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滝壺「私は、AIMストーカーだから」【中編】最初から→
滝壺「私は、AIMストーカーだから」
288 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 21:50:07.14 ID:oFueuQ.o
上条「…………」
滝壺「…………」
あの滝壺悲鳴事件の後。
二人は何を言うでもなく、街を歩いていた。
彼らの間に会話はない。
正しく、『何を言うでもない』のだ。
上条(きっ!気まずい!!)
上条的には激しく不安に駆られてならない。
例えばインデックス。
もしあんな状況になったら、頭にガブリとくるだろう。
例えば御坂美琴。
もしあんな状況になったら、迷わずに電撃を飛ばしてくるだろう。
しかしながら、それが終わったあとは――何だかんだグチグチ言いながらも会話をするものだ。
それがどうだろう。この滝壺理后、なんのアクションも示さない。
とりあえずは購入した服をぶら下げて、チラチラと上条の方を見ては目をそらす。
傍から見ていると、ほんのり赤くなっているようにも思える。
しかし、それでも会話がないのは気まずいのだ。
上条(あーもうっ!!どうしてなんにも制裁がないんですかぁ――――ッ!?)
上条当麻は決して、Mなどではない。
しかしながら、制裁がないと居づらいのは事実。
そう考えると、なんというかインデックスの行動は二人の間に変な空気を漂わせない潤滑油になっていたんだなー、と実感する。
289 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 22:01:50.04 ID:oFueuQ.o
『ただいま、十二時をお知らせします』
空を飛ぶ飛行船が時刻を告げる。
今朝早くから出ていたはずなのに、いつの間にかこんな時間になっていた。
気がついたら急激にお腹が空いてきた気がする。
上条「…………た」
滝壺「…………?」
上条「……なんでもありません」
一言告げると彼女は素早く上条の方を振り向く。
しかし上条はその反応にこそ何かあると思ってしまい、萎縮し、黙らざるを得なかった。
そんな反応を見せると滝壺も何やら安心したような、或いは寂しいような表情を見せて、再び街中を歩く。
静寂という名の均衡が続く。
だが、そんな中でも。
やはりそれは壊されるものだ。
キュ~と鳴る。
それは決して上条当麻のものではなくて、隣の少女から。
彼女はハッとしたような表情をして下げていた袋を抱えるようにして上条の様子を伺った。
上条「…………あー」
察した上条は周りを見渡して。
ピッ、と一つのファミレスを指差す。
上条「……飯、食うか?」
答えるように、もう一度鳴る。
291 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 22:19:21.77 ID:oFueuQ.o
定員が迎えてくれたファミレス内はそこそこに混んでいた。
それはまぁ昼時だからであり、そんな中ですぐに通されたのは幸運の他何も無いわけだが。
上条(……嫌な予感がする)
なんとなく、上条には不幸の予感しかしないわけであり。
上条は身構えて、素早く見渡す。
それはモノを落としそうなウェイトレスなどではなく、いやそれも警戒すべきだが注文を持ってきたあとでも遅くはない。
彼がみるのは、客。
知り合いがいるかもしれないという可能性を考慮した上での、警戒。
勿論滝壺にはそれが不審極まりない行動に見えるわけで。
滝壺「……どうしたの?」
上条「……いや、なんでもない……多分、大丈夫だよな……」
一見して何も問題はなかった。
だからといって安心出来るわけではないが、一先ずは大丈夫。
上条「えっと……注文決めたか?」
滝壺「うん」
確認をとると、ウェイトレスを呼び上条は適当にハンバーグを注文する。
対する滝壺はちょいちょいとウェイトレスを側に呼び寄せて、耳打ちするように。
上条(恥ずかしいのかな?)
まぁ、確かになんとなく自分の注文を他人に聞かれるというのは僅かに気恥ずかしいものがあるから、上条は深く突っ込まなかった。
292 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 22:27:22.45 ID:oFueuQ.o
数分置いて上条の頼んだものをウェイトレスが持ってきた時に上条は警戒したが、危惧するようなことは起こりはしなかった。
しかし違和感――不幸の前兆は拭えない。
なんだ、なんだと考えるたびに泥沼にはまりそうなので、上条は一先ず話題を振る。
上条「お、俺のは来たけど、滝壺のはまだなんだな?」
滝壺「うん。先に食べてていいよ」
こらえきれなくなったように微笑を浮かべて、滝壺は言う。
そこで上条は自然な流れで先程の意味を聞く。
上条「何頼んだんだ?」
滝壺「……えと」
上条の問いに、彼女は所在なく視線を漂わせた後、答える。
滝壺「……ひみつ」
それ以上聞くのは野暮というものだ。
上条はそっか、とだけ返して、ハンバーグの片付けにとりかかった。
293 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 22:38:28.00 ID:oFueuQ.o
上条「……結局、来なかったわけだけど」
上条は最後の一切れを口の中に放り込む。
しかし、目の前にあるのは上条が食べたハンバーグの鉄板のみ。
滝壺は彼が食べているのをじっと見つめるだけで、居心地が悪かった。
上条「もしかして、何も頼んでないとか?」
滝壺「ううん、頼んでるよ。ただ、それと一緒に食べるべきでないから――来た」
滝壺の言葉に呼応し、上条が振り向く。
先導したウェイトレスが素早く上条の皿を下げる。
そして、次の瞬間。
ドン!と大きくテーブルが振動する。
その正体は、噂には聞き及んでいるが彼自身は食べている人を見たことがないもの。
上条「ジャンボ……パフェ?」
中にはフルーツやウェハースなど、具材は普通のパフェと何ら代わりはない。
しかし、驚くべきはその量。
通常のパフェのおよそ三倍。
滝壺「それじゃあ、いただきます」
疑いたかったが、やはりこれを頼んだのは滝壺だったらしい。
用意された二つのスプーンのうち、一つをとって早速食べ始める。
294 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 22:53:51.72 ID:oFueuQ.o
上条(それにしても……スゴイ量だ……)
その大きさには圧巻の一言しかない。
パフェというものはなんとなく軽いものだと思っていたが、認識を改めなければならないかもしれない。
確かにこれは、ハンバーグと一緒に食べることはできない。
上条(……全部、はいるのか?)
気になるのはそこだ。
女の子のお腹で、甘いモノが別腹、というのはよく聞くことだ。
だが細い滝壺にこれが全て入るとは思えない。
そんな心配な視線を送る上条に気が付いたのか、滝壺はようやく彼を見て、そして置かれたもうひとつのスプーンに目を落とした。
滝壺「……食べないの?」
上条「え、いや、これ滝壺の頼んだものだろ?こっちのスプーンだって、二刀流とかする人ようじゃないのか?量多いし」
295 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 23:06:28.43 ID:oFueuQ.o
滝壺はううん、と首を振る。
滝壺「だって、これカップル用」
ガタン!と上条は大きな音を立てて立ち上がる。
辺りからの奇異の視線が彼を貫くが、そんなことはどうでもいい。
問題は――そう、問題は。
上条「どうしてカップル用なんて頼んでいるんだよ!?」
その一言に尽きる。
いや、確かに滝壺とカップル……なんて、嬉しくないはずがない。むしろ嬉しい。
しかし、こんな堂々とは流石に恥ずかしいものがあるし、そもそも滝壺はそれでいいのかと。
上条(滝壺はそれで……)
滝壺「…………だめだった?」
上条(……いいん、だろうなぁ…………)
きっと彼女は周りからどう見られか、など考えてはいないのだろう。
こうなれば、彼も腹をくくる。
296 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 23:20:17.60 ID:oFueuQ.o
座り、スプーンに手を伸ばした瞬間。
スススッ、と滝壺がそのスプーンを取り上げる。
上条「え」
彼は何か言おうとして上を向く。
そこにあったのは、口元に寄せられたスプーンだった。
上条は再び、思考が停止する。
別にスプーンが宙に浮いて上条の口元に寄せられているわけではない。
それの先を辿ると、辿りつくのは勿論滝壺。
上条「あ、あのー……滝壺、さん?」
思わず一歩引くと、その分寄せてくる。顔をそらしてみても、それに付いてくる。
つまるところ、これが指すところは一つ。。
滝壺「……あーん」
それは、漫画やアニメに置いてよくあるシーン。
カップルなどが食べさせ合いをするもので――つまり、このパフェにはうってつけのシチュエーション。
297 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 23:34:01.06 ID:oFueuQ.o
嫌な予感。
それがプンプンした。
これを食べることではない、食べた後に起こる何か、それに対して。
上条「いやいや、待ってください滝壺さん!」
上条「そもそも量が欲しかったからカップル用を頼んだということで説明がつくのであって、カップル用だからそんなことをしなきゃいけないというわけではありませんですよ!?」
上条「そっちのスプーンを渡してくれたら、上条さんも普通に食べますかr」
滝壺「あーん」
上条「…………」
どうやら聞く耳を持たないらしい。
一つのパフェに対して、二回腹を括る事になるなど思っても見なかった。
上条は観念して、その出されたスプーンを咥える。
瞬間、間接キスという単語が脳裏をよぎった。
298 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/23(土) 23:46:21.25 ID:oFueuQ.o
滝壺「……どう?」
上条「……うん、おいしいってか甘い」
滝壺「それじゃあもう一回」
上条「それだけは勘弁して……くだ…………」
上条の言葉が途切れる。
それは、滝壺からは見えない背後。
窓、そしてその外。
そこにいたのは、ただのクラスメート。
しかし、節操のないことを全くもって赦さない、実行委員には目がない(実行委員をしている男に目がないというわけではない)委員長属性を持つ少女。
そしてその隣には、もう一人、黒髪長髪の少女が立っている。
その少女は驚いたように見ているだけだが、隣の委員長属性少女は今にも恨みだけで人を殺せそうな眼で上条を睨んでいた。
上条「は、はは、ははは……」
乾いた笑い。
インデックスや御坂美琴よりは問題はない。
……が、制裁を加えられる点では何ら代わりがない。
上条「不幸だ――――――――――ッ!!!」
久々に、大声でこれを叫んだ気がする。
300 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/24(日) 00:09:06.30 ID:LQhcO4Eo
上条「……疲れた…………」
時刻は夕方。
街角で彼らは一息入れる。
昼間遭遇した吹寄制理、姫神秋沙を皮切りにして、様々な人と遭遇した。
土御門元春、青髪ピアス。
御坂美琴、白井黒子。
月詠小萌。
土御門舞夏。
御坂妹、打ち止め。
恐らくは、上条が知っている学園都市の知り合いほぼ全員と会ったのではないだろうか。
幸運なのは、一方通行に出会わなかったことだろう。
それでも……一度会うたびに一悶着あっては、疲れるのも道理だ。
滝壺「……かみじょうって、女の子の知り合い多いんだね」
上条「んー……?そうか?ふつうじゃないか?」
普通、ではないと思う。
彼ぐらいに友好関係が広いのは、そうそう居ないだろう。
滝壺は空を見上げた。
そこには夕焼けが広がっている。きっと明日は晴れだ。天気予報でもそう言ってる。
上条「……そろそろ、お開きにするか?」
上条はそう提案する。
もう暗くなる。一度ご飯を食べに来たことはあったが、今回それはないだろう。
なら、別れるなら早いほうがいい。
滝壺は数秒空を見つめた後、いつもの表情で上条を見遣った。
滝壺「……行きたいところがあるの」
最後に――と付け加えたのは、風に消える。
301 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/24(日) 00:18:52.74 ID:LQhcO4Eo
道路から外れる。
人の気配が消える。
彼らが行くのは、そんなところ。
上条「……ここは」
過去に、来た覚えがある。
学校帰りになんとなくこっちに行きたくなって、来て、そして再開した――公園。
人は居ない。前は子供が遊んでいたはずなのに。
そんなことを思いながら立つ上条の手を、極自然に滝壺はつなぎ、引く。
滝壺「座ろう」
上条「……ああ」
流されるまま……ではないが、少年と少女は、そのままベンチに座る。
周りの木々が夕焼けの光を浴びて、燃えているようにも思えた。
滝壺「…………」
上条「…………」
今日、幾度目かの沈黙。
しかし、これは今までのとは気色が違う、と上条は感じた。
302 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/24(日) 00:31:38.64 ID:LQhcO4Eo
滝壺「……ここで、かみじょうと再会したんだよね」
滝壺はぽつり、という。
上条はそうだな、とつぶやいて、続ける。
上条「あの時は驚いたよ、ほんと。風紀委員を通してじゃなくて、直接届けにきてくれたんだから」
滝壺「まだ、私達はお互いを知らなかったからね」
くす、と彼女は笑う。
なんだか、上条と会ってから感情表現が多くなった気がした。
滝壺「かみじょうは不思議だったから。皆通りすぎていくのに、私を助けてくれた」
上条「いや、困ってる奴がいたら助けるだろ、普通……」
滝壺「ううん、かみじょうは普通じゃないよ。かみじょうにとっては普通なのかもしれないけど、現に助けれくれたのはかみじょうだけだったから」
そうして、また静寂。
人の訪れることのないこの場所では、彼らの発する声と、あとは風の音ぐらいしかない。
303 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/24(日) 00:44:05.35 ID:LQhcO4Eo
滝壺「……今日まで、ありがとうね」
それは、つい先日までのことについて。
『幻想殺し』の検証という名目で行った実験、その協力。
上条「いや、だから大した事してないって。……それに、痛かったのも最後だけだしな」
最後の科学的なものを用いた攻撃を除き、あとは立っていて話たりする程度だった。
だから、上条的には何かした、という実感はない。
それどころか、自分の為に動いていたような気もしている。
滝壺「でも、言わせて」
キュッ、と上条の手に力が加わる。
それは滝壺が勢いつけて言うためにつないでいた手を握りしめたから。
そして、彼女は告げる。
滝壺「ありがとう」
滝壺の、淡い笑顔。
上条はそれをみて、うつむき、やはり――と思う。
ああ、やっぱり――自分は、この目の前の少女を――――、と。
上条「……滝壺、俺は、」
顔を上げてそう言いかけた言葉。
それを、上条は止めざるを得なかった。
別に予想外の出来事が起こり、息が詰まったというわけではなく。
攻撃されて、言葉を紡げなくなった、ということでもない。
単純に、物理的に口を塞がれた。
目の前に或るのは滝壺の目を瞑った顔。
塞いでいるのは同じものと誇張しているような近さ。
つまり、それは。
キス、というものだった。
304 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/24(日) 00:54:16.53 ID:LQhcO4Eo
それは、たった数秒のことだっただろう。
滝壺は寂しそうな笑みを浮かべたまま身を離し、手を放し。
そして、紡ぐ。
滝壺「じゃあね、かみじょう」
タンッ、と地面を足が叩く。
少年へと背を向ける。
もう、二度と会うことがないだろう少年から離れていく――。
パシン、と腕を掴まれた。
驚きに心臓が止まるかと思った。
振り向くと、少年も驚いた顔でこちらをじっと見つめていた。
しかし、チャンスと思ったのか、彼も言葉を言う。
上条「……また、な」
少女の胸が引き絞られた。
それは、約束。
二度と会わない、という挨拶をした少女を縛る、もう一度あおう、という約束。
少女はその彼の手を振って。
そして、紅い公園の中を駆け抜けていく。
少年はただ少女を見送って。
そして、少女に不意打された唇をなぞる。
322 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 22:18:46.76 ID:mmUPI6Ao
土御門「なるほど、なるほど……」
土御門元春はやっと合点が言ったように呟いた。
手元にあるのは一枚の資料。
彼がさんざん調べた結果手に入れたモノ。
土御門「確かに、『幻想殺し』をそうでない、と認識させるには彼女でなくとも、とは思っていたが……」
『幻想殺し』を超能力であると否定するのは、別に『能力追跡』でなくとも構わない。
なぜなら、その筋のプロフェッショナルが彼と親睦を深め、それを調べ、そう言うだけでいいのだ。
事実、結論を出したのは布束砥信であり、滝壺理后ではなかった。
土御門「……確かに、これは。俺でも、魅力的には感じるにゃー……」
ポス、と投げやりにそれを投げる。
別にここは自分の部屋で、隠れ家だ。誰に見られる心配もない。
それには、こうある。
『滝壺理后超能力者進化計画』。
それは、一人で学園都市の全てを補える能力への進化方法。
土御門「確かに、同時に進めるならこれ以上ない逸材同士だ。特にカミやんのフラグメイカーは筋金いりだからな……」
肝心の『幻想殺し』の秘密がわからなかったが、まぁそれはかまわない。
なんとなく自分には確信があるからだ。上条当麻は、そんなつまらないことに惑わされない、と。滝壺理后のことも、『幻想殺し』についても。
だから土御門はおもむろに携帯を取り出して、コールする。
三回コールしたところで、ブツッ、と音が、続いて返事が返ってくる。
そんな彼に、土御門は告げる。
土御門「もしもしカミやん?学園都市第四位『原子崩し』って知ってるかにゃー」
323 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 22:33:59.71 ID:mmUPI6Ao
彼女らの仕事、というのは毎日あるわけではない。
それでも集会は頻繁にあるわけだが。
だがその仕事も、最近はなんとなく連続しているように思えた。
滝壺(だけど……私にはただやるだけだから、関係ないけど)
絹旗「滝壺さん、隣いいですか?」
滝壺「表は?」
絹旗「ここから飛び出しても大して変わりませんよ」
そう言って車内に入り込んだ
今日はどこからかの防衛戦らしい、フレンダが既に防衛地に入って爆弾を仕掛けている。
麦野はそれが零した奴の駆除。
フレンダは優秀だが、爪が甘いからよくひとりふたり見落とすため、バックアップが必要なのだ。
更に絹旗、滝壺がそれのフォロー。ここまで来ることは滅多にありはしないのだが。
絹旗「……今日はどうだったんですか?」
滝壺「……なにが?」
絹旗「例の少年のことですよ。今日も行ってきたんでしょう?」
絹旗の言葉に、滝壺は黙る。
確かに、行っては来た。だがそれは語るようなものではない。
デート、だなんて愛らしいものではなく、最後のお別れだったから。
324 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 22:47:56.45 ID:mmUPI6Ao
滝壺「別に、なにも」
平静を装ってそう返す。
感情に乏しいためか、絹旗は気付かなかった。
絹旗「春、ですね。もうすぐ超冬ですけど」
絹旗は窓の外を眺めながら言う。
外からこちらの様子は見えない、特殊仕様のガラスだ。
この中にいると、さながら出られない檻に閉じ込められている気分になる。
さながら、間違ってはいないが。
絹旗「浜面もそろそろ彼女ぐらい超探したらどうです?」
浜面「簡単に探せるんなら苦労しねぇよ!」
絹旗「それもそうですね」
運転席へと呼びかけ、絹旗はくすくすと笑う。
絹旗「兎にも角にも、私たち的には滝壺さんに幸せになって欲しいと思ってますよ。……麦野は、すこしわかりませんけど」
浜面「そうだぜ、滝壺。もしお前を泣かせることがあったら、あんなヤツぶっとばしてやるからな」
滝壺「……うん、ありがとう」
彼女はお礼を言う。
今は、 自分の幸せを願ってくれている二人に対して、心からそう思った。
325 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 22:56:52.65 ID:mmUPI6Ao
滝壺「……でも、私は――」
もう、彼とは会わないから。
そう言おうとした瞬間に、ガラッ、とドアが開く。
フレンダ「ふぃー……つかれたー」
ぐでっ、としたフレンダが車のシートにもたれかかる。
絹旗は超お疲れ様です、と言って、もう一人の姿を探す。
……が、それは影も見えなかった。
フレンダ「あー、滝壺ー、麦野がアッチで呼んでたよー」
滝壺「むぎのが?」
フレンダ「うん、なんか色々あるんだってさ」
フレンダは言葉を濁し、自分が今来た方向を指す。
いつもならば、能力者が逃げたから、というのが彼女を呼ぶ理由だろうが。
今日に限っては、なにやら違う気がした。
滝壺「……わかった、行ってくる」
絹旗「気をつけてくださいね」
絹旗の言葉を背に受けて、滝壺は施設の中へと向かう。
違和感を胸に秘めたまま。
326 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 23:06:58.96 ID:mmUPI6Ao
滝壺が去った後、数秒の沈黙が訪れる。
それを壊すのは、絹旗。
確認するようにフレンダに言う。
絹旗「……フレンダ、もしかして、麦野は……」
フレンダ「あー……うん、そう」
肯定。
最後まで言わずとも、理解はできる。
麦野は滝壺の居場所を奪うつもりだ、と。
それをわざわざ滝壺に告げる意味は単純明快だ。
縛るため。
或いは、脅すため。
もう会わないと約束しないと。或いは、能力をちゃんと使えと。
もしくは、その両方。麦野ならきっと、両方を選ぶ。
浜面「……なんていうか、俺らにはどうしようもないことなのかな」
絹旗「……少なくとも、私たちにはとめる権利は超ありませんね」
一度見逃されている身の上。
逆らったら、間違いなく死が待つだろう。
絹旗「願わくば、滝壺さんが無事であることを――――ん?」
フレンダ「どうしたの、絹旗?」
絹旗「……いえ、なんでも」
駆け抜けていく影のようなものが見えた気がしたのは、きっと気のせいだろう。
絹旗はそう片付けて、滝壺の無事を祈った。
327 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 23:20:33.73 ID:mmUPI6Ao
こつこつ、と足音が反響する。
辺りには重器材が惜しげもなく置いてある。
もっとも、ここを戦場にする時点で重要なものは移しているためにここにあるのは全く必要ないものなのだが。
他には天井が崩れたあとの瓦礫――フレンダがツールで落としたもの――が沢山落ちている。
その奥に、彼女はいた。
動かない人間の中心にありながら、返り血一つ浴びている様子もなく。
麦野「ああ、やっときたか」
そこにいつもの軽い口調はない。
いやキレている時に比べれば今は随分とマシなものだが、それでも、だ。
滝壺「どうしたの、もう終わってるみたいだけど」
麦野「あー、これ関係ないから気にしないで」
うん、と答えてからおかしく思う。
動かない人間を気にしないで、等というのはおかしいだろう。
そして、それに躊躇いもなくうん、と答えれる自分もどこか人としてズレている。
滝壺「それで……どうしたの?」
麦野「あい、んじゃ、単刀直入にいうわ」
麦野は一拍置いた後、告げる。
麦野「滝壺の知り合いの、あの上条当麻とかいうの、殺すことにしたから」
330 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 23:29:58.41 ID:mmUPI6Ao
自分はいま、どんな顔をしたのかわからなかった。
唖然としているのか、呆然としているのか。
怒っているのか、悲しんでいるのか。
或いは、いつもどおりに無表情なのか。
それほどまでに、滝壺は自分の中に沸き起こる感情が制御できなかった。
滝壺「どうして」
思わず、口をついてそうでていた。
それが間違いだと気付くのは言ってから。
麦野「やっぱ、ねぇ……」
麦野は足元の動かないそれを掴み、投げ飛ばす。
それは受身すらとらず、地面を赤く染めながら転がる。
麦野「今のが答えよ、滝壺。反射的にどうして、なんて口に出るくらい、あれの事が大事大事ってことでしょ」
麦野「このままだったら、この先の仕事に支障が出かねない。だから、殺るの」
それは、前々から麦野が散々思っていたこと。
どうせ後数回で壊れるかもしれないが、使えるものは限界まで使うのが彼女だ。
だから邪魔な存在を破壊する。当然だ。
331 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 23:39:57.44 ID:mmUPI6Ao
滝壺は気持ちを落ち着ける。高ぶった感情をぶつけても意味はない。だから数回深呼吸して返す。
滝壺「その心配は、ないよ」
麦野「なんで?」
滝壺「だって、かみじょうとは……今日、別れを告げてきたから」
そうだ。
自分は上条当麻とは、もう既に接点を絶った。
彼を殺す理由は、何一つないのだ。
麦野「ふぅん……なるほど、なるほどねぇ……」
タンタン、と足先だけを動かして音を響かせる。
思考までの場つなぎ。
麦野「……じゃ、今すぐ殺すのはやめにするとしても、一応保険かけておくわ」
滝壺「保険?」
麦野「そ」
滝壺の鸚鵡返しに麦野は短く答える。
そして、指を二つだけ立てた。
麦野「一つ。上条当麻と、もう二度と会わないこと。二つ、能力を使う際にためらわないこと」
麦野「これを守れなかったら、即アレを殺す。今ここで守れないっていっても、今から殺しに行く」
その言葉には、ありありと本気が見て受け取れた。
彼女は、やるといったらやる。
麦野「さぁ、滝壺。誓いなさい」
332 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/26(火) 23:46:57.05 ID:mmUPI6Ao
滝壺「――――」
誓う。
誓える。
上条当麻とは関わりを持たないのだから、誓える。
滝壺「――――――」
……だというのに。
喉は震えず、自分の言うことを聞かず、それを誓わせない。
『――また、な』
リフレイン。
夕焼け、別れ際。
また今度、と言う意味の、別れの言葉。
大切な人と交わした、交わされた、約束。
滝壺「――――――――」
どれだけ、麦野に誓おうとしても。
それは、全く叶わない。
当たり前だ。
大切な人と、大切になった人と別れの言葉一つだけで別れることなど元から出来はしないのだから。
それが、更に約束を交わしたとなれば、尚更。
333 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/27(水) 00:00:02.04 ID:OdA.cwQo
そんな彼女を、麦野はやっぱり、と言った面持ちで見つめる。
彼のために誓おうとして、しかし誓えない彼女を冷たい視線で射抜く。
麦野「……もういいわ、滝壺」
こうなれば、やはり当初の予定通りに決行する。
そうすれば、滝壺の居場所は奪われ、能力を使うのに躊躇う理由もなくなるのだから。
麦野「殺るわ、あいつ」
滝壺が息を飲むのがわかった。
だが彼女はそんなことを意にも快せず、髪を掻き上げて彼の元へと向かおうとする。
約束を守らないならば、彼が殺される。
けれど、約束を守ることなどきっとできない。
ならば、どうする?どうすればいい?
答えは、一つしかない。
そうだ。
彼にも言ったはずだ。
『私は、大能力者だから』。
『私は、AIMストーカーだから』。
だから、無能力者の上条を守ってみせる、と。
滝壺「……行かせない」
当然、彼女は立ちふさがる。
麦野は最初から、それすらも想定している。
麦野「だったら、滝壺を倒してテメェの前でアイツをぶっ殺してやるよォォオオオオオオオオッ!!」
滝壺は一直線に向かってくる麦野に対して。
ポケットからそのケースを取り出し。
中の粉を、嚥下した。
343 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/30(土) 21:22:44.25 ID:F6kfzBMo
上条当麻は走っていた。
それは、つい先ほど来た土御門元春からの電話によって。
滝壺と別れて、数十分。
適当に食材を買って帰り、インデックスと食事をとり終えた後。
ふとテーブルに置いておいた携帯を拾い上げたその瞬間に見計らったかのようにベルが鳴った。
表示されるのは、隣人の名前。
怪訝に思いながらも通話ボタンを押し、自分だと言うことを示す。
上条「はいはい、こちらカミジョーですよ」
土御門『もしもしカミやん?学園都市第四位『原子崩し』って知ってるかにゃー』
開口一番、そんなワケの分からない質問が飛んできた。
内容を理解するのには三秒とかからないが、どうしてそんな質問をしてくるのかが理解できない。
上条「……はぁ?第四位って……あれだよな、御坂が第三位だから……」
土御門『そうだぜい、第四位は『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』に続く二三〇万人の上から四番目の存在だぜい』
上条「……で、その……めるとだうん?さんが俺に何か関係あるのか?」
土御門『いやいや、カミやんにというより、カミやんが最近親しくなった人、かにゃー』
ついでにメルトダウンじゃなくて、『原子崩し』だぜい、という言葉を遠くに、上条は思考する。
最近親しくなった人物。その存在といえば、一人しか存在しないだろう。
344 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/30(土) 21:40:08.40 ID:F6kfzBMo
上条「……土御門が、どうして滝壺のこと知ってるんだ?」
土御門『土御門元春ことつっちーさんはスパイですよ?いまや危険度の高い上条勢力を把握しておくのは当然だとおもうんだがにゃー』
なるほど、とは思う。
『御使堕し』の時にそれは既に知っている。優秀だということも。
上に報告する、しないにしてもそういった情報を取得しておくのは極自然なことだと理解した。
土御門『ま、それはそれとして……その滝壺さんがピンチだって知ったらカミやんどうする?』
上条「え、どういうことだ!?」
当然の大声に、テレビの前を陣取っていたインデックスは思わず彼を見上げる。
上条はそんなことを介にせず、続けた。
上条「どうして滝壺がピンチなんだよ!?土御門、何か知ってるのか!?」
土御門『まーまー、落ち着けよカミやん。いや、今は一分一秒が大事だが、それよりも冷静になる方が先決だぜい』
土御門『とりあえず続けるのがご所望みたいだから続けるが、一度しか言わないからな?』
上条は途端に喉を鳴らす。
一言一句聞き逃すまいと耳に神経を集中させる。
土御門『滝壺理后とその第四位は……そうだな、依頼を受けるチームとでも思ってくれればいい、そのチームメイトなんだ』
土御門『基本的にそのチームというのは……活動はいいか、とにかくまぁ、おおっぴらには出来ないものと認識してくれ』
上条「……それがどうして滝壺の危機に繋がるんだ?」
土御門『話はまだ途中だ。とにかく全部聞けよ』
逸る上条を土御門は戒める。
345 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/30(土) 21:53:31.78 ID:F6kfzBMo
土御門『滝壺はそのチームの中でも一際重大な役割を担っている。その理由は珍しい能力ゆえに』
『能力追跡』。一度補足した能力者は、例え太陽系の外に逃げても位置を確認することが出来る能力。
それが珍しい能力だということは上条は聞いた時から分かっていた。
土御門『……滝壺はその能力を全力で使うには、とある物質を利用しなければならない』
上条「とある、物質?」
土御門『カミやんには聞き覚えがないだろうが……『体晶』っていう奴だ。意図的に能力暴走を引き起こす物質。身近なもので言うと大麻みたいなものだ』
能力暴走――と、声に出さず紡ぐ。
それがどんなことを意味するか、上条はあまり理解出来ない。だが、大麻と同義から危ないことだということはわかる。
土御門『それを使わずともそこそこは能力を使用できるが、彼女はそれを使って初めて、大能力者というレベルになる』
土御門『……そこまでしなければ、実戦では使えない。それはカミやんでも理解できるだろう?』
上条「……日常で役に立つレベルがレベル3で、戦術的な価値を持つようになるのがレベル4……だろ?」
土御門『その通り。そして、彼女らのチームの依頼というのは、主に戦闘……つまり、そこでいう戦術的な価値が必然的に求められるわけだ』
上条「っ」
ここまで言われれば、馬鹿でも気がつく。
上条「ってことは、その『体晶』って奴を滝壺は何度も使ってるってことなのか!?身体に悪いのを承知で!?」
土御門『ああ、そうだカミやん』
上条の驚きと怒りを秘めた言葉を、土御門は静かに肯定する。
346 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/30(土) 22:05:24.49 ID:F6kfzBMo
土御門『だが、聞け。彼女はそれを使いたくない、と最近思い始めてきたんだ』
土御門『今までは思わなかったが、身体が壊れてしまうのが恐ろしいと。大切なものを目の前にして、その考えが浮かんできた』
土御門『その大切なモノ……何かわかるよな?ここでわからないとかほざいたら一撃入れに行くぞ』
上条「……俺、か」
言って、空気にそぐわず、なんとなく嬉しくなる。
自分が思っていたように、相手も自分を思ってくれていたんだ、と。
ただのギブアンドテイクの関係ではなかったんだ、と。
土御門『だが第四位は非情だ』
上条の耳に、そんな声が響く。
土御門『アイツは自分以外の人間がどうなろうが、知ったこっちゃない。その身が滅びようが、死ぬまで能力を使い続けさせるつもりだ』
土御門『その為に邪魔な存在は、消す。つまり、カミやんを消そうとしていたわけだ』
上条「……え?」
妙に現実味のない言葉があった。
消す。
土御門はさらりといってのけたが、それは異常なことではないか。
引き離すでも別れさせるでもなく、消す。
文字通りの意味以外に捉えるには、あまりにも難しい文字。
そこで、カチン、と合点が言った気がした。
滝壺は何か思いつめていたような表情をしたこと。
じゃあね、という単語が嫌に重く感じたこと。
またな、と言ったときに悲しそうな顔をしたこと――――
348 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/30(土) 22:20:51.20 ID:F6kfzBMo
上条「滝壺は……俺を守るために、別れた?」
土御門『……お前たちの間に何があったのかわからないが、そう感じたならそうなんだろう』
土御門『しかしながら。第四位はそんなことでは納得しない。きっと彼女はこう言う』
土御門『「もし、能力を全力で使わなければ、お前の大事なものを奪う」、と』
何故、という言葉が浮かぶ。
滝壺が意を決して、守るために別れたというのに。
どうして、そこまで念入りに押し込む必要があるというのか。
芽生えるのは、怒り。
携帯を持っていない手に思わず力が入り、爪が手に食い込んで小さく血が流れる。
土御門『このまま滝壺理后が『体晶』を使い続けると、彼女はおそらく死ぬ』
土御門『それを止めたいか?彼女を取り戻したいか?』
上条「ったりまえだ!そんな人間を使い捨てな道具としか思ってない奴に滝壺を任せていられるか!!」
土御門はそうか、といい。
一つの場所を告げる。
土御門『……そこで、今彼女らのチームが仕事をしている』
土御門『彼女を救いたいなら、助けたいなら。行け、カミやん』
上条「……サンキューな、土御門」
349 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/30(土) 22:26:48.11 ID:F6kfzBMo
上条は短くそう言って、電話を切る。
そのままそれをポケットに滑り込ませ、上着を羽織った。
禁書「……とうま、どこかにいくの?」
上条「ああ、少しな。すぐ戻ってくる」
少し冷淡かな、と言ってから思った。
しかしインデックスはそれに対して睨みもせず、文句も言わず、ただ言う。
禁書「とうま。別にケガするな、とか、私も連れてって、とかはいわないかも」
禁書「だけど、これだけは約束して」
インデックスは真剣な顔をして、上条を見詰める。
そこに、様々な感情も込めて。
禁書「絶対に、りこうを連れて帰ってくるって」
インデックスは、言う。
大事な人を連れ帰ってこないと赦さない、と。
上条はそれに一瞬だけ呆気にとられて。
そして、頷く。
上条「勿論。絶対に滝壺は連れて戻ってくる」
それだけ言い。
夜の街に、彼は飛びこんだ。
356 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/31(日) 00:07:14.85 ID:AyXQmREo
バシュン、と頬をそれが掠める。
本来ならそれは肩を貫いていたはずだ。その事実に麦野は舌打ちをする。
乱されている。
滝壺「っ」
至近距離、真横に振るわれた拳を滝壺は屈んで避ける。
顔面に膝が迫る。
思わず手で受け止めようと試みるが、その勢いのまま真正面から膝蹴りを受けた。
がしゃん、とポケットからスタンガンがこぼれ落ちる。
彼女の武器だ。
いくら後衛と言ったって、戦闘に巻き込まれることはある。それが野戦というなら尚更。
だから絹旗は危なっかしい滝壺には余程使用法を間違えなければ自滅もしないこれを手渡した。
しかしながら、目の前の女性にこれは効かない。電子を操る存在に、効くほうがおかしい。
麦野「……へぇ」
麦野は足元まで転がってきたそれを拾いあげて、試しに手元でスイッチを入れる。
バチバチバチ!と市販のそれより強い電気が爆ぜた。
僅かに、暗闇を照らす。
麦野「……滝壺。アンタのせいでさ、無闇矢鱈に能力使えないのよね」
麦野「能力乗っ取ろうとしてさ、AIM拡散力場乱しやがって……アンタを殺すつもりはないんだから、大人しく――ッ!」
ブゥン、と眼前にそれが出現した。
麦野は思わず首を無理矢理に反らす。
『原子崩し』。麦野沈利の能力。それなら、避ける必要などない。
しかし。
今は、何の意識もしていなかった。
358 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/31(日) 00:15:41.99 ID:AyXQmREo
瞬間、麦野の顔があった部分を、それが射抜いた。
一歩でも遅れていたら自分の目が刳り抜かれていたことだろう。
能力の暴走、或いは乗っ取り。
考えられるのはそのどちらか。そして、そのどちらも目の前で立ち上がる少女に可能なこと。
滝壺「……かみじょうのところへは、いかせない」
口の端から血が垂れる。
先程の膝蹴りでどこか切れたのだろう。受け止めたはずの左手も真っ赤に腫れている。
それでも、立ちふさがる。
今までの滝壺理后には見られない兆候。
それほどまでに、その男が大事なのか。
麦野(……もういっそ、ここで捨てたほうがいいか?)
自分の身を犠牲にしてまで守りたい男を殺すと、別の意味で彼女は壊れてしまうかもしれない。
ならば、いっそ彼女も、その男も両方共殺してしまうというのはどうだろう。
ああ、それは名案だ。なにせ、照準がズレているからといって『原子崩し』を封印する理由にはならない。
麦野「……そうだな、そうしよう」
麦野沈利は冷静さを欠いていた。
どちらかを殺せばもう片方は片付ける必要はないというのに、彼女は今感情に任せている。
359 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/31(日) 00:30:29.46 ID:AyXQmREo
麦野「喜べ滝壺。一緒にあの世に送ってやるよ」
麦野はふらふらとして今にも倒れそうな滝壺へと一歩踏み出す。
彼女の血の気は引いて、回避行動も取れなさそうだ。
つい、と手を伸ばして、そこに『原子崩し』を生み出す。
酷く照準がずれている。だが第四位の演算能力を以てすれば、そんなものどうにでもなるだろう。
麦野(……射出方向左に69°、上に53°修正)
えらく手間がかかるが、まぁ仕方があるまい。
どうせ避けられないのだから、時間をかけてもいいだろう。
狙いは、頭。
麦野「……射出」
ズバン!と打ち出された『原子崩し』は自分の足元、脇腹にも飛び、焼けるような痛みが走った。
しかし、滝壺へと放ったそれは真っ直ぐに、彼女の頭に吸い込まれる。
殺した、と思った。
しかし前触れもなく、彼女はふらっ、とそれを避ける。
麦野「なんっ、」
追撃しようと駆け出しかけるが、彼女は重力に逆らわず、地面へと叩きつけられた。
今のは避けたわけではない。その答えは至極単純。
限界が来たのだ。
360 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/31(日) 00:43:04.21 ID:AyXQmREo
麦野「…………」
滝壺はもう動かない。
恐らくは、もう一、二度能力を使うだけで崩壊するだろう。
利用価値など殆どない。
滝壺「……いか、せ。な…………い」
荒い息の中で、滝壺はしきりに呟く。
しかし、動かない。動けない。
既に、麦野沈利を邪魔するものはなくなっていた。
麦野「はっ」
彼女は鼻で笑う。
コツコツ、とわざとらしく地面と脚をぶつけて、至近距離で彼女を見下ろした。
麦野「ざまぁねぇなぁ滝壺。私を止めようとして、逆らった結果が自分の破滅か!」
麦野「このまま殺してもいいが……放っておいても死にそうだからな。そうだな、やっぱり当初の予定通り、上条当麻を殺しに行くとするか!」
ぴくり、とだけ滝壺は反応する。 しかし、それだけだった。
ケラケラケラ、と麦野は笑う。
心底、面白そうに。
麦野「ほら、ホラァアアあああああああっ!!もっと抗ってみろよォオオオオおおおおおお、殺させねぇんだろォオオオオおおおおおおおおおお!?」
ガッ、と滝壺の肩に脚を引っ掛ける。
そして、ゆっくり、ゆっくりと万力のように力を加えていく。
滝壺の顔が悲痛に歪み、その肩はミシミシと音を立てる。
滝壺「っ…………ぐ、ぁ……っ……!」
麦野「ふっ」
麦野は力を乗せ、踏み込んだ。
なんとも、形容しがたい音が鈍くして。
滝壺の絶叫が短く響いた。
361 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/31(日) 00:56:33.37 ID:AyXQmREo
麦野「……運がよかったねぇ。『ハズレタ』だけですんで」
麦野はその腕を、軽く蹴る。
それだけで激痛が走るのか、滝壺は悲鳴をあげた。
滝壺「あ、ぐ……ぅ…………」
麦野「『あぐぅ』って萌えキャラかよ。それなら、もっと愉快にしてあげましょうかねぇ?」
ガッ、と滝壺の顔をアイアンクローで掴み、そして引き上げる。
それだけでも滝壺から声が漏れる。
……いや、もはや声とも言えない。呻き声に他ならない。
麦野「さぁて……死にかけのお前の前で大事な大事な彼を殺すのと、お前の顔をぐっちゃぐっちゃにして、それをその彼の前に差し出すの、どっちがイイ?」
それはもはや、選択ですら無い。
どちらを選んでも、向かう方向は決まっているのだ。
即ち、絶望。
滝壺「……ぁ」
滝壺は漏らす。
痛みに苦しみながらも、それを伝えようと。
麦野「ん?」
滝壺「かみ、……――……」
麦野「……言いたいなら、もっとはっきり言えよ」
滝壺「――かみ、じょ…………だめ」
麦野がはぁ?と言うと、彼女の肩に、手が乗せられて。
それに呼ばれて、振り向くと同時。
彼女の右頬に、強烈な右ストレートが入る。
363 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/31(日) 01:06:50.23 ID:AyXQmREo
麦野はそれの勢いで数メートル、吹き飛ばされる。
滝壺は彼女の手から解放されて、地面に崩れる前にその少年の手に受け止められる。
温かい、腕の中。
駄目、と言ったが、それだけで安心したような気分になる。
手の中の彼女から伝わる体温は、思っていたものよりずっとずっと低いものだった。
生きている人間とは思えないほどの低さ。
そして、口の端や、倒れた時にこすったいたる所から赤いそれが垂れていた。
上条「滝壺……お前……」
滝壺「……ごめんね、かみじょ……わたし、まもりきれなかった…………」
上条「いい、喋るな」
言いたいことは、沢山ある。
どうして何も相談してくれなかったのか。
どうして勝手に自分を犠牲にして俺を守ろうとするのか。
訪ねたいことも、沢山ある。
けれど、それよりも、なによりも。
上条当麻は見据える。その、数メートル先にいる化け物を。
それは、彼に殴られた部分を拭って、人を殺せそうな視線で彼を睨んでいた。
しかし、上条はそれに臆せず、拳を向けて、ただ宣言する。
上条「滝壺を傷つけた分。やり返させてもらうぜ」
372 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/02(火) 22:43:16.70 ID:5hG4BSoo
ペッ、と麦野沈利は地面に唾を吐き捨てる。
赤いものが混じった唾。
それこそ、今の一撃をまともに受けたと他ならない。
それに、麦野は苛立を隠せない。
麦野(ただの、無能力者如きに)
彼女はそういった『序列』にこだわっている節がある。
三位と四位の違いは殆どないにしても、自分が下であることに苛立を持っているのは確実だし、無能力者に対してはゴミ同然にしか思っていない。
それどころか、レベル4の滝壺や絹旗でも簡単に見捨てるような性格の持ち主だ。
無能力者から打撃をもらい、こんなザマになっていることに怒りを感じない方がおかしい。
最も、ただの無能力者ではないことは重々承知している。
ただのそれなら滝壺が興味をもつはずはないし、こんなタイミングよく現れることもない。
だが、そんなことは関係ない。
相手が何者だろうが、例え能力者だったとしても。
自分が殺すことには、何ら変わらないのだから。
麦野「やりかえさせてもらう、ねぇ……」
ブン、と煌めくそれを宙に浮かせ、次の瞬間には高速でそれを打ち出していた。
麦野「こっちの台詞だっつぅのっ!!」
滝壺に乱された『自分だけの現実』から、またあらぬ方向に幾つか反動のように飛んでいくが、そんなことはいい。
ただ一直線に打ち出した『原子崩し』、それは闇を切り裂いて、滝壺を抱く上条へと迫った。
374 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/02(火) 23:02:49.46 ID:5hG4BSoo
それに対して、上条はたった一言。
上条「邪魔、だ」
パァン!と裏拳気味で横薙ぎに右手を払う。
たったそれだけ。それだけの行動で、彼女が放った『原子崩し』は横へと反れ、宙へと霧散する。
麦野「は?」
思わず、間抜けな声が漏れてしまった。
普通じゃない、普通じゃないとは思っていた。でも関係ないと思った。
だがしかし。
素手で『原子崩し』を弾き、消しとばすなど、あまりにも『普通じゃない』。
麦野「……っ、アンタ、一体何モンよ……」
彼女にしては警戒深く、慎重に訊ねる。
しかし、上条にそんなことはどうでもいい。
ただ右手に宿る『幻想殺し』が麦野の『原子崩し』を打ち消したことなど、どうでもいい。
上条「……すまん滝壺、少しだけここで寝ててくれ」
上条は左腕で抱いていた滝壺をそっと床に倒し、そしてそれと麦野の間に立つように立ちはだかる。
375 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/02(火) 23:32:59.97 ID:5hG4BSoo
そうして向き合い、数瞬の間が経過する。
聞こえるのは滝壺の荒い息遣いぐらいのものだった。
麦野「……黙り?まぁ、それでも関係ネェか……」
先程の答えが待つのをいい加減に飽きた麦野は能力の誤差を確かめながら続ける。
そうだ。どちらにしても、関係はない。
能力が消えるのがあまりに不意だったから動揺してしまったが、アッチから攻撃を仕掛けてくる様子はない。
つまり、あれは偶然か、或いは道具か。はたまた、隠し持っていた特別な能力だとしても、それは防御専用だということ。
麦野「こねぇんなら……こっちからいくぜぇっ!!」
ダンッ、と麦野は僅かな痛みが走る脚を踏み出し、上条へと迫る。
上条は素早く小慣れたファイティングポーズをとって、同じく踏み出した。
先手を打つのは勿論麦野。
ブンッ、と右方向から横薙ぎに振るわれたフックを上条は腕を盾にしてガードする。
上条「っ!」
ピリピリと、腕に振動が走った。その勢いで軽く横に払われる。
ただの女性の攻撃ではない。能力にしがみついているだけの能力者の攻撃力じゃない。
上条は払われた後バランスを立て直し、そのまま反発力を利用して地面を叩き、足をバネのようにして麦野へと跳びかかる。
真正面の、ストレート。
顔面を捉えたと思われたそれは、紙一重で身体ごと横に回避される。
殴るつもりで身体ごと跳びかかってそれが交わされたとなれば、何も彼を受け止めるものはなく、無防備に麦野の前へ躍り出ることになる。
麦野「ふっ、と!」
麦野の長髪が、舞う。続いて、ドゴン!と上条の腹部にそれはクリーンヒットした。
遠心力を利用した回し蹴り。あの状態では、どうしてもかわせない。
376 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/02(火) 23:44:36.02 ID:5hG4BSoo
投げられた野球ボールが打たれたとき、遠くに飛んでいくように。
ボクシングなどの格闘技でカウンターが通常より強い威力を誇るように。
全速力とは言わずともスピードの出ていた上条に反対の力が加わるとどうなるかぐらいは予想がつく。
上条「がぁっ!?」
数歩の距離、無様に背面に腹部を押さえて転がる。
しかし上条の直感が告げていた。このまま倒れていてはいけない、と。
彼は横に転がりながら立ち上がる。
次の瞬間、上条のいた場所を光が貫いていた。
上条「っ……」
息を飲む。背筋に悪寒が走った。
あのまま倒れ伏していたなら、オレンジ色に焼けていたのは自分だった、と。
麦野「チッ……本来ならその程度、簡単に修正できてたハズなんだけど……滝壺も余計なことをしてくれたわ」
調子の悪い腕時計を確認するように麦野はその右手を振る。
実際に調子がわるいのはその能力だが、大差はないだろう。
上条は麦野の動向に警戒しつつ、腹部の調子を触って確かめる。骨まではいっていない。自分の身体の丈夫さに今は感謝する。
377 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 00:01:29.10 ID:s8YRY9Qo
上条(戦い、慣れてる)
一番最初のフックの威力、そして冷静に攻撃を見極め、そしてカウンターに繋げる思考。
明らかに喧嘩慣れをしている動き。
単純に能力を盾にしている者の動きではなかった。
どこぞの魔術師に見習わせてあげたかった。
上条(……俺も、殴り合いなら慣れてるはずなんだけどな)
一応不幸により絡まれやすい彼はそこそこの強さはある。
だからこそ、麦野の強さがよくわかった。
能力と格闘を合わせて使う奴ほど、厄介な相手はいない。
能力にしても格闘にしても、どちらかならばそのどちらかに警戒していれば済む話だ。幸運にも、上条は『幻想殺し』などというジョーカーを持っているのだから。
しかし、合わせて使われる場合に圧倒的不利な状況に追い込まれる。
至近距離で能力を使われ、それをまともに喰らったとしたら一溜まりもない。だから常にそれを前提条件として行動しなければならない。
だから一歩、どうしても遅れてしまう。
致命的な差。それに上条は歯噛みする。
上条「ちくしょう……」
麦野「無駄口を叩いてる暇は、あるの?」
タンッ、という軽快な音と同時。
麦野は再び彼との距離を詰める。
378 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 00:15:15.83 ID:s8YRY9Qo
上条「くそっ!」
今度は防戦一方。反撃する暇などない。
ジャブ、ジャブ、フック、ストレート。
ボディ、アッパー、ハイキック。
麦野は素早く技を繰り出しながら翻弄し、その中に時折本命の一撃を混ぜる。
それすらも上条は回避する。そのかわりに、反撃の糸口は一切見つからず、攻撃を捌く今年か出来ていないが。
麦野「――っ!」
キュガッ!、と麦野は右足を軸に自分の身体を一回転させ、高く振り上げた左足の踵で上条の側頭部を狙う。
上条「っと!」
咄嗟に上条は後ろに跳び、距離をとる――
その彼の身体が、揺らいだ。
上条「なっ!?」
足元に大きな石のような何かが引っかかったような感触。
それは上条が来る前、『アイテム』の仕事でフレンダが作り上げた天井の欠片。
バランスを崩し、そして尻をつくように転ぶ。
無論、その隙を見逃す彼女ではない。
上条(しまっ――――っ!!)
バシュン!と一閃。
右手以外ではまるで防ぐ余地のない、『原子崩し』が上条当麻へと放たれた。
381 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 00:31:13.54 ID:s8YRY9Qo
チリッ、と髪の毛を僅かに削りとる。
しかし、それだけだ。
上条当麻へ致命的なダメージを与えることはできなかった。
上条「…………!」
上条も素早く立ち上がるが、麦野が追撃を仕掛けてくる気配はない。
今彼女は上条ではなく、他のことに気をとられているようだった。
当然だ。
今の彼女の計算は完璧だった。上条当麻の眉間を確実に射抜く『原子崩し』を発したはずだった。
それなのに、『原子崩し』は斜め上にずれて、僅かに数ミリ髪の毛を削っただけ。
これの指すところは、ただひとつ。
麦野「また、アンタか……とことん、邪魔しやがって……」
麦野は言う。しかしそれは目の前の上条へ向いていない。
彼女の背後。たん、たん、とゆっくりとした一定のペースで近づく足音。
闇の中から、スローペースで姿を現すのはこの戦いの中心人物。
上条「滝、壺……!?」
息を荒らげながら彼らを見る彼女は、滝壺理后に他ならない。
ここまで来たら、上条ですらいくらなんでも理解する。
先程の『原子崩し』が外れた理由。
能力を使用する際に、何かに割り込まれたと考えるのが正しい。
『自分だけの現実』を再び乱され、照準を滅茶苦茶にされた、等。
382 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 00:51:02.40 ID:s8YRY9Qo
それを行うには、通常の滝壺のスペックでは足りない。底上げするものが必要なはずだった。
からん、と彼女の手からシャープ芯入れのようなケースが滑り落ちる。
中に入っていたものは、『体晶』と呼ばれる暴走を誘発する薬。そして、その中身は空。
意味するところは一つ。
滝壺「だめ……」
それは、掠れるような声で。
滝壺「かみ、じょうは…………――――っ」
彼女は結局、最後まで言い切れず、身体は傾く。
時が止まったように思えた。
上条が触った時、滝壺の身体は冷え切っていた。
弱りきり、まだ生きているということがすごいと思えるほどだった。
つまり、その時点で限界だったのだ。
それなのに、彼女は力を振り絞り、その上『体晶』も使い切った。
彼女は、滝壺理后は限界を超えた。
上条当麻は、一度こんな光景を見たことがある。
それは、姫神秋沙がアウレオルス=リザードに『死ね』と命じられたとき。
身体中から力が抜けて、正しく『死ん』だ彼女の光景が、今の滝壺と重なる。
上条「た、き――――――」
思わず、声が飛び出す。
彼女をここで倒れさせてはいけない、と身体が言っているように。
上条「滝壺ぉおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――ッッ!!!」
上条当麻は吠える。
時が動く。
同時に一直線に駆け出す。
麦野沈利が再び、蹴りで押し返す。
彼も地面に転がり、そして。
無残にも。
滝壺理后は地面に崩れた。
383 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 01:23:36.68 ID:s8YRY9Qo
麦野「……くく……」
静寂が訪れた研究所内に、含み笑いが響く。
そして、徐々にそれは大きく、耳障りな程の笑い声へと変わる。
麦野「くくくく……あはははは、あっはははははははははははっ!!なんだこりゃ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
麦野はただ狂喜する。
当然だ。
彼女にとって、これ以上ない結末だから。
麦野「テメェが守りに来たヤツが、テメェを救う為に死んでちゃワケねぇよなァッ!!アハハハハハハハハハハハッッ!!」
そんな狂気じみた笑い声も、上条には届かない。
うつ伏せに倒れ、俯いたまま彼は動かない。
いづれ、麦野もその様子に気づき、笑うのをやめた。
それは別に上条に同情したわけではない。彼女はそんな気持ちを欠片も思ってはいない。
単純に、反応のない上条に飽きただけだ。
麦野「あーあー……ま、やけにあっさりとした終わりだし、結局テメェの能力は分からず仕舞いだが……まぁいいか」
ぼりぼりと後頭部を掻き、そのまま手を伸ばす。
ポウ、と四つほど光が踊る。
それでも反応を示さない上条に、麦野は目を細めて告げる。
麦野「じゃーねー」
つい、と手首だけを動かして。
四つの閃光は上条を襲った。
384 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 01:33:41.96 ID:s8YRY9Qo
四つの閃光は、それぞれ、四肢を切断して終わり。
そのはず、だった。
ゴォ、と風が吹く。
室内に、吹くはずのない風が。
は?と麦野は再度、唖然とする。
何が起きたのか理解が追いついていない。
当然ともいえる。そもそも、『幻想殺し』さえ知らない彼女が一体どうして、この事態を予測することができようか。
彼女にとっての不運は、その右腕を初めに切断してしまったことだろう。
上条当麻はゆっくりと立ち上がる。
右手を除いてその腕と脚はある。
しかし、そのないはずの右腕に、何かがあるように感じることが出来た。
知らず知らず、麦野沈利は距離を取るようにその足を後ろに下げていた。
膨大なその存在感に蹴落されて。
麦野「……っ、おいおい……何の冗談よ…………」
それに気づき、麦野はまたもや愕然とする。
ありえない。
何かが、とは何もわからないが、何かありえないことが起きていることだけはわかる。
死んでいるはずなのに。
殺したはずなのに。
生きているだけでも異常なのに。
それ以上に見逃せない、信じることの出来ない何かが起きている。
385 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 01:40:31.50 ID:s8YRY9Qo
上条「――テメェは」
上条の口が動き、麦野は身体を硬直させた。
しかしすぐにそれが自分を指しているものではないと知る。
上条「テメェが、何者か、なんてことはわからねぇ」
上条当麻は言う。
その自分の右腕から溢れ出るそれに。
上条「テメェが、どんなことをできるな、なんてしらねぇ」
上条当麻は言う。
その自分の中に秘められていたそれに。
上条「だが、お前が俺で、そして『幻想殺し』の正体だっていうんなら」
その、見えない何かは。
上条当麻の意志に沿うように、彼の目の前、水平に伸びた気がした。
そして、彼は告げる。
上条「――この『幻想』を喰い殺せ」
――――こんな『幻想』は否定すると。
386 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 01:48:35.60 ID:s8YRY9Qo
何かが、変わった。
何が、というのは麦野には判別がつかない。
だが『何か』。
まるで、決定した事項が書き換えられたかのような。
――次の瞬間、麦野沈利は有り得ない事態を目にする。
もぞり、と背後で動く気配がした。
彼女はホラー番組を見た後、突然音がした時のように振り返る。
滝壺「う……」
滝壺理后が、意識を取り戻していた。
麦野「んな…………」
有り得ない。
先程、滝壺は限界を超えて倒れた。崩壊した。それは間違いなかったはずだ。
それなのに。
どうして、彼女がこうして再び動いている?
麦野(……実は滝壺は崩壊していなくて、単純に気絶していただけ。そして、今意識を取り戻した。そうじゃないと、辻褄があわない……!)
麦野は滝壺が倒れるシーンを見ていない。最初から最後まで振り向かず、音と上条の反応だけしかみていない。
だからそう考えることで、自らを平静に保った。
しかし。
彼女のその『幻想』は目の前へと視線を戻した瞬間に打ち壊される。
387 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 01:59:27.01 ID:s8YRY9Qo
ズルズルと。
上条当麻の右肩から、右腕が伸びてきた。
細胞分裂をどのようにするとこんな元に戻るのか、彼女には全くもって、検討もつかなかった。
『肉体再生』という能力がある。
それは能力がある限り、名の通り自分の肉体を再生する、というものだ。
それでも、こんなスピードで回復するものなど見たことはない。
『有り得ない』。
もう、何度目にもなるこの言葉。
この科学の街学園都市において、こんな事象があるなどと信じたくなかった。
上条「――おい」
その言葉に、麦野は見てわかるぐらいに跳ねる。
今度こそ、それは自分へと向けられた言葉。
今まで感じたことのない言いようのない恐怖が、彼女を埋め尽くす。
それでも。
超能力者として、暗部組織『アイテム』のリーダーとして、彼女は虚勢をはる。
麦野「ンだよ、まだ殺るって?いいぜ、だったらとっととブチ――――」
上条「……もう、やめないか」
その聞こえてきた声に、麦野は思わず自分の耳を疑った。
388 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 02:13:16.58 ID:s8YRY9Qo
上条「お前、よくわかんねぇけど……組織のリーダーなんだろ?」
上条「滝壺が『体晶』とかいうヤバイ薬を使って、もう『崩壊』寸前だったことは聞いた」
上条「なんで、そこで限界まで使わせる必要があるんだよ。リーダーなら、仲間や部下のことを気遣うのが普通じゃないのか?」
上条当麻は続ける。
これ以上、滝壺も、麦野も誰も傷つけなくて済むように。
上条「……そうすると、元から争う必要なんてなかったんじゃねーか」
上条「どうして、邪魔者を排除しようとしてまでそうして壊そうとするんだよ」
確かに普通ならそこまでする必要はない。
だが、上条はどこか履き違えている。
ここは暗部だ。無事に表に帰ろうと思う方が間違いなのだ。
だから麦野は、そもそも自分が帰ることの出来ない表舞台に誰かが帰るのを許せないだけ。
結局、滝壺を使い潰そうとしたことも、上条を殺そうとしたことも、麦野の独りよがり。
本来なら、それでよかった。暗部では強いものこそ全て、それ以外は使われるだけなのだから。
しかしながら、麦野はその自分の目で見てしまった。
自分より遥かに強く、恐ろしい存在を。
389 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 02:24:40.80 ID:s8YRY9Qo
アレと戦うぐらいなら、いっそ――という弱気な考えが彼女の頭を過る。
だが、すぐに打ちけす。
今目の前にいるのは、あの化け物じゃない。ただの無能力者だ。
麦野(そして、私は誰?)
麦野沈利。
学園都市の学生二三〇万人の頂点に立つ超能力者、その上から四番目。
麦野は自問自答する。
ただの無能力者などに、負ける要素は無い、と。
ふと、上条から視線を外して背後を見やる。
そこにいるのは滝壺。しかし、意識を取り戻したとはいったものの、息は未だに荒い。
戦況は何も変わっていない。
ここで引く理由などない。
麦野「……ハッ、何を言ってるのやら」
故に麦野沈利は、上条の提案を一蹴する。
麦野「取引っていうのは、自分と相手が同等の立場において初めて成り立つモンなんだよ」
だから乗る必要はない、と。
上条はその答えに、そうかとだけ答え、その右手を構えた。
上条「……いいぜ、お前がどうしても、滝壺を逃がさない、そのための邪魔者は潰すって言うんなら」
上条「――その幻想を、ぶち殺す」
390 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 02:44:51.22 ID:s8YRY9Qo
上条当麻は踏み出す。
それを見て、麦野沈利は大きく顔を歪ませた。
彼女は右手を前に付き出して、『原子崩し』を放つ。
ダン!と上条はそれが発射される前に左右に素早く動き、それを回避する。
いつもの状態ならまだしも、照準の出鱈目になっている今の状態では上条の回避先を割り出して当てるのは難しい。
麦野(だったら)
彼女は開いている片手でカードのようなものを懐から取り出す。
『拡散支援半導体』。弾幕を張るタイプでない『原子崩し』の弱点を補強する、彼女の用意しているアイテム。
自らも動いて距離をとりつつ、ピンッ、とそれを自らの目の前に弾き、それに『原子崩し』を当てる。
瞬間、バシュンッ!と『原子崩し』が拡散し、上条を襲う。
上条「うぉおおおおおおっ!?」
上条は右手を前に延ばし、前に力いっぱい飛び込んだ。
間違いではない。単純に後ろに飛ぶよりは有効だ。近距離というのが幸いする。なぜなら、近ければ近いほど、拡散前の『原子崩し』を『幻想殺し』で潰すことができるのだから。
だが、全てとはいかない。
上半身に当たるものは潰すことが出来たが、太ももから付近を幾つものレーザーが貫通する。
391 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 02:54:22.54 ID:s8YRY9Qo
上条「―――――ッ!!」
それでも、前へ。
貫通した脚部が悲鳴をあげる。
踏み込んだ足に力が入らなく、ガクン、と身体が一段階下がった瞬間に、その頭上を『原子崩し』が過ぎた。
不幸中の幸い。
安堵したと同時、すぐ近くから舌打ちが聞こえた。
ドゴン!と跳び膝蹴りが上条の顔面を捉えた。
上条「がっ――――!!」
意識が飛びかける。視界が瞬く。
しかし、それでも。
空を泳いだ右手は、麦野沈利の胸ぐらを掴んだ。
麦野「っ!」
パンッ!と上条が反撃をするより早く、麦野は拳を真っ直ぐに叩き込んだ。
鼻の奥が切れた気がした。
しかし、上条はその右手を放さない。
392 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 03:07:05.55 ID:s8YRY9Qo
麦野「このクソ――――っ!」
下からすくい上げるような裏拳で、ボディに一撃。
だが、怯みすらせず。
次の瞬間、麦野の脳が揺さぶられた。
別に、拳を受けたというわけではない。それなら、この至近距離でも避けたり止めたりする自信がある。
いま受けたのは、頭突き。
額同士のぶつかり合い。
麦野(クソ、た)
考える間さえ与えられず、一瞬、意識が飛ぶ。
麦野(こ、)
幾度も。
幾度も幾度も幾度も。
幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も――――――
393 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 03:20:45.29 ID:s8YRY9Qo
麦野(は――――)
麦野は僅かも与えられない思考の中、漠然と思う。
なんだこれは。
どうしてこんな一方的にやられているのだろう。
私は第四位、『原子崩し』。無能力者など、果たして瞬殺できるはずだというのに。
なんだこの体たらくは。
ドン、とようやく脳を揺さぶる衝撃から解放されて、距離が開く。
足元がふらつく。恐らく、あと一撃重いのを受けたら終わる。
目の前の少年が吼えた。
朦朧とする意識の中、自分にも少年とはまた別の感情が湧き上がる。
無能力者なんかに負けたくないという、強い想いが。
麦野の腕が闇のなかで光り輝く。
『原子崩し』がその腕の周りを延々とループしているのだ。
当たれば、正しく一撃必殺。
だがしかし、上条はそれに全く臆せず。
その右手を振り抜いた。
395 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/03(水) 03:30:24.60 ID:s8YRY9Qo
麦野(あ――――)
上条にその拳が届く前に、その光は力を失った。
負け。その二文字が、脳裏に浮かぶ。
最後まで勝利に執着したというのに、結局、無能力者の一人にも勝てなかった。
麦野(……いや、違う――)
本来なら、もっと優勢だ。
『自分だけの現実』を乱されていなければ、もっと優位に進めて、勝っていた。
これは、つまり。
滝壺と、少年に負けた、ということだ。
麦野(……そっ、か)
なんとなくだが、大切な人同士を思う力というのを思い知った。
……自分もそんな人間を作ろう、というのは思わなかったが、少しだけなら認めてもいい気がした。
視界が黒く染まっていく。
五感が失われる。
思考が止まる。
上条「――滝壺の借りは、返したぞ」
そんな中なのに、嫌にはっきりとその声は聞こえ。
そして、麦野沈利は意識を落とした。
412 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 15:40:22.33 ID:RJLXNwso
――夢を見た。
はるか遠い、過去の夢。
私が闇の彼方に堕ちる理由となった記憶。
どこにも、私の居場所などなくて。
どこにも、光が射す道などなくて。
結局、私はもがきもせず、足掻きもせずただ堕ちていくだけの夢。
直前のことを覚えている。
少女が少年に止めを刺そうとした。
だから、私は『体晶』を使い、その上で能力を使った。
身体はとうに限界を超えていたけれど、構わなかった。
少女の能力は少年から外れて、危機を救うことが出来た。
これでいい。
これでよかった。
だって、道を示してくれた大事な人を守ることが出来たのだから。
私は、もう一向な闇に堕ちても、構わない。
夢のなかで、私はカプセルの中に入っていた。
粉を飲み込んで、意識がいつもよりはっきりして。
そして、闇の中に堕ちる夢――
空が割れた。
まるで、そんな過去の遺物を見る必要など無いとでもいうように。
床が抜けた。
堕ちる、と思ったけれどそんなことはなく、何かに支えられているように。
――この『幻想』を喰い殺せ。
夢の中で消え行く思考の中、そんな声だけを聞いた気がした。
まるで、絶望しか無い袋小路をこじ開けるような、そんな声を。
……私の、ヒーローの声を。
413 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 15:51:13.99 ID:RJLXNwso
カラカラ、とスライド式の扉が開く。
窓が空いているのか、すぅ、と彼女の首を風が撫でた。
壁、ベッド、カーテン。全てが白で統一された部屋に入り、今のその部屋の主の名を少女は呼ぶ。
滝壺「……かみじょう」
上条「……おう」
上条は窓の外の景色から視界を外し、少女を見る。
その少女も入院着を着ている。至極当然のことではあるが。
上条「検査、一応終わったのか?っていうか……よく俺がここにいるってわかったな」
滝壺「わかるよ。だって、かみじょうだもん」
上条だから、という理由がどうしてここにいるのかという理由にはならないと思うが、上条はそれを突っ込まなかった。
なにせ不思議ちゃんだ。何を考えているかは多少わかるようにはなったが、未だにわからないこともある。
上条「……ちょっと、用足してくる。少し待っててもらえるか?」
滝壺「うん、わかった」
上条は滝壺とは入れ違いに病室を出た。
416 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:01:54.58 ID:RJLXNwso
用を足すのは勿論だったが、彼はその足ですぐには病室に戻らない。
そこに行くのを見たから。
看護師とすれ違う度に少し頭を下げつつ、階段を上がる。
踊り場でタイルが外れ、ズルッと滑り転んだ。
不幸だ、と漏らしつつも彼は階段を登り続けて、その先にある扉をこじ開ける。
パタパタと白いシーツが風に揺れていた。
その奥。
そこに、朱色が靡く。
柵に腕をよしかけて、その横には松葉杖が立てかけられている。
入院着で見えないが、そこにある足は包帯まみれらしい。
その背中に、上条は声を投げかける。
上条「……よぉ」
麦野「あぁ?……テメェか」
一瞬だけ上条を見て、彼女は前へと戻す。
上条はそれに無防備に近づいていく。
そして、両者が互いに一撃で決められる距離までつめると、麦野は呆れたように吐く。
麦野「……オマエは何がしたいんだっつの。負け犬に慰めの声でもかけに来たんですかぁ?」
上条「そんなんじゃねぇよ」
上条は麦野の背を見ず。
麦野は上条のほうを向かず、話を続ける。
417 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:13:04.00 ID:RJLXNwso
上条「……仲間ってのはさ、大事なもんだと思うんだ」
麦野「はぁ?」
麦野が何いってんだこいつ、とでも言いたげに声を上げる。
それでも彼は意に介せず、続ける。
上条「自分を支えてくれる存在。自分が支える存在」
上条「俺達はどんな力をもっていようと完璧じゃなくて、まるで不完全で完成してるんだ」
上条「だから、仲間を求める、特別を求める」
上条「自分が立っていられるように。困難に立ち向かえるように」
上条「お前は、それを少し間違えただけなんだ。自分を助けることを強制させ、支えることをしなかった。ただそれだけの話なんだ」
麦野「……で、それが何だって?私にえっらそうに説教でも垂れてるつもり?」
上条「いや、そうじゃない。たださ、少し変えるだけでいいっていう話。例えば――」
カチャン、と再びドアノブが回る。
そこから三人の男女が姿を表した。
上条は微笑し、そちらの方を振り返る。
そして、決定づけるように言う。
上条「慰めにきた、お前の仲間みたいにさ」
418 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:27:15.59 ID:RJLXNwso
見知らぬ少年――いや、見たことはあるが、それほど話したことはない少年が屋上から立ち去った後、彼らは僅かに驚く麦野に近寄る。
絹旗「病室にいないんで超探し回りましたよ。全く、安静にしてなきゃ駄目じゃないですか」
呆れたように、絹旗は肩を竦める。
フレンダは同調するように笑い、
フレンダ「ま、結局麦野はジッとしていられない性格なわけよ。ウチのリーダーサマが安楽椅子に座っている状況なんて思い浮かばないし」
浜面「そうだなぁ……っていうかお前ら少しは荷物持てよッッ!!結局最後まで俺が持ってきてんじゃねぇか!!」
絹旗「あ、浜面さっき病室ついたときにおいてきてよかったのに」
フレンダ「別に持ってくる必要なかったし」
浜面「そう言って持ってこなかったら『なんでおいてきたんだ』とか言って弄るつもりなんだろ!?」
先程まで全く静かだった屋上が、嫌なくらいに騒がしくなる。
それを麦野は唖然として眺める。
そして彼らは、ガサガサ、と音を立てて、ビニールの中から果物とナイフ、それから皿を取り出した。
絹旗「もう超面倒なので、ここで食べちゃいましょう。ほら、浜面とっとと剥いてください」
浜面「いやいやいや!なんで俺がそこまでやらなきゃいけないわけ!?」
和気藹々と、マットも敷かずに床に座り込む三人。
見ながら、ただ立ち尽くす麦野に気付いた彼女らは、ぽんぽん、と空いている場所を叩く。
フレンダ「ほら、麦野。早くこっちに座って」
絹旗「そうですよ。浜面の剥いた果物を超食べましょう」
仲間なんて、使い捨てだ。
仲間なんて、ただの道具だ。
けれど。
麦野「ほら、とっとと皮ムケよ浜面」
こんな空気も、悪い気はしなかった。
420 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:42:29.96 ID:RJLXNwso
上条「ただいまー」
部屋に戻り、声をかけるが返事がない。
不思議に思いつつも踏み入れ、ベッドの近くまで足を運ぶ。
上条「滝壺ー?っているじゃんか」
その滝壺は、ベッドの横に置いた椅子に座ったまま、まっすぐに前を向いていた。
上条が近寄ると、ようやく彼女の視線は彼へと向く。
心なしか、なんとなく苛立っているようにも思え、
滝壺「……屋上で、何してたの?」
その言葉で、心臓が止まるかと思った。
いや、別段やましいことはしていないが、そうズバリ言い当てられると焦る。
上条「い、いやっ、別に何も……」
滝壺「麦野と、何話してたの?」
ギャーッ、とここまでくると流石に怖い。
上条は焦り、頭の中が混乱しつつも彼女に質問を投げかける。
421 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:52:37.56 ID:RJLXNwso
上条「なななな、なんで屋上に行ったこと知ってるんですか滝壺さん!?」
滝壺「……上条の右手は、能力を――そして、その能力の副産物であるAIM拡散力場すら消してしまうから」
滝壺「だから、どこにいるか探知せずとも逆にわかりやすいの」
なるほど、と思い、同時に疑問に思う。
つまりは、滝壺から自分は逃げられないのではないか?
その疑問に肯定するように、滝壺は笑みを浮かべる。
滝壺「……ねぇ、かみじょう」
上条「……ナンデショウカ」
滝壺「かみじょうが、例えどこに行っても、どんな遠いところにいなくなっても――私は、かみじょうを追いかける」
それは、宣言だ。
他の子にうつつを抜かしたり、浮気したりして、逃げても。
どこまで行っても、追い詰めると。
しかし、上条は別段それに恐れは抱かない。
上条「大丈夫だよ、滝壺。俺はお前を見捨てない。ずっとずっと、守ってやる。お前が例え嫌だって言っても、絶対に」
滝壺「……うん、わかってる」
それでも、これだけは覚えておいて。
そう滝壺は続けて、釘を差す。
天然フラグメイカーにはきっとあまり意味はないだろうが、それでも。
滝壺「――私は、AIMストーカーだから」
例え地球の裏側までも、共に行く、と。
422 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:55:15.44 ID:RJLXNwso
fin.
とりあえず終了です!
ご清聴……というかご観覧ありがとうございました!
423 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 16:56:00.70 ID:pxAXTbEo
乙!!!!!!!!良かった!!!!!!430 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 19:09:44.62 ID:AOgiZ.Yo
GJ。3ヶ月か、長いようで短かったな434 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 23:16:03.04 ID:HlhttUDO
ありがとう
面白かったよ!425 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 17:00:47.67 ID:I94m7fUo
超乙です!
何だかんだでささやかな不幸や女の子に凄まれる上条さんが上条さんらしくて良かった
そして滝壺さん可愛い
後日談とかそう言うのが欲しくなる429 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/04(木) 18:26:36.83 ID:RJLXNwso
後日談……ですか。
そうですね……時間があったら、考えてみようと思います。
455 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/10(水) 01:09:26.84 ID:UC3FiwAO
よっしゃ 待ってますぞ456 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/10(水) 22:56:19.08 ID:tuzTw7co
ポケモン育ててると時間が立つのを忘れてしまう。
色々他にやることがあるのに……
滝壺の転入。『とある少女の転校初日』始まります。
457 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/10(水) 23:09:29.38 ID:tuzTw7co
朝、とある学校。
例のごとく、ロリ教員、月詠小萌の担当するクラスは騒がしい。
青髪「――だから、ロリメイドが最高なんやでーッ!!」
――片や、デルタフォースの似非関西人、本名不明の青髪ピアス。
土御門「ハッ、笑わせてくれるにゃー!義妹メイドが他を寄せ付けずに孤高の頂点に決まってるんだぜい!!」
――片や、同じくデルタフォースの金髪サングラス、義妹ラブの土御門元春。
彼らは学校のホームルームが始まる直前のこの時間に、何故かメイドについて議論を交わしていた。
委員長属性を持つ吹寄制理は腰に手を当てて呆れ顔。影が薄く、しかしクラス内では目立つ側の姫神秋沙は何を考えているかわからない無表情でそれを見ている。
他のクラスメイトもいつものことなので、我関せずと騒ぎから外れつつ、遠巻きにそれを眺めながら何かを話している。
そして、デルタフォース……三馬鹿の最後の一人、上条当麻は。
上条「………………」
椅子に座り、ぼーっと、空を眺めていた。
そのすぐ隣で友達二名が取っ組み合いを始めているのに全く気にもかけず。
……しかしまぁ、仕方が無いことなのかもしれない。
彼にとって今大事なことは、今朝退院したはずの少女のことなのだから。
458 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/10(水) 23:28:21.87 ID:tuzTw7co
いや、普通に退院する分には左程問題はないのだ。
問題は彼女の今は安定しているがいつ崩れるのかわからない身体と、あのぼーっとしているアブなさだ。
上条(……理后、大丈夫かな)
滝壺理后。
上条の生まれて初めての彼女、と呼べる存在。
それを互いに確かめ合ったことに伴い、これからは苗字ではなく名前で呼ぶことを強制したのは滝壺だった。
彼女にとっての特別な居場所、ということらしい。
上条(初めて会ったときみたいに変なやつに絡まれていなきゃいいけど)
同時に、あの絹旗とかフレンダとかがいるから大丈夫かな、と思う。
滝壺は結果的、崩壊寸前で『アイテム』を抜けるはめになったわけだが、それで縁を切るほどそのメンバーも薄情ではなかった。
病室に戻って滝壺と互いを確かめ合った後、麦野を除く『アイテム』の三名が挨拶に来たのだ。
中には昔スキルアウトな一度だけ殴り合った顔もあり僅かに戦慄したが、別に大事には至らず、正しく挨拶だけだった。
つまるところ、滝壺と彼らの関係は今でもつづいている、というわけだ。上条も含めて。
そう考えつつも、やはり上条は溜息を吐く。
459 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/10(水) 23:36:36.04 ID:tuzTw7co
吹寄「ちょっと、上条当麻!」
ドン、と机を叩くは、青ピと土御門を呆れて眺めていた吹寄。
そこで上条はようやく、教室内の惨状を知った。
吹寄「貴様の類友でしょう!?アレ、とっとと止めなさい!!」
殴り合い――しかし本気ではない――まで発展している二人。
時計をみると、既に小萌先生が来てもおかしくない、予冷寸前の時間。
しかしながら、だ。
机や椅子はひっくり返り、まるで泥仕合のようにぐしゃぐしゃになっている二人に割り込むのは、相当に勇気がいる。
上条「………………」
吹寄「何よその見捨てられたような子犬の目は。ご飯はないわよ」
上条「朝はいつもどおりしっかり食べたし、上条さんにあの中に入って止めろっていうのは少し無茶すぎです吹寄センセー!!」
吹寄「いつも貴様もあんなかに入ってんでしょうがッッッ!!!」
二つ目の論争勃発。
クラスメイトは止めるはずの人間が新しい紛争を起こしたこともいつものことのように眺めつつ、動き続ける秒針を追う。
460 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/10(水) 23:52:12.39 ID:tuzTw7co
チャイムが鳴り響く。
それに皆、ふと動きを止めて教室の扉に注目した。
――――何も、起こらない。
小萌は秒刻みの体内時計を持っている。だから、チャイムが鳴ると同時に入ってくるはずなのだ。
なの、だが。
土御門「……小萌センセー、こないにゃー」
青髪「あの『警備員』もやってる先生に足止めでもくらってるんちゃう?仲ええみたいやし」
吹寄「それでも、いつもだったら誤差数秒じゃない。これほどまでになると……って貴様ら!とっとと倒した机を片しなさい!!」
二人が正気に戻ったのを好機と判断したのか、吹寄は此処ぞとばかりに叫ぶ。
うぃー、にゃー、等とふたりはやる気無さ気に返事をしつつも、素早くそれらを立て直す。
吹寄の攻撃は、並の能力者のそれよりも痛いのだ。
机を全部立て直し、席を離れていた生徒が全員席に座って。
それでも、月詠小萌は現れない。
本来のHRの時間はとっくに始まっている。彼女の性格からして、これはありえない、とクラスの全員が思った。
ならば。
何か小萌先生は、トラブルにでも巻き込まれているのではないか?
誰もがそう考え始めた瞬間、ようやく引き戸が開かれた。
そこにいるのはいつもどおりに見慣れた、小さなロリ先生。
小萌「お待たせしましたですよー、ごめんなさい、少し急用が入ってしまいましてー」
その姿に、皆して安堵する。
その先生が台付きの教壇に登り、ようやくHRが始まりを告げた。
461 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/11(木) 00:04:04.63 ID:5Ag.YGoo
小萌「今日はー、記録術が六限目にあるので――」
小萌はいつもどおりに時間割と連絡を告げる。
そう、いつもどおりに。
普通なら、先程の急用のことがどこかではいるはずなのだ。
彼女は自分のことならきっと後回しにするだろう。そんな生徒が大好きな先生だから。
だから、疑問に感じるまま、HRは進み――
小萌「それじゃー、今日のHRを終わりますよー。委員長、礼――」
それが終わろうとした瞬間、小萌の顔が笑顔に変わる。
小萌「の前に、転校生のご紹介ですよーっ!」
上条当麻も、土御門素晴も、青髪ピアスも、姫神秋沙も、吹寄制理も。
そして、突拍子なことになれたクラスの面々も。
その彼女のいきなりのサプライズに数秒だけ時が止まって。
次の瞬間、ワッ、と湧く。
青髪「せ、センセー!その転校生は男と女、どっちかわかります!?」
男子「女子ならスリーサイズとかは!?」
姫神「これで。私の影が。また薄くなる……」
462 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/11(木) 00:16:16.45 ID:5Ag.YGoo
そんな生徒達の様子に満足しながら、小萌は一つ答える。
小萌「今回も、女の子ですよー、おめでとう野郎ども、残念でした子猫ちゃん達ー」
おぉぉおおおおおおおおおっっ!!と青髪ピアスを筆頭として、男子陣が再度湧く。
小萌「では、いいですよー」
小萌のその声に、扉の向こう側から静かに、『はい』、という返事が聞こえて。
上条当麻は、その声に聞き覚えがある、というより最近よく聞いている大切な人の声だと判断が追いつく前に。
その扉が開き、少女が姿を現す。
この学校指定のセーラー服。
肩にかかるぐらいの髪。
幸薄そうな雰囲気。
そしてなにより、あまり動くことのない表情でありながら――美少女、と例えて良い容姿。
彼女は。
上条「理后……!?」
上条のそれに答えるように、滝壺はクラス中を一瞥し、最後に上条に目を止めて言う。
滝壺「……たきつぼりこう。これからよろしくお願いします」
名乗りと同時に、ペコリと頭を下げる。
HRの終了を告げるチャイムが鳴り、学校が動き始める。
463 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/11(木) 00:17:42.34 ID:5Ag.YGoo
とりあえず自己紹介まで。
続きは次回(未定)!
464 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/11(木) 00:19:10.29 ID:rSyrs8Q0
激しく乙469 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/11(木) 01:59:49.15 ID:xHihgwDO
乙
ところでキャラが被ってる上に存在感を持っている滝壺に対してどう思いますか?姫神さん470 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/11/11(木) 11:45:36.49 ID:Ax3MA9ko
別に。481 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 21:45:31.46 ID:5fjJusEo
……さて、ここで一つ問題がある。
デルタフォースを含め、お祭り騒ぎが大好きであるとある高校の小萌組。
何かの事件中ならいざしらず、そんな中に転校生を放りこむとどうなるだろうか。
答えは一つ。
青髪「さぁーって、恒例の質問タイムや―――――っ!!」
男子陣が再び沸き起こる。
その中心には件の転校生滝壺理后。
勿論彼女と親しくなろうとする女子も幾人……どころか、同じぐらい交じっている。
そんな輪から外れて二人。
土御門「……っていうか、青ピ、前にあの子がカミやんと一緒にいるのをみてるはずなんだけどにゃー」
上条「忘れてんだろ、きっと。結構都合の良い頭をしてるし」
土御門「違いないにゃー……それより、あれ止めないでいいのか、カミやん?」
あれ、と指すのは人工が嫌に高い一角。
ざわざわとしていて、渦中の人物は全く見えない。
それでも、上条にはなんとなく彼女のしている表情に予想がついた。
――困りながらも、僅かに嬉しそうな、そんな表情だ。
上条「ああ、ああいうのは無闇矢鱈に止めたら、クラスに馴染めないだろ?行き過ぎの質問はちゃんと止める奴もいるし――あ、殴られた」
丁度その時、吹寄が青ピを殴り飛ばしたところだった。
調子にのるんじゃない、だとかもう少し抑えろ、だとか吹寄以外の追撃も食らう。
しかし、当の青ピは『もっと!もっと蹴って!』などと見を悶えさせていた。
上条はそれから視線を外し、見なかったこととして処理する。
483 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 21:55:29.11 ID:5fjJusEo
上条「しっかし……それにしても、本当に驚いたな……」
土御門「俺もだぜい。いや、組織を抜けたことは情報として回ってきたが、まさか同じ学校に転入するなんてにゃー」
二人して、顔を合わせる。
一体誰が手配したのか、とは思うけれどそんなことはどうでもいいだろう。
今はただ、彼女がそこにいるという事実だけで十二分だった。
と、次の瞬間。
密集地帯だった滝壺の席の周りが、まるでモーセの滝の如く真ん中から真二つに割れる。
土御門「……なんだ?」
そして、滝壺の机に向かって真正面から、一人の少女が歩く。
黒い長髪を揺らして。
彼女に似合わず、威風堂々と。
割れた二つの集団から、奇異の視線が向けられる。無論、上条と土御門も変わらない。
――その視線を向けられた少女の名前は。
姫神「………………」
姫神秋沙。
その彼女は、転校生滝壺理后の正面に立つ。
彼女も椅子に座ったまま、彼女へと視線を向けた。
485 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 22:05:00.40 ID:5fjJusEo
姫神「………………」
滝壺「………………」
姫神秋沙、滝壺理后。
互いに似た雰囲気を持ち、しかし存在感はまるで真逆でもある二人。
そんな彼女らが出会ったのなら、こうなるのは必然だったのかもしれない。
さっきとは打って変わって静まり返った教室内。
そんな中で彼女は静かに、口を開く。
姫神「姫神、秋沙」
続け、
姫神「――私、魔法使い」
胸を張って、そう告げた。
だからどう、というわけではない。実際に彼女がもっているのは、魔法の杖(電撃走る特殊警棒)や魔法の筒(ゴキブリも二秒で殺す殺虫剤)だ。
それでも、彼女にとっては負けられない、一種の下克上であり、聖戦。
――大層なレッテルをもっているほうが、存在感のある証明。
その言葉を受けて、滝壺も彼女の目を見つめ返す。
滝壺「……たきつぼりこう」
同様に、名乗り。
そして、二の句を――
滝壺「――――」
告げない。
486 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 22:14:32.49 ID:5fjJusEo
それはそうだ。
彼女は今は別に暗部組織ではなく――暗部組織であったとしても言えないが――ただの一般生徒。
それも、禄に能力を使えない能力者。
肩書きなどその使えない能力がレベル4だということぐらいしかない。
姫神「…………」
姫神秋沙は僅かに唇の端を吊り上げる。
ざわ……ざわ……と、周囲がざわめいた。
これで、滝壺が答えられなければ下克上は成立することになる。
つまり――影の薄さが入れ替わる。
それでも上条はきっと変わらず接してくれるだろうが、そんな状態ならば寝取られることもありえるのかもしれない。
――負けられない。
滝壺「――――」
つい、と視線を漂わせて。
すこし外れた場所にいる、上条が目に入った。
その瞬間、まるで神が舞い降りたかのように一つのアイデアが降りてきた。
ガタン、と椅子を揺らして立ち上がる。
そして彼女は一直線に、輪から外れている二人の元へと歩み寄り、
上条「り、理后……っ!?」
その戸惑いの声を聞かず。
無理矢理に口を塞いだ。
488 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 22:25:34.39 ID:5fjJusEo
空気が凍る。
先ほど、姫神が滝壺に向かい合った時の緊張感が張り詰めた静寂とは違い、『凍った』といえる空気だった。
そのまま、たっぷり十秒。
そこまでして、ようやく滝壺は上条から身を離した。
そして彼女は少しばかり誇らしげに振り返る。
滝壺「――私は、たきつぼりこう」
並びに。
滝壺「とうまの、彼女」
――それは、このクラスにおいて。
いや、とある学校。 否、第七学区。
はたまた、学園都市。 或いは、世界において。
衝撃を与える宣言。
ガクン、と姫神秋沙は膝から崩れ落ちる。
キャラや出番だけじゃない――もっと違う、もっと大切なものまで奪われて、彼女は膝をついて俯いた。
492 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 23:01:09.21 ID:5fjJusEo
そんなことがあったのが、もはや今朝のこと、と割り切れるくらい前のことだ。
あの後何が通じ合ったのかはよくわからないが滝壺と姫神は結局和解し(ただし滝壺の『上条の彼女』というポジションは揺らがない)、友だちになったようだ。
そんなこんなで、今は既に放課後となっている。
滝壺「おまたせ」
上条「おう、じゃあ帰るか」
人気のなくなった放課後。
滝壺は最後の手続きとかで先程まで職員室にいて、上条は玄関でその彼女の帰りを待っていた。
それも、今終わったのだが。
長くなった二つの影が揺れて、寄り添う。
それでもくっつくのかくっつかないのか、という絶妙な位置だが。
上条「……それにしても、今朝は本当に驚いたぞ。いきなり転校してくるなんて思ってもみなかったからな……」
上条がそういうと、滝壺はくすり、と笑う。
滝壺「とうまを、驚かせたかったから」
上条「……大成功だったな」
滝壺「うん」
頷き、微笑み、彼女は彼の腕へ寄り添う。
離れていた二つの影は混じり合って一つになった。
493 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 23:17:27.98 ID:5fjJusEo
滝壺「とうま」
彼女は名を呼び、彼はん、とだけ返す。
滝壺は縋りつくように彼の制服を握り、少し高い位置にある彼の顔を見上げる。
滝壺「……とうまは、やっぱり危ない。周りに女の子が多い」
上条「……何をおっしゃるやら、理后さん。知り合いに多くても、イコールモテルとは繋がりませんとのことよ」
滝壺「ううん、とうまが気づいていないだけ。ひめがみにしてもそうだし、ふきよせ……は、少しわからないけど、クラス内外でも結構いるみたいだった」
はいはい、と上条はそんな滝壺の言葉を冗談だと思って聞き流す。
そういえばこういう人だったなぁ、と滝壺は自らの彼氏を再認識して、コンクリートの道を行く。
同じように腕を組んであるくカップルや、話しながら歩く女子生徒とすれ違いながら、彼らはのんびりと行く。
そんな心地良い空気の中を歩きながら、上条は口を開いた。
上条「……理后さ、そんな慌てなくても大丈夫だよ」
滝壺「!」
滝壺の目が僅かに見開く。
それは上条の言葉が彼女の気持ちをついていたからに他ならない。
上条はそれを確認した上で続ける。
494 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 23:38:42.51 ID:5fjJusEo
上条「自惚れかもしれないけど、俺の周りに女の子が沢山いて、目移りしないかが心配なんだろ?」
一度、頷く。
見抜かれていたことに、滝壺は僅かながらも驚きを隠せなかった。
現に皆の前でキスをして、交際宣言したのは周りの女の子を牽制させるためでもあったのだ。
上条「ったく……なにもあんな事しなくたって、別に俺には誰も言い寄ってこないし、俺からも誰にも言い寄るつもりはねーよ」
滝壺「でも……それでも、怖い」
――居場所を、失うことが。
言外に滝壺はそう言っていた。
上条は目を瞑って考えるように後頭部を掻き、そして一度だけ溜息を吐く。
上条「……大丈夫だっての」
ぐい、と寄り添っていた滝壺に肩を回して、更に引き寄せる。
互いの息遣いまでわかりそうなほどの、距離。
上条「俺は、『幻想殺し』だから。きっと、理后のそんな『幻想』を殺してやるよ」
滝壺は、少し唖然としたような表情で彼を見上げて。
また安心したように微笑む。
そのまま彼らの距離は再び近づいていき……そして。
影だけでなく、身体が交わるのは、本日二度目となる。
……それをとある『超能力者』中学生に見られて逃避行を繰り広げるのは、また別の話。
おわり。
495 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/09(木) 23:46:13.57 ID:5fjJusEo
おしまい
後日談、ということで本当に軽くまとめさせてもらいました。
一番書きたかった、滝壺VS姫神が書けたから私的には満足です、はい。
此処から先の『幻想追跡』はそれぞれの心のなかに……ということで、一応は。
……では、とりあえずまた会う日まで。
497 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/12/10(金) 03:26:01.74 ID:Fh2jpX.o
いいものを読ませてもらったんだよ!!
乙!!
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