上条(悪)「この右手で、殺してやるだけさ」

2011-02-11 (金) 12:17  禁書目録SS   0コメント  
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あるいは現在進行形の黒歴史 ―殺戮天使が俺の嫁?― (GA文庫)


前→上条(悪)「その希望(幻想)をぶっ殺す」
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1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 18:47:19.42 ID:ji4/LZbu0
麦野「クソ…! なんなんだ…なんなんだあの野郎は!」

フレンダ「私達が結局逃げるしかないなんて! ありえないっつーの!!」

滝壺「ごめん、むぎの……私全然役に立ってなくて……」

絹旗「……」

麦野「絹旗は…まだ目を覚まさないか…」

 麦野は自分の背でうなだれている少女、絹旗最愛に目を向ける。
 はっきりと青い痣を浮き上がらせた絹旗の顔を見て、麦野はぎりりと奥歯を噛んだ。



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 18:57:55.62 ID:ji4/LZbu0
 麦野は事の顛末を心中で反芻する。
 いつも通り、くだらない組織の、くだらない企みを叩き潰すだけの仕事だったはずだ。
 なのに、今自分たち『アイテム』はケツをまくって無様に逃走してしまっている。
 逃走するしかなくなってしまっている。

 いつも通りの仕事の中で、敵方にいた『アイツ』だけが異質だった。
 ツンツンしたウニ頭の男だけが異常だった。

 滝壺の『AIMストーカー』でも位置をまったく特定できず。

 『窒素装甲』を持つ絹旗を一撃で沈め。

 フレンダの罠などかすりもせず。

 挙句の果てにはLEVEL5の超能力、『原子崩し』すらかき消した。

麦野「くそ…! 覚えていろ…! 貴様は必ずこの『原子崩し(メルトダウナー)』、麦野沈利がバラバラに引き裂いてやる!」

 麦野は男が追ってきているであろう背後を睨みつけ、呻くようにそう宣言した。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:13:25.91 ID:JEjPidfQ0
いつぞやのトラック条さんか?



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:14:27.30 ID:OpCLR/ZJO
美琴に種付けした闇条さん?



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:16:14.10 ID:+bUU8YjU0
続ききたー
まってたよ!




6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:10:04.03 ID:ji4/LZbu0
上条「ふ~……」

 上条はボロボロのベッドに寝転がり、携帯電話をいじっている。

上条「今回はけっこうキツイ仕事だったな。まあその分報酬も高かったしよしとするか」

上条「さて、次はどこに接触してみるかな……なんか噂にもなってるみたいだし、そろそろ慎重にやるべきかな~…」

上条「……っと」

 ケータイで金計算に精を出していた上条の目が鋭くなる。
 その視線は己が住処としているこの建物、廃墟ビルの一室、その入り口を向いていた。
 カツン、カツンと存在を隠そうともしない足音が響く。

土御門「よーうカミやん。元気にしてるかにゃー?」

 そこに現れたのは上条当麻の『元』クラスメイトである、土御門元春だった。



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:16:22.64 ID:ji4/LZbu0
土御門「『元』じゃねーよ。今でも立派なクラスメイトだぜい」

上条「誰に言ってんだお前?」

土御門「いやいや、気にしなくていいぜよ。ただ何となく言ってみただけだから」

上条「お前……一体全体、何の用でこんな所まで来たんだ?」

土御門「おう、これこれ、これを渡しに来たんだにゃー」ヒラヒラ

上条「……なんだ? その紙の束は」

土御門「学校で配られたプリント。休んだ同級生に届けてやるのはクラスメイトの義務ってもんだろう?」

上条「心底いらねえ世話だ。大体そういうのは委員長とかの仕事じゃねえのか?」

土御門「しょーがないんだぜよ。何しろ戸籍上は俺とカミやんは部屋が隣の隣人ってことになっているんだからな」



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:26:42.38 ID:ji4/LZbu0
上条「ああ…そういえば、そうだったな」

土御門「そうなんだよ。俺だって届けるならもっと可愛い女の子の家とかに行ってラッキーイベントを起こしてみたいもんさ」

土御門「俺が何故こんな、金髪にサングラスにアロハシャツなんて格好をしているのか、わかるだろう?」

土御門「それは全て女の子にもてるためなんだにゃー!! なのに何が悲しゅうてカミやんなんてすれた男なんぞの家を訪ねなきゃならんのだ!!」

上条「……ああ、そういえば、お前はそういう奴だったな」

 上条は呆れた顔で土御門を見遣る。
 しかし、その一方で、土御門の姿を確認してなお、上条は己の戦闘体勢を解いてはいない。

上条「お前はそういうキャラ付けだったはずなんだよ。こうして、俺の部屋を訪ねてこれた時点でそのキャラは崩壊しちまってるけどな」

土御門「ん? 何の話だにゃー?」

上条「お前はどうやって俺の居場所を知ったんだ? っつってんだよ、土御門」

 上条はベッドから完全に立ち上がり、拳を握り締めた。

上条「お前は、何者だ?」

土御門「………」



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:35:01.24 ID:ji4/LZbu0
 土御門は右手でサングラスを持ち上げる。
 土御門の雰囲気が、陽気なクラスメイトのものから、何か異質なものに変貌した。

土御門「色々背負っているのは何もお前だけじゃないってことさ、カミやん」

上条「知った風な口を利くじゃねえか」

土御門「カミやんのことで知ってるのはこの部屋のことだけじゃないぜ。他にも色々知ってる。そう、色々とだ」

上条「………」

土御門「元々カミやんは碌に学校にも来ないロクデナシではあったが……『七月二十八日』以降、遂にぷっつりとこの街から姿を消した」

土御門「この街の、表側からな」



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:49:34.32 ID:ji4/LZbu0
土御門「程なくして、この街の『裏側』である噂が広がり始める。『敵であろうが味方であろうが』『否応なく』壊滅させてしまう男の噂」

土御門「その男と敵対して唯一無事に逃げおおせたのは第四位の超能力者(LEVEL5)が率いていた『アイテム』のみ」

土御門「ついたあだ名が『災厄』……お前だろ? カミやん」

上条「随分と大仰なあだ名をつけてくれたもんだな。笑えねえ」

土御門「いや、大したもんだぜ。実際」

土御門「『トリック』、『バースト』、『テロル』。聞き覚えはあるか?」

上条「何となく、な」

土御門「どれもこの学園都市で、実力的にも、極悪ぶりでも上から数えたほうが早い武装集団だった。それを悉く壊滅させちまうなんざ……ちょっと信じられないぜ」

上条「大袈裟に言うなよ。俺は別に何もしていないぜ? きっと、そいつらの運が悪かっただけだろ」



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 19:58:05.09 ID:ji4/LZbu0
土御門「実はな、直接会って聞きたいことがあったんだよ。カミやん」

上条「なんだよ?」

土御門「さっきも言ったがお前が関わってきた連中は本当に凶悪な奴らだった」

土御門「『トリック』は人身売買を、『テロル』は無差別略奪を、『バースト』は薬物売買を生業にするようなクズの集まりだ」

土御門「何故お前はそういった連中に好んで近づく? どうしてお前は好んで死ににいくような真似を繰り返すんだ?」

上条「そりゃ、そっくりそのまま、死にてえからじゃねえの?」

土御門「な…」

上条「冗談だよ。金だ金。金のためだよ」

上条「俺は悟ったね。俺みたいな奴が無理やりでも幸せを掴もうとしたら、もう金しかないのさ」

上条「その金を手っ取り早く稼ぐためにそいつらに取り入って仕事もらおうとしてたら、あれよあれよとぶっ潰れちまったのさ」



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:06:45.76 ID:ji4/LZbu0
土御門「その割には、汚い部屋に住んでるんだな」

 土御門はにやりと笑って辺りを見回す。
 上条が住処としている廃墟ビル。その部屋の中も当然ひどい有様だった。
 壁も床も天井もいたる所にひびが入り、その破片は床に乱雑に散らばっている。
 家具といえるものは、その部屋にぽつんと置かれたベッドだけだった。
 それだって、カビだらけのマットに、すぐに外れてしまいそうなシーツが引っ掛かっているに過ぎない。

土御門「電気どころか、水道さえ通ってるようには見えないな。とてもとても金を持っている奴の部屋には見えん」

上条「おいおい、人の部屋見て笑ってんじゃねえよ。趣味悪ぃぞ」

土御門「ああ、すまんすまん。これはそういう笑みじゃないんだ。ちょっと、安心しちまってな」

上条「あぁ?」

土御門「すまんなカミやん。俺は嘘をついていた。俺は『七月二十八日に何が起こったのかを知っている』」

 土御門の言葉に、上条の顔色が変わる。

土御門「そうかそうか。金のためか。だからお前は、そんな無茶をしてまで―――」

上条「それ以上不愉快な口を利いてんじゃねえぞ、土御門」



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:14:14.41 ID:ji4/LZbu0
 上条が一歩、土御門に歩み寄る。
 じゃり、と破片を踏みつける音が鳴る。

上条「黙って聞いてりゃくだらねえことをべらべらべらべらと……おい、プライバシーって知ってるか?」

土御門「気を悪くしたか? なら謝るぜ」

上条「もうおせえよ」

 上条は握り締めた拳を土御門の顔面に振るう。
 そのいけ好かないサングラスを叩き割ってやる――つもりだった。

土御門「おっと」

 土御門は首を捻り、あっさりと上条の一撃を回避する。

土御門「俺にはカミやんと殴りあうつもりなんてないんだけどな……まあいい。同級生との殴り合いなんて、青春にはよくあることだろ! …ってふがっ!!」

 ゴヅン、と重い音がした。
 上条は右手を振るった勢いそのままに、土御門に向かって頭を叩きつけていた。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:23:06.32 ID:ji4/LZbu0
土御門「…ってえ! 野郎! もう手加減しねえぞ!!」

 鼻を押さえながら、土御門は上条の足目掛けて思い切り踏みつける。
 ダン!とコンクリートの床を踏みつける音が響く。

土御門「はあっ!?」

 土御門は驚愕する。
 コイツ――全く下を見ないで俺の一撃をかわしやがった!!
 上条は右拳を空振り、勢いそのままに土御門の顔に頭を叩きつけ。
 さらに、その勢いのまま宙を舞っていた。
 つまり。

土御門「前転宙返り――!? んなアクロバティックな!!」

 つまり、足を踏みつけようとした自分の行動は全くの愚策だったわけだ。
 後悔し、反省するももう遅い。
 上条は既に土御門の腕を絡め取っている。

 宙返りの勢いに引っ張られた土御門の足が床を離れた。



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:24:17.67 ID:Yvj8zH1h0
拳銃くらい使っていいのよ



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:24:38.10 ID:M+vaMPjN0
相変わらず強すぎwwww



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:28:46.24 ID:OpCLR/ZJO
この闇条さんは
レベル6の『危機理解』だからな


土御門じゃ勝てない




45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:31:49.54 ID:ji4/LZbu0
土御門「…んなろ!!」

 土御門は無理やり体を捻り、肩から落ちそうだった背中から落ちそうだった体勢を立て直す。
 無理やりな体幹の捻りに、みしみしと嫌な音が耳に届くが構ってはいられない。
 次が、来る。

土御門「ぐう!!」

 片膝をついた体勢だったところを思い切り蹴りこまれた。
 両腕でガードし、わざと踏ん張らないことで後ろに転がり、立ち上がる。

上条「家具がねえとこういうとき便利なんだよな」

土御門「思いっきり暴れられるからってか? ほざけ」

 じんじんと痛む両腕を振り、調子を確かめる。
 よかった。どうやら骨が折れたりひびが入ったりした様子はない。

土御門「参ったな……何でそんなに強いんだ? カミやん」

上条「鍛えたからだよ。当たり前のこと言わせんな」

土御門「なるほどにゃー」

 土御門は両腕を上げた。言わずと知れた降参のポーズだった。



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:38:29.34 ID:ji4/LZbu0
土御門「参った。降参だよ、カミやん。これ以上やっても勝てる気がしねーや」

土御門「ねーちんがタイマンで負けたって聞いたときは耳を疑ったけど、納得だぜい」

上条「ねーちん?」

土御門「おっと、こっちの話ぜよ」

上条「ふん……ところで、散々人のプライバシーを侵害しといてこの程度で許してもらえると思ってんじゃないだろうな?」

土御門「あちゃ。ならどうすれば許してもらえるんだ?」

上条「一生許さねえよ。二度と俺の前に現れるな」

土御門「……わーったよ。消えるさ、すぐにな」

 土御門は腰を屈めて、床にバラけてしまったプリントをかき集める。
 集めたそれを、土御門は上条に差し出した。
 上条は当然、受け取らない。
 土御門はため息をついて、プリントの束を床に置いた。



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:49:04.25 ID:ji4/LZbu0
土御門「学校来いよ、カミやん」

上条「しつけえぞ」

土御門「小萌センセイも会いたがってたぜ」

上条「なおさら行く気しなくなった」

土御門「なあカミやん」

 部屋を出る前に、土御門はもう一度だけ上条に向き直った。

土御門「カミやんには、きっと俺なんかには想像も出来ないようなことがたくさんあったんだろうとは思う。それでも、幸せになる権利ってのは、そうそう放棄するもんじゃない」

土御門「俺だってカミやん程じゃないにしろ、そこそこの不幸を抱えてるつもりだ。だけど、俺は俺の人生を諦めるつもりはない」

土御門「カミやんも俺もまだ高一だぜ? 世界に見切りをつけるには、早すぎるだろ?」

 土御門はそういい残して、最後に快活に笑って去っていった。
 部屋に残された上条は、床に置かれたプリントの束を蹴飛ばし、ベッドに腰を下ろす。

上条「見切りをつけるには早すぎる、だと?」

 ぽつりと、呟くような声でそう言って。

上条「ばーか。遅すぎたくらいだよ。あと三年は早く見切ってりゃ、親父も母さんも『アイツ』も助かったんだ」

 上条は快活に――歪な笑みを浮かべた。



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:51:39.28 ID:LPHvp6IN0
ああ、死ねないんだっけか



61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 20:58:26.87 ID:ji4/LZbu0
 カツン、という足音。
 上条はいらだったように、ガシガシと頭を掻いた。

上条「あの野郎……なにいきなり戻ってきてんだ。家の鍵落としたとか言い出すんじゃねえだろうな?」

 言って、上条はそこらの床に取り合えず目を落とす。
 とりあえず、目に見える範囲には――といっても、家具など置いていないので見えない範囲はベッドの下しかないのだが――何も落ちていない。

上条「なら、一体何の用で土御門の野郎は戻ってきたんだ?」

 カツン、と足音。
 入り口に現れる影。
 違った。戻ってきたのではなかった。
 やって来たのだ。新たな客が。
 いや――刺客、か。
 上条はもう一度、髪を掻き毟る。
 苛立ったように――バリバリと。

上条「千客万来、一難さってまた一難……最近特に極まりすぎだろ、俺の不幸も」

美琴「………」

 そこには、常盤台中学に所属するLEVEL5、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴が立っていて。
 包帯まみれの顔で、笑っていた。



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:03:35.41 ID:n4YUKfLiO
御坂さんは顔ボコボコのままか



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:05:42.09 ID:wbKW0h0z0
御坂の粘着っぷりが異常



71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:08:26.95 ID:ji4/LZbu0
上条「正面から堂々とまあ……いい度胸というか、なんというか……」

美琴「アンタに不意打ちは無駄だってことは散々学んだからね」

上条「もっと大事なことを学べよ……お前、本当に頭おかしいんじゃねえか? 俺に何されたか忘れたわけじゃねえだろ?」

 美琴の肩がふるふると揺れる。
 笑みに、揺れる。

美琴「忘れてないわよ……忘れるもんですか。忘れてないからこそ、私はこうしてここにいる」

上条「失敗から何も学ばねえ奴は馬鹿だ」

美琴「失敗を恐れて何もしない奴は愚か者よ」

 バリィ、と美琴の前髪から電撃が迸る。

美琴「そして私は愚か者にだけは死んでもなりたくない」

上条「じゃあ死ねよ」

 上条は拳を握る。ゆっくりとベッドから立ち上がる。

上条「もうわかった。今度こそ、今度こそだ。今度こそ、お前を動かしている『可能性』っていう幻想を殺しきってやる」



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:20:03.00 ID:ji4/LZbu0
美琴「こんのぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」

 狭い廃ビルの部屋の中で、極大の烈光が荒れ狂う。
 悪夢としか思えない殺意の塊に、しかし上条は動じない。
 揺るがない。
 やることはひとつだけ。
 己の右手を振るうだけ。
 それだけで、荒れ狂っていた電撃は霧のように消えうせる。

上条「学べよ! 俺の右手にお前の能力は通じねえ!!」

 上条は一歩踏み込む。次々放たれる美琴の電撃をものともせずに。
 目の前に垂れ下がったカーテンを振り払うような気軽さで、上条当麻はLEVEL5の力を消し飛ばす。

美琴「あああああああああああああああああ!!!!!!」

 それでも美琴はお構い無しに電撃を生み出し続ける。
 光が途切れることなく廃ビルの部屋を照らし続けている。
 もはや美琴の姿が上条から視認できぬほどに。
 しかし、関係がない。
 上条には関係ない。
 例え見えなかろうが、彼の体は反応してしまう。
 そうやって今まで不幸を切り抜けてきたし、不幸を振りまいてきた。

上条「ピカピカ見栄えはいいけどよぉ!! さすがにもう飽きたぜ!!」

 上条が美琴まで手の届く距離に―――踏み込んだ。



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:28:56.11 ID:ji4/LZbu0
 ――瞬間。
 電撃が荒れ狂う中を、光を反射させながら、突き出されるものがあった。

 ギリギリで――上条の体は反応していた。

 突き出されてきた御坂美琴の手首を、上条はその右手で掴み取っていた。
 美琴の手には、鋭く光る、小型のナイフが握られていた。

美琴「学ぶわよ」

 美琴の包帯まみれの顔が笑みの形に歪む。

美琴「アンタの右手は異能の力を無効にする……なら、物理的な力で打倒するしかないじゃない」

上条「……なるほど。単純明快なお答えで」



89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:37:39.32 ID:ji4/LZbu0
美琴「もちろん、用意したのは一本だけじゃないわよ!!」

 美琴の左手がスカートの下に潜り込む。
 取り出されたナイフが上条の心臓を狙う。
 上条は舌打ちして、掴んでいた美琴の右手首を思い切り捻り上げた。

美琴「あう!」

 右手に引っ張られる形で、美琴の体勢が崩れる。
 上条に向けて背中を晒す形になってしまった。これでは左手のナイフは用をなさない。

 それでいい。それで何も問題はない。

 大事なのは、今、アイツの右手が塞がっているということ―――!!

美琴「ずあああああああああああ!!!!!!」

 位置はわかる。自分の右手を掴んでいるアイツの腕を追えばいい。
 美琴は渾身の力を込めて電撃を生み出そうとして――ぷしゅう、と間抜けな音がした。

美琴「え?」

 美琴の頭を撫でるように、電撃の出所を、上条当麻の『右手』が押さえていた。



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:49:37.69 ID:ji4/LZbu0
美琴「そんな……右手は私の右手を掴んでいたはず……」

上条「おいおーい。アホかお前は。『右手』は俺の切り札だぜ? いつまでも使用不能の状態にしとくかよ」

 単純な話だった。上条は美琴を掴んでいた手を右手から左手に入れ替えただけ。

美琴「そんな…だって……! そんなのいつの間に……!」

 それでも、単純明快なその方法を聞いても、美琴の混乱は解けない。

美琴「そんな、そんな感触しなかったのに…! 私、ずっと確認してたのに!!」

上条「だからまあ、気付かれないようにやったってだけの話さ」

 上条は飄々と言ってのけた。

上条「人間が、同時に二つの物事を考えながら進行させるってのは不可能だからな。片方の事柄を自動的に行えるほど熟達してるってんならともかくよ」

上条「俺に手を捻り上げられて痛みを感じてたお前、俺の位置を背中越しに探ろうと意識を集中していたお前、どっちも笑っちまうくらい意識の隙がでかかった」

上条「どっちの時に入れ替えたのかはご想像にお任せするぜ……さて、んじゃ」

 上条は掴んでいた美琴の腕ごと背中を押した。
 カランカランと音を立て、美琴の手にあったナイフが床に落ちる。
 美琴が押し倒された先にあったのは――ボロボロのベッドだった。

上条「お仕置きの時間だぜ。ビリビリ」



99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:00:02.31 ID:ji4/LZbu0
美琴「ひ、や、あ」

 これから何をされるのかは、今まで散々経験したことだから、勿論わかっている。
 美琴はベッドの上を、四つんばいになって逃げた。
 少しでも上条から距離を取ろうと。
 でも、その方向には窓枠のついていない、吹きっさらしの窓があるだけだ。

美琴「いや、やだ、お願い……許して……!」

上条「オイオイ今日はいつにもまして無様じゃねえか。いつもはもっとこう、まさしく殺意を込めた目で俺を睨みつけてくるくせに」

美琴「今日だけはイヤ…! 今日だけは本当にダメなの……!」

上条「おう、なんてこった。その様子じゃいつもと違う『事情』があるのなんてわかりすぎるくらいにわかっちまう」

上条「さっきまでの俺ならさすがの罪悪感に耐えかねて、行為を中断しちまうかもしんねえが、しかぁし」

上条「あいにくだったな。本当についさっき、俺は決意しちまった」

 ベッドの上で、震える美琴に上条はにじり寄る。
 その顔に、ことさらに醜悪な笑みを浮かべて。

上条「俺は今日、お前の中にある希望(げんそう)を殺しつくす、ってな」



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:02:15.61 ID:vqyI00kK0
危ない日?



103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:02:43.73 ID:3XlS+G/t0
>いつにもまして
>いつにもまして
>いつにもまして


>その様子じゃいつもと違う
>その様子じゃいつもと違う
>その様子じゃいつもと違う




何度目だ!テメェら!!




95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 21:51:38.01 ID:k7xuUXpU0
間違いなくこの美琴は犯されに来ている(^o^)



113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:10:19.63 ID:ji4/LZbu0
 『お仕置き』と呼ばれた、唾棄すべき行為を終えて――直後だった。

 泣きながら、泣いたフリをして見せながら。
 美琴は、この時を待っていた。
 たとえ、どんな人間でも無防備になってしまうその瞬間。

 交尾の中で、雄としての役割を終えたその瞬間。

 その瞬間を、美琴はただひたすらに待っていたのだ。

 御坂美琴は学んでいる。
 電撃は効かない。あらゆる異能は上条当麻の右手の前には無力化する。
 だからといって――私がナイフを持ってみたところで、かなうものか。
 そんなことは――わかりすぎるくらい、わかっていた。

 だから。
 美琴は能力を発動させる。
 生み出すのは、電撃ではなく、磁力。
 さっきわざと床に落としたナイフと美琴を結ぶライン上には、上条当麻の体がある。

 つまり。


上条「成程、それがいつもと違う『事情』ってやつか」


 人間であれば必ず無防備になってしまうその瞬間に――上条当麻は、そう言った。



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:12:16.16 ID:GWuAPUo20
よかったなお前ら

行為の後で




117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:12:58.04 ID:ryi4DBYEO
え…………事後?



123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:22:48.04 ID:ji4/LZbu0
美琴「え…?」

 ナイフは音もなく飛来する。
 間違いなく上条当麻は後ろを振り向いてなどいない。
 ただ、美琴に向けて笑って見せただけだ。

 そして、上条はボロボロのマットにかけられた、すぐにはずれそうなシーツを引き抜き。
 横薙ぎに振るうことで、飛来するナイフを払い飛ばした。

上条「オーレイ! ってか?」

 直後に上条はナイフと美琴を結ぶ直線上に右手を差し込む。
 美琴からナイフに伸びていた磁力がプツリと切れ、ナイフがカタンと床に落ちた。

美琴「なに……なんなのよアンタ……人間じゃない……! 人間じゃないわ……!!」

上条「おう、ようやくわかったか。実はそうなんだ」

 上条は床に散らばっていたズボンを拾い上げる。

上条「俺の正体を教えてやろうか?」

美琴「何よ…何者なのよ、アンタは……」

 拾い上げたズボンをそそくさとはきながら、上条は笑った。

上条「関わるもの全てに不幸をもたらす『災厄』そのもの。それが俺だ」



126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:26:27.09 ID:mml6mU190
なんだ災厄ならしょうがないな



125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:24:21.56 ID:fhmJCBw+O
そろそろ楽にしてやれよ



128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:28:08.67 ID:AFJou1+R0
一方通行が言ってた前兆の感知が究極まで高まるとこうなるわけか



131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:32:47.74 ID:ji4/LZbu0
美琴「意味……わかんない……」

上条「わかんねえか? 関われば関わるだけ損ってだけの話だよ。お前ももう来んな。マジで。かなりマジで」

美琴「ふざけないでよ……許せるわけないでしょ。ここまでの…ここまでのことをしておいて……!」

上条「ぜーんぶ、『来たらやるよ』って予告してたんだけどな」

美琴「うるさい! これ以上襲われたくないなら、いっそ殺しなさいよ!!」

上条「あぁ?」

美琴「そうよ! 殺せばいいんだわ! アンタに勝てないなら、生きてる意味なんてないんだしね!!」

上条「オイオイ……」

美琴「殺さなきゃ、私はずっとアンタを狙い続けるわ! 地の果てまでも、地獄の底までも!!」

上条「それでも、お前は俺には勝てねえよ。無駄なことはやめて、もっと建設的なことしろって。な?」

美琴「なによ? 殺せないの? 殺せないんでしょ。そんなヘタレの分際で偉そうに上から物を言わないでよ」

上条「……」

美琴「アンタのこと、調べてないとでも思ったの? 色んなところにハッキングして、出来るだけの情報は集めたわよ」

美琴「笑わせるわ。笑わせるわね、アンタ。『災厄』だなんだって、偉そうに物を言っておいて」

美琴「自分から人を殺したことなんて、ないくせに!!」



133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:41:15.39 ID:ji4/LZbu0
 ブチリ、と脳みそのどこかで何かが切れた。

上条「おーけぃ、わかった。わかったよ、御坂美琴」

 それが――お前の幻想の、源か。
 なら、そんな幻想は――殺さなくっちゃな。

美琴「気安く名前呼ばないでよ」

上条「いいじゃねえか。まさしく今生の別れってやつなんだからよ」

 上条は美琴の首に手をかける。
 美琴は上条によって衣服をひん剥かれ、全裸だ。
 隠し武器など持ちようがない。
 上条の暴力に抗う術など、持ちようがない。

上条「あばよ」

 上条は、首にかけた右手で美琴の体を持ち上げ――窓の外に、放り投げた。
 下を確かめることはしない。
 死んだかもしれないし、死んでないかもしれない。
 どうでもいい。殺そうとした結果さえ残ればそれでいいと、上条は思う。

 疲れた。とにかく、新しい寝床を探さなくては。



151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 22:54:21.39 ID:ji4/LZbu0
 もちろん、御坂美琴は死んでいなかった。
 彼女の能力によって生み出された磁力によって、美琴は呆気なくビルの下に着地する。
 落ちてきた窓を見上げた。四階の窓。上条当麻は顔を覗かせもしない。

美琴「ほら、殺せない。その程度よ。アンタ、その程度なんだわ。その程度で、『災厄』だのなんだの、ホントちゃんちゃらおかしくって笑っちゃうわ」

美琴「女を犯すことすら、『来たお前が悪いんだ』って理由付けないと出来やしない、小物。弱虫」

美琴「焼き殺してやるわ。いずれ、必ず」

 美琴は踵を返し、その場を後にする。
 はたと気付いた。
 全裸だ。さすがにこれでは街を歩けない。

男A「親方! 空から女の子が降ってきました!」

男B「しかも全裸です!!」

男C「なんつってな! やべえ、超ウケる!! こういうのってあれだよな、据え膳っていうんだよな」

男A「ん~、包帯で顔が見えないのがネックだけど、逆によしとしよう。好みの顔じゃなかったらなえちゃうし」

 ゲラゲラと笑う男達に、美琴も微笑んで見せた。

美琴「好みの服は誰も着てないけれど……ま、頂いとくわ。贅沢は言えないもんね」

 バヂン! と音がした。
 黒ずんだ男たちが倒れ付した上を、美琴は悠々と歩き去っていく。

 最後に、美琴はもう一度だけ、上条の住んでいる部屋の窓を見上げた。




183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:00:30.30 ID:CRwqzEY20
原作だと上条さん居候のせいで性欲処理大変そうだもんな
こうやって通いで性欲処理してくれる相手が居るのは恵まれとるなぁ




182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/02(火) 23:59:41.17 ID:ji4/LZbu0
 上条当麻と御坂美琴の出会いについて、少しだけ語ろう。
 とはいえ、それはとてもありふれた出会いだった。

 人を助けるために力を惜しまぬLEVEL5、御坂美琴。
 人を巻き込まないように力を振るわぬLEVEL0、上条当麻。

 二人の出会いは、やっぱり薄暗い路地裏だった。

 その時御坂美琴はいつも通り、不良に絡まれていた女の子を助けていて。
 上条当麻はいつも通り、不幸にもその現場に居合わせていた。

美琴「アンタが親玉ね?」

上条「いや、そりゃお前の盛大な勘違いだ」

 それが二人のかわした最初の会話だった。
 それからのことは、恐らく語るまでもないことだろう。
 御坂美琴の能力は上条当麻の『幻想殺し』の前に、完膚なきまでに通じず。
 こうして、一方的なおっかけっこが始まった。

 ただし、美琴が上条を追いかける理由は、単純な興味とは少し違っていた。
 美琴の認識として、上条はまぎれも無く『悪』だったし、上条は別にそれを否定しなかった。
 御坂美琴は『悪』を許せない。幼い頃から自分の能力が誰か他の人のために役立てば、と願っていた。
 その思いが、確固たる意志が、彼女を学園都市第三位の能力者にまで引き上げたのだ。

 だから彼女は、端的に言って、上条当麻の存在が許せなかったのだ。



184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:05:31.23 ID:YTeyW4S90
 御坂美琴が追いかけ、上条当麻が逃げる。
 それは、傍目には微笑ましく映るほどの掛け合いだったのかもしれない。
 事実、美琴の後輩である白井黒子などは、上条当麻のことを妬ましく思っていた。
 御坂美琴も、自分の全力をぶつけられる相手として、上条当麻を憎からず思っている部分も、確かにあった。

 そして、上条当麻はそれを敏感に感じ取った。
 結果、彼の取った行動は。


 ぐしゃり、と肉を叩く音。

美琴「……え?」

 ぼたぼたと零れる鼻血を、美琴は呆然としたまま拭う。

上条「いい加減にしとけよ。次に来たら一発じゃすまさねえぞ」


 彼の取った行動は、迎え撃つことだった。



189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:15:36.04 ID:YTeyW4S90
 上条当麻は、人と関わり合いになることを極端に嫌う。
 その心中は定かではないが――とにかく、彼は人と馴れ合うことを病的なまでに嫌っていた。
 いや、それはまさに――病、だったのだろう。

 ともあれ、彼は殴った。
 女の命ともいえる、顔を。
 それで、御坂美琴の心は折れるはずだった。
 上条の知る常識の中では、それで他人は自分と距離を置くようになるはずだった。

 すなわち、御坂美琴は上条当麻の常識をはるかに超えた女だった。

 彼女は折れなかった。彼女はめげなかった。
 『悪』に敗北する自分を――認めなかった。

 上条は御坂美琴のことが理解できなかった。
 理解できぬままに、とにかく心を折ることを考えて、叩いて。
 叩いて。叩いて。叩き続けて。
 それでも彼女の心は決して折れず、ただ曲がっていった。
 曲がって、曲がって、捻じ曲がっていった。
 最初の確たる思いだけが綺麗に残り、それ以外は見ていられないほど歪な形になってしまった。

 御坂美琴は上条当麻を超えるためだけに。
 上条当麻は御坂美琴の心を折るためだけに。

 歪に捻じ曲がったまま、二人の関係は今へ続いている。



193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:25:35.87 ID:YTeyW4S90
 そんな御坂美琴が、目の前で死んでいた。
 上条当麻は、その光景をしばらく呆けたまま見つめていた。

上条「ああ、待て待て。整理しよう」

 上条はふるふると頭を振った。

上条「え~と、昨日まで寝床にしてた所が土御門やらビリビリやらに見つかって、俺は引越しを余儀なくされて」

上条「んで、ちょっとやそっと隠れたぐらいじゃ多分あっさり見つかっちまうから、もういっそのこと屋根なんかいるか~ってことで、とにかく人が近寄らない所を吟味して決めた」

上条「オーケィ。確認終了」

 あらためて上条は前を向き直る。
 血溜りの中、うつ伏せに転がる少女。
 灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーター。
 あまりにも、見覚えがありすぎる。

上条「それで、何でこんなことになるんだよ……」

 上条はボリボリと頭を掻く。
 苛立ちから、乱暴に、ガシガシと。


「オイオイ。部外者の乱入かよ。この場合、実験ってのはどうなっちまうンだ?」


 声が聞こえた。
 不愉快な声だ、と上条は思った。



203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:35:51.71 ID:YTeyW4S90
 もはや紹介するまでもないだろう。
 彼を見れば、裏の世界で生きているものならば、誰でも気付く。
 その真っ白な髪を、血のように赤く輝く瞳を見れば。

 彼が、学園都市で最強の怪物であると。

 学園都市第一位のLEVEL5、『一方通行(アクセラレータ)』。
 もちろん、上条もまだ極短期間とはいえ裏の世界に身を置いている。
 彼の噂を耳にしたことはあった。

上条「おいおいおいおい……俺はさあ、俺はだよ? 誰にも会いたくないって思ってこの場所に来たのにさあ。不幸にも程があんだろコレよお」

一方通行「へェ…随分と余裕じゃねェか。面白ェなオマエ」

 月明かりが二人を白く照らしている。
 まるで鏡を通して向かい合っているような錯覚を、上条は覚えた。
 きっと、目の前の第一位も似たような感覚を覚えているに違いない。
 上条には、何故かそう思えた。



208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:46:39.99 ID:YTeyW4S90
上条「ところでひとつ質問だ」

一方通行「あン?」

上条「そこで転がってる『ソレ』、知り合いに似てんだけど」

一方通行「あァ、オマエ『オリジナル』を知ってンのか。安心しな、そいつは違ェよ。そいつはただの『レプリカ』だ」

上条「レプリカ…?」

 言われてみれば、倒れているその少女は顔に包帯を巻いていない。代わりに、妙なゴーグルを額に着けているが。

一方通行「クローンだよ、要するにな。ここはよ、俺を『LEVEL6(絶対能力者)』に進化させるための実験場なのさ」

上条「おいちょっと待てお前何語りだしてんだ」

一方通行「二万体のクローンを皆殺しにすることでLEVEL6に到達出きるって、何か計算結果が出てるンだとよ。ンで、俺はそれに従ってプチプチプチプチ経験値稼ぎに勤しンでいるわけだ」

上条「やめろオイお前ソレあれだろ、絶対機密情報だろ。知ったやつは皆殺しとかそういう話に持っていくんだろ」

一方通行「オゥ、多分そうなるだろな」

上条「ふざけんな! 何の恨みがあってそんなこと!!」

一方通行「いンやァ、何となく。何か見てるだけでムカツクンだわ、オマエ」

上条「気が合うなクソッタレ!!」



214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 00:55:36.62 ID:YTeyW4S90
上条「……どうせここまで聞いちまったらもう耳塞いだって無駄だろ」

一方通行「安心しろ。目撃者の処理まで俺が相手するわけじゃねェ。命令は来るかもしれねェが、面倒くせェから引き受ける気もねェし」

上条「あっそ。死ぬほど安心したよクソッタレ」

一方通行「そのわりにゃ、怯えてるようには見えねェな」

上条「カッコつけてんだよ、男の子だからな」

一方通行「ハッ、カッコイイじゃねェか。プチっと捻り潰したくなンぜ」

上条「そんで、何でお前はこんなことやってんだ?」

一方通行「あン?」

上条「今でも十分なんじゃねえの? 確かお前学園都市最強のLEVEL5なんだろ?」

一方通行「理由なンざ簡単だよ。オマエみたいな舐めたクチ聞く奴がまだいるからだ」

上条「はぁん、成程ね」

一方通行「俺は『無敵』になりてェのさ」



221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 01:05:26.56 ID:YTeyW4S90
上条「最強じゃ足りないってか」

一方通行「そうさ、最強なンてモンじゃ、まだ足りねェ。比べるのもアホらしくなるほどの無敵。それに俺はなりてェのさ」

一方通行「そうすりゃ、ブンブンブンブンうざってェ虫が纏わりつくことも無くなンだろォさ」

上条「成程ね…全く持って、成程だわ」

 だからか。上条は一人納得する。
 だから、俺はお前が気に入らないんだ。

上条「要するに、敵を無くしたいわけだ。寂しがりやさんだな、第一位」

一方通行「……クスリともこねェ冗談だ。オマエは誰おちょくってンのかわかってンのか?」

上条「なんだっけ? アセロラベータさん?」

一方通行「愉快な間違いしてンじゃねェよ。健康食品じゃねェっつの」



226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 01:13:24.36 ID:YTeyW4S90
 一方通行は上条に背を向ける。

一方通行「まァいい…さすがに眠てェから、今日のところは見逃してやンよ」

上条「そりゃあ、ありがたい話で」

一方通行「遠からず俺以外の誰かがオマエを殺しに来るさ。それまで精々震えて眠りな」

上条「マジでか。そりゃあ楽しみだ。楽しみすぎて、寝付けそうにねえよ」

一方通行「じゃあな」

上条「おう」

 まるで友人のように二人は手を振り合って別れた。
 御坂美琴のクローンの死体を挟んで、鏡のように同じ動きで。

 こうして上条当麻と一方通行は出会った。
 それは何の変哲も無い、静かな出会いだった。



222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 01:10:35.37 ID:++qO2zGFO
そういえば根底にあるモノは同じなんだな
もう誰も傷つけたくないってのが




237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 01:25:37.29 ID:hj3kqvYXO
なんかこの一方さん原作より強そうだな




236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 01:24:25.79 ID:YTeyW4S90
 翌朝、上条はとある情報屋を訪ねていた。

情報屋「うげっ、上条当麻」

上条「オイオイ、そんな露骨に嫌な顔すんなよ。傷つくな」

情報屋「そりゃ、お前に関わった奴がどんな目にあってきたかを知ってりゃ、こんな反応になるよ」

上条「聞きたいことがあるんだよ」

情報屋「いーやーだ。お前とは関わり合いを持ちたくない」

上条「そういうなよ。24時間お前の周り付き纏っちゃうぞ?」

情報屋「そ、そいつはマジで勘弁してくれ! 何でも話すから!!」

上条「最初っからそういう態度でくりゃいいんだよカス」

情報屋「お前よぉ…カタギの人間巻き込むのは病的に嫌うくせに、俺らみたいな人種には嬉々として関わってくんのマジでやめてくれよ……それでいくつの組織が潰れたと思ってんだよ」

上条「勝手に人の行動を分析してんじゃないよ。不愉快な野郎だね」

情報屋「お、怒るなよ……それで、何が聞きたいんだ?」

上条「おう、それがな……」



244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/03(水) 01:33:13.38 ID:YTeyW4S90
情報屋「そりゃ、『絶対能力進化計画』だな」

上条「はーん、あの野郎マジで本当のこと言ってたのかよ。むかつくね」

情報屋「『神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの』……LEVEL6。正直、眉唾モンだとは思うんだけどな、凡人たる俺としちゃあ」

 学者さんの考えることはわからんね、と情報屋は首を振る。
 上条は、それから計画の内容を詳しく情報屋から聞きだした。

上条「要は、何とかして神様に近づこうって実験なわけだ」

情報屋「ざっくばらんに言えばな」

上条「いいね。興味が湧いてきた。料金はいくらだ?」

情報屋「いらねえよ。その代わり、二度と俺には近づかないでくれ」

上条「ははは、そりゃいい買い物したな、お前」

 上条は快活に笑って情報屋の部屋を後にした。
 情報屋は上条が去った後、こっそりと塩をまいたのであった。




次→上条(悪)「この右手で、殺してやるだけさ」【後編】



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