1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:17:16.51 ID:G+dXZQyK0
恐れ多くも、シャルロッテ編に手をつけてみます。ISじゃないよ。
尚、原作キャラはQBしか出て来ません。オリキャラの集まりなのでご了承ください。
シャルロッテは名前を変えるともう何のスレか分からなくなるので
シャルロッテちゃんで行きます。重ねてご了承ください。
全部あわせると79000wordくらいあるという超ダラダラ作。
マジで「暇なら」くらいのつもりで見てやってください。
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:17:51.99 ID:G+dXZQyK0
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
その日、わたしは魔法少女になった――。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:19:24.74 ID:G+dXZQyK0
魔法少女まどか☆マギカ
シャルロッテ編
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:20:10.49 ID:G+dXZQyK0
病院/
「ねぇ看護婦さん」
「どうしたの? シャルロッテちゃん?」
「チーズたべたい」
白いベッドの上の少女は不満そうな顔をして看護婦に言う。
看護婦のほうも、またかと思いつつも表情には出さず、優しい声色で言う。
「ごめんね? ずっと探してるんだけどみつからないのよ」
「むー……」
「シャルロッテちゃんが頑張ったらチーズも向こうからやってくるよー」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと! じゃあ、いい子でいてね。なにかあったらこのボタンを押すのよ」
「はぁい」
その返事を聞くか聞かないかのところで看護婦はきびすを返す。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:21:52.07 ID:G+dXZQyK0
「…………うそつき」
シャルロッテは11歳、小学校も高学年である。ここ一年学校に通っていないとはいえ、
いまさらそんな嘘にだまされるわけはなかった。だがけっして冷めているわけではない。
未だに朝のテレビの魔法少女アニメは欠かさず見ているし、サンタクロースに手紙も書いている。
むしろ稀有なほどに純粋だった。だがそれも、いつも約束を破られ続けばわかるもので、きっと
今度もあの看護婦はチーズを持ってきてはくれないだろう、とシャルはおもった。
シャルは病気を抱えている。肝細胞癌という重い病気だ。シャルのガン細胞は1つに過ぎないがその
一つは血管内に及んでおり、6cmを超える大きさであり、しかも何時転移・増殖してもおかしくなく、
診断はステージ4(生存率は30%以下)とかなり危険であった。
そんな中でチーズはご法度だった。チーズは食中毒の危険性があり、肝機能が弱まっていれば重症に
なったり、治療スケジュールに変化が生じてしまうため、化学療法中は禁止されていたのであった。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:22:47.69 ID:G+dXZQyK0
夕方/
「シャル。元気にしてたか?」
「パパ!」
シャルはベッドから飛び出すなんてことはできないので、身体の上半身だけをうーんと精一杯父親に向けて伸ばす。
「まってたよぅ~パパぁ!」
「ははは、それはパパとお菓子とどっちかな?」
「お菓子だよ!」
「は、はは……。シャル。いいかい、そういう時は『あなたを待ってました』って言うと男の人は喜ぶよ」
「アナタヲマッテマシタ!」
「うん。そんなシャルにはお菓子を上げよう!」
「いーやったぁ!」
シャルは渡されたお菓子を食べ始める。いつものビスケットである。治療中の食事制限は思ったよりも厳しい。
持ち込み食の殆どは断られるし、数少ない持ち込み可能なこの『お菓子』でも制限は設けられている。
シロップ、蜂蜜類ダメだとか生菓子はダメだとか。皮付きの果物も良くないし、それ以外でも開封後2時間以上のものは厳禁だった。
そんな食事制限の中で、シャルの父親は飽きさせないようにとなるべく豊富な種類のものを用意しようとするが、最近はネタ切れになってきている。
「~~♪」ハグハグ
だがシャルはそれをおいしそうに食べているようなので、ほっと安堵する父なのであった。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:23:40.85 ID:G+dXZQyK0
シャルには現在、父親しかいない。シャルの母はすでに肝炎によって他界している。
父親が日本に帰国する1年ほど前のこと、シャルは4歳の頃だった。
彼は大学で学んだイタリア語と留学経験を武器に貿易会社のイタリア支店に勤務。
そこで同僚のドイツ人の妻と知り合い。結婚。そしてシャルが生まれた。現在は日本の本店で働いている。日本への帰国はそのためであった。
「パパ、パパ! アナタヲマッテマシタ! チーズも食べたいなぁ」
あなたを待っていました、を呪文か何かのように唱えるシャルロッテ。
彼女はお菓子も大好きだがそれよりもチーズが大好きなのである。
今でこそシャルは日本語に慣れ、日本式の生活を送っているが、本当に幼い頃はずっとイタリアに過ごしていた。
そこで食べていた、母親や店の料理を無意識のうちに求めているのだろうな、と思いシャルの父は少し辛くなる。
「ダメだよ。チーズはもっと元気になってから」
「えぇー……げんきだよー」
「だめだめ。もっともーっと元気になってから」
「ちぇー」
そういってシャルは布団の中にもぐりこむ。食べてすぐに寝るのは食道に良くないが入院している
シャルにはどういえばいいのだろうと、シャルの父は悩んだ。まぁ夕食前なので大した量は上げていないので
大丈夫だろうと思いシャルのベッドの傍のパイプ椅子に座る。
と、シャルの父はベッドの枕の上にシャルの髪の毛が散乱しているのを見つけ、軽くはたいて落としてやった。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:24:52.93 ID:G+dXZQyK0
「……最近、痛いのは大丈夫か?」
「…………うん」
開いた間に、父は辛いのだろうと感じ取った。時折背中の激しい痛みうなされているということは
看護婦さんから聞いている。加えてこの脱毛。投与されている抗がん剤の新薬の影響を疑ったことがあったが、
医者からは「これは癌の症状。決して新薬の副作用ではない」とにべもなく返されてしまった。
「辛かったら言うんだぞ」
「うん……」
そして時間は過ぎていく。シャルの父親は面会時間のぎりぎりまで病室にいた。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:25:46.96 ID:G+dXZQyK0
「――っ! ぅぅ……!」
深夜。病室のベッドの中、シャルは苦悶表情を浮かべもがいていた。
鋭い鈍痛という矛盾した表現が、これ以上無いくらいにピッタリと当てはまる痛みに必死で耐えていた。
掛け布団を噛んで、叫び声を上げないようにしていた。看護婦さんがやってくればきっとまたお医者さんは
また意地悪をして、入院を伸ばしてくる。だからシャルは声にならないように叫びを上げている。
「ぅ……ぁぐ!」
目尻には涙を浮かべ、喉は既にかれていた。それでも上げたくない叫び声は口から嫌というほどにあふれてくる。
ここ数ヶ月もの間、彼女は日増しに酷くなるこの地獄を生きてきた。いつか、元気になる、とその一心で生きてきた。
「ぃぁっ――っ゛!!」
父親に言えばもう少し楽になれただろうか? と、思いシャルは頭の中で否定する。頑張りたい。
これくらいの痛み、耐えてみせる。耐えなきゃいけないんだ。これ以上、わがままは、ダメだ。
そう思いたいのに、痛みは絶望を振りまく。今すぐにでも諦めたい衝動に駆られる。助けて欲しい。
この痛みから、生活から、救って欲しい。神様! 天使様! サンタクロースでもかまわない!
誰か、だれか――
「た、すっ……――っけて……!」
そして、それは現れた。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:26:55.70 ID:G+dXZQyK0
「つらそうだね? 大丈夫かい?」
波が去ったのか痛みが引いていく中で、シャルは少年とも少女ともとれる声を聞いた。
「かわいそうに……痛かっただろうね」
徐々にクリアになっていく思考は、これを幻聴ではないと断じた。とすればこれはなんだろうとシャルは訝しみ、声のするほうへ目を向けた。
「こんばんわ」
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:27:31.66 ID:G+dXZQyK0
目が合うや否や、それは挨拶をしてきた。神様かな? いや、天使のほうが近いかも。
少なくともサンタクロースではなさそうだとシャルは思う。純白の身体に、金色の……輪? が二つ。
生き物というよりぬいぐるみに近いそれを、シャルはとりあえず天使と呼ぶことにした。
「……こんばんわ。……天使、さま?」
「あはは。天使か。なるほど人間にはそう見えるかもしれないね」
天使はさも愉快そうに笑う。だがシャルは何故か天使が本当に愉快であるようには見えなかった。
「ぼくはキュゥべえ! 君の願いをひとつだけかなえてあげる!」
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:28:27.62 ID:G+dXZQyK0
「え……?」
シャルが驚いたのは言うまでも無い。なんてことだ。それではまるで、本当に天使ではないか!
「何だってかまわないよ。欲しかったお菓子でもいいし、チーズだっていい」
そして、とQBは紡ぐ
「君の病気を治すことだってかまわない!」
QBが紡いでいく言葉の一つ一つに、シャルは鳥肌が立っていく。驚愕、歓喜あらゆる感情が渦巻く。
心臓の鼓動は壊れそうなくらいに鳴って苦しさを確かに感じるのに、身体がまるで自分のものでは無いような
そんな非現実的な、夢であるかのような感覚に囚われた。
「だから……」
シャルの頬を涙が伝う。
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:36:20.26 ID:G+dXZQyK0
学校/
「シャルロッテです。シャルって呼んでください! よろしくお願いします」
わぁ、という声と共に子供らしいぱちぱちと音を立てる拍手が起こる。
あの後、シャルの病状は劇的な回復を遂げた。ガン細胞が瞬く間に消えてなくなったのである。
また、他の箇所に転移も見当たらなく、担当していた医者は「新薬の勝利だ!」と狂喜していた。
その子供らしい姿にシャルはばれないようにくすくすと笑う。いつもは嫌な先生だったけど、今日
はとても気分がよかったから、そんな姿を可愛らしく感じていた。もしQBの魔法のおかげだなんて
言ったらどんな反応をするだろう? ショックを受けるかな? QBが凄いって褒められるかな?
とそんなちょっぴり意地悪な好奇心が芽生えてしまうほど、今日は良い気分だった。
数日間は念のためといってとても多くの検査を受けた。それはとても面倒くさくて、早く自由になりたかったが、
割と嫌な気分にはならなかった。一つ一つ検査の結果が出るたびに、シャルは自分が健康だと認識できた。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:37:40.67 ID:G+dXZQyK0
朝の会、所謂HRが終わると1時間目が始まるまでの間に、シャルロッテの机の周りには人だかりが出来ていた。
「ねーねーシャルロットちゃんってハーフなんだよね!」
「うん! ドイツと日本のハーフだよ。育ったのはイタリアと日本だけど」シャルロッテダヨ…
「すごーい! 帰国子女って奴ー? かっこいいー!」
「いやーずっと日本で育ったけどね」
「シャルちゃんって、お菓子好きなんだよね? なにが好きなのぉ?」
「もう全部全っ部ぜーんぶ大好きっ! あとチーズもだーい好き!」
「イタリア料理の?」
「美味しいよ!」
「イタリア料理は知んないけど、美味しいソフトクリーム屋さん知ってるよ。今度一緒に食べにい
こーよー!」
「ほんとにっ!? いくいくー!」
シャルは久方ぶりの学校の雰囲気を目一杯浴びていた。光合成もかくやというほどに浴びるほどに
元気になっていった。病は気からというが、本当にそうかもしれない。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:41:25.75 ID:G+dXZQyK0
「楽しそうでなによりだよ。シャルロッテ」
「あ、キュゥべえ!」
QBは音楽の教室へ移動している時に不意に窓から姿を現した。
「だ、大丈夫なの? こんな人が一杯いるところに来て……」
「大丈夫さ。僕はふつうの人間の目には見えないから」
そうはいっても少しこっちに視線が向いているような……
「当たり前だろ? だってつまり君は今一人で窓に向かって喋っているんだから」
「……はっ!」
ばっ、と勢いよく振り返る。すると彼ないし彼女らは目を合わせないようにそそくさと歩いていった。
「へ、変な子だって思われたぁ……」
「だろうね」
「もぅ! それならそうと始めに言ってよ!」
「言わせてくれる暇なんてなかったじゃないか」
QBの正論に、うぐ、と言葉に詰まるシャル。
「でも、それだったらキュゥべえを見ても話は出来ないってこと?」
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:42:21.41 ID:G+dXZQyK0
(そうでもないよ?)
「え?」
不意にシャルの頭の中にQBの声が聞こえた。この場合耳では無いから『聞こえる』といっていいのか非常に悩むところだが、
とにかく『聞こえた』という不思議な感覚だった。
(魔法少女になればこういう具合に心の中で会話できる。こうすれば大丈夫だろう?)
ええっと……
(こ、こうかな? あ、出来たっ!)
(そうそう上手いじゃないか! シャル。君には才能があるよ)
(そ、そうかなぁ~……)
「えへへ……」
無意識のうちにシャルの照れ笑いは表に出ていた。が、その失態に気付いたときには遅かった。
「シャ、シャルちゃん? 急に笑ってどうしたの?」
そう。周りから見ればシャルは急に照れ笑いをしたおかしな子だった!
「うぁ、え、えっと、な、なんでもないよ! うん! ほんと!」
(……君は褒めないほうが伸びる子かな?)
(…………がんばります……)
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:43:18.01 ID:G+dXZQyK0
夕方/
一日、久しぶりの学校にくすぐったい喜びを感じ、楽しく過ごした。
その帰り道。シャルはQBと一緒にソウルジェムを片手に町を探索していた。
「あっちに反応があるね。もしかしたら初日で魔女と出会えるかもしれないよ?」
「うー……魔女かー」
シャルはもっと幼かった頃、サンタクロースに加えて魔女のべファーナにも手紙を書いていた。
べファーナとはイタリアのサンタクロースみたいなもので、1月6日にプレゼントを配っていると言い伝えられていた。
しかもシャルの家は敬虔で熱心とは言えなかったがクリスチャンで、クリスマスのお祝いに12月25日にもプレゼント
を貰っていたので、欲しいものはよく冬にとっておいた記憶がある。もっともクリスチャンでなくとも、サンタクロース
の風習は浸透しているのだが。
「ねぇキュゥべえ。魔女って悪いの?」
「そうだね。魔女は人を惑わし、絶望に導こうとするんだ。運が悪ければ死ぬ人だっている」
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:45:07.13 ID:G+dXZQyK0
死ぬ、という言葉に一瞬ギクリと身体をこわばらせるシャルであったが、魔女の言い伝えなどそのようなものだと自分に言い聞かせた。
魔女狩りの異端審問が盛んに行われていたイタリア。良い魔女以外にも、悪い魔女の話だっていくらでもあった。
シャルはそれらの怖い魔女の絵を思い出し、ぶるりと身を震え上がらせる。
「大丈夫さ! 君は魔法少女だ! そう簡単には負けることは無いよ」
シャルは先立って、自分の魔法の確認はしたが、本当にあれで大丈夫かなという不安もあった。
「やっぱり怖いなぁ……」
ソウルジェムの光が強くなっていくに比例して、シャルの不安はまた強くなっていく。
光に導かれた先は人通りの無く仄暗い裏路地。夕暮れもあいあまってシャルにはより一層不気味に感じられるのであった。
「普通の女の子は戦わないよー……」
ふと、シャルはあの日の夜を想起する。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:46:08.26 ID:G+dXZQyK0
『病気をなおして! 普通の女の子の生活に戻りたいの!』
この願いの後、シャルは見る見るうちにガンを克服し、異例の早さで退院。願いどおり、普通の女の子の生活に戻ることが出来た。
QBにはこの上ない感謝の念がある。天使の奇跡に報いるために悪い魔女をやっつけるのもかまわない。
が、シャルは生まれてこの方殴り合いの喧嘩なんてやったことはないし、戦いなんてもってのほかだ。
だから、不安は拭い去れるものではなく、悪いとは思いつつもつい愚痴をこぼしてしまう。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:47:19.37 ID:G+dXZQyK0
「まぁ、確かに君の願いは普通の女の子に戻る、だったけどね」
「でしょー」
「でもそれとこれとは話が別だ。優先順位の問題だね」
「ゆーせんじゅんい?」
「シャルの普通の女の子になるという願いより、魔法少女の原則というシステムが勝ったということさ。
ま、当然だね。正直魔法少女にしてこのシステムに打ち勝とうというのならばありえないくらいの膨大な魔力が必要だ」
「???」
「……難しかったかい? つまりそう上手い話は無いってことさ」
「そっかぁ……」
「そ。もし出来るとするなら……そうだね、それこそ神様のような存在さ」
「うーん……。神様なら仕方ないかぁ……」
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:48:46.90 ID:G+dXZQyK0
その時、ソウルジェムが一際強く反応する。シャルはドキッっと身を硬くする。
「来たね。恐らくこの先だ」
「ぅ、うん」
シャルは深呼吸をして落ち着く。
「大丈夫……だよね?」
「勿論! 君には十分な才能がある。きっと強い魔法少女になれるよ! 負けやしないさ!」
「そっか……よーし!」
自分を救ってくれた天使、QBの言葉をうけ、シャルは幾万の味方を得たような心地になった。そうだ。わたしは魔法少女なんだ!
正義の味方なんだ。悪い魔女をやっつけなくっちゃ!
シャルはいつも見ていたアニメの主人公のように、自分に気合を入れると、ソウルジェムが光る方向へと導かれていった。
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:50:00.88 ID:G+dXZQyK0
「来るよ!」
「うわ! うわぁわわ!!」
先程まで居た小汚い裏路地の景色がまるで絵本で見た中世の館のような風景に変化する。
「気をつけてね。これから先はいつ攻撃されてもおかしくない!」
「うぇ? う、うん」
シャルは魔法少女の服に変身する。何度か試してはいたが、この変身するときの感触はまだなれない。
QBと話しながら長い赤絨毯の廊下を走っていると、大きな広間に出た。
するとそこかしこから毒々しい色彩のバラのような生き物が沸いてきた。
「あ、あれが魔女!?」
「いや、あれは使い魔だ! でも攻撃もしてくるし、人も襲う。倒しておかないとやっかいなことになる!」
そうこうしているうちに終結したバラたちはじりじりとシャルたちを包囲するようににじり寄ってくる。
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:51:50.22 ID:G+dXZQyK0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
ここからは、魔女シャルロッテの【お菓子を生み出す能力】を基にした魔法をお送りします。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:53:00.81 ID:G+dXZQyK0
「シャル! 魔法を使うんだ!」
「わ、わかった!」
シャルは武器である杖を取り出す。そして広間の花瓶に杖の先端を当てる。
すると花瓶はぼこぼこと変質し始め、それは大きなケーキとなった。
だがこのケーキ、形こそ大きすぎるホールケーキだがその材質は陶器のそれであり、しかも中身は空洞ではなく、ケーキの形をした岩といったほうがしっくりくる。そしてシャルがもう一度念じるとそのケーキが2つ、4つ、8つとポンと可愛らしい音を立てながら分裂していく。
「来た!」
バラたちはQBの声とほぼ同時くらいに一斉にシャルに襲い掛かる。
「今だ! シャル!」
「ぇ、ええぃ!」
シャルが杖を薙ぐように振るとそれに合わせて大質量の無数のケーキの岩がバラの使い魔たちを轢殺・圧殺していく。
そしてシャルはそれらのケーキを一度空中に浮遊させ、さらに近づいてきたバラたちに流星のごとく降り注がせる。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:54:25.87 ID:G+dXZQyK0
「……終わった?」
シャルが周りを見渡すと、そこにはワゴンカーサイズの大量のケーキがあちこちに散乱しているというファンシーな風景があったが、
その実、大量の使い魔たちを殺戮した戦場である。使い魔にもし血があったなら、辺り一面真っ赤になっていたことだろう。
「すごいよシャル! 初めてなのに凄い戦果じゃないか!」
事前に魔法の使い方や戦法を考えてくれたのはQBであって、シャルは言われていた通りに魔法を行使しただけであったが、それでも自分の力を褒められるのは嬉しかった。
「そ、そうかな?」エヘヘ
「その調子で魔女を探し出そう!」
「もっちろんっ!」
このことから勢いに乗ったシャルロッテはQBの先導に付き従い、魔女の下へとひた走る。
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:55:27.12 ID:G+dXZQyK0
魔女の部屋/
『ィエヒャハハハハハ!!』
奇怪な声に怯えながら、一段と大きな扉を開けると、そこでは既に戦いが繰り広げられていた。
「だれかいる!」
シャルが指差す方には、剣を持った高校生くらいの少女と車椅子に乗った人間サイズのフランス人形がしのぎを削っていた。
「彼女は君と同じ魔法少女だよ」
「私のほかにもいたんだ」
と、そうしている内に少女はフランス人形に一撃を喰らわせようとした
「やった!」
だがシャルの喜びもつかの間、横から割って入ったバラの使い魔に邪魔されてしまう。
よく見ると周りには広間ほどではないが多数のバラたちがあちこちに点在していた。
「助けなくっちゃ……!」
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:56:56.95 ID:G+dXZQyK0
シャルは先程の陶器のカケラを再びケーキにし、増殖させる。だが先刻より小さく、量も少ない。
「いいかい? 彼女に当てないように慎重に狙うんだ」
シャルは集中して、まず一つ、勢いよくケーキの弾丸を1つ、使い魔に向けて射出する。バラはその弾丸の直撃に耐え切れず四散する。
「次だ! 奴らもこっちに気付いた! 気をつけて!」
「うん!」
シャルは飛び掛ってくる順にバラを迎撃していく。使い魔たちは剣の少女かシャルのどちらを標的にすべきか迷い始める。
だがそうこうしているうちにシャルの攻撃に散っていき、少女の剣は魔女に届き始める。そして、バラの数が7割がた削れたところで、
少女は魔女に止めを刺す。
「けしきが……!」
「魔女に勝ったんだよ」
空間が何かに吸い込まれていくように収束すると、風景は元居た裏路地の景色に戻っていた。
「初の魔女退治、お疲れ様、シャルロッテ」
「ふわぁ~~……」
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:58:20.63 ID:G+dXZQyK0
安堵から脱力するシャル。地面の上に座り込むのは良くなかったが、ハンカチを敷く余裕もなかった。
と、シャルは先程魔女と戦っていた少女が近づいてくるのに気がついた。
「ありがとう。助かったわ。あなた名前は?」
「あ、ぇと、シャルロッテです。こちらこそ魔女をやっつけてくれてありがとうございます!」
「シャルはついこの間魔法少女になったばかりの新人だ。先輩として助けてあげてね」
「もちろんよ。あぁ、私は高島和美。魔法少女歴は1年よ。よろしくね」
1年って凄いのかな? と、聞いてみようと思ったシャルロッテだったが二人の話が進んでいってしまい聞く機会を逃してしまった。
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 18:59:31.16 ID:G+dXZQyK0
「ところでシャルロッテちゃん」
QBと話していた和美が急に話を振ってきた。
「えと、シャルでいいですよ」
「そう、ありがと。シャル。あなたの魔法、あれはどういう魔法なの? 見間違いじゃなかったらケーキが
飛びまわっていたように見えたんだけど……。あなたの魔法ってお菓子を生み出す魔法なの?」
「いや、シャルの魔法は物質を質量法則を無視して変化させ、分裂・制御させるものだよ」
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:00:53.57 ID:G+dXZQyK0
「何でケーキ?」
「え、と。魔法少女、だし……可愛いかたちがいいかなって。材質は変わらないらしいですけど」
「……それってどういう武器なの?」
「いや、彼女は杖だったね。珍しく」
「杖……。指揮杖みたいなものかしら? とにかく変わった武器ね」
「で、でもそれで戦うことはできないですけどね」
「近接戦闘が苦手、か……ふーん」
「そうだ、和美! しばらくシャルと君でコンビを組んでみたらどうかな?」
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:02:19.20 ID:G+dXZQyK0
「そうね、悪く無いわ」
「いいんですか!?」
「えぇ勿論。歓迎するわ!」
「シャル。君は運がいいよ。和美たちは基本的に互いに協力する姿勢だからね。隣町のエリアだったらみんないがみ合っててこうはいかなかったよ」
シャルは何故魔法少女同士がいがみ合っているのだろうかと疑問に思った。和美はそれを察したように、ポケットから黒い物体を取り出した。
「それは……?」
「これはグリーフシードといって、魔女が落としていく……そうね、ボーナスアイテムって所かしら。これがあると……」
和美はシャルのソウルジェムにそれを当てる。するとソウルジェムが少しくすんでいたのが急に輝きを取り戻した。
「すごい!」
「魔法少女が魔法を使うのにはこのソウルジェムが綺麗であるのが大事なの。だから皆これを手に入れようと必死になるのよ」
和美はシャルにGSを手渡す。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:03:45.46 ID:G+dXZQyK0
「和美はいいのかい? 使わなくても」
「私はまだ一応予備があるわ。だから大丈夫」
「キュゥべえの目から見てシャルはどれくらい強いの?」
「そうだね。魔法の特性上、この町の魔法少女の中では、面制圧・物量戦においてはダントツで優れているだろう。
反面1vs1の、特に近接戦は苦戦になるだろうし、変質も分裂も制御も多く大きくなるほど魔力を喰う。燃費はあまりよくはないね。」
「なるほどね」
「まぁ君みたいに1vs1の近接戦で魔女と戦うタイプの人間には相性はいいと思うよ。今日みたいに大量の使い魔に囲まれたときにはシャルの絨毯爆撃で一掃出来るし」
シャルにはどうにも難しい話なので、とりあえず綺麗になったソウルジェムと、不思議なGSを見比べて不思議がっていた。
と、不意に目の前に右手が差し出される。驚いて見上げると、和美が握手を求めていた。
「一緒に魔女と戦ってくれるかしら?」
「は……、はい!」
シャルはソウルジェムとGSをそれぞれポケットに入れて、両手で強く、和美の手を握り締めた。
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:04:55.76 ID:G+dXZQyK0
表通り/
「へぇ~……じゃあ和美さんってすごい魔法少女なんですね~」
魔女を倒した後、時刻は6時を回っており、まだ時期的には明るかったが、小学生であるシャルは
和美に家の近くまで送ってもらうことになった。
「まぁ、といっても今日みたいに苦戦することだって何度もあったけどね」
「和美の魔法は剣の召還だけだ。といっても普通は召還した武器で戦うのが一般的なんだけどね」
「むしろシャルみたいに武器が無い魔法の方が珍しいわ。といっても、まだあなたを含めて2人しか知らないのだけど」
「でも僕からしても杖は珍しいよ。特殊な才能なのかもしれないね!」
そうやって褒められることで、シャルは少し嬉しくなる。
「でもでも! 和美さんだって剣を片手に悪い魔女をやっつけてきたんですよね! かっこいいなぁ~……」
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:06:34.00 ID:G+dXZQyK0
「まぁ、いつも一人なわけじゃないけどね」
「この町にはもう一人、和美と同い年くらいの魔法少女がいるんだ」
「正確には一つ下。加川真紀という元ヤンの魔法少女よ。怖いから気をつけなさいね、シャル」
「ええぇ~……」
「ははは、君は色眼鏡で見すぎだよ! 彼女も良きパートナーじゃないか」
「そ、そうなんですか?」
「ふふふ、さっきのは冗談だからそう怯えないで。元ヤンは本当だけど、いい奴よ。優しい子。見た目は怖いんだけどねー」
その口調は穏やかで、本当なのだろうとシャルはホッとする。
「あいつとは7ヶ月くらい一緒にこの町を魔女らから守ってきたわ。あいつの武器は連射式の銃だから、
支援砲火してよく助けてもらってるのよ」
「また機会があれば会えるんじゃないかな?」
「そうね、また紹介するわ」
「た、楽しみにしてます……」
口ではそういうものの、少し緊張の取れないシャルだった。
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:08:32.54 ID:G+dXZQyK0
シャルの家/
「おや? シャルじゃないか。おかえり」
家に着くと、シャルの父がちょうど夕刊を取りに玄関先に出ていて、帰宅したシャルたちは鉢合わせになった。
「パパただいま!」
「おかえり。シャル、そちらの方は?」
シャルの父は不思議そうに和美のほうを見る。
「あ、私は新ヶ浦高校の手芸部部長の高島和美といいます」
「はぁ」
(話をあわせてね。シャル?)
「ぅえ!? は、はい!」
「? いきなりどうしたシャル?」
(……シャル~……)
(……進歩しようよ、シャルロッテ)
(ひゃあ~! ごめんなさーい!)
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:10:02.18 ID:G+dXZQyK0
「シャル?」
「え、あぁいや。ぱ、パパ! 私ね、手芸クラブに入ったんだ」
「うちの高校は活動の一環として地域内の小学校と交流をしようという試みがありまして云々…」
(キュゥべえ、これってどこまでがうそなの?)
(高校名以外、全部うそ。さすが和美、流れるように嘘をつくね)
(す、すごい……)
(でも必要なスキルさ。魔法少女という存在が表沙汰に出来ない以上、こうやって取り繕う必要があるからね)
(あー、そういえばアニメでもパパとかママとか友達とかにばれない様にしてるっけ)
(まぁとにかく和美のおかげで、遅くなっても、彼女と一緒にいてもクラブの活動の一環だってごまかせるようになった。
これで心置きなく魔女退治が出来るというものだよ)
(が、頑張らないとー!)
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:11:57.95 ID:G+dXZQyK0
「……と、いうわけで今日は遅くなったシャルちゃんを送らせて頂いたというわけです」
「なるほど……」
和美の嘘の言い訳がつつがなく終了すると、シャルの父は得心したような顔で頷く。
「シャル。それならそうと先にパパに言って欲しかったな」
「ごめん、パパ」
「いや、別に責めているわけじゃない。久しぶりの学校だったんだ。つい気が逸ったんだろう。
友達も出来るし悪いことじゃない。むしろそうやってやりたいことを目つけてくれて、パパ嬉しいよ。」
私は心配し過ぎなのかも知れんな……、と独り呟き、シャルの父はシャルの頭をなでる。そして和美のほうへ身体をむけ、軽く頭を下げる。
「どうかこれからも娘と仲良くしてやってください」
優しそうな、丁寧な、穏やかな大人の対応に和美はふと微笑を浮かべ、
「えぇこちらこそ。よろしくお願いします」
同じように頭を下げた。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:17:30.40 ID:G+dXZQyK0
魔女の結界/ ~それからしばらくして~
「えいっ!」
シャルの可愛らしい掛け声。そしてそれとは不釣合いな低音の風切り音が黒い森林の中の使い魔たちを蹂躙する。
拳ほどの大きさの金平糖が、散弾銃のごとく雨霰と降り注いだ後には、死に体の使い魔たちしか残されていなかった。
今回の金平糖は、例に漏れず見た目こそカラフルな砂糖菓子だが、その材質が石であることやフォルムが棘状であることから、
前回のケーキに比べればより武器らしい体をとっているといえた。
「おぉー! すげぇな! やるじゃんかシャル!」
シャルの横で騒がしく感嘆しているのは耳に金色のピアスをし、髪を蛍光レッドに染めた短髪の厳つい少女。
褒めているのかバシバシとシャルの背中を叩いてくる。シャルは今までであったことの無いタイプの少女であったが、
思ったより風貌にも挙動にも慣れている自分に少し驚いた。そんな彼女と出合ったのは、ほんの一時間前のこと。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:19:29.17 ID:G+dXZQyK0
河原/ ~1時間前~
学校に復帰後初めての休日。シャルは和美に連れられて町はずれの河原に来ていた。
「おぃーっす」
少し掠れたような甲高い声で挨拶をしてきた少女は、河原のふちの枯草も混ざった芝生の斜面に寝そべっていた。
「服、汚れるわよ」
「べっつにいーだろー。払えばいいこった」
そういって背中を叩きながら少女は倒れないように体を起こし、こちらに歩いてきた。
若干くすんだ黒のライダースジャケットとGパンを着こなした彼女は、和美より一回り背が高く、和美とは別の大人の女性を思わせた。
「おっ、これが新人くん?」
不躾にシャルの顔を覗き込んでくる少女。先ほどは大人の女性の風体をしていた彼女だが、近くで見る顔は、
意外なほどに可愛らしく幼い雰囲気を残していた。だが、ピアスやチェーン、不自然な赤い髪の色にシャルはすこしオドオドした。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:21:09.15 ID:G+dXZQyK0
「人を"これ"、なんて呼び方しないの」
「あーはいはい」
「ぁ、えと、シャルロッテです。よろしくおねがいします」
「おぉ、礼儀正しい子だねぇ。あたしは加川真紀だ。好きに呼んでくりゃあいい」
そういって真紀は右手をこちらに向ける。握手だと思って手を伸ばそうとするが、真紀の手は止まらず、シャルの方へと置かれた。
「よろしくな。シャルロッテちゃん」
にかっ、と全く邪気の無い笑い。退廃的な風貌とはうって変わったおぼこい笑顔は、同性のシャルでもドキッとするほど綺麗だった。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:23:10.81 ID:G+dXZQyK0
「それで?」と和美は切り替えるように問いかける。
「場所の検討はついてるの?」
「この河原の上流の方だ。そう遠くじゃなさそーだけどな」
シャルに乗せた手をどけて、真紀は和美に振り返る。急で脈絡のない質問であったが、内容はシャルでもわかった。
というのも、当初シャルと和美は顔合わせということで真紀とカフェで待ち合わせの約束をしていたのだ。
しかし、来る途中に魔女の反応があり、どうせなら顔合わせついでに共闘しようと申し出てきて、今に至る。
「じゃあ、はやく行きましょう!」
そう意気込むシャル。ちなみにその待ち合わせのカフェは美味しいパフェがあることで有名であり、
真紀が来ない、つまりパフェが食べれないと知った時には希望と絶望が相転移したことは秘密だ。
「いいガッツだ。じゃあ行くか!」
「ええ」「はい!」
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:25:11.96 ID:G+dXZQyK0
河原上流/
大して歩いたわけでもないが、ソウルジェムの光は明らかに強くなっていた。恐らく真紀と顔を合わせた地点から既に近かったのだろう。
「てことはヤバい系の素材でお菓子を生み出す魔法ってことか」
「正式に言えばその『ヤバい系』の素材で生み出した武器がお菓子の形をしていた、よ」
「じゃあ何? ホットケーキの形をした核爆弾とか作れんの!?」
「キュゥべえがいうには、わたしがイメージできるものが限界らしくて……中身が全部石、みたいに簡単だったら大丈夫なんですけど……」
「核爆弾の作り方なんて、小学生が知りえる知識ではないわね」
「いんや、普通の爆弾とかだったらパソコンとかであるんじゃねぇ?」
「難しいものだとその分魔力がいりますしねー……。それにたぶん作り方なんて見ても覚えられませんし……」
「ふぅーん。なーるほどねー」
「まぁいいんじゃない? 爆弾兵器で戦う魔法少女って、新感覚すぎるわ」
「あたし、銃だけどな」
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:27:17.99 ID:G+dXZQyK0
そんな話をしているうちに、ソウルジェムが一気に輝きを強める。魔女がいる! シャルは気を引き締めてあたりを見回す。
すると背の高い雑草に囲まれた、さび付いた外観のプレハブ小屋が見えた。距離的にも、おそらくここであろう。
三人は会話を交わずとも、その共通認識に至る。
「っつーことで、作戦ターイム」
真紀は適度にリラックス様子で後ろの二人に告げる。
「いつも通りの仕事分担ね。私が切り込んで、あなたが銃で補助・追撃。
シャルは前みたいに周りの使い魔たちが邪魔できないように一掃して」
「はい!」
それぞれが、予想通りのポジションに収まったのか、何の反論もなくすんなりと決まった。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:29:01.26 ID:G+dXZQyK0
「じゃあ行きましょう」
「ちょーい待ち」ガッ!
「ぃがっ!」グイ!
和美が意気込んで突入しようとしたところを真紀が思いっきり襟首をつかみ、和美は一瞬呼吸ができない状態になった。
「ゲホ……! ちょ、ちょっといきなり何するのよ!」
「まーだ大事なことが決まってねぇんだよ」
真紀は和美の襟首を掴んだままシャルに向き直る。
「シャルロッテ」
「は、はい?」
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:30:02.77 ID:G+dXZQyK0
「名前長いから省略しねぇ?」
「えぇー……」
「なに? 嫌か?」
「いやって訳じゃなくて……、もっと大事な話かと思って」
「なにー!? 大事だろ! だってヤバイ時にいちいち『シャルロッテー!』って呼んでたらヤバイことになるって。ジュゲムるって!」
「真紀。いいからとりあえず離しなさいよ……」
「だからさ、何かあだ名とかあるっしょ? シャルロとか?」
「聞けよ」
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:31:15.42 ID:G+dXZQyK0
「え、とできればシャルでお願いします」
「あえてシャロってのは?」
「なんだか分からないけどマズイことになりそうなのでやめておきます」
「離しなさいっての!」
バシッ、と和美が手を払いのけた。真紀はごめんごめんと軽い調子で、叩かれた手をひらひらとさせて謝る。
「そんな馬鹿は放っておいて、行くわよシャル!」
「馬鹿って酷いよなー? シャル」
そういいながら、二人の意識はプレハブ小屋に向く。幾分かリラックスして向かう姿は、魔法少女を始めて数日の自分とは比べ物にならない場慣れしていた。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:32:30.63 ID:G+dXZQyK0
だから、不足の状況に陥ったとしても、その判断は早い。
「っ! やっば……!」
プレハブ小屋の戸を開けると、ツンとした酸の匂いが鼻につく。
小屋の中には既に魔女の口付けによって6人ほどの男女が集まっていた。
彼らはそれぞれ嘔吐をするなどして、ある者は呻きぐったりし、ある者は胸を押さえて苦しんでいる。
シャルはそんな異様な光景に固まっていた。
「和美! あれだ!」
奥に目をやると、七輪が置いてあった。
「シャル! 窓を開けて!」
「ぁ……あ、は、はい!」
ここでシャルが動けたのは、偏に病院で幾度か発作を起こした人を見てきたからであろう。
和美の指示に、シャルは急いで従った。真紀は七輪の傍に長方形の箱を見つけ、その商品名を見る。
「やっぱ練炭かよ……。外に出そうっ!」
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:33:46.03 ID:G+dXZQyK0
真紀は近くの被害者から順に小屋の外に運び出そうとする。
和美は被害者の安否を確かめていると部屋の隅に居た一人の中年男性はピンク色の血色のいい顔をしていた。
「まずい……!」
和美は慌てて男性を運び出そうとする。
「どした!?」
「詳しいことはわからないけど、一酸化炭素がどうとかで血色が良い方が危険だってTVでやってた気がする!」
「!? ……死ぬなよぉ、オイ」
だが、担ぎ出すその前に、部屋の影がゆれる。元々日の入りにくい場所だったのでそういうものだと思っていた面々であったが
「これって……!?」
「使い魔ね……。なんて間の悪いっ!」
「愚痴ってねーで、さっさとやるぞ!」
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:35:03.03 ID:G+dXZQyK0
全員が武器を構える。シャルは河原で拾った石を元に飴の形の岩を作り出す。影が躍り出る。
その数は10体超。それと共に小屋の景色に歪みが生まれ、背景が黒い葉の森と化す。風景が変わっても、使い魔は影のままであった。
そういった姿の使い魔なのだろう。目だけはリアルな人間の目に見えるのに、それ以外は全てアニメ調に塗りつぶしたような黒い影。
「いくわよ!」
「りょーかい!」「はい!」
和美が両刃剣で刺突する。同時に真紀が和美と反対側の影に射撃を浴びせる。
三つの銃身が束になったような装飾銃からは間断なく銃弾が射出される。
シャルは二人の攻撃の範囲を外れた影から口付けされた一般人を守るように石の飴を振り回して牽制する。
結局大して被害もなく、その戦いは終了した。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:36:01.12 ID:G+dXZQyK0
「影だったけど、実態はあったみてーだな」
「斬っていて変な感覚だったわ」
使い魔を倒した後も、風景は変わらなかった。
「景色、変わりませんね……」
「さすがにあの中に魔女はいないでしょ」
「でもどうしましょう……。早くこのひとたちを病院につれていかないと……」
ふむ、と真紀が携帯電話で救急車を呼んでみようと携帯を開いたが、
「だーめだ。圏外になってら」
「もしかしたらと、思ったんだけどね」
「結界のせいですかね」
「かもなー。そう上手くはいかねぇってこった」
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:37:16.06 ID:G+dXZQyK0
思案に暮れた三人はとにかく練炭中毒になった6人を一箇所に集めて影の使い魔たちから守れるようにした。
「と・に・か・く、だ。あたしらは使い魔からこいつらを守りながら、魔女を見つけ出して倒さにゃならん!」
「余り動かすわけにもいかないしね。そういう意味では全員意識が無いのは不幸中の幸いってとこかしら」
「病状はよくないがな」
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:38:41.83 ID:G+dXZQyK0
「魔女って、出てこないものなんですか?」
「基本的に奥で待っているものよ。使い魔で削って自分と戦う時までに消耗させるためにね」
「つまり誰かが探しに行く必要があるってことだ」
真紀の発言に、和美が前に歩み出る。
「そうなると私かしら?」
速力・近接戦闘力・防御力を鑑みれば、この申し出は当然のことだった。が
「いや、あたしも行く。正直一刻を争う状況だ。探索は一人でも多いほうがいい」
「でも! シャルに任せきるのは危険だわ!」
その言葉に、シャルは反応する
「あの! わたしやります! やってみせます! 迷惑はかけません。やらせてください!」
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:40:05.64 ID:G+dXZQyK0
「だってさ?」
「なに言ってるの! あなたはまだ……」
「頼むよ。これが最善だ。和美は魔女を探す係りだ」
「! …………わかったわ」
和美は小さく頷いて、跳躍で飛び去っていく。
「ったーく。どんだけ心配性だよ」
「……真紀さん。わたしって、頼りないですかね……?」
シャルは暗い表情で真紀に問う。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:41:11.50 ID:G+dXZQyK0
「気にすんな。あいつの性分だろ? 妹ができたみてーな心境なんだろぉよ」
そういうと真紀はシャルの頭にポンと手を置く。
「ま、気持ちは分かるよ。あたしと違ってこーんな可愛い後輩が出来たら心配しねぇほうが嘘ってモンだ」
「真紀さんだってかわいいですよ」
「なはは。社交辞令も可愛いーなーオイ!」
社交辞令じゃないです、と本心からの気持ちを述べようとしたシャルだったが、
真紀がシャルの髪をぐしゃぐしゃとかき乱すように撫でたため、中断されてしまった。
「じゃ、任せるわ。十分に気をつけてな」
そういうと真紀は和美とは別の方向に走っていく。
シャルはそれを見送ると、杖を石に当て金平糖に変化させ、それを増殖させていつでも敵が来ていいように準備を整え待ち受ける。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:41:56.63 ID:G+dXZQyK0
体感時間で10分はかかっただろうか。一匹の使い魔が現れた途端いきなり何匹もわらわらと現れ始めた。
数は少なくとも最初に相手していた倍以上はいる。シャルは俄かに上昇した心拍数を下げるために呼吸を整える。
「よしっ!」
シャルは杖を握り締めると、飛び掛ってきた影に金平糖の散弾銃を喰らわせる。
敵はその威力に慄いたのかシャルと距離をとって包囲するように牽制する。だがそんな陣形ではシャルの思う壺だった。
シャルは地面に散乱した金平糖の重石を振り回すように指揮する。だれかが見ていたならば、
まるで鎖の見えないフレイルを振り回しているように錯覚しただろう。
「って、なんかふえてる……」
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:42:52.93 ID:G+dXZQyK0
かなり目減りした影たちは更に増援を呼んだのかまた沸いてきて、数は先程よりも少し膨れ上がった。
その影に向かってシャルは上空から大きなケーキを落下させる。隕石ともいえるそれに激突した影は抗う術なく潰されてしまった。
だがその間にも、何処に潜んでいたのか再び影は現れる。今度は先程より更に多かった。そして、
「あれって……」
折り重なる影の向こう、上空に一匹の兎のヌイグルミが見えた。まず驚いたのはその大きさだ。
5メートル強はあろうかという大柄。肌は土気色で、手にあたる部分には戦いの跡なのか集中的に切り傷が刻まれている。
そして首にはロープが巻きついていた。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:44:05.04 ID:G+dXZQyK0
「! 魔女だ!」
『ゥ゛……ァ゛………』
呻く様な声に指示され、影たちは最短距離でシャルに詰め寄る。
射出した弾丸は既に砕け、手元のストックは心もとない。だが一般人を見捨てて退避するわけにも行かない。
シャルは手元にある全ての金平糖の弾丸を放出する。その一撃で前衛は壊滅した。
しかしその後方につけていた使い魔たちが躊躇なく襲い掛かってくる。
「うわぁ!!」
間に合わない!
悟ったシャルは両手で頭を守る。だがその時、シャルの耳には連続で銃声が聞こえた。
はっとして前を見ると、襲ってきていた影は霧散しており、目の前には少なくなった影と兎の魔女がいただけであった。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:44:57.25 ID:G+dXZQyK0
「よくやった。お前のおかげで魔女を見つけれた!」
後方から、銃を構えた真紀が現れる。
「真紀さん! なんで!?」
余りに早い応援に困惑するシャル。一方真紀は口元だけにんまりと笑みを携えながら
「なんてこたぁないよ。シャルのところに魔女が来るのを待ってたのさ」
「ど、どういうことですか?」
「ここいらは全部一面森だ。部屋みたいに隠れるとこは無い。じゃあ常に移動してるんじゃないかって考えた。
森だし、相手もそのほうがいつでも奇襲できて有利だからな」
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:45:40.19 ID:G+dXZQyK0
「じゃあ和美さんは?」
「相手だって馬鹿じゃない。孤立してる奴から狙いにいくっしょ? あいつのところに行く可能性だってあった。
そんときは戦いながらこっちに誘導する手はずだったんだよ」
けっこー前につかった作戦だ、といいながら真紀は連射銃を魔女にぶっ放す。魔女はよける素振りも見せなかった。
だがその身体にはほとんど傷はついていなかった。魔女は再び影を突撃させる。
だが、その単調な攻撃にシャルは先程までと同様に、増殖させた金平糖をぶちまけた。
「おぉー! すげぇな! やるじゃんかシャル!」
バシバシと真紀はシャルの背中を叩く。
「遠距離じゃ効かなさそうだ。こりゃ和美待ちだな」
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:46:51.60 ID:G+dXZQyK0
そう呟くや否や、魔女の背後に一閃切り込まれる。
「和美さん!」
「シャル! 大丈夫!? 怪我はなかった?」
「は、はい大丈夫です」
真紀は和美を心配性だと称していたが、なるほど、確かにそうかもと思うシャルだった。
「斬撃は効いてるみたいだな。押し切れそうだ!」
「任せておきなさい。ここから活躍してやるわよ。二人とも、援護宜しく」
「はい!」
和美が突撃する。シャルは魔女の左右にお菓子の岩をばら撒き、逃げ道を狭める。
真紀は射撃体勢に入ったまま動かない。
そして、動きの制限された兎のぼろぼろの腕に和美は肉体強化された渾身の力をもって剣を振り落とす。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:47:37.61 ID:G+dXZQyK0
『ゥ゛…ゥ゛ウ゛……』
腕を切断された土気色のヌイグルミは苦しそうに呻く。その一瞬。真紀は切断面の綿に向かってありったけの銃弾を打ち込んだ。
『ァ゛ゥ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛!!』
ヌイグルミは悲鳴を上げた。しめた、とばかりに真紀とシャルはその切断面に投擲、射撃を繰り返す。
和美も、苦しんでいる好きに更に破けた箇所を広げようとする。抵抗なのかそこかしこから三人を捕まえようとロープが伸びるが、
痛みからか精度に欠き、シャルでも何とかよけられた。
そして魔女への攻撃は苛烈さを増していき、誰の攻撃が最後のトドメかはわからないが、魔女は滅びた。
景色が戻る。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:48:36.02 ID:G+dXZQyK0
だが、安堵している場合ではない。和美はすぐに救急車を呼び、真紀は小屋から河原の風通しのいいところに被害者たちを運んでいった。
シャルは芝生を駆け上がって、道路の上で救急車が来るのを待ち、誘導した。
去っていく救急車を見送り、三人は始めてほっと一息をつく。
後日、和美は現場状況の説明とやらで警察とやり取りが有るらしいが、ともかく、この件の一応の決着はついたようだった。
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:49:23.62 ID:G+dXZQyK0
そうして、安心したのか、シャルのお腹がくぅと可愛らしい音を鳴らす。
その音に和美と真紀は顔を見合わせて笑い、シャルは恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。
「もう1時を過ぎてるからね。シャルには遅い昼食の時間かしら?」
「そっか。そういや元々は昼飯時に顔合わせの予定だったっけ」
「真紀はどうする? 食事」
「どーしよっかねー。コンビニかどっかで適当にすますよ」
「あ、それなら……どうでしょう。あの待ち合わせしていたカフェで食べません? ね?」
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 19:50:59.72 ID:G+dXZQyK0
「え? ま、まぁいいけど。どうした? 急にグイグイくるな……」
「あそこのパフェが食べたかったのよねー、シャルは」
「え!? ななんで知って……ぇあ! ちがくて! そうじゃなくて……!」
「じゃあここから少し距離あるけど、行くとしましょう」
「べ、別にパフェが食べたかったわけじゃないよ!」
「シャル。今日頑張ったご褒美にあたしがそのパフェおごってやるよ!」
「え!? え、えと……。おっきいの頼んでいいですか……?」
「シャルってば」クスクス
「い、いやぁ~なんつーか、肝が据わってるというか……大物だよお前は」
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:10:33.76 ID:G+dXZQyK0
カフェ/
「や、やっと……!」
空腹状態で歩き切った30分の道のり。
歩いている最中に何度も訪れた誘惑を振り払い、シャル一行は志半ばにして諦めることなく目的のカフェへとたどり着いた。
「さすがに空腹だわ……」
「あ、おい!」
真紀の声が聞こえなかったのか、シャルは遮二無二店の中へ突入した。それを見て二人はやれやれと追いかける。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:11:03.50 ID:G+dXZQyK0
「う~ん……」
シャルは店頭にあるメニューを見ながら唸る。どれにしようかと悩んでいるようだ。
「じゃああたしはこのドリアで」
「またカロリーの高そうなものを……」
「大丈夫大丈夫。動いてりゃ太らんもんだって」
「何? それは何? 私にもっと働けって言ってるのかしら?」
「いやいや、太ってねーよあんた。痩せてるほうじゃん?」
「努力の賜物よ。気を抜いたら、すぐだわ」
へいへい、と真紀は苦笑いする。実際に和美は太ってはいないのだが、世の女性というのは痩せていれば普通の、
普通であれば肥満の体型であると感じるものなのである。シャルはメニューを見ながら横目で、完璧な大人の先輩
と思っていた和美の、そんな年相応な面に思わず微笑んでしまった。
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:12:54.38 ID:G+dXZQyK0
「シャルは決まったの?」
「あ、はい。一応。ずっと決めてたんで」
「パフェ?」
「はい!」
「いやいやパフェだけじゃ腹は膨れんだろ。 なんかほかに頼んだらわ?」
「え、でも……。これで足りるかどうか……」
といってシャルは財布を逆さにして500円玉を取り出す。
メニューをよく見るとオシャレを重視しいたのか値段表記が円や¥ではなく、Yenの筆記体になっていた。
英語を習っている二人はともかく、シャルはこれのせいで値段がわからなかったのだろう。
「どれが食べたいの?」
「えと、」
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:13:59.68 ID:G+dXZQyK0
シャルが指差したのは『たっぷりチーズのパスタ』であった。ちなみに値段は足りていない。
そもそもこのカフェのメニューは飲み物と副菜以外すべて500yenを超えていた。だが
「あんだよ十分足りるじゃねーか」
「え?」
「500円ってそんなに大金を持ってたのね」
「よっし、じゃあ今日は二人で割り勘にしよう」
「だったら私も頼むわ」
「え?」
「今月厳しいのよ。シャルの500円で一緒に奢ってもらえるかしら?」
「は、はい! もちろんです!」
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:14:48.57 ID:G+dXZQyK0
「…! ………!」
ゴクリ、と唾でのどを鳴らしながらシャルは注文の品を今か今かと心待ちにしていた。
手間のかかる料理工程なのか、シャルのパスタだけまだ来ていなかった。
「まさかドリアのほうが先に来るとは思わなかったわ……」
「空気読めよ店員……」
二人はシャルにも聞こえないように話す。さすがにこの状況では食べるに食べられない。
マナーというより良心に因るものである。シャルも察したのか「先にどうぞ」と勧めていたが、
それで食べようと思えるほど彼女たちの神経はず太くはなかった。
だが、時間が時間だけに、目の前に料理を置かれて待つというのは存外つらいものである。と、愚痴っていると
「お待たせいたしました、『たっぷりチーズのパスタ』でございます」
高校生くらいの年齢の男性店員がシャルのご希望の品を運んでくる。
「よし! 食うぞ!」
「いただきます」「いっただきまーす!」
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:15:37.00 ID:G+dXZQyK0
全員、まず一口、口の中というよりも胃の中に食べ物を入れる。
空腹は最高のスパイスというが、この旨さは店の腕なのか、そのスパイスによるものなのか、とにかく美味しかった。
「あ、今日は魔女退治お疲れ様」
「そういやその打ち上げだっけ?」
名目はね、と和美が付け加える。
「お腹へって忘れてましたねー」
そういいながら、シャルはたっぷりチーズを絡めてパスタ麺をすする。
その食べ方には上品さはなかったが、本当においしそうに食べており、二人は奢った甲斐があると柔らかく微笑んだ。
「シャルはチーズが好きなの?」
「うん! 一番大好きです!」
「イタリア出身だったっけ? 和美に聞いたよ」
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:16:17.57 ID:G+dXZQyK0
「もっと小っちゃかった時に食べたチーズの味が忘れられないんですよ!」
「へぇ~」
「どんなの?」
「えっと、名前はわからないんですけど、とにかく美味しかったんですよ。あぁ~何ていえばいいんだろ~……!」
「おいおい~。目の前の料理をさて置いて他のチーズの話かよ~」
「あ! いえ! そんなつもりは! 久しぶりにチーズの話をしたから盛り上がっちゃって……」
「久しぶり?」
「あー、最近まで食べられなくて……チーズ」
「? なんで?」
「ぁ……え、と、ですね」
シャルが口ごもる。さっきまで輝いていたその顔に少し影が差したように見えた。
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:17:54.95 ID:G+dXZQyK0
「別に言わなくていいわよ。今が食べられて幸せなんだったら、それでいいじゃない?」
「あ……」
「そーそー。魔法少女なんてみんな何かしらあったんだから」
真紀の一言に和美は、余計なことを言わない! と脛を蹴る。
「ぅお! 痛っ!」
「まぁこいつの言うことも尤もよ。もう解決した話だし。魔法少女っていうちょっと変わった人生だけど、楽しまなきゃ損でしょう?」
「じゃあ何であたし蹴られてんだよ!」
「言う必要の無いことを言ったことへの叱りが1割。で、河原で襟首を掴んだことへの仕返しが9割」
「執念深けぇ……」
「さ、伸びる前に食べましょ? シャル」
真紀が脛をさすっているのを無視して、和美は再びパスタに手をつけ始めた……。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:19:30.73 ID:G+dXZQyK0
~それからちょっとして~
「お待たせいたしました、『季節のフルーツを乗せたダイヤモンドパフェ』でございます」
また先程の男性店員がシャルの念願の品を運んでくる。ドンと机の上で威圧感を放つそれは、
ダイヤモンドというよりダイナミックパフェに改名したほうがよさそうなボリュームだ。
「……食えんの?」
真紀の質問は至極全うなものだろう。明らかに4~5人前の量だ。
「……これってもう大食い挑戦用じゃない?」
「この小さい身体のどこに入るんだこれ? 胃の体積越えてるだろ実際」
中に何か別の生き物いるんじゃねぇ? と訝しむ真紀にシャルは微笑んで返す。
「甘いものは別腹なんで! ……それに、」
「それに?」
「みんなで一緒にたべたいなぁ……って」
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:20:52.63 ID:G+dXZQyK0
シャルの一言に、二人が固まる。特に和美が顕著だ。
「マジデ……?」
「まじです」
「本当なの……?」
「や、やっぱりダメですよね」
すいません……、と落ち込むシャルの姿を見て、真紀は決心した。
「ぃようし! 第二ラウンドの始まりでゃー!」
「ちょっ……!」
「ありがとうございます!」
「もちろん、和美も食うよな?」
「あ、いや、私は……」
「私はぁ?」
「……ぁ、あーもうっ! 分かったわよっ! 食べるわよ!」
「そうこなくっちゃ! はいスプーン」
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:21:32.16 ID:G+dXZQyK0
三人は少しずつパフェをつつき始める。果物類がそこはかとなく邪魔なので、各自小皿に分けて食べる。
すると真紀は和美の取り皿の中身が少ないことに気付き、
「はい和美さん。倍率ドーン!」
ごっそりと和美の取り皿の中にパフェを入れる。中身は瞬く間に先程の数倍となった。
意地悪な笑みを浮かべる真紀。対照的に和美は引きつった微笑みでそれを見る。
「ダイエットは明日からってな」
「の、残してもいいのよシャル? この、ダイエットなんて必要ない真紀先輩が余った分全部食べてくれるって……!
シャルも女の子だからあまりカロリーの取りすぎはよく無いわ。沢山残してあげましょう?」
「ちょい! そりゃ無理だ!」
「大丈夫です。わたし、どんなに食べても全然お肉がつかないんですよ~」ハグハグ
「神は死んだ!」
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:22:49.00 ID:G+dXZQyK0
いつになくオーバーなリアクションで机に突っ伏す和美。また新たな一面を垣間見た……いや
見てしまったシャルは大きな目をぱちくりとさせて驚き、真紀は気にせず小皿のパフェをつついている。
「ふふふー……私は神を探している~……」
「か、和美さん? しっかり」
「分かってるのよ……。体質なのよね。いやぁ……神様って不公平よね……」
「き、キュゥべえに頼んでみたらどうですかね?」
「いや無理だろ」
「呼んだかい?」
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:23:34.84 ID:G+dXZQyK0
急に声がしてシャルが驚くようにして振り向くと、隣の机の上に、あたかもずっとそこにいたかのようにQBが鎮座していた。
「よんでねーよ。ガールズトークに花咲かせてんだ。男は帰りな」
「そういえばキュゥべえって雄なの?」
「どうだろうね? 性別という概念は君たち人間が作り出したものだからね」
「小難しい言い方しねぇで、わかりませんって言ったらどうだ?」
「キュゥべえもたべるー?」
「いや、僕は、」
「…………」ジ―…
「お供するよ」
「ほい、お前の分」
そういって真紀は小皿にどっさり盛り付けて、QBの前に置く。と一緒に口が汚れるだろうからと
濡れタオルを置いた。優しいのかどうか判断に迷う行動である。
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:24:43.68 ID:G+dXZQyK0
「それで?」
和美は少し真面目になって聞く。真紀も同様に表情から若干リラックスした雰囲気が消える。
シャルも何となく内容を察知して、両手をひざに置いた。
「うん。君たちの活躍のおかげで全員無事だったみたいだよ。少しばかり入院する人も出たけど、
少なくとも全員が後遺症もなく、命に別状もなかったみたいだね」
QBのその報告に全員がホッと安堵の表情を浮かべる。
「ま、迅速な対応の成せる技だな」
「今回ばかりは肝を冷やしたけどね」
「ああいうことってよくあるんですか?」
シャルはずっと思っていたことを聞く。
「そうね、強い魔女であればあるほどよく起こりうることだわ」
「つっても、まだ誰も死なせたことはねぇけどな」
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:26:10.11 ID:G+dXZQyK0
「君たちは働きすぎだ。グリーフシードの出さない使い魔くらいは見逃さないといつかソウルジェムが真っ黒になって使えなくなるよ」
「それでもよ。使い魔でも誰かに絶望を撒き散らすのなら放っておけないじゃない?」
「そーそー。なんたってあたしたちは正義の魔法少女様なんだからな」
「わたしはカッコいいと思います!」
「でも君の魔法ではロスが大きくて、彼女たちと同じ数を戦っていればすぐに燃料切れになるよ」
「それはこれからすべを学んでいけば良いだけのことよ」
「はいっ!」
「そうか……。そこまで言うのなら仕方が無い。これからも頑張って、この町の全ての人々の平和の為に、全力で頑張ってね」
「とーぜん」「勿論よ」「うん!」
三人のは同時に返事をする。シャルは少し、じんと感動した。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:27:45.80 ID:G+dXZQyK0
「さて、シャル。これ早くしないと溶けちゃうわよ」
「うわ! 本当だ! もったいない!」
「よし、あたしが分けよう」
そう言って和美とQBの皿に追加する。
「あなたの分はどうしたのよ!」
「ねぇよく見てよ。僕の体格の割合だとこの量は超過すると思わないかい?」
「キュゥべえなら食える! 最悪背中で」
「無視するなってば!」
「やれやれ、わけがわからないよ」モグモグ
「あの!」
「「「?」」」
「わたし、今……とっても幸せです!」
シャルの言葉に、二人は微笑んで返す。QBはいつものように表情に変化は無いけど、
きっと同じように反応してくれているだろうと、思うシャルなのであった。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:29:05.46 ID:G+dXZQyK0
「ってあぁーー! 崩れる! パフェ崩れる!」
「え? うわぁ!」
「まったく、和美がこの状態でメロンを引き抜いたからだよ」
「え? 私!?」
「なにジェンガしてんだおめー!」
「だってメロン好きなんだもん!」
「かわいこぶってる場合か! ちょ……和美、シャル! そっちの部分食っていてくれ! スプーンじゃ支えきれん!」
「わかりました!」
「ぶ、ぶってなんかないわよ!」
「いいから早くー!」
「やれやれ」モグモグ
そうして、騒がしく、魔法少女たちの一日が過ぎていく。奇跡の恩恵で手に入れたこの日常は、掛け値なしに楽しかった。楽しまなきゃ、確かに損だ。
幸せ。幸せだ。シャルは思う。
幸せだなぁとシャルは口にする。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/19(日) 21:30:27.13 ID:G+dXZQyK0
幸せ、だったなぁと、シャルは追憶した。
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シャルロッテ「病気をなおして!」 【中編】
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