251 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:28:13.52 ID:
dtsnbmAS0 打ち止め「ねぇねぇ見て見てって、ミサカはミサカは出来たばかりの実験道具を御披露目する!」
番外個体「実験道具って、ナニコレ、ペンライト?先っちょピンクの豆電球なんだけど。回すと…取れた」キュキュ コロン
番外個体「胴体に指が入るほどの穴が開いていて、上下から銅版が伸びて中央で少しだけ重なってる」フム
打ち止め「うん、番外個体は知らなかったっけ?ミサカが書いた妄想小説に出てくる電気の問題を解決するのに
わざわざあの人が作ってくれたんだよって、ミサカはミサカは余りに丁寧な仕事に思わず脱帽!」
番外個体「メカに強い男の子を強烈アピールなんてね、やかましいわ。んで、コレがその妄想小説か、どれどれ」ミテシンゼヨウ
打ち止め「どう、かな?」
番外個体「纏めるとこんな感じかな?」
お姉様の、上条当麻譲りのハッタリと戦術で冷静な思考を奪われた第1位は『豆電球と電池の回路に反射設定の自分
が入るとどうなるか』と言う問いに対して、思考実験で答えが出せず無理やり能力で実際に回路を作ってしまおうと
考える。砂利を使って電池を作る作業に熱くなりすぎて、つい反射に割く演算領域まで使ってしまった隙を見逃さず
お姉様は超電磁砲で第1位をボロ雑巾のように吹っ飛ばしました、めでたしめでたし。
番外個体「全然ダメ!足りないものが多すぎ」ドーン
打ち止め「え、え、ええ??」
番外個体「お姉様の戦法が説教魔を参考にしてるってのに、なんで長いセリフがでてこないのかな?一番の肝でしょ」
番外個体「せっかく無茶な理論使うんだから、砂利電池なんてショボ過ぎだよ。もっと常識をブチ壊さないと」
番外個体「んで、破壊描写が無さ過ぎ。作戦上仕方ないにしても、仮にも超能力者同士の対戦でしょ?凄さが伝わらない」
番外個体「更に言うなら、殺し合いしてんのに血が足りないよ。痛みを抜きにして熾烈な戦いを表現出来る?ねぇ出来るの?」
番外個体「ラストもダメ!後味って言葉知らないのかな?これじゃ無味乾燥だよ。え~、それからねー」
打ち止め(えと、コレ誰なの……ってミサカはミサカは思わぬ番外個体のエキサイトっぷりに戦慄を思えてみたり!!)
番外個体「説明するのも面倒だね、よし、ミサカが途中から書き直してあげるよ。回路図の問題を出したあたりから」
打ち止め「姉妹リレー小説!?」
252 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:29:00.07 ID:
dtsnbmAS0 空中の回路図を前に一方通行はヤレヤレだ、という態度を隠さなかった。
常盤台のお嬢様って言えば世間じゃそれなりのブランドなんだろうが、一皮剥けばただのメスガキ。乳臭くて世間知らず。
命の取り合いを前に理科のお勉強?しかもこのケンカはそのガキが吹っかけてきたものではないか。呆れてものも言えない。
最早殺す気など失せてしまった、冷めた。バカを相手に真面目にやるだけ損ではないか。これが第3位だなんて学園都市の
名が泣くというものだ。
だが、オイタをした子供はオシオキをしてやらないと。殺さない、傷つけもしない。ある意味人道的な……事など考えては
いるはずも無く、むしろ却って人間存在への冒涜に値するような懲罰を思いついて無意識にニヤつく。
人の尊厳を踏みにじるのがこんなに楽しく感じる、この少年はこの時点で人ではなかったのかも知れない。
「おい、オリジナル。この質問に俺が答えたなら、お前に一つ頼みたいことがあるンだが」
はあっ?と言う顔の美琴はとりあえず相手の言葉を待った。
「試したい技があるンだわ。人間の生体電流を逆流させンのはクローンで何度か試させてもらったンだけどよ。それ死ンじ
まうだろ?使ったクローンはそのつど処分しちまうンで、それでも良かったンだけどよ」
「生きた人間相手でないと意味がない技なンだわ、これは。その上無闇にテスト出来るもンでも無くてよ」
「いいんじゃないかな?好きにしなよ」
「イイな、お前。ノリがイイのは嫌いじゃねェ。ンじゃ言うけどよ。お前の頭ン中弄くらせてくンねェ?」
「好きにしろって言ってるんだけど?」
「何も物理的にじゃねェ。脳波を操作してみたいンだわ。心配すンな、死にゃしねェよ、多分。廃人くらいは覚悟した
ほうがいいだろうけどな、クハハッ」
「第1位は耳が悪いのかな?私は好きにしろって言ってるんだよ?どうせ断ったって力ずくで押し倒されたらか弱い私は
抵抗したって無駄だろうしね。それよりいいから早く質問に答えなよ。私、こう見えても待たされるの好きじゃないんだ」
噛みあわない会話ではあったが、悪魔の契約は成立した。
253 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:30:01.01 ID:
dtsnbmAS0 いちいち癇に障る喋り方をする相手にイラ付きつつ、くだらない前戯を片付ける作業に入る。
これが終われば楽しい楽しい人体実験だ。嘗めた口を聞けるのも今のうち。あの感情の無い人形達のようにするのもイイ。
なんなら犬猫程度の自我だけ残して肉人形に変えてやるのも面白いか?光の中の住人、常盤台のレールガンが明日からは
監視の目が無ければ街中で糞尿を撒き散らすケモノと化す?……ゴホン、一つ咳払いをして集中を取り戻す。
我ながら品性下劣な想像をしたものだ。まあ、それくらいこのクソガキにはムカついているということか。
(さてと、つまンねェお勉強でもしましょうかねェ)
導体は金属の導線、なので電荷担体は自由電子。電位差によって負の電荷が電流とは逆向きに流れる。とかいう理屈に
大した意味は無い。自分は電気量のベクトルを操作できる能力者なのだ。そんな一般常識は必要ない。
電位差の解消、電気的な安定を得ようとする働きが電流だとすると、それは伸ばしたバネが縮むのと同じ。
元の形に戻ろうとする力を、そのまま不安定な状態へのベクトルに変換する。溜め込まれたエネルギーは消費されない。
ということは
「ンじゃ、答え合わせの時間と行こうか?」
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:30:40.01 ID:
dtsnbmAS0 「電球は光ンねェ」
「それ、ファイナルアンサー?理由はなんなのかな?」
「アァ?心の底から面倒クセェ女だなァお前は。イイか?死に掛けの脳細胞せいぜい活性化して理解しろ!」
先ほどの簡単な考察を説明される間、美琴はポーカーフェイスを崩さず、片足に重心をかけた姿勢で腕組みをしながら
時折、「ふん、ふん」などと相槌を打っていた。が、結論に差し掛かるとその雰囲気は一変する。表面的にではない。
限界まで飢えた猛獣の視界に手負いの獲物が入った、その緊張。この空気を表すならそんな感じかもしれない。
「それさあ、結局回路に電流は流れたと思う?そしてそれはなにを意味すると思う?浅いねぇ、よーく考えてみなよ」
既に仕掛けは整っているのである。エサに喰い付いた魚がどれだけ後からもがこうと、針は却って深く刺さりこむだけ。
用意したのは強烈な毒。ニオイも色も無い、人畜無害な猛毒。一方通行だけが苦しむ即席の特注品だ。
毒性は説明不能、解毒剤は無い。そして、その絶望的効果が出始める。
255 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:31:35.78 ID:
dtsnbmAS0 相も変らぬ挑発的言動に、ではない。その言葉によって明らかな不快感が走った。
(何だコレは?今のあのガキの言葉に何があるンか?)
彼女は、回路に電流は流れたか?と聞いた。電球が光らないのだから答えはノーだ。とここでまた不快感が走る。
(ナンだ?あのガキの言う、その意味、ってのがこのキモチワルさの正体だってのかァ?)
エネルギーの偏りが解消される方向への運動を逆転させ、不安定な状態を維持。乾電池と豆電球でいえば、電位差を
解消するべく動く電子の運動を一つの波と捉え、それを丸ごと反転させる。結果、回路を一周することなく……
「……あ」
思わず、柄にも無い間抜けな声を上げてしまう。回路を一周しない電流は、そもそも始めから流れていないではないか。
こちらに向かってくる電子の列そのものが無いのである、反射などするまでもなく。
そこまで考えた時、今までに無い強烈な不快感が頭を締め付けた。これは異常事態だ。意識の外側から緊急信号が出る。
どういう理屈かさっぱり分らないが、彼女は質問を通して攻撃をしかけているのだ。あるいは質問そのものが攻撃か?
これ以上この問題を考えてはいけない。取り返しが付かないことになるぞ、などといった感じのアラートが脳内に鳴り響く。
だが自尊心が深層心理の叫びを押さえつける。ガキのお勉強などに屈するわけにはいかない。仮にも第1位なのだ。
次第にはっきりとしてくる頭痛に苛まされつつ、あくまで不遜に、倣岸に、リアルを解析していく。
反射をするまでもなく電子の列は流れてこない、たったこれだけの推論。それが最強者、一方通行の存在そのものを否定する
ことになる、そこに気付くことは果たして出来なかった。
「おーおー、ようやく判って来たかな?待たされ続けてババァになるかと思ったよ」
ニヤニヤと張り付いた笑顔を浮かべながら、美琴は相手との距離を縮めた。そして姿勢を落とした上目遣いで、まるで恋人に
誕生日のプレゼントでもねだるような調子でこう続けた。
「じゃあさあじゃあさあ、第1位が電気量を操作しようとすると、電流は流れないってことでいいんだよね?」
理屈では確かにそうとも言える。というより電球が光らない以上、そう考えるのがもっともだろう。
「あー、でもさ。そうなっちゃうと困ったことになるんだよねー。ねえねえ、どういうことだかわかるかな?」
256 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:32:47.56 ID:
dtsnbmAS0 世界の崩壊、その神託を告げる天使の歌はかくもありなん。邪悪で歪で透明な声が終わりの始まりを宣言する。
「電気量のベクトルを操作しようとすると電流が流れないってことは、操作されるべきベクトルは最初から無かったことに
なるって事なんだよ。あれ?でもおかしーなー?第1位の謳い文句に電気量のベクトルを操作できるってあるよね?
向かってくる電気がそもそも無いのにどうやって操作するのかなー?あ、それにそれに、妹達と何度も戦闘してるんだから
電撃攻撃を受けた事だってあるよね?反射したことあるんじゃない?どういう理屈で反射してたのかな?説明できる?ねえ?」
「問題は電撃だけに留まらないんだけどね。さっき私の砂鉄の嵐を磁場を操作することで壊したけど、あれだって電撃の派生
だからね。そっちに攻撃しようと思った瞬間に消滅しないと理屈が合わないんじゃない?まだあるよー。電場と磁場と来て
電磁波。その白い肌って、紫外線とか反射してるつもりなんでしょ?でも光だって電磁波だよ?放射線だって電磁波だよ?
まさかそんなものまで無かったことにしてるって?だったらもう日焼け止めとかいらないよね。太陽光なんて無かったことに
なるんだから。いやいや、第1位の能力で地球がヤバイって。ぎゃはははははは」
「ギャハ、あ、ちなみになんだけど。電球が光る、って答えても結果は同じだからね。電流を反射する設定なのに回路を
電流が巡ってたら、そりゃアンタ反射できてないじゃんってことだから。電気量のベクトル操作はどちらにしても出来ない。
何が間違っていたのかって?決まってるでしょ、あの質問に答えようとしたことが間違いだよ」
「回路図の問題の本質は『ベクトル操作』という能力の矛盾点を徹底的に糾弾して能力者の自我、いやこういうべきかな?
『自分だけの現実』を崩すものなんだよ。防ぐ方法はただ一つ、この質問に触れないこと。私を格下と見て油断して
良く考えもせず考察を始めた時点で、ここまでの展開は決定事項だったって事。おわかりかな、学園都市一番の天才くん?」
少年はペラペラと好き勝手に喋り捲る少女のことなど既に見ていなかった。額には血管が浮き出し、眉間には深く皺を刻み
唇を引き攣らして犬歯を剥きだしにした口からは荒い息遣い。その顔が表すものは怒りなのか苦しみなのかあるいは両方か。
至高と謳われるその優秀な頭の中を目まぐるしく電気信号が、ただただ無秩序に駆け回っていた。
圧倒的な質量を操る強大な力、だからこそ限りなく繊細、いや、無謬でなくてはならないその不可侵の聖域に撃ちこまれた
電気仕掛けの鉄釘。鉄釘は穴を穿ち、穴はヒビを、ヒビは亀裂を、亀裂は崩落を促していく。
フラつき倒れてしまいそうになるのをぐっと堪えて叫ぶ。
「ガァアアア、お前……わかってンのかァ?自分だけの現実を即席で適当に弄くるってのが、どォいうことか、あァ!?」
全身の血液が沸騰するように熱を帯び、立っていることすら辛い状況に陥った中、意思の力で体を持ち上げ、今にも意識が
飛んでしまいそうな少年の最後の理性を振り絞ったようなその問いは、最早、敗北宣言と捉えるべきだったろう。
美琴はその意味を完全に理解した上で、それに見合った最適解を選ぶ。
おどけた様子で、張り付いた笑顔で、上目遣いで、敵意の欠片も無い害意を籠めて呪詛を放つ。
「もちろん。能力の暴走の誘発、だよね。そろそろかな?あは」
257 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:33:57.86 ID:
dtsnbmAS0 「ア、ガ、ガ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
声、というのが適当かどうかも分らない少年が発した音とともに衝撃波が発生した。彼の周囲の物は、コンテナであろうと
鉄骨であろうと無造作に吹き飛ばされ、その速度はそれらがどこまで飛んでいくのかも見当がつかないほどであった。
暗闇でよく分らないが視認できる範囲が更地と化してしまっているのでは?とさえ美琴は思った。
至近距離に居たために難を逃れられたのかね?、なんて感想を抱くうち、第二波が来る。
「ぎィ、ぎィ、ぐィ、ぎゃひ、ひ、ひぎゃ!?」
少年が右足を力なく地面に打ち付けると、地面にヒビが放射線状に走っていった。2回3回と繰り返されるそれにさすがに
立っていられなくなった美琴が思わず膝を付くと、地響きは止んでいた。その原因が目の前にある。
少年の右足は膝から円錐状に下へ行くほど細く削り取られていた。鋭利な刃物で瞬間的に切断された切り口のように
出血も無く皮膚や筋肉、脂肪や腱、そして骨が織り成す大理石のような模様を描き出していた。
当然、直立を保つことなど出来ず重力に従い少年は倒れ付す。
痛みを感じていないのだろうか、何故倒れたのか理解できない様子の狂人は再び立ち上がろうとする、が面積の小さい足の
先であった部分がその質量を支えきれず、ぐじゅ、ぐじゅ、と潰れていき、そしてその長さを幾許か失ってバランスを崩した
挙句、再びその体を勢い良く地面に預ける事となる。
「うィ?? いェ?、はァ???なンだよコレ、なンなンだってンだよォオオオオオオオオ!?」
2度目の転倒で自分の右足の状態を確認した彼は、そのあまりの現状に頭が追いつかなかった。トマトの皮を乱雑に剥いて
地面に叩きつけたような埃塗れの肉の塊、そんなものが自分の体の一部分であるなんて誰が一目で理解できようか。
だが既に出血量も甚だしいものになっている。遅れて激烈な痛みがコレが現実であることを告げる。原因の究明など後回しにして
大急ぎで生命の維持の為、血流操作と痛みの電気信号操作を開始する。大きな動脈からの出血を空中にチューブがあるかのように
大きな静脈へ注ぎ込み、それに先へ進むベクトルを与える。その他、体液の流失を防ぐべく能力を使う。このぶんであれば
ショック症状で気を失うことが無い限り失血死は免れるだろう。
ただし、これが戦闘中でなかったらの話ではある。
「ねえ、なんでそんなことになっちゃったか、わかってるかな?ベクトル操作膜の認識がズレちゃったからだよね。体の表面を
覆うはずの膜が、体の大きさの認識に失敗したってことだね。あるあるネタでいうところの、箪笥の角に小指ぶつけるみたいな?」
「なっ!?あ、あ……」
「気をつけたほうがいいんじゃないのかな?まだ自分だけの現実は修正出来てないんでしょ?例えば、アナタを殴った相手は
反射膜に操作されてその攻撃ベクトルを逆向きにされて拳を潰しちゃうんでしょ?それって、人体を反射対象として認識してるんじゃ
なくて、自分と他人を区別してる、一般人で言う免疫みたいな考え方で対処してるんじゃない?そうじゃなければ、高速移動する自分
の体を有害と認識して反射、なんてことになっちゃうもんね。で、今のアナタに果たして自分の体と他人のそれを区別することが
ちゃんと出来るのかな?まあ実際、足を削っちゃってる様子だしー、言うまでも無いんだけどね、あひゃひゃひゃひゃ」
「だァ???がっ!ぎゃき!!!」
美琴の言葉に釣られ、能力で傷口を保護しながら眼前で自分の右手を裏表にしてみる。問題なく反射膜が機能している実感があった。
左手も、と動くはずも無い、そう、既にそこには存在しない肘より先の左腕を……。
少女の言うように、反射膜のフィルターが誤作動を起こしていたのか、目の届く範囲にはその残骸すら見当たらなかった。
「いひひひひひひ、ミサカ、何もしてないのに第1位をボッコボコにしちゃってるんですけどー。ぎゃはっ。っていうかそれって
人生初めての負傷だったり?いやん、私が初めてのオ・ン・ナ?……なんか死んだほうがマシな気分なんですけどー?責任とってね」
目に映るもの、感触、ニオイ、そして痛みが確かにリアルを示している。既に左腕を保護するほどの精神の余裕が無く、大量の血液が
止め処なく噴出するに任せていた。しかし最後の冷静さが早急に能力の暴走を抑えるべく、自分だけの現実を修正せよと訴えていた。
情報が欲しい、必要な精確な情報が。決してあのクソ女の戯言などではなく!!
しかし飢餓状態の脳細胞がそれを無視してくれない。ならばあの声を聞いてはいけない、音を反射しろ!いや耳を塞げばいい!
残った右腕を顔の前方から耳を覆うように動かすと、それに触れた顔の皮膚をべろん、とめくり上げて耳朶を巻き込んだところで
ぽんっ、と纏めて弾き飛ばしてしまう。筋肉の剥き出しになった顔からはプツプツと赤い血の玉が無数に出現し、次第に大きくなって
鉄臭い花畑を作り上げる。ある意味端正だった顔立ちの面影は既にない。
そして美琴はついに立ち上がる。仕上げの時は来たり、とばかりに。
258 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:34:59.35 ID:
dtsnbmAS0 「負傷箇所も多いし、どれも重傷だし、なにより能力が不安定な状態じゃ、もう痛みのコントロールだって出来てないよね?
ねえ痛い?痛い?痛いのかなあ?どのくらい痛いのかなあ?この潰れた右足のどの辺りが痛いのかなあ?ねえ、どうなのかな?
でもね、痛いってのは生きてる証拠なんだってさ。良かったね、生きてて。あの子たちはもう痛みを感じることが出来ないんだから。
判ってたでしょ?あの子たちだって痛いって感じていたこと。だから本当なら少なくとも1万倍にして返してあげたいんだけどね。
でも死んじゃったらもう痛くないから、いっぱい壊せないのが残念だな。」
「ねえ?判ってたでしょ?あの子たちが学習装置で入力された情報には生存に対する欲求や、それに付随する死の恐怖が無いことを。
そういう感情を不必要だと省かれていたことが判っていて、その上であなたはあの子たちを『人形』って呼ぶんだよね。でもね
感情はなくても心の動きはあるんだよ?処分を前にして必要な情報を整理してネットワークに送る時になると、必ず通信にラグが
起こるんだよね。それがどんな理由によるものか認識する前に、クソ虫にも劣るクソ臭い下衆に殺されちゃうんだよね。」
「ねえ判る?アナタが殺したんだよ?生まれたばかりの、物を知らないだけのこれからどんな未来が待っていたかも分らない新しい命を。
そう、命なんだよね。ぷちぷち楽しく潰してるつもりだったかもしれないそれは、今お前が失いたくなくてたまらないものと同じだよ!
フザケタ話だと思わないの?好き勝手奪ってきた物を、いざ自分が奪われる段になって何ブザマに愉快にって、ぎゃははははははははは
泣いてる、ひっひっひっ、泣いてるよコレ、ぎゃは、あひゃは。ナニコレカワイイ?カワイイ事あるかって、ぎゃはははははっはははは」
「なに?もしかして懺悔とかしちゃいたいの?それとも苦しみから解放されたい?どっちでもいいけどそんな慈悲なんてかけると思う?
精々生きてる喜びに歓喜の涙を流せばいいんじゃないかな?あひゃひゃ。……と、言いたいところだけども私、今日気分がいいんだよね
そんな自家製人体標本みたいなカッコで野外放置プレイなんて変態番付で小結くらい狙えちゃうもんね。オーケーオーケー。条件次第で
特別サービス、魔法の言葉を使ってあげるね。ぎゃははははは。いい?よく聞いてね。私の言うとおりに出来たら、だからね。ひひっ」
「いいかな?『自分だけの現実』を崩した回路図の問題で、あなたは電球が光らないほうを選んだんだよね?これを変更しなさい、判る?
電球は光る、を選ぶの。ちゃんと出来たら気持ちよくなる魔法の言葉あげるから。……じゃ、答えてみてよ」
赤い赤い肉と白い白い肌の少年が既にかろうじて形だけ残っている、と言わざるを得ないその口を開く。すでにその心理状態は外面から
推し量るべくもない。それに、もはや彼の内心などどうでもいい事である。とにかく彼は最期の回答をしたのだ。
「……よく出来ました。では正解者には安らかな眠りを、ぎゃはっあはああああはあっひっひっひっぎゃはははは」サヨナライオーン
美琴は、彼の頭の両側から電磁波を浴びせかけた。それは彼の脳波、特に生命維持に関わるような部分以外を無秩序に無遠慮に掻き回す。
回路図の問題の回答を選びなおさせたのは、『ベクトル操作』が電気量の向きを操れないことだけでなく、電流を防ぐことが出来ない、と
認識しなおしてもらう為であったのだが、あの状態では蛇足だったかもしれない。が、これも最早どうでもいい事である。
体中から血を噴出しつつ定期的に痙攣するだけの、かつて第1位であったものには既に、感情はおろか認知も記憶も意味を成さないのだ。
259 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:36:30.17 ID:
dtsnbmAS0 一頻り狂ったように笑っていた美琴は、顔にへばりつく涙と返り血を手で拭うと、アレを放置して歩き出した。辿り着いたのは横倒しの
機関車の前。つい先ほど殺されてしまったあの子が、この下で眠っている。
近くに寄って片膝を付き、額を車体に押し付けて姿の無い相手に語りかける。
「終わったよ、仇はとったからね。って言っても殺してないけど。だってあんな蛆虫、すぐそっちへ送っちゃったらアンタとニアミス
しちゃうかもってさ。へへっ。……ゴメンね、助けてあげられなくて……。ゴメンね、痛かったんだよね。本当にダメなお姉ちゃんで
ゴメ…ゴメン……えぅ、うぅ、えぅぅううう……ゴメンね……ヒック……ゴメ……」
押さえてきたほうの感情が爆発して涙が止め処なく溢れてきた。透明な雫が幾筋も降り注ぎ、砂利に沈んでいく。その声を聞くものは
夜空の星の他に誰も……いや、そうではなかった。
「お姉様」
不意に後ろから声を掛けられ、驚きの余り息を詰まらせて咳き込む美琴。振り返るとそこには先ほど確かに命を失ったはずの妹が昼間
と何も変わらぬ姿で立っていた。月夜の逆光線を浴びて輪郭がぼんやり浮かび上がり、どこか現実感に欠けたその少女は、ゆっくりと
こちらに近づいてきた。
「え、あ、アンタなんで?だって機関車の下敷きにされちゃったじゃない?え、それにさっきその辺りに足が……あれ?え、え?」
「ゆゆゆゆゆ、幽霊とか???何?あ、いや、あ、私のく、クローンのゆゆゆ、幽霊なら怖くないんだよ??だ、大歓迎だよ??」
「お姉様、落ち着いてください、とミサカは状況確認の必要性を感じ、その実行に移ります」
「は?え?」
「お姉様が本日お会いになったミサカは9982号、確かにその機関車の下敷きになり、ネットワークからの離脱の事実によって死亡が
確認されています、とミサカはこのミサカが10032号であることも同時に説明します」
「あ、そか。全部で2万人なんだよね。ゴメンね間違えちゃって、しかも幽霊だなんて言っちゃってさ」
「いえいえ、間違いは誰にでもあることです、とミサカは意外な懐の深さを披露します」
「ぷっ、なにそれ?……んで、ここにはこの子を迎えに来たのかな?」
「ああ、いえ」
不意に空気が数分前のそれに逆戻りする、といつの間にか信じられない光景が広がっていた。20人ほどの自分と全く同じ姿形をした
少女達が10032号と自分を取り囲んでいる。全員が巨大な銃器を抱え、全てがこちらを向いていた。
「な、なにコレ?なんなの?」
それらが指す意味が判っても理由の考え付かない美琴は取り乱した。が、10032号の腕力で機関車に押し付けられ動きを封じられる。
260 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:37:34.54 ID:
dtsnbmAS0 「簡単なことです、よくお聞き下さい。お姉様は本実験に於いて大きな障害となりうる可能性が確認されましたので、早急な対処が
必要であると本日決定されたのを受けて我々が実働部隊として差し向けられたのです」
「被験者の身柄は既に確保、現在適切な応急処置をしつつ研究所で治療するべく搬送中です、とミサカは重要事項を報告します」
「9982号は実験関係者ではないお姉様に不用意に接近してしまい、危うく本実験に決定的な障害を与えるところでした、とミサカは」
「お姉様が被験者を殺害する危険性が現時点でも否定出来ない以上、このままお姉様を野放しにしておくわけにはいかない、との」
「超能力者であり、エレクトロマスターであるお姉様を我々で排除するにあたり、重火器で至近距離で物量で押すのが有効と考え」
「そして万が一にも逃走を許さぬよう、お姉様が絶命するまで取り押さえるのがこの10032号です、とミサカは自分の役割を説明します」
「ちょ、と、なんで、なんでよ?私、ダメなお姉ちゃんだったけど、こんな狂った実験を止めるため頑張ったんだよ?死んだあの子の
仇だって取ったんだよ?なのになんで」
「誰かそれをお姉様に頼みましたか?」
「死んだ個体が依頼した、というのはナンセンスです、とミサカはあえて言うまでも無い可能性に触れておきます」
「少なくともここにいる妹達の中には実験の邪魔をされて喜ぶ、といったイレギュラーは確認されていません、とミサカは……」
話が通じる気配ではない、ヤバい。自分を押さえつけている子、本気の2億Vを出せば引き離すことも余裕だろう。しかしそれでは
この子を傷つけてしまう。あの腐ったサナダ虫のような男と同じところに堕ちてしまう。それはどうしても出来なかった。
それにいくらLV4相当の自分でも、これほどの量の、馬鹿げた貫通力の火器をこの至近距離で全て無力化する自信は無かった。
結局自己満足だったのだろうか。ネコを助けてアイスを食べて、お茶してちょっとお話して。双子に間違えられたりもしたっけ。
勝手にシンパシーを感じて、勝手に失われた命を悲しんで、勝手に仇を討った気になって……。
とどのつまりがコレだ。結局誰を幸せにすることも出来なかったっとさ、ちゃんちゃん……笑えないよ。
「では、サヨウナラお姉様」
妹達の誰かの合図を拍子に、爆音が横倒しの機関車ごと全てを粉砕していった。本来、人体に向けての用途など考慮にない怪物の放つ
火の玉に蹂躙された美琴と10032号は肉片一つ残さず機関車の鉄屑と一体化してこの世から消滅した。銃撃に要した時間は10秒たらず。
この夜、失われたものは多く、大きかったかもしれないが、物事の終わりはその大小に関わらずいつもあっけないものだ。
10032号の欠員を補う追加生産がこれより2ヶ月前に行われている、これはそういう話ってことである。
261 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:38:43.90 ID:
dtsnbmAS0 一方通行「番外個体ォオオオオオ!ンだこの胸糞わりィ話は?お前達、俺に何か恨みでもあンのかァ!?」
番外個体「え、うん、何?知らなかったの?マジ?」
一方通行「あ……スマン」シュン
打ち止め「ちょ、あ、謝ったりしなくていいんだよって、ミサカはミサカは聖母のような慈悲の心を示してみたり」アタフタ
一方通行「……それに、これオリジナルの面影一切ねェし、てかお前だし」グスン
打ち止め「おー、言われてみれば、鉄釘とかミサカとか2億Vとか、時々出てくるねってミサカはミサカはあなたの細部まで読み込む
集中力に羨望のまなざしを送ってみる」ヨイショー
一方通行「……そンな細かいトコ以前の問題だろォ、口も性格も最悪じゃねェか」
番外個体「え?あらー、うっかりうっかり。こりゃ失敬」
一方通行「何がうっかりだ。それにコレ、救いが無さ過ぎンだろォ?」
番外個体「悲劇のヒロインってやつかな?」
一方通行「っざけてンじゃねェ!たとえ悲劇だろうと、ヒロインは絶対死ンじゃあいけねェンだよォ!」
番外個体「何それ?ポリシー?ぎゃは、笑えるんだけど。あ、そだそだ。それ取ってよ」
一方通行「あ?クソガキに作ったヤツじゃねェか。豆電球外すンじゃねェ、すぐ無くなるンだから。ホレ」キュッ キュッ
番外個体「ホイホイ、これ、ピンクの豆電球ってのは子供用ってイメージなのかな?」スイッチ オーン
一方通行「打ち止めが使うから、とは思ったがな。回路図の役目を完璧に果せる時点でガキのオモチャじゃねェよ」
262 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:39:37.97 ID:
dtsnbmAS0 番外個体「うん、ちゃんと豆電球光ってるね。さて問題です。この穴に電流反射の一方通行が指を入れたらどうなるでしょうか?」
打ち止め「あ、そういえばミサカも答えは知らないんだよって、ミサカはミサ……え、この問題ってダメなんじゃ??」
番外個体「にひっ、どう?第1位のプライドをかけて挑戦してみる気あるのかな?」
打ち止め「あ、あわ……怖かったらしなくていいよ?ってミサカはミサカはやんわり辞退をお願いしてみる」
一方通行「ギャハハハ、ナメてンじゃネェっての!」カチッ スッ
打ち止め「そんないきなり!って、あ、明かりが消えた!ということは?」
一方通行「バァカ!ちっと考えればアタリマエなンだよ。イイか?まず、あの問題に於ける俺と実際の俺には大きな違いがある。
電気抵抗を無視できるかどうか、だ。これによってもし仮に話の中でいう電球が光るような矛盾が起きたとしても
乾電池程度の電圧で人体ほどの大きな抵抗を越えて、豆電球を光らせることが出来るわけがねェンだわ。それによォ」
打ち止め「」
一方通行「反射を効かせて俺が回路に入るってことは、そもそも、この回路は閉じてねェってことになンだわ。要するに、
スイッチを切ったのと同じって……オイ?クソガキ。どうした?」
打ち止め「あ、あのね、今ずっと番外個体がミサカネットワークに実況中継してくれていたんだけど、なぜか突然大騒ぎにって
ミサカはミサカは原因不明の混乱にアタフタしてることを説明してみたり」
一方通行「あァ?オイ、番外個体。お前何かオカシナ事でも言ったンか?」
番外個体「ん?別に?ただミサカは」
番外個体「『ねぇ、今一方通行がミサカの見ている前で子供用じゃないオモチャを使って幼女のピンクのマメをクリクリした挙句
笑いながら穴に指突っ込んでるんだけど』って言っただけだけど?」
一方通行「」
一方通行「…………………………」ブツブツブツブツ
打ち止め「え、あの、どうしたの?何をブツブツ言ってるの?ってミサカはミサカは耳を澄ましてみる」
一方通行「……神は土塊よりアダムを創り、アダムの肋骨よりイブを作られた」ブツブツブツブツ
打ち止め「よくわかんないけど、そっち行っちゃダメーーー!」ガビーン 番外個体「や、やりすぎちゃったかな」テヘッ
263 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 03:41:36.16 ID:
dtsnbmAS0 以上でした。番外さんを掴みきれず、ひたすら下品でクドイ小説を書かせてしまって
申し訳ない気でいっぱいです。
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 04:10:56.10 ID:d7D5mhUxo
これは面白いwwwwwwww
乙でした! 265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 04:31:03.23 ID:BZLTVE/30
乙wwwwww
嘘は言ってないね、嘘は
しかしミサワさんヒロインを自分にするってそれなんてメアリー・スー266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/28(土) 08:12:11.29 ID:EDmhihfA0
話術サイドだと……
ミサワさんSかつMで二度おいしいな
- 関連記事
-
Amazonの新着おすすめ
おすすめサイトの最新記事