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◆TOYOUsnVr. 2020/11/16(月) 01:01:28.51
ID:/zpbsw/P0
それは、よく晴れた日のことだった。
稲穂が風に吹かれて、金色の海が波打っていて、あとの視界にあるものと言えば、空に浮かぶ薄く伸びた雲ぐらい。
美しくのどかな景色に心を奪われながら、視線を隣に泳がせる。
そこには、額に脂汗を浮かばせているプロデューサーさんがいて、甘奈はごくりと唾を飲んだ。
しきりに「なんで」だとか「どうして」だとか、そのような言葉を繰り返すプロデューサーさんの隣を、甘奈は黙って歩くしかなかった。
もう、かれこれ数時間、この状況が続いている。
視線を正面に移す。
まっすぐに伸びたあぜ道には看板や柵などの一切の人工物はなく、地平の先まで続いている。
後ろを振り返っても同様で、左右は地平の先まで田んぼだけ。
前に進むしかない。
何もわからないままに、プロデューサーさんとそう決めて歩き出してから、ずっとこうだった。
引き返したほうがいいとも思えるけれど、既に数時間歩いている上に間もなく陽も落ちる。
道が続いている以上は進むほかなさそうだった。そういう結論をプロデューサーさんが出した。
「甘奈。足、痛くないか……?」
苦虫を噛みつぶしたような顔で、プロデューサーさんが甘奈を見る。
彼の問いかけに「うん、大丈夫だよ。それにしても、スニーカーで来てよかったよー」といつもどおりを返す。
それが却ってよくなかったのかもしれない。
プロデューサーさんは、甘奈の足を一瞥して、いっそう顔を青白くさせて「そうか」と呟くのだった。
甘奈、何かおかしなこと言ったのかな。
変なプロデューサーさん。
確かに、状況はおかしなことになっちゃってるけど、プロデューサーさんだっているし、甘奈はあんまり不安じゃないのに。
どうしてあんなに慌ててるんだろう。
そのようなことを考えながら、プロデューサーさんの歩調に合わせて、甘奈はただただ足を無心で動かす。