( ^ω^)百鬼夜行のようです【第六話 百依百順 己なし。 前】

2010-09-09 (木) 15:22  ( ^ω^)(´・ω・`)('A`)   0コメント  
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2 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:01:45.03 ID:dr2SjJogO

 心を抉る心の言葉。
 聞きたくなくとも流れ込む。

 耳を塞げども塞げども、頭へ舞い込む痛い言の葉。

 それから目をそらし、聞きたくないと拗ねていた。
 母胎の様な本殿は暗く、寒くも暖かくもない。



     ( ^ω^)百鬼夜行のようです。

      【第六話 百依百順 己なし。 前】



 逃げてばかり、逃げてばかりだ。
 痛いものから逃げるのは、暖かいものからも逃げる事。

 戸を開け、腕を出せ。
 耳を塞ぐな、前を見ろ。
 うつつは痛いばかりじゃあない。

 そら踏み出せ、そら歩け。
 地を踏み前見て噛み締めろ。

 がきじゃあなかろう、弱音ばかりを吐くなよ小僧。






3 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:02:47.14 ID:dr2SjJogO

 ばあんと遠くで戸が開いた。
 その音に、赤い巫女は目を見開き、耳を疑った。

 本殿の方へと顔を向けた、その時。
 小さな人影が、飛び出して。


(;-_-)「内藤っ!!」

( ^ω^)「おっ!?」

(;-_-)「まて、よ……っ! ……まてっ!!」

( ^ω^)「お……ひっきぃ、かお?」

(;-_-)「そ……そう、だ」

('A`)「? これが、覚のがきか?」

( ^ω^)「お、ひっきぃだお」

('A`)「ほー、出てきたのか」




4 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:03:03.78 ID:dr2SjJogO

 鳥居をくぐって神社を出ようとした坊っちゃんとどくお。
 その背中に、大きく言葉をぶつけた少年。

 質素な裾の短い、水色の着物。
 目元を隠す様に長い前髪を風に遊ばせ、肩で息をしている。

 十やそこらの子供が、裸足のまま坊っちゃん達に近付いた。
 そして顔を見上げ、眉を寄せて。


(;-_-)「…………つれて、いけ」

( ^ω^)「お?」

(;-_-)「僕を、つれていけ……道具になる」

( ^ω^)「……良いのかお? 外は、怖くないのかお?」

(;-_-)「……怖い、けど……」

( ^ω^)「なら、どうして?」




5 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:03:31.66 ID:dr2SjJogO

(;-_-)「…………管狐」

( ^ω^)「しょぼん?」

(;-_-)「……あたたかかった、から…………」

( ^ω^)!

(;-_-)「おまえの、頭の中も……痛くは、なかった」

( ^ω^)「ひっきぃ……」

(;-_-)「ひんぬー巫女とか、意味わからないこと、いってたけど……」

(; ω )そ

( ω ;)

从 ー从

::(( ω ;))::

(;-_-)「でも、こわくはなかっ……何見てるんだ?」

('A`)「気にするな、振り向くな」

(;-_-)?




6 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:04:00.90 ID:dr2SjJogO

(;-_-)「……外は怖いけど、管狐みたいに、あたたかいなら……嫌いじゃない」

('A`)「……でも、しょぼんは多分、相当な腹黒だぞ」

(;-_-)「そ、そうなのか?」

('A`)「? 頭の中、読まなかったのか?」

(;-_-)「……さっき、読めなくなった」

(;'A`)「お、おいおい……それじゃお前、人間と変わらねェじゃねえか」

(;-_-)「…………役に、立たないかな」

(;'A`)

('A`)「……ま、来るだけ来いよ」

(;-_-)「う、うん」

('A`)「もしかしたら、役立つかもしれねェし……心を読まずに町を歩くのも良いだろ」

(;-_-)!




7 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:05:55.27 ID:dr2SjJogO

('A`)「よし、じゃあ行くか」

(-_-)「……うん」

('A`)「俺はどくお、餓鬼だ」

(-_-)「僕は、ひっきぃ……さとり」

('A`)「おう、よろしくな」

(-_-)「よ、よろしく……」

('A`)「行くぜ坊っちゃん、ひっきぃ借りるぞ巫女」

( メ#)ω(メメ)「おー」

从 ゚∀从「……無理はさせないでくれ賜えよ」

('A`)「おう」

( メ#)ω(メメ)「よしよし、んじゃ行くおー」

(;-_-)「……内藤、顔……」

('A`)「触れるな、行くぞ」




9 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:06:47.21 ID:dr2SjJogO

 坊っちゃんが竹筒からしょぼんを出して、ひっきぃに抱かせる。
 そして三人ならんで、鈴をちりちりと鳴らせながら鳥居をくぐった。

 その背中をぼんやりと、片目だけで虚ろに見つめる巫女。
 嗚呼、行ってしまう、と眉を寄せた。

 すると不意に、小さな背中が振り返り


(-_-)「はいん……いってきます」

从 ゚∀从「…………好きにし賜えよ」

(-_-)「うん…………戻ってくるから、……おかあさん」

从 ∀从「ッ!」


 先に下に降りた二人を追って、ひっきぃも背を向けて走り出す。
 階段を降りて、見えなくなる背中。

 はいんは手にしていた箒をからりと落とし、深く俯く。




10 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:07:02.58 ID:dr2SjJogO

 大事に大事にと抱え込んでいた。
 可愛い可愛いと抱き締めて離そうとしなかった。

 それはひっきぃが傷付くのを見たくないから、何も聞きたくないと泣いていたから。

 だから可哀想で可愛くて、抱き締めて、耳を塞いで、代わりに呼吸さえもしてやるように甘やかし。


 間違っていたのかな。

 母ではない母、母を知らぬ母。
 無知すぎた、長く生きすぎたのは純潔の巫女。

 綺麗なだけの神社へ縛り付けて、抱え込んで、抱き締めて、抱き締めて、抱き締めて。

 間違って、いたの、かなあ。


 可愛くて可愛くて可哀想で可哀想でしょうがなかったから、だから。


ノパ⊿゚)「……巫女」

从 ∀从「ッ! ……ひぃ、と」




11 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:07:29.67 ID:dr2SjJogO

ノパ⊿゚)「…………何で、泣いてる?」

从 ∀从「泣いてなど、いないさ……いない、よ……」

ノパ⊿゚)「……どうして、俯くんだ?」

从 ∀从「……」

ノパ⊿゚)「巫女はあいつが可愛いんだな」

从 ∀从「嗚呼、そりゃ、ね……」

ノパ⊿゚)「……転んだら痛いからって引きこもると、上手な転び方を覚えられない」

从 ∀从「……」

ノパ⊿゚)「巫女は過保護だ、過保護過ぎて、あいつは転び方を覚えないまま大きくなった」

从 ∀从「……私は、間違っていたのかイ……?」

ノパ⊿゚)「間違いかもしれない、でもあたしは巫女を責めないぞ、可愛い初子だ、しょうがないぞ」

从 ∀从「…………」

ノパ⊿゚)「間違いは正せッ! これからも愛を注げッ!! 巫女はあいつの親だ、それが責任だッ!!」

从 ∀从「……あり、がとう……ひいと」




13 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:09:17.06 ID:dr2SjJogO

 自分よりも小柄なひぃとに頭をぽんぽん叩かれて、巫女はその場に座り込んで頭を抱えた。
 ひぃとは頭から背中に手を移動させ、強めに叩く。


 可愛くて可愛くて可愛くて。
 可哀想で可哀想で可哀想で。
 抱き込んで抱き締めて甘やかして。

 それは紛れもない愛情なのだけれど。
 過保護過ぎて、成長を止めさせてしまった。


 本来ならば、坊っちゃんと変わらぬ歳。
 けれどひっきぃは、体も心も幼いまま。

 重すぎる程の愛情が、ひっきぃを幼いままに繋ぎ止めてしまった。


 母ではなくて、母になりたくて、けれど母にはなれなくて。

 嗚呼、やはり、毒婦には敵わないんだ。


 はいんは一つ、涙をこぼした。




15 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:09:57.97 ID:dr2SjJogO


 ひっきぃは、びくびくと辺りを見回しながら歩いていた。
 心こそ読めないが、過去に虐げられた痛みは覚えている。

 坊っちゃんとどくおに挟まれて、しょぼんを胸に抱いて、心細そうに。
 けれど神社を振り返る事はせず、俯きがちに前を見ていた。


( ^ω^)「……ひっきぃ、大丈夫だお?」

(;-_-)「う、ん……」

('A`)「安心しろ、もし石でも投げられたら金棒でかっ飛ばす」

(;-_-)「……うん」

(´・ω・`)「むきゅん」

(;-_-)「? ……大丈夫、だよ」

('A`)(そいつは今、間違いなく「このへたれが」と云った)

( ^ω^)(云うなお)

(,,^Д^)「おや、内藤さん」

( ^ω^)「お、たから」




16 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:10:20.42 ID:dr2SjJogO

(,,^Д^)「こんにちは、お揃いでどうなさったんですか? そちらの子は?」

(;-_-)「あ、あの、あの、ぁ、あぅ」

(,,^Д^)?

( ^ω^)「おー、この子は神社の子だお」

(,,^Д^)「神社の? ……大丈夫、狸ですが怖くありませんよ。
      私は医者のたから、あなたのお名前を教えていただけますか?」

(;-_-)「……ひ、ひっきぃ……」

(,,^Д^)「ひっきぃさんですか、よろしくお願いします。お怪我をなさったら私の所へ訪ねてくださいね」

(;-_-)「う、うん……」

( ^ω^)「大丈夫だおひっきぃ、それはへたれの中のへたれ、きんぐおぶへたれのたからだお」

(,, Д )そ

('A`)「超下戸でぺどですぐ泣くし狸と思えない弱さでくそ真面目でぺどでぺどだから大丈夫だ」

(,,;Д;)そ




17 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:10:39.36 ID:dr2SjJogO

(,,;Д;)「お、お二人ともぉぉぉぉ……」

( ^ω^)「ははっ、本当の事だおぺど」

('A`)「兄貴と見分けつかないから泣くなぺど」

(,,;Д;)「うわぁぁぁぁぁぁあっ」

(;-_-)「……ぺど?」

(,,;Д;)

(,,;Д;)「往診に行く途中だからこれで失礼します泣いてないやいっ!!」

( ^ω^)「またおー」

('A`)「あばよー」

(;-_-)「ま、また……」

( ^ω^)「……ね、悪いやつじゃなかったお」

('A`)「良い奴なんだけどなァ、医者だし」

(;-_-)(ぺど……って何だ……?)




18 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:11:54.76 ID:dr2SjJogO

( ^ω^)「さて、さっさと行」

ミ,,゚Д゚彡「あ」

( ^ω^)

ミ;,゚Д゚彡

( ^ω^)「おい何してるおお前さん、お前さんの仕事は主に留守番だお、勝手に紐外して何してんだお」

ミ;,゚Д゚彡「い、いや、あの」

(;-_-)?

('A`)「あれは家で飼ってる猫の火車、ふさだ」

ミ;,゚Д゚彡「犬だッ!」

('A`)「お前の設定は犬と言い張る猫って説もあるんだよフサギコ猫」

ミ;,゚Д゚彡「うっせぇ難しい事云うなよ! 人それぞれだろそれは!!」

('A`)「解ったかひっきぃ、あれはアホだ」

(;-_-)「う……うん」

ミ;,゚Д゚彡「この不遇さは訴えれるれべるだぞォッ!!」




19 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:12:09.88 ID:dr2SjJogO

ミ,,゚Д゚彡「……つか、誰だそれ」

(;-_-)「ぇ、あ、ぁの、ぁ……ひ、ひっきぃ……です」

ミ,,゚Д゚彡「おう、俺はふさだ」

(;-_-)「ぁ、その、あの……よ……よろ、しく……」

ミ,,゚Д゚彡「? ……おう、よろしく……?」

('A`)「よく云えたな」

(;-_-)「う、ん」

ミ,,゚Д゚彡?

('A`)「で、何してんだ」

ミ,,゚Д゚彡「……陰摩羅鬼が、掃除すっから買い物行けって」

('A`)「ようぱしり」

ミ,,゚Д゚彡「心から腹立つわあ」




20 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:12:33.25 ID:dr2SjJogO

( ^ω^)「ふさ」

ミ,,゚Д゚彡「んあ?」

( ^ω^)「一気に四人も回せないから、帰れお」

ミ,,゚Д゚彡「もう泣きながら訴えて良いよな」

( ^ω^)「ははは、泣けお」

ミ#,゚Д゚彡「畜生! 陰摩羅鬼に出番取られただけでなくこの扱いかよ畜生!!」

( ^ω^)「で?」

ミ#,;Д;彡「もう良いよバーカ!! お前のカーチャンぼいん!!」

( ^ω^)「否定する部分が全く見え……あ、行っちゃった」

('A`)「獣いじめもほどほどにな」

( ^ω^)「お前さんが云うかお」

('A`)「ははは」

( ^ω^)「ははは」




21 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:12:50.71 ID:dr2SjJogO

(;-_-)「……」

(´・ω・`)「むきゅ?」

(;-_-)「……お前の飼い主たち……変だな」

(´-ω-`)「むきゅー……」

(;-_-)「…………」

(´・ω・`)「むっきゅ」

(;-_-)「でも、……たのしいな」

(´・ω・`)「むっきゅん!」

(*-_-)「……たのしい」

(´>ω<`)「むきゅー!」

(*-_-)「へへっ……」




22 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:13:20.13 ID:dr2SjJogO


 ひっきぃを連れた坊っちゃん達が、雷獣邸の前に立つ。
 粗相の無いように、とだけひっきぃに云うと、ゆっくりと戸を開いた。

 がららと開く戸の音に、ひっきぃはびくりと肩を跳ねさせて
 驚き戸惑う様に、坊っちゃんの後ろに隠れてしまった。


( ^ω^)「ただいま戻りましたおー」

(;-_-)「……」

( ^ω^)「お、上がれお」

(;-_-)「し、しつ、れ、します……」

( ^ω^)「そう緊張するなお、僕の両親の家だお」

(;-_-)「緊張する……だろ、普通」

( ^ω^)「おー……ま、気にするなお! 相当失礼な事を云わなかったら怖くないお!」

(;-_-)「……うん」




24 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:14:03.08 ID:dr2SjJogO

 ひっきぃの手を引いて玄関に上がるが、出迎えの声はない。
 疲れて眠ったのかと首を傾げながら、坊っちゃん達は流石の弟者が眠る部屋へと移動した。

 開け放たれたままの襖。
 部屋へ踏み込んでみれば、そこには座する女と男が一人。

 上半身を起こした流石の弟者、その隣には襦袢を纏ったかたわの女。


lw´‐ _‐ノv「お帰りなさいまし、お坊っちゃん」

( ^ω^)「お、ただいまですおおっかさん」

(´<_` )「……」

( ^ω^)「ただいまだお、弟者」

(´<_` )「……ああ、お帰り」




25 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:14:56.08 ID:dr2SjJogO
(;-_-)「……」

lw´‐ _‐ノv「ようこそ、坊っちゃん……わっちはしゅう」

(;-_-)「は、はじ、め、まして」

lw´‐ _‐ノv「怖がらなくても大丈夫でありんす、さあ、お座りになって」

(;-_-)「う、ぁ、は、はい」

( ^ω^)「……ところで弟者」

(´<_` )「ん」

( ^ω^)「何があったんだお」

(´<_` )「……」

( ^ω^)「強情な」

(´<_` )「口が裂けても云えんさ」

( ^ω^)「弟者」

(´<_` )「何だ」

( ^ω^)「ごめんお」

(´<_` )?




26 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:15:15.05 ID:dr2SjJogO

 弟者の側に座る、坊っちゃん。
 その影に隠れる様に座るひっきぃ、少し離れた場所で胡座を掻くどくお。

 弟者は坊っちゃんの謝罪に首をかしげて、不思議そうな顔をする。


 ひっきぃはひっきぃで、困った様に、何も聞こえない事にしょぼんを抱き締める。
 坊っちゃんと話している途中から聞こえなくなった、心の声。

 今までは、はいん以外の心の声は聞こえる事が当たり前だった。
 しかし今は何も聞こえない。

 ずっと望んできた「聞きたくない」が叶ったと云うのに、
 ひっきぃを包むのは、願いが叶った幸福ではなく奇妙な不安。

 聞きたくなかった心の声が、今は何故か、恋しくて。


 ちりん。


(-_-)「……ッ」

( ^ω^)「……ひっきぃ? どうしたお?」

(-_-)「…………何でも、ない」




28 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:16:01.19 ID:dr2SjJogO

 何を謝っているんだ内藤は。
 ひっきぃは緊張してるのかお。
 何事もなけりゃ良いがなァ。
 ちょっと苦しい。
 ところでこの子供は誰だ。
 すまんお弟者、悪い友達で。
 毒婦の君も無茶するな。
 抱き締めすぎだよ、も少し優しく。
 しかし内藤もしつこいな。
 弟者は怒るかお……。
 はいんの胸無かったなァ。
 どうしたんだこの子。
 無理もないか、西の妖怪についてだからな。
 ひっきぃにも申し訳ないお、利用してしまう。
 下は付いてンのかな。
 どうしたさとりっこ、大丈夫?
 本当は云ってしまいたいさ。
 僕はやっぱり、最低かお。
 下付いてたら野郎か……。
 どこか痛む?


 ぶわ、と溢れかえる、心の声。




29 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:16:15.50 ID:dr2SjJogO

 突然の事に驚き、思わずしょぼんを強く抱いた。
 しかしすぐに腕の力を弱めて、頭を撫でてやった。

 大丈夫だよと呟けば、ならよかったとしょぼんは頬擦りをする。


 嗚呼、読める。
 聞こえる。

 覚の力は、ちゃんとある。


 ひっきぃが安堵した様に息を吐いて、坊っちゃんの背中に額を押し付けながら耳をすませる。

 大丈夫、選別しろ。
 耳をすませて研ぎ澄まし、聞き分けろ。

 この烏天狗の声を、聞けば良いんだ。
 特徴的ではない、けれど形を掴むのは容易の筈だ。

 黒い羽根。
 烏の羽根を掴んで。
 そう、それだ。


 ほら、つかまえた。




30 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:16:35.50 ID:dr2SjJogO

(´<_` )「……内藤、その子は?」

( ^ω^)「お、ひっきぃだお」

(´<_` )「人間か? 初めて見る顔だな」

( ^ω^)「違うお、ひっきぃは────」

(-_-)『珍しいな、見た事がない妖怪か』

(´<_` )「ッ!?」

(-_-)『今のは聞き間違いか? この子供、俺の心を読んでいる?』

(´<_` )「…………内藤、お前」

(-_-)『汚い手段を使いやがって、人の頭を読むか』

( ^ω^)「……すまないお、弟者」

(´<_` )「……」

(-_-)『ふん、考えなければ済む事だ、子供に悪趣味な真似をさせやがって』

( ´ω`)「…………すまない、お……」




31 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:17:20.05 ID:dr2SjJogO

(-_-)「……なあ」

( ´ω`)「お?」

(-_-)「無理矢理……覗けば良いのか?」

( ´ω`)「お……ぉ」

(-_-)「……ごめん、いまの意地悪だな…………勝手に、覗く」

( ´ω`)「ひっきぃ……?」


 しょぼんを坊っちゃんに渡すと、ひっきぃは立ち上がり、弟者が座る布団の上に乗る。
 そして正面から、両手で顔を掴んで目を覗き込んだ。

 至近距離に存在するひっきぃの顔に、弟者は身を引こうとするが、掴まれた頭に身動きが出来ず。

 下から睨む様に目を覗かれ、背筋が、痛む様に冷えた。

 その目が、少年の物とは思えない程に、威圧的で。




32 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:17:49.67 ID:dr2SjJogO

( _ )「……不思議だな……初めてなのに……やり方を知ってる」

(´<_`;)「な、ん……?」

( _ )「おまえの、記憶の、声……聞いてやるよ」

(´<_`;)「ッ!?」

( _ )「内藤わるく云うなよ……僕が、みずから、悪趣味なことをする」

(´<_`;)「ッ止めろ! 離せ小僧がッ!!」

( _ )「黙れよ。…………覚悟しろよ、みんな読んでやる」


 少しだけ笑ったひっきぃが、親指で弟者の目を開かせる。
 そしてそれを覗き込み、目から頭の中を掻き回す様に、ざわざわと。


 見えるのは、空から見下ろす木々。
 山の上を飛んでいるらしいが、不安定な動きをしている。

 片翼で無理に飛んでいる為、身体はぐらぐらと傾く。
 しかしそれでも飛び続ける身体。

 どこかの山の上、空から山へ降りようとしている、が。
 木々の隙間から六つの目玉がぎらり光って、勢い良く何かが飛び出し、絡まった。




33 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:18:04.65 ID:dr2SjJogO

 引き摺り落とされる身体。
 地面に叩き付けられて、肺から酸素が抜けた。

 痛みと息苦しさに呻いていると、何かが背中に飛びかかってきて。
 羽根や肩に鋭い痛み。

 抉り込まれる痛みに叫んだら、何かがげらげらと笑った。
 複数の声。
、痛みで霞んだ目。


  『やだあ、無様だわ惨めだわ! きゃははははははぁっ!!』

  『恥ずかしいですね、ぷーくすくす』

  『おいお前よ、何しに来たんだ? あ? おままごとでもしに来たか?』


 げらげら、げらげら。
 痛みで声も出せないのを良い事に、げらげら罵声を浴びせる人影。

 肩と羽根から何かが抜けて、何かが頭を踏みつける。
 ぼやける目で見上げてみれば、唾を吐きかけられて。




34 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:18:36.97 ID:dr2SjJogO

  『遊びで来る場所じゃあねェぞ? あ? そんなに食い殺されてぇか?』

  『ほらほら何とか云って下さいよ?』

  『駄目よぉ子供いじめちゃ、きゃははははっ!』


 突然引き摺り下ろされて、突然襲われて、突然笑われる。
 頭がついてこなくて、混乱する。

 何が起きているのか、誰が居るのか、解らない。
 けれど痛みだけはよく解り、脂汗が滲んだ。


 俺はただ、助けに、来ただけだ。

 その言葉さえも吐き出せずに咳き込み、身を起こそうとする。

 と、




36 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:19:10.85 ID:dr2SjJogO

  『おやおや、どうしました揃って』

  『侵入者、食っても良い?』

  『おやおやおやおや、其処の彼は烏天狗氏ではありませんか
    いったいぜんたいこれはこれはどうなさいましたか烏天狗氏
    そんなところで這いつくばって新しい遊びでしょうか、楽しそうですね楽しそうですねぇ
    おや、おやおやおやよく見れば烏天狗氏、少し違いますか? もしやもしやもしや弟君?』


 いちいち癪にさわる、鬱陶しい喋り方。
 この声は知っている、よく、知っている。

 一度聞けば忘れ様もない、特徴的な喋り方、嫌な喋り方。
 性格の悪さが滲み出る声。


 妹を、兄を、連れ去った。


( <_ #)『妹者と……兄者を、返せ……ッ、蝙蝠あさひッ!!』




37 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:19:40.11 ID:dr2SjJogO

(-@∀@)『おや、おやおやおや、知ってましたか烏天狗氏』

( <_ #)『黙れッ! 妹者と兄者を返せ外道がッ!!』

(-@∀@)『おお怖い怖い恐ろしい、怖くて怖くて悲鳴をあげてしまいそうです、何方か助けて下さいな』

( <_ #)『貴ッ……様ァアッ!!』

(-@∀@)『今すぐ帰りなさい尻尾をくるくる巻き込んで、此処から出て行きお行きなさい』

( <_ #)『なっ……!』

(-@∀@)『貴方の御兄弟の蝋燭は我々の手の内、消すも消さぬも我々次第』

( <_ #)!!

(-@∀@)『帰りなさい帰りなさい、この事は誰にも話さないように、絶対絶対駄目ですよ
      もしも誰かに話してしまえば、蝋燭に水をかけてしまいます』

( <_ #)『…………ッ外道が……!!』

(-@∀@)『我々にとってそれは賛辞、礼讚に値しますよ』

( <_ #)『……妹者と兄者に手を出すなよ、地獄に落ちろ下衆』

(-@∀@)『はいはいはいはい、好きなだけ吠えるがよろしいでしょうよろしいでしょう負け犬氏!』


─────



38 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:19:57.74 ID:dr2SjJogO


( _ )「…………なん、だ……これ」

(´<_` )「…………」

( _ )「……おまえ、家族、ひとじちに……?」

(;^ω^)!

(´<_` )「……解っただろ、小僧……もう好きに読め」

(-_-)「で、も……」

(´<_` )「その代わり……聞いた内藤達には、助けて貰うからな……悪趣味な事をさせた罰だ」

(-_-)「……僕が勝手にしたんだ」

(´<_` )「ああそうかい、読まれた側からすればどうでも良い事だ」

(-_-)「…………僕が読んで云う、だから、おまえは喋ってない」

(´<_` )「……ああ」




39 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:20:23.96 ID:dr2SjJogO


 それは、ある日の事。
 離れて暮らす弟者の妹が、西の妖怪に連れ去られた。

 理由は解らず、誰が連れ去ったのかも解らない。
 しかし西の妖怪だと云う事だけは解り、弟者の兄が助けに行くと言い出した。

 しかし西の妖怪と云うのは、強く凶悪な妖怪ばかりと聞く。
 少し待ち、様子を見ようと他の烏天狗達は冷静に云った。


 けれど兄は、言ってしまった。
 そして、いとも容易く返り討ちにあい、捕まってしまったのだ。


 烏天狗達は困った様に呻く。
 助けには行きたいが、正面から行けば返り討ちにあう。
 それどころか、まだ生きてるらしい妹と兄も殺されてしまうかも知れない。

 ああどうしたものか、どうしたものか。
 答えを出せぬまま、交代で西の偵察に行く烏天狗達。


 そんな中で、妹と兄を奪われた、かたわの烏は声をあげる。

 誰も助けに行かないのなら、俺が行く、と。

 制止も聞かずに飛び出して、




40 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:20:40.10 ID:dr2SjJogO


(-_-)『……このザマだ』

(´<_` )「…………解ったか、内藤」

( ´ω`)「……」

(´<_` )「俺が、話さなかった理由は解ったか」

( ´ω`)「すまなかった……お……弟者……」

(´<_` )「……まあ気にするな、お前らも俺の心配をしてはいたんだろう」

( ´ω`)「あたりめーだお……あほう……」

(´<_` )「……約束だぞ」

( ´ω`)「お……?」

(´<_` )「助けろ……いや、助けてくれ、内藤」

( ´ω`)!

(´<_` )「…………約束だ」




41 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:21:05.10 ID:dr2SjJogO

( ´ω`)「弟者……」

(´<_` )「小僧、」

(-_-)『……西の奴等は恐ろしく強く、凶悪だ。正面から行けばお前らなんか瞬殺だ』

(;´ω`)「な、なんかって……」

(-_-)『それも、前より強くなってる節がある、お前が云っていた暗雲が関係してるのかも知れん』

(;´ω`)「まじかお……」

(-_-)『急いて行け内藤、俺はまだ傷が酷い、奴等をぶちのめして妹者と兄者を助けてくれ』

( ´ω`)「…………」

(-_-)『頼む、内藤』

( ´ω`)「……どくお」

('A`)「はいよ」

( ´ω`)「準備しとけお、明日は早いお」

('A`)「へいへい、何に乗ってく?」

( ´ω`)「早いは車、火車を」




44 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:22:13.81 ID:dr2SjJogO

 焦ってはいけない、けれど急がなければいけない。

 弟者の話を聞けば、兄弟は命の方は大丈夫らしい。
 しかし間接的とは云え、全てを話してしまった。
 その事で、命に危険が及ぶかもしれない。

 無理矢理に話させてしまった事を悔いながら、坊っちゃんは真面目な顔で爪を噛む。


 許すものか。
 妖怪と云えど、友人にこの様な怪我をさせ、家族を人質にとるなど。

 許せるものか。


( ´ω`)「……まずは話し合いに、様子を見に行くお」

(´<_` )「ああ……喧嘩を売るには、危険すぎる」

( ´ω`)「…………」

(´<_` )「……内藤?」




45 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:22:48.54 ID:dr2SjJogO

( ´ω`)「もし、もしも、……もしも妹さん達に何かあったら、」

(´<_` )「抑えて、帰って来い」

( ´ω`)「…………」

(´<_` )「お前が怒るな、冷静でいろ、俺が、烏天狗が、仇を討つ」

( ´ω`)「……無事である事を、心から、祈るお」

(´<_` )「……ああ」

(-_-)「…………なあ」

(´<_` )「ん?」

(-_-)「……さっきから……誰かいる」

(´<_` )「誰か?」

(-_-)「……すごい、怒鳴ってる……耳がいたい…………『あの烏、食ってやろうか』って」

(´<_`;)「なッ!?」




46 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:23:04.95 ID:dr2SjJogO

(-_-)「……耳が……いたい…………」

(;^ω^)「大丈夫かお、ひっきぃ、耳を塞ぐお」

(-_-)「なんだこれ……こわい…………」

(;^ω^)「どんな奴か解るかお? どこに居るんだお?」

(-_-)「わから、ない……虎……尻尾……? 虎が、二匹……?」

(´<_`;)「……それ、ラギラギ云ってないか?」

(-_-)「…………云ってる」

(´<_∩;)「あちゃー……西のだ」

(;^ω^)「ええええええっ!? どどどうするおっ!?」

(´<_` )「近くに居るのか?」

(-_-)「……うん、ここの屋根に」

(;^ω^)「予想以上に近いっ!?」




47 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:23:23.18 ID:dr2SjJogO

(;^ω^)「やばいお全く気付かなかったおどうしようお! 格好つけてる場合じゃなかった!!」

(´<_` )「ははっ、だせぇ」

(;^ω^)「弟者もうお前さん自棄だお!? どくおー! 金棒を持てぇいっ!!」

('A`)「持ってきてない」

(;^ω^)「うわああああ! おっかさん、おっとさんは……そうだおっとさん! おっとさんを!!」

lw´‐ _‐ノv「でれちゃんとわんこちゃん連れて、お買いものに出掛けんした」

(;∩ω∩)「絶望的だああああああ!!!!」

(-_-)「……」

(;∩ω∩)

(-_-)「……おちつけ」

(;∩ω∩)「……はい」




49 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:23:56.40 ID:dr2SjJogO

('A`)「つかよ、俺らには聞こえないし、気配も感じねェぞ」

(-_-)「僕だけが聞こえるから、おまえたちには聞こえないと思う」

('A`)「屋根にいるには静かだしな」

lw´‐ _‐ノv「まあ、蜘蛛の巣張っておりんすから」

(´<_` )「ああ、結界みたいなもんですか」

lw´‐ _‐ノv「はいな、若い頃はわっちも旦那様もやんちゃしてたゆえ、色々と怨まれけほんけほん」

(´<_` )「昔はもっとお美しかったんでしょうね」

lw´‐ _‐ノv「口説いても無駄にありんすよ?」

(´<_` )「ははは、誰がそんな命知らずな事をしますか」

(;∩ω∩)「…………何でお前さんら、そんなに穏やかなんだお……」

('A`)「坊っちゃんがびびりすぎなんだよ」

(;∩ω∩)「まじでぇ……」




50 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:24:13.26 ID:dr2SjJogO

(-_-)「……屋根の上、虎以外のも居てる」

lw´‐ _‐ノv「どんな感じの?」

(-_-)「んと…………長くて、言葉が怖い」

lw´‐ _‐ノv「ああ、きゅうちゃん」

( ^ω^)「姐さん?」

lw´‐ _‐ノv「良い子にありんすからねぇ……ほら、もう遅いから後は任せてお帰りやんせ」

( ^ω^)「お、良いのですかお?」

lw´‐ _‐ノv「じきに旦那様も戻りんす、そうすればどうとでも」

(´<_` )「西の妖怪も一捻り?」

lw´‐ _‐ノv「紙を裂くより容易い事、……坊っちゃん、今日はありがとね」

(-_-)「ぁ……う、うん」

lw´‐ _‐ノv「これをお土産に持って帰りなさいな……お母様に、よろしくね」

(-_-)「……うん、ありがとう」




51 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:24:31.54 ID:dr2SjJogO

( ^ω^)「じゃあ弟者、明日の朝から行ってくるお」

(´<_` )「ああ、有り難う」

( ^ω^)「んじゃまたおー」

('A`)「ちゃんと怪我治せよ」

(-_-)「……また」

(´<_` )「ああ、またな」

lw´‐ _‐ノv「またいらしてね、坊っちゃん達」


 すっかりとっぷり暗くなった夜の中、手土産片手に坊っちゃん達が去って行く。
 少し怯えながらの道中ではあったが、ひっきぃを神社へと送り届ける。

 雷獣邸に残るのは、かたわの男女。

 怪我をしたかたわの烏に、天井を見つめるかたわの女。




52 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:25:09.65 ID:dr2SjJogO

(´<_` )「……毒婦の君」

lw´‐ _‐ノv「はいな?」

(´<_` )「本当に、屋根の上に居るんですか?」

lw´‐ _‐ノv「はいな、でもご安心あれ、蜘蛛の巣は何も通しんせん」

(´<_` )「はぁ……全く聞こえないし、町も騒いでないから、何だか不思議で」

lw´‐ _‐ノv「聞いて、みるかえ?」

(´<_` )「聞けるんですか?」

lw´‐ _‐ノv「はいな……その代わり、喋っちゃ駄目」

(´<_` )「……はい」

lw´‐ _‐ノv「じゃあ……糸を、ぷつり」




53 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:25:54.45 ID:dr2SjJogO

 しゅうが左腕を持ち上げて、蜘蛛の巣を絡める様に指を動かす。

 すると、ぷつん、と何かが切れた音がして。


 『嘗めとんちゃうぞオラ獣風情がアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』


Σ(゚<_゚; )!?


 『ボケゴルァァアアアアアアアッ!! 噛み砕いたらァァァアアアアアアアアアアアッ!!!!』


lw´‐ _‐ノv「あらあら、きゅうちゃん大はっする」

(゚<_゚; )


 『ごめんラギごめんなさいまじごめんなさいもうしませんもう来ませんごめんなさいィィィッ!!』

 『姉様ン家襲おうとするたァその根性叩き直したらァ死にさらせェェエエエエエエエエエッ!!!!』

 『ラギィィィィィイイイイイイッ!!!!』


::((゚<_゚; ))::




54 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:26:18.73 ID:dr2SjJogO

 しゅうがくすくすと笑いながら、ふっと息を吐く。
 すると、激しい怒号や屋根の軋む音は聞こえなくなって。

 弟者はぴんと伸ばしていた背筋をぐにゃりと曲げて、頭を抱えながら震えていた。


( <_ ;)「可愛屋の主人怖い超怖い何あれ怖い」

lw´‐ _‐ノv「あらあら、でも良い子にありんすよ」

( <_ ;)「怖いです毒婦の君、何あの怒鳴り声人間じゃない」

lw´‐ _‐ノv「妖怪妖怪」

::(( <_ ;))::


 がたがたと怯え震える弟者の頭を、よしよし撫でる。

 この子もこの町で長く生きている。
 妖怪と云えど、大きな争いには無縁だったのだろう。

 わっちが若い頃には、考えられなかった事。
 憧れ続けたぬるま湯に浸る。

 それは幸か不幸か、わからない。




55 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:26:34.10 ID:dr2SjJogO

 それでも、これは解っていてほしい。


lw´‐ _‐ノv「人もあやかしも、怖いばかりではありんせん」

( <_ ;)「……?」

lw´‐ _‐ノv「わっちは、ぬしを産んだわけではありんせん……けれど、わっちは町の母」

( <_ ;)「……毒婦の君、」

lw´‐ _‐ノv「何かあったら……親を頼りなさい」

( <_ ;)「あ……」

lw´‐ _‐ノv「その為に、わっちらは此処に居りんす…………怖がらず、訪ねにおいで」

( <_  )「……はい、第二の、母上」

lw´‐ _‐ノv「……いいこ」

( <_  )「…………」




58 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:27:38.13 ID:dr2SjJogO

 しゅうが母と呼ばれる理由は、慈愛を撒き散らすからだけではない。
 かたわの腕でも全てを抱き止めようと、受け入れようと腕を広げて居てくれる。

 今のあやかしは、それを知らずに怯えるが。
 本当は、どうしようもなく母性を持つ毒婦の君。

 誰も訪ねず受け止められず、孤独と歯痒さに涙しても
 毒婦の君は、痛みも何もかも、抱き止めようとしてくれる。


 孤独はかなしいね、としゅうは囁く。

 そうですね、と弟者は返す。


 いつのまに、時は流れたのだろう。
 いつのまに、時が孤独を与えたのだろう。


 ただ、いとおしかった、だけなのに。



 『六話前編 おわり。』




59 : ◆XCE/Wako2nqi :2010/04/04(日) 21:28:03.90 ID:dr2SjJogO
支援ありがとうございました。

何が楽しいってアサピー楽しい。


それでは、これにて失礼!




60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/04 /04(日) 21:29:22.07 ID:U3uDuIPH0




62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/04 /04(日) 23:10:44.33 ID:W5qL0oDsP
乙!こんかいもおもしろかった!



64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04 /05(月) 00:16:44.57 ID:pepUhqYa0
おつ!後編も楽しみにしてます





次→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第六話 百依百順 己なし。 後】


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