滝壺「私は、AIMストーカーだから」

2011-06-19 (日) 19:17  禁書目録SS   7コメント  
まとめ依頼よりまとめさせてもらいました。ありがとうございます。

1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:20:09.30 ID:BXCVHyQo
 注意書き。

・浜滝を期待した人、回れ右したほうがいいかもです。
 けれどNTRではありません。念のため。前提として付き合っていない状態です。

・滝壺理后の設定、能力に僅かながら齟齬や勝手に付け加えた設定があります。
 能力についてだけ述べると、『体晶』を使わなければ能力を使えない→『体晶』を使わなくても正確度が下がるが能力は使える。ということになっています。

・その他もろもろ原作とは異なる点があります。


 以上を踏まえた上でどうぞご覧ください。



2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:20:53.88 ID:BXCVHyQo
 ………………。
 ここはどこだっけ。
 ああそうだ。施設だ。確か『AIM拡散力場制御実験』っていう名目で使われた施設だ。
 それで、どうして私はここにいるんだっけ。
 ああそうだ。確か研究者が何か粉の入ったケースを持って、私たちに渡したんだ。

研究者「これを使えばレベル6に近づくことができる」

 レベル6。
 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの。
 学園都市の最終目的。
 それに近づくことができると聞いて、皆は瞳をキラキラと輝かせた。

研究者「やってくれるね?」

 皆が頷いた。だから私も頷いた。
 一人は嫌だったから。居場所が欲しかったから。
 その後、AIM拡散力場を図る装置だという私達は横に並べられたカプセルに入って、その粉を飲み込んだ。
 瞬間、世界が変わったように思えた。


 ――この実験については緘口令を布く。実験はつつがなく終了した。

 ――君たちは何も見なかった。いいね?

 遠くで、何か声が聞こえた気がした。
 他の子供達が運ばれていくのがわかった。
 どうして運ばれていくんだろう?私は大丈夫だったのに。
 大丈夫以上に、今まで感じていた以上の何かができるような気がしたのに。

 ――木原さん……一人だけ、意識のある子が……

 ――ほぅ?それはそれは……しかし、その存在が公になると困ることになるな……

 木原、と呼ばれた初老の研究者は顔を歪ませた。
 私でもわかるくらいに、醜く。

 ――……学園都市に売ってしまおう。手はずを整えたまえ。

 ――……は、はい!

 結局。
 結局、私はひとりぼっちで、闇に堕ちていく――――



3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:21:48.27 ID:BXCVHyQo

「――滝壺、起きろよ」

「――滝壺さん、超起きてください」

滝壺「!」

 私は肩を揺すぶられつつ名前を呼ばれて、滝壺理后はようやく眼を覚ます。
 顔を伏せているのはいつものファミレス。どうやら夢を見ていたらしい。
 ぼんやりとした頭で顔をあげると、声を掛けてくれていた絹旗と浜面が少し心配そうにこちらを見ていた。

絹旗「全く、少し唸ってましたから超心配しましたよ。ほら、バカ面は会計を済ませてきてください」

浜面「なっ……!?お前あとで泣かす!絶対泣かす!!」

絹旗「浜面の超貧弱なテクニックじゃ一生かかっても出来ませんよ。下っ端は下っ端らしく、言われたことをしていればいいんです」

 反抗しても自分が負けることは分かっているからなのか、浜面はくっそ、といいながら渋々会計に向かう。
 しかしながらどうせ『アイテム』の経費から落とされるので、面倒といえば会計をすることだけなのだが。
 滝壺はそういえばと思って周りを見渡すと、意識が落ちる前に座っていた麦野とフレンダはいつの間にかいなくなっていることに気づいた。
 彼女の様子から誰を探しているのか気がついたようで、絹旗は手をうって答えてくれる。

絹旗「……ああ、麦野とフレンダはとっとと帰りましたよ。今回は滝壺さんが相手する相手は超居ないので半日オフだと言っていました」

滝壺「お休み……」

絹旗「はい。まぁ、滝壺さんもたまには一人で買い物とかいいんじゃないでしょうか。そのピンクのジャージじゃ色気も何もありませんし、服とか見てみては?」

 滝壺は小さく、服、と繰り返した。

絹旗「……面倒なら無理にとはいいませんけど。暇だって言うんなら、私の担当の仕事に付いてきますか?今なら無能の浜面もいますよ」

浜面「誰が無能だ……」

絹旗「おや浜面いやアホ面。超早かったですね」

浜面「なんでわざわざ悪口の方に言い直したんだよ!?」

滝壺「大丈夫。私は浜面がアホ面でも応援してる」

浜面「そんなんで応援されても嬉しくねぇよ!?」



4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:22:30.83 ID:BXCVHyQo
 このまま店の中で騒いでも迷惑になるだけだったので、外に出て話の続きをする。
 丁度真上に昇った太陽が彼女たちを燦々と照らした。少しだけ暑い。
 目の前の信号が赤くなり、車が行き来する。

浜面「……で、何話してたんだ?」

滝壺「私のお休みについて」

絹旗「やることなくて暇なら私に超ついてきてもかまいませんよ、という話です」

浜面「っ、滝壺!是非ついてきてくれ!頼む、お願いだ!絹旗と二人きりとか恐ろしいし、俺の身がもた――痛い痛いイタイ!!」

 浜面が悲鳴をあげたので足元をみると、絹旗の踵が浜面の指を的確に踏んでいた。
 どうやら絹旗の逆鱗に触れたらしい。確かに彼女と麦野に怖いだのなんだのいうのはNGな気がする。

絹旗「浜面、私と二人でいいですよね?」

 そう言いながら絹旗が浜面に笑いかけた。その影にはどす黒いオーラが溜まっているようにも見える。
 それに対して、浜面は顔を赤くしながら言う。

浜面「だっ、だれがおまえなんかと二人きりでぇぇぇぇえええええええっっ!!」

絹旗「おや、よく聞こえませんでした。もう一度お願いし・ま・す・ね?」

浜面「わ、わかった!二人でいい!二人で!!」

絹旗「超よくできました、浜面」

 絹旗はにこやかにそういうと、ようやく踵を浜面から外した。
 心底痛そうに足を抑える彼を尻目に、絹旗は滝壺へとふりかえった。

絹旗「すいません、滝壺さん。浜面がどうしても超二人きりがいいというので、」

浜面「だ、誰もそんなこと……ひぃっ、すいません、二人きりでお願いします」

絹旗「……だ、そうなので。休暇を超堪能してください」

滝壺「うん、わかった。じゃあね、絹旗、浜面」

絹旗「はい、ではまた今度」

 信号が青く変わった。
 絹旗は浜面を引きずるようにして道路を渡り、そして視界から消える。

滝壺(はまづら……頑張れ。心から応援してる)

 滝壺は殉死する兵士よろしく死地に赴く浜面に心の中で敬礼を送った。



5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:23:00.27 ID:BXCVHyQo
 ……それで私はどうしよう、と滝壺は考える。
 半日お休み、と言っても特にやることはない。
 いつも通り公園でAIM拡散力場浴でもしてようかな、等と思っていると脳裏に過るものがあった。

 ――そのピンクのジャージじゃ色気も何もありませんし、服とか見てみては?

 それはつい先ほどに絹旗が言っていたこと。
 彼女はそれを反芻し、自分の身体を見下ろした。
 代わり映えしないピンクのジャージ。何か別に思い入れがあるわけではないがこれを着ているのは楽だから、ということに他ならない。
 ……それでも買う買わないは別にして、洋服を見に行く、というのはいい考えではある。

滝壺「うん。じゃあ、行こう」

 意気込んで、彼女も信号を渡ろうとする。
 が、一歩を踏み出す前に赤になった。

滝壺「………………」

 まぁ、いいか。
 時間は沢山あるし。
 滝壺は太陽に手をかざしながら、そう思った。


 それにしても、随分と懐かしい夢だった気がする。
 私が暗部に落ちた所以。
 『AIM拡散力場制御実験』、本当の名前は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』。
 しかし、それすらもあの人にとっては隠れ蓑に過ぎない。
 本来の目的は、ファーストサンプル『能力体結晶』の改良版である『体晶』を開発するための実験。
 殆どの人は自分の能力を制御できなくなる中、私だけは違った。
 暴走状態において普段より自分の能力を制御することができていた。私以外の人はできていなかった。
 たったそれだけ、それだけの違いで私と彼らは袂を分けた。



6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:23:45.73 ID:BXCVHyQo
 居場所を無くして学園都市の奴隷になることと、意識を無くして皆と共に目覚めるまで永久の時をすごすこと。
 どちらがよくてどちらが悪いことなのか、私にはよくわからない。
 ただ私は利用価値があってここにいる。
 逃げようとは思わない。逃げたいとも思わない。
 だって、私の居場所は『アイテム』にしかないのだから。
 ……逃げる場所も、隠れる場所もないのだから。

 ――いつか他にも滝壺の居場所ができるといいね。

 フレンダの言葉を思い出した。
 ここ以外の私の居場所。
 一瞬だけ想いを馳せて、首を軽くふる。
 そんなのはありえない。そんなのは幻想。
 きっと私はここで、死ぬまで使い捨ての奴隷として扱われていくのだから――


 ぼーっとした表情で街中を歩く。
 ピンク色のジャージは少しばかり人の眼を引くが、彼女自身はあまり気にしたりはしない。
 人目を引く、というのは道端で転ぶのと同じこと。
 『今転んだ人カッコ悪いねー』という会話が『あれピンクのジャージだー珍しいねー』という内容に変わるというだけの話。
 つまり言いたいことは、人の目を引いたとしても余程万民に知られている有名人などではない限りその場限りだけということだ。
 極一部の例外を除いて。

男1「うわ、何このピンクピンクしてんの。何、君の趣味?」

男2「かわいい顔してんのにもったいないねー、すこーし付き合ってくれたら、服買ってあげるけど?」

 ……訂正、極一部の、例外《バカ》を除いて。
 この男二人組は所謂ナンパというものを滝壺へ仕掛けていた。しかし、二人なのに一人をナンパとはいかがなものだろうか。
 確かに彼女はダウナー系とはいえ黙っていれば可愛い部類に入るだろうし、お持ち帰りしたい気持ちもわからなくはない。
 が、如何せん相手は滝壺だ。まともにとり合ってもらえると思わない方がいい人物だ。
 滝壺は二人の顔を数秒間眺めて、言う。

滝壺「……ナンパ?だとしたら、ごめんなさい。私用事があるから」

男1「いやいや、少しだけ少しだけ、な?」

男2「そうそう、あまり時間取らせないから」



7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:24:28.91 ID:BXCVHyQo
 男たちは滝壺の前に立ちはだかって逃げられないようにしてから口上を並べ始める。
 それに対して滝壺は逃げる素振りすら見せない。
 だが、その顔には淡くだが間違いなく迷惑だというような表情が浮かんでいた。
 周りの人もそれに気づいてはいるが、誰も助けようとはしない。
 助けがないのは、表の世界でも暗部の世界でも同じことらしかった。

滝壺(……早く飽きないかなぁ)

 彼女的には事を荒らげたくはなく、ただ嵐のように過ぎ去ってくれるのをまつだけだ。
 しかしながらこういったナンパというのは意外にもしつこく、こちらが無関心を決め込んだとしても興味をもつまでつきまとってくる。
 そうした場合には無視して去るのが一番なのだが、今更遅い。

男1「~~~~~~」

男2「~~~~~~」

滝壺(……北北西から信号が来てる……これは……『電撃使い』かな……)

 ペラペラと喋るのを滝壺は華麗に受け流す。
 しかしいつまでたっても大した反応を見せない滝壺を面倒だと感じたのか、ぐっ、と滝壺の手首を掴んだ。
 それまでぼーっとしていた彼女もこれには僅かな危機感を覚える。
 危機感、とはいっても、『アイテム』の仕事においてのようなものではないが。

滝壺「!」

男1「ほらほら、ちょっとそこでお茶でも飲みながらさ、ね?」

 男は力強く引っ張り、ここで滝壺は初めて抵抗してみせた。
 ぶん、と軽く振っただけで外れたのは彼女が今まで何もしなかったからだろう。
 少しだけ驚いてみせる男の顔をちらりとみて、滝壺はポケットに手を突っ込んだ。
 手探りで動く指が、その四角いケースの外縁をなぞった。
 ああ、めんどうだ。
 これを使うのは身体に強く負担がかかる。
 けど、仕方がない。退けるためだから。自分の身を守るためだから。

滝壺(――ここは、私の居場所じゃないから)

 だから、やっぱり去らなきゃいけない。
 滝壺はそう考え、それを取り出そうとした、まさにその瞬間。

「こんなところにいたのか!いやーすまんすまん!遅れちまったな!」

 一人の男子高校生が割り込んできた。



8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:25:19.21 ID:BXCVHyQo
 その少年はさりげなく男の手を滝壺から払い、逆に彼女の手を掴む。
 しかしその手に何かしらの意図は感じられない。
 彼は単純に彼女を助けに割り込んだだけだからだ。

少年「じゃ、失礼しましたー」

 そう言って彼は当初の目的通り滝壺を連れて離脱しようとするが、数メートル離れたところで彼らもようやく我に返った。

男1「おいまてよコラ」

男2「なんだよお前、邪魔してんじゃねーよ」

 そして勿論それは見破られ、明らかなる敵意を投げかけられる。
 男子高校生は愛想笑いを貼りつけたまま冷や汗を掻いて数秒、仕方がないとばかりにそのツンツン頭をぽりぽりと書きつつ、これ見よがしに溜息を吐いた。

少年「……お前らさ、恥ずかしくないのか?」

 彼の言葉がいきなり、鋭利な刃物のように尖る。

少年「こんな女の子一人相手に無理に連れていこうとしてさ、困ってたじゃねーか。男として恥ずかしいとおもわないのか!?」

男1「……なんだこいつ?」

男2「……そういや聞いたことあるぞ。女の子が絡まれてたら割って入ってきて助ける高校生。こいつのことじゃね?」

少年「ぎくっ!?え、俺そんなに有名になってるんですか!?」

男2「……ってことは、マジみてぇだな」

男1「……ま、いいや。ここで逃してもめんどうだし、潰しちまうべ」

 そう吐き捨てるように男が言うと、彼が向けた掌に赤く滾る炎弾が出現する。
 少年はそれを見て腰を落として右手を構えた。

男1「お前の能力がどの程度かは知らないが、俺の能力はレベル3の『発火能力』。この至近距離で受けたら人間なんざ一撃だ」

 脅すように言うが、少年は一歩も引かない。
 それどころか、助けようとした少女を自分の後ろに追いやって庇う素振りまで見せている。
 彼の顔には余裕はないが、その態度に何かイラッと来た。

男1「そうか、わかった。病院送りにして、や……る…………?」

男2「ちょっ……あぶねぇぞお前」

 轟、と彼が言い終わる前に、その掌の炎弾が大きく膨張する。隣の男もぎょっとした表情で思わず距離をとった。
 そして、それが半径十五センチほどまで膨らんだ次の瞬間。
 ドゴン!とそれは爆発した。



9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:26:05.19 ID:BXCVHyQo
男1「うあぁっちやぁああああああっ!?」

 それで被害を食うのは近くにいた男。自分で言っていたぐらいだから、その威力はそこそこはあるはずだ。
 それを見て彼の連れも少年も呆然とする。
 自信満々に言っておいて、自分の能力で勝手に自滅したのだから。
 何今の爆発、やら、風紀委員か警備員呼んだほうがいいんじゃない?と周辺から声が漏れ始めた辺りで少年の服の裾を滝壺が引っ張る。

滝壺「早く逃げよう」

少年「え、お、おう」

 滝壺に言われ、ようやくチャンスだと思ったのかしかし少年は先程の男をチラチラと気にしながら滝壺に引っ張られていくのだった。


 しばらくして。
 人通りの少ない公園まで辿り着いた彼らは自販機で飲み物を購入しベンチに座った。

少年「ふー……なんかよくわからんけど、助かったな……」

 少年はそういうが、滝壺に理由は分かっていた。
 なぜなら自分が『体晶』を使わない範囲であの男の『自分だけの現実』をかき回し、自滅させたのだから。
 だがそれをいうと面倒なこととなるのでとりあえず適当に頷く。

滝壺「そうだね」

 言って、滝壺は首を傾げる。
 なんだかよくわからなかったのは自分だ。アレを使おうとしたところにいきなり割り込まれたのだから。
 自分を助ける人など誰もいないと思っていたところに助けてくれた善人が現れたのだから。
 他にも気になることは幾つかある。

滝壺「……AIM拡散力場がない」

少年「ん?何か言ったか?」

滝壺「ううん、なにも」

 しれっ、とした表情(とはいってもいつもとはあまり変わらないが)で滝壺は答え、続けて謝礼を述べた。

滝壺「それよりも、さっきはありがとう」

少年「あーいや、気にすんなって」

 少年は言って、手の中のヤシの実サイダーを一気に煽る。



10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:26:39.76 ID:BXCVHyQo
滝壺「でも、どうして助けてくれたの?」

 彼女が一番聞きたいのはここだ。
 誰も見て見ぬふりだった。遠巻きにみている人は何人もいたが、誰も声すらかけてくれなかった。
 それなのに彼は突然現れて颯爽と助けてくれた。
 この救いようのない世界だというのに。

少年「んー、なんでって言われてもなぁ……アイツらにも言ったとおり、困ってたから、じゃダメなのか?」

滝壺「困ってた?」

少年「ああ。俺の友達にも無表情の奴……ああいや、気を悪くしたらすまん」

滝壺「大丈夫。慣れてるから」

少年「そっか。それで、無表情の奴がいるんだけど、そいつもよく見てると今どんな気持ちかわかるんだよな」

少年「それで、そいつが困ってる時と似たような雰囲気をお前から感じたからさ」

 彼女が聞きたいのはそういうことではない。
 いや、どうして困っているかどうかわかったのも気になったことではある。が、こちらには及ばない。
 どうして自分の利益にもならないことをするのか、ということだ。
 自分の利益になるのなら誰だって善いことをするだろう。しないのはそれが何の益にもならないからだ。
 しかし彼は、困っているから、という理由だけで助けてくれた。
 だからこそ解せない。

滝壺「そのジュースのお金、払う」

少年「いやいいっていいって!この程度ならなんでもありませんから!」

 試すように問いかけてみると、全力の否定が返ってきた。
 これはいよいよ善人と認めないわけにはいかないかもしれない。
 と、そこで少年は通りかかった掃除ロボットにジュースの缶を回収させ、立ち上がった。



11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:27:29.57 ID:BXCVHyQo
少年「さてと、今何時だ……って、え!?」

滝壺「?」

 彼は公園の中にある時計を見て驚いたように叫ぶ。

少年「まてまて、今がこの時間でここからあそこまでの距離がこのくらいで……ってヤベェ!?」

少年「タイムセールが終わっちまう!不幸だ――っ!」

滝壺「あっ」

 呟き、駆け出す。
 それでも数歩で止まったのは滝壺が咄嗟に声を出したからだろう。

少年「今度からは気をつけろよ!お前結構可愛いからさ!」

 彼はそう言って走り去る。
 可愛い、と言われたことに対して少しばかり顔を赤らめるが彼女の言いたいことはそういうことではなかった。
 ベンチ。彼が今さっきまで座っていた場所。そして滝壺が今現在座っている場所のすぐ横。
 そこに折りたたみ式の黒い財布が転がっていた。

滝壺「……どうしようかなこれ」

 追おうにも足の速さでは追いつけないだろう。
 追跡しようにも彼のAIM拡散場はなぜか感じることができなかった。
 彼は去り際に不幸だといっていたが、果たして財布をなくすこととどちらが不幸なのだろうか。

滝壺「とりあえず持ってなきゃ盗まれちゃうよね」

 持ち上げると、スルリとカードらしきものが滑り落ちた。どうやら先程飲み物を買ったときにちゃんとしまっていなかったようだ。
 そのカードを拾い上げるとまず十二桁から連なる番号が眼に入った。
 IDカード。学園都市において、所属する学校や住宅の学区など、身分を証明するモノ。
 勿論名前も書いてあり、自然にそれが視界に入る。

滝壺「かみじょう、とうま……」

 上条当麻。
 彼女は彼のことがどうしてか、気にかかった。



――――――――――――――――――――――



14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 14:46:58.07 ID:BXCVHyQo
上条「不幸だ……」

 上条当麻は落ち込んでいた。
 なんとかタイムセールには間に合った。激安肉などのものも手に入った。
 しかし、それを買うための重要なお金が一切合切消え失せていたのだ。
 ……財布ごと。

上条「うぅ……一応米とか素麺とかまだ残ってるから餓死せずにはいられるものの……あれにはIDカードも入ってたのに……」

 もし拾った相手が電気系統の能力者ならカードさえあればパスワード等がなくても容易にお金を引き出せる。
 ただでさえそのお金が命綱なのにそれすらなくなったら生きていけない。
 自分の何倍も食べる居候もいることだし。
 というか、目下の問題はそれだった。

上条「おかずないとインデックスに絶対噛まれるよなぁ……不幸だ」

 それだけではなく、明日の弁当にも不具合が生じる。
 まさかこの時代で日の丸弁当を自分で実践することになろうとは思ってもみなかった。

上条「それにしても、どこで落としたんだろうな……ジュース買ったときはあったし、普通に考えると公園からスーパーまでの間か……」

 自分の行動を思い出しつつ、思う。

上条「そーいえばあの子、なんとなく姫神に似てたなー」

 男二人に絡まれて困っていた女の子。
 年齢的にはきっと自分と同じ程度だろうが、無表情だが可愛い顔をしていた。
 ……ピンク色のジャージがなんとなく全てを台無しにしている気がしたが。

上条「ま、同じ学区に住んでるんならまた会えるだろ」

 上条は滝壺のことを脳の隅に追いやり、そして財布のことを思い出してまた憂鬱になる。
 やはり彼は不幸だった。



16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 15:14:57.97 ID:BXCVHyQo
 ドン、とビルが爆発した。
 爆発した、とはいってもそれは内部の一部であり、ビル自体が崩壊したというわけではない。
 そしてその爆発に巻き込まれたのも、ターゲットではない。
 『アイテム』のフレンダが自分で仕掛けた罠を逆手にとられてハメられたのだ。

麦野「……あーもうなにしてんのよフレンダ」

 麦野沈利はその痴態に呆れ混じりに言い、爆発時に吹き飛んだ彼女の帽子を彼女にかぶせる。
 金髪碧眼の少女、フレンダは苦笑いと恐怖を半分ずつ顔面に貼りつけながら我らがリーダーに謝罪する。

フレンダ「ごめんごめん……」

麦野「チッ……あとでオシオキね。やっぱ滝壺こっちにまわしゃよかったな……能力者いるんならいるっていえってーの」

 麦野は後悔するように呟き、電話の相手への悪態を吐く。
 情報が入った時自体では問題はなかったのだ。その後に護衛として雇われたのがそこそこに腕のたつ能力者だった、という話。
 しかしそれならそれでさっさと連絡しろよ、と麦野は思った。
 『アイテム』のリーダーは麦野だが、滝壺はそれの『核』たる能力の持ち主だ。
 『能力追跡』。それだけを聞けばただ能力者を追跡するようにしか思えないが、本領を発揮すると多様に渡って応用がある。
 例えば、昼間『発火能力』にしたような暴走の誘発など。
 やろうと思えば麦野の『自分だけの現実』から逆算し、能力を乗っ取ることも可能だ。
 それをしないのはする必要がないというのと、それをするために必要なものが身体に大きな負担を与えるものだからだ。
 『体晶』。無理に能力を底上げするものが毒でないわけがない。
 例えるならコンピューターのパフォーマンスをあげると、バッテリーが持たなくなるということだ。
 使い続ければ、滝壺はいつか崩壊する。麦野はそれをわかってて、呼んだほうがよかったといっている。

フレンダ「……ねぇ、麦野」

 フレンダは未だに女の子座りをしながら麦野に話しかける。

フレンダ「滝壺さ、このままだと結局崩壊するわけよ」

麦野「それで?」

フレンダ「だからさ、そろそろ滝壺を休ませてあげてもぉっ!?」

 言うやいなや、フレンダの身体は強い力で引っ張り上げられた。
 それをしたのは、勿論麦野。

麦野「アイツが潰れようが潰れまいがどっちでもいい。別に『能力追跡』でなくとも別ルートで追える能力者がいればいいの」

麦野「だからそんな甘ったれた考えを持つんじゃない、フレンダ」

 グッ、と更に胸ぐらに力が込められ、息が苦しくなる。
 そんな状態でフレンダは必死に縦に頷いた。
 麦野はふん、と鼻で息を吐いて彼女から手を離した。フレンダは咳払いを何度もして息を整える。

麦野「そもそも、私たちに暗部以外の居場所があるわけないでしょうが。……ターゲットを追うわよ。とっとと起きなさいフレンダ」

 麦野はつまらないことでもいうように吐き捨てて、闇の中へと消えた。



22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 16:00:10.96 ID:BXCVHyQo
絹旗「……で、結局何も買わないで帰ってきたんですか?」

 その言葉にうん、と一度。
 麦野とフレンダはターゲットを逃がしたとやらでまだ帰ってきていない。
 ちなみに彼女たちがいるのはファミレスではなく『アイテム』の潜伏所の一つだ。
 ファミレスも確かに夜中までやっているところも少なくはないが、この時間にいくのは危険な気がする。

滝壺「ところではまづらは?」

絹旗「あのバカ、知り合いの『警備員』に超補導されたんですよ。お陰で歩いて帰ってくるはめになりました」

 はぁ、と呆れたように両手の掌を上にむけ、首を振る。
 そこではたと絹旗は何かに気付いた顔をした。

絹旗「なんで浜面なんか超気にするんです?」

滝壺「この人と知り合いだったら返してほしいなって思って」

 そう言って滝壺は上条のIDカードを出す。
 絹旗はそれを受け取って上下左右から観察した。

絹旗「……例の、ナンパから助けてくれた男の人のですか?」

滝壺「そう。多分困ってると思うから、早く返してあげないと」

絹旗「わざわざ浜面なんか通さなくても、自分から返してあげればいいじゃないですか」

 彼女は部屋の隅にあるパソコンを指さし、

絹旗「IDカードリーダーならすぐに準備できますし、そこにあるパソコンから学園都市の一部を除く学生のデータぐらいなら簡単に閲覧できるはずですよ」

 それを聞いて滝壺は少し考える素振りを見せる。
 そしてまたうん、と頷いて訊ねる。

滝壺「ねぇ、きぬはた。AIM拡散力場がない能力者って、存在するのかな」

絹旗「は?……いえ、知りませんけど……AIM拡散力場なら滝壺さんのほうが超詳しいのでは?」

滝壺「うん、そうだよね。……そうだよね」

絹旗「?」

 繰り返す滝壺に絹旗は怪訝な表情を浮かべる。
 しかし滝壺は何か考えに耽っているようで、全くそれには気がつかなかった。

滝壺(じゃあ、あの人の能力は一体なんなのかな――?)

 滝壺は答えのでない問いに雁字搦めに縛られた。



27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 16:40:04.07 ID:BXCVHyQo
 ――――――――――――――――

 窓のないビル。
 そう聞けば皆が同じ方向を指さすだろう。
 早朝明け方からそこに呼ばれた土御門元春は機嫌が悪く、しかし仕方が無しに仕事の頭に切り替えた。
 そして、目の前の『人間』に対して呼びかける。

土御門「……今度は何を企んでいる、アレイスター」

アレイスター「別に企んでなどいない。丁度いい機会だから幻想殺しに自身の正体へと近づけようとしているだけだよ」

土御門「幻想殺しの正体……?アレは原石だろう。正体も何もあったもんじゃない」

アレイスター「そう思っているうちは君はまだ甘いな」

 つい、とその手を泳がせる。
 するとアレイスターの顔の前にウインドウが出現し、それは土御門の方を向いていた。

アレイスター「昨日のものだ。君は彼女が誰か知っているだろう?」

土御門「……滝壺理后。『アイテム』の一人だな。面識はないが」

アレイスター「その通り。そしてその能力は『能力追跡』。彼女自身は既に気づいているのではないかな」

土御門「何がいいたい、アレイスター」

 苛立を感じてきた土御門はタンタン、と地面を足で叩く。
 アレイスターはそんなことにはまるで興味がないらしく、あくまで自分のペースで喋る。

アレイスター「なあに、簡単なことだ。君には幻想殺しと彼女を結びつけて欲しいというわけだ」

土御門「……この資料を見る限り、滝壺理后は幻想殺しにもう一度接触するようだが」

アレイスター「そうではない。幻想殺しと彼女が親密な関係になるようにしろ、ということだ。このためには決定的な事件が必要不可欠。君にならわかるだろう」

土御門「……そういうことか」

アレイスター「分かっているとは思うが、聞かなかった場合は――」

土御門「わかっている」

 土御門は即答し、サングラスの奥の瞳でアレイスターを憎々しげに見つめた。

土御門「わかっている、クソッタレめ」



34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 20:51:24.39 ID:BXCVHyQo
 姫神秋沙は、朝からグデングデンになっている上条当麻を見た。
 不思議に思って話しかけようとすると、土御門元春と青髪ピアスが静止を促してきた。
 それでも話しかけようとすると今度は吹寄制理が止めてきた。
 やっと諦めずに話しかけると、上条はカッ!と魂が飛んでいた眼が開き、

上条「ギャ――――――!死ねッッッ!!」

 思わずグーパンで殴ってしまった。
 後ほど土御門に聞いた話によると、晩飯の量がすくなかったからインデックスが切れて、背に黒い羽が見えたのだという。
 そのあと夜通し噛まれ続け、いまや誰が話しかけてもこんな状態らしい。

吹寄「全く、上条当麻は。先生が来る前に治さないと大変なことになるわよ」

青髪「それはそれでもいいんやないかなー、小萌せんせーの補修ならうれしいで?」

吹寄「そもそも補修自体がほめられるものではないでしょうがっ!!」

小萌「はーい野郎どもー子猫ちゃん達ー席についてくださーい」

 しまった、と吹寄が顔を少しばかり歪ませたが、しぶしぶ席につく。
 教卓に上がった小萌は可愛い(手のかかる)教え子、上条がつっぷしていることに気がついた。
 全くもー、朝からねて仕方がありませんねーと言わんばかりにニコニコしていた小萌は当然のように話しかける。

小萌「かーみじょうちゃーん、ホームルーム始まりますよー?」

 皆がヤバイ、と思ったときにはもう遅い。
 上条は顔を上げて叫ぶ。

上条「この、[ピーーー]野郎ッッッッッ!!」

 瞬間。
 音が消えた。
 神の力の『一掃』だとか、アックアの本気の一撃などの比ではない。
 もっと恐ろしい何かが動き出す、まさに嵐の前の静けさのような。

上条「…………はっ!?あれ、ここ学校!?昨日の夕食辺りから記憶ないんだけど!?」

 上条はようやくここで正気に返る。
 が、周りの様子がおかしいことに気が付いた。

小萌「か~みじょ~うちゃ~ん?今なんていいましたですか~?」

 即ち。
 月詠小萌が怒りに震え満ちているということに。

上条「え、ええと……すいませんでした――――!?」

小萌「……一週間一人教室の掃除おねがいしますねー☆」

 上条の土下座もむなしく。
 不幸だ――――といういつもの絶叫が響き渡った。



35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 20:52:05.02 ID:BXCVHyQo
麦野「うーん、今日のシャケ弁は昨日のシャケ弁より美味しい気がする」

 いや、気のせいだろ、と浜面は心の中で突っ込む。
 隣のフレンダは背もたれによしかかりながらサバカレーを口に含む。

フレンダ「あー、結局サバカレーシリーズにも飽きてきたわけよ……他にサバ入ってる奴知らない?」

浜面「知らねぇよ……つかサバカレーシリーズってどんなシリーズだよ……」

 げんなりしつつも浜面は突っ込みを入れて今度は絹旗を見た。
 彼女はいつも通りに映画のパンフレットを見ている。
 その時、ちらりとこちらを見た。

浜面「……いや、もう誘うのはやめろよ?」

絹旗「前も超いいましたけど、同じ学生証を二人持っていたほうがバレにくいんです。ですので何か観たいのがあったらよろしくおねがいしますね」

浜面「……そうかよ」

 また気分を落としつつ、最後に滝壺を見た。
 いつもどおりどこを見てるかわからない……のかと思いきや、窓の外をじっと眺めていた。
 まるで、何かを考えるように。

滝壺「………………?」

浜面「……なんかあったのか?」

滝壺「……ううん、別に」

絹旗「別にわざわざ突っ込むことも超ないんじゃないんですか?滝壺さんだって一端の女の子なんですから、悩みぐらいありますって」

 割り込んできた絹旗にそういうお前は悩みなさそうだよな、と突っ込みかけて押しとどめる。
 そんなことしたら今度こそ地獄を見そうだ。
 それよりも不自然に絹旗が割り込んできたような気がした。
 それについて浜面が突っ込もうとしたのに被せるように麦野は手を叩く。

麦野「今日は仕事の打ち合わせじゃなくてギャラの分け合い。ま、一応『アイテム』全体のものだから、滝壺にも少しだけあるから」

麦野「そんなわけで、浜面。明細来てるだろうから送って」

浜面「おう」

 ピピピ、と浜面は携帯を操作して四人にデータを転送する。
 携帯がそれぞれの着信音を奏でると同時に彼自身もそのデータを開いた。
 そこには。
 やはりというか、なんというかバニー姿の女性が写っていた。



36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 20:52:50.03 ID:BXCVHyQo
 彼女たちはパタン!と携帯を閉めると心のシャッターを閉めて更に核シェルターにまでひきこもる。

浜面「いっ、いや待て、これは何かの間違いだ!誰かの陰謀だッ!!」

麦野「アンタを陰謀にはめてなんになるっていうのよバ浜面」

フレンダ「結局、浜面は初めの頃となんにも変わんないわけね」

絹旗「そのキモさも相変わらずですね。そんなのだから浜面は超浜面なんですよ。というかとことんバニー好きなんですね」

 三人に爆撃を受けて浜面はよろよろと数歩よろめいた。
 最後に滝壺のフォローを求めるが、滝壺は携帯をじっと見つめている。
 そしてその口が開かれる。

滝壺「ねぇ、はまづら」

浜面「……な、なんだ?」

滝壺「男の人って、みんなバニー好きなのかな」

 ガン!と彼の頭に衝撃が走る。
 バニーが好きな人もそれなりにいるにはいるだろうが、多いとはいえないだろう。
 だから遠まわしにバニー好きなんてキモイと言っているのかと思ったのだ。
 今度こそ浜面はよろめくだけでなく、ファミレスだということも忘れて跪いた。

麦野「……ショックを受けるのは構わないんだけど、ちゃんとデータ送ってからにして頂戴」

浜面「うぅ……この組織で唯一の癒しが……ぬくもりが……」

絹旗「うわ、超キモイ」

 辛辣な言葉すらも耳はいらず、浜面は今度こそメールを送る。



37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 20:53:16.62 ID:BXCVHyQo
フレンダ「うわ、すくなっ」

 それを見た瞬間フレンダが漏らす。
 ギャラは全体の一割程度……滝壺よりも少々多いぐらいだった。

麦野「当たり前でしょ。今回ミスやらかしたんだから」

フレンダ「オシオキだけで済んだと思ってたのに……何この仕打……結局私、ダメな子なわけね……」

浜面「フレンダはまだいいだろ!?俺なんて、なんだよこれ、ゼロって!」

 明細を見て見事復活を果たした浜面は麦野に詰め寄る。
 その明細には明らかに、〇という数字が示されていた。

浜面「俺だってちゃんと運転手やってんだぜ……!?」

 はぁ、と麦野はこれ見よがしに溜息を吐いて、

麦野「浜面。アンタは今回補導されて私の手を煩わせたんだからその手間賃よ。隠蔽代もかかって、マイナスになんなかっただけ感謝しなさい」

浜面「こんなのって……ねぇよ……諦めきれねぇよ…………!」

麦野「……ってことで大まかには私と絹旗が3,5、滝壺とフレンダが1、残りは下部組織って感じね」

 浜面が再び沈んだのをスルーして麦野は告げ、パン、と一度手を叩いた。

麦野「んじゃ、今日は解散。あ、浜面会計よろしく」

 麦野がそう告げた瞬間、ガタン!と立ち上がる音がする。
 麦野も、フレンダも、絹旗も。沈んでいる浜面も思わずそちらを見遣った。
 滝壺理后。

滝壺「……それじゃあ、また今度。きぬはた、よけてくれる?」

絹旗「あ、はい……さようなら、滝壺さん」

滝壺「さようなら」

 そう短く言うと、滝壺は振り返りもせず店を出て行く。
 絹旗はなんとなく事情を知っているが、麦野とフレンダは少しばかり怪訝に思った。

フレンダ「……そういえば、今日滝壺少し変だったわけよ」

麦野「……何かあったの?」

絹旗「いえ、超知りませんね」

 しれっ、と嘘を言う絹旗は心の中で滝壺にエールを送った。



45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/10(火) 14:38:34.47 ID:uU.44aQo
いいな新鮮な組み合わせで

続き楽しみ




31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/09(月) 18:10:30.52 ID:n0yJtgDO
久しぶりに暗部らしい麦のんを見た



43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/10(火) 04:55:17.73 ID:wY6nrYDO
体晶なくても能力使えるって原作まんまだろ




50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/10(火) 23:17:56.90 ID:GjM2lHQo
 >>43
 『能力の使用のためには『体晶』を用いてわざと暴走を誘発する必要がある。』
 とある魔術の禁書目録 Index、『能力追跡』より抜粋。

 ―――――――――――――――――――

土御門「カミやんも大変だにゃー」

上条「そういうなら手伝ってくれよ……」

土御門「お断りだぜい。そんなことしたら俺まで小萌先生の雷が落ちるからにゃー」

 どうやら友達というのは無償で助け合ってこそではないらしい。ちなみに青髪は既に帰った。
 はぁ、不幸だ、とまた溜息を漏らしつつ、上条は机を並べる。

土御門「でもまぁ、これだけで済んでよかったんじゃないかにゃー」

上条「どうしてだよ?」

土御門「本当なら一ヶ月補修……それも専門能力じゃないものをやらされてもおかしくないような気がしたし」

 ちなみにそれは『すけすけみるみる』や『コロンブスの卵』などといったものだ。
 レベルどころか能力すらない上条には到底できっこない芸当。

上条「……そう、だな…………」

 その未来図を予想したのか、上条はやはりこれでよかったと思う。

土御門「それよりもカミやん。財布は見つかったのか?」

上条「いんや、どこにも。『風紀委員』にも届けられてないってさ……不幸だ……」

土御門「まぁIDカードにはチップも埋め込まれてるし、頼めばすぐに見つかるはずだけどにゃー」

上条「上条さんの不幸からしたら恐らく戻ってきたときには中のお金全部なくなってると思いますハイ!」

 上条は自分で言ってむなしくなり、掃いていた箒を支えにしてしゃがむ。
 なんとなく、今の彼の雰囲気を受けるだけで不幸になる気がした。



51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/10(火) 23:18:58.92 ID:GjM2lHQo
土御門「じゃあ、今日も財布をさがすのかにゃー?」

上条「ああ……じゃなかったら、今度こそインデックスにクワレル……」

 ぶるり、と上条は身震いをする。
 昨日のことは真の恐怖に値する。いや、今朝の小萌も十分に恐ろしかったが。

土御門「……まぁ、カミやんが食われても俺がこころ苦しいし、舞夏に少し多く作ってくれるように打診しておくぜい」

上条「ああ……サンキュな」

 ちりとりで塵をかき集め、ゴミ箱に捨てたら終了。
 上条は作業を終えて背伸びする。ゴキゴキ!と不健康な音が教室の隅まで響く。

土御門「んじゃ、帰りましょうかー」

上条「おう」


 男二人で学園都市の街道を歩く。
 太陽は傾き、僅かに赤く染まったビルの影が彼らを覆った。

土御門「……ま、案外ひょっこり見つかったりするもんだぜい」

上条「不幸な上条さんに関してそれはないといいきれる」

土御門「それはどうかにゃー、例えば、IDカードが入ってたから、わざわざ『風紀委員』に届けないで自分から届けようとか思った人がいるかもしれないぜい」

 可能性として有り得ない話ではないのだがIDカードからデータを読み込むには専用の機械が必要だ。
 表面からわかる情報としては名前と番号のみ。それでさがすのはいくらなんでも無理がある。
 ……普通の人ならば。



52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/10(火) 23:19:52.99 ID:GjM2lHQo
 唐突に土御門が立ち止まる。
 上条も数歩遅れて立ち止まり、彼を見た。
 土御門はいつもの通学路とは関係の無い、少し外れの方へと繋がる道を見ていた。

土御門「……カミやん、なんとなくこっちにありそうな気がするぜい」

上条「ん?……いや、ないと思うんだが」

土御門「いいからいいから。騙されたと思って行ってみようぜい」

 土御門は上条の背後に素早く回りこんで彼の背を押して無理に反れようとする。
 仕方がなしに抵抗をやめて上条もその道に入り込んだ。
 段々と人気が少なくなり、音も無くなる。
 カラスの鳴く声だけが閑静な森林に木霊した。

上条「……こんな人の少ない場所でも、ちゃんと道路が舗装されているのがすごい」

土御門「ま、学園都市だからにゃー多分殆ど未開の地はないんじゃないと思うぜい」

 適当に話しながら進むと、少し広い広場のような場所に出た。
 滑り台やブランコなど、子供の遊び場だ。日々の疲れを癒すには確かに丁度いいかもしれない。
 ……日も傾いているから、子供の声は全く聞こえなかったが。
 そんな中、土御門は一つの方向に指を指した。
 厳密には、そこにボーと無気力で座っている女の子へと。

土御門「……カミやん、アソコの女の子、姫神になんか似てるような気がするんだぜい」

上条「……あ」

 上条は見た瞬間理解する。
 昨日ナンパされていた、ピンクのジャージを来たダウナー系の少女。
 そして一緒にジュースを飲んだ女の子。

 滝壺理后が、そこにいた。



57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 23:21:47.82 ID:pF3OY2Ao
上条「ほんっとにありがとう!マジで助かった!!」

 上条は土下座をする勢いで滝壺に頭を下げる。
 それに対して滝壺は冷静に首を左右に振る。

滝壺「かみじょうには、私も助けてもらったから」

 曰く、彼女は本当は放課後校門の前でボーとしていたらしい。
 しかしながら上条は一人で掃除をしていたため、今の時間まで時間がかかった。
 だから一度他のところでのんびりしてから行こうとしてたところに彼が現れた、ということだった。
 果たして土御門の勘は当たっていたというわけだ。
 その土御門は『おじゃまみたいだから俺は退散するぜい』と微笑をたたえたまま去っていった。
 上条は滝壺の横に座って安心したように息を吐いた。

上条「……それにしても、どうしてわざわざ届けに来たんだ?『風紀委員』に渡せばよかっただろ」

滝壺「私は直接データ見ることができるから。それじゃあなかったら、学校もわからなかった」

 そっか、と上条は半分すごいんだなーと思いつつ言う。
 よく良く考えてみると、すごい以前に個人情報を見られてしまうのだからそれについ敵旗艦を覚えるべきだが。

滝壺「それに、」

 続け、彼女は横の上条に視線を移す。
 その瞳には穏やかながらも彼を観察するような様子があった。

滝壺「かみじょうに、少し興味があるから」

 どき、とした。
 仮にも滝壺は可愛い少女だ。年は幾つかは知らないが、まぁ同年齢ぐらいだろう。
 そんな女の子から興味ある、といわれてどきりとしないはずがない。
 上条当麻も、一端の男子高校生なのだ。
 一陣の風が二人の間を駆け抜ける。

上条「あ、え、えっと……どんなところに?」

 しどろもどろになりながら問いかける。
 うん、と一度滝壺は頷く。



58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 23:22:21.97 ID:pF3OY2Ao
滝壺「かみじょうに」

 彼女は簡潔に、先ほどと同じようにそう答える。
 上条の思考は明後日に一瞬だけ飛んだ。
 彼女の言っている意味がよく理解できなかったからだ。
 上条のどこどこが、なになにが、或いは言っていたことが、とかそういうのならわかりやすい。それについて答えればいいだけなのだから。

上条「えーっと……それはどういう意味でせう、姫?」

滝壺「……私は姫じゃない」

上条「そこはいいの!はいはい、さっさと答える!」

 滝壺は?と頭に浮かべ、少々俄然としないながらも口を開いた。

滝壺「かみじょう自身に。全部」

 それは、捉え方を間違えたら告白のようにも受け取ることが出来たかもしれない。
 だが上条はそれはないと否定する。
 彼女のようなタイプはあまり見ないが、それでも一目惚れなどをするタイプではないだろう。

上条「だから、どういう意味なんだよ、えっと、あー……」

 再び問いただそうとして、ここでようやく気付いた。
 彼女の名前を知らない。
 上条の様子を見て滝壺もようやく気づいたらしく、驚いたように手で口元を押さえた。
 表情の変化が些細だからあまりそうは見えないが。

滝壺「ごめんなさい。こっちが名前知っていたから、教えた気になってた」

 前髪が微かに揺れる。
 どうやら頭を下げたらしい。



59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 23:23:03.47 ID:pF3OY2Ao
 上条的には名前の事よりも届けてもらったことのありがたみの方が大きいので、そんなことで頭を下げられても困ったりする。
 だから激しく顔の前で手を振った。

上条「いやいやいや、そんなこと全然気にしないって!」

滝壺「……そう?」

 滝壺は軽く上目遣いで上条を見た。ちなみに彼女は全くこれっぽっちも計算などしていない。
 それでもやはり上目遣いというのは効果抜群なようで、上条も少し視線を逸らしながら続ける。

上条「ああ。今から教えてくれれば、そんなのなんも関係ないからな」

滝壺「ありがとう、かみじょう」

 言い、彼女は淡く微笑を顔に貼りつける。
 その顔をみて、上条は思わず自分の顔が赤くなるのがわかった。
 どうしてだろう、なんてことない愛想笑いのはずなのに。そんなことを思っている間に彼女の表情は元のそれへと戻る。

滝壺「それじゃ、改めて。私は滝壺理后。名前の感じは、理科の理に、皇后の后で理后」

上条「なんだか賢そうな名前だな……じゃあ俺の名前は……って、知ってるんだっけ」

 上条がそういうと滝壺は首を振る。

滝壺「私は一方的に知っただけだから、かみじょうにも自己紹介して欲しい」

上条「……そっか。じゃ、こっちも改めて。上条当麻だ。当たるに麻で当麻。よろしくな滝壺」

滝壺「うん、よろしく」

 上条が軽く差し出した手に滝壺もゆっくりと手を伸ばす。
 彼女の手が上条に触れた瞬間、少しばかりひやり、とした。

上条(…………?冷たい?)

 しかしすぐに人の温もりが伝わってきて、気のせいか?と思い直す。



60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 23:23:37.00 ID:pF3OY2Ao
上条「……それで滝壺。俺の全部って……何が気になるんだ?」

滝壺「簡単に言えば、『自分だけの現実』。それが解析できればその人の全てがわかるから」

 能力者である以上持っている『自分だけの現実』。
 その人の根幹にあるもの、信念、或いは信条。はたまた心の支え。
 解析すれば確かにそれがわかる。

上条「……よくわかんねーけど、そういうのって病院にある機械とか必要なんじゃないのか?」

滝壺「ううん。私自身がその機械の役割を果たすから、大丈夫なの」

 普通は、と小さく付け足す。
 上条はなんだかすごいトンデモスキル持ってんだなーと感心する。

上条「……なら、それで俺の『自分だけの現実』ってやつを解析すればいいんじゃないか?」

滝壺「私は『能力追跡』だから」

上条「エーアイ……なんだって?」

滝壺「AIMストーカー。私はAIM拡散力場がないと、それを観測できないの」

上条「そっか……そういえば俺って無能力者だからなぁ……」

 それに対しても滝壺はううん、と首を振った。

滝壺「……無能力者でも、AIM拡散力場がないっていうのはありえない。だって、眼に見えないだけで何かしらの能力には目覚めているはずだから」

上条「……ん?ってことは、俺は能力自体がないってことになるけど……」

 それはない、と上条は確信している。
 異能の力ならば何でも打ち消す右手、『幻想殺し』がそれを証明してくれる。



61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/11(水) 23:24:02.94 ID:pF3OY2Ao
 滝壺は少し興奮しているように上条に詰め寄った。

滝壺「それが有り得ないこと。だから、かみじょうを知りたい。今までこんな人いなかったから、かみじょうを――――」

 言いかけ。
 ピリリリリリ――――と大気が振動した。
 けたたましい飾りのない着信音を奏でるのは上条の携帯ではない。
 今まさに上条に近づいていた滝壺の携帯だ。

滝壺「……ごめんね、かみじょう。ちょっと待ってて」

 そう言ってピッ、と通話ボタンを押す。
 うん。うん。わかった。とそれだけ答え、彼女は通話を切る。
 僅か十数秒の出来事だった。
 ふぅ、と滝壺は小さく溜息を吐いて、隣に座る彼に申し訳なさそうに向き直る。

滝壺「ごめんなさい。急な用事が入ったから……」

上条「いや、いいっていいって、そんなかしこまらなくても。ほら、もう空も赤一色だし、俺もそろそろ帰らなきゃって思ってたしな」

 謝罪を重ねる滝壺に上条はさりげなくフォローを入れる。
 そんな上条の言葉を聞いて滝壺はほっ、と胸をなで下ろす。

滝壺「……出来れば、話の続きをしたい。連絡先、教えてくれる?」

上条「……ああ、いいぞ」

 上条もさっ、と携帯を差し出すと、ものの数秒で連絡先の交換が終わる。
 それを受け取って中身を確かめた後、滝壺は携帯を大事そうに胸に抱えた。

滝壺「……それじゃあね、かみじょう。ばいばい」

上条「ああ、またな」

 うん、と滝壺は頷いて立ち上がる。
 ちらり、と上条を見て、数歩歩いてまたちらり、と上条を見る。
 上条が手を振ると、少し恥ずかしそうに、しかしうれしそうに滝壺も小さく手を振り替えしてくれた。
 その後は振り返らず、滝壺はゆっくりと公園から出て行った。
 そしてそのまま公園には上条だけが残り、彼は首を傾げながら彼女を想う。

上条「滝壺か……不思議な娘……なのか?」

 誰も聞かないそれは一人言として、紅い空に消えた。



67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/12(木) 23:58:57.97 ID:86V5hCoo
絹旗「――ふっ!」

 ドゴン!と彼女が振るった拳がコンクリートに当たると同時、そこはクレーター状に凹む。
 それを真横にうけた男は力なく崩れた。
 どうやら直撃したと思い気絶したらしい。
 全部が終わった後、滝壺は一人の男が持っていた銀のアタッシュケースを拾う。

滝壺「……これ?」

麦野「そうみたいね。んじゃ、ウチらの仕事はここまでってわけで」

 そう言うと麦野はコキコキ、と首を鳴らした。

フレンダ「……結局、四人も集まる必要なかったわけよ」

 実質的な戦闘にはまるで参加しなかったフレンダが言う。
 彼女の基本的な戦術は爆弾など。それが真に生かされるのは迎撃時。
 しかし今回のような遊撃戦になると意外に出番は少ない。いや、それでもそれなりに体術の心得はあるわけだが。
 触れただけで制圧できる絹旗と第四位の麦野がいればそれは殆ど意味はない。
 そんなフレンダの声に麦野から声が飛ぶ。

麦野「んなこといったって、今回はマジに緊急収集じゃないの。他の暗部組織も全部可動中って話よ」

麦野「そんな中私たちだけ逃がしたらたまったもんじゃないわ。だから予測の自体があった時のために皆を呼んだってこと」

麦野「……昨日逃がしたあとも後片付けは面倒だったしね」

絹旗「昨日のはそんなに面倒だったんですか……それは超災難でしたね」

麦野「そーよ。……思い出したらまたムカツイてきた」

フレンダ「え、もしかして私もう一度オシオキなわけ?」

麦野「……そーね、それもいいかもね」

 フレンダは藪を啄いたら蛇が出たと、麦野の発言に慄く。



68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/12(木) 23:59:25.29 ID:86V5hCoo
麦野「……冗談よ。昨日は昨日で済ませたんだから。それよりもとっとと帰るわよ。また運転手が補導されてちゃたまったもんじゃない」

 やれやれと言わんばかりに麦野は首を振る。
 皆それに続き、滝壺もアタッシュケースを抱いて追う。
 しかし絹旗は滝壺が並ぶまで待ち、そのアタッシュケースの取手をつかんで彼女から引き離した。

絹旗「私が超持ちますよ。滝壺さんには途中でお呼出してしまいましたからね」

滝壺「いい、気にしない」

絹旗「いいですから。早く行きましょう」

 滝壺は絹旗と後二回ほど押し問答を繰り返し、それで諦める。
 結局今日は呼び出されるだけ呼び出され、何の役目もなく終わったから荷物ぐらいは持とうと思っていたのだ。
 表の通りから程良く離れた場所に止まっていた車に四人は乗り込み、それは静かに発進する。

浜面「……で、今日の仕事ってなんだったんだ?」

 浜面は運転手の方から後ろの三人と、助手席に座る麦野に話しかける。

麦野「あー、データを盗もうとしてた奴の粛清」

 ズバン、とねとジェスチャーで麦野は軽く説明する。
 実はものすごく残酷なことを言っているのに、彼女たちにはこれが普通だから誰も気にしない。
 勿論、運転手の浜面も。

麦野「浜面もデータ盗んだら、知り合いのよしみとして私が殺してあげるから」

浜面「普通に殺すのかよ……」

麦野「当たり前のことに何いってんだか」

 浜面は溜息さえつかない。
 麦野の言っていることは恐らく真実だから。
 もしも自分が裏切るような真似をしたら真っ先に始末しにくるのがこの女だと彼は確信していた。



69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 00:00:08.45 ID:3SyCpjso
浜面(……こえぇな、麦野沈利……出来れば一生敵に回したくないもんだ)

 彼は心の中でつぶやいて、ハンドルをきった。
 裏に続く道はいつの間にか抜け、表のビルが立ち並ぶ道路に出る。
 白い光を放つ街灯がそれを実感させた。 
 ふぅ、と一度息を吐いて、浜面はバックミラーで後ろの三人を見た。
 そこで一人の少女が目に留まる。

浜面「……滝壺が携帯いじってるなんて珍しいな」

 彼は意外そうにそういい、後部座席の真ん中に座るフレンダも声をあげた。

フレンダ「あ、それ私も気になってた。滝壺はゲームするタイプじゃないし、かと言ってメールする友達も……いるの?」

滝壺「うん。最近出来た」

フレンダ「へぇ、そうなんだ……でも結局、滝壺ってそんなに人とかかわらないタイプじゃなかったっけ?どうやって交換したの?」

絹旗「……別に超気にすることないんじゃないですか?滝壺さんにだって滝壺さんのコミュニティがあるでしょう」

フレンダ「いや、まぁそんなんだけどさ」

 フレンダの追求に絹旗がフォローを入れて、フレンダは矛を収める。
 しかし気になって仕方がないという面持ちだ。
 麦野も浜面と同じくバックミラーで三人を、特に滝壺を見る。
 携帯の光に照らされるその顔は僅かながら赤くなっているようにも見えた。
 たったそれだけの情報で麦野は回答に辿りつく。

麦野「……男、か」

 ぼそ、と呟いたそれは狭い車内で当然のことながら全員の耳に入る。
 絹旗は僅かに顔を強ばらせ、フレンダは驚きに目を開く。
 浜面も動揺し、僅かにハンドル操作を誤った。



70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 00:01:15.00 ID:3SyCpjso
フレンダ「え、マジ!?男!?」

滝壺「……男の子。だけど、友達」

 バレてしまっては仕方がない、と滝壺はフレンダや麦野の反応を肯定しつつ、それでいて皆が期待することを否定する。
 そういった話に食いつくのは何も女子だけでなく、男子も多少は気になる。

浜面「……ってことは、昼間速攻でいなくなったのも?」

滝壺「……うん。彼に会いにいってた」

 ほー、と浜面は意外そうな声をあげた。
 なんとなく滝壺が友達とは言ったものの、人に対して積極的になるとは思っていなかったからだ。
 それじゃあ今日悪いことしちゃったのかなーとフレンダはさりげなく思う。
 そんな滝壺に質問いく中、麦野は絹旗に言及する。

麦野「絹旗。アンタ、知ってたでしょ?」

絹旗「なんの話ですか?私も超初耳でしたけど、滝壺さんも一端の女性ですしそうでもおかしくはないと思いますよ」

 そのさらりと受け流す彼女の返答に、麦野は苛立を覚えた。
 自分にしか聞こえない程度でチッ、と舌打ちをする。

麦野(……ま、こっちはいいか……別に。それよりも問題は……)

 渦中の滝壺理后の方。
 そう考えて、麦野は釘を打つべく彼女の名前を呼んだ。

麦野「……滝壺。一応って言っておくけど、」

滝壺「わかってる」

 しかし滝壺は麦野の発言を遮って言う。
 ぱちん、と携帯電話を閉じて、外を眺めつつもう一度繰り返す。

滝壺「わかってる」

 それは、どこか憂いや諦めを孕んだ声で。
 今日も『アイテム』は学園都市の闇を駆ける――――



79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 23:45:17.09 ID:3SyCpjso
『今日はごめんね。いきなり用事入っちゃって』

『あの時も言ったけど、別にいいって。それより用事はもう済んだのか?』

『うん。結局私が行ってもあまり関係なかったけど。
 それより、明日は開いてる?今日のことの続きを話したいから』

『明日?これはまた急だな』

『だめ?』

『……ええい、わかった!上条さんが一肌脱ぎましょう!
 何時にどこで集合する?』

『それじゃあ、場所は――――』


「……お前には明日、一つ仕事をしてもらう。成功したら命は助けてやってもいい」

「あァ?オマエ何勝手に決めてンだよ。こんなクズ、とっとと殺しちまえば済むことだろォが」

「俺には俺で、組織とは別な仕事がある。上の奴直々のな」

「上、か……チッ、尻尾振って機嫌取りか、めんどくせェ」

「そう言うな、一方通行。お前にはあまり関係のないことだ。それに、こいつを使う許可も貰ってる」

「……さっさと言え、か。そんなに助かりたいのか?まぁいい、仕事は簡単だ。一つの場所で一つの事件を起こしてくれればいい」

「その場所は――――」



80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 23:45:46.70 ID:3SyCpjso
 昼ごろ、上条は街中を歩いていた。
 理由はただひとつ、昨夜来たメールで待ち合わせたからだ。

上条「えっと……ここらへんだよな」

 待ち合わせは第七学区とは言っても、それなりに広い。
 上条がよく行く場所といえば、朝の登下校時に通る場所とか、稀に服とか買いに街に出る程度のものだ。
 よくもまぁ、そのたびに不幸に巻き込まれているとは思う。
 話を戻そう。
 そんな上条当麻でも、その広い第七学区を網羅しているわけではない。
 寧ろわからないところの方が多いくらいだ。
 待ち合わせ場所も、またその一つ。

上条「……ここの公園か?」

 昼間ということもあり、子供もそれなりに多い。
 その公園の砂場では自分の背丈の倍はあろうかという城を作っていたり、またブランコや滑り台で和気藹々と遊んでいた。
 そこを見渡すと、また見慣れたジャージ姿が目に映る。

上条「……よっ、滝壺。待ったか?」

滝壺「私もいま来たところ。とりあえず、おはよう」

上条「ああ、おはよう……ってかもう昼な気がするけどな」

 時計台の下で棒立ちだった滝壺に近づき、挨拶を交わす。
 そして上条も彼女の見ている光景を見る。
 数秒前とさして変わらず、彼らは、彼女らは遊んでいた。

滝壺「……いいな」

 滝壺がぼそりと漏らした。
 上条は上条なりにそれの意味を分析し、彼女に問いかける。

上条「子供とか好きなのか?」

滝壺「違うよ、そういう意味じゃないの」

 そして話は切れる。
 空高くをヘリコプターが飛び、付近の電工テレビ画面では天気予報がやっていた。



81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 23:47:25.46 ID:3SyCpjso
 上条に滝壺の心理は計り知れない。
 当然、という人もいるかもしれない。
 なぜなら彼女と出会ってからまだ数日しか経過していないのだから。
 しかし、上条はそんな言い訳の上に胡座をかきたくはなかった。
 だから彼は彼女の言ったことの意味を聴こうと口を開く。

上条「……なぁ、滝壺?」

滝壺「……なに?」

 彼女は視線をそらさない。それは暗に拒否を示していた。
 上条は思う。まだ早い、と。
 もっと、もっと親しくなってからでは話してはもらえないだろう、と。
 果たして彼はまた別の事に対して口開く。

上条「早速なんだけど、昨日の続き……聞いてもいいか?」

滝壺「……うん。いいよ」

 滝壺は緩い顔を上条に向ける。

滝壺「まず……能力者は全員微弱ながらも『自分だけの現実』を持ってる。だからAIM拡散力場が生まれる。それはわかる?」

上条「ああ。つまりあれだろ。自分が『電気を出せる現実』を持ってればその『電気を発するための力場』が生じるってことだよな?」

滝壺「そう。それは今も言ったとおり、能力者なら例え無能力者だろうと持っているもの」

 けれど、と滝壺は紡ぎ、それに対して上条がつなげる。

上条「俺にはそのAIM拡散力場がなかった、と……」

滝壺「……うん」



82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 23:48:13.62 ID:3SyCpjso
 数秒の沈黙。
 口を開くのは知識が足りない上条ではなく、勿論滝壺の方だった。

滝壺「私の能力はAIM拡散力場を観測する能力」

上条「……ああ、それは昨日聞いた気がする」

滝壺「だから、それを感じられないかみじょうに興味がある」

 なるほどな、と改めて上条は思った。
 つまりは知的好奇心。
 自分の知らないことに対して興味をもつのは人として当然の反応とも言える。
 それも、自分の根底に関わるものだとすれば尚更。
 いつの間にか滝壺は顔だけでなく体全体をこちらに向けて、詰め寄っていた。

滝壺「だから、かみじょう。私と、暫くの間付き合って欲しい」

 上条は、構わない、と思った。
 できる事ならば彼女が隠していることも知りたいし、彼女の力になってあげたい。
 ……けれど、それよりも滝壺理后の知りたいことの理由にもっと早く答えてあげられるかもしれない。

上条「……あのー、少しいいですか滝壺さん?」

滝壺「どうしたの?」

上条「えーっと……俺の能力についての話なんだけど…………実は俺、」

 刹那。
 癇癪玉のような悲鳴が響き渡る。
 弾けたように彼らはその中心を見ると、子供が高校生ぐらいの男に手を引っ張られていた。
 その男のもう片方の腕には女の子が一人抱えられている。

男「テメェもこいっ!」

子供「やだやだ!放してっ!!」

 男の目が細まる。
 上条がやばい、と思い、駆け出したときには既に遅かった。
 一瞬にして、フッ、と男と子供達が目の前から消失する。



83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/13(金) 23:49:23.81 ID:3SyCpjso
上条「なん――――ッ!?」

 誘拐。
 すぐに理解できた。
 学園都市は非道だ。上条当麻は『妹達』の件でそれをよく理解している。
 きっと、今から『風紀委員』や『警備員』に連絡しても捕まらない可能性が高い。
 追わないと。彼はすぐにそう判断する。

上条(今の瞬間移動を見るに、相手は『空間移動』……ルートがわからねぇ!)

上条「くそっ!」

 上条は力任せに地面を殴ろうと拳を振り下ろす。
 が、しかし。
 それは地面に衝突する直前にて止められる。

滝壺「大丈夫」

 滝壺は呟く。
 その言葉に確たる芯を込めて。
 今までになかった響きに、上条はゆっくりと顔を上げて、滝壺の顔を見た。

上条「滝……壺?」

滝壺「大丈夫」

 繰り返す。
 そこにある顔は、先程までの眠たそうな表情ではない。
 瞳に光があり、声もはっきりしている。
 まるで、こちらこそが正常な、本当の滝壺理后であるというように。
 彼女は機械的に、そして上条に希望を与えるように、告げる。

滝壺「私は、AIMストーカーだから」

 追跡が、始まる。



88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/15(日) 23:41:36.91 ID:ygQLvwgo
男「ふぅ……楽な仕事だったぜ……人目につくってのがネックだったが、同じ能力の『風紀委員』が来る前に終えられたからな」

 『空間移動』の男は人気のないビルの屋上で公園を見下げて哂った。
 外界ではいきなり男が児童を誘拐したことで軽い騒ぎになっている。
 その児童は彼の両腕の中でぐったりとしていた。

男「……ま、いいか。とっとと指定の場所に運ぶとするか……これで助かるってんなら楽なもんだ」

 ブン、と再び彼は虚空に消えた。


滝壺「道路渡って左、二つ向こうの交差点を右に曲がって一つめのビルの屋上」

 上条と並走しながら淡々とそれを告げる。
 ああ、と上条は信号が点滅し始めたのを確認して一気に横断歩道を駆け抜けた。
 すぐさま左に曲がるが、

上条「っ……と、これはこっち行ったほうが早いか……?」

 上条はここらの地理には詳しくない。
 だから隣の滝壺を見ると、彼女は走りながらも器用に手に零した粉を舐めとって数秒おく。

滝壺「……うん。また移動した。ここから右に曲がって、四つ目の角を左」

 上条にはどういう理論かはわからないが、彼女はこの粉を接種することで能力を使うらしい。
 まぁ実際的には彼女の能力は観測という今年か聞いていないため、他の使用用途は全くわからない。
 『能力追跡』。その名の通り、相手のAIM拡散力場を記憶し、その相手が生きている限り例え銀河の果てにいようと追跡が出来る能力。
 しかし、それは正しく一番ポピュラーな使用法であって、他の使い方がある。
 例えば。
 相手のAIM拡散場――つまり、『自分だけの現実』を乱して能力の暴発や乗っ取りを狙ったり。
 広がりから見極めて、攻撃を予測してみたり。
 AIM拡散力場に対することならばエキスパート。彼女以上にそれについて知る者は少ないだろう。



89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/15(日) 23:42:20.23 ID:ygQLvwgo
 だからこそ、観測できない上条に興味を持った。
 本来ならそれが普通なのだが、特別の中にいればその普通が特別になるのだ。
 実際には上条当麻はその特別の中でも一際『特別』な存在なのだが。

滝壺「はぁっ……はぁっ……」

 十数分走ったところで、滝壺の動きが鈍り始めた。
 普通に考えれば確かに鈍り始める距離を走ったのだが、それでも様子がおかしい。
 上条は眉を顰め、彼女に心配するような口調で話しかける。

上条「……大丈夫か?すごい汗だけど……」

滝壺「……へいき」

 いつもと変わらず、しかし僅かに力なく告げ、続ける。

滝壺「それより、動きが止まった。二、三回検索してみたけど、動かない」

上条「……どこだ?」

滝壺「……そこ。屋上」

 滝壺が指さしたビルに上条は無言でうなずき、駆ける。
 彼もそれなりの距離を走って疲れているはずなのに、そんなものを微塵も見せない。

滝壺(……危ない)

 彼女は思う。
 彼は無能力者だ。
 今の状態から見て、体力はそこそこあるだろうし、腕っ節も人並みではあるのだろう。
 しかし。
 相手は『空間移動』だ。
 まず、勝てない。レベル5でも不意打ちなら負けるかもしれない相手。
 そんな能力者に無能力で挑むなど、愚の骨頂でしかない。

滝壺(止めないと)

 止められるのは、あらゆる能力者に対してジョーカーな自分だけ。
 体晶の使いすぎで結構疲労しているが、そんなこと関係ない。
 滝壺は付近にあったエレベーターのボタンを押し、上条がやられていないことを願った。



90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/15(日) 23:42:53.50 ID:ygQLvwgo
 上条は階段を二段飛ばしで駆け上がる。
 許せない。
 無力な子供を狙うのは勿論なことだが、それを簡単にやってのけるその精神が。
 上条当麻は善人だ。
 善人ぶっているのではなく、彼が感じ思い起こしたことが善人だと周りから認められているだけなのだが、善人だ。
 だから彼は誘拐犯のしたことを、そして誘拐犯自信を許せない。
 それが彼が彼である所以だから。
 扉が迫る。
 上条は登ってきた勢いのまま、ズバン!とドアを蹴り開いた。

男「っ、誰だ!?」

 男がいた。
 上条達が公園で見た男。
 彼の足元には二人の子供が意識を失って倒れている。
 外傷は見えないため、恐らくは気絶させただけなのだろう。
 それでも上条はその事実に歯を噛み締める。
 彼は一体、その子供たちを使って何をしようとしていたのだろうか。

男「……なんだよ、脅かすなよ……『風紀委員』がもう嗅ぎつけてきたのかと思っただろ……」

上条「…………」

男「……何のようだ?隠れ家的なものできたなら、帰ったほうがいい。じゃなかったら俺が」

上条「お前」

男「……あん?」

上条「お前……その子たちに何をするつもりなんだ……?」

 男は一瞬怪訝な顔をするが、すぐに合点がいったのか上条を鼻で嘲笑う。



91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/15(日) 23:43:24.83 ID:ygQLvwgo
男「はっ、なんだお前。まさかこのガキどもを助けるためにわざわざ追ってきたってのか?」

男「どうやって追ってきたのかは知らねぇが、まぁ無駄だな」

上条「……どういうことだ?」

 男は無知な上条を嗤い、両手を広げて宣伝するように告げる。

男「学園都市だよ」

男「底からの依頼だ。この子供は学園都市の礎になる。どういうふうに使われるかはしらないがな」

男「俺も多分カメラとか、お前みたいな人に姿を見られてるが……場所も指定してきたからな。隠蔽はしてくれるだろ」

男「……で?お前はどうするんだ?」

男「ここで俺に襲いかかったとしても返り討ち、『風紀委員』や『警備員』に今から頼っても意味が無い」

男「さぁ、どう「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」

 上条は男を一刀両断する。
 彼の言葉には刃があった。剣呑と暮らしているただの高校生には宿り得ない言の刃が。

上条「お前がどれだけ強かろうと、それが誰の依頼だろうと、そんなの関係ねぇ」

上条「そこに、危険なやつがいるんだ。助けすら求めれないやつがいるんだ。なら、お前を倒す理由はそれだけで十分」

 拳を握り締める。
 あらゆる絶望を、悲愴を、妄言を、悲劇を、絶対を――――
 そして、『幻想』を打ち砕くその右手を。

上条「どんなことでも、お前が何かその子達に危害を加えようとしてるっていうんなら――」

 上条当麻は叩きつける。
 どんな無情な運命でも奇跡でもひっくり返す、初めの一言を。

上条「まずはその幻想をぶち殺す!」



100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/16(月) 23:35:55.96 ID:RXdFnB2o
 静寂。
 地上より遥か高いビルの上で二人の男が向きあう。
 一触即発の状態。
 先に動くのは、否、消えるのは。

上条「がっ……!?」

 ガン、と一撃。
 子供たちを置いて一瞬にして消えた彼は上条の頭に強烈な踵落としをくわえる。
 そのまま地面に降り立った彼は怯んでいる敵を追撃にかかった。

男「本来なら俺がテメェの座標にテレポートすりゃいいだけだが、それじゃああまりにつまらないからなぁ!」

 仰け反った上条の胸ぐらを掴み、引き寄せ、同時に自分の額をぶつける。
 衝撃の連打に上条は一瞬だけ意識を手放すが、不幸中の幸いか痛みが彼の精神を引き戻す。
 今何が起こっているかも理解しないまま、上条は右手を振るった。
 まさしく時を同じくして、男も同じように拳をとばす。
 奇しくもクロスカウンターの形。
 互いに等しくダメージを受けた少年たちは数歩距離をとった。

上条「っつ……『空間移動』、か……遠距離からいたぶるような事をしないとこからみると、飛ばせるのは自分と、その触れているものってとこか……?」

男「……中々洞察力あんじゃねぇか」

 上条に殴られた部分を男は手で拭った。

男「そうだよ、俺の『空間移動』は俺自身とその時触れているモノしか飛ばせない。だから格闘にしか頼らなくちゃいけないんだが……」

 再び、彼は飛ぶ。
 今度は上条の上ではなく、背後へと。



101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/16(月) 23:36:35.04 ID:RXdFnB2o
上条「――――っ!」

 息が詰まる。
 そのまま前に投げ出され、上条は無様にも転んだ。

男「まぁ基本的に能力とケンカの仕方さえわかってれば相手がアイツらみたいなイレギュラーじゃない限り負けないけどな」

 あいつら?と上条は思考を巡らすが、この場に置いては全く関係がないために隅に追いやる。
 何度か大きく咳をし、足腰や手に力を入れて立ち上がった。

上条(『空間移動』なら……触れさえすればいい)

 白井黒子のように触れたものをどこかに移動するわけではない。
 自分も伴ってなければ移動できない。そこに穴がある。
 もしも白井のように触れただけで移動させるなら、早速上条に触れて移動させようと試みるだろう。しかし移動させることは出来ない。ここで上条は能力を消す能力を持っていると聡い人なら理解する。
 しかし、自分も移動しなければならないとなれば相手をつかんで移動だなんて滅多にしようとは思わないだろう。
 だから上条の右手に触れてはいけないと、気付けない。

上条(触れさえすれば――――!)

男「ぼやっとすんなよ。もうちょっと踊ろうぜ」

 ブンッ、と目の前に飛翔した男はキックを繰り出す。
 反射的に胸部に腕を構え、それを防ぐことに成功はするもののビリビリと腕が振動する。
 それを無視して一歩踏み出し、右手を振るうがそれが届くより早く男は掻き消える。
 手が空を切った直後、背中にドロップキックが直撃した。

上条「く、――――っ!」

 転んで数秒ロスするのは痛い。
 前向きに態勢を崩しながらも、上条は前と後ろを入れ替えてギリギリで踏ん張る。



102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/16(月) 23:37:18.91 ID:RXdFnB2o
男「あー……なんていうか、努力は認める。普通なら戦意喪失してもおかしくねぇからな」

 男は呆れたように頭を掻きつつ、言う。

男「でもさ……手応えないわ、お前」

 ヒュン、と消えて。
 次の瞬間には上条の腹部に拳が食い込んでいた。

上条「ぐっ……」

 上条は距離を取るように飛び退き、しかし殴られた部分を押さえたまま膝をつく。
 彼の顔色は真っ青に染まっている。
 人体には、幾つかの急所がある。
 顎の先、人中、半規管、後頭部、男性ならば股間。
 上条が食らったのは、鳩尾。へその少し上ぐらいにある狙われやすい部分。
 脳震盪や半規管に衝撃を食らった時とは違って気力で頑張ろうと思えば動けるだろうが、それでも激痛だ。

男「とっとと去れ。じゃなかったら……殺すぞ?」

 それは、脅しではない。
 上条は苦痛に顔を歪ませながらも男を見上げた。
 その瞳には冷酷なまでの意志が伴っている。

上条「……くそ…………」

 守れない。
 そうだ、と実感した。
 子供たちは未だに気絶していて、動く気配はない。
 しかし、動いていたからどうだというのか。
 そんな希望に頼っている時点で、上条は既に負けている。

上条「くそ…………!」

 激痛と、そして救えない自分の不甲斐なさに苛まれ、上条は顔を酷く顰め、
 そこに。

滝壺「かみじょうっ!」

 ――最後の希望が辿り着いた。



105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/18(水) 23:29:53.21 ID:uO7UhnAo
上条「滝……壺」

上条は声で振り返り、唇を噛みしめる。
滝壺理后は女の子だ。『超電磁砲』などの例外ならまだしも、普通の少女は非力に他ならない。
だから上条は彼女が辿り着く前に決着をつけたかったわけだ。
今となっては叶わなかった幻想で、負けそうになっている状態での最後の希望というわけだが。
 それでも上条はその希望に頼りたくはなかった。

男「ちっ……次から次へと増えやがって」

男は面倒くせぇという言葉を飲み込んだ。
上条相手に速攻決着をつけなかったのは自分の落ち度で、二人になった事態は自分が招いたものだからだ。
それに、滅多な自分が負けそうな能力者は頭に叩き込んである。自分の記憶では彼女はそれに該当しない。
この少年少女相手に負ける気はしない。子供たちを取りに来る前に終わらせればいいのだ、何ら問題はない。
しかし、滝壺はそんな考えなど関係ないとでも言うように上条に駆け寄って心配そうに顔をのぞき込んだ。

滝壺「かみじょう、大丈夫?」

上条「滝壺……下がれ、あぶねぇから……」

 肩に優しくかかった手を掴みながら上条はゆっくりと立ち上がり、庇うようにして男と向きあう。
 滝壺の能力は知っている。
 『能力追跡』、相手のAIM拡散力場から場所を特定して追いかける能力。
 そもそも彼女がいなければここまで辿りつくことなど到底不可能だっただろう。
 だからここからは自分の仕事だ。
 全部が全部、相手に頼ってしまうわけにはいかないのだから。

上条「すぐに終わらせる……滝壺はあの子供たちを連れて逃げてくれ……」

 幾撃もくらい、フラフラになっている上条は背に向けて放つ。
 滝壺は見えないと分かっていても、首を横に降った。

滝壺「……駄目だよ、かみじょう」



106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/18(水) 23:31:27.16 ID:uO7UhnAo
滝壺「かみじょうはもうボロボロになってまで、私が来るまでの時間を稼いでくれた」

滝壺「これ以上動いたら、もっとボロボロになっちゃう。……だから、今度は私の番」

 滝壺に、上条は前から警戒心を失わずにちらりと後ろを見て言う。

上条「待てよ……お前の能力は相手を追跡する能力で、直接的な攻撃力はないだろ……?」

上条「だったら、基本的に滝壺より丈夫な俺がやるべきだ。まだ、いける」

 そういう上条の足は僅かに揺れている。
 背に二発、腹、しかも鳩尾に一撃。初撃においては頭にだ。ダメージが蓄積していない方がおかしい。
 それでもたち、闘士を見せるのは今までくぐり抜けてきた修羅場の賜物か。

男「……で、どうなの?」

 そんな二人の対話をつまらなさそうに眺める男は言う。

男「どっちが先に、沈むの?」

 それは、あまりに冷静で。
 上条は息を飲んでその一歩を踏み出そうとし。
 滝壺はその時に揺れた手を掴みとり、引っ張って自分が立ち上がると同時に上条を自分の後ろへと追いやった。

上条「んなっ」

 バランスを崩し、後ろに転びそうになる上条は滝壺がこちらをみていることに気付く。

滝壺「大丈夫」

 少女は淡く笑う。
 その言葉を彼に浸透させるように。

滝壺「私は大能力者だから。かみじょうを、あの子達をきっと救ってみせる」



107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/18(水) 23:32:14.68 ID:uO7UhnAo
 それを聞くと同時。
 滝壺の後ろに男が出現する。
 上条に背を向けた状態で。

 ドッ、とローキックで滝壺を吹き飛ばした。

 上条はそれに怒りを覚える。
 傷つけられたから。
 子供たちを攫うという業だけでなく、無関係のものに手をあげたという行為に。
 上条は前へと飛ぶ。
 態勢が崩れることなど気にしない。ただ、前へ、前へ!
 背を向けている男へと右腕を振るう。
 丁度振り向いた胸に当たる。そうわかったときには既に上条の腹部にカウンターのように膝が食い込んでいた。

上条「がっ……!」

男「全く、うぜぇんだよ」

 男はその上条に止めを刺そうと、再び、飛ぶ。
 否。
 飛ぼうと、した。

男「は……?」

 飛べない。
 能力自体が発動しない。
 さっきまではそんなことはなかった。だから、先程の女が何かをしたのか!?と驚きに塗れつつ少女の方を見る。
 しかし、その彼女自身も地に手をつきながら目を見開いてこちらを見ている。

上条「つかまえたぜ」

 その少年の声は、とても近く、しかし酷く遠くに聞こえた。
 右手は膝蹴りを腹部に食らったとしても、その胸ぐらをつかんで離していなかった。
 つかまえた。
 男はその言葉の意味を、数秒遅れて知る。
 それ以上に言葉など必要なかった。

 次の瞬間。
 上条の頭突きが無防備な相手の額に激突する。



108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/18(水) 23:32:56.96 ID:uO7UhnAo
 一撃だけでは終わらない。
 それまでの仕返し、とでもいうように掴んでいた右手を引いては撃ち、引いては撃つ。
 まともな思考回路が与えられないまま一方的に男は何度も何度も上条に攻撃を加えられた。
 やがて、血が出始める頃。
 勝負は決する。

上条「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 上条は右手からゆっくりと力を抜いた。
 すると男は糸の切れた人形のように、受身も取らずにドサッ、と地面に伏す。
 少年の額からも血が滴っているが、それは彼自身のものではなく攻撃を与えた相手のものだ。
 しかしながら彼自身も何度も頭をぶつけているため、目が虚ろになっていた。

上条「滝、壺……大丈夫か?」

 そんな中、彼はゆっくりと目を動かし、少女を確認して話しかける。

滝壺「え……う、うん。大丈夫」

上条「そっか」

 上条は笑った。
 心底安心したというように。
 そのまま、前触れもなく彼もふらりと横に倒れる。

滝壺「かみじょう!」

 気を失う前に少女の声を聞いた。
 が、上条の意識を押しとどめるまでには至らない。
 そのまま太陽の元で意識が反転する。



114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 23:17:12.22 ID:GLkwXVwo
 気がつくと、目の前がピンク色だった。
 ……厳密にはピンク色のそれが視界の半分を埋めていて、残りは心配そうに見る二つの目が覗いていたのだが。

滝壺「……気がついた?」

 彼女は上条が目を開けたのを確認して問いかける。
 目が開いているのだから覚醒はしているのだと思うのだが、一応念のため。
 そこで上条は自分がようやくどんな状況に置かれているのかを理解した。
 慌てて起き上がろうとするが、途中で無理に頭を押さえつけられて元の場所へと戻る。

上条「……あのー、滝壺さん?」

滝壺「なに?」

上条「どうしてわたくし上条めはあなた様の膝の上に頭をおいているのでせうか?」

滝壺「それは、かみじょうが気絶していたから」

上条「さいで……気がついたからもう起き上がってもいいかと思うのですが、いかがでしょう」

滝壺「だめ」

 即答で言われ、上条は仕方無しにそのまま空を見上げる。
 背中の感触からすると、移動はしていないらしい。広がる空も只管に広い。

上条「……さっきのヤツら、どうしたんだ?」

滝壺「知り合いに連絡してそれ経由で『警備員』に届けてもらった。私たちが直接やると聴取とかで時間くいそうだったから」

 その知り合いというのは『アイテム』の下部組織なわけだが、それを知らない上条はなるほど、と感心した。
 ということは子供たちも無事、というわけだ。



115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 23:17:39.84 ID:GLkwXVwo
上条「……まぁ、多少痛い思いしただけの価値はあったってことだな」

滝壺「うん。……かっこよかったよ」

 そう言うと滝壺は上条の頬を伝い、頭を撫でる。
 子供扱いかよ、と彼は思ったが、不思議と悪い気はしなかった。

滝壺「ところで」

上条「ん?」

滝壺「一瞬、あの男のAIM拡散力場が消えたんだけど……何かしたの?」

 滝壺の驚いていた原因はそれだった。
 上条に能力は見当たらなく、その上で特に特別なことをしないで相手の能力を封じたのだから。
 上条は頭をポリポリとかきつつ、申し訳なさそうにいう。

上条「あー……そういえばさ、公園でも言おうとしてたんだけど」

滝壺「?」

上条「俺の右手は『幻想殺し』って言いまして……異能の力なら超電磁砲だろうがオカルトだろうがなんでも打ち消す能力が宿っていまして」

上条「拡散力場がないっていうのは、きっとこの能力が打ち消す性質を持ってるからじゃないのでしょうか?」

 沈黙。
 上条的には何も悪いことはいっていないのだが、こんな空気になるとなんとなくそんな気分になる。
 対応に困り、そろそろ起き上がろうとしたところで滝壺は不意に上条の手を握った。
 びくっ、と一瞬震えた上条を気にせず、そのままふにふにと確かめるように手を探る。

上条「た、滝壺?」

滝壺「……本当」

 彼女の表情は揺るがず、しかし確かに驚いたように言った。



116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 23:18:19.24 ID:GLkwXVwo
滝壺「かみじょうの手を掴んでると、私も能力が使えない」

上条「だろ?つまり、これが俺の能力の正体。……開発じゃなくて天然で、その上身体測定でも測定できてないからレベル0扱いなんだけどな」

滝壺「………………」

 それを聞いても、相も変わらず彼女は上条の手を揉むように小さな女の子というような手を動かす。
 しかし、それをしている彼女の心は此処にあらず、別のことを考えていた。
 即ち、上条の能力について。

滝壺(でも……AIM拡散力場はどんな能力においても等しく発されるもの)

滝壺(かみじょうの能力が例え『能力を消す能力』なら、かみじょうからは『AIM拡散力場を消すAIM拡散力場』が出ているはず)

滝壺(それなのにない…………?)

 先程も言ったとおり、彼女はAIM拡散力場についてはエキスパートだ。
 それについてはそれの集合体である風斬氷華と同等と考えてもいいだろう。
 だからこそ、彼女は困惑している。
 能力があるのにそれの余波がないというその状況。
 彼は自分が開発じゃなくて天然――つまり生まれつき、原石だと言った。
 例えば、同じく原石『吸血殺し』の姫神秋沙がいる。彼女には『吸血鬼を呼び寄せてしまう匂い』がしているらしい。
 それは本人の意志は介入せず、意図せずして。まさしく、AIM――無自覚の拡散力場。
 つまり、原石だからという理由はないことについて当てはまらないのだ。

滝壺(それなら)

 AIM拡散力場がないというなら、なんだというのか。
 それは能力が本当にない無能力者である。
 しかしそうでないことはあの『空間移動』との戦い、そして自分が触れて確認している。
 能力があるのに、AIM拡散力場がない。
 相反する二つの特徴。

滝壺(それなら)

 滝壺理后は考える。

滝壺(『幻想殺し』は能力ではない――――?)



117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 23:19:09.55 ID:GLkwXVwo
 考え、打ち消す。
 超能力でないというなら、なんなのか。
 彼女が学園都市――科学サイドだけでなく、もう一つのサイドについても精通していたならばこう考えただろう。

 魔術、と。

 魔術サイドに聖人という存在がある。
 世界に二十人といない、神の子に性質が似た人のことだ。
 それは超人的な力をもつが、絶対的に能力ではない。そう断言できる。

 そして。
 今世界に二十人と言ったが、世界に一つしかない『幻想殺し』は果たして、どれほどの意味があるのだろうか。
 神様の奇跡すら殺す『右手』。
 『右』という言葉自体にも特別な意味があるのだが、彼女はそれを知らない。
 だから追求したい。知りたい。これの正体がなんなのか。

滝壺「……やっぱり、気になる」

上条「へ?」

 ぽつり、と滝壺は漏らし、上条はそれに目ざとく反応する。
 それに対して滝壺は何も慌てず、ようやく上条の手を解放した。

滝壺「かみじょうの能力がどこから来たのか」

上条「……っても、俺のこれはさっき言ったとおり生まれつきだしなぁ」

滝壺「うん。だから、調べる」

 滝壺は一拍おき、蒼い空を見上げた。

滝壺「かみじょうのそれは右手に宿っているのか、かみじょうに宿っているのか」

滝壺「前者ならそれはどうして右手だけなのか」

滝壺「後者ならそれはかみじょうの『自分だけの現実』と直結しているのか、そうでないのか」

滝壺「疑問は疑問を呼ぶ。好奇心は謎を生み出す」

滝壺「私はかみじょうを知りたい。ううん、能力だけじゃなくて、かみじょう自身も。それは、さっきと何も変わってない」



118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 23:20:33.27 ID:GLkwXVwo
滝壺「……だから、もう一度聴く」

 彼女は、再び膝の上の上条を見る。
 首をほんの小さく傾げて、まるで親に許しを乞う幼児のように。

滝壺「私と、付き合って欲しい」

 淡々というものだから、上条はついその言葉に頷きそうになった。
 いや、実際頷いても構わない。
 上条自身もこの右手がどんなものなのか多少は気になっていた。今まで何もしなかったのはそうする必要性がなかったからだ。
 例え『幻想殺し』があってもなくても上条当麻は上条当麻。それは記憶を失う前後で何ら変わらない彼が証明している。
 だからこの申し出も必要ないといえば必要ない。

上条(――だけど)

 滝壺理后。
 見ていてなんだか危なっかしい少女。
 上条当麻には、この申し出を断ると二度と彼女に会えなくなり、そして致命的な何かを見逃してしまうような気がした。
 だから上条当麻は。
 自分になんら利益にならないと知っていても。

上条「ああ、いいぞ」

 それに、応えるのだった。

 滝壺は僅かに顔を綻ばせる。
 確実に言える。それは彼女なりの笑顔だ。

滝壺「ありがとう、かみじょう。これからよろしく」

上条「ああ、よろしくな滝壺」

 ふわり、と彼らの間を風が吹き抜ける。
 滝壺はくすぐったそうに、また照れたように目を瞑った。



 ……彼女は、まだ知らない。
 今まで興味のあることなどそれほどになかったから、知らない。
 この心に小さく生えた芽が、どんな意味を持つかということに、まだ気づかない。



119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/20(金) 23:24:34.39 ID:GLkwXVwo
 今日はここまで



109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/18(水) 23:44:37.48 ID:MgCNLYDO
乙!
熱い展開だった




110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 02:11:08.63 ID:N7RXh.DO
ここからだな・・・



111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/19(木) 17:33:41.94 ID:QMPUUSco
面白い
描写もしっかりしてるな
滝壺さんマジヒロインしてる




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コメント一覧
8311. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/19(日) 23:03 ▼このコメントに返信する
浜×滝がよかったぜ…
8314. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/19(日) 23:20 ▼このコメントに返信する
11次元の演算能力はそれだけでテレポに対するジャミングになる。それは自分自身の体でも例外じゃない
そんなわけで普通の未熟なテレポーターは他の人間や物体はテレポできるけど自分の体はテレポできないってのが定説

このテレポーターどんだけピーキーな開発受けてんだよ
8318. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/20(月) 00:25 ▼このコメントに返信する
白井黒子と同じだな
スペックが
8322. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/20(月) 01:33 ▼このコメントに返信する
いや、黒子は自分以外の物体だけを飛ばすこともできる
この男は「物体だけ」を飛ばすことはできないらしい
ようは自分の体と装備品をセットで飛ばすことしかできないってこと

にしても、なんつう分かりづらい説明だ
8332. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/20(月) 04:46 ▼このコメントに返信する
上条はないわ
8343. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/06/20(月) 15:37 ▼このコメントに返信する

滝壺は体晶を使わなくても能力を扱えるが…?
能力を暴走させた方が結果が良くなるだけじゃなかったっけ?

麦野のレーザーを補正させたくらいだし…別に体晶なしでもある程度の能力は持ってるでしょ
8371. 名前 : chemis◆GgoiIYCg 投稿日 : 2011/06/21(火) 01:12 ▼このコメントに返信する
>8314さん
>11次元の演算能力はそれだけでテレポに対するジャミングになる。それは自分自身の体でも例外じゃない
前半はその通りですけど、後半はそんな記述ありましたっけ?
結標はトラウマとしか記述がなかったと思いますが、一方通行の『自分を飛ばせればそれだけでレベル4』(体重については一切触れられていない)から発展させた考察ですか?
あと超電磁砲で黒子が小学生時代(若干軽そうとはいえ)初春は飛ばせたのに自分は飛ばせないという話もありましたか。
しかし結標と黒子は転移先を座標で指定しているのに対し、査楽は他人の位置情報で指定しているなど、似た能力でも発現の仕方に個人差は大きいと思うので、私的には不自然とは思えませんね。

>8343さん
21巻以前で滝壺が体晶なしで能力を使ったのは「○○から信号が来てる」(AIM拡散力場浴)だけ。
22巻でできたのはぶっつけ本番で頑張った、火事場の馬鹿力、能力が成長した、等の可能性もあるから一応書いておいたんじゃないでしょうか?
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