魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」その2

2010-11-25 (木) 20:09  魔王・勇者SS   2コメント  
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我が呼び声に応えよ獣―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)


最初から→魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」

323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:00:01.10 ID:kftnrRA0

<小屋>



老人「今夜はここに泊まっていけ」

勇者「そもそも今から街に戻っても宿は取れないけどな」

魔王「それでは遠慮なく。酒はないのか?」

勇者「そこは遠慮しとこうな」




老人「腰を落ち着けたところで聞いておきたい」

魔王「なんであろうか」

老人「君たちのここまでの足跡だ」

勇者「そんなものに興味があるのか?」

老人「さびしい老人だからな」

魔王「まあかまわん。話して差し上げよう」



324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:03:37.14 ID:kftnrRA0

     ※


老人「王立のスタッバー、か……」

勇者「ああ。一週間で倒せるようにならなきゃいけない」

老人「一週間。それはずいぶんと性急なことだな」

老人「……ところでそのスタッバー、名前はヒューイックというんじゃないか?」

魔王「! 知っているのか?」

老人「私は王都で十三使徒の指導をしていたことがある。そのときの教育対象の一人が奴だ」

魔王(なるほど、どうりで奴と攻め手が似ていたわけだ)

老人「優秀な男だった」

老人「十三使徒は通常、勇者の村の出身者から成っているが、奴は例外だ」

勇者「?」

老人「奴は王都が独自に育て上げた最高傑作だ。勇者の村の出身者は優秀な血の交配によって生み出された人種。奴は常にそのひとつ上を行った」

老人「『王都の魔人』。そう呼ばれている」



325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:04:15.78 ID:kftnrRA0

老人「良くないのを敵に回したな」

魔王「強敵とあたることぐらい魔王となったときから覚悟はしていた」

老人「……そうか。今日はもう休むといい」

勇者「ああ」

魔王「そうさせてもらおう」



326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:05:15.25 ID:kftnrRA0

<次の日>


 ――ドォゥッ!


勇者「が――ッ!」ドサァ……

老人「……」

魔王「はっ!」シュッ シュッ

老人「……」パン パァン!

魔王(拳が弾かれた……!)

老人「ふっ ――!」ゲシィ!

魔王「ぐっ……」ドサ

老人「立て」



327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:06:16.92 ID:kftnrRA0

勇者「くっ」ムクリ

魔王「この……」ムクリ

老人「来い。もう一度」

勇者「待った」

老人「……」

勇者「やっぱりやってらんねえ。なんで武器なしでやらなきゃいけねえんだ? そりゃナイフ使いで体術に慣れたあんたが勝つに決まってるじゃねえか」

魔王「シェロ」

勇者「俺はすぐにでも強くならなきゃいけねえんだ……! 修行ごっこなんぞやってられるか……!」



328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:06:57.87 ID:kftnrRA0

魔王「……シェロ」

勇者「んだよ」

老人「本気で言っているのか?」

勇者「冗談言ってるように聞こえるか? 耳の医者に行け」

魔王「ハァ……」

魔王「すまないチャイルド。こやつはあまり頭が良くないのだ」

勇者「んだと!?」

老人「拳闘は戦闘の基本だ。君には基礎が欠けている。欠け過ぎといってもいい」

勇者「……」

老人「我流なのだろう?」

勇者「っ……」

老人「それではある程度以上は行けない。本気で強くなりたいなら君は根底から考えを改める必要がある」

老人「違うか、エセ勇者?」

勇者「っ――このっ!」ダッ



329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:07:50.48 ID:kftnrRA0

勇者「シッ――!」ヒュッ!

老人「……」パシィ!

勇者(蹴り足が……!)

老人「フェイントもなく上段蹴り。有り得ないな」ポイ!

勇者「うお!」ドサ

勇者「畜生!」ガバ! シュッ!

老人「……」ヨケ ガシ

勇者「(腕を取られた! が……)そうそう何度も投げられてたまるか!」グッ

老人「力んだな」


 トン――


勇者(しまった、寸――!)


 ドッ――!


勇者「ぐ、は」ズルズル……バタ



330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:08:48.46 ID:kftnrRA0

老人「……君は厄介なものを抱えている」

勇者「なんの、ことだ……?」

老人「自覚はあるのだろう? 君が冷静さを失う原因だ」

勇者「……」

老人「君は脆い」

勇者「こ、の……」

老人「……だが、伸びシロはある」

勇者「……」



331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:10:15.60 ID:kftnrRA0

老人「持っていけ。私の寸打を。きっと必要になるはずだ」

勇者「そんなにほいほい覚えられるかよ……」

老人「私はヒューイックに寸打を教えた覚えはない。だが、おそらく奴は自分で編み出した」

老人「曽祖父の技を人づてに聞いたのかもしれん。とにかく奴は寸打を再現することに成功している。奴にできて君にできないこともないだろう」

老人「何しろ寸打を実際に使える人物が君の目の前にいるのだから」

勇者「……」

老人「君は勇者なのだから」

老人「違うか、シェロ?」

勇者「ちがわねえ、な」



332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:11:02.98 ID:kftnrRA0

老人「だったらまずは私を信じて体術訓練を受けろ。話はそれからだ」

勇者「……わあったよ」ムクリ

老人「それでいい」

魔王(やれやれ……)

老人「では、来い」

勇者「よっしゃ!」バッ!

魔王「うむ!」タンッ!

     ・
     ・
     ・



333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:11:43.48 ID:kftnrRA0

<夜.小屋>



勇者「……」

魔王「……」

老人「……」

勇者「……疲れた」

魔王「……ああ」

勇者「治癒魔術で傷は残らないとはいえ、一日中はやっぱりつらい……」

老人「できることなら夜通しやりたかったが」

魔王「効率を考えてそれはどうかと思う……っていうか魔物より体力あるってどうなのあなた」

老人「一週間しかない。悠長なことは言ってはいられないはず」

勇者「当日に動けなくなったらそれこそ本末転倒だぞ……」

老人「ふむ」



334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:12:39.18 ID:kftnrRA0

老人「効率か」

老人「だったら私に考えがある」

魔王・勇者「?」

老人「明日から二手に分けよう」

勇者「え?」

魔王「どういうことだ?」

老人「今日の鍛錬で私の見たところ、魔王は基礎はしっかりできているようだ。百数十年生きているのだから当然といえば当然か」

老人「反対にシェロ、お前は基礎がまだ不十分だ」

勇者「チッ……」

老人「よって魔王には明日から別の鍛錬を行ってもらう」

魔王「どのような?」

老人「それは明日説明する」

老人「とにかく今日は休め。明日も早い」

勇者「ああ」

魔王「了解だ」



335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:13:31.25 ID:kftnrRA0

<二日目>


勇者「おおおおお!」ビッ!

老人「力強いのはいいがあたらなければな」スカ

勇者「オラオラオラオラオラオラオラ!」シュシュシュシュシュシュシュ!

老人「……」パパパパパパパシ!

老人「悪くないぞ。だが、まだまだ」


 トン――


勇者(来る! 寸打!)


 ダン――ッ!!


勇者「うごっ!」ドサァ



336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:14:34.17 ID:kftnrRA0

老人「どうした。昨日の魔王は踏みとどまったぞ」

勇者「……次は大丈夫だ!」ガバ!

老人「……」

老人「寸打は、覚えられそうか?」

勇者「……さっぱりだ」

老人「……」

勇者「持っていけって言うぐらいならもっと丁寧に教えてくれても……」

老人「そのような生ぬるい指導法で本当に身につくのか?」

勇者「……」

老人「私とて伝授は実践の中だった。甘えるな」

勇者「チッ……」

老人「もう一発行くぞ」

勇者「来い!」



337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:15:28.83 ID:kftnrRA0

     ※


『君のやることは、俗に言う瞑想だ』

『陳腐、と思ったか? 私もそう思うよ』

『だが必要なことだ。私の予想が正しければ』



魔王「ああ言っていたが……どういう意味だ?」

魔王「瞑想は魔王になるための鍛錬の一過程としてやったことはあるが……」

魔王「ふむ……」

魔王「……」

魔王「……」



338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:16:50.13 ID:kftnrRA0

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……だめだ。さっぱり集中できん」


 ドゴッ―― グハア!


魔王「……」

魔王「我輩も寸打、覚えたいな。かっこいいし」



339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:18:27.73 ID:kftnrRA0

勇者「……っ」ドサ

老人「さあ立て」

勇者「わかってるよ……!」スッ

勇者(ただ、内臓に内臓に響くのを何発ももらってちゃじきにガタが来るな)

老人「そうだ、早く覚えた方がいい。私もあまり気が長くない」

勇者「心の中を読むなよ……」




勇者「っていうか、魔王と二手に分ける意味はあったのか? 二人とも寸打を覚えたほうが効率がよさそうな気がするけど」

老人「……」

勇者「なあ」

老人「……仕方ない。素質の問題だ」

勇者「へ?」



340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:19:13.00 ID:kftnrRA0

老人「簡単なことだ」

勇者「俺に素質があるってことか?」

老人「端的に言えばそうなる。が、寸打自体はそう難しい技術ではない。コツさえわかれば誰でも、といわなくても心得のあるものならたいていできる。指導を受けていないヒューイックが撃てるのもそういうことだ」

老人「問題は時間だ」

勇者「一週間で、か」

老人「魔王は基礎が固まっている。固まりすぎている。新たに何かを習得するにはキャパシーが足りない」

老人「その点君は比較的キャパシーが豊かだ。我流で癖がついているとは思うが、それも考慮した上での判断だ」

勇者「根拠は?」

老人「勘だ」

勇者「勘、ですか」

老人「馬鹿にしたものでもない。特にこれぐらいの歳になると」

老人「それに。魔王にはもっと高度なことをやってもらっている」

老人「あちらのほうがことによると重要になるだろう」

勇者「……?」



341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:20:01.19 ID:kftnrRA0

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」





魔王「zzz……」



342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:21:34.21 ID:kftnrRA0

老人「さて、鍛錬を再開しようか」

勇者「おっし……」パン

老人「エセ勇者」

勇者「……今、何つった?」ピタ

老人「やはりか。君はくだらない事に拘泥しているな」

勇者「……」

老人「自分でも気付いているんだろう?」

勇者「くだらなくなんか――」

老人「いいやくだらないよ」

勇者「あんたなんかに何がわかる! 俺がどれだけ必死か!」

老人「わからないな。正確なところは」

老人「だが、この歳になると大体の所は予想がつく」

勇者「……」



343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:22:16.50 ID:kftnrRA0

老人「ある男がいた」

勇者「いきなり、なんだよ……」

老人「聞いておけ。その男は偉大な人物の子孫として生まれた」

勇者「……」

老人「当然、他人からの評価は先祖を引き合いに出したものが多かった」

老人「男は必死になってそのようなものさしから逃れようともがき狂った」

老人「鍛錬に鍛錬を重ね、研究に研究を重ねた。だが、結局ものさしから逃れることはできなかったようだ。むなしいことだな」

勇者「……」

勇者(伝聞調だが、完全に自分語りじゃねえか)

老人「すまない」

勇者「だから心を読むなと」



344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:22:50.81 ID:kftnrRA0

老人「同じことだよシェロ」

勇者「……」

老人「むなしくはないか」

勇者「……」

老人「他人の評価に敏感になるのはコストがいちいちかかる」

勇者「……」

老人「他人の言っていることは正しいかもしれない。正しくないかもしれない」

勇者「……」



345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:23:35.46 ID:kftnrRA0

老人「だが、それが何だ? それが生きるうえで絶対に必要か?」

勇者「……」

老人「必要な人種もいるかもしれないな。だが、生きるということはそういうことではない」

勇者「……」

老人「守るというのはそういうことではない。違うか?」

勇者「俺は……」



『あなたはわたしが――』



老人「優先順位を考えろ。でなければ大事なものがくだらないものより先に消えていくぞ」

勇者「俺は――っ」

勇者「――!」キッ

老人「……いい目だ」



346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:24:42.74 ID:kftnrRA0

老人「もういいか?」

勇者「簡単に吹っ切れるはずがない。じゃなきゃ今まで悩んでない。正直まだまだ振り回されるだろうと思う」

勇者「だが、優先順位の頂点にはあいつがいるから……!」

老人「……」

老人「続きを始める。明日に温存しようと思うな。全力で来い」

勇者「シャッ――」ダッ

     ・
     ・
     ・



347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:25:23.05 ID:kftnrRA0

魔王「……今度は寝ないぞ」

魔王「……」

魔王「シュー……」

魔王「……」

魔王「スー……」

魔王「フシュー……」

魔王「……」

魔王「……」

     ・
     ・
     ・



348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:26:15.03 ID:kftnrRA0

<五日目>



 トン――


勇者(寸打が来る――いや来ない?)


 ゲシ――パシ!


老人「寸打と見せかけての下段蹴りだったが……そうか、見切ったか」シュッ!

勇者「このパターンは何度目だよ。そりゃ覚えるっての」パシ!

老人「ふむ」ゲシ

勇者「っ……まだまだ!」

老人「シッ――」ビッ

勇者(――ここだ!)



349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:27:12.08 ID:kftnrRA0


 スカッ!


老人「……!」

勇者(避けれた! いけるか!?)


 ――トン


勇者「“寸打ァ!”」


 ドン――!!



350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:28:10.05 ID:kftnrRA0

勇者(どうだ!?)

老人「……」

勇者「! つっ――」

勇者「なにが……」


 ブラン――


勇者(俺の腕が折れてる……!?)



老人「寸打はゼロ距離からの打撃だ。予備動作がいらない分隙がないように見える」

老人「だがその実、溜めは通常の打撃よりもわずかに長い。気を抜くとこのように」

勇者「~~~~ッ」

老人「痛みにもがくことになる」

勇者「わ、“我は癒す斜陽の傷痕”」ホワホワホワ……



351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:28:56.26 ID:kftnrRA0

老人「ひとまずは合格といったところか」

勇者「え?」

老人「魔王を呼んで来い。実践訓練に入るぞ」

勇者「でも、俺、まだ一発も……」

老人「私が判断した。文句があるならずっと拳闘の鍛錬でもかまわないが」

勇者「わかった、すぐ呼んでくる」


     ※


勇者「剣を持つのがずいぶんと久しぶりの気がする」ブオン!

魔王「同感だ」チャ チャ

老人「これより実践訓練に入る。が、その前に。魔王」

魔王「なんだ」

老人「何か『視えた』か?」

魔王「……」



352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:29:36.28 ID:kftnrRA0

魔王「正直なところ何かが掴めたなんて感触はない」

老人「……」

魔王「ただ、なんとなくわかったような気がする。何が必要で何が不必要なのか。言葉に表すにはまだ理解度が足りないが」

老人「なるほど。おそらくそれでいい」

魔王「そうか?」

老人「違うなら諦めろ。どうせ保険のつもりだった」

魔王「……まあ、よいか」

老人「では」シャキン!




老人「――行くぞ」


 ジャッ――――!



353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:30:43.54 ID:kftnrRA0

<最終日>


 ガキン――!


勇者「フー……フー……」

魔王「ゼイ……ゼイ……」

老人「……」

勇者「……シッ――」ヒュッ!

老人「……」ヨケ

老人「まだ振りが大きいな、それではヒューイックはおろか私にも当たらない」

勇者「セイッ――」ビッ!

老人「そうだ。その調子だ」キィン!

魔王「はっ――!」ギュオ!

老人「……」ギシ!

老人「足りないぞ。王都の魔人を落とすにはまだ足りない」



354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:31:22.43 ID:kftnrRA0

勇者「っらあ!」ツキ!

老人「……」キン

魔王「“穿!”」ツキ!

老人「……」キン!

勇者「“テラブレイク!”」ツキ!

老人「……っ」ギシ!




魔王・勇者「おおおおおおおおおおおお!」

勇者「“絶命剣!”」 魔王「“円舞陣!”」


 ガキキキキキキン!


老人「……」バックステップ



355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:33:23.59 ID:kftnrRA0

勇者「逃がすか! “我は放つ光の白刃!”」ゴッ!

老人「“光よ!”」カッ!


 カッ――ドゴゴォゥ! モクモク……


老人(視界が……)


 キラッ――ヒュンヒュンヒュン!


老人(投剣!)ヨケ チッ――

老人(かすったか)


 モクモク――ブワ!


勇者「ッセイ!」ブン!

老人(なるほど、先程のは魔王の剣か)キン



356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:35:04.42 ID:kftnrRA0

老人(あともう一歩。どう詰める?)

勇者「全力の一撃だ! 食らえ! “活殺剛翔剣!”」ギャン!


 ガキイィン!


老人「一度見せた剣では一本を取るのは無理だ。返す刃で斬られるぞ?」



魔王「そこだ!  “礫よ!”」ビュッ!

老人(打ち上げたナイフを狙ったか!)カァン――カランカラン……

勇者「もらった! “紫音絶命剣!”」ビシュッ!



 チュイン――!



老人「……ふむ」

魔王「な!? 無刀取りだと!?」

勇者「……」



357 :パクリ元:やる夫が空を目指すようです:2010/05/14(金) 22:36:31.29 ID:kftnrRA0

勇者「武器を奪って両手を封じた……」

勇者「これで駄目なら後がねえ!」

勇者「食らえ!!」


 トン――


老人「寸打か。だがその隙は今は致命的に大きい。避けるだけならいくらでも――」ガキ!

老人「? 後ろには何も……」

勇者「おおおおおおおおお!」

老人「……ああ」






老人「……魔王の剣か」

勇者「“寸打――ッ”」


 ドゴオッ――!!



358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:38:29.30 ID:kftnrRA0

<十数時間後.夜.大商人の豪邸前>



魔王「……」

勇者「……」

魔王「そろそろか?」

勇者「さあな。ただ」

魔王「ただ?」

勇者「暗殺技能者を相手にただ守りを固めるってのは本来下策なんだ」

魔王「守りを破るのが暗殺技能者だからか?」

勇者「その通り。本当ならこちらから探し出してつぶすくらいの攻めの姿勢じゃなきゃ倒すことは不可能だ」



359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:40:14.86 ID:kftnrRA0

魔王「なるほど。しかし今回の場合はケースが違うだろう」

勇者「まあな。あっちはおそらく俺たち狙いだから」

魔王「……勝てると思うか?」

勇者「さあ……」

魔王「あのときの寸打は不発、我輩もまだ瞑想から何かをつかんだわけでもなし」

魔王「相当厳しいと見てよいな」

勇者「……」



360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:40:59.40 ID:kftnrRA0

<十数時間前>



勇者「が……」ズルズル

老人「……」


 ドサ――


老人「惜しかったな。あともう一歩だった」

魔王「! なぜ!?」



361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:41:57.40 ID:kftnrRA0

老人「シェロの寸打は不発だ。完成しきってなかった」

勇者「……く、そ」

魔王「……」

老人「とはいえ」

老人「私をあと一手まで追い詰めたのは事実だ。だいぶ上達したのは間違いない」

勇者「……」

老人「後は自信を持って奴に挑め。大丈夫だ。勝てなくても最悪死ぬくらいですむ。気楽にいくといい」

老人「では、また会おう。世界が破滅していなければ」



362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:43:01.19 ID:kftnrRA0

<再び夜.豪邸前>



勇者「スー……ハー……」

魔王「……」

勇者「……」

魔王「……」



「やあやあオフタリさん、こんばんは」



魔王・勇者「……!」



363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:43:35.56 ID:kftnrRA0

魔王(どこだ?)

勇者(道の暗がり、建物の陰、屋根の上……!)

魔王(どこからでも来い……)



「そんなにきょろきょろしなくても」




スタッバー「目の前にいるさ」スタスタ

魔王・勇者「!」



364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:44:50.03 ID:kftnrRA0

勇者「来やがったな……」

魔王「待っていたぞ」

スタッバー「お出迎えどうも。待たせすぎちゃったかな?」

勇者「いや、こっちも今来たところだ」

スタッバー「さっすが。相手に気を使わせない。君モテるね?」

勇者「それほどでも」

魔王「……久しぶりだな」

スタッバー「そうだね何十日ぶりだっけ。いやまあどうでもいいけどさ」

スタッバー「手短に言うよ。今度こそお前たちを殺しに来た。死んでほしい」

勇者「断る」

魔王「右に同じだ」

スタッバー「うん、ま、そうだよね。じゃ、殺すよ、じゃあな」


 タンッ――!



365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:45:43.64 ID:kftnrRA0

勇者「どっせい!」シュッ!

スタッバー「ん? 俺の踏み込みに合わせれるようになったのか?」キン!

勇者「もういっちょ! “十字剣!”」キュイキュイン!

スタッバー「おっと……っと」カンカィン!

魔王「こっちを忘れるな! “光よ!”」ボッ!

スタッバー「うわっち」バックステップ



スタッバー「何だ、結構連携ができてきたじゃん。感心感心」

スタッバー「伊達に修行してきたわけじゃないみたいだね」

魔王「! 知っていたのか?」

スタッバー「まあね」

勇者「俺たちの行動を把握していたのか……!」

スタッバー「そうそうその通り。こう独自の情報網でちゃちゃっと」

スタッバー「あ、でも大丈夫。上には知らせてないから兵の大群が押し寄せるとかはないはずだよ」



366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:46:19.53 ID:kftnrRA0

勇者「舐めやがって……」

魔王「……。お前の目的は何なのだ?」

スタッバー「俺の?」

スタッバー「俺、俺かあ。俺ね。そうだね。目的、なんてそんなたいしたもん持ってないよ」

魔王「……」

スタッバー「でも、強いて挙げるならやっぱり強敵とのぴりぴりした命のやり取りかなぁ」

スタッバー「俺はね、強い奴を自分の力でねじ伏せる、そういうことに生きがいを感じる人間なんだよ。たぶん」

勇者「俺たちが強敵か。そりゃ光栄なこって」

スタッバー「今でやっとそこそこね。前回はとても残念な出来だったけど」

スタッバー「ね、エセ勇者?」

勇者「俺をエセとか言うなって」ペッ

スタッバー「あれ、怒んないんだ。残念」

勇者「強くなるしかなかったんだよ。誰かのおかげでな」

スタッバー「そっかそっか」ウンウン



367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:47:08.57 ID:kftnrRA0

スタッバー「じゃあこれはどうかな」

勇者「?」

スタッバー「ある少女がいたんだ。交際している男がいたそうでね――いや、交際してなかったっけ。ま、どうでもいいんだけど」

勇者「何の話だ?」

スタッバー「あるとき男が監禁同然の状態になってしまったんだ。少女は必死に彼を助けようとした。でも力が足りない」

魔王「……」

スタッバー「少女は力を求めた。強大な力を。そこで誰かが手を貸した。少女は力を手にした」

スタッバー「狂っちゃったけどね。ははっ」

勇者「……」



368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:47:53.91 ID:kftnrRA0

スタッバー「力を与えた誰かの一人が俺。この話の意味わかるかな?」

勇者「――」ジャッ!


 ――ガキン!


スタッバー「……」グググ

勇者「……お前っ」グググ

スタッバー「あの魔術士強かっただろ?」グググ

勇者「お前が――ッ」ググググ

スタッバー「怒ったか? いい顔になったじゃん」ギギギギ

勇者「てめえっ!!」キャン! ブオン!

スタッバー「あははは」ヨケ



369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:49:06.28 ID:kftnrRA0

勇者「この! この! この!」ブオン! ブオン! ブオン!

スタッバー「よ、ほ、は」スカ スカ スカ

勇者「お前が! ハルを!」ブオン! ブオン!

スタッバー「そうだよ。そう言ってるじゃん」ヨケ ヨケ

勇者「うおおおおおおお!!」ブオ――

スタッバー「ふっ――」ビッ!

勇者「ぐ……」ザシュ!



魔王「シェロ!」

スタッバー「うーん、ちょっと浅かったかな」

勇者「く……(血が……)」ポタ ポタ

魔王「阿呆が! 気分はわからんでもないがそんな大振りでは殺されるぞ!」

スタッバー「そうそう。どうせ今日、本気で殺しちゃうんだ。だったらせめて能力を最大限引き出してよ。――俺が潰してあげるから、さ」



370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:50:27.51 ID:kftnrRA0

勇者「殺す……。殺す……!」

魔王「シェロ!」

勇者「っ……」

勇者「……わかってるよ。優先順位だろ?」

魔王「……」

勇者「でもな、俺はハルをあんなふうにした奴らに会ったらこうしようって決めてたんだ……!!」

魔王「……別に熱くなるな、とは言わんさ。ただ、その中にほんの一滴、冷静さを残しておけ」

魔王「でないとあいつを痛めつけることすら叶わん。違うか?」

勇者「……応!」

スタッバー「そうそう、その顔だ! その目だ! その殺気だ!」

スタッバー「俺にかかって来い……かかってきて潰されろ!」



371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:50:59.53 ID:kftnrRA0


  ――ジャキン!


魔王(もう一本ナイフを抜いた!?)

勇者(あいつ、両手ナイフ使いだったのか!)

スタッバー「そう、本気――これが俺の本気だ!」

スタッバー「“プアヌークの魔剣よ!”」ジャッ!

勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」ガキン!


 タン――!


スタッバー「ふっ――」シャッ!

魔王「く……」キン!

スタッバー「ハッ――」ジャッ!

勇者「う……」カン!



372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:51:41.57 ID:kftnrRA0

スタッバー「おらおらおらおら!」シュ! ヒュ! ジャッ! ビッ!

魔王(くっ……反撃が――)キンキン!

勇者(できねえ!)カンカィン!

スタッバー「ハッ、どうした! あの魔術士の仇をとるんじゃねえのか!?」ビュッ!

勇者「!」キィイン!

勇者「シッ――」ビッ!

スタッバー「そうだ! 来いよ!」カィン!

勇者「ハッ――!」シャッ!

スタッバー「っと!」バックステップ

魔王「逃がすか!」ダン!

魔王「“円舞――”」 スタッバー「“円舞陣!”」


 ザシュザシュザシュ!


魔王「むおあ!」ドサ!

勇者「魔王!」



373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:53:12.02 ID:kftnrRA0

勇者「魔王の技を真似しやがった!?」

スタッバー「うん、そう。魔王の決定打らしいね。部下からの報告で話には聞いていたけどここまで簡単なんて。拍子抜け」ピッピッ

勇者(前回の時、魔王はあれを使っていねえ。実際に見たわけでもねえ技をこうも簡単に……)

勇者「……この!」ダッ

勇者「“紫音――”」 スタッバー「“紫音――”」

勇者(!?)



勇者・スタッバー「“――絶命剣!”」


 ガキャキャキャキャキャン――!



374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:54:09.09 ID:kftnrRA0

スタッバー「こっちの方の真似も案外簡単だったね」

勇者「……」

スタッバー「おんなじ技で相殺。いや――」

勇者「が――」ズルズル ドサ

スタッバー「俺の方がちょっぴり押してたみたいだ。武器が一本多かったせいかな? まあ、知らないけど」





魔王「……く」

勇者「……う」

スタッバー「あっけなかったねえ。まあ仕方ないよ。この王都の魔人相手に良くやったともいえる」

スタッバー「知ってる? 俺こう見えても十三使徒の長なんだよね。こんな若輩がトップなんて案外たいしたことないって思わない?」

スタッバー「……それはどうでもいいね。じゃあ殺そうか。――って」

魔王「……ぐ」ムクリ

勇者「こんの……!」ムクリ



375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:55:11.35 ID:kftnrRA0

スタッバー「……結構手ごたえ深かったのに。往生際が悪いね。聞こえは悪いけど、死んだほうがマシってこともあるよ?」

魔王「我輩ら二人だけだったらそうして死ぬのも悪くないかも知れんな……」

勇者「けど、俺たちが背負っているのは俺たち二人分の命だけじゃねえから……」

魔王「負けられん」

勇者「死ねない」

魔王「お前を倒す」

勇者「俺たちは王都に行く……!」

スタッバー「……そうかい」

スタッバー「じゃあせいぜい最期まであがくがいいさ!」ダッ!


 ピンッ――!


スタッバー「!?」グラ……

魔王「“光よ!”」ボッ! 勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ!


 ドゴゥ!



376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:56:47.12 ID:kftnrRA0

 モクモク……


スタッバー「ごほっ……何、今の?」

魔王「直撃はしなかったか。運のいいことだ」

勇者「だが、準備しておいた甲斐はあったな」

スタッバー「……準備?」

魔王「そう、お前のいるその位置」

勇者「そこがお前の死に場所になるぜ……!」

スタッバー「……罠か」

魔王「その通り。極細ワイヤー」

勇者「そこに誘い込むのに苦労したぜ畜生」

魔王「まだ他にもいくつかあるから覚悟するといい」

勇者「卑怯くさくて気は進まなかったけど、こっちも本気なんだ。全力で倒しにいくぜ」

スタッバー「……」



377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:57:34.69 ID:kftnrRA0

スタッバー「……ふ」

スタッバー「ふ、ふふ」

スタッバー「あはははははは」

勇者・魔王「……」

スタッバー「卑怯? いいんじゃない? この方が全力って感じがするよ。むしろ予告していたのに何にも準備してないほうが馬鹿ってもんだ」

スタッバー「そうさ、なめんなって感じだよ。何も用意してないんじゃないかって不安になってたところさ。ちょうどいい」

スタッバー「そう、ちょうどいい。双方が双方、手傷を負ってやっとイーブンだ」

スタッバー「再開しよう。命の取り合いを、さ!」チャキ

勇者「おっしゃ!」バッ



378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 22:59:06.26 ID:kftnrRA0

 キン! カン! カィン! ガッ! ガゴッ!


勇者「らあっ!」ツキ!

スタッバー「……」バックステップ


  ――ピン!


スタッバー(またか)

スタッバー「二度は転ばな――」


 ヒュン――!


スタッバー「!」ヨケ!

スタッバー「――クロスボウか!」

魔王「当たりだ。“光よ”」ボッ!

スタッバー「“シアヌーンの盾よ”」キン



379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:00:12.73 ID:kftnrRA0

スタッバー(連撃で姿勢が――)グラ

勇者「ふん!」シャッ!

スタッバー「……ッ」ガキン! トン

勇者「膝をついたな! “兜割り!”」ジャッ!


 ドゴオ――!


魔王「どうだ……?」

勇者「……」

スタッバー「……」





勇者「……ぐ」ガク

魔王「シェロ!?」



380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:01:18.64 ID:kftnrRA0

魔王(シェロのふくらはぎに……あれは?)

スタッバー「クロスボウの矢だよ」ムクリ

勇者「つぅ……」

魔王「まさか! あの矢をキャッチしていたのか!?」

スタッバー「ま、ね」

スタッバー「さて、エセ勇者はこれで終わりだ」

魔王「シェロ!」

スタッバー「ばいばい」シュッ!







勇者「“活殺剛翔剣!!”」ギュオ!!

スタッバー「!!?」ガキャァァァン!



381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:02:08.10 ID:kftnrRA0

スタッバー(しまった! ナイフが!)

勇者「うおおおおおおお!」

勇者「“紫音絶命剣!!”」ギュン!!


 チュイン――!



382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:02:51.68 ID:kftnrRA0

スタッバー「――ふう、あっぶね」

魔王「無刀取り……」

スタッバー「ハッ、どんなもんだ」

魔王「これは……」



 ――トン



スタッバー「へ?」

勇者「武器を奪って両手を封じた! これで――!」

スタッバー(まさか寸打? まずい――)バックステ――



383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:03:57.74 ID:kftnrRA0


  ――――ピン……



スタッバー「――ッ!!!」








勇者「“寸打――ッ!!”」


 ドゴォゥ!!



384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:04:51.33 ID:kftnrRA0

スタッバー「ぐ……」ドサァ!

魔王「成功、した……?」

勇者「……」




勇者「“我は放つ光の白刃”」ゴッ!

スタッバー「がっ……」ドゴオ!

魔王「おい、シェロ……?」

勇者「“我は放つ光の白刃”」ゴッ! ドゴオ!

勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ! ドゴオ!

勇者「“我は放つ光の白刃!!”」ゴッ! ドゴオ!

勇者「“我は放つ――!”」

魔王「シェロ!!!」



385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:06:02.48 ID:kftnrRA0

勇者「……。何で止めるんだよ」

魔王「……」

魔王「……もう、死んだだろう」


 モクモクモク…… サアァァ……


勇者・魔王「!?」



386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:06:43.70 ID:kftnrRA0

勇者「いねえ!」

魔王「逃げられた!?」

勇者「んな馬鹿な! あの状態から逃げられるはずが……!」

魔王「空間転移……」

勇者「……! チィッ!」ガン!

魔王「……」

魔王「気配は、しないな。完全に逃げに回ったか」

勇者「今から探せば! そう遠くには――」

魔王「……こちらも手傷を負っている。やめておこう」

勇者「だが!」



387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 23:08:26.27 ID:kftnrRA0

魔王「シェロ! ……お前、目的を履き違えていないか?」

勇者「……っ」

勇者「……」

勇者「……わかったよ」

魔王「……」

魔王(仕方あるまい。今シェロを行かせれば……)

魔王(……)



393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:00:02.17 ID:o67lB3s0

<朝. 大商人の豪邸>


大商人「お疲れ様。首尾は上々だったみたいだね。部下から聞いたよ」

勇者「ああ」

魔王「眠い……」

大商人「はは、疲れたろう」

大商人「さて、次は王都への侵入手段だね」

勇者「こっちはしっかりやったんだからそっちも頼むぜ」

大商人「ふふ、わかってるよ」



大商人「まず君たちには私の所有物になってもらおう」

勇者「なに?」

魔王「穏やかでないな」

大商人「私のものになれ……とでも言うと思ったかい?」

勇者「笑えない冗談だ」



394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:00:52.98 ID:o67lB3s0

大商人「うん、まあ面白くない冗談はおいといて。君たちは私の荷物にまぎれて王都に入ってもらうんだ」

魔王「なるほど。いや、しかしそれでは……」

大商人「そう。普通だったら荷をチェックされて終わりだね」

勇者「どうするんだよ?」

大商人「なんにでも例外はあるものさ。チェックされない荷物になればいい」

魔王「そんなもの……。!」

大商人「その通り。たとえば軍に納入するトップシークレットの最新兵器」

勇者「あんたそんなものまで手がけていたのか……」

大商人「ははは、褒め言葉は辞退しておくよ。聞き飽きてる」

大商人「それでちょうど今日、その荷物が出発する予定なんだ」

魔王「渡りに船とはこのことだな」

勇者「早速乗せてもらうぜ」



395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:01:55.27 ID:o67lB3s0

大商人「ああ、行くといい」

大商人「その前に。はいこれ」

魔王「うん?」

大商人「手土産さ。うちで扱ってる最上級のお酒」

魔王「うっほほ~い!」

勇者「あんまり甘やかさないでくれよ……」

大商人「はは、ごめんごめん。でもまあ私からの気持ちとして受け取ってほしい」

魔王「シェロ! 先に行っているぞ!」タッタッタ……

大商人「それから……勇者にはこれを」

勇者「なんだこの包み?」ゴソゴソ

勇者「……!」




大商人「“ヘイルストーム”。『拳銃』って言うんだけど、知ってるかい?」

勇者「話に聞いた事だけは……」

大商人「実は納入する最新兵器って言うのは拳銃のことなんだ」



396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:03:04.80 ID:o67lB3s0

勇者「こんなものを……いや、考えてみれば当たり前か。大商人であるあんたが持ってなくて誰が持ってるって話だ」

大商人「まあね。もっとも、納入するのとは性能が違って、こっちは最新式の試作品だ。弾は三発しかないから大事に使ってくれ。そしてなにぶん不安定だ。暴発しやすいかもしれないから使うときには気をつけて」

勇者「……ありがたく使わせてもらうぜ」

大商人「軍への荷物はいったん王都の私の倉庫に入るからそこで降りるといい」

勇者「ああ」

大商人「それから、私の倉庫の地下はレジスタンスのアジトになっている。彼らのリーダーを頼れ。拳銃の訓練も彼から受けるといい」

勇者「レジスタンス……?」

大商人「そう、王都の人工的平和維持に反対する者たちの集まりさ」

勇者「!? 人工的平和維持のことを知っているのか!? あんたいったい何者なんだ!?」

大商人「別に。私はただの商人さ。ちょっとばかし好奇心が旺盛な、ね」

勇者「……」

大商人「どんな形であれ、世界が大きく動くなら私はこの目で見てみたい。それだけのことさ」

勇者「……」



397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:03:55.43 ID:o67lB3s0

大商人「さあ、行くといい。もう荷物は出発するよ。私のことなどどうでもいい。私が何者であれ、君たちのやることは変わらない。違うかな?」

勇者「……そうだな。それも、そうだ」

大商人「また会えるといいね。世界が破滅していなければ。ああそうそう、彼女のことは任せてくれて大丈夫だ」

勇者「ああ。じゃあな」クル スタスタ……






大商人「さてどう転ぶ……?」

大商人「結果として世界はどうなるのかな?」

大商人「……神のみぞ知る、か」

大商人「……願わくは彼らに幸多からんことを」



398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:04:55.49 ID:o67lB3s0

<翌日.王都.大商人所有の倉庫>


 ――ガタガタ ガタガタ……


魔王・勇者「ぷはぁ!」

魔王「何だこれは! こんなに狭いとは聞いてなかったぞ!」

勇者「しかもお前、酒飲んで入っただろ! 荷物の中が酒臭くて死にそうになったぞ!」

魔王「だって仕方なかろうもん! あんなにうまい酒、飲むなって言うほうが無理だ!」

勇者「うるせー! ちょっとは我慢強いところ見せてみろ!」



399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:05:48.20 ID:o67lB3s0

 ギャーギャ-!


「ちっといいか、おめえら」

勇者「ああ?」

魔王「誰だ?」

「俺? 名前か? 地位か? どっちもか」

リーダー「名前はジゼル。レジスタンスのリーダーをやってるぜ」

勇者「あんたが……」

リーダー「そしておめえらは勇者に魔王。当たりだろ?」

勇者「あの商人から聞いていたのか?」

リーダー「いんや、俺の勘。そろそろ来るころじゃねえかと思ってよお」

魔王「ふむ……」

リーダー「世界の破滅を止めるんだろ? 手伝ってくれや。いや、俺らがおめえらを手伝うのか?」

リーダー「ま、どうでもいいけどよ」



400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:06:45.54 ID:o67lB3s0

     ※


 ――ガコン


リーダー「ここから地下に入れる。梯子の下が俺たちレジスタンスのアジトだ」

魔王「カビ臭いな」

勇者「酒臭いよりはよっぽどマシな気がするけどな」


 カン カン カン カン…… ――トン


メンバー1「お帰りなさい、リーダー! ようこそ、勇者様に魔王様!」

リーダー「ん、ご苦労さん」

勇者「あ、ああ、世話になるぜ」

魔王「苦しゅうない」

リーダー「おい、ほかのメンバーも広間に集めて来い。集会やっからよ」

メンバー1「了解!」



401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:07:34.82 ID:o67lB3s0

     ※


 ザワザワ……


勇者(レジスタンスって言うから大人数かと思ったら)

魔王(たったの十六人ではないか)

リーダー「少ねえと思ったろ? 少数精鋭なんだよ」

魔王「ほんとに勘がいいのだなお前」

リーダー「まあな。――んでな、世界の破滅っていうなんともとんでもねえことっつーんで情報をおいそれと漏らせない」

リーダー「必然的に少数になっちまうんだ」

勇者「なるほど」

メンバー1「全員集まりました!」

リーダー「ん」



402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:09:35.45 ID:o67lB3s0

リーダー「おめえら! ついに今日、勇者と魔王が王都に到着した!」


 オオ!


リーダー「世界の破滅への対抗戦線がいよいよ大詰めに向かう!」

リーダー「おめえら全員、気ぃ引き締めやがれぇ!」


 オオオオ――!



リーダー「こいつらが勇者と魔王だ。有名だからってえことで詳しい紹介は省かせてもらうぞ」

リーダー「では、早速だが最終作戦を説明する!」

勇者「最終作戦?」

リーダー「人工的平和維持を突き崩す、そのための作戦だ。今いいところだから質問は後にしてくれって」

リーダー「さて、人工的平和維持の媒体である神体はキムラック神殿にある」

リーダー「普段は警備が厳重で、中に入るどころか外観の見物すらも制限されている」

リーダー「それだけ聞くと侵入は不可能に思えるが、そこはうめえことできているんだなあこれが」



403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:10:11.73 ID:o67lB3s0

リーダー「これから一週間ほど後、五日の間王都全体で祭りが行われる」

リーダー「その最中は人の往来が増える上にキムラック神殿が一般開放されるんだな」

リーダー「そこを俺たちレジスタンスが狙うってえ寸法だ」

魔王(なるほど)

リーダー「陽動として王室のほうにもちょっかいをかけるつもりでいるが、客人も来たってことでこれで説明は終わりにして、細かいことは後からちょいちょい説明していく」

リーダー「まずは全員、概要を頭にいれておけえ!」

メンバーs「了解!」



404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:11:15.86 ID:o67lB3s0

     ※


リーダー「さて、おめえらも長旅つかれたろ? 部屋を用意してあっから休みな」

勇者「そうさせてもらうぜ」

魔王「狭いところに丸一日いたから体が凝ってたまらん」

リーダー「えーと、そうだな。お前、アジトの中を案内してやれ」

メンバー2「了解っす。よろしくどーも」

魔王「ん、よろしく頼む」

勇者「よろしく」



405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:12:40.96 ID:o67lB3s0

     ※


メンバー2「――んであっちがトイレっすよ」

勇者「なるほどわかった」

メンバー2 「それからこの突き当たりに食堂があるっす。当番制で交代で厨房入ってるっす」

魔王「――ん? この扉はなんなのだ?」

メンバー2「非常口っすね。使ったことは一度もないっすけど。まあ、使うときがあるとすれば、レジスタンス壊滅のときっす」



メンバー2「ここがお二方の部屋っす。一緒の部屋で申し訳ないっすけどベッドはちゃんと別だし不都合はないはずなんで勘弁してほしいっす」

勇者「ありがとさん」

魔王「ご苦労であった」

メンバー2「リーダーに伝えておくことはあるっすか?」

勇者「俺は射撃訓練を受けたいと伝えてくれ」

魔王「戦闘訓練用の広間があれば貸してほしい」

メンバー2「射撃訓練っすか…… なるほど、伝えておくっす」



406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:15:03.48 ID:o67lB3s0

<翌朝.アジト>


リーダー「射撃訓練と訓練場の手筈、整えといたぜ」

勇者「ん、どうも」

魔王「ご苦労」

リーダー「勇者の射撃訓練は、まず拳銃の基礎知識をつけてもらうことからはじめるぜ。こっちのが指導員だ」

メンバー 3「よろしく」

勇者「ああ、よろしく」

リーダー「魔王のための訓練場はここを出て右突き当りの扉だぜ。地下だからあんま広くねえけど堪忍してくれよ」

魔王「かまわん。感謝する」

リーダー「俺は忙しいんでこれで失礼させてもらうわ」

魔王「我輩も早速訓練場に行こう」


 ガチャ バタン



407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:16:08.90 ID:o67lB3s0

メンバー3「さて、まずは拳銃の基本から入ろうと思う、が」

勇者「?」

メンバー3「……いや、結構なつわものだと聞いていたのだが、こんなに若いとは思わなくてな。驚いてしまった。すまない」

勇者「そういうことか。別にかまわねえぜ」

勇者「俺も拳銃なんてごついものの指導員が女だってことに驚いているしな」

メンバー3「ふ、そうかおあいこか。――では始めよう。難しいからしっかり集中しろよ」

勇者「おう」

メンバー3「まず、私たちが扱っているのは軍でも使われている回転式拳銃だ。この拳銃の特徴は――」

     ・
     ・
     ・

メンバー3「――と、このようなフォームで射撃を行う。よし、こんなところで今日はやめにしておこう。実際に射撃を行うのは明日だ。ちゃんと復習しておくように」

勇者「や、やっと終わったか。あー、頭いてえ……」



408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:17:50.47 ID:o67lB3s0

<翌日.射撃場>


メンバー3「これが訓練用の拳銃だ」

勇者「撃ってみていいか?」

メンバー3「では、あちらの的を狙って教えたとおりやってみろ」

勇者「……」スウ ハア……



 タァン――



勇者「っつぅ……」

メンバー3「ふ、はじめはそんなものだ。徐々に慣れていけばいい」

メンバー3「それよりも的を見てみろ」

勇者「……どこにも、当たっていないな」

メンバー3「まずは的に当てなければな」

勇者「……了解」



409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:18:35.85 ID:o67lB3s0

<更に二日後>


 ――タァン タァン タァン


メンバー3「ん、三発中一発命中か。なかなかいいぞ」

勇者「そうか?」

メンバー3「ああ、筋がいい。もっともこれぐらいパスしてもらわなくては困るがな」


 ――ガチャ


リーダー「勇者、ちょっと来てくれ」

勇者「ん? わかった。コーチ、ちょっと行ってくる」

メンバー3「ああ」



410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:20:29.74 ID:o67lB3s0

<広間>


リーダー「さて、こうしててめえらに来てもらったのはほかでもない、作戦決行の日程を知らせようと思ってな」

勇者「ついに決まったのか?」

魔王「教えてもらおうか」

リーダー「そう急くなって」

リーダー「まず、作戦決行だがよお、祭り一日目の夜に決まったぜ。早いほうがいいだろ?」

勇者「もちろんだ」

リーダー「次におめえらの役回りだが、それは実にシンプルなんだなこれが」

リーダー「神殿にまっすぐ行って、目標をデストローイ。簡単だろ?」

魔王「うむ」

リーダー「それまでは自由にしてもらってていい。なんだったら祭り一日目の昼の部を楽しんできてもいいんだぜ?」

魔王「本当か!?」

勇者「……」



411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:21:39.78 ID:o67lB3s0

リーダー「ああ、やることさえ忘れなければな」

リーダー「ちなみに俺たちは王室のほうにフェイクの爆弾と犯行声明を――」

魔王「ひゃっほーい!」

リーダー「って聞いちゃいねえか」

勇者「すまん……こういう祭りごとには目がねえんだ……」

リーダー「いや、かまわねえよ? さっきも言ったとおりやることさえ忘れてくれなければな」

勇者「それは大丈夫だ。……と思う」

リーダー「じゃ、俺はこれで。準備がまだたっくさん残ってっからな」

勇者「おう」

魔王「それじゃ我輩は訓練場に戻るかな、ルンルン♪」

勇者「……。俺も射撃訓練に戻るか。今日でひと段落するらしいから終わったらそっちに――」

魔王「フンフン~♪」スタスタ

勇者「いや、聞けよ……」



412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:23:07.18 ID:o67lB3s0

<数時間後.訓練場>


 ――ガチャ


勇者「魔王~。こっちはひと段落したぜ」

魔王「……」

勇者「魔王?」

魔王「……」

勇者「そい」ゴン

魔王「ハッ……」

勇者「拳銃の講習はとりあえず終わったぜ」



413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:24:03.61 ID:o67lB3s0

魔王「猫とバイオリン……」

勇者「?」

魔王「雄牛が月を飛び越えた……子犬はそれ見て大笑い……」

勇者「……」

魔王「お皿はスプーンとかけおちだ……」

勇者「そおい!」ガン!

魔王「ハッ……」



414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:24:43.58 ID:o67lB3s0

魔王「ああ、シェロか……」

勇者「どうした? バッドトリップか?」

魔王「うんにゃ。瞑想しすぎてちょっとチューナーがおかしくなってた」

勇者「おいおいそんなんで大丈夫かよ」

魔王「む、馬鹿にしたものでもないぞ。おかげで見えてきたものがある」

勇者「?」

魔王「いや、うまくはいえないんだが……ヒビの入る音? 歯車が回る音と言い換えてもいいか……」

勇者「なんだ? わけわかんねえぞ?」

魔王「わからなくともかまわん。我輩にとって何か確かなものであることだけは間違いない」

勇者「言葉に表せないのに確かなもの? 矛盾してねえか?」

魔王「いやそれも含めて、確たるものなのだ。そう感じるのだから仕方あるまい」

勇者「……ならいいけどよ」

勇者「とにかく鍛錬を始めようぜ。軽くからでいいから。俺の方は数日間まともにからだ動かしてないから鈍っちまってるぜ、きっと」

魔王「うむ、よかろう」スク



415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:25:37.76 ID:o67lB3s0

     ※


魔王「ふっ!」シュッ!

勇者「シッ――」カキン!

勇者「はっ!」ビッ!

魔王「ん」カァン!

魔王「……こうしていると初めて戦った日のことを思い出すな。驚くことにそう昔のことでもないが」ブン!

勇者「……ん」キン!

魔王「あのときのお前はずいぶん余裕がなかった」シュッ!

勇者「……そうだったかもな」ガッ! ビッ!

魔王「精一杯虚勢を張っていて、でもどこか卑屈で、心細そうで」カン!

勇者「……」ビュッ!

魔王「まるで迷子のようだった」カキン! シュッ!



416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:26:22.80 ID:o67lB3s0

勇者「……それは言いすぎだろ」キィン!

魔王「劣等感に押しつぶされそうになっていた奴が何を言う。復讐心よりも強くお前を縛っていたのはそれではないか」ビュッ!

勇者「それは……」ギチ!

魔王「だが、お前は変わったよ。前よりはずっとたくましくなった」ビュ!

勇者「……そうかよ」キュイン!

勇者「……お前はどうなんだ? 何か変わったのか?」シュ!

魔王「我輩? そうだな……」カン!

魔王「……変わらんよ。今も昔も我輩のままだ」ヒュン!

勇者「お前は……そうか」ガッ!

勇者「お前は最初から覚悟していたもんな」シュッ!

魔王「……」キン!

勇者「ハルが倒れてからやっと俺がした覚悟くらい、お前は最初からしていたもんな」ビッ!

魔王「……そうだな」カン!



417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:27:31.62 ID:o67lB3s0

魔王「……」ジャッ!

勇者「シッ――」カァン!

魔王「……なあ、シェロ」シャッ!

勇者「ん?」ガキン!

魔王「我輩らは、世界を救えるだろうか」

勇者「……」

魔王「……大事なものを守れるだろうか」

魔王「……我輩らがしようとしていることは正しいんだろうか。人工的平和維持を解除したとたん大きな戦乱がおきたりはせんだろうか」

勇者「……」

勇者「今更……らしくもねえな」シュッ!

魔王「……我輩だってたまには不安になる」カィン!



418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:28:43.85 ID:o67lB3s0

勇者(……)

勇者「……わかんね。わかんねえよ」ビュッ!

魔王「……」カァン!

勇者「世界が救えるって手前まで来て倒れるかも。それとも案外すんなり救えちゃったりするかも」ビッ!

魔王「……」キィン!

勇者「目の前の破滅を避けられてもお前の言うとおり、大きな戦乱が起きて何もかもめちゃくちゃになっちまうかも」シュッ!

魔王「……」ガッ!

勇者「それでもよ……」

勇者「俺たちはやるしかねえんだ」

勇者「チャイルドの爺さんにも言っちまっただろ? 覚悟はあるって」

勇者「だから、チャイルドの爺さんに言わせれば陳腐な回答だけど」

勇者「俺たちなりの目標が、ゴールが、そこにあればそれでいいんだ」

勇者「それだけでいい。願うことは、許されていいはずだ」



419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:29:19.27 ID:o67lB3s0

魔王「……」

勇者「……」

魔王「……少し、ペースを上げるか」

勇者「……そうだな」

魔王「シュー……」

勇者「ハー……」






勇者「“紫音絶命剣!”」 魔王「“円舞陣!”」


 ガキャキャキャキャン――



420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:30:53.49 ID:o67lB3s0

魔王「なあ! 全てが終わったら何がしたい!?」ジャッ!

勇者「何、か……そうだなあ」ガキン!

勇者「俺は……」

勇者「俺は、ハルにプロポーズするぜ!」ビッ!

魔王「そうか、今から健闘を祈らせてもらうぞ!」キィイン!

勇者「お前はどうすんだよ!」シャッ!

魔王「我輩か……そうだな」ギッ!

魔王「何がしたいという前に、妻に埋め合わせをせねばならんな!」ギャッ!

勇者「ずっと相手してないもんな!」ガキン! シュッ!

魔王「そうだ! この苦労、童貞にはわかるまい!」キィン!

勇者「言ってろ、すぐに追いついてやるかんな!」ギュン!

魔王「ふはははは!」キン!

勇者「へっ!」



421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:32:34.83 ID:o67lB3s0

<祭り一日目.朝.アジト.広間>


リーダー「おめえら! ついにこの日が来たぞ!」


 オオオオ!


リーダー「今更ぐだぐだ長台詞ぶっ放す気はねえ! 全員気合入れてかかれえ!」


 オオオオオオオオ――!


リーダー「――よし。さて、決行は夜だが、作戦は今から始まるぜ。該当者は作業を開始しろ」

メンバーs「了解!」



422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:33:13.97 ID:o67lB3s0

魔王「――♪」ウキウキ

勇者「……」ジト

リーダー「ああ、おめえらは前にも言ったとおり行動は夜からだ」

リーダー「祭り、行ってきていいぜえ」

魔王「よっしゃ――!」

勇者「はぁ……」

     ・
     ・
     ・

魔王「全財産なくなった」

勇者「……」



423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:33:58.09 ID:o67lB3s0


 ガヤガヤ ガヤガヤ……


勇者「はぁ!? どういうことだよそれ! 祭りに来てまだ三十分だぞ!?」

魔王「仕方なかろうもん。高い買い物だったし」

勇者「山賊から奪った金ってけっこうな額だったと記憶しているが?」

魔王「ふははは」

勇者「笑ってごまかすなよ、まったく。俺しーらね」

魔王「そんなこというな、お前の金も含めて所持金ゼロなんだぞ?」

勇者「」



424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:34:52.45 ID:o67lB3s0


 グギギギギギギギギギ!


勇者「今何つった? 今何つった? 俺よく聞こえなかったんだが?」

魔王「だから我輩とお前、所持金ゼロ。OK?」

勇者「何でだ!? いつの間に財布を抜いた!?」

魔王「お前が無用心すぎるのが良くない」

勇者「盗るほうが全面的に悪い!!」

魔王「それはいいんだがそろそろ我輩の首が折れるぞ」

勇者「そのままおっちねえええええ!」ギギギギ!

魔王「ふむ」スルリ

勇者「あ、てめ!」



425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:35:28.98 ID:o67lB3s0

魔王「まあ待てまあ待て」

勇者「俺は今すぐお前を締め殺さにゃ収まらん……!」ギリギリ……

魔王「待てと言うとろうに。我輩が何を買ったか聞いてからでも遅くはあるまい」

勇者「……何を買ったってんだよ」

魔王「ふふ、聞いて驚け見て笑え! これこそ我輩が求めた最高級品!」

魔王「愛想笑いの指輪!」デデーン

勇者「……」

魔王「我輩、港町での占いがずっと気になっておった。祭りで買い物をせよと言うあの占い」

魔王「買えというからには高いもののほうがよいに決まっている。そしてなおかつ埋め合わせ用の妻へのプレゼントにもなる」

魔王「我輩やはり冴えている。――ってやめろシェロ、首を絞めるな」

勇者「断る! 引きちぎってやるからここで体に別れを告げろ!」

魔王「おお痛い」



426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:36:13.78 ID:o67lB3s0

勇者「今からでも遅くはねえ! 返品して来い!」

魔王「その商人、我輩が買った後逃げるように去っていったから無理だと思うぞ」

勇者「やっぱり騙されてるんじゃねえかああああああ!」

魔王「騙されたとは人聞きが悪いな」

勇者「事実だ!」

魔王「まあ勉強代だと思えば」

勇者「自分の勉強に人を巻き込むなってんだ!」

魔王「落ち着けシェロ。そのままだと脳内血管がバチ切れるぞ」

勇者「誰のせいだと……」ゼイ ハア

魔王「ふむ……」スルリ



427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:36:53.01 ID:o67lB3s0

魔王「まあ、買ってしまったものはどうしようもない。諦めるんだな」

勇者「納得いかねー!」

魔王「それより祭りを楽しもうではないか」

勇者「所持金がなけりゃ祭りの楽しみ七割減だけどな……!」

魔王「甘いなシェロ。祭りとはまず、その雰囲気を楽しむものなのだ」


 ガヤガヤ ガヤガヤ……


魔王「この人ごみ、この熱気。……最高だ」

勇者「へいへい、祭り検定一級はすごいざんすね」



428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:37:36.82 ID:o67lB3s0

勇者「……まったく今夜が最後かも知れないってのにいい気なもんだ」

魔王「最後かもしれんからだよ、シェロ」

勇者「……」

魔王「今夜を境に何もかもが変わってしまうかもしれない。だからこそ今を楽しまなければ」

勇者「……」

魔王「お、あちらで人々が踊っているぞ! 我輩らも混じろう!」

勇者「お、おい、引っ張るなって……」



429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:38:38.23 ID:o67lB3s0

<同刻.キムラック神殿>


 ガヤガヤ ガヤガヤ……


「……」ツカツカ


 ギィ――バタン


兵「ん? ここは立入禁止だぞ。すぐに出て行け」

「……」

兵「! これは失礼しました! ……しかし、今はここから先は誰も通すなといわれています。どうかお引取りください」

「……」ツカツカ

兵「どうかお引取りを」スッ

「……」シュッ!

兵「うぐ!」ドサ

「……はぁ」ツカツカ



430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:39:33.65 ID:o67lB3s0

<キムラック神殿.地下>


 ツカツカ……


大神官「! お前、生きていたのか!」

「……」

大神官「……何をしにここに来た? いや、今は立入禁止にしておいたはず。兵はどうした?」

「……」

大神官「……どういうつもりだ」



431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:40:23.85 ID:o67lB3s0

「…… 俺ねえ、決めたんだ」

大神官「……?」

「あいつらは俺がじきじきに、この手で殺してやるって」

「俺があいつらを殺してやらなきゃいけないんだ」

「それが俺の最後の願いなんだ」

大神官「何を……」

「だから今まで世話になっといてほんとにごめんだけど……」ジャキン!

大神官「!」

「――ばいばい」タンッ


  ――ザシュ……



432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:41:06.60 ID:o67lB3s0

<夕方.レジスタンスアジト>


リーダー「よお、お帰り、勇者に魔王」

勇者「ああ」

魔王「うむ」

リーダー「作戦決行は夜中だ。まだ時間がある。部屋で待機していてくれな」

勇者「了解」




<六時間後.部屋>


魔王「……」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「……」



433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:41:50.58 ID:o67lB3s0

勇者「……そろそろか」

魔王「そうであるな……」

勇者「……」

魔王「……?」

勇者「どうした?」

魔王「今、何か聞こえたような気が……」


 ドンドンドン!


魔王・勇者「?」



434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:43:42.23 ID:o67lB3s0

 ガチャ――


勇者「どうした?」

メンバー2「逃げるっす!」

魔王「?」

メンバー2「詳しく話している時間はないっすけど、襲撃っす! 早く部屋を出るっす!」

勇者「なんだって?」

メンバー2「だから襲撃っすよ!!」


     ※


リーダー「応戦しろ! ありったけの拳銃持って来い!」

メンバー3「だめだジゼル! 奴ら拳銃が効いてるようには見えない!」



勇者「どうした!?」タッタッタ

リーダー「見ての通り襲撃だ! アジトの場所がバレたらしい!」



435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:44:31.06 ID:o67lB3s0

魔王「敵は?」

リーダー「なんだかよくわからん不定形の異形だ! 拳銃が効きゃしねえ!」

勇者「まさか……!」

リーダー「来た!」


 ブワ!


刺客「キー!」

魔王「やっぱりか!」

勇者「応戦するぞ!」

リーダー「待て!」

勇者「なんだよ!?」



436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:45:44.81 ID:o67lB3s0

リーダー「ここはもうだめだ! 敵の数も多い! いくら応戦しようとも時間の問題なんだよ!」

リーダー「だからおめえらは非常口から逃げやがれ!」

勇者「でもよ……」

リーダー「いいから! 最終作戦はまだ終わっちゃいねえんだ! おめえらはキムラック神殿へ行け! 今を逃したら二度と乗り込めねえぞ!」

勇者「だが……」

魔王「行くぞシェロ」

勇者「魔王?」

魔王「我輩ら全員の目標は一つ。人工的平和維持の破棄だ。ならばやるべきことはひとつである。違うか?」

勇者「だが……いや。わかった。すぐに行こう!」

勇者「ジゼル、先に行かせてもらう! せいぜい殺されるんじゃねえぞ!」

リーダー「おう!」



437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:47:11.61 ID:o67lB3s0

 タッタッタッタ――


魔王「この扉だったな」ガチャ

勇者「う、くっさ!」

魔王「どうやら下水道のようだ。臭いにかまっている暇はない。行くぞ」

勇者「……了解」


 バシャバシャバシャバシャ――


魔王「――明かりだ」

勇者「あれが出口か」



438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:47:49.35 ID:o67lB3s0

<川>


勇者「よっこらしょっと」

魔王「ふう……」

勇者「ここは……昼に通ったところだな」

魔王「ならば神殿はあちらだ。急ごう」

勇者「ああ」


 タッタッタッタ――



439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:48:36.63 ID:o67lB3s0

 タッタッタッタ――


魔王「……」

勇者「……」

魔王「……奇妙だな」

勇者「…… ああ」

魔王「祭りの夜なのに誰もいない……」

勇者「それだけじゃねえ。周りの民家からも人の気配がしねえ……」

魔王「まったくの無音であるな……」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「俺たちがアジトにいる数時間のうちに何があったっていうんだ?」

魔王「……とにかく神殿に急行しよう」

勇者「おう」


 タッタッタッタ――



440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:49:30.55 ID:o67lB3s0

<キムラック神殿前>


 タッタッタッタ――


魔王・勇者「!」ザッ



カイザー刺客「ギギギ……」



勇者「こりゃまたでかいのを持ってきたな」

魔王「われわれの二倍くらいの大きさか」



441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:50:20.69 ID:o67lB3s0


カイザー刺客「ギガガガガガガ!」



魔王「とはいえ攻略法は前回までとかわらんだろう。一気に行くぞ」

勇者「了解だ」

魔王「“氷河よ!”」

勇者「でえりゃっ!」ダンッ!



442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:51:22.14 ID:o67lB3s0

<キムラック神殿内>


 ギィ――


魔王「……」

勇者「……」

魔王「……やはり誰もいないな」

勇者「神体はどこだ?」

魔王「……それらしきものはない」

勇者「! 奥の扉なんか怪しくないか?」

魔王「どれ……」


 ギィ――


勇者「……階段だ」

魔王「地下室があるということだな。行こう」



443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:52:01.05 ID:o67lB3s0

<キムラック神殿地下>


――勝利以外に目を向けるな

――殺すこと以外を考えるな

――ただただ集中しろ

――自分が相手にどう勝つか

――自分が相手をどう殺すか

――勝利こそ唯一絶対の真実

―― 敗北は死

――勝利を得るため手を尽くせ

――そこにしか生きる道はないのだから



444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:52:55.93 ID:o67lB3s0

―― 幸せを望むな

――意味を求めるな

――むなしさに足を取られるな

――それらは全て隙を生む

―― 隙は敗北を呼ぶ

――敗北は死だ

――だからただ強くもがけ

――ただ強く勝利を希求しろ

―― 自分のため私のため国のため

――勝て!




「……」



445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:53:49.89 ID:o67lB3s0


 タッタッタッタ――ザッ……


魔王「ここは……。ずいぶん広いところに出たな」

勇者「魔王! あれ!」

魔王「あれが、神体……」

勇者「思ってたよりずっとでかいな…」

魔王「うむ。そして……」

勇者「……ああ」



「出迎えの言葉はいろいろ考えていたけれど……」

「いざとなるとなかなか思いつかないもんだね。だからやっぱりこう言おう」



スタッバー「……やあやあ、オフタリさん」

魔王「お前……」

勇者「生きていたか、スタッバー!」



446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:54:37.85 ID:o67lB3s0

スタッバー「生きていたか、ってまたずいぶんな挨拶だね。こっちはずっと待っていたのに」

勇者「待っていた?」

スタッバー「そうだよ。俺はずっと待っていた。俺と対等にやり合える奴をね」

スタッバー「……そう、俺はいつだって待っていたんだ」

スタッバー「お前らみたいな奴を」

魔王「我輩らに負けた分際で何を言う。負け惜しみにもなっていないぞ」

スタッバー「痛いとこ突くね。でもその通りだ。俺は俺を倒せる奴らを待っていた」

スタッバー「俺は誰かに挑戦するってことがなかった」

スタッバー「それはそれで寂しいものさ」

勇者「……」

スタッバー「だから俺は今度はお前らに全てを賭けて挑戦するよ」

スタッバー「受けてほしい」

スタッバー「俺は勝つよ。勝たなきゃいけないんだ」



447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:55:35.39 ID:o67lB3s0

魔王「……どうせ受ける以外の答えをさせるつもりはないくせに」

スタッバー「ふふ、そうだね、その通りだ。じゃあこう言い直そう」

スタッバー「お前たちの短くも苛烈な英雄譚。その最終局面で立ちはだかるのはやはりこの俺だ!」

スタッバー「世界を救いたきゃ――」





スタッバー「俺を殺していけえ!」ゴゴゴ……!




勇者「……」スチャ

魔王「……」ジャキ



448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:57:20.24 ID:o67lB3s0

勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ!

スタッバー「……」ズドッ!

魔王「! 直撃したのに効いていない!? これは……」

スタッバー「反撃行くぞ!」




スタッバー「“惨劇を見た!”」グオッ!



 ドゴオオオオオオオオオオオオオ――!



勇者「う……」ドサア

魔王「な……」ドサア



449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:58:27.39 ID:o67lB3s0

スタッバー「うん、いい感じ」

勇者「これは……まさか……」

スタッバー「そう、当たり。あの魔術士がやっていたことと同じさ。俺は悪魔と契約した」

魔王「魔神契約……」

スタッバー「お? そう呼んでるの? いいネーミングだね」

魔王「貴様、正気か! あれは――」

スタッバー「寿命を縮める、でしょ? 承知の上さ」

勇者「なぜ……」

スタッバー「その答えはいつだってひとつだ! お前らに勝つため!」

スタッバー「さっきも言ったろう!? 俺はお前らに勝つために全てを賭ける!」

魔王「馬鹿な! 勝って、その後はどうする!? お前も一緒に死ぬというのか!?」

スタッバー「悪くないね! お前らに勝って最強の座を得た後なら死んでもいい! 俺は伝説になれる! 勇者と魔王という最強の双璧にうち勝った真の最強として!」

勇者「この! 大馬鹿野郎が!!」ダンッ ジャッ!



450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 21:59:23.57 ID:o67lB3s0

スタッバー「ふっ――」ギシ!

勇者「馬鹿な!? 素手で――!」

スタッバー「すっ――!」ドガッ!

勇者「がふっ!!」


 ズサアァ――――!


勇者「がは! げほ! ぐあ……!」ビクン!

魔王「大丈夫かシェロ!? 今何が起こった!?」

勇者「う、げぼっ」ビタビタビタ……

魔王「な、“治れ!”」ホワホワホワ……

勇者「ハァ……ハァ……」

魔王「何があった!? まったく見えなかったぞ!」



451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:00:23.95 ID:o67lB3s0

勇者「……殴られた」

魔王「『殴られた』? 馬鹿言え! あれはそんな威力じゃ……」

スタッバー「“崩しの拳”」

魔王「え?」

スタッバー「俺はそう呼んでる」

スタッバー「実を言うとね、俺、もうナイフは持てないんだ」

魔王「どういうことだ……?」

スタッバー「このように」ガシ

スタッバー「自身の握力で握り潰しちゃうから」グッ ―― サラ……

魔王(瓦礫を握り潰した!?)



452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:01:08.09 ID:o67lB3s0

スタッバー「最初は困ったよ。余りある筋力が全てをぶち壊しちゃうんだ」

スタッバー「――自分の身体すらも」

魔王「契約の、効果なのか?」

スタッバー「その通り。異常筋力。一歩歩くだけでも筋肉が自壊する。戦闘にいたっては自殺行為としか思えない」

スタッバー「契約直後はね、そのまま死ぬかと思ったよ、うん。――でもね」

勇者「……」

スタッバー「悪霊がね、囁くんだ。俺の脳みその奥底から。壊せ。壊せって」

スタッバー「俺はその声に従った。動きの全てが収束し身体の崩壊は止まった。俺は生存に成功したんだ」

スタッバー「今の俺は、最小の動きで最大の威力を導き出すことができる……」

スタッバー「人体の破壊は朝飯前。今の俺なら城門すら打ち破れる」



453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:02:00.17 ID:o67lB3s0

勇者「ぐ……」ムクリ

魔王「大丈夫か?」

勇者「お前は……」

スタッバー「ん?」

勇者「お前は、何で正気なんだ?」

スタッバー「ああ、そのこと」

魔王「そういえばそうだ……」

スタッバー「簡単だよ。あの魔術士の場合、一人であの強大な力を引き受けたから。そりゃ精神が壊れるさ」

スタッバー「俺の場合は違うんだ。大勢でその負担を分け合ってる」

勇者「大勢?」

魔王「! ……まさか!」

スタッバー「そう、その通り」








スタッバー「王都の人間、全員生贄に捧げちゃった」



454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:03:04.29 ID:o67lB3s0

勇者「何だと!?」

魔王「道理で人間がいないわけだ!」

スタッバー「一人一人殺していくのは骨が折れたぜ」

スタッバー「ひょっとしたら明日あたり、どっかで大きな記事になるかもな! 一夜にして消えた王都民、ってさ!」

勇者「てめえ!」

魔王「こいつ……」

スタッバー「終末は目前だ!」

スタッバー「――どうせ世界が終わるのならちょっとぐらいの犠牲、かまわないと思うけどな」

勇者「馬鹿野郎!」

魔王「……」



455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:03:48.32 ID:o67lB3s0

スタッバー「繰り返しになるけど、俺は全てを賭けると決めた。俺の命も他人の命も同じことだ!」

魔王「どうしてそこまで……」

スタッバー「言ったろう! お前らに勝つためだ! 今の俺にはそれが全てだ!」ダンッ!


 ブオ――!


勇者「くっ!」ガキキン!

勇者(素手なのに重い! 逸らすので精一杯だ!)

スタッバー「おらおら!」シュッ!

勇者「チッ――」バックステップ

魔王「光よ!」ボッ!


 ――ズド!


スタッバー「無駄だ!」



456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:04:47.25 ID:o67lB3s0

スタッバー「“惨劇を見た!”」カッ!


 ガガガガガガ――!


勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」バキン!

勇者「が――!」ドサ!

スタッバー「まともに受けようとしたらだめだよ」




魔王「“円舞陣!”」ギュオ!

スタッバー「魔王みたいに隠れてやり過ごさなきゃ」ガキ……

魔王「刃が通らない!?」

スタッバー「はっ――」ビュッ!

魔王「う……」チッ――

魔王(かすっただけなのに全部もっていかれそうだ……!)



457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:05:46.67 ID:o67lB3s0

勇者「この――」ムクリ

勇者「合わせろ魔王!」

魔王「よし来た!」



勇者「“十字剣!”」 魔王「“兜割り!”」

スタッバー「……」キキン!

勇者「“ラウンドセイバー!”」 魔王「“かすみ斬り!”」

スタッバー「……」キャキャン!

勇者・魔王「おおおおおおおおお!」




勇者「“紫音絶命剣!”」 魔王「“円舞陣!”」

スタッバー「無駄」ガキン!



458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:07:19.15 ID:o67lB3s0

スタッバー「“破局の日は――”」

魔王「……!」

勇者「まず――!」

スタッバー「“――近い!”」カッ


 ズドオオオオオオオオオオッ――!


勇者「がっ……」ドサッ

魔王「ぬ……」ズサア



スタッバー「立て! まだまだだ! まだお前らはこんなもんじゃねえだろ! もっと本気を出してみろ!!」

勇者「くっ……」ムク

魔王「っ……」ムクリ



459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:09:09.93 ID:o67lB3s0

スタッバー「死ぬ気で踏ん張れ! 全力をひりだせ! そして俺に潰されろおおおおおおおお!!」ダンッ!


 ――タァン!


スタッバー「いてえ! 目が!」

勇者「よし、ヘイルストームが効いた!」

スタッバー「やればできるじゃねえか! でもまだまだ!」




魔王「こちらだ “光よ”」ボッ!

スタッバー「背後!?」ズガァ!

魔王「ゼロ距離ならそこそこ効くだろう」

スタッバー「っ、とと……」ヨロ



460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:09:59.62 ID:o67lB3s0

勇者「終わりだ!」バッ

勇者(魔神契約は人工的平和維持契約を応用したもの! エネルギー体の吸収・放出がその本質!)

勇者「ならそれごとまるごと消滅させちまえばいい!」

勇者「“我が契約により――”」

スタッバー「おせえ! “惨劇を見た!”」ドゴオオオオオ――!

勇者「がはっ」ドサッ!

スタッバー「これでジ・エンドだ勇者!」シュッ!

魔王「くっ、“天魔よ!”」ゴッ!

スタッバー「ハッ」パシン!

魔王(物質崩壊の魔術をも弾くというのか!)

勇者「この……!」ムクリ バックステップ

勇者「今度こそ! “我が契約により、聖戦よ終われ!”」ズオ――!


 カッ――――!



461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:14:03.73 ID:o67lB3s0

 モクモク――


勇者「……」

勇者「外れた……! どこに行った!?」

魔王(この広間にはいくつもの柱がある。そのどれかに……)


 ダンッ――!


魔王・勇者「!!」

スタッバー「でやあああああ!」ジャッ――!

魔王「く……!」チッ――

勇者「大丈夫か!?」

魔王「かすっただけだ! それよりあいつは!?」

勇者「また隠れたみたいだぜ……!」



462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:14:41.56 ID:o67lB3s0

勇者「くそ……卑怯な」

魔王「……どこから来る?」


 ダンッ――


勇者「来たか!?」

魔王「……いや、移動した音だ」


 ダンッ――


魔王(……どこだ?)

勇者(右か……左か……)



463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:15:53.63 ID:o67lB3s0

「ふふ……」


 ダンッ――


「ふふふふ……」


 ダンッ――


「ふふふふあはははははははは!」


 ダンッ――


魔王(声が反響してどこから聞こえてくるのかわからない……!)

「いやあ、楽しい! 愉快だ! こんなに楽しいのは何年ぶり……いや生まれて初めてかもしれない!」


 ダンッ――


勇者(俺らの周りをぐるぐる回っている、のか……?)



464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:16:44.48 ID:o67lB3s0

「お前らにわかるかなあ、最強たるものの孤独って奴が!?」


 ダンッ――


「生まれたときから最強を約束されていた!」


 ダンッ――


「常に頂点の座についていた!」


 ダンッ――


「常に頂点を強いられた!」


 ダンッ――


「俺の苦しさわかるかなあ!」



465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:17:31.34 ID:o67lB3s0

「俺の寂しさわかるかなあ!」


 ダンッ――


「誰もいないんだ! 俺と肩を並べる奴が!」


 ダンッ――


「勇者と魔王がタッグを組んだって聞いたときは震えたよ! ついに理解者ができるかもって!」


 ダンッ――


「俺の期待はすぐに裏切られた! ぜんぜん強くなかったから!」


 ダンッ――


「俺はまた独りになった!」


 ダンッ――



466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:18:18.89 ID:o67lB3s0

「だがお前らはすぐに俺に追いついた!」


 ダンッ――


「初めての敗北だ!」


 ダンッ――


「初めて喜悦と屈辱を味わった!」


 ダンッ――



467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:19:08.20 ID:o67lB3s0

魔王「何かと思えば駄々っ子の繰言か!」

「はは、その通りだ。今まで望むものが全て手に入った俺はまったくの子供なんだよきっと。でも ――」



「俺は最強たるものに執着する!」


 ダンッ――


「俺は最強たるものを希求する!」


 ダンッ――



468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:20:00.36 ID:o67lB3s0

「俺は喜悦と憎悪でもってお前らをぶち壊す!」


 ダンッ――


「俺に最強の座を――」


 ザッ――


「返せえええええええええええええええ!」


 ズダンッ――――――!!


魔王・勇者(来る……!)



469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:21:01.89 ID:o67lB3s0

 ギュオ――ッ!


魔王「!」

スタッバー「おせえ!」ドグシャァァァッ!

魔王「ぐは!!」ズサァァ!

勇者「魔王!」

勇者「ちくしょう! “我は放つ――”」


 タァン――


勇者「な!?」ブシャ!

勇者(ヘイルストームが暴発した! 脚が……!)ガク

スタッバー「運がねえなあ!」ズドゴオォォッ!

勇者「ごふっ!!」ドッ! ゴロゴロゴロ



470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:22:15.47 ID:o67lB3s0

スタッバー「……」

魔王「ぐあ、う、ゴボ……」ビタビタビタ……

勇者「……ごぶっ!」ドブシャ!

スタッバー「二人とも直撃。即死ではないけれどももう立ち上がれないだろうね」

魔王「……」ビクン

勇者「ゼイ ゼイ……」

スタッバー「……ゲームセットだ」ツカツカツカ……


 ブオン――


スタッバー「ん? ああ、始まったか」

魔王・勇者「……?」



471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:23:05.90 ID:o67lB3s0

魔王「何の、ゴボ……ことだ?」

スタッバー「ついに終わりのときが始まったんだよ」

スタッバー「ほら、神体を見てみな」

勇者(……燐光を、放っている)

スタッバー「ついに世界の破局が始まったんだ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!


スタッバー「『破滅の門』が開く……!」


 カッ――ズオオオオオオオオオ!


魔王・勇者「……!」



472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:24:15.09 ID:o67lB3s0

魔王(神体を中心に闇が渦を巻いている……)

勇者(どんどん広がっていく……!)

スタッバー「はははははははは! ついに異世界との経路がつながった! 破壊の意志、お前らの言うところの『魔神』が来るぞ!」

スタッバー「残念だったなあ、お前ら! あと一歩! あと数秒だった! 俺を倒すことができなかった!」

魔王「く……」

スタッバー「もう遅い! 俺を倒したところで契約を破棄したところで何にもならない!」

スタッバー「お前らが成し遂げたかったことも、守りたかったものも全てここで終わりだ!」

スタッバー「世界は、終わりだ!」

スタッバー「お前らはそこで破局を見ていろ!」

スタッバー「ヒャ――――ッハッハッハッハッハッハ!!!!」



473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:25:21.73 ID:o67lB3s0

  ――ドクン


魔王(ここで、終わり……?)

勇者(世界が、終わる……?)


 ――ドクン


魔王(我輩らの旅は……)

勇者(俺たちの努力は、奮闘は……)


 ――ドクン


魔王・勇者(無駄だった……?)


 ――ドクン


勇者「……ハル」

魔王「父、上……母上」



474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:26:06.30 ID:o67lB3s0







『―― しっかりしなさいよね、シェロ』

『――泣いてはいけませんよ、ニギ』










勇者・魔王「うおおおおおおおおおおお――――ッッッ!!!」

スタッバー「!?」



475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:26:59.19 ID:o67lB3s0

勇者「ゼイ ハァ……」

魔王「フゥ ゼイ……ゴボ!」ビチャ……

スタッバー「なぜ立てる!? いや、なぜ立つ!? お前らは、お前らの願いはもう潰えた!」

魔王・勇者「……」

スタッバー「……」

スタッバー「……そうか。そうかよ。お前らは『そういう』奴らなんだな」

魔王「別に、やけっぱちに、なったつもりはない……」

勇者「ただな、最後まで、粘らなきゃ、申し訳が、たたねえんだよ……」

魔王「最後まで、諦めるか……!」

勇者「最後まで、潰れるものか……!」

魔王「世界を――」

勇者「終わらせるものか!」



476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:28:27.11 ID:o67lB3s0

スタッバー「……」

魔王「ハァ ハァ……」

勇者「ゼッ ゼッ……」

スタッバー「俺は勇者の村の出身じゃない」

勇者「……?」

スタッバー「だからよくは知らない。けどこれだけは知っている。先代魔王を倒した勇者の二つ名」



スタッバー「――鋼の後継。サクセサー・オブ・レザー・エッジ」



勇者「……」

スタッバー「俺は王都の魔人の名において勇者、お前をそう命名するよ」

スタッバー「だから――」



477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:29:37.93 ID:o67lB3s0

スタッバー「行くぞ! サクセサー・オブ・レザー・エッジ!」

スタッバー「審判だ! お前はエセ勇者か! それとも真に世界を救う勇者か!」

スタッバー「俺に勝って最強を手に入れてみろ!」

スタッバー「俺から世界を、取り戻してみろおおおおおおお!」ダンッ!




勇者「俺がエセかどうかなんてもうどうでもいい!」

勇者「そんな俺でも守れるものがあるなら!」

勇者「それだけでもう、十分なんだ!!」ダンッ!



478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:30:43.64 ID:o67lB3s0

スタッバー「おおおおおおおおおおおおおおお!」

勇者「がああああああああああああああああ!」

スタッバー「っらあ ――ッ!!」ジャ――

勇者「そこだっ!!」ブン


 カァン――!


スタッバー(!? 拳銃を俺の足元に投げた!?)



479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:31:38.17 ID:o67lB3s0

スタッバー「それで牽制のつもりか!? お粗末だな!」


 タァン――ッッ!


スタッバー「!?」ズド!

勇者(そう、俺が狙ったのは暴発!)

スタッバー「――この!」ジャッ!!

勇者(突進力の鈍った拳なら今の俺でも何とか避けられる!!)スッ!


 チッ――


スタッバー「!!?」



480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:32:39.47 ID:o67lB3s0

勇者(懐に入った!)

勇者(狙うはひとつ――!)

勇者「心臓への――」




勇者「――『両手寸打』ッッ!!!」バッ!




スタッバー「――――ッ!!」




勇者「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」




 ズドオオオオォォォォン!!



481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:33:27.24 ID:o67lB3s0



スタッバー「――っ!」ドサァッ!




スタッバー「……」

勇者「……」

魔王「……」



スタッバー「ま――」



スタッバー「まだだ!」ガバッ

勇者「!」

スタッバー「土壇場の付け焼刃で俺をしとめられると思うなっ!!」

魔王「シェロ! 奴の動きを止めろ! それで駄目なら諦めろ!」

勇者「了解だ!」



482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:34:03.56 ID:o67lB3s0

スタッバー「“惨劇を――”」

勇者「“我は紡ぐ――”」




スタッバー「“――見た!!”」 勇者「“――光輪の鎧!”」



 ドゴオオオオオオオォォォォォォォ!



483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:34:56.61 ID:o67lB3s0

スタッバー「……」

勇者「……」

スタッバー「ハッ……」

勇者「ぐ……」ドサァ

魔王「シェロ!」

スタッバー「サクセサー・オブ・レザー・エッジ、お前、傷が深過ぎて頭がどうかしちまったんじゃないのか?」



スタッバー「俺に防御壁を張るなんてよ!」

魔王「――いや、それでいい。よくやったシェロ」

スタッバー「は?」



 ボロ……



スタッバー「!?」



484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:35:52.89 ID:o67lB3s0

スタッバー(俺の……)

スタッバー「俺の手が……」

スタッバー「崩れ落ちた……!?」

魔王「成功だ……」

スタッバー「俺に、何をした!」

魔王「たいしたことではない。たいしたことではないのだ」

スタッバー「……?」

魔王「時計の針をちょっと進めただけ。ほんのそれだけのこと」

スタッバー「なんだと……!?」



485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:36:36.79 ID:o67lB3s0

魔王「我輩はチャイルドの助言を受け、毎日欠かさず瞑想を行っていた」

魔王「毎日少しずつ大きくなる歯車の音」

魔王「それは時が進む音」

魔王「いつしか我輩はそれに干渉できるようになっていた」

魔王「……魔神契約。それは契約者の身体能力、魔術能力を大幅に吊り上げる」

魔王「それは単純ゆえに弱点がない」

魔王「……寿命が削れること以外は」

スタッバー「……」



486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:38:27.01 ID:o67lB3s0

魔王「チャイルドは気付いていたのだ。魔神契約の弱点に」

魔王「そしてお前が契約をする可能性に」

魔王「だったら後は簡単な話だ。お前の死期を早めてやればいい」

魔王「ただ、我輩は限られた条件でしかそれができない」

スタッバー「時間操作……。それで防御壁で俺の動きを止めたわけか」

魔王「その通りだ」

魔王「あとは動かせる時間が問題だったが――」

スタッバー「……俺を見れば一目瞭然だな」

魔王「そうだな」



487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:39:21.58 ID:o67lB3s0

勇者「げほ……」ムクリ

スタッバー「……そうか。生きていたかい、サクセサー・オブ・レザー・エッジ」

勇者「……なんとかな」

スタッバー「……よし、最後だ。何とか俺の右手は生きてる」

勇者「……オーケー。わかった」

魔王「いいのか? 放っておいてもこいつは終わりだぞ?」

勇者「いいんだ。どうせ最後だ」

魔王「……そうか」



488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:39:51.25 ID:o67lB3s0

スタッバー「……」

勇者「……」

スタッバー「……」

勇者「……」







スタッバー「でえりゃッ!」ジャッ!

勇者「うらあッ!」ビッ!





489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:40:30.12 ID:o67lB3s0

スタッバー「……」

勇者「……」

魔王「……」

スタッバー「……これで終わり、だな」

勇者「そうだな」

スタッバー「あーあ、俺の人生ここまでかあ」

勇者「後悔してるのか?」

スタッバー「いや、ぜんぜん。下手な老人よりよっぽど充実した人生だったよ」

勇者「……そうか」

スタッバー「むしろ楽しかったっていうか……」

勇者「ん……」



490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:41:19.14 ID:o67lB3s0

スタッバー「……」

スタッバー「なあサクセサー・オブ・レザー・エッジ」

勇者「なんだ?」

スタッバー「世界、救えるといいな」

勇者「ああ、そうだな」

スタッバー「俺は先に退場するよ」

勇者「……」

スタッバー「……じゃあな」


 ボロ ボロボロボロ――






魔王「逝ったか……」

勇者「……ああ」



491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:42:05.43 ID:o67lB3s0

魔王「……。さて」

勇者「ああ!」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



魔王「『破滅の門』」

勇者「こいつを何とかしねえと世界が終わる!」

魔王「とは言っても……」

勇者「ああ! でかい!」



 ビュオオオオオオ――!



勇者「く……!」

魔王「異世界の風だ」



492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:42:59.81 ID:o67lB3s0

勇者「どうするよ魔王!? こいつは一筋縄じゃいかねえ!」

魔王「……」


 ビュオオオオオオオオオオ――ッ!


勇者「チッ、一か八かありったけの魔術を叩き込んでみようぜ! それで吹き飛ばせればめっけもんだ!」

魔王「……」

勇者「よし! 用意しろ魔王!」

勇者「“我は放つ――!”」





魔王「“縛縄よ!”」シュルルルル!

勇者「うお!」ギシ!



493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:43:35.29 ID:o67lB3s0

勇者「おい! 魔王! 魔術を間違えてるぞ! こんなときに俺を縛ってどうする!」

魔王「……これでよいのだシェロ」

勇者「は? どういうことだ! 早くほどけ!」

魔王「シェロ、破滅の門は我輩一人で止めるよ」

勇者「できるのか、魔王!?」

魔王「ああできる」








魔王「我輩の命と引き換えなら」

勇者「何!?」



494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:45:11.06 ID:o67lB3s0

勇者「それは、どういうことだ!?」

魔王「我輩は瞑想により時間と空間、精神に干渉する方法を身につけた。その能力を限界まで使えば破滅の門を吹き飛ばせるだろう。そう確信している」

魔王「ただ、我輩の力は小さい。そのためには我輩の命を犠牲にするしかないのだ」

勇者「……」

魔王「……」

魔王「シェロ、長いようで短かい旅だったな」

勇者「……ほどけよ」

魔王「それでも我輩は楽しかったぞ」

勇者「……ほどけって」

魔王「……達者でな、シェロ」

勇者「ほどけっつってんだろ!」



495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:47:04.97 ID:o67lB3s0

勇者「なんだよそれ! ただの格好つけじゃねえか、ふざけんな! 何が『楽しかった』だ! お前しか楽しんでねえじゃねえか!」

勇者「それに自分の命と引き換え? くだらねえヒロイズムに酔ってんじゃねえ!」

勇者「目を覚ませ! ほかにもっといい手段はあるはずだ!」

勇者「だから死ぬなんて二度というな!」

魔王「……お前なら止めると思ったよ。お前、実は優しいからな」

魔王「しかし、時間はない。確実な方法もほかにないのだ」

勇者「でもよ!」

魔王「わかれ、シェロ」

勇者「わかってたまるか!」

勇者「大体最初から世界のために戦っていたのはお前だけじゃねえか」

勇者「たった一人で世界を敵に回しても救おうとしてたじゃねえか!」

勇者「最後まで背負ってんじゃねえよ! 気負ってんじゃねえよ!」

勇者「俺にも何かさせろよぉ!」



496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:47:55.32 ID:o67lB3s0

魔王「すまん、シェロ」

勇者「謝る暇があったら早くほどけ!」

魔王「それはできんな」

勇者「くそっ、このっ!」ギシ ギシ

魔王「無理だ。あの強化体の魔術士をも縛った魔術だ。そう簡単にはほどけん」

魔王「ではさらばだ」

勇者「くそおおおおおお!」










魔王「あ、そうそう」

勇者「え?」



497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:48:53.85 ID:o67lB3s0

魔王「お前に装備させた呪いの首輪だがな」

勇者「?」









魔王「ありゃただのペット用しつけグッズだ」

勇者「は?」

魔王「ペットがおいたをしたら電流を流す。死ぬことなんてありえない。オーケー?」

勇者「すまん、ちょっと何言ってるかわからない」

魔王「はずすための合言葉は『よくできました』だ」


 ガチャ――



498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:50:03.68 ID:o67lB3s0

魔王「これでもう心残りはない。行くとするか」

勇者「俺をさんざん混乱させておいて行く気かよ」

魔王「いやあ楽しかった楽しかった」

勇者「お前はひどい奴だ」

魔王「そうだな、我輩はひどい奴だ」

勇者「約束しろよ」

魔王「ん?」

勇者「絶対生きてまた俺に会うって」

魔王「それはできかねるな」

勇者「いいから約束しろ、ニギ!」

魔王「……。お前、名前で……」

勇者「わざとだ」

魔王「……」



499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:50:57.08 ID:o67lB3s0

魔王「……はは、そうか。……そうか」

魔王「――わかった、約束しよう。我輩は生きて、お前に再会する」

勇者「ニギは生きてシェロに再会する。じゃないとお前の奥さんにどう弁明していいかわからん」

魔王「……わかった」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「行ってこい」

魔王「ああ、行ってくる」



500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:51:45.23 ID:o67lB3s0

勇者「絶対だからな! 帰ってこいよ!」

魔王「絶対かどうかはわからんが帰れるよう努力するよ」

勇者「絶対だ! それ以外は許さん!」

魔王「それは困ったなあ……」






魔王「本当に、困った……」



501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:52:47.27 ID:o67lB3s0

それを最後に魔王は……ニギは破滅の門の闇に飛び込んだ

その瞬間、破滅の門は目が眩まんばかりに輝いた

それから大きく渦を巻いて

激しい稲光と、熱衝撃波を放出してしばらく揺らめいた

……揺らめいて、静かに、ゆっくりと霧散していった



しっかり見ていたはずだった

しっかり見届けたはずだった

けれども視界はふるふると歪んでしまっていて

喉の奥がひりひりと痛んで

どうしてもそこを動くことができなかった



502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:53:33.31 ID:o67lB3s0

―― そして今日も待っている

世界を救った、祭り好きの大魔王が

ひょっこりと自分に会いに来るような

そんな気がして

     ・
     ・
     ・



503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 22:54:07.91 ID:o67lB3s0




    ~END?~




504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:11:27.36 ID:o67lB3s0

     ・
     ・
     ・

<数十年後.世界のどこか.テラス>


歴史学者「――それから赤光帝0年、当時の王都民が集団失踪」

学者「原因は明らかになっていない」

学者「その後王都はメベレンストからトトカンタに移され赤光帝49年の現在に至る」

学者(……と、ここまでは一般に知られている事実)

学者(だがその裏には勇者と魔王の知られざる英雄譚があった)

学者(王都民の集団失踪の原因は、ある一人の男による大量殺人)

学者(その男を討ち取ったのが勇者と魔王である)



505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:13:18.81 ID:o67lB3s0

学者(さて、なぜ男が大量殺人を行うに至ったのか、いかなる手段でそれを可能にしたのか)

学者(それには当時の王都が行っていた『人工的平和維持機構』について言及しなければならない)

学者(当時、世界は約六百年という驚くべき長期間の安定状態にあった)

学者(今にして振り返れば不自然なことであるにもかかわらず、誰もが疑問に思っていなかった)

学者(先に述べた『人工的平和維持機構』によるものである)

学者(そこに疑問をはさんだのが、当時の魔物の一人。魔族の長、魔王。彼は機構が世界の破滅につながるとして当時の王都に迫った)

学者(小規模な戦闘状態に陥りいったんは平和条約を結んだものの、『人工的平和維持機構』の停止という条件を王都が破ったことで再び交戦状態に入った)

学者(魔王はわずか数年後に初代勇者に破れる。魔王の意志は次期魔王に受け継がれる)

学者(次期魔王は、彼を討伐しに単独やってきた勇者の村の最後の出身者を手駒にすることに成功)

学者(次期魔王は彼を引き連れ王都に乗り込んだ)

学者(大量殺戮者は当時、彼らを止めるための王都の刺客として動いていた)

学者(しかし、『最強』への渇望に駆られ『人工的平和維持機構』の人体強化契約に手を出す)

学者(それこそが大量殺戮を可能にした『手段』であり、彼が殺戮に至った『理由』なのである)

学者(次期魔王と勇者は彼を撃破。そして次期魔王の犠牲により、世界の破滅を回避することに成功)



506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:14:25.21 ID:o67lB3s0

学者「と、ここまで論文をまとめたはいいけど……」

学者「……誰も相手になんてしてくれなかった」

学者「でも……」

学者「誰が信じなくたって僕だけは信じる。あの尊敬する爺さんが言ってたことだから……!」



「考え事の最中すまんがよろしいだろうか」



学者「ん? なんか用かい?」

「実は、ここら辺に勇者が住んでると聞いてきたのだが」

学者「……」

「ん? 何だその顔は?」



507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:15:21.33 ID:o67lB3s0

学者「あなたも冷やかしに来たのかい?」

「は?」

学者「多いんだ、あなたみたいの」

「……」

学者「あなたもあれだろう? 勇者を自称するいたいけな老人を半信半疑にからかいに来たって奴だね?」

「……?」

学者「だけどね、僕の爺さんは本物の勇者だ! 遊び半分に来るんじゃない!」

「何か勘違いしとるようだが……」

学者「む、何がだい?」

「我輩は半信半疑ではなくちゃんと勇者だって信じとるよ」

学者「え?」



508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:16:22.74 ID:o67lB3s0

「我輩はかつて彼と一緒に旅をしておった。シェロから聞いたことはないか?」

学者「爺さんと、旅? ってことはあなたはまさか……」






魔王「そう、我輩は魔王ニギである」






学者「あなたが……!?」

学者「そんな馬鹿な! 彼は死んだはず!」

魔王「こうして生きているのだから仕方あるまい」

学者「でも、49年前、破滅の門を消滅させるために……!」

魔王「ああそのことか」



509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:18:02.69 ID:o67lB3s0

魔王「実はな、我輩の全力をつぎ込まなくても破滅の門の破壊は可能だったのだ」

学者「どういうことですか……!?」

魔王「我輩、当時王都の祭りで買い物をしたのだが」

学者「?」






魔王「そのとき買った指輪が、伝説に謳われる魔力増幅の指輪であったのだ」






学者「え?」

魔王「“光よ”×5ぐらいで破滅の門は消滅しおったよ」

学者「え?」



510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:19:34.80 ID:o67lB3s0

学者「え……じゃあ今まで何を?」

魔王「異世界をさまよっておった。異世界は半端ではなかったぞ」

学者「……」

魔王「延々とさまよった挙句、やっとついこの間こっちの世界に帰還することに成功したのだ」

学者「……」

魔王「長く帰らなかったものだから嫁に叩かれた」

学者「はあ」

魔王「ほれ、これがコブ」

学者「はあ」



511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:20:15.43 ID:o67lB3s0

魔王「と、言うことで我輩はシェロに会いに来たのだ」

学者「……」

魔王「シェロは元気であるか?」

学者「あ、ああ、まったくもって元気ですよ。今、呼んできます」

魔王「魔王がじきじきに来てやったのだ。さっさと出てくるように伝えろ」

学者「わ、わかりました! 爺さん、爺さーん!」



512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:21:58.13 ID:o67lB3s0

魔王「……」


 ヒュオ――


魔王「うむ、暖かい、いい風であるな……」


 ドタドタドタ――


魔王「ん……」

「ニギ!」




「――お帰り」




魔王「ああ。ただいま」



 ヒュオゥ――



513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:23:41.59 ID:o67lB3s0

title:魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」(第一部)




       ~END~


thank you for your reading,sien and criticism




514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:25:02.64 ID:lRxqOHwo
乙!



515 :アナウンス:2010/05/15(土) 23:30:48.08 ID:o67lB3s0
・と、いうわけで第一部終了。ここまでお疲れ様です。読んでいただきありがとうございました
・次回からは、番外編:勇者「観光地から~」 こちらも読んでいただければ幸いです



516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:36:33.06 ID:ldcVQdoo
乙! 
番外編も楽しみにしてます




519 :アナウンス:2010/05/15(土) 23:53:09.85 ID:o67lB3s0
○ さて、ここで質問

・二つ目。実はこれが聞きたくて投下ペースを上げたんだが、みんなが持っている魔王ニギのイメージはどんなのだろうか。
実は書いた張本人のくせして、魔王だけははっきりした外見イメージを持っていないんだ。長身なのか、それとも中背なのかもあいまい。新作製作の際の参考にしたので教えてもらえると助かる



520 :アナウンス:2010/05/15(土) 23:55:23.57 ID:o67lB3s0
・三つ目。第二部まで終了したら短編をいくつか投下しようと予定している。出来合いのものはあるんだけど、もしこんなのが読みたいというのがあれば、吟味した上で新たに書くので、どのタイミングでもいい、言ってくだちい
(台本形式か小説形式かの指定可。ない場合はこちらの自由で)

以上。長くて申し訳ない



521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/15(土) 23:56:10.72 ID:k38j/2so
さっぱりと終わって良い話だった
面白かったぜ
人のよっては唐突だ何だと言われそうだが
自分はこういう話好きだ




522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/16(日) 00:00:28.69 ID:h4kcHwDO

面白かったです

魔王は少なくとも勇者より頭ひとつ以上は背が高く
一見クールそうだが笑うとかわいいってイメージだ




524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/16(日) 00:02:49.60 ID:b2o3yNco
今ぱっと思いついたのはゼルダのガノンドロフかな
ゼルダやったことないけど

スタッバーだけはなぜか最初のスレからベルセルクのチャクラムとか使ってるヤツでイメージが固まってた

個人的に魔王の熟年夫婦っぷりを見てみたい




526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/16(日) 00:48:18.35 ID:BU1O9w.o
ニギはデカくて肩幅のある魔族みたいなイメージ



528 :アナウンス:2010/05/16(日) 06:10:41.82 ID:J.36aG20
・ニギのイメージ回答もありがとう。集計すると、おおむね長身でガタイがいいってかんじか。そんながっしりした奴があんなはしゃいでたと思うと胸が熱くなるな。参考にさせてもらうよ
・>>524 ググッたらシラットって奴が出てきたけどこいつかな。シャープな感じだね。あと熟年夫婦了解。気長に待ってくれ





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魔王・勇者SS   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
40692. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2014/01/03(金) 04:18 ▼このコメントに返信する
クソつまんねえ
43153. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2014/05/16(金) 18:02 ▼このコメントに返信する
まぁタダで読めるもんにしては悪くない
金払ってこのレベルなら燃やしたくもなるが
スタッバーのイメージは楚良だな
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