魔王娘「おかえりなさい、あなた様……」勇者「ああ、ただいま……」

2013-04-24 (水) 21:01  魔王・勇者SS   0コメント  
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:28:38.09 ID:KvaE4M8X0

~~魔王城 玉座の間にて~~

勇者「はぁ……はぁ……はぁ……」

魔王「もう諦めてはどうか?」

勇者「うる……さいっ……」

魔王「大人しく引き下がるなら、命は助けようと言っているのだ。悪い話ではなかろう?」

勇者「そんな……甘言に乗せられるものか!」

魔王「甘言ではない提案だ。仲間は倒れ、貴様は剣を握った手すら動かせない」

勇者「くっ……」

魔王「今、適切な処置を行えば、仲間達の命も助かろう。勇者ともあろうものが仲間を見捨てるのか?」

勇者「そ、それは……」

魔王「聞け。私を殺したところで、貴様らの世界は何も変わりはせん。それは貴様もわかって……」

勇者「それでも俺は!!」

 ――ガチャッ

??「……お父様?」


eval.gifまおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る! 」 -7 (カドカワコミックス・エース)





2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:29:11.28 ID:KvaE4M8X0

魔王「娘よ、ここに来るなと言っておいたはずだ」

魔王娘「でも……お父様が心配で……」

勇者「……む、娘だと!?」

魔王「全く困った娘だ……ご覧の通り私にも守るものがある。だから簡単に死んでやる訳にはいかんのだ」

勇者「……っ」

魔王娘「あ、あの……お父様、そちらの方は?」

魔王「あぁ、勇者だよ。私の命を奪いに来た、な」

魔王娘「まぁ、お父様の命を!? どうしてそんな酷い事を……」

魔王「さてな。人間には人間の都合というものがあるのだろう」

魔王娘「あの……」

勇者「な、何だ?」ビクッ

魔王娘「どうしてお父様の命を狙われるのですか?」

勇者「そ、それは、魔王が世界を滅ぼそうとしているからに決まっている!」



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:30:59.70 ID:KvaE4M8X0

魔王娘「お父様はそんな事を致しません!」

勇者「なっ!?」

魔王娘「お父様は私にも周りの方々にも優しくしてくれます。世界を滅ぼすなんてとんでもありません!」

勇者「し、しかし……」

魔王「娘よ、話をするだけ無駄だ」

魔王娘「お父様もそんな事を仰るから誤解されてしまうのです!」

魔王「なっ!?」

魔王娘「お父様のそういう所、私は良くないと常々思っておりましたのよ?」

魔王「し、しかし……」

魔王娘「言葉が通じるのに、自分の考えを伝えようと努力しない事は怠惰ではありませんか?」

魔王「む、むぅ……」

勇者「……ぷっ」

魔王娘「……?」

魔王「な、何がおかしい!?」



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:33:51.02 ID:KvaE4M8X0

勇者「さっきまで命の遣り取りをしていたお前が、娘に頭が上がらないとか……くっくっくっ」

魔王「貴様……今すぐ死にたいらしいな」

魔王娘「お父様!」

魔王「うぐっ……」

勇者「……はぁ、もうやめた」

魔王「やめた? どういう事だ?」

勇者「言葉通りだよ。なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた」

魔王娘「まぁ、わかった頂けたのですね!」

勇者「最初からわかっていたよ。世界が乱れるのは魔王のせいじゃない」

魔王娘「では、どうしてお父様の命を?」

勇者「必要だったんだよ。人間がまとまるのに大義名分って奴がさ」

魔王「難儀な話だな」

勇者「確かに、これまで小競り合いは続けていたが、大きな争いにはなっていなかった……」

勇者「この戦いの発端も元はといえば……」

魔王「……もう、よかろう?」



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:35:05.57 ID:KvaE4M8X0

勇者「はぁ……そうだな。どうでもいいか……」

魔王「ふっ、急に腑抜けたな」

魔王娘「お父様!」

魔王「あっ、いや……わ、悪い意味で言った訳ではなくてだな」

魔王娘「悪意がないのでしたら、そのような言葉遣いはお止めください」

勇者「本当、お前って娘の尻に敷かれてるんだな……魔王なのに」

魔王「う、うるさい! そ、それでこれからどうするつもりだ、勇者よ」

勇者「さぁ? 魔王討伐を果たせなかった俺に、帰る場所なんてないだろうからな」

魔王娘「まぁ、どうしてですの?」

勇者「あぁ、人類の希望って奴を背負った責任さ」

魔王娘「責任、ですか?」

勇者「人類の希望として、悪の根源たる魔王に挑み……」

魔王娘「ですからお父様は……」

勇者「わかってるって。魔王が悪の根源っていうのは、俺達人間の決めつけだ」

魔王娘「はい」



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:36:35.77 ID:KvaE4M8X0

勇者「それじゃあ、続けるけどいいかな?」

魔王娘「はい。話の腰を折ってしまい、申し訳ございません」

勇者「魔王」

魔王「なんだ?」

勇者「いい子だな、お前の娘は」

魔王「ふふっ、そうであろう? 我が自慢の娘よ」

魔王娘「まぁ、お父様ったら///」

勇者「……んんっ。それで、その悪の根源たる魔王に、人類の希望を背負って戦いを挑み……」

魔王娘「……」

勇者「逃げ帰ってきた腑抜けの居場所なんて、勇者じゃない俺の居場所なんてどこにもないさ」

魔王娘「そんな……勇者様に労(ねぎら)いもなく、それではあんまりではありませんか?」

勇者「そういうものさ。人っていうのは、自分の都合通りにいかないとそれを拒絶する」

魔王娘「あの……」

勇者「なんだ?」

魔王娘「差し出がましいようですが……こうされては如何でしょう?」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:37:46.88 ID:KvaE4M8X0

~~十五年後 王城 謁見の間にて~~

王様「確かにこれは余が勇者殿に与えた紋章……」

少年「……」

王様「そなたが勇者殿の息子というのは誠の話であるようだ」

少年「はっ」

王様「魔王を見事討ち取ったとの噂の後、その行方も知れず……」

王様「国中に触れを出して、所在を当たらせておったのだが……」

王様「まさか、そなたのように立派な息子がおったとはな」

少年「勿体無いお言葉です」

王様「して、勇者殿は息災であられるのか?」

少年「父は……先日病により他界してございます」

王様「な、なんと!? 救国の英雄が……既にこの世の者ではないと……」

少年「はい。最期まで陛下の事を案じておりました」



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:39:22.32 ID:KvaE4M8X0

王様「そうであったか。余の事を思うてくれるのなら、近くにおってくれれば良かったものを……」

少年「父は魔王を討ち取った事で自分の役目は終わったと……」

少年「また、自分の存在が『王の治世の妨げになってはいけない』と申しておりました」

王様「そこまで余の事を考えて……そのような心配は杞憂であるというのに」

??「あの方らしいといえばあの方らしいですが、せめて居場所ぐらい教えて欲しかったものです」

王様「おぉ、司教殿ではないか」

司教「はい。勇者の子息が来ていると伺い、許可も得ずに参上致しました。お許しください」

王様「よいよい。そなたならいつでも大歓迎だ」

司教「勿体ない御言葉にございます」

王様「少年よ、司教殿はそなたの父上と共に、魔王を討伐する為に働いてくれたのだ」

司教「あの頃はまだ修行中で、一介の僧侶でしたが……いやはや懐かしい」

王様「魔王討伐後は英雄として周辺の教会をまとめ、今は余の治世の手助けをしてくれている」

司教「手助けなどとんでもございません。力の微力さに身の竦む思いです」

王様「何を言うか。そちが知恵を貸してくれるお陰で、余も随分と助かっている」

司教「身に余る御言葉です。私はただ、赤心を以って尽くすのみにございます」



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:43:37.49 ID:KvaE4M8X0

司教「それにしても……」

少年「なんでしょう?」

司教「いえ、あなたが私の知る勇者と瓜二つなので……少し驚きました」

王様「うむ、わしもそう思ってた。まるで勇者殿と話しているようだ」

少年「そうでしょうか?」

司教「えぇ。多少、雰囲気に違いはありますが。それに……」

司教「その黒髪……それが金色(こんじき)であったなら、本人と言われてもわからない程だと」

少年「この色は母親譲りと聞いております。それにしても……」

王様「ふむ、どうか致したか?」

少年「いえ……父と共に魔王討伐をされたとの事ですが、司教猊下は随分とお若くお見えになるので……」

司教「ふふふっ、その事ですか。こう見えて三十を超えているのですよ、私も」

王様「おう、司教殿はいつ見ても若く見えてな。羨ましい限りだ」

司教「日頃の摂生の賜物と思っております」

王様「む……摂生か。余には耳が痛いな」



17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:48:08.63 ID:KvaE4M8X0

司教「ただ、若く見えるせいで、下の者からも威厳がないと良く言われてしまいますが」

王様「ははは、まぁ司教殿の実力は皆の知るところであるからな。気にする必要はあるまい」

少年「失礼な事をお伺いして、申し訳ございません」

司教「お気になさらずに。それにしても、君はどうしてこの城に?」

王様「そうだ。余もそれを聞きたいと思っていたのだ」

少年「はい。父が亡くなる前の事です。自分が死んだら陛下をお訪ねするようにと……」

王様「勇者殿が?」

少年「永い治世、陛下にあらせられても、きっと頭を悩まされている事もおありであろうと」

王様「……勇者殿がそう言っておったのか?」

少年「はっ……」

司教「成る程、彼がそんな事を……」

王様「勇者殿は、未来を見通す力も持っていたのか?」

司教「さぁ……どうでしょうか? ただ、常人とは違う力を持ってはいたようではありますが」

少年「私に何か出来る事がありましょうか?」

王様「実は……魔王が復活したのではないかとの噂が、最近耳に入っておってな」



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:51:16.04 ID:KvaE4M8X0

少年「魔王が復活……ですか?」

王様「うむ。魔王が勇者殿に討たれたとの噂が流れ、強力な魔物達の姿を見る事もなかったのだが……」

司教「陛下、ここから先は私が」

王様「……うむ、では頼もうか」

司教「ここ最近、辺境の村々や街道で、魔物によるものと思われる襲撃事件が相次いでいます」

少年「魔物の襲撃……」

司教「はい。各地の教会からの報告なので、これは間違いありません」

少年「父から、強力な魔物は魔界に封印された。そう聞いておりますが?」

司教「その通りです」

司教「旅の仲間であった賢者が、人間界と魔界との間に強力な結界を張り……」

司教「魔物達はその結界を越える事が出来ないはずなのです」

少年「それが、人々を襲っていると?」

王様「その通りなのだ」

少年「魔物を封じ込めているという結界はどうなっているのでしょうか?」

司教「結界の状況を確認する為、調査隊を出したのですが……彼らとも連絡が取れなくなりました」



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:54:17.69 ID:KvaE4M8X0

王様「やはり、賢者殿に話を聞くのが良いのではないか?」

司教「はい。結界を作ったのはあの方ですから、それが最善だと考えますが……」

少年「……何か問題でもあるのでしょうか?」

司教「問題というか……賢者は難しい方なので、まともに相手にされるかどうか」

王様「勇者殿のご子息ならば、賢者殿も話を聞いてくれるのではないか?」

少年「私が、ですか?」

司教「陛下、実は私も同じ事を考えておりました」

王様「うむ」

司教「本来ならば、私が直接に彼の方の下に赴けばよいのでしょうが、今はそれも難しく……」

王様「司教殿は立場上、濫りに動く事も叶うまい。そこで少年よ」

少年「はっ」

王様「司教殿の代わりに賢者殿の下に赴き、事態の確認をしてはもらえまいか?」

司教「勿論、君一人で行ってくれとは言いません。教会からも人を付けましょう」

少年「私などでよければ喜んで」

王様「おぉ、頼まれてくれるか!」



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:58:06.61 ID:KvaE4M8X0

少年「はい。陛下からの命、どうして断れましょうか」

王様「ふふっ。こうしてお主と話をしておると、勇者殿と話をしているような錯覚を覚えるな」

少年「父とですか?」

王様「うむ、勇者殿もお主のように真っ直ぐな眼差しであったよ」

少年「……」

司教「では、私は教会に戻り人員を選出致します」

王様「おぉ、宜しく頼むぞ、司教殿」

少年「あの……」

司教「うん、どうかしましたか?」

少年「出来れば、私一人で行くという訳には参りませんでしょうか?」

王様「なんと!?」

司教「君が一人で? 一人でなければ何か不都合でもありますか?」

少年「いえ、父が亡くなった後はずっと一人旅だったもので……出来れば一人の方が……」

司教「平時ならそれでも良いかもしれませんが、事は世界の存亡に係わる事かもしれません」

王様「ふむ、司教殿の言う通りだな。それに先程も言ったが、魔物達の出没もあると聞く」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 13:59:27.26 ID:KvaE4M8X0

司教「陛下の仰られるように、魔物達の出没が確認されている以上、平時とは状況も違います」

少年「はい」

司教「確実に任務を成し遂げて貰わなければならないゆえ、複数の人員で当たるのは当然の事」

少年「……」

司教「仲間との旅も、しばらくは落ち着かないかもしれませんが、旅を続ける内に慣れると思います」

司教「私達も魔王討伐の旅に出た当初は、慣れない旅で苦労したものです」

王様「ほう、司教殿達もそうであったのか?」

司教「お恥ずかしながら。見ず知らず同士が突然一緒に旅をするのです。諍(いさか)いがあって当然かと」

王様「ふむ、言われみればそういう問題もあるのかも知れんな」

司教「ですが、それを乗り越えてこそ、仲間としての絆が強くなるものです」

王様「どうであろうか? 司教殿の言う通り、万全を期す為にも仲間と共に旅をしてはくれんか?」

少年「……陛下がそう仰るのでしたら」

王様「よし、決まりだ! それでは司教殿、改めて頼みますぞ」

司教「はい。それではしばしの御猶予を頂きます」



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:03:57.41 ID:KvaE4M8X0

~~二時間後 王城 謁見の間にて~~

少年「それでは、このお二方と共に西の果てにある賢者の塔を目指せば良いのですね?」

司教「えぇ、彼の方はそこに居を構えているはず。では二人共、彼の事を宜しく頼みましたよ」

僧侶「お任せください司教さま」

戦士「はい」

司教「女僧侶は信仰も篤く勉強熱心な才媛、女戦士は昨年の武術大会で優勝している程の腕前です」

女僧侶「さ、才媛なんてとんでもございません。まだまだ至らぬ事ばかりです……」

少年「お二人共よろしくお願いします。武術大会で優勝とは凄いですね」

女戦士「……」

司教「うん……二人共歳は若いですが、旅の仲間として君の力になってくれるはずです」

少年「これからよろしくお願いします」

女戦士「……よろしくお願いします」

女僧侶「こちらこそよろしくお願いしますわ、勇者さま」

少年「……勇者だったのは私の父で、私は勇者ではありません」



28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:06:40.81 ID:YkvqpKFOO
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:08:12.83 ID:KvaE4M8X0

女僧侶「え、でも……」

王様「確かに勇者はそなたの父であるのだ。些細な事に目くじらを立てる事もあるまい」

少年「しかし……」

王様「余の与えた勇者の紋章を持っておるのだ。その紋章に恥じぬ新たな勇者となってくれんか?」

少年「私にとっては父の形見ですが、新たな勇者にという事でしたら、これはお返しします」

王様「なんじゃと!?」

少年「確かに私の父は勇者でしたが、私はそれ程の器ではありません」

司教「君、陛下に対して無礼な言葉は許されませんよ!」

少年「……申し訳ございません」

王様「司教殿、待たれよ」

司教「いえ、しかし……」

王様「待てと申している。では、一先ずその紋章はそなたに預けておく」

少年「預ける、ですか?」

王様「そうだ。勇者よ、その紋章はそなたの父の形見でもあるのだろう。それを手放すとは何事だ」

少年「はっ……」



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:13:05.76 ID:KvaE4M8X0

王様「そなたが今回の任務を見事に成し遂げた暁には……」

王様「新たな勇者として、正式にその紋章をそなたに授ける。それでどうかな?」

少年「……そういう事でしたら、それまでの間、この紋章をお預かりいたします」

王様「うむ。紋章に恥じぬ活躍を期待しておるぞ」

女戦士「……よろしいでしょうか?」

司教「ん、何かね?」

女戦士「そろそろ出発しませんと、今日中に隣の街まで辿り着くのが難しくなります」

司教「……そうですね。話も纏まったようですし、出発してもらいましようか」

王様「では、三人共、頼んだぞ!」

少年・女僧侶・女戦士「はっ!」

  ………

王様「……さて、どうなる事か」

司教「西の最果てにある街までは、特に大きな問題もなく辿り着けるでしょう」

王様「その先はどうであろうか?」

司教「その先は陛下の御威光も教会の力も及ばぬ地。正念場かと……」



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:18:05.71 ID:KvaE4M8X0

~~二週間後 最西の街近郊にて~~

商隊長「あと半日もしない内に、最西の街に到着しますよ」

女僧侶「ようやくですね、勇者さま」

少年「あの、その勇者というのは止めてくださいと何度言えば……」

商隊長「あっはっはっ、何をご謙遜なさいますか。その紋章をお持ちという事が紛れもない勇者の証ですよ」

女僧侶「えぇ。商隊長殿の言う通りですわ」

少年「はぁ……」

商隊長「いや~しかし助かりました。まさか勇者様御一行に商隊の警護をしてもらえるなんて」

女僧侶「ちょうど目的地もご一緒でしたし、何よりも教会の荷物を運ぶという事でしたので」

商隊長「ここまで何事もなく来られたのも、神の御加護でしょうかな?」

女僧侶「そうですね。神の御加護に感謝しましょう」

女戦士「……勇者殿」

少年「ええ、どうやら……」

商隊長「ど、どうかなさいましたかな?」

女戦士「どうも雰囲気がおかしい……もしかしたら、囲まれたかもしれません」



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:23:53.53 ID:KvaE4M8X0

商隊長「も、もしや魔物共が……」

  ヒュン! ヒュン! ヒュン!

少年「っ!? 皆、荷車の陰に!」

  ドスッ! ドスッ! ドスッ!

商隊長「ひぇっ!?」

女僧侶「み、皆さん、お怪我は!?」

少年「こっちは大丈夫です!」

商隊長「わ、我々の方も大丈夫です」

女戦士「まずいですね……飛んできた矢の数を考えると、相手はかなりの人数かと」

少年「二射目は……来ないようですが」

??「はっはっはっ、情報通りじゃねぇか」

女戦士「何者だっ!」

??「何者かなんて、てめぇらには関係ねぇ事だろ?」

女僧侶「わ、私たちは教会の者です。それを知っての狼藉ですか!」

??「あぁ、糞ったれ教会の犬共と知っての狼藉さ」



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:28:14.34 ID:KvaE4M8X0

女僧侶「く、くそったれきょうかい!?」

商隊長「あわわわっ!?」

女戦士「目的は何だっ!」

若い男「ふん。そんな事は自分達の胸に手を当てて考えやがれ、犬共が!」

女戦士(若い男……それにあの手にした杖……魔法の使い手か?)

女僧侶「だっ、誰が犬ですか!」

若い男「まぁいい。幾ら糞ったれ相手でも、人殺しは俺の主義じゃねぇ」

女僧侶「矢を射掛けておいて、今更何を……」

若い男「その荷物を置いていけば、命までは取らないでおいてやる」

女戦士「野盗……にしては」

女僧侶「矢を射掛け、教会を侮辱しておきながら……あなた方は盗みを働く下衆ではありませんか!」

商人「ぞ、賊をあまり刺激しては……」

若い男「だから、こっちにはそうしなきゃならない理由ってもんがあるんだよ」

少年「……理由とはなんです?」



37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:33:10.11 ID:KvaE4M8X0

若い男「だから、そいつは自分の胸に手を当てて考えろって言ってんのよ!」

女僧侶「お話になりませんわ!!」

少年「あの……」

女戦士「何でしょう?」

少年「少し様子がおかしいと思いませんか?」

女戦士「そうですね。我々を囲んでいる気配はありますが、他の者が姿を現していません」

少年「居場所を悟られない為……という事は?」

女戦士「その可能性もありますが、現時点ではなんとも……」

若い男「おい! そこの二人! 何をこそこそしてやがる!」

少年「……皆をお任せして大丈夫ですか?」

女戦士「どうされるおつもりです?」

少年「お任せしても大丈夫ですかと聞いています」

女戦士「……現状を維持する程度でしたら何とか」

若い男「おいこら! 無視すんなお前ら!」

少年「では……お願いします」ダッ



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:37:45.80 ID:KvaE4M8X0

若い男「こ、こいつ! 突っ込んで!? くそっ!!」

女僧侶「魔法の詠唱!? 勇者さま危ない!」

女戦士(矢が飛んでこない……しかし、あれでは魔法の餌食に……)

若い男「くらえっ!!」

  ゴウッ!!

若い男「なっ!? 火球が消えた!?」

少年「動くなっ!」スチャッ

若い男「う、うぐっ……」

少年「もう一度言う、動くな。動けばこの剣で胸を貫く」

若い男「く、くそっ……どうなってんだよ……」

少年「隠れている連中! こいつの命を助けて欲しければ、武器を捨てて出て来い!」

若い男「お、俺の事はいいから逃げろ!」

少年「動くなと言ったはずです」チクチク

若い男「ぐぅっ……」



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:42:01.24 ID:KvaE4M8X0

子供A「やめろ! 兄ちゃんを放せ!!」

女僧侶「こ、子供!?」

若い男「馬鹿! お前ら逃げろっ!」

子供B「兄ちゃんを放って逃げられるかよ!」

若い男「お、お前達……」

商隊長「ぜ、全員……子供じゃないですか!?」

女戦士「どういう事……でしょう?」

少年「……全員、武器を捨てて一箇所に集まるんだ」

女僧侶「ゆ、勇者さま?」

若い男「お、俺の命ならくれてやるからあいつらだけは……」

少年「あなたの命なんて欲しくもない」

子供A「これでいいだろ! 兄ちゃんを放せ!」ガラン

少年「女戦士さん」

女戦士「はい」

少年「縄を持ってきてくれませんか? 念の為に彼を縛っておきたいので」



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:46:32.88 ID:KvaE4M8X0

商隊長「隠れていたのは子供ばかりが十七人も……」

少年「私もまだ大人とは言える歳ではありませんが」

商隊長「い、いえ……別に馬鹿にしているわけでは……」

少年「さて、今度は答えてくれますね。どうして我々を襲ったんですか?」

若い男「……あんたら教会の人間だろ?」

女僧侶「この姿を見ればおわかりになるでしょう!」

女戦士「……」

少年「厳密に言えば私は違いますが……彼らはそうなります」

若い男「なぁ、こいつらの命は助けてくれ! 頼むっ!」

少年「先程も言いましたが、あなた方の命なんて欲しくありません。襲われた理由を知りたいのです」

若い男「理由か……あんたら本当に心当たりがないのか?」

少年「ないからこうして聞いているんです」

若い男「そこのおっさんは……そうじゃないみたいだよな?」

商隊長「えっ!? わ、私は……」

若い男「まぁいいさ、話してやるよ。その代わり、こいつらの命だけは助けてくれよ?」



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:51:40.98 ID:KvaE4M8X0

少年「……では、最西の街は駐在している司祭殿の圧政に苦しめられていると?」

若い男「そうさ、布施と称して教会が大金を要求し……」

少年「お布施……ですか」

若い男「あぁ、布施を出さなければ背教者として扱われ、役人の手で鉱山に強制連行さ」

女僧侶「し、信じられません! 教会の司祭さまがそんな事を!?」

若い男「信じるも信じないもあんたらの自由。最西の街に行けばわかる事さ」

少年「しかし、お布施を出さないからといって、何故役人が出てくるんです?」

若い男「最西の街は、首都から遠い辺境にあるって事もあって、教会の力が強い街なんだよ」

女戦士「……」

若い男「加えて、教会が独自にそれなりの兵力を抱えてやがる」

少年「教会がですか?」

若い男「教会が私兵を抱えているなんて常識よ? その姉ちゃんだってそうじゃねぇのか?」

女戦士「わ、私は……」

若い男「教会の命令には、絶対服従の狂信的な連中も多いからな。魔物より性質が悪いっての」

女僧侶「信徒の皆さんを侮辱するのは止めなさい!」



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 14:56:15.58 ID:KvaE4M8X0

若い男「はっ! さっきからうっさい姉ちゃんだねぇ、全く」

女僧侶「ぐぬぬぬぬ……」

少年「まぁまぁ、落ち着いてください」

女僧侶「で、でも!」

若い男「……まぁ、そういう訳で、役人共も教会の威光には逆らえないって訳よ」

少年「この子供達は?」

若い男「こいつらは布施を払えなくて、親が強制労働に遭ってる連中さ」

女戦士「……」

若い男「中には強制労働の果てに、親が命を落とした奴だっている」

子供C「と、父ちゃん……うぅっ……」

子供A「馬鹿っ! 泣くなっ!!」

少年「……どう思いますか?」

女僧侶「私には信じられません! 教会がそんな圧政を強いるなんて!」

女戦士「……真偽はわかりませんが、この子供達の栄養状況が芳しくないのは見ての通りです」

少年「確かに。皆、酷く痩せ細っているのは間違いありませんね」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:01:39.06 ID:KvaE4M8X0

少年「商隊長さん?」

商隊長「はっ、はい!?」

少年「あなたは教会の依頼を受けて、最西の街にはよく行かれていますね?」

商隊長「わ、私は頼まれて荷物を運んでいるだけで何も……」

少年「……」ジロッ

商隊長「ゆ、勇者様……私の口からは何とも……お察しください」

若い男「……勇者だと?」

少年「そこまで聞けば十分です。女僧侶さん?」

女僧侶「はっ、はいっ」

少年「確認しますが、困窮した方々に救いの手を差し伸べる事は、教義に反していませんね?」

女僧侶「勿論です! むしろ進んで行うべき事と司教さまも常々仰られていますわ」

少年「では、荷物の一部はここに置いて我々は街を目指します」

商隊長「は?」

少年「困窮している子供達に教会の物資を施すのです。何か問題でも?」

商隊長「い、いやそれは……しかし……」



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:06:15.76 ID:KvaE4M8X0

少年「女僧侶さん、問題ありませんね?」

女僧侶「は、はいっ!」

女戦士「……」

若い男「あんたら……どういうつもりだ?」

少年「どういうつもりも何も……話を聞いていなかったんですか?」

若い男「い、いや……聞いてはいたが……」

少年「ではそういう事です。女戦士さん?」

女戦士「はい」

少年「この荷車から一度荷物を降ろして、これとそっちの食糧を荷車に積み直します」

女戦士「わかりました。時間もありませんのですぐに終わらせます」

商隊長「こ、困ります! おやめくださいっ!!」

少年「この縄はもう必要ありませんね」

商隊長「あっ!?」

女僧侶「勇者さま、縄を解いては……」

子供達「「「兄ちゃん!」」」



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:10:25.88 ID:KvaE4M8X0

少年「……野盗に襲撃され、荷の全てを奪われた事にしてもよいのですが?」

商隊長「それはもっと困ります!!!」

若い男「俺達は野盗じゃねぇ!」

少年「そんな事はどうでもいいでしょう?」

若い男「良くあるかっ!」

少年「あなた達は誰も傷つかず傷つけず食糧を手に入れる。私達は全てとはいかないまでも荷物を街まで運ぶ」

若い男「……」

少年「何か問題でもありますか?」

若い男「どうして……」

少年「うん?」

若い男「どうして俺の魔法がお前に効かなかった! お前、一体何もんだよ?」

女戦士(そうだ。この男の放った魔法の火球が、勇者殿の前でかき消すように消失した)

少年「何者と言われても……ただの旅人としか」

若い男「ただの旅人にあんな芸当が出来るか! それに勇者とか何とか呼ばれてやがったよな?」

少年「勇者だったのは私の父です。その子供というだけで、私には何の取り柄もありません」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:15:34.54 ID:KvaE4M8X0

若い男「勇者の息子!? お前が?」

少年「もういいですか? 日が暮れる前に最西の街に着きたいのですが」

若い男「おい! 話しの途中だぞ!! 無視するな!!!」

少年「全く、面倒臭いな……」

若い男「何だと!」

少年「……女戦士さん、荷物の整理は済んでいますか?」

女戦士「はい。指示のあった物はこちらの荷車に積み替えました」

少年「仕事が早くて助かります。では、皆さん行きましょうか」

女僧侶「は、はいっ」

若い男「お、おいっ!?」

商隊長「に、荷物が……」

若い男(何だこいつ……魔法は効かねぇわ、人の話は聞かねぇわ)

少年「神はあなたの行いをご覧になれていますよ、きっとね」ニッコリ

商隊長「うっ……は、はい……」



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:18:54.55 ID:KvaE4M8X0

若い男「なぁ……最西の街に行くんだよな?」

少年「さっきからそう言っています」

若い男「街に何の用だよ?」

少年「荷物を届ける以外、街には用はありません。何事もなければ、更に西へ向かう予定です」

若い男「名前の通り最西の街が人間の住む最西だ。街の向こうには何もねぇぞ」

少年「それは直接行って確かめ……」

女僧侶「ゆ、勇者さま、それ以上は……」

少年「……そうですね。では、行きましょうか」

若い男「……待てよ」

少年「まだ何か?」

若い男「いや……食糧の事は助かった。ありがとよ」

少年「私は何もしていません。礼なら食糧を提供してくれた教会に言ってください」

若い男「それは断らせてもらう」

女僧侶「何という恩知らずな……」



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:22:38.04 ID:KvaE4M8X0

少年「ほらほら、そんなに怖い顔をしないでください。可愛らしい顔が台無しですよ?」ニッコリ

女僧侶「か、かわ、可愛らしい? わ、私がですか?///」

少年「えぇ、あなたは聖職者なのですから、皆さんの為にも穏やかでいてください」

女僧侶「はっ、はいっ!///」

若い男(このガキ……目が笑ってねぇし)

若い男(あっちの女戦士は我関せずって体だし……何なんだ、コイツら?)

女戦士「では、参りますか?」

少年「えぇ」

若い男「この荷物、最西の街の司祭宛てなんだろ?」

少年「そうですね」

若い男「ふん、気をつけろよ。あの強欲司祭は一筋縄じゃいかねぇぞ」

女僧侶「司祭さまに対して無礼ですわ!」

少年「ほら、また……」

女僧侶「は、はいっ///」



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:26:50.05 ID:KvaE4M8X0

少年「……恵まれない子供達に配ったんです。きっと司祭殿もお喜びくださるでしょう」

若い男「だといいがな。まぁ、せいぜい気をつけてくれ」

商隊長「はぁ……」

少年「ご忠告、感謝します」

女戦士「勇者殿、急ぎませんと街の閉門に間に合わなくおそれが……」

少年「わかりました。少し急ぎましょうか」

―――

――



子供A「兄ちゃん、大丈夫かよ!」

若い男「あぁ。心配掛けたな、お前ら」

子供C「これ、貰っちゃっていいのかな?」

若い男「くれるって言ってたんだ。遠慮なんてする事はねぇよ」

子供B「でも……あの人達、大丈夫かな?」

若い男「わからん……が無事に街を抜けられるといいんだがな……」



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:30:05.92 ID:KvaE4M8X0

~~夕刻 最西の街にて~~

商隊長「ふぅ……なんとか門前払いを食わずに済みましたな」

少年「申し訳ありませんでした。途中で余計な時間をとってしまったせいで……」

商隊長「いえいえ、それは構わないんですが……」

女僧侶「荷物、の事でしょうか?」

商隊長「あ、あはは……そうですな。帳簿通りの積荷がないと何を言われるか……」

少年「事情は私が説明します。あなたに非はないのですから」

商隊長「まさか、聖堂までご一緒されるおつもりで?」

少年「積荷を送り届けるとは、そういう事ではないのですか?」

商隊長「そ、そうなんですが……参ったな」

少年・女僧侶・女戦士「?」

商隊長「ま、まぁ……行けばわかる事なんですが……本当にいらっしゃるんですか?」チラッ

少年「私が行くと何か不都合でもあるのでしょうか?」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:35:18.33 ID:KvaE4M8X0

商隊長「不都合というか何というか……勇者様のような見目麗しいお方は少し……」

少年「……どうも要領を得ませんね」

女戦士「勇者殿の容姿が何か?」

商隊長「私の口からは……うぅむ……」

女僧侶「何か問題あるのでしたら、仰ってください」

少年「ここで話をしていても時間を無駄にするだけです。とにかく積荷を届けてしまいましょう」

商隊長「……そうですね。ただ、後で私を責めないでくださいよ?」

女僧侶「勇者さまに、何か危害を加えようというのではありませんわね?」

商隊長「め、滅相もありません!」

女僧侶「では、どういう事なのです?」

商隊長「ですから私の口からは……ご勘弁ください」

少年「行けばわかるそうですから、一先ず積荷を届けに聖堂に向かいましょう」

女僧侶「ですが!!」

少年「教会の遣いであるあなた方がいて、まさか危害を加えられる事はないでしょうから」

女僧侶「は、はい……」



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:40:30.59 ID:KvaE4M8X0

~~最西の街 教区にて~~

商隊長「いつもお疲れ様です。聖堂に荷物をお届けに参りました」

衛士「おぉ、お前かご苦労だったな」

商隊長「いえいえ。私の苦労など衛士様と比べれば……」

衛士「ふむ、そこの連れは見ない顔だが……ほう……これはなかなか」ニヤニヤ

商隊長「こ、この者達は積荷の護衛でございます」ゴソゴソ

衛士「……そうか。良しさっさと通れ」

商隊長「はい、ありがとうございます」

女僧侶(今、何か……)

女戦士(賄賂……か)

商隊長「ささ、早く参りましょう」

―――

――





66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:45:12.30 ID:KvaE4M8X0

~~最西の街 教区 聖堂内にて~~

女僧侶「教区の衛士が賄賂など……」

商隊長「何も仰らないでください。衛士達と揉めると私の仕事がやりにくくなってしまうので……」

女僧侶「し、しかし!」

少年「やめましょう。私達が商隊長殿の生活を保障できる訳ではないのですから」

女戦士「そうですね」

女僧侶「あ、あなたまで何を……」

女戦士「では、あなたが彼の生活を保障されるのですか?」

女僧侶「それは……」

商隊長「まぁまぁ、皆さんその辺りで……いらぬ気遣いをさせてしまい申し訳ございません」

少年「いつも、あのような感じなのですか?」

商隊長「はははっ……残念ながら……」

女僧侶「これでは、あの野盗が正しい事を言っている事に……」

少年「組織も大きくなれば……という事なのかもしれません」

女戦士「……」



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:48:09.95 ID:KvaE4M8X0

少年「それにしても司祭殿は遅いですね。いつまで待てばよいのでしょうか」

商隊長「いつもの事ですよ。司祭様はお忙しい方ですから……っと、みえられたようですな」

司祭「あらあら、いつもご苦労ね」

商隊長「いえいえ、滅相もございません」

女戦士(あれがこの街の司祭殿……)

司祭「この者達は?」

商隊長「国王陛下の命を受けたとの事で。王都からこちらの街に向かうとお聞きして、ご一緒に」

司祭「こ、国王陛下ですって!? あなたは教会の人間のはずでしょ?」

女僧侶「はい。国王陛下と司教猊下の命で、こちらにいらっしゃる勇者さまのお供を仰せつかっております」

司祭「ゆ、勇者殿ですって!? あなたが?」

少年「……」

女僧侶「ゆ、勇者さま、ここは堪えて……」

少年「……わかっています」

司祭「ほぅ……なんと可愛らしい……」

少年「……は?」



68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:52:06.67 ID:KvaE4M8X0

司祭「な、何でもありません/// それで、この街に何の用かしら?」

少年「この街ではなく、更に西へ。詳しい事はご容赦ください」

司祭「……陛下と猊下の命ですもの。機密事項なのは当然ね」

少年「はい、申し訳ございません」

司祭「気にしないでちょうだい。そんな顔をされたら、私が虐めているみたいじゃない」

少年「そのような事……滅相もありません」

司祭「でも、虐められた顔も見てみたいものねぇ……」

少年「はっ?」

司祭「な、何でもないのよ!? 何でも!」

少年「……そうですか」

司祭「それにしても……」ジロジロ

少年「……」

女戦士(何だ……司祭殿のあの視線は……)

司祭「本当に何でもないの。ただね、勇者殿があまりに可愛らしいものだから……」



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:55:29.10 ID:KvaE4M8X0

商隊長「し、司祭様! 積荷のご確認をお願いしたいのですが」

司祭「……せっかくいい気分だったのに、何て無粋な男なのかしら」

商隊長「も、申し訳ございません」

司祭「ふん、まぁいいわ。人を遣るから積荷のところで待っていなさい」

商隊長「はい、よろしくお願いします」

司祭「ねぇ、あなた達。宿はまだ決まってないんでしょ?」

女僧侶「はっ、はい!」

司祭「あなたには聞いてないの。ね、宿は決まってないんでしょ、勇者殿?」

少年「はい」

司祭「そうね……こちらで部屋を用意するから、今日はゆっくりしていくといいわ」

少年「ご配慮、感謝します」

司祭「気にしないで。王都からの客人……それも勇者殿に対して無碍(むげ)な扱いは出来ないもの」

商隊長「では、私は積荷の所に控えておりますので……」

司祭「わかったわ。それじゃ、私は失礼させてもらうわよ」

商隊長「はい。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました」



71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 15:59:27.61 ID:KvaE4M8X0

商隊長「……ふぅ、何とかご機嫌を損ねずに済んだようですな」

女僧侶「な、何なんですか……あれでも……」

商隊長「しっ……あまり大声を出されては……」

女戦士「司祭殿は……随分と変わったご趣味をお持ちのようですね」

商隊長「ま、まぁ、ご想像の通りです」

少年「私は司祭殿に気に入られてしまった……という事ですか?」

女僧侶「気に入られたって……司祭さまは男の人なんですよ!?」

商隊長「こ、声を抑えてください」ボソボソ

女僧侶「で、でも……」

商隊長「驚かれるの仕方ない事だと思いますが、そういうご趣味の方なんですよ、司祭様は」

少年「男色家という事ですか?」

商隊長「まぁ、はっきり言うとそうなります」

女戦士「それなら勇者殿への反応も得心がいきます」

少年「いえ、得心されても困るんですが……」

女戦士「そうでした。申し訳ありません」



72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:03:41.41 ID:KvaE4M8X0

女僧侶「何て汚らわしい……」

商隊長「ですから、私を責めないでくださいと申し上げたんですよ」

女戦士「明日の朝になるまで、街の門は閉ざされている訳ですから……」

少年「そうですね、ここに滞在するしかないでしょう」

女僧侶「大丈夫、なんでしょうか?」

女戦士「大丈夫も何も……国王陛下と司教猊下から下命を受けているのですよ、私達は」

少年「普通なら、何も心配する事はないんでしょうが……」

女戦士「街に入る前にあった一件でしょうか?」

少年「そうですね」

女僧侶「街に入る前……野盗たちが言っていた事でしょうか?」

女戦士「はい。野盗達の言う事なので、全てを鵜呑みにするのはどうかと思いますが……」

少年「もし、あの男の言う事が正しいのでしたら、私達も必ずしも安心とは言えないでしょうね」

女僧侶「そんな……」

??「失礼致します」

少年「ん?」



74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:05:35.26 ID:2T5z4Rpo0

妖艶なショタコン美女かと思ったら



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:06:35.06 ID:TsnKIUHL0

綺麗なショタコンのお姉さんと思ってたのに…



76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:06:51.65 ID:SY87tor+0

可愛いねーちゃんで想像してたのにお前・・・



77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:07:15.71 ID:KvaE4M8X0

侍祭「勇者様方、お部屋の準備が整いました」

商隊長「おぉ、お呼びのようですな。ここまでご苦労をお掛けしました」

女僧侶「いえ、こちらこそ仕事を果たせず申し訳ありませんでした」

商隊長「まぁ、あれは仕方ない事でございますよ」

少年「そう言って頂けると助かります」

商隊長「いやいや……それより、どうかお気をつけください」ボソボソ

少年「商隊長殿も」

商隊長「ははは。では、私めはこれにて」ペコリ

侍祭「ご挨拶はお済になりましたか?」

女僧侶「はい。お待たせして申し訳ありません」

侍祭「お食事もご用意致しますので、しばらく部屋でお寛ぎいただければ」

少年「何から何まで……ご厚意、痛み入ります」

侍祭「それではご案内致します」



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:12:38.15 ID:KvaE4M8X0

~~最西の街 教区 聖堂内 回廊にて~~

侍祭「こちらでございます」

女僧侶「それにしても、素晴らしい聖堂ですわ」

侍祭「お褒めに預かりありがとうございます。全ては司祭様の徳の賜物かと……」

少年「王都の大聖堂と比べても、遜色のない造りですね」

女戦士「……勇者殿は王都の大聖堂をご存知なのですか?」

少年「ええ、以前に一度……それが何か?」

女戦士「いえ……」

女僧侶「まぁ、中庭に綺麗な花が……」

少年「あの花……」

侍祭「どうか致しましたか?」

少年「……いえ、中庭に綺麗な花が咲いていると思いまして」

侍祭「ああ。あの中庭の植物は、我らが育成している薬草園ですね」

女僧侶「見た事のない花ですけど、何という名前なのでしょう?」

侍祭「申し訳ございません、私は勉強不足にて名前rまでは……。さ、こちらにお越しください」



84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:16:01.54 ID:KvaE4M8X0

~~最西の街 教区 聖堂内 客間にて~~

女僧侶「勇者さま?」

少年「……何ですか?」

女僧侶「先程から難しい顔をされて……どうかしましたか?」

少年「いえ、私の勘違いだといいのですが……」

女戦士「何か気になる事でも?」

少年「さっき中庭に咲いていた花ですが……」

女僧侶「あの綺麗な花がどうかしましたか?」

少年「あの花ですが、確か人間界と魔界の境にしか自生しない種のはずです」

女僧侶「まぁ、そうなんですか?」

少年「えぇ……」

女戦士「随分と珍しい花のようですね。それで、どうして勘違いだと良いのですか?」

少年「……」

女戦士「勇者殿?」

少年「……この部屋に案内をしてくれた侍祭から、甘い匂いがしていたのお気付きですか?」



85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:21:44.84 ID:KvaE4M8X0

女僧侶「甘い匂い、ですか?」

少年「はい」

女戦士「そうですね、微かではありましたが。それが何か?」

女僧侶「ごめんなさい、わたしは気付きませんでした」

少年「……ここの司祭殿は我々の想像以上に厄介かもしれません」

女僧侶「それはどういう……」

  コンコンコンコン

少年「はい」

  ――ガチャッ

侍祭「失礼致します。お食事の準備が整いました」

少年「わかりました。では、せっかくですからご馳走になりましょうか?」

女僧侶「ゆ、勇者さま……」

女戦士「そうですね、司祭殿の御厚意ですから」

侍祭「……では、ご案内致します。こちらへ」



90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:28:10.61 ID:KvaE4M8X0

~~夜半 最西の街 教区 聖堂内 客間にて~~

女戦士(勇者殿の様子から、食事に何かあるのではと警戒したが……)

女戦士(出された食事は特別に変わったところもなかった)

女戦士(食事の後、勇者殿は与えられた客室に籠もってしまわれた……)

女戦士(……)

女戦士(最初の挨拶以降、司祭殿が我々の前に姿を見せる事もなく……)

女戦士(勇者殿の様子を除き、特に変わった事も起きていない)

女僧侶「すーっ……すーっ……」

女戦士(慣れない旅の疲れか……)

女戦士(……)

女戦士(……駄目だな。どうにも気が張って寝付けない)

女戦士(少し夜風にでも当たろうか)

女戦士(そういえば、勇者殿が気にしていた中庭の花……)

女戦士(あの中庭なら、夜風も気持ちいいかもしれない……ついでに確認だけしておくか)

女戦士(……)



92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:32:48.07 ID:KvaE4M8X0

~~夜半 最西の街 教区 聖堂内 中庭にて~~

女戦士(薬草園は確かあの辺りだったか……)

女戦士(うん? 人影?)

少年「やぁ、こんばんは」

女戦士「ゆ、勇者殿!? どうしてここに?」

少年「あなたこそ、どうして?」

女戦士「わ、私は眠れなくて何となく……」

少年「そうですか。私はこの花が気になったので」

女戦士「そうでしたか……」

少年「思ったとおり、人間界と魔界の境にしか自生しない種ですね、これは」

女戦士「自生しないという事は、ここにはる花は栽培されているという事でしょうか?」

少年「えぇ、これ以外にも幾つか珍しい種の植物が栽培されているようです」

女戦士「そうなのですか? 流石は教会の薬草園ですね」

少年「はい……この背丈の小さな花。これは葉を煎じれば傷の炎症を和らげる効果があります」

女戦士「勇者殿は博識でいらっしゃいますね」



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:35:34.95 ID:KvaE4M8X0

少年「ただ旅の生活が長かっただけですよ」

女戦士「ご謙遜を……」

少年「しかし、まさかこんな物まで育成しているとは……」

女戦士「こんな物といいますと、この花に何か問題でも?」

少年「……そうですね。この花の匂い嗅いでみていただけますか?」

女戦士「匂いですか?」

少年「はい。匂いを嗅ぐだけでしたら、特に問題がある訳ではありませんから。ほら?」クンクン

女戦士「では、失礼します……」クンクン

少年「どうですか?」

女戦士「この匂い……あの侍祭からした匂いと同じではありませんか?」

少年「そうです」

女戦士「この植物も薬草なのですよね?」

少年「薬草……とは少し違うかもしれません」

女戦士「どういう事でしょう?」

少年「一度部屋に戻りましょう。どうも風が冷たくなってきたようですから」



95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:38:17.30 ID:KvaE4M8X0

~~夜半 最西の街 教区 聖堂内 客間にて~~

少年「私の部屋でよろしかったですか?」

女戦士「はい、女僧侶は休んでいるので邪魔をしては……」

少年「ここまでおよそ二週間。旅慣れない人には辛い旅だったかもしれませんね」

女戦士「そうですね。彼女はずっと街暮らしのようですから」

少年「あなたは大丈夫ですか?」

女戦士「私はそれなりに鍛えていますので……」

少年「そうですか」

女戦士「……」

少年「……」

女戦士「あの……先程の花ですが……」

少年「薬効は痛みの緩和、疲労感の抑制、多幸感」

少年「副作用は倦怠感と情緒不安定、それに極度の依存性」

女戦士「そ、それは……」

少年「えぇ、いわゆる麻薬です」



97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:41:12.67 ID:KvaE4M8X0

女戦士「ど、どうしてそんなものが聖堂内に!?」

少年「さぁ? 司祭殿に聞けばわかるのではありませんか?」

女戦士「そのような事、聞けるはずもありません!」

少年「あまり大きな声を出しては、女僧侶さんが起きてしまいますよ?」

女戦士「あっ……も、申し訳ありません」

少年「まぁ、理由はどうであれ、あれが聖堂内で栽培されている事は間違いようのない事実です」

女戦士「で、では、あの侍祭は……」

少年「あれを摂取をすると、成分が分泌物に混じり、体から同じような匂いがしますから」

女戦士「な、なんという……」

少年「それと……私が確認しただけでも、毒性のある植物も幾つか栽培されていました」

女戦士「教会がそんな物を栽培して良いはずがありません!」

少年「そうでしょうか?」

女戦士「えっ!?」

少年「何故、教会が毒性のある植物を栽培してはいけないのですか?」



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:44:34.84 ID:KvaE4M8X0

女戦士「そ、それは道義に悖(もと)る行いではないですか。そんな物を何に使おうというのです」

少年「もしかしたら、世に知られていない薬効があるのかもしれませんよ?」

女戦士「でしたらあの侍祭は!?」

少年「中毒になっている彼を救う為、ここに置いてる可能性は考えられませんか?」

女戦士「そ、それは……」

少年「毒性を解毒する研究をする必要があるから、その植物を栽培しているのかもしれません」

女戦士「勇者殿」

少年「なんでしょう?」

戦士「私を試すような物言いはお止めください」

少年「試している……と言えば、不愉快に思われますか?」

女戦士「……どういう事です?」

少年「教会の命により、貴方と女僧侶さんは私の旅に同行してくれています」

女戦士「それが何か?」

少年「女僧侶さんは信仰心も篤く、教会や司教殿に対して絶大な信頼をおかれています」

女戦士「そうですね。彼女の信仰は本物だと私も思います」



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:47:22.84 ID:KvaE4M8X0

少年「ですから教会の命に従い、この任務を成し遂げようとしている事が日頃の言動からもよくわかります」

女戦士「私には任務を成し遂げようという姿勢が見えないと?」

少年「そうではありません」

女戦士「では、なぜ試されなければならないのです!」

少年「申し訳ない。『試す』という言い方は少し語弊があります」

戦士「どういう事でしょう?」

少年「私には、あなたが教会に属している理由が見えてこないのです」

女戦士「理由、ですか?」

少年「申し訳ないが、あなたは教会に帰属する程に信仰心が篤いとも思えない」

女戦士「それは……」

少年「野盗達に食糧を分け与えようとした時……」

少年「私の指示があったとはいえ、あなたは喜んで荷物の整理をしているように見えました」

女戦士「……」

少年「別にあなたが信用の出来ない人間と言っている訳ではありません」

女戦士「はい……」



101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:51:00.84 ID:6Pxfckie0

少年「あの年若い侍祭の事もそうです」

少年「普段は冷静なあなたが、植物の薬効を聞いてあれ程に取り乱すとは思いませんでした」

戦士「あれは……」

少年「先程はああ言いましたが、あの侍祭が治療の為にここにいる訳ではないのは明白です」

女戦士「はい……」

少年「あなたは薬草園で麻薬を栽培している事より……」

少年「少年ともいえる侍祭が、麻薬を常用している事に対して取り乱した、そうですね?」

女戦士「……その通りです」

少年「他人の不幸に義憤を感じるあなたが、信用の出来ない人間とは思えません」

女戦士「まさかそこまで私の事を見ておられたとは……勇者殿も年若いというのに」

少年「父からはよく『生意気な糞餓鬼』と言われたものですよ」

女戦士「いえ、本当に凄いと思います。とても私の弟と……っ!?」

少年「弟?」

女戦士「……」

少年「それが貴方の理由なんですか?」



102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:53:12.59 ID:6Pxfckie0

女戦士「そうです。別に隠すような事でもありませんね……お話しましょうか?」

少年「……差し支えがないようでしたら」

女戦士「私には三つ年下……ちょうど勇者殿くらいの弟がいます」

少年「私と同じくらいですか……」

女戦士「はい。私と違って、元々あまり体が強くなくて……それでも家族二人で仲良く暮らしていたと思います」

少年「家族二人?」

女戦士「はい。母は弟を産んだ時、そのまま帰らぬ人に……」

少年「お父上は?」

女戦士「父は私と同じ戦士でしたが、母が亡くなってからしばらくして、後を追うように流行り病で……」

少年「では、貴方の剣術はお父上から?」

女戦士「はい。父の指導によるものです。最初は父に構って欲しくて、見よう見真似で始めたのですが……」

少年「……」

女戦士「思いの他に筋が良いとの事で、女だてらにこうして」

少年「それで王都の武術大会で優勝したのだから、大したものです」

女戦士「運が良かったんですよ。幸いにして勇者殿のような参加者がいなかった。それだけです」



103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 16:57:00.57 ID:6Pxfckie0

少年「それは謙遜でしょう。私などが参加をしても、恥を晒すだけです」

女戦士「それこそ謙遜ではありませんか?」

少年「仮の話をしても仕方ありません。私はその大会に参加していなかった。違いますか?」

女戦士「そう、ですね」

少年「大会で優勝したのは貴方。それは違えようのない事実です」

女戦士「……はい」

少年「……」

女戦士「武術大会に参加した動機も……他人に胸を張って言えるような、立派なものではないんですよ……」

少年「そうなんですか?」

女戦士「優勝して得られるのは多額の賞金と仕官への道……」

少年「ふむ……」

女戦士「多少の貯えがあるとはいえ、両親を失くした私達には生きていく糧が必要でしたから」

少年「……それのどこが恥ずかしい事なんですか?」

女戦士「えっ?」

少年「貴方はご自身の手で道を切り開かれた。それのどこが恥ずかしいのですか?」



106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:02:13.64 ID:6Pxfckie0

女戦士「しかし、純粋な腕試しを目的と考えている人達と比べれば……」

少年「それは綺麗事です。当時の貴方にとって、仕官による安定した生活は必要な事だったのでしょう?」

女戦士「はい、お金を稼ぐ碌な手段も持ち合わせていませんでしたから」

少年「弟さんと暮らしていく為に武術大会に参加をし、実力で優勝を勝ち取った。立派じゃないですか」

女戦士「……そうでしょうか?」

少年「何の努力もしてこなかった訳ではないのでしょう?」

女戦士「……はい」

少年「では胸を張るべきです。弟さんも喜んでいるのではありませんか?」

女戦士「それが……」

少年「どうかしたんですか?」

女戦士「大会の後、弟は病に倒れて今も治療中なのです」

少年「それは……」

女戦士「最初は季節外れの風邪と高を括っていたのですが、微熱と嘔吐が治まらず……」

少年「医師には……診せていますよね」

女戦士「勿論です。医師にも診てもらったのですが原因はわからず……今は教会で面倒を看てもらっています」



107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:06:12.14 ID:6Pxfckie0

少年「教会に?」

女戦士「はい。薬も効かず弱り果てていたいたところ、教会から支援の申し出を頂きまして」

少年「支援ですか?」

女戦士「えぇ、弟の面倒を看る、教会の情報力を以って原因と治療法を探してくださると」

少年「では、貴方が教会に所属しているのは……」

女戦士「はい。全て弟の為です」

少年「なるほど……そういう事情があったのですか」

女戦士「今のところ効果的な治療法は見つかってはいませんが……」

女戦士「少なくとも症状の悪化は抑えられています」

少年「では、仕官の話は?」

女戦士「僭越とは存じましたが、お断りさせて頂きました」

少年「……」

女戦士「幾ら仕官の道が開けようと、弟がいなければ何の意味もないですから」

少年「貴方なら、そうされるでしょうね」



108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:08:57.62 ID:6Pxfckie0

少年「賢者殿をお訪ねした時に……」

女戦士「はい?」

少年「弟さんの病気について尋ねてみては如何でしょう?」

女戦士「いえ、しかし……それは……」

少年「何もわからない可能性もありますが、それでも何もしないよりはいいでしょう?」

女戦士「……」

少年「別に任務を放棄すると言っている訳ではありません。任務を終えた後に……如何です?」

女戦士「……それが許されるのでしたら是非に!」

少年「では、その為にも今日は休みましょうか。思いのほか遅い時間になってしまったようです」

女戦士「も、申し訳ありません」

少年「どうして貴方が謝るんです? 話をしようと誘ったのは私ですよ」

女戦士「それはそうなんですが……」

少年「この街を出れば、賢者殿の住む塔まであとわずかです。頑張りましょう」

女戦士「はい!」



110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:12:17.81 ID:6Pxfckie0

~~翌朝 最西の街 中央通りにて~~

女戦士「辺境の街と思っていましたが、思ったより賑やかなんですね」

少年「昨日は街に着いた時間も遅かったから、人通りも少なかったのでしょう」

女僧侶「結局、あれから司祭さまにお会いする事は出来ませんでしたが……」

戦士「お忙しい方なのでしょう。お礼は侍祭殿が伝えてくださるとの事でしたから……」

少年「えぇ、あまり気にする必要はないと思います」

女僧侶「しかし……」

少年「何か問題でもありましたか?」

女僧侶「確認する事が出来なかったとはいえ、このまま街を離れて良いのでしょうか?」

少年「司祭殿が悪政を敷いている可能性がある、と?」

女僧侶「はい……もし本当なら、このまま見過ごすなんて……」

女戦士「しかし、陛下から賜った任務を果たす事が最優先事項なのではありませんか?」

女僧侶「それはそうなのですけど……」

少年「お気持ちはわかりますが、まずは先を急ぐべきでしょう」

女僧侶「勇者さま?」



115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:17:28.65 ID:6Pxfckie0

少年「彼女の言うように、陛下からの命はこの世の危急に係わるかもしれません」

女僧侶「……はい」

少年「司祭殿の件が小事とは申しません。ただ、今は先を急ぐのが肝要だと思います」

女僧侶「……そう、ですわね」

少年「……」

女戦士「……」

少年「……この街の賑わいを見てください」

女僧侶「賑わいですか?」

少年「辺境の街とは思えない賑わい、おそらく並大抵の努力で手に入れた訳ではないはずです」

女戦士「えぇ、住民の力を感じますね」

少年「辺境という過酷な環境の中で培われた力なのかもしれませんが、そういう力を持った民は強い」

女僧侶「はい」

少年「多少の問題があったとしても、何とかしてしまうんですよ」

女僧侶「……」

少年「……例え、為政者に問題があったとしてもね」



117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:20:29.15 ID:6Pxfckie0

女僧侶(私が見た、あの子たちの姿は嘘ではないけれど……)

女僧侶(この街の賑わい……この姿も嘘ではありません)

女僧侶(……勇者さまの仰る通りなのでしょうか?)

女僧侶(司教さま……私はどうすれば……)

女僧侶(……)

少年「……やはり納得出来ませんか?」

女僧侶「……いえ、先に進みましょう」

少年「それでいいのですね?」

女僧侶「はい。勇者さまが仰るように、ここで暮らす皆さんの力を信じたいと思いますわ」

少年「わかりました。それでは街を出て、先を急ぎましょう」

女戦士「ん……」

少年「どうかしましたか?」

女戦士「いえ、どうもあちらの広場の方が騒がしいのですが……何でしょうか?」

女僧侶「あら、本当ですわね。この時間なら、朝市が開かれているのかも?」

少年「この街を出てしまえば、食糧の入手も難しくなるかもしれません。せっかくなので覗いて行きましょうか」



118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:23:48.93 ID:6Pxfckie0

女僧侶「朝市なんて久しぶりですわ。珍しいものがあればいいのですけど」

女戦士「全く……遊びに行くんじゃありませんよ?」

女僧侶「……」ジィーッ

女戦士「な、何か?」

女僧侶「い、いえ、あなたがそんな事を仰るとは思わなかったので……少し驚いてしまいました」

女戦士「申し訳ありません……」

女僧侶「ち、違います! 別に悪いと言っている訳ではなくて……その、何と言うか……」

少年「女僧侶さんは貴方のそういう変化が嬉しいんですよ」

女戦士「嬉しい、ですか?」

女僧侶「勇者さまの仰る通りですわ。こういう言い方をして気を悪くしないで欲しいのだけど……」

女戦士「はい」

女僧侶「あなたはいつも難しい顔をなさっているので、少しお話がし難い方と思っていましたの」

女戦士「そうでしたか。申し訳ありません」

少年「ほら、そういう態度が原因ですよ」

女戦士「あっ!? はっ、はい……///」



120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:25:00.26 ID:g6c3Xj960

女戦士かわいい



121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:25:24.33 ID:6Pxfckie0

女僧侶「勇者さま!」

少年「何ですか?」

女僧侶「彼女をあまり虐めるものではないと思いますわ!」

女戦士「い、いえ……大丈夫ですから」

少年「私が悪者ですか? ……お二人はいつからそんなに仲が良くなったんです?」

女僧侶「たった今ですわ」ニッコリ

女戦士「えっ!? あっ、あの……///」

少年「……二対一ではこちらの分が悪いですね。わかりました、降参します」クスッ

女僧侶「わかって頂ければ結構ですわ。では、市を覗きに参りましょう♪」

少年「はいはい、仰せのままに」

女僧侶「ほら、あなたも早く!」

女戦士「あ、危ないから引っ張らないでください!」

女戦士(この旅を始めて……)

女戦士(勇者殿があんな風に笑ったのは、初めてのような気がする)

女戦士(これが仲間……というものなのだろうか……)



122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:28:33.73 ID:hFlNEzGf0

~~最西の街 中央広場にて~~

衛兵隊長「この者は、恐れ多くも教会に納めるべき品を横領し、己の利を図ろうとした大罪人である!」

女僧侶「ゆ、勇者さま!」

女戦士「あれは商隊長殿!」

衛兵隊長「教会への背信行為は神への背信行為! 慈悲深い神ですら救い難い大罪である!」

少年「まさか……ここまではやるとは」

女戦士「もしや、積荷の件でしょうか?」

女僧侶「そんな! あれは子供たちを救うために……」

衛兵隊長「因(よ)って、この背教者の首を刎ね、その救い難い大罪をを贖(あがな)ってもらう!」

 どよどよどよどよ……

街人A「おい、あいつって教会の御用商人だよな?」

街人B「なんと恐れ多い……」

街人C「はん! いい気味だぜ! 罰が当たったんだよ、罰が!」

街人D「いや、でも首を刎ねるなんて……」

街人E「そうだよな……」



123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:31:58.89 ID:hFlNEzGf0

少年「街の人達の反応も様々ですね」

女僧侶「ど、どうしましょう……」

女戦士「このままで良いのですか?」

少年「助けますか? 陛下から賜った任務はどうします?」

女僧侶「しかし、このまま放っておく訳には!」

少年「あなたが背教者になる可能性もあるんですよ?」

女僧侶「どうしてです!」

少年「これは司祭殿の……即ち教会の意向によるもの。その決定に逆らいますか?」

女僧侶「あっ……」

衛兵隊長「大罪人よ! 最期に何か言い残す事はあるか!」

商隊長「……」

衛兵隊長「……ないようだな。ではこれより刑を執行する! 準備しろ!」

女僧侶「勇者さま!」

女戦士「くっ……」

??「待ちやがれ!!」



126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:35:08.71 ID:hFlNEzGf0

衛兵隊長「誰だ!!」

若い男「そいつにはちょっとした借りがあるんだよ! だから邪魔させてもらうぜ!」

女戦士「あの男は……」

女僧侶「あの時の野盗!」

衛兵隊長「貴様! 教会の決定に逆らうのか! この背教者め!」

若い男「背教者で結構! 俺には教会よりも大事なもんがあるんだよ!!」

女僧侶「教会より……大事なもの……」

女戦士「……」

衛兵隊長「お前達、何をしている! すぐにあいつを取り押さえろ!」

衛兵達「「「ははっ!!」」」

若い男「……おっと、そうはいくかよ! これでもくらいやがれっ!」

  ギュオン!!

衛兵A「ぎゃぉんっ!?」

衛兵B「ら、雷撃の術!? あの男、魔法の使い手か!?」

衛兵隊長「怯むな! 殺しても構わん!!」



127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:39:08.21 ID:hFlNEzGf0

女僧侶「……助けます」

少年「教会の決定に逆らう事になっても?」

女僧侶「謂(いわ)れもない理由で命が奪われようとしているのに……それを神が許す訳がありません!」

女戦士「私も彼女の意見に賛成です。それに……」

少年「私の選択が招いた結果でもある、ですね?」

女戦士「勇者殿のではありません。私達の、です」

少年「……わかりました。女戦士さん……をお願いします」

女戦士「わかりました!」ダッ

衛兵B「怯むな! 相手は一人だぞ!」ブォン!

女僧侶「危ないっ!!」

若い男「があっ!? く、くっそぉ……流石に数が多過ぎるか……」

商隊長「あんた、何でこんな無茶な事を……」

若い男「言っただろ、借りがあるってよ! ぐうっ!?」

衛兵隊長「ふん、多勢に無勢だったな」

若い男「……うるせぇよ、この下衆共が!」



131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:42:58.52 ID:hFlNEzGf0

衛兵隊長「貴様、手配中の賊だな? 弱い犬程よく吠えると言うが、まさにそれだな」

若い男「くそ……ここまでかよ……」

商隊長「私のせいで……すまない」

若い男「俺が勝手にやった事だ、気にすんなよ」

衛兵隊長「ふん。大罪人同士、実に麗しい仲間意識だな」

衛兵B「隊長、どう致しますか?」

衛兵隊長「見せしめだ。二人共殺せ!」

若い男「ここで終わりか……師匠……済まねぇ……」

衛兵A「お、俺にやらせてくれ……この野郎さっきはよくも……ぐえっ!?」

少年「……二人共、生きていますね?」

若い男「お、お前は!?」

商隊長「勇者様!?」

衛兵C「な、何だこいつ!?」

衛兵B「くそ、仲間がいたのか!?」



132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:47:25.89 ID:hFlNEzGf0

女僧侶「大丈夫ですか? 今、治療を致します」

  ―――パァァァ

若い男「治癒魔法か……教会の奴に助けられるなんて、俺も焼きが回ったもんだぜ」

女僧侶「それだけ減らず口が聞けるなら大丈夫のようですね」

若い男「……助かったぜ、ありがとよ」

少年「まだ助かった訳ではありませんが?」

若い男「ほんと、かわいくねぇ餓鬼だぜ」

衛兵隊長「……女僧侶殿、これは一体どういう事ですかな?」

女僧侶「あなたたちこそ、どういうつもりですの!」

衛兵隊長「どうもこうも……教会に届けるはずの荷物をくすねた極悪人に罰を下そうとしているだけですよ」

女僧侶「彼は……商隊長さんはそんな事はしていませんわ!」

衛兵隊長「ほう……それは一体どういう事ですかな?」

少年「話すだけ無駄です、おやめなさい」

女僧侶「いいえ、言わせてください! 彼は私たちの頼みを聞いて、飢えた子供たちに食糧を施しただけです!」

衛兵隊長「成る程……そうだったのですか……」



135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:51:36.38 ID:YkEkZ+d/0

しかし息子ってことは魔王に中出ししたんだよな・・・ゴクリ



137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:52:13.01 ID:cfS5owev0

>>135
魔王の娘な



140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:57:59.93 ID:YkEkZ+d/0

>>137
魔王討伐しにいったのに魔王の娘に中出し決めるとか最高だな・・・



136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:51:44.42 ID:hFlNEzGf0

女僧侶「それのどこに罪があるというのですか!」

衛兵隊長「それでは、その男は施しをしただけだと。貴女はそう仰る訳ですな?」

女僧侶「その通りです!」

衛兵隊長「それは貴女が、そこにいる男に御指示された事なのですね?」

女僧侶「私の……それに勇者さまのお考えでもあります!」

衛兵隊長「いや、そういう事でしたか……よくわかりました」

女僧侶「おわかりいただけましたか?」

衛兵隊長「えぇ、わかりましたとも……」

女僧侶「そうですか……良かっ……」

衛兵隊長「貴女が背教者だという事がよくわかりました」

女僧侶「なっ!?」

衛兵隊長「その上、勇者を騙る輩までいるとは……これは見過ごす事が出来ませんなぁ」

女僧侶「あなたは私の話を聞いていたのですか!」

少年「だから無駄だと……」

若い男「その餓鬼の言う通り。こいつらは端っから人の話を聞く気なんかねぇんだよ!」



138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 17:56:31.16 ID:hFlNEzGf0

衛兵隊長「今までの遣り取りを聞く限り、貴方が勇者を騙る大罪人ですね?」

女僧侶「勇者さまに対して……無礼ですよ!」

衛兵隊長「背教者は黙っていなさい。どうなのです?」

少年「私がそう名乗った事は一度もありませんけどね」

衛兵隊長「なるほど。勇者を騙るだけあってなんとふてぶてしい。全員ひっ捕らえろ!」

衛兵達「「「はっ!!!」」」

若い男「くそ……助けに来てくれたのはありがてぇけど、どうすんだよ?」

少年「女僧侶さん、商隊長殿の拘束を解いてあげてください」

女僧侶「はっ、はい!」

若い男「だから、お前は人の話を聞けよ!」

少年「うるさいですね……聞いてますよ」カキンッ! シュッ!

衛兵C「うわっ!?」

女僧侶「大丈夫ですか?」ガチャガチャ

商隊長「う、あ、ありがとうございます」



141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:00:25.09 ID:hFlNEzGf0

若い男「じゃあどうするんだよ!」

少年「あなたと違って、考えなしで突っ込むような馬鹿はしません」キンッ!

若い男「何だと!」

少年「あなたも口ばかり動かしてないで、手を動かしたらどうなんです」ザシュッ!

衛兵D「げぇっ!?」ドサッ

若い男「うるせぇ! 口を動かすのが俺の仕事だ!」

  ―――ゴウッ!

衛兵E「うぎゃ、あ、熱い!」

衛兵隊長「お前達! 何をやっている!」

衛兵B「し、しかし、相手は相当の手練れで!」

衛兵隊長「馬鹿め! 数ではこちらが勝っているんだ。取り囲んで押し潰してしまえ!」

衛兵B「は、ははっ!」

若い男「おい……このままだとやべぇぞ」

少年「わかっています。そろそろなんですが……」

女戦士「勇者殿ーーー!」ドドドドドッ!



145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:03:17.82 ID:hFlNEzGf0

衛兵B「なっ、また仲間!?」

少年「来ましたか」

若い男「ありゃあ馬か!?」

少年「逃走手段の確保は初歩の初歩です。あれで突破します」

  ヒヒーン!

女戦士「お待たせして申し訳ありません!」

少年「いえ、丁度よい頃合でした」ガシュッ!

衛兵F「うぉっ!?」

女戦士「時間がなかったので、三頭しか調達できず……」

少年「この短時間でよくやってくれました。行きます!」

衛兵隊長「待て! 逃がさん!!」ブォン!

少年「……」ザクッ!!

衛兵隊長「ぐぼっ!? ば、馬鹿な……」ドサッ!

女僧侶「きゃっ!?」

衛兵B「た、隊長が……」



151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:07:29.69 ID:hFlNEzGf0

少年「女戦士さん、あなたは女僧侶さんを」

女戦士「はい!」

少年「馬には乗れますね?」

若い男「馬鹿にするな。馬ぐらい!」

少年「では、商隊長さんを一緒に。私が先行します。やあっ!」ダッ

  ドドドドドッ!

衛兵B「ま、待て! くそっ、追え! 絶対に逃がすな!」

―――

――



若い男「おい! どこに向かっている!」

少年「東門に向かいます」

女戦士「西に向かうのではないのですか?」

少年「一度東に向かい、追っ手をくらまします。馬があるなら山越えで西に向かえるはずです」

女僧侶「……」



152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:11:10.16 ID:hFlNEzGf0

~~最西の街 東側近郊にて~~

商隊長「勇者様方、それに……えぇーと野……」

若い男「野盗じゃねぇ! 魔法使いだ!」

商隊長「勇者様方、それに魔法使い様、本当にありがとうございました」ペコリ

魔法使い「はん! 俺は借りを返しただけだ」

女戦士「我々のせいでご迷惑をお掛けしたのですから……当然の事です」

少年「……それで、これからどうされるおつもりです?」

商隊長「一先ず、妻と子を連れてこの国を出るつもりです」

女僧侶「国を……私たちのせいで、本当に申し訳ありませんでした」

商隊長「はははっ……罰が当たったんですよ……」

女戦士「罰、ですか?」

商隊長「えぇ……他人の不幸に胡坐をかいて利を貪っていたのです。当然の結果ですよ」

女僧侶「しかし、今回の事は!」

商隊長「いえいえ、勇者様方がされた事は正しい事でした。それぐらいは私にもわかります」

少年「……」



154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:15:30.98 ID:hFlNEzGf0

商隊長「ですから、こうして命を拾っただけでも良しとしますよ。それに……」

女僧侶「それに?」

商隊長「命さえあれば、また商いも出来ましょう」ニッコリ

魔法使い「はぁーっ……。逞しいんだな、あんたは」

商隊長「はっはっはっ。これぐらいでなければ、商売人など務まりませんよ」

少年「商隊長殿」

商隊長「うん、なんでしょう?」

少年「その馬はあなたが使うといいでしょう。追っ手よりも早く立ち回る必要があるでしょうから」

商隊長「勇者様方はどうされるのです?」

少年「先程も言いましたが、我々は山越えで西を目指します。それとこれを」

商隊長「うん……この紅玉は?」

少年「お詫び……という訳ではありませんが、売れば幾らかになるはずです」

商隊長「いや、しかし、これはかなりの……むぅ……」

少年「奥方達と合流しても、出立の準備をする時間はそう多くはないかと?」

商隊長「確かに……では、有り難く頂戴致します」ゴソゴソ



156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:17:43.33 ID:hFlNEzGf0

商隊長「短いおつき合いでしたが、皆様の事は忘れません」

魔法使い「気をつけて逃げろよ、おっさん」

商隊長「ありがとうございます。皆様もくれぐれもお気をつけて……それでは……はっ!」

―――

――



魔法使い「行っちまったな」

女僧侶「無事に逃げられると良いのですけど……」

魔法使い「あれだけの逞しさがあるんだ。何とかなるだろ」

女戦士「そうですね……」

少年「……では、私達も移動しましょう」

女戦士「はい。いつ追っ手がくるかもしれませんから」

女僧侶「そうですわね……」



159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:21:40.66 ID:hFlNEzGf0

~~最西の街郊外 山中にて~~

少年「……で、どうしてあなたまで一緒なんですか?」

魔法使い「固い事を言うなよ。旅の恥はかき捨てって言うだろ?」

女戦士「それを言うなら、旅は道連れでは?」

魔法使い「似たようなもんだろ。細かい姉ちゃんだな」

女戦士「意味が違います。貴方、本当に魔法使いなんですか?」

魔法使い「お前だって、俺が魔法を使っているのを見ているだろ」

女戦士「それは確かに見ていますが……」

魔法使い「はん! 聞いて驚けよ! 俺の魔法は西の賢者からの直伝なんだぜ」

女戦士「賢者殿!? 勇者殿と共に魔王を倒したという?」

魔法使い「ふふん、どうだ驚いたか?」

女戦士「勇者殿」チラッ

少年「えぇ」コクリ

魔法使い「あぁ、なんだよ?」

少年「私達はその賢者殿に用があって、西へ向かっていたのです」



162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:25:33.38 ID:hFlNEzGf0

魔法使い「師匠に会う為? だから最西の街を抜けるつもりだったのか」

少年「その通りです。まあ、あなたのせいで今は山中をこうしていますが」

魔法使い「おいおい、俺のせいってどういう事だよ!」

少年「馬が疲労するので、馬上で暴れないでくれますか?」

魔法使い「お、おう……すまねぇ」

少年「全く……二頭しかいない大事な馬なんですから、少しは考えてください」

魔法使い「くそ……納得いかねぇ」

少年「……話が脱線しましたね」

魔法使い「脱線させたのはお前だろうが!」

少年「それにしても、あの賢者殿が弟子をとられているとは……」

女戦士「えぇ。話に聞く限りでは気難しい方と伺っていましたから」

魔法使い「こいつら……また人の話を聞いてねぇ……で、師匠に何の用だよ?」

少年「……詳しい事は秘密と言いたいのですが、構わないでしょう?」

女僧侶「……」コクリ

女戦士「そうですね、私も彼なら問題はないと思います」



166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:28:49.96 ID:hFlNEzGf0

魔法使い「お前ら……俺の事、馬鹿にしてるだろ?」

少年「魔王の復活、そんな話を聞いた事はありませんか?」

魔法使い「また、人の話を……って、何だと!?」

少年「その様子だとご存知ないようですね」

魔法使い「魔王って、あの魔王かよ?」

少年「では、魔物が人を襲うという話は?」

魔法使い「だから、人の話を聞けよ!」

少年「ふむ。この話もご存知ないようですね」

女戦士「道中でも目ぼしい情報は聞けず、この辺りでならと思っていたのですが……」

魔法使い「全くこいつらは……」

少年「魔王復活、あくまでも噂や推測の域を出ませんが……」

魔法使い「それを確認するのが師匠に会う目的って訳か」

少年「えぇ、その通りです」

魔法使い「はっ! そこまで大きな話だと、当然国が絡んでるよな?」

少年「そこは想像に任せます」



169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:32:49.35 ID:hFlNEzGf0

魔法使い「……ふん」

少年「どうかしましたか?」

魔法使い「いやな……」

少年「何か思い当たる事でもありましたか?」

魔法使い「思い当たる事はねぇ。ただ、お前達を師匠のところに案内してろうかと思ってよ」

女戦士「本当ですか!?」

魔法使い「あぁ。最西の街の連中は、ただでさえ苦しい生活を教会に強いられてんだ」

女僧侶「……」

魔法使い「もし、さっきの話が本当なら……最西の街に明るい未来なんざねぇからな」

少年「だから確認しておく必要があると?」

魔法使い「あぁ、あの街には餓鬼共だっているんだ。放っておけるかよ!」

少年「話は決まりですね。では、先を急ぎましょうか」

魔法使い「明日になれば……」

女戦士「うん?」

魔法使い「明日になれば、転移魔法で師匠の塔まで飛べる」



171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:37:07.25 ID:hFlNEzGf0

女戦士「転移魔法? そんな便利なものが使えるのですか?」

魔法使い「使える。ただ、さっきの騒ぎで魔力を消耗し過ぎた」

少年「だから明日ですか?」

魔法使い「あぁ。魔力が回復すれば、お前達も一緒に、すぐにでも師匠のところへ飛ぶ」

女戦士「少なくとも、明朝までは追っ手を逃れる必要がある訳ですね」

少年「では、今は少しでも先に進む事を考えましょう」

魔法使い「そうだな。後は安全に野営が出来れば助かる」

少年「わかりました。それも頭に入れておきます」

女戦士「あの……」

少年「どうかしましたか?」

女戦士「いえ、先程から彼女の様子が……」

女僧侶「……」

魔法使い「何だよ、ひでぇ顔色じゃねぇか。おい、大丈夫かあんた?」

女戦士「大丈夫ですか? 随分と顔色が悪いようですが?」

女僧侶「あっ……だ、大丈夫ですわ」



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:41:11.30 ID:hFlNEzGf0

少年「今は多少の無理をしてでも先に進みます。行けますね?」

魔法使い「おいおい。仲間にそんな言い方はねぇだろう」

少年「休める状況ならとっくに休んでいます。そんな事もわからないんですか?」

魔法使い「あん! てめぇ、喧嘩売ってんのか!」

女僧侶「わ、私は大丈夫です。ですから……」

少年「彼女もこう言っています。急ぎましょう」

魔法使い「だから人の話を聞けってんだよ!」

少年「……馬上で暴れるなと言ったはずです」

女僧侶「や、やめてください……」

魔法使い「初めて会った時からだよな? 人の話は聞かねぇ、話を勝手にすすめやがる」

少年「……だから何です?」

女戦士「御二方共、それぐらいで……」

魔法使い「仲間が辛そうにしてたら思い遣るのが普通だろう! てめぇ、それでも勇者か!」

少年「俺は勇者なんかじゃない!!!」

女戦士・女僧侶・魔法使い「っ!?」ビクッ



175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:44:12.28 ID:r9LcCbyw0

魔王娘まだ?そろそろ寒い



176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:45:43.21 ID:hFlNEzGf0

少年「女僧侶が辛そうにしているのは知っている! だが、ここで追っ手に囲まれたらどうする!」

少年「逃げ場のない山間部だぞ! お前の転移魔法も当てに出来ない!」

少年「俺一人ならなんとでも出来るさ。で、お前達を見捨てて逃げろとでも言うのか!」

少年「それとも追っ手を皆殺しにすればいいのか? それが望みならやってやるさ!」

少年「街で衛兵を殺したようにな!」

女僧侶「っ……」

女戦士「ゆ、勇者殿……」

魔法使い「お、落ち着けよ……」

少年「はぁ……はぁ……はぁ…………」

少年「……それで、あなた方はどうしたいんですか?」

女僧侶「私は大丈夫ですから、先に進みましょう」

少年「……お二人の意見は?」

女戦士「私も先に進むべきだと思います」

魔法使い「……この姉ちゃんが大丈夫って言うなら」

少年「……わかりました。街から少しでも離れます」



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:49:36.76 ID:hFlNEzGf0

~~夕刻 最西の街郊外 山中 洞窟前にて~~

女戦士「今のところ、追っ手の気配はないようですね」

少年「今日はここで夜営にします」

魔法使い「しかし、これだけ蔦が絡まってんのに、よく洞窟があるって気付いたな」

少年「気付くも何も、入口の辺りだけ蔓の密度が薄いでしょう?」

魔法使い「まぁ、言われればそうなんだが……で、何やってんだ?」

少年「地面に近い部分と……あとこの辺りの蔦を切れば、入口は蔦で覆ったまま出入りがしやすくなります」

魔法使い「なるほどねぇ……」

―――

――



少年「念の為に周辺の状況を確認してきますので、女戦士さんは馬の世話をお願いします」

女戦士「承知しました」

少年「お二人は休みながらで構いませんから、周囲の警戒を」

魔法使い「休みながら警戒って……」



179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:53:17.38 ID:hFlNEzGf0

少年「出来ないとは言わせません。あと火を使うのは、完全に日が暮れてからお願いします」

女僧侶「日が暮れたら、火を使ってよいのですか?」

魔法使い「暗くなっちまえば、炊煙なんて確認のしようがないからな」

少年「……なんだ。ちゃんとわかっているじゃないですか」

魔法使い「流石にそれぐらいはな」

少年「ああ、それと……」

魔法使い「まだ何かあるのか?」

少年「もし、半刻(一時間)以上経っても私が戻らないようなら、私を置いてこの場は離れてください」

女戦士「いや、それは……」

少年「その為の複数行動でしょう? いいですね」

女戦士「……わかりました」

女僧侶「はい……」

少年「では、お願いします」

魔法使い「あんまり無茶すんなよ」

女僧侶「勇者さま、お気をつけて……」



180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 18:57:11.94 ID:hFlNEzGf0

魔法使い「……なぁ?」

女戦士「なんですか?」

魔法使い「あいつ、一体何もんだ? 見た目は餓鬼だが普通じゃねぇだろ」

女戦士「……さぁ?」

魔法使い「さぁって……仲間なんじゃねぇのかよ?」

女戦士「勇者殿と初めてお会いしたのが二週間前です。以来ずっとご一緒させて頂いていますが……」

魔法使い「魔王を倒した勇者の息子ってのは本当の話なのか?」

女戦士「……おそらく。国王陛下から下賜された勇者の紋章をお持ちなので」

魔法使い「ふぅん。で、何で勇者って呼ばれて、あれだけ取り乱すんだよ」

女戦士「……」

魔法使い「おい」

女戦士「……私にはわかりかねます」

魔法使い「はっ! それもわからねぇか。お前ら、あいつの事何にも知らねぇんだな」

女戦士「無駄口を聞く元気があるなら、馬の世話を手伝っていただけませんか?」

魔法使い「はいはい、わかったよ」



182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:01:21.81 ID:hFlNEzGf0

女僧侶「あの……」

魔法使い「あん?」

女僧侶「勇者さまがいらっしゃらない時に、こういう話をするのはどうかと思います」

魔法使い「確かにそうかもしれねぇけど、よくわからねぇから確認してるだけじゃねぇか」

女僧侶「でしたらご本人に確認されるのが一番ではないかと」

魔法使い「それが出来れば苦労しねぇって。あの餓鬼がまたぶち切れたらどうすんだよ」

女僧侶「ならそれは、勇者さまにとって聞かれたくない事なんだと思います」

魔法使い「って言ってもよぉ……」

女僧侶「あなたにだって聞かれたくない事情の一つや二つ、あるのではありませんか?」

魔法使い「まぁ……そりゃあなぁ……」

女僧侶「もし、必要な事でしたら、理由は勇者さまからお話してくださるはずです」

女戦士「そうですね。貴女の言う通りです」

魔法使い「わかったよ、俺が悪かった。あいつにもこの話は聞かねぇ。それでいいな?」

女僧侶「はい、お願いします」ペコリ

魔法使い「よせよ。俺に頭なんて下げるな」



184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:05:21.12 ID:hFlNEzGf0

魔法使い「それにしてもよ……」

女僧侶「はい」

魔法使い「あんたらがあいつを勇者って呼ぶのは大丈夫なんだよなぁ?」

女戦士「んんっ」クスッ

女僧侶「ふふっ」クスッ

魔法使い「あん? 何かおかしな事言ったか、俺?」

女戦士「いえ、最初から大丈夫だった、という訳でもなかったんですよ」

魔法使い「そうなのか?」

女僧侶「えぇ、最初は物凄く嫌がられて……」

女戦士「それでも、続けてお呼びしているうちに何も仰らなくなったんですよ」

魔法使い「へぇ、そうなのか。なら、俺がそう呼んでも……」

少年「あなたに呼ばれたくありません」ガサガサッ

魔法使い「うおっ!? びっくりしたじゃねぇか!」

女戦士「勇者殿、御無事でしたか」

女僧侶「おかえりなさいませ、勇者さま」



187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:08:36.81 ID:hFlNEzGf0

少年「全く……人がいない間に何を企んでいるのやら」

魔法使い「いやいや!? 別に企むとか企まないじゃなくてよ」

少年「しばらく周辺の様子を窺っていましたが、追っ手の姿はないようです」

魔法使い「そっか。油断は出来ねぇが一安心……って、そりゃあ何だ?」

少年「見回りついでに採集してきました」

女戦士「木の実に野草ですか。えっと、これは見た事のない野草ですね……」

少年「それは香草の一種ですよ。下処理した木の実と一緒に、鳥の腹の中に詰めて焼きます」

女僧侶「香草ですか。どうりでいい匂いがします」

魔法使い「……なぁ?」

少年「なんですか?」

魔法使い「野鳥って……弓もねぇのにどうやって仕留めたんだよ」

少年「原始的ですが、慣れれば手頃で効果的な飛び道具になります」ポイッ

魔法使い「……石? そんなもんで鳥なんかが獲れるのか?」

  ヒュッ! ゴスッ!

魔法使い「……すげぇな。木にめり込んでやがる」



188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:12:38.26 ID:njK4hspC0

少年「石だからといって、馬鹿にしたものでもないでしょう?」

魔法使い「はぁ……」

女戦士「どうかされましたか。溜め息などついて?」

魔法使い「いや、こいつを見ていると師匠の事を思い出してよ」

女僧侶「賢者さまの事を、ですか?」

魔法使い「俺の師匠は実践派でよ。短刀を一本だけ持たされて、山の中に放り込まれたり……無茶させんだよ」

少年「弟子思いの良い師匠じゃないですか」

魔法使い「どこがだよ!」

少年「では、その時の経験を活かして、鳥と木の実の下処理をお任せします」

魔法使い「は? 俺がやるのか?」

少年「出来るんでしょう?」

魔法使い「そりゃあ……まぁ、出来ねぇ事はねぇけど……くそ……言うんじゃなかったぜ……」

女戦士「では、私は薪を集めてきますので、勇者殿はしばらくお休みになってください」

少年「あ、そちらには行かないようにしてください。簡単な罠を設置しておきましたから」

魔法使い「……本当に師匠を見ているようだぜ」



190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:13:13.32 ID:njK4hspC0

~~日暮れ後 最西の街郊外 山中 洞窟内にて~~

魔法使い「ふぅ、食った食った。朝から動きっぱなしだったから、ようやく人心地ついたぜ」

女戦士「御馳走様でした。これほど美味しいとは思いませんでした」

女僧侶「本当に。臭みがないから食べやすくて。香草の効果でしょうか?」

魔法使い「だろ? 俺がしっかりと下ごしらえをしたからだぜ?」

少年「そういう事にしておきます」

魔法使い「ふふん、今は気分がいいんだ。何とでもいいやがれ」

女僧侶「勇者さま」

少年「何ですか?」

女僧侶「はい。これからの事なのですが、今日はこのままここで夜営という事でよろしいのですか?」

少年「そうですね。今のところ追っ手の気配はないようですから」

魔法使い「んで、俺の魔力が回復した明日に、転移魔法で師匠のところに移動する、だろ?」

少年「えぇ、そう考えています」

女戦士「申し訳ありません。一つお聞きしたい事が……」

少年「何かありましたか?」



191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:14:16.45 ID:njK4hspC0

女戦士「いえ、私は魔法については詳しくないのですが……」

女戦士「転移魔法とは、それほどの大きな魔力が必要な術なのでしょうか?」

魔法使い「んん? どういう事だよ?」

女戦士「高位の術とは聞き及んでいますが、朝から時間も経っていますので、今からという訳にはいかないのかと?」

魔法使い「はぁ……これだから素人は。いいか転移魔法っていうのは……」

少年「転移魔法自体は高位の術ですが、難易度の割には大きな魔力を必要としません」

魔法使い「お、おい……」

少年「ただ、複数で転移をする場合、必要な力が加算式に膨れ上がっていきます」

女戦士「では、我々が転移をする場合は……」

少年「単純に考えれば四倍の力が必要になります」

女戦士「……なるほど」

少年「ですから、彼の名誉の為に言っておくなら、朝の段階でも彼一人なら賢者殿の下に転移出来たはずです」

女僧侶「そういう事だったんですね」

女戦士「勉強になりました。ありがとうございます」

魔法使い「まぁ、そういう事だ……って、何で俺の台詞を取るんだよ!」



192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:15:15.79 ID:njK4hspC0

少年「誰が説明しても同じでしょう」

魔法使い「いやいや、ここは俺が格好良く説明する状況じゃねぇか!」

少年「全く、面倒な……」

魔法使い「面倒なら説明するなよ!」

女戦士「まあまあ、落ち着いてください」

魔法使い「また俺が悪者かよ……っていうか、どうして転移魔法について、そんなに詳しく知ってる?」

少年「以前、ある人から教えてもらいました」

女僧侶「……お父様ですか?」

少年「いえ……それより今晩の見張りですが、女戦士さん、私、女僧侶さんの順で考えています」

魔法使い「俺が入ってねぇじゃねぇか」

少年「あなたは魔力の回復が優先なので、見張りからは外れてもらいます」

魔法使い「……わかった。そういう事なら、遠慮なく休ませてもらうぜ」

少年「お二人共、それでよろしいですね?」

女戦士「はい、問題ありません」

女僧侶「わかりましたわ」



195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:18:45.28 ID:njK4hspC0

~~夜半 最西の街郊外 山中 洞窟内にて~~

女戦士「勇者殿、よろしいですか?」

少年「……交代の時間ですか?」

女戦士「はい。お疲れでしょうが、よろしくお願いします」

少年「それはお互い様でしょう」

女戦士「いえ。私と女僧侶が連続して休めるよう、見張りの順番も配慮してくださっています」

少年「……それで、何か問題は?」

女戦士「特には何も……静かなものです」

少年「そうですか。では、交代しますからあなたは休んでください」

女戦士「あの……」

少年「何ですか?」

女戦士「彼女は大丈夫でしょうか?」

少年「今朝の件ですか?」

女戦士「はい。今までの人生を信仰に捧げた彼女にとって、背教者呼ばわりされた事は……」

少年「そうですね。普通に考えれば耐えられない事だと思います」



199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:21:48.40 ID:njK4hspC0

女戦士「街を離れてからも彼女に元気がないのは、それが原因ではないかと思うのですが?」

少年「……本当にそうでしょうか?」

女戦士「違う、のでしょうか?」

少年「女僧侶が間違った事をしたのなら、『背教者』と呼ばれた事で思い悩むかもしれません。しかし……」

女戦士「彼女は間違った事をしてない」

少年「えぇ、少なくとも御自身でもそう考えているはずです。彼女が言った言葉を憶えていますか?」

女戦士「『謂れもない理由で命が奪われる事を、神は許さない』ですか?」

少年「その通りです」

女戦士「だからあの時、商隊長殿を助ける選択をした」

少年「彼女がした選択は、己の信仰を否定しません。だから、その事で思い悩む事などないはずです」

女戦士「それでは、どうして彼女は……」

少年「理由はわかっています」

女戦士「そうなのですか?」

少年「ただ、私たちが何かをして、解決する問題ではありません」



200:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:24:46.93 ID:njK4hspC0

女戦士「し、しかし!」

少年「しっ……あまり大声を出しては二人が起きてしまいますよ」

女戦士「も、申し訳ありません……」

少年「……あなたが女僧侶を心配する気持ちは、理解しているつもりです」

女戦士「……はい」

少年「あなたの気持ちも、彼女に伝わっているはず。あとは……」

少年「あとは彼女が、自分の気持ちにどう折り合いをつけるか……それだけです」

女戦士「ですが……」

少年「そういう事ですから、あなたはもう休んでください」

女戦士「……」

少年「……時間が許せば彼女と話をしてみます。それでいいですか?」

女戦士「勇者殿……」

少年「体を休める事もあなたの仕事です。何かあれば叩き起こしますので覚悟してください?」

女戦士「はい……ありがとうございます」

少年「叩き起こすと言っているのにお礼を言うなんて……変わった人ですね」



201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:28:58.53 ID:njK4hspC0

~~夜明け前 最西の街郊外 山中 洞窟前にて~~

女僧侶「……」

少年「どうかしましたか?」

女僧侶「少し寝つけなくて……。交代の時間はまだでしょうか?」

少年「まだ大丈夫ですよ。あなたは疲れているのだから、今は少しでも休んだ方がいい」

女僧侶「そうですね……」

少年「……」

女僧侶「……」

少年「……休まないのですか?」

女僧侶「外は……」

少年「はい」

女僧侶「外は風が冷たいのですね」

少年「そうですね、平野と比べて多少は」

女僧侶「勇者さまは寒くありませんか?」

少年「私は旅慣れていますので。それに眠気覚ましには丁度いい」



203:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:32:20.02 ID:njK4hspC0

女僧侶「……」

少年「……女戦士さんもあなたの事を心配しています」

女僧侶「はい。皆さまに心配ばかりかけて、足を引っ張って……駄目ですね、私は」

少年「皆で旅をしているのだから、仲間を心配するのは当然の事です」

女僧侶「……あの」

少年「なんでしょう?」

女僧侶「あっ……いえ、何でもありません……」

少年「やはり私の事が怖いですか?」

女僧侶「えっ!?」

少年「『どうしてこの人は、平然と人を殺せるんだろう?』と?」

女僧侶「っ!?」

少年「『どうしてこの人は、人を殺して平気な顔でいられるんだろう?』と?」

女僧侶「ち、違うんです……仕方のない事だとはわかって……」

少年「『何かあれば、この人は私たちも平気な顔で見捨てるのだろうか?』と?」

女僧侶「違います! 止めてください!」



205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:36:50.09 ID:njK4hspC0

少年「違いますか? そう考えていないと?」

女僧侶「違います……違うんです……」

少年「でも、私の事がよくわからない。だから私を怖いと思っている。そうですよね?」

女僧侶「勇者さまがした事は間違っていない。間違っていないとは思うんです……」

少年「そう思って理解は出来ても、受け入れられない。だから、あなたは私の事が怖い」

女僧侶「……」

少年「……ですから最初に申し上げたのです」

女僧侶「えっ?」

少年「『私は勇者ではない』と」

女僧侶「そ、それは……」

少年「平然と人を殺せる私を『怖い』と感じている、あなたの感覚は間違っていない」

女僧侶「そう……なのでしょうか?」

少年「私はね、あなたが想像しているより、遥かに醜い人間なんですよ」

女僧侶「そ、そんな事は……」

少年「『ない』と言い切れますか?」



208:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:39:24.62 ID:/gx+1FcJ0

少年「私の過去を知らないあなたには、『ない』とは言い切れないはずです」

女僧侶「確かに私は勇者さまの過去は存じません! それでも……それでも……」

少年「……」

女僧侶「それでも! 勇者さまは子供たちに食糧を分け与え、商隊長さんを助けてくださいました!」

少年「ただの気紛れかもしれませんよ?」

女僧侶「気紛れなんかじゃありません! 気紛れなんかじゃないと……」

少年「……だから私を信じたい、そう言いたいのですか?」

女僧侶「えぇ、今はまだ信じているとまでは言えません。でも、少なくとも信じたいと思っています」

少年「正直で結構ですよ」

女僧侶「ごめんなさい……」

少年「あなたが謝る必要なんてない。先程も言いましたが、あなたの感覚が正常なんです」

女僧侶「勇者さま……」

少年「私のように、人を殺す事に慣れてしまっては、もはや正常とは言えないんですよ」

女僧侶「勇者さまは年も私と同じくらいだというのに、どうして……」

少年「その話はいずれ機会があれば。もう、夜明けです」



211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:40:20.14 ID:/gx+1FcJ0

女僧侶「夜明け? 私の見張りの時間は……」

少年「少し早いですが、二人を起こしてきます。しばらくの間、見張りをお願いします」

女僧侶「ゆ、勇者さま……」

女僧侶(私が起きてから、そんなに時間が経ってないのに夜が明けてしまった?)

女僧侶(もしかして、私を起こさずに見張りを代わっていてくださったのでしょうか?)

女僧侶(私が疲れていると気遣って?)

女僧侶(……私の事だけじゃない)

女僧侶(あの子たちの事、商隊長さんの事……)

女僧侶(他人をあれだけ思い遣れる……)

女僧侶(そんな方が、冷たい心の持ち主であるはずがありません)

女僧侶(……)

女僧侶(少年『で、お前達を見捨てて逃げろとでも言うのか!』)

女僧侶(少年「それとも追っ手を皆殺しにすればいいのか?』)

女僧侶(あの時の勇者さま……あんな辛そうな姿はもう……)

女僧侶(信じて……良いのですよね、勇者さま?)




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