ベルベット・キス(1) (バンブー・コミックス VITAMAN SELECT)9 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:31:01.37
ID:XBs1J/qu0 詐欺師(確か私は大きな仕事を終えて自宅に帰り、ビールを飲んで布団に入ったはずです)
囚姫「あの、助けてくれます?」ビクビク
詐欺師(それからどうしましたっけ?そこからの記憶が全く無いのはどういう訳でしょうか・・・)
囚姫「人さらいに追われてるのっ!」
詐欺師(ここは見るからにエジプトやアラブといった中東系な土地。さっき
から五月蝿い女性がいますけど、この方はアジア系の顔立ちですね・・・遠くから近づいて
いる男達は中東系でしょうか、ターバンらしきものを巻いてますから)
囚姫「嗚呼・・・もう追い付かれちゃった」
詐欺師(さっき通り掛かった人は白人でした・・・なんなんでしょうこの無茶苦茶な世界は)
囚姫「もうダメ、捕まったらあいつらの思うがままに弄ばれて・・・」\\\
詐欺師「さっきから私に話しかけているのですか?何の御用でしょう?」
囚姫「だーかーらー!人さらいに追われてるんだってば!ちょっとは可哀相だと
思わないの?助けなさいよっ!」プンプン
10 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:32:06.55
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「傲慢な方ですね・・・あなたを助けたところで私に何かメリットがあるのでしょうか」
囚姫「メリットって何?」
詐欺師「つまり、あなたを助けることによって私にプラスになることです」
囚姫「えっと・・・そしたら金貨100枚でどう?」
詐欺師「金貨ですか、それは円に換算するといくらくらいになるのですか?」
囚姫「エン?どこの通貨?」
詐欺師「日本という国の通貨ですけど、ご存知ありません?」
囚姫「ニッポン・・・聞いたことない」
詐欺師(やはり、全く信じがたい話ですがここは私が元いた場所とは全く別の場所だと考える
しかないようですね。今時金貨を貨幣として扱っている国などそうないでしょうから)
囚姫「とにかく!金貨100枚払うから助けてよっ!」ソワソワ
ザッ!!
人さらい「見つけたぜ、探したんだからな」
囚姫「ヒッ・・・」コソコソ
詐欺師(人の後ろに隠れないでいただきたい・・・)
人さらい「お兄さんすまないね、うちの子が迷惑をかけたようだ。さあ早くこっちに来い!」グイッ
詐欺師(手にはムチ・・・人さらいの話も本当ですか。時代錯誤もはなはだしい。いや、ここが私の
元いた時代・・・いや、世界でないのならこれが普通なのかもしれませんね)
囚姫「いやあっ!」ジタバタ
人さらい「暴れるんじゃねぇよっ」バシッ
12 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:33:21.44
ID:XBs1J/qu0 囚姫「痛いっ!痛いってばっ」
詐欺師(はあ・・・気が進まないことこの上ないですが、仕方ありませんね。目の前でさらわれよう
としている女性を放っておいては夢見が悪いですから・・・)
詐欺師「ちょっとお待ちいただけますか?」
人さらい「ああ!?なんだよ」
囚姫「・・・」ビクビク
詐欺師「あなた方はこの女性をどうなさるおつもりですか?」
人さらい「なんだ、そんなことも知らないのか。さてはお前さん他所モンだな?」ゲラゲラ
詐欺師「お恥ずかしながら、この国にはさきほど来たばかりなもので」ニコニコ
人さらい「こいつは奴隷として売られるのさ、農奴になったり、娼婦として稼がせたり、まあ使い道
は色々とあらあな」ハッハッハ
詐欺師「そうですか、この国では奴隷が認められているのですね」
人さらい「お前さんの国では奴隷を売り買いできないのかい?」
詐欺師「ええ、法によって禁じられています」
人さらい「そりゃあ不便だろうよ、こんなに便利な`モノ´もないからな!はっはっは!」
詐欺師(人をモノ扱いですか、虫唾が走りますねこれは)
13 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:34:24.96
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「でもこの国では買えるのですね?」
人さらい「ああ、問題ない、お上が認めてるんだからな。さてはお前さんこいつが気に入ったな?」
詐欺師「さてどうでしょう?」ニコニコ
人さらい「こっちが逃がしたせいでお前さんには迷惑もかけたしな、特別価格で売ってやろうか?」
詐欺師「本当ですか?ありがたい申し出ですが、いくらで売っていただけるのでしょう?」
人さらい「そうさなあ・・・こいつほどの器量良しなら大体金貨400が相場だが、今回は
特別だ、金貨350か王家承認紙幣3万5千でいい」
詐欺師「すみません、その金貨というのは物に例えるとどれだけの物が買えるのでしょう?
あいにく今は持ち合わせがないもので・・・他に変わりになるものがあればと思うのですが」
人さらい「そうだな・・・大体ラクダ一頭で金貨150ってところだな」
詐欺師(生身の人間がラクダ3頭とほぼ同じ値段・・・なんという腐った制度でしょう、奴隷というのは)
人さらい「で、どうすんだあんちゃん」
詐欺師「すみませんが今は金貨も紙幣もラクダも持っておりません、ですがこちらで変わりになる
でしょうか?」ゴソゴソ
人さらい「これはなんだ?金貨・・・じゃねえな。銀色だけど光ってない」
詐欺師「ええ、これは私の住む国の通貨で『円』と申しまして、とても珍しい材質でできております」
14 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:35:50.58
ID:XBs1J/qu0 人さらい「ちょっと貸してみな・・・なんだこりゃあ!?」
詐欺師「軽いでしょう?」ニコニコ
人さらい「ああ、俺たちの使う金貨と大して変わらない大きさなのに重さが全然違う・・・こいつはすげえ!」
詐欺師(やはり・・・金を貨幣として使っているならこれは知りませんよね)
詐欺師「私の国ではこの軽くて丈夫な材質を利用して重要な物を作っておりまして・・・これは
金よりもはるかに希少価値の高いものでございます」
人さらい「ああ、わかるぜ。金貨みたいに噛んでも歯型がつかねえのに鉄のように重くねえ」ガジガジ
詐欺師「私は今この硬貨を4枚持ち合わせております、国ではこの硬貨は金の約100倍の値段が付けら
れますから、この4枚とこの人を交換ということでいかがでしょうか?」
人さらい「こりゃあ珍しいモンを出してくれたな、文句はねえぜ!キャラバンに戻れば自慢もできるしな!」ガハハ
詐欺師「ありがとうございます。いい買い物をさせていただきました」
人さらい「あばよ!お前もちゃんと新しい主人のために稼ぐんだぞ!がははは」
囚姫「いーっだ!」ベー
15 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:37:01.89
ID:XBs1J/qu0 ・・・・
詐欺師「さてと、これでいいのでしょうか?」
囚姫「助かった!ホントにありがとうっ」
詐欺師「いえ、私は契約の元にあなたを助けたに過ぎませんから」
囚姫「たははっ、そうだったねっ。金貨100枚はちゃんと払うよ、だけど今は持ってないから私のお父さん
のいる町まで一緒に来てくれる?」
詐欺師(ふむ、この娘には人を騙せるほどの知恵はなさそうですし、今私がいる状況を把握しておきたい。
ここは素直に付いていってみますか)
囚姫「来てくれる?」
詐欺師「わかりました、行きましょう」
囚姫「わーい!私は囚姫っていうんだ、あなたはっ?」
詐欺師「詐欺師と申します」
囚姫「詐欺師さんか、よろしくねっ!旅は靴ずれ世はお酒っていうし!」
詐欺師「旅は道連れ世は情けです」
囚姫「はうっ・・・」
詐欺師(この子はちょっと頭が弱いみたいですね・・・いや、ただのアホかもしれませんが)
囚姫「とにかくっ!私の町まではちょっと距離があるからどこかで乗り物を手に入れないと・・・
あの人さらい共め、こんなとこまで引っ張りまわしやがって!」プンプン
詐欺師「この近くに人がいるところはないのですか?」
囚姫「確か近くにオアシスがあったと思うよ、行ってみよっ」
16 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:38:10.88
ID:XBs1J/qu0 ─オアシス
商人「えーっらっしゃい!取れたてのサソリをつかったサソリ酒、一杯で銀貨5だよっ!安いよー」
詐欺師(サソリ酒・・・これ飲んでも大丈夫なんでしょうか・・・)
囚姫「詐欺師さんっ、こっちこっち」テッテッテ
詐欺師「そんなに急がなくてもいいじゃありませんか」
囚姫「え?別に急いでないよー」
詐欺師(元から落ち着きの無い性格なんですね・・・)
囚姫「これこれっ!ラクダがないと始まらないからねっ」
詐欺師「ラクダを借りて行くのですか?」
囚姫「そうそうっ、おっちゃん!2頭貸してー」
ラクダ屋店主「あいよっ、お金は着払いかい?」
囚姫「うんっ、そんなに遠くないから大丈夫だよー」
ラクダ屋店主「そうかい、じゃあ好きなの2頭持っていきな」
囚姫「ありがとー」
詐欺師(これは日本でいうタクシーみたいなものですね、運転手は自分ですけど)
囚姫「ラクダも手に入れたし水も確保おっけいっと・・・あとはちょっと食料が必要だねっ」
詐欺師「食料はさっきの人さらいの方に少しわけていただきましたよ?」
囚姫「あ、そうなんだ・・・そういえば珍しいものをもらったって喜んでたもんね」
詐欺師「準備が済んだのなら向かいましょう、いろいろとここについて聞いておきたいこともあるので」
囚姫「おっけー!行こう行こうっ」
17 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:39:19.05
ID:XBs1J/qu0 ─道中 ラクダの上
囚姫「・・・ということなんだよっ」
詐欺師(なるほど、大体は理解できました。ここはバルバット王国という国で、近くにアラブやエジプト
といった国は存在しない・・・気候や環境はほぼ同じですから、やはり私が元いた世界とは一線を隔す
世界のようですね)
詐欺師「参考になります、助かりました」
囚姫「いえいえっ!ところで詐欺師さん」
詐欺師「なんでしょう?」
囚姫「さっき人さらいに渡してたお金、見せてくれない?あんなすごいお金私も触ってみたいっ」
詐欺師「いいですよ」ゴゾゴソ
囚姫「うわー、これが金よりももっと高いお金かー・・・ホントに軽いっ」
詐欺師「くくくっ・・・馬鹿言っちゃいけません、それが金よりも高いわけがありませんよ」
囚姫「えっ?どういうことっ?」
詐欺師「これはアルミニウムという金属です、私の国では普通に見られる物ですよ。値段は金の5000分の1
といったところでしょうか?」クスクス
囚姫「もしかして・・・騙したのっ?」
詐欺師「ええ、私は詐欺師ですから。人を売り買いするような神経の持ち主ならちょろいものです」
18 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:40:32.00
ID:XBs1J/qu0 囚姫「詐欺師って、あの詐欺師っ?」
詐欺師「ええ、『あの』詐欺師です」
囚姫「詐欺師ってかっこいいんだねえ・・・」
詐欺師「そうですか?所詮人を騙して金品をすすり上げる悪党に過ぎませんよ」
囚姫「でも私を助けてくれたもんっ!悪い人じゃないよっ」
詐欺師(なんという純粋さでしょう・・・騙す気も失せますね)
囚姫「詐欺師さんって何歳なの?」
詐欺師「今年で23になります」
囚姫「へえー、私は今年で15」
詐欺師「っ!?」
囚姫「そんなに驚くところ?まだ旦那さんもいないから安心して良いよっ」
詐欺師(この世界では15歳で結婚というのは当たり前みたいですね、しかしこれで15とは・・・最近の
娘は発育がいいというかなんというか・・・)
詐欺師「いえ、年齢よりも大人びて見えたので少し驚いてしまいました、すみません」
囚姫「謝らなくてもいいのに、変な詐欺師さんっ!詐欺師さんはお嫁さんはいないの?」
詐欺師「ええ、私なんかと連れ添ってくれる人はなかなか現れませんよ。神様は意地悪ですね」
囚姫「そっかあ・・・いないんだ・・・」ポッ
詐欺師(なんか妙なフラグが立ちそうな雰囲気ですね・・・何も無ければいいですが)
19 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:41:21.86
ID:XBs1J/qu0 ─囚姫の町 ハンバル領
囚姫「着いたよっ」
詐欺師「結構長い距離を来ましたね、ずっとラクダに揺られていたせいでお尻と腰が痛いです」
囚姫「そうかなあ?普段ラクダに乗ってないとそうかもねっ」
詐欺師「さて、これからどうするのですか?」
囚姫「とりあえずラクダ屋に行ってラクダを返してから私の家に行こうっ」
詐欺師「了解しました」
─領主亭
囚姫「お父さんっ!」ダッ
領主「っ!?囚姫かっ!?どうやって戻ってきた!」がしっ
囚姫「詐欺師さんが助けてくれたのっ」
領主「詐欺師・・・?あなたですか?」
詐欺師「あ、ああ・・・お邪魔いたしております。お初お目にかかります詐欺師と申します」ペコリ
領主「よくぞ我が愛する娘を救ってくださいました!感謝の至りでございます」
詐欺師「いえ、わたしは金貨100枚と引き換えに助けたにすぎません。お気遣い無く」
領主「そ、そうでしたか・・・おい、誰か倉庫から金貨を100枚持ってこい!」
執事「はい」
20 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:42:47.58
ID:XBs1J/qu0 領主「ともあれ、娘を救ってくれたことには変わりない。報酬はもちろんお支払いするが、
歓迎の食事くらいは出してもいいだろうか?」
詐欺師「それは・・・ありがたくいただきます」
領主「そうかそうか!今日は宴にするぞ、料理長に気合を入れろと伝えろ!はっはっはっ」
詐欺師(ここでも色々と情報を集めましょう、そのためにも食事というのはありがたい機会だ)
囚姫「でもねお父さんっ、きっと詐欺師さんはお金なんてなくても助けてくれたんだよっ?」
詐欺師「・・・」
領主「そうだろうな、とても優しそうな方だ」
詐欺師(やっぱり少し居づらい気もしますけど、右も左もわからない場所で頼れる人を失うのは
得策ではありませんね・・・我慢しましょう)
領主「晩餐の時間まで適当にくつろいでいてください、何か御用があれば召使いに申し付けて
くれればいい」
詐欺師「ありがとうございます。長旅で疲れましたので少し眠らせていただきます」
囚姫「詐欺師さん寝るのー?」
領主「これ、疲れているのだから邪魔をしてはいけない。お前も疲れてるだろう、少し
寝ておきなさい」
囚姫「はーいっ、詐欺師さんまたねっ!」
カツカツカツ・・・
詐欺師(さて、少し眠りましょう。変なことになってきましたが、焦っても仕方ありませんからね)
すー・・・すー・・・・
22 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:44:28.62
ID:XBs1J/qu0 執事「詐欺師様、失礼いたします」ユサユサ
詐欺師「ん・・・?なんでしょうか」
執事「食事のご用意が整いました、主人がお呼びするようにと」
詐欺師「わかりました、すぐに行きます」
執事「かしこまりました」ペコリ
詐欺師(もう夜ですか・・・昼くらいに着いたはずなのに随分と寝てしまったものです。自覚は無いながら疲れていたのでしょうか)
─領主亭 1Fリビング
詐欺師「お待たせをして申し訳ありません、予想以上に深く眠っていたようで」
囚姫「待ってたよっ」
領主「いえいえ、お疲れになるのも当然。さあ、はやく座って下され。食事にしましょう」
詐欺師「失礼いたします」ガタッ
領主「運んでくれ」
執事「かしこまりました」
25 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:46:31.35
ID:XBs1J/qu0 ・・・・・・
詐欺師「これは・・・すごいご馳走ですね」
領主「うちの料理人が腕によりをかけて作ったご馳走です、味は保障いたしますぞ」
囚姫「こんなご馳走私でもめったに食べられないんだよっ」
詐欺師「そう言われると恐縮してしまいますね」
囚姫「あははっ、遠慮しないで食べていーよ!」
領主「我が娘を救ってくださったお礼には遠く及ばないとは思いますが、こんなものでよければ存分に振舞わせていただきたい。どうか遠慮せずに食べてください」
詐欺師「では、いただきます」
囚姫「いただきまーすっ」
領主「では私も頂こうか」
パクパク、モグモグ
詐欺師「おいしいですね、特にこの鳥肉のソテーがたまらない」
領主「ここら辺は見ての通り砂漠気候だから魚などの海鮮は手に入りにくいが、鳥などの獣肉なら取れる。オアシスの近くでは野菜や麦も育てられているから食べ物はそれなりに手に入るんです」
囚姫「鳥の肉はパサパサしがちだけど、それをバターで包むことによって柔らかくしっとりと仕上げてるんだよっ、これはうちの料理長の得意料理なんだっ」
詐欺師「ふむ・・・得意料理と言うだけありますね、素材の味を殺さず、かといって粗野な味でもない。素晴らしい一品だと思います」
27 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:48:56.12
ID:XBs1J/qu0 領主「はっはっはっ!その言葉料理長が聞いたら喜びます!」
囚姫「ところで詐欺師さんはお酒は飲むの?」
詐欺師「ええ、さほど強くはありませんが嗜む程度に」
領主「では酒も出すとしよう、執事・・・リュウゼツラン酒の10年ものを出してくれ」
執事「かしこまりました」
詐欺師「リュウゼツランからお酒を作るのですか?」
領主「メスカルとも言いますな、この地方ではサソリを入れたり花を漬け込んだりして楽しみますぞ」
詐欺師「メスカル・・・ああ、私の世k・・・いえ、国にもありますね。ですがサボテンが原料だと思っていましたが」
領主「サボテンですか、どこかで間違って伝わったのでしょう。サボテンは酒にされることはありませんね。幻覚剤として用いられることはあるようですが」
詐欺師(ふむ、メスカル・・・元いた世界ではメキシコが原産のお酒だったでしょうか?こちらにもその文化はあるようですね)
執事「お待たせを致しました。リュウゼツラン酒の10年ものでございます。割り方はいかが致しますか?」
詐欺師「ありがとうございます。何かお勧めはありますか?」
領主「これはなかなかにきつい酒で、ソーダか果汁で割るのが一般的ですな」
詐欺師「ではソーダでお願いします。1:1くらいで」
執事「かしこまりました、今しばらくお待ちを」
28 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:50:47.47
ID:XBs1J/qu0 執事「お待たせいたしました、リュウゼツラン酒のソーダ割りでございます。勝手ながら肴になりそうなものを2,3品見繕わせました、よろしければどうぞお召し上がりください」
詐欺師「お気遣いありがとうございます、喜んで頂きます」
領主「さあ、乾杯といきましょうか」スッ
囚姫「乾杯だよっ!」スッ
詐欺師「ええ」スッ
領主「我が愛娘の無事の帰還と、詐欺師殿との出会いに、乾杯」
囚姫「カンパーイッ!」
詐欺師「乾杯」
ゴクゴクゴク
詐欺師「これは・・・なかなか喉に来る味ですね」
領主「お気に召しませんでしたか?」
詐欺師「いえ、味は好みです・・・ですがさっきも言ったようにあまりお酒には強くないもので、こういう類の強いお酒は初めてなものですから」
領主「はっはっ!慣れれば大したことはありませんよ。ほれ、娘も今では普通に飲んでいますから」
囚姫「おいしいよっ」
詐欺師(なるほど、この世界ではアルコールに年齢の規制はないのですね)
領主「最初は娘も飲むたびにふらふらとそこらを彷徨っていましたけどね」
囚姫「今は大丈夫だもーんっ」
詐欺師「私の国ではお酒は20歳にならないと口にしないのです。やはり遠く離れた国だと文化も違うのですね」
領主「ほう・・・そのような違いがあるとは驚きですな。この国は周りの国との交流が少ないですから
30 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:52:10.78
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「そうなのですか?」
領主「ええ、国王様の決定で周りの国との貿易も行っておりません。ですから一つ隣の国を超えれば海があるのに魚などは手に入りにくいんですよ。なにせこの国の商人がわざわざ取りに行かなければなりませんから」
詐欺師(周りの国との交易が無い、鎖国時の日本のような状態と見ていいでしょうか?)
囚姫「私もこの国以外の国があるのは知ってるけど詳しくは知らないなー」
領主「私でも本当に近くの国しか知りませんね、生まれてこの方バルバットから出たことがありませんから」
詐欺師「私の国にもそんな時代がありました。国を閉じることによって自国の文化を守る目的だったようですね」
領主「でもやはり緊急の事態に陥ったときに他国の助けを得られないのは不安を覚えます。私も何度か国王様に他国と交流を深めるように申し上げましたが、どうやら国王様はそれを快く思わないようです」
囚姫「私今の国王様きらいー」ヒック
領主「めったなことを言うんじゃないよ、誰かに聞かれたらただじゃ済まないからね」
囚姫「はーいっ・・・」
領主「ところで詐欺師殿」
詐欺師「なんでしょうか?」
領主「私の娘を助けて頂いたとき、他に誰かいませんでしたか?そう・・・奴隷として売られようとしている人間が」
詐欺師「いえ・・・私が囚姫と会ったときは囚姫が逃げてきたときでしたから、遠くにキャラバンが見えましたがそれ以外はわかりません」
31 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:54:10.00
ID:XBs1J/qu0 領主「そうですか・・・」
詐欺師「それが何か?」
領主「本来なら客人にお話するようなことでもないのですが、酒の席です、お話しましょう」
詐欺師「はい、お願いします」
領主「事が起こったのは今から5日前でした・・・私の領地には兵隊というものを置いていません。
兵隊を育てるくらいなら農地や牧場を増やして穀物や野菜・果物、家畜を増やしたほうが建設的だと私は考えているからです」
詐欺師「それはそうですね」
領主「はい、ですがその考えは甘かった。私の領地はそこそこの大きさがあり、バルバット王国からも開拓の許可を得ているので油断をしていました。人さらいの一団が襲ってきたのです・・・
奴等は王国の許可など気にするような連中ではありませんから、散々に悪事の限りを尽くし、
若い男や美しい娘を根こそぎさらっていきました」
囚姫「・・・」
領主「人さらいがやって来た時間に、運悪く娘も外に出ていたのです。自慢ではありませんが、娘は器量が良いと思います・・・娘が外で遊んでいるのを見た人さらいは娘も連れて行ってしまったのです」
詐欺師「そういう事情だったのですか」
領主「はい、全ては私が注意を怠ったせいです・・・どれだけ自分を責めても足りません」
詐欺師「取り返しに行くことはできないのですか?」
領主「先ほども申し上げましたように、私の領地には兵がいません。対して相手は人さらい・・・人を人とも思わぬ鬼畜共です。若い男がさらわれた今、この地に残るのは年老いた者や女子供のみ・・・私たちの手ではどうしようも・・・」
囚姫「ぐすっ・・・」
領主「詐欺師殿・・・」
詐欺師「・・・なんでしょう?」
詐欺師(嫌な予感がしますね)
33 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:56:06.33
ID:XBs1J/qu0 領主「娘を救っていただいてろくなお礼も差し上げられず、加えてこのようなことを言うのはおこがましいことと理解しています」
詐欺師「はい」
領主「ですが、さらわれた人間は皆我が家族・・・今でも檻の中で助けを待っていることでしょう。どうか・・・どうかっ、ご助力願えませんでしょうか?」
詐欺師「勘違いなさっているようですが、私はただの人間です。神でも強い軍人でもない。そんな私になにをしろと言うのですか」
詐欺師「娘から聞きました、詐欺師殿は聡明であられる。端的に言えば・・・その・・・詐欺の才能があると聞きました。図々しいとは分かっております、ですが・・・どうかそこを曲げて我らを助けては頂けませんかっ!?」ぺこりっ
詐欺師「お金で取り戻すことはできないのですか?」
領主「お恥ずかしながらさほど裕福な家庭ではなく・・・今日お出しした料理は特別ですが、この家と私の財産を全て売り払ってもとても全員を取り戻せる額には達しません。領民も食べる分は苦労しないようですが、人を買い戻すとなると・・・」
詐欺師(面倒なことになりました・・・やはり他所の世界であまり余計なことはするべきではありませんでしたね。かと言って乗りかかった船、このまま見捨てるのもどうなのでしょう)
詐欺師「・・・」
領主「やはり駄目でしょうか・・・」
詐欺師「ふたつ・・・条件があります」
領主「お伺いいたします」
詐欺師「ひとつ、成功報酬でかまいません。仕事として承りますので、報酬を」
領主「それはもちろんっ!」
詐欺師「ふたつ、私がそのさらわれた人たちを助けるために使う物資は出来る限り用意すること。私は身一つでこの国に来ました、やはり何をするにしても必要な物は出てきますから」
領主「お約束しましょう」
詐欺師「ではこの`仕事´、承ります」
34 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:57:47.77
ID:XBs1J/qu0 領主「ありがとうございます!本当にありがとうございますっ!!」
囚姫「詐欺師さんありがとうっ!」
詐欺師(はあ・・・面倒事はなるべく避けたいのですが、まあ仕方ありませんね)
領主「では、その件について考えるのは明日ということで・・・」
詐欺師「いえ、今から始めます。色々と用意もあるので」
領主「でも、お酒も召し上がっていることですしそれほど急がなくても・・・」
詐欺師「さらわれた人々は『奴隷』として連れて行かれたんですよね?それなら早急に取り戻さないと売られてしまうリスクがあります。私の仕事はさらわれた人を取り戻す事ですから、損害はなるべく小さくしておきませんと」
領主「そうですね・・・わかりました」
詐欺師「それでは今から用意するものを準備して頂きたい。まずはお金です、囚姫を助けたときに人さらいから聞いたのですが、人間一人につけられる値段が平均して金貨350といったところでしょうか?紙幣換算で約3万5千ですね。さらわれたのは何人ですか?」
領主「大体50人くらいです」
詐欺師「でしたら紙幣が金貨175万分・・・紙幣一枚の額は?」
領主「千です」
詐欺師「1750枚・・・ちょうどいいですね」ニヤリ
領主「何をお考えですか?」
詐欺師「まずその千の紙幣を200用意してください」
領主「それならお安い御用です」
詐欺師「それと、紙幣が千枚入る木箱を二つ、紙幣サイズに切った紙を1550枚、あと正式な契約書に使える紙を2枚と筆記用具と印鑑を」
領主「それだけでいいのですか!?」
詐欺師「問題ありません、私を誰だとお思いですか?取引のプロ、『詐欺師』ですよ」ニヤリ
35 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 22:59:10.24
ID:XBs1J/qu0 領主「言われたものの準備がすべて整いました」
詐欺師「では少し作業を手伝っていただきます、まず紙幣サイズの紙を100枚重ねてその裏表に紙幣を貼り付けてください。これをできるだけ作ります」
領主「それは・・・どういうことですか?」
詐欺師「見ていればおのずと分かるでしょう・・・あ、あと紙幣100枚はひとつの束にしておいてください」
領主「わかりました・・・」
囚姫「私もお手伝いするよっ」
せっせっ・・・せっせっ・・・
─3時間後
詐欺師「できましたね」
領主「これは・・・なかなか疲れる作業ですな」
囚姫「すー・・・すー・・・」
詐欺師「囚姫は寝てしまいましたね・・・仕方ありません、散々怖い思いをした後でしょうから」
領主「執事、娘を寝室に。起こさないでやってくれ。それが終わったらもう休んでいいぞ」
執事「かしこまりました。お先に失礼致します」
詐欺師「さて、あとは手伝ってもらうようなことはありませんね。私が契約書を書いて、最後にこちらの印を押せば全ての用意は整いますから」
領主「しかし・・・こんな紙に紙幣を貼っただけのもので何ができるのですか?中を見てしまえば偽物だとすぐにわかってしまう」
詐欺師「ではやってみましょうか」トントン
領主「これは・・・」
詐欺師「木箱に並べればそれらしく見えるでしょう?あたかも札束が並んでいるように」
領主「だから金貨ではなく紙幣で取引をしようとしているのですね」
詐欺師「その通り、金貨では偽物を作れたとしても時間がかかりすぎますからね」
領主(驚いたな・・・このような知識を持っているとは、やはり只者ではないようだ)
36 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:00:21.06
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「さて、これで明日の朝には出発できるでしょう。明日は領主殿にも来てただきますから、今日のところはお休みになってください」
領主「わかりました、明日に備えることにします。詐欺師殿はさきほど休んでいただいた部屋でお休みください」
詐欺師「わかりました、おやすみなさい」
領主「おやすみなさい」
詐欺師(さて、ここからが本番ですね・・・詐欺師の心得その7、準備は最後の段階まで油断することなかれ)
カリカリ・・・カリカリ・・・
詐欺師「あ・・・」ハッ!
詐欺師(今気づきましたが・・・日本語で契約書を書いてこの土地の方は読めるのでしょうか?言葉が通じていたのを不思議に思わなかった私も私ですけど)
詐欺師(本でもあればどのような言語が使われているかわかるのですけど・・・)ゴソゴソ
詐欺師(あったあった・・・これは、日本語ですね。日本から明らかに中東に飛ばされたというのになんという都合のいいことでしょう)クスクス
詐欺師(この国の歴史ですか、興味は尽きませんが今は確認だけにとどめておきましょうか)スッ
詐欺師(・・・ん?)カタッ
詐欺師(これは・・・見たことのない文字ですね)
─砂の書─
詐欺師(でも意味はわかる・・・一体どういった仕組みなのでしょう?)ペラッ
37 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:01:29.63
ID:XBs1J/qu0 ─私はある研究を続けていた。
森羅万象を支配し、あらゆる力を我が物にすることができるというオーブについて長年思考と考察を繰り返し、新たな実験を行っては失敗を繰り返すという日々を何年も送ってきたのだ。
だが、結局その力は手に入らず、幾年も続けた研究は無駄になったかと落胆していた。しかし、その研究は思わぬ副産物を生み出した。それは世界を手にするにはほど遠いものだったが、私の研究意欲をさらに掻き立てるのに十分な魅力を秘めている。
月のオーブ、砂の地の夜を明るく照らす月の光が込められた手に乗る大きさの球に、時間を飛び越し時空を歪め、発動した者の体ごと別の世界へと送ってしまえると思われる力が秘められているのだ。
私はもう40歳にもなり、先の命もそうは長くないだろう。今こそこの砂の書を使い新しい世界へと旅立つ時が来たのではないだろうか・・・私はこのオーブの力を発動するにあたって一度月の光を封印し、
その力を言霊という発動キーによって爆発的に弾けさせることによって世界の跳躍を行おうと考えている。
私はこの力を封印した書を2冊作った。1つは私のために、1つは後の世に残そうと思う。願わくば、研究意欲豊富な人間がこれを有効に活用し、新たな世界を見てくれることを願う。
追記、月のオーブの力は世界の移動を6回ほど行えると思われるが、保障はできない。これを心に留め置いていて欲しい。
アルテ・ヴァファロス・ファラオ──
39 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:02:48.15
ID:XBs1J/qu0 詐欺師(ファラオ・・・古代エジプト語で王、神の子の意・・・これはっ!)ガタッ
詐欺師(もしかしてこの本に書いてある月のオーブの力は正当に発揮されたというのですかっ!?だとしたらこの違う世界にこの本があることも納得できる・・・)
詐欺師(古のエジプト王はこの砂の書を使ってこの世界にやってきた・・・失敗の場合を考えて残したもう1冊は私が元いた世界にある)
詐欺師(そうだ、思い出しました・・・わたしはここに来る前の夜、布団の中で辞書を片手に図書館の倉庫の奥の奥で見つけた本を読んでいました。題名は・・・砂の書)
詐欺師(そして、ある程度解読したところで、始動キーとなる言葉を見つけたんです)
詐欺師(それを呟いた瞬間、私はここに来ていた)
詐欺師「戻れるんですね」ボソッ
詐欺師(いつでも戻れるとなれば焦る必要もありません。今回の仕事を終えれば報酬ももらえることですし、それをもらってからでも帰るのは遅くないでしょう)
詐欺師(そういえば・・・これはファラオが使ってから誰も使っていないのでしょうか?)クルッ
─Last Four Times─
詐欺師(あと4回・・・最後に使った人間の書き残しでしょうか?随分と味なマネをしてくれますね。しかし、これだけあれば十分ですね。元いた世界の同じ場所に戻れるとすればあちらにも同じものがあるはずですから、あるとすればまた戻ってくることも可能でしょう)
詐欺師(これは大切に持っておくことにして、契約書の続きを書いて明日に備え休みましょうか)ゴソゴソ
カリカリ・・・カリカリ・・・カリカリ・・・
41 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:04:20.62
ID:XBs1J/qu0 ─翌日 領主亭
執事「おはようございます」
領主「おはようございます、よく眠れましたか?」
執事「おはようございます、詐欺師様。朝食の準備が整っております、どうぞお席に」
詐欺師「ありがたく頂きます。私はよく眠れましたが、囚姫はまだ眠っておられるのですか?」
領主「ええ、娘は昔から朝が弱いものでして・・・太陽が嫌いと言いますか、この照りつける太陽の下では仕方が無いと思いますが、やはりもう少し早起きをしてもらいですね」
詐欺師「確かにここの気候は昼間に行動するのは少し辛いものがありますね。でも、私がいた国ではもっと湿気が強く、不快感は勝るとも劣らないかもしれませんよ?」モグモグ
領主「湿気ですか・・・ここは乾燥してますからね」
詐欺師「だからこそ暑くても過ごしやすい、一長一短といったところでしょうか」
領主「まさにその通り」はっはっ
詐欺師「さて、朝食もそこそこで申し訳ないのですが、そろそろ向かいましょう。時間が惜しいですから」
領主「わかりました、外の付き人を何人か待機させておりますので・・・」
詐欺師「は・・・?いえ、着いてきていただくのは領主様お一人で十分ですよ?」
領主「なんですって?相手は人でなしの人さらい、しかもその中核に今から向かおうというのですよ?護衛くらいは付けておかないと・・・」
詐欺師「こちらの顔をあまり知られたくないのです、それに相手は戦いに慣れている人間なのでしょう?戦い慣れていない人間を付けたところでいざという時に殺されるのは一緒ですよ」
領主「確かに・・・それもそうですね」
詐欺師「ですから付き人にはご遠慮願ってください、領主様も布か何かで顔を隠して、私の付き人という体で来ていただきます」
領主「わかりました、言う通りにしましょう」
詐欺師「ご協力感謝します」
領主「しかし、あのような紙に紙幣を貼り付けただけの代物で騙せるものでしょうか?」
詐欺師「そのために本物だけで100枚の束を作ったのですよ、まあご覧になっていればわかります。勝算の無い勝負はしない主義ですので、安心してください」
領主「・・・分かりました、最後までお供いたします」
詐欺師(領主様も怖いはず、それでもここまで顔色を変えずに振舞うとは・・・これが人の上に立つ器というものなのでしょうね・・・)
44 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:06:19.60
ID:XBs1J/qu0 ─道中
詐欺師「1つ言い忘れていたことがありました」
領主「なんでしょう?」
詐欺師「無事に領民を取り戻せてからの話なのですが、領地・・・つまりハンバル領にたどり着くまでは我々の正体を隠しておきましょう」
領主「何故です?早く取り戻しに来たと伝えたほうが安心させられるでしょう」
詐欺師「今回の取引で特に重要なのが、『相手を油断させる』ということです。相手がこちらを信用しきって、偽の紙幣にも気づかずに保管してしまうくらいに信用を得ないとこれからの領地に害が及ぶ危険がある。
ですから、その信用をより強固なものにするためにも、我々は最後の最後までただの人買いを装います」
領主「心が痛みますが・・・お任せします」
詐欺師「恐れ入ります。それと、向こうに着いてからは私のことはご主人様とお呼びください。私は偽名を名乗ります。私は領主様のことを付き人と呼ばせていただきますので」
領主「必要なことなのでしょうね、全力で付き人をさせてもらいます」
詐欺師「これも今回の事をうまく運ぶために必要なこと、どうかよろしくお願いしますね」
─人さらいのキャンプ
人さらい兵隊「止まれ!何者だっ!」ジャキン
詐欺師「以前ここにいらっしゃる方から奴隷を買った者ですが、その奴隷があまりにも良かったもので・・・また買わせていただこうかと参上いたしました」
人さらい兵隊「ほお・・・ちょっとそこで待っていろ」
詐欺師「わかりました」
・・・・・・
人さらい「おお!あの時のアンタじゃねえか!何だよ、あの女がそんなに気に入ったのか?」ガッハッハ
詐欺師「はい、あの奴隷は良く稼いでくれます。それに夜の慰み物にもなりますしね」ニヤリ
人さらい「はははは!そうだろうそうだろう!そこまで使ってくれると安く売ったかいがあったってもんだぜ」
詐欺師「そこで、今日はこの国に来た記念にもっと奴隷を買っていこうかと思いまして、できれば売っていただいた奴隷と同じ出身の奴隷を売っていただきたいのですが・・・
あんな美人がいれば毎日取り替えられますからね」ニヤニヤ
人さらい「そうかいそうかい!確かあいつはハンバル領出身だったはずだぜ?まだ全員売れ残ってるよ!というか最近売りに出てないんだがな!」ガハハ
領主(これがあの温和な詐欺師殿ですか?まるで別人だ・・・本当に『詐欺師』なんですね)
45 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:07:17.14
ID:XBs1J/qu0 人さらい「ちょっと待ってな、今頭に話つけてきてやるからよ!」
詐欺師「ありがとうございます」
・・・・・・
人さらい「こっちに来な!頭が直接取引きしてくれるってよ」クイッ
詐欺師「はい」
人さらい頭「お前が奴隷を買いたいっていう奴か?」
詐欺師「お初にお目にかかります。私は遠い東の国からやって参りました男と申します」
人さらい頭「男か、いい名前だ。まあ座れ」
詐欺師「失礼いたします」
人さらい頭「この前はウチのが世話になったみたいだな、随分と珍しいブツと奴隷を交換してくれたそうじゃないか」
詐欺師「良い品物にはそれなりの対価を支払うのが相応というものではないですか?」
人さらい頭「そうか、お前は取引の基本ってのを分かってるみてえだな」
詐欺師「いえ、あれほどの上質な品物、むしろもう少し出しても良かったと思うくらいです」
人さらい頭「がははは!気に入ったぜ!で、ハンバル領出身の奴隷だったな?何人欲しいんだ?」
詐欺師「何人ほどいるのでしょう?」
人さらい頭「まだ売りに出してねえからな、ちょうど50人だ」
詐欺師「50人ですか、ちょうどいいくらいですね。全員いただけますか?」
人さらい頭「全員か!こりゃあ豪気なもんだぜ」
詐欺師「この前売っていただいた奴隷が350でしたので、全員350で買い取るということでいかがでしょう?」
人さらい頭「中にはすげえ美人もいるんだがな・・・まあいいだろう。50人も一気に買ってくれるってんだ、少しはまけてやるよ!」
詐欺師「感謝が絶えませんね、では支払いは国王承認紙幣1750枚でよろしいでしょうか?どうしても金貨だとかさばるもので・・・」
人さらい頭「現物交換だぜ?」
詐欺師「心得ております、おい付き人!」
領主「はいご主人様」
46 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:08:33.04
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「こちらになります。100の束で金貨175万枚分、1750枚入っています」
人さらい頭「よくもまあこれだけかき集めたもんだ、金貨より信用できないからあまり出回ってないって話だぜ?」
詐欺師「ここまで思い金貨を運ぶ手間に比べたら大したことはありませんよ、それに同じお金です、信用もなにもありませんよ」
人さらい頭「それはそうだ!だが念のため一束確認させてもらうぜ」
詐欺師「わかりました」ガチャ スッ
人さらい頭「・・・」ぺらっ ぺらっ
領主(ここで他の束を確認されたら終わりだ・・・)
人さらい頭「ふん、確かに本物だ」
詐欺師「これがここに木の箱でふたつ分、いかがでしょうか?」ガチャ、ガチャ
人さらい頭「文句はねえぜ!売った!」バンッ
詐欺師「ありがとうございます」ペコリ
人さらい頭「おいてめえら、こいつを倉庫まで運びな!中に手ぇ付けやがったらぶち殺すからな」
三下「へえっ!」
詐欺師「スムーズな取引ができて感謝します。一応この国の国王様のお触れで奴隷の売買には契約書を付けるようにとのことですのでこちらでご用意いたしましたが、読み上げてよろしいですか?」
人さらい頭「ああ、こりゃ面倒が省けていいや。やってくれ」
詐欺師「1つ、この売買は奴隷と金品の物々交換とする」
人さらい頭「ああ」
詐欺師「2つ、この取引の成立時には双方がサインし印を押した時点で成立とする」
人さらい頭「問題ないぜ」
47 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:09:45.58
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「3つ、人さらい側は奴隷50人、買い手側は金品を交換対象として交換する。なお、金品の内容については別紙参照のこと・・・この別紙は見られますか?」
人さらい頭「どうせ目録:紙幣1750枚とか書いてあるんだろ?いらねえよそんなモン」
詐欺師「そうですか、ではこれで一応契約書の内容は全てとなります。こんな物をわざわざ用意するのも馬鹿らしいとは思ったのですが、この国の法律ということですので」
人さらい頭「全くだ、国王も面倒なことをしてくれるぜ」
詐欺師「では、こちらのサインと印は済ませてありますので、そちらのサインと印をお願いできますか?」
人さらい頭「おうよっ!こっちもいい売り手が見つかったし嬉しいぜ」カリカリ・・・キュッ
詐欺師「確かに確認いたしました。これは写しですが、保管用にどうぞ」
人さらい頭「おう、しかしお前はしっかりしてんな」
詐欺師「一応国では商売をやっているものでして・・・こういう事にはどうしても細かくなってしまうのですよ。ご面倒でしたら申し訳ありません」
人さらい頭「いいってことよ、外に50人詰めた檻乗せた馬車を用意させるからよ、ちょっと待ってろや」
詐欺師「わざわざありがとうございます」
・・・・・・
人さらい頭「また来ることがあったら寄っていけよ!今度は酒でも飲もうぜ、がははは!」
人さらい「またあのお金持ってきてくれよー」
詐欺師「ありがとうございました、お陰さまで有意義な買い物ができました。それでは、失礼いたします」
領主「失礼いたします」
がらがらがらがら・・・
49 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:10:52.51
ID:XBs1J/qu0 ─ハンバル領付近
領民「あれ?ここって・・・」
領民「まさか・・・いや、でも・・・」
領民「あそこはハンバル領?」
詐欺師(大分後ろが騒がしくなってきましたけど、ここまで来ればもう問題ないでしょう)
詐欺師「領主殿、お疲れ様でした。開門をお願いできますか?」
領主「わかりました、おい!門番、開門しろ!」
門番「領主様のお帰りだ、開門っ!」
領民「まさか・・・本当に・・・」
詐欺師「皆様大変な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。もう大丈夫です、ここはハンバル領、あなた方は自由ですよ」ガチャリ
領主「皆、苦労をかけた。助けるのが遅くなって申し訳ない・・・」
領民「領主様・・・もしかして・・・」
領主「ああ、皆を人さらいから買い戻した。もう売られる心配も鞭に怯えることもひもじい思いもしなくていいぞ!」
領民「やったああああ!」
領民「自由だ!自由だっ!!」
領民「助かったのね・・・ううっ・・・」
領民「泣くなよ・・・ぐすっ・・・」
50 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:11:49.88
ID:XBs1J/qu0 詐欺師(これで仕事は完了・・・ですね。案外簡単にいったものです、人さらいのボスがあんな人間で助かりましたね)
領主「ところで詐欺師殿」
詐欺師「なんでしょう?」
領主「大丈夫なのですか?あのような契約書で・・・金品との交換と明記されていたではないですか」
詐欺師「その種明かしはこれです」ペラッ
領主「それは・・・別紙の金品の内容ですか」
詐欺師「そうです、確かに紙幣とかいてありますが、よく読んでください」
領主「金品内容、紙幣200枚、紙幣状紙1550枚・・・金貨1枚相当っ!?」
詐欺師「ふふふ、これが別紙の正体ですよ」
領主「で、でも!さっきは確かに金貨175万枚分って・・・」
詐欺師「おや?誰がそんなことを言いましたか?覚えていませんね、契約書には確かに紙幣200枚と紙1550枚金貨1枚相当と書いてありますよ?」
領主「ああ・・・そういうことですか」
詐欺師「おわかりいただけたでしょうか?詐欺師の心得その3、契約書は隅から隅までチェックを・・・ですよ」ニヤリ
領主(これだけのことをやってのけるとは・・・やはりすごい人だ、詐欺師殿は)
─その夜 領主亭中庭
領民「はははっ!飲め飲めっ」
領民「はあー・・・たらふく飯が食えるっていうのは幸せだなあ」
がやがや
領主「皆、良く食べて良く飲んでいるだろうか?」
領民「はい領主様!すごく気分がいいですよ」
領主「そうかそうか、皆が健やかなら何も言うことはない」
領民「これからも頑張ってハンバルを開拓しますよ!」
領主「頼もしいな!」
領民「はははははは」
51 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:13:02.56
ID:XBs1J/qu0 詐欺師(こういう雰囲気は少し苦手ですね・・・囚姫はどこにいるのでしょうか?)
~♪~♪
詐欺師(音楽?何だか和やかな気分になる曲ですね・・・)
領民「やっぱり囚姫様のダンスはうまいなー」
領民「ああ、見てるだけで心が躍り立つよ。才能とかそういうんじゃない、ただ人を惹きつけるんだよな」
詐欺師「・・・」
詐欺師(確かに、あのダンスには人を惹きつける不思議な魅力があるように感じます。何故でしょうね、ちょっと懐かしい感じがするのは)
領民「いいぞー!囚姫様ー!」
詐欺師(お、終わりましたね)
囚姫「・・・」キョロキョロ
詐欺師(どうしたんでしょう?きょろきょろして・・・何故こっちに向かってくるのですか?)
囚姫「詐欺師さんっ!」
詐欺師「はい?なんでしょうか?」
囚姫「私のダンスどうだった?」
詐欺師「はい、とても美しかったですよ。月夜に照らされてまるで精霊のようでした」
囚姫「詐欺師さん・・・もうっ!うまいんだからっ」///
詐欺師「本当ですよ?思わず我を忘れて見入ってしまいました」
囚姫「詐欺師さんはダンスは踊れる?」
詐欺師「いえ、そういうものには触れ合う機会が無かったもので・・・ワルツなら少々踊れますが」
囚姫「ワルツ・・・?ねえっ!私と踊ってくれない?ワルツ教えてよっ」グイグイ
詐欺師「いえ、私はそういうのは・・・って、ちょっと!」
囚姫「はやくはやくっ!」
詐欺師(仕方ありませんね・・・)
詐欺師「楽師さん、少しスローテンポな曲でお願いします」
楽師「ああ・・・」
52 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:14:42.28
ID:XBs1J/qu0 ~~♪ ~♪~~♪
詐欺師「では、お手を拝借」
囚姫「えっ・・・」///
詐欺師「1,2で左右に、3で左足を出して・・・そうそう、上手ですよ」
詐欺師「ワンツースリー・・・そこでターン」
領民「なんてえ綺麗な踊りだ」
領民「二人で手を取り合って回って・・・美しい動きだわ」
領民「なんかロマンチックね・・・月の夜に焚き火を囲んでダンスを踊るなんて」
囚姫「なんか、恥ずかしいよっ」
詐欺師「そちらから誘ってきたのでしょう?私も注目されるのは得意ではないのですから我慢してください」
囚姫「むうっ・・・」
領民「囚姫様綺麗でしたよ!」
領民「詐欺師さんも格好よかったです」
囚姫「ありがとー!」
詐欺師「はは、痛み入ります」
領主「さて、食べも食べたり飲みも飲んだり、そろそろ夜も更けてきた。名残惜しいがお開きにしようではないか」
領民「楽しい夜だったなあ」
領民「詐欺師さん、改めてありがとうございました」
領民一同「ありがとうございました」「本当にありがとう」「この恩は一生忘れないぞ!」
詐欺師「いえ、私は領主様から依頼されて助けただけですから・・・」
領民「それでも俺たちを助けてくれたことには変わりない、感謝するぜ詐欺師さん」
囚姫「詐欺師さん大人気だねっ」
詐欺師(こんなに暖かい世界があるのですね、日本で人を騙して生きていた生活が嘘のようだ・・・)
53 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:16:11.58
ID:XBs1J/qu0 ─領主亭 リビング
領主「お楽しみいただけましたか?」
詐欺師「それはもう、満足しました」
領主「それは良かった・・・それで、報酬のお話なのですが」
詐欺師「・・・」
領主「成功報酬ということでしたので、言い値でお支払いいたします。足りない分は今後何年かけてでも」
詐欺師(ここで私が金貨200万枚分と言ったらどうするのでしょう?成功報酬なんてロクな契約ではないのに・・・それだけ信用されているということですか)
詐欺師(ここは居心地が良い・・・全く自分でも驚きですが私はそう思っているらしいですね)
詐欺師「では・・・」
詐欺師(ここにいつでも来れるなら、私の日本での生活も少しは変わるかもしれませんね)
詐欺師「ここに・・・」
詐欺師(そんな新しい日常を手に入れるためなら、今回の仕事は軽いものだったかもしれません)
詐欺師「いつでも来ていいという権利をいただきたい」
領主「え・・・?」
詐欺師「ですから、この家に、この領地にいつでもお邪魔していいという権利をいただきたい」
領主「そんなもので・・・よろしいのですか?」
詐欺師「かまいません、報酬とは当人が価値を見出せばなんでもいいのですよ」
囚姫「つまり・・・どういうこと?」
領主「詐欺師殿は、いつでもここに来れるということだ。この先、自分の国に帰られるだろうが、それでもいつでもここに来ていいということだ」
囚姫「ホントにっ!?詐欺師さんホントっ?」
詐欺師「ええ、ここが好きになりました。いつでもお邪魔させていただきますよ」
囚姫「やったあっ」ダキッ
詐欺師「えっ・・・」///
領主「はっはっは、これはこれは・・・詐欺師殿は娘に気に入られているようですな」
囚姫「うんっ、詐欺師さん大好きっ!」
詐欺師「・・・」///
詐欺師(私としたことが・・・こんなことで先手を取られるとは不覚です)
54 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:16:59.50
ID:XBs1J/qu0 ─数時間後
囚姫「すー・・・すー・・・」
詐欺師「寝てしまいましたね」
領主「はしゃぎ過ぎて疲れたのでしょう。執事、娘を寝かしてやってくれ。終わったら休んでいい」
執事「かしこまりました。お先に失礼いたします」ペコリ
詐欺師「・・・」
領主「さて、我々も休みましょう。詐欺師殿もお疲れでしょうし」
詐欺師「その前に、1つ話しておかないといけないことがあるのですが・・・」
領主「なんでしょう?」
詐欺師「信じてもらえるかわかりません、今から言うことは突拍子もないことですから・・・それでもこれは私の中の事実であり、おそらく現実です。それを踏まえて聞いていただけますか?」
領主「ははは、私は詐欺師殿を信用しておりますぞ。お聞きしましょう、話してください」
詐欺師「私は・・・おそらくこことは違う世界から来ました。この、『砂の書』を使って」
領主「それは・・・誰も読むことができなかった異国の書、それが読めるのですか?」
詐欺師「はい、これは私の世界、古代エジプトという国で使われていた言語です」
領主「そうですか・・・ふむふむ・・・」
詐欺師「やはり信じてはいただけませんよね、こんな話」
領主「いえ、むしろこれで辻褄が合ったと言いますか、納得しましたよ」
詐欺師「・・・?」
領主「詐欺師殿は浮世離れしすぎている。詐欺師としての知識はもちろんですが、全く知らない国の知識、遠く離れた国から来たと言いながらも何も持っていなかったという不思議・・・他にも挙げればキリがありませんが、それらが異世界から来たというのなら合点がいきます」
詐欺師「そう思われていたのですね」
領主「もちろんそれだけではありませんが、やはり今の時代に似つかわしくない知識や行動力をお持ちだとは思っていましたよ」
詐欺師「やはり生まれは隠せないのですね、それが遠く離れた地でも世界でも」
領主「そうみたいですな、して・・・その世界には帰られるのか?」
詐欺師「恐らく、この本は数回使えるようなのです。私が手にする前にも何人かの手に渡っているようですから、あと2往復くらいでしょう」
領主「やはり・・・最後は元いた世界に戻られてしまうのでしょうか?」
詐欺師「そうなるでしょう・・・でも、その前にこの世界を存分に楽しんでいこうと思います」
領主「そうでしたか!それはこちらとしてもありがたい話、特に娘はあなたを大分気に入っているようですからな」
56 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:18:36.39
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「それなのですが・・・最終的に私が向こうの世界に行くことになっても、私が異世界の人間だということは囚姫には伏せておいてもらえませんか?」
領主「悲しませることになりますからな・・・了解しました」
詐欺師「ありがとうございます」
領主「では、そろそろ休むことにしましょうか」
詐欺師「私はこれから一度元の世界に戻って身の回りの物を揃えて戻ってきます。いい加減シャツも着替えたいですから」
領主「それはいいのですが、いつお戻りですか?」
詐欺師「恐らく2~3日中には」
領主「わかりました。お気をつけて・・・娘はなんとか誤魔化しておきますね」
詐欺師「ご迷惑をおかけします、行ってまいります」
詐欺師(ここの世界では私はイレギュラーな存在だというのに行ってきますとは・・・おかしな話です)
詐欺師「では・・・『我が天幕へ!』」
ヒュンッ!!──
57 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:19:47.25
ID:XBs1J/qu0 ─詐欺師のマンション
どさっ!!
詐欺師「いたたた・・・」
詐欺師(ここは、私のマンションですね。無事に帰ってこれたのでしょう)
詐欺師(日付は・・・2月13日、やはり向こうの世界と日付は同じですか)
詐欺師(しかし2月だというのにあの暑さ、向こうの世界の異常性を思い知らされましたね。こっちに戻ってきていきなり寒くなったので風邪でもひいてしまいそうです)ブルブル
ペカッペカッ
詐欺師(ん?携帯が光ってますね・・・実質向こうにいたのは2日と少しですから、重要な用件でも返事が送れて大事にはならないでしょう)
パカッ
詐欺師(あ、友からですね・・・何々?大きな仕事終えたんだろ?今夜飲みにいこうぜ!ですか)
詐欺師(送信日時は・・・えーと、12分前。なんというタイミングですか)
ピッピッピッピッピッ
詐欺師(わかりました、ちょっとお話したいこともあるので、バーで待ち合わせでお願いします・・・送信っと)パタン
詐欺師(さて、夜まで時間も余ることですし、久々に自分の布団で眠るとしますか)ゴソゴソ
すー・・・すー・・・
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11 /25(木) 23:20:55.86
ID:XBs1J/qu0 ─夜 とあるビルのバー
マスター「いらっしゃいませ・・・おや詐欺師さん、お久しぶりです」
友「おせーよ詐欺師!」
詐欺師「すみません、少し着替えに手間取っていたもので」
友「いつもと大して変わらねーじゃねーか」ゲラゲラ
詐欺師「いえ、この腕時計とか仕事では着けてませんよ?」
友「おいおい、ブレゲ トラディションかよ・・・」
詐欺師「仕事で着けられるような品物ではないでしょう」
友「違いねえ、こんなもん着けてたら時計だけ狙われて斬られるかもしれねーからな」
詐欺師「しかし、なんだか友とこうやって飲むのも久しぶりな気がしますね」
友「そっちがデカイ仕事で忙しかったからじゃねーか、最近こっちは抗争も無くてヒマだっつうのによ」
詐欺師「最近はどうなんです?そちらの様子は」
友「そうだなあ・・・一度デカイ抗争があってからは小さな小競り合いが何度かあったけど他はなんもナシだ、平和なもんさ」
詐欺師「あまり波風を立てすぎると警察も黙っていないでしょうし、それくらいがちょうどいいですよ」
友「でもよお、なんかこうぱーっとやりてえよな」
詐欺師「先代様もそんなことを言って今は刑務所の中じゃないですか」
友「あれが漢の生き様ってもんよ!」
詐欺師「ヤクザの考えはよくわかりませんね」
友「お前みたいにみみっちくセコセコ稼ぐよりマシだぜ?」
詐欺師「それもそうかもしれませんね」クスクス
友「だろ?」ケラケラ
61 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:22:21.08
ID:XBs1J/qu0 詐欺師「マスター、マティーニをいただけますか?」
マスター「いつものやつで?」
詐欺師「お願いします」
友「おい、いつものってなんだよ?」
詐欺師「ああ、私はそんなにお酒に強くありませんので少しウォッカの量を減らしてあるんですよ」
友「はっはあ、そういやお前は弱かったな・・・飲まねーといつまでたっても強くなれないぜ!」
詐欺師「強くても便利かもしれませんが、弱くても便利なんですよ?」
友「ったく、おめーはそういう見方しかできねーからなあ・・・マスター、俺はヘルメスだ」
マスター「はい、少しキツめにしますか?」
友「ったりめーだ、ガツガツしたのが飲みたいぜ」
マスター「お任せください」
詐欺師「そういえばマスター」
マスター「なんでしょう?」シャカシャカ
詐欺師「メスカルっていうお酒がありますよね?ここにあるでしょうか?」
マスター「メスカルですか・・・メスカルというのは竜舌蘭の根を醗酵・蒸留して作られるお酒の総称で、テキーラのことですよ。テキーラというのはメスカルの中でテキーラ村という村で作られたもののことを言います」
詐欺師(あれはテキーラだったのですか・・・飲んだことがあるのにおかしいですね)
マスター「他のメスカルだと竜舌蘭に付く虫がボトルに入ったグサノ・ロホがあります、これですね」ゴトッ
詐欺師「・・・しまってください」
マスター「失礼しました」
62 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /25(木) 23:23:27.38
ID:XBs1J/qu0 友「ところでよ、話したいことがあるとか言ってなかったか?」
詐欺師「ああ、そのことですか・・・」
友「なんだよ、ずいぶんもったいぶるじゃねーか」
詐欺師「いえ、私はこの2日間エジプトにいたのですよ」
友「ハアッ!?エジプトだあ!?」
詐欺師「はい、大仕事を終えた体を癒しに少し旅をしていました。実は昼過ぎに帰ってきたばかりなんですよ」
友「しかしなんでまたエジプトに・・・」
詐欺師「なんとなく、ですかね。特に理由はありませんよ」
友「それで?エジプトはどうだったよ?」
詐欺師「特に衝撃的な事件はありませんでしたね、現地の人間に頼まれて少し仕事をしたくらいでしょうか」
友「お前はエジプトに行ってまで仕事してんのかよ、ホント好きだよな」
詐欺師「好きでやっているわけじゃありませんよ、報酬がもらえるからやっただけです」
友「トラディション巻いてるような奴が報酬とか、やっぱりみみっちいぜ?」
詐欺師「お金はあって困ることはないでしょう?で、そこである一家と出会いました」
友「ある一家?」
詐欺師「そこは村の村長さんの家で、私を歓迎してくれましたよ」
友「おいおい、まさかオチはそれじゃねーだろうな?そんなオチつけやがったら指ツメさせんぞ」
詐欺師「怖いことを言わないでください、それだけじゃないですよ。そこにかわいい娘さんがいたんです」
友「マスター、警察呼んでくれ」
マスター「了解しました」
詐欺師「そこで妙な団結力を発揮しないでください」
マスター「冗談です」
70 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 00:00:02.14
ID:pwkdxaip0 詐欺師「別にそういう意味で言っているわけじゃありません、ただ笑顔をいつも絶やさない子で、今回の仕事にも関係があっただけですよ」
友「そいつはいくつなんだ?」
詐欺師「15歳と言っていましたね」
友「やっぱ警察呼んでくれ」
マスター「これはマズいですね、早く法の下に捌きを受けねばならないようです」
詐欺師「・・・まあいいでしょう。まあ、この話はここで終わりなんですけどね」
友「やっぱ指ツメろお前、オチがついてねーじゃねえか」
詐欺師「ひどいですね、これでも頑張って話したほうなんですが」
友「お前は口八丁で相手を騙す仕事してんだろ?もうちょいがんばれや」
詐欺師「と言われましても、特に面白い出来事もなかったんですよ」
友「しかし、お前の口からガキといえど女の話が出てくるとは・・・まさかそのガキに惚れたのか?」
詐欺師「そんなわけないじゃないですか、ただ・・・こんな幸せそうな顔で笑う人もいるのだと思っただけですよ」
友「確かに、俺たちみたいな世界で生きてると心がすさんじまっていけねーよな。そういう顔を見ると俺も胸が苦しくなるぜ」
詐欺師「おや、友にもそんなことを思える心が残っていたのですね」
友「ひどいぜおまえっ!」
詐欺師「ちょっとした仕返しですよ」クスクス
72 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 00:03:33.41
ID:pwkdxaip0 バタンッ!ドタドタドタッ!!
ボーイ「何だてめえっ!」
???「るせえっ!○○組の友って奴はどいつだぁっ!」
友「やべえな、鉄砲玉だ・・・」ヒソヒソ
詐欺師「どうします?逃げられますか?」ヒソヒソ
友「無理だろ、この店には裏口もねーんだよ」ヒソヒソ
ボーイ「ここを○○組のシマって分かってんのかっ!」
鉄砲玉「黙ってろっつってんだろっ!」バーン
ボーイ「ぐがっ・・・げふっ・・・」バタリ
友「てめえっ!ウチのに何しやがんだこらあっ!」バンバン
詐欺師「うわっ!こんなとこで・・・」
マスター「詐欺師さん、こちらに」スッ
詐欺師「カウンターって弾に当たっても大丈夫なんですか?」
マスター「ご心配なく、装甲版を中に入れてありますから」ニコッ
詐欺師(実はこのマスターが一番強いのではないでしょうか・・・)
バンッ!バンバンッ! ・・・・・
マスター「終わったようですね」ゴソッ
詐欺師「ええ、こんなことがよくあるんですか?」ゴソゴソ
マスター「最近はおとなしかったんですが、久しぶりのことですよ」
友「おお、無事か詐欺師」
詐欺師「まあなんとかなってますよ、ところで鉄砲玉の方は?」
友「ああ、こいつか?」グリッ
73 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 00:05:15.83
ID:pwkdxaip0 鉄砲玉「うぐっ・・・は、放せっ・・・!」
友「ああっ!?てめえウチの殺(ヤ)っといて何ほざいてんだよっ!ああっ!?」
鉄砲玉「何も喋らねえぞ・・・げふっ・・・」
友「そうかいそうかい・・・ほんなら死ねやコラ」バンッ
詐欺師「っ・・・ふう、この光景は何度見ても慣れませんね」
友「しかしヤベえな、こんなところで撃ち合いしちまったらすぐにサツ来ちまうぜ」
マスター「早くお逃げになってください若、後は私にお任せを」
友「悪いなっ!ほらっ、早く行くぜ」
詐欺師「わ、わかりました・・・ご馳走様でした」
マスター「またいらっしゃってください」
友「ああそうだ」ピタッ
詐欺師「っ!?」ドンッ
詐欺師「ちょっと、いきなり止まらないでくださいよ」
友「ああ、わりいわりい・・・んで、マスター」
マスター「なんでしょう?早くお逃げにならないと時間が」
友「わかってるよ、ボーイの葬儀はしっかりな。俺をかばってくれたんだから」
マスター「わかりました、確実に手配します」
友「んじゃっ!」
バタバタバタ・・・
74 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 00:06:39.67
ID:pwkdxaip0 ─詐欺師のマンション
友「ふう・・・さすがにこの寒い中でもマラソンすると汗かくんだな」
詐欺師「ぜっ・・・ぜっ・・・友みたいに運動が得意ならいいかもしれませんが、私は日ごろの運動不足がたたって汗どころじゃ・・・ありませんよ・・・ぜえっ・・・」
友「情けないぜオイ」
詐欺師「そんなことを言われましても・・・って、友!血が・・・」
友「ああ、心配すんな。かすり傷だ」
詐欺師「でも一応手当てをしないといけませんよ」
友「心配性だなテメーは、大丈夫だっつの。ここまで送ればもう平気だろ、俺は帰るぜ」
詐欺師「抗争になりそうですか?」
友「わからねーな、ならないように努力はしてみるけどよ」
詐欺師「無茶はしないでくださいね、友は私の唯一と言ってもいい友人なんですから」
友「おうよ、お前も一応しばらくは身を隠せよ?もしかしたら狙われてるかもしれないからな」
詐欺師「わかりました。頑張ってくださいよ、7代目」
友「任せてくれ、お前が救った○○組、俺がツブす訳にはいかねーからな!」ニヤッ
78 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 00:08:31.13
ID:pwkdxaip0 ─友の帰り道 路上
友(ヤベえな・・・意識がはっきりしなくなってきやがった・・・)ヨロヨロ
友(これは死ぬだろうな、多分・・・まあアイツが怪我しなかっただけでも良しとするか)ドサッ
友(アイツは何度も俺を助けてくれたからな、こんなどうしようもないロクデナシの俺を・・・そういや俺がオヤジに日本刀で切られそうになったときも体張って止めてくれたっけか)ズル・・・ズル・・・
友(ったく、普段は口ばっかのクセしやがって、そういうときだけ漢見せやがんだよなアイツは・・・)
友(そういやエジプトでガキに会ったって言ってたな、まあそのガキはねえだろうけど、アイツにもいつか好きになる女ができるといいよな)ハア・・・ハア・・・
友(くっそ、せっかく○○組を救ってくれたってのに・・・ロクに恩返しもできずに死んじまうのかよチクショー!)ドンッ!
友(へへっ、俺らしくもねえか。アイツを守れたことでちょっとは恩返しできたかもしれねえしな・・・わりいな詐欺師、ちっとばかし・・・先に・・・逝く・・・ぜ・・・・・・・)
─詐欺師のマンション
詐欺師(・・・?)
詐欺師(何か嫌な予感がします・・・まさか・・・いや、そんなはずはありませんよね、任せてくれって言ってましたから)
詐欺師(あっちの世界に行きましょう、あそこなら誰も追ってはこれないでしょうから)
詐欺師「我が天幕へ!」
シュンッ!─
85 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 00:16:22.73
ID:pwkdxaip0 ─領主亭
詐欺師「とっ・・・ととっ!」トンッ
詐欺師(さすがに2回目となると着地もうまくなるものですね)
領主「詐欺師殿っ!」
詐欺師「帰ってまいりました、ちょっと不測の事態がありまして予想外に早く戻ってきてしまいましたよ」
領主「早い?3日と言っていたではないですか!1ヶ月も何をしていらっしゃったのですか!?」
詐欺師「は・・・?1ヶ月ですか?私が戻っていたのは一日経つか経たないかほどですが・・・」
領主「いえ、確かに1ヶ月経っていますよ・・・」
詐欺師(もしかしてここの世界と私の世界とでは時間の流れるスピードが違うのでしょうか?)
領主「あなたがもっと早く帰ってきていれば・・・ううっ・・・」ポロポロ
詐欺師「何があったのです?そういえば、囚姫はどこに・・・もう昼過ぎみたいですし起きていないわけではないでしょう?」
領主「囚姫は王宮に連れて行かれました・・・国王の妃候補として」
詐欺師「なんですって!?」
領主「今から半月ほど前、国王の視察がバルバット全土で行われました。とうぜんハンバル領にも来たのですが、そこで娘に目をつけた国王は半ばムリヤリに連れて行ってしまったのです」
詐欺師「止めなかったのですか?」
領主「止めましたよ!でも国王はお聞きにならず・・・私は側近の兵に殴られて気絶していました。気が付いたときにはもう・・・」グスッ
詐欺師「なんという・・・それが王たる人間の行いですか・・・」
領主「詐欺師殿・・・報酬はいくらでもお支払いする、何でも言うことを聞く・・・どうか娘をお助けください!私の力ではもう・・・」
詐欺師「報酬はいりません、助けます」
100 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:35:29.04
ID:pwkdxaip0 領主「え・・・?」
詐欺師「これは仕事として請け負えない、私の個人的な理由で・・・囚姫を助けたいから助けます」
領主「本当に・・・なんとお礼を申してよいやら」
詐欺師「今から3ヶ月時間をいただきます」
領主「3ヶ月・・・3ヶ月も娘を王宮に閉じ込めておくつもりですかっ!娘は今でも怖い思いをしているんですよ?
あなたは娘が心配ではないのですか、だから助けると言ってくれたのではないのですかっ!?」ガクガク
詐欺師「心配じゃないわけないでしょうっ!!」
領主「・・・っ!」
詐欺師「・・・すみません、取り乱しました」
領主「え、ええ・・・」
詐欺師「私だって心配です、本当なら今にでも飛んで行ってあげたい。あの太陽のような笑顔が涙で
濡れていると思うといてもたってもいられません・・・ですが、確実に助けなければいけないからこそ、入念な準備が必要です。さきほど妃候補と言っていましたね?今すぐというわけではないのでしょう?」
102 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:37:18.40
ID:pwkdxaip0 領主「はい、ちょうど3ヶ月後に開かれるパーティーで本妻を発表するとお触れがありました・・・」
詐欺師「今は、今だけは我慢の時です。必ず助けます、信用してください」グッ
領主「わかりました、詐欺師殿には今までも助けていただいた・・・今度もきっと助けてくださると信じます」
詐欺師「ありがとうございます。ついては、領主様にもやっていただきたいことがある」
領主「私にできることであればこの命をかけましても」
詐欺師「・・・・・・(ボソボソ)ということです、大丈夫でしょうか?」
領主「わかりました、詐欺師殿が帰ってくるまでに必ずや」
詐欺師「では、時間が惜しいので私は出ます」
領主「何をなさるおつもりですか?」
詐欺師「詳しくは言えませんが・・・そうですね、ちょっと国を動かしてきます」ニヤッ
─数日後 バルバットの隣国 鋼の国
詐欺師(ここからですね・・・これから2ヶ月で5カ国の説得ですか、1カ国約12日・・・移動時間を省けば約8日といったところですか。今までに無いタイトなスケジュールですが、やるしかありませんね)
103 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:38:58.52
ID:pwkdxaip0 詐欺師「すみません」
城兵「なんだ?」
詐欺師「先ほど将軍様より城に出向くようにと申し付けられたのですが・・・ここから入っていいのでしょうか?」
城兵「将軍様から?ああ、ボディチェックが済んだら入っていいぞ。4階まで上がって一番奥の右の部屋だ」
詐欺師「ありがとうございます」
詐欺師(やはり、戦いに重きを置く国は自国の強さの自負からか警備体制にスキがある。自分だけは大丈夫と思い込むくせがありますね)
─将軍の部屋
コンコンッ
将軍「入れ」
詐欺師「失礼致します」ギイッ
将軍「誰だお前は」チャキンッ!
詐欺師「突然の訪問申し訳ありません、私はバルバット王国の使者、詐欺師と申します」
将軍「バルバットだと・・・?あそこはどの国とも交流を持たないはずだが」
詐欺師「現国王様のご意見はその通りです、しかし私は新国王のご命令によりここに参りました」
将軍「新国王・・・バルバットは国王が代わったのか?」
詐欺師「いえ、今のところは・・・」
将軍「ふふっ、今のところか・・・ボディチェックは受けただろうな?」
詐欺師「将軍様に呼ばれたと言ったらボディチェックだけで通していただけましたよ」
将軍「がっはっは!忍び込んだと言うのだそれは!しかしそれを俺の前で堂々と言ってのける度胸が気に入った!まあ座れ、茶でも出させる」
104 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:41:09.55
ID:pwkdxaip0 詐欺師「恐れ入ります」
将軍「して、ここまでして俺に話したいことがあるのだろうな?」
詐欺師「もちろんでございます、私が今から話すこと・・・ある意味交渉ですが、お聞きいただきたい」
将軍「ほお、交渉か。俺は学は持たぬが、それでもいいかな?」
詐欺師「決して馬鹿にするわけではありませんが、誰にでも分かる・・・そう、明らかに双方に得がある交渉ですよ」ニヤリ
・・・・・・・・・
将軍「わかった、俺の国はその計画に賛同しよう。断る理由が見当たらないからな」
詐欺師「ありがとうございます、予想以上に早く話がまとまって助かりました。これから残りの4カ国を回らなければいけないので」
将軍「そうか、兵に町の外まで送らせる。また3ヶ月後に会おうぞ」
詐欺師「では、これで失礼いたします」ペコリ
─鋼の国 城門の外
詐欺師(これで1つ制覇ですね・・・あと4カ国、急ぎましょう。時間が惜しい)
ざくっ・・・ざくっ・・・ざくっ・・・
105 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:43:25.16
ID:pwkdxaip0 ─2ヵ月後 泉の国
流水女王「協議の結果が出ましたわ、私たち泉の国は詐欺師様の仰る計画に全会一致で賛同の意を表明いたします」
詐欺師「ありがとうございます」ペコッ
流水女王「随分とお待たせしてしまったわね、時間がないというのに申し訳ないわ」
詐欺師「いえ、ギリギリで間に合いましたので問題ありません」
流水女王「これは私たち泉の国にも、近隣諸国にも平等に益があるお話、詐欺師様が持ちかけて下さらなければ今までの治世のまま崩壊していたでしょう」
詐欺師「私の国ではそういった状態で崩壊した国がありました、ここをそうさせるのは心が痛んだもので・・・」
流水女王「あなたの話す理想は夢のようなお話ですが、実現すれば素晴らしい世界になるでしょうね」
詐欺師「実現させます、どんな手を使ってでも」
流水女王「あなたは何故そこまでしてこの理想を追っているのですか?他の4国を説得するのも大変な労力を要したでしょうに」
詐欺師「お恥ずかしい話ですが・・・私が大変恩を受けた方の娘が現国王によって囚われました。いえ、バルバットから見れば囚われてはいないのでしょう。
むしろ選んでやったのだから感謝しろ・・・とさえ言われかねない。
ですが、私はそれが許せないのです、あの子には笑顔を絶やさずにいてほしい・・・たった一人の女の子のために、私は動いているのです」
流水女王「ふふふ、あなたはその姫君を好いているのですね?」
詐欺師「いえ、そういうわけでは・・・恩を受けた方の娘ですので・・・」
流水女王「ただ恩を受けただけ・・・では人はここまで動けるものではありませんよ。今は気づかずとも、いずれ自分の気持ちに気づくときが来ますわ。そのときのために、今は自分の心に蓋をしないであげて下さい」
106 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:45:06.41
ID:pwkdxaip0 詐欺師(・・・まさか、私はあの子のことが・・・?)
流水女王「さあ、まだ準備が残っているのでしょう?早く行かなければいけないのではありませんか?」ニコニコ
詐欺師「はい、それではこれで失礼いたします」ペコリ
・・・・・・・・・
流水女王(いつか、きっと気が付くでしょう・・・その姫君の話をするあなたは、他のどんな話をしているときよりも優しい笑顔をしているんですよ?仮面に貼り付けた笑顔ではない、本物の笑顔を)
─ハンバル領 領主亭
詐欺師「ただいま戻りました」
領主「詐欺師殿!首尾はいかがですか?」
詐欺師「なんとか近隣5カ国の説得は完了しました、かなりギリギリになってしまいましたが。そちらはどうですか?」
領主「一応人数は揃いました、ですがやはり急揃え、使えるかと言われるとちょっと・・・」
詐欺師「構いません、ハリボテは外見だけでいいのですよ」
領主「そうですか・・・不安ではありますが、信じると決めたので、信じます」
詐欺師「はははっ、そこまで信用されると裏切るわけにはいきませんね」
領主「初めてですね・・・」
詐欺師「はい?」
領主「私と話しているときに笑ってくださったのは・・・初めてです」
詐欺師「そ、そうですか・・・無愛想で申し訳ない」
領主「お気になさらないでください、すこし驚いただけですから」ニヤニヤ
詐欺師「で、では・・・最後の準備を整えに一度私は戻ります。帰りは1ヵ月後、今度は必ず約束の時に帰ってまいります」
領主「お待ちしております」
詐欺師「では失礼します。『我が天幕へ!』」
─ヒュンッ!
108 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:46:51.27
ID:pwkdxaip0 ─詐欺師のマンション
詐欺師「よっ・・・」トンッ
詐欺師(これからが本当の時間との戦いです。制限時間は24時間、少しでも無駄があれば間に合わなくなる・・・急ぎましょう)
─東京 とある高級洋服店
店員「いらっしゃいませ」
詐欺師「スーツが欲しいのですが、黒でスリムなタイプをワイシャツと靴下と革靴をセットにしていただけますか?」
店員「・・・かしこまりました、ではこちらなどいかがでしょう?こちらにこの靴下と革靴をお付けすればご要望に沿えるかと思いますが」
詐欺師「ふむ、形も悪くないですね、生地もいい物を使っている」
店員「恐れ入ります」
詐欺師「ではこれをサイズをバラバラに100セットお願いします」
店員「っ!?ひゃ、ひゃくせっとですかっ!?」
詐欺師「至急必要なのです、すぐに準備して私の家まで運んでいただけますか?」
店員「100セットとなりますと・・・本店の倉庫まで取りに行かなければならないため1日ほどお時間を・・・」
詐欺師「そうですか・・・それなら他を当たります」
店員(100セット・・・本当に買ってくれるならすごい儲けになる・・・)
109 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:48:32.51
ID:pwkdxaip0 店員「お待ちくださいお客さま!」
詐欺師「なんでしょう?時間が惜しいのですが・・・」
店員「なんとか4時間でお届けいたします、それでもダメでしょうか?」
詐欺師「4時間・・・それならいいでしょう、支払いはこちらで」スッ
店員(○○会社のプラチナカードっ!?ハリウッドセレブでさえも持っている人間は少ないという・・・)
詐欺師「時間が惜しいのです、早くお願いします」
店員「申し訳ありませんっ!お預かりいたします」
店員「では14時までにご自宅に配送させていただきます」
詐欺師「よろしくお願いいたします、では私はこれで」
店員(何者なんだろう?大会社の御曹司か・・・?)
─刀店
詐欺師「すみません、日本刀を買い付けたいのですが」
店主「免許見せてくんな、免許がないヤツには売らねえよ」
詐欺師「免許はあいにく持っていないのですが、この方から買って来いと申し付けられました」スッ
店主「あ?名刺・・・っ!!」
詐欺師「これでも駄目でしょうか?」
店主(○○組若頭、友だとっ!?)
詐欺師「どうでしょう?」
110 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 06:50:22.89
ID:pwkdxaip0 店主「こ、これは失礼をいたしましたっ!いかほど御入用で?」ペコペコ
詐欺師「銘も値段も問いませんので白鞘を100本、杖型の仕込刀を1本お願いします」
店主「100本ですって?戦争でもするんですかいっ!?」
詐欺師「私には詳しいことはわかりません、用意できますでしょうか?」
店主「へえっ!ご用意させていただきます」
詐欺師「では支払いはこれで、夕方までに自宅に届けてください」
店主「かしこまりました、必ずお届けさせていただきます」
詐欺師「よろしくお願いいたします」
店主(○○組若頭・・・友といやあの6代目の息子じゃねえか、そんなヤツと知り合いなんて・・・若けえのにすげえヤツだぜ)
─商店街 路上
詐欺師(さて、これで大体の準備は整いましたね。あと買うものといえば・・・)
詐欺師(そういえば、囚姫は装飾品を身に着けていませんね・・・あの年頃といえば指輪やネックレスの1つでも着けたいでしょうに)
詐欺師(時間も余ったことですし、買って行きますか)
─宝石店
女店員「いらっしゃいませ」
詐欺師「指輪が欲しいのですが、あまり派手すぎない普段着けていられるような物を見繕っていただけますか?」
女店員「そうですね・・・それでしたらこちらなど石も小さめで落ち着いた印象かと思いますが」
詐欺師(私は指輪のデザインの良し悪しなどわかりませんから・・・ここは店員さんに任せるのがいいでしょうね)
詐欺師「ではこれで、サイズがわからないのですが、大体の目安になるものはありますか?」
女店員「でしたらこちらを、大体の指の太さを模した棒でございます」
詐欺師(これは少し大きいですね、これは小さすぎ・・・あの時ダンスで手を握っていて良かったかもしれません)
112 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:00:02.44
ID:pwkdxaip0 女店員「いかがでしょう?」
詐欺師「この辺りだと思うのですが・・・」
女店員「12号から14号ですか・・・かなり手の小さい方なんですね」
詐欺師「ええ、細い子なので・・・詳細がわからないのでこの3つのサイズをお願いします」
女店員「お買い上げですか!?」
詐欺師「はい、支払いはカードでお願いします」スッ
女店員「か、かしこまりました。お預かりいたします」
・・・・・・・・
女店員「ではこちらが商品になります」
詐欺師「お手数をおかけいたしました、失礼いたします」
女店員「お買い上げありがとうございました」
女店員(お金持ちだし・・・顔もいいし・・・素敵な人・・・)
─商店街 路上
詐欺師(さて、これで手土産もできたことです・・・マンションに戻って荷物の到着を待ちますか)
詐欺師(ん?あれは・・・本屋ですか・・・)
詐欺師「ちょっと・・・寄って行きましょうか」ボソッ
115 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:04:19.81
ID:pwkdxaip0 ─数時間後 詐欺師のマンション
配達員「ご注文の品お届けにあがりましたー!」
詐欺師「ご苦労様です、中の部屋まで運んでもらえますか?」
配達員「わっかりましたー!でもこんなにたくさんの荷物初めて運んだっすよ、何が入ってるんすか?」
詐欺師「・・・聞かないほうが、身のためだと思いますよ?」ニヤリ
配達員「は、はい・・・奥の部屋でいいんすよね?」
詐欺師「よろしくお願いします」
配達員「ありがとうございましたっ」バタン
詐欺師「さて、これで準備は整いましたね・・・手が離れないようにロープで全て結び付けて・・・と」
詐欺師(私の予想が正しければ身に着けているものは一緒に送られるはずです)
詐欺師(行きましょう・・・最後の大舞台に)
詐欺師「我が天幕へ!」
─シュンッ!
116 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:06:48.05
ID:pwkdxaip0 ガッシャーン!!ゴロゴロゴロ・・・
詐欺師「いてててて・・・」ヨロヨロ
領主「詐欺師殿っ!?どうなされたんですか!」
詐欺師「いえ、持って来る物が多すぎてバランスが・・・さすがに欲張りすぎでしたかね?」
領主「これは・・・?」
詐欺師「ちょっとした小道具ですよ」
領主「これは衣装ですか・・・こっちは武器」
詐欺師「はい、これを集めていただいた100人に配ってください。あとは私のお話した通りにお願いします」
領主「わかりました、もうすでに皆に話はしてありますので大丈夫です」
詐欺師「助かります、では私は王宮に向かいますね。約束の時刻まであと4時間と少し・・・急がなければなりません」
領主「どうか・・・どうか娘をお願いします!」ペコッ
詐欺師「お任せください、一世一代の大芝居の幕、上げさせていただきますよ」ニヤッ
最終章 Rescue and Last Night.(救出、そして最後の夜へ)
─バルバット王国 王宮
詐欺師(ここですね、到着までに時間を食いました・・・あと1時間もありませんか)
詐欺師(ここで失敗すれば全てが水の泡・・・今まで受けてきたどんな危険な仕事よりも怖いですね。なぜでしょうか?)
詐欺師(でも、立ち止まるわけにはいきません。いざ・・・)
119 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:08:40.11
ID:pwkdxaip0 ─王宮 玉座の間
詐欺師「お初お目にかかります、詐欺師と申します。国王様におかれましてはご機嫌麗しゅう」
国王「面を上げよ、詐欺師とやら」ブルッ
詐欺師「はい・・・」
詐欺師(これが・・・人間ですか?醜く太って・・・これでは太らせた豚のほうがまだスリムですよ・・・)
国王「して、何用じゃ・・・我に謁見願うと申すから通したが、知っての通り我は妻を決めるパーティーの準備をせねばならんのだ、愚民の相手をしているヒマなどないぞ、ぶひゃっひゃっ!」
詐欺師「そのような中、私ごときに謁見を許していただきまことに感謝いたしております」
国王「そのような世辞は良いわっ!さっさと用件を申さぬか、切り捨てるぞっ!」
詐欺師「申し訳ございません、それでは率直に申し上げてよろしいでしょうか?」
国王「早く申せ」
詐欺師「その本妻をお決めになる候補の中に、私の恩を受けた方の娘が入っております」
国王「それがどうしたと言うのじゃ」
詐欺師「私としても国王様の幸せを願って止まないのですが・・・願わくばその娘を候補から外すことはできませんでしょうか?」
国王「キサマッ・・・国王の妻候補を奪おうと申すかっ!無礼者がっ!!」ワナワナ
詐欺師「いえ、そのようなことは申し上げません・・・国王様の妻候補を奪おうなどと恐れ多い」
詐欺師「ですが、願わくば平和的な形で、そうですね・・・恩情ということで候補から外していただけませんか?」
国王「恩情・・・だと?我の妻になるのが嫌だと申すのかっ!!」ブルブル
詐欺師「恐らくは・・・本人は望んでいないかと」
国王「ふ、ふふっ・・・ふあっはっはっはっ!!!」
120 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:11:16.07
ID:pwkdxaip0 詐欺師「何がおかしいのですか?国王様」
国王「キサマはやはりうわさ通りの男よの、詐欺師」
詐欺師「噂ですか・・・何のお話でしょうか?私には覚えがないのですが」
国王「誤魔化しても無駄じゃっ!人さらい共から話は聞いておる。うまく騙して奴隷を巻き上げたモノじゃ」
詐欺師「そうですか・・・そのことがお耳に入っているとは思いませんでした」
国王「人さらい共が何とかしてくれと泣きついてきおったのじゃ、契約書も交わしたというのに全く頭の足りない連中は困る」
詐欺師「・・・」
国王「キサマはどうせその娘とやらを取り戻せば金が入るのであろう?そんな詐欺師の言うことなんぞ一片足りとも信用ならぬわっ!」
詐欺師「では・・・私は今から国王様を騙させていただきたいと思います」
国王「くくっ、どうやらキサマもあの人さらい共と同じように頭の足りない人間らしいの」
詐欺師「一応・・・ですが、やってみる価値はあると思いますので」
国王「ふんっ、キサマの言うことは信用せんわっ!やれるものならやってみるがいい、その代わり・・・その与太話が終わったら生きて帰れると思うなよ?」ゲゲゲッ
詐欺師「結構です」
詐欺師(さて、ここからですね・・・ここからが本番です)
121 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:14:15.55
ID:pwkdxaip0 詐欺師「私はその娘を取り戻すためにこの3ヶ月努力してまいりました」
国王「無駄な努力だったな」ゲラゲラ
詐欺師「そして、バルバットを取り囲む5カ国に協力を要請して回りました、すべてはバルバット王国以外の国の結束を高めるため」
詐欺師「2ヶ月かかりましたが、結果的に全ての国が私の計画に賛同し、来るべき時に5カ国同盟を設立することを約束していただきました」
国王「かかかっ!ヤケになって大嘘に走ったか、もう少しマシな嘘をつかぬか・・・くくっ」
詐欺師「もう1つ、5つの国に約束していただいたことがあります」
国王「なんじゃ?」クスクス
詐欺師「バルバット王国の奴隷制度・・・これはひどいものです。国民はいつ自分が奴隷になるかもしれないという恐怖に怯え、人さらいはいきなり現れては根こそぎ人間を狩って去ってゆく」
詐欺師「そして何より問題なのが、その制度を国王が認めているということです。人道的観念からしてこれは人間社会で到底許されるべきことではない」
国王「我がバルバットは他の国と交流を断っているのだ、どこの馬の骨とも知れん連中に干渉される筋合いはないわ!」
詐欺師「そしてこれが約束の内容ですが・・・来るべき時、5カ国同盟が結成された瞬間にある決議を採択していただけるように約束したのです・・・内容は、『バルバット現国王の即時退位と、バルバット王国全土における奴隷制度の廃止』」
123 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:16:35.95
ID:pwkdxaip0 国王「ぶあっはっはっはっはっ!!!!」バタバタ
詐欺師「どうかなされましたか?」
国王「キサマには感心したわっ!よくもそのような馬鹿馬鹿しい話を大真面目な顔で話せるものだ・・・ぐふふふふっ」
国王「我の即時退位だと!?馬鹿馬鹿しくて笑うしかできんっ!我はこの国の国王、この国の頂点!誰が我に命令できる?誰が我をひきずり降ろせるというのだっ!」ダンッ
詐欺師「誰が?そんなもの決まっていますよ・・・私がです」
国王「・・・ふふっ・・・与太話はそこまでか?」
詐欺師「ああ、もう1つ言い忘れていたことがありました」
国王「遺言か?聞いてやろう」
詐欺師「私は詐欺師です、詐欺師とは人を騙して金品を巻き上げる職、決して人に誇れるようなものではありません」
詐欺師「ですが国王様は勘違いなさっている」
国王「我が何を勘違いしているというのだっ!」
詐欺師「詐欺師とは、嘘を付く者のことを指すのではなく・・・人の心を騙す者のことを言うのですよ」
詐欺師「例えその話が全て真実であったとしても、相手の心を騙し、自分の思う方向に話を持っていければ、それは立派な『詐欺師』なのですよ」ニヤリ
124 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:20:07.52
ID:pwkdxaip0 国王「もうよい、キサマの与太は聞き飽きた。殺してしまえ」
近衛「ハッ!」シャキンッ!
詐欺師(将軍はまだ来ないのですか・・・仕方ありませんね)
近衛「覚悟っ!」
詐欺師「ふっ!!」スパッッ!
近衛「な・・・なん、だとっ!?」ガシャン
国王「タルワールを・・・切っただと・・・っ!?」
詐欺師「この国の製鉄技術はまだ低いようですね、日本の、いえ世界の刃物の頂点『刀』の前では無力なものです」
国王「キサマ・・・何者だっ!」ブルブル
詐欺師「今はもう亡くなってしまったのですが、私の父は剣術の達人でしてね、今のは抜刀術という剣術の1つです。それに、私は仕事でヤクザといわれる方々と付き合いがありまして・・・その方々は親のためなら命なんて簡単に捨てられる連中です」
詐欺師「対面を大切にしますから誰よりも強く見せようとする、そんな本職の『筋者』に鍛えられた私は、こんなところでは死にませんよ?」
国王「愚民風情が生意気なっ・・・出会え!国王を暗殺しようとするくせ者だっ!出会ええっ!!」
ガシャン・・・ドカッ!
ギイイイイ・・・・
将軍「それには及ばないぜ!」ドシャ
流水女王「突然の来訪お詫びいたしますわバルバット国王殿」スッ
国王「我の近衛を・・・キサマら・・・何者だっ!?」
将軍「5カ国同盟が槍、鋼の国より参った、将軍だ」
流水女王「5カ国同盟が癒し、泉の国より参りました、流水女王と申しますわ。以後お見知りおきを」
127 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:21:57.05
ID:pwkdxaip0 国王「まさか・・・まさか・・・!!」
詐欺師「お気づきになられましたか?そうです、今までの話、全て時間稼ぎのためのもの」
国王「キサマぁっ!!謀ったな!!!」ドンッ
詐欺師「言ったでしょう?話が真実であろうと相手の心を騙せば詐欺師だと・・・」
「ぐっ・・・」
将軍「詐欺師、待たせたな!ガハハ」
詐欺師「本当に死ぬかと思いましたよ・・・刀での切り合いなんて何年もしてませんから、もう少し遅くなっていたらどうなっていたことか・・・」
流水女王「お怪我がないようで何よりです」
詐欺師「お気遣いありがとうございます」
将軍「さて、本題に戻るとしよう。バルバット国王!」バッ
国王「な、なんじゃ!?」ビクッ
将軍「お前をこのバルバット王国の王の座より退位してもらうことにした」
国王「キ、キサマらに勝手に決められる筋合いは無いっ!」
将軍「なんだあ?俺様の言うことに従えないってのか!!」
詐欺師「ちょっと・・・それは・・・」
流水女王「私が代わりましょう、将軍様は少し下がっていてくださいますか?」
将軍「チッ・・・仕方ねえな」スゴスゴ
128 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 07:24:05.16
ID:pwkdxaip0 流水女王「さて、バルバット国王様・・・我々、泉の国、鋼の国、海辺の国、緑園の国、火の国の5カ国は
あなたのバルバット王国政権での情勢の悪化・・・端的に言えば奴隷制度に対して大きな懸念を抱いています」
流水女王「そして、5カ国同盟が結成された今、我々はこのバルバット王国の長に退位していただくことにいたしました」
国王「そんな勝手があるか!我の国に・・・」
流水女王「命の保障はいたします、ですが・・・抵抗があるようであれば武力行使も辞さない構えであることをご理解いただきたいですわ。奴隷制度で国民が疲弊しているバルバットが、
鋼の国を筆頭とする5カ国に戦争で勝利するなど・・・後は言わなくてもわかりますわよね?」ニコニコ
将軍「おうよ!俺たちは戦闘民族だ、お前らなんか1日と持たずに皆殺しにしてやらあ!」
国王「・・・・・・・・」
詐欺師「年貢の納め時、ってやつですね。国王様・・・いえ、元国王様?」
将軍「連れて行け」
鋼兵「はっ!!」
・・・・・・・・・
詐欺師「終わりましたね・・・随分と長かったですが、どうにか無事に治めることができました」
将軍「しかしお前も大したもんだぜ!普通はたった2ヶ月で5つの国をまとめようなんて思わねえもんだぜ?しかも新国王だなんて俺まで騙しやがって!」グリグリ
詐欺師「痛いですよ・・・ただひたすらに必死でしたからね」
将軍「バルバットの広大な土地はまだまだ開発の余地が残っている、それを餌に俺たちをうまく釣りやがったからな、がっはっは!」
137 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:05:29.04
ID:pwkdxaip0 流水女王「しかも我々の持つ特産物を相互交換してバルバットを含む6カ国全体での利益を追求する・・・今まで考え付いても誰もやろうとしなかったことですわ」
詐欺師「それぞれに得意な分野があるのに協力しないなんて馬鹿らしい話です、例えば鋼の国には強い兵士が沢山いるのに武器の生産は不得意」
将軍「恥ずかしい話だがその通りだ」
詐欺師「そして火の国は武器の製造が得意だが水が足りず、その能力を存分に発揮できない」
詐欺師「泉の国は水と食料は沢山あるがそれを外敵から守る武力が圧倒的に不足している」
流水女王「我々の民は争いごとを好みませんから・・・」
詐欺師「お互いに補い合える場所があるというのに、この5カ国は今まで協調性を持たなかった。これはとてももったいないことです」
将軍「お前に言われるまで気づかなかった俺も馬鹿だったがな!」
詐欺師「『詐欺師』は10枚の金貨を餌に100枚の金貨を釣る仕事です。お互いに利益がある、100枚の金貨と100枚の金貨の取引なら失敗するわけがありませんよ」ニヤリ
将軍「はっはっはっ!大した自信じゃないか!ええっ?でもそれでしっかり成功してるんだからやっぱりお前はすげえよなあ!」
流水女王「その通りですわ、たった一人で、しかも2ヶ月という短い期間でここまでの大きな流れを巻き起こすとは・・・驚嘆しますわね」
詐欺師「いえいえ・・・皆様の協力があってこそのことですから」
138 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:07:09.86
ID:pwkdxaip0 詐欺師「さてと、私はこれで失礼いたします。姫君をお迎えに行かなければいけないので」
将軍「おお、今度は酒でも飲みながらゆっくり話そうじゃねえか!」
流水女王「ところで詐欺師殿?」
詐欺師「なんですか?」
流水女王「もう、気づかれましたか?」
詐欺師「・・・わかりません、ですが・・・何かがわかりそうな気がします」
流水女王「そうですか・・・では、いってらっしゃいませ」ニコッ
詐欺師「はい、いってきます」
─パーティー控え室
バタンッ!
詐欺師「囚姫、いますかっ!?」
囚姫「えっ・・・詐欺師・・・さんっ」
詐欺師「良かった、無事でしたね・・・」
囚姫「詐欺師さん・・・詐欺師さんっ詐欺師さんっ詐欺師さんっ!!」ダキッ
詐欺師「本当に良かった・・・何もされませんでしたか?」
囚姫「だい・・・じょ・・・ぶ・・・っ」ぼろぼろ
詐欺師「すみません、準備に手間取ってかなり来るのが遅れてしまいました。申し訳ありません」
囚姫「許さないっ・・・からっ・・・」
141 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:09:27.56
ID:pwkdxaip0 詐欺師「えっ・・・」
囚姫「今度・・・勝手にっ・・・いなくなったら・・・」
囚姫「許さないからっ!」ウエーン
詐欺師「すみません・・・本当に・・・」
候補娘「よかったわねえ、囚姫ちゃん」
囚姫「ありがとうございますっ!」ニコニコ
詐欺師「そうそう、忘れるところでした」
候補娘・囚姫「・・・?」
詐欺師「バルバット国の国王はつい先ほど退位なされました、あなた方は自由の身ですよ」
候補娘「そんな・・・嘘でしょ?」
詐欺師「本当ですよ、嘘だと思うなら部屋から出て見に行ってもかまいません。玉座には誰もいませんから」ニコニコ
候補娘「本当・・・なの?」
詐欺師「ええ」
候補娘「やったああ!!」
詐欺師「ふふ、囚姫を助けようと思っていたのに思わぬ拾い物・・・でしょうか」
─ハンバル領 領主の家
囚姫「お父さんっ!」ダダッ
領主「おお、囚姫!無事だったか!!」ウルウル
囚姫「大丈夫、詐欺師さんが助けてくれたからっ」
領主「本当に・・・何とお礼を申し上げてよいやら・・・」
詐欺師「礼などいりませんよ、今回は私が勝手に助けたことですから」
142 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:10:43.28
ID:pwkdxaip0 詐欺師「それに、まだ終わっていません。これから国王がいなくなったことでこの国は一時期荒れるでしょう。それを集めていただいた100人で制圧します」
領主「しかし・・・やはり広大なバルバット国内・・・たった100人、しかも兵でもない人間だけで抑えきれるものでしょうか?」
詐欺師「この混乱で暴れると思われるのは不利益をこうむる人さらいと国王派の数人だけです。他はおおむねこの革命に賛成でしょうから、100人で十分ですよ」
詐欺師「私が黒い服を用意したのも意味があるからです。私の世k・・・国ではSWATと言われる特殊な訓練を受けた兵隊がいまして、彼らはみんな黒い装備なんですよ、なんでかわかりますか?」
領主「黒い装備・・・すみません、わかりません」
詐欺師「森に隠れるなら緑がいい、街で戦うとしても黒は案外目立つものなのです。では何故か?理由は簡単です、黒服の連中が訓練された動きで近づいてきたら怖いからですよ。見慣れないスーツという服装でも同じことです」
領主「ほう・・・なるほど、理解しました」
詐欺師「この100人の指揮はお任せしていいでしょうか?」
領主「このくらいの仕事はさせていただかないと困りますよ、お任せください」
─数日後 領主の家 リビング
詐欺師「最初の1~2日はさすがに騒ぎがありましたけど、それも落ち着きましたね」
領主「ええ、各領も積極的に協力してくれたお陰です」
詐欺師「あとは・・・バルバット国を含めた6カ国での合衆国設立、これを果たせば少なくとも数百年は問題ないはずですが」
144 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:11:58.29
ID:pwkdxaip0 領主「合衆国・・・ですか、私も話を聞いたときは驚きましたよ」
詐欺師「まだこの世界には無い国の形ですからね、驚かれるのも無理はありませんよ」
領主「でも、まさか私の娘を助けるために国全体を巻き込んで革命を起こすなんてことは考えもしませんでした」
詐欺師「ははは、腐っても国が相手ですからね。ならばこっちも国を味方に付けるしかないという安易な考えでした」
領主「それを現実にやってしまうところがあなたの恐ろしいところだ」ハハハ
詐欺師「恐れ入ります」クスクス
囚姫「ねえねえっ!難しい話してないで遊ぼうよっ」グイッ
詐欺師「おっと、そうですね。では領主様、失礼します」
領主「ああ、気をつけてな」
囚姫「はーいっ」
145 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:14:34.27
ID:pwkdxaip0 ─最後の夜 領主亭 6月25日
詐欺師「・・・ということです、そろそろ」
領主「そうですか・・・名残惜しいですが仕方がありませんね」
詐欺師「ええ・・・私としてもここは離れたくないのですが」
領主「詐欺師殿には並々ならぬ恩がある、どうにかして返したいのですが、何も上手い手が思いつきません・・・」
詐欺師「いえ、私こそ楽しい時間を過ごさせていただきました。感謝していますよ」
囚姫「んー?なんのおはなしー?」ゴシゴシ
領主「起きてしまったか」
詐欺師「・・・私は帰らなくてはいけません、国に戻るんですよ」
囚姫「えっ?」パチクリ
詐欺師「すみません、ここにずっといることはできないもので・・・」
囚姫「戻ってくるよね・・・?」
詐欺師「多分・・・もう戻っては来ません・・・」
囚姫「やだっ!」ダンッ
領主「わがままを言うんじゃないよ、囚姫」
囚姫「やだっ・・・もういなくならないって言ったもんっ・・・いなくなったら許さないって言ったもんっ!」ダダダッ
領主「囚姫っ!」
詐欺師「やはり・・・怒られてしまいましたね」
領主「娘には私から言っておきますよ・・・出発はいつですか?」
詐欺師「明日の晩には出ます。囚姫に飛ぶ姿を見られるわけにはいかないので、歩いて少し遠くまで行ってから飛ぶとこになりますが」
領主「そんなに急に・・・仕方ありませんね、事情がおありなら」
詐欺師「スーツと刀はそのまま置いていきます、何に役立つかわかりませんが、お使いください」
領主「では、明日の晩は豪華な料理を用意しましょう」
詐欺師「お気遣い痛み入ります・・・」
146 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:15:52.09
ID:pwkdxaip0 ・・・・・・・・・
詐欺師「結局、囚姫は一度も顔を出してくれませんでしたね・・・」
領主「すみません・・・ちゃんと顔を出してお見送りするようにと言ったのですが、どうしても行きたくないと・・・」
詐欺師「仕方ありませんよ・・・約束を破ることになってしまったのですから」
領主「あの子が後悔しなければいいのですが・・・」
詐欺師「領主様、これを囚姫に渡しておいていただけますか?」スッ
領主「これは?」
詐欺師「私の世界で絵本というものです、絵物語ですね。囚姫にプレゼントしようと思っていたのですが・・・チャンスを失ってしまったようですから」フッ
領主「わかりました、渡しておきましょう」
詐欺師「よろしくお願いします・・・では、私はそろそろ・・・長い間、お世話になりました」サクッ
領主「はい、どうかお気をつけて・・・こちらこそお世話になりましたっ!」ペコッ
サクッ・・・サクッ・・・サクッ・・・
148 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:17:32.11
ID:pwkdxaip0 バンッ!!
囚姫「詐欺師さんっ!」
詐欺師「っ!?」ビクッ
領主「これっ!」
囚姫「行っちゃやだっ!行かないでっ!!」バタバタ
領主「引き止めてはいけないよっ!」グッ
囚姫「お願い!行かないでっ!いなくなったら許さないって言ったじゃないっ」ポロッ・・・
囚姫「行かないでよお・・・私を置いて行かないで・・・」ポロポロ
囚姫「おね・・・がい・・・っ・・・戻って・・・きて・・・よおっ!」ガクッ
詐欺師(振り向くわけにはいきません・・・私のためにも・・・囚姫のためにも・・・)ポロポロ
囚姫「詐欺師さんっ!!!
149 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 09:18:43.85
ID:pwkdxaip0 ・・・・・・・・・
─砂の共和国伝記より抜粋─
満天の星空が照らす砂漠の国で、とある男が革命を起こした。
その男は国を揺るがし、革命を先導しながら、誰に知られることも無く消えていったと伝えられている。
この男を知るものは誰しもがこう言う。
「まるで別世界の人間のようだった」と・・・。
男がどこに消えたか、誰も知らない。
もし知っている者がいるとしても、きっとその思い出を心の奥にしまって、そして今を大切に生きていることだろう。
最終章 ~完~
176 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:50:03.75
ID:pwkdxaip0 ─ Is this a true ending? ─
─ No, it is different. ─
─ Let's live at a true ending! ─
177 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:51:06.82
ID:pwkdxaip0 ─エピローグ Curtain Call.(カーテンコール)
─詐欺師が帰ってから数日後 ?月?日
囚姫「・・・」
囚姫(詐欺師さん・・・どうして行っちゃったの・・・?)グスッ
囚姫(もういなくならないって言ってくれたのに・・・どうして・・・)ポロポロ
カサッ・・・
囚姫「ん?」
囚姫(これって・・・詐欺師さんがお父さんに渡したっていう本・・・)
囚姫(見てみようかな・・・)ガサガサ
囚姫(絵物語・・・かな?)
178 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:51:59.03
ID:pwkdxaip0 【おりひめとひこぼし】
むかしむかし、そらのかみさまにおりひめというむすめがおりました。
おりひめはとてもはたをおるのがじょうずで、まいにちはたをおっておりました。
そらのかみさまはとしごろになったおりひめにいいけっこんあいてをさがしています。
そんなとき、はたらきもののうしつかいのひこぼしがかみさまのめにとまりました。
かみさまがふたりをあわせると、ふたりはたちまちおたがいのことをすきになってしまいました。
ふたりはけっこんすることになりましたが、そこでこまったことがおきてしまいました。
あれだけはたをおるのがすきだったおりひめが、しごとをしなくなってしまったのです。
ひこぼしも、うしをせわすることも、はたけをたがやすこともしようとしません。
そこでかみさまはふたりのあいだにあまのがわをながしました。
ふたりはあまのがわにじゃまされてあうことができなくなってしまいます。
あまのがわはひろく、ふたりがどれだけこえをあげてもとどくことはありません。
おりひめはひこぼしにあえないさみしさをまぎらわそうと、はたのまえにすわりました。
けれども、おもいだすのはひこぼしのことばかりでなみだがあふれます。
179 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:52:44.65
ID:pwkdxaip0 ひこぼしもまいにちおりひめのことをおもいだしているので、はたけはあれていきました。
かみさまはそんなふたりがかわいそうになって、あるひふたりにこういいました。
「おりひめよ、またしっかりはたをおるならひこぼしにあわせてあげてもいい。やくそくするか?」
ときくとおりひめは「はい」とこたえました。
「ひこぼしよ、またはたけをたがやしうしのせわをするならおりひめにあわせてあげてもいい。やくそくするか?」
ときくと、ひこぼしも「はい」とこたえました。
するとかみさまは「やくそくしたぞ、ではたなばたのよるにはふたりでここにきてあうがよい」といってふたりがあうことをゆるしました。
こうしてふたりはいちねんにいちどだけ、はれたたなばたのよるにあえるようになりました。
囚姫「うっ・・・ううっ・・・」ボロボロ
囚姫「でも・・・私たちは・・・もうっ・・・会えないっ!」
180 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:53:37.28
ID:pwkdxaip0 カサッ・・・
囚姫(手紙・・・?)ガサガサ・・・パラッ
─囚姫へ
勝手に出て行く私を許してはもらえないでしょうね。
でも、これは仕方の無いことでした。私はこれ以上あなたといると、あなたの笑顔を見ているときっとあなたを好きになってしまう。それが怖かったのです。
私は人に恋をしたことがありませんから、恋がどういうものか知りません。それはきっと甘い激情のような・・・抑えられない衝動なのでしょうね。
私たちは遠い国の人間です、遠すぎて手紙も届かないほどに。そんな中で、私はあなたに恋をしてしまうのが怖かった・・・臆病だと笑ってください。
あなたには私よりふさわしい人がいるでしょう、どうか、私のことは忘れて新しい恋を見つけてください。
ps、天の川はそこでも見られますよ。空に輝く星の清流の下で、あなたが好きになる人と出会えることを願っています。
詐欺師─
181 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:55:09.11
ID:pwkdxaip0 囚姫「詐欺師・・・さんっ・・・」グスッ
囚姫(詐欺師さんは・・・あれ?)
囚姫(空に輝く星の清流の下で、あなたが好きになる人と出会えることを願っています?これ、どういう意味だろ?)
・・・・・・・・・
囚姫(今日は・・・7月7日・・・もしかしてっ!)ダッ
─領主亭 屋上
ドタタタタタ・・・バタンッ!!
囚姫「詐欺師さんっ!!」ハアッハアッ
囚姫「いるわけ・・・ないよねっ・・・」ポロッ
182 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:56:11.54
ID:pwkdxaip0 ─時は戻り 6月26日 その後
サクッ・・・サクッ・・・サクッ・・・
詐欺師(なんで涙が止まらないんでしょう?)ポロポロ
詐欺師(おかしいですね・・・ただ数ヶ月一緒にいただけなのに・・・)
詐欺師(あの笑顔を曇らせたのが自分だと思うと・・・なぜか胸が痛くなります・・・)
詐欺師(別れの手紙も入れてきたというのに・・・なぜここで決意が揺らぐのですかっ!)
友『そりゃあお前がその子を好きだからだろ?』
183 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 20:56:52.30
ID:pwkdxaip0 詐欺師「えっ・・・?」
友『ったくよお、素直じゃねえんだから』
詐欺師「なんで・・・友の声が・・・?」
友『ゴタゴタいってねーでさっさとしろよアホウ』
詐欺師「で、でも・・・私は・・・」
友『失ってからじゃ遅いんだよ!もうわかってんだろ!?』
詐欺師「私は・・・私は・・・囚姫のことをっ・・・!」ボロボロ
友『ほら、さっさとしな。そしてロマンチックな出会いでも演出してやれ、女の子はそういうのが好きだからな』
詐欺師「・・・」
詐欺師(戻りましょう、私のいるべき場所へ・・・)
友『はあ・・・ったく世話の焼けるヤツだぜ・・・幸せに暮らせよ。こっちにはクソジジイになるまで来るんじゃねーぞ・・・』ボソッ
184 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 21:01:50.52
ID:pwkdxaip0 詐欺師(そういえば、手紙を入れてきましたけど随分と思わせぶりな内容になっていた気がしますね)
詐欺師(無自覚ながらやはり気を惹かれていたのでしょうか・・・)
詐欺師(この指輪、使うことはないかと思っていましたが、使えることになりそうですね)
詐欺師(さて、七夕の日までどこで時間を潰しましょうか?)
─そして また7月7日へ 午前2時 領主亭屋上 満天の星空の下で
囚姫「いるわけ・・・ないよねっ・・・」ポロッ
囚姫「うう・・・ぐすっ・・・」ボロボロ
カツッ・・・カツッ・・・
185 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 21:05:25.67
ID:pwkdxaip0 詐欺師「織姫と彦星の物語はハッピーエンドだと思いますか?」
囚姫「えっ・・・」
詐欺師「私はそうは思いません、だってそうでしょう?」
詐欺師「2人は天の川に引き裂かれ、1年に一度しか会うことができないのですから」
囚姫「詐欺師・・・さん?」
詐欺師「私なら神さえも騙してみせる」
囚姫「ウソ・・・でしょっ?」
詐欺師「なぜなら私は・・・『詐欺師』ですから」
囚姫「詐欺師さんっ!!!!!」ドンッ
186 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 21:06:17.61
ID:pwkdxaip0 詐欺師「おっとと、いきなり抱きついたら危ないですよ?」ヨロッ
囚姫「もう会えないかと・・・っ」グスグス
詐欺師「私もそう思っていました、でも決心が揺らいでしまいまして・・・」
囚姫「今度は・・・ずっと一緒にいてくれるっ?」ジッ
詐欺師(その上目遣いは反則じゃないですか・・・?)
囚姫「いてくれる?」ジッ
詐欺師「・・・」フウ
詐欺師「私は今まで人を騙して生きてきました」
囚姫「うん」
詐欺師「悪いこともたくさんしてきました」
囚姫「うん」
詐欺師「そんな私でもいいのですか?」
囚姫「うんっ」
詐欺師「それなら仕方がありませんね・・・」
囚姫「どういうことっ?」
詐欺師「私は今からあなたに最後の嘘を付きます」
囚姫「?」
詐欺師「この嘘は、あなたに対する最後の嘘です。約束します」
囚姫「う、うん・・・わかったっ」
187 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 21:07:33.09
ID:pwkdxaip0 詐欺師「私は、あなたのことが大嫌いです。ずっと私から離れていてください」
囚姫「・・・・・・はいっ!」ギュウッ!
~ホントにおしまい!~
188 名前:
◆wV/dOv7SG. :2010/11/26(金) 22:04:37.61
ID:OVuUcmqs0これでおしまいです
今まで支援・保守してくれた人ありがとう
意見感想等あれば嬉しいです質問にも答えるよー
189 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11 /26(金) 22:07:56.52 ID:VDy18NtQO
乙だぜ。面白かったぜ。190 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11 /26(金) 22:09:47.69 ID:IDw9mSv0O
乙
さぁ早くアフターストーリーを書くんだ191 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 22:10:50.26
ID:OVuUcmqs0 >>189
ありがと
>>190
アフターはないぞ、前のSSでセクロスシーン書かされたけど才能の無さに絶望した
194 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11 /26(金) 22:16:40.18 ID:c8mXe+rP0
>>1乙
アフターでエロがなくてもいいじゃない196 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 22:18:00.85
ID:OVuUcmqs0 >>194
ありがと、俺としては皆の想像で補完してほしいと思っている
197 :
◆wV/dOv7SG. :2010/11 /26(金) 22:30:21.08
ID:OVuUcmqs0 さて、かなり自己満足の世界だったけどここらで終わりにするかな
もう眠くて死んじゃうww
見てくれた人ありがと、今度は関西弁の女の子に萌えるSS書こうと思ってる
俺関西育ちだからね
そのときはまたよろしくね!
198 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11 /26(金) 23:28:09.60 ID:RRsLQ77XO
乙
関西弁楽しみにしてる
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