1:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:08:08.99
ID:xRD8RazP0
チュンチュン
旅人「う、う~ん…?」
僧侶「お目覚めですか…」
旅人「こ、ここは…途中で立ち寄った休憩所…?確か私は、魔王城へ乗り込んで…」
僧侶「貴方は魔王城で倒れられたのです。そこで運よく、同じく魔王城へ乗り込んでいた方がここへ運んで下さったのですよ…」
旅人「そうだったんですか…!そ、それでその方はどちらへ!?」
僧侶「貴方の所持金を半分懐に入れた後は、魔王城へ足を踏み入れておりません…。貴方も体験したでしょう…あそこは、未熟な人間が立ち入る場所ではありません」
旅人「…」
>ここは、魔王城近くの休憩所。今日もまた、勇者を目指す者がそこを訪れる。そんな者たちに一時の癒しを提供する為、24時間営業中。
魔王が多すぎる世の中に告げる 2 (オーバーラップ文庫)
2:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:10:05.47
ID:xRD8RazP0
メモ帳に最後まで書き溜めたので一気に投下します。
予定では40レスちょっと?
3:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:10:36.81
ID:xRD8RazP0
宿屋「ヒャッホッホ~イ、臨時ボーナスゲェェ~ット!」
居候「浮かれてんなぁ、宿屋の野郎」
商人「大仕事と大量収入、宿屋の好きなものが同時に舞い込んできたからねェ」
居候「おいコラ宿屋、朝っぱらから酒盛り始めてんじゃねぇよ」
商人「酔っても人前で脱ぐんじゃないよ~。居候、こんなんでも年頃の女の子なんだから」
宿屋「こんなんでもな」
居候「こんなんで悪かったな!」
ガチャ
僧侶「昨日のお客様、レベルを上げてくると言って引き返されて行きましたよ」
商人「ありゃ。一人旅してくる根性あるんだから、あと2、3回は突撃かますと思ったんだけどねェ」
宿屋「ちぇー、そしたらまた臨時収入入ったのにー」
居候「お前は人の命と金、どっちが大事なんだよ!」
宿屋「人の命でェ~す、そんな質問するなんて、居候ちゃんったらぶ・す・い♪」
居候(超ウゼェ…)
僧侶「うふふ。まぁ良かったじゃありませんか、一人の命を救えたのですから」
居候「…だな!」
宿屋「リピーター、ゲ~ッツ」
>お調子者の宿屋、平和を愛する僧侶、マイペースな女商人、男勝りの居候。そんな4人の、いつもと同じ1日が始まる。
商人「今日も、平和だねェ…」
4:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:11:22.41
ID:xRD8RazP0
魔王「魔王城近くが平和でたまるかぁァ――ッ!」ガシャーン
僧侶「あらいらっしゃい」
居候「よぉ魔王、今日も元気そうだな」
魔王「貴様アアァ、まーた我が城で好き勝手やってくれたようだなあぁ!」ビシィ
宿屋「あ。俺が謎解きに必要な石像を部屋の角っこまで押してそのままにしてきたことか。すまん。」
魔王「元に戻すの大変だったが、そっちじゃねえぇ!魔王に歯向かおうという愚かな人間をあと一歩で殺せるという所で、貴様が連れ去っただろう!」
僧侶「あ、ご安心下さい。あの方はこちらで説得しましたので、しばらく歯向かいには来ないでしょう」
魔王「そういうことじゃねぇ!人間達への見せしめに、愚かな人間を血祭りにあげようと思ったんだぞ俺は!」
商人「そりゃ災難だったねェ」
魔王「許さん、今日という今日こそは…!」
宿屋「やれやれ。分かり合えないのなら…やりあおう」シャキーン
ドガッドガッ
居候(ここの休憩所は魔王城とスープの冷めない距離にあり、魔王は頻繁に殴り込みに来る))
魔王「いつもいつも、邪魔しやがってー!」ドゴーンバゴーン
居候(正確には、2、3日に1回かな)
宿屋「この休憩所が無かったら、皆HPとMP不足で引き返してますって~。だから魔王君と俺らは持ちつ持たれつじゃないですか~」
居候(まぁ宿屋の言動にイラッとくるのは、同居人だからよーくわかるけど)
魔王「そっちが俺を一方的に客寄せパンダに使ってるだけじゃないかーッ!」ドビューン
居候(こういうことがある度に来るコイツも、相当律儀だよな)
5:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:11:52.80
ID:xRD8RazP0
僧侶「朝イチの運動は体に良いことですねぇ…」茶ズズズ
商人「客寄せパンダか…作ろうかな、魔王の観光グッズ」
居候「魔王が余計怒るだけだって」
居候(魔王にとって都合の悪いこの施設だが、魔王に潰されない理由がある)
僧侶「魔王さーん、施設を神聖魔法でガードしてるので思い切りやっても大丈夫ですよー」
居候(この僧侶さんの神聖魔法により、建物には強硬なガードが張られている。しかしそれだけではなく――)
魔王「ゼェッ、ゼェッ…」
宿屋「もう終わりか魔王君?」
魔王「クッ…化け物が」
宿屋「だって俺もうレベルカンストしてますしィー♪」
居候「お茶淹れたから飲んでいけよ魔王」
居候(この宿屋、魔王よりずー…っと強いのである)
6:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:12:29.97
ID:xRD8RazP0
僧侶「今日も魔王さん元気一杯でしたねぇ」←ちなみにこいつもレベルカンスト
宿屋「魔王め腕を上げおったな、こりゃその内世界征服されるかもしれんな、あっはっは」
居候「おいおい冗談はやめてくれよ、あいつそんなに悪い奴じゃないよ」
商人「ほんっと、居候は世間知らずだねェ~」
居候「そりゃ育ての親が悪かったんだよ」
宿屋「教育失敗しました」シクシク
居候「何だとテメェ」
商人「いいかい、魔王はその気になれば、魔物集団を人間の住む所に放つことができる。人間達はそれに恐怖してるのさ」
居候「その気になれば、だろ…。実際の魔王を見もせずに恐怖するなんて、バカでねーの」
宿屋「けど、おかげで強くて小金持ちの、勇者を目指す冒険者がわんさか来るわけだよ。ひひ、笑いが止まらねぇや」
僧侶「でも、その内魔王さんが討たれてしまうかもしれませんねぇ…」
宿屋「討たれマセーン。魔王さんたら冒険者にレベル上げさせない為に、魔王城以外では強い魔物配置してない策士デース。ぬるい魔物相手にして鼻高々になってる冒険者は、魔王城で心がポッキリ折れる仕様デース」
居候「そんで、どうやってレベルカンストしたんだよ2人は」
僧侶「先代…今の魔王さんのお父様の時代は、もっと厳しい時代でしたから」
居候「へー、そうなん。じゃ、やっぱ優しいじゃん今の魔王は」
居候(世界は魔王を恐れているようだが、俺たちは魔王を恐れていない)
居候(俺はこの世界をよく知らないし、今更「普通の人たち」に溶け込める気もしない)
居候(全世界のほんの一部に過ぎない、この休憩所。それが、俺の世界だ)
居候(魔王への恐怖心は存在せず、魔王に最も近い、そんな場所――)
7:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:12:59.92
ID:xRD8RazP0
魔王城
居候「こんちゃーす、魔王。客から一杯お菓子貰ったから一緒に食おうぜ~」
魔王「おい魔物、何ですんなり通したんだよ…」
魔物「だって、ご近所さんじゃないですか」
魔王「俺は認めてないぞ!まぁどうせ、俺を倒しに来たわけじゃないだろうしな…でも早く帰れよ」
居候「冷たいなぁ魔王、俺ら幼馴染みたいなもんじゃん」
魔王「馴染んでいるのは確かだな…。不本意にも」
居候「俺も魔王に馴染んでるよ。不本意じゃないけどね」
魔王「ふん。…しかし、魔王城付近で捨てられていたお前を、あいつらが拾ってから10年は経ったか」
居候「昔は俺の方が大きかったのにな~」
魔王「そりゃ男女差も種族差も出てくるし、魔王に即位してからはあいつ(宿屋)と毎日のようにドンパチやってたからな。体も成長するわ…」
居候「ははは、そうだね~」(あの休憩所、いつからあるんだよ…)
・
・
・
宿屋「んーと、お前を拾ったのと休憩所を建てたのが同じ年だから、丁度10年だな」
僧侶「ふふ、魔王さんの世代交代とほぼ同時期でもありますしね。時が経つのは早いですねぇ」
商人「アタシが合流したのは結構後だね。それにしてもこの世界、10年前よりは随分平和になったもんさね」
宿屋「ま、先代の魔王殿は凄かったからなぁ。俺らも冒険者時代、それはそれは苦労したもんだ」ウンウン
居候「なぁ宿屋、何で冒険者をやめて宿屋になったんだ?」
宿屋「そりゃ…俺らも旅の中で、こういう休憩所が欲しいと思ったからだよ。なー」
僧侶「そうですねぇ。回復地点が無いと、MPを節約しなければなりませんしねぇ」
居候「宿屋って無茶しそうだしな、サポート大変だったしょ僧侶さん」
宿屋「お、聞きたいか俺の冒険譚?」ニヤァ
居候「ご勘弁願いたいです」
8:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:13:30.51
ID:xRD8RazP0
・
・
・
魔王「まーた昨晩も邪魔しやがったなァ、いい加減にしろーッ!」
宿屋「いやー、まさか軍隊が攻めてくるとはねー。全員殺してたら、正に恐怖の大魔王になっていましたね魔王くーん」
魔王「全員生還したのは誰のせいだああぁぁっ!!今日こそ貴様を葬ってくれるわああぁぁッ!」ドゴーン、ガガガガ
宿屋「甘い甘いッ、当たんないよ~だ♪」
僧侶「魔王さん腕を上げてますねぇ…宿屋さん、その内負けちゃうかもしれませんねぇ」ズズズ…
商人「ハハ大丈夫、装備のグレードを上げれば宿屋も更にパワーアップすっから」
居候「ヤベー。更に調子こきそうでウゼー」
居候「魔王お疲れー。はい、冷たいお茶」
魔王「ゴクゴク悪いな…次は覚えてろよ…」トボトボ
居候「じゃあなー」
商人「魔王ったら居候の淹れたお茶は素直に飲むねェ~。流石幼馴染」ニヤニヤ
僧侶「そうですねぇウフフ、お2人ともお年頃の男女ですから…」
居候「?」
宿屋「こんガキにゃまだはえーよ。そうなったら父ちゃん悲しゅうて悲しゅうて…」ウウゥ
居候「誰が誰の父ちゃんだよ、アホ」
居候(ここはきっと、世界のどこよりも平和な休憩所)
居候(恐怖心はなく、のんびりとした日常と程よい刺激がある、そんな平和な――)
9:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:14:00.24
ID:xRD8RazP0
・
・
・
騎士A「フゥ…話には聞いていましたが、こんな所にこんな休憩所があるとはな」
騎士B「ふぅ、助かった…」
僧侶「ごゆっくりどうぞ。こんな団体さんはお久しぶりですわ」
騎士C「それにしても、こんな危険な場所に施設を置いたら、魔王に狙われませんか?」
宿屋「いやぁ、別にそうでもないですよ~。魔王とは持ちつ持たれつでウグッ」
僧侶「ふふ、魔王にとっては取るに足らない存在なのですわ」(宿屋さん、魔王さんと馴れ合っていることを知られてはいけませんよ)ギュウゥ…
騎士D「…不思議だ。貴方がたには、我々の持っている「恐怖心」が一切感じられない」
僧侶「恐怖していては人助けなんてできませんわ。ねぇ宿屋さん?」
宿屋「そ、そうそう」ゲホッゴホッ
騎士D「…10年程前か、「勇者」が姿を消したのは」
宿屋「…!」
騎士D「かつて、魔物により支配されていた街を次々と開放に導いていった戦士がいた…彼はいつしか「勇者」と呼ばれるようになった」
騎士D「人々は彼の姿に、自然と魔王討伐の期待を抱くようになった」
騎士D「そして勇者は我々の期待に応え、仲間を引き連れ魔王城を目指した」
騎士D「だが、それから勇者は帰ってこなかった――」
宿屋「……魔王城でおっ死んだんすかねぇ。その頃はまだ休憩所も無かったんで」
騎士D「実は――私は勇者を、何度か見かけたことがある…」
僧侶「…!」
騎士D「随分と風貌が変わったが――面影は残していますな?」
宿屋「――っ!」
10:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:14:29.28
ID:xRD8RazP0
魔王城
居候「何か豪勢な騎士集団が来たから、俺は遊びに行ってろだとよ。ちぇー、どうせ礼儀のなってねーガキですよーだ」
魔王「それで当たり前のように魔王城へ来るな…。まぁ、確かにお前からは品が感じられん。あのバカ(宿屋)に育てられたから仕方ないかもしれんが…」
居候「ふーんだ、魔王の知り合いには同族の、それはそれは可憐なお嬢様わんさかいるんでしょうね~」
魔王「いや、魔王というのは特別だから同種族がいないんだよ。血は濃いから、異種族と交わっても魔王の力を受け継いだ子孫はできるが…」
居候「え、そうなん?」
魔王「お前、本当何も知らないな…」
居候「ははは、必要ないことは知らないの」
居候「何でも、知ればいいってもんじゃないんだよ」
11:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:15:00.52
ID:xRD8RazP0
居候「ただいまー。あ、豪勢なお客さん達帰ったんだな」
僧侶「え、えぇ…」
居候「…あれ、宿屋どこ行った?」
僧侶「街の方へ降りて行かれました…少しの間、帰らないでしょう」
居候「あ、そなの。うるせーのが片付きましたなぁ~、商人さんも街に行商だし」
僧侶「………ねぇ、居候ちゃん」
居候「ん、何?」
僧侶「…宿屋さんには、秘密にしておいてほしいと言われたのですが…」
居候「じゃあ、秘密にしときなよ」
僧侶「え?」
居候「人の秘密話すのは良くないと思うぞ。そういう人、信用無くするよ?」
僧侶「…そう、ですね」
居候「そゆこと。じゃ、風呂入ってきま~す」
僧侶「…」
居候「ふー…」(それにしても、宿屋の秘密かー…そもそもあいつ、謎の多い奴だしなぁ)
居候(育ての親に対して関心なさすぎかなぁ。でもまぁ、宿屋は話したいことなら話す奴だしね)
居候(気にならないわけじゃないけど、あいつが秘密にしたいことを無理に知る必要もないし)
居候(いいんだよな、これで――)
12:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:15:34.46
ID:xRD8RazP0
>翌日、城――
王「久しいな――まさか魔王城の傍で商売をしているなど、思いもよらなかったぞ」
宿屋「…」
王「10年前――ワシが命じたことを、忘れたか?」
宿屋「…不可能だった、と言ったら?」
王「それが通用するとでも?」
宿屋「…」
王「今再び命じよう―――勇者よ」
魔王「んっ、寒気が…」
居候「風邪か魔王?」
魔王「そんなヤワではないぞ…馬鹿で風邪ひかないお前程ではないがな」
居候「馬鹿でも風邪はひきますぅー。じゃあ今日は帰るから早めに休んでおけよ、魔王」
魔王「あぁ、帰れ帰れ」
居候「おう、帰りまーす」トコトコ
魔王「…
あ、あのな」
居候「ん?どったん?」
魔王「お前が来るのは迷惑だが…お、俺に変な気は使うなよ、かえって気持ちが悪い」
居候「…というと?」
魔王「あ、あああぁぁうるさい!とっとと帰れ!///」
居候「へいへいへ~い」(熱でもあんのかなコイツ)
宿屋「…」
宿屋「…バックれるのは簡単だ、だが…」
宿屋「………」
宿屋「…………潮時、かな」
13:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:16:01.24
ID:xRD8RazP0
・
・
・
居候「ベッドメイクに掃除、調理の下ごしらえ…くそぅ宿屋がいないせいで、なかなか遊びにも行けねー」
居候(急な来客に備えておかないといけない…けど、ここんとこ客なんて全く来てないんだよなぁ)
居候(つか、僧侶さんもどっか行っちまったし…)
居候「…『ご自由にお使いください』っと。よし、看板完成~」
居候「今ゆくぞ、魔王!なーんつって、ハハハ」
魔王(ここ数日、侵入者が来ないな。それに来客も…)
魔物「魔王様、ご近所のお客様です」
魔王「!そうか…じゃなくて、すんなり通すな!ま、まぁいい通せ」
魔王(いつも帰れ帰れ言ってたから気にしてるのか…今日は言わないように…)
宿屋「…よぉ、魔王君」
魔王「ってお前かよ」チッ
宿屋「悪いねぇうちのお嬢ちゃんじゃなくて。君の嫌いな宿屋さんだよ」
魔王「あ、あいつに来てほしいわけじゃ…まぁ確かにお前の顔は見たくないが」
宿屋「…それ、叶うかもしれねぇぜ」
魔王「……は?」
宿屋「顔を合わせるのは、今日が最後になるかもしれない――」チャキン
宿屋「殺し合おうぜ、魔王」
魔王「――――!?」
14:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:16:36.70
ID:xRD8RazP0
宿屋「魔王がお前に世代交代してから魔物の影響は変わったが、それも魔王の気まぐれだと思われている――そもそも「一般の人間」達は、ここ10年の間に魔王の世代交代があったのは知らないんだよ」
宿屋「先代、お前の親父は魔物を使って人間の街を制圧したり殺したり、容赦なかった。」
宿屋「しかし――お前の代になってから強い魔物は魔王城に配置されるようになり、冒険者がなかなかレベルを上げられない事態が発生したわけだ」
宿屋「それもこれも全部――お前が、臆病だからだな」
魔王「…っ!」
宿屋「強い冒険者が攻めてくるのが怖い。人間が強くなるのが怖い。人間に憎まれるのが怖い――」
魔王「そ…れは…っ」
宿屋「けどな、まだまだ「一般の人間」達は「魔王」を憎んでいる――だから、「勇者」が必要とされる。勇者は討たなきゃいけないんだよ――魔王を」
魔王「まさか…お前が!?」
宿屋「…否定したいとこだが」ヒュン…
宿屋(勇者を作るのは、勇者自身の意思でなく――)ズバアアアァァァン
魔王「が…ッ!」
宿屋「…いい防御だ。魔王の名に恥じない。けど、俺相手には弱すぎる」
魔王「く…!」
魔王(こいつが俺より強いことなんて、散々やり合ったからわかってる…けど、今までこいつの攻撃を受けたことなんてない…!)
魔王(…こいつが攻撃に転じたら、俺――)
魔王(討たれる――のか?)
宿屋「…嫌な気分だ――なっ!」ヒュンッ…
魔王「―――ッ!」
居候「宿屋ァ―――――ッ!」
宿屋「!」ピタ
魔王「!」
15:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:17:05.52
ID:xRD8RazP0
居候「おいテメェ…何やってやがるんだ!?」
居候(冗談じゃないことくらいわかる…!魔王は怪我してるし…それに宿屋の野郎、魔王に襲いかかろうとしていた――今まで、見たことないような顔をして!)
宿屋「チッ」
宿屋(見られちまったな――1番見られたくない奴に)
居候「おい宿屋!何やってんだつってんだよ!」
宿屋「――義務を果たしに来た」
居候「……は?」
宿屋「魔王を討つ――義務だ、勇者の」
居候「………勇者?え、な、何ふざけて…」
?「本当のことですよ」
居候「!」
僧侶「…本当の、ことですよ」
居候「僧侶…さん…」
僧侶「宿屋さん…彼は10年前姿を消した勇者…人間達の希望」
魔王「お前が――」
16:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:17:39.37
ID:xRD8RazP0
魔王(10年前、魔王だった父上は勇者に討たれた――しかし息子である俺の存在を知らなかったのか、その後勇者は魔王城から立ち去った)
魔王(その勇者が――あんな間近な場所に休憩所を構えていただと……!?俺もまだ即位していない、わずかな「魔王不在の期間」に!)
魔王(では…何故こいつは今まで、俺を――)
宿屋「お前のことは嫌いじゃなかったな、魔王。むしろ…」
魔王「―――は?」
宿屋「…先代と違い、人間達に悪さをするわけでもなく――」
宿屋「魔物達の頂点に立てる力を持ってる癖に、強い魔物達を自分の周辺から手放さない程に臆病で――」
宿屋「それで、からかったら真っ赤になって反応してくる。そんなお前が――」チャキ
居候「宿屋、お前――!」
僧侶「………」
魔王(こいつ本気だ…殺される…!)
宿屋「…」ダッ
魔王(く、くそっ、殺されて、たまるか――っ!)バッ
宿屋「魔王ォ――――ッ!」
魔王「ああああぁぁ――――ッ!」
――――ザシュッ
居候「…!」
僧侶「……え?」
魔王「は……!?」
宿屋「―――っ」
>そこで血まみれになっていたのは、魔王ではなく、優勢であったはずの宿屋の方であった。
宿屋は血が吹き出る傷口を防ごうともせず、魔王の目の前で立ち尽くすだけであった。
17:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:18:14.82
ID:xRD8RazP0
魔王「な、何でだ…お前――」
魔王(俺が本気を出した瞬間――こいつ、構えを解きやがった!)
宿屋「…へっ」
居候「――!?」
>その笑みは、居候が今まで飽きる程に見慣れた、いつもの宿屋の笑みだった。
その笑みを浮かべたと同時、宿屋は――
宿屋「愛してるぜ、みんな♪」
ドサァッ…
>いつもと同じ声を発し、その場に倒れたのだった――
そして、察したのは、僧侶だけであった
僧侶「い、いや―――勇者、様ぁ…」
>宿屋はもう、目を開けることはないと――
18:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:18:40.37
ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~
僧侶「あ、あの、勇者、様…」オドオド
勇者「そぉんな緊張しなくて良いですって~、我が勇者パーティは可愛い仲間を歓迎しております!今日から宜しくな僧侶さん!」
僧侶「あ、は、はい」
勇者「ん、俺と同い年で「さん」はカタいかな。じゃあ…僧侶ちゃん?僧侶っち?僧侶たん?それともォ…」
僧侶「あ、あの///」(是非呼び捨てで…)
魔法使い「コラ、バカタレ勇者!」ゴッ
勇者「いでっ」
魔法使い「新入りの女の子にチョッカイ出すな~っ。ごめんね僧侶ちゃん、こいつ昔っからバカだから放っておいて」
僧侶「は、はぁ」
勇者「ふーんだ、そりゃ舞い上がるもんね~。ムッサい男パーティーでぇ、僧侶ちゃんみたいにぃ、綺麗でお淑やかで華のある女性が周囲にいないもんで~」
魔法使い「なっ///ア、アンタね、華ならここにいるでしょ!?」
勇者「食虫植物」ボソッ
魔法使い「ニャローッ、100回殴る!」
勇者「何のォ、100回ガード!」
僧侶「…」
僧侶(いいなぁ~魔法使いさん…)
~~~~~~~~~~~~~~~
19:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:19:07.99
ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「はい、ボス撃破~。お疲れー、皆ゆっくり休んでね~ん」
僧侶「ゆ、勇者様…お、お茶ご一緒しません?」
勇者「お~、残念。ご一緒したい所だけど用事あってな。また今度な!」
僧侶「はい…」
僧侶「用事って何でしょう、勇者さん…」
魔法使い「あぁ…多分、お墓参り」
僧侶「お墓…ですか?」
魔法使い「そ。僧侶ちゃんが加入する前ね、敗れた仲間のお墓がこの村にあるのよ…」
僧侶「…!」
魔法使い「…そいつだけじゃないよ、今まで失った仲間は…。それなりに長く旅を続けてるから、いるんだ結構。最初から勇者と旅してたのは、私だけになっちゃった…」
僧侶「………そうだったんですか」
魔法使い「私達はまだ、魔王城の場所すら突き止められていない…」
僧侶「…まだ失うかもしれない、ということですね」
魔法使い「……うん」
魔法使い「覚悟しといてね、僧侶ちゃん――」
~~~~~~~~~~~~~~~~
20:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:19:38.76
ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「戦士…戦士ィっ!」
僧侶「そんな…戦士さんが…」
魔法使い「嘘でしょ…あんた、私らの中で一番丈夫だったじゃない…それなのに、それなのに…ッ!」
勇者「やめろ、魔法使い…」
魔法使い「だって…だってぇ!」
勇者「……散々経験してきただろ――戻らないんだよ、戦士は」
僧侶「――!」
勇者「…この気持ち忘れるな――魔王と戦う時までな」グッ
魔法使い「…勇者ぁ」
僧侶「…勇者様」
旅は1年ぐらい続いた。その間にも仲間の加入、そして離脱が繰り返された。
勇者様は明るく、強い。そんな勇者様は、皆に希望を与えてくれる存在だった――
だけど皆心の中ではわかっていただろう。それは、この旅の過酷さを誤魔化す為の微弱な清涼剤であり、表面的な姿だったことに――
~~~~~~~~~~~~~~~~
21:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:20:11.81
ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~~~
仲間「遂に突き止めたな、魔王城!」
僧侶「…えぇ。長い、戦いでした―――」
勇者「…終わっちゃいない、まだ」
魔法使い「…うん」
僧侶「そうですね…」
勇者「行くぞ――」
勇者「もうこんな旅も、戦いも、終わらせてやるよ――!」
~~~~~~~~~~~~~~~~
22:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:20:38.10
ID:xRD8RazP0
居候「どうしてだよ…宿屋ぁ…」
僧侶(意識を回想から目の前の景色に戻すと、勇者さ――宿屋さんの遺体の傍らですすり泣く居候ちゃんがいた。
そんな姿を見て――魔王さんは悔やんでいるような、申し訳なさそうな、そんな顔をしていた。居候ちゃんの姿を見て、いたたまれなくなったのだろう。
だけど襲いかかってくる宿屋さんに全力で反撃した魔王さんを、誰が責められるものか――)
僧侶「…申し訳ありませんでした、魔王さん」
魔王「…」
僧侶「私が知っている全てのことは――後日、お話しします。今日は傷を癒して下さい。…帰りましょう、居候ちゃん」
居候「…どうして」
僧侶「…」
居候「どうしてだよォ!何なんだよこれはァ!さっぱりわかんねーよ、どうしてこうなったんだよぉ―――ッ!!」
僧侶(居候ちゃんの叫びはあまりにも悲痛で、そして後悔に満ちているようだった。
この子は今まで、人の秘密に踏み入ろうとしなかった。だから、宿屋さんの表面上の姿を本当のものとして捉えていたのだ――。
何もわからない――それは彼女自身のせいであると結論付けていいものか――)
僧侶(ともかく私達には立ち去る以外の選択肢は無く、宿屋さんの遺体は休憩所の前に埋葬することとなった)
23:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:21:06.16
ID:xRD8RazP0
・
・
・
商人「…薄々気付いてたよ、宿屋の正体はさ。まぁでも…魔王と仲良くドンパチやってるのを見たら「あぁこれでいいんだ」って思ってさ、追求はしなかったさ」
僧侶「えぇ…だけどそう考えるのは極一部でしょう。魔王さんが先代程の力がないことを知れば、人間達は一斉に攻めてくるでしょう…」
商人「今更だけどさ、王達に事情を言って何とかならなかったもんかねぇ。…まぁ無理か。人間全てが「魔王はほぼ無害」なんて信じるわけがない」
僧侶「魔物達は本能的に「魔王」という存在に従い、統制を取っていた。だけど――宿屋さんが先代の魔王を討ったその瞬間から、魔物達の統制は失われ、以前よりも人間を襲うようになりました。
先代の魔王は良くも悪くも、人間を生かさず殺さず、利用する方法を心得ていた。だから無意味な殺戮はほとんど無かった――だけど人間は魔物達の暴走を、魔王の指揮によるものだと思っていた」
商人「誰も信じないだろうね、「魔王は倒した」なんて言っても」
僧侶「そう。世界が最も魔物達の脅威に晒されていたのは「魔王不在の期間」だったのです。私達にとって、最も辛い期間でした――」
僧侶「そして休む間もなく私達は戦い、私以外の仲間は―――」
商人「…誰だって嫌になるわな」
僧侶「私も、彼も限界に近かった。……ですがある時から、魔物達は大人しくなりました。それが――」
商人「現魔王の即位――ってわけかい」
~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「……どうやら新しい魔王が誕生したようだぜ。つっても、まだ小さながきんちょだ。先代程の力は無い」
僧侶「でも、魔物達は本能的に従っているんですね…」
勇者「あいつ、臆病だ。だから強い魔物達を自分の周辺に護衛として置いてやがる。…並の人間なら、魔王に辿り着く前にやられるな」
僧侶「…だけど、勇者様なら」
勇者「……討てと言うのか?あいつを」
僧侶「………」
勇者「戻れってのか……魔王不在のあの日々に!」
~~~~~~~~~~~~~~~~
24:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:21:48.74
ID:xRD8RazP0
僧侶「それから私達は魔王を監視する為、魔王城の近くに休憩所を建てた――」
商人「魔王城に乗り込んだ人を助ける為にも、魔王を牽制する為にも役立ってたと思うよ」
僧侶「えぇ、良かった。宿屋さんは、そう思っているはずで」
商人「あぁ、あいつならそう思うだろうね――勇者失格だけど」
僧侶「えぇ――」
商人「1番の目的は多分――魔王を育てることだったんだろ。誰にも、討たれないように」
・
・
・
魔王城
魔王「…」
魔王(今まで俺は保護されていたんだ――元勇者だった、あの野郎に)
魔王(最後の、最後まで――)
魔王「――くそっ」
居候「よぉ魔王、怪我はどうだ?」
魔王「…お前か」
居候「おいおい久々に来てやったんだぜ、もっと愛想良く出迎えてくれよ」
魔王「ふん、まぁいい。気も紛れるだろう、鬱陶しいのがいれば」
居候「一言多いんだよ」
魔王「…お前も聞いたか、あいつ――お前の育ての親についての昔話を」
居候「うん…びっくりだわ、あの馬鹿野郎にそんな過去があったなんて」
魔王「腹の立つ男だ、この俺を上から目線で見守っていやがったんだからな」
居候「それに最後の言葉が「愛してる」だぜ。だ~、気持ち悪いんだよ…って本人に言えないのが悔しいわ」
魔王「そういう問題かよ」
居候「そういう問題だよ」
魔王「…流石、親子だな」
居候「へへっ」
25:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:23:03.22
ID:xRD8RazP0
居候「よく覚えてないけど、俺の本当の親ってな…宿屋が唯一、助けられなかった冒険者なんだってさ。休憩所に俺を預けて、魔王城でポックリと」
魔王「そんな奴がいたのか…俺も忙しくて、魔王城で死者が出たなんて把握していなかったな」
居候「変な親だよなー。休憩所の存在知らなかったはずだから、きっと子連れで魔王城乗り込むつもりだったんだぜ」
魔王「今となっては、理由を聞けないのがもどかしいな」
居候「僧侶さんが言うにはさ…宿屋がそれを秘密にしてきたのは、俺が魔王を恨まないようにする為なんだってさ。別に、魔王が殺したわけじゃないのにねー」
魔王「……だが俺は、お前の親を殺した魔物の親玉だしな」
居候「あぁ、別に気にすんな。それにそのおかげかもしれないぜ、俺と魔王が友達になれたのは」
魔王「―――っ」
商人「それにしても、もうすっかり人間達にはバレバレだろうねぇ魔王城の場所。今まで引き返した冒険者が沢山いるからね」
僧侶「それだけではありません――すぐにバレるでしょう、「勇者」がいないことに――」
商人「…死んだにせよ、また失踪したにせよ――」
僧侶「もう勇者には頼れない――そう思って人間達が攻めてくるかもしれない…」
・・・・・
商人「…あーわかった。だから居候に、あんなこと言ってたんだ」
居候「いつまでも、いなくなった奴のこと考えてても仕方ないぜ魔王。もうお前を保護する奴はいないんだ」
魔王「あぁ。これから待っているんだな、人間達との戦いが――
…って、おい。どうした急に立ち上がって。それにさっきから気になっていたが、今日は荷物が多くないか?」
居候「おう。夜逃げ準備したからな。お前も支度しろ」
魔王「…は?」
居候「だ~か~ら~。ここから逃げるんだよ!さ、早く早く」
魔王「ふ…ふざけるな、何で逃げなきゃいけないんだ!」
居候「ふーん、行かないならいいよ」
居候「人間と戦って恐怖の大魔王になるお前なんて、嫌いになっちゃうもんね」
魔王「!!!」
26:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:24:21.54
ID:xRD8RazP0
魔王「お、俺が何でお前に嫌われることを恐れて…」
居候「あ、そうなんだ~魔王って俺のこと嫌いなんだ~」
魔王「い、いや決してそういうわけでは…」
居候「この無知でひ弱な俺が一人旅なんかしたら野垂れ死ぬのがオチだよね~…そうか魔王、俺のこと見捨てるのか」
魔王「…」クッ
魔王「ったく仕方ないな…それにお前の言う通り、人間と争っても仕方ないしな」
居候「魔王ッ!」
魔王「ば、馬鹿!抱きつくな///」
居候「だって嬉しいんだもん、魔王と一緒にいられるなんてさー!」
魔王「お、お前、一応女なんだから誤解を生むような発言はよせ…!」
居候「誤解?何をどう誤解?」
魔王「あーうるさい、とにかく旅支度するから待ってろ馬鹿女!」
居候「へいへ~い」
僧侶(勇者様…いえ、宿屋さん)
僧侶(私は僧侶失格ですね…貴方の側にいられたこの10年間、とても充実していました)
僧侶(…私達が共に過ごしてきた証であるあの子は、きっと平和へ大きく貢献するでしょう――)
僧侶(ですから宿屋さん――)
僧侶(これからは最愛の方と――ごゆっくり、お休み下さい――)
27:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:24:54.81
ID:xRD8RazP0
居候「待ってくれ~魔王~」
魔王「たく、持ちきれない程の荷物を持ってくるからだ。ほら貸せ!」ヒョイ
居候「流石魔王、力強いね~」
魔王「お前がひ弱なんだよ…」
居候「俺、男らしく成長した魔王のこと大好き!」
魔王「!!だ、だから誤解を生むようなことは…」
居候「だからぁ、誤解って何ぃ~?」
魔王「黙れ、おっさん女」
居候「ちぇー」
魔王「……街に着いたら」
居候「ん、何だ?」
魔王「女らしい服でも、買ってやるよ」
fin
28:
◆WnJdwN8j0. 2014/06/18(水) 17:27:46.68
ID:xRD8RazP0
終わりです。40全然行ってねー!!(゚Д゚;)
加減が全然わからんですorz
見て下さった方いましたら、ありがとうございました!
34:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:33:13.13 ID:6vy8Tan50
面白かったよー
35:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 10:42:37.74 ID:RYeWIlvSO
サクッと読めた
乙
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