ダンテ「学園都市か」【MISSION 35】

2012-05-24 (木) 18:02  禁書目録SS   2コメント  
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まとめ→ダンテ「学園都市か」 まとめ





195:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 01:59:25.62 ID:YhzyF4dBo

―――

『座標移動』。

今や強化され、暫定的とはいえレベル5としての出力この能力は、
一度で最大約4000mもの距離を跳躍することができる。
その移動速度は、演算ラグを考慮しても実に秒速12kmにも達するほどだ。

ただしこの数値はあくまで瞬間最大出力のもの。

結標「―――ッはっぁ!」

とても常用できるような水準ではない。

先ほど立っていたビルから西へ4000m、灯火管制が敷かれている学園都市の上空にて、
結標は悲鳴にも似た息を吐き出した。

頭の中にガラス片を放り込まれそのまま茹で上げられるかのような、独特な能力過負荷の痛み。

それもこれまでに経験した事がないくらいに強烈で、
一瞬意識が飛びそうになってしまうかというほどだ。

しかも強化されている今は、このなんとも形容し難い『第六感』、
『力』の『認識』が更に拍車をかけてくる。

一方通行に言わせればまだ自身のは『きっかけを掴んだだけの未熟なもの』とはいえ、
AIMといった『力』の存在や動きが確かに感じ取れるのだ。

濁流となって身に流れ込んでくるAIM、それにもまれ悲鳴を挙げる―――『魂』とでもいうか、この自分自身の軋む音。
そしてそれらの何よりもずっと強烈で、遥かに眩しく巨大な存在。

結標「―――ッ」


御伽話でも比喩でもない本物の天使―――メタトロン。



196:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:01:29.73 ID:YhzyF4dBo

あの4000m先の輝きから放たれてくる圧力に晒されていては、
負荷に蝕まれる己が身を案じている余裕などとても無かった。

この身が過負荷で破裂しても構わない、とにかくあれから逃れなければ、
半ばそんな強迫観念で結標は即座に次の演算に入る。

夜空高くに放り出された佐天と初春、
目に映る情景に顔を引きつらせる彼女達に悲鳴をあげさせる暇すら与えずに、
一気に最大出力で空間を跳躍する。

更に西へ4000m。

結標「―――っふッ!!」

そうしてまた高く投げ出された冷たい夜空、そこから望むのは、
西の方には学園都市の外縁部の高い壁。

そして東の方角には、相応に小さくなっている輝きだ。
かの天使はあの位置からまだ動いていないのだろう。

だが逃れられたわけじゃない。
こちらに真っ直ぐに向けられてくる圧力は何ら変わっていないのだから。

一般人の芳川や佐天、初春でさえも、頭の理解は追いつかなくとも本能的に悟ったのだろう、
この二度目の跳躍直後にはもう、その引きつった表情は、
『乱暴な空の旅』にではなくあの光に対してのものだった。

そして結標は彼女達以上にわかっていた。

はっきりと覚える、こちらの『力』―――AIMを手繰り寄せるような『敵意』を。



197:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:03:09.02 ID:YhzyF4dBo

メタトロンは今、その圧倒的なプレッシャーで妨害しつつ、
こちらの位置と動きの全てを特定しようとしているのだ。

更に遠ざからなければならない、少なくともあの圧力に押しつぶされない程度にまでだ。

瞬間にエツァリと目配せして、結標は更に空間を飛んで行く。
こうなれば行けるところ、体力が持つところまでと立て続けに何度も何度も。

更に西へ西へ。

回数を重ねるたびに、負荷はその激しさを増していく。

頭骨の中がまるで「かまど」になってしまったかのような感覚。
煮えたぎった血で全身がはち切れるかの如く暴虐的な刺激。

結標「―――ぁぐッッ!!」

朦朧というよりも点滅か、限界のラインを意識が上下し、回復と断絶を小刻みに繰り返す。
もはや意識を失っては痛みで覚醒するといったものだ。

もし打ち止めと滝壺の支援が無ければ、
この過負荷衝撃の一発で二度と目を覚まさない『廃人』となっていただろう。

彼女達と、その向こうに更に繋がっている一方通行、
更に彼によって『味方になっている虚数学区』が、『加護』とも呼べる働きをしてくれているのだ。

ただそれに守られてはいても、この強行軍はやはり無茶なものであった。

森に覆われた峰々を越え、甲府盆地の夜景を下に望み、
そしてその街明かりの海をも遥か越えて。

聳える赤石山脈の裾野に差し掛かったところで、彼女はついに己の限界を悟った。



198:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:05:26.63 ID:YhzyF4dBo

結標「―――くはっ……」

これまで激しく点滅を繰り返した意識、
その覚醒の仕方が今度こそ朦朧としたものだった。

現実なのか夢なのかその境界線すらも曖昧。
あれだけ拷問染みていた痛みも、不気味なくらいに静かに退いていく。
五感がおかしくなり、夜なのに眩しく思えたり、高空を抜ける風の音が突然消えたり。

そしてその静寂の中、これは幻聴か。
ぱちん、ぱちん、というさながら魂の糸がはちきれていくかのような音が聞えてきていた。


結標は皆を地面に降ろした。

そこは雪に埋もれた深い森の中。
幸い天気は荒れてはいないものの、都会的服装のままではきわめて過酷な環境に変わりは無かったか。

冬の高山の冷気は身に突き刺さるほどで、撫でるたびに体温をごっそりと奪い取っていく風、
雪に膝まで埋まってしまい、一気に冷えた足先の血が全身をめぐり内からも熱をもぎ取っていく。

佐天と初春はその冷感にひっと軽く悲鳴しては飛び付き合い、
芳川は打ち止めが雪に触れぬよう抱き上げ。
屈んでいるせいで、全身が雪に沈むんでいるかというアレイスター。

エツァリ「―――結標さん!」

そんな彼の肩を取り押さえるように掴みながら、結標へ声を放つエツァリ。
そしてその先の彼女は。

アレイスターと同じようにどっぷりと雪に埋まり。
ゆらゆらと虚ろに揺れながら鼻と口、耳から零れる鮮やかな滴で、
下の雪を朱に染めていた。



199:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:06:24.03 ID:YhzyF4dBo

エツァリ「結標さん!!」

二度彼が声を張り上げたところで、
結標はやっとゆらりと顔をあげ。

結標「ごめん……つ、次で最後よ……森の中に隠れて……」

エツァリ「―――ッ」

その彼女の言わんとしている事をエツァリは即座に悟った様子だった。
彼女の身を案じつつも、駆け寄ろうとしていたその身を再び落として。

彼女へ向けて意を決するかのように小さく頷き返した。

そして直後、最後の空間跳躍によってエツァリを含め皆の姿が消失した。
そこに結標ただ一人を残して。


結標「……」

ゆらりと虚空を仰ぎ見、夜の天板に白く息を吹きかける。
デュマーリ島の件を皮切りにおかしくなってしまったこの世界、その空にはいまだ、
晴れているにもかかわらず星が一つも見えなかった。

静寂と雪に覆われた森の中でただ一人。

生きてるのか死んでるかもはっきりしない曖昧な領域で、
彼女は不思議な居心地の中にいた。



200:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:07:41.52 ID:YhzyF4dBo

この強行移動の中、これは少し前から感じていたことだ。

一度の跳躍に要する時間はコンマ数秒程度か、だが結標にとっては、
活性化した脳の労働密度からすればその数百倍にも感じる時間だった。

そんな奇妙な『加速感覚』に、
過負荷を省みない過剰な能力使用が更に拍車をかけていき。

例の『第六感』に引っ張られるように、精神の一部が次第に物理領域からも外れ始め。
そうして今度は『引き伸ばされる』のではなく、より『細分化』していく時間感覚。

時間経過の感じ方自体は変わらなぬも、
一方で1ナノ秒単位を確かに意識できるような、そんな奇妙な『世界』。

結標「……」

そして過負荷が『肉体』の臨界点を越えた瞬間、
魂の糸がはち切れていく『幻聴』と共に。

彼女は今、垣間見ていた。


既存の時間に囚われない、力の濃淡強弱で『時間の幅』が決まる―――『神の領域』の片鱗を。



201:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:10:35.54 ID:YhzyF4dBo

不思議と言うしか無かった。
まるで対岸に死の世界を覗き見ているかのようだった。

だがこれまた奇妙なことに、これを認識した瞬間を境に、
意識は消失していくどころか―――むしろ明瞭に鋭敏化していく。

虚数学区と魔塔の界域といったこの世界に重なる別次元の層をはっきりと認知し。
隣接し今や境界があいまいになりつつある魔界と天界の存在も感じ。
空間を満たす力と、生きる魂の気配を肌ではっきりと感じ取れるようになり。

4000m先に飛ばしたエツァリ達と、その彼らを飛ばした際の力の『跡』もはっきりと見えた。

結標「は……あはっ……」

そうして一つ、あることに気付いて彼女は乾いた笑いを漏らした。

こちらへと、今もピンポイントで強烈な圧力を向けてきているかの天使は、
この転送の力の痕跡を辿ってきているのだと。

逃亡者がご丁寧にしるべを残していくなんて、メタトロンからすればなんとも滑稽な様であろうか。

ただし、今更そこを嘆いても無意味であろう。
その跡が自身でも見えるようになったのはたった今のことなのだから。

結標「……」

転移物が行き先で原型を留めているかどうかは『ともかく』として、
ただ飛ばすだけならば今でも充分に可能だった。

そこで彼女は周囲の雪片を無秩序に広範囲に飛び散らし。
一体に自身のAIMを染み渡らせる形で、その痕跡を片っ端から消していった。

するとその直後。

ちょうど追ってきていたところなのか、
それとも突然痕跡がぷっつりと途絶えたからやってきたのかは定かではないも。


圧倒的な衝撃と共にメタトロンが現れた。



202:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:12:04.74 ID:YhzyF4dBo

物質ではなく魂を直接揺さぶる、耳鳴りにも似た異様な質量の轟き。

覚えるのは世界が沈み込み、大きく歪んでいく錯覚だ。
いや幻ではなくここの領域が実際に凹んでいるのだ。

結標はその『死に際に得た』奇妙な知覚で、
今しがた自身がばら撒いたAIMの層が軋むのをはっきりと見ていた。

ただしそれほどの衝撃にもかかわらず、物質領域にはほとんど影響を及ぼしてはいなかった。

結標の前方15m程に舞い降りたメタトロン。
その着地による周囲への影響は、
積もったばかりなのであろう、周りの粉っぽい新雪がぶわりと舞い上がる程度。

結標「…………」

その様は癪だがきわめて美しかった。

周囲の雪にメタトロン自身が纏う光が反射し、
なんとも壮麗で幻想的な光景だ。

更にその光と姿が、この世界の『ただの光』ではない、『生きている力』に乗せられて伝わってくるせいか、
目で見える以上に精神の中に圧が押し寄せてくる。

結標は明確に認識していた。

文字通り、自身たちとは存在している次元が異なっているのだ。
デュマーリ島で見た『神たる怪物』たちもぶっ飛んではいたが、
この『天の戦士』もそれに劣らずの存在だ、と。



203:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:13:39.67 ID:YhzyF4dBo

現にここに来るまでの行動だけで、そのかけ離れた差が浮き彫りだった。

結標の知覚が確かならば、ここに彼女たちが降りた時はまだ、
あのメタトロンは70km以上も離れている学園都市にいたはず。

だが次の瞬間、彼はこうして目の前に舞い降りてきた。

位置さえ特定してしまえば文字通り一瞬。
この存在にとっての『距離』とは意識と認識の遠近であって、
単なる物質領域における空間など障害にはならないのであろう。

ただ、そこまで存在の格がかけ離れていても。
一つ『コケ』にすることは可能だった。

メタトロンはそこから動かず、じっと結標を見つめていた。
フルフェイスの兜の眼孔から、猛烈な怒りに満ちた瞳を覗かせて。


結標「……あはっ……あはははは……わからないでしょ……」


そんな彼の様子を見て、結標は静かに笑った。
彼女が半径4000m一帯の力を滅茶苦茶にかき回したせいで、
この強大な天使は打ち止めたちの位置を特定できずにいたのだ。

この彼女の声により憤りを覚えたのか、メタトロンの雰囲気がさらに張り詰めた瞬間。
そこでまたしても結標は先手を打った。

彼女は軍用ライトを自らの喉元に当てて。


結標「……私の『頭の中』を見ようたってそうはいかないわよ」


そう警告した。
自らの身を、『暴走した能力』で『不完全』に転送する直前の状態に置いて。

自身の意志により、もしくは意識が途絶えた瞬間に、
弦のように張っているAIMによってその身が弾け飛ぶように。



204:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:14:50.54 ID:YhzyF4dBo

普通はライトを喉に当てる様など警告にはなりようもないが、
力が見える者ならば、その本質の意図を明確に捉えられるものだ。

当然メタトロンも、結標の中に形成された『爆弾』を見たのだろう。
一瞬、一気に距離を詰めてくる空気を醸したも、彼は動かなかった。


ただし。
例のこちらに差し向けてくる憤怒は更に色濃くなっていったが。

結標「―――……っ」

あの怒りだ。
身に覚えが無い、こちらに対する強烈な『憎しみ』。

しかも神域の意識によるためか、どうしても目を背けられない。

畏怖か、畏敬か。
圧倒的な存在感を直に受けてしまい、あらゆる感情が湧き立ち、
心の底が抉られ照らし出されていく感覚。


結標「―――なんなのよ……私たちが何をした…?何をしたっていうの?」


そうしてこのメタトロンの激情にあてられ、飛び火でもしてしまったのか。
彼女は打ち付けられた心情に耐え切れずに言葉を吐いた。
朱の滴とともに。

このこちらの何もかもを憎み、全てを拒絶しているかのような。


結標「……私たちは……存在しちゃいけないの?」


そう、まさに存在そのものを否定するかのようなメタトロンに向けて。


結標「―――…………生きてちゃ……いけないの?」



205:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:16:44.06 ID:YhzyF4dBo

詰め寄り懇願するように絞り出された、一人の人間の少女の言霊。
対するメタトロンはただ沈黙。

しかし何も答えなかったわけではない。
少なくともこの沈黙こそが、結標にとって答えだった。
そしてその後のメタトロンの行動も、その解釈の裏付けとなる。


沈黙の次の瞬間、メタトロンは一気に真上へと飛翔していった。


ただもちろん、それは結標を見逃したわけではない。
彼女はその手に入れたばかりの第六感で、渦を巻いて舞い上がる粉雪の上に見た。
メタトロンが持つ杖の先に、莫大な力が集束していくのを。

彼が何をしようとしているのかは一目瞭然だった。

こちらの能力使用を観察していたこともあって、
付近に打ち止めが潜んでいることは知っているのであろう。
だが位置が特定できない、ならば、と。


彼はこの一帯を『消去』するつもりなのだ。


結標「……」

自身の小細工で少しでも時間稼ぎになればと思ってはいたが、
どうやらあまり役には立たなかったらしかった。

その第六感の知覚で、彼女は大まかにメタトロンが撃とうとしている力を目算。

結果、どう足掻いても自身はもちろん、
打ち止めたちも、あの光の破壊から逃れる術が無いと理解した。



206:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:19:23.74 ID:YhzyF4dBo

あれが拡散して放たられてしまえば、少なくとも30km四方、
この南アルプスの半分の地域が消滅するであろう。

『爆発』で吹き飛ぶのではない、文字通り『消滅』だ。
原子の一粒も残さずに、
そして力や魂といった非物質領域のものも何もかもが消え去ってしまうのだ。

彼女はただ呆然と見上げているしかできなかった。

結標「……」

凄まじい憎しみで焼かれ、圧倒的な意志で存在を否定され、
学園都市の命運も打ち止めの消滅で尽きることとなる。

そして彼女の最大の戦う理由、少年院にいる仲間たちの命運もその学園都市と共に。


彼女の頭から雪に毀れる滴の中に、いつしか『透明』のものが混じっていた。

その透き通る滴は皮肉にも、頭上で一際強くなった光によって宝石たる輝きを放っていた。


そうした中、彼女は恐らく最期となる外部情報を知覚する。
頭上で猛烈な力が迸るのを。

結標「……」

だがいつまでたっても意識は断絶しなかった。
周囲の森も雪も山々もまだ残っていて。


頭上のメタトロンの光には、『青い光体』が激突していた。


―――



207:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:21:12.88 ID:YhzyF4dBo

―――

遡ること『一瞬』。
学園都市にて。

神裂は一気に飛翔していくメタトロンを見た。
理と空間を捻じ曲げて猛烈な速度で、遥か空の彼方へと消えていくのを。

神裂『―――』

それを一目見た神裂もまた、
かの天使を追って即座に大地を蹴って跳躍し後を追った。

その足に集束する規格外の力が彼女の身を運んでいく。

幸いメタトロンという存在は、見失いたくても見失うことが出来ないくらいに圧倒的だった。
目を瞑ってでも正確に追跡できるくらいだ。

それに相手は空という、周りに何も無い空間を通っているため、
移動の余波で周囲を巻き込む心配もなく全速力で向かうことが出来る。


その最初の『一歩』で、彼女の体はすでに学園都市外縁から20kmも離れていた。

神裂『―――』

夜空高くにて今一度、意識と全知覚をメタトロンへ向け集中させていく神裂。

普通の人間だったら到底如何なる情報も捉えられない距離だ。
だが神の領域の大悪魔にとっては別段難きことでもない。
対象を明確に認知しその位置さえ把握していれば、まるでその場にいるかのように情景を知ることが出来る。


瞬間、神裂の大悪魔の瞳は、かの天使とその前にいる人間の少女の姿を捉え。
大悪魔の聴覚はその場の言霊をはっきりと聞き取った。


『―――……私たちは……存在しちゃいけないの?』



208:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:22:32.92 ID:YhzyF4dBo

それは『問答』だった。
声にしているのは片側だけであったが、確かに問答だった。

神裂は、その大悪魔としての知覚と―――セフィロトの樹といった天の類を認識できる知覚を併せて、
あの場の声にはなっていない意識を『聞いた』のだ。

圧倒的な存在によって、自らたちの存在を真っ向から拒絶され、
失意と絶望と虚無感に苛まれる人間の少女の言霊。


『―――…………生きてちゃ……いけないの?』


そして彼女に対する―――メタトロンの『無言』の返答。

いや、神裂にとって正確には『無言』ではなかった。

少女には聞き取れてはいなかったであろう。
ノイズ音としてどころか、一切の音としてすらも認識していないかもしれない。

だが神裂ははっきりと聞えた。
かの天使が飛びあがる際にこう呟いたのを。



『許せ』、と。



それを認識した瞬間、
神裂は自らの頭の中で何かが切れる音を聞いた。



209:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:24:21.56 ID:YhzyF4dBo

その一言に、メタトロンの心情の全てが乗っていたように受け取れた。

人間界の古の神々に対する並々ならぬ憎しみと怒りと―――『恐怖』。
そして人間達への保護者ではなく血の繋がった家族としての愛情と―――『使命感』。

神裂『―――』

敵に感情移入してしまうのはきわめて危険なことである。
特にこのような殺るか殺られるかといった状況では尚更だ。

揺ぎ無い信念と完璧な覚悟を有する者達は、
このような状況に立っている時点でやることは一つ、『戦う』しかない。

和解なんて到底無理な話、それができなかったからこそこの状況なのだから。


スパーダの一族や上条当麻ですらも、どうしても避けられない戦いがあり、最終的には刃と拳を振るうのだ。


彼らほどではない者にとっては、戦いが終ったあとに偲ぶことはあっても、
戦いが決する前に相手の心情を考える行為なんて無駄でしかないのである。

だがそれでも、と。
無意味なことだとわかっていても。
どうしても素直でお人好しで優しすぎる神裂火織は、
恐ろしい敵であろうとも、その内に少しでも善性を見つけてしまうと、心を震わせずにはいられない。

特に上条と出会い天使となりバージルの使い魔となった今では。
ステイルの蘇生と自らの傀儡化を主に突き付け懇願したときの様に、魂の慟哭が抑えきれない。

メタトロンが敵として戦っている理由は大方予想が付く。
もはや『知っている』としてもいいくらいに確かにだ。

だがそれでも神裂は、この憤りと共に問わずにいられなかった。


何が『許せ』だ、と。

どうしてだ、。

なぜだ、と。

お前は何のために―――誰がために刃を振るうのだ、と。


より力が篭った足で『空を蹴り』もう一歩。
更に速く、神裂はかの天使へとむけ空間を引き裂いていき。

その今にも一帯を消し飛ばそうとしていたメタトロンへ、飛び蹴りを叩き込んだ。



210:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:26:05.33 ID:YhzyF4dBo

白銀と青の光が衝突し、もつれ合い、
彗星のごとき光筋となって数キロ先の山肌へと激突していく。

閃光が迸り、木々をなぎ倒しては、雪はもちろんその下の土砂をも吹き飛ばし、
周囲に飛び散っていくビルほどもある大量の『山の欠片』。

その強烈な輝きは遠く学園都市からも望めたであろうか。
衝撃と輝きを見て、この大戦でついに核兵器でも使用されたのかと思う者もいたことであろうか。

だが実際はそれよりも遥かに危険で、圧倒的で、大規模なものだった。
この輝きに集束している力の前には既存の核兵器などちっぽけな火花にしか過ぎず。

そしてその光もまた、それら『持ち主』達のほんの片鱗が漏れ出しているにしか過ぎないのだから。


山肌が穿たれ、新たな谷間が誕生しつつある中。

その大破壊の中心点に着地していた神裂は、
吹き飛びあがりかけていた大量の土砂の向こうに見た。

同じように姿勢低く着地していたメタトロンが、
構わずに杖の先から一帯を抹消すべく一撃を放とうとしていたのを。

神裂『―――ッ』

―――させるか、と。

刹那、神裂は神速で抜刀。
次元斬によってメタトロンの砲撃を撃ち掃った。

杖から放たれた光は即、更に凄まじい一閃の前に霧散。
跡形も無く消え去った。



211:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:27:41.30 ID:YhzyF4dBo

それを見、槍のごとき視線をむけてくるメタトロン。
兜の眼光から覗く瞳には、やはり『人』の苦痛と憤怒が複雑に入り混じってはいたも。

それよりも何よりも色濃かったのは、戦士としての厳然たる闘気。


揺らぐことの無い芯が貫いている戦意と―――殺意。


それを見て、神裂は今一度当たり前のことを認識する。
やはり無意味で無駄なのだ、と。
このメタトロンがどんな信念をもっていようがもう関係ない。
ここで何を問い何を理解しようが、やる事は何も変わりはしないのだと。


神裂『―――なぜだッ??!!』

わかっていながらも刹那に声を放つ神裂。
そしてこれも同じくわかっていた、メタトロンはその問いには一切反応を示さず。

その殺意のみなぎった杖の穂先を彼女へ向けた。

宣戦布告であり死の宣告であり挑発のようなもの。
少なくとも神裂はそう受け取り、そして応じる。

抜き掃った七天七刀を腰に寄せて脇構し。


神裂『―――おおおおおぉぉぉぉぉッ!!!』


メタトロンのものに負けぬ熱を吐きながら、
彼女は一気に突進した。



212:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:30:30.15 ID:YhzyF4dBo

舞い上がりかけていた近場の土砂や瓦礫は、結局どこかに『落ちる』ことは無かった。
この瞬間に漏れた力の衝撃波で『消滅』したのだ。

―――そこは神域の力の激突点。

メタトロンの杖と神裂の七天七刀が、物理領域を超えた圧力の空間を形成。
白銀と青の光が凄まじい摩擦を起こしながら、余波が周囲を滅茶苦茶に破壊していく。


そして両者は『まとも』に互いの一撃を受け止めた。


避けられるものでもなければ避ける気も無かったか、
両者とも滾りに駆られ、真っ向から刃を押し付けあったのである。

神裂『―――ッッ』

凄まじい衝撃を受け軋む腕。
柄を握る掌から、手首が劈き、肘と肩を抜けて全身に強烈な波が圧し掛かっていく。
だがそれは相手のメタトロンも同じだった。
彼女は自身の身が軋むのと同時に、刃からメタトロンの身も軋むのを感じた。


そう、その天の質量が載せられた杖も、バージルの力を継ぐ七天七刀も、
互いにまともに受けてはいけない一撃。


触れずに回避するのがまず前提、最悪でも打ち流す程度。
押し止め、ましてや鍔迫り合いに持ち込むなんてもっての外。

互いに受けていては身が持たない、防いだはずなのに『重さ』のあるダメージを蓄積してしまうのだ。

それは互いに、魔塔の門前の広場で認識した事であった。
だがメタトロンはそうとわかっていながらも、あえて神裂の攻撃を真っ向から受け止めた。
ここに神裂は今のメタトロンの意思を悟る。


この天使は己が身の損傷を省みずに、ここで早急に勝負を決するつもりなのだと。


全てはできるだけ早く、そして確実に―――――あの幼い人間の少女を殺すために。



213:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:33:10.18 ID:YhzyF4dBo

神裂『―――ッ』

ぶつり、とまた。
『静』という感情の糸が弾け切れ、『怒』の炎が激しさを増す。

そこまで許せないのか。
そこまでして殺したいのか。
そこまでして学園都市を―――あの街の子供達の存在を否定するのか。

歯をかみ締め、刃越しに魔の光が燃える瞳で睨み返して、
彼女はこうその目で問うた。
もちろん答えが返ってくるわけでもなく。
そして当然、答えはもう知っていたが、それでも―――



緊張が現界に到達し―――互いに刃を弾き合い。

そこから至近距離の真っ向からの打ち合いへと転じる。
のらりくらりと回避しあうのではなく、真っ向からの力のぶつけ合い。

勝負に要する時間は長くないであろう。

彼らにとってもほんの一間、普通の人間にしてみれば『一瞬』ですらない。


棒術に似た動きで杖を捻りまわし、横から振り抜いてくるメタトロン。
その一撃を彼女は真っ向から刃で受け止め、弾き、

そして手首を切り返して上段から振り下ろす。
その刃に滾る激情と、殺意と、戦意と―――『無意味』な問いの言霊を乗せて。

問いの答えはすでに知っていた。
メタトロンの戦う理由はたった一つ。


―――現在の人類を守るためだ。


半天使となった身の神裂だからこそはっきりとわかる。

彼らは本当に人間達を愛しているのだと。
むしろこのメタトロンは、元人間ということもあって『愛しすぎている』ほど。

間違いなく彼は人間界を『守るため』に、セフィロトの樹の責任者の座を受けたのだ。
かつて魔女狩りの際、四元徳が欧州全域を一度『洗浄』しようとしたのを説得して抑えたのも、
その第一の声はヤハウェだろうが、直接働いたのはセフィロトの樹の責任者であるこのメタトロンであるはず。

きっと数千年にわたり、あの手この手で巧みに人間達の世界を保持しようとしてきたのだろう。
おぞましい魔界から、そして暴虐なる人間界の古の神々たちから。

そう、彼がこうして戦う理由は、このように至極当然かつ単純明快なものなのだ。

そして単純明快だからこ。
いまさら刃を止められるような迂回路も抜け穴も存在していない―――



214:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:36:29.55 ID:YhzyF4dBo

人間界はもう保護も管理も必要ない、人間界の力場の問題もバージルが対処するため、
天界と完全に切り離されても問題は無い―――と。

メタトロンが未だ知りえていないこれら事情を、今ここで言ってももう『無意味』だ。
これらの言葉が大きな力を有していた時はもう遥かに過ぎた。
戦いが始まっている今では何もかもが遅いのだ。

神裂がその力の祖たるバージル、そしてスパーダの名を盾にしたところでも意味は無い。


バージルの使い魔だと把握した上でこうして戦っている時点で、
メタトロンの覚悟と信念は明確にされているのだから。


例えバージルやダンテが直接立ち塞がったとしても、彼は決して刃を止めやしないだろう。


いや―――そもそも彼自身にはもう『止められない』。


彼のこの行動はある種の誓約の上に成されたもの。


神域の存在による魂の声に従った戦いは、一旦始まると途上で止めることは不可能。

スパーダに復讐を挑む悪魔達の戦いが、
力によって叩き潰されるまで永遠に終ることが無いのと同じく。

また神裂にとってのバージルとの繋がりと同じように―――『絶対的』なものなのだから。



216:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:39:52.06 ID:YhzyF4dBo

『それ』こそ、この神裂の激情の最大の火種であり、
そして彼女もまた彼女自身の『誓約』によって憤怒を更に滾らせるのだ。

メタトロンそのものは善人で崇高な戦士。
彼が抱く望みには、人への無上の愛と高潔な使命感が溢れている。

だが神裂の側とは状況の解釈が異なり。
そして知りえる情報も成せることも力も限られていて。

結果、彼女の立場からすれば『障害』であり『敵』―――守るべき人間を手にかけようとする紛れも無い『悪』だ。


神裂『―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


わかっている。
このような戦いも初めてではなく、何をすべきなのかもわかっている。


昔から性格上、無意味だとわかっていても、
一旦気付いてしまうとどうしても感情移入してしまうことがあっても。

そこまで心を震わせておきながらも、刃に載せられた殺意と戦意が淀むことはない。

神裂もまたメタトロンと同じだった。
戦士としての生き様、魂、そして今はバージルの戦いに身を捧げる誓いも上乗せされているため、
刃を自ら止める事も出来なければ、そもそも止める気すら欠片もない。

唯一のその刃が止まるのは、他者に捻じ伏せられ敗れた時だけである。



217:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:41:45.77 ID:YhzyF4dBo

刃に乗せられた彼女の問いは、
やはり戦いの趨勢には一切影響を及ぼしえない無意味なものだった。

わかりきっている事を再確認し、無駄にその『人の心』を振るわせるだけ。
しかもその感情も、『戦士の神裂』の刃には良くも悪くも一切影響を及ぼすことが無い。

ただそれでも彼女は、メタトロンを『心で捉える』ことも止めなかった。
これもまた、神裂火織が神裂火織であるがゆえに。


神裂『―――つぁ゛ッ!!』

メタトロンの強烈な一撃を押し弾き。
今や柄握る手から血が滴っていながらも、神裂は全力で刃を振り下ろす。
それを真っ向から受け止めるメタトロン。

彼の手も赤く染まっており、衝撃が迸るたびに、装具の隙間から滴がこぼれ散っていく。

一撃も身に受けてはいないにもかかわらず、
いまや二人ともその姿を真っ赤に染め上げていた。

退きもしなければ、踏み込む必要も無い間合いを維持しての、
真っ向から向き合って刃の応酬。

一撃打ち合うたびに、互いの肉と体が軋み歪むのを覚え。
一撃打ち合うたびに、魂が悲鳴をあげひび割れていく。

それでも両者は手を緩めなかった。
相手を叩き伏せるべく、己が身を蝕むほどの力を刃に注ぎ振るっていく。



218:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:43:23.38 ID:YhzyF4dBo

周囲の地形は大きく変貌していた。

青い斬撃による数多の溝が、谷をこえその向こうの山肌にまで走り。
白銀の光による衝撃波が、まるで『皮』を剥いでいく様に木々や雪、
土砂を吹き飛ばして峰々を丸裸にし。

一番近くにあった頂は大きく削り取られ、地図上から姿を消してしまっていた。

そしてその破壊の元凶の二柱、彼らの手数はいまやに三桁の半ばに届くあたりか。


神裂『―――ッ』


刹那に同じタイミングで振りぬかれた一手が、再び重なって膠着した。

刃の激突点から発した一際強い光の爆風で、周囲領域が一気に晴れ渡っていく。

砕けた光の欠片も、塵も渦を巻いていた『力のかす』も、
それによって変動していた法則や界の歪みも何もかもが消失する。

そして訪れる静寂の中で響いたのは、
腕が痙攣しているせいで奏でられる小刻みな刃の音と。


―――両者の荒い呼吸音だった。



219:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:45:20.22 ID:YhzyF4dBo

互いの刃越しに、二柱は再びその瞳を向け合った。

神裂『―――ふっっ!』

交差する杖と七天七刀の向こうから覗き込んでくる、古代地中海風の兜。
その下からは肩の上下にあわせて荒い息が漏れ、
眼孔の奥には血走った瞳が光っていた。

神裂は無言のまま、その瞳を真っ直ぐに見据えた。

瞬き一つせず、一切逸らすことも無く。
心をどうしようもないくらいに揺らしながらも、
それとは完全に切り離されている明確な戦意も突きつけて。

メタトロンはその心情を理解しているはずだった。
何をどう思っているのか、神裂は隠すことも無く刃に言霊を載せたのだから。

それを理解した上で彼もまた無言に徹して、絶対に揺らがない戦意を滾らせる。
数秒間、両者にとっては数時間にも思えるような間、そんな膠着が続いた。

凄まじい膂力で押し付け合う刃の、
がちがちと小刻みにぶつかる音と呼吸音のみが響く。

神裂『―――』

そんな圧と負荷による魂の悲鳴を聞く中、彼女は悟っていた。

もう更なる衝撃には耐えられないと。
柄を握る手の感覚も、もうほとんど消えて久しい。
いまや力で結びつけて固めている状態。

―――つまり次の一手が最後、それで勝負が決するのだ、と。



220:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:46:29.13 ID:YhzyF4dBo

メタトロンも同じ結論に至ったのか。
その瞳がぎらりと鼓動し。

それが合図となった。

直後、互いに弾きあがる七天七刀と杖。
解き放たれた極限の緊張が、光の欠片となって周囲に飛び散っていく。

神裂『―――』

上へと跳ねた七天七刀を引き戻している暇はない。
彼女は一気に力を篭めて、弾きあがった上段からそのまま―――振り下ろす。

だが遅かった。
次元斬が直接乗る刃がメタトロンの肩に沈むかという直前。


彼女の胸を白銀の杖が貫通した。


メタトロンは杖が弾きあがった瞬間、
そのままくるりと回して―――逆の先端を突き出してきていたのだ。


僅かな差で放たれた杖、先端の光刃が神裂の胸の中央に沈み―――その魂を貫いた。



221:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:49:09.78 ID:YhzyF4dBo

神裂『――――――』

直後にメタトロンの肩に沈んだ七天七刀。
本来ならば上半身を切り落とし、その魂をも分断していたであろう一振りだが。

その圧倒的な威力を示すことは叶わなかった。

メタトロンの肩、鎖骨を切り裂いて15cmほどまでめり込んだものの、そこで止まる刃。

魂にも到達し、致命傷としてもおかしくないほどに切り裂いたも、
行動不能に追い込むまでには至らぬ一撃に終った。


神裂『――――――がっ―――ぁっ―――』


ごぼりと食道を込み上げてくる熱流を覚える中、彼女は自らが敗れたことを認識した。


全身の触覚はもとより、力の感覚がすうっと消えていく。
圧倒的な衝撃による痺れが嘘のように消え去り、腕の痙攣ももう止まっていた。

口から溢れる体液。
それとは逆に、その顔に噴きかかってくるのは、向かい合うメタトロンからの熱い飛沫。

彼の右の鎖骨の端あたりからから胸部まで、
七天七刀が切り裂いた胴鎧の割れ目から、鮮血が大量に溢れでていたのだ。

また朱の滴がそこに食い込む刃を伝い、柄を握る神裂の腕にまで滴り、
彼女の血と混ざって二人の間に落ちていった。



222:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:51:22.76 ID:YhzyF4dBo

メタトロンはその神裂の刃を、掌が切り裂かれるのも構わずにぐっと握り。
一度大きく息を吸ったのち、自らの杖と同時に引き抜いた。

『支え』を失い、その場に膝と手を付き倒れこむ神裂。

そんな彼女など一瞥もせずに、メタトロンはすぐに踵を返して、
消耗のせいで酷くぎこちないながらも、ゆっくりとこの場から立ち去っていった。


神裂『うぅ゛…………あぁ゛ぁ゛ぁ゛っ……!』

その背に向けて、彼女は叫んだ。
心の内に渦巻くあらゆる感情が素のままで宿った、血に塗れた無様なうめき声を。

神裂『―――………………な……ぜ……!』

そしてまたしても無意味に問うた。
彼に向けてのみならず、この戦いそのものにも問うた。
その意味も理由もわかっているのに。

事実をどうしても受け止めきれない、わがままな子供のように。


当然、そのペースはゆっくりとしながらもメタトロンの足は止まらなかった。

自らも歩くのがやっとなくらいに消耗している以上、
これ以上不用意に近づこうとはしないのは、戦士としては当たり前の判断。

メタトロンにとって彼女は、打ち止めの抹殺という目的の前に立ちはだかった『障害』。
この状況下においてそれ以上でも以下でも以外でもない。
完全に戦闘不能となったことで、彼女を意識外から弾くのは当然のこと。

もうここまでくれば、彼女の生死など一切関係ない。
それは神裂も自覚していた。

己は完全に舞台から脱落し、
何を叫ぼうが何をしようがこの状況に波を立たせることはもう不可能なのだと。


神裂『―――あぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――!!』


だが頭でそう理解していても、時に抑えられないのが人間の心というもの。
彼女は呻き叫び続けた。
破壊の谷間から出で、そのまま姿を消していくメタトロンの背に向けて。

敗北したという自責の念と憤怒と、メタトロンを『含む』全ての『人間』への悲嘆を篭めて。



223:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:52:11.72 ID:YhzyF4dBo

神域の力の嵐が過ぎ去ったことで、周囲空間が元の物理領域に戻りつつあった。

高空を抜ける風の音が聞え始め、この破壊の谷間の中を、さあっと細かな塵が抜けていき。
そして静かに雪が舞い降り始めてきた。

この調子なら、きっと『いつか訪れる朝』までには、
山脈一帯に刻まれた神域の爪痕も、白く覆い尽くされてしまっている事だろう。


神裂「…………」

いつしか声を発することもやめていた神裂は、ひゅーっと息を漏らしながら前のめりに蹲っていた。

バージルが繋がっているため、死にはしないであろう。
ステイルのようにこのまま『冬眠』に入り、魂をゆっくり癒すのだ。


ただし、バージルが見限らなければの話しだが。


無意味に稚拙に心を揺らし。
その影響は無かったとはいえ結果的に敗北した己を。

果たしてここまで無様な敗者に、バージルはどのような処遇を与えるのか。
いまだ繋がりの向こうから、それを告げる明確な声は聞えなかった。


いつも通り―――冷たい沈黙のまま。



225:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:55:36.81 ID:YhzyF4dBo

神裂「……」

どれだけの時間が経過したか。
大きな轟音が響いたのでその面をぎこちなく上げてみると。

『うろこ状の毛皮』を有した、4mほどの大きな『狼』の姿をした―――大悪魔が立っていた。

もしかしてテメンニグルの塔の隔絶が破られ、
学園都市どころか人間界全域に魔界がなだれ込んだのか。

虚ろな意識の中で彼女はそう考えたが、それは誤りだった。

目の前の大悪魔はまず『学園都市の敵』ではないは確かか。
その魔狼の背に能力者の少女達が乗っていたのを、神裂は虚ろながらも捉えた。

まず目に入ったのは一番先頭で酷く衰弱してうなだれている、
ここまで逃れてきた瞬間移動能力者の少女。

その彼女を後ろから抱き支えていたのは、同じく能力者でレベル5の御坂美琴。
そして彼女の後ろにも、能力者と思しきツインテールの小柄な少女。

その三人目の少女もまた瞬間移動能力者だった。
パッと姿を消すと同時に、次は神裂のすぐ脇に姿を現したのだ。


「しっかり!!」

少女はそう呼びかけながら、神裂の体をゆっくりと起こして。
その傷を見て一瞬言葉を無くしていた。

ただ、その程度で動揺するには至らぬ経験があるのだろう。

胸に思いっきり大穴空いてても生きている時点で、
そんな体には一般的な応急処置など意味がない、と判断したのか、
すぐに顔をあげて。

まず神裂の硬直した手から七天七刀を『剥ぎ取り』、
その長さに少し苦労しながらも鞘に差込むと、次に彼女の肩に手を当てて。

「飛びますの!」

次の瞬間、神裂は魔狼の背の上にいた。
前には御坂、後方にはあのツインテールの少女がこちらの腰にしっかり手をまわして座していた。



226:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:57:28.80 ID:YhzyF4dBo

御坂「神裂さん?!」

ぐん、と一気に跳躍する魔狼。
横顔向けてそう声をかけてきた御坂に対して、
神裂は途切れ途切れながらも声を絞り出して、打ち止めの危険を報せようとしたが。

神裂「……メ……タトロン……が……―――」



「大丈夫!ネロさんが向かいましたの!」



神裂「―――…………」

後ろからのそんな返答で、
もはや神裂は何も言えなくなってしまった。


確定的な『結末』が見えたのだ。


これは『幸い』と言えるであろう。
ここでの自身の敗北は何とかカバーされたのだ。
学園都市を守る者達にとっては、ほっと胸を撫で下ろす結果だ。


ただ神裂にとってはそれと『同時』に――――――心が酷く痛んだ。


前の御坂も、後ろのツインテールの少女も、
神裂が肩を震わせている本当の意味はわからなかったはずであろう。


魔狼はそんな神裂をのせて、ネロのもとへと向かっていった。



227:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 03:00:40.97 ID:YhzyF4dBo

魔狼が目的地に到達し、一向は打ち止め達が問題なく生きているのを見た。
森が途切れた、少し開けた雪の野に彼女達はいた。


打ち止めを抱いている芳川の左右に、
二人に覆いかぶさるようにしている抱き花飾りをつけている少女と黒髪の少女。

その前にアステカの魔術師が息荒く立ちはだかっていた。
彼は一戦交えたのか、肩から血を滴らせていたものの命には別状無い様子だ。

そしてその彼の前に。

いかなる力も衝撃も通さぬ極なる防壁―――赤い大剣が聳えていた。

                                        レッドクイーン
フォルトゥナの紋章が刻まれた『魔剣』―――『赤の女王』が。


神裂「…………」

その魔剣の主は、これを背にして一番前に立っていた。
冬の山風に、紺色のコートとこめかみの一部だけが『赤く』なった髪を揺らし。

圧倒的な余裕に満ち溢れながらも、
一切の隙も油断も無い瞳を―――前方15m程に立っているメタトロンに注いでいた。


その立ち姿は、消耗したメタトロンが対比となったこともあってまさに圧倒的だった。
一見すると涼しげな面持ちなのに、その身から迸らせている圧は焼き焦がされるかのようなもの。
戦意抱いてその間合いを抜けられる存在なんてどこにもいないであろう。

その姿を一目見て神裂は思った。
あの風格は―――バージルそっくり、彼やダンテと並べても遜色無い、と。
そしてもう一つ、逆に父や叔父とは大きく変わっていた点。


今のネロは魂からその血肉まで―――全てが『本物の人間』だった。


『最強の人間』が立っていたのだ。


愛する人類達が生き延びるには、
天界の管理と保護が必要だと信じて―――それが己の使命だとして―――

―――ここまで突き進んできた天の気高き戦士の前に。


彼はもとより、天界にも魔界にももはやまともに戦える存在がいない―――『超越した人間』が。



228:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 03:03:28.65 ID:YhzyF4dBo

メタトロンもこの時、確実にわかっていたはずだ。

スパーダの血筋の力を捻じ伏せて、
そっくり『人間のもの』にしてしまったネロ、今の彼の存在が示す事柄を。


スパーダの孫であり人類を愛する『最強の人間』が、学園都市側についているということの意味を。


戦いの結末は決まった。
結局、どちらが『正しかった』のかもここで決定付けられたのだ。

神裂「…………」

だがその『戦い』自体はまだ―――終ってはいない。

『結末』が『現実の確定事項』となるには、戦いに完全に終止符が打たれる必要があるのだ。
それも武力によって片側が敗北する形で。

そしてそれこそが魂の戦いを終らせる唯一の手段。



ネロとメタトロン、言葉は一切交わさぬもこの瞬間、両者の間には確実に『了解』があった。

互いに理解し、互いに成すべきことを成すのだと―――『この戦い』を終らせようと。

この時点でメタトロンが天の加護で復活する可能性はまず確実に無くなった。
ネロと了解した事で、ここでの彼の行動がどうであれ、その真意は完全に四元徳に反するものなのだから。


血塗れた体をぐっと低くしては杖を構えついに、メタトロンが地を蹴った。

ぶわりと舞い上がる粉雪、その中を突き抜けていく速度は、
先ほど神裂と戦っていたときに比べたら止まっているに等しいものであった。


ネロ「―――目を閉じてろ」


対するネロは、背後の女性陣に向けてそう告げながら。

後ろのレッドクイーンの柄を逆手で取り―――


向かってきたメタトロンへ向け一閃―――容赦なく振りぬいた。



229:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 03:06:51.99 ID:YhzyF4dBo

神裂「―――や……め…………―――」

瞬間、思わず心の底から言霊が漏れかかったものの、まともな音には鳴らなかった。
またもしちゃんと声になっていたとしても、確実に何も変わりはしなかったはず。


それにもしここで自身がネロの立場だったなら、口ではこう声を漏らしながらも、
まず間違いなく彼と同じく一切手加減なしに刃を振っている。


これはどうしようもなく無力な声であり、無意味な言霊でありでり、
もともと『場違い』な情感なのだ。

神裂だけが勝手に思い、一方的に心を揺らしただけで、
当のメタトロンにとってもそもそも知ったことではない。

現に神裂の言霊を受け続け理解しながらも、彼はただの一度も反応することは無かったのだから。


ただそれでも、と。


ここで彼女は恥じることなく―――こう確かに心の内で声にした。


例え無意味、無駄で甘くて稚拙だとしても。


一人くらいは、彼のために涙する『人間の心』があっても―――良いではないか、と。



偉大な天使の首は宙を舞い―――地に落ちて。

静かに雪に沈んでいった。



230:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 03:10:44.76 ID:YhzyF4dBo

打ち止め「――――――……天使たち、降伏したって」


芳川の腕の中で、
虚数学区と魔塔の界域の状況を告げる幼い少女。

これもまた、メタトロンの『ケジメ』によるものだ。
旗印である彼が倒されることで、彼に付き従った兄弟達はみな『敗北』したのだ。


こうして―――『生きたまま』で。


ネロ「……とりあえず戻ろう。皆、グラシャラボラスに乗ってくれ」

ネロがレッドクイーンを背負いながらそう告げると、魔狼は彼の傍にまで跳ね、皆が乗りやすいよう姿勢低くした。
まず打ち止めと芳川が、次にアステカの魔術師は黒髪の少女の手を借りて、
続けて一番後ろにいたアレイスターが、花飾りをつけた少女の手を借りてその背に乗っていく。

魔狼の体躯は大きかったも、さすがにこの人数ではその背はやや狭い様子か。

そうして皆が乗ったのを確認したのち、ネロが魔狼の首に右手を当てて。
狼の頭上に飛び乗る直前に。

神裂「…………」

ぼろぼろに泣いている神裂の顔を見やった。
そうして周りの者達とは違い、彼だけはその涙の意味を理解したのだろう。

ネロはふっと小さく、呆れた風ながらも優しげな笑みを浮べながら。



ネロ「……お前らしいな。神裂。お前らしいよ」



二度、そう口にした。


神裂「………………」

そのネロの言葉で、神裂ははっと悟った。

バージルがなぜ―――この神裂火織という無様な人格の存在を許し続けるのか。
直後、それを裏付けるかのようにやっと―――繋がりの向こうから『主』の言霊が聞えてきた。


あのメタトロンの死の際に心の中で発した声、それに返してくる形で。


『それでいい。それでこそ愚かな人間だ』、と。


―――



215:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:37:51.97 ID:U21+bVWDO

神裂の魔人姿ってどんな感じなんだろ……



231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 03:12:19.13 ID:YhzyF4dBo

今日はここまでです。
次は火曜に。

>>215
ステイルと同じく肉体の姿はそのままです。



224:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 02:53:57.78 ID:U21+bVWDO

メタトロン強すぎ格好いい



232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/02/12(日) 03:17:09.41 ID:6/40cOQZo


おれも機械天使で出撃するか



238:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/13(月) 16:28:45.68 ID:xCh/7faIO

原作でいうLevel6ってネロのことなのかな



239:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/02/13(月) 16:57:23.82 ID:gxkFV3olo

一方さんの事を考えるに新しい人間界の神がレベル6なんじゃないかな
人類最強はネロで確実だけど力の由来が悪魔なのは事実だし何処か違う気がする



241:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/14(火) 03:23:07.14 ID:kE7N+dVDO

LEVELってあくまで能力者の括りじゃない?



242:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:47:42.76 ID:qn1b5W7Uo

―――

遡ること少し。

一行は、冬風が吹き荒む山の中を進んでいた。

先頭からエツァリ、彼に肩を掴まれ引かれているアレイスター、
その後ろを初春、打ち止めを抱いた芳川、佐天らが一塊になるようにして続く。
頬や鼻先、耳を真っ赤にしながらも膝まで埋まる雪をかきわけ、懸命に前へ前へと。


天候は荒れてないとはいえ、
厳冬期の南アルプスの冷気は身を切り裂くほどのものである。

服装は芳川も打ち止めも着の身着のまま、
アレイスターは薄い手術衣、佐天なんかは上はTシャツのみ。
(彼女はもともとジャケットを羽織っていたのだが、
イフリートの熱気が残る窓のないビルに到着した際に脱いでしまっていた)

ジャッジメントとして野外作業を行っていた初春の服装は幾分マシだったとはいえ、
やはりこのような環境下では焼け石に水か。

初春はその能力『定温保存』によって、
打ち止め・芳川と佐天にも手を回してその体温をなんとか保持していたも、
それら服装と所詮レベル1ということもあって、一定に保つことはやはり困難であった。


またエツァリもとある理由で、ここに降り立ってからは一切の魔術を起動していなかった。
今の彼の手にかかれば周囲気温を上げるなんて易いことではあるが、
ここで魔術の類を使用したら位置が特定されてしまうかもしれないと考えたのだ。

彼の魔術に使われる力、その出所を考えれば当然の判断であろう。



243:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:49:20.53 ID:qn1b5W7Uo

ただしその制限はすぐに解除されることとなった。

一行が強張らせて雪に埋もれ進んでいると。
突如後方の上空から、日が昇ったというほどに光が差し始めてきた。

エツァリ「―――ッ」

驚き足を止め、半ば吸い寄せられように振り向く一行。
だがそう見やったところで、彼らには特に意味が無い行動だった。

この瞬間の出来事に対する理解は、のちの一段落ついた時に断片的に推測できた程度。
今ここではその一部ですら思案することは不可能だったのだから。

天空で青と白銀の光が迸った風に見えた次の瞬間には、
より激しく迸った光が、峰向こうの遠くの頂を消してしまっていた。
こうして結標、メタトロン、神裂という三者の『問答』は、
彼らの意識が『追いつかない速度』どころか、そもそも『認識できない領域』で展開し終結したのだ。

エツァリ「……っ!」

何が起こったのかは見当もつかない、だが一つだけ、
この時エツァリは周囲環境の変化を感じ取った。

場を満たしていたあの圧倒的なプレッシャー、『力の層』が忽然と消えていたのを。
辺りが完全に『晴れ渡っていた』のだ。

刹那、彼は自分達の存在が浮き彫りになるような感覚を覚えた。
白亜のキャンパスに墨で示されるかのごとく明らかに。


その感覚は間違ってはいなかった。


二柱の激突によって実際、エツァリ達の存在を隠していたベール―――
―――拡散された結標のAIMは、全て吹き掃われてしまっていたのだから。



244:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:51:20.37 ID:qn1b5W7Uo

佐天「―――……っ?!」

振り返った先の空に見えたのは、
少しばかり前にデュマーリ島で見たのと同種の眩い輝きだった。

覚えるのは精神が潰される異様な威圧感、夜の大海に投げ出されたかのような不安と卑小感。
そして脳裏に蘇るのは真新しい記憶、デュマーリ島で目にした凄惨な光景。

芳川達の体を外気に触れさせないように庇っていたその腕に、佐天は反射的に力を篭めてしまった。

だがそれでも。
彼女の我が揺らぐことはもう無かった。
デュマーリ島で体験した世界、その圧倒的な戦慄は耐え難いも、
一方でそれらが重石となり、彼女の意識を刺激して押し留めるのだ。

かの島にてこの戦慄を前に彼女は立ち、歩を進めた時点から。
もう彼女はただただ恐怖に打ちひしがれる子羊なんかでは無かった。


力が微塵も無くとも、その心は屈しはしない。


彼女は弾けたように芳川と打ち止めの方を振り返り、その意識が保たれているのを確認し。
次に初春を見やると。


佐天「―――初春っ!!」


友は凍り付いていた。
比喩ではなく文字通り冷気によって凍りついたのでは、
と一瞬思ってしまうくらいに蒼白な顔に、大きく見開かれたまま固まっている目。

そして明らかに寒さによるものではない震え―――



245:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:52:38.15 ID:qn1b5W7Uo

―――同じだ、と佐天は思った。

デパートにおける一件で、初めて異形の存在に遭遇し、
これまで経験した事の無い恐怖に駆られ、
次第にそれらが積もり積もっていき、最終的に弾けてついに意識が飛ぶ―――まさにあの時の自身の姿か。

その友の姿を見て、佐天の顔からも一気に血の気が失せていく。

彼女は飛ぶようにしてその側へ向かい、その初春の肩に手を当てて大きく揺さぶり、
喉が張り裂けるくらいに思いっきり呼びかけた。
すると。

佐天「―――初春!!初春!!」

初春「―――あっ―――」

幸い、彼女の意識は『まだ』飛んでいなかったか。
放心状態ながらも視線を彼女の方に向け、
言葉にならないとはいえ反応の声を漏らしたのだ。

佐天「初春!大丈夫!大丈夫だから!!」

佐天は彼女の頬に手を当てて、
なんとか剥離しかけた友の意識を繋ぎとめようとした。


―――あの時、白いシスターの少女にやってもらったように。


頬を撫でながら何度も何度も呼びかけて。



246:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:54:52.04 ID:qn1b5W7Uo

打ち止め「―――来るよ!!」

その時、芳川の腕の中の少女が血相を変えて声を張りあげた。
空や彼方を満たしていた光が収まった直後のことだった。

そうして少女の声が放たれた瞬間。


エツァリ「伏せて!!―――」


彼が大きくそう叫びながら一行の最後尾、
佐天の側へと人並みはずれた身体能力で跳ねて。

殿に立つと一方の手を前方に伸ばし、
なにやら日本語でも英語でもない言葉を素早く口走った。


すると―――彼の胸元から一気に伸び、周囲に展開する黄ばんだ包帯のような『帯』。


初春を抱き寄せて、芳川と共に雪に埋もれるほどに伏せながらも佐天は横目に見た。
その次の瞬間、帯が一気に光り輝き。

彼の前方に『浸透』し、
空間を満たしてさながら―――『城壁』のような分厚い光の塊になったのを。

そして直後。

彼とその『城壁』越し、向こうの森の奥できらりと『別の光』が瞬いたかと思うと。

一瞬聴力が喪失するほどの耳を劈く激音と。
五臓六腑が一回転するかというくらいの衝撃が周囲に迸った。



247:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:57:02.99 ID:qn1b5W7Uo

佐天「―――っ!」

この時はもう横目で見てはいられなかった。
腕の小刻みに震える初春、その頭に顔を押し付け、
彼女もできるだけ小さく縮こまるしかなかった。

この猛烈な『嵐』が過ぎ去るのを待って。


衝撃は断続的に何度も響いた。
そのたびに呼吸どころか、意識が実際に一瞬だけ『点滅』する。
この強烈な刺激に耐えられずに、自己防衛としてシャットアウトでもしているのか。

だがこの猛烈な『連射』はそう長く続きはしなかった。

佐天「―――っ!」

終了の時が唐突に報される。

どさっという、背に圧し掛かる重くも柔らかい衝撃で。
瞬間、とてつもなく不吉な予感を覚えながら佐天が勢い良く顔をあげると。

その予感は『完全的中』はしなかったものの、八割方は当たっていた。

首、胸、腹を真っ赤に染め上げて、
エツァリが倒れこんできていたのである。



248:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:02:02.83 ID:/isA60jto

佐天の背に仰向けにぶつかると、
そのまま横の雪面に転げ落ちるエツァリ。

佐天「あぁっ―――!」

佐天は上半身を上げると、片腕は初春に回したまま、
もう片腕をエツァリの胸に咄嗟に押し当てた。

デュマーリ島にて傷の手当の際、彼女自身が唯一手伝えたのと同じく、
シャツの下から滲み上がって来る血を押えようとしたのだ。

ただこの時に限っては、彼女の手は必要なかった。
エツァリはまだ生きており、そして次の瞬間にはすぐにそのための魔術が起動され、
かろうじて止血されたのだ。

もっともそれも、あくまで気休めであるが。

エツァリ「……行ってください!!早く!!」

彼は己の容態など眼中には無かったようだった。
佐天の手首を取ると、強く握っては自らの胸から離し、
怒号染みた声でそう叫んだのだ。

その言葉の意味は佐天もすぐに悟った。

デュマーリ島における経験もあって、このような場での理解が早くなっているものだ。
自分達が今どんな状況に置かれているか、それが今やすぐに推測できるようになっていた

佐天「―――っ」

そしてまたもや不吉な気配とでもいうか、悪寒を覚えて反射的に面をあげると。
その『一目』で推測は確信に進化した―――自分たちは『絶体絶命』なんだ、と。


木々が倒れた向こう、闇を満たす雪煙の中にそれが立っていた。
『鎧を着込んだような人』の姿をした『災厄』が。



249:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:04:15.21 ID:/isA60jto

その見た目は、一見すると酷く傷を負っている様子だった。
鎧が肩辺りから胸元にかけて大きく割れ、
そこから真っ赤な液体が大量にこぼれており、手先も真紅に染まっている。

だがそれでも、と。

佐天は直感と経験的に悟っていた。
いくら手負いであろうと、『あれ』が脇に倒れている彼をこんな風にしたのだと。


そして彼の言からも受け取れる通り、つまり今や自分達は―――あれに抗う術は皆無だと。

佐天「―――」

そう認識した瞬間、どくんと自らの鼓動が大きく聞え、思考が一気に加速していく。

行け、と脇に倒れている彼は言うも、もはや逃げ切れるわけがない。
最初、『あれ』のものであろう光はずっと遠くにあったのに、
衝撃が轟いた一瞬ののちには30m前方なのだから。

どう考えてもこの足で走ってなんとかなるものではない。

こちらが走り出そうとする前、この今の次の瞬間にも、
『あれ』はここに手を届かせているだろう。

それに、走ること自体がもう無理だ。
打ち止めを抱いている芳川も消耗しており、初春は恐らく立つこともできやしない。

そう、無駄なのだ。
何をしたって無駄。

己がどう行動しようが、この状況に波紋を起こすことなど決して出来ないのである。


―――と、佐天涙子はここに理解するも。


彼女はいまや『大ばか者』だった。



250:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:06:45.53 ID:/isA60jto

一度、誰かに身を挺して守られてしまうと。

二度目は大きな葛藤が生じ、ここで自らの生存本能を押しのけて行動してしまうと、
晴れて『大ばか者』の仲間入りだ。

そして三度目以降は、考える前に体が動いてしまう。


物事や場合によっては、『諦めること』もまた正しい選択である。
分別をつけていかなければまともに生活することすらできやしないものだ。

だがただ一つ、絶対に諦めてはいけないことがある。
どんなに絶望的状況に面しようが、これだけは決して妥協してはいけない。


――――――『大切な人を守る』ことだけは。


佐天「―――」


かの島の地下トンネルで一線を越えていた佐天には、
恐怖に直面して『諦め』や『降参』という行動が結びつく回路がもう存在していなかった。


思考するよりも、覚悟を決めるよりも早く、彼女は素早く立ち上がり前に踏み出していた。
真っ直ぐ『己達の死』を見据え、反抗的な炎を燃やして相対。

ここでようやく思考が追いつき彼女は自らの行動の意味を認識する。
今の己はさながら線路上に立ち、突貫してくる新幹線に挑んでいるようなものだと。

それでも彼女はもう怯みはしなかった。
人並みに恐怖して汗を噴出しながらも、一分も気圧されはしないのだ。


瞬間、正面の『あれ』の手元がきらりと光が瞬いた。
その輝きが何なのかも、佐天は目にする前から知っていた。

『死』だ。



251:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:08:24.79 ID:/isA60jto

佐天「―――」

煌きを見た次の瞬間、その白銀の光が視界を覆った。
一瞬の激音を伴ってすぐに消え去る聴覚、そして触覚も薄れていき。

意識も消え去る―――それが現実的な結末であろう。

―――しかしこの後の展開について。

土御門元春がもし詳細を知れば、
彼はこの佐天涙子という人物についての己の解釈が正しかったと確信したであろう。

確かに力は皆無に等しいも、やはり彼女は『舞台』の上の人物だった、と。

佐天の行動は、彼女にしか成せないことを成してしまう。
それも運命の女神からもたらされたような『受動的な恵み』なんかではない。

彼女自身の『行い』がここに帰結したのだ。


彼女とある少女との―――ごく短い期間ながらも、強くしっかりと紡がれた『絆』がここに。


佐天涙子はここで『再会』した。


目が眩んでしまったせいか、視界はいまだに真っ白に塗り潰されていたも、
すぐに回復した視覚以外の五感で佐天は―――



佐天「――――――――――――ル……シアちゃん?」



―――不意に彼女の存在を覚えた。
ふわりと彼女の香り、気配とでもいうか。

あの少女が目の前にいるような気がしたのだ。



252:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:10:59.02 ID:/isA60jto

ルシアが生きていた―――来てくれた―――瞬間的に湧き立つ喜びを押え切れずに、
こんな状況であるにもかかわらず思わず手を伸ばす佐天。

まだ視覚は眩んだままで、雪と夜闇といったくらいしか判別できなかったも、
彼女はルシアの存在をはっきりとすぐ前に覚えていたのだ。

しかし。

伸ばした手が触れたものは、『熱』は篭っていたも―――『人の体』ではなく。

佐天「―――」


指から伝わってくるのは硬い硬い―――金属の触感。


ようやくベールが解け、元の状態に戻った視覚が捉えたのは、
銀色の刃に、柄と刃の腹が鮮やかな赤色の巨大な『剣』だった。

ちょうど一歩先の雪面に突き刺さり、
柱のように聳えているこの大剣は見覚えがあった。
忘れもしないデパートの件の時、あの奇妙な鏡の世界でシスターと己を守ったネロのものだ。

そうしたこの状況を見れば、この大剣が皆を『光』から守ったのは明白か。
だがこの時、彼女の思考はもうそこまでまわらかった。

大剣に手をあてがったまま、佐天涙子は呆然と立ち尽くした。


なんでこの剣から―――あの子の気配がするのか。
なんでこの剣に触れていると―――あの子に触れている感覚がするのか。


それが理解できなくて。
そして『なぜか』不意に―――『理解したくない』とも感じてしまった。



253:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:13:00.39 ID:/isA60jto

佐天「……あっ……」

不快に高鳴る鼓動。
『なぜか』胸も急激に締め付けられ、息苦しくなっていく。

自分でもわからないしわかりたくもない。
頭の中は真っ白だった。


初春「―――佐天さん!!」


硬直した意識に飛び込んできたのは、悲鳴にも近い親友の声。

初春が後ろから腰に抱きついてきて、
血相を変えて揺さぶり目一杯に締め付け引っ張っていた。
それ以上先に行かせないとでもするかのように。

エツァリ「……下がっ……て!」

そんな初春に次いで
ふらつきながらも立ち上がったエツァリによって肩を押され、
ついに佐天は後方に尻餅をついてしまった。

呆然と目を見開く佐天に、彼女を押し留めようとする初春、
その光景は少し前とは完全に真逆のものだったか。

固くまわされる初春の腕に抵抗を示すことも、起き上がろうともせず。
佐天涙子は背の初春に覆いかぶさるような姿勢で、
エツァリ越しにあの大剣をずっと見つめていた。



254:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:15:28.05 ID:/isA60jto

数秒後か、そんな風に思考停止したまま目を見開いていると。

大剣の向こう側に、空からたんっと軽く降りてきた大きな後姿。
紺色のコートを纏った大柄な銀髪の青年の背が視界に飛び込んできた。

佐天「―――」

そのなびく銀髪の彼の姿に魅せられて、反射的にきゅっと収縮する心。
ただこの時、佐天はまたもう一つ別の感情も覚えた。

またもや―――ルシアの気配を。
大剣からのと同じく彼―――ネロ自身からも。


更に数秒後、ネロが背後の佐天達に横顔を向け。
大剣の柄を逆手で握りながらぶっきらぼうに呟いた。


ネロ「―――目を閉じてろ」


佐天「―――」

ここでついに佐天涙子は『それ』を目にした。
ネロの前髪端のひと房が―――燃えるような赤毛だったのを。

あんなに鮮やかで綺麗な色の髪は見間違えるわけが無かった。
あんな髪の持ち主はきっと、きっと世界に一人しかいない。


一人しかいないはず、それなのに―――



255:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:17:33.90 ID:/isA60jto

空や遠くの峰々を覆った輝きの奔流や、
エツァリとの壮絶な『光の激突』に比べれば、あっけない幕切れだった。

鎧を着込んだ『あれ』は、ネロの一振りによって首を飛ばされて。
頭なくした体が彼の前に吹っ飛び倒れ、雪に埋もれ沈んでいった。


名だたる天使、メタトロンの死の瞬間である。
ただこの相手が何者かなんて知る由が無い佐天涙子にとっては、
いや、もし知っていたとしても、この時は彼の死に意識が向くことはなかったであろう。


彼女の意識はずっと―――ネロに注がれていた。


彼は一度、舞う雪を掃うかのように大剣を振るうと、
脇の雪面に突き立てて、何事もなかったように振り向いて。

涼やかな面持ちのまま一度、皆を一通り一瞥して、立ち構えていたエツァリの肩をぽんと叩いた。
褐色の肌の少年はその一手で、
凍結が解けたかのように大きく安堵の息を吐いてはその場に屈んだ。

そしてネロは数歩進み、彼の横を通って。

佐天「…………」

何も言わずに彼女の前に屈んだ。
その佇まいは涼しげで、やけに落ち着いていて。
一方で冷たさは微塵も無く、むしろ包まれて暖かな感覚。


佐天「………………な、なんで……」


その温もりに引き出されるように、彼女の口からこぼれる言葉―――



256:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 00:21:01.05 ID:/isA60jto

そこにはなぜルシアの気配が、という意味も篭められてはいたが、
もはやそれだけに留まってはいなかった。

今目にして感じている事、その何もかもが理解し難かった。
彼女自身でも、その問いの全ての意味は完全にわかっていなかったかもしれない。


だがここでネロによって示された『答え』―――それはそれは抽象的で、
答えと言うよりも「ただ仄めかしている」と表現できるものであったも―――によって。

彼女はここでようやく『理解』する。

ネロは何も言葉を発しなかった。
彼は目をやや細めてはほんの微かに笑みを浮べると、ゆっくりと右手を差し出して。

佐天の手を取った。


佐天「―――っ……」

静かに、優しく浸透してくる温もり。
不快に高鳴っていた鼓動もみるみる収まり、凍えきっていた体の芯も穏やかに柔らかになっていく。

そこで佐天ははっきりと確信する。
ルシアの気配を覚えたのは、決して勘違いではなかったのだと。
かの小さな女の子の身に、具体的に何が起こったのかは想像がつかなかったも。


その『意味』は理解した。


わかってしまうのだ。
理由はしっかりと言えなくとも、間違いないと断言できてしまうのだ。
この心が、魂がはっきりと告げてくるのである。

前髪の端が赤毛のネロ。
彼の手から伝わってくる温もりは、恋焦がれるひとのものであると同時に。


あの小さな友『本人』の温もりであるのだと。


そうしてネロの手に支えてもらいながら立ち上がり、
ある程度意識が確かに戻っていた初春に、今度は自分が手を差し伸べて立ち上がらせて。
エツァリに肩を貸し、異形の大きな狼の背に乗り。

後ろから腕をまわしてくる初春の暖かさで最後の緊張の欠片も溶けて、
ここでようやく彼女は『意味』を受け止めた。


空へと一気に跳躍した魔狼の背にて、佐天涙子は静かに涙した。


最期にもう一度、こうして救ってくれた―――あの無垢な友を想って。


―――



269:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:10:47.59 ID:xwBrSy4do

―――

『兄弟』達の戦いは終焉した。

メタトロンが『自ら』幕を引き、この戦い『意味』の全てを持ち去ったことにより、
彼を長としていた者達は刃を置きざるを得なかった。

結果的に示され確定した自らの選択と手段の過ちと、完全なる敗北。
そして何よりも『このネロがいる結果』は、自らが掲げていた理想に最も近きもの。


彼らにはもう、この戦いを継続する理由は微塵もなかった。


テメンニグルの塔、門前の広場にて。
学園都市側についた戦士達を前に、
この防衛線を突破しようとしていたカマエル、ラジエル、ザドキエル、ハニエルそしてサンダルフォン。

偉大なる五柱はそれぞれの武器を地に突き立てては手放して、
膝をつき厳かに頭を下げていた。
裁定を静かに待つ罪人のように。

その突然の行動に学園都市側の戦士達は一瞬、訝しげに警戒を強めたも、
風斬が数秒遅れで打ち止めからの事情を口にして、
天使達の意図を理解した。



270:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:12:30.59 ID:xwBrSy4do

キャーリサ『…………』

断罪を求める彼らにふさわしき答えは一体どのようなものか。

イフリート『……』

アグニ『ふむ』

まずこの大悪魔達は、悪魔の道理に従った判断を下した。

敗者の末路は滅ぶか力の糧となるかの二択のみ、
なんとも悪魔らしい『ぶれ』の無い考え方であろうか。

アグニは本体たる大剣を肩に載せ、イフリートは全身から熱を滾らせて、
両者は歩を進めて、当たり前のことのように悪魔流の『敗者の断罪』を行おうとした。

するとその時。


キャーリサ『―――待て』


獅子たる姫が口を開いた。
大悪魔達はこの戦いの主役が誰なのかを理解していたのだろう、
刃と拳を一旦退かせては彼女に場を譲った。

そんな二柱の間を、
負傷してる主を横から支えようとしていたシェリーの手を振り払いながら、
血と同じ色のマントを靡かせて抜けていくキャーリサ。

光り輝く抜き身のカーテナを手にし、向かうは―――サンダルフォンのもと。

彼女はかの天使の前に立つと、
あたかも斬首を宣告するかのように彼の肩に刃をのせて。


キャーリサ『面を上げろ―――「エリヤ」』



271:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:16:03.45 ID:xwBrSy4do

その響きは、かつてこの天使が人間界の大地を踏みしめていた頃の名。
たった今このカーテナの『向こう』から伝えられてきたものだ。

キャーリサ『……』

この剣からは今、ここにいる天使達の事情の何もかも伝えられてきていた。
いかなる結論で父と兄弟と道を分かち、こうして戦う側を選んだのか。

どんな気持ちで人間達に刃を向けていたのか。
そして今、どんな気持ちで完全なる敗北を喫したのか。

兄弟を奪っていったネロや人間達を恨むことなんてもってのほか、
自らたちを憎むこともできず、称えることも貶すことも、
哀れむことも怒ることさえも叶わない、どうしようもなく『惨めな』敗残戦士たち―――


―――しかし。

実のところ、その辺りはキャーリサにとっては『どうでも良かった』。
むしろこのような『主』からの懇願とも受け取れる声には、その生温さに辟易してしまうくらいだ。


―――甘すぎる、優しすぎる、めでたすぎるとキャーリサは心の中で吐き捨てた。


そんな事だから、こうして一部の子達が袂を分かつことになってしまうのだ、と。

こんな甘ったるい考え方よりも、キャーリサはどちらかといえば
『敗者は死して勝者の糧となるのみ』という悪魔流の徹底された道理の方が好きだった。

だが気に入らないからといって、
このカーテナからの甘ったるい声を無下には出来ないものまた事実である。
現にこうして多大な力の支援を行ってくれているのだ。

ここで悪魔流なら『それとは別だ』と、
『行い』には等しき『代償』を求めるであろうが、
真っ当な人間ならば、たとえ同情はしなくともパトロンへの『礼』の気持ちはある程度はふまえるものだ。

そしてそのような心は人間が人間たる感情の一つ、
『慈悲』に繋がりゆくものである。

キャーリサ『…………』



272:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:21:08.36 ID:xwBrSy4do

同情はもちろん許しも与えはしなかったが、
ここにキャーリサは慈悲を示した。

騎士の儀式のように、サンダルフォンの肩を軽くカーテナで叩き。
そして同じく反対側の肩も叩き―――与える。


キャーリサ『―――立て。「守護天使」よ』


もう一度、彼らが『人間のため』に戦える機会を。

カーテナは彼らに新たな魂の『絶対的な契り』を交わさせ、
分かれた家族をまた一つに戻し、ここに再び誓わせたのだ。


―――『人間の手』によって。


天界と人間界の関係はもはや保護でも管理でもない、対等な―――『友』となる証だ。


さすがはダンテを通して人間の考え方に触れていたせいか、
アグニとイフリートもこのキャーリサの判断を理解し納得した様子だった。

サンダルフォンの肩から剣を離してキャーリサが一歩下がると、
この天使は静かに立ち上がり、そこで初めてキャーリサに向かい合った。

キャーリサ『……』

身長は騎士団長と同じくらいだろうか、肉付きは彼よりもやや逞しい。
古代地中海的な、オリエントとギリシア、ローマ文化が混ざったかのような趣の装具類、
それらの隙間から覗くのは、健康的な血色の人とまったく同じ肌。

顔はフルフェイスの兜で覆われていたも、
その兜の眼孔からはのぞくのは―――ブラウンの瞳。

淡く天の光が衣となっていたも、間違いなく人間のものだった。



273:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:23:38.53 ID:xwBrSy4do

キャーリサは、以前悪魔について学ぶ中で聞いた、
『物理領域に縛られているこの世界の生命とは違い、魔界では精神が外見を形作る』という事柄をふと思い出していた。
おぞましき意思を持つものは、目にするのも憚れるくらいに醜く、
武人たる高潔な意志をもつものは、相応の威厳に満ちた姿になると。

それを耳にした時、まず彼女の脳裏を過ぎったのはステイル=マグヌスだった。
悪魔化したあとも、肉体の形状は一切変わらぬステイル。

彼の姿を頭にして彼女は一つ、こう推論を置いた。
人の心を持ち続ける限り、悪魔となろうとも姿は『人間』のまま存続するのでは、と。

キャーリサ『…………』

そして今、彼女はその推論は天使にも適用されるのだと悟った。
確定的な証拠は無い、全て状況証拠であるのだが、
キャーリサには断言できる確信があった。

ステイルと同じく神裂火織も、光の翼やら何やらを出現させようが肉体は人間のまま。
そしてメタトロンとこのサンダルフォンもまた人間の肉体。

これは人間の心のままだからだ。
そしてその点が、彼らが父と道を違えた最大の原因だ。
メタトロンやサンダルフォンも、己と『同じ』なのだ、とキャーリサは確信した。

このカーテナの向こうから覚えた父の『甘さ』に、自身と同じように完全に同調できなかったのだ、と。
そこで彼らは父に従わずに、自ら行動に打って出たのだと。

結果的には、彼ら兄弟の選択は『誤り』と決定付けられたものの、
硬直した状況を変える意志、彼らの人間たる心の力は猛烈なものだったに間違いない。
兄弟達の一部がこうして彼らに賛同し、
壮絶な覚悟で付き従ってきたのもそれがあったからこそだ。



274:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:25:56.47 ID:xwBrSy4do

ここで皮肉なものだ、と。

キャーリサはサンダルフォンの瞳を見つめながら思った。

魔界天界そして人間界を交えたこの戦争、
想像を絶する規模・想像が届かぬ未知なる争乱ではあるが、
実際蓋を開けてみればなんてことはない。

『人間同士の戦い』という、きわめて慣れた要素も色濃くあるではないか、と。

アリウス、学園都市、清教、正教、
メタトロンとサンダルフォン、そして―――ネロ。


ここまでのほとんどの戦いの根底には、『人間』同士の意志の激突があったのだ。


キャーリサ『……』

―――と。
こうして皮肉を覚えたものの、キャーリサは特に笑いはせず、
この解釈を誰かに示そうとも思わなかった。

きっと全て終ったあとにでも、土御門やステイルあたりがしっかりここに気付いて皮肉に笑い、
神裂辺りが報告書という名の分厚い戦記、それも恐らく三分の一が彼女の的確な注釈という、
自身よりもはるかに正確に解釈したものを書き留めるであろうから。


キャーリサは少し冷ややかに目を細め、小さくサンダルフォンに向けて頷いた。

彼がそれに同じように頷き返すと、背後の四柱も立ち上がり、
それぞれが武器を再び手にしていった。



275:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:29:13.72 ID:xwBrSy4do

一つの戦いは終わりをみたも、以前世界を跨ぐ大戦は激しく蠢いていた。

キャーリサと天使達がそうして刃並べるにいたるまでにも、
続々とこの界域に侵入してくる悪魔達。

学園都市側についた天使と悪魔と人間達が、
そこで握手し意を確認する暇なんてものは無かった。


キャーリサ『それでどーする?―――「大将」』

すばやく天の五柱を一瞥したのち、キャーリサは肩にカーテナを乗せ、
背後の風斬に声を飛ばした。

すると、虚数学区から引きつづきこの場の指揮と責任を担う人界の天使―――風斬は、
その大人しげな顔を引き締めこう告げた。

風斬『滝壺さんの守護を最優先とし、悪魔の掃討に専念します』

イフリート『うむ。それがよい。これは十強のkdajuskhyyaの軍勢だ』

そこに賛同の声を添えるイフリート。


イフリート『お前達が「ベルゼブブ」という名で呼んでいる存在だ。じきに配下の猛将どもが現れるはずだろう』


彼はノイズの部分を言いなおすと上を見上げ、
割れ落ちた天蓋向こうの蠢く空を示した。



276:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:30:38.67 ID:xwBrSy4do

キャーリサ『……』

悪魔ベルゼブブ。

一般的に人間が知っているこの悪魔についての記述のうち、
魔界に君臨する圧倒的な王者であるという部分については正しいようだ。

イフリート『覇王がスパーダに敗れた直後、早々に「魔皇」と名乗り自らこそ統一玉座に相応しいと宣言した王だ』

かの存在を語る炎の魔人の声には、
緊張した滾りと鋭い警戒の色が滲み上がっており。
アグニの方は同じ空気を全身から放ちながら、まるで彫像のように押し黙っていた。

このような神たる『つわもの』達にまで、その体に力みを覚えさせるほどの力。
恐らく本物のベルゼブブを知っているのであろう、
五柱の天使たちにも同じような緊張の様子が見て取れた。

それ対し、風斬は特に調子も変えずにこう返した。


風斬『―――ネロさんがここに来ます』


その短い声で、この場の空気に一矢が叩き込まれた。
スパーダの孫である名が、
この場の絶望的な緊張を希望と勝利の確信へ一気に変えて行く。

風斬は同じく淡々とした声色で「それと」と続け。


風斬『「上」のアクセラレータさんの支援に向かいます。私と、天使の皆さんの中から案内役をもう一人―――』


するとその彼女の言葉が終りきらぬうちに赤き天使―――カマエルが一歩、前に進み出た。
その長方形の大盾で床を打ち鳴らし、大剣を堂々と肩に叩き乗せて。

―――



277:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:33:01.90 ID:xwBrSy4do

―――

一方『……』

打ち止めの危機とその回避。
突然始まり一気に終結した一連の戦いに、
彼は目まぐるしく気を巡らし、最終的には一先ずの安堵に落ち着いていた。

この戦争はやはり一人で戦えるものではない、と改めて実感し。
仲間達の奮闘とネロの到来に一縷の歓喜を抱きつつ、
彼は横―――安堵と悲嘆を入り混じらせた表情の天使を見やった。

ラファエル、その彫像のような肌から滲ませるのは物憂げな空気。
奥のもう一つの木の方に座っていた二柱も同じ色を醸していた。

一方『……』

一方通行にとってはもはや、
わざわざそんな彼らの心境を聞く必要も無かった。

救われた大勢の人間の命、ネロがその刃をもって明確に宣戦布告したことによる、
決定的となった人類側の優勢。
ラファエル達の安堵は間違いなくそれによるものだ。

そして悲嘆の方は―――失われた『兄弟達』へのものであろう。

一方『……』

かける言葉は一つも無かった。
つい今に事情を知ったばかりの己の言葉なんか、いかなる重みも持ちやしない。

一方通行はただじっと黙した。
彼らの静かな弔いを邪魔しないように。



278:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:33:49.86 ID:xwBrSy4do

とその時だった。
そうして喪に服していた三天使の様子が突然変わった。

ラファエルは目を大きく開いて硬直し、
瞑想のように佇んでいたガブリエルとウリエルも、
何かに気付いたかのように顔をあげて互いに見合わせている。

一方『……』

天使達のその様子からは、良きか悪いかは判別紙がたいが、
予期していなかった何かが起きたのは明白か。

今度は、一方通行は迷わず口を開いた。

一方『何があった?』

ラファエルはすぐには答えなかった。
まずガブリエルに頷いて合図、次の瞬間、
彼女が光の魔方陣の中に姿を消してからやっと一方通行へ向き、こう問い返した。


ラファエル『インデックス、と呼ばれている少女はご存知ですね?』


一方『……あィつがどォした?』

その名に一方通行は訝しげに目を細め、
押し殺しながらも鋭い声色で問いに重ねた。
すると深緑の天使は少し思案気に一拍置いて。


ラファエル『……彼女がプルガトリオの、天界の近層に入り込んできました。「出陣の野」という階層です』

なぜ、とは一方通行は聞かなかった。
ラファエルの顔にもはっきりと、同じく「なぜ」といった表情が浮かんでいたのだから。


―――



279:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:35:33.23 ID:xwBrSy4do

―――


『彼』はここからやって来たのだ。


小さな魔女は、かの想い人の運命が始まった地を踏みしめていた。

禁書「……」

大気は柔らかい光に満ち溢れて空は澄み渡り、
豊かな草木と花に覆われた原―――『出陣の野』。
彼女は目一杯、小さな胸を芳しい大気に満たして、この牧歌的な情景を瞳に注いだ。


強き絆、あらゆる記憶、そして運命の始点たる場所。
ここに、完璧な上条当麻を引き出すために必要な全ての要素が揃った。

彼女は白虎―――スフィンクスの背から飛び降りると野に屈み、
早速召喚のための準備を行い始めた。


地に左手を当てて、頭の中で専用のアンブラの術式を一気に組み上げていき、
それらは金と銀が入り混じる光の紋様となって周囲空間に構築されていく。

そして彼女の真正面、少し離れた場所にベオウルフはどかりと腰を落ち着けた。
同じく神々しくも、この世界のものとは対照的に硬質で強烈な魔の光が、
周囲の草花を乱暴にかき乱していった。

そんな自らによる『環境破壊』には目もくれず、
白銀の魔獣はインデックスに声を向けた。

ベオウルフ『ここは天の領であろう?すぐにその手の者共が現れるのではないか?』



280:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:39:32.57 ID:xwBrSy4do

禁書「うん。でもあなたが守ってくれる」

するとさも当然といった調子による即答。
頭を下げて頼むのでも顎を向けて命令でもない、単なる『事実』といった具合に述べるインデックス。

そう、これは聞くまでもない事であったろう。
証拠に魔獣は、この不敬に不機嫌になるどころか、
かっと短く、愉快気な笑いを漏らした。


―――とその時、突然―――ベオウルフの表情が豹変した。

白銀の魔獣は、敏感にこの階層への侵入者を検知したのだ。
だが彼が立ち上がりその牙を露にする前に。

禁書「大丈夫!」

インデックスがそう声で押し留めた。


そしてその直後―――天使が一人、インデックスの斜め前方5mほどのところに現れた。


ゆったりとした衣を纏った、女性型の天使だった。

『彼女』は二度、白銀の魔獣と小さな魔女を交互に見やっては、
驚きと困惑に満ちた表情を浮べたも、そこに敵意は欠片も無かった。

対面したのは始めてであるも、彼女はインデックスの身元を知っているのだ。
一方でインデックスの側は、彼女を昔からの馴染みのようにもっと良く知っていた。
なにせ上条当麻が良く知っているのだから。

小さな魔女は一旦作業を中断しては、その左手を天使に差し出して。
柔らかく微笑んで口を開いた。


禁書「あなたからすれば、私は初めまして、かな―――ガブリエル」


そうしてここでインデックスの口から語られる、この魔女の目的。

それを耳にしたガブリエルの顔は驚愕の次に―――希望に彩られ、
その情報はラファエルをはじめとして家族兄弟の間に一気に伝達していった。

―――



281:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:43:13.57 ID:xwBrSy4do

―――

一方『―――おィ、なンだってンだ?』

みるみる明るい表情に変わっていったラファエルを見、
一方通行は目を細めながら問うた。

すると天使は今にも弾けんばかりという勢いで。

                     ミ カ エ ル
ラファエル『彼を―――上条当麻を竜から引き出すのだと!』


一方『―――っ……本当か?確かにやれるのか?』

耳を疑う返答だった。
一瞬、その言葉の理解と確認に時間を要してしまうほどだ。
だがその程度の頭脳労働など、この喜ばしい意味の前には屁でもない。

ラファエル『少なくとも彼女は自信に満ちています!私は信じますよ!』

確かな証拠も根拠も無いも、
これには一方通行も賛同したくなってしまった。

これぞまさしく『希望』と言えるものだ。

上条当麻が帰ってくる―――その響きだけで、
一方通行は心が勇み漲って来るのを感じた。



282:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:45:22.85 ID:xwBrSy4do

と、そうしていたところ。

はちきれんばかりに歓喜の色に染まっているラファエルとウリエルが、
更に大きく翼を羽ばたかせ、文字通り飛びあがるようにして立ち上がった。

一方『―――?』

嬉しさの余り本当に跳ねてしまったのか、
天使と言うものは案外俗っぽくて子供っぽいのかもしれない、
そんな風に考えてしまうところであったが、どうやらそういうわけでは無かったらしい。

別の事情があったのだ。

瞬間、3m程離れたところに出現した光の魔方陣。


赤く、悪魔的な輝きを発しているも―――ふと一方通行は気付いた。
その紋様・文字が、これまで見てきた天使の頭上にあった光輪と同じ系統のものだということに。

ラファエル達の様子を見る限り、襲撃者ではないようだった。
驚きと緊張に満ち溢れながらも、そこに警戒の色は欠片もなかったからだ。


そうして皆の視線が注がれてる中、魔方陣から姿を現したのは。


鰐皮のコートに、サングラスにスキンヘッドという、
どこからどう見ても天使とは思えない―――大柄な黒人男だった。



283:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:48:18.94 ID:xwBrSy4do

一方『……』

その余りにも場違いな風貌に、
一方通行は無意識のうちに思いっきり眉を顰めてしまった。

湿った夜の路地が似合う、ハードボイルド映画にでも出てきそうな男が、
この牧歌的な世界に立っている光景といったら全くとんでもない。

そんな風に唖然としている彼とは対照的に、二人の天使は男の姿を一目見た瞬間。
今度は素早く片膝をつき―――頭を下げて。


ラファエル『お久しぶりでございます―――「閣下」』


そんな厳かかつ敬意に満ちた声を発した。

一方『(……閣下ァ?)』

姿勢も喋りも明らかに目上に対しての―――それも最高級の態度。
それも上辺だけじゃない、心の底からの敬意に満ちているものだ。

その一方、彼はこの頃にはもう、
天使達の態度とは対照的な、男の異様な雰囲気を敏感に嗅ぎ取っていた。

容姿に起因するものとはまた別のこの異質な威圧感、
この系統のオーラは以前から良く知っている。

間違えるわけが無い。


――――――『ダンテ』と同種のものだ。


「―――おう坊主共、元気だったか?」


男は大またでこちらに向かってくると、天使たちにそう言葉を返した。
そのいかにもな姿に相応しく、荒っぽくて低い声だった。



284:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:49:16.77 ID:xwBrSy4do

ぶつぎりですが今日はここまでです。
次は火曜に。



285:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/19(日) 02:58:34.99 ID:YBpgMILDO

ここで終わるとか生殺しにも程があるぜ……



288:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/02/19(日) 08:51:24.32 ID:iEzBFHNco

ん……閣下、……え、閣下?



289:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/02/19(日) 11:25:34.35 ID:jYs7hbnG0

閣下って10万50歳くらいのあの閣下か…



290:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/02/19(日) 11:52:24.92 ID:6EI96lFAO

>>289
あの人なら魔界の10柱に入ってそうだな



291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/02/19(日) 12:30:52.13 ID:LzZH/MXfo

創造主の力の欠片、「聖飢魔II」か。いまいち語呂が。



次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 36】

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禁書目録SS   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
21992. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/05/25(金) 17:41 ▼このコメントに返信する
素晴らしいです。はい。
もうただ読むしかないですね
22006. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/05/26(土) 02:11 ▼このコメントに返信する
全員カッコイイよぉ…
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