垣根「おぉ、麗しの花畑の君!」

2011-06-10 (金) 12:17  禁書目録SS   5コメント  
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/06(金) 01:52:34.50 ID:7n9eAK7L0
■注意
・時系列的には『虚空爆破事件』の真っ最中。
・垣根と初春がもしもその頃に出会っていたらというパラレル話です。


■――七月十六日


「今日もお仕事お疲れさんっと」

 気だるげな発言と共に、ホストみたいな恰好をした金髪の少年――垣根帝督はソファに腰を下ろした。

「はい、お疲れ様」

 そんな彼のだるそうな様子を見て苦笑するのは小柄で華奢な体つきを持った少女だ。



 彼女は垣根と同様の金髪とまるでホステスの着る様な背中の大きく開いた丈の短いドレスを揺らしながら、

「それじゃあ、私はこのまま何時もの『お仕事』に行ってくるわ」
「おー、気をつけろよー」
「えぇ、ありがと。じゃあ、またね」

 おー、とソファに寝転がりながら垣根は手をヒラヒラと振る。
 扉が閉まる音が室内に響いて垣根は一人になった。

……仕事って、エロい事でもしてんのかなぁ。

 まだ十四歳程度にしか見えない彼女がそんな仕事をしているとしたら、実にけしからん事だ。
 これはもう今度聞いてみなければ。

「言っておくが、いやらしい気持ちは一切ないからな」

 誰に向かってでもなく宣言しながら上半身だけを腹筋の力で持ち上げ窓の外を見る。
 暗い色に染まった空に浮かぶのは淡い光を放つ月だ。

「もう遅いな……寝るか……いや」

 彼はソファから勢いよく降りて立ち上がりながら、


「そうだ。ナンパに行こう」



166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/06(金) 01:53:51.96 ID:7n9eAK7L0

  ○


 夜の街を垣根はゆったりとした歩調で進んで行く。
 既に時刻は普通の学生達が出歩く時間を過ぎている。
 今見えるのは教師達に見つからない様、夜遊びを楽しむ学生か、

「ふへへへへ、YOYO、あの子良くね?」
「素晴らしいじゃないか、マイブラザー!平べったいのがまたGOODだ!」
「おいおい、お前らだけ良い格好させるかよ」
「俺も忘れちゃ困るぜ!」
「我ら生まれた時は違えど死す時は同じぞ!」

 妙にテンションが高い不良どもぐらいだ。
 どうも会話を聞いて、行動を見る限りでは視線の先の少女を狙っているらしい。
 このシチュエーション――、

……する!するぞ!出会いの予感がするぞぉ!

 どう考えても物語の冒頭でよくあるそれっぽいシチュエーションだ。
 こういう展開ではこのまま少女が不良達に絡まれているのを助けて、

『お嬢さん、大丈夫でしたか?』
『あぁっ、危ないところを助けていただきありがとう御座いました。良ければお名前を……』
『フフッ、名乗る程の者でもありません。強いて言うならば、貴方の運命の相手とでも』
『まぁ。メルヘンで素敵な言い回し……あ、あのよろしければ結婚を前提に――』

 以上。垣根脳内妄想。

「うへへへ……おっと涎が。さて、どんな子を狙ってるんだ、あいつら」

 不良達の視線を追う。
 そこに居るのは――、

「さぁ、テメェら行くぜ!俺達で彼女をエデンにへぶらっ!!?」
「ちょ、相棒ォオオオオオひょぎふ!?」
「俺このナンパが成功したらだいとうりょうっ!?」
「あ、兄ひぎぃっ!?」
「あべしっ!?」

 不良達が一瞬で宙を舞う。
 垣根はその真下をくぐる様に音速超過で疾走。
 未元物質で衝撃波が出ない様にカバーも完璧だ。

「!?」
「お嬢さん、ちょっとよろしいですか?」

 少女の目の前に立ち、声をかける。
 驚きに少女の目が見開かれるが、垣根は気にせず爽やかに髪を掻き上げ、微笑んだ。



167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/06(金) 01:54:55.13 ID:7n9eAK7L0

「え?あ、え、空間移動能力者……?な、なんでしょうか……?」
「Oh……」

 少女の頭の上で花々が揺れる。
 素晴らしいメルヘン力だ。ビューティホー……。
 長さを切り揃えられた前髪の下では不安げに瞳が揺れながらもしっかりと垣根を捉えていた。
 惜しむらくは、少女の顔半分がマスクによって隠されていた事か。

「いや、君のメルヘン力に魅かれて思わず声をかけてしまったんだが……」
「メ、メルヘン力?」

 なんですそれと首を傾げる少女を余所に垣根は両手を広げつつ、幸福感に満ちた笑みで、

「その頭の花飾り、素晴らしいぜ……!」
「?なんのことですか?」
「なん……だと……」

 もはや無意識に装備しているレベル……!
 つまりこれは彼女にとっては体の一部……!
 花飾りなどという表現は失礼だったか……!
 あ、不良達が今更落ちてきた……!

「失言だったか。君に対しては失礼の極みだったな……!ん?って、マスク?風邪か?」
「え、あ、はい。軽い咳と熱が出てる程度ですけど……」

 おずおずとした様子で少女は応答してくる。
 余りのメルヘン力に魅かれ過ぎて、いささか急いでしまっていたか。
 ここはお互いの関係をゆっくりと深める為に、

「さぁ、俺の背中に乗るんだ!」
「って、いきなり何言ってるんですか!?」
「冗談じゃないぞ!風邪を引いている君を歩かせる訳にはいかない!住居までひとっ飛びだメルヘン姫!」
「誰!?」

 メルヘン姫は駄目か。

「安心してくれ。これでも超能力者だ。家までの安全は保障するぜ」
「さりげなく凄い発言が聞こえた様な……」
「不安なら身分証明書なんかも提示するから安心してくれ。見たところ風紀委員の様だし、いざとなったら連行してくれても構わないぜ!」
「……えぇっと」



168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/06(金) 01:56:26.47 ID:7n9eAK7L0

 彼女は頬を掻きながら困った様に周囲を見渡す。
 何時の間にか人だかりが出来ていたが垣根は気にせず、彼女に背中を見せて白い三対の翼を派手にはためかせながら、

「さぁ、ハリー!ハリー!ハリー!」
「なんか白い翼が出てますー!?」
「俺の送迎方法に常識は通用しねぇ!貴方の帰宅にメルヘンな空の旅をお届けします!今なら花畑の君限定で無料!」
「もう言ってる意味が解りませんよ!?」


  ○


「成程、風紀委員の仕事が忙しくてこんな遅くになっちまった訳か。風邪ひいてんのに良く頑張るもんだな」
「えぇ……最近は『虚空爆破事件』なんていう人的被害の出るものまで頻発してますし休んでる訳にはいかないんです」

 フンスと背中で花畑の君が胸を張る。
 その動作で花弁が一枚宙を舞った。ビューティホー……。

「ふぅん、風紀委員も大変なんだな。そこまで自分の時間を削って尽力するとか、尊敬するぜ?」
「え、えへへ、いやいや、そんな」

 照れ顔もまたグッドだぜ花畑の君!

「で、家はこの辺か?」
「えーっと、あ、あのアパートです」
「じゃ、あそこまでひとっ飛びだな。しっかり掴まってろよ」
「はい」

 背中に乗る花畑の君を出来る限り揺らさない様配慮しつつ、翼を羽ばたかせ垣根帝督は空を行く。


  ○


「……なんか初春が変な翼生えた男の人の背中に乗ってた様な。いや、気のせいだよね。うん、そうだよね」

  ふう、と佐天涙子は頭を左右に振る。

「ファンタジーやメルヘンじゃないんだから……」


  ○


「送ってくださり、ありがとう御座いました」
「構わないさ、花畑の君。俺はメルヘンの味方だからな」
「……その花畑の君ってなんですか?」
「お嬢さんの事だが」



169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/06(金) 01:57:36.91 ID:7n9eAK7L0

「私には初春飾利という立派な名前があるんですけど」
「花畑の君から名前を聞けた……!おぉ、神よ……!」
「はぁ……もういいです」
「あ、ごめん。だから流れる様な動作で蔑んだ視線を向けたまま家に入っていこうとしないで!」

 呆れた様な半目でドアノブに手をかける初春を必死で止める涙目な垣根であった。

「何か?」
「急に冷たくなり過ぎじゃありませんか、初春さん!?」
「……ん。名前を呼んでくれたので許します」
「Oh……」

 なんて心優しい子なんだ。流石花畑の君だ……。
 などと感動に浸りつつもとりあえず、垣根は満足。

「よし、それじゃあ俺はこれで失礼するぜ。また会ったら――」
「あ、それじゃあメールアドレス交換しましょう?今度お礼もしたいですし」
「なん……やて……」
「なんでエセ関西弁になってるんですか」

 スルーして、垣根はワナワナと震える身体を抑えつつ、

「おぉ、神よ……!普段は信じてねぇけど今日だけはあんたを信じるぜ……!」
「ちょっ、大仰なポーズで天に向かって祈らないでください、なんの儀式ですか!?」
「メルヘン教だ!」
「何それ怖い!?」

 とりあえず、携帯を取り出し、

「不束者ですがどうぞよろしくお願いします……!」
「何か語弊がある気がしますけど、はい」

 メルメル。交換完了。

「よっしゃあ、花畑の君で全力登録……!」
「また怒りますよ?」
「すいませんしたぁ―――ッ!」

 ドス黒い何かがこもった笑顔に垣根も思わず高速土下座。
 こいつは怖ぇー!第一位以上の匂いがプンプンするぜぇ――!!!

「初春飾利っと……」
「えっと、そういえば貴方のお名前は……?」
「あぁ、そういえば言ってなかったな」

 一拍置いてから垣根は衣服を正して立ち上がり、

「俺は垣根帝督。学園都市の序列第二位だ。よろしくな、初春ちゃん」
「」

 こうして垣根帝督と初春飾利の学園都市の裏と表が絡み合う奇妙な関係が始まった。
 この出会いが何を生み出すのか、それはメルヘン神のみが知るところである。



170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/06(金) 02:00:17.83 ID:7n9eAK7L0
以上です。



173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/06(金) 02:31:05.27 ID:Qm22RlXmo

このメンヘル補正ってかギャグ補正入ったていとくんには第一位も勝てなさそうだww




174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/05/06(金) 02:57:23.58 ID:r82DDElbo
漫画レールガンっぽい言動の初春を初めて見たかも。原作漫画アニメでかなり違うんよねえ。
しかし二人ともテンションたけえなwwww




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禁書目録SS   コメント:5   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
7906. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/10(金) 12:40 ▼このコメントに返信する
ていとくんSS好きだな
7914. 名前 : 愉快な名無しさん◆- 投稿日 : 2011/06/10(金) 19:50 ▼このコメントに返信する
ていとくんサイコー
7935. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/11(土) 07:13 ▼このコメントに返信する
ていとくんマジメルヘン
7938. 名前 : 名無し@SS好き◆VBuD5iCI 投稿日 : 2011/06/11(土) 07:58 ▼このコメントに返信する
ていとくんマジていとくん
8148. 名前 : 名無し@SS好き◆eJLwAA76 投稿日 : 2011/06/15(水) 02:18 ▼このコメントに返信する
え、おわり?
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