キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」その6

2011-04-25 (月) 18:12  禁書目録SS   0コメント  
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:22:44.22 ID:TmqT2d0po

キャーリサ「崇め奉るがいーの! 私こそは偉大なる英国第二王女キャーリサであるし!」
kya-risa.png

ここは上条さんとキャーリサ様がイチャイチャちゅっちゅするスレです。
バb……大人のお姉さんに興味が無い方は御覧にならないことをお勧めします。

前→キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」その5
まとめ→キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」まとめ



2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:25:01.80 ID:TmqT2d0po
では次回までのつなぎとして軽い小ネタだけ落としときます。
本編では書かなかった3日目の小話でも。



3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:27:13.28 ID:TmqT2d0po
番外編

【本】

3日目

―――学園都市 上条の部屋

ガチャッ…!

上条「ふぅ……ただいまーっと」

キャーリサ「ただいまー」

上条「悪いな、今日も買い物付き合わせて」

キャーリサ「何、私も本屋に行きたかったから丁度良かったの。
       それよりほら、買ったものはさっさと冷蔵庫に入れよ」

上条「おう。そういや本屋で何か買ってたな。何だ?」 ゴソゴソ

キャーリサ「趣味の本だ。あとは時代小説もいくつか」

上条「渋いな……」 ゴソゴソ

キャーリサ「日本の時代劇結構好きなの。特に主君への忠義に厚い侍が出てくるやつな」

上条「キャーリサに武士娘属性があったとはな」 カチャッカチャッ

キャーリサ「うむ。真剣と書いてマジと読んでしまうぞ」



4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:29:23.19 ID:TmqT2d0po
上条「それはともかく、やっぱ俺が学校行ってる間暇か?」

キャーリサ「うん、実はそーなの。お前がいないとどーもつまらなくてな。
       明日からは本でも読んでいよーかと思ったんだ」

上条「ゲームとかは?」 ゴトッゴトッ

キャーリサ「あれは肩が凝る」

上条「そっか。まあ上条さん連日補習の常連さんですからね、結構長時間一人にさせちまうもんな」

キャーリサ「居候してる身だから別に文句は無いの。しっかり学んでこい」

上条「俺もそうしたいんだけど何故か学校休むハメになるんだよな……よし、終わり。
    すぐ飯作るよ」 バタンッ

キャーリサ「おー、それは後でもいいからお前も少し休め。
       茶でも淹れてやろーか?」

上条「い、いや結構です……って、何ですかコレは」

キャーリサ「おい、昨日の朝食を根に持ってるの?
       いくら私もお湯沸かすくらいできるぞ……ん? どーしたの?」

上条「い、いや……上条さんのベッドの上に散乱してるそれは一体……」

キャーリサ「んー? あっ、すまん片付けるのを忘れてた。 
       昼間あまりに暇でな。何か本でも無いかと探してて偶然見つけてしまったの」

上条「その、なんだ。違うんだキャーリサ」

キャーリサ「何だ突然」



5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:30:33.77 ID:TmqT2d0po
上条「この大量のエロ本は別に上条さんのコレクションとかではなくてですね。
    土御門や青髪に無理矢理押し付けられただけなのですよ」

キャーリサ「おー、それで?」

上条「うんまあ、何と言うかその……」

キャーリサ「うむ」

上条「申し訳ありませんでした」 ドゲザッ

キャーリサ「別に謝らなくてもいーぞ」

上条「いやまあ何と言いますかお見苦しいものをお見せして……」

キャーリサ「お前も年相応にこーいうの見るんだなって、ちょっと微笑ましくなったし。
       発見した時はあまりの冊数にドン引きしたがな」

上条「うぐっ!」 グサッ!

キャーリサ「まーせっかくだ。お前に一つ確認しておきたいことがあるの」

上条「な、なんでせうか……」 ビクッ

キャーリサ「どれが好みなんだ?」

上条「……はい?」

キャーリサ「だ・か・ら! どの本が好みなんだと聞いているの
       速やかに答えよ」

上条「は、はいっすみませんっ!」



6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:33:24.26 ID:TmqT2d0po
上条(ど……どういうことだ……? なんか怒ってるっぽいぞ……? 素直に答えてしまっていいのか?
    土御門チョイスのロリものなんて選んだら問答無用で真っ二つにされそうだな……)

上条「えーっと……」

キャーリサ「う、うむ」

上条(土御門の本は妹ものとロリしか無い……となれば多種多彩な青髪チョイスの中でも選んで引かれないものを……)

キャーリサ「言っておくが無難に答えておこーなどと考えたらお前の男性機能を破壊してこんな本を見ても二度と興奮できん体にするぞ」

上条「上条さんハードSMは好きではありませんのことよ!!」

上条(あぶねぇ……じゃあどれが正解なんだ……。犯罪臭がしなくて上条さん好みのもの……出来るだけ健全なやつ……わ、分からん。
    いっそ賭けに出て男の娘ものに……いや駄目だ。そんな倒錯した大冒険は……く、くそうっ!
    ええいままよ! こうなったら右手の向くままに任せる!
    俺の下半身をお世話してくれてる右手だからな! お前なら信じられるぜっ!)

上条「上条さんのイチオシはこれだっ! 頼む! 俺の幻想殺しっっ!!」 ビシッ!

キャーリサ「!」

上条「…………」 グッ

キャーリサ「…………」

上条「……あ、あれ……?」 チラッ

キャーリサ「ん……んんっ! ごほんごほんっ! そ、そーかそーか。お前コレがいーのか……」 カァァ…

上条(……ど、どれを選んじまったんだろう……) オソルオソル…

上条「『金髪年上お姉さんマン開! 欧州の巨乳天使達』……だと」

キャーリサ「ん……ま、まーいいんじゃないか? 
       お前の趣味は悪く無いと思うぞ……?」 チラッチラッ

上条(……まさかの洋モノ……。正直AVだと激しすぎていまいち興奮しないんですが……)

キャーリサ「そ、そーかそーか。これがいーのか……ふふっ」

上条(よく分からないけど……まあ機嫌良さそうだから良しとしよう)

キャーリサ「ふふふっ!」



7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/01(金) 03:34:26.24 ID:TmqT2d0po
というお話だったとさ。
ではまた近々お会いしましょう


8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/04/01(金) 03:35:53.67 ID:+t2+HbR+o
乙!
こっちでも頑張れ



10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2011/04/01(金) 18:07:47.19 ID:CEAk+BBqo
キャーリサに真剣で恋してしまうわー


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/04/01(金) 19:16:06.04 ID:oj4NImlpo
だめだ 今回ばかりは上条さんに譲ってやるんだ。


43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/03(日) 02:01:19.46 ID:q4t9q55do
二スレ目、おめ!


>>上条(……まさかの洋モノ……。正直AVだと激しすぎていまいち興奮しないんですが……)

気持ちはわかる……



44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/04/03(日) 02:28:12.33 ID:fqqUb96n0
>>43その女優をキャーリサにしたら最高だということが何故わからん


45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/03(日) 02:32:35.54 ID:gRHHg8mDO
>>44
キャーリサは生娘のように喘ぐに決まってんだろ

決まってんだろ

決まってんだよ



46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/03(日) 03:02:20.98 ID:/fCPhGhP0
決まってるんです三段活用


58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 22:41:19.26 ID:IFX5FSTFo
こんばんは。遅れて申し訳ないです。
今から投下します


59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/04/05(火) 22:43:42.64 ID:Q55DUuOto
キタ――(゚∀゚)――!!



61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 22:46:27.20 ID:IFX5FSTFo
10日目 後編


―――英国 バッキンガム宮殿  回廊 13:10


上条当麻はキャーリサの手をとったまま彼女の部屋を出たところだった。
そこで廊下を警戒しつつ待っていたアックアと土御門。
二人と合流し、次に向かうポイントはバッキンガム宮殿の西側に存在する庭園だった。


上条「よし、行くぞ土御門」


もはやキャーリサから離れまいと固く決意を込めた上条が力強くそう言う。


土御門「お二人さん、もう準備はいいのかにゃー」


その様子を見て土御門が口元に愉快そうな笑みを浮かべて問いかけてきた。
キャーリサが首肯する。


キャーリサ「手間をかけてすまないの。まさかお前達まで一緒にいるとはな」

土御門「カミやんがどうしてもキャーリサを助けに行くって言って聞かないからにゃー。
     一人よりは成功率が上がるだろ?」


土御門のその言葉を聞いてキャーリサの頬にほんのり赤みが差した。


キャーリサ「ん……そ、そーか。とーまがそんなことをな……」


コホンと咳払いをし、キャーリサは上条にチラリと視線を送った。


上条「?」


その視線の意味が分からず首を傾げる上条。
そんな二人の様子を見て土御門がくつくつと笑った。


アックア「話は走りながらでも出来るであろう。行くぞ」



62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 22:49:06.81 ID:IFX5FSTFo

周囲を警戒する素振りを見せながらアックアがそう言う。
頷く上条。
キャーリサと合流は出来たが、まだ何も終わってはいない。
むしろここからが本番と言えるだろう。
これからキャーリサの手を引き、騎士達を退けながら安全な場所まで退避しなくてはならないのだから。


キャーリサ「お前もよく来てくれたな、ウィリアム。感謝するし」


それをキャーリサも理解していたから、短い言葉でアックアに礼を言う。
しかしアックアは何でも無いことであるかのように踵を返し、先頭に立って脚を踏み出した。


アックア「私は私自身に従ったまでだ。その必要は無いのである……行くぞ」

キャーリサ「うむ。それで、外の連中はどうなってる?」


キャーリサはそれ以上話を引っ張ることはしなかった。駆け出したアックアの背を追いながら、現状を確認すべく話を切り出す。


土御門「今のところどこも健在。まだ戦えるぜい」


軽口で土御門は言うが、いつまでも優勢のままでいられるという保証は無い。
窓の外や廊下を響いて聞こえる戦いの音は、徐々に上条達の傍まで近寄ってきているためだった。
それは敵の包囲網は確実に縮まっていることを如実に示している。
だが、それを承知の上でキャーリサは力強く笑みを浮かべた。


キャーリサ「上手くいっているよーで何よりだし」


気の抜けない状況であることは事実だが、事態を憂うよりも一刻も早い戦場からの離脱こそ先決だと彼女は当然のように理解していた。
それこそがこの戦いを勝利で終わらせるための絶対条件。
最後尾で背後を警戒しながら走る土御門が、呼応するように獰猛に笑う。


土御門「よく言うぜい」

上条「後は例の脱出ポイントに向かうぞ」



63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 22:51:40.35 ID:IFX5FSTFo

上条はキャーリサの手を握ったまま短く告げて、階段を駆け下りていく。
もう彼女から離れることなどしない。
身体が朽ち果てようと、意識が刈り取られようと、右腕の肉片一つとなるまで彼女を守り通す。
それが上条が与えられた役目であり、協力してくれている皆の気持ちに応えるということだと考えた。
知ってか知らずが、キャーリサもまた上条の手を強く握り返す。


キャーリサ「裏の庭園だったな、急ぐの!」


恐れなど微塵も見せぬ勇敢な王女の言葉は、意図せずとも三人に力を与えた。
囚われの王女を守りながらの脱出。
今後英国王室前代未聞の事件として密やかに語られるであろうこの状況下において、三人の行動は追ってくる本物の騎士達のそれよりも余程本職のようであった。


アックア「むっ……!」


階段を駆け下りた先、一階の回廊にてアックアが急に足を止める。


上条「どうしたアックア!」

アックア「行き止まりである……」


アックアが顎で指し示した進行方向には確かに堅牢な石の壁が立ち塞がっている。
宮殿内の見取り図はあらかた頭に叩きこんでいた上条だが、戻り道を間違えただけではないということはすぐに理解出来た。
そうでなくては、アックアがわざわざ立ち止まってまで行き止まりを宣告するはずもない。


キャーリサ「馬鹿な。ここは私の家だぞ、こんなところに行き止まりなど無いし。
       構わん、壁ごとブチ抜け」


今自分たちがどんな状況に置かれているかを考えるより早く、キャーリサは壁の破壊をアックアに命じる。
この不測の事態に見舞われた際の即座の判断能力もまた『軍事』のキャーリサの本領であった。


アックア「了解である」


アックアが目視出来ない速度でアスカロンを振りかぶったその時。
彼の視線は天井を捉えていた。



64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 22:54:31.29 ID:IFX5FSTFo

上条「なっ!?」

キャーリサ「天井が!」


プレス機のように容赦の無い速度で落ちてくる天井。
一体いつから女王の公邸は忍者屋敷になったのかと、上条がキャーリサを庇うように抱き締めて地に伏せようと跳びかかる。
アックアも眼前の壁破壊から天井の破壊に行動を変えようと試みるが、それよりも早く土御門が叫び声をあげた。


土御門「カミやん!右手を上に突き出せ!」

上条「えっ!?」


既にキャーリサを抱きかかえる寸前だったために体勢をうまく切り替えられそうも無い。
しかし、土御門の言葉を聞いたアックアが上条の右手を掴んで引きずり起こし、そのまま落下してくる重厚な天井に突き付けた。


上条「えええぇぇえぇぇえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!???????????」


パキンッ!というガラスの割れるような音が当たりに響き渡る。


アックア「ふンっ……!!」


アックアはその勢いのまま上条の手を行き止まりの壁へと叩きつけた。
肩が抜けそうな程の衝撃が全身を走り抜けるが、次の瞬間やはりガラスの割れる音が聞こえた。


土御門「やっぱり魔術だったみたいだな」


ようやく解放された上条は生きた心地がしないまま肩を押さえつつ天井と壁を見やる。
そこには、先ほどのような行き止まりは無く、眼前には庭園への回廊が伸びている。
そして天井も落ちてきている様子など無い。


キャーリサ「幻覚か?」

土御門「いいや、実際落ちてきてたんだと思うぜい。建造物を作り変える魔術の類だろうな。
     実際アックアがカミやん振り回さなかったらちょっとヤバかったかもしれねぇ」

上条「アックアの剣とお友達になれそうですよ。死ぬかと思った……」

土御門「上条ソードだったにゃー」



65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 22:58:33.25 ID:IFX5FSTFo

冷や汗が止まらない上条がガックリと肩を落としながら呟いた。


アックア「迷わず壁をたたき割っておくべきだったか……」

土御門「そのようだにゃー……」


それを無視して周囲に視線を走らせるアックアと土御門。


上条「!」

キャーリサ「ちっ!」


頬についた砂埃を拭うことも忘れて舌を打ち鳴らすキャーリサ。
どうやら先程の壁への対応に時間をとられ過ぎたようだ。


??「―――手間をかけさせる」


行く手に立ちはだかるのは、冷徹に眉間を潜めた身なりのいい男。
英国最大の武力にして、女王の懐刀。
騎士団長が数十名の魔術師と騎士を引きつれ四人を待ち受けていた。


騎士団長「お前達が泥人形だと知ったときは冷やりとしたぞ」

キャーリサ「騎士団長、命令だ。そこを退け」

騎士団長「その命令は聞けません。キャーリサ様、間もなく貴女の挨拶のお時間です。
       お客様達がお待ちですので、広間にお越しください」

キャーリサ「断るの」


淡々と交わされた、決別の会話。
たったその一往復で、彼女達は己の敵を認識する。
言葉は愚か、目配せすら不要だった。
キャーリサは先陣を切って回廊を駆ける。
その手に握られるのは、王の剣。
カーテナの欠片から光の刃を顕現させて、勇敢なる武の王女が、騎士派の長に切りかかるべく疾走した。



66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:00:51.52 ID:IFX5FSTFo

上条「キャーリサ待て! 一人で行くな!」


その後を慌てて追う上条。


騎士団長「いかにカーテナであろうと、破片では私には勝てません。
       お忘れですか、ここは英国国内です。私も全力を振るえる」

キャーリサ「お前こそもー忘れたの?
       私の目的はお前に勝つことなどではなく、ここから出ることだし。
       カーテナによる供給も、フルンティングも無き今、お得意の『パターン』すら満足に扱えん時点でお前と私は互角よ!」


口元にサディスティックな笑みを浮かべてキャーリサは速度を緩めることなく騎士団長へと突撃する。


騎士団長「逃がしなどしません」


騎士団長が剣を構えキャーリサを迎え撃つ。
しかし


アックア「ぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおッッッ―――――!!!!!!!!!」

騎士団長「何っ!? ぐッ!!」


渾身の力でアスカロンを振りかぶったアックアが、騎士団長を横合いから思い切り吹き飛ばす。
メキメキという人体の軋む音を響かせながら、騎士団長は回廊の壁を突き破って上階まで叩き上げられていった。


キャーリサ「愚か者め! 標的たる私を見つけて視野狭窄に陥ったか!
       誰がお前となど戦うものかめんどーだし!」


高々と笑い声をあげてキャーリサはアックアと共にそのまま騎士や魔術師の集団の中へと突っ込んでいく。


土御門「ったく! 勇猛なお姫様だぜい!」

上条「着いてくのがやっとだぞ!」


必死でその後を追う上条と土御門。



67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:03:30.82 ID:IFX5FSTFo
騎士A「来るぞっ!!!」

騎士B「怯むな! 足止めをすればすぐにこちらへ戻られる!」

魔術師A「問題ない。足止めだけならばどうにかなる!」

魔術師B「標的を狙うな! 騎士団長が戦線に復帰する十数秒を稼げばそれでいい!」


そう言って魔術師たちは人の耳では解読不能な言語で詠唱による術式の構成を始める。
地の底を震わせるような地鳴りの音が響いてきた。
宮殿の壁や天井が形を変え、上条達の行く手を阻むようにうねり蠢く。
脚をとられ思うように走れない中、土御門が叫んだ。


土御門「さっきと同じだ! カミやん右手を上手く使え」

アックア「いや、あの男が戻ってくるのである。前方以外は無視して構わず走り抜けろ!」


突き破った天井の上から肌をビリビリと震わせる気迫が漂ってくる。
アックアに吹き飛ばされた騎士団長がこちらへ向かっているのだ。
速度の落ちたキャーリサに上条が追い付くと、その手を取って右手を前方に突き出す。


上条「キャーリサ、転ぶなよ!」

キャーリサ「とーま……王女は転んだりなどせんっ! うわっ!」


そう言ってプールで転んでいたことを思い出す上条。
そんな矢先にキャーリサは隆起した石畳に足を取られバランスを崩した。


魔術師C「いまだ!」

騎士C「キャーリサ王女! 大人しくしていただきます!」


その隙を見計らって騎士の手がキャーリサへと伸びる。


土御門「ちっ! 仕方ねぇ!」


土御門はキャーリサに近づいた騎士に跳びかかるようにして腕に抱き着いた。
同時に上条がキャーリサの腕を引っ張って引きずり起こす。



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:07:38.94 ID:IFX5FSTFo

キャーリサ「す……すまないの」

上条「土御門!」


騎士と共に倒れ込んだ土御門に声をかけるが、土御門は割れたサングラスの奥に精悍な笑みを滲ませてヒラヒラと手を振った。


土御門「ガラじゃないんだけどにゃー……ここは任せろカミやん!」


キャーリサを追おうとする騎士を殴りつけ、銃弾を撃ち込みながら土御門が叫ぶ。


上条「頼んだっ!」


上条はキャーリサの手を握りしめたまま振り返らず庭園に向けて走り抜けた。


土御門「ちょっとは躊躇えよ! ……って、そういう作戦か」

アックア「急げ上条当麻! 奴が来たのである!」


吹き飛ばされた穴から騎士団長が姿を見せた。
少し距離があるが、この分では一瞬にして詰められる。
その前にどうにか裏庭まで出なくてはならないのだ。


騎士D「おい逃がすな! 魔術師! 足止めしろ」

魔術師D「分かってる!」


再び詠唱を始め、術式を構築する魔術師達。
その時。


    C   S    R   S   M   R   
??「変動を停止。復元する石壁を再編成せよ」



少女の声が回廊に響き渡る。
そして蠢動する大地はその動きを止め、不自然な動きで上条達と騎士達を分け隔てるように石壁が積み上がっていった。


上条「来たか、インデックス!」


石壁の向こう側にインデックスの姿が見えた。
彼女の『強制詠唱(スペルインターセプト)』により、回廊は防がれ、庭園への道を妨げる者はもはや誰もいない。



69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:12:21.89 ID:IFX5FSTFo

アックア「ノタリコンを用いての術式の阻害であるか」

キャーリサ「際どいタイミングだったが、助かったし」

禁書「遅れてごめん! こっちも危ないところだったんだよ!」


彼女がここにたどり着くまでに一悶着あったようで、輝く様な銀色の髪には泥が付着していた。
そんな妨害をくぐり抜けて援軍に駆けつけて来てくれた。
このように敵魔術師の無力化こそが彼女の役割。
インデックスの護衛を担当してくれている清教派の一部のシスター達も一緒だった。


上条「悪いインデックス! 土御門、インデックスを頼んだぞ!」


本来守るべき対象であるインデックスをその場に残していくことの憤りを奥歯を噛み鳴らしてこらえる上条。
清教派唯一無二の禁書目録にそう易々と危害が加わるとは思わないが、それでも自分の目の届かないところで戦いを任せなければならないことが申し訳なく思えた。
彼女と土御門の力を信頼するしかない、キャーリサの手を握る力が強くなったその時


土御門「心配いらないぜい。もっとおっかねー護衛が来たからにゃー」


土御門の一人事は上条には届かなかったが、その意味はすぐに理解に達することになる。
何故ならば


??「―――まったく……彼女を残して逃亡とは、上条当麻。万死に値するな」


赤い髪が積み上がった瓦礫のような石壁の向こうに揺らめく。
その揺らぎはやがて陽炎と化し、周囲を鮮烈なる赤い炎となって包み込んでいった。
熱風が上条達の背中を通り過ぎていき、上条は走りながら背後を振り返った。


上条「ステイル……何で!」

ステイル「うるさいぞ、さっさと行け。……土御門が僕に『インデックスから決して目を離すな』と言うから何事かと思えば……。
      君は彼女に何をさせているんだ。そんなに死に急ぎたいのか」


ステイル=マグヌス。
上条自身からは協力を申し出てはおらず、土御門にそれを一任した彼が、インデックスを守るためという
最も単純でステイルを突き動かすにはこれ以上ない目的のために騎士達の前に立ちはだかる



70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:15:15.25 ID:IFX5FSTFo

禁書「これはこういう作戦なんだからいいんだよ。それより、一緒に協力してくれるって考えてもいいのかな?」

ステイル「……ここまで来て放っておくわけにもいかないだろう」


煙草を口に咥え、紫煙をくゆらせながらステイルが忌々しげにため息をつく。
懐からラミネート加工され、ルーンの刻まれたカードを取り出し、それを乱雑に放り投げたその瞬間。
石畳で覆われた回廊を焼き焦がすかの如き火柱があがり、その中で赤黒い炎の巨人が産声をあげた。
『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。
必殺の意を持ち、3000℃の炎が形を成した教皇級の魔術が発動する。


魔術師E「ス……ステイル=マグヌス!? 貴様は清教派の最大主教の護衛のはずでは!?」


雇われた魔術結社の魔術師が爆炎を背負い悠然と立つステイルに驚愕を露わにする。


ステイル「うるさいよ。そんなことを気にしている暇があったら、僕がこの敷地に何枚のルーンを仕掛けたかを心配しておくんだね」


ゴクリと唾を飲み込む魔術師達。
その意味を深く理解出来ていない騎士達は、突如現れた二人の乱入者を制圧しようと剣を構え攻撃を開始する。


魔術師F「ま、待て!」

騎士F「清教派の女狐には悪いが、痛い目にあってもらうっ!!」



ステイル「――――8万6千枚だ」



魔術師G「ッッッッッッ!!!!!!!!」


ルーンを極めた天才魔術師の一言に、同業である魔術師の顔面は蒼白となった。。
拠点防衛にこそ真価を発揮するステイルは、昨日この式典にインデックスが参加し、なおかつ何事かのトラブルが起こると土御門に聞かされてから、式典開始の直前まで不眠不休でカードを設置した。
客人を招く式であるから、景観を損なわないようにという騎士派からの注意も聞き流し、目立たぬ場所や時には地中にも埋めたその甲斐もあり。
『魔女狩りの王』は、過去に例を見ないほどの爆発力を見せる。
もはやその場に何人がいようと意味を為さない。


土御門「はりきり過ぎですたい、ステイル……」

禁書「っていうか私達いらなかったよね……」


引き気味の二人の声も他所に、うねり蠢く火柱が、ただ有象無象を飲み込むだけだった。



71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:17:01.89 ID:IFX5FSTFo

―――英国 バッキンガム宮殿  東側城門前広場 13:10


御坂「あーもうっ! 何なのこいつらはぁっ!!」


御坂美琴は城門前広場にて魔術結社を相手に奮闘中だった。
得意の超電磁砲ではあまりにも威力が強すぎるため、肉体の強化されている騎士以外の人間相手には打てない。
基本的には電撃で意識を奪って行く方法を取っていたのだが、現在相手をしている魔術師達は倒しても倒してもゾンビのように起き上がってはこちらへ向かってくるのだ。


神裂「大丈夫ですか御坂! 数が多い。距離を取って一人一人確実に制圧してください!」

御坂「やってるけど起き上がってくるんですけど!?」


起き上がってくる魔術師や騎士たちをすれ違いざまに斬り捨てながら神裂が御坂の傍へと近寄ってくる。


神裂「恐らくは『ラザロの蘇生』を下地として失われた意識を覚醒させる術式です。
    あなたが彼らを殺すつもりが無いことを気取られているようですね」

御坂「さっぱり分かんないわよ! どうすりゃいいの!?」


昨晩インデックスに魔術について長々と説明されたものの、理屈で理解出来るものでは無いためいまいち飲み込み切れていない御坂。
それを神裂も分かっているためか、即応して答えを返す。
    

神裂「物理的に意識を吹き飛ばすか、身体を動かなくする他ありませんね。
    要は身体機能を破壊するしかありません」


武器を手に白目を剥いて襲いかかってくる敵の姿はどう見ても怪物のそれで、とても宮殿を守る衛兵達だとは思えない。


御坂「なるほどね。んじゃこれで……」


神裂の言葉に、御坂は片足を軽く地面からあげて離し、周囲を取り囲む兵士達を見据える。


神裂「!?」


その行動の意味するところを察した神裂が聖人の脚力にて咄嗟に飛び上がる。



72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:19:21.83 ID:IFX5FSTFo

御坂「終わりよッ!!」


神裂が飛び上がった瞬間、御坂は靴底を地面に叩きつける。
石畳ギリギリのラインに沿うように、周囲に向けて低空を疾走する稲妻。
その電撃を足に浴び、蠢く屍人になっていた兵士たちが一人また一人と倒れていく。


神裂「これは一体……?」


意識はあるのに立ち上がれず、モゾモゾと地を這うばかりの兵士や魔術師。
身体の機能が働いていない様子で、それ以上動いても無意味だと悟ったか、或いは術式の効果が切れたのか、彼らはそれっきり動かなくなった。


御坂「筋肉を麻痺させてやったのよ。しばらくは起き上がれないし、起き上がったところで同じことしてやればいいだけだし」

神裂「なるほど。相手の動きが遅いので助かりましたね」


辺りに倒れ伏した数十名の兵士の姿を見て神裂が主張する胸を撫で下ろす。
息を吐いて盛り上がった大きな胸をチラリと見て御坂は忌々しげに眉をひそめた。


御坂「あ、そういやあんたのお仲間はどこ行ったの? いつの間にか姿が見えないんだけど」


新手が来る前に一休みしようと、リラックスし始めた御坂が思い出したように尋ねる。
戦いの途中から、50名程いた天草式の姿が見えなくなっていた。
彼らはあくまでこの城門に宮内から兵士をおびき寄せるための目立つ餌を引き受けていただけだったので、戦力的には問題無かったのであるが。


神裂「彼らは遊撃です。宮殿の別の場所で陽動を担当して兵力を分散させています。
    もっとも、時間ではそろそろ……ッッ!?」


それに答えた神裂が、突如宮殿の方を振り返る。
当然そこには何も無いが、宮殿内からは時折騒音や叫び声が聞こえてきていた。
中ではまだ戦いが行われている様子。


御坂「どうしたの?」

神裂「……御坂、すみませんがここをお願い出来ますか……。
    天草式から通信が入りました、宮殿の裏で少々想定外の事態が起こりそうです」



73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:21:11.25 ID:IFX5FSTFo

通信とは言うが、特に先ほどと周囲が変わった様子は無いので恐らくは彼らにしか分からない魔術的な手段による緊急の連絡なのだろう。
時折姿を現す眼球のゴーレムを利用した通信手段とは違うため、かなりの即応性を要求される事態の様だった。


御坂「そ、想定外って何よ。あいつは大丈夫なの?」

神裂「分かりません。が、対応を求められるということはまだ健在ではあるのでしょう。
    ここをお任せしても?」


神裂の申し出に御坂は手をヒラヒラと振って頷く。


御坂「私とあんたじゃここは役不足。一人で十分だわ。それに私はここを動けないから、あんたが行くしかないもんね」

神裂「感謝します」

御坂「いいわよ。……頼むわよ」

神裂「お任せを」


短い言葉を交わして神裂は七天七刀を握る手に力を込めた。
一足飛びに宮内へと侵入していく神裂。こちらへ向かっていたらしい兵士を斬り捨てながら駆け行く背中を見送りながら御坂は、常人とはあまりにもかけ離れたその身体能力に苦笑いをこぼした。
しかし同時に不安が胸を過る。
聖人と呼ばれる、特別な力を持つ彼女が緊急で呼び出されねばならないほど、事態は切迫しているということなのだ。


御坂「……ま、しっかりやんなさいよ」


腰に手を当て、御坂は空に浮かぶヘリを眺めながら上条の顔を思い出す。
これだけの人間に協力を頼んでまで助け出したいと思われているキャーリサがうらやましい。
その事実を受け入れるのに、御坂はもう少しだけ時間がかかりそうだなと思うのだった。



74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:22:57.11 ID:IFX5FSTFo

―――英国 バッキンガム宮殿  庭園 13:20


審判の日の如く火の手が上がっている元来た道を振り返り、キャーリサの口元が引きつる。


キャーリサ「おい。私いずれ戻ってくるつもりなんだぞ、復旧にどれだけ金かかると思ってるの」

上条「それはイギリス清教に言ってください」

アックア「……間もなく庭園である、行くぞ」


そしてようやく回廊を抜ける3人。
ポカポカとした陽射しに似つかわしくない戦場の先、芝生で覆われた広大な庭園がある。
周囲は木々で囲まれ、そこを通る並木道を抜ければ再び市街に出ることも可能だった。
陽射しを浴びるのが久しぶりのような気がする中、そこにたどり着いたその瞬間。
上条は思わず声をあげてしまう。


上条「な……!」

キャーリサ「……」

アックア「……」


アックアとキャーリサは無言でそこに広がる光景を睨みつける。


騎士団長「……もういいだろう。お前達は十分にやった。
       とでも言っておこうか」


高そうなスーツに煤や泥を着けて、騎士団長がコツコツと足音を鳴らしながら背後から追ってきた。
だが上条達は動くに動けない。
何故ならば。


キャーリサ「ざっと300人か……」


恐らく立食パーティの会場だったのだろう。
テーブルや料理の並ぶその裏庭には、数えるのも億劫になるほどの騎士や軍人たちが犇めいていたのだ。
彼らもやられっぱなしで終わるわけにはいかないと、先ほどよりも眼差しには確固たる敵意や殺意のようなものが見受けられた。



75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:25:26.69 ID:IFX5FSTFo

アックア「……」

騎士団長「さすがに無駄だと悟ったか?
      言っておくがウィリアム、無駄な真似はよせ。
      お前の相手は私だ」


ロングソードを携えたまま、騎士団長が一歩一歩踏みしめるように後ろから近づいてくる。
確かにアックアならばこの状況を覆せる。
しかし、それは騎士団長がこの場にいなければの話だ。
彼がここにいる限り、誰か一人は彼の相手を務めなければならない。
不意をついた先ほどと違い、今度の彼はアックアの足止め程度のことはやってのけるだろう。


上条「くっ……」


疲労とここまでの逃亡劇で疲労が蓄積している上条が俯き声を漏らす。


騎士団長「驚きのあまり言葉も無いか?」


淡々とした表情で騎士団長が一歩前へと歩みを進める。
彼の一挙手一投足に数百人の衛兵、軍人、魔術師、騎士が注目し、指示を待ち受ける。


上条「ああ、驚いたよ……まさか」


キャーリサの手を強く握りしめ、憮然とした表情で言葉を紡ぐ上条。
周囲の視線と銃口が全て向けられていて、なお上条は怯まずに告げた。




上条「―――まさかこんなに上手くいくなんてな!」




76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:27:45.47 ID:IFX5FSTFo

そして上条の口元に笑みが滲む。
その時だった。
轟々と地鳴りをあげる宮殿庭園。
騎士団長は目線を周囲に数度動かし状況の確認を開始する。
次の瞬間彼は目を疑った。
上条とキャーリサの立つ大地がせりあがり、二人をその掌に乗せて立ち上がったのは、
先程まで広間にいたシェリー=クロムウェルによるゴーレム・エリス。
彼女が先ほど告げた「裏庭でのひと暴れ」。
それは滞りなく作戦が進んでいるということの証であり、騎士団長の動きの全てが上条達の掌から出てはいないということの表れだった。


騎士団長「それでどうするつもりだ。逃げ場などないぞ」


二人を追おうとする騎士団長。
だが


アックア「どこへ行こうと言うのであるか」


アックアがアスカロンを振りかぶり、騎士団長の全身を打ち砕くべく轟音を鳴らして叩きつけた。


キャーリサ「馬鹿者め。お前がウィリアムの相手をするのではないし」


頭上高くより配下を見下ろす悪の女王のような顔つきで、キャーリサはサディステックに笑みを浮かべる。
そして周囲の兵士たちになど目もくれず、アックアは真正面に騎士団長を捉えて言い放つ。


アックア「私が貴様の相手をしてやるのである」


無口な傭兵の、珍しく饒舌な布告であった。


騎士団長「……奴らを追え」


アックアとの戦いを避けることが出来ないと踏んだ騎士団長の一言で、兵士たちは咆哮をあげながらエリスに向かって突撃をする。
樹齢千年を超える大木の丸太の如き腕で襲い来る兵士たちを薙ぎ払うも、キリなく攻撃を繰り返してくる。
頑強で再生可能なエリスと言えど転ばされれば上条とキャーリサは振り落とされ囚われる。


キャーリサ「ではそろそろ次へ移るとしよーか、とーま」

上条「ああ……建宮ッッッ!! アニェーゼッッッ!!!!!!!」



77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:31:10.55 ID:IFX5FSTFo

上条が宮殿の庭園両翼へ向けて叫ぶ。
すると両脇の木々の合間から土煙があがり、そこから武器を携えた252名のシスター達と天草式十字凄教率いる女子寮のシスター達約100名が、兵士たちを取り囲むようにして突撃してきた。


衛兵1「ば、馬鹿な! 周辺の警備もあったはずだぞ!」

建宮「『隠れる』ことは我ら天草式のお家芸なのよ! 目視しようなんて考えてる時点でお前さんたちの敗けだ!」

騎士1「とにかく包囲を突破して体勢を立て直せ!」

軍人1「無理だ! 指揮系統がバラバラで連携がとれない!」


軍人や騎士、あげく警察まで、さまざまな所から警備が出てきているので、当然こんな戦争のような事態になったところで即座に対応は出来ない。
先日クーデターで戦ったばかりの騎士や、訓練を積んでいる軍人はまだしも、魔術結社の魔術師達など目も当てられない状況に陥っている。


アニェーゼ「待ちくたびれちまいましたよっ! 私達ローマ正教としちゃぁ、英国の兵士を蹂躙するなんざ願ってもねぇ作戦です!」


蓮の杖を嬉々として振り回しながら、目を輝かせてアニェーゼが先陣を切って特攻する。


ルチア「シスター・アニェーゼ! 張り切るのはいいですが先行しすぎないようにして下さい!
     個別の戦力では決して劣る相手ではありません!」

アンジェレネ「み、皆さん置いてかないでくださいー!」


周囲のシスターと連携し、数名で一人の敵を無力化していくルチアと、脚が遅いので列からはぐれそうになり、ルチアのスカートに必死でくらいつくアンジェレネ。
これこそが、天草式と必要悪の教会女子寮混合部隊&アニェーゼ部隊総計約350名に与えられた役目。
遊撃として周囲の警備の戦力を削ぎつつ宮殿庭園周辺に控え、敵兵が戦力を集中させた頃合いを見計らって挟撃すること。
そしてそれは、アックアによる騎士団長の足止めもまた作戦内容に含まれていた。


建宮「お姫様! 屋根の上に『例のもの』が置いてある。オルソラ嬢とシェリー=クロムウェルが守ってるからそこ行くのよ!」

キャーリサ「了解した! 感謝するぞ天草式、ローマ正教!」

上条「建宮、そこは頼むぞ!」



78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:34:17.57 ID:IFX5FSTFo

上条の言葉に手を軽くあげて返す建宮。
そしてエリスは手を天高く伸ばし、二人を宮殿の屋根の上へと移送する。
それを見て、さらに一瞬にして戦場となった裏庭の様子に舌打ちをした騎士団長。


騎士団長「……バッキンガム宮殿の庭園と言えば、それは美しい光景だったのだがな。
      ひどい有様だ」


よもや街のど真ん中で挟撃されることなど想定していたはずもない兵士たちは、ただでさえ拮抗してしまった物量もあり、どこから対応していいのか分からず混乱し、為す術も無く蹂躙されていく。


アックア「ここが死体で埋まらぬだけマシであろう」

騎士団長「違い無い……」


ロングソードを握り、ため息をつく騎士団長。
しかし、彼はこの状況下にあってなお王女を諦めるなどという選択肢をとりはしない。
この程度は彼にとってもまた想定の範囲内だったのだ。
故に


??「まったく……宮内が騒がしいと思えば……これはどういうことなんだ騎士団長」


騎士団長もまた布石を打っておいた。
女が一人、庭園に姿を現す。
ゴーグルで押し上げた金髪をなびかせ、機能的な分厚い記事の衣装にエプロンを纏う、メイドのような女だった。


キャーリサ「奴かっ! 厄介なのが出て来たし!」


宮殿の屋根の上からキャーリサが忌々しげに吐き捨てる。
上条は見覚えのない人物だった。
だがアックアもキャーリサも、そして騎士団長も、3人の表情は先ほどよりも明らかに緊張を孕んでいることから、彼女がただのメイドなどではないことは容易にうかがい知ることが出来た。


アックア「……」

騎士団長「出来れば貴女にはただの客人として座っていてもらいたかったものだがな」


深く息を吐いて騎士団長は踵を返し、屋根の上のキャーリサを見据える。


上条「キャーリサ、あれは誰なんだ!?」



79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:39:25.67 ID:IFX5FSTFo

上条は彼女の手を引き、シェリーとオルソラが待つという場所へ向けて屋根上を駆けだした。


キャーリサ「奴の名はシルビア」


メイドの女は戦場と化した庭園の様子に目もくれず、倒すべき相手が分かっているとでも言いたげに真っ直ぐにアックアの方へと歩み寄り、言った。




シルビア「挙式は女の生涯一度の晴れ舞台。ボンヌドダームとして神聖なる式を邪魔はさせん」




キャーリサ「ただの下女(ボンヌドダーム)だし。ついでに聖人だがな」




シルビアは拳を握り、一足でアックアの懐へと入り込む。
その程度ではアックアにとって脅威とはならない。
アスカロンにてその拳を迎え撃つのみ。
しかし


アックア「っ……!」


アックアの腕が持ちあがることはなかった。
彼の腕は、シルビアの左手に握られた象牙色の麻縄によってきつく縛られている。


シルビア「……神の子の遺体を包んだとされる聖骸布の伝承を元に構成した麻縄だ。
      『歩く教会』は知ってるだろ? それを逆の方向に応用したものだよ。
      何にせよ、これで貴様の右腕は『死んだ』」


右肩から先が動かないことを確かめるより早く、全力の拳がアックアの顔面に叩き込まれた。
さらにアックアの左足に巻きつく麻縄の霊装。
常人ならば頭部が弾けて吹き飛ぶ威力だが、聖人であるアックアは数十メートル大地を抉る程度で済まされた。
むき出しの土の中でムクリと起き上がる。
アックアは動かなくなった右腕を無視して、手近の落ちていたアスカロンを左手にて握りしめるが、今度は左足も動かなくなっていることに気づく。



80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:41:37.52 ID:IFX5FSTFo

騎士団長「神の子似た身体的特徴を持つ聖人の『死を確定させる』聖骸布の霊装か……。
       ここは任せても構わないか?」

シルビア「さっさと行け。私はお前みたいな澄ました男は大嫌いなんだよ」



アックア「―――待つのである。誰が行っていいと言った?」



アスカロンを杖替わりに、右足のみの力で立ち上がるアックア。
鼻と口から血を流し、ブラブラと揺れる右腕と左足のことなど微塵も気にする様子を見せず、傭兵はただ眼前に立つ二人の怪物を相手に悠然と言い放った。

騎士団長「その体で何が出来る。お前の足はもはや動かん。私と聖人の二人を相手では、さすがのお前にも勝ち目は無いぞ」

なおも表情を変えない騎士団長。
それは慢心でも油断でもなく、ただ事実のみを告げていた。
それでも揺らがないアックア。
微かに口元を動かし、己の勝利を疑わぬ眼差しで二人を見据え、告げた。

アックア「知らぬとは言わせないのである」

彼はその霊装を、知っている。
『聖人崩し』と同様に、神の子の『死』を意味する魔術は彼にとって天敵とも呼べる。
だからこそ熟知している。
神の子の死が意味するものを。
そして傭兵はこう言った。




アックア「神の子は蘇り、そして神となったのだ。
      ならば神の子にとって『死』は、過程でしかないことを教えてやるのである」



81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:43:38.82 ID:IFX5FSTFo

―――英国 バッキンガム宮殿  回廊 13:25


ステイル=マグヌスは煤まみれになった宮内の壁をつまらなそうに眺めて咥え煙草に火を着けた。
8万6000枚のルーンによって構成された『魔女狩りの王』を御しきるのはステイルにとってもそれなりの重労働であったため、現在は迫ってくる騎士や魔術師達を薙ぎ払う役を土御門に任せ、魔術師を妨害しているインデックスの護衛を引き受けているところだった。


土御門「おいおい。宮内は禁煙だぜい」


土御門が魔術の腹を全力で蹴り上げて意識を奪い取りつつ茶化すように言った。


禁書「そういう問題じゃないんだよ! 宮殿の中が大火災なんだよ……」

ステイル「その辺の火は全部僕がどうにでもできるから火事にはならないよ。
      それよりキリが無いな。もういいんじゃないか? 離脱するべきだな」

土御門「いやいや、ここは外から来る奴らを階上に上げないためにも重要な拠点なんだぜい。
     俺と、『インデックスは』ここから動くわけにはいかないにゃー」


軍人を殴り飛ばしながら軽い調子で言ってのけた土御門の言葉にステイルが舌打ちを返す。


禁書「さっき外でゴーレムが動いているのを見たんだよ。
    もうすぐ作戦は終了だと思うから、もう少しがんばるべきかも!」

ステイル「……あと少しだな」


インデックスの声にステイルは渋々炎剣で騎士を薙ぎ払う。
ステイルはインデックスを守るために、彼女の傍を離れない。
全て土御門の計算によるものだった、
そんなことを知る由も無いインデックスは、諦めずに抵抗を続ける魔術師を無力化していく。
戦力はやや上条勢力が優勢なものの、ほぼ拮抗状態。
依然油断ならない状況ではあったが、土御門ですら作戦の成功が頭をチラついた。
そんな折



??「何をしたりているのステイル」



82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:45:47.14 ID:IFX5FSTFo

囀る小鳥のような、若い女の声だった。
ゾッと背筋に冷たい衝撃が走りぬけていくステイルと土御門。
二人はある種もっとも危惧していた。
この女が戦いの中に介入してくることを。
こちらの意図の全てを看破し、その上で何をしでかしてくるかを読ませない底知れなさを感じる老獪さを持つ女。
硬く封鎖された大広間の方向から、ペタペタと足音を静かに鳴らして歩いてくるのは


ステイル「最大……主教……」


身長の二倍以上もある金色の髪を揺らす18歳の少女のような外見に微笑を浮かべた彼女はイギリス清教が最大主教。
清教派の長にして魔術師。
ローラ=スチュアートだった。


禁書「……」

ローラ「あら。かような困りたる顔を見せられど、私にはどうしたることも出来なしよ」


馬鹿みたいな日本語を用いる彼女は、土御門を見て微妙な顔をする。
自分のこの日本語がおかしいことを指摘されて久しいが、その元凶は土御門がわざと教え込んだことに起因している。
苦笑する土御門からプィッと視線を逸らし、インデックスに意味深な微笑で一瞥くれた後ステイルを見据える。


ローラ「ステイル……訊きたしことがありけるのだけれど、構わぬかしら?」


周囲に視線を送る様子も無く、ローラは無邪気な微笑を浮かべたまま問いを投げかける。
ステイルは務めて平静を装うが、事と次第によっては彼女を相手にしなくてはならないのかとも考えていた。
ローラはインデックスの遠隔制御霊装を持っている。
魔術師への対応で10万3000冊の魔導書を用い、不可のかかっているところにそんなものを使われればどうなるか。
少なくとも事態が好転することはないだろう。
土御門も口元には余裕の笑みを張りつかせているが、視線は鋭く二人の様子を捉えて離さない。


ステイル「何か? ……最大主教」


たっぷりと間を開けてステイルは厳しい口調で問いを返す。
そしてローラはそれに応えた。



83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:49:39.97 ID:IFX5FSTFo

―――英国 バッキンガム宮殿  回廊 13:25


神裂火織は庭園にて起こっている不足の事態に対応するべく場内を速足で駆けていた。
エリスを動かしている所為かシェリーかの通信も途絶えている。
この点から、庭園にて戦いが行われているのは確実だったが、その詳しい現状までは神裂は把握しきれていなかった。
宮内に入り、一直線に回廊を駆けて行く。
そして宮殿内部、周囲を廊下にグルリと取り囲むように石畳で覆われた中庭のような屋外スペースが存在する。
ここを真っ直ぐに駆け抜けた方が速いため、神裂は扉を開け放ち再び外に出る。


??「ちょっと待った。ここから先へは行かせられないな」

神裂「!? あなたは……」


神裂の前に一人の青年が立った。
自然と腕には力が籠る。
彼もまた『不測の事態』の一つ。
広間にて感じた不安の一人。


??「シルビアの奴がなかなか戻ってこないから様子を見に来てみれば、何が起こってるんだ?
    とりあえず警備の連中が君達を捕えたがっているのは分かるが」


優しげな面立ちも今は消えている。
慎重に事態を把握しようとしているのか、難しい顔をしているが、神裂を通すつもりも彼には無いらしかった。


神裂「オッレルス……でしたか?」

オッレルス「さすがに魔術サイドでは顔はバレているかな。
       ……君程の人物があの偉大な女王の国に弓引くとも思えないが、かと言って黙って君を通すのも問題がありそうだな」

神裂「そこをどいていただけますか……?」


神裂とて退くつもりなど毛頭ない。
たとえ相手が強大な力をその身に宿す、『魔神になるはずだった男』であったとしても。


オッレルス「そうはいかない。君を通すと俺がシルビアに酷い目にあわされそうな気がするからね。
       そんな訳だ、足止めをさせてもらおう」

神裂「では押し通ります!」


神裂は七天七刀を構え、一歩を踏み出す。
その速度は、音速を優に超えるものであった。
パンッ! という空気の壁をブチ破る音とともに、頑強な宮殿の壁が軋む。
踏み込んだ大地に穴を穿ち、オッレルスを吹き飛ばそうと剣を抜こうとする神裂。



84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:52:07.42 ID:IFX5FSTFo

神裂「唯――――」


それは人知を超える必滅の斬撃。
聖人の持つ力の全てを引き出し、立ち塞がる者を一刀のもとに斬り捨てる、完成された魔術による抜刀術、『唯閃』。
彼を相手に、決して躊躇うことは出来なかった。
それでも


オッレルス「『説明できる力』では、俺を倒すことは出来ない」

神裂「――――!!!???」


『説明の出来ない現象』が神裂の身に起こった。
何か『得体の知れない衝撃』が、ジワジワと体内を走り抜けていったところまでは覚えている。
そして気付いた時、神裂は宮殿の壁に強く叩きつけられていた。
全身の骨がミシミシと軋む音をあげ、口からドロリと血を零す神裂。
理解が出来ない。
自分が吹き飛ばされた理由も、彼の力の本質も、何一つ。


オッレルス「今ので動けるのか……驚いたな」


髪の毛一本動かさず、オッレルスは無表情のまま告げた。
神裂の意識を奪うつもりで放たれた一撃であったようだが、その目的は達せられなかった。
神裂はオッレルスを視界にとらえたまま立ち上がり、もう一度七天七刀を構えなおす。


神裂「驚異的な力です……何一つ見えないとは……」

オッレルス「俺と君の力はほぼ互角だ。
       君が『北欧王座(フリズスキャルヴ)』を理解出来ない分、少しだけ俺が有利というだけのことに過ぎない」

神裂「よく舌が回ります。焦りからくるものですか?」


神裂は少しでも体に蓄積したダメージを回復させようと会話に応じる。
だが、それはほんの一瞬の出来事でしかなかった。


オッレルス「かもしれないな。じゃあ続けようか、正直君の力も厄介ではある」

神裂「異なことを。ですが……それでも私は行きますッッ!!」


再び踏み込む神裂。
彼を斬り捨てるまで、何度でも唯閃を撃ち込むまでのこと。
肉体に過負荷のかかる術式であったとしても、自分だけが敗北を喫するわけにはいかない。
上条がキャーリサを連れて脱出を果たすまで、自分がこの男を足止めする。
ただそれだけを胸に秘めて、神裂は剣を構えた。
そして、『説明不能』の二撃目が神裂を襲う。



85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:54:21.27 ID:IFX5FSTFo

―――英国 バッキンガム宮殿  屋根 13:30


オルソラ「上条さん、こちらでございますよ」


エリスによって届けられた屋根の上。
階下からは絶妙に見えない死角の位置にオルソラとシェリーはいた。


上条「おう、待たせて悪いなオルソラ……ってなんだこりゃ!」


キャーリサの手を引いたまま上条がそちらに駆け寄ると、そこには思いがけない光景があった。


キャーリサ「何だ、知ってたのではないの?」


キャーリサは意外そうに言う。
建宮が告げた『例のもの』。
それは『軍馬』であった。
クーデターの際にキャーリサが跨っていた黒い屈強な馬。


上条「いや、これは予定になかったし」

キャーリサ「まーこれはさっき私が用意させたものだしな。こっちの方が速いの」

オルソラ「上条さん、お話は後程でございますよ」

シェリー「さっさと行け、後方のアックアが押されてるわよ」


ブルル…と小さく鳴き声をあげた軍馬の首元を優しく撫でているオルソラと、庭園で縦横無尽に暴れまわっているエリスを眺めているシェリー。
それを聴きながらキャーリサが軽々と馬に跨り、上条に向けて馬上から手を差し伸べた。


キャーリサ「さー行くぞとーま。仕上げにかかるの。
       皆の奮闘に応えねばな」


間もなくアックアはシルビアとの戦いで手一杯になり、騎士団長がこちらへと迫ってくるだろう。
だが、それでもキャーリサは悠然とした笑みを崩すことは無かった。
もはや彼女は勝利を確信している。
否、確信出来ていなくとも、上条と共に実現させるのだと固く決意していたのだ。
これだけの者に力を借り、なお届かなかったのなら、自分はそれまでの人間なのだという想いを抱いて。
そしてそれは上条も同じだった。
あらゆる手を尽くし、やれることは全てやった。
後は結果を残すのみ。
上条はキャーリサの手を取り、彼女に引き上げられるようにして馬に乗る。



86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:57:23.26 ID:IFX5FSTFo

オルソラ「うふふ、まるであなた様の方がお姫様の様でございますね」

上条「上条さん馬の乗り方なんて知りませんのことよ。
    じゃあな、オルソラ、シェリー、また会おうぜ!」

シェリー「テメェに会うとロクなことが起こらねぇからもういい。
      まあでも今回は感謝してあげるわ。あのクソ忌々しい騎士派の連中が馬鹿みたいに踊ってるから」

オルソラ「御無事を願っているのでございます」

キャーリサ「感謝する。お前達も無事に戦いを終えよ」

シェリー「戦闘職に『無事』なんて言葉は必要無いのよ。行け」


こちらを見ず、手に持ったオイルパステルを弄びながらシェリーがぶっきらぼうに言い放つ。
それを微笑ましげに見守るオルソラの笑みを見ながら、上条はキャーリサの後ろからその細いウエストにしっかりと抱き着いた。
分厚いコートの下に、確かな体温を感じて。
上条はようやくキャーリサがそこにいるのだと自覚することが出来た。


キャーリサ「はっ!」


手綱を振るい、屋根の上を駆けて行く黒い馬の王女。
階下で戦う皆の姿が見える。


キャーリサ「案ずるなとーま。今や危険なのはお前と私だけだし。
       ここまで来た以上、己が身の心配をすべきは奴らではないの」

上条「分かってるけど、みんな良い奴だなって思ってさ」


上条はその光景から決して目を離さなかった。
皆で勝ち得る勝利。
そのための最後の一歩。
それこそが、この天上に向けて駆け昇る疾走だった。
王女がいるために銃口をこちらに向けられない軍用ヘリのプロペラ音がうるさく響いている。


キャーリサ「ふふっ、それは違いない。お人好し共め。全員に勲章でもくれてやりたい気分だし」



87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/05(火) 23:59:41.03 ID:IFX5FSTFo

快晴の空に向けて、キャーリサが輝くように微笑む。
プラチナのように煌めく髪から薫る華の如き香りも相まって、まるで春の草原を走っているような気分になれた。


上条「みんなお前を助けるために来てくれたんだ」

キャーリサ「それは違うぞとーま」


屋根から屋根を跳び。徐々に上へと登って行く。
蹄鉄が屋根を叩き、風が頬を通り過ぎていった。


上条「え?」


手慣れた様子で馬を操るキャーリサに感心しながら、上条は首を傾げた。


キャーリサ「皆お前を助けに来てくれたの。奴らが集まったのは他でも無いお前のためであり、
       お前がいたから私はここまで来れた」


キャーリサの言葉に上条は照れたように遠くの街並みを見下ろす。
彼女が自分のことであるかのように誇らしげだったのが印象的だった。


キャーリサ「ありがとー、とーま。私はお前に選ばれて幸せ者だし」


上条の位置からでは表情は見えなかったが、キャーリサは本当に満面の笑顔だった。
戦いのさ中に在るとは思えない声色と表情。
上条は顔が熱くなってくるのを感じる。
よくよく考えてみれば、現在もキャーリサに抱き着くような恰好になっている。
それも相まって、急に緊張と恥ずかしさでいっぱいになってきた。
作戦の終了まであと少し。
これが終わったなら、彼女を飽くまで抱き締めようと決める上条だった。



88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:02:15.26 ID:zEIeBwxqo

―――英国 バッキンガム宮殿  回廊 13:30


ステイル「最大主教、今……何と?」


ステイルは吸っていた煙草を思わず口から零して落としてしまった。


ローラ「聞こえなしにつきなの? 乙女が恥を忍んで聞きているのよ」


ローラはその吸殻を拾い上げ、火を床で消してステイルに預けると頬を膨らませた。
彼女の発言の内容に、土御門やインデックスは愚か、周囲の騎士や魔術師達も皆絶句している。


ローラ「だーかーらー!
     


     化粧室はどこかと訊きているのよ!」



ステイル「……」

土御門「……」

禁書「えっと……あ、あっちなんだよ」


インデックスが近くにあるトイレの方向を指差すと、彼女は踵を返してそちらに向けて速足で歩いて行く。


ステイル「ちょ、ちょっと待って下さい最大主教!!」

ローラ「な、何なのステイル。まだ用がありけるの?
     私は割と緊急事態につきなのだけれど」


お願いだから早くトイレに行かせてくれと言いたげにローラが眉をひそめて振り返る。
だがステイルは納得できなかった。
このただごとでは無い状況下で、まるで何事も起こっていないかのようにスルーしていくだなんて。


ローラ「……私は今化粧室へ行きたることしか考えられなしなのよ」



89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:04:02.29 ID:zEIeBwxqo

ローラは表情こそ笑顔だったが、それは背筋が凍る程寒々しい物言いだった。
そしてステイルはすべてに合点がいく。


ステイル(最大主教はこの婚姻に反対ということか)


ステイルはチラリと土御門に目配せをすると、彼も小さく頷いた。
ローラはキャーリサと某国皇太子の結婚を快く思ってはいなかったのだ。
英国に他国の力が介入する余地を残せば、国内で清教派として力を振るうことが出来るローラには面倒事が一つ増えるということになる。
王室派の問題というこで口が出しにくい状況下であったが、上条当麻を初めとするその周囲の人間たちがこれをブチ壊してくれるならば彼女にとっては都合が良いことであるのだろう。
つまり、彼女は今日、この場で見た事聞いた事に関して見て見ぬフリを決め込むことにしたらしかった。


ローラ「ステイル……おイタも過ぎたるのはいけなしよ?」


金髪の揺れる背中を向けたまま、軽く釘を指すようにそう言い残し、ローラは回廊の向こうへと去っていく。


土御門「じゃ、オレ達はトイレまでの道を片付けるとしようか」

ステイル「そうだね。最大主教が戻って来るまでには、綺麗にしておくとしよう」

禁書「大丈夫。そろそろとうま達も最後の仕上げにとりかかってるはずなんだよ」


その背中を見送りながら、何の憂いも無くなったステイル達は残り少ない敵を見据えて残酷な笑顔を浮かべた。



90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:06:44.52 ID:zEIeBwxqo

―――英国 バッキンガム宮殿  屋根 13:45


キャーリサ「よし。ここでいーな」


やがてキャーリサは馬を止め、広い屋根の上に降り立った。
馬の顔を撫でて感謝の言葉を告げる彼女を横目に、上条は辺りの様子を見回す。
宮殿で最も高い位置にある屋根の上だった。
やや足元のバランスに不安はあるが、立っている分にはさほど問題がある位置ではない。
下方で戦う皆の姿が小さく見えた。


上条「よし、行くぞ。キャーリサ」


上条は力強くキャーリサに告げる。
キャーリサもまた微笑、深く頷いた。


騎士団長「そこまでだ」


そして追いかけてきたのは、やはり騎士団長。
口元から血を流し、スーツもボロボロであったことが、アックアとの戦いの壮絶さを物語っている。
上条もキャーリサも、彼がここまで登ってきたことに不思議と焦りは感じていなかった。


キャーリサ「もー一度命ずるぞ。私を見逃せ」

騎士団長「お断りします」

上条「どいてろキャーリサ。俺がやる」


上条は拳を握り。キャーリサをかばうようにして前に立った。
日本での雪辱を晴らさなくてはならない。
しかし、キャーリサは上条の隣に並び立つ。


キャーリサ「仲間外れにするな。私もやるし。
       共に征こー、とーま……お前と一緒にいたいんだ」


青く澄んだ瞳が上条を見つめていた。
頷き、応える上条。
先日の敗北によって失われたものなど、上条の安いプライドでしかない。
ならば一騎打ちになどこだわる必要はない。
二人で騎士団長を下し、共に脱出を図ればいい。


騎士団長「全く手を焼かされた……これはキャーリサ様の策ですか?」



91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:11:28.24 ID:zEIeBwxqo

ゆっくりと間合いを測りながら騎士団長が問いかける。


キャーリサ「そーだ」

キャーリサはカーテナの破片から光の剣を構成し、騎士団長に切りかかる。

上条「キャーリサが本に作戦を残しといてくれたんだよ。
    テメェらはまんまとこいつの手の中で踊ってた訳だ」


上条が騎士団長に拳を振りかぶると、彼はそれをかわして足元を引っかけて上条を蹴り飛ばす。


上条「ぐっ!」

キャーリサ「大丈夫かとーま!」

上条「問題ねぇ! もうお前の前で倒れたりしない!!」


すぐさま立ち上がり騎士団長に飛びつくと、わずらわしそうにそれを振り払う。
だが、連携して切りかかったキャーリサの剣先が騎士団長の髪の毛先を額の薄皮ごと切り裂いた。


騎士団長「ッ!」

キャーリサ「ついでに言えばな、騎士団長。お前が式典の会場をこのバッキンガム宮殿に変更することも、私は読んでいたぞ!
        そもそも、敵がいつ来るか分からない状況下でお前が聖ジョージ大聖堂などという清教派の本拠地を会場に選ぶものか」


口元に余裕の笑みを浮かべたキャーリサが背後に飛んで距離をとった騎士団長を見下すように告げる。


上条「キャーリサの作戦は初めからこのバッキンガム宮殿での戦いを想定したものだった。
    まあここまで人数が増えるのは予想外だったみたいだけど。
    ……それを土御門とアックアが調整して今日を迎えたってわけだ」

騎士団長「なるほどな。道理で悉く対応されると思っていた。
       ……だが、私がここまで追ってくるというのは想定外だったのではないか?」


騎士団長の表情にも焦りは無い。
この屋根の上に邪魔者はいないのだ。
あとは自分がキャーリサを回収するのみだと思っているのだろう。
確かに彼の言う通りではあった。
本来ならば庭園にてアックアに騎士団長を任せ、そこから離れたこの場所で悠々と逃げ切ることが出来る予定だった。
しかし現れた不測の襲撃者、シルビアとオッレルス。
彼らの存在によって、キャーリサも上条もこんな最終段階まで騎士団長と相対するハメになり、彼を退ける必要を迫られている。



92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:13:15.64 ID:zEIeBwxqo

キャーリサ「そーだな。シルビアは全くの想定外だったの。
       散々帰国命令を出しても戻ってこなかった奴が、このタイミングで来るとは思わなかったし」

騎士団長「ここからどうするおつもりで?
       恐らくは警備の薄い個所を見極めて突破する気だったのでしょうが……
       馬の脚ならば私でも追い付ける」

キャーリサ「そーだな……」

騎士団長「それにキャーリサ様。 
       この段階において勝利を確信されているようだが、それは無駄なことです」

キャーリサ「……ほー、それは何故だ」


キャーリサがピクリと眉を動かし、騎士団長に問いかける。
そして次の瞬間


騎士団長「こうするだけのことだ」


上条は身体に走る衝撃と共に宙を舞っていた。
聖人級の動きで上条に肉薄した騎士団長が、その腹部を思い切り蹴飛ばして吹っ飛ばしたのだ。
ここは地上高い屋根の上。
一度空中に投げ出されれば、後は落下を待つのみ。


キャーリサ「とーま!」


屋根のへりから落ちて姿を消す上条。
キャーリサの頭にカッと血が上る。
そして彼女は剣を握りしめ、騎士団長へ向けて突撃の構えをとった。


騎士団長「キャーリサ様、少々手荒な真似をさせて頂きます。お覚悟を」


騎士団長はロングソードを腰の高さに構えてキャーリサに向き直る。
力づくでキャーリサをねじ伏せる。
騎士団長が、英国紳士としての矜持を捨て、それでもなお目的を果たそうと決意した瞬間だった。
しかし、完全にキャーリサを視界にとらえた彼は一つのことを失念している。


「――――待てよ」



93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:17:08.26 ID:zEIeBwxqo

屋根のへりに手がかかり、そこから伸びた右手が、騎士団長の足首を強く掴んだ。


騎士団長「っ!?」


騎士団長はまだ理解出来ていなかった。
クーデターの際、直接対峙した訳では無い彼には無理も無い話だったのかもしれない。
だが、もう遅い。
上条当麻は。
確固たる信念を以て、全てを賭して英国を来た上条当麻は、あの程度の一撃ではもはや屈しない。
キャーリサの前では倒れない。
そう決めた上条当麻は、もう絶対にキャーリサの前で膝をつくことは無いのだから。

上条「まだ終わってねぇぞ……」

屋根にぶらさがり、這い上がって騎士団長の足元にしがみつく。


上条「おい……まだ聞いてなかったな。テメェはキャーリサが結婚することを何とも思わねぇのかよ……」

騎士団長「……何」


本来の騎士団長の力ならば、上条の手を振りほどくことも出来るはずだった。
だが、それは今や不可能。
理由は二つあった。
騎士派の長として受ける肉体の強化に関する術式が、足首を握る上条の右手によって全て無効化されていることが一つ。
そして二つ目に、そんな状態で、目前で剣を構えるキャーリサから視線を離すことは死に等しい愚行なのだから。


上条「答えろよ……テメェは、キャーリサの幸せなんてどうでもいいと思ってんのかよ!」

騎士団長「……少年、君には分からぬ話だ。私は英国騎士団長、私の意志の差し挟む余地など無い」

上条「そんなこと聞いてるんじゃねぇ……! お前はずっと王室で、キャーリサの傍で騎士なんてもんをやってきたんだろ!
    だったら、テメェ自身の思うところだってあるはずだ! じゃなきゃ、テメェは王室にただ従うだけの人形と変わらねぇじゃねぇか!」


上条は今度は右手で騎士団長に手を掴み、立ち上がる。
なおも騎士団長は動かない。
今の彼は鍛え上げられた常人と同じ程度の身体能力。
キャーリサの手に握られたカーテナで斬られれば、次に目を開けた時見るのは病室の天井だ。
だから、悠長に上条の言葉を聞くことしか出来なかった。


騎士団長「……望んでいるわけがないだろう……」

上条「!」

キャーリサ「騎士団長……!」

騎士団長「エリザード様は元より、リメエア様も、キャーリサ様も、ヴィリアン様も、私が一介の騎士であったころからお仕えしてきた方々だ……。
       そのような方が、英国の政情で他国へ追い出されることなど、どうして受け入れられる!!」



94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:20:29.53 ID:zEIeBwxqo

騎士団長は怒りに声を震わせて叫んだ。
キャーリサの表情にも驚きが見られる。

騎士団長「エリザード様にとっても苦肉の策だったのだ。
       だから私もまたそれに従うことを決めた。これこそが最良の策だと信じてな……」

当然と言えば当然のこと。
騎士団長はこんな状態での婚姻など認められる程出来た人間ではないということも自覚していた。
それでも、己は騎士派を総べる長であり、女王が娘のためを思って決めたことならばと口を噤み、職務を優先した。
だが、本音はそうではない。
立場は違えど、時には妹のように傍らにいた彼女が政治の都合で望まぬ結婚を強いられることなど、認められるはずがない。


上条「そうか、分かった……」


それを訊いて、上条は騎士団長の手から手を離した。


騎士団長「ッ!」


騎士団長はこれを好機と見る。
急速に体勢を変え、上条を再度吹き飛ばすべく足に力を込めてロングソードを振るう。


騎士団長「それでも私は騎士団長だ―――!! 務めは果たす!」


上条は騎士団長の攻撃をかわすそぶりなど微塵も見せない。
一歩前へと足を踏み出し、それを迎え撃つ。


上条「確かに……俺は政治のことなんて何も分からねぇし、とんでもねぇことをやらかしてるんだろうさ……
    でもな、キャーリサが幸せならそれでいいって思うんだよ!」


そして上条は体をねじり、右拳を大きく振りかぶる。
上条の目には、騎士団長。そしてその向こう側にて輝く刃を振りかざした、愛しいお姫様の姿。


騎士団長「だが、我々に他にどんな方法があったというんだ! 答えろ上条当麻ッッ!!!」

上条「ならそれをこれから教えてやるよ、騎士団長。
    テメェがまだキャーリサを幸せにする手段がこれしかねぇって思ってるんなら―――いいぜ」

キャーリサ「――――っ」


騎士団長の刃の切っ先が、上条の首筋にかかるその刹那の瞬間。






上条「まずは―――そのふざけた幻想をブチ殺すッッッ!!!!!!」





95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:23:26.75 ID:zEIeBwxqo

上条の拳が騎士団長の顔面に突き刺さった。
一切合切の魔術的手段による防御をブチ抜き、騎士団長の身体がグラリと揺らめく。


騎士団長「それしきのことで……私はっ……!!」


彼は百戦錬磨の騎士。
戦い慣れているとは言え素人の少年の拳一つで意識を刈り取られることなどありえない。
だが


キャーリサ「私を除け者にするなよ。寂しーぞ」


勇敢なる王女の声が響いた。


キャーリサ「お前の言葉、しかと胸に刻んだぞ、とーま」


よろめく騎士団長の身体に、何一つの慈悲も無く、キャーリサは王の剣で裁きを下す。
主君に刃を向けた騎士を、王女の剣は許しはしない。


騎士団長「キャーリサ王女……」


先程の上条のように、空中へと投げ出される騎士団長の身体。


キャーリサ「そして騎士団長。お前は我が王室が誇るべき忠臣だし。
        私はもうお前を責めはせん……だが」


例え彼が聖人級の身体能力を持っていたとしても、空中を疾走することなど不可能。
屋根の上に立つ二人を見上げて、ただ階下へ落ち行くのみ。
そしてキャーリサは、悠然たる笑みを浮かべて告げた。


キャーリサ「今日からはただのキャーリサだし―――間抜け。
        私はとーまと共に征く。母上によろしく言っておけ」


それでも騎士団長は諦めなかった。
大地に落とされれば、また昇ればいい。
上条と違い自分ならば一足で二人の元まで戻れる。
それなのに、彼の胸から敗色の香が消えることはなかった。


騎士団長(何だ……何だアレは……)


彼を見下ろす上条とキャーリサの背後。
快晴の天空に、ヘリの機影が一つ重なった。
あそこに搭載されているのは英国軍の軍人と騎士派の騎士。
常に空中から相手の動きを見張っていた彼らのヘリが一機、明らかにキャーリサ達の真上へと移動してきている。
そして、ヘリの扉を開け、そのヘリに一人の人物が立ったのと、騎士団長が大地に叩きつけられたのはほぼ同時だった。
衝撃に一瞬顔をしかめるも、騎士団長はすぐさま大地に立ち空を見上げる。
その時。



ヘリから、機体内部とワイヤーで繋がった女が、何の躊躇いもなく飛び降りてきた。





??「はっあぁあい!! お姉さんとお空飛んじゃうー?」



96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:25:46.85 ID:zEIeBwxqo

騎士団長「……まさか……」


キャーリサとよく似た金色の髪を丁寧に巻いた派手な女。
目を背けたくなるような露出度で、妖艶な笑みを零しながら、二人の傍まで下りてくるその女。


騎士団長「…………まさかっ!!!」


彼女の二つ名は『追跡封じ(ルートディスターブ)』。
イギリス清教と契約関係のある運び屋にして、その名の通り追跡を振り切ることにかけて右に出る者はいない、逃走のスペシャリスト。
彼女はオリアナ=トムソン。
そして、上条が自ら指名した最後の協力者である。


上条「オリアナ、来てくれたのか」

オリアナ「お久ぶりね坊や。あなたのご指名だもの。どこへでも行っちゃうわ。
      それじゃ、お姉さんと世界の果てまでランデブーといきましょう」


ワイヤーに吊るされたオリアナが、見る者を虜にするような微笑を浮かべながら、上条とキャーリサの身体をしっかりと抱きしめる。


キャーリサ「おい、あんまりとーまにくっつくのわぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!」


次の瞬間。凄まじい勢いでヘリの方へと引き上げられていく二人。


騎士団長「逃がすものか!!」

オリアナ「あぁん、駄目よ。お姉さん、恋はいつだって追われるよりも追いかけていたいタイプなの」


オリアナは追跡を試みる騎士団長を挑発するように笑みを滲ませると、単語帳のような形をした魔導書『速記原典(ショートハンド)』のページを口で一枚引きちぎった
同時に彼の視界を阻むようにして煙幕が広がった。
それでもなお空中高く飛び上がる騎士団長。


騎士団長「……!!」


そして煙幕を抜けた先、そこに広がる光景に驚愕する。


騎士団長「これが狙いかっ!」



100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:31:53.31 ID:zEIeBwxqo

彼の目に飛び込んできたのは、撃墜された一機のヘリだった。
下方に視線をやると、城門前にいる一人の少女が空へと視線を向けている。
さらに轟音が近くで鳴り響いた。
少女の放った音速を超える弾丸が、ヘリのプロペラを打ち抜いたのだ。
内部にてパニックになっているパイロット達。
乗員の命を奪わないのは何も人道的な理由からではない。
それはつまり


騎士団長「ちっ!」


騎士団長はヘリの機体を受け止めて大地へと舞い戻った。
つまり、騎士団長は兵士の命だけでなく、宮殿内にいる人々の命を守るために、そのヘリの撃墜を食い止めなければならないのだ。
それもこれも、全てはキャーリサの策のうち。
最初から最後まで、彼女の掌から出ることは出来なかったと騎士団長は自嘲気味に笑う。


騎士団長「『軍事』のキャーリサ……こと用兵において、姉のリメエア様に引けを取らんな」


落ちていくヘリへの対応に回らざるを得ない状況を作り上げられ、騎士団長はそこでようやく完敗を受け入れることにしたのだった。


そしてヘリの内部に到着し、それを見下ろす上条とキャーリサ。


オリアナ「ふう。ワイヤーの締め付けがきつくてお姉さん興奮しちゃった」

五和「上条さん、大丈夫ですか?」

オリアナ「あ、ダメダメ」


ヘリを操縦していた五和が声をかけてくるも、オリアナが手をあげてそれを制する。
眼下に見下ろす光景。
戦場と化したバッキンガム宮殿から、戦いの音が消えていく。


キャーリサ「私達の勝ちか? とーま」

上条「そうみたいだな」


ポツリと呟いたキャーリサに、気が抜けたように応える上条。
やがて上条の手を握り、キャーリサは少女のような笑顔を浮かべて言った。




キャーリサ「―――家出してきたし」




上条「――――もう帰さねぇよ」




楽しげに言葉を交わした二人を見て、呆れたようにオリアナと五和は肩をすくめた。



102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/06(水) 00:33:48.65 ID:zEIeBwxqo
というわけで今日はここまでです
多分次回で終わりになるかと。
あー、やっとキャーリサ様と上条さんを無責任にイチャイチャさせられる…
ではまた近々


101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/04/06(水) 00:32:48.14 ID:YFRkI2Aao
アックア△と思っていたのもつかの間

> 共に征こー、とーま……
悶絶した



107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/04/06(水) 00:35:18.80 ID:h5XGogv60
乙!
魔術サイドオールスターって感じだww

オッレルスが原作でもチートキャラなのはわかるけど実際どれ位?



109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/04/06(水) 00:35:51.78 ID:SNyN9qFY0
>>107
すごぱを軽く倒せるぐらい



118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) :2011/04/06(水) 00:43:57.72 ID:zlutu6F/o
>>107
多分今の登場人物の中で最強クラス

アレイスター、エイワス、オッレルスの三人がトップを争ってる感じ




次→キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」その7

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