( ^ω^)百鬼夜行のようです【第五話 百八煩悩 疎ましく。 前編】

2010-09-02 (木) 19:11  ( ^ω^)(´・ω・`)('A`)   0コメント  
前→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第四話 百縦千随 麗しきは女郎蜘蛛。 後編】
まとめ→( ^ω^)百鬼夜行のようです【まとめ】

2 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:00:01.80 ID:ERuk7vDOO

 かたわものが空を見る。
 近くあるべき空を見る。

 かたわものが地を睨む。
 遠くあるべき地を睨む。

 空を舞う鳥が恨めしい。
 自由に飛び回る姿が憎らしい。

 本来ならば、己もああ飛べる筈。
 飛べる、筈なのに。


 かたわものは落涙す。
 悔しさ寂しさ、ごちゃ混ぜに。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【第五話 百八煩悩 疎ましく。 前編】



 何もかもが、恨めしい。
 かたわの己が、憎らしい。





4 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:02:18.58 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「お手」

(;TДT)「……」

( ^ω^)「おまわり」

(;TДT)「……」

( ^ω^)「ちんちん」

(;TДT)「……」

( ^ω^)「ちんちん」

(;TДT)「……」

( ^ω^)「ちんちん!」

(;TДT)「む、無茶云うなー……」

( ^ω^)「ちんちん!!」

(;TДT)「連呼するなー!」

( ^ω^)「ちんちん!!!!」

(;TДT)「そんなに大声で主張する事かー!!」




6 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:03:50.44 ID:ERuk7vDOO

 あの山の入り口で、坊っちゃんは灰茶色の犬の前にしゃがみこんでいた。

 山の入り口には、少しばかり広い林がある。
 そこから登って、さしては高くない山に行く事が出来る。

 坊っちゃんが居るのは、その林のふち。

 ぼんやりと一人で散歩に出掛けた所、林を彷徨く犬に出会ったのだった。

 そしてその犬をひっ捕まえ、待てだの座れだの手を出せだのとおもちゃにしているところで。
 もっとも、犬と云っても一応は狼なのだが。


 このもかと云う狼は、どうにも頼りなく弱々しい。
 狼とは孤高の存在とも云える筈なのに、この狼はまるでその様な雰囲気はない。

 情けない、頼りない、どうしようもない。
 ないない尽くしの狼、妖怪もか。

 昔から坊っちゃんら悪がき共に、棒っきれ片手に追いかけ回されていた様な妖怪。
 だが、きっと、恐らく、本当は、強い妖怪の、筈。




7 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:05:08.64 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「もか、おまわり」

(;TДT)「……」

( ^ω^)「おまわり!」

(;TДT)

( ;TД)

(  ;T)

(   ;)

(    )

(T   )

( ^ω^)「遅い」

(ДT  )そ




11 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:07:42.52 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「お前さんは、本当にへたれいお……」

(;TДT)「お、狼なのに……」

( ^ω^)「ほれ、狼らしい所を見せろお」

(;TДT)「狼らしいとこ……」

(;TДT)

(;TДT)「が、がおー!」

( ^ω^)

(;TДT)

( ^ω^)「狼はがおーとか云わない」

(;TДT)そ

( ^ω^)「本当に……もか……」

(;TДT)「あ、哀れんだ目をするなー!」




13 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:09:27.88 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「お前さん、犬神よりも弱いんじゃないかお……?」

(;TДT)「そそ、そんな事は」

( ^ω^)「息子とも云える犬神より弱いとか」

(;TДT)「お、おれは狼だー! 犬には負けないんだーっ!!」

( ^ω^)「子供かお……」

(;TДT)「そ、そりゃ、狐や狸は、化かし上手だから負けるけど……」

( ^ω^)「まあ、あいつらも長生きだからお、種の頭には無理もないお」

(;TДT)「雷獣のとっつぁんには……勝てるわけ、無いけど……」

( ^ω^)「おっとさんは無理だわ」

(;TДT)「餓鬼も、鬼だし……管狐も、あれ強い狐だし……」

( ^ω^)「どくおもしょぼんも、何だかんだで強いからお」

(;TДT)「……おまえの周り、強いのばっかりだー……」




15 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:10:55.77 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「と云うか、お前さんは誰に勝てるんだお? 女子供かお?」

(;TДT)「人間はおいといて、妖怪で…………毒婦の君は、無理だー……」

( ^ω^)「そらあかんわ」

(;TДT)「きゅうも、ひぃとも……あいつらやたら強い……」

( ^ω^)「百足の鎧に蟻の怪力だお、そら無理だお」

(;TДT)「……おまえの幼馴染みも、あれ、怖いぞー……」

( ^ω^)「つんかお? でも、つんは蟒蛇だお?」

(;TДT)「あれ、ただのうわばみじゃないぞー……蛇蠱の筋なんだぞー……」

( ^ω^)「へびみこ?」

(;TДT)「犬神に似た、憑き物筋……呪いで腹の中から食い殺すんだぞー……」

( ^ω^)「つん……」

(;TДT)「しかもあの娘は、蛇の目継いでるぞー……石にされるぞー……」

( ^ω^)「ああ…………ああ……解るわあ……」

(;TДT)「絶えかけてるけど、あの娘の家系ってかなり怖いんだぞー……」




16 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:11:42.76 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「……他は? れもなとか」

(;TДT)「無理」

( ^ω^)「即答するほど……」

(;TДT)「普通の樹木子ならまだしも、あれは無理だー……吸った血が悪いぞー……」

( ^ω^)「れもな、いったい……」

(;TДT)「巫女は一応人間だし……子供は……」

( ^ω^)「お、鎌鼬は?」

(;TДT)「あれ女じゃないぞー……」

( ^ω^)「え……三姉妹、だお……?」

(;TДT)「斬り役のあれ、男だぞー……」

( ^ω^)

(;TДT)




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03 /21(日) 21:15:31.33 ID:ogU41yb4Q
え、え
つー男?



男の娘?



18 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:13:43.84 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「…………お前さん、勝てるのおらんお……」

(;TДT)「……狼以外にも、おれは勝てないのかー……」

( ^ω^)「同族にも負けるのかお……」

(;TДT)「姉が居たんだけど……勝てなかったぞー……」

( ^ω^)「お前さん、本当に弱いんだおね……」

(;TДT)「ううう……ここの連中が強いんだー……」

( ^ω^)「よしよし……」

(;TДT)「人間も女子供も、いじめるもんじゃないし……おれは弱いのかー……」

( ^ω^)「まあ……そう思うのは偉い事だお、弱いものいじめしないのは賢いお……」

(;TДT)「うう……ぐすっ……これでも妖怪なのに……狼なのに……」

( ^ω^)(犬にしか見えんしお……)




20 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:14:22.21 ID:ERuk7vDOO

 伏せの状態でさめざめと泣くもかの頭を、よしよし撫でる坊っちゃんの手。

 気持ちは解るが、弱いものは弱いのだ。
 そんな言葉を飲み込んで、荒い手触りの毛並みを撫で付ける。

 そんな坊っちゃんの背中に、男の声がかけられた。

  _
( ゚∀゚)「お、内藤の」

( ^ω^)「お?」
  _
( ゚∀゚)「よ、何してる?」

( ^ω^)「おー長岡! ちょっと犬構ってたんだお」
  _
( ゚∀゚)「お、犬か……でけぇなその犬」

( ^ω^)「図体は大きいんだけど、気が弱くてお……」
  _
( ゚∀゚)「何だへたれかよ、情けねぇ面してんなよ犬」

(;T-T)「…………」
  _
( ゚∀゚)「うん? 何だ、何見てんだ? うりうり」




21 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:15:07.22 ID:ERuk7vDOO

 ひょっこり現れた長岡に、坊っちゃんは嬉しそうに声をあげる。

 が、長岡に喉を撫でられているもかは、どこか渋い顔をしていて。
 唸りを圧し殺す様に口を閉じて、何者かを探っているのか、長岡を見つめる。

 嗅ぎ慣れない匂いに、気配を出さずいつの間にかそこに居た。
 その事で警戒するもかは、尾の毛を逆立たせて長岡を睨む。


( ^ω^)「もか……?」

(;T-T)「……」
  _
( ゚∀゚)「どうした? 変な匂いでもするか?」

( ^ω^)「おー、へたれだから緊張してるのかも知れんお」
  _
( ゚∀゚)「なるほど、怖くねぇよ、ほら」

(;TДT)「…………がう」
  _
( ゚∀゚)「お、鳴いた、うらうらどうだ」




25 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:17:32.44 ID:ERuk7vDOO

(;TДT)「がう、がうう」
  _
( ゚∀゚)「わんわん云わねぇの、こいつ」

( ^ω^)「寧ろ鳴いたの初めて聞いたお」
  _
( ゚∀゚)「おー、れあだな、れあ」

(;TДT)「がう、がううう、がうっ」
  _
( ゚∀゚)「迫力ねぇなー」

(;TДT)「がううううっ」


 唸り声を何とか押さえ込み、低い鳴き声として吐き出す。
 しかしその意味は坊っちゃんにも長岡にも伝わる事はなく、変わらず喉を撫でる。

 その手を振り払う事をしないのは、精神的に大人だからか。
 鳴き声はあげるものの、敵意を表に出す事はせず、冷静に長岡を観察する。

 一挙一動、呼吸や匂いに髪の動きまで見逃さぬ様、真っ直ぐに見つめたまま、がうがうと鳴く。

 幸いと云うべきか、坊っちゃんや長岡はもかの真意には全く気付かず、
 鳴いているのも、ただの獣としての声だと思っていた。




28 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:19:10.55 ID:ERuk7vDOO
  _
( ゚∀゚)「警戒するなよ、いじめねぇよ」

(;TДT)「がう……」
  _
( ゚∀゚)「緊張しいだな、こいつ」

( ^ω^)「おー……」
  _
( ゚∀゚)「ところでよ、内藤」

( ^ω^)「お?」
  _
( ゚∀゚)「どうしたんだ、こんな所で」

( ^ω^)「お、ちょっと考え事を」
  _
( ゚∀゚)「何かあったのか?」

( ^ω^)「……ちょっと、大変っぽいんだお」
  _
( ゚∀゚)「ぽい、って……んだよ、云えや」

( ^ω^)「おー……まだ広めないでくれお? みんなを怖がらせるお」
  _
( ゚∀゚)「おう」




30 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:21:01.64 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「町の外の妖怪が、何か悪さをしそうなんだお……」
  _
( ゚∀゚)「町の外……悪さ、って?」

( ^ω^)「西の空が黒くて、あれは何か悪い事をしてるんだろう、って」
  _
( ゚∀゚)「本当かよ……それ、町はどうなる?」

( ^ω^)「戦になりかねんって云ってたお……」
  _
(;゚∀゚)「戦ぁ!?」

( ´ω`)「おー……」
  _
(;゚∀゚)「た、大変じゃねぇかよ! どうすんだ!?」

( ´ω`)「僕が、西の方まで様子を見に行く事になったお……」
  _
(;゚∀゚)「ええ……お前がかよ……」

( ´ω`)「自信なんかあるはずもねえお……」
  _
(;゚∀゚)「見れば解る……」




31 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:21:38.11 ID:ERuk7vDOO

( ´ω`)「はー……僕に出来るのかおー……」
  _
( ゚∀゚)「まあ、こう云うの苦手そうだしなあお前」

( ´ω`)「行った所で、何をどうすれば良いのかお……」
  _
( ゚∀゚)「あー……確かに、悪い奴らなんだろ?」

( ´ω`)「悪いと云うか、荒くれなんだお……妖怪に悪い奴なんていねえお……」
  _
( ゚∀゚)「何だその持論。まあ突っ込んでたら進まねえから流すがよ、言葉だけでいけるのか?」

( ´ω`)「お?」
  _
( ゚∀゚)「いきなり襲い掛かって来たりしたら、どうすんだ?」

(;´ω`)「お……そ、それは……」
  _
( ゚∀゚)「お前、戦えるのか? 腹の肉分厚いぞ」

(;´ω`)「いやん揉むなお……」
  _
( ゚∀゚)「喧しいわ、痩せろよ」




33 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:23:33.96 ID:ERuk7vDOO

 二人並んで、もかの上に座りながら空を見上げる。

 何処の誰かは解らないが、長岡の名は知っている。
 それは充分、信用するにあたいする事。

 町の外の連中とも、こうして仲良く出来たら良いのに。


 空は遠い。
 地を這って生きる人間には、届きはしない空。


 空を飛ぶのはどんな気持ちかな。
 問う坊っちゃん。

 きっと、案外疲れるんだぜ。
 笑う長岡。

 それもそうかと笑って、空へ向けて溜め息を浮かべる。


 空は自由で、地は不自由なのだろうか。
 そりゃあ空は広いが、地は深い、土竜みたいに穴蔵に住む事も出来る。




39 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:26:03.44 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「長岡ー」
  _
( ゚∀゚)「おー」

( ^ω^)「長岡は、空と地面、どっちが好きだおー」
  _
( ゚∀゚)「さー……地面かなー」

( ^ω^)「お、意外だお」
  _
( ゚∀゚)「空には野菜や果物が育たねぇよ、腹が減る」

( ^ω^)「おー……なるほど」
  _
( ゚∀゚)「お前は空が好きなのかよ?」

( ^ω^)「好きだおー、空がなきゃ雨が降らないお、喉が渇くお」
  _
( ゚∀゚)「おー……なるほど」

( ^ω^)「でも、僕は空を飛べないおー……憧れだお」
  _
( ゚∀゚)「俺は、地面に憧れんなー……木や野菜は俺には育てられねぇ」

( ^ω^)「家の畑の世話してみるかお?」
  _
( ゚∀゚)「ちょっとやりたいと思ったじゃねえかよ」




40 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:27:50.62 ID:ERuk7vDOO

 空は広いなあ。
 地面は強いなあ。

 そんな事を言い合って、空を飛ぶ鳥の影を二人で見ていた。

 すっかり打ち解けた坊っちゃんと長岡に、それを聞いていたもかはもう何も云わない。
 この男は坊っちゃんの友達なのだと理解して、静かに瞼を下ろしている。


( ^ω^)「空は雨を降らせる」
  _
( ゚∀゚)「地面は木を育てる」

( ^ω^)「人はそれを切り倒す」
  _
( ゚∀゚)「妖怪はそれを蘇らせる」

( ^ω^)「……人は、何も産み出さんのかお」
  _
( ゚∀゚)「人が居なきゃ町は出来ねぇ」

( ^ω^)「おー……」
  _
( ゚∀゚)「みんな、必要なもんだ」

( ^ω^)「……だおね」




41 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:28:27.45 ID:ERuk7vDOO
  _
( ゚∀゚)「……お前、この町が好きか?」

( ^ω^)「お、もちろんだお」
  _
( ゚∀゚)「だよな、生まれ育った場所だしな……」

( ^ω^)「おー……人が居ないと、甘味も食えんお……」
  _
( ゚∀゚)「あー……それは確かに」


 今度美味しい甘味処に連れていってやる、等とへらへら笑う坊っちゃん。
 それに対して、期待してるとけらけら笑う長岡。

 そんな二人の目に、大きな影が映り込む。


( ^ω^)「お、大きいお」
  _
( ゚∀゚)「あれも鳥か?」

( ^ω^)「いや、あれは……お?」
  _
( ゚∀゚)「ん……あの影、何か変だな……」




42 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:28:45.05 ID:ERuk7vDOO

 不恰好な形の、大きな鳥の影。
 それを目で追っていた二人の顔が、強張る。


( ^ω^)「落ちそうじゃ……ないかお……?」
  _
( ゚∀゚)「だよ、な……大丈夫かあれ」

( ^ω^)「お、お、お」
  _
( ゚∀゚)「あ、あ、あ」


 ぐらぐらと傾く影が、力尽きた様に、おちた。


(;^ω^)「おー! 落ちたお!!」
  _
(;゚∀゚)「おいおい、行くぞ!!」

(;^ω^)「お!!」




43 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:29:07.61 ID:ERuk7vDOO

 慌ててもかから降りた二人は、影が、落ちた方向へと走り出した。
 異変に気付いたもかも立ち上がり、二人を追って駆ける。

 さらりと簡単に二人を追い抜いたもかが、匂いを辿って影の元へと走って行く。

 その後ろ姿を見た二人は、やっぱりは犬は凄いな、と少しだけ笑った。


 林の奥へ向かい、山を少し登った。
 木々の間を縫って進んで、進んで、進んで。

 あの高さから落ちて大丈夫なのかと、不安を抱いたまま進んで。


 少しだけひらけた場所に出た時、二人は目を見開いた。


(;TДT)「がう、がうがう! がうううっ!!」

( <_  )

(;TДT)「がううっ! がうううううっ!!」


 もかが吼える声。
 その前には、倒れる一人の男の姿。




44 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:29:33.25 ID:ERuk7vDOO

 がさがさと枯れ葉を踏んでもかっ男の側まで寄り、坊っちゃんは顔色をさっと無くす。

 倒れる男には、見覚えがある。
 見覚えがあって、当然だ。


 幼馴染みの、流石の弟者。

 ぼろぼろの格好で、片翼から血を流し、倒れていて。


(;^ω^)「お、お…………弟者あっ!!」
  _
(;゚∀゚)「知り合いかっ!?」

(;^ω^)「幼馴染みだお、友達だおっ! 弟者ーっ!!」
  _
(;゚∀゚)「おい揺らすな! 頭打ってたら危ねぇよ!」

(;TДT)「がう、がううっ!!」
  _
(;゚∀゚)「背中に乗せろってのか!? 解ったよ手伝え内藤っ!!」

(;^ω^)「お、わ、解ったお!!」




48 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:31:08.92 ID:ERuk7vDOO

 伏せたもかの背中に意識の無い、ぐったりとした流石の弟者を乗せる。
 すると、お前らも乗れと云わんばかりに、がうと大きく鳴いた。

 二人は顔を見合わせて、もかの上へと飛び乗り、弟者が落ちぬ様にしっかりと押さえる。


 立ち上がったもかが、大きく、高く、遠吠えをあげた。

 それは、犬ではなく狼としての、威厳に満ちた遠吠えで。


 全身の毛をぶわりと逆立たせ、地を蹴った。
 普段のもかからは想像も出来ない、その力強い足取り。

 凄まじい速さで山を駆け降り、風を引き裂いてもかが走る。

 その勢いに驚き、坊っちゃんと長岡はずり落ちそうになりながら、必死にしがみつく。


  _
(;゚∀゚)「すっ……げえな、こいつ!」

(;^ω^)「狼の妖怪は伊達じゃなかったおー!」
  _
(;゚∀゚)「狼で妖怪かよ! そりゃすげえよ!」

(;^ω^)「僕もびっくりだおー!」




51 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:32:16.53 ID:ERuk7vDOO

 あっと云う間もなく山を降り、林を抜けたもかは真っ直ぐにある屋敷を目指す。

 てっきり医者の元へと行くと思っていた坊っちゃんは、もかの進む方向に目を丸くする。
 もかが向かう方向にあるのは、坊っちゃんのお屋敷で。


(;^ω^)「もか! あっち、医者あっち!!」
  _
(;゚∀゚)「ぬわーーーーーっ!!」

(^ω^;)「長岡あああああ! 長岡が飛んだあああああ!!」
  _
(;゚∀゚)「俺の事は気にせず進めーっ!」

(;ω; )「しぼうふらぐーっ!!」


<うぎゃっ


(^ω^ )「あ、顔面着地」




54 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:34:06.80 ID:ERuk7vDOO


( ΦωΦ)「……で?」

( ^ω^)「僕の屋敷に向かったと思ったら雷獣邸に居ましたお」

( ΦωΦ)「方向は確かに一緒だが、落ちた友人は?」

( ^ω^)「長岡なら大丈夫そうだったので思わず放置しましたお」

( ΦωΦ)「息子よ、お前は鬼畜である」


 するり坊っちゃんの屋敷をかすめて、もかが辿り着いたのは
 坊っちゃんの両親が住まう、雷獣邸と呼ばれる古ぼけた屋敷であった。

 ご在宅だった雷獣公に弟者を運んで貰い、しゅうとでれが弟者の手当てをしている。

 坊っちゃんは雷獣公の前に正座をして、説教状態。

 ちらちらと弟者をが居る座敷を見ようと視線を動かすが、その度に雷獣公から拳骨が飛ぶ。




55 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:34:46.09 ID:ERuk7vDOO

( ΦωΦ)「どくおを呼んだ、我々だけでは手が足らん」

( ^ω^)「すみませんお」

( ΦωΦ)「しかし、流石のには何があった、酷い傷であるぞ」

( ´ω`)「解りませんお……行ってみたら、あの状態で……」

( ΦωΦ)「ふむ……気が付いたら話を聞いてみるが良い、我輩は犬に話を聞こう」

( ´ω`)「はいですお……」

( ΦωΦ)「……気を落とすな妖怪は傷の治りが早い」

( ´ω`)「はいですお…………おっとさん」

( ΦωΦ)「む?」

( ´ω`)「もかは、何者ですお? 狼の頭ですかお?」

( ΦωΦ)「否、頭ではない」

( ´ω`)「おー……やっぱり弱いのですかお……」




57 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:35:25.08 ID:ERuk7vDOO

( ΦωΦ)「あれは山の主であるぞ?」

( ^ω^)「え?」

( ΦωΦ)「種族なんぞ取っ払って、山の神とも云われておる」

( ^ω^)

( ΦωΦ)「遠吠えを聞いたろう? あれは山の奴等への命令である」

( ^ω^)

( ΦωΦ)「弱い弱いと云われておるが弱いのは気だけだ、あやつは山犬神と人から呼ばれておる」

( ^ω^)「山神様…………モロ……」

( ΦωΦ)「はいはい貴様にサンが救えるか」

( ^ω^)「いままで散々ひどい事をしてきたのですが」

( ΦωΦ)「奴は気が弱いが弱きに優しい、女子供や人間は慈しむ存在と思っておる」

( ^ω^)「お……」

( ΦωΦ)「だーから舐められるし弱いのだ、すぐに泣く」

( ^ω^)「山神様しょっぺえお……」




58 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:36:03.27 ID:ERuk7vDOO

 別室へと移動した雷獣公の言葉に、どこか納得した様な顔の坊っちゃん。
 なるほど、気弱で優しいから、ああも弱いのか。

 本来ならば狐や狸に、負ける事などないだろう。
 何と云っても、もかは肉食の獣。
 人々から、恐れられる様な存在の筈だ。

 それでも誰からも恐れられないのは、優しいからと、いつでもめそめそしてるから。


( ^ω^)「……正体知っても、接し方を改めようと思わせない辺りがもかの凄い所だお……」

('A`)「いじってなんぼな面ァしてるしな」

( ^ω^)「見てたらいじりたくてしょうがねえお」

('A`)「あんま泣かすなよ」

(^ω^ )

(^ω^ )「どくおいつのまに」

('A`)「貴様にサンが救えるか、から」




59 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:37:04.01 ID:ERuk7vDOO


( ΦωΦ)「山神よ」

(;TДT)「……雷獣」

( ΦωΦ)「遠吠えの意味を聞こう」

(;TДT)「…………流石のに、傷があった……噛まれたりした跡が」

( ΦωΦ)「形状は」

(;TДT)「…………」

( ΦωΦ)「答えろ、犬よ」

(;TДT)「……おまえの、細君に、似てた……」

( ΦωΦ)「……つまり、」

(;TДT)「……蜘蛛」

(  ω )「ほう……蜘蛛、か…………ほう、ほう……ふむ」

(;TДT)「雷、獣」

(  ω )「…………良かろう……よく吼えたな、犬よ……」




60 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:37:23.79 ID:ERuk7vDOO


( ^ω^)「おっかさん、弟者の様子は!」

lw´‐ _‐ノv「しー、寝ておりんす」

( ^ω^)「あ、すみませんお……」

lw´‐ _‐ノv「でれちゃんが」

( ^ω^)「ああ、そっち」

゚。ζ(_ _`*ζ スピヨピヨ

( ^ω^)「弟者の具合はどうですお?」

lw´‐ _‐ノv「怪我が酷いけれど、命に別状はありんせん」

( ´ω`)「おー……良かったお……おっかさんは手当ても出来るのかお……」

lw´‐ _‐ノv「鬼子ちゃんに手伝って貰いんした、それに長く生きてりゃ出来る様になりんす」

( ^ω^)「おー……どくおも、ありがとうだお」

('A`)「んー」

( ^ω^)「眠い?」

('A`)「凄く」




63 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:39:30.33 ID:ERuk7vDOO

lw´‐ _‐ノv「お昼寝中に叩き起こしたから、不機嫌にありんす」

( ^ω^)「おー……どくお、折角だからでれちゃんと昼寝してこいお」

(-A-)「んー」

lw´‐ _‐ノv「でれちゃんも、わっちのお部屋に連れてって」

(-A-)「んいー」

( ^ω^)「眠い時のどくおは面白いお」

lw´‐ _‐ノv「あらあらうふふ」


 寝惚け眼のどくおが、でれを連れて座敷を出る。
 少ししてから布団に倒れ込む音を聞き、坊っちゃんとしゅうはくすりと笑った。

 弟者が横たわる布団の、枕元に座るしゅう。
 その姿は、先日目にしたかたわの女の姿ではなく、半人半蜘蛛の異形。

 長い角に牙、二対の目玉と手足、腰から下の蜘蛛の体。
 着物はちらりとも纏っておらず、形の良い豊満な乳房は、長い髪で隠れている状態。

 人の姿では無くとも、やはり母は美しい。




65 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:40:41.72 ID:ERuk7vDOO

lw´‐ _‐ノv「この子は、怪我をしとりんす」

( ^ω^)「お……」

lw´‐ _‐ノv「蜘蛛の糸が、絡み付いておりんした」

( ^ω^)「蜘蛛……?」

lw´‐ _‐ノv「はいな、傷も蜘蛛の牙の形、この子は蜘蛛のあやかしに襲われた」

( ^ω^)「…………」

lw´‐ _‐ノv「解りんすか、お坊っちゃん、これが何処の誰の仕業か」

( ^ω^)「……西の、あやかしの仕業、ですかお」

lw´‐ _‐ノv「そう、認めたくなくともこの子が事実、この子が現実」

( ^ω^)「……」

lw´‐ _‐ノv「行かれまするか、お坊っちゃん……西へ」

( ^ω^)「……行きますお、おっかさん……」

lw´‐ _‐ノv「……つらい事を云って、ごめんね」

( ^ω^)「いいえおっかさん、僕の、せねばならん事ですお」




66 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:41:24.68 ID:ERuk7vDOO

(´<_` )「ん…………ん、?」

( ^ω^)「おっ、弟者」

(´<_` )「内藤、の……? いたたたた」

( ^ω^)「起きるなお、お前さん怪我してんだお」

(´<_` )「……毒婦の君が、手当てを?」

lw´‐ _‐ノv「はいな」

(´<_` )「有り難う御座います」

lw´‐ _‐ノv「わっちだけじゃありんせん、お礼はぬしを見つけたお坊っちゃんにも」

(´<_` )「ああ……有り難う、内藤の」

( ^ω^)「構わんお、それより何があったんだお?」

(´<_` )「…………」

( ^ω^)「……お?」




68 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:42:04.87 ID:ERuk7vDOO

 のそりとゆっくり身を起こした弟者は、傷の痛みに顔を歪めて礼を云う。
 しかし坊っちゃんの問いには答えず、口を閉ざした。


( ^ω^)「……弟者?」

(´<_` )「何だ?」

( ^ω^)「何が、あったんだお?」

(´<_` )「……」

( ^ω^)「……僕に言いにくければ、おっかさんにでも、」

(´<_` )「……」

( ^ω^)「…………ひ、拾って手当てした恩人にだんまりかおー」

(´<_` )「有り難う、すまん」

( ^ω^)「おー……?」

(´<_` )「……」




69 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:42:39.83 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「おっかさん……」

lw´‐ _‐ノv「……烏天狗ちゃん」

(´<_` )「はい、毒婦の君」

lw´‐ _‐ノv「これに、お答え頂けるかえ?」

(´<_` )「……」

lw´‐ _‐ノv「云いたくない? それとも、云えない?」

(´<_` )「…………後者です」

lw´‐ _‐ノv「ふむ……」

(´<_` )「云いたくない事なら、どうしましたか?」

lw´‐ _‐ノv「毒を飲ませ、みいんな吐き出させる」

(´<_` )「……云えない、なら?」

lw´‐ _‐ノv「毒は使えませぬ」

(´<_` )「……」




70 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:43:17.25 ID:ERuk7vDOO

( ^ω^)「困ったお……西の妖怪が、関わってるんだお?」

(´<_` )「……」

( ^ω^)「何かあったのかお? 相談にも乗ってやれん事なのかお?」

(´<_` )「……」

( ´ω`)「おー……幼馴染みだお、友達だお……?」

(´<_` )「…………」

( ´ω`)「…………」

(´<_` )「……すまん」

( ´ω`)「おとじゃー……」

lw´‐ _‐ノv「云えない事を、無理に云わせる事は良くはない」

( ´ω`)「でもー……」




72 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:44:04.83 ID:ERuk7vDOO

lw´‐ _‐ノv「烏天狗ちゃん、もう暫しお休みなさいな」

(´<_` )「……」

lw´‐ _‐ノv「その片翼で空を舞うはつらかろう、暫しお眠り可愛い子、鬼に食われてしまう前に」


 横になった弟者の額に手を乗せて、しゅうは歌う様に囁く。

 すっと手を退けた時には、弟者はもう、眠りに落ちていた。


 頭をよしよしと撫でてやり、しゅうは細い目を坊っちゃんへと向ける。
 そして、小さな鈴を、後ろの腕で差し出した。


lw´‐ _‐ノv「これを、持っておきなさいな」

( ^ω^)「お……これは?」

lw´‐ _‐ノv「おまもり、扇の飾りになさいな」

( ^ω^)「おー、有り難う御座いますお!」

lw´‐ _‐ノv「それの音は、とても良い……悪い物を払いんす」




74 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:44:33.71 ID:ERuk7vDOO

lw´‐ _‐ノv「……お坊っちゃん」

( ^ω^)「お?」

lw´‐ _‐ノv「鬼子ちゃんを連れて、神社にお行き」

( ^ω^)「神社、ですかお?」

lw´‐ _‐ノv「はいな、……この子から、無理に聞き出す事は出来んせん」

( ^ω^)「お……?」

lw´‐ _‐ノv「西の事の代わりに、この子に嫌われてしまうかも知れませぬ…………よろしい?」

(;^ω^)「お……」

lw´‐ _‐ノv「よろしければ、お行き……よくなければ、お眠りなさい」

(;^ω^)「…………何を、なさるおつもりで?」

lw´‐ _‐ノv「……わっちは悪い女、毒婦ゆえ…………悪い手段を使いんす」




75 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:45:04.84 ID:ERuk7vDOO

 二対の眼で慈しむ様に、弟者を見守る女郎蜘蛛。
 髪を撫で付けて、すやすやと眠る弟者を可愛がる。

 その姿に嘘は無いが、しゅうは何か、悪い事をしようとしている。

 坊っちゃんは膝の上で拳を握り、深く俯く。


 弟者に嫌われたくはない、母に悪い事をさせたくない。

 しかし、西の話は、聞かねばならない。
 聞かねば、町全体の事に、関わる気がして。


 帯に差した扇を抜き、鈴を結わえた。
 ちりちりと、耳に優しい音が響く。

 それを聞いた坊っちゃんは、静かに、立ち上がる。
 そして、母の部屋へと向かい、でれを抱いて眠るどくおを揺り起こした。


 座敷を出た坊っちゃんに、しゅうはそっと、悲しそうな顔を見せる。

 ああ、我が子を悪事に使う、と。




77 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:46:42.42 ID:ERuk7vDOO

('A`)「ん……何だ、坊っちゃん……」

( ^ω^)「神社に行くお、着いてこいお」

('A`)「…………解った」


 行って参ります、と二人が告げて、雷獣邸を出ていった。

 それを見ていた獣が二匹。
 聞いていたのは蜘蛛一匹。


 各々が俯いて、何処か悲しい目をしていた。


 友が傷付き、獣は吼えて、空には暗雲立ち込める。

 今度ばかりは坊っちゃんも、笑顔を見せる事は、出来なかった。



 『四話前編 おわり。』




79 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03 /21(日) 21:47:21.41 ID:ERuk7vDOO
支援有り難う御座いました。
男の娘じゃないよ、ただ姉のお下がり着てるだけだよ。

それでは、これにて失礼!




80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03 /21(日) 21:47:33.29 ID:zz93fcOE0
お疲れ様でした。



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03 /21(日) 21:53:32.59 ID:ogU41yb4Q
乙。



次→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第五話 百八煩悩 疎ましく。 後編】



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