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以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/06/22(月) 23:11:15.97
ID:FFL98XnqO
その日は雨だった。
僕の友達の朝倉葉くんは、降りしきる雨を窓越しに眺めている。穏やかに、ぼんやりと。
朝からずっと、放課後まで、飽きもせずに。
「葉くん、帰らないの?」
「ん? ああ。オイラうっかり傘を忘れちまってな。どうしたもんかと考えてたんよ」
どうやら彼は傘がなくて困っているらしい。
それもその筈、本日の降水確率は0%だった。
登校するまでは快晴だったのに教室に入った途端、雨が降り出した。全く予想外である。
「実は僕も傘を忘れたんだ」
「まん太も? うぇっへっへっへっへっ。そりゃあ、奇遇だな。まあ、なんとかなるさ」
なんとかなる。
それが彼の口癖だった。
だらしなく笑って投げやりな態度の彼はまるで諦観しているようだけど、そうじゃない。
「お? この足音は……」
「えっ?」
カラコロ、カラコロ。
そこの硬い、サンダルの足音。
それは廊下から響いてきて、止まった。
「葉、帰るわよ」
「おお、やっぱりアンナか。いや、帰りてぇのはやまやまなんだけどよ……」
「アンタのことだから傘を忘れたんでしょ? だと思って、傘を2本持って来たのよ」
「おお! これで帰れるな。ありがとな」
現れたのは恐山アンナさん。
僕らの同級生で、葉くんの許嫁。
いつも不機嫌そうな、フィアンセだ。