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垣根「初春飾利…かぁ…」その4まとめ→
垣根「初春飾利…かぁ…」まとめ
870 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)20:59:00.28 ID:ejdL4ij+o
※
佐天涙子とは家の前で別れた。深くつっこんではこなかったが、多分バレているだろう。
悪意をコントロールするのは無理だ。うまく隠そうとしても、どこかから影がはみ出してしまう。
部屋にもどってすぐ、戸締りを確認する。
お世辞にも今の自分にマッチしているとはいえない、整った玄関先。車椅子から手すりへとスムーズに体重をシフトさせる。
後ろ手に鍵を閉める動作にも慣れてきた。そのままずるずると、足を引きずって居間へと移動する。
光を求めて足掻く聖者の行進。
(……聖者? 貧者の間違いだろ)
病院から出てわかったことは二つ。
一つ、障害を持った人間が一人で生きていくことはどんな泥をかぶるよりも羞恥心に響く。
二つ、一人でいるときのほうが、自分を客観視してしまう。矛盾しているが、まさに、だ。
資産については余裕がある。退院する直前に初春に手続きを手伝ってもらった。
現在の住居は、寮とは名ばかりの介護施設のようなものだ。
自分の他に住人はいないらしい。
週に一回、初春飾利が部屋に来る。身辺の整理その他、初春は一言も言わないが負担になっているに違いない。
学籍についてはどうなっているかわからない。元々他人から教わることなどあるようでない。
理論構築から実践まで、学ぶには少しだけ光のあたらない場所に身をやつせば足りる。
垣根帝督の人格が形成されるまでの道のりにはいつだって他人の悪意があった。
(そいつを踏んで生きてきた。否定はしねえ。後悔すらしてねえ。俺は俺だからな)
人間は他者を通じて自分を視るといった学者がいた。
今の垣根帝督には通用しない理論だが。
(……俺が俺を視るとき、他人の目で自分を測る段階はとうに乗り越えた。今は、自分で自分を評価している。これからも)
自分は本当の意味で自立していない。
障害を持っているのだから、物理的に他人に依存しないで生きていくことはおそらく不可能だ。
そのことについては異論はない。納得もしている。
そういう話ではない。
871 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:00:16.60 ID:ejdL4ij+o
(―――そいつを踏んで生きてきた。否定はしねえ。後悔すらしてねえ。俺は俺だからな)
人間は他者を通じて自分を視るといった学者がいた。
今の垣根帝督には通用しない理論だが。
(……俺が俺を視るとき、他人の目で自分を測る段階はとうに乗り越えた。今は、自分で自分を評価している。これからも)
自分は本当の意味で自立していない。
障害を持っているのだから、物理的に他人に依存しないで生きていくことはおそらく不可能だ。
そのことについては異論はない。納得もしている。
(俺が依存しているのはもっと内面的なものだ。その上で―――)
(―――一方通行を殺すことが、俺が俺であるための必要条件だ。精神的な自立、……そうじゃねえのか、垣根帝督)
頭を整理するためにソファに体を落とす。
自問自答はここ最近の日課になっていた。こちらとあちらをつなぐ端末を受信機からパソコンに移して電脳空間へ。
かつてはホストである博士によって多くを占拠されていた広大な空間。
垣根の心理を反映する場所でもある。誰にも言っていないことだが、第三次世界大戦がはじまってからの風景は―――、
砂漠だった。
872 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:01:26.67 ID:ejdL4ij+o
(初春に言ったら何ていうかな。泣きながら同情してくれるか。いや、体を寄せて慰めてくれるか。
―――そうだろうな。……そうだろう)
精神を集中する。バラバラになっている情報と、自我のかけらを集めて道筋を形成する。
現実にあるどんなパズルよりも難解な手作業だ。ピースをつなぐのは凹凸ではなく、倫理と論理と感情の入り混じった突起物。
だが、それがどうしたというのか。超能力者である垣根帝督は自身の演算能力について、絶対的な信頼を寄せている。
ここからは自分のフィールドだ。誰にも口は挟ませない。邪魔はさせない。
垣根の周りに、悪意という名の風が収束していく。
(シンプルに考えろ)
座して手のひらを組んだ。顎によせて目を閉じる。
(………、結論はもう、出てるだろ。―――出てるだろ)
具体的な方法論として、今の自分が自分を取り戻すためには初春飾利を利用するしか手立てはない。
なぜなら自分は彼女がいなければただの無能力者だからだ。
手段は選ばなくていい。それがルールでありセオリーだ。
(アイツを騙して一方通行と対峙する。簡単なことだ)
結論を急いでいるわけではない。
どう考えても垣根帝督のいうところの『自分だけの現実』を取り戻すための方法が、それ以外にないのだ。
明確すぎる。明確に見えるからこその悩みだ。
(―――かつての俺はあの男のくだらねえ美学に負けた。負けたということは、勝ったやつが正しかったということだ)
(守る守らないのくだらねえ二元論に負けたんだ。ふざけやがって。ふざけやがって……!!)
(アイツを殺して俺は再び俺のやり方を証明する。そのための生贄は―――)
(……ッ! いけ、にえは………!!)
『a;mfg;am―――、頃合だな。助け舟を出しdagてやろうか』
「っ!」
873 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:02:42.45 ID:ejdL4ij+o
背後に気配を感じて振り返る。
そこにいたのは、あの時自分にロジックを説いた天使だ。
『なかなか興味がある話題だ。しかし……。うむ、君は変わったな』
「……なんならテメェでもいいんだぜ。ストレス発散に殺してやろうか。ウォーミングアップ代わりだ」
こき、と首をならして立ち上がり、演算を展開する。
即座に12枚の羽根が優雅に宙に描かれた。視線で圧倒しようとするが、当の相手は余裕を浮かべてたたずんでいる。
『ほう、それもいいな。試しに私とやりあってみるか。君の物語の結末をここで飾るのも、一興だ』
「調子のんなよ、クソ天使。あの日にテメェに触れたのは伊達じゃねえ。容赦しねえぞ」
『そういうな。私を消すことは序列にこだわる君の価値観の延長線上にあることだぞ。彼はこの手で叩き伏せているからな』
「……! なんだと?」
『くく、思考がシフトしたな。そういうわけだ。私を倒せば理屈の上で君は彼を越えたことになる。それで目的達成だ。
“君が本当に序列にこだわっているのなら”、な』
「……、」
垣根が一瞬沈黙したのを逃がさない。
天使と呼ばれた存在―――エイワスはそれでいて、はっきりとしない表情をやはり保っていた。
笑っているのか、泣いているのか、怒っているのかどうかもわからない曖昧なものを顔面に飾り付けて、垣根をじっと見つめている。
『やはりな。これではっきりした』
「……なに?」
874 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:05:43.68 ID:ejdL4ij+o
『君は本当の意味では序列になどこだわってはいない。自分を否定した存在を、再び自分の手で否定したいだけだ』
『君は何番目であろうがいいのだ。彼を否定できればいいのだ。そうだろう。気づいているはずだが』
「……、」
『それでいて、君の仲介人との間にある、今の不確実な関係に意味を見出しつつある。
かつての君が否定した美学だ。
それは君たちが使うところの―――、そうだな。『信頼』。『保護』。『依存』。『誠意』。
これらの言葉たちと極めて深い親和性を示している。
……では何故君がその言葉に対して生理的な嫌悪感を感じるか』
他人に自分の心を削り取られるような感覚を覚えた。
エイワスが語る垣根の心理描写は、否定しようがないくらいの説得力を誇っている。
身震いを押さえるのに必死になるが、どうにもならない。電脳空間でも、汗はかくのだ。
『一種のアレルギーのようなものだ。君が長い間、灯りのない場所にいた名残のようなものだ。
効率を阻害するものは、いつの世でも感情。
それでいて、君は裏切ることができないのだ。君と彼女の間にあるものを。
一定の温度を保つ、未知の物質を』
「―――テメェは……、ごちゃごちゃと……、」
じりじりと、脳内で乱れる興奮物質を知覚する。
これは、だめだ。このタイプの煽りは、論外だ。
垣根は拳を握った。
『君は彼女を優先することが、そのまま君自身の自己否定につながると思っているのだろう。
過去に否定した美学であるなら、まあ自然だ。
だが自己否定すらできないような人間は進化しない。この世界ではそういう人間を何というか知っているか?
………、“子供”、だよ垣根帝督。
くく、わからないか? 君がよく使う言葉で言ってやろうか? ―――『ガキんちょ』、だ』
そして次の瞬間、何かが音を立てて切れた。
「―――……ッ!!!!!!!」
875 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:06:53.12 ID:ejdL4ij+o
跳んだ。
音を立てて12枚の羽根が再び広がる。今度はためらうことはなかった。
一蹴りで間合いをつめて、即座に相手をデリートするべく12本の白いナイフで攻撃を開始する。
一方通行を叩き伏せたと自称する天使だろうが、そんなことは知ったことではない。
感情の赴くまま、えぐられた心の対価を支払わせるべく、垣根帝督は自身の演算をすべて破壊に注ぎ込んだ。
が、
『今度は八つ当たりか。忙しい男だな、君は』
「ッ!?」
12枚の羽根に対して、エイワスから伸びた羽根はたったの二枚。
青ざめたプラチナを纏う物体が、一瞬にして垣根の攻撃を打ち下ろした。
垣根が攻撃するまでにかかったのは現実の時間に換算してみても、まばたき程度のものだろう。
かろうじて知覚できたのは、イメージの身体に突き刺さる、天使の攻撃だ。気づいたときには地面に付していた。
「がっ……!!! なん……だぁ、こりゃあ……!!」
『ああ、すまない。手加減はできないようだ。このagd空daga間はやはり、どうもajyejj安dgagag定しないな』
天使が放った攻撃は腹部を貫通していた。
痛みを知覚しているということは、データに何かしらのダメージを負っているということだ。
広大な砂漠の中で、地面にはりつけられる。さながら処刑されるキリストのようだった。
『―――君を見ているとあの男を思い出す。手術衣と髪の色が対照的でな』
「……テメェは……、ぐ……、本物の化け物かよ……、え、演算が……」
『君たちの常識で測ってもらっては困る。一方通行はそれでも何かしらのヒントを得たようだが。……まだやるか?』
「……、デタラメだ……、くそが……」
両手を挙げて降参を示す。
『賢明だな』
876 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:11:33.27 ID:ejdL4ij+o
『さて、私は戻るとしよう。石は投げた。あとは君がどう拾うかだ。楽しませてもらうよ。興味をひいたのは君だ。
失望させるなよ』
「へ……、勝手に取り上げたのはテメェだろうが……。期待されても、困る……な」
砂漠に倒れこむ垣根帝督は、ここでもそのプライドを保っていた。
おそらく現存する言葉で彼を説得できるものは存在しないだろう。
形のないものを動かすには、形のないもので対抗するしか手段はないのだ。
『……科学は疑うことにより発展し、宗教は信じることによって発展した。
美学については、疑いようもないものを訴えることで発展する。
ふ。“ナンバーワンにならなくてもいい”。皮肉だが、発想は評価しよう。
どちらを選ぶも君の自由だよ、垣根帝督。
―――君にgafgとfhaってのfaha彼af女fadhaは何だ?』
つぶやきのようなものを発して、最後にははっきりとした笑みを見せて消えた。
もちろんどういった種類の笑みなのかはわからない。
垣根は視線の端で天使をとらえようとするが、気づいたときには姿はない。
不思議なことに、さきほどまで激痛を放っていた腹部の傷が、何事もなかったかのように修復されていた。
体をつつんでいた汗も消えている。
(説教を………、説教をしにきやがったってのか。―――この俺を。―――テメェも俺を見下すのか)
ふつふつと、体内に沸き立つ黒い感情を隠すことができない。
天使が放った言葉が、どういう意図であれ、バラバラになっていく垣根の自我をつなぎとめた結果だ。
何かに近づいている。ピースが合わさっていく一連の流れを実感する。
877 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:13:16.61 ID:ejdL4ij+o
半ば開き直りにも近い。
子供と罵られて、煽られた挙句、自分の思考が意図とは別方向に移動している。
だがしかし、それは確かに脳内でひらめいて、直後に閉じた。
(―――なるほどな、そういうことかよ)
(……そうだ、そうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだ。そういうことかよ―――ッ!!)
電子の海の中で、世界の支配者にでもなった気分だった。
砂漠が、黒く塗りつくされ、漆黒の夜が気障な横顔を現している。
(俺が生れてから今日にいたるまで、お世辞にも順風満帆な人生を歩んできたわけじゃねえ)
(たとえばあの第一位と対峙したとき。ジジイを追い詰めたとき。―――初春飾利に、触れたとき)
(その場限りの感情もあっただろうが、俺は確かに振り回された。ああそうだ。俺は成熟している人間じゃねえ)
(あの天使が言っていた名もない未知の物質に身をゆだねそうになることも、これから先いくらでもあるだろう)
(振り返って今日を思い出すとき、俺が自分を見つめなおしたとき。これからも俺は変わっていく)
(だが。だけどな、垣根帝督)
エイワスから与えられた選択肢はどちらもある意味では正しくて、ある意味では間違っている。
自覚しているからこそ、選択した手について確固たる決意を持って進まなければならない。
ベターである手を、ベストである手へと変化させるのは、自分自身だ。
(それでも、どんな状況に身を移そうが、これから先死ぬまで、絶対に変えられないものがある。
泥をかぶっても、“自分に嘘をついて”でも、変わっちゃいけねえものが、ある。確かに存在している)
(―――俺が、俺であることだ。初春飾利。テメェを利用することで、俺は今の俺から決別する。それでいい)
878 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:16:13.01 ID:ejdL4ij+o
言い聞かせてすぐ、電脳空間からの離脱を試みた。
まだ時間はある。
今からでも初春に連絡を取り、口先八丁で一方通行との対峙にまで持っていけばいいのだ。
初春は当然拒否するだろう。ならもっと利口なやり方でハメてしまえばいい。
狡猾に、感情を撫でて支配すればいい。
できないことではない。迷うな。もう迷うなと、自分自身を洗脳すればいい。
垣根帝督はこのやり方が、自分のプライドに反する手法であることを理解していた。
それは彼がいうところの、“小物”のやり方だ。力のない、ずる賢くて下卑た人間のやることだ。
それでも、かまわない。自分はそういう人間なのだ。
逆説的な言い方をすれば、コンプレックスとプライドの糖衣を切り捨てた自分の本質なのだ、と。
電脳空間を飛び回る天使。
現実へと帰還するべく、経路を辿る。その表情はかつての垣根帝督そのものだった。
(くく、そうだ。すっきりしたじゃねえかよ。笑いがとまらねえ。
アイツをどうやって騙すか、すでに頭の中で手があふれかえっている)
(どうする。拒否されたらどうする。くく、なら回線を通じてアイツの体を乗っ取るか。
完全に脳を共有させて、ガラクタにしちまうか)
(俺がガキか。……ああ、認めてやる。それなら、俺を縛り付けているアイツの存在をぶち壊しちまえばいい。
何故こんな単純なことができなかった)
(―――これだよ。この感覚だ。俺は本質的に悪意を渇望しているんだ)
(それを切り捨てて名もない物質に甘んじるだと? できるわけがねえ。
―――できるわけがねえだろうが!! そうだよなぁ、一方通行!!!)
(テメェに俺が突きつけた刃は、そんな生半可なものじゃねえだろ。
どこで何をしたかは知らねえが、逃げられるものじゃねえだろ……!!)
(テメェも闇に溺れたんだろ。俺を否定できても、また他の何かに否定されたんだろう。
今もあがいているんだろう! この街の闇がそんなに浅いわけがねえ!!)
(……ならもう一度、今度は腐った外道のやり方で、テメェを否定してやるよ……ッ!!)
意識と身体をつなぐ出口がすぐそこに見えた。
そして、
879 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:17:23.73 ID:ejdL4ij+o
――――――
「垣根さんっ!!!」
【―――、―――!】
意識が体に戻ったときに、真っ先に、目の前にあったのは花飾り。
飴玉を転がしたような甘い声。垣根帝督にとってはなじみの深い音だ。
「大丈夫ですか? す、すごい汗ですよ……、」
ソファに座る垣根を、真正面から初春飾利が捉えていた。
時間帯を確認する。夜もそれなりに更けだしている。
初春はポケットから取り出したハンカチで、丁寧に垣根の頬を伝う汗をふき取っている。
(な……、)
絶句して戸惑っているのは、誰の目に見ても明らかだった。
そんな垣根の様子に気がついたのか、初春は少しだけおどけて、顔を垣根に近づける。
「びっくりしましたか? 佐天さんに、ちょっと気分が悪そうだったって教えてもらって………。嫌な夢でも見てたんですか?」
(なん……で……、)
視点が定まらず、初春の表情のどこに焦点を合わせていいかわからない。
電脳空間に悪意をまるごとおいてきてしまったのかと錯覚するほどの違和感だ。
一方の初春は、そんな違和感を別の意味で受け取ったようで、少し視線を下げながら今度はこう言った。
880 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:22:41.08 ID:ejdL4ij+o
「……それとも、もしかして、わ、私が……。変なこといったからとか……、そういうのなんでしょうか……」
(ッ!!)
胸が締め付けられる。
神という存在がもしもこの世にいるのなら、垣根の存在に対してそんなにも否定的な態度をとるのは何故なのか。
言葉が出てこない。
さきほどまで、あれほど練った作戦が、一言も出てきやしない。
相手には垣根の思考を汲み取る様子はない。
初春飾利は言葉を次々と紡いでいった。
「……あれからちょっと考えてて。結論を急ぐようなのって、ダメですよね。私の気持ちは、別っていうか……」
【……違う】
さきほどまで対峙していた天使と、口調も意図も全く違うものなのに、同じような痛みを感じる。
心臓の裏側を針で刺されるような、おそらく垣根が最も苦手とするタイプの痛みだ。
「私が変なこと言ったから、ですよね。……な、なんか急に言っちゃったから……。本当にごめんなさい」
【……ッ、……違う】
初春飾利の表情は少し火照っていた。
天使が言ったいくつかの単語が連想される。名前も形もない、一定の温度を保った未知の物質。
「なんていうか、今はやっぱりそういうのって置いておこうかなって思ったんです。
私の気持ちは多分、垣根さんにも伝わってるかなーって思ってたりするし……、あはは……。
だから―――」
【―――違うッ!!!!!!!!!!!】
「えっ……」
881 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:24:27.88 ID:ejdL4ij+o
反射的に肩を掴む。華奢な体。
多分このまま、練った作戦をそのまま実行すればこの少女を闇に葬ることなどたやすい。
イヤホンを取り付けさせて、共有させて、こちらから初春の脳内にハッキングをかけてしまえばいい。
演算能力では自分とそれなりの勝負をするだろうが、脆弱なパーソナルリアリティでは取り込まれるまで数分と持たないだろう。
それだけのことなのだ。初春飾利は自分にとって、それだけの存在に、しなければいけないのだ。
なのに―――。
【なんなんだよテメェは……】
「えっ……、ど、どうしたんですか……?」
【なんで俺に……光を向けるんだよ………!!】
「………、」
うつむきながら、携帯電話越しに意志を疎通させていた二人だったが、初春はその言葉を聞くと同時に、垣根を優しく抱いた。
何のことを話しているのかはわからないが、心配しなくていいということを伝えるためだ。
髪を撫でられる。鼓動が伝わる。心に照明を当てられていることは疑いようもない。
ここでも、やはり同じ。
形のないものを伝えるには、言葉をもはや必要としない。
それから抱きしめて、耳元で、小声で囁かれた。
「そんなの……、決まってるじゃないですか」
「垣根さんのことが……、
……好きだから、じゃだめですか?」
………
……
…
882 :
◆le/tHonREI:2011/02/19(土)21:24:54.16 ID:ejdL4ij+o
とりあえずここまで
885 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土)21:38:49.19 ID:FO5O4SfAO
かっこエイワスは好きです…けど素直になれないていとくんはもっと好きです。
このスレが帝春に目覚めたきっかけ。お手本だぜ 886 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土)21:40:13.63 ID:kj7UTR4O0
乙です
>一定の温度を保つ、未知の物質を
本当に素敵な表現が上手いなあ
ドキッとしちゃったじゃないですか 884 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土)21:30:10.65 ID:3HW+H4dQo
うほっほー乙!
ていとくんったら素直じゃないなぁwwww 903 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/24(木)22:55:12.50 ID:HDWD1ya00
俺も冷蔵庫と一体化したら、キンキンに冷えた俺の心を、
マジ天使な初春が温めに来てくれるってことだな?
よし、ちょっとヨドバシカメラで相談してくる。 904 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/24(木)23:07:24.48 ID:XpyQJJ5AO
>>903
脳を三つに分けるのなら任せてくれ 905 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金)01:36:40.94 ID:KDbpEC4D0
>>903
ヨドバシに不審者が出るかもしれないって警察に通報しといたほうがよさそうだな 906 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/25(金)01:38:48.99 ID:x+wUaL8AO
アンチスキルに通報しますた 909 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:44:12.28 ID:67HibobUo
※
ソファの上で抱き合って、お互いの感触を確認する。
生きていることを実感するだけならば、温度をこうして分け合うだけで十分だ。
身体的につながることすら必要としない。
お互いが持っているものを、熱量の法則に任せて等分すればいいだけの話。
これが善意のもとに成り立っていようが、悪意のもとに成り立っていようが関係ない。
初春はその夜、柔らかな唇を何度も奪われた。
接続状態は良好。垣根は初春の首筋にそっと唇をすべらせる。
くすぐったいような、じらされているような不思議な感覚。
それは皮膚の表面で無邪気に遊ばれているような、初春がまだ経験していないそれだった。
「あ……、垣根さん……、」
「怖いか」
「……………、ちょっとだけ……」
「頭の中はつながってるのに?」
「……そ、そういう問題じゃなくて……」
「わかってるよ」
言葉と同時に体を倒した。真っ赤に染め上がった顔、ピンクのワンピースに、花飾り。
―――心の中は、蒼い。瞳の奥には欲情を越えた優しさが瞬いている。
不思議だった。
自分はこんなにも汚れているのに、どうしてこの中学生は拒絶しないのだろう。
好意を抱かれていることもわかっているし、自分も悪く思っていないのは自覚している。
だけれど、どこかで矛盾している。
理屈の上での矛盾ではない。
理屈ではない何かがすれ違っている。どうしようもないくらいに。
910 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:44:56.26 ID:67HibobUo
「……これって、その……」
頬を撫でながら、耳の付け根を舐めた。
びくっ、と肩を震わせて、初春は垣根の手術衣をつかむ。
がっしりとではない。指先で、ほんの少し。
「こうされるの、嫌か」
「………またそうやって……、なんでそういうこと聞くんですか……、もう……」
胸を小突かれる。嫌じゃないのはわかっている。
わかっていても、聞きたくなる。恋人同士なら当然のじゃれ合い。
「リラックスさせたいだけだ。わかるだろ。初春は経験が少なそうだからな」
「垣根さんは……、……経験、豊富っぽいですよね。……私なんか……、……ッ!?」
一手先を呼んで唇をふさぐ。
キスをしながら、頭でつぶやいた。
【悪い子にはしゃべらせねえ】
【……ずるいです……、……垣根さんのばか……】
【いいじゃねえか、それに最後まではしないよ。もうこれだけつながってるんだ、満足だろ?】
【お、女の子にそこを答えさせるのは反則……あ】
それもそうだな、と発信してから、静かに抱きしめた。
911 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:47:47.86 ID:67HibobUo
――――――
それからしばらくお互いを暖めあった。
一線は越えてはいないが、何回も何回も、熱を伝え合った。
少女は脳波の接続を解除して、相手に身をゆだねている。
垣根の胸に収まる初春。
時刻はすでに真夜中。門限などとっくにすっぽかしている。
一応の連絡は入れてあったが、あとでバレたら説教モノだろう。
時計の針が空気を叩く音が、絶え間なく、何かを追い詰めるように響いていた。
【なあ】
【―――人を殺したいほど憎んだことはあるか】
唐突に彼の口からそんな言葉が出てきた。攻撃的な台詞に戸惑う。
聞くということは、もちろん……。
「どうしてそんなこと聞くんですか……?」
【俺がそう思ってるからさ】
言うなり、さらに強く抱きしめられる。
肌と肌とが触れ合う圧力が高まった。
体感してみてわかることだが、“強く抱きしめたい”という衝動が沸き起こる原理は、おそらく相手との一体感を求めてのことだ。
しかしこれもまた不思議なもので、脳波を共有した仲であってもきつく抱かれたくなる。抱きたくなる。
この心情は説明ができないものなのかもしれない。
多分人間にはそのひとつ一つの動作に果たすべき役割が備え付けられているのだ。
言葉でしか伝えられないこと。
体でしか伝えられないこと。
それぞれが持っている要素を、最大限に利用するだけ。
「……、殺したい人がいるんですか?」
【……、】
912 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:49:07.76 ID:67HibobUo
沈黙。
どうしてこの人は大事なときに黙るんだろう。
自分の考えていることは多分筒抜けなのに。部屋に戻ったら自分の思考をコントロールする練習をしようと思った。
【初春】
「はい……?」
嫌な予感がする。文字が見えているだけなのに、状況と表情、自分を抱く彼の腕から、なんとなく内容を察する。
こういうときの発言は、大抵の場合は望んでないほうに動く。
そして、
【―――今の時点で……、お前の気持ちには応えられない】
「………、え……」
ずきり。
指示語が指し示すものを即座に理解する。
気持ちをさらけ出した自分に対しての、彼なりの返答なのかと。
二文字の単語と、それに付随する邪な想いが瞬時に頭を回った。
―――優しさで自分を抱きしめた?
―――何のために?
―――どうして?
―――そんなのずるいよ。
―――だったら最初から。
言葉には出せないけれど、歳相応の『どうして』が頭を流れては消えていく。
913 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:49:45.43 ID:67HibobUo
【……、バカなこと考えてるな】
「ば、バカなことって、そんな言い方……」
【そうじゃねえ。そうだったらこんなことしてない】
「だったら………、私は、だったら………っ」
―――だめ。
言いたい言葉を寸前で飲み込む。
だめだ。これは言っちゃいけない。
ズルい女の子になりたくない。
だって、自分だってこうされるのを望んでいた。損得計算でこの人と関係性を築き上げたくない。
何かを差し出したから対価を示せ、なんて、傲慢な考えでしかない。
自分は与えたんだ。それに彼が答えてくれたんだ。
ただそれが、心ではなく体だったというだけで……。
たとえばこれから先、仮に望まない結末を迎えたとしても、その事実は変わらない。
それならそれでいいと思いたい。
思いたい。
思わなきゃ、
思わなきゃ、なのに。
「―――あれ?」
瞳からはおかしなものが零れ落ちていた。
914 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:52:08.39 ID:67HibobUo
「あれ、あれ。ど、どうしてですかねー。なんだか胸が痛いです、なーんて……。あはは……」
【……、】
「あ、大丈夫です! いやぁ私、め、めんどくさい女じゃないですし……、えへへ……これはその、なんだろ、えーと……」
説明をしようと頭の中の辞書を引っ張り出してみても、どこにもその単語は載っていなかった。
ぽろぽろと、何をもってしてもそれ以外に表現できない感情の塊が、とめどなく瞳からあふれてくる。
だいいち、めんどくさい女ってなんだろう。
自分で言ってて思った。その言葉の意味なんて、雑誌やテレビでかじっただけだ。
こういうときに、相手に何かを押し付けるのがよくないのはわかってる。
だから、そういう、誰かの見知った経験を、自分が知っているふりをして言葉を紡いだ。
つまり、嘘だ。デタラメだ。フィクションだ。
本心は―――、そうじゃない。自分はどうしようもなく面倒で、これ以上ない独占欲の塊だ。
こんなの絶対見せたくない。
強がって無理してでもいいから、大好きな人には知られたくない。
だから精一杯強がっているというのに、対する垣根帝督は言葉を容赦なく続けてくる。
【だから違うんだ。初春。俺の声を聞いてくれ】
「何を聞けっていうんですか……!」
抱かれた体を引き離そうとする。暴れても、上半身の力ではまだ垣根のほうが上だ。
すぐになだめられてしまう。
そうだ、何を聞けっていうんだろう。
もう限界だった。喉の奥で止めていた台詞が、勝手に口から漏れた。
「だって……、だって垣根さんは私のこと……、
―――す、すきじゃないんでしょ……?」
【好きだよ】
「……? ……え?」
915 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:53:43.39 ID:67HibobUo
頭が混乱してきた。
初春は上目で垣根の瞳を刺す。嘘をついているようには見えなかった。
でも、だったらどうして?
考えているうちに、頬を伝う涙を、指でそっとふき取られた。
【もう一度、つないでくれるか。今から“俺”を見せてやる】
垣根はそういうと、初春の耳元にさきほどまで二人をつないでいた装置を差し出した。
視線は初春に向けたままだ。
迷っているような、何かに怯えているような瞳がそこにあった。
「……、」
【まだ話してないこと。俺がずっと考えていたこと、考えていること。そのすべてを伝える。
俺の全部をテメェにやるよ。それが、気持ちに応えられない理由だ】
【本当は伝えないつもりだった。でもな、もう限界だ。俺には初春を裏切ることも、壊すこともできねえ。
このクソったれな世界で、テメェだけは傷つけられない。
だけど、俺はガキだから、俺自身を騙すことも同じようにできねえ。
……ああ、理屈の上じゃあくだらねえことだってわかってる。こういうのは言葉じゃ説明できねえんだ。
―――だから、もう一度、今度は俺と景色を共有してくれ】
言っていることの意味はわかるような、わからないような、だった。
垣根帝督は自分に話していない部分で、何かに悩んでいたのだろうか。
脳波を共有していたのに、そんなことには少しも気づけなかった。
同時に、今しがた自分が考えていた幼稚な発想に嫌気がさしてしまう。
垣根が気持ちに応えられない理由とは何だろうか。
何故か右肩がうずいていた。
ゆっくりと差し出されたイヤホンを手に取る。
そして、
「………ッ!!!! ……ッ!!」
キィーー……ン……!!
次の瞬間、真っ黒な垣根の悪意が、初春の脳内を駆け巡った。
916 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:55:26.14 ID:67HibobUo
(……ッ!! これ……コレハ………コレハナニ……!?)
つないだ瞬間、脳内にすさまじいスピードでスライドショーが展開された。
何百枚という数の写真のようなものが高速で流れていく。
高速でめくられるおびただしい数の風景、人の顔、抽象的な感情をあらわしたもの。
おそらく実際に目の前で見せられたとしても、理解ができないだろう。
だが、今の自分は違う。
どの光景も、一瞬見ただけで垣根の気持ちを共有することができる。
電気信号をもってして、垣根帝督が直接初春の脳内に情報を発信しているのだ。
(………!! ……………ッ!!)
情報量の多さももちろんそうだが、一つ一つの光景が放つ意味の重さに、初春は吐き気を催していた。
怖い。
何かにつぶされるような感覚を覚える。
自分の想像力を持ってしても、普通に生きている限りこの悪意に触れることはないだろう。
嫉妬、憎しみ、破壊欲、劣等感、―――目を背けようとしても、頭に直接送られてくるのだから拒否することはできない。
そしてまもなく、理解した。
居場所。
名前。
かつての闇。
一方通行。
第1位。あの日、あの時の―――、
「っ!!!」
【……、】
強制終了。
イヤホンを耳から勢いよく抜く。吐息が漏れて、額には大粒の汗が張り付いていた。
呼吸が安定しない。乱れた脈拍を定着させるべく、体が拒絶反応を示した。
垣根帝督が内在していた悪意は、初春の善意に対して毒気が強すぎたのだ。
拒絶の意図はないにしろ、これ以上データを受け取ってしまったら自我が崩壊してしまいそうだった。
917 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:57:16.95 ID:67HibobUo
(―――そう、だったんだ………、)
あの日。
オープンカフェで自分に接触した後、この男はこの街の第一位と接触している。
その末路が、今の彼に内在する根本的なコンプレックスの起点だ。
幸か不幸か、これ以上ないくらいのタイミング―――能力が回復した段階で、二人は再会した。
これですべてがつながった。日ごろ、垣根が揺れている内容にも触れることができた。
同時に、あのサーバー―――“ANGEL”の中に存在する何かについてもヒントが少し。
記憶が混乱しているのか、自分とあの場所で会ったことは忘れているようだったが、それにしたって、これは―――。
(言葉でどうにか説得できるものじゃない……、)
もしも彼の思考を読み取ることができなかったなら、初春は垣根帝督に持論を説いていたかもしれない。
そんなことをしたって何の意味もないとか、劣等感なんてどうでもいいではないか、とか。
自分がいればいいじゃないか、とか。そういう自分勝手な理屈を。
だけれど、理屈でなく感情で理解してしまった今。
そんなチープな言葉で垣根を説得することが、いかに意味のないことかを思い知った。
なぜなら彼自身が、『子供の感情』であることを理解しているのだ。
間違っていることがわかっていても、止められないのだ。
すべてが分かった上で、素直になれない自分を正当化しようとしているのだ。
この人の中で、理屈の上での自問自答はすでに煮詰まっている。
対立する価値観をぶつけてもそんなものは焼け石に水だ。無責任な偽善だ。
初春としてはもちろん、感情を理解した上でも、倫理的に彼のやろうとしていることを見逃すわけにはいかない。
でも、だからといって理不尽な説得を試みて、彼のアイデンティティを崩壊させてしまっては意味がない。
918 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:58:01.96 ID:67HibobUo
(―――それでも)
(それでも自分は律する人でありたい。“ジャッジメント”でありたい……!)
だから、
初春は、
「―――私に……、あなたの罪をください」
【何?】
「まだ根本的な解決なんて、思いつかない。だけど、……あなたを一人には、させません」
ともに歩く道を選んだ。
上から諭すわけでもなく、突き放すでもなく、羽を貸して、ただ一緒に進むことを選んだ。
919 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)19:59:32.83 ID:67HibobUo
「あなたの目的は、……この街の第1位と再び対峙すること。彼を殺害すること」
【そうだ、その通りだ】
「……その中で、その……私の存在に………」
【名前がつけられない。居場所が確保できていない】
遠慮のない台詞だった。
もっともさきほどの通信で分かりきっていたことではあったが。
「それなら私は、垣根さんと一緒にその人の前に行きます」
【……テメェはそれでいいのかよ】
「……どんな結末を迎えるにしても、一人になんか……させない。一緒にその人の前に、立ちます」
(―――その上で……、)
……だが、これ以上は伝えることはできない。余計に混乱させてしまうだろう。
すばやく感情を押し殺して、言葉を飲み込む。
ここからは、自分の勝手な妄言になる。
初春飾利の瞳には再び決意がにじんでいた。
垣根は呆けた顔をして、そんな初春を見つめている。
多分、結局巻き込んでしまったとか、これが利用でなくて何なのだとか、そういうことを考えているのかもしれない。
今更そんなこと水臭いと思ってしまう。自分と垣根はもう、一種の運命共同体なのだ。
利用するとかしないとか、そういうレベルの問題ではない。
気づいていないのだろうか。この関係性に。いや、気づいていないはずがない。
感性では理解ができても、知性で理解ができていないのと同じだ。
920 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)20:02:15.91 ID:67HibobUo
二人はその夜、それ以上の会話をすることなく寝床についた。
初春飾利は垣根をベッドへと運んだ後、彼の隣に滑り込む。
暖かかった。甘えてしまいたくなるくらい、居心地がよかった。
たとえばこのお話が悲劇的な終わり方をしたとしても、それでもいいと思ってしまうくらいだった。
―――だがもちろん、彼女の頭の中では、この悲劇を塗り替えるための作戦会議が展開される。
(―――方法は、あるはず)
かちり。
初春の脳内でスイッチが入る。
……もちろんさっきまでの会話は建前だ。本音は違う。
どうにかして、この人の心の闇を、自分が浄化する。それだけだ。
(―――曖昧に不完全燃焼させて、なかったことにするなんて、この人にはきっとできない)
(………相手と対峙しないうちに、この問題が解決することなんてありえない)
(だからといって、このまま黒い気持ちに身を任せていたら、垣根さんはきっと壊れてしまう)
(そんなのは………嫌だ)
(あるはずだよ、初春飾利。―――だから、その方法を探す)
(第一位……、その相手と対峙したときに……、何かを伝えることができれば。アクションを起こすことができれば)
(………、…………、)
(相手を打ち倒して自分の正当性を主張するなんて、間違ってる)
当然の理屈だった。
垣根に協力するといったのは、そのための譲歩だ。
自分がしたいことはただ一つ。
大きな悪意に流されているような、この物語の展開に逆らいたい。
垣根と自分の間にあるものによって、最高の未来を掴みたい。
だから。
(終わらせない)
(―――このままでは……、悲劇では、終わらせない―――ッ!!)
………
……
…
921 :
◆le/tHonREI:2011/02/25(金)20:02:59.51 ID:67HibobUo
とりあえずここまで。もうすぐ次スレいきそーですが気になさらずどーぞ。
ではまた近々。
922 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/25(金)20:04:32.02 ID:TfcOAXsa0
ぬあっ!? 923 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金)20:07:45.37 ID:Z2nNvcxM0
ここまでぇ!?
くう……乙! 924 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/25(金)20:11:35.41 ID:02einBp1o
夢にでそうです…
乙! 930 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/25(金)21:36:55.72 ID:Uuwu7f8DO
乙!
通行止めは闇の中の一方さんを打ち止めが光を照らし引き上げてあげる
帝春は初春がていとくんと闇の中をあえて共に歩み光へと向かう
在り方は違うが迷える堕天使な男共を支える女の子達はマジ天使だ 938 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/26(土)20:59:03.93 ID:Ldh8d/kAO
もう初春は翼を生やして良いレベル。まさにこの二人は比翼の鳥 939 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/26(土)21:32:03.08 ID:d7w/p/UL0
なるほど。垣根の天使のような白い羽と、初春マジ天使。帝春こそが公式カップルだな。936 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/26(土)20:03:22.91 ID:WfNHh2bAO
誰も言わないから言うけど、垣根さんマジロリ… 940 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/26(土)22:56:55.93 ID:tr95ovzYo
学園都市のツートップがそろってロリコンとは 976 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水)01:39:59.01 ID:YMemoW+Xo
※
翌日目覚めると、ベッドに初春の姿はない。
よほどぐっすりと寝付いていたのか、出て行く気配すら感じなかった。
暗部にいたときはこんなに安心して眠ることもなかったというのに、まったくどういう心境の変化だと自嘲する。
それから身体の代わりに気だるさを寝かしつけて、ゆっくりと起き上がった。
いつもと変わらない朝。日光は相変わらず鬱陶しいままだ。
メールでも入っているかと思いきや、携帯電話には何の履歴もない。
書き置きすらなかった。こうもあっさりと帰られるとそれはそれで、何か物足りない。
わかってはいるのに、幼くて未成熟な感情がひっそりと垣根の心に影を落とした。
―――、あの言葉は本当に本当なのか?
昨日まで感じていた彼女のぬくもりをすくい取ろうと、枕にうずくまる。
同時に、自分の心の乱れを確かめるように、心の鏡に向き合ってみる。
(……、わかってるさ。あいつと会った後は必ず、こうやって自分の醜態を見つめちまうんだ)
心の光と影が導き出すものはすなわち、バランスだ。
初春飾利と接すれば接するほど、光に寝食される自分を見てしまう。
彼女が放つ光が強ければ強いほど、心の闇が浮き彫りになっていく気がする。
やさしさに包まれた後に残るものは、不完全な自己の不明確な不安感だ。
この奇妙な初春との関係を最も的確に示すのは、きっと陰陽マークといわれるイン&ヤン。
光のあたらないところに影はない。だが、影の中にも光があることを教えてもらった。
見つめ合う二つの白と黒。多分、どちらに傾きすぎても自分たちの関係は崩壊する。
そして、調和しているうちは平気だとしても、何かをきっかけにそのバランスが崩れている。そんな気がする。
垣根帝督にとっての初春飾利は、ある種完成された存在だった。
能力がどうとか、そういう話ではなく、―――人間として、自分のすがる場所として、一点の汚れもない透明な花。
花に例えるならそれこそ白百合だ。柄でもないが、初春にもらった図鑑は頭に張り付いたままだった。
977 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水)01:41:12.51 ID:YMemoW+Xo
それから数秒もたたないうちに、垣根の思考はこの街の闇へとゆっくりと下っていった。
(……いい。今は忘れろ。問題はこっからだ。どの道“アイツ”がいねえと話にならねえ。一方通行のクソとどうやって向き合うか)
(―――方法はいくつかある。提案できるだけでも三通り。念話能力を使えばもっと楽なんだろうが、ツテがねえ)
A.滞空回線を使って一方通行本人を見つける。
B.脳波ネットワークに無線電波を使って侵入する。
C.初春飾利にジャッジメントの権限を使用させてこの街から炙り出す。
違いはあれど、現実的な手段としてあげられるのはこの三つだろう。
(……ちっ、Aのプランが一番手っ取り早いが、さすがに情報網がたりねえ。
ジジイは滞空回線を使って俺たちを監視してたらしいが……、置き土産にはもらえなかったな。
―――手段にこだわらないのなら、『最終信号』をぶち殺すって手もあるが……、)
かつて第一位と垣根が対峙した際、彼はその手を選択しようとした。
理由は単純に、以前は“一方通行を倒すこと”が目的なのではなく、“直接交渉権を得ること”が目的だったからだ。
あのときの自分は道筋を選ぶ余裕があった。結果が全て、そのために殺す、それだけ。
だが、
(今は違う)
(あいつの存在が消えてなくなることが問題じゃねえんだ。能力者として、この手で、この力で、正面からぶち殺さないと意味がねえ)
(―――それでこそやっと俺は……、俺を本当の意味で取り戻すことができる。そうだろ初春)
拳に力を込める。
初春がどこにいったかは分からないが、連絡をすればすぐに返答があるだろう。
先に手段を確立させておくべきだ。
978 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水)01:46:44.07 ID:YMemoW+Xo
(………Bだな。ヤロウのネットワークに直接ハッキングかけたほうが早い)
(あのバカにメッセージを直接伝えるのは無理か。ならばやはり『最終信号』にアクセスするか?)
(いや、だめだ。俺とじゃ波長が違いすぎる。戦闘する前に各個体の脳を焼き切っちまう可能性が高い。
廃人のカスをぶちのめしても意味がねえ)
(……? 待てよ。そもそも冥土返しや木山春生はどうやって俺の脳波を初春と調和させていたんだ?)
(共感覚性を養った場合であっても、さらにその上で脳波をリンクさせるには何らかの技術が必要なはず)
垣根は手元にあった、イヤホン型デバイスを手に取り、見つめた。
(―――、それなら)
(一時的に脳波をガキに合わせて、こちらからメッセージを送信するだけなら、できるんじゃないか……?)
(そうじゃないなら理屈が合わない。確かに俺と初春の脳波は視覚的に酷似した波を生んでいるだろう。
だが、ほぼ完全な形で一致させるには何らかのカラクリがあるはず)
(相互にやり取りをすることは難しいだろうが、こっちの脳波を瞬間的に向こうの周波数に合わせてやりゃあ、“伝達”くらいはできるはずだ)
(……決まりだな。こいつをバラして構造を調べあげ、『最終信号』にメッセンジャー役を買ってもらうか)
(―――はっ)
垣根はふと思う。
データの集合体である自分は、ある点においては生身の身体を持つ通常の人間よりも優位にある。
手段を問わなければ、もっとシンプルに第一位の息の根を止めることができるかもしれない。
そもそも演算機能を停止させてしまうという方向性ならば、面倒な手段に固執する必要はないのだ。
それなのに正面からの勝負にこだわっている自分が滑稽に見える。
まるでセイギノミカタだ。
(何をやっているんだ俺は。止める気もねえが、まったく褒められたもんじゃねえ。何を……、)
言いつつも、すでに脳内では演算が始まっていた。
ミサカネットワークへの侵入の手筈と、対峙した際の算段について、細胞を動かして設計図を組み立てる。
己の知恵を振り絞って学園都市の第一位を打ち負かすという未来を現実にするためだ。
その点についての躊躇いは消えているから。
あとはどう腹をくくるかだ。その先にまっている未来がどんなものであっても、受け入れ、享受する覚悟。
(初春に引け目は感じない。歩いてくれるなら、従う。だけどな)
(……同じ理由で、この物語に救いなんざ求めてねえんだ。
―――俺はクソヤロウと一緒に地獄に堕ちるんだよ。なぁ? 一方通行………ッ!!)
………
……
…
979 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水)01:49:01.67 ID:YMemoW+Xo
※
もっとうまくできればいいのに、と初春は自室で紅茶を入れながら思った。
具体的にどういうことが“うまくやる”なのかはわからないが、今の自分の状況は絶望的ではないにしろ、閉塞している。
あれからずっと頭をひねらせて、垣根帝督を闇から引きずりあげる方法を考えているが、まだ見つからない。
垣根を言葉で説得できないのなら、演算をごまかして戦闘中に交渉をしようかと思ったが、そうもいかない。
何せ集中力を常に一定に保っていないといけないのだ。
戦いの場に借り出されたらどうしようもない。何より、垣根に悟られてしまうだろう。
鏡を見つめると目の下に少し隅ができていた。こう見えてもジャッジメントを務めている分、徹夜にはそこそこ強い。
多分精神的な問題だろう。
何も言わずに部屋から出たのは、なんとなくだ。
あのまま甘えていたら、本来の目的を自分が忘れてしまうかもしれないから。
闇にのまれるなんて物騒な表現を使いたくはないが、きっといい方向には進まないような気がした。
これは直感的なもので、理屈ではない。
そして同時に直感で思ってしまう。だめだだめだと思考の舵取りをしても、どうしても頭から、言いようもない不安感が離れない。
―――果たして本当に自分はこの泥まみれの脚本を塗り替えることができるのか?
これから自分が飛び込む場所は、あの時の、―――右肩の痛みの発信地と同じ場所。
無事で済むわけがないのはわかっているのだが、その覚悟がないというよりは、方法論の話である。
(どうにかしないと……、白井さんや御坂さん、佐天さんに連絡して……、うう……、でも……)
あのメンバーは確かに垣根を受け入れていたが、その反面彼に対しての警戒を解くようなことはしなかった。
白井と佐天は多少、踏み込んでいたかもしれないが、御坂美琴にいたっては警告までしていたくらいだ。
もしも自分がこのことを伝えたら、彼女たちは自分を巻き込まないように手筈を整えるような気がする。
垣根から自分を遠ざけたりするのではないだろうか。あるいは、彼女らが解決したりはしないか。
何よりも、あの人はきっとそれを裏切りと感じるだろう。助勢は求めてない。私を巻き込むことにも躊躇していた。
余計な助けを私が勝手に提案したらどうなる? 後に残るのは不信感だけだ。
だめだ。それではだめなのだ。
垣根の思考を理解した今なら言える。ここで信頼を失ったらどうしようもない。
打算的な自分の考えに吐き気がするが、事実なので仕方がない。
根本的なところは二人で解決しなくてはだめだ。頼りたくても、頼れない。
花飾りをくしゃくしゃにしたくなる。
980 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水)01:50:01.29 ID:YMemoW+Xo
(………あ)
ふと思いとどまった。
閉じていた血管が勢いよく脈を打ち鳴らす。どくどくと、霊的なひらめきが広がる感覚がそこにあった。
―――第一位はどこにいるんだろう。
(そうだ……。先に私の方から、第一位に交渉することはできないだろうか)
(本人じゃなくても、あのときのアホ毛ちゃん……、『最終信号』、だっけ。あの子に関わることができれば)
あのとき行動を共にした少女と、問題の第一位がつながっているとは思わなかった。
初春としては彼と直接の面識は―――意識が朦朧としていたからかもしれないが―――ない。
だが、垣根との通信をもってして、そのプロファイルは受け取っている。
過去のデータ。ミサカネットワーク。チョーカー型デバイス。ベクトル操作、etc....
色々な意味で垣根帝督とは似て非なる存在だった。
同属嫌悪とまではいかないが、彼が敵対視してしまう理由もなんとなくわかる気がする。
初春も初春で、垣根が考えそうなことは把握しているつもりである。
おそらく正面からの対決を申し込むだろう。
そのための手段として、データの集合体である彼が脳波を使ってミサカネットワークなるものに接触することは想像に難くない。
宣戦布告というやつだ。
第一位―――通称『一方通行』の人格は垣根の主観が混じっているのでなんともいえないが、気難しさはあれど対話ができる範囲の存在でありそうだ。
(学園都市の『書庫』を閲覧すればもっと詳しいデータが得られるかも。でもこれは私的利用だし、越権行為だ。
―――今更そんなこと言ってられないか)
普段は『書庫』を守る立場である自分だが、こんな局面で贅沢は言ってられない。
すぐにPCを立ち上げ、電子の海へとダイブする。
潜水技術は学園都市のお墨付きだ。迷わない。例え闇に伏していても、光を放ちながらデータの波を進んでいく。
かたかたかた―――。
981 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水)01:51:13.58 ID:YMemoW+Xo
(っ!だめ、時間が足りない。同時進行で学園都市の監視カメラを起動しよう)
(……第一位が垣根さんに口説かれる前に捕捉して、こっちからアクセスする)
(口先八丁じゃなくて、誠意で説得するんだ。垣根さんとは違って、ジャッジメントの私には情報面でアドバンテージがある)
(―――有線回路じゃだめかな)
ミサカネットワークというシステムを完全に理解したわけではないが、おそらく自分と垣根をつないでいる脳波ネットワークと構造的には同じものだろう。
直接つないでしまえば脳に異常が出てしまうかもしれないが……。
(……、垣根さんならどう考える)
(直接対決を望むなら、代理演算役の女の子に危害を加えるなんてことはしないよね。あの人ならどんな手を使ってでも一方通行本人と接触する)
(―――、イヤホン型デバイスを解析する? うん、私ならそうする。私がそうするってことは、当然彼も……)
初春はこれら一連の思考を繰り広げながら、『書庫』のデータを閲覧し、また学園都市の監視カメラでこの街を洗っていた。
本来初春の情報処理能力はこういった面に優れているのだ。
一つの問題を花に模した構造で捉え、多角的に解決する。
システム構築の際の思考方法だが、基準が現実の出来事になったとしても、その方法はまったく同じ。
(あの人なら構造を理解して、瞬間的にでも脳波を合わせるくらい、ほんの数時間でやっちゃいそう)
(私の言葉は、相手の判断材料としてでもいい。どうにかして理解してほしい。がんばらなきゃ)
かたかたかた―――。
(垣根さんがデジタルな手段でメッセージを送るなら、私はアナログ式でいきます。直接会って伝える)
(―――奔走なんかさせませんよ。だって、一緒に進むって言ったじゃないですか)
(……、離れていても心は一つです。
―――地獄になんか行かせてたまるか………ッ!!)
かたかた、かたかたかた―――。
………
……
…
982 :
◆le/tHonREI:2011/03/16(水) 01:52:39.30 ID:YMemoW+Xo
残りがやばいのでキリのいいとこでこのスレはおしまい。
次スレたててきます。
986 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/16(水) 02:42:40.35 ID:8+RMNWJDO
ていとくんは闇に飲まれたあげく地獄に堕ちるのが自分の常識(うんめい)だと思っているのか……
そんな常識なんの自慢にもならないぞ!初春ガンバレ、マジガンバレ!987 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/16(水) 02:47:19.94 ID:aBsrohKDO
帝春は漏れのジャスティス 995 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/16(水) 07:15:18.93 ID:QC17hNfAO
いやあ 遂に来たね次スレ 楽しみにしてます1000 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/03/16(水) 08:40:24.21 ID:EXU+h96DO
1000なら常識は通用しねえ
初春「花束をあなたに」1 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)01:57:16.70 ID:YMemoW+Xo
乙 >―'て_ノ、__.∠∨( o ⌒\ノ
/:〈∨ )o ∧八 ⌒\`丶 人ノ\_,_ \ハ `⌒>
':<ノ∨< `フ^::ー┘⌒∨::::`ーヘ人\< フ⌒)\
i:::: ノ⌒レイ〈__厂:::::::: /::::::::::::::::::::::::::::::::::`:⌒∨ヘ_人⌒
|::(__厂∨ヽ/::::::::::::/:::::::/::::::::: /:::/:::::::::::::::::::::乂人o \
!::/::::::::::|::::::::::::::/:/::::::,厶::/:::::::::/::::::::::: |:::::::::::::::マ フ⌒
. j厶/::::/j:::::::::: /:/l::::::」⌒メ|::::::!::|:::::::::j::::j:::::::::::::::::∨
/:∨/}/|:::::::::::i:::「 ̄ -- L:/l/|:::::::厶イ::::j:::ハ::::::|
/::::∧ゝ、八 ::::::::i:孑==ミ \/⌒}:::/ ::::::j::::::|
. 厶イ::::\_ \_ :i:::|、、、 - ∨:::/:::;':::::;′
|:/::::::小 \| -=ミ /∨:::/::::/
厶/:::| , 、、..::::::::::∨}/
∠:::::::リ 、 ∧:::::::ト、_>
r<∨ \ ` 一 / Vヘ|
ノ////\ ヽ、___.. イ
_/////////ヽ ∧___
/ ´ ̄ ̄`\///∧_ { ∨//∧
// ´ \//∧__}///l |\
. /// ∨/∧///|///l | ヽ
l/´ \ |∨/∧//|///リ !
|l \| l∨/∧/|// / |
前スレ→垣根「初春飾利…かぁ…」
4 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)02:03:54.87 ID:YMemoW+Xo
【俺の未元物質にその常識は通用しねえ】
◆前半あらすじ
学園都市の暗部組織『スクール』の元リーダー垣根帝督。
『ピンセット』と呼ばれる物品を巡っての抗争は、彼の敗北を持って終わりを告げた。
序列第一位の能力者“一方通行”に殺害されていたかと思われた垣根だが、
その高い演算能力は電子化された脳内データとして学園都市の超大型サーバー“ANGEL”内に生きていた。
同時期に、同じく抗争に巻き込まれていた学園都市のジャッジメント、初春飾利は、大脳生理学者である木山春生から呼び出しを受ける。
出向いた先にいたのは、かつて初春を襲った垣根帝督の無残な姿だった。
戸惑いつつも、過去を清算して交流をはじめる二人。
そんな中、学園都市の『闇』はひそかに魔の手を伸ばしていた。
メルヘン野郎とメルヘンお花畑が交わるとき、物語はまじメルヘン―――ッ!
◆後半あらすじ←いまここ
第三次世界大戦が終わり、平穏を取り戻した学園都市。
博士らの元暗部組織による“兵器化計画”を乗り切った垣根帝督と初春飾利だったが、心の闇はいまだ拭い切れず、どこかすれ違いを感じていた。
あいまいな依存関係に疑問を投げかけるも、垣根は答えない。
初春は垣根が抱える奇妙な感情に接触することができず、不安に包まれてしまう。
そんな微妙な関係が続く中、戦争を終えた学園都市の第一位と第二位は再び出会ってしまった。
再戦を望む垣根帝督に、本意ではないにしろ初春も協力することになったが……。
メルヘン野郎とメルヘンお花畑が交わるとき、物語はまじメルヘン―――ッ!
●主な登場人物
垣根帝督:主人公。元レベル5の超能力者だが、現在は車椅子生活。脳はデータ化されている。甘えんb(
初春飾利:ヒロイン。演算処理によって垣根の能力の“仲介人(トランスフォーマー)”を担う。
白井黒子:ジャッジメントで変態。だけどたまにかっこいい。垣根奪還作戦に加担。
御坂美琴:レベル5でファンシー野郎。だけどたまにかっこいい。垣根奪還作戦に加担。
佐天涙子:初春の親友。かわいい。かわいい。
木山春生:大脳生理学者。幻想御手を改造して初春と垣根の脳波共有システムを構築した。
博士:垣根帝督のデータを巨大サーバに移した張本人。自身もデータ化された存在だった。
一方通行:学園都市序列第1位。戦争終結と共に帰国していた。
エイワス:垣根の電脳空間に時折出現する天使のような存在。
●用語説明(独自設定、解釈あり)
幻想御手:木山春生が生み出した脳波共有システム。調和した垣根と初春の脳波を共有させ、能力を顕在化させた。
超大型サーバー“ANGEL”:学園都市に眠る巨大なサーバー。表向きにはゲーム用のサーバーだが、内部には垣根帝督の脳がデータ化されて移植されている。
イヤホン型デバイス:“ANGEL”に眠る垣根の脳波を、低周波を使って初春と接続する装置。初春が耳に装着することで能力を取り戻すことが可能。制限時間は15分。
5 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)02:10:33.40 ID:YMemoW+Xo
こんなとこで!明日また更新します。。。おやすみなさい
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/16(水)01:59:10.43 ID:hcNpeptj0
愛をこめて花束を乙! 8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/16(水)04:51:10.77 ID:mcbDHchDO
新スレ乙です、
スレタイで既に泣いた 14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県):2011/03/16(水)14:21:15.77 ID:MupXO+Lj0
>>1乙
それにしてもまじメルヘンwwwwww 15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/03/16(水)14:37:48.63 ID:Pb9jNtcx0
>>1まじメルヘン!!
新スレ乙。にゃあ 23 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)22:52:59.42 ID:ypt9zfofo
※
学園都市の夜。とあるマンションのとある一角。
普通の人間ならとっくに寝静まるような時間帯。
見計らったかのように、一人の少年がその瞳を光らせ、密かに立ち上がった。
(……、……)
彼はある戦争の側面を担った、兵器と言っても差し支えのない存在。
その外見は悪魔に等しく、抱える潜在能力は見間違えることなくこの世のそれではない。
デバイスを確認して、能力を確かめる。
攻守に特化したそのチカラは唯一無二の領域へと踏み込んでいた。
少年の名は不明。
中性的な顔立ちに、白い髪、燃えるような赤い瞳。
コードネームは……―――通称“一方通行”。
その表情からは何も推し量ることはできなかった。
ただ、機械的に、ひっそりと、己のなすべきことをこなしていく。
瞳はどこか遠くを見つめている。
(―――クソガキは寝たか)
そのままソファへと進み、今や彼の目印になったといっても過言ではない杖を手に取る。
これは仕事でもなんでもない。
なのに、無視するという選択肢は最初からなかった。
なぜかを考えるのはそれなりに哲学的であったが、今はそっちを無視することにして、部屋から出る。
25 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)23:06:13.39 ID:ypt9zfofo
「―――おやあ? 結局出陣するのかな」
ドアを開けた先にいたのはかつての敵。
彼に悪夢を思い出させた相手でもある。
ロシアで向かい合った時点の彼女は彼の罪の象徴だった。
見ているだけでも胸が締め付けられる存在だった。
どちらも傷つき、どちらも悪意に流されてここまできた。
その経緯はどうであれ、ここで今こうして一緒に暮らしている。
平穏をかみ締めている。
数秒の間視線を合わせると、一方通行は彼女の待遇に驚くことなく、無視して進もうとする。
が、一歩目を踏み出したところで肩をつままれた。
軽く手で手を払って、それからはき捨てるように伝える。
「……オマエ、ずっと起きてやがったな」
「もちろん。……しかし、いやあ、果たし状ってなんだかなあ。ミサカはもっと下衆な発想の方が好きだけど」
「どの道オマエには関係ねェ」
「―――上位個体には関係あるって?」
「………、」
くつくつと笑い出す相手は悪意を集めた存在であるので、今更取り合うようなことはしない。
それでも彼女は頭の後ろで腕を組みながらこう続けた。
「古典的な手だね。当時の事情は今日の発信から、カケラほどしか伝わってないけど。あなたってアチコチで恨み買ってる」
「身に振る火の粉を払ってくるだけだ。すぐ終わる」
「―――はてさて、本当にそうかな?」
「……、……何が言いてェンだ」
26 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)23:26:53.77 ID:ypt9zfofo
「届いた伝達、最終信号のおチビは何やらモゴモゴしてたけど、ミサカはそのまま伝えたよ?
だってすごくミサカ好みの言い方だったんだもん。
『よう、クソ悪党。相変わらず泥の中か?』だって。ぷぷぷ、言い得て妙とまではいかないけれど。
―――ああ、別に上をかばったわけじゃないからね? 伝えたほうが面白くなりそうだし」
わかっている。
垣根帝督はかつて彼の守るべきものを狙ってきた。
今回は少し事情が違うようだが、無視するわけにはいかない。
取り戻した平穏にヒビを入れてくるような輩は、始末しなくてはいけない。
それが悪夢を乗り切った彼に与えられた、戦争の対価だからだ。
「あのメルヘンが言いそォな言葉だ」
「へえ、ミサカそっちの人のほうが仲良くなれそう」
「勝手にしろ」
玄関まで進むが、相手はひたひたと彼の後ろについてきた。
手荒い見送りだろう。歩きながら言葉を交わす。
「……対応はそれでいい。クソガキはどうせ俺を止めるつもりだったンだろ。
一日中挙動不審だったしな。黄泉川たちに伝えなかったのがせめてもの救いだ。めンどくせェことになる」
「―――それで? 始末するの?」
「危害を加えてくる輩に俺が躊躇すると思うか?」
なるほど、と一呼吸置いてから、番外個体は口元を吊り上げた。
一方通行の感情をゆさぶるように、あえてためてから伝える。
「―――ところで、昼間にたずねてきたお花ちゃんは随分必死だったねえ。恋する乙女ってかんじで」
「………、」
表情が一瞬だけ固まる。
「ミサカに色恋を語らせるのは勘弁願いたいんだけど、いやあ、果たして第一位はどっちの肩を持つのやら」
「持ちようがねェな。殺しに来るなら殺される覚悟をもってこそだろォが」
「へえ、ミサカに対してもそうだった?」
「オマエのときとは事情が違う。論点のすり替えだ」
「ふーん」
微笑は消えない。
煮え切らない態度にイライラしてくる自分に気づく。
いや、こいつはそういう存在なのだ。言わんとしていることも、態度も理解している。
27 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)23:42:46.12 ID:ypt9zfofo
「アイツの事情がどうだろォが知ったこっちゃねェンだよ。潰しに来るなら潰す。花飾りのガキにもそう伝えた」
「―――それで、頭を下げられた。涙を流された。あなたは黙った。即座に沈黙した。返す言葉がなくて、帰れとだけ伝えた。
学園都市の第一位の中に芽生えた何かしらの感情を刺激された気がして、あなたにはそれ以上の手が浮かばなかったから」
振り返って目を見つめた。
微笑は消えていないが、見透かすような瞳がそこに輝いている。
今度は目をそらさないで伝える。
「それで争いが避けられるなら、戦争なンか起こったりはしねェ。オマエもわかってるはずだ。これはボランティアじゃねェ。
平穏はその覚悟を備えたやつにしか訪れない。俺たちは戦争で学ンだはずじゃねェのか」
「おやあ、急にスケールが大きくなったね。ボランティアか、なるほど」
「ふン」
靴を叩いて準備を整える。
鍵だけは閉めておけ、と注意を促して、そのまま出発するつもりだった。
ところが、
「―――ミサカも行ってあげよっか」
「……あァ?」
「ほら、なんとなくわかるんだよ。ここぞというときに悪意に支配されることを拒絶するあなたが。
もし本当に相手を始末することだけが目的なら、ミサカなら何の躊躇もなく殺すことができるよ?
一石二鳥。付いていってもデメリットはないと思うけど」
「………、」
思わぬ提案に少し頭をひねる。
もちろん、彼女の言葉は上等な皮肉だ。どこかで一方通行の善意を揺さぶろうとしていることは明らかである。
28 :
◆le/tHonREI :2011/03/16(水)23:57:16.21 ID:ypt9zfofo
「……相手は腐っても学園都市の第二位だ。オマエの出る幕じゃねェよ」
「それこそ論理のすり替えじゃないかな? ミサカが言ってるのはそういうことじゃない。
“ギリギリの状況で甘い判断を下しそうなあなたを悪意に促す”ってこと。
あなたって見かけによらずセンチメンタルなとこあるようだし、―――本当に始末する気ならね?」
要するに、判断に苦しむ自分が想像できるということだろう。
本気で提案しているわけではないのが手にとるようにわかった。
これ以上はなしていても時間の無駄だと思い、会話を切る。
戦の前の軽い交わしだ。そろそろ頃合だろう。
「―――ガキは多分夜中に目を覚ますかもしれねェが、見張っておけよ」
「はいはい。……、お土産話、楽しみにしているよ」
舌打ちをしてから、扉を閉めた。
無機質で乾いた音が深夜の街に響く。
意志が感じられない音は、寸分も彼の心に影響を与えない。
呼吸も脈拍も正常。
演算能力も正常。
ため息をついてから携帯電話のダイヤルをタップする。
コールが鳴り響く時間が妙に長く感じた。多分今頃相手も、同じことを考えているはずだ。
時間にして数秒、相手が出る。
―――最初の一言は決めていた。
29 :
◆le/tHonREI :2011/03/17(木)00:16:11.25 ID:W/9QThPBo
「―――招待状ありがとよ。クソったれの死に損ないが。肉塊にするだけじゃ足りねェみたいだな」
電話の向こう側では懐かしき格下の男の声がした。
一度負けているくせに、妙に余裕ぶった声。
表情まで想像できてしまうのが余計に癇に触る。
学園都市、序列第二位。―――垣根帝督。
しばらくして、やや早口で返答が帰ってきた。
『おいおい、久しぶりなのにつれねえな。これでも気は遣ったんだぜ? 文面で伝えるのは苦手だからな。手紙のほうがよかったか』
「あーァ、ダメだな。頭がイカれてるやつは俺も大概見てきたが、オマエの場合はもう手遅れだよなァ?」
『イカれてるのはテメェだよ、このヤク中面が。相変わらず偽善のオナニーに酔ってる最中かよ?』
「どの口がそンな余裕を吐かせるンだ。クソみてェに花火咲かせたミジンコ野郎」
一方通行は階段を下りながら、彼とのコンタクトをとぎらせることなく続けた。
垣根帝督がどのような状態になっているかはいまいちわからないが、あれだけの攻撃を受けてマトモな身体でいられるとは思えない。
何かしら外部からの手が加えられていると考えたほうがいいだろう。
この街はそれを現実に起こす場所だ。
『……ひさしぶりに啖呵切ってみるのも悪くねえ。アガってきたところで、場所を決めようか』
「死に場所くらい選ばせてやる」
『死ぬのはテメェだ。―――といいたいところだが、は、体が体なもんでな。こっちで決めさせてもらう』
「好きにしろ」
30 :
◆le/tHonREI :2011/03/17(木)00:28:47.12 ID:W/9QThPBo
「―――あの花飾りのガキは」
『………ッ』
突然思いついたそんな台詞を、本当に何ともなしに伝えた。
意図もないし、意味もない。
さきほどの番外個体との会話が影響しているからとか、そういうわけでもない。
単純に会話のペースを保つために、ただ投げただけだった。
すると。
『……、テメェ、初春に何をした』
声色が急変したことに気づく。
違和感だった。頭の中にいる垣根帝督からは到底想像できない。
いや、これは、あの時、追い詰めた際に無意識に聞こえた彼の断末魔に近い。
逼迫しているわけではないが、どこか感情が揺らいだように聞こえる。
「―――さァな。勝手に想像しろ」
『クソ野郎。今度こそ殺してやる』
プツッ―――。
電話はそこで切れる。
後には夜の静けさが保たれていた。
(………、………)
自分の中に芽生えた違和感を分析しながら、一方通行は再戦の場所へと赴く。
地獄の門が開いているだけかと思っていたが、どうやら事情はもっと複雑らしい。
番外個体をやはり連れてくるべきだった。
シンプルな二元論で終わらせておけば、大義名分を鑑みることなく相手を始末できたはず。
感情を裏付ける理屈を求めてしまうのは、戦争が終わっても変わっていない。
何かをするには理由が必要なのだ。自分が歩んできた道が、そうすることを自分に強要している。
しかし―――。
(―――めンどくせェな)
帷の中に消える彼の背中からは、それ以上の何を推し量ることもできなかった。
………
……
…
38 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)21:12:06.51 ID:FC372KGUo
※
そして、両雄は向き合う。
「妙な場所を指定してくると思ったら、そォいうことかよ」
風が吹き付ける深夜の学園都市。
垣根が戦いのフィールドに指定したのは十九学区のとある広場だった。
冬も近いこの季節、再開発に失敗したことで有名なこの地区には独特の雰囲気が漂っている。
初春飾利はそんな二人の超能力者を、映画でも見るかのような感覚で眺めていた。
現実感は一向に沸いてこない。
自分は今、学園都市の頂点がぶつかり合うところを見届けようとしている。
「……、廃れた街で廃れたガラクタになりてェンだな」
「………、」
一方通行がつぶやいた先、車椅子の垣根帝督が笑いながら口元を閉める動作をした。
先ほどの電話でのやり取りは当然、初春の力を借りてのものである。
隣で様子を伺っていた初春は、電話をつないですぐに垣根に怒鳴られたところだった。
何を思って一方通行に接触したというのか。
その意図を限界まで問い正したが、遂に感覚を掴むことはできなかった。
気づかないうちに、デバイスを通じてでも心にフィルターをかける術を習得していたらしい。
しかしどうやら直接的な危害を加えられているわけではないと察したようで、半ば強引に納得させる形でここまで来た。
初春はどこか虚ろな表情をして、視線をどこに止めようか決めかねていた。
そうして、呪文のような、慰めのような言葉を一定のリズムでつぶやいていた。
(―――まだ、まだ方法は……、方法は………、ッ……!)
39 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)21:25:30.60 ID:FC372KGUo
「その付き添いのガキから多少は聞いている」
(マダ、まだ方法はある)
「言語処理能力を失ってンのか。演算能力もなくなっちまってるンだろ」
(―――頭をひねらせろ。神経を集中しろ。だめなんだ。ここでこの二人に決着をつけさせても、何の解決にもならないんだ)
【初春】
はっ、と我を取り戻して携帯を見る。
垣根は無表情のまま、静かに指示をした。
【もういい、つなげ。開園の時間だ。これ以上の焦らしは観客が萎える】
「でも……、えっと……、わ、私は……」
【―――初春飾利】
まっすぐに一方通行をとらえていた瞳は、ゆっくりとこちらに向けられる。
相手に向けていたものとはどこか違う、優しさと悲しさを含んだ瞳だ。
それから垣根は一瞬だけ初春から見て左下に視線を動かし、これ以上なく申し訳なさそうに笑った。
二人でいるときに時折見せた表情も、これに似たようなもの。
初春は彼のそんなところも、好きだった。
【テメェはまた動いてくれてたんだろ。こんな俺のために。もうわかってるよ。………なんていうか、すまなかったな】
その言葉は今までで一番、初春の心を貫く一言だった。
「どうして謝るんですか……。謝られることなんて……、ま、まだこれからどうなるか……!!」
【ああ、そうだな。この戦いがどうなるかはわからねえ。だけどな、何を言われようが俺はアイツと殺し合うことを止めるつもりはねえ。
それでも、この安いプライドにテメェを付き合わせちまったのは俺のミスだ。だから、今のうちに謝っておく。二度は言わない】
「……、私は……、」
40 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)21:40:58.57 ID:FC372KGUo
【離れてろ。テメェは俺が送る信号を変換してくれてりゃいい。俺を想ってくれるなら、尚更だ】
初春はその言葉の裏側にある意味を察する。
自分が演算処理の手を抜いた瞬間に、垣根帝督が殺されてしまう可能性があるということだ。
争いを止めたくても、止められない。自分が垣根を救うための最大の努力は、彼が放つ信号を嘘偽りなく“変換”することだ。
たとえそれが地獄への後押しになるとしても、“垣根帝督を救うためには彼を地獄へと送らなければならない”。
二人の戦闘を積極的に増進することしか、選択肢は残されていない。
この心理状況は、あの時と似ていた。
戦争が始まる前に、彼を救おうとしたときに感じた、無力感。
(私は……、何なんだ。情報の処理能力に優れていても、何も救えない。彼の心の闇を取り除くことなんてできていない)
(言葉で何を変えられるんだ。この街に潜んでいるものを、形のないものでどうやって取り除けっていうんだ)
(こんなに、好きなのに。こんなに想っているのに。何もできないの……? 何も、してあげられないの……?)
(何がジャッジメントなんだろう。私は……、何て無力なんだろう……)
【花言葉、覚えているか】
「え?」
垣根はもうこちらを見てはいなかった。
【ナンバーワンとかオンリーワンとか、正直なところどうなんだろうな。俺は確かに序列自体にはもう執着がないのかもしれねえ】
「……、……」
【つないでくれ。タイムリミットだ】
そして、
初春は、
うつむいたまま、静かにイヤホン型デバイスを耳に装着した。
一体感が二人を包んで、調和する。
41 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)22:06:41.33 ID:FC372KGUo
それから、爆風が二人を中心に扇形に広がった。
中心地にいるのは比翼の鳥。
―――いや、今は片翼だった。
垣根帝督は右手を握って感覚を確かめながら、悪意のある表情を取り戻す。
演説のような口調は今回は胸に押し留まっていた。
首をこき、こきと鳴らしながら、気だるそうに一言吐いて捨てる。
「……戦争はどうだった」
「オマエには関係ねェと言いたいところだが、ひとつだけ教えてやる」
対する一方通行もそれを合図と取ったようで、チョーカー型デバイスを解放する。
学園都市に内在する影のエネルギーが二人の間ですでに放電し、火花を散らせているようだった。
「何かを守りたかったり、何かを求めたりするためには覚悟が必要だ。捨て身なンてもンじゃねェ。
それは一つのためにすべてを捨てる覚悟ということだ。浄罪する気があるならな」
「相変わらず吐き気がする。偽善者になった気分はどうだ? 俺は断罪に興味はねえ」
「……、二元論にこだわっているうちは三流だ」
二人の間にある持ち時間には15分の差がある。
チョーカー型デバイスの制限時間は30分。
イヤホン型デバイスは15分。
語っている時間はロスには違いないが、垣根は落ち着いていた。
―――違う。
その心の温度を、ゆっくりと上昇させていた。
「オマエには覚悟が足りていない。それをこれから教えてやる。後には何も残らねェが」
「大層にありがとよ。だがくだらねえな。俺からはテメェにもっと大事なことを教えてやる」
「―――ムカつく野郎がいるからぶち殺す。俺たちが戦う理由なんざそれで十分だ」
それが、狼煙だった。
43 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)22:31:48.13 ID:FC372KGUo
言葉を放つとほぼ同時、垣根帝督は足元の物質を変容させて爆発を起こした。
空気抵抗をカットする形で演算を展開し、一瞬にして間合いをつめる。
「小手調べだ。遊ぼうぜ第一位」
「接近戦をご所望かよ。足りねェ頭は治ってねェみたいだな」
同じく一方通行もそれ以上の会話は無駄だと悟ったようで、詰められた間合いの先の手を脳内に展開させていた。
地面に両腕を突き刺して、地盤を操作する。
瞬間的に遠心力を利用して、土の壁を生み出した。
(―――、さすがに迎撃はしてこねえか。クロスカウンターに合わせて『未元物質』をぶちこんでやろうと思っていたが)
一度戦った際に相手の能力はある程度知りえている。
この世とは違う法則をぶつけることで多少のダメージを与えることができたが、二度目にはすでに解析されていた。
暗号を出したつもりが、解読を一瞬のうちに済まされてしまったようなものだ。
垣根は一方通行が生み出した壁を、片翼の羽で破壊しながら、身の回りに揮発性の爆発物を生成していた。。
対する一方通行は竜巻を操作して垣根に遠距離から攻撃を仕掛ける。
爆炎があたりを包みはじめ、烈風が大地に吹きすさぶ。
お互いの力はすでに通常の戦闘におけるような小規模なそれではない。
極限まで高められた能力は往々にして一瞬で決着がつく。実際前回はそうだった。
それなのに、今回のこれはどこかお互いの手を探り合っているような印象を受ける。
44 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)22:44:49.18 ID:FC372KGUo
(ナメやがって……!!)
心の中に濁った感情が沸き立つのを感じる。
垣根帝督は僅かながら、一方通行にダメージを与えることができた数少ない人間だった。
小手調べとは言ったが、一戦目を省みるに相手はまだ本気を出してはいない。
それどころか、何か様子を伺っているような戦い方だ。
(こちらの誘いに乗ってくるかどうかが問題だった。案の定、何てことはねえ、遊んでやがる)
(翼での攻撃に生成した『未元物質』での応戦、―――どれもただ受けているだけで、こちらに放ってくる攻撃も屁みてえなもんだ)
(……、ナメ、やがって………ッ)
垣根帝督の多角的な戦い方に対して、一方通行はどこか後手に回って攻撃をいなしているようだった。
それが、気に入らない。
「余裕たっぷりじゃねえか、いい身分だな一方通行……ッ!」
「………、………」
瞳は何も語らない。
垣根の上空に飛び上がったまま、一方通行は見下すようにこちらを見据えていた。
「……何か策があるンじゃねェのか」
「小出しは無用ってことかよ。はっ、上等だよクソ野郎。―――後悔してもしらねえぞコラ」
垣根はそれだけ言うと、展開させた演算をやめ、静かに翼を広げた。
念じるように息を潜めて、その場に佇む。
45 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)23:01:08.87 ID:FC372KGUo
「……、今度は月光で焼かれて死ね」
「………、あァ?」
一方通行は広がった羽の先から伸びるベクトルが奇妙に捻じ曲がっているのを感じた。
以前戦ったときに垣根がベクトル操作打破のためにこしらえてきた戦法だ。
一方通行が反射と非反射を分けているフィルタを識別して、異物を混入させる。
対象が今回は月光に変わってはいるが。
「……、何をするかと思えばそンなことか。以前言ったはずだ。
オマエが新しく生成した物理法則がいかなるものでも、俺はほんの数秒あればそいつを再定義してベクトルを操作することができる。
―――期待はずれだな。小学生レベルの発想展開だ。太陽光と月光の質の違いは問題じゃねェ」
「―――“数秒あれば”な……ッ!」
言った側、垣根の翼のスリットを通過した光線が一方通行に襲い掛かる。
もちろん会話をしながら、一方通行は光線に適応される物理法則を再定義しなおしていた。
計算を終えて、反射する。
今回の光線には3万程度のベクトルが注入されていた。
すべての矢印の方向性を瞬時に解析し、発生源である垣根帝督にそのまま攻撃を叩き込む。
そうして、断末魔の声は垣根帝督から沸き起こる。
………はずだった。
「ッ!? が……ッ!?」
「―――逆算終了。続けてチェックメイトだ、第一位……ッ!!」
46 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)23:20:06.22 ID:FC372KGUo
「……ッ!? これは……、ちィ……!!」
一方通行の体に襲い掛かった衝撃は烈風によるものと月光を回折したことにより発生した殺人光線によるもの。
胸を圧迫するような痛みが広がり、口元からは血があふれていた。
背中から伸びていた竜巻が物理法則を操作されたことにより閉じて、一方通行は地面へと叩きつけられる。
「気づいたかよ? さすが第一位。同時に、こいつがどれだけの破壊力を持っているか、わかるよなぁ!」
「……、そォいうことかよ。あの花飾りのガキ……!!」
一方通行の視線が初春へと向けられる。
その表情は苦痛に満ちていた。
当然だ。
“この世の物理法則をリアルタイムで次々と変換しているのだから”。
今度は地に伏す一方通行を垣根が見下していた。
「確かに、テメェの言うとおり俺がいくら物理法則を捻じ曲げようが、数秒もあれば法則は解析されちまう。
一旦解読された物理法則はテメェの能力の餌食となり、俺にそのまま跳ね返ってくる。
だが、そいつをリアルタイムで次々と変更した場合はどうなる?」
「………、」
「初春は元々凄腕のハッカー、暗号を打ち込む能力は学園都市の折り紙つきだ。
『書庫』を守るためにプログラムをリアルタイムで書き換えちまうくらいのな。
この守りに特化した演算処理能力を“幻想御手”で応用し、共有された脳内で次々と新たな物理法則を生み出す。
多元的に生み出された物理法則を解析するタイムラグを利用して、テメェのチンケな体をぶち壊してやる。
わかるか? 暗号を生み出すより、解読するほうが手間がかかるのは当然だろ」
「俺がオマエの能力を解析するまでのほンの数秒の間に、新しい法則を生み出した……!」
「その通りだ。そしてこいつは絶対的な壁。
能力者同士の戦いにおいて、この数秒が持つ意味はあまりに大きい。こいつが俺の切り札だ。
デュアルマター
あえて名づけるなら、『多元物質』」
48 :
◆le/tHonREI :2011/03/18(金)23:32:04.34 ID:FC372KGUo
答えながらゆっくりと立ち上がる一方通行と向かい合う形で、垣根帝督は啖呵を切った。
「さあどうするよ第一位! これで終わりじゃねえだろ!! こんなもんじゃねえはずだ!!
本気を出せ!! テメェのクソみてえな美学を俺にぶつけるんじゃなかったのか!!
失望させるなクソ野郎!! あの時のテメェはこれで終わるようなタマじゃねえ!!」
「……この後に及ンでその言葉か。オマエはただの戦闘狂だ。何も学ンじゃいねェ」
多少のダメージはあるにしろ、垣根の攻撃はいまだ致命傷を与えてはいない。
切り札と垣根は言ったが、どちらかというと本気を出させるための布石といったほうがより的確だ。
「おもしれェ。そンなにいうなら本気でやってやる」
乱れた物理法則を解析して、再び演算を開始する。
こうしている間にも世界の法則はすさまじいスピードで変容していた。
うまくベクトルをとらえることができない。
垣根は垣根で、脳内に展開した式をコンピュータが有する数倍のスピードで発展させていた。
脳がきしむような印象をうける。
初春飾利の演算能力はたしかに優れているが、これは大きなリスクを伴う方法だ。
かつての戦いで一方通行が放った攻撃は常軌を逸していた。
法則無視の攻撃に対応できるそれではない。
その前に、決着をつける必要がある。
「―――俺がオマエの法則を潜り抜けて、一撃必殺の攻撃を打ち込むのが先か」
「―――それとも、テメェのモヤシみてえな体が時間の壁に押しつぶされるのが先か」
時間切れという言葉はなかった。
両者は悪魔的な笑いを浮かべる。
「「先に相手を殺したほうが、勝者だ」」
当たり前の文句が確かな重みを持って、静かに響いた。
………
……
…
78 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)00:08:48.49 ID:/e60sHHTo
――――――
初春は、脳内で炸裂する痛みに表情を歪ませていた。
(……ッ!! ……ッッ!!)
鏡がないので確認のしようがないが、多分自分の表情は醜く写るに違いない。
頭が割れそうに痛い。
呼吸が整わないし、余計なことを考えていたらすぐにでも倒れてしまいそうだ。
目の前で戦う二人の天使は、なるほど確かに自分とは住む世界が違う。
もちろん垣根帝督の『未元物質』を変換する際でも、その情報量は生半可なものでなかった。
たしかに、理論構築の基礎的な部分は垣根が担っていて、理屈を理解する必要はあまりない。
そういった意味では初春の行っている演算処理は作業的な意味合いを持っていた。
それでも、神経構造、効果範囲、垣根が戦闘中に感じるであろう微妙な環境の変化を余すことなく変換しなくてはいけないのだ。
常人ならとっくにオーバーヒートしているだろう。
加えて、現在の戦いでは垣根が言うところの、『多元物質』なる戦法に自分の演算能力を注ぎ込んでいる。
もしも初春飾利に強靭な『自分だけの現実』があれば、少なく見積もってもレベル4程度の能力は発現しているだろう。
いや、その上にでも手が届いていたかもしれない。
ただでさえ並外れた処理速度を必要とする、超能力者の“仲介人”。
初春は視界が黒く塗りつぶされるのを、なんとか気力で保とうとする。
(―――ッ!! 頭が……ッ!! 割れそうに……ッ……痛い……!!)
両手で花飾りを押さえつけるが、ちっとも症状は回復しない。
79 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)00:19:41.28 ID:/e60sHHTo
(……、……? ……、)
垣根が啖呵を切る前から、あることが気になっていた。
それは、一方通行の視線。
垣根はどうやら気づいていないようだが、時折こちらをチラチラと伺って、様子を見ている。
何かを合図しているのかと希望的観測を送ったが、こっちに仕掛けてくるような素振りは一向に見せない。
タイミングを見計らって自分を拘束しようとしているのかと、悪い方向に考えを寄せようとしたが、そうでもない。
垣根が言っていた、【本気】ということがどういう内容なのかは、ノイズが混じって観測することができない。
二人は一進一退の攻防を繰り広げている。
初春の背中から噴出する羽は、やはり白かった。
(何を……?)
「……なァ、メルヘン野郎」
「あぁ?」
突然、合図もなしに一方通行が戦闘を区切った。
視線は自分に向けられている。
何かを、仕掛けるとしたら今だ。初春は構えて、演算処理を怠らないように、崩れかける自分の体を押さえつけた。
「―――気になってたことがあるンだ」
81 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)00:43:14.91 ID:/e60sHHTo
一方通行の語り方は(あくまで初春の直感だが)、作為的なものを含んではいなかった。
純粋に疑問に思ったことをぶつけるときのそれ。
だから、警戒していなかった。
「そこのガキは、……どォいうことだ」
指を指されて、立ちすくむ。一方通行はじっとこちらから目を離さない。
演算処理は続けられるが、初春の体は金縛りにあったように動かなくなった。
「何をいうかと思えば。俺とテメェの戦いには関係ねえ。こいつは俺の、片割れだ」
「ほォ?」
言葉に違和感を感じた。
彼の言葉は、まるで手品の種を知らない子供に諭すような言い方だった。
何をするつもりだというのか。
自分を捕捉して、始末するならもっと早くにやっていたはずだ。
それを何故しない。
何故、このタイミングでこちらに注意を向けてくる。
「あいつは部外者だ。クソったれな事情でこんな戦いに借り出しちまったが、関係ねえ。
テメェの美学になぞらえるなら、罪もないやつを巻き込むのはご法度だ」
「罪がない? ……は。なるほどな」
言葉を受けた一方通行は、一瞬だけあきれた顔をして、何かを確認するように頷いた。
体の周りに収束していた風が、その勢いを弱めて消えた。
垣根は様子を伺って、疑いの視線を彼へと向ける。
そして、一言。
「だからオマエは二流なンだよ」
82 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)00:56:05.78 ID:/e60sHHTo
(―――あ)
その瞬間、初春飾利は一方通行の意図を理解した。
それは初春が触れたくても触れられなかった部分。
二人でいたときに、何回もその接点を疑うことはあった。
いや、当初から奇妙な違和感を感じていた。
ずっと、ずっと。
―――だけれど、今更掘り返しても何の特にもならない。
目をつぶって、ごまかしていた。
それは無意識になんとなくある、漠然とした妄想。
これを言ってしまったら、垣根帝督の心を光に留めておく釘が、抜かれてしまうような気がして。
もちろん垣根帝督が罪悪感をかぶるような性格ではないのはわかっている。
……それでも、今の垣根を支えているものは、世界に一つだけ咲いている花を守るようなものだと信じたかった。
だからいえなかった。
だから、
「―――ッ! 言わないで!!!」
「……どういうことだ? 初春?」
一方通行は表情を変えなかった。
ゆっくりと、初春に向けていた指を、垣根へと向けて、
「自分が踏みつけた花の名前すら覚えてねェ。偽善者はオマエだ、メルヘン野郎が」
83 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)01:15:29.47 ID:/e60sHHTo
瞬間。
初春飾利の抑圧されていた感情が一斉に垣根帝督に流れ込んだ。
演算処理だけでも手一杯だった。
それなのに、感情をかき乱す一言の刃によって、
今まで溜め込んでいたものが心のダムを打ち破って決壊する。
それはかつての戦いに、自分が垣根帝督に向けた感情の数々。
思い出したくなくても、心の変化を止める手立てがない。
不安や、拒絶、憎しみ、痛み。
コントロールを失った当時の傷が、あますことなく垣根に伝わる。
不意に、右肩が急にうずきだした。
透明な痛みは、いつまでたっても体から抜け切らない。
あの日。
あの場所で、
“垣根帝督に踏みつけられた右肩が”。
「………、………、どういう……ことだ……?」
「おかしいと思ってたンだ。『ピンセット』強奪のときにこのガキを踏みつけて、それが今では仲介人?」
「違う……、違うんです、垣根さん………、」
「何も違わねェ。外野は黙っていろ。どォしたよ、第二位。さっきまでの処理能力はどこにいった」
初春が脳内で変換していた垣根帝督の『自分だけの現実』は、音も立てずに崩れていた。
何も変換することはできない。
情報は音を立てず、シナプスを代理させる信号しか飛んでこない。
「……、知ってたのか、お前は……。知ってて、俺に接触したのか」
「……、私は………」
言葉が出てこない。
それもそうだ。
言葉にしなくても伝わっているのだから。
―――光の速度で。
84 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)01:30:55.81 ID:/e60sHHTo
「やはり覚えてなかったみてェだな。なら俺から教えてやる。
“オマエが守ろうとしていたそのガキは、他でもないオマエが始末しようとした存在だ”。
あァ、俺はハッキリと覚えてる。あの日、あのカフェで、オマエはそいつを殺そうとした。
断罪に興味がない? 偽善者? 笑わせるンじゃねェ。そのままそっくり返してやるよ、クソ野郎」
一方通行が言葉を言い終える前に、二人の接続は解除されていた。
調和していた脳波が、バラバラに砕けて消えていく。
二人の想いが、すれ違う。
「垣根……さん?」
あれだけの地獄から自分を救い出して、甘えていた、唯一無二の存在は、かつて自分が摘み取ろうとしていた花だった。
それなのに、何度も、何度も、自分はその花に救われた。
まるでピエロだ。
垣根帝督のプライドが砕け散る。
【俺は……、お、俺が、掴んでいたものは……、】
地に堕ちた天使。
垣根の下半身からは力が抜け、何かに打ちひしがれるような体勢で地面をにらんでいた。
「俺の意見をオマエに押し付ける気はねェし、義理もねェ。
だから一言だけ言わせてもらう。―――オマエみたいなクズ野郎を見たのは初めてだ。虫唾が走る。
それを踏まえた上で言わせてもらおォか」
「オマエにとって、そいつは何だ?」
そして、
物語は冒頭へと、戻る。
85 :
◆le/tHonREI :2011/03/20(日)01:33:13.62 ID:/e60sHHTo
眠いのでここまで。これを踏まえて冒頭の煽りを読み返すとなるほどーってなってくれるかもです。
おやすみなさい。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/03/20(日)01:38:36.11 ID:7o0CUPxG0
乙乙
>>1の文才に俺の未元物質が一方通行 92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東):2011/03/20(日)03:27:11.11 ID:P6GYIgzAO
乙。>>1の文才に俺の常識がついていけない。冒頭の煽りがどれのことだかわからん 100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄):2011/03/20(日)20:14:24.90 ID:MPuv5/WAO
冒頭に戻る、だし前スレ>>24じゃないのか?→
垣根「初春飾利…かぁ…」95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄):2011/03/20(日)09:14:43.86 ID:MPuv5/WAO
凄まじい伏線回収だな 98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/20(日)10:52:12.01 ID:3HuOcmIDO
一方通行ったらマジドSなんだから
しかし、いつかは向き合わなきゃいけない問題でもあった…
ていとくんの初春との初対面の記憶が欠落してるのは何か理由があるのかな?
続きが超気になる乙! 次→
初春「花束をあなたに」【後編】
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