1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:42:32.20
ID:vPkjSXlF0
見えるのは私の足だけです。
目は開いているのに。
視界は狭いです。
目を開けているのに。
閉じてなんかいません。
生きていますから。起きていますから。
ーーーーーーー。
私は生まれています。
母のお腹の中から。
私は生きています。
今もなお、虫の息ですが生きています。
この世に、この地球という惑星に、
このアイドル事務所に、生きています。
この事務所のデスクの下に、ですが。
存在しています。生息してます。
もりくぼです。
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:43:38.85
ID:vPkjSXlF0
生まれたての動物さんではありませんので…目は開いています。
(以前、美玲ちゃんに「ノノは生まれたての子鹿みたいだな」と言われましたけど。そのくらい私は震えていたそうです)
目は、開いています。ぱっちりと。
でも。でも見えるのはもりくぼの足だけです。もっというと、スカートで隠れた太ももと膝だけです。
なんででしょうか。
体育座りしているからででしょうか。
踞って、下を向いているからでしょうか。
あっ…それが理由でした。
そうでした。
顔をあげれば、また違う景色が見えます。
でも私は顔をあげません。
あげられません。
逃げに逃げて、大舞台からも逃げ出して。
今さら顔をあげられますか。
いぢめですか。
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:44:51.15
ID:vPkjSXlF0
顔をあげないといけない、というか、今からでもライブ会場に行かないといけないんですけど…。
もりくぼにはむりです。
むーりぃー。
出来るわけがないんです。
もりくぼにファン(いるかどうかも怪しいですが)を楽しませるなんて、出来るわけがないんです。
きっと失敗してしまう。
失望させてしまう。
ファンを、プロデューサーさんを。
…輝子ちゃんを、美玲ちゃんを。
それだけは嫌です。
それだけは…、、、、、、。
ーーーー。こうして逃げて、デスクの下で1人うずくまっていることで、失望させてしまっているんじゃーーーー。
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:46:15.62
ID:vPkjSXlF0
瞬間。
汗が背中をつたる感覚を覚えました。
子どものころ、大型ショッピングモールで親とはぐれたことを思い出しました。
みな出払っているのか、静かな事務所に
もりくぼの心臓の音だけが響いています。
どくん、どくん。どくどくどくどく…。
誰かの呼吸音が聞こえます。
もりくぼの呼吸音でした。
焦燥感、と言うものでしょうか。
おかしな感覚です。
焦がっているもりくぼを、
どこか遠くから見ているような、そんな気持ちです。
デスクの下にいるもりくぼは、透けて見えました。
透明なデスクです。
もりくぼは隠れもできないんですか…。
恥ずかしい。どこか遠くの森へ逃げてしまいたいんですけど…。
い、行かないと。でも、でも行ったって…。
チラと目をやれば、もりくぼの腕時計は
開演30分前を指していました。
メイクも終わって、本番直前の最終確認も終わっている時間です。
あうぅ…。そんな情けない声が出ました。
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:47:19.99
ID:vPkjSXlF0
もう、無理です。
初めから、わかっていました。
プロデューサーさんにも言ってました。
「もりくぼなんかに、アイドルは出来っこない」
むしろ、ここまでよく続けてこれました。
何度も逃げてしまったけれど、もりくぼにしては頑張りました。
もう辞めましょう。アイドルなんて。
失望させてしまったのなら、逃げます。
会いたくありません。怖いです。
置き手紙をして、森に逃げましょう。
そう思って、肌身離さず持っているポエム帳の空きページをちぎりました。
ちぎり…。
上手くちぎれません。
手が震えています。
やっとの思いでちぎったときには、紙はぐしゃぐしゃの状態でした。
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:49:12.59
ID:vPkjSXlF0
しかも手汗でべたべたでした。
すごい手汗です。ポエム帳がぐちょぐちょです。
いや、手汗だけじゃこうなりません。
ぽたぽた、ぽたぽた。
デスクの下に小さな雨雲があるみたいです。
雨が頬を伝っていきます。
暖かい雨です。
ぽたぽた、ぽたぽた。
雨が邪魔で、上手く手紙をかけません。
視界が狭いです。目は閉じていないのに。
視界がボヤけます。目は開けているのに。
書きにくい。置き手紙なんて書こうとするんじゃありませんでした。
思考がまわりません。どうしてもりくぼはどこにいたんですか。
書きなぐった形になった置き手紙。
読むに耐えません。
書いた手紙はポケットにいれました。
書いたことは後悔の念でした。
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:50:16.32
ID:vPkjSXlF0
なんでもりくぼは逃げたのでしょう。
どうしてもりくぼはこんなにだめだめなんでしょう。
アイドルの仕事は、みんなとするきついレッスンは、嫌いじゃなかったのに。
斜面を転がりだした岩はとまりません。
重い岩は転がり続けます。
雨は止みません。
後悔の念は出続けます。
どうして、どうして、どうして…。
ーーーーーー。
少し、寝てしまっていました。
いつの間にか、雨は止んでいました。
ーーーーーー。
私はどうしてもりくぼなんでしょう。
もりくぼってなんでしょう。
デスクの下に隠れているもりくぼは、なんなのでしょう。
どうしてもりくぼはデスクの下にいるのでしょう。
時計の針は、公演時間を指していました。
死んでしまいたい。
そう思いました。
でも死ぬ勇気すら、もりくぼにはありません。
このまま。せめてこのまま、誰にも見つからずにデスクの下にいたい。
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:51:16.25
ID:vPkjSXlF0
そんなことをかんがえていたら、誰かが私を呼ぶ声が聞こえました。
この部屋にいるのは私1人のはずですが。
ノノッ!!
もりくぼは置物です。
だから呼びかけにも応えません。
ぼ、ボノノちゃん…。
もりくぼは1人、いや1つです。
デスクの下の、おきものーーーーー
「ノノッ!!」
「ヒィッ!?」
「ウオッ」
突然の美玲ちゃんの呼びかけに心臓が跳ねました。つい声が出ます 。その声に輝子ちゃんが隣で肩を震わせていました。
え、あ、と、となり?
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:52:03.67
ID:vPkjSXlF0
「あっ、ショーコ!? ショーコまで机の下に行ってどうするんだッ!」
いつの間にかデスクの下にきた輝子ちゃんを見て、美玲ちゃんは声を荒らげていました。
でも当の輝子ちゃんは何処吹く風で
「フヒ。ここはマイフェーバリットプレイスだからな…。いつもと位置は違うが。自然と体が…」
と言ってキノコを触っています。
どこからキノコを持ってきたのでしょう。
え、というかお二人ともライブは…。
なんでここが。
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:53:11.83
ID:vPkjSXlF0
「な、なんでここがわかったんですか…?
それに、2人ともライブは…」
聞かざるを得ません。気になって仕方ありません。
てっきり、2人でライブをしてるのかと…。
美玲ちゃんが、輝子ちゃんを引きずり出しながら答えました。
「2人ともライブは?じゃない!
3人のライブなのに、ノノがいなくてどうするんだッ!」
「さ、探しに来たに、決まってる…」
輝子ちゃんが引きずられながら続けました。
「きっとデスクの下に居るって、目星がついてたさ…。まさか、ちひろさんのデスクの方にいるとは、思わなかったが…。この部屋に入って、なんとなく、ちひろさんのほうだなって…わかった」
なんとなく、ですか。
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:54:11.40
ID:vPkjSXlF0
なんとなく。
その言葉を咀嚼していると、
輝子ちゃんを引きずり終わった美玲ちゃんが、もりくぼを見ているのに気づきました。
申し訳なさから、思わず目を逸らします。
「ノノ、行こう。
ウチだけじゃ、ショーコだけじゃ、ノノだけじゃ作れないものを、作ろう。
この3人でしか作れないライブがあるんだ」
美玲ちゃんは、手をもりくぼの前に出しました。
いつの間にか、輝子ちゃんも心配そうにこっちを見ていました。
これも、申し訳なさから思わず目を逸らします。
「乃々は…アイドルがい、嫌なのか?
確かに辛いことも多いけど…。
私は、この3人でやるレッスン、楽しかった。乃々は、どうなんだ?」
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:55:31.87
ID:vPkjSXlF0
そういう風に思わせてしまっていたことに、今更ながら私は気づきました。
そんなことはありません。
「い、嫌じゃ、ありませんけど…」
嫌じゃない。失望されるのが怖かっただけ。
それだけでこんなに迷惑をかけてしまいました。
そんな迷惑をかけたもりくぼに、2人は嬉しそうな顔を見せてくれます。
「そっか。なら安心だ…。頼りないかもしれないけど、私も、美玲ちゃんもいる。…だから、行こう」
輝子ちゃんも、手を伸ばしてきました。
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:57:34.96
ID:vPkjSXlF0
また雨が降りそうです。
でも我慢です。
自分勝手なもりくぼに、ここまでしてくれて逃げるわけにはいきません。
ライブはやっぱりキツいですけど。
この3人なら、頑張れる。
2人の手を掴みました。
とても暖かいです。
引っ張り挙げられると同時に、無意識に口が開きました。
「ご、ごめんなさい…。本当にごめんなさい」
「謝るなノノ。最高のライブをするだけだッ!」
「そうそう…。この3人で、な」
左手の美玲ちゃん。右手の輝子ちゃん。
2人にずっと謝りながら事務所を出ました。
ただ、その前に。
事務所を出る前に、振り返ってデスクの下を見ました。
もちろん、誰もいません。
でもなんとなく。
なんとなく、誰かが恥ずかしそうに手を振っているように見えました。
今日は晴れ。
透き通った青い空が、私たちを笑っていました。
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 00:58:03.82
ID:vPkjSXlF0
終わりです。
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/26(月) 01:05:35.23
ID:vPkjSXlF0
あ、見てくれた人がいたかどうかはわかりませんが、最後まで見ていただきありがとうございました。
総選挙はindividualsの3人をどうぞよろしくお願いします
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