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ダンテ「学園都市か」【MISSION 29】まとめ→
ダンテ「学園都市か」 まとめ
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:12:28.51 ID:oM/uczJVo
―――
神儀の間。
莫大な力を流し込まれて震えるこの聖域が奏でるは、
悲鳴とも賛歌とも表現できる、不安を掻き立てるもなぜか居心地が良く思えてしまう音。
神裂『……』
神裂はそんな『芸術的な不協和音』に耳を傾けながら、
このオーケストラの指揮者を身を堅くして見つめていた。
広場の中央にて、床に突き刺した閻魔刀の柄を握っているバージル。
一体どれだけの力を絶え間なく注ぎ込んでいるのだろうか。
まさにこの最強の男が己の生命力、文字通りその寿命を削っていく業。
バージルの表情は特に変わらぬも、こめかみには血管が浮き上がり、
その全身には『力み』がはっきりと滲んでいた。
そして空間を満たすは、鉛の海の底にいるかのごとき重圧。
そんな空気に不安にさせられたのか、思わずといった風に。
神裂『……』
手を握ってくるすぐ右隣のインデックス。
神裂はその細くて柔らかな手を包み込むように握り返した。
そっと優しくかつしっかりと、ちょっとやそっとでは絶対に解けないように。
209 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:14:08.58 ID:oM/uczJVo
二人は今、己達の仕事の準備が整うのを待っていた。
託された作業はもうすぐにでも始まるのだ。
固唾を呑んでバージルを見つめながら、
神裂は何度も何度も頭の中で、セフィロトの樹の切断手順を確認していく。
セフィロトの樹。
それは70億もの人間の監視、管理、操作、力の供与から、
人間界の基盤として理を維持する役割までをも担う、天界が作り出した一大システム群。
人間を縛り付ける鎖でありながら、人間を生かす命綱でもある存在。
そんなものに手を出す、ましてや切断するとなれば、当然そのリスクはとてつもないものとなる。
順序や切断部分を一つ間違えれば最悪の場合、
存在基盤を失った70億人が消え去ることになりかねないのだ。
アイゼン『よいか? 極力慎重に、な』
二人の前に立ちそう再度確認するアイゼン。
インデックス次いで神裂と、その頬に手を当てて、
彼女達に施した視覚共有の術式の最終確認をしつつ声をかけていく。
アイゼン『時間は考えるな。とにかく精度を優先しろ』
神裂『はい』
禁書『……うん』
アイゼン『心配するでない。虚無といえど、セレッサが「観測」している』
アイゼン『そなた達はただ己の仕事に集中しておればよい』
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:16:05.10 ID:oM/uczJVo
虚無。
そう、これから神裂とインデックスが向かうのは虚無であった。
セフィロトの樹、その全体像を一度に捉えるには、手段は二つしかない。
天界側からか、それか遠く『外側』から俯瞰するか、だ。
だが天界側から捉えるのはまず困難だ。
なにせメタトロンらに率いられたセフィロトの樹を守護する軍団が常に監視しているからだ。
見つからずにその本拠に潜入するのはまず不可能。
人界の70億はそのまま人質でもあるため、
攻め込むといった強攻策ももちろん取れない。
そこで選択肢は一つ。
人間界と天界の外であり、更に影が映りこむプルガトリオでもない、
完全な『透明度』を有する領域―――つまり『虚無』から俯瞰するのだ。
ただ、だからといってそう簡単に行ける領域でもない。
いや、行くことはある程度の力量さえあれば簡単だ。
問題は入った後だった。
魔帝や覇王の監獄として使われるとおり、そこは一度入り込めば内側では『何もできない』。
自力で抜け出すことなど不可能な領域。
こちらの生と死が営まれる世界が『有』ならば、その外であるこれはまさに『無』。
あらゆる存在も変化も『制止』する領域、それが虚無だ。
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:17:27.97 ID:oM/uczJVo
―――だがもちろん。
こうして神裂達が行こうとしている通り、
虚無の中でも安定して作業を行える手段がある。
アイゼン『うん、セレッサ。配置につけ』
二人を確認し終えたアイゼンの言葉、
それを受けてベヨネッタがバージルの方へと足早に歩み寄っていく。
そして閻魔刀を挟んで彼と向かい合う位置に立ち、
そっと右手をその魔刀の柄頭に載せて。
一度、静かに目を閉じて―――そして再び見開いたその瞬間。
ベヨネッタ『―――ふっ―――』
彼女の全身から、真っ赤な光が放たれ始めたのだ。
激しく燃え盛ってる炎のような、悪魔が纏う衣とはまた違う異様な輝き。
ベヨネッタ『「観測点」を―――ここに「定義」。OK、見えてる』
そして彼女は呟いた。
そう、これが神裂達が安全に虚無に行ける手段。
その内容は単純、『無』を『有』に定義してしまえば良いのだ。
ただそれをできるのは、道理や因果などお構い無しに―――存在をそこに定義できる『観測者』。
ベヨネッタ、すなわち―――『闇の左目』のみ。
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:18:54.95 ID:oM/uczJVo
禁書『……わぁ…………』
またもや思わずといったものか、
インデックスの口から今度は驚きの声が漏れた。
神裂『…………』
彼女の目には、
あの闇の左目とやらの『何か』が見えているのだろうか。
果たして、その『何か』とやらは一体『何』なのだろうか。
実は神裂、ここまで来ても未だ、
あの『闇の左目』という力をいまいち把握しきれていなかった。
いや、ジュベレウスが有していた『世界の目』の片割れ、
というのはわかってはいるが果たしてそれが何なのか、
例えばどんな力を行使できるのかという具体的な事がわからないのである。
もちろん以前に、任務に影響する要因の把握のためと単純な好奇心もあって、
闇の左目とは、とジャンヌに聞いたことがある。
その時返って来た答えはこうだ。
少なくとも、『存在が有か無かの定義』に干渉できる力、と。
更にジャンヌはこう続けた。
ただ影響範囲やその限界などは、実際に使って確かめてみなければわからない。
そもそもこれが正しい使い方なのかもわからないし、
他にも機能があるかどうかさえわからない、セレッサさえあの力の全貌なんか把握してなどいない、と。
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:22:29.97 ID:oM/uczJVo
実はこの今の使い方も、ベヨネッタの父の手法を元にしているだけのものらしい。
故にこれが正しい使い方すらかもわからないのだという。
そう、つまり『闇の左目』とは、『未知の力』と言ってもいいくらいに謎に包まれているのだ。
もちろん、その闇の右目と光の右目を合わせた『世界の目』もだ。
これまたジャンヌ曰く、二つ揃った状態の『世界の目』は、文字通り『何でもアリ』の力であるらしい。
ただその具体的な内容を把握しているのはジュベレウスのみであった、と。
続けて神裂は、破壊や具現についても彼女に問うた。
ジュベレウスの因子と言うが、実際はジュベレウスとどんな関係なのかと。
これには、ジャンヌはすっぱりはっきり答えてくれた。
創造や具現といったものらは、
『世界の目』という何でもアリの力の中から一部の要素を『模倣』したもの、と。
ここでジャンヌは更に、国語教師らしい物語仕立ての例えでこう続けた。
『ジュベレウスの「机」の上にはAからZまでの「字」が置いてあり、
彼女はそれらを好きに並べて自在に物語を生み出せることができた。
そのようにして、「机」の周りは次第に彼女が作った物語とその登場人物で埋め尽くされていく。
彼女の他には物語を書ける者など誰もいなかった。
なぜなら、彼女が生み出した登場人物はみな彼女よりもずっと小さく、
机の上にまでは手が届かなかったからだ。
だが、そのようにして物語を作っては壊してを繰り返し続けたある時だった。
なんと「机」に届くまでに大きくなった登場人物が現れたのだ。
そのような者達は手を伸ばしては机の上をまさぐり、
ある者はYを、ある者はEを、また中には複数の「字」を勝手に使い始めたのだ。
そうなると当然。
物語は、彼女の好きなようにはならなくなってしまう。
あちこちが勝手に書き換えられ、または滅茶苦茶にされて、物語は想定外の方向へとどんどん突き進んでいく。
そこでついに怒った彼女は実力行使を選び、その拳を振り上げたが。
物語を書き換えることで更に体の大きくなった登場人物たちに押さえつけられてしまい、
なんと逆に彼女が机から引き摺り降ろされてしまったとさ』
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:24:24.14 ID:oM/uczJVo
この例え話の『机』は創世主の領域、
AからZの『字』は『世界の目』と呼ばれるもの、
登場人物が机に届くほどに大きくなった、というのは一部の強者がついに創世主の領域に届いてしまったということ。
そうして彼らが勝手に使い始めた一部の『字』は、
『世界の目』の要素の一部であり創造や具現と名付けられることとなる力。
そして彼らは手を伸ばしてまさぐってそれらを入手したのに対し、
ジュベレウスは机の全体を俯瞰できて、AからZ全てを完全に把握している、
故に『世界の目』を理解しているのはジュベレウスだけということだ。
神裂はこの例え話を聞いて、ふと怖くなってしまった。
ジャンヌは特に何でもないように創世主の力のことを口にし、
その内容もまるで御伽噺のようだ。
だが―――それは虚構ではなく現実。
現実だと改めて確認すると、なんてとんでもないことなのだろうか、と。
ベヨネッタは、なんととんでもない力をその身に宿しているのだと。
そんなことをして―――危険ではないのか、と。
創世主では無い者が、理解しきれない創世主の力を持って―――リスクはないのだろうか、と。
そして。
これが神裂が一番、言い知れぬ不安を抱いた疑問。
今、その『机』には――――――『誰』が座っているのだろうか。
もし誰も座っていないのならば―――管理者を失った 『机』の上は一体―――どうなってしまっているのだろうか。
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:26:16.96 ID:oM/uczJVo
ベヨネッタ『―――OK。いいわよ、始めて』
その時だった。
そんな神裂の回顧を断ち切るベヨネッタの声。
闇の左目の安定の確認が終ったのだろう、
彼女は柄先に手を乗せたままアイゼン、そして神裂とインデックスを見た。
神裂『―――は、はい!!』
再び思い返した不安を掃い、神裂は意識を眼前の仕事へと切り替えた。
そもそもこれはどう考えたところで、己程度がその答えを知ることができるものでもない。
ベヨネッタやバージル、ダンテのような、『机』に届く者達でやっと何とかできる領分なのだ。
それに、と。
神裂は今、ある一定の安心を覚えていた。
その理由はもちろん、バージルと繋がっているからだ。
あの最強の主にはこの感情も思考も全て伝わっているはず。
この疑問を知っていてさえくれれば、これに関して神裂がすることはもう無い。
彼女は表情を再度引き締め、握るインデックスの手を優しく引いて。
バージルとベヨネッタから2m程の場所にまで進んだ。
そしてそこでアイゼン、
正面の像の台座のところに座しているジャンヌとローラ、と今一度順に目を合わせていき。
神裂『インデックス。いいですか?』
禁書『うん。行こう。かおり』
そうして無表情のバージルとベヨネッタを見やり。
神裂『では、お願いします』
ベヨネッタ『いってらっしゃい』
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:26:59.06 ID:oM/uczJVo
―――次の瞬間。
二人の目に映る周囲の光景が解けるようにフェードアウトして、完全な闇に染まった。
そして覚える、底の無い海に沈んでいくような感覚ののち。
全感が途絶えた。
五感も、悪魔の知覚さえも何も捉えない。
それは彼女達が麻痺したわけではなく、周囲が正真正銘の『無』だからである。
そのため、全感が無くともそれにはただ一つ例外があった。
互いに握る手の温もりだ。
神裂『大丈夫ですか?』
禁書『大丈夫なんだよ。かおりは?』
神裂『問題ないですよ』
と、その時。
禁書『―――……あっ……―――』
神裂『……どうしましたか?』
禁書『―――あったよ!!すごい……こんなの…………!!』
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:28:22.95 ID:oM/uczJVo
『あった』、ということは『目的のもの』か。
神裂にはただただ闇しか見えないが、
彼女の瞳はしっかりとを捉えているのだろう。
神裂『何が見えていますか?』
答えはわかっているが、
再確認の意も篭めて神裂が問うと。
禁書『―――せ、セフィロトの樹!!―――すごいよ!!』
予想通りの返答。
ではあるが、どうやらそのセフィロトの樹の姿は予想していなかったものらしい。
それも彼女の声色から見て、よからぬ方向にという訳でもないか。
神裂『――ーでは、視覚共有を』
禁書『うん!!』
そうしてアイゼンが施した魔女の技を起動し。
インデックスの視界を共有した瞬間。
神裂『―――………………』
神裂は言葉を失った。
目の前に『広がる』そのセフィロトの樹の姿を見て。
あまりにも―――それこそ許しがたいほどに―――美しかった。
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:29:01.54 ID:oM/uczJVo
人間界と天界の外縁部にあるセフィロトの樹の全貌。
それは複雑に入り組んだ、巨大な網の目状の『光』の構造体だった。
大樹の根のように無数に枝分かれし絡み合い、何重にも重なり合って透き通る煌きを放っていた。
しかもその規模はとてつもない。
ここは虚無なのだから、そもそも何らかのものさしでその大きさを測るのも馬鹿馬鹿しいが、
それでも例えると。
まるで銀河系を真上から見下ろしている感覚、とでも言えばよいか。
神裂『……こ、これは…………』
問答無用で感情がざわつき、ぞわりと全身を衝動が走る感覚。
何かを見て、ここまで美的感覚が刺激されたことなど無い。
だがそう長く、その美しさを純粋に味わってなどいられなかった。
次に神裂の頭を過ぎったのはこんなこと。
これが―――こんなものが。
70億もの人間の監視、管理、操作、力の供与から、
人間界の理の維持までを行う存在なのか、と。
まさに許し難い美しさだった。
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:29:33.24 ID:oM/uczJVo
そんな怒りと、これを破壊することへの悲しみを覚えながら。
神裂は七天七刀の鞘を、魔術で目の前の空間に固定し。
その柄に手をそっと添えて。
そして最終確認の声を放った。
神裂『―――始めても?』
『主』へ向けて。
意外なことに、主の声はすぐに返って来た。
バージル『一々許可を仰ぐな』
声色は相変わらずの冷徹なものであったが。
だがそれでも神裂にとってはまさに天の声であった。
許可を仰ぐな、つまりは「お前に一任する」という、そこには絶大な信頼が表れており、
それが彼女に絶対的な自信を与えてくれるのだから。
神裂『はい!!では―――いきます!!』
彼女は高らかにそう返事をし、
そしてインデックスの手を固く握り締めながら。
左手で―――蒼き光を放つ七天七刀を抜いた。
一世一代のその大任を果すために。
―――
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 02:30:03.34 ID:oM/uczJVo
短いですが今日はここまでです。
次は明日に。
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/31(月) 02:31:41.85 ID:zs+vLgJx0
乙! 223 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 06:52:59.97 ID:WEuwW/1f0
乙乙乙
神裂さん、完全にバージル信者 226 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:24:30.28 ID:oM/uczJVo
―――
あるデータを見て。
アレイスター『―――どう……なっている………………?』
彼は凍りついた。
それは己が目を疑うものだった。
感情を排し常に冷静沈着で徹底した合理主義、
そんな彼の思考が一瞬―――『完全』に空白になってしまうほど。
実は彼が『これ』を見つけたのは、今が初めてではなかった。
最初に見つけたのは―――右方のフィアンマがこの街で滅んだ数日後だ。
充分に許容範囲内に見えたこと、そして調査の時間的余裕が無かったこともあり、
目を瞑っていた小さな小さな『誤差』だ。
学園都市を覆うAIM拡散力場上に見られた、ごくごく小さな『揺らぎ』。
計算上は問題ない、プラン成功の確率には変化を及ぼさない、
そう判断したあの『ほんの僅かな誤差』、それが今。
アレイスター『―――何だ?…………何なんだこれは……?』
みるみる肥大化し始めていた。
それこそもう『誤差』と呼べる規模ではないほどだ。
絹布に墨汁を垂らしたかのように、AIM拡散力場に原因不明の―――『振動』が瞬く間に染み広がっていく。
それも一点から拡大しているのではなく、
あちこちで同時多発的に発生して。
アレイスター『―――どうなっているんだ―――これは?!』
この瞬間、今や虚数学区、そしてこの上条当麻のAIMにまで既に影響が見え始めていた。
227 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:25:48.50 ID:oM/uczJVo
人間でも誰しもが抱く嫌な予感、悪寒、というものに少しでも彼が意識を向けていたら、
彼もこの問題に何らかの策を講じることもできたかもしれない。
だが彼は『そんなもの』など信頼してなどいなかった。
悪魔などならともかく、たかが人間の勘。
そこに確実性など欠片も無く、役に立つわけなど無い、と。
なにせ、そのような曖昧な衝動に従ったせいで一度目は失敗しているのだから。
だからこそ彼は人間の充てにならない感覚は全て排除し、
データに示される事だけを信じるというやり方を貫いたのだ。
そしてそれが不可能を可能にし、彼はこのようにここまで勝ち続けるに至り、このまま―――。
―――完全な勝利を収めるはずだったのに。
その絶対的なやり方は、この最後の最後の段階で――――――彼の信頼を裏切った。
アレイスター『―――ッ!!』
もう今は、悠長に原因の正体を探っている場合ではなかった。
最優先すべきは、とにかくこの『振動』の拡散と激化を止めることだ。
このままでは、修正不可能な状態になってしまう。
材料不足で計算はまだできなくとも、そう確かに推測できるくらいに、
拡散の勢いは増し続けていた。
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:27:11.32 ID:oM/uczJVo
エイワス『おや―――随分と大変なことが起きたな』
アレイスター『―――黙っていろ!!』
相変わらず、どことなく愉快な色を滲ませるエイワスに声を荒げながら、
彼はこの拡大を止める手段を探してホログラムに目を通してく。
アレイスター『…………』
画面を流れていく大量のデータ、
それを見て彼の思考はすぐにある点に気付いた。
どうやらこの『振動』は、一方通行が火付け役であり燃料であると。
AIM拡散力場上の中に紛れていた原因不明の種、いや、ある特定周波数のAIMが、
一方通行の『生』と繋がったことにより突然『生き返った』かのごとく活性化したようだ。
となれば。
一方通行との繋がりを切断すれば、
拡大は停止するかもしくは勢いが衰えるはずだ。
アレイスター『よし……』
そう彼は考え、更に素早く策を具体化させていく。
もっとも簡単で早い切断方は?、箇所は?
その簡単な選定は一瞬にして終った。
単純だ。
ミサカネットワークと一方通行を切断すれば良いのだ、と。
229 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:28:19.86 ID:oM/uczJVo
ミサカネットワークは虚数学区、
そこからエイワス、上条当麻と繋がっているのだから、
ここを一つ塞き止めるだけで全域から一方通行の影響を取り除ける。
一方通行の側も、
その思念は既に抹消済みで完全に掌握下にあるのだから、
一時的にスタンドアローンにしても特に問題は無い。
そうして早速、彼がその作業を行おうとしたその時だった。
ここでまた彼の想定外の事が発生する。
アレイスターの前にあるホログラム、そこにミサカネットワークの状態が表示されたその直後。
突然。
アレイスター『―――っ』
ミサカネットワークが切断された。
ミサカネットワークが一方通行と、ではなく―――虚数学区とだ。
それも―――アレイスターの意思ではなく
アレイスター『―――なぜだ?』
―――『勝手』に。
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:30:31.83 ID:oM/uczJVo
更にそれだけには留まらなかった。
他にもあるミサカネットワークと各所の回線もぶつり、ぶつりと次々と切断されていく。
一方通行とミサカネットワークが、他と完全分離していくのだ。
最後にはこのアレイスターの管理システムとも切断され。
ホログラムにはエラー表示が浮かび上がった。
アレイスター『―――……』
結果的には切断され、他の画面に示されるデータの通り、
虚数学区と上条の中に見られた振動は急激に衰えていく。
だがこれは次なる問題をも同時にもたらした。
アレイスター『一体……これは……』
完全に掌握していたはずなのに、
なぜこうも次々と予想外の事態が連続する?
なぜこんなにも―――イレギュラーが発生する?
顕在化したイレギュラーは二つ。
一つはあちこちにある『振動』の原因。
そしてもう一つはこのミサカネットワークと一方通行の孤立化の―――
―――いや、この原因であるイレギュラーは別今顕在化した訳ではなかった。
なぜならアレイスターは、
半年以上も前から『コレ』をイレギュラーとして認識していたのだから。
231 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:32:15.66 ID:oM/uczJVo
しかしそれは余りにも『小粒』であったため、
彼の計算上では距離を離しておくだけで良い、と判断を下してしまっていたのだ。
―――イレギュラーは把握しきれないからこそ『イレギュラー』だというのに。
特に影響を及ぼさない小粒で終るとは限らず、
逆に最大の爆弾となり何もかもを吹き飛ばしてしまうかもしれないのに。
アレイスター『!』
彼はその時、背後に突然気配を覚えた。
誰もいないはずの―――闇に包まれている少年しかいない背後に。
そうして素早く振り向くが、別に新たな第三者がいたわけではなかった。
その少年以外はいなかったのだ。
そう、一方通行以外は。
つまり―――気配の主はその少年だったという事だ。
アレイスター『――――――』
エイワス『―――ふふ、そう来なくてはな。やはり人の物語とはこうでなければね』
彼が振り向いた先にあったのは『少年の入った闇の繭』ではなく。
立ち上がり、そのオレンジの瞳でこちらを見据えている少年だった。
それもとても『中身が無い』とは言えないような、凄まじい形相―――かつ。
その目から『黒い雫』を―――まるで『泣いている』かのように滴らせながら。
232 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:34:12.96 ID:oM/uczJVo
それは、『小粒』でしかなかったイレギュラーが爆弾へと変じた瞬間だった。
『小粒』の正体は―――ある一人の正真正銘の無能力者。
ただの一般人であり、
例えイレギュラーであろうが何の変化をもたらすことも出来ない小粒。
そのはずだったのに。
アレイスター『どうして……どうしてだ…………有り得ない……』
彼から生じたほんの僅かな波が―――あるレベル5の女へと伝わり。
ダンテ、アラストルという別のイレギュラーと更に反応を起こし、そして―――。
一方通行『―――よォ…………アレイスター』
―――ついに一方通行にまで到達した結果がこれだった。
少年、一方通行はそう静かに彼の名を口にした。
突き刺さるような視線をアレイスターに向け、
そして焼け付いてしまいそうなほどにその声に激なる内の熱を載せて。
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 22:37:48.39 ID:oM/uczJVo
エイワス『―――さて、ここからどうする? エドワードよ魅せてくれ。もっと楽しませてくれ』
相も変らぬ他人事か、そんな腹立たしくなるようなエイワスの言葉。
だが今のアレイスターには、最早言い返す余裕など無い。
アレイスター『なぜだ……なぜ……!』
あまりの状況に彼は思わず一歩、更に一歩、
後ずさりしてしまった。
もうその類稀な思考ですら、この展開にはついていけなかった。
一体なぜこの少年の人格がこうして存続しているのか。
徹底的に崩し砕き完全に抹消したはずのなのになぜ―――?
精神が存続し得ない、圧倒的なストレスと疑心を与えたのになぜ―――?
アレイスター『……―――なぜだッ―――!!どうしてお前がッ―――!!』
一方通行『…………なぜかって?』
少年は小さな、乾いた笑い混じりに口を開いた。
一方通行『―――そりゃァ―――俺は―――』
一方通行の思念を存続させた『それ』は、別に大きな力などではなかった。
あの『無能力者』から生じた波は、この一方通行に届いた時も変わらずに小さくて。
届け先が彼では無かったら意識されることすらなかったようなもの。
それは強いて言うならば。
たった一つの『言葉』だった。
一方通行『―――「答え」を見つけたからな』
―――ある『女』が遺した、『くだらない願望』だった。
―――
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:25:37.09 ID:UMjtKL09o
―――
『中』から、熱くて痛くて辛くて苦しい爆風が押し寄せてくる。
何もかもを薙ぎ払う真っ黒な風が、この体と精神を貪っていく。
それはそれは馬鹿みたいに五月蝿くて、凄まじく熱くて、猛烈に痛くて。
何もわからない。
何も考えられない。
何も認識できない。
『―――さあ来るが良い』
だがただ一つ。
あの声だけははっきりと聞えた。
『そうだ。何もかもをかなぐり捨てて、ただ怒りに身を委ねてしまえ』
そう、だた一つ。
あの者の姿だけは見えていた。
闇の中に唯一見える光だ。
迷い絶望し怯えきった少年は、夢中になってその光に向けて歩を進めていく。
例えそれが肉と骨を焼き尽くす炎であっても。
『さあ―――その手で、私の首を捻じ切るが良い』
そうして呼ばれるがままに近づいて。
手を伸ばして―――火の中に身を投じると。
次の瞬間、そんな最後の光すら消え去って、
底無しの闇の中へ少年は落ちていった。
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:27:37.37 ID:UMjtKL09o
どこまでも、どこまでも落ちていく。
そして流れていく闇の中に走馬灯、と呼べるものか。
垣間見えるのは過去の記憶。
さまざまな情景が凄まじい勢いで過ぎ去っていく。
『最終処分』用の破砕機へ送り込むために、全ての情報をスキャンしているのか。
それもただ見るだけではなく、その時目にしたもの、触れた感触、
そして抱いた感情ら全てを忠実に追体験していく。
ただ唯一、色が無いという点だけが違っていたが。
彼はもう一度、これまでのそんなモノクロな人生を歩み直していく。
とはいえ彼にはもう正確な時間感覚なんかなかったため、
正確な年齢と同じ体感時間ではなく、一瞬にも永遠とも言えるくらいに不確かなもので、
それも記憶の濃淡によっても大きく異なっている。
彼はぼんやりと。
ただ受身のまま、その記憶の奔流に身を委ねていた。
始まりは幼い頃から。
当時の情景はきわめてあやふやで、両親の顔すらもはっきりと見えない。
そこが果たして学園都市なのか、それともその外なのか、それすらも覚えていない。
はっきりとしてくるのは、大体4歳辺りからか。
その時は既に学園都市の中で暮らしていた。
ただ記憶が明確とはいえ、その中身はそれはそれは空虚なものであったが。
白髪に赤目と、その特異な容姿が故に同年代からは避けられ。
一応親代わりだった担当の者も、ただ状態をチェックするだけで実際には親と呼べる行為は何一つしない。
その頃はただ、一人で学校と研究所を往来するだけの日々だった。
そうした10歳のある日のことだ。
突然、能力が発現したのは。
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:30:57.24 ID:UMjtKL09o
始まりは、いつものいじめっ子がつっかかってきた事。
理由なんて覚えてはいない。
いや、大した理由なんて無かったかもしれない。
とにかくその時発現した能力は―――触れてきたいじめっ子の腕をへし折った。
それを見て周りの大人が駆け寄ってきたが、それも弾き飛ばし。
通報されてきたアンチスキルを吹き飛ばし。
そして非常事態だと出動してきた駆動鎧やらヘリやらを木っ端微塵にした。
その『事件』がきっかけで、
無垢な少年は『もう誰も傷つけない』ように一人で生きていくことを決めたのだ。
そして歳を重ねて現実を知る中で少年はいつしかこう考えるようになる。
誰も傷付かない『完全な防護策』とは、戦意さえ喪失するような、争いが起こりようも無い絶対的な力であると。
それが、彼がそれまでの名を捨て去って最強を目指した理由であった。
しかし―――そんな望みとは裏腹に。
強くなればなるほどその手を染める血は濃くなっていき。
『もう誰も傷つけない』と決意して歩んできたはずなのに。
気付けば、自らが殺戮した大量の躯の山に座っていて。
彼は―――笑っていた。
頬に散る他者の血肉、その感触に―――浸っていた。
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:32:35.91 ID:UMjtKL09o
記憶の回廊の果て。
少年はソファーに座っていた。
両肘を膝に付き、頭を抱えて。
「……どォしてだ……どォしてこンな……」
そこはあの病棟の一室。
グループの面々と、出撃前夜に酒を酌み交わしたあの部屋。
正確無比に疑似体験しているためか、その思考も正常な水準にまで一時的に戻っていた。
戻ってはいても―――何も変わりなどしないが。
同じように疑念を抱き、同じように絶望して、答えなど結局見出すことが出来ず、
このまま記憶の追体験は、麦野達を見送って三頭の狼と獅子の戦いを経て、再び―――崩壊する。
それだけだ。
いや、全て同じわけではない。
この二度目の追体験で二重に追い込まれ、
これでもかとばかりに徹底的に粉砕されるのだ。
その魂に残っている記憶も、生きた情報も何もかもを根こそぎだ。
「俺は……どォしてこォなっちまったンだよ……」
髪を掻き毟り、彼は答えの出ない問いに苛まれ続けた。
己を責め続け、絶望し、否定して、更に深みに落ちていく。
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:34:01.13 ID:UMjtKL09o
―――妹達と打ち止めは、自分がいなかったら生まれなかった?
それは確かに事実だろう。
だがそんなものはただの結果論だ。
二万人は殺されるために生み出され、実際に一万人は殺したのだ。
狂った殺人鬼の夫婦が殺すために子供を作るようなもの。
そんな戯言、気休めにすらならない。
―――あんな事、本当は『したくなかった』?
それは嘘っぱちだ。
本当にそう思っていたのなら、例えそうせずるを得なくとも―――決して笑いなどはしない。
あんな風に快感の声を漏らしながら拷問し、残虐に引き千切り、その血肉を舐めたりなどしない。
本当に『したくはない』、という気持ちはあったかもしれないが、
一方で確実に『殺戮』を求めていた自分もいたはずなのだ。
だからこそ。
だからこそだ、今となってここまで己に嫌悪し怒りを抱くのは。
こうして自分自身が『大罪』として認識している。
果たすべきことを果したのち、早急に死をもって贖うべきだと。
では―――その果すべきこととは何だったのだ?
それはこの期に及んでまで―――片付けきれない量なのか?
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:35:15.81 ID:UMjtKL09o
天井の手から打ち止めを救った、そこまでは文句は無い。
その後しばらくの『護衛』もまあ良い。
だがその後だ。
打ち止めの安全を確保できて、命を絶つ機会なんていくらでもあった。
ダンテ達が絡んできてから、それを達するにもっと簡単になったし、
それ以上に自分が生きている限り打ち止めに完全な安寧など訪れないと確かになったのに。
なぜそうしなかった?
それまでの『最強になる』なんて目的だって、
絶対的な力を得れば争いは消える、そんな根底の理論がダンテ達の出現で否定されてしまったのに。
巨大すぎる力は、更なる戦いを招くだけだと明確にされて。
もうこの世に留まる、己がいなきゃならない理由など無いのに。
なぜ―――。
「……俺は……本当は……何をしたかったンだよ……」
―――まだ生きているのだ。
「なァ…………アクセラレータ……オマエは何を…………」
『あのまま』ではわかっていたはずなのに。
こんなどうしようもない状況に陥るのが確実であったのに。
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:36:48.46 ID:UMjtKL09o
わからない。
思考は無意味に堂々巡りし、更に深みに落ち込んでいった。
周りでは記憶の再生が続き、
こうして思考を保っていられる残り時間が刻々と減っていく。
「…………」
周りで聞えるは、酒を交えたあの時の他愛も無い会話。
内容は日常離れしているであろうが、その調子は世間話そのもの。
読み合いも緊張も無く、そこにあるのは緩い連帯感。
確かに結構な量の酒が入っていたが、
交わされた一言一言から隅々の情景まで、きわめて明瞭に記憶していた。
夜も更けたところで、泥酔した御坂が結標に飛ばされる形でリタイアし、
土御門、海原、結標はそれぞれ親しい者達と時間を過ごすために去り。
「………………ねえ」
そして。
麦野「…………今まで殺した連中の顔、全部覚えてる?」
麦野沈利と二人だけになる。
顔を上げれば、机を挟んだ向かいのソファーに彼女が座っているはずだ。
一言一句正確に再現された声が耳に入ってくる。
だが彼は。
「……」
彼女を見ることは出来なかった。
麦野「―――私もね。アンタと同じく『向こう』に行かなくちゃならないと思ってるの」
例えそれが本物ではなく記憶が作り出した偶像であっても、
眩しすぎて、耐えられそうもなかった。
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:38:59.29 ID:UMjtKL09o
麦野「『向こう側』に会わなきゃならない『仲間』がいる」
麦野「そして『伝えなきゃいけない』事もある」
「なァ……オマエは……こンな俺を見たら……どう思ったンだ」
忠実に再生されていく声に向けて、彼は問いかけた。
彼女は本物ではない己の記憶が作り出す像。
何を聞いたところで、引き出せる言葉は元から己が言っているものだけ、
己の分身に問いかけるようなもの、そうわかっていながらも。
「……これが俺なンだよ…………俺は……」
言葉を続けた。
最強の能力者、そしてこうしてそこらの大悪魔をも超える力を手にしておきながら、
中身はどうしようもなく脆弱。
強い力を持っていたから強者と錯覚していただけで、
本当は己の弱さに全く気付いていなかった愚か者。
いいや、気付いてはいたはずだ。
ただそれよりも悪いことに、他者を傷つけないため、打ち止めのため、
それを理由にしてこの問題から目を逸らしていただけなのだ。
どれだけ外見を取り繕おうが、その中身はもう騙しきれなかった。
贋物は結局、最後の最後にはバケの皮が剥がれてしまうものだ。
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:41:18.76 ID:UMjtKL09o
その結果、留守の学園都市を守る、
そんな託された使命もろくに果せず。
アレイスターを独断で、それもただ感情に任せて殺そうとし。
打ち止めも何もかもを投げ出して絶望に屈してしまった。
麦野「―――…………私は……これはわがままなのはわかってるけど……」
麦野「こんな薄汚れてどの口でって言われるだろうけど……」
そんな己なんかが、どのツラ下げて彼女を見るのだ。
自分を理解しきった上で前に進もうとした戦士を。
己とは違い、使命を完璧にこなしたあの女を。
自分の全て、何もかもを受け入れて。
麦野「生きたい―――」
そう望みながらも―――命散らした麦野沈利を―――。
「―――――――――…………ッ…………………………」
その時だった。
記憶の中の一言、
麦野の口から発されたその言葉を再認識した瞬間。
彼の思考の中に、一筋の光が突き抜けた。
251 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:43:04.16 ID:UMjtKL09o
「――――――は、ははッ…………」
彼は跳ね起きるようにして顔を上げては、上半身をソファーの背もたれに投げ出して。
茫然自失気味に小さく笑ってしまった。
信じられなかった。
頭がオーバーヒートしそうだった。
それも今までの『空回り』とは違い、
追いつかないくらいのペースで思考が明瞭に繋がっていく。
―――なぜ彼女のその言葉が、聞いて以来ずっと気なり続けていたのか。
またことあるごとになぜ、
打ち止めと共にいる未来なんて許されぬ幻想が湧き上がってきてしまうのか。
気付いてしまったら、非常にシンプルなことだった。
このワードとこの問題を結びつけられなかった事が、不思議に思えてしまうほどだ。
己とあんな事を言えてしまう麦野とには、その認識に違いなんて『無かった』のだ。
視点の位置も見ている景色も全て同じだった。
ただ、己が気付いていなかっただけなのだ。
『何がしたかったのか』、その答えがすぐ目の前にあったのに。
「はッ、はは…………チクショウ…………」
そう、根底にあった望みは同じ。
単純明快、人間誰しもが有する基本的な願望。
「…………………………なンなンだよ…………クソッタレ…………」
自分もまた―――『生きたかった』のだ。
252 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:44:33.83 ID:UMjtKL09o
それは決して虐殺者の大罪人には許されない望み。
わかっている。
わかっているとも。
今の今まで常に意識し、一時も己を許したことなど無い。
それなのに。
「は、ははッ……オマエは……ほンッッッとォに―――」
『情けないこと』に。
一度気付いてしまったら、もう抑え込めなかった。
「―――どォしよォもねェ野郎だなァアクセラレータッ!!」
吐かれる言葉とは裏腹に、沸々と湧き上がってくる感情。
偽れない本心が噴出し、内をわがままでどうしようもない望みで満たしていく。
「脳ミソ腐ってンじゃねェのか?!アァ?!クソッタレが!!」
黄泉川、芳川、上条、土御門、結標、海原。
そして打ち止めが存在するこの世界に、
このまま留まり続けていたい、と。
「クソッ!クソが!!あああァ―――!!」
できるならば―――皆と―――打ち止めと―――生きていきたいと。
253 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:45:48.68 ID:UMjtKL09o
腹の内から、己へと罵声を浴びせて。
それでも認めざるを得ないとわかって。
「――――――……………………クソが…………!」
彼は諦め混じりにため息をついた。
後頭部を背もたれの上に叩きつけて、天井を見上げながらゆっくりと長く。
こんな気持ち、初めてだった。
少なくとも、今見てきた記憶の中で覚えたことなど無かった。
何もかもが怖くて怖くてたまらない。
友を失うことが。
一人になってしまうのが。
自分が壊れてしまうことが。
打ち止めが―――己の前から消えてしまうのが。
そうして初めて実感できる―――それらの『本当の価値』。
それらを守るためにと戦ったのも、
その最大の動機は『自分が失いたくなかった』からだ。
まず第一に、自分がそれらの存在を求めていたのだ。
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:47:56.53 ID:UMjtKL09o
「…………」
しばらくして、彼は目の周りのむず痒い感触に気付いた。
原因はすぐにわかった。
視界がぼやけていたのだ。
「……はは、はは、ははは……こィつ……」
彼はその目尻から露が毀れる触感を、ただ可笑しげにあざ笑った。
「―――泣いてやがる……泣いてやがンぜ…………女々しい野郎だ……」
涙したのはいつ以来だろうか。
少なくとも、能力が発現してからはこんな風に泣いたことなんてまず無かった。
感情が高ぶって湿っぽくなることすらなく、常に乾ききっていた。
溺れるほど血を浴びていたにもかかわらず、
その中身は知らぬうちに常に乾きに喘いでいたのだ。
「…………」
目尻から毀れる露を拾おうと、何気なしに手を上げたところ。
彼はその手を顔の上でふと止めた。
「…………」
触れるものを一瞬で潰しかねない暴力的すぎる手。
何千回も何万回も血で塗り重ねられたせいであるかのように、色を喪失した手。
己から逃げ続けて、愚かにひたすら力を求めた代償か。
遂には失いたくない存在に触れることができなくなってしまった。
「…………ラストオーダー…………」
あの幼い少女の、柔らかな髪に最後に触れたのはいつだっただろうか。
二度と近づくな、そう告げた瞬間のあの少女の表情が忘れられない。
マジックミラー越しに叫ぶあの顔が脳裏に焼きついている。
泣いて、泣いて、泣きじゃくっているあの表情が―――。
255 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:54:13.52 ID:UMjtKL09o
なぜ彼女はあんな顔をしていたのか。
その理由は『知っていた』。
全ては弱いくせに、臆病なくせに、頑固で意地っ張りで強情な己のせいだ。
こんなのだから、自力では己の本質に気付けずにここまで落ちに落ちてしまったのだ。
こんなのだから、ラストオーダーを苦しませて。
笑い騒ぐためだけに生きているようなあの少女の顔から、その笑みを奪い取ってしまうのだ。
しかも己の決断が、そんな結果を招くと知っておきながら。
彼女がどう思っているかを悟っていながら。
そう、わかっていた。
そこまで鈍感じゃあない、これまでの積み重ねを見ればそれは明確だ。
打ち止めは、一方通行の死を望んではいないと。
怒り、憎しみといった負の感情が欠落しているわけじゃなく、打ち止めは本当にそう思っているのだと。
それなのに、目を逸らし続けてきた。
自分は大罪人、そんな甘い選択など許されないと『勝手』に決め付けてだ。
そもそも、己に自分自身を裁く権利など元より無いのにだ。
この身の処遇を最初に決める権利を持っているのは他ならない―――打ち止めと妹達だ。
それなのに己は逃げるようにして、『勝手』に自身を裁こうとした。
いいや、それは裁きと称してはならない、ただの『先送り』、有耶無耶にするための『時間稼ぎ』だった。
ではなぜ打ち止め達の判断を避け続けたのか、
その理由は単純にしてどうしようもなく情け無いものだ。
怖かったからだ。
もしも、もしも打ち止めと妹達が―――己を拒絶したら、と。
256 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:57:53.15 ID:iqxyFipLo
彼はその黒き手の甲を瞼の上に当てて。
「…………クソ喰らえ…………」
鼻をすすりながら悪態をついた。
もうウンザリだった。
こんな己がもう嫌だった。
もう逃げるのも受身でいるのも嫌であった。
そして何よりも―――もう打ち止めの泣き顔なんて許せなかった。
弱くて臆病で卑劣で未熟な己、そこから目を逸らし続けるのはもう終わりだ。
そうして彼はついに真の意味で、己を受け入れることとなる。
吹っ切れ、己を解き放って、真の『自分の意志』で前へと進む。
ああ、戦ってやるとも、と。
―――俺は『俺の望む未来』のために、『ありのままの俺』で戦ってやる―――、と。
そして打ち止めと妹達に直接問おう。
もう逃げずに裁定を求めよう。
彼女達が拒絶したら、今度こそ潔く命を絶ち。
彼女達が受け入れてくれたら。
このチンケなプライドも何もかもを捨て去って。
無様に―――その寛大な判断に甘えさせてもらおう。
誰が何と言うがクソ喰らえだ―――俺も『わがまま』になってやる、クソッタレ、と。
257 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 23:59:22.11 ID:UMjtKL09o
手を除けて再び目を開くと、
あのモノクロだった情景に『色』が戻っていた。
「……………………」
彼は天井、壁と、もたげていた上半身を起こしながら視線を巡らせて。
そして。
麦野沈利を見た。
僅かな気負いもせずに真っ直ぐに。
「……よォ」
彼女の姿を目にしても、今や負の感情は全く覚えなかった。
ただ代わりに―――胸が締め付けられる感覚に襲われたが。
心臓が萎縮してしまうような。
しかしそれも別段苦痛といったものではなく、むしろどことなく心地良い。
柑橘系といった類のさわやかな刺激に似ているか。
「………………あァ…………そォか……」
確信しそして再度気付いてしまった。
興味を超えて魅せられていたあの感情、それも『本心』だったと。
それもあの言葉だけではなく。
この女『そのもの』に魅せられてもいたのだと。
258 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/04(金) 00:02:33.40 ID:n0ibw8afo
それは初めての感情だが、何となくその正体はわかるものであり。
以前の己なら一笑してまた目を背けていただろうが、
今となっては否定なんかもしなかった。
自覚した彼は楽しげな笑みを浮べて。
静かに、まるでこちらの言葉を待っているかのように佇んでいる偶像、
記憶が作り出した幻想の女性へ向けて。
いや、きっと、本物の彼女であっても同じように。
「よォ、クソアマ。どォやら俺は―――」
臆面もなく―――嬉しそうにそう告げた。
「―――惚れちまったみてェだ。オマエにな」
それは確実に悲恋に分類される物語であろう。
片方が気付いたときには、
片方はもう生者ではなくなっていた―――『始まる前から終っていた恋』であったのだから。
しかしそんな悲劇の登場人物であるのに、
彼は嘆き悲しむことなんかせず、ただ穏やかな笑みを向けて。
「―――ありがとな、麦野」
別れではなく―――礼の言葉を手向けた。
『今度』こそ、最期に彼女へ向けて。
259 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/04(金) 00:03:08.30 ID:n0ibw8afo
そうして。
一人の少年は完全に消滅する寸前に、己を取り戻した。
絶対に与えられるはずの無かった―――
―――アレイスターのプランには存在していなかった『たった一言』によって。
思念が完全に再構築された後で、彼が最初にやるべき事は明確だった。
まずは打ち止めと妹達の命を救うこと、
つまり―――ネットワークから『余分なもの』を切り離すこと。
それは以前の彼にとっては非常に困難なことであった。
プログラムを徹底的に解析して解体、それもアレイスターに気付かれて妨害される前になんて不可能に近い。
しかし今となってはきわめて簡単なことだった。
AIMに直接干渉できるまでにその認識は進化しており、
その存在も紛れも無い王たる神の領域へと昇華している。
更に『生』という明確な意志を有している彼の前には、
死した残骸の力などただの『無機物』に過ぎないのだ。
もうプログラムなんて解析する必要などなく、『能力者』の力は意のまま。
安定して切り離す、そう意識するだけで―――ミサカネットワークは瞬く間に独立していき。
独立は完了、となれば次にやるべきは『決着』をつけに行くこと。
いや、―――本当の己の戦いの『幕をあげる』ことだ。
そして彼の意識は一気に急上昇していき、幻想と闇の中から抜け出して。
黒き『繭』を砕いては、母なる世界層に再顕現して。
彼は黒き涙を伝わせながら、
槍のごとき鋭い目で―――すぐ正面にいるあの男に向けて。
一方通行『―――よォ…………アレイスター』
宣戦布告する。
今度こそ、真の己の意志で。
―――
260 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/04(金) 00:05:15.95 ID:n0ibw8afo
今日はここまでです。
次は日曜に。
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/11/04(金) 00:09:32.06 ID:7YpNvwwAo
お疲れ様でした 266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/04(金) 00:25:59.07 ID:ELzd047DO
一方さん自分に素直になったな。あとは上条さんか 267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/11/04(金) 01:21:46.96 ID:1O6cu38po
どれもこれも浜面と上条さんの行動による揺らぎなわけか
ちゃんと三人の主人公のキャラが立ってていいなぁ 269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 22:54:10.64 ID:7wFHTcxWo
―――
第一学区地下深く。
とあるシェルターの一室にて。
芳川「―――っな」
芳川は硬直していた。
持ち歩いている携帯端末、更に打ち止め専用に整備した、この一室を埋め尽くす各種機器。
それら全てが突然エラーを起こしたからだ。
芳川「ちょっ……!!待って!!どうして!!」
それも、部屋の中央のベッドに横たわっている死に瀕している打ち止め、
今からその彼女にできるだけの処置をしようとした矢先にだ。
彼女だ飛びついた近くの端末、そこに表示されてたエラーの原因は、
ネットワークとの接続が切れてしまったからというもの。
芳川「…………」
一体なぜか。
これもアレイスターの仕業か、それともまた別の―――と、
思考を一気に巡らせるも、彼女はこの問題にぞの思考の全力を注ぐことはなかった。
原因が何であれ、今最優先すべきことは誰が何をしたかではなく、
どうすれば接続を復旧できるかなのだ。
彼女は数秒間、画面を凝視しては押し黙ったのち。
芳川「―――貴女!!やってほしい事が!!」
部屋の隅に身を小さくして立っていた少女、
初春の方へとふり向いては声を張り上げた。
初春「―――はい?!」
芳川「―――来て!!ここ座って!!」
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 22:56:58.88 ID:7wFHTcxWo
初春飾利。
僅か13歳にして、厳重な監視体制が敷かれるほどのハッキング技術の持ち主。
この狂った街が生み出した、『異常な才を持つ子供』の一人。
そこで、と芳川は考えたのだ。
この少女ならば繋ぎ直すことができるかもしれない、と。
芳川は半ばまくし立てるようにして、
勢いで彼女を端末に向かわせた。
初春は最初は困惑していたものの、
席についた瞬間からはまさに人が変わったかのようにその才を見せた。
管理者である芳川の権限もあったが、
それを差し引いてもおかしなくらいの速度で、彼女はここのシステム解析してしまったのだ。
それも作業の傍らに芳川からの仕様説明を聞きながらだ。
だが。
そんな初春の手にかかっても、この問題は手に負えなかったらしく。
初春「―――……うぅん、無理ですね」
彼女はため息混じりに首を横に振りながら。
初春「どうも、この『MNW』は完全に独立化されたみたいですね」
芳川「独立化……?」
初春「はい。ここだけじゃなく、見える限りでは、他との接続も全部切断されているみたいです」
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:01:01.88 ID:7wFHTcxWo
芳川「…………」
完全な独立化なんて、今までに起きたことなど無かった。
それも少しの状態すらもわからないくらいに強固に。
ミサカネットワークに未知なる現象が起きているのは確実か。
こんな異常なことをやってのけているのは、やはりアレイスターなのか。
と、その時であった。
再び思考のために押し黙りかけていた芳川に向けて。
初春「あ、あと…………この子のバイタルが正常値に戻りつつありますよ」
芳川「……え?」
そう指し示された、
打ち止めの肉体の状態を表示している画面へと目を向けると。
脈、血圧、呼吸、脳波、体温、それらが全て、徐々に安定しつつあった。
完全に正常とまではいかないものの、
さっきまでの死に瀕していた状態からすれば嘘のように落ち着いていたのだ。
芳川「ラストオーダー?聞える?」
すぐに彼女の傍に向かい、耳元でそっと呼びかけると。
打ち止め「…………ねえ……」
彼女は意識が回復していたどころか、確かな意思を示した。
薄く目を開いては微笑んで。
芳川「……っ?」
打ち止め「ミサカを……あの人のところに連れてって……ってミサカは……ミサカは……」
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:02:22.57 ID:7wFHTcxWo
芳川「……」
意識が戻ってすぐのその言葉。
だが当然、芳川は二つ返事で首を縦に振るわけにはいかない。
まず、地上に今向かうのはとにかく危険すぎる。
次に肉体が安定しつつあるからとはいえ、
ミサカネットワークの状態が全くわからない以上、安心はできない。
むしろ未知の現象続きなのだから警戒しなければならない。
この安定は、台風の目に入ったように一時のものかもしれず、
次の瞬間にはまた急激に悪化するかもしれない。
とにかくまずは、ミサカネットワークの状態を少しでも把握しなければ。
芳川「……ねえ、ミサカネットワークに何が起こったの?」
打ち止め「…………わからないの……だからそれを確かめに行きたいの……ってミサカは……」
芳川「今の状態は?正常に稼動しているの?」
打ち止め「……うん……」
芳川「……」
だが息も絶え絶えに答える打ち止めを見ては、口頭でこれ以上聞き込むのも憚られた。
いくら安定しつつあるとはいえ、まだまだ絶対安静が必要な水準。
意識を失うかどうかという境目で朦朧としていて、喋るのもやっとな状態であろう。
打ち止め「……おねがい……」
そう、そんな状態なのだから、打ち止めの頼みなど承諾してはならないのに。
そこには考慮の余地さえ無いのに。
芳川「……」
芳川は迷っていた。
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:05:25.15 ID:7wFHTcxWo
こんなこと考えるのはどうかしてる。
そう自覚しながらも彼女は考えてしまう。
もしかして、彼女の希望通りにするべきなのではないか、と。
常識的に考えれば、
保護者という立場の己は絶対にそんな事をしてはならない。
だが―――今の状況のどこが『常識的』だというのだ、と。
それに非常識な状況下においてはいつも、
一方通行の元にいることで打ち止めが救われる、
または打ち止めが現場にいたことによって一方通行が救われてきたのだ。
そこで、だったら今回も、と。
芳川は考えてしまう。
今や状況は、脇役でしかない己の手には負えないのだから、
一方通行や打ち止めのような―――主役達に直接委ねるべきなのでは、と。
ここまで来てしまったらもう子供も大人も関係なく、
運命は彼ら自身の手で決めさせるべきでは、と。
芳川「……」
芳川は自覚していた。
この考え方は勇気とも優しさとも言えるものではない、と。
その実は、それはそれは愚かしくて、勝手で無責任な『甘さ』であることを。
そしてこう、
こんなことだから夢であった―――『教師』にはなれなかったのだ、と心の内で己を笑いながら。
芳川は打ち止めを抱き上げて、ドアの方へと進んだ。
274 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:06:54.25 ID:7wFHTcxWo
と、その時。
初春「―――待ってください。どこへ行くつもりですか?」
背後から呼び止める初春の声。
打ち止めとのやりとりとこの芳川の行動を見ては、誰が見ても明白であろうか。
呼び止める初春のその声は、制する意図がはっきりと見える強き響きを有していて。
芳川「……貴女はここに残っていて」
初春「まさか地上に出るつもりですか?」
芳川「…………」
初春「ダメです!!絶対ダメです!!」
そして示すは、ジャッジメントとして当然の態度。
椅子から勢い良く立ち上がっては一気に駆け出て、
芳川とドアの前に割り込んで立ち塞がった。
だがそんな彼女の断固とした態度も、
次に返された芳川の言葉ですぐに揺さぶられてしまった。
芳川「……お願い。貴女だって友人のために第七学区に行ったのでしょ?」
初春「―――……」
そこから暫し数秒間、
この幼い風貌の少女は繭を顰めては黙りこくって。
こう、静かに慎重に問い返してきた。
初春「……………………向かおうとしている先には、何があるのですか?」
対する芳川は即答した。
芳川「この子にとって一番大切な人」
275 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:08:11.27 ID:7wFHTcxWo
初春「………………………………」
それを聞いた初春の判断は、答えを聞くまでも無かった。
不満ながらも諦めたように何度も頷く彼女の仕草が物語っていたのだから。
芳川「じゃあ貴女はここにいて……?」
だが、そう答えが示されたにも関わらず初春はドアの前から退こうとはしなかった。
そして首を傾げた芳川が口を開くよりも先に。
初春「私も一緒に行きます!!」
大きな声でそう宣言した。
芳川「ちょ、ちょっと!」
初春「何と言われようが私も行きます!!」
芳川の言葉を遮るようにして、
かつ己を奮起させるようにより強く。
初春「運動不足では?!そんなのじゃとても行かせておけません!」
そうして今度は芳川の方が制圧されてしまった。
初春がそう指摘するとおり、芳川はもう既に肩で息をしている状態だったのだから。
打ち止めは今しがた抱き上げたばかりなのに、
もう腕にはかなり疲労が溜まっていたし、心なしかいつも以上に己の体も重い。
まさに初春の言葉通り、日ごろの運動不足がたたってしまっていた。
芳川「………………」
これを聞き入れてしまうのもまた、無責任で弱くて『甘い』か。
芳川はそう再度自覚しながらも、素直な己の判断に逆らいはせずに。
芳川「……行きましょう」
―――
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:09:21.61 ID:7wFHTcxWo
―――
アレイスター『―――』
答えを見つけた、と。
この少年は今、一方通行という人格で確かにそう口にした。
その言葉が発された時点で、
その意味を探る必要はもう無かった。
答えは、今のこの状況がはっきりと明示していたのだから。
一方通行と言う人格は何らかのイレギュラーで復活し、
その力と魂と器の支配権を取り戻したのだと。
更にミサカネットワークを独立させて、打ち止めと妹達をも己の保護下にして。
アレイスターはこの現実を、信じ難くも認めざるを得なかった。
緻密に慎重に築きあげてきたプランの大柱の一本が、
ここにきてあっけなく崩壊したのだと。
一方『……おィ。上条に何をした?』
正常な認識に戻りようやく気付いたのだろう。
アレイスターの背後の宙に磔にされ、だらりと力なく頭が垂れ下がっている上条当麻。
更にエイワスからの光の根が絡まりついてるのを見て。
一方『―――答えろ!!何をしやがったッ?!』
放たれる強烈な圧を帯びた怒号。
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:11:18.67 ID:7wFHTcxWo
アレイスター『っ……』
強烈な圧迫感の中、その声にアレイスターの『目』は捉えた。
今までの一方通行のものとは違って『陰り』が無い、
腹のそこから噴き上がってそのままの純粋な怒りを。
一方通行はまるで―――上条当麻のように『素直』に怒り狂っていたのだ。
今や少年の思念には付け入る隙が無かった。
アレイスターが今まで植えつけてきた虚栄、幻想、絶望、
そして悲観的な覆いは全て払拭されており、根底に鎮座しているのは確たる自己意識だ。
一方通行と言う人格には、もう如何なる精神攻撃も効かない。
刺激を与えられたとしても、その結果はもう予測できる範囲のものでもない。
今までのやり方は通用しなくなっていた。
アレイスター『………………』
その現実が、アレイスターにとてつもない焦燥となって襲い掛かる。
熱を帯びる呼吸、加速する鼓動、アドレナリンが分泌されて覚える寒気と筋肉の震え。
ダンテやバージルに覚えたこの言い知れぬ恐怖を、ここでまた、それもまさか一方通行相手に―――。
―――だが。
その一方で彼は、
別の自分がこの状況で快感を覚えているのも認識していた。
278 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:13:03.70 ID:7wFHTcxWo
それは60年以上前に『敗北』してから封印した『人間性』。
プランの担い手である以前に、
魔術師であり戦士であり挑戦者であった頃のエドワード=アレグザンダー=クロウリー。
追い詰められた究極の状況下にて、
思考がいつもとは比べ物にならないほどに飛躍し、ありとあらゆる力が漲り、
不可能なことなど無いように思える感覚。
そして、本当に不可能を実現するとてつもない力にもなりうる衝動。
だが。
一方でそれは、代償として―――何もをも失う結果にもなりかねないこともある。
故にアレイスターはこの弱き人間の性を『憎み』そして封印したのだ。
確証も確実性も無い―――『希望』なんて幻想は。
なにせ本当に一度、
これを信じたせいで掛け替えの無い存在を全て奪われたのだから。
アレイスター『―――』
しかし眼前の状況下では、もうそんなことも言ってはいられなかった。
管理から人間性を排した緻密なプランは今崩壊し。
残された手段は、
このイレギュラーな衝動任せの『アドリブ』だけだったのだ。
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:18:47.96 ID:7wFHTcxWo
そうしてアレイスターは再び。
もう一度。
もう一度、その憎き人間的な衝動に身を任せて、状況の解決を試みる。
今眼前にある問題は、まず一方通行をどうやって制圧するかだ。
精神面からの刺激はもちろん、
小細工も通用しないとなれば今や方法は一つ。
強制的手段によって捻じ伏せるだけだ。
ただそれは先に証明した通り非常に困難だ。
エイワスの全力を投じようが、正攻法で挑めば確実に力負けするのだ。
さらに一方通行に知性が戻っている以上、その困難さは先よりも更に増している。
一方『―――おィ!!なンとか言ェやクソッタレ!!』
たが一つ。
一つだけ、それを覆す一手がまだアレイスターの方にあった。
一方通行は今すぐに、
確実にこちらの肉体を制圧しにかかってくるだろうが、絶対に殺しなどはしない。
上条当麻がこちらの手中にあるのだから。
己を取り戻し精神が正常に戻ったおかげでアレイスターの支配から抜け出した一方、
彼はアレイスターをそう易々と殺せなくなってもいたのだ。
280 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:22:33.29 ID:7wFHTcxWo
それだけじゃない。
上条当麻は、今や覚醒を待つだけの段階である―――竜王の顎でもあるのだ。
そこを踏まえてアレイスターは、ここで一つの打開策を組み上げた。
それはプラン上では全く想定していなかったタイミングと運用法。
いかに確実に思えるとはいえ、そう『思うだけ』で、
実際それはイレギュラーなアドリブであることには変わりなく、
ここまでプランが崩壊していなければ絶対に手を出さない策ではあるが。
彼にとっては、これしか選択肢が見出せなかった。
その策の内容は単純。
覚醒させた竜王の顎で一方通行を丸呑みにするのだ。
ただ、丸呑みにする前に全力で応戦されてしまったら、やはり勝ち目は無い。
確かに竜王の顎の許容はまさに『無限大』。
スパーダや魔帝ほどの存在でも、さらには魔界丸ごとであっても、
力の強弱規模関係なく、理論上は存在そのものを腹におさめることができる。
ただし。
それらが『無抵抗』のまま飲み込まれてくれた場合だけだが。
もし魔帝を飲み込もうとしても、その前にあっさりと一撃で滅ぼされるであろう。
更に現状、エイワスと統合して『生』に転換した『程度』の竜王の顎では、
一方通行と正面から挑むのがきわめて無謀なのも変わらずだ。
しかし、それはあくまで一方通行が全力で抵抗したらの場合。
そしてそんな事、彼が彼のままであったら不可能なのだ。
竜王の顎を破壊する、つまりは上条当麻を殺すことなど絶対に。
打ち止めも妹達も手中から失った今、
アレイスターの手の中に残る、まさに唯一の一方通行の『弱み』なのだから。
281 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:24:35.92 ID:7wFHTcxWo
その刹那。
アレイスター『―――』
アレイスターは成すすべなく、その場の床に仰向けに打ち倒された。
一瞬にして距離を詰めてきた一方通行によって。
いや、もはや抵抗しようとしても一切できなかったであろう、
それほどの差が両者の間に存在していた。
一方通行は彼の首の付け根を踏みつけながら見下ろして。
一方『―――いィ加減にしやがれ!!』
アレイスター『……』
これまた強烈な威圧感と殺意を覚えるが、
その声を最も占めているのはそんな負の感情よりも上条へ対するもの。
優しい。なんと素直で純真で優しき少年か。
そんな一方通行の本来の人間性が。
一方『―――何をしやがった?!あァ゛?!』
こちらの勝機となるのだ。
アレイスター『―――何をしたか?その目で直接見るといい』
そうしてアレイスターは手を下す。
彼の意識内の命令が飛び―――竜王の顎が『覚醒』。
遂に『死』から『生』へと転換し―――その鼓動が再び打ち紡がれる。
それはイレギュラーに対抗するために下した、
彼が自ら選択した半世紀ぶりにして最後であろうイレギュラー。
そんな彼の苦渋の決断は決して無駄ではなく、
まさに一方通行に対する最高の1手である―――。
―――はず―――であったのだが。
282 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:30:24.71 ID:7wFHTcxWo
唐突に響く。
エイワス『――――――なんだ。やれやれ、もう少し「楽しませてくれる」と思っていたのだがな』
場違いなまでに淡々とした声。
一方『っ!!』
その不意の声に、勢い良く顔を挙げて警戒の色を示す一方通行。
だが誰よりもその亡霊の声に驚いたのは。
アレイスター『―――ッ』
アレイスターだった。
エイワス『君には今までのやり方を貫いて欲しかったが。ここでそんな外法に頼るとはね』
アレイスター『―――なッ』
なぜエイワスが喋っている?
竜王の顎が覚醒し統合された時点で、エイワスと言う亡霊の思念体は消え去るのに。
それも一体―――何を喋っている?
エイワス『やはり因果に見放された子には、この障壁はさすがに無理があったか』
しかし事態はそれだけに留まらなかった。
この場の状況の全ての主導権が、遂にアレイスターの手から完全に離れていく。
次に続いた言葉は。
『『―――興醒めしたよ。エドワード』』
エイワスのものだけではなく、
宙に磔にされていた―――
一方『おィ―――か、かみ―――?』
上条当麻の口からの声も重なっていた。
283 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:33:47.09 ID:7wFHTcxWo
上条、一方通行はそう呼びかけたも、彼はすぐにその口を閉じた。
彼もまた、その異質な存在に気付いたのだろう。
喋っているのは―――上条当麻ではない、と。
アレイスターと一方通行。
それぞれがそれぞれの立場から、この異様な事態をなんとか見極めようとしている中。
『『ただ、それでも君は称賛に値する男だ。そして礼を言おう。良い暇つぶしとなり、そして―――』』
謎の存在は言葉を続けていく。
それも徐々に、その平坦な声にせせら笑うような色を滲ませつつ。
と、ここでようやくだった。
エイワスの像が上条当麻の体に重なるようにしては消え、その存在が竜王の顎に統合されていく―――のだが。
『―――蘇らせてくれたのだからな』
思念は明らかにそのまま存続していた。
『この―――「俺様」を』
一方『―――ッ!』
『俺様』、その特徴的な声色で発された一人称を耳にして、一瞬にして凍りつく一方通行。
そして同じくしてアレイスターも。
いや、彼は一方通行以上にその声に衝撃を覚えていた。
その『目』ははっきりと、上条の口から漏れる声の思念を認識していたのだ。
『相手』は隠そうともせず、挑発するかのように声に己の証拠を載せていたのだ。
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:36:22.78 ID:7wFHTcxWo
だが。
そこまではっきり示されていてもその身分は。
アレイスター『何者―――だ―――?』
こうして直接目にしていても尚、到底信じられるものではなかった。
まさに悪い夢を見ているとしか。
アレイスター『―――誰だお前は?!』
認められるわけがない。これが現実なんて。
目覚めたのが、竜王の顎『だけ』では―――『無い』なんて。
アレイスターは放った。
この『ふざけた事態』向けての、混乱と憤怒が混じった怒号を。
アレイスター『―――誰だ?!何者だ―――答えろォォォッ!!!!』
一方通行の足の下から放った。
すると。
『全く、この俺様がわからんのか?』
突然乾いた破裂音が響いては、宙の拘束が解けて上条当麻の体が―――。
―――いいや。
床に降り立つ前にはもう、その体は『上条当麻』ではなかった。
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:42:23.29 ID:7wFHTcxWo
燃える夕日のごとき光が一瞬溢れ、その体を包みこみ。
そして光の中から床に優雅に降りたその姿は―――。
光と同じ色をした髪に、端整な中性的な顔。
その細身に着ているのは、同じ色彩の独特な意匠のスーツ。
一方『――――――ンなっ……ウソ……だろ―――なンでオマエが―――』
その姿を見て絶句する二人。
だが、現れた男はそんな彼らと対照的に。
『まあ良い。誤解も無いよう、改めて―――劣等種のお前達でも理解できるように自己紹介してやろう』
揺ぎ無い自信と力に満ち溢れる声を発しながら、
その面をゆっくりと上げて。
カ ル コ ス
『平伏せ―――下賤の「青銅の子」らよ―――』
炎ごときゆらめく、黄昏色の光を仄かに纏わせて。
圧倒的なまでに堂々と、そして神々しくまでに『尊大』に。
名乗り、そして同時に宣言する。
『我が王号は「人王」にして――――神号は「 竜 」』
暴虐なる人界の『古王』の復活と。
『そして全宇宙、因果の新たな主に成る――――――「唯一にして全て」』
第二の『創世主』へと成る者の誕生を。
『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』
『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』
フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』
―――
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 23:44:23.68 ID:7wFHTcxWo
今日はここまでです。
次は水曜に。
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/11/06(日) 23:59:23.26 ID:J+9lUVjR0
Σ(;゚Д゚)フィアンマさん相変わらずけったいな赤スーツのままかよ乙乙! 295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県):2011/11/07(月) 01:06:47.41 ID:Y2eGH6Mvo
フィアンマを竜王の顎がそげぶ(食)った
そういうことか 298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸):2011/11/07(月) 02:51:56.12 ID:tioa9grAO
お前らフィアンマを小物としかみてないだろwwwwwwww 299 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/07(月) 08:36:12.31 ID:/xZG966DO
>>298
いや、全然 300 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/08(火) 00:04:47.34 ID:GkqdftQZ0
せっかく復活したのに
フィアンマさん早々にそげぶフラグを立てたな 301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/08(火) 00:22:43.89 ID:effeoWfO0
フィアンマなんてスーパー状態で常時クイックシルバー掛ければ余裕 302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/08(火) 02:06:32.99 ID:ygbZn9aro
>>301
魔人化無で余裕じゃね?それどころか縛っても勝てそうな希ガス 303 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/11/08(火) 06:42:30.41 ID:p4rvgGaeo
散々な言われようでワロタ 304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/11/08(火) 10:15:18.02 ID:nWLuRKkK0
本編で見せ場ナシの超雑魚アリウスが
あんだけの見せ場有ったんだぞ
全能に近いちからを手に入れながらワンパンでふっ飛ばされたからって
俺様ちゃんを侮りすぎだろ
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/11/08(火) 23:49:11.78 ID:ichDB+kV0
フィアンマ=創造+破壊+具現+上条の体+竜王 で合ってる?
今の面子じゃ無理ゲーだろ・・・ 308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:41:48.77 ID:YXw5gbk1o
―――
アグニ『ダンテ。まだ待つのか?』
ルドラ『ダンテ。まだ動かないのか?』
プルガトリオ、学園都市を映し出すとある階層にて。
ビルの壁面にしがみ付きながら、その双子の大悪魔は屋上にいるダンテに問いかけた。
もし彼らの肉体に頭部があれば、
ダンテから見てちょうど淵から突き出ているように見えるだろうか、
小さな子供が覗き込んでいるような姿勢だ。
もちろん、その筋骨隆々とした巨体を抜きにした場合の例えだが。
ダンテ「ああ。待つ」
落ち着かない双子にさらりとそう返す、足組み寝そべるダンテ。
彼らとは対照的に、静かに目を閉じているその佇まいは、
今にも寝入ってしまうのではというくらいにリラックス状態だ。
アグニ『いつまでだ?』
ダンテ「さあな」
ルドラ『わからないのか?』
ダンテ「ああ、わからない」
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:43:00.59 ID:YXw5gbk1o
アグニ『……』
ルドラ『……』
簡潔明瞭に即答され沈黙する双子。
その肉体に頭部は無く声のトーンも一定、
彼らの本体である魔剣の柄先の顔も見えないとなれば、その感情を読み取るのは難しい。
ダンテ「……」
だがある程度この双子と過ごせば誰でもが、
そんな無表情な彼らの感情を読み取ることができるようになる。
いや、厳密には読み取るのではなく『推測』か。
彼らはとても単純なのだ。
思考は常に直線的で、ダンテほど近しくなれば
その行動どころか次の一語一句までほぼ完璧に予想できる。
ダンテ「…………」
故にダンテは彼らの『おしゃべり』が耐え難い。
ろくに意識せずとも簡単に一語一句正確に予測してしまって再生し、
一歩遅れて本物がこだまのように同じ言葉を発する。
それのなんと、なんと騒々しいことか。
そんなやかましい合唱を防ぐに最も有効なのは、
彼らの単純な思考が話を拡大させていく前に、きっぱりと明言して出鼻を挫く。
つまり今のように受け答えすることだ。
310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:43:54.15 ID:YXw5gbk1o
確かに付き合いが悪い態度ではあるが、
アグニ&ルドラ相手にはこのくらいがちょうど良い。
それにただ聞き流してわけではなく、
質問に対しては本当の事を返している。
アグニ『何を待っているのだ?』
ルドラ『何が来るのだ?』
ダンテ「さあな。わからない」
これも嘘ではない。
いつになったら何が来るのか、ダンテもわかってはいないのだ。
ただ。
その『何か』こそが、
この筋書きの核への入り口になることは確信していた。
ネロが魔剣スパーダを折ったことで、この『クソッタレな筋書き』はより雑に、
『本線』が浮き彫るになるのも躊躇わないくらいに大胆な『修正』をかけてくるはず。
塞き止められた水が溢れ支流を作るかのように、必ず別の形で莫大なストレスが噴出す。
その噴火口に飛び込み、突き進んだ先にこそ―――ぶっ壊すべき『何か』があるのだ。
311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:45:17.88 ID:YXw5gbk1o
そして噴火は今や秒読み段階。
ダンテ「―――」
瞬間、ダンテは異様なざわつきを覚えて跳ね起きた。
今までには無い衝撃が電撃のように全身を走ったのだ。
それは彼のような領域、『筋書き』の存在を認識した者にだけ聞こえる、
この現実と呼ばれる『生』の世界が軋む音。
筋書きの『修正』が開始される音。
たった『今』、その始点として『何か』が『どこか』に現れたのだ。
その衝撃はもちろん他の超越者達にも到達していく。
魔界の深淵。
煉獄にて作業の傍ら、互いに顔を見合わせる―――。
バージル『…………』
ベヨネッタ『…………』
―――最強の魔剣士と最強の魔女。
そして。
プルガトリオの魔界に近い階層にて。
ネロ「……何だ……今のは……?」
アリウスを倒した後、
アスタロトの軍勢の残党狩りを再開していた『最強の人間』にも。
312 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:47:55.14 ID:YXw5gbk1o
そうしてダンテは立ち上がり。
ダンテ「ハッ―――ハッハ!!」
鋭い笑い声を発しながら、
確認するかのように両手両足の魔具と魔銃を軋ませる。
これまでは準備体操、さあここからだ、と。
巨大な流れは今、重要な局面を迎えたのだ。
それは最終ステージへと繋がる大きな布石。
『筋書き』と複雑に絡み合っているスパーダの血の宿命と、バージルの判断と魔女達との行動、
対する己の考え方とネロの選択。
そして今現れた―――『何か』。
役者と舞台は全て揃った。
ダンテ「―――トリッシュ!!準備は良いか?!」
この先には一体、
どんなクソッタレな展開が待ち受けていることか。
繋がりの向こうで見ている相棒へ声を飛ばしながら、
ダンテは嬉々としてビルから飛び降りた。
―――
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:49:12.28 ID:YXw5gbk1o
―――
ミ カ エ ル
上条当麻は戦慄していた。
この身その魂の主導権を握る人格―――豪胆かつきわめて聡明な王を。
なぜ上条は戦慄しているのか。
それらの特徴を有しているのならば『優れている王』の範囲では、と普通は捉えられるであろうが。
実は王の特徴はそれだけでは無く、以下のことを更に有していた。
―――欲深く、嫉妬深く、傲慢で、倫理観は完全に欠如―――。
すると賢王は一転、『知性豊かな暴君』という最悪の君主像となり。
ここにもう一つ、『無邪気』というある特徴を加えると。
誰しもが戦慄する暴虐の君主、竜王となる。
かの暴虐なる王は、知性と力を持った『子供』そのものだった。
彼は崇高な目的意識など有してはいない。
更なる力の入手や勢力拡大といった、具体的な願望も無い。
彼の行動を掌握しているのは、ただ純粋な―――『娯楽欲』だ。
そしてとことん無邪気であるが故に、
それは今の人間の価値観からすれば常軌を逸しているほどだった。
興味惹かれ意外性があり刺激が強ければ、『何でも』構わないのだ。
314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:51:26.08 ID:YXw5gbk1o
喜びなどといった快楽は当然、
怒りや悲しみ、恐怖といった絶対的な負の感情、
更には己の死でさえ、彼にとっては娯楽欲を充足させる『嗜好品』。
怒りや恐怖を抱かないというわけではない、
彼らもまた、生命の危機に瀕したり圧倒的な存在を前にすれば、その顔を引きつらせて恐れおののく。
そんな負の感情を彼らは娯楽として認識し求めるのだ。
俗な表現をすれば、とんでもなく恐ろしいホラー映画を見て怖がりたがるようなものか。
これだけならば今の人間にだって良くある傾向で、特におかしなものでもないが。
その娯楽を空想虚像ではなく、現実に『際限なく』求めるとなれば間違いなく異常であろう。
フィアンマという人間として、戦い、そして学園都市で予期せぬ敗北を味わったのも、
彼の根底の思念にとっては『意外性のある刺激的な展開』なのだ。
そんな狂った価値観と聡明な思考が組み合わさればどうなるか、その結果は自明の理だ。
問題を十二分に理解しながら、解決しようとはせずに更に効率よく油を注ぎ、
更なる『刺激的』な出来事を引き起こそうとする。
竜王は愚鈍ではない。
己にどうしようも無いほど酔狂していながらも、決して盲目ではない。
現実は嗜好品の塊、故に周囲にある小さなありとあらゆる存在が、彼の娯楽になり得るのだ。
瞬間の己の一挙一動、更には仄かな一風から雨の一雫までも。
彼は己の根底にある『娯楽欲』に忠実に従い、その力と知能をもって周囲全てを『嗜好品』にしようとする。
少し見方を変えれば―――『機械的』とも言えるくらいに。
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:53:44.21 ID:YXw5gbk1o
かつては、魔界による侵略が目前に迫っても尚、
圧倒的な魔の力に恐怖し絶望する、それも『楽しみ』。
カ ル コ ス
最下層の人間、『青銅の種族』の中から魔女・賢者という集団が台頭してきた際も、
彼らの力が巨大化するまで敢えて放置し事態を複雑化させて『楽しみ』。
魔界に抗うどころか敢えて優柔不断な姿勢でその綱渡りを繰り返し、
更に状況を悪化させて、それによって生じる人々の苦痛や争いを『楽しみ』。
そしてその先にある滅亡をもすら『楽しもう』とした―――狂気の王。
だが当時の人間界内における価値観では、
そんな竜王の人格も別段異常なものとしては特に認識されてはいなかった。
竜王とは、太古の人間界のあらゆる面を凝縮し抽出した『パンドラの箱』的存在。
つまりこの竜王から垣間見えるは、
天界によって解放される前までの『本当の人間界』の姿。
当時の人間界の中では、秩序だって明確な目的を掲げた魔女や賢者の方が異端であり、
他の大多数の神族は、竜王ほどでは無いにしてもこのような『狂った』価値観のもとに動いていたのだ。
そんな当時の人界が、天界の目にはどう映るか。
それはまさに狂気に満ち溢れた世界だ。
天界の価値観からもってすれば、
その世界は目を覆いたくなるほどに何もかもが狂っていた。
魔界が『暴力』ならば、人界は『混沌』の世界だった。
316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:56:54.67 ID:YXw5gbk1o
善悪、正否、白黒を明確にしようとする天界にとって、
その情景は魔界以上に見るに耐えない世界であった。
故に天界はそれを問答無用で『悪』と断じ、武力介入を決意し、そうして一人の戦士が―――。
ミ カ エ ル
―――上条当麻がその任の要となり竜王に挑むこととなった。
混沌に苦しむ下層の人間達を解き放つ、その大義の下に。
無論、後世の人類にとってもその存在は『悪』にほかならない。
天界によって界の基盤を再構築され、
天の倫理観・価値観の元に現代世界は成り立っているためそれは当然である。
また現生人類は、魔女賢者から一般人までその全てがかつて虐げられていた最下層の人間、
『青銅の種族』の末裔であるのだから、例え天界に植えつけられた倫理観が無くとも、
古の神族が絶対的にして永遠の『悪』であることには変わりないのだ。
それは決して災害なんかのような、『仕方ないもの』ではない。
苦痛・絶望・死を楽しむために求めて、そして無邪気に笑う。
それを最下層の人間から見て『悪』以外に何と呼べるのだ。
己が負の感情や死までをも娯楽と判定する、そんな機械的な―――ただ『純粋な悪』、それ以外に何と。
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 00:59:06.64 ID:YXw5gbk1o
ミ カ エ ル
故に上条当麻は戦慄する。
そんな古王の復活に。
楽しむために人間界を潰すのも厭わなかった竜王が、
創造、具現、破壊、その三つ創世主の因子を有して再誕することに。
それがどれだけ危険なことなのか。
三つの因子を統合し、かの創世主に並びそして超える『真の全能』と成った時。
この怪物は、全ての現実をどんな『嗜好品』に換えてしまうのだ?
ミ カ エ ル
そして上条当麻は絶望し、憤怒した。
絶対に力が渡ってしまってはならない者に、究極の力が集ったこの皮肉な現実に。
一体何の『因果』でこんな―――こんな上手い具合に『最悪の展開』になるのだ、と。
「―――」
と、そう上条当麻の思考が至った―――その瞬間だった。
三つも創世主の因子を有したからか、『彼』はそこで認識してしまう。
フィアンマ
竜王がその領域に到達するということは、一心同体である彼の思念もまた同じく。
本来、何人も知ることの無い存在を上条は知ってしまうこととなった。
『現実』を構成する因果の連なり、それを支配する―――『筋書き』を。
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 01:00:46.22 ID:YXw5gbk1o
それは、いち個体の何者かの意志によるものではなかった。
無数の者の願望が集っては流れを形成して、
誰かが統率せずとも同じ方向へと向かう大河。
川筋を決められるジュベレウスが存在しない今、
その流れを支配しているのは、全宇宙、無数の生者の『無意識下』の本能的思念だ。
とはいえ、その集合体は明確な方向性を定めることは無い。
それぞれ世界やその中での立場でまさに千差万別で、統一など成されるはずもない。
その無数の願望の中で特に共通すること、
それが更に単純化されたものが、その時その時の流れの向きを決定していく。
そして今、ジュベレウスも魔帝も滅びこの混迷きわまる情勢。
先の見えない不安の中における流れの向きは。
―――三度、『絶対的英雄』を求める。
一度目、魔界とその他全ての世界の間で行われた、終わりの見えない戦争の終焉させる英雄を。
二度目、他全ての世界を飲み込む勢いの魔界の拡大、それを終焉させる英雄を。
そうして今もまた同じく、この『不安定な状況』を終焉させる英雄を。
「―――」
その英雄とは誰か。
それはもちろん―――スパーダの血族だ。
319 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 01:05:06.13 ID:YXw5gbk1o
誰しもがそう考え、そう望む。
上条自身も例外ではなくそう願う一人だ。
ダンテ、バージル、ネロ。
皆が皆、彼らスパーダの血に絶対的な英雄性、
もしくはいかなる存在にも打ち勝つ最強性を、彼らの姿に見ているものだ。
人界側の者達にとってはもちろん、
他の世界の者達からしても、魔界の拡大を防ぎ魔帝覇王を打ち倒した英雄の血族であり。
魔界の者達からしてみても、
裏切りに対する怒りよりも前にまずスパーダの力への最強性の認識と、それへの崇拝があった。
だからこそ、裏切られたことに対して異常なまでの怒りを覚えるのだ。
―――そう。
これが、この『最悪の展開』が生み出された原因だった。
どの世界の者達のの願望にも共通している点は、
スパーダ血族の英雄がここでまた躍り出て、
『どういった形』であれ、この混迷する状況を終焉させること。
つまりは、いかなる思いであれ、今この状況において『全ての意識』がスパーダの血族に集中しているのだ。
―――そんな願望は、『願望のまま』であったのならば特に問題は無かった。
こうして上条当麻が衝撃を受けることも無い。
しかし実際は、願望はその範囲には留まらず一人歩きして。
絶対的な影響力を有する『筋書き』となって現実に作用していたのだ。
このように。
英雄を、絶対的な英雄たらしめるためには――――――小さな希望の欠片一つすらない『絶望の舞台』と。
―――『最強の敵』が存在しなければならない―――、と。
320 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 01:08:09.70 ID:YXw5gbk1o
「―――」
ミ カ エ ル
上条当麻はこの筋書きの存在に只ならぬ恐怖を覚えて拒絶する。
その『筋書き』とは、もう理解を超えてしまっている概念域だった。
それまでの価値観を持ち出すのも場違いな領域であるため、
これが正しいのか間違っているのかも判断がつかない。
しかし。
ありのままの上条当麻の感情だけは、素直に―――きっぱりとこの筋書きを拒絶した。
ふざけんな―――んなもん納得できるわけがねえ―――何余計なことをしてやがる、と。
『どうしようもないからこそヒーローを求める』のと、
『ヒーローを出すために世界をぶっ壊しにかかる』はまるで意味が違うのだから。
ただそんな上条当麻に対して、『もう一人の彼』は真逆の反応を示した。
フィアンマ オ モ チャ
筋書きは『 竜 王 』にとっては―――最高の『嗜好品』に見えたのだ。
『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』
彼は知っていながら。
『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』
あえて筋書きに沿い、
むしろこの騒乱をより複雑に、かつ巨大化させようとする。
フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』
なぜか、それはもちろん、
こうして乗りに乗ってその『役』になりきっている通り。
筋書きに沿った方が――――――――――――『楽しそう』だから。
理由はただそれ『だけ』だ。
―――
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 01:09:36.43 ID:YXw5gbk1o
短めですが今日はここまでです。
次は土曜に。
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/11/10(木) 01:10:31.28 ID:mYvt0pbro
乙ー
フィアンマさんマジ暴君 324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/10(木) 01:11:16.39 ID:tFb3+BODO
スパーダの一族はどのような判断を下すのか 333 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2011/11/10(木) 12:10:21.49 ID:CEB9QJ9Co
・・・ところで上条さん(真)って顎に食われずに残ってるんだ。これはフィアンマに感謝か?乗っ取られてるけど。337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 13:07:20.14 ID:P7Tt7OxW0
このSS読んでると猛烈にDMCやりたくなるから困る 338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県):2011/11/12(土) 20:31:28.83 ID:LBRstAZ5o
そこでデビルメイ クライHDコレクション発売決定ですよ、来年だけど
ブラッディパレス登りながら投下待ちするかな デビル メイ クライ HDコレクションhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00646MUAM/horiz-22/339 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/11/12(土) 21:16:18.89 ID:VE4BWIRro
新しいDMCは残念な出来になりそうで怖いけどな 342 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:05:12.57 ID:xxUCz63jo
―――
一方『何しやがった?!何をッ―――』
皆で倒したはずのあの男の姿を目にして、一方通行はアレイスターに詰め寄った。
足蹴にしていた彼の体をベクトル操作で宙に放り、
その胸倉を黒き腕で掴みあげて。
一方『―――なンであのカマ野郎が?!上条はどォした?!アイツはどこに行った?!!』
乱暴に揺さぶりこの理解し難い状況の説明を求めるも。
一方『―――答えろアレイスターァァァッ!!』
アレイスターは呆然としたまま。
瞬き一つせずに目を見開いては、あの中性的な男を見つめ続け、
まるで一方通行の言葉など届いてはいない様子だった。
そんな時。
『―――上条当麻ならここにいるぞ』
『ご親切』にそう告げてくる高慢な声。
一方通行はアレイスターの胸倉を掴みあげたまま、その声の源へと顔を向けた。
一閃するかのごとく鋭い視線を飛ばし、横目に睨みつけて。
その視線の先4m程の位置、そこには例の中性的な男。
一方通行の鋭い視線に彼は不敵な笑みを返し、己が胸に指先を当てこう言い放った。
『―――俺様が上条当麻だ』
343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:07:47.12 ID:xxUCz63jo
からかっているのか、と。
常識の範囲内ならばその言葉を聞いて一蹴するであろうが。
たった今あの男の一連の登場の仕方を見、
その力の動きも観測した一方通行にとっては、ただの妄言なんかには到底聞えなかった。
一方『―――…………』
そう言い放ったあの男は、こちらの言葉を待っているのか、
高慢さが滲む薄ら笑いを浮べたまま黙っている。
一方通行は一度大きく深呼吸しては興奮した気を沈め。
アレイスターを、あの中性的な男とは反対の方向に放り捨てるように降ろして。
一方『…………フィアンマ、つったか?オマエの中にアイツがいるのか?』
今度こそその身も振り向かせて、正面から向かい合った。
と、そこで彼が放った声、その問いの内容よりもまずは『呼び方』に引っかかったのか、
相手は露骨に不機嫌そうな表情を浮べてこう続けた。
『フィアンマ、か。確かにそれは俺様の今の真名ではあるが』
『お前のその言霊は、「青銅の種族」として生きた最後の一世しか指していない』
もはや面目など気にならないであろう、
聞いている方も清々しくなるほどに突き抜けた酔狂っぷりで。
『真の俺様を指すのならばこう呼べ。「焔竜神王フィアンマ」、と』
一方『はッ……相変わらず口が減らねェ野郎だ。いンや、それどころかウザさ五割り増しか』
竜王『フン、まあ、「竜王」でもいい。お前等の乏しい記憶力でもこれならば大丈夫だろう』
344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:09:39.72 ID:xxUCz63jo
一方『……知るか。オマエの「ただしいおなまえ」なンざどォだっていいンだよ』
一方『それよりも質問に答えてくれねえェか?竜王さンよ』
嫌味を篭められても一応『竜王』と呼ばれたことに満足したのか、
竜王は再び笑みを浮べながら「そうだったな」と髪を掻きあげて。
竜王『俺様の中にいる、という考え方は少し間違っている』
竜王『俺様が上条当麻、その言葉のまま受け取ってくれ』
一方『あァ?』
竜王『大昔にちょっとした事があってな。その際に彼と同化してしまったのさ』
竜王『その頃から俺様達は「同一人物」であり、この「青銅の種族」として生きた千世代の間が「片割れ」同士であっただけだ』
一方『…………』
竜王『だから、上条当麻を構成していた人格は俺様自身でもあるのだ』
一方『―――オマエそのものが上条当麻だァッ?』
とそこでこれ以上言葉を続かせないとばかりに、
耐えかねた一方通行が強く声を発した。
竜王の言葉は、どうやっても納得できないものだ。
竜王がもし上条の姿のままであっても、これだけは間違いはしない。
この竜王という人格が、
己の知っている上条当麻という男であるわけがない、明らかに別人だ。
345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:12:51.92 ID:xxUCz63jo
一方『―――黙って聞ィてりゃ好き勝手言ィやがってよォ』
その下種な姿と口、そして明らかにあの『フィアンマ』として覚えている人格が、
己が上条当麻だと自称するのは不愉快極まりない。
竜王『おいおい、そんな言い方は無いじゃないか。インデックスを取り戻すために「共」にバージルに挑んだ仲だろう?』
一方『………………………………おィ。いい加減にしろよ』
インデックスを攫おうとした人格が、インデックスを守った男を自称するなんて。
許し難いにも程がある。
そんな風にして怒りに滾る一方で、彼は冷静にこの竜王の言葉も分析していた。
竜王の声、表面的な言葉には真実も含まれているのであろうが、
その根底にある意図は明らかに『冷やかし』だ。
挑発し茶化しているだけ。隠そうともしていないので明らかだ。
ここから更にこちらを逆撫でするために、誇張や嘘を平気で混ぜてくるとも考えられる。
となれば。
この竜王の声は今、真剣に耳を傾ける価値など無いに等しい。
そこから上条を『取り戻す』方法のヒントを得るのは困難だ。
そうして状況を分析した彼の考えは、このような結論に至った。
やはり―――まずはアレイスターから聞くしかない、と。
それはつまり。
一方『……チッ……』
なんと『胸糞悪い』展開か。
アレイスターはまだ『殺すわけにはいかない』。
この背後にいるどれだけ憎んでも憎み足りない『クソ野郎』を―――『絶対に守らなければならない』ということだ。
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:15:01.79 ID:xxUCz63jo
そして同じく。
これまた癪なことに、この竜王を殺すことも出来ないのだ。
上条とフィアンマが『同一人物』、
それがどんな仕組みで成り立っているのかわからない以上、あの男を殺すという選択など有り得ない。
一方で、アレイスターを連れてここから離脱するという選択も危険だ。
これまた何もわからない以上、最初から竜王を完全に放置する選択をするわけにもいかない。
今ある選択肢は一つ。
この男をできるだけ傷つけないように素早く制圧すること、それだけだ。
一方『(……クソッタレ)』
なんとも面倒極まりない状況か。
更にこの竜王も、一筋縄ではいかないのは明らかか。
ただの『フィアンマ』として相対した前回とは、人格と表面的な姿形は同じであるが、
同一なのはその点だけだ。
他の要素は全くの別物、規格外もいいとところだ。
こうして対峙しているだけでも、その存在や力の異質さを肌に覚える。
しかもその存在を構成している要素は単一なものではなく、
様々なものが混ざっているように見えた。
一方『……』
悪魔のものから、能力者や己と同じ力の他、
海原から覚えていたまた別系統の匂い、
そしてそれら『三つの系統が融合している』―――独特な上条当麻の匂いも、確かに存在している。
だが最も色濃く、その割合の多くを占めていたのは、
去年の『あの日』、異世界上で繰り広げられた魔帝とスパーダの一族の戦い、
その戦場を満たしていたのと同じ強烈な『匂い』。
そう、魔帝やダンテ達と『同一』にして飛びぬけて圧倒的な力だ。
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:16:32.67 ID:xxUCz63jo
なぜこの男からダンテ達と同じ匂いがするのか。
その理由なんか想像すらつかなかったが、それでもこれだけはわかる。
この竜王は紛れも無い―――『怪物』だと。
竜王『―――まあ、お前の話は後で聞いてやる』
と、ここで。
気を張り詰めらせる一方通行とは対照的に、これまた潔いくらいに高飛車な表情と声で。
竜王『その前に、「彼女」と話をさせてくれないかな?』
竜王は彼の背後のアレイスターを指差した。
その肉体は『美しい女性』である彼を。
竜王『―――おっと失礼。その「麗しい姿」でついつい』
続けて『わざとらしく』そんな言い訳をして。
竜王『では改めて。そこの「彼」、アレイスターと話をさせてくれないか?』
一方『…………』
その言葉に応じる理由など無かった。
具体的な用件はどうであれ、動機が悪意に満たされているのは明らか。
一方通行は声にしてではなく、その身に纏う張り詰めた戦意で返事を示した。
そんな彼を目にしては、竜王はため息混じりにこれまたわざとらしく苦笑いを浮べて。
竜王『おやおや、お前達はどうしてそうすぐ野蛮な方向に物事を考える?』
一方『隠してるつもりか?プンプン匂ってるぜ。雑な殺意がなァ』
そして次の瞬間。
竜王『なるほど、前回よりも随分と―――感覚が洗練されているようだな』
―――『オレンジ色の光』が瞬いた。
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:19:38.77 ID:xxUCz63jo
両者の間は僅か4m。
彼らほどの存在にしてみれば、
物理的には『距離』なんて言葉で表すのも馬鹿馬鹿しい程度の空間。
しかしそれは物理的な観点のみの捉えだ。
人界の古王と、人界の新たな王に相応しき領域の者。
そんな両者の圧倒的な力がひとたび放たれれば、
その空間は途方も無く危険で濃密な領域となる。
刹那。
竜王のすぐ頭上の空間から放たれた―――夕日色の光の筋。
一方通行の頭部、ちょうど眉間目掛けて真っ直ぐに伸びていく。
いや、放たれた時には既に『着弾していた』。
見切ることなど不可能とも思えるほどの速度だ。
しかし。
物理領域においてどれだけ速かろうが、例えそれが光速に等しかろうが、
物理領域から飛び出してしまっている今の彼らにとっては大した意味を成さない。
『速い』か『遅い』か、この神の領域でそれを決める要素はただ一つ。
『力のあり方』だ。
どれだけの量を篭められるかのパワー、どれだけ集束させて高密度を維持できるかのテクニック、
そしてその攻撃に的確な『意思』を載せられる精神力と判断力、
それらによって形作られる力によって全てが決まるのだ。
そうして開戦の狼煙たるこの初撃については。
一方『―――』
一方通行に軍配が上がった。
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:21:46.01 ID:xxUCz63jo
光が着弾したのは、彼が己が顔の前にかざしていた左手の平。
その蠢く闇を貫くことはできず、
光は斜め後方へと強引に向きを変えてられて、壁にバスケットボール大の穴を穿った。
弾きいなされても尚その集束は維持されたまま、
一切の余波も衝撃波も生じさせずに、不気味なまでに滑らかな切り口の穴を。
そのように捻じ曲げた光を横にすれ違うようにして、
一方通行は前へと瞬時に踏み込む。
全身の漆黒の闇から、真っ赤な火の粉を散らしながら―――。
ここで―――距離は3m。
と、それとほぼ同時にして、竜王の掲げた右手先に新たな光が出現、
莫大な力が一気に集束しては、オレンジ色の『光剣』を形成し。
それを手にしては、そのまま振り下ろすべく竜王もまた前へ―――距離は2m。
一方通行はそれを見ては更に姿勢を落とし。
次いで竜王の首元を掴み押さえ込むべく、引いて『溜めていた』右手を―――凄まじい速度で突き出した。
しかし。
この二合目で勝ったのは。
一方『ぐッ―――!』
今度は、振り下ろされた竜王の刃であった。
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:24:22.69 ID:xxUCz63jo
それは一瞬のタイミングの遅れと、
『速度』を決定付ける力の僅かな甘さが招いた敗北だった。
次の瞬間、一方通行の右手首から先は―――切り落とされていた。
一方『―――』
更に彼の目が捉えるは、竜王の左手に出現していた光剣。
その切っ先はまっすぐにこちらへと向いており、
今にも喉元へと突き上げられる直前だった。
だが。
状況的に必殺であったはずのその三合目は、竜王の思惑通りにいかなかった。
振り下ろされたばかりの竜王の右手、
その手首を一方通行が上から押さえるようにして掴み。
一気に引き寄せたからだ。
―――瞬時に再生させた『右手』で。
竜王の刃、その力の密度は確かに凄まじいものであったが、
一方通行から右手の存在を奪う水準にはあと少しのところで達していなかったのだ。
その右手で一気に引き寄せられ―――両者の距離は1m。
突き上げられた竜王の左の切っ先は、一瞬の差で一方通行の喉を捉えきれず。
彼の耳の後ろ、その黒く変質している髪先を掠り落としていくことしかできなかった。
竜王『―――ッ』
この時の竜王は、左手は振るわれたばかり、右手は押さえ込まれているという状態。
そう、一つの攻撃の失敗が、この無防備な瞬間を生み出してしまっていたのだ。
彼には、周囲からの『光』による対応という選択も確かにあったのだが、
この瞬間を見逃さずにして一瞬にして伸びてくる―――漆黒の左腕には到底間に合うものでは無い。
だが―――かの竜にはまだ別の選択肢があった。
一方『―――!』
その瞬間。
一方通行が掴む彼の右手首が突然、「ばちん」と『弾け切れた』のと同時に。
竜王の体が―――消失した。
351 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:27:01.61 ID:xxUCz63jo
それは『前回の戦い』でも多用していた―――『瞬間移動』。
いや、あの時よりも更に洗練されているか、
魔術や能力による『まがい物』ではなく正真正銘の空間移動だ。
竜王は消失しのたと全く同時にして―――彼の背後に出現していた。
その左手の刃で、彼の首を切り落とす瞬間の体勢で。
だが前回とは格が違うのは、一方通行もまた同じであった。
瞬間、彼は一瞬にして今の竜王の行動の把握し。
進化した知覚を最大限に稼動させて、相手の力の動きを感じて、
そこから『飛行先』の先読みを行い―――難なく読み切る。
故に、竜王が飛んだ先で目にしたのは―――翼で弾き上げられ、軌道を逸らされる己の刃。
この闇の主の首を落とすはずだった光剣が、
またしても、同時に屈んだ一方通行の髪先を掠るだけに終り。
次いで、振り向きざまに放たれてきた黒き裏拳が彼の視界を覆った。
竜王『がッ―――』
顔面に拳を叩き込まれ、
足が宙に跳ね上がるまでに仰け反りかえる竜王の体。
だが、彼の体がその莫大な衝撃で吹っ飛んでいくことは無かった。
次の瞬間、彼が弾き飛ばされていくよりも速く。
更に身を翻した一方通行が半ば殴るようにして竜王の胸倉を掴み。
そのまま床に―――叩き落したからだ。
一瞬にして割れて陥没する床、
しかしそこから破片が飛び散る事すら始まらないうちに、
間髪入れずに一方通行の翼が踊り。
そして一気に竜王の全身へと絡まっていき。
竜王をその場に固定し―――制圧した。
352 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:28:55.92 ID:xxUCz63jo
圧倒的な力の炸裂によって界が軋んだも、
物理領域まで届いた衝撃は、大地とビル全体をやや強く震わす程度のもの。
床は大きく割れ陥没してしまったものの、顕在化した破壊の跡はそれだけ。
半ばぶっつけ本番で、しかも打ち止めが同じ学区内にいるという状況で、
これほどの力を振り回すことにはいくらかの懸念もあったが、
どうやらほぼ完璧に統制し切ったか。
最初から最後まで力の集束は維持でき、ほとんど余波を生じさせずに済んだようだ。
一方『―――…………ッふゥッ』
腰を落とした姿勢でその竜王の胸倉を押さえ込んだまま、
一方通行はその安堵の意味も篭めて、一区切りを示す息をついた。
そんな彼を見上げて。
竜王『ッは……殻を破ったばかり、その力を到底扱いきれるとは思っていなかったが』
苦痛を滲ませながらも、
未だに不敵な表情のままの竜王が声を放ち。
竜王『十二分に使いこなしているじゃないか。「竜王として」の俺様をここまで圧倒するとは』
そして高らかに叫んだ。
竜王『―――なあエドワード!!本当に良い「駒」に仕上げたな!!』
奥にて、膝をついているアレイスターへと向けて。
竜王『―――その「駒」に守られる気分はどうだ?!はははは!!』
竜王『それも「その体」の「仇」からな!!』
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:31:47.65 ID:xxUCz63jo
一方『―――』
そんな竜王の言葉が放たれた途端、
一方通行は確かな気配の変化に気付いてその顔を向けた。
アレイスターへと。
瞬間、抜け殻のようになっていた彼の気配に、
いや、それ以前に元から『中身』の無いまるで機械のようなあの男に。
微かに―――ほんの微かに、『生々しい熱』が生じたのを敏感に察知したのだ。
しかもそれはどす黒くて強烈な、
こうして僅かな分だけでも瞬時に把握できる、一方通行が良く知っている『熱さ』。
そう―――『憎しみ』だった。
竜王『これは傑作だ!!聞えているのだろうエドワード!!どんな気分だ?!』
竜王『是非聞かせてくれ!!礼として俺様は「ローズの歯ごたえ」を聞かせてやるぞ!!』
明らかに挑発し侮辱している竜王の言葉、
当事者ではない一方通行ですら耳障りの忌々しい声、それが連なっていくたびに。
竜王『お前の「妻」の魂を引き裂いた俺様の爪から、「駒」に保護される気分は?!ははははは!!』
一方通行ははっきりと感じ取った。
俯いているアレイスターのその背に、全身に、色濃く重なっていく『憎悪』の影を。
今まで一度たりとも、
人間性の欠片も覚えなかったこのアレイスター=クロウリーに。
一方『…………ッ!』
生々しすぎる程に煮え滾った感情を。
354 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:33:29.41 ID:xxUCz63jo
―――そして。
その体の仇。
お前の妻。
魂を貪った俺様。
それだけの言葉で、
竜王とアレイスターの間にあった過去の因縁はおおまか予想が付いてしまう。
一方『―――…………つ……ま……』
素直で純真な一方通行、
そんな根が露になっている今の彼としては、絶対に知りたくも無かった過去が。
竜王『知りたいか?聞きたいか?この男の哀れで無様で罪深き所業の全てを―――』
一方通行の反応を見て、ここぞとばかりといった調子でニッと笑い、
これまた明らかに冷やかしの声を放つ竜王。
その時―――これはマズイ、一方通行は瞬時にしてそう状況を分析した。
ここはあのまま『動かないで』いて欲しかったアレイスターが。
面を遂に挙げて―――竜王を真っ直ぐに睨んでいたからだ。
―――その瞳を血走らせて。
竜王『あの男は昔―――』
そして彼は、そう口を開きかけた竜王の言葉を。
アレイスター『――――――――――――黙れ―――』
静かながらも、鋭いその一声で封じた。
355 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:34:55.51 ID:xxUCz63jo
竜王『ほお……これはこれは……』
そんなアレイスターの声に、
これまたわざとらしく嬉しそうな声を漏らす竜王。
対して一方通行は真っ直ぐにアレイスターを睨み、強烈な威圧感を放つ。
一方『―――アレイスター。黙ってろ』
しかし。
その制止の声にアレイスターが応じる気配はなく、
床に転がっていた銀のねじくれた杖を手に取り。
一方『やめろ―――止せ』
一方通行が他の翼を大きく広げ、
武力行使の意思を示しても、彼は留まる気など微塵も見せず。
一方『―――おィ、こィつは最後の警告だ』
そして立ち上がった。
その瞬間、容赦なく一方通行の翼が伸び、
アレイスターを再制圧―――。
―――するはずだったのだが。
一方『―――』
伸びていくはずの翼が―――根こそぎ『切り落とされていた』。
いつの間にか周囲の宙に出現していた―――『真っ赤』な光の筋に。
竜王『さてと、そろそろ俺様も―――「新しい力」を試させてもらうぞ』
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:36:15.03 ID:xxUCz63jo
何が起きたのか。
それを把握するどころか、
こうなる僅かな兆しすら全く知覚出来ず。
一方『―――』
続けて更に間髪入れずに。
彼がわき腹に強烈な衝撃を覚えた瞬間、
その身が一気に吹っ飛ばされてしまった。
何が起き何で攻撃されたのか、彼がようやく知ったのは、
そうして壁に磔にされてからであった。
一方『―――ッかァァァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』
腹部を貫通していたのは―――『赤き光の槍』だった。
今の今まで竜王が行使していたものとは明らかに違う、
そして桁外れの力が篭められている凄まじい刃―――。
その刹那。
一方通行の思考は、この『赤き槍』の姿を過去の記憶の中にも見出す。
―――どこかで、どこかで見たような。
いいや、はっきりと覚えている。
あんな代物を忘れるわけも見間違えるわけもない。
あの赤い、赤い光の『矢』。
一方『なッ―――』
去年のあの騒乱の際。
あの異世界の決戦の時―――かの魔帝が使っていた―――。
一方『―――なンでコレをッ―――オマエがァァァァ゛ァ゛ッッ!!!!!!』
ダンテ達に雨のように放っていた―――無数の赤い『光の矢』だ。
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:38:46.88 ID:xxUCz63jo
響く、苦悶に染まりあがった一方通行の怒号。
そして彼の問いに返されたのは言葉ではなく。
立て続けに放たれた―――同じ六発もの『赤い矢』だった。
それらが一気に、彼の腹、胸、そして首へと突き刺さっていく。
一方『―――ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』
その魔帝の力による激痛と衝撃は、まさに今まで味わったことのないもの。
あまりの刺激に耐えかねた彼の咆哮は、内臓が口から飛び出してしまうか、というまでの勢い。
そんな、磔になっている彼の様子を見て、
竜王『はは、これまた驚いた。馬鹿みたいに頑丈だな』
いつの間にか自由の身になっていた竜王が、呆れがちに笑った。
竜王『これは魔帝の矢だぞ?そこらの大悪魔なら一撃で即死しかねない代物だ』
竜王『いくら俺様でも、「竜王だけ」としてだったら、立て続けに七発も浴びれば声すら出ないものなのだがな』
竜王『さて……お前に昔話を聞きかせるところだったかな?』
そうして再度、『昔話』を始めようとしたところ。
アレイスター『―――黙れと言っただろう』
またしてもアレイスターがその声を遮った。
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:44:34.03 ID:xxUCz63jo
竜王はそんなアレイスターの顔をまじまじと眺め、「ふむ」とわざとらしく声を発しながら、
お馴染みの酔狂しきった高慢な笑みを浮べて。
竜王『一端の責任感はまだ健在だったか』
竜王『真の大罪を背負うのは己のみ、如何なる形であれ、他者の記憶に残り偲ばれる事は拒絶する―――』
一方『―――やめろアレイスタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!』
闇や翼をいくら伸ばしても赤き光の筋に切り掃われ、両者には欠片も届きもせず。
その咆哮も、もうアレイスターには届いていなかった。
彼がどれだけ大きく叫ぼうが、憎悪に滾る男の熱は冷めず。
それどころか、ますます激しく荒々しく噴き上がっていく。
竜王『―――そんなところかな、お前のケジメは。全く、非業の魔術師であり親であり夫であり一人の男だな。泣かせるよ』
アレイスター『黙れと言っているのだがこの腐れ竜が。私に用があるのだろう?』
竜王『ああ、そうだ、お前に用があったんだ。エドワード』
一方『―――――――――逃げろッッ!!逃げやがれッッッ!!』
ダメだ、これではダメだ―――上条を取り戻すためには、あの男が必要なのに。
万回殺したとしてもまだ殺したり無い、そんな男でも。
絶対に―――絶対に生きていてもらわなければならないのに。
アレイスター『…………………………………………』
それこそ今この瞬間においては―――打ち止めたちと『同じくらい』に、失ってはならない命であるのに。
一方『――――止せェエェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!』
そんな一方通行の叫びも虚しく。
竜王とアレイスターの姿は次の瞬間。
彼の目の前から消失した。
―――
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 03:45:36.90 ID:xxUCz63jo
今日はここまでです。
次は火曜の深夜に。
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県):2011/11/13(日) 03:47:53.77 ID:L71GXJ8y0
乙
しかし赤い矢6本ってスパーダ血族レベルじゃないと無理だな 362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/11/13(日) 05:06:30.27 ID:13ObDqDR0
乙
つか一方さんどんだけ頑丈なんだよwwwwww
ダンテたちでさえ耐えられるのは5本が限度とか言ってなかったっけ? 363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2011/11/13(日) 09:45:26.59 ID:osvi0q8Do
乙です乙です。
あれじゃない?魔帝級攻撃でも出力するのが竜王級だから気持ちランクダウンみたいな。 364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 12:59:06.78 ID:xxUCz63jo
紛らわしくてすみません。
ダンテ達でも危険なのは『赤い大剣』の方で、四発以上直撃すれば死ぬという代物ですが、
フィアンマが今回使ったのはそれではなく、魔帝がバッシバシ大量にぶっ放してきてた小さい光の矢です。
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 16:35:47.22 ID:uXpLhdlF0
竜王単体も今の一方通行も維持無しアスタロトクラスのはずなのに、魔帝の質より量攻撃で瀕死になるのか。367 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 17:05:17.44 ID:X+diJI3AO
質より量ったってそもそもムン様の強さがマジキチだからなあ
1のダンテは矢3本直撃で動けなくなってたし真魔人状態ですら2本で悶絶してたくらい 370 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県):2011/11/13(日) 18:02:12.86 ID:FzhF1k+e0
アレイスターまじ苦労人
御琴をゲコ太で釣ろうとしてた頃が懐かしい371 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 20:11:59.02 ID:xJsNC5fO0
DMCで上条さんやら一方さんを使いてえ 374 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2011/11/13(日) 23:38:05.81 ID:o5yc4xDG0
DMCで禁書勢力をつかえるとしたら
一方は初心者向けで
上条は玄人向けかな? 385 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:04:26.36 ID:ex0W4kCWo
―――
19世紀末、ある魔術結社に二人の若き魔術師がいた。
片方は物静かで紳士的、もう片方は活発で傲岸不遜と、
その人格は似ても似つかない正反対のものであったが、
一つだけ、彼らの間には『彼ら同士』にしかない共通点があった。
非凡なる頭脳を有していたことである。
これもまた不思議な縁か、
それとも『何か』が明確な意志の元にそうしたのか。
1000年に一人、いいや、その程度では収まらないほどの才が同じ時代に生まれ、
魔術界へと入り、同じ結社に属し、そして肩を並べていたのだ。
そうして、対等に知的共有できる相手が互い以外にはいなかった彼らの間に、
他には無い特殊な関係が形成されるのも当然の成り行きか。
それは実に奇妙な『信頼関係』。
生活スタイルも価値観も、
付き合う人の種類もまるで違うにも関わらず、
彼らは互いを最も理解し唯一の『親友』であり『ライバル』と認め称え合う。
そして互いに理解しきっているが故に相容れず、
彼らの間は常に一定の緊張感で満たされる、というものだった。
それだから、結社の同士達の目にはまさに犬猿の仲に映り、
そんな二人の一触即発の緊張に周囲は常に気をもんでいた。
当の二人にとっては最も気兼ねなく接することができる相手であるのだが、
喧嘩腰に聞える魔術談義が白熱し、実際に殴り合いにまで発展することもしばしばあっては、
周りからは到底『親しく』見えるわけも無いのである。
386 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:05:57.56 ID:ex0W4kCWo
ただ彼らのこの奇妙な関係は、その密度に反比例するかのように短いもの、
僅か二年の間だけであった。
いいや、近い内に別の道を歩むことになることを互いに感づいていたのかもしれない。
だからこそ、周囲からは犬猿の仲と認識されるくらいに、
その思考をとにかく吐き出しては激しくぶつけ合っていたのかもしれない。
そうして二人が出会って二年が過ぎた頃、彼らの道は遂に別れることとなる。
活発で傲岸不遜であった一人は、次第に『魔界魔術』に傾倒していき、
その力に魅せられては天界魔術に見切りをつける形で突然離団。
更には魔術界の表舞台からも姿を消し。
人間の―――『力』を証明するために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭す。
そして物静かで紳士的であったもう一人もまた、
唯一対等な者がいない結社には、これ以上身を置く意味も無いと結社を離れ。
その才を惜しみも無く発揮し、魔術界を席巻し、革命を起こす―――そんな『隠れ蓑の裏』で。
一人の特別な女性と出会い、そして彼女の力から『真実』を知り。
古の天の英雄に共感し心酔し、かつその手段を否定して。
人間の―――『未来』を手に入れるために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭すようになる。
387 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:08:40.12 ID:ex0W4kCWo
―――ただ、と。
『今』になって『彼』は再認識する。
人間の未来を手に入れる、
その理想をただただ純粋に追い求めることができていたのは、60年前までだったのだ、と。
一度完全なる敗北を喫したとき、
エドワード=アレグザンダー=クロウリーなる人物は、
もう素直に前に進めなくなってしまっていたのだと。
アレイスター『……』
その人間性は全ての喪失に耐えられるほどに強くは無く、
中身はどす黒くなってしまったのである。
だからこそでもある。
二度目のプランを進めるにあたって、己から人間性の全てを除外したのは。
だが。
ここでもまた彼はようやく気付いた。
そのような人間性から完全に逃れること、絶対になどできないのだと。
いくら外装を取り替えても、
こうして根源の魂から絶え間なく噴き上がってくるのだから。
ミカエルに心酔し、そして―――ある女性を愛した『人間の男』のままの魂から。
アレイスター『…………』
怒りが。
憎しみが。
抗いようも無いほどに強く。
389 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:12:09.92 ID:ex0W4kCWo
意識内にて、最後に交わしたあの友の声が再び木霊する。
『―――お前の真の目的は「――」だ』
その言葉に今の彼は「そうだ」と返す。
そうだジョン―――その通りだ。
その点については君が正しかったよ、と
60年前のあの日から、この魂を突き動かしていた最大の原動力は理想を遂げることではなく―――
―――怒りだ。
ローズ
―――『彼女』を奪った全ての存在への、と。
今まで対していた敵は天界。
彼女の仇とはいえ、その関与はあの状況を整えたという『間接的』な範囲に留まっている。
それ故だろう、魂の奥底に渦巻いていた憎悪は、理性による封印を破ることは無かった。
アレイスター『……』
しかし今や違う。
対面している存在は―――『直接的』に手を下した者。
その『行使の手』で彼女を噛み砕いた神の右席。
彼女を侮辱しその死をあざ笑う古の怪物だ。
彼の激情は今や、理性で抑えきれる範囲を遥かに超えていた。
390 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:15:16.86 ID:ex0W4kCWo
彼はもう諦めていた。
己を律することは止めた。
プランも終わりだ。
敗北したのだ。
この『二度目』もまた、完全に敗北し失敗した。
もう良いのだ。
もとより生に執着は無く、後悔はあれど未練など一欠けらも無い。
二度も敗北して、もう三度目に挑む気力も無い。
どうしようもなく疲れて、どん底まで絶望して、
二度と色を落とすことが出来ないくらいに憎悪に染まってしまった。
そして感情に再び身を委ねてしまったからこそ認識する―――これまでの行いに対する、桁違いの『罪の意識』と。
とてつもない『失望』。
元から人の命など全く気にしていない人格だったアリウスとは、決定的に違う。
本来のアレイスターは、古の英雄に思いを馳せ、一人の女性を愛し、
そして人間の未来を救おうとした『馬鹿正直な理想家』なのだ。
そんな彼が耐えられるわけも無い。
この60年の間に犠牲にしてきた存在―――大勢の子供達の『命』が、全て『無意味』だったことに。
己の行いはただ―――事態をかき乱し―――
救うはずの人類を―――更なる窮地に追い込んでしまったのだと。
391 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:16:47.43 ID:ex0W4kCWo
そうして絶望と失望に打ちひしがれて、憎悪に身焼くアレイスター
そんな彼に今できることはただ一つ。
それは些細な『後始末』であり、今や己にしかできないこと―――竜王を廃することである。
竜王『―――ッ』
アレイスターと竜王、次の瞬間に彼らが立っていたのは、
学園都市の薄暗いビルの中ではなかった。
黄昏色の光に満たされた大気、空。
黄金の縁取りが施された、延々と続く白亜の石畳。
そして崩れかかった、金銀煌びやかな装飾過多の列柱。
アレイスター『―――覚えているな?』
そこは古の人界に存在していた神族の界域、
その中でも最上層の『人界王』の間であり。
そして―――――――――竜王とミカエルが共に滅んだ地であり。
アレイスター『―――この場所を』
60年前、先代の右方と―――ローズが死んだ地。
392 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:18:59.85 ID:ex0W4kCWo
そこはアレイスターによって、
かの『界域』が学園都市の『中』に限定的に『再現』されたもの。
そう、『再現』だ。
それもアレイスターが再現しているのはこの風景だけではない。
かつてある時、そこで行われた出来事―――。
―――ミカエルが竜王に喰われ、融合し、そして竜王の思念を破壊して自滅させるに至るかの決戦。
その過去の『事象』をまるごと『今』に重ね合わせているのだ。
竜王『―――』
これこそ60年前に『行使の手』を打ち破った、
竜王の力に対するアレイスターの究極の切り札。
『彼女の目』が竜王の力から正確無比なる記憶を引き出し、
アレイスターの業で偶像となり『再現』される。
効果はもちろん文字通り―――過去の正確な再現。
かつてと同じようにして、
『竜王役』の思念は破壊されその力で自滅するのである。
そしてこれまた同じく。
代償として『ミカエル役』の魂も―――飲み込まれて共に死ぬことになる。
393 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:20:21.90 ID:ex0W4kCWo
だがそんな代償も、
今のアレイスターにとっては何の障害にもならない。
むしろ彼はある種の悦びを覚えていた。
竜王『―――これは―――』
なぜなら。
一度目、人界を救うためにミカエルが。
二度目は、己を生かすためミカエルをローズが演じ。
この三度目にて。
アレイスター『……これも覚えているだろう?』
己が演じるのだから。
どういった形であれかの英雄、
そして妻と同じ『時間』と『苦痛』を体感できることは、
この瞬間の彼にとって唯一の―――そして最期の光であった。
アレイスター『―――この―――「右剣」を』
394 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:23:41.18 ID:ex0W4kCWo
竜王は突然切り替わった周囲を見、
そしてアレイスターの『右手』を見て、その目を大きく見開いた。
煌々と輝く彼の右手―――そこに握られている白金の『光剣』を。
ツルギ
それはミカエルの剣の偶像である。
かつて、かの偉大なる英雄が振るった十字教最高の刃。
更にあの決戦の際には、大任を果すべく天界のあらゆる力が集積されていた極限なる『右剣』。
この刃をもってミカエルは竜王に挑み、
喰われると同時にその魂を貫き、竜の思念を破壊したのだ。
そんな刃が、アレイスターの魂と意識と―――類まれなる『業』が許す限り、最大限にまで再現される。
アレイスター『―――ぐ―――がッッ―――!!!!』
その身を震わせるのは想像を絶する負荷。
しかし彼の意識が鈍ることなど無かった。
―――果てしなく強い憎しみと怒りが、その命続く限りは眠ることなど許してはくれなかったのだから。
彼は己の魂や体の悲鳴などお構い無しに、
全ての力をこの術に注ぎ込んでいく。
墓所はもちろん魔界からも、
もう隠れる必要も無いのだから天界からさえも、力を強引に引き出して。
395 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:25:23.77 ID:ex0W4kCWo
そうして。
彼の類まれなる技術と、莫大な力が集束したとき。
この術式の『強制力』は、
まさしく大悪魔・神の域と称される『世界への干渉権』をも手に入れて。
たちまち周囲の現実に―――偶像を上書きしていく。
竜王『こ―――』
竜王が何かを言おうと口を開きかけた瞬間、
その『前世』のフィアンマと言う人間の姿が―――剥がれ―――飛び散っていき。
かつての決戦の時と同じ、『竜』の真の姿へと変じさせられる。
黄昏色のたてがみのある竜の顔に、体表を覆うはさながら黄金の如く煌く鱗。
隆々とした胸板に、鉤爪のあるたくましい腕。
しっかりと床を踏みしめるこれまた屈強な獣脚。
そして後方に大きく開き伸びる―――翼と長い長い尾。
力図強く悠然としているその立ち姿は、まさに『竜人』とも言えるか。
心奪われる神々しさに満ち溢れながらも、
装飾過多の域に達している煌びやかさは、一方で形容し難い嫌悪と不安を抱かせる―――。
―――混沌の竜王。
396 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:27:45.27 ID:ex0W4kCWo
刹那。
黄昏色の光の衣を、炎のように揺らめかせながら。
力ずくで真の姿を暴かれた竜王は、
同じく光が篭る『竜の目』でアレイスターを真っ直ぐに見た。
かの時に抱いた驚きと怒りもまた、正確に『再現』されているのであろう、
アレイスター『―――はッはははは―――!!!!』
異形の瞳にそれらの感情を見て、アレイスターはたまらず笑った。
苦痛に顔を歪めながら、憎悪と絶望を滲ませて。
ミ カ エ ル
上条当麻。
彼の思想に共感して、彼の英姿に心奪われ、
そして彼に成り代わってその理想を現実にしようとこの生涯を費やした。
志半ばで敗北し、掛け替えの無い存在を失っても、
それでも何度も己に自問し再び立ち上がった。
何があっても絶対に立ち止まるわけにはいかない、
何のために妻がミカエル役を自ら引き受けて己を生かしたのだ、と。
そうして二度目も60年かけて挑んだが。
結果はこのザマだ。
現実は懲りない彼に突きつけた。
お前は―――本物のミカエルになどなれやしない、と。
お前はどれだけ足掻こうが―――『生涯ただの一度も勝てやしないのだ』、と。
397 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:29:48.69 ID:ex0W4kCWo
―――ならば、と。
彼は最期に望む。
それができぬのならば。
せめて。
せめて、最期に一度だけ。
ミカエル
思いを馳せた、かの偉大なる『英雄』を演じ切らせてはくれないか、と。
アレイスター『―――はッ!!!!』
アレイスターはねじくれた銀の杖をその場に放り捨て、
『右剣』を一度大きく振るっては。
愛する妻の体で、尊崇するミカエルを演じて―――竜王へ向けて踏み切った。
できることならミカエルの抱いた理想を、その一片でもこの手で成し遂げたかった。
例え『ゆめまぼろし』でも。
一時の『幻想』でも良かったから―――。
―――それがローズの願いなのだから。
しかし、彼に対する現実の仕打ちはどこまでも冷酷だった。
彼のその最期の望みですら、返答は。
更なる『絶望の上書き』だった。
398 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 03:30:25.13 ID:ex0W4kCWo
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は土曜の深夜に。
399 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/11/17(木) 07:08:31.84 ID:reiuJ3S4o
お疲れ様でした。 400 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 09:34:53.20 ID:O469SRyDO
竜王ってガチでドラゴンだったのね 403 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:25:26.95 ID:G4d/RZAR0
敵がギューンって来たらブレイクダァゥンして、ダンテェーィとか言ってる隙にホォーゥしてバババババってする。
そのままシュバっと跳んだ瞬間にヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!
でスウィート!ベイベーッになったらゴーマリソーンになる前にバヒョッで周りの相手にカムヒヤッミ。
けどそれだけやってもまだ敵がベリカッベリカッベリカッならイィィィャッでホゥホゥホゥホゥホゥをキャンセルしてカマーンで打ち上げ、
最後にソノゲンソーヲブチコロース!クカキケコカカキクケククコカカキクココクケケケコキクカクケケコカクケキカコケキキクククキキカキクコククケクカキクコケクケクキクキクキコキカカカ――ッ!!してれば大抵の敵は倒せる 404 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/11/19(土) 04:27:52.33 ID:T0sTF+g20
さりげなく最後に混ぜるなww 405 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2011/11/19(土) 19:41:49.05 ID:Dxkffh5x0
今の一方さんが圧縮圧縮ゥしたら破壊力がヤバいことになりそうだな 406 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/11/19(土) 23:41:17.84 ID:vXph7klJo
人間界壊れたらどうなるの? 407 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2011/11/20(日) 00:08:49.98 ID:voailGHuo
人間界以外でも存在できる連中除いて人類抹消。
侵攻の目的を見失った魔界と、守る物のない天界との一方的な消化試合。
その後魔界内での玉座争い。ただし、以上はスタイリッシュ勢が無干渉だった場合。 408 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 01:59:06.77 ID:qEQJ4VGio
>>406
>>407プラス、人間界の崩壊が免れないとなったらダンテ達でも他の世界に退避していないと危険です。
俗に言う大悪魔の領域に達していれば消滅はしませんが、
そのまま崩壊する人間界に残っていると虚無に放りだされて、魔帝が封印されていたのと同じ状態に陥ります。
409 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 01:59:51.41 ID:qEQJ4VGio
駆ける一つの女体。
駆ける一人の男。
そして突き出される光り輝く天の剣。
その刃の前進には抵抗など無かった。
前へと突き進んだ勢いはそのまま、一切衰えることなくするりと。
竜の鱗に覆われた胸部に沈み―――そして貫通し―――背から切っ先が頭を出す。
そうして、アレイスターの魂はその刃を通り。
竜王に飲み込まれると引き換えに、怪物の思念を崩壊させる。
古の決戦を60年前と同じように、絶対的な強制力の下に完全再現する。
竜王役はミカエル役と共に自滅する、その完全再現からは神の領域の存在ですら逃れられない、
アレイスターの全ての技術と業が結集した、完璧にして究極の魔術。
人界の神を殺す――――――『神浄』の術式。
――――――そのはずだったのだが。
刃が竜王の胸を貫いた、それ以降は―――。
アレイスター『―――………………………………………………なぜ―――』
―――再現が『止まっていた』。
410 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:02:13.99 ID:qEQJ4VGio
ここまできても、
彼の腕は些細な勝利すらをも掴み取ることはできなかった。
最後の最後まで、彼の運命は決して微笑むことは無く。
一回限りの究極の切り札は、その効果半ばで完全に停止してしまっていた。
これで全ての気力が失われた、そう言ってもいい。
アレイスターはこの状況を前にしては、
絶望と失望『だけ』の表情を浮べて、硬直し唖然とすることしかできなかった。
そんな彼に向けてか、これまた酔狂した独り言なのか。
竜王『―――「俺様を倒す」』
竜は仄かに瞳を輝かせながら、連なる牙の間から音を漏らした。
左手先の爪で、胸を貫いている刃をなぞりながら。
竜王『ただそれだけのために、天の力と技術の粋を集めて生み出された刃』
竜王『ミカエルの右腕に埋め込まれし、「俺様にしか効果が無い聖剣」―――』
そして今度こそ、
確かにアレイスターへと向けた声であった。
竜王『―――そうだ。お前への用はこれだ。俺も「これ」が確認したかった』
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:06:51.25 ID:qEQJ4VGio
そうして竜王は、
その異形の顔でもはっきりと読み取れるくらいに『微笑み』。
竜王『そこまできわめて特化してる性質ゆえ、この「聖剣」に関することでは俺様も確証が持てなくてな』
竜王『例えこうして三神の力を持っていようが、直に俺様の魂に作用しかねない代物なんだよ。この剣は』
そう続けて、今度は刃を指で叩いた。
目障りだといった風に、大げさに目を細めて。
竜王『そうだ、この剣は俺様の唯一の弱点なのだ』
竜王『―――だが実に喜ばしいことに』
と一転、ここでまた演技がかった笑いを浮かべ。
竜王『二度とその弱点に怯えなくとも良いということが今証明された』
竜王『完全体である俺様の思念を崩すには、完全なる聖剣が必要』
そして今度は強く刃を握り締めながら。
鼻先同士が触れるかというくらいまでにその竜の顔を向き合わせて、強く確かにこう続けた。
竜王『だがお前でも、かの聖剣の完全再現は不可能であり』
オリジナル
竜王『そして「ミカエル」は俺様と同一体』
まるで裁きを言い渡すかのように。
竜王『つまり今、何人たりとも―――』
竜王『―――この三神の力を突破せずして―――俺様の魂に届くことはかなわないのだ』
412 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:08:22.67 ID:qEQJ4VGio
アレイスター『……ッ』
竜王『はは―――なぜ60年前と結果が違うのか、』
竜王『それは俺様がオリジナルであり完全体である一方、お前は本物のミカエルでは無いからだ』
竜王『その「女の目」で正確無比な情報を引き出しても、お前の魂程度では、完全なる聖剣の依り代の役は果せなかったということだ』
竜王『―――再現は再現。所詮はまがい物の域を出ない』
竜王『同じまがい物や、60年前の俺様のように不完全体には効果を発揮できるであろうが』
竜王『生憎―――今の俺様はまがい物でも不完全体でも無い』
アレイスター『―――そんな―――はずが…………』
そんな竜王の口から放たれた理論は、
アレイスターの認識とは全く異なっていたものだった。
確かに60年間のあの時は、半ば即席染みた短期間でこの術式を作り上げた。
だがその後の60年間の緻密な解析、更にこの10年間、幻想殺し、
すなわち『竜王の顎』という現物を前にしてのより正確な研究で、怪物の力の性質は全て調べ上げて得たデータは、
この『神浄』の術式は、
竜王の力に対して完璧な作用を有していると確かに裏打ちしているのだ。
413 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:11:39.35 ID:qEQJ4VGio
油は、その量をどれだけ増やそうが、
火を投げ込めばたちまち引火するという性質は変わらないように。
不完全体であろうが完全体であろうが、
竜王の魂である以上絶対にミカエルの聖剣の効果からは逃れられない。
『神浄』の術式は『絶対に効果がある』のだ。
だがいくら、アレイスターがそう断じても。
確かなデータと証拠を元にどれだけ完璧に、確実に、非の打ち所なく「こうだ」と叫んでも。
目の前の『現実』は、そんな『幻想』をぶち壊すには充分すぎる威力を持っていた。
竜はあざ笑う。
隠すことも無く、そんなアレイスターをあからさまに嘲笑する。
竜王『確かにお前は良くやったよ。お前は、俺様自身の次に俺様の力の性質を理解しているだろうな』
怪物は刃を握っていた手を離すと、今度はアレイスターの首を掴みあげて、
その顔を更に前に突き出して。
竜王『着眼点も良かった。プランとやらは中々良く出来ているものだ。素直に感心するよ』
竜王『しかしお前はたった一つだけ。重大なミスを「犯し続けた」』
牙をむき出しにして彼の耳元で囁いた。
竜王『「人間的な感性」無くして―――』
竜王『理解しきれるとでも思っていたのか?―――――――――人の王であり「祖」である俺様の全てを』
414 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:14:42.32 ID:qEQJ4VGio
アレイスター『―――…………―――』
そう、アレイスターの認識は確かに正しかった。
彼の揃えたデータはどれも正確無比なもの。
問題なのは、それだけでは『足りなかった』ことである。
彼をここまで成功させた『やり方』。
人間的な感覚の一切を廃した徹底した論理実証主義。
人の感情すらも完全に数値化することも、彼にとっては不可能なんかではなく、
現に一方通行を筆頭に大勢の人々の人格をこうして操作してきた。
だがそれも『可能である』だけで、決して『完全』なんかではなかったのである。
竜王『お前は、俺様の顎も行使の手もただの「力の塊」、「道具」として見ていなかった』
竜王『上条当麻とフィアンマという二つの魂、それらと切り離して考えてしまい、』
竜王『その人間性が力に及ぼす影響や、力の相互干渉について正確に認識することができなかった』
アレイスター『…………』
竜王『確かに、お前が「AIM」と呼ぶ我等神族の残骸の力そのものは死んでいる。またそこには如何なる意志も含んではいない』
竜王『しかしな、単に意志を保有していないだけで、外部の意志の影響を受けないというわけではない』
竜王『例え死んでいようが、意志を与えれば、または影響を受ければ、ただの残骸の力であろうがある程度の意志を宿せるのだよ』
竜王『お前自身、その証拠は現に目にしていたじゃないか。「エイワス」や「ヒューズ=カザキリ」として』
アレイスター『…………ッ』
竜王『お前の言い方をすれば、「彼女達」はただの記号の集合体、プログラムか』
竜王『はははは、俺様には確かな「人格」にしか見えんがな。特にヒューズ=カザキリは、現世を生きている人間と何ら変わらない程に』
竜王『人の王であり祖としてここに保障してやってもいい。あの「小娘」は、紛れも無く人間と呼ぶに相応しい思念だぞ』
415 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:17:21.73 ID:qEQJ4VGio
そこで竜王は少し頭を引いては再び向き直り。
竜王『だが愚かなことに。人間的な感性を廃していたが故に、お前はその点に気付けなかった』
竜王『目の前で人間性に溢れた者達が干渉しあい、運命を捻じ曲げる物語を紡ごうとも、それでおもお前は見向きもしなかった』
竜王『それがお前が犯した最大にして唯一の失敗さ』
竜王『それでもある程度はこうして騙し騙しやってこれたが』
アレイスターの失敗、どの実像をここに明確に明示し弾劾した。
竜王『やはり全てが露になってくるこの佳境では誤魔化し切れず。結局、あの「ハデスもどき」の最後の進化を見誤ることとなる』
「プラン」、それは確かに完璧だった。
的確で非の打ち所の無い計画だ。
しかし。
その手綱を握るアレイスター自身が不完全だったののである。
だからこそ、つい先ほど、ほんの僅かなイレギュラー因子が原因で、
一方通行へのこれまでの操作が一瞬にして打ち崩されたように。
アレイスター『―――ッ』
竜王『そしてこの術式だ。そんな欠如したお前自身の認識で、俺様の人間性に直接影響する聖剣の性質を―――』
そして今、こうなったように。
竜王『―――完全に具体化できるわけもないだろう?』
失敗し敗北した。
そう、術式は『完璧』だったのにも関わらず。
アレイスターが不完全であったから―――。
416 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:20:35.91 ID:qEQJ4VGio
それはアレイスターにとって、これまでの半生の全てを否定されるに等しい事実だった。
感情の類を完全に己が内から廃し、血も涙も無い鉄の人形となり。
ただただ目的のため理想のためにあらゆる犠牲を払ってきたその60年間、それが―――。
全て―――『最初』から過っていたのだ、と。
元から成功するはずが無かったのだと。
緻密に計算した正しいと思われた行動も、当然の如く全て裏目に出て。
中途はあたかも上手くいっているように見せかけて、結果は確実に最悪なものを引き寄せるのだ。
アレイスター『―――あッ…………』
―――どうしてだ、と。
どうしようもない、己という存在への更なる怒りと絶望と失望に沈み、
これでもかとばかりに苛まれていく。
―――しかしそれだけでは物足りないとばかりに。
竜王『おっと待て。お前の「罪」はこれだけではないぞ?』
竜はアレイスターの顔を覗き込むようにして、更なる残酷な真実を告げようとした。
竜王『もう一つ教えてやろう。厳密には、俺様が復活したのは「今」ではない』
竜王『完全体に戻ったのが今であるだけで、この意識が覚醒したのはもっと前―――』
倫理観が未だ定まっていない子供のような、純粋であるからこその残虐さか。
更なる絶望に落ちるアレイスターが見たい、
そんなただの『好奇心』を満たすためだけに。
竜王『―――「60年前のあの日」、あの瞬間だよ』
417 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:24:40.70 ID:qEQJ4VGio
アレイスター『―――』
一瞬、その竜王の言葉を理解できなかった。
いや、正確にはもう理解したくなかった、か。
だが彼の意識はここまでのストレスに晒されても、
皮肉なことにその聡明さが陰ることは無く。
知らなかった方が良かった―――あまりにも残酷すぎる真実を聞いてしまう。
竜王『60年前のあの瞬間、この術式の再現によって、俺様の意識は「竜王として」存在していた』
竜王『そしてそのまま忠実に再現されていれば、竜王の魂はまた破壊され、その意識と記憶は再び完全に封じられ、』
竜王『1000代繰り返してきたようにまた一人の青銅の種族として輪廻する』
竜王『しかしこのとおり、この術式の再現性は不完全だ』
竜王『その時は、俺様が不完全体であったこともあって力の暴走による自滅には追い込めたものの、』
竜王『魂への影響は表層の記憶を飛ばしたのみ。そして「その状態」のまま―――俺様は輪廻したのだよ』
それはすなわちこういうこと。
竜王『俺様の意識が「竜王として覚醒」したのは―――60年前。お前がこの術式を使ったあの瞬間だというわけだ』
アレイスター『―――』
この状況の原因、
竜王を蘇らせたのは紛れも無い―――アレイスター自身であった、と。
竜王『だからお前に礼を言っただろう?俺様を復活させてくれて感謝する、と』
しかも結果として。
竜王『ローズを捧げてまでしてくれてな』
―――最愛の女性の命と『引き換え』にする形で。
418 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:26:10.63 ID:qEQJ4VGio
その事実を認識した瞬間。
彼の意識は絶望の底へと向けて更に加速していく。
アレイスター『…………はァっ……―――!』
感情は爆発し。
鼓動が高鳴り、胸の中で不快な感触渦を巻く。
空気を求めて喘ぎ、呼吸が加速し、吐息には熱が篭っていく。
竜王『そして記憶無くとも意識と本能が存続している以上、』
竜王『輪廻した俺様が、自ずと「聖なる右」の完全なる力と「幻想殺し」を求めたのもまた必然』
体中が火照り、
その熱で揺らがされているかのように視界が霞んでいく。
竜王『前世の「右方のフィアンマ」も、その実は単なる記憶喪失状態であっただけで、厳密にはそのまま俺様だったということだ』
神浄の術式が完全に砕け、聖剣は霧散。
竜王が手を離すと、彼はそのまま白亜の床に跪くようにして落ち。
アレイスター『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――!!』
彼は身の内を焼く絶望に耐えかねて咆哮した。
419 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:32:04.46 ID:qEQJ4VGio
己の何もかもが憎かった。
彼女の命と引き換えにのうのうとここまで生きてきた己が、
己の存在そのものが憎くてたらまらない。
60年前のあの時、己はおとなしく死んで、彼女を生かし逃がしていたら―――結果は変わっていたのか。
少なくとも、こんな最悪の状況になんかにはなってはいなかったのかもしれない。
己は一体何をしたのだ。
己は一体、この世界に何を残したのだ。
ただぶっ壊しただけだ。
この手で、彼女も理想も何もかもを自ら破壊してしまっただけ。
ミカエルがその身と引き換えに打ち倒した竜王を―――再び解き放っただけ。
人類の確かな未来を手に入れようとするつもりが。
引き寄せた未来は、天と魔の衝突に巻き込まれるという人類終焉のシナリオと―――古から蘇った悪しき混沌。
人類を解き放つことはできず、逆にパンドラの箱の中身を解き放ってしまう始末。
アレイスター『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ―――……!!
叫びながら内では「なぜだ」、と。
アレイスターは自問する。
なぜお前は生まれた。
エドワード=アレグザンダー=クロウリー、なぜお前は誕生したのだ、と。
しかしそんな問いになど答えは返ってこない。
ただ告げられるのは。
竜王『因果はもとより、己が運命からすらも見放された、人界の不運不幸の全てを背負ったかの如き哀れな男よ』
竜王の口からの冷酷にして残酷な―――。
竜王『人は、誰もお前を許しはしない。誰もお前に同情などしない。誰もお前に慈悲など与えやない』
―――否定しようの無い事実。
竜王『誰しもがお前に失望し、誰しもがお前を憎み恨む―――そうだ。ローズさえもな』
420 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:34:01.61 ID:qEQJ4VGio
竜王『結果としてお前は人類を裏切り。ローズを裏切ったのさ』
アレイスター『―――ア゛ア゛ッ…………あぁ……』
竜は俯く彼の傍に屈み耳元で告げる。
その声には欺瞞と嘲りが満ちてはいるが、紡がれる言葉は真実しかない。
竜王『常に勝者であり挑戦者であり続け、スパーダの一族と刃散らしてまで己が望みを成し遂げたアリウスともまるで違う』
アレイスター『……………………』
まさにその通り。
あの友のように己の芯を貫けなかった。
ありのままの己を、その全てを受け入れることが出来なかった。
この耐え難い感情を制する強さは無かった。
竜王『お前は一度も因果を味方につけることはできぬまま』
そう、一瞬たりとも英雄になどなれず、演じることら叶わず。
竜王『ただの一度も勝てぬまま』
そう、如何なる戦いにも最後の最後には無様に敗北し。
竜王『ただの一度も救われぬまま』
そう、どんな運命にも英雄に救われることも無く―――。
竜王『失意と絶望と後悔の中で死ぬのだ』
―――ここで終るのだ。
421 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:35:23.29 ID:qEQJ4VGio
次に何が起こるか。
竜王によって、『神浄』の術式と共にこの身ごと消し飛ばされるのだ。
俯き地しか見えていなくともわかる。
竜王の腕に出現しているであろうあの魔帝の矢によって、
周囲がぼんやりと『赤く』照らされているのだから。
アレイスター『…………』
哀れで愚かで不運で罪深い、人類最高の天才であり魔術師。
そんな彼の最期の言葉は。
アレイスター『………………………………………………………………すまない……ローズ………………』
亡き妻への、無念に染まった謝罪の言葉。
ただそれだけだった。
直後、周囲が『赤き光』に満たされて。
強烈な衝撃と共に全ての近くが途切れ。
そしてあっけなく終った―――。
422 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:35:53.55 ID:qEQJ4VGio
―――はず、だったのだが。
アレイスター『…………』
不思議なことに、意識は今だ存続しており。
一瞬の知覚の途切れも、次の瞬間にはすぐに回復していた。
アレイスター『…………』
見えるのは白亜の床に、『赤』。
それも赤は赤でも、魔帝の矢の光ではなく―――カーテンのようにたなびく、『真紅の皮革』。
見上げると。
カーテンの正体は『真紅のコート』で。
その上に見えるは『銀髪』に―――肩に載っている『白銀の大剣』。
そう、眼前にあったのはまさしく。
アレイスター『…………………………』
正真正銘の『英雄』の背中だった。
423 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:38:54.75 ID:qEQJ4VGio
だが。
『救われた』彼の内を満たしたのは歓喜ではなく、
安堵でも救済でもなかった。
アレイスター『なぜだ……なぜ…………』
こみ上げてくるのは。
アレイスター『なぜ「今頃」になって―――ッなぜだ?!なぜあの時―――私達の前に現れなかったッ?!!!』
怒り。
お 前 ら
アレイスター『なぜ60年前のあの日に―――「スパーダの一族」は私達の前に―――…………ッ?!!!』
己と言う存在をこの世界で躍らせる、『気まぐれな現実』への憤怒だった。
アレイスター『―――……なぜだ……?!…………なぜ……私とローズは…………今の時代に…………生まれなかった…………』
その男の叫びに、英雄は背中越しにさらりと告げた。
一切の感情が除かれた、平淡で冷ややかな声で。
『―――何をやっても常に遅れ、時にはどうしようもねえくらいに完全に手遅れになる―――』
ヒーロー
『―――悪いな。そういうクソッタレな存在なんだ。「英雄」ってのは』
―――
424 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:40:13.60 ID:qEQJ4VGio
今日はここまでです。
次は水曜に。
434 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 11:26:44.94 ID:MLI+Iva+0
乙乙乙
スタイリッシュヒーローキター!!428 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 02:49:31.63 ID:CQgatjIC0
アレイスター・・・ 430 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 04:20:18.30 ID:qJGROxU8o
乙です
今更だけど人間界の神って基本的にはギリシャ神話の神々なのかな? 435 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 15:07:14.47 ID:RX4KuQFHo
>>430
アレイスターがプランのベースにしたのがギリシャ系というだけで、人間界の神はギリシャの神々だけではないです。
例えばアレイスターの妻のローズの「目」は、エジプトのホルスの性質であったりなど、
人工能力者達はみなギリシャ系ですが原石はそうとは限りません。
神話・信仰のどれが人界系か天界系か、大まかに分けると以下の様に。
人界系
メソポタミア神話系、エジプト神話系、ギリシャ神話系など
天界系
旧約・新約、インド神話系、ケルト・北欧神話系、メソアメリカ系、日本神話など
古代に広く栄えたが紀元後には衰退、
現代では一般的に信仰として存続していない、といった特徴があれば基本的に人界系、
紀元後に栄えて、または現代でも広く信仰されているという特徴があれば基本的に天界系、
かつ唯一神教であれば確実に天界系となります。
ただ、阿修羅やケルベロスは実は悪魔だったりなど、
細かい点では伝聞と真実が異なっていたりしている通り、これはあくまでも大雑把なグループ分類です。
437 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/11/20(日) 20:02:59.91 ID:8Upto42z0
乙
相変わらず設定がすげぇ438 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2011/11/20(日) 22:01:34.52 ID:eaDYVIg70
じゃあ世界三大宗教は天界系ってことになるな
キリストとかブッダは天界からの使者だったのか? 439 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/20(日) 23:07:20.26 ID:MLI+Iva+0
キリストは、人間界に興味と愛情を抱いた数少ない神の加護を受けた人間だったんじゃね?
ブッダというか釈迦は自力で神の領域までたどり着いた、みたいな443 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府):2011/11/21(月) 11:40:23.15 ID:R1TXV0x6o
竜王にも一方さん≒ハデスみたいな固有の名前があるんですか?
ミカエルとの絡みだと赤龍としてのサタンっぽいけど、そうすると
天界か魔界になりそうだし 444 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/21(月) 20:53:57.59 ID:vqBMy5J6o
>>443
当SSにおいては、竜王は「サタンのモデル」といったところです。
実はこれも阿修羅やケルベロスと同じく、
現代に残る伝承が必ずしも完璧な真実を語っているわけではない例の一つとなります。
「竜王含む人界神の過去は全て葬る」という天界の立場の時点で、まず後世の人間達が実像の全貌を知り得ることは叶わず、
(そもそも「人界神」が存在していたことすら知るのは至難)
僅かな情報ですらも短いスパンで世代が入れ替わっていく人間世界、その目まぐるしい歴史に揉まれて改変されていき、
かつ天界の意識操作で都合良く誘導されてしまった結果、
また悪魔という言葉は、大多数の一般の人々にとっては「魔界の生命種」というよりも
「神と人の敵対者であるとにかく悪しき存在」という認識の方が強いため、
そこも混同されて竜王=神と人の敵対者≒悪魔(サタン)という解釈で現代まで記述されてしまった訳です。
※ちなみにここから以下は、本筋にほぼ全く絡まない完全な蔵入り設定ですが、
イエスと釈迦の名が出たので、ついでということで彼らに繋がる歴史を。
※かなりかなり長いです。
現代では一切の情が入る余地の無い天界と人界の上下関係ですが、
かつては天照達の例のように、天界神が人界に降りて友として関わっていた時期がありました。
しかしある時、「世界の目」の発見によるジュベレウス派の管理方針の変更に伴い、
人間界と天界の物理的な接続は遮断、上下関係を絶対的なものにするため、天界神と人間の直接的かつ友好的な接触を一切禁じます。
そこで天界は、人界内で大きな力が必要とされる作業を行う際は、
特定の人間に力を与えて「使者」とし、天の御業を代理させるという手法を取るようになります。
それがアブラハムをはじめとする「預言者」やメタトロンなどいった者達です。
とはいえ当時の関係も完全に冷え切っていたわけではなく、
それら「使者」の人選は、才能はもちろんですがその他に人徳や、時には暖かい愛情によって加味されていました。
更に中には眷属として天界に受け入られる者もおり、
特にメタトロンなんかは大出世に出世を重ね、元々人間だった経験もあってセフィロトの樹の責任者を任されるに至ります。
しかしこのような関係も、ずっと続くことはありませんでした。
天界神が離れたことによる影響と人間界生まれの魂の本能によってか、
ある時、古代メソポタミアをはじめとして各地で人界神信仰が再燃し、文化の成熟と共に人界神へ近づく学問研究も加速、
最終的には、アレイスターの話でも少し出たとおり古代ギリシャのホメロス達が人界の真理にまで到達してしまいます。
当時の人間界を取り巻く状況は、明日にでも魔界の侵略が始まってもおかしくないものであり、
「世界の目」が存在している人界を失うわけにはいかないジュベレウス派からすれば、
管理体制を崩しかねない人間の探求は、すぐにでも解決せねばならない緊急事態だったわけです。
結果的にはホメロス達は失敗したものの、その後も人界信仰とその学問の波は衰えることは無く、
マケドニアの拡大によるオリエントとの融合、ヘレニズム文化の確立拡大、アレクサンドリア図書館などでの更なる学問探求が進み、
また東では焚書坑儒などの儒教思想弾圧、
西ではギリシャ文化を受け継ぐローマの覇権拡大、
それによるケルト信仰などの天界系他信仰の同化吸収など、天界にとって人界内の状況は更に悪化していき。
遂にジュべ派が「おい良い加減どうにかしろ、これ以上悪化したら武力でもう一度人界洗浄すんぞ」と、
それぞれの下位派閥に圧力をかけるに至り、
それで執られた大規模かつ徹底された「管理強化策」によって、魂のみならずその根底の思想、
価値観や倫理観といった要素も全て「天界風」に「再修正」され、現在の状態へと繋がることになります。
そして当時、その「管理強化策」の使命を与えられた「使者」が、
釈迦やイエスといった現代に続く信仰の直接的な「始まりの者」でした。
そのような背景の元、紀元0年から約±400年の期間中に、
人界神信仰は最盛期を迎えると同時に即座に天界系に廃絶され、
もしくは乗っ取られる形で吸収同化されその後は急激に衰退していくことになります。
ちなみにイエスと釈迦は両者とも各派閥の神に愛された「人間」ですが、
彼らは本筋には絡まないので、天の使者となる詳しい経緯は明確に設定していません。
ただ諸々の事からすると、釈迦はアレイスターと同じく魔神の領域の超弩級の天才で、自力で真理に到達して天に見初められた、
イエスは天に愛されたマリアが生んだ半人半天の選ばれし子(天界視点では管理強化策の要)、といったところが妥当でしょうか。
ということで、ここに設定厨の>>1の余談、長々とお目汚し失礼致しました。
またこれらは全て、あくまでも当SS内における設定です。
445 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/11/21(月) 21:33:23.62 ID:LZ7vxWHl0
設定が凄過ぎるwどれだけ考えてるんだよw 446 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府):2011/11/22(火) 00:08:28.93 ID:OrLmq9Bso
>>444
モデルですか、なるほど…
というか、これだけ設定が練られてるならもうオリジナル作品いけますね
既に並みのラノベより出来上がってるし448 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/22(火) 00:48:47.71 ID:29n8M7ZDO
>>444
設定厨だとしても、ここまで長い話なんだから裏設定がどっさりあっても不思議ではないわ
欲を言えば、この物語が終わった後(長く続いてはほしいが)にでも、語られなかった設定を聞きたいな……
あと質問なんだが、インデックスのパワーの量はどれくらいのレベルなんだ?今後の展開に関わるようなら答えなくていいけど451 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/24(木) 02:01:36.56 ID:c9WGBkWGo
>>448
現時点におけるインデックスが扱える規模は、『量だけ』ならば下位の大悪魔、ケルベロスなどをも越えています。
ただ彼女は、力の量がそのまま戦闘能力にはならない特に良い例です。
インデックス(妹)は魔女の戦闘訓練の一切を受けておらず、かつ彼女の性格上、戦うという行為自体にまるで向いていないため、
扱える総量がずっと小さいローラにも徹底的に押されしまった通り、物量ゴリ押しが通用しない相手だとどうしようもありません。
当然、ケルベロスなどが相手となれば戦いにすらなりません。
449 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/11/22(火) 02:09:19.85 ID:XS9kgt0Xo
設定資料集だせるなダンテ「学園都市か」【MISSION 31】
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