とある魔術の禁書目録より─シェリー=クロムウェル前→
ダンテ「学園都市か」【MISSION 19】まとめ→
ダンテ「学園都市か」 まとめ
657 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/23(火) 20:02:34.44 ID:R8EgTxIo
バージル≧ダンテ≧紫ネロ>ベヨネッタ>ジャンヌ|スタイリッシュな壁|
黒曜石な一方通行≧アリウス>フィアンマ≧麦ストル≧義手一方通行|色々ハイブリッドな壁|
トリッシュ>もうわからん
保留→ローラ 魔女デックス
自己満足でごめんね>>1。採点とごはんをもらえるとうれしいな。
荒れそうだったらスルーしてね皆。659 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/23(火) 20:46:53.80 ID:oU6Bj/co
ジャンヌってそんな強い?661 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /23(火) 21:20:37.69 ID:IKm28.DO
ベヨ姐ってダンテより強いんじゃなかったっけ662 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /23(火) 21:21:59.67 ID:IwtCaMDO
読者側が根拠のない想像で強さ決めてランキングつけてどうすんだよ。無意味でしかないわ
最終的に決めるのは作者なんだからよ663 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /23(火) 21:26:52.18 ID:Zysq5gAO
てか、ジャンヌがネロには負けんよって言ってなかったっけ?668 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/24(水) 00:24:30.64 ID:CsVFiAAO
トリッシュはもっと強いよな
少なくとも麦ストルよりは上
対バージルの時に感覚云々あったし667 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /24(水) 00:01:56.41 ID:cQ0bYoAO
こうなると唯一真人間で超強いレディさんパない671 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/24(水) 22:38:02.59 ID:BZes6r.o
すみません。
諸事情により、今月一杯のSS投下は厳しくなりました。
次は遅くとも来月の3日までには投下します。
お詫びといっては全く大したもんでもありませんが、
強さに関してのレスがありましたので、いくつかザザッと箇条書きの捕捉を。
ただ、相手・相性や状況によって相対的に大きく変わったりしますので、
各キャラ間の強さ優劣を明確に言明するのは避けさせていただきます。
描写・設定まとめ的なものでご了承ください。
○一方とむぎのん
黒義手一方とトリッシュの支援の無い麦ストルは、現段階では『大体』互角『あたり』、と考えております。
○ジャンヌ
ステイル戦では本気のホの字も出してません。彼女にとってジャレた程度です。
ベヨネッタが髪留めを外すのと同じような、覚醒マジモードがジャンヌにもあります。
それと四元徳の一人を うっせー黙れ と足蹴にするレベルです。
ベヨネッタを抜きにすれば、ジャンヌはアイゼン以来の最強の魔女となります。
○トリッシュ
明確な優劣表現は避けると上にありますが、これは揺るぎ無い事なので言明します。
義手一方と麦ストルは本気トリッシュの相手にはなりません。差は歴然です。
ちなみに、本編時の強化一方は魔人化バージルを前にして、その余りの格の違いに戦意喪失しています。
あのままバージルに挑んでいたら、トリッシュと『同じ様』に敗北してたでしょう。
トリッシュと『同じ様』に、です。
○ 最強の変態達三名 ダンテ、バージル、ベヨ
ダンテ視点からだとバージルの方が強いとありますが、
実際の差そのものは、二人の総力の規模から見ればかなり小さいものです。
その時の状況によって簡単に覆ってしまうレベルのもんです。
そしてベヨ姐さんはこの二名と同じ、『これ以上の上が無い領域』です。
三人ともカンスト状態だから比較も勝敗予想も意味が無い、といった感じです。
○ レディ
現行の段階でも上条をボコボコにできます。
現在のより鍛え上がっている彼女ならば、準備万端完全フル装備で挑めば大悪魔の相手も普通に可能です。
672 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/24(水) 22:42:51.86 ID:BZes6r.o
○ 天界・魔界系上位の皆さんの『おおまかな力の格』
人間目線からで俗に『神の領域』と言われる方々の大体のリスト
※『強さ』の序列ではありません。あくまで『力の格』です。
※上記の為、下の者が上の者に勝つことも普通にあります。
※各クラス内での名の並びは順不同です。
※大半の主要キャラは作中で力のレベルが変動したり、未描写の部分もあったりしますので明記しておりません。
※数分で書き出したので細部の正確性は乏しいです。『大体こんな感じ』という空気を読み取るだけにして下さい。
・唯一の創造神
完全体ジュベレウス
・魔界を含む全ての世界の支配者になれるクラス
完全体魔帝ムンドゥス 全盛期スパーダ
・魔界全土の支配者になれるクラス
覇王アルゴサクス
・大悪魔頂点クラス
ベヨとジャンヌの主契約悪魔 四元徳 ファントム(生前) 転生前の全盛期アイゼン
ねこキング 魔帝軍の最高峰の幹部 アスタロト等の10強
・大悪魔上位クラス
1 魔具 グリフォン トリッシュ シェオル 魔界の各階層の支配者 ヘカトンケイル トリグラフ
魔帝軍の名だたる幹部 魔女と賢者の平均的な歴代長 天界の各派閥のトップ達・猛者達
・大悪魔中~下位クラス
タルタルシアン ルシア 3魔具・ボス 4魔具・ボス 近衛隊等の魔女の精鋭集団
天界の各派閥の強者達(十字教の四大天使など)
ジュベレウス派の精鋭集団(上級三隊 熾天使・智天使・座天使)
※ 力の格は強さに大きく影響しますが、必ずしも比例するという訳ではありません。
筋肉量が同じでもプロ格闘家と普通の筋肉質な人では、その戦闘能力は比べるまでも無いのと一緒です。
どのクラスの悪魔(天使)と格上・格下・同格か、
と考えると、各主要キャラが大体どの辺になるのかが見えてくると思います。
では。
遅くとも来月初頭に。
673 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /24(水) 22:48:32.44 ID:TKK7mnwo
乙
仕事かな
忙しいことはいいことだ頑張れ674 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /24(水) 23:44:24.54 ID:cQ0bYoAO
乙
・・・・・・ねこキング?え?676 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11 /25(木) 04:27:25.26 ID:TtZieZYo
…ねこキングとは681 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/29(月) 07:42:13.88 ID:cvNdegDO
アリウス「魔界の呼び名を人語に訳すのならば……」
アリウス「『猫王』(ねこキング)とでもなるか。まあ好きに呼ぶが良い」
ルシア『…………』712 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/03(金) 23:56:29.12 ID:amhKrRYo
遅れてすみません。
では投下します。
※今日の分は、イギリス・ドーバー周辺の地名が一気に出てきます。
Googleマップで「イギリス ケント」と検索すれば、今回の一帯の地図が出てきます。
713 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/03(金) 23:59:18.26 ID:amhKrRYo
―――
対魔英仏海峡戦線 状況経過
時刻表記:グリニッジ標準時
9:38
イギリス清教 必要悪の教会 最大主教代理 統括官補佐、
兼 第二軍団最高特務執行官 シェリー=クロムウェル、ドーバー市入り。
同市域の守備に当たる英陸軍の2個連隊、
必要悪の教会 第四特務戦闘団 通称『アニェーゼ部隊』、
及びその他2個魔術戦闘団と1個騎士大隊と合流。
9:39
英仏海峡に対魔結界が展開される。
9:41
英内閣及び王室、
第三級戦時体制(国家総力戦の危険性)から第一級戦時体制(国家存続の危険性)へと引き上げを発表。
前日に発令されたサウス・イースト・イングランド南部と同じく、
グレーター・ロンドン及びイースト・オブ・イングランド全域にも、民間人の北部への避難命令発令。
その他の地域へは即時避難勧告発令。
9:52
全英国軍最高司令官代理 第二王女キャーリサ、
騎士団の1個連隊、王室近衛侍女の1個大隊、及び親衛騎士隊を率いカンタベリーの後方作戦指揮所入り。
ケント州及びイーストサセックス州に展開している全軍の直接指揮を開始。
714 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:01:40.66 ID:WIgFSnIo
9:58
女王エリザード及び第三王女ヴィリアン含む主な王室関係者、
騎士団の1個大隊 及び 王室近衛侍女の1個中隊、
英陸軍近衛師団の1個連隊による警護・護送を受け、エディンバラのホリールード宮殿へ避難開始。
10:12
英仏海峡、フランス側沿岸より悪魔の進軍が開始。
陸軍の各砲兵・装甲部隊 及び 各遠隔攻撃魔術部隊、
防御弾幕射撃の開始、英仏海峡にて火網の総展開。
海軍艦船・航空隊及び空軍航空隊も火力展開。
10:27
英仏海峡に展開の火網、一部効果確認されるも有効打判定無し。
火網及び外殻結界は突破される。
ドーバー市域にて直接戦闘による水際防衛開始。
10:31
ディール市域、フォークストン市域にて直接戦闘による水際防衛開始。
10:37
続けてニューロムニーからラムズゲートまでの全沿岸線にて衝突。
10:51
イギリス清教必要悪の教会 対魔課次席執行官
兼 第二特務戦闘団 『天草式十字凄教』教皇代理 建宮斎字、
騎士・魔術師混成師団を率いドーバー市域に到着。
シェリー=クロムウェル及び現地部隊と合流し展開、戦闘参加。
715 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:04:09.61 ID:WIgFSnIo
10:54
ディール市域陥落。
該当地域守備隊の被害は甚大。組織的戦闘の続行は不可。
守備部隊の生存者に向け、後方に即時撤退命令が発せられる。
ディール城の『駒』が破壊されたことにより、沿岸線の対魔結界破断。
第一次防衛ラインとその結界を突破した悪魔、急速に周囲に進撃。
10:59
建宮斎字、第一次防衛ラインを突破した悪魔を迎え撃つ為、
『天草式十字凄教』及び連隊規模の騎士・魔術師混成部隊を率いドーバー市域より北上。
ディール市とドーバー市間の中間、リングアルドの村近郊にて、ディール方面より進軍してきた悪魔と衝突。
11:04
ディール方面から北上して来た悪魔によって強襲され、サンドウィック市域陥落。
該当地域守備隊の被害は甚大。組織的戦闘の続行は不可。
守備部隊の生存者に向け、後方に即時撤退命令が発せられる。
11:01
騎士団長、
騎士団の1個連隊と2個魔術戦闘団、イギリス海兵隊の一部部隊と英陸軍の1個連隊を率い、
ヘイスティングス入り。
同市域内の部隊と合流し、悪魔と戦闘開始。
シェリー=クロムウェル、フォークストン市に移動。
11:14
サンドウィック方面より北上してきた悪魔により、
マルギット及びラムズゲート市域、完全包囲・強襲され陥落。
両市域からの撤退成功部隊は無し。
生存者報告無し。
11:15
キャーリサ、ケント州ドーバー区及びサネット区の第一次防衛ラインの崩壊を宣言。
前線にある全守備部隊に向け、自己判断での第二次防衛ラインへの撤退許可を発令。
(第二次防衛ライン 北からハーンベイ、カンタベリー、アシュフォード、ヘイスティングスを結んだ線)
716 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:07:15.77 ID:WIgFSnIo
11:16
シェリー=クロムウェル、フォークストン及びドーバー市域の全守備部隊へ撤退命令を発令。
彼女自身はフォークストン市に、
『アニェーゼ部隊』と英陸軍の一部部隊はドーバー市に、周辺部隊の撤退を支援するため残留。
建宮斎字率いる連隊、各地からの撤退部隊を援護しつつカンタベリーに後退。
11:18
フォークストン市にて純粋な高等悪魔が10体以上確認され、シェリー=クロムウェルがこれらを掃討。
その際の戦闘により、フォークストン市北西部シェリントンの1km四方の市街地が消滅。
11:19
ニューロムニー市域陥落。
周辺部隊の撤退支援のため 残留していた隊の生存者報告は無し。
11:20
キャーリサ、カンタベリーにある直接指揮下の部隊から精鋭を選抜。
この選抜部隊と親衛騎士隊を率い、カンタベリーの南南東約10km バーハムの村にまで前進。
撤退部隊の支援にあたる。
11:22
騎士団長率いる隊、ヘイスティングス市域の悪魔の排除完了。
同市域周辺を完全掌握。
今回の対魔英仏海峡戦にて、英国側の初めての勝利。
この際の騎士団長の行った掃討戦により、ヘイスティングス市東部 オア周辺約1km四方の市街地が消滅。
11:40
ドーバー市完全包囲される。
現在、アニェーゼ=サンクティスらが率いる各軍混成部隊が、ドーバー城および地下トーチカを拠点とし抗戦中。
同市の死守を試みる。生存者は約700名。
フォークストン市にてシェリー=クロムウェルが単独で交戦中。
717 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:09:16.11 ID:WIgFSnIo
現在までの英国側の損害 (戦死・重度の負傷合計)
陸軍
正規軍 約18000名
国防義勇軍 約4000名
空軍 約560名
海軍 約2200名
海兵隊 約150名
イギリス清教魔術師 約4000名
騎士及びその従卒 約2600名
王室近衛侍女 約180名
民間人死者数 推定8000名
(避難命令無視、もしくは何らかの事情により避難できなかった者)
現在までの英国側の戦果
現時点までに英国領に侵入した個体の32%を排除。
英国に向けられた推定全個体数の2割。
718 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:11:17.60 ID:WIgFSnIo
今後の経過予想
開戦前を 100%とした場合、現時点の英国の組織的戦闘能力は71%。
現状のまま悪魔の攻勢が継続された場合、8時間後に50%を割ると推測され、
その後は急速に減衰。
8時間後 ケント及びサセックス地方全域が陥落
絶対防衛線の崩壊
10 時間後 ロンドン陥落
避難に間に合わなかった民間人の犠牲の著しい増加
22時間後 イングランド及びウェールズ全域が陥落
急速な悪魔の侵略により指揮系統の崩壊 組織的軍事行動が困難になる
28時間後 スコットランド全域が陥落
事実上の国家機能完全喪失
29時間後 北アイルランド陥落
事実上の英国消滅
現状のままであれば、30時間以内に英国が消滅する確率は98%と予測される。
予測される結果を避ける為には、
英国側からの戦況を変える何らかの攻勢手段が必要と判断される。
この状況打開の為、 12:10に全ての戦線にて攻勢に転じる予定。
騎士団長率いる部隊が、
ヘイスティングスから一度英仏海峡に出た後にドーバー港に強襲揚陸。
同市の残存部隊を確保した後、同市域を完全掌握し周辺へ進撃。
同時にキャーリサが先頭に立ち、
カンタベリー及びアシュフォードから各部隊が前進。
ドーバー、フォークストン、ニューロムニー、ディール、ラムズゲートの奪還及び掌握の後、対魔結界の再構築。
そして態勢の建て直しを図る。
作戦成功率は45%とされる。
成功した場合、英国の存続時間は最低140 時間延びるとされる。
―――
719 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:13:06.64 ID:WIgFSnIo
―――
ドーバー海峡の海岸に沿い聳え連なる、
『ドーバーの白い崖』で有名な20km近くにも伸びる石灰岩の崖。
その天然の防壁の中ほど、切れ目の所に位置しているのがドーバー港であり、
それを見下ろすように後ろの高台にドーバー城が聳え立っている。
この港街の歴史は、判明している範囲内では紀元前1500年頃にまで遡れる。
青銅器時代から海峡間の重要な交易点として機能。
古代ローマ時代には、ブリタニア属州の玄関となり大規模な港が構築され。
中世には現在のドーバー城が築かれ、魔術的強化も施され。
第二次大戦時には、『ドーバーの白い崖』全体がトーチカ化され長大なトンネルが彫り抜かれ。
冷戦時には、最深部に核シェルターが構築。
現代、つい数日前までは3万(市域全体ならば約4万)の人口を抱える、
英仏海峡側の主要な港湾都市の一つでもあった。
そして今は。
英仏海峡対魔戦線の最前、孤立した拠点。
約700人の人間が絶望的な抗戦を続けている陸の孤島だ。
いや、実際に武器を持って戦っている人数はもっと少ない。
半数以上が重度の負傷を受けた戦闘不能の者であり、
戦力として機能しているのは200人にも満たなかった。
720 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:15:54.50 ID:WIgFSnIo
ドーバー城及び『ドーバーの白い崖』の地下を走る、とある幅6m程のトンネル。
度重なる増築と改良により、
魔術的石積み構造と近代の強化コンクリート補強が入り混じっているアンバランスな様相の壁が延々と続き。
その長い長い空間をぼんやりと満たす、
天井と床の端に取り付けられている非常灯のオレンジの光。
アニェーゼ「…………」
その一画の壁際にて、アニェーゼは胡坐をかき座りこみ。
部下のアンジェレネによって、左腕に受けた傷の手当てを受けていた。
アンジェレネ「もう少しですっ。も、もうううちょっと待っててください」
血に汚れた小さな手をせかせかと動かし、手当てを行うアンジェレネ。
アニェーゼ「……アンジェレネ、もういいです。他の方を看てやってください」
アンジェレネ「…………え、ええッ?でもまだ痛み止めの(ry」
アニェーゼ「痛み止めはいりません。感覚が鈍っちまいますから」
アニェーゼ「シスター・アンジェレネ。こいつは『命令』です。下に降り、他の負傷者を」
アンジェレネ「……りょ、了解。シスター・アニェーゼ」
721 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:18:41.82 ID:WIgFSnIo
アニェーゼ「…………」
この数ヶ月でアニェーゼ部隊も魔界魔術を併用した戦い方を覚え、
戦闘能力はローマ正教に在籍していたときよりも格段に向上している。
だが、中にはさほど戦闘能力が向上していないのもいる。
この三つ編みの幼いシスター、アンジェレネもその一人だ。
彼女は、実は魔界魔術は一つも習得していない。
はっきりと言ってしまえば、ローマ正教時代となんら変わりが無い。
真っ向から悪魔と戦ってしまったら、一瞬で凄惨な結果になってしまうだろう。
まあ、天界魔術以上に人を選んでしまう魔界魔術の性質上、仕方の無い事でもある。
冷ややかに、そして鋭く上司としての言葉をぶつけられたアンジェレネ。
しょんぼりとした面持ちでアニェーゼの下去り、
下の階層へ続く方に向かって行った。
アニェーゼ「………………ふー……」
そんな彼女の小さな背中を見送りながらアニェーゼは小さくため息をし。
後頭部を壁に預け、薄暗いトンネル内に視線を動かしていった。
722 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:19:36.87 ID:WIgFSnIo
トンネル内を行きかう、英軍兵士や魔術師、騎士。
床に置いた通信霊装や無線機と話し込む者達。
どの者も皆、その衣服は乱れ薄汚れ、
極度の緊張の連続によって顔には疲弊の色が滲んでいた。
むせ返るような汗と血のにおい、二酸化炭素濃度が高い劣悪な空気。
トンネル内のあちこちから響いてくる負傷者の苦悶のうめき声。
手当てしきれず、手遅れだった者を『送り出す』祈りの言葉。
アニェーゼ「…………」
このトンネル内を満たしているのは、
無我夢中になって足掻く強烈な『生』と決して目を背ける事のできない『死』。
『死への絶望』と『生への願い』が入り混じった、ある意味究極の空間だ。
彼女は異様な不快感を覚える一方。
なぜか、奇妙な『芸術性』を感じてしまっていた。
723 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:20:28.69 ID:WIgFSnIo
アニェーゼ「…………」
と、彼女の意識は僅かな時間だけ、この現実から浮遊し切り離されていたが。
こう幼く見えても必要悪の教会 第四特務戦闘団、
アニェーゼ 部隊
指揮官である彼女の名を冠した通称『Agnese Company』の指揮官であり、
このドーバー城拠点における司令官の一人でもある。
このまま『逃避』している事など許されない。
響いてくる部下の呼びかけが。
「―――ニェーゼ」
彼女を『最前線』という現実に引き戻す。
「シスター・アニェーゼ」
724 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:21:53.92 ID:WIgFSnIo
アニェーゼ「…………」
彼女は数回、トルクが落ちていた意識を覚醒させるべく強く瞬きをした後、
壁に預けていた頭部を挙げ近くの部下の方を見。
「シスター・アニェーゼ。報告です」
アニェーゼ「どうぞ」
指揮官のそれに切り替わった顔で、淡々と先を促した。
「シスター・ルチアより 第一城壁北東部の結界補強完了。戦死2名、他負傷3名出ましたが戦闘可能」
「第一城壁北部は敵の攻撃が激しく到達できず、との事です」
アニェーゼ「シスター・ルチアへ。『シスター・カタリナの隊と合流し再度第一城壁北部の修復を試みてください』」
アニェーゼ「第一城壁が一部でも決壊してしまったら、奴らは一気に雪崩れ込んで来ます」
「了解。伝えます。シスター・アニェーゼ」
アニェーゼ「…………それと今の時刻は?」
「12:00ちょうどです」
アニェーゼ「……」
725 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:24:00.46 ID:WIgFSnIo
ヘイスティングスから騎士団長の部隊がここに到着するのは、移動時間を見積もって12:18。
ここドーバー城が橋頭堡であり、イギリスの反転攻勢成功の大きな鍵となっている。
ここが落とされてしまったら、騎士団長らの部隊は上陸する際、
悪魔達からの猛攻撃を正面から受けることになり多大なる損害を出してしまう。
そして第一歩目からのその大きな『つまづき』は、
このイギリス側の攻勢作戦をも水の泡にしてしまう危険性がある。
つまり最低でもあと18分、、ここを守り切らねばならない。
アニェーゼ「(……全く…………)」
戦略兵器級最高戦力であるシェリーが居座るフォークストンはともかく、
実質200人程度しか戦力の無い、
いつ陥落してもおかしくないこのドーバーの拠点にそこまでの重責をかけるとは。
軍事的観点からすると、
リスクマネジメントが全く成り立っていないと一蹴するべきであろうお粗末な作戦だ。
アニェーゼ「…………」
まあ、だからと言って怒っても仕方ないが。
それにこのような作戦が通ってしまうという事は、
既にイギリスがそこまで追い詰められているという事でもある。
今更どうしようもない。
726 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:26:42.71 ID:WIgFSnIo
アニェーゼ「…………」
求められている時間は、『たかが18分』。
『されど18分』、だ。
この状況下での『18分』、というのは短くて非常に長く、
そしてとてつもなく不安定で不確かな時間だ。
このまま18分特に問題なく守りきれるかもしれないし、
敵の攻撃の手が薄れ、援軍が来なくとももしかしたら24時間は守りきれるかもしれないし。
逆に突如、大量の純粋な高等悪魔が出現し数分で陥落してしまうかもしれない。
何が起こるかわからない。
いや。
こういう時こそ『何か』が起こるのが世の常だろう。
世の中とはそういうものだ。
727 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:27:31.90 ID:WIgFSnIo
普通に考えたらかなり確率が低いのに。
こういう時に限ってピンポイントに。
「―――報告!!第一城壁南部が決壊!!!ナイト・ファーガス含む少なくとも9名戦死、負傷者多数!!!」
その時、通信霊装の前の修道女が、アニェーゼの方を振り向き声を飛ばした。
「現在ブラザー・パトリックの指揮の下で交戦中ですが、もちそうにないと!!!!」
アニェーゼ「…………」
その言葉を冷ややかな顔のまま静かに聞き。
アニェーゼは心の中で呟いた。
ほら。やっぱり来やがったじゃないですか、と。
アニェーゼ「総員に告げてください……『動ける戦闘要員は地上に』」
アニェーゼ「『総戦力をもって「最後」の攻勢防御に転じます』」
アニェーゼ「それとカンタベリーの作戦本部にこう送ってください」
アニェーゼ「『陣地線崩壊 状況は絶望的 増援上陸までの橋頭堡維持は困難』」
アニェーゼ「『本拠点は陥落濃厚』、と」
―――
728 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:34:05.00 ID:WIgFSnIo
―――
5 万の人口を有すフォークストン市。
その街は今、一面の廃墟と化していた。
破壊された建造物よりも、破壊されていない建造物を数えた方が確実に早い。
いや、そもそも破壊されていない建造物を探す時点でかなり苦労するだろう。
その廃墟の街の上、突如轟き瞬く大量の金色の稲妻。
そしてその直後に、
大地を裂き猛烈な速度で天に伸びる、数百本もの巨大な『黒い柱』。
それは太さ10m、高さは実に400にまで瞬時に達っする『腕』。
その巨大な腕の表面には、
良く見ると何本もの『大砲やミサイル』が突き出していた。
今、英仏海峡にて戦っている者達ならば、
あれが何なのかは一瞬で判別できるだろう。
人造悪魔兵器の『大砲やミサイル』だ。
ただ、この腕から生えているこれらの兵器は、
他の人造悪魔兵器とは違う点が二つある。
一つ目。
既に『死んで』いる。
二つ目。
ゴーレム
『 傀儡 』化している。
729 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:36:35.41 ID:WIgFSnIo
大地から生えた数百の巨大な腕。
その表面の、総計万を超える大砲が一斉に火を噴き、ミサイルが放たれた。
廃墟と貸したフォークストン市の上空を彩る、凄まじい爆発の連続。
さながら濃厚な対空砲火の如く。
その規模は凄まじく、衝撃波や破片が街に降り注ぎ、散らばっている瓦礫を更に砕いては吹き飛ばす。
この地響きは遠くロンドンでも容易に観測できるほど。
そこらの下等悪魔ならば、一瞬で塵になってしまうレベルだ。
これほどの砲火、何に対して行われているか。
それは『いくつかの金色の稲妻』に対してだ。
効果は直ぐに現れる。
爆発の嵐の中、稲妻がぷっつりと途切れ、
その光の先端から大型の悪魔が姿を現した。
大量の魔の力を帯びた弾幕を浴び、
電撃の衣を引き剥がされてしまったブリッツだ。
730 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:38:28.01 ID:WIgFSnIo
数は2体。
『翼』をもがれてしまったブリッツ達。
その雷獣らが、人の耳でもわかるほどの苛立ちが篭った咆哮を上げながら、
大地に降り立とうとしたその時。
宙を舞っていた内の一体に向けて、
黒い大きな塊がどこからとも無く『砲弾』のように飛来してきた。
それは、良く見ると人型。
身長4m程の『黒い巨人』だった。
石なのか金属なのか、それとも肉なのか見分けの付かない、
無機質と有機質が混ざった異様な体表。
腕は二対あり、一対は通常の肩の位置から。
一際長く大きいもう一対は、背中から伸びていた。
その腕は体に比べてかなり大きく、
背中から伸びている方にいたっては、胴と同じくらいの太さと身長以上の長さを誇っている。
ブリッツはその奇妙な巨人の飛来に即座に反応し、角や全身から放電。
そして巨大な鍵爪の付いた両手を、その向かってくる巨人の方へとかざし。
極太の電撃の『柱』を放った。
731 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:39:46.63 ID:WIgFSnIo
だがその凄まじい砲撃でも、巨人から腕の一本を千切り飛ばしただけだった。
勢いが殺されること無く、
残る3本の大きな腕を持つ巨人はブリッツの下へと到達し。
二本の腕で、即座にこの電撃悪魔の体をがっしりと掴み固定。
『―――ウロチョロすんじゃねえ。チカチカ目障りなんだよ』
その時、巨人の内部からくぐもった女の声がブリッツに向けて放たれた。
そして次の瞬間。
ブリッツの返答を待たずに瞬時に、
(もっとも、ブリッツが人語で言葉を返せるかどうかは疑問だが)
巨人のハンマーのような三本目の腕が、この悪魔の頭部に向けて叩き降ろされた。
強烈な一撃がブリッツの頭部を叩き潰し、上半身を砕き。
残った下半身を猛烈な速度で地面に叩き落す―――。
732 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:42:40.01 ID:WIgFSnIo
その時もう一体のブリッツが咆哮を上げ、巨人の方へと電撃となり『飛翔』してきた。
いくらか電撃の衣を回復させたのか、
ブリッツは猛烈な速度で巨人の方へと突っ込んでくる。
とはいえ、その速度は雷速と比べたらかなり遅かったが。
まだ完全に回復しきていないのだ。
そしてそれが、この雷獣の『死期』を決定付けた。
巨人は宙で身を捻り、その方向へと上半身を向け。
タイミングを見極め、突っ込んできたブリッツへカウンターを放った。
凄まじい速度で交差しすれ違う、
黒い槌のような巨大な腕と、大きな刃を生やした雷撃を纏う腕。
巨人の拳はブリッツの上半身を叩き潰し吹き飛ばした。
同じくブリッツの巨大な凶刃が、巨人の胸部に食い込む
硬質な金属を引きちぎっているかのような凄まじい音を響かせながら、その黒い体表の一部を剥ぎ取り。
そしてそのブリッツの腕は、『上半身』という根元が消えてしまった為、
繰り出された慣性に従い砲弾のようにすっ飛んでいった。
733 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:45:31.78 ID:WIgFSnIo
地響きを打ち鳴らしながら大地に降り立つ、二体のブリッツを屠った巨人。
その巨人の胸元の部分は、
先のブリッツの一撃によってぱっくりと割れていた。
そしてそこから見える、
『人間の上半身の左側』。
獅子のような荒れた金髪、褐色の肌、
薄汚れたゴシックロリータの装い。
この者が、この街のあちこちに生えている巨大な腕の『主』であり、
そして人造悪魔達をも傀儡化し操っている張本人、
シェリー=クロムウェルだ。
彼女の上半身の右側は巨人の肉の中に埋もれており、左腕も二の腕から肉の中。
胴と同じく半分だけ露になっている顔、
その境界線はまるで彼女の皮膚と巨人の肉が溶け合っているかのように曖昧だ。
出現した人の身の部分が異形の存在から生えているように見えるせいで、
退廃的なコントラストを際立たせ、余計に不気味な雰囲気を増させていき。
更にその彼女の形相が、その威圧感をより強くする。
浮かび上がっているのは凄まじい憤怒の色。
祖国の地を蹂躙された事への激情。
纏っている『魔』の影響か、それとも人間が本来持つ『危うさ』の一面か。
人の目・人の顔であるにも関わらずシェリーの形相は、
とても人のものとは思えないほどに恐ろしくなっていた。
734 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:47:20.56 ID:WIgFSnIo
シェリー『……………………』
一体目のブリッツによって飛ばされた腕が、
軋む様な音を発しながら見る間に再生していく。
また別の地では、先ほど倒された二体のブリッツの躯を、
地面から生えている巨大な腕が『喰らって』取り込んでいた。
喰らえば喰らうほど力は増していく。
死骸から得られる力など、その悪魔が生きていた時の極一部にしか過ぎないが、
それでも『塵も積もれば山』となる。
そして先日取り込んだタルタルシアンのような大悪魔なら、死骸でも巨大な力を得られる。
それが彼女の魔術、『真の魔像』と化した『ゴーレム=エリス』。
彼女が『乗っている』この巨人も、この街の至るところに生えている数百本もの巨大な腕も、
皆全て彼女の『ゴーレム』の一部。
展開された彼女の力によって フォークストン市は全域が完全な廃墟と化したが、
それと引き換えに悪魔の手からは完璧に守られていた。
ゴーレム魔術は元々かなり高難度とされていたが、
今や彼女のそれは、もう『高難度』で片付けてしまうレベルではなかった。
『教皇級』という表現でも足らない。
『神の右席級』、『魔神級』、という表現でようやくしっくりくるか。
彼女の『ゴーレム=エリス』魔術は、
正に神話級・伝説級、いや『神の領域』と言うべき水準にまで到達していた。
735 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:48:07.60 ID:WIgFSnIo
これは、単に『悪魔の力を手に入れたから強くなれた』、という訳ではない。
シェリーの元からの魔術的才と優れた技術があってこそだ。
下手をすると、王室の者ですら処刑されてしまうほどの重罪を問われていながらも、
その才と引き換えに『ほぼ自由の身』と言う恩赦を手に入れたほど。
それほど彼女は、代えの効かない優れた魔術師なのだ。
また、彼女のような異端的な天才は、実は天界魔術には向いていない。
天界魔術は、扱いは簡単だがその分得られる力はには限度がある。
魔界魔術は、扱いが非常に難しい分得られる力は、理論上は上限無し。
つまり、シェリーのような人間は元々魔界魔術向きと言っても良い。
(逆に言えば、彼女のように非常に優れた者で無ければ、魔界魔術には到底手が出せない、と言う事だ)
シェリー『エリス、旨いか?』
半身を露にしたまま、小さく呟くシェリー。
もちろん、言葉を返してくる者はいない。
フォークストン市域にて、人語を話せるのは今はシェリーただ一人。
シェリー『―――そうだよな。まだまだ足らないわよね』
だが、シェリーは『会話』を続ける。
姿の無い、いや、頭の中の何者かと話しているかのように。
シェリー『まだまだ1%も喰い切ってないしな』
シェリー『我が祖国の地を踏んだ悪魔は、全部食べ切らなきゃあ、、、な。エリス』
736 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 00:53:23.25 ID:WIgFSnIo
シェリー『………………』
と、その時。
シェリーは『何か』に気付き、宙を見上げスンと鼻を鳴らした。
シェリー『(………………次が来た……か……)』
ゴーレムの『鼻』が、更なる悪魔の接近を捕らえたのだ。
シェリー『(……高等悪魔が3……いや4体か?)』
フォークストン市域の部隊が撤退し、
巻き添えの気兼ねなく『好き放題』暴れまわっているシェリー。
最初の内は人造悪魔兵器の集団がシェリーに群がってきていたが、
当然このシェリーには傷一つ与えることもできずに一蹴。
取り込まれ、人造悪魔兵器達はシェリーのゴーレムの肉と化した。
それ以降、このフォークストンには下等な悪魔達は寄り付かなくなった。
代わりに来るのは、少数の高等悪魔達。
悪魔側も少数精鋭で仕掛けてきてるのだ。
そして現に、シェリーにとっては雑魚の群れを相手にするよりも面倒だ。
特にブリッツのような超攻撃型の高等悪魔を、複数体同時に相手にするのはさすがにシェリーでも厳しい。
そもそも、パワー型のシェリーにとってブリッツは非常に相性が悪い。
それこそタルタルシアンを取り込んだ今なら、
そのパンチの一撃は下手な大悪魔を卒倒させる事も可能だろうが、
当たらなければ意味が無いのは当然だ。
数十分前にブリッツを10体程相手にしたが、その時は危険な瞬間がいくつもあった。
下手をしていたら普通に死んでいたであろう事も、だ。
シェリー『(…………チッ…………)』
737 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:57:04.04 ID:WIgFSnIo
シェリー『(……………………これは……?)』
と、そうして感覚を研ぎ澄ませていたところ。
彼女はまた別の何かを嗅ぎ取った。
悪魔とは『別』の存在だ。
シェリー『………………』
巨体を動かしその反応の方角、
夜とも昼とも言えない不気味な空の下の英仏海峡を見やった。
シェリー『(…………違う。悪魔ではない…………天界魔術……いや……)』
力の匂いは魔ではなく天界魔術と『どことなく』似ているが、微妙に違う。
シェリー『(…………待て……これは……ッ……)』
だが完全に未知のもの、という訳でもない。
『今』となっては悪魔よりも出くわす機会が無い性質だが、
このタイプの存在の事をシェリーは良く知っている。
シェリー『(――― 神裂…………)』
『半天使になっていた神裂と同じ匂い』だ、と。
そう、既存の『薄い』天界魔術の力ではなく。
『純正』の天使の力だ。
738 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 00:58:48.40 ID:WIgFSnIo
シェリー『(……どうなってる?)』
『純正の天の力を纏った何か』が、海の向こうに。
神裂ではない。
確かに性質は同一だが、雰囲気が違う。
『別の個体』だ
ヘイスティングスから発った強襲揚陸部隊でもない。
それどころか、まずイギリスではないのは確かだ。
非常事態のため、シェリーの知らない封印されていた極秘の術式が起動されたとしても、
最高司令官の一人であるシェリーの元にも必ず一言あるはずだ。
イギリスでも悪魔でも無い、別の勢力の『何か』だ。
シェリー『…………騎士団長。到着までどれくらいだ?』
彼女は即座に通信霊装を起動し。
もう一人の最高司令官へと回線を開いた。
騎士団長『あと……約14分といったところだ』
シェリー『今は洋上か?』
騎士団長『そうだが?』
シェリー『…………何か、変わった事があるだろ?』
騎士団長『……そっちからでもわかるか?……海が穏やか過ぎる』
騎士団長『海上でも激しい交戦を予測していたが、まだ一体とも遭遇していない』
騎士団長『それと観測班からの報告だとな、異常な濃度のテレズマが海峡に充満してるらしい』
騎士団長『力を解放した際の神裂火織に匹敵する程の数値だ』
シェリー『…………』
739 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:01:57.83 ID:WIgFSnIo
シェリー『……悪魔でもない、我々でもない、第三の何かが英仏海峡に侵入してる、間違いないな?』
騎士団長『天の力を纏った何かが、な』
シェリー『…………』
騎士団長『……ローマ正教かフランスが、追い詰められて「最後の審判級」の術式か何かでも使ったか』
騎士団長『それとも、ドイツかオランダ辺りの「ヴァルキリー」共がついに何かやり始めたか』
シェリー『…………大陸側からの何かの報告は受けていないか?』
騎士団長『いいや。どの国内機関の情報部も、まともに機能していない。混乱状態だ』
騎士団長『今は国内の指揮通信網を維持保全するだけで精一杯だからな』
騎士団長『我々は今、自国周辺の外域に対しては盲目同然だ』
シェリー『…………だろうな』
シェリー『……とりあえず私はこれから「お客さん」の相手するわ。もう1分後くらいに接敵するしな』
シェリー『ドーバーの連中にはそっちから伝えといて。警戒するようにな』
騎士団長『ああ、そのドーバーの残留部隊なんだがな』
騎士団長『先ほどから応答しない。現在、斥候が確認に向かっている』
シェリー『………………………………そうか。わかった』
740 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:03:50.87 ID:WIgFSnIo
と、シェリーが通信回線を切断しようとしたその時。
騎士団長『――――――……待て!!!!』
シェリー『……何?』
通信魔術の向こうで、
確認が取れたのか?確かか?と騎士団長が部下と話す声が聞こえ。
騎士団長『………………この「異変」の原因の一部、判明した』
騎士団長『テレズマの解析が完了した。時間が無いから結論から言うぞ』
騎士団長『―――「ウリエル」だ』
シェリー『―――………………………………は?』
騎士団長『その核であろう「個体」の大まかな位置も判明した』
騎士団長『ちょうど今、ドーバーに到達するぞ』
―――
741 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:06:01.95 ID:WIgFSnIo
―――
一方その頃。
ドーバー城。
人造悪魔達の凄まじい砲撃、そして満を持して現れたかのような複数体の高等悪魔、
ゴートリングの強襲によって城壁は何重にも張った結界もろとも崩壊。
残留部隊は多大なる損害を出し、キープ(日本で言う『本丸』)に撤退。
そして今、その追い詰められつつある人間達と追い込みつつある悪魔達が、
キープ前の広場にて最期の戦いを繰り広げていた。
キープ唯一の門の前に固く陣形を組み、
様々な術式で悪魔の猛攻を何とか退けている魔術師や騎士達。
その後ろでは、門の封鎖の為の術式を急いで構築している魔術師達。
アニェーゼ=サンクティスはその最前線にて指揮を直接執り、
そして自身も直に杖を手に戦っていた。
ここを突破されてしまったら、後はもう手の内用が無い。
戦える者達はここにいる数だけ。
キープの中、
そしてその下のトーチカには負傷者しかいない。
門の封鎖が完了するまで、
なんとしてでも持ちこたえねばならないのだ。
742 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:08:52.10 ID:WIgFSnIo
人造悪魔兵器の砲撃や銃撃を、簡易の結界を出現させる防御魔術で防ぎ。
突っ込んでくる悪魔には、魔術の集中砲火。
それらを掻い潜ってきた悪魔には、近接武器のファランクス。
それでも、この陣を突破してきそうな個体には。
アニェーゼ「―――つァッッッ!!!!!!!!」
アニェーゼが放つような、
魔界魔術で異様なほどにまで強化された強烈な一撃をお見舞いする。
アニェーゼが手に持っている杖の先を地面に叩きつけ、
そして地面を抉るように一気に横に引く。
すると見えない巨大が何かが、その杖の先と同じ動きをする。
とんでもない威力で。
標的とされた悪魔は一度見えない何かに上から叩き潰され。
そして今度は潰されたまま真横へと引きずられ、見るも無残な姿と化す。
地面に穿たれた凹みは直径10m近く。
そのまま横へ広がった長さは40m、広場を横切り崩れた城壁にまで達する。
743 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 01:10:02.21 ID:WIgFSnIo
だがここまでの火力があっても、明らかに劣勢だった。
陣形を組んでいる者の数は一人、また一人と徐々に減っていく。
アニェーゼら残留部隊が門の前に集い、持ちうる全ての戦力を集結させているのならば、
もちろんこのドーバー周辺の悪魔達もここに一点集中する。
その火力・戦力の差は圧倒的。
アニェーゼ達が何とか守っているキープは一応原型を留めているも、
周囲にそびえていた堅牢な城壁は、今や跡形も無くなっていた。
ところどころに土台の廃墟があるだけだ。
アニェーゼ「(―――もちま……せんね―――)」
杖を振るい指示を飛ばしながら、アニェーゼもここにいる皆と同じ事を思う。
既に限界、いや、限界を超えている、と。
しかし誰も戦うことはやめなかった。
武器を持つ手が血にまみれ、触角すら無くなって来ても。
隣にいる仲間の血飛沫を浴びても。
隣の仲間の頭部が砕けても ―――。
744 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 01:12:31.81 ID:WIgFSnIo
人は自身の死を悟った時は、妙に思考が冷静になる場合も多い。
そして余計な『飾り』を捨てた自身を認識し、やっと自己の深層心理を自覚できる。
アニェーゼの場合。
その極限の中で浮き彫りになったのは。
アニェーゼ「(―――天にまします我らの父よ)」
『信仰』だった。
両親を無くし路上生活を強いられ。
何もかもを失った時も、唯一手放さなかったこの『信仰』。
アニェーゼ「(―――我らから闇を払い給え)」
そしてその『信仰』は。
今、教義の中では『相反する存在』とされているものによって叩き潰されようとしていた。
アニェーゼ「(―――我らに闇に打ち勝つ力を与え給え)」
ゴートリングが翼を広げ。
キープの門の前に陣取る彼女達を、
囲み見下ろすように宙に浮いていた。
その数、12体。
アニェーゼ「(―――我らに。その御力を。遣わせ給え―――)」
745 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:13:45.02 ID:WIgFSnIo
一度に相手にするのは2体が限度。
一斉に12体も来られたら。
ここは屠殺場と化す。
アニェーゼ「(願わくば―――)」
アニェーゼは心の中で祈りを続けながら、
ゆっくりと見上げ、正面に位置しているゴートリングを見。
アニェーゼ「心半ばで散った我らが兄弟を。我らが姉妹を。かの御国へと導き給え―――)」
自身達に死を与えるであろうその魔を見。
アニェーゼ「(―――彼らから苦痛を払い給え)」
そして『天上』を見。
アニェーゼ「――――――アーメン」
最後に声に出し、小さく十字を切った。
それはゴートリング達が一斉に動いたのと同時だった。
そして。
その彼女の声が届いたのか。
届かなかったのか。
それを知るのは正に『天のみぞ』であるが―――。
―――天の力が『この場』に働いたのともほぼ同時だった。
746 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:14:41.58 ID:WIgFSnIo
『それ』は突然やって来た。
連続して響いていた破砕音・爆音が突如止んだ。
絶え間なく続いていた悪魔達の攻撃も。
そして異質な。
悪魔とはまた違う『異界』の威圧感。
アニェーゼ「―――」
アニェーゼは知ってる。
この感じの重圧は、前にも何度も味わっている。
天使化した神裂と同じだ。
悪魔達はその瞬間ピタリと動きを止め、みな上の一点を見つめていた。
その視線の先は、ちょうどキープの頂点あたり。
魔術師や騎士、そしてアニェーゼも振り返り、
背後のキープの頂点へと視線を向けた。
アニェーゼ「――――――」
その先にいたのは。
『人』、いや。
『人』と呼べるのかわからない、『人にも見える』何かが浮遊していた。
747 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:17:35.21 ID:WIgFSnIo
体は人間に見える。
黄色の、昔のフランス市民の庶民衣のような造形の衣服を纏った若い女性らしき姿だ。
口からは先に『十字架の付いた長い鎖』が垂れ。
その顔は白く、そして目の縁が異様に際立っていた。
厚く化粧をしているのか、それが地肌なのかは『わからない』。
というのも、この存在が人間かどうか『わからない』からだ。
瞳が、金色に輝いているのだから。
神裂のように。
ここが、この存在が人間かどうか判別しがたい一つ目の点だ。
そして二つ目は。
背中から伸びる、『三対六枚』の巨大な『黄金色の羽』。
長さは一枚、100m近くにまでなるか。
非常に高速に微振動しているのか、大気全体が共鳴のように揺らいでおり、
翼自体も残像の如く実体間が無い。
これらの、キープ上空にいる何かの風貌。
強いこの世の物質とは思えない感覚。
いや、正にそうだろう。
少なくとも人界の域ではない。
神裂と同じような域だろう―――。
―――『本物の天使』のような。
748 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:19:30.44 ID:WIgFSnIo
アニェーゼ「―――」
見上げていた者達は皆、
アニェーゼを含み目を丸くし呆然としていた。
あまりにも突然であり、理解しがたく。
皆思考停止していた。
悪魔達も、動きを止めジッとその何かを見つめていた。
そして。
その場の全員の視線を浴びる『何か』がゆっくりと口を開く。
『―――「我が光は神なり」』
脳内に直接響いてくる、発信源がわからないような。
異界特有のエコーのかかった声。
『子らには「天恵」を―――』
『―――悪には「天罰」を』
749 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:20:23.92 ID:WIgFSnIo
そしてスッと右手を天に掲げ。
『「神の火」 「神の光」の名の下―――』
『――― 裁きを―――』
そう告げると同時に、今度は右手を下ろし。
指先を地面に向けた。
その瞬間。
余りにも場違いな『心地よい風』が一体を優しく吹き抜け。
ドーバー城周辺にいた悪魔達が一瞬で『砕け散った』。
特に激しい破壊も無く、静かに。
数千、いや万に達していたであろうその全てが。
風に吹かれる砂のようにかき消され。
塵となる―――。
―――
750 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:22:15.44 ID:WIgFSnIo
今日はここまでです。
次は早ければ6日辺りに、遅くとも8日までには。
751 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:23:51.84 ID:E3CMGzco
おつ!752 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 01:30:02.79 ID:SHEKvgEo
さすが俺のヴェントタンや!753 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 02:47:00.50 ID:NOfgOQw0
乙ですわ
そして他愛も無い雑談にも律儀に答えてくれる>>1はマジ天使755 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/04(土) 12:10:31.52 ID:9uV70zU0
ヴェントでこんなえ激しいと
アックアさんどうなってしまうん756 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /04(土) 18:42:27.05 ID:gQx1DADO
ガチで戦争だな…762 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /09(木) 00:30:33.92 ID:T/QcCx2o
―――
半ば崩れかかっている、地上へと続いている長い長い非常階段。
壁にはヒビが走り、ところどころ崩れてもいる。
その階段の中途にて。
佐天はキリエを庇い、床に座り込んでいる彼女を抱きかかえるようにして屈んでいた。
佐天「…………はぁッッッ……!!!な、……んなのよもうッッッ!!!!」
ルシアの言葉に従い、急いで大きな地下倉庫の中を進み、
そして非常階段を見つけ駆け上がり。
その時だった。
大地震の如くの凄まじい揺れが襲ってきたのは。
佐天「(やっぱり……普通の地震…………とかじゃないよね…………ここも崩れそう……)」
佐天「早く行きましょう!!!ここはちょっと、というかかなりマズイよ!!!」
立ち上がり、キリエの腕に手を伸ばし先を急ぐよう促す佐天。
日本語、それも早口のそれは当然キリエは訳せなかったが、
それでも佐天の表情や体の大きな動作でどのような事を言っているのかは一目瞭然。
キリエ「…………ええ!!!」
佐天はキリエに肩を貸し、二人は階段を足早に昇っていった。
763 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:32:11.49 ID:T/QcCx2o
延々と続く階段。
キリエは身長が高く、健康的かつグラマーな体系。
決して『太っている』という訳ではないが、
小柄な佐天からすれば『それなり』に、というのも当然。
佐天「はッ……ふッ…………はッ……」
キリエの体を支えながら階段を昇る彼女の体力は、どんどん減っていく。
そしてキリエもまた息を切らし、足元が覚束なくなっていた。
胸に深々と杭が突き刺さっているのだから当たり前か。
普通ならば既に意識を失っていてもおかしくはない。
だが二人は黙々と昇って行く。
一歩ずつ一歩ずつ。
壁にある地下階層を現す数字が一つ、
また一つと小さくなり地上に近付いていく。
そして。
佐天「……!や、やった!!!!地上ですよッッ!!!!!」
キリエ「……はあッッ………………」
階段が終わり、やや広めのフロアに到達。
二人は外へと繋がる、大きな金属製のドアへと向かい。
ようやく、二人は地の底から脱する。
が。
764 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:34:14.22 ID:T/QcCx2o
勢い良く開け放たれた、そのドアの向こう。
佐天「―――…………そ、そんな―――…………」
キリエ「!!!!!」
廃墟に囲まれた、駐車場か何かの広場。
そこに、まるで彼女達を待っていたかのように数十体もの悪魔がいた。
佐天「(……どどどどどどどうしよう!!!!!どどおどd)」
おぞましい赤い瞳が二人に向き。
餌を見つけ、喜んでいるかのごとく耳障りな不気味な唸り声を上げ。
悪魔達はゆっくりと彼女達二人を囲む輪を狭めてくる。
佐天「!!!!!」
どう考えても来た道を戻った方がマシ、と、
佐天は背後のドアを開け再び戻ろうとしたが。
フロアの向こう、地下へと続く非常階段の方からも悪魔が這い上がってきていた。
あざ笑うかのような不気味な声を発しながら。
キリエ「……!!ダメ!!!!」
佐天「ああああ!!!!!!!」
半ば焼けになりながら佐天はドアを強く閉じ、
そして振り向き獰猛な捕食者達と再度向き合った。
おぞましい存在達は、既に3mの所にまで迫ってきていた。
佐天「(―――………………走って…………足下を何とか潜り抜けて…………)」
歯を噛み締め悪魔達の瞳を真っ直ぐ睨み、
どう考えても無駄、と自覚しつつもそれでも生き延びる道を探る佐天。
佐天「(…………やるしか…………せめてキリエさんだけでもここから……)」
明らかに困難、それでも佐天は迷わず決断を下し勇気を胸に。
肩を貸しているキリエをギュッと抱きしめるように支え。
一気に悪魔達の方へ、その隙間へと駆け出―――
―――そうとしたその瞬間。
765 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:35:32.79 ID:T/QcCx2o
佐天「わッ―――わわわ!!!!!!!!!」
キリエ「―――!!!!!」
突如、凄まじい爆音が響き渡った。
いや、『音』と言うよりは大気の振動、『衝撃波』と言った方が良いか。
もちろん飛び出すことなく、二人はその場に屈み頭を下げて伏せった。
何が起こったのか。
普通の人間である佐天にとっては、
『いきなり爆風が吹いた』としか表現できなかった。
これがもし聖人や悪魔などの視点からならば、
猛烈な速度で暴れ周り次々と『素手』で悪魔をぶちのめしてく『女』が見えただろう。
悪魔達が吹っ飛び、砕け、引き裂かれてなぎ倒されていくのが。
時間にして0.1秒も無い。
そんな僅かな一瞬の間に、数十体いた悪魔は見るも無残な有様になっていた。
そしてその惨状のど真ん中、佐天達の前6m程のところに。
長身の金髪の女が悠然と立っていた。
パッツン前髪の上、額に押し上げたゴーグル。
作業着のような服の上には大きめの白いエプロン。
見た目の歳は20代前半くらいか、
気が強そうな青い瞳の整った顔立ちの白人女だ。
766 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:37:23.95 ID:T/QcCx2o
いきなり現れた、見ず知らずの女。
そして目を離した一瞬で肉塊となってしまった大量の悪魔。
佐天「…………???!!!!!」
キリエ「…………??!!」
状況を掴めず、当然二人は驚き動揺するが。
「『保護』はいつもあいつの役割なんだけど」
そんな彼女達の表情など気にせずに、女はやや機嫌悪そうに口を開いた。
「あいつ今、手空いて無いから」
佐天「―――だ、だだだだだだだだだだだ誰ッッッ???!!!!」
「良いから来な。説明は後だ」
女は佐天のどもりまくってい声をサラリと受け流し、
面倒臭そうにくいっと首を掲げて同行するよう催促。
キリエ「(―――この人…………聖人……?)」
そんな女をキリエはジッと見つめながら、昔の記憶を思い出していた。
数年前にフォルトゥナに来ていた神裂と雰囲気が似ているのだ。
風貌や人格ではなく、その『存在感』がどことなく。
キリエ「…………行きましょう。あの人、信用できると思います」
佐天「……………………へ?へ?」
「早くするんだ。ほらチャッチャと!!!」
佐天「ははっははい!!!!!!」
―――
767 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:38:48.82 ID:XuDWdVwo
シルビアか768 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:39:10.32 ID:T/QcCx2o
―――
深部から真上までぶち抜かれた、
冥府まで続いているかとも思えてしまう直径300mにも達する巨大な穴。
縁が崩れ、複数のビルを巻き込み穴の中に沈め。
まるで周囲に侵食していく生物のように徐々に大きくなりつつあった。
その大穴の縁に悠然と立っている一人の男。
アリウス。
アリウス『……………………』
葉巻を燻らせ、ゆっくりと空を見上げるその彼の姿は、
両手の先がほのかに赤く光っている以外は特に普段と変わりは無い。
彼自体は、だ。
その周囲の状況は、とても『普通』とは言えなかったが。
彼を取り囲むように浮かび上がっている凄まじい数の、光で形成された術式。
それらが生き物のようにうねり、そして常にその構文の内容も変化していっている。
それらの構文の一つ一つは、魔界製の『本物の魔導書』に記されてもおかしくは無いものばかり。
一構文だけでも、その解読にはローマ正教や
イギリス清教が総力をあげても一ヶ月はかかってしまう代物だ。
更に意味を検証・完全解析し、起動可能な複製構文を作るとなると数十年もかかるかもしれない。
そもそも、魔界言語の部分は解読そのものが困難であろう。
769 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:43:24.78 ID:T/QcCx2o
そんな代物が秒間万単位で浮かび上がっては、リアルタイムで変動し、
新たな構文をその場で構築していく。
同じ構文は一つも無い。
全てがその一瞬一瞬の目的の為だけに作られ、使い捨てられ消えていく。
もし魔術世界に広く発表されれば、
様々な分野で革新的技術発展がおきてしまうような知識の結晶が。
そして、そこから発動する術式ももちろん凄まじい代物だ。
最早『教皇級』、『神の右席級』などという括りでは表現できないものだ。
既存の『魔術』として括る事もできないかもしれない。
一般的に、『人間が扱う魔術』というのは『模倣』で成り立っており、
外部の何らかの『筋書き』を必要とする。
それは神話や伝承・過去の『神性を帯びた歴史』であったり、
力を引き出す『源』の存在の性質を借りたりなど。
それが一般的な『魔術』の大前提だ。
770 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /09(木) 00:45:12.47 ID:T/QcCx2o
だが『一般的な』と括る以上、例外も当然ある。
外部の筋書きを必要とせず、自らの手で筋書きを創り出す『特別な者達』だ。
この『特別な者達』は、その力の根源や入手方法も普通の魔術師とは全く原理が異なるが、
使用する魔術の根本体系も全く異なる。
彼らは、自らの手で異界の力の根源と直接繋がり、その純正の力と融合し。
『自身の筋書き』で『思うがまま』に力を行使するのだ。
魔術記述として使用に耐えれる水準の『筋書き』を自身の手で創り出してしまうのだ。
つまり。
一般の魔術師の行使する力は、外部の神話や神性に依存するが。
この『特別な者達』は、自身が『神性』を帯び、『自身の為の神話』を創り出すのだ。
そこには、外部の筋書きや模倣に常に纏わり付いていた『縛り』も『型』も無い。
唯一の制限は、行使者自身の限界だけだ。
771 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:47:53.97 ID:T/QcCx2o
この特別な者達に該当するのは、古代由来ならばアンブラの魔女やルーメンの賢者。
かの大戦の際、スパーダと共に戦った戦巫女達とその子孫の一部などの、『古の人類』の末裔達。
近世の『第二世代の人間』ならば、
アレイスター=クロウリーや、かつてスパーダの力を求めて散ったアーカム。
そしてこのアリウスなどの極一部の超越した魔術師達。
これらの者が神話をその場で創ってしまう―――。
―――その挙動が、その思考が、その意識が―――。
―――その死に様と生き様が、そのまま『神話』と化す領域に属する『人間』。
『外部の筋書き』を模倣して周囲の世界に『映し出す』のではなく。
『自身の筋書き』により周囲の世界そのものを『変える』事。
それが可能、つまり『存在するという事それ自体が神話になってしまう』レベルであることが、
人間からは『神』、或いは『大悪魔』と呼ばれる超越した存在らの『基本水準』であり。
そして。
この領域に踏み込んだ『人間』は、魔術師界ではこう表現される。
『神話を読む者ではなく、神話となる者』、
『人としての魔術の高みを超え、神の領域に踏み込んだ者』―――
―――すなわち 『魔神』 と畏れ謳われる者である。
772 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:49:02.16 ID:T/QcCx2o
そんな、魔術師としての限界を超えているアリウス。
アリウス『…………』
大穴の縁に悠然と立ちつつ、
上空にて浮遊している能力者の方を見上げ小さくほくそ笑んだ。
アリウス『(…………アラストル、完全に癒着しているな。主従契約が確立しているか)』
アラストルとあの能力者の結合は完璧。
前の学園都市第23学区での戦いの際、『借り物』という点を突いて行った、
命令系統へ浸入し魔具の類を無効化する方法は少し厳しい。
が、それなら別のやり方でいくだけだ。
アリウス『(…………主を潰せば後は簡単だな)』
あの能力者を潰してしまえばそれで解決だ。
そして残る『主が不在』となったアラストルは、以前と同じ方法で封印してしまえばいい。
あの能力者がアラストルの力を使い切れているようには到底見えない。
それどころか、かなり『お粗末』だ。
『タダ単』に力を得た『だけ』で、まったく纏まっていない。
無駄な『垂れ流し』状態だ。
あれならば、倒す事はいとも簡単。
苦労は無い。
アラストルが魔界の諸神としての全ての力を解放してくれば、
現状のアリウスでは対応しきれない。
が、自立しての力の解放許可を出す『主』はいない、
力を全て引き出しうる『主』もいない、となれば全く脅威ではない。
絶対的な契約を結んだ使い魔は、どう足掻いてもその掟に背くことは不可能。
あのダンテと血の契約を結んだ以上、アラストルはそれを無視して単独で力の解放は絶対にできない。
アリウス『(問題は無い)』
アスタロトや、例の『影の王』の手を借りる必要も無い。
現状のまま全て対応できる。
今の所有者であるあの能力者を殺せばそれで終わりだ。
773 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:53:57.19 ID:T/QcCx2o
そもそも、アリウスは魔界の強大な『パトロン』達の直接の手をあまり借りられない事情がある。
主要なパトロンを前に出してしまい、彼らがネロに狩られてしまったら大問題なのだ。
アリウスならばともかく、他の大悪魔ならネロは即座に殺しにかかるだろう。
パトロンの支援を失ったら計画そのものが傾いてしまう。
この大詰めの時に無用な危険を冒すわけにはいかないのだ。
ちなみにそのネロの件。
アリウスとネロの恋人の『同期機能』は、今は停止しているが術式自体は解除されていない。
現状でアリウスを殺しても、ネロの恋人が同時に死ぬ事は無い。
だがその一方で、この術式が原因で『後で』免れない死を被る可能性がある。
アリウスはあの術式に、膨大な数の罠を組み込んである。
彼の命以外で解除された段階で発動する罠だ。
つまりあの杭を作った者がその一つでも見落としていれば、ネロの恋人は非常に危うくなる。
そしてその即解決法を知るのはアリウスのみ。
彼女の術を解く過程で何らかの支障があった場合、必ずアリウスの知識が必要になる。
つまり、術式の完全解除までネロはアリウスに手を出せない。
774 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 00:55:59.14 ID:T/QcCx2o
ネロが恋人の命よりもアリウス殺害を優先すれば話は別だが、
どう考えてもそれはまず有り得ないのは確実だ。
更に術式解除に有する時間。
あの杭の中に、大体どういった術式が刻まれているかは一目でアリウスは判別した。
あの水準の術式ならば、効果が浸透し完全解除となるのは最低でも15分はかかる。
杭の製作者、父からの比類なき才を引き継いだ『アーカムの娘』がいれば、
効果促進させて時間短縮できるかもしれないが、今この島にはいない。
アリウスが認めるほどの天才的な術式技量の持ち主でも無い限り、
要する時間を短縮するのはまず困難だ。
今の状況。
覇王復活完了までの時間は5分を切っている。
術式解除までは最短15分。
つまり覇王復活よりも先に、ネロがアリウスを殺しに来る事はまずない。
そして覇王復活すれば即座に魔界の門を開き、
スパーダの力の片割れを引き出すことも可能。
そうなれば、最早ネロは怖くない。
ネロの有する力と魔剣スパーダを手に入れ。
フィアンマから創造を奪えば、ダンテやバージル、魔女らさえももう敵ではない。
もちろんそこまで行けば、
天の門の開放に関してなどどうとでもなる。
この計画の『コア』の安全性も、表に直に出なければ問題ない。
『影』から出なければ、ネロでさえ手が出せないのだから。
775 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:00:02.38 ID:T/QcCx2o
アリウス『…………』
計画に何も問題は無い。今のところ全てが順調。
『χ』の反抗とその処分も、学園都市からの能力者の相手も『余興』。
時間までの暇潰しだ。
障害には成り得ない。
アリウス『(「この程度」で本当にこの俺を止められると思ったのか?)』
何度もシミュレーションをし、自身の計画の成功を確信したアリウス。
アリウス『(この俺の計画の、どこに穴がある?どこが失敗の要因となり得る?)』
小さく笑いながら、心の中でたった一人の旧友へと呼びかた。
アリウス『(……思考が鈍ったな。エドワードよ。正しいのはこの俺だ)』
その彼の周囲に浮かび上がっている光のうねりがより一層激しくなり。
表面で術式が激しく変動して行き。
アリウス『(―――それを証明してやる。もうじきにな)』
魔神としてのアリウスの力と技術が躍動し、
彼を覆う術式体系が更なる臨戦状態と変形していく。
そしてちょうどその瞬間。
その赤い光のうねりに、上方から照射された青白い光の柱が衝突した―――。
――― 別名 『粒機波形高速砲』が。
776 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:04:54.56 ID:T/QcCx2o
降り注いだ大量の光は、大穴の縁の一角を一瞬で吹き飛ばし、そして溶かし尽くす。
着弾地点は蒸発、その周囲も広い範囲が輝く液体と化し。
そしてその液体は大穴の中へと流れ落ちていき、オレンジの大瀑布を形成する。
舞うのは水しぶきではなく火の粉。
吹き荒れるのは涼やかな霧ではなく、凄まじい熱風。
そんな灼熱の中、着弾地点の中心にいたアリウスは何事も無かったかのように立っていた。
彼の周囲に浮かび上がっている光のうねりも先ほどと特に変わり無い。
彼が立っているアスファルトの地面、半径5mの部分だけが綺麗に切り取られたのかのように残っていた。
オレンジの光り輝く海に浮かぶ小さな孤島だ。
アリウス『―――』
紫の翼を生やした、青白い光に包まれた若い女。
それは真上から凄まじい速度で急降下した麦野だ。
彼女は身を引き絞り、アラストルを頭上に掲げ。
降下した慣性を乗せ、迷い無くアリウスの頭頂部目掛け。
麦野『―――ッッつあぁぁッッ!!!!!!』
その振り上げた魔剣を一気に叩き降ろした。
正にハンマーのように力み思いっきり。
その速度とパワーは尋常じゃないレベルだったが、動きは粗暴・力の制御は乱雑。
アラストルの刃は剣筋に対し傾いており、その剣筋自体も激しくブレている。
その麦野の動きは、とても『剣技』とは呼べないものであった。
ただ力任せに棍棒をぶん回す『素人』だ。
単に物理的に見れば凄まじい衝突エネルギーだったろうが、
『ここから先』は、単に物理的に強いだけじゃ全く意味が無い領域だ。
無様にぶん回されたアラストルは、その絶大な力が全く引き出されずに。
強烈な爆風を周囲に撒き散らすも、標的のアリウスには全く届く事は無く。
彼を覆う光のうねりにぶち当たってあっけなく弾き返されてしまった。
777 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:10:11.82 ID:T/QcCx2o
麦野『―――ッッ!!?』
凄まじい衝撃によって痺れる右手。
耳鳴りのような振動音を発するアラストル。
そして体制を崩し、後方に傾く麦野の体。
アリウス『―――ふん』
麦野の驚いた顔を横目で見、冷笑するアリウス。
次の瞬間彼女の顔面に向けて、
一瞬の間にアリウスの近くの虚空から出現した銀色の触手、杭のような物が一気に伸びていく。
一本だけではない。
地面から、宙の光のうねりの中から、膨大な数の杭が。
麦野の全身を貫き粉微塵に引き裂くべく。
麦野『―――』
この『100倍返し』レベルの反撃。
『バージルと戦った時』の彼女ならば、容易に反応でき余裕を持ってかわせただろうが。
『今の麦野』は全く反応できなかった
778 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:13:14.90 ID:T/QcCx2o
麦野『―――あッ―――ぐぅッッッッッ!!!!!!!!』
その瞬間。
意識が飛びそうになるほどの凄まじい激痛が麦野の体を襲った。
それは杭が身を貫いた痛みではない。
凄まじい力で、彼女が『後方に引っ張られる』痛み。
翼の付け根にて暴れる、背中の肉、
いや背骨ごと引き抜かれるようなとんでもない激痛だ。
放たれた杭が伸びる速度以上の速さで麦野の体は後方へと吹っ飛んだ。
彼女が一瞬前までいた空間を、大量の杭が貫いていく。
麦野『………………か……あぁ゛ッッ…………う゛ッッッ…………ん゛…………!!!』
数百メートル、大通りに沿って後方に『飛ばされた』彼女は、
アスファルトを捲り上げながら乱暴に着地し、ひざをついて苦悶の声を漏らした。
『アラストルの翼』によって真後ろに強引に引っ張られたのだ。
アラストルの回避行動によって麦野は間一髪のところを免れたものの、
その意図しない強烈な力が使われた負荷が、彼女に跳ね返ってきたのだ。
779 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:14:24.33 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――わかるだろうが、今のはもう出来ないからな。お前がもたない』
苦痛に堪える彼女とは対照的に淡々とした、いや、
どことなく楽しそうにも聞こえるアラストルの声。
ほくそ笑むそうな、せせら笑うような。
麦野『…………わかってるわよッッ……!』
アラストル『それとこれもわかってるな?今の状況は、兄上殿と戦った時とは全く違うからな』
アラストル『勘違いするなよ?今のお前は「素人同然」だ』
麦野『…………ッ…………』
そう、あの時とは違う。
あの時、彼女は洗練された剣技によって、バージルの刃をも数回退けた。
だがそれはトリッシュとの感覚共有があったおかげであり、彼女自身の技ではない。
『鍛え上げられた武人』が麦野の体に同化していただけに過ぎないのだ。
そのトリッシュの加護を失えば?
当然、残るは『ド素人』の麦野だ。
780 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:16:04.89 ID:T/QcCx2o
いくらこのアラストルのような名だたる大悪魔とでも、ただ同化して力を手に入れた『だけ』では、
悪魔の技術は手に入らない。
そもそも、そのくらいで『達人』と成れれば誰も苦労しない。
ダンテやバージルでも、生まれた時から剣を始めとする戦闘術の達人であったわけではない。
幼少期に父スパーダにより、あらゆる基本を身をもって叩き込まれたからだ。
彼らが新しく手に入れた魔具をその場で即座に使いこなしてしまうのも、
その技術の基本が完璧であるからだ。
どれほど大きな牙や爪を持っていようとも、なまくらだったら意味が無い。
どれほど強大な力を持っていても、その本質を知らなければ使いこなせない。
どれほど強力な武器を持っていたとしても、使い方を知らなければガラクタと同じ。
鍛え上げられた武人は皆、剣技であったり格闘技であったり、特殊な技能であったり、
洗練された自身のスタイルを持ち、自身の力を最大限効率よく扱える『法』を有しているのだ。
麦野は能力については『ある程度の技術』をもっているが、
悪魔の力に関してはまるっきり『ド素人』。
そして実はその能力技術自体も。
『ある線』を越えた今の一方通行からすると、『本質を何も知らない素人』のそれだろう。
781 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:18:33.73 ID:T/QcCx2o
麦野『―――』
とその時。
前方のアリウスの方から『圧』と『衝撃』を感じ、
麦野は痛みに堪えながら顔を上げた。
その彼女の視線の先では。
背丈の小さな、光を纏った鳥人のような悪魔とアリウス。
二者は至近距離で凄まじい攻防戦を繰り広げていた。
鳥人のような悪魔は、小柄で華奢な体躯に反し放つ力は強力かつ洗練された力。
円を基調とした流れるような無駄の無い動きで、無駄なく力を制御し次々と放つ剣撃や斬撃。
そして対するアリウスも、得体の知れない『何か』でそれらの攻撃を退き、そして彼の方からも攻撃を繰り出す。
麦野に使った杭のようなものや、色とりどりの光線のようなもので。
麦野『…………なッ……!?』
が、それらの速度は凄まじく、今の麦野ではまともに見えない領域だった。
同化しているアラストルからの情報で間接的にわかるだけであり、
彼女自身にとっては連続して煌く光の嵐としか認識できなかったのだ。
それは、『素人』である今の彼女程度では、とても割り込む事のできない戦いだった。
今の彼女は決して弱いわけじゃない。
現在の状態でも普通の人としての域を超えている。
が、それでも『神の領域』にはまだまだ届いていない。
その身に宿している『力』は充分『神の領域』相当だろうが、
その彼女の感覚や技術、認識はまだまだ陳腐なものにしか過ぎなかったのだ。
782 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:20:19.17 ID:T/QcCx2o
アラストル『力を解放しているルシアだな。あの小娘だよ。赤毛の。なぜここにいるかは知らんが』
その小柄でありながら洗練された強力な力を振るう悪魔を、
ルシアだと指摘する嫌に落ち着いているアラストルの声。
麦野『…………ッ』
そして。
アラストル『さて、俗に言う「大悪魔の域の戦い」がどういったものか、「己の等身大」でやっと知ったろう?』
彼女が味わっている「衝撃」を、
まるで代弁・再確認させるかのごとく言葉を続けて言った。
アラストル『あの「領域」の戦いには、さすがに今のままじゃ着いていくのは厳しい』
アラストル『これでハッキリしたな。所詮、今のお前は雑魚相手しか出来ない「派手なだけの素人」だというわけだ』
麦野『……うっせえ!!!黙ってろガラクタが!!!!!』
淡々とストレートに指摘され。
自身への不甲斐なさにイラつき、声を荒げながら体に鞭打ちゆっくりと立ち上がろうとする麦野。
その声の荒ぎは、軋む体の激痛を堪える面もあった。
アラストル『俺の力を全く引き出せていない。俺の力を全く使えていない』
アラストル『情け無いな。それでも我がマスターが認めた者か?』
783 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:25:09.00 ID:T/QcCx2o
麦野『…………チッ!!だからうっせぇんだよッ!!今更ご高尚に指摘されても遅えッ!!ボケが!!!!!!』
更に声を荒げ。
今度はアラストルを地面に突き立て杖代わりにし、ようやく麦野はしっかりと立ち上がった。
アラストル『遅いも早いも無い。こればかりは、他の者が指摘しても意味は無い』
アラストル『力が何たるか、というのは身を持って知らなければな。誰かから教わる類のものではない』
アラストル『そしてなぜ今頃か?それは、実戦は最高の修練だからだ』
麦野『―――…………』
そこまでを聞いて、アラストルの言わんとした事を悟った麦野。
不機嫌なのが一転、脂汗が滲んだ顔で今度は薄く笑った。
アラストル『「殺し合い」は最高の「殺し合い」の演習』
麦野『ハッ……そういうことね……そうきたか……』
アラストル『殺す為の技術は、殺す時にしか「正確」に実践できない』
アラストル『真の武を求めるのならば、真の武に飛び込め。これぞ我々の「魔烈の学道」よ』
麦野『ふん…………その理論には同意するわ。でもちょっと極端すぎじゃない?』
アラストル『諦めろ。お前が今踏み入れようとしている世界はこのような方法じゃないと到達できない。そして生き残れない』
アラストル『ここで学べ。ここで手に入れろ。それが出来ねば行き先は死だ』
麦野『…………で、具体的にはまず何をすればいいの?すぐできるの?』
アラストル『お前の中では基本は出来上がっている。すぐかどうかはお前の心持次第だ』
784 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:26:40.47 ID:T/QcCx2o
アラストル『まず集中し。黙って俺の言葉を聞け』
アラストル『兄上殿と刃を交えたあの瞬間の感覚を思い出せ』
麦野『……今はあの時とは違うだろ?トリッシュとはt』
アラストル『黙って聞けと言っている。「思い出せ」。「無い」のだから、頭の中で「形作れ」』
アラストル『「感覚」と「技術」は無くとも、「記憶」と「経験」はある』
麦野『………………いいわ、思い出した』
アラストル『よし。もう一度あの男に突っ込め』
麦野『――― はァァァァッ??!!!』
アラストル『急げ。ルシアが押されてる。それにあの男はまだまだ全力を出していない』
アラストル『あの男が飽きてしまったら、恐らくルシアも潰される。そして今のお前じゃ一瞬で殺される』
麦野『―――くッ!!!』
アラストル『―――良いから信頼しろ。俺は裏切らない』
麦野『………………チッ……こんなガラクタの胡散臭い言葉を素直に聞いて―――』
半分やけになりつつも、麦野はアラストルを地面から引き抜き。
背中の翼を一度大きく広げ。
麦野『―――突っ込む私もどうかしてるわ畜生ッッ!!!!!!』
一気に前へと飛び出した。
最大速度で。
785 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:30:35.61 ID:T/QcCx2o
アリウスまでは数百メートル。
今の麦野の速度ならば、一瞬で到達する距離だ。
彼女自身にとっても一瞬だ。
だがその彼女の体感速度がなぜか。
アラストル『―――お前らの「能力」も我々の「魔の力」も扱いの基本原理は同一』
アラストルの言葉が始まった瞬間に急に緩やかになった。
麦野沈利。能力者でありレベル5。
その段階で彼女の集中力は折り紙つき。
そして力の認識能力も、素養は確たるものを持っている。
あとは学ぶだけ。
あとは『気付く』だけだ。
アラストル『―――感じろ。征服しろ。そして己の周りの世界を掌握しろ』
麦野は全ての雑念を捨て、あらゆる感覚に集中する。
今の彼女では見えない感じられない、
『何なのか』すらわからない『何か』を認識する為に。
786 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:34:47.63 ID:T/QcCx2o
脳内に存在し、響くのはアラストルからの言葉だけ。
それをまるで、プログラムが与えられたPCのようにただ正確に。
ただ素直に完璧に麦野は沿っていく。
今麦野が探している『何か』は、他者から知識として授かることは出来ない。
が、見つける為の『ヒント』ならば、他者から貰うことも可能。
アラストル『―――そうすれば「見えてくる」。「触れられる」―――』
アラストルの言葉が、まるで魔法のように、
麦野の精神を更なる境地へと引き込んでいく。
いや、現にアラストルの言霊にはある種の力がある。
何せこのような姿でも彼はれっきとした強大な『神』の一柱。
『催眠』などという陳腐なものではない。
『神』の言葉は『お告げ』だ。
『神の領域』からの言霊は、『人の世界』を容易に変える力を持つ。
アラストル『―――――――――「 」がな―――』
そしてその瞬間。
アラストルが何と言ったのか、全てを感覚に集中していた麦野は、
記憶する処理も行うことができなかったが。
それは何の問題も無かった。
彼女は、アラストルが発したその『言葉』を今見つけ。
その領域に『突入』したのだから。
787 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:37:36.53 ID:T/QcCx2o
麦野『――――――』
そこは別世界だった。
突き進む自身も、周囲の街並みも。
何も変わってはいない。
変わってはいないのだが『別世界』。
そして同じ。
そう、同じ、だ。
『覚え』がある世界だ。
さすがに前回よりはそれなりに『劣る』も。
その前回、トリッシュと感覚共有した時と『同一の世界』に今、麦野は入り込んでいた。
早いのか遅いのか、それどころか一定なのかすらわからない時間感覚。
いや、わからなくて良いのだ。
この領域では、それぞれにとって時空は『可変』なのだから。
あらゆる法則が、それぞれの有する力の濃淡強弱や性質によって『可変』なのだから。
788 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:39:36.58 ID:T/QcCx2o
前方のアリウスとルシアの攻防も今なら見える。
依然として彼女にとってはかなり速い攻防戦だが、一応『戦い』として認識できる。
良く見ると、ルシアの攻撃はアリウスを守っている光のうねりを思いっきり削り取っていた。
麦野の第一撃があっさり弾かれたあの光のうねりをだ。
だが貫通はしていない。
アリウスはその場から動くことなく、腕をも動かしていない。
周囲の光が別の意思を持って、自立して防御も攻撃も行っているように見える。
そしてそのアリウスまで、麦野があと20mにまで迫った時。
この瞬間、彼女には「見えた」。
そして「感じた」。
まだ『予備動作にも入っていない』、麦野へのアリウスの攻撃を。
それが悪魔の感覚。
予兆・予感とは似て非なるもの。
それは『かもしれない』という予測ではない。
『100%の現実』を事前に知る事だ。
麦野は瞬時に頭を下げ、腰を落とした。
その後に。
アリウスの光のうねりの表面が力の集中によって僅かに淀み。
術式が変動し。
それらのプロセスを経てようやく術式が動き。
光の刃が出現し振るわれ。
余裕でかわした麦野の頭上を過ぎ去っていった。
アラストル『―――それだ。その感覚を維持しろ』
『音』ではなく、直接魂に飛び込んでくるアラストルの思念。
これも同じだ。
あの時の、胸にしまっていたバラからも同じように思念が伝わってきた。
麦野『―――』
789 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:42:05.05 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――身を委ねろ。だが「支配」はお前の手に』
麦野は腰を低く落とし、光の攻撃を上方にかわし。
そのまま地を這うような前傾姿勢のままアリウスに突進し。
左肩付近から伸びている青白いアームをアリウスの下腹部向けて叩き込んだ。
が、その一撃はアリウスの周囲をうねる光に防がれ、
アームの先端が潰れ砕け光の粒子となって霧散した。
アラストル『――― 「薄い」。それでは垂れ流してるのと同義。力を圧縮しろ。力を収束しろ』
直後にアラストルからのダメ出し。
アラストル『―――かといって力むな。意識もし過ぎるな。あくまで自然に、あるがままと成れ―――』
その突っ込んだ麦野の顔面目掛け、
先ほどと同じく先の尖った銀の触手の束が、真正面の虚空から出現し伸びていく。
麦野『―――』
だが麦野は、今度は完璧にそのカウンターを捉えた。
翼を動かし、横に僅かに体重移動し。
位置的にはスレスレでありながらも余裕を持って、その『槍衾』とすれ違うようにかわした。
そしてすれ違いザマに。
右手に持っていたアラストルを斜めに、滑らかに振り下ろし。
麦野『―――ふッッ!!!!!!!』
触手の束を一気に破断。
790 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:45:18.48 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――そうだ。周りの既成概念に縛られるな』
飛び散る触手の破片。
その中を、麦野は更に前に踏み込み、よりアリウスに近付く。
アラストル『―――ここから先の「律」は力のみ。「掟」は力のみ。「法」は力のみ―――』
そこで、ようやくアリウスは麦野の方へと顔を向けた。
それは麦野の接近にここで気付いたからではない。
ようやくアリウスにとって、彼女が『眼中に入った』のだ。
ルシアと同じく、『視線を向けるに値する敵』、と。
スタイル
アラストル『お前自身の「 法 」を形成しろ―――』
アリウスが見たのは。
腰を深く落としアラストルを下に構え、今にも切り上げようとしている麦野の姿だった。
そしてその巨大な刃に沿い輝き出す、紫と青白い光。
力
アラストル『―――それがお前だけの「現実」となる』
そして次の瞬間。
麦野は、その白銀の大剣を真下から切り上げた。
麦野『―――ッッァァアアッ!!!!!!!!!!!!!』
今度は完璧に。
その剣筋は滑らかで。
刃面の角度も狂い無く。
刃には集中し圧縮された力―――。
791 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:49:48.87 ID:T/QcCx2o
その光り輝く刃。
反応したアリウスの光のうねりが、今までどおり防御の動きを見せるも。
アラストルの刃は、耳障りな破砕音を響かせながらその光に深く食い込み。
ごっそりと、光を砕き剥ぎ取った。
それがルシアの刃と同じように。
麦野の刃がアリウスの力に効果を示した瞬間だった。
貫き完全に切り裂くことは叶わず、半ばいなされたが。
麦野『(―――いけるッッッ!!!!!!!!!!)』
彼女も同じ舞台にようやく上がったのは確かだ。
そしてその光のうねりの亀裂が修復されるよりも早く。
麦野は、『紫』の『粒機波形高速砲』をその亀裂に放った。
彼女の周囲の宙空から放たれた、アラストルの力が使われそして圧縮された光線。
見た目は太さは50cm程度であったが、威力は今までのどの特大のものとも比べ物にはならなかった。
が。
その光線は亀裂に当たるかどうかのところで、突如直角に真上に曲がってしまった。
特に何かの抵抗も無く、すんなりと、だ。
麦野『―――チッ!!!!』
天を貫き大空に穴を穿つ、麦野の究極の砲撃。
なぜ今の砲撃が曲がったのかはわからない。
だが、誰が曲げたのかはわかる。
もちろんアリウスだ。
光の柱が当たる直前に麦野は、光のうねりの表面を埋め尽くしている奇妙な文字列が、
今までとは違う動きをし、そして違う力の流れをしたのを見たのだ。
何らかの力が働き、彼女の砲撃は大きくひん曲げられたのだ。
793 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:54:06.20 ID:T/QcCx2o
麦野『―――』
そしてその直後。
アリウスの背後にて、巨大な何かが光の中から出現した。
『それ』の形は『目の無い、高さ3m程のカエル』、とも表現できるか。
光沢を帯びた銀色の金属らしきもので構成されており、
表面には奇妙な、紋様がびっしりと刻まれていた。
それを見た瞬間。
麦野は悪魔の感覚で再度『知る』。
あの『目の無いカエル』から凄まじい攻撃が放たれて来ることを。
今度は、先ほどの触手らのような余裕をもった回避はできなかった。
それは単純な理由だ。
トリッシュの感覚をもっていても、より優れていたバージルの続けざまの剣撃に対応できなくなるのと同じく。
今のある線を越えたこの麦野よりも、未だアリウスの方が洗練されて優れていたからだ。
麦野『―――チッ!!!!!』
とにかく距離を置く、それだけを念頭に真後ろへと思いっきり跳ねる麦野。
同じくルシアも、思いっきりアリウスから距離を置こうと跳ねていた。
その一瞬後。
目の無い巨大なカエルの口がカッパリと開き。
そこから溢れ放たれた白い光が、麦野とルシアがいた方向を含めて広域を『消失』させた。
792 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:52:38.49 ID:T/QcCx2o
麦野が初弾で溶解させた灼熱のオレンジの湖さえも消え去り。
ビルを何棟も含んだ、アリウスから扇状に広がる、奥行き500mもの領域が跡形も無く消えていた。
地面は、まるでやすりをかけたかのようにまっ平ら。
吹き飛ばされたのではなく、
鋭利な刃物で切り取っていってしまったと表現した方がしっくりくるか。
その射程から僅かに外れた、アリウスから550m程のところにある超高層ビルの屋上にて、
ギリギリのところで逃れた二人の女がいた。
屋上の縁に屈み、遠くのアリウスを見下ろしている麦野。
その隣にて立っている、魔人化状態のルシア。
アラストル『やっとあの男やルシアと同じ舞台に上がれたな』
アラストル『だが過信するな。お前はたった今、「本当に始まった」ばかりだ』
麦野『…………わかってるわよ』
794 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:56:14.34 ID:T/QcCx2o
アラストル『大悪魔と呼ばれる存在の、魔界での一番の死因、何か知ってるか?』
麦野『……何?』
アラストル『この領域に到達したての大悪魔が調子に乗って目立ってしまい、年長の大悪魔に即狩られ喰われる事だ』
アラストル『俺達からすると「カモ」なのさ。お前のような「赤子」は』
麦野『ハッ…………ご親切な忠告、ありがとうね』
アラストル『それともう一つ忠告だ。あの男、底が見えない』
アラストル『―――不気味だ』
麦野『……悪魔が「不気味」って言うの、けっこう洒落にならないわね』
麦野『……ルシア、って言ったっけ。どう思う?客観的に見てちょっと厳しいと思わない?』
アリウスに目を向けたまま、
麦野は隣のルシアに言葉を飛ばした。
ルシア『…………はい。確かに。ですが何としてでも倒さなければなりません。あと4分20秒以内に』
麦野『それ何の時間?』
ルシア『…………覇王復活までです。あの男の言葉ですが、嘘では無いでしょう』
麦野『チッ…………』
その程度の時間的余裕しかないのならば、
一旦退いて作戦を練るヒマも無い。
麦野『(やっと私もある程度戦えそうだけど…………レールガンが来てもまだ厳しいか)』
麦野『(…………さすがにそう簡単には潰せないか)』
と、その時。
795 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 01:58:54.22 ID:T/QcCx2o
麦野『―――』
麦野とルシア、二人とも突如ピタリと硬直した。
更なる別の力の存在を感じたからだ。
それもかなり巨大な、そして二人にとって妙な『違和感』がある力を。
麦野『…………何か、妙なのが近付いてきてない?』
ルシア『……わ、私の記録には該当する存在がありません……と、というかこれは……悪魔では……』
アラストル『そうだ。悪魔ではない。「天の者」だ』
麦野『―――は?』
『天の者』。
その言葉を聞き、『学園都市から来た能力者』である麦野の顔が一気に引きつった。
そんな彼女の表情の変化など気もせず、アラストルは言葉を続けた。
アラストル『お前らは初めてか?本物の天界の力を感じるのは?』
アラストル『あれは……俺の記憶が正しければ、人間界でも特に有名な十字教の天使の類だと思うが』
と、そう魔剣がマイペースに注釈をつけていた所。
遠くの空が瞬き、僅かに『青み』がかった白い光の『何か』が出現した。
それは。
広げられた巨大な『翼』、に見えるか。
二対、いや三対、とにかく複数枚の巨大な『翼』に―――。
―――
796 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 02:07:33.37 ID:T/QcCx2o
―――
アリウスは相変わらず葉巻を咥え、悠然と立っていた。
その立ち位置からは、地上に出てから一歩も動いていない。
アリウス『(………………全く張り合いが無いな)』
元々は対スパーダ一族を念頭に磨き上げたこの力。
アリウス『(…………強すぎるか。今の俺でも)』
当然、彼らにはこれでは全く到底及ばないのがわかってしまった為、
こうして覇王や残されたスパーダの片割れの力を求めているのだが、
ただそれでも、ルシアや麦野程度ではこの魔神としての力は最大稼動する必要は無い。
ほんの一部の力だけで充分。
『魔神』、という括りの中でさえ、今の彼は常軌を逸している存在であろう。
そしてこの練り上げた力が、もう直に用済みとなるのはさすがに少し寂しいものがある。
覇王が復活すれば、もう必要ないガラクタに成り下がってしまう。
生涯を捧げ練り上げ、作り上げた一世一代のこの力。
覇王復活等の今計画の諸々で使用したが、
やはり戦闘で思いっきり最大限発揮したいのは男、いや、武人としての性か。
アリウス『……』
と、そうやって退屈を呪っていたその時。
アリウスも、600m先の麦野らと同じく、新たな第三者の接近を感じ、その方向を見上げた。
797 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 02:17:34.61 ID:T/QcCx2o
アリウス『(ほぉ…………)』
アリウスは当然、その接近体の正体を即割り出した。
イギリス清教に所属していた天使と『同じ』だ。
『聖人』、その天界との繋がりを利用し強引に半転生―――か。
そしてここに向かっている個体は、
どうやら『聖母』の性質もあった『あの二重聖人』であり、
バックについている守護天使も名だたる者。
イギリスの半天使よりも『手ごたえ』があるのは確かだ。
アリウス『(―――…………十字教の一柱を砕き折るのも一興、か)』
その方角に目視でも光を捉え、アリウスは心の中でほくそ笑んだ。
アリウス『(まあ、「時間潰し」には良いな。少なくとも「今の退屈」よりはマシだn―――)』
と。
その瞬間だった。
小さく笑っている彼を巻き込むように。
彼の周囲の地面が丸ごと砕け、『真上』へと吹き飛んだ
『真下』から、強烈な何かによって突き上げられたかのように。
粉にまで砕かれた粉塵が、真っ直ぐ、
それも高さ500m以上にまで一瞬で立ち上がった。
799 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 02:50:19.04 ID:T/QcCx2o
その巻き上がる粉塵の柱に徒歩で近付いていく、一つの人影。
それは金髪の白人の男だった。
薄い水色の長袖シャツに、ベージュのベストを羽織った中々ラフな格好の。
「全く気が滅入るな。この絶望具合には……」
やれやれと息を吐き、やる気なさそうに歩き進む男。
「―――『魔神のなりそこない』が、『魔神の中でも規格外の怪物』に挑む、か……」
「我ながら無謀だな」
そんな彼に向け、立ち上がる粉塵の中から声が返ってきた。
アリウス『―――「魔神」、か。無知な連中が作った意味の無い冠だ。そうこだわるな』
アリウス『その若さで「席」を手に入れかけたのだ。お前の才そのものは素晴らしいぞ?』
アリウスの平然とした声が。
800 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 02:55:52.91 ID:T/QcCx2o
「…… はぁ…………そう言える時点でもうかけ離れてるんだよなあ」
そんなアリウスの余裕の言葉を聞き、
ぽりぽりと頭を掻き半笑いしながら深い溜め息をつく金髪の男。
が、その瞳は全く笑っていなかった。
眼光は鋭く。
「そしてやっぱり、そうはっきり言えるような男だから―――」
宿っている光は強烈な殺意。
「―――あんたは何としてでも絶対に潰さなきゃな。危険過ぎる」
「生きていてもらっちゃ、失われる命が多すぎるんでね」
その瞬間、粉塵が晴れ渡り。
中から、埃ひとつついていないアリウスが姿を現した。
葉巻を燻らせ小さな、そいれでいて傲慢さが良くにじみ出ている笑みを浮かべている『魔神』が。
「俺の事はさすがに知っているみたいだが、一応名乗らせてもらうよ
オッレルス「―――オッレルスだ。お前の死に様を見るためにここに来た」
オッレルス「今ここに来る、あの『ガブリエル』と共にな」
アリウス『歓迎しよう。俺も今ちょうど退屈していたのでな』
アリウス『―――では早速教えてくれ。俺の死に様とやらを』
―――
803 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/09(木) 03:46:23.19 ID:qIahu/Yo
しびれるぜ…806 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/10(金) 04:15:00.54 ID:pTB7bu60
オッレルスって聖人だったのか……てっきりウィリアムかと…807 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/10(金) 05:27:42.77 ID:/RIIbuEo
聖人ってのはウィリアムのことを言ってるんじゃないの?813 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/10(金) 22:27:31.72 ID:/HvOWGY0
ウィリアム=二重聖人(聖人+聖母)=神の右席後方(ガブリエル)
オッレルス=魔神なりそこない
シルビア=聖人814 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/12(日) 04:00:04.14 ID:J7Df6AAO
禁書はアニメしか知らないから助かる862 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 15:41:40.44 ID:tQm6Ee.o
―――
土御門はとあるビルの屋上に立っていた。
土御門「………………」
目を細め口を固く結び、遠くの一画を睨みながら。
その視線は、連なる高層ビル群の向こう3km程の地点。
巨大な粉塵が上がり、ビルが倒壊している区域に向けられていた。
そして更にその向こう、空の彼方に現れたに。
土御門「………………」
麦野との通話が終わったすぐ後に白井黒子の能力により、
土御門を含むその場にいたチーム全員がこのビルの屋上へここに飛ばされ。
直後、青・紫・赤・白・金の閃光が立て続けに輝き一帯が『吹き飛んだ』。
更に続けて今度は空の彼方に出現した『複数枚の白い翼』。
何がどうなったのか。
爆心地に向かい今の破壊の一因となったであろう麦野ならともかく、
具体的なことは土御門は答えられない。
だが一つだけ、この土御門にも確たる自信をもって断言できることがある。
それはあの『複数枚の白い翼』が何なのか、だ。
863 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 15:43:26.32 ID:tQm6Ee.o
土御門「………………」
半年以上前の夏のある日、
とある事件にて『アレ』を目撃したことがある。
夏のあの日、『アレ』は夜空を掌握し、
星の位置を変えて地球規模の術式を形成。
そして人界を焼き尽くそうとした。
そのあまりにも強大すぎる力の前に、土御門達は懸命に足掻き喘ぐ事となった。
土御門「(…………『ガブリエル』か)」
人間世界では特に著名な天使の一柱、『神の力』。
ガブリエルだ。
以前と同じく『人間』の体を媒体として現出しているのだろうが。
(『本体』が直接降臨するには、天の門を開き人間界と天界を接続しなければならない為、
現状では有り得ない)
力に関して全うな知覚をもたない、
普通の人間である土御門でも本能的にわかってしまう。
より天界の『本体の性質』に近付いているのだろうか、
前回とは威圧感が比べ物にならない程に強大だ、と。
865 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 15:46:02.57 ID:tQm6Ee.o
だが。
土御門「…………」
そんな存在を目にしても、土御門の反応は小さく鼻を鳴らすだけだった。
確かにガブリエルが突如現れた事は想定外だが、『それだけ』。
力の大きさそのものに関しては特に驚かない。
土御門「(…………なるほど……)」
普通に慣れているからだ。
今の彼ならば、例え十字教の神が目の前に現れたとしても、
その力の大きさに関しては全く驚かないだろう。
何せ魔帝の騒乱、そして先日の禁書目録を巡る学園都市での争いにて、
頂点という頂点の力を知ったのだ。
『神々』をも片手で捻ってしまう『馬鹿げた』領域の存在を。
最早、『この程度』で一々腰は抜かさない。
『こんなレベル』では、この土御門の意識は鈍らない。
スパーダ一族レベルの存在が現われでもしない限り、
ショックで彼の思考を鈍らせるのは不可能だろう。
866 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 15:49:58.98 ID:tQm6Ee.o
土御門「…………状況は?アリウスは生きてるか?」
土御門は数秒間思索し、即座に脳内を整理した後、
通信機向こうの滝壺へと淡々と言葉を飛ばした。
滝壺『うん。たぶん傷一つ負ってない』
土御門「麦野は?」
滝壺『生きてるよ。生体反応は問題なし。でも……なぜか「ノイズ」が急に強くなって……』
土御門「気にするな。どうせアラストルの影響だろう。他には?」
滝壺『むぎのと同じくらい信号の強い悪魔がいるけど、敵じゃないと思う。今むぎのの隣にね、一緒にいるの』
土御門「…………OK、他には?」
その悪魔の事はそれだけにし、土御門は次を促した。
身元は二の次、敵じゃないとだけわかっていれば今は良いからだ。
(そもそも敵だろうが敵じゃなかろうが、今や土御門側からどうこうできる事は無い)
滝壺『約4km北の空にある白い―――』
土御門「それは良い。把握している。他は?」
滝壺『あ、うんとね、他にもう一体、良く分からないけどアリウスに信号の形式が「似てる」のが現れたよ』
土御門「(似てる?…………人間の魔術師か?)」
滝壺『今、アリウスのすぐ近くにいるよ。位置的に見て……何か話してるのかな』
867 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /31(金) 15:53:25.44 ID:tQm6Ee.o
滝壺『あ、後、さっきそこから北北西800mの場所で、悪魔26体が一瞬で駆逐されたの』
土御門「…………」
土御門の位置から北北西800mというと、先ほどの『爆心地』にそれなりに近い所だ。
滝壺『多分、駆逐したのは一個体。信号は一瞬だけしか見えなかったけど、ものすごく強かったよ』
滝壺『信号の形式は……あの空の白い光のに良く似てる』
土御門「…………」
滝壺『あのね、これは私の考えだけど、私たちとは別の勢力が介入してきてると思う』
滝壺『私たちの味方かどうかはわからないけど、アリウス側と敵対してるのは確かみたい』
土御門「恐らくな。俺も同感だ」
視線変わらず、遠方の破壊された一画を見つめながら、
土御門は軽く目を細めた。
土御門「(…………ひゃー。参ったぜぃ。状況の全貌が全く把握できないぜよ)」
刻一刻と移り変わっていく状況。
それらに追いつかない情報の収集。
情報のピースの大半が欠落している状況では、
いくら頭を捻っても意味が無い。
こういう時はどうすればいいか。
それはもちろん、とにかく動き情報を集めることだ。
戦争は一に情報、二に情報、三に情報と言っても過言ではない。
少なくとも、本職が『魔術諜報員』の土御門にとっては情報が『全て』だ。
土御門「(とりあえず……こっちはこっちで仕事の続きをするか……)」
対アリウス戦の方は、現場にいる麦野自身が判断を下せば良い。
こちらはこちらで出来ることを、だ。
868 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 15:57:47.80 ID:tQm6Ee.o
土御門「……よし。俺は仕事の続きをする」
滝壺『了解』
土御門「結標。聞いてるな?」
結標『ええ』
土御門「わかっていると思うが、お前は絶対にこの交戦域には近付くな。何があってもだ。いいな?」
結標『わかってる』
もしも麦野と結標両方が死亡てしまったら、それは最悪の事態となる。
最高指揮権と最大戦闘能力の両方を有したトップが消失、
それは即ち、この部隊の心臓が止まるのと同義だ。
土御門「それと未知の勢力の存在が確認された。万が一に備えて警戒しておけ」
土御門「本格的に状況が荒れだしてきたしな。悪魔共の活動も活発化する恐れがある」
土御門「あと全チームには、ランドマークの掘り抜きを継続させろ」
結標『OK』
869 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:00:07.57 ID:tQm6Ee.o
通信を手早く済ませた土御門。
手馴れた動作で自身の装備を再点検しつつ、
土御門「白井以外は即刻退避しろ。後の支持は結標に仰げ」
背後にて待機していたチームに向け命令を飛ばした。
それを聞き、メンバー達は素早くビルの屋上から降りていった。
ただ一人、怪訝な表情を浮かべていた黒子だけを残して。
黒子「………………あの?」
土御門「さ~て白井。今からお前はチームを外れ俺の直属だ」
黒子「?」
土御門「俺の運び屋兼ボディガードだぜい」
黒子「……何をするんですの?」
土御門「あのアメリカ人共を追跡する」
黒子「は?」
土御門「連中がな、ちょっと『重要なモン』を持ってるらしいんだ」
―――
870 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:02:22.05 ID:tQm6Ee.o
―――
とあるビルの屋上。
そこで麦野とルシアは無言・無表情のままジッと550m先を見据えていた。
麦野『…………』
突如現れた『天の者』、そしてほぼ同時にアリウスの傍に出現した金髪の男。
『あれら』が一体何者なのか、何が目的でここに現れたのかは当然わからない。
そしてそれらの疑問の答えを、正確にこの場で把握する術なども当然無い。
だが、ある程度のことなら節々から読み取れる。
まず、金髪の男はほぼ確実にアリウスと敵対関係のようだ。
何らかの力を使って出現と同時にアリウスに攻撃を加えたからだ。
ぶちあがった粉塵がそれだ。
そしてあの天の者も。
アラストル『あの天の者は我々を見てはいない。見ているのはアリウスだ。それもかなりの戦意を篭めてな』
このアラストルの分析が正しければ、
あの天の者の狙いは麦野達能力者ではなくアリウスだ。
872 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:05:11.41 ID:tQm6Ee.o
麦野『……………………』
天界は天の門を開いて欲しい。
そしてアリウスは天の門を開ける。
それなのに、天の者がアリウスに敵意を向けているとは明らかに矛盾している。
だが、今の状況がそれを現に物語っている以上、その事を否定しようも無い。
つまりこの矛盾が意味するところは、
一連の背景には今だ麦野が知りえない重大な事情がある、という事だ。
ただ。
麦野『(―――まあ、それは今考えることじゃないわね)』
そこを考えるのは今でなくても良い。
今は今しか出来ないことがある。
こうしている間も、
覇王が復活するまでのタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。
状況も目に見えて逐一移り変わっていく。
このビルの屋上で、こうして僅かに麦野達が留まっている間にも、
あの天の者はアリウスの真上にまで移動してきていた。
873 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:07:06.15 ID:tQm6Ee.o
麦野『…………とにかくぶっ潰す』
アラストルを肩に乗せながら、
小さく独り言のように、それでいて良く響く確かな声で呟く麦野。
ルシア『はい。潰しましょう』
それに隣にいたルシアも静かに淡々と言葉を返した。
と、ちょうどその時。
御坂「―――お待たせ!!」
電磁力を使ってビル壁面を駆け上がってきたであろう御坂が、
大量の電撃を纏わりつかせながら麦野達の背後に降り立った。
御坂「…………ッ……」
彼女は着地した瞬間、魔人化しているルシアの姿を見、
わずかに驚いた色を見せたが即座に顔を切り替え。
御坂「……それでどうなってんの?」
遠くのアリウスの光を目を細めつつ見下ろしながら、
麦野へと説明を求めた。
麦野『ルシアと一緒に少し手合わせしたけど、アリウスはクソ強い』
麦野『あっちの白い光は「天の者」。アリウスの近くにも強そうな奴。二つとも少なくともアリウスと敵対してる』
麦野『タイムリミットは4分。それ超えるとアリウスに手が出せなくなる、こんなところ』
874 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12 /31(金) 16:08:31.98 ID:tQm6Ee.o
御坂「……ふーん。で、プランは?」
デカブツ
麦野『その「大砲」で援護しろ。こっちが合わせるから、私らに気にせずとにかくぶっ放せ―――』
先を促された麦野、
屋上の縁にふと歩み立ち、御坂の方へと振り返りつつ。
麦野『―――ド派手に、な』
屋上の外側へ向けて、倒れ込みながらそう口にし。
そして重力に従い、緩やかな髪を靡かせながらビルの下方へと姿を消した。
それに続けて軽く跳ね、眼下の薄闇の中へと舞い降りていくルシア。
御坂「おっけー任せて―――」
二人を見送った御坂はそう小さく呟き返しつつ、
大砲のコッキングレバーを勢い良く引き。
御坂「―――ド派手にいくのは得意だから」
腰の脇に据え構え、
その大きな砲口を眼下の赤い光へと向けた。
―――
875 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:11:51.65 ID:tQm6Ee.o
―――
オッレルス「―――オッレルスだ。お前の死に様を見るためにここに来た」
オッレルス「今ここに来る、あの『ガブリエル』と共にな」
アリウス『歓迎しよう。俺も今ちょうど退屈していたのでな』
葉巻を燻らし、余裕に満ち溢れた傲慢な微笑を浮かべたアリウス。
アリウス『―――では早速教えてくれ。俺の死に様とやらを』
そして両手を軽く広げオッレルスの方へと一歩進んだ。
待ち切れず、開戦を急かすかのように。
オッレルス「いやいやいや、俺は『死に様』は知らないよ。そしてお前の『死』も俺ではない」
だがそれに対しオッレルスは一歩下がり、
苦笑を浮かべながら肩を竦めた。
オッレルス「だから言ったろう?『見に来た』、と」
アリウス『……見物か?それならばお断り願いたいが』
オッレルス「そう言わないでくれ―――」
オッレルス「―――ちょっと『知りたい事』があってね」
アリウス『…………ほお』
876 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:15:53.67 ID:tQm6Ee.o
アリウス『まあ、何を欲してるにせよ、この期に及んでタダでやるつもりは無いがな』
オッレルス「わかってるよ。そう簡単にいかないのは。だから、せめて複数人でこういうタイミングで攻めようって腹さ」
アリウス『ふむ……』
小さく声を漏らしたアリウスはふと、自身の真上を見上げた。
その視線の先、彼の頭上300mの中には、遠くの空に出現していた『天使』が音も無く移動してきていた。
アリウス『(やはり……器はあの二重聖人か)』
『核』は長身で筋肉質・体躯の良い、壮年のやや厳しい顔つきの茶髪の白人。
右手には、その高い身長を遥かに上回る奇妙な造詣の大剣。
ローマ正教、神の右席、後方のアックア。
本名ウィリアム=オルウェル。
そして背中から伸びる、氷のような質感の『何か』で形成されている巨大な複数枚の翼、
金色に輝いている瞳、頭上に浮かび上がっている光の輪が示しているその力は。
十字教の四大天使が一柱、『神の力』、ガブリエル ―――。
877 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:19:48.33 ID:tQm6Ee.o
アリウス『……転生か。使用したのはローマ正教「聖霊十式」の一つ、「御使昇天生」だな』
オッレルス「…………」
アリウス『あれは誤植が多すぎるぞ?0から構築した方が良い程の欠陥術式だ』
アリウス『現に出来上がりが酷い。「天草式の聖人」とは完成度が程遠いではないかアレは』
オッレルス「『独立存在』もできず、既存の天使の力を借りておんぶに抱っこ、だろ。わかってる」
オッレルス「遺物を使った『再現』じゃ、かの『エノク』やあの『天草式の聖人』のように『完全な本物』に成れないのは承知してるよ」
アリウス『ふん…………だが…………』
アリウスは視線を降ろし、再びオッレルスの方へ向けては彼をジッと眺め始め。
アリウス『お前の方は中々完成度が高いな』
何かを悟ったかの如く目を細め、
口の端を少し挙げ冷笑し、静かに口を開いた。
フリズスキャルヴ
アリウス『……ベースには「北欧玉座」か……中々良い選択だ』
878 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:22:54.58 ID:tQm6Ee.o
オッレルス「……………………ッ」
それはオッレルスが起動している術式の、『根幹』の名。
アリウスはこの僅かな時間で、
オッレルスの力が『何なのか』を見破ったのだ。
アリウス『設計も確かだ。オリジナルの構文も中々上手く出来ている』
アリウス『少し無駄が見えるが、実用に充分耐えうる水準だ』
アリウス『―――それと「目」も良く出来ているな。「視界」も「認識」も良好だろう?』
アリウスはより踏み込み更に直球、
正にピンポイントでオッレルスの術式の『とある要』を指摘した。
その下にある見透かした嘲笑を隠す気も無い、
いかにもなあざとい作り笑いを浮かべて。
879 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:25:35.49 ID:tQm6Ee.o
そんなアリウスの言葉を聞き流すかのように、オッレルスはふと瞼を閉じ。
オッレルス「……………………無駄話はそろそろやめよう―――」
揚場の無い平坦な、そして冷たく鋭い声でそう呟いた後、再度ゆっくりと瞼を開けた。
その露になった彼の『瞳』。
雰囲気は明らかに一変していた。
瞳孔は底無しの井戸のようにも見え。
感情の色が見えない無機質な、そう、監視カメラのレンズと例えられるだろうか。
もし上条やステイルがこの瞳を目にしていたとしたら、こう表現しただろう。
あれはインデックスの―――。
―――自動書記が起動している状態の瞳だ、と。
そして彼の体に現れた異常はそれだけではなかった。
白目の部分は一瞬で充血し、
顔色は紅潮し額や首の血管も浮き上がり。
呼吸は早まり、加速した鼓動は早鐘の如く打つ。
見る者が見れば、それが何の症状かはすぐに判別できるだろう。
魔術による凄まじい負荷で間違いない、と。
880 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/12/31(金) 16:27:27.83 ID:tQm6Ee.o
アリウス『……慣れてないな。完全起動するのは初めてか?』
そんなオッレルスに向け、
相変わらず余裕溢れる見透かした表情で声を飛ばすアリウス。
オッレルス「…………ああ。そもそもつい先日にやっと『完成』したばかりだからね。まあそれはさておき―――」
と、その瞬間。
アリウスから見て左斜め上の彼方から。
オッレルス「―――『あの子達』もその気だし、ここからは俺達も乗じて始めさせてもらうよ」
彼を覆っていた赤い光のうねりに向け、『青白い光の矢』が超音速で激突した。
堤防に激突する波の如く、飛び散る光の雫。
普通の肉眼ならば目が潰されてしまいそうな輝きが溢れ、
衝撃波が一気に周囲の地形を剥ぎ取っていく。
飛翔してきたのはプラズマ化した『砲弾』。
レールガンによって放たれた『魔弾』。
その『意味』は、少女達による第二ラウンド開始のゴング―――。
―――
892 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 23:49:05.52 ID:pebD7d6o
―――
連なる高層ビルの間。
散乱してる超低温の悪魔、フロストの死体。
それらの『冷気』のせいであちこちに霜が降りた、
正に冬のような様相の一画。
その路上のど真ん中にて、悠然と立っている一人の女。
『素手』で15体ほどのフロストを一瞬で叩きのめした張本人。
端正な顔立ちに、金髪に押し上げたゴーグル。
質素な作業服にエプロン。
英王室付き近衛侍女に所属している聖人。
シルビア。
シルビア「……さてと、久しぶりだね―――」
一仕事終えた区切りを付くように、彼女はエプロンを軽くはたきながら、
斜め後ろに振り返りつつ。
シルビア「―――土御門」
視線の先、路上にあぐらを書いている少年の名を呼んだ。
893 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 23:51:15.70 ID:pebD7d6o
土御門「―――やあ、シルビア」
不敵な笑みを浮かべながら、彼女に声を返す土御門。
その彼の隣には、
シルビアを鋭く睨みながら立っている白井黒子。
超低温のフロストと近距離戦を行った為、全身の戦闘服表面には白く霜が付着し。
まつげの先は凍り、鼻先や耳、頬が赤くなっていた。
土御門「いんやぁ、礼を言うぜい。それにしてもひっさしぶりだにゃ~」
土御門「確か3年振りか?しばらく見ない内にますます美人になってるにゃ~」
シルビア「あのマセたくそ坊主も随分と男らしくなったもんだね。中身は相変わらず腐ってそうだが」
土御門「はは、言うねえ。お前も、中身は相変わらず変わって無いな」
表面的な軽口を数回交わした後。
空気の切り替えを示すかのように、土御門が自身を手ではたき。
そしてゆっくりと立ち上った。
土御門「……OK、ちょっと聞きたいことがある」
シルビア「何?」
土御門「人を探してる」
シルビア「誰を?」
894 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 23:55:47.82 ID:pebD7d6o
土御門「アメリカ軍の特殊部隊。見なかったか?」
シルビア「ああ、見たよ」
土御門「どこで見た?」
シルビア「さっき。私が用意した『避難所』で」
土御門「会わせてくれないか?」
シルビア「目的は何だい?」
土御門「ちょっと話がしたいだけだ。戦闘行為をするつもりはない」
シルビア「……OK、すぐだ。ついてこい」
土御門「(……トントン拍子だな。うまく行き過ぎだ……)」
嫌な予感を覚えながらも、
土御門は黒子を連れ、シルビアの後に続いていった。
895 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 23:58:27.76 ID:pebD7d6o
背後、連なるビル向こうで勃発している怪物達の激突。
その爆音と閃光、そして大地の震えを感じつつ、一行は進む。
シルビア「世間話だ」
首を少し傾け、
背後の土御門に思い出したようにシルビアは話を切り出した。
シルビア「魔術、使えないんだって?今のあんたは。それなのによくこんな所に来たな」
土御門「あ~いいや。使おうと思えば使える」
土御門「初歩的基本的なものしか使えないし、死ぬかもしれないけどな」
シルビア「それじゃあ使えないのとほぼ同じだろ。引き換えに得た能力は?」
土御門「裂けた血管に膜を張れる」
シルビア「……全然釣り合わないねそりゃあ」
土御門「いんやあ、そうでもないぜい。学園都市に入ったおかげで『色々』得る物もあった」
土御門「それに比べりゃ、『安いもん』だにゃ」
シルビア「…………ま、あんたの事なんざ別にどうだって良いけど」
シルビア「ああ、そうだ。神裂の件、聞いたぞ。結構親しかったんだろ?」
土御門「…………親しい、か。まあ、そうと言えばそうかもだな」
シルビア「残念だったね」
土御門「……」
896 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:00:30.86 ID:B0fd2KQo
土御門「それにしても、お前とこんなところで再会するなんてホント想定外だぜい」
土御門「まさかお前が動き出すとはな」
土御門「今までも、ただ単に『惚けて』帰還命令無視してたわけじゃあなさそうだな?」
シルビア「…………………………理由はある。ここにいる理由もその延長線だ」
土御門「はは、だよな。『イチャコラしたいがために、クーデター時も学園都市のあの戦いの時も、ウィンザー事件の時も帰還命令無視』」
土御門「―――ってことだったら磔程度じゃ済まされないからなあ」
シルビア「今度こそ訂正させてもらうからな!!私は別に惚けもイチャコラしてた訳でもない!!!」
シルビア「そもそも!……そもそもだ、私達からしても、まさか学園都市勢が動くとは思ってなかった」
土御門「お互い様か。じゃあそういう事で、お互いがここにいる理由、把握している状況、とにかく情報交換しようぜい?」
シルビア「……そうだな」
897 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:01:35.62 ID:B0fd2KQo
と、そうして話しながら歩き続け。
目的地であろう、とある超高層ビルの前でシルビアは立ち止まった。
シルビア「っと、ああ、そうだ。先にこれを言っておく。実は今、厄介な『お客様』がいてね」
いきなり見せて驚かれるのもウザイからな、とシルビアは続け。
シルビア「できることなら、『癪だけど』あんたの手も借りたい」
土御門「へえ。こんなところでお客さんとは珍しいにゃ」
シルビア「珍しいどころの話じゃないよ。おかげで私はてんやわんやだ」
シルビア「フォルトゥナのお姫様だよ。お姫様」
土御門「―――…………は?」
―――
898 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:03:16.35 ID:B0fd2KQo
―――
とある超高層ビルの一階にある、シックなレストラン。
いや、今の光景ではシックな、とは言えないだろう。
レストランの入り口、そしてビルそのものの入り口には、
重装備の兵士が警戒位置についており。
強引に脇に退かれバリケード状に積み上げられいる、
大量のテーブルと椅子。
天井や床、壁もところどころ割れ、破片が大量に散らばっている。
そして床に無造作に置かれた軍用ライトの光が、
室内に佇む複数の兵士達、そして負傷者達を照らし上げていた。
そんな『元レストラン』の壁際にて、キリエと佐天は床に座り込んでいた。
佐天「……」
キリエ「……」
金髪に押し上げたゴーグル、
質素な作業服にエプロンという出で立ちの、シルビアと名乗った女に案内され、
二人はここに連れてこられたのだ。
899 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:06:00.98 ID:B0fd2KQo
そのシルビアは、彼女達を壁際に座らせた後。
近辺の生存者を回収してたところだ、ツレ達が近くで派手に暴れるからね、とをし。
兵士達のリーダー格と思わしき屈強な男と
シルビア「―――いいや、民間人じゃない。白人の方はVIPだよ」
シルビア「今の状況的には、あんたの国の大統領なんかとは比べ物にならない、超重要人物だな」
「胸にかなり酷い傷を負ってるようだが?」
シルビア「私がやる。『普通の傷』じゃないからあれ。それに傷自体は見た目ほど酷いもんでもないから大丈夫」
「そうか。日系人の方は?」
シルビア「学園都市の子。民間人」
といった風に話し込み。
そして更にしばらくの後。
ちょっと待ってな、仕事が出来た、と言い、足早に屋外に出て行った。
900 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:07:31.50 ID:B0fd2KQo
そういうことでキリエは今、シルビアの帰りを待っているところだ。
『大事な話』がまだ途中なのである。
先ほど、ここに来る道中にてキリエが身分を明かしたところ。
シルビアと名乗った聖人は、
不機嫌な思案顔を浮かべてうんうん唸り始めた。
なぜシルビアがそう頭を抱え始めたのか。
キリエにとっては差ほど疑問ではなかった。
『フォルトゥナのキリエ』がこの島にいる、
という事が完全に想定外だったのだろう。
自意識過剰ではなくとも、
魔術的界隈では自分がどういう風に捉えられているのかは、キリエは重々承知している。
歴史的にも魔術的にも、そしてもちろん、人間社会での政治的にも。
知る者にとっては、キリエという人物の存在はあまりにも『重すぎる』。
十字教風に例えれば、
それこそ『生きている本物の聖母』だ。
901 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:11:51.74 ID:B0fd2KQo
彼女の扱い方によっては、天界魔術サイドと魔界魔術サイドの全面戦争を引き起こしたり、
いや、そんな事など生ぬるい、
黙示録でさえままごとに思えてしまうような災厄にも利用できてしまうだろう。
そんな彼女を、シルビアはこんな場所で『拾ってしまった』のだ。
重要な使命を背負って、
そして命を賭して向かった地にて、唐突に現れた『フォルトゥナのキリエ』。
胸には高度な術式が刻まれている杭が刺さっており、どう見ても普通ではない。
誰が見ても『訳アリ』と捉えるのは確実だ。
だが、だからといって投げ出せるものでもない。
これ程のVIPがここにいるのは、
普通に考えてそれ相応の意味があるはずなのだから。
そんな、様々な面でとてつもない『影響力』を有しているのがこのキリエだ。
もちろん、キリエ自身が決定権を持つのではなく。
『道具』的な意味で、だ。
そう、『自由意思』の無い『人形』、という事だ。
902 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:17:10.42 ID:B0fd2KQo
キリエ「…………」
キリエ個人の意思は。
こういう局面には、完全に無視される。
いつもいつも。
攫われ、助け出され。
攻撃され、守られ。
狙われ、そして救われ、だ。
何も、周りの人々に対し憤りを感じているわけではない。
ネロは彼女の本当の面も全て見てくれて、そして受け止めてくれる。
フォルトゥナの隣人も、学園都市の友人も。
皆素晴らしい人々ばかり。
だが。
有事の時は皆、『キリエ』という人間性を完全に無視し。
キリエという人物にぶら下がっている、巨大な『付加価値』だけしか見ない。
唯一、ネロだけは彼女自身の意思を正面から受け止めてくれるが、
彼が常に四六時中一緒にいるわけでもない。
むしろ、彼が留守の時を狙って『有事』は引き起こされる。
『今』のように。
そして彼女は孤立し。
『置物』となる。
903 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:19:10.41 ID:B0fd2KQo
前に出ても役に立たない時くらいはわかる。
決して自意識過剰なわけではなく、彼女はしっかり身をわきまえている。
謙遜しすぎなほどだ。
だが。
それは『彼女が全く役に立たない』、というわけではない。
彼女だって、大いに役に立つ時がある。
それが。
『今』ではないのか?
キリエの胸の奥には、フォルトゥナでも解読が困難なアリウスの術式がある。
それを『解除』する為に作られたレディの杭、つまり、『術式解読の親切な鍵』と一緒に。
きっと役に立つはず。
この『重要な情報』を求めて命を賭けてる人が、必ずいるはず。
その利用価値は絶大なはず。
キリエ「……」
904 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:20:54.72 ID:B0fd2KQo
そこでここに来る道中、キリエは包み隠さずシルビアに話した。
まず、自身の魂に刻み込まれているアリウスの術式の内容と、この胸の杭との関係、
学園都市からここに飛ばされ、そして今に至るまでの経緯を。
それを聞くシルビアの顔色がどんどん複雑な、
例えようの無い微妙なものへと変わっていった。
キリエに出会ったという事実を上回る、
更なる想定外な言葉の連続なのだから、それも当然だろうが。
そんな珍しく反応に困っている聖人と、
早口英語の連射にポカーンとしている佐天などお構い無しに、
キリエは休む暇なく言葉を続けていった。
「アリウスに直結する術式である以上、
ダンテ・フォルトゥナ組以外に完全に信用できる者はいない」
それがネロやトリッシュ、レディらの統一された意見だ。
いまや230万の学園都市人のみならず、全人類に対しての脅威の象徴であるアリウス。
キリエがスパーダの孫のフィアンセと知った『上』で、
彼女を利用し、そして使い潰し犠牲にするのを厭わない者がいて当然。
905 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:22:16.82 ID:B0fd2KQo
そしてその行為は、ネロ達でも中々責めきれない『現実的な正義』の一面であるからこそ、
余計難しい問題だ。
だからこそ、そんな人間側の正義と正義が摩擦を起こしてしまうような事態を避ける為に、
皆はとにかくキリエの術式の解除、その破壊を推し進めた。
絶大な武器になるであろう、『重要な情報』も一緒に破壊、だ。
しかしそこが、キリエが納得のいかないところであった。
世界中の皆が、等しく脅威に晒されているのに。
なんで自分だけが先に救われるのか―――と。
『これ』は解除してはいけない。
『これ』は利用するべきだ。
例え、私の命が危険に晒されてでも―――と。
そしてもう一つ。
もう一つ、このキリエの選択には大事な訳がある。
いや、最も大事な事だ。
それは。
ネロのため―――。
―――ネロを『救う』ために、やらなければいけないことがあるのだ。
ネロは『今』、迷走しているのだから―――。
906 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:23:41.49 ID:B0fd2KQo
キリエの状況説明を一通り聞いたシルビアは。
あああ!!!どうなってんだい全く!!!少し整理するから待て!!!!、と頭を抱え込み、口を噤んでしまった。
キリエとしては、この状況説明の後に本当に言いたいことが続くのだが。
そのまま、一行は黙々と大通りの歩道を進み、ここに到着。
そして上の通り、半ばシルビアは逃げるように外出していった。
そういう事でキリエは今、シルビアの帰りを待っているのだ。
話はこれからだ、と。
まだ、私自身の意思を伝えていない、と。
そんなキリエの隣にて、室内をジッと眺めていた佐天。
佐天「んぐ……ぅ……う……」
しばらくの後、彼女は口を押さえ苦悶のうめき声を漏らした。
周囲には死んでるのか生きてるのかわからない、横たわったままピクリとも動くことの無い、
血の滲んだ包帯を巻いた者達。
床には大量の血の染み。
初めて味わう、血と汗のすえた匂いが充満した劣悪な空気。
佐天にとっては強烈であった。
おぞましいほどに。
907 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:27:12.38 ID:B0fd2KQo
前に鏡の世界に入った際、
佐天は一瞬だけ悪魔に引き摺られている『下半身』を目にした事があるが、
その当時の彼女は既に精神が朦朧としていた。
外界の細かい事に一々意識を向けてれなかったのだ。
だが今は違う。
ありえない事になったのは二度目であり、そして彼女はつい先ほど、
勇気をもって『前』に歩み出した。
最早、彼女は周囲の現実から目を背けたり逃避はしない。
意識はぶれず、はっきりとしている。
だからこそ。
だからこそ彼女は今ここで、
本当の意味で『初めて』、凄惨な現実を目の当たりにしていた。
その時。
近くにいた一人の兵士が佐天の前に屈み、なにやら彼女へ向けて言葉をかけ、
男は銀色の、金属製の小さめな『水筒』を佐天に差し出した。
突然の英語で全く聞き取れなかったものの、
声色から、気遣ってくれているを把握した佐天。
遠慮することなくその水筒を即座に手に取り、
そして勢いよく中身の液体を口に流し込んだ。
実はその『水筒』、
厳密に言えばスキットルという『蒸留酒』用の容器である。
更に言えば、ちなみに兵士はこう言っていた。
「水は貴重品だから出せないが、『コレ』ならあるぜ。『飲める』か?嬢ちゃん」
908 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:31:14.35 ID:B0fd2KQo
佐天「―――んげほぁッッ!!!んががッ……?!……ァッつッッッ?!」
焼けただれてしまうような強烈な喉越し。
一気に熱を帯びる体の芯。
口内から鼻腔へと充満する、独特な浮遊感を感じさせる香り。
佐天「ぬ゛ぁ゛にごれェ゛ェ゛ェ゛???!!!んげッッふ!!!!」
良くも悪くも彼女の倦怠感を蹴散らし、
意識を叩き起こす凄まじい刺激であった。
法を外れたスキルアウトや、裏の特別な権限がある暗部関係でも無い限り、
未成年が酒を手に入れるのは非常な困難な学園都市。
そんな地に住まう、普通の普通の中学生である佐天。
その彼女の、人生初めての飲酒は。
悪魔が蔓延る地獄の底にて、
アメリカの特殊部隊員から貰ったブランデーだ。
言って聞かせても、普通ならば誰も信じないであろう、
なんとぶっ飛んだ初体験だろうか。
ちなみに、兵士達は飲酒の為に持ち歩いているわけではない。
医療キットが底を付いた為、
方々で調達した酒を消毒液代わりにしているのだ。
909 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:32:37.75 ID:B0fd2KQo
と、佐天が顔を火照らせ咽ていたところ。
キリエ「私にも」
隣のキリエが、彼女の手からスキットルをやや乱暴に取り。
即座に大きく一口、豪快に飲み込んだ。
キリエの喉をブランデーが伝う音が佐天の耳にも聞こえてくるほど。
キリエ「……ッか……けほッ……」
そして軽く咽せたが。
その目は苦悶に喘ぐ色は無く、むしろ力強い光が宿った。
今現在、彼女の胸を杭が深く貫いている。
ルシアの施した術式が効いているとはいえ、
やはり徐々に彼女の体力を削り取っていく。
今も少しずつ、意識がおぼろげになり始めていたところだった。
そこに度数の高いブランデーの一撃。
後に色々響くであろうが、
その一撃のおかげでこの瞬間の意識は完全に覚醒した。
910 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 00:36:49.84 ID:B0fd2KQo
その時、ちょうどタイミング良くシルビアがレストランに戻ってきた。
キリエ「―――シルビアさん。話の続きを」
その姿を見て、キリエはさっそく声を飛ばした。
兵士に押し付けるようにスキットルを返し、右手で口を拭いながら。
(ちなみにその兵士は、ぎゃあぎゃあ喚く佐天を見て笑っていた)
シルビア「その前に紹介したい者がいる」
と、そんな急かすキリエを制止し。
シルビアは一人の少年を招き入れた。
それは黒い戦闘服に金髪、サングラスという装いの日系人だった。
その少年は、影際にいたリーダー格の兵士に一瞥した後。
キリエの前へまっすぐ進んで来。
土御門「はじめまして。土御門だ」
軽く礼をし、流暢なイギリス英語でそう名乗った。
土御門「シルビアの『同僚』であり、今はこの島に展開している能力者部隊の指揮を執ってる」
キリエ「……はじめまして。キリエです。あなたのお名前は、以前から良く聞いております」
土御門「よろしく」
とその時。
土御門、と名乗った少年の後ろにいた少女、
その姿を見た佐天が声を挙げた。
佐天「―――げほッ…………へ?し、白井さんッッ!!!???」
そして呼ばれた少女も、驚きの色に満ちた声を。
黒子「―――…………佐……天…… さん…………????」
916 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:31:20.49 ID:n0ggPk2Ko
―――友人。
名門常盤台に通い、ジャッジメントに勤める才色兼備な優等生。
絵に描いたような、いや、それ以上に濃い「お嬢様」風な口調だが、実際は非常に面倒見の良い、
優しく正義感溢れる少女。
それが、佐天の知る白井黒子の姿。
だが今、佐天の前にいるのは ―――。
いや、『物理的な姿』は確かに白井黒子だ。
体格、顔の形、髪型も全て『同じ』だ。
しかし。
全然『違う』。
空気が違った。
瞳が違った。
表情が違った。
佐天「―――」
全くの別人と思えてしまうほど。
917 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:31:55.50 ID:n0ggPk2Ko
佐天「…………白井さん…………?」
佐天はゆっくりと立ち上がり、
黒子の方へと徐々に歩み寄りながらもう一度。
その友人の名を確かめるように呼んだ。
「何でここにいるのか?」ではなく。
「本当に白井黒子なのか?」、というニュアンスで。
それに対する黒子の反応は。
彼女は無表情、まるで西洋人形のような生気の無い顔で、
瞬きもせずに数秒間佐天を見つめた後。
今度は、佐天など視界に入っていないかのように視線を逸らし。
佐天「―――なっ―――」
数歩後退り、であった。
918 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:34:36.76 ID:n0ggPk2Ko
土御門「…………」
そんな二人を、横目で見ていた土御門は、
彼女達の『妙な空気』を敏感に読み取り。
土御門「―――白井。フロアに出てろ」
冷ややかに黒子に向け命令を飛ばした。
レストランから出て行け、と。
土御門「おい。お前も出ていけ。『邪魔』だ」
佐天「は、はいっ……すみませんっ……」
そして強い口調で佐天にも。
土御門の言葉は乱暴に聞こえるだろうが。
たかが一兵卒のメンタル問題になど、一々気を使っていられないのも当たり前。
はっきり言って知ったことではない。
だが、これは今の土御門にできる最大限の『優しさ』でもあった。
こんなに聴衆がいる所で二人の関係を。
その『すれ違い』の有様を披露させることはない、と。
彼女達側にしてみれば、俺達の方が『邪魔』だろうからな、と。
919 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:37:32.07 ID:n0ggPk2Ko
黒子はさながらロボットの如く、踵を返し足早に。
そしてその後を、佐天が駆け足で追いかけていき、二人はレストランから出て行った。
土御門は彼女達の後姿を横目で見送った後、
壁際に積み上げられているテーブルに向かい、軽く腰掛けた。
シルビア「じゃあ……」
土御門「どうぞ」
シルビア「……話はまず私からか」
シルビア「この島の外は今、悪魔と人類の全面戦争だ」
イギリス、南ヨーロッパとロシアは戦火に包まれ、
北ヨーロッパと東アジアも時間の問題、
南北両アメリカ大陸も、この島がある以上同じく終わりの時に向かっている、と、
シルビアは簡単にこの島に来る直前の世界情勢を簡潔に口にし。
いや、全面戦争と捉えてるのは人間だけで、悪魔側からすれば始まってすらいない段階だろうけど、と、
締めに独り言のようにシルビアは呟き、そのまま更に続けていく。
シルビア「……そもそも今世界中で暴れてる悪魔も、この島のクソ主の手が入ってる『まがい物』だしな」
シルビア「ただそんなものでも、人類にとっては滅亡するかの問題」
キリエ「…………」
シルビア「だから私達は止めに来た」
シルビア「私達の第一の目的は、人造悪魔兵器の制御中枢に浸入し、術式を破壊する事」
920 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:40:17.76 ID:n0ggPk2Ko
キリエ「……」
シルビア「術式の回線に浸入しようとしたんだがな、どうやっても無理だったのさ。ヒント無しじゃ、術式構文の解読は不可能」
シルビア「かと言って、『核』を壊そうにも場所がわからない。場所がわかっても、直接破壊は困難だ」
シルビア「あのアリウスですどうしようもないのに、奴のバックには神クラスの悪魔共。私達じゃ手も足も出ない」
シルビア「学園都市の子達はアリウスを殺そうとしているみたいだが、それもかなり厳しいだろう」
シルビア「確率が0って事じゃあ無いが、限りなく0に近い」
シルビア「だから残された成功率の高い方法は、『ヒント』を入手し、それで術式を解読し、そして侵入する事だ」
キリエ「―――」
シルビア「この『ヒント』入手を、私のツレが今やろうとしてる」
シルビア「直接『アリウス本人』から『盗み見』させてもらおうってね」
シルビア「これもかなりのギャンブルだけど、アリウスを殺すよりはかなり簡単だろうし」
キリエ「……………………………………それは―――!」
それは私の胸にも―――、とキリエが続けようとしたが。
921 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:42:51.94 ID:n0ggPk2Ko
シルビア「―――『それ』はダメだ」
シルビアが重ねてきた、強い声色の言葉で先を潰された。
シルビア「あんたのその胸にあるのは、私達は『使わない』」
キリエ「ですが!!」
シルビア「さっき言っただろ?アリウスから直接貰うから。だからあんたからは必要ない」
キリエ「……!!」
必要ない、ということは絶対にありえない。
この状況下では、例え1000分の1%であろうと成功確率をとにかく上げたいはず。
シルビアもさっき自分で言ったではないか。
アリウスから盗み取るのでもかなりのギャンブルだ、と。
だがキリエの胸からは、
戦闘せずに即座に手に入れることができるではないか。
922 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:49:44.13 ID:n0ggPk2Ko
と、シルビアに向かってキリエが喰いかかろうとしが。
シルビア「最も重要なのはそこじゃない。今のあんたの話を纏めると―――」
聖人はまたもや先手を打ち、彼女の言葉の頭を押さえ込み。
更に強い声色で。
そして続けた。
シルビア「―――その胸の術式を解除しないと、あんたのフィアンセはアリウスに刃を向けられないんだろ?」
シルビア「これは、私達にとっては大問題だ」
シルビア「アリウスを確実に潰せる者が手を出せないなんて、大いに困るっての」
シルビア「あんたの考えも確かに理にかなってる」
シルビア「でもな、さっきの事がある限り、選択肢はその術式の『解除』以外無いんだよ」
シルビア「言っちまえば、人造悪魔兵器の中枢破壊よりもアリウスの方が最優先だ」
シルビア「覇王が復活しちまって好き放題やられたら、イギリスだのヨーロッパだのそんなレベルの話じゃなくなるだろ」
キリエ「―――」
そう。
シルビアの言葉は正しい。
シルビアの判断も正しい。
シルビアの優先度判断も現実的だ。
だがそれは。
「キリエの胸の術式が解除されなければ、ネロはアリウスに手を出さない」、という大前提が『正しければ』の場合だ。
そしてキリエはその『大前提』を―――。
―――否定する。
923 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:52:40.40 ID:n0ggPk2Ko
シルビア「あんたの気持ちは嬉しいが。あんたにできる事は無い」
シルビアはそう、淡々と告げつつその場に屈み、
床に指で陣を刻み始めた。
シルビア「だから、手早くその胸の術式を解除させてもらう。そしてさっさと島外に退避してもらうよ」
シルビア「結構手間がかかりそうだけど、難易度自体はそう高くない。解除まで15、6分ちょっとってところだ」
シルビア「土御門。式の構築を手伝え。テレズマは私のを使う」
土御門「……………………………………………………」
キリエ「―――……るんですか?」
とその時。
キリエが小さく何かを呟いた。
シルビア「あん?」
そして次は。
キリエ「―――あなたは、ネロの何を知っているんですか?」
力強く。
レストラン内全体に響くほどの声を。
シルビア「…………」
その言葉でシルビアの手が止まった。
924 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:55:50.39 ID:n0ggPk2Ko
キリエは誰よりもネロの事を知り尽くしている。
常にネロを見てきた。
ネロという等身大の男の姿を。
最も近い場所から。
最も信頼されている位置から。
そして彼女こそが、ネロが唯一全てを曝け出す相手。
ネロ自身ですら自覚していない部分を、キリエは見続けてきた。
その事実があるからこそ、キリエは断言できる。
あのネロが、
「キリエの術式が解除されるまでは、アリウスに手を出せない」
という『不条理な状況』にいつまでも縛られてしまう『小物』でも?
違う。
彼は『大物』だ。
あの人は今や。
世界の全てを『背負える』―――。
そう、偉大なる祖父、父、叔父達と並び立つ―――。
ヒーロー
―――本物の『英雄』の力を有している。
今の彼は『不条理な選択』そのものを ―――。
―――『不条理な状況』そのものを叩き壊せる、と。
925 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:58:07.40 ID:n0ggPk2Ko
ただ。
ただ一つ、そこには問題がある。
実は、ネロ自身がその事に『気付いていない』のだ。
「キリエの術式が解除されるまでは、アリウスに手を出さない」
ネロ自身も今、こう考えてしまっている。
半ば自身に言い聞かせるようにして。
『なぜそうなるか』の重要な部分から目を離して。
なぜなら、自身の『今の思考』が纏まっていないから。
フォルトゥナの核として、そしてスパーダの孫として、
デュマーリ島の件を冷静に解決しようとしている。
クールに、淡々と、常に余裕を持って。
――― と、傍から見ればそう捉えられるだろうが。
キリエの目だけはごまかせない。
彼女だけは、ネロの本当の内面をはっきりと捉えた。
アリウスを核とした問題。
キリエが人質になるという、ネロにとってトラウマとも言える最悪の事態。
そこから派生して考えられる、下手をすると血が流れてしまう他の人間勢力との摩擦。
全世界の人造悪魔兵器と魔界・天界の同行。
そして父、バージルの事と―――。
アリウスと合間見えた際における、魔剣スパーダの反応の意味、
同時に急激に変化した自身の精神感覚。
そんな今現在の、『未知なる自分』がわからないのだ。
『今の自分』が一体何なのか、思考が纏まっていないのだ。
926 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 01:58:50.33 ID:n0ggPk2Ko
だからこそ、ここで今キリエが後押しする。
だからこそキリエは、ヒントとなるちょっとした刺激を与える。
将来の妻になる者として、ネロの背を支えるものとして。
彼を支援する。
彼が道に迷っているときは。
そっと、手を差し伸べて導く。
自らの行動で示す。
『あなたはもう、大丈夫だから―――』、と。
それが、キリエが今やらなければいけない事であり。
キリエに『しか』出来ない事―――。
927 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:00:47.78 ID:n0ggPk2Ko
キリエ「―――私は、あの人の事を知っています」
キリエは一度深呼吸した後、ゆっくりと、
確かめるような口調で口を開いた。
シルビア「…………それで?」
キリエ「悪魔の力に関してはわからないところが多くありますが、」
力強く、それでいてどことなく温もりのある美しい声で。
キリエ「あの人の性格、思考の仕方。今何をどう感じ、何を考えているのか。その全てを知っています」
キリエ「そこを踏まえて断言します」
キリエ「私の術式のせいであの人が刃を振らない、という事態は絶対に有り得ません」
キリエ「万が一私が死したとしても、その悲しみであの人が暴走することも有り得ません」
キリエ「『今』のあの人は、決してそういう事はしません」
シルビア「……なぜあんたは、そう自信を持って言い切れる?」
キリエ「あの人の妻になる者ですから。私は」
928 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:02:00.74 ID:n0ggPk2Ko
キリエはあっさりと答えた。
当たり前のようにはっきりと。
スパーダの一族と一緒になるという、その『重さ』を誰よりも理解し、
身を持って知っている言葉を。
キリエ「ですから私の解放は後にしてください。その前に―――」
そしてこれが。
キリエ「―――私を思う存分利用してください」
キリエが、『自らの意思』で作った『この状況』。
これが、今の状況を固く縛っている鎖を打ち砕く、凄まじい一撃となり。
ネロへの強烈なメッセージとなる。
ゴールの目の前で迷っているネロを救い出す―――。
―――『ちょっと強引』な最後のひと押しとなる。
これで踏み出せる最後の一歩で。
ネロは正真正銘の『完全』となる。
929 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:04:12.97 ID:n0ggPk2Ko
そのキリエの言葉を聞いたシルビアと土御門は数秒間、沈黙を返す事しかできなかった。
土御門「(…………はは、なんつー女だ)」
ぞわりと感じる寒気。
彼女のそのあまりのスケールのせいだ。
いや、普通に考えれば、
キリエという女がどういう存在なのかは予想がついたはずだ。
そもそも、『こういう女』でなければ、成り立たなかったはずではないか。
あのネロを支える女だ。
あのネロの拠り所だ。
あのネロの全てを受け止め、受け入れる女だ。
将来、あのネロの妻となる女だ。
将来、あの新たなスパーダの血族を生む女だ。
『スパーダの一族をも同じ目線で見、導こうとする凄まじい器量を有する女』。
そうでなければ、とても勤まらないではないか。
キリエは、ネロに選んでもらった幸運な女などではない。
なるべくしてなったのだ。
ネロがいたからキリエが救われた、ではない。
キリエがいたからこそ今のネロがいる、だ。
930 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:05:34.76 ID:n0ggPk2Ko
そしてそんな女だからこそ。
「キリエの術式が解除されるまでは、ネロはアリウスに手を出さない」、
「ネロはキリエの身を案じて、術式が解除されるまで大きな動きは出来ない」、
この大前提そのものを破壊できる。
他に誰がそんな視点から見ていた?
誰がそんな発想を?
キリエの話を聞く限り、まずアリウス自身ですら、
その大前提の上でそのような術式をかけたのだ。
つまりキリエのこの行動は、アリウスの範疇をも超えている事になる。
あのアリウスですら『想定外』、だ。
今の今まで、状況は土御門達にとって絶対的な劣勢であった。
『勝利』というカードは、既にアリウスの懐にある状態。
土御門達は、それを何とか盗み出そうと足掻いているのだ。
だが、このキリエの行動が、その状況を覆す究極の一手とも成りうる。
土御門達が足掻きもがき、何とかして食いつこうとしている、アリウスの強大な牙城。
その牙城の『基盤』を、キリエのこの行動一つが『全て』破壊しうるのだ。
931 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:07:48.62 ID:n0ggPk2Ko
そして『基盤』が破壊されたことにより、まさにリセットとなる。
思考し綿密に分析する必要ももはや無い。
リスクを踏まえて成否確率など計算しても意味が無い。
状況的有利不利の消失、だ。
アリウスの懐にあった『勝利』のカードは自由となり、『浮遊』状態となり。
入手が『不可能』だったのが、誰でも『可能』となる。
ただ、それまでの状況的有利不利が消失しただけであり、
それぞれ自身が有する力は変わりがない。
土御門達と比べると、やはりアリウスは圧倒的な力を誇っているのも事実。
しかし状況がマイナスからがゼロになってくれるだけで、何千何万倍も希望が芽生えるのだ。
攻撃が、『通じない』から『通じる』になる。
それだけで充分ではないか。
土御門「…………」
キリエの申し出を受けるか否か。
議論の余地は無い。
答えの選択肢はただ一つ。
932 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:08:54.01 ID:n0ggPk2Ko
小さく、呆れたように笑いながら。
土御門「……OK」
そう呟き、土御門はテーブルから降りた。
そしてシルビアに向け。
土御門「―――決まり。だな?」
その土御門の言葉に対し、シルビアはハッと短く、笑った後。
シルビア「全くね。こう見せ付けられちゃ、仕方ない」
肩を竦めつつため息混じりにそう口にした。
キリエ「……ありがとうございます」
933 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:10:07.01 ID:n0ggPk2Ko
決まったのなら、そう多くの言葉はいらない。
土御門「礼はこっちの台詞だ。それと一つ。キリエ嬢」
キリエ「はい」
淡々と、そして静かに。
土御門「俺の『全て』に賭けて誓う」
土御門「その命を捧げるようなことはしない」
土御門「諸々が済んだ後、必ず術式を解除し、傷一つ無い体で解放する」
別段、なんでもなさそうな口調で交わされた。
キリエ「……その誓い、お受けしましょう」
土御門「ありがとう」
キリエ「こちらこそ」
これは反撃の始まりか、それとも自滅への引導となるのか。
この段階では、そんな事を考えるのはもう意味が無い。
結果はなるようになる。
進路が決まったのなら、ただ進むだけ。
それだけだ。
934 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:13:20.28 ID:n0ggPk2Ko
さっさと始めようか。
そうシルビアはそっけなく呟き。
キリエを抱き上げ所定の位置に移動させては、床に術式を刻み始めた。
土御門「滝壺。結標、今の聞いてたな。悪いが、ここは俺の独断で行わせてもらう」
滝壺『うん。いいよ』
結標『何を今更。任せるわよ。術式云々じゃ私の出る幕ないし』
土御門「結標は今の任を継続してくれ。滝壺は待機してろ。少しやってもらうことがある」
滝壺『?うん、わかった』
シルビア「解析となるとこっちにも『目』が必要だ」
シルビア「そこでオッレルスとリンクを結ぶ。大変だろうが、あいつにこっちの分も―――」
土御門「待て。お前のそのツレ、『目』は何を使ってる?」
フリズスキャルヴ
シルビア「『北欧玉座』がベースだ。術式構文の8割がオリジナルだから原型止めてないが」
土御門「そうか…………リンクは必要だが、『目』の共有は必要ない」
シルビア「いや、『目』無しでどうしろって?」
土御門「1分くれ。『準備』する」
シルビア「はあ?何の?」
935 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:15:24.29 ID:n0ggPk2Ko
土御門「向こうとここ、両方で平行して解析、そして照合解読した方が早いし正確だ」
シルビアの反応などお構い無しに、土御門は上半身の装備を手際よく外し始め。
土御門「ここで得られる構文には限りがあるだろうし、向こうもまた然りだ。ストックは多い方がいい」
積み上げられているテーブルに放り投げて載せ。
土御門「それ以前に、こっちの作業も押し付けたらお前のツレは死ぬぞ」
更にベスト、戦闘服の上着、その下の軍用Tシャツも素早く脱ぎ捨てた。
土御門「アリウスと戦いながら二方向作業なんざ到底無理だ。どうせ今でさえジリ貧だろう」
そして露となった、土御門の上半身。
シルビアはその体を見て目を疑った。
シルビア「―――お前……それ…………」
首の根元からへその辺りまで。
腕は肘のところまで。
その極限まで鍛え上げられた体の表面は、黒い墨で書かれた『陰陽式』で埋め尽くされていた。
土御門「―――だからここは、『俺の目』を使う」
936 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:17:54.26 ID:n0ggPk2Ko
シルビア「……待て!なんて……!もしかしてその術式は『 召 k―――」
土御門「大げさだな。お前のツレと『似たようなもん』だろうが」
土御門「『上』の許可も取ってある。問題は無い」
シルビア「ッ……!いや……!!そもそも能力者は―――!!」
土御門「その点も大丈夫だ。しっかりと手がある。ああ、そういえばシルビア、お前知らないだろ?」
シルビア「何をだ?!」
土御門「あのアリウスは今な、『天界の門』も開こうとしてるんだぜい?」
シルビア「―――…………な、……なんだって?今何て言った?」
土御門「やっぱりな。知らなかったか」
シルビアの話を聞いていて、薄々わかった。
土御門だって、アレイスターから言われるまでは予想だにしていなかったのだ。
まあ、シルビア程の人物が知らなくてもなんの不思議も無い。
アレイスターかアリウス、
スパーダの一族やトリッシュ等じゃなければ把握できないようなレベルの話なのだから。
937 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:19:25.47 ID:n0ggPk2Ko
その一方で、キリエの顔色は全く変わっていなかった。
つまり明らかに知っており、そしてあえて言わなかった、という事だ。
土御門「(…………まだ、何かあるかもな)」
その点を考えると、他にも何か言ってないことがある可能性も考えられる。
ただ、無理に聞き出すことも無い。
おとなしそうな見かけに反して、
さっきのとおりこのキリエは相当頭がキレる女だ。
視点の位置は、土御門達よりも遥かな高みにある。
そんな彼女の事だから、言わないことにも必ず意味がある。
その理由は恐らく、今は伝える必要が無いから、だ。
そして必要な時がきたら、必要な事だけを伝えるだろう。
土御門「(…… 今は目の前の事に専念するだけか)」
キリエ「…………」
その土御門の推察は的中していた。
キリエはもう一つ。
彼女とルシアしか知らない、とても重要な情報を握っていた。
が、彼女は 『まだ』言うべき時ではない、と判断したのだ。
なぜなら。
その情報を口にすることは、あまりに危険すぎたから。
『影』がこんなに濃い場所では。
『影』が支配しているここでは―――。
938 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:20:48.89 ID:n0ggPk2Ko
土御門の言葉で未だに己の耳を疑い、
素っ頓狂な声を挙げているシルビア。
そんな彼女に土御門は、
後で話すから今は作業してくれ、と促した後。
土御門「―――滝壺。待たせたな」
滝壺『うんと、私は何をすればいいのかな?』
土御門「お前の力で能力者からAIM、完全剥奪は可能だろ?」
滝壺『え?…………そんな事したら、そのひとに何が起こるか……「大変な事」になっちゃうんじゃないかな?』
土御門「そこは『どうでもいい』。可能か不可能かだけを聞いている」
滝壺『……やったことないからはっきりとは言えないけど…………うん。できると思うよ』
土御門「OK。では頼む。今すぐ AIMを剥奪し―――」
土御門「―――俺を『完全なる無能力者』に戻してくれ」
―――
939 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:21:59.06 ID:n0ggPk2Ko
今日はここまでです。
次は12か13の夜に。
940 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:24:26.23 ID:5z5hc3lfo
乙
やっぱりつっちーが一番かっこいいな941 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 02:26:54.57 ID:+Y2JYKbDo
おつかれさま。945 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 10:33:10.54 ID:WOG+B6i7o
そういう使い方も有るのか948 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 02:07:26.98 ID:a+tSuFFAO
これは面白い
まさか滝壺の能力をそう使うとは……
みんなに見せ場があっていいな949 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 02:42:24.21 ID:6UXODSx9o
土御門になら俺のケツの処女を捧げてもいい
キリエ嬢には俺の命を捧げてもいい957 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 22:53:17.75 ID:aCNhImd5o
―――
御坂が放出する凄まじいエネルギー。
その『全て』を無駄なく『変換』する、
よく考えれば『聖遺物』並の希少物であるダンテお手製の大砲。
そして放たれる、人間界最高峰のデビルハンター、レディが作った特性魔弾。
超高層ビルの屋上、そこから伸びた光の矢は、
800m程離れていたアリウスの下に一瞬で到達し。
彼を覆う、光のうねりに激突した。
飛び散る光の飛沫。
周囲をなぎ払う衝撃波。
アリウス『(―――これがアーカムの娘の弾か―――)』
アリウスはその瞬間、
飛来してきた魔弾に刻まれた、対魔の高度な術式の検分を行った。
辺りを破壊する物理的な威力はまず論外。
副産的な余波に過ぎない。
『力の激突』も、そこまでのものではなかった。
つまり、弾頭衝突による『直接的な威力』はたいした事は無い、ということだ。
直接的な威力は、だ。
958 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 22:54:22.10 ID:aCNhImd5o
実を言うとこの手の攻撃は、
『力の激突』によって対象にダメージを負わせる類のものではない。
本命は『浸透汚染』だ。
力や魂、器を直接的に破壊するのでは無く、
それらを統率する方程式や制御系統を侵食し、動作不良を起こさせる。
例えるならば、
PCを叩き割るハンマーではなく、内部プログラムを破壊するウイルスだろうか。
この魔弾に限らず、デビルハンターが使う魔界魔術は、
基本的にこのような性質のものだ。
攻撃が命中した瞬間に術式が起動、そして浸透し相手の力を汚染。
劇毒性を帯び、
麻痺を起し、
暴走を誘発させ、
自己崩壊へと導く。
もちろん、術式の組み方によって効果を変えることも可能だ。
体の自由のみを奪う拘束系から、上のような正真正銘の殺害専用な効果まで。
このように、デビルハンターの放つ攻撃自体はあくまで『起爆剤』であり、
対象の悪魔の力『そのもの』が爆薬となる。
言い換えれば、相手の力が強ければ強いほど、
術式による破壊力も比例して増大するのだ。
これが、どうしようもないほどに力が劣等な人間達が、
悪魔に対抗する為に編み出した戦闘方法である。
悪魔に勝てる『力』が無いのなら。
悪魔を優る『叡智』によって打ち勝つ―――と。
959 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 22:55:40.65 ID:aCNhImd5o
アリウスに向け飛翔してきた魔弾の製作者、
アーカムの娘『レディ』は、その分野における最高峰の一人である。
相手の力を利用して相手を倒す、そのデビルハンターの戦法にとことん特化し、
一介の人の身でありながら、場合によっては大悪魔をも相手にできる『狂気の戦巫女』。
そんな彼女の実力に反せず、魔弾はアリウスの光のうねりに直撃した瞬間。
あっという間に浸透し、術式を汚染し破壊していく。
何枚も階層を貫通し、アリウスの顔から1mのところまで穴を穿つ。
アリウス『(―――さすがだ―――素晴らしい)』
その凄まじい威力と強烈な効果は、アリウスをも素直に唸らせる仕上がり。
術式の洗練具合は正に究極。
掠っただけで、フィアンマの『聖なる右』に障害が起こるのも納得せざるを得ない水準。
ただ。
これがアリウスにとって、脅威と成り得るかの話はまた別だ。
960 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:00:14.61 ID:aCNhImd5o
当たり前の事だが、このアリウス自身もレディと『同じ分野』に身を置く者。
そして君臨するその位置は。
レディが魔界魔術使用者の『最高峰の一人』なら。
アリウスは『たった一人の頂点』。
『唯一』の存在だ。
この壁が破られたところでどうって事はない。
この程度では、アリウスの『肉体までは』攻撃は達しない。
アリウス『(―――……)』
ガブリエルの力を帯びたアックアとオッレルス。
そして今この瞬間、着弾の閃光の中から現れた―――。
―――ルシアと麦野の攻撃を考えても、だ。
961 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:01:31.79 ID:aCNhImd5o
日本の曲刀を、左右それぞれの肩に乗せる構えを取りながら、
低姿勢で一気に突っ込んでくるルシア。
そしてアリウスを覆う光のうねりの面、御坂の魔弾によって汚染された『傷』を目掛け、
×字を刻むかの如く曲刀を振り下ろした。
上半身を完全に伏せってしまう程に、渾身の力を篭めて。
飛び散る光の残骸、更に深くなる『傷』。
そして刃を振り下ろしたルシアの後方には、アラストルを構えた麦野。
麦野『―――シッ―――』
軽く開かれている彼女の唇、そして並びの良い歯、
それらの隙間から息が小さく漏れ。
彼女の全身がしなやかに使われて、真っ直ぐに放たれるアラストルの鋭い刃。
その白銀の切っ先は、ルシアの小さな背中の真上を通過し。
御坂とルシアの攻撃が重ねられた『傷』へと―――。
麦野『―――ッァアアアアアッッ!!!!!!!』
963 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:06:13.20 ID:aCNhImd5o
この島に来て、そして先ほどのアリウスとの手合わせで、
一つとある『段階』を超え、
アラストルの力を本当の意味で掌握し使いこなし始めた麦野。
『新生』した彼女が放った突きは、正に強烈だった。
アラストルの切っ先は、耳障りな凄まじい破砕音を響かせながら
アリウスの光のうねりに深く突き刺さり。
この魔神の顔面から僅か40cmのところにまで到達するほどであった。
更に、麦野の攻撃はこれだけでは留まらなかった。
彼女はアラストルを引き抜こうとはせず、
立て続けに『粒機波形高速砲』を放つ。
よりアラストルの力が濃く混ざり、かつ力が限界まで圧縮されている『紫色』の光の砲撃。
その凄まじいビームの発射点はアラストルの『切っ先』。
つまり、アリウスの顔面から40cmの点から―――。
962 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:04:13.39 ID:aCNhImd5o
だが。
結果は先ほどと『同じ』であった。
放たれた光線は、アリウスの顔のすぐ前で屈折、
再び真上の天空を貫いただけ。
麦野『(チッ―――!!)』
そして光のうねりに開いた穴も急速に埋っていき、
めり込んでいたアラストルは一気に押し出され。
ほぼ同時に、アリウス側からの攻撃が繰り出される。
虚空から出現し二人へと一斉に伸びる、『銀色の触手』。
だが、麦野とルシアも一歩も引かなかった。
彼女達はあらかじめ口合わせでもしてたかのような動きで、即座に対応。
ルシアは低姿勢で下方、後方の麦野は上方を。
『赤毛の少女』は華麗に、
かつ無駄の無い動きで二本の曲刀を振るい、次々と触手を切り落とし。
『栗毛の女神』はアームとアラストルをぶん回し、なぎ払い引きちぎっていく。
964 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:08:23.04 ID:aCNhImd5o
凄まじい速度、おびただしい数の攻撃が飛び交う攻防撃。
麦野とルシアは、決して手数では負けていなかった。
いや、勝っていたと言っていい。
触手の攻撃を全て退けつつ、合間合間に飛来してくる御坂の魔弾に合わせ、
アリウスの光のうねりに攻撃を叩き込んでいく。
しかし。
それでも突破できなかった。
攻撃が届かない。
当のアリウスは、
光のうねりの中で葉巻を優雅に咥えているだけ。
アリウスのやっている防御は、麦野でもわかるほど最低限のものであった。
いや、アリウスにとっては防御ですらないだろう。
麦野達の繰り出す『刺激』に対し、
『反応』を示しているだけ、だ。
麦野『(眼中に無しかよ―――クソッッ!!!!!)』
進展の無さと、未だ底の見えないアリウス。
それが、彼女を焦燥させ苛立たせる。
その滾りは無意味だと理解しつつも、頭は冷静さを失いかけそうになる。
麦野『(―――あいつらは「野次馬」かよ)』
ちなみにアリウスと敵対しているとみた、あの天の者と金髪の男。
その金髪の男はいつのまにか姿を消しており。
天の者は相変わらず上空に浮遊―――。
――― していたのだが。
965 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:10:59.14 ID:aCNhImd5o
麦野『―――』
浮遊していた、と言う点では、先ほどから変わりなかったが。
その他の部分が大きく変化していた。
星一つなかった漆黒の空。
そのキャンバスは今や、光で形成されている無数の術式で埋め尽くされ。
空全体が、『魔方陣』と化していた。
そしてそんな空の中央に浮遊する『天の者』、ガブリエルの力を帯びたアックア。
彼は身の丈を超える大剣アスカロンを頭上に掲げ、
アリウスを金色に輝く瞳で見下ろしていた。
麦野『(―――)』
天を覆う奇妙な文字列や、巨大な翼などが一体何なのかは、
知識が無い麦野は全くわからない。
それでも、これだけは彼女でもわかる。
あの男の放つ雰囲気とその視線、構えで一目瞭然。
次の瞬間にでも、強烈な一撃をアリウスに放つ気だ、と。
966 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:12:22.83 ID:aCNhImd5o
――― 攻撃は真上からだ。
そう読んだ麦野は、触手らの攻撃を退けつつ、思いっきり地面を蹴り舞い上がった。
アリウスの頭上を掠めるようなコースで。
そして宙で身を翻し、光のうねりの上部にアラストルとアームの二撃を叩き込んだ。
麦野の動きを見、即座にその行動の意図を読んだルシアも続けて一気に跳ね、
同じく上部に刃を叩き込む。
弾丸のように飛び上がっては、二人はそうして光のうねりの上部を削り取っていく。
アックアの攻撃が『同じ点』に重なるように、だ。
その時、アリウスは真上を見上げていた。
ただ、麦野・ルシアとは焦点も目も合っていなかったが。
その視線は、
飛び越えつつ剣撃を叩き込んでいった彼女達へではなく。
アリウス『(―――ほお)』
アックアが空に形成した、大規模な術式へであったからだ。
アリウス『(「聖母の慈悲」、それによって「制限」を外した―――)』
アリウス『(――― 「神戮」か)』
967 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:14:34.58 ID:aCNhImd5o
『神戮』、別名「一掃」。
かつて、大天使ガブリエルがゴモラを滅ぼした際に行使した『天の怒り』。
無数の『火矢』を大地に降らせ、全てを焼き払う『天の力』。
物理的威力だけでも大陸一つ丸々打ち砕く威力。
ゴモラを滅ぼした伝説から、人間の間では一般的に
このような『面制圧を行う広域破壊術』、として認識されている。
だが、実際は少し違う。
『面制圧』はあくまで一つの使い方に過ぎない。
むしろ、面制圧のタイプは
『雑魚をあしらうだけ』にしか使えない低難度の『オプション』だ。
力を有する『強者』に対しては、
そんな『拡散』した攻撃など無きに等しい。
968 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:16:08.57 ID:aCNhImd5o
そして今。
アックアは、『面制圧ではないタイプ』を使おうとしていた。
これが元々この『神戮』、別名「一掃」と呼ばれる力の本来の使い方だ。
その本質は、『一帯を一掃』するためではない。
リク
『戮』、それは『刃』をもって『斬り倒す』事。
すなわち『神戮』とは。
―――『神の刃』を持って敵を『一刀に伏す』事―――。
『面制圧』ではなく『一極集中』。
『一掃』から『一点』へ―――。
969 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:18:03.99 ID:aCNhImd5o
億を超える『火矢』が一つになり。
力が極限まで圧縮され。
T H M I M S S P
アックア『―――聖母の慈悲は厳罰を和らげる』
アックアが掲げる大剣アスカロンに『載り』、
刃の一線上に集約。
T C T C D B P T T R O G B W I M A A T H
アックア『時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!』
次いで『聖母の慈悲』によって制限が消失し。
その大剣は、『ガブリエルの剣』へと成る。
アックアの詠唱が終わると同時に、
人界の氷に『似た何か』で形成されている、長さ100mにも達しうる巨大な翼が大きくうねり。
彼の体を爆発的に加速させる。
真下のアリウスへ向けて―――。
アックア『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!』
そして白金の光を帯び、天の火を引くその刃がアリウスの頭部へ―――。
光のうねりの上部―――。
―――直前に麦野とルシアが刻んだ『傷』へ。
打ち下ろされた。
970 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:20:58.70 ID:aCNhImd5o
――― 結果はどうなったか。
アックアの振り下ろした『神の刃』は、
アリウスを覆っていた光のうねりを『完全』に貫通した。
そして『アリウスを両断した』―――。
―――と表現できるかもしれない。
『手応え無く空を切った』、と同じニュアンスで。
簡単に言えば、
大剣アスカロンは光のうねりを叩き割った後、アリウスを『すり抜けた』。
まるで立体映像を切っただけのように。
更にその瞬間、アスカロンを包んでいた輝きも、
噴出してた火も一瞬にして『消失』。
アリウスの股下へと通り抜けた大剣は、
そのままアスファルトに鈍い音を立ててめり込む。
それが結果。
それだけであった。
971 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:22:56.08 ID:aCNhImd5o
そしてただすり抜けた『だけ』なら、
この『神の刃』は大地を難なく割るはず。
さすがにスパーダの一族ほどとはいかないものの、
この刃の威力は人間界に負荷をかけ、その器にちょっとした傷を付けてしまうほどだ。
そんな次元を超えた破壊が例え無くとも、
アックアの腕力による単純な運動エネルギーだけで大きく地面を抉り飛ばす。
だが、そんな現象など起きなかった。
アスカロンは、アスファルトに鈍い音を立ててめり込んだだけ。
どう見ても自重で沈んだだけ。
アックア『……………………』
なぜそうなったのか。
それはわからずとも、
状況証拠だけで『何がどうなったのか』は容易に想像が付くだろう。
刃に載せられていた莫大な力が、
アリウスの像に接触した途端『消失』・『霧散』したのだ。
天界の力も、そして単純な運動エネルギーの大半も。
972 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:26:17.89 ID:aCNhImd5o
アリウス『―――さて……自己紹介はまだだったな。アリウスだ』
その時アリウスは、
目の前のアックアに向けて、何事も無かったかのようにそう口にした。
相変わらず葉巻を燻らせ。
余裕たっぷりの雰囲気で。
アックア『…………』
ただ、アックアの顔にも全く変化は無かった。
動揺の色など微塵も無い。
天使化のせいで感情が平坦になっていた、という訳ではない。
いくら天使でも、本気で迫った攻撃が全く効果が無いとなれば動揺する。
それにアックアの顔に動揺の色は無くとも、
誰が見てもわかるアリウスへの憤怒と敵意は滲みあがっていた。
ではなぜ、彼には全く動揺の色が無いのか。
それは、『効果が無い』事をあらかじめ『知っていた』からだ。
そこをわきまえた上で、今の攻撃を繰り出したのだ。
アリウスが今の攻撃にどう反応するか。
その魔神の力の『動き』を、オッレルスが『見る』ために―――。
973 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:26:58.23 ID:aCNhImd5o
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は早ければ月曜に。
974 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:29:32.59 ID:hMy39tPho
乙
次が待ち遠しいわ979 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 11:44:02.85 ID:fy1Zjmzd0
追い付いた
ダンテたちから見たらLv4以下なんて一般人とそんなに変わらないんだなぁ980 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 23:30:04.28 ID:OD+6ZXiAO
アクセロリータ以外レベル5ですらパンピー扱いだったろ975 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:30:52.53 ID:cWMySzNTo
おつかれさまでした。次→
ダンテ「学園都市か」【MISSION 21】
マーヴル VS. カプコン 3 フェイト オブ トゥー ワールドブラック★ロックシューター フェノメノン (ホビージャパンMOOK 370)メタルギア ソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット PLAYSTATION 3 the Bestネトゲ廃人Fate/Zero(1) 第四次聖杯戦争秘話 (星海社文庫)
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