滝壺「私は、AIMストーカーだから」【中編】

2011-06-19 (日) 19:17  禁書目録SS   0コメント  
前→滝壺「私は、AIMストーカーだから」



124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/24(火) 22:40:06.91 ID:zN4PAsUo
アレイスター「……ふむ、ようやく第一段階が終了か」

 『人間』、アレイスターはほくそ笑む。
 多少の遅れはあるものの、無事にその計画――いや、プランといったほうがいいだろう、プランが進み始めたからだ。
 ……しかし、こうして他の人間に対して自分から命をくださねばならないということは甚だしい。

アレイスター「……『禁書目録』、か」

 彼のプランにその存在というのはあまり左右されない。
 だがイレギュラー分子として利用し、プランの進行を早めることはできる。
 彼女は『禁書目録』、新しく創りだされた魔術でもない限りどんな魔術でも正体を看破する魔術のエキスパートだ。

アレイスター「彼女だけなら、『幻想殺し』もその正体に気がつかなかっただろうが」

 それも道理。
 なぜならそもそも上条は自分の能力を『超能力』であり『魔術』でないと始めから思っているから。
 そこで、超能力の正体について詳しい存在が必要だったのだ。

アレイスター「『能力追跡』……彼女が証明すれば、『幻想殺し』は嫌でも正体に近づかざるを得ない」

 滝壺理后と出会ったのは、ただの偶然。
 だがアレイスター・クロウリーはその偶然で長い時間を掛けて完成するはずのプランを短くしてきた。

アレイスター「……『幻想殺し』の少年が記憶を失っていなければこんな苦労をせずともよかったのだろうか」

 『人間』が開くのはとある夏休みの一日。とあるカエル顔の名医が務めている病室のワンシーン。 
 『滞空回線』……彼がこの街で物事を見逃すのはめったに無い。
 だから上条当麻が記憶を失っていることも、見逃してはいない。
 ……記憶を失う前の上条当麻が『幻想殺し』の正体に気づいていたのかは、今となっては不明だ。だから『人間』も憶測を投げることしか出来ない。

アレイスター「まぁ……過ぎ去ったことなどどうでもいいな」

 『人間』はあっさりとそれを投げ捨て、そして考えを移行させる。
 今は『禁書目録』と『能力追跡』が『幻想殺し』にどんな結果を齎すか、ということだ。

アレイスター「……さて、『幻想殺し』は一体何を証明するのか……それを見せてもらおうではないか」

 アレイスター・クロウリーは微かに、笑った。



126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 23:03:19.70 ID:WcI6Yw.o
麦野「んじゃ、今日もこれで終わりってことで――――」

 麦野は手をパン、と叩き、全員を一瞥する。
 最後の滝壺で瞬間的に視線を止め、目を瞑った。

麦野「解散」

 かたん、と滝壺が立ち上がると同時に浜面、絹旗も素早く道を開ける。
 じゃあね、という滝壺に答え、その背中を麦野を除く三人して見送った。
 ふー、とフレンダが目を外して椅子にもたれかかった。

フレンダ「滝壺、通い妻っぽいわけよ……」

絹旗「そうですね……この様子じゃあ集会がない日も例の男友達と超会ってるっぽいですし」

浜面「人って言うのはわからないもんだな……あの滝壺が……」

絹旗「そうですか?滝壺さんはおそらく恋人にべったりなタイプですよ。多分、相手が浮気している全長があったら超ストーキングして『貴方は私のもの』とかいって刺し殺しそうですし」

浜面「……マジか」

フレンダ「強ちない、とは言えないわ……いつもは消極的な滝壺だからこそ、積極的になったときに暴走しちゃいそう」

 ひそひそ、こそこそと周りに迷惑をかけない程度に話しあう。
 それほどまでに最近の滝壺は今までのものに比べて異常だった。
 ……これこそが本来の彼女なのかもしれないが。

フレンダ「……ま、結局うちらと滝壺は仲間だけど、それは仕事、ギブアンドテイクの関係だし、人間関係に兎や角いう必要はないわけよ」

麦野「そうね。きちんと仕事さえ果たしてくれれば、それで問題はないわ」

 麦野はそう言うとドリンクバーのお茶をズズズ、と一気に啜った。
 フレンダと絹旗はその言葉に寒気を覚え、この話題をここで打ち切る。



127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 23:03:54.63 ID:WcI6Yw.o
 話題が止まったので絹旗も帰ろうと思い、浜面に提案する。

絹旗「浜面浜面。超映画に行きましょう」

浜面「またかよ……どうせB級だろ?」

絹旗「いいえ、今日はもっと潜らなきゃいけないC級です」

浜面「前のアレより酷いのか……!?」

 と談笑していると麦野が何かを思いついたかのようにん、と漏らす。
 そして二人をシャケ弁を食べていた箸でピッ、と刺す。

麦野「ちょいまち。二人にはちょろーんとやってほしいことがあるのよね」

 私は関係ないなー、とフレンダは席を立とうとして、グイッ、と襟首を掴まれて無理に席に座らされる。
 麦野は動くな、と視線で告げて二人に続ける。

麦野「滝壺を追って」

浜面「追ってって……ストーキングでもするのか?」

麦野「そう。そんで、その時の滝壺の様子とか相手の男の性格とか精密に教えて」

 浜面にはどうして麦野がそこまでしようとするのかわからない。
 だからそこについて言及しようとすると、肩に絹旗の手が置かれた。
 それは『反抗するな』と告げているように思える。

絹旗「わかりました」

浜面「っ、おい絹旗」

絹旗「浜面は超黙っててください」

 ピシャリ、と絹旗は浜面の言葉を聞きすらせず、荷物を持った。

麦野「いいね、絹旗。私そういう理由とか聞かないところ好きよ」

絹旗「それはどうも。では早くしないと超見失うので、失礼しますね」

 絹旗は麦野の言葉に感情ない言葉で返し、浜面の手を取る。
 それは別に浜面と二人きりになろうと引っ張っていこうとしているわけではない。
 逃がそうとしているのだ。このまま残した場合に起こるであろう災厄から。

絹旗「では、また今度」

 そう言い残し、彼女らはファミレスから去る。
 麦野はそんな彼女ら――主に絹旗を、見えなくなるまで凝視する。



128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 23:04:27.51 ID:WcI6Yw.o
浜面「きぬは、絹旗っ、なんなんだよ一体!?」

 理由も聞けず、文句も言えないまま連れだされた浜面は何かわかっているであろう絹旗に事情を問おうと引っ張られながら必死に話しかける。
 しかし絹旗は答えず、浜面の方も見ないでどんどん進む。
 道行く人は彼氏彼女だと思っているのか生暖かい目や、独り身の嫉妬を主に浜面がビンビンに受ける。

浜面「お、おいきぬ」

絹旗「っと、浜面静かに」

浜面「うぶっ!?」

 突然止まったかと思えば、絹旗は浜面の口をふさぐ。
 何かと思うと、その先には歩いている、しかし僅かに速っている滝壺がいた。
 どうやら目標を捉えたから止まったらしい。

絹旗「……尾行の仕方、知ってますか?」

浜面「いや……しらんけど」

絹旗「じゃあ超簡単に教えますけど。一に相手の足を見る。二に足を下ろすタイミングを揃える。三に歩幅を一緒にする。相手がプロでない限り滅多にばれません。勿論距離は超必要ですが」

 足を下ろすタイミングを揃えることで後ろに誰もいないように思わせる。
 そして歩幅を一緒にすることで一定の距離を保つことができる。
 プロにはもっと別な技術――例えば自分が辿ってきたような証拠すらも消すなど――あるが、素人にできる簡単追跡方法、といったところか。

浜面「……いや、でもAIM拡散力場からバレたらおわりじゃないか?」

絹旗「大丈夫ですよ。基本的に滝壺さんはターゲットの拡散力場しか記憶してませんから、さがそうとする気にならなければ探さないと思います」

 絹旗は簡潔に告げ、先程浜面に言った方法を実践するように移動を始める。
 浜面も見習い、それを追った。



129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 23:05:05.12 ID:WcI6Yw.o
絹旗「それで……なんですか?」

浜面「ん?何がだ?」

 聞き返す浜面に、絹旗はジト目で呆れたように溜息を吐く。

絹旗「さっきなんなんだよって超きいてきたじゃないですか。そんなのも忘れるなんてやっぱり浜面は超浜面なんですね」

浜面「超浜面ってのがなんなのかわからないけどとりあえずバカにしていることだけはわかった」

 絹旗の物言いに浜面は僅かに苛立ちを覚える。
 しかしそれについて言っても仕方が無いので、本題に戻る。

浜面「どうして麦野が滝壺を追えっていったのかってことと、お前がそれを聞かないで大人しく従ったのかってことだよ」

絹旗「ああ……そのことですか」

 角を曲がる滝壺に絹旗も角へ素早く移動し、影からいなくなっていないかと確かめる。
 浜面が追いついてきたのを確認してから続ける。

絹旗「……麦野は滝壺さんを訝しんでいます」

浜面「どういうことだ?」

絹旗「つまり、滝壺さんが仕事に超支障が出るくらいにその男にはまってしまうかもしれない、と思っているわけです」

 浜面はまだわからない。
 それに何が問題があるのか、と思っているらしい。

浜面「別にいいじゃねぇか。それで暗部を抜けることになっても、万々歳だろ?」

絹旗「……これだからバ浜面は……」

 これ見よがしに溜息を吐く絹旗に、浜面は反射的にムッ、としてしまう。
 だが聞いてみないことにはわからないので黙って続きを促した。

絹旗「麦野は、滝壺さんを死ぬまで使い続けるつもりなんですよ」

 は?と瞬間浜面の頭が考えることを放棄する。



130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/27(金) 23:05:45.16 ID:WcI6Yw.o
絹旗「滝壺さんの能力は『能力追跡』……これ以上ない超珍しい能力です。実質、私たち『アイテム』の核……だから仕事を抜けてもらっては困る、というわけです」

浜面「い、いや……まてよ。さっきの『死ぬまで』につながらないんだが……」

絹旗「私も詳しくはわかりませんけど……滝壺さん、能力を使うたびに顔が青くなり、動機が激しくなるんです。気づきませんでしたか?」

 言われ、浜面は思い返す。
 確かにそうだったかもしれない。単純に精神力を使うからそうなってるだけなのか、と思っていたが。

絹旗「……いつ倒れるか、私も気が気でないです」

浜面「ま、まて……本当にわかんねぇ……『アイテム』の核なら、尚更死んでもらっちゃ困るんじゃないのか……?」

絹旗「麦野は『能力追跡』自体にはそれほど執着をいだいてません。違う方式でもいいと思ってますが、それを探すのも超面倒がかかりますからね。だから抜けてもらっては困る、と言ったところでしょうか」

浜面「……ってことは、あれか?つまり、滝壺が使い物にならなくなってたら……」

絹旗「ええ、きっと――その原因を超取り除こうとするでしょうね」

 ブル、と浜面は身震いをした。
 取り除く、と簡単に絹旗は言った。
 しかしそれは――殺す、ということだ。その存在を抹殺する、ということだ。

浜面「……なんだよ、それ…………」

絹旗「私だって超納得できませんよ。ここで、浜面の二つ目の質問の答えについての問題です。私も納得していないのにどうして私は黙って麦野の言うことを聞いたでしょうか」

 浜面は押し黙る。
 わからないから、ではない。
 その理由を今はもう察してしまったからだ。

絹旗「……そうですよ」

 ぽつり、と少女は呟く。

絹旗「私や浜面の代わりなんて、超いくらでもいるんですから。……つまり、そういうことですよ」

 それは、とても寂しそうに。
 そして、諦めを含んで。



143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:40:32.29 ID:12gQVWAo
絹旗「っと、止まりましたよ」

 ぐいっ、と浜面を押しのけて素早く影に入り込む。
 止まった、ということはそこが待ち合わせの可能性が高い。
 つまりその場で辺りを見渡す可能性が高いのだ。
 浜面も絹旗の更に影に隠れ、彼女に話しかける。

浜面「……それで、例の男ってやつはいるのか?」

絹旗「いえ……まだきていないようです……って、丁度来ましたきました」

 目の前で近づいてきた男と二、三言はなし、そして歩き始めた二人に絹旗は慌てて言う。
 浜面もそこでようやく滝壺の方を覗き込んだ。

浜面「……一体、どんな奴なんだ?」

絹旗「ほら、あの髪の毛つんつんの」

 髪の毛つんつん?と怪訝に思いながらも滝壺を捉え。
 そして、その隣に並び立つ男子高校生をみて。
 浜面仕上は驚愕した。

浜面「なっ、あいつはっ!?」

 浜面には見覚えがある。
 当然だ。なにせ、彼のせいで闇に落ちる止めを刺されたといっても過言ではないのだから。

絹旗「知っているんですか?」

浜面「ああ……一度だけしか会ったことないけどな……名前は確か…………」

 と、そこで浜面の発言が止まる。
 何事か、と思い彼を見てみるが、やはり止まっている。



144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:41:02.19 ID:12gQVWAo
絹旗「……浜面?名前……は、どうしたんですか?」

 一拍おいた後、彼は気まずそうに応える。

浜面「……知らねぇ」

 思い出してみた。
 あいつと会ったのは敵同士だった一度きり。
 それもこっちはチンピラで、あっちは知り合いだってだけで助けに来る正義のヒーローときたもんだ。
 そして一触即発。
 そんな状況で名前を聞ける方がおかしい。
 だが絹旗にとってそんな事情など正直どうでもいいので、はたはた役に立たない下っ端に呆れる。
 しかし攻めるでもなく、嘆息と共に呟くだけ。

絹旗「バ浜面……」

 そんな言葉がなんとなく噛み付かれるより心に響いた。
 身近にある壁に手を叩きつけつつ、嘆く。

浜面「くそう……くそう……っ!!」

絹旗「ほらほら、そんなバカやってないで超おいますよ。見失います」

浜面「っ、ちょ、ちょっとまてよっ」

 くやしがる浜面を尻目に絹旗は先へと進み、浜面もやはり後を追う。
 ……先程の会話から鑑みるに、まだ聞かなければならないこともある。

浜面「……なぁ、絹旗」

絹旗「超なんですか?」

浜面「さっきの話の続きだけどさ……」

 聞き、またも溜息。
 今度は呆れを含んだように。



145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:41:31.00 ID:12gQVWAo
絹旗「実は浜面って超Mだったんですね」

浜面「なんでだよ!?」

絹旗「いえ、超普通に考えて。さっきの話の流れでは、私も浜面も換えの効く消耗品という意味だったんですが……」

 それを確かめようとするなんて、と絹旗は続ける。
 それは確かに意味の分からない行動でしかない。

浜面「確かにな……ってそうじゃねぇよ!誰が好んでそんなこと聞くか!」

 浜面は全力を掛けて否定する。

浜面「絹旗、お前俺を何だと思ってやがる!?」

絹旗「え……いっていいんですか?」

浜面「やっぱりやめてくださいすいませんでした」

 何を言われるのか理解したのか、浜面は土下座をする勢いで頭を下げる。
 それにもまた、絹旗は息を漏らさずにはいられない。
 一体どうしてこんな根性なしが暗部に落ちてきたのか……
 しかし彼女は頭を振ってその考えを打ち消した。
 誰がどうして暗部に落ちてきたか、なんてそんなことはどうでもいいのだ。何か悪いことをしたのだとしても、不運にも闇に飲み込まれてしまったにしても。
 結果として、ここで何かをすることに変わりはないのだから。
 だから絹旗は浜面を軽く一度だけたたき、話を戻す。

絹旗「……ま、何が聞きたいのかは大体想像がつきます。本当に見たままを超報告するのか、ということでしょう?」

浜面「え……なんでわかったんだ?」



146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:42:10.31 ID:12gQVWAo
 やっぱり、といった面持ちで絹旗はジト目で浜面を見る。

絹旗「浜面、意外にも少しだけお人好しですからね。あくまで、少しだけ」

 絹旗は念を押すように二度繰り返した。
 そうだ。浜面仕上はあくまで、少しだけ、お人好しなのだ。
 性格的にはそこらのチンピラ、カッコいいスポーツカーを見ると盗みたくなったりする一面もある。
 だが、基本的に関わった人間――敵以外で――には、仲間意識を持ち安全を思ってみたりもする。

浜面「……まぁな。それに、滝壺は変人ぞろいの『アイテいててててっててててててっ!!?」

 浜面が言い終わる前に、彼のコメカミに絹旗の手がグリグリと硬く擦られる。

絹旗「誰が超変人ぞろいなんですか?」

 彼女は笑顔だが、心では笑っていない。絶対。
 このままだといろんな意味でヤバイ状況になりそうなので浜面は激痛から逃れるために必死で頭を回転させる。

浜面「だっ、だいじょうぶっ!絹旗はましなほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっぅぅぅぅっっっっ!!!!」

絹旗「私はっ!全くっ!超変人じゃっ!ありませんっ!!」

 だから『超』がつくその口調が――と言いかけて、墓穴を掘ることに気づき口をつぐむ。
 それでも絹旗はやめず、いい加減もう痛みがなくなってきた。
 それはなれたわけではなく、意識が飛びそうなだけなのだが。

 瞬間。
 バチンッ!と歩いている歩道に強烈な電撃が走った。

 絹旗は浜面を反射的に手放し、自分と一緒に地面に押し付ける。
 素早く辺りを見渡すが、どうやら怪我人はいないようだった。



147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 23:42:56.21 ID:12gQVWAo
浜面「いっつつ……な、なんだ?」

絹旗「……よくわかりませんけど、周りに超配慮した上で特定の誰かに向けた電撃みたいですね……」

 絹旗は素早く立ち上がり、浜面を引っ張り上げる。
 そして物陰に隠れながら道の先を見ると、滝壺とその連れの男が立ち止まっていた。
 絹旗と浜面は結構じゃれ合っていたから、もう少し遠くにいてもいいのに。

絹旗「……んー……?」

 よくよく見てみると、男を後ろにするように滝壺が前に立ち、そしてその先にいる制服姿の女子生徒と口論を交わしている。
 滝壺の声は小さいからその女子生徒の声しか響いていないのだが。

浜面「……あれ、常盤台の制服じゃねぇか」

絹旗「そう、みたいですね……」

 滝壺がうろたえていないところをみると、どうやらさっきのは誰にも当てるつもりのない威嚇のようなものだったようだ。

絹旗「滝壺さんの知り合いに常盤台の人がいるなんて聞いたことありませんし……ということは、例の男の人の知り合いでしょうか」

浜面「え、アイツ無能力者だって言ってたぞ?そんなのが常盤台に知り合いいるとか……」

 と、その時常盤台の女子生徒の前髪で火花が飛び散る。
 やばい、と思った瞬間には再び電撃が迸っていた。
 それでも――周りの人に当たることはない。

絹旗(っ……この威力で、この制御力……もしかして、あの人は……第三位の『超電磁砲』……!?)

 浜面の言ったことを鵜呑みにするなら、あの男子生徒は無能力者らしい。
 それで常盤台の生徒と知り合いというだけでも驚きなのに、それがよりにもよって『超電磁砲』ときた。

絹旗(一体、あの人は超何者なんですか……?)

 『アイテム』の絹旗最愛でも、そう思わずにはいられなかった。



153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:57:02.61 ID:I37nvpAo
 少し戻り。
 上条が滝壺より一歩遅れて待ち合わせ場所に到着する。

上条「滝壺!」

 例のごとく立ち尽くしているのを見かけ、駆け寄る。
 それに対して滝壺は反応しない――かと思いきや、ピクリ、と耳を動かした。
 そして近づいてきた上条に視点を合わせる。

滝壺「こんにちは、かみじょう」

上条「あ、ああこんちは……すまん、どのくらい待った?」

滝壺「ううん、全然待ってないよ。私もいま来たところ」

上条「そっか。それならよかった」

 軽く息を整え、どちらがでもなく歩き出す。
 上条の右手のことを調べる――とは言っても、そんなすぐさま行動に移せるわけではない。
 滝壺は暗部で、それなりのツテというものはあるにしても手配には僅かながらも時間がかかるためだ。
 だからその準備が整うまで、専ら道行く能力者の拡散力場を消すことができるか出来ないか、という作業じみたものになっていた。

上条「……それで、今日はどの辺に行ってみるんだ?」

滝壺「……学び舎の園付近、とか。高レベルでも消せるのかってことを」

上条「学び舎の園……」

 上条の脳裏に、一人の少女が過る。
 正直苦手なタイプで、会うことはご遠慮したい部類の人物だ。



154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:57:33.44 ID:I37nvpAo
滝壺「? どうしたの?」

 黙った上条から違和感を感じ取ったのか、滝壺は首を傾げて問いかけてきた。

上条「い、いやなんでもないぞー女子生徒ばかりだと上条さんの理性が保てるかどうか心配になっただけだからなー」

 隣人の妹の口調を咄嗟に真似してしまう。
 明らかにごまかしだが、滝壺にはそちらよりもその言葉の真偽が気になった。

滝壺「……かみじょうって、女の子好き?」

上条「は?あ、え?いや、そりゃあ好きか嫌いかで言われれば好きかもしれませんがこう表立って女好きって言ったら誤解が生じる可能性がなきにしもあらずで御座いますがいかがでしょう姫?」

 上条の言葉にはまるで付き合わず、滝壺は淡々と思うことを質問する。

滝壺「じゃあ、私にもそう思うの?」

 どきん、と上条は飛び跳ねそうになった。
 いつもならこんな質問をしてくるのは同居人のインデックスだ。
 是か否か。その二択を出され、上条はまず否定を選ぶ。大切な人であって、そんな対象にみたら昔の自分に怒られかれないからだ。
 だがしかし、その結果はいつも噛まれることとなる。
 また、是を選んだところでこの先一緒に済んでいくことにおいて支障を起こしかねない。
 どちらを選んだとしても、上条には微妙な結果しか残っていないのだ。

 ……今回は目の前の少女がそう問いかけてきた。
 彼女は最近知り合ったばかりだが、親交は恐らく一言二言交えるぐらいのクラスメイトよりは上だろう。
 それでも、まだそんな好きか嫌いかなどと言える場面ではない。
 是を選んだら協力が終わるまで微妙な空気で接しなければならず、否を選んだなら何がおこるかわからない。
 インデックスは噛み付くとわかっているからまだいい。彼女はそんな直接的な暴力を振るうようには見えず、何をするかわからないのがネックなのだ。
 ……例えば。
 彼女がもしも自分に好意を持っていたとして、自分が彼女にそんな気持ちがないと言えば。
 彼女はその気持ちを帰るために誘惑――例えば、そう、例えばキスなどしてくるかもしれないのだ。

上条(…………!)

 いや、それはないと思うのだが、それ以上のレベルのことはしてくる。
 インデックスが肉体的苦痛だとするなら滝壺は精神的苦痛で。
 ……なんとしてでも、それだけは避けたい。



155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:58:08.51 ID:I37nvpAo
上条「あー、えーっと……」

 上条はなんとか誤魔化そうと頭を捻るが、如何せん赤点ギリギリレベルの頭では何も出てこない。
 時間を稼ごう、他に注目を向けさせようと辺りを見渡すが。
 ぐいっ、と両手で顔を抑えこまれた。
 彼女にしては珍しい、ジト目のようなものが彼を射抜く。

滝壺「答えて」

 それには有無を言わさぬ迫力がある。
 うっ、と少年は詰まる。
 針の筵を通るか、或いはまだ見ぬ罰を受けるか。
 究極の二択。

上条「――――あ」

 果たして、彼が選んだ答えは。

上条「あぶねぇっ!!」

 滝壺を左手で力いっぱい引き寄せて、胸に抱く。

滝壺「!?」

 突然少年の胸に抱かれ、少女は思わず目を見開く。
 視界の端で、少年の右手が振るわれた。
 ――幻想殺し。あらゆる異能を打ち消す、天災の能力。
 それが振るわれる時といえば、まさしくその名のごとく幻想――『自分だけの現実』を殺すときだけ――

 バチン!と。
 飛んできた雷の槍が霧散した。



156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:58:40.62 ID:I37nvpAo
上条「っ……間一髪、ってとこだな……」

 少しでも遅れれば、それは滝壺か或いは自分に突き刺さっていたことだろう。
 殺す、まではいかないだろうが。

「……アンタねぇ、真昼間から道端でなにやってんのよ!そ、そんな顔近づけて……っ!!」

 滝壺は上条の腕の中で見る。
 その雷撃を発した能力者を。
 前髪から電撃を迸らせる少女を。

 見覚えがある。
 それは『アイテム』の依頼で。
 フレンダが一人では危うく負けそうになり、麦野と自分が手を組んでもとらえ切れず、最終的に麦野とのタイマンでも逃した電撃使い。
 そして、終わった後に麦野からその正体について教わった。

滝壺「……レール、ガン」

 学園都市超能力者序列第三位、『超電磁砲』御坂美琴。
 そんな彼女がどうして彼に簡単に口を聞いているのだろうか。
 美琴は滝壺が何故自分のことを知っているのか、と今までの記憶から知識をフル動員して。

美琴「っ!?」

 思い出す。
 滝壺が思い出したのと、全く同じ光景。
 あの戦いの中で、ある意味第四位より危険な匂いを感じた少女だと。

美琴「あ、あん、アンタ……!」

上条「……?」

美琴「さっさとそいつから離れなさい!危ないわよっ!!」



157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:59:18.79 ID:I37nvpAo
 美琴は叫ぶ。
 しかし、上条には意味が分からない。
 少なくとも滝壺は自分に危害を加えない。それはわかっていることだ。
 だから彼はいつもと同じ調子訊ねる。

上条「……御坂、お前何言ってるんだ?」

美琴「っ……」

 その言葉で美琴は顔を歪ませた。
 自分が絶対能力進化計画を止めたことに対して上条は知っている。
 が、その事は決して胸を張って話せることではない。
 そして出来ればそんなことは言わずにすみたい。

滝壺「……かみじょう」

 滝壺はとんとん、と彼の腕を叩き、離してくれ、と言外に訴える。

上条「え、あ、ああすまん」

 言われ、上条は滝壺を開放する。
 そして彼を守るように前に立って、美琴と向き合う。

滝壺「私は、別にかみじょうに危害は加えない。あなたが思っているようなことはしない」

美琴「……どうだか。あの計画に加担するような人間が何を言っても信じられないわ」

 美琴の皮肉をうけても、滝壺の表情は崩れない。

滝壺「それなら、どうしたら信じてもらえるの?」

美琴「簡単よ……こうすんのよ!」

 バチン!と再び雷撃が迸る。
 辺りの通行人は思わず足をとめ、その合間を火花が縫った。
 しかし、それは余波。
 本命はまっすぐに、滝壺へと向かっていく。



158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:59:49.54 ID:I37nvpAo
 だが、少女は避ける素振りすら見せず。
 その雷撃は彼女のすぐ横に墜落した。

滝壺「……これで、いいの?」

 滝壺は何もしていない。
 至極単純、美琴は試しただけだ。反撃をしてくるのかどうか。
 あの時戦った他の女なら、美琴の知り合い――つまり上条を人質にとってもおかしくはなかった。
 しかし滝壺はなにもしなかった。危害をくわえるつもりはない、という言葉はどうやら本当らしい。

美琴「……っ」

 どうしよう、と思考を巡らせる。
 喧嘩腰になってしまった以上、引くわけにはいかない。彼女にも彼女なりのプライドというものがあるのだ。
 滝壺も何もいわない。なんとなくだが、心中は察しているつもりだ。
 三人中二人が硬直したら、残りは一人しか動けない。
 即ち、上条が。

上条「御坂、わかったなら引いてくれないか……?ちょっと俺たち、用事あるからさ」

美琴「……用事?何よそれ」

滝壺「実験」

 実験、という響きに美琴は構えずにはいられない。
 学園都市での実験は、基本的に危ないものが多いからだ。
 『暴走能力の法則解析用誘爆実験』然り、『絶対能力進化実験』然り。
 そんな美琴に、滝壺は思いついたように声をあげる。

滝壺「そうだ。『超電磁砲』にも手伝ってもらおう」

美琴「はぁっ!?」

 突然な事に、美琴は思わず素っ頓狂な声をあげた。



169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:52:21.96 ID:isaew0Uo
美琴「実験って、こういうことだったのね……」

 美琴はどことなく覇気のなくなった声を漏らした。
 彼らがいるのは人通りの多い交差点。
 美琴の通う常盤台中学だけではなく、上条の通う高校など第七学区の学生がうろついている。

美琴「結局……こうしてぶつけるだけでいいわけっ!?」

 美琴の手から雷が飛び出す。
 上条は反射的に右手を振るってその雷撃をかき消した。
 しかしその顔色はすぐれない。

上条「い、いきなりやらないでくださいますか!?心臓バクバクなんですけど!?」

美琴「そう言っても、いつも簡単に消すわよね」

 上条の態度に美琴は若干機嫌が悪くなる。
 それもそうだ。彼女はレベル1からレベル5まで上り詰めたまるで模範のような能力者。
 その努力の結晶をいともたやすく消されてはたまったものではない。

滝壺(……レベル5でも、だめなんだ)

 彼らのやりとりを近くで見つつ、滝壺は分析する。
 単に物質量だけの問題じゃない。

滝壺(なら、今度は持続的に……処理能力の限界があるのかどうかを調べよう)

 そう思いちらりと上条と美琴を見る。
 彼らはまだ言い合っている。
 とはいったものの、美琴が上条に噛み付いて、上条はそれを受け流したり反論したりといったものだが。



170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:52:56.01 ID:isaew0Uo
滝壺「………………」

 何故だろうか。
 滝壺理后には、そのやりとりが、なんだかとてつもなく楽しいものに思えたのだ。
 手を伸ばせば、届く距離に二人はいる。

 それなのに――遠い。

 日常世界の人間と、その裏側の人間の差。
 恐らくは、御坂美琴は分かっていることだろう。
 その彼女と接する上条当麻も、片鱗ぐらいは知っていることだろう。
 だが、それでもやはり彼らは表の人間なのだ。
 裏の世界の人間とは、絶対的に違う。

上条「……ん?滝壺、どうしたんだ?」

 上条はそんな表情に陰りが入った彼女に目ざとく反応する。

美琴「まだ話は終わってないわよ!」

 はいはいそうですね、と上条は適当にあしらいつつ、滝壺に再び問いかける。

上条「それで、どうかしたのか?」

滝壺「ううん、なんでもないよ。どうして?」

上条「いや……なんとなく暗いような気がしてさ……ってもしかして俺の右手に何か異常があったとか!?」

 そんな風に喚く上条に滝壺は口元をほんの少しだけつり上げた。
 微笑ましく子供を見守る母親のように、純粋な上条を羨ましく思っただけだ。



171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:53:41.96 ID:isaew0Uo
滝壺「ううん、特に異常はないよ」

上条「そ、そっか、よかった……」

 安心したように上条は溜息をはき、滝壺は再び微かに笑う。
 それでもやはり、見慣れているものでないとわからないようなものだが。

美琴「ひ・と・の・は・な・し・を・き・け―――――――――――ッッッ!!!」

 ズドン!と先程までの比にならない雷が上条を襲った。
 しかし周りに全く被害の与えないことはやはりレベル5の制御力、といったところか。
 だが、その上条を襲った電撃すらも地面に直撃してコンクリートをぶち壊した。
 上条は右手を構えていて、予想外にズレた雷にえぇ――――ッ!?と驚きを隠せない。
 それは撃った当の本人も同じ。

美琴「え、あ、あれ?はずれた?」

上条「っていうか痛ぇ!?電撃が直撃するより破片がぶつかるほうがいたいんですけど!」

美琴「あっ、えっ、ごめん!じゃなくて、外すつもりはなかったのよ!」

 上条がコンクリートの破片を間近に喰らってしゃがみ、悶え苦しむのを美琴は慌てて弁解する。
 それにしても、外すつもりはなかった、は理由としてどうかと思うが。
 破片があたった足を抑える上条に視線を合わせるように滝壺もしゃがむ。

滝壺「……ごめんね、かみじょう」

上条「っつつ……い、いや、滝壺のせいじゃなくて、御坂が勝手に……」

滝壺「そうじゃなくて」

 遮るように言い、

滝壺「かみじょうに電撃が当たらないように干渉したのが、私だから」

 お前かよっ!?というふたり分の突っ込みが辺りの奇異の視線の中響いた。



172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:12:55.21 ID:isaew0Uo
麦野「……で、どうだったの?」

 第三学区にある高層ビルの一角。
 『二つ星』以上のVIP用サロン――といえば、上流階級の人はすぐにわかるだろう。
 そこに麦野、フレンダ、絹旗、浜面……つまりは滝壺を除く四人が雁首を揃えていた。
 そこで麦野が聴くのは、昼間の成果。
 滝壺理后を追跡した結果のこと。

絹旗「…………」

 絹旗は何かを言おうと僅かに口を開いたまま硬直する。

浜面「……お、おい絹旗」

絹旗「浜面は黙っててください、いま超頭の中でまとめてるところなんですから」

 いい、直後うん、と自分のその構成した分に対して頷き、報告する。

絹旗「滝壺さんと会っていた少年はなんてことのない普通の少年でした」

絹旗「少し違うところといえば、超強引というぐらいですね」

絹旗「まぁその程度で、滝壺さんが一方的に話されている、といった感じで確かに気にはなっているようですが一方的な約束を超されていたので感情的には半々といったところですね」

絹旗「勿論、それが仕事の邪魔になるとは考えられません」

 一気に言い切り、絹旗は息を吐く。
 勿論、これは嘘だ。約束を交わしているのは滝壺だし、あちらの少年は強引というより善人だ。
 ……本来、絹旗がこんな嘘をつく必要はない。しかし、それでもついたのは『アイテム』の中で一番人情に厚い彼女だからこその理由がある。

絹旗(滝壺さんの『居場所』……超壊したくありませんからね)



173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:24:53.01 ID:isaew0Uo
 絹旗最愛に、滝壺理后は楽しそうに見えたのだ。
 少年と接するとき。話すとき。隣を歩くとき。
 感情を特に示すことのない彼女が少しでも、楽しそうに思えたのだ。

絹旗(だから、このぐらいの嘘は超いいでしょう?あくまで私の主観だったといいはればオシオキも軽減されるはずですし)

 絹旗はそこまで考えて、嘘の報告を告げたのだ。
 麦野はそんな彼女のそれに対して目を細めて、次に浜面を見る。

麦野「浜面は?」

浜面「……絹旗と、同じだ」

 数秒の沈黙の後、そう答える。
 当然ながら絹旗と浜面は口裏を合わせてある。バレてしまっては困るから。
 それでも浜面は最後まで渋っていたが。

麦野「……ふーん」

 興味なさそうに言い、立ち上がる。
 そして彼女は二人の座るソファーの前に気楽な調子で移動し、

 ズバン!と。
 絹旗最愛の米噛み付近を回し蹴りで強烈に射抜く。

 食らった本人はただでは済まない、ノーバウンドでサロンの壁に叩きつけられた。
 鈍い音が響く。

浜面「なっ!?」

 突然のことで面食らった浜面は絹旗が壁に衝突する音でようやく思考能力をとりもどした。
 立ち上がり、直ぐ目の前にいる麦野と壁に衝突しながらもゆっくりと立ち上がる絹旗を見比べる。

浜面「む、麦野!?どうしてこんな」

麦野「うるさい、黙ってろ。お前はお前で嘘をついた言い訳を考えてりゃいいんだよ」

 投げやりにそういうと、麦野は絹旗の方へと向き合う。
 ふらふらと立ち上がった絹旗には傷ひとつない。
 『窒素装甲』の自動展開されている盾の賜物だろう。



174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:39:16.32 ID:isaew0Uo
絹旗「ご機嫌……斜めみたいですね、麦野。超どうしたんですか?」

麦野「しっらじらしい。テメェらが嘘をついてるってことぐらい知ってんだよ」

 麦野の言葉に殺意が宿っている。
 どうやら、彼女には確実といえる理由があるらしい。
 麦野沈利は仮にも、学園都市第四位の人間だ。感情論に任せるところも或るにはあるが、冷静さは滅多に欠かない。

絹旗(……一体、どこでバレたんでしょうかね)

 あまりにも否定的なことを言い過ぎたか。
 真実味を追求するなら、もっと滝壺の意志があることを言えばよかったか。
 そんなことを考えながら周りを一瞥すると、あわあわと口元を抑えているフレンダが目に入った。

絹旗(……フレンダ?)

 そういえば、自分たちが命を受けたときフレンダは立ち去ろうとした。
 しかし、麦野がそれを抑えつけたのだ。お前にも用がある、と言わんばかりに。

 絹旗が嘘をついていた、ということに確実な証拠を見出すのはそれほど難しいことではない。
 なぜならば。
 その現場を見ていればいいのだから。

絹旗「尾行していた私たちに、更に尾行ですか……超やられましたね、嘘をつくこともおみとおしだった、というわけですか」

 その結論に達した絹旗に、麦野は口笛をヒュウ、と鳴らす。

麦野「その通り。だからわざわざ足手まといになるであろう浜面をつけたんだからな」

 いつも暗部に浸っている絹旗なら、きっと一人なら尾行しているフレンダに気づいたことだろう。
 だから麦野は、その彼女に浜面にも気を配らせることでその余裕をなくした。
 しかし、絹旗はそこで一つの疑問に辿り着いた。



175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:48:47.55 ID:isaew0Uo
絹旗「……フレンダが超嘘をつくことは考えなかったんですか?」

 そうだ。
 絹旗が嘘をついたように、フレンダがもし嘘をついたとしたら。
 フレンダも絹旗ほどとは言えないにしても仲間意識が強い人間だ。そんな可能性がなかったわけではないだろう。
 その疑問に対して、麦野はハッ、と鼻で笑う。

麦野「いいや、フレンダは嘘はつかないわ」

絹旗「……なんでですか?」

 ぐにゃり、と麦野は酷く顔を歪め、

麦野「すこーし、おはなしさせてもらったからにゃーん」

 その言葉にフレンダは過剰に反応した。
 何かに怯えるように左手でその右腕を撫でる。
 そこにそれがあることを確かめるかのように。

絹旗「……なるほど」

 フレンダは、確かに仲間意識は強い。
 しかし。
 同時に、自分のことを一番に考えるのも彼女なのだ。
 自らの身が危険になったら例え仲間でも売る。それが彼女、フレンダという少女。
 それは逆に言えばそれを言っても大丈夫だという信頼の裏返しでもあるわけだが、それでも裏切りには変わりない。
 その性格を知っている麦野なら、簡単に情報を引き出せる。
 例えば。
 その能力でビームサーベルのようなものをつくり、彼女の腕に押し当てたとしたら。

絹旗(そんなことをされたら……私でも超話してしまうかもしれませんね)

 自分でもそう思うのだ、その傾向が強いフレンダがしないはずがない。



176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:10:46.72 ID:isaew0Uo
絹旗「……それで、私たちをどうするんですか?」

 一番気になるのはここだ。
 自分は、リーダーの命令を破った。
 このリーダーは裏切り者には基本的に容赦はしない。
 ヘタをすれば、殺す可能性だってあるのだ。

麦野「……そうね」

 ピッ、と麦野は人差し指を立てる。
 それを自然に、浜面へと向けた。

浜面「っ!?」

 その指先が、光り輝く。
 能力使用の前兆――――
 思った瞬間。
 浜面の頬を浅く切り裂き、放たれた光は向こう側の壁を貫通していた。

麦野「こーんなふうにしてもいいんだけどね。奇遇にも、もうすぐ欠員が出そうだし二人も補充するの面倒だから生かしておいてあげる」

 そう言い、麦野はその手を誰に向けることもなく下ろした。
 その言葉に偽りはない。
 欠員が出そうだというのも、面倒だから生かしておくというのも。
 つまりは、その欠員がでそうでなかったなら殺されていたのだ。

麦野「――あ、そうそう」

 黙る絹旗と浜面に、麦野は告げる。

麦野「次はないから。そんじゃ、解散」

 ――二度目は、ないと。



190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:56:14.18 ID:DqmBhi.o
 麦野だけが去り、残りは三人になる。
 その中で動くのは、やはり彼女。

フレンダ「えっと……ごめんね、絹旗、浜面」

浜面「ごめんね、じゃないだろ!お前、仲間なら――」

絹旗「浜面」

 堰を切ったかのように溢れ出した浜面の感情を、絹旗はただ一言で抑える。
 勿論濁流がせき止められている堤防などに力強くぶつかるように、行き場のない怒りは彼女へと向かう。

浜面「でも、絹旗!こいつ、俺達を」

絹旗「浜面!」

浜面「っ」

 是が非でも、言わせない。
 浜面は絹旗の言葉のしたに隠されたものを悟り、黙る。
 誰も悪くなんてない。
 誰も酷くなんてない。
 なら、この言いようのない怒りはどこにぶつければいいのだろうか。
 答えは誰も知らない。
 恐らくは、神様でもなければ。



191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:56:49.67 ID:DqmBhi.o
フレンダ「……ま、まぁ結局色々しゃべっちゃったわけなんだけど……『超電磁砲』と別れたあとのことは言ってないから」

絹旗「そう、ですか……超安心しました」

フレンダ「あったりまえよ、流石に赤の他人を殺す決定打を言うのは少し、ね……」

 フレンダにも流石に良心の呵責、というものはあるらしい。
 確かに健全に表の世界で歩んでいて別に悪いこともしてない人間を間接的とは言え殺してしまうのは引ける。

浜面「……まー、あそこが一番幸せそうだったからな」

絹旗「あれ、浜面にもわかったんですか?」

浜面「いや、あれは本人たち意外大体の人は理解していたと思うぞ」

フレンダ「そうね……あれは私でも少し引いちゃったわけよ」

 浜面の言葉にフレンダは同調し、二人同時に溜息を漏らす。
 遅れて絹旗もそれをし、こんなことがあることを知らない最後のメンバーに想いを馳せた。

絹旗「……今頃、滝壺さんは何をやってるんでしょうかね」

フレンダ「さぁ?」

浜面「ま、あの様子から見るに……よろしくやってるんじゃねーのか?」

絹旗「そうですね。ま、兎にも角にも……」

 パン、と一度手を鳴らす。

絹旗「滝壺さんのご武運を超祈りましょうか」



192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:57:18.73 ID:DqmBhi.o
 また、時は僅かに遡る。
 日も赤くなりかけた頃、今日は収穫もないから解散の運びとなった。

上条「じゃーな御坂」

美琴「ええ……アンタ、その子に迷惑かけるんじゃないわよ!?」

 答えつつ、初めは俺に離れろとか言ってなかったっけ……?と上条は思う。
 言われた滝壺はきょとん、とした顔をして首をかしげた。
 二人きり

上条「それじゃ……送るぞ」

滝壺「それじゃあ、いつもと同じところまで」

上条「おう」

 そういい、どちらともなく歩き出す。
 夕方になっても人の多さは変わらない。
 学園都市は眠らない……わけではないが、完全下校時刻を過ぎても外にいる人も少なくはないのだ、この時間帯で人がいなくなっても困りものだ。

滝壺「そういえば、足大丈夫?」

上条「あ、ああ問題ありませんとのことよ、上条さんはこのぐらいなら、」

 言いかけて。
 よそ見をした上条の足に、ずがん、と駐輪場からはみ出た自転車が激突した。

上条「ぉぉぅ」

 無様な声を発して、苦悶に顔をひきつらせる。
 その様子を見て、滝壺は我慢しきれずにわびを入れた。

滝壺「……ごめんね」



193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:57:54.78 ID:DqmBhi.o
上条「いっ、いやいや!この程度は問題ないから!」

 上条的に、女の子(ただし美琴は除く)に罪悪感を抱かせるのはいただけない。
 だからついつい、心配させまいとするが、

滝壺「……えい」

上条「」

 悶絶する。
 上条の治癒力なら恐らく一日で全力疾走可能、二日で完治するだろうが直後は痛い。
 そんな上条を見て滝壺は無表情のまま、考える素振りを見せた。

滝壺「……決めた」

上条「っ……な、なにをでしょうか」

滝壺「今日は、私がかみじょうを送る」

 一瞬、上条は凍った。

上条「……いやいやいやいやいや!今日は他によるところもあるのでというか女の子に送ってもらうって言うのは男としてどうかと!?」

滝壺「大丈夫、私は大能力者だから。……寄るところ?」

上条「……もう冷蔵庫の中身がなくなっていまして……丁度タイムセールがあるんですよ」

 たいむせーる、と滝壺は口の中で繰り返す。
 タイムセールは上条のような無能力者の苦学生にとって必要不可欠とも言える。
 それを理解して、滝壺はうん、と頷いた。



194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:58:38.34 ID:DqmBhi.o
滝壺「それじゃあ、それにも付き合う」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」

 タイムセールは学生たちが多いために多くの場合戦場と化す。大人の教師も交じることもある。
 そんな場所に慣れていない、しかもひ弱そうに見える女の子をつれていくわけにはいかないのである。

滝壺「大丈夫」

 滝壺は自分の胸を一度ぽん、と叩く。
 そして、誇らしそうに言った。

滝壺「私は、大能力者だから」

 その可愛らしい行動に上条は思わず見とれ。
 次の瞬間に我に返ってツッコミを入れる。

上条「っていうか滝壺の能力、物的力ないよな!?それからその『大丈夫、私は大能力者だから』ってフレーズ気に入ったのか!?」

滝壺「………………」

上条「お願いですからその俺の足を蹴ろうとする足を下ろしてくれませんでしょうか?」

 心から懇願され、滝壺はやはり表情を動かさずに足を地面に突いた。
 だが滝壺はじっ、と上条の顔を覗き込む。
 うっ、と上条はたじろぎ、しかし滝壺は尚もそれを続け、沈黙が訪れた。
 結局、根負けするのは上条。

上条「……わかったよ、お願いする。だから――――っ」

 瞬間。
 上条の視界に、微笑みが映った。

 それは、単に口の端を釣り上げたとか、そういうものではなくて。
 確かに、『笑った』といえるもので。
 さっきの行動より、もっと、もっと綺麗で、淡く、可憐なもので。

 上条は、思わずどきっとしてしまったのだった。



195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:59:37.06 ID:DqmBhi.o
 次には、もう既に元の顔に戻っていた。

滝壺「それじゃあ、行こう?」

 そう言って、滝壺理后は何気なく右手を差し出す。
 行こう、というのはそのタイムセールのあるスーパーへ、だろう。
 何ら特別な意味はないはずだ。

上条「…………」

 いつもなら、上条はこれを華麗にスルーしたりなんだかんだ言い訳をつけて取らないだろう。
 しかし。
 さっきの表情が頭から抜け落ちない。

 今まで感じたことのない感情。
 柄にもなく、心臓が脈を打ち、外にも聞こえているんじゃないか、と錯覚する。
 その上、差し出された手。

上条(……俺、もしかしたら)

 脳裏に、ただ一文字の漢字が過る。
 もしかしたら、それは違うものかもしれない。
 もしかしたら、それは錯覚なのかもしれない。

 それでも。
 滝壺が『幻想殺し』の正体に興味をいだいたように。
 上条がこの想いの正体に興味をいだいてもおかしくない。

 だからこそ、上条当麻は。
 彼の、その右手で。
 彼女の、右手を。

上条「よし、行くか」

 掴んだ。

 幻想なんかじゃない、紛れもない本物。
 それはとても暖かな、現実だった。



205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:27:24.69 ID:pJIai7wo
上条「なんかもう色々と申し訳ないんですが……何分お金まで出してもらったりして……」

滝壺「気にしないで。いつも付き合ってもらってるお礼だから」

 買い物帰り。
 荷物を二分して、彼らは上条の寮へと向かっていた。
 中身はどっしりと。それも滝壺がお金を払ってくれたお陰なのだが。

上条「でもなぁ、なんていうか……釣り合わないような気がするんだよな」

滝壺「そんなことないよ、かみじょう。かみじょうが付き合ってくれてるだけで十分なことなんだから」

上条「だから、上条さん的には付き合ってる『だけ』なんだよ。今日もやったことといえば、御坂の相手ぐらいだろ?」

 そうだ。
 滝壺には上条がいるだけで成果が出るのかもしれないが、上条はただそこにいるだけなのだ。
 何かやっている実感があるわけではない。
 それなのにこうしてお礼をもらう。どうしてか釈然としない。

上条「うーん」

 更に返せるもの、或いは返せること。
 ペンダント、だとか。
 いやいや、それは何か違う。
 自分が貸して、返してもらった分が多いから更に返すのではないのだ。お釣りのお釣りを出すわけではない。
 自分に返してくれる分を減らしてくれればまぁ、問題はない気がする。

上条「……あ、そうだ」

滝壺「?」

 上条は思いつく。
 とても至極単純なことだ。
 食材を買ってもらったのなら、その食材を引き受けるのではなく減らす手伝いをしてくれればいい。

上条「ついでに、家で夕飯食べていかないか?」

 滝壺は呆気にとられる。が、すぐに頭を働かせる。
 この後にアイテムの集まりはないだろうし、恐らく問題ないだろう。
 そう判断する前に、反射的に彼女は頷いていた。

滝壺「うん」

上条「おう、じゃあさっさと俺の家いくか」

 そんなわけで、二人そろって上条家へと向かうのだった。



206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:28:15.96 ID:pJIai7wo
禁書「……で、その子は誰なのかな、とうま?」

 ぎにゃー!と上条は頭を抱えた。
 そうだ、この居候シスターさんの存在を全くもって忘れていた。
 なぜかはよくわからないが女の子関係にすごく敏感であり、そしてその結果噛み付いてくる存在。
 そして今が滝壺を連れて帰った結果。それは言うまでもないだろう。

滝壺「…………?」

 滝壺はどうやらまだ理解が追いついていない様子だった。
 それはそうだ。
 ここは学校に通っている生徒の『男子』寮。そんな中に女の子がいるだなんて普通は思わない。
 それも、科学の街学園都市において真逆の場所に位置する教会のシスターさんときた。
 まぁ隣人もよく義妹を部屋に入れて寝泊まりさせたりもしているが、この二部屋は一般から漏れた例外的なものだ。

上条「あー、えーっと、その、ご飯代を奢ってもらったわけで、それでその……あー!とりあえず飯だ飯!インデックス!とっととテーブルの上片付けろ!」

禁書「え、あうん。……とうま?何か誤魔化そうとして」

上条「さぁ飯だ飯だ。滝壺はベッドにでも座ってくつろいでてくれ」

滝壺「う、うん」

 禁書の言葉を封じ、滝壺を案内する。
 そして落ち着いたのを確認して台所へ向かう途中。

 ガブッ、と。

 いつもの通りに、上条の頭に擬音がした。
 一歩遅れて、夜暗い中なら数十メートルは響くだろう悲鳴が木霊する。



207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:28:57.24 ID:pJIai7wo
禁書「全くもう、とうまったらまた女の子に手を出して……」

 奥からずんずんとインデックスが怒った風に現れる。

滝壺(……この子も、拡散力場がない?)

 滝壺はインデックスの頭の先から爪先まで見下ろす。
 金の刺繍が入った帽子や修道服。しかしそれらは銀色の針が貫いている。
 まさに、針のむしろ。
 ……まぁそれはさておきとして、彼女にとっては拡散力場がないことが重要だった。
 上条の例もあることだし、一応聞いてみる。

滝壺「あなたも、『幻想殺し』なの?」

禁書「え?ううん、違うかも。そもそも私はこの街の超能力者じゃないからね」

 超能力者じゃない、と滝壺は確認するように繰り返す。
 なるほど、それならなんとなくと納得する。シスター服の制服なんてこの都市にはないから。
 その彼女は三毛猫を抱いて、自分の横に座って話しかけてきた。

禁書「……えっとね、私はインデックス。和名では禁書目録っていうんだよ」

滝壺「インデックス?」

禁書「うんっ」

 その言葉を呼ぶと、彼女は元気に頷く。
 どうやら聞き間違いではなく、本当にインデックス――禁書目録――目次、というらしい。

禁書「あなたは?」

滝壺「たきつぼ。たきつぼりこう」

禁書「それじゃ、りこうって呼ぶね」

 いきなり名前で呼ぶことに滝壺は面食らう。
 しかしこの純粋さを感じる少女なら或いは、と思った。



208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:29:30.90 ID:pJIai7wo
禁書「……ねぇ、りこう。とうまに何か変なこととかされてない?」

 開口一番の質問がこれだった。
 何か、というのは色々あるだろう。
 例えば、上条の不幸に巻き込まれてセクハラされただとか。
 例えば、何かの偶然で裸を見られただとか。
 だが滝壺にはそんなことをされた試しがないため、全く別のこと――助けてくれたこととかが思い浮かぶ。

滝壺「……変なことはされてない、かな」

 助けてくれたことは変なことには当てはまらない。
 だから彼女はそういった。

禁書「それなら……じゃあ、どうしてとうまの右手のことを知ってるの?」

 この質問になら容易に答えることができる。
 先ずは馴れ初め。
 ナンパされていたところを助けてくれたこと。
 自分が能力を感じ取ることができる能力をもっていること。
 それによって上条当麻の能力を感知できなくて、興味を持ったこと。
 誘拐されかけた子供を助けたこと、などなど。
 つまりは上条と滝壺が会ってからの出来事。
 ところどころでインデックスの歯がきらんと輝いた気がしたが、遂に彼女は言及することはなかった。
 話し終わり、滝壺が一息付いているところでインデックスは呟く。

禁書「そっか。とうまにしては、まだ普通な方なんだね」

滝壺「普通?」

禁書「ううん、なんでもないかも」

 聞こえた単語を聞き返すと、インデックスは首を左右に振ってなんでもないと、つまり言わない意を示す。
 少しばかり気になったが、滝壺はそのことについて問い詰めはしなかった。

滝壺「私からも、一ついい?」

 インデックスの質問が途切れたところで、攻守交替。
 別にインデックスにも断る理由はないため、簡単に頷く。

禁書「うん、いいよ。なんでも聞いて欲しいかも」

滝壺「それじゃあ……どうしてかみじょうの家にいるの?」

 ?とインデックスの頭の上にクエスチョンマークが踊った。



209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:30:18.62 ID:pJIai7wo
禁書「私が此処に住んでるからだよ?」

滝壺「ううん、そうじゃなくて。どうしてかみじょうの家に住んでいるのか、その理由を知りたいの」

 それは誰でも聞きたいことだ。
 見た限り、血がつながっているというわけでもない。そして学園都市の人間ですらない。
 そんな人がどうしてこんなところにいるのか。
 シスターなら普通は協会にいるものじゃないのか。
 滝壺もそう思ったわけだ。
 インデックスは瞬刻、考える。これを言ってもいいものかどうか。
 ……自分も聞いたのだ。それならば答えなければならない。そう考えた彼女は上条がまだこちらに来ないことを確認して、ぽつりぽつりと語り始める。

禁書「……とうまはね、私を助けてくれたんだ」

 それは、大切なもの。
 心の奥底に仕舞い込んだ大事な思い出。

禁書「命をかけて。死ぬことも恐れないで。私を地獄の底から救いだしてくれたんだよ」

 彼女は、知った。
 インデックスがどんな状況にいたのか、ということを。
 いや、詳細までわかるわけではない。しかし、『地獄』とまで例えられたその状況を察したまでだ。
 そして。
 それから救いだした、上条当麻という人物のことを。

滝壺「そっか。ありがとう」

禁書「ううん、お礼を言われるようなことはしてないかも」

上条「ご飯できたぞー」

 落ち着いたところで、上条がタイミングよくご飯を運んできた。
 二人の間に漂う、優しく落ち着いた雰囲気を不思議に思ったのか、上条は訊ねる。

上条「……何のはなししてたんだ?」

 それに対して、二人そろって答えた。
 曰く、

滝壺「ひみつ」禁書「ひみつかも!」

 上条家の夜は、更けていく。



210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:30:52.05 ID:pJIai7wo
 彼は思いめぐらせる。
 上条当麻。滝壺理后。
 二者の関係と、そして齎すだろう結果について。

土御門「……難しいな」

 アレイスターの考えていることに近づこうとするが、届かない。
 そもそも『幻想殺し』の正体とはなんだ。
 アレは原石だ。生まれ持っての才能だ。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

土御門「その原石に対して……能力を感知する『能力追跡』を当てる」

 そうするとどうなる?
 原石のAIM拡散力場から、どういう風に上条の『自分だけの現実』が組まれているかわかるだけではないのか?
 そう考えるのも無理はない。
 なにせ彼は知らないのだから。『幻想殺し』にAIM拡散力場が存在しないことを。

土御門「……とにかく、第二段階までは終了だな」

 ピッ、と携帯を操作して幾つかのデータを纏めて削除する。
 そして次のデータ――今まで開いていなかったファイル――を開き、サングラスの奥の目で見やる。

土御門「なるほど……確かに、こうなるだろうな」

 それはアレイスターから送られてくる予言のようなもの。
 そして同時に指令でもあるもの。
 こうなるから、こうしろ。そういうものだ。
 土御門はそれをどうすればうまく行くか考えつつ、背伸びする。
 ゴキゴキ、と不健康な音が鳴った。

土御門「……さてと。今日も今日とて、頑張りますかにゃー」

 どこまで重要人物に察されずに行動できるか。
 多角スパイの腕の見せ所だった。



217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 23:20:44.74 ID:V56XwFko
 コツ、と一つ。
 足音だった。
 それに目ざとく彼女は反応する。
 そもそもここにいるのは彼女一人きりだ。そしてその彼女は動いていない。
 それなら反応するのも道理だ。
 最も、先日から断りはきているのだが。

 コツ、と二つ。
 それはさっきの音よりほんの少しだけ遅れて。
 察するに、前の足音に付いてきた、という感じだろう。
 どうやらここを知らない人物らしい。
 思わず彼女は笑う。
 普通の人が知らない場所まで堕ちてしまった自分に対して。

 ノックされた。
 それに彼女は答える。

少女「鍵なんかかけてないわ。namely、押せば開く」

 聞くやいなや、ガチャン、とノブが落とされた。
 そこから現れるのは二人の少年少女。
 それを彼女はその特徴的な――ギョロッ、とした目で一瞥した。

少女「……あら、二人だけ?」

 その言葉に対して、少女の方――滝壺はいつもどおり、首を傾げた。

滝壺「……?」

少女「知らないなら構わないわ」

 ギシッ、と背にある機械――常任には理解しがたい数値などが記入されたモニターを操作するもの――にゆっくりと腰掛ける。



218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 23:21:10.62 ID:V56XwFko
滝壺「今日やることは、」

少女「大体の概要は聞いてるわ。そちらの『幻想殺し』についての情報も少なからず集まっているし」

 滝壺の言いたいことを先回りして少女は言う。
 それにしても、と一度区切り、やはり皮肉げに笑った。

少女「私を堕とした貴女達に協力しなければならないなんてね」

滝壺「……それは」

少女「however」

 しかしながら、と。
 彼女はやはり、滝壺の言葉を遮って告げる。

少女「こんな仕事でも回ってこなければ、私は用なしとして御免なだけでしょうからね」

 沈黙。
 ここまで話がすすんで、ようやく件の『幻想殺し』――上条当麻は口を開く。

上条「あのー……なんの話でせうか?上条さんには全くこれっぽっちも意味がわからないのですが……」

少女「貴方は気にしなくていい。because、これは私の問題であるから」

 上条の質問をズバッと切り捨てる。
 それでもはぁ、とだけ上条は返して、結局よくわからない顔をするのだから鈍感だと言われるのだろう。

少女「布束砥信」

 彼女は自らの名前を脈絡なく言う。

布束「今日の貴方の実験を実行する人物。ちなみに先輩だからタメ口は不許可」



219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 23:21:47.94 ID:V56XwFko
布束「貴女はそこで適当に座ってて。『幻想殺し』の彼はこっちへ」

上条「あ、ああ」

 上条の第六感が僅かに危機を告げて、本当に大丈夫なのか、と滝壺へと視線を送る。
 その滝壺は『大丈夫、私は色々失った上条も応援してる』と言わんばかりに熱烈な視線を返す。
 ……なんというか、締まらない二人だった。

 上条は布束につれられ、ガラスで囲まれた部屋――よくある実験するためのもの――の中に入る。
 真ん中にいかにも、というような人ひとりを固定する椅子。

上条「……あのー、先輩」

布束「?」

上条「つかぬことをお聞きするのですが、まさかその固定具にわたくしめを取り付けたりなんかは……」

 微かに彼女の口が動き、音が発せられる。
 それは、great、と聞こえた。

上条(やっぱりか――――ッ!?なんだか今までと違って痛い目にあう気がプンプンするんですけど――――――ッ!!)

 不幸だ――――!と上条は久しぶりに胸中で叫ぶ。
 だがそんな言葉が聞こえるはずもなく、聞こえたとしてもやめるはずもなく、上条はやはり流されて順に固定される。

布束「安心して」

 そんな上条の緊張を和らげるように布束は言う。

布束「死にはしないから」

上条「それって死にはしないけど死にそうな目にはあうかもしれないってことですよね!?」

 答えず、その眼力の強いそれをそらす彼女に上条は再び抗議の声をあげた。
 勿論通ることはなかったが。



220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 23:22:14.89 ID:V56XwFko
 カチン、と最後の手の固定具がハメられた。
 ここまで来るともう諦めざるを得ない。

上条「……はぁ……不幸だ…………いや、協力するっていったのは俺だけどさ……」

 ぼそ、と呟く。
 確かに協力するとはいったが、こんな目にあうなどとは思いもしないだろう。
 その声が聞こえていたのか、布束はじっ、と上条をその目で見つめた。

上条「……な、なにか御用……でしょうか?」

布束「いえ、貴方には一応言っておくべきだと思って」

 布束は続ける。
 感謝の礼を。

布束「ありがとう」

 上条は考える。
 この目が特徴的な少女など、一度見たら忘れないだろう。即ち、お礼を言われるような事があれば忘れはしない、ということだ。
 ならば、記憶喪失前だろうか。なるほど、それなら納得が行く。
 ……が、初めに名乗った、ということは見識がないことも指す。

布束「貴方と私の間に面識はないわ」

上条「それなら、どうして……」

布束「because、貴方は実験を止めてくれたから」

 実験。
 上条当麻に、その言葉に思い当たるものは一つしかない。
 だが、目の前の先輩サマとの関連が全く見えてこないのが事実だった。



221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 23:23:18.59 ID:V56XwFko
布束「気にしなくていいわ。今のは私の自己満足みたいなものだから」

上条「はぁ……」

 上条は後ろ手を振って部屋から出て行く彼女を見送る。
 いや、別のことを仕様にも固定されているのだから何もできそうにないのだが。

上条(……別に、能力をぶつけるってわけじゃないよな……)

 上条の両腕は腕掛けに、両足は椅子に固定されている。
 もし『幻想殺し』に能力をぶつけるだけならば、果たして腕を前につきだして空中で固定するだろう。

上条(だったら、一体なんなんだ……?くそ、滝壺に少しでも聞いておけばよかったか)

布束『マイクテスト。聞こえるかしら』

 部屋に響いた声に、上条は唯一自由に動かせる首を上にあげた。
 そこには無論、スピーカーが設置されている。
 当然だ、先程出て行った人の声がまだ部屋から聞こえてくるとそれはそれで怖い。
 ……学園都市だから、そんな能力がないとは言い切れないが。

布束『今回行う実験は能力でなく科学で生み出した擬似能力による実験よ』

 擬似能力。
 『能力』を打ち消すために『擬似能力』などと言っているが、実際は逆だ。
 実際にあるモノ――例えば、炎だとか電気だとか――を能力で生み出しているのだから、つまりは元からある炎や電気のこと。
 つまり。

上条(それって、ライターとか電源とかの火や電気を俺が直接受けるようなものじゃないのか?)

布束『well始めるわ』

上条「まって!まってくれまってください三段活用!そんなことしなくても『幻想殺し』は超能力や魔術しかうちけさないって決まって――ッ!!?」

布束『実験というのは、一つの事情に対してある一つ――今回はぶつけるものの起源――を変えて行うことでようやく意味があるものよ』

 上条の検討むなしく。
 次の瞬間、ビリッ、とした痛みが上条の全身を駆け巡った。



225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:11:21.59 ID:ejSk1O2o
布束「……ふむ」

 キィ、と背もたれによしかかり、錆びた部位が悲鳴をあげる。

布束「興味深いわ」

 布束は知っている。
 目の前で既に体力の限界を迎えた少年が学園都市第一位を倒したことを。
 それなのに。
 あらゆるベクトル操作を打ち消せるのに、数ミリアンペア、数ボルトの電撃すら防げない右手。

布束「well、次は――」

滝壺「ぬのたば」

 次のボタンを押そうとして、後ろから声がかかる。
 それは依頼主。
 『アイテム』の滝壺理后。

滝壺「そろそろ、やめて。かみじょう限界みたいだから」

 その言葉に秘められた感情を微かに悟る。
 このまま続けようとしても、依頼主には逆らえないし、逆らったところで返り討ちに合うのが関の山だ。

布束「わかったわ」

 だから素直に彼女は従い、ガラスで遮られた部屋の鍵を開ける。



226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:21:28.39 ID:ejSk1O2o
 滝壺はまっすぐにドアを開いて駆け寄る。
 布束は今更ながら、少しやりすぎた気がしないでもなかった。

布束(……さて)

 データを統合する。
 事前に仕入れたもの――超電磁砲や一方通行を倒したこと。
 そして、滝壺自身がしていたというAIM拡散力場による実験の結果。
 追加して、今回の実験の結果。

布束(……ますます、興味深いわね)

 一応の研究者として、『幻想殺し』はとても興味深い研究材料だ。
 しかしながら。
 そんな都合よく、超能力だけを打ち消す超能力なんて、発現するだろうか。

布束(……differ。『幻想殺し』は原石)

 それでも、やはりおかしい。
 原石は世界に何十とないものだ。
 『吸血殺し』、第七位の能力など、確かにそれは奇抜である。
 だがしかし。
 そんな奇抜である能力を消すためだけに『幻想殺し』があるのは、やはりおかしいのだ。

布束(result)

 『幻想殺し』が能力を消すための能力だということはありえない。
 それ以外の能力が備わっているのか、或いは。

布束「……超能力でないか、ね」



227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:27:16.56 ID:ejSk1O2o
 見ると、ようやく全ての拘束を外して、バテバテになりながら歩いてくる二人の姿があった。
 突拍子かもしれないが、報告しなければならないだろう。

布束「お疲れ様」

上条「おつかれってレベルじゃねーですことよ!?」

滝壺「大丈夫。そんなかみじょうを私は応援してる」

 応援されても困るだけだ――――ッ!と上条は叫ぶ。
 さて。
 こんな仲睦まじい二人の表情を濁らせるのも嫌だが、仕事は終わらせねばなるまい。

布束「それで、私が情報を統合した結果についてなんだけど――」

 淡々と、彼女は結果について語り始める。



228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:38:12.10 ID:ejSk1O2o
 そんな彼女らを、ただ観察する影があった。
 バレないように、カメラを仕掛けて遠距離から傍観する。
 本来なら身近に見るのが一番だったのだが、如何せん、滝壺の能力でバレる。

麦野「一応、消すにしても自分の眼で見ておかないと」

 気に入らない奴は蹴散らす。
 だが、感情論に任せれるのも暗部の話だ。
 裏と全く接点のない人がいきなり消える――事件になる。
 それに、超電磁砲と知り合いときたもんだ。それが嗅ぎつけて来る可能性もなくはない。

麦野「ま、負ける気はないけどね」

 麦野は実験が終わったことを確認し、ブツン、と画面を切る。
 自分の眼で見た結果は、言うまでもない。

麦野「……この様子じゃ、邪魔してくる可能性もなくはないけど……しゃーないか」

 どうせ、もうすぐ替える予定なのだから。
 割り込んできたら、容赦なく――

麦野「潰すか」

 グシャッ、と中身を飲み干した空き缶を麦野は握りつぶした。



231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 20:29:30.43 ID:ndOjZaQo
 ぼんやりと、私は低い天井を見上げた。
 いつものワゴン車の中。人が六人ぐらい座れそうなスペースがある。外見からは、すこし想像できない。
 外では、レーザー砲のようなものが宙を舞っていた。
 むぎの、やっぱり絶好調。
 私はバックアップ。とはいっても、多分出番はあまりないだろうと思うけど。

 今日行った研究施設。どことなく、昔見たことがあるような気がした。
 多分、そんな気がしただけ。
 あそこはおそらく、もうないだろうから。

 さて。
 ところで、『幻想殺し』の話をしよう。
 かみじょうとうま。漢字にすると、上条当麻。
 私を偶然にも、ナンパから助けてくれた人。
 そして、私が感知できない人。
 最初は、だから気になった。
 最初は、知的好奇心だった。
 私が感知できない超能力、『幻想殺し』。その正体。そして、それをもつ彼の『自分だけの現実』。



232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 20:39:23.56 ID:ndOjZaQo
 そして、それの正体を突き詰めた。厳密には、総合した結果。
 曰く。『幻想殺し』は超能力でない。
 奇しくも、私が初めに想像したとおりのものだった。
 これが本当の真実なのか、それはわからない。だって、彼自身も驚いていたのだし、知らないのだろう。
 確かめる術は、ない。
 実験をする口実も、ない。

 つまるところ。
 私と、かみじょうの関係はもう既に終わってしまった、というわけ。

 …………。
 寂しい。
 そう思うのは、なんでだろう。
 嫌だ。
 そう考えるのは、どうしてだろう。

 決まっている。
 途中から目的が入れ替わっていた。ただそれだけ。
 『幻想殺し』の秘密を調べるから、ではなく。
 それを口実に、『上条当麻』に会いに行っていた、というだけの話。

滝壺「…………」

 思わず、フレンダが置いていったぬいぐるみを抱きしめる。
 どうしようもなく、心が空虚になった。
 きっと、かみじょうは私が会いたいといえば会ってくれる。
 実験なんて理由がなくても、ただ会って、話して、付き合ってくれる。



233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 20:45:15.56 ID:ndOjZaQo
 でも。
 それは、許されない。
 少しだけのお願いで、研究施設まで使わせてもらった。
 これ以上の我儘は、許されない。

 こんこん、とドアを叩く音がした。
 鍵を開けて開くと、きぬはたがいる。

絹旗「滝壺さん。麦野が呼んでますよ」

 来た。
 恐らくは、私の力がないと追えない能力者が現れたのだろう。
 きっと、体晶を使う。
 ……来ないことを、願ってたのに。

滝壺「……?」

 ……私、今なんて考えた?
 来ないことを、願っていた。
 どうして?
 どうして?
 どうして、来ないことを願ったの?

絹旗「……滝壺さん?」

 きぬはたの声が、私の覚醒を促す。
 それに軽く返事をして、ワゴン車を出た。



234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 20:59:15.22 ID:ndOjZaQo
 施設の中に入る。
 血まみれや、頭が壁に埋まっている身体が幾つもあった。
 それでも、死んでいない。
 思わず、ぞっとしてしまう。
 ……今まで、こんなもの、散々見てきたというのに。

麦野「ああ、遅かったわね」

絹旗「超すいません。少し迷ってしまいまして」

麦野「まぁ、いいわ。滝壺。この中からテレポーターのモノ、追える?」

 むぎのはやっぱり、そういう。
 私に体晶を使え、という。
 確かに、私は体晶がなければこういう暗部では全く使い物にならない。体晶があるからこそ、生きていられるところもある。
 だけど、体晶は私の身体を蝕んできている。
 このペースで使い続けると、長くは持たない。
 けれど。
 私の居場所は、ここだけ――――

 不意に。
 とある少年の顔が、私の脳裏をよぎった。



235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 21:06:39.11 ID:ndOjZaQo
 上条当麻。
 私を、僅かでも大した危機じゃなくても助けてくれた人。
 上条当麻。
 自分に大した利益がないことでも、私のお願いを聞いてくれた人。

 彼と一緒に街を歩いていたとき、自分を忘れることが出来た。
 彼と一緒に世界を歩いていたとき、とても楽しかった。

 今更ながらに、気がついた。
 かみじょうは、私の道しるべになっていたことに。
 闇の隙間から差す光になっていたことに。
 私の、もうひとつの居場所だったことに――――

麦野「滝壺」

滝壺「……うん」

 麦野に促されて、掌に落とした体晶を舐める。
 スゥッ、と頭が冴え渡る。
 何もかもを見通せそうな気分。
 ……自分の未来すらも。


 ……最後に。
 もう一度だけ、会おう。
 多分、それが最後になるだろうから。



244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 20:01:06.18 ID:eqIsbRMo
 上条当麻は考える。
 右手を頭上にかざしつつ。
 とはいったものの、そこは電気の消えた風呂場、全くもって見えないのだが。

上条「幻想殺しは超能力じゃない、ね……」

 思い出すのは昼間のこと。
 今までのデータ統計結果、それを得られたのだと言っていた。
 曰く。
 幻想殺しは超能力ではない。

 理論はわからない。
 いや、きっと聞いたところで自分の頭ではわからないだろう。
 研究者――いや、滝壺もわかっていたようだが、そういった専門知識のない上条に理解するのが難しい話だった。
 ただ一つだけわかるのは、やはり一つの真実。

上条「……だから、どうしろってんだよ」

 右手を下ろして、額を抑える。
 超能力でないなら、なんだというのだ。
 別に超能力であろうとそうでなかろうと、上条当麻いう一個人には影響を与えない。
 が、それならどうして上条はここにいるのか、という疑問に陥る。



245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 20:14:57.16 ID:eqIsbRMo
 確かにおいそれと超能力ではない、と断定できないかもしれない。
 だがしかし……科学の街学園都市がそんな簡単に見逃したりするだろうか。
 この能力はきっと知られているはずだ。
 超能力でない、ということもおそらくは。
 それなのに、何も措置がない……その理由がわからない。

上条「……そもそも、俺は無能力者扱いだったな」

 今更ながらに思った。
 そう、上条当麻は無能力者。それは、単純に『幻想殺し』単体が何も生み出さないからだと思っていたのだが。
 滝壺理后の『能力追跡』……あれも、『超能力がなければ役に立たない』能力である。それなのに、上条とは違い大能力――レベル4扱い。
 全く能力のないレベル0――微小ながらも能力のあるのではなく、本当に無いレベル0――には研究価値がない。
 学園都市に住まうことはできても、なんらかの措置……例えば、実験などで使い潰されるはずだ。
 それなのに、上条には何も無い。

 ……その事実・憶測を統合すると、とある一つの仮定が見えてくる。
 つまり。
 『幻想殺し』をあまり人目に晒したくはなく、だが強い価値があるのでこの街に残しておきたい、という。

上条「確かに、超能力を打ち消すっていうのは魅力的だけど……超能力ですらない能力を研究することに意味があるのか……?」

 そもそも、研究を申し出されたことすらない。
 結局、わからないままだった。



246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 21:08:32.84 ID:eqIsbRMo
 突然、風呂場に異音が響く。
 バイブモードにしてある携帯が風呂場の地面とぶつかり合い、ちょっとした騒音になっていた。
 上条はたまらず、素早く携帯を回収する。

上条「っ……耳いてぇ……」

 顔をしかめながら、こんな時間にメールを送ってくるのは誰か、と携帯をあける。
 暗さに目が慣れた状態で携帯を開けるとどうなるのかは当然。

上条「ぎゃあぁあああっ!?」

 眩しさに目が潰れる。
 不幸だ……と上条はつぶやくが、ただの馬鹿な行動のせいだった。
 薄目を開けて徐々に視界を慣らす。

上条「えっと……ん……?滝壺…………?」

 誰からメールが来たのかを確認すると、それは今日も共に活動をした滝壺理后だった。
 一先ずは文字をまとめると、概ねこういう事になる。

滝壺『かみじょうへ。
   今日で実験は終わり。お疲れ様、あとありがとう。
   それで、最後にお礼しようと思うの。だから、付き合ってもらえる?』



247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/05(火) 21:19:35.34 ID:eqIsbRMo
 いやに簡潔に感じた。なんというか、色々と感情を押し込めているような。
 特に、『最後』、という文字。
 別に、最後、ということ自体にはおかしなところはない。
 だが――上条には、この言葉が何か特別変に思えたのだ。

上条「…………」

 滝壺理后。
 自分がナンパから助けて、それから自分の能力に興味を持って、その追求に付き合ってあげた女の子。
 そして、付き合っているうち、知り合い、友達――それ以上の感情を抱いた女の子。
 その想いの正体は、結局未だに、分からずじまいだ。

 上条は僅かに……ほんの僅かに、どう返そうか考えた上で、やはり肯定のメールを返す。
 一分もしないうちに、携帯が再び手の中で光った。
 中身はやはり簡潔に、『ありがとう』とだけ。

上条「…………」

 最後。その言葉の意味を再び考える。
 多分、きっとその通り。これで、上条当麻と滝壺理后の縁を切ろう、という宣言。
 ……なんというか、らしくない、気がした。
 未練を感じている自分にも、そしてわざわざそんなことを告げる滝壺にも。
 ――おそらくは、変わったのだ。自分も、彼女も。互いが互いの存在によって、変わったのだ。
 だから上条は、ようやく襲ってきた眠気に沈む前に、呟く。

上条「――――――――」

 その呟きは響きやすい風呂場で反響すらせず。
 夜の闇に消えた。



253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 20:38:13.20 ID:22eM99Qo
 朝早くから、チャイムが鳴った。
 財布など適当にポケットに詰めて玄関へと向かう。
 それを見たインデックスが目ざとく反応した。

禁書「とうま、今日学校休みなのに、どこかいくの?今ちゃいむ鳴らした人?」

 そう、今日は日曜で学校は休日である。
 だからこそ、相応しい。
 しかしながらインデックスにはそれが理解出来ないために、聞くしか無い。

上条「ああ。今日はきっと、一日留守にする。昼食は冷蔵庫入ってるし、夜ご飯は……いつ帰るかわからないから、お腹すいたら小萌先生のところに行っててくれ」

 手早く身だしなみを整え、上条はインデックスへそう投げかける。
 その言葉にインデックスは色々と複雑そうな表情を示し、また返す。

禁書「……りこう?」

 そう名前を問いかける。
 インデックスにとって、彼女が最近来た上条当麻の新しい女性の知り合いだ。
 最近帰りが遅い時期とも知り合った時期がまた重なっている。
 だからこうして早い時間に出る理由は、彼女しか無い、と思ったのだ。

上条「ああ、滝壺だ」

 隠す必要もないから、上条はただそう答える。



254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 20:46:27.55 ID:22eM99Qo
 それに対して、インデックスはやはり、少しだけ寂しそうな顔をした。
 そっか、と言った呟きは、上条には届かない。

禁書「……それじゃあ、行ってらっしゃい。鍵はいつもどおりに郵便受けに入れておけばいいんだよね?」

上条「ああ、よろしくな」

 上条は靴を履いて、ちらりとインデックスへと笑いかける。
 彼女も同じく返し、上条は扉を開いた。
 登り始めた太陽の日が玄関から僅かに入ってくる。
 眩しさに目をつむりそうになるが、その向こう側には確かに、以前に見た顔があった。

上条「――――?」

滝壺「――――」 

 玄関口で何かを話す。
 普通なら聞こえるはずのそれ。なのに、今日は嫌なくらい遠くに聞こえた。
 それでも、インデックスは二人へ笑いかける。
 そうであることが自分の役目だと思ったから。

 無常にも、扉は閉まった。
 外から男女の会話が聞こえて、そして遠ざかっていく。
 足元にはスフィンクスが寄り添って、『どうしたんだー』とでも言いたげに彼女を見上げて鳴いていた。

禁書「……わたしは、とうまの選んだ答えに恨みはないよ」

 誰に言うでもなく。
 彼女はただ、漏らす。

禁書「でも、選んだ相手を泣かせたら……赦さないんだから」

 去ってしまった背中に対して、誓わせるように。



255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 21:06:21.05 ID:22eM99Qo
 二人は第七学区の道を歩く。
 休みの日の午前中はまだ人は疎らだ。遊んでいるのは小学以下の児童と、或いは遊びに出ているグループ。
 勿論、上条と滝壺は後者に分類される。

上条「なぁ滝壺、今日はどこいくんだ?」

 上条は電光掲示板のニュース……『第七学区:晴れ』などの物を眺めながら、隣歩く少女に問いかける。
 付き合う、とは言った。だが、何に、とは訊いていない。
 滝壺はうん、と頷いて一拍おく。

滝壺「洋服とか見に行きたい」

 洋服、と上条は繰り返す。
 今まで滝壺との用事の中に、そんな正しく『それ』らしい用事はなかった。
 だから変にもぞ痒く感じ、違和感を覚える。

上条「そんなのでいいのか?っていうか、俺男だし、そういうのに疎いんだが……」

滝壺「ううん、違うの。ただ洋服を見に行くだけなら、一人でも行けるから」

 ふっ、と淡い笑みが滝壺に浮かぶ。

滝壺「かみじょうと行くことに、価値があるの」

 思わず、生唾を飲む。
 そこまで言われてしまっては、一男子である以上付き合わないわけにはいかない。
 ……そもそも、自分と行くことに行くことになんの価値があるのか上条にはわからない。
 だが、彼にしては珍しく、『俺がいることで楽しめるって意味だといいな』、と僅かな望みを心に灯した。



256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 21:19:43.42 ID:22eM99Qo
上条「……なら、なんの役に立つかわからないけど……付きあわせていただきませう、姫」

 そして、また珍しく、エスコートをするように滝壺に手を差し伸ばす。
 気まぐれ、といえばそうなのだろう。しかし彼はそんなことを普通はしない。
 ……憎からぬ想いをい抱いている相手でなければ、そうは。

滝壺「…………」

 滝壺はその手を見つめる。
 そして、恐る恐るといったかんじに手を近づけた。
 瞬間、二人の視線が交差する。
 止まった一瞬を見逃さず、上条は強引に、滝壺が伸ばした手を掴みとった。

滝壺「!」

上条「一度繋いでるんだからさ、二度も三度も、同じことだろ」

 言いながら、上条は自分がAIM拡散力場を発していなくてよかった、と思った。それがあり、滝壺に感知されていたら、上条のそれは有り得ない動きをしていたことだろう。
 胸がばっくんばっくん心臓を叩く。それはもう、飛び出しそうなほどに。
 男子高校生とは言っても、中々身近に刺激がないと一度手を繋ぐだけでも心臓が高鳴る。

上条「……じゃ、じゃあ行くか!」

滝壺「…………うん」

 見ると、滝壺も無表情ながら、顔を真赤に染めていた。
 相手も恥ずかしがっていたことに安堵し、彼らはたどたどしくも歩みを進める。



257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 21:42:44.31 ID:22eM99Qo
 大通りを通る。
 上条は先程も言ったとおり、装飾屋に詳しいわけではない。
 だから一先ずは見て回って、適当なところがあったら入る、という戦法をとろうと思ったのだ。

上条「……そういえばさ、滝壺っていっつもそのジャージだよな」

 服といえば、で思い出して話しかける。
 首を傾げる滝壺をすとん、と見下ろす。
 ゆったりとしたピンク色のジャージ。色気も何もあったものではない。

上条(いや!上条さん的には色気とはどうでもいいんですけどね!)

滝壺「それがどうかした?」

 なしげもなく、滝壺は返す。
 口調からして、上条の質問の意図がわからない、と言っているようだ。

上条「いやさ、俺、滝壺の他の姿見たことないし……もしかしていつもはジャージ以外の姿、とか?」

 ふるふる、と首を横に。

滝壺「いつもこれ。暑い時は脱いでTシャツで、逆に寒い時は中に一枚着る」

上条「だろ?なのに、服を見に行くっていったからさ……もしかして新しいジャージとか?」

 再び、首を横に。
 滝壺はようやく上条の言いたいことを理解して、納得の行くように説明をつなげる。

滝壺「……いつもは動きやすいこれだけど、たまには他のもいいと思って」

 ――それが、かみじょうの気に入るものなら、なおさら。
 言外に告げるが、上条には届かない。
 自分の気持ちには気づきかけていても、やはり恋愛経験値の足りないお子様なのだ。



258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 21:59:41.46 ID:22eM99Qo
滝壺「そういえば、ここらへんだったよね」

 話が飛び、上条は慌てて滝壺の言葉を咀嚼する。
 ここらへんだった。
 何が、と思って周りを見渡す。
 車が走り、自動清浄機が歩道を行き来する。人の流れは少ないが普通の道路といえた。

上条「……何かあったか?」

 少なくとも、上条の記憶には見当たらず、首を傾げるのみ。
 彼にとって、ここは単なる通学路に他ならない。
 その反応に僅かながら、滝壺はジト目で上条を睨むように見た。
 人目もはばからず、反射的に土下座へと移行する。その間僅か一秒にも満たない。

上条「申し訳ございませんっ!……よろしければ、何卒教えていただきたく存じます……!」

 慣れているその行動に少々呆れつつも答える。

滝壺「……かみじょうと、初めて会ったところ」

 あ、と思い出す。
 確かに、この場所は見覚えがある――というのも、此処は基本的に色々な学校の生徒が入り乱れる交差点だからだ。
 つまり、平日にはナンパだとか絡むだとか、そういったものが後を絶たない場所でもある。上条はそういうのを見かけるたびに首を突っ込んでいる。
 だから、簡単に気付くことができなかった。ナンパから助ける、というのは恐らく相手にとっては特別なことだが、上条に取っては日常茶飯事だったから。

上条「あー……すまん、忘れてた。確かに、ここだったな……初めて会った場所」

 女の子というのはそういった記念日とか思い出の物を大事にするという話を聞いたことがあるので、素直に謝り、そして過去に想いを馳せる。



259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 22:22:32.85 ID:22eM99Qo

 所在なさ気に、ぼーっとしていた危なげな少女。
 それがあの時の第一印象だった。
 普通ならスルーして日常に帰るのだろうが、上条はそうはしなかった。
 それが彼が彼である所以だから。

上条「……最も、こんなふうになるなんて思っても見なかったけどな」

滝壺「私も助けてくれる人がいるなんて思ってもなかったよ」

 表の世界でも暗部の世界でも、手を差し伸ばしてくれる人はいないと思っていたから。
 だから、善人な上条当麻に惹かれた部分も少なからずはあるのだろう。

滝壺「……今さらだけど、もう一度いうね、かみじょう」

 滝壺は繋いだ手に僅かながら力を込める。
 それだけで彼女の緊張が上条にも伝わった。
 滝壺は至近距離で、少々背の高い上条の瞳を見て、今一度、お礼を言う。

滝壺「ありがとう、かみじょう。嬉しかったよ」

 やはり、どきっ、と、心臓が一際大きく脈を打つ。
 インデックスではこうはならない。
 御坂美琴ではそれよりも疑心が先立つ。
 姫神秋沙やその他の人でも――おそらくは。

 ここにきて、ようやく、遂に、上条はこの想いに確信を持つことができた。

 つまり、これは。
 『それ』だ、と。



264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/09(土) 23:49:54.95 ID:22eM99Qo
上条「……っ、た、大した事はしてねぇよ」

 顔を背けて、滝壺の言葉に答える。
 しかしきっと、上条の顔は滝壺に負けず劣らず、赤くなっていることだろう。
 なぜなら、ただ立っているだけで顔が熱くなっているのを感じるのだから。

上条「そんなのでいいなら……いくらでも助けてやる。どれだけ困難でも助けてやる」

上条「だから……困ったときには、遠慮なんてすんなよ?」

 言い終わると、やはり滝壺は笑い。
 上条は恥ずかしいことを言った、と更に顔を赤くした。
 厚顔無恥が自分のとりえだというのに、自分で言ったことを恥ずかしがっていてはわけがない。

滝壺「……早くいこう?きっと混んじゃうから」

 笑いの余韻を残しながら、滝壺は繋いだ手をくいくい、と引っ張る。
 上条はそれに答えず、しかし並び立つことで意志を示した。

上条「よし、それじゃあ滝壺にとびっきり似合う服を不肖わたくし上条当麻が選んでさしあげましょう!」

滝壺「うん、期待してる」

 手を繋いで歩く彼らは、傍から見たらまるで恋人のようだった。



265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:06:02.54 ID:XYt/V2co
 平たく言えば、上条当麻は抜け殻だった。
 どこかに飛んでいった、と言ってもいい。その結果、霊魂だけが抜けた状態のようになっているのだ。
 周りにある世界は、全て服。
 そして――下着。
 男子生徒にとって、これ以上無いぐらいの地獄の場所である。人があまりいなくても、その人がこちらをチラチラと窺っているのだから。
 つまり、今の上条当麻は抜け殻だった。
 ベンチに座り、天井を見上げて考えることをやめた、ただの――――。

滝壺「かみじょう、かみじょう」

上条「……………………」

滝壺「……………………」

 ストン、と横に座る。
 つつつー、と魂が抜けた上条の耳元に自らの顔を近づけて。

滝壺「ふっ」

上条「っ!?」

 ガタン!とはじかれたように耳を抑えて、立ち上がる。
 今までとは別の意味で、注目を集めることになった。
 何がおこったのかよくわからない上条に、滝壺は小さく溜息を吐いて手に持った袋を見せる。

滝壺「終わったよ。次は服」

上条「お、おう、わかった」

 言われるがまま、上条は滝壺の後を追って移動を開始する。



266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:15:59.69 ID:XYt/V2co
滝壺「……今度は、ちゃんと見てくれるよね?」

上条「いや勿論見るっていうか下着みるなんて上条さんは思ってませんでしたよ!?男性が女性の下着を一緒に物色してたらどう考えても気まずいでしょうが!」

 滝壺の言葉に、上条は猛烈に反撃する。
 彼らがいるのは、セブンスミストとはまた違う洋服屋。
 あそこは基本的に女性ものばかりだが、こちらには男性物もある。
 つまり、カップル御用達、ということだ。
 そこに入って真っ先にいく場所が下着、というのもどうかと思うが。

滝壺「……でも、次はちゃんと」

上条「わかってるって。ちゃんと滝壺に似合う奴を選んでやるから」

 その言葉をきいて、滝壺は満足したようにずんずんと先を行く。
 上条はどんなのが似合うかなー、と頭の中で想像しつつ、彼女の後を追う。

 季節の移り変わりの時期。
 洋服売り場には秋物はそこそこ、冬物が数多く出揃い始めている。
 上条は早速視線を素早く動かして物色し始めた。



267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:27:20.14 ID:XYt/V2co
上条「うーん……滝壺にはなんとなく、白系のものが似合いそうな気がするんだよな」

 確かにピンクのジャージも似合っているといえば似合っているのだが、それは違う気がする。
 夏場なら薄い生地のワンピース。春、秋ものならミニまでとは言わなくとも、膝位まであるスカートにハイソックス。
 今言ったとおり、白を基調にして組めばどことなく清楚なお嬢様風だ。

上条「だから……少し早いけど、このコートとか……って服じゃないな、忘れてくれ」

 首元が毛のようなもので覆われている、白のコート。
 上条的にはこれにプラスして毛糸調の帽子でも被らせれば最高なのだが、だがそれはあくまで外出用だ。
 服とは、また遠い。
 放っておいたら、ジャージの上に着そうだし。

上条「それじゃあ……こんなのはどうだ?」

 上条が選ぶのは、ふわふわのニットのワンピース。
 簡単に言うなら、絹旗が着ているようなものと考えればいいだろう。
 勿論、滝壺も真っ先に彼女を連想した。だが、彼女より大分長いものだが。

滝壺「……とりあえず、来てこようかな」

上条「ああ、俺はまだ他にも見ておくから」

 上条の手からそれを受け取り、滝壺は試着室へと消える。



268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:37:12.86 ID:XYt/V2co
 さて、ここで問題。
 Q1,試着室に着替え中の女の子が居ます。
 そこに男の子が見繕った他の服を持っていった場合、何が起こるでしょう。
 ヒントは男の子は不幸とも幸運とも言えないラブコメじみたイベントを引き起こす体質を持っています。
 正解は――――


滝壺「…………」

上条「…………」

 時が二人の間で止まる。
 下着状態の滝壺が上条が選んだ服を今まさに着ようとしている瞬間。
 同時、上条が幾つか似たようなものを滝壺に持ってきた瞬間。
 ストーン、と。
 試着室のカーテンが落ちた。

滝壺「………………」

上条「………………」

 数秒、数十秒、或いは数分。
 その間固まっていた彼らを誰も見ていなかったのは、奇跡に近い僥倖、不幸中の幸い、と言ってもいい。
 そして、その次の瞬間。
 世にも珍しい、少女の悲鳴が響いた。



269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:39:24.51 ID:XYt/V2co
本日は以上です。
上条と滝壺のデートをずっと書きたくて、ようやく実現しました……



270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:40:22.57 ID:X33sglQo
乙!激しく乙!!!



271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 00:54:22.40 ID:szBUasco
ワッフルワッフル



272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 01:04:10.28 ID:fT4MxNQo
くっ、やはり滝壺でも上条さんのエロイベントは回避できなかったか…



274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/10(日) 03:02:39.67 ID:5CyZtPMo
滝壺の悲鳴。想像つかんがなんかエロい、っていうかエロい。



次→滝壺「私は、AIMストーカーだから」【後編】

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