垣根「初春飾利…かぁ…」その3

2011-01-14 (金) 08:12  禁書目録SS   12コメント  
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機巧少女は傷つかない〈1〉 Facing "Cannibal Candy" (MF文庫J)


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最初から→垣根「初春飾利…かぁ…」

567 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 14:45:05.87 ID:pAU4voco
俺のメリークリスマスに常識は通用しねえ



568 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 14:47:30.27 ID:pAU4voco

飛び立った二人から放たれる烈風は室内を駆け巡る。
だが、もちろんそれは本筋ではない。

垣根が脳内(正確には彼の電脳空間を通して)演算処理した結果を、初春が“変換”する行為。
中にはなんだか妙な処理というか、およそ何が起こるかわからないような演繹体系が頭に刷り込まれてくる。
躊躇はしない。なぜって。彼女もまた、一種のトランス状態にあったからだ。


「気概があるやつらは嫌いじゃねえよ。

    面倒だ、死にてえやつからかかってこい」



また羽ばたいた。

言葉というものが説得力を持つのは、目の前に起きた出来事、すなわち事象に左右される。

安い挑発だと思った。
それでものってくるのは、その安い挑発にのってしまうくらいの安いプライドに支えられた生き物たち。
等価交換ではないというのにだ。命を付与させていることに気づいていない。

だからそこを叩き伏せる。


風が舞う。



猛る。



うちつけ、破壊し、絡み取る。




為す術はない。
Equ.Darkmatterの力はあくまでも雛形だ。親が子に勝てる道理は、少なくともこの場には存在しなかった。

地球規模で見るならば小さな嵐。
だが、事象をマクロに観測できるのは神のみ。
目の前に起きた世界の、小さなミクロの嵐に翻弄される者たち。

垣根と初春の戦闘力は圧倒的だった。それこそ瞬間的に波に飲まれる。

人が、倒れていく。



569 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 14:48:56.62 ID:pAU4voco


「これが『未元物質』……?」

「軽く羽ばたいただけだよ。もっと面白いモン見せてやる」


首をかしげる初春。少しばかり頭をひねらせて、だがすぐに“彼”の胸に頭を預けた。
ここは安心する。心臓の音も聴こえる。

とくん、とくん―――。

甘い雰囲気に心をゆだねていたくなった。以前とは逆の立場だ。

―――いや、逆?

違う。リハビリでやったのと同じだ。二人で一つ。
どうして自分はこんなときにこんなことを考えてしまうのだろう。


(……それは)


場違いな思考が頭をよぎるが、特段それを否定しようとはしない。

だって、今は心もつながっているのだから。
こんな状況でにやけてしまう自分に少しだけ良心が痛んで、すぐに消えた。
消えて、抱きしめて、思う。


もう離れたくない。


(花言葉。花には名前をつけないと、だから、これは―――)


何を言うのか。その言葉だけは絶対に考えないように。でも、忘れないように。

彼女は変換を続けた。



570 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 14:51:14.78 ID:pAU4voco


さきほどまで多勢を誇っていた部隊が、気づけばほとんど“処理”されていた。
抱きかかえた初春はそのままに着地して、やがてゆっくりと、死刑執行を告げるように垣根が言った。


「―――どかぁん」


右手を振り上げただけだった。


爆ぜる。


そして目下数十名が消えうせる。比喩ではない。

本当に消えた。

正真正銘の瞬殺。まばたきよりもずっと早い速度で処理する。
御坂よりもずっと早い。光と電波を操作する彼女よりも。
初春には何も見えなかった。が、理解はしていた。
白井の能力なら絶対座標を介して何かを目撃していたかもしれない。

―――否。


(観測できないんだ)


直感で再度、理解する。

この世界に存在しえない物質で彼らをつつんで、互いが干渉できないような空間に送り出した。
パラレルに枝分かれしか空間のどこかに。いや、正確には“つつみこんだ”。
まるで手品のように。未知の物質で出来たブラックボックスに閉じ込める妙技。

未元物質の真価はここにある。あるいは進化、だ。


「王手」


ストンッ、と博士が座っていた椅子の目の前、デスクの端に腰を落とす。
初春を抱えながらだというのに身軽なものだった。



571 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 14:54:02.13 ID:pAU4voco


足をくんでから、一言。


「距離は問題じゃねえ。大事なのはここだ、ここ」


博士の真似事をして額に指をあてた。
対する博士の表情は、一瞬くすりと笑っただけで変わっていない。
絶対的な敵同士が、向かい合って座るさまは中々にして絵になった。


「飛車が成って空を飛んだか」

「ついでに馬もな。こいつはじゃじゃ馬だが」


普段ならわからない言い回しもなぜか理解できた。
花飾りは角じゃありません、といいたい気持ちを抑えて、代わりに垣根の首にからめる腕に力をこめる。


「逃げ場はねえよ、電子の王様。縦と斜めからダブルでチェックメイトだ。さあどう返す」

「よく囀る」

「自覚はあるさ」

「ふむ」


初春も思っていたことだ。
電子でいるときの垣根のイメージは、もっと幼い、少年のような声を想像していたし、語調もその類だと思っていた。

今こうしてみている彼は、あくまで冷徹。残酷で戸惑いがない。そのくせ演説のような語りを好む。
放たれるのは妖艶にして冷ややか、危険性と色気が入り混じった奇妙な空気。極限までとがった月を眺めているようだった。

本来の垣根は、こんなにも存在感を放つ存在だったのか。
違和感よりも、アンバランスな差異にやっぱり心を奪われてしまう。



572 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 14:57:07.50 ID:pAU4voco


「“どっちで”ケリをつける? こちら側で体をふっとばしちまってもいいが、テメェは俺のホストの役割を果たしていると言ったよな。
 俺たちにとってこちら側の常識に大きな意味はねえ。その主従関係もこの女のおかげで対等になっちまったみたいだが」

「あっ……」


また引き寄せられる。


「それとも玉砕覚悟でもう一度勝負してみるか? いっとくが、俺はテメェをぶち殺すことに寸分の容赦もしねーぞ」

「あ、あなたがしなくても私がします!! 人殺しなんて……」

「黙ってろ」

「………ほう」


静寂。

思考が止まる。垣根の真意がわからない。


「語る時間はなさそうだな。いいのか、私を殺せば君は生涯その不自由な体を抱えたままだぞ」

「それがどうした? 思ったより居心地がいい。テメェにも味あわせてやりてえくらいだ」

「痴れ事を言う」

「戯言だよ、クソ野郎」



そして、



「では、こうしようか」



博士は、



自壊した。



573 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:00:14.40 ID:pAU4voco


「あの野郎……」


消える直前に少しだけ、口元がつりあがるのを目撃したような。

何かまだ隠し玉を持っているのか。あれはそういう笑いだった。少なくとも初春にはそう見えた。
一方で、垣根との思考はリンクしているはずなのに、真意はいまだ読み取れない。

真意。真意とは。


(殺すという二文字にはたしてどれだけの重みがあるのか)


今、自分は目の前で人が消えるところを目撃している。

なのに、否定したい感情よりも先に到底名前をつけることなどできそうにないものがこみ上げてくる。
隣に座る男の方向から、絶え間なくぶつかってくるものがある。心をたたいてくる。
初春は高鳴る音をもはやいかようにも解釈できてしまうことに気づいていた。
おさまれ、おさまれと念じてみたが。

無駄だった。


「あ、あの人はどこに?」


問いかける。言葉に出さなくても伝わるのに、コミュニケーションをとりたくなるのはなぜだろう。


「あっち側に戻ったんだな。それより、初春」


名前を呼ばれた。

まただ。

また、心臓を叩かれる。



「――― はじめまして」



574 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:02:35.09 ID:pAU4voco

垣根は笑った。
無垢な笑顔だった。でも、笑顔は何も語ってくれない。
たぶん心も、初春に悟られないようにカモフラージュしているのだろう。
本当なら何を考えて何を言って、何を意識しているのかもわかるはずなのに。
やっぱりこの男はずるい。


「……は、………、はじめまして……」

「どうした、いい男すぎてびびってんのか」

「……、ばか」


敬語を使うのも忘れて呆気にとられる。胸を軽く叩いた。今度は現実的に叩いてあげた。
手をとられる。


「続き」


冗談で言っているのはわかるのだが、いかんせん心が言うことを聞いてくれない。


「……そうやって調子のって……」

「くちびる柔らかいのな」

「……あぅ………」


垣根帝督はきっとこんな状況でも愉しめる男なのだ。たぶん人生とか苦境とかを笑える男なのだろう。
それがよくわかった。どんな状況でも舞台に見立てて生きることができる上、観客へのサービスも忘れない。
演じる自分が無意識に動き出しているのがよくわかる。
今まで自分が見ていたのは、彼の影だったんだ。


「ああ、だが光がねえと影はできねえ」

「っ! か、感情を読むのは禁止ですっ!」

「お前が散々俺にやってきたことだろ?」


確かに。
そういわれると立つ瀬がない。初春は顔に色をつけた。もちろん暖かいものだ。

だからこそ、次の絵に反応できなかったわけだ。



575 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:04:54.11 ID:pAU4voco

突如として開かれる扉。

乱暴にこじあけられたのはかろうじて把握できる。




「―――ごめん黒子遅くなったっ!!!! 

 ……、……!? な、何よこれ!? 何があっ初春さん!?
 そいつが敵!? 敵なの!? そうでしょそうに決まってる!!」

「み、御坂さ「「お姉さま!?」



遅れてやってきた客。
あまりにもタイミングがよすぎたせいか、一瞬だけ白井がつっこむ間を失う。

直後、



「おっのれええええええええええええええええ!!! ナメてんじゃないわよッ!! 初春さんどいてそいつ殺せない!」



第三位から第二位に対して放たれる刃が、空気を裂いた。


(いや撃ってますし。もう何がなんだか)



白井が胸中でつぶやいたのは秘密だ。



576 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:07:23.01 ID:pAU4voco

―――――

「……ご、ごめん……なさぃ………」


ややあって、小さな声で顔を染める第三位。一同は曲折を経てこの場所に会していた。
まだ時間は残っているようで、ネットワークは相変わらず共有されている。


「ったくいきなりぶちかましてきやがって。テメェが超電磁砲か。うわさどおりの単純バカだな。カルシウム足りてんのか」


両手を広げて呆れ顔を演出する垣根。御坂美琴はそんな態度に驚きと怒りと恥ずかしさが混ざった奇妙なもので応える。


「だ、だから謝ったでしょ! ……、ちょっと初春さん、言っちゃ悪いけどこんなのが彼氏なの? わ、私はもうちょっとやさしい人を想像していて……」

「あ、いや、ですから、か、彼氏ではなくて……ですね」

「じゃあ何だよ? 俺はテメェの何ですか」

「え……、そ、それはその……」

「はーやれやれ、そうかよテメェは彼氏じゃない男と風呂に入れるんだな。傷ついちまったわー」

「はぁうっ!? そ、それは禁句ですっ!! 私の気持ち知ってるくせにっ!」

「ううう、何よ何なのよこの空気はっ!? ……黒子、アンタ知ってたの?」

「いやまぁ……、一応顔は見たことありますし。というかお姉さまわりとマジでぶっ放していましたの」

「だ、だって仕方がないじゃない!! どう見ても悪人顔じゃないの!! しかも第二位ですって!? 聞いてないわよそんなの!」

「わりぃ男が好きなんだよな、初春は」

「すっ、すすすすすすす」

「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーもうっ!! 収拾がつきませんの! お姉さまも大人になってくださいまし!」

「わっ私は大人よッ!! ふんだ、何よ偉そうに」

「へえ。もう済ませてんのか。最近のガキははえーな。腰が軽い女は苦労するぜ」

「「「な」」」


そんなやり取りが一通り続いた。



577 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:08:38.51 ID:pAU4voco


「――要するに、初春さんと二人で能力を発動できるってことよね」

「ロマンチックですの」


白井の視線が痛い。


「で? もう片付いたわけ? 見たところ一掃されてるようだけど」


いまだ埃が舞い散る室内。
倒れた部隊の人間は起き上がる気配がない。

まさか殺してはいないと思うが。


「まだ終わっちゃいねえ。王様がサーバーに逃げた」

「やっぱり……、あの崩壊の仕方は見覚えがありましたの」

「………そこでだ、初春と超電磁砲。ちょっとだけ力を貸せ」

「言うと思ったわ。たぶん私と初春さんが協力すれば送りこめるけど……、そこまでする必要があるの?」

「必要、じゃねえな。だが―――」


一瞬だけ視線を初春に向ける。
そろそろタイムリミットが近そうだ。


「―――あれは、見覚えがある目つきだった」

「?」

「すぐにつないでくれ。向こうについたら後は俺がやる。白井黒子、テメェは俺がもぐっている間に全員を連れて外に出てろ。手出しするなよ」


さきほどまで博士が座っていた椅子に腰掛けてから、初春のイヤホンをはずそうとする垣根。



578 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:11:00.21 ID:pAU4voco

と。

気づけば初春が、垣根の手術衣の胸のあたりを小さな手でつまんでいた。
目が少しだけ泳いでいる。

服を、すこしだけゆすられる。
何かを目が語っている。


だが、今の二人の間に境界線はなくなっていた。
何が言いたいかは言わなくてもわかる。光の速度で。



「……、」

「……、」



少しの沈黙があってから、初春はイヤホンを無言でとった。


言葉を失う垣根。
電子の海へともぐりこませるべく、すぐに御坂が方法を提案する。
サポートするのは初春。船出には絶好のメンバーだ。



「………、待ってますから」



つぶやいてから、垣根が微笑むのを確認した。


………

……





579 : ◆le/tHonREI :2010/12/25 15:13:08.36 ID:pAU4voco
ここまで。あんまり進まなかったけど。更新おくれてごめんなさい。時速280万キロでプレゼントくばってました。
垣根の能力については多少インチキです。そこは勘弁してやってください。
ってわけでお疲れさまでした。また近々。



581 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) :2010/12/25 15:22:51.44 ID:0KgvFIAO
乙です。ここの帝督はカッコ良すぎる…そして初春が可愛過ぎる



582 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) :2010/12/25 15:23:09.53 ID:bpPH56AO
クリスマスってあなどれないな……乙。



584 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) :2010/12/25 15:35:38.02 ID:x6j1IRQo
クリスマスに初めて感謝したよ…ありがとう、ありがとう




596 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/27(月) 11:32:35.20 ID:AaPRPXUo
初春の能力も活かして欲しい



597 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12 /28(火) 11:53:10.27 ID:w4M6F.AO
保温をエッチな方向に活用する方法を考えてしまった。ちょっと絶望させられてくる



598 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12 /28(火) 17:18:23.18 ID:aMHZzOw0
>>597
なにそれ




601 : ◆le/tHonREI :2011/01/01(正月) 04:10:36.78 ID:hZtZgB.o

           ※

夕日が見える。

赤く染まった空が垣根の目の前に広がり、構えているのだ。
遠くから押し寄せ、時より吹きぬける風。揺れる草、丘、木々。
最後にきたときはいびつな形をしていた空間に、今は色があった。
もちろん、これはホストとしての博士と垣根をつないだ世界なのだが。


「きたな」


博士は草を見つめて座していた。
視線はそこから離さぬまま、独り言のようにつぶやく。


「ああ。人間観察は得意でな。目つきで何をたくらんでやがるかくらいはわかる」

「だから追ってきた。テメェがそう仕向けたからな」


対する垣根は特に警戒したような素振りを見せず、やや離れた位置から博士を見つめていた。
風が髪を撫でる。
絵画のように完成された光景がそこにあった。


「……テメェ、もうあきらめてんだろ」

「なぜそう感じた」

「理屈じゃねえな。あれはそういう目つきだった。何を悟ったかわからねえが、気にいらねえ。余裕こいたそのツラもな」

「……、」


揺れる草のにおいはかろうじて知覚することができた。
せつなさはそのままに、それでいて暖かい。
夕焼けの持つ色と朝焼けの持つ色、同じ太陽光が違った景色を生み出すのはなぜなのだろう。



602 : ◆le/tHonREI :2011/01/01(正月) 04:14:36.58 ID:hZtZgB.o


「人間の欲求には種類がある」

「長い話か」

「それなりに。閉幕するなら今すぐにでもかまわんよ」

「最期に演説くらいさせてやるよ」


言うなり垣根は翼を広げた。
この空間において、二人がこうして対峙できているということ、それがすでに垣根の優位性を確保している。
電脳空間で演算を組むシステムを作り上げたことは無駄ではなかったわけだ。

一方の博士は草木と風、夕日に目をやるだけで垣根に焦点を合わせようとはしていなかった。


「絶望の話はしたな。では今回は希望の話をしようか」

「眠たそうだな。あくびが出ても怒るなよ」

「ふん」


他人の語りはえてして退屈なものだ。


「――― 本当に綺麗なものを見つめたかった。本当にそれだけだ。悪意も善意にも興味はないが、これだけはどうしても捨てられなかった」

「……、」

「……、しかし、求めるには人間の欲は幅が広すぎる。欲求は我々が飼いならすことのできない怪物だ。食べれば食べるほどに満ち足りない。
 あれもこれもと芝を眺めているうちに、儚い我らは時間をチップにして美学に負け戦を挑んでいるのだ。わかるか」

「異論はあるが、まぁわかる」

「だから三大欲求をカットすることを思いついた。時間の概念もだ。知的好奇心と美的探究心を残してすべてを捨ててしまえば、ただ純粋に美しいものを見つけられる。
 いや、見つからなかったとしても、追い求めることはできる。今の君ならばわかるだろう。
 次に何かあると思って生きているのと、惰性に身を任せてチップを切るのとは大違いだ」

「……、」



603 : ◆le/tHonREI :2011/01/01(正月) 04:16:15.37 ID:hZtZgB.o


「君ならどうする? 本当に手に入れたいものがあるなら、犠牲を払うことに躊躇はしないだろう。
 いや、否定はできないはずだ。そういう人間が集まるところだ、暗部という場所は」


この男は一人でしゃべっているのだと感じた。
壁と会話をしているのと同じ状態だ。遺言にしてはいささか知的だと思った。


「本当はアレイスターの計画などどうでもいい。純粋に追いたいものを追いかけられる場所にいられればそれでよかった。私は子供だろう、垣根少年」

「……ああ。最低のクソガキだよ。もっとも、そうじゃなけりゃこんなバカなことも思いつかねえんだろうが」

「つまるところ覚悟だ。我々には覚悟が必要なのさ。だから己を賭けてみた。馬鹿馬鹿しい子供のような私の感性をすべてチップにかえて。その結果がこれだ。笑うかね」

「……それで、見つかったのかよ? 綺麗なもんは」

「どうかな」


ようやく焦点を垣根に合わせ始めた。
希望。整ったもの、心を撫でるもの、何かを訴えるもの。
伝えたい欲求と享受したい欲求。

博士の言い分はなぜかすんなりと心を通過していた。


「さて、閉幕は自分でしようと思うのだが。観客が少なくて残念だ」

「贅沢はいうな。それに俺も今さらどうこうするつもりはねえ。―――テメェは小物だからな」

「言うのは野暮というものだ。送ってくれるならそれも悪くはないがね」

「それこそどっちでもいいぜ。俺の未元物質で半永久的に閉じ込めてやるっていう手もあるが」

「真の永久には価値はあるかもしれんが、そうでないなら何もない。最期くらいは散らせてくれ」

「好きにしろよ」



604 : ◆le/tHonREI :2011/01/01(正月) 04:17:53.77 ID:hZtZgB.o

揺れる木々を通り抜ける風が、その勢いを少しだけ強めた。
博士は一定の曲線を描くグラフを生み出しながら崩壊していく。
直感でその図を思い浮かべることはできなかったが、たぶん綺麗なカーブを描いていたことだろう。


「そうだ。ひとつだけ」

「あ?」


半身をすでに失いかけた博士が、思いついたというよりは用意していたように飾った言葉を吐いた。





「君たちの翼はなかなか美しかったよ」





「…… はっ」


笑いかける博士。穏やかな顔だった。


「ごきげんよう、垣根少年」


それっきり。
風化した博士のデータは彼方へと分解されながら旅に出た。
終着駅なのか、乗り換えなのか、誰にもわからない。

無言で見送る垣根の背中を、夕闇が包み始めていた。


………

……





605 : ◆le/tHonREI :2011/01/01(正月) 04:19:50.11 ID:hZtZgB.o
ここまであけおめ!
年内に完結は無理か、という話がありましたが、ここらへんまでが前半で後半はもっと内面的な話にシフトしたりしなかったり。
おつかれさまでした。今年もよろしくねっ



606 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 04:53:45.56 ID:SfpS3ZIo
あけましておめでとう
今年も楽しみに続き待ってるぜ




607 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 05:54:27.45 ID:E9UxuMw0
博士かっけえ
原作で垣根の次の次の次に好きなキャラだからこういうあつかいは嬉しいな




609 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 08:44:45.53 ID:zwTCSgUo
電人HALを思い出した

あけおめ乙




610 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 12:35:31.47 ID:Au9ZDboo
あけおめ。
>「君たちの翼はなかなか美しかったよ」
新年初鳥肌




616 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 21:20:32.52 ID:CCMK5Goo
初春の能力って熱量の保持じゃないんだよな
熱いものをずっと熱く、手で触れようとも変わらない(手が熱を奪ってるのに)
ってことは熱量の操作みたいなもんだよなぁ




619 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/02(日) 20:18:42.20 ID:d0YsqMUo
つまり空気と手が奪う熱量と同量の熱量を与え続ける能力という訳か



624 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 00:10:25.07 ID:xmQOu8I0
初春って能力自体悪くないし、演算能力高そうなのになんでLEVEL1なの?
教えてエロい人




625 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 00:12:46.32 ID:umTT7zAo
演算能力自体は高いのだけれど『自分だけの現実』(パーソナルリアリティ)が脆弱。ハードがよくてもソフトが弱い



636 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:45:16.69 ID:GKBiCKwo

                                   ※


(……―――っ?!)

「? どうしたの、初春さん」

「いえ……、なんでもないです」


背後に視線を感じたが、すぐに消えた。
ついさっきまで小さな戦争が起きていた電子工学施設。

初春たちが博士と対峙したあの瞬間、実はアンチスキルがすぐそこまでたどり着いていたようだ。
さすがにあれだけ派手に戦闘があれば通報がなくても嗅ぎつけるだろう。
とはいっても、敵の動向、および目的が不明確なため突入にはかなりの時間を要したらしい。
結局彼らが行動に出たのはすべてが片付いた後だった。今は現場の状況把握に四苦八苦している。

―――そもそも事件の証拠などほとんど残っていなさそうだし、統括理事会が絡んでいる以上はもみ消される事実も多々あるだろうが。
つまりは事後処理と銘打った、ただの作業なのだ。


「白井さん……、一人で大丈夫でしょうか。やっぱり私も戻ったほうが」

「ううん、あの子は平気よ。それに必要なら私が戻るから」

「でも……」

「心配なのはわかるけど、優先順位はしっかりつけなきゃだめ。それに、何かあったら人のことを頼れるくらいには、あの子も強くなったから」


見習わないとね、と自嘲気味に付け足す。
少し背伸びした発言。その視線には優しさが含まれていた。


(頼れるくらいには、か……)


白井の提案で、アンチスキルからの面倒な質問は白井が一人で引き受けることになった。
もちろん後日、報告という形で初春も顔を出そうとは思っているが、白井におされてこうして一足先に帰路についている。

垣根のワイヤレス受信機については予備を持っていたため、時間はそれほど気にする必要はないのだが、それにしたって落ち着いていられるわけがない。



637 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:46:54.61 ID:GKBiCKwo


「ねえ、どういうところが好きなの?」

「えっ」


唐突な質問。

決死の覚悟をして電脳空間に飛び込んだ垣根を待つ身としては、どこか不謹慎にも思えた。
が、すぐに御坂が取り繕うように腕を頭の後ろで組み出したので、なるほど、気遣ってくれているのがわかる。


「こんなときにごめんね。でも、信じて待つしかないじゃない、こういうのって。女は辛いわよねー」

「…… 御坂さんも経験があるんですか?」

「えっ? 私?」


ピタッ、と一瞬だけ足を止めてから、また目を見開く御坂。
それから目を少し細めて、微笑。

諦めたように、悟ったように言った。


「……なんだかなぁ。でも、初春さんは教えてくれたし」

「???」

「……ま、そういうこと。秘密だよ」

「……? ……、……あっ」


そこまで聞いて、理解する。
御坂も誰かに、心を叩かれていたということだろうか。



638 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:48:15.95 ID:GKBiCKwo


「私の場合は初春さんと違って、なんていうか……、まだスタートラインに立っただけなんだけど」

「わ、私は別に……………………って」


もはやテンプレのようになった文言にうんざりする。

そろそろ認めてもいいだろう。

一時は体を重ねるどころか、心を重ねた仲なのだ。
相手の気持ちは遂にわからなかったが……。


「……もういい加減いいですよね、こういうの」

「気持ちはすっごくわかるけど、認めちゃったら少しだけ楽になったよ、私は。……考えることも増えたけどね」

「御坂さんみたいな人にそう思わせちゃう人って、なんていうか……、幸せ者です」

「ほんと、そう思うでしょ? ……の割には鈍感だし不幸だとかすぐ言うしデリカシーないし……ぶつぶつ……」

「……?」


はっ、と息を呑んで、また立ち止まる。
恋する乙女はいつだって盲目なのだ。


「こほん。……さ、参考までにね、初春さんがどういう気持ちで好きになったのかなぁって、ちょっと気になるっていうか……」

「気になる? えーと、それは乙女の情報共有ってことですか?」

「う、初春さんってちょっと意地悪なとこあるの?」

「えへへ」


邪気のない顔で頭を掻きながら話す初春。
尻尾は出ていないようだが、表情の端から無邪気な悪意がこぼれていた。
少しだけ出した舌に小動物的な愛らしさが宿る。



639 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:50:25.97 ID:GKBiCKwo


「…… 私も正直、これが恋愛感情なのか何なのかはわかんないんです。
 最初は彼の冷えた心を暖めてあげたいって、それだけだと思っていましたし、今でもその気持ちは残ってます。
 これからもこの人に何かあったら支えてあげたいと思うし、私にできることがあったらなんでもしてあげたいって思うし……」

「……、」

「でも、患者と介護士っていう言葉にこだわってたのは、私の傲慢だったのかもしれないです。
 なぜって、彼と心を重ねたときに感じた気持ちは、私が何かしてあげたいっていう気持ちだけじゃありませんでしたから」

「……、……」


一呼吸。


「なんていうか……、わ、私も……、その……、わ、わ、私のこと知ってほしいなって思ったんです……」


顔を真っ赤にしてうつむく初春。
欲求が確かに胸にあって、吐露しただけ。でも、その明度の高さに心が耐えられなくなったのだろう。


「…… み、みみみみ御坂さん!」

「は、はい!」

「―――この気持ちって不純ですか?」


と、次には視線を御坂に移す。訴えかけるような瞳が転がっている。
この目は真理を尋ねるときのものだ。

いや、移されたはいいが……、


「えーと…………」

(ど、どうしよう……、初春さん私よりぜんぜん大人なんだけど……!!? そんなのわかんないわよ……!?)

(ふ、不純って……、なんてハイレベルな単語を投げかけてくるの……!? 初春さん、どこまでしちゃったわけ……!?)

(いや、でも電子的に脳を共有してたってことは……ええええええっ、それってもう……ええええええ)


これである。



640 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:52:22.16 ID:GKBiCKwo

御坂としては可愛い年下の少女から少しでもヒントを伺えないかと思っていたのに、
この初春飾利という女の子はすでに自分よりもはるか先の地点に至っている。

対する自分はといえば、気持ちに気づいて足踏みをする毎日だ。心を重ねるなんてとんでもない。
よって、答えられるわけがない。が、このまま何も言わずにもいられない。


「そ、そうね……、でも……、えっと……、が、我慢はよくないと思うわよ、うん」

「そ、そうですよね」

「う、うん。そうよ! やっぱり人間欲求にはある程度正直なほうがいいのよ! うん!」


はははー、と自分に言い聞かせて歩き出す。
そういうものか、と初春が熱を保った顔を片手で押さえながら後をつけようとしたとき、


(…… え………)


ここしかないというタイミングでそれはきた。



着信音、

そして―――




          【そうだぜー初春。欲求には正直にな】





垣根帝督が車椅子の背もたれにぴったりと頭をつけて、意地の悪い笑顔を向けながらこちらを見ていた。
世に言う最悪のパターンである。



641 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:53:44.93 ID:GKBiCKwo


「か、かかかかかかかかきかきかき!?」

「え?」


【いい反応するじゃねえか。んで? 初春はもっと気持ちを知ってほしいのか? 

        あんなに近くにいたのにつれねえな。体の隅々までつながった仲だろ?】


とんでもないことを言い出した末、両手で初春の頬を押さえつける垣根。
押さえられた初春は「はひへはんほひへはんへふは!?」とかなんとか、意味不明の言葉を発していた。

御坂はその様子に気づいたようで、ゆっくりと振り返ると声をかける。


「あ、戻ってきたの?」

【おう、だいぶ前にな。そんで超電磁砲、テメェも恋する乙女かよ。お兄さんに相談してみろコラ】

「!? な、ななんあなななななななななな!?」


初春の手から掠め取った携帯を御坂に見せながら、声を出さずに大笑いする垣根。
どうやらかなり前に帰還していたようで、たぬき寝入りを決め込んでいたらしい。


「ひっ、ひどいですよ!? 乙女の会話を盗み聞きするなんて!?」

「そっ、そうよ!! プライバシーの侵害だわ!! だいたい戻ってきたなら早く言いなさいよ!! 誰のおかげで向こうに行けたと思ってんの!?」

【ピーピーうるせえなあ。そもそもプライバシーだなんだって、テメェらが言えた義理かよ。なあ初春?】

「う……、またそういうこと言って!! 垣根さんだって、私に甘えたりしてたくせに!」

【……『わ、私も……、その……、わ、わ、私のこと知ってほしいなって思ったんです……』】

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」


てんやわんやの掛け合いだ。



642 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 06:56:09.59 ID:GKBiCKwo


「……それで、“王様”はどうなったのよ」

【探し物が見つかったから、帰るってよ】

「?」


不意に少しだけ遠い目をした垣根が気になった。
初春もその変化には気づいていたが、こうして無事に帰ってきたのだから今は問い詰める必要はないだろう。

すぐ後、焦点を現実に合わせて、垣根は打って変わって真剣なまなざしを造り始める。


【それで? 俺をどうこうする気はねえのか】

「……?」


初春からは見当はずれの質問に見えた。
ここにきてその問いなのか。
前々から思っていたが、垣根帝督という男は本当に暗部にいたのか?
妙な違和感を覚える表記だった。


【―――今日だけでも未元物質で最低20人は殺してる。俺は極悪人だぞ。見過ごしてていいのかよ。初春、テメェもだ】

「………、でも、あれは仕方がなかったというか……、そう言うなら、私も共犯ですし……」

【そういうレベルの話じゃねえ。言っただろ、俺はこういう人間だ。テメェらと同じところにいるべきじゃねえのはわかってる。
 別に偽善で言ってるわけじゃねえよ。俺は俺だ。生き方を変えるつもりもねえ。ただ忠告として―――】

「―――そんなの、私も同じよ」


御坂美琴は垣根に合わせるような鋭い視線を投げかけてきた。
自分たちが光の立場にいると思い込む彼に、根本的な違いはないと諭すように。



643 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 07:00:00.61 ID:GKBiCKwo


「アンタが何人殺したとか、そんなことは知らないけど。数でいうなら私もたくさん殺してる。

     ―――そうね、一万人くらいは」

「え」


空気がとまる。御坂美琴が言っている言葉の意味。一万人?


【……、そうか、テメェは確か……。ハッ、それがテメェの責任感ってやつか?】

「……ごめん、初春さん。これだけは言わせて。
 垣根帝督。アンタが何を考えていようが、どこかで誰かを殺す最低のクズだろうが、そんなの関係ない。
 勝手にやって勝手に地獄に堕ちればいい。ただ、生き方を変えないことで私の周りの誰かを傷つけるなら、

  ―――容赦しない。例え第二位でも、全力でぶっ飛ばすわよ」



【……調子のんなよガキ。本気出せばテメェなんざ片手で殺せるんだぜ。もっとも、初春が力を貸してくれねえだろうが】

「……、……あの……」

「だ・か・ら、忠告は必要ないってこと。初春さんには悪いけど、私はアンタをまだ完全には信用してない。初春さんがいるから、安心できる。それだけよ」


初春は御坂の背中から立ち上がる電流の余波を、確かに見た。


「……ふ、二人ともやめてください……、か、垣根さんもほら……」

【……、】

「……、」

「…… もお、……せっかくみんなで頑張ったのに、これじゃ台無しじゃないですか……」


はぁー、とため息をつく初春。
表情からは今の会話が小競り合いにしか見えていないのがよくわかる。

―――が。


(………、初春さん)



644 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 07:03:37.61 ID:GKBiCKwo

一方の御坂美琴は彼女の心を別の角度から分析していた。
というよりは、二人の関係性について、と言ったほうが正確かもしれない。


(貴女は気づいてるの? ……恋愛感情はわからないけど、貴女とこの男は精神的に依存し合ってるんじゃないの?
 たぶん、心が通じ合ってるから、お互いを知ってるから、そうなるんだと思うけど………、
 でもね初春さん、それって通じ合ってる分、お互いがお互いを支配できるってことなのよ? 
 
  ……それが何かの拍子に……、もしかしたら―――)


もちろん言葉には出さない。いや、出せない。


さきほどの垣根に対する暴言くらいは自負しているのだ。これ以上言っていいものかと聞かれたら、答えはNOだろう。
それでも心配は拭えないが、ここから先、うまく心をナビゲートしてあげられる自信はなかった。
適当な言葉を投げかけるのは無責任というものである。


一縷の望みは夜空に預けて、三人は重たい帰路を歩み続ける。



そして。




【―――何か、重大な見落としをしている】

「え?」


ノイズが混じってそれ以上は観測できなかった。



…………

……





To be continued.



645 : ◆le/tHonREI :2011/01/06(木) 07:06:06.39 ID:GKBiCKwo
以上で前半は終了です。

前半戦はどちらかというと二人のハード面の話。
後半戦はどちらかというと二人のソフト面の話。

次の更新はちょっと遅くなりそうですが、がんばって書きます。
お疲れ様でした。



647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/06(木) 08:07:08.70 ID:LTTGebE0
ふおお待ってました!!
初春可愛いよ これ読んでから一番好きな禁書キャラが初春になった




649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/06(木) 19:39:34.80 ID:cxdjyUAO
お疲れさまです
超面白すぎます




658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 21:12:32.95 ID:lX7V9eo40
乙!!
でも自力で能力使えないと生き残るの大変そうだな




659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 12:00:29.91 ID:l84SsLcAO
そういえば一連の事が片付いたんだし、番外編として部屋の続きを…



660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 19:01:31.43 ID:Yii/cL1DO
部屋の続き待機。
おい、早くしないと風邪ひくだろwwwwww




661 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:21:38.25 ID:ukOdF9o1o
部屋の続きではありませんが、ちょっとした番外編をば



662 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:23:47.26 ID:ukOdF9o1o




                #TIPS1:『踊る天使と不機嫌な花束』




リハビリの基本は支え合いとか。


別にそんな言葉ハナからアテにはしてねえが、こうも手のひらを返されるとさすがにピキッとくる。
俺にその言葉を言い放った本人は今、支えあう気持ちなどどこ吹く風、ガラスの向こうから俺を観察しているからだ。

―――木山。
食えない女。歳のわりに落ち着いてやがるのがさらに気に食わねえ。

こっちはすぐにでも逃げ出したいというのに、外野は熱心なことこの上ない。
―――いや、内野もか。


「さ、垣根さん。早速はじめましょう。記念すべき第一回目のリハビリです」

【……、】


うんざりといった調子でため息をつく一方で、内野のエースは元気一杯に愛嬌を振りまいていた。


【……やっぱりやめたいってのは】

「なしです」

【……、あっそ】


即答即効大否定だ。いえい。くそが。
暇つぶしにはもってこいだと思ってたのに、やらされていると自覚したとたんにつまらなくなる。

興味をそそられたのは最初の一瞬だけだ。
退屈しのぎを通り越して、なんだこの羞恥プレイみたいな展開は。



なんで目の前に各種ゲームが取り揃えられているんだ。



664 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:26:11.28 ID:ukOdF9o1o


「私もよくわからないんですけど、大丈夫ですよ。一生懸命取り組んでいればきっといいことありますし」


根拠も説得力も中身も何もない発言だ。……まあ、こいつはへそを曲げると本当に面倒くさい。
適当にあしらっておくのが一番だ。飽きたらそういえばいい。
撤回するにはもう少し付き合ってやるか。

俺はひとまず、言いたい言葉をすべて飲み込むことにした。


【んで、どれやるんだ】

「え? あ……、か、垣根さんが好きなゲームでいいですよ……」


………?
なぜ顔を赤らめる。
そしてチラチラとなぜゲームの方を見る。

こいつの視線を辿って、病院内の庭園においてあるゲーム一覧を見てみる。


……なるほど。


【なあ、これにしようぜ。ツ……ツイスター……ゲーム?】

「……え……」


当たり。

これを見てもじもじとしてやがったのか。これはからかってみる価値ありだ。
どうせやらなきゃいけねえなら、こっちが優位に立ってからかってやるのが一番。

よくわからねえが、この中学生のことだし、思春期特有のわけのわからねえ妄想をしているに違いない。
確かツイスターゲームってのはあれだよな、光る床を音に合わせて踏むゲーム?

ん、違うのか。やったことはねえ。

けどまあ、このガキをからかうことができるのは間違いない。
いじれそうなところはいじって楽しんでやる。


これくらいの反抗は許されるよな?



665 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:28:11.44 ID:ukOdF9o1o


「……、でもそれって……、その……」

【あ? なんだよ、あれだけ張り切っておいて逃げ腰か。口ばっかだな初春は】

「………、」

【はーぁ、切ねえなあ。初春にも見捨てられた俺は一体どこに行ったらいいんだ……】

「う……。わ、わかりましたよ……、やりますよ、やります……」


ぷんすかと怒りながらゲームをセットする中学生。こういうところは素直で見ていて面白い。


「……、垣根さんって……、……遊び人なのかな……」


相変わらず顔を染めながら何かつぶやいていたが、知ったことではない。
無視して準備を催促した。


「えっと……、ス、スカート着替えてきま」

【ちょっと待て初春。俺はこのゲームのルールを知らねえ】

「……は?」

【だから、やり方を知らねえんだよ。教えろ】


時が止まる。
いちいち反応が笑える。


「じゃあなんでこれを選んだんですか……?」

【うるせえ。早く。あと俺は待つのはあんまり好きじゃない。着替え禁止】

「……、……、……、わかりました。ちょっとまっててください」


初春はそれだけ言うと、俺たちの観察をしている外野のところに足を運ぶ。
不意にガラスの向こうで木山が笑いをこらえているのが目に入った。

……なんだ? 何故あいつが俺を見て笑っている。



666 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:29:15.76 ID:ukOdF9o1o

対するお花畑中学生はというと、
「……患者さん、患者さん、垣根さんは患者さん」とかなんとか、お経のように唱えながら歩いていた。
なに勘違いしてんだこいつら。

そんなに面白いゲームなのか。
あれじゃねえのか、光る床を踏むゲームじゃねえのかこれ。


ん? でもそうだとすると俺は足動かねえし。
疑問は尽きない。


「よっと」


しばらくして、木山と何かを話していた初春がスカートをめくって、短く縛りだした。

細い足があらわになる。
健康的というよりはどちらかというと、食生活について心配になりそうなそれだ。

―――え? そんなに動くゲームなのか? あ、そうかこいつが床を踏む役か。
あれだろ、ジャカジャカと音に合わせて色のついたこの丸をぽちぽちと踏むんだろ。

……ん? でもそうすると、俺は一体何をする役なんだ……。


「あ、あんまり見ないでください……。な、長いとほら、邪魔になったりするので……」

【そんなに動くゲームなのかよ?】

「…… やってみればわかります……」


どうでもいいが、さっきからずっと顔がリンゴみたいな色になってるのはどういう了見だ。
こいつが恥ずかしいってことは俺も恥ずかしい思いをするってことじゃねえの?

なんだか不安になってきた。

俺はガラスの向こうの木山にSOSのサインを送ってみる。

無視された。ムカついた。ぶっとばしたい。



667 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:30:54.18 ID:ukOdF9o1o


「…… いいですか垣根さん。そこにルーレットありますよね」


初春が指差した方向には、確かにルーレットらしきものが置いてあった。
視界には入っていたのだが、あれがこのゲームの付属品とは気づかなかったのだ。

……なんだ? ルーレットも使うのかよ。


まるで想像力が働かない。
どうやってこれで遊べというのだ。


「そこに両手両足の部位と、それに対応した色が描かれてるでしょ? 
 交代にまわして、指示された部位で指示された色を触るんです」

【……ほう】

「えっと、垣根さんは両足が動きませんから、私が代わりに動かします。
 本当は倒れたら負けなんですが……。今回は体をひっぱっても触れる場所がなくなった方が負けだそうです」

【……、】


どうやら完全に主旨を間違えていたようだ。

……なんだよ、つまらねえ。クソみてえに単純なゲーム。子供だましみてえなもんだ。

何を初春は戸惑っていたのだろう。これではからかうことは難しい。
どこに赤面する要素があるというのだ。指示されて丸を触るだけだろ?

―――はぁ、結局は退屈しのぎが余計な退屈をつれてきちまった。

さすがにやってられねえと投げ出すのは気が重かったので、まあどちらかが負けるまでは付き合ってやろうとした。







………、それが間違いだった。



668 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:32:09.33 ID:ukOdF9o1o

――――――


「か、垣根さん……、あ、足もうちょっと下げて……ぅ、あ、今変なとこ触ろうとしたでしょ!」

【う、うるせえな! 動かねえんだよ! それよりテメェこそ俺の首に顔をうずめるな! く、くすぐったい!】

「え? 何で私の腰をタップするんです? き、木山せんせいー! 垣根さん何て言ってますーー?!」


数分後には絡み合う二匹のマンドラゴラがそこに生成されていた。
ちょうどバカ春が俺の上に覆いかぶさる形になっている。

首と首がうまいこと合わさっていて、身動きがとれない。
花畑の肉感の薄い太ももが俺の腰のあたりで小刻みに動いている。



―――なんだこれは。

しかも密着しているからわかることだが、ガキのくせに心臓がドキドキと音をたてて高鳴ってやがる。
このエロ春。

………ん? でも心臓って、こっち側についてねえよな。


まーそんなことはどうでもいい。
ちっくしょう、まさに墓穴を掘った。

初春が赤面していたのはこういうことか!



【おい木山! なんとか言えコラ!! この中学生が重い! 重すぎる!】

「なっ……!? い、今なんとなく第六感ですごく失礼なことを言われた気配を感知しましたよッ!! 
 ―――っ!? ちょ、ちょっと垣根さん、吐息がこそばゆいです……あっ……」

【木山ーーーーーーーッ!!!】

「あ、か、垣根さん暴れないで……ってきゃあああああああ!」



669 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:33:19.29 ID:ukOdF9o1o


「あたたた………」


バランスを崩して二人で床に倒れこんだ。
俺からは見えないが、なんとなくわかる。木山は今頃大笑いしてるだろう。

なんちゅーくそなゲームだ。考えたやつは今世紀最大の変態ヤローだ。

こんなもんをパーティで選ぶやつの気がしれねえ。
ましてや異性とこれで接近しようとか、そういう気持ちの悪い……。


―――はっ。

俺の中で何かが警報を鳴らした。

この流れは ―――。


【……初春、違うからな】

「は? な、なにがです?」


転がっていた携帯を拾って初春に見せる。


【お、俺は本当にこういうゲームとは知らなかったんだ。本当だ】




「……、……、……、…………………、ふーん」

【嘘じゃねえよ。床を踏んで踊るゲームあるだろ、あれかと思って】

「………、へぇぇぇ?」



――― あ。


まずい。


主導権をとられたような―――気がする。



670 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:35:05.86 ID:ukOdF9o1o


「へえへえほうほう、そうやって言い訳しますか。なるほどなるほどぉ」

【………テ、テメェ】

「垣根さんはいつも私のこと思春期の青臭い中学生って馬鹿にしてるくせに、
 自分だってきっちり思春期だったんですねー。
 なんというか、若いですねえ垣根さん。その上言い訳するだなんて……やれやれ」

【く……】


やられた。

いや、自爆した。

誰かこの調子づいた中学生を殴り飛ばしてくれねえか。
角がとがったものはねえか。

ないか。そうか。


「まあでもそういう要望にこたえるのも介護の大切な役目ですし。うん。私は平気です」

【……、】


なだめられると余計にダメージがでかい。
まるで欲望におぼれるガキをなだめるように、アイツは俺の頭を撫でてきた。

頭の中がくらくらする。

そして、あいつはついにとどめの一言を口にしようとしているようだ。
はっきりとわかる。



671 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:36:01.22 ID:ukOdF9o1o



「あれですよね、

    ―――つまり、垣根さんは甘えたかったんですよね」



やめろ。

や、やめてくれ……。

それ以上は―――。

自尊心って言葉を知らねえのかよテメェは―――ッ!?






「――― 満足しましたか?

         い・い・子・い・い・子♪」



【ッぎゃあああああああああああああああああッ!】



プライドを木っ端微塵にツイストされた俺は失神した。
近くで初春が何かを叫んでいたが、そんなものもうどうでもいい。






一言だけ言わせてくれ。

俺は知らなかったんだ。



#TIPS1: 終



672 : ◆le/tHonREI :2011/01/12(水) 04:36:51.50 ID:ukOdF9o1o
たまにはこんなのもアリかしらと。
失礼しました。
本編の続きはもうちょいまっててね



673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 04:37:17.20 ID:azIz19vbo
2828 が止まらない
1ということは期待してもいいんだな?
期待するぞ




677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 09:04:27.79 ID:Eu1Bf/PAO
やべえ可愛いぃぃ



674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 05:03:00.25 ID:Seu3U0jHo
ていとくんぺろぺろ(^ω^)乙




次→垣根「初春飾利…かぁ…」その4



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禁書目録SS   コメント:12   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
2350. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/14(金) 10:30 ▼このコメントに返信する
ていとくんの尻の割れ目におにんにん(ry
2352. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/14(金) 11:49 ▼このコメントに返信する
きたあああああああああああ
2355. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/14(金) 13:02 ▼このコメントに返信する
待ってました‼
2357. 名前 : 名無し@SS好き◆CGKQzQaE 投稿日 : 2011/01/14(金) 13:44 ▼このコメントに返信する
ヒャッハー!新作だァ!
2360. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/14(金) 14:21 ▼このコメントに返信する
初春が可愛すぎる
2362. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/14(金) 17:16 ▼このコメントに返信する
ああもう可愛いなぁ
2368. 名前 : 名無し@SS好き◆HfMzn2gY 投稿日 : 2011/01/15(土) 01:47 ▼このコメントに返信する
さりげなくS県月宮ネタやめろw
2409. 名前 : 名無しさん@ニュース2ちゃん◆- 投稿日 : 2011/01/16(日) 02:46 ▼このコメントに返信する
待ってた世おおおおおおおおおおおおおおおおぉ
2492. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/18(火) 14:20 ▼このコメントに返信する
あまりの甘さに右の親知らずから左の親知らずまで総虫歯
2651. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/23(日) 15:03 ▼このコメントに返信する
続きはどこですかあああああああ
2915. 名前 : 名無し@SS好き◆VWFaYlLU 投稿日 : 2011/01/31(月) 10:44 ▼このコメントに返信する
そろそろ続きが気になりすぎて死にたい
ニヤニヤしたいよおおおおおおおおぉぉおおおぉぉおっぉお
3615. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/18(金) 18:46 ▼このコメントに返信する
続き、続きをぉぉおおおぉおおぉおぉぉ
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