ゼロの使い魔 ルイズ (1/8スケール PVC塗装済み完成品)前→
五条「願わくば、もう一度貴女をこの手に抱きたい」最初から→
五条「貴方が殺せと言うなら神だって殺しますよ」298:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 11:53:34.43
ID:jds2lYUL0フーケ「なんで、って顔してんな……?」
顔を見つめるフーケがそう言うのならば、自分の顔は大層間抜けに映っていることだろう。
それもそうだ。
なにしろこの盗賊、トリステインに忍び込んだかと思えば、牢獄から抜け出しアルビオンに向い、そこからもいなくなったかと思うとこの戦場に現れる。
神出鬼没。この女の二つ名は土くれよりもそちらの方が似合っている。
今この状況を手放しに飲み込める人間がいるのだろうか?
いつの間にか止まっていた呼吸も一定のリズムで刻みだしている。
フーケというイレギュラーによって、生きている奇跡が霞んでしまった。
フーケ「ヒャハハハハハハ! 血なまぐさい戦場だが、テメェのマヌケ面が拝めただけでも十分ってもんだ!!」
死体がゴロゴロ転がる此処には相応しくないだろうフーケの馬鹿笑いを聞き、はあ、と大きなため息で眉間を押さえる。
299:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 11:57:19.59
ID:jds2lYUL0五条「オマエは……馬鹿ですか……?」
フーケ「ああん!? クソゴジョー! 助けてもらっておいて何だその態度は!?」
五条「自分がどこに来てしまったか分かってるんですか……?」
フーケ「当たり前だ!」
フーケは鼻をフンスと鳴らし、胸を張る。
流石にルイズよりは……
視線を顔に戻す。
五条「だったら何故ここに……まさかわざわざオレを殺しに戦場まで来たとでも?」
フーケ「ばーか、恋人じゃねぇんだ、一々テメェを探してここまで来るかよ。あたしにゃあたしの目的があっているの」
五条「目的……?」
フーケ「小賢しいテメェならわかんだろ。あたしがアルビオンに残った理由がな」
理由。
フーケの行動パターンは至極シンプルだ。
それは大まかに言えば欲しいか欲しくないか。
多少の例外はあるとしても、この盗賊がアルビオンに残った訳は一つ。
300:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:01:43.49
ID:jds2lYUL0五条「テューダー王家の財宝……といったところですか」
フーケ「ザッツライ! 待ってんだよあたしは。王家がさっさと崩壊して、城に眠ってる財宝を盗み出すことをね」
フーケ(ま、『あの娘』の様子を見に来たってのもあるがな……)
五条「……どこで聞いたんです、その話は」
フーケ「街の酒場。店主のジジイが姐ちゃんは綺麗だからって教えてくれたんだよ」
そんな物が本当に存在しているのならば、是非とも見せてもらいたい。
砲台もまともに作れない王家に財宝?
眉唾もいいところだ。
この盗賊、その話を本気で信じているのだろうか?
そうだとしたらあまりにもお粗末な話だ。
フーケ「だからよぉ、王家が潰れるのを今か今かと待っていたんだ。だが持って一週間だと言われてたアルビオンはひと月経っても潰れやしねえ」
フーケ「不思議に思ったフーケちゃんは酒場で詳しく話を聞いた」
フーケ「……ロマリア人も吃驚だよ。潰れかかってたアルビオンが段々復活してるって、そりゃどういう事だと問いただした」
フーケ「そしたら『トリステインの黒い悪魔』ってのが独りでレコン・キスタをボコボコにのしてやがるって言うもんだからね、どんなもんかと面を伺いにきたら……あら知ってる顔じゃないかと思ったわけさ」
フーケ(そんな馬鹿なことする奴はテメェかあの金髪色男しかいねえと思ったけどね……)
301:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:04:30.25
ID:jds2lYUL0一頻り話し終えたフーケは敵軍を見据える。
レコン・キスタ軍はまだ自分とフーケの存在に気づいていない。
大方、フーケが土を巻きあげて姿を晦ましたからだろう。
しかし、それも一時のハーフタイム。
じきに自分とフーケを見つけ、なぶり殺しにするだろう。
フーケ「フン、頭数ばっかり揃えた烏合の衆だよ、アイツらはね」
吐き捨てる様にそう言い放った盗賊は懐から細長いパイプを取り出し、指を鳴らす。
葉に着火された火の粉はパイプの先に明かりをともし、特有の香りが戦場の匂いに混じり合っていく。
フーケ「そういえばテメェのお仲間はどうしたんだい……? 大事なご主人様をほっぽって独りで戦場としけ込むたぁ、らしくないんじゃあねぇか」
五条「……」
フーケ「ヒャハ、だんまりかい。別に言いたくないなら無理に聞き出そうとは思わないし、どうでもいいけどね」
口から吐き出された煙が輪の形で、たゆたう。
302:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:07:30.63
ID:jds2lYUL0五条「……ワルドを殺しました」
フーケ「知ってる」
五条「この戦場でも多くの人間を殺した……!」
フーケ「それも知ってる」
五条「もうこの手は血で汚れている。だから……彼女に触れることは、許されない。グラモンさんたちにも会うことは出来ない」
フーケ「は! 勝手に責任背負って、顔見せられないから逃げてるってんじゃ……その辺の雑魚と変わらない気がするがねぇ」
罪を犯した人間には罰が課せられる。
もうフーケのやってきた事を責める立場ではなくなった。
いや、フーケよりももっと重い。
抜け出せない迷宮を、彷徨っている。
躯には枷を。
心には鎖を縛り付けて。
へばりついた血を血で洗うように、戦ってきた。
303:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:13:41.14
ID:jds2lYUL0五条「何故助けた……?」
フーケ「あ?」
五条「オマエにはオレを殺す義理はあっても、助ける義理など無いはずでしょう」
フーケ「そりゃそうだ。あたしにとっちゃテメェは臭い飯食わせてくれた恨みがある」
五条「だったら何故……!?」
フーケ「なんでだろうねぇ」
とぼけた振りをして首を傾げるフーケ。
曇った空をキャンバスのように、紫煙がとらわれること無く自由に色をつけた。
黒い雲が頭上に覆い始める。
一雨きそうだ。
フーケ「助ける気なんて最初はなかったさ」
フーケ「ただ、ボーッとテメェを見てたらむかっ腹が立ってきた」
フーケ「あたしと戦った時より腕は数段上がってるみてぇだが……どっかで迷いがあるって思ってね」
304:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:18:23.67
ID:jds2lYUL0五条「……」
フーケ「それに、あたしゃ多対一ってのが気に入らないんだよ」
フーケ「それだけさ」
そこはかとなく自分を見るこの盗賊は何を思う。
五条「そんな理由で……」
フーケ「人なんてそんなもんだ。特にあたしは天邪鬼だからね、考えてることと反対のことをすることだってあるのさ」
五条「オマエには家族がいないのですか……?」
フーケ「いるよ」
にべもなくそう答えたフーケはパイプから灰を捨てる。
風が吹き、その灰は地面に落ちること無くどこかに消え去ってしまった。
五条「だったら尚の事、この戦いに加わる必要はないはずです」
フーケ「……テメェを助けた時点でアイツらはあたしも潰しにかかるだろう?」
305:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:23:52.44
ID:jds2lYUL0五条「しかし……悲しむ人間がいるのなら戦場に来るべきじゃない」
フーケ「そりゃあたしにじゃ無く、自分に言いな」
五条「……」
フーケ「しけた面しやがって……似合わねぇんだよ」
パイプを逆さにして、中の葉を捨てる盗賊。
フーケ「あたしにはガキがいる、だから死なない」
五条「……!」
フーケは見たところ自分より十は年上。
子どもがいてもおかしくない年齢ではあるが、その風体からかそんな雰囲気を微塵も感じない。
貴族を捨てざるを得なかったのもそれに関係しているのか。
306:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:28:54.34
ID:jds2lYUL0フーケ「と言っても腹痛めて産んだ子じゃない……は、ホント言うとこんな身の上話をするのが嫌いなんだけどね。仕方ねぇから冥土の土産に聞かせてやるよ」
苦虫を噛んだ表情で語り始める。
フーケ「あたしの親父はサウスゴーダの太守だった。結構イイトコのお嬢さんだったんだぜ……だけど理由あって、貴族の名を剥奪された」
フーケ「うちの親父が、王の兄弟の妻と子どもを匿ったんだ。外から来たテメェにゃ分かんねぇかもしれねぇが……その母娘はエルフでね。しがらみの腐るほどある中、エルフとガキをつくるなんざ絶対に許されないことだった」
フーケ「だが王弟モード大公に恩義と忠誠を持ってたウチは、領地で二人を守ったんだ。その結果、国王から家名を消されてね」
フーケ「家を失った今も……ある村に匿ってる。その村には親のいないガキ共もたくさんいる」
五条「……」
フーケ「エルフであるその子が乳飲み子のときから仲良くしてたんだ……絶対に虐げられるような生活はして欲しくなかった」
フーケ「最初は……色んな貴族に頼み込んださ。貴族だった頃はそれなりに地位もあったし、一つぐらいは手を差し伸べてくれる家があるんじゃないかと思った。だけどうちに尻尾振ってた奴らは皆、貴族じゃなくなった途端見向きもしなくなった」
307:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:36:05.21
ID:jds2lYUL0フーケ「……全く、自分がどれだけ甘ちゃんだったかを思い知った。貴族なんて所詮権威と利益だけが大事なのさ。何の力もない私に手を貸そうなんて奴は誰もいない」
フーケ「あたしは貴族が嫌いになった」
フーケ「自分を捨てなくちゃ……その子達を守れない。手を汚さなくちゃならなくちゃ、誰も守れなかった。マチルダ・オブ・サウスゴータで無くなったあたしにゃ、この世の中、裏の世界で生きる以外に手段は残されてないのさ」
フーケもまた、名を捨て、身を切り生きてきた女だったのか。
純粋な『悪』ではなかった。
フーケ「後はテメェも知っての通りさ。貴族相手に阿漕な盗みをして、時には人を殺すことだってあった……あたしの背中には何十人もの憎しみと怒りが乗っかってる」
五条「フーケ……オマエは」
フーケ「よしな。下らない同情の言葉が聞きたくてこの話をしたんじゃない。誰がどうみてもあたしが下衆な盗賊なのは事実」
フーケ「でも後悔はしてない。ただ、これが生きる道だったというだけさ」
308:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:41:05.70
ID:jds2lYUL0フーケは自分の顔を見ているが、その実、見ているのは顔ではない。
もっと心の奥にあるしまいこんだはずの迷いをはかっている。
決意の裏に隠れた、後悔。
捨てたはずの未来。
五条「オレに……どうしろと。望んでも手に入らないんですよ、罪に汚れたこの手では」
恐怖を感じた。
フーケの強さではないもっと大きなものに。
騙し騙し続けてきた、この戦いが足元から崩れるような感覚を覚える。
一度壊れた心のドアは中から自分の弱さを止めどなく放出する。
310:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 12:49:13.25
ID:jds2lYUL0フーケ「なにがあったかは知らねぇ」
フーケ「でもな、人間には……色んな選択に迫られる時がある」
フーケ「それは多く見えるようで、実際には選べるものなんて殆ど無い。しかも出される選択肢は大概はロクなもんじゃねえ」
フーケ「少なくともあたしはそうだった」
フーケ「その中でも、悔いがないように生きていくしかねぇんだよ」
フーケ「テメェはどうなんだ。選んだように見せかけてるだけじゃないのか? 本当に納得した道を選んでいるのか?」
フーケ「自分の選んだ道に、真正面から向き合えるのか?」
何も知らぬはずの盗賊の言葉は、持っている迷いの芯の部分を突いてくる。
313:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:04:24.55
ID:jds2lYUL0フーケ「向き合ってないだろ、テメェは」
フーケ「自分にも、あのピンク色にも」
フーケ「罪で汚れたからってかこつけて、本質から目を背けてるだけじゃねぇか?」
フーケ「そんな風に見えるね」
フーケ「殺さなかったら、なんて馬鹿な事言うんじゃないよ」
フーケ「ワルドを殺さなければ……テメェの大事な主人は殺されてた。あのときのテメェに他の選択肢なんて無かったはずだ」
フーケ「あたしゃ殺しが良いとも悪いとも思わないが……もしあたしの大事なものに誰かが土足で踏み込んできたとしたら……情け容赦なくソイツを殺すね」
空から水滴が一粒、落ちてくる。
すぐにそれは雨となって、熱く燃ゆる大地を冷やし始める。
濡れた服のしっとりとした感触が肌に伝わる。
この瞬間だけは向きあうフーケと自分の世界になった。
314:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:14:04.28
ID:jds2lYUL0整ったフーケの顔を冷たい雨が濡らす。
張り付いた長い髪をかきあげ、肩に手をかける。
フーケ「ゴジョー、テメェは聖人か?」
フーケ「人間てのは大なり小なり罪を犯して生きてんだよ。鳥からすりゃフライドチキン食ったあたしらは鳥殺しの重罪人だ」
フーケ「ま、テメェにとってワルドは死に値する屑野郎だったんだろう?」
フーケ「あたしらは自分のエゴを通さなくちゃ、何も守れないんだ。全員が全員幸せな世界なんて物語の中でしか実現しない。誰かが幸せな裏で、また誰かは痛みを味わってるんだよ。それを忘れんな」
五条「それでもオレは……!」
唇を噛み締めて、拳を握る。
伏せた目線の先にあるのは、やはり汚れた右手。
いつの間にか震えるそれを左手で隠すように押さえこむ。
なぜ震えているのかは、分かっている。
黙って見ていたフーケは不意に一歩近づく。
そして自分の両手を、一回り小さな掌で包み込んだ。
316:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:19:25.25
ID:jds2lYUL0フーケ「……テメェは人より力があるかもしれない。だがそれでも守り通せるのなんか、ほんの一握りだけだ」
フーケ「ただ守ると決めたその一握りぐらい、テメェが傷ついたって傍で必死に守りきってみせな」
フーケ「遠くから見守るなんて情けないことするんじゃないよ」
フーケ「男、だろ……!」
317:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:24:11.57
ID:jds2lYUL0突然空を切る音が耳に入った。
飛んでくるのは砲弾。
十メイルほど後方で着弾したそれは爆発と共に土を撒き散らし、敵の襲来を二人に告げる。
「いたぞっ!!」
「逃がすなよ!! 出てきた仲間もまとめて殺せ!!!」
敵軍は雨の向こう側からやってくる。
引くことの許されない戦いが再び始まろうとしている。
フーケ「ふん、飽きもなくゾロゾロとやってきやがって……!!」
五条「逃げなさい……! 今ならば雨も降っている、オマエ一人ならば何とか逃げ切れるはず……!」
そう言う自分の額に『デコピン』を当てると、フーケは背を向ける。
目を向けているのは、レコン・キスタ。
319:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:30:05.63
ID:jds2lYUL0フーケ「ヒャハハハハ! ばーか、あたしが来たんだ。さっさとあの糞ボケどもを潰しちまうぞ」
五条「……!」
フーケ「この借りは今度一杯奢ったら許してやるよっ!」
大地に手を当て、杖を振るフーケ。
隆起しだしたその土は段々と人型を成していき……
フーケ「出な! 『ゴーレム』」
幾度も見た巨体を大地に鎮座させた。
五条「フーケ……!」
フーケ「おら、なにボサッとしてんだよ! テメェのよく回る頭も少しは休まったんだろ!」
ゴーレムの肩に立つフーケは、やけに頼もしく思えた。
巻き込んでしまったことを謝るべきだろうか?
320:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:36:54.62
ID:jds2lYUL0いや、違う。
感謝すべきだ。
助けてくれたことと、まだ自分に戦うチャンスをくれた事に。
五条「ありがとうございます……!」
フーケ「フン……! そんなもん犬にでも食わしとけ」
続々と先頭部隊の兵士たちが集まってくる。
援軍も到着したからか、その数は増えている。
体力はもう雀の涙ほどしか残っていない。
使える技も限られている。
しかし、それでも。
折れかけていた心が再び闘志に燃えるのは何故だろう。
静かに左足に手を当てる。
無いはずのルーンが光を放ったような。
そんな錯覚に笑いが溢れる。
321:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 13:41:51.02
ID:jds2lYUL0「ゴーレムだと……」
「あの女……土塊じゃないか」
「確か奴は、レコン・キスタの協力者のはず……!?」
自分たちを取り囲む兵士の間に戸惑いを含んだ声が聞こえ始める。
フーケ「ボケども……このあたしが敵に回ったんだ」
フーケ「第二ラウンドは、一筋縄ではいかねぇことだけ覚えとけ……!」
音を立てずに杖を振るうフーケ。
ゆっくりとゴーレムの豪腕が振りかぶられ……矮小な兵達を一振りでなぎ倒す。
爆発音にも似たその音を伴い、十人単位で兵士たちは再起不能に陥っていく。
緑色は静かに呟いた。
「テメェら『狂わせて』やるぜ……! 『純粋』にな……!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
323:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:11:48.49
ID:jds2lYUL0タバサ「これで、準備は大体整った」
以前は路地裏だったはずの店の裏は、決闘によって広場となってしまっていた。
集まった私たちは各々が『作戦』に必要なものを手に持っている。
タバサの前には私の身長より少し小さいぐらいの木箱二つと幾つかの果物。
ギーシュは歯ブラシ、カミソリ、その他日用品諸々。
キュルケの手には木製の食器の数々と、安そうな時計。
私のカバンの中には適当に選んだ男物の服。
どこをどう見ても、遠征先の人間に送るようなものばかりだ。
一体どうやったらこんなモノでアルビオンに行けるというのだろうか。
ルイズ「さあ、タバサ! 作戦って何!? これでフネに乗れるって本当なんでしょうね!?」
タバサ「待って……まだ重要なモノが一つ、揃っていない」
キュルケ「重要なモノ?」
キュルケが聞き返す。
325:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:22:47.09
ID:jds2lYUL0ギーシュ「ふむ、僕にはイマイチ分からないな」
困ったように腕を組んだギーシュにタバサは杖を向ける。
タバサ「貴方と私は後方支援」
ギーシュ「へ?」
タバサ「ここからは貴方達二人が鍵になる」
青髪は私とキュルケにそう言った。
ルイズ「どーいうことよ?」
キュルケ「あたしとルイズで何をしろって言うの?」
タバサ「……ではまず、作戦の説明から始める」
訳の分からない私たち三人を尻目にタバサは口を開く。
タバサ「基本的にはあのレコン・キスタの貨物船に人が乗り込むことは出来ない。恐らく、多くの補給物資を運ぶために船内の人員は限られているはず」
タバサ「かといって出航するまでフネの周りには兵士がいるので正面突破は厳しい」
326:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:27:04.27
ID:jds2lYUL0ルイズ「だかーら、どうするのって聞いてるんじゃない!」
急かす私を杖で制して、タバサは続ける。
タバサ「……人が乗れないなら荷物になればいい」
傍らの木箱を叩き、注目を引く。
タバサ「あれだけの荷物、一々中身を確認していては日が暮れてしまう。そこを突いて、この中に潜み、アルビオンまで連れていってもらう」
ルイズ「えええ!?」
ギーシュ「んな無茶な! もし箱を開けられたらどうするんだい?」
タバサ「……一応手は打つつもり」
キュルケ「て言うか、船乗り場まではどうやって運ぶのよ。そこまで行かないとそもそもフネに積み込むことも出来ないじゃない。誰かに頼むの?」
首を振って、否定の意を示す。
タバサ「それでは多分、フネに積み込むことは許可されない」
ルイズ「じゃあ乗り場で箱に隠れるの? そんなのすぐに見つかっちゃうじゃない」
327:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:33:23.49
ID:jds2lYUL0タバサ「見て」
タバサの差した先には鎧を身につけた兵士たちが、町中をうろついているのが見える。
これからアルビオンに向かうのか、それともまた別の戦場に向かうのかは分からないが多くの兵がいたのは確かだ。
タバサ「彼らから二人分、着ているものを拝借する」
ルイズ「え”?」
タバサ「それを……身長的に違和感のないギーシュとキュルケに着てもらい、フネの中に運びこむ。私と貴方は箱の中。運び終えたらタイミングを見て二人も箱の中に隠れる」
ギーシュ「ず、随分と大胆な作戦だね。バレたら洒落にならないな……」
キュルケ「でも……まともに乗り込むよりはマシなんじゃない」
タバサ「そして問題になってくるのが、如何にして衣服や鎧を奪うか」
ルイズ「鎧を渡せって言ってくれるような連中じゃないわ」
タバサは頷く。
タバサ「力ずくでは騒ぎになってしまう。そこで考えた」
タバサ「棚からぼた餅作戦」
329:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:42:17.62
ID:jds2lYUL0ルイズ「……なによそれ」
呆れた声で尋ねる。
タバサ「兵士は戦いに疲れて、女に飢えている。そこを利用して貴方とキュルケで路地裏に誘いこみ、私とギーシュで後ろから『ガツン』と」
ルイズ「い、いやよそんなの! なんでどこの馬の骨ともわからない男を誘わなくちゃならないのよ!」
タバサ「ゴジョーのため……でしょう?」
ルイズ「う”」
その言葉は卑怯だ。
……私を禁呪の魔法よりも強く従える。
330:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:48:34.10
ID:jds2lYUL0キュルケ「あら、ルイズ。自分の体に自信がないならあたしひとりで十分よ。このグラマラスボディなら男なんて簡単に虜にしてやるだろうしね」
自分の無駄な脂肪をこれ見よがしに見せつけ、私を端に寄せると一歩前に出た。
ルイズ「なんですって……?」
キュルケ「だってそうでしょう? 無理にやりたくないことをする必要ないわ」
カチンと来た。
いいでしょう。やってやろうじゃない。
私にかかれば男に一人や二人簡単に手玉にとってやろうじゃないか。
ギラリと目を光らせてキュルケに対峙する。
ルイズ「ツェルプストー! あんたに引けを取ることはヴァリエールの名に恥じるわ! どっちが先に捕まえられるか勝負よ!」
キュルケ「ぷ、いいじゃない。負けたほうが相手の言う事なんでも聞くってのはどうよ」
ルイズ「はん! 負けて吠え面かくんじゃないわよ!」
ギーシュ(キュルケもルイズの扱いが上手くなったなぁー……)
タバサ「では、作戦を開始する」
331:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 14:55:38.80
ID:jds2lYUL0昼下がりになり若干人の波は減ったものの、まだ多くの人が各々の欲しい物を求めて露店の間を練り歩いている。
その中、私とキュルケは望んでもいない男漁りに精を出す。
二人組の男がこちらに近づいてくる。
好都合。引きとめようと一歩足をだす。
キュルケ「あらそこの旦那方。ちょっとあたしとお話しないかしら……?」
……先を越された。
迷うこと無く声を掛けたキュルケは男達の前に立つ。
「なんだねぇちゃん、壺売りなら勘弁してくれよ」
キュルケ「うふふ、そんなのじゃないわ……」
「だったらなんだよ? 俺たちゃ疲れてるんだ、話なら別の奴に当たんな」
キュルケ「つれないわね……楽しいこと、したくないの……?」
男の身体に擦り寄って、頬に手を当てるキュルケ。
……日頃からこんな事ばかりしてるだけあって、私より男を誘うのは上手だ。
それにしたってストレート過ぎないかしら。
見てるこっちが恥ずかしくなってくるわよ。
332:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:00:01.40
ID:jds2lYUL0もう一人の男が言う。
「ひひ、なんだこのねぇちゃん。俺達と一発遊びたいんじゃねぇか」
「そうみたいだな。だったら話は早い」
キュルケ「ふふ……」
キュルケの腰を掴み、連れだそうとする男。
マズイ。
このままだと簡単に勝負がついてしまう。
ルイズ「ちょ、ちょと、お、お待ちになって!」
ひっくり返った声で引き止めると男達は訝しげにこちらに振り向く。
「なんだお嬢ちゃん。俺たちゃ忙しいんだ」
「あっちに行きな」
全く相手にしていない。
憤怒でギリギリと奥歯が軋むが、この無礼な兵士たちに爆発をお見舞いするのはもう少しだけ耐えておく。
333:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:08:45.16
ID:jds2lYUL0ルイズ「わたくしとも、お遊びにならないかし、ら……?」
顔を見合わせる男達。
「だーはっはっはっは!! なんの冗談だよそりゃ!!?」
「ひーーーっ!! 流石に俺にもロリコン趣味はねぇぜ!?」
腹を抱えて笑う、馬鹿達。
……いいわ。
そんなに面白いならもっと面白いことをしてあげる。
杖を取り出し、呪文を詠唱し始める。
その小汚い顔面をもっと綺麗にしてやる。
ルイズ「れんk……!」
キュルケ「あ、あー! ゴジョーだんが過ぎるわね! そうゴジョーだんでしょう!?」
ピクっと耳が反応する。
『ゴジョー』だん、ね。
怒りを必死で抑えつけ、杖を後ろに隠す。
顔がヒクヒク歪んでいることだろう。
ああ、コイツら鎧を奪ったらどうしてくれようかしら……!
楽しみで仕方が無いわ。
334:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /04(火) 15:10:45.60 ID:8epep81O0
ゴジョーだんwwwwwwwwwwww335:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:21:14.12
ID:jds2lYUL0「ヒヒ……だがまあ、せっかくだからお前も遊んでやるか」
「フヒヒ、なんだロリコンだったのか」
「馬鹿、このガキ、面は良いからな……初モノも悪く無いだろ?」
「ちげぇねえ、グヒ……」
下卑た笑いを浮かべた男達を連れて、路地に連れ込む。
当然この先には杖を構えたギーシュとタバサが待ち構えている。
こういうバカがいるから世の中が良くならないのよ。
初撃は二人に譲る。
だが目当てのものを奪った後は、キツイお仕置きをしてやったほうが良さそうね……
さあ……遊ぼうじゃないかしら。
336:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:30:53.40
ID:jds2lYUL0ギーシュ「ルイズ……ちょっとばかりやり過ぎじゃないか?」
衣服を奪われ、丸裸の二つの黒炭を見てギーシュは同情の言葉を口にする。
ルイズ「フン、私を馬鹿にした報いよ!」
ギーシュ「レコン・キスタとは言えこんなにボロボロになるまで……可哀想に……」
キュルケ「あんたあたしが止めなかったら、往来でコイツら爆発させてたでしょ……」
キュルケはやれやれとため息をついた。
タバサ「……とにかくコレで必要なものは揃った。後は、ギーシュとキュルケ次第」
ギーシュ「うっ、責任重大……だね」
キュルケ「気張ったってどうしようもないわ。バレないことを神に祈りましょう」
タバサ「いざとなれば私も箱から出てくる。あまり、緊張しないで」
タバサの労いの言葉に顔を少し緩めるギーシュ。
337:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:35:27.72
ID:jds2lYUL0これが成功しなければ、アルビオンへの道は閉ざされる。
今もその雲の上できっとゴジョーは戦ってる。
数万とも言われる軍隊相手にたった一人で。
それを思うと居ても立ってもいられなくなる。
早く、会いたい。
会って……
もどかしくてたまらない。
悔しいけど、私はゴジョーが好きだ。
アイツは私を一人の男として助けにきてくれた。
だったら今度は私が一人の女としてアイツを捕まえにいく。
主人とか使い魔とかは関係なくゴジョーの傍にいたい、その気持だけが私を動かしていた。
キュルケ「……アンタもよ、ルイズ。一番緊張してんのアンタでしょ」
ルイズ「べ、べつに緊張なんて」
キュルケ「バレバレ。箱の中で黙ってるだけなんだから、余計な事するんじゃないわよ」
ルイズ「分かってるわよ!」
338:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:42:59.97
ID:jds2lYUL0ギーシュ「さて、しかし出航の時間までは暫くあるな……何時くらいに乗り場に向かうんだい、タバサ?」
タバサ「余裕を持って一時間前に此処に集合。それまでは自由行動でいいと思う。私もやることがある」
ギーシュ「じゃあ僕は食事にしようかな、ここなら珍しい物も食べられそうだしね。君たちはどうする?」
キュルケ「あたしもそうしようかしら。アンタは?」
ルイズ「わ、わ私は用事があるから行ってきて構わないわ」
やることがある。
恥ずかしいから教えたくないけど。
そんな私の心を見透かす様にキュルケはまじまじと凝視してくる。
キュルケ「怪しいわね……何するつもりよ」
ルイズ「あんたに関係にゃいでしょ!」
焦って話したせいで口が回らない。
キュルケ「にゃいでしょって……いいわ、行ってきなさい」
ルイズ「あんたねぇ、私の保護者じゃないんだから一々……!」
キュルケ「はいはい、わかったわよ。面倒事だけ起こさないでよね?」
339:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /04(火) 15:53:28.50
ID:jds2lYUL0すみません……半端ですが本日投下分ここまでです
長いこと保守させて申し訳ありません
また、ありがとうございます!
次回投下は今日の夜中か、明日の昼か、明日の夜中のどれかになると思います
全力でキーボードを叩いておりますので、どうかもう暫くお待ち下さい……
340:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /04(火) 16:14:51.37 ID:J0sF+7Nd0
おつ354:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /04(火) 23:32:12.83 ID:AKQCKRl60
五条さんが愛おしくて堪らない
一大決心して五条さんに告白するんだけど
「おまえヘンなやつですね」と言うだけで、五条さんは私を相手にしてくれないだろう
だけど「オレがおまえを気にいったら付き合ってあげましょう」って言われて
一所懸命アタックするんだ
友達に諦めるように諭されるけど、私は五条さん一筋なんだ
そしてゆくゆくは「いいでしょう。おまえと付き合ってあげますよ…。クククッ…」
って言ってもらうんだ
何がしたいかって言うと、保守355:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /04(火) 23:36:18.29 ID:A5wSbaUuP
(34歳男性・独身)356:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /04(火) 23:39:39.73 ID:EbShlEXl0
20歳年下でも愛があればいいんだよ!390:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /05(水) 20:35:51.42 ID:IuarXVt20
ところで、五条さんの原作での能力って何?
こんな怪物なの?391:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /05(水) 20:43:56.51 ID:pctT7Gkh0
俺の妹によると違うらしいてか必殺技がないとかほざいてた392:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /05(水) 21:59:49.90 ID:b4FOSgs80
それはない394:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /05(水) 22:37:39.36 ID:S1/bYSat0
シグマゾーンはなんなんだよ398:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /06(木) 00:50:21.88 ID:MJomsiVPI
>>394
ゲームで五条さんが最期に覚える技
技単体の威力はゲーム中最高で五条さんとは属性も一致するからCPU相手に破られることはまず無い412:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /06(木) 11:26:26.60
ID:+Lg8yK4r0大変お待たせいたしました、が投下はまとめて夜に行うことにします
大体50~60レスぐらいになるかと思います。
しかし、それでもまだルイズちゃんは五条さんに逢えないです。
書いても書いても終りが見えないお……
どうしてこうなったって、自分の責任です。
自分勝手過ぎますよね……本当にゴメンなさい!
もし気が向いたら、見に来てください
誰か一人でも読者がいれば俺は書き続けます。
終わらせるまで書き続けます。
完全に作者のオナニーに突入してますが、どうか見てやってください
413:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /06(木) 11:27:40.42 ID:NvDX37Hg0
そのいちいち低姿勢なのがいい加減ウザい
簡潔な投下予告と投下だけしてりゃいいんだよ414:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /06(木) 11:33:00.95
ID:+Lg8yK4r0ご、ゴメンなさい。
そんな風に言われると思わなかった……
じゃあお前ら見やがれ!!
頑張って書くから見ろ!!!
最後まで見ろよ!!
途中で投げんなよ!
俺も投げねぇからな!!
以上です。
415:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /06(木) 11:33:37.94 ID:/F+ouSxF0
ツンデレわろうた418:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /06(木) 12:24:56.92 ID:tv9yU/cX0
ツンデレ睡眠不足タンハァハァww
期待して待ってる!443:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:04:58.71
ID:CcyIA1bN0ルイズ「うるさいわね、あーもう! 私が先に行くわ!」
キュルケたちに背を見せ、広場から町中へと足を進める。
全く、口うるさい奴だ。
どうせ私が今から行くところにだって、いつものように小馬鹿にして笑うんだろう。
バレてたまるものか。
人をかき分けながら歩いて行くとすぐに目的の店が見つかる。
この賑わう町でもあんまり人影のない通りにあるその店には、閑古鳥が鳴いていた。
看板も斜めに傾き、どう見ても趣味でやってそうなやる気の無さが窺える。
ルイズ「なんでこれだけ色んな店があるのに……仕立屋だけはこの店しかないのよ!」
鞄からボロボロになったゴジョーの服を取り出す。
これを見ると……なんだかゴジョーもボロボロになっている気がして、嫌だった。
出来るならここ、ラ・ロシェールで綺麗にしてあげてからゴジョーに渡したい。
そう思い食事も後回しにしてやってきたのだ。
とは言え、ゴジョーの服は特別製。
こんな町外れにあるしょぼくれた店で直るのか、半信半疑、いやそれどころか破れた部分が縫えれば儲け物だろう。
445:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:08:07.43
ID:CcyIA1bN0ルイズ「……」
辺りを見回して、だれも居ないことを確認する。
今からこの服が仕立て直されちゃったら……匂いはきっと無くなっちゃう。
だから、今からするこれは私がゴジョーの匂いを忘れないためにするだけ。
別に何か……その、変な意味でするわけじゃない。
あくまで匂いを確認しておくための『作業』でしかないんだから。
そう自分に言い聞かせて、自分の顔をウェアに埋める。
汗の匂いが鼻腔をつく。
クンカクンカ。クンカクンカ。
……いい匂いだなあ。
すーはーすーはー。すーはーすーはー。
ふぁああ……!
やだ、癖になっちゃいそう。
モフモフ。モフモフ。
んはぁ!
ゴジョーに抱きしめられてるみたい……
頭が真っ白になっていく。
ああ、ゴジョー。
ゴジョーゴジョーゴジョー……!
早くもう一回私のことをモフモフして……?
451:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /07(金) 01:33:11.17 ID:S4tJeTXf0
クンカクンカしてるwwwwwww447:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:15:42.42
ID:CcyIA1bN0完全にトリップしかけていた私の肩に、誰かの手がかかる。
誰よ、もう……
ルイズ「何っ!? 私は今忙しいn……」
息が止まる。
キュルケ「あんたなにしてるの……?」
449:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:22:14.12
ID:CcyIA1bN0キュルケがかわいそうな人を見る目で直視しながら、言う。
そんな、いや、こんなの末代までの恥よ!
その後ろからひょっこりとギーシュまでもが顔を出す。
最悪だ。
ぐるぐると思考が頭の中を巡り、整理がつかない。
ルイズ「あ、あああ……!」
ギーシュ「だから僕はつけるのなんてヤメようって……」
キュルケ「いや、だって気になるじゃない」
ルイズ「んんん……たたたたた……ちちちちちちち……!」
ギーシュ「ルイズだってひとりになりたい時があるじゃないか……」
キュルケ「そりゃあそうだけど。まさか、こんな……」
ルイズ「ち、ちが!!」
腕をブンブン振り回し必死で誤解だということを伝えようとする。
ギーシュ「はあ、触らぬ神に祟りなしだよ。ぼかぁもう爆発はごめんだ」
開いた口がふさがらない私を見て、ギーシュは小走りで逃げていく。
450:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:30:17.92
ID:CcyIA1bN0キュルケ「あ、ちょっとあんた! ……ルイズ、悪かったわね。どうぞお続けになって! あたしもみなかったことにするから!」
焦った笑いを浮かべてキュルケも私を一人残し去っていく。
嘘だ嘘だ嘘だ!
こんなとこ見られたら何を言われるか分かったものじゃない!
ルイズ「ああああああああああああああああああああああああああああ!」
顔が真っ赤になっていくのを感じる。
最悪だ最悪だ!
こんなところツェルプストーに見られるなんて……ああああああああああ!
クンカクンカしちゃってたじゃない!
モフモフまでしちゃってたわ!
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
ルイズ「いやあああああああああああ!!!」
ガンガンと戸を叩き、行き場をなくした恥ずかしさをぶつける。
今すぐ布団に潜り込んで顔を隠したい。
バカ! 私のバカ!
どうしてもっと自分の部屋でクンカクンカしておかなかったのよ!
452:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:38:06.73
ID:CcyIA1bN0ルイズ「いやあああああああああああ!!!」
ガンガンと戸を叩き、行き場をなくした恥ずかしさをぶつける。
今すぐ布団に潜り込んで顔を隠したい。
店主「なんですかい? 騒がしいな」
叩いていたドアから中年の男が現れる。
ルイズ「あ……」
店主「ああ、貴族のお客さんですか。悪いけどもう少し優しく戸は叩いて貰えますかね」
不機嫌そうな顔で私に言う。
ルイズ「ご、ゴメンなさい」
思わず謝ってしまった。
店主は頷くと、私の手に視線を移す。
店主「何か、ウチに仕立てて欲しいものが? ハルケギニアのものなら何だって三日で新品同様にしてみせますぜ」
ルイズ「ホントに!?」
徐々に落ち着きを取り戻し始めた鼓動が、その言葉ではね上がる。
454:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:45:34.48
ID:CcyIA1bN0店主「……その手の布切れ。見せてもらってもいいですかい」
ルイズ「え、はい」
手渡されたゴジョーの服をまじまじと見つめて、手触りを調べる店主。
言われてみればゴジョーの服はあまり見かけない材質だった。
やけにツルツルしているし、絹や綿とも違う。
私の持っているどんな服よりも汚れにくかったし、丈夫だった。
店主「フム、こいつぁこの辺の布じゃないね。貴族のお嬢さん、一体どこでこれを手に入れたんですかい?」
ルイズ「それは……違うの。私の、その、こ、『恋人』が着ていたのよ!」
言ってやったわ。
フフフ、少なくともこの店の主人は私とゴジョーを恋人だと思う。
……幼稚過ぎる自分の行いに虚しくなる。
ああ、そんなことよりキュルケとギーシュになんて言い訳しようかしら。
店主「その人は、もしかして東方から来たんじゃないでしょうかね。こんな珍しい布、そうとしか思えない」
私の台詞には何の興味も示さず、服を太陽に透かして話す店主。
ルイズ「まあそんなものかしら」
455:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 01:55:12.94
ID:CcyIA1bN0本当は東方じゃなくて違う世界からやってきた、なんて言ったらどう思うだろう。
信じるはずもないか。
私自身、ゴジョーから最初にそう言われたときはジョークにもならないつまらない冗談だと鼻で笑っていた。
店主「やっぱりね……ウチは場所が場所なこともあって、色んな国から服の仕立てを依頼されるんですが」
腰に手を当てて、服を伸ばしたり縮めたりして材質を見定める姿は職人のそれであった。
どうやら寂れたとこに店を構えてもやっていける腕は持っていそうだ。
ルイズ「じゃあ前にもこんな服を?」
店主「いんやぁ見たこともありませんね、こんな素材。古今東西、どんな物でも綺麗に仕立てるのがウチのモットーですが……こいつぁ初めてだ」
ルイズ「じゃあ……」
店主「まあ立ち話もなんです。中に入ってくだせぇ」
457:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:04:03.30
ID:CcyIA1bN0言われるがまま、店の中に入る。
そこはおよそ仕立屋と言うには似つかわしくない物ばかりが置いてある場所だった。
今にも動き出しそうな怪しい仮面が飾られ、おどろおどろしい顔をした女の絵が壁に掛けてある。
とてもじゃないが一人では立ち寄りたくない店だ。
店主「座ってくだせえ」
私の前に引かれたのは、骸骨を模した椅子。
……よくこんな趣味で店が成り立つものだ。
ルイズ「これ、全部あなたの趣味……?」
店主「そうなのもありますがね。大体は客が仕立て代替わりに置いていった物でさあ」
ルイズ「……それで商売成り立つの?」
主人「はは、ご尤もですがね。世の中、金ばかりが物を言うってわけでもありませんからねぇ」
ルイズ「……」
主人「そんな顔されるともっと面白いものを見せたくなるじゃないですかい」
ルイズ「いいわよ、いらないわ」
否定するが、主人はニヤニヤと面白がって立てかけてあった剣をテーブルの上に置く。
鞘にしまわれたそれは……なんとなく嫌な予感がするシロモノだった。
459:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:13:24.15
ID:CcyIA1bN0店主「ハッハッハ、そう言わずに。別に蛇が出るわけじゃあないですよ。お嬢さんの安全は保証しますから」
ルイズ「……あっそ」
つまらないそうな顔をしてみせる。
興味なんか全然ないんだけどここで断って店主の機嫌を損ねるのも面倒だ。
仕方なく、剣を鞘から少しだけ引き抜く。
剣「かーー! ずっとだんまりでストレスが溜まるばかりだぜ。おいオヤジ、たまにはオレを抜けって言ってるだろ? 毎日だんまり続けさせられる俺の身にもなってみろよ! 可哀想だとは思わねぇか!?」
抜いた途端、剣は堰を切ったように喋り出す。
柄の部分が口のようにカクカク動き、ちょっと不気味だ。
主人「今抜いてるじゃないか。それにお前は五月蝿すぎるんだよ。だからたまにお客さんの前で見せてやるくらいが丁度いい。本当ならさっさと武器屋に厄介払いしたいんだぞ」
ルイズ「……インテリジェンス・ソード?」
剣「その通りさ、お嬢ちゃん……これでも由緒正しき名剣なんだぜ。その昔にゃあ『ガンダールヴの左腕』だったこともある。ま、お嬢ちゃんにはわかんねえだろうけどな!」
主人「なに言ってんだか……悪いね。ちょいとビックリさせてやろうと思っただけなんだが」
460:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:19:09.95
ID:CcyIA1bN0ガンダールヴ?
なぜそのことをこの剣は知っているのだろう。
ガンダールヴなんて言葉、普通は聞いたこともないはず。
それに左腕とも言っている。
……適当なことだと決め付けるには、余りにも具体的な言葉が多い気がした。
ルイズ「あんた……」
剣「んん? お前さんもしかして……ハッハッ、こいつぁおでれーた! お嬢ちゃん虚無かい!」
ルイズ「え?」
剣「え、じゃねえだろ? 何だ、自覚もしてねえのか? 使い魔はどこだ? ガンダールヴがいるはずだろ? そいつに会わせてくれよ?」
次から次へと質問を投げかける剣に、私の頭は混乱しだす。
そんな私を見て店主は鞘に喋る剣をしまう。
461:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:23:46.31
ID:CcyIA1bN0店主「まったく、少し喋らすとこれだからな。すまないねえ」
ルイズ「……ええ」
何かが引っかかった。
店主「話をコレに戻しやしょう」
店主は古ぼけた剣の上にゴジョーのウェアを置く。
店主「幸いなことに、破れて無くなっている部分はそんなに多くない」
店主「ただねぇ……この背中にある首もとの部分。何か読めない文字が書いてあったみたいだが、ココばっかりはちぎれてるんで直せませんね」
ルイズ「……何とかならない?」
店主「なんとかと言ってもねぇ、元になる布がないんじゃどうしようもねぇですよ。ウチは人の手でやってますからね、そんな魔法みたいなことは無理でさあ」
ルイズ「そう、よね……」
千切れてなくなった物を、また生み出すなんてメイジにも無理だ。
意気消沈して俯いた私に店主は話しかける。
462:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01 /07(金) 02:27:01.73 ID:wwodyaKm0
出てねえなと思ったらここで出たか463:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:31:26.49
ID:CcyIA1bN0店主「まあそんなに落ち込まないでください、同じ生地で仕立て直すのは無理ですが……そうですなあ、ワッペンで名前でも入れれば違和感なく見せられるものになると思いますよ」
ルイズ「ホント!? 直るのね!?」
打って変わった私の声に店主は苦笑いする。
店主「切れている部分は同じ色の糸を使えば目立たないでしょうから、何とかなるでしょうさね。文字はなんにしますかい?」
……困った。
こんなことになると思ってなくて、考えていない。
所属としては……一応魔法学院になるのかしら。
トリステイン魔法学院?
うーん、長すぎるわね。
じゃあシンプルにゴジョー?
これも捻りがなさすぎる。
サッカーとでも入れておけば喜ぶかしら。
いやでも、それじゃちょっと……
テーコクとか言ってたかしら、アイツのチーム。
それだったら喜ぶかも。
……いえやっぱりダメ。
ホームシックになったら困るわ。
うんうんと頭を悩ませた結果、出した答え。
465:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:43:22.12
ID:CcyIA1bN0ルイズ「ルイズ(はぁと)でお願い……!!」
店主「はいはい、わかりまし……ええぇ!? そいつぁお嬢さんの名前じゃないんですかい!?」
ルイズ「何よ! 文句あるのかしら……!?」
店主「い、いやあ。ないですよ……」
慌てた様子で店の奥に入っていく店主。
ルイズ「だったらいいでしょう。文字数も少ないし、割合簡単でしょ」
店主(……これを着せられる旦那。ご愁傷さまですぜ)
なにか良からぬことをこの店主は考えている気がしてならないが、あえて黙っておこう。
今の私はある程度の事ならば許せる広い心を持っている。
……あんなところを見られれば誰だってそうなるか。
やれやれと独りごちた。
467:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:50:06.42
ID:CcyIA1bN0店主「そいじゃ日にちはいかがしますかね、二三日後なら大丈夫ですが?」
にべもなくそう尋ねると店主は腕を組み、首を傾げた。
ルイズ「あー、今日がいいわ」
店主「きょ、今日ですかい!? そりゃあちょっと無茶でさあ!」
ルイズ「しかもあと二時間後。すぐにこの町から出ていかなくちゃならないのよ」
店主「二時間後!? ムリムリムリ! ウチは飯屋じゃないんですぜ!?」
身振り手振りで否定の意を伝える店主。
ルイズ「お・ね・が・い……!」
黒いオーラが自分の背中から出ていることだろう。
店主「……はあ、同じ色の糸を見つけるのだって一苦労だってのに。特別料金頂きますよ?」
ルイズ「え、出来るの!? お金なら多少は奮発するわ!」
店主「まあ時間があれば、イイ線まではいけそうですが……二時間で元通りってのは流石に不可能ですな。だけど違和感ない程度にはしてみせましょう」
468:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 02:56:03.48
ID:CcyIA1bN0微笑みながら口髭を触る店主。
運が良かった。
他の店ならどう頑張っても二時間じゃ無理そうなのに。
頼み込んでみるものだ。
店主「ああ……あと特別料金についてですが」
ルイズ「ぼったくるつもり!?」
店主「まさか! 貴族のお嬢さんからそんな事したらすぐにウチなんかつぶされてしまいますからね」
ルイズ「じゃあなによ?」
店主「なにか、巷じゃ見られないような珍しいもんを料金がわりに持ってきてくれれば、お代は頂きませんよ」
ルイズ「めずらしい物? そんなこと言われても、すぐには」
店主「何だって良いですよ。ここにある物を見ればわかるでしょう?」
手を広げて示すのは、何度見ても趣味が悪い店内。
今どき骨董屋だってこの店の物は引き取らないだろう。
要は趣味の悪いものを持って来いというのだろうか?
だったらキュルケをここに置いていってやろう。
469:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 03:07:12.83
ID:CcyIA1bN0ルイズ「……生憎だけど持ってないわ。何か別のことで代用できないかしら」
店主「フーム。まあお嬢さんが持ってきたこの服が一番珍しいといえば珍しいですからね。これ以上の物を要求するのはいささか酷かもしれやせんね」
ポリポリと顎を掻きながら、店内を見回す店主。
泳いでいた視線があるところで止まる。
その先にあったのは私の身の丈ほどもある、さっきの剣。
今度は嫌な予感しかしない。
ルイズ「ちょっとそれは……」
店主「よし、決めた。貴族のお嬢さん、この剣を持って行ってくだせぇ」
ルイズ「え”」
店主「実を言うとね、一度その剣は武器屋に売りに行ったんですよ。だけどあんまり五月蝿いもんだから武器屋も買い取らないときた」
ルイズ「……でしょうね」
店主「その上時々鞘から抜いてやらないと文句ばかり言う。ウチもコイツには手を焼いていたんでさあ。お代はいらない、さらに剣までプレゼント! ハルケギニア全土でも中々こんなに気前のいい店は有りませんぜ!?」
ルイズ「ただの厄介払いでしょ!」
店主「ハッハッハ、そうとも言いますがね。とにかくコイツを引きとってくれりゃ、他は何にもいりません」
471:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 03:21:48.97
ID:CcyIA1bN0この剣を受け取らなければ服を仕立ててはくれなさそうだ。
……この剣に聞きたいことが無いといえば嘘になる。
妙に気になっていたのは事実。
もしかしたらゴジョーを探す何かの手がかりになるのかもしれない、そんな淡い期待を抱いた。
ガンダールヴ。虚無。
少なからず私とゴジョーに関係があるだろう。
ただ、一つ言うとしたら……
ルイズ「私が持ち歩くには大きすぎるわよ!」
腰に携えても背中に背負っても、床をずるずると擦るインテリジェンス・ソードに怒りをぶつける。
店主「ハッハッハ! 小さなお嬢さんにゃ、でか過ぎたかね! なら持っていくのは服を取りに来たときでいい」
手を叩いて笑う店主に腹がたつ。
473:
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01 /07(金) 03:35:02.88
ID:CcyIA1bN0ルイズ「ぜぇぇぇぇったい二時間後には仕上げておいてよね! 約束よ!」
主人の前にあるテーブルをダンと叩きつけて言い放つ。
店主「あい、了解致しましたぜ。期待して待っててくだせぇ」
剣「俺も待ってるぜ!」
いつの間にか抜かれた喋る剣がカツカツと音を鳴らし、存在を知らせる。
ルイズ「んもう! 腕が良くなきゃこんな店来ないんだから!」
プンスカ怒りながら店の出口に向かい、ドアに手をかける。
店主「はいはい、これからご贔屓にしてくれるように頑張りますよー」
ニコニコ笑いながら手を振る店主を残し、扉を勢い良く閉める。
寂れた通りに戻ってくると、クンカクンカしてたことを見られたのを思い出し、ものすごく恥ずかしくなる。
腹いせに店の壁を蹴る。
……痛かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
27 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:03:02.23
ID:Mz/9RFEo ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
五条「はああっ!!」
二重となった風の刃が肉を裂いていく。
視える。
独りだった時よりもずっと鮮明に。
フーケ「ブレッドォォォォ!」
後ろに誰かがいる安心感。
ギーシュでもキュルケでもなく、『盗賊』が味方になったことは不幸中の幸いだったかもしれない。
日頃多対一を強いられる一匹狼の盗賊ということもあり、フーケは戦場にすぐに適応した。
一対一ならタバサの方がフーケよりも強い。
しかし絶え間なく敵が襲いかかってくる此処でならば、フーケは自分の知っているどの人物よりも『どうすべきか』理解している。
戦争で重要なのは戦術ではない。
戦略だ。
五条(……まあ、『戦場』には戦略も戦術も意味を成さないかもしれませんがね)
そんな御託はどうだっていい。
物を言うのは結局力なのだ。
一人でも多くの部隊を壊滅させることだけが勝利条件。
28 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:06:47.39
ID:Mz/9RFEo 巨大な土塊が鎧を物ともせず、雑多な戦場に道を切り開く。
進むべき道を自分に示してくれる。
まだやれる。
この戦いを終わらせられる。
五条「キラー……! スライドッ!」
地面を抉り取る無骨なスパイクは目標の足を砕きながら、押し寄せてくる敵軍を押し返す。
金属が悲鳴を上げて、形を変える。
飛び散る土と額の汗が視界を遮る。
フーケ「後ろだゴジョー!」
声に即座に反応し、脳は回転を早める。
二人の兵士の剣が頭上三十サントで動きを止める。
剣があるならばそれを使わない手はない。
右足で武器を蹴り上げて攻撃手段を奪い去り、そのまま躯は虚空へと舞う。
次の目標へと視線を定める。
真空波が攻撃力を保てるのはせいぜい中距離まで。
だったら……
29 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:09:14.32
ID:Mz/9RFEo クルクルと回転を続ける剣の柄頭にスパイクをミートさせると、それは綺麗な直線を空に引き、敵の密集する後方部隊に突き進む。
砲弾の数倍のスピードを得た剣は見事にスペルを詠唱していたメイジに刺さり、首を地面に落とした。
狙うべき目標は目の前にいる兵士たちではない。
常に奥。
部隊長を一人でも仕留めれば、徐々に、統率されていた部隊は崩れる。
そうしなければ、いつまでたっても肉の壁がフーケと自分の進軍を遮り、僅かな体力を削り取るのは必至。
「ブレス!!」
空からドラゴンを操る兵士の声が聞こえると、言われるがまま牙をむいた竜が火炎を自分に向かって吐きかける。
五条「ちぃ!」
空中で体の方向を変えることは不可能。
やむを得ず腕を顔の前でクロスさせ防御の体勢を取る。
耐えきれるか……?
いや、そんな事を考えるべきじゃない。
耐えなければならないのだ。
ここで致命傷を負えばフーケはこの先の戦場に残される。
それだけは避けなくてはならない。
30 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:11:19.64
ID:Mz/9RFEo フーケ「空からちょこまかとっ!」
ブレスから寸前のところでゴーレムの左掌が自分を捕まえる。
火炎が土の腕を掠め、地面にいる雑兵を焼く。
五条「……!」
フーケ「寝ぼけてんじゃねぇぞゴジョー!」
五条「……ヒヒヒ、睡眠は足りてないですがね」
掌の上でそんな軽口を叩く。
フーケ「しかし、クソッタレ……! あの空から悠々攻撃してくる奴らを潰さねえと……」
空を見てドラゴンに舌打ちをするフーケ。
人がひしめき合う地上と違って、空は幾らでも自由に動き回ることができる。
それがドラゴンを駆る、奴らのアドバンテージ。
こちらに隙があると思えば瞬時にブレスで攻撃してくるのに手を焼いていたのは確かだった。
31 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:14:09.24
ID:Mz/9RFEo 跳躍では空に届かない。
翼があるわけじゃないのだ。
無いものねだりをしていてもこの戦争で得られるものは無駄な時間だけだ。
如何にして手の中にある物で、目的を成し遂げられるかにかかっている。
導き出した答え。
五条「フーケ……オレを投げてください」
フーケ「はあ!? 何いってんだ……ちっ! 欝陶しいんだよテメェらは!」
ゴーレムの足に纏わり付く雑兵を蹴りで払い飛ばしながら、フーケは答える。
五条「ドラゴンに届く方法はそれしかない……! 数がそんなに多くないなら、早めに落としておく方がいいでしょう」
フーケ「……ケッ。相変わらず無茶苦茶なこという野郎だ」
五条「グフフ…… 危険でも手段を選んでる余裕はないですからねぇ」
32 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:16:34.91
ID:Mz/9RFEo フーケ「外れても、知らねぇぞっ!」
前方から飛んできたエア・スピアーを最も硬い右拳で対応し、フーケは自分の体を潰れない程度の力で握る。
五条「よーく、狙ってくださいよ? オレが砲弾で、オマエが砲手なのですか……らっ!」
遠くからこちらに向かってきた砲弾は、全く同じ方向に蹴り返される。
爆発が大地を揺らす。
フーケ「わかってんよ……! 弾当ては得意な方だ」
五条「ヒヒヒ!」
フーケ「さっさと戻って来いよ。あたしだけで雑魚散らしすんのは嫌だからね」
五条「了解いたしました……!」
フーケ「そんじゃあ……いくぞぉぉぉ!」
33 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:30:25.52
ID:Mz/9RFEo ゴーレムが両手で自分を振りかぶる。
重い左足が天に向かって高々と持ち上がり、大きなモーションを取る。
何百キロもあるその体重が全て片足に乗せられ、沈み込んでもゴーレムの体幹は決してぶれない。
巨大なゴーレムの全身の力が両腕に篭められ、掌が地面スレスレまで近づいた。
これは野球のピッチャーのフォームではない。
まるで、砲丸投げだ。
フーケ「オオオオオラァァァァァァァァ!!!!」
砲手の叫び声と共に空へ放り投げられる。
放たれた躯がすさまじい勢いで雨粒を通りぬけ、濡れて張り付いていた前髪を後ろに持っていく。
不明瞭な視界は、それでも竜の巨体を失うこと無く捉えた。
34 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:38:35.02
ID:Mz/9RFEo 「なんだと!?」
乗り手が飛んでくる『弾丸』を見て、驚きの声をあげる。
方向は的確、真っ直ぐ標的に向かっている。
このスピードだったら簡単にドラゴンまで届く。
ゴーレムを人のサイズに戻したとしたら、まさに自分は投げるのに適切な大きさの弾だろう。
全身全霊を篭めて投げられた弾には淀みなく力が伝わり、それは推進力に変換されたのだ。
百キロ超えのスピードを得た生きる砲弾。
それが自分だ。
五条「……!」
しかしそう思ったのもつかの間、自分の躯はドラゴンの真横に来ても勢いを失わない。
それどころかその傍を通り過ぎ、慣性に従うがまま遙か上空へと進ませ続ける。
止まらない躯はどこまでも風を切り、ロケットのように雲に向かう。
36 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 04:47:11.51
ID:Mz/9RFEo 五条「クックックッ……! 強すぎるじゃないですか……!」
されるがままの全身を脱力し、聞き取れないほどの声でそう呟く。
フーケ(あちゃー、力加減間違えちまった……)
ドラゴン部隊の三十メイル程上でゆっくりと停止した肢体は自由落下し始める。
まさに隙だらけ。
落ちていく自分は縁日の的のようなものだ。
「バカめ! 狙い撃ちだ!」
翼を上下に動かした竜が舞い上がり、大きな口を開ける。
地に足のつかぬここでは、回避は不可。
空気を震えさせる雄叫びと共に竜が竜巻を吐き出す。
踏ん張りの効かない空中での真空波……どこまで威力を出せるか。
いま出来るのは微力でも、この竜巻を小さくして次の一撃に備えること。
退っ引きならぬ状況の中、半ば自棄糞で右足を後ろに振り上げる。
無意味かもしれない。
それでもやれることは全てやっておくべきだ。
そう思い、目一杯の力で前に足をだそうとする。
その瞬間。
突然地上から自分に、黒い『球』が発射されたのを確認する。
37 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 05:00:00.33
ID:Mz/9RFEo フーケ「受け取れゴジョーオォォォ!! お得意の玉蹴りだッ!!」
フーケの大声が、ここにいる自分にまで聞こえる。
寸分の狂いもなく出されたそれを見て、一瞬だけ……
フィールドに立っているような感覚に陥る。
タイミングは自分から合わせるまでもなく、正確で『ドンピシャ』なフーケのアシスト。
一生に何度巡り逢うだろうか、こんなにも気持ちのいいボールは。
どうやら、というかやはりというか。
自分とフーケの戦いの相性はイイ……!
五条「クックックッ……! ナイスパス、ですよ。フーケ!」
39 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 05:18:28.62
ID:Mz/9RFEo 空中で披露する技は決まっている。
クルリと上下を反対にした身体は弧を描き、空に残像を置き去りにする。
ルーンが無くても……!
力の篭めづらい空中でも……!
この一発は、止められない。
五条「ヘェェェェェア”ッ!!!!」
腹から喉をねじ切るような叫び声が出される。
ハルケギニアで幾度目かのオーバーヘッドキック。
今までで最も乱暴で、力任せなシュート。
暴れ回る筋肉をしゃにむに押さえつけて、右足は頑強なボールの形を歪ませると同時に莫大なエネルギーを加えていく。
金属で覆われた球が甲の上で紅い光を纏い、竜巻目がけて蹴り出される。
「止められると思うか!?」
それはこちらの台詞だ。
シュートはそんなもので止められぬ。
自分はサッカープレーヤー『だった』のだ。
例え今でも、その程度の攻撃を消し去れないようでは元の世界にいる仲間たちに顔向け出来ない。
竜巻とボール。
その両方が空中で激突した。
40 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 05:32:32.95
ID:Mz/9RFEo 「ずあっ!?」
何のことはなく竜巻を突き破ったボールは、素っ頓狂な声を出した操者の眼前を通り過ぎ、そのままのスピードを殺さずに、戦場に叩きつけられた。
轟音を立てた球は硬い地面にクレーターを作り出し、周囲にいた支援部隊をまとめて吹き飛ばす。
ボールの落下点はミサイルが落ちたかのように、抉り取られていた。
今の全力では、まだこの程度。
ワルドと対峙したときの力に比べれば、蚊の如き脆弱さだ。
だからこそ使いたくなかった。
>大きすぎる力は自分を滅ぼす。
それを身を持って思い知った。
小さな力で、どうやって大きな力に勝ろうとするか考える事。
それこそが人間に残された『知恵』なのだから。
皆の注意がそちらに向けられている隙を突き、ドラゴンの上に着地する。
「……!? き、貴様!? 何故!!?」
五条「ヒヒヒ……何故、なんて理由はどうだっていいんですよ」
乗り手の襟元を掴み、持ち上げる。
五条「オレからオマエに言ってやる言葉は……」
「や、やめろ!」
ブラリと足が空中に投げ出される。
43 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 05:50:42.50
ID:Mz/9RFEo 五条「『落ちろ』、それだけです……!」
「や、あああああああああああ!」
手を放した瞬間、兵士はさっきまでの自分の様にどこまでも自由に落ちていく。
違うのは、着地できるかできないか。
それだけだ。
五条「さて……あまり長居は許されませんねぇ」
落下する兵士から、空を舞うドラゴン共に目を移す。
数は……残り十四。
フーケをいつまでも一人で戦わせられない。
どれだけ素早く部隊を壊滅できるかが鍵を握る。
五条「三分あれば……充分……!」
44 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 06:02:01.32
ID:Mz/9RFEo ドラゴンが暴れだす前に、目下にいる次の竜へ飛び移る。
「ひぃぃ!」
事態が飲み込めぬ兵士は泣き声をあげる。
五条「オレを潰せるチャンスだと思って、集まっていたのが運の尽きでしたね」
「がっ!?」
首を右手で締める。
躊躇いなど、とうの昔に塵箱に投げ捨てた。
人を殺すのに慣れてしまった。
慣れは人間から恐怖を奪う。
人を殺す、という事実に怯えるか弱い心を消し去っていく。
いいのか、それで?
ノイズを自分の声で塗り替える。
五条「……クックックッ! 戦場にチャンスなどない……!」
五条「あるのは『死』だけ……!」
「うご……あ……」
逃げ場のない恐怖に、口から泡を吹き出す兵士。
これが本来の人のあるべき姿なんだろう。
45 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 06:06:21.72
ID:Mz/9RFEo 五条「常に好機の裏には危機が息を潜めて、待っているんですよ……!」
「い……」
五条「それを憶えておきなさい」
無造作に放り投げる。
断末魔を耳からシャットアウトする。
お喋りはお終い。
地上ではフーケが怒声を上げながら、兵士とメイジと砲弾を相手にしている。
今後フーケの魔法力がどれだけ持つかはわからない。
ここは少しでも温存したい。
後々になってフーケのゴーレムが動かなくなれば、ほぼ単騎で戦わねばならない。
それは……可能なら部隊を殲滅させた後にしたい。
残り十三匹。
一匹たりとも逃しはしない。
この数相手ならば……
『狩る』のは自分で。
『狩られる』のは奴らなのだ。
46 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 06:21:43.39
ID:Mz/9RFEo 再びコマ送りの世界に、独り飛び込む。
パンクしかけている脳に鞭を容赦なく打ち込むことで、自分は戦場で誰よりも疾く動けるようになる。
もうこれ以上この技を使えば後々に障害が出るかもしれない。
長丁場の戦いには元々向いていない技だったのだ。
それは人間としての限界。
再び人を捨てぬ限りは、ショートして壊れる運命だ。
そしてそれも、承知の上。
頭が壊れたって構わない。
筋肉が切れたっていい。
この戦争が終わるのに必要であれば、自分の血と肉は幾らでも戦場の神に捧げてやる。
それが、誰かを守るための戦いならば。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
47 :
睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2011/01/07(金) 06:28:42.50
ID:Mz/9RFEo ルイズちゃん編を削ったので投下分が結構減っちゃいました。
とりあえず今日はここまでです。
寝ます。
板を変えたにも関わらず、付いてきてくださった皆様、感謝の言葉では言い表せません
ですので、物語を書き続けることでその代わりにします
ここでは保守の必要はないそうなので、少し自分の気持ちも楽になりました
次回投下は、明後日にしたいと思います
ちょっと何時に来れるか分かりませんが、極力早い時間に来れるように致します
読んでくださって本当にありがとうございます!
48 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 06:36:48.12 ID:w153HIDO
お礼を言いたいのはこっちだバカヤロー
今日も楽しく読ませてもらいました
ゼロ魔みたいなアニメ物が嫌いな俺をここまでハマらせるとは…
続きを楽しみにしてます。おやすみなさい50 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 08:37:18.84 ID:Cm3E76DO
両方とも原作知らないけど楽しくてここまで追いかけちまった
面白いよ乙51 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 12:50:35.71 ID:TM.BCoDO
オイコラ無理すんじゃねーぞバカヤロー52 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 13:44:10.04 ID:Nv3Fh2DO
オイコラおもしれーぞちゃんと寝ろバカヤロー次→
五条「願わくば、もう一度貴女をこの手に抱きたい」その3
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