ダンテ「学園都市か」【MISSION 19】

2010-11-22 (月) 22:12  禁書目録SS   10コメント  
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とある魔術の禁書目録より─白井黒子



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325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:11:43.94 ID:smIwbYso
―――

とある病棟の廊下。

昼食と休憩を済ませたインデックス、上条、ステイル。
この三名がトリッシュとキリエの待つ病室へと向かっていたところ。

禁書「あ」

彼らの正面、廊下の先から御坂が手を振りながら歩み寄ってきた。

御坂「いたいた」

上条「?」

御坂「えーっと…………話があるんだけど良いかな?」

上条「ん?」

御坂「あのさ。アンタに…… その……『伝えておきたい』ことがあるの」

上条「………………………………………………」

今の上条ならここでピンとくる。
御坂が自分に伝えたい事は何なのかが。

禁書「うん……………………ステイル、先に私と一緒に戻るんだよ」

『同じく』恋する乙女の感覚で敏感に状況を把握したインデックス。
影の全く無い微笑みを浮かべると、脇のステイルの袖を引っ張りながらこの場を離れるよう促した。

ステイル「……い、いや…………待て……」

ステイルもその妙な空気を感じ取り、
『二人っきりにして良いのかインデックス?』と言いたげな表情で戸惑い始めたが。

禁書「良いんだよ。私は部外者。『アレ』はあの二人の事なんだから」

禁書「さ、さ、ほら!!何モタモタしてるのかな!?さっさと行くんだよ!」

尻を叩かれるようにインデックスにまくし立てられ、彼女に押されるような形でその場から離れていった。
その際。

御坂「……」

インデックスがちらりと御坂の方へと振り向き、穏やかな表情で小さく頷いた。

御坂「(……………………ありがとう)」



326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:14:28.20 ID:smIwbYso
上条「…………」

御坂「…………」


御坂「…………ふーっ……『先』にこっち言うか」


上条「?」


御坂「あー、私、デュマーリ島に行くの。明日の夕方に出発」


上条「……………………………… はっっ…………はぃぃぃ??!!!!」


御坂「だーから、ちょっくら暴れてくるって言ってんの」

パチリとウインクし、可愛らしく笑いながら告げる御坂。
まるで遊びに行くようなノリで。

上条「い、いや……!!!!ちょっと待て待て待て!!!!わかってんのか!!!??あの島は―――」


御坂「いまや千、いや万を超える悪魔が巣くう『魔境』。わかってるって。多分アンタよりも詳細把握してるわよ」


上条「わ、わかってるなら何で……!!!!??」


御坂「『なんで』?」

御坂「おかしな事聞かないでよ。決まってるでしょ―――」



御坂「アンタの『世界』―――」



御坂「―――私も守りたいからよ。。」


上条「―――」



327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:16:17.48 ID:smIwbYso
上条「―――……」


御坂「……私も一緒に戦いたいなーって。少しでも役に立ちたいなって」

上条「…………で、でも御坂……」


御坂「言わないで」


御坂「っていうか、アンタに私自身の気持ちの事、何だかんだ言われる筋合いはないでしょ」

御坂「これは『私のもの』」

御坂「これは私がやりたい事なんだから」

御坂「私自身が決めた事なんだから」


御坂「それにそろそろ、守られ続けてきた『借り』返さないとねっ」

御坂「私にも、自分で言うのもアレだけどそれなりの『プライド』ってもんがあるし」

上条「…………御坂……」



328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:18:41.34 ID:smIwbYso
御坂「それに厳密に言うと、『アンタの為』に戦うだけなわけじゃあない」

御坂「これは私自身の戦いでもあるの」


御坂「『アンタが好きな私自身』の為の戦いでもあるんだから」


上条「…………………………」

御坂「……………………あ……………ちょ………っ!!!!!」

御坂「…………うっ…………ん…………ぐぐぐ…………!!!!

勢いでもう一つの『伝えたいこと』の一部を言ってしまった御坂。
一瞬ドモり、俯いたが。

御坂「―――んぱあああああああああああああぁぁぁもうっっ!!!!!!!!!こぉなったらはっきり言うわっっ!!!!」

今にも爆発しそうなくらい顔を真っ赤にしながらも、気合を入れるような声を発しながら、
真っ直ぐと顔を上げて上条の顔を見据え。


御坂「私さ、アンタの事が―――」


堂々と前に歩みだし。


御坂「―――当麻の事が―――」


宣言し。


御坂「―――大好き!!!!!」


己の想いをぶつけた。


御坂「死んじゃいそうなくらい大好きなの!!!!!!」


上条「―――…………」



329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:23:33.12 ID:smIwbYso
御坂「ッ…………………………………………」

上条「…………………………………………」

そして流れる数十秒間の沈黙。

上条「………………………………お、俺は……」

御坂「あ…………気使わないで。……私、その……わかってるから……」

上条「へ??」

御坂「…………アンタ、あの子に心底惚れてるでしょ」

上条「!!!知ってたのか!!!!!??」

御坂「知ってるも何も見ればわかるってのよ!!!!!!この単細胞!!!」

上条「な、な!!!!お、俺だって知ってたぞ!!!!御坂が俺の事好きなのは!!!お前の方こそ単純じゃねえか!!!!」

御坂「はぃ!!??ちょ、ちょっと!!!それどういうことよ―――!!!!」

上条「どういうことも何も!!!!お前こそ―――!!!!」

御坂「―――…………」

上条「―――…………」

御坂「…………ぷは、ははっはははは!」

上条「…………へっ……ははははははは!!!」

御坂「……あーあ、なーんかガンって構えてたのがバカらしくなってきちゃった」

上条「……はぁ~、俺も。どう返そうか悩んでたのがアホみたいだ」

御坂「でも良かった」

上条「?」

御坂「こうでなくちゃ。変にこじれるの嫌だもん」

上条「はは、そうだな。お前がウジウジしてるのは似合わないな」

上条「笑ってる顔が一番だ」

御坂「……………………まーたそういう事言う」

上条「……な、何だよ?」

御坂「いんやーなーにもー」



330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:26:12.68 ID:smIwbYso
御坂「…………あ、ねえねえそれでさ」

上条「ん?」

御坂「当麻の事、ずっと好きでいて良い?」

上条「(…………なんつー質問だよ……女って良くわからねえな……)」

上条「……いや、さっき自分で言ったろ?俺に『気持ちの事何だかんだ言われる筋合いは無い』って」

御坂「あ……あはは、そうだったっけっ。じゃあお言葉に甘えて、ずっと当麻に惚れさせ続けてもらうわ」

上条「……俺はどうこうしろとは言わないけど、いいのかそれで?」

御坂「余裕だっつーの。恋する乙女は強いのよ」

上条「……そうだ。はっきり俺の方からも言わせてくれ」


御坂「……今更変にオブラート包まないでね」


上条「おう……俺は、その気持ちに応える事は無理だ」


上条「その気持ちはインデックスにしか向けられない」


御坂「…………うん。OK、わかってるわ」



331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:32:55.59 ID:smIwbYso
上条「それともう一つ」

御坂「?」


上条「ありがとう」


御坂「―――」


上条「こんな俺にその気持ちを向けてくれて嬉しい」


上条「…………その気持ちに応える事はできないけど」


上条「お前は俺にとって大事な人の一人だ」


上条「何があってもお前の世界は守る」


御坂「あのさ………………アンタさ、私をこれ以上惚れさせてどうするつもりよ?何考えてんの?本当にバカなの?」

上条「ぐぐ………………………………」

御坂「―――って冗談よジョーダン!好きだから別に問題無いわ。ドンと来いって感じよ」

御坂「ただ、そこらの女の子にはもうそういう事言わないの。これ以上手を広げるとそのうち暗殺されそうだし」

御坂「そういう事あっちこっちにポンポン言うから色々面倒なことになるのよ」

御坂「私はさ、もう結構前からちゃんと覚悟決めてたからこうだけど、他の子じゃこうは済まないかもよ。もっとドロドロするかも」

上条「は、はい…………肝に命じておきます……」



332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:35:26.37 ID:smIwbYso
御坂「あ~……最後に一つだけ聞いて良い?もしさ、もし」

上条「?」


御坂「当麻があの子の事好きになる前に……」


御坂「……わ、私が気持ち伝えてたら…………『見込み』あった?」


上条「…………かもしれない『けど』……」


御坂「……『けど』?」


上条「……今となっちゃはっきり答えられない。『もし』が想像しにくいんだ」



上条「今の俺、あいつに思いっきり惚れちまってるから」



御坂「………………ふふ、やっぱ、私が惚れた男なだけあるわね」

御坂「ムカつくぐらい『痺れる』わ。そういうところ」

上条「……」


御坂「……ねえ、当麻。約束して。あの子の傍にいてあげて。ずっと」


上条「……ああ。約束する。誓うよ」



333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:37:16.91 ID:smIwbYso
そして上条がスッと右手を差し出し。

上条「―――『美琴』」

彼女の下の名を読んだ。

御坂「―――………… うん。『当麻』」

同じく御坂も上条の下の名を呼び。
彼の右手を固く握った。
がっちりと。

それはお互いへの敬意と信頼と。

対等な『絆』の証明。


御坂「………………この時を夢見てたの」


御坂「当麻に……こうして『認められる』日を」


恋仲ではない。
だが。
御坂は上条に最も近付いた一人となった。
彼女もまた、上条にとって特別な者の一人。

それを肌で、手で、魂で確認し知り合えた今。

御坂にとって、今までの人生で最高の瞬間となった。


御坂「……ありがとう。本当に」


上条「『こちらこそ』な」


上条「それと絶対帰って来いよ。帰って来なきゃ許さねえからな」


御坂「当麻も。『約束』破ったら承知しないから」



334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:42:23.65 ID:smIwbYso
御坂「―――そーれじゃ!行って来るわね!留守番、頼むわよ?」

そして二人は手を離し。

澄み渡る笑顔を浮かべ、手を振りながら御坂は後ずさりし。

上条「おう。任せとけ」


御坂「あと!!!!!!私が『こう』したんだから―――」


御坂「―――モタモタしてないで当麻も『こう』しなさいよ!!!!あの子に!!!!!」


上条「―――」


御坂「じゃーあねー!」

踵を返し、
軽く明るくそれでいて確かな『重さ』をもった、揺ぎ無い足取りで彼から離れていった。


上条「……………………俺も……『俺自身』のやるべきことをさっさとやらなきゃな」

上条は穏やかな表情を浮かべつつ、
遠ざかる御坂の背を見つめながら小さく呟いた。


上条「御坂に負けてられねえぜ」

先ほど握手を交わした右手を固く握りながら。




――― さっさと伝えよう。インデックスに―――全部―――。




335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:44:19.19 ID:smIwbYso
病棟の廊下を軽やかな足取りで進む御坂。

御坂「~♪」

不思議な感覚だ。
この想いが実らないことが確定的になったというのに、
心は晴れ渡っている。

いや、よくよく考えれば不思議なことではないかもしれない。

心のどこかでは、上条が応えてくれるのを期待していたかもしれないが、
それは今となっては御坂の本望ではない。

ブレてしまう上条なんか『嫌い』だ。

そんな奴、『上条当麻』ではない。


御坂ではなくインデックスを迷い無く選ぶのが上条当麻。
己の心に素直で芯が通っているのが上条当麻。

その顔がどれほど愛おしい事か。
そんな彼がどんなにかっこいい事か。
そんな彼に御坂美琴は惚れている。
だからこれで良いのだ。

例え彼の目が己に向いていなくとも。


これで良い。


あれが、彼女が望む『上条当麻』の姿なのだから。



336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:45:25.43 ID:smIwbYso
御坂「よし…………」

吹っ切れた御坂の足取りは確かなものであり、そして揺ぎ無い。

ただ吹っ切れたと言っても恋が冷めたというわけではない。
むしろ余計に火がついた。

その『方向』に吹っ切れたのだ。

今なら御坂は学園都市中、いや世界中に向けて堂々と宣言できる。

私は当麻に惚れたんだ、と。

私は当麻の事が大好きだ、と。

負い目や恥ずかしさなど微塵も無い。
それが彼女の『誇り』であり、全てを受け入れ前に歩みだした『自分自身』なのだから。


御坂「…… おっけー。気合入ったわ。とことんやったるわ」


一回りも二回りも『強く』なった御坂美琴。

純真無垢な乙女は突き進んで行く。
陰りの無い歩みで。

―――



337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:49:05.62 ID:smIwbYso
―――

フォルトゥナ。

フォルトゥナ魔剣騎士団本部。

再建された堅牢な本部のとある大きな一室。
広めの部屋の中央に大きな円テーブルが置かれており、
複数名の騎士の最高幹部、そしてネロが立ちながらそのテーブルを囲んでいた。

その輪から少し離れる形で、壁際にて椅子に座っている現フォルトゥナ騎士団長。
既に髪は無くなり白い髭を蓄えた老齢80だが、
その眼光は今だ鋭く鍛え上げられた体も全く衰えてはいない。

彼はかつて教皇サンクトゥスに反発し、
その結果現役を退き隠居する事となった最高幹部の一人であった。

清き全うたるフォルトゥナ騎士道を体現していたこの老人にとって、
騎士精神を曲解した教皇サンクトゥスのやり方はどうしても馴染めなかったのだ。

騒乱後の騎士団再建の際、ネロを騎士団長にとの声が高まったが、
ネロは騎士団長の座を辞退し代わりに彼を推したのだ。
皆もそのネロの言葉に賛同し、滞りなくこの老齢な最高峰の戦士が騎士団長の座についた。

ネロ以外ならば彼しかいない、と。

ちなみにこれは余談だが、
ネロが敬語を使って話す相手は存命人物の中でこの騎士団長のみでもある。

ネロが幼少の頃、騎士の初歩教育の際に教鞭を持ち、
フォルトゥナ騎士道の何たるかを叩き込んだ人物がこの現騎士団長なのだから。



338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:50:29.10 ID:smIwbYso
ネロ「…………」

テーブルの上には様々な報告書・書類が載せられており。
ネロはその一つ、騎士団の編成状況が記された報告書に目を通していた。

重装騎士が82名。
軽装騎士が311名。
騎士見習いが66名。

計459名。

これらが現フォルトゥナ騎士団所属の全戦闘要員。

人数だけで見ればかなり心細い規模だろうが、
人間世界最高峰のデビルハンターが 393人も含まれていると考えれば、
その圧倒的なパワーが分かりやすいだろう。

更にそれとは別に市民からの義勇兵が約600名。

これが現在のフォルトゥナにおいて剣を持つ者達だ。
この内、騎士団所属の200名がネロに率いられてデュマーリ島に向かう手はずになっている。
残りはフォルトゥナの守護だ。



340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:55:32.18 ID:smIwbYso
ネロ「…………」

と、ネロを含む幹部達が様々な報告書に目を通していたところ。
一人の若い騎士が書類を手に部屋に入ってきた。

その者が腰に差している細い剣。
積極的対悪魔戦用ではなくあくまで護身用のもの。
身なりから察するに、戦闘員ではなく技術部門の者だ。

その若い騎士は簡単な礼を済ませ、書類に目を落としながら。

「デュマーリ周辺の遠隔監視調査を行っていた隊からより報告」

「かなり巧妙に偽装されていましたが、『糸』の発見に成功しました」

「デュマーリ島より世界各地の人造悪魔一体一体へと接続されてました」

淡々と報告を読み上げた。

「解析はできたか?」

その男に向け、ネロの左隣にいた屈強な初老の幹部が言葉を飛ばす。

「ある程度は。基本的にそれぞれの個体が命令に従って独立活動するらしいですが、完全にではありません」

「常に『糸』により制御を受けております。知能の低い下等悪魔を組み合わせたからでしょう」

ネロ「…………」

そう、ルシアやセクレタリーのような高度の知能を有する高等存在ならまだしも、
下等・低知能ならばある程度の制御は必要になってくるはずだ。

フロストやアサルトのような命令にどこまでも忠実な『生粋の戦士タイプ』の悪魔でもない限り、
放っておくと命令なんかそっちのけで、欲望のまま好き放題やらかす可能性もあるのだ。



341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 23:58:18.56 ID:smIwbYso
「万が一の為の強制停止用の記述も発見できました」

「意図に沿わない暴走を防止する為のものでしょう」

ネロ「…………」

まあ、相手を考えるとそういう万が一の対策をとっているのも当然だろう。
ルシアにも似たような術式が魂に刻み込まれているのを先日直に目にした。

「浸入は可能か?」

今度はネロの右斜め前方、やや細身の30代後半の幹部が口を開いた。
一応聞いておくか、といった投げやりな声色で。

『糸』にそのような機能があれば浸入は誰でも考える。
破壊できれば悪魔の統制を失わせる事が可能であり、更にジャックをできれば一気に強制停止もできる。

だが。

アリウスならば、いや彼でなくとも普通に考えれば分かるだろう。
フォルトゥナ側が浸入を試みるという事は。

そして若い騎士からの返答は予想通り。

「『防護隔壁』が非常に強固であり、回線浸入は困難を極めております」

「現在の状況は?それとどれだけの時間があれば隔壁を破れる?」

「回線浸入を試みましたが、そのたびに防護記述が自動更新され、自動修復と更なる隔壁強化が行われる仕様です」

「現在はまずその更新用記述の破壊を試みてますが、最低でも 2ヶ月かかるかと」

「……やはり論外だな」

ネロ「…………」



342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:00:47.92 ID:LWRiYboo
だが、この報告が無益だったというとそれは違う。

少なくとも世界中に散らばっている人造悪魔兵器を、
一つ一つ潰す必要なく一度に全て強制停止できる方法があるのがわかったのだ。

「……即座に手を出せる方法はあるか?」

「デュマーリにあるであろう『コア』から浸入できれば即座に」

「その為には現地にて『コア』を探し出し、直に接続する必要がありますが」

「ちょうど良いな。よし、2時間以内に術式構造の詳細を含む報告書をネロに提出してくれ」

「了解」

ネロ「(…………向こうでの仕事が増えたな)」

アリウスの処理、魔界の門と天界の門の件。
そこに更に加わった人造悪魔の制御コア奪取とジャック、そしてその破壊。

騎士200を連れて行くとはいえ、少々ハードスケジュールだ。

ネロ「(ま、やってやるさ)」

ただ、もちろんハードな『だけ』であり『困難』ではない。



343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:06:52.63 ID:LWRiYboo
「それとは別に、『糸』の末端解析はできたのか?」

「はい。各地にある人造悪魔兵器の総数とおおまかな配置は判明しました」

「島外の人造悪魔の総数は13万5732体」

「この内の31%がフランス北部に、25%がイタリア中部に、17%がロシア東部に集中、その他は各地に点在」

ネロ「(…………イタリア…………ローマ正教自体も標的か……)」

ネロ「(天界系の人間勢力を全て破壊する気だな。天界を更に刺激する為に)」

と、その時。


『ネロ様。ネロ様あてに極秘回線からの通信が入っております』

室内に響く、通信魔術からの声。
皆一旦手を止めネロの方へと目を向けた。

ネロ「…………イギリスか?」

『いえ。それが…………』


『ローマ正教、教皇用の回線からです』


ネロ「…………相手は?まさか教皇サマか?」


『いえ。こう名乗っております』



『「神の右席」―――』



『――― 「前方」を冠す者だと』



ネロ「………………………………へぇ」

『どう致しますか?』

ネロ「とりあえずこっちに繋げてくれ」

『了解』



344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:13:22.40 ID:LWRiYboo
ネロ「OK、俺に用か?」


『…………アンタが……スパーダの孫か?』


ネロの呼びかけに対し返ってくる、やや性格がきつそうな若い女の声。



ネロ「そうだが?」

『…………意外だったわ。こうもすんなり繋げてもらえるなんて』

ネロ「……『前方』は何ヶ月か前に空座になったと聞いたが」


『今日返り咲いたのよ』


ネロ「そうか。それで何の用だ?とりあえず聞いてやる」

『……私の身分確認とかはいらないのか?そんなにすぐに信じるのh』

ネロ「誰も信じるとは言ってねえ。とりあえず聞くっつってるんだ。それに一応教皇用回線使ってるしな」

『この秘密回線がどこのかバレてるのか。さすがはフォルトゥナといったとこr』

ネロ「御託はいいからさっさとしろ。こっちは忙しいんだ」

『わかったわよ。単調直入に言う』


『アンタ達、フォルトゥナの力が借りたい―――』



『―――兵の一部をこちらに寄越してくれない?』



ネロ「…………あぁ?」



345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:15:24.21 ID:LWRiYboo
『…… もう一度言う』


『精鋭部隊を貸してくれない?』


「…………この者は何を……」

「ふざけた事を抜かすな」

「笑えぬ冗談だな」

『前方』からの申し出。
その内容に対し、呆れかえった声が幹部達から漏れる。

ネロ『…………ワケは?』

しかし、ネロと壁際の騎士団長だけはそんな素振りなど微塵も見せなかった。
この『前方』の声に微かに見える心の内を、その『重さ』を的確に読み取っていたのだ。


『…………「私ら」は今、人間同士の戦争を「終わらせる」最終兵器―――』


                     V I P
『―――20億人が掲げる「 旗 」を「保護」してる』



ネロ「―――…………………………」



346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:18:32.78 ID:LWRiYboo
ここで周りの幹部達の空気も変わった。
嘲笑的な部分は跡形も無く消え、皆の顔に武人としての確かな緊張が滲む。

ネロ「20億の旗、ね。そいつはご大層なVIPだ」

『放っておくと殺されそうだったから。この「旗」が戦火に巻き込まれて折れちまったら、人間はもう後には退けなくなる』

『アンタ達が悪魔諸々の件を解決してくれたとしても。それで人間界自体は救われたとしても―――』


『―――24 億の全十字教徒間の、「人間同士の戦争」は絶対に終わらない』


 わたしら
『十字教徒はアンタ達と違って馬鹿で無知で臆病な子羊達の集まりに過ぎないから』

『後で「真実」を明かされてもどうにもならないの。むしろ受け入れられずに確実に更に暴走するわ』

『わかるだろ?十字教の根本が覆ったら、いや、全ての「天界系宗教」の真実が明かされたら人間社会は完全に崩壊する』

『異世界間の問題が解決したとしても、これ以上「旗」や「聖地」が陵辱されたら人間世界は千年の内戦に突入する』

ネロ「…………だろうな。『保護』、良い判断だと思うぜ」

ネロ「それで俺達に具体的に何をして欲しい?」


『まず一つ目。この「旗」を守るのを手伝って欲しい』


『私もそれなりにやれるけど、やっぱり頭数が足らない。というか私ぐらいしかまともに対抗できる奴が「今ここ」にはいない』

『「半悪魔兵器共」はこの「旗」をも狙ってるの。先ほども襲撃されたわ。純正の高等悪魔も複数紛れてたし』

ネロ「…………」



347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:20:44.13 ID:LWRiYboo
『二つ目。「子羊達」の保護。イタリアでは、もう一部の「半悪魔兵器共」が活動し始めてる』

『できる限り道中の者を保護する。兵・民・勢力・国籍・魔術科学関係なく』

『三つ目。「旗」と「子羊達」の群れを「しかるべき場所」に届ける』

ネロ「…………」

『その「しかるべき場所」に受け入れられてもらうには、アンタ達が共にいなければ難しいの』

ネロ「…………」

『アンタに来てくれとは言わない。デュマーリ島に行かなければならないのは知ってるわ』

『フォルトゥナの騎士と紋章があればいいの』

ネロ「…………」

『頼む』


『スパーダの孫、ネロ。アンタが作ってくれた「信頼」とアンタとフォルトゥナの「威光」が―――』


『―――長きに渡って分裂していた「子羊達」がやっと手を取り合える切り札なのよ』


 わたしら
『十字教徒にとって、いや、全ての子羊達にとってこれは運命の時となるの』


ネロ「…………」

前方の言葉を聞き、ゆっくりと周りの幹部達の顔を見やるネロ。
その視線が交わるたびに、幹部達は無言のまま頷いた。

それは賛同の意思表示。


前方の言葉を受け入れた記し。



348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:23:45.57 ID:LWRiYboo
彼らは24億とフォルトゥナを天秤にかけた訳ではない。

どちらも人間。
どちらも守るべき人間界の存在。

フォルトゥナ騎士団は『その為』に生まれた組織だ。


『前方』の申し出を断る道理など存在しない。

皆が無言で互いの意志を確認した後。

ネロ「……騎士団長殿。兵員を裂けますか?」

静かに、ゆっくりとネロは口を開いた。
壁際の恩師に向けて。

「……ネロ君が必要と考えるのならば構わん」

小さく一度咳払いした後、
穏やかでありながら厳かな空気を伴った騎士団長の声が放たれた。

ネロ「…………デュマーリ島には俺一人で行きます」

ネロ「俺が率いる予定だった200名を彼女の方にまわして下さい」

「…………ネロ君に聞くのも愚問だが……ネロ君は一人でやれるかな?」

ネロ「問題ありません」

ネロ「それにデュマーリでの人手の件なら『別のあて』があります」

「ほう。別のあてとは?」


ネロ「『東の友人』達です。この件に関しては当初は疎ましく思っていましたが」


ネロ「どうせ現地で鉢合わせするので」

                           フリー
ネロ「それに俺、やっぱり戦いは『独り身』の方が好きなんで」


「…… ほっほ。ネロ君らしいのう。ならば良し。好きにするが良い」



349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:27:58.70 ID:LWRiYboo
   ここ
「フォルトゥナの防衛から少し裂いて増員しよう」

「フォルトゥナ城に全市民を避難させ、周囲を結界で固めれば問題ない」

「都市結界の修復は後にして先に城の周りに構築させよう。あの規模なら一日でできる」

周りの幹部達もネロに続いて、
それぞれがこの計画を全力でサポートすべく素早く判断していく。

ネロ「……聞いてたか?そういう事だ」

『…………礼を言うわ。正直、受け入れてくれるとは思ってなかった』

ネロ「フォルトゥナは変わったのさ」

『……』

ネロ「では作戦の練り直しと戦闘準備がある。諸々の体制が整うのは12時間後だ」

『じゃあ12時間後に「船」を送る。海岸の結界を解いておいて』

ネロ「船?んなもんなくとも行けるが。重装騎士ならここから一時間半で地中海入りできる」


『「今の私の船」ならそこから30分で地中海に入れる』


ネロ「……………………へぇ……天界魔術も捨てたもんじゃねえな」

『私が使う力とそこらの天界魔術を比べてもらっても困る』

『規格外のアンタにとっちゃ微々たる物かもしれないけど、』


『一応「今の私」はウリエルの力を「全て内包」できるんだからな』


ネロ「へぇ……」


―――



352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 00:42:49.69 ID:v3OJ54Qo
俺の嫁ヴェントタソがきたか



365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:07:49.85 ID:21Z5I3oo
―――

学園都市。

午後九時。

とある病棟の一室。


御坂「とーま!!!!!とーまよ!!!!!!!アイチュろり良い男なんれいりゃあしぬあい!!!!!!!!!」


御坂「だっしゃああああああああ!!!!!!!ヤバイヤバイ!!!!!何れあんなかっほいいの!!!!!!!」


その中にて響き渡る、呂律の回っていない御坂の大声。
長椅子の上に寝そべり、クッションを抱きしめながら喚き悶えるレベル5第三位。
視点が定まっておらず、前髪をパチパチと鳴らし顔を真っ赤に火照らせ。

御坂「とうまぁあああ~……んふんふふふふ…………とうま~♪ちゅー♪」

抱いているクッションに口付けを何度もするこの有様。
もう自分でも何を言っているのか、何をしているのか分からないだろう。

土御門「(酒が入ったら色々壊れるタイプか。それにしても……何かあったみたいだな)」

一方「(…………ウゼェ…………)」

麦野「(私、こんな奴に負けたのかよ……)」

結標「(私、こんなのから逃げたのね……)」

エツァリ「(ああ…………酔っている御坂さんもまた……あの火照ってる頬がたまらないですね……)」

そんな彼女を眺めている五人。
それぞれ違った表情を浮かべてはいるものの、
朗らかな表情の約一名を省き皆が冷めた目なのは共通していた。



366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:09:24.03 ID:21Z5I3oo
一方通行、土御門、麦野、結標は、
部屋の中央に置かれた低い机を取り囲むように配置されているソファーに腰掛けていた。
黒服の連中に運ばせたものだ。

机の上には、同じく黒服の男に手配させたさまざまな酒が置いてあった。

片側のソファーには一方通行と土御門。
そのソファーの隣に車椅子のエツァリ。

机を挟んで向かい合うもう片方のソファーには、麦野が足を組みながらどかりと座り、
その隣にて、一段高くなる形で結標が背もたれに軽く腰掛けていた。

そして、泥酔している御坂は彼らの輪から外れ壁際の長椅子にて、
一人で意味不明なことを喚きながら悶えていた。


この宴会が始まってから約一時間。


土御門のノロケ話とそれに対する弄り。

結標の少年院にいる仲間達の話。

麦野の今までの恋愛癖。
高慢・高望みしすぎて、身なりに反し一人の恋人さえもてなかった事に対する驚きと弄り。

エツァリの故郷での話し。
土御門と共に魔術の談義講釈。

これらの中身があって無い様な話が交わされた。


言葉はやはりやや棘があったが、内容は『普通』の年頃の少年少女達の会話。


そして『暗部構成員同士』としてはあまりに『異質』な会話が。



367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:11:01.32 ID:21Z5I3oo
本来、能力者を中心とした暗部組織内では、特に明確に禁止されているわけでのないのだが、
こうしたプライベート時間の関りはタブーとされている。

少なくともこの『グループ』ではそうだった。

勤務時間外は赤の『他人』。
勤務時間内は同僚である『他人』、だ。

普段だったら、一方通行も土御門も結標もエツァリも出席しなかっただろうし、
そもそも麦野がああして声を挙げることもまずなかっただろう。

だが今は違っていた。

状況が状況だった。
皆心のどこかでこう思ったのかもしれない。

『終末』となるかもしれないのなら。

せめて少しでも。

少しでも、失ってしまった『普通の青春』の時間を味わっておきたい、と。

例えそれが『張りぼて』の演出だろうと。

決して『本物の時間』にはなれない『偽物』だろうと。


そしてこの時間の中、皆の中にはある心境の変化が起こっていった。



368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:13:52.75 ID:21Z5I3oo
結標は、少年院にいる仲間には今自分がやっている『影』は決して話せない。
土御門は妹にはもちろん、親友である上条にでもすら、『影』の部分は打ち明けられない。
故郷の組織から破門されたエツァリ、唯一の『家族』ショチトルがいるものの、やはり『影』を話すことはできない。

一方通行は、唯一の『家族達』からつい最近身を置いたばかり。

そして麦野は『誰一人』いない。


だが、ここにいる五人は皆『影』を共有している。

同じ血を啜り同じ闇を被っている。


そして皆は『気づいた』。

考えてみれば、自分の事を『影』も全て明かしてここまで話せる『繋がり』は、
この暗部の『クズ仲間』しかいなかった事を。

この面子しかいなかった事に。


仮初でも建前でも。


とりあえず『対等の友』と呼べるのはこの面子しか―――。



369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:15:03.29 ID:21Z5I3oo
ちなみにこの時間を作った仕掛け役。

今は泥酔し見るも無残な有様になっているが、実はその御坂だ。

どことなく吹っ切れたような彼女のノリにより、
この場の空気が形成されたのだ。

『本物の時間』を知っている彼女の放つ空気が。
仮初・偽りでありながらも、暗部に堕ちた者達にわずかな灯火の種を与えた事となった。


土御門「そういえば……ここにいる面子って、全員レールガンとそれなりに関わってきたんだったな」

会話の切れ目。
背もたれに寄りかかり、思い出したように口を開いた土御門」

結標「世間は狭いって言うけど、案外本当にそうね」

一方「上位能力者世界が狭いンだろ」

麦野「暗部に関わったレベル5勢が顔を合わせるのなんて時間の問題でしょ。いつか会うわそりゃ」

麦野「アクセラレータと私は、第六位以外は全員面識あるんじゃない?」

一方「あァ」

結標「そういえば私、第七位だけまだ会ったことないけど。私が『運び屋』やってた間はアレイスターのところにも来なかったし」

一方「あァ~……」

麦野「アイツね…………」



370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:16:15.32 ID:21Z5I3oo
一方「一言で言うと『バカ』だ」

結標「?」

一方「いや…………『アホ』か?」

結標「能力は?」

一方「……良くわかンねェ。前に実験でやりあわされた事あるンだがな、」

一方「妙な力の塊をぶつけてきやがった。とんでもねェ量のな」

一方「反射は完璧にできたがあの野郎、反射されたのを『根性』とか喚きながら受け止めて、ンで叫びながら『喜びやがった』」

結標「はあ?バカじゃないの?」

一方「だろ」

麦野「ああ、そういえば根性根性うるさい奴だったわ」

麦野「前に私も一度戦わされた事あるんだけど、アイツ私の粒機波形高速砲を『口』で塞き止めやがったし」

麦野「んで喚いて笑ってた」

結標「……バカだけど強さもバカみたいなのなんだ」

一方「今はどォかわかンねェが、前までは俺とダークマターとアイツの三強だったろォよ」

結標「…………へえ~」



371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:19:36.91 ID:21Z5I3oo
土御門「あ~、そうそうダークマター。お前ら二人マジで殺し合いしたことあるんだろ?」

麦野「私はサラリとしかやり合ってないけどアクセラレータはガッツリやったんでしょ?」

一方「俺のポジションを狙ってやがったなァ。アレイスターと交渉する為に」


麦野「今思うと……アイツの方が私よりもよっぽど『生きてた』かもしれないわね」


一方「かもな……反吐が出るクソ野郎なのは変わりねェがな」

麦野「それは言えてる」

一方「あァ。つゥか脳ミソも全部消し飛ばしてた方が良かったかもな」

一方「まさかアレで生きてるとは思わなかったぜ」

土御門「でもアイツが死んでたら、お前は魔帝騒乱の時戦えなかったんだぜぃ?」

土御門「今の『その力』にも目覚めて無かったかもだしな」

一方「……………………まァな」

麦野「あ、話しか聞いてないんだけど、あの時のアクセラレータってどのくらいまで強化されたの?」


一方「『今の俺』なンざゴミレベルだ。桁違いだぜ」


麦野「…………」


土御門「あの時のアクセラレータはな、あのバージルに血を流させたんだぜい」


麦野「―――…………『アレ』に傷かよ……」

結標「すごいわよね」

                                  オ ー ル ワ ン
麦野「ははっ…………さすがは『優先度・AIM強度序列・レベル序列一位』ってところか」



372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:22:45.19 ID:21Z5I3oo
と、その時。

少し前からピタリと静かになっていた御坂が。

御坂「…………う……んぐぅ…………吐きそうっ…………」

前髪周辺をパチパチと鳴らしつつむくりと起き上がり、
目を潤ませ小刻みに震えながら悲壮な声を挙げた。

麦野「はあ?ふざけんな。結標、こいつをさっさとトイレに飛ばせ」

一方「チッ。酒も飲めねェ中坊が」

エツァリ「そう言わずに…………最初は誰でもこういうものでしょう」

麦野「あ、アンタいたの?忘れてたわ」

結標「仕方ないわね。能力切れる?トイレに送ってあげるから」

御坂「……ご………めん…………………」

そして謝りながら口を押さえ込んでいる彼女の姿が、結標の能力によってフッと消え。

その十数秒後。


一瞬だけ天井の電灯が点滅した。
恐らく病棟全体の明かりが明滅しただろう。


土御門「さすがは電撃姫。スケールのでかい嘔吐だぜよ」

結標「普通の施設だったら完全にブレーカーとんでたわねこれ」



373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:24:02.76 ID:21Z5I3oo
土御門「さて……俺はそろそろお暇させていただくにゃー。妹が待ってるんでな」

結標「私もそろそろ面会時間だから」

エツァリ「自分も…………ショチトルの面会時間ですので」

麦野「ああ?ノリ悪いなアンタら」

一方「俺とこのアマ残す気かァ?」

土御門「そう言うな。二人とも積もる話もあるだろ」


土御門「お前らは『似た者』同士なんだからな」


麦野「…………」

一方「…………」

じゃあね、と結標は手を振りながら姿を消し。
エツァリもついでに結標の能力で飛ばされ。

そして土御門は、いつもの不敵な笑みを浮かべながら退室していった。



374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:26:27.71 ID:21Z5I3oo
麦野「……」

一方「…………」

二人は『似た者』同士。

結標と土御門は違う。
あの二人は、今までの己の行い全体に対する後悔は無い。

グループに入る前から、暗部に堕ちる前からあの二人は自身の芯を貫き真っ直ぐに生きてきた。
殺戮に対し快楽を見出すことなどしなかった。
常に等身大で激突し抗ってきた。


だが一方通行と麦野は。


道を見つけられず、歩みを誤り。
己の手で、本来救うべき守るべき存在を破壊してしまった過去がある。

快楽に浸りながら手を血に染めた事実がある。

それが二人の上に重く圧し掛かっていた。
凄まじい後悔の念が。


一方「……」

一方通行は感じ取る。

麦野沈利。

この女も俺と『同じ』だ、と。

そして麦野も同じく感じ取っていた。

麦野「…………」

この男は『同類』だ、と。



375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:28:23.49 ID:21Z5I3oo

土御門の言う通り、正に『似た者』同士だ。


今まで何をしてきたのか。

どのような経緯で己の過ちに気づき今に至るのか。

それらは違うだろうが、だが『今は同じ』だ。

一方通行は上条によって。

麦野はダンテによって。

二人とも、同じく本物のヒーローによって目覚めさせられた者。

彼らは奇妙な感覚に陥っていた。
自分自身を鏡で見ているような。

一方「……」

麦野「……」


不思議な共感覚。


二人っきりとなり、こうして無言のままお互いを見ていると更に強調される。

なぜかどことなく『居心地の良い』、嗅ぎ慣れた同じ匂いが。



376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:29:39.16 ID:21Z5I3oo
麦野「………………ねえ」

一方「…………なンだ?」


麦野「…………今まで殺した連中の顔、全部覚えてる?」


一方「…………………なンでンな事聞く?」

麦野「…………何となく。私は、少なくとも顔を見て殺した奴は全員覚えてる」

麦野「…………いや……『最近』になって思い出してきた」

麦野「顔も……最期の声も……殺した時の感触も」

一方「…………」


麦野「その連中の、蝋人形みたいな蒼白な顔がしょっちゅう浮かぶの」

麦野「この潰れた右目の『向こう』に。無表情で私をずっと見てる」


一方「…………」

一方「……そォかィ…………俺はな。寝るとたまに見る。いや…………」


一方「『強化されたあン時』からしょっちゅう見るよォになった」


一方「『同じ顔した一万人』の女が、眼球のねェ真っ黒な眼窟を俺に向けてるンだ」


一方「何も言わずにジッと立ちながらな。そして俺は何もできねェ。その場から離れる事ができねェンだ」

一方「後ろには下がれず。ただその視線を受け続けるだけだ」


麦野「……………………その『夢』の終わりは?」


一方「『夢』?違ェな。これは『過去』っつゥ『現実』だ」


一方「それに『終わる事』は無ェ。永遠にな。むしろ『始まってすら』いねェ」

一方「これから行く。『連中』の所に行かなきゃなンねェンだ。『こっち』でやる事をさっさと済ませてなァ」

麦野「…………」



377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:32:21.09 ID:21Z5I3oo
一方「…………それでオマェの見る映像には『終わり』はあるのか?」

麦野「………………無い」

一方「…………そォか」

麦野「……」

一方「……」

麦野「……私もね。アンタと同じく『向こう』に行かなくちゃならないと思ってるの」

一方「……『だろうな』」

      黄泉の川
麦野「『向こう側』に会わなきゃならない『仲間』がいる」

麦野「そして『伝えなきゃいけない』事もある」

麦野「今更伝えてもどうにもならないんだけど。でも言わなきゃならない『言葉』がある」


麦野「でもね…………」


一方「…………?」


麦野「…………私は……これはわがままなのはわかってるけど……」

麦野「こんな薄汚れてどの口でって言われるだろうけど……」



麦野「生きたい」



一方「―――…………」



378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:34:23.93 ID:21Z5I3oo
一方「……………………」

一方通行の中で、
この身勝手な麦野の発言に対し怒りがこみ上がってきた。

このアマはアホだ。

往生際が悪い。

ふざけてやがる、と。


『死刑囚』が『生きたい』と口にするのはあまりにも身勝手な話だろう。

大勢を殺しておきながら何を抜かす?と言われるのが当たり前だ。

自分の事を疑うことなく無実と思っているのならまだしも、
罪を認識した上でそんな事を口にするとは。


一方「……」


と、そう思う一方で、彼の心の片隅では。


一瞬だけ、何となく妬ましいような。


そう、『羨ましい』と思ってしまった。


己と同じく闇に堕ち、そして己自身の罪をしっかりと認識し向き合った上で、
素直に『生きたい』と言える彼女の姿が。

これはただ単に身勝手なだけなのだろうか。

ただ往生際が悪いだけなのだろうか。


それとも―――。


――― 『勇気』の一種なのだろうか。



379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:36:26.09 ID:21Z5I3oo
麦野「こんな風に…………思えるのは初めてだわ……」

麦野「いえ…………たぶん特別クラスに入る前のずっと『昔』もこう思えてたみたい」


麦野「なんだか凄くなつかしい感覚でさ。不思議な…………うん……」


一方「…………」


麦野「………… あー。悪い。ムカつくでしょ?腹立つわよね」

麦野「何言っちゃってんのよね私は。わかってるっつーの。こんな事言える分際じゃないことぐらい」

麦野「今の言葉は忘れろ」

麦野は背もたれに後頭部をだらしなく預け、自分自身に呆れ返るような声を挙げた。

麦野「悪い。シケた話振っちまって」

一方「…………」

それに対し一方通行は沈黙だけ返した。
何を言えば良いのかわからなかったのだ。

どの言葉を使えば良いのかが。



380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:37:22.34 ID:21Z5I3oo
ここで言葉の選択を誤ると。
これ以上この話に、この女の言葉に入り込んでしまったら。


自分の何かが壊れてしまいそうな気がしたからだ。


つい先日、『最期の繋がり』を自ら絶ったばかりの『自分』が。


あの自分が『否定』されてしまいそうだったから―――。


だがその一方で。


一方「…………」


実は危うい興味も沸いていた。
麦野ともっと話したいという、奇妙な願望が。


麦野の『視点』が知りたくなってきたのだ。

己と同じく大きなものを背負っていながら、最終的な結論が食い違う彼女。

一体何を感じ、何をどう思っているのかを。



381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:39:07.41 ID:21Z5I3oo
ここで少し、一方通行の中でブレーキがかかる。
いや、誘惑に負けたと言った方が良いか。

自分はやる事をやったら『死ぬべき』という結論を曲げた訳ではない。

ただ。

ケジメをつけるのは麦野の話を聞いてからでも良いのではないか、と。

それぐらいならば。

一方「……」

決して彼女の言葉を受け入れようという訳ではない。
ただ、一つの客観的な意見として。

純粋に知りたい、それだけだ。


一方「……………………よォ。帰ってきたら……また飲まねェか?」

麦野「………………こういう風に誘われたの初めてだわ。私の『中身』を知った上で誘うなんて物好きね」

一方「勘違いすンな。特に深い意味はねェ。そのまンまの意味だ」

麦野「だからそれ。深い意味無しにさらりと言われたのが初めてなんだって」

一方「………… そォかィ。で、返事は?」

麦野「……いいわよ」

麦野「付き合ってあげる。生きて帰ってこれたらね」

一方「ハッ。無理はしなくていいぜ」

麦野「それどういう意味?『死なないように無理するな』って事?」

麦野「それとも『無理して生きて帰ってくるな』って事?」

一方「両方ォだ」

麦野「…………誘った女に対しては、口先だけでも良いからせめて前者の答えをするべきだろ普通」

一方「うるせェな。一応前者も入れて答えてやったンだ。ウダウダ言うンじゃねェ」

麦野「『一応』、ね。はっ……私もヒデェ男に誘われたもんだ」

一方「悪かったな」

―――



382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:41:47.87 ID:21Z5I3oo
―――

翌日。

第23学区。

午後三時。

地下の長い長い通路を土御門は進んでいた。
車椅子に乗っているエツァリを押しながら。

土御門の格好は至っていつも通りの私服。

だがその他に纏っているものらは、明らかに『普通』とは呼べなかった。

はだけたシャツの下、Tシャツの上には煙幕弾や手榴弾を大量にぶら下げているベルト状の弾帯。
右側の腰には大きな拳銃を下げ、左側の腰には弾倉。
腰の後ろ側にはさまざまな物が詰まっている幅30cmほどのバックパック。
太ももには予備の弾倉と救急セットがベルトで括り付けられ。

頭部には、ミサカネットワークを介し通信できるよう調整された軍用のヘッドセットを装着していた。

エツァリ「……後三時間後ですね…………出撃」

車椅子を押されながら、真後ろの土御門へ向けて口を開くエツァリ。

土御門「はは、腕が鳴るにゃー」

それに対し、いつものの軽いノリで土御門は言葉を返した。



383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:44:19.56 ID:21Z5I3oo
エツァリ「…………結局、あの島の術式解析は間に合いませんでしたね」

土御門「確かに用途がわからず仕舞いだったが、位置は特定できたんだ」

土御門「こうなったらもうやるしかないぜよ」

土御門「結構行き当たりばったりでも何とかなるものだしな」

エツァリ「……はは…………」

土御門「そういえば……滝壺理后のデータには目を通したよな?」

エツァリ「はい、一通り」

土御門「そのデータ見て思ったんだがな……」

エツァリ「?」

土御門「AIMの完全掌握ができるって事はだ」



土御門「AIMを『全て奪う』、つまり『能力の剥奪』、もしくは『完全抑制』が可能かもしれないという事か?」



エツァリ「……さあ、はっきりとは言えませんが……でも個人的な印象だと可能に見えます」

エツァリ「その点に何か?作戦に関係する事なら話しておいて欲しいですが」


土御門「いんやあ。『俺の個人的』な事でちょっとな」


エツァリ「……個人的……ですか?」

土御門「ま、気にするな。忘れてくれ」



384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:48:16.51 ID:21Z5I3oo

土御門「あー、そうそう、話し変わるが知ってるかにゃ~?日本も『魔術的』に動き始めたぜい」

土御門「『宮内庁陰陽寮』から『天社土御門神道本庁』に命が下された」

エツァリ「……やっと重い腰を上げましたか」

土御門「ああ。『あの部門』が正式に、こうして大規模に動くのは半世紀振りだ」

       カ ミ カ ゼ
土御門「『神代ノ風』の発動陣構築が急ピッチで進められている」


土御門「防衛ライン維持が不可と判断された場合、自衛艦艇を駒として日本海で発動される予定だ」

エツァリ「…………あんな術式を使うのですか?被害は日本側にも……」


土御門「それだけじゃあない。最悪の事態の場合、『天之瓊矛』の使用が認められた」


エツァリ「――――――!!」


土御門「人造悪魔兵器の軍が日本に上陸」

土御門「各主要都市及び首都圏が悪魔の手に落ち、国家機能が完全に停止。防衛機能の完全喪失」

土御門「そして国民の国外退避が不可能とされた段階で『起動』される」


エツァリ「―――自国土ごと『消す』気ですか!!!!??あんな物を使うなんて―――」


土御門「…………まあ、この国は消えるだろうな。『列島ごと砕け』、『大洋の中に沈む』」


土御門「だが『あそこ』はこう判断した」

土御門「逃げ場を失った国民を、みすみす悪魔の手にかけさせるわけにはいかないってな」

土御門「悪魔に貪られ体を引き散られ、永遠にその魂が苛まれないようにだ」


土御門「つまり『安楽死措置』だにゃー」


エツァリ「―――…………」



385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:52:07.09 ID:21Z5I3oo
土御門「どうせ死ぬのなら一瞬で死に、そして魂が解放された方がマシだろ?」

土御門「悪魔に殺されるということは、それでオシマイとはいかない」

土御門「むしろ始まりだ。『永遠に魂を囚われ続く』、想像を絶する苦痛のな」

エツァリ「…………確かにそうですが…………」

土御門「それにだ、それが起動されるって時は、もう『何もかも』が絶望的な時だけだ」


土御門「俺らが俺らの仕事をしっかりとやり遂げれば、そんな展開は来ない『だろう』ぜい」


エツァリ「…………………」


エツァリ「…………ちょっと待ってください」

土御門「ん?」

エツァリ「その件の事は置いておくとして……」


エツァリ「あなたの話を聞く限り、宮内庁も人造悪魔兵器の件を把握しているようですが」


エツァリ「あそこは一体どうやってその情報を?」


土御門「…………」



387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:58:30.38 ID:21Z5I3oo
エツァリ「いや…………当てましょう」


エツァリ「土御門、あなたですね。向こうの機密情報をあなたが知っているのも納得できる」


土御門「…………俺の仕事は学園都市・イギリス清教間のパイプ役だけじゃあない」


土御門「そもそも俺が『どこで』陰陽術を習得し、『陰陽博士』の位を与えられたか、な」


エツァリ「…………そこが……『本当の古巣』ですか?」

土御門「まあな。俺はエリート中のエリート、キャリア組み昇進まっしぐらの『特別国家公務員』だったんだぜぃ」

土御門「それがなんでこんな所に『飛ばされた』のか……泣けるにゃー」

エツァリ「…………まだ籍を置いているのですか?あそこに?」


土御門「籍を置いてるも何も、まだ特命任務継続中だ」


エツァリ「なるほど……学園都市・日本間の『裏のパイプ役』、及び『アレイスターの監視』ですか」


土御門「そこはご想像にお任せするぜい」


エツァリ「ん…………っ―――ちょっと待ってください。先ほどの滝壺理后の能力云々の話……」

エツァリ「まさかあなたは……自身のAIMを消させて『元の力』を…………?」


土御門「はっは、うまくいけば良いけどな。失敗したら多分『バイバイみんな』だぜよ」


―――



388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 23:59:46.38 ID:21Z5I3oo
今日はここまでです。
次は明日に。
多分明日中にこの編を終われます。



390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 00:23:44.57 ID:0EciNH6o
少し補足を。

『神代ノ風』(カミカゼ)は、第二次大戦中の特攻攻撃の『神風』では無く、
元寇の際に吹いたとされる暴風の『神風』の意味で使わせて頂いております。

作中のこの術式は、決して特攻系のものではありません。
気分を害された方がおりましたら大変申し訳ありません。



393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 02:26:57.27 ID:VtdZQsAO
土御門てものスゲェエリートなんだな
どういう生き方をしたらこの歳でここまでキャリアを積めるのか・・・・・・

ところで>>1に聞きたいんだけど>>384の天(変換できない)矛ってのもなにか設定資料あるの?
あるなら見たいし、今後明かされるなら黙っとく




395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 09:23:13.27 ID:Q3AFu.AO
>>393
設定も何も日本神話の武器の名前じゃないか
「あまのぬぼこ」な




396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 13:22:57.47 ID:hr0P/GAo
>>395
あめのぬぼこ、の方が一般的な気がする?

古事記上巻。イザナギ、イザナミが国造りをした際に天上から海に垂らした矛(槍のような武器)
そこから滴る雫から日本列島ができたという




397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 15:51:08.62 ID:VtdZQsAO
>>395-396
サンクス
無知ですまないな。まずググるべきだったか。




399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:10:38.89 ID:0EciNH6o
>>393
『天之瓊矛』(古事記では『天沼矛』)とは>>395-396の通りです。

その部分の設定は、今後作中で描写する予定も特に無かったため、
蔵出しという事で補足させていただきます。

当SS内における『天之瓊矛』は、人の手によって作られた偶像理論レプリカではなく、
天界由来の正真正銘の『オリジナル』であり、
厳密に言うと魔術霊装ではなく魔具・魔導器の天界バージョンのようなものです。

起動によって発動するのは、

 「イザナギとイザナミがこの矛を使って下界をかき混ぜ、
  下界の雫を穂先から垂らして淤能碁呂島(おのごろじま)を作り、
  この島で二人の神がアーンして日本列島を産んだ」

という『国産み』の再現です。

実際の現象は、
大地震が起きて現列島が全て崩壊・一度海底に沈んで初期化された後、
大規模な海底火山活動によって全く別の列島が新たに形成される、というものです。

しかし下界(人間界)で人間の手で起動してしまうと、
オリジナルが故に人の器では完全稼動できず、列島が完全消滅した段階で現象はストップします。

神話どおり天上(天界)にいる二神(イザナギ・イザナミ本人)によって『天之瓊矛』が使われないと、
『国産み』は100%再現できない、という事です。

また、日本が所持する数ある神器霊装の中でも最高峰のものであり、
有する力自体は全人類が所有する霊装の中でもトップ5に入る、と裏で設定しております。

効果対象が日本列島限定・オリジナルが故に人の手ではまともに扱えない、と、
とてつもなく極端で使い勝手の悪い存在ですが。


投下始めます。



400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:15:37.24 ID:0EciNH6o
―――

一方その頃。

同じく第23学区。

別の地下通路を、
麦野と一方通行が並び歩いていた。

一方「……」

麦野「……」

出撃メンバーではない一方通行は当然として、麦野の方も服装は昨日と変わらなかった。
高級なスーツをしっかりとキメ、金属製の眼帯を右目に、腰にはアラストル。

レベル4勢のメンバーには戦闘服が支給されているが、
レベル5・指揮幹部クラス(滝壺を省く)のメンバーは服装が自由となっている。

まず麦野と結標、御坂は戦闘服なんか着ていても意味が無い。
意味が無いのならば普通に精神的に慣れた服装の方が良い。

そして土御門は後の『個人的』な事も考え、
『魔術的』に融通の利く自身の私服、というわけだ。

麦野「……」

ちなみに昨晩のあの後、
あのまま二人は酔いつぶれて寝てしまった。

その気になればアルコールを分解できる一方通行も。
酒には絶大な自信があり、どんなに飲んでも潰れない麦野も。

昨晩だけは酔った。

今後『一生分』の『酔い』を前払いさせてもらったかのように。

一方「…………酔いは抜けたか?」

麦野「抜けた。シャワー浴びれば一発よ。アンタは?」

一方「百分の一秒能力起動させりゃァすぐだ」

麦野「へぇ。便利ね」



401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:18:14.60 ID:0EciNH6o
一方「…………」

麦野「…………」

中身があって無い様な短い会話の後、
再び無言のまま二人は歩き進んで行き。

数分後、T字路に突き当たった。
右側は出撃組の集合場所のハンガーがある、四番エプロンに繋がっている。
左側は、その四番エプロンからの出撃が見渡せる管制室に。

二人はそこで止まり、向かい合い。

一方「………………準備は?」

麦野「完璧」

一方「アラストル。このクソアマの事任せンぜ」

一方「任務さえ完遂してくれりゃァこの女の生死なンざどォでも良いが、死なれたら『気分が悪ィ』」

アラストル『任せろ』

麦野「気分が悪い、ね」

麦野「私もアンタがどなろうと知ったこっちゃないけど、死なれたら『ムカつく』」

麦野「せいぜいそっちもがんばりな」

一方「はッ」


一方「…………じゃァ行って来い。カス共に引導を渡して来い」


麦野「ええ。行って来る。クソ共は皆ゴロシにしてくる」


そして麦野は踵を返し、四番エプロンに繋がる方へと歩みだした。

と、数歩進んだところで、ふわりと髪を靡かせて振り向き。

麦野「あ、一つ良い?」

一方「あァ?」


麦野「帰った時の飲み、アンタの奢りだかんね」



402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:20:09.76 ID:0EciNH6o

麦野「それと私、がぶ飲みするから」

一方「カッ。わァってるよ。たンまり資金は用意しといてやる」


一方「良いからさっさと済ませて来いやクソアマ」


麦野「はっ……じゃあね。そっちもよろしく」


一方「…………おゥ。任せな」


そして麦野は再び前を向き、
歩き進んで行った。

そんな彼女の後姿を、相変わらずの冷徹な目で眺めていた一方通行。


一方「……………………ハッ。とことン図太い野郎だ」


小さく呟き。


一方「嫌ェじゃねェぜ。オマェみてェなアマは」


そして吐き捨てながら踵を返し、
管制室へ繋がる方へと進んでいった。


―――



403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:21:16.32 ID:0EciNH6o
―――

学園都市、午後4時ちょうど。

この科学の街にて、この時一人の『アンブラの魔女』が人知れず侵入した。

アレイスターを含む誰一人にも気づかれずに。



「学園都市か……」


魔女はとあるビルの上に立ち、その科学の町並みを見渡していた。


「(何だかんだで、直に訪れたるのは初でありけるか)」


そよ風が彼女のベージュの修道服、
そして長い長い金髪を優しく撫でていく。


「(……科学の街と言いたるも……)」


「(……風は世界共通でありけるわね)」


「(……)」



「(さーて………………どこにいたる?我が『片割れ』は)」


―――



404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:23:28.31 ID:0EciNH6o
―――

学園都市。

第23学区、午後4時半。

広大な地下施設の一画、長く続く通路の半ばにある広めのフロア。
そこに並べられていた長椅子の一つに、浜面仕上と絹旗最愛が並んで座っていた。

絹旗最愛は、学園都市最新の黒い戦闘服に身を固めていた。
一見すると投擲用の催涙弾にも見える液体窒素缶を、大量に腹・腰周りに装着。
太ももには、万が一のサブとして小さな拳銃。

絹旗「……」

姿勢正しく座り、彼女はゆっくりと呼吸しながら目を瞑っていた。

その隣の浜面仕上も同じく黒い戦闘服。

唯一の無能力者である彼は、物々しい通常火器武装をしていた。
最新式のアサルトライフルを肩からぶら下げ、大量の弾倉を防弾ベストの腹回りに装着。
腰には拳銃、太ももにはその拳銃用の弾倉も。

浜面「………………」

隣で落ち着き払っている絹旗とは対照的に、
彼はベストの胸元にあるフックを指でせわしなく鳴らしていた。


二人はここで滝壺理后を待っていた。

ちなみに今朝命じられた編成位置は、
二人とも滝壺理后の護衛だった。



405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:26:44.63 ID:0EciNH6o
絹旗「……超うるさいですね」

浜面「……わ、悪い」

絹旗「せめて出撃前くらいは超静かにして欲しいです」

浜面「そ、そうだよな」

絹旗に冷ややかに一喝され、フックから手を離す浜面。

とその時。

長い通路の向こうから、トコトコと歩き進んでくる人影。

あの歩き方や仕草、この二人にとっては一目瞭然。

滝壺理后だ。

格好も絹旗らと同じく黒い戦闘服。
唯一違うのは、武装類の装備を一切装着していないところか。

絹旗「……行きましょう」

浜面「……おう」

ぴょんと跳ねるように立ち上がる絹旗と、
装備の擦れる音を鳴らしながらゆっくりと立ち上がる浜面。

そして二人は並び歩き、友であり護衛対象である滝壺と合流した。



406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:28:58.30 ID:0EciNH6o
絹旗「おはようございます、と言っても今朝も超一緒でしたね」

浜面「おーす」

滝壺「……」


滝壺「やっぱりはまづらが当たってた」


絹旗「…………はい?超いきなり何ですか?」

浜面「ん?何がだ?」


滝壺「むぎの、もう私たちのこと怒ってないよ」


絹旗「……………………どうしてそう思えるんですか?」

滝壺「…… 実は昨日、むぎのが言ったの」


滝壺「最期になるかもしれないから、はまづらときぬはたの所に行けって」


絹旗「…………で?それだけですか?」

滝壺「うん。でもこれで充分だと思うよ?」

浜面「……………………」

絹旗「……超舌舐めずりしてるような顔とかしてませんでしたか?こう……超上げて落とすみたいな……」


滝壺「ううん。さびしそうな顔してた」


絹旗「…………」

浜面「…………」



407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:30:39.12 ID:0EciNH6o
浜面「……なあ……絹旗……やっぱり……」

絹旗「………………認めたわけではありませんが、一応心に留めておきます」

浜面「……いや、わかるだろ?麦野はもうそんな……」

絹旗「滝壺さんも浜面も忘れたんですか?」


絹旗「麦野はフレンダを殺しました」


絹旗「確かにフレンダにも落ち度がありました。捕らわれた際に情報を漏らしたんですから」

絹旗「ですが、元を辿ればそのような状況を超作ったのは麦野です」

絹旗「フレンダをあんな窮地に追い込んでしまったのは麦野です」

絹旗「フレンダは麦野の事を本当に慕っていたのに、麦野はそんなフレンダに自身の負の面を全て押し付けようとしたんです」


絹旗「私達を超裏切ったのは麦野の方です」


絹旗「それは超揺るぎの無い事実ですから。今がどうだろうと『消えません』」


滝壺「―――……」

絹旗「―――……」



408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:32:57.55 ID:0EciNH6o
絹旗「……一応、今ここで超はっきり言っておきましょう」



絹旗「私は『あの女』を超憎んでますから」



絹旗「私はともかく、理不尽な怒りであなた達までも殺そうとした事は絶対に許しません。絶対に」



絹旗「私が『あの女』に超言いたい言葉は『死ね』。その一言だけです」


滝壺「……」

絹旗「……」

絹旗「……この話は終わりです」

絹旗「これからという時に超余計なことは考えないで下さい」

絹旗「あなた達がどう思おうと別に良いですが、今はそれに構ってる余裕は超無いはず」


絹旗「今超大事なのは。任務を完遂し、三人全員でこの街に生きて帰ってくる」


絹旗「頭の中はそれだけにして下さい」

滝壺「…………………………うん」

浜面「………………おう」


絹旗「……では行きましょう」

―――



409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:36:16.90 ID:0EciNH6o
―――

午後5時11分。

この時、もう一人のアンブラの魔女が学園都市に浸入した。
同じく誰にも気づかれずに。

アンブラ魔女史上、間違いなく『最強の一人』である強者が。

先に侵入した魔女とは違い、
彼女はグレーのスーツを纏って変装して街中を歩いていた。

印象的な銀髪とトレードマークの赤縁メガネはいつも通りだが。


「(学園都市か)」


彼女は街中を歩みながら、路上を行きかう人々をじっくりと観察する。
少年少女の割合が異常に多い。


「(学生の街、か…………やり難いな)」


神裂・バージルらによる『舞台準備』が済む前に、
力を解放して戦闘しなければならない場合もある事考えると非常にやり難い。

巻き添えが出てしまう可能性が非常に高い。


「(どこにいるんだ?さっさと出て来な……頼むから抵抗するなよ)」


「(私にやらせるな)」


「(………………ローラ)」


この時、彼女はまだ知らなかった。

この街にいる魔女の人数が『二人』ではなかった事に。

『四人目』の幼い生存者がこの街にいた事に。


―――



410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:38:33.41 ID:0EciNH6o
―――

学園都市。

午後5時27分。

第23学区4番エプロン18番ハンガー。

大きな格納庫内にて、無造作に並べられている大量の椅子に座っている少年少女達。
公表はされていないものの、初めて能力者による正式な軍事的組織として編成されたこの部隊。

未成年の中高生達が、皆一様に黒い最新式の戦闘服で身を固めているその光景は異質なものであった。
人権保護団体がこの光景を目にしたらそれはそれは大騒ぎになるだろう。

そんな少年少女達は今、このハンガー内に響き渡る麦野沈利の力強い声に耳を傾けていた。

作戦の最終確認を行う麦野の声。

威厳があり、一切のブレが無い絶大な安定感のある確かな声色。

その音色が少年少女達の勇気の土台となり、静かに戦気を高揚させていく。

ただ、『一部』を省いて。


黒子「―――」

その『一部』の一人、

この集まりの一画にいた黒子の耳には、最早麦野の言葉は入っていなかった。
集まりの前の方、大きなスクリーンの傍にそれぞれの姿勢で佇んでいる幹部達。


その中に、臨戦状態の御坂の姿を見つけてしまったから。


私服、弾の入ったバッグを背負い、反対側の肩にはあの『大砲』。
腕を組みキッと顔を引き締めてる彼女は、どう見ても出撃メンバーの一人だった。


黒子「―――お……ね…………えさま…………なぜ……??」



411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:41:44.52 ID:0EciNH6o
ここにいる者達と同じく黒い戦闘服を纏っている白井黒子。

腹回りには大量の合金製の杭。
太ももには、レディから譲り受けた奇妙な紋様が刻み込まれている投擲用のナイフ。
そして背中の薄めのバックパックの中には、
彼女が有する最大の切り札であるレディ特製の大きな杭。

御坂にはとにかく秘密にしてこのメンバーに入り、戦闘態勢を整えてもう出撃、というところまで来た黒子。
そんな彼女にとって、こんなところで御坂の姿を見てしまうなどあまりにも衝撃的な事だった。

昨日の夕方、黒子は御坂に会いに言ったものの、
彼女はこの部隊に所属していたことなど寸分も匂わしてはいなかったのに、と。

黒子「…………………………………………」



麦野「……こんなところだな」

そんな中、麦野の淡々とした説明が終わり。


麦野「……じゃあ……最後に言わせろ」

最高指揮官は皆の顔をジッと見つめ、最後の言葉を送る。


麦野「向こうは本物の『地獄』だ」


麦野「この中の内、必ず生きて帰って来れない奴が出てくる」

麦野「いや、『全員』生きて帰って来れないかもしれない」

麦野「だが人間はいつかは死ぬもの。必ずその時が来る」


麦野「……オメデタイ『大義』に命を懸けろとは言わない。ただ―――」


麦野「―――人生で一度くらい、圧倒的な『勝ち』を手に入れたくはないか?」



412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:42:49.01 ID:0EciNH6o
麦野「私も含め、テメェらは今まで『負け続け』の人生で反吐を啜ってきたはずだ」


麦野「良いように扱われて、決められた『レール』の上を進むだけの『負け犬』人生を歩んで来たはずだ」


麦野「だが」


麦野「ここからは『レール』は存在しない。私ら自身が歩む『進路』を決められる」


麦野「いいか、これは今までの『ツケ』を『ぶっ飛ばす』唯一の機会―――」


麦野「―――地の底に堕ちヘドロに囚われた私らが『自由』になる唯一の道だ」


麦野「―――人生で『初めて』生と死を、そしてその『意味』を『自分達の手』で左右できるんだ」


麦野「―――そうするとだ。これ以上の『戦場』は無ぇだろ?」


麦野「―――死んでも勝ち、生きて帰れば更に圧勝。これ以上の『パーティ』が他にあるか?」



麦野「―――ビビるなよ。私達は『勝つ』。それは絶対だ」



麦野「―――世界に『魅せて』やれ。私達の生き様と死に様を」




麦野「―――そして『勝ち様』をな」



413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:44:17.58 ID:0EciNH6o
少年少女は呼吸すら止まったかようにシンと静まり返っていた。
彼らから静かに溢れ出した戦気が、ハンガー内に充満し空気がこれまで無いほどに張り詰める。

声に出して返事をする者は一人もいないが。


だが『返答』は態度と表情で返ってきた。

パーフェクトな返答が。

彼らの意志に満足し、軽く目を細め小さく笑う麦野。
そして土御門、結標、御坂の方へと目を向けた。

土御門は不敵に笑いながら。
結標は呆れたようでありながらも楽しそうな笑みを浮かべながら。
御坂は口元を引き締めながら無言のまま頷きを返した。


麦野「OK、じゃあさっさと各自指定の機に搭乗しろ」


麦野「―――パーティの時間だ」


そして矢のような声を放ち、出撃の時を告げた。



麦野「―――――――――行こうぜクズ共」



『声』の返事は未だ無い。
だが少年少女たちは態度で示した。

皆一斉に勢い良く立ち上がり、力強く歩み出す。

一切の物怖じ無く。

迷い無く自ら前へと。


ただ、黒子と麦野以外の元アイテム勢だけは顔に陰りがあったが。


―――



414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:47:48.36 ID:0EciNH6o
―――

デュマーリ島。

今や島全土には何よりも濃い漆黒の闇がかぶさり、
焼け付くようでありながら凍り付いてしまいそうでもある空気に覆われていた。

この魔境の北島。

島全体を覆う巨大な近代都市。
普段ならば大勢の者が行きかうその通りも、しんと静まり返り今や無人。

あちこちにある生々しい血痕が、その『日常』の末路の一遍を物語っていた。

そんな静まり返った街を静かに見下ろしている超高層ビル群の中、
一際大きく飛びぬけている巨大なビル。

『貪られた50万人』の墓標のように聳え立つその塔の最上階にて、
この悪夢の元凶アリウスが座していた。

最上階フロア大きなホール、その中央に置かれている椅子に。


フィアンマ『準備は?』

どこからともなく響いてくる、学園都市に『潜伏中』のフィアンマの声。


アリウス「……それを聞いてどうする?整おうとも整っておらずとも今がその時だ」


フィアンマ『確かにな』



415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:50:09.33 ID:0EciNH6o
フィアンマ『こうなったら多少計画と食い違っても良い』

フィアンマ『「過程」に対しては何も言わん』

フィアンマ『とにかく天の門と魔の門を開き、覇王とスパーダの力を手に入れろ』

フィアンマ『その「結果」だけを求めろ』


アリウス「…… 随分とあからさまになって来たな小僧。焦っているのか?」


フィアンマ『この際言うか。はっきり言うと「俺様も」覇王とスパーダの力が欲しいのでな』


フィアンマ『そしてお前が引き出してくれなければ手に入らない』

アリウス「ふん、たかが竜王になっただけで、その域へと達した俺から力を奪えると?」

アリウス「かの『創造』の方程式を竜王程度で扱えるとでも?」

フィアンマ『なあに、しっかりと考えてある。お前がその心配をする必要は無いだろう?気にするな』

アリウス「言っていろ。『創造』は後で頂く」

アリウス「勝つのはこの俺だ」

フィアンマ『…………はは、楽しみにしてるよ。お前が最期にどんな顔するのか―――』


フィアンマ『―――「興味がある」』


アリウス「…………ふん」



416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:51:46.85 ID:0EciNH6o
フィアンマ『ではさっさと「駒」を起動して騒ぎを起こしてくれ』

フィアンマ『早く天界の目を逸らしてくれ。ただでさえ「ここ」は天界の意識が集中しているんだ』


フィアンマ『「俺様」の復活は目立ちすぎる』


アリウス「…………急かすな」

スッと右手の平を上に向けるアリウス。
するとその上に直径30cm程の魔方陣が浮かび上がり、拳大の水晶玉が出現した。


アリウス「…………」

その水晶玉を握り、『糸』を通じて世界中の人造悪魔兵器へとリンクする。

世界中に散らばっている人造悪魔兵器。
予定よりも少し配置が違うが、全体的には問題ない。


アリウス「(では時間だ)」

一斉起動する時。

十字教を皮切りに、人間界の天界系勢力に対し大きな爪痕を刻む。
決して癒えない巨大な傷を。
そして目障りな学園都市にも牙の圧力を。


―――人を殺せ。



アリウス「宴の時間だ。目覚めろ。忌まわしき魔の子らよ」


――― 目に付いた人間は残らず殺せ。



アリウス「地獄の釜の蓋を解放しろ。この世を人の血と叫びで染め上げろ」


――― 一切の例外なく。


―――



417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:53:45.52 ID:0EciNH6o
―――

『それ』は世界中で始まった。

フランス北部、とある陸軍野営地では。

集積されていた装甲車両が突如軋み。
装甲の上に黒い肉塊が浮き上がり、巨大な瞳が開き、そしてその大口径の砲から四方八方に『死』をばら撒き。

イタリア中部の兵器集積場ては、
ケースに入れられ積み上げられていた小銃から手足が生え、一人でに動き出し無差別に発砲し始め。

ロシア東部のとある空軍基地では、無人の戦闘機の表面に同じく黒い肉塊が浮き上り、
勝手に離陸してつい先ほどまで駐機していた基地を灰燼に変え。

日本海上空では、学園都市の最新鋭戦闘機部隊が、悲鳴の通信を最期に忽然と姿を消して行き。

ジブラルタル海峡では、ここを見張っていたイギリス海軍の潜水艦が突如爆沈した。

これらの例は極一部。

世界中で、一方的な『虐殺』が同時に大量に引き起こされた。

その災厄を最も濃く受けてしまったローマ正教・ロシア盛教、この連合勢力の指揮系統は完全に崩壊する。
いや、指揮系統だけではない。

最早何もかもが一気に崩壊した。


『人類』はこの大戦の主導権を奪われたのだ。


遂に世界は移行する。


異界の者達の壮絶な戦場へと。


『本物の地獄』が始まった。


そして桁が見る間に膨れ上がっていく『死者数』を受け、
天界の目は否応無くそちらへと向けられる事となった。



418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:55:51.32 ID:0EciNH6o
ドーバー海峡近くの後方指揮所にいた、
シェリーも対岸の惨状の報告を受けていた。


シェリー「(……向こうでは……一体何が起こってる?)」

血相を変えた者達が周囲を行きかう中、
シェリーは目を見開き、机の上の通信魔術映像に次々と表示されていく報告に目を通していた。

突如人造悪魔兵器が一斉起動した。
その事については、いつか確実に来ると構えてはいたが。

それは『フランスがこちらに対し使う』という想定だ。


こんな『形』など。


これでは『第三次世界大戦』なんかじゃ―――。


シェリー「(違う―――これは―――)」


何がどうなってこうなってしまったかの経緯なんかはまるでわからない。
だがこれだけは確実だった。

今、『戦争の主題』が大きく変わった。


そう、もうこれは。


『イギリス清教対ローマ正教・ロシア成教』の戦争ではない。



『人間対悪魔』の戦争だ。



419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 23:57:51.69 ID:0EciNH6o
シェリー「キャーリサ様!」

通信霊装の向こうの最高指揮官へとシェリーは大声で呼びかけた。

キャーリサ『報告は見た。命ずる。今より最敵性勢力は悪魔とする』

そして返ってくる、冷静沈着な声。
まるでこの事態を予期していたかのような。

キャーリサ『フランス人は二の次だ。対悪魔を国防最優先事項とする』

シェリー「了解!!!」

キャーリサ『お前はドーバー前線に出ろ。騎士団長も前線に送る。お前ら二人が全軍を率い抑え込め』


キャーリサ『こっちはリメリアに任せ、私がそこの後方指揮所に移る。そして場合によっては私も前線に立つ』


シェリー「了解!!ウィリアム=オルウェルとシルビアはまだですか?!」


キャーリサ『まだだ。二名とも連絡がつかない。連中の増援は「まだ」期待するな』


キャーリサ『それと敵は悪魔だ。作戦など無く真っ直ぐ力ずくで来るはずだ』

キャーリサ『つまりドーバーが要となる』

キャーリサ『そこが我らの最後の防壁だ。あの数に上陸されたら手の内ようがない』

キャーリサ『人造悪魔だけではなく、純粋な高等悪魔が紛れているのも確実』

キャーリサ『そんな軍の上陸を許してしまったら、我が国土は必ず灰燼に帰す』


キャーリサ『何があってもそこを通すな』



キャーリサ『死守せよ』



シェリー「……了解ッ!!!」



420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:00:33.36 ID:b6Co5Sco
シェリーはキャーリサとの通信を切断し、今度は各地への通信回線を開き。

シェリー「オルソラ!!!!対魔結界をできるだけの数ドーバー全体に張るよう命じろ!!!!」

オルソラ『了解でございます』

シェリー「建宮!!!そこの師団を率いてドーバーに急行しろ!!!」

建宮『了解なのよな!』

シェリー「アニェーゼ!!今から私もそっちに向かう!!!」

アニェーゼ『早く来やがって下さいっ……!ヤっバイですよ!連中が向こう岸に集まってます!!!』

アニェーゼ『とんでもねえ数の赤い光が水平線の向こうを覆ってます!!!!』


アニェーゼ『あああああ奴らの声が聞こえやがる!!!!!いつこっちに来てもおかしくない状況です!!!!』


シェリー「待ってろ!!!今行く!!!」

―――

バッキンガム宮殿地下、総合指揮センターから伸びる長い廊下を、
従者を連れて足早に歩いていたキャーリサ。

振り向きもせずに後ろの従者へと淡々と口を開いた。

キャーリサ「国内及びドイツ・ベルギー・オランダ・デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの全魔術結社のリストを挙げろ」

キャーリサ「そして全ての魔術結社に現在の状況報告を流せ。もちろん該当国の政府にもだ」


キャーリサ「それとこう伝えろ。『この戦争は変わった。今より人対魔の戦いである』、と」


「……伝えるだけでございますか?」

キャーリサ「それで充分だ。これで立ち上がらなかったらそいつらはカスだ」


キャーリサ「人として死んだも同然だっつーの。何の為の『力』だ」


キャーリサ「『力』を持ちながら動かない連中は、『人間』を名乗りこの世界に生きる資格は無い」


―――



421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:02:30.17 ID:b6Co5Sco
―――


アリウス「…………」

『隠れ蓑』の起動は済んだ。

ここからはアリウス自身の計画を本格起動させる時だ。

まず、天の門の術式。

天界が今、世界各地の惨状に意識を集中している以上、
門を開く『鍵』のチェックは必ず疎かになる。

とにかく早く門を開こうと、『照合作業』をいくつか飛ばす事も考えられる。
『模造品』の鍵を使おうとしているアリウスにとっては好都合だ。

天界側は、相手がアリウスではなくフィアンマと思い込んで作業するだろう。

アリウス「…………………………」


とその時。

そう思考を巡らせつつ作業を行っていた彼は、
ふと『とある点』に引っかかり手を止めた。

天の門の術式も、この鍵の設計も、元は全てフィアンマから盗み出したもの。
そしてフィアンマは言った。

『その情報はわざと流した』、と。

つまり。

フィアンマの手が加わっていてもおかしくはない。

アリウスに対する『保険』のような仕掛けが入っていても―――。



422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:04:13.40 ID:b6Co5Sco
アリウス「…………」

だが、もしそうだっだとしても問題は無い。

何が仕込まれていようとも、アリウスにはそれを打ち破る絶対の自信がある。
フィアンマにとっては、アリウスが覇王とスパーダの力を手に入れてくれなければ困る。

そしてアリウスとしては。

その状態となった自身が、そんな小ざかしいせこい罠に嵌るとも思っていない。


覇王とスパーダ。
その両方を手に入れた時点で、フィアンマはこちらには手を出せないはず、と。


アリウス「(愚か者めが。底が浅いぞ。この俺の裏をかくなど100年早いわ小僧)」


小さく笑い。
葉巻を噛み締めながら、アリウスは再び手を動かし始めた。

アリウス「(問題はない)」


天の門の起動。

魔の門の現出。

そしてアルカナによる覇王復活。

その全ての作業が順調に始まった。



423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:05:21.61 ID:b6Co5Sco
アリウス「では始めるか」

そしてアリウスは最後の一手。

この『舞台』の完成の為の最後のピース。

開幕を告げる狼煙へと手をかけた。


それはネロの恋人、キリエにつけた『マーキング』。


そもそもはキリエを拉致するのがフォルトゥナ襲撃の最重要目的だった。
そしてそれが失敗した場合の為の保険があのマーキングだ。

直後にネロに見せたアリウスとキリエの『同期術式』は、
マーキングを利用しただけのあの場で作った即効技だ。

つまり。


アリウス「開演だ」


マーキングの『本当の仕事』はここから。


あの女へ手をかけた本当の目的は『盾』にする為ではない。


『エサ』だ。


アリウス「お前の為の舞台を用意してやったぞ」


アリウス「スパーダの孫、ネロよ」



アリウス「楽しむが良い」



―――



424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:06:43.03 ID:b6Co5Sco
―――

遡る事数分前。

学園都市。

とある病棟の一室。

トリッシュ「……」

ベッドの上には、相変わらず毛布に包まっているトリッシュ。
その彼女の視線の先には。

レディ「……」

部屋の壁際にて、荷物を空けさまざまな道具を散らかして何やら作業を行っているレディ。
彼女はサングラスを頭の上にあげ、オッドアイの瞳を凝らしながら、
長さ15cm、太さ2cmほどの杭に小さなナイフで術式を刻み込んでいた。

ちなみにキリエはルシアとお馴染みとなった佐天と共に、病棟内の散歩に出ていた。

そして彼女の術式解析はもう完了した。

術式内容全てを知りつくしたという訳では無いが、
ひっぺ剥がす方法は完璧に確立できたのだ。

レディが今行っている作業は、その解除用の『鍵』の作成だ。



425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:07:45.38 ID:b6Co5Sco
トリッシュ「もう終わる?」

レディ「あと一分で」

トリッシュの言葉にそっけなく返答しながら、
レディは床にナイフで魔方陣を刻み込んだ。

その魔方陣の中央からポッと青い炎が吹き上がり。

レディは横にあったバッグの中に手を突っ込み、
赤い液体が入っている小さな小瓶を取り出した。

この間採取したネロの血だ。

その小瓶の栓を指で器用に弾き飛ばすと、もう片方の手に持っていた杭にかけ始めた。

そして一通り血で染め上げた後、先ほど点火した炎でその杭を焙り、
血液から水分だけを飛ばして組織を膠着。

レディ「……OK、完成」

これで鍵は完成。

後はしかるべき術式でキリエを保護した後、
同じくしかるべき術式で彼女の体内にこの杭を溶け込ませるだけ。


それで解除だ。



426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:08:18.00 ID:b6Co5Sco
レディ「じゃあ呼んで来るわね」

杭を手に立ち上がり、ドアの方へと向かうレディ。

トリッシュ「さっさと済ませちゃって」

レディ「はいはい」

適当な答えを返した後、廊下に出て足早に進んでいくレディ。

しばらく進み廊下の突き当りを曲がると、その向こうにキリエ・佐天・ルシアの姿が見えた。
三人とも並びながら歩き、ちょうどこっちに戻ろうとしていたのだろうこちらに向かってきていた。

レディ「キリエ。出来たわよ」

レディは声を飛ばしながら、今しがた完成したばかりの『鍵』である杭を軽くかがけ―――。



――― たその時。


レディ「―――」


彼女の鍛え上げられた勘が捉えた。

この場の空気の何かが変わったのを。

同じく感じたのだろう、キリエの隣にいたルシアも硬直する。


そしてその直後。


異変が始まる。



427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:09:12.88 ID:b6Co5Sco
キリエ「―――……ッ……」

突如手首を押さえ顔を歪めたキリエ。

『あのアザ』付近に鈍痛が走り始めたのだ。

ルシア「―――」

佐天「―――?!」

両側にいる二人の少女が、キリエを見て言葉を放とうと口を開きかけたが。

『現象』はすぐに始まった。

言葉を交わす暇なく。


キリエの足元に浮かび上がる『赤い魔方陣』。



そして。


キリエ「―――」



一瞬にして『沈み込む』キリエの体。


佐天「―――」


両脇のルシアと佐天ごと。



428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:10:47.28 ID:b6Co5Sco

ルシア「(―――これは―――)」

ルシアは一瞬にしてこれが何なのかを把握した。
彼女自身もいつも使っていた悪魔の移動術の一種だ。

だが普通ではない。

明らかに何らかの目的の為に改造されている。

その速度も取り込む吸引力も強すぎる。

ルシアならともかく、佐天とキリエはもう引っ張り上げられない。
強引にこの『吸引』に逆らったら、彼女達の体が千切れてしまう。


ルシア「―――」

ルシアは即座に判断する。


己も二人に付いて行かなければ、と。


向こうに悪魔でもいたら。

いや、確実にいる。


そんな場所で、彼女達二人だけになってしまったら抗う術は無い。


その瞬間、ルシアは二人の手を取り固く握った。
バラバラに飛ばされないように。



429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:11:53.86 ID:b6Co5Sco
そして廊下の先、15m程の場所でその現象を見ていたレディ。

彼女も即座に判断を下した。

手に持っていた杭を振り上げ。



レディ「―――Take it!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



閉じつつあった魔方陣の中へと放り投げた。

あとわずかという所、放られた杭はギリギリの穴を抜け。


ルシアがその杭を口でキャッチ。


そして次の瞬間、穴は完全に閉じ。


三人は『どこか』へと『転送』されていった。



430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:13:55.16 ID:b6Co5Sco
レディ「―――Fuckfuckfuck!!!!!!!!!!!!!!!!!!Damn it!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

杭をギリギリのところでルシアに授けたレディ。
即座に魔方陣の浮かんでいた床に滑り込むように駆け、
手早くナイフで解析用の術式を床に刻んでいく。


トリッシュ「何が―――!!??」


その時、彼女の後方20m程の場所、
壁に寄りかかっているトリッシュが声を張り上げた。

彼女も異質な空気を感じ、その動かぬ身に鞭打って壁伝いになんとかここまでやってきたのだ。


レディ「やられた!!!!!連れて行かれた!!!!!!!!」


トリッシュ「―――転移先は!!!??」




レディ「―――……………………デュマーリ島…………!!!!!!」




ナイフを固く握り締めながら。
解析結果を告げるレディ。


トリッシュ「―――……まずい―――……まずいわ!!!!!!」


トリッシュ「ネロは?!繋がる?!」


レディ「いや……多分もうデュマーリ付近にいるのかもしれない……妨害されてて繋がんないわ」


トリッシュ「(こんな時―――私が動ければ―――!!!!!!!)」



431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:15:13.19 ID:b6Co5Sco

トリッシュ「―――ダンテ!!!!聞こえてる!!??」

そしてトリッシュは天井を仰ぎ声を張り上げた。
頭の中で呼びかけるだけで通じるのだが、衝動的に今は大きな声で。


ダンテ『聞いてたぜ。ハッハァ~盛り上がってきたじゃねえか』


トリッシュ「何が盛り上がったのよ!!!!??どうにか―――」


ダンテ『―――大丈夫だろ。心配ねえさ』


トリッシュ「―――またアナタはそんな事を―――!!!!」


ダンテ『うるせえな。良いから信じろ。何とかなる』



ダンテ『―――向こうにはネロがいるんだからな』



ダンテ『―――アイツは負けねえさ』



トリッシュ「―――…………」


―――



432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:16:27.74 ID:b6Co5Sco
―――

学園都市。

第七学区、上条宅。

午後6時を過ぎた頃。

上条「あ~……やっぱり今度掃除しなきゃな」

禁書「うん……」

夜風が吹き抜ける薄暗い宅内を、きょろきょろと見回しながら言葉を交わす上条と。
小萌に預けていたスフィンクスをようやく迎えに行き、
胸元に大事に抱えているインデックス。

二人は荷物を取りに数日振りに我が家に帰ってきたのだ。

上条「…………でも改めて見ると案外、そこまで壊れてないな」

禁書「そうかも…………」

あの時はそこまで意識が回らなかったが、思ったほど部屋は破壊されていなかった。
一方通行が室内から窓をぶち抜いたからだろう、ガラス片もほとんど内側には飛散していなかった。

ベランダの手すりも、まるで鋭利な刃物で切り落とされたかのようにきれいさっぱり消え、破片も全く落ちていなかった。

破壊の仕方がキレイ、スマートと言うのだろうか。
こう言うのもおかしな事だが、一方通行の破壊の仕方は無駄が無いと称すべきかもしれない。

上条「でも靴は脱ぐなよ?やっぱ少しガラス片が散らばってるから」

禁書「うん……ちょっと待って。土足で上がって良いのかな?」

上条「どうせ後で掃除すんだ。今は良いさ」



433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:18:13.44 ID:b6Co5Sco
そして二人はいそいそと荷物を集めてはバッグに入れ始めた。

荷物は少ない。
ほとんどがインデックスのだけ。
上条の着替えの大半はデビルメイクライにあり、後で取りに行けば問題ないからだ。

それならば当然、すぐに作業は終わる。

インデックス「…………」

インデックスはスフィンクスを抱きしめながら、
ふわりと修道服を靡かせてベランダへと出た。

手すりの無いベランダ。
そこから見える第七学区。

先日の激戦地となったこの区画からは一般市民が皆避難させられており、
立ち並ぶビルや寮には灯りが全く灯っていなかった。

インデックス「…………」

地上の光は、ポツポツとあるアンチスキルの作業灯のみ。

そしてそれだからこそ。


インデックス「……」


普段は夜景に掻き消されていた、冬の早い夜空の光が、
静かに優しく降り注いでいた。



434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:19:13.37 ID:b6Co5Sco
煌々と瞬く大量の星。
それらを見上げながらインデックスはポツリと呟いた。

インデックス「キレイ……」

あの時と。
上条がデビルメイクライに行く前、二人っきりで夜道を歩んだ時と同じように。

そんな彼女の背中にふわりとかけられる毛布。

上条「寒いだろ。暖かくしなくちゃな」

そして言葉に続き、彼女の横に並び立つ上条。

禁書「とうまも暖かくしなくちゃダメなんだよ」

上条「はは、俺は問題ないさ。冷凍庫の中だろうとオーブンの中だろうと屁でも無いんだからな」

禁書「………… うーん……でも私だけ暖まるのもイヤだから、建前だけでも良いからとうまも」

そう言うとインデックスはその場にゆっくりと座り込み、
そして毛布を広げて上条に隣に座るように促した。

禁書「ほら、さっさと座ってくれないかな?寒いんだよ」

上条「…………はは……わかったわかった」



435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:21:57.20 ID:b6Co5Sco
一つの毛布に包まりながら並び座る二人。

穏やかでありながら、どことなく意識が別のところへと離れているような会話。
二人は何となく予感していたのかもしれない。

今起こっていること、そして今後起こる『大きな大きな事象』を。

そして二人とも意識していた。

『話』をできるのは今しか無いかもしれない。

伝えたい事を伝え、その言霊をゆっくり噛み締められるのは今晩だけなのかもしれない、と。

そして先に話を仕掛けたのは。

禁書「……ここで私ととうまは出会ったんだよ」

インデックスだった。

上条「…………」

禁書「今は無くなっちゃったんだけど、私はここの手すりに引っかかってて……」


上条「―――待ってくれ…………それについて伝えたいことがある」


だが上条も押されるばかりではなかった。
彼は既に心に決めていた。

昨日、御坂から貰った。

全てを打ち明ける『覚悟』を―――。


前に踏み出す『勇気』を ―――。



上条「………………………………………俺、記憶が無いんだ」



上条「お前と出会った頃の事は…………何も覚えていない」



禁書「…………」



436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:23:15.15 ID:b6Co5Sco
上条「…………」

どんな言葉が返ってくるのか。
インデックスは悲むのか。
それとも体を震わせ怒るのか。

だが、インデックスの反応は上条が予想していたものではなかった。

彼女は何も言わずに、ポスンと上条の肩に頭を預け。


禁書「………………だから、今教えてあげようとしてたんだよ」


そしてこう告げた。
全く動じていない穏やかな口調で。


上条「……………………………………やっぱり知ってたのか?」

禁書「……うん。このあいだ聞いちゃったんだよ」


上条「………………………すまん……ずっと騙しつづけて……本当に―――」


禁書「―――何も言わないで。私は別に良いんだよ」


上条「別に…………って!!!!だってお前と出会った時の記憶すら―――」


禁書「確かに。確かにアレは私の大事な宝物。だけど ―――」



禁書「―――『今』に比べたら。。。」



禁書「ずるいよ。とうまは」



禁書「そんな事打ち明けられたって『今の私』は怒れないんだよ」


上条「―――…………」



437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:24:50.38 ID:b6Co5Sco

上条「……でも、俺は……お前を救った上条当麻とは別人なんだ」

禁書「どこが?」

上条「どこがって……だって何も覚えてないんだぞ?俺はただ……前の上条当麻の跡を次いで……」

禁書「それは違うんだよ」

禁書「こうしてるとわかるんだから」

禁書「あの時、私を抱き抱えてくれたとうまと何もかわらないって」

上条「……」

禁書「記憶が無くなろうと。悪魔になろうと。とうまはとうま。何も変わらない」

上条「……」

禁書「皆の為にあちこち走り回ったのも、ただ記憶を失う前の仕事を引き継いだだけって言うの?」

禁書「死に掛けて……ある時は本当に死んでまで……」

上条「……」

禁書「あれはとうまじゃなきゃできない。他の降って沸いた誰かができるワケが無いんだよ」

上条「……」

禁書「だからその事はもう何も言わないで。何も」

上条「………………………………」



438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:26:04.73 ID:b6Co5Sco
禁書「あ……そうだ……これも盗み聞きしちゃったことなんだけど……」

上条「……」

禁書「私の『この力』、元を辿ればこれが『元凶』だと私も思う。でも」

上条「…………」


禁書「皆忘れがちだけど、とうまのその『右手』だって『私』と同じくらいの『厄病神』なんだよ」


上条「………………そう……かもな」

禁書「……私が全てから解き放たれるのならとうまも」

禁書「人間に戻って……そしてその右手も普通の手に戻して……そうじゃなきゃイヤなんだよ」

上条「…………」


禁書「私だけが救われてとうまが救われないなんて、そんな世界なんか私にとって意味が無いんだよ」


禁書「もう『守られるだけ』なのはイヤ。私も一緒にとうまと行きたいんだよ。どこまでも」



439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:28:08.38 ID:b6Co5Sco
上条「………………よし、じゃあ約束しよう」

禁書「……うん」

上条「俺とお前は一緒だ。『ここ』から抜けるのも一緒だ」

禁書「どこまでも一緒。『救われる』時も。『堕ちる』時も」

上条「…………絶対にお前一人にはしない」

禁書「…………絶対にとうま一人にはしない」


二人の中にある想いが膨れ上がっていく。


そしてこう告げる。


今がその時だ、と。


禁書「ねえ。とうま―――」


少女はその声に従う。
この胸一杯の、
はち切れんばかりに篭められた想い伝えるべく。



禁書「―――私、とうまの事が好き」




禁書「―――とうまが大好きなの」



440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:29:33.45 ID:b6Co5Sco
上条「―――…………」


彼女の鼓動は波打ち。
体温が一気に上がりつつあるも。

なぜか声色は落ち着いていた。

淡々と冷めていた、という訳ではない。
ぬくもりのある穏やかな声だった。


そして上条も告げる。

今一番彼女に伝えたかったことを。


何も恐れることは無い。
勇気を持ち。



上条「俺も ―――」



わずかに体を震わせながらも。



上条「―――お前の事が好きだ」



確かな落ち着いた声で。



上条「―――好きだインデックス」



441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:30:38.96 ID:b6Co5Sco
上条の言葉を受け。

彼に寄りかかりながら顔をあげるインデックス。

その顔にはこれまで上条が見たことの無いほど美しい笑みがあった。

儚く脆く繊細でありながら。
それでいて煌々と輝く暖かい笑顔が。

禁書「……」

上条「……」

両者の顔の距離はわずか15cm足らず。

鼓動を高鳴らせ頬を赤らめるも、二人は決してお互いから目を離さない。

真っ直ぐに見つ合う。

禁書「……とうま、私そのとうまの言葉がずっと欲しかったのかも」

禁書「自分で気づくのが遅すぎちゃったのかな私」


上条「…………俺もだな」

上条「なんでもっと早く言えなかったんだろうな……」



442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:31:55.00 ID:b6Co5Sco
禁書「でも……良かった」

向かい合う二人。

その顔の間の距離が徐々に。


上条「ああ……ちゃんと……言えた」


ゆっくりと狭められていく。


禁書「うん……ちゃんと……」


お互い吸い寄せられるかの如く。

そして二人とも、その引力には逆らわなかった。

素直に。

この胸の高ぶりのまま。


インデックスは静かに目を瞑り。

上条も瞼を閉じ。



443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:33:20.25 ID:b6Co5Sco

星が瞬く夜空の下。

少年少女を『地獄』へと運ぶ超音速機の、大気を切り裂く音が響く中。

緩やかな夜風が吹くベランダの上で。

始めて出会ったこの『場所』にて。



この物語が始まった『聖地』にて。




二人は唇を重ねた。




優しく―――。


静かに―――。



444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:33:54.69 ID:b6Co5Sco

そしてこの瞬間。


とある『運命のトリガー』がインデックスの中で引かれた。
彼女自身が『まだ』気づいていなかった歯車が回りだす。


今のこの状況。
二人の想い。
そして結ばれる心。

それらの条件が満たされ。


ここに『魔女』と『悪魔』の『絆』が形成された。


種の壁を超えた『上条当麻』と『インデックス』という存在の『魂の癒着』。


一心同体・運命共同体。


決して断ち切ることのできない


何人も間に割り込むことができない


永久の究極の『繋がり』を―――。



445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:35:19.76 ID:b6Co5Sco
意識を共有し。

お互いの上に圧し掛かっている巨大な巨大な『重石』を再認識する二人。

お互いとも、抜け出すのが困難な渦の中心にいる事を。
固く鎖が纏わり付いていることを。


これはとんでもなく危うい賭けなのかもしれない。


両者の破滅へと転げ落ちる片道切符なのか。

それとも一筋の救いの光となるのか。

『今』はわからない。

だが、二人にとってそんな事など今やどうでも良かった。

こうして結ばれたのなら、結末がどうなろうと。

いつまでも『一緒』なのだから。
いつまでも心は通じ合っているのだから。


『二人にとって』のBADENDはもう消え去った。


どんなに過酷な未来が待ち受けていようと。
どんなに凄まじい苦痛がこの先に待ち伏せしていようと。


二人は決して後悔しない。


この『瞬間』の『幸せ』だけは、もう誰の手にも奪われないのだから。

間違いなく今この瞬間『だけ』は。


世界で最も幸せを感じていたのはこの二人であった。

―――

準備と休息編

終わり



446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:36:18.55 ID:8SY9VHg0




453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 03:13:42.82 ID:RnobDYAO
平穏は御仕舞いか




459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 17:28:04.01 ID:87tNA9Ao
スフィンクス「('A`)」



462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/07(日) 20:54:49.15 ID:Qy1bNwAO
みんなもの凄く性格がハッキリしてるな
特に、ここまで軸のブレない当麻は素晴らしい




472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/12(金) 23:56:36.56 ID:ErduE1so

―――



「地獄―――」



「―――ここは本物の地獄だな」


とある超高層ビルの最上階にて、全身を最新式の戦闘服・武装で固め、
そして左肩の上腕部に『星条旗』のワッペンをつけている一人の男。

彼は、眼下に広がる薄闇の中の超高層ビル群を眺めながら呟やいた。


「…………神も天使もいませんね……少なくともここには」

そんな彼の独り言のような声に、同じく独り言のように言葉を返した斜め後ろにいる同じ軍装の男。
彼らが今いる場所。

そこは、ビルの管理用のフロアであり配線や基盤が至るところに犇いていた。
窓辺の二人の後ろ側には、もう三人同じ軍装の男達がおり、
二人はあちこちの配線・基盤を弄り、一人は携帯用のPC端末を操作しながらマイクになにやら呼びかけ続けていた。

そしてこのフロアには更にもう三人いた。

ウロボロス社のマークが刻印されているパワードスーツを着込んだ男達。
それぞれがフロアのドア付近に立ち大口径の銃を手に警戒していた。

このパワードスーツ、学園都市のそれとはかなり見た目が違っていた。
表面は黒い『筋繊維らしき』構造で覆われており、さながら皮膚体表を剥がされたかのような外観だ。
着込んでしまったら身長も体格も一切わからなくなってしまう学園都市製のと対照的に、
そのスーツの厚み自体も差ほどのものではなく、
黒いシルエットだけにしたら筋骨隆々のボディビルダーと同じくらいに見えるだろう。


そんなウロボロス社製の最新装備をした男達とアメリカの特殊部隊の男達。

彼らは今ここで何をやっているかというと。

途絶された通信の回復を試みているのだ。
このビルの頂点に立っている巨大な通信等を使って。



473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:01:59.18 ID:tJ.4jHwo

「…… 状況は?」

窓辺から街を見下ろしていた男。
この質問は何度目になるだろうかと自覚しながらも、背後の部下へと言葉を飛ばした。

「変化無し。全ての帯域で呼びかけておりますが、応答はありません」

「それと……やはりジャミングされている可能性はありません。信号は『全て正常』です」

「…………」

何度聞いても不可解だ。
ジャミング無し。
こちらの信号は異常なく正確に飛んで行っている。

ではなぜどこも応答しない?

軍用回線だけではなく、民間回線にも満遍なく信号を送っているのに。

この島の周囲や天面全てを、
いかなる『線』をも遮断する非透過性の金属壁で囲むでもしないとこんな現象はまずありえない。

この島のそのものが、何かの方法で外界と隔離されたのか。

「…………」


「もしかすると、『外の世界の方』が消えちまったかもですね」


その時、基盤を弄っていた一人の部下がポツリと呟いた。



474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:04:08.61 ID:tJ.4jHwo

外の世界の方が消えてしまった。

その言葉に対し、誰も返答しなかった。
普段なら『ありえねえ』『バカか』『SFの読みすぎたアホ』といった言葉が返されただろうが。

この時はそんな言葉達は飛び交わなかった。


なぜなら。


誰も否定できなかったから。

現に、この島で彼らは『ありえない』光景をいくつも目の当たりにしてきた。

いまや、24時間常に『薄闇』に包まれているこの島。
星も出ないし太陽も出ない。

雲が無いのにも関わらず妙な質感の揺らぎ、
まるで『面』そのものが鼓動しているかのように見える漆黒の空。


漆黒であり、そしてどこにも灯りが無いにも関わらずボーっとやけに見通しの聞く『奇妙な闇』。


この世のものとは思えない、この猛者達ですら今まで経験したことの無かった異質な空気感。




そして。




あの『異形の化け物』たち―――。



475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:06:32.01 ID:tJ.4jHwo

この島に送り込まれた特殊部隊は複数あり、それぞれ別の任務を与えられていた。

あるチームは空爆や砲撃の誘導と観測。
あるチームはこの島の防御機構への破壊工作。
あるチームは滞在していたアメリカ要人の保護。

そしてここにいる男達のチームに与えられた任務は『情報の取得』。
この島の厳重なメインサーバーにハードから侵入し、消去される前に『極秘情報』を全て強奪する。

学園都市につぐ先進勢力ウロボロス社、その科学の結晶を本国に持ち帰ることだ。


だが実際にこの島にやってきたら。


何もかもが瓦解した。
当初の計画など全てが吹き飛んだ。

この島での現実離れし過ぎた異常事態に。

一応極秘情報の奪取は成功したものの、彼らはこの島から出れなくなってしまった。
通信も途絶し孤立。

島内に残っていたチーム間で相互に情報を交換したり合流したりしていた矢先の事だった。


異形の化け物達が、突如島全土に溢れ出したのだ。



476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:08:30.14 ID:tJ.4jHwo

どこからともなく出現した無数の怪物達は、目に付いた人間達を無差別に捕食していった。
当然、この島を守るウロボロス社の武装部隊が出動しそれなりに奮戦したものの、
結果的に一時間もしないうちに壊滅。

怪物の中には、戦車砲を至近距離から受けても死なないような存在までもいた。

そんな怪物とどう戦えと?

普通の対人戦ならスペシャリストだが。


あんな化け物相手にどうしろと―――?


そこを見て、この米特殊部隊のチームは正面から激突することを極力避けるように行動した。

だからこそ今でもこうして『生きている』。

ちなみにその過程で、ウロボロス社兵や科学者、民間人の生き残りともいくらか合流した。

最早こんな状況で人間同士で対立している訳にもいかなかったのだ。
(そもそもウロボロス社の一般兵・一般人達は、自分達が今アメリカと敵対関係にあることさえ知らされていなかった)

彼らはこの異質すぎる狂気の世界を生き残るために、
それぞれの力を出し合って協力する事を決めた。


ただ今のところ。

生き残る、もしくはここから脱出する目処は全く立っていなかったが。

もう街には、人影が自分達以外見当たらなくなっていた。

彼らははっきりと認識していた。


生存者は恐らく自分達だけ。


ここにあるのは血と肉塊と死だけ―――と。



477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:16:34.86 ID:tJ.4jHwo


「そちらはどうだ?」

窓辺から闇に浸る街を眺めながら、男は下階にて待機している別働隊へと通信。


6名の特殊部隊員、3名のウロボロス社兵、
2名の科学者と道中で保護した8人の民間人がこのビルの1階にいる。

『医療品が底を突きました。ブラボーから一名、民間人が二名の計三名が失血死』

『ウロボロス社の連中に現在棟内の医療品と「食べれる」食料を探させていますが、今のところ収穫はありません』

「……了解。現状を維持しろ」

『了解』

「…………」

どんどんと事態は悪化してきている。
他にも負傷している物がいる以上、医療品の欠如はかなり痛い。
それにもしあの怪物と戦闘となると、必ず重傷者が出る。
(ここの来るまでに何度も襲撃され、その都度死人と重傷者が出てきた)

更に食料と水。

これだけの大都市ならばそこら中にあると思われがちであったが、
この異質な世界はそれをも許してはくれなかった。

蛇口から出るのも排水溝のも、全ての水が真っ黒で異臭漂うドロドロした液体となり。
食料は全て腐っていた。
冷凍庫の中のものまでだ。

水も食料も医療品も無し。

このままでは明らかにもたない。
全てが絶望的であった。


ただ武器だけは、
街に出ればウロボロス社兵が使用していたものが腐るほど転がっていたが。



478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:19:55.75 ID:tJ.4jHwo

とその時。

一人の部下が、窓辺の男の方へとPDAを片手に歩み寄って来。
そのPDAの画面を男に見せながら。

「さっきから一つ気になっていたんですが……入手したデータバンクの中にこれが……」

「……」

その画面に映っていたのは、円の図形のようなものに奇妙な文字が満遍なく描かれているものだった。
一目見て、誰でもこう思うだろう。

「『オカルト』……ですか?なぜ……こんな代物が最高度セキュリティの中に」

オカルト?、と。

良く見るとそのオカルトチックな図面は、この北島に広がる大都市の地図の上に描かれていた。

「……………………お前は知らんかもしれんが、俺は少しそれらしき『世界』に関わったことがある」

「世界?」

「…………『魔術』、さ」

「……はい?」

「何なのかはともかく最高度セキュリティの中にある。とにかく重要な代物なのは確かさ」


と、男が腑に落ちない表情をしている部下の肩を軽く叩いた直後。


「――― 信号が!!!!!!!信号を受信!!!!!!」

PC端末に向かっていた男が突如声を張り上げた。



479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:21:47.51 ID:tJ.4jHwo
「どこからだ?!」

振り向き、言葉を返す窓辺の男。


「……発信源は近海の超高高度……!!!」

「航空機か?」

「はい……発信源数から見て……機数は恐らく20かと……」

「速度は?」

「……マッハ7でこちらに向かってきています!!!本島上空通過は5分後弱かと!」

マッハ7。

「……」

その言葉を聞いて、男の頭の中にはとある無人機が思い浮かんでいた。
去年米空軍に配備されたばかりの、超音速のスクラムジェット機だ。

だが、その直後に彼の思考が否定される。

「―――音声通信!!!音声通信です!!!」

「(…………有人機……だと?)」

「スピーカーに!」

端末の前の男が手際良く操作。
変換された通信信号が音声となりスピーカーからもれ始めた。


『……… 射出ポ………まで………5………』


『何………だ!!!………つら………』


『こちら……………被弾!!!!………隔壁……傷!!!!……分解s―――』


『………3!!!………後ろ…………』



480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:24:48.62 ID:tJ.4jHwo

「(交戦中か……??!)」

ノイズの中に途切れ途切れに聞こえてくる怒号。
そして声の後ろにて凄まじい轟音が響いている。

「(…… アメリカではないな……)」

マッハ7に達する性能を誇る実用の有人機なんかを所有している勢力は、男の知る限り二つしかない。
学園都市かウロボロス社だ。

「(……英語圏でもない……)」

そして、飛び交っている言葉は英語だがネイティブの発音ではなく、
アジア系の訛りがある。

つまり。


音声の主は学園都市の者達で間違いない。


「………… 暗号化はされていないのか?」

「はい。機密回線ではありません」

「そうか……」

短距離用・機密回線としては使えない変わりに、
最も信号が強く単純でジャミングの妨害等に強い性質を持つ帯域を使っているのだ。
彼らもまた、ここと同じく奇妙な通信妨害にあっておりこの帯域を使いざるを得なかったのだろう。

そしてこれはまた別の点でも好都合なところがある。

「ノイズを除去できるか?」

単純であるため、復元作業も行いやすい。

「しばしお待ちを」



481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:28:12.05 ID:tJ.4jHwo

「完了、流します」

そしてクリアになった音声が、スピーカーを通じてフロア内に響き渡り始めた。


『―――が多すぎる!!!!対応しきれない!!!』

それは壮絶な声達だった。

『気密維持不能!!!本機はここまd―――』

『「Gwaihir 12」が空中分解した!!!!脱出は無し!!!!!繰り返す!!!脱出は無し!!!!』

『―――クソが!!!!バケモノ共が!!!!さっさとクタバリやがれ!!!!』

『来るぞ!!!!3時方向!!!!』

『命中!!!命中!!!』

聞こえてくる声は激しい交戦中のもの。

「「……」」

男達は無言のまま、
空の彼方の地獄からの声に耳を傾けながら顔を見合わせていた。


『「AIMストーカー」から報告があった!!!目標の島高高度一帯に非常に高密度な「力の壁」を確認!!!』

『機体強度の超過が予想され突破は不可能!!!繰り返す!!!突破は不可能!!!!』

『突入予想時刻は2分30秒後!!!!』


『危険は把握した!だが何があっても編隊を崩すな!!現コースを維持しろ!!!護衛機は輸送編隊を死守せよ!!!!』


『全「天使」の射出完了までコース変更は無い!!!!!』


『このまま突入する!!!!』


『―――射出ポイントまであと 4分―――』



482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:32:39.79 ID:tJ.4jHwo


「(…… 天使……?)」

何かを島に投下するつもりなのか。
口ぶりから、爆弾等の何らかの兵器を落とすのとはまた違う風にも聞こえる。

『――― 「Gwaihir 9」が撃墜された!!!!!脱出は確認できない!!!!』

『―――4時方向だ!!!!!』

『―――どうなってんだよ「こいつら」は―――!!!!!??』


『全機へ告ぐ!!編隊10時から2時方向までを「メルトダウナー」により一斉掃射する!』


『繰り返す!「メルトダウナー」により一斉掃射する!』


『前衛機は輸送編隊後方へと後退せよ!』

「……」

メルトダウナー。
何らかの兵器のコードか?と思っていた次の瞬間。


『――― さっさと退けやがれ!!!纏めて吹っ飛ばすわよ―――!!!!』


奇妙なエコーがかかった若い女の、
異様な圧迫感をもった脳内に直接聞こえてくるような声が響き。

直後、飛び交っていた大量の通信が全て潰れてしまうほどのとんでもないノイズが走った。


「……!!何だ?!何が起こ―――」

何が起こったか?
直後、その答えの一端を彼らは見た。

いや、否応無く見せさせられた。



483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:35:14.51 ID:tJ.4jHwo

フロアにいた全員がその瞬間感じた。
強烈な圧迫感を。

全身が強張り、寿命が縮んでしまいそうな閉塞感。

そして彼らは、そのプレッシャーが押し寄せてきた方向を反射的に振り向いてしまった。
皆の視線は窓へ、その向こうの外の景色へと向けられた。


それとほぼ同時に。


聳えている街並みの向こう、水平線の遥か彼方。


その果ての果ての空にて、『紫』と『青白さ』の混じった奇妙な光が明滅した。


「―――」


雷が瞬いているように。
良く見ると光の柱のような筋も幾本も見える。
だが、もし雷であったら非現実的な規模すぎる。

ここからならばかなり小さく見えるものの、
そもそも地球は球体である以上、遠くの物は水平線の下に隠れて見えない。
例の学園都市の連中が高高度飛行中であることを考えても、まだまだ直接見えない距離なのだ。

それなのに、光がこうして見えるとは。

つまりあの現象は、
光源から20km四方が光に満たされるくらいのとんでもないスケールの『何か』なのだ。



484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:37:52.15 ID:tJ.4jHwo
その光をボーっと見つめながら、皆はそれぞれ口を開いた。
覇気の無い、呆然とした声色で。

「…………何だ……あれは……」

「…… 核……か?」

「核があんな色で光るかよ……」

「……反物質爆弾とか言う代物じゃねえか?」

「いや、パルス兵器の一種に見えるな……あの色……」

「……そういえばオーロラに似てるな……」

「……あの光の筋……何かの光線兵器に見えるが」


「通信の回復はまだか?」

「ただ今……回復しました!」

そして再びスピーカーから通信音声が漏れ始めた。


『―――だ!!!!確認!!!!』

『敵性因子24%の排除を確認!!!!』


『結標ッ!!!私から見て2時方向の護衛機を後ろに「飛ばせ」!!!!邪魔で仕方ねえのよ!!!!』


『無理よ!!!!離れすぎてる!!!!』


『ああクソ!!!こちら「メルトダウナー」だ!!!編隊が密集しすぎてる!!!これじゃあ思いっきり撃てねーんだけど??!!!』


『輸送機以外は「巻き添え」も許可する!!!輸送機だけは傷つけるな!!!!』

『聞こえたな!!!巻き込まれるぞ!!!!護衛機は編隊の後方へ下がれ!!!!至急下がれ!!!』


『退避!!!』

『退避せよ!!!』


「(メルトダウナー……兵器ではなく個人コードか?……それも女か……?)」



485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:40:30.91 ID:tJ.4jHwo

そして空の彼方が何度も明滅した。
『光源』が接近しつつあるためか、更に激しくハッキリと。


『―――目標島上空、高高度の「力の壁」詳細観測解析結果!!!』

『現コース現速度で突入した場合、衝撃は機体及び電磁シールド強度を超過!!!』

『シールドの喪失、外殻損傷、気密隔壁破断によって突入後3.28秒以内に空中分解します!!!!』

『「力の壁」突入まであと1分!!!』


『クソ!!輸送編隊各機へ!!射出開始時刻を早める!!!データ転送!!!』


『照準補正作業、第三段階から第七段階は飛ばす!!!ムーブポイントが最終着弾補正を行う!!!』

『全機へ告ぐ!現コースを維持せよ!!!繰り返す!!!射出完了まで現在速度とコースを維持せよ!!!』


『こちら「ムーブポイント」!!!位置に付いた!!!「撃ち漏らし」は私が全部拾うから!!!!』


『――― 射出ポイント変更。確認。適用補正完了』


『―――「天使」の射出開始15秒前。各員衝撃に備えてください―――』


『―――12.37 秒で全天使射出完了予定―――』


『――――――3、2、1、射出開始―――』



486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:42:46.21 ID:tJ.4jHwo

「(その速度から更に『射出』だと―――?)」

「来るぞ!!!衝撃に備えろ!!!!」

『天使』と呼ばれてはいるが、具体的に何が来るのかはわからない。
だがあの速度から何かが放たれる、そして射出と言うことは更に加速されているかもしれない、
という事を考えると、飛来する物体が何であろうと着弾点が徹底的に破壊されるのは確実だ。

男の放った声に、最精鋭の軍人達は反射的速度でそれぞれの姿勢をとった。

「(頼むから―――このビルには直撃するなよ―――!)」



『―――全天使射出完了。着弾まであと20秒―――』


『こちら「メルトダウナー」。降下する』

『こちら「ムーブポイント」。降下する。今のところ着弾補正の必要なし』


『輸送編隊より「天使」達へ。我々はここまでだ。各員、健闘を祈r―――』


『――― 警告。「力の壁」突n―――』


機械的な警告音声を遮る様に大ききな轟音が一度響き。

通信信号はそこでぴたりと途絶えた。

そして。

「―――」

男達は窓の向こうに見た。



超高高度をまるで流星群のように、『砕け散り』ながら過ぎ去っていく大量の光点を。


一方、その空の下。

街には『砕け散らず』しっかりと形を保った『流星』が着弾した。
猛烈な速度で。



487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:46:35.62 ID:tJ.4jHwo

落下してきた光の玉の数は10個前後だろうか。

いや、あまりにも速すぎる為、『玉』ではなく『筋』と言った方が良いか。

ビルを何本も『貫通』し、地響きと共に巨大な粉塵をぶち上げ。
まるで戦艦からの砲撃が行われているかのような、壮烈な破壊を撒き散らして光は着弾した。


「―――おおお!!!!!!」

幸いこのビルには直撃しなかったが、一番近い着弾地点は500m程先。
その凄まじい衝撃にビル全体が大地震の如く振動し、強化ガラスにも亀裂が走り。
柱や壁に寄りかかったり床に伏せたりなどしている男達の体を揺らしていく。

「大丈夫か!!!?」

窓辺にいた男は耳の通信機に指先をあて、再び下階の別働隊へと通信を飛ばした。

『一応は!!!』

「負傷者は?!」

『出ていません!!』

「我々は今から降りる!!!とにかく移動するぞ!!!準備しろ!!!」

『どこへです!!?』

「北でも南でもどこでも良い!!とにかくまずこの街から出る!!!移動準備だ!」

『了解!それと一体何があったんですか?!』


「ああ、空から―――」


―――何かが降ってきた、そう言おうとした時だった。


窓の向こう、粉塵があちこちに巻き上がっている街の中、『それ』は舞い降りてきた。


『青白い』閃光に覆われた、『紫』色の巨大な翼を生やした『何か』が―――。



488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:50:29.07 ID:tJ.4jHwo

「―――」

『それ』は、男達の場所から3.5km程離れているビルの頂点にふわりと降り立った。
この距離からでは、大きな翼は見えるものの翼を生やしている物体が一体何なのかは判別できなかった。
だが視覚的にそうであっても、男達はその規格外の異形の力を感じていた。

本能的に、だ。

遠くの光り輝く翼から目を離せない男達。


そして舞い降りてから数秒ほど経った頃、
光り輝く翼がとまっているビルの根元周辺にて、なにやらゾワリと黒い塊が動いた。

「…………あれは……」

無数の何かが集まった異質な『群れ』。
遠目でもわかる。

あれは無数の異形の化け物の集まりだ、と。

それらが寒気立つような動きでビルを急速に這い上がっていき。

そして翼に触れるかという瞬間。

「―――」

翼の『根元』にある何かから、青白い光の柱が数十本も出現した。

一本一本が10m近くの太さがあるかもしれないその光の柱。

群がってきていた無数の化け物共を一気に薙ぎ払い吹き飛ばし、
それでも留まらずに周囲のビルを幾本も貫通し、遥か彼方まで延びていった。

そして寸断されたビルの上辺が、ズルリと滑り落ち倒壊していく。

「―――…………ッ……」

男はその一部始終をはっきりと見ていた。

見ていたのだが。

『―――応答を!!!何があったんです?!!!』

「…………」

通信機から響いてくる問いに対し、返す言葉が見つからなかった。
この異質すぎる光景と感覚を、どう説明すれば良いのかがまるでわからなかったのだ。



489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:56:27.95 ID:tJ.4jHwo
と、その時。


「―――『天使』―――……」


部下の内の一人がそう小さく呟いた。
十字を胸元で切りながら。

その単語。
先ほどの通信の中で幾度と無く交わされていた言葉だ。

「…………」

そう、その言葉。
男はそこでようやく、あの『光の翼』を表すに相応しい言葉を見つけた。
難しいことは無かったのかもしれない。
あの通信の中で既に答えが出ていたのかもしれない。

アレが何なのかは。

『応答を!!!どうしたんです!!?今の轟音は!!!?』



「―――………… 『天使』だ……」


男は光り輝く翼を見つめながら、ポツリと呟いた。
恐怖と喜びと、希望と絶望が入り混じった奇妙な表情を浮かべながら。


『―――…………は?』



「………………『天使』が舞い降りて来たのさ―――」



「――― この地獄に。ちょっとアブねえ感じのな―――」



―――――――――――――――――――――


               デュマーリ島編


―――――――――――――――――――――



490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:59:23.44 ID:wYlumsAO
うおおおぉぉぉぉおぉおぉおぉおおおおぉぉ
麦ストル!!!!!!




494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 01:13:14.97 ID:IkW9isso
天使ってのはレベル5勢か?
つか結構やられたみたいだな




504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/14(日) 23:52:40.97 ID:SzF6rqoo
―――

デュマーリ北島。

天井まで50mはあろうかという、暗く広大な地下倉庫。
ここは倉庫であり『通路』でもある。
幅は200m程だが奥は延々と続いており、
学園都市第23学区の地下駐機場にも似ている構造をしている。

灯りは一切付いておらず、広大な空間は闇に包まれていた。

ただ、灯りが無いにも関わらず物体が良く見えるという、この世のものではない奇妙な『闇』であったが。
そして肌が焼け付くような、それでいて凍て付いてしまいそうな魔の大気。

そんな忌まわしき空間となっていたこの倉庫、その冷たい金属の床の上で。


佐天「…………う………………ん…………?」


目を覚まし、頭の鈍痛に顔を顰めながらも起き上がった佐天。

佐天「―――へ??」

そしてその目で周囲を見渡せば当然。


佐天「―――えっ!!?ええっ!!!!!??ここどこっ!!!!?」


豹変した光景に驚く。
何の変哲も無い普通の反応だ。



505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/14(日) 23:56:59.57 ID:SzF6rqoo
ルシア「―――静かに」

その直後、佐天のちょうど背後から響いてきた、聞きなれた友の声。
声色は普段とは明らかに違い、鋭く尖っていたが。

佐天「……!!!?」

佐天は座ったまま身を捩り、ルシアの方へと振り向いた。

幼い容姿の赤毛の少女は、
佐天の方へ横顔を向けている形で仁王立ちしており、
延々と続くこの倉庫の奥の方をジッと見つめてた。

無表情で。

鋭く冷徹な瞳で。

そしてその隣にて、しゃがんで張り詰めた表情でルシアとは逆の方向を睨んでいるキリエ。

佐天「何が ―――」

キリエ「シッ。静かに…………」

事態を今一つ掴めず再び大きめの声で口を開きかけた佐天、
キリエの小さくも鋭い声に即静止させられた。



506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/14(日) 23:58:59.60 ID:SzF6rqoo

ルシア「私達、飛ばされました」

ルシアが奥の闇を微動だにせず睨みながら、小さく口を開いた。

佐天「……飛ば……された?」

ルシア「……魔の力によってです」

ルシア「ここは学園都市ではありません」

佐天「………………っ……!」

普通ならばここで理解できずに何で?なぜ?と混乱してしまうだろう。

だが佐天の思考はそこまでは乱れなかった。

確かに驚きだが、思考停止してしまうほどではない。
前にも『鏡の世界入り』という奇妙な体験はしている。

ただ、何も精神的ストレスが無かった、という訳ではない。
むしろ彼女は凄まじいストレスを感じていた。


佐天「(……じゃ、じゃあ…………ま、『また』―――?)」


『理解できず混乱』ではなく、『理解した上での恐怖』が。

『知っている』からこそ、『本当』に怖いと思えるのだ。

脳裏に鮮明に蘇る『デパートでの悪夢』。


佐天「(――――――)」


それが彼女の体を固く縛った。
冷たく巨大な恐怖という『手』が心を鷲掴みに。



507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:00:32.51 ID:1tlWYyYo
キリエ「……ルシアちゃん……ここはやっぱり……」

じっと闇の向こうを見つめながら、恐る恐る背後のルシアへと言葉を放つキリエ。

ルシア「デュマーリ島です。間違いありません」

それに対し、既に臨戦態勢のオーラを纏っているルシアの冷徹な返答。

キリエ「…………とにかく移動しましょう。ここの転送地点にいたらすぐに見つかって―――」

ルシア「いえ」


ルシア「―――もう見つかってます―――」


キリエ「―――」


ルシア「それと残念ですが隠れ場所はありません」

ルシアはキリエの案に対し絶望的な言葉を返し。


ルシア「―――この島には『死角』がありませんから」


そして『経験』と目で見えている情報からの事実を伝えた。

無表情で、冷酷に淡々と。



508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:02:37.74 ID:1tlWYyYo

キリエ「…………じゃあ…………どうする?」


ルシア「少し待っててください。今考えてます」

『故郷』の『古巣』を望む、大きく見開かれているルシアの瞳。
そこにははっきりと映っていた。

この地下倉庫も、そしてその向こうも。
この島全体を覆う魔の息吹を。

この島は外界と隔絶され、完全な魔境と化している。

ここはアリウスの『腹の中』だ。

抜け穴は無い。
隠れ場所も無い。

どこへ向かっても、どこにいてもこの『網』に必ずかかってしまう。

ルシア「…………」

この島から離脱する為、普段使っている悪魔の移動術ももちろん試した。
だがここはもう『人間界』とは呼べない、全く別の界と化していた。



509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:03:29.25 ID:1tlWYyYo

その為、現在地の座標の算出もできず『穴』も構築できなかった。
更にレディやトリッシュへの通信魔術も全く繋がらない。

ルシア「…………」

この魔境はアリウスの手が入っているのだ。
妨害工作がしっかりと練りこまれててもおかしくはない。

ルシアは身をもって知っている。

あの男の妥協の無さを。

恐らく、この妨害工作は非常に強固な『防護術式』に守られており、
端から術式に浸入して解除するのは困難だ。


『コア』を破壊しない限り―――。


そしてもちろん、その『コア』の周囲はとんでもない力か何かの存在が守っているはず―――。


キリエと佐天を連れたままそんなところへ行くことなどできない。



510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:04:59.31 ID:1tlWYyYo

ならば、残された道は一つ。

二人を物理的に島の外へと運び出すしかない。

ルシア「(…………)」

しかしアリウスの事だ。
そう易々とこの魔境の外へ出れるようにしておくとは考えられない。
入るのは容易く、出るのは非常に困難であるのは確かだ。

それに既に見つかっている以上、必ず追っ手が来るし待ち伏せもされるだろう。

だが現時点では、ルシアはそれしか思いつかなかった。

ルシア「(…………)」

この二人をこの魔境から出す方法は。


ルシア「…………あなた達を島の外へと『運び』ます」

キリエ「…………」

ルシア「ここから一番近い港は北へ3km。そこから船で」

ルシア「航空機は危険ですから」

キリエ「……ええ」



511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:06:35.56 ID:1tlWYyYo
キリエ「ルイコちゃん、さあ、立って」

硬直し座り込んでいる佐天の手を優しくとり、立ち上がらせるキリエ。


ルシア『―――急ぎましょう。「彼ら」が来ました』

その時ルシアが、瞳を輝かせてエコーのかかった声で追っ手が迫っている事を告げ。
両手を軽く広げ、床に魔方陣を出現させ。

そこから出現した二本の曲刀を手に取った。

ルシア『では、あなた方を運びます』

次いでルシアの背中から光が溢れ、一対の巨大な白い翼が出現した。
ルシアは半魔人化し、魔人化時の翼だけを出現させたのだ。

ルシア『動かないで下さい』

そしてルシアは二人に背を向ける形でその巨大な翼を広げ、彼女達を包み込んだ。
まるで親鳥が翼で雛を優しく抱き上げるかのように。

その体制は、ルシアが背負う形であったが。

ルシア『苦しくありませんか?』

キリエ「うん。大丈夫」

佐天「…………」

ルシア『では行きます』


ルシア『「少し」揺れますが、我慢してください』


そしてルシアは、翼に包まれた二人を背負いながら床を強く蹴り出し。
闇の中へと飛び込んでいった。



512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:08:58.80 ID:1tlWYyYo
追っ手はその直後、すぐに現れた。

ルシア『―――』

肌に感じるざわめきと、
延々と続く倉庫の向こうにひしめく無数の赤い光点。

悪魔の移動術が使えないのは、
ルシア達だけではなくここにいる全ての悪魔に共通していることなのだろう。

恐らくアリウスの直接的な意志が無い限り使えないのだ。

ルシア『―――』

その制限はある意味好都合だ。

移動術の制限が無かったら、
追っ手はどこでも即湧き出てくる。

だが制限があれば。

『足』だけが物を言う今の状況ならば。

『物理的に距離』を離せば、その『文字通り』距離を置けるのだから。


逃げ切る事も充分可能だ。



513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:11:04.97 ID:1tlWYyYo
ルシア『―――シッ―――』

小さく息を吐き。


眼前に迫った無数の悪魔の群れへと、ルシアは真っ直ぐに飛び込んだ。


そして両手に握っている二本の曲刀の柄を緩やかに、かつ神速で振りぬき。

円を基調とした無駄の無い剣捌きで悪魔の『壁』に穴を切り開いていく。

放たれる金色の斬撃。
響く魔の咆哮の重奏をバックに、舞い散る悪魔の首手足と体液。


一滴も返り血を浴びず華麗に、
かつ猛烈な速度で、『穢れなき許されざる魔天使』は駆け抜けていった。

群がる魔に死を与えながら。

背中にある、大切な大切な儚い命達を守るべく。


ルシア『―――』


そんな中、ルシアはとある理由で周囲全体に意識を集中していた。
周りの悪魔達に向けてではない。


『一つ』。


気になる『悪魔の視線』があったのだ。



514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:12:09.92 ID:1tlWYyYo
ここに群がってきている下等悪魔のものではない。

アリウスのものでもない。
あの男は今現在、こちらの状況を逐一見ているだろうが、
アリウスはそれ以前に悪魔ではなく人間だ。

こんな視線ではない。

今、ルシア達をどこからか観察しているその視線は、明らかに純粋な悪魔のもの。

それもかなり『強大』な。

ルシア『(―――どこから……?)』

群がる悪魔を切り捨て進みつつ、周囲をくまなく観察するルシア。

この倉庫内に感じるのは、大量の下等悪魔と背後の二人の鼓動と『闇』だけ。


ルシア『(―――闇…………)』


そう、『闇』。



       シャドウ
―――『 影 』だ。



515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:13:14.81 ID:1tlWYyYo

『影』。

そこに意識が向いた時。

ルシアの悪魔の勘が大きくざわめく。

そしてゾワリと全身を突如這い回る悪寒と共に勘が叫ぶ。


――― 来る―――、と。


ルシア『―――』


『影』。


それに類し、今のような攻撃を繰り出してくる存在はルシアの知る限り『一種類』しかいない。
いや、間違いない。
以前アリウスの下にいた頃、試験的に戦わされたことがあるのを記憶している。


『シャドウ』だ。


『闇獄』に住まう、『影』で体を構成している戦闘種族。

特定の条件下において、刀剣等の近接武器攻撃を
その威力関係なく無力化してしまうという特殊な能力を有する、非常に厄介な存在。

とは言うものの、有する力自体は高くても高等悪魔『程度』であり、このルシアにとっては別段敵でも無―――。


―――かったはずだったのだが。



516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:14:56.85 ID:1tlWYyYo

ルシア『―――ッ―――』


この『シャドウ』からと『思われる』攻撃は、明らかにルシアのその『知識』と『経験』とは合致しなかった。

いや、攻撃の性質や特徴は『シャドウ』と全く『同じ』だったのだが。

『スケール』が違った。

『力の強さ』が。


肌で否応無く感じる『存在の格』が―――。


これは間違いなかった。

相手は高等悪魔『程度』ではない。

これ程の濃度の力―――。


―――確実に『大悪魔』だ。


そう彼女がこの異様な殺気の源を認識したと同時に。

この倉庫全体に立ち込めている『闇』そのものが『全て』動いた。

その『影』らがズルリと形を変え。

『無数の切っ先』となる。

四方八方360度全方位、
天井、壁、床、全ての面が剣山に変わってしまったかのように。

そして凄まじい速度でその無数の刃が伸びた。

ルシアを正確に目指し。


彼女を貫くべく。

―――



517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:17:34.72 ID:1tlWYyYo
―――

崩れ傾いたビルと、
巻き上がる巨大な粉塵。

そして悪魔達の断末魔と、
その大量の肉塊が300m下の地上に叩き落ちる地響き。

そんな情景の中。


麦野『…………』


『許されざる女神』、『穢れ危うい天使』と化している麦野沈利が佇み立っていた。
とある超高層ビルの上に聳え立つアンテナ塔の頂点に。


左目を赤く輝かせ、右手に白銀の魔剣アラストルを握り、
背中から表面が『青白い閃光』に覆われた巨大な『紫』の翼を生やし。

右目の眼帯の隙間から青白い光を迸らせ、
左肩から少し離れた宙空、スーツの袖が焼けない位置に浮かび上がっている青白い巨大なアーム。


魔界の力と人間界の古の力が、完全に融合した異質極まりない存在。


それが今の彼女だ。



518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:20:03.20 ID:1tlWYyYo

麦野『……滝壺。能力展開を許可するわ。全人員のAIMを掌握しろ』

街を見下ろしながら、麦野はポッと宙に向けて言葉を放った。


滝壺『…………うん…………はい。完了したよ』


そして麦野の脳内にて響く滝壺理后の声。


現在の麦野の異質な力には、滝壺は干渉できない。

しかし信号を認識できる以上、
そして麦野側が許可してくれればある程度の割り込みは可能だ。

知覚共有等の高度なデータリンクは不可能だが、
既存の通信機程度の簡単な音声送受信ならば何とかできる。


麦野『私を省く生存人員数を報告しろ』


滝壺『…………むぎのを省いた幹部を含めて91人』


滝壺『降下したときに……すこし減ったよ』


麦野『…………』



519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:23:16.71 ID:1tlWYyYo

結標『―――あ、それで報告』

その時、麦野と違い完全に滝壺とAIMリンクしている結標の声も響いてきた。

結標『最後に射出されたシェルなんだけど、間に合わなかったみたい。「上」の「力の壁」を掠ったせいで外殻損傷、』

結標『で、乗ってた内の「生きてた」 2人は私がすぐ地上に飛ばしたんだけど、残りは無理だったわ』


結標『外殻損傷した時点の破片で即死してたから』


麦野『…………了解』


麦野『……レールガン。どうだ?漏らしてない?』


御坂『―――誰がッッ!!!』

麦野、結標とはまた違う接続方法の御坂からも、生存を示す声。


麦野『土御門?そろそろ死んだか?』

土御門『あー、あー、聞こえるか?悪いが生きてるぜよ』



520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:25:42.46 ID:1tlWYyYo
滝壺『つちみかどのAIM、すごく弱いから捕捉しにくい』

土御門『…………悪かったな』

麦野『重要株は欠けてない。人員も 90%以上は確保してる』

麦野『サブプラン移行の必要は無し。ファーストプラン可能と見る。異論は?』

土御門『無し』

結標『無し』

麦野『よし、各チームに術式のランドマークを一つずつ虱潰しに調査させろ』

土御門『気になる物・奇妙な物を見つけた場合は俺に』

滝壺『はい』

土御門『俺は俺で気になる地点を当たっていく』

結標『私は全部隊の保全管理と直接指揮。滝壺もサポートね』

滝壺『はい』

麦野『私とレールガンは、まずは「遊軍」となり片っ端から悪魔を狩る』

麦野『何かあった場合は私らに繋げろ。近い方が現場に急行する』

滝壺『はい』


麦野『OK、滝壺。全員に伝えろ。ファーストプラン開始だ』


滝壺『うん、任せて』



521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:28:29.81 ID:1tlWYyYo

結標『あ、それと、諸々が確定するまでやたらに街破壊しないでね』

麦野『私?私に言ってんの?』

結標『そうよ。街の総破壊は一応土御門の判断の後だから』

麦野『でもさ、群がってきたら纏めて吹っ飛ばすに限るでしょうが。ちまちま削ってなんかいられねーっつーの』

麦野『考えて見ろよ。私らの部下はコイツらのせいで死ぬハメになった。殺しまくって何が悪い?』

結標『…………ん、ちょっと待って。「お客さん」が来た―――』

と、その時。


麦野『―――』

悪魔の感覚で、
麦野は遠方にて蠢く大量の悪魔の群れを察知。

その方向へ目を向けると、2km程先のビルに大量の悪魔が群がっているのが見え―――。


――― た次の瞬間。


ビルが悪魔の群れごと一瞬で『消失』した。

キレイさっぱり、特に振動等も音も無くと。



522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:33:41.15 ID:1tlWYyYo

麦野『……』

そしてその消えたビルと悪魔の群れがどこに行ったかと言うと。

答えは直後に『降って』来た。

突如天高く、そのビルがパッと『出現』。

300m近くもあろうそのビルは、遥かな高みから猛烈な速度で垂直に降って来、
街中のど真ん中へ激突。

地鳴りが響き渡り、大気が振るえ街全体が大きく振動した。

麦野『(…………へぇ。中々……)』

あれが『誰』の仕業なのかすぐに悟った麦野。
ぶちあがった粉塵と飛び散る破片を眺めながら小さく笑った。

そして放たれてくる力を肌で認識し。
物質的な『見た目』だけではない、その確かな力の強さを認め。


ただ、一つ気になる点があったが。
あのビルの落下速度。

重力に従うだけでは、ビルはあそこまで加速はされない。
どう見ても重力以外の『別なる何か』が加わっていた。

麦野「(……ま、別にいいわ)」

だがまあ、別に麦野にとっては興味がない事だ。
確たる戦力ならばそれで良い。
その攻撃原理など知ったこっちゃない。



523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/15(月) 00:35:37.25 ID:1tlWYyYo


結標『―――…………まあ、ちまちま削ってなんかいられないってのも一理あるわね』


そして、あの破壊の『元凶』からの声が再び響いてきた。

麦野『でしょ?』

結標『それに、やっぱり私もあんの化け物共殺し捲くりたいわ。ムカムカしてきた』

麦野『ね?』

御坂『ちょっとアンタ達!気持ちはわかるけど「生きてる仲間」に巻き添えでたらどうすんのよ!気をつけてよ!?』

土御門『俺も言わせて貰うぜよこの怪物共が。あまり街を壊すな。俺がゴーサイン出すまでは』

麦野『わかってるって』

結標『はいはい』


土御門『…………よし……じゃあ早速……』

結標『……ええ。ここからね』

御坂『OK…………やってやるわよ』


麦野『―――気合いれな。「本番」だ』


―――



530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:11:30.36 ID:ObWO5UQo
―――

白井黒子は、薄暗い路上の真ん中に静かに立っていた。

冷めた目で己の足元の地面に視線を降ろしつつ。

レディから貰った刃渡り5cm程の小さなナイフを、
指の間に挟み込むようにして握り締めながら。

拳の指の間から突き出しているその刃、
白銀の先端から滴る、『赤黒』とも『緑黒』ともいえる奇妙な色合いの濃い液体。


それは『体液』だ。


先ほど彼女が狩り取った悪魔の。


黒子「…………」


この地において、白井黒子はやけに落ち着いていた。

これは一種の諦めなのか、勇気なのか。
それとも感覚が麻痺したのか。
どれにせよ、少なくとも彼女の精神はこの空間に適応してしまっていた。

彼女にとっての日常と非日常が、今や完全に反転していた。

『いつ』それが反転したのか。

二ヵ月半前、黒子にとって『始まり』であるあの凄惨な殺戮現場を見た時からか。

ゴートリングの放つ恐怖に潰れ、
悪魔と言う存在の格を叩き付けられた時か。

勇気を出して奮い立ち、御坂と共に悪魔を狩りブリッツに立ち向かった時からか?

どれがきっかけでどれが決定打なのか、
今考えると、思い当たる節が『多すぎ』てわからない。



531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:13:15.13 ID:ObWO5UQo

ただ、どの時点で既に完全に変わっていたのかはわかる。

約一時間前、学園都市から乗り心地の悪い超音速機で飛び立ち。
生きた心地がしない、人造悪魔達のとんでもない猛攻の中をなんとか潜り抜け。
8人乗りの砲弾型のシェルに詰め込まれて撃ち出され。

この地獄へ着地したその時には、
既に黒子の『生きる世界』は変わっていた。

そしてそれこそが、黒子の望む世界だった。

少し前までは嫌悪し距離を置きたかがっていたが。

ここ最近は踏み入りたくて仕方がなかった世界だ。


ただ、決してその狂気や混沌・死に心惹かれたわけではない。
むしろ嫌悪感は常に増大しつつある。


彼女がこの世界に入りたかった理由は一つ。


黒子「(―――お姉さま)」



黒子「(わたくし、今実感しておりますの。ようやくこのわたくしめも―――)」



黒子「(―――『そちら側』の一員となれましたの)」


ただ、最愛のお姉さまと『同じ一緒』の世界で戦いたかったから。



532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:15:22.01 ID:ObWO5UQo

彼女の前、1m程の所の地面の上に、小さなぬいぐるみ。
3~4歳の女の子が胸に抱いてそうな、可愛らしいぬいぐるみだ。

いや、『可愛らしかった』と過去形で言うべきだろう。

何せ、今のソレは真っ赤に染まっていたのだから。
真っ赤に染まった子供用の玩具は、
そのギャップが相まって戦慄してしまうような不気味さを漂わせていた。

黒子「…………」

ぬいぐるみの横には、
『主』のものであろう小さな小さな靴の片方が転がっていた。

そして地面には。
同じく『主』のものであろう、『引きずられた血痕』が生々しく付いており。

その赤い道筋は黒子の足の下を通り、彼女の後方4m程のところ、


黒子「…………」


そこに横たわっているアサルトと呼ばれる悪魔の、『頭部の無い』死体の方へと続いていた。


黒子の手にある刃、その表面を伝う『体液』の『源』だった肉塊へと。


黒子「……………………」



533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:18:44.82 ID:ObWO5UQo

と、そう彼女がぬいぐるみの『幼い主』を襲ったであろう惨劇に、
静かに想いを巡らせていた時。

黒子「…………」

彼女はふと背後に気配を感じた。
そしてその瞬間彼女の頭の中には、
接近物体のデータが瞬時に浮かび上がった。

強化調整以来、異様に研ぎ澄まされている五感、そこに能力が加わった『六感』。

更に滝壺を介した演算補助で底上げされている今。

彼女の能力は、自身から20m以内ならば目視せずとも、
認識さえできれば対象の座標、重量、形状、体積を即座に把握できる程にまでなっていた。



黒子「…………」

接近してきた気配の源は何か。
データで直ぐにそれは判明した。

同じ機・同じシェルに乗っていた同じチームのメンバーだ。


黒子は今、8人程のチームに所属している。

「…………ひどい所だよね~」

そのメンバーの一人、やや茶色かかったショートヘアの女が、
黒子の隣に並び立ちながらぽつりと呟いた。

整った顔立ちに人形のように白い肌、身長は御坂と同じくらい、
身なりの雰囲気から見て高校2、3年生か。



534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:21:57.09 ID:ObWO5UQo

黒子「……」

「…………ちっちゃい子?」

女は黒子の横から、彼女と同じように目の前の地面に転がっているぬいぐるみに目を移し、
再び小さく呟いた。

黒子「…………恐らく」

「…………へえ…………」

黒子「……」

「ところでさ、キミ、テレポーターなんだ?」

黒子「……はいですの」

                                 C Q H B
「やっぱり。キミだよね、レベル4勢の『近距離高速戦』適性テストで、トップタイム叩き出したジャッジメントから来た子って」

黒子「……まあ…………」

「さっきもすごかったもん。しゅぱぱぱッ!!!って。何やったのかぜんぜん見えなかったし。キミ、名前は何て言うの?」


黒子「……『Charlie 4』」


「いや、そうじゃなくて『名前』……いやいいか」

「こんな所に来ちゃってから『名前』知り合ってもしょうがないしね」


「『他人』の方が良い ってね」


黒子「…………」


「ということで、知ってると思うけど改めて。私は『Charlie 6』。よろしくね」


黒子「…………よろしくですの」



535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:24:14.40 ID:ObWO5UQo
とその時。

黒子「―――」

脳内にて、突如『地図』とその『座標』、
それに関する概要文が浮かび上がった。
『AIM ストーカー』から送られてきたデータだ。

「全員、AIMストーカーからの目標ポイント座標を受信したな!行くぞ!」

そして直後、黒子の背後25m程の場所から響く、図太い声。

         AIMストーカーの支援
「俺達には『 天 使 の 加 護 』があるが万能じゃあない!気を抜くんじゃねえぞ!」

このチームのリーダーである黒髪に短髪の体つきの良い男のものだ。
黒子の隣の女と同じくらいの歳であろう。


「じゃあ……行こうか」

黒子「…………はいですの」

隣の女と共に、踵を返しメンバーの後に続くべく歩みだそうとしたその瞬間。


滝壺『ちょっとまって「Charlie」。そっちに34個の反応が北から急速接近してるよ』


滝壺『接敵は35秒後に』


チームの全員の脳内に響く、敵の接近を告げる『天使の声』。



536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:30:26.61 ID:ObWO5UQo

先天的に防御ステータスが圧倒的に弱い人間達にとって、
対悪魔戦にて最も被害が出やすいのが強襲・奇襲された場合だ。

だが滝壺がいれば、このように強襲も奇襲も成立しない。


これが、滝壺がいることの強みの一つでもある。


滝壺『信号から見て「下等悪魔」だけだけど支援は要る?』

滝壺『「レールガン」の射程内だから、すぐに火力支援できるけど?』

「この程度にそんなご大層なものは良い。必要ない。他にとっておいてくれ」

滝壺『わかった。がんばって』


「聞いたな!!!先に連中を潰す!!!!」


あちこちにつぶれた乗用車が転がっている薄暗い路上。
そこに響く、チームリーダーの声。

そして各々、北から来る脅威に向けて臨戦態勢に入る少年少女達。

先ほどから、既に左手にナイフを握っていた黒子は
体の向きを北側に変えただけだったが。



537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:32:56.72 ID:ObWO5UQo

黒子の隣の女は、両手を軽く横に広げていた。

黒子「…………」

その女の手の先。
大気が何かの影響で揺らいでいるのか、背景が『歪んでいた』。

黒子の視線に気づいたのか、女も黒子の方へ視線を移し。


「キミには負けるかもだけど、私も結構やるよ?」


黒子「そうですか。来ましたの」

そして少年少女たちは、北の方へと真っ直ぐに視線を向けた。
敵は連なるビルの間にすぐに『捕捉』できた。


34体の『アサルト』。

トカゲのような姿をしている、体長2~3m程の悪魔。
片方の手には巨大なおぞましい爪。
もう片方の手首あたりには円形の盾が括り付けられていた。

フロストの『熱帯向け』といった具合か。


それらがビルからビルへと、壁面を伝い猛烈な速度でこちらに向かって来た。
人間側に自分達の存在が既にバレているのを知ってか、
凄まじい獣染みた咆哮を挙げながら。



538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:35:16.97 ID:ObWO5UQo
先に仕掛けたのは人間側だった。

悪魔の一団がビル壁面から跳ね、弾丸のように一行に飛び掛った瞬間。

黒子「―――」

妙な耳鳴りがし。
そして先頭の3体のアサルトのが見えない『何か』によって弾き飛ばされ、
近くのビルへと叩き込まれていった。

それは黒子の隣にいた女が放った現象だった。

女の両手周囲の揺らぎはさらに強まっており。
そして指をパチンと小さく鳴らされたと同時に、再び耳鳴りを伴う見えない『何か』が悪魔達を弾き飛ばした。


黒子「(……音波?……何らかの衝撃波の一種?)」


黒子「(射程はまあまあ………………威力は……)」


女の指鳴りと同時に出現する見えない『何か』。
今度は路上に着地した瞬間の数体のアサルトを真上から叩き潰したが。

アスファルトに埋め込まれたアサルト達は死んでおらず、
興奮したように咆え破片を撒き散らしながら這い上がってきた。


黒子「(…………足りませんの。このお方は防御向きの後方支援タイプですのね)」



539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:38:16.94 ID:ObWO5UQo
そう冷静かつ客観的に思考しつつ、黒子は自身の能力を発動させた。

一気に30m程前方へ『飛び』。


とある一体のアサルトの『頭上』へ。


黒子「―――」


常人ならば、黒子の動きには全く反応できないだろう。
死角からの完全な奇襲となるはずだ。

しかし、相手は悪魔。
それも『死神もどき』といった雑魚ではなく、人間世界で言えば『職業軍人』である純粋な戦闘タイプ。

そう簡単にいくはずがない。


転移したその先で黒子が見たのは、真っ直ぐこちらを見上げていたアサルトの不気味な瞳だった。
『ようこそ』と言わんばかりに。


俗に言えば、これは『悪魔の勘か』。


一応、学園都市側においても、その現象について科学面からの報告が出ている。

それは黒子の脳内にも、資料としてある程度書き込まれている。

「能力者がその能力を行使する際、力(AIM)に必ず予備動作的予兆が見られる」。

そして別の項では、

「基本的に悪魔は力(AIM)を感じ取る事が可能」
「悪魔もAIMと似た力を常に纏っている為、対象『そのもの』に対し作用する能力は阻害・もしくは相殺される場合もある」、
「能力者のAIMと悪魔の力では、後者の方が『能動的な生』であり絶対的優勢である」、
「その為、同程度の濃度で干渉し合った場合はほぼ確実に押し負ける」、

「悪魔が纏っている力にダメージが入らない限り、もしくは相手が意図的に力を緩めない限り、」
「同程度のAIMが打ち勝つことはまずあり得ない」、と。



540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:42:14.48 ID:ObWO5UQo
黒子の転移先を完全に見切っていたアサルト。
即座に彼女に向けて、強靭な尻尾が鞭のようにしなり振るわれた。

直撃してしまったら黒子の小さな体など一瞬で挽肉だ。


ただ、当たればの話だが。


当たるかという寸前、黒子の体が小さな風切り音と共に消失し。
振るわれたアサルトの尾は、黒子が一瞬前までいた空間をむなしく切り。


『同時』に、今度はアサルトの『喉の下』に出現した黒子。

そして次の瞬間。

彼女は、指の間に二本のナイフを挟んだ左手をアサルトの喉に向け振るった。



レディ謹製のナイフは、悪魔の固い表皮と『纏っている力』を滑らかに切り裂いていった。
黒子の腕力だけで、抵抗も無く易々と。


そして『纏っている力』に穴が開くということは。

その穴の中の部分に関しては、黒子の能力を妨害するものは一切存在しない。


黒子の拳から突き出ている二本の刃が、アサルトの皮膚を裂いて行き。
それと同時に、切断筋の周囲幅20cm程が黒子の能力によって『消えていく』。


小さなその手でたった一振り。


それだけで、アサルトの喉が『消えてなくなった』。

いや、正確には『分離して彼方に飛ばされた』。



541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:46:04.94 ID:ObWO5UQo
アサルトの喉から即座に吹き出すおぞましい体液。

しかし黒子は一滴すら浴びずに、瞬時にアサルトの後方へと飛ぶ。

当然、同時に黒子の移動先を察知するアサルト。
猛烈な速度で背後に振り向き、彼女の転移先へ巨大な爪で横に凪ぐも。

またしても黒子は『既に』そこにはいなかった。

彼女はアサルトの頭上に飛んでおり。
そして出現したと同時にアサルトの脳天に向け、十字を描くように刃を握りこんだ拳を振るった。


次の瞬間、アサルトの頭部は消失した。


喉下が欠けた、下あごの断片を残して全て。


黒子がこのアサルトへ向かっていってから約0.4秒。
その間に彼女は4回飛び、アサルトの喉に一切りと脳天に二切り

そして瞬時に狩った。


黒子は仕留めたばかりの獲物の後方に転移し、静かに降り立つ。

振り向きもせずに次の標的を見定める彼女の背後で、
頭部の大部分が消失したアサルトがゆっくりと倒れ込んだ。

糸の切れた人形のように。



542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:49:56.85 ID:ObWO5UQo

彼女の戦い方の原理は簡単。

察知されるのなら、察知できないくらい素早く連続して飛べば良い。

相手の体内に物体を打ち込めないのなら、『直接』やればいい。

相手の力によって能力に障害が起きるのならば、その力にダメージを与えれば良い。

それだけのことなのだ。


ただ、強化調整による飛ぶ際の時間的ラグの『消失』と『連続使用』が可能であってこそ、

そして黒子自身の鍛え上げられた戦闘センスがあってこそできる戦い方であり、
誰にでも真似できるものではないが。


更に、少し掠っただけで肉体が削がれていくような、
そんな一撃即死攻撃の射程内へ進んで身を投じる戦い方を選ぶなど、
傍から見れば正に狂気の沙汰だろう。


だがそれが人間対悪魔との戦いの真理だ。
肉体的に極端に劣る人間にとって、攻撃こそ最大の防御。

相手の攻撃を一発たりとも許すまじと、とにかく攻勢に出ること。

それが人間にとって、確実な勝利を手に入れられる唯一の手段なのだ。


恐怖を克服し、その境地にようやくたどり着いたテレポーター、白井黒子。

彼女は今正に本物のデビルハンターと化していた。



543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:52:22.63 ID:ObWO5UQo

そして彼女は『空間を舞う』。

ブラフを織り交ぜてアサルトの至近距離へ飛んでは、刃で切り裂き同時にその部分を『飛ばし』。

チームメンバーの支援を受けつつ、
またチームメンバーが殺し損ねたアサルトに止めを刺し。

悪魔達の体の部分部分を奪っては次々と狩り取っていった。

どうやら、このチーム内で戦闘においては彼女が最も激しく攻撃的らしかった。

次第に縦横無尽に飛び交う彼女を他の七人がサポート、
という戦術がこの場で構築され即座に適用され。

相互に作用しあい、チーム全体の戦闘能力を更に高め洗練させていく。


ただ。

ついていけない者・力が及ばない者は当然、容赦無く『脱落』していく。
『この程度』で消える者はどの道消える。

あっけなく。

あっさり。

ここには『慈悲』も『救い』も無い。


あるのは『戦い』と『死』のみだ。


そして『脱落者』達もそれを知った上でここに来ている。


どうなろうと自業自得だ。
どんな結果になろうと、文句を言う権利など一切無い―――



544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:54:43.71 ID:ObWO5UQo
黒子「―――」

戦いの中。
黒子が感覚に従い、次の獲物の方へと振り向いたその時。

彼女が捉えたアサルトの前に、一人の女が立っていた。

先ほど彼女に話しかけてきた『Charlie 6』だ。

黒子「―――」

いや、彼女がアサルトの前に立っていた、と言うよりは 
アサルトが彼女の背後に立っていた、と言うべきか。


そして次の瞬間。


「――――――ぇ゛ッ ―――」

肋骨を砕き、肺を貫き、皮膚を引き裂き。

女の胸から突如『生える』、緑がかった薄汚れた大きな『爪』。


それは背後のアサルトからの一突き。


黒子「―――」


次いで、すかさず添えられたアサルトのもう片方の手と強靭な顎によって、
女の体はあっけなく引き千切られた。

断末魔も苦痛の声を漏らすヒマなく。
自分に何が起こったのかさえ知るヒマなく、女は文字通り『赤く散った』。


黒子「―――――――――…………」


――――――――――――。。。。



545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:56:11.22 ID:ObWO5UQo
一分後。


「―――――――…………こちら『Charlie』」


「報告。敵性因子の排除完了―――」

再び静けさを取り戻した薄暗い街の中。
淡々としたチームリーダーの声が響いていた。

路上には激戦を物語る捲れあがったアスファルトと、大量の悪魔の死体。

そして。


「―――損害は戦死1名。負傷者は無し。任務継続する。以上」


人間の少女一体分の―――。


『こっちでも確認したよ。了解「Charlie」。任務継続して』


「よし、行くぞ。少し時間を押している。急ぐぞ」

相変わらず淡々としたリーダーの声。
それに従い、メンバー達も動き出す。

「『Charlie 4』……さっき『Charlie 6』と話したよな?」

とその時、黒子の傍にいた背の低い黒髪の少年が、
彼女に向けて小さく口を開いた。

黒子「……まあ」

「もしかして知り合いだった?」

黒子「………………………………いえ」



黒子「―――『他人』ですの」


―――



546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 00:57:20.55 ID:ObWO5UQo
今日はここまでです。
次は明日に。



549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 01:13:58.05 ID:DIg9U0oo

つか悪魔ってのは単純な肉体の破壊程度で殺せるものなのか?
なんか首飛ばされても死ななそうなイメージあるが




551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 01:18:58.58 ID:DCecOUU0
おつ
黒子かっけぇ
やはりジャッジメントみたいに悠長にやってるのより 奇襲・瞬殺の方が黒子の能力にあってるな
っつか 4代目火影を思い出したわ




552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 01:24:45.64 ID:DCecOUU0
>>549
いつだか説明された魂のダメージってやつだろ
下級悪魔程度なら首をはねられた程度のダメージで死ぬんじゃない?
ダンテとかになると顔弾けても死なないみたいだけど




553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 01:38:16.73 ID:ObWO5UQo
>>549
単純な物理攻撃はほとんど意味を成しませんが、
>>61などでも触れているとおり
能力者の攻撃は悪魔達の攻撃と同じく魂にダメージを与える事が可能です。

更に黒子の場合、レディナイフで防御ステータス0状態にしたところに力を叩き込んでますので、
ますます効果が倍増してます。



554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 01:51:15.24 ID:DIg9U0oo
ああなるほど
てことは黒子や美琴みたいな特製の武器があるかレベル5みたいに単純に能力の強度が高くないとダメージは与えられないのか。




555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/17(水) 02:25:56.25 ID:TL9XkcAO
テレポートってのはかくあるべきだな
まさにチート




564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:01:05.02 ID:TLDG3swo
―――

全方位から猛烈な速度で迫ってくる『影の刃』。

ルシア『―――』

彼女は瞬時に全ての感覚を周囲に集中させ、
全てを回避行動に傾ける。


光沢が一切無い、塗りつぶしたかのような『黒』。

その刃が首からわずか数ミリのところを突き抜けて行き。
こめかみを掠り。
捻った腰、わき腹の衣服の表面を裂き。
仰け反ったルシアの顎先を真下から掠っていき。
真横から、ルシアの鼻先数ミリのところの大気を貫通していく。

全てがギリギリであった。

これは刃筋を見切った余裕のある回避行動ではない。
ルシアにとって本当に間一髪だったのだ。


ルシア『――――――ふぁッ!!!!!!』

この猛撃の『一つの波』をひとまず潜り抜けたルシアは、
溜め込んでいた胸の空気を吐き出し。

滑り込むように着地し低く曲刀を構えて周囲を見据えた。

影の刃いなした曲刀、
その柄を持つ手の痺れと震えが、この漆黒の刃の誇る凄まじい膂力を示し。

彼女の全身いたるところある、
赤い雫がジワリと漏れ出している浅い切り傷が、
回避が非常に困難である速度と密度を示していた。



565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:07:46.32 ID:TLDG3swo

ルシア『…………はッ…………はッ……』

見通す限り、倉庫の先も奥も全てが『影』に覆われている。

今の攻撃の激しさから考えても、
このまま突き進んで行くのは厳しすぎる。

ルシアがまずもたない。

現状の非魔人化状態では必ず回避に限界が来る。
あの刃に串刺しにされ。
動きが止まった瞬間、更に無数の刃によって細切れにされ。

最終的に死ぬ。

ルシア『(…………ッ……)』

あの影の刃は、ルシアだけを狙っていた。
キリエに傷がつくの事は避けているようだ。

だがそうだとしても、今のルシア達にとっては何の利益も無い。

ルシア自身、この背中の二人が助かるのならば命を差し出しても良いと覚悟しているが、
今の状況下では、ルシアという存在の消失は二人の死に直結しかねない。

今こんなところでは彼女は絶対に死ねないのだ。

しかし背中の二人の事を考えると、魔人化するのもダメだ。
背負ったまま魔人化すると、二人はルシアの放つ力に到底耐えられない。

かと言って降ろして進むというのは論外だ。
それはどう考えても危険が増すだけだ。



567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:11:43.61 ID:TLDG3swo

ルシア『(…………どうしよう…………どうすれば……)』

ではどうする。

背中の儚い二つの鼓動が、少女を更に焦燥させていく。

そしてこうしている今も、どう感じても高等悪魔『程度』ではない、
強烈すぎる視線と殺気を全方位から感じる。

『影』がある限り、どこまで行っても逃れられない。

つい一瞬前までは港まで行くことを考えてはいたが、
今となってはそれはもう無意味な行動でしかないだろう。

ルシア『(………………動けない……定点で耐えるしか選択肢が……無……)』


と、その時だった。

倉庫の向こう。

闇の中から。


ルシア『―――…………!!!!』


革靴の足音が響いてきた。

ルシアが聞きなれた、そして彼女の『怒り』を刺激する足音が。



「―――お前も来たとはな。『χ』―――」


彼女の存在を示す『言霊』と共に。



568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:15:41.08 ID:TLDG3swo

闇の中から姿を現した男。

アリウス。

その顔を一目見た瞬間、ルシアの中で『何か』がピキリと軋む音が響く。

ルシア『―――…………ッ……』

だが、彼女はその『何か』が『暴発』しそうなのを堪えた。
漲る自身の衝動をとにかく押さえ込もうとしていた。

アリウスに対する凄まじい殺気と敵意を。

これに染まってしまったら、フォルトゥナの二の舞だ。

魂に刻まれている『呪縛』は再び―――。


フォルトゥナの時とは違い素顔を露にしていたアリウスは、
相変わらず葉巻を燻らせ、全てを見下しているような傲慢な表情を浮かべながら。

アリウス「我慢しなくても良い―――」

アリウス「お前は言ったな?己は『製造コード』ではなく『名』を持つ存在だと」


アリウス「ではさっさと証明したらどうだ?」



アリウス「―――それがお前の『心』とやらなんだろう?」



ルシアから15m程のところまで進み、
そこで立ち止まった。

あざ笑い、『挑発』という危険な誘惑の声を飛ばしながら。



569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:17:32.91 ID:TLDG3swo
ルシア『―――』

とその時、アリウスの背後。

闇の中にぼんやりと二つの赤い光点が浮かび上がった。

悪魔の瞳だ。
その体のサイズは大型か、光点の大きさはルシアの頭ほどもあった。

闇に隠れている体、目の大きさから推測するにその全長は 30m近くになるのかもしれない。

そして強烈な威圧感を持つ、『豹』のような瞳―――。


ルシア『(―――間違いない―――)』


やはり間違いない。
あれは先ほどの『影の攻撃』を仕掛けてきた存在であり、『シャドウ』と呼ばれる悪魔族だ。


ルシア『(でも―――普通……じゃない…………?)』


しかし。

そのスケールがルシアの知識とは明らかに違っていたのも確実となった。


滲みででくる力の格が―――。



570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:19:54.21 ID:TLDG3swo

そのルシアの表情を見、
彼女が何を思っているのかを悟ったアリウス。


アリウス「……俺に味方する魔界の強者はアスタロトとトリグラフだけではない」


相変わらずの傲慢な表情を浮かべ、
軽く右手を挙げながら己の後方を指して告げた。


アリウス「『彼』、『闇獄』の『神』もだ」


ルシア『…………神……』


アリウス「『彼』の魔界での呼び名は『jlkahsgengg』」

アリウス「人語の呼称は存在しない。今まで一度も人の前に姿を表す事はなかったからな」

アリウス「そもそも魔界でもあまり名は知られてはいない」


アリウス「魔界の呼び名を人語に訳すのならば……」


アリウス「『影豹王』(レクス=パンテラ=アートルム)とでもなるか。まあ好きに呼ぶが良い」


ルシア『…………』



571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:25:42.23 ID:TLDG3swo
アリウスの言葉が正しければ。

一つの『界』を統べている存在ならば。

彼の背後に控えている『アレ』は、大悪魔の中でもかなり高位の存在。


ルシア『―――』

実際に戦ってみないとわからない、とは一応言えるものの、
いくらルシアでも戦うのが厳しすぎるのは明らかだ。

『戦い』にすらならないかもしれない。


と、そこで一際緊張した表情のルシアを見たアリウス。

アリウス「安心しろ。お前如きの問題で『彼』の手は煩わせん」

わざとらしく眉を寄せ、なだめる様な表情を浮かべ。
嘲笑が混じった声色で言葉を飛ばし。


アリウス「お前の背中には俺の『客』がいる。俺がやるのが道理だろう?」


左手をスッとルシアの方へと向けた、その次の瞬間。


アリウス「そして―――」


アリウス「―――お前を破壊するのは『お前自身』だがな」


ルシア『―――ぐ…………ッッッ……?』


突如、ルシアの口から鮮血が噴出し。


そして彼女は力なく前に倒れこんだ。



572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:28:39.45 ID:TLDG3swo
崩れ落ちるルシア。
背中の翼も力なく開き、中からキリエと佐天が転げ落ち。

キリエ「―――ルシ……アちゃん??!!ルシアちゃん!!!!!」

ルシアの惨状を見たキリエは即跳ね起き、
直ぐに彼女に駆け寄ろうとしたが。


アリウス「―――『客人』よ。そのような忌まわしき『液体』で身を汚すな」


キリエ「あッ―――…………ぐッ…………」

アリウスがそう告げたと同時に、
跳ね起き立ち上がったそのままの状態でキリエの動きが止まった。

キリエ「(…………動か………… が……―――!!!!!!??)」

その次の瞬間、彼女は胸の中の猛烈な痛みに襲われその場に膝を付いた。

表情を曇らせ。
冷や汗を噴出し。
苦しそうに呼吸しながら。


ルシアとキリエ。
二人は、完全にアリウスの術中に嵌っていた。
魂に刻まれた術式によって。



573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:30:09.46 ID:TLDG3swo


ルシア『(―――……な……ん…………?)』

この崩壊現象。
これはフォルトゥナの時と同じ作用だ。

しかし、今ルシアはアリウスに刃を『向けよう』とはしていなかった。
何とか堪え、明確な殺意をあの男には向けていなかった。

それなのに彼女の魂に刻み込まれていた術式、『呪縛』は起動した。


アリウス「不思議か?……『ここ』がどこなのか、お前は忘れたのか?」


呆れた表情を浮かべ、冷徹な言葉を浴びせかけるアリウス。
自身が吐いた血に喘ぎ溺れている彼女へと。


アリウス「なぜ『俺の腹』と化したこの島にて、俺がお前との『接続』を修復する可能性を想定していなかった?」


アリウス「まさか『この程度』の事でさえ想定外とでも?」


アリウス「全く……我ながら情けなくなるな、その愚鈍なる知能の低さには」


アリウス「正にお前は『駄作』だな」



574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:33:38.58 ID:TLDG3swo
アリウス「さて…………」

ルシアに向け吐き捨てた後、アリウスは軽く足で床を叩いた。
直後、彼の前の床の影が大きく盛り上がり。

その影の中から、黒い大きな球体の上半分が出現した。
下に隠れている部分を考えると、直径3m程はあろうか。

表面の三分の一ほどが削り取られたかのように透けており、
そこからオレンジとも赤とも言える光が漏れていた。

ルシア『(―――あ………れ…… は……)」

ボンヤリとした意識の中、その大きな球体を目にしたルシア。

見覚えがある。
いや、断言できる。


あれは『シャドウ』の『コア』だ。


やはりサイズは、知ってる物よりもかなり巨大であったが。

地に伏せっているルシアの視線など欠片も気にせずに、
アリウスはその球体に手をかざし重要な言葉達を口にした。


アリウス「『アルカナ』を起こせ。さっさと俺に覇王を『降ろせ』」


アリウス「それと『照合』も終わった。天の門の構築を開始しろ」


その次の瞬間、巨大なシャドウのコアの光が増し、
表面に様々な光の紋様が浮かび上がった。



575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:37:51.53 ID:TLDG3swo
ルシア『(――――――………………!!!!!!!!!)』

浮かび上がった光の紋様、あれは明らかに何らかの術式だ。

アリウスの言動、そして今の現象を見て、ルシアは一つの推測を打ち立てた。


                     ア レ
ルシア『(まさか……「シャドウのコア」が…………「核」…………?)』


『核』。


少なくともアリウスの言葉から、
『アレ』が覇王復活と天の門を開く術式の制御核と考えることも可能だ。


しかし、シャドウのコアを『間借り』してそこに核を隠し込むなど、余りにも突拍子も無い―――



―――いや。

むしろ、『それ』がアリウスらしいではないか。

なぜなら、ルシア達にとって『あそこ』は最悪の隠し場所なのだから。

『影の中』に隠れられてしまったらどうしようもない。

見つけ出すのは困難だ。
影の方から出てきてくれない限り、こちらから手を出す事ができないのだから。


ルシア『(―――…………)』


ただ、これは誰かに伝えねばならない情報なのは確かだ。
ネロが一番好ましいが、今この街に来ているかもしれない能力者達でも良い。

とにかくこの情報を誰かに託さねば―――。



576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:39:57.59 ID:TLDG3swo
――― と、思うものの。

この現状では、誰かに情報を託すことさえ困難だ。
無傷の佐天がいるが、彼女に喋ったところでどうする?

アリウスが、重要な情報を持った人間をご親切に解放するか?

そんな事絶対にありえない。


ルシア『―――…………』

とにかくこのままでは誰一人、ここから動けない。
キリエは捕らわれ己と佐天は命を落とす。

どうにかしてこの状況を大きく―――。


――― と思っていたところ。


ルシア『―――…………?』

ふと、胸の辺りの妙な触感に気付いた。

その触感の発信源は。

小さな細い杭。

キリエの魂に刻み込まれた術式を解く為にレディが作った『鍵』だ。
胸元に仕舞い込んでいたそれが、
うつぶせになっている為彼女の皮膚に押し付けられていた。


ルシア『………………………………………………………………』



577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:42:24.37 ID:TLDG3swo


その彼女の後方、2m程の所。


そこの床に佐天は座り込んでいた。


佐天「―――」

悶え苦しむキリエとルシアに、大きく見開いた瞳を向けながら。

その瞳は不気味なほどに透き通っていた。
『光が無く』、まるで底無しの穴のような。

そう、陰りの無い『恐怖の瞳』だ。

佐天「―――」

振動している体。
震える顎により、歯の小刻みな衝突音が鳴り響く。

彼女の精神は既に限界だった。

この張り詰めた糸がいつ切れてもおかしくはない。



578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:45:47.51 ID:TLDG3swo

佐天「―――あ…………」

アリウス。
その背後にゆらぐ、巨大な赤い二つの光点。
うつぶせに倒れ、血を吐くルシア。
呼吸困難に陥ったかのように喉を鳴らしうずくまるキリエ。

それらにより、彼女の精神をつなぎとめている最後の糸が徐々にほつれていき。


佐天「―――………………あ……あ……」


そして―――。


と、その時だった。
咽び蹲りながらも、キリエが佐天の方へと顔を向け。


佐天「―――」


強引に笑みを浮かべ。


キリエ「…………ルイ…コ……ちゃん……『大丈夫』だか……ら…………」



579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:50:42.98 ID:TLDG3swo

佐天「――――――――――――――――――」


そのキリエの姿と声、『大丈夫』という言葉で、

彼女の中で『何か』が弾け飛んだ。


佐天「(―――)」


そして遂に彼女の精神がトンだ。


だが恐怖によって『廃人』化した訳では無い。


『吹っ切れた』という事だ。


佐天「(―――)」


黒子とは『逆』、御坂と『同じ』である『放散型』で。


キリエの言葉により蘇る、あの悪夢の日の記憶。

鏡の世界の中でのあの『シスター』の姿と声。

彼女が佐天に囁き続けてくれた、『大丈夫だから』という言葉。

恐怖に飲み込まれた彼女を繋ぎ止めた、天使のような声。



580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:55:44.00 ID:TLDG3swo
佐天「―――」

あの時、あのシスターは無力にも関わらず身を挺して佐天を守ろうとした。
そして励まし続けてくれた。

あのシスターが守ってくれなかったら、ネロが来る前に佐天の命は消えていた。

力は無くともできる事がある。
あのシスターは、力が無くとも佐天の命を繋ぎ止めたのだ。

今、あの時のように救いが来るのかどうかなどまるでわからない。
佐天にとって絶望的かどうかさえもわからない。

でも。

諦めたらそこで終わりだ。

万が一にでも救いが来るとしたのならば。

状況が大きく変わる『何か』が到来するのなら。

その確率が僅かでもあるのならば。


『それまで』繋ぎ止めるべきだ。


――― 今度は私が―――。


例え力が無くとも。


―――私がやらなくちゃ―――。


全力で全身全霊で。



581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/18(木) 23:58:46.67 ID:TLDG3swo

佐天「(――――――立ってよ―――)」

瞳に光が戻り、自身の芯を確立した少女。

佐天「(お願い―――立って―――)」

恐怖によって凍りついた己の体を何とか動かそうとする。


佐天「(―――立つんだってば―――)」


全身に力を入れ、熱気を流し込み活性化させ。


佐天「(立て―――立てよ―――!!!!!!!!」

そして遂に。



佐天「―――立てェエ!!!!!!涙子ォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」



佐天「うぉっしゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


恐怖という拘束を引きちぎり、人間の少女は立ち上がった。
自身に向けた怒号を響かせながら。

その体は未だに小刻みに揺れていたものの、彼女は力強く確かに立っていた。



582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:04:56.64 ID:5Z/u3mEo

アリウスはコアに手を翳したまま眉を顰め。
突如叫び声を挙げ立ち上がった佐天に目を向け、


アリウス「……………………………………………………何だお前は?」


やや意表を突かれたのか、小さく口を開いた。
いや、実際アリウスとしてはこれはかなり想定外の事であった。

現に彼の意識が離れてしまう。

床でゆっくりとなにやら動いていたルシアから。


佐天「―――私は佐天 涙子だオラァッッ!!!!!!!」


佐天「―――ルシアちゃんとキリエさんの友達!!!!!!!!」

鼻息を荒げながら声高に堂々と宣言する佐天。


アリウス「………………………………そうか。それは『災難』だったな」


その佐天の言葉を聞き、今度は日本語で返すアリウス。

この佐天の余りにも突拍子も無い登場に、
アリウスでも小さく笑ってしまっていた。


佐天「ささささ災難なんかじゃない!!!!!!!!」


アリウス「……………………それは良かったな」


佐天「ううううううるさい!!!!おいオッサン!!!!!アンタにい、いいいい言っておくッ!!!!!!!!!


佐天「―――二人には絶ッッッッッッッ対に手を出させないッッ!!!!!!!!!!!」


アリウス「………………………………………………お前は何を言っているんだ?」



584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:15:08.21 ID:5Z/u3mEo

アリウス「(………………………………何だコレは)」

アリウス「(……この小娘は何で動いている?勇気か?蛮勇か?自殺願望か?)」

アリウス「(それとも状況を理解していない単なるバカか?もしくは救いようの無い究極のバカか?)」

アリウス「(…………滑稽だ。ふん、やられたな。さすがに俺でも想定外だった)」

アリウス「(引っ付いてきたカスがまさか『道化』だったとは)」


佐天「な、何がおかしいッッッッ!!!!!!!!!!!」


アリウス「……生憎―――」

アリウスは小さく笑いながらも、作業を済ませ『巨大なシャドウ』のコアを再び影の中に戻し。


アリウス「―――俺の舞台に『道化』は必要としていない」


踵を返し、佐天に背を向けながら。


アリウス「ご退場願おうか」


軽くサッと手を掲げた。
すると、佐天の両脇の闇の中から二体のアサルトがゆらりと姿を現した。


佐天「――――――ま…………ままままっまあま―――!!!!!!」



585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:17:28.96 ID:5Z/u3mEo

佐天「(―――これ―――)」


両脇からゆっくりと歩み寄ってくる二体の異形の化け物。

おぞましい牙をむき出しにし、粘ついた涎を垂らしては獣の声。
ご馳走を前にして、どう食そうかの思索を楽しんでいるような動作。

まず『友好的』では無いのは明らか。

佐天でも容易にわかる。


佐天「(ヤバイよ!!!!!絶対ヤバイ!!!!!!!)」


このままでは『死ぬ』、と。

ではどうするか。
両脇の化け物には、どう転んでも自身が何かをできそうには思えない。

でも。

佐天「(―――あのオッサンなら少しは―――!!!!!!)」

見た目は人間に見えるアリウス。

体つきは佐天とは比べ物にならない程逞しいが、
両脇に迫る人外の化け物よりはかなり難易度が低く見える。

もちろんそれでも『勝つ』、というのが困難なのは佐天もわかるが、
彼女から見てもアリウスが『ボス』なのはわかるし、
それなりに食いつけば何らかの活路を見出せるかもしれないのだ。


佐天「―――うッッ―――」


引っかき傷の一つくらいなら何とかつけられるかも、と考えた佐天。


佐天「―――うォォォォォォりャァアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」


雄たけびを上げながら前へと飛び出し。
小さな拳を振り上げ、アリウスの背中へと飛び掛った。



586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:21:30.03 ID:5Z/u3mEo

アリウス「…………」

『仕方なかった』といえばそれまでだが、佐天はあまりにも無知だった。

確かにアリウスの見た目は人間だ。
いや、アリウスは正真正銘の『人間』だ。

だが『人間』もピンキリだ。
大半は佐天のような『普通』の者だが、
中には一方通行のような『神族』の領域に入った『特別な人間』もいる。

そして、このアリウスもその一人だ。

『特別な人間』だ。

その瞬間。

アリウスの足元の床から後方に向けて、銀色の光沢がある大きな『鎌状の腕』がズルリと出現した。
長さは3m程、全体の形状はカマキリの腕に似ているだろうか。
表面はうろこ状だったが。

ギチリと一度軋んだ後、先端が佐天の喉へ向けて振るわれた。
彼女が、目視どころか存在を認識する事も不可能な速度で。


そして、彼女の首は一瞬で刎ね飛ば―――。


アリウス「―――…………」


―――されるはずだったのだが。



587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:25:54.18 ID:5Z/u3mEo

もし『運』というのがあるとすれば、それは佐天に味方していたのかもしれない。

いや。

こう言った方が良いか。

佐天は自ら立ち上がったことにより、その『運』を強引に引き寄せた、と。


アリウスにとって、彼女はクダラナイ『道化』なのは確かだ。
だが一旦舞台に上がってしまった『道化』は、その劇の空気を変えてしまう力を持つ。

どんな小物であろうとも、『登場人物である以上』、だ。

最初の影響は小さい為、別段気にする必要も無いと思われるが。
確実に劇の筋書きは変わっていく。
そして気付いた時には、既に修正不可能なところにまで達する。

このアリウスの物語もまたそうだ。


彼が書き上げた物語は崩壊していく。
狂い始め、彼が決して予期し得なかった結末へと向かっていく。


最初はゆっくりと。


最期は怒涛の如く。



そしてその崩壊の『始点』が『この時間』だ。


佐天涙子が作り出した小さな小さなピースだ。


これが崩壊の火種だ。



588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:28:19.61 ID:5Z/u3mEo
響く『金属音の衝突音』。
どう聞いても、人の肉が断たれた響きではない。

更に、アリウスの背中の中ほどに走った『微妙な衝撃』。

アリウス「……………………何?」

佐天「……………………へ?…………へ?」

佐天自身、何がどうなったのか良く把握できていなかった。

前に駆け出し放った彼女の拳は、
アリウスの肩からかけている上質なコートに軽くめり込んだ。


そしてようやく彼女の目にも映る、銀色の巨大な『鎌状の腕』。
その不気味に光る大きな刃は、彼女の首の横僅か数センチのところで制止していた。

佐天「………何…………これ…………ッ!!!??」


と、その時。


『―――佐天さん―――伏せてください ―――』


背後から響く、エコーのかかった声。
そして背中を強く押され


佐天「―――えッ――― あッッッ!!!!!!」


佐天は前のめりに、半ば倒れこむようにして伏せた。


その瞬間。

『金色』の光の筋が走った。
彼女の後方から彼女の頭上を通り、そしてアリウスの大きな背中めがけて。

甲高い金属音を奏でながら ―――。



589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:29:48.80 ID:5Z/u3mEo
光の筋。

アリウス「―――」

それは斬撃。

その放たれた力の『刃』が、振り向きかけたアリウスの肩からわき腹にかけて直撃した。
斬撃の甲高い飛翔音に続き響く、今度は耳を劈く凄まじい激突音。

佐天「―――わ―――ひッッッ ―――!!!!!!!!!!!

更に立て続けに何発も何発も放たれては、
佐天の頭上を通過しアリウスの居た方向へと炸裂していった。

光が弾け飛び、斬激の余波が衝突点から放射線状に走り、
床に一瞬にして複数の溝を刻みこんでいく。

捲れあがる倉庫の床や壁、飛び散る破片や火花、荒れ狂う衝撃波の渦。

そしてその斬撃の嵐に襲われ、アリウスは一瞬にして弾き飛ばされ、
倉庫の奥へと吹き飛んでいった。


佐天「―――な…………な……な……?」

頭を守るように手を添えながら、恐る恐る顔を上げ、
変わり果てた前方の有様を呆然と眺める佐天。

アリウスが断っていた場所、そこから向こうは完全な廃墟となり。

天井の大きな割れ目は地上まで達していたのか、倉庫内の空気が急速に流れ始め、
巻き上がっていた粉塵を押し流していく。



590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:36:15.43 ID:5Z/u3mEo
『――― 助かりました。あの男の気を引いてくれて』


佐天「―――!!」

そして後方から再び響く声と共に、
突如腕を掴まれ引っ張り上げられる形で立たされた。

その声の方へと振り向くと。

キリエに肩を貸しているルシアが立っていた。
キリエとは反対側の右手には、ぼんやりと金色に光っている曲刀。

そして彼女の胸には。


佐天「―――ルシアちゃん……!!!!む……胸……!!!!刺さって……ち……血が……!!!!」


細い杭が深々と突き刺さっていた。

痛々しすぎる光景に慌てふためく佐天だが、
ルシアはそんな彼女の事など気にもせず平然と更に過激な行動を取った。

キリエを床に座らせると、右手を胸の前に掲げ握っている曲刀の柄で

佐天「わわわわわやめややややめッッッッッ―――!!!!!!!!」

突き出ている杭の頭を思いっきり叩いた。
当然、強い力で押された杭は彼女の胸を貫通し、
背中側から飛び出して床に金属音を響かせながら落ちた。

佐天「ちょちょちょちょわわわっわわっわわわわっわわわわ(ry」


ルシア『落ち着いてください。大丈夫です。私は頑丈ですので』


最早言葉になっていない声を挙げている佐天に対し、
ルシアはやや強めの平然とした口調の言葉を飛ばした。

ルシア『落ち着いて。「大丈夫」です』

背中から血を滴らせ噴出しながら。



591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:39:19.66 ID:5Z/u3mEo
次いでルシアはテキパキとした動作で杭を広い、
キリエの横に屈み。

その杭の切っ先をキリエの胸に当てがった。

佐天「―――……な……なな……何…………するの…………!?」


ルシア『…………楽にします』

佐天「へ?『楽』ってちょっと―――ッ!!!!!!!!!!!」

ルシア『キリエさん、少し痛みますが我慢してください。麻酔魔術も保護魔術も施す時間はありませんので』

佐天を完全に無視しつつそう言葉を告げるルシア。

何をするのか悟ったキリエ。
ルシアの瞳を見つめて小さく頷いた。

そんな彼女の顔を見、ルシアは躊躇い無く杭をキリエの胸に沈ませた。
メキリと湿った音が鳴り。

佐天「―――ちょっとぉぉぉやめやめやややややおおおぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!」

キリエ「―――ッッッ………… く…………はッッッッッ…………!!!!!!」

激痛にも関わらず声を挙げずに堪え、
押し出されるように軽く短く息を吐くキリエ。

キリエ「はッ―――!!!!!はッ……!!!!」

そして次第に彼女の呼吸は安定し、その顔にも少しだけ覇気が戻り始めた。
胸に杭が突き刺されたにもかかわらず、逆に生気が漲ってきていた。

佐天「…………な……ななあな……ひぇええええ……」



592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:42:12.43 ID:5Z/u3mEo
ルシア『少し……楽になりましたか?』

キリエ「ええ。ありがとう…………だいぶ楽になった……立って歩けると思う」

ルシア『「鍵」は第四肋骨と第五肋骨の間の胸骨寄り、心臓と肺の隙間を通してます』

ルシア『今は時間がありませんので簡単な安定術式のみですが、』

ルシア『一応「呪縛」の機能は一時停止しています』

ルシア『そして「引き抜けば」術式を破壊できます。が、このまま引き抜いてしまうと魂も砕けます』


ルシア『つまり死にます』


キリエ「…………」

ルシア『後ほど、「浸透」と肉体保全・保護術式を施してから引き抜いてください』


ルシア『該当術式は―――』

そしてルシアは該当する魔術の名称を次々と並べては、手順を簡潔に示していった。
キリエは脂汗を滲ませながらも、
頷きつつ小さく口を動かし、復唱しながらルシアの言葉を記憶していく。

脇で聞いている佐天にとっては、この飛び交う専門用語はもちろんチンプンカンプンだった。

いや。

佐天「…………………ひぇえ…………ひぇえええええぇぇぇ…………ひぇぇえぇ…………」

それ以前に、目の前の痛ましい光景のせいで、
冷静に聞き耳を立てる余裕も無かったが。



593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:44:39.59 ID:5Z/u3mEo

ルシア『―――これらなら大丈夫です』

キリエ「ええ。わかった」

ルシア『ネロさんなら問題なく扱えますが、さほど難易も高くないため他にも扱える方がいると思います』

ルシア『とにかく私達に友好的な、魔術に精通した方を探してください』

ルシア『この街に来る学園都市側の方々の中にも、魔術に精通しているお方がいるみたいですので』

ルシア『その方は天界系専門のようでしたが、代替魔術もたくさんあるはずです』

キリエ「うん……わかった」

ルシア『良いですか?コレはあくまでも一時的な処置です』


ルシア『15分以上経ってしまったら恐らく手遅れになります。「反動」がきます』


ルシア『それよりも前に、先言った全うな手順で処置を完了させてください』


ルシア『あ……それと「核は影にあり」。これも覚えてください』


ルシア『ネロさんか、もしくはその同志の方に必ず伝えてください』

キリエ「…………ええ」



594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:46:46.17 ID:5Z/u3mEo
ルシア『では佐天さん。キリエさんをお願いします。一緒にここから離れてください』

佐天「へ……へ?!!!」

キリエ「…………ルシアちゃん……」

ルシア『早くここから。200m程の地点に地上へ繋がる階段があります』

ルシア『決して止まらず振り返らずに進んでください』

佐天「―――!!ルシアちゃんはどうす―――」

ルシア『私はここで戦います』

佐天「そ、そんな!!!じゃ、じゃあ私も一緒に―――!!!!!」

ルシア『キリエさん一人ではここから離れられません。佐天さんがいないと無理です』


ルシア『それにここにいたら二人とも巻き添えになります』


佐天「―――」


ルシア『これより先、あなた方を巻き込まずに戦える自信は「ありません」』


佐天「―――…………でも!!!!!!―――」


佐天「―――『友達』を置いていくなn―――!!!!!!」


ルシア『―――私もです。「友達」を死地に置いておきたくはありません』


佐天「―――…………」


ルシア『……お願いします。お願い…………行って……さあ……』



595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:53:49.05 ID:5Z/u3mEo
佐天「…………………………………………」

3秒間。

佐天は無言のままルシアの瞳を見つめた後。

無言のまま頷き。
キリエに肩を貸し、足早に示された方向へと駆けて行った。


ルシア『………………………………………………………………………………』



二人を移動させるのは、アリウスの手から遠ざけるため?

それは厳密には違う。

力を解放した自身とアリウスの戦いから遠ざけるためだ。

この島の中に居る以上、アリウスの手からはどう足掻いても逃げられない。
どこへ逃げても、あの『闇獄の神』かもしくはアリウスにどの道行く手を塞がれるだろう。

先ほど足止めされた時点で、港へ一気に突っ走るという方法は『不可能』と立証されたのだ。
彼女に今できることは一つしかない。


それはアリウスを今ここで―――。


―――そう、あの男さえ潰せば、『全て』何とかなる。


今、ルシアにとってアリウスは『不可侵の領域』の存在ではない。

刃は確実に届く。

アリウスとキリエの接続回線は一時停止。

そしてルシア自信の呪縛も『消えている』のだから。



596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:55:38.30 ID:5Z/u3mEo

ルシアの中、魂に刻み込まれていた『呪縛』。

平常時は魂の奥底へと埋もれ、
彼女をくまなく調べ上げたレディもトリッシュもマティエも皆その姿を捉えることは不可能だった。

だがアリウスの前で完全稼動状態ならば。

呪縛はもちろん派手に目立ち『剥き出し』だ。


そして、キリエの魂へと刻み込まれた術式と、
ルシアの魂へと刻み込まれている術式の大きな類似点。

二つは用途もまた刻み込まれた経緯も違うが、だが作り手は同じアリウス。
術式のベース言語も同じ古代ギリシャのグノーシス式。

程度に差はあれど、レディの作った『杭』は必ず何らかの効果はあるはず。

ルシアはその賭けに出たのだ。

そして出たサイコロの目は。

彼女の『勝ち』だった。


魂の中に刻み込まれていた術式は『崩壊』した。


ただ。

キリエだけの為に作られていたせいか、やはり噛み合わず。
そして処置があまりにも雑すぎた為。


『副作用』も出てきたが。



597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 00:58:39.50 ID:5Z/u3mEo

「………… あの小娘…………一本取られたな……久しぶりに『困惑』という感情を味わった」


廃墟と化した倉庫の奥から響いてくる声。


アリウス「………そのおかげでこの俺が………こんな無様な失態を犯すとは。俺もまだまだだな」

そしてゆらりと姿を現す、『無傷の埃一つついていない』アリウス。
葉巻を燻らせながらの相変わらずの傲慢な表情。

アリウス「それと……………………やはり無理があったみたいだな?」

ルシア『…………』

そのアリウスが、何に対して『無理があった』と指しているのかはルシアも当然わかる。
それはもちろん、ルシアが自身に行った処置の事だ。

引き抜く際には本来、先ほどキリエに告げた手順で行わないと大変なことになる。
あの手順が無い、という事は『手術器具無しで素手だけで手術を行う』ようなものだ。

いわばルシアの行った方法は、
腕を強引に突き刺し患部を退き釣りだし握り潰す、というやり方だ。

そんな『無理やり過ぎる手術』をしてしまったら?


アリウス「あと1時間か?それとも30分を切ってるか―――?」


当然、命が削れていく。


アリウス「―――お前の魂が完全に砕け散るのは?」



598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 01:00:13.34 ID:5Z/u3mEo

ルシア『……………………それがどうした?』


アリウス「『友の為とあらば死をも恐れない』、か」


アリウス「はッ……『気高き信念』の『コピー』もそこまでくれば、な」

アリウス「お前にとっては嘘は真実、偽は真に成り代わるか」

アリウス「俺にとっては偽は偽だがな。所詮『模造品』だ」


ルシア『…………うるさい。お前の言葉は耳障りだ。お前は私が断つ』


アリウス「…………お前『程度』でこの俺をどうにかできるとでも?」


ルシア『できる』


アリウス「ほぉ…………大した自信だな。それはどこから来る?」


ルシア『……お前は以前、私に向けてこう言った』


ルシア『「お前の刃は決して届かない」って』


アリウス「…………」



ルシア『でも―――』



ルシア『―――さっき届いたけど?』



599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 01:04:39.73 ID:5Z/u3mEo

アリウス「―――ははははははははッッッ!!!!!!確かに!!!!その通りだな!!!」

その『指摘』を受け、豪快に高々と笑い声を上げるアリウス。

アリウス「では次は!!!??」


ルシア『次は血―――』

ルシア『その次は骨―――』


ルシア『―――そして最期に魂だ』


アリウス「ははははははッ――――――面白い。面白いぞ。大口を叩くその首―――」


それらの続けられた言葉に、豪快に笑っていたアリウスの顔から笑みが一気に引いていき。
入れ替りに、凄まじい殺気と憤怒が彼の顔を覆い尽くし。



アリウス『―――この手で直にへし折ってやる』



強烈な威圧感と共に、エコーのかかり始める声。



600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 01:06:18.82 ID:5Z/u3mEo

アリウス『―――覇王が復活し、その力が俺に宿るのは約5分後だ』

スッと両手を左右に広げるアリウス。

その腕の周囲、更に足元にて赤い光で形成された大量の術式や魔方陣が浮き上がった。

アリウス『―――だが今や、それはお前には関係ないことだ』

広げられた両手先には、
赤黒い炎のような光の揺らぎが出現。

そして周囲の床からは、
先ほどの『鎌状の腕』同じような『材質』で形成されているであろう、
大量の刃や触手がズルリと伸び上がって来。


アリウス『―――心配も何もいらない。後の事を気にする必要は無い』


彼の背後には、恐らく魔道兵器の一種であろう大きな大きな不気味な金属塊が出現した。



アリウス『―――五分後には、お前は生きていないのだからな』



601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 01:09:29.85 ID:5Z/u3mEo

これらはアリウスの歴史の集大成。

一世紀生きてきた彼の、今まで築いてきた魔界魔術大系。

彼は自身の歴史その『全て』を全身に『武装』した。


アリウス。


本名、ジョン=バトラー=イェイツ。

種族、『第二世代』の人間。



アリウス『―――甘く見るな。強いぞ―――』



彼は『弱き人間』の一人でもあるが。



アリウス『―――この俺は』



間違いなく『最強の人間』の一人でもある。



602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 01:10:55.67 ID:5Z/u3mEo

ルシア『―――』


ルシアにとって、アリウスはもう『不可侵』の存在ではない。
だがそれでも。

それでも、現にこうして全面から相対するとこの男の強大さが肌に染みてわかる。
そこらの下手な大悪魔よりも遥かに強い。

『力』だけではない。


その『芯』が強固過ぎる。


かなり歪んではいても、『人間としての信念』が凄まじすぎる。

ルシアは認めざるを得なかった。

自身よりも『様々な面』で遥かに『強い』、と。


ルシア『―――…………』


そして。


この男を倒すのが、どれ程困難な事なのかを。

まあ。

今更、ルシアには退く気も後悔も無いが。
困難なだけで、可能性はあるのだ。

1%でも可能性があれば充分―――。


―――その1%を分捕れば問題ない。



603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/19(金) 01:12:30.63 ID:5Z/u3mEo


アリウス『我が「傀儡子」の儚き幻夢、終焉を向えし時―――』



何らかの術式詠唱なのか、それとも何かの感傷にでも浸り謡っているのか。

アリウスは静かに口を開き言葉を連ねていった。



アリウス『―――我が「創父造手」による「壞」をもって目覚めとす―――』



淡々と。



『どことなく』悲しげな言霊が響いていく。



アリウス『―――よって今生よりの「解放」とす』



異質極まりない関係である、呪われた『父子』の間に。


―――



611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:10:25.63 ID:gtxGI5co
―――

麦野『…………』

麦野は島の上空2000mの宙を浮遊していた。

背中から伸びる一対の紫の翼をゆっくりとしならせ、
左肩近くから浮かび上がっている青白いアームを不気味に揺らしながら。

彼女は今、『砲台』役をしていた。

滝壺『むぎの、 22体の悪魔の集団を発見。まわりには誰も居ないから、砲撃して殲滅くれる?』

麦野『座標は?』

滝壺『標的の座標は ―――』

麦野と滝壺の間では、単純な音声通信しかできない以上座標データを直接脳内に送り込むことはできない。
ただある程度の方向や位置を知れば、あとは麦野側が感覚を集中させて相手を捕捉できる為、特に問題は無い。


麦野『OK、捕捉した』


小さく呟いた彼女の周囲で光が煌き。

その次の瞬間。

太さ10m以上にもなる巨大な光の柱が放たれ、街に叩き込まれた。
着弾地点では高温の太陽のような光が激しく明滅し。
次いで一瞬だけ見える、白く球状に広がる衝撃波。

そして巨大な粉塵と爆炎の柱がぶち上がった。


麦野『命中』

滝壺『うん……OK、殲滅完了だよ』



612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:17:11.76 ID:gtxGI5co

滝壺『ところで…………むぎの、』

麦野『何?』

滝壺『…………さっきから妙な反応がある』


麦野『…………もしかして、「島全体を覆っている」ような?』


滝壺『むぎのも捉えてた?これなんなのかな。「力の大気」みたいなもの?』


麦野『…………いや…………』

アラストル『いいや。これは「単体の悪魔」の力だ』

そこで少し言葉を篭らせた麦野。
そんな彼女に代わる様に今度はアラストルが口を開いた。

滝壺『…………え?全体に満遍なく広がってるんだよ?』

滝壺『それにこれが単体の悪魔のものだとすると、その悪魔、―――』


滝壺『―――むぎのとアラストルよりもかなり「信号が強い」って事になるよ?』


アラストル『そうだ。それが正しい。そのままだ』


アラストル『俺達よりも力が格上で、全体に満遍なく広がれる悪魔だ』


アラストル『高位の大悪魔で間違いない』



613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:20:16.90 ID:gtxGI5co

麦野『やっぱり…………神とか王とかって言うクラス?』

アラストル『そうだ。力は俺よりもそれなりに格上だな』

麦野『…… 勝算は?』

アラストル『…………コイツがどんな奴なのか、見てみないとハッキリとは言えないが……』

アラストル『力だけで単純に見てみたらかなり「厳しい」な』

アラストル『この全体に広がっているように感じ取れる事からも、コイツが特異な力を持っている可能性も考えられる』

麦野『…………ただ、「厳しい」ってだけで「不可能」っつーわけじゃあないんだな?』

アラストル『ああ』


麦野『…………1%でも勝つ確率があるのなら充分。「簡単」な話ね』


麦野『どうってことないわ』


アラストル『お前、「人間にしては」本当にイイ女だな。ますます気に入った』

麦野『はいはいどうもどうも』



614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:21:55.52 ID:gtxGI5co

滝壺『…………あ、もう一つ。この変な信号のせいで良く見えないエリアもあるの』

滝壺『街の…………下、地下かな、一部のエリアがノイズが酷すぎて』

麦野『位置は?』

滝壺『F9、D9とD10の全域、それと周囲のエリアにも広がってる』

滝壺『このエリア、ノイズの合間にさっき少しだけ別の信号も見えたよ』

滝壺『多分二つ……片方は何か変な感じで良く分からなかったんだけど、』

滝壺『もう片方は麦野と同じくらい強い信号』

麦野『……おい。わかるか?』

アラストル『………… いや。見えないな。俺にはこの広がっているデカブツの力しか確認できない』

麦野『…………直接行って確認するか……』

アラストル『ああ、そうした方が良いな』

滝壺『そのちょっと近くにつちみかどがいるから、戦う時は気をつけてね』

麦野『わかった』

―――



615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:23:50.09 ID:gtxGI5co
―――

超高層ビルの合間に挟まれ佇んでいる、5階建ての小さなオフィスビル。
(小さな、と言ってもこの街の基準からであり、そのフロアは奥行き20mはあったが)

その3階のずらりと並んでいるデスクの間に土御門は立っていた。


土御門「(……………………何も無いな…………)」

このビルは、
インデックスの助けで浮き彫りとなった『大規模構造図』のランドマークの一つなのだが。

屋上から地下室まで一通り見て回ったものの、魔術のマの字も無い。
魔術的因子は欠片も無い、どこにでもある極々普通のオフィスビルだ。


土御門「(…………となると…………やはり街の地下構造か)」

各チームにもランドマークを調査させてはいるが、
恐らくここと同じく地上の構造物は無関係だ。

高層ビルから信号・看板等、ランドマークの種類が不規則すぎていたことから、
地上の物は関係ないと来る前から予想していたが、
こうして一つ確認してみてそれが確証へと変わった。

ただ。

大方、いや確信をもってこの結果は予想できていたが、実は何も備えが無い。

いや、備えようが無かったのだ。
北島の地下構造群は、地上の超高層ビル群の大都市よりも遥かに巨大。
そして学園都市の情報網を持ってしても、その深部の構造図は全く把握できていない。

この強襲作戦にあたっても、
情報が欠片も無いし情報を手に入れる手段も時間も無かった。


土御門「(…………ここに来て手探りか…………わかってはいたが面倒だな……)」


土御門「(どこかで構造図のデータを手に入れなければな……)」



616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:25:02.91 ID:gtxGI5co

土御門「滝壺。聞こえるか?」

滝壺『聞こえるよ』

土御門「ランドマークに到達したチームは?」

滝壺『二つのチームが戦闘して遅れてるけど、他のチームは到達してるよ。それで今調査s」

土御門「地上の構造物は無関係である可能性大だ。調査する必要は無いと判断する」

土御門「ランドマーク直下の地下を調べさせろ」

土御門「『地下室』じゃないぞ?地下の構造物だ」

土御門「少し手荒でも構わない。別の構造物へ到達するまで、真下へ掘り抜いて行かせろ」

滝壺『うん。了解』

土御門「それと、俺の現在地から近いチームは?」

滝壺『「Charlie」かな。途中で戦闘が無ければ、3分以内にそこに行けるよ』

土御門「どのチームでも良い。一つ、すぐにこっちに寄越してくれ。ここの地面を掘り抜かせる」

滝壺『了解』



617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:26:38.66 ID:gtxGI5co

土御門「あとレールガンに繋げてくれ」


滝壺『……はい、繋がったよ』

御坂『はいはい何?』

土御門「その前に一つ確認だ。お前の方からなら一応、視覚データ等の類はミサカネットワークに流せるんだな?」

御坂『できるわよ。流すって言うより、勝手に引っこ抜かれてくんだけど』


土御門「OK、頼みたいことがある。最優先でだ」

土御門「まず、ウロボロス社のネットワークに接続できる端末を探してくれ」


御坂『…………あ~。わかった。抜き出してデータは何?』


土御門「北島の地下構造図。詳細なほど良い。恐らく最高機密の類だろう」

御坂『任せて。それとこういう場合って「構造図に乗ってない更に極秘な施設がある」ってのもお約束だけど、』

御坂『そっちの方も配線とか工事記録とか諸々のデータから解析して炙り出す?』

土御門「頼む。思いつく限りの方法で洗いざらい情報を掻き出し、それをミサカネットワークに」

御坂『おっけー』



618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:28:14.87 ID:gtxGI5co

指令を出し、脳内で一通り今後の段取りを組んだ土御門。

土御門「………………」

脇のデスクに軽く腰掛、チームが来るのを静かに待った。

周囲の悪魔の状況は常に滝壺が『見て』くれており、
そして土御門の方でも気配を消して動いている為、
この島に来てからはまだ悪魔とは一度も交戦していないし遭遇もしていない。


そもそも実は言うと、彼は今まで一度も悪魔と直接戦ったことが無い。

この数ヶ月間で悪魔関連の知識はかなり豊富になった。
イギリス清教・学園都市側の中でもトップクラスだろう。


しかし、対悪魔に関する戦闘能力は一般人のまま。
捨て身の魔術攻撃でフロストかアサルトを一体倒せれば御の字という程度だ。

土御門「(…………きっついなやっぱり)」

今まで上手く立ち回り交戦は全て避けてきたが。

さすがに人間が完全アウェーとなっているこの島の最前線では、
それは非常に難しいのは明白。


土御門「(…………………………………………そろそろ本気で、『アレ』やるかどうかも考えておくか)」



619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:32:07.13 ID:gtxGI5co
と、そうして思考を巡らせていたところ。

土御門「―――………………」

ふと、何かが動く気配。
このフロア内に、己以外の者の気配。

土御門「…………」

息を押し殺し、眼球だけを動かして薄暗い室内に目を凝らしつつ、
ゆっくりと腰の拳銃に手を伸ばした。

感覚的面から言えば、悪魔ではないようだ。
悪魔に殺気を向けられた際の独特の圧迫感が感じられない。

滝壺『「Charlie」の7名、今悪魔に遭遇して交戦中だから遅れるよ。恐らく4分30秒後にそっちに』

ヘッドセットから聞こえてくる『守護天使』の声が、その土御門の感覚を裏付けていた。
悪魔であれば滝壺が捕捉しているはずであり、言及してくるのが当たり前だ。
それに彼女の報告から、この気配が『Charlie』のメンバーのものでもないの確かだ。

土御門「…………」

悪魔でも学園都市勢でもない。

つまり考えられるのは―――。

とその時だった。

土御門「(……………………しまった…………)」

今度は突如、すぐ背後に感じる気配。

土御門「(…………こりゃ…………久しぶりだな……………………一本取られた)」

土御門ともあろう者が後ろを取られたのだ。
彼の顔に浮かび上がる、ちょっとした驚きと、
自身への呆れと降参の意が混じった奇妙な笑み。

そして、この土御門の背後をとったその気配から響いてくる、

「―――Freeze. Don't move」

アメリカ訛りの静止を命ずる英語。



620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:34:18.03 ID:gtxGI5co
「手を離せ」

そして、抜きかけている拳銃から手を離せとの命令。

土御門「…………」

特に抗うそぶりも見せず、土御門は指示に従いゆっくりと手を離し。
その一方で感覚を研ぎ澄ませて周囲の情報を拾っていく。

後ろの男は、土御門から4m 程のところから指示をしている。
恐らく、銃口をこちらに向けて即射殺できる体制で。

最初感じた気配の方向とは別だ。
つまり、土御門が捕捉できていない者が一人以上いる。

土御門「(…………用心深い…………かなりやり難いな)」

滝壺『つちみかど?今の声誰?』

土御門「(……まずいな)」

こっちの音を拾った滝壺からの呼びかけがくるものの、
土御門側は下手に喋れない。

変な仕草を少しでも取れば脳天をぶち抜かれかねないのだ。

土御門「(俺も毛嫌いしないで調整受けとくべきだったか……まあ今更か……)」

調整を受けていればヘッドセットいらずで脳内で会話できただろうが、
当然今更考えても仕方が無い。

滝壺『つちみかど?………………問題発生?』

土御門「(…………おう。発生しまくりだぜぃ畜生)」

滝壺『つちみかど?』



621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:36:39.63 ID:gtxGI5co

「手を頭の上に」

土御門「(…………)」

指示に従いつつも、頭の中でこの場を切り抜ける策を模索するが、
妙案は一つも思いつかなかった。

体術で相手を拘束して『人盾』にして―――という案はまず論外。
相手が近付いてこない限りどうしようもない。
後ろの声の主は、口と人差し指以外を動かす気は毛頭無いらしい。

土御門「(…………)」

スタングレネードを即座に引き抜き起爆、という案もダメだ。
爆発まで数秒間の時間を有する為、その間に射殺されるのがオチだ。

では、拳銃を素早く抜き応戦するのは?
それも論外だ。

二人以上相手がいるのは確実なのに、その内の一人しか位置を把握していない。
一人射殺できても、その直後に即こっちも射殺されるだろう。

その『保険』の為にも他の者は姿を現していないのだ。


土御門「(……参った。学園都市のアホな『駄犬』共とは違うな…………)」


土御門「(ここは穏便に行くか)」



622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:40:30.48 ID:gtxGI5co
指示をしてきていた男が後ろから歩み寄って来、手際よく土御門の腰から拳銃を奪い取り、
そしてヘッドセットも彼の頭からむしる様に外し取り。

「何者だ?」

土御門「……あ~、いいか?説得力無いのはわかってるが、俺は怪しいもんじゃないぜよ?」

土御門「お前らの敵じゃあない」

伏せながら、後ろの男に向け声を飛ばす土御門。

「聞かれた事だけ答えろ。余計な口は開くな」

だがその土御門の言葉は完全に無視され、
男の淡々とした冷ややかな声が返ってきた。


「何者だ?……………………いや、学園都市から来たな?」


土御門「…………いんやあ。旅行者だ」

                       C I A
「……こういう話がある。『ラングレー』の連中の間で言われてるヤツだ」


「『日系の小洒落たガキが最新装備を所持してるのならば、学園都市のガキと思え』」

「それとな、俺らはさっき見た。学園都市の編隊がこの島に何かを打ち込んで行ったのをな」


土御門「………………………………ああ…………ああそうさ。そうだ。俺は学園都市の者だ」


「OK。単刀直入に聞く。何しに来た?」


土御門「『世界を救う為』だ」


土御門「いや……こう言った方がいいか。『化け物共から人間世界を守る為』だ」


「………………………………信じると思うか?」

土御門「『化け物』、あっちの方がお前らからしたら信じがたい存在じゃないか?」

「…………」



623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:45:19.43 ID:gtxGI5co
「………… あの化け物の事、知ってるのか?」

土御門「お前らよりは良く理解している」

「では…………さっきからこの街の上にいるあの『紫の天使』は?」

「あれも機体群が現れた後に出現したが」

土御門「はは…………『天使』、ね。あれは俺の『同僚』だ」

「能力者ってやつか?」

土御門「『一応』な。アイツは能力者の中でも特に異質だ。アレが普通だとは思わないでくれ」


「…………」

その後、
何かを考えているのか数秒間の沈黙。

そして。

「…………………起きてこっちを向け。頭に手を載せたままだ。ゆっくり」



624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:47:41.90 ID:gtxGI5co
土御門「…………」

指示に従いゆっくり振り返ると。

4m程離れた場所に、アサルトライフルを構えている屈強な男が立っていた。

銃口は土御門の顔真っ直ぐに向けられており、
人差し指も引き金に係り幾分か絞られている。

その銃、暗視ゴーグル、戦闘服の類は全て最新式。
学園都市製の装備もいくつか判別できた。

土御門「(…………)」

装備の類から、この兵士がどこの国のどのような部隊に所属しているのかはある程度わかる。

そして兵士の肩にある、
戦闘地向けの配色であるグレーのワッペンがその土御門の推測の確証となった。

星条旗だ。


土御門「(やっぱりアメリカ人か…………………………)」

土御門「銃を降ろしてくれ。学園都市と『お宅』は今同盟国として共闘中だろ?」

「学園都市は、同盟相手でも不利益とみなせば平気で消すらしいが」

土御門「……不利益ならばな。それはお前らも同じだろ」

土御門「それに俺達は今、利害は一致してると思うが?」

「どうしてそう思う?」

土御門「お前らが『化け物共とオトモダチ』とは見えないからな」


「…………………………………………良いだろう」



625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:50:17.12 ID:gtxGI5co

再び数秒間の沈黙の後、そう呟いた男は銃を降ろした。

それに次いで、周囲の薄闇の中からもう三人ほど同じ軍装の男が現れた。

土御門「(計四人か…………いや、まだどこからか別働隊か何かが監視してるだろうな)」

土御門が見えている四人は、
一見銃を降ろし警戒を解いているようにも見えるが、いまだ彼の方へと意識を研ぎ澄ませている。

外見だけで内面では全く信用していない。

そして信用していないのにこう銃を降ろしてしまうということは。
そうしてもいい『保険』があるからなのだ。

土御門「で、どこだ?俺に狙いつけてる狙撃手は?向かいのビルか?」

ストレートにその部分へと突っ込む土御門。

「さあな」

それに対し、男は特に動じぬそぶりであしらった。

土御門「じゃあ…………早くヘッドセット返してくれ」

土御門「実は言うとな。今能力者の部隊がこっちに向かってきてる」

土御門「俺は結構な重要人物なんだ。その俺が突如通信途絶えたら、当然色々考えるよな?」

「……」

土御門「友好的に来てもらいたいなら返してくれ」



626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:53:34.33 ID:gtxGI5co
「その前に最後に聞きたい。これの答えを聞いたら俺達はここから消えてやる」

土御門「…………何だ?」

「外から来たのなら知ってるか?我々の艦隊はどうなった?我が国はどうなってる?」

土御門「…………北大西洋に展開していたお宅の艦隊は全滅した。空母二隻も含めてな」

「…………」

土御門「で、お前さん達の国は本土防衛に専念するらしい」

「………………………… 外の全体の状況は?」

土御門「……ヤバイぜい。あの化け物共が外でも徐々に暴れ始めてる」


土御門「このままだと人類が敗北し、最終的に絶滅するかもな」


土御門「で、それを止めに俺達が来た。何をどうするかは面倒だから聞かないでくれ」

「……………………………… 俺達にできることは?」

土御門「無い。ま、生き延びたきゃ、事が済むまでどこかに隠れててくれ」


「そうか………………………………ほら。返すぜ」


そして男は土御門に向けヘッドセットと拳銃を投げ渡し。


「邪魔したな」

部下に移動するよう手でサインを出しながらそう小さく呟き、
そしてフロアの奥の方へと歩んでいった。



627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 00:57:59.08 ID:gtxGI5co
土御門は近くのデスクに軽く腰掛け。

ヘッドセットを頭に装着しなおし拳銃をホルダーに戻しつつ、
その男達の後姿を見送った。

土御門「滝壺」

滝壺『つちみかど。どうしたの?』

土御門「いや、生存者に遭遇しただけだ。アメリカ人だ。特に問題は無い」

土御門「それと、『Charlie』に『連中には手を出すな』と伝えておいてくれ」

滝壺『了解』


土御門「(……………………それにしても連中……良く生き残ってたな)」

米軍の壊滅前に浸入していたということは、
丸三日近く以上この地獄にいたことになる。

土御門「(恐ろしくタフだな………………俺の後ろ取ったのもマグレではないかやはり)」

土御門「(『ノーマル人間』としての『性能』は俺よりも上か……まあ、そりゃあそうだろうな)」

と、その時。


小さな風切り音と共に、一人のツインテールの少女が正に突然土御門の前に姿を現した。

そして少女は、土御門を見ながらこう小さく口を開いた。


黒子「…………『Charlie』。指定ポイントに到着ですの」



628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:01:02.03 ID:gtxGI5co

土御門「(………………コイツッ……)」

現れた白井黒子に対し、頭の中で小さく驚きの意をこめて呟く土御門。
その突然の出現に驚いたわけではない。

その豹変していた雰囲気に対してだ。


土御門「(…………一線を越えたか…………『だが』 ―――)」


『恐怖や死を受け入れ、そして克服し戦士となる』、と一概に言っても様々なパターンがある。

上条のように煮えたぎった信念の炎を瞳に秘めた、堅実な闘士となるパターンや、
御坂のように外面も内面もほとんど人格変化は無いが、芯と器が非常に強固かつ大きくなるパターンなど。

上記の二人の例を含む、自分自身の核をしっかりと保持している系統は本当の意味で『強い』。

だが。

この白井黒子は。

土御門「(―――これはアブないな…………)」


目が『死んでいる』。

どう見ても、既に核も芯も『折れている』。


これは厳密に言うと『強さ』ではない。

解離性同一性障害(俗に言う多重人格障害)とかなり似ている『症状』だ。

恐怖や死を『克服』したのではない。

その凄まじいストレスから逃れる為に、無意識の内に『強い自分』を『演じ』、
極度の『興奮』と『麻痺』状態に陥っているのだ。



629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:02:23.90 ID:gtxGI5co
このような『張子の虎的な強さ』というのは、実はかなり多い事例だ。
(どっちかというと、上条や土御門、御坂のような本当に『強い者』の方が少数だ)

土御門でなくとも、それなりに場数を踏み
こういう世界の者達を見てきた者ならば簡単に判別できるだろう。

このような者はどうなっていくか。

肉体の痛覚を失ったようなものだ。
それでは当然、ストレスを知らず知らずの内にどんどん溜め込んでいき。

限界の時が突然やって来る。

溜まりに溜まったストレスが一斉に爆発する時が。
今まで無視してきた負荷が全て一気に押し寄せてくる。

そして末路は廃人だ。

気付いた時はもう遅い。
仮面の下に隠れていた本当の心はボロボロに崩壊しているのだ。

その後は薬付け酒付けになり、過剰摂取でショック死したり。
重度の精神病棟に入れられたり。

最終的に自身の脳天を撃ち抜いたりなど―――。


土御門「(…………コイツはこのパターンか。そのうち『潰れる』な…………)」


決してこういう世界に馴染めない者もいる。
どんなに耐えようとしても、最終的に絶対に耐え切れなくなる者が。

いや、それがそもそも『普通』であり大多数だ。

この白井黒子もその一人であるというだけ。


土御門「(…………ま、これが普通の反応だよな。俺らが異常なだけで)」



630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:05:39.14 ID:gtxGI5co

土御門「待ってたぜい」

デスクから腰を挙げ、ふざけてる風にも感じ取られる声を放った。
それとほぼ同時に、フロアの奥の方から『Charlie』チームの他のメンバーも姿を現した。

土御門「話は滝壺から聞いてるな。このビルの下、方法は何でも良いからぶち抜いていってくれ」

「どの程度まで?」

土御門「別の地下構造にぶち当たるまで。隔壁や金属板等はぶち抜いて良い」

「了解。Charlie 2、5、7、ぶち抜け。他は周囲に展開し警戒」

リーダーの指示を受け、それぞれ動き出すメンバー達。

と、その時。
土御門の隣をすれ違うかというところで黒子が足を止め。

黒子「…………放っておくんですの?あの武装した男達」

土御門「ん?ああ。好きにさせておけ」

黒子「……どんなに小さくとも、わたくし共の管理が及ばぬ存在は極力『処分』すべきと思いますの」

黒子「命を下していただければ、わたくし一人で即刻処分に赴きますの」

土御門「(……………………コイツ…………)」

土御門「……俺達の脅威にはならない。少なくとも俺はそう判断した」

黒子「ですがk」


土御門「―――聞こえないのか?『俺がそう判断した』」



土御門「―――何か文句あるのか?」



黒子「……………いえ……………………………了解」



631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:08:57.65 ID:gtxGI5co

土御門「……お前、自分はあの四人を殺せると思ってるか?」

黒子「……ええ」

土御門「………………OK、質問を変える。お前はあの四人を殺したら自分はどうなると思う?」

黒子「……特にどうにも」

土御門「そうか。大した自信だな」

土御門「………………お前は予期せぬ狙撃を防げる力はあるか?」

土御門「着弾前のライフル弾に反応できて、それを防げる水準の恒常的な力だ」

黒子「……………………わたくしはありませんの」


土御門「じゃあお前はあの四人は殺せるだろうが、その直後に脳ミソぶちまけてるだろうよ」


黒子「……………………」

土御門「向こうは四人だけじゃないからな」


土御門「五人目以降が、一仕事終わらせて余裕こいてるお前の頭を打ち抜いてチェックメイトだ」

土御門「向こうからしたら俺もお前も。今この瞬間にでも頭撃ち抜けるだろうよ」

黒子「………………………………」



632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:12:30.44 ID:gtxGI5co

土御門「殺し合いっつーのはな、能力や力だけで勝敗が決まるわけじゃない」

土御門「人数、配置、地形、作戦で千差万別、そして闇討ち・不意打ち・騙し討ち何でもありだ」

土御門「極端な例を挙げりゃ、レベル5だって無能力者に負けたり追い込まれる」

土御門「死んだ奴は知らねえが、惨敗して片目片腕と臓器の一部を失った奴なら知ってる」

黒子「…………」

土御門「…………………… ずっとクソみてえな世界で生きてきた俺から言わせるとな、」

土御門「『見えてる物だけ』でリスク判断してしまう者は、確実にすぐ死ぬ」

黒子「…………」


土御門「特にお前みたいな、感覚が麻痺して『恐怖を忘れてる』奴はドンドン死んでく。ゴミのようにな」


黒子「…………」

土御門「恐怖を『克服』するのと『忘れる』のとでは全くの別物だ」

土御門「そして運よく生き残り続けたとしても、いつかその『ツケ』を払う」

黒子「…………」

土御門「今すぐには理解できないかもしれないが、心に留めておけ。いつかわかる」

土御門「じゃあ……さっさと行け」


黒子「…………了解」



633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:13:37.00 ID:gtxGI5co

人形のような無表情、
生気の無い瞳の黒子は足早に離れていった。

土御門「……………………」

そんな彼女の遠ざかる背中を、
冷ややかな横目で見ていた時。


御坂『ねえちょっと。レールガンだけど、さっきの件で話が』

白井黒子とは違う、本当に『強い』女からの声がヘッドセットから響いてきた。


土御門「もう手に入れたのか?」

御坂『……そこがね、ネットワークに侵入して、最高ランクのセキュリティかかってる所見つけたんだけど……』


御坂『抜き出すの無理よ。不可能』


土御門「……いや、もっと時間をかければいk」

御坂『そうじゃなくて、物理的にそこのサーバーが破壊されてるのみたいなの』

土御門「………………そういうことか」



634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:16:38.36 ID:gtxGI5co
御坂『んで、最後にそこに接続した回線のデータが残っててさ』

御坂『サーバー損傷時間から見ても、その最後に接続した連中が、』

御坂『おもっくそデータ引っこ抜いた後にぶっ壊したみたい』

土御門「…………」

御坂『それで残ってたデータ解析したら、接続した端末の型番とシリアルだけわかってさ、』

御坂『ミサカネットワーク経由で、妹達に学園都市のバンクとの照合してもらったのよね』

土御門「どこのか判明したのか?」

御坂「ええ」

                                US S O C O M
御坂『学園都市製の軍用携帯端末。「アメリカ特殊作戦軍」向けの特別仕様で、そこだけに納入されてる』


土御門「―――…………何?…………………………………………」

御坂『アメリカ軍がこの島に来てデータ引っこ抜いたって事になるけど…………って?土御門?』


土御門「…………待て、もう一度言ってくれ。どにへ納入されたって?」



御坂「アメリカ特殊作戦軍」



土御門「――――――」



635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:19:12.42 ID:gtxGI5co

その納入先の名を聞いた途端、土御門は大きく目を見開き。


土御門「おい!!!!!さっきの米軍連中を探せ!!!!!」


窓の方へと駆けて行きながら声を張り上げた。

土御門「ここの掘り抜きは一時中断!!!連中を捜索しろ!!!!」

「……了解ッッ……聞いたな!!動け!!!」

首を傾げながらも土御門に従い、動くリーダーと各メンバー。


土御門「(クソ…………近くにいるとは思うが……)」

窓辺に立ち、薄闇の街のへ視線を巡らせて行く土御門。

まだ数分、あのアメリカ人達が近くにいるのは確かだが、周囲はコンクリートジャングル。
更地の半径300mと、ビル街の半径300mでは話が違う。

滝壺『どうしたの?』

御坂『いきなり何よ?』

土御門「説明は後だ。滝壺、普通の人間は感知できないんだな?」

滝壺『うん。ごめん。AIMかなにかの力放出してないとわからない』



636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:22:07.04 ID:gtxGI5co

土御門『レールガン、レーダーは!?障害物の干渉はどれくらいだ!?』

御坂『こんな重厚な構造物まみれの街じゃ、さすがにあんまり広範囲は……』

結標『あー、私なら、障害物関係なく結構な範囲認識できるけど?』


土御門「よし、結標―――」


と。

その瞬間だった。


滝壺『―――あッ―――待っ―――!!!!!!!!!』

『何か』に気付き、声を張り上げた滝壺。
その声と同時に。


土御門「―――」


突如、土御門がいるこのビルが激しく揺れた。
まるで直下型の超大地震が発生したかのように。

―――



637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:23:58.07 ID:gtxGI5co
―――

遡る事数十秒。

麦野は、土御門らがいる小さなビルから直線距離で1kmのところの宙にいた。
地上までは400m。

その彼女の真下の地点がちょうど滝壺が示した、
『島を覆う力の隙間から見えたり消えたりする何かがある』エリアの中心だ。


麦野『…………確かに何かあるな……』

アラストル『ああ…………とりあえず撃ち抜くのか?』

麦野『勝手にんな事をすりゃまた土御門にうるさく言われるわ』

アラストル『だからと言って、まさかノックして挨拶しながら行くつもりでは無いよな?』


麦野『当然。だから「うるさく言われる方」を選ぶわよ』


と、右手にあるアラストルの切っ先を眼下の大通りへ向たその時。



638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:25:57.42 ID:gtxGI5co
麦野『―――』

ゾワリと感じる力。

今度は『何かある』程度ではなく、確実に感じた。
力が下から『浮上』してくるのを。

その一瞬後。


麦野の眼下、
大通りのアスファルトが大きく盛り上がり、火山の噴火の如く大爆発を起こした。

凄まじい衝撃波がビル街を駆け巡り、
大量の窓ガラスを一瞬で割ってはダイヤモンドのような破片を撒き散らしてく。

その爆発の中、膨大な量の粉塵の中を突き抜けて『金色の光の塊』が飛び出して来。
近くのビルの壁に『着地』した。


麦野『―――アレは―――』

その金色の光の主は、小さな体に大きな翼を生やした美しい鳥人のような悪魔だった。
何かと戦っていた真っ最中であったらしく、全身が傷だらけだ。
そしてその姿形は見たこと無いが、麦野はどこかで会った事のあるような感覚がしていた。

が。

『そんな事』など、今別に見つけたもう一つの『とある事』に比べたらどうでも良かった。


『別のもう一つ』。

それは眼下の粉塵の向こう。


街のど真ん中に穿たれた直径300m程の大穴の縁に立っている、一人の男。

上質なコート・スーツを纏い、逆立っている様な黒髪に口ひげ。


そして咥えている葉巻―――。



639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:27:31.23 ID:gtxGI5co
その男の顔を見た瞬間。


麦野『ハッ――――――』


麦野は口を大きく横に引き裂き。
身の毛がよだつ様な、美しくありながらとんでもなく不気味な笑みを浮かべた。



麦野『―――――――――みぃぃぃぃつけたッッッ』



見間違えるはずも無い。
あの顔。
嫌と言うほど頭の中に焼き付けた男の顔。


麦野『――――――「アレ」、覇王とかってやつの力はまだよね?』


アラストル『ああ。どう見てもまだ力は宿っていない―――』


麦野『―――ということは―――』


アラストルでも手が出せないという覇王の力はまだ宿っていない。


つまり―――。



麦野『―――イ・ケ・る・わ・ね』



640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:30:54.51 ID:gtxGI5co

麦野『―――結標。私の有する総指揮権は一時的にアンタに移行する』

麦野『そのまま滝壺と全チームの保全管理を継続してろ』

麦野『土御門はさっさと離れろ』

結標『ちょっと……何があったの?』

麦野『―――大将サマを見つけたのよ』



麦野『―――アリウスだ』



結標『―――』


麦野『土御門、良いわよね?』

土御門『俺に聞く必要も無いだろう?やれるのなら―――』



土御門『―――問題無い。狩れ』



麦野『つーことでレールガン、ヒマだってんなら―――』




麦野『―――まぁぁぁぁぁぜてアゲてもイイわよォォォォッ!!!!さっさと来なァァッッ!!!!!』



御坂『―――うぉぉおぉぉぉおッッッッけーぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!!!!!!』


―――



641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:31:42.99 ID:gtxGI5co
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。



643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:34:50.56 ID:4WanB2so

次回が楽しみだ





646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:43:27.63 ID:x1KnqsEo
やっべ、ゾクゾクくる・・・



645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/22(月) 01:39:38.73 ID:WBxRAB2o
前回の投下みて思ったけどやっぱり黒子は危ないんだな
黒子が慕うお姉さまだったら仲間が死んでそれを「他人」だなんて切り捨てたりしないよ
やっぱり麻痺してたんだな






次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 20】



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禁書目録SS   コメント:10   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
1000. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/11/23(火) 02:33 ▼このコメントに返信する
久しぶりだな。管理人、作者乙。
1020. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/11/23(火) 15:25 ▼このコメントに返信する
次の更新が楽しみ
1022. 名前 : 名無し@SS好き◆airN6J3k 投稿日 : 2010/11/23(火) 16:49 ▼このコメントに返信する
ついに上条とインデックスくっついたか。良かったな
1450. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/12/12(日) 17:05 ▼このコメントに返信する
次はいつなんだろ
1490. 名前 : 名無し@SS好き◆5UpJtZjA 投稿日 : 2010/12/14(火) 04:58 ▼このコメントに返信する
次はまだ?超気になるんだけど続きよろしくお願いします
1512. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/12/14(火) 21:15 ▼このコメントに返信する
このシリーズは月1更新(?)で、この話が11/22だったからまだまだでしょう。
ってことで我慢して待つか、自分でまとめるかだよ。

年末だから忙しくてずれたりするかもだけどね。
1518. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/12/15(水) 00:52 ▼このコメントに返信する
続きが気になる……
1645. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/12/20(月) 23:19 ▼このコメントに返信する
続きが楽しみすぎて狂っちまいそうだ!
2149. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/01/07(金) 18:24 ▼このコメントに返信する
おい!!上条=インデックスLOVEやめろあのクソニート野郎ムカツク
34140. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2013/05/10(金) 14:34 ▼このコメントに返信する
↑きもいなお前
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