212:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:40:55.58 ID:
/gx+1FcJ0
~~早朝 最西の街郊外 山中 洞窟前にて~~
魔法使い「それじゃあ今から転移魔法を使って、師匠の所に移動する」
少年「お願いします」
魔法使い「おっと、馬ははどうするんだ?」
少年「一緒に転移させるとあなたの負担が大きくなります。ですから、ここで放しましょう」
魔法使い「ああ、そうしてもらえると有り難いね」
女戦士「私達はどうすればいいのでしょうか?」
魔法使い「俺の近くに居てくれりゃいい」
女僧侶「それで大丈夫なのですか?」
少年「術者が転移対象を認識していれば問題ありません」
魔法使い「また俺の台詞を……」
女戦士「では、魔法使い殿と接触したりする必要はない訳ですか?」
魔法使い「ああ、その通りだ」
女僧侶「わかりました」
魔法使い「よっしゃ。そんじゃあ行くぜ!」
213:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:42:04.96 ID:
/gx+1FcJ0
~~早朝 賢者の塔近郊にて~~
女戦士「これが転移魔法ですか……凄い」
魔法使い「これで追っ手の心配はなくなっただろ」
女戦士「向こう見える塔が、賢者殿のお住まいですか?」
魔法使い「ああ、そうだ。この距離なら四半刻も歩けば、塔に着くだろうさ」
少年「……」
女僧侶「勇者さま、どうかなさいましたか?」
魔法使い「何だ? 転移魔法で目でも回したか?」
少年「……いえ、何でもありません」
女戦士「それにしても……やはりここにも魔物がいる気配はないようですね」
魔法使い「そうだな。その魔物が出没しているって話、本当なのか?」
女僧侶「はい。各地の教会からの報告によれば……」
魔法使い「はん。教会の報告ってやつも当てにならねぇな」
女僧侶「……間違いであれば、それに越した事はありません」
魔法使い「へぇ……」
215:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:43:57.80 ID:
/gx+1FcJ0
女僧侶「何ですか?」
魔法使い「いや、あんたの事だから『馬鹿にするな!』って噛み付いてくると思ったんだけどよ」
女僧侶「申し上げたように、間違いであれば、それに越した事はありませんもの」
魔法使い「まあ、仮に魔物が出没していたとしても、この付近にはいねぇだろうよ」
女戦士「どうしてです?」
魔法使い「おいおい。俺の師匠はこいつの親父と一緒に魔王を倒した英雄だぜ?」
女戦士「間違っても魔物に遅れをとる事はないという事ですね」
魔法使い「その通りさ。遅れをとるどころか、近づく事すらしねぇだろうよ」
女僧侶「でしたら……」
魔法使い「うん?」
女僧侶「でしたら、各地から上がってきた、教会の報告はなんだったのでしょうか?」
少年「それを確認する為、賢者殿に会いに来たのでしょう?」
女僧侶「えぇ、その通りですわね」
魔法使い「ここであれこれと考えていても仕方ねぇってこったな」
少年「行きましょう。賢者殿の下へ」
216:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:44:47.05 ID:
/gx+1FcJ0
~~早朝 賢者の塔 入口にて~~
女戦士「遠くから見ても凄いと思いましたが、これほどの造りとは……」
魔法使い「この辺りには古代文明の遺跡が多くてな。その調査の為に街があったんだよ」
女僧侶「街があったのですか、ここに?」
魔法使い「あんたらも知っているだろ? 魔王軍との戦いで滅んだ国があるってよ」
女戦士「もしやここが……」
魔法使い「この街だけじゃない。他の街も魔王軍に滅茶苦茶にされちまった……」
女僧侶「だから塔の周りに、これほどたくさんの廃墟が……」
女戦士「あの……もしや……」
魔法使い「ああ。滅んだのは俺の生まれた国さ……」
女僧侶「そ、そんな……」
女戦士「心無い事を聞いてしまいました……申し訳ない」
魔法使い「いいんだよ。確かに国は無くなったが、俺はこうして生きている」
女僧侶「あなたに神のご加護がありますよう……」
魔法使い「や、やめてくれ! あんたには悪いが、今更神の加護なんざ欲しくもねぇっての」
219:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:49:13.08 ID:
/gx+1FcJ0
女僧侶「そうですか……」
魔法使い「……どうぜ祈るなら、俺じゃなくて亡くなった連中に祈ってやってくれ」
女僧侶「……そうですね。そうさせていただきます」
女戦士「それにしても、魔王軍の襲撃を受けて、どうしてこの塔だけ無事なのでしょうか?」
魔法使い「無事じゃなかったみたいだぜ」
女戦士「そうなのですか?」
魔法使い「詳しくは知らねぇが、廃墟同然だった塔を師匠が再利用したって話だからよ」
女戦士「成る程……」
魔法使い「とはいえ、幾ら再利用といってもなぁ……」
女戦士「うん? 何か問題でもあるのですか?」
魔法使い「いや、これだけの塔を建築するのに、一体どれだけの労力が必要だと思う?」
女戦士「それは……百や二百の職人では済まないのではないかと」
魔法使い「そう思うだろ? でもな、この塔は師匠が一人で建て直したって話なんだよなぁ」
女僧侶「この塔をお一人で!?」
女戦士「馬鹿な! 不可能でしょう!?」
220:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:52:44.94 ID:gd0oUJNx0
少年が切れ者過ぎてワロタ
222:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:53:04.62 ID:
/gx+1FcJ0
魔法使い「俺もそう思ってさ。師匠に聞いた事があるんだよ」
女戦士「で、賢者殿は何と?」
魔法使い「『貴様のような若造が知るには五十年は早い』だってよ」
女僧侶「まぁ!? 賢者さまはお幾つでいらっしゃるのでしょうか?」
魔法使い「それも知らねぇ……つうか、うちの師匠はわからねぇ事の方が多いんだ」
女戦士「さすがは賢者殿といったところですか」
魔法使い「いや、意味がわからねぇよ」
女僧侶「それだけのお力をお持ちだから、勇者さまと共に魔王を討ち滅ぼすことが出来たのですね」
魔法使い「うーん、その話もなぁ……」
女戦士「うん? 何かあるのですか?」
魔法使い「いや、まぁ……」
少年「無駄口はそれぐらいにして、そろそろ中に入りたいのですが」
魔法使い「へいへい、ちょっと待ってろよ……」
魔法使い「……」
―――ギィィィッ!
223:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:55:25.34 ID:
/gx+1FcJ0
女戦士「扉が勝手に開いた!?」
魔法使い「ああ、師匠に扉を開けてくれるよう、術で思念を送ったんだよ」
女僧侶「賢者さまが扉を開けられたのですか?」
魔法使い「この塔は魔法で守られてるからな。師匠が許可しなきゃ、蟻一匹は入れねぇようになってる」
少年「扉が開いたという事は、私達も中に入ってもよい、という事ですね」
魔法使い「まあ、俺がいるからだろうよ」
少年「では、まずあなたが塔に入ってください」
魔法使い「あ? 何だそりゃ?」
少年「あなたが塔に入って扉が閉まらないようなら、私たちも賢者殿に許可を得たという事になります」
魔法使い「そうかい。そんじゃ、お先に」スタスタ
女戦士「……」
女僧侶「……」
女戦士「扉は閉まらないようですね」
女僧侶「勇者さま」
少年「えぇ、私達も中に入りましょう」
225:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 19:58:29.72 ID:
/gx+1FcJ0
~~早朝 賢者の塔 最下層部にて~~
女戦士「こ、これは……」
女僧侶「……何もありませんわね」
女戦士「広い空間があるだけで、塔内は空っぽではありませんか!?」
魔法使い「まあまあ落ち着けって」
少年「……」ジィーッ
魔法使い「ふん。あんたはわかったみたいだな」
少年「……床にある魔方陣ですか?」
魔法使い「ご名答」
女戦士「……この魔方陣が何か?」
魔法使い「こいつで上にある部屋に転移が出来るんだよ」
女僧侶「上の部屋に?」
魔法使い「まぁ、こいつも師匠が許可しなきゃ作動しねぇんだけどな。ほら、早くしろ」
少年「……」スタスタ
女戦士・女僧侶「「はっ、はい」」タッタッタッ
227:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:01:52.80 ID:
LYTiQ9BV0
~~早朝 賢者の塔 上層部にて~~
女戦士「うわっ!?」
魔法使い「おいおい、ただの転移魔方陣だぜ? いちいち大声を出すなよ」
女戦士「突然目の前の風景が変われば、誰だって驚きます!」
魔法使い「こんなもの、要は慣れだっての」
女僧侶「……ここは?」
魔法使い「塔の上層部さ。あの階段を登れば、師匠の研究室のある階層だ」
女戦士「下へ降る階段もあるようですが?」
魔法使い「下の階層は空き部屋か物置だ。師匠に会いに来たんだから、今は関係ねぇよ」
少年「それなら上に参りましょうか」
女僧侶「ようやく賢者さまにお会い出来るのですね」
魔法使い「そうだな……はぁ……」
女戦士「うん?」
少年「どうかしましたか? 溜め息なんかついて」
魔法使い「いや、何でもねぇ。行こうぜ」
229:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:02:25.40 ID:
LYTiQ9BV0
少年「……中に入らないんですか?」
魔法使い「いや……入ろうとは思うんだが……」
女戦士「何か問題でもあるのですか?」
魔法使い「あるといえばあるし、ねぇといえば……」
??『馬鹿面をぶら下げて、いつまで扉の前で呆けているつもりだ。さっさと中に入ってこい』
魔法使い「うおっ!?」
女僧侶「……女性の声?」
女戦士「今のは賢者殿なのですか?」
魔法使い「うぅっ……やべぇ……あんまり機嫌が良くねぇみたいだ……」
女僧侶「そうなのですか?」
魔法使い「あの声を聞けばわかるだろ! こんな朝っぱらから押しかけたせいか……くそ」
少年「賢者殿の仰る通り、扉の前でじっとしていても仕方ないでしょう。中に入りましょう」
魔法使い「待て! いいか! 頼むからあの人を絶対に怒らせるなよ!」
少年「怒らせるも何もないでしょう? 必要な話を聞く。それだけです」
ガチャッ……ギィィィッ……
231:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:03:54.08 ID:
LYTiQ9BV0
~~早朝 賢者の塔 研究室にて~~
賢者「……」ジロリ
魔法使い「し、師匠! ご無沙汰しております!」
賢者「はっ! 懐かしい顔じゃないか? それで、私に一体何の用だ?」
魔法使い「い、いや、実は……」
少年「お初にお目にかかります、賢者殿」
魔法使い「お、おい!」
少年「私達は国王陛下の命を受け、賢者殿にお尋ねしたき儀があり、ここに参上致しました」
賢者「ふぅん……」ジロジロ
女戦士(この方が賢者殿……)
女僧侶(勇者さまのお父上と共に、魔王を倒したという伝説の英雄……)
賢者「……なるほど。そういう事になっているのか」
少年「その叡智、お授けいただけますか?」
賢者「……いいだろう。話を聞いてやる」
少年「ありがとうございます、賢者殿」
233:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:06:38.12 ID:
LYTiQ9BV0
…………
賢者「話はわかった。では、私に聞きたい事は次の三つという事だな」
賢者「一つ、人間界と魔界を繋げる場所に私が施した封印の状況」
賢者「一つ、魔物による人間界への侵攻」
賢者「最後に、魔王の復活の可能性」
少年「はい。仰る通りです」
賢者「では順番に話してやろう。まず封印についてだ」
女僧侶「お願いいたします」
賢者「封印は変わらず、その効果を発している」
女戦士「僭越とは存じますが、封印が何らかの方法で破られている可能性はないのでしょうか?」
賢者「万に一つもない。あれは私の持てる力を尽くした『多重性空間制御結界術』だ」
女戦士「た、多重性……えっと??」
賢者「『多重性空間制御結界術』だ。これぐらい一度で憶えられんのか」
女戦士「も、申し訳ございません……」
女僧侶「あの、よろしいでしょうか?」
234:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:08:56.47 ID:
LYTiQ9BV0
賢者「何だ?」
女僧侶「その『多重性空間制御結界術』とは、どういったものなのでしょうか?」
賢者「そこから説明が必要か?」
女僧侶「も、申し訳ありません……」
少年「私達は賢者殿と違い世の理に疎いゆえ、ご教授頂ければありがたく」
賢者「……よかろう。術の説明をする前に、この人間界と魔界について説明が必要のようだな」
女僧侶「よろしくお願いします」
賢者「ふむ……そうだな。おい、貴様」
女戦士「な、何でしょうか!?」
賢者「人間界から魔界に行く為、魔界から人間界に来る為には、どうすればいいか知っているか?」
女戦士「い、いえ……存じません」
賢者「まず人間界と魔界、この二つの異なる世界は、それぞれ異なる空間に属している」
女僧侶「異なる空間ですか??」
賢者「そうだ。更に簡単に言うなら、決して越える事の出来ない壁にを挟んだ二つの家を想像しろ」
236:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:14:09.11 ID:
LYTiQ9BV0
賢者「壁に隔てられた、この二つの家を行き来する為にはどうすればいい?」
女戦士「決して越える事が出来ない壁がある以上、それは不可能ではありませんか」
賢者「その通りだ。だが、ある時その壁に穴が開いたとする。そうすればどうだ?」
女僧侶「そうですね。通ることの出来る大きさの穴であれば、行き来は可能だと思います」
賢者「数は非常に少ないが、この世界にはそうした穴……二つの世界を繋ぐ通路が幾つか存在している」
女戦士「そんな通路があったとは……初耳です」
賢者「国も存在を公にしていないから、当然だろうな」
魔法使い「ま、知っているのは一部の人間だけさ」
賢者「この塔の周辺には古代の遺跡が点在しているが……」
賢者「ここから、約半日も北上した場所に、千年以上前に栄えた文明の遺跡が存在する」
女僧侶「千年以上も前ですか!?」
賢者「ああ。その遺跡の中に、魔界に通じる通路の一つがある」
女戦士「そんなものがこの近くに!?」
賢者「大きさもかなりのものだ。何せ魔王軍が侵攻に使ったぐらいだからな」
魔法使い「この通路はなぁ、師匠が勇者と一緒に魔界へ行く時にも……うげっ!?」ガンッ!!
237:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:18:38.50 ID:
LYTiQ9BV0
賢者「さっきから喧(やかま)しい。私が説明している時に喋るな、動くな、息をするな」
魔法使い「い、いてて……何も魔導書を投げなくても……」
賢者「貴様なんぞの為に貴重な魔導書を投げるか。それは廃棄予定物品の帳簿だ、馬鹿者め」
魔法使い「……本当だ」
賢者「貴様の名前を帳簿に書かれたくなければ、案山子のように大人しくしていろ」
魔法使い「うぅぅ……酷いですよ……」
賢者「……さて、話を戻すぞ」
少年「お願いします」
賢者「魔王軍との戦いを終えた後、魔物達の侵攻を二度と許さない為、この通路に結界を張り巡らせた」
女僧侶「それが封印の結界なのですね」
賢者「そうだ。この結界によって、遺跡の通路を使った行き来は出来ないようになっている」
女戦士「なるほど……」
賢者「当時の私が持てる力を駆使して、複雑かつ複数の儀式呪法を用いた空間の行き来を遮断する術だ」
女戦士「その術を誰かが破ったという事はないのでしょうか?」
賢者「はっ! 例えや勇者や魔王であっても、あの結界術による封印は破れんよ」
238:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:22:52.91 ID:
LYTiQ9BV0
女僧侶「勇者さまや魔王であってもですか!?」
賢者「そうだ。勇者や魔王であってもあの結界術は破れん。但し……」
賢者「勇者と魔王。人智を越えた力を持つ二人が手でも組めば別だがな」
女僧侶「そんな事は……」
賢者「ああ。普通に考えればありえん話だ」
女戦士「それでは、魔界へ通じる封印の結界は無事なのですね」
賢者「仮に結界が破られた場合、すぐに察知出来るように探知魔法も施してある」
魔法使い「そっか……じゃあ魔物の侵攻はありえないんですね?」
賢者「それはわからん」
女僧侶「えっ!?」
魔法使い「ど、どういう事なんですか、師匠!」
賢者「今から説明してやる。これが貴様らが聞きたかった二つ目になるな」
少年「はい。お願いします」
240:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:26:27.07 ID:
LYTiQ9BV0
賢者「先程、二つの世界を繋ぐ通路が幾つか存在すると説明したな?」
女僧侶「はい、仰られていました」
賢者「私は何年もかけてその通路の在り処を調べ、それぞれに封印の術を施している」
魔法使い「なら、どうして!?」
賢者「落ち着け。すぐに頭に血が上るのは、貴様の悪い癖だ」
魔法使い「も、申し訳ありません。でも……」
賢者「魔物に国を滅ぼされた、貴様の気持ちは理解出来ん訳でもない。だが、私は教えたはずだぞ?」
魔法使い「『術者たるもの、常に冷静であれ』ですね……」
賢者「そうだ。私達術者は大きな力を持っている……」
魔法使い「『故にその力を正しく使う為に、常に冷静な判断が求められる』」
賢者「忘れている訳ではないようだな」
魔法使い「も、勿論です!」
賢者「冷静な判断が、仲間の危機を救う事もある。肝に銘じておけ」
魔法使い「はい……申し訳ありません」
244:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:31:13.48 ID:
LYTiQ9BV0
賢者「馬鹿弟子のせいで、話が脱線したな。済まなかった」
女僧侶「いえ、魔法使いさんのお気持ちを考えれば、仕方のない事だと……」
賢者「そう言ってもらえると助かる。こいつに代わって礼を言わせてくれ」
女僧侶「い、いえ……お礼を言われるようなことでは……」
魔法使い「いや、俺が話の腰を折っちまったんだ。すまなかった。師匠、話を続けてください」
賢者「では、話を戻そうか」
賢者「遺跡にある大通路を含め、各地にある通路は私が封印の術を施した……」
賢者「だが、未だ発見されていない通路がある可能性もある」
女僧侶「それでは、その通路を使って魔物が人間界に来ている可能性もあるわけですね?」
賢者「そうだ。その可能性は否定しない」
魔法使い「師匠、お聞きしたい事があります」
賢者「何だ?」
魔法使い「人間界と魔界を行き来するには、通路に依る以外の方法はないんでしょうか?」
賢者「他の可能性だな。貴様の考えを言ってみろ」
魔法使い「そうですね……考えられる手段としては魔法……転移魔法はどうなんですか?」
246:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:36:26.44 ID:
E0ZZJKv90
賢者「ほう……少しは使えるようになったじゃないか」
魔法使い「あ、ありがとうございます!」
賢者「貴様の言う通り、両方の世界を知っている者なら、転移魔法による世界の行き来は可能だ」
魔法使い「では、師匠は魔界に転移魔法で移動する事が出来る、そういう事ですね?」
賢者「そうだ。この人間界では私ともう一人、勇者にそれが出来たはずだ」
女戦士「……では、転移魔法を使って、人間界に来る事が出来る魔物がいるかもしれないのでしょうか?」
賢者「その可能性も否定しない。だがな、現時点では先に挙がった二つの可能性は極めて低いと言える」
魔法使い「師匠はどうしてそう思われるのですか?」
賢者「私が各地の術者達と連絡を取り合っている事は知っているな?」
魔法使い「はい。師匠の兄弟弟子や俺の兄弟弟子も含めて……ですよね」
賢者「そうだ。彼らとは定期的に連絡を取り合って、各地の情報を集めているが……」
賢者「魔王軍との戦い以降、人間界で魔物の姿を見たという情報は一度も耳にした事がない」
女僧侶「し、しかし、教会に寄せられた情報は一体……」
247:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:37:31.89 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「えぇ『魔物に襲撃された』との話が各地に教会から挙がっております」
賢者「だから言ったのだ。『わからん』とな」
女僧侶「そんな!?」
賢者「確かに教会の情報網は侮れん。だが、私達の情報網には一切引っ掛かっていない」
少年「……それの意味するところは何だと思われますか?」
賢者「先程から黙っていると思えば……こいつらの前をそれを私に聞くのか?」
女僧侶「え……どういう事ですの、勇者さま」
女戦士「勇者殿は何かご存知なのですか?」
少年「知っている訳ではありませんが、二つの可能性が考えられます」
賢者「全く……私に話を振るとは、変わらずいい性格をしている」
魔法使い「えっと……何の話をしているんです、師匠?」
賢者「何でもない。気にするな」
魔法使い「はぁ……」
252:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:40:30.29 ID:
E0ZZJKv90
賢者「どうだ? 貴様達が望むなら、私の考えを聞かせてやっても構わんが?」
女僧侶「私たちはその為に来たのです。お聞かせください!」
少年「賢者殿のご高察です。是非に」
賢者「あとは貴様だけだ。どうする?」
女戦士「私は……」
賢者「貴様が聞きたくないようなら、この話は『わからん』で終わりだ」
女戦士「……わかりました。お願いします」
賢者「教会の情報網には引っ掛かり、私達の情報網に引っ掛からない理由は二つ考えられる」
賢者「一つは私達の情報網が、教会のそれと比べて貧弱である可能性だ」
少年「では、もう一つの可能性は?」
賢者「教会の情報が出鱈目である可能性だな」
女僧侶「そんな馬鹿な!」
255:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:45:14.97 ID:
E0ZZJKv90
魔法使い「おい、馬鹿とはなんだ! 師匠への無礼は許さねぇぞ!!」
賢者「まあ、待て」
魔法使い「しかし!」
賢者「……私は待てと言ったぞ?」
魔法使い「あ……も、申し訳ありません」
賢者「困ったものだな。少しは使えるようになったと褒めた途端にこれだ」
魔法使い「くっ……」
賢者「まあ、今回は私の名誉の為に、という事だろう? その気持ちは貰っておく」
魔法使い「は、はい。ありがとうございます!」
賢者「……さて、お嬢さん」
女僧侶「は、はい……」
賢者「私を馬鹿者呼ばわりするという事は、それなりの反論を期待していいのだろう?」
女僧侶「は、反論ですか……?」
賢者「そうだ。根拠もなく可能性を否定など出来まい? さあ、聞かせてくれ」
女僧侶「こ、根拠は……」
257:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:49:56.36 ID:
E0ZZJKv90
賢者「まさか根拠がないとは言わないだろう? さあ?」
女僧侶「うぅ……」
少年「賢者殿」
賢者「何だ?」
少年「今回の魔物についての情報は、国王陛下にも報告されているものです」
賢者「……それで?」
少年「仮に教会の情報が出鱈目であった場合、教会が陛下を欺いている事になります」
賢者「くふふっ……仮にそうだとしたら由々しき事態じゃないか?」
女僧侶「し、司教さまが陛下を騙すなど考えられません! 何の目的があってそんな事を!」
少年「落ち着いてください。これはあくまで仮定の話です」
女僧侶「しかし!」
少年「私達は賢者殿にお話を伺う為、二週間余りの旅をしてきました。そうですね?」
女僧侶「はい……」
261:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:53:09.96 ID:
E0ZZJKv90
少年「では、二人にお聞きします」
少年「この旅の間、一度でも魔物の噂を聞いたり、その姿を見た事があったでしょうか?」
女僧侶「いえ……」
女戦士「……」
少年「では、あなたはどうです?」
魔法使い「お、俺もそんな話は知らねぇよ」
少年「そして、賢者殿もそういった情報はないと仰られています」
女僧侶「……」
少年「私達には賢者殿が仰った『教会の情報が出鱈目』という可能性を否定する根拠がありません」
女戦士「勇者殿、よろしいですか?」
少年「何ですか?」
女戦士「確かに、私達には『教会の情報が出鱈目』という可能性を否定できません」
女僧侶「あ、あなたまで……」
女戦士「しかし、『教会の情報網の方が優れている』可能性を否定する根拠もないはずです」
少年「その通りです」
263:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 20:57:17.42 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「私達は全世界を見て回った訳ではありません」
少年「えぇ、あなたの言う通りです」
女戦士「だとすれば、私達の知らないところで魔物が出没しているのかも知れません。違いますか?」
少年「いえ、それも正論だと思います」
魔法使い「あのよ……」
少年「何か?」
魔法使い「さっきから聞いてりゃ、要するに両方の可能性に対して、決定的な証拠がないって事なんだろ?」
少年「そうですね」
魔法使い「教会を否定したり肯定したりするような事を言ってよぉ。てめぇは一体何が言いてぇんだ?」
少年「皆さんに、自分の置かれた状況を自身で考えて、判断して、行動して欲しいと思っただけです」
女僧侶「自分の置かれた状況ですか?」
少年「えぇ、与えられた情報が本当に正しいのか? 信じているものは本当に正しいのか?」
女戦士「……」
少年「最西の街ではどうでした? あなた達の真実は正しかったですか?」
女僧侶「それは……」
266:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:01:17.27 ID:
E0ZZJKv90
賢者「……そろそろ最後の質問に答えたいんだが?」
少年「そうですね、宜しくお願いします」
魔法使い「ま、待ってください!? 魔物が人間界に侵攻してるって話は?」
賢者「何を言っている。さっきの遣り取りで答えは出ているだろう?」
魔法使い「いやいや。だからわからないって……」
賢者「そうだ。『わからない』が答えだ。現時点ではな」
少年「魔物の襲撃があったという教会の情報と、魔物の襲撃を認知すら出来ていない私達の情報」
少年「現時点で持ち合わせた情報だけでは、判断のしようがありません」
賢者「だから最後の質問の答えが重要になってくる」
魔法使い「そうか。魔王の復活……」
賢者「そういう事だ……と言いたいが、この質問も貴様らが期待している答えを、私は持ち合わせていない」
魔法使い「そ、そうなんですか?」
賢者「先程も言ったぞ。魔王軍との戦い以降、私は魔物達の姿を見ていないし、見かけたという情報も得ていない」
魔法使い「た、確かに……いや、しかし……」
賢者「何の確証もない以上、魔王復活の真偽など答えようがない。私の話はここまでだ」
270:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:06:37.20 ID:
E0ZZJKv90
少年「賢者殿、貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございました」
賢者「なに、古き仲間からの頼みだからな。お安い御用だ」
女僧侶「……」
女戦士「……」
魔法使い「……」
少年「どうしたんですか、三人共。さっきから黙り込んで」
魔法使い「どうしたもこうしたもねぇだろう! 肝心な事が何もわからず仕舞いじゃねぇか!?」
少年「国王陛下と司教猊下が危惧されていた、封印の結界は健在とわかりました。十分な成果です」
魔法使い「結界の無事を確認しに来たのは、魔王復活と魔物達による襲撃の情報があるからじゃねぇのか!」
女僧侶「そ、そうです! その為に賢者殿にお話を伺いに来たのですから」
少年「その賢者殿が『わからない』と仰られているんですよ?」
女僧侶「し、しかし、それでは陛下や司教さまに何と報告すればいいのか……」
賢者「ありまま報告すればいいだろう。足りないと思うなら、通路のある遺跡も確認して来い。無駄足だがな」
女僧侶「参ります! 無駄足かどうかは行ってから判断いたします」
賢者「好きにしろ。魔法使い、貴様も気になるのだろう? こいつらを遺跡に案内してやれ
273:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:11:29.07 ID:
E0ZZJKv90
~~夜 賢者の塔 研究室にて~~
女僧侶「結局、何も見つけられませんでした……」
女戦士「……そうですね」
魔法使い「魔力は微かに感じたけど、封印の場所すらも見つけられねぇとは……」
賢者「当たり前だ。馬鹿が通路に辿り着けないないよう『不可視の天幕』の術を遺跡に仕込んである」
魔法使い「……それだけじゃないですよね、師匠」
賢者「魔力を込めた場所を特定する事が出来ないように、仕掛けを施してあるからな」
魔法使い「昔、師匠に連れて行ってもらった時は、すんなり封印の場所まで行けたのに……」
賢者「私が一緒だったからな。あの頃の貴様は仕掛けにすら気づかなかったんだ。成長したではないか」
魔法使い「……今は褒められても嬉しくないです」
女戦士「では、私達が遺跡に行っても、何も出来ないと知って?」
賢者「『無駄足』だと私は言ったはずだが?」
女僧侶「確かに仰いましたが……勇者さま、私たちはどうすればいいのでしょう?」
少年「賢者殿が仰られたように、ありのままを陛下に報告しましょう」
女僧侶「……それで良いのでしょうか?
275:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:13:58.24 ID:
E0ZZJKv90
少年「私達にはそれ以上の事は出来ません。封印の結界が無事とわかっただけでも朗報……」
少年「あとの事は、陛下が適切な御判断をされるはずです」
魔法使い「くそっ……何かすっきりしねぇな」
賢者「だからといって、敵(かたき)である魔物共を求めて世界を周るか?」
魔法使い「……そんな事、出来る訳がないです」
賢者「そうだ。貴様の助けを待つ人を捨て、そんな事など出来はしない」
魔法使い「言われるまでもありません! 師匠にこの命を救ってもらったように……俺も餓鬼共を!」
賢者「魔物共の侵攻が真実なら、大局的見地ではその対策が急務だが……」
賢者「誤った憶測に惑わされ、目の前の大事を見失うような真似だけはするなよ?」
魔法使い「はい!」
賢者「さて……もう夜も遅い。今日はここで休んでいけ」
少年「ご厚情、感謝します」
賢者「部屋は下の空き部屋を好きに使って構わん。おい、この二人を案内してやれ」
魔法使い「へっ? 二人、ですか?」
賢者「勇者には話しをしたい事がある。悪いが付き合ってもらうぞ」
281:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:20:31.69 ID:
E0ZZJKv90
~~夜 賢者の塔 居住階層にて~~
魔法使い「うーん……」
女僧侶「どうかしましたか?」
魔法使い「いや、師匠はあいつに、何の用があるんだろうと思ってよ」
女僧侶「そうですね……勇者さまのお父さまのことなど、お聞きしたかったのではないでしょうか?」
魔法使い「そういえば、あいつの親父と師匠は仲間だったんだよな」
女僧侶「勇者さまのお父さまは、魔王の討伐後にそのお姿を隠されたそうですから」
魔法使い「なら、色々聞きたい事もあるってもんか……」
女僧侶「それにしても……」
魔法使い「あん? 今度はそっちで何かあんのか?」
女僧侶「……賢者殿は一体お幾つなのでしょうか?」
魔法使い「幾つって聞かれてもなぁ……俺が初めて会った時からあんな感じだぜ?」
女僧侶「どうみてもわたしより少し上……そうですね、女戦士さんと同じ位の歳に見えるのですが?」
女戦士「……」
女僧侶「……あの、女戦士さん?」
283:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:24:24.90 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「……」
女僧侶「女戦士さん!」
女戦士「えっ!? も、申し訳ありません。何でしょうか?」
魔法使い「呆ーっとしてたけど大丈夫かよ?」
女戦士「余りに色んな事があったので、少し頭が混乱しているようで……申し訳ありません」
女僧侶「私も同じです。確かに……色んな事があり過ぎて……」
魔法使い「そういう時は変に考えないで、早めに寝ちまった方がいいぜ?」
女僧侶「……そうですね。それではお言葉に甘えさせていただきます」
魔法使い「どの部屋も開いているはずだから、好きな部屋を使ってくれ。寝台と机以外は何にもねぇけどさ」
女僧侶「この塔には、賢者さま以外の方は誰もお住まいではないのですか?」
魔法使い「昔は俺や俺の兄弟弟子もいたんだけどな」
女僧侶「誰も賢者さまの下に残らないなんて、少し寂しいですね」
魔法使い「あぁ、そりゃあ違うっての」
女僧侶「えっと、何が違うんですか?」
286:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:28:58.64 ID:
E0ZZJKv90
魔法使い「師匠はさ、弟子がある程度の段階まで行ったら、塔から追い出して独立させるんだよ」
女僧侶「まあ!? そうなんですか?」
魔法使い「『実践なくして向上なし』ってさ。師匠の口癖でよ」
女僧侶「確かに。様々な経験は成長に欠かせませんもの」
魔法使い「机上の論だけじゃ魔法も上達しねぇって、これは師匠自身の経験論なんだと」
女僧侶「魔王討伐の旅で色々なご経験をされたからこそのお言葉ですね」
女戦士「あの、よろしいですか?」
魔法使い「あん?」
女戦士「先程、あなたは賢者殿に命を救われたと言っていましたが」
魔法使い「ああ、その事か。別に大した話じゃねぇよ。聞きたいなら話してやるけど」
女戦士「よろしかったら、お願い出来ますか」
魔法使い「まあ、期待するような面白い話でもねぇよ。俺の住んでた村が魔王軍の襲撃に遭ってよ……」
魔法使い「大人達が子供だけでもって、何とか俺達を逃がしてくれたんだよ」
女僧侶「勇敢な方々だったんですね……」
魔法使い「まぁな。でも、大人達は皆殺しだったんだろうな。あれから村の大人に会った事がねぇからさ」
287:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:33:38.01 ID:
E0ZZJKv90
魔法使い「んで、何とか逃げたのはいいんだけど、他の街や村も魔王軍によって壊滅状態でさ」
魔法使い「最初は壊滅した街や村で食べるもんを漁ってたんだけど、それもなくなっちまって……」
魔法使い「一緒にいた連中も一人減り、二人減りで最後に俺だけが残っちまってな」
魔法使い「食べるもんを探して、何処をうろついたなんて全く憶えてねぇんだけど……」
魔法使い「どっかの遺跡で倒れてた俺を、たまたま師匠が見つけて拾ってくれたんだよ」
女僧侶「そんな辛い経験を……」
魔法使い「だからさ、飢える苦しさは知っているし、最西の街の餓鬼共が同じ目に遭うのを見たくねぇんだよ」
女戦士「それで、あのような盗賊紛いの事を……」
魔法使い「ああ、人から物を盗るなんて、褒められた事じゃねぇのはわかってるさ。でもよ……」
魔法使い「あの街にいる腐った連中が、餓鬼共から奪ったものはそんなもんじゃねぇんだよ!」
魔法使い「商人のおっさんが殺されかかったみてぇに、何の罪もない連中だって命を落としてんだ」
女僧侶「……」
女戦士「……」
魔法使い「教会に属しているあんたらに言う事じゃねぇんだろうけど……」
魔法使い「あの街に寄生する屑共から、必ず街を開放するつもりだぜ、俺は」
289:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:38:38.00 ID:
E0ZZJKv90
魔法使い「……俺の話はこれで終わりさ。な? 面白い話でもなかっただろ?」
女戦士「いえ……ありがとうございました。お陰であなたがどういう人かよくわかりました」
魔法使い「そうかい? ま、どういう人かってのは、あえて聞かないでおくぜ」
女僧侶「あの……」
魔法使い「何だよ、まだ何かあんのか?」
女僧侶「王都に戻ったら、最西の街の苦境は必ず司教さまのお耳に入れます!」
女僧侶「司教さまなら、その状況を見過ごすなんて考えられません。ですから、早まった行動だけは……」
魔法使い「……何ていうかさ。損な性格してるよな、あんたは」
女僧侶「えっ?」
魔法使い「あんたみたいな奴が最西の街に居てくれりゃ、ちょっとは違ったのかもな」
女僧侶「ど、どういう意味ですか?」
魔法使い「何でもねぇよ。……ま、期待も約束もしねぇけど、出来る限りは待ってやるさ」
女僧侶「本当ですか!」
魔法使い「期待も約束もしねぇってんだろ。うるせぇからさっさと寝ちまえ」
女僧侶「それでも構いません。お役に立てなくてごめんなさい。あと……ありがとうございます」
292:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:43:35.48 ID:
E0ZZJKv90
~~夜半 賢者の塔にて~~
??「……」
カチャッ……キィッ……
??「……」
少年「……」
??(……これが最後の機会か?)
少年「……」
??(もう、今しか……今しかない……)
??(……本当にいいのか、それで?)
??(私は……どうすれば……)
少年「ふぅ……」
??「っ!?」
少年「いつまでそうやっているつもりですか?」
??「……」
少年「迷いのある人に人殺しなんて出来ませんよ、女戦士さん?」
294:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:48:02.73 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「……やはり、気づいておいででしたか」
少年「旅に出たばかりの頃、休んでいる私の様子を何度か窺ってましたので、そうだろうとは」
女戦士「……その頃からお気づきでしたら、どうして今まで何も仰らなかったんです?」
少年「疑念が確信に変わったのも昨日の事ですから」
女戦士「昨日? そうだったんですか?」
少年「えぇ。最西の街で一騒動起こした後に、あなたの様子を見て確信しました」
女戦士「私の様子、ですか?」
少年「あなたは私に言いましたよね。弟さんが教会で世話になっていると」
女戦士「確かに……でも、それだけでどうして?」
少年「教会相手に揉め事を起こしたというのに、弟さんの事を心配されている様子がまるでない」
女戦士「あっ……」
少年「普通に考えれば、教会が無体な事などする訳がない。だが、一つ間違えれば私達は背教者です」
少年「その背教者の家族を、教会が放っておく訳がありませんよね?」
女戦士「それは……」
少年「弟さんの心配をする必要がないのは、教会でも相当に力のある人に庇護を受けているから。違いますか?」
296:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:53:41.12 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「……」
少年「だんまりですか? なら、勝手に話を続けさせていただきます」
少年「後ろ盾を持つあなたは、教会に歯向かうような危うい真似をしても、弟さんを心配する必要がなかった」
女戦士「……仰る通りです」
少年「その人ですか? 私を殺すように命じたのは」
女戦士「……申し上げられません」
少年「まあ、聞かなくとも、誰が命じたのか想像出来ますけどね。でも理由ぐらいは教えてくれてもいいでしょう?」
女戦士「……」
少年「それもだんまりですか。頑固な方ですね」
女戦士「……私をどうされるおつもりです? 無理矢理にでも口を割らせますか?」
少年「何を馬鹿な事を……。話す気も殺す気もないなら、特に用はありません。早く部屋から出て行ってください」
女戦士「えっ?」
少年「聞こえなかったんですか? 私は休みたいから部屋を出て行って欲しいと言ったんです」
女戦士「ど、どうして!?」
少年「どうしてもこうしてもありません。私は休みたいからと言ったはずですが?」
297:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 21:58:02.40 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「あ、あなたを殺そうとした私を放っておくのですか?」
少年「今のあなたに私は殺せない。それに話をする気もないのでしょう? なら、何の問題も用もない」
女戦士「くっ……は、ははっ……」
少年「……何もおかしな事は言っていないつもりですが?」
女戦士「いえ、申し訳ありません。私などが勇者殿をどうにか出来る訳がない。そう思ったらつい」
少年「そんな事はないでしょう。あなただって……」
女戦士「やめましょう。確か以前にも同じ遣り取りをしたはずです」
少年「そういえば、そんな事もありましたね……」
女戦士「あなたが……勇者の血が邪魔なんだそうです」
少年「私の血が?」
女戦士「はい。戦乱のない世界に勇者の血は不要、いらぬ諍いの種となる。そのように仰られていました」
少年「そんな理由で……くだらない」
女戦士「私が勇者殿にお話し出来るのはここまでです。申し訳ありません」
少年「構わないと言ったで……ああ、そうそう。あともう一つだけ」
女戦士「お答え出来るかはわかりかねますが、それでも良いのでしたら」
300:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:04:10.63 ID:
E0ZZJKv90
少年「これは質問というより確認です。女僧侶さん、彼女は関係ありませんよね?」
女戦士「はい。彼女は全くの無関係です。それは亡き我が父の名に誓っても」
少年「確認と言ったでしょう。そこまでする必要はありません」
女戦士「だとしてもです。ですから、彼女にこの件は……」
少年「それこそ必要のない事です。彼女に話をする意味がありません」
女戦士「……ありがとうございます、勇者殿」
少年「礼を言われる筋合いはありません」
女戦士「それでも……彼女の苦しむ顔は見たくありせん。ありがとうございます」
少年「それで、あなたはこれからどうするおつもりです?」
女戦士「このまま逃げても、私には行く当てもありません。それに弟を見捨てては……」
少年「ああ、弟さんといえば……病気の原因、わかるかもしれませんよ」
女戦士「ほ、本当ですか!?」
少年「では、確認しに行きましょうか」
女戦士「確認しに行くって……」
女戦士「えっ!? こ、これは……転移魔法!?」ヒュン
302:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:05:22.87 ID:+H+4J+GGO
こいつ…できるっ!
304:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:09:30.14 ID:
E0ZZJKv90
~~夜半 王都にて~~
女戦士「こ、ここは……?」
少年「王都の教区にある中央広場ですよ。流石にこの時間だと人の姿もないようですね」
女戦士「ど、どうして王都に? それにさっきの転移魔法は!?」
少年「『確認しに行く』と言ったでしょう? 人の話を聞いているんですか?」
女戦士「聞いていました! 聞いていましたが、どうして??」
少年「私はあなたの弟さんの居場所を知りません。案内してもらえますか」
女戦士「い、いえ……でも!?」
少年「確認しなくて良いなら、塔に戻りますが? ああ……でも、塔に直接転移は出来ないか……面倒だな」
女戦士「……信じてよろしいのでしょうか?」
少年「それはあなたが判断する事です」
女戦士「……」
少年「どうされますか?」
女戦士「……こちらです。ついて来てください」
少年「お願いします」
308:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:14:29.07 ID:
E0ZZJKv90
女戦士(勇者殿が転移魔法を使った時……)
女戦士(髪が金色になっていたような気が……)
女戦士(勇者殿の髪は黒い……)
女戦士(……暗闇にいたせいで、目が錯覚を起こしたか?)
女戦士(あれは絵姿で見た……)
少年「……聞いていますか?」
女戦士「あっ!? はい! 聞いています」
少年「しっかりしてください。私はあなたの家の場所を知らないんです」
女戦士「も、申し訳ありません」
少年「あなたの弟さんの病状や前後の状況等を賢者殿にお話して、原因となる可能性をお尋ねしました」
女戦士「いつの間にそんな……」
少年「賢者殿と二人で話しをした時ですよ」
女戦士「そ、それで何かわかったのですか?」
少年「発症の突発性、その後の経過、そして教会による近年の動向を考えて、二つの可能性が浮上しました」
女戦士「二つも!? では、弟の病気は!」
312:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:19:08.18 ID:
E0ZZJKv90
少年「希望を潰すようで申し訳ありませんが、あくまで可能性です」
女戦士「そう、ですか……」
少年「ただ、賢者殿が考察された可能性の確度はかなり高いはずです」
女戦士「……」
少年「それに、今回の確認で原因が掴めなかった場合、賢者殿が直接に弟さんを『診たい』と」
女戦士「け、賢者殿が……どうしてそこまで!?」
少年「『古い仲間の不始末だから』と。詳しい事は賢者殿に直接聞いてください」
女戦士「わかりました。それにしても……」
少年「……何です?」
女戦士「どうして勇者殿は、私の弟の事を賢者殿にお尋ね下さったのですか?」
少年「……私と同じ年頃の子が苦しんでいる」
女戦士「えっ!?」
少年「あなたが言ったんですよ。私と弟さんが同じ年頃だと……」
少年「それが理由ではいけませんか?」
女戦士「ありがとうございます……あそこが私の家です」
320:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:24:05.43 ID:
E0ZZJKv90
~~夜半 王都 教区 女戦士の自宅にて~~
女戦士「表玄関の鍵は中からしか開けられませんので、裏に回りましょう」
少年「わかりました」
女戦士「……この家は教会に所属した時にお借りした家なんです」
少年「元々住んでいた家はどうされたんですか?」
女戦士「手放しました。両親の思い出があるからと、弟は嫌がったのですが……」
少年「弟さんの為ですか?」
女戦士「はい。教区内の方が、弟の世話を教会の方にお願いしやすいので」
ガチャガチャッ……ギィィィッ……
女戦士「この時間なら、家にいるのは弟だけのはずです」
少年「……」
女戦士「勇者殿?」
少年「失礼。最西の街から知らせが届くのはまだ先だとは思いますが……おかしな気配はないようですね」
女戦士「そうですね。監視ぐらいはついてもおかしくない事をしてしまいましたから」
少年「裏口の鍵は念のために閉めておきましょう。いざの時は転移魔法でここを離れます」
322:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:27:19.85 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「そういえば……勇者殿は魔法もお使いになられたのですね」
少年「一通りは」
女戦士「今まで一度もお使いになった事がなかったので、てっきり使えないものと思っていました」
少年「制約があるんですよ、魔法を使うのに」
女戦士「制約ですか?」
少年「今はその話はいいでしょう。弟さんの部屋はどこですか?」
女戦士「はい、こちらです」
カチャッ……キィッ……
??「誰?」
女戦士「起きていたの。私よ」
女戦士弟「姉さん? 帰ってたの?」
女戦士「仕事の途中で寄っただけ。それより具合はどうなの?」
女戦士弟「うん、悪くはないかな。言うほど良くもないんだけどね……」
女戦士「そっか……」
女戦士弟「えっと……そちらにいる人は?」
326:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:32:07.76 ID:
E0ZZJKv90
少年「初めまして。私は君のお姉さんの仕事を手伝わせてもらっている者です」
女戦士弟「そうなんですか。姉がいつも面倒を掛けています」ペコリ
女戦士「待ちなさい。どうして『面倒』って決めつめるの?」
女戦士弟「そんなの決まってるじゃないか。姉さんは剣術以外はからっきし駄目なんだから」
女戦士「こ、こら……」
女戦士弟「ふふっ。ふつつかな姉ですが、よろしくお願いします」
少年「いいえ。私の方こそ、君のお姉さんにいつも助けられていますから」
女戦士「ゆ、勇者殿まで!? お止めください!」
女戦士弟「勇者!? ねぇ、この人は勇者様なの?」
女戦士「あっ!? そ、そうよ。だから失礼のないよう……」
女戦士弟「そっか。姉さんが仕事関係の人を家に連れてくるなんて、珍しいと思ったんだ」
少年「そうなのかい?」
女戦士弟「うん。でも、勇者様なら納得だよ。だって……」
女戦士「こ、こら! 止めなさい!」
女戦士弟「姉さんが尊敬している人だもん、父さんと勇者様は」ニコニコ
328:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:37:00.78 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「あぁ……///」
少年「……初耳ですね」
女戦士弟「そうなんですか? 姉さんの口癖なんですよ。『父さんや勇者様のようになりたい』って」
女戦士「い、いい加減にしなさい!///」
女戦士弟「幾ら勇者様の前だからって、そんなに照れなくて……っ……ごほっ、ごほっ……」
女戦士「だ、大丈夫!? 馬鹿みたいにはしゃぐから……」
女戦士弟「ご、ごめんなさい……ごほっ……久しぶりに姉さんの顔が見れたから嬉しくて……」
女戦士「ほら、お水飲んで……はい……」
女戦士弟「んっ……ありがとう。みっともないところを見せてごめんなさい、勇者様」
少年「あまり身体の調子が良くないんだって?」
女戦士弟「やだな……姉さん、そんな事まで勇者様に話したの?」
女戦士「……」
少年「……別に隠すような事じゃないよ」
女戦士「ほら、横になって……」
女戦士弟「勇者様の前なのに……ごめんなさい」ペコリ
332:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:41:03.25 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「大丈夫? 少しは落ち着いた?」
女戦士弟「僕は大丈夫だから。ほら、勇者様を立たせたままじゃ失礼だよ」
少年「今日はね。君に用があって来たんだよ」
女戦士弟「僕に? でも、僕じゃ勇者様のお役に立てるか……」
少年「大丈夫。君はそのまま寝ていても構わないから」
女戦士弟「そうなの? じゃあ、お言葉甘えて休ませてもらいます」
女戦士「勇者殿……」
少年「一旦、こちらに」
…………
女戦士「それで、どうすれば良いのですか?」
少年「賢者殿が挙げられた可能性は二つあります」
女戦士「はい」
少年「弟さんの身体は元々強い方ではないとの事ですが……」
少年「発症の時期があなたが武術大会で優勝した直後という事。あまりにも不自然ではありませんか?」
女戦士「まさか……」
336:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:46:04.20 ID:
E0ZZJKv90
少年「誰が、とはあえて言いません。ですが、人為的な可能性が非常に高いと、賢者殿は仰られています」
女戦士「そんな馬鹿な事が……しかし……」
少年「体調の変化が、もし人為的なものであった場合……」
少年「考えられる可能性は毒物と魔法」
女戦士「そんな!」
少年「落ち着いてください。弟さんが何事かと思いますよ?」
女戦士「っ……教えてください。どうやってそれを確かめるんですか?」
少年「賢者殿からお借りしてきた、この水晶球を使います」
女戦士「これは?」
少年「この水晶を通して対象を見れば、魔力による影響化にあるかどうかわかるそうです」
女戦士「で、では、毒物の場合はどうやって確認されるのです?」
少年「衰弱の仕方を考えるとその可能性は低いですが、その場合は『解毒の術』を私が使って確認します」
女戦士「『解毒の術』ですか?」
少年「通常、身体の中に存在しない毒性物質を無力化する魔法です。何もない場合、身体への影響は皆無です」
女戦士「し、しかし、勇者殿は魔法を使うのに制約があると先程……」
340:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:51:02.49 ID:
E0ZZJKv90
少年「旅もこれで終わりなので、もう気にする必要がないんですよ」
女戦士「ど、どういう事ですか?」
少年「だから気にする必要はないと言っているでしょう? あなたは弟さんの事だけ考えてあげればいい」
女戦士(何? いつもの勇者殿と雰囲気が違うような……)
少年「うん、どうかしましたか?」
女戦士「い、いえ……気のせいだと思うんですが……」
少年「だから何です?」
女戦士「はい。何というか……今までの勇者殿と雰囲気が少し……」
少年「はぁ……もう、効果が切れ掛かっているのか」
女戦士「効果……ですか?」
少年「そのうちわかります。別段、命に別状がある訳ではありません」
女戦士「わかりました。そこまで仰るのでしたら……」
少年「では、弟さんの原因を確認しましょうか」
女戦士「はい。お願いします」
344:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 22:56:09.76 ID:
E0ZZJKv90
女戦士弟「すぅ……すぅ……」
少年「寝てしまったようですね」
女戦士「そうですね。先程は少し無理をしたようですから……」
少年「……普段の女戦士さんは、ああいう話し方をされるんですね」
女戦士「なっ!? と、突然何ですか!?///」
少年「いえ、堅苦しくなくて、あの方が好感が持てますよ」
女戦士「こ、こんな時にからかうのはお止めください/// それより早く確認をお願いします」
少年「わかりました。では、この水晶球を通して弟さんを見てください」
女戦士「……」
少年「どうですか?」
女戦士「赤い……赤い靄(もや)のようなものが弟の周りに……」
少年「では、弟さんの病気は魔法による影響で間違いありませんね」
女戦士「そんな……では、やはり……」
少年「仕方ない……あなたはそのまま弟さんを見ていてください」
女戦士「えっ? ゆ、勇者殿、どうされるおつもりです?」
348:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:01:06.27 ID:
E0ZZJKv90
少年「どうするもこうするも、こんな馬鹿げた事を許しておく程、寛容な心は持ち合わせていないんですよ」
女戦士(何だ? 水晶球を通した勇者殿の姿は……)
少年「はぁ……これで完全に効果は切れるが……仕方ない」
女戦士(どういう事だ……これは?)
少年「今から『解呪の灯火』の術を使います」
女戦士「ゆ、勇者殿の周りにも赤い靄が……」
少年「だから気にする必要はないと言ったでしょう。少し眩しいと思いますが我慢してください」
パァァ……
女戦士「くっ。眩しい……」
女戦士(勇者殿の身体から光が……)
少年「……これで大丈夫でしょう。どうですか?」
女戦士「……っ。申し訳ありません。光のせいでまだ目が……」
少年「目が慣れてからで大丈夫でしょう。もう心配ないはずです」
女戦士(よし……視力が戻ってきた……)
女戦士「……勇者殿! 弟の周りから赤い靄が消えています!」
359:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:07:02.54 ID:
E0ZZJKv90
少年「そうですか。それは良かった」
女戦士「あ、あれ……?」
少年「何ですか、その呆けた顔は」
女戦士「い、いえ……勇者殿ですよね?」
少年「何を言っているんですか。この部屋にいるの女戦士さんと弟さん、あとは私の三人だけですよ」
女戦士「そ、そうなんですが……」
女戦士弟「う……うん……。あれ……どうしかしたの?」
少年「ああ、騒がしくて起こしてしまったかな」
女戦士弟「大丈夫。何だかさっきより気分がいいみたいで……あれ?」
女戦士「本当? 胸は苦しくない?」
女戦士弟「あっ、姉さん。大丈夫だよ。胸の重みが取れたみたい……何だか凄く気分がいいんだ」
女戦士「良かった……うっ……うぅっ……」
女戦士弟「ど、どうしたの突然泣き出して!?」
女戦士「うん……何でもないの……っ……ただ、嬉しくて……」
女戦士弟「そっか……ならいんだけど……。ところでさ、勇者様の髪って金色だったっけ?」
363:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:09:21.49 ID:VWhwffsSP
364:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:11:33.69 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「そ、そうです!? その髪は一体?」
少年「元々の髪はこの色なんですよ」
女戦士弟「そうなんだ。姉さんの部屋に飾ってある勇者様の絵姿と一緒なんだね」
少年「……そんな物までお持ちなんですか?」
女戦士「い、いえ……それは尊敬する勇者様……やっ……勇者殿にあやかろうと///」
女戦士弟「姉さん……何だか顔が赤くない?」
女戦士「ばっ、馬鹿な事を言わないの!?/// そ、それより、元の色とはどういう事なんですか?」
少年「他者の認識をずらす魔法で、髪の色や全体の雰囲気を変えていたんです」
女戦士「どうしてそんな事を?」
少年「余計な面倒事に巻き込まれたくなかったので。まあ、それでも巻き込まれたようですが」
女戦士「も、申し訳ありません……」
女戦士弟「どうして姉さんが謝るの?」
少年「本当に。どうしてだろうね?」
女戦士「ふ、二人して私をからかうのはお止めください!」
女戦士弟「……?」
367:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:15:46.48 ID:
E0ZZJKv90
少年「それで、これからどうされますか?」
女戦士「どう、と言われましても……」
少年「このまま王都で暮らし続けるという訳にもいかないでしょう?」
女戦士「それは確かにそうですが……」
女戦士弟「姉さん……何かあったの?」
女戦士「ごめんね。姉さんが全部悪いの……」
少年「あなたが悪い訳ではありません」
女戦士「しかし……」
少年「一先ず、賢者殿の塔に戻りませんか? もちろん弟さんも連れて」
女戦士「それで良いのでしょうか……」
女戦士弟「姉さんが行くなら、僕はどこへでもついて行くよ」
少年「ほら、彼もこう言っています。後の事は向こうで考えればいいでしょう」
女戦士「そうですね……どの道ここには居られませんし……」
少年「では、本当に必要な荷物だけ準備してください。それから塔へ移動します」
女戦士「わかりました」
370:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:20:08.63 ID:
E0ZZJKv90
~~明け方 賢者の塔 研究室にて~~
賢者「……戻ったか」
少年「ああ、何とか無事に。手間を掛けさせたな」
賢者「古き仲間の頼みだからと言っただろう。気にするな」
女戦士「賢者殿……この度は私などの為に色々とご配慮頂き……何とお礼を言ってよいか……」
賢者「こちらも古き仲間の不始末だからな、気にするな。で、弟の病はもう良いのだろう?」
女戦士「はい。お陰さまで。……ほら、あなたもお礼を言いなさい」
女戦士弟「ありがとうございます」ペコリ
賢者「聞いたか? 素直で良い子ではないか。貴様とは大違いだな」
少年「はっ! お前に言われるとは心外だ」
賢者「それはお互い様だ。そういえば、もう猫は被らなくて良いのか?」
少年「ん? ああ、人前に出るつもりはないから、もういいんだ」
賢者「そうか。まあ、その方がお前らしくて私は好きだよ」
女戦士「あ、あの……賢者殿は勇者殿と以前からお知り合いだったのでしょうか?」
賢者「何だ。まだ言ってなかったのか、貴様は」
375:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:25:07.85 ID:
E0ZZJKv90
少年「んー何ていうか、今更だろ?」
賢者「全く……肝心な話をしないのは、貴様の悪い癖だな」
女戦士「え、えっと……」
賢者「こいつもこいつだな。いい加減、気づいても良さそうなものだが」
少年「無茶を言うなよ。もう十五年以上も経ってるんだぞ。大体お前だって人の事は言えないだろう」
賢者「乙女に向かって何を言う。異世界の狭間に放り込むぞ」
少年「出来るもんならやってみろ。俺は異世界からでも帰ってくるさ」
賢者「そうだな。貴様のようなしぶとい奴は殺しても死なんだろう」
女戦士「あ、あの……」
女戦士弟「大丈夫、姉さん?」
賢者「見ろ、困っているではないか。いい加減に教えてやれ」
少年「そうだな……えっと、なんて言えばいいのかな……」
賢者「もう良い、私が説明してやる。魔王を倒した勇者とはこいつの事だ」
女戦士「は?」
380:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:29:58.14 ID:
E0ZZJKv90
女戦士弟「やっぱりそうだったんですか。どうりで絵姿にそっくりだと思いました」
賢者「ほう、そんな物があるのか。見てみたいものだな」
女戦士弟「ちょっと待ってください。確か姉さんの荷物の中に……」ゴソゴソ
女戦士「いやいや、待ってください!!」
女戦士弟「あった! これです」
女戦士「魔王を討ち取った勇者様のご子息という話は……」
勇者「ああ、この姿だろ? だから、それを誤魔化す為の嘘だな」
賢者「どれどれ……少し美化され過ぎではないか? これでは気付かんもの無理はない」
女戦士「嘘って……ちょ、ちょっと!? どうしてそんな物まで持ってきてるの!」
女戦士弟「だって姉さんの大事な物じゃないか」
賢者「ほう、そうなのか?」
女戦士「た、確かに大事なものには違いないけど……って、嘘ってどういう事なんです!」
勇者「だから厄介事に巻き込まれない為って、前に言っただろ」
女戦士弟「家に居る時、父さんと勇者様の絵姿をよく眺めてたじゃない?」
女戦士「それは確かに……っていい加減にしてください!!!」
383:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:34:26.16 ID:
E0ZZJKv90
女戦士「はぁ……はぁ……はぁ……」
賢者「気の短い奴だな」
女戦士弟「突然大きな声を出さないでよ。びっくりするじゃないか」
勇者「何か……悪かった」
ドタバタドタバタ――
賢者「はぁ……また喧(やかま)しいのがやって来たか」
――バタンッ!
魔法使い「師匠! 何ですか今の声は!!!」
賢者「何でもないから大声を出すな」
魔法使い「いや、しかし……って、何ですかこの餓鬼は?」
女僧侶「……ずいぶんと大きな音がしましたが……何かありましたか?」
賢者「全員揃ったみたいだな。丁度いいから説明してやれ」
勇者「いや、出来たら頼めると有り難いんだけど」
賢者「自分の蒔いた種だろうが。補足くらいはしてやる」
女僧侶「……あれ? 勇者さま、ですよね?」
387:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:39:35.09 ID:
E0ZZJKv90
―――
――
―
女僧侶「それでは、勇者さまは司教さまや賢者さま方と魔王を討伐された勇者さまなのですか?」
勇者「ちょっとわかりにくいけど、それで間違いない」
女戦士「では、そのお姿は?」
勇者「これは『時の眠り』の魔法で、十年で一年分しか歳をとらないようにしてもらっているんだ」
魔法使い「待てよ。そんな魔法、聞いた事ねぇぞ」
勇者「詳しい事は俺も知らん。確か細胞を不活性にさせてどうとか……傷の治りが悪くなるのが欠点らしい」
魔法使い「もしかして師匠の仕業ですか?」
賢者「そんな便利な魔法があるならとっくに使っている」
魔法使い「じゃあ、どうして師匠は……うげっ!?」ガンッ
賢者「死にたくないなら、その口は閉じておいた方がいいぞ?」
魔法使い「あたたっ……そうやってすぐに物を投げるのは止めてください!」
勇者「えっと、続けていいか?」
390:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:43:54.98 ID:
E0ZZJKv90
魔法使い「ちょっと待て、てめぇが本物の勇者なら、どうして山越えの時に転移魔法を使わなかったんだ」
勇者「ああ、あの時か……」
魔法使い「女僧侶に辛い思いまでさせて、随分と偉そうな事言ってたよな」
女僧侶「あ、あれは私が悪かったのですから、その事はもう……」
勇者「いや……あれは確かに俺が悪かったと思う」
魔法使い「俺は理由を聞いてんだよ!」
勇者「理由にならないかもしれないが、魔界に戻るまでは魔法は使わないと決めていたんだ。済まなかった」
女戦士「魔界?」
魔法使い「おい……魔界ってどういう事だ?」
勇者「そうだな。そこから説明しなきゃいけないか。長くなるけど構わないか?」
魔法使い「構うも構わないもねぇ。納得の出来る説明を聞かせてもらう」
賢者「冷静になれと言っているだろう」
魔法使い「いえ、幾ら師匠の昔の仲間とはいえ、こればかりは譲れません」
勇者「納得してもらえるかどうかはわからんが、長くなるから座って話を聞いてくれ」
…………
394:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:48:20.04 ID:
E0ZZJKv90
~~およそ十五年前 魔王城 玉座の間にて~~
勇者「……んんっ。それで、その悪の根源たる魔王に、人類の希望を背負って戦いを挑み……」
魔王娘「……」
勇者「逃げ帰ってきた腑抜けの居場所なんて、勇者じゃない俺の居場所なんてどこにもないさ」
魔王娘「そんな……勇者様に労(ねぎら)いもなく、それではあんまりではありませんか?」
勇者「そういうものさ。人っていうのは、自分の都合通りにいかないとそれを拒絶する」
魔王娘「あの……」
勇者「なんだ?」
魔王娘「差し出がましいようですが……こうされては如何でしょう?」
魔王「何か良い案でもあるのか?」
魔王娘「はい。勇者様に居場所がないのでしたら、ここに住んで頂けば良いのです」
勇者・魔王「は?」
魔王娘「先程、お父様とも仲直りしてくださった事ですし、幸いな事に城には空き部屋も多く……」
勇者「ま、待て! ちょっと待ってくれ!」
魔王娘「……なんでしょう?」キョトン
399:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:53:17.86 ID:
E0ZZJKv90
勇者「確かに、魔王の提案で俺は戦いを止めたし、その申し出もありがたい」
魔王娘「でしらた何の問題も……」
勇者「いや、だから俺の話を最後まで聞いてくれ」
魔王娘「お話、ですか?」
勇者「この戦いの発端になった事件、それはお前達も憶えているだろう」
魔王娘「……あれは、不幸な出来事でしたわね」
勇者「そうだ。お前達にとっての不幸……元はといえば、俺たち人間が魔界を侵略しようとしたのが始まりだ」
――――
魔法使い「ま、待て! どういう事だよ!」
賢者「黙って話を聞いていろ」
――――
勇者「西の国の領主が軍勢を率いて魔界に侵攻し、お前達の集落を幾つも滅ぼした。それが原因で……」
魔王「そうだな。我々は人間の軍勢を押し返し、報復として西の国を滅ぼした」
勇者「俺個人も人間の希望という建前で、お前達の仲間を数多く殺している。そんな俺が……」
魔王娘「そうですわね……さすがにこのままというのは難しいですわね」
400:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:54:51.71 ID:cfS5owev0
やはり先に手を出したのは人間側だったか…
401:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:55:26.58 ID:gd0oUJNx0
全くこれだから人間は
402:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/20(土) 23:57:58.17 ID:
E0ZZJKv90
魔王娘「お父様」
魔王「何だ、娘よ」
魔王娘「勇者様に『仮初の姿身』の術は使えまして?」
魔王「んっ……こやつが抵抗しなければ、別に問題はないが」
魔王娘「そうですか。なら問題ありませんわね」
勇者「おい、何の話をしているんだ?」
魔王娘「さすがにこのまま暮らして頂くという訳には参りませんので、お父様の術で御姿を少し変えて頂きます」
勇者「は? どうしてそうなる?」
魔王娘「あなたの御姿を見知った、我らの住人達も数多いかと思います」
勇者「そうだろうな。何と言ってもお前達の王の命を狙っていたんだから」
魔王娘「ですが、幸いな事に普段の勇者様は鎧兜を身につけておいで。ですから、お顔まではあまり知られていないかと」
勇者「確かに顔まではあまり知られていないと思うが……どうしてそこまでする?」
魔王娘「勇者様の居場所を作る為に決まっているではありませんか」
勇者「違う、そういう事を言ってるんじゃない!」
魔王娘「まぁ、ではどういう事ですの?」キョトン
409:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:03:06.89 ID:
KVEULtl20
勇者「この戦いの原因は俺達人間の側にある。俺自身もあんた達の仲間を数多くこの手に掛けている」
魔王娘「……そうですわね」
勇者「あんたは俺に恨みがないのか? 仲間を国民の命を奪ったこの俺に!」
魔王娘「……恨みがないといえば嘘になりますわ」
勇者「そうだろう? だったら……」
魔王娘「それでも、恨みを抱いたままでいる事は、とても苦しくて辛い事ではありませんか?」
勇者「しかし!」
魔王娘「勇者様を恨みの果てに、殺してしまうのは簡単な事だと思います。ですが……」
魔王娘「それではいけないと思ったからこそ、お父様は勇者様に御提案をされたのでないでしょうか?」
魔王娘「……違いまして、お父様?」
魔王「まぁ……ないとは言わん」
勇者「魔王……お前……」
魔王娘「照れにならなくとも宜しいのに」
魔王「ば、馬鹿を言うな! 私は照れてなどおらん!」
413:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:07:12.23 ID:
KVEULtl20
魔王娘「ですから、私はこう思うのです」
魔王「こ、こら……人の話を聞け!」
魔王娘「恨みやわだかまりを捨てる事は、並大抵の事ではないでしょう」
魔王娘「ですが、同じ苦しくて辛い道を往くなら……」
魔王娘「往く先に光や希望がある方に進みたいと……」
勇者「……」
魔王娘「おわかり頂けましたか、勇者様?」
勇者「俺は……俺はどうすれば……」
魔王娘「勇者様の思うままに……宜しいですわよね、お父様?」
魔王「お前が決めたのなら、私が反対しても聞く耳などもつまい。好きにしろ」
勇者「魔王……」
魔王「娘は亡き妻に似て頑固な性質(たち)でな。貴様が望むようにしろ」
勇者「俺の望むように……」
魔王娘「希望を紡いでいく為、私達と一緒に来てくださいますか、勇者様?」
勇者「……よろしく、頼む」
418:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:11:37.84 ID:
KVEULtl20
~~夜明け 賢者の塔 研究室にて~~
魔法使い「嘘だろ……俺の国が滅んだのは、自業自得だっていうのかよ……」
賢者「貴様には辛い話だろうと思い、あえて今まで話さずにいた。だが、これが真実だ」
魔法使い「今更そんな話、納得出来るかよ! くそっ! くそっ! くそぉっ!」
女戦士「では、勇者殿の仰っていた、魔法の使用制約というのは『仮初の姿身』のせいなのですか?」
勇者「そうだな。俺が魔法を使うと、術に抵抗した事になって効果が切れてしまうらしい」
女戦士弟「すぅ……すぅ……」
賢者「ふふっ、良く寝ているな。『時の眠り』の魔法も、魔王の手によるものだそうだ」ナデナデ
魔法使い「なぁ……」
勇者「何だ?」
魔法使い「あんたらが討伐出来なかったって事は、魔王は今でも生きているんだろ?」
勇者「そうだな、今でも健在だ。魔王軍が人間界から引いたもの、魔王の命令によるものだ」
魔法使い「そうか……」
賢者「愚かな考えは起こすなよ?」
魔法使い「し、しかし!」
421:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:15:45.31 ID:
KVEULtl20
賢者「勇者の話を聞いていなかったのか? 貴様の恨みを晴らす為、また魔界と争いを起こす気か」
魔法使い「くっ……」
賢者「数多(あまた)の死人が出るぞ。貴様はその責任を取れるというのか?」
魔法使い「じゃあ、俺はどうすればいいんです! 俺のこの気持ちは!」
女僧侶「あの……」
魔法使い「何だよ!」
女僧侶「……あなたはには、あなたの事をお待ちになっている人たちがいらっしゃいますよね?」
魔法使い「それがどうした」
女僧侶「そのお気持ちを、その人たちに向けてあげる事は出来ないのですか?」
魔法使い「俺の気持ちを?」
女僧侶「はい。確かに国を失くしたあなたのお気持ちは、私には窺い知れないものです」
魔法使い「ふん、当たり前だ……」
女僧侶「再び魔物達と争いになれば、あなたと同じようなお気持ちの方を、増やす事になりませんか?」
魔法使い「俺と……同じ……」
女僧侶「それに、その争いであなたが命を落としたら、あなたをお待ちになっている人たちはどうするのです?」
424:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:19:37.38 ID:
KVEULtl20
女僧侶「その人たちを悲しい気持ちにさせることは、あなたの本意ではないはず……そうですよね?」
魔法使い「……っ」
賢者「……そういえば、勇者よ」
勇者「何だ?」
賢者「貴様の生まれも、確か西の国だったな?」
魔法使い「なに?」
勇者「今ここで聞くような事じゃないだろ?」
賢者「今ここでだからこそ聞いている。さっさと答えろ」
勇者「知っているくせにわざとらしい……。そうだよ、俺の生まれはこいつと同じ西の国だ」
魔法使い「あんたも俺と同じ……それなのにどうして!」
勇者「さっきも言ったが、そもそものきっかけは西の国が魔界に攻め込んだ事にある」
魔法使い「だからあんたも魔王の討伐を目指した、違うか?」
勇者「お前の言う通りだ。だが俺はそれを果たせなかった。それに……」
勇者「あのまま己の意地を貫いて、こいつらを巻き添えにする事もな」
勇者「理屈じゃ割り切れないってのはわかっている。でも、殺し殺され続けるのはもううんざりなんだ
430:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:23:09.85 ID:
KVEULtl20
勇者「自分や大切なものを守る為に、その力を振るう事まで否定しない」
勇者「だが……」
勇者「感情や欲望に流されて、その力を振るった結果を俺は知っている」
勇者「だから、お前にも俺と同じ過ちは犯して欲しくない」
賢者「……だそうだ」
魔法使い「だったら……俺は……どうしたらいいんですか?」
賢者「先程、そこの娘が言ったではないか。貴様を待っている人達の為に、その気持ちを向けろと」
魔法使い「あ……」
賢者「貴様は私に言ったはずだな。自分と同じ思いをさせたくないと」
女僧侶「私も出来る限りのお手伝いをします。ですから、あの子達を悲しませるような事はお止めください」
魔法使い「うぅ……くそっ……くそっ……」
―――
――
432:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:28:01.97 ID:
KVEULtl20
賢者「少しは落ち着いたか」
魔法使い「……はい。恥ずかしいところをお見せしまた」
賢者「気にするな。貴様にこの事を黙っていた、私にも原因がある」
女戦士「それで、勇者殿は魔王と和解してから、どうされたのです?」
勇者「ああ、賢者達に治療を施して、意識がない内に俺が転移魔法で人間界に連れ帰ってさ……」
勇者「その後は魔界に戻って、魔王の政務を手伝ったり、各地の復興に協力したりだな」
賢者「あの時は、気がつけば人間界で貴様の姿は見えない、魔王軍は見えずでな……」
勇者「それについてはもう謝っただろう。許してくれ」
賢者「何か一言ぐらいあってよかっただろう? 散々貴様を探し回ったぞ」
勇者「だから悪かったよ」
賢者「結局、魔王軍が撤退した事で、魔王と差し違えたのだろうと判断してな」
女戦士「それが十五年前の真実……」
女僧侶「でしたら、教会の情報にあった魔物による襲撃は……」
勇者「ありえない。そんな事を魔王達が許すはずがないからな」
女僧侶「それでは各地の教会からの情報は一体……」
435:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:32:01.34 ID:
KVEULtl20
勇者「さあな。僧侶……いや、司教の奴が一体何を考えているのか、俺にもよくわからん」
賢者「良からぬ事を考えてなければいいのだが……。さて……貴様ら、これからどうするつもりだ?」
魔法使い「俺は最西の街に戻ります。あいつらが待っていますから」
賢者「そうだな。何かあればいつもでここに来い。出来る限りの手助けはしてやる」
魔法使い「ありがとうございます、師匠!」
女僧侶「私は王都に戻って報告をしなければと考えていたのですが……」
賢者「止めておけ。おそらくだが、今の王都に貴様の帰る場所はない」
女僧侶「そうですね……」
魔法使い「なぁ……」
女僧侶「なんでしょう?」
魔法使い「良かったら、俺と一緒に最西の街に来てくれねぇか」
女僧侶「ふふっ、それは私も考えていました。先程、お手伝いをすると約束したばかりですし」
魔法使い「ほ、本当か!?」
女僧侶「私も神に仕える身です。嘘など申しませんわ」
賢者「二人は最西の街か。それで貴様は?」
440:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:36:05.02 ID:
KVEULtl20
女戦士「私は……当てなどありませんので、弟と一緒にどこか静かな場所で暮らせればばと……」
賢者「そうか。病の原因がなくなったとはいえ、しばらくは安静が必要だろう?」
女戦士「そうですね」
賢者「当てがないのなら、しばらくこの塔に滞在するか?」
女戦士「……良いのですか?」
賢者「貴様の弟は勇者や魔法使いと違って、素直で可愛げがあるらな。望むなら置いてやっても構わない」
女戦士「本当ですか!?」
賢者「その代わり、雑用ぐらいはしてもらうぞ。ただ飯を食わせる趣味はないからな」
女戦士「はいっ、よろしくお願いします!」
勇者「全く……可愛げがないのはお前の方だろうが……痛てっ!?」ガンッ
賢者「ふん、貴様のそういうところが可愛げがないと言っている」
勇者「だからって、物を投げるな!」
魔法使い「ひでぇ……勇者にも物を投げつけるのかよ……」
賢者「あん? 何か言ったか?」
魔法使い「な、何でもありません!」
444:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:41:00.91 ID:
KVEULtl20
賢者「……で、貴様はどうするんだ?」
勇者「俺か? 俺には帰る場所があるからな」
賢者「そうか。またこちらに来るんだろう?」
勇者「そうする必要があればな」
女僧侶「あの……」
勇者「うん、どうした?」
女僧侶「……今更なんですが、陛下から賜った任務は如何しましょう?」
勇者「んー陛下は悪い人ではないんだけど……流石にな」
賢者「仕方ない。陛下には私から取り成しておいてやる」
勇者「面倒を掛ける。……皆、巻き込んで本当に悪かった。元気でな」ヒュン
女戦士「……行ってしまいましたね」
賢者「慌しい奴だ」
魔法使い「あれが勇者かよ……滅茶苦茶な奴だったな」
女僧侶「滅茶苦茶ですが、あの行動力が勇者さまと呼ばれる由縁なんでしょうね」
女戦士弟「……んんっ……もう朝? おはよう、姉さん」
447:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:45:06.37 ID:
KVEULtl20
~~早朝 ??~~
??「……どうやってここまで忍び込んだのですか?」
勇者「この程度の警備、あの時の魔王城と比べたら笊(ざる)みたいなもんだろう?」
司教「成る程、盗賊に転職されたとは存じませんでした」
勇者「人聞きの悪い事を言うな。せっかく昔の仲間が会いに来たっていうのに」
司教「生憎、盗人の知り合いなどおりませんので」
勇者「……お前、そんなに冷たい奴だったっけ?」
司教「私達を見捨てて行方をくらました、あなたに言われたくありません」
勇者「そんな風に思ってたのかよ……俺って意外と人望なかったんだな」
司教「感謝はしていますよ。あなたのお陰で、私はここまで登りつめる事が出来た」
勇者「で、人のいい陛下に取り入って、この国を盗もうって魂胆か?」
司教「……陛下に継嗣がいない以上、誰かが国の舵取りをしなければならないのです」
勇者「だからといって、陛下を騙すようなやり方は間違っている」
司教「人聞きの悪い事を言わないでください。あなたの方こそ陛下を騙したのではありませんか?」
司教「自らは勇者の息子と名乗り、勇者は死んだと陛下を欺いた。不敬以外のなにものでもありません」
450:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:48:17.86 ID:
KVEULtl20
勇者「あの時……俺が陛下に謁見していた時、随分と慌ててやって来たよな」
司教「勇者の子息が登城したと聞いた時は、正直驚きましたからね。真偽を確かめる必要がありましたから」
勇者「でも、俺だと気づいて……」
司教「当たり前です。私が気づかないとでも思っていたんですか?」
勇者「なら、どうして気づかない振りをしていた?」
司教「救国の英雄たるあなたが生きていると知れば、陛下はあなたにこの国を託されるでしょう」
勇者「……だから適当な任務を与えて俺を城から追い出し、殺そうとしたのか」
司教「そこまで上手く行くとは思っていませんでしたよ。案の定、失敗に終わったようですし」
勇者「そんなに俺が邪魔だったのか……」
司教「……それでは、私も一つお聞きします」
勇者「なんだ?」
司教「もし、あの場で勇者だという事が知れ、陛下から譲位の申し出あったなら、あなたはどうされました?」
勇者「俺には……その気も資格もない」
司教「あなたの意思など……ですよ」
勇者「……何だって?」
451:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:51:48.53 ID:
KVEULtl20
司教「関係ないんですよォ! あなたの意思なんてェェ!!」
勇者「お、おい……」
司教「周りがァ! それをォォ!! 許すとでも思っているのですかァァァ!!!」
勇者「おい、落ち着けって……」
司教「あなたこそォ! あなたこそがァァ!! この国を導くべきだったのにィィッ!!!」
勇者「おいっ! しっかりしろ!!」
司教「それをッ……それをあなたはァ……あなたはぁ……っ」
勇者「……大丈夫か?」
司教「信じていたのです……あなたこそが……この国を導くべきだと……」
司教「私の居場所は……あなたの隣だと……」
司教「あなたの居場所は……私達のところだと……」
勇者「……」
司教「どうして……私達を置いて行ったのです?」
司教「どうして、今更戻って来たのです?」
勇者「……確かに黙っていなくなった事は、悪かったと思っている。でも……」
453:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:55:15.19 ID:
KVEULtl20
勇者「俺が戻って来た理由は、お前が一番わかっているんじゃないのか?」
司教「……私が陛下に代わり国を率いるには、求心力が必要なのです」
勇者「お前を慕う人は大勢いるはずだ」
司教「まだ足りないんですよ。治世を磐石にする為には……」
勇者「だから、敵を作ろうとしたのか?」
司教「先の大戦の傷痕は今でも世界に残されています。そこに再び魔物達が現れたとなればどうなります?」
勇者「……何を置いてでも、自分達の世界を守ろうとするだろうな」
司教「そして、私の指揮の下、魔物達の脅威から世界を救ったとなれば、それは私への求心力となります」
勇者「だからって……そんな争いは無意味だ。魔王だってそんな事は望んじゃいない」
司教「ふむ……やはり魔王は生きているのですか?」
勇者「ああ。俺達がこうしていられるのもあいつのお陰だ」
司教「ならば、尚の事。魔物達を捨てておく事など出来ません」
勇者「あいつらは、確かに俺達とは違うところも多い。でも、悪い奴らじゃない。わかりあえるんだ」
司教「かつては魔王討伐を口にしたあなたが、その肩を持つなどと……堕ちたものです」
勇者「俺の事はどうでもいい。争えば新たな犠牲者を生み出すぞ」
455:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 00:59:50.98 ID:
KVEULtl20
司教「何を甘い事を。大多数の幸福の為に多少の犠牲はつきものでしょう?」
勇者「多数の為に少数を切り捨てるなんて考えは間違っている」
司教「必要悪というものですよ。民の大半は自分さえ幸せなら、多少の犠牲には目を瞑るものです」
勇者「そうやって、結界の調査隊を犠牲にしたのか?」
司教「彼らは殉教者ですよ。その尊い犠牲は後世に伝えられる」
勇者「そこまで腐ったか……」
司教「何とでも言ってください。今更、後戻りなど出来ません」
勇者「本当に考え直す気はないのか?」
司教「何を考え直すというのです? 私達は先へ進まなければならないのですよ」
勇者「そうか……」
司教「殺しますか? あなたの意に沿わない私を? 私を止めるなら今しかありませんよ?」
勇者「そんな事はしない」
司教「ふふっ、あなたに出来るはずがない。私を殺せば、自らの考えを否定した事になりますからね」
勇者「だが、お前が俺の大切なものを脅かした時は……」
司教「その時は私を手に掛けますか? でしたら、今やれば良いものを……本当に甘いお人だ」
456:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:03:30.99 ID:
KVEULtl20
勇者「甘くて結構だ。俺は今でもお前の事を仲間だと思っている」
司教「そう思うなら、今からでも遅くありません。私のところに戻って来てください」
勇者「何を……」
司教「今の私なら、あなたの居場所くらい幾らでも用意出来ます」
勇者「……もう遅いんだ」
司教「わ、私ではなく、あながたこの国を治めても構いません!」
勇者「……」
司教「そうだ! 今から登城して、陛下にあなたの無事を知らせましょう!」
勇者「もう……」
司教「へ、陛下もきっとお喜びになられるはず。国を挙げての祝賀となるでしょう!」
勇者「もう、やめてくれ……」
司教「そこであなたに陛下から譲位があるかもしれません。そして私はあなたの側で……」
勇者「……お前の気持ちは嬉しい。けど、俺には帰る場所がある」
司教「……っ!?」
勇者「帰りを待ってくれている人がいる。だから……すまない」
459:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:07:00.87 ID:
KVEULtl20
司教「……なら」
司教「……それなら、話はこれで終わりですね」
勇者「ああ……そうだな」
司教「用が済んだのでしたら、人が来る前にさっさと出て行ってください」
勇者「最後に一つだけいいか?」
司教「……なんですか?」
勇者「今までありがとう」
司教「……」
勇者「それじゃあな……」ヒュン
司教「……」
司教「……そんな言葉が欲しい訳じゃ……ありません」
司教「……」
司教「どうして……」
司教「どうして『一緒に来てくれ』と私に……」
司教「うぅっ……」
461:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:07:53.33 ID:grkzokW30
勇者は魔王の娘とおまんこしたいだけだからな
468:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:11:18.24 ID:
KVEULtl20
~~魔王城にて~~
勇者「よっと、久しぶりだなこっちに戻るのは……」
魔王娘「お帰りなさいませ。今回は随分とゆっくりでしたのね」
勇者「ただいま。ああ。向こうで色々とあってさ」
魔王娘「あら『仮初の姿身』が解けて……」
勇者「ああ。魔王に術を掛け直してもらわないと……」
魔王娘「また、無茶をされたのでしょう?」
勇者「んー無茶にならないよう、やってるつもりなんだけどな」
魔王娘「あなた様の基準で物を考えては、無茶も逃げ出してしまいますわ」
勇者「そこまで酷くはないと思うんだが……」
魔王娘「でも、仕方ありませんわよね」
勇者「うん?」
魔王娘「あちらの世界はあなた様の故郷。故郷を思う余り、無茶な事をされるお気持ちもわかります」
勇者「そう言ってくれると助かる……。それで、俺がいない間に変わった事は?」
魔王娘「そうですわね……お父様が執務室に籠もっている以外、平穏なものですわ」ニコニコ
473:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:15:34.69 ID:
KVEULtl20
勇者「……執務室に? そんなに仕事が溜まっているのか?」
魔王娘「ええ。あなた様がいらっしゃらないお陰で」
勇者「……なぁ?」
魔王娘「なんでしょう?」ニコニコ
勇者「魔王の奴、機嫌悪いだろ?」
魔王娘「『勇者が帰って来たら、あいつに仕事を任せて私も旅に出る』と仰るぐらいには」クスッ
勇者「いや、それこそ無茶だって!」
魔王娘「頑張ってくださいませ。微力ではございますが、私もお手伝いさせて頂きますから」
勇者「絶対に無理! あの量をこなせるのは魔王ぐらいだって!」
魔王娘「お父様の跡目を継がれる方が、そんな情けない事を仰らないでくださいませ」
勇者「……大体さ、どうして俺が跡継ぎになるんだよ。おかしいだろ?」
魔王娘「まあ!? 私との事は遊びだったと仰るのですか?」
勇者「そうじゃないって!」
魔王娘「では、どういう事ですの?」
勇者「間違いなく魔王の方が長生きするはずだろ? なのに俺が跡継ぎっておかしいだろ」
474:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:18:43.01 ID:
KVEULtl20
魔王娘「だからこそ『時の眠り』を使ったのです。それに、ちゃんと理由もございます」
勇者「理由?」
魔王娘「はい。お父様は永く魔界を治めて参りましたが、未だ悪しき慣習も数多く残っております」
勇者「そういえば、あいつの仕事を手伝っていた時に、そういう指摘をした事もあったけど……」
魔王娘「あなた様の指摘で、お父様は考えられたそうです。魔界にも新しい風を入れる必要があると」
勇者「いや、しかしだな……」
魔王娘「重圧とは存じますが、お父様と私の期待に応えては頂けませんか?」
勇者「魔王と、お前のか……そう言われると弱いな」
魔王娘「そうそう。もう一つ理由が……」
勇者「まだ他にあるのか?」
魔王娘「はい。お父様は『余生はのんびり孫と遊んで暮らしたい』と常々仰られておりまして……」
勇者「……そっちの方が本音じゃないのか?」
魔王娘「さあ、どうでしょうか?」
勇者「何にせよ、少し気が早いだろ」
魔王娘「そ、そうですわね///」
477:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:21:06.01 ID:
KVEULtl20
魔王娘「……ところで、向こうの様子は如何でした?」
勇者「正直、少しきな臭い。もしからしたら、以前のような争いになるかもしれない」
魔王娘「そうですなのですか……」
勇者「……そんな顔するなよ。そうならないよう努力はするさ」
魔王娘「はい……」
勇者「そういえばさ、久し振りに昔の仲間にも会ったんだ」
魔王娘「まあ、そうですの?」
勇者「ああ。他にも、協力してくれそうな奴らと知り合う事が出来た。それだけでも収穫かな」
魔王娘「……お話、聞かせてくださいます?」
勇者「もちろん。少し長い話になるだろうけど……」
魔王娘「あの……お話の前に……///」
勇者「うん? あぁ……」ギュッ
魔王娘「おかえりなさい……あなた様……」
勇者「ああ、ただいま……」チュッ
おわり
483:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 01:22:34.89 ID:FJudBVZK0
>>1乙!面白かった!!
536:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 05:12:43.96 ID:D2sX7MuK0
いやー、面白かった!
引き込まれて一気に読んじゃったよ
久しぶりに魅入ったわ
乙!
533:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/21(日) 04:20:10.59 ID:AKfnWO9/0
乙
面白かった
司教が♂で吹いたwwww
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