打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」

2011-02-23 (水) 19:16  禁書目録SS   9コメント  
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部屋とYシャツとうさぎ [単行本(ソフトカバー)]

まとめ依頼より、まとめさせてもらいました。ありがとです!

1 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/27(土) 13:51:50.52 ID:cPRQijA0
≪家族の一番の見方でありたい≫保護者一方さんと
≪お父さんなあなたも好きだけどカッコイイあなたも大好き!≫な思春期打ち止めの
捏造未来ほのぼのストーリーにどうぞ御付き合いくださいませ。



3 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:53:58.92 ID:cPRQijA0

いつからだろう。あの人のYシャツを着なくなったのは。
小さい頃は毎日のようにワンピースの上から羽織っていた、
あのYシャツ。
箪笥の中に大事にしまってあるそれは、
高校生になってからは一度たりとも着なくなっていた。



ミサカが離れたわけではない。
あの人が離れていったでもない。
それなのにいつの間にか、あのYシャツには全く手を触れなくなっていた。


そうだ。久しぶりにあのYシャツを出してみよう。
暖かい日の下へ。
あの頃みたいに羽織ってみて、あの頃みたいに手を繋いで街へ出よう。
あの頃みたいに、
あの頃みたいに。


防虫剤の臭いが染み付いてしまったYシャツへと袖を通す。
外出は洗濯してからかな、と少し残念に思いながら一つずつボタンを留めてゆく。
上から学校指定のブレザーを着こんで鏡の前で一回転。


「うん、やっぱり……………




  ……………………なんで入ンねェんだよォォォォォ!!!
ってミサカはミサカはあの人の真似をしながら叫んでみたりィィィィ!!!!」





≪ 第一話  部屋とYシャツとミサカ ≫



4 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:54:26.06 ID:cPRQijA0

「ちくしょうぉ……なんでピチピチ高校生が着てるのにパツンパツンなんだよぅ……
 ってミサカはミサカは涙目になりながら愚痴ってみたりちくしょうぉ……」


箪笥の肥やしと化していたYシャツは、やっぱり箪笥の肥やしだった。
誰かこの幻想をぶち殺してくれ、ギブミー上条。


「……ハッ!!胸囲があるんだからそりゃパツンパツンなわけだよ!!
 ってミサカはミサカは僅かな可能性に縋りついてみたり!!!!!!」

「…………」ジィィーー ← 僅かな可能性

「…………」ペタペタ ← 僅かな胸囲

「…………」チラリチラリ ← Aカップ

「…………」モミモ… ← 揉むほどない

「    」



「  Orz 」



5 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:55:01.76 ID:cPRQijA0

あの人とは相も変わらず一緒に生活している。
黄泉川とは流石に彼女が結婚した際にあの家を出たから離れたし、
芳川はそれより前に新たな職に就くと共に出ていったから
今はあの人と二人きりなわけだが。


あの人はミサカを妹か娘のように見ている節がある
(結婚どころか彼女すら出来たことの無い雰囲気なのだがそれでいいのだろうか)。


そりゃぁ学園都市からの支援金があるとはいえ
好きなモノを買えたり友達と出かけたりと周りの同級生に比べ手持ちに余裕があるのは
あの人がくれるお小遣いのお蔭なので文句は言えない。


無能力者や低能力者へ向けた薬物投与や無理な実験に頼らない能力開発を
研究するあの人は、その傍らカエル先生の下で助手やら勉強やらと何やら忙しい。


ミサカたち量産型能力者の不安定な肉体をより安定化させるために、
あの人は汗水垂らして頑張ってくれているのだ。


本職の研究者としても優秀らしく、
学園都市の名のある学会などによく呼ばれては
スーツを着てネクタイを締めて出席している。


昔からは想像もできないが、
学園都市第一位の頭脳を持ってしては当然なのかもしれない。



6 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:55:36.60 ID:cPRQijA0

話を戻そう。
今ミサカが通う高校では学校指定のブレザーの下に
恋人のYシャツを着込むのが流行っている。


「恋人同士、離れていてもいつも一緒にいるからね」という意味らしい。
その話を聞いた時、どうしてもあの人のYシャツをまた着たくなった。


この気持ちが、周りが言うような『恋』と同じかなんて知らないけれど。
あの人が、今もこれからもそういう目では絶対見てくれないことは知っているけれど。


それでも、あのYシャツが着たかったのだ。
それなのに。


それなのに。





「何で入らないんだよコンチクショォォォォってミサカはミサカはァァァァァ!!!!!」



7 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:56:04.43 ID:cPRQijA0

>コンコン
「おい打ち止め、さっきから煩ェぞ!コッチは朝帰りだってのに!!!」


ハッ、
我に還る。


「ご、ごめんね煩くしちゃって!ってミサカはミサカは

「さっきからギャーギャーどうしたァ?………入るぞ?」

「え、ちょ、待って………!!!」


>ガチャ

「   」← ザ・パツン パツン
「   」← 茫然

「   」
「………」

「   」
「………どォした?ンな古ィYシャツなんか出して。
 それ俺がオマエくらいン頃に着てたヤツだろ?入るワケねェじゃねぇか」




………… そ う だ っ た !!!!!!

可笑しいと思ったのだ。
出会ってから何年立っている。


能力に頼らなくなったあの人は自力で物事をこなす内に
自然と薄らとした筋肉がついてきたし、
男子特有の成長期を迎えて更に背が伸びたりした。


同じ年ごろの男女では体つきに違いがある。
女子は全体のフォルムが丸みを帯びてくるわけで。
同じ年でガリガリだったあの人のYシャツなどハナから着れやしなかったのだ。



8 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:56:34.10 ID:cPRQijA0

「ね、ねぇねぇ!あなたの今のYシャツ1着貸して欲しいかな~
 ってミサカはミサカはお願いしてみたり~」

「あァ?別に構わねェが、何でまた?」

「ホ、ホラ!大覇星祭が近いでしょ?体育祭の練習で汗いっぱい掻いちゃうから
 予備にと思って、ってミサカはミサカは~」

「買ってあるだろォが、予備。足りねェならまた買ってやるが

「明日すぐ必要なの!使うの!要るの!着なきゃいけないの!だからつべこべ言わず貸せ、ってミサカはミサカは胸倉掴みかかってみたりィィィ!!!」




よかった。何とか誤魔化せた。
興奮冷めやらず未だゲホゲホ言っている彼にこのモヤシがと毒づきながら
部屋のカギを閉めYシャツ(NEW!)を羽織る。



………………。

・学会用
・オーダーメイド
・このモヤシが
・背が伸びた

「…………」チラ ←袖は余っているのに丈が足りない

・背が伸びた(※手足に限る。座高は低い)

「…………」

「チクショォォォォォォォォ!!!!!!!」





9 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:57:07.33 ID:cPRQijA0

「というわけなの、ってミサカはミサカは電話越しの黄泉川に相談してみたり」

「相変わらず状況説明に便利な口調じゃんね、って愛穂も愛穂も便乗してみたり」


ふざけんなよ黄泉川コンチクショウが。
………最近あの人に似てきた気がする。


「私も旦那のYシャツなんて入らないし、気にすることないじゃんよ?」

「黄泉川の場合入らないのはその巨乳でしょ、ってミサカはミサカは~……うぅ~~」


入らないのがせめて胸なら。
せめて胸なら諦めがついたのに。


オリジナルか。オリジナルが悪いのか。
お姉様は態度(ツンデレ)もお胸も相変わらずである。


「あ、でも……」


もういいよ、黄泉川。
その胸に何を言われようが虚しいだけさ。


この幻想は誰にもぶち殺せないんだよ、
ってミサカはミサカはもう何もかも諦めてみたり……ハハ……ハハh



「ウチの旦那、急いでるのに自分のYシャツ見つからない時なんかは、私の着ていくじゃん」




そ の 発 想 は な か っ た !!!!!!



10 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:57:46.76 ID:cPRQijA0

イける……!!!!それならイける……!!!
確かにミサカのYシャツなんてあの人は素直に着てくれないだろう。

だがしかし、長年一緒に生活していないのだ。
ミサカはあの人の攻略法を網羅している!




「ね、ねぇねぇ!さっきのYシャツ借りてみて思ったんだけどねぇ~~」

「あァ?」

「あなたYシャツ着てる時、ちょっとパツンパツンなんじゃないかなって
 ミサカはミサカは思うんだけど~~~………だってあなた………」



「 昔 よ り 少 し 逞 し く な っ た じ ゃ な い ? 」



「そ、そゥか!!!道理で最近何かキチィ気がしてたんだよ(嬉)!!!」


大丈夫だ、それは気の所為だ。

まぁ兎にも角にも 計 画 通 り。
あの人はコンプレックス(モヤシ、アスパラガス等々)をカバーしてやるよう
煽てれば大抵調子に乗るのだ。

あとはここで上手く誘導して……


「袖先とかはともかくさ~~丈とかもうちょっと長くした方が良いんじゃないかな、
 ってミサカはミサカは筋骨隆々なあなたを思い出して意見してみたり~~~」

「ま、まァ確かにそうかもな!細マッチョだもんなァ俺(照)!!!」

「大きめのヤツをさ、マッチョは汗掻くし予備とかも沢山つくっておいた方がいいよ~~
 ってミサカはミサカは洗脳を施してみたり~~~」

「イエス、マイロード(喜)!!!」




11 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 13:58:18.52 ID:cPRQijA0

嬉々として出かけたあの人は、
ミサカの指示でオーダーメイドではなく(オーダーメイドだと唯のモヤシ向けだ)
普通の量販店にYシャツを買いに出かけた。


絶対ェデケェよそれ……と思うがまぁ上手くいったものだ。




深夜3時。
やっと寝付いてくれたあの人の部屋に忍び込む。
昨日まで3日連続完徹だったために今はグッスリ眠っている。

大人買いされた我が家では誰の身の丈にも合わないYシャツを1枚くすねて
またこっそり部屋を出る。

あぁ、あの人のYシャツだ。
あの人が着たあの人の匂いが染み込んだあの人のYシャツだ。

ミサカはミサカはミサカはミサカはミサカはミサカは……………





12 :第一話 『部屋とYシャツとミサカ』 :2010/11/27(土) 14:01:20.40 ID:cPRQijA0

早朝6時。
今日の制服はいつもと一味違う。
学校指定のブレザーの下には、例のブカブカYシャツ。
ムフ、ムフフフフフ…………


自分のお弁当を用意しながらあの人にコーヒーを入れる。
今日は何処か公の場に出るらしく、あのYシャツ(のうちの1枚)を着るらしい。


>ガチャ 「ふあァあ……」


欠伸をかまして目を擦りながらリビングへと出てきたあの人は、
しかし、


ブ カ ブ カ Y シ ャ ツ を 着 て い な か っ た。


「Yシャツはぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!?????」


ビクリ、と肩を震わせたあの人は突然の奇声にはっきりと目が覚めたらしい。
状況についていけないながらもコチラへと機嫌でも窺うかのように目を向けた彼は、


「あ、あァ。一度着てみたらやっぱデカかったし、
コーヒー零して捨てちまった着てたの以外は今度三下にでもやることにしたンだよ」



「…………」チラッ ← 自分のYシャツ
「…………」

「…………」チラッ ← 自分のYシャツ(新品)
「…………」

「…………」チラッ ← 自分のYシャツ(×あの人の匂い ○新品特有のアノ匂い)
「…………」



「あ ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``!!!!!!!!!」
「   」ビクゥ!!



この世とは、真に不条理なものである。
                                       『部屋とYシャツとミサカ』(完)



13 :【小ネタ】 部屋と第一話と一方通行 :2010/11/27(土) 14:05:29.99 ID:cPRQijA0

いつもなら8時過ぎまで寝ている一方通行だが、
今朝に限っては能力開発の指導先の関係上普段より2時間も前の起床を求められていた。

寝ぼけ眼を擦りあげながら正装に着がえてリビングへと足を運べば
先に行くと昨夜話しておいたのに、同居人の少女は健気にも自分に併せて起床し
更には朝食の準備に取り掛かっているところだった。


「ミサカとミサカとYシャツを……ムフ、ムフフフフフフ」

―――――― 何ブツクサ言ってンですかァ?あのクソガキ。

「包容力に包まれたミサカ…………うへへへへへへ」


―――――― 何処で育て方を間違えたのだろう。
恐る恐るリビングへと顔を出せば、カッと瞳孔を見開いた眼でこちらを見上げ
「Yシャツはぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!?????」と叫び出した。
………………やはり俺のような人間に真っ当な子育てなど出来る筈なかったのか。


結局、その日の朝食は散々なものだった。
突然立ち上がって「あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ ``!!!!!!!!!」
という奇声を発したかと思えば、
座り込んでまた「ミサカはミサカはミサミサミサミサ…………」とブツブツ言いだす。

複雑な年頃なのかもしれない。俺にも少し覚えがある。
なるべく触れないようにしながら「………、先に行くな」と玄関へ向かえば恨めしそうな眼で
「行ってらっしゃいとYシャツはYシャツは送りだしてみる」とワケの判らん返答を寄越してきた。
――――――――― 複雑な年頃なのだろう。そう思いたい。


午前の仕事を終えた一方通行は
午後からの超電磁砲との研究に関する意見交換のため一度帰宅し昼食をとることにした。
鞄から家のカギを取り出し、自宅の扉を開ける。

本来ならそこで品の良いインテリアに囲まれた玄関が彼を迎える筈なのだが、
今日はそこに謎の物体がポツリと一つ加わっていた。
可愛らしいカエルのアップリケがついた打ち止めの弁当袋だ。
今朝は様子がおかしかったし、ボーッとして忘れていったのかもしれない。


「いつまでも手のかかるガキだなァ、オマエは」


小さく笑みを浮かべると一方通行は開けた扉をまた引き返した。
右手に似合わぬ手提げを掲げ、少女が歩く通学路を今日だけは彼も闊歩してゆく。

                                             
                                            『部屋と第一話と一方通行』(完)



27 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:10:19.98 ID:cPRQijA0

「でさぁ、今着てるYシャツが彼のってワケ」

「マジ~?いいなぁ……」

「ああ、あの3年の彼氏さん?カッコイイよねぇ~」


ミサカだって着て来る筈だったのだ。
あの人のYシャツを。
少し大きさが合わないで身の丈に余るそれは、優しい包容力で持ってミサカを包んでくれる筈だったのに。


身の丈に余るどころか、身の丈に足りなかった。局部的な意味で。
現実とは、残酷だ。


「……… はぁ~………」

「どした、御坂?なんか今日元気ないじゃん?」

「ううん。何でもないの気にしないで、ってミサカはミサカは……はぁ~」


何でもなくないじゃ~ん!と心配そうに揺さぶるクラスメイトには悪いが、
今朝の出来事を思い出すと溜息しか出てこない。


結局今日は普段通り自分のYシャツを着て登校した。
いくらブカブカだったところであんな新品を着たって何の意味もない。


「ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……」

「お、何だその言い様!御坂、彼氏いんの!?」

「え、マジ!?どんな人どんな人!!」

「年下~?年上~?ま、まさかこのクラスに………!!!」

「み、御坂は私のモンだからな!!彼氏なんて認めないぞ!!」


思わず漏らした一言にクラスメイトが食いついてくる(一人変なの混じってたが)。
しまった。
ミサカは彼氏って思われても一向に構わないケド……
って、ミサカはミサカは何考えてんのもうキャーーーーーー!!!!!!


≪ 第二話  部屋と彼シャツ計画とミサカ≫



28 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:11:30.27 ID:cPRQijA0

「お~い、御坂~~~?」

「へんじがない ただのしかばねのようだ」

「また御坂のヤツがトリップしちゃったよ、アイツ妄想長いからなぁ……」


大覇星祭を一緒に回って、ミサカの応援にも来てもらって、
一緒にお弁当食べてそれからそれから…………
……… アレ?これ彼氏っていうか父娘じゃね?


「起きろ御坂~~~、弁当食う時間無くなるぞ~~~」

「ハッ!ってミサカはミサカは何か違う想像から脱出してみたり!!!」

「今日の妄想は3分28秒と」

「御坂にしては短い方だったね」

「も、もう!!いいからお弁当食べよう!お昼休み終わっちゃうよ、ってミサカはミサカ
はここで話を中断!!」

いつもと同じく酷い言われようだ。
いいじゃないか妄想の一つや二つ。
こちとらもっと強力な妄想を放つDNA単位でそっくりどころかまるきし同じなお姉様が
いらっしゃるんだよ!!
って………アレ?


「どした御坂?また妄想か?」

「お弁当………ない………」



29 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:12:25.02 ID:cPRQijA0

時刻は12時17分。
お喋りに夢中になっていたせいでお昼休みの1/5近くが終わってしまっている。
今から行っても購買は売り切れ状態だろうし、
学食は確か改装工事だとかで一週間くらい休みじゃなかっただろうか。


「ふ、不幸だ…………」


ミサカはどこかのヒーローさんか。
今朝のYシャツ問題に気をとられ過ぎた所為で玄関かリビングにでも忘れてしまったのだろう。


「うぅ………」


なんだか惨めな気分になってきた。
あの人のYシャツは結局着れず。お弁当も忘れ。
ミサカには、何にもないじゃないか。



30 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:14:10.70 ID:cPRQijA0

「泣くな御坂、弁当くらい分けてやるから~~~」

そういえば今日帰って来たテストも赤点だった。
あの人にテスト中のミサカネットワーク使用を禁止された所為だ。
どこからかテストの日程表を入手したあの人は、
何の契約を交わしたのか知らないがネットワークを使えば番外個体から連絡が入るように仕向けていた。


「駄目だ話聴いてねぇし………つか、何か廊下騒がしくない?」


ネガティブな思考もあの人に似てきた賜物なのか。
ペットは飼い主に似るとか言うけどミサカはあの人にとってペット的なものなのだろうか。


「ホントだ。ちょっと見て来る」ガタッ
「あ。あたしも」


妹や娘的な立場とペット的な立場なら一般的に見てどちらが幸せなのだろう。
どちらにしたってあの人は不器用な優しさを持ってミサカを大事にしてくれるだろう。


「ちょ、大変大変!!なんか見たことないイケメンが廊下歩いてる!!」
「マジで!?」ガタッ
「年上~?年下~?」
「年上年上!!大学生くらい!!」


だがそれはミサカが求める優しさとはベクトルが少し違う気がする。一方通行のクセに。
『あらゆるベクトルを操作する能力』なら感情のベクトルも操作しろってんだ。


「今確認してきた。マジイケメン」
「どーゆー系~~?爽やか系?カワイイ系?」
「んんと、どっちか言うとヴィジュアル系?白髪赤眼の
「二次元から私を迎えに来てくれたのね、判ります!!!」ガタッ


イケメンかぁ……
ネガティブモードに移行していても都合のいい耳は都合のいい単語だけはバッチリ拾ってくるようだ。
だがミサカにとってイケメンとはあの人だけを指すものである。
例えソイツがヴィジュアル系の白髪赤眼なんてミサカのタイプを真っ向から攻めてきたって………
ん?白髪赤眼?


「おい、御坂っつーガキがいンのはこのクラスか?」ガラッ



31 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:16:23.81 ID:cPRQijA0

「な、なななななななんであなたがここに、ってミサカはミサカはミサカはミサカは……」

「なんで、って出張講師の仕事終わって帰ってきたらオマエが弁当置きっぱなしだったからワザワザ届に来てやったンだろォが」

「あぁ今日の仕事は能力開発指導だったのね、ってミサカはミサカはえぇ~~~!!!!」


どうしよう。物凄く嬉しい。
きっとあの人は講師を終えた後も他の仕事が山ほど詰まっていて。
しかしそれでもミサカのためにわざわざ学校まで来てくれたわけで。


心中ではさっきまであの人の悪口ばかり言っていたのに、
身勝手な心は心機一転晴れ渡ってゆく。


「ホントに!!ホントにありがとう、ってミサカはミサカはあなたに抱きついちゃうキャーーーーーー」ダイブッ

「馬鹿野郎!!こちとら杖ついて……ってウオ!!!!」


急いでチョーカーのスイッチを切り替えてミサカを支えてくれたあの人は
「もう忘れんなよ、いつも届けてやれるワケじゃねェんだから」
と頭を掻き回して(撫で回しのツンデレ版だ)去っていった。
ハァ……やっぱりミサカにはあの人しかいない……って


「…………………」ジトー ←クラスメイトズ
「       」

「『ミサカはミサカはあなたに抱きついちゃう!!!』」ポソッ
「!!」ビクッ

「『ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……』」
「!!!!」ビクビクッ

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!アレが彼氏かぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「ヴィジュアル系のお兄ちゃん系かぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
「ふざけんなよコンチクショォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!」
「御坂は私のモンだぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!」


え、ちょ、何このテンション。
止めて来ないで追い詰めないでってミサカはミサカは………


「「「話、詳しく聞かせてもらうからね」」」ニタァ~~


……………不幸だ(本日2回目)。



32 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:16:55.44 ID:cPRQijA0

「え、じゃつまり一緒に暮らしてるワケ?マジで!?」

「体弱いから家族の人と暮らしてるっつてたのに……まさか彼氏とはねぇ……」

「同居………もうヤることヤった?」


なんやかんやでクラスメイト3人(不穏な発言をするヤツは縛り付けて置いてきた)
を我が家へ招待することとなり、帰り道を賑やかに歩いてゆくミサカ一行。


どうやらあの人はミサカの彼氏として認識されているらしい。
ミサカとしては嬉しいが、あの人がこの光景を見たらどう思うのだろう。


「彼氏さん何やってる人?見た目は派手でも服装的にバンドとかじゃなさ気だったし」

「け、研究職!!能力開発に携わっててよく学会とかに出かけてるよ、
ってミサカはミサカは厳しい追及に焦りながらもついつい自慢しちゃってみたり!!!」

「学会っつーことは結構高収入てコトだよね?」

「クールで落ち着きあって高給取り………完璧じゃないか」


あの人も『クール』だとか『落ち着きがある』だとか表現されるようになったのね、
嬉しいわ……ってミサカはミサカはあの人のお母さん!?


でもやっぱり自分の友達からあの人を良く言われるのは……
………嬉しいな。


「着いたよ、ここがミサカ達の愛の巣さ!!ってミサカはミサカは調子に乗ってみる!!」



33 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:17:30.85 ID:cPRQijA0

玄関を開けると、そこには見慣れない靴が何足も並んでいた。
普段は2人分(しかも1人1足)しか置かれていない分、4足というのは余計多い気がする。


「ただいま~~~ってミサカはミサカは疑問を前面に押し出して帰宅を宣言する~~~」

「「「おじゃましま~~~す」」」


3人を引き連れてリビングへと向かうと妹達とあの人のヒーロー、上条当麻が何故だか人の家で美味しそうにコーヒーを堪能していた。


「お。おかえり打ち止め」

「ただいま。そしていらっしゃい、ってミサカはミサカは挨拶をきちんと返すよ!
 ところで今日はどうしたの?他にもお客さんが来てるみたいだけど……」

「ああ、俺は今日大学午後から休みだったから一方通行からYシャツ貰いに来たんだよ。
 なんかサイズ違いのヤツ大量購入しちまったんだって?」


ナルホド。
今朝あの人がそんなことを言っていた気がする。
しかし1足はあの人、もう1足はヒーローさんとして残り2足は一体……?


「御坂と御坂妹も来てるんだ。なんだか生体電流について書斎で議論してるみたいで。
 難しすぎて上条さんには全く判らないのですがねぇ……」


不思議そうにしてたのが顔に出てたぞ。
と付けくわえながらヒーローさんは懇切丁寧に教えてくれた。
下位個体も呼んだということは妹達の『調整』についての話なのだろう。


色々と複雑な経緯を経たが、
お姉様とあの人が普通に話をするような関係になったのはとてもいいことだと思う。


「じゃあミサカ達はミサカの部屋に行こうか、ってミサカはミサカは提案してみる」



34 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:18:37.66 ID:cPRQijA0
「今ミサカのお姉様達も来てるんだ~、ってミサカはミサカは解説を加えるね」

「ほほう、つまりお姉様公認の仲というワケですなキミ達は」

「ち、違うよ!!いや合ってるけれどその解釈は違うよ!!ってミサカはミサカは……

「『合ってるけれど』?」

「合ってるんだ?」

「/////」プシュウゥゥゥゥゥ・・・・・・


確かにお姉様はミサカ達が一緒に暮らしている経緯も
あの人が妹達を護ってくれている経緯も認めてくれたし理解してくれたけど!!!
あの人の行いを許したわけじゃないしそもそも認めたってそうゆう認めたじゃないし!!


「お、お姉様はあの人と研究のことでお話に来てるだけだもん……
ってミサカはミサカは……うう~~~~~」

「ハイハイ、からかってゴメンね御坂。」

「だってさぁ。話聞いてるとラブラブなのに彼シャツ着れないとかどうしてかな~って
気になっちゃって」


…………彼シャツ?


「言ってたじゃん、昼休み。『ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……』って」

「い、いや……それは……」


言わない言えない言えやしない。
あの人がスタイル良すぎてミサカじゃ入んなかったなんて!!!


「あ、あの……それはね、ってミサカは……ミサカは……」


ジリジリと歩み寄ってくる女子A~C。
アレ?これデジャブじゃね?昼休みと同じじゃね?
つまり辿りつく結末は………


「「「話、詳しく聞かせてもらうからね」」」ニタァ~~


……………不幸だ(本日3回目、本家リビングにてグータラ中)。



35 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:20:28.14 ID:cPRQijA0

「なるほど。彼シャツが細身すぎて入んなかった、と」

「彼氏さんスタイル良さ気だったもんね~~」

「なんかダイエットでもしてんのアレ?食べても太らないとか女の敵?」


言わないであげて。あの人気にしてるから。
頑張ってお肉食べてるのに無駄な努力だねとか言わないであげて。


「あ、ならさ!!逆に御坂のYシャツ着せるとかどうよ!!」

「考えてはみたけど……あの人がそうそう着てくれるワケないし……」

「そこを何とか丸めこんでさ~~」

「無理だよぅ……ってミサカはミサカは……」


何といえというのだ。
「あなたはモヤシだからミサカのでも着ていればいいのよ!」?
「べ、別にミサカのYシャツ着て欲しいワケじゃないんだからねっ!」?
………どこの超電磁砲だ。因みに本家は書斎である。


ハァ………所詮ミサカには彼シャツなんて無理な話だったのだ。
明日からも大人しく彼の買ってくれた自分用のブランドYシャツでも着ていよう。


「御坂」


なに?名もないクラスメイトA。
真剣な顔したところでケーキは出さないぞ。


「諦めたら、そこで試合終了だよ?」




……………………Aェェェェェェェェェエエエエエエ!!!!!!!!!!


「が、頑張る!頑張るよAちゃん!!ってミサカはミサカはここに宣言!!!!!」

「Aちゃんて誰だコラ」



36 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:21:01.93 ID:cPRQijA0

次の日の朝。
今日もあの人は正装するらしい。


何といって声をかけようか。
ツンデレは駄目だ。あの人はあれでいて素直だから、そのままの意味で受け取るだろう。
うぅ~~~~


「おい、寝ぼけてンじゃねェだろうなクソガキ。遅刻すンぞ」

「あ、ウン!ってミサカはミサカは朝食にがっついてみたり!!」

「喉詰まらせンなよ、面倒臭ェから」


どうしようどうしようどうしよう。
今はまだパジャマだけど朝ご飯を食べ終えたらあの人は確実に着がえ始める。
その前になんとかミサカのYシャツを勧めないと……
どうしようどうしようどうしようどうしよう


「あ、そォだクソガキ」


どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう


「今日1日オマエのYシャツ貸せよ」


どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうし………


…………………え?


「………え?今なんて……?、ってミサカはミサカは確認を取ってみたり……」

「だからァ、1日オマエのYシャツ貸せっつったんだろォがクソガキが。」


………これは、夢?



37 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:21:33.62 ID:cPRQijA0

「昨日行った先の学校でバカ生徒にYシャツ汚されちまってよォ。
予備もクリーニングだし―――――――― オマエのなら多分ギリギリ着れンだろ」


夢、じゃない。


「で、でも……ミサカのだと袖短いし丈も長いよ……?、ってミサカはミサカは……」

「袖なら上着で隠れるし、丈は仕舞いこンじまえばなンとかなるだろ。
 つーか、今日Yシャツねェ方が困ンだから文句なンて言ってられねェしよォ」


ミサカはあなたのシャツを着れないけれど。
いつでも一緒になんて、到底無理な話だけれど。


あなたは、ミサカのシャツと一緒に、ミサカといてくれるのね。


「ちゃ、ちゃんと大事に着てね、ってミサカはミサカはお願いするからね」

「あァ」

「ミサカだと思って、丁寧に扱ってくれなきゃ嫌だよ、ってミサカはミサカは……」

「大事にする」


ああ、どうしよう。
泣きそうだ。

「俺ァそろそろ着がえて行くから、戸締りちゃんとしとけよォ」

「う、うん任せて!ってミサカはミサカは胸を張ってみたり!!」


昨日の不幸は今日の幸福のためにあるものなのね、
ヒーローさんに教えてあげよう。
暇そうな穀潰しシスターと一緒に、惚気でも聴いてもらいながら。



38 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:22:34.70 ID:cPRQijA0

出勤や通学ラッシュで混雑する駅前を、杖をついて器用に闊歩する一方通行は
携帯を開いて通話を始めた。


キチンとどちらかに報告を入れるように、小さな同居人の同じ顔をした『お姉様』から
念を押されている。


ピリリリ………と数回コール音を響かせてから、回線の向こう側の相手は電話をとった。
今日は2限からとか言っていたから、まだ寝ていたのかもしれない。
そんなことを気にする一方通行ではないのだけれど。


「オイ一発で出やがれ、三下ァ」

「こっちはまだ寝てたんだぞ?無茶言わないで下さいよ」


やはり寝ていたらしい。


「で、どうだった?ちゃんと借りれたのか?」

「あァ、まァな。適当言って借りてきた。今着てる」

「おうおう、素直に言えたんだなエライエライ。……嬉しそうにしてたか、打ち止め」

「嬉しそうっつーよりもどっか飛ンでたな、意識が。ボーッとしてた」

「それは何より。な、やっぱ上条さんの言った通りだったろ?」

「……… ゴチャゴチャ煩ェんだ、テメェはよォ――― 切るぞ」


「オイちょっと待てよ!!」だとか「少しは感謝しろっつーの!」だとか聞こえてきたが、
まあ気にしない。
ウザイだけだ。


しかし打ち止めのあんな顔は久々に見たような気がする。
弁当を渡しに行った時も少しは見れはしたが、最近はコチラを見ては思い悩んでいるような顔ばかりしていた。
本当に久しぶりだった。
あんな、花が飛んだような笑顔は。


確かに少しは感謝すべきなのかもしれない。
全ては、上条当麻の計画通りだったのだから。



39 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:23:58.73 ID:cPRQijA0

「折角友達来てるんだしさ、お茶の一つでも持って行ってやったらどうだ?」

超電磁砲や妹達との議論も一段落し何か飲むかとリビングに顔を出せば、
要件を終えた筈の件のヒーロー様は何故かのんびりとコーヒーを堪能していた。

「テメェ……帰ったんじゃなかったのかよ」

「上条さんチはお金がないのでクーラーつけられないんですよ、
大覇星祭間近のこのクソ暑い時期にだぜ?もう少しのんびりさせてくれよぉ……」


今にも人ン家で寝こけそうな三下ヒーローは、
どうやら打ち止めが連れて来たらしい客人とやらを持て成せと言っているらしい。
テメェがやれ。


しかし打ち止めが級友を連れてくるというのは本当に珍しいことだ。
三下曰く「家に友達連れて行くとそこん家のお母さんが茶やらなんやら出してくれるもん」
らしいので、あのガキ気に入りの紅茶とクッキーを出して部屋へと向かう。


一応は女(つってもまだ高校生のクソガキだが)の集まりであるわけだし、
ノックくらいはしておくべきだろう。
それくらいの料簡はある。


「おいクソガキ、入るz



『なるほど。彼シャツが細身すぎて入んなかった、と』

『あ、ならさ!!逆に御坂のYシャツ着せるとかどうよ!!』

『考えてはみたけど……あの人がそうそう着てくれるワケないし……』

『そこを何とか丸めこんでさ~~』

『無理だよぅ……ってミサカはミサカは……』


彼シャツ。
扉越しに話を聞くに、どうやら男のYシャツを女が身につけることらしい。
この前からYシャツYシャツ騒いでいたのはこういうことか、と納得する。


そうか、クソガキは。
俺を『俺のY シャツ』を着たいのか。
俺を、『彼氏』と呼びたいのか。



40 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:26:16.39 ID:cPRQijA0
「彼シャツ、あの子の学校で流行ってるみたいね」

「………超電磁砲、聴いてたのか」

「アンタとアイツが騒いでた頃からずぅっと。あの子たち声大きいから全部丸判り」

「つまり一方通行は上位個体すらそのYシャツが着れないくらいモヤシというわけですね、
 とミサカは一方通行をからかいます。プギャー」


………妹達はなにやら違う方向に個性が傾いている気がする。
それとも相手が俺だからだろうか。


「……で、どうすんのよ?着てあげるの?あの子のYシャツ」

「………」

「そもそもアンタはあの子のこと、どう思ってんのよ」

「因みにミサカは上位個体に恋愛感情を抱いていることを肯定した時点で学園都市第一位
はロリコンであると宣言するつもりで

アンタは黙ってなさい!!と超電磁砲が妹達にチョップをかましている。
関係。
アイツと俺の関係。
傍から見たら、俺達の関係とは一体どう見えるのだろう。


保護者と被保護者?
兄と妹?
加害者と被害者?


「…………判んねェ」


だが、恐らく。


「………アイツが望んでいるような感情じゃ、ねェと、思う」

「…………そう」


恐らく、俺がアイツにそんな感情を抱くことは一生ないだろう。
アイツは確かに俺が護るべき大事なモンで。
今もこれからもアイツのためにできることは何でもしてやることが変わらなくても。
アイツが本当に欲しいモンは、結局、何も与えてやれない。

「アイツと一緒にいる資格なんて、ねェのかもな」



41 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:26:44.89 ID:cPRQijA0

嘘をつくのは簡単だ。
好きだ、愛してる。嘘である方が逆に出て来る甘い言葉。
だが初めて会ったときから俺の核心を突いてくるアイツは、
すぐに気付いて、傷付けてしまう。きっと。


「アイツと一緒にいる資格なんて、ねェのかもな。……泣かせるか傷つけるだけだ」


やっと理解できた。
思い悩んだ表情でこちらを見上げるそのワケを。
何かを求めるような、耐えるような眼をするそのワケを。


気付いたところで、何もやれない。
俺はアイツが望む感情を、持ち合わせちゃいない。
だから、俺は


「ふざけんなよ」


俺は、アイツと


「お前は打ち止めが大事なんだろ。例えそれが打ち止めの望むような感情じゃなくたって、
打ち止めのことを大切に思ってるんだろ

資格?泣かせる?ふざけんじゃねぇ!!
あの子の傍を離れようとするそのことが、何よりあの子を傷つけるんだろうが!!!

いいぜ、お前がそんな風に勘違いし続けるってんなら、

まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!!!」



42 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:27:50.04 ID:cPRQijA0
ドガシャァァアァァ!!!!!


怒り心頭といった表情で殴りつけて来るヒーローの顔は、
あの実験を体一つで止めに来た夜を彷彿とさせた。


チョーカーのスイッチを切り替えて能力使用モードにすることもできたが、
それは敢えてしなかった。
背中に突き刺さるフローリングの痛々しさが逆に心地良い。


「………結局。なンも進歩してなかったって事かよ、俺ァ」

「関係やら理由やら、難しい事はゆっくり考えていけばいいじゃねえか。
 お前も打ち止めも時間はたっぷりあるんだから。その為に、お前は頑張ってるんだから。」





「………そォだな」

焦る必要はない。
アイツの『限界』は、俺がつくるのだから。



43 :第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』 :2010/11/27(土) 20:30:10.22 ID:cPRQijA0

上条との通話を終えて電車へと乗り込んだ一方通行は隣の車両の窮屈加減を尻目に
指定席へと腰を据えた。


駅前の雑踏に思ったより体力は奪われていたらしい。
また妹達にモヤシやらホワイトアスパラガスやら言われそうだ。


ブルブルブル……ブルブルブル……
車両内だからとマナーモードにしていた携帯電話が着信を告げる。


三下からの電話だったら、「電車乗ってたから」と無視してやろう。
事実だし。


しかし念のために確認してみるとそれは電話では無くメールで、
送信先は『超電磁砲』となっていた。
大方三下から連絡を受けて送りつけてきたのだろう。素直じゃ無いくせにお節介な女だ。


『打ち止めのY シャツ着てあげたんだって?アイツの言った通り、あの子喜んでたでしょ?』


「やっぱ、お節介じゃねェか」


続きはまだ書かれていたが、どうせからかうような戯言ばかりが書き連ねてあるのだろう。
勝手にそう解釈してメールボックスを閉じた一方通行は、そこで大きく一度伸びをした。


携帯電話の待ち受け画面には、
彼と少女が色々な意味で幼かった頃に大切な家族達と撮った写真が収められている。


ぶっきら棒にカメラから視線を反らす自分。
豪快に笑う黄泉川。
素直になれない自分を小さく笑いながら嗜めている芳川。

そして、
満面の笑みの打ち止め。


「ま、今日も一日頑張ってやりますかァ」


長い長い人生の中で、
彼らがこれから歩む道なりは、地平線を越えた見えない彼方まで続いている。

                                              『部屋と彼シャツ計画とミサカ(完)』



44 :【小ネタ】 部屋と第二話と上条当麻 :2010/11/27(土) 20:32:26.99 ID:cPRQijA0

『……… ゴチャゴチャ煩ェんだ、テメェはよォ――― 切るぞ』

「オイちょっと待てよ!!」


早朝からの連絡に眠りを妨げられた挙句一方的に通話を切られた上条当麻は
お約束の不幸だなんだを言うどころか呆れかえって物が言えなくなっていた。

「少しは感謝しろっつーの!―――――― 手間のかかるヤツ」

横暴な友人の(やっとこの表現を許してくれるようになった。未だ『三下』扱いだが)
態度は相変わらずだが、数年前に比べれば随分と成長を見せたような気がする。

「とうま、」

口では大口叩くクセして昔はもっと下らないことでチマチマ悩んでいたものだ、アイツは。
まあ彼と少女のバックグラウンドを考えれば仕方のないことかもしれないが。

「これで暫く落ち着いてくれればいいんだけどなぁ」

「とうま!」

自分は一体あと何回彼の幻想をぶち殺すことになるのやら。


「とうまぁあぁあぁあああ!!!!!!!!!」

「うおぉおお!!!」ビクゥッ!!!

さっきからずっと呼んでるのに何で無視するのお腹すいたんだよご飯はまだなの
ねぇとうまねぇとうまねぇとうま!!!!

「だぁあもう!!わかった、わかった、わかりました!!今すぐ作りますから!!」

同居人のこのシスターも、少しは成長というものを見せてはくれないのだろうか。
いやスグに噛み付かなくなっただけ成長したというものか?

「とりあえずパンでも焼きますかね」

トースターへと突っ込んだら空いた時間で御坂に連絡しよう。
面倒臭いあの二人へと、これからどう茶々を入れてくか相談しなくては。

「ケーターデンワーいじってないで、早くぅううーーー!!!」

俺の生活も大概面倒臭いのだが俺の場合はこれでいいのだ。
この日常に、俺は満足しているのだから。


                                      
                          『部屋と第二話と上条当麻』(完)



22 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 15:23:08.66 ID:44uNjAAO
素晴らしい。


45 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 20:43:45.46 ID:spthb/Ao
いやぁ甘酸っぱいなぁ

インテリオルさん成長してる!すげえ!



48 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 21:34:56.93 ID:M6B7erwo
そういえばインデックスさんも寝るときは上条さんのシャツ着てたな


49 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 21:52:10.65 ID:loKDNMDO
上条さんはもうインデックスといたしちゃってんのかな



50 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/28(日) 12:59:10.59 ID:f9DDFBY0
>>48様を見て思いついた小ネタ


【小ネタ】禁書目録とYシャツと超電磁砲


御坂美琴とインデックスは地下街にあるファストフード店の一角に座っていた。
彼女らの席の上にはハンバーガーやらポテトやらジュースやらの残骸と
未だ手の着けていられないそれらの山が大量に転がっていたが、
山にひたすら手をかけるのはやはりと申すか何というか某暴食シスターだけであった。


「ねぇ、短髪」

「ん?」


唯一ブラックコーヒーにだけ口をつけていた美琴は
(誰かさんを真似たのではない、砂糖やミルクを使うことで増えるカロリーを気にしたのだ)
ハンバーガーに伸ばした手を止めてまで自分に声をかけた理由が解らず、疑問をあげた。
頭にはてなマーク状態である。


「らすとおーだーはあくせられーたにYシャツ着て貰えたから、彼シャツできたんだよね?」
「まぁ……そうなるんじゃない?」


本来これは美琴が彼女の思い人・上条当麻の私生活について同居人から聞き出す会合なのだが
(二人はライバル関係であるが、そこでこの『賄賂』である)、
今日は専ら妹・打ち止めの話題ばかりが続いている。
まああれだけ各処で惚気てくれれば当然といえば当然であるが。

仕方ない、アイツの話は来週にでも聞き出そう。
そう美琴は思い直して妹の喜びっぷりについて呆れと羨望を交えた話題を出そうとした。

だが、それも眼の前に座る一人の好敵手の台詞によって全て遮られた。


「でも、私は更に上を行く本当の意味での彼シャツをとうまと毎日してるんだよ」




51 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/28(日) 13:00:30.43 ID:f9DDFBY0




ハ?
WHAT?
わっと でゅー ゆー せい?


「で、……」
「で?」


「で、でででででででででででででもアンタ今修道服着てるじゃなななななななななない!!!」
「短髪よく舌噛まないね」


呆れかえったように、更にはムカつくことに自慢するように鼻を高々と掲げ
インデックスの野郎はふふん、と鼻を鳴らしてこちらを見やりながら言い放った。


「私は毎日とーまのYシャツ一枚で寝てるんだよ、それもとーまのベットでね!!」



…………………………
……………………
………………
『解るかインデックス?男物のシャツ1枚の女の子ってのはな、男のロマンなんだよ』
『とーま、』
『ほら、ベットで一緒に寝ようぜ?―――色んな意味で、さ』
『で、でもとーま……とーまもなんで下しか履いてないの?何だかその……恥ずかしいんだよ』
『いいぜ。お前がこれを恥ずかしがるっていうんなら、まずはそのふざけた羞恥をぶち殺す!!』
『とーまぁあああああああ!!!!!』



52 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/28(日) 13:01:50.38 ID:f9DDFBY0






「いやァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「急に大声出さないんでほしいんだよ短髪!他のお客さんもいるのに恥ずかしいんだよ!」

「その羞恥すらアイツにぶち殺されてるクセに!!お前の快楽だけはぶっ生き返すクセに!!」
「何の話なんだよ短髪!」

「いいわよ上等じゃない、だったら私もYシャツ一枚で今からアンタん家押し掛けてやるわよ!」
「ただの変態なんだよ短髪!」

「アンタが私を変態だって言うんなら、まずはそのふざけた常識をぶち殺す!!!!」
「ふざけてないんだよ短髪!」



ワー ギャー 
オヤメクダサイ オキャクサマー
ツンデレールガン ナメンナヨー  オチツクンダヨ タンパツー
…………………………
……………………
………………



「あー三下さンですかァ。不審者2名、引き取りに来て下さい。場所は――――――」


自慢と妄想が交差するとき、物語は       始 ま ら な い 。




「ベットの上でセクシーポーズだコラァァアアアアアア!!!!!!!」
「だから何なんだよ短髪!」



59 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:08:50.61 ID:f9DDFBY0

大覇星祭。9月19日から25日の7日間にわたって学園都市で催される行事で、
簡単に言えば大規模な運動会だ。
その内容は、街に存在する全ての学校が合同で体育祭を行う、というものなのだが、
何しろここは東京西部を占める超能力開発期間で、総人口230万人弱、
その8割が学生だというのだから、行事のスケールは半端ではない。


とまあ、ここまでは原典(本家的な意味で)からの抜粋である。
ミサカはこんな流暢な説明、アドリブじゃできない。


本日は大覇星祭の初日、9月19日。
お天道様も元気でいらっしゃる晴天真っ盛りではあるが、
長々とザ・校長先生ズのお話が延々と続く初日の天気としては少し恨めしいものがある。


大覇星祭は年に数回だけ学園都市が一般公開される特別な祝祭であり、
しかも不可思議な『超能力』を扱う者同士がしのぎを削って戦い合うというものだから
興味本位の一般客から、外部の科学者・研究者、はたまた学生の保護者からと大賑わいだ。


ミサカのクラスメイト達も外から久しぶりに両親が来ると言って盛り上がっている。
普段は親なんてウザイだけだ、とか言っているくせになんだかんだで嬉しいらしい。


…… でも、ミサカは。


「来れないんだよなぁ……あの人、ってミサカはミサカは――――― ハァ~~~」



≪ 第三話  部屋と大覇星祭とミサカ ≫



60 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:13:24.79 ID:f9DDFBY0

知らされたのは、昨日の夕食の席だった。


「『外』の学者共の面倒押し付けられてよォ。
なンか情報盗み出そうとしても学園都市第一位様がいりゃァ安心って考えなンだろォが
………面倒臭ェったらありゃしねェ」


―――――――え?じゃあ、ミサカの大覇星祭は?


「1日中色ンな研究所だの施設だの見て回るンだと。無論見せられる範囲だろォが」


一緒に屋台回るつもりだったのに。


「1日中かぁ……大変だね。頑張って、ってミサカはミサカは応援してみたり、えいおー」


ミサカの出る行事、応援に来てもらうつもりだったのに。

ミサカは、
ミサカは。




「―――――――― 泣きだしそうな面ァしてンじゃねェよ、クソガキ」


どっか1日は必ず行くから、絶対。
それまでテンション上げ過ぎてヘバったりすンじゃァねェぞ。


数年前に教えた『指切りげんまん』を、初めて自分からしてくれた。
その約束がなんだかとっても嬉しくって、
その子供扱いがなんだかとっても寂しかった。



61 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:14:58.80 ID:f9DDFBY0

「あんま落ち込むなよ、御坂。大覇星祭は7日間もあるんだし」

「今日もアンタのYシャツ着てってくれたんでしょ?十分ラブラブじゃん」

「……… うん、そうだね。あの人も1日は来てくれるって約束してくれたもんね、
 ってミサカはミサカはテンション上げ↑上げ↑のモードチェンジ!!!」

「アゲアゲ古い。つかテンション上げ過ぎんなってクギ刺されたんじゃなかったっけ?」

「安心しろ御坂!!そんな御坂が私は好きだ!!!」


クラスメイトの励まし(と一部脳が受け付けない告白)を受け、テンションは上々。
7日間持つように抑えながら参加競技場へと向かう。


「初日の競技って何だっけ?ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

「『棒倒し』。敵対する2校が7メートル以上の棒を立てて、自軍護りながら敵の倒すアレ」

「あれ陣営の距離がメッチャ遠いから遠距離攻撃できるヤツがいるとこ有利なんだよね」


大覇星祭なんて大体そうじゃん、遠距離攻撃とか念話能力とか高レベルのヤツがいないと勝てないの。


下らない話題(半ば大能力者や超能力者に対する愚痴だ、
ウチの学校は学校全体を通しても強能力者が1クラス分居るか居ないかなのだから)
は次から次へと飛び出し母校から一駅離れた競技場へはあっという間に着いてしまった。


能力へのコンプレックスはなくても能力への憧れというものは皆少なからずある。
あの人やお姉様といった超能力者や、番外個体といった大能力者に囲まれたミサカも
そんな彼らを見て羨ましいと、正直思う。


「まぁ無い物ねだりしてもしょうがないんだし皆で頑張ろうよ、
ってミサカはミサカはクラスを活気づけようと一人盛り上がってみる!!オー!」

「御坂はホントいい子だねぇ……ま、アタシらもせいぜい頑張りますか」


頑張らなくてはいけないのだ。
絶対に来るあの人に、イイトコ見せてやるために。



62 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:16:20.03 ID:f9DDFBY0

イケぇぇぇえええええ!!!!!
頑張れぇええぇぇえぇええ!!!!!!


怒声のような声援が響き渡るグラウンドで、
打ち止め含む30数名のクラスメイトはスポーツ専攻の強豪校相手に熱戦を繰り広げていた。


クラスに立った一人存在する精神感応系能力者が、
念動力で上方から戦況を汲み取るリーダーの支持を受け小分けされた各班長へ念話を送る。


どちらも学校では貴重な強能力者。
打ち止めのクラスには他に空間移動と風力使い、そして彼女本人を含む5人の異能力者が
在籍するが、これでも彼女の学校で言えば多い方だ。


『さっき発火能力を使った大能力者が空間移動能力者に近付いてる。
 能力制限から見て前列にテレポートするから、4班はさり気無く移動して防御態勢に!!』


念話能力による支持。
事前に立てた計画では支持のあった班の前後の数の班(この場合は3班と5班だ)は
その班の援護がいつでも出来るよう準備することになっている。


強能力者である打ち止めが班長を務めるのは2班なので、今回の支持では現状維持となる。
電撃使いである彼女の配置は棒の手前、最終ラインだ。
彼女が任せられた任務を全うするなら、いざというとき最前列に飛び込めるよう
前方に向けての攻撃態勢に入るべきだった。


でも。
(なんだか敵の様子がおかしい、ってミサカはミサカは推測してみる)
前列への攻撃なら、グラウンドの真ん中にいる別の大能力者に任せればいい。
あの発火能力者以外にも向こうには攻撃性に長けた能力者はアチラ様には山程いるのだ。
それにグラウンド真ん中なんてあまり意味の無い配置に大能力者が集まりつつあるのも
何だか怪しい。


(コレって………もしかして……………)


「テレポーターの能力制限はフェイク!!狙いは後方への移動による棒への直接攻撃!!」


ミサカはミサカは走り出す。
お姉様ほどの威力はなくても、あの人ほどの強さはなくても。

ミサカの精一杯を、今も何処かで頑張っているあの人に見せつけるために。



63 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:16:51.10 ID:f9DDFBY0

「打ち止め!!!」


競技が終わり程よい疲労感に満ち足りていた打ち止めは、観客席から聞こえた声に小首を傾げた。
呼び名が自身の通称(しかし彼女はこれこそ本名と思っている)というのもあったし、
なにしろその声が男のものだったからだ。
彼女を『打ち止め』と呼び尚且つ男性である知り合いは極端に少ない。


「誰かな誰かな~~ってミサカはミサカは……ああーーーー!!ヒーローさん!!!」


声の主は、妹達の『ヒーローさん』こと上条当麻だった。
成るほど、彼なら条件にはぴったりと当て嵌まる。


「来てくれたんだね!ってミサカはミサカは体全体で喜びを表現してみるキャッホー!!」

「おう、来てやったぞ~~―――― それにホラ、」

「久しぶり。大きくなったじゃない」

「―――――― お母様!!!!!!」



64 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:18:58.20 ID:f9DDFBY0

御坂美鈴。
学園都市第三位の超能力者、『超電磁砲』こと御坂美琴の母親である。
元来美鈴は打ち止めにとって遺伝子上の顔も知らない母親でしかなかったし、
超電磁砲のクローンの存在について美琴の両親が感づいたことを知らされた時も、
彼女が自分を受け入れてくれるとは思っていなかった。


美琴の両親が信じられなかったわけではない。
ただ常識で持って考えて、例え拒絶されたとしても「仕方ない」と諦めようと。
そう覚悟していたのだ。


だが美鈴とその夫・旅掛は、
彼女たち『妹達』9970人(下位個体9968 人,打ち止め,番外個体で9970人)全員に
一人ひとり違う名前と、一人ひとり違う名前付きのバッチを送ってくれた。


「あなた達は皆、私たちの大切な娘です」
そう、メッセージを添えて。


打ち止めは現在その名前を使って学校に通っている。
あの人からは出合った時そのままの名前で呼んで欲しいために、
名前を貰う以前の友人たちには『打ち止め』での呼称をお願いしているが。


他の妹達も同様に各地で学生生活を堪能しているらしい。
学園都市では稀にドッペルゲンガー目撃情報が噂されるが、今はそれすらも誇りに思う。


美鈴達には、感謝してもしきれない。



65 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:20:53.93 ID:f9DDFBY0

「お母様!!わざわざ『外』から来てくれたの、ってミサカはミサカは跳びついちゃう!!」

「そうよ~ん。他の子たちの様子も見たかったし、って美鈴も美鈴も抱きしめちゃう!!」


うっひゃあ、巨乳が羨ま苦しいぜお母様(造語)!!
でもお母様のそのDNAにミサカはミサカは期待を一身に寄せてるからねっ!!


「でも残念ねぇ。今日はシロくん来れないんだって?電話したら仕事中って……」

「うん。でも大覇星祭は7日間もあるし、必ずどっかで来てくれるって言ってたから
寂しくないよ、ってミサカはミサカはAカップを張ってみたり!!」


シロくんとはお母様が呼ぶあの人の渾名だ。
初めてあの人と対面したとき「あーーー!!!あの時の白いのだーーー!!!!」と
あの人に飛びついたお母様は(あの人も巨乳に苦しめられていた。いつかやりたい)、
再会早々学園都市最強に向かって恐怖などおくびにも見せず
『シロくん』なんてフザケやがった(あの人談)渾名を命名してみせたのだ。


「よーし良く言ったわね、イイ子イイ子。そんなイイ子ちゃんのために……じゃじゃーん!
 なんと勝者の雄姿を録画してたのでしたーーー!!!!」

「えーー!!!ホント?ホントにお母様!!!」

「おうともホントさ!後でシロくんにも見せたげなきゃね!!」


有難うお母様!!
何人もの大能力者を相手にするのはちょっぴり恐かったし疲れたけれど、
頑張ったかいがあったよ!!!


「―――――― 録画してたのは上条さんなんですけどね。聴いてないし………不幸だ」



66 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:22:04.67 ID:f9DDFBY0

クラスメイトは同じ様に『外』から来ていた両親と昼食を取るらしかったので、
打ち止めも美鈴と上条(ビデオの件のお礼にと美鈴が誘ったのだ)と共にランチとなった。


久々に会った『お母様』へ、学校の話や日常の話、あの人との生活やらと
事細かについ長々と報告していく。


お母様は全ての話に相槌を打ち、時々コメントを挟みながらミサカの話を終始笑顔で聴いてくれた。
「あなたが幸せそうなら良かったわ」。
そう聞いた時、涙が出そうになった。


「そうそう。旅掛が来るのは明後日からになるけど、美琴ちゃんの方は午後から見に来るって」

「お姉様も来てくれるの!!」

「黄泉川先生もさっき会った時警備員のシフトが終わったら来るって言ってたし、
 芳川さんも仕事に片がつき次第向かうって言ってたらしいぜ」

「わーい!!皆来てくれてミサカはミサカは両手を挙げて大歓喜!!わーい!!!」



67 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:22:50.46 ID:f9DDFBY0

大覇星祭初日は大いに盛り上がった。

約束通り午後から来てくれたお姉様はヒーローを前にそのツンデレっぷりを最大限発揮し、
お腹がすいたと飛び出してきたシスターは
フラグ体質絶好調で通りすがりの女性の胸へとダイブしたヒーローさんの頭を噛みしだき、
それぞれの仕事を終えてやってきたヨミカワとヨシカワはお疲れ様と労いながら
ジュースとアイスを買ってくれ、
そんな賑やかな光景をお母様は笑いながら全てビデオに納めてくれた。


「それでね、すっごくすっごくすっっっごく!楽しかったんだよ!!!
 ってミサカはミサカは超・超・超・超・超ご機嫌にあなたに報告してみたり!!!」

「そォかよ、よかったじゃねェか。―――――よかったからピーマン残すンじゃねェ」

「むぅう。今日くらい頑張ったご褒美であなたが食べてよぉ、ってミサカはミサカは……」

「オマエの代わりに食うのは簡単だが後で女共にガミガミ言われンのは俺なンだよ。
 判ったらつべこべ言わずさっさと食っちまえ、お子様がァ」


むう。レディーに向かってお子様とは失敬な。
しかしお子様と言われようが何だろうが苦手なモノは苦手である。
馬に人参、猫にマタタビ(なんか違う)。
ご褒美の一つでもぶら下げてくれれば少しは食べる気になるのだが………


「そうだ!!ちゃんと食べれたらお母様の撮ったビデオ、一緒に見てくれる?
 ってミサカはミサカはピーマン片手にあなたに交渉してみる!!!」

「あァ、ハイハイ。ちゃんと見てやるから食っちまえェ」


――――――― 最初っから見るツモリだったっつーの、クソガキが。


小さく口を動かしたあなたが、ミサカはミサカは大好きだ。


いつもは苦くて食べられないピーマンが、
今日だけはキャンディーみたいに甘く感じた。



68 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:25:03.81 ID:f9DDFBY0

9 月20日、大覇星祭2日目。


今日も皆はミサカの応援に来てくれるらしい。
持つべきものは、『仲間』と『家族』だ。


「今日は借り物競走だよね!!ってミサカはミサカは判り切ってても確認してみたり!!」

「おうおうテンション高いな~御坂。今日こそ『あの人』が来るのかにゃ~ん?」

「今日来れるかは判んないけど、ミサカが頑張ればお母様がビデオに撮ってくれるし
 あの人も見てくれるんだもん!ってミサカはミサカは優勝をここに大宣言!!!」

「優勝とか強気だねぇ。――― まあ御坂のためにいっちょ頑張ろうかね」

「任せとけ御坂!!この私の愛を持ってすれば優勝など軽いものだ!!!」


皆、ありがとね!!!最後のはヤツは死ね。
借り物競走はかつてお姉様が何処ぞのヒーローさんをひっ捕まえて
ラブラブ風景(意識してるのは一方だけだったけど)をテレビ中継させた伝説の競技だ。
もし競技中にあの人を見つけたら、「競技だから」って言って捕まえてやるのだ!!!
事実だし。


「競技に参加する学生は指定された場所に並んでくださーい」


「おっと。のんびりしてる場合じゃないや」

「張り切ってるとこ出られなかったら元も子もないしね」


待ってろよ!
ミサカが必ず捕まえてやるからな!!ムヘヘヘヘヘヘヘ!!!!!



69 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:27:38.40 ID:f9DDFBY0

「位置について、よーい、ドン!!!」


火薬の音と共にスタートダッシュ。
30メートル先の『借り物リスト』を1枚取ったら、
書かれている内容が借りられるまで学園都市内を走り回るハメになる地獄のゲーム。


(ミサカの、ミサカの借りるもの……!!!あの人からミサカが借りられるもの……!!)


これだァァァァアアア!!!!!!
勢いよく伸ばした手は競技に参加している学生の誰よりも早く、
積み重ねてあった他の数枚を吹き飛ばしながらこれぞという1枚の紙を素早く選別した。


(何が……何が書かれてる!!!?)


パラリと折りたたまれたそれを開くと、そこに書いてあったのは。


『Yシャツを着た人』


よっしゃァァァアアアアア!!!!!!!!
キタ━━(━(━(-( ( (゚∀゚) ) )-)━)━) ━━ !!!!!

キタよ、キタコレ、キましたよォ!!!
ミサカはミサカはやりましたぁぁあああああ!!!!!
Yシャツへの飽くなき執着がミサカを導いてくれたのね!!!!


既に何人かYシャツを着た観客とすれ違ったが、打ち止めはそれらを無視して走り続ける。
紙に書かれた内容を知っているのは今現在ミサカだけ。
だったら、少しくらい可能性に縋ったって良いじゃないか。
あの人に会える。
そんな、小さな可能性に。



70 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:28:39.89 ID:f9DDFBY0

競技場のある第17学区から第18学区へ向けて、打ち止めは走っていた。
第18学区には霧ヶ丘女学院や長点上機学園といったエリート校が軒並み揃っている。
それはつまり付属の優秀な研究所が沢山存在する、ということを示す。


ここならもしかしたら、あの人に会えるかもしれない。


打ち止めは僅かな希望を胸に抱きながら一方通行を探し始めた。
目立つ容姿だ、近くにいれば直ぐに見つけられる。


あの人の電波……
あの人の電波はないかな、ってミサカはミサカは……


かつてアホ毛をピーンと立たせながら行っていた『あの人サーチエンジン(お姉様命名)』
はアホ毛の無くなった今でも健在だ。
ついでにお姉様のネーミングセンスの悪さも(超電磁砲ドラマCD参照)。


「こっち!!こっちにあの人の電波をピーンって感じてみたり!!」


感じた電波を頼りに急いで方向転換。
足の軌道を左方向へ50度修正。


「いたーーー!!ってミサカはミサカは前方に白髪を発見うおおお!!って………アレ?」




『いいじゃねェか、そう言うなよ』

『良くないわよ。本当にアナタって自分勝手ね!』



―――――― 女の、人?



71 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:29:13.68 ID:f9DDFBY0

「いいじゃねェか、そう言うなよ」

「良くないわよ。本当にアナタって自分勝手ね!」


あの人はミサカの知らない女の人と一緒にいた。
大きな胸を強調させた服装、長い髪を2つに高く結った姿。
どちらもミサカにはないものだった。


「オマエだって嫌じゃない筈だぜ?アソコに行くのはよォ……だって、」


「           」


まるでキスでもするかのような、残酷なほどに近い距離であの人が何かを囁くと
女の人は顔を真っ赤にさせながらコクコクと大きく頷いた。


どうしよう。
声をかけるか。ではなく、この気持ちをどうしようか拱いているうちに、
あの女の人の能力だろうか。二人で何処かにテレポートしてしまった。


二人は何処へ行ったのだろう。
あの人は何を囁いたのだろう。


オトナの恋人同士が贈る、恥ずかしい言葉なのだろうか。
そうゆうことをする場所に、二人は向かったのだろうか。


お仕事じゃなかったの?
ミサカの所に来てくれるんじゃなかったの?


ミサカ達のために幸せの全てを継ぎこもうとしてくれているあの人に
そうゆう関係の女性が出来たというのなら、喜んであげるべきなのかもしれない。


良かったね?
おめでとう?
あの人に向かって何と言えばいいのか判らない。


もしあの人が結婚したらどうしよう。
二人が過ごす『家庭』という世界に、ミサカの居場所はあるのだろうか。



72 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:30:30.15 ID:f9DDFBY0





「ずっと一緒になんて、居られないんだね……」

知ってしまった。
気付いて、しまった。





73 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:32:06.05 ID:f9DDFBY0

結局『借り物』は途中で会った上条当麻に務めてもらった。
今にも泣きそうになっているだろうミサカのヒドい顔を見ても、
何も言わず手を握ってくれた。


徒競走であるはずなのに走る気にもなれず
ミサカとヒーローさんはとぼとぼと歩いてゴールを目指していた。


あの人を探していたときは直ぐに立取り付けた筈の道のりが
今は、とても遠く感じた。




借り物競走で一人に与えられているタイムリミットは45分。
折角つき合ってくれたヒーローさんには申し訳ないが、
このままではゴールに辿りつく前にゲームオーバーを迎えそうだ。


身勝手な理由で、競技を放棄してしまった。
ミサカのためにと頑張ってくれているクラスメイトに、合わす顔がなかった。


「う…うぅ、ヒグッ…う…」


いつもの語尾が出てこない。
あの人との思い出ばかりが走馬灯のように駆け巡る。


ミサカを護ってくれたこと。
ミサカを助けてくれたこと。
ミサカを抱きしめてくれたこと。

ミサカに、笑ってくれたこと。


ミサカの短い人生のほとんどは、あの人との思い出に占められている。

あの人と離れてしまう未来が想像できなくて恐かった。
いつかは離れてしまうという現実が恐ろしかった。



74 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:33:02.23 ID:f9DDFBY0



『借り物競走第3走者のタイムリミットは、残り1分となります。
 近くまで来ている競技者の皆さんはお急ぎください』




アナウンスが鳴り響く。
それでも、焦る気にはなれなかった。


繋いでいる手があの人だったら、二人で一緒に走ったのだろうか。
あの人におねだりして、お姫様の様に抱えて走って貰えたのだろうか。


あの人と、
あの人と一緒だったなら、
ミサカは。







その時だった。





「急げェ!!!ラストオーダーァ!!!!」


見なれた白髪が、そこに、いた。



75 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:33:45.95 ID:f9DDFBY0

ゴール地点の100メートル手前。
一方通行の、競技者の誰しもが必ず通るその道で、あの人はミサカを待っていた。



「急げェ!!!ラストオーダーァ!!!!」



ドクン、と心臓が大きく鳴った。
冷めきった熱が、熱い太陽に溶かされてゆく。


ふいに、繋いでいた手がゆっくりと剥がされた。
握られていた左手を辿りそっと真上を見上げると、
ミサカ達のヒーローは優しげに微笑んで、大きな掌で背中を押した。


「ホラ、行ってこい」



ありがとう!!!


語尾を忘れ、羞恥を忘れ。
大声で一つ叫んでミサカは、ミサカのYシャツを律儀に着たあの人の下へと走り出す。
幾度も救ってくれた恩人にはその短い一言しか思い浮かばなかった。


なぜなら、目の前のあの人のことでミサカの頭の中はパンク状態だったのだから!!!



「一緒に来て!ってミサカはミサカは叫んでみる!!!」



走りながら手を伸ばすと
骨ばったガリガリの細い手で、しかしそれでもしっかりと、
あの人はミサカの手を取ってくれた。


「一方通行超特急便へようこそマセガキ!!
 歯ァ食いしばってねェと、舌噛ンだところで当社は一切責任取りませンからなァ!!!」



76 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:34:49.69 ID:f9DDFBY0

カチリ。
チョーカーのスイッチ音がやけに大きく感じた。


ふわりと体が浮いたかと思うと、
地面を見て、
それが念願のお姫様抱っこだということに気がついた。


「凄いよ!速いよ!大好きだよ!!ってミサカはミサカはあなたにしがみ付いてみたり!!」

「歯ァ食いしばれっつったろォがクソガキ!!!公衆の面前で何言ってやがンだ!!!」


信じられないほどの猛スピードで、
その細い腕でミサカをしっかりと抱え込んだあの人は
観客達の熱い歓声を尻目にゴールのアーチへただひたすらに飛び込んでゆく。


パン、パァン!!
ゴールテープを切った合図を耳に感じた。



羞恥か疲れか真っ赤になったあの人の首に
超特急便は終わっているのに、ミサカは思い切り抱きついた。



77 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:35:45.99 ID:f9DDFBY0

やっぱり順位はビリッケツだった。
当たり前だ、寧ろゴールできたことが奇跡と言える。


「ゴメンね、皆~~~ってミサカはミサカは………あり?」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……と何やら違うジャンルで流れてそうな効果音が
周囲一帯をせしめている。


「――――― ど、どうしたの皆、ってミサカはミサカは吃りながらも

「テンメェ御坂ァ!!!見せつけてくれやがってコンチクショォ!!!」

「このままゴールできないんじゃないかってハラハラしたアタシの気持ち返しやがれ!」

「お姫様抱っこ~~~ヒューヒュー♪」

「うがああああ御坂ぁああああ!!!!それでも私は愛してるぞぉおおおお!!!!!」


今更になって気付いた。
もしかしてアレは、凄く恥ずかしい光景だったんじゃいか?


「ふにゃぁ~~~ってミサカはミサカはぁああぁ………」

「あ、御坂倒れた」

「今更恥ずかしいと気付いたのか馬鹿め」


望んでいたお姉様とヒーローさんのテレビ中継のような伝説は、
とっくに越えてしまっていた。



78 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:36:40.75 ID:f9DDFBY0

「あ、あのね……あの……今日は来てくれてあ、ありがとねっ!」

「あァ」


あの人を含むミサカの応援に来てくれた皆は観客席でミサカを待ってくれていた。
さてさて気になるあの人はといえば、どうやら黄泉川あたりにからかわれていたらしい。
グチャグチャと豪快に頭をかき混ぜられながら気恥ずかしそうにぶーたれていた。


「それでねそれでね、そのぉ……ミサカは、その、聴きたいことが、
ってミサカはミサカは……う~~~」


聴きたいことは山ほどある。
お仕事はどうしたの?
どうしてミサカのところに来てくれたの?
さっきの女の人は?

そしてなにより
「あなたが誰かと結ばれたとき、ミサカはあなたの傍にいられますか」?


疑問と嫉妬と祝福と願望がパレットの上で一緒くたにされた絵の具の様に混沌を描いていく。
何と言えばいいのか判らない。
判っている筈なのに言葉が出ない。


矛盾した感情。
矛盾した思い。


言葉と一緒に、息が、詰まる。


「―――――― あの、ね。ミサカはね、あなたに言わなきゃって……その、その……
「あら一方通行、どうなの?結局間に合った?」


言い淀む自分の頭上から影が落ちる。
聴きなれない声に恐る恐る振りむけば、そこには
あの人の『大切な人』が。笑顔を浮かべて立っていた。



79 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:37:57.91 ID:f9DDFBY0

「感謝なさいよ一方通行、ぜーんぶ私のお蔭なんだから。そうだ、今度何か奢りなさいよ」

「うっせェなァ。テメェだって『良いモン』見れたんだ、文句ねェだろ」



親しげに話す2人。


「………そっか」


全くの他人から見れば素っ気ない会話の様に聞こえるが、
あの人がここまでぶっちゃけた風体で話しかけるのは
ある程度の信頼を勝ち得たものだけだということを、ミサカは知っていた。


「………そっか。あなたが認めた、人なんだね」

「あァ?」


あなたと彼女を見て、決心がついた。
もう迷わない。
あなたが選び、あなたが認め、あなたが大事に思う人なら。
ミサカはきっと受け入れられる。


その人があなたを選び、あなたを認め、あなたを大事にしてくれるなら。


「本当に、本当におめでとう!ってミサカはミサカは祝福の詔をあげてみる!!!」






「何言ってンだ?クソガキ?」



80 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:39:22.91 ID:f9DDFBY0




「何言ってンだ?クソガキ?」

「………………………………………へ?」

「めでてェのはオマエの方じゃねェか、クソガキ。結局ゴールできたンだしよォ」

「………………………………………へ?」

「気に食わねェが結標に感謝しとけェ、俺をここまでテレポートさせたのはコイツなンだしよォ」

「あらあら、この子の前じゃ少しは素直になれるのね」

「……………………………………… へ?」



つまり、つまり。―――――――― つまり、どうゆうことだってばよ?
イヤイヤイヤイヤ、ネタをかましている場合じゃない。
つまり本当にどうゆうことだ。


あの女の人があの人をここまで運んでくれて、
あの人はそれでミサカとゴールしてくれて、
でもあの人とあの女の人は恋仲なわけで、
『アソコ』とやらに頬を染めながら2人して行っちゃう仲なわけで、


「つまりミサカは、いやあの人は、つまりミサカがミサカがミサカがミサカががががが」

「あら、フリーズしちゃったわね。こうゆう場合ミサカネットワークにはどんな影響が
 出るのかしら」

「研究員魂燃やしてる場合じゃないじゃん桔梗!!大丈夫か打ち止め!!」



81 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:40:32.40 ID:f9DDFBY0

ハァ ―――――、
と長い溜息を洩らしながらあの人が歩み寄ってくる。
ああどうしよう何も考えられない。
え?結局どうゆうことなの?
あなたはあの女の人(ムスジメさん?)と結婚するんじゃないの?
ミサカはいらない子になっちゃうんじゃないの?


「様子がおかしいって三下から聞いちゃいたがァ、やっぱ見てやがったなクソガキ」

「―――――――― へ?」


思わずヒーローさんの方を振り返る。
「俺今回はちょっとイイことしたんじゃね?」とかお姉様に同意を求めるヒーローさんは
こちらの視線に気付きニコニコとサムズアップ(親指立ててGJのポーズ)してくれた。


「見てたンだろ、クソガキィ。第18学区で俺が結標と話してたのをよォ」

「…………うん、ってミサカはミサカは小さく肯定してみる」

「大方それでいて『でも大事な部分は聞こえませンでした』ってトコかァ」

「―――――――うん」


なら教えてやるよ、クソガキ。
俺があの女に何囁いたか。


いつもの乱暴な口調じゃなくて撫でるような宥めるような声で言うのだからズルイ。
そんな風に言われたら、話を聞くしかないじゃないか。






「聞いて驚け、答えは『汗掻きショタもいるだろうぜ』だこのマセガキがァ!!」

「やめてそんな大声で人の隠れた趣味を暴露しないでぇぇぇぇえええええ!!!!!!!」


あの人の『彼女』の悲鳴が、大勢の観客の下へと波のように広がっていった。



82 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:40:58.20 ID:f9DDFBY0

話を要約すると、こうだ。
仕事を終えたあの人はミサカの下へと向かう途中『元同僚』の結標さんに遭遇したらしい。


仕事先で起きたトラブルでチョーカーの充電を大分消費していたあの人は、
ミサカの競技へと急ぎたいが能力を使うワケにもいかずヤキモキしていたところで結標さんを発見し、
これ幸いとテレポートをお願いしたそうだ。


しかし当然結標さんには結標さんのスケジュールというものがあるわけで
渋る彼女に向かい、あの人はこう説き伏せたという。


『大覇星祭ってのはよォ、幼稚園児も小学生も参加してンだ。
 一 生 懸 命 頑 張 っ て 走 る 汗 掻 き シ ョ タ も 見 れ る か も な ァ 』


実はショタコンというとんでもない性癖を持っていた結標さんは
その言葉につられて一も二もなくすぐ会場へとテレポートしてくれた。
あの人の言を借りるなら「あの女が相変わらず歪みねェ変態で助かった」、だそうだ。


ミサカの参加競技は判っていても現在位置まで把握できていないあの人は
競技者なら誰しもが通るゴール手前でミサカのことをずっと待ってくれていたらしい。


しかし一人勘違いを起こしているミサカは、あの人からしてみれば何故かなかなか来ない。


そんな時に「ミサカの様子がおかしい」とヒーローさんから連絡を受け
(ミサカがヒーローさんに気付く前に連絡を入れ、
それからミサカとずっと一緒にいてくれたそうだ。なんとも気のきくヒーローである)
敏いあの人はそこで全てのカラクリに気付いたということだ。




「人の色恋云々なンて、オマエにゃ100年早ェンだよこのマセガキがァ」




83 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:41:24.09 ID:f9DDFBY0

後でお姉様に教えてもらったところによると、
ミサカを抱えて走り出した時点でチョーカーの充電は本当にギリギリだったらしい。


後先考えずミサカのゴールを優先してくれたあの人は、
ゴールテープを潜ったミサカがクラスの輪へと戻っていくところを見届けると
直ぐに充電切れでぶっ倒れたそうだ。


先程まで元気だった人が急に倒れ、
尚且つ目の焦点もあってないというのは結構な騒ぎになったようで
それに気付いたお姉様がすぐさまあの人を回収し能力で充電してあげなければ
救急車で運ばれていてもおかしくない状態だったとそこで知った。



84 :第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』 :2010/11/28(日) 21:42:35.89 ID:f9DDFBY0



お姫様だっこでゴールする瞬間もばっちり収めてくれたお母様のビデオは、
今ではミサカの宝物になっている。


あの人と一緒に見ようとすると恥ずかしがって席を立ってしまうけど
ミサカは毎日のようにテレビの前でニヤニヤしながらその映像を堪能している。


『一方通行超特急便へようこそマセガキ!!
 歯ァ食いしばってねェと、舌噛ンだところで当社は一切責任取りませンからなァ!!!』


「えへ、えへへへへへへへってミサカはミサカは………

「たでェまクソガキ……ってオマエ大音量で何見てやがる!!!!!」

「ええ~?いいじゃない、ってミサカはミサカはぶーたれてみたりぃ……
 ―――――まぁいいや、それより明日は玉入れだよ!あなたが来るの、待ってるからねっ!!」

「上等だクソガキ。嵐だろうがなんだろうが、絶対見に行ってやンよォ。」


俺達ァ、『家族』、だからな。


小さく呟くあの人。
やっぱり、ミサカはミサカはあなたが大好きだ!!!!!!



彼女たちの大覇星祭は、まだまだ始まったばかりである。



『部屋と大覇星祭とミサカ』(完)



85 :【小ネタ】 部屋と第三話と家族な二人 :2010/11/28(日) 21:43:37.55 ID:f9DDFBY0

「今日のお昼は屋台で食べよう!!ってミサカはミサカは皆に提案してみたり!」

(色んな意味で)波乱万丈の借り物競走も終え、本日の参加競技を全て出尽くした打ち止めは
自分の応援に来てくれた黄泉川,芳川,美琴,美鈴,上条,そして一方通行にそう提案した。

大覇星祭には業者や学生が開く屋台がそこ彼処に設けられている。
ソースや醤油の焦げた匂いは、午前中だけでかなりの疲労感を溜め込んだ体に空腹を呼び掛ける。

「ミサカはお好み焼きが食べたいな~~ってミサカはミサカはおねだりしてみる」

しょうがねェなァと呟きながらもお金を出してくれると言った一方通行と共の後ろをついて
デパートの前の屋台へと並んだ打ち止めは、しかしそこで『あるモノ』に気付いてしまった。

『――― それでは本日のエキジビジョン・ゲーム、借り物競走の紹介です』

へ?と思いながらデパートの側面を見上げるとそこには

『――― リミット間近で驚異的な追い上げを見せた御坂選手は協力者の方との
感動的なゴールを迎えました』

大画面に映る、あの人に抱きかかえられた自分がいた。



「キャァアアア!!!ってミサカはミサカは恥ずかしくって…………キャァアアア!!!!」

突然の叫び声に「あァ?」と同じ方向を見上げたあの人も、
屋台の列に並んでいた一般の人も、
デパートの近くを歩いていた普通の人も、

(しまった!!!ってミサカはミサカは騒ぎすぎて――――!!!)

「あのテレビに映ってるのあの人たちじゃない?」
「ホントだ。派手なことすんなぁ、あの兄ちゃん」

気 付 い て し ま っ た 。

ああどうしよう。この騒ぎをどうやって抜けようか。
品物を買うのを後ろで待ってくれている5人はニヤニヤと笑うだけで助けてくれる気配はない。

とりあえずまずはどうあの人を嗜めるかそれだけだ。
全く。幸せすぎるというのも、困ったものである。



86 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/28(日) 21:46:17.92 ID:f9DDFBY0
次回第四話より台詞のみ抜粋。イメージとしてはAngel Beats! の次回予告風味。




                                Lust Order
                                お父様!!

        Accelerator
  つか俺を巨乳フェチとして認識してたのかオマエは



       Misaka Worst
  『勃っちゃいました☆』って既成事実が残せたのにミサカ超残念



        Accelerator
      生ゴミ見るよォな目で俺をみるな


                                    Tabikake Misaka
                            若い女の子に色々と振り回されるのは男なら誰でも通る道だな



Awaki Musuzime
…………あんの恩知らずうううううううう!!!!!!!!!!





                             Unknown
                      笑っちまうほどにムカつくだろ?





第四話 『 部屋とショッピングとミサカ 』



87 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/28(日) 21:47:27.27 ID:f9DDFBY0
洒落てみようと思ったところで現実(ルビ)とは上手くいかないものですね。

………………どんまい!



91 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/28(日) 23:45:25.10 ID:AJwWOAAO
>>86
その「Lust」は色欲だwww
最後は「Last」だぞwww



92 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 00:17:42.88 ID:mwx1Wgwo
つまり次回は濡れ場というわけか

俺の股間がアクセラレイト!



93 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 00:52:52.25 ID:hqck9jgo
今の色ボケした状況だとある意味間違ってはいない



94 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/29(月) 02:17:05.36 ID:xdRQ4VM0
>>91様
あばばばばばばば
肝心なところでいつもポシャりますね、僕。
今回の英語のテスト大丈夫だったかな………?
専攻理系なんでとか言い訳しても算数も間違えそうですし、潔く濡れ場な小ネタでも考えておきます(笑)


―――― ところで関係ありませんけど中の人繋がりで一方さんが『紅』の竜士さんみたいな感じだったら凄く恐いですよね。
…………いや、関係ありませんよ?
ここの一方さんはそのような路線には参られませんのであしからず。



95 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 06:01:12.43 ID:iTwp/oAO
下位個体は9969人じゃね?


97 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 18:17:26.42 ID:kLdM0hIo
殺されたのは10031号までだから20000-10031が正しいね確かに



98 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/29(月) 20:19:19.61 ID:xdRQ4VM0
>>95~>>97様
うわぁ……やっちゃいました、ね………もうこれは完全言い訳できませんねあぅう。
堕天使みたいに偶に繋げないんです、僕(@カッコカワイイ宣言>蒼夜薫)

取り敢えず>>91~>>93様にご指摘いただいた部分から>>94で宣言していたネタができましたので、そちらを投下。


【小ネタ】 ラストオーダーの○○な日々!




あなたの肌ってとっても白いのね、ってミサカはミサカは……」






ミサカの名前は Lust Order。
え?Last Orderの間違いじゃないかって?
フフフ、説明してしんぜよう。


確かに昼間生活を送っているあいだのミサカが
皆さんにとって馴染みあるLast Orderと呼ばれるミサカであることに間違いはない。


しかし夜の一時だけ、
ミサカは上位個体(Last Order)から色欲個体(Lust Order)へと進化(シフト)するのだ!


そして、その一時とは……




「………」Zzz...




あの人が入浴中に眠ってしまった、その瞬間である。



99 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/29(月) 20:20:33.73 ID:xdRQ4VM0

あの人は疲労が溜まるとよくお風呂に入ったまま寝入ってしまう。
それで稀に風邪を引くのだが、
ミサカ的には溜まりに溜まった疲れを放出するかのように気持ちよく眠るあの人を起こすのも忍びない。


故に風呂場であの人が寝ていいのは5分だけと時間を定め、
その間ミサカはここ(浴室と洗面所を隔てる扉の前)で優しく見守ってあげているのだ。
言うなれば妖精のように。



「安らかな顔でいると美人さんね……
 男の子達の言う『情熱を持て余す』が判った気がする、
 ってミサカはミサカは鼻息を荒くしながら今日のあの人をビデオに納めてみたり……」ハァハァ REC> ジー


「あ、そうだ。こういう時は下の方も撮らなきゃいけないって20000号がアドバイスしてくれたんだった、
 ってミサカはミサカは恥ずかしいけどつい実践してみたり………」


「ハァハァ……あなた……ハァハァ……」


「ミサカは……ミサカはァァア!!!!」




――――――――――――
―――――――――
――――――


「やめろォォォオ、ラストオーダーァ!俺はそんな子に育てた覚えはありませンンンン!!!!」




100 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/11/29(月) 20:22:14.37 ID:xdRQ4VM0

僅かに冷めてしまった浴室で、一方通行は唐突に眼を醒ました。
そこで初めてこの場に自分以外誰もいないことを知る。



「夢かよ全く……クソガキのあンな夢みるなんて---最低だな、俺。」



取り敢えずさっさと身体を洗って風呂を出よう。
きっとこれは疲れていたからだ。
ベッドに入ってキチンと寝ればもっとマシな夢も見れるはずだろう。


そう思い直した一方通行は勢いよく浴槽から身体を持ち上げた。


だがそこで湯の波の狭間からジーッという機械的でデジャヴュな音を耳に捉えその方向
---洗面所へと続く扉へと眼を向ける。



「オマエ……は……、」



そして、一方通行が眼にしたのは。








「あなたの肌ってとっても白いのね、ってミサカはミサカは……」





                                     『ラストオーダーの○○な日々』(完?)



     ※この小ネタはフィクションです。実際の本編・人物・団体等とは殆ど関係ありません多分。



101 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 20:50:40.20 ID:RMOJPs60
乙!
ん?一方さんは全裸でlust orderの前に?



102 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 21:31:55.18 ID:VQHrsiQo
変態だーーーーーーっっ!!!!



105 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:47:58.92 ID:dSVTqh60

第 23学区に設置された空港は『外』から来た人間で溢れていた。
英語,フランス語,ドイツ語,スペイン語,中国語……聞こえる範囲でもこれだけ雑多な言語の
アナウンスが各所で鳴り響き、既にそこは一種のカオスと化している。


そんな混沌の中から一人、独特の格好で周囲の目を奪う女が父親ほどの男を引き連れて
ブーツの踵を鳴らしながら揚々と出てきた。


「さぁてと、ついに帰って来たワケだけど……どうやって『あの人』で遊んであげようかな」


彼女の存在がまた一つ、物語を生みだした。




≪ 第四話  部屋とショッピングとミサカ ≫



106 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:48:43.28 ID:dSVTqh60

「お父様!!」


9月21日、大覇星祭3日目。
昨夜『外』からこの学園都市にやってきた御坂旅掛を含む御坂夫妻に対し打ち止めと御坂美琴、
そして一方通行は第7学区に位置するセブンスミスト前で合流することを決めていた。
本日出場する競技の無い末の娘に美鈴が服の一つでも買ってやりたいと申し出たためである。


普段ならば「家族水入らずで行ってくればいい」、
とただ打ち止めを送りだすだけの一方通行も今日ばかりは珍しく付いてきてくれたために
打ち止めは御満悦の様である。


この場合の一方通行は
別に空気を読んだだとか気を使えるようになっただとかそういうわけではないのだ。
打ち止めが考察するに、一方通行は御坂夫妻に多少なりとも負い目を感じている節がある。


『妹達』のオリジナルである御坂美琴と『絶対能力進化実験』に終止符を打った上条当麻とは
自身の研究に関するご意見処として招いたり(後者は全くアテにならないが)
他のメンバーも集めて食事をしたりと、
物凄く仲がいいとまではいかなくても普通に『仲間』と呼べるまでには至ったのだ。


が。『妹達』の遺伝子上の親である彼らに対しては美琴の件も含めて未だ蟠りが消えないらしい。
夫妻が気にした風な態度をとらない分、余計にそれが健著になる。


故に彼自ら「俺も行く」と言いだしたとき、打ち止めは蝶をも凌ぐ勢いで舞い上がったのだった。



107 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:49:23.47 ID:dSVTqh60

「お父様!」


打ち止め一行(彼女とその保護者の一方通行、そして途中偶然会った御坂美琴)が
セブンスミストに到着すると、既に旅掛は入り口前の喫茶店で優雅にコーヒーと洒落込んでいた。


「おう!ちょっと見ない間にまた大きくなったな!美琴も、元気してたか?」

「うんお父様!ミサカはいつでも元気いっぱいだよ、ってミサカはミサカは主張してみたり!」

「私も元気。学園都市にいる他の妹達も元気みたいだけど」

「そっちは明日約束してる。本当なら御坂一族総出といきたかった所だが、それも目立つしな」


確かに美鈴も含めて同じ顔をした女性が何人も一か所に固まっていたらさぞ目立つことだろう。
―――――― しかし学園都市には妹達が4人ほどいたはずだったが、良いのだろうか?


「シロも元気にしてたか?また一段と白くなったが」


普段の調子でいけば「うっせェ、何ならオマエはいっそ青白くしてやろォか死体という名のなァ」
くらい言い返しそうな彼が、
「どォも」
と一言で済ましたことを大人になったのねと称すべきか否かは賛否両論である。
打ち止めとしてはもう少し二人が(特に一方通行が)馴染んでくれればいいと思うのだが


「コレ、打ち止めの先学期の成績表」

「ちょちょちょちょちょっと!!!!何見せてるの!ってミサカはミサカは~~~~~っ」


前言撤回。
保護者同士のそういうコミュニケーションは今後一切止めてくれ。



108 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:50:30.30 ID:dSVTqh60

「と、ところでお母様は何処?
ってミサカはミサカはさっきからずっと気になってた疑問を提示してみる」

「アンタは自分の成績から話題を反らしたかっただけでしょーが。そんなにヒドかったの?」

「美鈴ならホレ、あそこだ―――――成績はたっぷりプレゼント買ってもらってからにしような」


お父様ぁああああああ!!!!!!と感動のあまり叫び出しながら指さされた方向を見やると
そこには確かにレジで注文を通している美鈴の姿が見えた。
しかし、その隣には


「だからさぁ、ミサカはチョコレートブラウニーがいいって言ってるじゃん」

「でも体重気にしてるんでしょ?こっちの紅茶のシフォンとかのがいいんじゃない?」


……………… なんで番外個体がいるのォォォォォオオオオ!!!!!??????


番外個体とはここ数年一向に良い思い出が無い。

嫌がらせと称してあの人を押し倒して弄繰り回すは(あの人は一日中不機嫌だった)
殺し合いと称してあの人に筋肉バスター決め込むは(あの人は一日中寝込むハメになった)
色仕掛けと称してあの人のいる風呂場に裸で押し掛けるは(あの人は一日中本気で怒っていた)

つーか最後の一個違くね?色仕掛けっておかしくね?


まあ兎も角ミサカと番外個体は犬猿の仲とまではいかないものの
それなりのライバル関係を築いているわけである。あくまでこっちが一方的にかも知れないが。


「なんで!?なんで番外個体がここにいるの、お父様と一緒にリオデジャネイロにいた筈じゃ!
 ってミサカはミサカは頭の中で一人混乱してみるぅううううう!!!」

「口に出てるぞ打ち止め。つーか俺が呼んだんだけどよォ」


なんで!?
いや確かにバディでいったら番外個体の方がミサカよりずっといいかもしれないけれど
主に胸とか胸とか胸とか胸とか!
そんなにおっきいおムネが好きならお母様で十分じゃない、
一番最初に再開したとき埋もれてたじゃない(※三話参照。あくまで彼の故意では無い)、
ってミサカはミサカは憤慨してみたりムっっっっっっキィィィィイイイイイイ!!!!!!


「いや、だから口に出てるっつーの。つか俺を巨乳フェチとして認識してたのかオマエは」



109 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:52:12.39 ID:dSVTqh60

「あっれえ~?もしかしてそこにいるの最終信号?
久しぶりだからミサカてっきりもう少し成長してるものと思ってたんだけど―――胸とか」


「あっれえ~?もしかしてそこにいるの番外個体?
 一体どこのオバサンかと思ったってゆーかあの人に昔ロリコン疑惑かかったの忘れたの?
 ってミサカはミサカは付け上がってる勘違いオバサン(笑)を嘲笑ってみたりHAHAHA!!」


「その疑惑が解消されたのはあの人のところから巨乳メイド本が発見されたからだ、
ってミサカは記憶してるんだけど?」


「残念でしたアレはお姉様に家宅捜索される前にヒーローさんが託した一品ですぅ!
 ってミサカはミサカはあなたの容量の足りないメモリーを憐れに感じてみたりプギャー!!」


「でも結局はその後ミサカの裸見て顔赤くしてたよねあの人?欲情したって事はつまり……」


「あ、あれはあなたがあの人の入ってるお風呂に勝手に入ったんでしょ!
あの人はあなたに対する怒りとあなたに欠けた羞恥心に憤慨して赤くなっただけだもん!
 ってミサカはミサカは覗かれて可哀そうなあの人の気持ちを代弁してみたり!!!!!!!」


「下半身見とけば良かったなぁ~~そしたらミサカネットワークに『勃っちゃいました☆』
って既成事実が残せたのにミサカ超残念」


「何この羞恥プレイ。つーか生ゴミ見るよォな目で俺をみるな」


「………………ジトー………………(← 美琴・美鈴)」


「ま、若い男ならそういう本の一冊や二冊持ってても仕方ないよな」


「だからアレは三下のだって………同情するなァ!!!」


女の戦争、勃発。



110 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:53:24.65 ID:dSVTqh60

セブンスミスト4階、女性服売り場一角。


「え、最終信号まだそんな子供っぽいの着てるわけ?イヤミとかじゃなくミサカ本気でビックリ」

「い、いいじゃない可愛いモン!!ってミサカはミサカはお姉様に同意を求めてみたり―――
 ―――ね~お姉さ、ま?」

「………… いや、流石の私も高校生になったらそうゆうのは着なかったかな、って。可愛いケド」


お、お姉様まで!!?ミサカの少女趣味に理解を示してくれるのはお姉様だけだったのに!?
驚愕する打ち止めとそれを宥める美琴、その様を見て笑いこける番外個体という
『何処にでもいる普通の姉妹』のような光景を御坂夫妻は眼を細めて見守っていた。


「やっぱり、あの子たちが普通に仲良くしてる光景見ると和むわね。シロ君もそう思わない?」

「―――――― 別に」


一方、一方通行はそんな様子を一歩離れたような風に眺めていた。
そんな眼をしているときは大概ネガティブな考えに陥っているときかも。
と末の娘が言っていたのを思い出し、
美鈴はとりあえず自分の『息子』の調子をイジる方向で取り戻すことにした。


「よし、なら和み系待ち受けとしてあの光景をシロ君のケータイに設定しちゃおう!」

「あァ!?ふざけンじゃねェぞこのババア!!」


娘の家族は、それがどんな形であれ自分の家族である。



111 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:53:54.24 ID:dSVTqh60

「さて。美琴ちゃん達の服も一通り買ったし、あとはシロ君のだけかな」

「俺は別にいらねェつってンだろォが、テメーで買うっつーの」

「子供が遠慮するもんじゃないぞ。取りあえず目指すは脱・モノクロだな」


いつの時代もこう来られれば子供は大人に勝てないものだ。
魔法の言葉『遠慮するな』は学園都市第一位にも有効であったらしい。
一方通行はアレやコレやと多種多様な服を宛がわれてはああじゃないこうじゃないとまた戻る
人形さんゴッコに付き合わされるハメとなった。


「うぅん、スタイルは良いクセに目つきの所為でパステルカラーは一切ダメね」

「俺にパステルカラー着せよォとすンな」

「じゃコレは?9人しかいない超能力者の頂点サンにミサカのお勧め☆」

「そのステテコどっから持ってきた返してきやがれ」

「あ!じゃあコレは?ゲコ太のアップリケ可愛いし」

「オマエはそれを俺に着せようとしてンのか超電磁砲」

「ミ、ミサカはこれが良いと思うってミサカはミサカは………!!!」

「何処まで続くんだオマエのその飽くなきYシャツへの執着心」


それも、誰もまともに選ぶ気の無い延々と続く地獄の人形ゴッコに。



112 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:54:23.60 ID:dSVTqh60

一方通行が文句ばかり並べるために(当たり前だ)、
男は男同士、結局は旅掛が彼にチョイスすることで落ち着きを見せた。
キャイキャイとアレはどうだコレはどうだと騒ぐ女共を尻目に二人は紳士服売り場へ向かう。


お前さん位の年齢になると私服に口出されるより一張羅で質の良いのを貰う方が良いだろう、
というのが彼の意見だ。
まともな奴が残っていて良かったと一方通行は真摯に感じたという。


「コレはどうだ?」


提示されたスーツはセンスのいいもので、細身の自分にも丁度いいもののように思われた。
娘共のセンスは母親譲りなのかもしれないと自分のことを棚に上げた感想を抱く一方通行は
素直にそれをプレゼントされることにした。


「まあ何だな、女の買い物っていうもんには男は付いていけねえな」

「あァ」

「リオデジャネイロについ最近までいたろ?あそこでもあの子のはしゃぎ様は凄くてな
 いやあ、若い女の子に色々と振り回されるのは男なら誰でも通る道だな」

「それは全面同意する」


レジを通して品を受け取った一方通行は正直なところ旅掛と何を話せばよいのかも判らず、
旅掛が話す内容に相槌を打ったり軽く反応し返したりと会話を向こうに任せきりにしていた。


だからこそ、一方通行は気付けなかった。
旅掛が自分と二人になる場所を探していたことに。旅掛の纏う空気が急に変わっていたことに。


「ところでよお、シロ」


旅掛の問いは、あまりにも唐突だった。


「アレイスターの奴はどうした?」



113 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:55:00.47 ID:dSVTqh60

シュン、
と空を切るような音がしたかと思えば、何もなかった空間にはいつの間にか女が一人立っていた。


「ご苦労だったな。結標」

「どうも。中々に大変だったけれど………あの子たちも頑張ってくれたから」

「少年院にいた奴らか」


そこに立っていたのは結標淡希であった。
任務を終え帰還した結標へと土御門は労いの言葉を一通りかけるとニタァ、と表情を翻し


「で?頑張ってくれたおかげで任務は早々に終わったけど
大覇星祭のショタに見とれて報告は大分遅くなっちゃいましたゴメンナサイ、と?」


な…… な……
結標は負けじと言い返そうとするものの、言われたことがなまじ事実であるだけに言葉が出ない。
というかこの男は何故そのようなことまで知っているのだ(今更な話だが)。
調べるにしても同僚のプライベートなどではなくもっと優先することがある筈だろう!


「一方通行から連絡があってにゃー、
『大覇星祭を囮にしてショタコン女を使ったから暫く帰ってこねェかも』ってな風に」

「…………あんの恩知らずうううううううう!!!!!!!!!!」


とまぁそれはさておき。
自分で話題を振っておきながらそう一度言葉を区切った土御門は、
しかしその一瞬でサングラスの奥に隠された瞳を真剣な眼差しに変え結標と対峙する。


「マズイ事になったな。学園都市にとっても、俺達にとっても、―――― 一方通行にとっても」

「ええ。まさか『アレ』がまた動いてるかも、なんて言ったら彼どんな反応するかしら?」


きっと今までに見たどの表情よりも凶暴な貌で、後先考えずに全部ブッ壊してくるだろうさ。


カツ。
時計の針が音を立てて、小さく動いた。



114 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:56:16.37 ID:dSVTqh60

「そう言えば聞いてなかったけど、なんで番外個体はあなたに呼ばれたの?
 ってミサカはミサカは抑えきれない動揺を必死に隠しながらあなたに尋ねてみたり」

「隠せてねェよ。――――呼んだのは調整の為だなァ、定期健診」


定期健診。
量産能力者として急速な成長を求められた妹達は
かつてならその短い寿命を延ばすために幾度も『調整』を繰り返す必要があった。
現在は定期健診という形をとった一年に数度の『調整』で済んでいるが、
他の個体より設定年齢を上げて誕生した番外個体は今でもかなりの頻度で健診が必要なのだ。


「冥土返しン所で暫く『調整』だ。入院にはなンねェからウチで預かることになる」

「えぇー!!あなた番外個体が来る度に酷い目にあってるじゃない!ミサカ見てるのが辛いよ、
ってミサカはミサカは……………」

「嫉妬乙(笑)」

「からかうのは止めたげなさいよ、って美鈴は美鈴は嗜めてみたり」

「いや、ママも十分からかってるよね」


女共の会話は軌道をずらしながらも延々と続いてゆく。





結局。
一方通行は旅掛の問いに答えられなかった。
答えなどとうに知っていた。だが、敢えて答えなかった。


『その時が来たら言えば良い。だが背負い込むなよ、頼ることを学べ。
―――俺達からすればお前もまだ相当ガキなんだからな』


一方通行は知っている、失うことの恐ろしさを。
一方通行は知らない、他人を巻き込んでしまったときそれは何処に繋がるのかを。


「――――――俺だ。結果はどォだった?」


だからこそ、一方通行は。



115 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:56:47.19 ID:dSVTqh60






カツ…カツ…ローファーを地面に擦りつけながら歩くとわざとらしい音色が聞こえたとき、
男はもう逃げられないと悟ってしまった。


「…… お、お前達は何なんだ!?」


何処まで逃げても眼の前に潜む『敵』が迫る。
何処まで逃げても『奴ら』は必ず自分を見つける。


「何処の所属だ!?まさか……リ、『リメイク』なのか!?」


経験則から導き出された結論には既に自身の決定的な死しか見当たらなかった。
ならば、やることは一つ。
端末で繋がった『本部』へと少しでも多くの情報を相手にバレないよう残すだけだ。


だが。


「ざぁーんねん、半分アタリだけど半分ハズレ。
確かに俺は『リメイク』所属だが、あそこにゃ山ほど小分けされた『部署』があるしな」


自分を追ってやって来た筈の青年はさも下らなそうに『機密事項』をペラペラ語り出す。
まるで「そんなことも知らないのか」と馬鹿にするかのように。
事実、青年は続ける。


「所属メンバーまでは統括理事会クラスの権限か超電磁砲クラスの電子制御能力か、
 はたまた守護神クラスのハッカー能力がなけりゃ無茶ってモンだが ――――――――――

 ――――――――――――――――――― コレくらい知らなきゃ、話にすらならねえよ」



116 :第四話 『部屋とショッピングとミサカ』 :2010/11/30(火) 20:57:32.82 ID:dSVTqh60

瞬間。自分の肩が『何か』に貫かれた。
それが『どのような物』なのかは肩を見やれば一目で判る。
しかしそれが『何であるのか』が、男にはまったく理解できない。


「どうせ何処かで聞き耳立ててる奴がいるんだろ?なら耳かっぽじってよぉく聞いとけ」


そして、自身を射抜いた『羽根のようなもの』の塊を背中に纏った青年は、


「所属組織は『リメイク』、担当部署は『ケルビム』 ――――――」


もう一度、今度は背中の『羽根』で創った槍で持ってして眼の前の男を刺し貫くと閑かに。
そして吐き捨てるようにして呟いた。


「――――――この姿を見て 『Cherub <智天使>』 だとか、笑っちまうほどにムカつくだろ?」


青年は―――――垣根帝督は、
男の傍に落ちていた端末を勢いよく踏みつぶしてから痛みに泣き叫ぶ男の頭を鷲掴むと
デートにでも誘うかのようなその風貌にまるで似合わぬ柔和な笑みを一つ浮かべ
にこやかに「こう」訪ねた。


「お前の知ってるミサカネットワークについての情報、吐け。全部」


物語は動き出す。
平和に色付く光の世界と暗く佇む闇の世界、表裏一体の協奏曲をBGMとして携えて。
物語は今、確かに動き始めてしまった。




                                            『部屋とショッピングとミサカ』(完)



119 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/30(火) 21:29:32.05 ID:FtQ9ifMo
第二位…だと?

おもしれえ!
おつ!



120 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/30(火) 21:33:12.07 ID:rNsxeoAO
「明日は玉入れ」じゃなかったのかよとかツッコミ入れようと思ってたらまさかのシリアスだと……?


滝壺とあわきんがレベルアップで良いのかな?



121 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/30(火) 23:50:44.70 ID:8rkDGQDO
乙。ほのぼのが一転してシリアスに…



122 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/01(水) 00:27:48.34 ID:Vj2DX7c0

>>120様 第四話のどっかに「午後」という記述を入れようとしてすっかり忘れてました。
美鈴さんと番外個体が食べていたのはお昼でしたのです。
ちなみに午前は深夜学園都市に来た旅掛さんと番外個体と一緒に美鈴さんも寝過ごした設定でした。
書きなおそうと思って間違えてどっさり消しちゃったままなんですけど。

以下、午前中にあった玉入れの様子。


【小ネタ】 9月21日 玉入れの記録

玉入れで勝利するために必要な手段は色々とある。
まずは単純に玉を入れること。とにかく入れて入れて入れればいい単純な話だ。
次に相手が玉を入れるのを妨害すること。これはルール上許されている。
そして終了間近に玉の入った籠を落とすこと。要は最終的に玉の多かった方の勝ちなのだから。


故に、打ち止めのクラスは――――――


「ウチのクラスは圧倒的に防御に弱い!!だから入れまくれェェェェエエエ!!!!!」

「競技終了2分前、相手の籠倒しにかかれェエエエエエ!!!!!!!」


ひたすら、内と外への攻撃に徹していた。
そして強能力者の電撃使いである打ち止めはというと、


「もう……だ、出せないぃ……」


もう何十発も電撃による攻撃を放ち、相手の妨害から自身の籠と玉入れ組を護っていたのだ。
打ち止めの体力は既に限界である。


「あぅう……ゴメンなさい、みんなぁ……とミサカは、ミサカは……」


打ち止めは既にこの状況を諦めていた。
だからこそ、応援に来てくれているあの人に向けて、一言ゴメンと言おうとしたのだ。
そうしたら、



123 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/01(水) 00:28:24.59 ID:Vj2DX7c0

「行けェェェェ、ラストオーダァアアァアアアア!!!!!!」REC〈 ジー ← ビデオ

「いやお前美鈴さんの代わり務めようとすんのは解るけど何処のお父さん?」


打ち止めは慣れない大声を上げながら自分を見守る『あの人』(とそれにちょっと引くヒーローさん)
を見つけた瞬間、打ち止めは世界が変わった様な気がした。
まだ頑張れるかもしれない。体の奥底から不思議な力が湧いてくるような、そんな不思議な間隔。
そして、


「あ。御坂をお姫様抱っこしてた人だ」

「あ、マジだ。今日も何かやんのかな、あの人」


クラスメイトの一言で、不思議な力は何だか変な方向に向いた。


「ミ、ミサカはミサカはミサミサミサミサミサ nxtferfehsjvfdgsfgfgzgdhjskkhf………」


どしゃーん、びしゃーん、びりびり、キャー ミサカ ガ アバレダシター
がしゃーん!!!!!


奇跡的にも、恥ずかしさのあまり起こした全力の放電は、相手側の籠を落とすのに一役買ったようだった。


「流石ウチの打ち止めだァ!!
もうダメだと見せかけて最後の最後でアレとは――――やっぱりアイツは天才だな!!」

「…………………ホント何なのお前」



『あの人』の喜びは親心なのか、はたまた。





実はこんなことがあったのでした。           凄く言い訳ポイのですが(笑)



124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 00:34:13.63 ID:xr6rwR6o
一通さんwwwwww


126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 05:17:17.57 ID:2DrbtEAO
何この世界一の親バカ


127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 15:32:44.97 ID:eniZYsAO
ビデオに声が入りまくりだなww再生するのが楽しみだwwwwww


128 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/01(水) 19:54:02.99 ID:Vj2DX7c0
>>127様 つまりこうゆうことですね。


「シロ君、行けなかった玉入れのビデオ見せて」
「おォ持ってけ」

pi!←再生

『ミサカはミサ――行けェええええ!!!ラストオーダーァアアアそこだァアアア!!!!
 ちょ、お前目立ってるから恥ずかしいから!うォオオオオ!!!!――サカはミサカは頑張って――良いぞォオオオオ!!!!』

「………………」
「やっぱ何度見てもウチの打ち止めは天才だなァ」


なんという親バ…お父さん。


以下昨日投下できなかった四話の小ネタになります。打ち止め VS 番外個体の女の戦い。



129 :【小ネタ】 部屋と第四話と番外個体 :2010/12/01(水) 19:55:06.94 ID:Vj2DX7c0

遡って少し昔。
これは番外個体が初めて一方通行・打ち止め宅を訪れた日の夜の話である。



「ふぃ~お風呂上がったよ~ってミサカはミサカはあなたに後続を奨めてみたり~」


風呂から上がった打ち止めは残された一方通行にまだ湯が温かいうちに入浴することを勧めた。

一方通行は以前、打ち止めが入ったずっと後のぬるま湯に浸かったまま疲労で寝こけてしまい
風邪をひいたことがあるためだ。

それ以来彼女は一方通行が入る直前に湯を沸かすか、自分が出た後に声をかけるよう努めている。


「おゥ、今入る」


一方通行がキチンと風呂場へ向かったところを見届けると
今日も一日勤めは果たした、と打ち止めはご満悦気味にソファへともたれかかった。

しかしそこである疑問に気付く。


「アレ?番外個体は?ってミサカはミサカは……」


ミサカがお風呂に入るまではここでお笑い番組をみて爆笑してたのに。
打ち止めがそこまで思い返したところで、


「ウギャァアァアアァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


事件は、起こってしまった。



130 :【小ネタ】 部屋と第四話と番外個体 :2010/12/01(水) 19:57:29.35 ID:Vj2DX7c0

「ちょ、ちょっと何してるの!?ってミサカはミサカは……!!!」

「何ってサービス?折角ミサカが体洗ってあげようとしてたのに―――――おっぱいで」

「ふざけンなよ、こンなことの為に人の電極に干渉してきやがってよォ!!」


風呂場は色んな意味で阿鼻叫喚……いや修羅場と化していた。
裸の女子大生が細身の男を押し倒し、男の家族で女と同じ顔をした少女が女に憤慨している。
これを修羅場(しかも寝取り系)と呼ばずに何と呼ぼうか。


「ミサカはあなたを憎むために生まれてきたんだもの。これくらい色仕掛けの一環でしょ」

「色仕掛けって違うよね好意持ってる人間のやることだよねってミサカはミサカは……」

「ヤる?まだ下の方には手ぇ出してないけど銜えるくらいした方がイイ?」

「銜えるとか!せめて触るって表現にしろってミサカはミサカは果たし状を叩きつけて……!」

「おィ、もォそれ何の話だ。つーかオマエら二人とも出てけ」



それ以来番外個体が来た際は
一方通行が入浴する前に声を欠けるだけでなく風呂場の前で警戒網を敷くことが
打ち止めの習慣になったのは、言うまでもない。



「ちょっとデカいくらいの下位個体に、ミサカはミサカは負けないんだから!!!」


ついでに書き加えるならば
入浴後のバストアップ体操が習慣になったことも、言うまでもない話の内である。



                                            『部屋と第四話と番外個体』(完)



131 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 20:00:29.14 ID:dhoEKxIo
ちょっと第一位もいでくる

止めないでくれ



132 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 20:06:36.32 ID:D1fDLFIo
>>131
待てよこれ持ってけ、何かに使えるかもしれん
つLO



135 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/01(水) 20:17:47.83 ID:YEVBrHE0
>>131
これも持っとけ、もしかしたら死なないですむかもしれん
つ冷蔵庫



136 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 00:34:03.31 ID:KhxnbyAo
>>131
よかったらこいつも使ってくれ
つ「木原神拳指南書」



137 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 01:26:52.75 ID:t41PT7.o
>>131
選別だ
つ[美琴のアルバム(小学校低学年編)]



138 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 06:27:34.51 ID:mNc51hYo
なンでンなもン持ってるンですかァ!?



140 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:05:31.47 ID:5F1TNt.0

いつも通りのHR。
いつも通りの薄らハゲた担任。
しかしながらその隣。


「えー、突然だが」


なんで。


「急な事故で入院された藤崎先生に代わって『能力開発概論』を担当することになった
特別非常勤講師の先生を紹介する」


なんで。


「――――― 鈴科です、宜しく」


なんであの人ウチの学校来てんのぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!





≪ 第五話  部屋と臨時講師とミサカ ≫



141 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:07:45.17 ID:5F1TNt.0

7 日間に渡る大覇星祭は滞りなく終了した。
結果は惨敗。
上位30校にすら入れなかったが、ミサカの頑張りはお母様がしっかりとビデオに残してくれた。


お父様とお母様はまだ学園都市内のホテルに残っている。
お母様曰く、
「学園都市はなかなか立ち入れないんだし美琴ちゃんや他の妹達ともっと遊んでから帰る」
とのこと。


カエル先生の所に健診に来た番外個体は現在我が家に居候中だ。
再び風呂に侵入しようとしたところをミサカが撃破したのは言うまでもない。
しかしあの上位命令文対策は厄介だ。
ああいうものはもっとモラルのある個体に付けてあげて欲しい―――― アレ?いなくね?


今朝も朝ごはんの内容に関して番外個体と一悶着終えてから
(我が家の朝ごはんは米でなくパンだ!あの人のコーヒー事情の為にもこれだけは譲れない!)
ミサカは登校したのだが……



142 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:08:34.84 ID:5F1TNt.0

確かに。
確かに今朝あの人は言っていた。
「暫くいつもの研究所じゃなくて別ン所に仕事行くことになったから」、と。


これだけなら以前もあったことだ。
例えばそれは別の研究機関の視察であったり、カエル先生のところのお手伝いであったり、
各教師陣に向けた授業としての能力開発の指導であったり。


でも。


ウチの学校に来るなんて聞いてない!!!!
あの人もドッキリ☆サプライズなんて決め込めるようになったのねオチャメさん♪
なんて言ってられるかァァァアアアアア!!!!!!



「ちょ、ちょっと!なんであなたがこんな所に!ってミサカはミサカは……!!」ガタッ

(てゆーかあの人前に学校来てなかった?)ザワ…

(あー、なんか御坂さんの彼氏?とか言ってなかった?)ザワ…

(え!彼氏が講師とかヤバくね!?)ザワ…



YABEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!
あばばばばばばばどうしよう!調子のって彼氏とか言うんじゃなかった!
「何で来てるのお兄ちゃんったらプンプン☆」ならまだマシだったものをををををを!!!



「どうした御坂?急に立ち上がって」

「イエ。何デモゴザイマセン、トみさかハみさかハ即座ニ返答致シマス先生様」



ああ、これからどうしよう。


143 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:09:18.23 ID:5F1TNt.0

「先生ぇー、御坂さんとはどのようなご関係ですかー」

「妹だァ、いもォとォ」

「先生ぇー、でも名字違うんですけどー」

「家庭の事情だ察しろォ」

「先生ぇー、彼女とかいますかー?いなかったら是非候補に……!」

「好みのタイプはハタチ以上、人のことをアレコレ詮索しない女ァ」


担任が居なくなった途端コレだ。
後はお若い者同士で、って お 見 合 い か。


というかやっぱりあなたはミサカのことを妹としか思ってなかったのね……!!!
二十歳以上、二十歳以上って!!!!




結局、あの人への質問タイムはかれこれ20分以上続いた。


「先生ぇー、おっぱいは大きい方が好みですか、ってミサカはミサカは 「黙れ」



144 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:10:14.55 ID:5F1TNt.0

部活動を終えて職員室を覗いてみると、講師としてのあの人の席が確かに用意されていた。
見ればあの人も既に仕事を終えているようだったので、
状況説明も兼ねて一緒の帰宅を要求することにする。


隣同士の座席に座った学校指定のスクールバスに揺られながら二人は帰路に着く。
しかしあの人を誘っておいて何だが、何から聞けばいいのか全くわからない。



「ね、ねぇ……ってミサカはミサカは不安げにあなたに尋ねてみたり…………」

「…………何をだ」

「また、危ないことしてるワケじゃ、ないんだよね、ってミサカはミサカは確認してみる」



『何故ウチの学校に来たのか』、『どのような経緯でそうなった』のか。
本当はそんなことどうでも良かった。
一番聞きたかったのはそんなくだらない事じゃなく、『何に関わってそうなったのか』、だ。


かつてあの人は、『妹達』を護る為に何度も命を落としそうになった。
だからこそ、



「また、あんな風にケンカしたりしないよね、ってミサカはミサカは聞いてみる」

「……、あァ、約束する」



昔に交わした意味のない約束を、打ち止めはまた口にした。





145 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:11:41.50 ID:5F1TNt.0

「講師として潜り込むだァ?」

「ああ。敵の出方が解らない以上、『妹達』の司令塔である最終信号の警備は厳重にすべきだろう」


一方通行達は自らに宛がわれた一つの個室で
情報交換とこれからの作戦及び対応について話し合いを進めていた。
そこで出てきた提案がこれだ。


「それについては俺だって同意だァ。だが………些か無理がねェか」

「大丈夫よ、あの子の学校の教師を一人『事故』で入院させたから」

「それは傷害事件って言うンじゃないンですかねェ。―――それにしたって無理があるだろォ」


いくら教師を一人入院させたところで、都合良く自分を教師の座に納められるとは思えない。
「一体どンな手段を使うつもりだァ?」、そう一方通行は訪ねようとしたのだが。


「何の為にお前を表舞台に立たせたと思っている。この為だろう?」

「違ェよ少なくともこの為じゃ絶対ねェ。つーか俺に『どうにかしろ』って言いてェのか」

「 b 」

「なンだよあの親指圧し折ってやりたい」

「文句があるなら自分が変わりましょうか。適当な野郎の皮剥いで転校生として潜り込むとか」

「死ね海原キモい」

「死ね海原ウザい」

「死ねロリコン死ね」

「だって!!一方通行さんはその生活の何処にそんな不満があるって言うんですか!?
 この前は御坂さんと義母様とお買い物に出かけて!
 果てには現在ちっこい御坂さんとおっきい御坂さんと絶賛万歳同居中!!!
 コレで文句を言うだなんて全世界のミサコンに向けて土下座して謝って下さい!!」

「ミサコンとか」

「義母様とか」

「死ね海原死ね」



146 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:12:09.39 ID:5F1TNt.0




そんなこんなで、
一方通行はこれまでに築いてきた自分の全コネを使って特別非常勤講師に就任するとなった。
これが彼のプライド諸々と引き換えになったことは、彼と当事者の内緒である。




147 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:12:58.67 ID:5F1TNt.0


打ち止めと一方通行が乗ったスクールバスは彼女らが籍を置く学校の学生寮前で停止した。


当たり前だ。
本来なら在籍する殆どの学生が此処に住まうのだから。


打ち止めは『妹達』特有の短い寿命や、
未だ複雑な立場にあるための「何かあっても一方通行と一緒なら安心だから」といった理由から
『体が弱い為』と偽って学生寮の外にあるマンションで暮らしているに過ぎなかった。


したがってバスを降りた二人は自分たちの住処まで5分ほど徒歩による交通を余儀なくされた。
形だけの『約束』に納得はしたのか、
今日は学校で何があっただの、あなたはどうだったかだのと次々と話題を出す打ち止めは饒舌だ。


「それでね、今日のミサカのお弁当はあなたがつくったんだよ、って教えてあげたら――――」


ふいに、一方通行が足を止めた。
彼がどうしたのか解らずに、打ち止めは自身も足を止めて隣を歩いていた彼を見上げる。


「――――ねぇ、どうしたの、ってミサカはミサカは……………」

「………… 三下だ」



148 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:15:00.15 ID:5F1TNt.0

言われて前を見やれば何がどうあったのか往来でボインの女性を押し倒すヒーローさんの姿があり
そりゃああんなもの見せられた日にはビックリして足も止まるわ、と思わず納得してしまった。


「こンな所で何やってンですかァ、三下くンよォ」

「ア、一方通行に打ち止め………!!いやこれは違うんですよ?
 転びそうになったこの人を助けようとしたら偶々こうなって―――蔑んだ目で見ないで!!」


どうやら無意識のうちにヒーローさんの価値を生ゴミと同レベルまで格下げしていたらしい。
「やっぱり華のジョシコーセーがあんな所見ちゃったらそりゃあ幻滅だよな………ハハハ」
とゴミ条はこちらを見て申し訳なさそう(威厳を失ったことを嘆いていたのかも知れない)に謝って来た。


「つーか三下ン家は方向コッチじゃねェだろ、まァたお人好し精神丸出しの人助けですかァ?」

「いやお前の所にレポート聞きに行こうかと思ってたんだよ、能力開発概論。
 ビリビリに電話してみたけど繋がんないし、上条さん馬鹿だからお手上げなんですよ……………………」


でもやっぱり年下の女の子に勉強教えて、って言うのは恥ずかしいから良かったカモ。
今日はヒーローの面目丸潰しだ。



149 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:18:55.01 ID:5F1TNt.0

上条の申し出にハァ、と心底面倒臭そうに溜息をついたあの人は、


「仕方ねェな。ならクソガキ連れて先ィ家帰った後、一端自分ン家戻ってあのシスターも連れてこい」

「え、インデックスも?何で?」

「オマエに理解させるとなると時間かかりそうだから
暴食シスターが喚きだす前にウチで飯食わしてやるっつってんだよ、ゆゥはン。」


あ、アクセラレータ様ァアァァアアアアアア!!!!!!!!!
あのシスターの食費が2食分(このパターンはいつもお泊り・朝食付きに変更されるのだ)
浮くと言うのだからヒーローさんの喜びっぷりも解るというものだ。


だが、ミサカには一つ納得できないことがある。


「どうしてミサカ達に先帰れなんて言うの?ってミサカはミサカはスルーされた問題を突きつけてみたり!」

「学校に書類忘れて来ちまったんだよォ、明日までの。だから先帰ってろ」

「なら俺ン家行ってインデックス連れてきてから一緒に………」

「ガキには宿題とか色々あるンですゥ。この前のテストだって酷かったし――――門限は8時だ」

「いやそれ少し過保護すぎだろ」

「このガキは中身6歳児なンだよォ」

「でも!今時の女子高生に8時はキツすぎるよ、ってミサカはミサカは―――あぁ、もうなっちゃう!!」

「だァから先帰れっつってんだァ」


頼ンだぞォ、ヒーローォ。
ヒラヒラと手を振りながら踵を返すあの人に、「行かないで」、とミサカはそう言いたかった。
それが何故なのかミサカにも全く解らない。
そう。ミサカはまた気付けなかったのだ、あの人のサインに。



『頼ンだぞ、ヒーローォ』



あの人が彼本人に向って言う、その違和感に。



150 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:19:57.98 ID:5F1TNt.0

9/26 PM 8:05。
家に帰ると番外個体がソファに寝そべって煎餅を貪りながら恋愛ドラマの撮り溜めを眺めていた。
製造ライン的には『妹』に当たるのに、言動だけはこんなにも年上(オバハン的な意味で)染みている。


「ただいまぁ、ってミサカはミサカは一応あなたにも律儀に挨拶してみたりぃ」

「おかえり最終信号。ま、ミサカは一方通行には挨拶するつもりはないけど―――――――」

「いないよ、あの人。学校に忘れ物取りに行った、ってミサカはミサカは残念なお知らせ」

「な、なななななななな!!!ご飯でも囲みながら
『JK に囲まれてどうしたワケ?あ、JKなんてアナタには解らないかごっめ~ん☆』って
バカにしようと思って折角ミサカがわざわざ帰宅に合わせてご飯作っといてあげたのに!!」

「長いし文章おかしくなってる。あの人が講師になったの知ってたんだ、ってゆうか
 朝料理できないのバカにされたこと実は気にしてたんだねってミサカはミサカは―――――」

「料理~?べっつに気にしてませんけどぉ~?
 この経験知得るためにミサカネットワークに繋いだりしたワケじゃないですけど~?」

「あぁ、昼間の『男を落とす手段って言ったら料理だけどお前らできるの?』って挑発は
 反論する別個体から言葉巧みに情報を聞き出すためだったんだね、ってミサカはミサカは思わず説明口調になっちゃうよ」


しかし確かに美味しそうな匂いである。
夕飯にベーコンエッグとトーストという組み合わせもアレなのだが。
朝食に寸分違わず出された同じメニューは料理に一心であった彼女の思考からは消えていたらしい。


「悪いんだけどあと10人前追加で作ってくれるかな?
お客さん来るし、ってミサカはミサカはあなたに料理を急かしてみたり」

「ハァ、10人前!?なんでミサカが――――」

「あの例の暴食シスターが来るからやっぱり10人前じゃ足りないかも、ってミサカはミサカは解説を――――」

「だから、な・ん・で・ミ・サ・カ・が!!って聞いてるの!最終信号が作りなよ!!!」

「いいの?ミサカがそんなに大量のご飯作ったら折角のあなたの『お初』が薄れちゃうよ?
 ってミサカはミサカはあなたを誘導してみたり」

「た、確かにミサカの処女作が………誘導言うな」

「処女作言うな」


まぁ、取り敢えず姉妹なのである。
ふつーに。



151 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:21:02.24 ID:5F1TNt.0

9 / 26 PM 8:20。

「おじゃましま~す!!ってインデックスはインデックスは挨拶してみたり~~!!」

「だから一方通行はそうゆう喋り方の女の子に甘い訳じゃないし、
 そんなしてもご飯を多く出したりしてくれもしないから!!あ、俺もお邪魔します」


ヒーローとシスターのご訪問である。
相変わらず賑やかだ。


「だって!良い匂いがしてご飯が待ちきれないんだよ!!ホラ、あそこに美味しそうなご飯が………!!!」

「まだ一方通行帰ってきてないのか―――こらインデックス、家主が帰ってくるまで手をつけちゃいけません!」


『良い匂い』と『美味しそう』の言葉にピクピク反応する番外個体を観察するのは面白い。
いまにもにんまりとした満面の笑みでも浮かびそうな赤面を必死に隠している姿が笑みを誘う。
本当はあの人が帰ってきてから皆で手を合わせたかったのだが、
こんな珍しい彼女の姿を見ていると思わず「ま、いいか」で済ませてしまえる。


「いいよ食べよう。せっかく番外個体の『初めてのお料理』なんだから冷めないうちにさ、
 ってミサカはミサカは提案してみる」

「そ、そんなこと態々言わなくていいから!~~~もういい、席についてあの人の分まで食らいつくそう!」


なんだか番外個体ってどこかビリビリに似てきたよな、雰囲気とか。
―――― それは『ツンデレ』というのでは、ヒーローさん?


「さて。ではミサカはミサカは音頭をとっちゃうぞ、それじゃ手を合わせて!!」

「「「いただきま――――」」」

「だでェまァ」

「「「「………………」」」」


―――――――こっちのヒーローはこっちのヒーローで、タイミングが悪かった。



152 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:21:42.99 ID:5F1TNt.0

9 / 26 8:03

「電話、誰からだったんですか」

「一方通行。どっかから来たストーカーを『回収』に来てくれって」


電話を受けた結標はキャンピングカーで同行していた海原へと包み隠さず報告した。
こんなこと隠したところで意味もメリットもないのだが。


「一人情報提供してもらうことになったから『カウンセラー』を呼んどけって」

「――――彼女ですか。
先日も『お仕事』して頂いたばかりですし、また一方通行さん絡みとなると良い顔しないでしょうね」

「新しいドレスの1 つや2つ買ってやれば多分問題ないわよ、アイツ無駄に金あるんだし」


しかし、最近何かと『仕事』が多い。
こんなときは何か大きな『事』が起きる前触れだ。
―――フラグを立てるようなでしかない自分の考えに、結標は今日も溜息しかつけない。



153 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:23:52.74 ID:5F1TNt.0
9/26 PM 8:25


「………つーかなンでハムエッグトースト?」


夕飯を囲んだ後は
(結局シスターは15人前を食らい尽した。あの人の疑問には番外個体の鉄拳制裁が与えられた)
各々好きなように騒いでいた。


ヒーローさんはレポートの解らない箇所を聞いてはあの人に馬鹿にされ、
しかしあの人も時にその分野について教師にも教鞭を振るう立場にあるからか意外な教え上手らしく、
「あぁ!俺学園都市来てこれ初めて理解出来たわ!」なんて言ったりもしていた。
―――――よく大学まで行けたな、と思う。


シスターはミサカと一緒に先日買ったDVD『超起動少女カナミン THE MOVIE ~初回限定生産版~』を見ていた。
番外個体に関しては「これ配達屋さんから受け取ったのあの人だったんだけど、」
と洩らしてしまってからはもの凄い食いつきを見せ、
内容を見た上であの人がどれほどオタクに見られたのかからかおうとしたらしいが―――――
――――――ものの5分でカナミンの素晴らしさに陥落してしまった。


「素晴らしい映画だった。カナミンは大人の鑑賞にも堪えうる映画だよ………」
そう洩らす番外個体もそしてミサカも、やっぱり中身は6歳児だった。



154 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:26:05.60 ID:5F1TNt.0

9 / 27 AM 2:08

「まだ起きてたんだ、ヒーローさんはお隣で爆睡みたいだけど?」


夜半唐突に目が覚めた番外個体は、水でも飲もうと廊下を出たところでリビングに灯りが点されていることに気付いた。
誰かさんが付けっぱなしで寝てしまったのだろうかと思い部屋を開ければ、
そこでは一方通行が携帯電話を片手に顰めっ面で座り込んでいたために冒頭に戻る。


「それも、帰りが遅くなったのに関係するワケ?」


それ、と番外個体が指さすのは一方通行の手に握られた携帯電話だ。
正確に言えば彼が先程まで睨みつけるようにして見ていたそのメール画面。


「関係ねェだろ」


視線を反らすように眼を背ける一方通行に番外個体は品の悪い笑みを浮かべながら言い放つ。


「このミサカがさぁ、気付かないとでも思ったワケ?――――アナタが持つ血の匂いにさぁ」


口元に大きな弧を描く番外個体は心底嬉しそうといったもので、その笑みには既に狂気が宿っている。


「ま。あなたが何しようが『何処』にいようが、あなたの言うとおりミサカには関係ないんだけどね。
でもそれが思わずミサカも勃っちゃうくらいアブなくてオイしい一品なら………あえてミサカも絡めてよ」



155 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:27:08.56 ID:5F1TNt.0

興奮してきちゃったから今夜は寝られないかも♪
そう言い残してリビングを出た番外個体に一方通行は一つ舌打ちした。



―――――― 迂闊だった。
『反射』が万全だった昔とは違うのだ。
能力使用モードを切れば、途端にそれらは作用しなくなり彼にその場の様々な物を押し付けてくる。
例えばそれは音であったり、痛みであったり………匂いであったり。


敏感なアイツならば確かに気付いてもおかしくはなかった。
このままではいけない
今後は何か気を遣わなくては、アイツらにいつか『バレかねない』。


「―――― クソったれが」


自身の言葉がこの腐りきった現実に向けてのものなのか、はたまた自分自身へのものだったのか。
理解できるものは本人も含めて誰もいない。
誰も、いない。




いまは。




156 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:27:55.67 ID:5F1TNt.0

9/26 PM 7:59

「対象が二手に別れたぞ………どうする?」

「仕方ない。1班は対照コード:Aを、2班は―――――」




「―――――― どっちも相手は『俺』だよォ」




路地裏の男達は驚愕した。
先程まで彼らが見張っていたうちの一人が『いつの間にか』自身らの目の前にいたのだから。


「鬼ごっこっつゥのは大勢でやるもンだろォが。二手だなんて連れねェこと言うンじゃねェよ」


瞬間、彼らに突風が突き刺さった。
吹き飛ばされたのではない。『刺さり飛ばされた』、そんな表現が的確だった。


ダメージを何とか押し込めて反射的に銃を向けるが、
徹底的に『対象』についての情報を叩きこまれた彼らはそれが『無駄』であることをとうに悟っていた。
そもそも、彼らは『対象』を討つために此処にいるのではない。
あくまで『対象』の動向をさぐるために見張りとして用意されたにすぎないのだ。


それなのに。
それなのに、何でこんなことに。


「うわぁあああああああ!!!!!!!!!」


叫び声をあげて逃げ出す男は、それが表通りへと伝わる前に首が跳ねられた。
無駄と知りつつ武器を振るった男は、案の定『反射』によって跳ね返った自身の弾で絶命した。
その他腰が抜けてしまった男、
恐怖に固まってしまった男、茫然と立っているしかなかった男は優しく拳銃で撃たれ死んだ。



157 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:28:26.83 ID:5F1TNt.0


一人、その場で殺されずに『敢えて』残された男が居た。
男は血の海に沈む同僚をただ茫然と見下げていた。


「さァて、オマエは行きますか」


唐突に放たれた『対象』の言葉に、男は彼へと静かにその眼を向けた。
そして、海となった血が凝縮されたような濁った瞳と限界まで釣り上げられた口角を見て、


「嫌だぁぁああ!!!!!行きたくない、死なせてくれぇええええええ!!!!!!!」


喚き散らす男になど眼もくれず、男の『対象』であった青年は彼の首元へとそっと手を当てた。
すると、


「ぐ、が、ぁあぁああああぁああぁぁぁあぁぁあぁあああああああああ!!!!!!!!!!」


朝締めされた鶏のような一声を上げて男が地面に倒れた。
男の眼球がぐるりと白目を向き、口元から噴き出した泡と共に彼の顔面を白く塗りつぶす。


「あーあ、やっちまったァ。――――まァ死ンじゃァいねェだろうが」


男からの興味が失せたのか、青年は携帯電話を取り出すと慣れた手つきでそれを操作し始めた。
着信ボタンを押したらしく、耳に携帯を当てると待ち時間が惜しいのかイライラと貧乏揺すりを刻む。


「はい、もしもし」


1分ほどしてやっと出た相手に暫く文句を零していた青年だが、とうとうそれすら馬鹿らしくなったらしい。
「さっさと来い」と要件を告げると自分勝手に電源ボタンへと手を伸ばした。


ピッ、と軽く音を立てて通信がと切れると青年はまるで何事もなかったかのように帰路を辿る。



158 :第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』 :2010/12/02(木) 20:29:15.38 ID:5F1TNt.0









あの暖かい家に戻る為には、何事も『無かったこと』にしなくては、ならなかった。









月日が経っても変わらないものがある。
それは信念であり、理想であり、関係であり、
そして。
『一方通行な思い』である。





                                               『部屋と臨時講師ミサカ』(完)




160 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/02(木) 20:32:08.17 ID:5F1TNt.0
本日の投下はここまでです。
明日は恒例の小ネタ(恐らく本当に小さいものでしょうが)の更新となります。

今のところ1日1更新を何とか保てているので嬉しいです。
ここまで読んで下さっている皆さんも拙い文章にだいぶお疲れでしょうが、どうかもう少しお付き合いくださいませ。



159 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 20:30:40.22 ID:lpIB/Nwo
ミサカが臨時講師。。。!


162 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 20:36:54.92 ID:GaRBPDoo
やべえ
こういうのを待ってた

さて、そのへん歩いてる中学生にシャツ押し付けてくる




163 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/02(木) 20:40:50.05 ID:5F1TNt.0
>>159様
あ!ホントだ、最後ミサカが臨時講師になってる!……また大事なところでやってしまった


多分そうゆう話ならこんなとかなんでしょうね↓

「鈴科くん!この文章を訳してほしいな、ってミサカはミサカはあなたを指してみたり!」

「………『私はミサカが好きです』」

「じゃあ次の訳はどうかなっ!ってミサカはミサカは頬を赤らめながら催促してみる」

「………『私はミサカに一目惚れしました』」

「―――なら、次はあなたの気持ちを言ってみて、ってミサカはミサカはロマンチックに言ってみたり」

「………前歯に青のり付いてる。昼に食べてたお好み焼きの。」

「はぅう!!」



164 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 20:45:33.18 ID:rnRcbJgo
「俺が舐めとってやらァ」


166 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/03(金) 12:37:31.37 ID:WWzQ7nMo
一方さん周りも上条さん周りも恋愛方面の進展は本編からほとんど無いのかなww
原作でもこういうほのぼの話を読みたいなぁ・・・




168 :【小ネタ】 部屋と第五話と御坂美琴 :2010/12/03(金) 19:18:02.56 ID:ETNPQCo0

>>148 「ビリビリに電話してみたけど繋がんないし、上条さん馬鹿だからお手上げなんですよ……………………」


これは、上条当麻から連絡を受けた筈の御坂美琴の、その裏側を描いた物語である。




『その幻想をぶち殺す!』
『その幻想をぶち殺す!』


隠し撮りされた着ボイスは、隠し撮った本人の喘ぎ声によって掻き消されていた。


「あぁん、お姉様!!そんな、そんなことをされては黒子はぁああん!!!」

「人の制裁を何キモチ良く受け止めてんのよアンタは!!いいから私の下着返しなさい!!!」

「で、ですがお姉様!!
 黒子にあの殿方の使い終わった割り箸やらストローやらを回収するよう申されたお姉様には
 そのようなことを要求する資格はないかとあばばばばばばばば」

「そ、それとこれとは話が別でしょ!!それにアレはゴミを拾う環境対策であって、
 アンタのはまだ私が使ってるパンツを盗ったんだから窃盗よ、窃盗!!」

「……お姉様。『50歩100歩』、『どんぐりの背比べ』、『同じ穴のムジナ』―――どれがお好みでして?」


御坂美琴は気付かない。
そこまで求愛する愛しの殿方から、いままさに救いを求める声が自分に発せられているということを。


『その幻想をぶち殺す!』
『その幻想をぶち殺す!』


――――― 彼女が着信に気付くまであと5時間。
――――― 彼女が電話の内容を聴いて『プライベートレッスン』の幻想がぶち殺されるまであと…………




169 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/03(金) 19:22:58.43 ID:ETNPQCo0
ここの打ち止めの妄想癖とストー……愛にめげない癖は『お姉様』から、ネガティブ思考は『あの人』から影響を受けています。
というよりここの妹達は対外『お姉様』の悪癖を受け継いでいます。DNAに刻み込まれていたんでしょうね。

以下は>>166様のお言葉を受けて、いつも書いている一方さんではなく上条さんの日常を話にしてみたものです。
とてもニマニマしながら書かせて頂きました。
他にも「こうゆうネタは使えると思う」などというものがございましたら、宜しければご提供ください。
拙くはありますがこちらとしては喜んで書かせて頂きます。



170 :【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん :2010/12/03(金) 19:24:31.75 ID:ETNPQCo0

とある日曜日の午後。
上条とインデックスは二人揃って散歩をしていた。


ここ最近大学の関係で忙しかった上条はインデックスに構ってやることができず、
久しぶりに取れた休日に何がしたいかと尋ねれば「とうまと一緒にいたい」と彼女が申した為であった。


しかし。
最初は『二人きりの静かで穏やかな時間』に終始笑顔だったインデックスの表情も、
今では阿修羅もビビって引くほどの形相を描いていた。



【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん



当然である。
相変わらず超フラグ体質を誇る上条当麻は、
ここ1時間で既に10人の『知らない女性』とハイパー・ボディ・アタックを繰り広げていたのだから。


最初の一人はおムネの大きなお姉サンだった。
上条は急な貧血に倒れかかった彼女を支えようと腕を伸ばしたところ、
何がどうしてああなったのかそのたわわに実った果実を右手でもいでいた。


二人目は丁度打ち止め位の女子校生だった。
公園に拡がる大きな通りですれ違った少女と上条は、
急な突風に広げ上がった短いスカートの中の可愛らしい苺パンツを目撃することになった。
それも丁度上条にしか見えない位置取りで。


三人目は小学生の女の子だった。
石に躓いて転びそうになった女の子を庇おうとして体を張った上条だが、
結果女の子が自身の股間にダイブすることとなった。


そして四人目は………ああもう話すことすらイライラする。



171 :【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん :2010/12/03(金) 19:25:06.70 ID:ETNPQCo0

とにかく。
上条の女性ホイホイ体質は熟年むっちり女からピチピチ女子高生、果てはぺったん幼女まで
幅広いバリエーションを伴って各所で彼にフラグを築かせた。


此処までの物を眼の前で見せつけられれば、嫉妬で噛みついたとしても誰も怒らないだろう。
インデックスはそう思う。


短髪はとうまと一緒に暮らす自分をよく羨んでいるが、これはこれで辛いものがあるのだ。


「ねぇ、とうま」


だからこそインデックスは時折確認する。
こんなに沢山の、
中には自分も物凄く可愛いと感じるような女の子達に囲まれた彼の隣に今自分が居ることが、
彼にとって『不幸』ではないのかと。


「私は、とうまと一緒にいたくてイギリスに戻らなかったんだよ……?」


すなわち。
彼も自分といることを、望んでくれているのかと。



172 :【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん :2010/12/03(金) 19:26:09.10 ID:ETNPQCo0

「とうまは、私といて、楽しい?」


インデックスはこの一言を発する為に多くの覚悟と決断を乗り越える必要がある。
もしとうまが「別に」と言ったら?
もしとうまが「帰れ」と言ったら?
もしとうまが「嫌い」と言ったら?


だが彼は、そんな覚悟すら簡単に『ぶち殺して』、いつだってこう返してくるのだ。




「インデックスみたいな可愛い子が『一緒にいたい』って言ってくれて、上条さんは幸せ者ですよ」




いつだって、こう返してくれるのだ。


「…… そっか」

「そうだよ」


どんなに鈍感だって。
どんなにオトメゴコロが解ってなくたって。
だからこそ、自分は。


「あ、御坂妹だ。おーい、一緒に散歩しねぇー?」

「もうっ、とうまのバカ!!!」




彼から、離れられないのだ。





                                      『ヒーローさんとシスターさん』(完)



173 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/03(金) 19:36:49.41 ID:cmtZzDko
「あの殿方の使い終わった割り箸やらストローやらを回収するよう申された」って・・・


174 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/03(金) 19:43:00.61 ID:h.q8fmko
ちょっとウニ頭ぶっ殺してくるね



178 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:06:28.88 ID:axDXmDQ0

9/26 PM 6:00

「―――つまり、あのクソムカつく第一位サマをぶっ潰そうって考えは同じなワケだ」

「ああ。だがアイツの周りをうろついてる『グループ』の連中がどうにも邪魔だ……
 なら手ェ組んでもいいと思わねぇか?あのガキを絶望の果てに追いやるためによォ ―――」


差し出された右手をそっと見遣ると、いずれ訪れる未来を想像してその口元に弧を描いた。


「俺が『グループ』、アンタが『妹達』を相手どるってワケか………いいぜ。乗ってやるよ、
 ―――木原数多サン?」


垣根は自身の右手を差し出して静かに相手のそれを握り返した。
その瞬間、『狂犬部隊(クレイジードッグ)』と『ケルビム』との間に同盟関係が結ばれた。



179 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:07:10.16 ID:axDXmDQ0

9/27 AM 8:00

「……うま、とうま。起きるんだよ、とうま」


――――なんだ?朝か?
現在時効が朝であること、目の前にいるのが同居人のシスターであること。
この2つを認識した瞬間、上条の寝ぼけた頭は一気に覚醒をみせた。


「ゴメン、今すぐ朝飯作りますから噛まないで!」

「何言ってるんだよ、とうま。朝ごはんならあくせられーたがとっくに作ってくれたんだよ」


――― あくせられーた?


「とうまを起こしてこないと食わせないってイジワル言うんだよ!だから早く来てほしいんだよ、とうま!!」


――― ああ、そういえば昨日は一方通行の家に泊まったんだった。
完全に目覚めたと思っていた頭はどうやらまだ寝ぼけていたようである。
インデックスに促されるまま布団を抜け出せば、寝起き特有の肌寒さが上条を襲った。


「とうま、はやくぅ!」

「………今行くよ」


そういえば、布団で寝たのは久しぶりだった。



180 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:07:37.32 ID:axDXmDQ0

上条がリビングに顔を出せば、テーブルの上にはすでに温かなフレンチトーストが置かれていた。


「起きたら朝飯が並んでるとか……なんか感動して泣きそうかも」

「今朝はあの人がフレンチトースト、番外個体がサラダ、ミサカがコーヒーを用意したんだよ!ってミサカはミサカは皆でヒーローさん達をおもてなししたことを主張してみる!」

「ほら見なさいインデックス、普通家事はこうやって分担するもんなの!」

「む、むうぅ……私は機械とか苦手だから仕方がないんだよ……」

「お前が学園都市で生活始めてからもう何年経ってると思ってるんだよ!そんな言い訳通じませんっ!」

「いいから黙って食い始めろォ!!特にクソガキィ、遅刻してもしらねェからなァ」

「ミサカは関係ないからしーらないっ」


まさに鶴の一声と言わんばかりに皆が(お構いなしに一方通行をからかう約一名除く)黙々と、
多少焦りながら食事を勧め出した。
一方通行は仕事が、打ち止めと上条には学校がある。


食事を終えた3人は二手に別れ、それぞれの目的地へ向かった。
インデックスは番外個体のいる彼らの家にそのまま居座り昼食まで貰う気マンマンである。


スクールバスへと乗り込んだ一方通行と打ち止めは、
朝の柔らかな陽ざしに瞼を擦りながら欠伸を噛み殺していた。


「おいクソガキ、今日は用事があるから帰りは一緒な」

「え!?あなたから一緒に帰ろうだなんて珍しい、ってミサカはミサカは大歓喜!!」


二人の会話は途切れることなく、学校に着くまでの間和やかに続いた。



181 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:08:34.33 ID:axDXmDQ0

9/27 PM 1:01

土御門元春、結標淡希、海原光貴。
かつて『グループ』という小組織で苦楽を共にした3人は、与えられたキャンピングカーの中で互いの情報を交換し合っていた。


拡大化した『組織』の中には情報を持った面子は他にもいそうなものだが、その情報がどれ程信用できるか、どれ程価値のあるものか。
それらを考えるとどの程度で情報を「掴んだ」と言い出すか解る分だけかつての同僚の方が、都合が良かったのだ。
そう考える節は、現在欠けているもう一人にもあると言える。


「結論から言えば、彼の『肉体復元』を行ったのは統括理事会の子飼いとしか思えません。
………しかし、何故理事会なんでしょう」


「そりゃあこの現状が自分にとって邪魔以外の何物でもないからだろうな。
 アレイスターの在命を偽りながら統括理事会全体で学園都市を指揮し、
学園都市にとって『危険分子』と見做された人間は『俺達』が処理していく――――

―――――そういう体でありながら、実際は『俺達の理想とする学園都市』から外れた人間を『俺達』が処理し、
 『俺達の理想とする学園都市』を創れる人間……つまり親船最中が自然と理事会の中でも突出する。そういう現状がな。」



そう小首を傾げながら切りだした海原に対し、
可愛くないぞと冷静な突っ込みを一つ入れてから土御門は必要なことだけを淡々と返す。


だが海原はそんな態度には眼もくれず「そうではなく、」と先程までのやり取りを否定する。


「そうではなく、何故『今』、一方通行さん個人を狙って、なのでしょうか。
……これは4年も前から続いていることですし、今まで準備を進めてきたというのなら
計画が割れるのが早すぎます」


「それに、『情報』によれば既に『敵』は別組織と接触を図っているようだし………」


「ああ―――――」



彼らは気付いていた。
培ってきた経験とそれによって得た独自の嗅覚によって。


この事件は、全く違う2つの何かが複雑に絡み合っているということに。

彼らは気付いていた。



182 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:09:21.97 ID:axDXmDQ0

9/27 PM 4:20

「――――つまりAIM拡散力場が形成する微弱な能力フィールドは個人によってそれぞれ異なるものであり、
 逆に言えばこれを能力や専用機器を使って計測することで個人を特定できることになる
 ………っと、時間か。ンじゃ今日の授業はここまでなァ」


きりーつ、れーい、ちゃくせーき


授業後の定型文的挨拶を交わすと生徒達は好き勝手にガヤガヤと席を立ち始めた。
このクラスはこの授業で一日の全過程が終わったようだ。


「先生、ここわかんなーい」

「あ私も、教えてー」


新入りの若手(しかも中々顔も良い)教師に異性の生徒が食いつくのも、学校生活の中ではよくあることだ。
群がる女子生徒を追いやりながら、
しかし本当に解らないのであれば教えてやるのも教師の務めなので無下に扱えず
一方通行は慣れない若者特有のコミュニケーションに悩まされていた。
そんな中、


「おっ兄ちゃ~ん、一緒に帰りましょ♪ってミサカはミサカは声をかけて―――――」


…………… 不幸だ。
打ち止めは学校ではどうやら自分を『兄』と呼び始めたらしい。
まあ説明も面倒なので都合が良いのは俺も同じなのだが。
だが。


「…………………………」


生産されたばかりの下位個体の様な眼でこちらを見るのはやめてくれ。



183 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:09:50.52 ID:axDXmDQ0

9/27 PM 10:33

「――――― つまり、統括理事会の失態を断ずるのに、私達に協力してほしいってワケね?」

「ああ。反学園都市・革命組織『リメイク』の中でも理事会の監視・制御を担う俺たちに、な」


女は男の言葉を簡潔に纏め上げると、そっとその重たい腰を上げた。
どうやら『仕事』を受ける気になったらしい。


「OK、ならそっからは私達の仕事だ。そのナントカって組織に了承してやれ」

「『ブレイク』ですよ、超ボケたんですか」

「………そんなこと言ってまたビーム食らってもしらないよ」


共に席についていた他の女達は何やら軽いじゃれ合いついでに一悶着を始めているが、
『仕事』はやる気満載のようなのでまあいいだろう。


「向こう側に良好な返事を返してやらねぇとな」


携帯電話を片手に立ちあがった青年は、
本来そう多くあってはならない久方ぶりの『仕事』に心なしか少し嬉しそうに見えた。


「―――― さて、新生『アイテム』の始動といこうか」


麦野沈利、絹旗最愛、滝壺理后、そして浜面仕上の4人によって構成された『アイテム』の面々は
己らに課せられた『仕事』のために、小さなサロンの扉をそれぞれ開けた。
『上層部の暴走阻止』という、彼らだけの任務のために。
学園都市の表舞台を、その平和を、彼らなりに護る為に。



184 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:10:20.96 ID:axDXmDQ0

9/28 AM 9:10

職員室に用意された自分の机の上で、一方通行は項垂れていた。
今朝は学校へ向かう途中ぶつかってきた女生徒が自分に胸を押し付けてくるというイベントに遭遇したのだが、
それを見た打ち止めが自分をゴミを見るような眼で見てくるようになったためである。
昨日のことも相まって打ち止めの自身の株は大暴落しているようである。


――――――俺は何処のヒーローだ。
件の彼を『三下』と蔑むのも忘れ、一方通行は盛大な溜息をついた。


「先生。鈴科先生、」


――――――よくテレビで中年の親父が『娘からの視線が痛い』だとか嘆いているが、アレも思春期特有のソレなのだろうか。
いやいやいや、いくら中年親父共の嘆きが『仕方のないもの』だったところで俺ァまだ20代だぞ?


「鈴科先生、」


――――――だがあのガキももう16、『あなたのパンツと一緒に洗濯しないで!』とか言い出してもおかしくない……
しかしこの前俺のパンツ持ってなんかニヤニヤしてなかったか?あれが嫌悪から来るとは思えねェし……


「聞いてるじゃん、鈴科先生!?」

「うォあ!!!」


黄泉川の怒声にやっとのこと思考の果てから帰還した一方通行は、
『ボーっとしてどうしたじゃん?』と心配そうに尋ねてくる彼女にしかし『子育てについて悩んでました』
などと答えられる筈もなく、適当に言って誤魔化すことにした。


「何でもないならまあいいけど……何か悩み事があるんなら、いつでも言うじゃんよ?」


いくら学校では『同僚の先生』扱いされた所で、彼女にとって自分はまだまだガキのようだ。


「…………おォ」


そんな扱いが、一方通行はムズ痒くて堪らない。



185 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:10:54.56 ID:axDXmDQ0

9/28 AM 12:14

現在打ち止めの通う高校は昼休みの真っ最中であった。
そして、一方通行は


女子生徒に弁当を持って囲まれていた。


一方通行が代理を務めることとなった教師はどうやら打ち止めのクラスの副担任だったらしい。
この学校では昼休み、各クラスの担任は教室で昼食を摂ることとなっていた。
学校からの脱走者や後先を考えない無茶な行動による事故を防ぐためらしい。
そして担任が出張などで昼休みを留守にする場合、副担任が教室で昼食をとることになっている。


「ねぇ先生、御坂から聞いたんだけどさー、今日お弁当先生の手作りなんでしょ?交換しよー」

「アタシそのハンバーグ頂戴~」


―――――― 打ち止めの視線が痛い。
教卓に弁当を広げ食べようとしていたところでこの騒ぎであったために、
打ち止めは少し離れたところに位置する女子グループの中で箸を咥えながら何も申さず
ただこちらをジーっと穴でも開けるかのように見やるだけだ。


「ねぇ先生聞いてる~?」


甘ったれたような女性との声が四方八方から飛び交う。
――――――止めてくれ。お前達がそうする度にホラ、


「……………………」


打ち止めの無言が怖すぎる。



186 :第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/04(土) 20:11:26.41 ID:axDXmDQ0

9/28 AM 14:25

「ウイルスの方は既に完成している。だが最終信号の方が上手く捕まえられなくてな」


木原数多は部下から預かった報告書に目を通しながら垣根帝督にそう漏らした。
対する垣根は第一位がべったり張り付いていればそれは難しいだろうと考えながら、
『もう一方』とやらを拝見させていただくことにした。


「なあ。そのウイルスってヤツ、ちょっとばかし見せてくれねぇか?」

「いや、こっちは『狂犬部隊』の方で済ませておく。お前達の仕事は『グループ』の干渉阻止だ。
 俺達の分野にまで手間をかけさせるワケにはいかねぇからな」


しかし上手く役割分担されたことで、それも中々上手くいかない。
――――――まぁいいか。あの糞ムカつく野郎の這いつくばる姿を見るのも悪くない。
垣根は既に『ウイルス』から思考をずらし、一方通行の憐れな姿を想像し始めていた。


所詮、『協力関係』を結んだ所で互いに信用や信頼なんてしてはいない。
あるのは相手を如何に上手く使ってやるか、それだけだ。
今は『使われている感』が否めないがいずれ目に物見せてやる………


「安心しろ、何としても近いうちに最終信号は確保する―――――決行は9月30日だ」


この一言が一方通行と打ち止め、
そして学園都市の運命を揺るがすことになるのを知るのは、未だ誰もいない。




第六話(前)『部屋とジェラシーとミサカ』



189 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/04(土) 22:34:55.66 ID:AXOP4.DO
正直シャツの話からこんな展開になる事を誰が予想できようか


190 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/04(土) 22:37:49.38 ID:4ZDTUI60
木原クンとていとくんが手を結んだだと・・・
冷蔵庫が熱くなるな・・・



192 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 01:52:10.52 ID:MTBIrsDO
木原くん復活…ていとくん復活……
アイテムにもう一人復活対象がいるんだよ(´・ω・)



195 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 18:17:17.29 ID:JTZVa1Yo
シャツの話かと思ってたら更に面白くなってた

このスレへの愛を示すにはヘッダが足りないぜ




197 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 18:58:02.62 ID:pw4QFm60

9/28 PM 16:24

帰路へと向かうスクールバスの中で一方通行と打ち止めは揺れていた。
座席だけでなく、人間関係も。


「女の子達にデレデレしちゃって。やっぱりあなたも『男』なんだね、ってミサカはミサカは呆れてみたり」

「…………おいクソガキィ、一体いつ誰がデレデレなンてしましたかァ?大体あンなガキに興味は―――――」


興味はねェ、そう続けようとした一方通行の目に入ったのは今にも泣き出しそうな打ち止めの姿だった。
思わずギョッとして目を見開くと、目の前の打ち止めは鼻をグズグズと鳴らしながら喋り出した。


「ど、どうせ、ミサカはガキだしっ、あなたの恋愛対象からはズレてるかもしれないけどっ、
ってミサカはミサカは――――――」


もう一度確認しよう、ここはスクールバスの中である。
つまりは彼らが通う学校の他の生徒もいるわけだ。
彼らを知る生徒達は「何アレー?」「ていうか兄妹じゃなかったの?」と口々に囃し立てている。


「ストップ!!泣きやめ打ち止め、続きは家帰ってからだァ!!」

「でもっ、グスッ、ミサカは、ミサカは、………」

「だァア、もォ!!」


泣きだした打ち止めを宥めるだなんてもう何年もやっていない。
昔やった通りで通じるだろうかと懸念を抱きつつも彼女の頭上へ右手を静かに置いた一方通行は、
バスが停留所に着くまでの間、ずっと撫で続けていた。



198 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 18:58:56.52 ID:pw4QFm60

9/28 PM 11:22

一方通行は風呂に入っていた。
あの後頭を撫でてやった打ち止めは何故か顔を真っ赤にさせて、
これまでの間ずっとボーッとしたまま殆ど反応しなくなってしまったのだ。


(あれじゃまだ怒ってンのかどうなのかも分かンねェしなァ……)


そんな見当外れなことを浴槽に身を預けながら考えていれば、浴室の外から何やらパタパタと足音が聞こえてきた。
自分が入っていることに気付いていないのかもしれない。
そう思い一方通行が声をかけると、


「おィ、まだ俺入って ――――――」

「知ってる上でミサカは入ってきたんだけどね☆」


全裸の番外個体が曰く『ワザと』押し掛けて来た。


「な、な、な!!て、テメェ出て行きやがれ!!!」

「いやミサカネットワークから最終信号のジェラシーが山ほど流れ込んできたからさ、その悪意を発散しに」

「だからってテメェ恥じらいってモンが xgl;;djkfhdfj;jioouihhug………」

「ハイ電極対策、電極対策あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


番外個体の持つ『電極対策』の所為で一方通行の体は動かなくなってしまった。
しかも、彼女を押しのけようと体を伸ばしたその状況から、一気に。
まるで一方通行が彼女を押し倒しているようなその光景で。


しかも。
ヒーローから2度も幻想殺しを受けた影響なのか、はたまた彼の体質が感染したのか、
一方通行の不幸はこれで終わらない。



199 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 18:59:49.23 ID:pw4QFm60

9/28 PM 11:25

夕飯を済ませ落ち着きを取り戻した打ち止めは、
自分は随分と身勝手なことをあの人に言ってしまったと感じていた。


自分のそれはただの嫉妬だ。
それをあの人に当たるというのはお門違いと言うものである。


「―――― そういえば、あの人が家に帰ったら教えてくれるって言ってた『続き』って何なんだろう、
ってミサカはミサカはふいに思い出して気にし出してみる」


一度気になるとどうにも悶々としてしまう。
あの人は今お風呂に入っている。
顔を合わして聞くのも恥ずかしいし、浴室を挟んで尋ねても怒られないだろうか。


打ち止めは勇気を出して浴室の前へと顔を出してみることにした。
あの人の『話』とやらをゆっくり聞こうではないか。
ニマニマとした笑いが抑えきれずにそっと足を運ぶと、そこには



200 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 19:00:16.61 ID:pw4QFm60

「どう、ミサカの胸にダイブしちゃった感想は?あひゃひゃ気持ちイイ?ねぇキモチいい?」


番外個体を押し倒して、その胸に飛び込んでいるあの人がいた。


「な、何してるの……?ってミサカはミサカはあなたに尋ねてみる………」

「……………」


あの人からの返事はない。


「ふ、ふーん……そっか。あなたの『話』ってミサカはダメでも番外個体ならイけるよって、
 そうゆうコトだったのね、ってミサカはミサカはあなたに失望してみたり………」

「…………」

「ね、ねぇ、何で何も言ってくれないの?ってミサカは、ミサカは―――――」

「…………」


そうか。
あの人は言い訳すらできないほどに番外個体が好きなのね。


理性では理解できても本能が納得するのを拒絶した。
どうしよう、顔を合わせられない。
あの人の為にもミサカは身を引かなきゃいけないのに。


「す、少し外で頭冷やしてくるね、ってミサカはミサカは飛び出してみるっ!!!」


気付けば足は外へと向かっていた。
何処に行ったところで、ゴールなんて無いクセに。



201 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 19:01:28.02 ID:pw4QFm60
番外個体は込み上げたまま抑えきれない嘲りをわひゃわひゃと洩らしながら
自分に覆いかぶさる一方通行を見上げた。


「ねぇねぇ、最終信号に捨てられちゃった気分はどうかなって、
ミサカはミサカは尋ねてみたり~あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」


しかし一方通行から反応はない。


「あれ~?ショックでフリーズしちゃった~?」


そこで彼女も彼へ電極対策を施したまま放置していたことを思い返す。
―――ああ道理で反応ないわけだ。しまった、最終信号の蔑んだ目をこの人は理解できたろうか。
別に処理しきれていなかったところでコチラが後で教えてやれば問題ないのだが、
折角なら彼自身の目で確認した『最終信号があの人に向ける嫌悪』をトラウマとして刻み込んで欲しい。


「ほい、電極対策解除っと☆」


プハァ!っと息を吐き出した一方通行をどうからかってやろうか。
番外個体が口元に大きな三日月を描きながら彼を見やると、

一方通行は、番外個体ですら今まで見たことのないような恐ろしい形相で周囲を確認していた。
これは羞恥や外聞を気にしてのものではない。
家族や友人を殺した憎い敵とでも対峙するかのような、この貌は。


「―――――打ち止めは何処行った?」


答えられない。
唇はワナワナと震えるだけで、言葉が紡ぎだせない。


「―――――もう一度聞く、打ち止めは何処へ行った?」

「あ、あ、あ、そ、外……… 外の、何処までかは、しら、しらない………ミサカしらない……」


チッ、
『使えない』。あの人の舌打ちがそう代弁しているかのように感じた。
現に一方通行は番外個体の返答を聞いた途端、
簡単にタオルを巻いただけの状態で自室へと駆け込み携帯電話を手に取っていた。

まるで全ての興味が最終信号にしかないかのように。
ちょっとイジり倒してやるだけのつもりだった。
それが、こんなにも彼を怒らせるなんて、思わなかった。



202 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 19:01:56.74 ID:pw4QFm60

9/28 PM 11:28

『――――土御門か。打ち止めが勝手に家を出た、一人でだ』


一方通行からの連絡を受けた土御門は仰天した。
アイツは今の最終信号の立場というものを理解しているのだろうか。


「っ、なんで一人にした!?今最終信号を捕獲されたら全部終わりだぞ!!」

『…………結標を寄越せ、俺の自宅付近を捜させろ。俺も直ぐ行く』

「結標は話を聞いていたからもう向かった!!俺の質問に答えろ、何をしていた!?」

『……………』


一方通行は応えなかった。
彼も自分の非を理解してはいるのだろう。


これ以上アイツの相手をしていても無駄だ、と判断した土御門は一方通行からの連絡を切ると
どうしたものかと考え始めた。


――――――やはり情報を掴んだ時点で潰すべきだったか。
しかし、『敵』が組んだ相手や協力関係に同意した組織の目的などを調べなければ何度だって『脅威』は湧く。
だからこそ一方通行はこの作戦に同意したというのに。


「ックソ、」


計画を全て組み替えなければならない。
どうする?どうする―――――土御門は思考に耽る。
考えることを止めた途端全てが終わってしまう、これがクソッタレの『現実』というものだった。



203 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 19:03:19.78 ID:pw4QFm60

9/29 AM 1:03

「………見つからなかったわ」


最終信号の捜索に出かけた結標と彼女の部下である少年達からの報告は酷く簡潔なものだった。


「一方通行は?」

「一度家に帰ってみる、って。居なければ『妹達』の下位個体にネットワークから探させるとも」


確か現在一方通行の自宅には番外個体だとかいう『妹達』のシリーズが一人いた筈だ。
ネットワークからの捜索なら見つけだすことができるかもしれない。


「『能力追跡』は現時点では使えないからな、最悪『敵』に捕獲されていることも考えると……」

「でも、『ブレイク』とやらの背後が割れるまではこっちも手を出せないんでしょ?」

「『妹達』を利用されれば学園都市というシステムが崩壊する。優先させるはどちらか、だ」


そうね。
納得した結標は戦闘態勢に入ることを仲間に告げるため席を離れようとした。
しかし、立ちあがった途端鳴り響いた『連絡』に、彼女は再び座り込むはめになる。


『学園都市在住の『妹達』下位個体が全員消えました!!監視を振り切って自ら何処かへと集まっている模様!!』


絶望の足音が、聞こえた。



204 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 19:05:30.42 ID:pw4QFm60


9/29 AM 0:58

一度帰宅した一方通行はまず玄関に打ち止めの靴があるかを確認した。
だがやはりそこに彼女の靴はない。


リビングに続く扉を潜れば番外個体が青ざめた顔で床に直接座っていた。


「打ち止めが今何処にいるか、ミサカネットワークから探れるか?」

「あ、………う、うん。今やるから」


やけに素直にネットワークへと潜り始めた番外個体は時折こちらをチラチラと窺いながら
打ち止めの探索を続けていく。


「ミサカネットワークへの上位個体からのここ数十分のバックアップ形跡は見受けられない。
 他の個体への接続どころかネットワークへのアクセス痕すら見当たらない。
 結論としては、ミサカに最終信号の居場所は…………」



205 :第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 :2010/12/05(日) 19:06:22.05 ID:pw4QFm60

番外個体の言葉が不自然に途切れた。
気にかけた一方通行が番外個体の顔を覗きこめば、番外個体は焦点の合わない瞳を見開きながら


「上位命令文が施行されました。上位命令文が施行されました。
 『妹達』最終生産単位『番外個体』は上位命令文の受諾に対し統括理事会の決定を必要とします。
 よって『妹達』最終生産単位『番外個体』は統括理事会からの指示を要求します。
 繰り返します、上位命令文が―――――」


なンだ、これは………?
一方通行は当初何が起こったのか理解できなかった。
そして、一歩遅れて自分の不注意が『最悪の事態』を招いてしまったことを理解する。


ブブブブブブブ……
無機質なバイブ音がポケットの中から鳴った。
急いで携帯電話を手にとれば、画面は土御門からの着信を告げていた。


「結標達が張っていた下位個体が消えた。監視を薙ぎ倒して自分から出て行ったらしいから……」

「上位命令文による、ミサカネットワークを通したウイルス感染っ――――」

「そっちの個体にもウイルスがいったか。
 …………確か『番外個体』は上位命令文の受諾に統括理事会の決定を必要とするんだったな、
 保留にしているウイルスから内容を解析することはできるか」

「―――冥土返しの所へ連れて行く。あの医者なら出来るかもしンねェ」


一方通行は番外個体を何とか担ぎ上げると再び玄関へと向かった。
――――彼の護るべきものが、崩壊しようとしている。




                                        第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 (完)



206 :>>1 あるいはシャツの人 :2010/12/05(日) 19:10:11.21 ID:pw4QFm60
本日の投下はここまでとなります。

番外個体の上位命令文保留は僕の完全な捏造です。
打ち止めが上位命令文で邪魔しようとしてもそれを阻害して一方通行と戦える彼女なら恐らくもっとあっさりしていることでしょう。
今回は緊迫感を出すための僕の演出ということでご勘弁下さい。



207 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 19:12:36.34 ID:FKL1xFoo
まさかのシリアス一直線でごわす…


208 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 19:13:27.62 ID:H/JRi4co
うわああああ! 番外個体に悪気が無いだけに切ないなぁ……!
みんな頑張れ超頑張れ



210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 22:07:20.07 ID:JTZVa1Yo
おおおおおおおおおおもしれえええええええ




次→打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」【中編】



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壽屋 2010/12/18

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禁書目録SS   コメント:9   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
3837. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/23(水) 19:42 ▼このコメントに返信する
あれ、一方通行のYシャツだったのかそういうデザインのジャケットかと思ってたわ
3838. 名前 : 名無し@まとめいと◆- 投稿日 : 2011/02/23(水) 20:28 ▼このコメントに返信する
まとめ来てたァァァァ!!
管理人さんありがとう…!

自分の中でこのYシャツssは殿堂入り。
完結してしまって本当にさびしい。
3840. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/23(水) 22:05 ▼このコメントに返信する
くっ、猥シャツだったら…おのれ魔術師
3841. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/23(水) 22:14 ▼このコメントに返信する
>>97
00000号(フルチューンだっけ?)入れれば9970人じゃね?
原作読んでないからこいつがどうなったのか知らんけど。
3845. 名前 : 名無しさん@ニュース2ちゃん◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 00:18 ▼このコメントに返信する
いんさんは家事覚えるか帰れよww
3850. 名前 : 名無しさん@ニュース2ちゃん◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 11:25 ▼このコメントに返信する
長っ!
打ち止めは育っても可愛いのう。
インなんとかさんは6年経っても同居ニートで
上条さんはまだ浴槽かよww

とか笑ってたら
まさかのシリアス展開!
3856. 名前 : ストレレッツ◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 14:30 ▼このコメントに返信する
上条さんは相手の目を覚まさせるためにも殴るんだな。
初めて知った。
3861. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 15:38 ▼このコメントに返信する
リメイクって何?メルヘンはメンバーのリーダーじゃなかった?あと、レベル5が9人ってどーゆーこと?       
3867. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/02/24(木) 18:12 ▼このコメントに返信する
個性出すぎたのか胴長短足か
かわいそう
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