はアイツの合格発表の日。
正直模試の結果からすると五分五分というところだけどどうなんだろう。
メールを送っても返ってこないし、とうとう待ちきれなくなって私は来てしまった。
アイツの部屋の前だ。
チャイムを鳴らす…………出ない。
ドアを叩く………出ない。
ノブに手を掛けてみる………開いた……
部屋は真っ暗で、一瞬鍵をかけ忘れて何処かへ出かけているのかと思ったが、そうではなかった。
ベッドに見慣れたツンツン頭のシルエット。
落ち込んでいるのが一発でわかる重い空気に、まず過ぎったのは『不合格』という三文字。
でも、アイツは首を振ると、「受かってた」とぼそりと呟く。
じゃあ、一体何なのだろうかと疑問に思う私にアイツは説明してくれた。
細かいことは言わなかったし、たどたどしい説明だったけど、わかったのは二つ。
あの子がイギリスに帰ったということ。
あの子に二度と会えないということ。
192 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:27:42.93 ID:Fe9d2dbe0
正直に言おう。
私は、その瞬間歓喜に震えた。
アイツは、悲しみに私がショックを受けていると思って気遣っていたけど。
けれど、すぐに私の中の喜びも、優越感も消し飛ぶ。
「……何の為に俺は頑張ってきたんだろうな……アイツがいないんじゃ意味がないってのに……」
震える声で、力なく呟く。
「なぁ、御坂……いつまで経っても帰ってこないんだよインデックスが。もう夕飯の時間で、こんな遅くまで出歩くようなヤツじゃないのに……」
ベッドの ――― あの子が使っていたシーツを抱きしめるのが、衣擦れの音でわかる。
「はははは……何言ってるんだろうな。アイツは帰ったって、そう説明したばかりなのに……もう帰ってこないのに……」
何を情けないこと言ってやがる、そう罵ってやりたくなる。
あの子がいないくらいで、と。
アンタには私がいるじゃないか、と。
それは見当違いの怒りだと、わかっているのに、思わずアイツの頬を両手で掴んでいた。
掌に濡れた感触。
193 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:28:55.36 ID:Fe9d2dbe0
アイツは泣いていた。
涙でベトベトのアイツの頬。
間近に引き寄せたことで、薄暗闇でもわかるアイツの顔立ち、そして感じる吐息。
腹立たしさと、愛しさが同時にこみ上げる。
私は、思わず呟いていた。
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:29:25.15 ID:Fe9d2dbe0
「あの時の言葉覚えてる?」
御坂は俺の顔を包み込みながらゆっくり囁く。
あの時、半年以上も前の夏の日だろう。
『アンタが好きなの』
そう言ってくれたあの日。
俺は返事をしなかった。
まだ、自分の感情がよくわからないからだと。
そして御坂はこう言った。
『じゃあ……私、待ってるから。アンタの気持ちが向いてくれるのを』
何でこんな俺みたいなヤツに、こんな素敵な女の子が、と不思議に思ったものだ。
御坂はゆっくりと頷く俺を見てから、そろりと口を開く。
「あの時の言葉に偽りはないわよ、今も、ずっと、ずっとアンタを待ってる」
その言葉の意味は俺にだってわかる。
だけど、それはいけないことだ。御坂に対して失礼だ。
俺が首を振ろうとするのを、御坂の手が阻む。
言葉を俺が紡ぐ前に、御坂の強い眼差しが言葉を喉へと押し込む。
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:30:25.27 ID:Fe9d2dbe0
ズルイ女だと思う。
逃げ場を用意してやると言いながら、私がしてるのは私の方へと道を誘導しているだけ。
私への逃げ道なんて、要は私から逃げられない道っていうことなのに。
テレビでも映画でも、小説でもマンガでも目に知るテンプレのような泥棒猫。
吐き気がする。
こんな女、大嫌いだ。
その大嫌いな女に、今私はなろうとしている。
大好きなコイツを手に入れるために、私は大嫌いな私になろうとしている。
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:33:52.41 ID:Fe9d2dbe0
「私がアンタの側にいるから………アンタが好きになってくれなくても、それでも……ずっと当麻の側にいたいの……」
御坂…おい、ちょっと……
「だから、お願い ――― “とーま” ……… 私を ―――― 」
掠れるような言葉だった。
その言葉に。
そのイントネーションに。
自分の中の何かが崩れたのを聞いた。
俺は堪えていたものを吐き出すように、目の前の自分を好きだと言ってくれている少女の気持ちに付け込むようにして縋りついた。
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:34:33.13 ID:Fe9d2dbe0
俺は、その夜、多分人生で一番最低の判断をした。
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 22:40:50.64 ID:Fe9d2dbe0
以上で投下を終了します。
上条さんマジ駄目条さん。
200 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/15(火) 23:03:15.49 ID:yq5o9rAlo
おつー
駄目条さんマジ駄目条さん…だけど弱い上条さんも良い味出てる
どうなるのか続きが気になります 202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/16(水) 01:35:21.27 ID:k94XGMtJ0
誰を責めればいいんだしかし。
とりあえず乙 207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/16(水) 10:51:27.40 ID:i65Cp5FDO
僕童貞だからナニがあったかは予想はつくけど、何故そうしてしまうのかがわからない。
カツ丼喰ったことないから、旨いかどうかわからないし212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/16(水) 17:49:56.72 ID:vANcK4T8o
ヘタ錬に近い精神状態なんだろ 238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:01:41.76 ID:RR8j+Mh90
御坂と付き合うようになって三ヶ月が経った。
御坂のマンションと俺のアパートは意外に近く、御坂が俺の家に夕食を作りに来てそのまま泊まっていくことも増えた。
それに伴って、俺の部屋には御坂の私物が少しずつ増えていった。
小物やクッション、シャツやタオル、歯ブラシ、専用のマグカップ。
それらのものが増えるにつれて、俺の部屋での御坂の色、御坂の匂いに占める割合は大きくなっていった。
そのことを特に嫌だとか重いとは思わない。自分の生活空間に誰かの匂いが混ざり合っているのには慣れているのだから。
寧ろ、俺にとってはそちらの方が落ち着く。
誰かの存在が同じ空間にあることだけで、救われるものがあるのだと俺は知った。
御坂との付き合いを一方通行に話したとき、一方通行は「それでテメェもアイツも納得するンだな?」と真剣な目で聞かれた。
納得?ああ、してるさ。当然だろ?俺も御坂も……きっとアイツも。
239 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:04:26.42 ID:RR8j+Mh90
「………イギリスか…」
一方通行も思うところがあったんだろう。
俺が学校に行っている間、アイツが入り浸っていたのは一方通行の部屋。
料理をしたり、買い物に行ったり。
アイツはその日一日あったことを俺が学校から帰って来ると懇切丁寧に話してくれた。
アイツの話によく出てくる名前は小萌先生でも姫神でも舞夏でもなかった。
他の誰よりも一方通行の名が出た。
『ねーねー、とーま、とーま。あくせられーたってね、包丁使うのがとっても上手なんだよ。私も負けてられないんだよ!!』
そうやって頑張ろうと意気込むアイツは凄く可愛くて、俺はいつまでもアイツの話を聞いていたいって思っていたんだ。
でも知らねーだろうな。
嬉しそうな顔でアイツがお前のことを話すたびに、俺はかきむしりたくなるくらい苦しかったんだって。
『あくせられーた』って呼ばれてるたびに、俺はどこかでお前にムカついてた。
髪の色のせいか、一緒に歩いていると兄妹に見えるお前らの姿を遠巻きに見ちまって死にたいって思ったことだってある。
もう、そういうのも過去なんだけどさ。
240 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:05:16.13 ID:RR8j+Mh90
俺はこれから御坂と映画に行く。
今日は授業は二コマ目まで。アイツはテストが午前中で終わるとかで、待ち合わせて昼食を食ってデート。
明日は土曜だから、きっと御坂は泊まって行くんだろう。
俺が自暴自棄になりそうなときに、アイツがいなくなって、ぐちゃぐちゃになりそうな俺を支えてくれた御坂。
ずっと俺の側にいてくれたあいつの気持ちに応えなきゃな。
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:08:52.24 ID:RR8j+Mh90
当麻と付き合い出してから三ヶ月。
今日はアイツとデート!!見てくる映画は勿論ゲコ太!!!
……と行きたいんだけど、流石に大学生の男と女子高生の組み合わせでゲコ太は気まずいっていうのは私にもわかってるわよ。
テストも終わったし、アイツとの待ち合わせまで少し時間が出来たから妹達の様子を見に病院に来てる。
妹には、当麻と付き合うようになったことを最初に報告した。妹の好きな人でもあるんだから、そういうことってはっきりさせておくべきだろうってね。
結論から言うと妹は祝福してくれた。
『確かにミサカはあの人をお慕いしておりますが、心が未熟なミサカは残念ながらこの泥棒猫!!と罵倒するほどの豊かな感情を持ち合わせていません。
ですから、ここはひとことおめでとうございますといわせてくださいと、ミサカは歯を食い縛ってミサカに殴られるのに備えてスタンバってるお姉さまの覚悟を無に帰してみます』
なぁんてさ、可愛げのないこと言ってくれちゃってさ。
涙目で、必死に無表情作っちゃってさ。
素直じゃないっていうか、可愛いげないんだから。
ホント、可愛げのない……可愛い妹だ。恨み言の一つだって言ってもいいのにさ。心配させまいって泣くのを堪えてさ。
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:09:46.54 ID:RR8j+Mh90
病院に行くと、私は予想外過ぎる、っていうか、予想したくないヤツにあった。
向こうも同じらしく、露骨に『ゲッ』っていう顔してやがる。私だってアンタの顔なんざみたくないっての。
でも、アイツの手にある花束を見て、正直毒気が抜かれる。
アイツには全然、これっぽっちも、少しも似合わない花束。
ガーベラ ――― 妹達が好きだって言ってた花だ。
『希望』っていう花言葉だったっけ?頑張れっていう想いを込めて送るんだよね。
何、アンタ花言葉とか詳しいの?キモイんだけど。
「ンなわけねェだろォがボケ。調べたンだよ……」
調べた?
もっとキモイ。
つーか、第一位が花言葉とか調べてる姿想像すると………ぷはははははははは
「病院内で笑うンじゃねェよ馬鹿」
病院内で笑わせるんじゃないわよ馬鹿。
ま、いいわ。
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:11:08.37 ID:RR8j+Mh90
せいぜいお見舞いちゃんとすることね。言っておくけどあの子達に変なことしたらぶっ殺すからね。
「出来るのか?テメェ程度に?」
ああ、出た出た。『俺ってば悪党なんだぜ』スマイルだ。はっきり言って怖くないわよ。
だってアンタ私に……つーか私達に手出せないでしょ?
自分で決めた自分ルールに縛られて身動き取れないなんて馬鹿みたい。
「………出すつもりもねェよ」
……
………
…………何よ、素直に認めないでよ。
調子狂うなぁ。
ああ、そうだ、一言アンタに言っておかなきゃならないことがあったんだ。
「ああァ?まだなンかあるンですかァ~」
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:12:33.52 ID:RR8j+Mh90
私の大事な妹達を、今までずっと守ってくれて、ありがとう。
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:13:20.66 ID:RR8j+Mh90
一度きっちり言っておきたかったんだよね。
ああ…
なんだかなぁ~
嫌だな。
何が嫌だってさ。
コイツに今こうやって頭下げてお礼言ってることがあんま嫌じゃないってことが嫌だな。
私もっと情に熱いヤツだって思ってたんだけどな。
コイツに惨たらしく殺された妹の姿はしっかり覚えてるはずだし、コイツを許したくないって気持ちも健在なのにさ。
なのに、すんなり言えちゃった。当麻に告白した時の方が勇気がずっと要ったよ。
コイツはコイツで、ぽかんとしたマヌケ面曝してやんの。写メって妹達に流してやろうかしら。
ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、妹達守ってくれたことには感謝してるけど、アンタのしたこと許したわけじゃないんだからね。
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:14:45.77 ID:RR8j+Mh90
「……後半の言葉だけ貰っておくわ」
は?何よそれ。後半って……ちょ、オイ、無視すんなぁ~!!
ま、いいわ。あんなヤツに構ってる場合じゃないもんね。
これから当麻とデートなんだから。
夕食は当然作るでしょ。明日は土曜日だし、当麻の部屋泊まってくつもりだし。
卵とかあったかな。
帰りに買出ししないとね。エコバック忘れちゃったしな。
どうしようかな。マンション寄ってから行こうかな。
アイツ大概待ち合わせ15分遅れだしいいよね。
うん、こんな可愛い彼女が夕飯作ってあげるんだから、遅刻しても文句なんて言わせないわよ。
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:15:19.10 ID:RR8j+Mh90
病院に来るといつも緊張する。妹達に見舞いの品を渡して、少しばかり雑談っつー名の妹共のいびりにあう。
それ自体は別に構わねェ。
ただ、いつオリジナルに会うのかっていうのが頭にある。
会ったらどうすりゃいいンだ。
そう思ってたら会っちまった、クソッタレ…
「私の大事な妹達を、今までずっと守ってくれて、ありがとう」
くはッ…
かかかかかか…
何言ってやがンだか。馬鹿じゃねェのか?こンな大虐殺野郎の加害者に向かって感謝とか。
頭沸いてるンじゃねェのか?
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:16:05.17 ID:RR8j+Mh90
………
……………感謝なンてしてンじゃねェよ……クソ…ッ
だから貰っておく言葉は後半の「やったことを許したわけじゃない」の部分だけで十分だ。
さっさと退散するに限る。
あのクソガキといい、コイツといい、遺伝子レベルでどォかしてるぜ。
お人好しのクソバカ共が……
アイツ、幸せそうに笑っていやがったな。
上条とオリジナルが付き合い始めたってのは聞いた。
だからそれがどうした。そう思った。
オリジナルがアイツに惚れてるのなンざ知ってるし、それにアイツが応えたってだけなンだからな。
けど、本当にそれでいいのか?納得なンざ出来ンのか?
以前アイツに聞いたら返ってきたのは「当然だろ?」の一言ってそりゃそうだ。
俺こそ何聞いてやがンだか。
上条のヤツ、しっかりやってやがるんだろうな?
ぞんざいな扱いしてやがったらぶち殺すンだがな。
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:19:01.47 ID:RR8j+Mh90
インデックス…あのシスターがいなくなってすぐに付き合い始めたことには特に文句はねェ。
居候がいなくなったのと大学に受かった開放感で女作った野郎ってところか。
どンだけ端からモロバレでも、アイツ等は最後まで家族って便利な言葉で終わっちまった。
『でね、でね、とーまってばこの間も女の人にデレデレしててね……って聞いてるの?あくせられーた!!』
『とーまってやっぱり、年上の女の人の方が好きなのかな?私じゃ妹止まりなのかな……?』
『あくせられーたと一緒にいるとね、何だかホッとするんだよ。とーまといる時に似てるんだよ。
何でだろうね?あれ?どうしたのあくせられーた?顔が赤いかも。熱でもあるの?』
あの馬鹿……結局言えなかったンだな。
あンなに鬱陶しいくらい毎日毎日惚気聞かせておいて、何てザマだ。
俺が何か引っかかってるのはきっと其処だ。
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:22:58.74 ID:RR8j+Mh90
イギリスにあのチビシスターは帰っていった。アイツを大切に思ってくれてるヤツ等もいるンだろ。
世界は、とりあえずマシになりかけてる。
っても、生ゴミが可燃ゴミになった程度だがなァまだ。異臭がしねェだけマシってか。
残されたアイツは自分の側にいてくれる女の大切さに気が付く。
綺麗な締めだ。
ああ、誰もが納得するだろォさ。
口当たりも悪くねェしよォ。
拍手喝采ってかァ。
どいつもこいつも物分りの良いこった。
きっと「グッドエンド」って呼べるンだろォな。
じゃァどォして俺はこンなにも納得がいかねェンだ?
251 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:23:46.06 ID:RR8j+Mh90
隣りで眠る御坂を起こさないように俺はそっとベッドを抜け出す。
ベランダを開けると生暖かい風が汗ばんだ身体から熱をゆっくり奪っていく。
もう7月になる。
アイツが出て行ったのが3月。
もう四ヶ月になるのか。あっという間だった。
慣れない大学生活に、俺は忙殺されてて。
初めてやるバイトに悪戦苦闘で。
平常運行の不幸に追い立てられて。
御坂との清く…は無いけど、それなりにありふれた男女交際をやって。
アイツのことを思い出すことは減っていった。
そういうもんなんだろう。
悲しいけど。考えられる物事の許容量は限られてるし、俺は贔屓目に見てもそれが人よりあるとは思えない。
だから、きっと薄れていくんだと思ってた。期待もしてた。
胸の痛みが消えてくれると。
252 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:24:27.27 ID:RR8j+Mh90
あの寮の前を通るとき。
ゲーセンの前を通ったとき。
スーパーで買い物をするとき。
そんな些細な瞬間に、俺の出来の悪いはずの脳は即座に回転して、検索しちまう。
お前と一緒にいた時の思い出を、まるでキーワード検索にかけたみたいに幾つも幾つも。
それが一斉に展開されると堪ったもんじゃない。
泣きたくなるときなんて何度もあった。
思い返す回数が減る変わりに、まるで思い出されていない間のタメのように、ズドンと重たいものをもらっちまう。
くしゃくしゃのよれよれになった封筒を取り出す。
中からそっと取り出した三つ折の便箋を開ける。
何度も目を通して、今更見る必要なんてなくてもわかっているはずの手紙を読む。
夏の夜の、今日は満月だからか余計に明るい月明かりの下、俺はアイツの手紙を読む。
もう何回目かなんて数えてない。
それでも目を通す。
253 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:26:09.66 ID:RR8j+Mh90
相変わらず汚い字だ。
そんなに長くも無い手紙を、何倍もの時間をかけてゆっくり読む。
まるで儀式だな。
そして、最後の『大好きな当麻へ』で俺の目はいつも止まる。
“麻”と“へ”の二文字が滲んでいるからだ。多分涙の跡。
俺が濡らしたわけじゃない。最初からそうだった。
アイツの涙だ。
これを書きながらアイツは泣いてたんだ。
手紙で俺に笑っていますか?なんて聞いておいて、肝心の自分は泣いてたんだ。
なんだよそれ。
そんなものを遺されて、簡単に忘れられるはずがないんだ。
記憶を失くして、空っぽの中に最初に飛び込んできたのがアイツの涙。
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 00:26:57.02 ID:RR8j+Mh90
アイツの涙を見た瞬間、すぐにわかった。
前の上条当麻はこの子に惚れ抜いて、後悔もなく死んだんだって。
そう思わせるくらいの威力だった。
誰もが母親や、父親の顔を生まれて最初に目に焼き付けるってのに、俺はアイツを焼付けちまったんだ。
そんなものがどうやったら消せるんだってんだよ。
チクショウ…
273 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:18:13.41 ID:rfYxn5Yf0
黄泉川に食事に呼ばれて、断る理由もなく、正直メンド臭ェが行くことにした。
暇を持て余してたし、食事の準備をする気がしねェ。
随分と飯炊きのスキルは上がったが、どォにも張り合いがねェのは比べ合う相手がいねェからだ。
イギリスねェ……
あのクソチビシスターは向こうでも作ってンのか?
いや、作ってねェかもしれねェな。
相手がもういねェンだ。
黄泉川からメール。
……タマネギが足りねェだ?クソが。どォして片手落ちなンだあの女は。
仕方がねェ、通り道にあるからな、スーパーにでも寄るか。
確かこのスーパーだったか。
あのチビシスターと会ったのは確か何となく立ち寄ったこのスーパーだった。
スーパーに行くなンざ似合わねェってことはわかってンよ。
自覚はある。
ただ何となくだ。暇だしな。グループの仕事も閑古鳥が鳴いてるしよォ。
別に打ち止めに「貴方の手料理を食べてみたい」と言われたからでもねェし、
「学園都市第一位ともあろう者が飯一つまともに作れねェのかにゃーん」と番外個体に言われたからでもねェ。
ただ、まァなンとなくだ。
274 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:19:06.11 ID:rfYxn5Yf0
レシピ通りに作れば問題なンざねェだろォと思って入ったスーパーで、見慣れたチビガキを見つけた。
例の修道服を着ていなかったせいで一瞬誰だかわかンなかったが、銀髪碧眼のチビなンざ早々お目に掛かる機会はねェ。
珍しく一人でいやがるンだなと三下を探すが、学校の時間だとすぐに気付く。
学校なンざ行ってねェからあンま感覚ねェな。声を掛けるか迷ってるこっちにお構いなしにチビシスターは笑って近づいてきやがった。
打ち止めと同じで、どォもコイツは物怖じしねェヤツだ。普通の奴だったら俺に近づこうなンてしやしねェのにな。
周りの客みてェに。
いや、コイツは物怖じしねェっつーか警戒心がねェだけか。
『あくせられーただ。あくせられーたもお買い物?』
ああ、まァ暇つぶしになァ。
ん?
今、あくせられーた『も』って言ったか?
お、オイ…オイオイオイ…此処は飯食う場所じゃねェンだぜ?
その材料を買う場所であってだ……
ッ!?
まさか…テメェ…料理が出来るのを待つのがまどろっこしいからって……材料を直に…だと…?
275 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:19:38.63 ID:rfYxn5Yf0
『違うんだよ!!とっても失礼なんだよ!!お料理の材料を買う為に来てるんだよ!!』
ああ、お遣いか。やるじゃねェか。……だが、打ち止めは既に身に付けているスキルだがな!!
『親馬鹿炸裂させないで欲しいかも……お料理するのはとーまじゃなくて私なんだよ!!』
なん…だと?
276 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:20:14.39 ID:rfYxn5Yf0
結局成り行きで俺のマンションに付いてきやがったチビシスター。
あの三下は男の部屋に簡単に上がっちゃいけねェって教えてねェのかァ?
『あくせられーたもお料理の練習するんだ?』
練習っつーか……まァ、暇つぶしにな。出来ねェからって絡んでくる馬鹿黙らすためだ。
『優しいんだね』
……お前人の話聞いてましたかァ?
暇つぶしだし。つーかそもそも、誰の為でもねェし。
『でも、その人にお料理作ってあげるんでしょ?』
一人で食うだけならコンビニで十分だしな。
どォせなら極上の料理を作ってやって敗北感を味あわせてやるってのもいいかもしれねェ。
それだけだ。
『ふ~ん』
オイ、そのニヤニヤ止めろ。スッゲーイラつく。
テメェこそあの三下に飯作ってやるとか、随分家庭的じゃねェか。
『とーまの役に少しでも立ちたいんだよ』
そいつはまた、どういう風の吹き回しだ。
277 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:20:49.19 ID:rfYxn5Yf0
髪をポニーテールにして、エプロンを付けて立つと最早誰だかわかンねェなお前。
修道服ってなァ記号みてェなもンだったンだな…別人だろ。
『あくせられーただって無地のシャツとか着てたら別人なんだよ。特撮ブランドは着ないの?』
……お前、それ誰が言ってた?
『とーまだけど?』
よォし。今度自転パンチだあのクソ野郎。
で、無駄飯食いシスターが一体どういう化学変化を起こしたらそんな健気なことを口走るようになるンだ?
何か悪いモンでも拾い食いしたのかァ?体晶とか。
『失礼なんだよ本当に!!とーま並かも』
それは流石にキツイな。
『とーまにね、私ずっと我が侭ばっかり言ってきたの……』
知ってる。
『この前ね、とーまが風邪引いちゃって……私どうしていいのかわからなくてね、それで友達に来てもらって何とかなったんだけど……
ずっと側にいたのに、私とーまの手を握ってることしか出来なかったんだよ…』
278 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:21:25.72 ID:rfYxn5Yf0
……
………
…………
……………チッ……
泣いてンじゃねェよ。
『泣いてないもん……』
どォ見ても涙目です。本当にありがとうございますゥ。
279 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:23:00.94 ID:rfYxn5Yf0
お前はそれで、どォにかしようとしてンだろ?
アイツの為に何かしてェって思って、それで此処にいンだろ。少しでもテメェ自身を変えようとしてよォ。
何も感じないで何もしねェンだったらただのクソだが、お前は何とかしよォって足掻こうってしてンじゃねェか。
それが、これから足掻こうって時に何いきなりテンション下げてンだよ。いきなり敗北宣言か?
テメェはまだ足掻いてねェだろ。
まだ足掻ききってねェだろ。
足掻いて足掻いて、足掻ききって、それから泣け。
そン時まで泣くのは取っとけ。
その時に嬉し泣きするか負け犬の涙になるのかはお前次第だろォけどな。
……
………
…………
……………何だよ…マヌケ面でこっち見てンじゃねェよ。
『ううん、ちょっとビックリしたんだよ。とーまみたいだったから』
説教臭いって言いてェのか?
『私、とーまのお説教好きだよ?』
フォローになってないンですけどォ。
280 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:24:02.88 ID:rfYxn5Yf0
『何だかとーまに励まされちゃった気がしたかも』
そいつァ良かった……のか?
『うん!!』
そう言ってアイツは危なっかしい手付きで包丁を握った。
人の事は言えないがなァ。
『ねーねー、あくせられーた』
なンだよ。オラ、包丁握って余所見してンじゃねェ。
『やっぱりあくせられーたって優しいんだね』
あァ?
『とーまの次に優しいかも』
…フン……
あの三下の次点たァ、光栄なこった。
『そうだよ』
皮肉も通じねェときたもンだ。
281 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:24:41.48 ID:rfYxn5Yf0
そォだ、そォだった。
こんな始まりだったな。あのチビがウチに来るよォになったのは。
二人揃って出来た料理は、料理の顔をした何かだった。
かかかかかか……十万三千冊の魔道書とやらが頭に詰まってるガキと、学園都市最高の頭脳が集まって、それで出来たのが犬の餌以下の代物だったンだから笑っちまうな。
それでも、あのチビは食いきったンだっけか。食べ物は粗末にするなだとか、婆臭ェことほざきながら。
282 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:25:30.18 ID:rfYxn5Yf0
『あくせられーた…もう桂剥きを習得してる…器用なんだよ』
テメェとは格が違うンだよ、格がァ。
『むぅ…でも味付けが濃いんだよ』
そォいうことは、一人でまともに飯が作れるようになってから言いやがれ。
『この前卵焼き作ったんだよ』
元卵だったじゃねェか。
『かわいそうな卵から凄い進歩かも』
牛歩だろ。全然変化してねェよ。しかも殻が入りまくってガリガリ言いやがるしよォ…
『……新食感…なんだよ』
殻は食べ物としてカウントされてンのかお前の中では…痛ッ…
『あ~あ、包丁握ってるときに余所見してるから』
うるせェ。そのドヤ顔止めろムカつく。テメェずっとそれ言うチャンス狙ってたろォ!
『叫んでないで早く止血するんだよ。って、何でじっと見てるの!?』
いや、なンとなくこういうのって見ちまうだろォ?
『怖いんだよ!!もうっ…』
283 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:26:24.30 ID:rfYxn5Yf0
……オイ。
『ひゃに?』
何してンだ…お前…?
『ひへふ』
止血か……ってオイ。それが何で指咥えることになンだよ。
…ッ…くすぐ……舐めンな!!
『あっ』
…ったく……そォいうことは三下にやってやれ。
『ふぇッ!?』
ガキ。何一丁前に赤くなってやがンだァ?
『……あくせられーたも十分赤いんだよ』
284 :
貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/02/19(土) 17:28:45.95 ID:rfYxn5Yf0
なァに思い出してンだか……
あァ、レジ袋も結構です。
タマネギを……五個も買う必要があるのか?
俺と打ち止めと番外個体と黄泉川に芳川。
多過ぎねェか?あのシスターだったら一食分にも満たねェだろォけどな。
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:30:17.91 ID:rfYxn5Yf0
『わ…美味しい…』
てめェで作っておいて何絶賛してンだ馬鹿。
まァ、そこそこの味っちゃー味かァ。
『あくせられーたのよりも美味しいと思うんだよ』
そいつは……まァ認めてやる。
そして、生煮えのニンジンがお前作のモンだってのも認めろよ?
『わ、わかってるもん!!茹で時間が足りなかったんだもん』
致命的だなァ。
味付けはこのチビが一歩リードってところだ。最も包丁捌きは三馬身差以上付いてるがな。
『私と、はふはふ、あくせられーたが、もぐもぐ、組めば至高、んぐんぐ、のメニューが出来るかも、むしゃむしゃ…』
取り合えず口の中のモン全部食ってから喋れ。
つーか、食いながら喋ンな。
チッ……食べかす付いてンぞ。あのガキとマジで一緒だな。
『あくせられーたお母さんみたいなんだよ。とーまみたい』
三下も苦労してンのな。
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:31:07.69 ID:rfYxn5Yf0
で、どォなンだ?
そろそろ食わしてやれそォなのか?
オイオイ、何露骨にうろたえてるンだよ…
そもそも、その為に毎日毎日飯マズな思いしてンだろォが。
それに、そろそろあのクソ鈍い、それこそ犀のツラ並に鈍い三下でも気付いてンだろ。
心中穏やかじゃねェかもなァ。
……ってお前何不思議そォなツラしてやがンだ?
他人事みてェに……お前もしかして全然気付いてないのか?
ヤベェ…鈍いのはコッチもか。
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:31:54.91 ID:rfYxn5Yf0
黄泉川のマンションに着くなりクソガキからの弾丸タックル。
威力増してンだろコレ…
ゲラゲラ笑ってンじゃねェよ番外。
相変わらずファッションって言葉から掛け離れたジャージ姿とか……黄泉川…
アイツもこのクソガキみてェに三下にくっ付いてたンだろォな。犬ころみてェに。
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:32:53.60 ID:rfYxn5Yf0
『今日ね、とーまに作ってあげるんだよ』
カレーとはまた安牌だな。
けど、一人で最後まで作れるのがまだそれくれェだからなァ。いいンじゃねェの?
いや、ドヤ顔じゃねェよ。褒めてねェから。
鼻歌交じりでスルーかよ。
つーか、スゲー集中力。
人ン家のキッチン独占しやがって…
ホントにスゲー真剣なツラだな。
あンな顔して作られたら、不味いとは言えねェよな。
念でも籠もってそォだな、カカカカ……
………
…………三下の野郎…いい加減わかれってンだ。
…あんなに想われてンだからよ、これで『不幸だ』なンて抜かしたら……
……チッ……
アイツにあンなに想われて幸せな野郎だ……
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:34:06.00 ID:rfYxn5Yf0
実際のところ、心中穏やかじゃねェどころじゃなかったンだがな。
まさか、あの鈍感馬鹿がストーカー紛いの尾行までかましてくれるとは予想しなかったな。
全然バレバレだったけどよ。
つーか三下の嫉妬深さに驚いた。
事情を知らなかった三下が、邪推するのもわからないでもない。
けど、俺はアイツがどれだけ三下を想ってるのか見てきた。
だから、思わずブン殴った。能力なンざ無しで。おかげでスゲー手が腫れちまったが、ソイツは些細なことだ。
誤解を解いたアイツは俺に礼を言ってやがった。
晴れ晴れとしたツラで。
隣に、幸せいっぱいってツラのチビシスターを置いて。
クソが。
礼なンて言ってンじゃねェよ。
お前らの為にブン殴ったわけじゃねェ。
ただムカついたから……いや、違うな。もっとドロドロした気持ちだ。
俺は、あの時、少しだけ三下に ――― 上条に嫉妬してた。
アイツに、あンなにも真っ直ぐな気持ちを向けられてることに。
だから、ソイツに気付かないことがムカついて、どォにも堪えられなくてアイツをブン殴っただけだった。
だから、礼なンて言われる資格俺にはなかった。
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:36:05.25 ID:rfYxn5Yf0
投下終了です。
それではまた次回まで
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 23:48:06.03 ID:tZkiQmZ+o
三角関係どころか四角関係・・・
皆ちょっとずつ上手くやれずに食い違ってしまってる感がして切ないな 291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 17:37:29.49 ID:anJLGqJ1o
インさんマジ魔性の女 309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 10:21:56.25 ID:6Oq2Y1TIo
一方さん……
言い方は悪いが、ずっと上条の女の世話してるんだよな……。
なんか、「蒲田行進曲」思い出したよ。 310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 10:47:28.20 ID:6aSsB60k0
>>309 おっさんか? 311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 12:03:26.40 ID:l0eiCcLfo
おっさんじゃないもん! 次→
上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」その3
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