打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」【中編】

2011-02-23 (水) 19:16  禁書目録SS   2コメント  
前→打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」



222 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:02:55.51 ID:fBQ09iY0


9/29 AM 1:00

「ウイルスの送信は完了、っと。あとは『時間通りに』あのガキが来てくれることを祈るばかりだな」


下脾た笑みを浮かべ木原数多は立ちあがった。
傍らにはぐったりとした打ち止めが転がっている。


「――――― 検体番号20001号より下位個体への上位命令文送信を完了しました。
繰り返します、検体番号20001号より下位個体への上位命令文送信を完了しました…………」

「さぁて、殺戮パーティーの始まりだ」


そして、物語は幕を上げる。



223 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:03:27.63 ID:fBQ09iY0


9/29 AM 2:23

タクシーを使って第7学区の病院へと向かった一方通行は
仰天する看護師たちを無視して冥土返しの下へと真っ直ぐに駆け込んだ。


「おィ、コイツを診ろ」

「君も相変わらず無茶を言うね、急に来ては何でも要求する」

「……… つべこべ言わずにオマエはただコイツを診ればいい、殺されてェのか?」

「患者の必要なものを用意するのが僕の仕事だ。そして目の前にいるのは患者だ。…………彼女も、君もね」


一方通行が乗り込んできた騒ぎを聞きつけて看護師たちが集まってくるのを
ヒラヒラと手を振って追いやりながら冥土返しは番外個体を診察台へと寝かしつけるよう
一方通行に指示した。


大人しくそれに従った一方通行は険しい顔に浮かべたギラついた眼で「早く診ろ」と合図する。


「僕は医者だよ?キチンと診るから、君は大人しくしていてくれないかな?」



224 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:03:56.00 ID:fBQ09iY0


自分の焦りや憤りを全て見透かされたようで腹が立ったが、
確かにこのカエル顔に当たったところで無駄な時間が消費されるだけだ。


そう思い直し一方通行は気分を落ち着かせるために冥土返しから病室の外へと意識を向けた。
すると、なにやら遅れてパタパタとした足音が廊下から近付いてくるのを感じる。
冥土返しが先陣を追い返したことを知らない看護師がまた来たのだろうか。


一方通行は入院や冥土返しの手伝いで既にこの病院に何度も通っている。
故に顔見知りも多い。
先程のようにあきらかに取り乱した状態なら別だが、彼が戻って良いと言えば大抵の看護師はそれに頷くだろう。


そう考え一方通行は廊下へと顔を出す。
だが、そこにいたのは看護師などでは無かった。


「先生、なんか凄い騒ぎがあったみたいだけど大丈夫か!?」


そこにいたのは一方通行の数倍この病院へと通い詰める、彼の『ヒーロー』だった。



225 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:04:33.87 ID:fBQ09iY0


9/29 AM 2:44

「一方通行、お前こんな所で何して………うわっ番外個体!どうしたアイツ何処か悪いのか!?」

「つーか……オマエこそなんでこんな所いるンだよ……」

「いやー、木に引っかかっちゃった女の子の風船取ってあげようとしたら失敗しちゃって……
 木から落ちて骨折しちゃったというわけなんですよハハハ……」


てゆうか番外個体のヤツ大丈夫?
なんて暢気に聞いてくるヒーローに一方通行は苛立ちを通り越した呆れしか感じられない。


さて、この厄介な事情をコイツに説明すれば意地でも頭を突っ込んできそうだがどうしたものか……
一方通行が頭の片隅でそんな事を考えているのにも気付かず『ヒーロー』こと上条当麻は
「なあ大丈夫なのかよー?」と(あきらかに無視されているにも関わらず)未だ尋ねている。


一方通行がそろそろコイツを黙らせるかと思案し始めたところで、
奇跡的にもタイミングよく冥土返しがそのカエル顔を二人のいる廊下の一角へと伸ばしながら
「解析終わったよー」と声をかけてきた。


病室へ向かう自分に自然についてくる上条を横目に見ながら一方通行が入室すると、
頭に花瓶でも乗せたかのような奇抜な髪飾りをした女が目の前のモニタを覗きこみながら
何やらカタカタと作業を進めていた。


「おィ、部外者連れ込んでンじゃねェよ」

「彼女はその道のプロだよ。作業効率を考えるなら外部から彼女を呼んだ方が速かった」


女は「これが解析結果になります」と端末用のメモリを差し出しながら律儀にも一方通行に向けて答えた。


「私が気になることは沢山あります。そこの女性のことも解析結果の内容も含めて、沢山。
 でも絶対にあなたにそれを聞くことはありませんし、他言もしません。―――プロ、ですから」

「……………」



226 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:05:07.10 ID:fBQ09iY0


女は真っ直ぐな目を持ってして一方通行に応えた。
一方通行もその誠意に対しメモリを受け取る傍らしっかりと頷き返すことで答えた。
そしてクルリと踵を返すと未だ一人状況の掴めていない上条へと、彼は初めて『依存』をした。


「ミサカネットワークから『妹達』に『ウイルス』が感染した。
番外個体だけはそれに該当しなかった為に、その『ウイルス』の内容が解析できた。」

「なんだって!?なら俺も『ウイルス』を流したヤツらに………!!」

「だが!これが『敵』に知られれば、番外個体が狙われる可能性がある。…………だから、
  ―――――だから、コイツを、オマエが護ってくれ。必ず、絶対に、無事に、オマエが!!」


今の一方通行に恥も外聞もない、プライドはとうに捨てた。
彼が『信頼』して何かを託すことのできる相手は限られている。
そして、限られた中に存在する人間のうち危険を承知で巻き込める相手は殆どいない。


「俺は打ち止めを助けに行く。だからオマエにしか、頼めねェ」


上条当麻は一方通行の真剣な眼差しを受けながら驚いていた。
彼が自分を頼ってくれたことに、誰かに助けを求めてくれたことに、
一人で背負い込まなくなったことに。
だからこそ敢えて上条は懐かしい言葉を持って彼を送りだした。


「―――――死ぬなよ」

「――――― 互いにな」


一方通行は病室を後にした。
上条当麻は番外個体の眠る寝台へと向かった。
そして、『ヒーロー達』はそれぞれの戦場へと赴いてゆく。




227 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:05:38.45 ID:fBQ09iY0


9/29 AM 4:13

病院を出た一方通行は自身の端末へと早速メモリを指し込んだ。
上位命令文の正確な送信日時、速度、『妹達』への浸透率などを眼で読み捌きながら
彼は目的とする『命令文の内容』を探す。


「―――あった、コレか!!」



『妹達』全下位個体へと送信。
学園都市在住の個体は上位命令文を受諾次第ミサカネットワークより送信される上位個体所在地へと集合。
その他個体は待機。
9月30日0時00分を機に各自武装し可能な限りの人間を殺害すること。



「――――――ハッ、嗤っちまうほどにクソッタレな内容じゃねェか」


打ち止めの誘拐。
『妹達』を媒介としたミサカネットワークの使用。
9月 30日。
木原数多。


「つまりは、あのガキは何の関係もねェ、俺への私怨って事だろォが――――」



228 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:06:09.61 ID:fBQ09iY0

一方通行はその他の内容を一通り確認すると携帯電話を取り出し再び連絡を取り始める。


「土御門か、こっちは上位命令文の内容が掴めた。今から送る。………そっちはどォだ」

『待て、先にそっちを確認する――――なるほどな大体掴めた。
 後は『狂犬部隊』の潜伏先と誰が木原数多を『復元』したのか、
そして誰が『ブレイク』に情報を売ったのかが判れば完璧なんだが…………』

「後の二つはともかく『狂犬部隊』の潜伏先は判る筈だろ、あの野郎ォからの連絡はどうした?」

『まだ来ない、が、恐らくは立てこんでいるんだろうな……
『狂犬部隊』は今こそお前に一矢報いてやろうと必死になってる筈だし、
そこに潜り込んでるアイツも働かされているんだろう
連絡が取れ次第アイツと海原を合流させることにした、最終信号については安心しろ』

「『9月30日を迎えるまでにこちらが『敵』を討てば、チェックメイトだ』」



9月30日まで、あと19時間37分26秒。





229 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:06:38.33 ID:fBQ09iY0


9/29 AM 8:37

「―――よお、お前が『幻想殺し』?」


長年の友人にでも接するかのように突如として気さくに話しかけてきた青年に、上条は構えをとった。
番外個体は自分の大切な友人であり、且つ今は一方通行から彼女を護るよう頼まれた身でもある。
得体の知れない人間に警戒を見せるのはこの状況下では至極当然なことだった。


「ああ、安心しろよ。別にそっちの人形に興味はねえから」


だが対する青年はこちらに殺気の一つも見せない。
番外個体を指して『人形』と呼んだことには怒りが湧いたが、気を落ち着かせて冷静に目前の青年を見遣る。


「誰だ、お前は――――?」

「俺は第一位サマの味方になったつもりなんて一度だってありはしないが
………借りくらいは一応返すつもりなんだよ、あの野郎と違って常識も良識も弁えてるしな」


青年は上条の問いには一切答えなかった。
だが彼の表情を観て上条は確信する――――コイツは、確かに一方通行の味方だ。



230 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:07:06.01 ID:fBQ09iY0


「何か俺に手伝えることはあるか?」


急な上条の切り替えに青年の方も虚を突かれたような顔を示したが、
直ぐに面白半分に仕掛けたイタズラが成功を見せたときの様な幼稚でニヤついた笑みを浮かべ


「賢い奴は好みだぜ?野郎じゃなければな
………申し出はありがたいが用があるのはあっちのカエルと花女だ
おいカエル医者、例のウイルスに対抗できるワクチンプログラムを寄越せ」


その言葉にカエルと花女、この病室の主である冥土返しと先程ウイルス解析を行った初春飾利は
二人揃って待ってましたといわんばかりに顔を見合わせた。


「『もう完成している』。それを必要とする患者さんの下へ持って行ってあげなよ」

「―――――上等だ、金は一方通行にツケとけ」


そしてまた、舞台は移り変わる。





231 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:08:14.79 ID:fBQ09iY0


9/29 AM 11:42

待機場所として用意された個室のソファに『アイテム』の面々は腰を据えていた。
『ブロック』から『同盟組織が牙を剥いた時の為』に用意された自分達には、未だ出番はないらしい。


「ねえ浜面、『他』の状況はどうなってる?」

「ああ。あとは『こっちの用事』が済めば何とかなるみたいだな」

「つまりは私達だけ超出遅れてるってことじゃないですか」

「でも今のままじゃあの人達は『依頼主』を教えてくれそうにないよ。どうする、むぎの?」


シャケ弁を片手に呑気にうんうん呻る麦野は『学園都市の崩壊』やら何やらには一切興味が無いらしい。
只一つ『自分達が出遅れたこと』に対して彼女が悔しがっていることは学園都市にとって幸いであるが。


「取り敢えずこっちの状況を纏めましょう。今私達が協力してやっている組織は『ブレイク』
―――学園都市革命派の組織ね。
何処からか知らないけど『アレイスター・クロウリー統括理事長の死去』を嗅ぎつけ
 学園都市の破壊を目論み現在に至る、と」

「付け加えるなら『ブレイク』の面々は『学園都市崩壊』の手段として
『妹達の暴走による学園都市の社会的崩壊』を選び、『妹達』を用いるのに最大の障害となる
一方通行への対策として『狂犬部隊』と同盟を結んだ、ってとこで超良いでしょうか」

「問題は『狂犬部隊』が裏切ったときの為に用意された過ぎない私達が
どうやって『ブレイク』から情報を盗むか、ってとこなんだけど―――――」


未だ『ブレイク』のリーダー格は現れない。
下っ端の構成員達は自分達が決起する切っ掛けとなった『情報源』について何ら知らないことは
既に行った取り調べというには過激な方法で確認済みであるし、
下手に動いて唯一それを知るであろう人間に引っこまれても困る。


さてどうしたものか………
思考に耽りつつコンビニ弁当の鮭へと齧り付いた麦野は何か碌でもないことを思いついたのか
そこで上品な服装に釣り合わない品の無い笑みをニンマリと浮かべた。


「なら、リーダーが動かざるを得ないほどのでっかい芝居をうってやろうじゃないか」




232 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:09:01.92 ID:fBQ09iY0


9/29 PM 3:28

『連絡』を受けた結標は数人の部下を引き連れとあるサロンへと向かっていた。
今回の任務に同行する予定の海原とは、現地で合流するつもりだ。


任務に必要な『お膳立て』は全部現地にいる人間で済ませてくれるらしい。
とあらば、こちらはシナリオ通りに動く為で済む。


「―――――とは言え、油断しないようにね。暗部の『仕事』っていうは常に命がけが当たり前なんだから
 特に別組織と共同でやるときは相手を信用しても信頼しちゃダメ、解った?」


結標は『仕事』の内容によって連れ歩く人間を変える。
今回の『仕事』で連れてきた部下の中には十代中盤のまだ若い少年も居るため、
彼女はもう何度口にしたか判らない台詞を改めて口にした。


暗部の『仕事』は常に命がけだ。
相手の強さに信用を抱いても決して相手を信頼してはならない。
『仲間』がいつ裏切っても良いように、『仲間』がいつ己に刃を向けても良いように、
これが『暗部』という世界だった。



233 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:09:38.16 ID:fBQ09iY0


9/29 PM 5:02

「だから、こっちはテメェら『ブレイク』に襲われたっつてんだろ!!ホラ見ろコイツ、
そっちの幹部じゃねぇか!」


そちらの構成員に強襲を受けたと『アイテム』からの連絡を聞き付けやって来た『ブレイク』の人間は驚愕した。


襲撃犯として突き付けられたグループのうち代表とされた男は確かに自分達組織の幹部であったし
証拠となった監視カメラの映像にも男が『アイテム』の面々に襲い掛かる姿がバッチリと映っていたが、
彼らの間にはそのような計画など無かったはずだったのだ。


この男に裏切られたのだろうか。
『ブレイク』の面々も一度はそう考えたものの、なかなかそれを受け入れられずにいた。
男が誰よりも任務に忠実であり誰よりも理知的な人間であることを、彼らは知っていたからだ。


ならば何故男はこのような行為に及んだのだろう。自分達に知らされていない計画の変更でも起こったのだろうか。


「リーダーを出せ、テメェら下っ端じゃ話にならねえ」


『アイテム』側の要求を『ブレイク』の面々は素直に受け入れることにした。


計画の変更だとすれば自分達が下手に駒を動かすわけにはいかないし、
『アイテム』のリーダーである女のドスの聞いた声音に恐怖を抱いた為でもあった。


彼らがこの要求を呑んだことで、麦野主演の『一芝居』は見事成功を修めることになる。



234 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:10:26.08 ID:fBQ09iY0


9/29 PM 7:27

『ブレイク』の連中に裏切り者として拘束された男は
与えられた独房代わりの一室で壁に寄り掛かりずっと眼をつむっていた。
その姿は見ようによっては反省の態度を示しているようにも見えるし、
見方を変えればどうやってここから抜け出そうか策を練っているようにも見える。


そして、男の内情は後者だった。


(さて、これからどうしましょうかね……)


上手く麦野の芝居を際立たせてやったのはいいが、ここから抜け出すのはまた一苦労しそうである。


(脱出の手段は何通りかありますが、結標さんのグループも連れて出る最も効率の良い方法というと……)


面倒ではあるがいつでも逃げられる。
それが男の余裕を表していた。


(―――やっぱり麦野さん方から合図が出次第、結標さんにテレポートしていただくのが1番でしょうね)


結論がでてしまえばさて暇だ。
次はどうやって監視にバレないよう一眠りするかでも考えようか、
一方通行や土御門にとって作戦の要となる予定の男は、衆人監視の中暢気に昼寝の方法を考えていた。


(これから自分は特に忙しくなるでしょうしね)




235 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:10:54.28 ID:fBQ09iY0


9/29 PM 9:39

『狂犬部隊』の詰め所へと戻った垣根帝督は無造作に転がされている最終信号へと歩み寄ると、
おもむろに少女へと手を伸ばした。


「さあてと、あのムカつく第一位サマが歯噛みする姿が楽しみだ」


彼は彼の『仕事』を成すために、ミサカネットワークを統率するその幼い頭をわしづかむ。


そして、垣根は――――




236 :第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』 :2010/12/06(月) 18:14:48.58 ID:fBQ09iY0

9/29 PM 10:35

打ち止めと学園都市在住の『妹達』の居場所を掴んだ一方通行は
落ち着いた足取りで目的地へと向かっていた。


我ながらよくここまで我慢したものだと思う。
少し前の彼ならば同僚の静止など振り切って一人真っ先に木原の下へと乗り込みに向かったことだろう。


まあ、彼がそれをしなかった理由の一つに、それを懸念した同僚が今の今まで彼だけに
木原の居場所を教えなかったというのも大いにあるのだが。




侵入口を探すことすら面倒だと言わんばかりに派手にガラスを割って『敵』のアジトへと踏み込んだ一方通行は、
足元のガラスをパキパキと踏み砕きながら正面に携えた男をゆっくりと見上げた。


男へと視線を向け、男を真正面から認識した一方通行は、
狂気に満ちた笑みを浮かべその真っ赤な目を瞳孔ごと見開く。


「――――探したぜェ」


対する男の方も、侵入者の正体が一方通行であると認識すると
口元を半月型に歪めながら愛しい者を受け入れるかのように両手を横に広げた。


「――――待ってたぜえ」


「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」
「一方通行ァァァァァァ!!!!」


今宵、二人の獣が対峙する。





                                        『部屋と暗部組織とミサカ』(完)




237 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/06(月) 18:19:17.62 ID:fBQ09iY0
今回は様々な組織や人物からみた9月29日という長い一日をコンセプトにしていたので
いつにも増して唐突な場面展開が多く読みにくいかもしれません。
ご質問ご指摘等ございましたらどうぞ書きこんで下さい。

スレタイにはついているのに打ち止めが一切出てきません。Yシャツも出てきません。
………スレタイ詐欺で訴えられても勝てないレベルでごめんなさい。



242 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/06(月) 19:21:24.66 ID:WVxx4K60
一方さんの味方らしき人物かぁ…まぁ、予想は野暮ですな。次回を楽しみに待つ事にいたします
乙です



243 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/06(月) 20:33:19.66 ID:gm9EPWMo
誰かまったく予想できないから楽しみにしてる
「互いにな」の辺りも「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」も
ときめきが止まらない、乙




250 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/07(火) 19:58:13.83 ID:Ys4I/w.0
以下、第8話の投下となります。
これで第一部木原くン篇(今適当に付けました)は完結です。



251 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 19:59:36.46 ID:Ys4I/w.0


9/29 PM 10:35


一方通行と木原数多は静かに向かい合っていた。


それは久方ぶりの再開を喜ぶのでなく、
憎悪を孕んで佇むでもなく、
互いに潰しあうという原始的で純粋な快楽に溺れきった獣の姿だった。


「―――― 探したぜェ」

「――――待ってたぜえ」


「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」
「一方通行ァァァァァァ!!!!」




そして、獣達は牙を向く。




252 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:00:06.75 ID:Ys4I/w.0











かと思われた。


「――――――なんてな」


ベクトル操作を纏い大きく振り上げられた一方通行の拳は、
言葉と共に途端に勢いを失くし彼の体ごとそのまま正面に倒れ込んだ。


驚愕と疑惑に眼を丸くする一方通行に、木原は酷く満ち足りた表情を伴いながらこう告げた。


「テメエみてぇな化け物相手に真正面から向かおうだなんて誰がするかよ、バーカ。
  ―――AIMジャマーと妨害電波発生装置が設置されてる。これで化け物もクズ以下ってな!」


ゲラゲラと今にも転げ回りそうなほどに大笑いする木原に、
思考回路だけは残されていた一方通行は馬鹿じゃないのかと彼を見下げた。


自分の様なハンデを背負った人間が、それに拮抗する手段を用意していない筈がない。
AIMジャマーはともかくとしても
ミサカネットワークによる補助を遮断する電波をジャミングする装置はとうの昔に杖に仕込んである。



253 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:00:40.73 ID:Ys4I/w.0


そんな一方通行の嘲りに気付いたのか、
木原はそちらを振りむきニンマリと卑下た笑みを浮かべながら
この世の幸福を全て噛みしめたかのような光悦とした声音でもって一方通行にとっての悪夢を宣告した。


「テメエが動けなくなるのは今の一瞬だけで良かったんだよ、コイツラがこの舞台に入場するまでの一瞬で」


コイツラ。
木原が指差した方向を見た一方通行の顔色が見る見るうちに変わっていく。
まるで、何の力も持たないただの人間のように。


「上位命令文に従い木原数多の指示に伴った戦闘態勢に入ります、とミサカは表明します」


扉から次々と現れる同じ顔の少女達から一斉に銃口を向けられた一方通行は
その時点で既に、無力な人形と化していた。


何モ考エラレナイ。
アアソウカ。
コイツラニ殺意ヲ向ケラレル事ヲ、俺ハコンナニモ恐レテイタノカ。


「目標・一方通行を視認。発射します、とミサカは宣告します」


一方通行の悪夢は未だ終わらない。



254 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:01:12.67 ID:Ys4I/w.0

9/29 PM 11:22


『ブレイク』潜伏先での任務を終えた滝壺理后と浜面仕上は次の『仕事場』へと向かっていた。
移動手段は浜面が『ブレイク』のアジトから失敬してきた黒塗りのワンボックスカーだ。


「はまづら、間に合いそう?」

「間に合いそうってゆーか間に合わなきゃヤベェだろ、滝壺居なきゃ何もなんねえし」


助手席に座る滝壺へと時折「疲れてないか?」と声をかける浜面はひたすら車を走らせる。
芝居の主演は彼女ではないが、今回の『劇場』では裏方として彼女の能力が重要視される。


(距離的にも結構ギリギリだけど、間に合わなかったら殺されるんだろうなー……俺だけ)


自分の管轄内から発生したミスで全計画がおじゃんになったと知らされた麦野を想像して身震いした浜面は、
とっくに制限速度を凌駕したスピードを更に上げるために強くペダルを踏み込んだ。



255 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:01:40.26 ID:Ys4I/w.0

9/29 PM 11:23

同時刻。

「っくしゅん!!」

学園都市の入門審査ゲート付近で、
麦野沈利は先程まで『ブレイク』の残党相手に『原子崩し』をブッ放していたとは思えないほどの
可愛らしいくしゃみを発していた。


「麦野、今更女の子らしいくしゃみしたところでキャラは超誤魔化せませんよ」

「ちげーよ馬鹿、なんか急にムズムズ来たんだよねー。誰かが噂してるのかにゃん?」


どうやらそのまま可愛いシズリちゃんモードに突入したらしい麦野相手に、隣を陣取る絹旗は超絶呆れ顔だ。


「まあどんな路線で行こうともいいんですけどね、これから始まる仕事さえ超頑張ってもらえれば」

「ああん?張り切るに決まってるじゃない、久々にこんな大人数相手に暴れてやろうってんだからよ」


いざ革命のときや来たり!!
そんな思いを抱いて来てみれば超能力者が超ヤる気(殺る気)マンマンでした、だなんて逆に敵さんが可哀想だ。
おーい敵さーん、超逃げてー。


絹旗はこれから相手取る『敵』に酷く同情したが、
(ま、久々に全力出しきって暴れまくるのも超一興かも知れませんしね)
結論に至ると麦野と同じく幼子のように純真な歪んだ笑みを浮かべた。



256 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:02:45.78 ID:Ys4I/w.0


9/29 PM 11:48

床に無様に転がったままの一方通行は4人の『妹達』から執拗な暴行を受け続けていた。
当初一斉に銃口を向けた『妹達』であったが、嬲り殺しを望んだ木原によって戦闘形態の改訂がなされた為だ。


既に20分以上少女達によって殴り蹴られる一方通行は、しかし悲鳴も懇願も懺悔すら一切言葉にしなかった。
ただ無感情な瞳で少女達を眺め続けている。


木原はそれが気に食わない。
こうも早く壊れてしまっては、自分の痛みを何も返すことができない。


「なあ、何をしたらテメエは啼きだす?どうしたらテメエは喚き散らす?
今なら何でもリクエストを受けてやるぜ、テメエを甚振る手段のなぁ!!」


終には木原の挑発にも応じなくなった一方通行に彼の怒りは頂点に達した。
仕方がない、多少予定より早いがまあいいだろう。


「おい、このガキで遊んでやるのにオマエも参加しろ―――――最終信号」


初めて、一方通行の目に光が戻った。


「…… ラ、スト……オー、ダー………?」

「うん、判る?ってミサカはミサカはあなたと対峙してみたり」



それは、希望も幸福も何も移さない漆黒の光だ。



257 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:03:17.79 ID:Ys4I/w.0

9/29 PM 11:52

「驚いてる?下位個体じゃなくても『学習装置』でプログラミングすればミサカだって支配の対象になるんだよ、
ってミサカはミサカは懇切丁寧にあなたへと教えてあげてみたり」


金属バットのような棒状の塊を構えた打ち止めは一方通行のところどころ血に染まった身体を眺めては
初めてファミリーレストランで食事を共にしたときの様な嬉しそうな笑顔を纏った。


「あなたが一番大事にしていたこのミサカに殺されるんだもん。あなたも本望よね、ってミサカはミサカは楽しんでみる。
 でもやっぱり直ぐには殺してあーげない♪ってミサカはミサカはあなたをからかってみたり」


悪戯っ子のような顔をしてそう告げた打ち止めは
ニコニコとした笑みを携えながら一方通行へとその金属バット勢いよく振りかぶる。


「ぐ、が、ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


一方通行から初めて悲鳴が漏れた。
それが身体的な痛みによるものなのか、精神的苦痛によるものなのか、

誰にも判別が付かない。



258 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:03:47.14 ID:Ys4I/w.0

バットを叩きつけられた一方通行のわき腹は彼の白い肌をじわじわとドス黒い色へと変色させ、
見る者にその凄惨さを知らしめた。


「ハハハハッ!!面白ぇ、実に面白ぇ!!」


『最も大事とする者』に傷つけられた一方通行の姿を眺め、木原は満足そうに叫びを上げた。


「さて、ここでイイ事を一つ教えてやろう。
≪世界中に散らばった『妹達』は9月30日を迎えた瞬間、暴走する≫!
………覚えているか?9月 30日、俺がテメエに『殺された』日だ。
この9月30日に全てが終わるんだよォオオオ、ハハハハハハハハッ!!!!!」


『妹達』は俺以外の身近な人間全てを出来得る限りで殺すよう設定されている、人形達に精々赦しでも乞うんだなァ。
嘲りと共に倒れ伏せる一方通行を見下ろした木原は打ち止めに次を打ち込むよう顎で指示する。


次撃を促された打ち止めは再び容赦なく一方通行へとバットを振り下ろした。


「ぐ、ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


一方通行から大きな悲鳴が上がる。
それを見た木原が大きな笑い声を上げる。
そして残された打ち止めはそんな二人を眺めにっこりと微笑む。


異常な、光景だった。



259 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:04:13.20 ID:Ys4I/w.0

9/29 PM 11:59

「さあて、0時00分まで残り1分弱。このまま何にも手を出しませんじゃ詰らねぇぜ、一方通行よォ」


再び他の『妹達』も加わり始めた『制裁』はまた一段と残酷な物になっていた。
既に下位個体たちも各々殺さない程度の武器を携え一方通行へと振り翳している。


「―――― あと30秒ォ」


木原の悪魔の様な声がカウントダウンを刻みつけた。
だがそれに反応した一方通行が木原を睨みつけるその前に、『妹達』からの攻撃が与えられる。


「―――― 残り20秒ォ」



260 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:06:13.92 ID:Ys4I/w.0

一方通行は一度大きく荒い息を吐き出すと、唇をキッと結んだ。

―――― 10

そして真正面から打ち止めを見据える。

―――― 9

それは全てを受け入れる覚悟を決めた人間の顔だった。

―――― 8

彼の決意とも取れるそんな表情を打ち止めは静かな笑顔で受け止めた。

―――― 7

「覚悟はできてるんだね、ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

―――― 6

「ンなモン、出来てるから此処まで来たんだろォが」

―――― 5

「なら、いくよ、ってミサカはミサカは宣言してみる」

―――― 4

「来やがれ、クソガキ」

―――― 3

打ち止めは。妹達は。

―――― 2

一方通行へと今度は銃口を向けて、

―――― 1

そして。



261 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:06:53.95 ID:Ys4I/w.0

9/30 AM 0:00

―――― 0
ドォォオオオオオン………









そして。
木原数多は、自身に風穴を開けた5つの銃口を見上げた。


「一体……どぉ、して……?」

「簡単なことですよ」


血を吐きながら尋ねる木原に、ペリペリと顔の表面を剥がしだした『打ち止め』はさも事無げに答えた。


「――――― 貴方以外の全てが貴方にとって『敵』だった、それだけです」

「テ、メエ……海原、光貴……!!」


木原は海原を知っている。
一方通行と同じ組織に属する者として、資料でその情報を確認したことがあった。
確かにヤツは能力以外の『何か』を使って動いていることは聞いていた。


だがそれが仮に『肉体変化』などの変装であったとして、本物の最終信号は何処にいる?



262 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:07:49.51 ID:Ys4I/w.0


「最終信号なら既にワクチンコードを組み込まれてお寝んねしてるぜ、―――半日も前にな
 まあ上位命令文を撤回させてから改めて下位個体に『芝居』の内容を伝達させるなんて無茶させたし仕方ないが」


木原の疑問は直ぐに解消された。
突如として後ろから現れた男の声によって。


「垣根、帝督……?………テメエ、……裏切ったのかああああああ!!!!!!!!」

「オイオイあんまり怒ってくれるなよ。『信用しても信頼するな』、コレ暗部の常識だぜ?」


垣根帝督は床に平伏す第一位をニヤニヤと眺めながら、木原など物ともせずに眼先へと呑気に声をかける。


「人が苦労して最終信号を『回収』してやったんだ。これで俺を『復元』した借りは無しだろ、第一位サマ?」


その言葉を右から左へ聞き流しながら心身ともに破壊し尽くした筈の一方通行までもが
ゆっくりと立ち上がってしまう。


「どういうことなんだ、どういうことなんだよチクショォオオオ!!!!」



木原の悲痛な叫びに、海原は借り物の柔和な笑みを作りながら優しく答えてやった。



「『ブレイク』に促されて『妹達』の暴走と共に学園都市内部を武力でもって破壊する『外』の傭兵を用意していたでしょう?
 彼らの潜伏先と貴方を『復元』し『ブレイク』に情報を売った人物が掴めていませんでしたし、
 貴方はボタン一つで傭兵達に計画失敗を知らせる仕組みを用意していたようなのでここまで芝居させていただきました。
居場所もメンバーも判らないまま逃げられてもなんですし。

――― 9月30日丁度に学園都市へ乗り込もうと集まっていた方々は今頃袋の鼠でしょうね。
何しろ緩められたセキュリティを乗り越えて侵入した学園都市で最初に遭遇するのが
超能力者の『原子崩し』と『座標転移』、大能力者の『窒素装甲』なんですから」




263 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:08:50.13 ID:Ys4I/w.0




「『狂犬部隊』も『ブレイク』も、俺達『リメイク』を反学園都市の革命組織として認識していたようだが、実際は逆だ。
 『ケルビム』も、『アイテム』をも組み込んだ『リメイク』っつー大組織の正体は――――――『 統括理事会の私設部隊』。
 
 まあそれを知ってるのは理事会でも親船だけで、あとは『グループ』が全部担ってるってゆうフェイクの情報に踊らされていたわけだが」



垣根は簡単に言ってくれるが、この通告は木原にとって悪夢同然だった。


つまりは9月26日に自分と垣根が手を結んだ時点……
いや、9月21日に自分が唆して一方通行を監視させた『ブレイク』の連中を撃破した垣根に目を付けた時点で
このシナリオが決まっていたことを示唆するからだ。



「……… 外で見張らせてたヤツらはどうした……?……AIMジャマーがオマエらの能力を阻害していた筈だ……」



「こっちには AIM拡散力場から能力に干渉できる超能力者が居るんでな。
 最初はその女に標準の微調整をさせながら一つ一つ潰していったが、最終的には装置をブッ壊させてもらった。
 『アイテム』の無能力者はアレでなかなか使えるヤツなんだよ」



264 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:10:32.95 ID:Ys4I/w.0

――――― 終わった。
木原はそれを何故だか不思議なほどに静かに悟った。


「………この分じゃ俺のバックに付いてたヤツも知ってるんだろ……?」

「半年前理事会入りした新入り、アルベルト・バッティスティーニ。
 ―――― 本名アルド・プラチナバーグ、動機は『一方通行と学園都市に対する兄貴の仇討ち』」


一方通行は木原からの問いに簡潔に答えると、切っていたチョーカー型電極のスイッチを静かに入れ、
感情の抜けきった瞳をそのまま木原へと向けた。


自身の二度目の『最期』を痛切に感じた木原は選別と言わんばかりに大きく声を張り上げて
血を滴らせた唇で怨嗟の呪を眼の前のクソガキへと謳ってやる。



「忘れるな一方通行、俺は何度だって戻ってくる!!
 何度だってテメエの全てを……希望を、未来を、幸福を!全て壊しに戻ってくる!!
 次は『地獄の番犬(ケルベロス)』にでもなってなァ!!ハハハハハハハ、ハハハハハハハ!!
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」


一方通行はそっと木原の喉元へと右手を添えると、
その最期の哂い声を捻り潰すかのように一思いに能力を爆発させた。
肉が弾け、血が噴き上がる音がして、男の体が一瞬にして只の肉塊へと変わる。





「―――― 自分から『狗』名乗ってる時点でテメェの底なんて知れてるんだよ、クソッタレが」






やがて、一方通行の声だけが小さく響き渡った。




265 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:11:44.96 ID:Ys4I/w.0


9/30 AM 10:22

一方通行は垣根帝督によって第七学区の病院へと預けられていた打ち止めの下を訪れた。
先程まで番外個体と共に彼女を診てくれていた冥土返しと初春飾利、そして上条当麻は
一方通行の帰還した姿を認識するなり席を外してくれた。


打ち止めは与えられたベッドの上で静かに眠っていた。
彼女の左手には包帯が厚く巻かれている。
海原が護符として使う為に彼女の皮膚を削ぎ落とした痕だ。


もし、一方通行がみすみす打ち止めを奪われたりしなければ、別の手段もいくつかあった。
少なくとも彼女をここまで危険な目に合わせることは決してなかった。


「―――――――― クソッタレ、」


今回は打ち止めの命は助かった。
だが次は?また同じ状況に陥ったとき、同じ様に上手くいく保証なんて何処にもない。
一方通行は自身へと湧きあがる怒りが抑えきれずに、唇を強く噛み締めた。


ふいに、そんな一方通行の口元へと華奢で白い手がそっと伸ばされた。


「………… 自分で自分を傷つけるなんてダメだよ、ってミサカはミサカは教えてみる」


打ち止めの小さな声を耳にした途端、一方通行は年甲斐もなく泣き出しそうになった。


「―――――ごめン、ごめン打ち止め……俺の所為だ、全部、俺の所為だ………」


幼い子供のように掠れた声で謝り続ける一方通行の頭をそっと抱えて撫でた打ち止めは、
軽いイタズラでも企むかのようにウインクをしながら一方通行にこう申し出た。


「悪いと思うならミサカのお願いを一個聞いてほしいな、ってミサカはミサカは強請ってみたり」




あのね、入院中一人じゃとっても寂しいから、



266 :第一話 『部屋と一方通行とミサカ』 :2010/12/07(火) 20:12:36.05 ID:Ys4I/w.0








「あなたのYシャツ貸してほしいな、ってミサカはミサカはお願いしてみる!」


「―――――― あァ」








彼らは『日常』という路を、時に何かに躓きながら、それでも確かに歩き続けている。






                                                『部屋と一方通行とミサカ』(完)



267 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/07(火) 20:15:00.49 ID:Ys4I/w.0

というわけで『部屋とYシャツとミサカ』シリーズ、第一部・完です。
よく読むとワクチンを取りに来た時の>>229と後に打ち止めと接触した>>235の一方通行の呼び方が
『第一位サマ』で統一されているのですが、気付いた方はいましたでしょうか?


連載を意識した形で4話から続けてきた第一部ですが、
話が複雑になり過ぎて僕にも多少纏めきれなかった感が残っています。
皆さんに話のオチがきちんと伝わっているといいのですが―――まだまだ精進が足りませんね。
一方さんが何故『芝居』の中で妹達を恐れたか、など描写していない部分は多々ありますがそちらは後々に保管される予定です。


今後としては後日談,小ネタ,クリスマス,お正月,そして……という感じでいきたいです。
なんとなく打ちきり漫画の最終回みたいな終わり方になっていますが
スレ自体はまだ続く予定ですので皆様にはもう少しお付き合い願いたく思います。


それでは、一方通行さんと打ち止めちゃんに愛を込めて。


追記:名前欄が第一話になってましたね、正確には第八話です。いつも大事な所でミスります、僕という男は………

第一部完結といたしましたが僕の書き方が悪かった所為で皆さんに消化不良を招いてしまったかもしれません。
以下それら指摘への解答と頂いたご感想への返信です。皆さんの温かいお言葉は本当励みになります。



268 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 20:15:31.75 ID:JyF2mcAO
乙しった!

海原……流石演技の天才やでぇ



269 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 20:24:50.01 ID:npOIrgAO
ミサカはミサカは-の海原か

なんて胸熱



>>268,269様
そうですね、僕も今回の主演男優賞は海原だと思ってます。
彼は前話で打ち止めの他にも『ブレイク』の幹部も演じてますし。
まあ海原光貴の声で「ミサカはミサカは~」したらドン引きされるでしょうが。
助演男優賞はていとくんです。9月21日から9日間木原くンと騙し合いしてたわけですしね。


270 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 20:33:06.34 ID:tU57hXQo
…… 待て。
と言うことは

>>床に無様に転がったままの一方通行は4人の『妹達』から執拗な暴行を受け続けていた。

これは芝居。つまり、「そういうプレイ」だったということかっ!!



>>270様
「あんな残虐な真似をしなければならないなんてとても心が痛みました、とミサカはほくそ笑みます」
「なンで悪く思ってるヤツがほくそ笑むンですかァ、アァ?」
一方さんはともかく『妹達』は案外ノリノリだったかもし……いやあんな可愛い子がそんな事思うワケ……ウン。


271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 20:33:41.74 ID:kgJCHSMo

しかし、海原はやっぱり打ち止めの皮剥いだのかなあ



272 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 20:42:23.16 ID:cc5lGkAO
海原はこのあと一方さんに消し炭に……


>>271,272様
一応本編最後より1個前のレス(>>265)に
『彼女の左手には包帯が厚く巻かれている。海原が護符として使う為に彼女の皮膚を削ぎ落とした痕だ。』
という描写があります。解り辛くて申し訳ありません。


278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 22:17:43.36 ID:yPhbrd.o
おもしろかったぜ!

こっから日常パートか
股間が熱くなるな



280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 23:12:18.79 ID:4skg5ADO
何がかっこよかったって
ていと君がいいキャラしてるな




282 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:16:24.73 ID:977lB620

自販機で自身への缶コーヒーを購入した一方通行は、少し悩んで再び無難な紅茶のボタンを押した。


ナースセンターのざわめきが隣り合う特別入院患者用の病室に接する廊下は、
暖房が効いているのか他に比べて程よく暖かかった。


廊下を渡った一番奥。
隠されたように離れた場所に位置する部屋の前へとやって来た一方通行はそこで僅かに立ち止まった。
学園都市第一位と称される彼にだって、気まずいという感情くらい、ある。


顎に指をあて考える仕草を部屋の前で暫く続けていた一方通行は、
しかし何か特別なことをするでなく、普通にノックをして普通に入室することを選んだ。


部屋の戸を叩いた一方通行は先程までの優柔不断な態度とは打って変わって
部屋の主がノックに返事を返す前にズカズカと入り込んでゆく。
一度腹を括ってしまえばあとはどうとでもなれ、の精神だった。


「ちょっと、もしミサカが着替えたりしてたらどうしたワケ?」

「男が入ってる風呂場に全裸で飛び込んでくるような野郎にそんな気遣い無用だろォが」


戸を開けるなり当たり前だが文句を垂れる番外個体へと買ってきた紅茶を投げ付けた一方通行は、
了承もとらずに彼女のベッドへと腰をかける。


馴れ合いが終われば沈黙が走る。
気まずいのは、互いに同じだった。



「――― 悪かったな」



切り出したのは一方通行だった。



283 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:16:57.28 ID:977lB620

「自分の不甲斐無さをオマエに当たった………悪かったな」

「―――いや、ミサカが悪いよ。あなたが結構ヤバいことしてるの知ってたクセに、おふざけが過ぎた」


最終信号が奪われなきゃ、もっと色々と穏便に済んだんでしょ?
番外個体が発する自身への嘲りは確かに最もでもあった。
だからこそ、彼女は目の前の一方通行へ、彼が此処へ来てから一度たりとも目線を合わせようしなかった。


再び、沈黙。
刻々と設置された時計だけが音を刻む中、二人は互いに口をつぐみ合い目を逸らす。


だが暫くするとそんな空気が馬鹿馬鹿しくなったのか一方通行は
溜息と共にプシュリと缶コーヒーのタブを空け、それを口に含みながら呆れたように言った。


「ったく。あのガキにしてもオマエにしても、ワケ解んねェトコで辛気臭くていけねェなァ……
ンなモン、テメェが備えてた『シート』が『セレクター』が役立った時点でチャラだろォが」


番外個体には上位命令文に対するガード機能が備えられている。
それはかつてロシアの地で破壊された学園都市から与えられた装備でなく、
彼女本人が自ら望んで再び付け加えたものだ。


「根暗とか……あなたにだけは言われたくない……。
それに『使い捨てられないために他の妹達にはないものを持つことが必要だ』って言ったのはあなたでしょ、
ミサカはそれを実行しただけだよ」

「だが方法としてその手段を選んだのはオマエ自身だ。
『暗闇の五月計画』と並べてあれを設置する痛みに耐えたのは、オマエの強さだ」



284 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:17:46.23 ID:977lB620

『シート』や『セレクター』を再び取り付けるという事は、多くの危険性と強い痛みを伴う。
ただでさえ他の妹達より著しい成長を強いられた彼女の身体は、これらの弊害からより多くの検査や調整に縛られる。
しかしそれを呑んででも、
彼女は最終信号が悪用された際に自身がブロックしたウイルスから対抗できるワクチンを造るその道を築いた。
それは、ただ自分が生き残る為の手段としてだけでなく、


「ミサカだって、ただ利用されない為だけにこうしたワケじゃないんだからね。
………ミサカは、ミサカはその、あなたの……あなたの役に……」



あなたの役に立ちたくて………



「番外個体ー、見舞い来たー。どうだ体調ー?」


続けようとした言葉は、空気の読めない英雄によって遮られた。


「~~~っ、ミサカは!ミサカはあなたをヒーローだなんて認めないんだからね、上条当麻ぁ!」


―――番外個体のヤツ、どうしたんだ?
―――複雑な年頃なんじゃねェ?


男って奴は、本当にバカだ。



285 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:18:13.48 ID:977lB620

さて。
先程から病院内をウロウロと歩き回るっている一方通行であるが、
演技とはいえ木原に不信感を抱かれないレベルの暴行を長時間に渡って受けた彼もまた
立派な入院患者である。


持ち前のベクトル操作で傷の回復を促してはいるが、まだまだ検診も安静も必要とする身だ。
出歩いていることがバレてあのカエル医者に口煩く小言を言われる前に戻ろうと
(十中八九あのカエルは何処からかそれを嗅ぎ付けているだろうことを知りながら)
一方通行が自身に宛がわれた病室へと向かえば、
しかし個室である筈の彼の部屋から何やら騒がしい声が男女両方複数聴こえる。


―――あの声、


打ち止めのように幼さを残したものでも、先刻聞いた上条のものでもない。
―――俺が入院してることを知っている人間なンて数限られている筈なンだが………
そう思いつつも扉を開ければ、案の定というかやはりというか、彼の『同僚』が顔を連ならせていた。


―――イヤイヤ。揃ってこンなとこいちゃァマズいだろ、俺ら一応暗部だし。表向きには敵対組織だし。


学園都市入門ゲート前に集まった1000以上の傭兵を片っ端から薙ぎ倒すという
超能力者や大能力者の派手な交戦の情報隠蔽に追われている結標や土御門は流石にいなかったが、
麦野や垣根まで居合わせているのは問題だ。
というか何しに来たんだコイツら。



286 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:19:01.40 ID:977lB620

不機嫌な一方通行の表情を見抜いたかすかさずフォローを入れた海原は
皆さんお見舞いに来てくださったんですよ、と明らかな嘘を並べ立てる。
(コイツらがそんなことの為にわざわざ来るはずない。大方嫌味を言いに来たか、からかいに来たかのいずれかだ)


「つーか、俺が入院までする嵌めになった理由の半分以上が勢い良く振るってきやがったオマエのバットだったんだけどな」


「え?だって『全て受け止めるぜ、俺!』みたいな顔してたじゃないですか、
心なしか恍惚とた表情してたじゃないですか。
 てっきり僕は『あー、一方通行さんて実はドSじゃなくてドMだったんだー』って………そげぶ!!」


取り敢えず何だかムカついたので海原の顎へとアッパーカットを喰らわせておく。
しかしそれを受けてなお顎を摩りながらゆらりと立ち上がる海原は、今日は一段とウザい。


「ふ、ふふふ………良いんですか一方通行さん、僕にそんな真似をして………」


真似をしたらどうだって言うンですか、この変装野郎。



287 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:19:53.97 ID:977lB620

「一方通行さん、貴方、同じ学校に勤める黄泉川さんに心配かけたくないからって
自分の皮剥いで僕に講師やらせましたよね………
そのとき彼女に言われたんですよ『何時になったら約束果たしてくれるんだ』、って」

「テ、テメェまさか……!!」

「何のことかと思って聞き返せば………
一方通行さん、初めての酒の席で酔っ払ってやった宴会芸をまた見せる条件で
黄泉川さんに講師の席に捩込んでもらったそうですね……」

「海原止めろ、言うな!!!」

「『百合子ちゃん』―――でしたっけ?」


その瞬間、一方通行の白い肌が一気に赤面する。
何やらノイズが乱れたような言葉を一人モゴモゴと発しているが誰ひとり気にせ
ずに『百合子ちゃんコール』を連発している。


「「「ゆーりこちゃんっ!それ、ゆーりこちゃんっ!」」」


海原、垣根、麦野あとで殺す。


「ハ、ハハ……残念だったな俺ァ女装用の服なンて持ち合わせてねェぞ!!
持ってねェことには出来ねェし仕方ねェよなァ!!」


よっしゃあァァァァ!!!!勝ったァァァ………


「――― もってるよ、ナース服なら」


滝壷ォォォォォオオオオ!!!!!
オマエだけはまともだと信じてたのにィィィィ!!!!


「浜面がバニー好きだから、あくせられーたが喜ぶかと思って。看護婦さんに借りてきた」


………それは女が着るから喜ぶんであって、自分で着て喜ぶ野郎なんていねェ。



288 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:20:32.54 ID:977lB620

「丁度いいじゃねぇか、着ろよ第一位」

「誰がテメェの尻拭いしてやったと思ってるんだ第一位」

「僕がどんな思いでちっこい御坂さんの皮剥いだか解りますか第一位」


着ーろ、着ーろと今度は続く『着替えろコール』に一方通行はぐぅの音も出ない。
認めるのは釈だが世話になったのも事実だ。


「だーもォ、着替えりゃいいンだろ着替えりゃァ!!」


こうなりゃヤケだ。
ベッドに備え付けられたカーテンを引いて閉じた一方通行は早くしろだの逃げんなよだのといった
野次を尻目に仕方なく服を脱ぐ。
つーかこの状況下で逃げられるワケねェだろ。


見事ナース服へと早変わりした一方通行は、身に余る程の盛大な屈辱に半分理性がブッ飛んでいた。


「これでいいンだろォ!!!」


乱暴にカーテンを開いていっそのことウインクの一つでも決めてやろうかとした一方通行の前には、
しかし学園都市第一位の頭脳を持ってしても予期せぬ光景しか広がっていなかった。


「だ、大丈夫!あなたの趣味が女の子の格好することだったとしてもミサカとあなたの関係は変わらないよ!!
ってミサカはミサカは動揺を隠しながらフォローしてみたり!!」




やはり幻想殺しの効能には、『不幸を移す』が含まれていたらしい。



289 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:21:33.71 ID:977lB620

「い、いや打ち止め、これは違……」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!え、マジ!?マジでそーゆー趣味だったの?
道理でミサカのナイスバディにも勃たないワケだ」


「ゴメン、お前の見舞い来たら廊下で鉢合わたから連れて来ちゃったホントにゴメン」


番外個体テメェ、さっき折角人が励ましてやったってのに。
上条も余計なことしやがって覚えてろ。


「ぎゃはは!一番知られたくないヤツに秘密の趣味知られちゃって残念だったわねー」


オマエらが着せたんだろォが、麦野。


(てゆーか麦野あんなこと言っちゃって良いんですかね)

(え、なんで?)


なんでじゃねェよ馬面。あとチビガキは良く言った。


(いや、『アイテム』の役目は上層部の暴走阻止じゃないですか。
プラチナバーグが計画を始めた段階で私達が潰してればそもそもこんな事件、超ありえなかったんですが………)

(―――つまりむぎのは、あくせられーたに責任全部押し付けようとしてる)

(え、それヤベエじゃん黙ってよ!!)



290 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:22:10.94 ID:977lB620

「『黙ってよ!』じゃねェよ馬面ァ!!なンか今聞き捨てならねェモンが聞こえたぞォ!?」



―――麦野テメェェェエ!!!

―――騙される方が馬鹿なんだよバーカ。

―――やっぱテメエに第一位の素質なかったんだよ、ここはこの俺が……

――― 黙れこの糞メルヘン。

―――もお、あなた落ち着いて!ミサカはあなたのどんな姿も受け入れるからってミサカはミサカは………

――― だから違ェつってんだろクソガキ!

―――きゃはは、自分勝手な展開にミサカの方が勃っちゃいそう!

―――女の子がそんな下品な言葉遣っちゃいけません、上条さん許しませんよ!



「うるせぇぇえぇえぇ!!!!ココ何処だと思ってる病室だぞ!!」

「「「「あ。スイマセン、ナース長」」」」



291 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:23:36.88 ID:977lB620


面会時間の超過を建前に騒がしい奴らを帰した一方通行は、院内の一角にある携
帯電話使用エリアにいた。












『――― まさか、これで終わると思ったか?ローマ正教とロシア成教に潜伏していたショチトルとトチトリから報告が入った……
 どうやら今回の一件で《アレイスター・クロウリーの死去》が魔術サイドにも露見したらしい。
 各宗派の上層部は流石にとうに気づいてたろうが、反科学意識の強い一部の魔術師は直ぐにとはいかなくても近い内に必ず攻めて来る』




「ンなこと判ってる。……だが《魔術》に関してはテメェや海原の管轄じゃなかったか、土御門ォ?」




『ただ魔術師が降りて来るだけならな。
 ―――ミサカネットワークを利用した《妹達》の暴走を機具して全個体を隠密に処理しようとする動きもある。
 あれだけの数のクローンが世界中に散らばってるんだ、魔術師の中にだってその存在に気づいてる奴がいたっておかしくない。
 ………解るな?今回のようなミスは、二度と許されないぞ』






「………… 解ってる」



292 :第九話 『部屋と後日談とミサカ』 :2010/12/08(水) 20:24:25.71 ID:977lB620


一方通行の答えはそれだけだった。
震える指を無理矢理動かしてなんとか携帯の電源を落とす。



彼は畏れていた。
木原の一件。
妹達からの暴行を受けた際、演技だと判っていた筈の彼は漠然とした恐怖を感じた。



妹達が自分を責め立てること以上に、
やっと人間らしい感情を手に入れた彼女達がそれらを全て失くしてしまうことを。
自分の目の前で彼女達を亡くしてしまうことを。
一番小さなあの少女の笑顔が、消えてしまうことを。







「………失ってたまるかよ………亡くして、たまるかよ………」







ああ、この世界は何処まで絶望に満ちているというのだ。



彼らの絶望を刻み込み、物語は、新たな幕を開ける。






                                              『部屋と後日談とミサカ』(完)



296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/08(水) 20:55:23.27 ID:X.sJPwAO
滝壺かわいいよ滝壺


297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/08(水) 20:57:29.38 ID:DlmdR4w0
クリスマスはやっぱり番外通行止めでほのぼのとかどうでしょう?
途中で上条組や浜面組などと会ったりしたりとか
んで夜は黄泉川と芳川を入れて5人でわいわいすればいいと思う



298 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/08(水) 21:10:34.61 ID:d0iZX2Uo
とりあえず、黄泉川に約束を果たす百合……一方さんが見たいです。
ミニスカサンタ辺りで……すまんかった。
上条サンタ、浜面サンタと鉢合わせる一方サンタとか。



301 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 01:16:00.20 ID:5QTVlmY0
ずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を!どろどろした昼ドラ展開じゃねえ!
血と絶望の殺伐とした戦闘じゃねえ!他の何者でもなく!他の何物でもなく!
テメエのその手で、一方通行の役に立つって誓ったんじゃねえのかよ!
ずっとずっと彼女になりたかったんだろ!お姉さまみてえに上位個体みてえに、
Tシャツめぐってテンパっちゃうような、オンナノコになりたかったんだろ!
だったらそれは全然終わってねえ!! 始まってすらいねえ!!
ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねえよ!!
――手を伸ばせば届くんだ。いい加減に始めようぜ、番外個体!
ようするに捏造未来ほのぼのストーリーがもっと読みたいです!



302 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 01:46:44.32 ID:Aily3sDO
打ち止め「Tシャツになってるよ?てミサカはミサカは指摘してみる」

一方「こまけェこたァいいんだよ」



303 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 02:01:21.66 ID:hWLIyhQo
T シャツだとなんか変態チックだな

番外個体らしい



304 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 02:26:00.62 ID:KGqVd7Uo
>>301>>302
この流れ、見た瞬間爆笑したwwwwww



305 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 15:46:08.70 ID:2vfJ/XU0
一方さんの嫉妬見てみたいな



307 :【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達 :2010/12/09(木) 20:01:11.13 ID:key1KXU0


第七学区の病院に現在絶賛入院中の打ち止めが
同じく現在入院中である一方通行の病室を訪れると、そこにあったのは実に奇妙な光景だった。



「 何 し て る の か な って、ミサカはミサカは湧きあがる怒りを抑えながら番外個体に質問してみたり」


「何ってわかんないの?あの人のTシャツ盗んでたんだよ」



部屋に合った影は尋ねた彼の者ではなく、
自分と同じようにミサカネットワークから流されたウイルスの影響から
入院し調整を受けている番外個体の姿であった。



「何とか堂々と言ってんの!?どうせ疚しい事に使うつもりなんでしょ返しなさい!
 ってミサカはミサカはあなたがミサカと同じDNAを持つことを証拠に掲げながら叫んでみたり!!」


「『やましい事』じゃなくて『やらしい事』に使おうとしてたんだよ、より正確に言うならオn……」


「教育的指導ォォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」



308 :【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達 :2010/12/09(木) 20:01:43.63 ID:key1KXU0

打ち止めの華麗なドロップキックが番外個体の身体に向かい吸い込まれるように流れてくるが
それを優雅に避けながらフフン、と口元を歪めた番外個体は対峙する彼女を嘲笑う。



「てゆーか?その言い分じゃ最終信号は疚しい事に使ってたワケだ、あの人のYシャツを。
 ならミサカが此処から持ってこうとしているこのTシャツをどう使ったって責められないよねぇ!!」


「ち、違うもん!!
ミサカは厭らしいあなたと違って精々クンカクンカする位だもん、一緒にしないで!!ってミサカはミサカは……」


「それだって十分変態チックじゃん匂いフェチですかぁ?あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!
 ならミサカの方が健康的でしょ、自然の摂理だし誰だってやるもんね自 i……」


「だからハッキリ言うなって言ってんでしょォオォオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
なんでこーゆー個体に限って上位命令文が通用しないのさ使えないなあ!!
ってミサカはミサカは憤慨してみるコンニャロォォォォオ!!!!!!!!!!!」



309 :【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達 :2010/12/09(木) 20:02:24.13 ID:key1KXU0





『寄越せよあの人のTシャツ!!ってミサカはミサカは……』

『出たな本性!やっぱり最終信号も狙ってたんじゃん、もうYシャツ貰ってるくせに!!』



ワーギャーワーギャーと己の部屋から聞こえてくる少女達の、
しかし年頃の乙女とは思えない単語が並びまくった会話にそっと聞き耳を立てていた一方通行は
今の状態で自身が部屋に戻った場合どうなるかのシミュレーションを重ねていた。


あんなことを聞いてしまった以上もうYシャツもTシャツも返してほしいものだが、
全部聞いてましたなんて言いながら部屋へズケズケと立ち入るのも何処か気まずいものがある。
此処は彼に宛がわれた病室なのだが。



さて、どうしたものか。



310 :【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達 :2010/12/09(木) 20:03:46.30 ID:key1KXU0




『だってだって!!Tシャツの方が汗とか色々ついてそうだもん嗅ぎたいもん!
ってミサカはミサカは心中を吐露してみる!』


『ならミサカだって絶頂の瞬間を……』


『黙れェェェェエエエエエエ!!!!!!!!!!』





少女達の喧嘩はまだまだ決着が付きそうにない。
禁煙家の妻の命令でベランダ族となった夫のように居場所を失ってしまった一方通行は、


(………… 仕方ねェ、とりあえずあのガキにやったYシャツ洗濯してこよ)


取り敢えず、
あの少女の変な性癖を少しでも改善させるべく自分の荷物から匂いを消すことを選ぶことにして売店へ向かう。


(どこで育て方間違えたかねェ、本当に―――――)




「すいませン。洗剤とファブリーズ下さい」




一方通行の苦悩はまだまだ続く。


                                      
                                        『部屋とTシャツとミサカ達』(完)



313 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 21:15:03.40 ID:Aily3sDO
>>1乙!

まさか使われるとは思わなかったのですごく嬉しい!
今後も楽しみにしてます!



318 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 00:07:43.07 ID:LH3qeXIo
叫ぶ打ち止めが可愛すぎて生きるのが辛い


319 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:44:23.58 ID:YoMZtZMo
一通さんがファブリーズを店頭で買う姿を想像すると笑える



321 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/10(金) 20:17:38.04 ID:Bn4aMxI0
打ち止めと番外通行にヒドい性癖を持たせてしまって本当に申し訳ありません。
でもここのスレでは美琴嬢もかなりの妄想壁に育っているのでアリだと僕は思いま……美琴嬢がダメなのか?アレ?

それでは以下は本日分の投下になります。
クリスマス前のお話ですが第一部の9月30日から12月までは大分期間が開くので
扱いはあくまで≪番外編≫ということでお願いします。



322 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:18:54.68 ID:Bn4aMxI0


「…… はァ?男ォ?」

「そうそう。打ち止めにも父親離れの時期がきたじゃんよ、きっと」


臨時講師として与えられた職員室の机の前で、
一方通行は仕事とは何ら関係のない私用バリバリの素っ頓狂な声を上げていた。


彼を『父親』と称したのは黄泉川で、
長い付き合いのある人間にしか分からない程度に複雑そうに顔を歪めた一方通行を眺めながらニヤニヤと笑っていた。


表現としてはいざこざを持ち込んだ、よりは素直に可愛い息子を弄って愉しんでいるといった方が近い。


「ウチのクラスの男子にね、打ち止めと同じ部活のやつがいて……なんか最近見かける度に二人で仲睦まじくしてるじゃん」


黄泉川の受け持つクラスの生徒ということは3年生、打ち止めの1つ先輩になる。
同じ部活のヤツなら見かければ挨拶くらいしてもおかしくはないのだが、
黄泉川がネタとして引っ張り出してくるレベルの信憑性はあるのだろう。


別にあのガキがどんな野郎とどんな関係になったところで構わないが
打ち止めの健全な成長を見届ける義務を持つ自分としては、これは色々と調べざるを得ないかもしれない。


フリーズしたように黙りこんだ一方通行を
その学園都市第一位の頭脳で有る事無い事考えているのだろうと判断した黄泉川は、
プクプクと笑いを堪えながら彼に押し出すにして助言をしてやることにした。


「気になるなら自分で調べてみるじゃんよ。あ、でも暴力沙汰はナシな」




その日から、一方通行による一人の男子学生に関する調査が始まった。



323 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:19:36.38 ID:Bn4aMxI0


観察初日。
取り敢えず、黄泉川のクラスで授業する際にソイツを観察することにする。


結論は何処にでもいるようなフツーの奴。
誰とでもそれなりに付き合えて、くだらない雑談に華を咲かす。
学校に通った経験の殆どない一方通行でも分かるほどに極一般的な男子高校生だった。


打ち止めは彼女が生まれたその瞬間から自身も周りの環境も複雑な立場にあった少女だ。
『誰か』を選ぶのにそんな暗い世界とは一切関係のない、
陽射しの下で暮らす男を望んだとしてもおかしくないのかもしれない。


一応は、もう暫く観察を続けることにする。



324 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:20:13.87 ID:Bn4aMxI0


観察3日目。
黄泉川の言っていた通りの、廊下で暖かな雰囲気を纏いながら会話をする二人を見つけた。


声をかけるか迷ったが邪魔をするのも悪いかも知れないと感じた一方通行だが、
自分がアクションを起こす前にアチラに先に気づかれてしまった。


彼を見つけた打ち止めは焦ったようにアワアワとしながらこちらに取り繕うようにして
「ち、違うんだよコレは!?」と叫んでいた。
隠すことはないのに。


結構ギリギリな時間だったので授業までには教室に戻れよと告げれば
何故だか淋しそうに「うん……」と言われたことだけが、何か引っ掻かった。



325 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:20:46.90 ID:Bn4aMxI0


観察5日目。
あの男が別の女と歩いているところを見かける。


打ち止めと奴が何処までの関係を築いているのか定かではないので何とも言えないが、
男が女に接する態度が何か気にかかる。


真っ昼間の学校で、慣れた手つきで派手に化粧で彩られた女の腰を抱き卑下た笑みを浮かべている。
これが夜の街ならこのままホテルへなだれ込むんでもおかしくはない雰囲気だった。


打ち止めと話しているときやクラスメイトと談笑しているときとは明らかに違う男の顔つきに、
何か嫌な物を感じた。



326 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:21:18.50 ID:Bn4aMxI0


帰宅した一方通行が女の意見も聞くべきなのかと番外個体へ相談を持ち掛ければ、
あろうことかこのアマは真剣なこちらに対しわひゃわひゃと何がツボに入ったのか床を転がる程に笑い上げてくれた。


「あー、あー、最終信号も可哀想に。これは流石のミサカも同情するよぉ!」


番外個体の反応を見るに、打ち止めがあの男に好意を抱いているのは間違いないのだろう。
やはりそんな男が他の女に手を出しているというのは不快なものだ。


素直に感じたままを言えば、余計番外個体に馬鹿にされた。
核心を突かず何でも遠まわしに言ってくる鼻についた嘲笑が非常にムカついた。


女心が解っていないと散々言われたがそればかりはどうしようもない。
そもそもまともな心根を持つ女が、俺の周りにはいない。


「仕方ない、なら馬鹿なあなたにミサカが最も単純な方法を教えてあげよう」


上から目線にイラっときたが此処は大人しく我慢する。
何せ相手は生まれてまだ6年、心は立派な6歳児だ。ここは大人な対応を見せねば。


「その男をあなたが誘惑して引っかかるか引っかからないか、それだけだよ」




――――― 全世界の6歳児は滅びればいい、そう思った瞬間だった。



327 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:21:55.96 ID:Bn4aMxI0


日曜日。
番外個体の服を人形のように着せられた俺は無理矢理あの男の家の付近へと連れて来られた。


このやたらフリル満載のいかにも少女趣味な服装は御坂美鈴がたまには路線の違う物をと番外個体へ買い与えたもので、
自分は滅多に着ないくせに


「あんまり着なくてもお母様に悪いでしょ、こういう時に活用しなきゃ!」


とさも愉快そうに電極対策を施した俺へと着飾りやがった。
ご丁寧にいつの間にか地毛と同系色のウィッグまで用意されているのに腹が立つ。
オイ、カメラ構えんなクソが。


現在午前11 時26分、ターゲットは一向に現れない……なんて考えている俺も結構ノリノリなのは気にしないことにする。
きっとコイツに汚染されただけだ。
以上蛇足。


「いやー、化粧も我ながらいい出来だね。お礼はフレンチのディナーでいいよ」


隣でシャッターを切り続ける番外個体に非常に腹が立つ。
というか……


「おィ、オマエが着いてくンなら俺ァこンな格好する必要なかったンじゃねェか」

「何を今更。―――それよりホラ、ターゲット出てきたよターゲット」



328 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:23:07.21 ID:Bn4aMxI0


例の男はコンビニか何かの近所にちょっと出てきます、
といった位のサイフをジーンズの尻ポケットにねじ込んだ軽装でケータイを片手に自宅から出てきた。


マジにこの格好で声かけるのか。そりゃあ声くらい能力使えば変えられるだろォがよ……
いざやれと言われると急に物怖じしてしまう。
それはそうだ、『声かけてきた女装野郎は実は学校の先生でした』なんてバレたら大恥だ。


(ちくしょう、やっぱ頼み込んででも番外個体にっ……!!)


離れた電柱の陰からニヤニヤとこちらを見遣る番外個体の下へ戻ろうと一方通行が踵を返すと、
急に男の携帯から着信音が流れ始めた。
どうやら電話らしい。
男がそれを耳に当て何やら話し始めたのでそのまま足を進め聞き耳を立てる。


男は暫くグラビアだのAVだの下劣で下らない話しを白昼堂々していたものだが、
ふいに聞き捨てならない言葉が一方通行の耳を突いた。


「ああ、この前言ってたガキ?ガードは一丁前に固ぇが中々上玉だぜ、
 ………ええー、いいじゃん付き合えよ。この前女紹介してやっただろぉが、
 偶には3Pとか変わり種もヤりてぇんだよ。噂じゃあの『超電磁砲』の妹だっていうから話題性もあるし、お前にも箔が付くぜ?」


この前のガキ。
変わり種。
『超電磁砲』の妹。




一方通行の中で、何かがブチ切れる音がした。




329 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:23:45.22 ID:Bn4aMxI0



「あのー。お兄さん、ちょっと宜しいですか?」


友人との会話に夢中になっていた男が
後ろからかけられた声に会話を妨げられたことで不機嫌そうに振り返ると、
そこには白髪・色白・細身の3拍子揃った美女が男の反応を待っていた。


「ちょっと探し物をしているんです、良かったら手伝って頂けません?」


適当に手伝った後遊んでやるのも良いかもしれない。
そう感じた男は美女の言うことを呑んでやることにした。


「良いですよ、何探せばいいんです?」


男が尋ねると、


「楽な話だ、女にホイホイ手ェ出してるクソッタレな男を捜してんだよォ」


口調どころか声までガラリと変わった女は、
一瞬でこれまでの柔和な表情から狂気すら垣間見えるような形相へと一変していた。


「いいぜェ。オマエが人ン家のクソガキに簡単に手を出すってンなら、まずはその汚ねェ汚物をブチ殺してやるよォ」


次の瞬間。
目にも捉えられない猛スピードでもって女の脚が男の股間へと伸びて来て、そして―――――





この世から、男が一人消えた。




330 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:24:29.64 ID:Bn4aMxI0





「なあ一方通行、この前言ってた男子学生の話知ってるじゃん?」


週末明けのかったるい朝。
臨時講師として与えられた職員室の机の前で、一方通行は現在『同僚』である黄泉川愛穂に声をかけられた。


「何だか通り魔に酷いケガさせられたって………まさか一方通行じゃないじゃんね?」

「あァ?犯人の通り魔は女って話だろォが」


一方通行が否定を返せば、ああ良かったと黄泉川は安堵の溜息を吐いてボソリと呟いた。


「いやー、この前の話真に受けてヤバいことしてないか心配しちゃって」

「はァ?」


聞かれていたことにヤバい!と顔を青ざめた黄泉川は何やら口をモゴモゴさせて言い訳を吐いている。


「おィ、話せ」


しかし一方通行が昨日と同様、凄味の効きすぎた笑顔で
「仕返しにテメェの旦那に有る事無い事吹き込むぞ」と脅すと脅せば
彼女は「それはイカん!!」とブンブンと首を振って彼の顔色を窺うようにしてバラし始めた。


「いや……打ち止めのヤツ、アイツの持ってたモノクロ系の小物が良いセンスしてたから色々教わってるって言ってて……
 おもしろそうだからちょ~っと一方通行を弄ってやろうかと、ね」


「……… モノクロの、……小物?」


「いやクリスマス近いじゃん?だから多分プレゼント用にだと思うんだけど……」



331 :≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行 :2010/12/10(金) 20:25:20.43 ID:Bn4aMxI0


そうか、そうだったのか。
打ち止めはあの最低野郎に好意を抱いていたのではなかったのか。


もし打ち止めが本気であの男を好いていて、
その彼女があの男の本性を知ってしまったりしたらそれがどれだけ残酷であるか。
それくらいは一方通行にも理解できた。


「そうか……なら良かった」


「お!『良かった』ってことはやっぱり一方通行も実は嫉妬しt ―――――」


「でも一体ンなモンどの野郎に渡そうってんだ?
 今回の件があった以上何処の馬の骨とも知らねェ奴には簡単に預けらンねェぞォ……?」


「      」



彼が打ち止めの真意を知るクリスマスの日まで、あともう少し。




                                    『部屋と嫉妬と一方通行』(完)



333 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/10(金) 20:33:46.93 ID:Bn4aMxI0
本日の更新は>>305様のアイデアをお借りしました。ありがとうございます。

というわけで番外編、クリスマスシーズン突入です。
イヴのお話が日曜投下くらいになるでしょうか。
何回か小分けされてクリスマスネタは続きますので、宜しければアイデアのご提供をお願いします。



332 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 20:32:38.91 ID:tk4q0MAO
Oh……
俺の愚息がひゅんとなったぜ……



334 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 20:36:08.37 ID:E9QSkbY0
乙!
嫉妬ありがとう!!!ニヤニヤがとまらねぇ
しかし女装までするとはなwww



335 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 20:58:03.75 ID:aoPfOrA0
もっと番外通行成分をだな


336 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 21:14:43.88 ID:cQxNEHM0
もっと番外通行止め成分をだな


337 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 22:42:45.87 ID:zYxz6dY0
ばっかお前らここはもっと通行止め成分を要求するところだろ


338 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 22:48:07.91 ID:4x13fGwo
いっそ番外止めをww


339 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 22:56:25.07 ID:yBrKskso
>>338
いい事言ったな!



340 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 22:59:21.57 ID:9fPaimwo
番外止め! そういうのもあるのか!


342 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 23:14:56.90 ID:cQxNEHM0
誰得w


343 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 23:44:20.46 ID:0bGa6Ogo
わたくし得ですの!


344 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 23:46:13.71 ID:9fPaimwo
>>343
テレポーターは黙ってろwww



346 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/11(土) 00:22:17.62 ID:WznZB1U0
仲良く一方さん飲みかけコーヒーを巡って喧嘩してほしいww
できれば通行止め成分が欲しいが



347 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/11(土) 00:26:59.83 ID:Y/BSz0Io
黒子が美琴病を発病することなく普通に頼れる良いお姉さんしてくれるような話とかみてみたい


359 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/12(日) 20:24:16.39 ID:xgz85eY0
昨日は更新ができず申し訳ありませんでした。
母に都会のイルミネーションが見たいと言われて連れて行ったのはいいのですが……
周りはカップルだらけ、僕の隣にいる女の子は齢50歳、渋滞に巻き込まれSSは書けず、夕食はもうすぐ誕生日だから奢れと言われ、
――――散々な一日でした。

そんなこんなでクリスマスネタが未だ書けていません。本当に申し訳ありません。
今日も諸事情によりあまり書く時間が取れなかったので取り敢えず金曜に書いたネタを投下します。



360 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:25:32.44 ID:xgz85eY0


とある休日の午後。
打ち止めは、葛藤していた。



休みだからと昼まで寝過ごした打ち止めと一方通行は
ブランチというには遅すぎる食事を摂ったあと話の成り行きでなんとなく散歩に出かけることになった。


麗らかな午後の陽射しを浴びながら近くの公園までやって来た二人は
しかし思いがけないことにそこで倒れ伏している女性を発見する。


飲みかけの缶コーヒーを押し付けながら打ち止めに救急車を手配するよう指示した一方通行は、
女性の異常箇所を能力を使って調べていった。


最初は心配そうにそれを眺めていた打ち止めだが、
直に救急隊員が駆け付けてくると今度は別のことが気になりだしてしまった。



――― このコーヒー、飲んでいいのかな?



あの人の飲みかけコーヒー。
今これを飲めば間接キッスの完成だ。あわよくば唾液だって………
いやいやいや、そこまで疚しい気持ちでなくトキメキ乙女心的な意味で、ねぇ?


あの人は今救急隊員さんに自分がどのような処置をしたか教えている。
飲むなら今しかチャンスはない。
でももし途中で戻ってきたら………


「うぅ~… どうしよう、ってミサカはミサカは~」


そして、冒頭に戻る。



361 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:26:03.83 ID:xgz85eY0


「や、やっぱり飲んじゃおうかな……いいよね?ウン、喉乾いちゃったから仕方ないよウン。
 ってミサカはミサカは自分と周囲を納得させる言い訳を披露してみたり――――」

「みぃ~ちゃった☆」

「ふにゃああああああ!!!!!!!!!」


ようやく決心し缶コーヒーへと口をつけようとした打ち止めだが、
急に後ろから耳元へふっ、と息を吹きかけられたことで缶コーヒーを落とし零してしまう。


「なななななな何するの番外個体!!ってミサカはミサカはっ……」

「やだなー、ミサカ達の司令塔が実は男の飲み物に涎入れるような変態さんだったなんて」

「よ、涎入れようとなんかしてないもん!!あの人の唾液が入ってればいいなぁ、なんて思ってみてはしたけど!
ってミサカはミサカは断固抗議してみる!!」


近づいてきたのはどうやら病院での『調整』帰りらしい番外個体だった。
ちくしょうアイツの所為でコーヒー零しちまったじゃねえか。


「くっそぉぉおおおおお!!ってミサカはミサカは怒り心頭でアホ毛をバチバチさせてみたり~~~!!!!」

「お、やる気?能力ならミサカの方が上なんだけどね!!」


いくらレベルが上だろうがボディラインが上等だろうが、女には身体を張って拮抗しなくちゃならないときがあるのだ。
だからこそ。女なら、


「「いざ尋常に、勝bっ………」」

「風紀委員ですの!!これ以上公共の場で暴れると言うのでしたらこちらの権限でひっ捕らえ……あら?」


オイ何だ人の勝負を邪魔すん――――アレ?


「いつぞやの、お姉さま方?」



362 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:26:31.35 ID:xgz85eY0


「まあまあ小さなお姉様に大きなお姉様ではございませんか、お久しぶりですわね」

「てゆーかミサカ達あなたのお姉様じゃないんだけど」

「あら御免遊ばせ。私お姉様方のお名前を存じ上げませんもので……」


ああ……どんどん人も集まってくるコーヒー零しちゃったし。
あ。あの人もこっち戻ってきた。
はあ……間接ちゅー……


「はぁ……ってミサカはミサカはリストラされたサラリーマンの様な溜息を……はぁ……」

「もし、小さなお姉様は何をその様に落ち込んでらっしゃるのですの?」

「ああ。実はかくかくしかじかでね」

「まあ。かくかくしかじかですの」


ちくしょう、このアマ共楽しそうにしやがって。――――SSは便利ですね。


「私も昔は良くお姉様相手にやったものですわ♪」


ナチュラルに変態発言か。
もっと恥じらい持ってやるべきが乙女だろう、ミサカのように。


「そのような事でしたら、この白井黒子がワンランク上の『ドキ☆愛しのあの方の夜の姿!?映像入手法』を伝授して差し上げますわ」


その言葉にピクリ、と耳を震わせた打ち止めと番外個体。
彼女達はそしてゆっくりと顔を見合わせ―――――――――――――


「「お、お師匠様ァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」」


此処に、変態淑女とその見習いによる一つの師弟関係が完成した。



363 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:27:01.70 ID:xgz85eY0


キャッキャウフフな乙女オーラ全開のその場所へと戻ってきた一方通行は珍しい組み合わせに首を捻らせた。


「こんなところで何してやがるンだ、変態ツインテール風紀委員」

「あら第一位さん、お久しぶりですわね。覚えていて下さったようで嬉しいですわ」


さすが風紀委員として柄の悪い不良共を幾人も相手にしてきた実績を持つ故か、
一方通行の嫌味な例え(しかし事実)を前に屈するどころか軽く受け流した白井黒子は
学園都市最強の男に向かい呑気にこう申し出た。


「私久方ぶりにお会いしたお姉様方と少しゆっくりとお話ししたく思いますの。
 よろしければ皆様でお茶会でも致しません?そこに丁度ファミレスもございますし」

「行きたきゃ女共で勝手に行きゃいいだろォが。俺ァピンクな空気に晒され続けンのは御免だぜ」


女同士の会話が繰り広げられる中一人ポツンと同伴させられたときの居づらさといったらない。
以前御坂美琴の『近況報告が聞きたい』という申し出に打ち止めと番外個体を連れて昼食を共にした時に苦痛は十分味わった。


だが、一方通行が当然断ることなど白井黒子にはお見通しであった。


(本当はもっと違う形でカマをかけてみようかと思ったのですが……小さなお姉様の為、仕方ありませんわね)


「最近小さなお姉様の学校に通っている殿方で通り魔から酷い暴行を受けた方がいらっしゃったでしょう?
 一方通行さんは被害者が通う学校の臨時と言えど講師であるわけですし、そのお話も聞きたくて………」



364 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:27:27.83 ID:xgz85eY0


途端、断り文句を言おうとした一方通行の口がピタリと止まった。


「被害者の方は下半身を複雑骨折なさった挙句に局部的に潰されたりいたしたのでしょう?
 ………お可哀そうに、さぞや痛かったことでしょうね………」


一方通行からしてみれば自業自得どころか殺されなかっただけマシと思え、なのだが
やはり第三者の目からみれば手酷いものがある。


(追い詰めるにはあと少し、ですわね……)

「ああ。ところでこれは最初に通報を受けた風紀委員が聞いた、一部にしか出回っていない情報なのですが………」


そこで白井黒子は一方通行の肩をそっと掴みキスでも送るかのような近距離で
その続きを彼に向って囁き伝えた。


「通り魔の女は、白髪・細身・高身長でドスの効いた声の主だったそうですわよ―――――?」


学園都市第一位の頭脳を持った男は、そこで静かに陥落した。



365 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:27:55.57 ID:xgz85eY0


公園近くのファミリーレストラン、その一角。


(ちくしょう……結標のヤツ、俺のガキの頃の写真なんてレア物流してやったのに情報操作失敗しやがって……
 いや、一部くらい出回るのは仕方ねェ。風紀委員内の噂に留めたのは褒めてやるべき、か)


「ンでェ?要は俺に何が聞きたいワケなんですかァ、仕事熱心な変態風紀委員さンよォ」

「あ、ドリンクバー4つでお願いしますわ。あとはこのケーキを―――一方通行さんはケーキの方いかがなさいますの?」

「あァ俺はいらね……聞けよ話ィイイイ!!!!」

「ケーキも4つでお願いいたしますわ」

「かしこまりました~」

「いらねェっつってんだろォオオオオオ!!!!!」


一方通行は、白井黒子に押されていた。


「他のお客様にご迷惑ですわよ。風紀委員としてはそれ以上煩くなさると拘束しなければなりませんの」

「オマエ理不尽過ぎンだろソレ」


そんな光景を見て打ち止めと番外個体は感心せざるを得ない。


(さすがお師匠様、ってミサカはミサカは称賛を送ってみる)

(で?お師匠様はここで飲みかけコーヒーを狙おうって腹なのかね?)



彼女達はミサカネットワークを通じて会話をしながら師匠が何を企んでいるのか逐一洩らさないよう観察していく。



366 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:28:24.62 ID:xgz85eY0


「では、ドリンクバーでも持って参りましょうか。一方通行さんはコーヒーで宜しくて?
 お姉様方は?何になさいます?」


廊下側に座った白井がおもむろに立ちあがりドリンクバーの注文をとってくる。
どうやら皆の分を持ってきてくれるらしいが、此処で何かアクションを起こすのだろうか?


「あァ。俺はそれでいい」

「あ!ミサカはオレンジジュースがいいな、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

「ならミサカはジンジャーエールで。氷無しね、薄まるから」

「心得ましたわ」

白井と同じく廊下側の、一方通行の隣に座った打ち止めは万一白井が飲み物に何か細工をしていてもいいように
彼にドリンクバーが見えないよう座り直し注目を集めた。


「折角頼んだんだしあなたもケーキ食べようね、ってミサカはミサカは先手を打ってみる。
 偶にはあなたとお茶したいもん」

「俺が甘いモン苦手なの知ってんだろォがクソガキ」

「甘いもの苦手とか何カッコ付けてんの中二病患者(黒い翼が出る)」


便乗した番外個体も一方通行を挑発することで彼にケーキを食べさせることを了承させた。
これで白井が何を計画していたとしてもフォローは完璧である。

暫くするとドリンクバーから白井が帰って来た。
人数分のドリンクがそれぞれへと回る。
そこへ丁度ケーキも運ばれてきて一方通行はそれを嫌々した顔で黙々と食べていた。



367 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:30:51.27 ID:xgz85eY0


コーヒーで流し込みながらなんとかそれに手を付けていた一方通行だがそんなことをしていては直ぐにコーヒーが無くなる。


彼がコーヒーを再び接ぎに行こうとしたところで自身の紅茶を飲み終えた白井が立ちあがり、
ドリンクバーに向かうには打ち止めに席を退いてもらわなければならない一方通行は
彼女に自分のコーヒーもついでに持ってくるよう頼んだ。


表面上平和なお茶会を続けていた4人だがなにやら雲行きが怪しくなってきた。
――――なンだ、何か気分が悪ィ。
一方通行は体調の変化を感じ風邪でも引いたかと自身の額へと手を当てる。
―――― なンか身体が熱ィな。


そんな一方通行の様子に気付いた打ち止めは「大丈夫……?」と心配そうに彼を見遣る。
気にしなくていいと一方通行は言うものの、様子がおかしいのは目に見えて解った。


「気分が優れないのでしたら私がテレポートで送って差し上げましょうか?」


白井黒子は腐っても風紀委員だ。
そして、この状態の一方通行が空間移動能力者というこの場において最も役に立つ能力を持つ彼女に頼らない理由は無かった。


だが、一方通行は失念していた。
彼が当初から言う通り



白井黒子は、変態だったのだ。



368 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:32:23.82 ID:xgz85eY0


「さて、準備は整いましたわね」

一方通行達が暮らすマンションのリビングで白井黒子は高々と言った。
彼は今自室のベッドの中だ。


「ねぇお師匠様、あの人に何をしたの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」


打ち止めの素朴な疑問に白井黒子という名の変態淑女は恥じらいもせず答える。


「ずばり、媚薬ですわ」

「びやく?」

「勘の鋭い一方通行さんの事ですもの。
 一気に使っては直ぐにバレると思いまして少量ずつ、ケーキを一緒に食べさせることで何杯も飲ませましたの。
 それに関してはお姉様方のフォローも GJでしたわ」


あまりにも堂々と言う白井に目を白黒させる打ち止めと番外個体であったが、
『媚薬』という言葉を聞くと何故かドキドキしてしまうのも乙女なのだから仕方ない。


「一方通行さんはもうすぐ切なげなお声を上げながら自身の右手でその興奮をぶち殺す状態に入る事でしょう。
 それを決して邪魔はせず、ビデオと録音機を片手に静かに見守るのが淑女の嗜み。乙女の務め!!
 お姉様に頼まれてあの殿方に何度も同じ手を尽くしてきたこの私に、間違いなどございませんわ!!!」


打ち止めと番外個体には、このとき白井黒子が神のように輝いて見えたという。
あの人は今自室でどんな状態に陥っていると言うのだろうか。


「ミ、ミサカはミサカは先手必勝を叫びながらビデオを片手にベストポジションに向かって走り出してみたり!!!」

「あ!!ズルイ待ちなよ最終信号そこはミサカの定位置って決まって………!!!」


それを認識した瞬間、二人は互いを牽制しながら走りだした。
アイツを出し抜いて自分こそが最高の痴態を写し撮るのだ………!!!
二人はそんな思いでいっぱいだった。
しかし。



369 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:33:59.28 ID:xgz85eY0


パァアアン―――――!!!


そんな二人を、白井黒子はビンタによって嗜めた。


「お、お師匠様何するのってミサカはミサカは…………っ!!!」

「お姉様方……黒子は、黒子は悲しゅうございます。
 何故姉妹であられるお姉様方がこのように醜い争いを繰り広げなくてはならないのでございましょう。
 確かに殿方との恋を仲良く分けあうことなど出来ないかもしれません。
 それでも、それでも、お姉様方が争われることなど何一つないではございませんか……!!!」


白井はレースのハンカチで目頭を押さえながら、
そっと二人に高画質ビデオカメラと超高音質・精密録音機を二人へと差し出し―――――


「画質を優先すれば音質が落ちる、逆もまた然り。
 素人であらせられるお二人がこれらを同時に使いこなせるとは思いません。
 ――――好きな殿方との未来は1つでも、痴態は分けることができますのよ…………?」


迷い子を導く聖者の様な慈愛に満ちた表情で、白井は二人を諭した。
そんな白井の言葉に二人は互いに顔を見合わせる。
先に折れたのは、意外なことに番外個体であった。


「………ごめん、ミサカが悪かったよ。ズルイなんて言って………」

「そんなことないっ!!そもそもミサカが抜け駆けしようとしたのがいけないんだし、ってミサカはミサカはっ―――――!!
…………番外個体、怒ってない?」

「怒ってたら、ミサカから謝ったりしないよ………」


そう言って番外個体は打ち止めの顎にその細い指をそっとかけると
真摯な瞳で打ち止めを真っ直ぐ見つめ、彼女に向かって力強い声で言った。


「二人で、協力しよう?ミサカ達は姉妹なんだからさ!!」

「~~~~うんっ!!ってミサカはミサカは抱きついてみる!!番外個体大好き!!」



370 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:35:10.81 ID:xgz85eY0

姉妹愛を堪能している二人を白井は相変わらず慈愛に満ちた瞳で眺めながら、
彼女は二人に渡したよりも超小型のビデオと録音機で
彼女の愛するお姉様と同じ顔をした二人を撮影していた。


(ああっ……!!お姉様方に頼られ、そのお姉様方を導き、お姉様方が姉妹で絡み合う様子を堪能する………!!
 白井黒子、齢19歳にして我が生涯に一片の悔い無し、ですわっ!!!)


ハァハァと息を荒げながら白井は二人を急かす。


「さぁ、お姉様方!!一方通行さんにバレないよう事を起こすには、ドアを開けるのは必要最低分!!
 お二人が密着した状態で静かに撮影するしかありませんわ!!」

「うん解ったお師匠様!!ってミサカはミサカは番外個体と手を取り合ってあの人の部屋に向かってみたり!!」

「小柄な最終信号が前面に出て映像を担当した方が良さそうだね。ミサカは後ろから音声を撮るからビデオは任せたよ!!」


素早く一方通行の寝室の前へと立った二人は、打ち止めの後頭部が番外個体の胸元へと埋まる密着した形で機器を構えた。
そんな姉妹の様子に白井はもう絶頂間近である。


(ああっ………お姉様方っ………!!お二人のその間に、黒子も混ぜてくださいましっ……!!!)



371 :【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達 :2010/12/12(日) 20:36:45.85 ID:xgz85eY0

深夜。
リビングに設置された大型テレビの前で打ち止めと番外個体は手をとりあって『ある映像』を見つめていた。


「イイ感じに撮影出来てるじゃない最終信号、見なおしたよ」

「番外個体こそ、あの人の声が最高に撮れてるね!ってミサカはミサカは興奮してきて…… うぅ~~~」


テレビに繋がれたヘッドホンを仲良く片耳ずつ装着し二人は思い人の悩ましい声とその痴態を堪能していた。



『…… くっ、……なンで、こンなっ……あ、あ!……つ、ゥ…………』



普段の行動がアレなくせに顔を真っ赤にさせて映像を堪能する二人はもはやヘブン状態だ。


「これからもお師匠様の下で二人一緒に頑張ろうね、ってミサカはミサカは番外個体の手を握り締めてみたり!!」

「一人じゃどうとでもならない事も、ミサカ達二人なら何とかなるよ!!」


姉妹愛に興ずる二人は気付かない。
そんな二人を見つめる影が一つ、そこにあることに―――――



「白井黒子、ブッ殺す」


一方通行は彼女が愛する御坂美琴へと電話をかけ、そして―――――――


「あぁん!!あの人の声堪らない、ってミサカはミサカは~~~」

「見て最終信号!!あの人がアソコに手をかけてホラっ………!!!」



(だめだコイツら、早く何とかしないと―――――)


一方通行の苦労はまだまだ続く。



                                      『部屋と師匠とミサカ達』(完)



372 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/12(日) 20:37:40.39 ID:xgz85eY0
今回も皆様から頂いたネタを採用しました。
>>338様と>>346様,>>347様のネタを混ぜてみたのですが……ど う し て こ う な っ た 。


そう言えば昨日はスレを立てて初めて更新が出来ない日でした。
これは皆様のコメントを見て直ぐ書いたので投下できているのですが書き溜めストックが現在完全にありません。
最近書いている時間が取れない事ができてきました。
毎日更新は難しいかもしれませんが放り出す真似は致しませんので、どうか見守ってやって下さいませ。


―――――ところで黒子ちゃんの口調はこれで合っていますか?お嬢様言葉難しいです。


374 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/12(日) 20:41:11.99 ID:3ePiwLAo
乙です。
親孝行な1を責めるやつなんていないので
自分のペースで更新すればいいよ。

で、親孝行した後にどうしてこんな変態小話を投下できるんだ?



379 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/12(日) 21:46:59.04 ID:OqCbfes0
一方さん発散しちゃったのか……


380 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/12(日) 21:56:17.63 ID:v1kWZYAO
上条さんも媚薬飲まされてたんだなwwww


385 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/12(日) 23:47:54.90 ID:ZuChjpwo
媚薬を投入した上でこっそり美琴の秘蔵写真(by黒子)とかを寝床に忍ばせておけばOKなんじゃなかろうか
むしろムラムラしてる上条さんに迫るのが一番効果的なのにみこっちゃんってばまったくもう



386 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 00:28:56.91 ID:B/dTGEk0
妹達がどんどん変態になっていく・・・打ち止めは一方さんのそんな姿とか見ていいのか?
教育的指導ォォォ!とか言ってたの誰だっけ?
打ち止めさんこそ教育的指導受けてきなさい、一方さんに

黒子は変態淑女カッコ可愛いなほんと




388 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/13(月) 20:15:14.11 ID:fm92PA60
皆様暖かいコメントを毎度ありがとうございます、どうも変態です。
お母さんは大事にするよ!何たってあの人クリスマス生まれだからね!

今日は変態打ち止めは一旦お休み。クリスマス編の本編に突入です。
書く書くといって長らくお待たせいたしました、では以下よりどうぞ。



389 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:16:17.05 ID:fm92PA60


♪ ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る~


12月24日、クリスマス・イブ。
街にはツリーが至る所で彩られ、焼けたチキンや甘いケーキの香りがあらゆる商店から漂っていた。


(遂に来た…!!あの人と二人っきりの、クリスマス……!!)


ここ最近仕事で忙しくしていた一方通行はその日の内に家へ帰ることが中々できないでいた。
彼のその頑張りが自分や番外個体を養っていることは知っているが、
それでも寂しいものは寂しい打ち止めは一週間前に約束したのだ。


『クリスマスは、絶対ミサカと二人っきりでロマンチックに過ごそうね!』、と――――


(番外個体はクリスマスじゃない日に一度、あの人に何しても見逃すってことで賠償したし……)


実の所、これまで打ち止めは一方通行と二人きりのクリスマスというものを体験したことがない。
結婚した黄泉川の新居に二人呼ばれたり、美琴主催のパーティーに出席したり、
ときには妹達全員を集めてネットワーク越しでない初の全生顔合わせをしてみたりもした。
そのどれをも打ち止めは心から楽しんだが、やはり大切な人との二人きりの時間というのは格別に思う。


(えへへ……今日は二人で何しようかなぁ……)


そして、打ち止めは人生初の『特別なクリスマス』を迎える―――。




≪ 番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ



390 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:16:49.33 ID:fm92PA60


12 月24日の朝。
打ち止めと一方通行、番外個体は3人で朝食の席を囲んだ。


一人先に食べ終えた番外個体は、約束を果たしてくれるつもりなのか
「用事があるから」と言って出かけていった。


さて、遂に二人きりだ。
あの人はデートの計画とか立ててたりするのかな、と打ち止めの心臓は既に爆発寸前だ。


駅前のイルミネーションも見に行きたいし、美味しいディナーも食べたい。可愛いケーキも買って……


「ンじゃ、取り敢えずデパートでも行くか。夕飯の買い出ししてェし。」


打ち止めの考えを汲んだかのように出かける事を提案する一方通行。


(あぁ、本当に楽しみ! ってミサカはミサカは―――)



391 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:19:56.29 ID:fm92PA60

ど う し て こ う な っ た 。


「お、キャビア安い」

「え、マジで!?マジでキャビアなんて食わせてくれんの!?」

「流石あくせられーたなんだよ!とうまと違って甲斐性ある!」


現在打ち止めと一方通行は、上条当麻・インデックスと行動を共にしていた。
そこに至るまでの経緯を説明するには、時は1時間前を遡る――――



「お、一方通行じゃねえか」


駅前の大通り、期間限定で設置された大きなクリスマスツリーの前で打ち止め達と上条達は偶然鉢合わせた。


何処に行くのかと問われた一方通行が素直にクリスマスディナーの材料調達と言えば、
それを聞いたインデックスはさぞ羨ましそうに「いいなぁ…」と呟いた。


話を聞けば、上条家にはクリスマスにご馳走を用意するだけの貯蓄が無いらしい。


「とうまは貧乏だからね」

「お前が取っておいた貯金を使い果たすくらい食い尽くしたんじゃねえか!!」


―――――自業自得とはいえ、何だか可哀相になってきた。


誰だってクリスマスは楽しく賑やかに過ごしたいものだ。
その時こそ打ち止めはそう思いはしたが、まさか一方通行があんな申し出をするなんて
彼女は考えもしなかったのだ。



「だったらウチで飯食うか?」



――― 今日は、二人だけのクリスマス、だったのに。



392 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:20:25.75 ID:fm92PA60


そのまま行動を共にすることになった4人は、デパートの地下にある食料品売り場で食材の調達をしていた。
素材にこだわりを持つ一方通行は安さより品を優先させるので値段など気にせず
気に入った物をホイホイ籠へと放り込んでいくのだが、そんな彼に上条とインデックスは目を白黒させるばかりだ。


「5000 円もするテリーヌ買ってるし……上条さん家なら有り得ない光景ですよ」

「ねぇねぇ、あくせられーた。七面鳥は買わないの?あそこで売ってるよ?」

「ああゆうのは大抵中身ミックスベジタブルだから買わねェ。自分で仕込む。
……あとはどうすっか、シスター入ると量必要になるしチーズフォンデュでもやるかァ?」

「チーズフォンデュ!!食べたい食べたい、作ってあくせられーた!!」


――― ああ、シスターさんが嬉しそうで何よりです。
確かにあれだけの笑顔を見せられれば良かったと思うが、打ち止めとしては複雑な気分だ。


(二人きりって約束、忘れちゃったのかなぁ……)


「どうしたの、らすとおーだー?お腹痛い?」


打ち止めの憂い顔に気付いたインデックスは声を上げかけるが、
何分彼女が元凶であるので打ち止めは明るい顔など到底できない。


「ううん、違うの。あの人のマリネ美味しいから作ってくれないかなって思って、
ってミサカはミサカはさりげなく希望を述べてみたり」


こういう時、自分が醜い人間であると実感して嫌になる。



393 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:22:32.00 ID:fm92PA60

「あァ?屋上だァ?」

「うん!デパートって屋上に遊園地があるんでしょ、行ってみたいんだよ!!」

「でもよインデックス、あーゆーのって小さい子用だぜ?お前もうハタチじゃん」

「とうまのバカっ!ホントに乙女心が解ってないんだから!ねー、らすとおーだー?」

「それはどちらかと言えば子供心だと思う、
ってミサカはミサカは味方に付けないことを表明してみたり……」


時刻は午前11時過ぎ。
なんやかんや言ってもインデックスの意見を無下にもできない一行はデパートに設置された屋上遊園地にいた。


「ガランガランだねぇ…、ってミサカはミサカは隠しもせずズバッと見たままを正確に言ってみたり」

「うぅ…なんだか想像してたのと違うんだよ……」


しかし遊園地といっても所詮はデパート。
インデックスの想像したような観覧車やジェットコースターは勿論ない。


「だァから言っただろォが?遊園地なら第6学区にでも行かねェと」

「にしてもホントに誰も居ないなあ…―――うわぁ!!」


上条の急な叫びに一同一斉に注目する。
疑問を抱いたまま彼が凝視する方向をそっと見遣れば、そこには


「うわぁ…ってミサカはミサカは……うわぁ…」

「あの人前にみた『りすとら』の人とおんなじなんだよ。
昼間からワンカップ片手にベンチでうなだれてるとことか」

「こ、こらインデックス!!そんなハッキリ言っちゃいけません!もっと相手に気を使ってオブラートに包んでだな……」


周りが好き勝手その男を言う中、一方通行だけが一人小首を傾げていた。


そうして男の座るベンチへと近づくと、何の躊躇いもなく男へ声をかける。


「ンなトコで何やってんだァ、浜面ァ?滝壺はどォした?」



394 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:23:02.37 ID:fm92PA60

暫くボーっと地面を見つめていた浜面は、一方通行の声にゆっくりと顔を上げた。


「あぁ……一方通行ぁ……?」


実際そんな事はないのだが、彼の纏うオーラの所為なのか心なしか少しやつれて見えるのが気にかかる。
一方通行も若干引き気味に再度滝壺はどうしたのかと尋ねる。


すると浜面は急に滝のような涙を流しながら「一方通行ぁ…!!一方通行ぁ…!!!」と縋りつき始めた。
良い歳をした大の男がやっているのだ、気持ち悪い事この上ない。


「だァクソ、離れやがれェ!!第一俺らはンな馴れ合う様な関係じゃねェだろォが!!!」

「声かけといてそんな態度はねぇだろぉおおお……!!!!滝壺がぁ、滝壺がぁ……!!!」


浜面のある意味において尋常ではない様子に一方通行は訝しげに眉を寄せる。
滝壺に何かあったのだろうか。
しかしそれなら浜面もこんな所で呑気になどしていないだろう。


(なら滝壺に浮気でもされたかァ……?でも滝壺の奴はンな柄でもねェだろうし……)


一方通行の知り合いと気付き警戒心が薄れたのか、近づいてきた上条達も心配そうに彼を慰める。


「なぁ、何があったんだよ……?あんたが誰かなんて知らないけど、話くらい聞いてやるぜ?」


上条と浜面は、浜面がまだスキルアウトだった頃に御坂美鈴の命を狙った一件で面識があるのだが
互いにそれには至っていないらしい。


見ず知らずの人間の温かい思いやりに触れた浜面は、袖口でゴシゴシと涙を拭いながら思いのたけを暴露した。


「麦野とっ……!!麦野と絹旗に、滝壺とられたぁああああああああ!!!!!!!!!」


瞬間、一方通行の渾身の蹴りが浜面をブチ抜いた。



395 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:23:45.52 ID:fm92PA60


「ンな下らねェ事でウダウダやってやがったのか!!無駄な時間取らせやがってェ!!」

「だって俺このままじゃクリスマス一人ぼっちだよ!!彼女居るのに!!聖夜に!!オンリー☆俺!!」


良く解らないが彼女さんの女友達に彼女さんを連れて行かれてしまったらしい。
彼と一方通行の話を聞いていただけだった打ち止めは、詳しい事情は知らないがそういう事で納得した。


(もうこうなったら、一人増えようが二人増えようが一緒、なのかな………)


「なら、ミサカ達と一緒にパーティーする?ここにいるヒーローさんとシスターさんも来るんだよ、
 ってミサカはミサカは一人ぼっちにならない方法を提案してみる」

「………っ、いい、のか?俺なんかが着いて行って……」

「―――――まァ、シスター居るンじゃ一人や二人増えたところでメシ作る量変わンねェしな」


やっほおおおおい!!!!
と両手を上げて喜ぶ浜面に上条とインデックスも「キャビアも七面鳥もあるんだよ!」と彼の気分を盛り上げてやっている。



ミサカは、良い事をしたのだ。それでいいじゃないか。
震える腕を、打ち止めはそっと握った。



396 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:24:22.52 ID:fm92PA60


適当にデパート内のファストフード店で昼食を摂って、
一方通行の指示の下必要な食材を買い上げると時間は既に夕方の4時を回っていた。


最後に人気のケーキ店でかなり大きめのホールケーキを3箱買い
(なにせ暴食シスターとパーティーを共にするのだ、自分の分を確実に確保するにはこれでも足りないかもしれない)、
5人は打ち止めと一方通行の暮らすマンションへと帰った。



部屋の玄関を開けると、靴が3足並んでいた。
1足は見慣れた番外個体のものだ。だがもう2足、この女物のスニーカー達は誰の物だろう?


一方通行が何も言わないのであの人は知っているのかもしれない、と打ち止めがそのまま彼の後ろを着いて行くと
待っていたのは既に家を出ていた筈の黄泉川愛穂と芳川桔梗であった。


「おお、お帰りじゃん。ってうぉ!なんかいっぱい来てるじゃん、ビックリした~」

「あら本当、ワインとシャンパン多めに買ってきて正解だったわね」


二人はそれぞれ酒やらツマミやらを持ちこんでいたから、
当初からここで揃ってクリスマスパーティーをすることは決まっていたらしい。
打ち止めは今朝から彼が二人に連絡をとる所など、一切見ていない。



(やっぱり約束、忘れてたんだろうなあ……)



キッチンにいた番外個体も賑やかな様子を聞きつけたのかリビングへと顔を出してきて
パーティーにおける料理長である一方通行がクリスマスのディナーを完成させるまで、結局、
ロマンチックな要素など欠片もない半ば宴会のようなパーティーが続いた。



397 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:26:25.32 ID:fm92PA60
芳川が持ち込んだワインは然程アルコール度数が高くないにも関わらず彼らに大きな影響を与えたらしい。


「一番・黄泉川!!脱っぎま~~~す!!」

「二番・浜面!!歌いま~~~す!!」

「三番・上条!!生そげぶしま~~~す!!」


ディナーを粗方食べ終えた頃には、打ち止め以外の人間は既に皆ベロンベロンの泥酔状態であった。


酒が禁止される理由は幼い身体には害が大きいからだ、と唯一成人を迎えていない打ち止めは
自分より製造が後であるのに肉体的に成熟しているからと飲酒を許された番外個体を憎らしく思いながら
一人、周りの雰囲気に着いてゆけず悶々としていた。


「なあ一方通行もなんかやろうぜえ?なんなら上条さんとそげぶゴッコやる?」

「ンなの俺がボコられるだけじゃねェかよォ……あァなら俺『百合子』やるゥ、あれ得意ィ」

「あ、あ!俺ミニスカサンタの衣装持ってるぅ、これの所為で麦野と絹旗が
 『超エロい事考えてる』とか『クリスマスのノリでできちゃったガキの気持ち考えろ』とか
 言って滝壺連れてっちゃったんだけどぉ、あはははははははは」


男性陣も中々に盛り上がりを見せているようだ。しかし何故かそこに黄泉川が便乗して
「なら一方通行と私で野球拳やるじゃん、負けた方が一枚一枚脱いでくの~~」
と何やら変な方向へと向かいかかっているのが気にかかる。


「「野球~をす~るなら、こ~ゆ~具合にしなしゃんせ~」」

「アウトォ!!」「セーフ!!」

「よよいの、よい!!」


よっしゃああああ!!!まずは一勝、いいぞ一方通行このまま爆乳剥ぎとれぇええええ!!!!
――――ああ、あの人が勝ったのね。
ミニスカサンタのワンピなんてタイツと帽子と本体しかないしミサカは安心したよ……


「な、なんで一度も勝てないじゃん!!もう下着しか残ってないじゃんよ!!」

「ジャンケンってェのはなァ、振りかざそうとする拳が既に次に出すチョキやらパーやらを作ってンだよォ。
 HUNTER×HUNTERのG・I編でも読んで出直してくるンだなァ」


打ち止めはすでに悟りきった表情で一人ジュースを傾けていた。



398 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:27:32.93 ID:fm92PA60


パンツとブラジャーだけになった黄泉川は、そこでやっと男性陣から解放されたらしい。
本人は自分の格好など気にもせず悔しそうにビールを開けているので、『解放』という表現が正しいのかは定かでないが。


調子に乗ったのか今度は浜面が芳川に勝負をかけ始めた。
しかし芳川はもう既に絡みモード全開で下着だけの黄泉川に女同士くんずほぐれつの濃厚なちょっかいを仕掛けている。


「なら次はミサカとあなたで野球拳やろぉよ~」


普段の刺々しさは何処へ消えたのか、酒の所為で些か甘え上戸になったらしい番外個体が
今度は一方通行との勝負を所望している。


「あァン?さっきの見てただろォが、オマエが俺に勝てるワケねェだろォが……ヒック」


―――― 顔赤くしてミニスカサンタで凄まれても何にも恐くないよ、あなた。
呆れ顔の打ち止めが溜息をついて隣を見れば暴食シスターはフォークとナイフをカチカチ言わせながら
「七・面・鳥!!七・面・鳥!!まだまだ足りない七・面・鳥!!」と叫んでいるのが目に入った。
………コイツは酒が入ってもあまり変わらない。


シスターの保護者と言えば、例のフラグ体質故か芳川と黄泉川の絡みに上手い事巻き込まれ
今にも出血大サービス(物理的な意味で)でもおかしそうな勢いだ。
浜面は一方通行の更なる快勝=番外個体の全裸を期待して待機中である。



399 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:28:20.68 ID:fm92PA60



(ハァ…… クリスマスって何だっけ、ロマンチックって美味しいの?……ハァ……)



最早打ち止めからは溜息しか出て来ない。


「野球拳ミサカとやるったらやるの!!ただやってもつまんないしぃ、
 負けたら指定された場所を脱いで晒した素肌を一分ずつ舐められるぅ~」

「俺の勝ちは揺るがねェし別にいいけどよォ、後悔してもしらねェぜェ?」

「いいぞぉ、ね~ちゃん!もっとやれぇ~ってハマヅラはハマヅラは盛り上げてみるアハハハハ」


―――――何やってるんだか、あの人達は。
打ち止めの大人組を見る目は既にウジ虫を見るそれと同類だ。


―――――てゆーかミサカ、何か忘れてる気がするんだけれど……なんだったっけ?


「「野球~をす~るなら、こ~ゆ~具合にしなしゃんせ~」」

「アウトォ!!」「セーフ!!」


――――――アレ?そういえば番外個体って……アレ?アレぇ!!?


「そ、その野球拳ちょっとタンマってミサカはミサカはっ―――――!!!!」

「よよいの、よい!!」



400 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:29:22.38 ID:fm92PA60



「なン……だと……?」

「はぁい、ミサカの勝ちぃ♪忘れたのぉ?ミサカはネットワークからあなたの動きを先読み出来るんだよ!!
 原作20巻でも読んで出直して来な!!
 解ったら大人しくそのミニスカサンタワンピ脱いでミサカにビーチク舐めさせることだね!」


――――― 番外個体のヤツ、酔ってなんていなかったぁああああ!!!!!!
アイツ、酔ったフリしてあの人の油断を誘い脱がせるのが目的だったというのかぁああ!!!!


「これは途中で抜け出す事など到底許されないまさにデスゲーム!!
あなたは負けると知りつつ恥じらいながら一枚一枚丁寧に脱ぎ、
そしてミサカにその肌を捧げるんだね!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!」


―――――― なんか、もういいや。


「……っ、クソッタレ!!好きにしやがればいいだろォが!!」

「ならまずは上半身からだねぇ!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!」


―――――パトラッシュ、ミサカはもう疲れたよ……なんだかとっても眠いんだ……


「あ、らすとおーだー寝るんだったらそのチキン貰っていいかな?」


やがて打ち止めは教会(より厳密にはシスターが身に纏う霊装としては壊れている『歩く教会』)の前で静かに眠りにつき、
そして………



401 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:30:00.38 ID:fm92PA60




打ち止めが目を覚ますと、すでに日付は変わり25日に突入していた。
時刻は深夜1時。
他の面々はそれぞれソファーやマットレスの上で眠り果てているが、何故か一方通行だけが見つからない。


暫くして耳が覚醒を始めると静かな部屋の中にカチャカチャと僅かな音が聞こえてくる。
音を頼りに打ち止めがキッチンへと向かうと、やはり一方通行はそこにいた。


「どォした?起きたンならキチンとベッドで寝ろよォ」


ロマンチックどころか二人きりの瞬間だって朝の僅かな時間しかなかったクリスマス。
それなのに何にも気にしていないという風なあの人の態度。


(楽しみにしてたの、ミサカだけ、だったのかな……?)


そう思うと途端に涙が出てきた。
気付いたあの人が洗いかけの食器を置いて慌てて駆けてくるのが判る。


「おィ、どォした!?腹でも壊したか!?」

「違うの!!ミサカはっ、ミサカはっ!!う……うぅ……」


あの人は何もわかっちゃくれない。
ああそうだ、言わなきゃ解らないかもしれない。それでも、何も言わずとも解ってほしい。
―――――あなたとの時間を、ミサカがどれだけ大事に思っているか。


「ミサカ、ミサカはね、クリスマスっ……」

「こりゃ明日のクリスマスもしかしてダメかァ?無理矢理休みとったが何処かにズラして……」



(………え、………?)



402 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ :2010/12/13(月) 20:31:35.73 ID:fm92PA60
「え……?クリスマスって……、え……?」

「ンだよ、オマエが時間取れっつったクセして自分は忘れてたンですかァ?
 これでも俺が二日連続でまるまる休み取るって結構大変なンだからなァ」


―――――――え?


「え、だってクリスマスって今日じゃ……」

「はァ?今日はクリスマス・イブじゃねェか。
イブは黄泉川や芳川が来るからオマエと夜出かけるのは25日にしたンだろォ?」


――――――アレ?そう言えば一週間前……


『クリスマスは、絶対ミサカと二人っきりでロマンチックに過ごそうね!』

『あァ?別に良いが…なら24日は黄泉川達くるし何とか2日間休みもぎ取ってくる。約束なァ』


―――――――………………… 忘れてたぁあああああ!!!!!!!
あの人とのデートにテンション舞い上がっちゃってヨミカワ達来るの忘れてたぁあああ!!!
悪いのミサカじゃん、勘違いしてたのミサカじゃん、
え?どうしよう、マジ恥ずかしいんだけどマジどうしようマジヤバイよ、どれくらいヤバいかってゆうとマジヤバイ


「熱は?……ねェみてェだなァ……取り敢えず今日は大人しく寝て明日ダメだったら……」

「だだだだだ大丈夫!!もういいの、もう平気なの、ウンもう大丈夫、明日楽しみにしてるね!!
 ってミサカはミサカは………なんかホントごめんなさあああい!!!!」


あの人を置いてミサカはつい走って部屋へと籠ってしまった。
―――――ちゃんと、覚えててくれたんだ。


ああ、顔が熱い。
朝になったら一日を満喫するために今は一刻も早く眠らなきゃいけないのに
この滾る心の火照りは、なかなか抜け切れそうにない。



そして、ミサカ達は新たにクリスマスを迎える―――――。


 
                                   『部屋とクリスマスとミサカ ――前日編――』(完)



403 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/13(月) 20:32:29.49 ID:fm92PA60
というわけでクリスマス前日編でした。
>>297様,>>298様の意を汲んで上条組と浜面を黄泉川家に追加してみたのですが……
滝壺出せなくて申し訳ありません。
でもミニスカサンタは全う出来ましたよ、後半ずっと一方さんミニスカサンタでしたしね!!


さて、このお話は当日編へと続くわけですが。
果たして浜面は滝壺を女子組から奪還できるのか!?
最近名前しか出て来ない美琴嬢は見事上条さんをクリスマスにデートへと誘えるのか!?
そして打ち止めは一方さんと平穏でロマンチックなクリスマスを過ごすことができるのか!?

……… 期待せずゆっくりお待ちくださいませ。


404 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 20:52:09.77 ID:EUyHi2Ao

先に言っとく
25日のはまづらはもげてしまえ



407 :297 :2010/12/13(月) 21:05:47.06 ID:9TgF7k60
凄い良かった!

さあ打ち止め、幸せを満喫してくるのだ



405 :298 :2010/12/13(月) 21:01:41.77 ID:33WCNu2o
イエィ!! ミニスカサンタ百合子ごっつぁんです!
GJ!!



409 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 21:40:30.07 ID:eFIk1XUo
き・て・るるるるうううううううううううう!!!
きてる! きてる!
うひゃああああ今自分が見てる中でここの>>1だけが更新してるややふうううう!!!
うれぴいいいうれっぴいいいいよおおおおお
うごぎゃあああああああ



410 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 21:49:21.88 ID:pJR0dYAO

急患です、どなたかー!
お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー?
>>409が…



411 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 21:57:42.41 ID:NLGG3i2o
>>410
そっとしておいてやれよ…
色々あるんだよきっと。日頃の鬱憤とか。




427 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/15(水) 20:58:48.35 ID:9KX4szI0
ここからはクリスマス完結編の投下となります。昨日更新できなかった分、ここ最近の投下にしては少し長めです。
それでは以下よりどうぞ。



428 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 20:59:38.39 ID:9KX4szI0




12 月25日。
一方通行は駅前の巨大なツリーの前で、一人小さく困惑していた――――。






《番外編》 部屋とクリスマスとミサカ―当日編―




429 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:00:07.55 ID:9KX4szI0


事は1時間前に遡る。
昨日と同じく一方通行と打ち止め、番外個体に加え黄泉川や芳川、上条、インデックス、浜面の8人で
賑やかに朝食の席を囲んだ彼らは、食事が済むとそれぞれ別れて行動をとることにした。
今度は完全に全員バラバラだ。
それはと言えば、今日一日を共に過ごすことを約束した打ち止めが


『デートっていったらやっぱり待ち合わせからだよね!ってミサカはミサカは雰囲気を大事にしてみる!』


なんてことを言い出した所為だ。


(デートなんて言った覚えはないンですがねェ……)


兄妹や父娘でも二人で出掛けることを『デート』と比喩することもあるが、
なまじあの少女の場合はそれが『どのような意味』なのかは図りづらい。―――大方予想はつくが。


(まァ、アイツも喜ンでるみたいだったし……良しとするか)


なんたって今日は、クリスマスだ。



430 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:00:44.78 ID:9KX4szI0


打ち止めは誰もいない我が家でいそいそと着替えていた。
今日のファッションはスノーホワイトのファー付きワンピース。
あの人と一緒のときは、何と無く彼の白さとお揃いの様な気がして気に入っている。


(番外個体に悪いことしちゃったかな……)


数分前に出て行った彼女を思い、打ち止めは思案する。
どうしてもと頼み込みクリスマスを譲ってくれた彼女は、今晩は芳川の下で一晩を過ごすらしい。


『ミサカは昨日あの人に好きなだけ悪戯したからね、今夜は最終信号に譲ってあげるよ。
ミサカからのクリスマスプレゼントね。……んじゃ、ミサカは独り者同士芳川と飲み合ってくるから』


番外個体には何かあの人とは別に取っておきのプレゼントを買ってこよう。


(ありがとねっ…、番外個体!!)



431 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:01:22.99 ID:9KX4szI0


朝食をご馳走になってから二日酔いでフラフラとなったインデックス(しかし食事は人の3倍、しっかりと食べた)を
背負って一方通行宅を出た上条当麻は、自身が暮らす学生寮の前に見慣れない影が立っていることに気付いた。
目を凝らして窺えば、


「あれ……御坂?」


そこに居たのは御坂美琴であった。


「どうしたんだよビリビリ、こんなところで。インデックス連れた俺が言うのもなんだけどココ男子寮だぜ?」


いつもならここで電撃を伴った反応
――例を挙げるなら「アンタが言う台詞じゃないっ!」や「べ、別にアンタには関係ないじゃないっ!」などだ――
が返ってくるものだが、今日に限って美琴は何故か萎らしい。


「どうしたんだよ……――何かあったのか?」


もし彼女がそうだ、と言えばそれだけで上条は事情など求めずに協力するだろう。
しかし美琴の口から出たのは、上条にとっては思いがけない言葉であった。


「昨日は黒子達とクリスマスパーティーしたんだけど今日は皆『彼氏』と過ごすみたいでっ……、
 アンタ今お金ないんでしょ?ち、丁度いいから私がパーティーメニュー作ってあげても、い、いい良いわよ!」

「え、マジ!?でもなんで俺が金無いって知ってるんだ?」


上条が尋ねると美琴は一瞬ビクリと肩を震わせた。


「べ、別に?アンタの事だからどうせそんな所だろうと思っただけよ!」

「ふーん」


美琴としてはそんな重箱の隅を突いたような細かい事より『彼氏』を強調させた方に気付いて欲しかったのだが、
ここは少しくらい目をつむろう。


クリスマスを共にする、まずは第一段階完了だ。



432 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:01:53.76 ID:9KX4szI0


「お、おまたせっ!って、ミサカはミサカは一度やってみたかったシチュエーションを思い切り堪能してみる!」

「走るなクソガキ、転んでもしらねェぞ」


こんな日まであからさまな子供扱いかと打ち止めは一度口を尖らせるが、
次に続いた「珍しいモン履いてンだから気ィ付けろ」という言葉に一転して顔を真っ赤にさせた。


(奮発して買った新しいブーツ、……気付いてくれたんだ)


気を配った精一杯のオシャレを見てくれること程、最初の第一声として嬉しいものはない。


「ンで?結局何も決めてなかったが何処行きてェんだァ?」

「えっとね、デパート!今日はミサカがディナー作るから!ってミサカはミサカは宣言してみる」

「飯だけで良いのか?」

「あなたが他にも良いって言うならディナーの後に駅前のイルミネーション見に行きたいな……
って、ミサカはミサカはあなたの顔を窺いながら希望を述べてみたり……?」

「なら飯早めに作り始めねェとなァ、駅前混むだろォし」


さりげない言葉は了承の合図だ。


「えへへーっ」

「あァン?」


ニマーっ、と顔を綻ばせた打ち止めはそのまま一方通行の腕へと自身のそれを絡ませ手を繋いだ。


恋人繋ぎくらい許されるだろう。
何たって今日はクリスマスだ。



433 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:02:55.84 ID:9KX4szI0

浜面仕上は『アイテム』がアジトの1つとしている個人サロンの一角へと来ていた。
昨日麦野と絹旗に連れて行かれてしまった滝壺に携帯は繋がらなかった。
3人の自宅を回ってみても見つからなかったことを鑑みれば、あとは浜面が知る内でパーティーが出来そうな場所は此処しかない。


しかし此処まで来たはいいものの、滝壺に何と言えばいいのだろう。
もしかしたら彼女は自分をエロい事しか考えていない最低な男と思ってしまったかもしれない。
強ち間違ってはいないかもしれないが………あんなに可愛い彼女がいるのだ、少しくらいは仕方ないというものだ。


「しかし俺は誠意を持って滝壺に接するのだ、浜面さんマジ紳士に俺はなるしかひゃああああ!!!!!?」

「………じぃー……」


浜面の紳士になります宣言はしっかりと滝壺に届いていた。
ただし気持的でなく現実的に。


「たたたたた滝壺!?なんで?麦野と絹旗は?」

「むぎのもきぬはたも二日酔い。まだ寝てる」

「イヤ麦野はともかく絹旗まだ呑んじゃダメだろ」


滝壺は相変わらず天然満開のキョトン顔を繰り広げているが浜面としては恥ずかしい事この上ない。
何せ要は『男の欲求に耐え今夜は純愛を目指すのだ』というような内容を聞かれていしまったのだ。
我慢している、は前提にエロい事を考えているが見え隠れだ。


普通なら折れてしまうかいっそのこと開き直ってしまいそうなこの状況下で、しかし浜面は男を見せた。
漢・浜面仕上!!滝壺の為だったらどんな逆境にだって堪えてみせますとも!!
もう二度と麦野に『クリスマスのノリで出来ちゃったりしたガキの気持ち考えろ』なんて言わせねえ!!


「滝壺!!」

「なに、はまづら?」

「滝壺……俺、俺、………ノリじゃなくてキチンとお前としたいんだあああああ!!!!!!」


―――――――――アレ?なんか違くね?


「こんな場所でなぁに宣言してるのかなあ、はーまづらぁー」


以上、なんか浜面だけ危機を迎えているクリスマスの中継。



434 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:03:26.85 ID:9KX4szI0


デパートで買い物を終えた一方通行はリビングでのんびりとした1日を過ごしていた。
『あなたが昨日美味しい料理を作ってくれたから今日はミサカが一人で作るの!』待ちである。


(そォいや、超電磁砲は上手くいったかねェ)


御坂美琴に上条当麻が金欠でクリスマスもまともに送れないという情報をリークしたのは、何を隠そう一方通行だ。
『メシでも作りに行ってやれ』という内容なら美琴も上条に会いに行く口実ができるし、
インデックスも多少女関係を我慢すれば好きなだけ豪華な食事にありつける。
どちらか一方を優先させたわけではなし、我ながらナイスなアイディアだ。


(らしくねェことしてる気もするが……案外とクリスマスに舞い上がってたのかもしれねェなァ、俺も)


ところでリビングからは何だかキャア!だのウォウ!だの尋常ならない声が上がっているのだが大丈夫なのだろうか。
ソファから立ち上がろうとする度に「大丈夫だ、問題ない!」と牽制されてしまうのでどうにもあちらの様子が解らない。


(………そういえば揚げ物とか手の込んだモンは危ねェからやらせた事無かった気がする)


「キャアアア!!!あひるさんの油がああああってミサカはミサカはああああああ!!!!!」


―――――………そんな料理で大丈夫かァ?



435 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:04:08.86 ID:9KX4szI0


御坂美琴の振る舞うクリスマスディナーは上条当麻とインデックスに至福を齎した。


「ぷはぁー、美味しかったあ。短髪のヤツ料理できたんだね」

「シスターのくせによく食べるわねえ……てゆうかご飯作ってあげたのに失礼よね、人を何だと思ってるのよ」

「いやあ、やっぱり何だかんだ言って御坂は『お嬢様』って印象が強いからさ。
 こーゆー庶民的なこと?っていうの?出来るとは思わなかったから上条さんも好感度UPというものですよ」


好感度UPという言葉に美琴の顔が一気に赤く染まる。
そんな彼女の様子を、フォークを銜えながらじっと観察していたインデックスはあからさまな棒読みで上条を囃し立てた。


「あーあ、イルミネーション見に行きたかったけどお腹いっぱいで動けないんだよ。
 代わりにとうまが短髪と一緒に見に行ってよ」

「え、お前が腹いっぱいになるとかありえなくね?てゆーか名にその棒読m……―――」

「うるさいんだよ、私だって満腹くらいあるもん!判ったらさっさと行くんだよ!!」


懐かしくも噛み付いてまで起こり始めたインデックスに対し上条はこれ以上のやり取りは得策でないと判断したらしい。
大人しく彼女に従い「悪いけど付き合ってくれ」と美琴を促す。


美琴にとっては嬉しい限りだが、あの欲望に忠実なシスターがわざわざ敵に塩を送りつけるような理由が解らなかった。
上条に連れられて玄関に向かう途中、すれ違いざまにインデックスの方を見遣ると


「――――ご飯作ってくれたお礼。私だって大人の分別くらいあるんだよ」


小さな声で呟かれた。
美琴が声も出せずにそのまま外に出ようとすれば、彼女もはっきりと礼を言うことが相当恥ずかしかったのだろう。


「1時間だけなんだからねっ!シスターは寂しいと死んじゃうんだから!!」


近所迷惑になるほどの大声が、辺り一面に響いた。



436 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:04:42.77 ID:9KX4szI0


昨日の酒は体内分解を促進させて抜いてあったようだが、日頃の疲れは相当溜まっていたのだろう。
いつの間にかソファで寝込んでしまった自分にそれは流石に失礼だろうと一方通行は叱咤を飛ばす。
時計を見れば最後に確認してからまだ5分程しか経っていなかった事に安堵の息を吐いた彼は、
改めて台所を確認してみた。


先程のような悲鳴は聴こえない。
しかし、何かを調理しているような音もまた聴こえない。


時刻は午後5時。
イルミネーションを見に行く為に早めの夕食を予定していたから既に完成していたとしてもおかしくはないが、
打ち止めの性格を考えると出来たら直ぐにでも運んできそうなもので、何処か違和感があった。


足音を立てずにそっと台所へと向かえば、打ち止めは放心状態で声も出せずに泣いていた。
カウンターとコンロには何がどうなったのか原形を留めていないダークマターが2つ(暗黒物質的な意味で)。


そっとそのまま気付かれないようリビングに戻り一方通行は感慨もなく、
あくまでいつも通りに打ち止めへと声をかけた。


「そォいや、ケーキの材料買うの忘れたなァ。
今からだと買ってくるのに1時間くれェかかるが我慢できるかァ?」


急に話し掛けられた声にハッと反応を示した打ち止めは、
自身の動揺を悟られないよう必死に平淡な会話を取り繕う。


「う、うん!その頃にはご飯も完成してると思う、ってミサカはミサカはあなたを送り出してみる!」


玄関口の閉まるキィ…とした音を聞き届けると、打ち止めはその場に小さく座り込んだ。


「……あと1時間ある。大丈夫。美味しいご飯は作り直せる、
ってミサカはミサカは自分に言い聞かせて気合いを入れてみたり」


(―――こっちは暗部で命懸けの騙し合いしてンだ、これくらいでヘマして堪ンかよ)


外へと出た一方通行は普段使うバス停を横切りあえての徒歩を選んだ。
時間は出来るものではない、作るものだ。



437 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:05:47.70 ID:9KX4szI0

浜面仕上と滝壺理后は駅前のコーヒーショップにいた。
あの後麦野にさんざん怒鳴られ追い掛け回された浜面はすでに息も絶え絶えだ。
昨日に続き今日までも、彼ら二人はクリスマスらしいことを何一つ揃ってやっていない。


「悪ィ滝壺、あんなこと言って。………やっぱり失望したか?」

「ううん。はまづらがバニーの雑誌持ってたときも
『男とはそんなもんだ、それを受け入れる度量が女を美しくする』ってかきねが言ってたから」

「名言っちゃ名言だけど……アイツ何言ってんだ?」


純真無垢を絵に描いたような滝壺にあんな男の欲望丸出しな思いを暴露してしまい
彼女に引かれたりしないかと不安に感じていたのだが、
彼女の度量の広さというか天然っぷりはそれを上回るものだったらしい。
垣根じゃないが、そこまで大きく受け止められるといつも以上にときめいてしまうではないか。


「―――― つーか俺ら、クリスマスらしいこと何一つしてねえな」

「でも、はまづら連れて来てくれた。コーヒーショップじゃなくてあそこに行きたかったんでしょ」


滝壺が指したのは近くで催されているイルミネーションのライトアップだ。
既に周りは混雑していて、特にツリーの辺りは今から集団に加わっても遠目にしか見えないかもしれない。


「いやでも何か混んでるし。滝壺人混み苦手そうだから気ぃ悪くするかなあって」

「………迷わないように手、繋いでくれるならへーき」


そう言うと滝壺はそっと浜面の手を握り取ってレジへと向かい、浜面が財布を取り出す前にさっさとカードで会計を済ませた。
店を出た後も彼の手をぎゅっと握りしめサクサクと煌びやかな明かりへと向かってゆく。
可愛らしいというより、もういっそのこと男前と呼んだ方がピッタリな具合だ。


滝壺に手を引かれながら歩く浜面は、ふいに自分の尻ポケットから不可解な振動が立っていることに気づきそちらに目を遣る。
「……たぶん、むぎのから」という滝壺の言葉に
そういえば雰囲気ブチ壊しなんて事にならないよう携帯を今日はマナーモードにしていたことを思い出す。

麦野からだと知っているという事は出ていいという事だろうか。
滝壺の方を窺いながら通話ボタンを押すと、電話の向こう側の相手は一言、小さく言って電話を切ってしまった。


「ゴメン。……羨ましいからって、調子乗り過ぎた」


彼女が羨んだのは、果たして浜面か滝壺か。



438 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:06:24.47 ID:9KX4szI0


ケーキを求めて街中を歩いていた一方通行は上条当麻に手を握られて顔を真っ赤にしている御坂美琴を発見した。
手を引かれて歩く姿はさながら迷子にならぬよう気をとめる親子の様だ。
その例えは上条から見ればあながち間違っていないのだろうが、美琴から見れば至って大真面目だから何とも言えない。


(つーかあのヒーロー相手に超電磁砲のヤツよくアソコまで進めたなァ)


女心が解らないのは自分も同類だという自覚はあるが、自覚がある分まだ彼よりはマシな筈だ。
………恐らく。
声をかけるのも野暮だろうと考えた一方通行は大人しく目的地へ向かおうとその場を離れようとしたが、
やはり相手が悪かった。


「アレ?あそこにいるの一方通行じゃねえか?」


おーい一方通行ー、なんて暢気な声が後ろからかかる。
今日ばかりは超電磁砲に同情した。


「お前こんなところで何してんの?打ち止めは?」

「そこの洋菓子屋にケーキ買いに来たンだよ。アイツは飯作ってる」


打ち止めはご飯作ってくれるから偉いよなー、ウチのインデックスはさー、……――――
続く上条の愚痴に既に美琴からはビリビリと抑えきれない小さな電気が発せられている。
『ウチの』という言葉も引っかかったのだろうが、何分この雰囲気の中他の女を話題に出されたのだ。
無理はない。


そんな美琴を横目に確認した一方通行はどうにかしてこの場を離れる手段を考えようとするが、
目の前の鈍感ヒーロー様は「あ、あっちには浜面が!!あの人が彼女さんかなあ?」と次のターゲットをロックオンしている。


「あー……なンつーか……俺はガキ待たせてるから、あとは仲の良いお二人でごゆっくりィ」
(―――――厄介な女。人の事にはやたら口出すクセしてよォ)


『仲の良い』をワザと強調させてトンズラをこいた一方通行は
「な、仲良くなんてないわよ!」と大声でビリビリやっている美琴を尻目に確認し溜息をついた。



439 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:06:59.23 ID:9KX4szI0


一方通行が帰宅すると、食卓にはささやかながら豪勢な食事がテーブルを彩っていた。
かぼちゃのスープにパスタにリゾット、マリネにテリーヌに ―――――北京ダック?


「き、昨日七面鳥食べちゃったから北京ダックにしてみたんだけど………おかしかったかな?ってミサカはミサカは――――」

「いや、北京ダック久しぶりに食うなァと思っただけだ」


ケーキを冷蔵庫にしまうといつの間に用意したのだろう。赤ワインがグラスと共に一方通行の席にだけ置かれた。
打ち止めの席にはアップルサイダーが頓挫している。


「あひるさんの油がけに失敗しちゃって……結構焦げちゃったりしたんだ………
 焦げた所はミサカが食べるからあなたは美味しい所食べてね、ってミサカはミサカは皿を勧めてみたり」


本格的に丸のアヒルを加工する所から始めたらしい打ち止めは、
皮だけしか使われない北京ダックの尚且つ焦げていない箇所という非常に希少な部位を一方通行の皿へと乗せた。
そのまま彼の席へとサーブすると不安そうにこちらを見つめてくる。


「どうかな、ってミサカはミサカは心配しながら尋ねてみたり……」


一方通行がそれを静かに口へ運ぶと、打ち止めは今にも消え入りそうな小さな声で尋ねてきた。


「うめェよ」

「本当のこと言って!………ミサカ、あなたがケーキ買いに行く前に一回料理全部失敗しちゃったの。
 そこから何とか頑張ってみたけど、昨日あなたが作ってくれたみたいにはならなかった!!
 見た目だって貧層だし味も保証できないし………ダメならダメってちゃんと言って、ってミサカは……ミサカは……」



440 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:07:45.48 ID:9KX4szI0


打ち止めは泣いていた。
涙をぽろぽろと零しながらそれでも表面上の言葉ではなく本音が欲しいと言う。
強い奴だ、と一方通行は素直に感じる。
思えば出会ったときから、この悲痛な運命の下生まれてきた彼女は強く、気高く、優しかった。




「味が濃い。この濃さならテンメンジャンは少しでいい、それかタレは無しでも。後は削いだネギかキュウリの千切りが欲しい。」



だから一方通行は彼女のプライドに倣い、隠さずに本音を吐露する。全部。
普段は恥ずかしくて言えないような台詞も全部纏めて。


「だが、………だが、俺の為に作ったっつーだけで、満足だ。
 栄養管理とか義務だとかそうゆうンじゃない『俺だけの為のメシ』は、オマエらに会ってからが初めてだしなァ」


研究所で餌のように与えられる物でもない、一人味気なく食べていた冷凍食品や外食でない、
自分の為に作られた食事。
打ち止めという一人の少女が、まさしく一方通行の為だけに奮闘して用意した夕食。


「―――――それだけで、十分うめェよ」


うわあああああん!!!!
緊張の糸が切れたのだろう。
もっと幼かった頃のように声を張り上げて泣く姿が一方通行にはひどく懐かしいもののように思えた。
その所為か、彼女との生活にやっと慣れ始めた頃に始めた『撫でる』という行為を一方通行は静かに何度も行った。


彼の白く骨っぽい手が彼女の頭に触れる度、打ち止めは小さく「大好き……」と呟いていた。
一方通行は答えなかった。
代わりに向かい合った細い腕が、そっと打ち止めの肩を引き寄せた。



441 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:08:22.53 ID:9KX4szI0


バチンっ!と小さく電気が音を発したと思うと、急に部屋の明かりが消えた。
この学園都市で停電なんて事態は非常に珍しい。


(―――― 超電磁砲がなンか遣らかしたかァ?)


実は彼の勘は見事的中しており、
上条が天然で言った美琴にとって恥ずかしい言葉が彼女を真っ赤にさせると共にひどい電流を生み出したのだが、
この場にいる打ち止めと一方通行には知る由もない。


「………電気、消えちゃったね」

「仕方ねェな―――――コレならどォだ?」

「ふふっ!なぁにそれ、ってミサカはミサカは珍しく珍妙な行動をとるあなたを笑ってみたり」


一方通行が持ちだしたのは外で購入してきたケーキだった。
しかしただのケーキではない。
持ちだされたのは、まるで誕生日のようにロウソクが何本も刺さったクリスマスケーキだった。
その一本一本にライターで火を付けた一方通行は「これで大丈夫だろォ」と満足そうに言い、
それがますます打ち止めの笑いを誘った。


「でも、これじゃ外のイルミネーション復旧するまでに時間かかりそうだね……
 七面鳥じゃなくて北京ダックだし、ケーキも誕生日みたいになっちゃったし。
 クリスマスらしい雰囲気全部吹っ飛んじゃったかも、ってミサカはミサカは少ししょんぼりしてみたり」


真っ暗な部屋で顔も見えないが、打ち止めが本当は『少し』などではなく『かなり』がっかりしていることは声で解った。
伊達に何年も一緒に暮らしていない。



442 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:09:22.41 ID:9KX4szI0


どうしようか学園都市第一位の頭脳をフル回転させて考えた一方通行は、
去年のクリスマスパーティーで黄泉川がケーキを運ぶとき大声でクリスマスソングを歌いながら持ってきたことを思い出した。
いかにも『クリスマスらしい』雰囲気に打ち止めが手を叩いて喜んでいたのも頭に残っている。


「―――――♪ We wish you a merry Christmas And a happy New Year.」


一方通行は小さく息を吸うと、『歌う』という本当に慣れない行為を始めた。
彼が彼女の為に歌ったのはこれが2回目だ。
そして、意識ある彼女の前で歌うのは、これが初めてだ。


「♪ Glad tidings we bring to you and your kin We wish you a Merry Christmas and a Happy New Year! 」


暫く驚いたようにして打ち止めも彼が1番を歌い終える頃には顔を綻ばせていた。
「こンなンしとけば雰囲気出るだろォが」と呟いた彼が恐らく顔を真っ赤にさせているだろう事は、彼女が一番良く知っている。


「♪ For we all like figgy pudding For we all like figgy pudding」
「♪ ふぉあ うぃー おーる らいく ふぃぎー ぷでぃんぐ ふぉあ うぃー おーる らいく ふぃぎー ぷでぃんぐ」


2番を促した打ち止めは彼に声を合わせ歌い始める。英語の発音が上手くいかないのは御愛嬌だ。


「♪ For we all like figgy pudding so bring some out here! 」
「♪ ふぉあ うぃー おーる らいく ふぃぎー ぷでぃんぐ  そぉ ぶりんぐ さむ あうと ひあー」


そこまで歌うと窓と向かい合う形で座っていた打ち止めが声をあげた。
外をじっと見ているので何事かと同じように見遣れば


「雪!雪だよ見てみて!ってミサカはミサカは興奮して窓を開けてみたり!!」


全ての街灯が消え真っ暗となった夜空に、白く輝く雪が舞っていた。


「ホワイトクリスマス、あなたの歌のおかげだねっ!ってミサカはミサカは喜びを身体全体で表現してみたり!!」


そんな遣り取りをしているうちに街はだんだんと灯りを取り戻してゆく。
――――――あァ、やめろ。今明かりがついたら顔が真っ赤なのがバレちまう。



443 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編― :2010/12/15(水) 21:10:17.61 ID:9KX4szI0


「電気付いたし、イルミネーション見に行くかァ?」


顔を隠すように俯きながら立ちあがった一方通行に、打ち止めは何も言わなかった。
言えなかった。
何か言おうと顔を合わせれば自分も顔を真っ赤にしていることが知れて、恥ずかしかった。


「うん行く!ってミサカはミサカは勢いよく立ちあがって玄関までダッシュしてみたり!!」

「おィ、クソガキィ!!ちゃんと上着着やがれ風邪引いてもしらねェぞォ!!」



そして、彼らのクリスマスは―――――



「クソガキィ、帰ったらツリーの下ちゃんと見とけよォ」

「なんで?ってミサカはミサカは疑問を提示してみたり」

「サンタさン来てたから」

「あ、それならミサカも見た!クリスマスツリーの下にね、プレゼントが3つ置いてあったの!!」

「………3つ?2つじゃなくてかァ?」

「赤いリボンの2つ以外にいつの間にか黒いリボンのが混ざってたんだよ、ってミサカはミサカは不敵に笑ってみたり」

「………そォかよ」



―――――――― 円満の完結を迎える。






We wish you a merry Christmas!(楽しいクリスマスをあなたに!)




『部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―』(完)



444 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/15(水) 21:15:25.81 ID:9KX4szI0
という訳でクリスマス編の本編はこれで完結です。
最後に出てきて触れられなかったクリスマスプレゼントについてや
登場できなかったキャラや目立てなかったキャラに関しては小ネタとして暫く投下していこうかと考えています。

まず何から小ネタにしようか悩みどころです。
① プレゼントに関しての後日談
②番外個体や黒子嬢、ていとくんなど未登場キャラに関して(その他のキャラでも可)
③登場したキャラに関しての後日談

宜しければ「これがいい!」とご意見いただければ幸いです。あくまで③以外は書く順番ですので結局どれも書くと思いますが。



446 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 21:26:25.32 ID:HSD2vTM0
乙ー
打ち止めかわえぇ、一方さんカッケー…他の人達も良い味出してる
中でも浜面が個人的にはかなり良かった、頑張れ男浜面ー

自分は②で黒子やていとくんが気になります



447 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 21:35:41.57 ID:RAXSdOM0
>> 昨日は黒子達とクリスマスパーティーしたんだけど今日は皆『彼氏』と過ごすみたいでっ

そーか。黒子も変態から脱したのかあ、と変なところでしみじみした。

しかしなんだな、このSSは原作から6年後設定だから美琴は20歳。
どんだけ一途で初心なんだよ。

リクエストは番外固体&超電磁砲組の3人娘の様子でお願いしたい。



448 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 21:38:57.80 ID:.BQZ5ws0

一方通行さんと打ち止めさんは、ホンマおしどり夫婦やでぇ・・・

③で砂糖を吐くような甘いのを頼む
むぎのんや絹旗ちゃんが2人さびしくクリスマスパーティ二次会
いつの間にか寝てしまったむぎのんがふと目を覚ますと、そこにはかつて自分が真っ二つにしたフレ/ンダ(サンタコス)が!
その後なんやかんやあって、再び目をさますとそこにはだらしなく寝てる超少女だけ
あれは結局夢だったのだろうか・・・
まで妄想した

あと上条さんはもげろ。黒子にテレポートでもいでもらえ



449 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 21:42:03.00 ID:HfwwrGc0

一方さんがイケメンすぎて辛い

打ち止めの幸せを満喫したから今度は番外個体が見たいです



451 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 21:57:52.13 ID:m6rD7V60
乙!
ニヤニヤした!でも一方さん答えないんだなー 少し切ないぜ



445 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 21:20:44.43 ID:cK5jpM20
番外個体アリアリであっまいのを一つ


457 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 23:24:45.62 ID:PaRk1S.o
ニヤニヤと切なさに同時に襲われたわ
すげえ

番外ニートの愚痴を聞きたいなァ



459 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/16(木) 21:55:07.04 ID:Xckox2Io
② で頼む



460 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/17(金) 19:16:14.15 ID:MCOcixI0
取り敢えずざっと見た限り②……というかミサワさんが人気みたいなので②から更新します。
本日の投下は垣根帝督、超電磁砲3人娘、番外個体、それぞれのクリスマス。
3本で1話分の小ネタ集です。

では以下よりどうぞ。



461 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:19:09.85 ID:MCOcixI0


【 部屋とクリスマスと未元物質 】




「……なぁ。こんな日にこんなトコいて悲しくなったりしないわけ、お前?」

「その台詞、そのままバットで打ち返すわ」


垣根帝督は暗部で使用している『アジト』の一つにいた。
何かと色々揃っているので、垣根は此処がお気に入りだ。


「世間はクリスマス一色、リア充達は恋人同士ロマンチックに過ごしましょうってな。
 俺の相手は基本どれもセフレだから今日みたいな日は皆本命といたがるんだよ」

「最っ低」


そんな最低男・垣根が先程から話しかけているのはドレスの女だ。
『心理定規』と呼ばれ垣根達が徒党を組んでいる組織『リバース』で尋問官を務めている女と言えば、お分かりいただけるだろうか。


「つーか俺ら去年もココでこんな感じに過ごしてなかったか、クリスマス」

「そうかもね。でも私の場合はいつ仕事が来ても平気なように待機してるだけだから違うわよ」


いやいやいや。
お前も絶対俺と同類だって、と垣根は思うが口には出さない。出せばウルさく返されるだけだ。


「あーあ、近くに可愛い子がいればなあ」チラッ

「ホント。近くに色男がいればね」チラッ


言いながら二人は互いに顔を見合わせて――――――



「「はぁ。ホント空から落ちてきたりしないかな」」



吐いたため息は冬の空気に混じって白く色付き、直に消えた。



462 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:20:04.36 ID:MCOcixI0



【 部屋とクリスマスと超電磁砲組 】




「なぁんで、あんなこと言っちゃったんでしょうかねぇ……」

佐天涙子はレストランの個室で溜息を吐いた。
小洒落たフレンチレストランも、メンバーがクリスマスイヴ・当日共に女だけとなると虚しいばかりである。


「でも言いだしたのは佐天さんでしょう」


向かいに座る初春飾利はデザートでありある意味メインディッシュでもあるブッシュ・ド・ノエルに舌鼓を打ちながら
今回の『計画』の主犯である佐天を見た。


「だってさ、ああでも言わなきゃ御坂さん『当日も女4人でワイワイやりましょ』って言うのが目に見えてるし。
 …………ホントは好きな人と過ごしたいクセして、中々言いだせないからってさ」


「だからってあんな強引に『御坂さんも男の人でも誘えばいいじゃないですか』はありませんの!!
 お姉様がもしあの猿人類に何かされでもしたら黒子はどうしたらよいか、ああお姉様!!!!!!」


嘆いているのはご存知、白井黒子である。
よっぽど『愛しのお姉様』が心配なのかまだ成人を迎えていない佐天がこっそりシャンパンに手を伸ばした事にも気付いていない。




463 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:21:13.07 ID:MCOcixI0


「何かしちゃうとしたら御坂さんの方だと思いますけどねー。………それと佐天さん、風紀委員は白井さんだけじゃありませんよ」


訂正。白井が気付かずとも初春がしっかり見張っていたらしい。
仕方ないと諦めて佐天はグレープジュースを口に含んだ。
と、突然。


「あ、停電」

「………どうやら此処だけでなく街全体で起こってるみたいですわね」


先程まで『お姉様』を連呼していた人間がこうも早く反応できるとは、流石しか言いようがない。


「学園都市で停電なんて、普通なら殆どないことですし…………まさか!!」


何か感づいたのか『お姉様ァアアアアア!!!!!』と叫び声をあげて白井はテレポートしてしまった。
どうしたのだろう、という佐天の疑問を捉えたのか初春は軽く目配せしながら悪戯っ子のような笑みで簡単に言った。


「普通なら起きない学園都市の電気制御の攪乱なんて、誰なら出来ると思います?」


恋のコの字も惚れたホの字もないのは、どうやら自分と彼女だけらしい。
佐天はそんな常識外れの、見ず知らずの超能力者の思い人を心の中で労りながら――――――


「あ、雪だ」



ホワイトクリスマスを引き合いに出せるロマンチックな恋人が座る隣席は、埋まる日が未定なまま未だ空席だ。





464 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:21:59.98 ID:MCOcixI0




【 部屋とクリスマスと番外個体 】





「女は不条理でね、馬鹿な男ほど可愛く思っちゃうものなのよ」

「芳川ぁ、ミサカには意味わかんないですけどぉ」



465 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:22:40.13 ID:MCOcixI0


クリスマスはあの人と二人きりで過ごすのだ。
そう豪語した最終信号に家と一方通行を譲ってやった番外個体が(製造月日的にはミサカのが年下なのに)
逃げ込んだ先の芳川の家での飲み会を終えて帰って来たのは、25日を2時間ほど過ぎた辺りの頃だった。


「たっだいまぁー」


――――― 返事はない。
二人とも流石に寝てしまったのだろうか。
……まさかミサカを差し置いて二人でしっぽり、なんてことはないだろうな。


一度懸念を抱いてしまえば後はもう嫌な予感しか湧いてこない。
足音を立てないようそっとリビングへと向かえば、なんてことはない。
一方通行はリビングから繋がったキッチンで食器を洗っていた。


「おかえりィ」

「………うん、ただいま。……最終信号は?」


あまりにもあっけらかんと言われるものだから最終信号もからかいどころを失くしてしまった。
今日は一日二人で何をして過ごしたのか、聞きだしながら弄ってやろうと思っていたのに。


「ガキならもう寝たぞ、はしゃぎ過ぎて疲れたみてェだな」

「…… ふぅん。そっか」




なんとなく、気まずい。




466 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:23:22.27 ID:MCOcixI0


番外個体は二人が一日どうしたのか実は何も知らないわけではない。
最終信号が感じたクリスマスで最も幸せだった瞬間。
彼女はそれを無意識に、殆ど反射的にミサカネットワークへバックアップをとった。


(―――――14510号と20000号が騒いでたっけ)


彼女たちにとっての記憶のバックアップは全個体での記憶の共有を示す。
すなわち『妹達』の一体である番外個体も『知って』いるのだ。
彼の、『最終信号だけの歌』を。


番外個体は正直少し羨ましかった。


いつでもあの人に大切にされる最終信号。
あの人が護ろうとする世界の象徴でもある最終信号。
いつでもどんな時でもあの人にとっての最優先事項となる最終信号。


(…… ミサカも、『ミサカだけの』何か、欲しいな……)


カチャカチャと食器を洗い続けるあの人はこっちの憂いなんてものには気付いてくれやしない。
だからどうせ気付かないなら、いっその事放っておいてくれればいいのだ。
それなのに。


「そォいや、あのガキとクリスマスにオマエが家空ける代わりに俺に何かさせるって約束したんだってェ?」

「……え?あ。……うん」



467 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:24:03.74 ID:MCOcixI0


唐突だった。
こちらの気持には全く気付いてくれやしないのに、あの人はいつも『欲求』だけは直ぐに察する。


「何がいいンだァ?俺にも準備っつーモンがあンだから、早いうちに決めて言え」


言えば、ミサカにもくれるのだろうか。
ミサカの一番欲しいもの。


「なら、一緒に寝てよ」

「………………は、ハァアアアアア!!!?????」

「そっちの意味じゃないよエロ魔人、残念だったねあひゃひゃひゃひゃ!!添い寝しろっつーことですぅ」

「添い寝だァ?」

「そう、添い寝。………それで、子守唄かなんか歌ってよ」


あの人は一瞬押し黙った。
ミサカが『歌った』事について知っているのを感づいたのかもしれない。


あの人が拒否したら何と言おうか。
添い寝の方ならまだしも、歌うことを躊躇われるのはちょっぴりショックだ。


「………いいぜェ。どっちで寝る?」



だから、あの人が自分とミサカ、どちらのベットで寝るか聞いているのだと理解するのに数秒かかった。



468 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:24:45.08 ID:MCOcixI0




自分から言い出したのはいいものの少し緊張する。


あの人のベットで一緒に横になったはいいものの、あの人はミサカに一切手を出さなかった。
ただ、横にいるだけ。
それでもこんな近い距離にあの人が居るのは初めてだった。


「………子守唄っつっても、大したモン知らねェぞ俺ァ」

「クリスマスソングとかでもいいよ。もう過ぎちゃったけど」


あの人は少し悩んでいた。
少し悩んで、やがて小さく口を開いた。




「♪ Lullay, Thou little tiny Child, By, by, lully, lullay.(おやすみ、おまえみどりごよ、 ねんね、ねんね、おやすみよ。)
   O sisters too, how may we do, For to preserve this day.(あねさまいもうと、どうしたら、この一日を守れるの。)
This poor youngling for whom we sing By, by, lully, lullay.(わたしら歌ってきかせてる、あわれなこの子を守れるの。)」




静かな歌だった。
小さな声で歌うあの人の顔は、シーツに埋もれてよく見えなかった。



469 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:27:23.93 ID:MCOcixI0


学習装置からインストールされた知識のお蔭でだいたいの日本語訳はできるものの、
いかんせん曲の背景が解らない。


「ねぇ、それ何て曲?」

「……歌ってやったんだ、大人しく寝ろ」

「曲名気になって眠れないよ。教えてくれたら素直に寝る」


真っ直ぐ見つめてハッキリと言えば、根負けしたようにあの人は「『Coventry Carol』だァ」、と教えてくれた。
歌ったことが、それともこの曲がそんなに恥ずかしかったのか、
言ったらそれきりあの人はシーツに顔を埋めたまま不貞寝してしまった。


これじゃ全くミサカを寝かしつけていないじゃないか、と思いながらも
しかし好都合と言わんばかりに番外個体はネットワークへと意識を巡らせた。



(―――――― もしもし?誰か手が空いてる個体いる?)

(ミサカなら空いていますが、とミサカ10777号は返答します)



10777 号。確かロシアにいる個体だったか。



(悪いんだけど『Coventry Carol』って曲について調べてくれない?気になるけど調べられない状況でさ)

(了解しました、とミサカ10777号は番外個体の依頼を快く引き受けます)



こんなときミサカネットワークは便利だと、素直に思う。



470 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:28:40.16 ID:MCOcixI0






(―――― 調べ終わりましたよ、とミサカ10777号は番外個体へと通信を繋げます)


10777号からの返信が帰って来たのは10分ほど経った後だった。



(Wikipedia先生は優秀ですね、とミサカは調査が全く苦でなかった事を告げます。
  ―――――『Coventry Carol』、イギリスのコヴェントリーで『刈り込み人と仕立て屋の芝居』という劇中で歌われた曲ですね。
 作者は不明ですが、聖書中のマタイ伝に出てくる物語のヘロデ大王がベツレヘムで行った大規模な幼児虐殺事件を描いているとあります。
 この歌はその中で当時乳幼児であったイエスを逃亡させる場面を歌っているともあります、とミサカは結果報告します)




(………そう、ありがとう)




471 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏 :2010/12/17(金) 19:29:50.95 ID:MCOcixI0

言葉が出なかった。
10777号との通信は一方的に切ってしまった。
この人はこの歌の、誰に誰を当て嵌めてこの歌を歌ったというのだろう。


大量の虐殺を行ったという王様?
乳飲み子のイエスを護ろうとする人?
いずれにしても。


「――――ホント、馬鹿だ」


『自分を殺すために生まれてきた存在』にまで気を使うことなんてないのに。
こんなミサカの傷まで、あなたは自分の傷にしてしまう。
確かに最初「あなたの所為だ」と言ったのはミサカだ。
それでも、鵜呑みにしてミサカの事まで自分の『痛み』にしてしまうあなたは、本当に馬鹿だ。


「…… でも、そんな馬鹿が、愛おしくてたまらないんだ……」


寝入ってしまったあの人の隣で、芳川の言葉が頭に響いた。





『女は不条理でね、馬鹿な男ほど可愛く思っちゃうものなのよ』






                                         ≪部屋とクリスマスと舞台裏≫(完)



472 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/17(金) 19:35:49.45 ID:MCOcixI0
心理定規ちゃんの性格はほとんどオリジナルです。申し訳ありません。
この二人はくっつける、というより僕の中ではコンビです。
強いて言うなら「馬鹿じゃねぇの」「お前もな」くらいの感覚です。

番外個体の話に出てきた歌が僕は割と好きで打ち止めと対にしてクリスマス話に使おうと前々から決めていたのですが、
いざ書こうとしたら曲名が思い出せず昨日は一日それを調べていました。
曲名をはたと思いだしてからは簡単でWikipedia先生に即座に教えていただきました。
日本ではあまり聞きなれない曲かもしれませんので、イメージのわかない人はようつべなどで是非どうぞ。


次回は③のむぎのん・絹旗ちゃん組と美琴嬢、インデックスさんを書く予定です。期待せず御待ち下さい。


474 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 20:08:20.19 ID:2paVoPY0
相変らず良いね、このシリーズ。
番外個体カワイイよ番外個体

乙でした。



475 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 20:31:02.98 ID:sae.8bc0
みんなにもシスターの私がちょっとだけ教えてあげるんだよ!

打ち止めのための

番外個体のための




477 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/18(土) 21:50:50.29 ID:osjcNek0
>>475様、音楽情報の提供ありがとうございました。
それでは本日分投下して参ります。最近不定期な更新で申し訳ありません。

では以下よりどうぞ。



478 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:51:42.50 ID:osjcNek0




【部屋とクリスマスとアイテム】




「――― 頭、撫でてよ」





麦野の『お願い』に、浜面は動揺した。





「滝壺にするみたいなのを望んでるんじゃない。……ただ、撫でてくれればそれでいい」





479 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:52:13.11 ID:osjcNek0


滝壺との『デート』を終えて浜面達が戻ってきたのは、結局最初のサロンだった。
そこで2日目の『飲み会』を行ったらしい麦野と絹旗はそれぞれソファで酔いつぶれている。


人混みに少し疲れたのかもしれない。
滝壺も此処に戻ってくるなり横になるといって眠ってしまった。


そんな滝壺の頭を優しく撫で毛布をかけてやった浜面は結局、
先程までの甘い雰囲気の余韻か興奮冷めやらぬ自分だけが酒臭い部屋の隅っこで残っていたワインを一人傾けることとなった。


浜面がツマミを食すために置くグラスの固い音だけが時折部屋に響く。
数時間前まで立っていたイルミネーション前の賑わいとは大違いだった所為か、実はあの幸せな一時が夢だったのかと疑ってしまう。


(イヤイヤイヤ、ドンパチやら物騒な日常に馴れ合い過ぎだろ俺。ああゆうのもアリだって普通)


しかし色々な経緯を経て『アイテム』に加わらなければ滝壺と出会えなかったのも事実である。
妙な気分になるのはクリスマスに浮かれ過ぎた為だろうかと一人葛藤していると、
うんうん呻っていた声が聞こえたのだろうか。
割と近くで眠っていた麦野がムクリと起き上ってきた。



480 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:53:04.03 ID:osjcNek0

「はよ、麦野。二日酔い大丈夫か?」


イヴでダウンするまで呑んだ挙句、今日また浴びるように酒に投じたのである。
麦野の丈夫さは死ぬほど知っているが、それは『超能力者』としての彼女であって『彼女自身』の強さを指しているワケではない。
こんな二日酔いなんかで言うのも何であるが、心配なものは心配だ。



「……ん。ちょっと気分悪い、かな?」


疑問形とはいえ多少はキツイのだろう。
米神を押さえる麦野に浜面は水を取って来てやることにした。


「ホラ、飲め」


差し出した浜面の男らしい大きな手と麦野の女性らしい細い手が重なった。
否、麦野が、重ねた。


「………麦野?」

「ねえ浜面。……お願い、あるんだけど」


―――お願い?
キョトンとする浜面。
近づいてくる麦野の顔に、ああ。このまま握っていたら水が温まっちまうな、なんて場違いな事を考える。


そして麦野はキスでもするかのように近い距離、唇と唇の距離僅か数センチで静かに『頼んだ』。




「――― 頭、撫でてよ。
 滝壺にするみたいなのを望んでるんじゃない。……ただ、撫でてくれればそれでいい」



481 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:53:36.66 ID:osjcNek0





「――――― へ?いや、……なんで?つーか、なんで頭?」

「いいから。撫でろっつってんだよ。いいでしょ別にキスだのセックスだのしろって言ってるわけじゃないんだし」

「セセセセセセ、セックスって、おま!!!女の子がそんな直接的な表現するもんじゃないでしょう、めっ!!」


何?まだ滝壺と致してなかったワケ?なんて暢気に言う麦野は自分がどんな爆弾発言をしたのか解っているのだろうか。
驚いて思わず後ずさった浜面を追いかけるようにソファから起き上りその後を追う。


「―――クリスマスプレゼント。まだ貰ってないし。頭撫でるだけっていったら安いもんでしょ?」

「いや俺お前にプレゼント貰ってな……」

「滝壺との二人きりの時間」


バッサリと切り捨てるように言う麦野に、いよいよ浜面は逃げ場を失くした。
別段逃げきろうとしていた訳ではないがなんとなく滝壺に目撃されたらマズイなと思う後ろめたさがある。
会話が会話だからだろうか。


482 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:54:07.09 ID:osjcNek0


「ちっこいガキにでもしてやるようなのでいいんだよ。――― 本当に、それだけで満足なんだ」


ボソリと呟くように発する麦野の目は真剣だった。
真剣で、それでいて何処か思いつめたような切なさを伴っていた。


ここで簡単に容貌を聞いてやる事は、後々麦野を傷つけることにはならないのだろうか。
嘗て浜面は麦野を見捨てた。
滝壺という一人の少女を護る為に、麦野という選択肢を見限った。


それを知り、それを聞いた麦野の『お願い』を聞く事は、果たして麦野にとってプラスなのだろうか。
浜面は考える。


そして、一つの結論を出す。



483 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:54:37.72 ID:osjcNek0


「酔い、早く醒ませよ」


これは、『気遣い』だ。
酔っぱらった仲間にかける、当たり前の気遣い。


その大きな手でワシャワシャと整えられた髪を掻きまわすのは『プレゼント』でもなければ『色恋』でもない。
ただ麦野の小さな思い出として残るだけの、ありきたりな行為。
麦野も、それを正しく感じ取ったのだろうか。


「絹旗、起きてるんでしょ。さっきからモロバレ」

「べ、別に起きてたんじゃなくて超寝ぼけてただけです!」


わざわざ寝たフリをしてこちらを窺っていた絹旗を起こし、からかう様にこう続ける。


「アンタもして欲しいんならしてもらえば?良い夢見られるかもよん」

「いやそんなして欲しいなんて超思ってないんですけど!?でも私以外全員やったなら此処は超空気を読むべきかな、みたいな!?」

「おおイイぜ、ちびっこ絹旗には寝んねのナデナデが必要だモンな」


手をワキワキとさせながら絹旗の下へ行く浜面。
顔を真っ赤にさせながら大人しく頭を差し出す絹旗。
それを大笑いしながら見つめる麦野。
そして、いつの間にか置きだして写真に収める滝壺。



これが、アイテムのクリスマス。



484 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:55:06.87 ID:osjcNek0




【部屋とクリスマスとライバル達】




「お前、良い母親になるかもな」


そう言われた御坂美琴はアイツがお父さんで私がお母さんで子供には真琴なんて名前を付けて……、
とそこまで妄想を爆発させ赤面した。
『超電磁砲』の異名を持つ彼女の、渾身の一撃と共に。


「なななななな、何恥ずかしいこと言ってんのよバカーーーーーー!!!!!!」



485 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:55:34.40 ID:osjcNek0


事は数十分前に遡る。
イルミネーションに彩られた大通りを緊張の面持ちで歩く美琴は、隣を歩く上条当麻をチラチラと見遣る最中で一人の迷子を発見した。


その小さな少女は割と長い時間保護者と離れた状態らしく、
優しく声をかけた美琴に飛びつき堪えていた涙を溢れさせた。


そんな少女を丁寧にあやしながら美琴は「何処で見失っちゃったの?」「いつ頃から一人ぼっち?」と事細かに情報を仕入れていく。


彼女の鮮やかなて付き合って故か、直ぐに少女の保護者は見つかった。
「バイバイ、お姉ちゃん達!!」と元気良く手を振る少女に、良かったなと上条は素直に感じる。


そこで冒頭の一言だ。


『学園都市最強の電撃使い』の一撃は辺り一面の電気機器にも大きな影響を及ぼしたらしい。
自身は『幻想殺し』で守れた上条も、周囲全体となると無力に等しくなる。


バチバチと不気味な音を立て、パチパチと灯りを点したり消したりという妖しい動きを繰り返していたイルミネーション達は
とうとうプツリという音を最後に全ての電気を消してしまった。


それだけならまだしも信号などの交通機関や各商店・家庭の電気すら消えてしまったのはマズイ。
当事者の美琴もどうしよう、やってしまった!と顔を真青にしている。


「落ち着け御坂!!お前のチカラでどうにかならないのか!?」

「此処でやれって言うの!?む、無理よ!!こんな広範囲なんて……キャっ!!」



486 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:56:13.00 ID:osjcNek0


反論しながら上条の方を振り向こうとした美琴は、未だ暗闇に慣れていない目の所為か
近くのレストランに設置されたコンクリートの階段に躓いてしまった。
そんな美琴がひっくり返る前にと慌てて上条も手を伸ばす。


しかしそこは不幸体質・超フラグ乱立師の上条当麻である。
『不幸な事にも』彼の足もとにも割と大きな小石が落ちていた。
暗闇の中上条はそれに気付く事が出来なかった。
美琴へと手を伸ばしながら足を踏み出した上条は自身もその小石へと躓き、そして――――


「おい大丈夫かビリビ……うわぁあああ!!!」


倒れ込んだ上条の『幻想殺し』は、見事美琴の標準より小さめの心臓部へと収まった。


「い、一体……何処、触って……イヤァアアアアア!!!!!!」

「わ、悪い落ち着いてくれ御坂…ってうぉおおおお!!??」


混乱しながら絶叫を上げた御坂は今にも内に秘めた紫電を全力開放させようとする勢いだった。
上条は今すぐ御坂の胸元から手を退けてやりたいのだが、
こんな状況で『幻想殺し』を彼女から放せば確実に自分は死ぬ。この近距離は絶対だ。


「お、落ち着いてくれ頼むから御坂、右手放せないお前から!!いやそうゆう路線の意味でなく生死の問題で!!」

「せせっせ、精子!!!???べべべべべ別に嫌ってわけじゃないってゆうか寧ろ歓迎なんだけどこんな大勢の前では……その……」

「いや何の話をしていらっしゃるんでせうか御坂さん!?」


上条も美琴も軽いパニック状態である。最早会話が噛み合っていない。
そんな時、こんな状況を切りぬけるキーパーソンとなる人物がやってきたのが上条の目に見えた。
ああ、誰でもいい助けてくれ。この状況を何とかしてくれ。
そして、その人物は―――――


「この変態類人猿!!こんな公衆の面前でお姉様のお、おお、押し倒すだなんてっ……!!」

「お前は白井……!!え、ちょ、本当に違うんです、あの鉄矢を向けないでいただきた……あの、だから、不幸だあああああああ!!!!!」



487 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:56:42.82 ID:osjcNek0


「取り敢えず、電気の方の復旧はこちらで手配しておきましたわ。
 ……といっても此処まで広範囲ですもの、局ももっと早くから手をつけていたようですが」

「「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」」


危うく婦女暴行罪で風紀委員に拘束されそうになった上条と「ああん、離れたくありませんわお姉様!!」と白井に腕を絡まれていた美琴は
暗闇に目が慣れてきた辺りがザワザワと自分達を本格的に騒ぎ立てる前に何とかその場を抜け出した。


「んで?これからどうする?イルミネーションの完全復旧にはまだ時間かかるって言ってたけど………どっかで暇潰すか?」


ここでウンと頷けば、美琴が上条と共に過ごす時間は格段に伸びる。
過程はどうあれ結果オーライだ。
しかし頷きかけた美琴の頭にそっと、あのシスターの顔が浮かんだ。


寂しそうに、しかし義理立てとして自分にこのクリスマスを譲ってくれたあのシスター。
自分はそれを有難く受け取ってきたが、1時間だけだよと言ったあのシスターは一体どんな思いで自分達を見送ったのだろう。


「………そうだな、――― ケーキ屋さん寄りたいかも。とびきり美味しいケーキ屋さん」



488 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:57:24.95 ID:osjcNek0


インデックスは誰もいなくなった部屋での突然の停電に困惑していた。
以前停電が起こったときには懐中電灯を持ちだした上条と共に恐い話などをして盛り上がったものだが、
一人ぼっちの家の中ではそんな思い出もただただ心細いだけである。


「とうまぁ……寂しいよぉ……」


自分が美琴へと彼を譲った事を、インデックスは後悔していない。
恋敵である彼女に塩を送ってやる事事態は釈然としないが、一食の恩義と言う借りをその恋敵に作るのはもっと釈然としなかった。
しかし、そんな想いとは裏腹に『寂しい』という感情は消えてくれない。


隣の部屋は誰かと共にこの瞬間を過ごしているのだろう。
インデックスにとっては聞きなれた、
日本人にとってはクリスマスにしか聴かないような讃美歌を流したその部屋からは時折クスクスとした笑い声が洩れてきた。


寂しさを紛らわせるためにポソポソと薄ら聴こえるメロディに合わせて歌ってみる。
そんな彼女の歌声が隣にも聞こえたのか、彼女を讃えるような拍手が壁伝いに送られた。


褒められても隣の賑わいを感じるだけで、寂しさは埋まらなかった。
テレビも付かない、暖房機器も付かないために冬の寒さが身に染みた。


「早く帰って来てよぉ……とうまぁ………」


そんな時だった。
玄関に響いたガチャリという施錠音はその瞬間、彼女にとって神の御神託を聞き入ることと同位となった。



489 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:57:53.72 ID:osjcNek0


「ただいまインデック……うお寒っ!!そっか、俺ら歩いてきたから体温まってるけど部屋こんなに寒いのか」

「……とうまぁ、ヒグっ……とうまぁ……」

「うお、どうなさったんですかインデックスさん!?お前暗闇恐怖症とかじゃなかったよな!?」


上条の帰宅を認識した途端、インデックスは堪えていた涙をボタボタと零し彼に飛びついた。
ワンワンと泣き続ける彼女に戸惑いながらも上条はその背中をポンポンと叩いてやる。


「そうだよな、こんな暗くて寒い部屋に一人きりじゃ寂しかったよな。ゴメンな」

「…… う、……うん……でもとうま、短髪は?」


いるよ。そう言って上条が自身の後ろを見せると、そこには高級ケーキ店の箱を抱えた美琴が立っていた。


「御坂が帰ろうって言ったんだ。お前が一人じゃ寂しいだろうから、って」


上条の言葉にインデックスが窺う様にして美琴を見つめる。
どうして短髪が。
目がそう語っていた。



490 :≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ :2010/12/18(土) 21:58:36.63 ID:osjcNek0


「1 時間って、そう約束したからね」


そんなインデックスに美琴は恥ずかしそうに答えた。
実際で、内心美琴は物凄く恥ずかしかった。
なんだかんだ言って彼女に『好敵手』以上の『友情』を感じている、自分に対して。


「でも外、こんな停電になっちゃって、……あんまり見て回れなかったんじゃ……?」

「そこは自業自得だし―――――それにアンタの立場になって考えた。私には寂しすぎて出来ないって、そう思った」


二人の会話にキョトンとする上条を尻目に少女達はそっと手を取り合う。


「ケーキ。買ってきたから食べましょ。アンタどうせお腹いっぱいになんかなってないんでしょ?」

「さっきまではいっぱいだったもん!でも泣いたらお腹がすいたんだよ。とーま、早くお皿並べて!!」


普段は喧嘩ばかりの彼女たちの突然の変わりように上条は目を白黒させる。
そして二人の笑顔を見ながら少し可笑しそうに笑った上条は、


「来年も3人で過ごそうな、クリスマス!!」

「「女心の解らないバカっ!!!」」


今宵これからも、きっと笑いが絶えることはない。




「あ、短髪!!そのオペラは私のなんだよ!」

「お子様はショートケーキでも食べてなさい」





                                      ≪部屋とクリスマスと舞台裏Ⅱ≫(完)



491 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/18(土) 22:04:39.74 ID:osjcNek0
インデックスさんは少しは幸せになれたでしょうか?

むぎのんとワーストちゃんは僕の中で似たような立場です。ですから話の構成を似た感じにしてみました。
一方さん、上条さん、浜面君と3人のクリスマスを書いてみたのですが
かまちー先生の後書きの印象が強いのか一番女性問題で割り切っているのが浜面となりました。

因みに一方さんはわざと曖昧な、上条さんは超天然な感じです。
上条いい加減にしろよ、なのですが実際やられるとキツイのが一方さんのパターンだったりします。
しかしここのスレの一方さんは『父親』と『兄貴』と『一人の男』が同居して合体したようなイメージなのでご勘弁願いたいです。


493 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/18(土) 22:06:36.70 ID:whgLJNAo
カミやんはいつも通りのようだぜい


494 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/18(土) 22:07:12.40 ID:Oc5.LoYo
俺も麦のんの頭撫でたいんだよ!


495 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/18(土) 22:16:51.21 ID:JcUjBr60
つまり……それらを合体した結果
一方さんはテライケメンってことでおk?



501 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 12:40:27.92 ID:lg0BRSwo
乙乙
どのグループも幸せなクリスマスを過ごせたようで何よりだ・・・
美琴とインデックスがライバルであり親友であるって光景はマジ大好き
ここの>>1はなんでこう俺のツボばかり突いてくるのか・・・なんかの能力者に違いないな



502 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 13:24:01.18 ID:lHhCpaU0
そ… その
げ…幻想を
ぶ・・・文にする
幻想書き(イマジンクリエイター)だろ




505 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:43:29.18 ID:DrGDPmM0



「なんで……」


朝になっても起きて来ない一方通行を心配して彼の部屋を訪れた打ち止めは戦慄した。
なぜなら彼のベッドには


「なんであなたと番外個体が一緒のベッドで寝ているの!?ってミサカはミサカはァァァァアアアアアア!!!!!!!!」


パジャマの上しか着ていない番外個体と、それをしっかり抱え込んだ一方通行が仲睦ましく一夜を共にしていた為である。





【部屋とプレゼントとミサカ】





506 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:44:06.41 ID:DrGDPmM0


「うっせェなァ……」


打ち止めの怒声で目覚めた一方通行は寝ぼけ眼を擦りながら奇声を上げた少女を見上げた。
打ち止めはプルプルと肩を震わせながらそんな彼をキッと睨みつけ尋問をかける。


「問1!なんで番外個体と一緒に寝てたの!?問2!なんで番外個体はそんな格好なの!?
 問3!あなたのチェリーは既に奪われてしまったの!?ってミサカはミサカはあなたに追究してみる!!」


打ち止めの質問に一瞬訳が解らないと顔を顰めた一方通行も、
隣でうんぅ…と声を漏らして張り付いてくるお寝坊ワーストを見て納得した。


そういや強請られたまま添い寝したんだったか、と昨夜の事を思い出す。
――――― 思えば中々にこっ恥ずかしいことを自分は致したかもしれない。
そんな余計な事まで思い出しながら。


「解1、お前の勝手な約束の所為でコイツに付き合わされたから。解2、俺は知らねェどうせコイツが自分で脱いだ。
 解3、女子高生が童貞云々言うな。つーか俺の歳で童貞っつーのはお前の中でアリなのかァ?」

「え、ちょ、それってまさか今回の前にもう済まして、えぇ!?ダメそんな、エェエ!!?ってミサカはミサカはぁぁああ……」

「んん……ちょっと最終信号、朝からキンキン煩い……」


打ち止め本日2回目の奇声に今度は番外個体もしっかり目覚めたようである。



507 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:44:51.09 ID:DrGDPmM0


起き上った彼女からシーツがパラリと落ちると
そこからは中々に豊満な果実を包む黒いレースと、魅惑の茂みを覆い隠す揃いのギリギリラインがパジャマの裾に隠れて見え隠れした。


「にゃはぁあああああ!!!!!!」


打ち止めの羞恥に満ちた叫び(本日3回目)にも目もくれず、
当の本人達は呑気に何のアフターかと思うほどの甘い空気(ジェラシーを含んだ打ち止め視点)を漂わせている。


「おいテメェ、真冬なんだから下蹴り脱いだりしてンじゃねェよ。風邪引くだろォが」

「だって……二人でひっついてたら熱くなってきちゃったからさあ」


肌蹴た番外個体のパジャマのボタンを留めてやりながらその下を手渡す一方通行を見て打ち止めは、



「や、やめてぇぇぇえええええええ!!!!!!!!」



本日4回目の悲痛な叫びをあげた。



508 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:45:37.69 ID:DrGDPmM0


「あ、ああナルホド……つまりあの約束(>>389)の所為だったのね、ってミサカはミサカは一応は納得してみる。ウン。」

「だからそうだって言ったじゃねェか」


何とか打ち止めを落ち着かせた一方通行はコイツ全く人の話を聞いちゃいなかったなと察しを付けながら受け答える。


「てゆうかイヴにあの人の乳首や脇や×××を舐め漁ってたのが『約束』じゃなかったわけね、
 ってミサカはミサカはある意味しっかりとした番外個体に感心してみる。ある意味」

「×××って何だよ、規制しなきゃなンねェよォな所舐めさせちゃねェよ」

「そうだよ安心しなよ最終信号。アソコすら舐めようとしたらあの人に止められたんだよアナr……」

「ハイ、番外個体ちゃん規制ェェェェェェ!!!!!」


今度は一方通行が奇声を上げながら番外個体の口を塞ぐ。
そんな番外個体を半ば羨ましげに見ていた打ち止めは、はたとその後ろのツリーの下に置かれた幾つかのプレゼントボックスに気が付いた。



「あ。そう言えば二日酔いだ何だでクリスマスに開けるの忘れてたね、ってミサカはミサカは今更ながらプレゼントの存在を示唆してみたり」



509 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:46:32.35 ID:DrGDPmM0


ツリーの下に置かれたプレゼントの数は6個。お互いが自分以外の2人へ向けて置いた数になる。


「折角だし今からプレゼント交換しよっか、
ってミサカはミサカは自分の買ったプレゼントを二人に手渡しながら提案してみる。ハイ、どーぞ」


打ち止めは一方通行に黒のリボン、番外個体にピンクのリボンの付いたプレゼントを手渡しながらそう言った。
それに薄く微笑んだ二人は自身らが購入したプレゼントをそれぞれ交換する。


「じゃあまずは番外個体のから開けようかな、ってミサカはミサカはリボンを解いてみたり」

「それって好きなオカズは最後に残す、ってヤツ?まあミサカはいいけどさ」


シュルシュルと番外個体から貰ったプレゼントの箱を開けていく打ち止めはそこでビデオの一時停止のように固まった。
同じ様に彼女からのそれを開けていた一方通行も岩と同類となっている。


「最終信号はこの前数学のテストで赤点取ってたから『サルでもわかる算数ドリル』。
 あなたにはミサカ達に構わずに勝手に抜けば?って意味を込めて『オナホール』と『バイブ』」






空気が凍った。


「つーかよォ……オマエ一体何処でどんな顔してコレ買って来たンだ一体……」

「ああ店知りたい?師匠お勧めの路地裏店。
あなた案外と好きそうかなってバイブ買ったときはすんなりだったんだけど、オナホールは怪訝そうな顔されたなあ」

「もうオマエら白井黒子と会うの禁止だかンな」



510 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:47:11.30 ID:DrGDPmM0






「……… き、気を取り直して次はミサカのプレゼントを開けてみてよ、ってミサカはミサカは二人を促してみる」


番外個体の件がよっぽど答えたのか、一方通行は失礼にも打ち止めのプレゼントを警戒して開けていた。
まあ仕方ないと言えば仕方ないが。
そして彼は、シュルシュルとリボンを解いた先の中身に驚愕した。


「モノクロの……ライター……?」

「あなた偶に煙草吸ってるし使うかなって思って。―――― 気に入らなかったかな?ってミサカはミサカはそっと伺ってみる」


モノクロの小物と言えば、以前一方通行が打ち止めに男が出来たと勘違いしたときに彼女が購入していたものだ。
彼好みの品を買う為に先輩から色々と話を聞いていたのだが、その所為で一方通行から誤解を受けることとなった曰くの品。


「オマエ、コレ……俺の為に買ってたのかよ……?」

「え、うん。そうだけど……やっぱり気に入らなかったかな?ってミサカはミサカは――――」

「―――― いや。クソガキにしちゃァ良いセンスしてンじゃねェかと思ってなァ」


な!ガキじゃないもん!と文句を飛ばす打ち止めを尻目に何故か安心した気になっている一方通行は
まあ。あの男にゾッコンなンてなってたら今頃ヤバかったしな、なんておかしな方向に思考を傾けていた。
しかしこれ位が本人達にとっても前進なのかもしれない。



511 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:47:52.62 ID:DrGDPmM0


「番外個体も開けてみてよ。ミサカ的には結構イイと思うんだ、ってミサカはミサカは自信を持って勧めてみたり」


促されるまま箱を開けた番外個体は目をパチパチとさせた。


「――――― ネックレス?」

「番外個体のアクセサリって可愛い系はあんまりないでしょ?お母様に貰った服とかに合うかなって選んでみたんだけど、
 ってミサカはミサカはクリスマスを譲ってくれたお礼に買って来てみればこれだよチクショーって本音を晒しながら渡してみたり」


暫く押し黙った番外個体は着がえて来ると言って部屋を出ていった。
そう言えば彼女も一方通行も打ち止めに起こされたきり寝巻のままである。
一方通行のプレゼントを開けるのは3人揃ってからの方がいいだろうと判断した打ち止めは、
本当は待ちきれない彼のプレゼントを開ける事を耐え、番外個体を待つことにした。
一方通行もその間に自室に着がえに行った模様だ。




「――――― これで、どう?」


戻ってきた番外個体が着ていたのは以前美鈴から貰った所謂森ガール的なフリル満載の少女服だった。
胸元には先程打ち止めが渡したネックレスが飾られている。


「似合う!!似合うよ番外個体!!ってミサカはミサカは自分のセンスが抜群だった事に自画自賛してみたり!!」


絶賛する打ち止めに、番外個体は恥ずかしげに口を尖らせるといういつもなら絶対しない様な表情で


「………ありが、とう」


と小さく呟いた。
普段は一方通行を挟んだ恋のライバル的なポジションである筈なのに、彼女の嬉しそうな顔を見るのが打ち止めはひどく嬉しかった。



512 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:48:55.14 ID:DrGDPmM0




「ンじゃ、最後は俺のだなァ」


そう言うと一方通行はそれぞれ大きさの違う赤いリボンの付いた箱を二人へ手渡した。
自分のものよりも番外個体の箱の方が大きな事に少し動揺する。


「ね、ねぇ!番外個体から開けてみなよ!!ってミサカはミサカはお願いしてみたり!」


こうゆう時に人から先にやらせるのは非常にズルイと思ったが、自分から開けるなどという事は何ともし難かった。
ならミサカから開けるねと言われるがまま素直に実行してくれた番外個体は、
打ち止めのとき同様、箱の中身を見て再び目をパチパチと躍らせた。


「―――― ミュール……」

「ま、要はクソガキと同じだな。オマエあの少女趣味抜群の服に合わせる靴持ってねェクセに、
『お母様から貰ったのだから』っつって着る気満々だったからなァ」


番外個体が与えられたピンクのミュールは、彼はどんな顔でこれを買いに行ったのだろうと考えてしまうほどに可愛らしいもので、
しかしそれが美鈴の服とキチンとマッチするあたり無駄にブランドやらに精通している一方通行らしかった。


「まだ下ろしてねェし室内で履いても問題ねェだろ。合わせてみ?」


美鈴の服。
打ち止めのネックレス。
一方通行のミュール。
それらを全て揃えた番外個体は極めて女性的な普段とは全く違う印象を皆に与えた。
彼女本人も鏡の前でそれを認識すると、そっと胸の前に当てた手を握り締める。


「ウン。ありが、とぉ………大事にする」


番外個体のあんな笑顔見たの久しぶりだな、打ち止めはそう感じた。



513 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:50:25.97 ID:DrGDPmM0




「よ、よぉし。じゃあミサカも開けちゃおっかな、ってミサカはミサカは緊張の面持ちでリボンに手を伸ばしてみたり」


終に一方通行のプレゼントを開けた打ち止めは、その先でピタリと手を止めた。
そのままギギギ……と首を回転させると後ろにいた一方通行に静かに尋ねる。


「……… コレ、は?」

「Yシャツ。揃いのが欲しかったみてェだから俺でもオマエでもサイズが合う様にオーダーしてきた」


揃いの、Yシャツ。
ミサカでもあの人でも着れるサイズの、Yシャツ。


「ね、ねぇ……ならもしかして今あなたが着てるYシャツって……」

「あァ、俺の分。この後かったりィが仕事だしなァ」


あの人とお揃いの、ペアルックの、Yシャツ。


「―――――― い、」

「……い?」


先程から片言でしか喋らない打ち止めに一方通行は眉を顰める。
選択肢を誤ったのだろうかと
学園都市第一位の頭脳をフル回転させながら本当にプレゼントがこれで良かったのか確認の為に彼女の顔色を窺う。


するとそこへ、




「いぃやっふぅうぅうううううう!!!!!!!!ってミサカはミサカは大・歓・喜ぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!!」




一方通行の鼓膜を突き破るかのような打ち止め本日5回目の奇声が辺り一面に響き渡った。



514 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:51:17.27 ID:DrGDPmM0




打ち止めは上機嫌で街を歩いていた。
仕事に行った一方通行と、あの服で少し散歩してくるという番外個体が家を出た為に自身も外へと繰り出すことにしたのだ。


現在の打ち止めの服装はいつもの制服。
ただし、その下には先程一方通行から貰った『彼シャツ』が仕込まれている。


(ムフフフフ……ああ、今この瞬間このミサカを誰かに自慢したくて堪らない……むふ、むふふふふふふ)


そんな打ち止めは大通りの前方で恰好のカモ、もとい丁度いい話相手を見つけた。
『妹達』の下位個体の一人だ。


「ねぇ!!あなたは何号?ってミサカはミサカはあなたへ唐突に尋ねてみる!」

「ミサカの製造番号は10032ですが何か御用でしょうか、とミサカは上位個体に尋ねます」

「うん!ちょっとお話に付き合って欲しいんだ。奢るから付いて来てよ、
ってミサカはミサカは上位であるのを良い事に10032号を引き摺り回してみる!」

「あーれー、とミサカは面倒臭ぇなこのJKと思いながらノリに合わせて叫びます。あーれー」



515 :≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ :2010/12/19(日) 20:52:15.96 ID:DrGDPmM0


そんなこんなでミサカ10032号こと御坂妹を捕まえた打ち止めは近くのファミレスへと彼女を連れ込んだ。
そして適当に注文を付けた後、無い胸を張りながら御坂妹へと自慢を始めた。


「と、言う訳で!!これがミサカの彼シャツなのだ凄いだろう!!
とミサカはミサカは興味なさ気な10032号へと構わず見せつけてみたり!」


制服のボタンを少し外し、中のYシャツを見せつけた打ち止めは高々と天狗にした鼻をフフンと鳴らし言いきった。
そんな彼女を惚気んじゃねえよこのガキがという顔を隠しもせずに見せた御坂妹は、
これまでの話を聞いてのありのままの感想を打ち止めに伝えた。


「というか上位個体。彼シャツというのは彼氏のブカブカ袖余っちゃうYシャツを着るから彼シャツなのであって、
 袖が余ったところでブカブカでもない、寧ろ一方通行の方がウエストの余る上位個体自身のYシャツを彼シャツと呼ぶかはミサカには甚だ疑問です。
 とミサカは自分の長ったらしい説明口調にウンザリしながら吐き捨てます。砂糖も吐きそうウェップ」


ピシリ、と打ち止めが固まった。
凍りついた打ち止めにも目もくれず席を立った御坂妹は静かに伝票を上位個体の手へと握らせながらこう呟いて店を出ていった。


「国産黒毛和牛を使った極上サーロインステーキご馳走様でした、とミサカは礼儀良く申し上げます。それでは」


カランカランとドアを閉めたベルが鳴り、ハッと意識を取り戻した打ち止めは――――――




「チクショォォォォォオオオ!!!ミサカにとってはこれが彼シャツなんだよコンチクショォォォォオオ!!!!
 でも真の意味での彼シャツも諦めねェからなコノヤロォォオオオオ!!!!」




打ち止めの彼シャツを目論む計画は、まだまだ終わりを見せない。




≪部屋とプレゼントとミサカ≫(完)



516 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/19(日) 20:53:43.08 ID:DrGDPmM0

先に言っておきます。
一方さんに全く悪気はありません(笑)

これでクリスマス編は一応の完結となります。
ここからはまた小ネタを挟みながらの第2部となりますが、途中番外編としてお正月ネタも書きたいです。


518 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 21:29:41.83 ID:HAmY4oAO
なにこの打ち止め超可愛い


521 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 22:41:54.66 ID:F/ycOUSO
ここにきてまたYシャツとは…
一方さん外さねーな流石だわ

彼(とお揃いの)シャツでもいいじゃないか
一方さんとペアルックって考えると…なんかこっちが恥ずかしくなってきた



522 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 23:22:24.35 ID:/7NVgUDO
一方さんは打ち止めの3サイズを知っていた、ということでよろしいんですよね!?


526 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 14:24:21.13 ID:7kpJqxMo
>つーか俺の歳で童貞っつーのはお前の中でアリなのかァ?

おいやめろおい



544 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:41:10.09 ID:Oee2D/I0
短いですが大晦日ネタ。少し早いのは百も承知です。
和装した一方通行組がみたいのは僕だけではないはず……誰か書いてくれないかなぁ。



546 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:41:52.96 ID:Oee2D/I0


「も~お、い~くつ寝ると~お正月~」

「お正月には~姫初め~女を啼かして遊びましょ~」

「…………最悪な替え歌作ってンじゃねェよ、クソガキ共」


12月31日、大晦日。
夕食を終えダラダラと紅白を見る打ち止めと番外個体はいかにも暇そうだった。
コチラは明日からのおせちを作るのに猫の手も借りたいほどなのに。


手伝えよ、と内心ツッコミを入れながらも打ち止めは兎も角
番外個体を台所に入れればたちまち全ての料理がゴミと化す事を知っていた一方通行は(主に彼女のちょっかいとそれによる打ち止めの暴走で)
一人黙々と正月料理の準備に没頭していた。


打ち止めとの二人暮らし以来必要に駆られて手に入れた料理スキルは最早家族と呼べる人間の中で最も上位の物となってしまった。
学園都市の白い悪魔(ガンダムかよ)と呼ばれた化物もすっかりナリを潜めたものだと悲しい事に自分でも思う。



547 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:42:44.76 ID:Oee2D/I0


そんな半ばどうでもいい事を考えていた一方通行の耳にピンポーン、と大晦日に相応しくない間の抜けたチャイム音が入った。
大晦日っつったら引き籠ってコタツで紅白だろォが誰だこんな時間にと思いながら「オイ暇人共玄関開けろォ」と少女らを急かす。


「ミサカが出るねー、ってミサカはミサカは玄関にダッシュしてみたりー」という声と共にパタパタと軽快な足音が聞こえたので
打ち止めが出たのだろう。
宅急便かも知れないと考え一方通行がハンコを用意していると、


「外寒いんだよ!早く引越しソバ食べさせて欲しいんだよ!!」

「年越しソバな。つーかいきなり来た人ん家で早速食べ物要求してるんじゃありません!!」


お呼びじゃない客人がそこに居た。



548 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:43:20.26 ID:Oee2D/I0


「いやー、色々あって電気もガスも止められちゃいましてね……」

「もう丸一日以上ご飯食べてないんだよ!!部屋の暖房も利かないしもう耐えらんないんだよ!!」


一瞬でも憧れた自分が馬鹿だったイヤあれは気の迷いだと思わせる程に情けない姿のヒーローと聖職者の癖に欲求の塊の様なシスターは
一方通行宅に到着するや否や倒れ込んで床暖房の利いたフローリングで寝転がり始めた。
人の家にも関わらず我が家の様な馴染みっぷりである。


「ソバ作ンのはイイけどよォ、オマエら来る予定無かったから精々4,5人前しか用意できねェぞ」


本来なら一方通行,打ち止め,番外個体,上条当麻,インデックスの5人で食べるのにその量は丁度いいものなのだが、
暴食シスターの存在を考えると明らかに足りない。
しかも丸一日食べていないという上条組には何かしらボリュームのある物を出してやらねばならないだろう。



549 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:43:50.17 ID:Oee2D/I0


「ちと早ェが雑煮でも作るかァ?っつってもさっきまでお節作ってたから用意がねェし時間がかかるがァ……」

「オセチ!?それ食べたいんだよ早く出すんだよあくせられーた!!」


バンバンと机を叩くインデックスを小突いて上条へと「絶対にこの糞シスターは台所へ入れンな」と命令した一方通行は
その辺の物を勝手に食べられない内にと急いで年越しソバと雑煮の準備にかかる。


手伝いを申し出た上条と共に台所へと並び、忙しなかった二人は漸く取り戻した落ち着きに溜息を吐いた。


「本当すいませんね、急に押しかけちゃって……」

「つーかよォ、俺らの周りにゃちったァまともに女は作れる奴はいねェのか」


男二人で正月料理に手を焼く姿は何ともシュールだ。
取り敢えずモチは50個くらい焼いとくかと途方もない数にウンザリしながら、一方通行と上条はまた盛大に溜息を吐いた。



550 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:44:22.34 ID:Oee2D/I0


一方その頃リビングの女子組。


「へえ……お財布落としちゃうなんて災難ね、ってミサカはミサカはシスターさんに同情してみたり」

「そうなんだよ!とうまがドジした所為でもうお腹と背中がくっ付いちゃいそうなんだよ!!」


うう~と余程堪えたのか今にも泣き出しそうなインデックスに打ち止めは
一方通行が密かに買い溜めしていた秘蔵のツマミを隠しながら取り敢えず手持ちのお菓子を勧めた。
渡した瞬間にパッケージだけを残して消えたそれを見て、あの人の一品隠しといて良かったなと切実に思う。
もう1袋欲しいんだよ!!と要求するシスターに言葉の通り手渡してやった打ち止めは、しかしそこで先程から何も言わずに考え込む番外個体が目に入った。


「番外個体どうしたの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「…………ねえ、上条当麻とシスターは泊ってくワケ?」


打ち止めの質問を無視してインデックスへと声をかけた番外個体は
「出来れば泊めてくれれば嬉しいかも」とお泊りセットを掲げながら明らかに泊る気マンマンだった彼女を見てまた考え込む仕草をする。



551 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:46:50.15 ID:Oee2D/I0


「ねえホントにどうしたのってミサカはミサカは……」

「なら、今夜はミサカはあの人と一緒に寝るよ」



WHAT?
打ち止めが固まった。空気が凍る。
だが番外個体はそんなこと一切気にせずに言葉を続ける。



「2つの客室のウチ1つはミサカが使ってるでしょ?でも客人に譲らない訳にはいかないし……
仕方ないから此処はミサカが一肌脱いであげるよ」



一方通行達が暮らすマンションは、元々は黄泉川愛穂が所有していたそれを譲り受けたものである。
当時芳川と黄泉川が使っていた部屋を客室とし、うち芳川の部屋を現在は番外個体が使用している為余ったベッドは一つしかない。



「いや~、ホント仕方ないなあ。でも此処は居候のミサカと家主のあの人が我慢するしかないよね」


「仕方ないじゃないよ!!一肌脱ぐって物理的にも脱ぐつもりでしょあの人襲う気でしょ深夜0時に姫初めでしょ、
ってミサカはミサカはさせるモンかと捲し立ててみる!!
番外個体も一応は客人だしぃ?此処はミサカがあの人と寝るべきだよね!ってミサカはミサカは―――――」


「ふざけんじゃねぇよこの元・幼女!!嘗てのロリさもないアンタがミサカに敵うと思ってんの?
今は大人の色気の時代なんですぅ自重しろこのAA!!」



「さ、流石にAAじゃないもん!ってミサカはミサカは反論してみる!!」


「あ、ごっめ~んAAAの間違いだったあ?ってミサカはミサカはぁ、最終信号のマネしてみたりぃ」


「おいそこに直れこのクソアマがァその脂肪の塊引き裂いてハンバーグにすんぞコラ」


「ぎゃはは最終信号のヤツ口癖も忘れてやがんの!それが本性ですかあ?あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」



552 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:47:38.39 ID:Oee2D/I0



同時刻、台所の男達。
男達は悲しきフラグ体質に泣いていた。



「――――――……モテモテだな」

「同情はいらねェ。俺の部屋に布団敷くからそれでいいかァ、三下ァ?」

「あ。泊めて頂けるんでせうか、本当にありがとうございます」



台所へも今も響くワーキャーとした叫び声に一方通行は本日3度目の盛大な溜息を吐いたのだった。



543 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 16:59:11.55 ID:ASq8Gawo
打ち止めのキレ方に確実に一方さんの元で育った影響が見受けられるのがこのSSの良いところだと思う



553 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/29(水) 20:49:57.74 ID:Oee2D/I0
打ち止めと番外個体がにゃんにゃん言い争ってる光景が好きです。
何度も「大ミサカ」と打ち間違えしました。

>>543様の言う通り打ち止めの口の悪さは一方さん譲りです。子供はすぐ真似します。



561 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 02:09:51.94 ID:1qBuucDO
打ち止めァ可愛いよ可愛い
番外さんもいいが、また家族以上な日常通行止めが読みたいですお願いします




571 :>>1 あるいはシャツの人 :2011/01/04(火) 01:03:00.31 ID:Ja80mfo0

お久しぶりです。今日からは本編続きに軸が戻ります。
やっと2部を書き始める時間が確保できました。スローペースになると思いますが宜しければお付き合いくださいませ。

● ここからの展開には他スレ様での妹達設定が用いられます。
ご存知無い場合も問題なく読めますが、あまり好まれない方はご注意下さい ●



573 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:05:14.28 ID:Ja80mfo0





「「打ち止めも一方通行も番外個体も、退院おめでとう~~~!!!」」

「つーかよォ。なンで自分の退院祝いの金出さなきゃなンねェンですかねェ、俺は」





10月10日。
一足先に退院していた一方通行に追い付く形で打ち止めと番外個体が無事に退院日を迎えた。


9月29日に木原数多からのウイルス攻撃を受けた『妹達』
―――― ことウイルスを直接投下された統率個体である打ち止めと解析の為にウイルスを脳内で喰い止めていた番外個体は、
厳しい『調整』に身を投じることとなった。


そして木原数多とその手勢を封じ『妹達』と学園都市の平穏を庇うべく立ちあがった一方通行も冗談では済まされない怪我を負った。


やっと迎えた退院に事情を知る上条当麻とその同居人であるインデックスは彼らの退院祝いをすることを決めたのだが、悲しきかな。
二人は不幸体質とシスターの名に反した暴食の所為で万年金欠の身である。
そこで上条とインデックスが考えた名案というのが、



『あ!ならお金持ちの一方通行にスポンサーについて貰えばいいんだよ!』

『冴えてるじゃないかインデックス!!』

『なンでだァァアアァァアァアァア!!!!!!!』





「まあ皆無事に日常に戻れたんだし良いんじゃないかな、ってミサカはミサカはあなたのお財布なんて気にせずに無責任に発言してみたり」

「ミサカも良いと思うよ。どーせあなたお金持ってるしそれくらいがお似合いだよ」

「自分で金稼げるよォになってから言えクソガキ共」



574 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:05:53.48 ID:Ja80mfo0




一頻りのパーティーを終えた上条達が帰宅するのを見届けた一方通行は(そう。しかも彼らは会場を一方通行のマンションとしたのだ)、
そのまま靴を履き自身も玄関口を潜った。


「あれえ、お出かけ?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「仕事だよォ、シ・ゴ・ト。オマエらが見境なく使ってくれるお蔭で働きアリさンになンなくちゃならないンですゥ。
 ただでさえ研究職と教員の二重生活だっつーのによォ」

「うぅ…… 無駄遣いはやめます、ってミサカはミサカは反省してみたり……」


キチンと戸締りして早く寝るんだぞォ、と告げた一方通行に研究所に泊まるのかと当たりをつけた打ち止めは
忠告通り玄関の戸をキッチリと閉めてカギとチェーン、更には電子ロックの三重防備を施した。
もう子供じゃないのにと思っても事件が起きたのはつい数日前だ。


「気を付けろって言ってくれるのが愛、みたいな?ってミサカはミサカは自分で言ってて恥ずかしくなっちゃったりキャー????」




575 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:06:42.30 ID:Ja80mfo0






一方通行が訪れた路地裏を更に外れた先にある廃ビルだった。
一見ボロボロに見えるそこは目を凝らせば人の出入りが窺える。


「当事者のお前の到着が一番最後ってのはどうなんだよ。常識的に」

「黙れメルヘン野郎」


一方通行がガラス戸の所々割れたドアを潜ると、垣根を初めとする十数人の男女が彼を出迎えた。


麦野,絹旗,滝壺,浜面の4人から成る『アイテム』の面々。
『スクール』から合流した垣根,心理定規の2人。
土御門,海原,結標の嘗て一方通行が所属した『グループ』の元メンバー3人と、結標が『グループ』時代に人質に取られていた少年達が数人。


彼らは表で普通の生活する一方通行が多少のデメリットと引き換えに
自分たちにとっての学園都市のメリットを目指し行動を共にする現在の『共犯者』である。


一方通行にとって、そして彼らにとって互いに対する『仲間意識』や『信頼』といった感情は一切存在しない。
代わりに互いの強さを認める程度の『信用』は置いている。


「時間通りではあるから遅いだの何だのはそこの心の狭い第2位と違って言わねえけどよ、
 木原の『肉体復元』に関する技術情報は掴めたんだろうなあ?」


文句は言わないと明言している割に既にキレかけている麦野沈利が浜面から馬のようにどうどうと言われながらも一方通行を言及する。
本日のメインテーマの1つがこの話題でもあり、コレは彼らの中では一方通行にしか判別の付かない事だった。



576 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:08:44.05 ID:Ja80mfo0



「……… 結果から言えば、俺と冥土返しで開発した『クローン技術』を応用した欠損部位補完の為のそれだった。
 肉体全体を再生させるなんてマネしたのはそこのメルヘンだけだったが、プラチナバーグの野郎は俺を狙って木原に試したらしい。
 元々手綱の握れねェ『一方通行』への対策の一つとして、理事会の一部で垣根と同様に脳の保管はしてたみてェだしな」



一方通行の報告に心理定規の肩がピクリと揺れた。
4年前、彼が管理していた『未元物質生産ライン』を含む管轄内を掌握した『グループ』に垣根帝督の引き渡しを交渉した彼女は
垣根の復活の為の技術開発から現状までの経緯を考えて僅かながらも責任を感じているのかもしれない。



「だがプラチナバーグがその技術を応用しようとした所で使いこなせるとは思えねェ。
 一般に知られているのは事故や病気で損失した人体の一部を造りくっつけるモンだ。
 人一人丸々作るクローンよりある意味で調製が色々と面倒な代物を再現するだけの『協力者』が居た筈だ」


「ローマ正教に潜伏していたショチトルから入電がありまして、それに関しては自分が多少掴んでいます。
 今回の一件で露見したアレイスターの死亡情報をローマ正教内に齎したのはスペイン星教の様で、
 その内容があまりにも学園都市内部に精通したものだった為に彼女はスペイン星教の手の者が此方側に潜んでいると推測しています。
 スペイン星教の方にはロシア成教内に回していたトチトリを派遣したのでそちらについても近日中に報告できるかと」


「スペイン星教か……迂闊だったな。ローマ正教にロシア成教,そしてイギリス清教までは常に情報を張っていたが、
 あちらにはあまり手を回していなかった」



577 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:09:51.23 ID:Ja80mfo0


海原や土御門の意見に他の面々が口を挟む事はない。
2人以外は魔術サイドに関しては少々聞き齧った程度の素人であり、専門外だ。
序でに言えば学園都市の様に世界中に知られる大組織に比べ
魔術サイドは各地に別れる宗派の更に一部の人間だけが係わりを持つ能力である為に科学サイドの人間からはその全貌が掴み辛い。


基本定義や情勢の一般公開が微塵も無いだけに、科学 対 魔術が正面からぶつかり合うとなれば科学サイドに多少分が悪かった。


そのうえ現状、魔術サイドのどの組織が学園都市に手を出した所で『クローン能力者のり危険性』を訴えられれば
学園都市側としても国際的にも全面的な非難は出来ない。
そもそも道徳的な問題としてクローン技術は禁止されており、ミサカネットワークを利用したウイルス流出法を提示されると
クローンの人権が通るかも厳しいのだ。


「学園都市入門ゲートの監視は『アイテム』に一任する。が、AIM拡散力場を持たない魔術師を相手にするのは滝壺には難しいだろうし、
 お前は後方支援として俺達の状況を力場の揺れから察知しててくれ」

「わかった、私は魔術を知らないしつちみかどに今回は従う。……むぎのはそれで文句ない?」

「まあ餅は餅屋ってね。良いわよ、ゲートは私と絹旗で担当するからあんたは浜面を護衛に後方支援に付きなさい」


魔術専門家の土御門や海原が今回は中心指揮になるとはいえ、各メンバーはこの『大組織』の中でそれぞれ『小組織』に属している。
滝壺のリーダーはあくまで麦野であり、彼女の配置は麦野に最終決定権がある。



578 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:10:31.00 ID:Ja80mfo0


「外部からの侵入は『アイテム』が阻止するとしても既に学園都市内部に潜んでいる魔術師が居る事は確かだ。
 そこで結標のグループが人海戦術でそいつらを捜索、俺と海原も魔術方面から捜索に当たる。
 発見次第駆逐出来る様垣根は戦闘準備をして待機、心理定規は通常通り敵を確保してからの査問官として動いてくれ」


土御門からの指揮を適確な指示として受け取った3人は自身の名が呼ばれると共に首を立てに振るう。
それを見取った土御門は最後に残った一方通行に顔を向け静かな口ぶりで彼を諭した。


「世界中に散らばった量産能力者全員にこちらから護衛を送る事は出来ない。妹達自身に自衛して貰うしかないのは解るな?
 最終信号から最低でも2人1組での行動を取るよう上位命令文を命じさせろ。そしてお前は今度こそ最終信号を手放すな。
 海原の報告通りスペイン星教には木原を復元するだけの『科学技術を有した魔術師』がいる。お前が何をすべきか、良く考えておけ」





579 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:11:13.81 ID:Ja80mfo0









『お前が何をすべきか、良く考えておけ』


土御門の言葉が一方通行の優秀な脳内で何度も巡り、そして消えた。
俺が何をすべきか。
答えは既に出ている。妹達を、打ち止めを全力で護る。それだけだ。
一方通行には己に課した絶対的なルールがある。


≪ 例え何があっても妹達や打ち止めといったクローンを傷つけない ≫


こんな血塗れの自分が彼女達の笑顔を作れるとは思えない。
それでもせめて、彼女達が自分の内側から生み出した笑顔を護りたい。一方通行はそう思っていた。


だが実際はどうだ。
木原数多によって簡単に打ち止めを奪われ、作戦の為に海原の護符精製として彼女の皮膚を裂いた。
全ては己のミスだ。
打ち止めが狙われている事を知りながら、否、妹達の弱い立場をずっと前から理解していながら彼女達を護れなかった。


(そンで?今回はどうだ、妹達全員を目の届く場所に置くことなンて俺には出来ねェ。
 結局俺はアイツらに絶対的な安全地帯を用意してやることさえ無理っつーワケかよ……)



580 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:12:21.77 ID:Ja80mfo0


一方通行は自分が未だ暗部に属している事を表の生活に関わる人間に話していない。
不本意ながらも友人のカテゴリに入る上条当麻やインデックス、妹達の素体となった御坂美琴、
家族と認める黄泉川愛穂や芳川桔梗、そして妹達の一人である番外個体や打ち止め。


誰一人として一方通行が『日常』へと帰って来て6年経った今でも、
自分から残ったとはいえ学園都市の暗部に居る事を知らない。


打ち止めからミサカネットワークを通じて自己防衛を徹底するよう妹達に勧告させるとなると
多少省いたとしても自分が裏社会に関わっている事が察せられるだろう。
量産能力者を危険視する魔術師が学園都市外部から各個体を狙った場合、護ると誓った妹達も
結局は自分で何とかしろと放りだす事になる。


(アイツらにこンな世界は見せたくなかったっつーのに………クソッタレが!!!)


一方通行にはそれが歯痒くて仕方ない。
それでも、現実を考えれば自分一人でどうにかなる問題では事態は無くなってしまった。



583 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:16:57.68 ID:Ja80mfo0







ミサカ14510号はスネークと称される17600号から対価と引き換えに横流しして貰った一方通行の写真を眺めながら
頬を染め一人ニヤニヤと他者から見れば気持ちの悪い笑みを浮かべていた。



1か月に1度送ってもらう一方通行アルバムの最新版。
学園都市へは中々向かえない彼女にとって、想い人に接せられるこのアルバムは
誰に何と言われようと恋する乙女の真っ当でありがちな手段であった。決してストーカーなどでは無い。



「と、考えながらも……あでもやっぱり一方通行さんには知られたくないわ恥ずかしいキャー????
 なんて思ってるんだろ言ってみろよ。まあミサカにとってはその湧き上がる背徳感も美味しいがな、とミサカは推測および意見主張します」


「に、20000 号!!いつから見ていた!
 つーかあの人に使う媚薬やら用意したりあの人の写真見ながら下品な想像してるヤツに背徳感云々言われたくねーよ!
 とミサカは20000号に写真を横取りされないよう隠しながらツッコミます!!」



20000号が調製機器の問題で在住する研究所から一番近い此処を尋ねている事は知っていたが、
まさか至福の時間(一方通行とのラブラブ妄想タイム)を見られるとは……



「(ラブラブ妄想タイム)って要は賢者モードだろお前も下品な想像してんじゃねーかなあ兄弟、
 安心してコッチに来いよ[らめぇぇっ!]とか[田島「チ○コ破裂するっ!」] とか考えたって何にも問題な――――」


「問題大アリだァァァア!!!!ミサカネットワークから思考を読むなというか思考洩れてた?え、マジで?
 やだちょ、いやでも本当に下品な想像なんてしてないからねカップルストローしか想像してないもんってミサカは――――」


「大丈夫大丈夫中学生みたいな想像(手繋ぎ,一本マフラー,お弁当差し入れetc)しか見てないから、ってミサカはフォローしま……ププッ」


「笑ってんじゃねぇェエエエエ!!!!!」



584 :第十話 『部屋と新展開とミサカ』 :2011/01/04(火) 01:20:13.32 ID:Ja80mfo0


大声で怒鳴り散らした14510号はハァハァと肩で息をしながら勢いで飛んだ唾を拭いつつ20000号を睨み上げ、
暫くすると脱力したように溜息を吐いた。


「お前に何を言っても無駄だって事は生まれてからこれまででもうしっかり分かっちまってるよ悲しい事に、とミサカは諦めの意を示します」

「お。なら一方通行ちゃんマジ天使はミサカに譲るということで、とミサカは結論付けちまいます」

「オイコラそういう意味じゃ……、―――――!!!」









普段直には会えない妹達同士の親睦を兼ねた他愛無い雑談を続けていた彼女達は、
しかし次の瞬間2人同時に勢い良く首を後方へ振り翳し目を見開いた。


「右前方50 m先の曲り角に不審な人影を発見。武器の携帯は見受けられたか?とミサカは20000号に確認します」

「いんや、一瞬しか見えなかったが銃器は無かったように思えた。
それでも携帯用ナイフなんかを所持してる可能性もあるから油断は禁物だな、とミサカは14500号に注意を促します」


言葉とネットワークだけで互いの意見を交換し合った2人は声を揃えて通路の陰に隠れる人影に問うた。


「「さて。あなたは何者ですか、とミサカは尋ねます」」


だが彼女らは自らが尋ねた問いへの応答にその僅か数秒後、困惑することとなる。


「あァ。俺だよ」

「一方、通行 ――――――?」




10月10日、日本時刻PM 23:08。
科学サイドと魔術サイド、そして妹達と魔術師を交えた新たな物語がここに幕を上げる――――。



585 :>>1 あるいはシャツの人 :2011/01/04(火) 01:21:55.90 ID:Ja80mfo0

という訳で2部開始です。
14510号と20000号は他スレ様の印象から個性の強さを口調に出しました。
14510号をもっと可愛く、 20000号をもっと変態チックに書きたいのになかなか出来ません。
今のままじゃ打ち止めや番外個体の方が変態度上だぞ、頑張れ20000号!!

宗教関連に関しては恥かしながらあまり知識を有していないので原作で殆ど触れられていない『スペイン星教』を敵側に置く事で多少濁しました。
当スレは設定不備があっても脳内保管を推奨致しているということでここは一つ。



586 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 01:23:15.65 ID:yyDhnZIo



591 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 03:15:56.10 ID:3DE4uG60
この後の展開が俺得の予感

14510号と20000号の表現がうまいなぁ
そんな風に書けばいいのか、勉強になる





592 :>>1 あるいはシャツの人 :2011/01/04(火) 20:35:59.01 ID:Ja80mfo0
昨日の続きで本編になります。オリジナルの設定や人物が多少交錯しないと物語は進まないと割り切って下さるとありがたいです。
では、以下より投下始めます。



593 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:37:02.10 ID:Ja80mfo0





10 月10日 日本時間 22:59


大学内のサークルで行われた飲み会で帰宅が遅れた御坂美琴は不良共が屯する夜の学園都市を歩いていた。
2次会を見送ると告げた美琴に、あと1時間で日付が変わる様な時間帯でもある事から帰宅の共を名乗り出た男子が数人いたが
皆『超電磁砲』と恐れられる超能力者・御坂美琴の実力を知っている為に美琴が丁寧に断りを入れれば彼らはあっさりと引き下がってくれた。



「でもこれだけガラの悪い奴らが雁首揃えてるんですもの、フツーの女の子だったら危ないでしょうね……」



既にその『ガラの悪い奴ら』を幾人か伸した美琴はつい先程電撃を浴びせ昏倒させた周囲の男を眺めながら呟いた。
大多数の子供を預かりながら学園都市の治安が何処か不安定なのは相変わらずだ。


さて、このスキルアウトであろうと思われる男共は如何しようか。
放っておいても美琴としては一向に構わないのだが、
彼らが別の不良達に追い剥ぎされる可能性を考えれば警備員にでも連絡してやるべきかもしれない。
こんな時上条当麻ならほぼ間違いなくお節介に彼らを気遣い何かと対処してやることだろう。



594 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:37:48.33 ID:Ja80mfo0



(べ、別にアイツに褒められたいとかアイツみたいにしたいとかそんなんゃないんだからっ!!)


脳内ですらツンデレを展開する美琴が携帯電話を取りだそうとバッグへ手をかけた所で、美琴は気付いた。
遠くから喧騒が迫っている。


それもそこいらの不良共が織り成す様な罵声の応酬では無く
例えるなら動物達が獲物を捉え様と列を為す緊張感が静かに、そして確実に迫ってくるイメージ。


一度は超能力者である自分を狙ったものかと考えた美琴であったがどうにも近づいてくる気配の殺気はこちらに向いていない様に思える。
何処か近くで美琴の知らぬ厄介な事件が起こっているらしい。


まさか件のトラブルメーカー・上条当麻ではあるまいな。
そんな事を考えた美琴が周囲全体に意識を集中させた美琴はその瞬間何か引っ掛かりを捉える事に成功した。
感じ慣れた能力の感覚。自身と同等のチカラ。



「狙われてるのってまさか……妹達!?」






595 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:38:28.07 ID:Ja80mfo0







10 月10日 日本時間 23:01


ミサカ10032号、通称・御坂妹は息を上げながら夜の街を掛けていた。
早く、早く逃げなければ。
彼女がこれだけ自身の死を実感したのは『絶対能力進化実験』で一方通行と対峙したあの夜以来かもしれない。


妹達はこれまでに何度も命の危機に瀕している。
しかしそれは『自分とは別のミサカ』が体感したそれをネットワークを通じて知り得た謂わば『情報』に過ぎない。


だが、今は違う。
今にも殺されそうになっているのは間違いなく自分で、必死にもがいているのも『このミサカ』だ。


死にたくない。
そんな感情が彼女の中で華を咲かす。
与えられた命であると語っていた自分が心の底からそう感じられたのに、その瞬間に死ねと言うのか。


学園都市では風変りなファッションとしても見受けられない様な在り得ない格好―――
――――― 古めかしい修道服の様なものを着込んだ訳の判らない一団は、訳の解らない能力を行使しながら静かに歩み寄ってくる。



「―――――っ!!」



後ろからジリジリと迫り来る敵を視認した御坂妹はミサカネットワークで他の個体へ危険を知らせながらひたすら逃げる。
精々が強能力者程度の自分の能力は通じなかった。
学習装置によって武器の扱いや体術も知識としてインストールされているが、
武器なんて日常で携帯している筈もないしあの人数に体一つで挑もうというのは些か無謀だった。



596 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:39:20.10 ID:Ja80mfo0



万事休す。
そんな言葉が脳内を占め始めた彼女が頭を振って逃げる事に集中しようと路地の角を曲った時。
御坂妹の右手が不意に掴まれ、彼女の体が横に伸びた路地裏へと吸い込まれた。



「なっ―――――!!!」



悲鳴を上げようとした口は右手を掴む手とは反対のそれで覆い塞がれ、
暴れようともがく体はビリビリと体全体を弱く取り巻く電流で拘束される。



「ん、ん``ーーーー!!ん``ん``ん``ーーー!!!!」

「ちょ、大人しくなさい!アイツらに見つかっちゃうでしょうが!!」



耳元で囁かれる声は焦っていながらも自分を労る優しい音色だった。
声の通りに大人しくすれば溢れ始めた涙をポケットから取り出したハンカチで拭ってくれる。





「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ、あとは私に任せなさい」

「――――お姉、様ぁっ!!」




597 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:40:02.57 ID:Ja80mfo0



しゃくりを上げながら本格的に泣き始めた妹を美琴はしっかりと抱きとめながら路地の奥深くへと進んでゆく。
電気を使って敵が居ないか周囲をサーチしながら、彼女が落ち着いたのを見計らうと美琴は真剣な眼差しで妹を見遣る。



「ジーパンは似たようなデザインだし問題ないわね……上着を貸しなさい、それでアンタはここで待ってなさい」

「お姉様!まさかミサカの代わりになるつもりですか、とミサカは問います!それはあまりにも危険です!!」



御坂妹は美琴を必死で止めようとするが、聞く耳すら持たずに美琴は効率良く妹の上着を脱がせ自分のそれを被せた。
そして自分の荷物や携帯を妹へと押し付けると自身に満ちた笑顔でこう告げる。



「アンタ、私が超能力者だって知っててそれ言ってるワケ?―――――それに。妹を護るのは姉の務め、でしょ?」



相手が何の目的でアンタ達を狙ってるか分からない以上、警備員に連絡は出来ない。
でも黒子に留守電入れといたからそのうちに来てくれると思う。あの子が来たらリアルゲコ太の所までテレポートして貰いなさい。
それで万が一、私や自分がヤバいと思ったら、アイツに連絡なさい。

――――――本当は、巻き込みたくないんだけどね。



598 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:40:51.12 ID:Ja80mfo0



御坂妹は、早口でそれだけ言い残して敵が潜む大通りへと駆けて行った『姉』を今度は止める事が出来なかった。
超能力者の姉ですらあの集団に何らかの危険を感じている。
自分が付いて行った所で足手纏いにしかならない事が理解出来てしまった。



「お姉、さまぁ……!お姉様っ……!!」



自分には、膝を抱えて泣きながら姉を待つ事しか出来ない。
姉の無事を祈ることしか出来ない。


しかし、神は彼女を見捨てなかった。少なくとも御坂妹はその時確かにそう思った。
その一瞬、その僅かな時間の中に限って、そう信じてしまった。










ザリ、と埃や砂利で溢れた薄汚い路地裏の地面を踏みしめる音が聞こえた。
御坂妹は慌てて膝へと埋めていた顔を音の方向に振り向ける。


そして、彼女は見た。
上位個体の隣で6年前の8月31日以降ずっと『ミサカ達』を護り続けてくれた存在。
学園都市第3位を誇る姉を上回る実力を持つ数少ない相手。



「――――― 一方、通行?」



薄暗い夜の街で巡り合った見慣れた少年の口元が、静かに弧を描いた。




599 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:41:40.98 ID:Ja80mfo0









御坂美琴は古めかしい修道服の様な物を着込んだ不可思議な一団を相手に猛攻を奮っていた。
つい先ほどまで御坂妹を追い詰めていた彼らも、一瞬で様変わりした様な標的に驚きを隠せない。


妹と入れ替わり彼女の振りをして戦う美琴は、
しかし能力スペックは億尾も隠さず全力を出しながら一撃、また一撃と死なない程度にしか手加減しない電撃の槍を敵へと叩き込む。


美琴は焦っていた。
圧倒的優位に立ちながらもピリピリと感じる違和感に。
この小さな綻びが積りに積もって大きくて大切な何かを壊してしまうのではないか、そんな風にさえ感じる謎の感覚。



(何が起こっているのか、この目で確かめる――――っ!!)



自分の感じた違和感を確かめるかのように美琴は再び渾身の一撃を
槍や杖や斧、果てには良く解らない様な物まで時代を一回り二回りも遡ったかの如く非合理的な武器を携えた敵相手に炸裂させる。



600 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:42:23.01 ID:Ja80mfo0



瞬間。
敵の一人が不自然な動きをした指をそのままに杖へと触ると、その杖が捉えた美琴の電撃が七色の光を放出しながら四散した。


一方通行の様な反射でもなければ、念動力で造られたシールドで防がれた反応とも違う。
超能力者として幾人もの人間と対峙した美琴が見た事も聞いた事も無いチカラ。
姿形も能力も学園都市とは相反する敵。



「アンタ達、一体何者―――――?」

「…… そうですね。その脳内ネットワークとやらで『妹達』の皆さんにはご挨拶しておきましょうか」



行動に反して丁寧な口ぶりを伴って、敵の一団の中から一人の若い男が歩み寄って来た。
彼が近づくと周りに立つ男女は道を空ける。



「初めまして『ミサカ』さん。危険因子たる貴女方を処分しに来ました、魔術師です」



海を渡ってスペインから来たその男は、目の前の『兵器』を見てにこやかに微笑んだ。




601 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:43:54.08 ID:Ja80mfo0



「―――― マジュツ、し?」



RPGに出て来るような中二全開の単語を真面目腐った顔で語る男を前に、美琴は目を見張った。
だが美琴の優秀な頭脳は理解出来ないその『マジュツ』という単語を否定しながらも考察を続けてゆく。


6年前、0930事件。
自分が信じてきた科学的ルールが通用しなかった存在。
最も信頼する少年が『友達』と称し助けに走った巨大な少女の様なその偶像。


『天使』。
あの事件の顛末を学園都市は何と公表していた?
思い出せ、思い出せ。



≪ 学園都市の外には『魔術』というコードネームを冠する科学的超能力開発機関があり、そこから攻撃を受けた ≫



『魔術』。
学園都市の『外』の組織。
つまりはあの『天使』を生み出すのと同等のチカラ。




「――――外の、あの子達の事なんて何も知らない様な人間が、……あの子達を否定するんじゃないわよ!!!」




602 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:45:00.63 ID:Ja80mfo0



『魔術』を自分なりに理解し解釈した美琴は、その『魔術』というチカラよりも
学園都市の外から来た妹達のその優しさも強さも持つ心を知らない人間が勝手に彼女達を否定した事に激怒した。


これまでは死なない程度まで攻撃を加減してきたが、妹達に手を出そうというのなら話は別だ。
尋問する一人を除いて全員始末したって構わない。


沸騰した頭が殺意を弾き飛ばす程に熱くなった美琴は全力を込めて超電磁砲を放つコインを弾こうとした。
だが。



「学園都市にはこんな時間でも徘徊する若者が沢山居るんですね」



その言葉に美琴が周囲を見渡せばそう遠くはない距離で
呑気にケータイのカメラを向けながらこちらを観戦している人影がチラホラと窺えた。
いつの間にかステージは人通りが多い場所へと徐々に移動させられていたらしい。


こんな場所で超能力者の美琴が全力を出したらどうなる事か。
一気に冷めた頭で幾つかのシミュレーションを弾き出してみたが何の関係も無い一般人を巻き込んでしまう可能性が大きすぎる。



「ならっ――――!」



コインを懐に戻し美琴はバチバチと指先からある程度加減して発した紫電を、槍を構えた敵へと浴びせかける。
攻撃を向けられた敵はブツブツと早口で呪文の様な物を捲し立てると無防備に突っ立ったまま構えた槍を突き出してきた。



(……?そんな槍一本で私の攻撃を防げるわけ……)



しかし無防備な敵へと向かった紫電は絡め取られる様に槍へと巻き上げられ、
不可解な光を散らしながら物理的に不可能な方向へと弾き飛ばされた。



603 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:45:41.64 ID:Ja80mfo0



躱すでもなく消すでもなく弾け飛んだ美琴の一撃は、あろう事かこちらを窺っていた若者の集団へと突っ込んでゆく。
呑気に写真なんて撮ろうとしていた連中が手加減してあるとはいえ美琴の攻撃を受けて大怪我をしないわけがない。



「しまった――――――!!」



突如電撃に襲われた少年達は叫びを上げる暇すら与えられず
驚愕と恐怖に開いた口を閉じることすら許されぬままに硬直した体の所為で指一本さえ動く事が叶わないでいた。


そんな彼らの下へ美琴が駆け出すが頭の片隅では既に計算してしまった結果が踊り狂っている。
間に合わない。
今から別の電撃を発して少年達に向かった自分の紫電を相殺するにも、自分が身を挺して庇うにも時間が足りない。



(もう、駄目………!!)



諦めと覚悟が美琴の中に生れてしまった。
その躊躇いが走る彼女の脚を半歩分程遅らせる。



604 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:46:46.81 ID:Ja80mfo0



少年達は動かない、動けない。
手を伸ばす美琴の手も、届かない。
誰が見てももう駄目だと思える状況だった。



(―――――っ!)



予期してしまった未来に、見たくもない光景に目を反らして閉じた美琴は
だがそれにより研ぎ澄まされた聴覚によって絶対的な救済者の存在を察知する。






「随分苦戦してるみたいじゃねェか、超電磁砲」






少年達を今にも呑み込もうとしていた紫電が先程の槍とは違う原理で弾き飛ばされた。
飛んでいった先は槍の遣い手。
美琴が本来攻撃しようとしていた相手の胸へと凄まじい電撃が付き刺される。


紫電を『反射』した青年はダン、と地を蹴って美琴の背へと自身の背を向け
背中合わせとなった美琴へと口元に弧を描きながらさも可笑しそうに笑って言った。




「超能力者同士のタッグ戦なンてマニアなら金払ってでも見てェような光景じゃねェか
  ―――――始めようぜ超電磁砲?こっからは反撃開始だってなァ!!」



605 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:47:46.42 ID:Ja80mfo0








急に自分達に対峙した一方通行から発せられた『超電磁砲』という言葉に魔術師達は揃って首を傾げた。
『超電磁砲』というのは確か標的の素体となった人間の異名ではなかったか。


そこで彼らはやっと気付いた。
能力スペックが事前情報とは明らかに事なった目の前の人間が出来そこないの欠陥品などではなく恐るべきオリジナルであった事に。



「あの手の輩は武器構える暇すら与えねェか、武器と声のどちらかを奪っちまえば大抵何も出来なくなる」

「良く解らない法則に惑わされるな、ってワケね―――――後ろ。任せたわよ」

「誰にモノ言ってンだ三下ァ………俺は学園都市第一位の化者『一方通行』様だぜェ?」



目でも口でも合図は無しに、しかし息の合ったタイミングで超能力者達の猛攻が始まった。
第三位の『超電磁砲』、第一位の『一方通行』。
二人によって組まれた突発タッグはそうとは思わせない見事な連携を見せ魔術師達を翻弄してゆく。


携えた武器を構える暇も詠唱させる時間も与えない。
途中仲間が攻撃を受ける間に無から有を生み出す様な奇妙な術を行使する者も見られたが
魔術への対応に戸惑いを見せる美琴を背に追いやりながら彼女の前へと躍り出た一方通行がそれを調整しながら反射する。


反射された筈の敵の一撃は物理法則を無視して七つに分裂し、
内一つが美琴へと向かうが彼女は電気を纏った右手でそれを往なしながら一方通行の背目掛けて飛び出した敵を粉砕する。



606 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:48:45.88 ID:Ja80mfo0



「くっ ――――!」



リーダー格らしい唯一美琴と口をきいた魔術師が唇を噛む。
まさかこの段階で超能力者と、それも同時に2人になんて対峙するとは想定していなかった。


一方通行と美琴は余裕の表情で次々と仲間達を昏倒させてゆく。
彼らに自分達を殺す気はないようだが勝ち目はないとみて間違いないだろう。


一体どうすべきか。
最も有効な手段を算出していた彼は、自分の後ろからザリ、と地面を踏みしめた音を捉えた。


―――――来た。
それは、標的たるクローンを一端見失った際最も広い範囲の捜索に走らせたモノだった。
アレならば『この』2人が相手なら勝ち目がある。







「標的の内1体を近隣の路地で発見しました。
 明確な命を受けていない為そのまま連行しましたが如何致しましょう、と一方通行はマスターに指示を求めます」









一方通行が、2人―――――?
美琴の小さな呟きだけが、星の見えない静寂の中響き渡った。





607 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:49:50.05 ID:Ja80mfo0









10 月10日 日本時間23:08。



「一方、通行 ――――――?」



ミサカ14510号とミサカ20000号の前に現れた一方通行は多少ばかり不機嫌そうな表情を浮かべながら心なしか拗ねた口調で



「他のこんな白髪に赤眼が一体何処に居るって言うンですかァ?研究の一環でオマエらの居る施設順々に回ってンだよ」

「そうでしたか。そのような情報は受けていなかったので少し驚愕しました、とミサカは弁明します」



あァ、構わねェよ?
そう語る一方通行が自身の右手を、返事を返した14510号の左肩に伸ばし―――――


バチバチバチ!!
伸ばされた一方通行の右手が14510号から発せられた電撃によって弾かれた。



「―――――何しやがンだ、テメエ?」

「あなたは何者ですか、とミサカは再度問います。今度こそ正確な解答を期待しています」



自分を睨み上げるような視線に、一方通行は何の感慨もなさそうにその顔から一切の表情を消し去った。
と言うよりも、何の感情も無い事が彼の基本形であるかのような既視感を覚えるその態度は。



608 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:53:41.64 ID:Ja80mfo0





「何故。オリジナルでは無いと解りましたか、と一方通行は疑問を提示します」


「身長が目測6.7センチ低い、髪が3.2ミリ長い、筋肉の付きが5.2パーセント足りない、ウエストが1.3センチ細い。
 ………他に相違点はまだ解るだけで132項目程ありますが全部羅列する必要がありますか、とミサカは指摘します」




14510号から事細か過ぎるほどに明確に指摘された答えに少年は怪訝そうに眉を顰めた。
答えを確認するかのように自身の髪や腕の筋肉などを眺めながら




「確かに設定年齢はオリジナルの最盛期であった15歳前後でありますがそこまで細かな指摘を受けるとは思いませんでした、
 と一方通行は自分が贋物である事を肯定します」


「ミサカに言わせれば年齢と共に漂いが増した色気とか何とかがまだまだ足りないのが一番の違いかね、
 とミサカはあの人の懐かしい姿に口角が上がるのを抑えきれません。
 ―――ところで、14510号から求められた明確な答えが未だ返って来ては居ませんが?
 大方検討は付きますがその吸いつきたくなる可愛らしいお口から言って欲しいものですね」




応えるべきか否か。
躊躇いを見せるかのように間を空けた白髪赤眼の少年は、しかし考える素ぶりや表情などを一切見せないまま口を開いた。



その言動を嘗ての自分達と重ねた14510号と20000号は確信する。
瞳に宿る感情の色が一点に集中せず常に視界に映るモノを追いかけている様な曖昧な焦点。
強制入力された知識から生まれる独特の口調。
それは。



609 :第十一話 『部屋と激突とミサカ』 :2011/01/04(火) 20:54:14.26 ID:Ja80mfo0










「一方通行型量産先端深化能力者02号とでも答えるのが妥当でしょうか、と一方通行は生産ロッドから検体標識を告げます」










一方通行、御坂美琴、妹達――――。
三者にとっての悪夢の様な計画が、今、明かされる。




610 :>>1 あるいはシャツの人 :2011/01/04(火) 20:56:53.92 ID:Ja80mfo0

本日はここまでです。
戦闘シーンが相変わらず上手く書けません。
美琴嬢は強いのですが初めて明確に触れた魔術に戸惑った、という感じが伝わったでしょうか。

次に更新するときは戦闘シーン増量しなくては話が進まないので読んで下さる皆様に出来るだけ状況が伝わるよう頑張って書きあげます。
ではまた次回を期待せずにお待ちください。



612 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 21:08:08.53 ID:IRaSZjEo
ワクワクしてきました。乙


613 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 21:18:27.85 ID:yvu.soYo
量産型一方が捕まって妹達の玩具にされてしまうのか…むねあつ


614 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 21:48:13.07 ID:mnFA6TEo
お姉さまさすがですわぁああん、ロッドてはなくロット(lot)であり
一般的な意味の「多量」から転じて生まれた技術英語ですわ、
と黒子は黒子は申してみますの!



617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/05(水) 03:44:25.80 ID:EH0zMdEo
一度”億尾”で検索してみることをお勧めする



619 :>>1 あるいはシャツの人 :2011/01/05(水) 21:40:43.93 ID:2I8yKVM0
>>614様 
×ロッド → ○ ロット(lot)の指摘ありがとうございます。
レポートで毎回使ってるくせに間違えました……解せぬ、と>>1は>>1は悔しがってみたり。

>>617様
×億尾 → ○? の誤変換もありますが根本的に使い方が間違ってました。
「?にも出さない」は物事を深く隠すこと、なので直すとしたら「~などまるで持たないかのように」などでいいのでしょうか?
文章力がまだまだ足りません。

次回は木曜深夜か金曜に投下予定。期待せずお待ちください。



620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/06(木) 00:36:11.79 ID:Mb/G1Dk0
俺たちに期待するななんて、セロリ派妹達から一方通行を引き離すようなもんだぜ!

待ってます





次→打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」【後編】



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禁書目録SS   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
3859. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 15:23 ▼このコメントに返信する
この人遡る遡る使いすぎじゃね?
語彙力というか表現力ないんだなぁ。
3860. 名前 : 名無しさん@ニュース2ちゃん◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 15:29 ▼このコメントに返信する
量産一通!
論理的には当然考えられたはずだが、
まるっきり思いつかなかったし二次創作でも初めて見たな。

米No.3859
まあ、言いたいことはわかるがそう言うな。
短い期間にタダで書いてくれてる文章だぜ。
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