ながされて藍蘭島 18 初回限定特装版 (SEコミックスプレミアム) 320 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:20:43.05
ID:7DLbiBM+0 「おぎゃー!!!!」
今まさに玉ねぎに勝負を挑もうとしていた上条の耳に、奇妙な悲鳴が突き刺さった。
「インデックス? どうした?」
エプロン姿のまま台所を離れて同居人の様子を見に行くと、悲鳴を上げた張本人が口をぱくぱくさせながらテレビを指差していた。
そして、真っ白シスターは言った。
「とうま! とうま! カナミンが始まらないんだよ!」
「カナミンが? へえ……そう……」
大好きなアニメの放送が始まらない。
悲痛な叫び声の原因はそれであった。
大した事件でなかったことに上条は一応安堵し、それと同時にテンションは駄々下がりだった。
一方のインデックスは、怒りと困惑でテンションが急上昇中のようだ。
「時間もチャンネルもカンペキのはずなのに、一体どうしてなの!?」
「臨時ニュースってテロップが出てるだろ。そのせいだよ」
「りんじにゅーす?」
「すごい事件が起こったりすると、予定してた番組を変更してニュース流すことがあるんだよ」
「む。それって、ニュースがカナミンを放送するより大事だってこと?」
「テレビ局的にはそうなんだろ。どっかで大地震でも起きたかな……」
上条はエプロンを取り、インデックスの隣に腰を下ろした。
毎回高視聴率を叩き出すカナミンを中止にするほどのニュースだ。
見ておいて損はないだろう。
『番組を変更して、臨時ニュースをお伝えします』
『現在、第七学区で清掃ロボットが暴走中。ありえない速度と挙動で回転しながら街を爆走しています』
画面が切り替わり、現場の様子が映し出される。
第七学区、つまり家のすぐ近くで、確かにいつも見かけるドラム缶型の清掃ロボットが、
いつも見かけない速度と挙動でぐるぐる回りながら通りの真ん中を突き進んでいる。
「うわ、すげえ……本当に爆走してる」
「確かに大変だとは思うけど、でもそれくらいでカナミンをカナミンを……」
『なお、清掃ロボットの上部にはメイド服姿の少女がしがみついており、今にも遠心力でブッ飛ばされそうで非常にやばいです』
『どうしてこんなことになったのかさっぱり分かりません。そもそもなぜ清掃ロボットにしがみつかなければならないのでしょうか』
「「え?」」
暴走ロボットの上部がクローズアップされた。
そこには、メイド服の、中学生くらいの少女が、スカートをビラビラさせながら必死にロボットの頭を掴んで飛ばされまいとしている姿があった。
非常に見覚えのある背格好である。
『あーれぇーーーーーーーーーー』
「舞夏―――――ッ!!」
二人は即座に立ち上がり、テレビを消すのも忘れて現場へ向かって走り出した。
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:21:53.36
ID:7DLbiBM+0 駅前広場。
住宅街を縦横無尽に駆け回った暴走ロボットは、あちこちぶつかりながらここまでやって来た。
警備員や風紀委員など事態の収束に努める者たちや、マスコミや野次馬もバスロータリーに集まっている。
その中に、よく知った顔を見つけて上条は声を掛ける。
「土御門!」
「かみやんか! 悪いけど、今はのんびり挨拶してる場合じゃない」
メイド少女の義兄である土御門元春は、いつものおどけた調子をすっかり失っていた。
「当たり前だろ。何か、俺にできることは――」
「気持ちだけ受け取っとく。相手は能力者でもなければ魔術師でもない。かみやんの出番はないからな」
「クソッ……でも、警備員や風紀委員は何をやってるんだ? さっさと電源を落として……」
「それ、とっくにやってるらしいわよ」
後ろから、またも知り合いの声が聞こえる。
学園都市が誇る超能力者第三位、最強無敵の電撃姫、御坂美琴その人である。
彼女も舞夏とは友達だ。黙ってはいられないのだろう。
「御坂! 一体どういうことだ?」
「学園都市のロボットは管理センターのコンピューターで制御してる。暴走の第一報が入ってすぐに、そこのスタッフがあの個体の電源を切ってるのよ」
「じゃあ何で止まらないんだよ?」
「何者かにコントロールを奪われてるの。私も奪い返そうとして色々やってみたわよ。伊達に最強の電撃使いやってないからね」
「お前の能力でもダメなのか……だったら、とにかくぶっ壊しちまえば……」
美琴の超電磁砲の破壊力はずば抜けている。いかに丈夫に作られた学園都市製のロボットといえど、本気の彼女の攻撃にあってはスクラップ確定だ。
しかし上条の言葉に、美琴は首を横に振る。
「もしあれが爆発でも起こしたら、上に乗ってる土御門も無事じゃ済まないわ」
「そうか……だから警備員たちもうかつに銃撃できないんだ」
どんなに強くても、便利な能力を持っていても、出来ないことはある。
学園都市第三位の超電磁砲も、その第三位を軽くあしらってみせる幻想殺しも、この場においては無力だった。
こんな話をしている間にも、ロボットは動き回り続け、少女の小さな体を振りまわしている。
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:22:31.33
ID:7DLbiBM+0 「黒子ならどうにかしてくれるんじゃないかとも思ったんだけど、流石にあの速度だと触ることもできないらしくて」
悔しそうに顔をゆがめる美琴の言葉を聞いて、土御門は顔を上げた。
「白井黒子? 空間移動の能力者……そうか」
友人たちから離れ、ポケットから携帯電話を取り出す。
アドレス帳から仕事仲間の番号を探し出して通話ボタンを押すと、コール3回で相手は応答した。
『何か用? ……って言っても、貴方が掛けてくる用事なんて、仕事のことだけでしょうけどね』
結標淡希。対象に触れることなく好きな場所へ移動させる座標移動の能力者。
彼女なら、舞夏を安全な場所へ飛ばせるかもしれない。
「幸か不幸か、今回は仕事じゃない」
『あら珍しい。じゃあ一体何のお誘いかしら』
「第七学区の駅前広場に来てくれ。早くしないと舞夏が、義妹が……」
『義妹さんがどうかしたの?』
「詳しいことは後で話す。とにかくこっちに来」
「来たわよ」
「早ッ!?」
無音で背後に立った少女の姿にびくっと肩を震わせる土御門。
だがいつまでも驚いているわけにはいかない。
大事な義妹を救ってもらわなければならいのだ。
「説明するより見てもらった方が早いな。あれだ」
土御門は、野次馬の向こうの暴走ロボットを指差す。
そして、その上で半泣きでぶん回される義妹を。
「たーすけてぇーーーーーーーー」グルグルグルグルグル
「た……大変なことになってるわね……」
「まさしく大変だ。お前なら何とかできないか?」
ほとんど頼み込むような調子で土御門は訪ねる。
圧倒的な光景に目を丸くしていた結標は、少し考え、そして言った。
「出来ることなら何でもやってあげたいけど……」
「けど、何だ?」
「私の座標移動は、始点がじっとしていてくれないとちょっと難しいのよ」
結標は申し訳なさげに肩をすくめる。
「例えば走っている人間なら一秒後にどの位置にいるか先読みできるからいいのだけど、あの変則的な動きだと、計算が狂ってしまうかもしれないの」
「狂うとどうなる?」
「最悪、義妹さんの首から上だけ貴方のもとへデリバリーってことにもなりかねないわね」
「ぐっ……」
あまりにリスキーな賭け。
座標移動に頼る線はなくなった。
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:23:30.80
ID:7DLbiBM+0 暴走ロボットはメイドを乗せて動き回る。
現在は第七学区を離れ、曲がりくねりながら突き進み、第一学区へ差し掛かっていた。
使えるものなら何でも使う。
彼女のためなら何だってしてみせる。
土御門はとうの昔に決心していた。
次なる救いを求めて、彼は携帯端末を操作する。
『土御門さんですか。また暗部の仕事でも?』
電話の向こうから聞こえる海原光貴の声は、腹が立つほど落ち着き払っていた。
「緊急事態だ。海原、テレビを点けろ。チャンネルはどこでもいい。多分それで事情は分かるはずだ」
『と言っても、今外にいるので……ああ、セブンスミストの街頭テレビで臨時ニュースを放送していますね』
「それだ。噂の暴走ロボットにしがみついてるメイドってのが……」
『成程。舞夏さんですね』
「次名前で呼んだらミンチにしてやるからな。ところで海原。お前のトラナントカの槍で、あのロボットだけを分解できないか?」
『トラウィスカルパンテクウトリの槍です。そうですね、やってやれないこともないかも知れませんが……』
海原は少し言葉を濁す。
『狙いを定めるのが難しいんです。もちろん慣れていますから大抵の的には当てて見せますが、あれは人間の動きとは違いすぎますし』
「結標と同じか。外れるリスクが高いってわけだな」
『そうなんです。もし間違って義妹さんに当たったりしたら……』
「まずお前がバラバラになるぞ」
土御門が不気味に笑う。
それを聞いて、海原の方は苦笑した。
『……と、そういうことなんです。お力になれず申し訳ありません』
「そうか。じゃあな」
役に立たないとなれば用はない。早急に通話を切ると、走るロボットを追いかけながら別の番号へと掛け直す。
少し躊躇したが、この際仕方がない。
奴に借りを作るのは癪なのだが……
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:24:13.22
ID:7DLbiBM+0 『チッ、やっぱり掛けて来やがった』
開口一番舌打ちである。
電話に出た一方通行はいつものように不機嫌だった。
「その様子だと、ニュースは見たようだな」
『あァ。"大暴走リアルチラメイドの命運やいかに!"とかいうフザけたテロップが流れてンぞ』
「どこの局だか後で聞かせろ。それより今は舞夏の命だ。この際だから頭でも何でも下げる。お前の反則技であいつを助けてくれ」
『あー……やってみてもイインだがよォ……』
いつもは自信たっぷりの第一位が、どういうわけか海原と同じように言葉を濁した。
「どうしたんだよ?」
『今、そっちは第二学区に入ったとこだよな』
テレビカメラは異様な速度で突っ走る清掃ロボットにしっかり付いて回っている。
第一学区を抜け第二学区へ入った暴走ドラム缶の様子も、テレビで実況中なのだろう。
「それが何だ」
『第二学区ってなァ確か、対能力者用のAIMジャマーがそこかしこに仕掛けられてたはずだよなァ』
「……つまり」
『俺の演算が狂わされたら、ロボットと義妹の愉快に素敵に芸術的なコラボレーションオブジェがここに完成ってことになっちまうかもな』
「そうか。しね」
『アァ!?』
土御門は通話を切った。
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:25:10.22
ID:7DLbiBM+0 一応、暗部の小組織の中でも上位に位置するグループが、人助けとなるとこんなにも役に立たないものだとは。
土御門はいらだちを抑えてロボットを追いかける。
いつの間にか、上条が隣を走っていた。
「クソ、何だってんだ……あいつか何をしたって言うんだよ」
「……」
上条の言葉は、土御門が思っていたとおりの心情を表していた。
そして、ツンツン頭の友人が呟く。
「いいぜ、ロボット……」
「何の罪もないメイド見習いを乗せたまま振り回して……」
「綺麗にしなきゃいけねえはずの街を散々散らかして……」
「それで何も感じないっていうなら……」
「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
突如スピードを上げる上条。
「うおおおおおおお!!」と雄叫びを上げながら野次馬を追い越し、カメラをすり抜け、今もガクガクとおかしな動きで走り回るロボットのもとへ接近する。
右の拳を握る。
異能の力にしか効果を出せない右手。
まっとうな武力には太刀打ちできないレベル0。
しかし、そこには決意が宿っている。
暴走ロボットだって、打ち砕いて見せる――――ッ!!
べちっ
「ひでぶ」
上条の体は高速回転するロボットにまともに弾かれて吹き飛んだ。
「機械相手に説教が効くかバカ!!」
土御門は泣きたくなった。
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:25:51.03
ID:7DLbiBM+0 「あきらめるのはまだ早いんだよ、もとはる」
頭を抱える土御門の肩に、柔らかくて温かい手が触れた。
インデックス。
その脳内に十万三千冊の魔術書を詰め込む、魔術サイドの天才だ。
つまり、科学サイドの問題に関してはほとんど役に立たないはずなのだが。
「機械にだって、きっと言葉は通じるよ。分かり合うことはできるよ」
後光が射すかのように、愛らしくも神々しい笑みを浮かべて、彼女は囁いた。
「私があのセーソーロボットに、神の教えを伝えてみる」
「だから、機械に説教なんて無駄だって」
「出来るよ」
自信に満ちた顔、そして声色。
インデックスは、真っ白な修道女は、しっかりとした足取りで暴走するロボットの方へと向き直った。
ゆっくり、しかし確実にその狂った掃除機へと近づいていく。
「祈りは届く。ヒトはそれで救われる。私みたいな修道女は、そうやって教えを広めたんだから!」
小さな口が開く。
まるで、聞く者すべてを安息へ誘うかのような、優しいメロディ。
彼女が用いたのは、歌だった。
言葉の壁を、心の壁を越える奇跡の調べ。
聞いているだけで心が洗われるかのような――
それはそれで置いといて、舞夏を乗せたロボットは右へ左へ角度を変えながら、遠くの方まで突っ走って行った。
「……あれ」
「だって、機械だもの!! ヒトじゃないもの!!」
土御門は救われなった。
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:26:46.83
ID:7DLbiBM+0 「くそっ! 話術サイドは使えない! 何か、何かないのか……!」
土御門が絶望しかけたその時だった。
携帯端末の着信を知らせる、小さな電子音が鳴る。
土御門のものではない。
となりの少女のものだった。
「わ、わ、け、ケータイデンワーが鳴ってるんだよ! とうま! とうま! どうすればいいの?」
インデックスは慌てふためいて上条のもとへ駆け寄る。
機械にぶつかった衝撃からやっと立ち直った上条は、目を白黒させながら少女から電話を受け取った。
「このボタンを押せばいいんだよ。それで耳に当ててみろ」
「う、うん……ば、バクハツしたりしないかな?」
「しないから早く出てやれって。相手に悪いだろ」
「そうだね、よし……」
恐る恐る通話ボタンを押すと、もちろん爆発などしなかった。
マイクから慣れた声が聞こえる。
『よかった、通じましたか』
「かおり? どうしたの?」
神裂火織。現在ロンドンにいるインデックスの友人だ。
『今、そちらで暴走したロボットが少女を乗せて街を突っ走っているのではありませんか?』
「すごい! どうして知ってるの? かおりは今イギリスなんでしょ?」
『私には学園都市の機械たちと心を通わせる親友がいるもので』
「なにそれこわい」
『洗濯……ゴホン、友人の話では、清掃ロボットは何者かにコントロールを奪われて、マザーコンピューター? というものでも手も足も出ないとか』
「わ、分からない言葉がいっぱい出てきて困るんだよ……でも、とうまたちの話を聞いた感じだと、すっごい機械で操れるはずのロボットが、誰かのせいで操れなくなっちゃってるみたい」
『友人が、犯人に心当たりがあると……。あの少年は一緒にいますか?』
「とうまのこと? ちょっと待ってね、替わるから」
インデックスは電話を顔から離し、上条の方へ差し出した。
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:27:24.37
ID:7DLbiBM+0 『お久しぶりです』
「おう。神裂、すげえ友達がいるんだな」
『ま、まあ……かけがえのない友人です。それで、犯人についてですが……』
「そうだ。知ってることがあるなら何でも教えてくれ」
『はい。あなたはミサカミコトという人物に心当たりはありませんか? そちらでは結構な有名人だと聞いていますが』
「心当たりも何も、俺の……何つうか、友達だな。まさか、あいつが犯人だってのか?」
流石にそれはない。そう言ってやろうと思った上条だったが、神裂の言葉に遮られた。
『そうではありません。ただ、知り合いなら話が早くて助かります。その人を連れて公園へ行って下さい』
「公園? ここは第二学区だし、近くにあるかな……」
『いえ、彼女がいつも通学途中に寄る公園だそうです。本人に聞けば分かるかと』
「分かった。それで舞夏が助かるなら、何だってしてやる」
上条は美琴を探して辺りを見回した。
やはり、彼女もロボットを追ってここまで来ている。
野次馬たちの人だかりの向こうに、風紀委員の後輩と話し込む彼女を見つけた。
「土御門! 何かよく分からないけど、何とかなるかもしれない! 俺は御坂と一緒に、あいつのよく行く公園ってのに行ってくる!」
「? おう、舞夏を助けてくれるなら何だっていい! 頼んだぞかみやん!」
「まかせろ! インデックス、お前も来い。俺の携帯で土御門と連絡取り合っててくれ」
「むむ。またケータイデンワーと関わり合いになるんだね……科学スキルがあがっちゃうかも」
上条とインデックスは走り出した。
ようやく見えて来た、小さな希望の光へと向かって。
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:28:04.07
ID:7DLbiBM+0 「公園!? こんな時に何ふざけてんのよ!?」
「お前の力が必要なんだよ、御坂!」
当然、美琴は理由もなしに友人がひどい目に遭っている現場を離れようとはしなかった。
しかし、上条が真剣な目つきで7秒くらい見つめれば、大抵折れてくれる。
ここぞという時に使う裏ワザだ。
「う、な、何よ……そんな顔で見ないでってば……分かったわよ! 行けばいいんでしょ!」
ゴチです。
というわけで上条たち3人はもと来た道を戻り始めた。
「私がよく行くっていったら、一番心当たりがあるのはあそこ」
「どこ?」
「あんたと会ったこともあるとこよ。金食い虫の自動販売機がある公園」
「ああ、あそこか……そこに犯人がいるのか?」
『恐らく……間違いないと思います』
電話の向こうで、神裂が真剣な声付きで答えた。
バスを使い、二十分ほどかけて辿り着く。
ロボットの暴走現場の喧騒が嘘のように、その公園は静まり返っていた。
「……誰もいないじゃない」
「そうだな。神裂、どういうことなんだ?」
『……簡潔にお答えしましょう。今回の事件の犯人は、そこにあるボコボコの自販機です』
神裂の答えに、その場にいた3人は言葉を失った。
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:29:03.36
ID:7DLbiBM+0 『ご存じのとおり、その販売機は毎日のようにミサカミコトによってひどい目に遭わされています』
『斜め45度からの本気の蹴り……1円も入れずに商品を大量に奪っていく窃盗行為……』
『彼は怒っています。憤慨しているのです。と、友人は言っています』
『けなげに仕事を頑張る機械を虐げるなんて……ッ!』
「神裂さん? 電話口からミシミシ聞こえるんですけど、握りつぶさないでくださいね……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ」
「そこのボロ自販機が、私に蹴りを入れられてるのを怒って、管理センターのコンピューターから清掃ロボットの制御を奪ったっていうの?」
「それで私の友達を乗せたまま暴走させたって?」
「何それ。笑えない冗談。付き合って損した」
美琴は自販機に背を向けて歩き出した。
すると、電話の向こうから神裂の冷めた声が聞こえて来た。
『土下座してください』
「は?」
『自販機は要求しています。メイドを無事返してほしければ、今までの暴挙を本気で悔い改めて、二度としないと誓って、その自販機に向かって土下座してください』
「ふざけないで! こっちは今友達が大変なことになってんの! バカみたいな冗談に付き合ってる暇は――」
ガコン
思わず振り返ると、例の自販機から、誰も触っていないのにもかかわらず、いちごおでんの缶ジュースが転がり出て来たとろこだった。
そして、激しく地面に打ち付けられたいちごおでん缶は、ぶしゅ、と音を立ててつぶれ、ピンク色の中身が醜くはみ出した。
『拒否するなら、お友達の末路はそのいちごおでんだ、と自販機は言っているそうです』
「――――ッ!!」
「ふざけるなよ……」
そこへ、上条が進み出た。
いちごおでんと、その向こう側に君臨する自販機の方へ。
「確かにお前は、御坂に日常的に虐げられて、腹が立ってたかもしれねえよ」
「だがな、舞夏は関係ねえだろ!? 街の人は? 他の自販機にもぶつかったんじゃねえのか!?」
「何が暴挙だ、何が悔い改めろだ。結局お前は、自分の事しか考えられない自己中野郎なんじゃねえか……」
「いいぜ……」
「てめぇが何でも思い通りにできるってんなら……」
「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺すッ!!」
ドガッ!! と。
今度こそまともに、上条の本気の拳が、犯人へとぶち当たる。
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:29:47.82
ID:7DLbiBM+0 「とうま、とうま、もとはるが電話の向こうで悲鳴上げてるんだよ!」
本気で右手を振りぬいて息をついている上条のもとへ、インデックスが小走りで寄って来た。
『ろ、ロボットの回転速度がさらにあがってるううう!! このままじゃ舞夏がすっとんじまう! かみやん、一体何したんだ!?』
「え? 止まったりは……」
『まるっきりそんな気配はねえよ!』
そこへ、神裂と繋がる電話からも声が漏れ出て来た。
『その自販機は暴力をふるわれ続けて我慢の限界を超えたんですよ! 説教しながらグーパンなんて、トラウマを刺激する行為以外の何物でもありません!』
「まじですか」
『大マジです! 自販機の怒りは有頂天ですよ! 少年、どうするんですか!』
「いやあ……何て言うか……」
ぼりぼりと頭を掻く上条。
それを取り囲む何セットかのジト目。
沈黙が場を支配した。
「……分かったわよ」
少し間を置いて、美琴が口を開いた。
「私が原因なんでしょ。そのせいで舞夏が振り回されてるんでしょ。だったら……」
「土下座だろうが何だろうが、やってやろうじゃないの!!」
もはやヤケクソ、という顔つきだった。
「見てなさいよ自販機!!」
犯人の真正面に立ち、美琴は気高く言い放った。
そして、背筋を伸ばしたまま地面に膝をつく。
「み、御坂……」
「これから土下座をしようというのに、あまりに凛々しいんだよ……」
「これが私の、全力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ゴツン――ッ!!
「どぉぉぉもすいませんでしたああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
全身全霊の。
全力全開の。
学園都市第三位の土下座が炸裂した。
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:30:27.52
ID:7DLbiBM+0 『と――止まった――』
土御門の、気の抜けたような声が聞こえてきて、すべては終わったのだと理解する。
「舞夏は助かったのか!?」
『ああ、無事保護されたぜよ。今救急車に乗せられてる。俺も付いて行くから、ここは切るぜい』
「おう。よかった……本当に良かったな!」
『恩に着るぜい、かみやん!』
通話を切り、電話をポケットにしまう。
地面から頭を離した美琴の肩を、上条はポンと叩いた。
「……土御門は? 助かったの?」
「ああ。もう大丈夫」
「そう……じゃあ」
「もう、このクソオンボロポンコツ自販機に、なーんの遠慮もいらないってわけね?」
こめかみあたりに青筋をうっすら浮かべた美琴は、それはそれは魅力的な笑顔で言った。
「おい……御坂?」
「そんなに……私の蹴りがお好きなら……」
ずんずんと、自販機に向かって歩み寄る。
「何万発でも食らわせてあげるわよォーーーー!! ちぇえぇぇいさーーーーーーっ!!!」
いい音が鳴った。
ジュースの缶が、ぼこんぼこんと何本も何本も、出血大サービスで転がり出て来た。
もちろん、誰も一銭も支払っていない。
333 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:31:16.13
ID:7DLbiBM+0 「やれやれ。何だか信じられない事件だったけど、とにかくまあ、無事に済んでよかったよ」
ヤシの実サイダーを一口飲んだ上条がため息を吐き、6本目のきなこ練乳を飲み干したインデックスが腹の虫を鳴かせて、いつものように「おなかすいたよ!」と喚き散らし……
日常へ帰ろうとしたその時だった。
「まーだ終わりじゃないぜい」
小さな公園に、ツインテールのお姉さん系女子高生と共に、土御門が現れた。
「土御門。舞夏はいいのか?」
「とりあえず命に別条はないし、よく眠ってるぜよ」
土御門は、普段学校でそうしてみせるように、ふにゃりと笑った。そして、
「とにかく、そのクソッタレの自販機くんには、俺からもちぇいさーをプレゼントしないと気が済まないにゃー」
笑いながら拳を握りしめた。
「つ、土御門。お前って確か、格闘技は……」
プロ級ですよね。
突っ込みを入れる前に、土御門の体は自販機へと向かって走り出していた。
轟ッ!!! と。
横薙ぎの一撃が繰り出され、自販機の横腹に土御門の蹴りが突き刺さる。
その勢いに押されてノーバウンドで10メートル程飛ばされた自販機は、着地した後も地面を転がり続け、遠く小さく見えるほどまで移動したところで、止まった。
「あー……」
「なんだか、ちょっとかわいそうなんだよ……」
334 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:32:03.58
ID:7DLbiBM+0 『いけない! 少年、聞きなさい!』
今度こそ帰ろうとしたところで、通話中の神裂が慌てた声を出した。
それと同時に、それぞれの携帯端末が着信音を奏で出す。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ(着ボイス)
「あれ、黒子からだ。なんだろ」
アニキーデンワダゾーアニキーデンワダゾー(着ボイス)
「うん? 一方通行? 一体何の用事で……」
「黒子? どうしたの?」
『お姉様! すぐにそこから離れてくださいですの!』
「へ? 何で?」
『緊急事態ですの! ひこぼしⅡ号が何者かに制御を乗っ取られて、現在、お姉様方のいるあたりに照準を合わせて白色光波の発射準備中!』
「な、何ですってぇええ!?」
『とにかく早くお逃げくださいまし!!』
「どうなってんだ……」
『電話の野郎が言うには、発射まで多少時間があるそォだ。で、もしもの時には俺が上空で受け止めることになった。……一応確認してェンだがよ』
『オマエ、コレとさっきの件、なンか関わってンじゃねェだろォな?』
『友人の話では、自販機はこう言っているそうです』
「な、なんとおっしゃっているのでせう……?」
『"許さない。絶対にだ" と』
ぎぎぎぎ、と音を立て、
皆の顔が、遠く小さくなった自販機の方へ向いた。
みんなで自販機さんにスライディング土下座して許してもらいました。
おわじ
335 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 07:33:07.63
ID:7DLbiBM+0 以上でした
あんまり関係ないけど、洗濯機×神裂には無限の可能性を感じる
あと全然関係ないけど、建宮×神裂にもひそかに期待を寄せてる
336 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 08:13:13.14 ID:wVjKfazDO
乙。舞夏とばっちりじゃねーかww 337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 08:38:41.56 ID:demk1hmIO
乙ー!自販機かわいいよ自販機
個人的には神裂×建宮よりオルソラ×建宮の方がまだ期待出来る気がする。
正直、オルソラの為に一番体張ったのは建宮だと思うのよな 341 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 11:21:11.68 ID:3fNFnA5Mo
乙
基地外ばっかだなwwwwwwww 342 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 12:10:28.38 ID:kw7WYR1IO
ていとうこ「この自販機…できる!!」 343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 12:22:30.60 ID:UAQCcdWio
>>342
まとめて初春に手懐けられてろww 344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 16:17:46.80 ID:NuGS0RGMo
冷静に考えてみろ
未元物質が出せる冷蔵庫と、ありとあらゆる機会を掌握できる自販機
それに通訳として洗濯機が加われば……最強じゃないか!! 345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 16:31:51.13 ID:bSTiyQq7o
まさに三位一体、三種の神器 346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 18:25:18.76 ID:FnWGdj66o
新たな暗部組織「カデーン」か…
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