( ^ω^)百鬼夜行のようです【第五話 百八煩悩 疎ましく。 後編】

2010-09-02 (木) 20:11  ( ^ω^)(´・ω・`)('A`)   0コメント  
前→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第五話 百八煩悩 疎ましく。 前編】
まとめ→( ^ω^)百鬼夜行のようです【まとめ】

2 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:03:33.86 ID:DLafyWb9O

 何も聞きたくはない。
 何も見たくもない。

 幼子は体を折って耳を塞ぐ。
 蹲って本殿の中へ引きこもる。

 聞いた事を口にすれば疎まれる。
 聞いた事を口にしなければ心が壊れる。


 人の業はその耳に流れ込み、幼子はいやいやと頭を振る。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【第五話 百八煩悩 疎ましく。 後編】



 幼子を抱き締めるのは、唯一、何も聞かせない細い腕。
 我が子の様に慈しみ、愛を注ぐのは神の娘。

 赤い髪をした、人捨ての巫女。





3 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:05:22.72 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「……」

('A`)「……なァ、坊っちゃん」

( ^ω^)「何だお」

('A`)「何が、あった?」

( ^ω^)「……」

('A`)「云いたくない事か? それとも、云えない事か?」

( ^ω^)「っ…………云える、事だお……」

('A`)「……そうか」


 下駄をからころ草履をざりざり。
 坊っちゃんとどくおは、それ以上言葉を交わす事はせず、ただ静かに神社へと向かう。

 云える事でも云いにくいのだろうと、どくおはそっと俯いた。
 無理に聞き出すのは、良くはないか、と。

 ただ、神社の階段を上り始めた。




5 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:07:24.22 ID:DLafyWb9O

 ゆっくり、ゆっくり、並んで階段を上る。
 坊っちゃんはどこか息苦しそうな顔で、どくおはそれをちらちらとうかがう。

 今日は、しょぼんを連れて居ない。
 否、連れていると云えば連れているのだが。

 先日、雷に打たれた傷を癒す為に、筒に入れて療養中なのだ。
 首から下げている筒の中には、縮こまって眠るしょぼんが居る。

 それを起こさない為にも、坊っちゃんの動きはゆっくりで。


从 ゚∀从「おや、大福坊っちゃんに餓鬼じゃないかい」

( ^ω^)「お?」

('A`)「うげ」

从 ゚∀从「やあ、どうしたんだい揃って。餓鬼は其処から転げ落ち賜え」

( ^ω^)「おー……ちょいと、用事が」

从 ゚∀从「用事? 私に何か聞きに来たのかい?」




6 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:08:17.40 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「おっかさんに云われて、来ましたお」

从 ゚∀从「あの毒婦のお使いものかい?」

( ^ω^)「はいですお」

从 ゚∀从「全く、自力で来ようとは思わないのか……嗚呼、かたわものだったね」

( ´ω`)「お……はいんの姐さん、おっかさんの事……」

从 ゚∀从「好きだよ、親友さ」

( ´ω`)「おー……?」

从 ゚∀从「…………ふむ、まあ上がるが良いさ、おいで、座って話を聞こう」


 階段の上から下を覗くのは、赤い髪の巫女装束。
 腕を組んで、鳥居の下に立つ姿は、巫女とは思えない不良な雰囲気を持つ。

 しかし巫女はいんは坊っちゃんの言葉に、前髪に隠れた左目を光らせて眉を寄せる。
 そして坊っちゃん達に着いてこいと手を振って、鳥居の向こうに消えた。

 坊っちゃんとどくおは顔を見合わせて、静かに頷き合い、はいんの後に続いた。




7 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:10:10.22 ID:DLafyWb9O

 鳥居をくぐって参道に立ち、はいんの姿を探す。
 するとはいんは、拝殿前の賽銭箱に腰をかけて、坊っちゃん達を手招きしていて

从 ゚∀从「……さ、聞こうか?」

( ^ω^)「あの……」

从 ゚∀从「うん?」

( ^ω^)「賽銭箱に座って、良いのですかお?」

从 ゚∀从「構わんさ、どうせ空っぽだ、何なら少し入れて行くかい?」

('A`)ノシ 三◎

从 ゚∀从「こら餓鬼、桜餅を捩じ込もうとするのは止め賜え」

('A`)「入れろって云うから」

从 ゚∀从「おぜぜに決まっているだろう、それは供え物だ」

('A`)、 チッ

从 ゚∀从

( ^ω^)「喧嘩するなら二人とも賽銭箱に叩き込むお」




8 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:10:28.29 ID:DLafyWb9O

从 ゚∀从「ああもう、君は黙って居賜え餓鬼どくお、私は坊っちゃんに話を聞きたいんだ」

('A`)「へいへい」

( ^ω^)「あー……そのー……」

从 ゚∀从「何だね、そんなに云いにくい事なのかい?」

( ^ω^)「…………」

从 ゚∀从「…………」

( ^ω^)「おっかさんが、その……悪いことを、する、と……」

从 ゚∀从「……どの様な?」

( ^ω^)「……話を、聞く、?」

从 ゚∀从「…………嗚呼、嗚呼……よおく、解った」

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「あの毒婦め、今まで触れなかった事に触れるか、毒婦め」

(;^ω^)「お、お?」

从 ゚∀从「……毒婦め、嗚呼……毒婦め」




9 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:10:41.18 ID:DLafyWb9O

(;^ω^)「姐、さん?」

从 ゚∀从「……喋らない、或いは喋れない奴から情報を引き出したいのだろう」

(;^ω^)「は、はい、ですお……」

从 ゚∀从「……本殿の中に居るよ、その為の、ものが」

(;^ω^)「お、本殿の……?」

从 ゚∀从「嗚呼……幼い覚が、ね」

(;^ω^)「さ……さとり……っ?」

(;'A`)「覚って、人の頭の中を覗く、アレか?」

从 ゚∀从「そうさ、連れ出したいのなら連れ出してみるが良いさ、一筋縄ではいかんだろうがね」

( ^ω^)「それは、?」

从 ゚∀从「……君に耐えられるかい?」

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「人の心を読む苦痛に」




10 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:10:58.70 ID:DLafyWb9O

 はいんは笑う。
 自嘲する様に、馬鹿にする様に。

 前髪から覗く目は、酷く、ぐろぐろと暗い何かが渦巻いている様で。
 けれど、怒り等は見えなくて。

 感情的なのに感情の見えないその目に、坊っちゃんは身を固くする。
 どくおがそっと坊っちゃんの目を隠して、はいんを睨んでいた。


('A`)「……巫女」

从 ゚∀从「嗚呼、嗚呼怒らないでくれ賜えよ」

('A`)「何だよ、お前らしくねェ」

从 ゚∀从「……あの子はね、私が拾ったんだ、暫くは人間として育てて居た、人間だと思っていたからね」

('A`)「…………」

从 ゚∀从「けれどね、あの子は云うのさ」

('A`)「何を、だ?」

从 ゚∀从「……『はいん、あの人、これから誰か殺す』ってね」




11 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:11:13.77 ID:DLafyWb9O

 はいんがその幼子を見付けたのは、今から二十年も前の事。
 傷付き倒れる幼子は、変わった形の痣を持つ。

 まだ赤子とも云える歳の幼子を拾い上げ、はいんは辺りを見回す。
 親らしい人影は見付からず、捨て子かと眉を寄せた。

 しかし親が少し離れているだけならば、このまま連れて行けば子取り。

 一応は声をかけるかと、はいんは声を張り上げた。


  『こんなところに幼子を放って置くのは誰だ、連れて帰ってしまうぞ』


 数分そのまま待ってみたが、返答は無く。
 問題があれば、町の方に届けが出るだろうと肩を竦めた。

 しゃんと鈴のついた鉾を片手に、幼子を拾い抱き上げる。


 直後に鬼共に襲われたが、軽く往なしてはいんは帰路に就く。
 それから、はいんと幼子の生活が始まった。




12 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:11:31.67 ID:DLafyWb9O

 幼子は怪我をしているが、そこまで酷い物ではない。
 手当てをしてやる事で、すぐに元気になった。

 未だ自分で歩くのがやっとな幼子。
 喋る事は上手くはないが、拾い主のはいんによくなついた。

 それから数年、幼子は成長が遅いものの、元気に育った。
 蟻のひぃとに構って貰いながら、境内を走り回る程に、明るい笑顔を見せる。

 はいんを母と呼ぶ事は禁じていたが、それはまるで親子の様に仲が良くて。


 けれどそれも、幼子を連れて町に出た時に壊れてしまう。


 神社を出て町の通りに立った時、幼子は頭を抱えて蹲ってしまった。
 はいんは抱っこでもして欲しいのかと手を引くが、いやいやと頭を振るばかり。

 どうしたと聞いても何も云わず、怯えた目で道行く人々を見て。


  『はいん、あの人、これから誰か殺す、そう云ってる』




13 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:12:30.35 ID:DLafyWb9O

 何を云うのかと首を傾げるはいんの後ろで、悲鳴が上がった。
 男が隠していた刀を抜いて、女に斬りかかっていた。

 それを一緒に出ていたひぃとが止めに行き、場は何とか収まった。

 しかしそれからも、幼子は人の行動や気持ちを先読みして口にする。


  『はいん、あの人、はいんを怖がってる』

  『はいん、あの人、気持ち悪いって云ってる』

  『はいん、あの人、火をつける』

  『はいん、あの人、悪口云ってる』

  『はいん、あの人、ぼくが気持ち悪いって』

  『はいん、はいん、』


 一月も経たぬ内に、幼子は忌み子と扱われる様になった。




14 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:13:04.10 ID:DLafyWb9O

 町に出れば石を投げられる。
 気味が悪いと逃げて行く。

 それは未だ三つや四つの幼子には、耐え難い事で。


 はいんは幼子を、神社から出さなくなった。
 我が子と慈しむ幼子が、傷付くのが見たくなかった。

 幼子は本殿の中へと引きこもる。
 はいんとひぃと以外には、会いたくないし聞きたくもない。


 はいんはもう気付いていた。
 幼子は、人間ではなく、妖怪、覚。


 嗚呼、町に出すのでは無かった。
 神社の外を知りたがっていたから出した、それが間違いだったのだ。

 悔しそうに悲しそうに、はいんは左目に爪を立てる。

 幼子は今でも、本殿の中。
 人の醜さに触れてしまった、哀れな幼子。




15 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:13:18.39 ID:DLafyWb9O

从 ゚∀从「……さあ引きずり出せよ、私の子を」

( ^ω^)「……お」

从 ゚∀从「毒婦に云われたのだろう、さあ引きずり出し賜えよ、さあ」

( ´ω`)「姐さん……」

从 ゚∀从「……そしてまた、あの子を傷付けるが良いさ」

( ´ω`)「お…………」

从 ゚∀从「聞いているのだろう、ひっきぃ! お客さんだ!! 」


 嘲る様に、はいんが声を張り上げる。
 神社の何処かで、何かがびくりと動く気配を感じた。


(;'A`)「……おい、巫女……何でお前、そんなムキになってんだよ」

从 ゚∀从「…………」




16 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:13:44.46 ID:DLafyWb9O

(;'A`)「毒婦の君が、どう関係してンだよ」

从 ゚∀从「……毒婦はひっきぃを知っていて、何もしない、町の母の癖にな」

(;'A`)「それは……」

从 ゚∀从「何が町の母だい、どの子も抱けないかたわが、母だと?」

(#'A`)「なッ……!」

从 ゚∀从「私は奴と親友だがね、私は奴を母等とは認めない、認めるものかよ」

( ´ω`)「姐、さん……」

从 ゚∀从「すまないね毒婦の息子達、町のあやかしは皆、奴の息子だ」

( ´ω`)「それは、知ってるお……おっかさんは、慈愛に……って」

从 ゚∀从「そうだね、慈愛だ、奴は愛を振り撒いているだけさ、それだけだ」

( ´ω`)「おー……」

从 ゚∀从「ただ言葉だけの愛を毒の様に垂れ流す奴には、毒婦と云う言葉がぴったりだ」


 地を這ってでも、我が子達を抱いてみせろ。
 はいんは歪んで笑い、吐き捨てた。




17 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:14:06.27 ID:DLafyWb9O

( ´ω`)「……確かに、僕はおっかさんに抱いてもらった記憶はないお……」

从 ゚∀从「……」

( ´ω`)「けど、おっかさんって存在は……どうしようもなく安心するお……」

从 ゚∀从「それが、毒に侵されて居るだけだとしたら?」

( ´ω`)「それでも……僕は、おっかさんをおっかさんと思うお……」

从 ゚∀从「……ふん、」

( ´ω`)「おー…………どくお、僕……覚っ子に話をしてみるお……」

('A`)「……おう」

从 ゚∀从「坊っちゃん」

( ´ω`)「大丈夫だお……はいんの御子は、傷付けない様にするお……」

从 ゚∀从「…………嗚呼……すまない、酷い事を云って……其処から裏に回ると本殿がある」

( ´ω`)「僕には……何も、云えん……親不孝ものだお……」




19 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:16:25.33 ID:DLafyWb9O

 坊っちゃんが肩を落として、本殿の方へと歩いて行く。
 その背中を見つめるどくおと、見ようとしないはいん。

 丸くなった背中が見えなくなってから、どくおははいんの胸ぐらを掴んだ。


(#'A`)「どう云うつもりだ雌が」

从 ゚∀从「怒らないでくれ賜えよ……悪かった、感情的になりすぎた」

(#'A`)「お前ッ……坊っちゃんの前で毒婦の君をッ!」

从 ゚∀从「君達の母君を辱しめて、すまなかった」

(#'A`)「ッ……何なんだよ、お前……」

从 ゚∀从「……私はね、嫉妬しているのさ」

(#'A`)「あ?」

从 -∀从「私は巫女だ、穢れる、血を吐いて子を産めない」

(#'A`)「……」




21 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:16:44.61 ID:DLafyWb9O

从 -∀从「此処では母になるのは禁忌さ、母になるは純潔を失うと同義に見られる」

('A`)「…………巫女、だからな」

从 -∀从「嗚呼、私は巫女だ、神に使える神の娘だ……娘でなければならないのさ」

('A`)「でもよ、お前の体は、」

从 -∀从「……異形の、人間だ、性別を持たない娘だ」

('A`)「……お前、人間を止めてるだろ、人捨て巫女」

从 -∀从「失敬だね君は、私は人間さ、長く長く生きるだけの巫女だ、体は可笑しいがね」

('A`)「…………」

从 -∀从「この体の所為で、私は巫女になった、その所為で、母になれなくなった
      ま、巫女にならなくとも母になれたかは怪しいけれどね」

('A`)「……なァ、はいん」

从 -∀从「……だから嫉妬しているのさ、腹を痛めて産んだ訳でも無いのに、母になれる奴に」

('A`)「同じ筈なのに……お前は母になれないからか」

从 -∀从「嗚呼……巫女だから母になれない私と、毒蜘蛛でも母の彼奴
      ……ずるいよなあ……彼奴は」




22 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:17:08.09 ID:DLafyWb9O

 どくおに掴まれた巫女装束の隙間から覗く、はいんの白い肌。
 その胸には、何の膨らみも存在してはいなかった。

 ただ平らに、痩せた胸。
 女性のものとは思えないそれに、どくおは顔を歪めて手を離す。

 はいんは男女共の性を有する、異形。
 燃える様な濃い赤髪と、中性的な顔。
 前髪に隠れる左目も、


从 ゚∀从「……神様は残酷だと思わないかい餓鬼どくお
      何の因果があって私はこんな成りで産まれ落ちた、前世でそんなに悪さをしたか?」

('A`)「……」

从 ゚∀从「…………長く生きるのは、つらいなあ、どくお」

('A`)「そうだな……はいん」


 はいんの出生を知る物は、今は亡き神社の神主のみ。
 今となっては誰も知らない、はいんの過去すべて。

 誰にも語る気は無く、誰も聞かない。
 ただはいんは、長生きな人間として、巫女として、そこに居た。




23 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:20:08.26 ID:DLafyWb9O


( ´ω`)「おー……本殿って、これかお……?」

( ´ω`)

( ´ω`)「本殿って神聖な場所なのに、妖怪入れて良いのかお……?」

( ´ω`)

( ´ω`)「まあ良いかお、それより意外と広いおこの神社」


 しょんぼりとした様子で、とぼとぼ歩く坊っちゃん。
 拝殿の裏手にある本殿を見つけると、柵の隙間から本殿の前へと滑り込む。

 古めかしく、拝殿に比べれば質素なそこ。
 しかししっかりとした作りで、掃除も行き届いている。

 小ぢんまりとした本殿の戸を、そっと叩いた。


 とんとん、と二回叩く。
 本殿の中で、何かが震えた。




24 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:20:27.34 ID:DLafyWb9O

 中に何かが居るのは、確からしい。
 坊っちゃんは少し戸惑ってから、本殿の前に腰かけた。


( ^ω^)「……ひっきぃさん、かお?」

( ^ω^)「あの……聞こえているなら、何か、その」


 とん、と本殿の床が小突かれる。
 その音に坊っちゃんは一瞬だけ身を固くしたが、すぐに笑みを浮かべた。

 良かった、話を聞いてくれそうだ。


 『良かった、話を聞いてくれそうだ』

( ^ω^)「お……?」

 『……』

( ^ω^)「……?」




25 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:21:06.12 ID:DLafyWb9O

 『……聞き間違いかお?』

(;^ω^)「お、お?」

 『まさかもう読まれてるのかお?』

(;^ω^)「おーっ!?」

 『……おまえ、変なしゃべり方だな』

(;´ω`)「お……」

 『それは云わんでくれお、あいでんてぃてぃだお…………なんだ、あいでんてぃてぃって……』


 戸の向こうから聞こえてきたのは、少年の声。
 思ったよりも饒舌で、淡々と坊っちゃんの心を口にする。

 坊っちゃんは困った様に辺りを見回すが、本殿の中に居るらしい覚以外、人の気配はない。

 この声の主が覚なのか。
 腹を据えて話そうと、坊っちゃんは本殿に向き直る。




26 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:23:11.94 ID:DLafyWb9O
( ^ω^)「そのままで構いませんお、どうか聞いて下さいお、僕は、」

 『内藤の、せがれ……』

(;^ω^)「お」

 『……初対面の相手を訪ねるなら……言葉くらい、用意しとけ……』

(;´ω`)「す、すみませんお……」

 『……何しに来たか……当てようか』

(;´ω`)「…………」

 『…………』

(;´ω`)「…………」

 『……おい……無理に、卑猥な事、考えるな……』

(;´ω`)「つ、つい……」

 『何だよ、おっぱい連呼って……』

(;´ω`)

 『ひんぬーもえ……? ……何だそれ……』




27 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:23:41.75 ID:DLafyWb9O

( ´ω`)「……」

 『……はいんのこと、考えるな』

( ´ω`)「……」

 『装束似合ってないの、気にしてるから……』

( ´ω`)「……」

 『極道にしか見えないって……失礼だな、おまえ……』

( ´ω`)「……」

 『ひんぬーみこさま……? だから、ひんぬーってなんだよ……』

( ´ω`)「……」

 『…………ああ、胸か……』

( ´ω`)「……」

 『……俗物だな、おまえ』

(;´ω`)




28 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:24:49.71 ID:DLafyWb9O

(;´ω`)「……」

 『……気をとりなおして、百鬼夜行……? するのか……?』

( ´ω`)「……」

 『ふうん……僕が、出ると思うのか……?』

( ´ω`)「……」

 『それはおいといて……って、なら考えるなよ』

( ´ω`)「……」

 『…………僕を、道具にするのか』

( ´ω`)「……」

 『そこは否定しろよ……人として……』

(;´ω`)

 『嫌に決まってるだろ……常識的に考えて……』




29 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:26:04.09 ID:DLafyWb9O

( ´ω`)「……」

 『…………烏天狗? 怪我、したのか……?』

( ´ω`)「……」

 『……それは、心配だな』

( ´ω`)「……」

 『でも、僕は……出たくない』

( ´ω`)「……」

 『外は、怖い』

( ´ω`)「……」

 『だって、人は、汚い……みんな、気持ちの悪い事を考える』

( ´ω`)「……」

 『嫌だ、怖い、……怖い、出たくない、嫌だ……』




30 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:26:56.37 ID:DLafyWb9O

( ´ω`)「……」

 『はいん、は……なぜか、頭のなかが読めない』

( ´ω`)「……」

 『ひぃと……あれは、なにも考えてない』

( ´ω`)「……」

 『おまえと一緒にいた鬼は、怖かった……はいんに、怒ってた』

( ´ω`)「……」

 『…………お前は、変だ』


 坊っちゃんが言葉を口にしなくても続く、会話。
 それは端から見ると、とても異常な光景。

 しかし二人にしてみれば、もうそれは普通になりつつあって。




31 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:27:59.49 ID:DLafyWb9O

 坊っちゃんの心を読む覚、ひっきぃは、何処と無く落ち着いていた。
 始めこそ警戒していたが、すぐに敵意が無いと解ったのか、やんわりと打ち解けようとする。

 考えている事を赤裸々に読まれている坊っちゃんも、それに抵抗はしない。
 ただ好きな様に心を読ませて、会話をする。

 坊っちゃんが心に浮かべるのは、ただ、ひっきぃに対しての言葉のみ。
 邪な事も何も考えず、真っ直ぐな気持ちを浮かべるだけ。


 あやかしをこよなく愛する坊っちゃんにしてみれば、それは大した問題ではなかった。

 向こうが押しも引きもしないなら、こちらもそれに従う。
 向こうがこちらの心を読むなら、それを嫌がらず受け止める。

 気味が悪い等とは、微塵も感じる事はなく。


 ひっきぃと少しだけ近付けて居る気がして、何だか幸せだった。
 それすらも読まれているのだが、恥ずかしがる事もなかった。

 読んでいるひっきぃの方が無性にむず痒くなる程、坊っちゃんは純粋で。




32 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:29:00.64 ID:DLafyWb9O

 ひっきぃの話を聞こうと、心に言葉をふわりと浮かべる。
 それにぽつぽつと、ひっきぃは答える。

 たまに沈黙が続いた時は、馬鹿みたいな事を考える。
 それに対して、呆れた様に反応するひっきぃ。


 気がつけば、もう一刻が過ぎようとしている。

 地べたに座り続けた坊っちゃんは寒そうに身を震わせるが、気にせずに会話を続けていた。


 しかし、坊っちゃんが小さくくしゃみをするのを聞くと、ひっきぃが黙りこくってしまった。


( ^ω^)「おっ……すまんお」

 『……』

( ^ω^)「……?」

 『……』

( ^ω^)「ひんぬー……?」

 『……』




34 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:29:31.71 ID:DLafyWb9O

 馬鹿な事を口に出してみたが、ひっきぃの反応はない。
 驚かせてしまったか、機嫌を損ねてしまったかと首を傾げる坊っちゃん。

 その耳に、小さく、戸の開く音が流れ込む。


( ^ω^)「お……」

 『…………入れよ』

( ^ω^)「おっ!?」

 『どうせ、退かないんだろ』

( ^ω^)「入っても、良いのかお?」

 『僕は外に出たくないだけだ……おまえは変だけど、嫌な奴じゃない』

( ^ω^)「おっ……有り難いお、失礼しますおー」


 のっそりと立ち上がり、細く開かれた戸の隙間へと身を滑り込ませる。
 帯に挟んだ扇子、そこに結わえた鈴が、ちりんと鳴った。




35 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:29:52.53 ID:DLafyWb9O

 坊っちゃんが本殿の中へと入ると、戸はぴしゃんと閉められてしまった。
 本殿は窓もなく、ただ湿った木の匂いと僅かな生活臭が満ちていた。

 真っ暗で、己の手のひらすらも見えない。
 しかし嫌な感じはせず、暗闇は何処か落ち着きすらする。

 外に比べれば寒くもない、だが暖かくもない。

 なるほど、確かに引きこもるには良いかも知れない。


( ^ω^)「おー、なかなか快適そうだお」

 『……』

( ^ω^)「ひっきぃは、ずっと此処に居るのかお?」

 『……うん』

( ^ω^)「外には、全く?」

 『出ない』

( ^ω^)「おー、不健康だお?」

 『…………』




36 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:30:31.96 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「……寒くないかお?」

 『別に…………おまえは、』

( ^ω^)「おっ、僕はもう平気だお! 有り難うお!」

 『……』

( ^ω^)「……ところで本殿って不可侵じゃないのかお? 僕、かなり穢れ持ってきてる様な」

 『そうだな』

( ´ω`)

 『……冗談』

( ´ω`)「ここ、御神体は……」

 『そこ』

( ´ω`)「おうふ、予想以上に身近な存在、触れる距離にあるお御神体」




37 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:31:11.89 ID:DLafyWb9O

 真っ暗で狭い本殿。
 すぐそばに居るらしいひっきぃの姿は見えないが、さっきよりも近く感じる。

 先ほどは聞こえなかった息遣いも聞こえるし、衣擦れの音も聞こえる。

 適当な場所に座った坊っちゃんが床を撫でてみると、柔らかな布を感じた。
 きっと布団が敷いてあるのだな、と少し笑った。


( ^ω^)「……ひっきぃ、もうずっと外には出てないのかお」

 『出てない』

( ^ω^)「はいんの姐さんと顔を合わせたりは?」

 『……』

( ^ω^)「……してないのかお」

 『…………うるさい』

( ^ω^)「そんなに、外が嫌いかお?」

 『…………』




39 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:32:19.58 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「……外は、怖いかお」

 『……怖い』

( ^ω^)「みんなが、虐めるかお?」

 『石を、投げる……当たって、怪我をした』

( ^ω^)「お……」

 『平和な町かも知れないけど……人間は、どうしても……汚い』

( ^ω^)「……」

 『妖怪が多くたって……結局、小競り合いは起きるんだ……きれいなばっかりじゃ、ないんだ』

( ^ω^)「ひっきぃは、」

 『……』

( ^ω^)「……ひっきぃは、人間が、嫌いかお?」

 『…………』




40 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:33:33.35 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「ひっきぃを虐めた人間が、嫌いかお?」

 『……僕は、』

( ^ω^)「…………はいんの姐さまも、嫌いかお……?」

 『ッ!』

( ^ω^)「はいんの姐さまは、人間だお?」

 『はいん、は……別、で……』

( ^ω^)「確かにそうだお、はいんの姐さまはひっきぃのおっかさんだお」

 『……』

( ^ω^)「ひっきぃは、僕も嫌いかお? 色々聞いてくる僕は、鬱陶しいかお?」

 『…………そんなに、は』




41 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:34:10.18 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「じゃあ好きかお?」

 『…………』

( ^ω^)「好きか嫌いかで分けるなら、どちらだお?」

 『嫌い……じゃ、ない、けど……』

( ^ω^)「……そうだおね、まだ会って話して、一刻程しか経ってないお、判断するには短いお」

 『……』

( ^ω^)「僕はひっきぃが好きだお? ほら、しっかり心を読んでみるお」

 『い……良い……』

( ^ω^)「そう仰有らずにずずいと」

 『や、やめろ……よ……よく、わからない……』

( ^ω^)「ふむむ」

 『……めんどくさいな、おまえ』




43 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:34:31.04 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「さてひっきぃ」

 『……』

( ^ω^)「僕がはいんの姐さまを嫌いと云ったら、どうするお?」

 『ッ……』

( ^ω^)「はいんの姐さまによく店賃を踏み倒されるし、喧嘩をするから嫌いと云ったら?」

 『…………嫌だ』

( ^ω^)「それはどうしてだお?」

 『……はいんは、僕の……家族で……それを嫌われるのは、嫌だ』

( ^ω^)「お」

 『…………おまえがはいんを嫌うのも、なんだか、嫌だ』

( ^ω^)「おっおっ、良い子だお」

 『子供扱いか……』

( ^ω^)「でも僕より年下だお?」

 『しらん……』




45 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:35:45.88 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「ここで一つ、」

 『……?』

( ^ω^)「町のみんなは、僕の家族も同然だお」

 『ぇ……』

( ^ω^)「ああ、もちろんひっきぃとはいんの姐さまの様に強い繋がりの家族じゃあないお
      けれど町の皆は僕の家族と云っても過言ではない、それほど僕はこの町を好いている」

 『……ぁ』

( ^ω^)「解ったかお?」

 『…………』

( ^ω^)「僕の、考えている事は?」

 『……ぅ、ぁ…………ぇ?』


 ひっきぃが、ぽつりと不思議そうな声をあげた。
 小さな気配だけが、首を傾げるのがぼんやりと見える。

 異変に気付いた坊っちゃんも首を傾げて、手探りにひっきぃを探した。




47 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:37:39.96 ID:DLafyWb9O

 指先に細い肩が触れ、ひっきぃはびくりと震える。
 それを宥める様にぽんぽんと頭を撫でてやり、坊っちゃんは首を捻った。

 はいんから聞いた話では、二十年程前にひっきぃを拾ったと云っていた。
 しかし坊っちゃんが頭を撫でるひっきぃは、未だ十やそこらの幼い子供の大きさ。

 随分と成長が遅いのは、妖怪だからか。
 それとも、こんな所に引き込もっているからか。


( ^ω^)「どうしたお?」

 『……読めない』

( ^ω^)「お?」

 『おまえの、こころ……読めない』

(;^ω^)「おっ!?」

 『なんで、だ……? さっきまで、読めたのに……』

(;^ω^)「おー……? たくさん話したから、疲れたのかお?」

 『かな……』




49 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:39:44.39 ID:DLafyWb9O

 心細げに身を抱くひっきぃの頭を撫でる。
 その手にも慣れたのか、何も云わずに受け入れている。

 ひっきぃの前の布団に座って、坊っちゃんは思う。


 このさとりは、きっと幼すぎる。

 幼い頃から此処に引き込もって、外の切れ端だけを知ってしまった。

 親代わりのはいんも、一緒に遊んでいたひぃとも、きっとひっきぃを傷付けまいと必死で。

 必死すぎて、大事な事を見落としていたのでは無かろうか。


 傷付けない為に、大事に大事に保管した。
 汚れてしまわぬ様に、潔癖な場所に保管した。

 本人も、それを望んだのだろう。

 けれどそのまま年を重ねては、いけなかったのでは、なかろうか。




50 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:42:04.01 ID:DLafyWb9O

 真っ暗で何もなくて、何も感じない場所。
 そんな所に込もって、何を得られると云うのだろうか。

 はいんの気持ちも、ひっきぃの気持ちも解る。
 誰だって、傷付くのも傷付かれるのも、嫌に決まっている。


 一度転んで痛い思いをしたから、もう出歩かない。
 それでは、上手な転び方も身に付く事はない。

 ひっきぃの場合は、外に出たくない理由が大きい。
 それでも少し、少しだけ、過保護すぎたかも、知れないのだ。


 その結果、ほら、
 坊っちゃんな手の温度に安堵するひっきぃの事に、はいんは気付かない。

 何も云わなくても、落ち着いているのに気付く。

 ひっきぃは子供の顔で、親に体温を求めている。
 会いたくない出たくないと突っぱねても、本心は甘ったれの子供のそれ。

 それは、甘ったれの坊っちゃんだから解ったのかも、しれなくて。




52 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:42:27.33 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「……あ、そうだお」

 『ぇ……?』

( ^ω^)「しょぼん起きてるかお? 傷の具合はどうだお?」

 『?』

(´・ω・`)「むひゅ?」

 『!?』


 ひっきぃの頭から手を退けて、坊っちゃんは首から下げた竹筒の蓋を外す。
 そして優しく呼び掛けてやれば、ふわふわとした何かが、そこから姿を現した。

 ひっきぃからは見えているのか、驚いた様に息を飲むのが聞こえた。
 それにおっおっと笑ってから、管狐しょぼんを胸に抱く。


( ^ω^)「ほれしょぼん、ご挨拶」

(´・ω・`)「むきゅん!」

 『…………』




53 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:43:30.93 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「傷の具合はー……お、随分と良くなったおー、流石は無理矢理絞った蝦蟇の油」

(´・ω・`)「むきゅっきゅ!」

( ^ω^)「おーよしよし、すまなかったお」

(´・ω・`)「むきゅん!」

( ^ω^)「おっおっ、よしよし。しょぼん、れっつらごう」

(´・ω・`)「むきゅー!」

 『ぶわっ!?』

( ^ω^)「しょぼん、まきつくこうげき!」

(´・ω・`)「むーっきゅーっ!」

 『わ、ぶっ、うわっ!』


 こうかは ばつぐんだ!




54 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:45:30.10 ID:DLafyWb9O

 『うわ、ゎ、ぶっ、けほっ』

( ^ω^)「もこもこですかー」

 『もこもこ……だけ、ど……ぶっ、巻き付くなっ』

(´>ω<`)「むっきゅーん!」

 『か、かわいこぶるなっ! わ、わっ、こそばっ』

( ^ω^)「おー……ひっきぃ」

 『これ、なんとかしろっ、もふもふするっ!』

( ^ω^)「逃げないで、ちゃんと受け止めてみるんだお」

 『はっ、?』

( ^ω^)「ほら、じたばたしないで、本当はしょぼんは頬擦りしてるだけだお」

 『ぅ……ぇ……?』

(´・ω・`)「むきゅー?」

 『…………』




56 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:48:01.04 ID:DLafyWb9O

 『……驚いた』

( ^ω^)「すまんお」

 『……』

( ^ω^)「でも、冷静になってみたら、怖くなかったお?」

 『…………うん』

( ^ω^)「抱いてみるお、しょぼんを」

 『……これ、を?』

( ^ω^)「両腕で、しっかりと」

 『…………』

(´・ω・`)「むひゅー」

 『……なんだ、こいつ』

( ^ω^)「僕の管狐、しょぼんだお」

 『これ……管狐の太さじゃないだろ……』

(´ ω `)そ




57 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:48:37.87 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「……」

 『……』

( ^ω^)「…………」

 『…………』

( ^ω^)「どうだお?」

 『……やわらかい』

( ^ω^)「他は?」

 『くすぐったい……』

( ^ω^)「おっおっ」

 『…………』


 あたたかい、と小さく、蚊の囁く様な声で溢した。
 それを聞いた坊っちゃんは、妙に嬉しそうな笑顔を見せる。

 坊っちゃんの笑顔に気付いたひっきぃは、すぐに顔を反らして俯いてしまったが。




60 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:49:04.90 ID:DLafyWb9O

 暫し、しょぼんを抱いたひっきぃと、それを見る坊っちゃんと云う状態が続く。

 ひっきぃは何処か嬉しそうにしょぼんの毛並みをそっと撫で、
 柔らかさを確かめる様に、頬擦りをしながら抱き締める。

 本当に子供みたいだと、坊っちゃんは先日、己も同じ事をしたとは知らずに微笑んでいた。


( ^ω^)「あたたかいかお?」

 『……うん』

( ^ω^)「それは、人じゃないお……でも、あたたかいお?」

 『…………うん』

( ^ω^)「……妖怪は嫌いかお?」

 『……ううん』

( ^ω^)「人間は、嫌いかお?」

 『…………』




61 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:49:20.94 ID:DLafyWb9O

( ^ω^)「……もう、無理に出ろとは云わないお
      僕を此処へ寄越した方には、僕から別の方法が無いかと云うお」

 『……』

( ^ω^)「だからひっきぃ、……お前さんは、出たい時に出れば良いんだお……無理はいけないお」

 『ぁ……』

( ^ω^)「また話しに来ても、良いかお?」

 『ぅ……ん……』

( ^ω^)「…………僕はそろそろ行くお、もう日が暮れる時間の筈だお」

 『…………』


 しょぼんをそっと竹筒に戻して、坊っちゃんはひっきぃの頭を撫でる。
 そして手探りで戸を探し、少しだけ開いた。

 外から差し込む夕日が、目に痛かった。




62 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:51:18.40 ID:DLafyWb9O

 小さく別れを告げて、坊っちゃんは本殿を後にする。
 来た道を戻って、どくおとはいんが待つであろう拝殿へと移動した。

 どくおは待ちくたびれた顔を坊っちゃんに向けて、首を傾げる。
 坊っちゃんは困った様に首を振って、笑った。

 しょうがないなと笑い合い、境内の掃き掃除を始めていたはいんに片手を挙げた。
 肩を竦めて笑うはいんも、少し疲れた顔で手を挙げる。


 すっかり夕焼けの赤に染まった世界。

 おっかさんにどう云おうかな、お仕置きを受けるだろうか、
 と、二人で伸びをしながらはいんに背を向けた。


 遠くで勢い良く戸が開く音を聞いたのは、鳥居をくぐった時だった。

 ちりん、鈴が小さく鳴いた。



 『五話後編 おわり。』




63 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/03/28(日) 21:52:14.40 ID:DLafyWb9O
支援ありがとうございました。
ハイパーふたなり巫女タイム。

それでは、これにて失礼!




64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03 /28(日) 21:52:26.07 ID:+thwNlsmQ
乙。




次→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第六話 百依百順 己なし。 前】



関連記事

( ^ω^)(´・ω・`)('A`)   コメント:0   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
コメントの投稿