先輩「あれ、何でこんな所にいるの?」

2010-09-17 (金) 14:20  オリジナルSS   1コメント  
love_plus05.jpg


1 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:19:51.49 ID:+2xC1Bw30
男「夏休みの宿題が終わってなくてですね、居残り勉強です」

先輩「わー不良ー。でも、職員室にいるのはおかしくない?」

男「ホントは昨日も、一昨日も居残りのはずだったんです」

男「だけど、二日とも残ると言いつつサボって帰りまして」

男「そして今日、ついに業を煮やした先生に職員室へ連行され」

男「エニータイム監視中のここで宿題をやらされてる、て訳です」

ずりずりっ

男「どうしました、先輩? 急にあとずさりなんかして」

先輩「男君が不良すぎてこわいよぅ」





4 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:23:01.74 ID:+2xC1Bw30
先輩「……昔は良い子だったのに……」

男「そうですかね? 前からこんなモンですよ」

先輩「訳の分からないふざけた先生の命令も、ちゃんと聞いてたのに……」

男「まあ、それは色々ありますし。ところで先輩」

先輩「ん、何?」

男「ここは職員室ですので、先生への愚痴はちょっと……」

先輩「あ……」

じろりクスクスぎろり

男「ほら……」

先輩「す、すいません。今のはフィクションであり実在の人物には一切関係ありません!」




5 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:26:04.00 ID:+2xC1Bw30
担任「お前さー、愚痴を言うなら聞こえない所で言いなよ」

先輩「すいません。でも、フィクションですので気にしないでください」

担任「まあいいや。悪口もたいがいにしときなさいよ」

男「てか、聞こえない所なら良いんですか」

担任「アンタはさっさと宿題やんなさい」

男「はいはい。すいませんでした」

担任「はいは一回」

男「はい、すいません」




6 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:29:05.41 ID:+2xC1Bw30
男「そう言えば、先輩は何で職員室なんかに来たんですか」

先輩「わたし? 図書室の鍵を返しに来たの。図書委員だから」

男「先生、図書室って閉まるの何時でしたっけ?」

担任「六時半……あ、もうこんな時間か。男ー今日はとりあえず帰っていいわよ」

男「グレート!」

担任「また明日もだかんねー。サボるんじゃないよ」




7 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:32:06.78 ID:+2xC1Bw30
男「あー、疲れたぁ。こんな事ならちゃんとやっとけば良かった」

先輩「そうだよ。宿題はサボっちゃ駄目。三年になって苦労するよ」

男「そうなんでしょうけどね……」

先輩「わたしみたいに」

男「いやいやいや。先輩は頭良いじゃないですか」

男「第一、宿題で居残りになんかされてない」

先輩「そうだけどね、二年の時にもっと勉強しとけば良かった、とはいつも思うよ」

男「はぁ、そんなもんですか……」

先輩「そうだよ。ま、近頃の若人には分からないかな?」

男「そうかも知れません。てか、近頃の若人って、先輩も入りませんか?」

先輩「わたしも昔は分からなかったから、それで良いんじゃない?」




8 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:35:06.86 ID:+2xC1Bw30
男(さて、校門まで来たわけだが……)

男「先輩は、電車通学でしたよね」

先輩「そうだけど?」

男「じゃ、駅まで一緒に行きませんか」

先輩「いいよー。もともとそのつもりだったし」

男「そうでしたか。じゃ、行きましょう」

男(……よし)




9 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:38:07.98 ID:+2xC1Bw30
先輩「男君、部活はどんな感じ? 上手くいってる?」

男「部活ですか、ええ、まあまあ上手くいってます」

先輩「そっか。それは何より。かわいい後輩達が心配だったからね」

男「でも、先輩がいなくて寂しいです……」

男「って、みんなが言ってました」

先輩「大丈夫、そうは言っても、案外みんな寂しくないって」

男「そうですかね……」

男(ああ畜生! なんで余計なことしか言わんのだ俺の口は!)


先輩「最近は何やってるの?」

男「最近ですか……えーっと……陶潜の詩を訳してました」

先輩「とうせん? 誰だっけ」

男「誰でしたっけ。顧問が解説してましたが、忘れちゃいました」

先輩「漢文やるのは楽しい?」

男「あんまり。去年みたく、適当に各人が好きなことをやる方が良いですね」

先輩「やっぱそうだよね」




10 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:41:03.86 ID:+2xC1Bw30
先輩「お、もう改札前だ」

先輩「やっぱり喋ってるとあっという間だね」

男「そうですね。一人だと結構かったるいのに」

男(なんでこんなに駅の近くに学校があるんだろう)

男(もっともっと遠ければいいのに)




11 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:44:15.76 ID:+2xC1Bw30
ぴっ、ガコン。

先輩「男君は下りだっけ?」

男「はい。先輩は上りでしたよね」

先輩「うん。じゃあ、ここでお別れだね。じゃねー」

男「さようなら。お気を付けて」

先輩「うんありがと。男君も気を付けて」

とっとっとっとっとっ

男「……お気を付けて」

男(やっぱ、すっごく可愛いな、先輩)

男(居残りさせられたりして、ろくでもない一日だと思ったけど)

男(最後に、こんな良いことがあるなんてな。思っても見なかった)

男「予想GUYデス」

男「はぁ。さっさとホーム行くか……」




12 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:46:25.30 ID:+2xC1Bw30
男(電車、早く来ないかな)

男(お、ここからだと先輩が見えるぞ)

男(ケータイいじってる……メールでもしてんのかな)

男(誰だろう? 彼氏……かどうかはともかく、俺よりも仲の良い人だろうな)

男(先輩は俺のこと、大事な後輩だって言ってたけど)

男(つまりは、俺のことを『ただの後輩』としか思ってないんだろうなぁ)

男(俺は、先輩のことが大好きなんだけどな)

男「うわっ暗っ! 俺キメェ!」




13 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:49:08.81 ID:+2xC1Bw30
 次の日、火曜日

ガチャ、キイー

男「こんにちは、先輩」

先輩「こんにちは。男君は今日も宿題?」

男「はい」

男「先生、先輩が鍵を返しに来たと言うことは、今日はもう良いですよね?」

先輩「今日は当番じゃないから鍵持ってないよ」

担任「それに、今はまだ五時前。キリキリやんなさい」

男「ノットグレート! ファック! シット!」

担任「職員室で放送禁止用語を叫ぶな」

男「すいません」




14 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:51:05.03 ID:+2xC1Bw30
男「そう言えば、先輩は鍵返しに来たんじゃなかったら何でここへ?」

先輩「んー、男君いるかなー? って思ったのと、後プリント出しに来たの」

男「へっえー。そんな俺に会いたかったんスか?」

先輩「さぼってないか見張りに来ただけ。後男君、ッスって敬語じゃないよ」

男「すいませんでした」

男(真顔ではっきり言わないでください。泣けてきます)




15 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:53:12.22 ID:+2xC1Bw30
先輩「けど、良かったなぁ、男君元気そうで」

男「別に俺が元気かなんて、どぉーでも良いじゃないですか」

先輩「良くないよー。男君は可愛い大事な後輩なんだからー」

先輩「なんだか、最近男君が暗いって担任先生から聞いて心配してたんだから」

先輩「だからね、どうでも良いなんて思っちゃ駄目」

男「はい、ありがとうございます」

先輩「うん、良い子だね。それで、悩みがあるなら聞くよ?」

男「……じゃあ、一つ良いですか?」

先輩「良いよ。何でも言って」

男「宿題が終わりません! 僕はどうすればいいのでしょう?」

先輩「もぉ、夏休みの間にやらなきゃ駄目でしょー。頑張りなさい」

担任「その通り! しゃべってないでさっさとやんなさい!」




16 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:56:12.77 ID:+2xC1Bw30
担任「六時五十分。男、今日はもう帰って良いわよ」

男「はい。それじゃ、さようなら」

担任「さようなら」

ガチャ、バタン

男「本日もめでたく終了、と」

男(今日も先輩に会えたけど、帰りは別か。ちと残念)

男(……贅沢言っちゃいけないか。俺と先輩の接点は、部活くらいだったんだから)




17 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 00:58:03.73 ID:+2xC1Bw30
男(にしても、最近暗い、かぁ)

男(そりゃ、暗くもなりますよ、先輩)

男(クラスではヤンキーグループに小馬鹿にされていて)

男(友達の二人ぐらいとしか上手く話せないし)

男(去年はあまりにもフリーダムで楽しかった文芸部も)

男(顧問が替わって、肩肘張った古典文学研究会みたいになっちゃったから)

男(今ははっきり言って、内申のためにやってるようなモンだ)

男(……去年は、各人が自由に、BLやら厨二小説やらをやってたのになぁ)

男(……それはともかく。初めっから、今年はイヤなことばっかりだったんだ)

男(けれども、部活で先輩に会えるなら、そんなのはどうでも良かった)




18 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:00:49.49 ID:+2xC1Bw30
男(けど、先輩は受験勉強のため、八月最初の活動日を最後に引退してしまった)

男(それからは、さびしくて悲しくて仕方がなかった)

男(生きてゆく意味すら、分からなくなるほどに)

男(そりゃあ一応は、先輩に会う以外のはっきりした理由くらいある)

男(大学に行くための勉強と、高卒という学歴を手に入れるため)

男(けど、頭でそう思うのと、それに納得して行動できるのは違う)

男(なまけ者の俺は、目先の楽しみなしにはやってられないのだ)


男(だから、九月からの学校生活なんて考えたくもない)

男(そんな風に思ってたら、宿題なんて手が着かなかった)

男(……何考えてんだろ。甘えてるだけじゃないか)

男(こんなの、言い訳にすらなりゃしない)

男(俺だって、本当は分かってるさ)

男(俺が全部悪いんだってことに)




19 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:02:51.32 ID:+2xC1Bw30
男(クラスで孤独なのは、元はと言えば俺が人と話すのが極端に苦手なせいだ)

男(正確には、あまり慣れていない人と話すのが、かな)

男(部活だって、強面の顧問に好きにやらせてくれって、臆病で言えないせいだ)

男(文芸部はかよわい女の子しかいないんだから、俺が言わなきゃならないのに)

男(けど、顧問の迫力ある立ち振る舞いを見ていると、つい言いそびれてしまう)

男(こういう、俺の弱さがあらゆる厄介の種になってるんだ)

男(変わりたいけど、なかなか上手くいかないし、周りも俺を変えさせてくれない)


男(……なんか良いことないかな)

男(そう思ってる時に良いことがあった試しはないんだよな)




20 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:04:56.26 ID:+2xC1Bw30
 三日後、金曜日

男「HR終了。さーて今日も居残り勉強頑張るぞー」

男(今日は先輩が図書委員の当番で、鍵を返しに来る日)

男(女神の来訪と共に俺は解放され、その後至福の旅路を授かるのだ!)

男(ヤバイ。考えただけで、満ちあふれた幸福感で昇天しそうだ)

担任「男、そのことだけど、今日は職員室来なくて良いから」

男「へっ? 何でですか?」




21 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:06:05.01 ID:+2xC1Bw30
担任「もう残りは英語のプリントだけなんだから、家でやってきなさい」

男「そんな! 是非とも職員室でやらせてください」

男「戦場のような緊張感があって、とっても集中できるんです」

担任「駄目。男がいると、時々やかましいって他の先生から苦情が来てるんだから」

男「俺がいつやかましくしました?」

担任「大好きな先輩が来たら、目をキラッキラさせてしゃべってたのは誰?」

男「何言ってんスか先生。別に好きなんかじゃないッスよ」

担任「あーそう。とにかく、残りは家でやってきなさいよ」

タッタッタッタッタッ

男「あ、待ってくださいよ先生! 行っちゃったか……。まあいいや、部活行こ」




22 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:08:21.02 ID:+2xC1Bw30
顧問「我は五斗米のために腰を折りて、郷里の小人に向かふこと能はず」

顧問「僅かな給料のために、小役人に尻尾を振ることはできない、という意味だ」

顧問「陶潜はこう思って、令、今で言う知事の仕事を辞めたわけだな」

男(……陶潜、意外とプライド高い、フリーダムな奴なんだな)

男(我は内申のために腰を折りて、古典の授業もどきに向かふこと能はず)

男(なんて思ってみても、行動できなかったんだよな)

男(今日こそ、自分たちの好きなこともやりたい、って言ってみるか)




23 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:10:13.60 ID:+2xC1Bw30
顧問「五時か。日も短くなってくるしな、父兄に心配を掛けるのは良くない」

顧問「皆、今日はこの辺りでやめにしよう」

ざわざわガタガタ

男「先生、相談が」

顧問「男、どうしたかな?」

男「先生が顧問になられてから、我が文芸部は古典文学を専らに学んでおります」

顧問「うん。そうだな」

男「今年の三月から今日まで、特に漢文を深く学びました」

顧問「うん。そうだな」

男「なので、そろそろ昔の物を読み取って学ぶだけでなく、別のことがしたいです」

男「自分達で、自由に創作をしたいです」




24 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:12:17.38 ID:+2xC1Bw30
顧問「……男、それは独見か、それとも皆の意見か。どちらだ?」

ぎろぅり

男「み、みんなの意見です」

顧問「そうなのか? 女、まずはお前が代表として意見を述べろ」

女「はい。え、えっと、私たち、みんな男君に賛成です」

女「私たち、去年はそれぞれ詩を書いたり、小説を書いたりしてました」

女「後二ヶ月で文化祭ですし、そういうこともしたいです」

顧問「……そうか、分かった」

顧問「では活動日の月水金の内、金曜を創作の日としよう。皆、良いか?」

全員「はい」

顧問「では気をつけて帰るように。昨今は何かと物騒だから、一人にはなるなよ」




25 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:14:04.52 ID:+2xC1Bw30
女「やったね。来週から好きなことができるね~」

腐女A「うん。嗚呼、久しぶりに耽美を書くことを堪能できるわ」

腐女A「ホントは漢文なんて二度とやりたくないけど、とりあえずは手を打ちましょう」

腐女B「けど、顧問のおかげで新ジャンル開拓できるよね」

腐女B「蘇秦×張儀とか、劉邦×項羽とか」

腐女A「え~劉邦×項羽より、どっちかというと項羽×劉邦でしょ」

腐女A「それに劉邦タンは張良タンと絡んで欲しいなぁ」

男「お前らこわい」




26 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:16:05.03 ID:+2xC1Bw30
腐女A「どうして男君は耽美のすばらしさが分からないかな……」

男「分かっちゃったら生き物として駄目なんじゃ? 繁殖できないし」

腐女子二人「駄目じゃない! 愛を理解できずに何が生き物ですか!」

男「そうだけど、俺は普通の愛を理解したい。同性愛じゃなく」

腐女B「ああ、先輩?」

男「べ、別に先輩のことなんか何とも思ってねえし」

腐女B「隠しても意味ないよ」

腐女A「男君が先輩のこと好きだってのは、部のみんな知ってるから」

男「嘘だろ。俺は先輩が好きなんて誰にも言ってないから、分かるわけない」

男「ハッ! ぬかった!」

女「男君って天然?」




27 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:18:08.20 ID:+2xC1Bw30
女「先輩のこと、いつから好きなの?」

男「いつだろ? なんだか、いつの間にか好きになってた」

腐女B「そっか、結構重傷だね。……言いづらいけど、お知らせがあります」

腐女B「実は先輩、彼氏います」

男「マジで? 去年別れた人じゃなくて?」

腐女A「ホント。今現在、七月にできた新しい彼氏がいます」

男「どんな奴?」

女「先輩の従兄の友達で、大学生だって」

男「そっか……」




28 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:20:06.47 ID:+2xC1Bw30
腐女A「大丈夫? ショックで倒れたりしないでね」

男「なぁに、別に平気ッスよ。さんざん予想してたことだから」

女「その割には、何か表情暗いけど?」

男「元からだよ……ほっといてくれ……」

女「あ、ごめん……」

男「……うん……」


腐女B「何この空気。暗っ!」

腐女A「ホント。ねぇねぇ、テンション挙げるためにカラオケ行こっ!」

女「あ、良いね良いね。さ、男君行こっ」

男「悪い。楽しそうだけど、何かそういう気分じゃないから俺はやめとく」

男「てなわけで。じゃーねー。シーユートゥモロー」

スタスタスタ

腐女A&B「あれ、行っちゃった……」

女「私たちだけで行く?」




29 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:22:04.44 ID:+2xC1Bw30


ぴっ、ガコン

男(ごめんな、みんな。せっかく、俺のことを気遣って誘ってくれたのに)

男(けど、今は一人にさせて欲しい)

男(仲良い奴といると、今の気分じゃ甘えて迷惑掛けちゃいそうだしな)

男(それにしても、さんざん予想はしていたけれど……)

男(やっぱり、彼氏がいるとはっきり聞かされたショックは大きいな)

男(彼氏がいないからって俺に先輩がなびく訳じゃないんだけど)

男(はぁ。部活で良いことあったな、と思ったら、これかよ……)




30 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:24:05.19 ID:+2xC1Bw30
電車の中

ガタンゴトン

男(当たり前のことだけど、いくら好きだって、何かしなくちゃ意味がないんだ)

男(今までずっと好きだったとしても、何もできなかった俺の気持ちに意味はない)

男(先輩は俺のことを後輩としか見ていないし、何より彼氏がいるんだ)

男(……もういい。もう、先輩のことなどあきらめよう)

男(先輩と仲良くするだけが人生じゃない。他にも楽しいことはある)

男(その、楽しいことで先輩のことなど忘れてしまおう)

男(今日の部活みたいに小さなことを頑張ってみて、楽しいことを増やしていこう)

男(そうは思っても、行動につなげられるだろうか……?)

男(……あぁ……情けない奴だな、俺は……)

ガタンゴトン




31 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:26:04.80 ID:+2xC1Bw30
三日後、月曜日

キーンコーンカーンコーン

リア友「やっと四限終わったー。男、ヲタ友、飯食おうぜー」

男「おう。パン買い行こう」

ヲタ友「今日はメロンパンが食いたいな。シャナちゃんと一緒に!」

二人「二次元に入ろうとしてモニターに突っ込んで激突死しやがれ」

ヲタ友「おおう! いつも通りのナーイス突っ込み! 今日もキレが良いですねえ!」




32 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:28:25.54 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「まあそれはともかく、パン買いに行きますか」

リア友「わり、俺今日弁当だわ」

男「そっか。そんなら、待っててくれ……あれ? 弁当箱変えたのか?」

リア友「いや、今日は彼女が弁当作ってくれたんだ」

リア友「アイツ料理ヘタだからあんまり嬉しくないんだよなー。やれやれ」

男(冗談のつもりなんだろうけどイヤミにしか聞こえねえ……!)

ヲタ友(これが圧倒的格差社会……!)

女A「えーリア友君ひどーい。そんなこと言うなんてサイッテー」

女B「彼女さん泣いちゃうよー」

リア友「え、だってさ、愛してるのと料理がうまいかは別の問題だろ!?」

キャッキャッハハハ

ヲタ友「……男、パン買い行こう……」




33 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:30:12.49 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「メロンパンうめえ」

男「幸せそうで何より。俺もさっさとカレーパン食べよ」

男「あれ? 机の上に置いといたのに、どこ行った?」

不良A「カレーパンうめえ」

男「おいこら、返せ」

不良A「は? 何キレてんだし。一口、一口くれよ。男君、良いだろ?」

男「もう四口ぐらい食っただろうが!」

不良A「じゃあ後一口」

男「やだよ、返せ」

バシッ

男「まったく、勝手に食うなよ」




34 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:32:06.48 ID:+2xC1Bw30
リア友「勝手に人の物食うとかひでーな。不良A、お前男に謝れよ」

ギロリ

不良A「はいはい。ゴメンネー」

不良B「不良A、こんなとこでお前何してたんだよ」

不良A「男君と遊んでやったんだよ。俺優しいからなー」

不良B「マジかよ。ププッ。お前優しいな、プゲラ」

不良A「だろー? ププッ」




35 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:34:07.60 ID:+2xC1Bw30
リア友「あんの糞どもめ。俺の友達をコケにしやがって」

リア友「後で袋にしてやる」

男「良いって。俺の問題なんだから」

リア友「……そうは言ってもなあ……見過ごす気にはなれないし」

男「平気だよ。絶ッッッ対一人で何とかするさ」

リア友「そこまで言うならほっとくけどさ、何かあったら相談しろよ?」

ヲタ友「俺にもな。俺、通信教育で空手やってっから」

男「ありがと、二人とも」

男(……この二人とは、仲良くできるんだけどな)

男(どうして、あいつらとはこうも上手くいかないんだろう)

男(何もした覚えはないのに)




36 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:36:31.13 ID:+2xC1Bw30
放課後

ヲタ友「やっと一日終わったぁ! 早く帰ってアニメ見るぞ!」

ヲタ友「てなわけで二人とも帰ろうぜ」

友彼女「リア友先輩! あ、あの一緒に帰りませんか……?」

リア友「てなわけで、今日は付き合えない。悪いな。じゃ、また今度」

男「じゃあねー……。ヲタ友、行こうか?」

ヲタ友「そうだな」

ヲタ友(……大丈夫、俺にはシャナたんが、シャナたんがいる)




37 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:38:11.48 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「なんかさ、夏休みの間に図書室にハルヒ原作が入ったらしいぞ」

男「それって前に漫画貸してきたアレ?」

ヲタ友「そう。と言うわけで図書室に行って噂の真偽を確かめるぞ」

男「えー。俺別に気にならないんだけど……ってちょっと待てよ、図書室だよな?」

ヲタ友「そうだけど?」

男(……今日は月曜。先輩が図書委員の当番の日)

男「よし行こう。噂を確かめに行くぞ」

タッタッタッタッ

ヲタ友「おい男! どうして突然眼を輝かせて速歩きになるんだ!?」

男「お天道様に聞いてくんな」

ヲタ友(のいぢ画伯のすばらしさに気付いたのか?)




38 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:40:07.80 ID:+2xC1Bw30
男「あれ? まだ開いてないや」

ヲタ友「そりゃ急いで来たからなあ。あれ、と思ったら図書委員っぽい人来たぞ」

男「どこどこどこどこ!?」

ヲタ友「嘘だ。その反応を見ると、図書委員に何かあるみたいだな」

男「ああ、部活の先輩でね、話してて楽しい人だから会いたいんだ」

男「そ、それだけだから、別に変なこと考えるんじゃないぞ」

ヲタ友「分かった。お前がその先輩が好きだって理解した」

男「……そんなすぐ分かるって、腐女Aあたりから聞いてたのか?」

ヲタ友「聞かなくたって分かるさ、そのぐらい」




39 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:42:02.31 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「何で黙ってたんだ? 長い付き合いだろ?」

男「いやさ、お前の知らない人だったから。何となく」

ヲタ友「そっか。言ってくれれば応援したのに」

男「それじゃ今から応援してくれ」

ヲタ友「言われなくとも! シミュレータだったらいくらでも貸すぜ!」

男「ギャルゲーだろうが! シミュレーションの意味あるかっ!」

ヲタ友「何を言う。エロゲもあるぞ」

男「同じやろ!」




40 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:44:03.20 ID:+2xC1Bw30
先輩「お待たせしました。今開けますね」

先輩「あ、男君だ。久しぶり~」

男「お久しぶりです先輩」

男(ホント、久しぶりに先輩に会えて嬉しいなあ)

先輩「男君、そちらはお友達?」

男「はい。同じクラスのヲタ友って奴です。良い奴ですよ」

先輩「あ、君がヲタ友君なんだ」

ヲタ友「へっ? 俺のこと知ってんですか?」

先輩「うん。腐女Aちゃんから。面白くていい人だって」

ヲタ友「はあ、そですか……」

先輩「腐女Aちゃん、よく君のことで色々話してくるんだよ」

男(……リア友だけじゃなく、こいつも結構幸せ者じゃあ?)




41 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:46:37.48 ID:+2xC1Bw30
先輩「二人はどうしてここに来たの?」

男「なんでも、あいつが好きな本が夏休み中に入ったらしくて」

男「俺は、その本を見に来たヲタ友の付き合いです」

先輩「ふーん。そっかそっか~。あ、隣座って良いよ」

男「はい、ありがとうございます(グレート!)」

男「先輩は、当番の日は六時半までここにいるんですか?」

先輩「そうだよー。あんまり人が来なくて寂しいんだよー」

先輩「この学校のみんなは本があんまり好きじゃないのかな?」

男「そうなんですかね。俺は読書好きなんですけど」

先輩「わたしも。ていうか、そうじゃなかったら文芸部なんて入らないよね」

男「はは、そうですね」




42 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:48:09.79 ID:+2xC1Bw30
男「ヲタ友、探してる本はあったのか?」

ヲタ友「あったよ。ほら、コレだ。スイマセーン、貸し出し良いッスか?」

先輩「あ、はーい。図書カードに記入お願いしまーす」

かきかき

ヲタ友「……これで良いですか?」

先輩「はい。期限は一週間後ですので、忘れずに返してくださいねー」

ヲタ友「はーい」

ヲタ友「……そう言えば、何でカウンターの中に座ってんの?」

先輩「図書委員ですから」

ヲタ友「いや男のことです」




43 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:50:11.25 ID:+2xC1Bw30
先輩「男君はわたしの大事な後輩ですから、特別」

男「へっへー、良いだろ~。椅子は二つしかないからお前は座れないな」

先輩「意地悪しないの」

男「すいません。ヲタ友、ごめん」

ヲタ友「いや、別にどうでも良いんだけどさ」

先輩「椅子だすから、ヲタ友君もここで本読んでいきなよ」

ヲタ友「あ、良いです。俺帰るんで」

先輩「そう? 残念」

ヲタ友「さいならー」

二人「じゃーねー」

ヲタ友(……男、先輩と仲良くしろよ……)




44 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:52:03.52 ID:+2xC1Bw30
先輩「二人っきりになっちゃったね。ちょっとさびしいな」

男「そうですね。でも、普段は人来ない限り、先輩一人なんですよね?」

先輩「うん。そうだけど?」

男「じゃあ今日はすっごく賑やかですよ。なんたって普段の倍の人数なんですから」

先輩「一人増えただけじゃない」

男「その通りです。けど、俺はうるさいですから賑やかにはなりますよ」

先輩「図書室でうるさくしちゃ駄目」

男「すいません」




45 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:54:17.33 ID:+2xC1Bw30
先輩「今はわたししかいないから良いけどね」

男「じゃあなんで俺は怒られたんですか?」

先輩「何でだろ? なんか、男君のことはつい叱りたくなっちゃうんだよね」

男「先輩ってSですね」

先輩「えーそんなことないよー。わたし尽くすタイプだよ」

先輩「彼にも、素直なところが好きって言われるし」

先輩「あ、ごめんねノロケちゃって。つまんないこと話してごめん」

男「良いですよー。好きなこと話してくださいよ」

先輩「じゃあ、男君に恋愛相談してもらおうかなー」

男(……先輩と二人っきりでしゃべっているのに、何で心が苦しくなるんだろ)

男(そんな状況を、長引かせるような返事をとっさにした、俺のバカ!)




46 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:57:07.69 ID:+2xC1Bw30
先輩「……でね、帰りも送ってくれたんだ」

男「良い彼氏さんですね」

男(大事にしてあげてくださいよ、とまではさすがに言えない……)

男(ホント、俺は中途半端なダメ人間……)

先輩「でしょー? 男君は彼女とかいないのー?」

男「いませんよ。俺みたいなのが彼女いるわけないじゃないですか」

先輩「そうかなあ?」

先輩「男君は性格もカッコも悪くないから、彼女いそうなんだけどな」

男「……いたら良いんですけどね」

先輩「好きな人とかは?」

男「……好きな人なら、いますよ」

先輩「誰? 教えてくれなくても良いけど」

男「それは……」




47 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 01:59:55.96 ID:+2xC1Bw30
先輩「それは?」

男「それは、せ……」

男(……今、思いを打ち明けたとしても、誰も幸せになれないな……)

男「……せ、性染色体がXXのとある人です」

先輩「え~何それ~。ひっぱっといて結局教えてくれないの?」

男「はい。内緒です」




48 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:01:14.61 ID:+2xC1Bw30
先輩「えー気になるんだけどー」

男「教えてくれなくても良い、って先輩言ったじゃないですか」

先輩「そうだけど、あんな風にじらされたら気になるよぅ」

男「はは、でしょうね」

先輩「誰が好きなのかわたしに言いなさい!」

男「お断りします」

先輩「男君はいい子だから、わたしの言うこと聞いてくれるよね?」

男「俺、宿題もやってこないような不良ッスから」

男(……先輩が俺の思いを受け入れてくれる可能性があるなら)

男(先輩が他の誰かとの幸せに浸っているのでなかったら)

男(貴方が好きだと兆回だって言ってやるのに!)




49 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:04:38.69 ID:+2xC1Bw30
先輩「男君、今何時?」

男「……ちょうど、六時三十分になったところです」

先輩「ん、じゃあそろそろ閉めて帰ろうか。窓閉めてきて」

男「サーイエッサー」


駅前

アナウンス「発車いたします」

ガコン、ゴォオー

先輩「あ、電車行っちゃった……」

男「後ちょっとで乗れたのにね……」

男「すいません先輩。俺が顧問に怒られて時間食ったりしなければ……」

先輩「仕方ないよ。男君が部活に行かないのを気にしなかったわたしも悪いし」




50 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:06:13.36 ID:+2xC1Bw30
男「いやそんなことないです。ホント、迷惑かけてすいません」

先輩「もう良いってば。……さて、どうしよ。次の電車までは約一時間」

先輩「はーあ、お腹空いたなー」

きゅるー

男「何か今可愛い音が聞こえたような」

先輩「うるさい! 気のせいだ!」


男「先輩、腹ごしらえと暇潰しを兼ねて、何か食べに行きません?」

先輩「大賛成ー。どこに行く?」

男「んーそうですね……。駅の裏にある○○うどんはどうですか?」

先輩「いいよー。いっぱい食べても、お金そんなにかからないし」

先輩「さ、そうと決まったら早く行こ」

男「はい。何食べよっかなー」

男(夢にも思っていなかった。先輩と夕飯を食べることができるとは)

男(電車に乗り遅れても良いことあるんだね! ヤッホゥイ!)




51 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:08:24.02 ID:+2xC1Bw30
○○うどん店内

男「先輩は何食べます?」

先輩「何にしよっかな~。悩むなー」

男「俺はわかめうどんにします。先輩もどうです? わかめうどんおいしいですよ」

先輩「んー、でも、わたしはぶっかけが好き。ぶっかけにする」

店員「わかめうどんとぶっかけうどんですね。かしこかしこまりました」

先輩「久しぶりだなー。ここのぶっかけうどん食べるのは」

男(……先輩の『わたしはぶっかけが好きだな』を聞いて変なこと考えた俺死ね!!)




52 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:10:27.38 ID:+2xC1Bw30
先輩「うどんおいしいねー」

男「ですね。最近、暖かい物が美味しくなってきましたし」

先輩「男君、ちょっとわかめうどんちょうだい。うどん一本とわかめちょこっとだけ」

男「良いですよ。どうぞ、一本と言わず好きなだけ取ってください」

先輩「ありがとー。……ん、わかめがさっぱりしてて美味しいね」

先輩「お礼にわたしのぶっかけ一本あげるよ。はい、どうぞ」

男「わ、ありがとございます」

………………ぽちゃ

男(……結局お椀に入れて貰ったけど、『あーん』しちゃえば良かったかな……)

男(いやいやいや! それはまずいだろう。彼氏持ちなんだし)




53 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:12:39.41 ID:+2xC1Bw30
ぴっ、ガコン

先輩「ふー。やあっとそろそろ電車が来るね」

男「夜遅くなっちゃいましたから、先輩は気を付けてくださいね」

先輩「大丈夫だよ。向こう着いたら、彼が迎えに来てくれるみたいだから」

男「そうでしたか。それは何より」

男(普段ならここで俺は悲しむだろう。しかし、この幸福の前ではそんなことはありえない!)

先輩「男君も気を付けてねー? あ、そうだ。今週の日曜日ヒマ?」

男「……はい、俺オールウェイズヒマですから、ヒマですけど……?」

男(……も、もしやこれは遊びのお誘いという、至大な幸福!?)




54 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:14:47.45 ID:+2xC1Bw30
先輩「実は日曜日、図書委員の仕事があるんだ」

先輩「それが結構たくさんあって、図書委員だけじゃ人が足りないの」

先輩「だから悪いんだけど、男君に手伝いを頼みたいの。良いかな?」

男「もちろんですとも。一所懸命にやらせて頂きます」

先輩「ありがと。男君、よろしくね」

男「はい!!」

ピンポンパンポン

アナウンス「まもなくー、一番線に上り列車が参ります」

アナウンス「黄色い線の内側に下がってお待ちください」

先輩「あ、電車来ちゃう! それじゃあ男君、バイバイ」

とっとっとっとっとっ

男「さようならー」




55 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:16:19.27 ID:+2xC1Bw30
男(……へっへへ、今日は楽しかったなあ)

男(先輩には会えたし、たくさん話せたし、ご飯も一緒に食べられた)

男(しかも、仕事とはいえ日曜日に会う約束もできちゃうなんて、最高だ)

男(今日みたいな楽しい日が続いたら良いなあ)




56 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:18:04.84 ID:+2xC1Bw30
四日後、金曜日

不良B「ほい! うわ、はね方ヤベェ!」

不良A「マジだプッ。でも俺ナイスキャッチ!」

不良B「マジナイスじゃん! てかスーパーボールおもしれえ。ハマるわー」

不良A「ちょ、テメふざけたとこ投げんじゃねえ。取れねえだろが」

ポォーン

ヲタ友「男、これがこの間言っていたシミュレータだ。さあ、持って行け」

男「いや、俺シミュレーションより実践で頑張るタイプだから。いらない」

ポコッ

男「あてっ」

不良B「わりーわりー。ゴメンネ男君。ついでに取ってくんない?」

男「はいよー。今度はぶつけないでくれよ」

不良B「さんきゅ」




57 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:20:13.40 ID:+2xC1Bw30
不良A「……なあ……」

不良B「……ああ……」

ポーン、ポォーン。ポコッ

ヲタ友「あてっ」

不良A「あ、わりーわりー。おいオタク、取れよ」

ヲタ友「…………」

不良A「ひょー。さんきゅさんきゅー」

ヒュッ、ポコッ

不良A「あ、わりーわりー。ゴメンネー男君。何度も当てちゃってさー。ブフッ」

男「おいこら! 今わざと狙って当てただろうが!」

不良A「は? 何キレてんだし。いきなりマジギレとか引くわ~」

不良B「てか証拠とかあんの? ヤンキーって妙な因縁つけてくっからウゼェわ~」

男「お前に言われたくないよ。証拠はない。けど、狙うところを見た」




58 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:22:08.28 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「俺も見た」

リア友「俺もだ。証拠はなくたって、証人はいるぞ。二人もな」


不良A「は? 別にそんなこと聞いてないんですけど? ナマ言うなよテメェら」

不良B「だいたいさあ、ゴメンつってんだから、それでいいじゃねえかよ、ああ!?」

男「謝るったって、もっと言い方があるだろ」

不良A「このカスが! 下手に出てれば調子に乗りやがって」

リア友「どこが下手なんだ。お前ら、いい加減男をバカにするんじゃない」

不良B「はぁ? カスいチャラ男は黙ってろよ。そこのキモオタと一緒にさあ」

男「お前、みんなを馬鹿にするんじゃない!」

不良A「男君? ちょっと黙ってようか? 痛い思いしたくなかったら、ねえ!!」

ガシッ

男(……! ……ひ……)




59 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:24:06.14 ID:+2xC1Bw30
不良A「ほら、やっぱ怖いんだろ? だからビビリはおとなしく言うことき」

バコン!!

男「お前に胸ぐらつかまれたぐらいでビビってたまるかっ!!」

不良A「……あ、ぁ~」

ドスン!!

不良B「不良A! テメェ、良くもやりやがったな! ブッ」

バンッ!!

男「ああ! 好きなだけブッ飛ばしてやるさ!!」

不良B「がっ! この糞がぁ!」

ゴッ!

男「が! うらああっ!!」

ガラッ!

担任「あんたたち! 何やってんの!!」




60 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:26:08.31 ID:+2xC1Bw30
男「先生……」

担任「不良A! 大丈夫」

ヲタ友「先生、そいつらが悪いんです! 男は悪くないです!」

担任「何言ってんの! 良い悪いじゃなくて、喧嘩両成敗よ!」

担任「とりあえず保険室行って、それから全員職員室に来なさい!」




61 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:28:11.40 ID:+2xC1Bw30
担任「……そういうことだったの」

担任「それじゃあ、まず不良A、不良B、男達に謝りなさい」

不良A&B「……すいませんでした……」

担任「男、二人にあやまんなさい」

男「ごめんなさい」

担任「……教頭先生、彼らの処遇はどうします?」

教頭「そうだな、普通なら停学でしょうが、今回『は』不問としましょう」

教頭「脳震盪で倒れた不良Aもすぐ眼を覚ましましたし、備品に損害はないですし」

教頭「なにより、皆、深く反省しているようですし。そうだよな?」

「はい」

教頭「という訳で今回は不問としましょう。……次はないからな」

担任「わかりました教頭先生。お前ら、教室戻って良いわよ」

「失礼しましたー」

キィ、バタン




62 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:30:30.11 ID:+2xC1Bw30
男(……やれやれ。喧嘩両成敗ってのは、当事者からするとあまり良い物じゃないな)

男(先生の立場からしたらああするしかないんだろうけどさ)

男(でもとりあえず、小馬鹿にしてちょっかいだしてくることは、もうないだろう)

男(後々のことを考えると微妙にプラス、って納得するか……)

男(明後日は先輩に会えるんだから、ヤなこと考えてたってつまらないしな)




63 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:32:05.99 ID:+2xC1Bw30
次の日、土曜

男(……そういえば、明日何時に学校行けば良いんだろ?)

男(この間は電車のせいで聞きそびれちゃったからな)

男(よし、先輩にメールして聞いてみるか)

ピッピッ

男(……文はこんな感じで良いか。送信っと)

男「グレート! もう返信きたぞ!」




64 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 02:34:04.35 ID:+2xC1Bw30
男(ん? おかしいな……行頭に>がついただけで同じ文章だ……)

男(先輩、何かトチったのかな?)

男(待ってりゃちゃんとした文のメールが来るんだろうけど、なんだか気になるな)

男(よし、先輩に電話して聞いてみるか)

男(ちょっと変かもしれないけど、からかったら面白いから良いよね!)


プルルルルル、プルルルルル

男「もしもし、先輩ですか?」

男「ちょっと聞きたいことがあって電話したんですけど、今話せます?」

先輩「……男、君……うぇっ……ヒクっ……グス……うっ、わぁあん!」

男「先輩!? どうしたんですか一体!」




65 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:36:02.65 ID:+2xC1Bw30
先輩「……うっ、あっ、あのね……グス、ひっ……うっ……」

男「先輩!? 大丈夫ですか先輩!!」

先輩「……ひっ、えぐぅっ……だ、め……ひっ……グスっ……」

先輩「……うぅっ、うぁっ……ひ、とりに、しな、いで……っ……」

男「先輩! 俺がいますから、落ち着いてください!」

先輩「……えぐっ……ぅっ、うぁぁあぁあん! ぅうっ、ひぐっ……!」

男(ちくしょう! なんで先輩が泣いてるんだよ!!)




66 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:38:04.53 ID:+2xC1Bw30
男(……どうにかしないと。それは確かだが、どうしたらいい?)

男(電話で声は聞こえるけど、場所は分からない)

男(……考えろ。今日は休み、普通は家にいるはずだ)

男(電話しながら、先輩の家がある街に行ってみよう)

男(他の場所にいるのかもしれないし、街のどこに家があるかは分からない)

男(けど、先輩が落ち着いて、どこにいるのか話せるまではこうするしかない)

男(電話口でただ待つなんてのは、問題外だ)




67 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 02:40:04.91 ID:+2xC1Bw30
男「先輩、落ち着いて! ほら、深呼吸しましょうよ」

先輩「……うっ、ぐすっ……えくっ……ぁああぁん! ひくっ……」

男(電車の時間が……頼むから間に合ってくれよ!)

ダダダダダダッ! ダンッ! プシューッ

男(……何とか、乗れた。左のかかと一回挟まれたけど)

アナウンス「駆け込み乗車は危険ですので、おやめください」

男(すいませんね。でも、緊急なんだよ)




68 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 02:42:08.11 ID:+2xC1Bw30
先輩の家の最寄り駅

男「落ち着いてきましたか? 先輩」

先輩「う、うん……ひくっ……ちょ、ちょっとは……うっ……」

男「それじゃあ、今どこにいるのかを教えてください」

男「ゆっくり、ちょっとずつで良いので、お願いします」

先輩「うっ、うん。……えと、駅の北の……うっ、えぐっ」

男「先輩? 大丈夫ですよ、もうすぐそこまで来ていますから」

男「だから、安心してください」

先輩「あ、りがと。ぇ、駅の北の、こうえ、ん。公園にいる、うっ……」

男「わかりました。さっそく向かいます」

先輩「……うん。くっ、ひ、えぐぅっ! う、ぁああああん!」




69 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 02:44:03.95 ID:+2xC1Bw30
男(……駅の北。すぐに公園なんて見つかると思ったら、なかなか広いな)

男(だが、迷子になってる暇はないんだ!)

男(……公園。ここか? 違う。先輩どころか人っ子一人いねえ!)

男(……苦しい。駅からずっと走ってるからな。けど、先輩はもっと……!)

男(……公園! あのシェルエットは……間違いない、先輩だ!)

男「先輩!」

先輩「お、とこく、ん……うぇっ、ひぐっ、ぅーっ、うあぁあああん!!」

先輩「うぇ、うぇ、うぇええん! うっ、ぁ、う、ぁうぁうぁああん!!!」

男「先輩、大丈夫ですから。俺はここにいますので落ち着いてください」

先輩「うぇ、うん、うっ、うえ、ひっく……」




70 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:46:12.95 ID:+2xC1Bw30
先輩「……ごめんね、こんなところまで急に呼んじゃって」

男「気にしないでください。どうせ、ヒマなんですから」

先輩「ごめんね、ほんとに。わがままで」

男「良いですよ。それで、どうしたんですか?」

男「聞いて良いことなら、話してくださいよ」

先輩「うん、あのね……え、えっと……」

男「つらいんなら言わなくて良いです。無理しないでください」

先輩「ん。でも、男君に話したら、すっきりすると思うから話させて」

先輩「……今日、彼の家に行ったんだ……」




71 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:48:26.54 ID:+2xC1Bw30
先輩「デートの予定だったんだけど、レポート提出しないとまずいって聞いて……」

先輩「それで、今日のデート中止になったんだ」

先輩「けど、さみしかったから、お昼ご飯作ってあげようと思って彼の家に行ったの」

先輩「チャイムを一回鳴らして、いつものようにドアを開けたら……」

先輩「そしたら……うっ、ひくっ……」

男「先輩、無理しないでください」

先輩「……うん、ありがと。そしたらね、し、知らない女の人が……」

先輩「裸でいて、彼と、彼と、アレを、せ、セっくスしてたのっ!!」




72 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:50:05.22 ID:+2xC1Bw30
男「……それ、は……」

先輩「すぐに彼とその人はわたしに気付いて、すぐに、は、はなれた、の」

先輩「わ、わたしは何してるの、って聞い、たの。分かってたのにね」

先輩「そしたら、何、勝手に人の家に入ってきてるんだ、って、ど、怒鳴られて……」

先輩「わた、わたしはいつも通りに、は、入ってきたのに……」

先輩「……わたしがいるのに、何でこんなことするのって、わたしが言ったら……」

先輩「だ、黙れ! お前は……えぐっ……ただの遊びの相手だ! ……」

先輩「じゃ、邪魔だか……らっ、ぐす……出て行、けって……」

先輩「だ、大好きだって、愛してるって言ったのに!」

先輩「わたしは、か、彼が大好きだったのに、信じてたのに!」

先輩「ひどいよ。なんで裏切るの? わたし、そんなに悪い子だった?」

先輩「良い彼女になろうとたくさん努力してたのに、何がいけなかったの?」




73 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:52:40.95 ID:+2xC1Bw30
先輩「そ、れに、あの人、彼といたあの人……うっ……えぐぅっ!」

先輩「……あの人に、私の男の手を出すなって……」

先輩「……もう三年も付き合ってるんだからって……」

先輩「それで、わたし、パニックになっちゃって、そこから走って出て行ったの」

先輩「どこをどう行ったのか覚えてないけど、いつの間にかここに座ってて……」

先輩「それで、男君からメールが来て、返事しようとしたら、変な所押しちゃって」

男「メールが送信され、俺が電話をかけてきた、というわけですか」




74 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 02:54:20.09 ID:+2xC1Bw30
先輩「うん。ごめんね、なんだか男君の声聞いたら安心して、泣いちゃった」

先輩「驚いたでしょ、ごめんね。わけ分かんないこと勝手に喋ってごめんね」

先輩「こんな所に呼んじゃったりしてごめんね」

先輩「ほんと、本当に色々迷惑かけてごめん……ごめんね」

男「大丈夫です。ぜんぜん平気ですから気にしないでくださいよ」

先輩「本当にごめんね。はぁ……どうしてわたしは迷惑かけてばっかりなんだろう」

先輩「わたしがそういうグズな子だから、彼にも捨てられちゃったのかな……」

先輩「……そうじゃないか。彼はあの人といたのに、わたしの所に来たんだから」

先輩「……最初から、遊びだったんだ……はぁ、そっか、そうだよね」

先輩「わがままで、良いところなんて一つもないわたしを、愛してくれるわけないか」




77 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:10:58.16 ID:+2xC1Bw30
先輩「わたしなんて、誰にも必要とされてないんだね」

男「もうやめてください! そんなひどいことを言うのはやめてください」

男「先輩はすばらしい人だ。良いところは数え切れないほどある!」

男「先輩が嫌いな人なんていない! 俺も周りのみんなも、全員先輩が大好きです!」

男「だから、だからそんな悲しいことを言うのはやめてください……!」

男「先輩がそんなこと言ってたら、俺まで悲しくなっちゃいます……」

先輩「ありがとう、男君。……嘘でも、君にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」

男「嘘なんかじゃない! 俺は、俺は先輩のこと大好きです!」




78 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:13:03.61 ID:+2xC1Bw30
先輩「……嬉しいけど、そんな嘘はついちゃ駄目」

先輩「例の好きな人が誤解して、男君から離れちゃうよ?」

先輩「わたしみたいなグズはほっときなよ」

先輩「あんまり優しくすると、わたし、甘えちゃうから……」

男「なんだって良い……! だから、泣かないでください、先輩」

先輩「あ、れ? わたし、泣いてる?」

先輩「おかしいな、もう、涙なんて枯れたと思ったのに」

先輩「ね、男君、優しい男君に一つだけお願い。……しばらく、そばにいて?」

先輩「もう迷惑かけないように、とことん泣いてすっきりしようと思うんだ。良、い?」

男「それで、先輩の気が晴れるのなら」

先輩「ありがと、う、男君」




79 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:15:05.78 ID:+2xC1Bw30
先輩「すっかり遅くなっちゃったね。男君、色々ありがとう」

先輩「気をつけて帰ってね。じゃ、バイバーイ」

男「待ってください。家まで送りますよ」

先輩「えっ……そうしてもらえたら嬉しいけど、悪いよ」

男「良いんです。どうせ電車が来るまでヒマなんですから」

先輩「え、でも……」

男「何より、今の先輩をほっとく気にはなれません」

先輩「じゃあ、着いてきてください。お願いします、男君」

男「はい」




80 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:17:17.61 ID:+2xC1Bw30
先輩の家の前

男「あ、ここですか?」

先輩「うん。男君、着いてきてくれてありがとね」

男「俺がしたくてしたことですから」

先輩「それでもありがと。じゃ、今度こそ気をつけて帰ってね」

男「はい。それじゃ、さようなら」

先輩「じゃあねー、気をつけてー」




81 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:19:33.98 ID:+2xC1Bw30
男(……ひどい話だ。先輩みたいな人を……)

男(……先輩が、すぐに吹っ切れてくれれば良いんだけどな……)

男(……そううまくはいかないだろうな。やっぱり……)

男(しかし、あんな時に好きだなんて言うべきじゃなかったかな)

男(口が滑っただけだけれど、そうだとしてもなんか卑怯だ……)

男(……情けないぞ、俺。しっかりしろよ……)

男(……ハッ! 結局明日は何時に行けばいいか聞いてねえ!)




82 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:21:09.18 ID:+2xC1Bw30
その日の夜、家にて

プルルルルル、プルルルルル

男「もしもし、先輩ですか? 男ですけど、今話せます?」

先輩「ん、平気。どしたの男君?」

男「明日のことなんですけど、何時に学校行けばいいですか?」

先輩「あ、ごめん、そう言えばそれでメールくれたんだったね」

先輩「えっと、九時に来てくれる?」

男「九時ですね? 分かりました、ありがとうございます」

先輩「ごめんね、男君。気が利かなくて……」

男「気にしないでください。先輩とこうやって電話するのは楽しいので」

先輩「そう? わたし、そんな面白いこと言えないよ? 芸人じゃないもの」

男「そうじゃなくて、別の意味で楽しいんですよ」




83 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:23:08.54 ID:+2xC1Bw30
先輩「……そっか。ねぇ、男君……」

男「何でしょう? 風呂の時、俺がどこから体洗うか気になるんスか?」

先輩「もぉ、ふざけないでよ。別に気にならない」

男「すいません。それで、何でしょうか」

先輩「……今日は、ありがとうね。……それだけ。じゃ、おやすみー」

男「はい。それじゃ、グッモーニンなさい」

先輩「これから寝るんだけど」




84 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:25:22.98 ID:+2xC1Bw30
次の日、校門前

男(お、あのグレートなシルエット……先輩だ)

男「おはようございます」

先輩「……あ、男君。おはよー。今日はお手伝いよろしくね」

男「はい! 血を吐くまで頑張らせていただきます!」

先輩「血を吐くまで頑張られたら汚れるから困るな。帰って」

男「うわぁ、軽い冗談なのに帰れとまで!」

先輩「そこまで含めてのネタなんでしょー?」

男「さすが先輩! 俺にできないツッコミを平然とやってのけるッ! そこにシビ」

先輩「それじゃ、鍵取りに行くから、図書室の前で待ってて」

とことことことこ

男(……流された。仕方ない、普通に待ってよう)

男(しかし、心なしか後ろ姿が寂しげだな)

男(……気のせいだろう。と、いいけど……)




85 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:27:07.14 ID:+2xC1Bw30
図書室

男「それで、具体的には何をすれば良いんでしょうか?」

先輩「本にバーコードのシールを貼ってもらえる? はい、これ」

男「……うわぁ、いっぱいあるなあ……けど、何でこんなのを?」

先輩「パソコンで本を管理するのに必要なの」

先輩「貸し出しの時にぴっ、てやって誰がいつ借りたのか分かるように」

男「ああ、IT革命ですね。ユビキタスにミラバケッソ!」

先輩「分かってなくはないんだろうけど、何だかずれてない?」

男「大丈夫です。こんなでもやるべきことはちゃんとしますんで」

先輩「うん、分かってる。頑張って、男君。頼りにしてるから」

男「はい!」



86 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 03:29:06.89 ID:+2xC1Bw30
男(さーて、テイクマイベストでバーコードを貼ってやろう)

ぺたっ、すいっ。ぺたっ、すいっ。ぺたっ、すいっ。

先輩「…………」

ぺたっ、すいっ。ぺたっ、すいっ。ぺたっ、すいっ。

男(……しかし話してると元気そうだけど、一人だと心なしか影があるなぁ)

男(いつも見てるわけじゃないけど、心なしかため息も多い気がする)

男(……しかし、何でこんなに先輩が気になるんだろう……?)

男(……先輩のことはついこないだ忘れようと思ったはずなんだけど)

男(ホントに、俺は優柔不断の情けない奴だな……)

男(でも、あれだけ泣いてるのを見て、全く何にも思わないよりはマシ、かな?)

男(俺があれこれ思ったって、何がどうなるわけでもないけど)




87 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:14:11.92 ID:+2xC1Bw30
図書委員長「終わったか?」

男「はい。ちょうど今終わりました」

図書委員長「そか。んじゃ、みんな帰っていいぞ。残りはオレに任せろ!」

一同「お先に失礼します」

がちゃ、ばたん。

図書委員長(アレっ? 一人も残ってくれないの!?)




88 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:17:05.73 ID:+2xC1Bw30
先輩「男君、駅まで一緒に行こ?」

男「もちろんですとも! あれ、他の人は?」

先輩「なんか、たまたま電車通学の人はわたし達だけみたい」

男「ありゃ、そうなんですか。んじゃ、俺達も歩きで帰りますか」

先輩「いいよ」

男「あれ?」

先輩「駅までなら」

男「結局電車やないか!」




89 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:21:06.88 ID:+2xC1Bw30
駅、下りのホーム

先輩「…………」

男(先輩、電車が来るまで暇だから話したい、って言ってたのに、無口だなぁ)

男(何か言いたそうなのに、話しかけてもひたすら聞き手に回ってるし……)

男(……先輩、先輩は……)

先輩「……あのさ、男君。ちょっと、話したいことが……」

男「はい? 何でし」

ピンポンパンポン

アナウンス「まもなくー、二番線に下り列車が参ります」

アナウンス「黄色い線の内側に下がってお待ちください」




90 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:23:19.76 ID:+2xC1Bw30
先輩「今日はありがとう。今日だけじゃないけど」

先輩「……それだけ。ほんとにそれだけ。それじゃ、さようなら……」

とっとっ

男「……先輩、待ってください」

先輩「え?」

ゴオォーッ。プシューッ




91 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:26:10.39 ID:+2xC1Bw30
先輩「電車、来てるよ?」

男「いいんです。ちょっと、ちょっと先輩と、何か話したくなったんで」

男(……もう、終わりにしよう)

先輩「……え……何か、って……?」

男「それは、その……」

男(後のことを気にして、踏み込んだことを言わないでいるのは終わりだ)

男(行動しなければ、何を思っていても意味がないのだから)

男「……あのですね、先輩。違ってたら、笑って忘れてください」

先輩「……うん」




92 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:29:40.58 ID:+2xC1Bw30
男「……先輩、さっき、何か、言おうとしてませんでしたか?」

男「まだ何か、言いたいことがあるんじゃないですか?」

男「まだ、このままでいたいんじゃないですか?」

先輩「……どうして、そう思ったの……?」

男「だって、先輩が……すごく、さびしそうだったから」

先輩「……っ……!」

男「今はなんだか泣いちゃいそうだし、だから、そう思ったんです」




93 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:32:18.41 ID:+2xC1Bw30
先輩「……うっ、う、うぁ……」

男「……先輩、泣かないでくださいよ……」

先輩「うっ……いじ、わる。あんな事言われたら……うぇっ……泣いちゃうよ」

男「ごめんなさい。でも、俺は先輩に悲しんでいてほしくないんだ」

先輩「あり、がと。でも、ちょ、ちょっとがまんできない、や」

男「……そう、ですか……。これ、使ってください」

先輩「……うっ、ぅうあああん……!」




94 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:35:36.28 ID:+2xC1Bw30
先輩「ありが、と。男君、ティッシュありがとね」

男「いいえ、どういたしまして」

先輩「……あのさ、わたし、急にさびしくなったの」

先輩「駅に来て、前に男君と帰ったとき彼が迎えに来てくれたの思い出したから」

先輩「その彼がもう、ううん、最初から愛してくれてなんてなかったこと」

先輩「……わたしは、ずっとひとりぼっちだったことに気づいたら……」

先輩「……怖くなってっ……さびしくなって……」

先輩「……一人でなんていられなくて、形だけでも誰かといたくて……」

先輩「……それで、男君のところに来たんだけれど……」

先輩「……それでも、怖くて、さみしいのが収まらなくて……」

先輩「……どうすれば、どうしたらいいか、わかんないの……!」




95 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:40:37.34 ID:+2xC1Bw30
男「……大丈夫ですよ、先輩。先輩は一人じゃないんだから」

先輩「嘘、だよ。そう言ってくれるのはうれしいけど、そんなの違う」

男「違わない。俺は、俺は先輩が好きで、いてくれなくちゃ困るんだ!」

先輩「……口だけで優しくしないで。期待して、甘えちゃうじゃない……!」

先輩「……愚痴聞いてもらえたから、わたしは良いの」

先輩「男君には、もっと気にするべき人がいるでしょ?」

先輩「例の女の子と仲良くね。じゃ、さよな」

男「待った。先輩は誤解してる」

男「俺に、先輩が思ってるような好きな人なんていませんよ」

男「俺は、先輩のことが好きなんだから」




96 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 04:43:06.21 ID:+2xC1Bw30
先輩「……ぇ……!? 嘘、だって……!」

男「あの時は、今と同じ事を言おうとしてやめたんですよ」

男「先輩が好きだって、言おうと思ってた」

男「……本当は、こんな時に言いたくなかったんですけど……」

男「でも、気持ちを隠したままじゃ、先輩は心を開いてくれないみたいだから」

男「好きです、先輩。すごく、大好きです」

先輩「……っ……!」

男「先輩は一人じゃない。兆歩ゆずってみんなが先輩を嫌いでも、一人じゃない」

男「俺が先輩を一人になんかさせない。絶対、何があっても」

先輩「……っ……ぅ……!」

男「だから、大丈夫ですよ、先輩。全部、抱え込まなくったっていいんだ」




97 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 05:03:21.04 ID:+2xC1Bw30
先輩「……ううん、駄目だよ……」

先輩「……わたしは、君を受け入れられないから……」

先輩「……男君は、君が思っているよりも、ずっとすばらしい人」

先輩「誰かが落ち込んでると思ったら、おどけてそれを忘れさせようとしてくれる」

先輩「わたし、そんな優しい男君のこと好きだよ。異性の中なら一番」

先輩「けれど、駄目。わたしは、君を幸せにしてあげられない」

男「どうして、ですか? 幸福なんて、俺が勝手に見つけてやる」

先輩「でも、駄目なの。わたしにとって苦しいことがいろいろあったから」

先輩「わたしは、いろいろ信じられなくなってるの」

先輩「だからきっと、一緒にいたら傷つけてしまうから」




98 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 05:05:43.04 ID:+2xC1Bw30
男「……そんなこと、ない……!」

先輩「……駄目だよ。それに、どうしてわたしが好きなの?」

先輩「わたしは、君が思ってるような人間じゃないの」

先輩「もっと弱くて、わがままで、薄汚れた奴なんだよ」

男「そんなことない! 先輩はすばらしい人で、何度も俺を助けてくれた!」

先輩「それ。それが駄目なの。そんな風に思うのが」

先輩「わたしはそんな、頼りになるお姉さんなんかじゃない」

先輩「だから駄目なの。……ごめんね……」




99 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 05:07:21.54 ID:+2xC1Bw30
男「……俺はそんな風にイメージを押しつけるようなこと……」

男(……していない、と言い切れるのだろうか……?)

アナウンス「まもなくー、一番線に上り列車が参ります」

アナウンス「黄色い線の内側に下がってお待ちください」

先輩「……君の気持ちは嫌じゃなかったよ。じゃあね、男君……」

男「……先輩……」




102 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 08:42:04.49 ID:+2xC1Bw30
男(……ふられた、な……)

男(……勇気を出してカッコつけてこのザマか。ほんっと、情けねえなぁ……)

男(でも、こんなモンかな。思いを打ち明けることさえないと思ってたんだから)

男(……これで良いんだ。俺のようなヌケサクにはこの程度でも上等だ)

男(前誓ったように、他の楽しいことで先輩のことなど忘れてしまおう)

男(……それが一番良い。俺にも、先輩にも……)

男(……忘れられるか……? いや、忘れるしか、ないんだ……)




103 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 08:45:33.53 ID:+2xC1Bw30
次の日、月曜日

男「グッモーニン、マイフレンズ! 調子はどお? ハウアーユー?」

ヲタ友「おはよ。月曜だってのに、テンション高いな」

リア友「おはよう。なんか良いことあったのか?」

男「オフコースあったよ! 今朝、茶柱ワズスタンディング!」

リア友「それだけ?」

男「うん。さて、アッパーシューズ(うわばき)履こっと。ギョエ!」

ヲタ友「どうしたのさ? 新しい芸?」

男「……違うよ……痛え……何か、針が刺さったみたい……」




104 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 08:49:25.96 ID:+2xC1Bw30
すぽ

リア友「! お前、足に画鋲刺さってるぞ! 今抜くからな」

男「痛い」

リア友「我慢しろよ。刺したままにはしとけないし」

ヲタ友「おいリア友、見ろよ。俺らの靴にも画鋲入ってんぞ」

リア友「ホントだ。……畜生、誰がやりやがった……?」




105 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 08:51:10.79 ID:+2xC1Bw30
昼休み

男「ヘイ、マイフレンズ。ランチ、トゥギャザーしようぜ」

リア友「良いぜ。しかし、えらく今日はハイだな」

ヲタ友「ホントだよ。何かこう、心配なくらいにスイッチ入ってるな」

男「別にドラッグはキメちゃいないぜ?」

男(ただ、普通のテンションで過ごすには、ちょっぴり悲しいだけさ)

ヲタ友「じゃなくて、-と-で+なったみたいな騒ぎ方って感じがしてさ」

男「……HA! 何を言うかとシンクすれば。そいつはドントウォウリィだ」

男(……図書室前でのことと言い、鋭いな……)




106 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 08:54:10.13 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「……それなら良いけどさ。一人で悩むなよ?」

リア友「ヲタ友に同じだ。だが、さっき何で少し間が空いたんだ?」

男「……リズムの調整だYO! スペシャルなミーンはナッシング!」

男(……こいつも鋭いな。それとも、見て分かるほど俺は弱ってるのか……?)

リア友「そうか。何かあったら相談しろ。俺達は親友なんだから」

ヲタ友「うわぁ、クせぇ。もしかして、お前ホモ?」

リア友「アホか! だいたい、彼女の一人もいないお前の方がホモっぽいぞ」

ヲタ友「何を言う! ただ、次元を隔てているだけだ!」

男「おーい、マイディアフレンズ、お互い仲良くしましょうよー」




107 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 08:56:39.60 ID:+2xC1Bw30
男(二人とも、心配してくれてありがとう。けど、俺は何も言えないや)

男(実にカッコ悪いけど、俺は先輩に負けず劣らず泣き虫だから)

男(頼ってしまえば、きっと涙を見せてしまう。さすがにそんな恥はさらせない)

男(ダメ男日本代表みたいな俺にでも、その程度の意地はある)




108 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 08:59:23.02 ID:+2xC1Bw30
「HRフィニッシュ。トゥガイズ、アンダースクール(下校)しようぜ!」

リア友「おう」

ヲタ友「リア友、適応力高いなぁ。俺はだんだん着いていけなくなってきたよ」

リア友「まぁ、俺様だから。ん? あそこにいるのお前の先輩じゃないか?」

男「……え……!?」

先輩「…………!」

とっとっとっとっと

ヲタ友「ありゃ、残念。どっか行っちゃった」

男「……うん……」

男(……昨日まで、先輩の後ろ姿を見ただけでも心が躍ったのに)

男(……どうして今はこうも苦しいんだろう……?……)




109 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:02:59.96 ID:+2xC1Bw30
ヲタ友「……また画鋲入ってる」

リア友「セコいことしやがって。文句があるなら直に言えってんだよ、チンカスが」

男「……とりあえずは、靴履くたびに注意するしかないか」




110 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:05:12.25 ID:+2xC1Bw30
ぴっ、がこん

男(ふぅ。ほぼ下校終了。後は家まで歩くだけ)

男(テンションは上げていられたけど、今日は落ち込むことばっかりだなあ)

男(靴に画鋲は入ってるし、先輩には完璧に避けられてるし)

男(……まあ良いさ。まだ一日が終わった訳じゃない)

男(それに、今日がろくでもない日だって、飯食って寝れば明日が来る)

男(俺が生きてる限り、楽しいことはそのうち起こる)

男(あきらめずに前を向き続けていれば、何かが実を結ぶだろう)

男(……多分。きっと、そうだといいな……)




111 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:08:27.50 ID:+2xC1Bw30
二日後、水曜日。昇降口にて

男「……何だよ、これ……」

ヲタ友「……うわぁ。ゴミで滅茶苦茶だ……」

リア友「クソが。ナメくさりやがってッ……!」

不良A「あっれー? どうしたどうしたー?」

不良B「うわぁー靴箱きったないねー。皆さんカワイソー」

ガシッ

リア友「黙れ! てめぇらがやったんだろ……?」

不良A「はぁ? なんでそーなんの?」




112 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:10:14.66 ID:+2xC1Bw30
不良B「俺達心配してあげただけ何だけど? 頭大丈夫? ん?」

リア友「シラを切るのか? なら、泣いて謝るまで締めてやる!」

不良A「うわ、暴力? 別に良いけど、何もしない方が良いんじゃないかな?」

不良B「そーそー。『男君』のせいで先公から目付けられてるんだし?」

リア友「黙れと言ったろう? 死ね」

男「……リア友、やめてくれ。こいつらを殴っても良いことなんかない」

リア友「けど! こんなことされて! 黙ってられるのか!?」

男「……頼む、我慢してくれ……!」

リア友「……分かったよ。……だから、そんな顔するな……」




113 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:12:34.26 ID:+2xC1Bw30
不良A「……ふぅ。男君達が恐かったよー」

不良B「大丈夫だよ、頭の変な人たちは落ち着いたみたいだから」

ヲタ友「死ね、クソッタレ! 脳味噌潰すぞ!」

不良達「オタギレキメェ!」

タッタッタッタッ……

男(……畜生……!)




114 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:17:13.19 ID:+2xC1Bw30
男「バーイ、トゥガイズ。シーユートゥモロー」

二人「じゃあなー」

男(さて、部活行くか……今日は桃花源記をやるとか言ってたな……)

男(……にしても、アレはキツい)

男(……二人があんな目にあうなんて……ひでぇよ……)

男(……こういうことがあるんだから、俺は一人でいるべきなのかな……)

男(無論、俺が悪いと納得なんてしちゃいない。でも……)

男(……俺が正しいと、信じることもできそうにない)




115 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:19:45.40 ID:+2xC1Bw30
顧問「今日はここで終わりにしよう。皆、気をつけて帰るように」

腐女B「男、今日ヒマ?」

男「うん。ヒマ」

腐女A「それじゃ、ちょっと私達に付き合いなさい」

男「良いよ。けど、何すんのさ?」

女「カラオケー。こないだは、男君帰っちゃったでしょ」

男「OK、アイアンダスタンド。何か憂さ晴らしに良さそうだ」

女「何かあったの?」

男「……ん……まー色々?」




117 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:25:14.57 ID:+2xC1Bw30
男「グレート! ヒューヒュー」

シャンシャンシャンシャン!

女「へへへ、ありがと」

男「んじゃ、次は俺がWE WILL ROCK YOUを歌うぞぉ!」

ドンドンパッ! ドンドンパッ!

腐女A「見て見て、デンモクの履歴がアニソンゲーソンと洋楽で占領されてる」

腐女B「……ん? ああ、ホントだ。すごいね……」

腐女A(……リアクション薄いなぁ。ケータイじっと見てどうしたんだろう?)




118 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:29:22.72 ID:+2xC1Bw30
男「ああ。年甲斐もなくタンバリンでヒャッハーしてしまった」

女「男君、すっごく楽しそうだった。マラカスも使ってたし」

腐女A「ちょっと引いたよね」

女達「うんうん」

男「ぐぁっ! マイハートにビッグ、いやビッゲストダメージ!」

腐女A「はっはっは、黒歴史に苦しむが良いわぁ!」

男「とりあえず、更新された俺の黒歴史はほっといて、駅まで行こう」

腐女B「ごめん、これから私のお母さんが車で迎えに来てくれるの」

腐女A「それで私達もそれに乗っけてもらうんだ」

男「あれ、そなの。んじゃ、グッドバーイ」

女達「じゃあねー」




119 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:02:09.98 ID:+2xC1Bw30
男(……ふぅ。祭りの後はさみしいなぁ……)

男(……けど、楽しかった。これで、明日もやっていけそうだ)

男(……ろくでもないことしかなくっても、頑張るしかないんだけど)


「オイコラ、そこのテメェ」

男(……今日の夕飯何かな……)

「テメェだコラ!」

ガシッ!

男「へっ!? 何スか!?」




120 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:07:11.41 ID:+2xC1Bw30
不良R「テメェ、男って奴だな?」

男「……そうだけど……あの」

不良W「テメェ、オレのダチコーの不良Aをぶん殴ったんだって?」

男「……そうだけど……何で」

不良R「ふざけやがって! オイ、ぶちのめしてやろうぜ」

男「はぁ!? そっちこそふざけんな! だいたい」

先輩「ち、ちょっと待ったぁ!」

男「先輩!?」

不良R「何ィ! ヤベェ、逃げんぞ」

不良W コクッ

タッタッタッタ




121 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:12:54.44 ID:+2xC1Bw30
先輩「……ふぅ……怖かった……。お、男君大丈夫だった?」

男「……えぇ、まあ……」

先輩「よかった。……ねぇ、男君……」

男「……何、でしょう」




122 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:18:52.66 ID:+2xC1Bw30
先輩「……えっと……その……あの……こないだのことなんだけど」

先輩「……うまく言えないんだけど、その、ごめんね……」

先輩「あんなこと言ったのに、わたしはもう一度男君に会いたかった」

先輩「けど、実際に男君を見かけると、なんだか怖くて……」

先輩「何か話したいのに、声をかけるなんてできなかった」

先輩「……だから、もう男君のことは忘れようと思ったんだけど……」

先輩「こうして会うと、そんなの無理だって、分かった」

先輩「……わたし、わたしね、男君が好きみたい……」




123 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:24:31.65 ID:+2xC1Bw30
「……先輩……」

先輩「勝手なことだって分かってる。受け入れてもらえなくて当然だと思う」

先輩「だけど、せめて好きだって言いたかった」

先輩「……ごめんね、わたしわがままで……」

男「……なんで、謝るんですか……」

男「俺が、先輩を好きなのは前に言ったじゃないですか……」

先輩「……けど、この間はふったのに……!」

男「そんなのは良いんです。先輩に会えて、話せるだけで俺は嬉しい」

男「だから、好きって言われたのに、イヤなことなんて一つもない」

先輩「……そう。ありがとう。男君、好き……」

男「……俺も、先輩が好きです……」

先輩「けど、本当に良いの? わたし、君を傷つけるかも……」




124 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:31:07.20 ID:+2xC1Bw30
男「だいたい、変ですよ先輩。好きあってるのに傷つけるなんて」

先輩「……お互いに好きでも、傷つくことはあるの……」

先輩「……本当には、お互いを愛しきれなかったりしてね……」

男「例えそうだとしても、今は良いじゃないですか」

男「俺はこうして先輩と一緒にいて、とってもいい気持ちですよ」

先輩「……そうだね。きっと、そうなんだろうね……」

男「……先輩、駅まで一緒に行きましょう」

先輩「……うん!」




125 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:37:30.86 ID:+2xC1Bw30


先輩「じゃあね。また、明日。……ぁ……」

男「……ん? 先輩……?」

アナウンス「発車いたします」

プシューッ、ガコン。ゴオォー

男(……先輩、どうかしたのかな?)

男(……まぁ、良いや。もう電車は動いてるから、戻ろうと思っても無理だし)

男(俺に用事があるならメールでもよこすだろう……メール?)




126 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:43:45.72 ID:+2xC1Bw30
先輩(……しまった! 腐女Bちゃん達と待ち合わせしてたんだった!)

先輩(……とりあえず、電話かけて謝ろう)

プルルルルル、ガチャ

先輩「もしもし、腐女Bちゃん?」

腐女B「あ、先輩! こんにちは~」

先輩「こんにちは。ごめん、ちょっと用があって!」

腐女B「いえいえ全然問題ないですよ。だいたい、もう用は済んだでしょう?」

先輩「!?」

腐女B「ちょっと男君のことで相談がある」

腐女B「だから、カラオケ屋で待ち合わせをすることになったんですよね?」

腐女B「けど、そんなことなら、相談する必要なんてない」

腐女B「先輩が、男君に会っていくらか話をすれば、それで済みます」




127 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:49:36.68 ID:+2xC1Bw30
腐女B「だから、先輩がカラオケ屋に来るであろう時間をねらって」

腐女B「あらかじめ呼んでおいた男君を解放して、会ってもらったんです」

腐女B「学校からは、橋を渡らなきゃ来れない以上、入れ違いになることもない」

腐女B「けど、会えても先輩が逃げちゃう可能性も大いにあった」

腐女B「なので保険として、男君の友達二人に一芝居打ってもらいました」

腐女B「先輩はとってもやさしくて良い人です」

腐女B「だから、男君が絡まれてるのを見たら、ほっとけない。そうですね?」

腐女B「男君には、すぐ二人の正体が分かったでしょうけど」

腐女B「それはともかく。これだけやれば、きっとうまくいくと思ったんです」

腐女B「それで、どうでした? 男君とは話せました?」




128 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 10:55:55.79 ID:+2xC1Bw30
先輩「……うん。確かに男君とは話せたよ。言いたいことも言えた」

腐女B「それでそれで?」

先輩「わたしを、受け入れてくれたみたい」

腐女B「きゃー! おめでとうございます!」

先輩「……えへへ、ありがと……」

腐女B「それじゃあお幸せに。あ、それと先輩」

先輩「ん? 何?」

腐女B「今夜はどんなプレイですか? 先輩は受け? あえて攻め?」

先輩「馬鹿ぁ! いきなりそんなことしないよ!」

腐女B「つまり、そのうちするんですね。それじゃあ、さようなら~」




129 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 11:02:56.41 ID:+2xC1Bw30
男(俺に用事があるならメールでもよこすだろう……メール?)

男(……そうだ、あいつらになんであんなことしたのかメールで聞いてみよう)

男(あの場で聞こうとしたけど、リア友がドンドンしゃべるから聞けなかったし)

男(何か事情があって絡んできたんだろうけど、格好変えたのはなんでだろ?)

男(髪型変えて、ゴツいグラサンかけたって、顔見りゃ分かるのにな)

男(……あれじゃ、遠くの人とかあまり面識のない人しかだませないぞ……)

男(だいたい、いくら見た目を変えても、声でバレるんじゃ……)




130 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 11:10:14.49 ID:+2xC1Bw30
八日後、木曜日

男「二人とも、帰ろうぜー」

リア友「おう」

ヲタ友「ああ」

ヲタ友「お、今日は画鋲だけだな」

男「ホントだ。あのクソったれも飽きてきたのか?」

リア友「『画鋲だけ』って……それだけで十分ムカツクだろ……?」

男「確かにそうだ。でも、ゴミで滅茶苦茶になってるよりはましだよ」

男「シーユートゥモロー」

二人「じゃあなー」




132 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 12:18:19.44 ID:+2xC1Bw30
男(……ふぅ。今日の学校は終わったぁ……)

男(……毎日警戒して靴履いて、クソッタレと小競り合い……)

男(こんなめんどくさいのが、卒業まで続くのかな……)

男(……とかく人の世はろくでもねえ……)

男(……まあ良いや。これから先輩に会えるんだから、つまらないことは忘れよう)

男(世の中はろくでもないけど、それでも生きるしかないのだ)

男(そうするしかないし、そうしていればいつかは報われる)

男(……俺達には、そうだと信じることしかできないのだ……)




133 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 12:24:57.38 ID:+2xC1Bw30
三年の教室

ガラッ

男「失礼しまーす。先輩、いませんかー?」

先輩「いるよー。てか、わたししかいないよ」

男「だから、呼んだんですよ。他の人がいたら恥ずかしくて無理です」

先輩「わたしが彼女ってそんなに恥ずかしいことなの? ちょっとショック」

男「いやいやいや、そうじゃなくてですね……」

先輩「ふふ、分かってるよ。それじゃ、早く行こ?」




134 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 12:29:21.97 ID:+2xC1Bw30
先輩「今日は男君が来るっていうから、部屋きれいにしたんだよ?」

男「へぇー。それじゃ、全力で荒らします」

先輩「汚しちゃだめ。だいたい、今日は一緒に勉強するんでしょ? おとなしくしなきゃ」

男「そうですよ。てか、早く行きましょう。電車行っちゃいますよ」

先輩「もぉ、男君がふざけるからでしょ?」

男「イエスグレート! さすが先輩、ご名答です」

先輩「ほら、早く行くよー」

男「はい」




先輩「あれ、何でこんな所にいるの?」 おわり




135 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/11(土) 12:39:00.21 ID:+2xC1Bw30
 最後までお付き合い頂きありがとうございます。
 支援してくださった方、読んでくださった方、その他あらゆる方法で僕のSSに
良くしてくれた皆さん、本当にありがとうございました。

 それではまたいつか。 ノシ




136 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 12:49:42.94 ID:jKyB3Y6b0
なかなか良かった。が、もっとかけ



100 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 07:36:52.83 ID:YQZBfAYi0
良スレ



101 名前:以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 08:12:56.22 ID:95e9aBY40
イイハナシダナー






関連記事

オリジナルSS   コメント:1   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
19628. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/03/22(木) 12:57 ▼このコメントに返信する
イライラする
クソビッち死ねよキメェ
コメントの投稿