魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」

2010-11-24 (水) 12:17  魔王・勇者SS   11コメント  
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伝説の勇者の伝説 第1巻 [Blu-ray]

1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:36:41.35 ID:FUoQk8s0

<時刻不明.魔王城最深部>



魔王「……」

勇者「……」

魔王「……ようこそ勇者。遠いところわざわざご苦労であった」

勇者「遠いところ? ハッ、お前を倒すためだ。多少の距離なんざ問題じゃねえよ」

魔王「強がるな。ここまでくるのに多大な時間、労力を費やしたことは容易に想像できる」

勇者「だから……いや、まあ、時間がかかったことは否定できねえな。だがな、それだけの価値は間違いなくあったぜ」グッ

勇者「俺は以前よりずっと、ずっと強くなることができた! お前をぶち殺せるほどに!」

勇者「ここでお前をぶっ殺して、俺は! 世界中が認める、認めざるを得ない、英雄になる!」ビシ!

魔王「ハッハッハ、そうかそうか」

勇者「……」

勇者「……チッ、気にいらねえな」

魔王「おや、気分を害したか。これは申し訳なかったな」



2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:39:45.27 ID:FUoQk8s0

魔王「……おい!」

側近「ははっ!」ススス……

勇者「……!」

魔王「そう身構えるな、こいつは戦闘向きではない」

側近「魔王様、剣を」スッ

魔王「うむ」ガシ

側近「……ご武運を」

魔王「大丈夫である」

側近「あなた様のお仕事はまだこれから。どうかお忘れなきよう」フッ……

魔王「わかっておるよ」

勇者(……?)



3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:40:43.69 ID:FUoQk8s0

勇者(なんだ? 仕事はこれから? どういう意味だ?)

勇者(まさか、俺は眼中にないってことか?)

勇者(俺はただの通過点に過ぎないと?)

勇者(ますます気にいらねえ……)ペッ



魔王「では勇者よ」スッ

勇者「……応!」スチャ!





魔王「死合おうぞ……!」ゴゴゴ……



4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:42:07.66 ID:FUoQk8s0

 ズジャッ――――!!


勇者(踏み込み! 来る!)


 ガキィ――ン!!!


魔王「ほう、これを受け止めるか」グググ……

勇者「こんな一直線の攻撃、屁でもないぜ……」ギギギ……

魔王「ふむ、なるほど。よろしい……では、第二ステージだ!」シュッ!

勇者(――!)



 キン! カン! カキン! キン! ジャッ! ギチ! カッ!



勇者「うおおおおぉぉぉぉ――!」

魔王「ふはははははははは!」



5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:43:26.25 ID:FUoQk8s0

魔王「これはどうだ! “円舞陣!”」グオ!

勇者「……っ」


 カキキキキキキキン!


魔王「ほう、これも防ぐか! 武の腕は確かなようだな! ぎりぎりまで粘った甲斐があった!」

勇者「それは、どういう意味だ?」シュッ

魔王「なに、すぐにわかる。が……」キン!





魔王「その前に一度死んでもらうぞ! “光よ!”」ボッ!

勇者(魔術!)

勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」キン!



6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:45:04.77 ID:FUoQk8s0

魔王「“光よ!”“光よ!”“光よ!”」ボッボッボッ!

勇者「“光の白刃!”“白刃!”“白刃!”」ドッドッドッ!


 カッ―― ドドドゴォ!


魔王「ふむ、魔力も申し分ないようだな。これはうれしい誤算だ!」ダッ!

勇者「だからどういう意味かって、聞いてんだろうがぁ!」ダッ!


 ガッキ――――――ン!


魔王「……鍔迫り合いなら魔物である我輩の方に分があるぞ?」グググ……

勇者「人間舐めるなよ、魔物ぉ……!」ギギギ……



7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:46:18.92 ID:FUoQk8s0

魔王「ほうれ!」ギギ!

勇者「くっ……」ズズズ……





魔王「ところで勇者よ」

勇者「集中してんだ話しかけんな!」

魔王「新しい客人が現れた」

勇者「じゃあそいつに言っとけ! 今は取り込み中だとな!」

魔王「可愛いおなごなのだが」



8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:47:08.35 ID:FUoQk8s0

勇者「ハル……? い、いやそんなはずあるか! 騙されねえぞ!」

魔王「ほう、ハルというのか。魔女っ子であるな」

勇者「……」

勇者「……あらかじめいっておくが」

魔王「ん?」

勇者「決して騙されたわけじゃねえからな……。いいな?」

魔王「ふむ」

勇者「……」

勇者「…………」クル



9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:48:25.07 ID:FUoQk8s0

勇者「……」

勇者「…………」

勇者「………………」

勇者「この……」プルプル……


勇者「この、大嘘吐き野郎がああああぁぁ――!」

魔王「“光よ”」ボッ!

勇者「みぎゃあああああああぁぁぁぁ!」ドゴォッ!



11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:50:28.35 ID:FUoQk8s0

勇者「…………」

魔王「……勇者~」

勇者「…………」

魔王「へんじがない ただのしかばねのようだ。…… ふむ、死んだか」

魔王「我輩の頭脳の勝利であるな」

魔王「いやはや我輩、今日も冴えている」



側近「魔王様、早くしないと本当に死んでしまいますよ」ススス

魔王「いかんいかん、そうであったな」

側近「これを」スッ

魔王「うむ。これを勇者の首にセットして……」



12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:51:40.57 ID:FUoQk8s0

魔王「“治れ”」ホワホワホワ……

勇者「む……ぐ……」ピク

魔王「おおゆうしゃよ しんでしまうとはなさけない」

勇者「うるせえ神父、戦ってないやつが……」ムクリ




勇者「ってお前かー!」

魔王「左様、我輩である」

勇者「畜生、何のつもりかしらねえが……第二ラウンドだ!」ダッ

魔王「ああ、やめておけ」

勇者「問答無用!」ブン!


 ――バチッ


勇者「!?」

勇者「あががががががが!」ビリビリビリビリビリ……



14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 22:53:21.65 ID:FUoQk8s0

勇者「あ、が……」バタ

魔王「だからやめろと言ったのに」

勇者「くっ、魔王! 今何をした!」ガバッ

魔王「おや、感電した割りに元気がいいな」

勇者「……くそっ、もう一度」ダッ



勇者「あがががががががが!」ビリビリビリビリビリ……



勇者「……攻撃が、見えない……」バタ

魔王「いや、我輩、何もしとらんわけだが……」

勇者「くそ……!」ガバッ

勇者「もう一度だ!!」ダッ


勇者「あがががががががが!」バリバリバリバリバリ……


魔王「お前は馬鹿か阿呆のどちらかだろう……」



17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:02:01.06 ID:FUoQk8s0

勇者「ま……魔王……かぁくご~……」フラフラ……

魔王「ハァ…………」ピン!

勇者「あべし!」バタン


魔王「……腕の方は確かなのに脳みそが足りとらんのか。これはうれしくない誤算だな」

勇者「いったい、なぜ……」ヒュー ヒュー

魔王「首のところを見てみろ」

勇者「……首輪?」

魔王「そうだ呪いの装備品だ。それがお前の身体に電流を流しているのだ」

勇者「こんなもの……」グッ

魔王「我輩に逆らったり、無理にはずそうとしても電流は流れるぞ」

魔王「最悪の場合死に至る」

勇者「…………」ピタ



19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:06:19.96 ID:FUoQk8s0

勇者「……」ムクリ

勇者「……なんのつもりだ魔王」

魔王「実はな、お前に折り入って頼みがあるのだ」

勇者「……。ああん? 魔王の頼みなんざ――」

魔王「我輩の手下になってくれ」

勇者「……は?」

魔王「我輩の下につけと言っておるのだ」

勇者「……魔王の手下になれだぁ?」


勇者「――ふっざけんな!!」


魔王「おっと、口には気をつけろ」

勇者「あががry」ビリビリry



20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:07:26.46 ID:FUoQk8s0

魔王「まあ、頼みとは言ったがお前の返事など必要ない。これは一種の命令なのだから」

勇者「ち、くしょ……」

魔王「勇者よ」

勇者「……」キッ!

魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」

勇者「……は?」

魔王「我輩の名はニギという、お前の名は?」

勇者「え? は? 世界? 名前?」

魔王「お前の名前を聞かせてくれ」

勇者「……えーと」





勇者「……シェロだ」



21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:09:04.56 ID:FUoQk8s0

title:魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」




      ニアさいしょからはじめる ピッ
       つづきからはじめる




※パクリ元:魔術士オーフェン、やる夫が空を目指すようです



23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:11:30.48 ID:FUoQk8s0

<次の日.朝.魔王城.食堂>



 ガヤガヤ ガヤガヤ……


勇者「……」トテトテ

魔王「おお、シェロ、やっと起きてきたか。お前、意外にネボスケだな」

勇者「……」トス

魔王「さて、全員席に着いたことだし――」

魔王「いただきます!」

一同「いただきます!」

勇者「いただき、ます」



24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:14:30.26 ID:FUoQk8s0

 カチャカチャ……


「それにしても、さすがは魔王様!」

「われわれでは歯が立たなかった勇者をいとも簡単に下すとは!」

「まことにあっぱれなり!」

魔王「うむ!」


勇者「くそ、好き勝手いいやがって」モグモグ

勇者(っていうか、魔物、結構生き残ってるのな。一掃したと思ったのに……)


魔王「皆のもの、聞いてくれ! 今日はすばらしい報せがある!」

魔王「我輩は昨日勇者と戦い、これを下し、手下とすることに成功した!」

魔王「よって我輩は今日、世界を救う旅に出ることと相成った!」


 ワ――――!


勇者「だから何なんだよ世界を救うって……。自分が諸悪の根源だって自覚がないのかっつーの」



25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:15:13.54 ID:FUoQk8s0

魔王「シェロ! 前へ出て一言頼む!」

勇者「あん?」

側近「魔王様がお呼びだ、さっさと来い」グイ

勇者「お、おい、ちょっと待てって……」



魔王「ではどうぞ!」

勇者「……」




勇者「魔王のくそったれ」


勇者「あがry」ビリry


 ワハハハハ……


勇者(くそ、この首輪さえなけりゃ……)ボロ……



26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:16:19.33 ID:FUoQk8s0

魔王「うむ、勇者らしく実に勇ましい一言であった!」

魔王「これから我輩と旅を共にする相棒かつ下僕だ! 皆のもの、盛大に送り出せ!」


 バンザーイ バンザーイ バンザーイ

  ムスコヲカエセー オットヲカエセー



勇者(さりげなく怨嗟の声も混じってやがる……)

魔王「皆のもの、感謝するぞ! それではかんぱーい!」


 カンパーイ!



27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:17:45.87 ID:FUoQk8s0

<昼.魔王山.魔王城前>


魔王「それではいってくる。我輩が留守の間城のことはお前に任せた」

側近「ははっ!」

勇者「せいぜい下克上されないよう気を付けるんだな……」ボソ

魔王「何かいったか?」

勇者「別に」


「魔王様行ってらっしゃい!」

「無事に帰ってきてください!」

「ただし勇者、テメーはダメだ!」


勇者「うるせえなあ……」

魔王「皆のもの、元気でな!」



29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:18:32.69 ID:FUoQk8s0

     ※


魔王「いやーいい天気だ」

勇者「なあ」

魔王「ほぼ半年引きこもっていたから空気が気持ちいい!」

勇者「なあって」

魔王「ヤッホー」ヤッホー

勇者「聞けって!」

魔王「なんだ我輩がお外を満喫しているときに……」

勇者「そろそろ教えてくれたっていいだろ。世界を救うって何だよ」

魔王「おお、そのことであるか」ポン



31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:19:29.94 ID:FUoQk8s0

魔王「とはいってもなあ、どこから説明したものか」

勇者「お前が諸悪の根源じゃねえのか?」

魔王「この善良な我輩が? それはないわー」ナイナイ

勇者「嘘つけ、みんな言ってるぞ! お前がいるから世界が平和にならないんだってな! 俺の村だって――」

魔王「みんな、とは誰であるか?」

勇者「みんなはみんなだ! はぐらかすつもりならいっそ腹を切って死ぬぞ!」

魔王「ちょ、待て待て、早まるな」




魔王「歩きながら話そう」

魔王「……そうだな、では我輩がなぜ悪名高いか知っておるか?」

勇者「魔物と人間、つまり王都との間に平和協定が結ばれた後もお前が侵略をやめないからだ」

魔王「ではなぜ侵略をやめないか知っておるか?」

勇者「そんなの決まってる! お前が私利私欲のために領土を増やしたいからだ!」



32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:20:09.26 ID:FUoQk8s0

魔王「あー、なるほどなるほど。情報が隠蔽されているのだな。そこから誤解が生じているのか」

勇者「誤解だと?」

魔王「我輩は私利私欲のために侵略をしたことは一度もないぞ」

勇者「嘘だ!」

魔王「嘘ではない。我輩は世界を救うために戦っておるのだ」

勇者「どういう意味だ!?」

魔王「そう鼻息を荒くするでない。おかしいとは思わんのか?」

勇者「……何のことだ?」

魔王「平和協定を持ちかけたのはどちらであったかな」

勇者「……魔物のほうだ」



33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:21:05.89 ID:FUoQk8s0

魔王「ほら。わざわざ自分らから持ちかけたものを反故にするか?」

勇者「それは……人間を油断させるため、だ」

魔王「では、平和協定が結ばれる前、圧倒的優勢であったのはどちらか」

勇者「それは……それも魔物の、ほうだ」

魔王「ほれみろ、油断させるまでもないであろう? 本当に私利私欲のためなら平和協定など結ばずに侵略してしまえばよかったのだ」

勇者「……なら、なんで」

魔王「それは……」




魔王「実のところ人間、というか王都が平和協定の『条件』を破っているからである」

勇者「条件、だと?」



34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:22:28.23 ID:FUoQk8s0

魔王「話を変えようか」

勇者「やっぱりはぐらかすつもりか!?」

魔王「違う。これからする話も、お前が知りたがっていることと根底でつながっているのだ」

勇者「?」

魔王「シェロ、お前はこの世界が平和だと思うか?」

勇者「思わない。みんながお前に虐げられて苦しんでる」

魔王「……では救いがたい戦禍の中にあると」

勇者「それは……」



35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:23:38.64 ID:FUoQk8s0

魔王「確かに魔物と人間の間で小規模の戦闘が起こっている。しかし、我輩にはこの世界が至極のほほんとして見えるのだ」

勇者「……」

魔王「この、戦禍の中にあると見えて実は平和な世の中はどのくらい続いている?」

勇者「? ……約六百年ほどだ」

魔王「ではその前は?」

勇者「……魔物、人間関係なくひどい戦争が頻発していたと聞く」

魔王「おかしいとは思わんか?」

勇者「なんの、ことだ?」



36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:24:46.08 ID:FUoQk8s0

魔王「よく考えてみろ。平和というのはそんなに長く続くものではないのだ」

魔王「どんなに完璧に政を敷いても、平和を願う思いが強くても、端から綻びいつかは崩れる」

勇者「平和は、いいことだろうが……!」

魔王「我輩もその意見には賛成だ。問題はその不自然さにあるのだ」

魔王「もし――もしだぞ?――この平和が人工的なものであったらどうだ?」

勇者「人工的な、平和?」

魔王「そうだ。それなら我輩は納得できるのだ」



37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:25:53.72 ID:FUoQk8s0

魔王「もし、という仮定の話ではあったが、前代魔王はその可能性を疑い当時の王都に詰め寄った」

魔王「王都側はそれを否定し、それをきっかけに魔物と人間の間に敵対関係が生じた」

勇者「……」

魔王「しかし、力の差は歴然としていた。そのころの人間にはろくな兵器もなく、魔物の力は単純に強力だったからな」

魔王「前代魔王は無駄な血を流すのを良しとしなかった。そこで平和協定を持ちかけた。その条件は――」

勇者「人工的な平和維持の、中止?」

魔王「そのとおり」

勇者「だが今もって一応の平和は続いている……」

魔王「それが、王都が平和協定の条件を破っているということである」



38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:26:29.83 ID:FUoQk8s0

勇者「待て待て待て。さも当然のように人工的な平和維持と言っているが、そんなこと可能なのかよ!?」

魔王「可能である、と言ったら?」

勇者「……嘘だ」

魔王「我輩ら最上級の魔物の間には、『世界書』と呼ばれる魔術の禁書が伝えられている」

魔王「その最終頁。そこには世界を平和にする魔術と世界を破滅させる魔術が記されている。まあ、魔術とは言ってもすでに魔法の領域であると我輩は思うが」

勇者「二つの魔術?」

魔王「違うな。その魔術は表裏一体なのだ。平和が破滅を導き、破滅が平和を導く。それが――」

勇者「人工的な、平和維持……!」



39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:27:47.50 ID:FUoQk8s0

魔王「わかったか? 王都はその魔術をどうやってか嗅ぎつけ、こうやって行使しているというわけだ」

勇者「……」

勇者「人工的だと、何か悪いのか?」

魔王「ん?」

勇者「古来より人間は自然の驚異にさらされてきた! それを制御し住みやすくするのは当然のことだ!」

魔王「風雨を防ぐために家を建て、荒れ狂う川を越えるために橋を架ける。お前の言うことにも一理あるな」

勇者「だったら……」

魔王「だが、人間よりはるかに大きな力を持つ魔物は経験として知っている」

魔王「行き過ぎた制御は破滅を導くとな」

勇者「……破滅って、なんだよ」

魔王「世界樹の木を知っているか?」

勇者「? ……知識としては」

魔王「秘境にある世界樹の木に数百年前、ヒビが入った」

勇者「……それが?」

魔王「おや、それは知らんのか? 世界樹の木はいわば世界そのもの。それにヒビが入るというのは世界が危機に瀕しているということだぞ。人工的平和維持という無理な力によってな」



40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:29:10.50 ID:FUoQk8s0

魔王「それはまだ予兆だ。じきに本当の破滅が来る」

魔王「世界の秩序という秩序が崩れ落ち、生命という生命がその意味をなくすときが来る……」

勇者「……」



勇者「……証拠は?」

魔王「ん?」

勇者「王都が人工的な平和維持をしているって証拠があるのかよ?」

魔王「その魔術は契約の形式をとっている。ならば媒体が必要だ」

魔王「お前たちは特定の宗教を信仰していると聞く。心当たりはないか?」

勇者「……王都の中心、キムラック大神殿にご神体が安置されている……」

魔王「決まりだ。そのご神体とやらを媒介にして異世界と契約を結んでいるのだろう」

魔王「我輩もいまいち確信が持てなかったがこれではっきりした」

魔王「必ずや王都にたどり着き、その契約を破棄させようぞ」



41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:30:49.29 ID:FUoQk8s0

勇者「……」

勇者「俺は……」

勇者「俺は、信じないからな。王都がそんなことをしているなんて信じない」

魔王「信じられないのも無理はない。だいぶ乱暴に説明した。だが信じられなかろうとなんだろうとお前に選択肢はない。王都までついてきてもらうからな」

勇者「く……」



魔王「お、説明しているうちにどうやら村が向こうに見えてきたようであるな」

勇者「……」

勇者「……魔王山から最も近い村、最接近領か……」



42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:32:12.63 ID:FUoQk8s0

<最接近領>



勇者(ここは、最接近領)

勇者(王都の支配を受けず、領主による独自の政治を敷いている村だ)

勇者(俺が魔王城に挑戦する前に滞在したときも、普通では手に入らないような物品まで手に入った)

勇者(噂では魔物とのつながりもあるとかないとか)



勇者(……魔王の言っていたこと……世界の破滅……)

勇者(俺にはどうにも信じられない……。現実味がなさ過ぎる。俺を騙して何か企んでいるのか?)

勇者(とはいえ俺に選択権がないのも確か。まったくもって気にくわねえがここは素直にやつに従うしかないか……)チッ



43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:34:00.35 ID:FUoQk8s0

勇者「……角生えてんだからフードはしっかりかぶっておけよ」

魔王「了解である」グイ

勇者「……さて、まずは武器屋に行って磨耗した武器の交換を――」

魔王「シェロ、あそこに行くぞ!」グイッ

勇者「お、おい、待てってどこに」

魔王「いいからいいから」グイグイ

勇者「ちょ、おい……!」ズルズル



44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/05(水) 23:35:12.85 ID:FUoQk8s0

<酒場>



勇者「ちょっと待て! いきなり酒場って――」

魔王「マスター、ジョッキ二つ!」

マスター「あいよ」ドン

勇者「いらねえよ!」

魔王「ぷはー!」

勇者「飲むな!」

魔王「まあよいではないか。もう口を付けてしまったしな」

マスター「返品不可」

勇者「ぐ」

魔王「お前も飲め飲め! お前のおごりだから遠慮は無用だ!」

勇者「お前が遠慮しろ!」

マスター「店内での怒声はお控えくださいませ」



45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:35:55.46 ID:FUoQk8s0

     ※


魔王「ゴッキュゴッキュ……」

勇者「……」チビチビ

魔王「ぷはー!」

勇者「……よし」

魔王「店員、ジョッキ追加!」

勇者「ちょっと待て! もう何十杯目だと思ってやがる!」

魔王「お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」

勇者「黙れカリスマ吸血鬼。いいから出るぞ」グイ

魔王「待て。まだ追加分が残ってる」

勇者「はいはいキャンセルキャンセル」グイグイ

魔王「お前ケツの穴が小さすぎるぞ」

勇者「お前の遠慮がなさ過ぎるんだ!」



46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:36:39.27 ID:FUoQk8s0

 ガシャーン!


「やんのかテメエ!」


勇者「あん?」



47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:37:30.06 ID:FUoQk8s0

冒険者1「テメエ! さっきこっち見て笑っただろ!」

冒険者2「ああん? オメエだってこっちに唾吐きやがったよなあ!」

冒険者1「やるか!?」

冒険者2「望むところだこの野郎!」


 ――ボカ! バキ! ドゴ!


勇者「なんだ喧嘩か、生産性のないこった。……ん?」

魔王「酒場といえば喧嘩にドツキ合い! テンション上がってきたあ!」

勇者「……おい」

魔王「我輩も混ぜろー!」ダッ

勇者「やっぱりかー!」ダッ



48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:39:21.71 ID:FUoQk8s0

 ワー! ヤレヤレー! ガシャーン! ドシャーン!


勇者「なんだか騒ぎが大きくなってきたな……。あいつは、と」

魔王「わははは!」ボカ! イテエ!

勇者「……あの野郎。おっと」パシ!

「俺のパンチを受け止めやがった!?」

勇者「るせえ! 雑魚は引っ込んでろ!」ゲシ!



魔王「わはは、わははははは!」ガラガラドカーン!

勇者「おい、もういいだろ! 出るぞ!」

魔王「おおシェロ! 今いいところなんだ! 邪魔するな!」ガハハ

勇者「馬鹿言ってねえで行くぞ!」グイ

魔王「おっと」ヨロ ハラリ……

勇者「あ」



49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:40:36.75 ID:FUoQk8s0

「な、なんだあいつ、角が生えてるぞ!」

「ま、魔物だ! 魔物がいる!」

勇者「しまった!」

「いや、待てあいつは……」

勇者「……?」





「魔王だああああああああ!」





勇者「えええええええええ!?」

魔王「そんなに注目されると我輩、照れるわけだが」ポッ



50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:41:59.97 ID:FUoQk8s0

勇者「何でお前、顔が割れてるんだよ!?」

魔王「そういえば以前、この村にお忍びでよく来ていたな」

勇者「顔が割れてるってことは全然忍べてねえじゃねえか!」

魔王「酔って暴れて出禁になったこともあった。あのとき暴露したのかもしれん」

勇者「んなアホな!」



「おい、隣のあいつも見たことあるぞ」

「誰だったかな……」



51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:43:13.88 ID:FUoQk8s0

魔王「まあそうカリカリするなシェロ」

勇者「ばっ……名前!」



「シェロ……?」

「そうか思い出したぞ!」



「モグリ勇者の、シェロだああああああ!」



勇者「しまったああああああ!」



52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:43:56.62 ID:FUoQk8s0

「シェロさん、サインくれよ!」

「お、俺にも!」


勇者「あわわ……」

魔王「人気者ではないか」ニヤニヤ

勇者「誰のせいだと……!」

魔王「主人である我輩だろう?」

勇者「ちょ、おま!」



53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:44:53.92 ID:FUoQk8s0

「しゅ、主人?」

「魔王が、勇者の、主人?」

「勇者が、魔王の、手下?」

勇者「…………」




「勇者が寝返ったぞおおおおおお!」



勇者「うがああああああああ!!」



54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:46:09.84 ID:FUoQk8s0

魔王「おやこれは困ったことになったな」

勇者「お前、わかっててやっているだろ!」

魔王「なんの話だ?」シラッ

勇者「お前ほんとは頭いいはずだろうが!」

魔王「はて……」

勇者「とぼけるなあ!」



「魔王と勇者を捕まえれば領主から賞金がでるらしいぞお!」



勇者「手配早っ!」

魔王「さあて、逃げるか」ダッ

勇者「ま、待てええええ!」ダッ


「追えー!」



55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:47:13.61 ID:FUoQk8s0

     ※


 ドッチニイッタ! コッチニハイナイゾ! オレハアッチヲサガス!



「おい聞いたか? 裏切り者のモグリ勇者を捕まえたら十万ソケットがもらえるらしいぞ!」

「魔王もセットでさらに跳ね上がるらしいな!」

「こうしちゃいらんね、探すべ!」





?「……モグリ勇者?」



56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:48:25.54 ID:FUoQk8s0

<夕方.郊外>



勇者「ゼイ ゼイ……」

魔王「ハア ハア……」

勇者「こ、ここまでくれば……」

魔王「大丈夫であろうな」



勇者「……こんの――」

勇者「お前、なんてことしてくれたんだ!」

魔王「はて、なんのことであろうか」

勇者「お前のせいで指名手配された、無駄に体力使った、武器防具をそろえられなかった!」

魔王「もう忘れた」

勇者「このスポンジ脳みそ!」



57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:49:18.26 ID:FUoQk8s0

魔王「まあいいではないか。楽しかったし」

勇者「楽しかったのはお前だけだ!」

魔王「もういいだろうて。今夜は野宿だ、我輩は食べられそうなやつを狩ってくる。お前は火起こしでもしてるんだな」

勇者「あ、待て……」

勇者「……」

勇者「……」チッ



58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:50:49.46 ID:FUoQk8s0

<夜.夕食.街道脇>



 パチパチ……ボッ……パチパチ……


勇者「……ムス」モグモグ

魔王「どうした勇者そんな不景気な顔をして」ムシャムシャ

勇者「……装備がマジでまずいから武器屋に行きたかったのに……」

魔王「……ふむ、なるほどな」

魔王「しかしお前の装備はともかく、我輩の装備は完璧であるぞ」

勇者「なんだと?」

魔王「ふふふ……」

魔王「見よ、これぞ何でも切り裂く剣と魔力増幅の指輪に並ぶ伝説の品!」

魔王「魔王の腹巻!」デデーン

勇者「……」ポカーン



59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:51:57.44 ID:FUoQk8s0

魔王「何だその顔は」

勇者「え、お前ふざけてる? 怒るぞ? 俺怒るぞ?」

魔王「何を言う、由緒正しき魔王の腹巻にケチを付けるか。これは先々代魔王の代からの業物である」

勇者「……ほう」

魔王「そう、ざっと千年前!」

勇者「魔王の生命サイクル長。そんな昔から腹巻あったのかよ」

魔王「うむ、あった。魔王一族最初の防具である」

勇者「いや防具じゃねえだろ! 魔王どもは何考えてんだ!」



60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:53:17.96 ID:FUoQk8s0

魔王「む? そうは言うがな、お前たち人間の防具などただのお好み焼きの鉄板ではないか」

勇者「鉄板言うな!」

魔王「その点この腹巻はいいぞ。刃は通さんし魔術はカットだし、腹痛もキャンセルだ!」

勇者「何気にすげえけど最後のはいらん」

魔王「どうだ腹巻のすごさ、思い知ったか」

勇者「……はいはい」

魔王「なら最初の火の番はお前な。我輩はもう寝る」ゴロン

勇者「ちょっと待てよ」

魔王「zzz……」

勇者「いや待て、寝つき良すぎだろ。のび太くんか」

勇者「まったく、先が思いやられる……」



61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/05(水) 23:54:20.23 ID:FUoQk8s0

<???>



「勇者が魔王の手下に……」

??「困ったことになったね」

「魔王は契約破棄が狙いだ。おそらく勇者とともに王都に乗り込んでくるつもりだろう……」

??「なにそれ、面白そう!」

「お前にも働いてもらうぞ」

??「そんな面白そうなこと俺が見逃すはずないじゃん」

「では、いつでも出れるよう準備しておけ」

??「うーす」



77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:00:22.60 ID:wzWkYjg0

<四日後.昼.山道>



魔王「……」ザッ ザッ

勇者「……」ザッ ザッ



勇者(あれから四日。今のところは追手の類の気配はないな)

勇者(もっとも勇者と魔王のパーティーだ。そう簡単に捕まることもないだろうが……)



魔王「なあ、シェロ」

勇者「険しい山道じゃあ、口を利きたくないもんだな」

魔王「まあそう言わずに。前から気になっていたことがあるのだ」

勇者「……んだよ」

魔王「お前、もしかしてボッチというやつなのか?」

勇者「は?」



78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:03:57.74 ID:wzWkYjg0

魔王「いや、そんな怖い顔をするな。深い意味はない」

魔王「だが我輩の疑問も当然と思ってほしい。実際お前は我輩の城に一人できたではないか」

魔王「過去に我輩に挑んできた勇者たちはみんな例外なく仲間を連れていたぞ」

魔王「中には一万とんで二名の大軍で挑んできた外道勇者――いやあの場合は王が外道なのか?――もおった」

魔王「だがお前は一人だった」

魔王「絶対の自信があったのか、それとも人望がなかったのか」

魔王「我輩それが地味に気になる」

勇者「…………」

魔王「おや、だんまりか」



79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:09:04.80 ID:wzWkYjg0

勇者「……俺は非公式の、いわばモグリの勇者だからな」

魔王「モグリ? そういえばモグリ勇者とか呼ばれていたな」

勇者(……)

勇者「……やっぱりやめよう、この話は」

魔王「やっぱりボッチか」

勇者「ちがわぁ!」

魔王「では仲間がいたのであろうな?」

勇者「……。一人、いた」

魔王「ではなぜ我輩との戦いにつれてこなかった。仲間割れか?」

勇者「それは……」

魔王「もしやその一人、あの時言っていたハルとか言う――」



魔王・勇者「――!」ピク!



80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:10:08.47 ID:wzWkYjg0

魔王「シェロ」

勇者「ああ、囲まれた……」


 ガサガサ ガサガサ


山賊s「……」ヌッ

勇者(1、2……11人。得物は、棍棒か)

魔王「我輩らに何か用であろうか」

勇者「こんな見るからに山賊のやつらの用件なんて決まってるだろ」

魔王「我輩、見ず知らずの人から告白なんて、ちょっと……」モジモジ

勇者「違うわ!」



山賊頭「勇者と、魔王だな」

魔王・勇者「!」

勇者「なぜ、知っている?」

魔王「馬鹿、シェロ、自分から認めてどうする」



81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:13:57.99 ID:wzWkYjg0

山賊頭「やはりあの方の言ったとおりだ……」

勇者「あの方……?」



?「そこまでよ、観念なさい!」バッ



魔王「なんだ?」

勇者「この声!」



女魔術士「……」スタ!

女魔術士「やっと見つけたわよ、シェロ!」ビシイ!

山賊s「新お頭!」



勇者「ハル!」

魔王「ほう、あのおなごが例の」



82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:15:18.56 ID:wzWkYjg0

女魔術士「あんたたちは下がっていなさい」

山賊s「へい」ススス……

女魔術士「さて……」

女魔術士「最接近領で勇者が云々聞こえたからまさかとは思ったけど、本当に会えるとはね。網を張ってた甲斐があったわ!」

勇者「お前も最接近領にいたのか?」

女魔術士「いちゃ悪い?」

勇者「いやあんなことがあったし、お前は来てないもんだと……」

女魔術士「そうね、そんなこともあったわね……」ゴゴゴ……

魔王「何の話だ? 我輩ちぃっとも話が読めんのだが。もっとkwsk」

勇者「お前は知らんくてもいい」

女魔術士「そいつ、浮気しやがったのよ!」

勇者「ちょっ、待てよ!」

魔王「構わん続けろ」



83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:16:43.15 ID:wzWkYjg0

女魔術士「わたしというものがありながら……」ゴゴゴ……

勇者「あれは何度も言ったように誤解だって!」

女魔術士「何が誤解よ!」

勇者「それに俺とお前はもともとそんな関係じゃなかっただろ!」

女魔術士「うっ……」

女魔術士「……そ、そういうのは風紀の問題よ! だらしがないのが一人でもいたらパーティーの足並みがそろわないでしょ!」

勇者「さも大勢だったかのように言ってるが、俺とお前だけのパーティーで足並みもくそもあるか!」

魔王「wktkwktk」



84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/08(土) 22:18:21.74 ID:wzWkYjg0

女魔術士「まあとにかく、それでも許してあげないこともないって思い直して追ってきてみたら、なんか賞金首になってるし」

女魔術士「知ってる? あんたたちもう最接近領だけじゃなくて王都からも、ひいては世界中からも指名手配されてるんだから!」

勇者「げっ!」

魔王「ほほう」

勇者「どうすんだよ! お前のせいで旅が無駄に困難になったぞ!」

魔王「どうせ我輩とお前のコンビでは楽勝の旅であった。いまさら難易度が少し上がったところで大差あるまい」

勇者「ありありじゃボケが!」



85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:22:03.64 ID:wzWkYjg0

女魔術士「シェロ!」

勇者「あん?」

女魔術士「おとなしくわたしに捕まりなさい!」

勇者「……お前も賞金に目が眩んだか」

女魔術士「馬鹿にしないで。わたしはあなたを助けてあげようってのよ」

勇者「どういうことだ?」

女魔術士「わたしがズタズタに更生させてあげる……!」ギラギラ

勇者「空恐ろしい!」

女魔術士「そしてわたしと一緒に世界の果てまで逃げるのよ……!」

魔王「おや、遠まわしなプロポーズではないか。どうするシェロ?」

勇者「なんか怖いからいやだ!」



86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:24:43.36 ID:wzWkYjg0

女魔術士「……なら仕方ないわね。あんたたち!」

山賊s「へい!」ザッ

女魔術士「あいつらを捕まえなさい!」

山賊s「合点承知!」ダッ

勇者「来るぞ!」スチャ

魔王「いい加減痴話喧嘩にも飽きてきたころだ。ちょうどよかろう」



87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:25:59.09 ID:wzWkYjg0

山賊s「てりゃあ!」


 ブン! ブン!


勇者「おっと!」キン  魔王「ふむ」パシ

山賊 1「野郎!」タックル

勇者「捕まるか!」ヨケ!



勇者「やっぱりこいつら数だけだ! うまく立ち回ればたいしたことねえぞ!」

魔王「同感である」

女魔術士「“赤の刺激!”」ボッ

勇者「おあっちぃ!」ボボボ!

魔王「援護射撃か。あっちは少々厄介ではあるな」

勇者「消えろ消えろ!」バタバタ



88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:27:18.58 ID:wzWkYjg0

魔王「シェロ、この山賊どもを頼めないか? 我輩はあのおなごを制する」

勇者「任せて、いいのか?」

魔王「どうせお前はあのおなごとは戦えまい」

勇者「わかってるじゃねえか……! でも手加減しろよ?」

魔王「幾人もの勇者を教会送りにした手加減力、甘く見てもらっては困る」

魔王「では、行くぞ」バッ

勇者「応!」バッ



山賊頭「二手に分かれたぞ! 魔王は新お頭に任せて、我らは勇者を叩けー!」

勇者「思惑通りで助かるね」スタ



89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:29:58.92 ID:wzWkYjg0

魔王「……」スタ

女魔術士「わたしの相手はあんたってわけ?」

魔王「うむ。弱そうな相手で甚だ不服ではあるが」

女魔術士「言ってくれるじゃない……!」

女魔術士「でも、ちょうどいいわ。あんたには聞きたいことがあったんだから」

魔王「はて、なんであろうか」

女魔術士「あんたが魔王らしいわね? 何であんたが勇者であるシェロと一緒にいるの?」

魔王「シェロは我輩の手下になったのだ」

女魔術士「は?」

魔王「二人で世界を救うのだ」

女魔術士「……本気で言ってる?」

魔王「えらくマジだ」

女魔術士「いいわ、わたしが勝ったら本当のことゲロってもらうからね」

魔王「我輩、嘘はついとらんわけだが」

女魔術士「はいはい。行くわよ!」



90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:30:53.19 ID:wzWkYjg0

     ※


山賊2「食らえ!」ブン!

勇者「ほい!」カキン! ゲシ! 山賊2「ぐは!」ドサ!

山賊3「後ろだ!」ビュッ!

勇者「おっと」サッ ボカ! 山賊3「が……!」バタ!



勇者「おらおらどうした!? そんなんじゃこの勇者様は仕留めらんないぜ!」



山賊頭「落ち着け! まずはあいつを囲むんだ!」


 ザザザザ……


山賊頭「それからいっせいに叩けえ!」


 ブブブブブブブン!



91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:31:40.65 ID:wzWkYjg0

 キキキキキキキン!


勇者「ハッ! 見たか!」

山賊頭「馬鹿な! 剣一本ですべて受け止められるはずが……」

勇者「離れろ下郎ども!」ブオン!

山賊s「うおおお!?」ヒュー ドサドサドサ……



勇者「そろそろ終わらせるぞ。覚悟はできたか!?」

山賊頭「ぐ……」

勇者「“我は駆ける天の銀嶺!”」バッ! ……フワ

山賊頭「跳んだ! 高い!」

勇者「うおおおおおおお!」ヒューン


勇者「落ちろ! “破裂の姉妹!”」パァーン!

山賊s「ぐわあああああ!」バタバタバタ……



92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:32:36.14 ID:wzWkYjg0

山賊頭「ぐ……鼓膜が……」ピクピク

勇者「これでチェックメイトだ」スチャ!

勇者「聞こえちゃいないだろうがな、ハッ!」



     ※



魔王「おや、あちらは終わったようであるな」

女魔術士「余所見をしてていいのかしら!? “赤の刺激!”」ボッ!

魔王「“盾よ”」キ――バキン!

魔王「痛――っ」

魔王「なるほど、魔女っ子なだけあって単純な魔術の威力はシェロより上か」

女魔術士「なめてると痛い目見るわよ!」



93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:33:25.92 ID:wzWkYjg0

魔王「ではこちらも。“光よ”」ボッ!

女魔術士「“銀の城壁!”」キン

女魔術士「魔王って言ってもたいしたことないのね!」

魔王「“光よ”」ボッ

女魔術士「“銀の城壁!”」バギン!

女魔術士「――いったあ! な、なんで!?」

魔王「現役魔王をあまりなめるなということだ」ブオン……

女魔術士(剣が現れた……?)

魔王「では、行くぞ」ダッ



94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:35:02.30 ID:wzWkYjg0

女魔術士(近づかれてはまずいわ!)

女魔術士「止まって! “青の衝撃!”」バリバリバリ……

魔王「“盾よ”」キキン!

女魔術士「(止まらない!) “紅の疾風!”」ボッ ヒュンヒュンヒュン!


 ドカァーン!


女魔術士「当たった!」


 モクモク……ブワッ


魔王「まだだ――」

女魔術士「!」

魔王「ふん!」ブン!

女魔術士「くっ」ガキン!

魔王「ほう、杖で受け止めたか」



95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:36:04.98 ID:wzWkYjg0

女魔術士「なんで!? なんで無事なの!?」グググ……

魔王「魔物の丈夫な身体、加えて魔王の腹巻の効果によるものである」グググ……

女魔術士「聞いてないわ、そんなの!」

魔王「言ってないからな。さて踏み込んだぞ。ここからどうする?」

女魔術士「くぅっ!」バックステップ

魔王「後ろに下がっても詰められるだけだぞ?」ダッ


 キン! キン! カキン! キン!


魔王「ほうほう、杖で器用にいなす」シュッ

女魔術士「余裕こいてるんじゃないわよ!」キン!

魔王「しかし守りに徹していては我輩を倒せんな」ブン!

女魔術士「……っ」カン!



96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:37:33.81 ID:wzWkYjg0

女魔術士「“赤の――」

魔王「うつけが!」ガシ ポーイ!

女魔術士「きゃあああああああ!?」ヒュー


 ドガアッ! ――ズルズル……


女魔術士「か、はっ……」

魔王「あんな近距離で魔術に頼るからだ愚か者」ツカツカ

魔王「これでジ・エンドであるな」スチャ



97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:38:23.72 ID:wzWkYjg0

勇者「そっちも終わったか。こっちは今、山賊全員を縛り上げたところだ」

魔王「ご苦労だ、シェロ」

女魔術士「ぅ……」

勇者「ハル……」

勇者「……魔王、そいつ、どうする?」

魔王「なかなか使えそうだし、呪いの首輪で手下にしてしまおうと思う」

女魔術士「……何ですって? どういうこと?」

勇者「その首輪をはめられると魔王に逆らえなくなるんだ」

女魔術士「まさか、あなた……」

勇者「そのとおり、俺もその首輪をはめられてる」

女魔術士「じゃあ、手下って言っても本当の意味で魔王に寝返ったわけじゃないのね?」

勇者「ったりめえだ! 誰が好んでこんなやつの手下に!」

女魔術士「よかった……」

勇者「あん?」



98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:40:33.33 ID:wzWkYjg0

魔王「話し込んでいる最中すまないが、首輪を付けさせてもらうぞ」

女魔術士「お断りよ! 誰があんたの手下になんか!」

女魔術士「シェロ、あなたはわたしが絶対助けるわ! 待ってて!」

女魔術士「“鈍の扉!”」ピシューン!

魔王「空間転移……。 逃げられたか」

勇者「ハル…………」



勇者(助ける、か)

勇者(俺は……)

勇者(……)



99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:41:17.37 ID:wzWkYjg0

勇者「……よし、約一名逃がしちまったけど、片付いたってことでとっとと行くなら行こうぜ」

魔王「ちょっと待て、山賊に用がある」

勇者「ん?」

魔王「おいお前」

山賊頭「?」

勇者「そいつ鼓膜がやられてるからたぶん聞こえてないぞ」

魔王「仕方ない、“治れ”」ホワホワホワ……

魔王「では改めて。おいお前」

山賊頭「……なんだ?」

魔王「あのおなごはもともとお前たちの仲間ではないな? なぜ味方していた」

山賊頭「……手伝わなければ命はないと脅されて」

魔王「つまりお前たち、あのおなごに負けたのか。いやはや情けない」

山賊頭「う、うるさい!」



101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:43:35.90 ID:wzWkYjg0

魔王「まあよいわ。では次の質問だ。お前たちこの稼業は長いのか?」

山賊頭「? まあな。かれこれ十年ほどになるか」

魔王「ではよそ様から奪った金はだいぶたまっているのだろうなあ……」ニヤ

山賊頭「おい、まさか……」

魔王「では最後に命令だ。その金を全部我輩に献上しろ。さもなくばお前の仲間を順番に千の風にしていくぞ」

山賊頭「てめえ……!」

勇者「…… 鬼だ」

魔王「おや、態度が悪いな。ではどいつからにするか……」

山賊頭「く……」

魔王「どの部位から吹き飛ばそうかなあ。手かな? 足かな?」

山賊頭「わ、わかった! すべてやるから勘弁してくれ!」

魔王「それでいい」

勇者「……はぁ」



102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:46:10.98 ID:wzWkYjg0

     ※


魔王「懐あったかあったか」

勇者「……」

魔王「なんだその顔は。我輩は路銀が尽きそうだったから仕方なくだな」

勇者「いやまだなにも買ってねえだろ。魔物側はそんなに金がねえのか?」

魔王「正直に白状すると我輩の代に入ってからは財政は傾いていたのだ」

勇者「お前がトップならわかる気がする」

魔王「原因は不明なのだが、心無い国民は国を挙げての祭りを年に三十回やったからだと言う」

勇者「明らかにそれが原因だろ! このお祭り好きが!」

魔王「365日中200日がお祭りであればよいと思う」

勇者「バランス考えろ!」

魔王「お祭りの国に行きたい……」



103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:47:37.27 ID:wzWkYjg0

魔王「ところで話は変わるがシェロよ」

勇者「ああ?」

魔王「お前、浮気したのか?」

勇者「ブーッ!!」

魔王「なんだ汚い……」

勇者「あ、あの話か。忘れろよもう……」

魔王「我輩気になることはすべて記憶しておる」

魔王「実際のところどうなのだ? 浮気したのか? してないのか?」

勇者「……してねーよ」

魔王「それはもともと付き合ってなかったから、ということか?」

勇者「ちげーよ。本来的な意味合いでも浮気したわけじゃねえ」

魔王「ふむ、ではどうしてあのようなことに?」

勇者「……どこから話したものか……」



104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:49:16.58 ID:wzWkYjg0

勇者「ええと……一緒に旅をしていてある村に立ち寄った時のことだ。ハルと飯屋に入った」

魔王「ほほう?」

勇者「そこでおれはその……」

魔王「ふむ?」

勇者「……ハルに告白して、正式に交際を申し込むつもりだった」

魔王「ほほう!」

勇者「本当はお前を倒してすべてが終わった後と思ったんだが、どうしても我慢できなかったんだな」

勇者「それで、俺はガラにもなく緊張して、酒のペースが早くなってたんだろう」

勇者「ハルがトイレに立ったところまで覚えてる。そこから記憶は途切れて――」

勇者「気づいたら宿屋で知らないやつと一緒に寝てた」

魔王「それはそれは」



105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:50:32.68 ID:wzWkYjg0

勇者「ハルのやつ、付き合ってるわけでもないのにものっそ怒り狂って、何にもしてないって言っても信じちゃくれない」

魔王「本当に何もしなかったのか?」

勇者「神に誓ってもいい! 俺は! 何も! しなかった!」

魔王「どうだか」ニヤニヤ

勇者「というか何かできるわけがない。だってそいつ――」





勇者「男の娘だったもの」

魔王「キタ――――――ッ!」

勇者「来てねえ! まぁったく来てねえ!」



106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:51:45.16 ID:wzWkYjg0

勇者「……そいつ、店で俺に一目ぼれして隙を見てさらったんだと」

魔王「豪快だな」

勇者「まったくだ。それでもハルは信じちゃくれない」

勇者「まああの野郎見た目はほんとに美少女だったからな」

魔王「ハッハッハッハ、愉快愉快!」

勇者「ああ、笑え笑え……。自分でも笑えるから」

勇者「それで、ハルとはその村でオジャンになった」

魔王「それっきりか?」

勇者「それっきりだ」



107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:52:33.15 ID:wzWkYjg0

魔王「しかし、ああ面白い。お前あんなガサツそうなおなごに惚れたのか!」

勇者「うるせえ、惚れたが悪いか」

魔王「あのようなおなご、我輩の妻に比べれば小物よ」

勇者「お前既婚者だったのかよ。畜生もげろ」

魔王「我輩の妻はよいぞ。器量よし、性格よし、頭よしの三拍子そろったスーパー良妻だ」

勇者「それはよかったな、さっさと黙れ」

魔王「ひとつ不満があるとすれば」

勇者「?」

魔王「料理が壊滅的に下手ということか」

勇者「……例えば?」

魔王「頬が落ちた」

勇者「はぁ?」

魔王「頬が落ちた。物理的に」

勇者「……ああ、なるほど」



108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:54:18.47 ID:wzWkYjg0

魔王「さて我輩と妻の馴れ初めを聞きたいか? そうか聞きたいか、仕方ないから特別に話してやろう」

勇者「いいから早く黙れ」

魔王「あれは我輩が地獄にある血の池のほとりを歩いておったときのことであった」

魔王「散歩にはちょうどいい暑さでな、ずーっと歩いていくと生えとる生えとる。地獄の睡蓮、地獄のやしの木、地獄のマングローブ、そして池から脚」

勇者「脚?」

魔王「そうだ脚だ。何だろうかなーと思って近づいた。その次の瞬間我輩は天使と対面しておった」

勇者「地獄なのにか?」

魔王「うむ、地獄のシンクロナイズド天使だ。我輩はすぐさまプロポーズをし、快く膝蹴りを貰った」

勇者「振られてんじゃねーか」

魔王「まあその後紆余曲折を経て、今の我輩のらぶらぶらいふがあるというわけだ」

勇者「…………」



109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:55:13.96 ID:wzWkYjg0

魔王「なんだその顔は。そうか羨ましいか。羨ましいんだろう」

勇者「はいはい」

魔王「やーい、この浮気野郎」

勇者「黙れ!」

魔王「大体お前が情けないからあのようなおなご一人モノにできんのだ!」

勇者「ぐ……!」

魔王「そこでだ、我輩がお前のような童貞のためにおなごを落とすためのアドバイスをしてやろう」

勇者「結構だ。あと童貞言うな」

魔王「いいから聞いておけ」

魔王「――おなごを落とすための極意その一ィィ!」





魔王「膝蹴り貰い」

勇者「お前の失敗パターンじゃねえか!」



110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:55:49.28 ID:wzWkYjg0

魔王「いやまあ最終的に夫婦となれるのだからよいではないかよいではないか」

魔王「それとも膝蹴りごときが怖いとぬかすかこの、童貞が」

勇者「ちげーよ! あと童貞はやめろ!」





魔王「……ふむ、そんなこんなやっているうちに次の村に着いたようであるな」



111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:57:05.08 ID:wzWkYjg0

<夕方.山村>



勇者「さーて村に着いたし今度こそ武器屋に……」

魔王「飲むぞー!」ダッ

勇者「待てい!」グワシ!

魔王「放せシェロ! 我輩は命の補給に行くのだ!」

勇者「馬鹿言え! 今度こそ武器屋だ! 大体昼間の先頭で俺の武器がついにおシャカ寸前になったんだ。お前だって同じじゃないのか?」

魔王「我輩の武器はイキがいいから」

勇者「ふざけろ! 無理やりにでも連れて行くからな!」グイグイ

魔王「あ~」ズルズル



112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 22:58:29.18 ID:wzWkYjg0

魔王「それよりシェロ、気づいているか?」ズルズル

勇者「ん?」グイグイ

魔王「なにやら……ピリピリする」ズルズル

勇者「そうだな……今夜あたりなんかあるかもな」グイグイ

魔王「なんだ、気づいておったのか」ズルズル

勇者「だからこそ武器を揃えておきたいんだよ」グイグイ

魔王「だからこそ飲めるうちに飲んでおくのではないのか?」

勇者「おのれはああああ!」



113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:00:40.30 ID:wzWkYjg0

<夜中.山村.宿屋>


 ホーゥ ホーゥ……


魔王「……来るな」

勇者「気のせいだったらいいんだけどな。出よう」


 キィィ―― バタン……


魔王「……」

勇者「……」

魔王「……ふわぁ」

勇者「……もうちょっと緊張感持てよ」

魔王「いやだって我輩、すでに気のせいな気がしてきたもん」

勇者「断ずるには早いだろう……」



勇者・魔王「――!」



114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:01:28.32 ID:wzWkYjg0

 ピシュン ピシュン ピシュン


勇者(空間転移! 前方に三体!)

勇者「なんだやつらは?」


?「キー!」ブヨブヨ


魔王「王都からの刺客、であろうな」


刺客s「キキー!」ブヨブヨ


勇者「なんなんだ? スライムの一種か?」

魔王「スライムだったら我輩に敵意を向けるわけがあるまい。あれはもっと違うものだ」



115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:02:27.15 ID:wzWkYjg0

勇者「なんだかわからねえが、先手必勝!」ダンッ ブン!

刺客1「キー!」ブニョン!

勇者「刃が通らない!?」

魔王「! ――シェロ、離れろ!」


刺客1「キキキー!」シュバババババ!


勇者「うわわ!」バックステップ


勇者「針!?」

魔王「ふむ、どうやらやつら攻撃時には身体を硬化させることができるらしいな」



116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:03:40.59 ID:wzWkYjg0

勇者「く……“我は放つ光の白刃!”」ドッ!


 ドゴォォ!


刺客s「キキー!」ピンピン!

勇者「魔術も効かねえのか!?」

魔王「シェロ、聞け。そいつはどうやら魔術で生み出された人工生物のようだ」

勇者「何?」

魔王「『世界書』のことは前にも話したな?」

勇者「魔術の、禁書だったか?」

魔王「そうだ、その第十四頁。そこに人工生物の作り方と性質が書いてある」

魔王「そいつらの特性は、その記述と合致する」

勇者「ってことは……」

魔王「ああ、またひとつ王都が『世界書』の内容を把握しているという確証が得られたな」

勇者「……」



117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:04:37.94 ID:wzWkYjg0

勇者(王都は本当に人工的平和維持をしている? 馬鹿な……)

勇者(しかし――)

刺客2「キ!」シュッ!

勇者「くっ」キン!

勇者「とにかくまずこいつらを始末しなくけりゃ話は進まねえ……!」

勇者「おい魔王! 『世界書』とやらの内容を知ってるってことは、こいつらの弱点も把握してるってことだよな! 早く教えやがれ!」

魔王「…………」

勇者「おい!」

魔王「……ド忘れした」

勇者「はぁ!?」


刺客s「キキー!」ブワワ!


勇者「うわ! 来たぞ!」

魔王「ひとまず逃げよう」ダッ

勇者「ちょ、待てって!」ダッ



118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:05:29.99 ID:wzWkYjg0

<村の外>


 タッタッタッタッタ……


刺客s「キキー!」

魔王「空中に浮遊しているだけあってさすがに速いな」

勇者「魔王、まだ思い出せないのか!?」

魔王「ちょっと待ってろ。光? 熱? いや、あの日の思い出……は一番関係ないからして……」ブツブツ

勇者「……チッ」クル

刺客s「キキキー!」ブワワ!

勇者「ここまでくれば大丈夫だろ、食らえ“我は砕く原始の静寂!”」ゴッ!


 ドゴォォォォッ!



119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:06:10.71 ID:wzWkYjg0

勇者「空間爆砕だ! 効いたか!?」


刺客s「キ、キー!」フラ


魔王「多少ふらついとるが大きなダメージではないようだな」

勇者「ちっくしょう!」



120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:07:07.51 ID:wzWkYjg0

刺客3「キ!」ビシュッ

勇者「また針かっ……」バックステ――グニュ!

勇者「え?」

魔王「背中!」


刺客2「キキー!」シュッ!


 ドスッ!


勇者「が!」

勇者(は、腹に貫通した……)

魔王「吹き飛べ! “風よ!”」ビュオォォ!

刺客2「キ……」ヒューン

魔王「シェロ! 大丈夫か!?」

勇者「く……“我は癒す斜陽の傷痕”……」ホワホワホワ……

魔王「やつらが空間転移できることを忘れるな!」



121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:08:03.53 ID:wzWkYjg0

勇者「……魔王! 早く思い出しやがれ! さもないとここで終わるぞ!」

魔王「わかっておるわ!」


刺客s「キキキキー!」ブチョン ブチョン ブチョン


勇者(なんだ? 刺客どもがひとつに集まり始めた?)


キング刺客「ギギー!」


勇者「巨大化した!?」



122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:08:46.07 ID:wzWkYjg0

キング刺客「ギギ……」ガキガキガキン!


勇者「槍!?」


キング刺客「ギギギギ……」ググ……

キング刺客「ギー!」――ビュン!


勇者「まずい! 魔王、そっちに行ったぞ!」

魔王「弱点……弱点……」

勇者「避けろ、魔王――!」



魔王「あ、思い出した」



魔王「“氷河よ!”」ビュオォォォオオ!

キング刺客「ギ……」カキコキコキン!

勇者「刺客が、固まった!?」



123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:09:47.26 ID:wzWkYjg0

魔王「考えてみれば当然のことであった。この手の化け物は縦横の繊維を持っていて打撃斬撃熱衝撃波には強いが、強制硬化にはめっぽう弱いのであったな」

魔王「どこぞのエロゲもそう言っていた」



勇者「うおおおおおおおお!」シュッ ガキン!


 ガラガラガラガラ……


勇者「か、勝った……!」

魔王「うむ、我らの勝利だな」



124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:11:24.80 ID:wzWkYjg0

勇者「……」

魔王「なんだ? なぜそんな渋面をしている?」

勇者「いやだってお前が早く思い出してれば死にそうな目にはあわなかったし」

魔王「細かいことは気にするな、誰のおかげで勝てたと思っている」

勇者「それはそうだが……納得いかん」

魔王「あまりぐだぐだ言っていると電撃かますぞ?」

勇者「あー、はいはい飲み込みますよ、はい」

魔王「うむ。おや?」

勇者「?」

魔王「月が綺麗であるなあ……」

勇者「……はぁ」



125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/08(土) 23:12:02.08 ID:wzWkYjg0



女魔術士「……」

女魔術士「“鈍の扉”」ピシュン……



132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:01:00.48 ID:qeC.XqQ0

<三日後.昼.街道>



魔王「さて、そろそろ次の街に着くな」

勇者「行きと違ってずいぶん早かったな。まあ、魔王がいるせいで魔物が襲い掛かってこないから当然といえば当然か」

魔王「次は海沿いの街だな?」

勇者「ああ。主に漁業と海運業で食っているところだ」

魔王「ということは海を渡るのか?」

勇者「陸路でもいけるが、海路のほうが早いからな」

魔王「なるほど。世界の破滅がいつ来るかわからない今、時間はできるだけ節約したい」

勇者「そうだろうが……問題は俺たちがお尋ね者だってことだ」

魔王「つまり正規のルートは駄目ということか。まあ当然ではあるが」

勇者「必然的に密航ということになるが、乗せてくれる酔狂はいるもんだろうかねえ……」

魔王「まあ行ってみてからのお楽しみであるな」



133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:02:09.65 ID:qeC.XqQ0

<海岸の街>



船乗り1「なに? 密航? ふざけちゃいけねえよ。こっちもお上が怖いんだ」


     ※


船乗り2「はっはっは、冗談はもっと面白く言うもんだぜ!」


     ※


船乗り3「お前たちがめんこいおなごだったら話は違ったんだがな!」


     ※


船乗り4「……船乗りを舐めているのか?」



134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:03:02.70 ID:qeC.XqQ0

<夕方.酒場>



勇者「くそ、やっぱり駄目か!」

魔王「ゴッキュゴッキュ!」

勇者「まさか十三件もめぐって全部断られるとは!」

魔王「ゴッキュゴッキュ!」

勇者「やっぱり陸路でいくしかねえのか!?」

魔王「ゴッキュゴッキュ!!」

勇者「聞けよ!」ダンッ

魔王「ゴキュ?」



135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:05:03.20 ID:qeC.XqQ0

勇者「なんでそんなにリラックスしてんだよ! っていうか俺のほうが焦ってるっておかしいだろ! 世界が破滅するって言ってたのはお前の方だぞ!」

魔王「なんだか知らんが落ち着け、シェロ。まだ駄目と決まったわけではない」

勇者「……っつーと?」

魔王「今日回ったのはいずれも有名ギルドに属する船乗りばかり。地位も名誉もあるのだろう。そういう輩は危ない橋を渡りたがらないものだ」

勇者「……なるほど」

魔王「明日は比較的小規模の漁師あたりを当たってみよう。報酬しだいでは渡してくれるやもしれん」

勇者「! それだ……!」



「あの、もし……」



136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:07:46.19 ID:qeC.XqQ0

勇者「ん? なんだあんた?」

「失礼ですがあなた方、向こうに行くための船をお探しですね?」

魔王「そうだが、お前はいったい誰なのだ?」

商人「これは失礼、申し遅れました。私この町で商人をやっているものです。名刺をどうぞ」スッ

勇者「アーバンラマ海運会社社長?」

商人「私ならあなた方の力になれるかもしれませんよ」

勇者「!」

商人「もっとも、条件次第、ということになりますが」

魔王「……。聞かせてもらおうか」



137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:09:22.02 ID:qeC.XqQ0

商人「まず……失礼ですがあなた方、只者ではありませんね」

魔王「……!」

商人「職業として暴力を用いるものはこの街にも数多くいますが、あなた方の立ち居振る舞いは彼らの比ではありません」

商人「かなりの腕前と見ましたが、いかがですか?」

勇者「なんで……」

魔王(……馬鹿!)

商人「私、こう見えても以前は戦士として働いていましたので人を見る目は確かなんです」

商人「そこであなた方の腕を買って頼みごとがあるのです」

魔王(チッ……)

勇者「頼みごと?」



138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:11:17.27 ID:qeC.XqQ0

商人「ええ、それをこなしていただければ、船で向こうに渡して差し上げましょう」

魔王「……内容は?」

商人「引き受けてからのお楽しみ、です」

勇者「は?」

商人「企業秘密に引っかかりますので。引き受けると確実におっしゃっていただくまでは話すことはできません」

魔王「なるほどな」



139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:12:05.65 ID:qeC.XqQ0

商人「どうします?」

魔王(……)

魔王「……引き受けよう」

商人「ありがとうございます。では内容は明日の朝説明いたしますのでこの紙に書いてある場所まで来てください」スッ

勇者「了解」パシ

商人「では、また明日……」


     ※


勇者「しかしあの女、いったい何者だったんだ?」

魔王「あちらも只者ではないことは確かだ」

魔王(それにあの女……世界が破滅する云々も聞いていたな?)

魔王(そろそろきな臭いことになってきたかもしれん……)



140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:14:11.01 ID:qeC.XqQ0

<次の日.朝.街の入り口>



勇者「馬車の荷物の、護衛?」

商人「そうです。不服でしたか?」

勇者「いやそんなことねえけど、企業秘密って言うからどんな大仕事かと……」

商人「荷物の輸送もわが社の立派な仕事です。それに輸送ルート自体は企業秘密なんですよ。さらに言えば最接近領までですから往復でざっと二週間はかかります」

勇者「うげ……」

魔王「それでも陸路よりはマシなのだ。我慢するしかあるまい」

商人「では行ってらっしゃいませ」



141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:15:13.76 ID:qeC.XqQ0

     ※


 ゴトゴト ゴトゴト……


勇者「これから二週間か。長いような短いような」

魔王「我輩、時間の長さにはこだわらんが退屈なのはいやである」

勇者「いや、そりゃ無茶だろ。おとなしく待ってるしかねえよ」

魔王「おいそこの御者! 何か面白いこと言ってみろ!」

勇者「すみません。この人ちょっと頭おかしいんです」

御者「は、はぁ……」


 ゴトゴト ゴトゴト……



142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:20:39.73 ID:qeC.XqQ0

<三日後.夜.山道>



御者「この山を抜けたら野営の支度をしましょう」

勇者「了解」

魔王「我輩退屈で死にそうである……」

勇者「まだ折り返し地点にもきてないぞ。もうちょっと粘れよ」


「そこの馬車止まれぇ~い!」


御者「ひっ!」

勇者「なんだ?」

魔王「祭りか?」ムクリ

勇者「それはない」



143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:21:49.68 ID:qeC.XqQ0

山賊s「わははは!」

山賊頭「我らは山賊である! 命が惜しくば荷を置いて立ち去れい!」

御者「あわわ……」

勇者「なんだ?」ヌッ

山賊頭「ひっ! お前は!」

魔王「祭りか!」ヌッ

山賊頭「お前まで!」

勇者「なんだ、お前らか。俺たちこの馬車の護衛してるから。今立ち去るなら見逃してやらないでもないぞ」

魔王「祭りじゃないのか……寝る」

山賊頭「ぬぬ……いきなり現れて馬鹿にしやがって! 今度こそ山賊の恐ろしさを思い知らせてやる!」

魔王「任せたシェロ」

勇者「え~、お前も手伝えよ」

山賊頭「隙ありぃ!」バッ



144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:22:47.87 ID:qeC.XqQ0

山賊s「…………」ピクピク

勇者「これで終わりか。早かったな」

魔王「ご苦労」

勇者「お前、マジで手伝わなかったな」

魔王「楽できるときは楽をしておくのが我輩のジャスティス」

勇者「……ったく。――御者さん、そろそろ行こうか」

御者「は、はい!」



??「ちょおっと、待った」



魔王・勇者「!?」



145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:23:59.47 ID:qeC.XqQ0

??「やあやあオフタリさん。こんばんはと初めまして」ヘラヘラ


勇者(? なんだあいつ? いつの間に現れた?)

魔王(それに、なんだ? この威圧感は……。軽薄そうな雰囲気のくせに重く、鋭い……)

魔王「お前は、何者だ?」


??「俺? 俺かあ。俺の名前はヒューイック……っつーんだけどまあ、そっちはどうでもいいよね。いや、よくないのかな?」

スタッバー「職業はスタッバー。そこそこ長い付き合いになると思うんで以後よろしくぅ」ピッ


勇者「!!?」

魔王「すたっばー? 長い付き合い? なんだそれは」

勇者「暗殺技能者だ……。それにあの戦闘服、間違いない……」

勇者「王立の、スタッバー……!」

魔王「敵か? 強いのか?」

魔王「……いや、聞くまでもないか。あの雰囲気……やる気だし、相当の使い手だな」



146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:25:29.06 ID:qeC.XqQ0

勇者「……」スチャ……

魔王「……シェロ?」

勇者「お前は、下がってろ」

魔王「なぜだ? やつは強いぞ」

勇者「いいから下がってろ! あいつは俺の獲物だ!!」

魔王「……?」

スタッバー「ん? 俺、なんか恨みでも買ったっけ?」

スタッバー「……まあいいか、どうせやるつもりだったし、うん」

勇者「……」

スタッバー「さて、お前たちの腕がどんなもんか確かめさせてもらおう。いいかな? いいよね?」シャキン!

魔王(片手ナイフ使い……か)



147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:27:10.59 ID:qeC.XqQ0

 スタ スタ スタ……ピタ


スタッバー「お互い武器は持ったし、準備はオーケー?」

勇者「いつでも来い……」

スタッバー「じゃあ――」

勇者(俺のほうがリーチが長い。いくら強そうだろうがそれを考慮した戦いをすれば……)

スタッバー「――いくよ……」フッ

勇者「え?」



スタッバー「――」

勇者(もう懐に!!)



スタッバー「はっ!」ビュッ

勇者「(顔狙い……)くっ……」サッ

スタッバー「上体だけで避けたか、上出来上出来!」



148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:28:09.95 ID:qeC.XqQ0

スタッバー「でものけ反っちゃってて体勢がつらいね。そうら、タックル!」ドン!

勇者「うわ!」ゴロン

スタッバー「はいこれで死亡~」ザク!

魔王「シェロ!」



149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:28:46.34 ID:qeC.XqQ0

勇者「……」

勇者「……どういうつもりだ?」

スタッバー「うん?」

勇者「今のは地面じゃなくて、どこでも刺せただろ」

スタッバー「確かにそうだね」

勇者「だったらなんで!」

スタッバー「なんでって……弱い奴相手に本気になるわけないじゃん」

勇者「……けんな」

スタッバー「?」

勇者「ふざけんな!」ブオン!

スタッバー「おっと!」バックステップ



150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:30:03.60 ID:qeC.XqQ0

スタッバー「いやぁ血の気が多いね。さすがはモグリだ」

勇者「俺を――」ムクリ

勇者「俺をモグリと呼ぶな! 殺すぞ!」ダッ

スタッバー「ありゃりゃ、もしかして地雷踏んじゃった? エセ勇者君?」バックステップ

勇者「てめえ、俺を馬鹿にすんな! ズタズタにしてやる!」ブン!

スタッバー「おおこわ」スカッ



勇者「この! この! この!」ブオン ブオン ブオン

スタッバー「ふわぁ……」スカ スカ スカ

勇者「くっそ、何で当たらねえ!」ブン!

スタッバー「あれ、わかんないんだ。案外大したことないね?」スカ

勇者「黙れ!」ツキ!



151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:31:21.17 ID:qeC.XqQ0

スタッバー「ダメダメ全然なってない」ヨケ

スタッバー「そんなんだから踏み込まれる」スッ ガシ

勇者「うわ!」グルン ドサ!

スタッバー「ほい、本日二回目の死亡~」スチャ!

勇者「くっ……」



魔王「なんなのだやつは……」

御者「……」ブルブル



152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:33:00.85 ID:qeC.XqQ0

スタッバー「お前本当に魔王と戦えたの? こんなに弱いのは想定外なんだけど」

勇者「う、うるさい! “光の白刃!”」ドッ!

スタッバー「おっと」バッ

勇者「な!? この近距離で避けた!?」ガバッ

スタッバー「あれ? 驚いてていいの? あのタイミングならもう一発撃てば当たったのに」

勇者「くっ、講釈たれんじゃねえ! “我は放つ光の白刃!”」ドッ!

スタッバー「それ」ヒョイ!



153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:34:42.55 ID:qeC.XqQ0

勇者「“光の白刃!” “白刃!” “白刃!”」ドッ! ドッ! ドッ!

スタッバー「あれはさすがに避けらんないか」

スタッバー「“タマンカマの鏡よ”」キキキン ――ゴッ!

勇者「跳ね返された!?」


 ドドドーン!


勇者「が――ッ」ドサ

スタッバー「お前、もういいよ。大体わかったし」

魔王「“光よ!”」ボッ!

スタッバー「おっと」ヒラリ

スタッバー「うんうんよくわかってるね。次はあんただよ魔王さん」



154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:35:31.11 ID:qeC.XqQ0

魔王「やはりお前こちらの素性を把握しているな。いったい何者なのだ? もしや……」ザッ

スタッバー「王都の者、といえば納得してもらえるかな?」

魔王「……ふむ」

スタッバー「それよりあんた武器はないの? 素手相手はかわいそうだからやりたくないんだけど」

魔王「心配するな」ブオン……

スタッバー「お、高そうな剣。いいね」

魔王「行くぞ……」


 ズジャッ――――!


スタッバー「踏み込みはっや!」

魔王「ふん!」シュッ

スタッバー「うわわ……」ガキン!

魔王「いいのか? ナイフごときでまともに受け止めると後がつらいぞ」

スタッバー「だね」ゲシ!

魔王「ぬ……(蹴り離されたか)」



155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:36:28.44 ID:qeC.XqQ0

魔王「ふっ……」ヒュヒュヒュ!

スタッバー「そうそう、あんたはわかってる。ナイフ相手のときは大振りしないんだよね」キキキン!

スタッバー「あんたはエセ勇者とは違うみたいだ、うれしいよ。でも足りない!」パアン!

魔王(剣が逸らされた!)

スタッバー「それ」トン

魔王(我輩の腹に拳を置いた? 何かまずい!)バックステ――

スタッバー「おせえ!! “寸打!!”」ドゴォ!

魔王「がっ!」ドサ!



156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:37:10.30 ID:qeC.XqQ0

魔王「か……は……」

魔王(ゼロ距離打撃……! 人間に、こんな逸材がいたとは……!)

スタッバー「寸打は内臓に通る。しばらくは起き上がれないよ」



勇者「馬鹿野郎! 手を出すなって言っただろうが!」ザッ

魔王「馬鹿はお前だ……二人でかからねば犬死だぞ……」ムクリ

スタッバー「あれ? 何で起き上がれるの?」

魔王「この腹巻を舐めるなよ、小童!」



157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:37:56.94 ID:qeC.XqQ0

魔王「……」ザッ

勇者「……」ザッ

スタッバー「さあて予想外。前門の魔王、後門のエセ勇者か。参ったね」ポリポリ

勇者「人をエセ勇者呼ばわりすんじゃねえ! もう容赦しねえぞ!」

魔王「少し遊びが過ぎたようだな小童」

勇者「俺の実力見せてやる!」

魔王「我輩の恐ろしさ、その身に刻め!」

魔王・勇者「行くぞ!」ダッ

スタッバー「口先だけは達者だねえ」



158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:38:39.34 ID:qeC.XqQ0

スタッバー「それ!」ピッ!

魔王(スローイングダガーか!)キン!

スタッバー「最初はお前だ勇者!」バッ



勇者「だらっしゃあ!」ブッオン!

スタッバー「学ばないねえ……」ヨケ シュ!

勇者「痛……!」ザシュ! ――カラン

スタッバー「手の健が傷ついたね」ニッ

勇者「てめえ!」



159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:40:03.09 ID:qeC.XqQ0

魔王「後ろはもらった」ビッ!

スタッバー「おっと」サッ ゲシ!

魔王「が……ッ」

勇者(屈んでからの後ろ蹴り! 速い!)

勇者「この……!」シュシュ!

スタッバー「剣がだめなら素手はと思ったけど全然だめ」パシパシ

スタッバー「うん、不合格」グルン ゲシ!

勇者「ぶっ……(後ろ回し蹴り……)」ドサ



160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:41:15.63 ID:qeC.XqQ0

スタッバー「だめだめ二人とも! 連携が全然なってない! リズムがめちゃくちゃ!」

スタッバー「もっと息を合わせて! 繊細なメロディーを奏でるように! 軽やかなテンポで!」

勇者「うるせえ! ちょっと黙ってろ!」ガバ!

スタッバー「よし、エセ勇者、魔術防御のチェックだ! 防いでみろ!」

スタッバー「“プアヌークの魔剣よ!”」ジャッ!

勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」キ……ズバシュ!

勇者「(防御壁が斬られた!?)ぐはっ!」ドゴォ!

魔王「“光よ!”」ボッ!

スタッバー「“シアヌーンの盾よ”」キン

スタッバー「反撃! “ヤスランの棺よ!”」ゴッ!

魔王「ぬおおお!」グシャ!



161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:42:12.67 ID:qeC.XqQ0

勇者「ゼイ……ゼイ……」

魔王「ハァ……ハァ……」

スタッバー「地べたに這いつくばっちゃって、情けないねえ二人とも」

勇者「く……そが……」

スタッバー「今回は殺さないでおいてあげるよ。ここで終わってもらっても面白くないし」

魔王「……」

スタッバー「ただし次回は別だ。次はちゃんと殺すよ。だから次回までに強くなっておくんだね」

勇者「待て!」

スタッバー「それじゃ」フッ――



162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:42:55.08 ID:qeC.XqQ0

勇者「……」

魔王「……行ったか」

御者「あ、あの大丈夫ですかお二方……?」

魔王「“治れ”」ホワホワホワ……

勇者「“我は癒す斜陽の傷痕”」ホワホワホワ……

魔王「……我輩らのことなら心配はいらん」ムクリ

勇者「……ちっきしょう! あの野郎!」ムクリ

魔王「気配は……しないか」

勇者「俺を馬鹿にしやがって……次にあったら絶対に殺す……!」

御者「あ、あの方々はどうします?」

山賊s「……」ピクピク

勇者「知るか、ほっとけ!」

御者「はぁ……」



163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:44:34.81 ID:qeC.XqQ0

<野営場所>


御者「zzz……」

勇者「チッ……くそ……気にくわねえ……むしゃくしゃする……!」

魔王「……それにしても、やつはいったい何者だったのだ? 王都の者といっていたが……。お前、やつを知っていそうな口ぶりだったな?」

勇者「……別にあいつ自体を知っているわけじゃねえよ。ただ、あいつのバックなら見当がつく」

魔王「ほう?」

勇者「あいつは王立、つまり宮廷直属の暗殺技能者のうちの一人だろうよ」

魔王「……つまり我輩を倒す――いや、暗殺するための集団というわけか?」

勇者「当たり。そいつらは、いわば正式勇者というわけだ」

魔王「ほほう」



164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:45:34.56 ID:qeC.XqQ0

勇者「十三使徒」

魔王「?」

勇者「そいつらは十三使徒と呼ばれている」

魔王「お前は?」

勇者「え?」

魔王「お前はその一員ではないのか? 勇者なのだろう?」



165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:46:32.96 ID:qeC.XqQ0

勇者「……俺は、モグリだから」

魔王「以前にも言っていたな。それはいったいどういう意味なのだ?」

勇者「……俺は王から正式に魔王討伐の命を下されたわけじゃない」

魔王「なるほど、だから極端に仲間が少なかったのか」

勇者「……ちょっと事情があってな」

魔王「事情?」

勇者「それは、話したくねえ……! 話す必要もねえ……!」

魔王「……。今日のことはあの商人に報告するか?」

勇者「別に俺たちが考えるまでもなくそこのが報告すんだろ」

御者「zzz……」

魔王「む、それもそうだな」

勇者「……俺は寝る」

魔王「うむ」



166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/11(火) 22:47:04.28 ID:qeC.XqQ0

魔王(……しかし)

魔王(改めて考えると、この依頼、タイミングが良すぎるな。まるで我輩らのために用意してあったかのようだ……)

魔王(もしや、あの商人……)

魔王(……まあ、今はよいか。海を渡ることだけを考えよう……)



175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:00:06.12 ID:tgoVOjI0

<十数日後.昼.海岸の街>


商人「ご苦労様でした。途中でひと悶着あったと聞いてます」

勇者「まあな」

商人「しかし何はともあれ無事に依頼はこなしていただいたので、船には乗っていただいて結構です」

魔王「助かる」

商人「旅は半月ほど。船上では特に何かする必要はありませんが、船員の邪魔はなさいませんよう」

魔王「了解である!」

勇者(お前が一番心配だがな……)

商人「ではまたいつか機会がありましたらお会いしましょう」



176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:01:27.89 ID:tgoVOjI0

商人「……行きましたか」

商人「……」

商人「……出てきてもいいですよ、ヒューイック。いるんでしょう?」


スタッバー「あれれ、やっぱりばれてた?」ヌッ


商人「ええ」

スタッバー「参ったなあ、俺もまだまだじゃん。やつらのこと言えないなー」

商人「殺さなかったんですね」

スタッバー「ん? やつらのこと?」

商人「上からは確実に始末するように命令が出ていたのでは?」

スタッバー「豚は太らせてから食えっていうじゃん? 俺もそうしようかと思って」



177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:02:30.46 ID:tgoVOjI0

商人「私は構いませんが。……どうでした、彼らは」

スタッバー「正直期待はずれだったかなあ。あんなに弱いとは思わなかったよ」

スタッバー「でもまあ、伸びシロはあるかな。だからこそ見逃したわけだし」

商人「そうですか、よかったですね」

スタッバー「じゃあ、俺もそろそろ行こうかな。さっさと行って先回りしないと」

商人「行ってらっしゃいませ」

スタッバー「君も行かない?」

商人「遠慮しておきます」

スタッバー「……本当に?」

商人「私では足を引っ張ってしまいますから」

スタッバー「それ、本気で言ってる?」





スタッバー「ねえ、十三使徒の元ナンバー2 さん?」





商人「……」



178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:04:17.50 ID:tgoVOjI0

商人「私は……」

商人「……私ではあなたを満足させることはできませんでした」

商人「それだけで十分です」

スタッバー「……」

スタッバー「……そか、残念」

スタッバー「それじゃ、また。機会があったら会おう。もっとも、世界が破滅してなければだけど」スタスタ

商人「……行ってらっしゃいませ」



179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:04:50.52 ID:tgoVOjI0

<船上>


魔王「わははは!」ゴッキュゴッキュ!

船長「勝手に酒を飲むな!」

魔王「わはははは!」ガー!

船長「勝手に舵輪に触れるなー!」

魔王「わははははは!」ヨジヨジ

船長「勝手にマストに登るなーっ!」

魔王「わはははははは!」ジャブジャブ

船長「勝手に海で泳ぐなーっ!!」

勇者「拝啓商人さま、俺たち早くも追い出されそうです……」



180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:05:39.71 ID:tgoVOjI0

<夜.船上.あてがわれた狭い部屋>


勇者「……」

魔王「zzz……」

勇者(眠れねえ……)

勇者(……)


『我輩の手下になってくれ』


勇者(……)

勇者(……俺はこのままこいつに従っていていいのか?)

勇者(それでいいのか? 本当に?)

勇者(確かにこいつが言っていた世界の危機? その信憑性は高まっている)

勇者(でも、まだその根拠たる世界書云々の話自体がこいつの口からのでまかせだという可能性は否めない……そうして別の何かを狙っているのかもしれない)



181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:06:52.33 ID:tgoVOjI0

勇者(……)

勇者(何より、こいつの話が全部本当だったとしても、それでもこいつに従わなければならない理由はあるのか?)

勇者(世界の破滅を食い止めるのに魔王と手を組むのが絶対条件か?)

勇者(冷静に考えてみろ、俺。世界がどうのなんてのはこの際二の次だ。俺は今、許されざる大罪を犯しているのかも知れないんだぞ? 呪いの首輪なんてどうでもいいほどの……)

勇者(勇者が、魔王に、従う……)

勇者(そして、俺の村……)

勇者(後悔、しないか、俺?)

勇者(……)

勇者(本当の……本当の勇者なら、どうするだろうな?)

勇者(……本当の勇者? 馬鹿な。俺が勇者だ)



182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:07:54.65 ID:tgoVOjI0

『いやぁ血の気が多いね。さすがはモグリだ』


勇者(……!)

勇者(モグリ……だと?)


『もしかして地雷踏んじゃった? エセ勇者君?』


勇者(ちがう! 俺はエセ勇者なんかじゃねえ!)

勇者(……畜生、ふざけんなよ)

勇者(俺は勇者だ……真の勇者だ……!)

勇者(俺は弱くなんかねえ! 劣等種なんかじゃねえ!)

勇者(お前にも認めさせてやる!)

勇者(俺の力を!! 嫌というほどに!)

勇者(次にあったときはお前を殺す! 覚悟しろスタッバー!)

勇者(すぐにでもあいつを見つけ出して――)



183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:08:59.13 ID:tgoVOjI0

『やーい、弱虫シェロ、悔しかったら俺たちに勝ってみろ!』


勇者(……!)

勇者(……ああ)

勇者(いやなこと思い出した……)


『落ちこぼれのお前が俺たちにかなうわけないだろ』


『お前じゃ勇者になれねえな』


『お前はずっと狭いところに引きこもってるのが似合ってるよ』


勇者「俺は……」


『お逃げ、シェロ!』


勇者(……! 母さん……)



184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:10:56.56 ID:tgoVOjI0

<十数年前.昼.勇者の村>


教師「……」

幼勇者「……」

教師「ついに私の剣技教練の補習は君一人になったなシェロ君? ここまで長引くのは私の長い教師生活でも珍しいことだよ」

幼勇者「は、い……」

教師「私の言ってることがそんなに難しいかね?」

幼勇者「……」

教師「君に欠けているものは多い。だが全てをこなせと言うつもりはない。ただ、君にはもっとも基本である闘争心が足りない。だからまずは積極性を持てと言っているだけだが?」

幼勇者「わかってます……」

教師「ならもっと努力したまえ」

幼勇者「……はい」

教師「よろしい。今日はもう帰りなさい」

幼勇者「ありがとう、ございました……」

教師「はぁ……」



185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:11:33.29 ID:tgoVOjI0

幼勇者「……」トボトボ

「あ、落ちこぼれのシェロだぜ」

「またあいつ居残りかよ」

「かわいそ~……」

「落ちこぼれるとつらいよねえ」

幼勇者「……っ」トボトボ



186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:12:50.82 ID:tgoVOjI0

幼勇者「ただいま……」

勇者母「お帰りシェロ。……あんたまた居残りだったね?」

幼勇者「……」

勇者母「まったく恥ずかしいよ。いつになったらあんたはできる子になるんだい?」

幼勇者「……僕だって、がんばってる」

勇者母「なら結果を出しなさい。この村は代々勇者を輩出している誇り高き村なんだよ?」

幼勇者「……どうせ、僕は勇者になれない。英雄になれない。だったらこんな村に生まれなきゃよかった」

勇者母「……っ」パシン!

幼勇者「痛っ」



187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:14:39.22 ID:tgoVOjI0

勇者母「何泣き言言ってんだい! あんたはそれだからだめなんだ!」

勇者母「もっと前向きになりなさい。あんたはやればできる子なんだから」

幼勇者「……」

勇者母「もうあんなこと言わないって約束しな」

幼勇者「……」

勇者母「いいね?」

幼勇者「……わかった」

勇者母「よし」



幼勇者(本当は母さんだってわかってるんだ。僕がどんなに努力しようがだめなことぐらい……)

幼勇者(僕がどうあがいたって勇者になんてなれっこない……)

幼勇者(僕は……僕は落ちこぼれ……)



188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:16:57.81 ID:tgoVOjI0

ここは勇者の村
代々勇者を輩出してきた歴史を持つ村
ここで生まれた人々は皆、小さいころから勇者になるための訓練を課される
つらく苦しい鍛錬を乗り越えその頂点に立った一握りの人間が王から正式な勇者として認められ、はれて魔王討伐の命が下される


ここに生まれる人々は皆、生命力にあふれ、戦いの才能に恵まれている
戦闘を宿命として生まれてくる


しかし当然のことながら……


勇者に向かない子供というのも稀に生まれる



189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:17:54.41 ID:tgoVOjI0

<剣術教練>


 ヤー! パシーン! トゥ! パシーン!


教師「剣技試合始め!」

子供1 「行くぞシェロ! やあ!」ブン!

幼勇者「うわわ……!」ゴン! バタ

教師「……。そこまで! 勝負あり!」


<魔術教練>


 ヒカリヨ! ボッ――ドカーン!


教師「的をよく狙え!」

子供2「はい! “光よ!”」ボッ――ドカーン!

幼勇者「ひ、“光よ!”」プスン……

教師「……」



190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:18:46.38 ID:tgoVOjI0

教師「私の手には負えん……許可するから帰りたまえ……」

幼勇者「……はい」

「えー、いいなー」

「落ちこぼれるとそんな特典もつくのか」

「俺も落ちこぼれたかったぜ」アハハ

幼勇者「……」



191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:20:00.27 ID:tgoVOjI0

<帰り道>


幼勇者「……」トボトボ

「やーい、弱虫シェロ、悔しかったら俺たちに勝ってみろ!」

幼勇者「……ぼくには無理だよ」

「落ちこぼれのお前が俺たちにかなうわけないだろ」

幼勇者「……わかってるよそんなこと」

「お前じゃ勇者になれねえな」

幼勇者「……わかってるってば」

「お前はずっと狭いところに引きこもってるのが似合ってるよ」

幼勇者「……」




幼勇者「……」グスッ

幼勇者「僕だって……僕だって、勇者に……」



192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:20:57.04 ID:tgoVOjI0

<夜.幼勇者の家>


 カッ――ズズーン……!


幼勇者「……う~ん、むにゃ」


 カッ――ドゴォォォ!


幼勇者「!」ハッ

幼勇者「……な、なんだ!?」ガバ



193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:21:36.66 ID:tgoVOjI0

<外>


幼勇者「さっきの轟音はいったい……」

「魔物だー!」

「魔物が襲ってきたぞー!」

幼勇者「……!?」

幼勇者「ま、魔物?」



194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:22:37.41 ID:tgoVOjI0

<村長宅>


村長「ふむ、魔物か」

補佐「ずいぶんと久しぶりのことですな」

村長「ああ。今回はどのくらい楽しめるかな?」ニヤ

補佐「いやはや、この村を襲うとは馬鹿な魔物ですな」

「伝令です!」

村長「うむ」

補佐「今回村を襲ったのはどのような魔物かね?」

「そ、それが……」

村長「どうした。はっきり言いたまえ」

「……上級魔族、およそ二百体です」

補佐「……なんだと?」



195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:23:27.37 ID:tgoVOjI0

 カッ――ドカァァン!


「きゃああああ!?」

「まて、逃げるな、応戦しろ!」

「われわれ勇者の力を思い知らせてやれ!」


幼勇者「か、母さんは?」

勇者母「シェロ!」

幼勇者「母さん!」

勇者母「あんた、勝手に家を飛び出しちゃだめじゃないか!」

幼勇者「ご、ごめんなさい……」

勇者母「何はともあれ無事でよかったよ……」



196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:24:28.92 ID:tgoVOjI0

勇者母「……。シェロ、いいかいよく聞きな」

幼勇者「?」

勇者母「この道をまっすぐ行くと抜け道があることは知ってるね?」

幼勇者「う、うん。昔からある脱出口だ」

勇者母「あんたはそこから逃げな」

幼勇者「え?」

勇者母「私の勘がこの戦いはよくないって言ってる……。シェロ、あんたは避難するんだ」

幼勇者「え、でも、そんな。ぼ、僕も戦わなきゃ……」

勇者母「あんたじゃどうせ戦力にならない」

幼勇者「でも! 逃げたらあとでまたみんなにいじめられる……」

勇者母「くだらないこと気にしてんじゃないよ!」

幼勇者「!」ビク!



197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:25:26.15 ID:tgoVOjI0

勇者母「いいから逃げるんだ。もし私の勘違いだったらこっそり戻ってくればいい」

幼勇者「でも……でも……」

勇者母「もしそれでもいじめられそうになったら、そのときは私があんたを守ってやるよ」

勇者母「だから、お行き! 早く!」

幼勇者「母さん……」

幼勇者「……」

幼勇者「……っ」ダッ



198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:26:04.96 ID:tgoVOjI0

<村の外.小高い丘の上>


幼勇者「ハア……ハア……」タッタッタ……

幼勇者「こ、ここまでくれば……」

幼勇者「……!」

幼勇者「村が……村が燃えてる……!」

幼勇者「母さん、どうか無事で――」


 カッ――


幼勇者「え……?」


 ――ゴオオオオオオオォォォォォ!


幼勇者「…… え?」



199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:26:33.69 ID:tgoVOjI0

幼勇者(村が……)

幼勇者「村が、火柱に飲まれ、た?」


 ゴオオオオオオォォォォォォッ!


幼勇者「……」ヘタリ……

幼勇者「か……」

幼勇者「母さん……!」

幼勇者「……母さん!」



200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:27:20.85 ID:tgoVOjI0

幼勇者「……」

幼勇者「……っ」

幼勇者「く、そ……魔物ども!」

幼勇者「よくも……よくも母さんを……!」ドン!

幼勇者「よくも、よくもぉ……」グス

幼勇者「絶対に、絶対に許すものか……許してなるものか!」ポロポロ

幼勇者「絶対に許さない! 魔物どもは根絶やしにしてやる!」バッ!



幼勇者「僕は、いや、『俺』は今日から勇者だ! 誰が認めなくても勇者だ!」



201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:28:07.27 ID:tgoVOjI0

幼勇者「俺は誰よりも強くなってやる!」

幼勇者「強くなって、母さんの仇をとってやる!」

幼勇者「勇者がすべての復讐を果たす!」

幼勇者「待ってろ魔物ども!」

幼勇者「待っていろ!」



202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:29:09.32 ID:tgoVOjI0

<現在>


勇者「zzz……」

魔王「zzz……」

魔王「……ぅ~む」ムニャ……



魔王「父、上……」

魔王「……母、上」



203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:30:02.76 ID:tgoVOjI0

<百数十年前.魔王城>


幼魔物「父上と母上に会わせてください! お願いですから!」

側近「なりません」

幼魔物「なぜ!」

側近「……」

幼魔物「そもそも、僕が何でこんなところに連れてこられなきゃならないのですか!」

側近「……」

幼魔物「話してください!」

側近「……いいでしょう。すべて、お話いたしましょう。次期魔王様」

幼魔物「次期、魔王……?」

側近「そうです、あなたは魔王になるのです」



204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:30:54.27 ID:tgoVOjI0

側近「あなたは類稀なる身体能力と魔力をその身に宿していらっしゃいますね?」

幼魔物「! ……そんなの、知りません……」

側近「隠しても無駄です。われわれは何十年も前から魔王様候補を探していましたから」

幼魔物「……」

側近「あなたの力と才覚は近隣を大いに揺るがせ、その名を知らぬものは魔界にいないと聞いています」

側近「その年でそれほどの能力を持っていらっしゃる。あなたは魔王になるべくしてお生まれになったのです」

幼魔物「勝手に決めないでください!」

側近「……」



205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:33:35.93 ID:tgoVOjI0

幼魔物「僕は帰ります」

側近「なりません」

幼魔物「そこをどいてください」

側近「いいえどきません」

幼魔物「あなたを殺すことはとてもたやすいですよ……?」

側近「ええ存じ上げております。その上で邪魔だてしているのです」

幼魔物「どいてください!」

側近「存じております。あなたは強大な力を持っておりますが、それを扱うにはあまりにも幼い。殺すだけの勇気がない」

側近「しかし反面、その力を無造作に振るわないだけの知性を持っていらっしゃる。だからこそ無理やりここにお連れすることができました」

側近「あなたに私は、殺せません」

幼魔物「……っ」



206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:34:27.17 ID:tgoVOjI0

側近「反対に私には殺されてでもあなたをとどめおく決意があります」

側近「絶対にここは通しませんよ」

幼魔物「……そこまであなたを突き動かすものはなんですか」

側近「先代魔王様とのお約束。そして」





側近「世界の破滅への恐怖、です」

幼魔物「世界の、破滅?」



207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:36:28.68 ID:tgoVOjI0

側近「ええ。今、世界は破滅へと急速に向かっております。先代魔王様はそれをお止めになるため動いていらっしゃいました」

幼魔物「どういう、ことです?」

側近「……詳しいことはおいおい勉強していただきます。しかしこれはあなたをとどめおくための嘘ではありません。世界は本当に危機に瀕しているのです」

幼魔物「……」

側近「では、早速お勉強を始めましょうか。次期魔王様」

幼魔物「それでも、僕は父上と母上に会いたい……。どうしてもだめなのですか?」

側近「ことは目前に迫っているのです。ぬるま湯に浸っておられては困ります。それに」

幼魔物「?」

側近「あなたががんばらなければご両親も破滅に巻き込まれてしまいますよ?」

幼魔物「!」



208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:37:16.46 ID:tgoVOjI0

側近「わかりましたか?」

幼魔物「……僕、は……」

側近「いけませんね」

幼魔物「え?」

側近「僕、では魔王としての威厳を保てません。あなたは、そうですね……」




側近「『我輩』、とおっしゃいなさい」



209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:38:18.30 ID:tgoVOjI0

<現在.???>


「……女。それはまことであるか」

女魔術士「ええ本当よ。わたしは勇者と魔王がどこにいるか知っている」

「ならば早く教えるがよい」

女魔術師「嫌よ」

「……」

女魔術士「別にあいつらをかばっているわけじゃないわ。ちゃんと捕まえて連れてくるわよ」

女魔術士「ただね、わたしがあんたたちに力を貸すわけじゃないの。あんたたちがわたしに力を貸してほしいの」



210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:38:59.49 ID:tgoVOjI0

「…… つまり?」

スタッバー「あのブヨブヨ共を貸せってことでしょ、具体的には」

女魔術士「そう。あんたたちはあいつらを捕まえたい。わたしはわたしであいつらを捕まえたい理由がある。目的は一致している」

女魔術士「絶対に後悔はさせないわ。だからわたしを手伝いなさい」

「……」

スタッバー「いいんじゃない? 貸してあげれば?」

「……よかろう。ただし、絶対に仕損じるでないぞ」

女魔術士「もちろんよ」



211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:39:44.55 ID:tgoVOjI0

     ※


「……」

スタッバー「うん? どうかした?」

「居場所を吐かせる方法はいくらでもあったのでは、と思ってな」

スタッバー「うん、そうだろうね。でも――」

「?」

スタッバー「このほうが面白そうじゃん」

「……」

スタッバー「ははっ」

「……お前はまだ奴らの位置を捕捉できないのか」

スタッバー「うん、あいつら結構慎重でさー」シラッ

「……。まあ、よかろう」

スタッバー「大丈夫。すぐに見つけるからさ」



212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:43:44.31 ID:tgoVOjI0

<半月後.船上>


船員「陸が見えたぞ~!」

船長「ようし、わかった! みんな、船を寄せる準備をするんだ!」

船員s「うーす!」



勇者「やっとついたか。長かったな」

魔王「そうか? 我輩には至極短く感ぜられたが」

勇者「そりゃまあ毎日あんだけ暴れてりゃあな……」


船長「上陸ー! 上陸ー!」



213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:44:27.69 ID:tgoVOjI0

<港町>


魔王「世話になった船長!」

船長「ああ、近くに寄ったら顔を見せてくれ。また一緒に酒でも酌み交わそう!」

魔王「是非!」

勇者(いつのまにか打ち解けてるし)

船長「ではまたいつか!」

魔王「さらばだ!」

勇者「どーも」



214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:45:15.76 ID:tgoVOjI0

     ※


勇者「さて、この道をまっすぐ行ったところが町の出口だ。装備には問題ないしさっさと行こうぜ」

魔王「ちょっと酒場に――」

勇者「却下」

魔王「(´・ω・`)」



老婆「そこのあんたがた」

勇者「あ? 俺たちか?」

老婆「そうそう。ちょっと占っていかんかい?」

魔王「ぜひ」

勇者「お前は黙ってろ……。悪いけど婆さん、こっちは手持ちも時間もないんだ。さっさと町を出なくちゃ」

老婆「金もとらんし時間もとらせんよ。あんたがたに興味があるだけなんだ。タダで占ったげるから」

勇者「?」



215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:45:58.77 ID:tgoVOjI0

老婆「さて、ふむ。まずはあんたじゃね」

勇者「ほんとに早いな。……適当にやっただけじゃないのか?」

老婆「失礼な。これでも腕は確かじゃよ」

勇者「それで? 早くしてくれよ」

老婆「あんた、今悩んでおるね?」

勇者「そんな大雑把な質問、当たるに決まって――」

老婆「早くに決着をつけなさい。じゃないと大切な人が取り返しのつかないことになるよ」

勇者「……。はいはい……」

老婆「それと……」

勇者「?」

老婆「劣等感もほどほどに」

勇者「!?」



216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:46:35.92 ID:tgoVOjI0

勇者「おい、それ、どういう――」

魔王「次は我輩であるな!」

勇者「おい、まだ俺の話は――」

老婆「あんた死ぬわよ」

魔王「ワッツ!?」

老婆「あんた死ぬ」

魔王「ホワイ!?」

老婆「さてね。死にたくなきゃ、そうだね、途中の祭りで買い物でもするといいかもしれんね」

魔王「いきなり死の宣告とかマジ心臓に悪い……買い物か……」

勇者「だから俺の話を……まあ、いいか」

老婆「気をつけていくんじゃよー」



217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:47:10.62 ID:tgoVOjI0

<昼.街道>


勇者(魔王についていっていいのかどうか)

勇者(……結局答えの出ないまま海を渡っちまったな)

勇者(しかし……実際のところそれはどうでもいいんだ。俺は、俺自身は結局の所どうしたいんだろう?)

勇者(俺は……)

勇者(とりあえずスタッバーのやつをぶっ飛ばしたい)

勇者(あの野郎をぶっ潰して俺を認めさせてやる!)

勇者(……とりあえずそのことだけを考えていればいいか)

勇者(どうせ首輪をどうにかしないと、考えても無駄だしな)

勇者(……)

勇者(劣等感、か)



218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:47:56.40 ID:tgoVOjI0

魔王「さあて、海も越えたし王都はもう目の前だな! 途中で不吉なことを言われたが」

勇者「ああ、このペースだとあと十数日もすれば王都に到着する。……が」

魔王「が?」

勇者「俺たちは指名手配されてるし、冷静に考えてみるとそう簡単に入れるわけがないな」

魔王「それは確かに。ここまで来るのに王都軍とぶつからないのは不自然すぎる」

勇者「魔王城までのルートがいくつかあるからな。おそらく兵力の分散や入れ違いを恐れて王都に集結させているんだろう」

魔王「では王都に入るまではすいすいいけるということか?」

勇者「そううまくはいかないんじゃねえか」

魔王「それもそうか。――あんなふうにな」

勇者「ああ」




女魔術士「……」



219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:49:07.44 ID:tgoVOjI0

女魔術士「遅かったじゃない、待ちくたびれたわ」

勇者「ハル……」

女魔術士「シェロ、助けに来たわよ」

魔王「そう簡単にシェロは渡さんぞ」

女魔術士「あんたの都合なんて関係ないわね。シェロは私がもらっていくわ」

勇者「お前ら俺を物扱いすんじゃねえ」

魔王「今回は一人で来たのかおなごよ」

女魔術士「いいえ。――出てらっしゃい」パチン!


 ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン――


刺客s「キキー!」

勇者「げっ、またあいつらか」

魔王「十体か、多いな。――なぜお前が王都からの刺客を従えている?」

女魔術士「答える必要はないわね」



220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:50:09.51 ID:tgoVOjI0

女魔術士「ここで降参してシェロを開放するなら、見逃してあげないこともないわよ魔王?」

魔王「我輩は世界を救わなきゃならん。その申し出は謹んで辞退させていただこう」

女魔術士「またそれ? あんたたち王都にいったい何の用事があるっていうのよ」

魔王「言えば通してくれるのか?」

女魔術士「いいえ。それだけは絶対にないわね」

魔王「そうか。そうであろうな」

女魔術士「それじゃ……行きなさいあんたたち!」

刺客s「キー!」ブワワ!

魔王「来るぞ!」

勇者「……」



221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:50:50.41 ID:tgoVOjI0

魔王「“氷河よ!”」ビュオウ!

刺客1.2.3「キ……」カチコチン!

勇者「でぇりゃっ!」ババキ! ガラガラ

勇者「よし! 三体撃破!」

刺客4「キキー!」シュッ!

魔王「(針!)“盾よ!”」キン!

女魔術士「あんたたち、囲みなさい!」


 ヒュンヒュンヒュン――


勇者「チッ」



222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:52:04.92 ID:tgoVOjI0

女魔術士「そのまま串刺しにしちゃって!」


 ビシュシュシュシュシュシュ――――!


魔王「勇者!」

勇者「“我は踊る天の楼閣!”」ピシュン!

女魔術士「な!? 空間転移!?」



223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:52:52.29 ID:tgoVOjI0

 ピシュン!


勇者「距離をとったぞ!」

魔王「よし、これでほぼ一網打尽であるな」

女魔術士「しまった!」

魔王「“氷河よ!”」ビュオオォォォ!

刺客s「キ……」カチコチカチン!

勇者「おら!」バババキン! ガラガラガラ……

刺客10「キキー!」

魔王「一匹残したか」



224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:53:31.18 ID:tgoVOjI0

勇者「魔王、ハルを任せていいか?」

魔王「ぬ? やはりおなごとは戦いたくないか?」

勇者「仮にも、元パーティーだ」

魔王「ふむ、ではこちらは任せた」ダッ



刺客10「キ!」ブワ――

勇者「おっとそっちは行かせねえ。お前の相手は俺だ」ザッ



225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:54:33.92 ID:tgoVOjI0

 ザッ……


魔王「よう、おなご。久しぶりだな。あれから少しは成長したか?」

女魔術士「……うっさいわね」

魔王「前のまま、ということか」

女魔術士「黙りなさいよ……」

魔王「それでは我輩には勝てん。シェロは取り戻せんぞ?」

女魔術士「黙れっつってんでしょ。シェロは私が必ず取り戻すんだから……!」

魔王「今度は最初から全力で行くぞ」ブオン……

女魔術士「来なさい! 叩きのめしてあげる!」バッ!



226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:55:15.90 ID:tgoVOjI0

刺客10「キキー!」シュッ!

勇者「効くか!」カキン!

勇者「ふん!」ブン!


 ブニュン!


勇者「やっぱり斬れないか……」

刺客10「キ!」ビシュシュシュシュ!

勇者「……」バックステップ



227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:56:11.33 ID:tgoVOjI0

刺客10「キキ」ガキガキガキン!

勇者(変形。剣、か)



刺客10「キー!」ビュッ!

勇者「くっ……」キン


 グニョン――


勇者(剣先が曲がった!?)


 チッ――!


勇者(っ――。頬をかすったが……傷はない)バックステップ



228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:57:28.76 ID:tgoVOjI0

女魔術士「“赤の刺激!”」ボッ!

魔王「“光よ”」ボッ!


 ドッ――


女魔術士「(相殺……)“青の刺激!”」バリバリバリ!

魔王「“雷よ”」バリバリバリ!


 ゴッ――


魔王「これも相殺。二歩近づいたぞ」

女魔術士「う……」

魔王「お前が一手しくじるたびに一歩。これで三歩だ」

女魔術士「“緑の爆鳴!”」ギイン!

魔王「“盾よ!” 四歩目!」キキン!



229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 22:58:23.48 ID:tgoVOjI0

刺客10「キキキー!」シュ!

勇者「シッ――」キイン!

勇者「“我は流す天使の息吹!” 吹き飛べ!」ビュオオォォォ!

刺客10「キ……」ヒュオウ!



勇者「よし、これで距離は取れた! 終わりだ!」

勇者「“我が契約により ――”」

刺客10「キ!」ビシュシュ――

勇者「遅い! “――聖戦よ終われ!”」


 カッ ――! ビシュゥ――!


        ……――シン……


勇者「消滅魔術だ。チリのひとつも残らなかったな」

勇者「俺の、勝ちだ」



230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 23:00:41.01 ID:tgoVOjI0

女魔術士「あ……“赤の刺激!”」ボッ

魔王「“盾よ” これであと四歩だ」キン!

女魔術士「(止まれ……)“紅の疾風!”」ボッ ヒュンヒュンヒュン!

魔王「“盾よ” 三歩」キン!

女魔術士「(止まれ、止まれ)“無色の咆哮!”」ゴオオォオ!

魔王「“盾よ” 二歩」キン!

女魔術士「(止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!)“黒の言葉よ!”」キィン!

魔王「“盾よ” 一歩」キン!

女魔術士「来るなあ!」

魔王「ゼロ。これで終わりだおなごよ」スチャ

女魔術士「う、ぐ……」



231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 23:01:50.68 ID:tgoVOjI0

魔王「また、シェロを取り戻せなかったな」

女魔術士「……っ」

魔王「お前では無理だ。男など一人ではあるまい。別の伴侶でも探すんだな」

女魔術士「……どういう意味よ?」

魔王「シェロのことは諦めろ、そう言っているのだ」

女魔術士「なんであんたなんかにそんなこと……」

魔王「我輩はシェロを手放す気はない。そしてお前には力がない。必然的にそういうことになると思うが」

女魔術士「ふざけないで……」

魔王「……」

女魔術士「わたしはシェロのことを諦める気なんてない!」

女魔術士「決めた……どんな手を使ってでもあんたを倒すわ。そしてシェロを取り戻す!」

魔王「見苦しいぞおなご」

女魔術士「言ってなさい! すぐに後悔することになるわ!」

女魔術士「“鈍の扉!”」ピシュン!

魔王「……。行ったか」



232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 23:02:45.58 ID:tgoVOjI0

勇者「片付いたみたいだな」

魔王「ああ」

勇者「……ハルは?」

魔王「逃げた。どんな手を使ってでもお前を取り戻すそうだ」

勇者「そうか……」

魔王「今後どのような手を使ってくるかわからん。不意打ち闇討ちにも気をつけなければならんな」

勇者「……」

魔王「では、行こうか」

勇者(……)


『早くに決着をつけなければ――』


勇者(……)



233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 23:04:29.14 ID:tgoVOjI0

<???>


「それで。お前はしくじった、ということか」

女魔術士「……」

スタッバー「あーらら」

「後悔はさせない。そう聞いたような気もするが?」

女魔術士「……まだよ」

「……」

女魔術士「まだ、わたしの手は尽きたわけじゃないわ」

女魔術士「と、いうより――」

「……」

女魔術士「あんたたちの手は尽きていない。そうでしょ?」

スタッバー「お?」ニヤ

女魔術士「次はそれをわたしに貸しなさい」



234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/12(水) 23:06:09.79 ID:tgoVOjI0

「……」

女魔術士「悪い話じゃないはずよ。わたしはどんな代償でも払うつもりだから」

「……さて」

スタッバー「いいんじゃない? 使っちゃおうよ、アレ」

「……。よかろう……しかし覚悟するのだな。対価は大きく、得られるものは少ない」

女魔術士「言ったでしょう。わたしの覚悟はできている。あとはあんたたちの覚悟だけよ」

スタッバー「っは、いいね、びりびりしてきた」

女魔術士(シェロ、待ってて。もうすぐだから……)



240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:00:02.51 ID:u/FsExU0

<一週間後.昼>


勇者「……」

魔王「……シェロ?」

勇者「……」

魔王「シェロ」

勇者「……ん、どうした」

魔王「それはこちらの台詞だ」

勇者「俺は……別にどうもしねえよ」

魔王「そうか?」

魔王「ん。行く手に何か見えてきた。村ではないようだが、どうする? 寄るか?」

勇者「……行こう」



241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:02:15.74 ID:u/FsExU0

<村の跡>


 ザッ ザッ ザッ


魔王「……」

勇者「……」

魔王「…… 何もないな」

勇者「今はな」

魔王「どこもかしこも焼けた家の跡だらけだ」

魔王「それも長い間このままといった感じで」

魔王「人の気配など微塵もしない……」

勇者「……」

魔王「ここは……もしや……」



242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:03:05.53 ID:u/FsExU0

 ザッ……ピタ


勇者「ここは」

魔王「……」

勇者「十数年前に魔族の大群に襲われて火の海になった村だ」

魔王「……」

勇者「それまでは毎年勇者を輩出してきた由緒正しい村だった」

魔王「……」

勇者「俺の村。俺が生まれ育った村だ。十数年前俺が旅立った、いや、旅立たざるを得なかった村」

魔王「……」

勇者「魔王お前……」



勇者「やはり『知っていた』な……!?」

魔王「……」



243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:04:11.40 ID:u/FsExU0

勇者「数十年前この村を襲った魔族ども、よく考えるまでもなくこの付近にいる魔族ではなかった」

魔王「……」

勇者「とするならば、あの魔族どもは『この村を襲うため』に大群を組み、やってきたというわけだ」

魔王「……」

勇者「つまり、あれは魔王の命令だったんだ」

魔王「……」

勇者「俺の村は、『お前の』手によって滅ぼされた……!」

魔王「……」

勇者「黙ってないでなんとか言ったらどうだっ!!」



244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:05:30.45 ID:u/FsExU0

魔王「……言い訳をするわけではないが……十数年前、我輩はまだ魔王の座にはなかった」

勇者「……」

魔王「知っているかシェロ。勇者というのは人工的平和維持を守るための駒なのだ」

魔王「先代魔王は人工的平和維持に気付き、それを破棄させようとした。それに対抗して勇者という人種が求められた」

魔王「そのために勇者の村というのが生まれた……いや、作られたわけだ」

勇者「……」



245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:06:38.15 ID:u/FsExU0

魔王「最初はそれほどの脅威ではなかったらしいな。多少目障りな程度で」

魔王「しかし百数十年前、先代魔王が打ち倒されたのを契機にまったく変わってしまった」

魔王「魔族の間で声が高まった」

魔王「勇者の村を滅ぼせ。そのような」

勇者「……」ギリ……

魔王「はじめはそのような乱暴な案、反対の声も大きかったらしい。しかし次第に人間が力をつけ、勇者たちの力が組織化されさらに強大になるにつれ、無視できないものになった」

魔王「魔族も恐怖していたのだろうな。勇者の力に」

魔王「そして、そのころ軍事面で実権を握っていた元帥が最終的に判断を下した。勇者の村を滅ぼすように、と」

勇者「だから何だ! 自分は悪くないとでも!?」



246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:09:09.82 ID:u/FsExU0

魔王「……シェロ、聞け」

勇者「……」

魔王「我輩は小さいころに父上、母上と別れた。魔王となるためだ、仕方なかった」

魔王「我輩は以来、父上と母上とは会っていない。どこにいるのかも、生きているのかもわからない」

魔王「だが、だからこそ! 我輩は父上と母上を守りたい……! 世界が破滅するというならそれをなんとしてでも止めてみせる……!」

魔王「だからシェロ。たとえそのとき我輩が魔王の座にあったとしても同じことだ」

魔王「我輩はな、シェロ。自分の正義と思ったことはたとえ残酷であろうとやるだけだよ」

勇者「……」



247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/13(木) 22:10:35.68 ID:u/FsExU0

勇者「チッ……だからなんだってんだ。俺の村が滅んだのはしょうがなかったってのか?」

勇者「俺の母さんが死んだのは仕方なかったと!?」

勇者「ふざけんな!!!」

魔王「……」

勇者「俺がどんな思いでお前についてきたかわかってるのか?」

勇者「どんなに殺してやりたかったことか!」

勇者「どんなに……っ」

魔王「それは」

勇者「……?」

魔王「英雄になるためではないのか?」

勇者「……んだと?」



248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:11:42.32 ID:u/FsExU0

魔王「お前がひどいコンプレックスを抱えていたのはなんとなく予想がつく」

魔王「あのスタッバーに対して見せた過剰なまでの敵愾心。あれはそういうことだろう?」

魔王「お前が後生大事に抱えていたのは、本当に復讐心なのか? 憎悪なのか? 劣等感ではないのか?」

勇者「てめえ……!」

魔王「お前、本当は――」

勇者「うるせえ! 黙れっ!」

勇者「お前は殺さなきゃなんねえ……世界の破滅ぅ? 知ったことか!」

勇者「お前はここで終わりだ!」ジャキン!



249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:13:48.76 ID:u/FsExU0

魔王「……いいのか? 死ぬかもわからんぞ」


 バチッ……


勇者「呪いの首輪か? そんなの屁でもねえよ。なんならお前と相打ちでもかまわねえ」

勇者「お前は気に入らねえ。お前に一矢報いれるのなら――」

勇者「ここで死んでも本望だっ!」バッ


 ――ガキィィン!


魔王「くっ……」ギギギ……

勇者「おらぁ!」グググ……


 バチッ――!


勇者「ぐあっ!」ビリビリビリ――



250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:18:53.19 ID:u/FsExU0

勇者「――っく、こんなものぉ!」ビリビリビリ――

魔王(あの電撃を耐えている……)

勇者「くらえ!」ビッ!

魔王「ぬお!」ガゴオ!

勇者「おらっ!」シュッ!

魔王「く!」カィィン!

勇者「最後だ! “絶命け ――!”」

魔王「“円舞陣!”」ギュオ!


 ズババシュゥ!


勇者「がッ!」



251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:20:10.82 ID:u/FsExU0

魔王「シェロ、お前の気持ちもわからんでもない」

魔王「我輩が憎いだろう」

魔王「だが先刻も言ったとおり、我輩は我輩で貫き通したいものがある……!」

魔王「我輩はこの世界を守るぞ!」

魔王「それでも来るというならば――」

魔王「よかろう! 望みどおり殺してやる! 来い! シェロ!」




勇者「おおおおおおおおおおおおおおお!」ダッ

魔王「シッ――」タンッ



252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:20:58.05 ID:u/FsExU0

「“があああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁ――――ッ!”」


魔王・勇者「!?」


 カッ! ――ドゴオオォォ!


勇者「な……」

魔王「何だ……!?」


 モクモク モクモク……ブワ――


魔王「あれは……」

勇者「……ハル!?」



女魔術士「……」ユラリ……



253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:21:45.45 ID:u/FsExU0

女魔術士「フー……フー……」

勇者「ハル……」

魔王「今は取り込み中だおなご。せめて我輩を倒せるようになってから出直して――」

女魔術士「ギッ……」

勇者「……!?」

女魔術士「ガ……ッ」ビクン!

魔王「……様子がおかしいな」

勇者「お、おいハル、大丈夫か……?」

女魔術士「“がァッ!”」ボッ!

魔王「!」


 ドゴオォッ!



254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:23:34.63 ID:u/FsExU0

勇者「おい! ハル! どうしたんだ!」

女魔術士「ぐ……」

勇者「ハル! まさか俺がわからないのか!?」

女魔術士「ぎ、“があああああああ!”」


 カッ! ――ドゴオォォッ!



255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:25:12.64 ID:u/FsExU0

勇者「痛ぅ……」

魔王「なんだかわからんが……応戦だ」



魔王「“光よ!”」ボッ!

女魔術士「ギ……」


 ズドッ!


女魔術士「グ……」

魔王「無傷? 効いていないのか? 直撃したはずだぞ?」

女魔術士「“ああああああああ!”」ゴッ!

魔王「く、“盾よ!”」


 ――バギン! ドゴオォッ!


魔王「ぬおお!」ドサア!



256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:26:19.00 ID:u/FsExU0

勇者「ハル……いったい何が……!?」

女魔術士「ゼイ……ゼイ……」

女魔術士「シェ……」

女魔術士「……シェロ……!」

勇者「ハル!」

女魔術士「“うああああああああああああ!”」ズッ!


 ドゴッ!


勇者「ぐっは……」ドサ



257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:27:22.67 ID:u/FsExU0

魔王「いったい何なのだ……? おなごに何があった?」ムクリ

魔王「威力が以前と桁違いだ……この短期間にいったい何を……いや、何が……」

女魔術士「“がああああああ!”」カッ!

魔王「まずい!」バッ


 ズガガガガガガガ!


魔王「……まさか」ズザァッ……

勇者「ハル……!」

魔王「シェロ! 生きているか!?」

勇者「ああ……」

魔王「いったん退くぞ、いいな?」

勇者「……」

魔王「“異界よ!”」ピシュン!



女魔術士「くああああああああああ!」



258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:28:22.65 ID:u/FsExU0

<村の跡.離れた場所>


 ――ピシュン


魔王「……ここまで飛べばとりあえずは大丈夫であろうな」

勇者「ハル……いったい何が……」

魔王「…………」

魔王「……我輩にも正確なところは見当がつかん」

魔王「今わかってるのは、こちらの言葉に反応しないこと、おなごの魔力が異常なまでに上昇していること、我輩の魔術では傷ひとつつかなかったことだけだ」

勇者「……」

魔王「しかし感触として、あれは……半分ばかし魔物化しているな……。しかも強力な」

勇者「魔物化……だと?」



259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:29:43.07 ID:u/FsExU0

魔王「我輩の感想に過ぎんよ。……だからこれから言うことも話半分に聞いてくれ。我輩の推測だ。それまでは休戦ということでよいか?」

勇者「……わかった」

魔王「――結論から言う。……あのおなご、もう長くはないぞ」

勇者「なんだと? そりゃどういう意味だ!?」

魔王「順を追って話そう」

魔王「話は人工的な平和維持までさかのぼる。それは異世界との契約により成されたと話したな。覚えているか?」

勇者「ぎりぎり……」

魔王「あの時は簡潔に説明したためそこで終えたが、もうちっと詳しく説明しよう」

魔王「――異世界との契約。意味はわかるか」

勇者「……さっぱりだ。そもそもなぜいきなり異世界という単語が出てくるのかわからん」

魔王「そうだな。そうだろう……。ではたとえ話をしよう」



260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:30:56.44 ID:u/FsExU0

魔王「――お前の部屋がたくさんのゴミに埋もれて汚くなってしまった。さて、お前はどうする?」

勇者「どうするって……そりゃ掃除をするな」

魔王「ゴミは?」

勇者「……捨てるなり何なりするだろう」

魔王「そのとおり。……話を異世界のことに戻そう。このとき異世界というのはこちらの世界のごみを捨てるためのゴミ捨て場の役割をするのだ」

勇者「ゴミ捨て場……?」

魔王「うむ」

勇者「ゴミって、何だ?」

魔王「平和を維持するために不必要なもの。戦乱を巻き起こす火種となるもろもろの要素のことである」



261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:32:37.11 ID:u/FsExU0

魔王「――コップ一杯の水がある。その中に一滴のインクをたらした。インクは水に拡散し、やがて溶け込んで見えなくなった」

勇者「……」

魔王「さて、お前はその一滴のインクをどうやって取り戻す?」

勇者「はぁ? そんなの無理に決まって――」

魔王「そう、無理なのだ。戦乱の火種もそれと同じ。どんなに尽力しようが歪みは生まれ、やがて大きな渦になる。それをとめることなど誰にもできない……」

勇者「……」

魔王「ならば……と昔の人間か魔物――もしくはもっと別の何か――は考えたようだ」

魔王「その戦乱の火種、人々のカオスを望む心、乱のエントロピーの増大。それらを別の世界に捨ててしまえば平和の維持は可能だと」

勇者「……!」

魔王「それが」

勇者「人工的な平和維持の正体……!」



262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:34:26.39 ID:u/FsExU0

魔王「異世界はこちらの世界ほどしっかりとした形を持っていないらしい」

魔王「当然命と呼べるようなものもなく、曖昧模糊とした怠惰にも似た何かが漂っているだけだと……」

魔王「そこにこちらの偏ったエネルギーを詰め込んだ」

魔王「異世界の混沌は形を持った」

魔王「こちらの世界を破壊しつくす何らかの意志。そのようなものに、なった」

魔王「世界の終局はとても近いところにある……」

勇者「……」

勇者「……それとハルと、どういう関係がある?」

勇者「どうしてハルはああなった!? 説明しろ、魔王!」



263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:35:10.33 ID:u/FsExU0

魔王「あのおなごは魔神と契約を交わしてしまったのだろうな」

勇者「は? 魔神?」

魔王「異世界より来るであろう破壊意志を便宜的にそう呼んだまでだ。深い意味はない」

勇者「つまり、人工的平和維持の契約と関係があるんだな?」

魔王「繰り返すが推測でしかない。だが可能性は高い」

魔王「あのおなご、人工的平和維持の契約に触れたのだろう」

魔王「異常なまでの魔力増幅。こちらの攻撃の無効化」

魔王「エネルギーの吸収と蓄積したエネルギーの放出。そう見れば人工的平和維持契約の性質とよく似ているのだ」

勇者「……ちっくしょう、それでハルは変になっちまったってのか?」

魔王「おそらくな」



264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:35:49.15 ID:u/FsExU0

勇者「それで、じゃああいつは、ハルは――」


「“あ゛ァぁああ!”」カッ――


 ドゴオオォォン……!


魔王「……来たな」

勇者「……」

魔王「まだ聞きたいこともあるだろうが、まずはおなごを無力化しなければならん。……いけるか?」

勇者「だが……!」

魔王「あのまま放っておくわけにもいくまい。……想い人なのだろう?」

勇者「! ああ!」

魔王「ならば行くぞ」



265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:37:09.96 ID:u/FsExU0

女魔術士「“――ガァッ!”」ゴッ!


 ズガガガガガガガッ!


魔王「くっ……」ザッ

魔王「おなごよ! 聞こえているか!?」

女魔術士「フー……フシュー」キッ

魔王「……そうか、悪魔に魂を売ってしまったか!」

女魔術士「……」

魔王「そんなにシェロを取り戻したかったのか?」

女魔術士「……シェ……」

魔王「そんなことに手を出してシェロが喜ぶとでも思ったのか!?」

女魔術士「シェロ……」

魔王「目を覚ませ、うつけが!!」



266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:37:51.52 ID:u/FsExU0

女魔術士「“があああああ!”」カッ!

魔王「“光よ!”」ボッ


 ドゴオオオォオォォォ!


魔王「ぐっ……(やはり押し負けるか……!)」



267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:39:10.56 ID:u/FsExU0

魔王「そんな体になってどうするつもりだったのだ!」

魔王「シェロを我輩から開放できれば後はどうでも良かったと?」

魔王「とんだ正義感だな! 曲がった愛だ!」

女魔術士「“シェロオオォォ!”」カッ!

魔王「! “炎よ!”」ジャッ!


 バゴオオォォォォ!


魔王「がはっ!」



268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:40:20.62 ID:u/FsExU0

魔王「く……シェロを救ったあとはどうする!?」

魔王「お前も無事では済まんぞ!」

魔王「代償は大きい! 得られるものは少ない!」

魔王「シェロがお前の無事を願わないとでも!?」

女魔術士「シェ……ロ……」



女魔術士「“ああああぁぁぁああああああぁぁ!”」キィィィン!

魔王「シェロ! いまだ!」



勇者「こっちだ、ハル!」バッ!

女魔術士「!」

勇者「“我が左手に――”」

女魔術士「“があああああ!”」

勇者「しま――っ」



269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:42:43.08 ID:u/FsExU0

魔王「“縛縄よ!”」シュルルルルル――


 ギシ!


女魔術士「っ!」

魔王「よし、おなごは縛った! 行くぞシェロ! 挟み撃ちだ!」

勇者「応!」



勇者「“我が左手に――”」



勇者「“――冥府の像!”」ゴッ! 魔王「“天魔よ!”」グオ!


 ガゴゴッ!


女魔術士「――――ッ!!」


 ドサ……



270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:43:42.11 ID:u/FsExU0

     ※


勇者「おい、ハル! ハル!」

女魔術士「……」

勇者「ハル! 目を開けろ……返事をしろ!」

女魔術士「……」

勇者「ハル! チッ……くそっ! ダメージが大きすぎたのか!?」

魔王「外傷は少ない。契約がおなごを守ったのだろう」

勇者「だったらなぜ目を覚まさない!?」

魔王「……」

勇者「さっきハルはもう長くないと言っていたな!? あれはどういう意味だ!」

魔王「……そのままの意味である。おなごの命は風前の灯なのだ」

魔王「人工的な平和維持。その規模は一個の生命に対し果てしなく大きい」

魔王「いち生命体が干渉するにはあまりに苛烈すぎるのだ……」

勇者「そんな……じゃあ」



271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:44:32.53 ID:u/FsExU0

魔王「おなごは、もう助からん」

勇者「……馬鹿な! でたらめ言うな!」ガシ!

魔王「我輩の胸倉を締めたところで事実は変わらんよ」

勇者「くっ……」

勇者「……」

勇者「……そんな」

魔王「……そんな顔をするな。助からないのはこのままの状態を継続した場合の話だ」

勇者「!?」

勇者「助ける方法が、あるのか?」

魔王「……ああ」

勇者「教えろ!!」

魔王「至極簡単な話だ。そのおなご、人工的な平和維持の契約に割り込む形で力を得、代償を負っている。ならば――」

勇者「契約の破棄でハルは助かる……?」

魔王「そういうことだ」



272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:45:18.27 ID:u/FsExU0

勇者「っ……」

勇者「んだよ……ビビらせんなよ……」

勇者「……よかった」

勇者「……」

勇者「ハル……」


『あなたはわたしが絶対助けるわ!』


勇者「……お前、俺のために……」


『大切な人が取り返しのつかないことに――』


勇者「……」

勇者「……ああ、そういうことかよ……」



273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:46:27.25 ID:u/FsExU0

勇者「ハルは俺のために……。俺がずっと迷っていたから……」

魔王「我輩が無理やり連れてきたのだ、仕方あるまい」

勇者「……」

勇者「違うんだ……違うんだよ、魔王。俺だって仮にも勇者だ。呪いの解除はできなくても、逃げ出すぐらいなら当たり前にできたんだ……」

勇者「俺はそれでもどっちつかずのまま、宙ぶらりんのまま……」

勇者「どっちだって良かった……! 俺がちゃんと決めていれば! ハルは!」

魔王「……」



274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:47:44.09 ID:u/FsExU0

勇者「俺が中途半端なままだったから……」


『あんたって強いけど、でも脆いわね』


勇者「……は」


『余裕がないからそうだっつってんの』


勇者「……まったくだ……俺はいつも焦ってばっかで」


『仕方ないからあんたについてってあげる』


勇者「はは……」


『ほっとけないしね』


勇者「…… はは……」



275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:48:24.69 ID:u/FsExU0

勇者「……」

魔王「……」




勇者「魔王」

魔王「何だ?」

勇者「俺、世界を……ハルを救うよ」

魔王「……」

勇者「でも、足りない。俺だけじゃ、絶対足りない」

魔王「……」

勇者「だから、俺を手伝ってくれ。俺に力を貸してくれ」

魔王「いいのか? 我輩はお前の村を――」

勇者「それは許せねえ」



276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:49:33.20 ID:u/FsExU0

魔王「……」

勇者「許す日が来ることは、絶対、ない」

魔王「……」

勇者「でも、お前だって守りたいものがあった。今ならわかる」

魔王「……」

勇者「だから、今はいい。今はもっと大事な事がある。過去より今。今より明日」

勇者「だから、俺に力を……」

魔王「……」





魔王「よかろう。共に行こう、シェロ」



277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:50:27.41 ID:u/FsExU0

<???>


「…… 失敗か」

スタッバー「みたいだよ」

「あの小娘……せっかく……」

スタッバー「仕方ないんじゃないかな、あんたが楽をしようとしてそうなったんだから」

「何?」

スタッバー「確実に始末したいなら自分でやればいいんだ。違うかな?」

スタッバー「――キムラック神殿大神官様?」

大神官「……貴様」

スタッバー「おっと、そんな怖い顔しないでよ。別にあんたに逆らうわけじゃないさ」

スタッバー「それに安心していいよ。あいつらの居場所はつかめた。次は俺が出るから」

スタッバー「俺が確実に仕留めてきてあげるよ」

大神官「……下がれ」

スタッバー「うーす」



278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:52:35.98 ID:u/FsExU0

<翌日.昼.交易の街.豪邸>



「――それで?」

「君たちは何をお望みかな?」



勇者「……」

勇者「少女一人のための医療体制」

勇者「……そして――」





魔王「王都への、侵入手段だ」



279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 22:53:45.94 ID:u/FsExU0

<一時間前>



勇者「……もうすぐで次の街に着く」

魔王「王都のひとつ手前の街……」

勇者「交易の街だ」

勇者「ついにここまで、って感じだな」

勇者「つ――よいしょっ」

魔王「そろそろ代わるか? あれからおなごはずっとお前が背負っているが」

勇者「いいんだ。俺なりの罪滅ぼしのつもりだから」

魔王「そうか……」



280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:08:12.75 ID:u/FsExU0

<街の中>


勇者「さて……」

魔王「これからどうするのだ? 次の王都はそう簡単には入れまい」

勇者「そうだな。ハルのことも考えなきゃいけない」

魔王「まさか連れて行くわけにもいかないしな」

勇者「ああ。だからそれら諸々をこの街で解決しておく」

魔王「あてはあるのか?」

勇者「一応。ただ――」

魔王「ただ?」

勇者「どうコンタクトを取ったものか……」

魔王「?」





「すみません、よろしいでしょうか」



281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:09:00.98 ID:u/FsExU0

魔王「なんだ、お前は」

「私、あるお方からあなた方をお連れするよう命じられております。どうかご同行願えませんか?」

勇者「あるお方?」

「ついてきていただければおのずとわかります」

魔王「ふむ……」

「王都への侵入手段をお探しなのでしょう、『勇者様』に『魔王様』?」

勇者・魔王「!」

「ついてきていただけますね?」

魔王「……」

勇者「……」

魔王「……よかろう」

勇者「わかった」



282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:09:42.93 ID:u/FsExU0

<豪邸>



「お連れしました」

「ご苦労」

魔王「……」

勇者「……」

「いきなり引っ張ってくるようなまねをしてすまなかったね、二人とも」

勇者「まさか大商人のあんたの方からお呼びがかかるとは思わなかったよ」

魔王「では?」

勇者「ああ、『あて』だ」

大商人「エリムだ、初めまして。以後よろしく、勇者のシェロに魔王のニギ」

魔王「……」



283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:10:44.98 ID:u/FsExU0

大商人「背中の少女はあちらの部屋に寝かせたまえ」

勇者「お言葉に甘えさせてもらうぜ」




大商人「さて、勇者に魔王。手を組んだとは聞いていたが、まさか本当だとはね」

魔王「なぜ我輩らだとわかった?」

大商人「私の情報網をなめてもらっては困るね」

大商人「君たちは最接近領の酒場で暴れて、その結託を知られることになった。その後山賊を従えた少女に襲われ、撃退」

大商人「また、同日襲ってきた王都からの刺客も撃退。港町で船を調達し海を渡る」

大商人「その後は面倒だから省略させてもらうよ」

大商人「そして今日君たちはこの街に入って私からの招待を受けたわけだ」

勇者「……すごいな」



284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:12:02.73 ID:u/FsExU0

大商人「それに勇者、君のしているペンダント。それは勇者の村の紋章だね」

勇者「……!」

大商人「翼を広げた一本足のドラゴンが剣に絡みついたデザイン。うん、特徴的だ」

大商人「つけているかどうか確証はなかったが、おかげですんなり見つけることができた」

勇者「……偽者かも知れないぞ?」

大商人「君は私たちを何だと思ってるんだい? 世界最高峰の交易の街、ラポワントのトップトレーダーだぞ? 真贋の区別くらい朝飯前さ」

魔王「恐れ入った」

大商人「――さて私が呼び出しておいてなんだが、先に聞いておこう」

大商人「君たちは何をお望みかな?」



285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:13:27.76 ID:u/FsExU0

     ※


大商人「なるほど、少女の保護と、王都侵入の手段ね」

勇者「……」

大商人「ふむ、君たち、大それたことを考えているね?」

魔王「……さてな」

大商人「王都の転覆か、はたまた世界征服か……」

勇者「そんなの陳腐すぎて今どき子供でも言わねえぞ?」

大商人「はは、冗談さ」



286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:14:11.42 ID:u/FsExU0

大商人「……うん、そうだな、その望み叶えてあげてもいいよ」

魔王「条件は?」

大商人「おっと先回りされたか。そうだね、叶えてあげてもいいが条件がある」

大商人「とっちめてほしい人物がいるんだ」

勇者「誰だ?」






大商人「ヒューイック……っていうんだけど、知ってるかい?」

勇者「何……!?」



287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:15:45.23 ID:u/FsExU0

大商人「おや、その様子だと知っているみたいだね」

大商人「実はそいつ、私の所に脅迫状を出してきたんだ」

大商人「私たちを皆殺しにするそうだ。一週間後に」

大商人「商売柄恨まれることも多いが、殺すと明言されたことは少ないな」

大商人「……私からの要望はひとつ。そいつを撃退してほしい」

勇者「……あんた、奴のことどこまで知っている?」

大商人「そうだね……そうだなあ。そんなに多くのことを知っているわけじゃない、残念ながら」

大商人「優秀なスタッバーってことぐらいかな。つまりぜんぜん知らないということだ」

魔王「……そうか」

大商人「というわけで引き受けてもらえるだろうか」

勇者「……」

大商人「と、いっても選択肢は最初から一つしかないな。卑怯かもしれないが。君たちは引き受けるしか道はない。なぜなら少女の保護はともかく、私以外に王都侵入の手段を確保できる人物はいないから」

魔王「……そのとおりらしいな」

大商人「よし、決まりだ」



288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:17:04.91 ID:u/FsExU0

勇者「……とは言っても、まずは残念なお知らせだ」

大商人「うん?」

魔王「我輩ら、奴と戦い既に敗北している」

勇者「チッ……」

大商人「彼、強いのかい?」

魔王「強いなどというものではない。我輩ら二人がかりでも軽くあしらわれてしまった。」

大商人「それはそれは……」

勇者「あと一週間。そう簡単に逆転はできないだろうな」

大商人「困ったな。君たちは私が知る中で最強の二人だよ。ほかに用心棒のあてもない」

大商人「つまり、あと一週間で君たちが強くなるしかないわけだ」

勇者「簡単に言ってくれるな……」

大商人「大丈夫、コーチのあてならある」

魔王「む?」

大商人「君たちより強くて雇える用心棒の心当たりはない。でも君たちより強い人間の心当たりなら、ある。そういうことさ」



289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:18:08.89 ID:u/FsExU0

<夕方.郊外>


『郊外に出てこの地図のとおりに行くんだ』

『チャイルド・フィールといって、ちょっと気難しいけど悪い人じゃないからめいっぱいしごいてもらってくるといい』

『ああ、彼女のことは心配しなくていい。責任をもって預からせてもらうよ』


勇者「――と言われて来たが」

魔王「あの小屋ではないか?」

勇者「ほかにそれらしいものもないしな。行こう」



290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:18:57.76 ID:u/FsExU0

<小屋前>


 ――コンコン


勇者「……」

勇者「……誰も出ないな」

魔王「留守か?」


「私の家に何か用かね?」


勇者「!」

魔王「……あなたがチャイルド・フィールか?」

老人「そうだ。しかし、質問したのは私だ。君たちは何者だ? 私に何か用か?」

勇者「エリムという大商人の紹介で来た」

魔王「我輩らを鍛えてもらいたい」

老人「断る」



291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:19:54.59 ID:u/FsExU0

老人「まず第一に私は君たちのことをよく知らない。そんな人物らの頼みごとを受けるいわれはない」

老人「第二にエリムなる商人とはそれほど親しいわけでもない」

老人「第三に私はただの老人だ。人に教えられるほどの技術は既に持ち合わせていない」

老人「帰ってくれ」

勇者「そんなこと言っても……」

魔王「第一の回答。我輩らは魔王と勇者だ」

勇者「っ……おい!」

魔王「第二の回答。それは我輩らの知ったことではない。第三の回答。それは嘘だ」





魔王「なあ、先代魔王を倒した勇者の血筋、チャイルド・フィールよ?」

老人「……」

勇者「!?」



292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:20:48.92 ID:u/FsExU0

老人「何のことだ?」

魔王「ほう、あっさり認めるほど低脳ではないと見える」

魔王「だが、我輩は先刻申し上げたように魔王だ。先代魔王を倒した勇者とその仲間、そして血筋ぐらい把握している」

魔王「あなたの名前を聞いたときピンと来た」

勇者「それは本当か?」

魔王「ああ、この老人は正式勇者の曾孫だ」

勇者「勇者の、曾孫……」

老人「……」



293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:21:56.38 ID:u/FsExU0

老人「そうか、素性は割れていたか」

魔王「認めたな」

勇者「……」

老人「勇者と魔王といったな。名前は?」

勇者「シェロ」

魔王「ニギだ」

老人「シェロに、ニギか」

老人「私は物覚えがよくない。年のせいもある。しかし覚える気もない」





老人「君たちはここで死ぬからだ」シャキン!

勇者・魔王「!?」



294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:24:28.85 ID:u/FsExU0

勇者(なんだ!? 纏う気配が変わった!?)

魔王(ナイフ一本でこの違い!)



老人「残念だが逃がすわけには行かない。シェロはともかく魔王ニギ。先代勇者の血筋として君は一応排除させてもらおう」


 タンッ――


魔王「――っ」

老人「――フッ」シャッ

魔王(速い! もう鼻先!)ガキン!

老人「防ぐか。伊達に魔王を名乗っているわけではないようだ」グググ……

魔王「く……」グググ……



295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:26:16.41 ID:u/FsExU0

勇者「この……!」スチャ!

老人「今なら君は見逃そう。しかし私に攻撃を仕掛けたが最後、君も敵とみなして排除させてもらう」

勇者「……っ」

勇者(今なら、まだ間に合う……?)



『あなたはわたしが絶対助けるわ!』



勇者「――俺は止まれねえ!」ブン!


 スカッ――


勇者・魔王「!?」



296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:27:45.01 ID:u/FsExU0

老人「君たちのスタンスはわかった。私は本気で君たちを殺しにかかろうと思う」

勇者(一瞬で離れたところに!?)

魔王(距離にしてたかだか四歩ほどだが……見えなかったぞ?)

老人「呆けている暇はない。その一瞬後に君たちは死んでいるかもしれない」



勇者「こいつはまずいぞ魔王……」スチャ

魔王「本当に死ぬかもわからんな」チャ

魔王「だがそれでもやりぬかなければならないことがある。違うか?」

勇者「……。そのとおりだ」グッ



魔王「行くぞ!」ダッ

勇者「応!」ダッ

老人「……」バックステップ



297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:29:18.66 ID:u/FsExU0

魔王「ふん!」ビッ!

老人「……」キャン!

勇者「おおおおおお!」ブオン!

老人「……」ヨケ



老人「なるほど、読めた」



魔王「何がだ! 食らえ“円舞陣!”」ギュオ――

老人「……」カンカンカンカイン!

魔王(全ていなされた!?)



298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:30:39.33 ID:u/FsExU0

勇者「背後はもらった!」ブオン!


 スカッ――


勇者「え?」

勇者(おいおい……今のは確実に届いていたはず……)

老人「……」シュッ

勇者「ぶっ」バキ! ドサ

魔王「シェロ!」

老人「少し殴っただけだ」



299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:32:18.41 ID:u/FsExU0

魔王「この!」シュッ!

老人「ふっ――」キュイン!

魔王「! (剣が弾かれた!)」


 スッ――


魔王(我輩の腹に拳を!? これは……)


 ズドン――ッッ!!


魔王「がは――ッ!! (寸打!)」ドサ



300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:33:06.20 ID:u/FsExU0

勇者「なんであんたがそれを……」ムクリ

老人「? 寸打を知っているのか?」

勇者「……?」

老人「これは曽祖父が編み出したものだ。門外不出のはずだがなぜ知っている?」

老人「いや、どうでもいい。どうせ殺す」



魔王「“光よ!”」ボッ!

老人「“無為よ”」


 ボシュウゥゥ――……


魔王「魔術構成が中和されただと!? 完全に不意をついたはずだぞ!」ガバ!



301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:35:20.86 ID:u/FsExU0

老人「不意とはなんだ? 意識の間隙のことか?」

老人「私にそんなものはないよ。残念ながら」



勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ! 魔王「“光よ!”」ボッ!



老人「“盾よ”」キキン!



魔王(前後からの魔術を同時に防ぐか……魔力も並ではないな)

勇者(先代勇者の曾孫……こんなに差があるものなのか? こんなに遠いものなのか!?)



302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:37:12.52 ID:u/FsExU0

勇者(俺は……俺は……)

勇者「俺は……!」

勇者「“我が契約により――!”」

老人「“光よ”」カッ!

勇者(しま――っ)

魔王「“盾よ!”」ギ……



魔王「シェロ! 馬鹿者! そんな隙だらけの魔術、撃つ奴があるか!」

魔王「今はお前のわだかまりなんぞにかまっている暇はないはずだぞ!」

勇者「く……」



303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:39:14.35 ID:u/FsExU0

老人「“光よ”」カッ!

勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」キ……バギン!

勇者「が!」

魔王「シェロ!」

老人「“光よ”」カッ!

魔王「“盾よ!”」キン!




老人「終わりだ」




老人「“連鎖よ”」キュイィィン……


 ズドドドドドドドドド……!


魔王(何だ? 亀裂が襲い掛かってくる!)

魔王「“盾よ!”」

老人「……」



304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:41:18.88 ID:u/FsExU0

勇者「”我抱きとめるじゃじゃ馬の舞!”」


 ビシュウウゥゥゥゥ……


老人「……しのいだか」

老人「自壊連鎖の構成だ。防御壁で防ごうともその壁ごと破壊する。構成自体を中和させなければ死んでいた」

勇者「……」

老人「君はもしや先ほどの私の中和魔術構成を読み取って真似をしたのか?」

勇者「……まあな」

老人「ふむ、なかなか……」

老人「しかしどうかな。その胸の内の厄介な荷物を抱えたままでこの局面を生き残れるか?」


『血の気が多いね、エセ勇者』


勇者「……っ」



305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:42:57.39 ID:u/FsExU0

魔王「聞け、チャイルド! 我輩らは世界を救うために力が必要なのだ! どうか我輩らに協力してほしい!」

老人「世界を救う?」

勇者「そうだ、俺たちは――」

老人「もしや人工的平和維持のことか?」

勇者・魔王「!?」



306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:44:37.12 ID:u/FsExU0

魔王「知っているのか……?」

老人「私の曽祖父は正式に王より命を下された勇者だ。そのあたりのことは当然全て説明を受けていた。子孫として私も知っている」

老人「曽祖父はずいぶんと悩んだようだ。まあ当たり前か。世界のありようが自分たちの行動で決まってしまうのだから」

老人「だが、最終的には曽祖父は王都の方針に賛同し、魔王を打ち滅ぼした」

勇者「……あんたは、どっちなんだ?」

老人「私か? ……難しいところだな」

老人「そもそも私には考える機会も、決断する義務も生じなかった。いまさらどちらが正しいかなんて関係ないよ」

老人「二つの選択。そのどちらもが破局に通じている。平和を約束された上での絶対の破滅か、絶対の破滅を避けたうえでの緩慢な終局か」

老人「私にはどちらでもよいのだ」

老人「実のところ、君たちの排除も」



307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:45:26.68 ID:u/FsExU0


魔王「それは絶望してしまっているのと変わらないな」

老人「そうかもしれない」

勇者「どうしても俺たちに力は貸せないか?」

老人「……」

勇者「頼むよ、俺は……どうしても……」





老人「……条件がある」

魔王「!」

勇者「それは……?」

老人「そもそも君たちに技術面においてそれほど不備は見られない」

魔王「簡単にあしらっておいてそれか……」

老人「君たちに足りないのは……なんだろうな。陳腐な言い方をすれば覚悟というものだろうか」



308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:46:59.13 ID:u/FsExU0

勇者「覚悟……?」

老人「仮にも世界の平和を乱そうというのだからそれくらい持ってもらわなくては困る」

老人「世界中を敵に回す覚悟」

老人「――君たちが目的を達成することで結果的に命を失う人々がいるかもしれない」

老人「大切なものを守る覚悟」

老人「――君たちが目的を達成する過程で失うかも知れない」

老人「……自らを犠牲にする――極端な話、死ぬ覚悟」

老人「いずれも欠けてもらってはこまる。傍観する側としては」

老人「それを見せてもらえれば。考えてみよう。君たちの指導を」

魔王・勇者「……」



309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:47:48.07 ID:u/FsExU0

魔王「覚悟か」


『父上! 母上!』


勇者「今更だ」


『あなたはわたしが助けるわ ――』


魔王「……よし」

勇者「ああ」



310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:49:18.86 ID:u/FsExU0

勇者「いくぞ!」ダッ

老人「“光よ”」カッ!

勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」ギギン!

老人「……今度は防いだか」

勇者「魔王!」

魔王「“闇よ!”」ブワッ!

老人(あたりが暗く……視界遮断)

勇者「いっけええええええ!」ザッ!

勇者「“絶命剣!”」ドッ――ズバシュウ!

老人「……」ギッ!

勇者「“紫音絶命剣!”」シュッ! ドッ――ズバシュウ!

老人「……」ギギッ!

老人「視界を奪ったくらいで一撃を入れられると思うな。君の殺気はわかり易すぎる」



311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:49:53.58 ID:u/FsExU0

勇者「さすが。でもこれはどうだ!」




勇者「くらえ! “活殺剛翔剣!”」ギュオ――!


 ガギギン!


老人「っ…… (神速で斬り上げる剣……姿勢が……)」



魔王「“光よ”」

老人「姿勢を崩したあとの遠距離射撃。こちらが本命か」

老人「だがこの程度なら防ぐのは易いぞ」

老人「“盾よ”」



312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:50:42.91 ID:u/FsExU0

勇者「“我抱きとめるじゃじゃ馬の舞!」

老人「!?」


 ドゴォゥッ!



313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:51:56.31 ID:u/FsExU0

勇者「うぐ、はっ……」

老人「……っ」

魔王「シェロ、大丈夫か!?」


老人「私の防御魔術を中和した……」

老人「自分が巻き込まれるのを省みず……」

勇者「く……。一発でお陀仏の可能性もあったがな……」

勇者「だが、覚悟、だろ?」

老人「……」

老人「なるほど。……なるほどな」



314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:52:51.36 ID:u/FsExU0

魔王「……まだ、足りないか?」

老人「……」

老人「いや、十分だ」

老人「……君たちを鍛えよう」

勇者(……よし)

魔王「よろしく頼む」



315 :アナウンス:2010/05/13(木) 23:54:35.10 ID:u/FsExU0
・ここまで

PS.サルさんがいない。落ちないから夜寝られる。ここは天国か



127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/09(日) 03:35:37.43 ID:1p.jNQ6o
そして支援しなくてもいい、つまり人が居るのか居ないのかはっきり分からない
俺は支援してるけどな! 乙




128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/09(日) 16:15:24.65 ID:Z6U52uU0
ROM 人数は書き込んでる数の10倍はいるだろ



129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/09(日) 20:48:04.84 ID:llN9OcYo
レスが一つあったら10人ROMってると思え
ってなわけで乙




317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:56:10.50 ID:ksdont6o







続きへ→魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」その2







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魔王・勇者SS   コメント:11   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
1044. 名前 :  ◆- 投稿日 : 2010/11/24(水) 13:08 ▼このコメントに返信する
空のパクリかよ
死ね
1046. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/11/24(水) 14:59 ▼このコメントに返信する
魔法がオーフェンだと思ったら、剣技はドラクォだった。
オリジナルがねぇってすげえなw
1047. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/11/24(水) 15:26 ▼このコメントに返信する
知識にはないがシナリオその他もパクリかね?
分かる範囲で教えなさい、チェックするから

さぁ、はやくハリーハリー
1056. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/11/25(木) 02:07 ▼このコメントに返信する
そこそこ長いな
管理人乙
1343. 名前 :  ◆- 投稿日 : 2010/12/07(火) 21:00 ▼このコメントに返信する
暗殺者のあたりから中二臭さが増して無理だった
1759. 名前 : 名無しさん@ニュース2ちゃん◆- 投稿日 : 2010/12/24(金) 23:36 ▼このコメントに返信する
捻りもクソもなくオーフェンの流用しまくりじゃないか。
読んでて飽きた。
オーフェン少しでもかじってりゃ猛烈につまらんし、無駄に長い。
7302. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/05/26(木) 20:37 ▼このコメントに返信する
元ネタの分からない俺に隙はなk
10103. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/08/02(火) 08:17 ▼このコメントに返信する
元ネタ知らんが魔王弱過ぎ萎えた
こんなんじゃ魔物側劣勢だろ
13うんたら上位数人分くらいの力ないと…
12477. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/09/21(水) 15:29 ▼このコメントに返信する
無駄に長いのと
魔王なのに弱すぎるって設定がねぇ
15179. 名前 : 通りすがりのうーたん。◆RIv6ARqw 投稿日 : 2011/12/07(水) 07:20 ▼このコメントに返信する
何処かで見た事のある話の寄せ集め、といった印象をうけた。
49154. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2019/10/21(月) 03:10 ▼このコメントに返信する
1万人飛んで2人はファンとして嬉しかったぞ
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